(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ナイロン6と色素を含むナノ粒子を含むキャリブレーションセット
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20230406BHJP
【FI】
G01N15/14 K
G01N15/14 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549870
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(85)【翻訳文提出日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 US2021016351
(87)【国際公開番号】W WO2021173312
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】カウフマン,エイミー クレア
(57)【要約】
キャリブレーションセットは、第1の色素と共有結合したナイロン6を含み、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有する複数の第1のナノ粒子を含む。また、キャリブレーションセットは、第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含み、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有する第2のナノ粒子をさらに含む。第1の平均径と第2の平均径は異なっている。第1の平均径および第2の平均径は、それぞれ独立に、30nm以上3000nm以下である。第1の平均径は、第2の平均径の少なくとも2倍である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の色素と共有結合したナイロン6を含み、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有する複数の第1のナノ粒子と、
前記第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含み、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有する第2のナノ粒子と、
を含むキャリブレーションセットであって、
前記第1の平均径と前記第2の平均径は異なっており、
前記第1の平均径および前記第2の平均径は、それぞれ独立に、30nm以上3000nm以下であり、
前記第1の平均径は、前記第2の平均径の少なくとも2倍である、キャリブレーションセット。
【請求項2】
前記第1の色素および前記第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項3】
前記第1の色素が、第1の励起極大波長λEx1を有しており、
前記第2の色素が、第2の励起極大波長λEx2を有しており、
λEx1とλEx2は異なっており、
λEx1およびλEx2がいずれも350nm~750nmの範囲である、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項4】
前記キャリブレーションセットが、前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子の両方を含む混合物を含む容器を備える、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項5】
前記第1の平均径と前記第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項6】
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項7】
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、RNAを含んでいる、請求項1に記載のキャリブレーションセット。
【請求項8】
キャリブレーションセットを使用する方法であって、該方法が
キャリブレーション懸濁液中に、第1の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第1のナノ粒子および前記第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第2のナノ粒子を、均一に分散させるステップと、
前記第1のナノ粒子および前記第2のナノ粒子を均一に分散させた前記キャリブレーション懸濁液を試料緩衝液に一定量添加して、前記試料緩衝液中に前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子とを所定濃度で含む試料を生成するステップと、
前記試料をサイズ測定装置で解析して、第1の色素の蛍光発光と第2の色素の蛍光発光とに関する少なくとも1つのデータ出力を得るステップと、
前記少なくとも1つのデータ出力に基づいて、前記サイズ測定装置の1つ以上の設定を調整するステップと、
を含む方法。
【請求項9】
前記複数の第1のナノ粒子が、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有しており、
前記複数の第2のナノ粒子が、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記サイズ測定装置がフローサイトメータである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ以上の設定を調整するステップが、信号を最大化するステップ、変動係数を最小化するステップ、またはそれらの組み合わせを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ以上の設定を調整するステップが、粒子サイズ測定の分解能限界、粒子サイズ測定の範囲、散乱光電子増倍管の感度、装置のベースラインノイズ、レーザの位置合わせ、光学系の位置合わせ、フローサイトメータの流路系の安定性、セルソーターのドロップディレイ、セルソーターの効率、またはそれらの組み合わせに関連する設定を調整するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の色素および前記第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の平均径と前記第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
ナイロン6と色素を含む複数のナノ粒子からなる複数のナノ粒子群を含むキャリブレーションセットであって、
各ナノ粒子群のナノ粒子が含む前記色素が、異なるナノ粒子群のナノ粒子の対応する色素とは異なっており、
各ナノ粒子群が、それぞれ対応する平均径および1.15以上1.19以下の多分散指数を有しており、
各ナノ粒子群の前記対応する平均径は、前記複数のナノ粒子群における当該ナノ粒子群以外の複数のナノ粒子群それぞれの対応する平均径から少なくとも2倍異なっており、
前記対応する平均径が30nm以上3000nm以下である、キャリブレーションセット。
【請求項17】
前記色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、請求項16に記載のキャリブレーションセット。
【請求項18】
前記キャリブレーションセットが、前記複数のナノ粒子群を含む混合物を含む容器を備える、請求項16に記載のキャリブレーションセット。
【請求項19】
前記複数のナノ粒子群が、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、請求項16に記載のキャリブレーションセット。
【請求項20】
前記複数のナノ粒子群の少なくとも1つがRNAを含んでいる、請求項16に記載のキャリブレーションセット。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年2月24日を出願日とする米国仮特許出願第62/980653号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概して、キャリブレーションセットに関するものであり、より詳細には、細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)と同様の特性を有するキャリブレーションセットに関するものである。
【背景技術】
【0003】
治療への応用を目的として、細胞外小胞(EV)の研究が、EVを血清や細胞から分離する方法とEVを濃縮する方法の両面で拡がりをみせている。「細胞外小胞」という用語は、一般に、細胞から自然に放出される脂質二重層で囲まれた自己複製できない粒子を指す。この粒子は、サイズと機能によってさらに細かく分類され、最小が30nm程度のサイズのエクソソーム、最大は2μm程度のサイズのマイクロベシクルである。
【0004】
しかしながら、特性評価方法においては、EVの定量化やサイズ測定(sizing)技術に必要なキャリブレーション標準物質がないという問題があった。フローサイトメータなどのサイズ測定装置においては、従来からポリスチレンビーズの標準物質が使用されてきた。だが、ポリスチレンビーズについては、その密度、光散乱効果、サイズ、蛍光標識との結合親和性などの特性は、哺乳類細胞の特性に合致するものとなっている。しかし、EVは哺乳類細胞由来の産生物ではあるが、EV固有の特性はそれが由来する細胞の特性とは異なっており、したがってポリスチレンビーズの特性とも異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、別のキャリブレーションセット、特にEVと同様の特性を有するキャリブレーションセットが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載の種々の実施形態は、EVと同様の特性を有するナノ粒子のキャリブレーションセットを提供するものである。特定的には、本キャリブレーションセットは、第1の色素と共有結合したナイロン6の複数の第1のナノ粒子と、第2の色素と共有結合したナイロン6の複数の第2のナノ粒子とを含む。第1のナノ粒子は第1の平均径を有し、第2のナノ粒子は第1の平均径とは異なる第2の平均径を有している。このナノ粒子は、以下でさらに詳述するように、EVと同様のサイズ範囲、密度、光散乱効果を有しており、サイズ測定および定量化技術のキャリブレーション標準物質として使用することができる。
【0007】
本明細書に開示の第1の態様に係るキャリブレーションセットは、複数の第1のナノ粒子と複数の第2のナノ粒子とを含む。第1のナノ粒子は、第1の色素と共有結合したナイロン6を含み、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有する。第2のナノ粒子は、第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含み、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有する。第1の平均径と第2の平均径は異なっている。第1の平均径および第2の平均径は、それぞれ独立に、30nm以上3000nm以下である。第1の平均径は、第2の平均径の少なくとも2倍である。
【0008】
本明細書に開示の第2の態様に係るキャリブレーションセットは、第1の態様に係るキャリブレーションセットを含むものであり、第1の色素および第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む。
【0009】
本明細書に開示の第3の態様に係るキャリブレーションセットは、第1または第2の態様に係るキャリブレーションセットを含むものであり、第1の色素は、第1の励起極大波長λEx1を有している。第2の色素は、第2の励起極大波長λEx2を有している。λEx1とλEx2は異なっている。λEx1およびλEx2はいずれも350nm~750nmの範囲である。
【0010】
本明細書に開示の第4の態様に係るキャリブレーションセットは、第1乃至第3の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、キャリブレーションセットが、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子の両方を含む混合物を含む容器を備える。
【0011】
本明細書に開示の第5の態様に係るキャリブレーションセットは、第1乃至第4の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、第1の平均径と第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である。
【0012】
本明細書に開示の第6の態様に係るキャリブレーションセットは、第1乃至第5の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している。
【0013】
本明細書に開示の第7の態様に係るキャリブレーションセットは、第1乃至第6の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子がいずれも、RNAを含んでいる。
【0014】
本明細書に開示の第8の態様に係る方法は、キャリブレーション懸濁液中に、第1の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第1のナノ粒子および第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第2のナノ粒子を、均一に分散させるステップと、第1のナノ粒子および第2のナノ粒子を均一に分散させたキャリブレーション懸濁液を試料緩衝液に一定量添加して、試料緩衝液中に第1のナノ粒子と第2のナノ粒子とを所定濃度で含む試料を生成するステップと、試料をサイズ測定装置で解析して、第1の色素の蛍光発光と第2の色素の蛍光発光とに関する少なくとも1つのデータ出力を得るステップと、少なくとも1つのデータ出力に基づいて、サイズ測定装置の1つ以上の設定を調整するステップと、を含む。
【0015】
本明細書に開示の第9の態様に係る方法は、第8の態様に係る方法を含むものであり、複数の第1のナノ粒子が、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有しており、複数の第2のナノ粒子が、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有している。
【0016】
本明細書に開示の第10の態様に係る方法は、第8または第9の態様に係る方法を含むものであり、サイズ測定装置がフローサイトメータである。
【0017】
本明細書に開示の第11の態様に係る方法は、第8乃至第10の態様のいずれかに係る方法を含むものであり、1つ以上の設定を調整するステップが、信号を最大化するステップ、変動係数を最小化するステップ、またはそれらの組み合わせを含む。
【0018】
本明細書に開示の第12の態様に係る方法は、第8乃至第11の態様のいずれかに係る方法を含むものであり、1つ以上の設定を調整するステップが、粒子サイズ測定の分解能限界、粒子サイズ測定の範囲、散乱光電子増倍管の感度、装置のベースラインノイズ、レーザの位置合わせ、光学系の位置合わせ、フローサイトメータの流路系の安定性、セルソーターのドロップディレイ、セルソーターの効率、またはそれらの組み合わせに関連する設定を調整するステップを含む。
【0019】
本明細書に開示の第13の態様に係る方法は、第8乃至第12の態様のいずれかに係る方法を含むものであり、第1の色素および第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む。
【0020】
本明細書に開示の第14の態様に係る方法は、第8乃至第13の態様のいずれかに係る方法を含むものであり、第1の平均径と第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である。
【0021】
本明細書に開示の第15の態様に係る方法は、第8乃至第14の態様のいずれかに係る方法を含むものであり、第1のナノ粒子と第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している。
【0022】
本明細書に開示の第16の態様に係るキャリブレーションセットは、ナイロン6と色素を含む複数のナノ粒子からなる複数のナノ粒子群を含む。各ナノ粒子群のナノ粒子が含む色素は、異なるナノ粒子群のナノ粒子の対応する色素とは異なっている。各ナノ粒子群は、それぞれ対応する平均径および1.15以上1.19以下の多分散指数を有している。各ナノ粒子群の対応する平均径は、複数のナノ粒子群における当該ナノ粒子群以外の複数のナノ粒子群それぞれの対応する平均径から少なくとも2倍異なっている。これらの対応する平均径は、30nm以上3000nm以下である。
【0023】
本明細書に開示の第17の態様に係るキャリブレーションセットは、第16の態様に係るキャリブレーションセットを含むものであり、色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む。
【0024】
本明細書に開示の第18の態様に係るキャリブレーションセットは、第16または第17の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、キャリブレーションセットが、複数のナノ粒子群を含む混合物を含む容器を備える。
【0025】
本明細書に開示の第19の態様に係るキャリブレーションセットは、第16乃至第18の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、複数のナノ粒子群が、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している。
【0026】
本明細書に開示の第20の態様に係るキャリブレーションセットは、第16乃至第19の態様のいずれかに係るキャリブレーションセットを含むものであり、複数のナノ粒子群の少なくとも1つがRNAを含んでいる。
【0027】
以下の詳細な説明において、さらなる特徴および利点を記載する。下記のさらなる特徴および利点は、当業者であれば、ある程度はその説明からただちに理解するであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することによって理解するであろう。
【0028】
上述の概略的な説明および以下の詳細な説明はいずれも、種々の実施形態を説明するものであり、特許請求する主題の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図するものであることを理解されたい。添付の図面は、種々の実施形態のさらなる理解のために添付するものであり、本明細書に組み込まれ、その一部をなすものとする。図面は、本明細書に記載の種々の実施形態を例示的に示すものであり、以下の詳細な説明と合わせて、特許請求する主題の原理および作用を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本明細書に図示、説明する1つ以上の実施形態に係る、異なる平均径を有するナノ粒子群を種々の細胞外小胞と比較して示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
種々の実施形態において、キャリブレーションセットは、第1の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第1のナノ粒子と、第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第2のナノ粒子とを含む。第1のナノ粒子は、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有し、第2のナノ粒子は、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有している。種々の実施形態においては、第1の平均径と第2の平均径は異なっており、第1の平均径および第2の平均径はいずれも、30nm以上3000nm以下であり、第1の平均径は、第2の平均径の少なくとも2倍である。
【0031】
次に、添付の図面に例示される種々の実施形態について詳細に説明する。図面全体を通して、同一または類似の箇所には、可能な限り同一の参照番号を用いて示す。
【0032】
本明細書において、「約(about)」ある特定の値以上、「約」ある特定の値~「約」他の特定の値、「約」他の特定の値以下、という形で範囲を表現する場合がある。このような表現で範囲を表す場合、ある特定の値以上、ある特定の値~他の特定の値、他の特定の値以下、を含む他の実施形態が存在する。同様に、ある値の前に「約」をつけてその値を近似値として表現する場合、その特定の値によって構成される他の実施形態も存在することが理解されるであろう。また、各範囲の両端点が持つ意味は、互いに相関しているとともに互いに独立でもあることも理解されるであろう。
【0033】
本明細書において、方向性のある用語(例えば、上へ(up)、下へ(down)、右(right)、左(left)、前(front)、後(back)、上(top)、下(bottom)など)は、図面を参照したものに過ぎず、絶対的な向きを意味することを意図するものではない。
【0034】
別段の明示的な記載がない限り、本明細書に記載のいかなる方法も、各ステップ(工程)を特定の順序で実施することを要請していると解釈されることを意図するものではなく、また、いかなる装置に関しても、特定の向きを要請すると意図するものではない。したがって、方法クレームまたは実施形態においてそのステップの順序を実際に記載している場合、および、装置クレームまたは実施形態において個々の構成要素の並び順や向きを実際に記載している場合を除き、または、その他、各ステップが特定の順序に限定される旨の記載が請求の範囲もしくは発明の詳細な説明において明確になされている場合、および、装置の構成要素の特定の並び順や特定の向きを記載している場合を除き、順序(並び順)や向きが推測されることは、いかなる点においても意図していない。これは、各ステップの並び、操作の流れ、構成要素の並び順、または構成要素の向きについての論法の問題、文法的な構成または句読点から導き出される通俗的な意味、本明細書に記載の実施形態の数または種類など、解釈の根拠となり得るあらゆる非明示的事項に対して該当する。
【0035】
本明細書において、「a」、「an」、及び「the(その/前記)」で示す単数形は、文脈上明らかに複数形を含まないことが明らかである場合を除き、対応する複数形に対する言及も包含するものとする。したがって、例えば、ある構成要素を冠詞「a」で導く表現は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、その構成要素を2つ以上有する態様も包含する。
【0036】
また、「で形成される(formed from)」という用語は、「を備える(comprises)」、「本質的に~のみからなる(consists essentially of)」、「のみからなる(consists of)」のうちの1つ以上を意味することができる。例えば、ある構成要素が特定の材料「で形成される」場合、当該構成要素は、特定の材料を備える、本質的に特定の材料のみからなる、特定の材料のみからなる、のいずれであってもよい。
【0037】
ナイロン6と脂溶性蛍光色素を含むナノ粒子
図1は、複数のナノ粒子群102を含むキャリブレーションセット100の一実施形態を示す模式図である。
図1において、個々の群を102a~102fで識別し、参照番号102で、当該複数の群のうち任意の1つ以上の群を総称して示す。また、個々の群102a~102fを、それぞれ複数の個別ナノ粒子を含むナノ粒子列として図示しており、各群の1つのナノ粒子を、それぞれ102a1~102f1で識別している。
図1に示す実施形態は、6つのナノ粒子群を含んでいるが、キャリブレーションセット100には任意の数のナノ粒子群が含まれ得ることが企図されている。
【0038】
各群102には、対応する色素と共有結合したナイロン6を含む複数のナノ粒子が含まれる。そのような色素としては、有機色素(例えば、フルオレセイン、ローダミン、アミノメチルクマリン(AMCA))、生体蛍光分子(例えば、緑色蛍光タンパク質、フィコエリトリン、アロフィコシアニン)、量子ドット、または脂溶性蛍光色素などが挙げられる。したがって、
図1において、第1のナノ粒子群102aは、第1の色素と共有結合したナイロン6を含み、第2のナノ粒子群102bは、第2の色素と共有結合したナイロン6を含み、第3のナノ粒子群102cは、第3の色素と共有結合したナイロン6を含み、第4のナノ粒子群102dは、第4の色素と共有結合したナイロン6を含み、第5のナノ粒子群102eは、第5の色素と共有結合したナイロン6を含み、第6のナノ粒子群102fは、第6の色素と共有結合したナイロン6を含む。各ナノ粒子群の色素は、他のナノ粒子群の色素とは異なるものであり、よって、特定のナノ粒子群であることを標識する、そのナノ粒子群に一意に割り当てられた色素である。
【0039】
種々の実施形態において、各色素は、脂溶性カルボシアニン色素などの脂溶性蛍光色素である。限定を意図するものではないが、好適な市販の脂溶性カルボシアニン色素の例としては、いずれもBiotium,Inc(カリフォルニア州ヘイワード)から入手可能なDiB、DiA、DiO、DiI、DiD、およびDiRとして販売されている脂溶性蛍光トレーサー色素が挙げられる。これらの色素例それぞれの色、励起極大波長(λEx)、発光極大波長(λEm)を、以下の表1に示す。
【0040】
【0041】
表1に示すように、これらの脂溶性蛍光色素は、モノクロメータで測定した励起極大波長(例えば、吸収極大を示す励起スペクトルのピーク波長)が353nm~750nmであり、よって、表1に示す脂溶性蛍光色素は、一般的なサイズ測定技術で用いるのに適している。そのようなサイズ測定技術としては、該励起極大波長の光信号を生成してこれらの色素を励起することができるランプおよびレーザなどの光学系を組み込んだフローサイトメータが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、表1には、モノクロメータで測定した発光極大波長(これに対応する色が励起に応じて観察され得る)が、色素ごとに異なっていることも示されている。したがって、複数の蛍光色素を使用し、それぞれの蛍光色素を、対応する平均径を有するナノ粒子と関連付けることによって、測定の感度や分解能を向上させることができる。
【0042】
種々の実施形態において、色素はナイロン6を含むポリマーに共有結合している。いくつかの実施形態では、以下でさらに詳述するように、ナノ粒子の形成前に色素をポリマーに結合し、色素を各ナノ粒子全体に均一に分布させる。ナイロン6は、下記の構造を有している。
【0043】
【0044】
ナイロン6構造のカルボニル基によって色素との共有結合が可能となり、ナイロン6ナノ粒子の追跡が可能となるだけでなく、粒子からの色素の漏出や色素の解離を低減または防止することができる。例えば、ポリマー粒子に色素を封入またはインキュベートしている従来の標準物質では、色素と粒子の間に直接的な化学結合が形成されないと考えられる。そのため、従来の標準物質では、粒子から色素が漏出して測定に誤差が生じる場合があった。これに対し、種々の実施形態においては、本明細書に記載の蛍光色素は、ナイロン6に共有結合してナノ粒子に組み込まれており、ポリマーが分解されない限り蛍光色素を放出することはないと考えられるため、ナノ粒子から色素が解離してしまう可能性を低下させることができる。
【0045】
種々の実施形態において、ナノ粒子は、ASTM規格D792に従って測定した場合に、1.15g/mL以上1.19g/mL以下の密度を有している。例えば、ナノ粒子の密度は、1.15g/mL以上1.19g/mL以下、1.15g/mL以上1.18g/mL以下、1.15g/mL以上1.17g/mL以下、1.15g/mL以上1.16g/mL以下、1.16g/mL以上1.19g/mL以下、1.16g/mL以上1.18g/mL以下、1.16g/mL以上1.17g/mL以下、1.17g/mL以上1.19g/mL以下、1.17g/mL以上1.18g/mL以下、または1.18g/mL以上1.19g/mL以下とすることができる。よって、ナノ粒子の密度が、EVの密度(すなわち、1.15~1.19g/mL)と同様であり、かつ哺乳類細胞の密度(すなわち、1.04~1.05g/mL)よりも測定可能な程度に高いため、EVと標準物質ナノ粒子との間の材料密度の相違という問題が解消されている。
【0046】
各ナノ粒子群は、ISO22412に従って測定した平均流体力学的径(本明細書では「平均径」と呼ぶ)を有しており、これを総称的にd
nで示す。各ナノ粒子群の平均流体力学的径は、動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)法やナノ粒子トラッキング解析(nanoparticle tracking analysis:NTA)法などの光散乱測定技術によって測定し、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy:SEM)や透過電子顕微鏡(transmission electron microscopy:TEM)などの顕微鏡法によって目視で確認される。
図1において、d
aは第1のナノ粒子群102aの平均径、d
bは第2のナノ粒子群102bの平均径、d
cは第3のナノ粒子群102cの平均径、d
dは第4のナノ粒子群102dの平均径、d
eは第5のナノ粒子群102eの平均径、d
fは第6のナノ粒子群102fの平均径である。
【0047】
種々の実施形態において、各ナノ粒子群の粒子サイズの標準偏差(例えば、各群における各粒子の最大径の標準偏差)は、ソフトウェア計算によって統計的に求められ、15%以下である。例えば、各ナノ粒子群の粒子サイズの標準偏差を、15%以下、12.5%以下、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、または0.5%以下とすることができる。いくつかの実施形態では、各ナノ粒子群の平均径の標準偏差は、0以上15%以下、0以上12.5%以下、0以上10%以下、0以上8%以下、0以上6%以下、0以上5%以下、0以上4%以下、0以上3%以下、0以上2%以下、0以上1%以下、0以上0.5%以下、0.5%以上15%以下、0.5%以上12.5%以下、0.5%以上10%以下、0.5%以上8%以下、0.5%以上6%以下、0.5%以上5%以下、0.5%以上4%以下、0.5%以上3%以下、0.5%以上2%以下、0.5%以上1%以下、1%以上15%以下、1%以上12.5%以下、1%以上10%以下、1%以上8%以下、1%以上6%以下、1%以上5%以下、1%以上4%以下、1%以上3%以下、または1%以上2%以下(これらの範囲内のすべての任意の範囲および部分範囲を含む)とすることができる。いくつかの実施形態では、各標準偏差はこの範囲内の数値とすることができ、1つ以上の他のナノ粒子群の標準偏差と同一であっても異なっていてもよいことが企図されている。
【0048】
種々の実施形態において、各ナノ粒子群は、多分散指数が1.15以上1.19以下であることをさらに特徴とすることができる。多分散指数(polydispersity index、「PDI」またはDストロークと呼ぶ場合もある)とは、ナノ粒子群のキュムラント解析から求められる、粒子サイズ分布の広がりを示す指標で、ISO22412およびISO13321に準拠した動的光散乱(DLS)法を用いて測定される。いくつかの実施形態では、各ナノ粒子群のPDIは、1.15以上1.18以下、1.15以上1.17以下、1.15以上1.16以下、1.16以上1.19以下、1.16以上1.18以下、1.16以上1.17以下、1.17以上1.19以下、1.17以上1.17以下、または1.18以上1.19以下(これらの範囲内のすべての任意の範囲および部分範囲を含む)とすることができる。いくつかの実施形態では、各PDIはこの範囲内の数値とすることができ、1つ以上の他のナノ粒子群のPDIと同一であっても異なっていてもよいことが企図されている。
【0049】
各群の平均径d
nは、他の各ナノ粒子群の平均径とは異なっている。したがって、
図1において、d
aはd
b、d
c、d
d、d
e、d
fと異なり、d
bはd
c、d
d、d
e、d
fと異なり、d
cはd
d、d
e、d
fと異なり、d
dはd
e、d
fと異なり、d
eはd
fと異なっている。種々の実施形態において、各平均径は、これに次ぐ大きさの平均径の少なくとも2倍である。例えば、
図1において、d
b(100nm)はd
a(50nm)の2倍、d
c(250nm)はd
b(100nm)の少なくとも2倍、d
d(500nm)はd
c(250nm)の2倍、d
e(1000nm)はd
d(500nm)の2倍、d
f(2000nm)はd
e(1000nm)の2倍である。
【0050】
種々の実施形態において、各平均径dnは、独立に、30nm以上3000nm以下である。例えば、各平均径dnは、30nm以上3000nm以下、30nm以上2500nm以下、30nm以上2000nm以下、30nm以上1500nm以下、30nm以上1000nm以下、30nm以上750nm以下、30nm以上500nm以下、30nm以上300nm以下、30nm以上250nm以下、30nm以上100nm以下、50nm以上3000nm以下、50nm以上2500nm以下、50nm以上2000nm以下、50nm以上1500nm以下、50nm以上1000nm以下、50nm以上750nm以下、50nm以上500nm以下、50nm以上300nm以下、または50nm以上250nm以下(これらの範囲内のすべての任意の範囲および部分範囲を含む)とすることができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのナノ粒子群の平均径は、300nm以下、250nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下、75nm以下、または50nm以下である。
【0051】
なお、
図1では、群102a~102fが特定の平均径を有している様子を図示しているが、キャリブレーションセット100の各平均径は、その実施形態が具体的にどのようなものかによって変化し得るものであることを理解されたい。例えば、ナノ粒子の平均径が調査対象のEVの種類に比較的近い範囲(50nm以内、100nm以内、または250nm以内)となるように、1つ以上のナノ粒子群を選択することができる。
図1は、キャリブレーションセット100に加えて、各種のEV104とそのおおよその平均径も模式的に示している。具体的には、
図1は、約100nm以下の平均径を有するエクソソーム106と、約100nm以上約1000nm以下の平均径を有する第1の組のマイクロベシクル108と、約1000nm以上約2000nm以下の平均径を有する第2の組のマイクロベシクル110と、約2000nm超の平均径を有するオンコソーム112と、を含んでいる。したがって、
図1に示すように、本明細書に記載のナノ粒子を用いて各種EVのサイズを近似することができる。
【0052】
いくつかの実施形態では、1つ以上のナノ粒子群がRNAを含むことができる。このような実施形態では、以下でさらに詳述するように、ナノ粒子の形成前に、ポリマーのアミド基を介してRNAをポリマーに結合する。したがって、RNAは各ナノ粒子全体に均一に分布している。本明細書において、「RNA分子(RNA molecule)」または「RNA」という語は、リボ核酸、すなわち、ヌクレオチドからなるポリマーを意味している。ヌクレオチドは通常、アデノシン一リン酸、ウリジン一リン酸、グアノシン一リン酸、およびシチジン一リン酸というモノマーであり、第1のモノマーの糖(すなわちリボース)と隣接する第2のモノマーのリン酸部位との間のホスホジエステル結合で形成されたいわゆる骨格に沿って、ヌクレオチドは互いに連結している。ナノ粒子がRNAを含む実施形態においては、RNAは任意の所定のRNA配列を有することができる。このRNA配列は、例えば、一般的なRNA配列としてもよく、または、調査対象の特定の配列とすることもできる。したがって、以下でさらに詳述するように、RNAを含むナノ粒子を生体試料に添加し、実験プロトコル全体における各技術工程の効果を観察することによって、分析結果を検証することができる。
【0053】
ナノ粒子の製造方法
種々の実施形態のナノ粒子は、数多く存在するナノ沈殿法のいずれか1つに従って製造することができる。そのようなナノ沈殿法としては、ピペット液滴ナノ沈殿、流量制御方式のT字型ミキサーナノ沈殿、流量制御方式のマイクロ流体ナノ沈殿などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一般に、ナノ粒子の調製に際しては、ナイロン6ペレットを、プロトン性極性溶媒(例えば、酢酸、ギ酸、エタノールなど)または非プロトン性極性溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリルなど)に、均一になる(例えば、ナイロン6が溶媒中に均一に分散する)まで溶解させる。色素は、ナイロン6と溶媒の混合液に溶解するか、または、混和性のある溶媒とのエマルションによって投入する。混合溶液および回収溶液として、水と界面活性剤(例えば、ポリビニルアルコールやPluronic(登録商標)などの凝集防止剤)の水性混合物を調製する。
【0054】
種々の実施形態において、ナノ粒子のサイズ制御は、有機相中のポリマー濃度と、有機溶媒の選択と、水相中の界面活性剤濃度と、界面活性剤の選択と、有機相の水相に対する混合比率と、混合時の有機相および水相の流量と、ナノ沈殿に使用する装置と、を制御することによって行う。例えば、有機相のポリマー濃度や有機相の水相に対する混合比率を上げると、粒子径が大きくなる。また例えば、水相中の界面活性剤濃度や水相の有機相に対する比率を上げると、粒子径が小さくなる。また、有機溶媒や界面活性剤の選択によっても、粒子サイズに様々な影響が与えられ得る。そのような影響は、溶媒や界面活性剤自体の化学密度、電荷、混和性などの化学的特性によって変化するものであり、実験的に特定することができる。また、混合時の流量の増加も粒子径に影響を与えると考えられる(一般に、流量の上昇に伴い粒子径が小さくなる)。ただし、このような影響とは別に、有機相の流量と水相の流量とを独立して変化させることができ、これにより、混合比率に伴う変化と同様の効果が得られる場合もある。
【0055】
さらに、ナノ粒子の形成法として、具体的にどの方法を用いるかは、粒子サイズのばらつきに影響を与えると考えられる。確実に装置を制御すればするほど、より正確かつ精密に目標の粒子サイズを実現することができる。例えば、流量制御方式のマイクロ流体法は、T字型ミキサー法よりもPDIの小さい粒子を製造することができ、T字型ミキサーは、ピペット法よりもPDIの小さい粒子を製造することができると考えられる。
【0056】
ピペット液滴法でナノ粒子を調製する実施形態では、少量のポリマー(例えば、ナイロン6の0.5w/v%以上2.0w/v%以下のポリマー)を脂溶性蛍光色素とともに有機溶媒に溶解する。いくつかの実施形態では、蛍光色素は、色素/ポリマーの比が0.25質量%以上1.5質量%以下となる添加量で添加され、ポリマーと色素の比率は、50:1以上250:1以下である。特定の実施形態では、ポリマーと色素の比率は略100:1である。色素が有機溶媒に可溶性ではない実施形態では、色素を混和性のある溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO))に溶解し、均質な溶液になるまでボルテックスまたは超音波処理しながら有機相に加えることによってエマルションを作製する。次に、このポリマーと色素とを含有する有機相を、攪拌しながら水相に滴下する。いくつかの実施形態では、例えば、水相は、水中に0.5w/v%以上5.0w/v%以下の界面活性剤を含む。次に、有機溶媒を蒸発させて除去する。いくつかの実施形態では、蒸発は、攪拌(例えば、少なくとも3時間)またはロータリーエバポレータの使用(例えば、約15分間)によって行うことができる。
【0057】
そして、遠心分離により水系媒体からナノ粒子を回収する。いくつかの実施形態では、水系媒体は、室温で約16,000×gで約15分間遠心分離にかけることができる。水性上清をデカントし、ナノ粒子を10mLの水に再懸濁し、室温で約16,000×gで約15分間遠心分離にかけることにより、ナノ粒子ペレットを洗浄する。いくつかの実施形態では、この洗浄処理を、2回以上行うことができる。最後に、洗浄した分散液を少なくとも48時間凍結乾燥して、凍結乾燥ナノ粒子を得る。このナノ粒子は、必要時まで-20℃の温度で保存することができる。
【0058】
流量制御方式のT字型ミキサー法または流量制御方式のマイクロ流体法でナノ粒子を調製する実施形態では、約50mg/mLの濃度のナイロン6と、ポリマーに対する濃度が0.5質量%の脂溶性蛍光色素とを、有機溶媒に溶解する。また、0.5w/v%以上5.0w/v%以下の界面活性剤を水に添加することにより水相を調製する。そして、各相をリザーバに入れる。なお、種々の実施形態において、該リザーバはシリンジである。T字型ミキサー法を用いる実施形態では、それぞれのシリンジからの流出管路をT字型ミキサーの各入口ポートに連通させて、これらのシリンジをシリンジポンプに取り付ける。そして、T字型ミキサーの出口ポートに回収容器を配置する。シリンジポンプは、有機相と水相を適切な流量と総量で同時にT字型ミキサーに送達するように、実験的に求めた流量を基にプログラムされる。流量制御方式のマイクロ流体法を用いる実施形態では、実験的に求めた流量で有機相と水相をマイクロ流体チップに供給する。そして、上述と同様にナノ粒子の回収、洗浄を行う。
【0059】
なお、本明細書に記載のナノ粒子の調製方法は、特定の実施形態に応じて、調整や変更が可能であることが企図されている。例えば、形成するナノ粒子の所望のサイズに基づいて、例えば、原料の量や遠心分離の時間などを調整、変更することができる。
【0060】
RNAをナノ粒子に組み込む実施形態では、上述の混合物の水相にRNA分子を添加することができる。このような実施形態では、ナイロン6中のアミド基とRNAとの相互作用を促進するために、水相が弱酸性の緩衝液(例えば、酢酸ナトリウムまたはトリス-EDTA)を含んでいる。いくつかの実施形態では、水相のpHは4.5以上7以下である。
【0061】
種々の実施形態において、ナノ粒子群のサイズ分布を所望のものとするため、サイズ排除遠心分離濾過などのサイズ選別方法を用いてナノ粒子群を濾過することができる。
【0062】
以上、ナイロン6と色素を含むナノ粒子を形成する方法として、種々の方法を説明してきたが、当業者に公知の他の方法を用いてもナノ粒子を製造できることを理解されたい。そのような方法としては、エマルション法や、エレクトロスプレー法、プラズマ堆積法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
種々の実施形態において、バイアルなどの単一の容器に2つ以上のナノ粒子群を等量で添加することにより、標準物質セットを形成する。いくつかの実施形態では、使用前に、水または他の溶媒を添加してナノ粒子を再懸濁することができる。ナノ粒子を濃縮状態で保存することにより、ナノ粒子を水に懸濁させたときに起こり得るポリマーの加水分解を抑制し、ナノ粒子の品質保持期間を延ばすことができると考えられる。
【0064】
ナノ粒子の使用方法
種々の実施形態によるナノ粒子は、様々な方法で使用することができる。例えば、種々の実施形態によるナノ粒子を利用して、各種EVなどの微小な生体小胞の特性評価を行うことができる。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ粒子を、生体試料にスパイクする標準物質として用いて、単離効率を評価し、技術標準化を行う。いくつかの実施形態では、特定のRNA配列を担持するナノ粒子によって、結果の妥当性評価を独立に行うことが可能となる場合がある。そのような検証としては、例えば、特定の単離方法を用いた場合に単離後もEVがその機能(例えば、RNAを転写する機能)を保持していることの実証などが挙げられる。また例えば、ナノ粒子は、EVの定量化およびサイズ測定技術用のキャリブレーション標準物質として使用される。そのような技術としては、フローサイトメトリーが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0065】
いくつかの実施形態では、キャリブレーションセットを用いて、フローサイトメータなどのサイズ測定装置をキャリブレーションすることができる。したがって、サイズ測定装置をキャリブレーションする方法は、キャリブレーション懸濁液中に第1のナノ粒子および第2のナノ粒子を均一に分散させる工程を含む。第1のナノ粒子は第1の色素を含み、第2のナノ粒子は第1の色素とは異なる第2の色素を含む。次に、第1のナノ粒子および第2のナノ粒子を均一に分散させたキャリブレーション懸濁液を試料緩衝液に一定量添加し、試料緩衝液中に第1のナノ粒子と第2のナノ粒子とを所定濃度で含む試料を生成する。
【0066】
この試料を、サイズ測定装置(例えば、Luminex社のGuava(登録商標)easyCyte(商標)フローサイトメータまたはThermo Fisher社のAttune(商標)NxTフローサイトメータ)で解析し、第1の色素の蛍光発光と第2の色素の蛍光発光とに関する少なくとも1つのデータ出力を得る。次に、この少なくとも1つのデータ出力に基づいて、サイズ測定装置の1つ以上の設定を調整する。いくつかの実施形態では、1つ以上の設定を調整する工程が、信号を最大化する工程、変動係数を最小化する工程、またはそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、これらの調整対象の設定が関連する要素として、粒子サイズ測定の分解能限界、粒子サイズ測定の範囲、散乱光電子増倍管の感度、装置のベースラインノイズ、レーザの位置合わせ、光学系の位置合わせ、フローサイトメータの流路系の安定性、セルソーターのドロップディレイ、セルソーターの効率、またはそれらの組み合わせが挙げられる。なお、他の調整も行うことができることが企図されている。そのような他の調整は、特定の実施形態によって変化するものであり、少なくともある程度はキャリブレーション対象のサイズ測定装置が具体的にどのような装置であるかに基づいて行われる。
【0067】
ナノ粒子がRNAを含む実施形態では、ナノ粒子を人工EVスパイクイン標準物質(artificial EV spike-in standard)として用いることにより、生体液からのEVおよびこれに関連するRNAの回収を標準化し、独立した結果の検証を容易に行うことが可能となる。このような実施形態では、RNAが実験プロトコルによって損傷を受けていないことを、人工EV標準物質を用いて確認することができる。当業者であれば理解するように、実験プロトコルとしては、例えば、RiboGreen(登録商標)アッセイなどの定量アッセイまたは機能アッセイを挙げることができる。
【0068】
本明細書に記載の種々の実施形態において、キャリブレーションセットは、ナイロン6と対応する色素の複数のナノ粒子からなる複数のナノ粒子群を含み、ナノ粒子群ごとに対応する平均径を有している。この場合、これらのナノ粒子が、EVと同等の密度、光散乱効果、サイズ範囲を示しており、よって、EV研究用の標準物質として用いるのに特に適したものとなっている。さらに、種々の実施形態によるナノ粒子はRNA分子を含むことができ、これにより、いくつかの実験プロトコルにおいてナノ粒子を人工EVスパイク(artificial EV spike)として用いることにより、EVおよびこれに関連するRNAの回収を標準化し、独立した結果の検証を容易に行うことが可能となる。
【0069】
特許請求を行う主題の趣旨および範囲から逸脱しない範囲で、本明細書に記載の実施形態に種々の変形および変更を加え得ることは、当業者であれば明らかであろう。したがって、本明細書に記載の種々の実施形態の変形および変更が添付の特許請求の範囲およびその均等物を逸脱しない範囲において、そのような変形および変更も本明細書の範囲に含まれることが意図されている。
【0070】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0071】
実施形態1
第1の色素と共有結合したナイロン6を含み、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有する複数の第1のナノ粒子と、
前記第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含み、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有する第2のナノ粒子と、
を含むキャリブレーションセットであって、
前記第1の平均径と前記第2の平均径は異なっており、
前記第1の平均径および前記第2の平均径は、それぞれ独立に、30nm以上3000nm以下であり、
前記第1の平均径は、前記第2の平均径の少なくとも2倍である、キャリブレーションセット。
【0072】
実施形態2
前記第1の色素および前記第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0073】
実施形態3
前記第1の色素が、第1の励起極大波長λEx1を有しており、
前記第2の色素が、第2の励起極大波長λEx2を有しており、
λEx1とλEx2は異なっており、
λEx1およびλEx2がいずれも350nm~750nmの範囲である、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0074】
実施形態4
前記キャリブレーションセットが、前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子の両方を含む混合物を含む容器を備える、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0075】
実施形態5
前記第1の平均径と前記第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0076】
実施形態6
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0077】
実施形態7
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、RNAを含んでいる、実施形態1に記載のキャリブレーションセット。
【0078】
実施形態8
キャリブレーションセットを使用する方法であって、該方法が
キャリブレーション懸濁液中に、第1の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第1のナノ粒子および前記第1の色素とは異なる第2の色素と共有結合したナイロン6を含む複数の第2のナノ粒子を、均一に分散させるステップと、
前記第1のナノ粒子および前記第2のナノ粒子を均一に分散させた前記キャリブレーション懸濁液を試料緩衝液に一定量添加して、前記試料緩衝液中に前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子とを所定濃度で含む試料を生成するステップと、
前記試料をサイズ測定装置で解析して、第1の色素の蛍光発光と第2の色素の蛍光発光とに関する少なくとも1つのデータ出力を得るステップと、
前記少なくとも1つのデータ出力に基づいて、前記サイズ測定装置の1つ以上の設定を調整するステップと、
を含む方法。
【0079】
実施形態9
前記複数の第1のナノ粒子が、第1の平均径および1.15以上1.19以下の第1の多分散指数を有しており、
前記複数の第2のナノ粒子が、第2の平均径および1.15以上1.19以下の第2の多分散指数を有している、実施形態8に記載の方法。
【0080】
実施形態10
前記サイズ測定装置がフローサイトメータである、実施形態8に記載の方法。
【0081】
実施形態11
前記1つ以上の設定を調整するステップが、信号を最大化するステップ、変動係数を最小化するステップ、またはそれらの組み合わせを含む、実施形態10に記載の方法。
【0082】
実施形態12
前記1つ以上の設定を調整するステップが、粒子サイズ測定の分解能限界、粒子サイズ測定の範囲、散乱光電子増倍管の感度、装置のベースラインノイズ、レーザの位置合わせ、光学系の位置合わせ、フローサイトメータの流路系の安定性、セルソーターのドロップディレイ、セルソーターの効率、またはそれらの組み合わせに関連する設定を調整するステップを含む、実施形態10に記載の方法。
【0083】
実施形態13
前記第1の色素および前記第2の色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、実施形態8に記載の方法。
【0084】
実施形態14
前記第1の平均径と前記第2の平均径の少なくとも一方が、30nm~250nmの範囲である、実施形態8に記載の方法。
【0085】
実施形態15
前記第1のナノ粒子と前記第2のナノ粒子がいずれも、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、実施形態8に記載の方法。
【0086】
実施形態16
ナイロン6と色素を含む複数のナノ粒子からなる複数のナノ粒子群を含むキャリブレーションセットであって、
各ナノ粒子群のナノ粒子が含む前記色素が、異なるナノ粒子群のナノ粒子の対応する色素とは異なっており、
各ナノ粒子群が、それぞれ対応する平均径および1.15以上1.19以下の多分散指数を有しており、
各ナノ粒子群の前記対応する平均径は、前記複数のナノ粒子群における当該ナノ粒子群以外の複数のナノ粒子群それぞれの対応する平均径から少なくとも2倍異なっており、
前記対応する平均径が30nm以上3000nm以下である、キャリブレーションセット。
【0087】
実施形態17
前記色素がいずれも脂溶性蛍光色素を含む、実施形態16に記載のキャリブレーションセット。
【0088】
実施形態18
前記キャリブレーションセットが、前記複数のナノ粒子群を含む混合物を含む容器を備える、実施形態16に記載のキャリブレーションセット。
【0089】
実施形態19
前記複数のナノ粒子群が、1.15g/mL~1.19g/mLの密度を有している、実施形態16に記載のキャリブレーションセット。
【0090】
実施形態20
前記複数のナノ粒子群の少なくとも1つがRNAを含んでいる、実施形態16に記載のキャリブレーションセット。
【符号の説明】
【0091】
100 キャリブレーションセット
102 ナノ粒子群
104 細胞外小胞(EV)
106 エクソソーム
108 マイクロベシクル
110 マイクロベシクル
112 オンコソーム
【国際調査報告】