(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】N2O分解用の材料
(51)【国際特許分類】
B01J 23/78 20060101AFI20230406BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20230406BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230406BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230406BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230406BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
B01J23/78 A ZAB
B01J23/75 A
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J35/10 301F
B01D53/86 222
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551015
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 ES2021070138
(87)【国際公開番号】W WO2021170893
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519448289
【氏名又は名称】コンセッホ スペリオル デ インベスティガシオンス サイエンティフィカス(シーエスアイシー)
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セルラノ ロティーナ、アナ
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス ガルバン、マリア コンスエロ
(72)【発明者】
【氏名】アビラ ガルシア、ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス フェレーラス、スサナ
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA07
4D148AB03
4D148BA14X
4D148BA37X
4D148BA41X
4D148BB17
4D148CA01
4D148DA03
4D148DA11
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB05C
4G169BB08C
4G169BB10C
4G169BB12C
4G169BB16C
4G169BC01A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC06B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BD12C
4G169CA10
4G169CA13
4G169DA06
4G169EC25
4G169FB06
4G169FB27
4G169FB30
4G169FB57
4G169FC07
4G169FC09
(57)【要約】
本発明は、アルカリ元素がドープされたコバルト酸化物に基づく非化学量論的スピネル型結晶構造を有する材料、制御された洗浄を伴う析出によってそれを得るための製造プロセス、およびN2O分解反応における高活性触媒としてのその特定の使用に関する。従って、我々は、本発明は大気中へのN2O排出を削減することを目的とするグリーン産業の分野の発明であると理解している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Co
3O
4-x/2A
yの非化学量論的スピネル型結晶構造を有し、
Xは、0.02~0.3の値を有し、
Aは、アルカリ元素であり、
yは、0.06~0.18の値を有し、
A/Co比は、0.02~0.10であり、
Co
2+/Co
3+比は、0.55~0.80であり、
結晶子サイズに相当する一次粒子サイズは、5nm~30nmである、
ことを特徴とする、材料。
【請求項2】
40m
2/g~80m
2/gのBET比表面積を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
0.2cm
3/g~0.4cm
3/gの細孔容積を有する、請求項1または請求項2に記載の材料。
【請求項4】
メソポーラスである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
前記アルカリ元素AがKであり、xが0.182であり、yが0.09である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
前記アルカリ元素AがCsであり、xが0.235であり、yが0.15である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
水にコバルト塩を溶解する工程(a)と、
水にアルカリ金属の塩または水酸化物を溶解する工程(b)と、
工程(b)で得られた溶液を、工程(a)で調製された溶液に、8~11のpHに達するまで、ゆっくりと添加する工程(c)と、
工程(c)で得られた固体を濾過し、工程(a)で添加したコバルト塩1グラム当たり5ml~75mlの水で洗浄する工程(d)と、
工程(d)で得られた固体を50℃~200℃の温度で12時間~20時間乾燥させる工程(e)と、
工程(e)で得られた固体を空気雰囲気中で200℃~700℃の温度で少なくとも30分間焼成する工程(f)と、
を含むことを特徴とする、請求項1~請求項6に記載の材料を得るためのプロセス。
【請求項8】
工程(a)における前記コバルト塩が、硝酸コバルト六水和物、硫酸コバルト、塩化コバルトおよび酢酸コバルトから選択される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
工程(b)における前記アルカリ金属の塩または水酸化物が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属酢酸塩から選択される、請求項7または請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記コバルト塩が硝酸コバルト六水和物であり且つ前記アルカリ金属の塩がアルカリ金属炭酸塩である場合、工程(d)の洗浄は、硝酸コバルト六水和物1g当たり16ml~21mlの量の水で行われる、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
触媒としての、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項12】
ガスの酸化/分解における触媒としての、請求項11に記載の材料の使用。
【請求項13】
N
2Oの分解のための触媒としての、請求項11に記載の材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非化学量論的スピネル型結晶構造を有する触媒、制御された洗浄を伴う析出によってそれを得るための製造プロセス、およびN2O分解反応におけるその特定の使用に関する。従って、我々は、本発明はN2O排出を削減することを目的とするグリーン産業の分野の発明であると理解している。
【背景技術】
【0002】
亜酸化窒素は温室効果ガスであり、CO2よりも298倍高いポテンシャルを持ち、オゾン層に壊滅的な影響を及ぼし、対流圏での寿命は100年である。産業部門は全N2O排出量の5%を生成しており、これは非常に近い将来に排出量の最大の増加を経験する可能性が高い部門であると推定されている。産業部門内では、硝酸とアジピン酸の生産がN2O排出の主な発生源である。工場の数は限られているため、バイオマス燃焼や農業などの、多くの拡散源を持つ他の部門と比較して、排出削減を達成するのはより簡単になる可能性がある。多くのアジピン酸工場では既に多くの対策が確立されているが、硝酸工場の排出削減は特に困難である。
【0003】
硝酸工場での亜酸化窒素の除去に最も効果的な技術は、アンモニアの酸化段階(二次処理)または排ガス流での除去(三次処理)の後に行われる触媒的分解プロセスである。二次処理用の市販の触媒がいくつかあるが、それらには、不活性化、低耐摩耗性、耐えなければならない高温(750℃~940℃)による活性相の焼結などの欠点がある。
【0004】
三次処理は、排ガス処理として実施されるため、硝酸工場の心臓部に影響しないという大きな利点を有する。排ガス中には、触媒の効率を大幅に変え得る他の成分(O2、H2O、場合によりNOx)が存在するので、主な技術的課題は、比較的低い温度(250℃~500℃)で活性があり、実際のプロセス条件下で作動可能な触媒システムを開発することである。
【0005】
低温でのN2Oの分解反応において活性があると考えられている触媒は、種々の金属(Cr、Mn、Fe、Co、NiまたはCu)で修飾されたゼオライト、ZnO、CeO2、Al2O3、TiO2またはZrO2上に担持された貴金属(Rh、Ru、Pd)、ハイドロタルサイト誘導体、スピネルおよび金属酸化物である。[M. Konsolakis, ACS Catal. 2015, 5, 6397-6421; J. Perez-Ramirez, Appl. Catal. B 44 (2003) 117-151]。これらの中で、触媒活性が最も高く且つO2およびH2Oに対する耐性が最も高いものは、コバルトスピネルに基づく。Yan et al [L. Yan, R. Ren, X. Wang, Q. Gao, D. Ji, J. Suo, Catal. Comm. 4 (2003) 505-509; L. Yan, R. Ren, X. Wang, D. Ji, J. Suo, Appl. Catal. B 45 (2003) 85-90]。式ZnxCo1-xCo2O4およびMxCo1-xCo2O4(M=Ni、Mg)(記録されたT50(N2Oが50%変換するのに必要な温度)は、それぞれ、250℃および220℃)が公表された研究。使用された作動条件は、15000時間-1のGHSV(ガスの時間ごとの空間速度(gas hourly space velocity))、1000ppmのN2O濃度、10%のO2、および5%のH2Oであった。同様の結果(T50=260℃)が、Xuらによって得られた。[L. Xue, C. Zhang, H. He, Y. Teraoka, Appl. Catal. B 75 (2007) 167-174]。そのCoCe0.05触媒はまた、15000時間-1の空間速度(space velocity)、1000ppmのN2O濃度、10%のO2、および3%のH2Oで作動する。
【0006】
アルカリ元素の添加により、コバルトスピネルCo3O4の触媒活性が向上する。[JP2007054714 (A)]。Stelmachowskiらは、7000時間-1、1500ppmのN2O濃度、および1%のH2Oで作動するKをドープしたコバルトスピネルを使用した335℃での50%の変換を報告した。[P. Stelmachowski, G. Maniak, A. Kotarba, Z. Sojka, Catal. Comm. 10 (2009) 1062-1065]。Xueらは、350℃で77%を報告した。[Li Xue, Changbin Zhang, Hong He, Yasutake Teraoka, Applied Catalysis B: Environmental, Volume 75, Issues 3-4, 2007, Pages 167-174]。これらの研究では、(実際の濃度よりも高い濃度であっても)O2とH2Oの存在は考慮されているが、試験された空間速度は、工業的に使用されているものよりもはるかに低い。また、Kで促進されたCo3O4触媒の場合を除いて、安定性試験は行われず、触媒は10時間だけ評価された。他の著者は、Csなどの他のアルカリがドープされた触媒の挙動についても記載しており、ドーピングは含浸法によって行っている。実際の作動条件で存在する、供給物への水の添加は、これらの触媒を使用したN2O変換の減少につながる。[Pawel Stelmachowski, Gabriela Maniak, Andrzej Kotarba, Zbigniew Sojka, Catalysis Communications, Volume 10, Issue 7, 2009, Pages 1062-1065]。
【0007】
従って、実際の条件下で350℃未満の温度で90%を超える変換率を報告する触媒を提供する必要があり、これらの条件下で安定な触媒を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、式Co3O4-x/2Ayの新規材料、その製造プロセス、およびN2Oの分解反応における触媒としてのその使用に関する。
【0009】
第1の態様において、本発明は、
一般式「Co3O4-x/2Ay」の非化学量論的スピネル型結晶構造を有し、
「X」は、0.02~0.3の値を有し、
「A」は、アルカリ元素であり、
「y」は、0.06~0.18の値を有し、
A/Co比は、0.02~0.10であり、
結晶子サイズに相当する一次粒子サイズは、5nm~30nmである、
ことを特徴とする、材料に関する。
【0010】
本発明において、「非化学量論的スピネル」は、アルカリ元素の存在によって引き起こされるCo3+からCo2+への還元があることによって、酸素空孔が生成されており、一般式Co3O4-x/2Ayを有しており、部分的に還元されている、スピネル型コバルト酸化物の立方晶構造を有する材料であると、理解される。
【0011】
このような触媒に関連する利点は、触媒中のCo2+/Co3+比が0.55~0.80であることによって、酸素の表面脱離が100℃付近の温度で起こり、酸素の格子脱離が200~300℃の温度で起こることである。
【0012】
材料は好ましくはメソポーラスである。本発明において、「メソポーラス材料」は、2nm~50nmの主要細孔サイズを有する細孔を有する材料を意味する。
【0013】
材料がメソポーラスであることの利点は、比表面積に対する細孔容積の理想的な比率に基づいて、ガスが触媒的活性中心に到達しやすいことである。好ましい実施形態では、材料は、0.2cm3/g~0.4cm3/gの細孔容積と、40m2/g~80m2/gのBET比表面積と、を有し、比較的高バルクな材料であり、その結果、触媒活性に有利な高い気体-固体接触表面積がもたらされる。
【0014】
別の好ましい実施形態では、アルカリ元素AはKであり、xは0.182であり、yは0.09である。
【0015】
別の好ましい実施形態では、アルカリ元素AはCsであり、xは0.235であり、yは0.15である。
【0016】
本発明の別の態様は、
コバルト塩を水に溶解する工程(a)と、
アルカリ金属の塩または水酸化物を水に溶解する工程(b)と、
工程(b)で得られた溶液を、工程(a)で調製された溶液に、8~11のpHに達するまで、ゆっくりと添加する工程(c)と、
工程(c)で得られた固体を濾過し、工程(a)で添加したコバルト塩1グラム当たり5ml~75mlの水で洗浄する工程(d)と、
工程(d)で得られた固体を50℃~200℃の温度で12時間~20時間乾燥させる工程(e)と、
工程(e)で得られた固体を空気雰囲気中で200℃~700℃の温度で少なくとも30分間焼成する工程(f)と、
を特徴とする、非化学量論的スピネル型構造を有するCo3O4-x/2Ay材料を得るためのプロセスである。
【0017】
工程(d)での洗浄は、制御された方法で行われ、非常に重要であり、なぜなら試料中のAの含有量がそれに依存するからであり、このことは、Co(III)からCo(II)への還元温度に直接影響し、従って、得られるCo2+/Co3+比は、このような制御で、反応における初期のCo塩含有量に関連して使用される水の量に依存し、特定量のアルカリが本発明の材料の結晶格子に導入される。更に、この制御された洗浄は、アルカリ金属が添加される追加の工程を回避し、本発明の手順を先行技術に記載された手順よりも単純にする。
【0018】
本発明に記載のプロセスによれば、析出物形成段階からCoとアルカリイオンとの間の密接な接触が生じるような方法でアルカリ金属がドープされているコバルト酸化物の非化学量論的コバルトスピネル析出物が生成される。ドープはバルク型ドープであり、アルカリ元素は、表面上だけでなく全体的に分布している。
【0019】
この合成プロセスは、コバルトスピネル形成プロセスに直接影響し、X線回折および走査型電子顕微鏡によって明らかにされるように、結晶子または結晶ドメインのサイズに相当する一次粒子サイズを有する材料を生成する。コバルトスピネルの小さな一次粒子サイズが、高度に露出した比表面積をもたらし、触媒1グラムあたりの活性中心の比率を高め、触媒効率の向上に寄与する。
【0020】
更に、このプロセスによるアルカリイオンの包含は、Co(III)イオンのCo(II)への部分的な還元を引き起こすため、材料の化学物理特性を大幅に変更する。このことにより、得られるスピネルの化学量論性が変化し、格子内の酸素の割合が減少し、それにより、構造が歪み、従来のスピネルとは明らかに異なる触媒特性が得られる。
【0021】
プロセスの別の好ましい実施形態において、工程(a)におけるコバルト塩は、硝酸コバルト六水和物、硫酸コバルト、塩化コバルトおよび酢酸コバルトから選択される。
【0022】
プロセスの別の好ましい実施形態において、工程(b)のアルカリ金属の塩または水酸化物は、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ金属酢酸塩から選択される。より好ましい実施形態では、アルカリ金属の塩または水酸化物は、アルカリ金属炭酸塩である。
【0023】
プロセスの別の好ましい実施形態では、コバルト塩が硝酸コバルト六水和物であり且つアルカリ金属の塩がアルカリ金属炭酸塩である場合、工程(d)の洗浄は、硝酸コバルト六水和物1g当たり16ml~21mlの量の水で行われる。
【0024】
本発明の第3の態様は、上述の材料の触媒としての使用に関する。
【0025】
より好ましい実施形態では、それは、ガスの酸化/分解における触媒としての材料の使用を指す。
【0026】
更により好ましい実施形態では、それは、N2O分解のための触媒としての材料の使用を指す。
【0027】
触媒は、50330時間-1のGHSVでの340℃からの実際の作動条件下での98%のN2Oの変換を示す。
【0028】
触媒は、24000時間-1のGHSVでの310℃からの実際の作動条件下での98%のN2Oの変換を示す。
【0029】
更に、それは、N2Oの変換が低下することなく且つ粒子サイズまたは多孔度などの決定的な特性が変化することなく、少なくとも65時間のH2OおよびO2の存在下で高い安定性を示す。
【0030】
説明および特許請求の範囲を通じて、「含む」という用語およびその変形は、他の技術的特徴、添加物、成分または工程を排除することを意図していない。本発明の他の目的、利点、および特徴は、当業者には、一部は説明から、一部は本発明の実施から明らかになるであろう。以下の実施例および図面は、説明のために提供されるものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】本発明の材料の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【
図3】N
2の吸着脱離等温線によって得られた本発明の材料の細孔サイズ分布を示す。
【
図5】本発明の材料のプログラムされた温度でのH
2による還元を示す。
【
図6】本発明の材料のプログラムされた温度でのO
2の脱離を示す。
【
図7】本発明の材料および従来技術で報告された材料の、O
2およびH
2O蒸気の存在下での、空間時間の関数としてのN
2Oの変換を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施例]
以下において、本発明を、本発明者らによって行われた本発明の製品の有効性を実証する試験の結果によって、説明する。
【0033】
[実施例1]
【0034】
14.84グラムの硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を100mlの水に溶解し、溶液を撹拌下に保った。炭酸カリウム(K2CO3)15%w/wの溶液100mlを調製し、ビュレットに入れ、硝酸コバルト溶液にゆっくりと添加した。炭酸カリウムの添加は、pHが9に達するまで続けた。固体を濾別し、15℃で250mlの水で洗浄した。これを100℃で16時間乾燥し、400℃で2時間焼成して、式Co3O3.88K0.08の触媒を得た。
【0035】
[実施例2]
【0036】
実施例1に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであるArのガス流を、比(ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、260℃で73%、280℃で95%、310℃超の温度で98%であった。
【0037】
この材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmでありO2=3%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、250℃で17%、300℃で88%、350℃超の温度で96%であった。
【0038】
この材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであり[H2O]=0.5%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、250℃で25%、280℃で75%、340℃超の温度で98%であった。
【0039】
実施例1に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであり[O2]=3%v/vでありH2O=0.5%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、260℃で17%、275℃で42%、290℃で73%、315℃で94%、350℃超の温度で97%であった。
【0040】
実施例1に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであり[O2]=3%v/vでありH2O=0.5%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、360℃の反応温度を保つと、93%の初期N2O変換値が得られ、変換値は、65時間の反応中に、96%にわずかに増加した。
【0041】
[実施例3]
【0042】
14.84グラムの硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を100mlの水に溶解し、溶液を撹拌下に保った。炭酸セシウム(Cs2CO3)30%w/wの溶液100mlを調製した。この溶液をビュレットに注いだ。pHが9に達するまで炭酸セシウムの溶液をゆっくりと添加し維持した。添加した炭酸セシウムの総量は57.5mlであった。固体を濾別し、15℃で220mlの水で洗浄した。これを100℃で16時間乾燥し、400℃で2時間焼成して、式Co3O3.88Cs0.15の材料を得た。
【0043】
[実施例4]
【0044】
実施例3に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであり[O2]=3%v/vでありH2O=0.5%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、280℃で50%、300℃で80%、320℃で93%、340℃超の温度で97%であった。
【0045】
[実施例5]
【0046】
59.36グラムの硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を400mlの水に溶解し、溶液を撹拌下に保った。炭酸セシウム(Cs2CO3)30%w/wの溶液400mlを調製した。この溶液をビュレットに注いだ。pHが9に達するまで炭酸セシウムの溶液をゆっくりと添加し維持した。添加した炭酸セシウムの総量は207mlであった。固体を濾別し、15℃で1160mlの水で洗浄した。これを100℃で16時間乾燥し、400℃で2時間焼成して、式Co3O3.88Cs0.06の材料を得た。
【0047】
[実施例6]
【0048】
実施例5に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであり[O2]=3%v/vでありH2O=0.5%v/vであるArのガス流を、比(総ガス流量:触媒体積)GHSV=24000時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、250℃で47%、280℃で88%、300℃で95%、320℃超の温度で99%であった。
【0049】
[実施例7]
【0050】
14.84グラムの硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O)を100mlの水に溶解し、溶液を撹拌下に保った。炭酸カリウム(K2CO3)15%w/wの溶液100mlを調製し、ビュレットに入れ、炭酸カリウムの溶液を硝酸コバルトの溶液にゆっくりと添加し、pHが9に達するまで添加を続けた。添加した炭酸カリウムの総量は54mlであった。固体を濾別し、15℃で400mlの水で洗浄した。これを100℃で16時間乾燥し、400℃で2時間焼成して、式Co3O4のK不含有材料を得た。
【0051】
[実施例8]
【0052】
実施例7に従って得られた材料の試料を管型反応器に導入し、N2O濃度が1400ppmであるArガス流を、比(ガス流量:触媒体積)GHSV=50300時間-1で供給し、反応器内部のガスを徐々に加熱すると、反応器出口でのN2O濃度が徐々に減少し、対応するN2O変換値は、280℃で9%、320℃で20%、360℃で34%、380℃で44%であった。アルカリ元素が存在しないことによるN2O変換値の減少が、試験した温度範囲全体で観察された。
【0053】
[実施例9]
【0054】
実施例1および3に記載されている材料のX線回折図(XRD)は、これらの材料が実施例7に記載されているCo
3O
4スピネルに近い立方晶構造を有することを示している(JCPDS 00-042-1467)(
図1)。平均結晶子サイズは、シェラーの式(Scherrer equation)に従って計算され、それぞれ約18nmおよび10nmの値だった。
【0055】
これらの材料の走査型電子顕微鏡画像(
図2)は、実施例1の平均一次粒子サイズが10~20nmであり、実施例3の平均一次粒子サイズが8~15nmであることを示した。
【0056】
これらの電子顕微鏡画像は、一次粒子の凝集体によって形成された材料の一般的表面外観を示し、一次粒子は、XRDによって得られた結晶子サイズと同様のサイズを有し、直径がN
2吸着脱離等温線によって決定されるメソポーラス材料の範囲内(2~50nm)である細孔を有している(
図3)。
【0057】
[実施例10]
【0058】
実施例1および7に記載されている材料の試料に対して行った、X線光電子分光法(XPS)による分析は、Kを含まない試料(実施例7)と比較して、試料Co
3O
3.88K
0.08(実施例1)におけるCo2pレベルがより低い結合エネルギーにシフトしていることを示し、このことは、K
+イオンの存在によって促進される電子供与効果によって安定化されるCo(II)(CoO)種の割合の増加によって説明される(
図4)。
【0059】
これらの結果によれば、本発明に記載された手順に従って得られた材料は、そのレドックス特性に関して、以前に記載されたものとは明らかに異なる。
【0060】
[実施例11]
【0061】
実施例1および3に記載されている材料に対して行った、プログラム化温度還元実験は、従来のスピネルに関する従来技術で報告されているものと比較して、第1の還元ピークが低温にシフトしていることを検出した(Co
3O
3.88K
0.08およびCo
3O
3.88Cs
0.15に関して、それぞれ、246℃および262℃)(
図5)。これらの結果から、Co
2+/Co
3+比を計算すると、化学量論値よりも高い値が得られた(0.7対0.5)。スピネル格子におけるCo(III)に対するCo(II)の比率のこの増加は、酸素空孔の特定比率の発現をもたらし、それにより、N
2O分子の吸着および活性化に関する特別な性質が材料の表面に与えられる。これにより、スピネルの化学量論性が変化し、酸素欠乏になる。
【0062】
これらの結果によれば、本発明に記載された手順に従って得られた材料は、そのレドックス特性に関して、以前に記載されたものとは明らかに異なる。
【0063】
[実施例12]
【0064】
O
2温度プログラム化脱離(O
2-TPD)実験を、実施例1、3および7に記載されている材料を用いて行った。表面酸素に関するピーク(P
O2-I)が、Kを含まない材料(実施例7)では190℃なのに対し、洗浄が制御された材料(実施例1および3)では約100℃の温度に現れた(
図6)。
【0065】
更に、格子酸素に関するピーク(PO2-II)は、低温(180~350℃)にシフトしたが、Kを含まないスピネルでは、このピークは300℃以降に現れた。
【0066】
これらの結果に基づき、本特許でカバーされる材料は、そのO2吸着/脱離容量に関して、明らかに異なると結論付けることができる。
【0067】
N2O分解反応に関して最も受け入れられているメカニズムは、活性中心[A]上でのN2Oの吸着、N2の放出、およびその中心上に吸着されたO原子の脱離を経る。第二のN2O分子がこの中心上に吸着し、別のN2分子が生成される。吸着した2つのO原子は再結合して分子状O2を形成し、これが反応の限定段階である:
【0068】
N2O(g)+[A]→N2(g)+[O--A]
[O--A]+N2O(g)→N2(g)+O2(g)+[A]
【0069】
得られたO2DTPの結果は、実施例1および3に記載されている試料が温度(200~300℃)で格子酸素からのO2脱離プロセス(PO2-II)を行う能力を有することを示しており、その温度は、従来のスピネル構造の試料で要する温度(300℃超)よりも有意に低い。このことは、これらの新規触媒が示された条件下でN2O分解プロセスを行うのに必要な温度の低下に関連していると考えられ得る。
【0070】
[実施例13]
【0071】
本発明の実施例1に従って得られた触媒から得たデータと、従来技術文献「D1」:[Li Xue, Changbin Zhang, Hong He, Yasutake Teraoka, Applied Catalysis B: Environmental, Volume 75, Issues 3-4, 2007, Pages 167-174, figure 8]に記載されているデータと、の比較を行う。例えば、350℃では、湿潤性でO
2が存在する条件下でこの触媒で得た変換率は約77%であることが観察できるのに対し、Co
3O
3.88K
0.08材料で得た変換率は96%である。これらの結果を比較するために、異なる実験が行われたときの空間速度(GHSV)の関数としてデータを分析した。
図7は、空間時間または接触時間の関数としての、言及した触媒の湿潤性でO
2が存在する条件下でのN
2O変換の結果を示している。即ち、各実験で使用された触媒の体積と流量とを考慮している(T=V
cat/F=1/GHSV)。この比較は、従来技術と比較して、この材料の触媒活性が大幅に改善されていることを明らかにしている。なぜなら、同様またはより高い変換を達成するために必要な接触時間がより短い(触媒の体積がより少ない)からである。
【0072】
以下の表は、反応が一次速度論に従って進行することを考慮して計算された、350℃での反応定数「K350℃」の値を示す。これは、触媒活性の最良の定量的表現である。
【0073】
【0074】
これらのデータによると、本特許でカバーされている触媒によって生成される反応速度の増加は、この例で言及されている論文に最もよく記載されているものよりも、桁違いに大きい。
【0075】
一方、この論文に記載されている触媒(D1)(Co
3O
4)は、実施例7(
図3)に記載されているK不含有スピネルと同様の780.1eVのCo2p3/2成分の結合エネルギーを示し、O
2DTPによって得られる格子酸素の脱離は、実施例7に記載されているK不含有スピネルと同様に、300℃以上で起こる(
図5)。
【0076】
[実施例14]
【0077】
本発明の実施例1および実施例3に従って得られた材料と、先行技術文献「D2」:[Pawel Stelmachowski, Gabriela Maniak, Andrzej Kotarba, Zbigniew Sojka, Catalysis Communications, Volume 10, Issue 7, 2009, Pages 1062-1065, Figure 7]に示されたデータと、を比較する。「D2」の
図7から、湿潤条件(オプションb)下でCsドープ触媒が350℃で約90%の変換値を達成することが分かる。この温度でのこの曲線における推定変換率は約50%なので、Kドープ触媒の活性は大幅に低いのに対し、実施例1および5の材料では、変換率は、それぞれ、96%および98%であり、且つ、かなり少ない量の触媒(より短い接触時間)を用いている。
【0078】
更に、以下の表は、反応が一次速度論に従って進行することを考慮して計算された、350℃での反応定数「K350℃」の値を示す。これは、触媒活性の最良の定量的表現である。
【0079】
【0080】
これらのデータによると、本特許でカバーされている材料によって生成される反応速度の増加は、この例で言及されている論文に最もよく記載されているものよりも、桁違いに大きい。
【国際調査報告】