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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】改変免疫細胞とその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230406BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230406BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230406BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230406BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230406BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230406BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230406BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20230406BHJP
   C12N 15/26 20060101ALN20230406BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20230406BHJP
   A61K 38/20 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/863 Z
C12N15/867 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61K35/15
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/761
A61P31/00
A61P37/02
A61P35/00
C12N15/24
C12N15/26
A61K38/17
A61K38/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552469
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(85)【翻訳文提出日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 CN2021095556
(87)【国際公開番号】W WO2021238877
(87)【国際公開日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】202010460730.5
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010550754.X
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522329098
【氏名又は名称】南京北恒生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲シン▼芸
(72)【発明者】
【氏名】閻忠輝
(72)【発明者】
【氏名】熊瑛
(72)【発明者】
【氏名】浦容容
(72)【発明者】
【氏名】任江涛
(72)【発明者】
【氏名】賀小宏
(72)【発明者】
【氏名】王延賓
(72)【発明者】
【氏名】韓露
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA44
4C084DA12
4C084DA14
4C084NA14
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZB32
(57)【要約】
改変免疫細胞は、(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(ii)外因の性インターロイキン、及び(iii)外因性のFlt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子を、発現する。さらに、治療がん、感染症又は自己免疫疾患の治療における、変免疫細胞の使用を提供する。従来の改変免疫細胞と比較して、腫瘍を殺傷する活性が顕著に向上した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(ii)外因性のインターロイキン、及び(iii)外因性のFlt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子を、発現する改変免疫細胞。
【請求項2】
前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体である、請求項1に記載の改変免疫細胞。
【請求項3】
前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体である、請求項2に記載の改変免疫細胞。
【請求項4】
前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせである、請求項1~3のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項5】
前記Flt3L遺伝子は、配列番号35又は37に示される核酸配列と少なくとも90%の同一性を有し、
または、前記Flt3L遺伝子によってコードされるポリペプチドは、配列番号36又は38に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項6】
前記インターロイキンのコード遺伝子は、配列番号23、27、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59に示される核酸配列と少なくとも90%の同一性を有し、
または、前記インターロイキンは、配列番号24、28、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項4に記載の改変免疫細胞。
【請求項7】
前記XCL1遺伝子は、配列番号25又は29に示される核酸配列と少なくとも90%の同一性を有し、
または、前記XCL1遺伝子によってコードされるポリペプチドは、配列番号26又は30に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項8】
前記XCL2遺伝子は、配列番号67に示される核酸配列と少なくとも90%の同一性を有し、
または、前記XCL2遺伝子によってコードされるポリペプチドは、配列番号68に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項9】
前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞、又はNKT細胞から選択されるものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項10】
前記T細胞は、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞又はαβ-T細胞である、請求項9に記載の改変免疫細胞。
【請求項11】
前記リガンド結合ドメインは、scFv、Fab、単一ドメイン抗体、ナノ抗体、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin、及びDARPINから選択するものである、請求項3~10のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項12】
前記リガンド結合ドメインは、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される標的に結合する、請求項3に記載の改変免疫細胞。
【請求項13】
前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154のタンパク質の膜貫通ドメインから選択されるものである、請求項3~12のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項14】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dのタンパク質のシグナル伝達ドメインから選択されるものである、請求項3~13のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項15】
前記共刺激ドメインは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、ZAP70、及びそれらの組み合わせのタンパク質の共刺激シグナルである伝達ドメインから選択される1つ又は複数である、請求項3~14のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項16】
免疫細胞が、CD52、GR、TCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247ζ、HLA-I、HLA-II、B2M、PD1、CTLA-4、LAG3、及びTIM3から選択される少なくとも1つの不活性化遺伝子をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項17】
前記インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子の発現は、条件付き発現である、請求項1~16のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項18】
前記インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子は、条件付きで発現するように、誘導性、阻害性、又は組織特異的プロモーターに作動可能に連結されている、請求項17に記載の改変免疫細胞。
【請求項19】
前記インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子は、局在化ドメインに作動可能に連結されている、請求項1~18のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項20】
(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸配列、(ii)インターロイキンをコードする核酸配列、及び(iii)Flt3L、XCL2及び/又はXCL1をコードする核酸配列、を含む核酸分子。
【請求項21】
前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体である、請求項20に記載の核酸分子。
【請求項22】
前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせである、請求項20に記載の核酸分子。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか一項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項24】
前記ベクターは、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ポリオーマウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)から選択されるものである、請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
請求項1~19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞、請求項20~22のいずれか一項に記載の核酸分子又は請求項23~24のいずれか一項に記載のベクターを含む、キット。
【請求項26】
請求項1~19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞、請求項20~22のいずれか一項に記載の核酸分子又は請求項23~24のいずれか一項に記載のベクター、及び様々な製薬上許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項27】
(a)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする第1の核酸配列又はそれがコードするリガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(b)インターロイキンをコードする第2の核酸配列又はそれがコードするインターロイキン、及び(c)Flt3L、XCL2及び/又はXCL1をコードする第3の核酸配列又はそれがコードするFlt3L、XCL2及び/又はXCL1タンパク質を、免疫細胞に導入することを含む改変免疫細胞を調製する方法。
【請求項28】
前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせである、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記(a)、(b)及び(c)は、任意の順で免疫細胞に連続的に導入される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記(a)、(b)及び(c)は、同時に免疫細胞に導入される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
がん、感染症又は自己免疫疾患を治療するための医薬の調製における、請求項1~19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞、請求項20~22のいずれか一項に記載の核酸分子、請求項23~24のいずれか一項に記載のベクター、請求項25に記載のキット又は請求項26に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫療法の分野に属し、より具体的には、本発明は、(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(ii)外因性インターロイキン、及び(iii)外因性Flt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子を発現する改変免疫細胞に関する。より好ましくは、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体である。
【背景技術】
【0002】
腫瘍免疫療法は、主にヒトの免疫系と腫瘍の微小環境の調節によって、最終的に主に自己の免疫を利用して腫瘍細胞を殺傷する方法である。免疫系は、体で全体として形成されたものであり、自然免疫も腫瘍免疫において非常に重要な役割を果たす。
【0003】
樹状細胞及びマクロファージなどの一部の抗原提示細胞は、自然免疫と獲得免疫の間の架け橋である。抗原提示細胞は、腫瘍抗原を認識して獲得免疫系に提示し、腫瘍特異的T細胞を活性化して、腫瘍を殺傷することができる。したがって、抗原提示を強化することによって免疫系の腫瘍殺傷効果を強化することは、腫瘍免疫の重要な研究の方向である。
【0004】
CAR細胞療法は、重要な腫瘍細胞免疫療法である。CAR細胞による腫瘍制御は、通常、免疫系の活性化、CAR細胞の活性化と拡大、活性化CAR細胞による腫瘍組織への浸潤、腫瘍細胞の殺傷のように行われる。しかし、現在のCAR細胞療法には、腫瘍の微小環境がCAR細胞を抑制し、CAR細胞が腫瘍組織に浸潤することができない問題がある。したがって、CAR細胞に対する腫瘍微小環境の阻害を低減し、CAR細胞の生存期間を向上させること、又は他の免疫細胞を動員してCAR細胞との相乗効果を果たすことは、CAR細胞の治療効果を改善するために非常に重要である。
【0005】
従来、インターロイキンIL-7とケモカインCCL-19は、内因性樹状細胞を腫瘍組織に動員することにより、腫瘍反応性内因性T細胞を活性化し、メモリーT細胞へ分化し、これにより、従来のTCR-T細胞(CN109153989Aを参照)又はCAR-T細胞の抗腫瘍活性(Adachi,K. ,Kano,Y. ,Nagai,T. et al. IL-7 and CCL19 expression in CAR-T cells improves immune cell infiltration and CAR-T cell survival in the tumor. Nat Biotechnol 36,346-351(2018))を促進することが開示された。
【0006】
従来の1型樹状細胞(conventional DC1、cDC1)は、腫瘍抗原を提示する主要な免疫細胞である樹状細胞のサブセットでである。研究により、cDC1が腫瘍関連抗原、特に壊死性細胞関連抗原を効果的に提示し、抗原特異的CD8+T細胞応答を効果的に誘導できるので、invivoでの腫瘍殺傷に対して非常に重要な役割を果たすことを見出した。マウスとヒトの研究により、腫瘍微小環境におけるcDC1の分布は、抗腫瘍免疫応答と正の相関関係があり、腫瘍関連免疫の重要な評価パラメーターであることを見出した。cDC1は、マウスとヒトではあまり分布しておらず、腫瘍免疫応答率が低いマウスとヒトの腫瘍微小環境ではほとんどない。したがって、腫瘍治療におけるcDC1の役割を最適化することは、腫瘍免疫療法の効果を改善する重要な研究の方向である。
【0007】
CCL-19は、樹状細胞と内因性T細胞を腫瘍に動員する能力を持つが、cDC1樹状細胞を動員する能力は限られているため、cDC1樹状細胞を効果的に分化又は動員して、腫瘍抗原提示の効率を高め、体内の養子免疫応答を誘導し、腫瘍の不均一性の問題を解決し、CAR細胞治療の効果を向上させる新な免疫療法が必要である。
【発明の概要】
【0008】
第1の局面において、本発明は、(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(ii)外因性のインターロイキン、及び(iii)外因性のFlt3L、XCL2及び/又はXCL1遺伝子を、発現する新規の改変免疫細胞を提供する。
【0009】
一実施形態において、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体であり、好ましくは、キメラ抗原受容体である。
【0010】
一実施形態において、前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせであり、好ましくはIL-7である。
【0011】
一実施形態において、前記インターロイキン、Flt3L、XCL2又はXCL1タンパク質は、タンパク質分解に耐性のある融合タンパク質或いは変異体である。
【0012】
一実施形態において、前記免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単核細胞、NK細胞又はNKT細胞から選択されるものである。好ましくは、前記T細胞は、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞又はαβ-T細胞である。
【0013】
一実施形態において、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体である。ここで、リガンド結合ドメインは、scFv、Fab、単一ドメイン抗体、ナノ抗体、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin、及びDARPINから選択するものである。好ましくは、前記リガンド結合ドメインは、scFv、Fab、単一ドメイン抗体、及びナノ抗体から選択されるものである。
【0014】
一実施形態において、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、TSHR、CD19、CD123、CD22、BAFF-R、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、GPRC5D、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、AFP、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CS1、CD138、NCAM、Claudin18.2、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gploo、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組合せから選択される標的に結合する。好ましくは、前記標的は、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD38、CD123、CD138、CD171、MUC1、AFP、Folate受容体α、CEA、PSCA、PSMA、Her2、EGFR、IL13Ra2、GD2、NKG2D、EGFRvIII、CS1、BCMA、メソテリン、及びそれらの任意の組み合わせから選択されるものである。
【0015】
一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154のタンパク質の膜貫通ドメインから選択されるものである。好ましくは、膜貫通ドメインは、CD8α、CD4、CD28及びCD278の膜貫通ドメインから選択されるものである。
【0016】
一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dのタンパク質のシグナル伝達ドメインから選択されるものである。好ましくは、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζを含むシグナル伝達ドメインである。
【0017】
一実施形態において、前記共刺激ドメインは、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、ZAP70、及びそれらの組み合わせのタンパク質の共刺激シグナルである伝達ドメインから選択される1つ又は複数である。好ましくは、前記共刺激ドメインは、CD27、CD28、CD134、CD137、又はCD278の共刺激シグナル伝達ドメイン又はそれらの組み合わせである。
【0018】
一実施形態において、外因性のインターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1の発現又は活性は、恒常発現である。他の実施形態において、外因性のインターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1の発現又は活性は、条件付き発現である。例えば、条件付き発現は、外因性遺伝子を誘導性、阻害性、又は組織特異的プロモーターに作動可能に結合することによって達成される。
【0019】
一実施形態において、インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1は、局在化ドメインに作動可能に連結され得る。前記局在化ドメインは、例えば小胞体、ゴルジ体、核などの細胞膜、細胞質内の特定オルガネラのような特定の細胞位置で、本発明の外因性遺伝子を局在化して発現させることができる。局在化ドメインは、核局在化シグナル、ガイドペプチド、膜貫通ドメインなどを含むが、これらに限定されない。一実施形態において、本発明の外因性遺伝子インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1は、膜貫通ドメインに作動可能に連結され、これによって、改変免疫細胞の表面に固定され、発現することができる。
【0020】
第2の局面において、本発明提は、(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸配列、(ii)インターロイキンをコードする核酸配列、及び(iii)Flt3L、XCL2及び/又はXCL1をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。好ましくは、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体又はT細胞受容体であり、より好ましくはキメラ抗原受容体である。好ましくは、前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせであり、より好ましくはIL-7、そのサブユニット又はその組み合わせである。好ましくは、前記核酸は、DNA、又はRNAである。
【0021】
本発明は、さらに上記核酸分子を含むベクターを提供する。具体的には、前記ベクターは、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ポリオーマウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)から選択されるものである。いくつかの実施形態において、該ベクターは、さらに、免疫細胞における自律複製の起点、選択マーカー、制限酵素切断部位、プロモーター、ポリアデニル化テール(polyA)、3’UTR、5’UTR、エンハンサー、ターミネーター、インシュレーター、オペロン、選択マーカー、レポーター遺伝子、ターゲティング配列及び/又はタンパク質精製タグなどのエレメントを含む。特定の実施形態において、前記ベクターは、インビトロで転写されたベクターである。
【0022】
一実施形態において、本発明は、さらに本発明に記載の改変免疫細胞、核酸分子又はベクターを含むキットを提供する。
【0023】
一実施形態において、本発明は、さらに改変免疫細胞、本発明の核酸分子又はベクター、及び様々な薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
第3の局面において、本発明は、さらに、(a)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする第1の核酸配列又はそれがコードするリガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(b)インターロイキンをコードする第2の核酸配列又はそれがコードするインターロイキン、(c)XCL1、XCL2及び/又はFlt3Lをコードする第3の核酸配列又はそれがコードするXCL1、XCL2及び/又はFlt3Lタンパク質を、免疫細胞に導入することを含む改変免疫細胞を調製する方法を提供する。好ましくは、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、キメラ抗原受容体又は嵌合T細胞受容体であり、より好ましくはキメラ抗原受容体である。好ましくは、前記インターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、そのサブユニット、その組み合わせ、又はそのサブユニットの組み合わせであり、より好ましくは、IL-7、そのサブユニット又はそのサブユニットの組み合わせである。
【0025】
一実施形態において、上記の成分(a)、(b)及び(c)は、任意の順で免疫細胞に連続的に導入され得る。他の実施形態において、上記の成分(a)、(b)及び(c)は、例えば、1つ又は複数のベクターに(a)、(b)及び(c)をクローニングすることによって、免疫細胞に同時に導入することができる。
【0026】
第4の局面において、本発明は、さらに、本発明による有効量の免疫細胞、核酸分子、ベクター又は医薬組成物を被験者に投与することで、がん、感染症又は自己免疫疾患に罹患している被験者を治療する方法を提供する。
【0027】
一実施形態において、前記がんは、固形腫瘍又は血液腫瘍である。より具体的には、前記がんは、脳神経膠腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨肉腫、脳がん及びCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸癌及び直腸がん、結合組織がん、消化器系のがん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、肝臓腫瘍、肺がん、リンパ腫、メラノーマ、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮又は子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん及びその他のがんと肉腫、ならびにB細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びWaldenstromマクログロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)、B細胞前リンパ性白血病、形質細胞様樹状細胞腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病(CML)、悪性リンパ増殖性疾患、MALTリンパ腫、有毛細胞白血病、辺縁帯リンパ腫、多発性骨髄腫、脊髄異形成症、形質芽球性リンパ腫、前白血病、形質細胞様樹状細胞腫瘍、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)から選択されるものである。
【0028】
一実施形態において、前記感染症は、ウイルス、細菌、真菌、及び寄生虫によって引き起こされる感染症を含むが、これらに限定されない。
【0029】
一実施形態において、前記自己免疫疾患は、I型糖尿病、腹腔疾患、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、アジソン病、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、重力筋無力症、血管炎症、悪性貧血、及び全身性エリテマトーデスなどを含むが、これらに限定されない。
【0030】
本発明の改変免疫細胞の利点は、共発現されたインターロイキン及びFlt3L、XCL2及び/又はXCL1が、腫瘍部位でのDC細胞の分化又は動員を効果的に促進し、DC細胞の数を増加させ、改変免疫細胞の増殖及び生存時間を増加することができる。これによって、改変免疫細胞に対する腫瘍微小環境の阻害効果を低減し、改変免疫細胞の腫瘍殺傷能力を改善するできるとともに、増加したDC細胞のにより、体内T細胞の養子免疫応答を活性化し、人工免疫細胞との相乗効果をもたらし、最終的に腫瘍抑制を強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、組換えレトロウイルスベクターmCD19-CAR-Flt3Lの構造の模式図である。
図2図2は、組換えレトロウイルスベクターmCD19-CAR-XCL1の構造の模式図である。
図3図3は、Panc02-mCD19細胞のCD19の発現率を示す図である。
図4図4は、フローサイトメトリーによって測定したCAR-T細胞のCARの発現レベルを示す図である。
図5図5は、ELISAによって測定したCAR-T細胞のXCL1の発現レベルを示す図である。
図6図6は、ELISAによって測定したCAR-T細胞のIL-7の発現レベルを示す図である。
図7図7は、ELISAによって測定したCAR-T細胞のCCL19の発現レベルを示す図である。
図8図8は、ELISAによって測定したCAR-T細胞のFlt3Lの発現レベルを示す図である。
図9図9は、CAR-T細胞をそれぞれ標的細胞及び非標的細胞と共培養した後のIFN-γの放出レベルを示す図である。
図10図10は、CAR-T細胞でマウスの膵臓癌を治療した後、マウスの体重の変化曲線を示す図である。
図11図11は、CAR-T細胞でマウスの膵臓癌を治療した後、マウスの腫瘍増殖曲線を示す図である。
図12図12は、CAR-T細胞でマウスの膵臓癌を治療した後、マウスの生存曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての科学的及び技術的用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0033】
リガンドを特異的に認識する細胞表面分子
本明細書において、「リガンドを特異的に認識する細胞表面分子」という用語は、標的分子(例えば、リガンド)に特異的に結合することができる細胞の表面上に発現される分子を指す。このような表面分子は、通常、リガンドを特異的に結合可能なリガンド結合ドメイン、表面分子を細胞表面に固定する膜貫通ドメイン、及びシグナル伝達に関与する細胞内ドメインを含む。このような表面分子の例には、例えば、T細胞受容体又はキメラ抗原受容体が含まれる。
【0034】
本明細書において、「T細胞受容体」又は「TCR」という用語は、抗原提示に応答し、T細胞活性化に関与する膜タンパク質複合体を指す。TCRの刺激は、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体分子(MHC)によって引き起こされる。前記抗原提示細胞は、抗原ペプチドをT細胞に提示し、TCR複合体に結合して、一連の細胞内シグナル伝達を誘導する。TCRは、それぞれヘテロダイマーを形成する6つのペプチド鎖で構成されており、通常、αβ型とγδ型に分ける。各ペプチド鎖は、定常領域及び可変領域を含み、可変領域は、特定の抗原及びMHC分子への特異性の結合に関与している。TCRの可変領域は、リガンド結合ドメインを含むか、又はリガンド結合ドメインと改変可能に連結され得る。そのうち、リガンド結合ドメインは、以下のように定義される。
【0035】
本明細書において、「キメラ抗原受容体」又は「CAR」は、通常、リガンド結合ドメイン(例えば、抗体の抗原結合部分)、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインをそれぞれ含む人工的に構築されたハイブリッドポリペプチドを指し、各ドメインがリンカーによって接続されている。CARは、モノクローナル抗体の抗原結合特性を利用して、T細胞及びその他の免疫細胞の特異性と反応性を、MHC非拘束的な方法で選択された標的に再方向付けする能力を有する。MHC非拘束性の抗原認識は、CAR細胞に、抗原プロセッシングとは無関係に抗原を認識することで、腫瘍回避の主要なメカニズムをバイパスする能力を与える。また、CARは、T細胞内で発現すると、有利には内因性T細胞受容体(TCR)のα鎖及びβ鎖と二量体化しない。
【0036】
本明細書において、「リガンド結合ドメイン」は、リガンド(例えば、抗原)に結合することができる任意の構造又はその機能的変異体を指す。リガンド結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス抗体、キメラ抗体、及びそれらの機能的フラグメントを含む抗体構造であり得るが、これらに限定されない。例えば、リガンド結合ドメインは、Fab、Fab’、Fvフラグメント、F(ab’)2、単鎖抗体(Single Chain Antibody Fragment、scFv)、単一ドメイン抗体(Single Domain Antibody、sdAb)、ナノ抗体(Nanobody、Nb)、抗原結合リガンド、組換えフィブロネクチンドメイン、anticalin、及びDARPINなどを含むが、これらに限定されない。好ましくは、Fab、scFv、sdAb、及びナノ抗体から選択される。本発明において、リガンド結合ドメインは、一価又は二価であり得、そして単一特異性、二重特異性又は多重特異性抗体であり得る。他の実施形態において、リガンド結合ドメインは、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、及びNKG2Dなどの特定のタンパク質の特異的結合ポリペプチド又は受容体構造であり得る。
【0037】
「Fab」は、免疫グロブリン分子がパパインで切断されてなる2つの同一のフラグメントのいずれかを指し、ジスルフィド結合しているインタクトな軽鎖及び重鎖のN末端部分からなり、重鎖のN末端部分は、重鎖可変領域とCH1を含む。インタクトなIgGと比較して、Fabは、Fcフラグメントを含まず、移動度と組織浸透性が高く、抗体のエフェクター機能を媒介することなく抗原に一価で結合できる。
【0038】
「単鎖抗体」又は「scFv」は、リンカーで繋がれた抗体重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)から構成される抗体である。リンカーの最適な長さ及び/又はアミノ酸組成を選択することが可能である。リンカーの長さは、scFvの可変領域の折りたたみ方と相互作用のし方に大きく影響し得る。実際、短いリンカーが用いられる場合(例えば、5-10アミノ酸の間)、鎖内の折り畳みが防ぐことができる。リンカーのサイズと構成の選択については、例えば、Hollingeret al.,1993Proc Natl Acad.Sci.U.S.A.90:6444-6448;米国特許出願公開第2005/0100543、2005/0175606、2007/0014794、並びにPCT出願公開WO2006/020258及びWO2007/024715を参照されたい。それらは、参照することによって本明細書に組み込まれる。scFvは、任意の順序で繋がれたVH、及びVL、例えば、VH-リンカー-VL、又はVL-リンカー-VHを含む。
【0039】
「シグナルドメイン抗体」又は「sdAb」は、1つの重鎖可変領域(VHH)と2つの従来のCH2及びCH3領域のみを含む、天然で軽鎖を欠く抗体を指し、「重鎖抗体」とも呼ばれる。
【0040】
「ナノボディ」又は「Nb」は、元の重鎖抗体と同じの構造安定性及び抗原結合活性を有し、個別にクローン化され及び発現されたVHH構造を指し、標的抗原に結合可能なものとして知られている最小の単位である。
【0041】
「機能的バリアント」又は「機能的フラグメント」は、親のアミノ酸配列を実質的に含み、また親のアミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾(即ち、置換、欠失又は挿入)を含む変異体を指し、変異体が親のアミノ酸配列の生物学的活性を保持していることを条件とする。一実施形態において、前記アミノ酸修飾は、好ましくは保存的修飾である。
【0042】
本明細書で使用される「保存的修飾」は、アミノ酸配列を含む抗体又は抗体フラグメントの結合特徴に顕著な影響を与えないか、または変更しないアミノ酸修飾を指す。これらの保存的修飾は、アミノ酸置換、追加、及び欠失を含む。修飾は、部位特異的変異誘発及びPCR媒介変異誘発などの当分野で公知の標準的な技術によって、本発明のキメラ抗原受容体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当分野で定義されている。アミノ酸残基のファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有する。保存的修飾は、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は関与する残基の両親媒性の性質の類似性に基づいて選択することができる。
【0043】
したがって、「機能的バリアント」又は「機能的フラグメント」は、親のアミノ酸配列と少なくとも75%同一であり、好ましくは、少なくとも76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、親のアミノ酸の生物学的活性、例えば、結合活性を保持する。
【0044】
本明細書で使用される「配列同一性」は、2つの(ヌクレオチド又はアミノ酸)配列がアラインメントの同じ位置に同一の残基を有する程度を指し、通常、パーセンテージとして表される。好ましくは、同一性は、比較される配列の全長にわたって決定される。したがって、まったく同じである配列の2つのコピーは、100%同一性を有する。当業者は、配列の同一性の決定のため、例えばBlast(Altschulet al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-3402)、Blast2(Altschulet al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410)、Smith-Waterman(Smithet al.(1981)J.Mol.Biol.147:195-197)、及びClustalWなどのいくつかのアルゴリズムを、標準的なパラメータを使用して利用可能であることを認識しているであろう。
【0045】
リガンド結合ドメインは、特定の病患状態に関する標的細胞上の細胞表面マーカー、例えば、腫瘍特異的抗原又は腫瘍関連抗原を識別して選択され得る。したがって、一実施形態において、本発明のリガンド結合ドメインは、TSHR、CD19、CD123、CD22、CD30、CD171、CS-1、CLL-1、CD33、EGFRvIII、GD2、GD3、BCMA、Tn Ag、PSMA、ROR1、FLT3、FAP、TAG72、CD38、CD44v6、CEA、EPCAM、B7H3、KIT、IL-13Ra2、メソテリン、IL-l lRa、PSCA、PRSS21、VEGFR2、LewisY、CD24、PDGFR-β、SSEA-4、CD20、Folate受容体α、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、NCAM、Prostase、PAP、ELF2M、Ephrin B2、IGF-I受容体、CAIX、LMP2、gplOO、bcr-abl、チロシナーゼ、EphA2、Fucosyl GMl、sLe、GM3、TGS5、HMWMAA、o-アセチル-GD2、Folate受容体 β、TEM1/CD248、TEM7R、CLDN6、GPRC5D、CXORF61、CD97、CD 179a、ALK、ポリシアル酸、PLAC1、GloboH、NY-BR-1、UPK2、HAVCR1、ADRB3、PANX3、GPR20、LY6K、OR51E2、TARP、WT1、NY-ESO-1、LAGE-la、MAGE-A1、レグマイン、HPV E6、E7、MAGE Al、ETV6-AML、精子タンパク質17、XAGE1、Tie 2、MAD-CT-1、MAD-CT-2、Fos関連抗原1、p53、p53変異体、前立腺特異的タンパク質、サバイビン及びテロメラーゼ、PCTA-l/Galectin 8、MelanA/MARTl、Ras変異体、hTERT、肉腫転座ブレークポイント、ML-IAP、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、アンドロゲン受容体、Cyclin Bl、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B 1、BORIS、SART3、PAX5、OY-TES 1、LCK、AKAP-4、SSX2、RAGE-1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、RU1、RU2、腸のカルボキシルエステラーゼ、mut hsp70-2、CD79a、CD79b、CD72、LAIR1、FCAR、LILRA2、CD300LF、CLEC12A、BST2、EMR2、LY75、GPC3、FCRL5、IGLL1、PD1、PDL1、PDL2、TGFβ、APRIL、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される1つまたは複数の標的に結合する。好ましくは、前記標的は、CD19、CD20、CD22、BAFF-R、CD33、EGFRvIII、BCMA、GPRC5D、PSMA、ROR1、FAP、ERBB2(Her2/neu)、MUC1、EGFR、CAIX、WT1、NY-ESO-1、CD79a、CD79b、GPC3、Claudin18.2、NKG2D、及びそれらの任意の組み合わせから選択される。本発明のCARは、標的とされる抗原に応じて、その抗原に対する特異的なリガンド結合ドメインを含むように設計することができる。例えば、CD19が標的となる抗原である場合、CD19抗体を本発明のリガンド結合ドメインとして使用することができる。好ましい実施形態において、本発明CARは、CD19 scFvを含み、CD19 scFvが、配列番号2の1-107位又は配列番号14の1-107位に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変領域配列及び配列番号2の123-242位又は配列番号14の123-238位に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列を含む。
【0046】
本明細書で使用される「膜貫通ドメイン」は、免疫細胞(例えば、リンパ球、NK細胞、又はNKT細胞)の表面でキメラ抗原受容体を発現可能にし、標的細胞に対する免疫細胞の細胞応答を導くポリペプチド構造を指す。膜貫通ドメインは、天然又は合成で得られ、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通ドメインは、キメラ抗原受容体が標的抗原に結合するときにシグナル伝達することができる。とても適する本発明の膜貫通ドメインは、例えば、TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRγ鎖、TCRδ鎖、CD3ζサブユニット、CD3εサブユニット、CD3γサブユニット、CD3δサブユニット、CD45、CD4、CD5、CD8α、CD9、CD16、CD22、CD33、CD28、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154とその機能的フラグメントに由来し得る。または、膜貫通ドメインは、合成で得られるものであり、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含み得る。好ましくは、前記膜貫通ドメインが、CD8α鎖に由来し、配列番号4又は16に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。または、前記CD8α膜貫通ドメインのコード配列は、配列番号3又は15に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%又は99%又は100%の配列同一性を有する。
【0047】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、さらに、リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間のヒンジ領域を含み得る。本明細書で使用される「ヒンジ領域」、膜貫通ドメインをリガンド結合ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチド又はポリペプチドを指す。具体的には、ヒンジ領域は、リガンド結合ドメインへより大きな柔軟性とアクセス性を提供するためのものである。ヒンジ領域は、最大300アミノ酸を含み得る。好ましくは、10~100アミノ酸を含み、最も好ましくは、25~50アミノ酸を含む。ヒンジ領域は、全体又は一部が天然分子に由来し得、例えば、全体又は一部がCD8、CD4又はCD28の細胞外領域に由来し、又は全体又は一部が抗体定常領域に由来し得る。または、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に対応する合成配列であるか、又は完全に合成されたヒンジ配列であってもよい。好ましい実施形態において、ヒンジ領域は、CD8α鎖、FcγRIIIα受容体、IgG4又はIgG1のヒンジ領域部分を含む。より好ましくは、CD8αヒンジであり、それは、配列番号12又は22に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有し、または、CD8αヒンジのコード配列は、配列番号11又は21に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0048】
本明細書で使用される「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、エフェクター機能シグナルを伝達し、細胞に特定な機能を実行するように指示する、タンパク質の部分を指す。細胞内シグナル伝達ドメインは、リガンド結合ドメインでの抗原結合後の細胞内の一次シグナル伝達に関与することで、免疫細胞の活性化と免疫応答をもたらす。言い換えれば、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを発現している免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つを活性化する役割を果たす。例えば、T細胞のエフェクター機能は、サイトカインの分泌を含む細胞溶解活性又はヘルパー活性であり得る。
【0049】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体に含まれる細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞受容体及び補助受容体の細胞質配列であり得る。それらは、抗原受容体結合に一緒に作用して、一次シグナル伝達、ならびにこれらの配列の任意の誘導体又は変異体、及び同じ又は類似の機能的を有する任意の合成配列を開始する。細胞内シグナル伝達ドメインは、多数の免疫受容体チロシン活性化モチーフ(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motifs,ITAM)を含み得る。本発明の細胞内シグナル伝達ドメインの非限定的な例は、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。このシグナル伝達ドメインは、配列番号8又は20に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。或いはそのコード配列は、配列番号7又は19に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0050】
一実施形態において、本発明のキメラ抗原受容体は、1つ又は複数の共刺激ドメインを含む。共刺激ドメインは、共刺激分子の細胞内部分全体を含む共刺激分子からの細胞内機能的シグナル伝達ドメイン、又はその機能的フラグメントであり得る。「共刺激分子」は、T細胞上の共刺激リガンドに特異的に結合し、それによってT細胞の共刺激応答(例えば、増殖)を媒介する同族の結合パートナーを指す。共刺激分子には、MHCクラス1分子、BTLA、及びTollリガンド受容体が含まれるが、これらに限定されない。本発明の共刺激ドメインの非限定的な例には、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、CARD11、CD2、CD7、CD8、CD18(LFA-1)、CD27、CD28、CD30、CD40、CD54(ICAM)、CD83、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、CD270(HVEM)、CD272(BTLA)、CD276(B7-H3)、CD278(ICOS)、CD357(GITR)、DAP10、DAP12、LAT、NKG2C、SLP76、PD-1、LIGHT、TRIM、及びZAP70のタンパク質に由来する共刺激シグナル伝達ドメインが含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明のCARの共刺激ドメインは、4-1BB、CD28、CD27、OX40又はそれらの組み合わせに由来する。一実施形態において、本発明のCARに含まれる共刺激ドメインは、配列番号6又は18に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、該共刺激ドメインのコード配列は、配列番号5又は17に示されるヌクレオチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0051】
一実施形態において、本発明のCARは、T細胞などの細胞で発現する場合、新生タンパク質を小胞体へ輸送し、さらに細胞表面に輸送できるように、シグナルペプチドをさらに含む。シグナルペプチドのコアは、単一のα-ヘリックスを形成する傾向がある疎水性アミノ酸の長いセグメントを含みえる。シグナルペプチドの末端には、通常、シグナルペプチダーゼによって認識及び切断されるアミノ酸のセグメントがある。シグナルペプチダーゼは、転座中又は転座後に切断され、遊離シグナルペプチド及び成熟タンパク質が生成される。そして、遊離シグナルペプチドは、特定のプロテアーゼによって消化される。本発明に用いられるシグナルペプチドは、例えば、CD8α、IgG1、GM-CSFRαなどに由来する、当業者であれば周知のものである。一実施形態において、本発明に用いられるシグナルペプチドは、配列番号10又は34に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、該シグナルペプチド的コード配列は、配列番号9又は33に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0052】
一実施形態において、本発明のCARは、CARの発現時間を調節するためのスイッチ構造をさらに含む。例えば、スイッチ構造は、ダイマー化ドメインの形をとることができ、それと対応するリガンドに結合することによってコンフォメーション変化を誘発し、細胞外結合ドメインを露出させて標的抗原に結合させ、それによってシグナル伝達経路を活性化する。または、スイッチドメインを使用して、それぞれ結合ドメインおよびシグナル伝達ドメインと接続してもよく、スイッチドメインが互いに結合する場合だけ(例えば、誘導化合物の存在下で)、結合ドメインとシグナル伝達ドメインとがダイマーによって連結され、シグナル伝達経路を活性化することができる。スイッチ構造は、マスキングペプチドの形態であり得る。マスキングペプチドは、細胞外結合ドメインをマスクして、標的抗原への結合を阻止することができ、マスキングペプチドが、例えばプロテアーゼによって切断されると、細胞外結合ドメインが露出され、「通常」のCAR構造となることができる。当業者に知られている各種のスイッチ構造も本発明に使用することができる。
【0053】
一実施形態において、本発明のCARは、自殺遺伝子を含み得、即ち、外因性物質によって誘導され得る細胞死シグナルを発現させ、必要な場合(例えば、重度の毒性副作用が発生した場合)に、CAR細胞を除去する。例えば、自殺遺伝子は、CD20エピトープ、RQR8などの挿入されたエピトープの形をとることができ、必要に応じて、これらのエピトープを標的とする抗体または試薬を加えることによりCAR細胞を排除することができる。自殺遺伝子は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)であってもよく、この遺伝子により、ガンシクロビル治療によって誘発されて細胞死を引き起こすことが可能である。自殺遺伝子はiCaspase-9であってもよく、AP1903、AP20187などの化学誘導薬によってダイマー化するように誘導して、下流のCaspase3分子を活性化してアポトーシスを引き起こすことが可能である。当業者に知られている各種の自殺遺伝子を本発明に使用することができる。
【0054】
一実施形態において、前記キメラ抗原受容体は、(a)4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、(b)CD27共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、(c)CD28共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、(d)OX40共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、(e)CD28共刺激ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、(f)OX40共刺激ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、または(g)CD28共刺激ドメイン、OX40共刺激ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0055】
インターロイキン
インターロイキンは、白血球によって産生され、白血球間で機能するサイトカインの一種であり、情報の伝達と、免疫細胞の活性化および調節と、T細胞およびB細胞の活性化、増殖、分化の媒介と、炎症反応において重要な役割を果たす。インターロイキンの生物学的効果は、通常、対応する受容体への結合によって達成され、例えば、IL-7の生物学的特性は、IL-7の受容体IL-7Rへの結合によって達成される。
【0056】
一実施形態において、本発明に用いられるインターロイキンは、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-21、IL-17、IL-18、IL-23、それらのサブユニット、それらの組み合わせ、又はサブユニットの組み合わせを含むが、これらに限定されない。IL-2は、主にT細胞によって産生され、オートクリン及びパラクリンにより役割を果たす。IL-2は、T細胞の増殖を維持し、サイトカインの産生を促進するだけでなく、CD8+T細胞及びCD4+T細胞の細胞傷害性を発揮させることができる。また、IL-2は、NK細胞の増殖を刺激し、NK殺傷活性を増強し、NK細胞からのIFNγ、TNFβ、TGFβなどの因子の産生を促進し、マクロファージを活性化し、マクロファージの抗原提示能力と標的細胞殺傷能力を高めることができる。IL-7は、主に骨髄と胸腺間質細胞によって産生され、その主な機能として、前駆B細胞の成長を促進することと、末梢T細胞のアポトーシスを抑え、細胞増殖と持続的生存を誘導することと、樹状細胞とマクロファージの発達と機能に影響を与え、マクロファージに様々なサイトカインを分泌させることとを含む。IL-12は、主にT細胞とNK細胞に作用する。具体的には、IL-12は、活性化T細胞の増殖を刺激し、Th0細胞からTh1細胞への分化を促進すると、CTL及びNK細胞の細胞傷害性活性を誘導してIFNγ、TNFα、GMCSFなどのサイトカインの分泌を促進すると、NK細胞とIL-2Rα、TNF受容体、CD56の発現を促進し、腫瘍細胞に対するADCC効果を高めるという役割を果たすことができる。IL-15は、活性化マクロファージ、表皮細胞、線維芽細胞などの様々な細胞で産生される。IL-15の分子構造は、IL-2と類似しているため、IL-2Rのβ鎖とγ鎖を使用して標的細胞に結合し、IL-2と同様の生物学的活性を発揮することができる。例えば、T細胞及びNK細胞の増殖を刺激し、B細胞のの増殖と分化を誘導することができる。IL-21は、活性化CD4+T細胞、NKT細胞、Tfh細胞、Th17細胞によって産生され、IL-2及びIL-15と高い相同性を示す。IL-21は、幅広い免疫調節機能を持っており、IL-21を活性化すると、活性化CD8+T細胞の増殖を促進し、NK細胞の細胞傷害性活性を高め、B細胞の増殖と分化を促進することができる。Th17細胞から分泌されるIL-17は、制御性T細胞を抑制し、好中球とマクロファージを動員して活性化する炎症誘発性分子である。IL-18も、炎症誘発性分子であり、T細胞とNK細胞から分泌されるものである。活性化したマクロファージも大量のIL-18を分泌することができる。IL-18は、自然免疫及び養子免疫に対して重要な役割を果たすことが報告された。IL-23は、同様にT細胞及びNK細胞から分泌されるものであり、Th17細胞の分化を促進することができる。樹状細胞、単球、マクロファージも、低レベルのIL-23受容体を発現し、IL-23によって活性化させることができる。研究により、これらのインターロイキンが単独又は組み合わせて効果的な抗腫瘍効果を発揮できることが分かる。
【0057】
一実施形態において、本発明で使用されるインターロイキンは、配列番号23、27、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57又は59に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、そのコード配列は、配列番号24、28、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、又は60に示される核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0058】
Flt3L遺伝子
チロシンキナーゼ受容体3リガンド(Fms-like tyrosine kinase 3 ligand,Flt3L)は、サイトカインであり、Fms様チロシンキナーゼ受容体3(Fms-like tyrosine kinase 3 receptor,Flt3R)に特異的に結合でき、それにより、DC細胞、ナチュラルキラー細胞、細胞傷害性Tリンパ球などの増殖、分化、成熟を促進することができる。Flt3Lは、あらゆるマウスの組織や臓器に広く存在する。Flt3Lは、ヒト末梢血単球で最も高く発現し、次に心臓、胎盤、肺、脾臓、胸腺、卵巣、小腸、肝臓、腎臓、膵臓で発現し、脳組織で最も低く発現した。
【0059】
研究により、Flt3Lは、IL-6、IL-7、IL-13などのサイトカインとの組み合わせによってT細胞の増殖を促進できることがわかった。また、Flt3Lは、B細胞の初期分化と、NK細胞やDCなどの血液由来の前駆細胞の分化とに重要な役割を果たす。特に、未成熟なDCのみが受容体Flt3Rを発現できるため、Flt3Lは、DC前駆細胞を選択的に増殖させ、DC分化を促進することができる。研究により、Flt3Lをマウスに皮下注射すると、リンパ組織及び非リンパ組織のDC数を大幅に増加可能のことがわかった。Flt3Lを運ぶ組換えアデノウイルスベクターと化学療法薬5-フルオロウラシルの組み合わせが、肝臓又は直腸癌のマウスモデルにおいて有意な抗腫瘍効果を達成したことが報告された。具体的には、Flt3Lは、骨髄免疫細胞の増殖と分化を刺激することにより、化学療法薬によって引き起こされる骨髄損傷を効果的に防止したが、局所的に増殖する腫瘍のDCは、5-フルオロウラシル及びNK細胞によって殺された腫瘍細胞のフラグメントを提示し、それによって特定の抗腫瘍免疫応答を誘発した。
【0060】
一実施形態において、本発明で使用されるFlt3Lは、配列番号36又は38に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、Flt3Lのコード配列は、配列番号35又は37に示される核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0061】
XCL1及びXCL2遺伝子
リンパ系ケモカインとしても知られるC型ケモカインファミリーは、主にCD8+T細胞とナチュラルキラー細胞によって産生されるXCL1とXCL2の2つのメンバーを含む。XCL1は、独自の配列機能と2つの交換可能なタンパク質空間コンフォメーションを有し、これによって、他のケモカインと異ならせ、独自の機能を果たすことができる。XCL1特異的受容体XCR1は、Gタンパク質共役型受容体ファミリーのメンバーであり、2つの間の相互作用が、胸腺のネガティブセレクションと自己免疫寛容の確立に重要な役割を果たすだけでなく、交差抗原提示を開始し、細胞傷害性免疫応答を仲介することもできる。XCL1は、免疫系のバランスを調節し、腸の免疫恒常性を維持するだけでなく、自己免疫疾患、腎炎、結核、ヒト免疫不全ウイルス感染症などの様々な疾患にも関連している。XCL2とXCL1の核酸配列は97%同一であり、7位と8位で2つのアミノ酸残基が異なる。XCL1ではAspとLysであり、XCL2ではHisとArgである。研究により、XCL2は、XCL1と比べて、発現プロファイル、構造、及び機能が非常に似っていることが分かった。例えば、XCL1と同様に、XCL2も、単量体と二量体の2つの相互変換可能なタンパク質空間コンフォメーションを有する。そのうち、単量体のコンフォメーションは、XCR1に結合して活性化させ、二量体のコンフォメーションは、グリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan、GAG)のヘアピン構造に対してより高い親和性を示す。XCL1及びXCL2の受容体であるXCR1は、抗原提示能力を持つDC(cDC1)細胞で選択的に発現しており、いくつかの研究により、XCL1の導入により、抗腫瘍免疫療法及び標的ワクチンの有効性を効果的に改善できることがわかった。
【0062】
一実施形態において、本発明で使用されるXCL1は、配列番号26又は30に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、XCL1のコード配列は、配列番号25又は29に示される核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0063】
一実施形態において、本発明で使用されるXCL2は、配列番号68に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。または、XCL2のコード配列は、配列番号67に示される核酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、97%、99%又は100%の配列同一性を有する。
【0064】
外因性遺伝子の発現
本発明の外因性遺伝子、例えば、インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1の発現は、構成的発現又は条件付き発現であり得る。
【0065】
一実施形態において、外因性インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1の発現は、条件付き発現である。例えば、必要に応じて、本発明の外因性遺伝子を、誘導性、阻害性、又は組織特異的プロモーターに作動可能に連結して、特定の時間又は特定の組織又は細胞型において、導入された外因性遺伝子の発現レベルを調節することができる。一実施形態において、プロモーターは、誘導性プロモーター、即ち、特定の環境条件、発生条件、又は誘導物質の存在下のみで転写を開始するプロモーターである。そのような環境条件は、例えば、腫瘍酸性微小環境、腫瘍低酸素微小環境などを含む。そのような誘導剤は、例えば、シクサイクリン、テトラサイクリン、又はそれらの類似体を含む。テトラサイクリンの類似体は、例えば、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デスメチルクロロテトラサイクリン、メチサイクリン、ドキシサイクリン、及びミノサイクリンホワイトを含む。誘導性プロモーターは、例えば、Lacオペロン配列、テトラサイクリンオペロン配列、ガラクトースオペロン配列、又はドキシサイクリンオペロン配列などを含む。他の実施形態において、プロモーターは、抑制可能なプロモーターである。即ち、抑制可能なプロモーターに特異的なリプレッサーの存在下で、細胞内の外来遺伝子の発現が抑制されるか、又は発現されない。抑制可能なプロモーターは、例えば、Lac阻害性エレメント又はテトラサイクリン阻害性エレメントを含む。本発明では、Tet-onシステム、Tet-offシステム、Cre/loxPシステムなどを含む当分野で周知の誘導性/阻害性発現システムを使用することができるが、これらに限定されない。
【0066】
一実施形態において、インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1は、局在化ドメインに作動可能に連結され得る。前記局在化ドメインは、例えば小胞体、ゴルジ体、核などの細胞膜、細胞質内の特定のオルガネラのような特定の細胞位置で、本発明の外因性遺伝子を局在化して発現させることができる。局在化ドメインは、核局在化シグナル、ガイドペプチド、膜貫通ドメインなどを含むが、これらに限定されない。一実施形態において、本発明の外因性遺伝子インターロイキン、Flt3L、XCL2及び/又はXCL1は、膜貫通ドメインに作動可能に連結され、これによって、改変免疫細胞の表面に固定され、発現することができる。
【0067】
一実施形態において、本発明における外因性遺伝子、例えば、インターロイキン、Flt3L、XCL2又はXCL1タンパク質は、野生型、又は特定の特性(例えば、タンパク質分解に対する耐性)を有する、融合タンパク質又は変異体である。
【0068】
核酸
本発明は、さらに、(i)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸配列、(ii)インターロイキンをコードする核酸配列、及び(iii)Flt3L、XCL2及び/又はXCL1をコードする核酸配列を含む核酸分子を提供する。
【0069】
一実施形態において、前記リガンドを特異的に認識する細胞表面分子は、T細胞受容体又はキメラ抗原受容体であり、好ましくはキメラ抗原受容体である。キメラ抗原受容体は、上記のように定義される。
【0070】
本明細書で使用される「核酸分子」は、それぞれ一本鎖及び/又は二本鎖形態、線状又は環状、又はそれらの混合物(ハイブリッド分子を含む)である、修飾又は非修飾のRNA、又はDNAなどのリボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドの配列を含む。したがって、本発明の核酸は、DNA(例えば、dsDNA、ssDNA、cDNA)、RNA(例えば、dsRNA、ssRNA、mRNA、ivtRNA)、それらの組み合わせ又は誘導体(例えば、PNA)を含む。好ましくは、前記核酸は、DNA、又はRNAであり、より好ましくはmRNAである。
【0071】
核酸は、通常のホスホジエステル結合又は非通常の結合(例えば、ペプチド核酸(PNA)に発見するアミド結合)を含み得る。本発明の核酸は、例えば、トリチル化塩基及び滅多に見られない塩基(例えば、イノシン)などの1つ又は複数の修飾された塩基をさらに含む。本発明の多鎖CARがポリヌクレオチドから発現され得ば、化学的、酵素的、又は代謝的修飾を含む他の修飾も考えられる。核酸は、単離された形で提供することができる。一実施形態において、核酸は、転写制御エレメント(プロモーター、エンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルを含む)、リボソーム結合部位、イントロンなどの調節配列を、さらに含む。
【0072】
本発明の核酸配列は、所望の宿主細胞(例えば、免疫細胞)において最適な発現を行い、又は細菌、酵母、又は昆虫細胞での発現に使用するように、コドン最適化される。コドン最適化は、ターゲティング配列に存在する、特定の種の高発現遺伝子でまれなコドンを、その種の高発現遺伝子で一般的なコドンで置き換え、置換前後のコドンが同じアミノ酸をコードすることを指す。したがって、最適なコドンの選択は、宿主ゲノムのコドン使用嗜好によって決められる。
【0073】
ベクター
本発明は、さらに、本発明に記載の核酸を含むベクターを提供する。ここで、リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸配列、IL-7をコードする核酸配列、XCL1をコードする核酸、XCL2をコードする核酸及び/又はFlt3Lをコードする核酸配列は、1つ以上のベクターにすることができる。
【0074】
本明細書で使用される「ベクター」は、(外因性)遺伝物質を宿主細胞に移すためのビヒクルとして使用される核酸分子であり、核酸分子が、該宿主細胞において、例えば、複製及び/又は発現することができる。
【0075】
ベクターは、通常、ターゲティングベクターと発現ベクターを含む。「ターゲティングベクター」は、例えば、相同組換え又は特定の標的部位での配列を使用するハイブリッドリコンビナーゼによって、単離された核酸を細胞の内部に送達する培地である。「発現ベクター」は、適切な宿主細胞における異種核酸配列(例えば、本発明のキメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする配列)の転写及びそれらのmRNAの翻訳に使用されるベクターである。本発明に適するベクターは、当分野の既知のものであり、多くの市販のものを利用可能である。一実施形態において、本発明のベクターは、プラスミド、ウイルス(例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV、ポリオーマウイルス、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)など)、ファージ、ファージミド、コスミド、及び人工染色体(BAC、及びYACを含む)を含むが、これらに限定されない。ベクター自体は、通常、ヌクレオチド配列であり、インサート(導入遺伝子)を含むDNA配列と、ベクターの「バッバックボーン」として機能するより大きな配列とを含むことが一般的である。操作されたベクターは、通常、宿主細胞における自律複製のための起点(ポリヌクレオチドの安定発現が望まれる場合)、選択マーカー、及び制限酵素切断部位(例えば、マルチクローニング部位、MCS)をさらに含む。ベクターは、プロモーター、ポリアデニル化テール(polyA)、3’UTR、エンハンサー、ターミネーター、インシュレーター、オペロン、選択マーカー、レポーター遺伝子、ターゲティング配列及び/又はタンパク質精製タグなどのエレメントもさらに含む。具体的な実施形態において、前記ベクターは、in vitroで転写されたベクターである。
【0076】
改変免疫細胞とその調製方法
本発明は、さらに、本発明の核酸又はベクターを含む改変免疫細胞を提供する。つまり、本発明の改変免疫細胞は、リガンドを特異的に認識する細胞表面分子、外因性IL-7遺伝子、並びにXCL1、XCL2及び/又はFlt3L遺伝子を発現する。
【0077】
本明細書で使用される「免疫細胞」は、1つ又は複数のエフェクター機能(例えば、細胞傷害性細胞死滅活性、サイトカインの分泌、ADCC及び/又はCDCの誘導)を有する免疫系の任意の細胞を指す。例えば、免疫細胞は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞及び/又はNKT細胞、または臍帯血などの幹細胞源から得られる免疫細胞であり得る。好ましくは、免疫細胞はT細胞である。T細胞は、例えば初代Tのようなin vitroで培養されたT細胞、又はJurkat、SupT1などのようなin vitroで培養されたT細胞系からのT細胞、又は被験者から得られたT細胞などの任意のT細胞であり得る。被験者は、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、及びそれらのトランスジェニック種を含む。T細胞は、様々な供給源から入手可能であり、末梢血単球、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位の組織、腹水、胸膜滲出液、脾臓組織、腫瘍などを含む。T細胞は、濃縮又は精製されることも可能である。T細胞は、任意の発達段階のものであってもよく、CD4+/CD8+T細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例えばTh1及びTh2細胞)、CD8+T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、γδ-T細胞、αβ-T細胞などを含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、免疫細胞はヒトT細胞である。T細胞は、フィコール分離などの当業者で知られる様々な技術を使用して、被験者の血液から得ることができる。本発明において、免疫細胞は、キメラ抗原受容体、外因性IL-7遺伝子、並びにXCL1、XCL2、及び/又はFlt3L遺伝子を発現するように操作されたものである。
【0078】
当分野で公知の方法(例えば、形質導入、トランスフェクション、形質転換などによる)で、キメラ抗原受容体ポリペプチド、ならびにIL-7遺伝子及びXCL1、XCL2及び/又はFlt3L遺伝子をコードする核酸配列を、免疫細胞に導入することができる。「トランスフェクション」は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)を標的細胞に導入するプロセスである。例えば、RNAトランスフェクションの場合、RNA(例えば、in vitroで転写されたRNA、ivtRNA)を宿主細胞に導入するプロセスである。この用語は、主に真核細胞での非ウイルス法に使用される。「形質導入」という用語は、通常、ウイルスを介した核酸分子又はポリヌクレオチドの転移を説明するために使用される。動物細胞のトランスフェクションは、通常、細胞膜に一過性の細孔又は「穴」を開いて、物質の取り込みを可能にすることに関するものである。トランスフェクションは、リン酸カルシウムを使用して、エレクトロポレーションで、細胞を圧搾することにより、または、カチオン性脂質を材料と混合してリポソーム(細胞膜と融合し、その運搬物を内部に沈着させる)を製造することにより、実施することができる。真核生物宿主細胞をトランスフェクトするための例示的な技術には、脂質小胞媒介取り込み、熱ショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈殿)、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーション穿孔が含まれる。「形質転換」という用語は、核酸分子又はポリヌクレオチド(ベクターを含む)の、細菌への又は非動物の真核細胞(植物細胞を含む)への、非ウイルス性転写を説明するために使用される。したがって、形質転換とは、細菌又は非動物の真核細胞の、その周囲からの細胞膜を介した直接取り込み、それに続く外因性遺伝物質(核酸分子)の取り込みから生じる遺伝学的変化である。形質転換は、人工的手段で実現される。形質転換が起こるためには、細胞又は細菌がコンピテンスの状態になければならない。原核生物の形質転換の技術は、熱ショック媒介取り込み、無傷細胞の細菌プロトプラストとの融合、マイクロインジェクション、及びエレクトロポレーションを含み得る。
【0079】
したがって、本発明は、さらに改変免疫細胞を調製する方法を提供する。改変免疫細胞を調製する方法は、免疫細胞に、(a)リガンドを特異的に認識する細胞表面分子をコードする第1の核酸配列又はそれがコードするリガンドを特異的に認識する細胞表面分子、(b)IL-7をコードする第2の核酸配列又はそれがコードするIL-7タンパク質、及び(c)XCL1、XCL2及び/又はFlt3Lをコードする第3の核酸配列又はそれがコードするXCL1、XCL2及び/又はFlt3Lタンパク質を導入することを含む。
【0080】
一実施形態において、上記の成分(a)、(b)及び(c)は、任意の順で免疫細胞に連続的に導入され得る。他の実施形態において、上記の成分(a)、(b)及び(c)は、例えば、1つ又は複数のベクターに(a)、(b)及び(c)をクローニングすることによって、免疫細胞に同時に導入することができる。
【0081】
核酸又はベクターが免疫細胞に導入された後、当業者は、従来の技術によって、得られた免疫細胞を増幅及び活性化することができる。
【0082】
さらに他の実施形態において、本発明の免疫細胞は、CD52、GR、TCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247ζ、HLA-I、HLA-II、B2M、並びにPD1、CTLA-4、LAG3及びTIM3などの免疫チェックポイント遺伝子から選択される少なくとも1つの不活化遺伝子をさらに含む。より具体的には、免疫細胞の少なくともTCR成分(TCRα、TCRβ遺伝子を含む)又はCD3成分(CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD247ζを含む)が不活性化される。この不活性化により、TCR-CD3複合体は、細胞内で機能的しなくなる。この方法は、移植片対宿主病(GvHD)に対してとても有効である。遺伝子を不活性化する方法は、当分野で公知のものであり、例えば、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、又はCRISPRシステムにおけるCas酵素媒介によるDNAフラグメント化によって、行われる。
【0083】
キット及び医薬組成物
本発明は、本発明の改変免疫細胞、核酸分子又はベクターを含むキットを提供する。
【0084】
好ましい実施形態において、本発明のキットは、説明書をさらに含む。
【0085】
本発明は、さらに、活性剤としての本発明の改変免疫細胞、核酸分子又はベクター、及び様々な薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。したがって、本発明は、さらに、医薬組成物又は医薬品の調製における核酸分子、ベクター又は改変免疫細胞の使用を含む。
【0086】
本明細書で使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、被験者及び有効成分と薬理学的及び/又は生理学的に適合性する(即ち、望ましくない局所的又は全身的作用を引き起こすことなく所望の治療効果を引き出すことができる)ベクター及び/又は賦形剤を意味し、当分野で公知のものである(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences.Edited by Gennaro AR,19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company,1995を参照)。薬学的に許容される賦形剤の例として、充填剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、吸着剤、付着防止剤、流動促進剤、抗酸化剤、香味剤、着色剤、甘味料、溶媒、共溶媒、緩衝剤、キレート剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、防腐剤、乳化剤、コーティング剤、等張剤、吸収遅延剤、安定剤及び張性調整剤を含むが、これに限定されない。当業者であれば、本発明の所望の医薬組成物を調製するために、適切な賦形剤を選択することができる。本発明の医薬組成物に使用される例示的な賦形剤は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース及び水を含む。通常、適切な賦形剤の選択は、使用される活性剤、治療される疾患、及び医薬組成物の所望の剤形により決められる。
【0087】
本発明による医薬組成物は、様々な経路による投与に適する。通常、投入は、非経口的に達成される。非経口送達方法は、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、くも膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、子宮内、膣内、舌下又は鼻腔内の投与を含む。
【0088】
本発明による医薬組成物は、さらに、固形剤、液剤、気体剤形、若しくは凍結乾燥剤形などの様々な剤形で調製することができる。特に、軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、散剤、錠剤、液剤、エアロゾル、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳化剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤または液体エキス剤抽出物の剤形で、又は所望の投入方法に特に適切な剤形で製剤化され得る。医薬品を生産するの本発明の公知のプロセスは、例えば、慣用的な混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、封鎖、又は凍結乾燥プロセスを含み得る。本明細書に記載の免疫細胞を含む医薬組成物は、通常、液剤で提供され、好ましくは薬学的に許容される緩衝液を含む。
【0089】
本発明による医薬組成物は、さらに、治療される疾患の治療及び/又は予防に適した1つ又は複数の他の薬剤と組み合わせて投与され得る。組み合わせに適した薬剤の好ましい例として、次のものが挙げられる。
【0090】
・公知の抗がん剤、例えば、シスプラチン、メイタンシン誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド、トポテカン、トリメトレキサートグルクロネート(trimetreate glucuronate)、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシン;
・ペプチド細胞毒素、例えば、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNase、及びRNaseなど;
・放射性核種、例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イリジウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225、及びアスタチン213;
・プロドラッグ、例えば、抗体指向酵素プロドラッグなど;
・免疫刺激剤血、例えば、血小板第4因子、黒色腫成長刺激タンパク質など;
・抗体又はそのフラグメント、例えば、抗CD3抗体又はそのフラグメント;
・補体活性化物質;
・異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド。
【0091】
また、本発明の医薬組成物は、化学療法及び放射線療法などの1つ又は複数の他の治療方法と組み合わせて使用することができる。
【0092】
治療への応用
本発明は、癌、感染症又は自己免疫疾患に罹患している被験者を治療する方法をさらに提供し、本発明による有効量の免疫細胞又は医薬組成物を被験者に投与することを含む。したがって、本発明は、癌、感染症又は自己免疫疾患の治療のための薬剤の製造における改変免疫細胞の使用をさらに含む。
【0093】
一実施形態において、有効量の本発明の免疫細胞及び/又は医薬組成物が被験者に直接投与される。
【0094】
他の実施形態において、本発明の治療方法は、エクスビボ治療である。具体的には、この方法は、免疫細胞を含むサンプルを提供するステップ(a)と、in vitroで、本発明のキメラ抗原受容体及び発現しようとする外因性遺伝子を、免疫細胞に導入し、改変された免疫細胞を得るステップ(b)と、改変された免疫細胞を被験者に投与するステップ(c)とを含む。好ましくは、ステップ(a)における免疫細胞は、マクロファージ、樹状細胞、単球、T細胞、NK細胞及び/又はNKT細胞から選択され、また、当分野で公知の方法によって被験者のサンプル(特に血液サンプル)から得るものである。なお、本発明のキメラ抗原受容体及び外因性遺伝子を発現し、本明細書に記載の所望の生物学的エフェクター機能を発揮できる他の免疫細胞も使用することができる。また、免疫細胞として、通常、被験者の免疫系と適合するものが選択され、即ち、好ましくは、免疫原性応答を誘発しないものを選ぶ。例えば、「遍在的なレシピエント細胞」、即ち、in vitroで成長及び増殖することができる所望の生物学的エフェクター機能を発揮する遍在的な適合性を有するリンパ球を使用することができる。そのような細胞の使用は、被験者自身のリンパ球を入手及び/又は提供する必要性がない。ステップ(c)のエクスビボ導入は、エレクトロポレーションを介して、本明細書に記載の核酸又はベクターを免疫細胞に導入することにより、又は上記のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター又はレトロウイルスベクターのようなウイルスベクターで免疫細胞を感染させることにより実施することができる。他の考えられる方法としては、リポソームなどのトランスフェクション試薬の使用、又は一過性RNAトランスフェクションの使用が挙げられる。
【0095】
一実施形態において、前記免疫細胞は、自己細胞又は同種異系細胞、好ましくはT細胞、マクロファージ、樹状細胞、単球、NK細胞及び/又はNKT細胞であり、より好ましくはT細胞、NK細胞又はNKT細胞である。
【0096】
本明細書において、「自己」という用語は、任意の材料であって、後にそれが再導入される個体と同じ個体由来のものを指す。
【0097】
本明細書において、「同種異系」という用語は、任意の材料であって、同じ種の異なる動物、または該材料が導入される個体と異なる患者由来のものを指す。遺伝子が1つ以上の遺伝子座で同一ではない場合、2つ以上の個体は互いに同種異系であると言われる。いくつかの態様において、同じ種の個体由来の同種異系材料は、抗原的に相互作用するのに十分に遺伝学的に異なり得る。
【0098】
本明細書において、「被験者」という用語は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、又はウシであり得るが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、癌の動物モデルを表す被験者として有利に使用することができる。好ましくは、被験者は、ヒトである。
【0099】
一実施形態において、前記がんは、リガンド結合ドメインによって結合された標的の発現に関連するがんである。例えば、前記がんは、脳神経膠腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨肉腫、脳がん及びCNSがん、乳がん、腹膜がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸癌及び直腸がん、結合組織がん、消化器系のがん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、頭頸部がん、胃がん(胃腸がんを含む)、神経膠芽細胞腫(GBM)、肝臓がん、肝細胞腫瘍、上皮内腫瘍、腎臓がん、喉頭がん、肝臓腫瘍、肺がん(例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、腺がん、扁平上皮がん)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含む)、メラノーマ、骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔がん(例えば、唇、舌、口、咽頭)、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、直腸がん、呼吸器系のがん、唾液腺がん、皮膚がん、扁平細胞がん、胃がん、精巣がん、甲状腺がん、子宮又は子宮内膜がん、泌尿器系の悪性腫瘍、外陰がん及びその他のがんと肉腫、ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中等度/濾胞性NHL、中等度びまん性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度の小さな非切断細胞NHL、大きなしこりNHLを含む)、マントル細胞リンパ腫、エイズ関連リンパ腫、及びWaldenstromマクログロブリン血症、慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ性白血病(ALL)、B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、T細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)、B細胞前リンパ性白血病、形質細胞様樹状細胞腫、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、慢性骨髄性白血病(CML)、悪性リンパ増殖性疾患、MALTリンパ腫、有毛細胞白血病、辺縁帯リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症、形質芽球性リンパ腫、前白血病、形質細胞様樹状細胞腫瘍、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、及び標的発現に関連する他の疾患が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の改変免疫細胞又は医薬組成物で治療することができる疾患は、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、脳神経膠腫、膵臓がん、胃がんなどから選択される。
【0100】
一実施形態において、前記感染症は、ウイルス、細菌、真菌、及び寄生虫によって引き起こされる感染症を含むが、これらに限定されない。
【0101】
一実施形態において、前記自己免疫疾患は、I型糖尿病、腹腔疾患、グレーブス病、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、アジソン病、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、重力筋無力症、血管炎症、悪性貧血、及び全身性エリテマトーデスなどを含むが、これらに限定されない。
【0102】
一実施形態において、前記方法は、さらに、1つ又は複数の追加の化学療法剤、生物学的薬剤、薬物又は治療を前記被験者に投与することを含む。この実施形態において、化学療法剤、生物学的、薬物又は治療は、放射線療法、外科手術、抗体剤及び/又は小分子、ならびにそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0103】
以下、添付の図面を参照しながら例を挙げて本発明をで詳細に説明する。なお、当業者であれば、添付の図面および実施例は、例示的なものにすぎず、本発明を限定するものではないと理解される。本出願の実施例および実施例の特徴は、矛盾がない限り、互いに組み合わせることができる。
【0104】
実施例1 マウス膵臓がん細胞株Panc02-mCD19の構築
1.pLV-mCD19プラスミドの調製
マウス脾臓の全mRNAをテンプレートとして、逆転写PCRによりマウス脾臓の全cDNA配列を取得し、さらに、PCRにより、XbaI、及びSalI制限部位を含むマウスmCD19配列を取得した。そして、mCD19遺伝子をpLV-BHAmプラスミドに組換えて、pLV-BHAm-mCD19プラスミドを得た。
【0105】
2.レンチウイルスのパッケージ
T175フラスコでは、293T細胞を、30×10細胞/フラスコの密度で10%ウシ胎児血清を含む30 mlのDMEM培地に播種し、37°C、5%COのインキュベーターで一晩培養した。
【0106】
3ml Opti-MEM(Gibco、ロット番号31985-070)、34μg pLV-BHAm-mCD19プラスミド、8.5μg pMD2.Gベクター(Addgene、ロット番号12259)、及び17μg psPAX2ベクター(Addgene、ロット番号12260)を滅菌チューブに加えた。その後、120μl X-treme GENE HP DNAトランスフェクション試薬(Roche、ロット番号06366236001)を加え、均一に混合し、室温で15分間インキュベートした。その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試薬の混合物を、事前に調製した293T細胞の培養フラスコに滴下し、37℃、5%CO条件下で一晩インキュベートした。トランスフェクションの24時間後と48時間後に培養物を収集し、組み合わせた後、超遠心分離(25000g、4℃、2.5h)して、濃縮されたpLV-BHAm-mCD19レンチウイルスを得、-80℃で保存した。
【0107】
3.Panc02-mCD19細胞株のスクリーニング
6ウェル細胞培養プレートの各ウェルに、10%ウシ胎児血清を含むRPMI-1640培地(Gibco、ロット番号C12430500BT)、1×10個のマウス膵臓がん細胞Panc02(中国薬科大学の研究室から贈与)、及び200μl pLV-BHAm-mCD19レンチウイルスを加え、37℃、5%CO条件下で48時間インキュベートした。その後、細胞を0.25%のトリプシンで消化して単細胞懸濁液を形成し、細胞を希釈して96ウェルプレートに移し、モノクローナル細胞が現れるまで培養を続けた。また、モノクローナル細胞を採取し、0.25%のトリプシンで単一細胞に再度消化し、200μlのopti-MEM培地で再懸濁した。APC anti-mouse CD19抗体(Biolegend、ロット番号115512)を使用して、フローサイトメトリーによって感染効率を検出し、CD19陽性クローンをスクリーニングした。陽性クローンを3~4回継代した後、フローサイトメトリーでCD19の発現レベルを検出した。ウイルスに感染していないPanc02細胞を対照として使用した。
【0108】
図3は結果を示す。最終的にスクリーニングされたPanc02-mCD19細胞株では、CD19の発現率は100%であった。
【0109】
実施例2 CAR-T細胞の調製
1.レトロウイルスプラスミドの構築
mCD19-scFv、mCD8aヒンジ領域、膜貫通領域、マウス41bb細胞内ドメイン及びマウスCD3ζ細胞内ドメインのコード配列フラグメントを人工的に合成し、XhoI/EcoRI制限部位を両端に付加した。フラグメントをMSCVベクターにクローン化して、MSCV-mCD19-CARプラスミドを得た。
【0110】
T2AとマウスIL-7を順に接続するコード配列フラグメントを人工的に合成し、EcoRI/SalI制限部位を両端に付加した。フラグメントをMSCV-mCD19-CARベクターにクローン化して、MSCV-mCD19-CAR-IL-7プラスミドを得た。
【0111】
T2AとマウスXCL1を順に接続するコード配列フラグメントを人工的に合成し、EcoRI/SalI制限部位を両端に付加した。フラグメントをMSCV-mCD19-CARベクターにクローン化して、MSCV-mCD19-CAR-XCL1プラスミドを得た。
【0112】
T2AとマウスCCL19を順に接続するコード配列フラグメントを人工的に合成し、EcoRI/SalI制限部位を両端に付加した。フラグメントをMSCV-mCD19-CARベクターにクローン化して、MSCV-mCD19-CAR-CCL19プラスミドを得た。
【0113】
T2AとマウスFlt3Lを順に接続するコード配列フラグメントを人工的に合成し、EcoRI/SalI制限部位を両端に付加した。フラグメントをMSCV-mCD19-CARベクターにクローン化して、MSCV-mCD19-CAR-Flt3Lプラスミドを得た。
【0114】
2.レトロウイルスの調製
T175フラスコで、293T細胞を、30×10個の細胞/フラスコの密度で10%ウシ胎児血清を含む30 mlのDMEM培地に播種し、37°C、5%COのインキュベーターで一晩培養し、ウイルスをパッケージングした。
【0115】
3ml Opti-MEM(Gibco、ロット番号31985-070)、45μgレトロウイルスプラスミド(MSCV-mCD19-CARプラスミド、MSCV-mCD19-CAR-IL-7プラスミド、MSCV-mCD19-CAR-XCL1プラスミド、MSCV-mCD19-CAR-CCL19、又はMSCV-mCD19-CAR-Flt3Lプラスミド)、及び15μgパッケージングベクターpCL-Eco(Shanghai Hewu Biotechnology Co., LTD.、ロット番号P3029)を滅菌チューブに加えた。その後、120μl X-treme GENE HP DNAトランスフェクション試薬(Roche、ロット番号06366236001)を加え、均一に混合し、室温で15分間インキュベートした。その後、プラスミド/ベクター/トランスフェクション試薬の混合物を、事前に調製した293T細胞の培養フラスコに滴下し、37℃、5%CO条件下で一晩インキュベートした。トランスフェクションの72時間後に培養物を収集し、遠心分離(2000g、4℃、10分間)して、レトロウイルスの上清を取得した。
【0116】
3.CAR-T細胞の調製
Tリンパ球をマウス脾臓から分離し、DynaBeads CD3/CD28 CTSTM(Gibco,ロット番号40203D)でT細胞を活性化させた後、37℃、5%COで1日間培養した。
【0117】
1ウェルあたり3×10個の細胞/mLの密度で、活性化されたT細胞を、RetroNectinで一晩プレコートした24ウェルプレートに接種し、そして、500μLの完全培地(NT、コントロール)、MSCV-mCD19-CARウイルス、MSCV-mCD19-CAR-XCL1ウイルス、MSCV-mCD19-CAR-Flt3Lウイルス、MSCV-mCD19-CAR-IL-7ウイルス+MSCV-mCD19-CAR-CCL19ウイルス、MSCV-mCD19-CAR-IL-7ウイルス+MSCV-mCD19-CAR-Flt3Lウイルス、又はMSCV-mCD19-CAR-IL-7ウイルス+MSCV-mCD19-CAR-XCL1ウイルスをそれぞれに加え、完全培地を2mLに補充した。
【0118】
24ウェルプレートを遠心分離機に入れて遠心分離し、32℃、2000gで2時間遠心分離した。そして、24ウェルプレートを37℃、COインキュベーターに入れて静置培養した。翌日、新鮮な培地を交換し、細胞密度を1×10個の細胞/mLに調整した。感染の3日後、その後の分析のために細胞を収集した。収集された細胞はNT細胞、mCD19-CAR細胞、mCD19-CAR-XCL1細胞、mCD19-CAR-Flt3L細胞、mCD19-CAR-IL-7-CCL19細胞、mCD19-CAR-IL-7-Flt3L細胞、及びmCD19-CAR-IL-7-XCL1細胞である。
【0119】
実施例3 CAR-T細胞の発現の検出
1.細胞表面CARの発現レベル
実施例2によって調製された2×10個のCAR-T細胞を取り出し、Goat Anti-Rat IgG(H&L)Biotin(BioVision,ロット番号6910-250)を一次抗体として用い、APC Streptavidin(BD Pharmingen、ロット番号554067)をニ次抗体として用い、フローサイトメトリーで、CAR T細胞でのCARの発現レベルを検出した。図4はその結果示す。
【0120】
以上の結果から分かるように、コントロールと比較して、mCD19-CAR、mCD19-CAR-XCL1、mCD19-CAR-Flt3L、mCD19-CAR-IL-7-XCL1、mCD19-CAR-IL-7-CCL19細胞、mCD19-CAR-IL-7-Flt3L細胞でのCAR陽性効率は、全て50%を超え、これらの細胞がいずれもCARを効果的に発現できる。
【0121】
2.XCL1の発現レベル
実施例2によって調製されたCAR-T細胞の上清を収集し、メーカーのおすすめに従って、Mouse XCL1 DuoSet ELISA kitキット(R&D Systems,ロット番号DY486)を使用して、細胞におけるのXCL1の分泌レベルを検出した。図5は結果を示す。
【0122】
以上の結果から分かるように、mCD19-CAR-XCL1を含む2つのCAR T細胞は、いずれもXCL1を効率的に分泌した。
【0123】
3.IL-7の発現レベル
実施例2によって調製されたCAR-T細胞の上清を収集し、メーカーのおすすめに従って、Mouse IL-7 DuoSet ELISA kitキット(R&D Systems,ロット番号DY407)を使用して、細胞におけるIL-7の分泌レベルを検出した。図6は結果を示す。
【0124】
以上の結果から分かるように、mCD19-CAR-IL-7を含む3つの T細胞は、いずれもIL-7を効率的に分泌した。
【0125】
4.CCL19の発現レベル
実施例2によって調製されたCAR-T細胞の上清を収集し、メーカーのおすすめに従って、Mouse CCL19 DuoSet ELISA kitキット(R&D Systems,ロット番号DY440)を使用して、細胞におけるCCL19の分泌レベルを検出した。図7は結果を示す。
【0126】
以上の結果から分かるように、mCD19-CAR-CCL19を含むCAR T細胞は、CCL19を効果的に発現できる。
【0127】
5.Flt3Lの発現レベル
実施例2によって調製されたCAR-T細胞の上清を収集し、メーカーのおすすめに従って、Mouse Flt-3 Ligand DuoSet ELISA kitキット(R&D Systems,ロット番号DY427)を使用して、細胞におけるFlt3Lの分泌レベルを検出した。図8は結果を示す。
【0128】
以上の結果から分かるように、mCD19-CAR-Flt3Lを含む2つのCAR T細胞は、いずれもFlt3Lを効果的に発現できる。
【0129】
実施例4 CAR-T細胞のIFN-γの分泌レベルの検出
2×10個の細胞/100μlの濃度で、NT細胞、mCD19-CAR細胞、mCD19-CAR-XCL1細胞、mCD19-CAR-Flt3L細胞、mCD19-CAR-IL-7-CCL19細胞、mCD19-CAR-IL-7-Flt3L細胞及びmCD19-CAR-IL-7-XCL1細胞を、96ウェルの丸底プレートに加えた。その後、各ウェルに1×10個の細胞/100μlの濃度で標的Panc02-mCD19細胞又は非標的Panc02細胞に加えた。37℃で24時間のインキュベーション後、培養上清を回収した。メーカーのおすすめに従って、Mouse IFN-gamma DuoSet ELISAキット(R&D、ロット番号DY485)を使用して、培養上清におけるIFN-γの発現レベルを検出した。
【0130】
図9は検出結果を示す。以上の結果から分かるように、非標的細胞Panc02ではIFN-γの放出は検出されず、NT細胞はIFN-γを発現しなかった。これは、本実施例のCART細胞の殺傷が特異的であることを示している。標的細胞を殺すことから見れば、CARのみを発現するT細胞と比べて、Flt3L、IL-7+Flt3L、IL-7+CCL19、又はIL-7+XCL1の追加発現は、いずれも抗原特異的IFN-γレベルを有意に増加させた。
【0131】
実施例5 CAR-T細胞の腫瘍抑制効果の検証
実施例1で調製された5×10個のPanc02-mCD19膵臓がん細胞を、健康なC57BL/6マウスの左前肢の腋窩に皮下接種した。
【0132】
膵臓がん細胞を接種したマウスを、それぞれ6匹のマウスからなる7つのグループにランダムに分けた。腫瘍体積が100mmに成長したとき、5×10個の実施例2によって調製されたNT細胞、mCD19-CAR細胞、mCD19-CAR-XCL1細胞、mCD19-CAR-Flt3L細胞、mCD19-CAR-IL-7-CCL19細胞、mCD19-CAR-IL-7-Flt3L細胞、又はmCD19-CAR-IL-7-XCL1細胞を尾静脈を介して各マウスに注射した。
【0133】
実験が終了するまで、マウスの体重及び腫瘍体積の変化をモニターした。
【0134】
図10はマウスの体重の変化を示す。以上の結果から分かるように、CAR-T細胞投与後、各群のマウスの体重は、対照群と比較して有意差はなく、観察期間中、腫瘍が1500mmを超えなかったとき、マウスは活動的であり、正常な毛色を有していた。これは、CAR-T細胞の投与がマウスに対して明らかな毒性や副作用をもたらさないことを示している。
【0135】
図11はマウスの腫瘍体積の変化を示す。以上の結果から分かるように、NT細胞や従来のCAR-T細胞と比較して、XCL1又はFlt3Lのみを発現するCAR-T細胞は、抗腫瘍効果を有意に増強できなかった。これは、XCL1又はFlt3LだけではCAR-T細胞との相乗効果をもたらすことができないことを示している。また、IL-7とCCL19を共発現するCAR-T細胞の抗腫瘍効果は、従来のCAR-T細胞よりも有意に優れており、これは以前の報告と一致している。なお、本発明者らは、IL-7+XCL1及びIL-7+Flt3Lの組み合わせが、CAR-T細胞の腫瘍抑制効果を有意に改善するだけでなく、CAR-Tに対するIL-7+CCL19の組み合わせの強化効果よりもはるかに優れていることを見出した。これは、予想以上のことであった。そのうち、IL-7とXCL1を共発現するCAR-T細胞は、腫瘍抑制効果が最も高く、有意な再発せず、腫瘍をほぼ完全に消失させた。
【0136】
図12はマウスの生存曲線を示す。以上の結果から分かるように、従来のCAR-T細胞療法と比較して、追加発現したXCL1又はFlt3Lのみでは、マウスの生存期間を有意に延長しなかったが、IL-7+CCL19、IL-7+Flt3L、又はIL-7+XCL1を共発現するCAR-T細胞は、マウスの生存を効果的に延長することができた。そのうち、IL-7+XCL1グループでは、5匹のマウスが完全寛解を達成し、実験が終了するまで腫瘍のない生存を維持し、1匹のマウスが非常に良好な部分寛解を達成し、腫瘍抑制状態を維持し続けた。IL-7+Flt3Lグループでは、実験終了時に3匹のマウスが完全寛解を維持していました。IL-7+CCL19群では、2匹のマウスが実験終了時に完全寛解を維持し、腫瘍のない生存を維持した。残りのマウスは、実験の初期段階では従来のCAR-T細胞と比較して一定の腫瘍抑制効果があったが、実験の後半では腫瘍抑制効果が消失し、マウスが死亡した。
【0137】
上記の結果から分かるように、IL-7+XCL1、又はIL-7+Flt3Lの共発現は、標的膵臓がん細胞に対する改変免疫細胞の阻害効果を効果的に増強し、生存率を大幅に改善し、強化効果は、従来のIL-7+CCL19の組み合わせよりも優れている。
【0138】
なお、上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、本発明を限定するものではない。当業者にとって、本発明に様々な修正及び変更を有してもよい。本発明の精神及び原理から逸脱しない限り、行った如何なる変更、均等置換、改良等も、本出願の保護範囲内に属する。
【配列表フリーテキスト】
【0139】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11
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【配列表】
2023515655000001.app
【国際調査報告】