(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-13
(54)【発明の名称】線維症を予防するための線維芽細胞の活性化調節
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6883 20180101AFI20230406BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230406BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230406BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20230406BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230406BHJP
A61K 35/33 20150101ALN20230406BHJP
A61P 9/00 20060101ALN20230406BHJP
【FI】
C12Q1/6883 Z ZNA
C12N5/071
C12N15/113 Z
C12N9/16 Z
C12N15/09 110
A61K35/33
A61P9/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552601
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 US2021020372
(87)【国際公開番号】W WO2021178343
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517352418
【氏名又は名称】ザ ジェイ. デビッド グラッドストーン インスティテューツ、 ア テスタメンタリー トラスト エスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デビッド グラッドストーン
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】アレクサニアン、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】パドマナバン、アルン
(72)【発明者】
【氏名】スリヴァスタヴァ、ディーパック
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS34
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC14
4B065BA21
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本明細書に記載されるのは、Meox1エンハンサー活性、Meox1転写、Meox1翻訳、MEOX1タンパク質の機能、もしくはそれらの組み合わせを調節することを含む、心臓の状態を治療するための方法である。また、本明細書に記載されるのは、Meox1エンハンサー活性を調節し得る薬剤を同定するための方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試験薬剤を細胞集団と接触させることで試験アッセイ混合物を提供すること、および、Meox1レベルを測定することにより1つ以上のMeox1調節剤を同定することを含む方法。
【請求項2】
前記細胞集団が、線維芽細胞、活性化線維芽細胞、休止線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Meox1レベルを測定することが、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティを測定すること、Meox1転写物レベルを測定すること、新生Meox1転写物レベルを測定すること、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Meox1エンハンサーがヒト17番染色体の約43,589,381位~43,595,263位の間に存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Meox1レベルを測定することが、観察されたMeox1転写物またはMeox1新生転写物の細胞あたり遺伝子あたりの絶対数を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試験薬剤のうち少なくとも1つが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、CRISPRガイドRNA、ガイドRNAおよびcasヌクレアーゼを含むCRISPRリボ核タンパク質、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上が、Meox1レベルを低下させるか、Meox1エンハンサー活性を低下させるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上が、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティを低下させるか、Meox1転写物レベルを減少させるか、新生Meox1転写物レベルを減少させるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上を心臓の状態または疾患の動物モデルに投与すること、および、前記Meox1調節剤のうち1つ以上が心臓の状態または疾患の症状または重症度を軽減するかどうかを決定することで治療剤を同定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試験薬剤または前記治療剤のうち1つ以上を対象へ投与することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、心臓線維症、肺線維症、腎臓線維症、肝臓線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、冠動脈疾患、高血圧症、心臓弁膜症、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、未分類の心筋症、またはそれらの組み合わせを有する、または有すると疑われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞集団が、状態または疾患の治療を求める患者に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞集団を有する前記患者が、線維芽細胞において増加したMeox1レベル、線維芽細胞において増加した新生Meox1レベル、線維芽細胞内のMeox1エンハンサーにおける増加したクロマチンアクセシビリティ、またはそれらの組み合わせを示す、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記線維芽細胞が、心臓線維芽細胞、肺線維芽細胞、肝臓線維芽細胞、腎臓線維芽細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
Meox1RNA転写、Meox1クロマチンアクセシビリティ、Meox1 RNAプロセシング、またはMeox1翻訳を阻害する薬剤と細胞を接触させることを含む方法。
【請求項16】
前記細胞が、線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記線維芽細胞が、心臓線維芽細胞、肺線維芽細胞、肝臓線維芽細胞、腎臓線維芽細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、Meox1転写のノックダウンまたはノックアウトをする、Meox1エンハンサー活性のノックダウンまたはノックアウトをする、またはそれらの組み合わせである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記薬剤が、1つ以上の阻害性核酸、ガイドRNA、casヌクレアーゼ、casヌクレアーゼ:ガイドRNAリボ核タンパク質複合体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞を接触させることがin vitroで行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
改変細胞を単離すること、および、ある心臓の状態または心臓の疾患を有する対象へそれらを投与することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
in vitroで接触させた前記細胞が、後に改変細胞を投与される対象に由来する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞を接触させることが、対象へ前記薬剤を投与することによりin vivoで行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、心臓線維症、肺線維症、腎臓線維症、肝臓線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、冠動脈疾患、高血圧症、心臓弁膜症、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、未分類の心筋症、またはそれらの組み合わせを有する、または有すると疑われる、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたR01HL17240の下で政府の支援により成された。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
背景
心不全(HF)は、現在の治療の効果が限られている死亡の主要な原因であり、重要なアンメットニーズである。ストレス活性化シグナルカスケードは、心不全を悪化させるもしくは誘発するクロマチン制御機構に集中することがあり、転写および細胞状態の広範なシフトを誘発し、病的な心臓リモデリングのサイクルを促進させる事象を引き起こす。
【発明の概要】
【0003】
本明細書に記載されるのは、例えば、Meox1転写、Meox1翻訳、もしくはMEOX1タンパク質の機能を阻害することを含む、心機能の改善の方法である。本明細書に示されるように、Meox1制御因子は、ストレスの多い心臓の事象の間に、線維芽細胞内で活性化され、Meox1のレベルの上昇および心臓状態を悪化させる線維化促進事象のカスケードを導く。このようなMeox1制御因子の阻害は心臓の機能を改善し得る。
【0004】
試験評価混合物を提供するために少なくとも1つの試験薬剤と細胞集団を接触させること、およびMeox1レベルを測定することによって1つ以上のMeox1調節剤を同定することを含む方法が本明細書に記載されている。例えば、細胞集団は、線維芽細胞、活性化線維芽細胞、休止線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、もしくはそれらの組み合わせを含むことができる。細胞集団は、心臓、肺、肝臓、腎臓、またはそれらの組み合わせなど、様々な組織に由来し得る。試験薬剤で評価される細胞集団は、心臓の状態または疾患を治療することを求める患者に由来し得る。試験される細胞集団を提供する患者は、心臓線維芽細胞での増加したMeox1レベル、心臓線維芽細胞での増加した新生Meox1レベル、心臓線維芽細胞もしくはその組み合わせにおけるMeox1エンハンサーでの増加したクロマチンアクセシビリティを有し得る。
【0005】
いくつかの場合、Meox1レベルの測定は、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティの測定、Meox1転写物レベルの測定、新生Meox1転写物レベルの測定、またはそれらの組み合わせを含む。Meox1レベルの測定は、細胞あたり遺伝子あたりの観察されたMeox1転写物もしくはMeox1新生転写物の絶対数の測定を含み得る。Meox1エンハンサーはヒト17番染色体の約43,589,381位から43,595,263位に存在し得る。様々な試験薬剤が試験され得る。例えば、試験薬剤の少なくとも1つは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、CRISPRガイドRNA、ガイドRNAおよびcasヌクレアーゼを含むCRISPRリボ核タンパク質、またはそれらの組み合わせであり得る。Meox1レベルを調節し得るMeox1調節剤のうちの1つ以上は、Meox1レベルを低下させるか、Meox1エンハンサー活性を低下させるか、もしくはそれらの組み合わせであり得る。例えば、Meox1調節剤のうちの1つ以上は、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティを低下させるか、Meox1の転写レベルを低下させるか、新生Meox1転写レベルを低下させるか、もしくはそれらの組み合わせであり得る。このような方法はさらに、ある状態もしくは疾患の動物モデルにMeox1調節剤のうちの1つ以上を投与すること、および、その状態もしくは疾患の症状または重症度をMeox1調節剤のうちの1つ以上が低減するかどうかを決定することにより、治療剤を同定することを含み得る。
【0006】
さらに、本方法は、対象に試験薬剤もしくは治療剤のうちの1つ以上を投与することも含み得る。そのような対象は、心臓線維化症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、冠動脈疾患、高血圧症、心臓弁膜症、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、未分類の心筋症、またはそれらの組み合わせを有するか、または有することが疑われ得る。
【0007】
さらに本明細書に記載されるのは、Meox1のRNA転写、Meox1のクロマチンアクセシビリティ、Meox1のRNAプロセシング、もしくはMeox1の翻訳を阻害する薬剤と細胞を接触させることを含む方法である。細胞は、線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、もしくはそれらの組み合わせを含み得る。細胞の集団は、心臓、肺、肝臓、腎臓、もしくはそれらの組み合わせなど、様々な組織に由来し得る。
【0008】
薬剤は、Meox1の転写のノックダウンもしくはノックアウト、Meox1のエンハンサー活性のノックダウンもしくはノックアウト、もしくはそれらの組み合わせをおこなうことができる。例えば、薬剤は、1つ以上の阻害核酸、1つ以上のガイドRNA、1つ以上のcasヌクレアーゼ:ガイドRNAリボ核タンパク質複合体、もしくはそれらの組み合わせを含み得る。このような細胞の接触は、in vitroで生じ得る。場合によっては、改変細胞がある状態もしくは心疾患の対象に投与され得る。in vitroで接触させる細胞は、改変細胞が後に投与される特許(patent)または対象に対して同種異系もしくは自家のものであり得る。
【0009】
細胞を試験薬剤もしくは調節剤と接触させることは、対象へ薬剤を投与することによってin vivoで生じ得る。このような対象は、心臓線維化症、肺線維症、肝線維症、腎線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、冠動脈疾患、高血圧症、心臓弁膜症、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、未分類の心筋症、またはそれらの組み合わせを有するか、または有することが疑われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、Meox1染色体座位のマップを示す。
【
図2A】
図2A~2Jは、ブロモドメインおよびエクストラターミナルドメイン(BET)阻害剤暴露にともなう心不全の動的可逆性が、筋線維芽細胞の状態と相関することを示す。
図2Aは、偽処置マウス(Sham)、誘発心筋梗塞をともなう溶媒処置マウス(MI-Veh)および誘発心筋梗塞をともなうCPI456処置マウス(MI-CPI456)における心エコー検査により定量化された左心室(LV)駆出率(EF)をグラフで示す(Sham、MI-Veh、およびMI-CPI456について、n=17、21、および21)。心筋梗塞(MI)モデルは、恒久的な前壁心筋梗塞により誘発した心不全を含んでいた。BET阻害剤CPI456(10mgk)は、グラフの上のタイムラインに示すように、断続的に投与されたJQ1誘導体である。統計的有意性が、MI-VehおよびMI-CPI456間で示される。
【
図2B】
図2Bは、偽処置マウス(Sham)、溶媒処置の横狭窄モデル(Transverse Constriction Model)(TAC)マウス(TAC-Veh)および低分子BET阻害剤JQ1で処置した横狭窄モデル(TAC)マウス TAC JQ1における心エコー検査により定量化された左心室(LV)駆出率(EF)を示し(Sham、TAC-Veh、TAC JQ1およびTAC JQ1休薬について、n=4、6、6および6)、BET阻害剤JQ1(50mgk)の間欠投与(JQ1の休薬なし対JQ1の休薬あり)をともなう。統計的有意差はTAC JQ1およびTAC JQ1休薬の間で示される。
【
図2C】
図2Cは、心臓試料由来のシングルセルRNAシーケンシング試料およびトランスポゼースアクセス可能クロマチン(Transposase-Accessible Chromatin)(ATAC)シーケンシング試料の生成のための実験的なワークフローを模式的に示す。
図2Dは、クラスターの同一性によって色付けされた成体マウス集団内の捕捉された細胞すべての均一多様体近似と投影(UMAP、Stratton et al.Circ.Res.125,662-677(2019))プロットを示す。全細胞n=35,551。示されているように、シングルセルRNAシーケンシングは成体の心臓における主要な非心筋細胞集団を同定する。
図2Eは、試料の同一性によって色付けされた成体マウス集団内の捕捉された細胞すべての均一多様体近似と投影(UMAP、Stratton et al.Circ.Res.125,662-677(2019))プロットを示す。全細胞n=35,551。BET阻害を受けた心臓における全体的な転写変化が示されている。
【
図2F】
図2Fは、試料間の上位の差次的発現(DE)マーカー遺伝子の発現(平均発現スケール)および細胞の割合を示すドットプロットである。
【
図2G】
図2Gは、試料の同一性によって色付けされた線維芽細胞(FB)サブクラスターのUMAPプロットを示す。全細胞n=13,937。
【
図2H】
図2Hは、UMAP特徴プロットおよびバイオリンプロット(y軸は正規化されたUMIレベルである)として図示された試料内の線維芽細胞(FB)におけるペリオスチン(Postn)発現を示す。
【
図2I】
図2Iは、クラスターの関係を示す樹形図とともにクラスターの同一性によって色付けされたFBサブクラスターのUMAPプロットを示す。クラスター0,1,4;2,3;および5の代表的な上位遺伝子オントロジー(GO)タームが、右側に示される。
図2Aおよび2Bでは、示された比較について、
*P<0.05および
****P<0.0001である。データは、平均±SEMとして示される。
【
図2J】
図2Jは、scRNAseqをscATACseqと統合するためのアプローチを強調した概略図を示す。詳細については、拡張された方法を参照されたい。
【
図3A】
図3A~3Jは、線維芽細胞のクロマチン状態の可逆性が、心臓の機能と関連する新規の動的にアクセス可能なDNAエレメントを明らかにすることを説明する。
図3Aは、scATACseq試料に由来する線維芽細胞における遠位エレメントのクロマチンアクセシビリティをグラフで示す。より良い可視化のために、10%の最も極端な点のトリミングをおこなった。
【
図3B】
図3Bは、試料全体の傾向によってクラスター化された線維芽細胞における遠位エレメントの動的なアクセシビリティ(左)を、それぞれのクラスター内の遠位エレメントに最も近い遺伝子の上位3つのGOターム(右)とともに示す。
【
図3C】
図3Cは、線維芽細胞におけるTACの間に観察された10個の最も発現していた転写因子(TF)について、試料間の遠位エレメントにおけるTFモチーフアクセシビリティの濃縮スコアを示す。
【
図3D】
図3Dは、非刺激(Unstim)およびTGFβ処理した線維芽細胞の間の差次的に転写された遠位領域のPROSeqカバレッジのヒートマップを示す。上位GOタームが右側に示されるとともに、それぞれの条件の2回の反復実験の平均シグナルが示されている。
【
図3E】
図3Eは、in vivoでShamとTACの間で開いた(n=8964)もしくは閉じた(n=1628)scATACピークについて、in vitroでUnstimおよびTGFβ処理した線維芽細胞で測定されたPROseqカバレッジをグラフで示す。
【
図3F】
図3Fは、線維芽細胞がTGFβで刺激を受けるか受けない(Unstim)場合のPostn発現へのピーク11領域のCRISPRi標的の効果を示す。Postn発現を、UnstimおよびTGFβ処理した線維芽細胞で対照株およびピーク11-CRISPRi-標的株においてqPCRで測定した(各パネルは、そのUnstim条件に対して正規化された)。
【
図3G】
図3Gは、LV駆出率およびクロマチンアクセシビリティの間の相関分析を概略的に示しており、負または正の相関を強調している。
【
図3H】
図3Hは、線維芽細胞における470のスーパーエンハンサーの相関係数(
図3Gに示された分析を参照)および対応するp値を示すボルケーノプロットである。Meox1遺伝子に遠位な領域は、最も大きい負の相関係数の1つを有する。
図3Fでは、示された比較について、
**P<0.01および
****P<0.0001である。データは平均値±SEMとして示される。
【
図3I】
図3Iは、骨髄細胞における遠位エレメントでのクロマチンアクセシビリティをグラフで示す。
【
図3J】
図3Jは、内皮細胞における遠位エレメントでのクロマチンアクセシビリティをグラフで示す。
図3I~3Jでは、より良い可視化のために、10%の最も極端な点のトリミングをおこなった。
【
図4A】
図4A~4Kは、Meox1の発現を調節するシス調節エレメントのクロマチンアクセシビリティおよび新生転写を示す。
図4Aは、試料同一性(
図3Gと同じ)によって色付けされサブクラスター化された線維芽細胞のUMAPプロットを示し、試料中の線維芽細胞でのMeox1発現をUMAP特徴プロットおよびバイオリンプロット(y軸はUMIレベルで正規化される)として示す。
【
図4B】
図4Bは、Meox1座位(遺伝子およびエンハンサー)を示し、上から下に:線維芽細胞におけるscATAC試料のカバレッジ;成体の心臓におけるBRD4のChIPseq(GSE46668)、H3K27acおよびCTCF(ENCSR000CDFおよびENCSR000CBI);UnstimおよびTGFβ処理した線維芽細胞におけるPROseqのカバレッジ;およびscATACを用いた線維芽細胞におけるMeox1プロモーターとピーク9/10領域の間の共アクセシビリティの測定を示す。高転写領域(ピーク9/10)は、大きなMeox1エンハンサー内で赤色で強調されている。
【
図4C1】
図4Cは、UnstimおよびTGFβ処理した線維芽細胞における染色体コンフォメーションキャプチャ(4C)のカバレッジを示す、ピーク9領域(アンカーポイント)およびMeox1プロモーターの間の4Cを示す。922kb(上)および328kb(下)のゲノム領域が示される。最後のトラックは、ピーク9を有するコールされたTGFβ誘導ループを表す(原文では紫色で色付けされている)。
【
図4D】
図4Dは、上にMeox1エンハンサー内の3つの領域(ピーク5、9および13)のCRISPRi標的を模式的に示す。ピーク5、9もしくは13を標的とする3つのCRISPRi線維芽細胞株におけるUnstimおよびTGFβ処理線維芽細胞の間のqPCRによるMeox1発現(各パネルはそのUnstim条件に対して正規化される)。
図4Dでは、示された比較について、
**P<0.01および
***P<0.001である。データは、平均±SEMとして示される。
【
図4E】
図4Eは、偽処理された(左端棒)、TACを受けた(中央左寄りの棒)、TACを受けJQ1処理された(中央右寄りの棒)、もしくはTACを受け一時的にJQ1処理されその後JQ1を中止された(右端棒)、線維芽細胞、骨髄細胞および内皮細胞におけるMeox1スーパーエンハンサー(SE)のクロマチンアクセシビリティを示す。
【
図4F】
図4Fは、脈動性BET阻害をともなう心不全中に複数の動的ピークが同定された線維芽細胞内のMeox1スーパーエンハンサーにおける試料間のscATACカバレッジを示す。
【
図4G】
図4Gは、JQ1処理をともなうもしくはともなわない、UnstimおよびTGFβ処理した線維芽細胞FBにおけるqPCRによって測定されたMeox1発現をグラフで示す。
【
図4H】
図4Hは、心臓線維芽細胞におけるピーク9/10の欠失によって示されるように、ピーク9/10がMeox1発現を調節する必須の調節エレメントであることをグラフで示す。Meox1発現は、非刺激(Unstim)およびTGFβで刺激した、CRISPR Cas9処理したWT(アイソジェニック系統)およびピーク9/10欠失細胞のqPCRによって測定された。
【
図4I】
図4Iは、Ctrl、Brd2、Brd3もしくはBrd4のいずれかを標的とするsiRNAをともなうUnstimもしくはTGFβ処理線維芽細胞における個々のBET遺伝子のqPCRによって測定されたBrd2、Brd3もしくはBrd4発現をグラフで示す。
【
図4J】
図4Jは、Ctrl、Brd2、Brd3もしくはBrd4のいずれかを標的とするsiRNAをともなうUnstimもしくはTGFβ処理線維芽細胞におけるqPCRによって測定されたMeox1発現をグラフで示す。4I~4Jでは、示された比較について、
*P<0.05、
***P<0.001および
****P<0.0001である。データは、平均±SEMとして示される。データは、平均±SEMとして示される。
【
図4K】
図4Kは、Brd4の欠失が心臓病の間に心機能を改善することを示す。
【
図5A】
図5A~5Jは、MEOX1が線維芽細胞の可塑性および線維化促進の機能の新規の調節因子であることを示す。
図5Aは、TGFβおよびMeox1を標的とするsiRNAで72時間処理した後、圧縮性コラーゲンゲルマトリックス上に播種し、ゲル収縮について評価した線維芽細胞の代表的な画像を示す。比較のために、コラーゲンゲル収縮での対照siRNAの効果も示す。
【
図5B】
図5Bは、収縮パーセントとして報告されたゲル収縮画像の定量化をグラフで示す(条件ごとにn=4プレート)。データは、平均±SEMとして示される。
【
図5C】
図5Cは、TGFβおよび、Ctrl siRNAもしくはMeox1標的siRNAで72時間処理後、線維芽細胞内のEdu取り込みの定量化をグラフで示す。データは、平均±SEMとして示される。
図5Bおよび5Cでは、示された比較について、
**P<0.01および
****P<0.0001である。
【
図5D】
図5Dは、ChIPseqシグナル(8366領域が示される)の強度によってソートされたタンパク質コード遺伝子(転写開始点から-2kb、転写終結点から+2kb)でのMEOX1-HA ChIPseqの占有率のヒートマップを示す。
【
図5E】
図5Eは、CtrlもしくはMeox1 siRNAとともにTGFβ処理した線維芽細胞間の差次的に転写されたタンパク質コード遺伝子のPROseqカバレッジのヒートマップである。各条件において2回の反復実験の平均シグナルを示す。上位の関連GOタームおよび例示的遺伝子を右に示す。
【
図5F】
図5Fは、CtgfもしくはPostn座位(Postnピーク11調節エレメントを含む)でのMEOX1 ChIPおよびPROseq(CtrlもしくはMeox1 siRNAとともにUnstimおよびTGFβ処理の線維芽細胞)のカバレッジを示す。
【
図5G】
図5Gは、ヒトの心臓病、例えば、肥大型心筋症(HCM)および拡張型心筋症(DCM)での、Meox1の発現をグラフで示す。バルクRNAseqデータは、心臓組織において評価された対照およびHCM/DCMを有する個体の間のヒトMEOX1発現(-GSE141910)を示す。
【
図5H】
図5Hは、突発性肺線維症(IPF)におけるMeox1の発現をグラフで示す。バルクRNAseqデータは、肺組織において評価された対照および突発性肺線維症を有する個体の間のヒトMEOX1発現(-GSE134692)を示す。
図5G~5Hについて、p値はパネルに示される。
【
図5I】
図5Iは、肺、肝臓および腎臓由来のヒトの線維芽細胞におけるMeox1の発現をグラフで示す。MEOX1の発現は、非刺激の線維芽細胞(Unstim、左棒)、同様にTGFβ(中央棒)もしくはTGFβ+JQ1(右棒)処理された、肺、肝臓および腎臓に由来するヒト線維芽細胞においてqPCRによって測定された。データは、平均±SEMとして示される。
【
図5J】
図5Jは、心臓疾患状態と相関して線維芽細胞を活性化する転写スイッチを概略的に示す。シングルセルトランスクリプトームおよびエピゲノムの調査を組み合わせ、本発明者らは転写因子MEOX1を含む線維芽細胞の可塑性および線維化促進の機能を動的に制御する重要なエンハンサーとタンパク質コード遺伝子を発見した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で示されるように、Meox1エンハンサーエレメントは、ストレス誘導性線維芽細胞活性化を可逆的に媒介する線維芽細胞特異的転写スイッチである。本明細書に記載されている実験では、Meox1の発現および機能の阻害、および/もしくはMeox1エンハンサーの阻害が、心機能、肺機能、腎機能、肝機能、またはそれらの組み合わせを改善し得ることを示す。したがって、本出願は、Meox1転写の阻害、Meox1エンハンサーの活性の阻害、もしくはそれらの組み合わせの方法に関する。Meox1転写および/またはMeox1エンハンサー活性を調節し得る薬剤を同定するために有用なスクリーニングの方法も記載される。
【0012】
例えば、心不全のマウスモデル、低分子BETブロモドメインの阻害剤、およびシングルセルオミクスの組み合わせを使用し、本発明者らは、心臓の筋線維芽細胞が転写の阻害に対して非常によく反応することを示している。例えば、筋線維芽細胞は、それらの細胞の条件の強固な可逆性を示し、基底線維芽細胞と活性化筋線維芽細胞の間を、BET阻害剤暴露に直接的に関連する様式でスイッチングする。加えて、本明細書で提供されるデータは、ヒトの肺、腎臓、および肝臓由来の活性化線維芽細胞におけるMeox1発現の上昇も示す。統合されたエピゲノムアプローチを利用して、本発明者らは、転写因子Meox1の発現を調節するスーパーエンハンサーの機能を発見し、詳細に調べた。このスーパーエンハンサーを調節することにより、Meox1発現を調節し線維芽細胞活性化の有害作用を低減し得る。
【0013】
Meox1は、線維芽細胞に特異的に発現し、線維芽細胞遺伝子のプロモーターに直接結合することにより、それらの増殖や収縮活性を制御する。本明細書に記載されるように、疾患発症過程での転写調節は、シングルセルの調査と組み合わされ、慢性疾患の進行および回復に関与する細胞の条件および分子機構を明らかにし、新規の治療アプローチを提示する。
【0014】
ヒトMeox1遺伝子は17番染色体に存在し、NC_000017.11(43640389..43661977、相補)に位置する。Meox1染色体座位のマップは、
図1に示される。
【0015】
MEOX1アミノ酸配列の例は、NCBIデータベースから、アクセッション番号NP_004518.1として利用可能であり、以下に配列番号1として示される。
【0016】
【0017】
上記ヒトMEOX1タンパク質のヌクレオチド配列は、以下に配列番号2として示される。
【0018】
【0019】
【0020】
その他のヒトMeox1配列は、アクセッション番号NM_013999.3(GI:84105330);NM_001040002.2(GI:1675087437);およびXM_011524818.2(GI:1370470996)として利用可能である。
【0021】
Meox1転写因子の発現を制御しているエンハンサーはヒト17番染色体の約43,589,381位から43,595,263位に存在する。このエンハンサーのピーク9/10領域の配列は以下に配列番号3として示される。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
Meox1配列は、ヒト集団の間で変化し得る。多くのそのような変異体は、コドン変異および/もしくは保存的アミノ酸変化を含み得る。しかしながら、Meox1配列は、非保存的変異も含み得る。例えば、Meox1核酸もしくはMeox1タンパク質は、本明細書に記載されるMeox1核酸配列またはMeox1タンパク質配列のいずれかに対して、少なくとも85%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも90%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも95%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも96%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも97%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも98%の配列同一性および/または相補性、もしくは少なくとも99%の配列同一性および/または相補性を有し得る。
【0027】
本明細書に記載のMeox1エンハンサーは、新生Meox1転写物において検出することができる。したがって、上記エンハンサーは転写されるということが言える。このため、Meox1染色体部位およびMeox1 RNA転写物の両方を調節する方法を使用することで、Meox1を調節することができる。
【0028】
Meox1転写、Meox1翻訳、またはMeox1タンパク質機能の阻害は、心臓疾患および状態を治療することに使用され得る。治療され得る疾患および状態の例として、心不全、心臓線維症、肺線維症、腎線維症、肝線維症、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0029】
エピジェネティックなアセチルリジンリーダータンパク質BET(Bromodomain and Extra Terminal)の機能は、心不全発症過程におけるクロマチンコアクチベーターとなり得、これはin vivoで薬学的に標的になり得る。低分子BET阻害剤JQ1の投与で、複数のげっ歯類モデルにおいてHFを予防または治療し得る。しかしながら、これらの有益な効果を仲介する内在性の細胞条件およびエピジェネティック機構、およびそれらの可逆性の程度は不明である。本明細書に記載されている実験では、マウス心不全モデルにおけるエンハンサーからプロモーターへのシグナル伝達を一過的に遮断するために低分子BETブロモドメイン阻害を利用し、心臓組織のシングルセルRNA-SeqおよびシングルセルATAC-Seqと組み合わせることで、治療応答の基礎となる動的な細胞条件および活性化クロマチンエレメントを発見する。
【0030】
JQ1は、以下に示す構造を有するチエノトリアゾロジアゼピンである。これはブロモドメインタンパク質のBETファミリーの強力な阻害剤である。ブロモドメインタンパク質のBETファミリーは、哺乳類のBRD2、BRD3、BRD4、および精巣特異的タンパク質BRDTを含む。
【0031】
【0032】
JQ1に構造的に類似したBET阻害剤は、NUT正中線癌を含む様々な癌に対する臨床試験で、様々な研究者によって試験されている。
スクリーニング
Meox1を調節し、それによって心臓の疾患/状態の症状、重症度および/または進行を低減する薬剤は、本明細書に記載の方法を使用することにより同定され得る。
【0033】
このような方法は、例えば、細胞集団を1つ以上の試験薬剤と接触させることでアッセイ混合物を形成し、その後Meox1レベルを測定することを含むことで、1つ以上のMeox1調節剤を同定し得る。細胞の集団は、心臓細胞、線維芽細胞、休止線維芽細胞、筋線維芽細胞、もしくはそれらの組み合わせを含み得る。場合によっては、細胞集団は、活性化線維芽細胞を含む。例えば、線維芽細胞は、TGFβによって活性化され得る。
【0034】
Meox1レベルの測定は、エンハンサーなどのMeox1調節エレメントのクロマチンアクセシビリティの測定を含み得る。例えば、Meox1調節エレメントはヒト17番染色体の約43,589,381位と43,595,263位との間のエンハンサーなどのピーク9/10エンハンサーであり得る。
【0035】
場合によっては、スクリーニング方法は、Meox1転写物もしくはタンパク質レベルの測定を含み得る。例えば、Meox1レベルの測定は、細胞あたり遺伝子あたりの観察されたMeox1転写物(UMIカウント)の絶対数の測定を含み得る。
【0036】
試験薬剤は、Meox1レベルを上昇させるMeox1の調節剤として選択され得る。
しかしながら、試験薬剤は、好ましくはMeox1レベルを低下させるMeox1調節剤として選択され得る。例えば、Meox1調節剤のうちの1つ以上は、Meox1のエンハンサー活性を低下させることができる。Meox1のエンハンサー活性の低下は、例えば、Meox1エンハンサーの染色体アクセシビリティを低下させることを含み得る。Meox1エンハンサーはヒト17番染色体上の約43,589,381位と43,595,263位との間に存在し得る。
【0037】
ある場合には、試験アッセイにおける細胞集団は、心臓の状態または疾患の治療もしくは予防を求める患者由来である。このような患者は、その患者の心臓線維芽細胞におけるMeox1レベルの上昇、心臓線維芽細胞内の1つ以上のMeox1調節エレメントの染色体アクセシビリティの増加、もしくはそれらの組み合わせを示し得る。
【0038】
本明細書に記載されるスクリーニング方法はまた、Meox1調節剤のうちの1つ以上を心臓の状態もしくは疾患の動物モデルへ投与し、Meox1調節剤のうちの1つ以上が心臓の状態もしくは疾患の症状または重症度を低減するかどうかを決定することにより、治療薬を同定することを含み得る。加えて、前記方法は、試験薬剤または治療薬のうちの1つ以上を患者へ投与することを含み得る。
【0039】
Meox1の調節
Meox1は様々な薬剤および方法によって調節され得る。例えば、Meox1は本明細書に記載されている試験薬剤、治療剤、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、リボ核タンパク質複合体であってcasヌクレアーゼ、阻害性核酸、クロマチン安定化剤を含むリボ核タンパク質複合体、もしくはそれらの組み合わせのいずれによっても調節され得る。
【0040】
例えば、試験薬剤、治療剤、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、リボ核タンパク質複合体であってcasヌクレアーゼ、阻害性核酸、クロマチン安定化剤を含むリボ核タンパク質複合体、もしくはそれらの組み合わせは、患者や動物などの対象へ投与され得る。試験薬剤もしくは治療剤を受ける患者および動物は、試験薬剤、治療剤、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、リボ核タンパク質複合体であってcasヌクレアーゼ、阻害性核酸、クロマチン安定化剤を含むリボ核タンパク質複合体、もしくはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を必要とするものであり得る。場合によっては、試験薬剤、治療剤、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、リボ核タンパク質複合体であってcasヌクレアーゼ、阻害性核酸、クロマチン安定化剤を含むリボ核タンパク質複合体、もしくはそれらの組み合わせを受ける対象は、心臓状態もしくは心臓疾患の動物モデルである。
【0041】
対象は、エンハンサーなどのMeox1調節エレメントにおける増加した染色体アクセシビリティを示す線維芽細胞を有し得る。例えば、Meox1調節エレメントは、ヒト染色体17番上の約43,589,381位と43,595,263位との間のMeox1エンハンサーなどピーク9/10エンハンサーであり得る。
【0042】
対象(例えば、患者、動物、および/もしくは動物モデル)は、心臓疾患または心臓状態を有し得る。このような心臓状態または心臓疾患は、心臓線維症、肺線維症、腎臓線維症、肝臓線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、心臓動脈疾患、高血圧症、弁膜性心疾患、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、分類不能の心筋症、またはそれらの組み合わせを含み得る。場合によっては、対象は、心臓疾患もしくは心臓状態のいかなる症状も示さないことがあり、その場合、試験薬剤もしくは治療剤は心臓疾患もしくは心臓状態の発症を抑制するために投与され得る。
【0043】
場合によっては、Meox1調節エレメントのノックアウトもしくはノックダウンが、対象の線維芽細胞、筋線維芽細胞、もしくはそれらの組み合わせを調節するために使用され得る。このようなMeox1調節エレメントのノックアウトもしくはノックダウンは細胞もしくは対象内でin vivoもしくはin vitroで実施され得る。例えば、Meox1調節エレメントのノックアウトもしくはノックダウンは、Meox1調節エレメントのCRISPR修飾もしくはMeox1調節エレメントを標的とするMeox1阻害性核酸の使用を含み得る。
【0044】
対象の細胞の集団内のMeox1調節エレメントのin vitroでのノックアウトもしくはノックダウンは、患者の応答を評価するため、もしくは対象の治療のための治療剤を選択するために使用され得る。しかしながら、場合によっては、対象の細胞の集団内のMeox1調節エレメントのin vitroでのノックアウトもしくはノックダウンを用いることで改変細胞を作製し、続いて患者へ改変した線維芽細胞を再導入し得る。このような改変線維芽細胞は、線維化組織を生じ得る問題のある生理学的反応のカスケードを引き起こすストレス刺激に反応しないことがある。このような理由で、心臓線維症、肺線維症、腎臓線維症、肝臓線維症、および関連臓器不全は、Meox1発現の低下によって回避され得る。
【0045】
改変細胞は、例えば、改変線維芽細胞、改変肺線維芽細胞、改変筋線維芽細胞、改変心臓線維芽細胞、改変肺線維芽細胞、改変肝臓線維芽細胞、改変腎臓線維芽細胞、改変心臓細胞、もしくはそれらの組み合わせであり得る。
【0046】
遺伝子調節
本明細書に記載されるのは、Meox1ピーク9/10エンハンサーエレメントを含むMeox1調節エレメントの調節、ノックダウンもしくはノックアウト可能なガイドRNAである。CRISPR-Cas9ゲノム編集システムを使用することで、心臓の状態および疾患の間に活性化されるMeox1調節エレメントを削除修飾し得る。単一ガイドRNA(sgRNA)は、対象のゲノム内の1つ以上の標的配列を認識するために使用され、ヌクレアーゼは1本鎖または2本鎖のゲノムDNAを切断するハサミとして作用し得る。切断部位の近傍のゲノムにおける変異は、内在性の非相同末端結合(NHEJ)もしくは相同配列依存的修復(HDR)経路によって導入され得る。したがって、ガイドRNAは、内在性の機構によって欠失および/または改変のための標的Meox1ゲノム部位を切断するヌクレアーゼを誘導する。
【0047】
Meox1特異的ガイドRNAは、ストレス活性化に対する応答性を低下させるためのMeox1調節エレメントの改変が可能であり、これは病状を悪化させる転写および細胞状態での幅広いシフトを引き起こすシグナル伝達カスケードを誘発し得る。
【0048】
Casシステムは、20塩基のgRNAに一致するゲノム内の任意の配列を認識し得る。しかしながら、「プロトスペーサー隣接モチーフ」(PAM)は直接的にCasタンパク質に結合するため、各gRNAはまた、Casタンパク質の各タイプに不変のPAMに隣接する必要がある。Doudna et al.,Science 346(6213):1077,1258096(2014)およびJinek et al.,Science 337:816-21(2012)を参照されたい。したがって、ガイドRNAはCasタンパク質によって結合され得るPAM部位配列を有し得る。
【0049】
初めてCasシステムが「NGG」PAM部位を有するCas9について説明された際、このPAMは、標的となる部位に対して正しい向きのGGを必要とするという点でいくらか制限的であった。異なるCas9の種類は、現在では異なるPAM部位を有するものとして説明される。Jinek et al.,Science 337:816-21(2012)、Ran et al.,Nature 520:186-91(2015)およびZetsche et al.,Cell 163:759-71(2015)を参照されたい。加えて、PAM認識ドメインにおける変異(表1)は、SpCas9およびSaCas9についてPAM部位の多様性を増加させた。Kleinstiver et al.,Nat Biotechnol 33:1293-1298(2015)およびKleinstiver et al.,Nature 523:481-5(2015)を参照されたい。
【0050】
表1ではPAM部位に関する情報をまとめている。
【0051】
【0052】
SpCas9およびSaCas9のガイドRNAは、PAM部位の5’方向に20塩基をカバーする一方、FnCas2(Cpf1)についてはガイドRNAはPAMの3’へ20塩基をカバーすることに留意されたい。
【0053】
遺伝子編集に使用され得るヌクレアーゼおよびシステムには多くの異なる種類が存在する。採用されるヌクレアーゼは、場合によってはヌクレアーゼ活性を有する任意のDNA結合タンパク質であり得る。ヌクレアーゼの例は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas(SpCas9)ヌクレアーゼ、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)Cas9(SpCas9)ヌクレアーゼ、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)Cas2(FnCas2,dFnCpf1とも呼ばれる)ヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、Fok-Iヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ活性を有する任意のDNA結合タンパク質、ヌクレアーゼに結合する任意のDNA結合タンパク質、もしくはそれらの組み合わせを含む。しかしながら、CRISPR-Casシステムが通常もっとも広く用いられている。場合によっては、したがってヌクレアーゼはCasヌクレアーゼである。
【0054】
CRISPR-Casシステムは、通常2つのクラスに分けられる。クラス1システムは、タイプI、III、およびIVを含み、クラス2システムはタイプII、V、およびVIを含む。クラス1のCRISPR-Casシステムは複数のCasタンパク質の複合体を使用するのに対し、クラス2システムは複数のドメインを有する単一のCasタンパク質のみを使用する。クラス2のCRISPR-Casシステムは通常、シンプルさと使いやすさから、遺伝子工学的な用途のために好まれている。
【0055】
本明細書に記載の方法では、様々なCasヌクレアーゼが採用され得る。最もよく特徴づけられている3種が例として提供される。最も一般的に使用されるCasヌクレアーゼは、化膿レンサ球菌Cas9(SpCas9)である。より最近記載されたCasの形態は、黄色ブドウ球菌Cas9(SaCas9)およびフランシセラ・ノビシダCas2(FnCas2、FnCpf1とも呼ばれる)である。Jinek et al.,Science 337:816-21(2012);Qi et al.,Cell 152:1173-83(2013);Ran et al.,Nature 520:186-91(2015);Zetsche et al.,Cell 163:759-71(2015)を参照されたい。
【0056】
化膿レンサ球菌Cas9(SpCas9)ヌクレアーゼのアミノ酸配列の一例を以下に提供する(配列番号4)。
【0057】
【0058】
化膿レンサ球菌Cas9(SpCas9)をコードするcDNAを以下に提供する(配列番号15)。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
フランシセラ・ノビシダCas2(FnCas2、FnCpf1とも呼ばれる)のアミノ酸配列を以下に示す(配列番号16)。
【0063】
【0064】
上述のフランシセラ・ノビシダCas2(FnCas2、dFnCpf1とも呼ばれる)ポリペプチドをコードするcDNAを以下に示す(配列番号17)。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
Meox1を阻害する核酸
本明細書に記載されるように、Meox1の発現の低下は、心機能を改善し得る。さらに、本明細書で提供されるデータは、ピーク9/10エンハンサーがMeox1新生転写物において転写されていることを示す。
【0069】
阻害性核酸は、Meox1の発現および/または翻訳を減少させるために使用され得る。このような阻害性核酸は、Meox1および/またはMeox1エンハンサー(例えば、ピーク9/10Meox1エンハンサーエレメント)をコードする新生RNAを含むMeox1核酸に特異的に結合し得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、心臓線維芽細胞の増殖、遊走、および生存を制御し得るエンハンサーを含む、その他のエンハンサーを抑制するために使用されている(例えば、Micheletti et al.Sci.Transl.Med.9(395)eaai9118(2017)を参照されたい)。したがって、エンハンサーがアミノ酸コード領域から離れている場合であっても、エンハンサーは阻害性核酸によって依然抑制され得る。
【0070】
阻害性核酸は、細胞内もしくはストリンジェントな条件下でMeox1の核酸にハイブリダイズする少なくとも1つのセグメントを有し得る。阻害性核酸は、Meox1をコードする核酸のプロセシング、発現、および/または翻訳を低減し得る。阻害性核酸は、ゲノムDNA、メッセンジャーRNA、新生RNA、もしくはそれらの組み合わせにハイブリダイズし得る。阻害性核酸は、プラスミドベクターもしくはウイルス性DNAへ組み込まれてもよい。それは、1本鎖もしくは2本鎖、環状、直鎖状であってもよい。
【0071】
阻害性核酸は、13塩基以上の長さを有するリボースヌクレオチド(RNAi)もしくはデオキシリボースヌクレオチドのポリマーであり得る。阻害性核酸は、天然に存在するヌクレオチド;ホスホロチオレート(phosphorothiolates)などの合成、修飾、もしくは疑似ヌクレオチド;ならびにP32、ビオチン、ジゴキシゲニンなどの検出可能な標識を有するヌクレオチドを含み得る。阻害性核酸は、Meox1核酸の発現、プロセシング、および/または翻訳を低減し得る。このような阻害性核酸は、Meox1核酸(例えば、Meox1 mRNAもしくはピーク9/10エンハンサーなどの少なくとも1つのMeox1エンハンサーエレメントを含むMeox1新生転写物)のセグメントに対して完全に相補的であり得る。
【0072】
阻害性核酸は、細胞内条件もしくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でMeox1核酸にハイブリダイズし、Meox1核酸の発現を阻害するのに十分なものである。細胞内条件とは、細胞内、例えば、本明細書に記載の標的細胞内で典型的に見られる温度、pHおよび塩濃度などの条件を指す。
【0073】
通常、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、規定されたイオン強度およびpHで特定の配列に対して熱融点(Tm)より約5℃低くなるように選択される。しかしながら、ストリンジェントな条件は、本明細書で限定されなければ、所望のストリンジェンシーの程度に応じて、選択された配列の熱融点より約1℃~約20℃低い範囲の温度を包含する。例えば、2、3、4、もしくは5もしくはそれ以上の、Meox1コーディングもしくは隣接配列に対して正確に相補的である連続したヌクレオチドのストレッチを含む阻害性オリゴヌクレオチドは、隣接するコード配列に相補的でない連続したヌクレオチドのストレッチによってそれぞれ分離することができ、このような阻害性核酸は、Meox1核酸の機能を依然阻害し得る。通常、連続したヌクレオチドのそれぞれのストレッチは、少なくとも4、5、6、7、または8またはそれ以上のヌクレオチド長である。非相補的介在配列は、1、2、3、または4ヌクレオチド長であり得る。
【0074】
当業者は容易に、センス核酸にハイブリダイズする阻害性核酸の計算された熱融点を用いることで、特定の標的核酸の発現を阻害するために許容されるミスマッチの程度を推定することができる。本発明の阻害性核酸は、例えば、ショートヘアピンRNA、低分子干渉RNA、リボザイム、またはアンチセンス核酸分子である。
【0075】
阻害性核酸分子は、一本鎖(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)もしくは二本鎖(例えば、siRNA)であり得、酵素依存的にもしくは立体的遮断によって機能し得る。酵素依存的に機能する阻害性核酸分子は、RNaseH活性に依存する形態を含むことで標的mRNAを分解する。これらには、一本鎖DNA、RNA、およびホスホロチオエート分子、ならびに、センス-アンチセンス鎖ペアリングを介した標的mRNAの認識とそれに続くRNA誘導サイレンシング複合体による標的mRNAの分解に関与する二本鎖RNAi/siRNAシステムが含まれる。RNaseH非依存的な立体的遮断阻害性核酸は、標的mRNAに結合しその他の過程の障害となることにより、遺伝子発現もしくはその他のmRNA依存性の細胞内プロセスを妨害する。立体的遮断阻害性核酸は、2’-Oアルキル(通常、RNaseH依存性アンチセンスとのキメラにある)、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)およびモルフォリノアンチセンスを含む。
【0076】
低分子干渉RNA(siRNA)は、例えば、コードされたポリペプチドの産生が減少するように、Meox1のプロセシングまたは翻訳を特異的に低減するために使用され得る。siRNAは、配列特異的様式において転写後遺伝子サイレンシングを仲介する。例えば、invitrogen.com/site/us/en/home/Products-and-Services/Applications/rnai.htmlのウェブサイトを参照されたい。いったんRNA誘導サイレンシング複合体に取り込まれると、siRNAは、相同な内在性mRNA転写物の切断を、相同mRNA転写物へその複合体を誘導することによって仲介し、相同mRNA転写物はその後その複合体によって切断される。siRNAは、Meox1 mRNA転写物の任意の領域に対して相同であり得る。相同な領域は、50ヌクレオチド以下、30ヌクレオチド以下の長さ、25ヌクレオチド以下など、もしくは例えば約21から23ヌクレオチドの長さであり得る。siRNAは典型的には二本鎖であり、2ヌクレオチドの3’オーバーハング、例えば3’オーバーハングUUジヌクレオチドを有し得る。siRNAを設計する方法は利用可能であり、例えば、Elbashir et al.Nature 411:494-498(2001);Harborth et al.Antisense Nucleic Acid Drug Dev.13:83-106(2003)を参照されたい。
【0077】
ヘアピンsiRNAを発現するpSuppressorNeoベクターはIMGENEX社(カリフォルニア州サンディエゴ)から市販されており、Meox1発現を阻害するためのsiRNAもしくはshRNAの作製に用いることが可能である。siRNAもしくはshRNAの発現プラスミドの構築は、mRNAの標的領域の選択を含み、これは試行錯誤を要するプロセスであり得る。しかしながら、Elbashirらは約80%の確率で成功すると思われるガイドラインを提供する。Elbashir,S.M.,et al.,Analysis of gene function in somatic mammalian cells using small interfering RNAs.Methods,2002.26(2):p.199-213。したがって、合成siRNAもしくはshRNAの合成のために、標的領域として好ましくは開始コドンの50から100ヌクレオチド下流が選択され得る。5’および3’非翻訳領域および開始コドンの近傍領域は、これらが調節タンパク質結合部位で豊富である可能性があるため、避けるべきである。siRNAはAAで開始し、センスおよびアンチセンスのsiRNA鎖の両方について3’UUオーバーハングを有し、約50%のG/C含量を有し得る。合成siRNAもしくはshRNAの配列の一例は5’-AA(N19)UUであり、ここでNはそのmRNA配列における任意のヌクレオチドであり、約50%のG-C含量であるべきである。選択された配列は、ヒトゲノムデータベースで他と比較することで、他の既知のコード配列に対する相同性を最小化し得る(例えば、NCBIウェブサイトを通じたBlast検索によって)。
【0078】
阻害性核酸(例えば、siRNA、および/またはアンチセンスオリゴヌクレオチド)は、化学的に合成されるか、in vitro転写によって作製されるか、発現ベクターもしくはPCR発現カセットから発現されてもよい。例えば、invitrogen.com/site/us/en/home/Products-and-Services/Applications/rnai.htmlのウェブサイトを参照されたい。
【0079】
siRNAが発現ベクターもしくはPCR発現カセットから発現する場合、siRNAをコードするインサートは、siRNAヘアピンもしくはshRNAに折り畳まれるRNA転写物として発現し得る。したがって、RNA転写物は、ヘアピンループを形成するスペーサー配列によって逆相補的アンチセンスsiRNA配列に連結されるセンスsiRNA配列と、3’末端の連続したUとを含んでもよい。ヘアピンループは、任意の適切な長さ、例えば、3から30ヌクレオチドの長さ、もしくは約3から23ヌクレオチドの長さであってもよく、例えば、AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUUおよびCCACACCを含む様々なヌクレオチド配列を含んでもよい。siRNAはまた、直接的もしくはトランスジーンもしくはウイルスを介して導入された二本鎖RNAの切断によって、in vivoで作製されてもよい。生物によっては、RNA依存性RNAポリメラーゼによる増幅が生じ得る。
【0080】
短いヘアピンRNA、siRNA、もしくはアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの阻害性核酸は、阻害性核酸の配列を含む発現ベクターもしくは発現カセットに由来する発現によるなどの方法を用いて調製され得る。あるいは、それは天然に存在するヌクレオチド、修飾ヌクレオチド、またはそれらの任意の組み合わせを使用した化学合成によって調製されてもよい。いくつかの実施形態では、阻害性核酸は、例えば、阻害性核酸の生物学的な安定性を高めるために、もしくは阻害性核酸と標的Meox1核酸との間に形成される二本鎖の細胞内での安定性を高めるために設計された、修飾ヌクレオチドまたは非リン酸ジエステル結合から作製される。
【0081】
送達
阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、またはそれらの組み合わせを送達するための様々な方法がある。場合によっては、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、もしくはそれらの組み合わせは対象に直接的に投与される。ほかの場合には、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、またはそれらの組み合わせは、1つ以上の発現カセットまたは発現ベクターにコードされ、その発現カセット/ベクターが対象に投与され得る。したがって、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、またはそれらの組み合わせは、発現カセット/発現ベクターからin vivoで発現し得る。
【0082】
第1のそしておそらく最も容易なアプローチは、同一のベクターからのヌクレアーゼおよびガイドRNA(例えば、sgRNA)をコードするベクターベースのCRISPR-Cas9システムを用いることであり、これにより異なる構成要素の複数回のトランスフェクションを回避する。第2のアプローチは、Cas9 mRNAおよびsgRNAの混合物を送達することであり、第3の戦略は、Cas9タンパク質およびsgRNAの混合物を送達することである。
【0083】
場合によっては、ガイドRNAは、細胞へ送達されるか、ガイドRNAのうち1つ以上を発現し得る発現カセットまたはベクターの形態で対象へ投与され得る。ヌクレアーゼもまた細胞へ送達されるか、1つ以上のヌクレアーゼを発現し得る発現カセットもしくはベクターの形態で対象へ投与され得る。ヌクレアーゼはまたそれらの個別のgRNAと結合し、RNA-タンパク質複合体(RNP)として送達され得る。したがって、RNPは細胞外で事前に会合し細胞内へ導入され得る。
【0084】
阻害性核酸、ガイドRNAは発現カセットまたはベクターから発現され得る。ヌクレアーゼも、1つ以上のgRNAとともに同一細胞において発現され得る。阻害性核酸、ガイドRNAおよびヌクレアーゼは、阻害性核酸、ガイドRNAおよび/またはヌクレアーゼをコードする核酸分子の形態で導入され得る。このような核酸分子は、発現カセットまたは発現ベクターで提供され得る。
【0085】
発現カセットはベクター内に存在してもよい。ベクターは例えば、ウイルス、もしくは細胞によって容易に取り込まれるほかのベクターなどの発現ベクターであってもよい。使用され得るベクターの例としては、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子導入ベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、例えばサイトメガロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、水痘帯状疱疹ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、例えば、ヘルパー依存性アデノウイルスベクター、アデノウイルス-AAVハイブリッド、狂犬病ウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルス(VSV)ベクター、コロナウイルスベクター、ポックスウイルスベクターなどが含まれる。非ウイルスベクター、例えば、リポソーム、ナノ粒子、マイクロ粒子、リポプレックス、ポリプレックス、ナノチューブなどが、発現ベクターの送達のために採用されてもよい。一実施形態において、例えば、それぞれ異なる阻害性核酸、ガイドRNA、異なるヌクレアーゼ、もしくはそれらの組み合わせをコードする2つ以上の発現ベクターが投与される。
【0086】
発現カセットまたは発現ベクターは、阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、またはそれらの組み合わせをコードする核酸セグメントに作動可能に連結されたプロモーター配列を含む。機能的な阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼまたはそれらの組み合わせの発現を確実にする方法として、トランスジーン、発現カセット、または発現ベクターからの発現が含まれ得る。例えば、選択された阻害性核酸、ガイドRNA、ヌクレアーゼ、またはそれらの組み合わせをコードする核酸セグメントは、ベクター、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、もしくは遺伝子工学に利用可能なその他のベクターなどに存在し得る。ベクターに挿入されたコード配列は、標準的な方法によって合成されてもよいし、天然の供給源から単離されてもよい。コード配列はさらに、転写調節エレメント、終結配列、および/またはその他のアミノ酸をコードする配列に連結されてもよい。このような調節配列は、転写の開始、配列内リボソーム進入部位(IRES)(Owens,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:1471-1476(2001))、および任意で、転写終結および転写物安定化を確実にする調節エレメントを提供し得る。
【0087】
転写の開始を確実にする調節エレメントの非限定的な例として、翻訳開始コドン、例えばSV40エンハンサーなどの転写エンハンサー、インシュレーターおよび/またはプロモーターが含まれる。プロモーターは、構成的プロモーター、誘導的プロモーター、もしくは組織特異的プロモーターであり得る。使用され得るプロモーターの例として、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、lacZプロモーター、ニワトリベータアクチンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリベータアクチンプロモーターおよびサイトメガロウイルス即時型エンハンサーの組み合わせ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1αプロモーター、AOX1プロモーター、GAL1プロモーターCaMキナーゼプロモーター、lac、trpもしくはtacプロモーター、lacUV5プロモーター、オートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcMNPV)多面体プロモーター、または哺乳類およびその他の動物細胞内のグロビンイントロンが含まれ得る。転写終結を確実にする調節エレメントの非限定的な例として、V40-ポリA部位、tk-ポリA部位、もしくはSV40、lacZもしくはAcMNPV多面体ポリアデニル化シグナルが含まれ、本発明の核酸配列の下流に含まれることになる。追加の調節エレメントは、翻訳エンハンサー、Kozak配列およびRNAスプライシングのためのドナーおよびアクセプター部位に隣接した介在配列を含み得る。さらに、複製起点、薬剤耐性遺伝子もしくは調節因子(誘導性プロモーターの一部として)もまた、含まれてよい。
【0088】
発現カセットおよび/または発現ベクターは、細胞内に導入され得る。細胞は、任意の哺乳類もしくは鳥類の細胞であり得る。例えば、細胞は、ヒト細胞、もしくは家畜化された動物、動物園の動物、もしくは実験動物由来の細胞であり得る。
【0089】
細胞は、治療の必要性のある対象から得てもよい。細胞は対象に対して自家もしくは同種異系であり得る。場合によっては、細胞は線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓線維芽細胞、誘導多能性幹細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞および/または心臓細胞であり得る。同種異系細胞は対象のそれと一致するように分類することができる。
【0090】
ガイドRNAはまた、細胞へ導入されるか、RNA-タンパク質複合体(RNP)の形態で対象へ投与され得る。ヌクレアーゼは細胞への導入前に1つ以上のgRNAに前もって結合することができる。Cas-gRNA複合体のRNP送達の利点は、ex vivoで容易に制御できる複合体形成であり、選択したCasポリペプチドが選択したガイドRNAと独立して複合化できるため、所望の複合体の構造および組成を確実に知ることができる。RNPは非常に安定で、gRNAの明らかな交換はない。したがって、ヌクレアーゼ-gRNA RNPは、ゲノム編集の部位へ選択したgRNAを運ぶことができる。
【0091】
例えば、CasRNPは、タンパク質に対してモル過剰のgRNA(例えば、約1:1.1から1:1.4のタンパク質対gRNAのモル比を用いて)を使用して、Casタンパク質を選択したgRNAとともにインキュベートすることにより調製され得る。このようなインキュベーションの間に使用される緩衝液は、20mM HEPES(pH7.5)、150mM KCl、1mM MgCl2、10%グリセロール、および1mM TCEPを含み得る。インキュベーションは、37℃で約5分から約30分(通常10分で十分)でおこなわれてもよい。参照DNAもしくはHDRテンプレートを使用する際に、それをCasRNPへ追加してもよい。
【0092】
細胞へCasRNPを導入するためにヌクレオフェクションが採用され得る。以下を参照されたい。Lin et al.,Enhanced homology-directed human genome engineering by controlled timing of CRISPR/Cas9 delivery.Elife 3:e04766。例えば、ヌクレオフェクション反応は、約10μlから40μlのヌクレオフェクション試薬中約1×104個から1×107個の細胞を約5μから30μlのRNP:DNAと混合することを含み得る。いくつかの例において、2×105個の細胞を、約20μlのヌクレオフェクション試薬および約10μlのRNP:DNAと混合した。エレクトロポレーションの後、増殖培地を添加し、細胞を増殖および評価のために組織培養プレートへ移す。ヌクレオフェクション試薬および機器はLonza社(ニュージャージー州アレンデール)より入手可能である。
【0093】
したがって、本発明は、心臓の状態および疾患を治療、抑制、もしくは予防する遺伝子治療ベクターなどの薬物療法に使用するための薬剤を提供する。
投与
ガイドRNA、もしくはガイドRNAを発現し得る発現カセット/発現ベクターは対象へ投与され得る。改変された細胞(例えば、線維芽細胞)は、Meox1転写および/またはMeox1エンハンサー活性を低減し、対象へ投与もされ得る。本明細書に記載されるように作製される、ヒト患者もしくはその他の対象における心臓の状態および/または疾患の治療もしくは予防のために、このようなガイドRNA、発現カセット、発現ベクターおよび細胞が採用され得る。患者もしくは対象は、そのような治療を必要とすることがある。場合によっては、患者もしくは対象は、心臓の状態/疾患もしくはその他の医学的状態のいかなる症状もまだ示さないことがある。
【0094】
ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞は、心臓組織などの特定の組織部位に取り込まれ、移植され、もしくはそこへ遊走することをそれらに可能とさせる方法で投与される。このようなガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞は、心臓組織を含む組織の機能的に欠損した領域を再構成もしくは再生し得る。例えば、心臓組織へ細胞を投与するために適合され得る装置が利用可能である。
【0095】
治療のために、ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および/または細胞(例えば、線維芽細胞、筋線維芽細胞、心臓細胞など)は局所的もしくは全身的に投与され得る。投与は、注射、カテーテル、植込み型デバイスなどによってなされてもよい。ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞は任意の生理学的に許容される賦形剤もしくは対象に悪影響を及ぼさない担体中で投与されてもよい。例えば、ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞は静脈内にもしくは心臓内経路を介して(例えば、心外膜もしくは心筋内に)投与され得る。ガイドRNA、発現カセット、発現ベクターおよび/または細胞を対象、特にヒト対象へ投与する方法は、ガイドRNA、発現カセット、発現ベクターおよび細胞の標的部位への注射または移植を含むか、もしくはそれらは発現カセット、発現ベクター、および細胞の導入、取り込み(uptake)、取り込み(incorporation)、または移植を容易にする送達デバイスに挿入され得る。このような送達デバイスは、カテーテルなど、レシピエント対象の体内に細胞、発現ベクター、および流体を導入するためのチューブを含む。チューブは、さらに、シリンジなどの針を含んでもよく、それを通して本発明の細胞が所望の位置で対象へ導入され得る。この方法を用いて複数回の注射をおこなってもよい。
【0096】
本明細書で使用される用語「溶液」は、その中で本発明のガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞が生存能力および/または機能性を維持する担体もしくは希釈剤を含む。使用できる担体および希釈剤には、生理食塩水、水性緩衝液、溶媒および/または分散媒体が含まれ得る。そのような担体および希釈剤の使用は、当該技術分野において利用可能である。溶液は好ましくは、注射容易性が存在する程度に無菌であり流体である。
【0097】
ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および細胞はまた、支持マトリックスに埋め込まれ得る。適切な成分には、ガイドRNA、発現カセット、発現ベクター、および改変細胞の接着の取り込みを支持または促進するマトリックスタンパク質が含まれる。別の実施形態において、組成物は生理学的に許容されるマトリックス足場を含んでもよい。このような生理学的に許容されるマトリックス足場は、再吸収可能および/または生分解性であり得る。
【0098】
場合によっては、心臓細胞はガイドRNAおよび任意でヌクレアーゼを発現するように改変され得る。加えて、心臓細胞は、ガイドRNAおよびヌクレアーゼによって改変されることで、低下したMeox1発現および/または低下した少なくとも1つのMeox1調節エレメントの活性を有する改変細胞の集団を生成することができる。
【0099】
本明細書に記載された方法によって生成された改変細胞の集団は、低い割合の非線維芽細胞(例えば、その他の心臓細胞および/または内皮細胞)を含み得る。例えば、組成物中での使用および対象への投与のための改変細胞の集団は、約90%未満の非線維芽細胞、約85%未満の非線維芽細胞、約80%未満の非線維芽細胞、約75%未満の非線維芽細胞、約70%未満の非線維芽細胞、約65%未満の非線維芽細胞、約60%未満の非線維芽細胞、約55%未満の非線維芽細胞、約50%未満の非線維芽細胞、約45%未満の非線維芽細胞、約40%未満の非線維芽細胞、約35%未満の非線維芽細胞、約30%未満の非線維芽細胞、約25%未満の非線維芽細胞、約20%未満の非線維芽細胞、約15%未満の非線維芽細胞、約12%未満の非線維芽細胞、約10%未満の非線維芽細胞、約8%未満の非線維芽細胞、約6%未満の非線維芽細胞、約5%未満の非線維芽細胞、約4%未満の非線維芽細胞、約3%未満の非線維芽細胞、約2%未満の非線維芽細胞、約1%未満の非線維芽細胞を、細胞集団内の全細胞に対し有し得る。
【0100】
多くの細胞タイプは、対象内で再生および分化のために適切な部位へ遊走することが可能である。様々な治療投与レジメンの適合性および細胞組成物の用量を決定するために、線維芽細胞もしくはその他のタイプの細胞はまず、適切な動物モデルにおいて試験され得る。ある段階では、細胞はin vivoで生存しそれらの表現型を維持する能力について評価される。細胞はまた、それらがin vivoで患部もしくは損傷部位へ遊走するかどうかを確認するために、または、投与されるべき細胞の適切な数もしくは用量を決定するために、評価され得る。細胞組成物は、免疫不全動物(例えば、ヌードマウス、または化学的にもしくは放射線照射によって免疫不全状態にさせられた動物)へ投与され得る。組織は、再増殖の期間の後に採取され、投与された細胞またはその子孫がまだ存在しているか、生存しているか、および/または所望の、もしくは望ましくない位置に遊走したかどうかについて評価され得る。
【0101】
注入された線維芽細胞もしくはその他の細胞タイプは、様々な方法によって追跡することが可能である。例えば、検出可能な標識(例えば、緑色蛍光タンパク質、もしくはベータガラクトシダーゼ)を含むまたは発現する細胞は、容易に検出可能である。細胞は、BrdUまたは[3H]-チミジン、もしくは緑色蛍光タンパク質、またはベータガラクトシダーゼを発現し得る発現カセットの導入により、予め標識することができる。あるいは、改変細胞は、試験に使用された動物によって発現されない細胞マーカー(例えば、実験動物へ細胞を注入する場合、ヒト特異的抗原)の発現によって検出することが可能である。投与された改変細胞の集団の存在および表現型は、蛍光顕微鏡によって(例えば、緑色蛍光タンパク質、もしくはベータガラクトシダーゼについて)、免疫組織化学(例えば、ヒト抗原に対する抗体の使用)によって、ELISA(ヒト抗原に対する抗体の使用)によって、もしくは心臓の表現型を示すRNAに特異的な増幅を引き起こすプライマーおよびハイブリダイゼーション条件を使用するRT-PCR解析によって、評価され得る。
【0102】
改変細胞は、対象の疾患もしくは状態の程度に応じて様々な量で組成物に含まれ得る。例えば、組成物は、約103~約1012個の改変細胞、または約104~約1010個の改変細胞、または約105~108個の改変細胞を含む、局所的もしくは全身的投与のための液体形態で調製され得る。
【0103】
1つ以上のガイドRNAを含むRNPもしくは1つ以上のガイドRNA、ヌクレアーゼ、もしくはそれらの組み合わせを発現し得る発現ベクターはまた、細胞と共にまたは細胞なしで投与され得る。
【0104】
追加の細胞を伴うまたは伴わないガイドRNA、ヌクレアーゼ、および/またはRNPは、単回投与として、複数回投与で、連続的または断続的な方法で、例えば、レシピエントの生理学的状態に依存して、投与の目的がストレス性の事象に応答するか、より持続した治療目的のためであるかに応じて、および当業者に知られているその他の要因に応じて、組成物中で投与されてもよい。本発明の組成物の投与は、単回投与として、もしくは予め選択された期間にわたって原則的に連続的であってもよいし、間隔を置いた一連の投与であってもよい。局所および全身投与の両方が考えられる。
【0105】
治療において使用されるガイドRNA、ヌクレアーゼ、RNP、および/または細胞の量は、選択された特定の担体によって変化し得るだけでなく、投与経路、治療される状態の性質および患者の年齢および状態によっても変化し得ることが理解されるであろう。最終的には、付き添いの医療ケア提供者が適切な用量を決定してもよい。
【0106】
以下の実施例では、本発明の開発に関連する研究の一部を示す。本発明者らによる以下の刊行物ではさらなる詳細を提供する:Alexanianら(A Transcriptional Switch Governing Fibroblast Plasticity Underlies Reversibility of Chronic Heart Disease,bioRxiv(July 2020)doi.org/10.1101/2020.07.21.214874,全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)。
【0107】
実施例1:材料および方法
この実施例では、本発明の開発において使用された材料および方法のいくつかを記載する。
【0108】
動物モデル
動物使用に関するすべてのプロトコルは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committees)によって承認され、実験動物の管理と使用に関する国立衛生研究所ガイド(the National Institutes of Health Guide for Care and Use of Laboratory Animals)に厳密に従って実施された。年齢を合わせたオスのC57B1/6Jを使用して研究は実施された。マウスは、温度および湿度が管理された病原体のない施設で、12時間の明暗サイクルで飼育された。
【0109】
JQ1の調製
JQ1は、Filippakopoulosら(Nature468,1067-1073(2010))によって記載されているように、Jun Qiの研究室(Dana-Farber Cancer Institute)において合成および精製された。in vivo実験では、保存溶液[ジメチルスルホキシド(DMSO)中に50mg/mlのJQ1]を激しいボルテックス処理を用いて水性担体(10%ヒドロキシプロピルb-シクロデキストリン;Sigma C0926)中で作業濃度の5mg/mlに希釈した。マウスに50mg/kgの用量で、1日1回腹腔内に注入した。ビヒクル対照は、10%ヒドロキシプロピルb-シクロデキストリン担体溶液に溶解した等量のDMSOであった。すべての溶液を、滅菌技術を使用し調製および投与した。in vitro実験では、JQ1をDMSOに溶解し終濃度500nMで細胞へ投与し、等量のDMSOを対照として使用した。
【0110】
横大動脈狭窄のマウスモデル、人工エコーおよび線維化の定量化
すべてのマウスは、The Jackson Laboratoryからの8~10週齢のオスのC57Bl/6Jマウスであった(ストックナンバー:000664)。手術中の体温(37℃)の維持を助けるため、マウスを温度調節された小動物手術台に置いた。マウスをイソフルランで麻酔し、人工呼吸器を装着し(Harvard Apparatus)、そして開胸術をおこなった。横大動脈狭窄(TAC)の手術では、Anand(Cell 154:569-582(2013))に記載されているように、7-0絹縫合糸および25ゲージ針を用いて、大動脈弓を左総頸動脈と腕頭動脈の間で狭窄した。JQ1(50mg/kg/日)もしくはビヒクルの腹腔内注入を、TAC手術の18日後に施し
図2Bで記載するように継続した。偽(Sham)手術のため、開胸術を上記のようにおこない、大動脈をさらなる介入なしに外科的に露出した。心エコー検査のため、マウスを1%吸入イソフルランで麻酔し、Vevo 3100 High Resolution Imaging System(FujiFilm VisualSonics社)およびMX550Sプローブを用いて画像化した。Anand(2013)に記載されているように、Mモードサンプリングおよび中乳頭レベルでの心室(LV)短軸で取得した統合心電図ゲートキロヘルツ可視化(EKV)画像から、測定値を得た。Anand(2013)に記載されているように、拡張末期および収縮末期における高解像度二次元測定より、左心室面積および駆出率を得た。TAC JQ1およびTAC JQ1休薬動物における線維化の定量化のために、マウスをTAC後62日で安楽死させた。左心室尖部への22.5G針の導入を介した10mlのPBSでの潅流および右心房の切り取り後、心臓を外植した。心臓をPBSで洗浄し2%PFAで一晩固定した後、段階的に100%エタノールまで脱水した。パラフィン包埋のために、心臓を自動化されたシステムで、一連の、PBS洗浄、濃度上昇系列のアルコール(Aga)、Clear Rite 3(商標)(Richard-Allan Scientific)および56℃でのShandon Histoplast(Thermo Scientific)により処理した。心臓をパラフィンに包埋し横方向に切断した(3μm切片)。心房の基部から尖部までの心室の異なるZ位置を代表する切片を脱脂し、再水和し、製造業者のプロトコルにしたがってピクロシリウスレッド染色(ab150681)をおこなった。切片はキシレン中で透明化され(diaphanized)、組織学的検査のためDPX Mountant中にマウントした(06522、Sigma-Aldrich)。画像を4倍の対物レンズが付属しているLeica DMi8 Widefieldで取得しFIJIソフトウェアを使用して解析した。Fijiでは、画像を、赤、緑、および青のチャンネルに分離し、線維化および全組織切片面積をそれぞれ、緑と青のチャンネルへ閾値ツールを使用して測定した。線維化の割合を全組織切片面積に対して正規化し、動物ごとに全部で24切片の解析をおこなった。Prism8を用いてデータの統計的解析をおこない、p<0.05で統計的有意性を決定した。テューキーの多重比較検定を適用した。正規性はダゴスティーノ-ピアソンオムニバス正規性検定では証明されなかったため、Independent Samples Mann-Whitney U検定を利用した。盲検法(英数字コードによる試料の標識)を線維化解析のために実施した。
【0111】
ランゲンドルフ潅流およびその後のシングルセルRNAおよびATACseqのための細胞と核の単離
Liら(J.Vis.Exp.(2014))に記載されたものに変更を加えて、マウスの心臓からの細胞単離をおこなった。簡潔に述べると、適切な麻酔レベルに達した後、開胸術をおこない、マウスの心臓を単離した。単離した心臓にカニューレを挿入し、ランゲンドルフ潅流システム(Radnoti 120108EZ)で37℃で5~10分の間、潅流緩衝液(120.4mM NaCl、14.7mM KCl、0.6mM KH2PO4、0.6mM Na2HPO4、1.2mM MgSO4、10mM Na-HEPES、4.6mM NaHCO3、30mMタウリン、10mM2,3-ブタンジオンモノオキシム、および5.5mMグルコース、pH7.0)で潅流した。カニューレ挿入した心臓を、その後、37℃で約10分間、消化緩衝液(300ユニット/mLのコラゲナーゼII(Worthington Biochemical)および50μM CaCl2を含む潅流緩衝液)によって消化した。消化の終わりに、心房と大血管を除去し、心室組織を37℃で停止緩衝液(10%胎仔ウシ血清を含む潅流緩衝液)中に移し、穏やかに小片に裂いた。穏やかなピペッティングの後、細胞懸濁液をファルコンチューブ内で、その後室温(RT)で30×gで3分間、250μMの濾過器に通した。次いで、上清(ほとんどの非(non-)心筋細胞(cardiomyocyte、CM)を含む)をペレット(CM画分を含む)から分離した。非CM画分を再び、30×gで3分間室温で遠心分離し、上清を保存した。その後、上清を細胞濾過器(70μm)を用いて濾過し、最終的に400×gで3分間室温で遠心分離しデブリを除去した。非CMペレットを最終的に1mLの冷PBS 0.5%BSAに再懸濁した。血球計数器を使用しトリパンブルーで3万個の細胞を数え、次いでその後の10X Genomics Chromium(登録商標)シングルセルRNAseq調製に使用した。シングルセルATACについては、単離され精製された50万個の非CMを100μLの溶解緩衝液(ヌクレアーゼフリー水中にTris-HCl 10mM pH7.4、NaCl 10mM、MgCl2 3mM、Tween(登録商標)-20 0.1%、P40 0.1%、ジギトニン 0.01%、BSA 1%)に再懸濁し、10回のピペッティングをし5分間氷上に静置した。その後、核を1%BSAを含む1mLの1×PBSで洗浄し、その後4℃で5分間遠心分離した。核ペレットを、1%BSAを含む1mLの1×PBSに再懸濁し、10μMの濾過器(pluriSelect #43-50010-00)を用いて濾過した。その後、核を血球計数器を使用しDAPIで数え、最終的に3万個の非CM核をその後の10X Genomics Chromium(登録商標)シングルセルATACseq調製に使用した。最初の遠心分離後、CM画分を再び停止緩衝液中で30×gで3分間室温で遠心分離し、上清を廃棄した。最終的にCMペレットを停止緩衝液中で400×gで3分間室温で遠心分離し、その後上清を廃棄し、細胞ペレットをその後のRNA抽出のためにQiazol(登録商標)(miRNeasyキット-Qiagen)中に溶解した。
【0112】
精製心筋細胞におけるバルクRNAシーケンシング
CM由来のトータルRNAを、製造者の指示に従い、miRNeasyキット(Qiagen)を用いて抽出し、Nanodrop(登録商標)(Thermo scientific)を用いて定量化した。バイオアナライザーAgilent 2100(Agilent Technologies)を用いたRNA品質管理後、Gladstone Genomic coreのovation RNA-seqユニバーサルキット(NuGEN;鎖特異的)を用いて、Sham(×3)、TAC-Veh(×3)およびTAC-JQ1(×3)の9試料について、ペアードエンドポリ(A)濃縮RNAライブラリを調製した。ハイスループットシーケンシングをNextSeq(登録商標)500装置(Illumina)でPE75ランを使用しておこなった。リード結果をSTAR(v2.7.3a)を用いてmm10参照マウスゲノムに対してマッピングし、Ensembl遺伝子に割り当てた。本発明者らは、ロー(raw)カウントを用いて遺伝子発現を定量化し、試料全体で平均FPKM値が>0.5 FPKMを示したタンパク質コード遺伝子を保持した。ここでFPKMは、マッピングされた100万のリードあたりの1キロベースの転写物あたりのフラグメント(the Fragments Per Kilobase of transcript per Million mapped reads)である。次に本発明者らは、DESeq2(v.1.24.0 R package、Love et al.(Genome Biol.15、550(2014)を参照のこと)のデフォルト設定を用いて、差次的遺伝子発現検定を実施した。統計的有意性を5%偽陽性率(FDR;Benjamini-Hochberg)に設定した。
【0113】
シングルセルトランスクリプトームライブラリの調製、シーケンシング、および処理
非CM細胞懸濁液(2×Sham、2×TAC-Veh、2×TAC-JQ1および2×TAC-JQ1休薬)由来のシングルセル液滴ライブラリ(
図2C)をChromium(登録商標)シングルセル3’Reagentキットv.2ユーザーガイド内の製造者の指示に従って、10X Genomics Chromium(登録商標)コントローラで作製した。ライブラリ調製に使用された追加の要素として、Chromium(登録商標)シングルセル3’ライブラリとゲルビーズキットv.2(PN-120237)およびChromium(登録商標)シングルセル3’Chipキットv.2(PN-120236)が含まれる。Chromium(登録商標)シングルセル3’ライブラリとゲルビーズキットv.2(PN-120237)およびChromium(登録商標)i7マルチプレックスキット(PN-120262)を用いて製造者の指示に従ってライブラリを調製した。品質管理のランのためにNextSeq(登録商標)500(Illumina)で、その後より深度のあるシーケンシングのためにNovaSeq(登録商標)(Illumina)で、最終的なライブラリをシーケンシングした。8試料をすべてプールし、単一のレーンでシーケンシングした。Chromium(登録商標)シングルセルv.2の仕様に従って、シーケンシングパラメーターを選択した。細胞あたりの整列されたリードの総数が少なくとも50,000の平均リード深度となるように、すべてのライブラリをシーケンシングした。ロー(raw)シーケンシングリードを10X GenomicsのCell Ranger v.2.2.0パイプラインを用いて処理した。簡潔に述べると、リードをデマルチプレックスし、マウスmm10ゲノムに対してアライメントし、観察された転写物の絶対数(UMIカウント)を細胞あたり遺伝子あたりで定量化することで、遺伝子-バーコードマトリックスを作成した。8試料由来のデータを集約し同じシーケンシング深度へ正規化した結果、すべての試料の統合された遺伝子-バーコードマトリックスを得た。
【0114】
トランスクリプトーム解析のための細胞フィルタリングおよび細胞タイプクラスタリング
我々の8試料から採取した35,551個の細胞からトランスクリプトームをシーケンシングした(
図2C)。これらの細胞のフィルタリングおよびクラスタリング解析をSeurat v.2.2Rパッケージを用いて実施した。細胞を細胞あたりおよび総発現量あたりの発現遺伝子について正規化し、その後10,000のスケールファクターで乗じ、対数変換をおこなった。低品質の細胞は我々の解析から除外した。これは、遺伝子が4,000超かつ1,000未満の細胞、およびミトコンドリア遺伝子の高い割合(0.2%超)を有する細胞を除外することにより達成した。フィルタリングステップに続いて、我々はデータを正規化し(NormalizeData関数、10,000のデフォルトスケール係数)、すべての遺伝子に対し線形回帰をおこなった(ScaleData関数)。その後、本発明者らは、線形次元削減(RunPCA関数)を実施した。有意な主成分を下流のグラフに基づく別個の集団への半教師なしクラスタリングに使用し(FindClusters関数)、均一多様体近似と投影(UMAP)(Becht et al.Nat.Biotechnol.37:38-44(2018))次元削減を、二次元中に細胞集団を投影するために使用した。クラスタリングについては、解像度パラメーターをSeuratのガイドラインに従って、細胞数に基づいて近似した;解像度パラメーターのベクターをFindClusters関数に通し、別個のマーカー遺伝子発現を有する識別可能なクラスターを確立する最適な解像度を選択した。本発明者らは、主要な成体心臓の非CM細胞集団を表す合計9つのクラスターを得た。各クラスターを駆動するマーカー遺伝子を同定するために、基となる負の二項分布(negbinom)を仮定した尤度比検定を用い、差次的遺伝子発現について、クラスターをペアワイズで比較した(FindAllMarkers関数)。その後、本発明者らは、線維芽細胞(クラスター0)、骨髄(クラスター1)および内皮(クラスター2および3)集団についての次の解析のために、特定のクラスターを単離した(WhichCells関数)。関数diffExp=FindMarkersを用いて3つの主要な細胞集団における試料間の差次的遺伝子解析をおこなった。異なる試料間の遺伝子発現データの可視化のため、いくつかのSeurat機能を使用した:FeaturePlot、VlnPlotおよびDotPlotである。正規化された発現スコアを計算するため、特定の遺伝子セットをSeuratオブジェクトへ渡しスコアを生成した。すべての線維芽細胞において遺伝子特徴スコアを解析するため、本発明者らは、各細胞における所与の遺伝子について平均スケール化およびZスコア正規化した遺伝子発現を集約した(Hu et al.Nat.Methods 17:833-843(2020))。その後、得られたスコアをバイオリンプロットにプロットした。
【0115】
シングルセルATACライブラリ調製、シーケンシング、および処理
核単離に成功した後、次いで核を10X GenomicsシングルセルATACキットv1.0(PN-1000110)に従って、まずTn5トランスポゼースとともに1時間インキュベートし、続いて製造者の指示に従って10X Genomics Chromium(登録商標)コントローラを用いてGEM生成およびバーコード増幅をおこなうことにより処理した。ライブラリ調製に使用された追加の構成要素として、Chromium(登録商標)Chip EシングルセルATACキット(PN-1000082)およびChromium(登録商標)i7マルチプレックスキットN、Set A primers(PN-1000084)が含まれる。品質管理のランのためにNextSeq(登録商標)500(Illumina)で、その後より深度のあるシーケンシングのためにNovaSeq(登録商標)(Illumina)で、最終的なライブラリをシーケンシングした。前述の8試料すべて(2×Sham、2×TAC-Veh、2×TAC-JQ1および2×TAC-JQ1休薬)(
図2C)をプールし、NovaSeq(登録商標)の単一のレーンでシーケンシングした。Chromium(登録商標)シングルセルATAC v1.0の仕様に従って、シーケンシングパラメーターを選択した。少なくとも2,500断片/核の中央値リード深度となるように、すべてのライブラリをシーケンシングした。ロー(Raw)シーケンシングリードを10X GenomicsのCell Ranger ATAC v1.0パイプラインを用いて処理した。簡潔に述べると、リードをデマルチプレックスし、マウスmm10ゲノムに対してアライメントした。試料品質の試験として、CellRangerによって測定して、最低でも70%の断片が標的領域と重複した。その後、集約された断片上でピークをコールし、次いでこれらのピーク内で自動的に決定された閾値(通常約200)より少ない断片を有するバーコードを破棄した。残りの断片の数を数えることでピーク・バイ・バーコードマトリックスを生成した。
【0116】
scRNA-seqに基づくシングルセルATAC試料内の細胞タイプの同定
本発明者らは、scRNAseqデータにおける各クラスターについてマーカー遺伝子のリストを同定した。次に、各scATACseq試料内の各細胞について、本発明者らは、各クラスターのマーカー遺伝子のプロモーター内に存在する細胞のアクセス可能なピークの割合を計算した。本発明者らは、CellRangerによって生成された2値化のピーク・バイ・セルマトリックスのJaccard類似性を用いて各試料の完全な細胞-細胞類似性マトリックスを計算した。
図2Jは、scRNA-seqデータからscATAC-seq試料までのクラスター1のマッピングの例を示す。例えば、
図2Jの右端のパネルにおいてより暗いドットで印付けられた細胞は、骨髄マーカー遺伝子のアクセス可能なプロモーターを有する。
図2Jにおける各細胞の陰影付けは、選択された単一の細胞に対してそれらがどの程度類似するかを反映する。その後、本発明者らは、Przytycki&Pollandに記載されている方法を使用することで各標識の全体的な影響スコアを計算した(BioRxiv(2019).doi:10.1101/847657)。各試料について本発明者らは、3つの選択されたマーカー遺伝子(それぞれ、Dcn、Lyz2、Fabp4)についてアクセス可能なプロモーターを有する細胞において、3つの関心のある細胞タイプ(線維芽細胞、骨髄、内皮)に対応する標識の中央値の影響を最大化するパラメーターsを選択した。本発明者らは、その細胞に最も大きな影響を有する標識に基づいて各細胞にタイプを割り当てた。
図2Jは、細胞が影響スコアを使用してtSNE空間に再投影されると、同じ標識を有する細胞が一緒にクラスター化することを示す(この投影は例示目的のためのみに使用される)。この方法を用いて、本発明者らは、8つの試料にわたって、5,215個を線維芽細胞、4,278個を内皮、および3,444個を骨髄細胞として同定した。
【0117】
シングルセルATACにおける細胞タイプ濃縮(enriched)ピークの決定
バイアスを避けるため、本発明者らは、各タイプの細胞のアクセシビリティをほかのタイプの細胞のアクセシビリティと比較することによって各試料について別々に細胞タイプ濃縮ピークを計算した。各細胞タイプについて、どのピークが細胞タイプで濃縮されているかを決定するために、我々は、そのタイプではない類似した数のアクセス可能なピークを有する同数の細胞のセットを繰り返し(各10回)サンプリングし、片側Wilcoxon検定を計算することで、各ピークが調べられた細胞タイプにおいてよりアクセス可能かどうかを決定した。次に本発明者らは、Fisherの方法を用いて収集したp値を組み合わせ、Benjamini-Hochbergの手順を用いて多重仮説補正の調整をおこなった。本発明者らは、FDR<0.1で有意であった場合、ピークを細胞タイプで濃縮されているとみなした。各細胞タイプについて、本発明者らは、少なくとも1つのほかの試料において再現しなかったいずれのピークも破棄した。これにより、22,467個の線維芽細胞濃縮ピーク、12,602個の内皮濃縮ピーク、および11,156個の骨髄濃縮ピークが同定された。なお、ピークは2以上の細胞タイプにおいて濃縮され得ることに留意されたい。
【0118】
シングルセルATACで正規化したアクセシビリティスコアの計算
各ピークについて、本発明者らは、各細胞について正規化したアクセシビリティスコアをその細胞内のアクセス可能なピークの総数に対する1として計算した。細胞タイプおよび条件における全体的なアクセシビリティの傾向を計算するために、本発明者らは、その条件においてアクセス可能である細胞内のすべての細胞タイプ濃縮ピークの割合を計算した。ゲノムワイドに正規化したアクセシビリティ(例えば、ブラウザトラック用)については、我々は代わりに断片の数によって正規化した。これをおこなうため、本発明者らはまず、ゲノムワイドなアクセシビリティを計算したい細胞のバーコードに対応するすべての断片を見出した。本発明者らは、bedtools2内のunionBedGraphs関数を用いてそれらの細胞のbedファイルをマージすることでbedgraphを作成した。本発明者らは、結合bedgraphの各領域に、その結合に使用した細胞数分の、その細胞の断片の総数分の、その領域内の各細胞内の断片数の合計として、アクセシビリティスコアを割り当てた。ピークとプロモーターの間のコアクセシビリティを計算するために、本発明者らはプロモーターおよびピークのどちらもアクセス可能な細胞の数を数え、プロモーターのアクセシビリティによって正規化した。
【0119】
シングルセルATACデータからのTF濃縮スコアの算出
各細胞タイプの条件の間の転写因子結合における変化の重要性を評価するため、本発明者らは、教師あり学習モデルを訓練することで転写因子結合位置と遺伝子発現変化を関連付けた。本発明者らは、HOMERに含まれる既知の脊椎動物のモチーフを有する転写因子(TF)を使用し、線維芽細胞、骨髄および内皮細胞におけるTACでの最も発現していたTFを有する上位10個を選択した。まず、各転写因子についてすべてのアクセス可能な結合部位を、その条件での遠位細胞タイプ濃縮ピークのセットを使用しHOMERでの“findMotifsGenome.pl”コマンドとともに“-find”オプションを用いて各条件において決定した。次いで、本発明者らは、各結合部位から各遺伝子の転写開始部位までの距離を計算することにより、各条件cに対するg-バイ-mマトリックスMcを生成した。ここで、gは遺伝子の数であり、mは転写因子の数である。各遺伝子iおよびモチーフjの各結合位置kについて、マトリックスにおける対応するエントリーを以下のように定義した:
【0120】
【0121】
次に、2つの条件c1およびc2の間のモチーフ結合強度の差を
【0122】
【0123】
として計算した。その後、2つの条件の間の遺伝子発現における対数倍率変化の長さgのベクトルYが与えられると、本発明者らは、Stoneら(Cell Stem Cell 25:87-102.e9(2019))に記載されている標的最尤推定(tMLE)アプローチを用いてほかの転写因子の影響を考慮しながら、その転写因子に関連する遺伝子からその転写因子に関連しない遺伝子を差し引いた発現変化の差として各転写因子の重要度を算出した。
【0124】
スーパーエンハンサーのアトラスの作成およびクロマチンアクセシビリティと駆出率の相関
スーパーエンハンサーを見出すため、本発明者らはまず、TAC Veh試料由来のシングルセルATACデータを用いて、遺伝子によって分離されなかった互いに12.5kb以内のすべての細胞タイプ濃縮ピークをつなぎ合わせた。その後、本発明者らは、各潜在的スーパーエンハンサーについて正規化したアクセシビリティを計算し、ROSEアルゴリズム(Whyte et al.Cell 153:307-319(2013))を使用することで領域がスーパーエンハンサーとコールされ得る閾値を決定した。本発明者らは、この方法を使用することで、罹患心臓(TAC Veh)における線維芽細胞、骨髄および内皮細胞についてのスーパーエンハンサーカタログを構築した。その次に、本発明者らは、各スーパーエンハンサーのアクセシビリティがどの程度左心室駆出率(EF)と相関しているかを計算した。各スーパーエンハンサーについて、我々は応答変数としての4つの条件にわたるEF観察のベクトル、および所与の細胞タイプにわたる、およびタイプとしてのほかの細胞にわたる、平均アクセシビリティを2項ベクトルとして用い、線形モデルを適合させた。ほかの細胞タイプにおけるアクセシビリティの変化を制御する場合、所与の細胞タイプに対するモデルの適合係数は、その細胞タイプにおけるアクセシビリティの変化によって説明されるEFの変化量である。本発明者らは、この値を、各細胞タイプの各スーパーエンハンサーについての相関係数と呼び、各係数の有意性は線形モデルにおけるその項のp値によって決定する。比較のために、スーパーエンハンサーをin vitro非刺激およびTGF-β細胞株(下記参照)由来のH3K27Acピークを用いた同じ方法を使用し生成した。
【0125】
心臓線維芽細胞不死化細胞株の作製、培養条件およびTGFβ刺激
Tcf21MCMマウス(Acharya et al.,Genesis 49,870-877(2011))をRosa26-Ai6マウス(Jackson Laboratory ストック#007906)と交配してTcf21MCM/+;Rosa26Ai6/+マウスを作製した。10週齢で、タモキシフェン(75mgタモキシフェン/kg)の腹腔内注射を5日間(1日1回)おこなった。タモキシフェンをJackson Laboratoryのガイドライン(ウェブサイトjax.org/research-and-faculty/resources/cre-repository/tamoxifen#を参照)に従って調製した。注射の5日後、マウスを犠牲にし、ランゲンドルフ潅流を介して非心筋細胞を単離した(詳細は方法の節「ランゲンドルフ潅流およびその後のシングルセルRNAおよびATACseqのための細胞と核の単離」を参照)。10万個のZsGreen陽性細胞をBD AriaIIソーターを用いて選別し、5%CO2で加湿したインキュベータ内で37℃で3日間培養し、線維芽細胞培地:10%胎仔ウシ血清(FBS)(Hyclone、GE Healthcare)、1×非必須アミノ酸(NEAA)、10U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび1mMピルビン酸ナトリウム(すべてLife Technologies製)を補充した高グルコースDMEM(Life Technologies)中で維持した。初代細胞は培養中に予め決められた有限数の細胞分裂しかおこなわず、その後複製老化の状態に入るため、本発明者らはシミアンウイルス40(SV40)T抗原の発現に基づく培養中の哺乳類細胞を不死化する広く用いられている方法を採用した。線維芽細胞の不死化のために、選抜の3日後、線維芽細胞をトリプシン処理し、午後に100mmプレートあたり5×105個を再播種した。翌朝、新鮮な培地をプレートに加え、2時間後に、製造者の指示に従って、ポリブレンの存在下(終濃度が5μg/mlとなるように添加)で100mmプレートあたり5μlのSV40T抗原発現VSV-G偽型レンチウイルス粒子(Alstem、#CILV01)を線維芽細胞に感染させた。翌日、ウイルス上清を含む培地を除去し、線維芽細胞を10%胎仔ウシ血清(FBS)(Hyclone、GE Healthcare)、1×非必須アミノ酸(NEAA)、10U/mlペニシリン/ストレプトマイシンおよび1mMピルビン酸ナトリウム(すべてLife Technologies製)を補充した高グルコースDMEM(Life Technologies)に戻した。72時間後、細胞をトリプシン処理し、2枚の100mmプレートに1:2に分割した。その後、培地中にピューロマイシン(終濃度1μg/ml)を添加することで安定な細胞株生成のための感染細胞をポジティブセレクションした。ピューロマイシン選択の10日後、複数のクローンを増殖のために採取した。日常的な細胞株メンテナンスとして、線維芽細胞を2~3日ごとに分割し、培地を1日おきに交換した。同じ培地をレンチウイルス生産のためのHEK-293T細胞培養に使用した(次の節を参照)。TGF-β刺激のため、1日目に6ウェルプレートに1×105個/ウェルで線維芽細胞を播種した。2日目に、培地を0.5%FBSを有する同じ基礎培地に変えた。3日目に、TGF-β1(Peprotech #100-21C)を10ng/mlの濃度で培地に添加した。細胞を5日目に下流の分析のために回収した。
【0126】
RNA抽出、RT-PCR、およびリアルタイムPCR解析
定量的RT-PCR。TRIzol(商標)LS試薬(Invitrogen)中に細胞を採取し、製造者の指示に従って、Direct-Zol RNAキット(Zymo Research)を使ってトータルRNAを抽出した。qRT-PCR(Invitrogen)のためのSuperScript(登録商標)III First-strand Synthesis SuperMixを用いて500ngのRNAをcDNAに変換した。Taqman(登録商標)リアルタイムPCRのために、1/50のcDNAをTaqman(登録商標)ユニバーサルPCRマスターミックス(Life technologies)を用いた定量的PCR反応に適用した。PCRを7900HT高速リアルタイムシステム(Applied Biosystem)でおこなった。Taqman(登録商標)プローブは「Taqmanプローブ表」にリストされている。eRNA発現解析のため、1/30のcDNAをSsoAdvanced Universal SYBR green supermix(Bio-Rad)を用いた定量的PCR反応に適用した。プライマー配列は「エンハンサーRNA(eRNA)のためのSyberプライマーの表」にリストされている。すべての遺伝子発現をActb遺伝子で正規化した。
【0127】
精密核ランオンシーケンシング(PROseq)
Kwakらによって報告されたものに(Science 339:950-953(2013))いくつかの変更を加えながらPRO-seq実験を実施した。簡潔に述べると、300万個の心臓線維芽細胞を本方法において以前に記載したように培養した。TGFβ処理の48時間後、細胞を冷PBSで3回洗浄し、その後膨潤緩衝液(10mM Tris-HCl pH7.5、2mM MgCl2、3mM CaCl2)中で10分間氷上で順次膨潤させ、回収し、溶解緩衝液(膨潤緩衝液に0.5%NP-40、20ユニットのSUPERase-In、および10%グリセロールを加えた)中で溶解した。得られた核を5mlの溶解緩衝液でさらに2回洗浄し、200μlの凍結緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.3、40%グリセロール、5mM MgCl2、0.1mM EDTA)に再懸濁し、2つの等しいアリコート(アリコートA:キャップ除去なし;アリコートB:キャップ除去)に分割した。ランオンアッセイのため、再懸濁した核を等量の反応緩衝液(10mM Tris-HCl pH8.0、5mM MgCl2、1mM DTT、300mM KCl、20ユニットのSUPERase-In、1%サルコシル、100M A/GTP、100μM ビオチン-11-C/UTP(Perkin-Elmer))と混合し、5分間30℃でインキュベートした。その後、製造者の指示に従って、得られた核-ランオンRNA(NRO-RNA)をTRIzol(商標)LS試薬(Life Technologies、Cat#10296-028)を用いて抽出した。NRO-RNAを氷上で30分間のアルカリ塩基の加水分解によって200~500ntに断片化し、1×体積の1M Tris-HCl pH6.8を加えることにより中和し、過剰な塩および残留NTPをP-30カラム(Bio-Rad、Cat#732-6250)を用いて除去した。製造者の指示に従って、断片化した新生RNAを、10μlのMyOneストレプトアビジンC1ダイナビーズ(Invitrogen,Cat#65001)を用いて2度沈殿させることでビオチン標識RNAを濃縮した。ビーズを高塩(2M NaCl、50mM Tris-HCl pH7.5、0.5%Triton(登録商標)X-100、0.5mM EDTA)で2回、中塩(1M NaCl、5mM Tris-HCl pH7.5、0.1%Triton(登録商標)X-100、0.5mM EDTA)で1回、そして低塩(5mM Tris-HCl pH7.5、0.1%Triton(登録商標)X-100)で1回洗浄した。結合したRNAを2回の連続した抽出においてTrizol(Invitrogen、Cat#15596-018)を用いてビーズから抽出し、RNA画分をプールし、続いてエタノール沈殿した。
【0128】
このステップにおいて、アリコートBのみをキャップ除去混合物(1×Thermopol緩衝液NEB(B9004S)、20ユニットのSUPERase-In)中でRNA 5’ピロホスホヒドロラーゼとともに37℃で1時間インキュベートすることで、新生RNAから5’キャップを除去した。キャップ除去反応を試料を5分間65℃で加熱することにより停止し、RNAをTrizol(Invitrogen、Cat#15596-018)を用いて抽出し、続いてエタノール沈殿した。その後、T4反応混合物(T4ポリヌクレオチドキナーゼ(NEB #M0201L)、1×PNK緩衝液(NEB #B201S)、10mM ATP(NEB #B0706A))中で37℃で1時間インキュベートすることによって、両方のアリコートで5’リン酸化をおこなった。RNAをTrizol(Invitrogen、Cat#15596-018)を用いて抽出し、続いてエタノール沈殿した。製造者の指示に従って、ライブラリをNEBNext(登録商標)マルチプレックスSmall RNAライブラリPrepセット(NEB、Cat#E7300S)を用いて作製した。cDNA産物を10%ポリアクリルアミドTBE-尿素ゲルで分離し、200~500bpの間を移動している断片のみを切り出し、ゲル抽出により回収した。最後に、ライブラリをQubit(登録商標)を用いて定量し、HiSeq(登録商標)4000プラットフォーム(Illumina)上の配列SR75bpへ送った。
【0129】
PROseq解析
ディープシーケンシングから得られたFastQファイルについて、Trimmomatic(Bolger et al.Bioinformatics 30:2114-2120(2014))を用いて低品質リードを除去した。アリコートA(キャップ除去なし)およびアリコートB(キャップ除去)からのトリミングされたFastQファイルをBowtie2(ウェブサイトbowtie-bio.sourceforge.net/bowtie2/を参照)を用いて参照ゲノム(mm10)に対して一緒にアライメントした。結果として得られたアライメントファイルを使用することでhomer(ウェブサイトhomer.ucsd.edu/homer/を参照)を用いた下流の解析のためのTag Directoryを作成した。コード遺伝子および遠位エレメントの差次的発現はhomerコマンドanalyzeRepeats.plおよびgetDiffExpression.pl(homer.ucsd.edu/homer/ngs/diffExpression.htmlを参照)を用いて実施した。最小転写の閾値を用いることで、差次的転写遺伝子(遠位エレメントについてすべての試料でx>20の平均行数、タンパク質コード遺伝子についてすべての試料でx>40の平均行数)を選択した。ヒストグラムプロットをコマンドannotatePeaks(homer.ucsd.edu/homer/ngs/annotation.htmlを参照)のヒストグラムモードを用いて生成した。本発明者らは、makeMetaGeneProfile.plと呼ばれるツールを使用しメタジーンヒストグラムを生成した(homer.ucsd.edu/homer/ngs/quantification.htmlを参照)。最後に、homerコマンドfindPeaksおよびgetDistalPeaks.plを用いて(homer.ucsd.edu/homer/ngs/groseq/groseq.htmlを参照)、PROseqタグの密度に基づいてエンハンサーをコールした。
【0130】
配列特異的抑制のためのCRISPR干渉(CRISPRi)
エンハンサー活性を抑制するために、CRISPRiを使用した。レンチウイルスプラスミドpHR-SFFV-KRAB-dCas9-mcherry(Jonathan Weissmen博士より贈与、Addgene:60954)を使用した。gRNAレンチウイルスベクターを構築するため、ピューロマイシン遺伝子をハイグロマイシン遺伝子に置き換えることによりpU6-sgRNAEF1Alpha-puroT2A-BFP(Jonathan Weissmen博士より贈与、Addgene:60955)を改変し、pU6-sgRNAEF1Alpha-HygT2A-BFPを作製した。5’および3’のオーバーハングを有する合成gRNAオリゴのペア(「エンハンサーを標的とするCRISPRiガイドRNAの表」)をアニールし、T4リガーゼによるライゲーションによってBstXIおよびBlpIで二重消化したpU6-sgRNAEF1Alpha-HygT2A-BFPへサブクローニングした。コンストラクトを配列決定により確認した(Quintara Bio、カリフォルニア州バークレー)。エンハンサーピークを抑制するためのgRNAをプログラムChopchop(chopchop.cbu.uib.noを参照)によって選択した。レンチウイルス粒子を作製するために、2×106個のHEK-293T細胞をトランスフェクションの1日前に100mmプレートに播種し、10mlの線維芽細胞培地中で培養した。トランスフェクションの当日、古い培地に8mlの新鮮な培地を補充し、次いで5μgの所望のレンチウイルスベクターを2.5μgのエンベロープタンパク質ベクターpMD2.G(Addgene:12258)、および2.5μgのパッケージングベクターpsPAX2(Addgene:12260)とともに、製造者の指示に従って、59μlのFUGENE(登録商標)HDトランスフェクション試薬(Promega、カリフォルニア州サンルイスオビスポ)を使用しHEK 293T細胞へコトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後、上清を回収し12mlの新鮮な培地をプレートに添加し、さらに24時間培養し2度目の上清の回収をおこなった。すべての上清を45μmのPVDFシリンジフィルター(Thermo Fisher Scientific)を通して濾過することで細胞デブリ混入物を除去した。その後、得られた上清を心臓の線維芽細胞における形質導入の実施に使用した。まず、本発明者らは、線維芽細胞CRISPRi対照株を作製した。我々は、KRAB-dCas9-mcherryを発現するレンチウイルスベクターを用いて線維芽細胞を形質導入した。その後、本発明者らは線維芽細胞を回収し、フローサイトメトリー(BD Arial II)によって単一細胞を96ウェルプレートに選抜し、CRISPRi機構を発現するクローン線維芽細胞株を作製した。dCas9の発現をウェスタンブロットによって確認し(データ非開示)、最も高いdCas9の発現を有する線維芽細胞株(クローンC1と呼ばれる)を続く実験に使用した。本研究におけるエンハンサー領域の標的抑制を伴う線維芽細胞株の作製のために、前述のC1クローンを、所望の領域を標的とする3つのgRNAウイルスベクター(エンハンサーピークの中央を標的とする1つのgRNA、そのピークの両端を標的とするその他のgRNA)を用いて形質導入した。標的gRNAの純粋なポリクローナル集団を7日間の200μg/mlでのハイグロマイシン選択によって選抜した。次いで、これらgRNA-C1細胞株をC1対照株とともに、TGF-β刺激のために使用した(本明細書のほかの節を参照)。
【0131】
心臓線維芽細胞におけるMeox1エンハンサーピーク9/10欠失の作製
不死化した心臓線維芽細胞において欠失を作製するため、本発明者らはCRISPR/Cas9リボ核タンパク質複合体(RNP)介在ゲノム編集を使用した。所望の欠失領域(Mm Chr17:chr17:43,591,446-43,592,491)に隣接する2つのcrRNAオリゴ(upper-crRNA:AGGCTTCACTTACCCTAGAC(配列番号18);Down-crRNA:CAATAATGGGCTCTGTAAGG(配列番号19))をTracRNAオリゴとともに合成し、Integrated DNA Technologies(IDT)より入手した。トランスフェクションの前に、240pmolの各crRNAオリゴを同量のTracRNAとアニーリングさせてガイドRNA複合体を形成した。これは、混合物を95℃で5分間加熱し室温で30分間冷却することによって行った。その後、ガイドRNA混合物を40pmolのspCas9タンパク質(Macro Lab、UCB)と混合し、P2初代細胞4Dヌクレオフェクターxキット(Lonza)の20μlのトランスフェクション溶液を用いて室温で15分間インキュベートした。
【0132】
最終的なCas9:gRNA RNP複合体を、Lonza4Dヌクレオフェクター(Lonza)内のProg EN-150を用いて1×105個の心臓線維芽細胞へヌクレオフェクションした。トランスフェクションの後、細胞を96ウェルプレートの1ウェルへ播種し2日間培養した。3日目、細胞をトリプシンによって分離し、1mlの線維芽細胞培養培地に再懸濁した。細胞の数を数え、ウェルあたり1細胞を得るために300細胞を3枚の96ウェルプレートに播種した。播種後に、単一の細胞を有するウェルのみに印を付けた。2週間後、クローンがコンフルエントになったら、4分の1の細胞を続く培養へ回し、残りの4分の3をゲノムDNAを抽出するために回収した。欠失領域の上流および下流から選択したプライマーのペア(表:Meox1エンハンサーピーク9/10欠失の検出のためのプライマー)を用いてPrimSTAR(登録商標)ポリメラーゼ(TAKARA Bio)を使用したPCR解析により、欠失の検出を実施した。PCR産物をサンガーシーケンシングによりシーケンシングすることで欠失の有無を確認した。さらにクローンをデジタルPCRを用いて解析することで両アレル性のピーク9/10欠失クローンを同定した。デジタルPCR(ddPCR)アッセイ混合物は、50~100ngのゲノムDNA、1×ddPCRスーパーミックス(BioRad Laboratories)、終濃度900nMおよび220nMのWTプライマーおよびDelプライマーをFAMまたはHEX標識したプローブとともに含み、22μlの最終体積で調製した。20μlのアッセイ混合物および70μlのddPCR液滴オイル(BioRAd Laboratories)をQX100/200 DGカートリッジ(BioRad Laboratories)上へ移し、その後、QX100液滴ジェネレーター(BioRad Laboratories)へ添加した。個々の試料およびオイルをフロー収束結合部を通して引き抜きオイル液滴中に水を生成するジェネレーターである。その後、40μlのオイルおよび試料の液滴エマルジョンを96ウェルプレートへ移し、95℃10分、94℃1分および60℃1分(40サイクルの繰り返し)、その後98℃10分で、T100 Thermo Cycler(BioRAd Laboratories)でのPCR反応をおこなった。PCRの完了後、次いでプレートをQX200液滴リーダー(BioRad Laboratories)へ移し、QXソフトウェア(BioRad Laboratories)を用いて分析した。欠失を有するクローンおよび有しないクローンをTGF-β1刺激の研究のために使用した。
【0133】
MEOX1-HA心臓線維芽細胞株の作製
ベクターHA-tag-MEOX1マウス(Twist Biosciences)由来のHAtag-mMeox1断片をPCR増幅することによってpHR-HAtag-mMeox1ベクターを構築した。pHR-HAtag-mMEOX1コンストラクトを作製するため、pHR-SFFV-KRAB-dCas9-mCherryベクター由来のKRABおよびdCas9のカセットを、SBI System BioSciences(カリフォルニア州パロアルト)が提供しているCold-fusionクローニングキットを用いて製造者によって提供された指示に従い、HA-tag-MEOX1カセットに置き換えた。コンストラクトをシーケンシングにより確認した。レンチウイルス粒子を作製するため、「配列特異的抑制のためのCRISPR干渉(CRISPRi)」の節に記載されるものと同じ手順を使用した。その後、得られた上清を使用し、HA-tag-MEOX1およびmCherryを発現するレンチウイルスベクターを用いて、不死化した心臓線維芽細胞の形質転換を実施した。安定なmCherryの発現に対してフローサイトメトリー(BD Arial II)を用いて、HA-tag-MEOX1線維芽細胞の純粋なポリクローナル集団を選別した。このHA-tag-MEOX1線維芽細胞株を、その後のクロマチン免疫沈降に続くシーケンシング(ChIPseq)に使用した。
【0134】
ChIPアッセイ、シーケンシングのためのライブラリ調製および解析
ChIP実験のため、非刺激およびTGFβ処理の条件の、10×106個の心臓の不死化した線維芽細胞(MEOX1 ChIPseqのためのHA-tag-MEOX1線維芽細胞)をペレットにし、10mlのDMEMに懸濁し、1%ホルマリン溶液(Thermo Fisher Scientific)中で室温で10分間揺動させることにより架橋した。その後、グリシン(終濃度0.125M)を添加することで5分間架橋を抑えた。試料を4℃で5分間1000rcfで遠心分離した。プロテアーゼ阻害剤およびフォスファターゼ阻害剤(Roche #4693132001)を添加した10mlの冷1×PBSで細胞を洗浄し、そのペレットを液体窒素中で瞬間凍結した。すべての試料を使用するまで-80℃で保存した。準備ができた際に、細胞ペレットを、細胞溶解緩衝液(20mM Tris-HCl、pH8、85mM KCl、0.5%NP-40、プロテアーゼ阻害剤)中で10分間ローテーター上で4゜℃でインキュベートした。核を、遠心分離(2,500×g、5分、4℃)によって単離し、核溶解緩衝液(50mM Tris-HCl、pH8、10mM EDTA、pH8、1%SDS、プロテアーゼ阻害剤)中で再懸濁し、30分間ローテーター上で4℃でインキュベートした。Covaris(登録商標)S2ソニケーター(Covaris Inc)を用いて20分間(60sサイクル、20%dutyサイクル、200サイクル/burst、強度=5)、DNAが200~700塩基対の範囲になるまで、クロマチンを剪断した。クロマチンを、ChIP希釈緩衝液(0.01%SDS、1.1%Triton(登録商標)X-100、1.2mM EDTA、16.7mM Tris-HCl、pH8、167mM NaCl、プロテアーゼ阻害剤)中で3倍に希釈し、3μlの抗HA抗体(Abcam #9110)もしくは2μlの抗H3K27ac(Abcam #4729)もしくは2μlの抗H3K9m3(Abcam #8898)とともに4℃で一晩回転させながらインキュベートした。抗体-タンパク質複合体を、Pierceタンパク質A/G磁気ビーズを用いて4℃で2時間回転させながら免疫沈降した。ビーズを5回(回転しながら2分/洗浄)、冷RIPA緩衝液(50mM HEPES-KOH、pH7.5、500mM LiCl、1mM EDTA、1%NP-40、0.7%デオキシコール酸ナトリウム)で洗浄し、次いで冷たい最終洗浄緩衝液(1×TE、50mM NaCl)で1回洗浄した。免疫沈降したクロマチンを、溶出緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0、10mM EDTA、1%SDS)中で65℃で攪拌しながら30分間、溶出した。高塩緩衝液(250mM Tris-HCl、pH7.5、32.5mM EDTA、pH8、1.25M NaCl)およびプロテアーゼK(New England Biolabs Inc(NEB))を添加し、65℃で一晩で架橋を元に戻した。試料をRNaseAで処理し、DNAをAMPure XPビーズ(Beckman Coulter cat#A63881)で精製した。続くChIPseqのため、断片化したChIPおよびインプットDNAを、IlluminaのためのNEBNext(登録商標)Ultra II DNAライブラリPrepキット(NEB、E7645)を用いて、末端修復し、5’-リン酸化し、dA-テール化をした。試料をマルチプレックスシーケンシングのためアダプターオリゴに連結させ(NEB、E7335)、PCR増幅し、Gladstone InstitutesでIllumina NextSeq(登録商標)500上でシーケンシングした。ChIP qPCRのために、PostnおよびMeox1座位における定義された領域にまたがるプライマー(プライマー配列のための表を参照)を用いて、ChIP化したDNAおよびインプットDNAを増幅し、RT-qPCRを実行した。
【0135】
ChIP解析のため、既知のアダプターおよびリードの低品質領域のトリミングを、Fastq-mcfを用いて実施した。配列品質管理をFastQCを用いて評価した(www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/を参照)。mm10参照ゲノムへのアライメントをBowtie2.2.4(Langmead et al.,Nat.Methods 9,357-359(2012))を用いて実施した。deeptools 3.5.0のmultiBamSummaryを用いて、反復実験の相関を検定した(Ramirez et al.Nucleic Acids Res.44,W160-5(2016))。GEMを用いてピークをコールした(Guo et al.PLoS Comput.Biol.8、e1002638(2012))。ピークごとのリードカウントをfeatureCountsを用いて作成し(Liao et al.Bioinformatics 30,923-930(2014))、ChIPおよびインプットの試料について別々に上位四分位点正規化を用いて、試料間のシーケンシング深度の差を考慮して正規化した。MEOX1抗HAおよびH3K27ac ChIPseqについて、MEOX1またはH3K27acで濃縮される領域を、edgeRに実装されているように、カウントデータの疑似尤度負の二項一般化log線形モデルについて、経験的ベイズのF検定を用いて決定した。具体的には、本発明者らは、対応するインプット試料に対するChIPの正規化されたピークシグナルでの有意な(つまり、FDR<5%で0でない)log2倍増について検定した。BEDToolsを用いて領域の共通部分を見出した(Quinlan & Hall,Bioinformatics 26,841-842(2010))。最初にMEOX1カバレッジ分布を、deeptools 3.5.0(これはまたプロットトラックに使用されるbigwigファイルも出力する)のbamCompareを用いて条件(非刺激およびTGFβ)あたり全部で3回の反復実験にわたるリード正規化平均をまず計算し、次にscale-regionsオプションを用いてdeeptools 3.5.0のcomputeMatrixを使用しスコア化した。H3K27Ac領域のカバレッジについては、H3K27Acデータの各ピークを中央にして上流および下流に1kb伸長した範囲でまずbedファイルを作成したことを除いて、同様に計算した;computeMatrixをscale-regionsオプションなしでこれらのbedファイル上で実行した。いくつのタンパク質コード遺伝子座位がMEOX1ピークと重複しているかを計算するため、本発明者らは、TGFβ処理でのMEOX1 ChIPでの3回の反復実験の結果の少なくとも2つに存在するピークを保持した。
【0136】
環状化染色体コンフォメーションキャプチャ(4C)
4C-seq実験を、Stadhoudersら(Nat.Protocol.8:509-524(2013))によって報告されているように、いくつかの変更を加えて大規模に実施した。簡潔に述べると、1,000万個の心臓線維芽細胞を本方法に上記したように培養した。TGF-β処理の48時間後に、細胞を冷PBSで3回洗浄し、その後1%ホルムアルデヒドで10分間順次架橋した。終濃度が0.125Mとなるようにグリシンを添加し、反応を抑えた。細胞を冷PBSでもう一回洗浄し、5mlの氷冷溶解緩衝液(10mM Tris-HCl、pH8.0、10mM NaCl、0.2%NP-40+プロテアーゼ阻害剤)内で氷上で10分間インキュベートすることにより核を抽出した。核を制限酵素緩衝液(NEB Cat#B7006S)中で再懸濁し、0.3%SDSとともに37℃で1時間インキュベートし、さらに2%Triton(登録商標)X-100で1時間インキュベートした。400UのDpnII制限酵素(NEB Cat#R0543S)を加え一晩インキュベートした。制限酵素を65℃で20分間熱失活させた。物理的に近接したDNA領域のライゲーションを1000UのT4 DNAリガーゼ(NEB M0202M)を用いて一晩実施した。翌日、300μgのプロテアーゼKを添加し、脱架橋を65℃で一晩実施した。脱架橋の後、DNAをフェノール/クロロホルム沈殿を用いて精製し、400UのNlaIII制限酵素(NEB Cat#R0125S)を添加しその後65℃で4時間のインキュベートすることにより2回目の消化を実施した。2回目の消化後、DNAのライゲーションを上記したようにT4 DNAリガーゼを用いて再び実施した。部分的Illumina配列アダプターを含むプライマー(第1プライマー:gttcagagttctacagtccgacgatc(配列番号20);第2プライマー:agacgtgtgctcttccgatct(配列番号21)をPCRで使用することにより、4C-seqライブラリを増幅した。第1プライマーを各ビューポイント上に設計し、第2プライマーをビューポイントに最も近いNlaIII切断部位の傍に設計した。使用したプライマー配列を「4Cプライマー表」に記載した。
【0137】
全長Illumina配列アダプターおよびバーコードは、2回目のPCRで追加した。最後に、ライブラリをキュービット(登録商標)で定量化し、ライブラリの品質は、バイオアナライザーAgilent2100(Agilent Technologies)で確認した。ハイスループットシーケンシングは、NextSeq(登録商標)500装置(Illumina)上のSE75ランを使用しておこなった。シーケンシングの結果を、Krijgerら(Methods 170,17-32(2020))によって記載されているように解析した。Krijger(2020)によって記載されているように、de関数「doPeakC」をパイプラインによって生成されたrdsファイル上で直接用いて、バックグラウンド上のピークコールを実施した。
【0138】
心臓線維芽細胞へのsiRNAトランスフェクション
1×105個の不死化した線維芽細胞もしくは初代成体心臓線維芽細胞を6ウェルプレートにトランスフェクションの前日に播種した。トランスフェクションの当日、続くTGFβ処理用のウェルを0.5%FBSを含む線維芽細胞培地に切り替え、非刺激のウェルを10%FBSを含む通常の線維芽細胞培地に切り替えた。製造者の指示に従い、各ウェルに7μlのLipofectamine(リポフェクタマイン)(登録商標)RNAiMAXトランスフェクション試薬(Thermo Fisher)を用いて、細胞に15nMのマウスMeox1、siBrd2、siBrd3、siBrd4、siSmad2もしくはsiSmad3のsiRNAもしくは15nMのsiRNA対照(すべてのsiRNAはSigmaから入手、参照番号を下記の表に示す)でトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、0.5%FBS培地を有するウェルをTGF-β1で処理した(詳細な手順はほかの節に記載されている)。
【0139】
平滑筋アクチンタンパク質免疫染色
非刺激およびTGBβ処理した線維芽細胞(siRNA対照またはMeox1をともなう)を上記したように刺激した(詳細は「心臓線維芽細胞不死化細胞株の作製、培養条件およびTGFβ刺激」の節を参照されたい)。アルファ平滑筋アクチン染色のため、細胞を4%PFAで15分間固定し、洗浄し、0.2%Triton(登録商標)X-100(Sigma)中で5分間透過させた。MOM遮断溶液(VECTOR Laboratories)でブロッキングした後、次いで細胞をアルファ平滑筋アクチンに対する一次抗体(aSMA;DAKO、M0851;1:100)とともに30分間インキュベートし、続いて、MOM希釈用液(VECTOR Laboratories)で希釈したロバ抗マウスIgG555抗体(Invitrogen;1:400)およびHoechst(Thermo Scientific,62246;1:10000)染料とともにインキュベートした。試料間で同じ取得設定を用いて画像化をZeiss Axio Observer Z1上で実施し、FIJIを用いてaSMA発現の倍率変化を定量化した。aSMAの平均蛍光強度をMeasureツール(Set Measurementsは「mean grey value」)を用いて定量化し、総細胞数に対して正規化した。閾値、分水界および分析粒子ツールを用いてフィールドあたりのすべての核を分析することにより、総細胞数を定量化した。ウェルあたり、関心のある合計10領域を分析した。Prism8を用い、統計的有意性の決定をp<0.05として、データの統計解析を実施した。テューキーの多重比較検定を適用した。正規性はダゴスティーノ-ピアソンオムニバス正規性検定では証明されなかったため、Independent Samples Mann-Whitney U検定を利用した。盲検法(英数字コードによる試料の標識)を線維芽細胞aSMA発現を解析するために実装した。
【0140】
初代成体心臓線維芽細胞の単離および培養
初代成体マウス心室線維芽細胞(AMVF)を、以前に記載されたプロトコル(Travers et al.J.Am.Coll.Cardiol.70、958-971(2017))に多少の変更を加えて調製した。簡潔に述べると、マウスをイソフルランで麻酔し、腹腔内注射を介して100μLのヘパリン(100U/mL)を投与した。心臓を摘出し、大動脈根のカニューレ挿入によりただちにランゲンドルフ装置に吊るし、潅流を、最初の4分間の潅流緩衝液(113mM NaCl、4.7mM KCl、0.6mM KH2PO4、0.6mM Na2HPO4、1.2mM MgSO4、10mM HEPES、12mM NaHCO3、10mM KHCO3、30mM タウリン、10mM 2,3-ブタンジオンモノキシム、5.5mM D-(+)-グルコース、pH7.4)をともなって開始し37℃で4mL/分の一定速度で潅流をおこなった。その後、カルシウムを含まない消化緩衝液(潅流緩衝液中に400ユニット/mLのコラゲナーゼII;Worthington LS004177)での3分間の潅流と続く50μM CaCl2を含む消化緩衝液での12分間の潅流によって、酵素消化を達成した。心臓を潅流装置から除去し、心房を除去し、停止緩衝液(潅流緩衝液中に10%FBSおよび12.5μMのCaCl2)中に心室を置いた。組織が十分に消化されるまで、トランスファーピペットを用いて心室を穏やかに機械的に破砕した。細胞懸濁液を250μmのメッシュに通して濾過し、CMを10分間重力によって沈降させた;最初の非CM画分を含む上清を回収した。CMを追加の10mLの停止緩衝液中で再懸濁し、次いで10分間沈降させた。上清を回収し、両方の非CM画分を500×gで5分間遠心分離した。CMを破棄した。非CMを再懸濁し、混合し、10%BenchMark(商標)FBS(Gemini Bio-Products 100-106)、1%ペニシリンストレプトマイシン L-グルタミン(Corning 30-009-Cl)および1μmol/Lアスコルビン酸を補充したDMEM/F12培地(Corning 10-092-CV)から成る増殖培地に播いた。80%コンフルエントに達した時点で、自発的な活性化を抑制する試みとして、AMVFをP1に1回継代し、下流のアッセイのために適切に播種した。
【0141】
コラーゲンゲル収縮アッセイ
圧縮性コラーゲンを、37Cで1.5時間インキュベートすることにより、PureCol EZゲル溶液(Advanced BioMatrix 5074)を用いて24-ウェルプレートに調製した。一晩の血清欠乏(0.1% FBS)による平衡化の24時間前に、コラーゲンゲル上に血清添加増殖培地に懸濁した継代1AMVFを播種し(150,000細胞/ゲル)、24時間後、一晩の血清欠乏(0.1%FBS)により平衡化した。血清飢餓の間、製造者の指示に従って、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAXトランスフェクション試薬(ThermoFisher Scientific 13778030)を用いてマウスMeox1に対するsiRNA(もしくはネガティブ対照siRNA)を細胞にトランスフェクションした。収縮の開始時、ゲルをウェルの壁から離し、トランスフェクション試薬を除去し、細胞を10ng/mLのTGF-β1(Fisher Scientific 50725143)で72時間処理した。ウェルの画像を24時間ごとにキャプチャした;各ウェルのゲル領域をImageJソフトウェアを用いて決定し、データを収縮率として記録する。
【0142】
EdU(5-エチル-2’-デオキシウリジン)取り込みアッセイ
継代1のAMVFを、20,000細胞/ウェルの密度で、ガラスのカバースリップを含む12ウェルプレートに24時間播種し、続いて血清飢餓培地(0.1%FBS)中で一晩平衡化した。また、血清飢餓の間、製造者の指示に従って、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAXトランスフェクション試薬(ThermoFisher Scientific 13778030)を用いてマウスMeox1に対するsiRNA(もしくはネガティブ対照siRNA)を細胞にトランスフェクションした。培地を交換し、細胞を10ng/mLのTGF-β1(Fisher Scientific 50725143)で48時間刺激した;AMVFを10μMの5-エチル-2’-デオキシウリジン(EdU)とともに同時にインキュベートすることで刺激の48時間にわたって増殖性細胞を標識した。AMVFを3.7%ホルムアルデヒドで固定し、製造者のプロトコルに従い、イメージングのためのClick-iT(商標)EdUイメージングキット(ThermoFisher Scientific C10337)を用いてEdU-陽性細胞を検出した。ProLong(商標)Diamond Antifade Mountant(Invitrogen P36961)を用いて、カバースリップをマウントし、一晩硬化させてからキーエンスBZ-X710蛍光顕微鏡上で画像化した。フィールドあたり検出された核の数に対するEdU陽性細胞の割合を定量化することにより、EdU取り込みの割合を決定した。
【0143】
肺、肝臓、および腎臓由来のヒト線維芽細胞
肺(ATCC、#CRL-4058)、肝臓(CELL APPLICATIONS INC、#712-05f)および腎臓(Cell Biologics、#H-6016)由来のヒト線維芽細胞を継代しマウス心臓線維芽細胞のように増殖させた(詳細は「心臓線維芽細胞不死化細胞株の作製、培養条件およびTGFβ刺激」の節を参照されたい)。簡潔に述べると、1日目に6ウェルプレートに1×105個/ウェルでヒト線維芽細胞を播種した。2日目に、培地を0.5%FBSを含む同じ基礎培地に交換した。3日目に、TGF-β1(Peprotech #100-21C)を10ng/mlの濃度で培地へ添加した。JQ1を0.5μMの終濃度で添加した。5日目に、RT-qPCRおよび遺伝子発現解析のために細胞を回収した。
【0144】
遺伝子オントロジー(GO)解析
遠位エレメントのGO解析を、GREATを用いて実施した(great.stanford.edu/public/html/を参照)。タンパク質コード遺伝子のGO解析をEnrichr(Chen et al.BMC Bioinformatics 14、128(2013))を用いて実施した。
【0145】
統計と再現性
GraphPad Prism8を用いて標準的な統計解析を実施した。複数の条件を比較する場合、一元配置分散分析に続くテューキーの範囲検定を実施することで、条件のペア間での有意性を評価した。2つの条件のみを検定する場合、我々はスチューデントのt検定を実施した。クロマチンアクセシビリティを示す図に関連するすべてのp値は両側ウィルコクソン検定を用いて取得した。心機能に関するすべての定量化については、RT-qPCRによる遺伝子発現、コラーゲン収縮およびEdU取り込み平均値±SEMを図中に報告した。RT-qPCR解析もしくはRNAseq FPKMによる遺伝子発現データについては、反復実験の数をグラフ中のデータポイントとして示す。すべてのグラフにおける有意性のレベルを以下のように表す:*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
実施例2:BET阻害を伴う心不全の動的可逆性の追跡および筋線維芽細胞状態
本実施例では、心不全のマウスモデルにおける低分子BETブロモドメイン阻害の治療効果の調査、およびそのような心不全がCPI-456の投与の開始、休薬、および再開により可逆的であるかどうかについて記述する。
【0154】
最初の研究では、恒久的な前壁心筋梗塞(MI)により誘導された心不全のマウスモデルにおいて、化合物CPI-456を評価した。CPI-456は、ナノモル以下の効力と薬物に類似した薬物動態特性を有する経口投与可能な生物学的に利用できるBETブロモドメイン阻害剤であり、当初は癌治療のための臨床候補として開発された。
【0155】
MIの5日後に開始した1カ月のCPI-456の治療では、左心室(LV)の収縮機能が有意に改善された(
図2A)。その後の3週間、CPI-456を中断したところ、LVの収縮機能が低下した(
図2A)。その後の2週間の再投与では、最初の治療段階と同程度にLVの収縮機能が改善され、再び、その後の本試験の最終週でのCPI-456の中止によりLV機能の低下は未治療対照のものへと戻った。
【0156】
同様の可逆性は、横大動脈狭窄(TAC)を介して達成されたLV圧負荷誘導心不全のよく確立されたマウスモデルにおいて、低分子BET阻害剤JQ1を用いたときに観察された(
図2B)。JQ1の構造を以下に示す。
【0157】
【0158】
総合して、異なるマウスの心不全モデルにおいて化学的に多様なBETブロモドメイン阻害剤を使用することにより、これらの研究はLV機能における有意な治療上の可逆性を示している。
【0159】
BETブロモドメイン阻害はエンハンサーからプロモーターのシグナル伝達を可逆的に阻害することから、本発明者らはBET阻害剤への暴露により、それらの観察された治療効果に相関する様式で、in vivoで心臓細胞の状態における可逆的な変化を引き起こすことが可能であると仮定した。
【0160】
LV収縮機能におけるBET阻害の顕著な保護効果を考慮し、最初の実験は心筋細胞(CM)のプロファイリングに焦点を当てた。すべての続くin vivoのトランスクリプトームおよびエピゲノム解析は、LVすべての領域で画一的かつ高い再現性でストレスを与えるマウスTACモデルにおいて実施された。成体CMの大部分は大きすぎて典型的なシングルセルマイクロ流体ワークフローに適切に格納することができないため、本発明者らは成体のCMを単離し、バルクRNA-Seqによりそれらを解析した。
【0161】
驚くべきことに、単離された成体のCMのトランスクリプトームにおけるJQ1の効果は、以前に発表された全LV組織のトランスクリプトームの特徴と比較すると控え目であり(<3%重複)、このことは遺伝子発現変化におけるもっとも強固な効果は非CM集団において生じていることを強く示すものであった。そこで、本発明者らは、10X Genomicsプラットフォームを用いてマウスの心臓の非CM区分におけるシングルセルRNAシーケンシング(scRNAseq)を実施した。
【0162】
本発明者らは、4つの実験群から収集した35,000個以上の個々の細胞をシーケンシングした:Sham、TACビヒクル処理(TAC)、TAC JQ1処理(TAC-JQ1)およびTAC JQ1処理に続くJQ1の休薬(TAC JQ1休薬)(
図2C)である。scRNAseqの教師なしクラスタリングにより、線維芽細胞(FB)、内皮細胞、骨髄細胞および心外膜細胞を含む多様な心臓細胞亜集団を適切に同定した(
図2D)。このクラスタリングでの最も顕著な発見は線維芽細胞集団において明らかであり、TACが細胞状態の大きな遷移を引き起こし、JQ1処理がこの細胞状態をSham状態に近いものへと近づける、細胞状態の劇的な回復を導いた(
図2E)。JQ1の休薬は、TAC様のストレス状態へと戻るFB集団の遷移と関連し、このことはJQ1暴露に対するこの細胞区分の可逆的な感受性を強調していた(
図2E)。興味深いことに、JQ1の暴露はまた、内皮および骨髄の区分において動的なトランスクリプトームの遷移を引き起こした(
図2E)。しかしながら、Sham-とTAC-様状態の間のFBの可逆的な遷移とは対照的に、細胞状態のJQ1を介した遷移の鮮明な可逆性は、内皮および骨髄細胞においてはあまり明らかではなかった。
【0163】
JQ1暴露/休薬に応答した線維芽細胞状態のほぼ完全な双方向可逆性を考慮して、本発明者らは、線維芽細胞区分の転写の可逆性を分析することに着目した。13,937個の個々の線維芽細胞のトランスクリプトームの差次的発現解析により、Sham群とTAC JQ1群の間の強い類似性が指摘され、BET阻害によってかなり減弱した線維化促進遺伝子の核となる特性が強調された(
図2F)。線維芽細胞の部分集合化および再クラスタリングにより、さらに、JQ1暴露への応答におけるShamとTACの状態の間の線維芽細胞の強固な可逆性が示された(
図2G)。
【0164】
心臓ストレスは、常在線維芽細胞を筋線維芽細胞(myoFB)と呼ばれる収縮性および合成性のある状態へ遷移する引き金となり得る。myoFBマーカー遺伝子Postnの重ね合わせにより、TACがmyoFBの活性化を導くことが示された。しかしながら、JQ1の投与はmyoFB細胞の状態をSham様の状態へ戻し、JQ1の休薬はこれらの細胞をmyoFBに戻す(
図2H)。線維芽細胞のサブクラスタリングにより、基底FB状態(ShamおよびTAC JQ1細胞を含む;クラスター0、1、および4)対myoFB状態(TACおよびTAC JQ1休薬細胞を含む;クラスター2、3、および5)の区分を示す10個のクラスターが存在することが示された(
図2I)。
【0165】
遺伝子オントロジー(GO)解析により、基底線維芽細胞ホメオスタシスと関連した遺伝子プログラムがShamおよびTAC JQ1細胞においてどのように濃縮されているかということ、さらにTACおよびTAC JQ1休薬集団は線維化促進性、分泌性、増殖性、および遊走性の遺伝子プログラムにおいて濃縮されているということが強調された(
図2I)。総合すると、これらのデータは、基底線維芽細胞状態と活性化されたmyoFB状態との間の可逆的な遷移を転写阻害を用いて強固に切り替え得ることを示し、このことはmyoFBにおけるBETタンパク質機能が心不全発症の軌跡に影響を与えることを示している。線維芽細胞における線維化誘導および分泌性タンパク質の動的な制御を考慮すると、BET阻害の効果は細胞自律的および非細胞自律的であり得る。
【0166】
実施例3:心不全におけるクロマチンアクセシビリティおよびエンハンサー活性化
本発明者らは、JQ1暴露の結果観察される転写可逆性は、心不全発症時の心臓線維芽細胞およびその他の内在性の心臓細胞タイプ内のクロマチンアクセシビリティおよびエンハンサー活性化において対応する変化によって裏付けられるだろうという仮説を立てた。これを検証するために、本発明者らは、シングルセルトランスクリプトーム解析を、scRNAseqに使用したものと同じ心臓からのトランスポラーゼ-アクセシブルクロマチンシーケンシングのためのシングルセルアッセイ(scATACseq)と統合した(
図2C)。
【0167】
本発明者らは、31,766個の個々の細胞に分布する490,020のアクセス可能な部位を同定し、クロマチンの特徴に基づいて細胞の同一性を割り当てた。本研究の焦点は遠位の調節エレメントを分析することであった。したがって、本発明者らは、プロモーターおよび遺伝子本体におけるアクセス可能な部位を除外し、その後のすべての解析に使用される、線維芽細胞、骨髄、および内皮で濃縮された遠位エレメントのカタログを定義した。
【0168】
興味深いことに、線維芽細胞はTACの後にクロマチンアクセシビリティの有意に大きな増加を示し、これはJQ1処理を用いて可逆的に減弱され(
図3A)、この特徴は骨髄および内皮細胞ではあまり明白ではなかった(
図3I~3J)。このことは、線維芽細胞集団が、部分的にBETタンパク質に依存した慢性心不全時のクロマチン活性化を優先的に受けることを強調している。クロマチン活性化における動的および可逆的な変化を分析するために、本発明者らは、4つの試料にわたって開いているおよび閉じている遠位エレメントを定義し、すべての条件にわたって構成的に開いていた領域を除外した。
図3Bに示されるように、クロマチン状態の強固な可逆性は、特に線維芽細胞において、ストレスおよびBET阻害に応答して生じた。
【0169】
非常に感度が高く非常に動的な線維芽細胞遠位エレメントのクラスターが本発明者らによって同定され、それらはShamでは閉じ、TACでは開き、JQ1では閉じ、そしてJQ1休薬後に確実に再アクセス可能であった(クラスター2、
図3B)。GO解析では、これらの領域が、有害な心臓リモデリングおよび線維化の2つの特徴である心臓の肥大および細胞外マトリックス(ECM)の組織化を調節する遺伝子の近傍に存在することが示された。興味深いことに、本発明者らはまた、ShamからTACの際に開きJQ1には非感受性である線維芽細胞領域の大きなクラスターを同定し、このことはBET非依存性であるストレス応答性クロマチン活性化の特徴を強調していた(クラスター9、
図3B)。
【0170】
次に、本発明者らは、心臓の機能において有意な変化が生じる上述の3つの表現型遷移で動的に調整される領域において、どのように転写因子(TF)結合モチーフのアクセシビリティが変化したかを探索した:ShamからTAC、TACからTAC-JQ1、およびTAC-JQ1からTAC-JQ1休薬である。線維芽細胞において、CEBPB、JUNおよびMEOX1のTF結合モチーフでは、ShamからTACへの変遷時のアクセス可能な領域においては濃縮が示された。その後のBET阻害では濃縮の消失が、次いでJQ1休薬では濃縮の再獲得が示された。これらのデータは、ストレス活性化TFについて機能的に関連するモチーフで濃縮された領域においてクロマチンダイナミクスが生じていることを示す(
図3C)。
【0171】
次に、本発明者らは、scATACseq中に発見された機能的に関連する線維芽細胞および活性化myoFBのエンハンサーを同定しようと努めた。研究により、エンハンサーは広範に転写され得ること、そしてこの新生転写活性は強固でありエンハンサー活性の独立した指標であることが示される。そこで、本発明者らは、in vitroで培養された線維芽細胞に対し精密核ランオン転写シーケンシング(PROseq;Mahat et al.,Nat.Protoc.11:1455-1476(2016))を実施することでゲノムワイドなRNAポリメラーゼII新生転写をマッピングし推定的な活性化エンハンサーを同定した。PROseqは大量の細胞を必要とするため、本発明者らは、初代成体マウス心臓線維芽細胞から不死化株を作製し、in vitroでmyoFB細胞状態遷移を誘発するための古典的な刺激物質であるTGF-βで不死化細胞株を処理した(Dobaczewski et al.J.Mol.Cell Cardiol.51,600-606(2011))。本発明者らは、TGF-β刺激後に有意に多く転写され、線維化促進および合成促進遺伝子の近傍に位置する1セットの遠位エレメントを同定した(
図3D)。scATACseqデータを用いて、本発明者らは、in vivoでShamとTACの間で開いているかまたは閉じているかのいずれかである遠位エレメントを同定し、次いでこれらと同一の領域で、培養されたFBにおけるPROseqシグナルを評価した。
図3Eに示されるように、培養された線維芽細胞のin vitroのTGF-β刺激は、心不全発症時のin vivoの内在性線維芽細胞において生じるものと類似した全体的な転写の変化を誘発する。Postn座位の可視化は、TAC後にin vivoで生じたクロマチン開口が存在するところを示し、それはJQ1暴露に対する動的な感受性と相関した。この大きなエンハンサーのうち、PROseqはピーク11を、TGF-β処理後に大量に転写される特定の領域(ピーク11)として明らかにした。Postnプロモーターとピーク11領域との間のscATACseqコアクセシビリティ解析は、Sham状態では低いコアクセシビリティ、TACに対してはコアクセシビリティの強固な増加、そしてJQ1暴露に対してはコアクセシビリティの調節を示した。
【0172】
KRABリプレッサータンパク質に融合した触媒的に不活性なCas9タンパク質(dCas9)を展開するCRISPR干渉(CRISPRi)(Gilbert et al.Cell 154,442-451(2013))を、ピーク11領域に特異的なガイドRNAとともに使用することで、線維芽細胞におけるこの特定の調節エレメントの配列特異的抑制を駆動した。本発明者らは、このピーク11領域がTGF-β刺激に続くPostn誘導に必須であることを見出した(
図3F)。
【0173】
myoFBのマーカーであるPostnの動的な転写制御が実証されたことから、本発明者らは、本明細書に記載されるようにシングルセルトランスクリプトームとエピゲノムを統合したアプローチは疾患発症時の細胞内ストレス応答を制御する新規のメカニズムの発見に活用し得ると仮定した。したがって、本発明者らは、バイアスのないエンハンサー発見パイプラインを構築することで、心不全の進行および回復における役割を果たし得る遠位エレメントを明らかにした。疾患心臓(TAC)における我々のscATACseqのデータを使用して、線維芽細胞、骨髄細胞および内皮細胞について、細胞集団で濃縮された大きなエンハンサー(ストレッチまたはスーパーエンハンサーとしても知られている)のカタログを構築した。BET阻害は、TACモデルにおいて心機能を確実に改善したため、本発明者らは、線維芽細胞、骨髄細胞、および内皮細胞におけるこれらのエンハンサーのアクセシビリティの程度をLV駆出率と関連付けた。エンハンサークロマチンアクセシビリティと生理学的特性(この場合、LV駆出率)の間の相関分析は、
図3Gに要約される。エンハンサーエレメントのアクセシビリティが心機能と反相関する場合、エンハンサーエレメントは負の相関を有するものとして定義された(すなわち、これらエンハンサーは心機能が低下する設定であるShamからTACでは開いていた)。対照的に、正の相関を有するエンハンサーは、ShamからTACでは閉じていた。相関係数のボルケーノプロットを各細胞タイプごとに作成した(
図3H)。線維芽細胞において同定された470個の大きなエンハンサーのうち、48個は強い負の相関を示し、一方22個は強い正の相関を示した(
図3H)。
【0174】
実施例4:Meox1は筋線維芽細胞特異的転写因子である
本実施例は、Meox1が筋線維芽細胞特異的転写因子であることを示している。
線維芽細胞内で最も負の相関を示すエレメントの1つは、沿軸中胚葉内で発現し硬節の発生に必要なホメオドメインを含む転写因子である、Meox1の下流の大きなエンハンサーであった(
図3H)。Meox1は健常なマウスの心臓では最小限に発現したがTACに続くMyoFBでは高度に発現上昇したため、特に興味深い(
図4A)。BET阻害はMeox1の発現を消失させるが、JQ1休薬はMeox1発現の強固な再誘導と関連した(
図4A)。内在性心臓線維芽細胞におけるクロマチンの動的にアクセス可能な領域に付随するMEOX1のDNA結合モチーフの濃縮と組み合わせると(
図3C)、このことは、ストレス条件下で、重要な線維芽細胞調節エレメントとMEOX1の動的な発現上昇および機能的関与を示した。
【0175】
Meox1下流のエンハンサーは、線維芽細胞においてストレスおよびJQ1暴露に極度に感受性が高かったが、骨髄および内皮細胞ではそうではなかった(
図4Bおよび4E)。このエンハンサーは、線維芽細胞でのShamからTAC状態への遷移において有意に開く10個のピークを有し、これらのピークは、この遷移においてアクセス可能であり、JQ1処理によりShamレベルに戻って閉じ、JQ1が休薬された際に再度開いた(
図4B、4E~4F)。Meox1エンハンサーのすべての個々のピークにおけるクロマチンアクセシビリティの解析により、特定のエレメントが動的に調節されていることが示された。
【0176】
マウス11番染色体101,828,401位から101,833,068位におけるマウスMeox1ピーク9/10領域の配列を以下に示す(配列番号74)。
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
成体マウスLV組織由来の公的に入手可能であるBRD4およびH3K27acのChIP-Seqデータにより、Meox1座位における活性化エンハンサーマークが裏付けされ、CTCF ChIPseqでは、Meox1遺伝子とエンハンサーとの間の接触絶縁の非存在が一貫していたことから、このエンハンサーがMeox1を調節する可能性を提起した(
図4B)。重要なことに、Meox1 mRNAの発現はTGF-βで処理した培養線維芽細胞において誘導された(
図4G)。
【0181】
TGF-βで誘導されたMeox1の発現上昇はJQ1によって抑制され、3つのBET(Brd2、Brd3またはBrd4)のそれぞれを個別にsiRNAでノックダウンするとMeox1誘導はBRD2またはBRD3ではなく、BRD4依存的であることが示された(
図4I~4J)。in vivoでのTACによるアクセシビリティの増加を示すこの座位において、個々のscATAC-seqピークの中で、培養線維芽細胞のPROseqにより、TGF-β刺激に続く新生転写の顕著な増加を特徴とするMeox1プロモーターの62キロベース(kb)下流に位置する特定の領域(ピーク9/10)を同定することができた(
図4B)。注目すべきは、この780塩基対(bp)のエレメントがMeox1遺伝子本体そのものよりも強いTGF-β刺激による転写を示し、またTGF-β刺激に応答して全ゲノムにわたって最も異なって転写される領域の一つであったことである(
図4B)。Meox1プロモーターおよびピーク9/10領域は、Sham状態においては低いコアクセシビリティを示し、TACに応答してコアクセシビリティは強く増加し、BET阻害に応答してコアクセシビリティが調節された(
図4B)。培養線維芽細胞におけるこの座位の染色体コンフォメーションキャプチャ解析により、TGF-β刺激に応答してピーク9/10エンハンサー領域とMeox1プロモーターとの間の接触において強固な増加が明らかとなり、これらのエレメント間の動的な接触と一致していた。大きなMeox1調節エレメントの中でほかの領域と比較すると、ピーク9/10は、機能的に関連するエンハンサーの強力な予測因子である2つの特徴、強いクロマチンアクセシビリティおよび新生転写を特徴とした。ピーク9/10の内在性の機能を決定的に調べるために、本発明者らは、個々の部位を特異的に標的としたガイド鎖を用いてMeox1座位において一連のCRISPRi実験を実施し、ピーク9/10エレメントがTGF-β刺激時のMeox1のトランスアクチベーションに必要であるが(
図4H)、in vivoで同定されたほかのアクセス可能領域はそうではない(データ非公表)ことを見出した。
【0182】
次に、本発明者らは、MEOX1の機能を調べ、この十分に特徴づけられていないホメオボックス転写因子は、線維性疾患に関与する遺伝子プログラムを直接調節している可能性を仮定した。siRNAによるMeox1のノックダウンにより、TGF-β刺激コラーゲンゲル収縮およびEdU取り込みの有意な減少が生じ、疾患病因におけるMyoFBの2つの機能的特徴である収縮と増殖の表現型遷移にMEOX1が必要であることを確認した(
図5A~5C)。ChIPseqでは、MEOX1が線維芽細胞のホメオスタシスおよびストレス応答に関与する遺伝子に結合することが示された(
図5D)。高度にMEOX1が結合する遺伝子のGO解析では、アポトーシス、ECM/コラーゲン組織化および細胞接着に関連するタームの濃縮が示された。
【0183】
MEOX1がストレス応答性線維化促進遺伝子の転写を制御するかどうかを理解するために、本発明者らは、対照もしくはMeox1標的siRNAのいずれかの存在下でTGF-β処理した線維芽細胞においてPROseqを実施した。Meox1が枯渇した場合、509遺伝子が有意に少なく転写され、一方で819遺伝子はより多く転写された(
図5E)。特に、Meox1依存性遺伝子のGO解析では、細胞運動性、増殖および遊走の調節などの線維化促過程のための濃縮が明らかとなった。これらの遺伝子の中には、CtgfおよびPostnを含む心臓のMyoFB活性化の古典的なマーカーが存在した。それらのプロモーターおよび近位調節エレメント(
図3Fに記載されるPostnピーク11エンハンサーを含む)ではMEOX1濃縮を示し、これらはMeox1欠乏に続いて転写の大きい減少を特徴とする領域である(
図5F)。これらの知見は、MEOX1が、線維化疾患に関与する線維芽細胞からmyoFBへのスイッチの際に必須転写メディエーターとして機能することを示す。ヒト成体心臓由来の最近の公的に入手可能であるシングルセルデータ(heartcellatlas.orgを参照)を用いて、本発明者らは、MEOX1がPOSTNと同じ活性化線維芽細胞のサブセットで特異的に発現していることを見出した。
【0184】
次に、本発明者らは、線維性疾患におけるMEOX1の活性化がげっ歯類からヒトまで保存されているかどうかを探索した。ヒト成体心臓からのシングルセルデータは、MEOX1が活性化線維芽細胞で発現しPOSTNとともに活性化線維芽細胞のクラスターを決定する上位遺伝子の一つであることを示した。ヒト胎児心臓由来のクロマチンアクセシビリティの最近のアトラスでは、ピーク9/10のシンテニック領域が線維芽細胞におけるMEOX1遠位エレメントの中で、アクセス可能なクロマチンの最も強いシグナルによって特徴付けられることを示した。心不全と同様に、多くの重大なヒトの疾患は、不適応な線維芽細胞の活性化を特徴とする。
【0185】
線維芽細胞は組織特異的な挙動を有し得るため、本発明者らは、ヒトの肺、肝臓および腎臓という、慢性的な臓器不全の状況において実質的な線維化をしばしば発症する3つの臓器に由来する線維芽細胞においてもまたMEOX1が誘導されるかどうかを調べた。心臓における我々の知見と同様に、MEOX1の発現は、TGFβによって誘導され、ヒトの肺、肝臓および腎臓由来の線維芽細胞においてJQ1によって抑制された(
図5I)。さらに、MEOX1の発現は、心筋症患者(n=193)由来の心臓組織および突発性肺線維症患者(n=36)由来の肺組織において、つまり病的線維化を顕著な特徴とする2つのヒトの疾患において有意に発現上昇した(
図5G~5H)。
【0186】
特に、MEOX1の発現は、心筋症患者由来の心臓組織および突発性肺線維症患者由来の肺組織などの線維症を顕著に特徴付けるヒトの疾患において、有意に発現上昇した(
図5G~5J)。
【0187】
参考文献
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
本明細書で参照もしくは言及したすべての特許および刊行物は、本発明が属する技術分野の当業者の技術レベルを示すものであり、そのように参照されている各特許もしくは各刊行物は、その全体が参照により個別に組み込まれていた場合、またはその全体が本明細書で説明されていた場合と、同じ程度に、これによって参照により明確に組み込まれている。出願人は、そのように引用された特許または刊行物からのあらゆるそしてすべての試料および情報を物理的に本明細書に組み込む権利を保有する。
【0195】
以下の付記は、本明細書の前述の記述に従った本発明の様々な実施形態を説明し要約することを意図するものである。
付記
1.少なくとも1つの試験薬剤を細胞集団と接触させることで試験アッセイ混合物を提供すること、および、Meox1レベルを測定することにより1つ以上のMeox1調節剤を同定することを含む方法。
【0196】
2.前記細胞集団は、線維芽細胞、休止線維芽細胞、筋線維芽細胞またはそれらの組み合わせを含む、付記1に記載の方法。
3.前記細胞集団は活性化線維芽細胞を含む、付記1または2に記載の方法。
【0197】
4.前記線維芽細胞がTGFβによって活性化される、付記1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.Meox1レベルを測定することはMeox1調節エレメントのクロマチンアクセシビリティを測定することを含む、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0198】
6.前記Meox1調節エレメントがエンハンサーである、付記5に記載の方法。
7.前記Meox1調節エレメントがピーク9/10エンハンサーである、付記5または6に記載の方法。
【0199】
8.前記Meox1調節エレメントがヒト17番染色体の約43,589,381位~43,595,263位の間にある、付記5、6または7に記載の方法。
9.前記細胞集団が、心臓組織、肺組織、肝臓組織、腎臓組織、またはそれらの組み合わせに由来する線維芽細胞を含む、付記1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0200】
10.Meox1レベルを測定することがMeox1転写物またはタンパク質レベルを測定することを含むか、またはMeox1レベルを測定することが細胞あたり遺伝子あたりで観察されるMeox1転写物の絶対数(UMIカウント)を測定することを含む、付記1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0201】
11.前記Meox1調節剤のうちの1つ以上がMeox1レベルを増加させる、付記1~10のいずれか一項に記載の方法。
12.前記Meox1調節剤のうちの1つ以上がMeox1レベルを減少させる、付記1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0202】
13.前記Meox1調節剤のうちの1つ以上がMeox1エンハンサー活性を低下させる、付記1~12のいずれか一項に記載の方法。
14.前記Meox1調節剤のうちの1つ以上がMeox1エンハンサーの染色体アクセシビリティを低下させる、付記1~13のいずれか一項に記載の方法。
【0203】
15.前記Meox1エンハンサーがヒト17番染色体の約43,589,381位~43,595,263位の間に存在する、付記14に記載の方法。
16.前記Meox1調節剤のうちの1つ以上を心臓の状態または疾患の動物モデルへ投与すること、および、前記Meox1調節剤のうちの1つ以上が心臓の状態または疾患の症状または重症度を低減するかどうかを決定することによって治療剤を同定することをさらに含む、付記1~15のいずれか一項に記載の方法。
【0204】
17.前記治療剤のうちの1つ以上を患者へ投与することをさらに含む、付記16に記載の方法。
18.前記患者が前記治療剤のうちの1つ以上を必要としている、付記17に記載の方法。
【0205】
19.前記動物モデルまたは前記患者が、心臓線維症、肺線維症、腎臓線維症、肝臓線維症、心不全、うっ血性心不全、心筋梗塞、心虚血、心筋炎、不整脈心筋症、拡張型心筋症、冠動脈疾患、高血圧症、心臓弁膜症、肥大型心筋症(HCM)、家族性拡張型心筋症(FDCM)、拘束型心筋症(RCM)、不整脈原性心筋症(AVC)、未分類の心筋症、またはそれらの組み合わせを有する、付記16、17、または18に記載の方法。
【0206】
20.前記細胞集団が、心臓の状態または疾患の治療を求める患者または対象由来である、付記1~19のいずれか一項に記載の方法。
21.前記患者または対象が、心臓線維芽細胞における増加したMeox1レベル、増加したMeox1新生転写、心臓線維芽細胞内のMeox1調節エレメントにおける増加したクロマチンアクセシビリティ、またはそれらの組み合わせを示す、付記20に記載の方法。
【0207】
22.前記患者または対象の線維芽細胞内、筋線維芽細胞内、またはそれらの組み合わせにおける前記Meox1調節エレメントのノックアウトまたはノックダウンを含む、付記20または21に記載の方法。
【0208】
23.前記患者または対象の線維芽細胞内での前記Meox1調節エレメントのin vivoでのノックアウトまたはノックダウンを含む、付記20、21、または22に記載の方法。
【0209】
24.前記Meox1調節エレメントのノックアウトまたはノックダウンが、前記Meox1調節エレメントのCRISPR修飾、Meox1阻害性核酸とMeox1調節エレメントの接触、もしくはそれらの組み合わせを含む、付記23に記載の方法。
【0210】
25.前記Meox1阻害性核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、CRISPRガイドRNA、ガイドRNAおよびcasヌクレアーゼを含むCRISPRリボ核タンパク質、もしくはそれらの組み合わせである、付記24に記載の方法。
【0211】
26.前記患者の線維芽細胞集団内で前記Meox1調節エレメントのin vitroでのノックアウトまたはノックダウンすることで改変線維芽細胞を生成すること、および、前記改変線維芽細胞を前記患者へ再導入することを含む、付記22~24または25に記載の方法。
【0212】
27.前記線維芽細胞が、心臓線維芽細胞、筋線維芽細胞、もしくはそれらの組み合わせである、付記20~25のいずれか一項に記載の方法。
28.Meox1調節エレメントにおける増加したクロマチンアクセシビリティ、増加したMeox1発現、増加したMeox1新生転写物レベル、またはそれらの組み合わせを示す線維芽細胞を含む対象へ治療剤を投与することを含む方法。
【0213】
29.前記Meox1調節エレメントがエンハンサーである、付記28に記載の方法。
30.前記Meox1調節エレメントがピーク9/10エンハンサーである、付記28または29に記載の方法。
【0214】
31.前記Meox1調節エレメントがヒト17番染色体の約43,589,381位~43,595,263位の間に存在する、付記28~30のいずれか一項に記載の方法。
【0215】
32.前記治療剤が、ガイドRNA、casヌクレアーゼを含むリボ核タンパク質複合体、阻害性核酸、クロマチン安定化剤、またはそれらの組み合わせである、付記28~31のいずれか一項に記載の方法。
【0216】
33.心臓の疾患または状態を治療するために、Meox1転写、Meox1翻訳、またはMEOX1タンパク質の機能を調節する薬剤を対象へ投与することを含む方法。
34.前記薬剤が、Meox1転写、Meox1翻訳、またはMEOX1タンパク質の機能のうちの1つ以上の組み合わせを阻害する、付記33に記載の方法。
【0217】
35.前記薬剤が、Meox1転写、Meox1翻訳、またはMEOX1タンパク質の機能を阻害する、付記33または34に記載の方法。
36.前記薬剤が、Meox1遺伝子に作動可能に連結したエンハンサーを直接的または間接的に調節する、付記33、34、または35に記載の方法。
【0218】
37.前記薬剤が、Meox1遺伝子またはMEOX1コード領域に作動可能に連結したエンハンサーに結合する、付記33~35または36に記載の方法。
38.前記薬剤がMeox1翻訳を減少させるRNA干渉(RNAi)核酸である、付記33~36または37に記載の方法。
【0219】
39.前記Meox1阻害核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、またはそれらの組み合わせである、付記33~37または38に記載の方法。
【0220】
本明細書に記載の特定の方法および組成物は、好ましい実施形態の代表であり例示であって、本発明の範囲の限定として意図されるものではない。ほかの目的、態様、および実施形態は本明細書を検討すれば当業者が思い付くものであり、本請求の範囲によって定義される本発明の主旨の中に包含される。本発明の範囲および主旨から逸脱することなく、本明細書に開示された本発明に対して様々な置き換えおよび修正がなされ得ることは当業者には容易に明らかであろう。
【0221】
本明細書に例示的に記載された本発明は、必須として本明細書に具体的に開示されていない、任意の要素または任意制限が存在しなくても適切に実施され得る。本明細書に例示的に記載された方法および過程は、異なるステップの順序でも適切に実施され得、方法および過程は本明細書もしくは本特許請求の範囲に示されるステップの順序に必ずしも限定されない。
【0222】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「1つ」(a,an)および「その」、「前記」(the)は、文脈が明確にそうでないことを指示しない限り、複数形の言及を含む。したがって、例えば、「核酸(a nucleic acid)」または「タンパク質(a protein)」または「細胞(a cell)」への言及は、複数のこのような核酸(nucleic acids)、タンパク質(proteins)、細胞(cells)など(例えば、核酸もしくは発現カセットの溶液または乾燥調製物、タンパク質の溶液、または細胞の集団)を含む。本明細書において、用語「または」、「もしくは」(or)は、非排他的なまたは/もしくはを指すために使用され、特に断りのない限り、「AまたはB」は「AだがBではない」、「BだがAではない」、および「AおよびB」を含む。
【0223】
いかなる状況においても、特許は、明細書に具体的に開示された特定の実施例または実施形態または方法に限定されると解釈されてはならない。いかなる状況においても、特許は、審査官または特許商標庁のその他の職員もしくは従業員によってなされた声明によって限定されると解釈してはならないが、ただしその声明が出願人による応答文書において明示的に採用されており、かつ資格または留保がない場合はこの限りではない。
【0224】
採用された用語および表現は、説明の用語として使用され、限定するものではなく、そのような用語および表現を使用して図示および記述またはそれらの一部のいかなる等価物も除外する意図はないが、請求された本発明の範囲内で様々な修正が可能であることが認識される。それゆえに、本発明は、好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されてはいるが、本明細書に開示された概念の修正および変形は当業者によって用いられてもよく、そのような修正および変形は本発明の添付の特許請求の範囲および付記によって定義される本発明の範囲内にあると考えられることが理解されるであろう。
【0225】
本発明は、本明細書に広く一般的に記載されている。属開示に含まれるより狭い種および亜属分類の各々もまた、本発明の一部を形成する。これは、切除された材料が本明細書に具体的に記載されているか否かに関わらず、属からの任意の主題を除去する但し書き、もしくは否定的な限定を伴う本発明の全体的な記述を含む。加えて、本発明の特徴または態様はマーカッシュグループの観点から説明され、当業者は、本発明がまたそれによってマーカッシュグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループの観点からも説明されることを認識するであろう。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの試験薬剤を細胞集団と接触させることで試験アッセイ混合物を提供すること、および、Meox1レベルを測定することにより1つ以上のMeox1調節剤を同定することを含む方法。
【請求項2】
前記細胞集団が、線維芽細胞、活性化線維芽細胞、休止線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Meox1レベルを測定することが、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティを測定すること、Meox1転写物レベルを測定すること、新生Meox1転写物レベルを測定すること、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Meox1エンハンサーがヒト17番染色体の約43,589,381位~43,595,263位の間に存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Meox1レベルを測定することが、観察されたMeox1転写物またはMeox1新生転写物の細胞あたり遺伝子あたりの絶対数を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試験薬剤のうち少なくとも1つが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、CRISPRガイドRNA、ガイドRNAおよびcasヌクレアーゼを含むCRISPRリボ核タンパク質、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上が、Meox1レベルを低下させるか、Meox1エンハンサー活性を低下させるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上が、Meox1エンハンサーのクロマチンアクセシビリティを低下させるか、Meox1転写物レベルを減少させるか、新生Meox1転写物レベルを減少させるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記Meox1調節剤のうち1つ以上を心臓の状態または疾患の動物モデルに投与すること、および、前記Meox1調節剤のうち1つ以上が心臓の状態または疾患の症状または重症度を軽減するかどうかを決定することで治療剤を同定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞集団が、状態または疾患の治療を求める患者に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞集団を有する前記患者が、線維芽細胞において増加したMeox1レベル、線維芽細胞において増加した新生Meox1レベル、線維芽細胞内のMeox1エンハンサーにおける増加したクロマチンアクセシビリティ、またはそれらの組み合わせを示す、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記線維芽細胞が、心臓線維芽細胞、肺線維芽細胞、肝臓線維芽細胞、腎臓線維芽細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
Meox1 RNA転写、Meox1クロマチンアクセシビリティ、Meox1 RNAプロセシング、またはMeox1翻訳を阻害する薬剤と細胞を
in vitroで接触させることを含む方法。
【請求項14】
前記細胞が、線維芽細胞、筋線維芽細胞、活性化線維芽細胞、活性化筋線維芽細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記線維芽細胞が、心臓線維芽細胞、肺線維芽細胞、肝臓線維芽細胞、腎臓線維芽細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が、Meox1転写のノックダウンまたはノックアウトをする、Meox1エンハンサー活性のノックダウンまたはノックアウトをする、またはそれらの組み合わせである、請求項
13に記載の方法。
【請求項17】
前記薬剤が、1つ以上の阻害性核酸、ガイドRNA、casヌクレアーゼ、casヌクレアーゼ:ガイドRNAリボ核タンパク質複合体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項18】
in vitroで接触させた前記細胞が、後に改変細胞を投与される対象に由来する、請求項
13に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
政府の支援
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたR01HL127240の下で政府の支援により成された。政府は本発明において一定の権利を有する。
【国際調査報告】