(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(54)【発明の名称】回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法
(51)【国際特許分類】
G06N 3/0442 20230101AFI20230407BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20230407BHJP
G06N 10/00 20220101ALN20230407BHJP
【FI】
G06N3/0442
G06F30/27
G06N10/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544270
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 CN2021095988
(87)【国際公開番号】W WO2022160528
(87)【国際公開日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】202110111596.2
(32)【優先日】2021-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518286862
【氏名又は名称】▲電▼子科技大学
【氏名又は名称原語表記】University of Electronic Science and Technology of China
【住所又は居所原語表記】No.2006,Xiyuan Ave,West Hi-Tech Zone,611731,Chengdu,Sichuan,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 暁瑜
(72)【発明者】
【氏名】朱 欽聖
(72)【発明者】
【氏名】胡 勇
(72)【発明者】
【氏名】楊 慶
(72)【発明者】
【氏名】盧 俊邑
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC03
5B146DJ01
(57)【要約】
本発明は、長・短期記憶ネットワークである回帰型ニューラルネットワークを作成し、前記長・短期記憶ネットワークには、時系列に並べられたT個のLSTM細胞が含まれており、各LSTM細胞には、入力値xt及び出力値htがあり、出力値htは、次の時点のLSTM細胞に導入され、LSTM細胞内には、パラメータ(W、b)がある、ステップと、量子条件のマスター方程式に基づいて取得された電流のショット雑音スペクトルを入力値xtに置き換え、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレースを出力値htに置き換え、前後の時点であるt-1時点及びt時点において、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレース間の関連をパラメータ(W、b)に置き換える、ステップと、を含む、回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法を開示する。本発明では、回帰型ニューラルネットワークにおける長・短期記憶ネットワークと量子条件のマスター方程式との関連を作成し、量子システムが生成するショット雑音スペクトルのデータを用いて、量子条件のマスター方程式を解く時の方程式の無限ループクロージャの問題を解决して、回帰型ニューラルネットワークにより量子条件のマスター方程式を模擬することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長・短期記憶ネットワークである回帰型ニューラルネットワークを作成し、前記長・短期記憶ネットワークには、時系列に並べられたT個のLSTM細胞が含まれており、各LSTM細胞には、入力値x
t及び出力値h
tがあり、出力値h
tは、次の時点のLSTM細胞に導入され、LSTM細胞内には、パラメータ(W、b)がある、ステップと、
量子条件のマスター方程式に基づいて取得された電流のショット雑音スペクトルを入力値x
tに置き換え、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレースを出力値h
tに置き換え、前後の時点であるt-1時点及びt時点において、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレース間の関連をパラメータ(W、b)に置き換える、ステップと、
量子を転送する過程で生じたショット雑音スペクトルのデータにより、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、量子条件のマスター方程式を模擬するという目的を達成し、ただし、前記量子を転送する過程は、実現可能な物理的実際のシステムに対応する、ステップと、を含む、
ことを特徴とする、回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法。
【請求項2】
【請求項3】
【請求項4】
【請求項5】
【請求項6】
【請求項7】
【請求項8】
【請求項9】
【請求項10】
前記量子を転送する過程で生成するショット雑音スペクトルのデータは、トレーニングデータとテストデータとに分けられ、
トレーニングデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、反復回数に伴うトレーニングデータの誤差の第一関係を取得し、前記テストデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをテストし、反復回数に伴うテストデータの誤差の第二関係を取得し、
第一関係及び第二関係を用いて、長・短期記憶ネットワークに量子条件のマスター方程式を模擬する模擬効果を特定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子を転送する現象は、メゾスコピックシステムにおける重要な物理現象として、近年、幅広く研究されている。従来の機器の場合には、信号(signal)と雑音(noise)の比がショット雑音を抑えることにより高まるが、量子ドットで構成されるシステムでは、ショット雑音が無限に減少するわけではない。実際、量子機器における量子転送ノイズは必ずしも有害なものではない。微細な時間に関連するこれらのショット雑音は、転送を行う過程において、精密な動力学、豊かな量子転送の性質、及び、その中の精密なエネルギーレベルを敏感に表現することができる。従って、低次元のメゾスコピックナノ機器の転送特徴を研究する過程で、量子ショット雑音システムをテストして分析することは重要な理論的ツール及び方法である。
【0003】
理論的計算に対しては、ノイズと量子ドットを有する開放的なシステムに直面して、その性質を研究することが必要となる。Buttiker及びBeenaker等の研究者らが提出した散乱行列方法、非バランスグリーン関数方法、量子マスター方程式などの方法を含んでいる、複数の方法は、以前の人々が提案してきた。以前の人々による研究と異なり、李興奇らは、Gurvitzによる方法に基づいて、電荷ビットにより細かく転送を行う過程を研究するための条件マスター方程式を提出している。
【0004】
量子条件のマスター方程式は、電荷を転送する過程を詳しく表現できるものの、この過程と関連する物理量を更に研究することは極めて難しい。これは、無限に再帰する微分方程式システムに該当しているためである。従って、転送を行う過程において量子条件のマスター方程式を解くのは、極めて重要なこととなる。
【0005】
したがって、回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法を提供することは、本分野で緊急に解決するべき問題に該当している。そのうち、量子条件のマスター方程式を模擬する回帰型ニューラルネットワークは、マイクロメートル・ナノメートルの量子機器を設計するように導くことに用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術における欠点を克服すべく、回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る目的は、以下の技術的手段により実現される。
本発明に係る第一局面によると、
長・短期記憶ネットワークである回帰型ニューラルネットワークを作成し、前記長・短期記憶ネットワークには、時系列に並べられたT個のLSTM細胞が含まれており、各LSTM細胞には、入力値xt及び出力値htがあり、出力値htは、次の時点のLSTM細胞に導入され、LSTM細胞内には、パラメータ(W、b)がある、ステップと、
量子条件のマスター方程式に基づいて取得された電流のショット雑音スペクトルを入力値xtに置き換え、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレースを、出力値htに置き換え、前後の時点であるt-1時点及びt時点において、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレース間の関連をパラメータ(W、b)に置き換える、ステップと、
量子を転送する過程で生じたショット雑音スペクトルのデータにより、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、量子条件のマスター方程式を模擬するという目的を達成し、前記量子を転送する過程は、実現可能な物理的実際のシステムに対応する、ステップと、を含む、
回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法を提供する。
【0008】
さらに、前記量子条件のマスター方程式は、量子ドットシステムS及び電源Vが含まれている二準位電荷量子ビット転送システムにより導き出され、量子ドットシステムSは、左側電極Lが電源Vの正極に接続され、右側電極Rが電源Vの負極に接続され、前記二準位電荷量子ビット転送システムの総ハミルトニアンは、
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
さらに、前記量子を転送する過程で生成するショット雑音スペクトルのデータは、トレーニングデータとテストデータとに分けられ、
トレーニングデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、反復回数に伴うトレーニングデータの誤差の第一関係を取得し、前記テストデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをテストし、反復回数に伴うテストデータの誤差の第二関係を取得し、
第一関係及び第二関係を用いて、長・短期記憶ネットワークに量子条件のマスター方程式を模擬する模擬効果を特定する。
【発明の効果】
【0017】
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の例示的な実施例が開示する方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の例示的な実施例が開示する技術を実現するロードマップである。
【
図3】本発明の例示的な実施例が開示する二準位電荷量子ビット転送システムの構成模式図である。
【
図4】本発明の例示的な実施例が開示する量子隠れマルコフの計算図である。
【
図5】本発明の例示的な実施例が開示する長・短期記憶ネットワークの計算図である。
【
図6】本発明の例示的な実施例が開示する長・短期記憶ネットワークのLSTM細胞の構成の模式図である。
【
図7】本発明の例示的な実施例が開示する切り取り判断におけるMに伴うE(M)の変化図である。
【
図8】本発明の例示的な実施例が開示する反復回数に伴うトレーニングデータの誤差の関係図である。
【
図9】本発明の例示的な実施例が開示する反復回数に伴うテストデータの誤差の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面に基づいて本発明に係る技術的手段を明確に、かつ、完全に説明するが、明らかに、説明する実施例は本発明の実施例の一部に過ぎず、実施例の全てではない。本発明に係る実施例に基づいて、進歩性を有する労働が無いかぎり、当業者が取得するあらゆる他の実施例は、いずれも、本発明による保護範囲に含まれる。
本出願で言及される用語は、特定する実施例を説明することを目的とするが、本出願を限定することを意図するものではない。本出願及び請求の範囲に使用される単数の形式である「一つ」、「前記」や「当該」は、コンテキストにおいて、特別の断りが無い限り、複数の形式も含まれるものとする。本明細書で使用される用語である「及び/又は」とは、関連する一つ又は複数の項目について任意の又は全ての実現可能な組み合わせが含まれることも理解されるべきである。
【0020】
理解すべきところは、本出願において、第一、第二や第三などを採用して様々な情報を説明することができるが、これらの情報は、これらの用語に限定されないことである。これらの用語は、同じ種類に属する情報を互いに区別するようにするためのものである。例えば、本出願の範囲を逸脱しない場合には、第一情報を、第二情報として呼んでもよいし、同様に、第二情報を、第一情報として呼んでもよい。文脈に応じて、例えば、ここで使用する「もし」という用語を、「……時に」、「……場合に」又は「……と特定すれば、……になる」として解釈してもよい。
【0021】
また、本発明は、以下に説明する異なる実施形態において言及する技術的手段同士を、互いに矛盾が無ければ、組み合わせることが可能である。
具体的に、下記における例示的な実施例では、量子を転送する過程を説明する量子条件のマスター方程式を導き出すことにより、量子隠れマルコフ過程と量子マスター方程式との間に一定の関連が見つかり、量子隠れマルコフの過程を展開する計算図に基づいて、それと回帰型ニューラルネットワークとの間における関連が見つかる。次に、量子を転送する過程(一つの実現可能な物理的実際のシステム)に生じるノイズスペクトルのデータを用いて、回帰型ニューラルネットワークをトレーニングすることにより、量子条件のマスター方程式を模擬する目的を達成することができる。それは、マイクロメートル・ナノメートルの量子機器を設計することに用いられる。
【0022】
図1を参照すると、
図1に示すように、本発明に係る例示的な実施例が提供する回帰型ニューラルネットワークにより量子を転送する過程を模擬する際における量子条件のマスター方程式による模擬方法は、以下のステップを含む。
長・短期記憶ネットワークである回帰型ニューラルネットワークを作成する。前記長・短期記憶ネットワークには、時系列に並べられたT個のLSTM細胞が含まれており、各LSTM細胞には、入力値x
t及び出力値h
tがあり、出力値h
tは、次の時点のLSTM細胞に導入され、LSTM細胞内には、パラメータ(W、b)がある。
量子条件のマスター方程式に基づいて取得された電流のショット雑音スペクトルを入力値x
tに置き換え、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレースを出力値h
tに置き換え、前後の時点であるt-1時点及びt時点において、量子条件のマスター方程式における密度行列のトレース間の関連をパラメータ(W、b)に置き換える。ただし、ショット雑音スペクトルS(ω)は、実際の計算値を示し、試験の条件を満たす場合には、量子転送システムから収集され得る。
量子を転送する過程で生じたショット雑音スペクトルのデータにより、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、量子条件のマスター方程式を模擬するという目的を達成する。ただし、前記量子を転送する過程は、実現可能な物理的実際のシステムに対応する。
【0023】
具体的に、この例示的な実施例では、回帰型ニューラルネットワークにおける長・短期記憶ネットワークと量子条件のマスター方程式との関連を構築して、両者の等価関係を取得する。また、量子システムが生成するショット雑音スペクトルのデータを用いて、量子条件のマスター方程式を解く時の方程式の無限ループクロージャの問題を解決し、回帰型ニューラルネットワークにより量子条件のマスター方程式を模擬することができる。
【0024】
説明すべきは、当該三個のパラメータが長・短期記憶ネットワークの三個のパラメータに対応していることである。これは、
図4及び
図5に示すように(下記の例示的な実施例で、詳しく説明する)、量子条件のマスター方程式及び回帰型ニューラルネットワークが、展開されている計算図と等価であるからである。また、長・短期記憶ネットワークは、量子を転送するシステムに関連しており、ショット雑音スペクトルが、当該量子を転送するシステムと転送の過程を説明するためのものであることから、ショット雑音スペクトルを、長・短期記憶ネットワークの入力パラメータx
tとして用いる。
【0025】
【0026】
他の具体的な例示的な実施例では、当該トレーニングを経た回帰型ニューラルネットワーク又は長・短期記憶ネットワークは、マイクロメートル・ナノメートルの量子機器を設計するように導く技術分野に用いられる。
【0027】
【0028】
具体的には、
図2に示すように、以下の例示的な実施例では、まず、量子を転送する過程を説明する量子条件のマスター方程式を導き出すことにより、量子隠れマルコフ過程と量子マスター方程式との間に、一定の関連が見つかり、量子隠れマルコフの過程を展開する計算図に基づいて、それと回帰型ニューラルネットワークとの間における関連が見つかる。
【0029】
好ましくは、例示的な実施例では、前記量子条件のマスター方程式は、二準位電荷量子ビット転送システムにより導き出される。
図3に示すように、前記二準位電荷量子ビット転送システムには、量子ドットシステムS及び電源Vが含まれており、量子ドットシステムSは、左側の電極Lが電源Vの正極に接続され、右側の電極Rが電源Vの負極に接続され、電子が外部からの電圧により、量子ドットを流す。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
上記の例示的な実施例では、量子を転送する過程を説明する量子条件のマスター方程式を導き出す。下記の内容に、量子隠れマルコフ過程と量子マスター方程式との間に一定の関連を見つけ、量子隠れマルコフの過程を展開する計算図に基づいて、それと回帰型ニューラルネットワークとの間における関連を見つける。具体的には、以下の通りである。
【0037】
【0038】
下記の内容は、量子隠れマルコフの計算図と回帰型ニューラルネットワークの計算図とを対比したものであり、両者間において、非常に高い近似性が見つかる。
【0039】
【0040】
具体的には、長・短期記憶ネットワークは、回帰型ニューラルネットワークにおける一つのサブクラスであり、時系列データを処理する際に、大きな優位性がある。
図6は、長・短期記憶ネットワークLSTM細胞における具体的な構成図を示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
二準位量子システムが生成するノイズスペクトルのデータを用いて、このような一つの関係を構築することを目標とする。
【0045】
【0046】
【0047】
好ましくは、前記量子を転送する過程で生じたショット雑音スペクトルのデータは、トレーニングデータとテストデータに分けられる。
トレーニングデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをトレーニングし、反復回数に伴うトレーニングデータの誤差の第一関係を取得する。前記テストデータを用いて、前記回帰型ニューラルネットワークをテストし、反復回数に伴うテストデータの誤差の第二関係を取得する。
第一関係及び第二関係を用いて、長・短期記憶ネットワークに、量子条件のマスター方程式を模擬する模擬効果を特定する。
【0048】
【0049】
明らかなことは、上記の実施例は明確に説明を行うための例示に過ぎず、実施形態を限定するためのものではないことである。当業者にとっては、上記の説明に基づいて、他の異なる形態である変化や変形を行うことも可能である。ここで、あらゆる実施形態を網羅的に挙げる必要がない。これらに基づいてなされた自明な変化や変形は、いずれも、本発明による保護範囲に含まれる。
【国際調査報告】