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  • 特表-感熱性材料の昇華印刷 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(54)【発明の名称】感熱性材料の昇華印刷
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20230407BHJP
【FI】
B41M5/52 400
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532826
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2020086856
(87)【国際公開番号】W WO2021123042
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】19218899.3
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522355798
【氏名又は名称】ディーエスエム プロテクティブ マテリアルズ ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】DSM Protective Materials B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ブルックナー, ティナ
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111CA02
2H111CA03
2H111CA13
2H111CA24
2H111CA30
(57)【要約】
本発明は、ポリエステルトップ層と、少なくとも1つの感熱性ポリマー層とを含む多層システムの昇華印刷プロセスであって、温度勾配は、昇華印刷中、感熱性ポリマー層がその融解温度未満の温度に維持され、及びポリエステルトップ層がそのガラス転移温度超の温度に維持されて、ポリエステルトップ層中への昇華性染料の拡散を可能にするように適用される、昇華印刷プロセスにさらに関する。温度勾配は、感熱性ポリマー層の下でヒートシンク要素を使用することによって維持される。温度勾配は、ヒートシンク要素を冷却することによっても維持され得る。冷却は、好ましくは、循環クーラントを用いて行われる。ヒートシンク要素は、ポリマー、セラミック又は金属を含む。本発明は、ポリエステルトップ層と、少なくとも1つの感熱性ポリマー層とを含む昇華印刷された多層システムにさらに関する。本発明は、テキスタイル、テント、アウトドア用品、アパレル、衣類、バッグ、ジャケット、手袋の製造における多層システムにも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルトップ層と、昇華温度未満の融点を有するポリマーを含む少なくとも1つの感熱性ポリマー層とを含む多層システムの染料昇華印刷プロセスであって、温度勾配は、昇華印刷中、前記感熱性ポリマー層がその融解温度未満の温度に維持され、及び前記ポリエステルトップ層がそのガラス転移温度超の温度に維持されて、前記ポリエステルトップ層中への昇華性染料の拡散を可能にするように適用される、染料昇華印刷プロセス。
【請求項2】
前記温度勾配は、前記感熱性ポリマー層の下でヒートシンク要素を使用することによって維持される、請求項1に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項3】
前記温度勾配は、前記感熱性ポリマー層の下で前記ヒートシンク要素を冷却することによって維持される、請求項1又は2に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項4】
前記冷却は、循環クーラントを用いて行われる、請求項3に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項5】
前記ヒートシンク要素は、ポリマー、セラミック又は金属を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項6】
前記ヒートシンク要素は、金属を含む、請求項5に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項7】
前記ポリエステルトップ層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項8】
前記感熱性ポリマーは、少なくとも190℃の前記染料の昇華温度未満の融解温度を有するいずれかのポリマーであり得る、請求項1~7のいずれか一項に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項9】
前記感熱性ポリマーは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルブロックコポリマー又はポリウレタンからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項10】
前記感熱性ポリマーは、ポリエチレン、好ましくは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から選択される、請求項9に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項11】
前記多層システムは、多層フィルム、ラミネート、ニット布、織布、不織若しくはフェルト構造又は複合材構造及び/或いはそれらの組合せの形態であり得る、請求項1~10のいずれか一項に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項12】
前記多層システムは、ダブルフェイス織物構造又はニット構造を含む布の形態である、請求項11に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項13】
前記多層システムは、防水性通気性膜をさらに含むラミネート構造の形態である、請求項11に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項14】
前記防水性通気性膜は、PTFE、ポリウレタン又はブロックコポリエステルを含む、請求項13に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項15】
前記多層システムは、少なくとも2つの一方向層を含む複合材の形態であり、第1の層は、第1のマトリックス材料中で平行方向に整列された高性能繊維を含み、及び第2の層は、第2のマトリックス材料中で平行方向に整列された高性能繊維を含む、請求項11に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項16】
前記第2の繊維方向は、前記第1の繊維方向に対して90度までオフセットされる、請求項15に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項17】
前記第1及び第2の層の高性能繊維は、同じであるか又は異なり、且つUHMWPEから選択される、請求項15に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項18】
前記第1及び第2のマトリックス材料は、同じであるか又は異なり得、且つポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、ポリオレフィン、修飾ポリオレフィン、エチレンコポリマー、ポリアミド、ポリプロピレンからなる群から選択される、請求項15に記載の昇華印刷プロセス。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセスによって得ることができる印刷された多層システム。
【請求項20】
テキスタイル、テント、アウトドア用品、アパレル、衣類、バッグ、ジャケット、手袋の製造のための、請求項19に記載の印刷された多層システムの使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ポリエステルトップ層を含む多層システムの昇華印刷プロセスに関する。本発明は、多層システムにさらに関する。本発明は、多層システムの使用にさらに関する。
【0002】
染料昇華印刷とも呼ばれる昇華印刷は、基材(通常、ポリエステル布などの布地材料)上に画像を転写するための印刷法である。昇華とは、染料などの物質が固体状態から気体状態に移行するプロセスを意味する。昇華印刷は、通常、転写媒体上に鏡映画像を生成するか、又は基材上に昇華性染料を直接印刷するかのいずれかのために、デジタルプリンターの使用を必要とする。ポリエステル布(転写媒体と共に)は、180~230℃の温度で熱及び圧力に暴露される。これにより、染料は、気体状態に移行してポリエステル布構造を開放する。染料が気体状態になると、それは、ポリエステル布に浸透する。熱が除去されたとき、染料は、ポリエステル中の所定の位置に永久的に固定される。昇華印刷の最優良品質は、ポリエステル上でフェードもクラックも生じないものである。印刷は、非常に軽く、いかなるザラザラした手触りもない。原理的には、ポリエステルベース又はポリエステルコーティングを有するいずれの衣類又は対象物も、昇華印刷を用いてデザイン可能であるが、基材が感熱性材料を含有する場合、それは、定着プロセス時に破壊されるであろう。
【0003】
そのため、染料昇華印刷は、ポリエステル布で作製されたジャージー、ズボン又はジャケットのようなカスタマイズ/パターン化されたスポーツウェア又はアパレルに使用される標準的プロセスである。前述のように、染料昇華印刷は、染料の昇華に必要とされる高温のため、感熱性材料を含む布に適用することが困難である。高温は、感熱性材料を損傷する。そのうえ、これは、印刷の色深度及び色堅牢度を犠牲にするであろう。しかしながら、テキスタイル布/繊維産業では、布/繊維の着色は、大多数ではないにしても、多数の軍事、商業、アパレル、産業、医学及び航空宇宙の用途に必要な要件である。
【0004】
米国特許出願公開第2011086208号明細書には、防水布の製造プロセスが開示されており、そこでは、ポリプロピレン繊維とエラストメリック繊維との層を含む感熱性層が膜にラミネートされ、この膜が染料昇華ポリエステルエラストメリックヤーンの第3の層にラミネートされる。このプロセスでは、ポリエステル層は、膜及び感熱性層へのラミネーション前に染料昇華される。したがって、本発明の目的は、感熱性ポリマー層に損傷を与えることなく、感熱性ポリマーを含む多層システム上への昇華印刷プロセスを提供することである。
【0005】
本発明の他の目的は、感熱性ポリマー層を含む多層システム上に等しい印刷品質を提供することである。
【0006】
本発明のさらなる目的は、良好な色深度及び色堅牢度を有する印刷を生成するための、感熱性ポリマー層を含む多層システム上への昇華印刷プロセスを提供することである。
【0007】
本発明の目的は、ポリエステルトップ層と、少なくとも1つの感熱性ポリマー層とを含む多層システムの染料昇華印刷プロセスを提供することで達成され、ここで、温度勾配は、昇華印刷中、感熱性ポリマー層がその融解温度未満の温度に維持され、及びポリエステルトップ層がそのガラス転移温度超の温度に維持されて、ポリエステルトップ層中への昇華性染料の拡散を可能にするように適用される。好ましくは、ポリエステル層及び感熱性ポリマーを含む層は、互いに接触する。
【0008】
意外にも、染料昇華印刷プロセス時に熱による損傷を受けることなく、少なくとも感熱性ポリマー層を含む印刷された多層システムが提供可能であると共に、印刷された多層システムは、良好な印刷品質、良好な色深度、良好な色堅牢度及び/又は良好な分解能を示すことが分かった。
【0009】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)などの感熱性材料の着色のための昇華技術は、例えば、国際公開第16151409号パンフレットから公知である。繊維、ブレイド又はラミネート複合材料などのUHMWPE材料は、熱及び圧力の制御条件下でゲル紡糸UHMWPE繊維自体への着色剤の直接注入を可能にする着色方法によって着色され得ることが開示されている。
【0010】
また、国際公開第2011163643号パンフレットには、染料が複合材料に転写される昇華印刷が開示されている。プロセスは、転写媒体に染料を適用して着色転写媒体を形成することと、着色転写媒体を複合材料に接触させて配置することと、オートクレーブを用いて、熱、外圧、真空圧力の少なくとも1つを適用することにより、染料を複合材料に注入して着色複合材料を形成することとを含む。昇華印刷後、複合材料は、複合材料が所望の形状を維持する温度に冷却される。この昇華印刷プロセスの欠点は、印刷工程後に冷却が行われることであり、これは、感熱性ポリマー層が使用される場合、それが昇華印刷プロセス時に損傷を受けるであろうことを意味する。
【0011】
これに対して、本発明に係る昇華印刷プロセスは、好ましくは、下記の工程を含む。
工程1.ポリエステルトップ層と、昇華温度未満の融点を有するポリマーを含む感熱性ポリマー層とを含む多層システムを提供する工程。
工程2.1種以上の昇華性染料を用いて、転写基材を介して又は直接多層システム上にデザインを印刷する工程。
工程3.印刷された多層システム又は印刷された転写基材及び多層システムの組合せのいずれかを配置し、ポリエステルトップ層の昇華温度をそのガラス転移温度超の温度に維持しつつ、感熱性ポリマー層の温度をその融解温度未満に維持するように温度勾配を適用しながら、それを加熱されたカレンダー又はプレスに通す工程。
【0012】
以上に記載のプロセスの工程1では、多層システムは、ポリエステル布トップ層、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む。PET又はPBTは、繊維であり得る。多層システムは、染料昇華温度未満の融点を有するポリマーを含む少なくとも感熱性ポリマー層をさらに含む。昇華温度未満の融解温度を有するポリマーの例は、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエステルブロックコポリマー、ポリウレタン又はポリアミドである。好ましくは、感熱性ポリマー層は、ポリエチレン又はポリエステルブロックコポリマーを含む。より好ましくは、感熱性ポリマー層は、UHMWPE又はArnitel(登録商標)VTを含む。UHMWPEは、極めて長いポリエチレン鎖で構成されたタイプのポリオレフィンである。商品名は、Dyneema(登録商標)及びSpectra(登録商標)を含む。UHMWPEは、当業界では高弾性率ポリエチレン(HMPE)又は高性能ポリエチレン(HPPE)のいずれかでも呼ばれる。UHMWPEの分子量(MW)は、「固有粘度」(IV)として表されることが多く、典型的には少なくとも4dl/g、好ましくは少なくとも8dl/gである。一般に、UHMWPEのIVは、約50dl/g未満、好ましくは約40dl/g未満である。各種の実施形態では、UHMWPE繊維は、押出しポリマー鎖を含む。各種の実施形態では、UHMWPE繊維は、引抜きポリマー鎖を含む。
【0013】
工程2では、転写基材上に鏡映画像を生成するために、デジタルプリンターを使用することができる。転写基材は、転写紙、転写ラミネート又は転写フィルムの少なくとも1つを含み得る。染料は、パターン、グラフィック又はロゴの形状で転写基材に適用され得る。加えて、染料は、直接印刷を用いても多層システムに適用され得る。
【0014】
工程3では、印刷された基材及び多層システムは、ポリエステルトップ層の昇華温度をそのガラス転移温度超の温度に維持しつつ、感熱性ポリマー層の温度をその融解温度未満に維持するように温度勾配を適用しながら、230℃までの温度において、加熱されたカレンダー(図1)又はプレス(図2)を一緒に通り抜けるであろう。ポリエステルトップ層の昇華温度がポリエステルの融解温度未満であることは、明らかである。
【0015】
温度勾配は、良好な印刷品質、良好な色深度、良好な色堅牢度及び/又は良好な分解能を有して、感熱性ポリマーを含む印刷された多層システムを達成するうえで不可欠である。温度勾配は、受動的又は能動的に適用可能である。受動的温度勾配の場合、ヒートシンク要素は、感熱性ポリマー層の下で使用される。好ましくは、ヒートシンク要素は、ポリマー、セラミック又は金属を含む。より好ましくは、ヒートシンク要素は、金属を含む。代替的に、温度勾配は、ヒートシンク要素をさらに冷却して能動的にも適用可能である。ヒートシンク要素の冷却は、ペルチェプレート又は油若しくは水などの循環クーラントを備えたプレートを介して行われ得る。
【0016】
本発明に用いられるヒートシンク要素とは、熱を環境中に移動させるのに効率的な経路を提供する要素を意味する。ヒートシンクの背後にある一般理論は、熱生成デバイスの表面積を増加させて、環境中へのより効率的な熱の移動を可能にすることである。この改善された熱経路は、感熱性ポリマー層の温度上昇を低減する。
【0017】
転写媒体からの染料昇華印刷では、転写印刷プロセスに影響を及ぼすパラメーターは、(a)温度、(b)時間、及び(c)実際に転写されるか又は多層システム上に直接印刷される染料の割合である。転写基材を介する昇華印刷の場合、昇華温度は、10~80秒間、好ましくは20~70秒間、より好ましくは30~60秒間にわたり、180~230℃、好ましくは190~220℃、より好ましくは200~210℃の範囲内である。多層システム上への染料の直接印刷の場合、昇華温度は、10~80秒間、好ましくは20~70秒間、より好ましくは30~60秒間の様々な時間にわたり、170~230℃、好ましくは180~220℃、より好ましくは190~210℃の範囲内である。
【0018】
本発明の昇華印刷プロセスに使用される多層システムは、フィルム、布、ラミネート、フェルト構造、複合材構造及び/又はそれらの組合せの形態であり得る。多層システムは、いかなる種類の形態であろうと、常にトップ層にポリエステルを含むであろう。
【0019】
「複合材」という用語は、本明細書では、繊維と、マトリックス材料、例えば繊維を介して含浸された及び/又は繊維上に被覆されたコ(ポリマー)樹脂とを含む材料と理解される。マトリックス材料は、典型的には、繊維間に含浸され、且つ任意選択的に続いて硬化された液状(コ)ポリマー樹脂である。硬化(Hardening)又は硬化(curing)は、当技術分野で公知のいずれかの手段、例えば化学反応又は溶融状態から固形状態に固化することによって行われ得る。好適な例としては、熱可塑性若しくは熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル若しくはビニルエステル樹脂又はフェノール樹脂が挙げられる。複合材は、少なくとも2つの異なる種類の繊維を含み得、繊維は、異なる化学構造及び性質を有する。
【0020】
「繊維」という用語は、本明細書では、長さ寸法が幅及び厚さの横方向寸法よりもはるかに大きい長尺状体と理解される。そのため、繊維という用語は、規則的又は不規則的断面を有するフィラメント、リボン、ストリップ、バンド、テープなどを含む。繊維は、フィラメント若しくは連続フィラメントとして当技術分野で公知の連続長又はステープル繊維として当技術分野で公知の不連続長を有し得る。
【0021】
本発明に関連して、布は、当技術分野で公知のいずれかのタイプ、例えば織布、不織布又はニット布であり得る。これらのタイプの布及びそれらの製造方法は、当業者にすでに公知である。布の面密度は、好ましくは、10~2000g/m、より好ましくは100~1000g/m、さらにより好ましくは100~500g/m、最も好ましくは50~250g/m2である。
【0022】
多層システムが布の形態である場合、それは、好ましくは、ダブルフェイス織物構造又はダブルフェイスニット構造を含む。その場合、布は、好ましくは、織物又はニットのPET又はPBT繊維及びUHMWPE繊維を含む。
【0023】
本発明の昇華印刷プロセスの多層システムは、防水性通気性膜も含み得る。膜は、多層システムの外側面の下に結合された追加の層である。多層システムが布である場合、膜は、ラミネートが形成されるようにそれに結合可能である。防水性通気性とは、膜が、水による浸透に対して耐性であるが、水蒸気の通り抜けを可能にすることを意味する。防水性通気性膜の例は、PTFE、ポリウレタン又はポリエステルブロックコポリマー、例えばArnitel(登録商標)VTである。
【0024】
本発明の他の一実施形態では、多層システムは、ポリエステルトップ層と、感熱性材料を含む少なくとも2つの一方向層(UD層)を含む複合材とを含み得、第1の層は、第1のマトリックス材料中で平行方向に整列された高性能繊維を含み、及び第2の層は、第2のマトリックス材料中で平行方向に整列された高性能繊維を含む。第2の繊維方向は、好ましくは、第1の繊維方向に対して90度までオフセットされる。第1及び第2の層の高性能繊維は、同じであるか又は異なり得る。しかしながら、複合材は、UD層に結合された1つ以上の追加のポリマー層も含み得る。
【0025】
第1及び第2の層の高性能繊維は、同じであるか又は異なり得る。第1及び第2の層に使用される高性能繊維は、典型的には、220度までの昇華温度未満の融点を有する。好ましくは、それらは、少なくとも0.5GPa、より好ましくは少なくとも0.6GPa、最も好ましくは少なくとも0.8GPaの引張り強度を有する。繊維は、好ましくは、3.1~4.9GPa、より好ましくは3.2~4.7GPa、最も好ましくは3.3~4.5GPaの引張り強度を有する。
【0026】
第1及び第2の層の繊維量は、一般に、1~50グラム/平方メートルである。繊維量は、層の繊維密度としても参照され得る。好ましくは、層の繊維量は、2~30グラム/平方メートル、より好ましくは3~20グラム/平方メートルである。これらの範囲内の繊維密度は、多層複合材の可撓性を維持するのに役立つことが分かった。
【0027】
最も好ましい高性能繊維は、例えば、英国特許出願公開第2042414A号明細書又は国際公開第01/73173号パンフレットに記載されるように、ゲル紡糸プロセスによって調製されたポリエチレンフィラメントからなる、高延伸又は配向ポリエチレン繊維としても参照されるポリエチレン繊維である。これらの繊維の利点は、軽量と組み合わされて非常に高い引張り強度を有することであり、その結果、極めて薄い層に使用するのに好適である。好ましくは、少なくとも4dL/gの固有粘度、より好ましくは少なくとも8dL/gの固有粘度を有する超高モル重量ポリエチレン(UHMWPE)の繊維が使用される。
【0028】
第1及び第2のマトリックス材料は、好ましくは、ポリアクリレート、ポリウレタン、例えばHysol US0028、ポリエステル、例えばthiokol Adcote、シリコーン、例えばDOW-96-083、-X3-6930、-6858(UV硬化性)、ポリオレフィン、修飾ポリオレフィン、エチレンコポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリアミド、ポリプロピレン又はサーモプラスチック、例えばPEEK、PPS、Radel、Rytonから選択される。第1及び第2のマトリックス材料は、同じであるか又は異なり得る。
【0029】
好ましくは、第1及び第2のマトリックス材料は、ポリウレタンを含む。ポリウレタンは、ポリエ-テルジオールに基づくポリエーテル-ウレタン又はポリエステル-ウレタンを含み得る。ポリウレタンは、好ましくは、脂肪族ジイソシアネートに基づく。なぜなら、これは、色安定性をはじめとする製品性能をさらに改善するからである。
【0030】
さらなる好ましい実施形態では、マトリックス材料は、アクリル系樹脂又はアクリレート基を含むポリマーを含み得る。
【0031】
ポリオレフィンの場合、マトリックス材料は、好ましくは、エチレン及び/又はプロピレンのホモポリマー又はコポリマーを含み、この高分子樹脂は、ISO1183に準拠して測定したとき、860~930kg/mの範囲内の密度、40°~140℃の範囲内のピーク融解温度及び少なくとも5J/gの融解熱を有する。マトリックス材料及び一方向繊維を有する単層のさらなる詳細は、例えば、米国特許第5470632号明細書(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見出され得る。
【0032】
第1又は第2の層のマトリックス材料の量は、典型的には、10~95wt%、好ましくは20~90wt%、より好ましくは30~85wt%、最も好ましくは35~80wt%である。これにより、単層と他のコンポーネントとの適正結合強度が保障されるため、繰返し曲げサイクル後の複合材の早期離層の可能性が低減される。
【0033】
本発明は、本発明のプロセスによって得ることができる昇華印刷された多層システムにも関する。
【0034】
本発明は、そのような印刷された多層システムにも関する。印刷された多層システムは、ポリエステルトップ層と、少なくとも1つの感熱性ポリマー層とを含み、感熱性ポリマー層を有していない多層システムと比較した場合、1未満の色差(CMC-ΔE)を提供する。好ましくは、ポリエステル層及び感熱性層は、互いに接触する。印刷された多層システムは、好ましくは、乾燥及び湿潤擦れに対して少なくとも3、好ましくは4、より好ましくは5の色堅牢度を含む。色堅牢度は、ISO105-X12:2016に準拠して測定される。多層システムの破裂強度は、印刷されていない多層システムと比較して好ましくは少なくとも90%、印刷されていない多層システムと比較してより好ましくは95%、最も好ましくは100%である。
【0035】
本発明は、テキスタイル、テント、アウトドア用品、アパレル、衣類、バッグ、ジャケット、手袋の製造における、本発明に係る印刷された多層システムの使用にも関する。
【0036】
下記の実施例により本発明を例示するが、それらにより限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】昇華温度の関数で色強度を示す。
図2】冷却領域(カレンダー)を備えた昇華装置を示す。
図3】冷却領域(フラットプレス)を備えた昇華装置を示す。
【0038】
[測定方法]
下記は、本明細書で参照される試験方法である。
【0039】
色堅牢度は、摩擦色堅牢度を測定するISO105-X12:2016に準拠して、乾燥ラビングクロスによるもの及び湿潤ラビングクロスによるものが測定される。
【0040】
破裂強度は、ISO13938-1(1999)に準拠して、Autoburst SDL-Atlas M229及び50cm2の試験表面を用いて摂氏20度及び相対湿度65%で測定される。
【0041】
色差CMC-ΔEは、ISO11664-4に準拠して測定され、1未満のΔE(参照との色差)は、良好である。
【0042】
色強度は、ISO11664-4に準拠して測定でされ、[((K/S)バッチ/(K/S))標準]×100として定義される。
【0043】
[実施例1]
30%UHMWPE繊維(55dtex SK75 140TZ)と、70%ポリエステル繊維(110dtex テクスチャーPET)とを含むダブルニット布を提供し、ポリエステル繊維は、UHMWPE繊維内層と相互接続されたトップ層である。布の面密度は、125g/m2である。
【0044】
昇華印刷では、40×40cmの表面を有する個別に温度制御される上側及び下側金属プレートを備えたヒートプレス(Collin PV400 2019)を使用する。ヒートプレスの上側プレートは、230℃の温度に加熱され、ボトムプレートは、循環クーラントで70℃の温度に維持される。ダブルニット布は、UHMWPE繊維側が70℃金属プレートに向くように配置され、印刷された転写基材は、ポリエステルトップ層上に配置された。圧力2barで60秒間にわたりプレスを閉じる。
【0045】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の布を使用する。ヒートプレスは、当業者に公知の昇華印刷のためのフラットプレスである。ヒートプレスを230℃の温度に加熱し、加えて、25℃の開始温度を有するステンレス鋼金属プレート(厚さ3mm)を感熱性UHMWPE繊維層の下に配置し、クーラントによる能動冷却を適用しない。圧力2barで60秒間にわたりプレスを閉じる。
【0046】
[結果]
【0047】
【表1】
【0048】
ボトムプレートの能動冷却が適用される実施例1に示される布の昇華印刷は、参照Aと比較した場合、良好なCMC dE及び良好な色強度を有する布をもたらすことが表1から明らかである。能動冷却を行わなかったが、ボトムプレートの開始温度が25℃であった実施例2にも同じことが言える。また、参照Bの破裂強度と比較して、実施例1及び2では、良好な破裂強度が達成される。参照A及びBは、実施例1に開示されるダブルニット布に関する。参照Aでは、布は、印刷時に冷却を行うことなく200℃で昇華印刷される。参照Bでは、布は、印刷されず、布の元の破裂強度を示す。
【0049】
[比較実験I~II]
30%UHMWPE繊維(55dtex SK75 140TZ)と、70%ポリエステル繊維(110dtex テクスチャーPET)とを含むダブルニット布を提供し、ポリエステル繊維は、UHMWPE繊維内層と相互接続されたトップ層である。布の面密度は、125g/m2である。
【0050】
昇華印刷では、ヒートプレスを使用する。
【0051】
[比較実験I]
ヒートプレスを150℃の温度に加熱する。圧力2barで60秒間にわたりプレスを閉じる。
【0052】
[比較実験II]
ヒートプレスを200度の温度に加熱し、昇華印刷時の冷却を行わなかった。
【0053】
[結果]
【0054】
【表2】
【0055】
150℃の昇華温度が色深度に著しく悪影響を及ぼすことは、表2から明らかである。しかしながら、破裂強度は、参照Bの破裂強度に匹敵する。印刷時に冷却を行わない昇華印刷の場合、色深度は、良好であるが、破裂強度は、著しく減少され、感熱性ポリマー層は、破壊される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】