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特表2023-515793誘導体化多糖類を含むイソシアネートベースの安定分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(54)【発明の名称】誘導体化多糖類を含むイソシアネートベースの安定分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/64 20060101AFI20230407BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20230407BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230407BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20230407BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20230407BHJP
   D06M 15/03 20060101ALI20230407BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20230407BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20230407BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230407BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20230407BHJP
   C09D 7/65 20180101ALN20230407BHJP
【FI】
C08G18/64 084
C08B15/06
C08G18/10
C08G18/76
C08G18/78
D06M15/03
D06M13/395
C09D175/04
C09J11/08
C09J175/04
C09D7/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549515
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2021054910
(87)【国際公開番号】W WO2021175730
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】20160622.5
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500030150
【氏名又は名称】ハンツマン・インターナショナル・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】ファノプーロス,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルダレリ,トゥーバ
【テーマコード(参考)】
4C090
4J034
4J038
4J040
4L033
【Fターム(参考)】
4C090AA03
4C090BA34
4C090BB62
4C090BB99
4C090BD02
4C090BD19
4C090CA35
4C090DA02
4C090DA05
4C090DA08
4C090DA28
4C090DA29
4J034BA03
4J034DA01
4J034DB03
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4J034DB05
4J034DF01
4J034DF02
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4J034DG23
4J034EA07
4J034EA08
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA06
4J034HA07
4J034HB05
4J034HB07
4J034HB08
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC33
4J034HC34
4J034HC35
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
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4J034JA42
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4J034KA01
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4J034KC17
4J034KC18
4J034KD02
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4J034KD04
4J034KD07
4J034KD11
4J034KD12
4J034KE01
4J034KE02
4J034QA01
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB03
4J034QB10
4J034QB14
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4J034QC05
4J034RA04
4J034RA06
4J034RA07
4J034RA08
4J034RA09
4J038BA022
4J038DG321
4J038NA26
4J040BA022
4J040EF351
4J040LA07
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA69
4L033CA02
(57)【要約】
本発明は、誘導体化多糖類の製造方法、および誘導体化多糖類を含む安定なイソシアネートベース分散液に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液の製造方法であって、
(1) 少なくとも1つの多糖類化合物を含んでいて、多糖類の総重量を基準として6重量%未満の水分含量を有する少なくとも1つの多糖類と、少なくとも種のイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体とを供給し、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とを予備反応させ、得られる組成物を、室温Trにて、あるいはTm>Trの場合にはイソシアネートベース液体の融解温度Tmにて少なくとも10分間、[多糖類化合物に由来するOH基のモル数]に対する[イソシアネート基担持化合物のモル数]が0.3~0.7の範囲となるように、好ましくは0.3~0.6の範囲となるようにミキシングして誘導体化多糖類を得る工程(誘導体化工程)と、
(2) 工程1で得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、イソシアネートベース液体中の誘導体化多糖類の量が、[誘導体化多糖類+イソシアネートベース液体]の総重量を基準として10~33重量%の範囲となるよう希釈する工程(希釈工程)と、
(3) 少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物を含むイソシアネート反応性組成物を、希釈工程後に得られた組成物に、イソシアネートベース液体の融解温度Tmより高くて120℃未満の高温で加え、少なくとも60分間ミキシングして、安定分散液の総重量を基準として5~20重量%の誘導体化多糖類をイソシアネートベース液体中に含む安定分散液を得る工程であって、前記安定分散液は6~25%の範囲のNCO値を有する工程(分散工程)と、
を少なくとも含む、上記方法。
【請求項2】
誘導体化工程、希釈工程、および分散工程が同一の反応容器中で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
誘導体化工程と希釈工程において使用されるイソシアネートベース液体が同一または異なる、請求項1~2のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項4】
希釈工程と誘導体化工程がどちらも、室温Trにて、あるいはTm>Trの場合はイソシアネートベース液体の融解温度Tmにて行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
誘導体化工程における少なくとも1つの多糖類が、少なくとも1つの多糖類と、組み合わせて使用される少なくとも1つの化合物との総重量を基準として13~57重量%の範囲、好ましくは18~42重量%の範囲、さらに好ましくは20~35重量%の範囲、最も好ましくは25~30重量%の範囲の量にて存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
誘導体化工程が、少なくともイソシアネートベース液体の融解温度Tmより高い温度にて、70℃未満の温度で、好ましくは60℃未満の温度で、さらに好ましくは50℃未満の温度で、最も好ましくは43℃未満の温度で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
誘導体化工程が、少なくとも10分間、さらに好ましくは10~70分間、さらに好ましくは20~50分間、最も好ましくは30~40分間行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
誘導体化工程において得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、イソシアネートベース液体中の誘導体化多糖類の量が、誘導体化多糖類とイソシアネートベース液体との総重量を基準として10~33重量%の範囲、好ましくは14~20重量%の範囲となるように希釈する、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
誘導体化工程において得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、希釈組成物のNCO値が、14~50%の範囲、好ましくは22~30%の範囲、さらに好ましくは23~28%の範囲となるように希釈する、請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
少なくとも1つの多糖類が、セルロース系化合物;澱粉;アガロース;アルギン酸;アルグロン酸;α-グルカン;アミロース;アミロペクチン;アラビノキシラン;β-グルカン;カロース;カプスラン(capsulan);カラギーナン;セロデキストリン;セルリン;キチン;キトサン;クリソラミナリン;カードラン;シクロデキストリン;DEAE-セファロース;デキストラン;デキストリン;α-シクロデキストリン;フィコール;フルクタン;フコイダン;ガラクトグルコマンナン;ガラクトマンナン;ジェランガム;グルカン;グルコマンナン;グリコカリックス;グリコーゲン;ヘミセルロース;ヒプロメロース;イコデキストリン;ケフィラン;ラミナリン;レンチナン;レバン;リケニン;マルトデキストリン;混合結合グルカン;粘液;天然ガム;酸化セルロース;パラミロン;ペクチン酸;ペクチン;ペンタスターチ;プルラン;ポリデキストロース;多糖類ペプチド;ポルフィラン;プルラン;シゾフィラン;セファロース;シニストリン;シゾフィラン;スガマデクス;ウェランガム;キサンタンガム;キシラン;キシログルカン;ジモサン;グリコサミノグリカン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリノイド、ヒアルロナン、ケラタン硫酸、レスチレン、ヒアルロン酸ナトリウム、およびスロデキシド等のグリコサミノグリカン類;ならびにこれらの混合物;を含む群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
少なくとも1つの多糖類が、セルロース、ナノセルロース、アートシルク、バクテリアセルロース、竹繊維、カルボキシメチルセルロース、セロデキストリン、セロファン、セルロイド、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、三酢酸セルロース、セルロソーム、コットン、クロスカロメロースナトリウム、クリスタレート、シエチルアミノエチルセルロース、溶解バルプ、エツロース(ethulose)、エチルセルロース、フィケ(fique)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、リヨセル、マーセライズドパルプ、メチルセルロース、微生物セルロース、微晶質セルロース、モダール(布地)、ニトロセルロース、パークシン、パーロイド、パルプ、紙、レーヨン、リン酸セルロースナトリウム、スーピマ、ビスコース、加硫繊維、木材繊維、およびこれらの混合物、を含む群から選択されるセルロース系化合物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
少なくとも1つの多糖類が、コーンスターチ、アミロース、アセチル化ジスターチアジペート、アミロメイズ、アミロペクチン、シクロデキストリン、デキストリン、ジアルデヒドスターチ、エリスロニウムジャポニカム、高果糖コーンシロップ、水素化スターチ加水分解物、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルジスターチホスフェート、マルチトール、マルトデキストリン、マルトース、ペンタスターチ、リン酸化リン酸ジスターチ、ポテトスターチ、スターチ、ワキシーコーン、ワキシーポテトスターチ、およびこれらの混合物、を含む群から選択される澱粉である、請求項1~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物が、2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態のメチレンジフェニルジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネートとそのオリゴマーとの混合物、あるいはウレタン基、イソシアヌレート基、アロファネート基、ビウレット基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基、及び/又はイミノオキサジアジンジオン基を有するそれらの誘導体、ならびに上記物質の混合物;トルエンジイソシアネートとそれらの異性体混合物;テトラメチルキシレンジイソシアネート;1,5-ナフタレンジイソシアネート;p-フェニレンジイソシアネート;トリジンジイソシアネート;または、これら有機ポリイソシアネートの混合物、これら有機ポリイソシアネートの1種以上と2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態のメチレンジフェニルジイソシアネートとの混合物、メチレンジフェニルジイソシアネートとそのオリゴマーとの混合物;を含む群から選択されるポリイソシアネートである、請求項1~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
多糖類誘導体が粒体の形態をとっており、このとき粒体は、D50が最大で1.0mm、好ましくは最大で200μm、さらに好ましくは最大で100μm、そして最も好ましくは最大で30μmという粒径分布を有しており、ここでD50は、粒子の50重量%が、ISO規格13320:2009に従ってD50より小さいサイズを有するという場合の粒径であると定義される、請求項1~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
少なくとも1つの多糖類中の水分が、6重量%未満、好ましくは4重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満である、請求項1~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
分散工程におけるミキシングが、少なくとも90分間、さらに好ましくは少なくとも120分間行われ、誘導体化多糖類の安定分散液が、6~25重量%の範囲の、好ましくは8~21重量%の範囲の、さらに好ましくは10~16重量%の範囲のNCO値を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
安定分散液が、安定分散液の総重量を基準として5~20重量%の、さらに好ましくは8~15重量%の、最も好ましくは約10重量%の誘導体化多糖類を含有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法に従って製造した安定分散液の、包装材料、フィルム、フォーム、複合材料、接着剤、塗料、布地、シーラント、レオロジー改質剤、ペイント、およびクロマトグラフィー充填剤における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導体化多糖類の製造方法、誘導体化多糖類をイソシアネートベースの液体中に分散状態にて含む安定分散液、および該安定分散液を使用して得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、繊維質で強靭な水不溶性の物質であって、植物の細胞壁中に含まれる。セルロースは、主として、[β]-D-グルコピラノース単位が1→4グリコシド結合で連結された多糖類である。構造的には、セルロース鎖は、結晶化時にミクロフィブリルに配列され、この際に鎖を剛性化する分子間水素結合が形成される。セルロースの様々な結晶異形態が知られている。
【0003】
ポリウレタン材料の(機械的)特性を改善するために、セルロース(および一般に多糖類)は魅力的な充填材である。しかしながら、セルロースは、イソシアネートベース液体との相溶性が悪く、セルロース材料のイソシアネートベース液体中安定分散液を作製することは極めて困難である。そのため、セルロース(多糖類)をあらかじめ誘導体化する必要がある。
【0004】
セルロースのヒドロキシル基は、多くの分子内・分子間水素結合に関与しており、一般には限定的な反応性を示す。従って、これらヒドロキシル基を化学的に誘導体化することは極めて困難である。反応性の高い分子(例えばイソシアネート等)に対しても、これらのヒドロキシル基は、全くあるいは殆ど反応性を示さない。これらセルロース系材料のもう一つの欠点は、融点が高い(通常は熱分解温度より高い)ために液相での誘導体化の可能性が制限される、ということである。
【0005】
セルロースの化学的誘導体化における従来のアプローチは、化学的及び/又は物理的に過酷な条件(化学薬品、温度、圧力、pH等)を使用してセルロースを溶解または誘導体化する、という方法である。これは、基質のバルク構造や関連する特性(結晶性等)に影響を及ぼす。現在のこれら解決策は主として、後述するように、セルロース系基質中の水素結合パターンを減少させるか又は無くすことに重点を置いている。時には、この問題は単に無視されることもある。このような場合、セルロースは、非反応性の「フィラー」として作用することになる。
【0006】
一つのアプローチは、セルロース系基質の溶解性を高め、誘導体化剤に対する適合性を良くするために基質をアルコキシル化することである。アルコキシル化は、結晶性に影響を及ぼし、コストアップに繋がり、そしてさらに環境・健康・安全(EHS)リスクを伴う。
【0007】
別の可能性は、様々な溶解度特性を有する単糖類、二糖類、及び/又はオリゴ糖類を使用することである。しかしながら、セルロース系基質のバルク特性が要求される場合(例えば複合材料)には、このような使用は幾つかの用途に限定される。
【0008】
別のアプローチは、水素結合のネットワークを壊すという方法である。
【0009】
よく用いられる方法は、セルロース系基質を、亜硫酸塩によって、あるいはアルカリ処理(苛性ソーダ、NaOH希釈液)によって、圧力容器内にて高温で化学的に蒸解する、という方法である(段階的な分解、低分子量化、結晶化度の低下)。しかしながら、水素ネットワーク中に結びついていることが多い水性媒体や残留水分は、イソシアネート化学と不適合であり、副反応を引き起こす。さらに、蒸解媒体の残留物(他えばNaカチオン及び/又はKカチオン)が放出されることがあり、イソシアネート類(例えばイソシアヌレート)との副反応を引き起こすことがある。さらに構造の段階的分解は、セルロース特性の劣化につながる。
【0010】
さらに、水素結合ネットワークは、機械的処理(例えば粉砕や微粉砕等)を用いることによって部分的もしくは完全に破壊することができ、セルロース基質を分解するために、機械的エネルギーによりミクロフィブリルが引き裂かれる。これにより分子量が低下し、非晶質の含量が高くなる。
【0011】
これとは別に、過酷な温度/圧力条件にて水蒸気爆発を使用して、セルロース系基質を分解することができる。
【0012】
特許文献1(EP2870181)は、多糖類中のヒドロキシル基を活性化して、ポリイソシアネートと反応できるようにするために、膨潤剤(溶剤)を使用して多糖類(例えばセルロース)をポリイソシアネート(例えばMDI)で誘導体化することを開示している。しかしながら、この方法には幾つかの欠点がある。特に、誘導体化プロセスの後、誘導体化された多糖類を沈殿させ、濾過し、洗浄し、高温で乾燥し、そして最後に目的とするポリウレタンプレポリマー中に分散させる必要がある。従ってこのプロセスでは、誘導体化多糖類の製造時間が長くなり、また製造コストが高くなる。
【0013】
従って、上記問題の一つ以上を解消した誘導体化多糖類の製造方法が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】EP2870181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、多糖類のイソシアネートベース液体(例えばイソシアネートプレポリマー)中安定分散液を作製するために、多糖類を誘導体化する改良されたプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
用語の意味
特に明記しない限り、技術用語および科学用語を含めて、本発明の開示の際に使用される用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味を有する。さらなるガイダンスとして、本発明の教示内容がよりよく理解できるよう、以下に用語の意味を説明する。
【0017】
(1) NCO値
本発明の文脈では、「NCO含量」という表現は、NCO値として理解されるべきであり、これは次のように定義される。すなわち、全イソシアネート基担持化合物のイソシアネート含量(NCOv)は、NCO%またはNCO含量とも呼ばれるが、重量%にて表示され、DIN53185標準に従った従来のNCO滴定によって測定される。簡単に説明すると、イソシアネートと過剰のジ-n-ブチルアミンとを反応させてウレアを生成させる。次いで未反応のアミンを標準硝酸で、ブロモクレゾールグリーン指示薬の色変化まで、または電位差滴定の終点まで滴定する。NCO%またはNCO値は、生成物中に存在するNCO基の重量%として定義される。本発明の文脈では、「NCO値」という表現は、イソシアネート価(イソシアネート含量またはNCO含量とも呼ばれる)に対応し、これはイソシアネート基担持化合物中の反応性イソシアネート(NCO)基の重量%であり、NCO基の分子量が42であるとして下記の式を用いて決定される。
「イソシアネート値」=NCO基の重量%=42×官能価/分子量×100(%)
(2) イソシアネートインデックスまたはNCOインデックスまたはインデックス
配合物中に存在するイソシアネート反応性水素原子に対するNCO基の比率であり、以下のようにパーセント値で示される。
[NCOのモル]×100/[活性水素原子のモル] (%)
つまり、NCOインデックスは、配合物中に使用されているイソシアネート反応性水素の量と反応するために理論的に必要とされるイソシアネートの量に対する、配合物中の実際に使用されるイソシアネートの割合を表す。
【0018】
留意しておかねばならないことは、本明細書で使用しているイソシアネートインデックスは、イソシアネート成分とイソシアネート反応性成分とを含んだ、ポリウレタン材料を製造する実際の重合プロセスの観点から考えられている、ということである。変性ポリイソシアネート(当業界でプレポリマーと呼ばれるイソシアネート誘導体を含む)を製造するための予備工程において消費されるイソシアネート基、または予備工程(例えば、イソシアネートと反応させて変性ポリオールや変性ポリアミンを得る)において消費される活性水素は、イソシアネートインデックスの算出には考慮されない。
【0019】
(3) イソシアネートインデックスを算出するために本明細書で使用する「イソシアネート反応性水素原子」という表現は、反応性組成物中に存在するヒドロキシル基とアミン基の活性水素原子の合計を表し、このことは、実際の重合プロセスでのイソシアネートインデックスを算出する上で、1つのヒドロキシル基が1つの反応性水素を含むと見なし、1つの第一アミン基が1つの反応性水素を含むと見なす、ということを意味する。
【0020】
(4) 本明細書では、「平均公称ヒドロキシル官能価」(要するに「官能価」)という用語は、これが、製造において使用される開始剤の数平均官能価(1分子当たりの活性水素原子の数)であると仮定して、ポリオールまたはポリオール組成物の数平均官能価(1分子当たりのヒドロキシル基の数)を示すよう使用されている(しかしながら実際には、幾らかの末端不飽和があるので若干低くなることが多い)。
【0021】
(5) 本明細書で使用する「誘導体化多糖類」、「多糖類誘導体」、「変性多糖類」、および「官能化多糖類」という用語は同義であり、互換的に使用され、イソシアネート官能化多糖類を表す。反応生成物は、種々の成分を添加する、反応させる、接触させる、または混合することによって得ることができる。
【0022】
(6) 本明細書では「プレポリマー」および「イソシアネートプレポリマー」という用語は、モノマーイソシアネートと完全に反応したポリウレタンポリマーもしくはポリウレアポリマーとの間の反応性中間体を表す。プレポリマーは、ポリウレタン結合(あるいはウレア結合)および反応性NCO基を含有するイソシアネート末端ポリマーであり、この反応性NCO基がヒドロキシル基またはアミン基とさらに反応してプレポリマーを鎖延長し、さらなる架橋を起こさせる。
【0023】
(7) 「分散液」という用語は、ある物質の分配された粒子もしくは粒体が、別の物質の連続相中に分散している系を表す。この2つの相は、同じ物質状態であっても、異なる物質状態であってもよい。本発明においては、誘導体化多糖類は、イソシアネートベース液体中に、誘導化多糖類粒子のイソシアネートベース液体中分散液として存在してよい。
【0024】
(8) 「安定な分散液」という用語は、時間が経過しても分配された粒子もしくは粒体が個々の粒子のままである、という分散液を表す。一方、不安定な分散液は、時間の経過とともに粒子もしくは粒体の凝集や沈殿が起こる。
【0025】
(9) 「剪断減粘性」という用語は、剪断歪下で粘度が減少する流体の非ニュートン挙動を表す。剪断減粘性は偽塑性挙動と同義であると考えられ、通常は、時間依存性効果(チキソトロピー等)を除いたものとして定義される。
【0026】
(10) 本明細書で使用する「室温」という用語は、15℃~35℃の温度、好ましくは18℃~25℃の範囲の温度を表す。このような温度としては、例えば、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、および25℃が挙げられる。
【0027】
(11) 「平均」とは、特に明記しない限り、「数平均」を表す。
【0028】
(12) 本明細書で使用する単数形(「a」、「an」および「the」)は、文脈が明確に指示しない限り、単数指示と複数指示の両方を含む。例えば「イソシアネート基」(an isocyaNate group)は、1つのイソシアネート基または2つ以上のイソシアネート基を意味する。
【0029】
(13) 本明細書で使用する「を含む」(comprising)、「を含む」(comprise)および「を含む」(comprised of)は、「を含む」(including)、「を含む」(includes)、「を含む」(containing)および「を含む」(contains)と同義であり、包含的で制限がなく、記載されていない追加の部材、要素、または方法工程を除外しない。言うまでもないが、本明細書で使用する「を含む」(comprising)、「を含む」(comprise)および「を含む」(comprised of)という用語は、「からなる」(consisting of)、「からなる」(consists)および「からなる(consists of)を含む。
【0030】
(14) 本出願全体を通して、「約」(about)という用語は、ある値が、その値を決定するために使用される装置や方法に対して標準偏差または誤差を含む、ということを示すために使用される。
【0031】
(15) 本明細書で使用する「重量%」(% by weight)、「重量%」(wt%)、「重量パーセント」(weight percentage)または「重量パーセント」(percentage by weight)は互換的に使用される。
【0032】
(16) 端点による数値範囲の記載は、全ての整数、および必要に応じて当該範囲内に含まれる分数を含む(例えば、1~5は、例えば要素の数を参照する場合は1、2、3、4を含んでよく、また例えば測定値を参照する場合は1.5、2、2.75、および3.80を含んでもよい)。さらに、端点の記載は端点の値自体を含む(例えば、1.0~5.0は、1.0と5.0の両方を含む)。本明細書に記載の任意の数値範囲は、その数値範囲内に包含される全ての部分的範囲を含むように意図されている。
【0033】
詳細な説明
以下の段落において、本発明のさまざまな態様をより詳細に説明する。こうして説明される各態様は、明確に反対の記載がない限り、他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された他のいかなる特徴または機能とも組み合わせることができる。
【0034】
本明細書全体を通して「一実施態様」または「ある実施態様」への言及は、該実施態様に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施態様中に含まれる、ということを意味する。従って、本明細書全体の種々の個所における「一実施態様では」(in one embodiment)や「ある実施態様では」(in an embodiment)というフレーズの出現は、必ずしも全てが同一の実施態様に言及しているわけではない(その場合もあるが)。さらに、本開示内容から当業者には明らかなことであるが、特定の特徴、構造、または特性は、1つ以上の実施態様において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0035】
さらに、本明細書に記載の幾つかの実施態様は、他の実施態様に含まれる幾つかの特徴を含む(しかしながら他の特徴は含まない)が、さまざまな実施態様の特徴の組み合わせは、本発明の範囲内であると考えられ、異なる実施態様を形成すると考えられる(当業者には言うまでもないことである)。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求されている実施態様はいずれも、任意の組み合わせにて使用することができる。
【0036】
驚くべきことに、本発明の目的の1つ以上が、本発明による1ポット多段プロセスによって達成される、ということを本発明者らは見出した。
【0037】
第1の工程では、少なくとも1つの多糖類化合物を含む少なくとも1つの多糖類と、特定量の、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体とを特定の反応条件下にて予備反応させて、誘導体化多糖類が得られるよう多糖類化合物の誘導体化を可能にすることによって、そして多糖類とイソシアネートベース液体との相溶性を改善することによって、誘導体化多糖類(官能化多糖類とも呼ばれる)を得る。この第1の工程は誘導体化工程とも呼ばれる。
【0038】
本発明による誘導体化多糖類は、ペンダントの無いイソシアネート基を含み、このイソシアネート基により、多糖類誘導体はイソシアネートベース液体に対して相溶性となり、したがって誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液を作製するのに極めて適したものとなる。
【0039】
第2の工程では、誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で撹拌条件下にて希釈して、誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中分散液を作製する。この第2の工程は希釈工程とも呼ばれる。
【0040】
第3の工程では、少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物を含む組成物を、工程2で得られた希釈多糖類誘導体に、特定の撹拌条件を使用して高温で所定時間加えて、分散液の総重量を基準として好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは8~15重量%、最も好ましくは約10重量%の誘導体化多糖類と6%~25%の範囲のNCOを有するイソシアネートプレポリマー中の誘導体化多糖類の安定分散液を得る。この工程は分散工程とも呼ばれる。得られた安定分散液は、必要に応じてイソシアネートベース液体でさらに希釈することができる。
【0041】
本発明による誘導体化多糖類の安定分散液は引き続き、他のイソシアネート反応性物質(基質、特殊化学物質、およびポリウレタン成分等)とのさらなる反応/誘導体化により、さまざまな用途で使用することができる。
【0042】
従って本発明は、少なくとも、多糖類を誘導体化して誘導体化多糖類を得る第1工程(誘導体化工程)、工程1で得られた誘導体化多糖類をさらにイソシアネートベース液体で希釈する第2工程(希釈工程)、および誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液を作製する第3工程(分散工程)を含む、多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液の製造方法を含む。誘導体化多糖類の安定分散液は、工程3においてイソシアネート反応性化合物を誘導体化多糖類に加えることによって作製されるイソシアネートプレポリマー中の、誘導体化多糖類の分散液であるのが好ましい。
【0043】
本発明の利点の1つは、多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液を作製するためのさまざまなプロセシング工程を1つの反応容器中で行うことができる(「1ポットプロセス」と呼ぶ)、という事実である。
【0044】
従って、誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液を作製するための本発明のプロセスは、少なくとも以下の工程を含む。
(1) 少なくとも1つの多糖類化合物を含んでいて、多糖類の総重量を基準として6重量%未満の、好ましくは4重量%未満の、さらに好ましくは2重量%未満の水分含量を有する少なくとも1つの多糖類と、少なくとも種のイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体とを供給し、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とを予備反応させ、得られた組成物を、室温Trにて、あるいはTm>Trの場合にはイソシアネートベース液体の融解温度Tmにて少なくとも10分間、[多糖類化合物に由来するOH基のモル数]に対する[イソシアネート基担持化合物のモル数]が0.3~0.7の範囲となるようにミキシングして誘導体化多糖類を得る工程(誘導体化工程)
(2) 工程1で得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、イソシアネートベース液体中の誘導体化多糖類の量が、[誘導体化多糖類+イソシアネートベース液体]の総重量を基準として10~33重量%の範囲となるよう希釈する工程(希釈工程)
(3) 少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物を含むイソシアネート反応性組成物を、希釈工程後に得られた組成物に、イソシアネートベース液体の融解温度Tmより高くて120℃未満の高温で加えて、6~25%の、好ましくは8~21%の、さらに好ましくは10~16%の範囲のNCO値を有する、誘導体化多糖類のイソシアネートベース液体中安定分散液を得る工程(分散工程)
【発明を実施するための形態】
【0045】
好ましい実施態様では、誘導体化工程、希釈工程、および分散工程は、同一の反応容器中で行われる。
【0046】
好ましい実施態様では、誘導体化工程と希釈工程で使用されるイソシアネートベース液体は、同一であっても異なっていてもよい。
【0047】
幾つかの実施態様によれば、希釈工程と誘導体化工程は、どちらも室温Trにて、あるいはTm>Trの場合にはイソシアネートベース液体の融解温度Tmにて行われる。
【0048】
本発明の幾つかの実施態様では、本発明のプロセスは、イソシアネートベース液体でさらに希釈する工程、及び/又は充填剤、レオロジー改質剤、殺生物剤、着色剤、触媒、可塑剤、接着促進剤、消泡剤、および安定剤(これらに限定されない)等の添加剤を加える工程などの一つ以上の追加工程含む。
【0049】
誘導体化工程
好ましい実施態様によれば、誘導体化工程の後に誘導体化多糖類が得られる。該誘導体化多糖類は、少なくとも1つの多糖類化合物と少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物との反応生成物であり、このとき[多糖類化合物に由来するOH基のモル数]に対する[イソシアネート基担持化合物のモル数]が0.3~0.7の範囲、好ましくは0.3~0.6の範囲である。
【0050】
好ましい実施態様によれば、誘導体化工程で使用される少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物は、MDI等の二官能性イソシアネート化合物であり、誘導体化工程時において、1NCO当量が多糖類の多糖類化合物中に存在する1OH当量と反応する。イソシアネート基担持化合物との反応に利用可能なヒドロキシル基の数が限られるため、二官能性イソシアネート化合物の別のNCO当量が、さらなる反応に対して利用可能(遊離状態)であると思われる。
【0051】
幾つかの実施態様によれば、誘導体化工程で使用されるイソシアネートベース液体は、5%以上の、好ましくは10%~30%の範囲の、さらに好ましくは15%~25%の範囲のNCO値を有するイソシアネートプレポリマーであってよい。
【0052】
幾つかの実施態様によれば、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とのミキシングは、少なくとも10分間、好ましくは10~70分間、さらに好ましくは20~50分間、最も好ましくは30~40分間行う。
【0053】
幾つかの実施態様によれば、本発明の誘導体化工程で使用される多糖類の水分含量は、6重量%未満、好ましくは4重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満である必要がある。多糖類は、過剰な水分を除去するために前処理が必要となる場合がある。この前処理は、多糖類を70℃~130℃の範囲の温度のオーブン中に所定時間(例えば2~3時間)置いて、水分含量を2重量%以下(多糖類の総重量を基準として)に減少させることを含む場合がある。約80℃で3時間、あるいは約120℃で1時間という条件を使用して、過剰な水分含量を除去することができる。多糖類中の過剰水分の除去は、多糖類の結晶性がほとんど変化しないままであるように行うのが好ましい。
【0054】
好ましい実施態様では、誘導体化工程における少なくとも1つの多糖類は、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とを合わせた総重量を基準として13~57重量%の範囲の量にて存在する。工程(a)における少なくとも1つの多糖類は、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とを合わせた総重量を基準として18~42重量%の範囲の量にて存在するのが好ましく、25~35重量%の範囲の量にて存在するのがさらに好ましく、20~30重量%の範囲の量にて存在するのが最も好ましい。
【0055】
本発明のプロセスの誘導体化工程は、少なくともイソシアネートベース液体の融解温度Tmより高い温度にて70℃未満の温度で行うのが好ましく、60℃未満の温度で行うのがさらに好ましく、50℃未満の温度で行うのがさらに好ましく、43℃未満の温度で行うのが最も好ましい。室温Trがイソシアネートベース液体の融解温度Tmより高い場合は、誘導体化工程は室温Trにて行う。イソシアネートベース液体の融解温度TmがTrより高い場合は、誘導体化工程は、イソシアネートベース液体の融解温度Tmにて行う。
【0056】
好ましい実施態様では、本発明のプロセスの誘導体化工程は、希釈工程の前に少なくとも30分間行う。誘導体化工程は、少なくとも1つの多糖類とイソシアネートベース液体とを、好ましくは少なくとも10分間、さらに好ましくは10~70分間、さらに好ましくは20~50分間、最も好ましくは30~40分間ミキシングすることを含む。前記の時間は、高くても50℃の温度に対する好ましい時間である。
【0057】
幾つかの実施態様によれば、本発明のプロセスによって得られる多糖類誘導体は、多糖類骨格と、カルバメート結合-O-C(=O)-NH-を介して多糖類骨格に結びついた1つ以上のペンダント基とを含む。このようなカルバメート結合は、遊離イソシアネート基-N=C=Oと多糖類骨格のヒドロキシル基との反応によって形成させることができる。
【0058】
幾つかの実施態様によれば、本発明のプロセスによって得られる多糖類誘導体は、多糖類骨格と、ウレア結合-NH-C(=O)-NH-を介して多糖類骨格に結びついた1つ以上のペンダント基とを含む。このようなウレア結合は、遊離イソシアネート基-N=C=Oと多糖類骨格のアミン基との反応によって形成させることができる。
【0059】
幾つかの実施態様によれば、本発明のプロセスによって得られる多糖類誘導体は、多糖類骨格と、アロファネート結合-NH-C(=O)-N(-C(=O)-O-)-を介して多糖類骨格に結びついた1つ以上のペンダント基とを含む。このようなアロファネート結合は、遊離イソシアネート基-N=C=Oと多糖類骨格のウレタン基との反応によって形成させることができる。
【0060】
幾つかの実施態様によれば、本発明のプロセスによって得られる多糖類誘導体は、多糖類骨格と、ビウレット結合-NH-C(=O)-N(-C(=O)-NH-)-を介して多糖類骨格に結びついた1つ以上のペンダント基とを含む。このようなビウレット結合は、遊離イソシアネート基-N=C=Oと多糖類骨格のウレア基との反応によって形成させることができる。
【0061】
幾つかの実施態様によれば、本発明のプロセスによって得られる多糖類誘導体は、カルバメート結合、ウレア結合、アロファネート結合、及び/又はビウレット結合を介して多糖類骨格に結びついたペンダント基をその骨格上に有する多糖類化合物を含む。
【0062】
多糖類骨格に結合した1つ以上のペンダント基は、少なくとも1つの遊離イソシアネート基-N=C=Oを含み、これはさらなる官能化に使用することができる。
【0063】
希釈工程
好ましい実施態様では、本発明の誘導体化工程で得られた誘導体化多糖類を、さらにイソシアネートベース液体で希釈する。希釈工程は、誘導体化多糖類とイソシアネートベース液体とを、好ましくは低速で撹拌もしくは振とうすることによりミキシングすることによって、そして好ましくは動的撹拌機もしくは静的撹拌機を使用して200~500rpm(例えば約250rpm)の速度にてミキシングすることによって行うのが好ましい。ミキシングは、3000rpm未満の速度で行うのが好ましく、2000rpm未満の速度で行うのがさらに好ましく、1000rpm未満の速度で行うのがさらに好ましい。
【0064】
幾つかの実施態様によれば、誘導体化工程と希釈工程に対して使用されるイソシアネートベース液体は、同一であっても異なっていてもよい。
【0065】
幾つかの実施態様によれば、誘導体化工程で得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、イソシアネートベース液体中の誘導体化多糖類の量が、[誘導体化多糖類+イソシアネートベース液体]の総重量を基準として10~33重量%の範囲、好ましくは14~20重量%の範囲となるように希釈する。
【0066】
幾つかの実施態様によれば、誘導体化工程で得られた誘導体化多糖類を、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物を含むイソシアネートベース液体で、希釈された組成物のNCO値が14~50%の範囲、好ましくは22~30%の範囲、さらに好ましくは23~28%の範囲となるように希釈する。
【0067】
分散工程
幾つかの実施態様によれば、分散工程は、希釈工程で得られた組成物と、少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物および必要に応じて少なくとも1つの触媒とをミキシングすることによって行う。任意の他の工程も、触媒の存在下で行うことができる。
【0068】
好ましい実施態様によれば、分散工程で使用されるイソシアネート反応性化合物は、イソシアネート反応性水素原子を有するイソシアネート反応性化合物(アミンやポリオール等)から選択される。一般的には、イソシアネート反応性化合物は、ヒドロキシル末端ポリエーテル(ポリエーテルポリオール)、ヒドロキシル末端ポリカーボネート、ヒドロキシル末端ポリエステル(ポリエステルポリオール)、またはこれらの混合物から選択される。
【0069】
幾つかの実施態様によれば、分散工程は、希釈工程で使用されるイソシアネートベース液体の融解温度Tmより高くて120℃未満である高温にて行う。温度は、イソシアネートベース液体の融解温度Tm超で120℃未満であるのが好ましく、50℃~100℃の範囲であるのがさらに好ましく、50℃~85℃の範囲であるのが最も好ましい(使用されるイソシアネート基担持化合物の種類により変わる)。イソシアネートベース液体がMDIであるときは、70℃~85℃の範囲の温度(好ましくは約80℃)が好ましい。
【0070】
幾つかの実施態様によれば、イソシアネート反応性化合物を反応容器に加える前に、反応容器を、イソシアネートベース液体中のイソシアネート基担持化合物と、添加するイソシアネート反応性化合物との予備重合に適した温度にまで加熱する。これは、希釈された多糖類誘導体を50℃~60℃に加熱すること、次いでイソシアネート反応性化合物を反応容器中に徐々に加えること、添加速度を温度が120℃を超えないように調節すること、そして必要に応じて反応容器を冷却することを含むことがある。
【0071】
幾つかの実施態様によれば、分散工程は、少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物を含むイソシアネート反応性組成物を希釈工程後に得られる組成物に加えて、6~25%の、好ましくは8~21%の、さらに好ましくは10~16%の範囲のNCO値を有するイソシアネートベース液体中の、誘導体化多糖類の安定分散液を得ることによって行う。こうして得られる安定分散液のイソシアネートベース液体は、未反応の遊離NCO基を有するイソシアネートプレポリマーとも呼ぶことができる。
【0072】
幾つかの実施態様によれば、分散工程は、少なくとも1つのイソシアネート反応性化合物を含むイソシアネート反応性組成物を希釈工程後に得られた組成物に高温にて所定時間で加え、そして少なくとも60分間、好ましくは少なくとも90分間、さらに好ましくは少なくとも120分間ミキシングすることによって行う。
【0073】
幾つかの実施態様によれば、分散工程で使用される触媒は、有機金属触媒から選択することができる。
【0074】
幾つかの実施態様によれば、触媒は、希釈された多糖類誘導体(希釈工程後に得られる混合物)の総重量を基準として少なくとも10ppmの量(例えば、少なくとも0.01重量%や少なくとも0.20重量%)にて存在してよい。
【0075】
幾つかの実施態様では、触媒は、希釈工程後に得られる混合物の総重量を基準として多くても5重量%の量にて存在してよい。
【0076】
幾つかの実施態様によれば、本発明の誘導体化多糖類を含む安定分散液は、分散された誘導体化多糖類を含んだ、剪断減粘度性挙動を有するイソシアネートプレポリマーである。
【0077】
好ましい実施態様によれば、本発明の誘導体化多糖類を含む安定分散液は、安定分散液の総重量を基準として好ましくは5~20重量%の、さらに好ましくは8~15重量%の、最も好ましくは約10重量%の分散誘導体化多糖類を含むイソシアネートプレポリマーである。この分散液は、誘導体化多糖類の重量%をより低くするために、必要に応じてイソシアネートベース液体でさらに希釈することができる。
【0078】
本発明の誘導体化多糖類の安定分散液は、複合材料、接着剤、塗料、フィラー、繊維、包装材料、フィルム、フォーム、布地、シーラント、レオロジー改質剤、ペイント、およびクロマトグラフィー充填剤(固相)等を作製するのに極めて適している。
【0079】
本発明の誘導体化多糖類を含む安定分散液(分散多糖類誘導体を含むイソシアネートプレポリマー)は、金属、プラスチック、および木材に接着するときに使用すると改善された強度を示す分散液である。木材基材及び/又はプラスチック基材を互いに接着するのに適用すると、これらの分散液は、80~100%の基材破壊を生じさせる。本発明の誘導体化多糖類を含む安定分散液(分散多糖類誘導体を含むイソシアネートプレポリマー)は、金属、プラスチック、および木材に接着するときに使用すると改善された強度を示す分散液である。木材基材及び/又はプラスチック基材を互いに接着するのに適用すると、これらの分散液は、より速い硬化を起こさせる。
【0080】
本発明による使用に適した多糖類
本明細書で使用する「多糖類」とは、グリコシド結合によって連結した少なくとも5つの単糖類モノマーサブユニットを含む化合物を表す。
【0081】
少なくとも1つの多糖類が、少なくとも10の、さらに好ましくは少なくとも20の、さらに好ましくは少なくとも50の、例えば少なくとも100の、例えば少なくとも150の、例えば少なくとも200の、例えば少なくとも500の重合度を有するのが好ましい。
【0082】
少なくとも1つの多糖類は、天然物質であっても合成物質であってもよい。少なくとも1つの多糖類は、粗製であっても精製されていてもよい。少なくとも1つの多糖類は、入手したままのものであっても、(部分的に)あらかじめ誘導体化されたものであっても、あるいは変性されたものであってもよい。少なくとも1つの多糖類は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、あるいは環状であってもよい。少なくとも1つの多糖類は、ホモ多糖類(ホモグリカンとも呼ばれる)であっても、ヘテロ多糖類(ヘテログリカンとも呼ばれる)であってもよい。
【0083】
少なくとも1つの多糖類はヘキソースベースである(すなわち、少なくとも1つの多糖類が少なくとも1つのヘキソースサブユニットを含む)のが好ましい。少なくとも1つの多糖類は、多糖類の総重量を基準として、少なくとも50重量%のヘキソースサブユニットを含むのが好ましく、少なくとも75重量%のヘキソースサブユニットを含むのがさらに好ましく、少なくとも90重量%のヘキソースサブユニットを含むのがさらに好ましい。少なくとも1つの多糖類は、環状ヘキソースをベースとするのが好ましい。
【0084】
好ましい実施態様では、少なくとも1つの多糖類は、少なくとも1つのグルコースサブユニットを含む。少なくとも1つの多糖類は、多糖類の総重量を基準として、少なくとも50重量%のグルコースサブユニットを含むのが好ましく、少なくとも75重量%のグルコースサブユニットを含むのがさらに好ましく、少なくとも90重量%のグルコースサブユニットを含むのがさらに好ましい。グルコースサブユニットは、変性グルコースサブユニット(例えば、C2位またはC3位に置換基を有するアミノグルコースサブユニット)であってもよい。
【0085】
幾つかの実施態様では、少なくとも1つの多糖類は、セルロース系化合物;澱粉(アミロース、アミロペクチン、またはこれらの混合物等);アガロース;アルギン酸;アルグロン酸;α-グルカン;アミロペクチン;アミロース;アラビノキシラン;β-グルカン;カロース;カプスラン(capsulan);カラギーナン;セロデキストリン;セルリン;キチン;キトサン;クリソラミナリン;カードラン;シクロデキストリン;DEAE-セファロース;デキストラン;デキストリン;α-シクロデキストリン;フィコール;フルクタン;フコイダン;ガラクトグルコマンナン;ガラクトマンナン;ジェランガム;グルカン;グルコマンナン;グリコカリックス;グリコーゲン;ヘミセルロース;ヒプロメロース;イコデキストリン;ケフィラン;ラミナリン;レンチナン;レバン;リケニン;マルトデキストリン;混合結合グルカン;粘液;天然ガム;酸化セルロース;パラミロン;ペクチン酸;ペクチン;ペンタスターチ;プルラン;ポリデキストロース;多糖類ペプチド;ポルフィラン;プルラン;シゾフィラン;セファロース;シニストリン;シゾフィラン;スガマデクス;ウェランガム;キサンタンガム;キシラン;キシログルカン;ジモサン;グリコサミノグリカン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリノイド、ヒアルロナン、ケラタン硫酸、レスチレン、ヒアルロン酸ナトリウム、およびスロデキシド等のグリコサミノグリカン類;ならびにこれらの混合物;を含む群から選択される。好ましい実施態様では、少なくとも1つの多糖類は、セルロース系化合物および澱粉、を含む群から選択される。
【0086】
ある実施態様では、少なくとも1つの多糖類は、コーンスターチ、アミロース、アセチル化ジスターチアジペート、アミロメイズ、アミロペクチン、シクロデキストリン、デキストリン、ジアルデヒドスターチ、エリスロニウムジャポニカム、高果糖コーンシロップ、水素化スターチ加水分解物、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルジスターチホスフェート、マルチトール、マルトデキストリン、マルトース、ペンタスターチ、リン酸化リン酸ジスターチ、ポテトスターチ、スターチ、ワキシーコーン、ワキシーポテトスターチ、およびこれらの混合物、を含む群から選択される澱粉である。
【0087】
ある実施態様では、少なくとも1つの多糖類は、セルロース、ナノセルロース、アートシルク、バクテリアセルロース、竹繊維、カルボキシメチルセルロース、セロデキストリン、セロファン、セルロイド、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、三酢酸セルロース、セルロソーム、コットン、クロスカロメロースナトリウム、クリスタレート、シエチルアミノエチルセルロース、溶解バルプ、エツロース(ethulose)、エチルセルロース、フィケ(fique)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、リヨセル、マーセライズドパルプ、メチルセルロース、微生物セルロース、微晶質セルロース、モダール(布地)、ニトロセルロース、パークシン、パーロイド、パルプ、紙、レーヨン、リン酸セルロースナトリウム、スーピマ、ビスコース、加硫繊維、木材繊維、およびこれらの混合物、を含む群から選択されるセルロース系化合物である。
【0088】
好ましい実施態様では、多糖類はセルロースである。本明細書で使用する「セルロース」とは、数百から1万を超えるβ(1→4)結合D-グルコース単位の直鎖を含む多糖類を表す。
【0089】
本発明による使用に適したイソシアネート基担持化合物
本明細書で使用する「イソシアネート基担持化合物」は、少なくとも1つのイソシアネート基-N=C=Oを含むいかなる化合物も含み、このときイソシアネート基は末端基であってよい。イソシアネート基は末端基であるのが好ましい。イソシアネート基担持化合物はポリイソシアネート化合物であるのが好ましい。使用される好適なポリイソシアネートは、一般的にはR-(NCO)の(xは少なくとも1であって、好ましくは少なくとも2であり、Rは芳香族基または芳香族/脂肪族混合基である)のタイプのアリール脂肪族ポリイソシアネート及び/又は芳香族ポリイソシアネートであってよい。Rの例としては、ジフェニルメタン、トルエン、または同様のポリイソシアネートをもたらす基などが挙げられる。
【0090】
好ましい実施態様では、イソシアネート基担持化合物はポリイソシアネートである。ポリイソシアネートによる部分的な表面架橋(セルロース鎖間の鎖内架橋および鎖間架橋)により、セルロース基質の大部分を、さらなる誘導体化から保護することができる。このようにして、セルロース主鎖のもつ結晶性で剛性の性質を、セルロース系物質のバルク特性が求められるさらなる用途(例えば複合材料)に対しても保持することができる。遊離のイソシアネート基はさらに、さらなる官能化や誘導体化に対して使用することができる。ポリイソシアネートの遊離イソシアネート基がさらに、三量化してイソシアヌレート基を形成することもある。
【0091】
好ましい実施態様では、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物は、2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態のメチレンジフェニルジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネートとそのオリゴマーとの混合物、ウレタン基、イソシアヌレート基、アロファネート基、ビウレット基、ウレトンイミン基、ウレトジオン基、及び/又はイミノオキサジアジンジオン基を有するそれらの誘導体、ならびに上記物質の混合物;トルエンジイソシアネートとそれらの異性体混合物;テトラメチルキシレンジイソシアネート;1,5-ナフタレンジイソシアネート;p-フェニレンジイソシアネート;トリジンジイソシアネート;または、これら有機ポリイソシアネートの混合物、これら有機ポリイソシアネートの1種以上と2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態のメチレンジフェニルジイソシアネートとの混合物、メチレンジフェニルジイソシアネートとそのオリゴマーとの混合物;を含む群から選択されるポリイソシアネートである。
【0092】
ある実施態様では、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物は、ポリイソシアネート(例えば、上記に示したようなポリイソシアネート)と、高分子ポリイソシアネート(いわゆるプレポリマー)を形成するイソシアネート反応性水素原子を含有する成分との反応生成物である。プレポリマーは通常、イソシアネート反応性水素原子を含有する成分であるイソシアネート反応性成分〔例えば、ヒドロキシル末端ポリエーテル(ポリエーテルポリオール)、ヒドロキシル末端ポリカーボネート、またはこれらの混合物、およびヒドロキシル末端ポリエステル(ポリエステルポリオール)等〕とポリイソシアネートとを反応させることによって製造することができる。
【0093】
好ましい実施態様では、イソシアネート基担持化合物はMDIを含む。MDIは、2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態、あるいはジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とそれらのオリゴマーとの混合物の形態であるのが好ましい。幾つかの実施態様では、MDIは、2,4’-異性体、2,2’-異性体、4,4’-異性体、およびそれらの混合物の形態、あるいはこれらのジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とそれらのオリゴマーとの混合物の形態である。幾つかの実施態様では、MDIは、2,4’-異性体の形態、あるいは2,4’-異性体とそれらのオリゴマーとの混合物の形態である。2,4’-MDI含有イソシアネートを使用すると、純粋な4,4’-MDIを使用した場合と比較して2つのセルロース鎖間の架橋がある程度阻害され、その結果、架橋がより多くなる。そのため、最初のMDIの種類を選択することにより、ペンダントイソシアネートの量と架橋の程度を調整することができる。少なくとも1つのイソシアネートは、2,4’-MDIと4,4’-MDIとの混合物であるのが好ましい。幾つかの実施態様では、ポリイソシアネートは高分子量ポリイソシアネートを含む。幾つかの実施態様では、ポリイソシアネートは、少なくとも2.5(好ましくは少なくとも2.7)の官能価を有する高官能価高分子ポリイソシアネートを含む。本明細書で使用する「官能価」とは、イソシアネート中に存在する統計的に関連する分子数に対して平均した、1分子当たりのイソシアネート基の平均数を表す。
【0094】
幾つかの実施態様では、少なくとも1つのイソシアネート基担持化合物は、高分子量メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)を含む。
【0095】
高分子量メチレンジフェニルジイソシアネートは、ピュアMDI(2,4’-、2,2’-、および4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネート)とそれらの高級同族体との任意の混合物であってよい。
【0096】
本発明による使用に適したイソシアネート反応性化合物
本発明による誘導体化多糖類のイソシアネートプレポリマー及び/又は安定分散液を作製するのに適したイソシアネート反応性化合物は、イソシアネート反応性水素原子を含有する化合物(例えばアミンやポリオール)である。一般には、イソシアネート反応性化合物は、ヒドロキシル末端ポリエーテル(ポリエーテルポリオール)、ヒドロキシル末端ポリカーボネート、ヒドロキシル末端ポリエステル(ポリエステルポリオール)、またはこれらの混合物である。好適なポリエーテルポリオールの例としては、合計で2~15の炭素原子を有するジオールまたはポリオール〔好ましくは、2~6の炭素原子を有するアルキレンオキシド(一般には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはこれらの混合物)を含むエーテルと反応する、好ましくはアルキルジオールやアルキルグリコール〕から誘導され、好ましくは少なくとも2(例えば2~6)の官能価を有するポリエーテルポリオールが挙げられるが、これらに限定されない。ヒドロキシル官能性ポリエーテルは、先ずプロピレングリコールとプロピレンオキシドとを反応させ、その後にエチレンオキシドと反応させることによって製造することができる。エチレンオキシドに起因する一級ヒドロキシル基は、二級ヒドロキシル基よりも反応性が高く、したがって好ましい。有用な市販ポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコールと反応したエチレンオキシドを含むポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコールと反応したプロピレンオキシドを含むポリ(プロピレングリコール)、およびテトラヒドロフラン(THF)と反応した水を含むポリ(テトラメチレングリコール)(PTMG)などがある。ポリエーテルポリオールはさらに、アルキレンオキシドのポリアミド付加物を含んでよく、例えば、エチレンジアミンとプロピレンオキシドとの反応生成物を含むエチレンジアミン付加物、ジエチレントリアミンとプロピレンオキシドとの反応生成物を含むジエチレントリアミン付加物、および類似のポリアミド型ポリエーテルポリオール、を含んでよい。本発明ではさらに、コポリエーテルも使用することができる。代表的なコポリエーテルとしては、グリセロールとエチレンオキシドとの反応生成物、あるいはグリセロールとプロピレンオキシドとの反応生成物がある。種々のポリエーテル中間体は一般に、末端官能基の分析による測定にて約200~約10000の、望ましくは約200~約5000の、好ましくは約200~約3000の数平均分子量(Mn)を有する。
【0097】
幾つかの実施態様によれば、シアネート反応性化合物は、末端EOポリエーテルポリオール等のポリエーテルポリオールである。好適な末端EOポリエーテルポリオールは、I-[R-(CHCHO)H]という構造を有するポリエーテルポリオールを含み、ここでxは1以上の整数であり、pは1から100の間で変わる数であり、Iは開始剤であり、Rは一連のエポキシドを表していて、(CHCHO)H基は、エーテル結合を介してRに結合している。開始剤Iは、アルコール、アミン、多価アルコール、ポリアミン、または1つ以上のアルコール基と1つ以上のアミン基を含む成分であってよい。
【0098】
本発明によるプロセスにおいて使用するのに適した触媒
幾つかの実施態様によれば、イソシアネー基担持化合物とイソシアネート反応性化合物との予備重合を触媒してイソシアネートプレポリマーを製造するために、分散工程において触媒を使用することができる。ポリウレタン材料を製造する上で当業者に公知の任意の触媒を使用することができる。
【0099】
幾つかの実施態様によれば、触媒は有機金属触媒であってよい。これらの実施態様では、触媒は、錫、鉄、鉛、ビスマス、水銀、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびこれらの組み合わせ、を含む群から選択される元素を含んでいる。特定の実施態様では、触媒はスズ触媒を含む。本発明に目的に適う適切なスズ触媒は、有機カルボン酸の錫(II)塩〔例えば酢酸錫(II)、オクタン酸錫(II)、エチルヘキサン酸錫(II)、およびラウリン酸錫(II)〕から選択することができる。ある実施態様では、有機金属触媒は、有機カルボン酸のジアルキル錫(II)塩であるジブチル錫ジラウレートを含む。有機金属触媒はさらに、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫マレエート、およびジオクチル錫ジアセテート等の、他の有機カルボン酸ジアルキル錫(II)塩を含んでよい。本発明の目的に適う適切な有機金属触媒の特定の例(例えばジブチル錫ジラウレート)は、エアー・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社からDABCO(登録商標)の商品名で市販されている。本発明に従った好ましい触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジアセテート、およびオクタン酸錫である。
【0100】
他の適切な触媒の例は、塩化鉄(II);塩化亜鉛;オクタン酸鉛;トリス(N.N-ジメチルアミノプロピル)-s-ヘキサヒドロトリアジンを含むトリス(ジアルキルアミノアルキル)-s-ヘキサヒドロトリアジン;水酸化テトラメチルアンモニウムを含む水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを含むアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシドとカリウムイソプロポキシドを含むアルカリ金属アルコキシド;10~20個の炭素原子及び/又はOH側基を有する長鎖脂肪酸のアルカリ金属塩;トリエチルアミン;N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン;N,N-ジメチルアミノプロピルアミン;N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジプロピレントリアミン;トリス(ジメチルアミノプロピル)アミン;N,N-ジメチルピペラジン;テトラメチルイミノ-ビス(プロピルアミン);ジメチルベンジルアミン;トリメチルアミン;トリエタノールアミン;N,N-ジエチルエタノールアミン;N-メチルピロリドン;N-メチルモルホリン;N-エチルモルホリン;ビス(2-ジメチルアミノ-エチル)エーテル;N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(DMCHA);N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン;1,2-ジメチルイミダゾール;3-(ジメチルアミノ)プロピルイミダゾール;N,N,N-ジメチルアミノプロピルヘキサヒドロトリアジン;酢酸カリウム;N,N,N-トリメチルイソプロピルアミン/ホルメート;およびこれらの組み合わせ;を含む群から選択することができる。
【0101】
本発明による誘導体化多糖類および本発明のプロセスによって得られる誘導体化多糖類を含む安定分散液は、包装材料、フィルム、フォーム、複合材料、接着剤、塗料、布地、シーラント、レオロジー改質剤、ペイント、およびクロマトグラフィー充填剤(固相)等において使用することができる。
【0102】
好ましい実施態様では、本発明の誘導体化多糖類は、そのようなものとして、あるいは本発明の安定分散液中に存在するものとして粒体の形態をとっており、このとき粒体は、D50が最大で1.0mm、好ましくは最大で200ミクロン(μm)、最も好ましくは最大で30ミクロン(μm)という粒径分布を有しており、ここでD50は、粒子の50重量%が30ミクロン(μm)より小さいサイズを有する粒径であると定義される。例えばD50(及び/又はD90もしくはD95)は、ふるい分け、BET表面測定、またはレーザー回折分析により、例えばISO規格13320:2009に従って測定することができる。
【0103】
好ましい実施態様では、本発明の誘導体化多糖類は、そのようなものとして、あるいは本発明の安定分散液中に存在するものとして糸または繊維の形態をとっており、最大で2000デニールの、好ましくは5~2000デニールの、好ましくは5~500デニールの、そして最も好ましい実施態様では5~200デニールの線質量密度を有する。
【0104】
好ましい実施態様では、本発明の誘導体化多糖類は、そのようなものとして、あるいは本発明の安定分散液中に存在するものとして布地または布帛の形態をとっており、このとき布地または布帛は、織られていてもよいし、織られていなくてもよい。少なくとも1つの多糖類の結晶化度指数(CI)は、少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%であってよい。
【実施例
【0105】
以下に記載の例は、本発明の実施態様に従ったプロセスと多糖類誘導体の特性を説明する。特に明記しない限り、以下の例ならびに本明細書全体における部およびパーセント値は全て、それぞれ重量部および重量%である。
【0106】
化学物質
SUPRASEC(登録商標)2020(S2020)は、Huntsman社から市販の、NCO値が29.5%で官能価(f)が2.11のウレトンイミン変性MDIであり、そのまま使用した。
【0107】
SUPRASEC2144(S2144)は、NCO値が15.2%のMDIプレポリマーである。
【0108】
SUPRASEC(登録商標)3050(S3050)は、Huntsman社から市販の、NCO値が33.6%で官能価(f)が2である、4,4’-MDIと2,4’-MDIとの混合物であり、そのまま使用した。
【0109】
ARBOCELL(登録商標)BE600/30は、J. Rettenmair & Sohne(JRS)社から市販の、平均繊維長が30μmの高純度白色α-セルロース繊維であり、乾燥してから使用した。
【0110】
Avicel(登録商標)は、平均繊維長が50μmの微晶質セルロースであり、乾燥してから使用した。
【0111】
DALTOCELL(登録商標)F456(F456)は、Huntsman社から市販の、ヒドロキシル価が56mgKOH/gでfが2のポリエーテルポリオールであり、乾燥してから使用した。
【0112】
Rathburn社から市販の、HPLCグレードのアセトニトリル(AN)をそのまま使用した。
【0113】
Sigma-Aldrich社から市販の、無水グレードのDMSO(ジメチルスルホキシド)をそのまま使用した。
【0114】
方法
実施例では下記の方法を使用した。
【0115】
FT-IR分析(ATRモード)を使用して、ウレタン結合伸縮モードとイソシアネート結合伸縮モードを同定した。
【0116】
本発明による実施例1(MDI誘導体化セルロース含有プレポリマー)
α-セルロース(ARBOCEL BE600-30)を減圧下にて80℃で3時間乾燥して、セルロース中の水分含量を6.6重量%から2重量%(セルロースの総重量を基準として)に減少させた。乾燥セルロース100gを反応フラスコ中に秤量し、引き続きSUPRASEC2020(S2020)280gを、窒素雰囲気下にて反応フラスコに加えた。このスラリーを、150rpmにて室温(20℃)で40分撹拌して、誘導体化セルロースを得た。ここで得られた混合物は、誘導体化セルロース固形分のS2020中26重量%分散液である。
【0117】
40分後、誘導体化セルロースに233gのS2020を追加した(分散液中の固形分16重量%)。これにより、約16重量%の誘導体化セルロース固形分のS2020中混合物が得られる。
【0118】
次いでこの混合物を78℃±1.5℃に加熱し、乾燥したDALTOCELL F456を滴下ロートにより加えながら連続的に撹拌した。次いで約12%のNCO値を有するイソシアネートプレポリマーが得られるまで(DIN53185に従った滴定により測定)、反応混合物をミキシングしたまま放置した。誘導体化セルロースを分散液中の固体として10重量%含有する安定分散液が得られ、24時間後でも顕著な沈降は見られなかった。
【0119】
混合物から濾別し、アセトニトリルで洗浄し、そして乾燥したセルロースに対するFT-IR分析(AIRモードにて)により、ウレタンのピーク(1730cm-1)とイソシアネートのピーク(2240cm-1)が確認された。
【0120】
比較例1
微晶質セルロース(Avicel)を減圧下にて60℃で12時間乾燥して、セルロース中の水分含量を6.6重量%から2重量%(セルロースの総重量を基準として)に減少させた。乾燥セルロース40gを反応フラスコ中に秤量し、引き続き無水ジメチルスルホキシド(溶媒)を加え、本混合物(溶媒中20%セルロース)を室温で1時間撹拌した。窒素雰囲気下にて30分激しく撹拌しながら、56gのイソシアネートS3050(4,4’-MDI50%と2,4’-MDI50%の混合物)を反応フラスコに加えた(OH1モル当たりMDI0.3モル)。セルロースを濾別し、乾燥アセトニトリルで洗浄した。次いで減圧乾燥した。FT-IR分析により、ウレタンのピーク(1730cm-1)とイソシアネートのピーク(2240cm-1)が確認された。
【0121】
上記のように作製した誘導体化セルロースをSUPRASEC2144(MDIプレポリマー)中に、3000rpmで4時間高せん断混合することによって分散させた。誘導体化セルロースを分散液中の固体として10重量%含有する安定分散液が得られ、24時間後でも顕著な沈降は見られなかった。
【0122】
比較例2
α-セルロース(ARBOCEL BE600-30)を減圧下にて80℃で3時間乾燥して、セルロース中の水分含量を6.6重量%から2重量%(セルロースの総重量を基準として)に減少させた。乾燥セルロース100gを反応フラスコ中に秤量し、引き続きSUPRASEC2020(S2020)513gを窒素雰囲気下にて反応フラスコ中に加えた。これにより、約16重量%のセルロース固形分のS2020中混合物が得られる。この混合物を78℃±1.5℃に加熱し、乾燥したDALTOCELL F456を滴下ロートにより加えながら連続的に撹拌した。次いで約12%のNCO値を有するイソシアネートプレポリマーが得られるまで(DIN53185に従った滴定により測定)、反応混合物をミキシングしたまま放置した。セルロースを混合物中の固体として10重量%含有する混合物が得られ、本混合物は安定ではなく、24時間後に沈降が見られた。
【0123】
混合物から濾別し、アセトニトリルで洗浄し、そして乾燥したセルロースに対するFT-IR分析(AIRモードにて)によれば、ウレタンのピーク(1730cm-1)とイソシアネートのピーク(2240cm-1)は確認されなかった。
【0124】
比較例3
α-セルロース(ARBOCEL BE600-30)を減圧下にて80℃で3時間乾燥して、セルロース中の水分含量を6.6重量%から2重量%(セルロースの総重量を基準として)に減少させた。乾燥セルロース100gを反応フラスコ中に秤量し、引き続きSUPRASEC2020(S2020)443gを窒素雰囲気下にて反応フラスコ中に加えた。このスラリーを、150rpmにて室温(20℃)で40分間撹拌した。得られた混合物は、S2020中セルロース固形分18.4重量%の混合物である。
【0125】
40分後、誘導体化セルロースに70gのS2020を追加した。これにより、S2020中セルロース固形分約16重量%の混合物が得られる。本混合物を78℃±1.5℃に加熱し、乾燥DALTOCEL F456を滴下ロートで添加しながら連続的にミキシングした。約12%のNCO値を有するイソシアネートプレポリマーが得られるまで(DIN53185に従った滴定により測定)、反応混合物をミキシングしたまま放置した。セルロースを固形分として10重量%含有する混合物が得られたが、本混合物は安定ではなく、24時間後に沈降が見られた。
【0126】
混合物から濾別し、アセトニトリルで洗浄し、そして乾燥したセルロースに対するFT-IR分析(AIRモードにて)によれば、ウレタンのピーク(1730cm-1)とイソシアネートのピーク(2240cm-1)は確認されなかった。
【0127】
応用例
以下の実施例は、本発明に従って製造した誘導体化多糖類を含有する安定分散液は、ラップジョイントに適用した場合に、接着剤としての使用に極めて適している、ということを示している。
【0128】
以下の実施例は、本発明に従って製造した誘導体化多糖類を含有する安定分散液と、誘導体化多糖類を含有しない同等のイソシアネートプレポリマーとを比較している。
【0129】
ラップジョイントの作製
実施例1で得られた安定分散液を、ブナ材支持体の調整済み表面に、0.032g/cm2(樹脂量0.2g)の塗布量ではけ塗りして0.1mm厚の接着剤ラインをつくり出し、接着剤を含まない支持体と対にして本発明によるラップジョイントを作製した。分散された多糖類を含まない実施例1からのプレポリマー(プレポリマーS2144と呼ばれる)を塗布することによって、比較用のラップジョイントを作製した。各支持体シリーズは、6つのラップジョイントで構成された。
【0130】
次いで、ラップジョイントの機械的特性を試験した(せん断強度試験)。ブナ材のラッブジョイントの最大破断荷重を、各プレポリマーに対して比較した。このデータから、本発明のラップジョイントに対するラップせん断強度は、比較用のラップジョイントより100%高い、と結論付けることができる。
【0131】
これらの結果から、本発明の誘導体化多糖類を含む安定分散液から造られた接着剤は木材よりも強固であり、その結果、支持体の破損が起こる、ということがわかった。
【0132】
要約すれば、これらの結果は、セルロースを含まないプレポリマーと比較して、機械的特性が著しく向上していることを示している。
【国際調査報告】