(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-14
(54)【発明の名称】切替え可能な光フィルタとその使用
(51)【国際特許分類】
G02F 1/13 20060101AFI20230407BHJP
F21V 9/14 20060101ALI20230407BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20230407BHJP
【FI】
G02F1/13 505
F21V9/14
F21S2/00 411
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552362
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2021076471
(87)【国際公開番号】W WO2022069397
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】102020006110.9
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021112947.8
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516243364
【氏名又は名称】ジオプティカ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】SIOPTICA GMBH
【住所又は居所原語表記】Moritz-von-Rohr-Strasse 1a, 07745 Jena, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ ヘーベル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ブレグラ
(72)【発明者】
【氏名】ヤニク ブルジャン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス クリップシュタイン
【テーマコード(参考)】
2H088
3K244
【Fターム(参考)】
2H088EA45
2H088GA13
2H088HA18
2H088JA05
2H088JA10
3K244AA01
3K244BA16
3K244BA48
3K244CA02
3K244GA03
3K244LA05
(57)【要約】
本発明は、追加的に偏光フィルタ(P)及び/又は光の偏光特性を変化させるその他の手段、例えば液晶層(3)を有する、切替え可能な光フィルタ(5)の種々の実施形態において種々の構成で使用できる光学素子(1)に関する。切替え可能な光フィルタ(5)と画像表示ユニットの組み合わせにより、オン/オフ可能な覗き見防止効果が可能になる。光学素子(1)は、第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を含み、各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料からなる。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、選択可能な選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、光学素子に入射する光は、層(S1、S2、 ...)に対する光の入射方向及びその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収される。
【選択図】
図2b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切替え可能な光フィルタ(5)であって、
- 第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を含む、第1光学素子(1)であって、
各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、
各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、前記第1光学素子(1)について選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、
前記第1光学素子(1)に入射する光が、前記層(S1、S2、 ...)に対する入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収される、
第1光学素子(1)と、
- 入射方向からみて前記第1光学素子(1)の前方又は後方に配置された偏光フィルタ(P)と、
- 第1電界(EF1)又は第2電界(EF2)を選択的に発生させる手段と、
- 前記第1光学素子(1)と前記偏光フィルタ(P)との間に配置された液晶層(3)であって、前記第1電界(EF1)又は前記第2電界(EF2)が前記液晶層(3)に作用することで、それに応じて通過する光の前記偏光状態に影響を与える液晶層(3)と、
を有し、その結果として、
- 前記第1電界(EF1)が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、前記第1の選好方向に平行に前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、前記第1の選好方向に対して30度以上の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収され、この吸収は、前記第1サブモードB1Hでは第1の方向においてのみ行われ、前記第2サブモードB1Vでは前記第1の方向に垂直な第2の方向においてのみ行われ、
- 前記第2電界(EF2)が印加され、前記第1サブモードB1Hと前記第2サブモードB1Vを有する第2動作モードB2において、前記第1の選好方向に平行に前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、前記第1の選好方向に対して30度以上の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収され、この吸収は、前記第1サブモードB1Hでは前記第2の方向においてのみ行われ、前記第2サブモードB1Vでは前記第1の方向に垂直な前記第2の方向においてのみ行われ、その結果として両サブモードB1H、B1Vの各々の吸収方向は、前記第1動作モードB1と前記第2動作モードB2に対してそれぞれ90度異なる、切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項2】
切替え可能な光フィルタ(5)であって、
- 第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を含む、第1光学素子(1)であって、
各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、
各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、前記第1光学素子(1)について選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、
前記第1光学素子(1)に入射する光が、前記層(S1、S2、 ...)に対する入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収され、
各層(S1、S2、 ...)の前記遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさを前記第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層(S1、S2、 ...)を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができる、
第1光学素子(1)と、
- 前記第1光学素子(1)の前方又は後方に配置された偏光フィルタ(P)と、
- 第1電界(EF1)又は第2電界(EF2)を選択的に発生させる手段であって、前記第1光学素子(1)について前記第1電界(EF1)を印加することにより前記第1の状態が発生し、前記第2電界(EF2)を印加することにより前記第2の状態が発生する、手段と、
を有し、その結果として、
- 前記第1電界(EF1)が印加されて前記第1光学素子(1)の前記層(S1、S2、 ...)の前記遷移双極子モーメントが前記第1の選好方向に沿って配向している、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、前記第1の選好方向に平行に前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、前記第1の選好方向に対して30度以上の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収され、この吸収は、前記第1サブモードB1Hでは第1の方向においてのみ行われ、前記第2サブモードB1Vでは前記第1の方向に垂直な第2の方向においてのみ行われ、
- 前記第2電界(EF2)が印加されて前記第1光学素子(1)の前記層(S1、S2、 ...)の前記遷移双極子モーメントが前記偏光フィルタ(P)の表面に平行に、且つ前記偏光フィルタ(P)の透過方向に垂直に配向している第2動作モードB3において、前記第1の選好方向対して任意の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する、切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項3】
切替え可能な光フィルタ(5)であって、
- 第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を、それぞれが含む第1光学素子(1)と第2光学素子(2)の両光学素子であって、
各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、
各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、前記第1光学素子(1)については選択可能な第1の選好方向に対して、及び前記第2光学素子(2)については選択可能な第2の選好方向に対して、最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、
前記第1光学素子(1)又は前記第2光学素子(2)に入射する光が、前記層(S1、S2、 ...)に対する入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収され、
前記遷移双極子モーメントの前記第1の選好方向と前記第2の選好方向は、互いに40°未満異なっている、
第1光学素子(1)及び第2光学素子(2)と、
- 前記第1光学素子(1)と前記第2光学素子(2)との間に配置された液晶層(3)であって、第1電界(EF1)又は第2電界(EF2)が前記液晶層(3)に作用することで、それに応じて通過する光の偏光状態に影響を与える液晶層(3)と、
- 前記第1電界(EF1)又は前記第2電界(EF2)を選択的に発生させる手段と、
を有し、
- 選択的に、前記両光学素子(1、2)の上方又は下方に配置された偏光フィルタ(P)を有し、又は偏光フィルタ(P)を有さず、その結果として、
- 偏光フィルタ(P)が存在する場合には、前記第1電界(EF1)が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、前記第1の選好方向又は前記第2の選好方向に平行に前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、対応する選好方向に対して30度以上の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収され、この吸収は、前記第1サブモードB1Hでは第1の方向においてのみ行われ、前記第2サブモードB1Vでは前記第1の方向に垂直な第2の方向においてのみ行われ、前記第1の方向又は前記第2の方向のいずれかは前記偏光フィルタ(P)の偏光方向に垂直であり、
- 又は、偏光フィルタ(P)がない場合には、前記第1電界(EF1)が印加される第1動作モードB1において、前記切替え可能な光フィルタ(5)に任意の角度で入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過し、
- 前記第2電界(EF2)が印加される第2動作モードB2においては前記偏光フィルタ(P)の存在に関係なく、前記第1の選好方向又は前記第2の選好方向に平行に前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、対応する選好方向に対して30度以上の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収される、切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項4】
切替え可能な光フィルタ(5)であって、
- 第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を、それぞれが含む第1光学素子(1)と第2光学素子(2)の両光学素子であって、
各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、
各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、前記第1光学素子(1)については選択可能な第1の選好方向に対して、及び前記第2光学素子(2)については選択可能な第2の選好方向に対して、最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、
前記第1光学素子(1)又は前記第2光学素子(2)に入射する光が、前記層(S1、S2、 ...)に対する入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収され、
各層(S1、S2、 ...)の前記遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさを前記第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層(S1、S2、 ...)を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができる、
第1光学素子(1)及び第2光学素子(2)と、
- 第1電界(EF1)又は第2電界(EF2)を選択的に発生させる手段であって、前記両光学素子(1、2)の各々について前記第1電界(EF1)を印加することにより前記第1の状態が発生し、前記第2電界(EF2)を印加することにより前記第2の状態が発生する、手段と、
- 前記両光学素子(1、2)の間に配置された光学異方性層(7)であって、前記光学異方性層(7)を通過する光の偏光方向を90度回転させる光学異方性層(7)と、
を有し、
- 選択的に、前記両光学素子(1、2)の上方又は下方に配置された偏光フィルタ(P)を有し、又は偏光フィルタ(P)を有さず、その結果として、
- 前記第1電界(EF1)が印加される第1動作モードB1において、前記切替え可能な光フィルタ(5)に対して任意の角度で前記切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過し、前記第1動作モードB1において前記両光学素子(1、2)の前記遷移双極子モーメントは互いに垂直に配向しており、偏光フィルタ(P)が存在する場合は、前記偏光フィルタ(P)の偏光フィルタ遷移双極子要素は前記偏光フィルタ(P)に最も近い切替え可能な光学素子(1、2)の前記遷移双極子モーメントに平行に配向しており、
- 前記第2電界(EF2)が印加される第2動作モードB2において、前記第1の選好方向又は前記第2の選好方向に平行に切替え可能な導光体(5)に入射する非偏光の光の少なくとも24%が透過する一方で、対応する選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な導光体(5)に入射する非偏光の光の少なくとも85%が吸収され、前記第2動作モードB2において、偏光フィルタ(P)が存在する場合、その遷移双極子モーメントと、当該偏光フィルタ(P)に最も近い切替え可能な光学素子(1、2)の遷移双極子モーメントは、互いに垂直に配向し、前記両光学素子(1、2)の前記遷移双極子モーメントはそれぞれ互いに平行に配向している、切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項5】
前記液晶層(3)の前方及び/又は後方に少なくとも1つの偏光補償層が配置されていることを特徴とする、請求項1又は3に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項6】
前記選好方向は、それぞれ第1層(S1)の表面法線に対して0度~45度の角度をなしていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項7】
前記切替え可能な光フィルタ(5)は、複数の別個に切替え可能なセグメントに分割されており、それぞれ可能な動作状態間で局所的な切替えが可能にされることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項8】
前記第1光学素子(1)及び/又は存在する場合は前記第2光学素子(2)の各層(S1、S2、 ...)が、その構造において非周期的に構成されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の切替え可能な光フィルタ(5)と、観視者からみて前記切替え可能な光フィルタ(5)の後方又は前方に設けられた画像表示ユニットとを含む画面。
【請求項10】
光学素子であって、
- 第1層(S1)、又は第1層(S1)と複数の別の層(S2、 ...)を含み、
- 各層(S1、S2、 ...)は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、
- 各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、
- その結果として、前記光学素子に入射する光は、前記層(S1、S2、 ...)に対する入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収される、光学素子。
【請求項11】
前記選好方向は、それぞれ第1層(S1)の表面法線に対して0度~45度の角度をなしていることを特徴とする、請求項10に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項12】
各層(S1、S2、 ...)は、その構造において非周期的に構成されていることを特徴とする、請求項10又は11に記載の切替え可能な光フィルタ(5)。
【請求項13】
各遷移双極子モーメントが、それぞれの選好方向で当該選好方向を中心に最大10度の公差内で配向していることを特徴とする、請求項10から12のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項14】
少なくとも2つのそのような選好方向は、選択可能な平面内で10度以上異なることを特徴とする、請求項10から13のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項15】
各層(S1、S2、 ...)の前記遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさを第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができることを特徴とする、請求項10から14のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項16】
第1の状態と少なくとも第2の状態との間で別個に切替え可能な複数のセグメントに分割されていることを特徴とする、請求項15に記載の光学素子。
【請求項17】
前記遷移双極子モーメントのそれぞれの選好方向は、それぞれの層(S1、S2、 ...)におけるその位置に応じて選択可能であることを特徴とする、請求項10から16までのいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項18】
各層(S1、S2、 ...)は、それぞれの層(S1、S2、 ...)上の選択可能な基準線に沿って種々の領域(A1、A2、 ...)に分割されており、各領域(A1、A2、 ...)に対して固有の領域選好方向が選択可能であり、この領域選好方向は領域(A1、A2、 ...)内にある対応する層(S1、S2、 ...)のすべての前記遷移双極子モーメントに該当し、すべての領域選好方向は1対ずつ互いに異なり、最大±10度の公差で観視者(3)の方向を向いていることを特徴とする、請求項10から17までのいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項19】
前記材料が少なくとも1種類の色素、好ましくは二色性色素混合物を含むことを特徴とする、請求項10から18のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項20】
前記材料が液晶を含むことを特徴とする、請求項10から19のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項21】
高分子フィルム偏光板の層の積層体として形成されていることを特徴とする、請求項10から20のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項22】
自由な観視モードのための動作モードB1と制限された観視モードのための動作モードB2の少なくとも2つの動作モードで操作できる画面のための照明装置であって、
- 請求項11から22のいずれか一項に記載の光学素子を含んで光を放射する、平面状に拡張されたバックライトと、
- 観視方向でバックライトの前にある、少なくとも1つの大表面上及び/又はその体積内に出力要素を有する板状の導光体と、この導光体はバックライトから出る光に対して少なくとも40%透明であり、
- 導光体の少なくとも1つの狭幅側に横方向に配置された光源と、
- 観視方向でバックライトの前又は導光体の前に配置された直線偏光フィルタと、この直線偏光フィルタによってバックライトから出て偏光フィルタを通過する光がその伝搬方向を制限され、
- 動作モードB2ではバックライトがオン、光源がオフにされており、動作モードB1では少なくとも光源がオンにされていることを特徴とする照明装置。
【請求項23】
導光体は、バックライトから出る光に対して少なくとも70%透明であることを特徴とする、請求項22に記載の照明装置。
【請求項24】
自由な観視モードのための動作モードB1と制限された観視モードのための動作モードB2の少なくとも2つの動作モードで操作できる画面であって
- 請求項11から22のいずれか一項に記載の光学素子を含んで光を放射する平面状に拡張されたバックライトと、
- 観視方向でバックライトの前にある、少なくとも1つの大表面上及び/又はその体積内に出力要素を有する板状の導光体と、この導光体はバックライトから出る光に対して少なくとも40%透明であり、
- 導光体の少なくとも1つの狭幅側に横方向に配置された光源と、
- 観視方向でバックライトの前又は導光体の前に配置された直線偏光フィルタと、この直線偏光フィルタによってバックライトから出て偏光フィルタを通過する光がその伝搬方向を制限され、
- 観視方向で導光体の前に配置された透過型画像表示ユニットと、この画像表示ユニット内に直線偏光フィルタが配置されており、
- 動作モードB2ではバックライトがオン、光源がオフにされており、動作モードB1では少なくとも光源がオンにされていることを特徴とする画面。
【請求項25】
導光体は、バックライトから出る光に対して少なくとも70%透明であることを特徴とする、請求項24に記載の画面。
【請求項26】
直線偏光フィルタは、透過型画像表示ユニット内に配置されているか、又はその一部であることを特徴とする、請求項24又は25に記載の表示画面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
近年、LCD(液晶ディスプレイ)の視野角の拡大が著しく進歩した。
【0002】
しかしながら、このように画面の視野領域が非常に大きいことが欠点となり得る状況がしばしばある。また、ノートパソコンや携帯電話、タブレットPCなどのモバイル端末で、銀行データ又はその他の個人情報や機密データなどの情報をますます利用できるようになっている。それに応じてこれらの機密データを見ることができる人間をコントロールする必要がある。例えば休暇の写真を見るときや、宣伝目的にもディスプレイ上の情報を他人と共有するために広い視野角を選択しなければならない。他方、画像情報を機密に扱おうとする場合は、非公開モードでの小さい視野角が必要となる。
【0003】
車の製造でも類似の問題がある。運転手はエンジンがかかっている間はデジタルエンターテインメントプログラムなどの画像内容に気を取られてはならないが、同乗者は運転中もそれらを楽しみたいと思う。したがって相応の表示モードを切り替えることのできる画面が必要になる。
【0004】
既に携帯用ディスプレイではその覗き見防止を達成するために、マイクロルーバーを用いた追加フィルムが使用された。しかしながらこれらのフィルムは切替え不可能であり、必ず最初に手で装着してから、再び取り外す必要があった。また、必要のないときでもディスプレイと別に持ち運ばなければならない。さらに、このようなルーバーフィルムの使用は、光の損失という重大な欠点を伴う。
【0005】
米国特許出願US6765550B2号には、マイクロルーバーによるそのような覗き見防止が記載されている。ここでの最大の欠点は、フィルタの機械的な脱着と保護モードでの光の損失である。
【0006】
米国特許出願US5993940A号には、非公開モード、即ち視野角範囲が狭い制限された観視モードを実現するために、表面に等間隔に配置された小さい帯状のプリズムを有するフィルムの使用が記載されている。その開発及び製造は技術的にかなり手間がかかる。
【0007】
国際特許出願WO2012/033583A1号では、自由な観視と制限された観視の切り替えが、いわゆる「クロモニック」層間で液晶を操作することにより形成されている。この場合、光の損失が発生し、技術的コストもかなり高い。
【0008】
米国特許出願US2012/0235891A1号には、画面内の非常に複雑なバックライトが記載されている。ここでは
図1、
図15によると、複数の導光体が使用されるだけでなく、マイクロレンズ素子40やプリズム構造50など、バックライトからフロントライトに向かう途中で光を変換する別の複雑な光学素子も使用されている。これを実現するのは高価で技術的に複雑であり、光の損失も伴う。米国特許出願US2012/0235891A1号の
図17に示す変形例によれば、両光源4R及び18は狭い照射角の光を生成し、それによって後方の光源18からの光は複雑なプロセスで大きい照明角の光に変換される。この複雑な変換は、既に述べたように、強い明度低下をもたらす。
【0009】
日本国特許出願JP2007-155783A号によれば、計算及び製造が複雑な特殊な光学面19が使用されて、光を光入射角に応じて種々の狭い又は広い領域に偏向させる。これらの構造は、フレネルレンズに類似している。さらに、光を望ましくない方向に偏向させる干渉縞が存在する。そのため、本当に理にかなった光分布が実現できるかは不明なままである。
【0010】
米国特許出願US2013/0308185A1号には、狭幅側から照射される方向に応じて、光を大表面上で種々の方向に放射する、段を備えて形成された特殊な導光体が記載されている。液晶ディスプレイなどの透過型画像表示ユニットと組み合わせると、自由な観視モードと制限された観視モードの間で切り替えることが可能な画面を形成できる。この場合の欠点は、視野制限効果を左右又は上下のどちらか一方にしか発生させることができず、例えば特定の決済処理に必要なように左右上下に同時に発生させることはできない点である。加えて、制限された観視モードでも遮断された視野角からなおも残光が見える。
【0011】
本出願人の国際特許出願WO2015/121398A1号には、2つの動作モードを有する画面が記載されており、動作モードを切り替えるために、相応の導光体の体積中に散乱粒子が存在する。しかしながらそこで選択されたポリマーからなる散乱粒子は、一般に光が両大表面から出力され、それによって有効光の約半分が誤った方向、即ちバックライトに向かって放射され、構造上そこで十分に戻すことができないという欠点がある。さらに、導光体の体積中に分布するポリマーからなる散乱粒子は、特定の状況で、特に高濃度の場合に、保護された動作モードでの覗き見防止効果を低下させる散乱効果につながることがある。
【0012】
電気二重屈折(EDB)技術の方策は、特定の放射角度で結像層から出射しないすべての光線を「フィルタリング」するために、追加的に塗布された液晶パネルの切替え可能液晶を利用するという着想に基づいている。この技術の欠点は、追加のエネルギーとコストが多大で、±40度のスイートスポット、即ち最適な視線位置が変更しにくいことである。また、液晶構造の吸収係数も不十分である。なぜならスイートスポットより大きい視野角に対する光強度の減衰が再び上昇するからであり、±40度より大きい視野角に対する光強度は最大光強度の3%まで減衰する。
【0013】
上記の方法及び装置に一般に共通している欠点は、これらは基本画面の明るさを著しく低下させ、及び/又はモード切り替えのために複雑で高価な光学素子を必要とし、及び/又は自由に観視できる公開モードでの解像度を低下させ、及び/又は超高解像度ディスプレイで視覚的アーティファクトを発生することである。
【発明の概要】
【0014】
それゆえ、本発明の課題は、光学素子に入射する光が、その入射方向及び偏光特性に応じて、しかしその位置に関係なく、透過し又は一部若しくは全部吸収される、光学素子を有する切替え可能な光フィルタを開示することである。光学素子を使用する切替え可能な光フィルタによって、角度に応じて-任意選択で座っている又は立っている観視者に垂直方向に-光の透過率に影響を与え、ここで少なくとも2つの動作モードの間で切り替えることができる。この場合、特に特定の方向への透過における角度制限を切り替え可能であるようにする。
【0015】
光学素子若しくはそれに基づくシステムが廉価に実現でき、特に異なるタイプの画面で汎用可能であって、-少なくとも立っている又は座っている観視者に対して水平方向に存在する-覗き見防止、即ち制限された観視モードと、自由な観視モードとの間の切り替えを可能にすることができ、しかもこのような画面の解像度が実質的に低下しないようにする。
【0016】
上記の課題は、第1の実施形態において、それ自体は切替え不可能な第1光学素子を含む切替え可能な光フィルタによって解決される。光学素子は、それ自体は第1層、又は第1層と別の複数の、好ましくは5層以上の層を含む。各層は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含んでおり、各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、第1光学素子については選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として第1光学素子に入射する光は、その層への入射方向と偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収される。
【0017】
遷移双極子モーメント(遷移行列要素とも呼ばれる)は量子力学的なベクトル量で、原子、分子又は固体の系の初期状態(通常は基底状態)と、最終状態(通常は励起状態)の間の特定の遷移に対応しており、この遷移に伴う電気双極子モーメントに等しい。ベクトルの方向が遷移の偏光を定義し、偏光自体は、システムが所定の偏光で電磁波とどのように相互作用して、基底状態から励起状態への遷移中に、例えば対応する偏光方向の光を吸収するかを規定する。ベクトルの大きさは、相互作用の強さ若しくは遷移確率に対応する。
【0018】
この場合、第1の選好方向は、光の任意の偏光方向に対して吸収が等しい光の所定の伝搬方向における遷移双極子モーメントの向きに対応する。選好方向とは、媒質中の遷移双極子の向きである。即ち、この方向における媒質中の伝搬に対して、以下に説明する覗き見防止動作モードで吸収は最小である。
【0019】
配向可能な遷移双極子モーメントを含む本発明の意味での材料として考慮の対象となるのは、例えば二色性色素又は色素混合物であり、これらは特性を損なわない担体材料、例えば液晶やポリマーと組み合わされる。各層は、例えば1種類の色素のみを含むことができ、色素は異なる層で対をなして互いに異なってもよい。しかしまた、単一の層に複数の色素、即ち色素混合物が含まれてもよい。
【0020】
切替え可能な光フィルタはさらに、入射方向からみて第1光学素子の前方又は後方に配置された偏光フィルタと、第1電界又は第2電界を選択的に発生させる手段を含む。第1光学素子と偏光フィルとの間には液晶層が配置され、この液晶層に第1電界又は第2電界が作用し、それに応じて液晶層は当該液晶層を通過する光の偏光状態に影響を与える。切替え可能な光フィルタは、少なくとも2つの動作モードで操作可能であり、第1電界が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、一方では、第1の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われる。これに対し、第2電界が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第2動作モードB2においては、一方では、第1の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第2の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われ、その結果として両サブモードB1H、B1Vの各々の吸収方向は、第1動作モードB1と第2動作モードB2に対して、ひいては両動作モードB1及びB2に対してそれぞれ90度異なる。吸収はそれぞれ1つの方向にのみ行われ、それゆえそれぞれ他の方向では光は透過する。
【0021】
第1動作モードB1においてサブモードB1Hでは、吸収は例えば水平方向に、座っている又は立っている観視者若しくは一般的に目の位置に対して行われ、サブモードB1Vでは垂直方向に、ここでも再び座っている又は立っている観視者又は一般的に目の位置に対して行われることができる。この場合、両目を結ぶ直線が水平方向を画定して第1の方向に対応し、垂直方向は水平方向に垂直に立っており、第2の方向に対応する。同様に第2動作モードB2において吸収はサブモードB1Hでは垂直方向に行われ、サブモードB1Vでは水平方向に行われよう。
【0022】
切替え可能な光フィルタのこの第1の実施形態の構成は、偏光フィルタを90度回転させることによりB1モードとB2モード、又はB1HモードとB1Vモードを切り替えることができる。
【0023】
この場合、例えば第1電界又は第2電界のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界がゼロよりも大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。第1光学素子と偏光フィルタの設計によっては、無電界状態は、第1光学素子及び変更フィルタの設計によっては動作モードB1若しくはB1Hが存在することを意味することができる。しかしまた、無電界状態において動作モードB2又はB1Vが存在することも可能である。
【0024】
このようにしてこの第1の実施形態の切替え可能な光フィルタは画像表示ユニットと協働して、例えば垂直方向の覗き見防止と水平方向の覗き見防止とを切り替えることを可能にする(例えば動作モードB1においてサブモードB1Vでは上/下に保護され、サブモードB1Hでは左/右を保護される)。これは例えばラップトップで、ユーザーは動作モードB1において、サブモードB1Vでは、ユーザーの隣にいて目の高さがほぼ同じである別の人々と一緒に内容を見ることができるが、サブモードB1Hでは横にいる人々は画像内容を見ることができないことを意味する。
【0025】
実質的に、動作モードB1において光が放射される放射角範囲は、サブモードB1Vでは垂直方向に、若しくはサブモードB1Hでは水平方向にカットされ、それゆえ縮小される。動作モードB2において、この割り当ては逆になる。いずれも放射角範囲が一方向に制限された動作モードである。
【0026】
この第1の実施形態の切替え可能な光フィルタは、その構成を変化させることが可能である。以下の表1では、若干の重要な構成例が示されている。それぞれ最初に挙げたコンポーネントが観視者の方を向いており、他のコンポーネントもそれに従う。この場合、略号「L/R」は、光学的作用が(既に定義された水平方向の)水平作用においてアクティブであることを意味する。これは偏光フィルタが水平方向の直線偏光を透過し、垂直方向の直線偏光を(実質的に)吸収することを意味する。同様に「O/U」は、偏光フィルタが垂直方向の直線偏光を透過し、水平方向の直線偏光を(実質的に)吸収することを意味する。これに対して略語「L/R」は、切替え可能なフィルタの前方又は後方に配置することができる画像表示ユニットと協働して生じるこの切替え可能なフィルタの効果について、覗き見防止効果が水平方向に作用し、それゆえ左右からの覗き見が防止されることを意味する。これはつまり切替え可能なフィルタのサブモードB1Hにおける動作モードB1に相当する。同様に「O/U」は、画像表示ユニットと協働する切替え可能なフィルタについて、覗き見防止効果が垂直方向に作用し、それゆえ上下からの覗き見が防止されることを意味する。これは切替え可能なフィルタのサブモードB1Vにおける動作モードB1に相当する。
【0027】
【0028】
表1に示した例では、液晶層は90度回転したネマチック液晶層である。即ち、配向を誘発し液晶層を限定する両表面における液晶の選好された配向は互いに垂直である。表の最後の行の場合、状態B1において入射する光は偏光板によって垂直方向(O/U)に沿って直線偏光される。次いで、直線偏光は液晶層によって90度回転されて水平方向(L/R)に配向する。水平方向と入射方向との間の角度が小さいほど、光の透過率は小さくなる。これが水平方向(L/R)に沿った覗き見防止の根拠である。状態B2の場合は、類似の関連が該当するが、90度の偏光変化はない。
【0029】
ここで再度指摘すると、覗き見防止効果「O/U」は多くの実用的なケースで複数の観視者がほぼ同じ高さから画像表示ユニットを横方向から見ると、正常に観視することが可能である。
【0030】
上記の課題は、切替え可能な光フィルタの第2の実施形態によっても解決される。この光フィルタも同様に第1光学素子を含んでおり、これは第1の実施形態の第1光学素子と類似に構成されているが、切り替え可能であり、さらに各層の遷移双極子モーメントはそれらの向き及び/又は大きさの点で第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、各層を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができるという特徴を有する。ここでも、偏光フィルタは第1光学素子の前方又は後方に配置されている。さらに、第2の実施形態による切替え可能な光フィルタは、第1電界又は第2電界を選択的に発生させる手段を有し、第1光学素子については、第1電界を印加することにより第1の状態が発生し、第2電界を印加することにより第2の状態が発生する。
【0031】
第1動作モードB1では、第1電界が印加され、第1光学素子の層の遷移双極子モーメントは第1の選好方向に沿って配向する。一般に、この切替え可能な光フィルタだけでなく、上述した又は後述する他のすべての切替え可能な光フィルタの電界は、VRMS<10V及び周波数1kHzの方形波電圧で生成される。第1動作モードB1は、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを含む。第1動作モードB1では、一方では、第1の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で第2の実施形態による切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われる。
【0032】
第2動作モードB3では、第2電界が印加され、第1光学素子(1)の層の遷移双極子モーメントは偏光フィルタの表面に平行に、且つ偏光フィルタの透過方向に垂直に配置されている。この場合、第1の選好方向に対して任意の角度で切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は、少なくとも24%透過する。
【0033】
ここでも再び、例えば第1電界又は第2電界のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界がゼロよりも大きい絶対電界強度、例えば0.5V/mを有することが可能である。この場合、無電界状態は光学素子と偏光フィルタの設計によっては、動作モードB3が存在することを意味する。しかしまた、無電界状態では、動作モードB1と、サブモードB1H又はB1Vのいずれかが存在することも可能である。
【0034】
このようにして、この第2の実施形態の切替え可能な光フィルタは画像表示ユニットと協働して、第1の実施形態に類似して第1の方向を水平方向とし、第2の方向を垂直方向とするならば、一方では、垂直方向における覗き見防止-サブモードB1Vでは上/下からの覗き見に対して制限された放射角範囲によって保護される-若しくは水平方向における覗き見防止-サブモードB1Hでは左右からの覗き見に対して制限された放射角範囲によって保護される-と、他方では、放射角範囲が制限されず、両サブモードB1V及びB1Hを有する動作モードB1におけるよりも著しく大きい動作モードB3で覗き見防止効果がない状態との間で切り替えることができる。ここでは、第1の実施形態の場合と異なり、動作モードB3はすべての方向に自由な観視モードを実現する。
【0035】
第3の実施形態では、切替え可能な光フィルタは、それ自体は切替え不可能な第1光学素子及び第2光学素子を含む。以下にその構成と動作を説明する両光学素子のそれぞれは、第1層、又は第1層と複数の別の層、好ましくは5層以上を含む。各層は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料からなる。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、第1光学素子については選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で、及び第2光学素子については選択可能な第2の選好方向に平行に配向するか又はその周りで変動する。第1の選好方向と第2の選好方向は、互いに40度未満、好ましくは20度未満、特に好ましくは10度未満異なるが、これは同一である場合、即ち互いに0度異なる場合も含む。第1光学素子又は第2光学素子に入射する光は、その層への入射方向と偏光状態に応じて透過し又は少なくとも一部吸収される。
【0036】
第1光学素子と第2光学素子の間に液晶層が配置され、液晶層は液晶層に作用すると第1電界又は第2電界に応じて、当該液晶層を通過する光の偏光状態に影響を与える。そのため第3の実施形態における切替え可能な光フィルタは、第1電界又は第2電界を選択的に発生させる手段、例えば透明なITO電極(ITO-Indium Tin Oxide)も含んでいる。さらに、切替え可能な光フィルタは選択的に、両光学素子を含むユニットの上方又は下方に配置された偏光フィルタを含むか、又は偏光フィルタを含まない。
【0037】
偏光フィルタが存在する場合について、第1電界が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光が少なくとも24%透過し、他方では、対応する選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われ、第1の方向又は第2の方向のいずれかは偏光フィルタの偏光方向に垂直である。
【0038】
偏光フィルタがない代替的な場合について、第1電界が印加されている第1動作モードB1において、切替え可能な光フィルタに任意の角度で入射する非偏光の光は少なくとも24%透過する。
【0039】
偏光フィルタが存在するか否かにかかわらず、第2電界が印加されている第2動作モードB2では、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタに入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、対応する選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な導光体に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収される。
【0040】
既に述べたように、両光学素子の両選好方向は同一であるか、互いに40度未満、好ましくは20度未満、又は10度未満のみ異なってよい。両選好方向が、例えば積層体として構成された光フィルタの表面法線に平行である場合、透過率はそれぞれ選好方向において最大となるため、視野角範囲に相当する放射角範囲は、表面法線の周りの領域に制限される。それゆえ、一方又は両方の選好方向が傾くことにより、透過率が最大である角度も傾き、それに応じて制限された視野角範囲も傾く。
【0041】
無偏光が第1光学素子に入射し、次いで無電界状態で液晶層によって90度の偏光回転が起こる場合、視野角範囲は左、右、上、下に制限される。ここで電磁界がオンになると、光の偏光の回転は行われず、視野角範囲の制限も行われないが、光入射ベクトルの光入射面への投影に垂直に偏光している。第1光学素子に入射する光が偏光板によって直線偏光されると、無電界状態で視野角は上、下、右、左に制限される。このとき電界が印加されると、視野角は第1光学素子に入射する光の直線偏光に平行に制限される。
【0042】
このようにして、第3の実施形態の切替え可能な光フィルタは画像表示ユニットと協働して、偏光フィルタがある場合は、2方覗き見防止-例えばサブモードB1Vでは上下の覗き見防止-と、4方覗き見防止-動作モードB2では視野角範囲が上/下/左/右の4方向すべてに制限される-との間の切替えを可能にし、或いは、偏光フィルタPがない場合は、動作モードB1における視野角範囲が制限されないすべての方向に自由な観視と、動作モードB2における4方覗き見防止との間の切替えを可能にする。追加の遅延板によって偏光状態に影響を与えることができる。例えばλ/4板を利用すると、直線偏光は円偏光に変換され、4方覗き見防止と制限されない観視との間で切り替えられる。
【0043】
この場合、例えば第1電界又は第2電界のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界がゼロよりも大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。ここで、無電界状態は両光学素子の設計によっては、動作モードB2が存在することを意味する。しかしまた、無電界状態で動作モードB1-偏光板なし-若しくはサブモードB1H、B1V-偏光板あり-のいずれか1つが存在することも可能である。
【0044】
第4の実施形態では、切替え可能な光フィルタは同様に、第3の実施形態とは異なり切替え可能な第1光学素子と第2光学素子も含んでいる。この場合、両光学素子の各々は、第1層、又は第1層と複数の別の層、好ましくは5層以上を含む。各層は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料からなる。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、第1光学素子(1)については選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で、及び第2光学素子(2)については選択可能な第2の選好方向に平行に配向するか又はその周りで変動する。第1光学素子又は第2光学素子に入射する光は、その層への入射方向と偏光状態に応じて透過し又は少なくとも一部吸収される。第3の実施形態とは異なり、ここでは各層の遷移双極子モーメントが、それらの向き及び/又は大きさの点で第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させることができて、各層を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにする。
【0045】
切替え可能な光フィルタの第4の実施形態においても、切替え可能な光フィルタは第1電界又は第2電界を選択的に発生させる手段を含み、両光学素子の各々について、第1電界を印加することによって第1の状態が発生し、第2電界を印加することによって第2の状態が発生する。両電界は両光学素子に同時に印加されているが、ここでも両電界のうち一方は再び無電界状態を意味することができる。両光学素子の間には光学異方性層が配置され、配向層を通過する光の偏光方向を90度回転させる。この配向層は、例えばTNセル(TN=Twisted Nematic、ねじれネマチック)に類似した一軸性のねじれ材料(シャット・ヘルフリッヒ・セルとも呼ばれる)及び/又は光学活性材料からなる。
【0046】
選択的に両光学素子(ユニットとして理解される)の上方又は下方に偏光フィルタを配置しても配置しなくてもよい。偏光フィルタは必須ではないが、切替え可能な光フィルタの性能を向上させることができる。偏光フィルタの偏光と入射光の偏光は一致していなければならない。
【0047】
この第4の実施形態では、第1電界が印加されている第1動作モードB1において、切替え可能な光フィルタに任意の角度で入射する非偏光の光は、少なくとも24%透過し、第1動作モードB1では、両光学素子の遷移双極子モーメントが互いに垂直に配向し、偏光フィルタが存在する場合は、偏光フィルタの偏光フィルタ遷移双極子要素は偏光フィルタに最も近い切替え可能な光学素子の遷移双極子モーメントに平行に配向しており、第2電界が印加されている第2動作モードB2では、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な導光体に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、対応する選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な導光体に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、動作モードB2において、偏光フィルタが存在する場合はその遷移双極子モーメントと、当該偏光フィルタに最も近い切替え可能な光学素子の遷移双極子モーメントは、互いに垂直に配向し、両光学素子の遷移双極子モーメントはそれぞれ互いに平行に配向している。
【0048】
このようにして、この第4実施形態の切替え可能な光フィルタは画像表示ユニットと協働して、公開若しくは自由動作モードB1におけるすべての方向に自由な観視と、動作モードB1と比較して視野角範囲若しくは放射角範囲が制限された非公開の又は制限された動作モードB2における上下左右への選好方向に関する4方覗き見防止との間の切替え可能にする。非公開動作モードB2において非偏光の光が切替え可能な光フィルタに当たると、好ましくは動作モードB2において平行に配向している選好方向でほぼ平行に入射しない光は吸収される。公開動作モードB1では、直線偏光が透過する。
【0049】
第1又は第3の実施形態の好適な態様において、液晶層の前方及び/又は後方に少なくとも1つの偏光補償層が配置されている。これにより、一方では、表面法線に垂直に入射する光と、他方では、所定の角度で入射光の偏光の変化が異なるのを補償することができる。
【0050】
好ましくは、選好方向はそれぞれ第1層の表面法線に対して0度~45度の間の角度をなす。これは-例えば切替え可能な光フィルタを有する画面上で-通常の視野角をカバーするものである。
【0051】
特別な用途のために、前述のどの実施形態であっても、切替え可能な光フィルタは複数の別個に切替え可能なセグメントに分割され、それぞれ可能な動作状態の間で局所的な切替えを可能にすることができる。画像表示ユニットとの協働においてこれは、例えば画面の一部のみが覗き見防止の非公開のモードと、覗き見防止効果のない、即ち自由な観視のための公開モードとの間で切り替えることができ、これと相補的な画面部分は永久的に覗き見防止モード又は公開モードにあることを意味する。さらに互いに幾何学的に分離された複数のこのようなセグメントが存在し、動作モード間で別個に又は一緒に切り替えられるようにすることもできる。
【0052】
さらに、第1光学素子及び/又は第2光学素子(存在する場合)の各層は、好ましくは非周期的に構成されている。これにより、モアレ縞など、対応する画面の観視者が不快に感じる可能性のある視覚的なアーティファクトの発生が減少する。
【0053】
本発明は、上述した切替え可能な光フィルタを画像表示ユニットと組み合わせて画面を形成することにより、特別の意義を獲得する。このような画面は、上述したような切替え可能な光フィルタに加えて、観視者から見て切替え可能な光フィルタの後方又は前方に配置された画像表示ユニットを含んでいる。上述した切替え可能な光フィルタの動作状態は問題なく画面に転用されるので、画面も上述した種々の動作モードにおいて、切替え可能な光フィルタの使用された設計によっては、例えば少なくとも、放射角範囲又は視野角範囲が制限されない水平方向で自由な公開観視モードのための第1の動作状態で、及び水平方向で自由な観視モードに比べて放射角範囲又は視野角範囲が制限された、水平方向で制限された非公開観視モードで操作することができ、この制限された視野角範囲外に位置する観視者は、自由な観視モードで画面に表示される画像内容しか知覚できない。
【0054】
有利には、画像表示ユニットは、1つの偏光フィルタが切替え可能な光フィルタの偏光フィルタに対応するLCDパネルに相当する。これはLCD構成における前面又は背面の偏光板であることができる。さらに有利には、切替え可能な光フィルタをLCDパネルとそのバックライトの間に配置して、自由な観視モードのための第1の動作状態と制限された観視モードのための第2の動作状態との間で切り替えることができる。なぜなら、バックライトの光は切替え可能な光フィルタによって-例えば水平方向に切り替えた場合-あるときは水平方向に収束され、あるときは収束されないからである。ここで「収束」とう言葉は、レンズのように焦点を絞ることではなく、角度によって照射範囲若しくは透過範囲を狭めることを意味する。
【0055】
代替的に、画像表示ユニットはOLED、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)、電界放出ディスプレイ(FED)、マイクロLEDディスプレイ、又は真空蛍光ディスプレイ(VFD)であることができ、その前に切替え可能な光フィルタが配置されている。切替え可能な光フィルタは、画像表示ユニットの種類に関係なく有効であるため、他のどのようなタイプの画面も考慮の対象となる。
【0056】
このような画面は、携帯端末、自動車、航空機、船舶、決済端末、アクセスシステムなどで有利に使用される。この場合、機密性の高いデータを保護するために、上記のモードの間で切り替えることができる。即ち、一人の観視者のみ知覚できるように表示したり、複数の観視者に同時に画像内容を表示したりすることが可能である。
【0057】
以下では、課題を解決し、特に上述した切替え可能な光フィルタの4つの実施形態で第1光学素子及び/又は第2光学素子として使用できる本発明による光学素子を再度より詳細に説明し、可能な構成形態を示す。
【0058】
このような光学素子は、第1層、又は第1層と複数の別の層、好ましくは5層以上を含み、本発明の文脈における各層は、例えば分子層に対応できる。しかしまたそれはそれぞれ適切な材料の機械的に分離した層であってもよい。各層は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料からなる。可能な材料は、既に冒頭で切替え可能な光フィルタの光学素子を説明する際に挙げた通りである。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態で選択可能な選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、光学素子に入射する光は層に対するその入射方向及び偏光状態に応じて透過し、又は少なくとも一部ないし完全に吸収される。好ましくは選好方向はそれぞれ第1層の表面法線に対して0度~45度の間の角度をなす。
【0059】
光の吸光、即ち吸収は、遷移双極子モーメントの絶対数と-したがって遷移双極子モーメントが存在する層厚にも固有である-、遷移双極子モーメントと入射光の偏光との互いの向きに依存する。上記の遷移双極子モーメントの密度、その強度、又は光学素子の層内の屈折率は、実装に応じて変化し得る。受動的な、つまり切替え不可能な光学素子の場合、遷移双極子の体積密度は100%に近づくことがある。
【0060】
透過のモデリングを単純化するために、光学素子内の遷移双極子モーメントは、光学素子への光の入射面に平行に配向し、選好方向は光学素子の中心垂線に対応すると仮定する。この場合、入射面は光学素子の表面ではなく、光波の伝搬方向がある平面を指し、光学素子の表面と入射面は直角をなしている。光波は横波として横方向磁気振動成分と横方向電気振動成分を有し、両成分は互いに垂直であり、且つ伝搬方向に垂直である。光学素子に入射する光は、最初は光波の全体が偏光していない。即ち、横方向電気成分の-及びこれに対応して横方向磁気成分も-振動方向は統計的に分布している。こうして光学素子の表面に垂直に配向した遷移双極子モーメントが光学素子の表面に到達すると、光は光学素子又はそこに含まれる物質の遷移双極子モーメントと相互作用して偏光される。その際に入射面内にある振動成分は吸収される。したがって入射面に平行に偏光された光、即ち横方向磁気偏光又はp偏光された光は吸収され、これに対して入射面に垂直に-つまり光学素子の表面に平行に-偏光された光、即ち横方向電気偏光又はs偏光された光は完全に透過する。これに従い、光学素子を遷移双極子モーメントに平行に通過しない非偏光の光は、光の入射面に平行に配向した遷移双極子モーメントが光学素子を通過する際に少なくとも部分的にs偏光される。選好方向が中心垂線と一致しない場合は、s偏光の代わりにo偏光(通常の偏光、ordinary polarisation)、そしてp偏光の代わりにe偏光(特別な偏光、extraordinary polarisation)が考慮の対象となる。
【0061】
この特性は、本発明のすべての実施形態において必須であり、本質的な発明の手段と効果の関係を構成する。以下では、p偏光の透過を入射強度I0(α)でモデル化する。吸収層を通過する光の透過率は、ランバート・ベールの法則によって記述される。
【0062】
【0063】
ここで、αは表面法線に対する伝搬方向、d(α)は伝搬方向に依存する光路長、Nは吸収する分子の数、そしてσabs(α)は入射角に依存する吸収断面積である。スネルの屈折の法則を用いると、入射角βから媒質中の伝搬角αが計算できる。次に遷移双極子モーメントと光路の変化の方程式から、次式が導かれる。
【0064】
【0065】
各層は用途に応じて周期的又は非周期的に構成されており、非周期的な構成は視覚的なアーティファクトの回避の点で有利である。
【0066】
好適な実施形態において、各遷移双極子モーメントはそれぞれの選好方向で、この選好方向を中心に最大10度の公差範囲内で配向している。選好方向に沿って最も高い透過率も存在する。選択可能な平面-原則として層の1つ-における少なくとも2つのそのような選好方向は、好ましくは10度以上異なる。これにより、1つの層内で複数の選好方向を定義することができ、そのすべては空間内の1点、例えば観視者に向けることができ、材料特性を適切に調整することによって層の内部で異なる向きを、例えば光配向によって達成できる。このために液晶は、光反応性物質と組み合わされる。入射する偏光は同時に分子を配向させ、光反応を誘発する。偏光を制御することにより、分子の配向に影響を与えることができる。
【0067】
先行技術に記載されたマイクロルーバーフィルタ(「ビューコントロールフィルタVCF」又は「ライトコントロールフィルタLCF」とも呼ばれる)は、幾何光学を利用している。透明層と吸収層を交互に周期的に配置することにより、所定の方向に対して大きい角度で伝搬する入射光はほとんどすべて吸収される。ここでは吸収体の位置が制御される。これに対し、本発明による光学素子では分子の吸収断面積が伝搬方向によって変化するので、伝搬方向が異なると光の透過率が変化する。したがって本発明においては、吸収体の位置ではなく、吸収体の配向(向き)が制御される。換言すれば、本発明は、遷移双極子モーメントに対してそれぞれ与えられた選好方向を一旦度外視するならば、本発明による光学素子を通過する際の光線の方向依存的な吸収に基づいており、基本的に光線の位置とは関係ない。このことは上述した本発明による切替え不可能な光学素子にも、後述する切替え可能な実施形態にも該当する。
【0068】
本発明による光学素子の光学的作用の切替え可能性、即ち切替え可能な光学素子について、各層の遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさの点で第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができる。切替え可能な光学素子又はその中の各層の可能な実施形態は、例えば液晶及び/又は色素若しくは色素混合物をベースとしており、これらはいわゆる「垂直配向セル」又は表面で均質に配向した液晶セル内に配置されて、その中で少なくとも2つの状態の間で回転させることができる。この場合、光を吸収する遷移双極子モーメントも回転するため、少なくとも2つの作用状態を取ることができる。特にこのような実施形態では、2つ以上の状態、例えば3つ又は8つの状態が得られ、それぞれ光学的作用が異なることが考えられる。液晶セルの別の実施形態も同様に考えられる。これについて特に電界を使用して液晶を回転させる。この場合、例えば第1電界又は第2電界のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界はゼロより大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。
【0069】
この場合、そのような第1の状態は、上述の条件に対応し、少なくとも第2の状態はそれとは異なり、それゆえ少なくとも1つの別の選好方向を有する。
【0070】
このような能動的な(即ち切替え可能な素子)光学素子では、液晶をベースにした遷移双極子モーメントの体積密度は0.1%~90%であることが考えられる。代替的に、液体中に埋め込まれた切替え可能な光学素子又はその中の各層において、遷移双極子モーメントがエレクトロウェッティングされた実施形態も考えられる。このようにして、特に遷移双極子モーメントの密度を変化させることができるが、これのみに限られない。
【0071】
さらに、光学素子が複数の別個に切替え可能なセグメントに分割されて、それぞれ少なくとも2つの異なる状態間で局所的な切替えが可能される。少なくとも2つの状態の切替え可能性の枠内で、特に少なくとも2つの状態間で局所的なそれぞれの透過最大値がそれぞれ異なる方向にあるように実施可能である。
【0072】
さらに、遷移双極子モーメントのそれぞれの選好方向は、それぞれの層におけるその位置に応じて選択可能であることが好ましい。
【0073】
光学素子の別の好適な実施形態において、各層は、それぞれの層上の選択可能な基準線に沿って種々の領域に区分されており、各領域に対して固有の領域選好方向が選択可能であり、この領域選好方向は領域内にある対応する層のすべての遷移双極子モーメントに該当し、すべての領域選好方向は1対ずつ互いに異なり、最大±10度の公差で観視者の方向を向いている。したがって1つの層内及びそれに対応する各領域内では、すべての遷移双極子モーメントが、そこで該当する選好方向に対して最大±10度の公差で平行に配向している。有利なことに、各層はその構造において非周期的に構成されて、邪魔な視覚的アーティファクトの発生を低減又は防止することができる。この配置は、観視者は制限された観視モードでは画面を均質に照射された状態で知覚するという利点がある。観視者は、輝度の視野角依存性により、遷移双極子がフィルタ全面に渡って一定であれば画面を不均質と知覚する。
【0074】
上記のような本発明による光学素子を簡単に製造する可能性は、光学素子が多数のポリマーフィルム偏光板を積層することにある。この場合、それはポリマーフィルム偏光板の層の積層体として形成される。代替的に又は組み合わせて、光学素子は分子や粒子を光配向させることによっても製造できる。
【0075】
光学素子材料は好適には、少なくとも1種類の色素、好ましくは二色性色素混合物を含む。少なくとも1種類の色素は色素分子を含み、有利には各色素分子に遷移双極子又は遷移双極子モーメントが関連している。即ち、各色素分子は遷移双極子又は遷移双極子モーメントに対応している。通常、LC色素混合物において色素は、例えばそれぞれの層の材料において0.01%~10%、好ましくは0.1%~5%の質量分率を有する。層の厚さは、好ましくは0.2μm~50μmの範囲、好適には0.5μm~20μmであり、それぞれすべての境界値が含まれる。種々の層の色素又は色素混合物は異なることができる。
【0076】
さらに、光学素子の材料が液晶を含み及び/又は液晶と混合されていることも可能である。これは複数の層が存在する場合は、層ごとに異なってもよい。
【0077】
好適な実施形態として、各層に液晶と少なくとも1種類の色素、特に少なくとも1種類の二色性色素混合物との混合物が適用される。二色性色素若しくは色素混合物は、例えばアゾメチン色素、インジゴイド及びチオインジゴイド色素、メロシアニン、アズレン、キノフタロン色素、ペリレン色素、フタルペリン色素、ジオキサジン色素、トリフェノジオキサジン色素、キノキサリン色素、トリアジン色素、タートラジン、アゾ色素、アントラキノン色素が考慮の対象となる。液晶色素混合物の製造は、例えば米国特許出願US4,695,131A号に記載されている。さらに、遷移双極子モーメント、若しくは液晶が存在する場合はその均質な表面配向を達成するために、外側の層を閉じる表面は、例えばブラッシングなどの処理が施されている。
【0078】
一般に、偏光フィルタは、特に切替え可能な光フィルタに使用する場合、有利には観視方向で光学素子の前方又は後方にあることができる。偏光フィルタは、光学素子を通過する光の偏光特性を決定又は分析するのに役立ち、好適には常に存在することが望ましい。光学素子の最大透過率は、原則として偏光フィルタの偏光方向に平行な方向でそれぞれ与えられている。そのような偏光フィルタが2つ存在することも可能であり、それぞれ観視方向で光学素子の前方又は後方に配置され、それらの直線偏光方向に関して実質的に互いに平行に配向しており、それによって制限された観視モードにおいて覗き見防止効果を向上させることができる。
【0079】
上述したような光学素子を有する照明装置も、本発明の範囲内にある。そのような照明装置は、少なくとも2つの動作モード、即ち自由な観視モードのための動作モードB1と、制限された観視モードのための動作モードB2で操作することができる。制限された観視モードが自由な観視モードと異なるのは、光が観視者に向かって制限された角度範囲で放射される点である。この場合、制限された角度範囲の外にいる観視者は、照明装置(同じことは以下に説明する画面にも該当する)から出る光を見ないが、これに対して自由な観視モードでは観視者は照明装置若しくは画面から出る光を知覚する。但し、この場合、観視者は自由な観視モードにおいて照明装置若しくは画面の基本的に自然に制限された放射角範囲-制限された観視モードの放射角範囲よりかなり大きい-内にいる。制限は、用途に応じて、上、下、右及び/又は左の方向に行うことができる。
【0080】
照明装置は、以上に詳細に説明したような光学素子を含んで光を放射する、面状に拡大されたバックライトを有する。照明装置は、観視方向でバックライトの前方に位置する板状の導光体を有し、この導光体は少なくとも1つ大表面上及び/又はその体積内に出力要素を有しており、導光体はバックライトから出る光に対して少なくとも40%、好ましくは少なくとも70%透明である。光源は、導光体の少なくとも1つの狭幅側に横方向に配置されている。さらに、観視方向でバックライトの前方又は導光体の前方に直線偏光フィルタが配置されており、それによりバックライトから出て偏光フィルタを通過した光は、その伝搬方向が制限される。動作モードB2では、バックライトがオンになり、光源がオフになる。動作モードB1では、少なくとも光源はオンになっており、動作モードB1ではバックライトがオンであるかオフであるかは関係ない。
【0081】
最後に、上述した光学素子は、既に示したように照明装置に関連して既に言及した少なくとも2つの動作モード、即ち自由な観視モードに対する第1動作モードB1と制限された観視モードのための動作モードB2で操作できる画面にも使用することが可能である。このような画面は、上述したような光学素子を含んで光を放射する面状に拡大されたバックライトを有する。画面はさらに、観視方向でバックライトの前方に置かれた板状の導光体を含んでおり、この導光体は、少なくとも1つ大表面上及び/又はその体積内に出力要素を有しており、導光体はバックライトから出る光に対して少なくとも40%、好ましくは少なくとも70%透明である。光源は、導光体の少なくとも1つの狭幅側に横方向に配置されている。さらに、観視方向でバックライトの前方又は導光体の前方には直線偏光フィルタが配置されており、それによりバックライトから出て偏光フィルタを通過する光は、その伝搬方向が制限される。さらに、導光体には観視方向前方に透過型画像表示ユニットが配置されている。偏光フィルタは、例えばLCディスプレイの場合のように、画像表示ユニット内に配置することができ、特にこの画像表示ユニットの一部であることができる。動作モードB2では、バックライトはオンになり、光源はオフになる。動作モードB1では、少なくとも光源はオンになっており、動作モードB1ではバックライトがオンであるかオフであるかは関係ない。
【0082】
より一般的に、上述した少なくとも1つの光学素子、又は上述した配置と、観視者から見て光学素子の後方又は前方に配置された画像表示ユニットとを有する画面も本発明の範囲に含まれる。有利には、画像表示ユニットは、1つの偏光フィルタが上述した偏光フィルタに対応するLCDパネルに相当する。これはLCD構成における前面または背面の偏光板であってよい。代替的に、画像表示ユニットはOLED、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)、電界放出ディスプレイ(FED)、マイクロLEDディスプレイ、又は真空蛍光ディスプレイ(VFD)であることができ、その前に光学素子が配置されている。この光学素子は、画像表示ユニットの種類に関係なく有効であるため、他のどのようなタイプの画面も考慮の対象となる。そのような画面は、携帯端末、自動車、航空機、船舶、決済端末、又はアクセスシステムで有利に使用される。その際に-切替え可能な光学素子の場合は-上記の動作モード間で切り替えて、機密性の高いデータを保護するために、即ち一人の観視者にのみ知覚できるように表示し、又は代替的に、画像内容を同時に複数の観視者に表示することが可能である。さらに上述した実施形態における切替え可能な又は切替え不可能な光学素子は、静止画像、又はLCDパネルなどの動的画像表示ユニットとも一緒に使用することができ、例えば宣伝内容を制限された観視範囲においてのみ見えるようにすることができる。
【0083】
基本的に、上述したパラメータが一定の範囲内で変化する限り、本発明の性能は維持される。
【0084】
上述した特徴及び以下に説明する特徴は、記載された組み合わせだけでなく、他の組み合わせにおいても、又は単独でも、本発明の範囲を逸脱することなく使用できることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
以下では、本発明を、同様に本発明に必須の特徴を開示している添付の図面を参照しながら実施例によって詳細に説明する。これらの実施例は具体的に説明するためのものであり、発明を制限するものと解釈されてはならない。例えば多数の要素又は部材を有する実施形例の説明は、これらすべての要素又は部材が実装に必要であると解釈されるべきではない。むしろ、他の実施例は代替的な要素や部材、より少ない要素や部材、又は追加の要素や部材を含むことがある。異なる実施例の要素又は部材は、特に断りのない限り、互いに組み合わせることができる。ある実施例について説明された修正及び変形は、他の実施例にも適用可能である。重複を避けるために、異なる図中の同一の又は対応する要素には同一の参照符号を付し、繰り返し説明しない。
【0086】
【
図1a】
図1aは、切替え不可能な光学素子の原理図である。
【0087】
【
図1b】
図1bは、切替え可能な光学素子の第1の状態における原理図である。
【0088】
【
図1c】
図1cは、
図1bの切替え可能な光学素子の第2の状態における原理図である。
【0089】
【0090】
【
図2b】
図2bは、第1の位置における別の切替え可能な光学素子の部分の原理図である。
【0091】
【
図2c】
図2cは、第2の位置における別の切替え可能な光学素子の部分の原理図である。
【0092】
【0093】
【
図4】
図4は、
図2a~
図2cによる光学素子の種々の角度で測定された透過挙動を、先行技術におけるルーバーフィルタの透過挙動と比較するための例示的な図である。
【0094】
【
図5】
図5は、偏光フィルタを用いた第3の実施形態における切替え可能な光フィルタの原理図である。
【0095】
【
図6】
図6は、偏光フィルタを用いない第3の実施形態における切替え可能な光フィルタの原理図である。
【0096】
【
図7a】
図7aは、
図6による切替え可能な光フィルタにより光に影響を与えるための略図である。
【
図7b】
図7bは、
図6による切替え可能な光フィルタにより光に影響を与えるための略図である。
【
図7c】
図7cは、
図6による切替え可能な光フィルタにより光に影響を与えるための略図である。
【0097】
【
図8】
図8は、第4の実施形態における切替え可能な光フィルタの原理図である。
【0098】
【
図9】
図9は、第1の実施形態における切替え可能な光フィルタの原理図である。
【0099】
【
図10】
図10は、第2の実施形態における切替え可能な光フィルタの原理図である。
【0100】
【
図11】
図11は、光学素子の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションである。
【
図12】
図12は、光学素子の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションである。
【
図13】
図13は、光学素子の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションである。
【
図14】
図14は、光学素子の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションである。
【
図15】
図15は、光学素子の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションである。
【発明を実施するための形態】
【0101】
図面は縮尺通りではなく、原理図にすぎない。
【0102】
図1aは、例示的な切替え不可能な光学素子1の原理図を示している。光学素子1は、少なくとも1つの層S1を含み、この層S1は、少なくとも第1の状態で選択可能な選好方向(ここでは層S1の表面に垂直)に平行に配向するか又はその周りで変動する、光を吸収する多数の電気遷移双極子モーメント(ここでは小さい垂直線として簡略化して示す)を有する材料からなる。これにより、上記の選好方向は、層S1の表面法線に対して0度~45度の間の角度をなし、その結果として、光学素子に入射する光は、その層S1への入射方向と偏光特性に応じて透過し、又は一部若しくは全部吸収される。
【0103】
光学素子1は、例えば多数の高分子フィルム偏光板を積層することにより、及び/又は分子又は粒子を光配向させることにより製造することができる。実装に応じて、層S1内における上記の電気遷移双極子の密度は変化し得る。受動的偏光板の場合、体積密度は100%に接近することがある。
【0104】
遷移双極子モーメントを含む光学素子1の材料は、少なくとも1種類の色素、特に1種類の色素分子、好ましくは少なくとも1種類の二色性色素又は二色性色素混合物を含むこともできる。この場合有利には、色素分子は遷移双極子モーメントに対応することができる。典型的には、色素はそれぞれの層S1、S2、 ...の材料において、0.01%~30%、好ましくは0.1%~15%又は5%、又は0.01%~10%の質量分率を有している。層の厚さは、好ましくは0.2μm~50μmの範囲、好適には0.5μm~20μmの範囲である。種々の層の色素又は色素混合物は異なってよい。
【0105】
遷移双極子モーメントを含む層S1、S2、 ...は、液晶又はポリマーも含むことができ、及び/又は液晶と混合されてもよく、好適には層S1、S2、 ...は液晶又はポリマーと少なくとも1種類の色素、特に少なくとも1種類の二色性色素混合物との混合物を含む。
【0106】
光学素子1は、直線偏光に対して覗き見防止フィルタを表す。それゆえここでは、下方から入射する光を図示の平面に平行に直線偏光させる偏光フィルタPが設けられている。しかしながら、偏光フィルタPは、光の伝搬方向は変えない。2つ可能な光の伝搬方向が2つの太い矢印で示されている。例えば選好方向、ここでは層S1に垂直な中心線に対して約30度以上の(斜めの)方向を有する光は、遷移双極子モーメントの作用に基づき光学素子1によって吸収される。最後に、図面上部に唯一の矢印で示すように、実質的に選好方向に沿って、ここでは光学素子1に垂直に入射する光のみが、光学素子1を通過した後に残っている。用途に応じて、各層S1、S2、 ...は、その構造において周期的又は非周期的に構成されている。
【0107】
光の吸光(即ち吸収)は、遷移双極子モーメントの絶対数に依存し、したがって遷移双極子モーメントを有する材料の層厚にも本質的に依存する。実装に応じて、上記の遷移双極子モーメントの密度、その強度、又は層S1、S2、 ...内における屈折率が変化し得る。受動的な、即ち切替え不可能な光学素子1の場合、遷移双極子の体積密度は100%に近づくことがある。
【0108】
これについて、
図11~
図15の図面は、光学素子1の光学的作用を図示するための光学的シミュレーションを示している。
図11は、
図1による光学素子1を通過する際の光の正規化透過率を示すグラフであり、ここでは-90度~+90度の水平測定角度に対してプロットされている。角度±25度以上で強い吸収作用がはっきりと確認できる。このシミュレーションは、光学素子1の層厚d=0.5mm、材料の屈折率n=1.5、モル濃度M=0.01molm
-3、及び例示的なモル吸光係数ε=12700m
2mol-1と仮定した。厚さと濃度は互いの比で変化させることができ、例えば厚さを10分の1にして濃度を10倍にすると同じ透過率が得られる。
図12では、
図11による状況が縦軸に利用上主要な値の範囲について対数的にプロットされている。このようなパラメータを用いると、±25度で透過率は既に約1%に、±40度ではわずか約0.001%に減少していることが分かる。
図13では、
図11で屈折率nに関して仮定した条件を、n=1.0;1.3;1.5、及びn=1.7で計算した。角度による透過率は、層S1の材料の屈折率が小さいほど制限されることが分かる。さらに、
図14は、
図11の状況による光学素子1の正規化透過率が、光学素子1の厚さに関して変化することを示している。この場合、層厚はd=0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm及び0.5mmとして計算した。これによると予想通り、層厚が増すに連れて角度による透過率の制限は強くなる。最後に、
図15は、3つの選択されたパラメータセット(1.n=1.0及びd=0.2mm;2.n=1.5及びd=0.5mm;3.n=1.7及びd=0.65mm)について、角度に依存する正規化透過率を示している。3つのパラメータセットはすべて非常によく似た光学的作用を生み出している。
【0109】
これに対し、先行技術で知られているマイクロルーバーフィルタ(「ビューコントロールフィルタVCF」又は「ライトコントロールフィルタLCF」とも呼ばれる)は、幾何光学を利用したものである。透明層と吸収層を交互に周期的に配置することにより、所定の方向に対して大きい角度で伝搬する光は(ほぼ)すべて吸収される。ここでは吸収体の位置が制御される。これに対し、光学素子1では分子の吸収断面積が伝搬方向によって変化するので、伝搬方向が異なると光の透過率が変化する。したがって吸収体の位置ではなく、特に吸収体の向きが制御される。換言すれば、光学素子1の作用は、光線が通過する際の方向依存的な吸収に基づくものであり、光線の位置とは基本的に無関係である。このことは、上述した切替え不可能な光学素子にも、後述する切替え可能な実施形態にも該当する。
【0110】
光学素子1の光学的作用の切り替え可能性について、即ち切替え可能光学素子1について、各層S1、S2、 ...における光を吸収する電気遷移双極子モーメントは、それらの配向及び/又は絶対値を変化させて、各層S1、S2、 ...を少なくとも2つの異なる状態にすることができる。切替え可能な光学素子1若しくはその中の各層S1、S2、 ...の可能な実施形態は、例えば液晶又は蛍光体をベースとしており、これらはいわゆる「垂直配向セル」又は表面で均質に配向した液晶セル内に配置されて、その中で少なくとも2つの状態の間で回転させることができる。この場合、光を吸収する電気的な遷移双極子モーメントも回転するため、少なくとも2つの作用状態を取ることができる。特に、このような実施形態では、2つ以上の状態、例えば3つ又は8つの状態が得られ、それぞれが異なる光学的作用を有することが考えられる。液晶セルの別の実施形態も同様に考えられる。
【0111】
これに加えて、
図1bは第1の状態における切替え可能な光学素子の原理図を示し、
図1cは第2の状態における切替え可能な光学素子の原理図を示す。
【0112】
この例示的な場合においては、入射光がp偏光している、つまり入射面に平行に偏光していると仮定する(
図1b参照)。透明な電極E1及びE2が帯電していないと、即ち0V/mの電界EF1(無電界)を発生すると、ここにドットで示した液晶分子や色素分子(ここでは例えば層S1、S2、S3として形成されている)は電極E1及びE2の表面に沿って配向している。これは、表面機能化と液晶の適切な組み合わせによって達成することができ、先行技術で知られている。図示の平面内を伝搬してs偏光されている光については、光の偏光と液晶の遷移双極子モーメントは常に互いに垂直に配向している。したがって、吸収は起こらないので、基体Sの上方と下方に示されるs偏光を有する光の伝搬方向は、切替え可能な光学素子1を妨げられずに透過する。
【0113】
図1cに示すように、電極E1及びE2が帯電している場合、即ち電界EF2>0V/mを発生している場合、層S1、S2、S3内で液晶が回転する。電圧、ひいては電界強度EF2がある閾値を超えると、液晶分子、ひいては色素分子(存在する場合)も電界EF2の電界線にほぼ平行に配向している。それによって光は、光の伝搬方向と層S1の表面の面法線とのなす角αに応じて吸収される。吸収は角度αが大きくなるに連れて増す。光の電界の消滅はsin(α)に比例する。基本的に色素分子の配向を制御することは、それによって覗き見防止の軸を制御し、若しくは定義された光の影響を実行するという利点がある。
図1bによる状態では、遷移双極子モーメントが入射光の偏光に垂直に配向し、
図1cによる状態では、光の垂直入射に平行に配向している。このような切替え可能な光学素子では、色素の体積密度は液晶をベースとして0.1%~20%、場合によっては最大90%も考えられる。
【0114】
図2aは、別の切替え不可能な光学素子1の原理図を示している。この光学素子1は、(ここでは単に例示的に)層S1を含んでおり、この層S1は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメント(
図2aでは層S1の小線によって略示されている)を有する材料からなる。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、それぞれ層S1内のそのような遷移双極子の位置に応じて当該遷移双極子に対して選択可能なそれぞれの選好方向(ここでは太い矢印で略示されている)に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、少なくとも2つのそのような選好方向は選択可能な平面(ここでは図示の平面)内で10度以上異なっている。これにより、光学素子1に入射する光がその層S1への入射方向と偏光特性に応じて透過し、又は一部若しくは全部吸収されることが達成され、各遷移双極子に対する最大透過率は、その層S1内の位置に対して選択されたそれぞれの選好方向にあり、その際に最大10度の公差が許容されている。
【0115】
図1とは異なり、
図2に示す光学素子1は、層S1が選択可能な基準線(ここではその下縁)に沿って種々の領域A1、A2、A3、A4、A5に区分されるように設計されており、各領域A1、A2、・・・に対して、当該領域A1、A2、・・・内にある層S1のすべての転移双極子モーメントに該当する固有の領域選好方向(太い矢印参照)が選択されている。この場合、すべての領域選好方向は1対ずつ互いに異なり、それらはすべて-最大±10度の公差で-観視者6の方向に向いている。したがって、層S1内、及びそれに該当する各領域A1、A2、・・・内では、すべての遷移双極子モーメントはそこで該当する領域選好方向に最大±10度の公差で平行に配向している。光学素子1上の透過率を定義できるため、この光学素子1は覗き見防止策の形成に特に有利に使用できる。
【0116】
光学素子1の光学的作用の切り替え可能性について、即ち切替え可能光学素子1について、各層S1、S2、 ...における光を吸収する電気遷移双極子モーメントは、それらの向き(配向)及び/又は絶対値を変化させて、それぞれの層S1、S2、 ...を少なくとも2つの異なる状態にすることができる。
【0117】
これに加えて、
図2bは、第1の状態における切替え可能な光学素子の第1のセクション-これは
図2aのA1に対応する-の原理図を示し、
図2cは、第1の状態における切替え可能な光学素子の第2のセクション-これは
図2aのA5に対応する-の原理図を示す。ここでは例として3つの層S1、S2、S3が存在する。二色性色素混合物と混合された液晶は、ここでは層S1、S2、S3における楕円形の要素で示され、黒い楕円形の要素は色素分子を表し、白い楕円形の要素は液晶を著しく簡略化して表している。また、楕円の傾きは、空間的な向きを表している。基体Sは、ガラス又はポリマー又は他の透明な材料であることができる。
【0118】
それぞれの透明電極E1及びE2、例えば酸化インジウムスズ層(ITO層)は、混合色素と混合された液晶の配向を制御する役割を果たす。しかしながら、液晶分子、ひいては色素の異なる配向は、好適には異なる表面機能化によって達成される。ここでは機械的及び光学的プロセスが考慮の対象となる。
図2bに示す液晶と色素混合物の配向は、
図2aのセクションA1の選好方向に従う配向にほぼ対応する。
図2cに示す液晶と色素の混合物の配向は、
図2aのセクションA5の選好方向に従う配向にほぼ対応する。光学素子1に下方から入射する光は、
図2bに示す状態の場合に、遷移双極子の対応する選好方向の方向で最大に透過し、他の方向は一部又は全部吸収される。このことは、
図2cに示す状態に対しても準用される。
【0119】
印加された電界EF1及びEF2に関連して光学素子に入射する際のp偏光及びs偏光された光の挙動に関しては、ここで準用される
図1b及び
図1cについての説明を参照されたい。しかしながら、遷移双極子モーメントは別様に配向しており、媒質中ではs偏光の代わりにo偏光が、p偏光の代わりにe偏光が主要である。
【0120】
図3は、
図1b及び
図1c並びに
図2b及び
図2cの実施形態による切替え可能な光学素子1を有する構成の原理図を示す。ここでは外側の面に2つの直線偏光フィルタP(そのうちの1つは任意選択)が存在しており、それらの偏光方向は実質的に(即ち数度の公差で)互いに平行に配向している。それぞれ内側-つまり偏光フィルタPが互いに向かい合う側-にはそれぞれ1つの透明な基体Sが続き、そこからさらに内側に電極E1及びE2が続いている。そこから内側に向いた配向層4は、少なくとも1種類の二色性色素と混合されて内部の層S1、S2、 ...を形成する液晶を配向させる働きをする。遷移双極子モーメントは、ここでは少なくとも1種類の二色性色素によって形成される。基本的に上述したすべての変形例の光学素子1の構成において、偏光状態をさらに適合させるために追加の遅延フィルムを使用できる。
【0121】
電極E1とE2の間に印加される方形波電圧は、好ましくは0V~20Vの実効値を有する。配向層4は例えば、遷移双極子モーメント若しくは液晶の均一な表面配向を達成するために処理された表面(例えばブラッシング処理されたガラス又はポリマー)である。これにより、例えば
図2b及び
図2cに示された状態を作り出すことができる。
【0122】
最後に、
図4は、
図2及び
図3に従い種々の角度で測定された、光学素子1の正規化透過挙動(実線)を、先行技術からのルーバーフィルタのそれ(破線)と比較するための例示的なグラフである。横軸はそれぞれの測定角度、縦軸は正規化透過率をプロットしている。連続曲線では、例示的な光学素子1の透過挙動に対する近似的ないわゆる「トップハット」分布が見られる。即ち、透過率は、約-17度~+17度までの広い角度範囲にわたって少なくとも80%で安定している。ここで半値幅は合計でほぼ40度である。これにより、±15度の視野角変化に対して観視者が知覚する良好な透過率の均質性が得られ、それによってまた画像表示ユニットととの協働による照明若しくは画像表示においても良好な知覚された均質性が実現される。これに対し、比較のために援用した先行技術からの例示的なルーバーフィルタは、その正規化透過挙動が
図4に破線で示されているが、半値幅は単に約35度と小さく、さらに「トップハット」様の分布を有さず、-30度~25度及び+25度~+30度の角度範囲で透過率が光学素子1よりも大きいので覗き見防止も不良である。
【0123】
この光学素子は、特に切替え可能な光フィルタ5で使用することができる。
図5は、このような切替え可能な光フィルタ5の第3の実施形態を示している-本発明の一般的説明と一貫性を保つために「第1」及び「第2」の前に「第3」という名称が選択された。この光フィルタ5は、第1光学素子1と第2光学素子2を含む。両光学素子1及び2は、それ自体切替え不可能、即ち静的である。両光学素子の遷移双極子モーメントの選好方向は、互いに40度以下、好適には20度以下、特に好適には10度以下異なっており、第1光学素子1に対する第1の選好方向と第2光学素子2に対する第2の選好方向が選択可能である。この実施例では、両選好方向は、例示的に互いに平行であり、図示の平面内にある切替え可能な光フィルタ5の中心垂線に対応している。光学素子1と2の間に切替可能な液晶層3が配置されていて、これらの光学素子に作用する電界EF1又はEF2に応じて当該光学素子を通過する光の偏光特性に影響を与えたり与えなかったりする。図面では、観視者6から見て光学素子1及び2の下方に偏光フィルタPが配置されているが、これは光学素子1及び2の上方に配置することも可能であろう。図示されていないが、第1電界EF1と第2電界EF2を選択的に発生させる手段は、例えば液晶層3の上方及び下方に配置された電極である。
【0124】
第1電界EF1が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、当該選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われ、第1の方向又は第2の方向のいずれかは、偏光フィルタPの偏光方向に垂直となる。表示画面に用いる際は、第1の方向は水平方向に、第2の方向は垂直方向に対応してよく、ここで「水平」とは、観視者の目と目の間隔線に平行な線を意味する。例えば、水平はS1層若しくは画面の下縁に平行であり、垂直は左側又は右側の縁に平行である。
【0125】
第2電界EF2が印加されている第2動作モードB2において、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、当該選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収される。
【0126】
偏光フィルタPを用いない切替え可能な光フィルタ5の第3の実施形態の変化例が、
図6に示されている。動作モードB2におけるこの変化例の挙動は、
図5を参照して説明した切替え可能な光フィルタ5と同一であるのに対し、ここでは、第1電界EF1が存在する第1動作モードB1において、任意の角度で切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光は、少なくとも24%透過する。
【0127】
このようにして、第3の実施形態の切替え可能な光フィルタ5は画像表示ユニットと協働して、偏光フィルタPがある場合は、2方覗き見防止と4方覗き見防止(例えば上/下保護B1Vと上/下/左/右保護B2)との間の切替えを可能にし、又は、偏光フィルタPがない場合は、すべての方向に自由な観視と4方覗き見防止(例えば自由な観視と上/下/左/右保護B2)との間の切替えを可能にする。
【0128】
この場合、例えば電界EF1又は電界EF2のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界EF2若しくはEF1がゼロより大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。ここで、無電界状態は光学素子1及び2の設計によっては、動作モードB2が存在することを意味し得る。しかしまた、無電界状態において、サブモードB1H、B1Vのいずれかを有する偏光フィルタPがある場合は、動作モードB1が存在することも可能である。
【0129】
図7a~
図7cは、
図6による切替え可能な光フィルタに基づく光の偏光状態についての略図を示す。
図7aは、視野角範囲が制限されていない動作モードB1に対応する公開モードの偏光状態を示しており、視野角30度以上の光は接線偏光され、垂直に入射する光は直線偏光されている。選好方向は、それぞれの中心垂線に対応する。
図7cは、制限された観視モードでの偏光状態を示す。ここでは、例えば30度以上の入射角に対する光は非常に強く減衰されているのに対し、垂直に入射する光は偏光状態が変化せずに透過する。
【0130】
遷移双極子モーメントの向き若しくは配向により、光は入射角に対して偏光されている。即ち、光の直線偏光は、常に視野角空間における原点の方向に垂直であり、この例では原点は中心垂線である。この状態は
図7aに示されており、光が切替え不可能な光学素子1を通過した後に該当する。角度の小さい光は、わずかに偏光されのみである。理想的には、垂直に入射する光は吸収されず、即ち偏光状態は変化しないままである。
【0131】
さて、光が光学素子2から液晶層3に移行すると、光の偏光状態が変化するか、どのように変化するか、或いは偏光状態が変化しないままであるかは、液晶層3の状態によって決まる。例えば、無電界状態EF1で液晶層3内における偏光回転をオフにすると、上述した状態は変化しない。液晶層3を通過し、さらに切替え不可能な光学素子1を通過した後でも、透過率は実質的に変化していない。光学素子1の上方又は光学素子2の下方に偏光フィルタPがある場合、設計によってはサブモードB1H又はB1Vのいずれかが達成される。この偏光板がない場合は、動作モードB1が実現される。
【0132】
これに対して、例えば電界EF2>0V/mを印加することによって液晶層3内の偏光回転をオンにすると、全般に90度偏光回転する。
図7bに偏光状態を示す。ここでは、光学素子2と偏光回転液晶層3を通過した後の偏光状態が示されている。これにより、光学素子1による光の別の伝搬の範囲内では、25度又は約30度より大きい角度で伝搬する光はすべて消光される。これは動作モードB2に相当し、
図4cに示されている。
【0133】
図8は、第4の実施形態における切替え可能な光フィルタ5の原理図を示す。この切替え可能な光フィルタ5は、2つの切替え可能な光学素子1及び2を含み、両光学素子の各々は、第1層S1、又は第1層S1と複数の別の層S2, ...を有する。第3の実施形態の光学素子と同様に、各層S1、S2、 ...は光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料を含み、各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、第1光学素子については選択可能な第1の選好方向に対して最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、第1光学素子1又は第2光学素子2に入射する光は、層S1、S2、 ...への入射方向とその偏光状態に応じて透過するか又は少なくとも一部吸収される。
【0134】
しかしながら、第3の実施形態とは異なり、ここでは光学素子1及び2は切り替え可能である。即ち、各層S1、S2、 ...の遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさを第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層S1、S2、 ...を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができる。この実施形態において切替え可能な光フィルタ5は、第1電界EF1又は第2の電EF2を選択的に発生させる手段を有しており、両光学素子1及び2の各々について、第1電界EF1を印加することにより第1の状態が発生し、第2電界EF2を印加することにより第2の状態が発生する。第4の実施形態による実施例において、第1電界EF1は第1光学素子1に印加され、第2電界EF2は第2光学素子2に印加されている。
【0135】
任意選択で、ユニットとして要約される光学素子1の上方又は下方に偏光フィルタを配置することができる。この偏光フィルタは必須ではないが、切替え可能な光フィルタ5の性能を向上させることができる。偏光フィルタPの偏光と入射光の偏光は一致していなければならない。両光学素子1と2の間には、光学異方性層7が配置されていて、この光学異方性層7を通過する光の偏光方向を90度回転させるようになっている。光学異方性層7は、例えば液晶を有する層、又は半波長板であることができる。両電界EF1及びEF2を発生させる手段は図示されていない。
【0136】
自由な観視モードのための動作モードB1で第1電界EF1を印加すると、切替え可能な光フィルタ5に対する任意の角度でこれに入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、第1動作モードB1で両光学素子1及び2の遷移双極子モーメントは互いに垂直に配向しており、偏光フィルタPがある場合は、偏光フィルタPの偏光フィルタ遷移双極子要素は、偏光フィルタPに最も近い切替え可能な光学素子1及び2の遷移双極子モーメントに平行に配向している。
【0137】
これに対し、制限された観視モードのための第2動作モードB2で第2電界EF2を印加すると、一方では、第1の選好方向又は第2の選好方向に平行に切替え可能な導光体5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、対応する選好方向に30度以上の角度で切替え可能な導光体5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収される。動作モードB2では、偏光フィルタP(ある場合)の遷移双極子モーメントと、この偏光フィルタPに最も近い切替可能な光学素子1及び2の遷移双極子モーメントは互いに垂直に配向し、両光学素子1及び2の遷移双極子モーメントはそれぞれ互いに平行に配向している。ここでも、選好方向は、好適には
図8で図示の平面内にある切替え可能な光フィルタ5の中心垂線に対応する。このことは、既に第3の実施形態に関して述べたように、切替え可能な光フィルタ5の対応する配向において、特に水平がS1層の下縁に平行であり、垂直がS1層の左縁又は右縁に平行である場合に、水平方向と垂直方向の両方で同時に該当する。
【0138】
このようにして、この第4の実施形態の切替え可能な光フィルタ5は、画像表示ユニットと協働して、すべての方向に自由な観視と4方覗き見防止(自由監視B1と上/下/左/右保護B2)との間の切替えを可能にする。
【0139】
切替え可能な光フィルタ5の第1の実施形態が、
図9に原理図として示されている。この実施形態は、やはり第1層S1、又は第1層S1と複数の別の層S2、 ...を含む切替え不可能な第1光学素子1を有しており、各層S1、S2、 ...は、光を吸収する多数の遷移双極子モーメントを有する材料からなる。各遷移双極子モーメントは、少なくとも第1の状態において、第1光学素子1に対して選択可能な第1の選好方向に最大10度の公差で平行に配向しているか又はその周りで変動しており、その結果として、第1光学素子1に入射する光は、その層S1、S2、・・・への入射方向と偏光状態に応じて透過し、又は少なくとも一部吸収される。
【0140】
第1光学素子1の前方又は後方には、偏光フィルタPが配置されている。選択的に第1電界EF1又は第2電界EF2を発生させる手段は、やはり図示されていない。第1光学素子1と偏光フィルタPとの間には液晶層3が配置されていて、これに第1電界EF1又は第2電界EF2が作用し、それに応じて液晶層は当該液晶層を通過する光の偏光状態に影響を与える。
【0141】
この第1の実施形態では、第1電界EF1が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、一方では、第1の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われる。この場合、第1の選好方向は、好適にはやはり図示の平面において切替え可能な光フィルタ5の中心垂線と平行である。第1の方向と第2の方向の位置に関しては、第3の実施形態に関して行った記述を準用できる。
【0142】
第2電界EF2が印加され、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第2動作モードB2において、一方では、第1の選好方向に平行に切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第2の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われ、その結果として両サブモードB1H、B1Vの各々の吸収方向は、第1のモードB1と第2のモードB2に対してそれぞれ90度異なる。
【0143】
ここでは上述したのとは異なり、両動作モードは制限された観視モードを有する動作モードであり、覗き見防止は互いに直角の2つの方向、例えば水平方向と垂直方向との間で切り替えることができる。この切替え可能な光フィルタ5の第1の実施形態の構成は、偏光フィルタPを90度回転させることにより、サブモードB1VとB1Hとの間で構成を切り替えることができる。
【0144】
ここでも、例えば第1電界EF1又は第2電界EF2のいずれかが無電界状態を表し、それぞれの他方の電界EF2若しくはEF1がゼロより大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。無電界状態は、光学素子1と偏光フィルタPの設計によっては、サブモードB1Hが存在することを意味し得る。しかしまた、無電界状態でサブモードB1Vが存在することも可能である。
【0145】
このようにして、この第1の実施形態の切替え可能な光フィルタ5は画像表示ユニットと協働して、垂直方向の覗き見防止と水平方向の覗き見防止(上/下保護B1Vと左/右保護B1H)との間で切り替えることができる。これは例えばラップトップで、ユーザーはサブモードB1Vでは、ユーザーの隣にいて目の高さがほぼ同じである別の人々と一緒に内容を見ることができるが、サブモードB1Hでは横にいる人々は画像内容を見ることができないことを意味しよう。この第3の実施形態の切替え可能な光フィルタ5は、上述したようにその構成を変化させることができる。
【0146】
最後に、
図10は切替え可能な光フィルタ5の第2の実施形態を原理図として示している。第1光学素子1は、第1の実施形態の光学素子1に類似して構成されているが、これとは異なって切替え可能である。即ち、各層S1、S2、 ...の遷移双極子モーメントは、それらの向き及び/又は大きさを第1の状態と少なくとも第2の状態との間で変化させて、それぞれの層S1、S2、 ...を少なくとも2つの異なる状態のいずれかにすることができる。第1光学素子1の前方又は後方には偏光フィルタPが配置されている。第1電界EF1又は第2電界EF2を選択的に発生させる手段はやはり図面に示されておらず、第1光学素子1に対して第1電界EF1を印加することによって第1の状態が発生し、第2電界を印加することによって第2の状態が発生するようになっている。
【0147】
第1電界EF1が印加され、第1光学素子1の層S1、S2、 ...の遷移双極子モーメントは第1の選好方向に沿って配向している、第1サブモードB1Hと第2サブモードB1Vを有する第1動作モードB1において、一方では、第1選好方向に平行に切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも24%透過し、他方では、第1の選好方向に対して30度以上の角度で切替え可能な光フィルタ5に入射する非偏光の光は少なくとも85%吸収され、この吸収は、第1サブモードB1Hでは第1の方向にのみ行われ、第2サブモードB1Vでは第1の方向に垂直な第2の方向にのみ行われる。この場合、第1の選好方向は好適にはやはり、図示の平面で切替え可能な光フィルタ5の中心垂線に平行である。第1の方向と第2方向の位置については、第3の実施形態に関して行った記述を準用できる。
【0148】
第2電界EF2が印加されている第2動作モードB2では、第1光学素子(1)の層S1、S2、 ...の遷移双極子モーメントは、偏光フィルタP-この文脈では基体とも呼ばれる-の表面に平行に配向し、且つ偏光フィルタPの透過方向に垂直に配向している。第1の選好方向に対して任意の角度で切替え可能な光フィルタ(5)に入射する非偏光の光は、少なくとも24%透過する。
【0149】
この場合も、例えば電界EF1又は電界EF2のいずれかが無電界状態を表し、それぞれ他方の電界EF2若しくはEF1はゼロよりも大きい絶対電界強度、例えば0.5MV/mを有することが可能である。無電界状態は、光学素子1と偏光フィルタPの設計によっては、動作モードB2が存在することを意味し得る。しかしまた、無電界状態では、サブモードB1H又はB1Vのいずれかを有する動作モードB1が存在することも可能である。
【0150】
このようにして、この第2の実施形態の切替え可能な光フィルタ5は画像表示ユニットと協働して、垂直方向若しくは水平方向の覗き見防止と、覗き見防止効果がない状態(上/下保護B1V若しくは左/右保護B1Hと覗き見防止なしB3)との間で切り替えが可能である。
【0151】
特別な用途のために、切替え可能な光フィルタは-前述のどの実施形態であっても-複数の別個に切替え可能なセグメントに分割されることができ、それぞれ可能な動作状態の間で局所的な切替えを可能にする。このことは画像表示ユニットとの協働において、例えば画面の一部のみが覗き見防止と、覗き見防止効果のない自由観視との間で切り替えることができ、これと相補的な画面部分は永久的に覗き見防止モード又は公開モードにあることを可能にする。さらに互いに幾何学的に分離された複数のこのようなセグメントが存在し、これらは動作モード間で別個に又は一緒に切り替えることができる。
【0152】
既に述べたように、上述した切替え可能な光フィルタ5は、画像表示ユニットと組み合わせて画面を形成することができる。このような画面は、水平方向に自由な観視モードのための少なくとも1つの第1動作モードB1V及び/又はB3と、水平方向に制限された観視モードのための少なくとも1つの第2動作モードB1H及び/又はB2で操作可能であり、上述した4つの実施形態のうちの1つの切替え可能な光フィルタ5と、観視者6から見て切替え可能な光フィルタ5の後方又は前方に配置された画像表示ユニットを有する。
【0153】
有利には、画像表示ユニットは、1つの偏光フィルタが偏光フィルタに対応するLCDパネルに相当する。これはLCD構成における前面又は背面の偏光板であることができる。さらに有利には、切替え可能な光フィルタをLCDパネルとそのバックライトの間に配置して、自由な観視モードのための第1の動作状態B3(又はB1V)と制限された観視モードのための第2動作モードB1H若しくはB2の間で切り替えることができる。なぜなら、バックライトの光は切替え可能な光フィルタによって、あるときは水平方向に収束され(B2若しくはB1H)、あるときは収束されない(B3若しくはB1V)からである。ここで「収束」とう言葉は、レンズのように焦点を絞ることではなく、入射角によって照射範囲若しくは透過範囲を狭めることを意味する。
【0154】
このような画面は、携帯端末、自動車、航空機、船舶、決済端末、又はアクセスシステムなどで有利に使用される。この場合、機密性の高いデータを保護するために、上記のモードの間で切り替えることができる。即ち、一人の観視者のみ知覚できるように表示したり、或いはまた複数の観視者に同時に画像内容を表示したりすることができる。
【0155】
上述した光学素子において、この光学素子に入射して通過する光は、その入射方向と偏光特性に応じて透過し、又は一部若しくは全部吸収される。このような光学素子を用いた切替え可能な光フィルタは、角度に応じて(任意選択で垂直に)光の透過に影響を与え、観視者の視野角範囲に関して自由な観視モードと制限された観視モードの少なくとも2つの動作状態の間で切り替えることができる。この場合、特に特定の方向への透過における角度制限の切り替えが可能である。この光学素子若しくはそれに基づくシステムは、廉価に実装することが可能であり、特に種々異なるタイプの画面と汎用的に使用可能であり、少なくとも水平方向にある覗き見防止と自由な観視モードとの間の切替えを可能にし、その際にそのような画面の解像度は基本的に低下しない。
【0156】
上述した発明は画像表示ユニットと協働して、機密データの表示及び/又は入力が行われる場所ならどこでも、例えばATMや決済端末でのPIN入力やデータ表示、又はパスワード入力、携帯端末上のEメールの閲覧などに有利に応用できる。本発明は上述したように乗用車にも適用でき、選択的に運転者又は同乗者に邪魔な画像内容を表示しないようにすることができる。
【符号の説明】
【0157】
1 第1光学素子
2 第2光学素子
3 液晶層
4 配向層
5 切替え可能な光フィルタ
6 観視者
7 光学異方性層
A1 ...A5 領域
E1、E2 電極
E2 第2電界
P 偏光フィルタ
S 透明な基体
S1 ...S3 層
【国際調査報告】