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特表2023-515939架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)-ジメタクリレートコーティングおよびその使用方法
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  • 特表-架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)-ジメタクリレートコーティングおよびその使用方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(54)【発明の名称】架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)-ジメタクリレートコーティングおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/34 20060101AFI20230410BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20230410BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230410BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20230410BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230410BHJP
   A61F 2/44 20060101ALI20230410BHJP
   A61F 2/30 20060101ALI20230410BHJP
   A61B 17/86 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/36 311
A61L27/54
A61L27/36 320
A61L27/44
A61L27/58
A61F2/44
A61F2/30
A61B17/86
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550143
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(85)【翻訳文提出日】2022-10-14
(86)【国際出願番号】 US2021019485
(87)【国際公開番号】W WO2021173727
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】62/981,696
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592110646
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ベルンタール,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】シー,ウェイシャン
(72)【発明者】
【氏名】セグラ,タチアナ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AB35
4C081BA14
4C081CA082
4C081CE02
4C097AA03
4C097AA10
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097DD03
4C097EE03
4C097EE08
4C160LL24
4C160LL28
4C160LL42
(57)【要約】
抗生物質のような薬物または治療用化合物を長期間にわたって、かつMICを超えるレベルまたは濃度で送達するためのポリマー医療デバイス/インプラントコーティングが開示される。一実施形態では、バンコマイシンなどの抗生物質が、光架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)-ジメタクリレートコーティングに封入される。このコーティングの薬物放出プロファイルを研究したところ、光架橋により初期バーストが減少した。光架橋により、更なる拡散抵抗が生じ、それにより放出媒体への薬物の容易な拡散が妨げられた。さらに、このコーティングプロセスに要する時間は非常に短く(例えば、5分程度であり)、このコーティングは手術室で施すのに適している。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療デバイスの1または複数の表面をコーティングする方法であって、
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレートと、光開始剤と、有機溶媒と、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物との混合物を提供するステップと、
前記混合物を前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布するステップと、
前記混合物に重合光を照射して、前記1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含む光架橋PLGAジメタクリレートコーティングを前記医療デバイスの1または複数の表面上に形成するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記混合物を、噴霧により前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記混合物を、ペインティングにより前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、
前記混合物を、浸漬により前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記医療デバイスが、光架橋PLGAジメタクリレートコーティングで被覆される1または複数の金属表面を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記医療デバイスが、整形外科用インプラント、脊椎インプラント、関節置換デバイス、ペースメーカー、インスリンポンプ、外科用ピン、ネジ、または他の外科用ハードウェアのうちの1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物が、抗生物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、
前記抗生物質が、バンコマイシンを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
医療デバイスの1または複数の表面をコーティングする方法であって、
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレートと、有機溶媒と、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物との混合物を提供するステップと、
前記混合物を前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布するステップと、
前記混合物に架橋して、前記1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含む架橋PLGAジメタクリレートコーティングを前記医療デバイスの1または複数の表面上に形成するステップとを備え、架橋が、熱開始剤への曝露によって開始されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、
前記混合物を、噴霧により前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、
前記混合物を、ペインティングにより前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法において、
前記混合物を、浸漬により前記医療デバイスの1または複数の表面に塗布することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法において、
前記医療デバイスが、架橋PLGAジメタクリレートコーティングで被覆される1または複数の金属表面を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法において、
前記医療デバイスが、整形外科用インプラント、脊椎インプラント、関節置換デバイス、ペースメーカー、インスリンポンプ、外科用ピン、ネジ、または他の外科用ハードウェアのうちの1つを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法において、
前記1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物が、抗生物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法において、
前記抗生物質が、バンコマイシンを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
コーティング材料であって、
1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含有する架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレートを含み、医療デバイスまたはインプラントの1または複数の表面上に配置されることを特徴とするコーティング材料。
【請求項18】
請求項17に記載のコーティング材料において、
前記1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物が、抗生物質を含むことを特徴とするコーティング材料。
【請求項19】
請求項18に記載のコーティング材料において、
前記抗生物質が、バンコマイシンを含むことを特徴とするコーティング材料。
【請求項20】
請求項17に記載のコーティング材料において、
当該コーティング材料が、複数の層を含むことを特徴とするコーティング材料。
【請求項21】
請求項17に記載のコーティング材料において、
当該コーティング材料が、生分解性であることを特徴とするコーティング材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術分野は、概して、医療デバイス上のコーティングとして使用するための薬物含有架橋ポリマーの合成および使用に関する。特に、本技術分野は、一実施形態において、生物医学的インプラント(例えば、整形外科用インプラント)に有用な抗生物質を取り込んだ光架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)-ジメタクリレートコーティングに関する。
【0002】
関連出願
本願は、2020年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/981,696号の優先権を主張するものであり、この出願は引用により本明細書に援用されるものとする。優先権は、米国特許法第119条および他の適用可能な法令に従って主張される。
【背景技術】
【0003】
整形外科の移植感染症は、宿主の改変、環境の無菌化および全身的な抗生物質治療における最善の努力にもかかわらず、存続し、それに対して米国の医療システムは年間80億ドルを超える追加費用を負担している。現在の抗生物質局所送達の標準治療は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)-その機械的特性のために使用される溶出特性の乏しい生物学的に不活性な送達システムであり、有益な「二次」機能として抗生物質局所送達を有する。PMMAの代替として、自己集合性のブロックポリマーを用いたコロイドベースの生分解性システムを設計する試みがなされている。例えば、分岐ポリ(エチレングリコール)-ポリ(プロピレンスルフィド)(PEG-PPS)ポリマーを用いた「スマート」インプラントコーティングは、抗生物質を受動的および能動的に送達するように設計されている。文献(Stavrakis et al.,「In Vivo Efficacy of a“Smart”Antimicrobial Implant Coating」,Journal of Bone and Joint Surgery,98(14):1183-89(2016))を参照されたい。しかしながら、それらのコーティングは、製造に手間がかかり、そのため、手術室の前に組み立てる必要があった。
【0004】
ポリマーベースのインプラントコーティングに関する永続的な問題は、抗生物質の初期バースト放出であり、それにより最小抑制濃度(MIC)を超える濃度を維持するのに十分な溶出時間を提供することができない。MICは、細菌の増殖を阻止する薬物(例えば、抗生物質)の最低濃度である。長期間にわたりMICレベルを超える薬物または治療用化合物(例えば、抗生物質)を放出するように調整または調節することができる、医療デバイスおよび他の生物医学的デバイスのためのコーティングを有することが望まれている。すなわち、医療デバイスに使用するための追加のポリマーベースのコーティングが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書で開示されるのは、抗生物質のような医薬品または治療用化合物を長期間にわたって、かつMICを超えるレベルまたは濃度で送達するためのポリマー送達コーティングである。一実施形態では、バンコマイシンなどの抗生物質が、光架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレートコーティング中に封入される。このコーティングの薬物放出プロファイルを研究したところ、光架橋によって初期バーストが減少した。光架橋により、追加の拡散抵抗が生じ、それにより放出媒体への薬物の容易な拡散が妨げられた。また、このコーティングプロセスに要する時間は非常に短く(例えば、5分程度であり)、このコーティングを手術室で施すのに適したものとすることができる。この抗生物質の徐放性により、インプラント表面での細菌感染を防ぐことが期待される。このコーティングは、光開始剤および適切な光源(例えば、紫外線またはUV光源)の存在下で1または複数の薬剤または医薬化合物を組み込んで、例えば医療デバイスの表面にその場で形成される架橋PLGAジメタクリレートコーティングを形成するために使用することができる。このコーティングは、整形外科用インプラントなどの医療デバイスが滅菌状態を維持したまま生産倉庫を離れることを可能にし、外科医に手術室で抗菌コーティング(または他の薬剤)を適用する汎用性を提供する。薬物含有コーティングを施すために、様々なモダリティを使用することができる。例えば、コーティングは、スプレーなどのエアロゾルとして塗布することができる。また、コーティングは、ブラシなどのアプリケータを用いて塗料として塗布することもできる(浸漬することができる)。その後、塗布したコーティングは、光架橋の実施形態では、適切な波長の放射光源(例えば、紫外線光源)からの照射を受ける。本明細書に記載のコーティングシステムは、一貫した適切な放出動態を有し、抗生物質の患者固有の調整を可能にする医療デバイスコーティングを提供する。
【0006】
一実施形態では、医療デバイスをコーティングして、コーティングを重合するプロセスを、医療手術室内などで外科医または医師が実行することができる。例えば、プレポリマー溶液(例えば、PLGAジメタクリレート、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)(光開始剤)、薬物または治療薬、およびジクロロメタンなどの溶剤)を含む混合物または溶液を、外科医が使用するために提供することができる。その後、この混合物を医療デバイスに塗布し、重合光(例えば、紫外線)を照射する。溶媒は蒸発し、塗布後にコーティングに残留することはない。外科医または医師は、塗布の前に、この混合物または溶液に所望の1または複数の薬物を添加することができる。代替的には、プレポリマー溶液を、1または複数の薬物と予め混合しておくことができる。
【0007】
一実施形態では、医療デバイスの1または複数の表面をコーティングする方法が、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレート、光開始剤、有機溶剤、並びに、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物の混合物を提供するステップを含む。混合物は、医療デバイスの1または複数の表面に塗布される。その後、医療デバイス上の混合物に重合光を照射して、医療デバイスの1または複数の表面上に、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含む光架橋PLGAジメタクリレートコーティングを形成する。こうしてコーティングした医療デバイスは移植することができる。また、コーティングは、既に移植されたインプラントに施すこと(例えば、コーティングのその場での適用)も可能である。
【0008】
別の実施形態では、医療デバイスの1または複数の表面をコーティングする方法が、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレート、有機溶媒、並びに、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物の混合物を提供するステップを含む。この混合物は、医療デバイスの1または複数の表面に塗布する。次いで、混合物を架橋して、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含む架橋PLGAジメタクリレートコーティングを医療デバイスの1または複数の表面上に形成する。ここで、架橋は、熱開始剤への曝露によって開始される。
【0009】
別の実施形態では、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物を含有する架橋ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ジメタクリレートを含む医療デバイスまたはインプラントのためのコーティング材料が開示され、このコーティング材料が、医療デバイスまたはインプラントの1または複数の表面に配置される。1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物は、1または複数の抗生物質(例えば、バンコマイシン)を含むことができる。コーティング材料は、単層または複数の層を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1Aは、一実施形態に係る医療デバイスまたはインプラント上に光架橋PLGAコーティングを塗布または形成するためのプロセスを概略的に示している。図1Bは、別の実施形態に係る医療デバイスまたはインプラント上に架橋PLGAコーティングを塗布または形成するためのプロセスを示している。
図2図2は、数日間にわたって200μlのPBSに浸漬されたチタン製ピン上の架橋PLGAコーティング中のバンコマイシンの濃度のグラフ(インビトロ試験)を示している。
図3図3は、Xenogenインビボイメージングシステム(Xenogen Corporation、カリフォルニア州アラメダ)を用いて測定された多数のチタン製ピン(PLGAのみ(薬剤なし)、コーティングしていないチタン(Ti)製ピン、滅菌、およびPLGA+バンコマイシン)の生物発光シグナルを示している。PLGA/バンコマイシン群は、非常に優れた感染の根絶を示した。生物発光シグナルは、滅菌群とほぼ同じである。
図4図4Aは、術後日数(POD)21の軟組織におけるコロニー形成単位(CFU)測定値(組織CFU)を示している。図4Bは、POD21におけるインプラントのCFU測定値を示している。図4Aおよび図4Bの結果から、術後日数(POD)21日目以降のインプラントおよび軟組織の両方で、細菌増殖が有意に抑制されることが確認された。PLGA+バンコマイシンの結果(PLGA+VANC)は、滅菌ピンと同様である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態では、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面をコーティングするために使用される光架橋PLGA、特に光架橋PLGAジメタクリレートから形成される薬物送達プラットフォームが開示される(図1A図1B)。いくつかの実施形態では、架橋PLGAが、アクリレート(例えば、PLGAジメタクリレート)を利用する。また、PLGAは、アクリルアミドとともに使用することもできる。いくつかの実施形態では、コーティングが、経時的に分解可能である(例えば、PLGAは、身体によって分解可能である)。光架橋PLGAシステムは、抗生物質などの医薬品または治療用化合物の生体組織への送達のために使用することができる。ポリマー送達プラットフォームは、一実施形態では、哺乳動物の対象に使用される医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面上にその場でコーティングされる。好ましい一実施形態では、開始剤化合物(例えば、光開始剤)およびジクロロメタンなどの溶媒の存在下で、PLGAジメタクリレートのプレポリマー溶液が、1または複数の薬物、薬剤または医薬化合物(例えば、それらを含む溶液)と混合される。この混合物は、(好ましい実施形態では)光、熱、またはフリーラジカル重合反応を助けてコポリマーを重合させるための他の開始剤/刺激(例えば、レドックス開始剤)などの開始剤源に曝される。一実施形態では、開始剤化合物が光開始剤(例えば、ジメチロールプロピオン酸または2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA))であり、混合物は、先ず、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面に塗布され、続いて適切な重合光源(例えば、紫外線源または可視光源)に曝されて、医療デバイスまたはインプラント10上にその場で形成される架橋PLGAコーティング層または複数層が形成される。
【0012】
本明細書では光開始剤について説明しているが、他の実施形態では、PLGAを架橋する他の開始剤も使用することができる。例えば、PLGAジメタクリレートを架橋するために、加えられた熱に応答して生成されるレドックス開始剤(すなわち、熱開始剤)を使用することもできる。そのようなレドックス開始剤としては、例えば、アゾ化合物または過酸化物などが挙げられる。フリーラジカル重合のために、市販のフリーラジカル調整剤も利用することが可能である。一例として、メタクリル酸ベースのラジカル開始種を反応制御分子とともに結合するアルコキシアミンである、BlocBuilder(登録商標)MA(Arkema)調整剤が挙げられる。熱を加えるとラジカル開始剤が遊離するが、これをPLGAジメタクリレートの架橋に使用することができる。本明細書で具体的に開示しているもの以外にも、他のレドックス開始剤を使用できることを理解されたい。さらに、他の実施形態では、光と熱の組合せを使用することもできる。例えば、光照射に応じた局所的な加熱は、熱開始剤を遊離させて重合を補助することができる。
【0013】
PLGAコーティングは、医療デバイスまたはインプラント10が使用前に滅菌状態を維持することを可能にし、外科医に、医療デバイスまたはインプラント10上の薬物、薬剤または医薬化合物含有コーティングをカスタマイズする(または他のアプリケーションにおいて手術室内で直接患者にまたはその体内に適用する)多様性を提供する。いくつかの実施形態では、薬物、薬剤または医薬化合物が、医療デバイスまたはインプラント10のすべてまたは一部に直接塗布することができる1または複数の抗菌剤または薬物を含む。PLGAコーティングとともに使用される抗菌剤の選択は、患者のニーズに合わせて特別に調整され得る。当然のことながら、他の実施形態では、PLGAコーティングを、手術室での使用前に(例えば、製造現場で)デバイスまたはインプラント10に塗布することができる。
【0014】
図1Aは、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面をコーティングする方法の一実施形態を概略的に示している。医療デバイスまたはインプラント10は、例示であって限定するものではないが、整形外科用インプラント、脊椎インプラント、関節置換デバイス、ペースメーカー、インスリンポンプ、外科用ピン、ネジまたは他の外科用ハードウェアを含むことができる。典型的には、コーティングは、チタンまたはステンレス鋼などの医療デバイスまたはインプラント10の金属表面に施されるが、コーティングおよび使用方法が、コーティングが存在する基材の特定の組成に限定されないことを理解されたい。例えば、ポリマーまたはセラミック表面に適用することもできる。具体的な一例では、プレポリマー溶液(例えば、400μLジクロロメタン(DCM)中に40mgのPLGAジメタクリレート、1mgのDMPA)を、薬物、薬剤または医薬成分(例えば、バンコマイシン溶液(20ulのPBS中に8mg))と混合して、送達デバイス12内に格納した。使用され得る他の有機溶媒には、クロロホルムおよびジメチルスルフィド(DMS)が含まれる。有機溶媒の量は変化し得るが、典型的には10重量%未満(例えば、6重量%)である。本明細書に記載の例では、PLGAコーティングに組み込まれる薬剤は、抗生物質バンコマイシンである。また、使用され得る他の抗生物質には、グリコペプチド、セファロスポリン、アミノグリコシド、マクロライド、オキサゾリジノン、キノロン、ポリミキシン、スルホンアミド、テトラサイクリンおよびペニシリンを含む抗菌ファミリーに属するものが含まれる。例えば、ダプトマイシン、チゲサイクリン、テラバンシン、クロラムフェニコール、バシトラシン、リファンピン、エタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジドが含まれる。非有機溶媒を含む、それら抗生物質に適した様々な溶媒が、必要になる場合がある。
【0015】
なお、他の薬物、薬剤または医薬化合物をPLGAコーティング内に入れることができることを理解されたい。有機溶媒を使用するため(バンコマイシンの場合)、薬物、薬剤または医薬化合物は一般に有機溶媒に溶解可能または可溶性である必要がある。また、本明細書に記載の方法によって形成されたコーティングによって、2種類以上の薬物、薬剤または医薬化合物が担持され得ることも理解されたい。
【0016】
外科医または医師は、手術室または他の外科的環境において、PLGAプレポリマー溶液と、薬物、薬剤または医薬化合物との混合物が提供されるか、または取り揃える(または混合物は既に調製されている)。添加される薬物、薬剤または医薬化合物の量は、様々であってもよい。薬物、薬剤または医薬化合物の典型的な濃度は、通常、プレポリマー混合物の約10~20mg/mL以内またはそれ未満である。
【0017】
このプレポリマー/薬剤混合物は、医療デバイスまたはインプラント10上にコーティングを噴霧するために使用できるスプレーボトルなどの送達デバイス12に(まだそこに存在しない場合)添加することができる(エアブラシタイプのアプリケータなどの他の送達デバイス12も使用することができる)。スプレーボトル12は、図1Aの操作1000に見られるように、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面上に混合物の概ね均一なコーティングを施すように作動させることができる。代替的には、医療デバイスまたはインプラント10に、ブラシなどのアプリケータ14を用いて混合物を塗布することができる。さらに別の代替例として、医療デバイスまたはインプラント10を、混合物に浸漬して、除去することができる。次いで、操作1100に見られるように、医療デバイスまたはインプラント10に光源16からの光(例えば、開始剤に応じた可視光またはUV光)を照射して、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面上でPLGAポリマーを直接重合させる。光源16は、病院や他の医療現場で一般的に見られ、表面を光で照らすために使用されるライト、ガン、ワンドまたは他のデバイスを含むことができる。コーティングは、短時間(例えば、5分未満)照射され、それにより1または複数の薬物を含む架橋PLGAポリマーが適切に形成される。医療デバイスまたはインプラント10にコーティングを施した後、照明の前に溶媒を蒸発させることができるように、ある程度の時間を経過させるようにしてもよい。この任意の待機時間は、数分間続くこともある。このように、重合は、医療デバイスまたはインプラント10の表面上でその場で行われる。
【0018】
光架橋の代替として、他の実施形態では、異なるレドックス開始剤を使用して、プレポリマー溶液混合物を架橋することができる(図1B)。例えば、熱開始剤を使用して架橋を開始するために、コーティングされた医療デバイスまたはインプラント10を高温に曝すことができる。これは、ヒートガンなどを使用するか、または医療デバイスまたはインプラント10をオーブンまたはヒーター内に配置することによって達成することができる。さらに別の代替例では、コーティングされた医療デバイスまたはインプラント10を1または複数の化学試薬に曝露して、コポリマーの重合を開始することによって、架橋を達成することができる。これは、1または複数の化学試薬を医療デバイスまたはインプラント10上に適用するために使用される別個の送達デバイス12(例えば、別個のスプレーボトル)に含まれるようにしてもよい。浸漬、アプリケータ14の使用などの追加の曝露方法を使用することができる。
【0019】
図1Aに示すように、任意選択的には、操作1050によって見られるように、複数の層を医療デバイスまたはインプラント10の表面上にコーティングすることができる。複数の層の場合、プレポリマー/薬剤混合物を塗布した後、架橋(例えば、架橋光による照射)を施し、その後、混合物の別の層を塗布した後、照射を行う。これは、医療デバイスまたはインプラント10上に所望の厚さまたは数の層を形成するために、複数のサイクルにわたって進めることができる。
【0020】
図1Bは、医療デバイスまたはインプラント10の1または複数の表面をコーティングする代替的な方法を示している。PLGAプレポリマー溶液および1または複数の薬剤は、操作2000に見られるように、医療デバイスまたはインプラント10に塗布される。これは、前述したように塗布することができる。次に、操作2100において、コーティングされたデバイスまたはインプラント10が、重合開始剤(例えば、熱開始剤)に曝される。これには、デバイスまたはインプラント10を、高温などの環境条件に曝すこと、または重合開始剤または薬剤に曝すことが含まれる。任意選択的には、操作2050に見られるように、このプロセスを何回か繰り返すことができる。所望の層(または複数の層)が形成されたら、医療デバイスまたはインプラント10を、操作2200に見られるように移植することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、医療デバイスまたはインプラント10の表面の一部分のみがコーティングされる。例えば、骨または身体組織と接触している表面のみをコーティングすることが好ましい場合がある。それら表面のうち他のコンポーネントのための接触面または関節面として機能する表面は、コーティングされなくてもよい。本明細書に記載のコーティングシステムは、任意の数の医療デバイスまたはインプラント10に使用することができるが、関節置換デバイスに特に適合性を有する。コーティングシステムは、整形外科用外傷インプラントまたは脊椎インプラントとともに使用することもできる。ペースメーカー、インスリンポンプなどのような他の移植可能な医療デバイスもコーティングすることができる。コーティングされる表面は、通常、チタン、ステンレス鋼、コバルトクロムなどの金属であるが、他の材料にコーティングすることもできる。それには、プラスチック、セラミックおよび同種移植の死体骨が含まれる。
【0022】
本明細書に記載の実施形態では、開始剤が、光による活性化を必要とする光開始剤(例えば、DMPA)である。他の実施形態では、開始剤が熱開始剤である場合、熱を加えるために熱アプリケータを使用できることを理解されたい。これには、ヒートガン、オーブン、保温デバイスなどが含まれる。他の実施形態では、例えば、レドックス開始剤が1または複数の化学試薬である場合、別個の刺激デバイスは必要ない場合がある。開始から終了までのプロセスは、コーティングされる表面の数およびサイズに応じて、例えば、10分未満(例えば、約5分)で、比較的迅速に達成することができる。最後に、操作1200、2200に見られるように、医療デバイスまたはインプラント10が対象者に埋め込まれる。
【0023】
実験
チタン製ピン(医療デバイスまたはインプラント10の代表)を、バンコマイシン溶液(20μlのPBS中に8mg)と混ぜ合わせたプレポリマー溶液(400μlジクロロメタン中に40mgのPLGAジメタクリレート、1mgのDMPA)中に浸漬した後、溶液からピンを取り出して、UV光を5分間照射した。その後、コーティングしたピンを200μlのPBSに浸し、インビトロの放出テストのため溶出緩衝液を毎日リフレッシュした。濃度は、230nmにおけるバンコマイシンのUV吸収によって求めた。図2は、架橋PLGAジメタクリレート(MA-PLGA)中のバンコマイシンの濃度を示すグラフである。バンコマイシンの初期バーストまたは放出は、光架橋によって減少した。光架橋により、追加の拡散抵抗が形成され、それにより放出媒体への薬剤の容易な拡散が妨げられて、バンコマイシンがピン上のコーティングに維持された。好ましい一実施形態では、コーティング中の抗生物質またはコーティングにすぐ隣接する抗生物質のレベルは、一定期間、MICを上回ったままである。例えば、抗生物質のレベルまたは濃度は、数日間または数週間にわたってMICレベルを超えたままで留まることができる。
【0024】
PLGA-ジメタクリレートでコーティングしたピンをインビボでも評価した。具体的には、インプラントのコーティング技術が、人工関節周囲感染(PJI)後の感染を効果的に防止することができるか否かを、研究室で以前に開発された膝PJIのマウスモデルを使用して調査した。簡単に説明すると、架橋PLGA-ジメタクリレートポリマーコーティングを施したチタン製ピン(0.8mm)を、膝関節から大腿管に逆行して配置する。生物発光性黄色ブドウ球菌Xen36を使用して、関節腔内の金属ピンの関節内部分に接種し、Xenogenインビボイメージングシステム(Xenogen Corporation、カリフォルニア州アラメダ)を使用して非侵襲的に定量化できる制御された感染症の形成を誘導する。このインビボアッセイでは、細菌感染症を反映する「指標」として、代謝的に活性な細菌のみが放出する青緑色の光を自然に発する生物発光性黄色ブドウ球菌Xen36株を採用した。PLGA/バンコマイシン群は、感染症の根絶において優れた結果を示した。PLGA/バンコマイシン群(PLGA+VANC)の生物発光シグナルは、滅菌群とほぼ同じである(図3)。PLGAのみでは、対照群(コーティングなし群)とほぼ同じ信号であり、これは、PLGAのみではインプラント10を十分に保護できないことを意味する。また、図4Aおよび図4Bに示すCFUの測定値からも、術後日数(POD)21日目以降のインプラント10および軟組織(インプラント周囲組織)の両方において、細菌の増殖が有意に抑制されることが確認された。
【0025】
PLGAコーティングの溶出特性は、コーティングされたデバイスまたはインプラント10の所望の特性に応じて調整または調節できることに留意されたい。いくつかの実施形態では、薬物、薬剤または医薬品は、時間の経過とともに直線的に溶出され得る(これは、持続放出または急速放出であってもよい)。他の実施形態では、溶出の増加またはスパイク(例えば、ボーラス)が、移植直後、または実施後数日または数週間のいずれかで望まれ得る。PLGA溶出動態は、適切なアプリケーションに合わせて変更され得る。一実施形態では、架橋の程度を調整することによって(例えば、光などの開始剤を適用する時間を調整することによって)、放出動態を調整することができる。架橋度が高いほど、一般に、放出プロファイルが遅くなる。また、デバイスまたはインプラント10上に形成される複数の層における架橋の程度を変化させることによっても、調整を達成することができる。また、PLGAコーティングの生分解速度も調整することができる。これは、PLGAコーティング中の乳酸:グリコール酸の比率を調整することによって達成することができる。例えば、乳酸含有量が高いほど、一般に、PLGAの分解速度が上昇する。
【0026】
本発明の実施形態を開示および説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。したがって、本発明は、以下の請求項およびそれらの均等物を除いて限定されるべきではない。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
【国際調査報告】