(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(54)【発明の名称】ペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)を決定する方法および診断目的でのその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/573 20060101AFI20230410BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230410BHJP
C12N 9/06 20060101ALI20230410BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20230410BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
G01N33/573 A ZNA
G01N33/531 A
C12N9/06 Z
C12Q1/26
C07K16/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551692
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2021054746
(87)【国際公開番号】W WO2021170752
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522338816
【氏名又は名称】ペーアーエム セラノスティクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルクマン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD11
4B050LL03
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ22
4B063QR02
4B063QR48
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
本発明は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、前記対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または前記対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または前記対象での疾患または有害事象を監視する方法を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の疾患を診断または予後判断する方法、および/または前記患者で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または前記患者での疾患または有害事象を監視する方法であって、前記患者の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することによる方法であって、
前記患者の疾患は、認知症、心血管障害、腎臓病、癌、炎症または感染症、および/または代謝性疾患を含む群から選択され、
前記有害事象は、心臓事象、心血管事象、脳血管事象、癌、糖尿病、感染症、深刻な感染症、敗血症様全身感染症、敗血症、およびこれら全ての原因による死亡を含む群から選択される、方法。
【請求項2】
患者での疾患を診断または予後判断する方法、および/または前記患者で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または前記患者での疾患または有害事象を監視する方法であって、前記患者の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することによる方法であって、
・前記患者の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片を測定する工程、および
・前記測定値を所定の閾値と比較する工程を含み、
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、前記患者は疾患を患っていると診断され、または
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患の転帰が予後判断され、または
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患または有害事象が発生するリスクが予測される、または
・ここで前記患者の疾患または有害事象が監視される、方法。
【請求項3】
前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準は、前記患者の体液試料中の少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度、あるいはPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性である、請求項1および2に記載の方法。
【請求項4】
前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10の配列を含む群から選択される、請求項1~3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度は、免疫検定法で検出される、請求項1~3に記載の方法。
【請求項6】
前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、基質としてペプチド-Glyを用いて検出される、請求項3~4に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10を含む群から選択される、請求項1~7に記載の患者の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、患者での疾患の診断または予後判断する方法、および/または患者で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または患者での疾患または有害事象を監視する方法。
【請求項9】
前記患者で疾患が発生するリスクは、前記患者が健康な患者である場合に決定される、請求項1~8に記載の患者の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、患者での疾患の診断または予後判断する方法、および/または患者で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または患者での疾患または有害事象を監視する方法。
【請求項10】
前記疾患は、アルツハイマー病、大腸がん、および膵臓がんの群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
一検定法を用いて体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する方法であって、前記検定法は、PAMの2つの異なる領域に結合する2つの結合剤を含み、前記2つの結合剤は、少なくとも5つのアミノ酸長さ、好ましくは少なくとも4つのアミノ酸長さのエピトープに向けられ、前記2つの結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープに向けられる:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、ペプチド14(配列番号24)、および組換えPAM(配列番号10)、方法。
【請求項12】
患者の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームまたはその断片の活性を測定する方法であって、
・前記試料を、活性な全長PAM、そのアイソフォーム、および/またはその活性な断片に特異的に結合する捕捉結合剤に接触させる工程、
・前記捕捉結合剤に結合したPAMを分離する工程、
・前記分離したPAMにPAMの基質を添加する工程、そして
・PAMの基質の転換率を測定して、PAM活性を定量する工程を含む、方法。
【請求項13】
患者の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法であって、
・t=0分~t=n+1分の時間間隔で前記試料をPAMの基質(ペプチド-Gly)に接触させる工程、
・t=0分およびt=n+1分で前記試料中のPAMの反応生成物(αアミド化ペプチド)を検出する工程、そして
・t=0分およびt=n+1分間の反応生成物の差を算出して、PAMの活性を定量する工程を含む、方法。
【請求項14】
前記ペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するための抗体の使用であって、前記抗体は、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)の群から選択される配列に特異的に結合する、使用。
【請求項16】
PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するためのキットであって、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)を含む群から選択されるPAM配列に結合する1種以上の抗体を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を決定する方法、および診断目的でのその使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
生体的に活性なペプチドホルモンは、シグナル伝達分子としての機能を果たす。大半の生体活性のペプチドホルモンは、より大きな不活性な前駆体ペプチドから合成される。それらの生合成中に、これらのペプチドは、シグナルペプチドの切断、主に塩基性残基対にある特定のエンドペプチダーゼによる前駆体プロペプチドの細胞内タンパク質分解性切断、カルボキシペプチダーゼによる塩基性残基の除去、ジスルフィド結合の形成、およびN-およびO-グリコシル化を含む、いくつかの共翻訳修飾および翻訳後修飾を受ける(Eipper et al. 1993. Protein Science 2(4): 489-97)。既知の神経ペプチドおよび内分泌ペプチドの半分以上は、C末端αアミド基の形成を含む、完全な生体活性を得るための追加の修飾工程を必要とする(Guembe, et al. 1999. J Histochem Cytochem 47(5): 623-36)。ペプチドホルモン生合成のこの最終工程は、二機能性酵素であるペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)の作用を含む。PAMは、その基質中のC末端グリシン残基を特異的に認識し、ペプチドのC末端グリシン残基からグリオキシル酸を2段階の酵素反応で切断して、C末端でαアミド化ペプチドホルモンを生成し、ここで得られるαアミド基は切断されたC末端グリシンに由来する(Prigge et al. 2004. Science 304(5672): 864-67)。このアミド化反応は、アミド化産物の開口分泌に先立って分泌顆粒の内腔で起こる(Martinez and Treston 1996. Molecular and Cellular Endocrinol 123: 113-17)。αアミド化ペプチドは、例えばアドレノメデュリン、P物質、バソプレシン、神経ペプチドY、アミリン、カルシトニン、ニューロキニンAなどである。しかし以前から、PAMはまた、PAMによってオレイン酸アミドのような原発性脂肪酸アミド(PFAM)に変換される、非ペプチド特性のN脂肪酸アシルグリシンなどのグリシン化基質からのαアミドの生成を触媒することが実証されていた。特定されかつ精製されたペプチジルグリシンのアミド化活性は、銅およびアスコルビン酸塩に依存することが示された(Emeson et al. 1984. Journal of Neuroscience: 2604-13;Kumar et al. 2016. J Mol Endocrinol 56(4):T63-76; Wand et al. 1985. Neuroendocrinology 41: 482-89)。
【0003】
ヒトでは、PAM遺伝子は25個の既知のエクソンを含む160 kbの長さを持つ染色体5q21.1に位置している(Gaier et al. 2014. BMC Endocrine Disorders 14)。少なくとも6個のアイソフォームが、選択的スプライシングによって生成されることが知られている(配列番号1~6)。PAM酵素は、殆ど全ての哺乳類細胞種に種々の水準で発現することが見出されていて、有意な発現が、気道上皮、内皮細胞、脳内の上皮細胞、成人の心房、脳、腎臓、下垂体、胃腸管、および生殖組織で見られた(Chen et al. 2018. Diabetes Obes Metab 20 Suppl 2:64-76;Oldham et al. 1992. Biochem Biophys Res Commun 184(1): 323-29; Schafer et al. 1992. J Neurosci 12(1): 222-34)。
【0004】
しかしヒトPAMの最高活性は、下垂体、下垂体茎部、および視床下部で記録された。15歳未満の健康な子供の血漿のアミド化活性は、健康な成人の活性よりも顕著に高かった(Wand et al. 1985 Metabolism 34(11): 1044-52)。
【0005】
PAM cDNAによってコードされた、最大であると分かっているPAMアイソフォーム1(配列番号1)の前駆体タンパク質(アミノ酸1~973)を
図1に示す。N末端シグナル配列(アミノ酸1~20)は、小胞体の分泌内腔中への発生期のPAMポリペプチドの方向性を保証し、続いて同時翻訳的に切断される。その後にPAMプロペプチドは、プロ領域(アミノ酸21~30)の切断を含む、統合膜タンパク質および分泌タンパク質の生合成のために用いられる同一の機構によって処理され、それによって適切な折畳み、ジスルフィド結合形成、リン酸化、およびグリコシル化を保証する。(Bousquet-Moore et al. 2010. J Neurosci Res 88(12):2535-45)。
【0006】
図1に示すように、PAM cDNAはさらに2種の異なる酵素活性をコードする。第1の酵素活性は、ペプチジルグリシンαヒドロキシル化モノオキシゲナーゼ(PHM;EC 1.14.17.3)と命名され、C末端グリシン残基のαヒドロキシグリシンへの転換を触媒できる酵素である。第2の活性は、ペプチジルαヒドロキシグリシンαアミド化リアーゼ(PAL;EC 4.3.2.5)と命名され、αヒドロキシグリシンのαアミドへの転換を触媒し続いてグリオキシル酸を放出できる酵素である。これらの別々の酵素活性の連続的な作用により、全体的なペプチジルグリシンのαアミド化活性がもたらされる。第1の酵素活性(PHM)は、(アイソフォーム1(配列番号7)のアミノ酸31~494内の)プロ領域の上流に直接配置される。第2の触媒活性(PAL)は、アイソフォーム1中のアミノ酸495~817(配列番号8)内のエクソン16の後に配置される。
【0007】
図2に示すように、両方の活性は、膜結合タンパク質(アイソフォーム1、2、5、6;配列番号1、2、5、6に対応する)として1つのポリペプチドの内部に、ならびに膜貫通ドメインを欠く可溶性タンパク質(アイソフォーム3および4;配列番号3および4に対応する)として1つのポリペプチドの内部に共にコードされてもよい。アイソフォーム1、2、5、および6は、分泌小胞の血漿膜との融合ならびにそれに続く細胞内取込みおよび再生または分解の後に、外側の原形質膜内に残留しているが、TMDを欠く可溶性PAMアイソフォーム(アイソフォーム3および4)(アミノ酸864~887)は、ペプチドホルモンとともに共分泌される(Wand et al. 1985 Metabolism 34(11): 1044-52)。さらに、プロホルモン転換酵素は、分泌経路中でPALをTMDに連結する可撓性の領域(エクソン25/26)内での切断によって、膜結合PAMタンパク質を可溶性PAMタンパク質に転換できる(Bousquet-Moore et al. 2010. J Neurosci Res 88(12):2535-45):2535-45)。PHMサブユニットは、エクソン16領域内の二重基底切断部位を処理するプロホルモン転換酵素によって、分泌経路内で可溶性PAMまたは膜結合PAMから切断されてもよい。さらに細胞内取込み中に、α分泌酵素およびγ分泌酵素の作用により、全長PAMタンパク質はまた、可溶性の形態に転換されてもよい(Bousquet-Moore et al. 2010. J Neurosci Res 88(12):2535-45)。後期エンドソーム由来の膜結合PAMは、エキソソーム小胞の形態でさらに分泌される可能性がある。
【0008】
PHM活性およびPALの活性、ならびに全長PAMの活性は、いくつかのヒト組織および体液中で決定された。但し可溶性形態での個別のPHM活性およびPAL活性により、同一の区画、体液、または生体外の実験装置内でそれらの個々の反応の実行が可能な場合に、C末端でのグリシン化基質からのC末端でのαアミド化産物の生成がもたらされる。PHMヒドロキシル化産物のPALへの移送がどのように起こるかは、現在のところ正確には分かっていない。ヒドロキシル化産物は液内に放出され、PHMからPALに直接的には移送されないという証拠が存在する(Yin et al. 2011. PLoS One 6(12):e28679)。循環中のPAMの供給源もまた、現在のところ分かっていない。
【0009】
PHMの部分的な反応を
図2に示す。PHMは、α炭素原子でのC末端グリシンの立体特異的ヒドロキシル化を担う銅依存性モノオキシゲナーゼである。ヒドロキシル化反応で、アスコルビン酸塩は天然起源の還元剤であると考えられるが、新たに生成されたヒドロキシル基中の酸素は、分子酸素に由来することが示された。PALの部分反応を
図2に示す。PALの触媒作用は、タンパク質骨格由来の塩基によるPHMを形成するヒドロキシグリシンからの陽子の引抜き、およびグリオキシル酸の切断およびC末端アミドの形成をもたらすヒドロキシル基の酸素の2価金属への求核的攻撃を含む。
【0010】
従って、用語「アミド化活性」、「αアミド化活性」、「ペプチジルグリシンαアミド化活性」、または「PAM活性」は、PHMおよびPALの連続的な酵素活性を指すが、本発明のスプライス変異体またはそのスプライス変異体の混合物、あるいは翻訳後修飾のPAM酵素または可溶性の個々のPHM活性またはPAL活性、あるいは可溶性PHMおよびペプチドまたは非ペプチド特性のグリシン化基質からのペプチドまたは非ペプチド特性のαアミド化産物の形成に繋がる全ての説明形態での膜結合PALまたはそれらの組合せとは無関係である。言い換えれば、用語「アミド化活性」、「αアミド化活性」、「ペプチジルグリシンαアミド化活性」、または「PAM活性」は、本発明のスプライス変異体またはその混合物とは無関係に、ヒトPAM cDNAによってコードされるプロペプチド中のアミノ酸31~817内に配置される酵素活性の連続作用として記載されてもよい。
【0011】
PAM活性は、健康体標本のいくつかのヒト組織および体液中で、あるいはいくつかの疾患を患うヒト組織中で分析されている。過去に実施された成果を以下に要約する。
【0012】
ヒト体液中のPAM活性の検出には、主に125I-D-TyrValGly、125I-N-アセチル-TyrValGly、または同等の修飾トリペプチドなどの放射性標識合成トリペプチドの使用、およびγ閃光放射によるアミド化産物の定量を含む(Kapuscinski et al. 1993. Clinical Endocrinology 39(1): 51-58;Wand et al. 1985 Metabolism 34(11): 1044-52;Tsukamoto et al. 1995. Internal Medicine 34(4): 229-32;Wand et al. 1987 Neurology 37: 1057-61;Wand et al. 1985 Neuroendocrinol 41: 482-89)。さらにP物質-Glyまたは切詰め型神経ペプチドY-Glyが、PAM活性検定のための基質として利用された(Gether et al. 1991 Mol Cell Endocrinol 79 (1-3): 53-63; Hyyppa et al. 1990 Pain 43: 163-68;Jeng et al. 1990 Analytical Biochemistry 185(2): 213-19)。
【0013】
ヒト循環中のαアミド化活性の存在は、最初はWandらによって証明された。(Wand et al. 1985 Metabolism 34(11): 1044-52)。彼らは、性別による差は無いが、特定の病態でのPAM活性にいくらかの変動があることを報告しており、例えば甲状腺機能不全症の成人ならびに甲状腺髄様がんの患者では血漿PAM活性が増加していた。甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、および膵島腫瘍の組織中では、PAMの活性の上昇が示され、それは内分泌腫瘍組織中のアミド化ペプチドの生成の増大を示唆していた(Gether et al. 1991 Mol Cell Endocrinol 79 (1-3): 53-63;Wand et al. 1985 Neuroendocrinol 41: 482-89)。
【0014】
複数の内分泌新生物1型(MEN-1)および致命的な貧血を患う患者は、健康な対照に比較して血漿PAM活性の低下を示していた(Kapuscinski et al. 1993. Clin Endocrinol 39(1): 51-58)
【0015】
ヒト脳脊髄液(CSF)中でのアミド化活性の存在が、Wandおよび共同研究者によって示されていた(Wand et al. 1985 Neuroendocrinol 41: 482-89)。アルツハイマー病(AD)を患う患者では、健康な対照と比較した場合に血漿PAM活性に変化は認められなかったが、CSF中のPAM活性は、正常者の標本由来の活性に比較して大幅に減少していた(Wand et al. 1987 Neurology 37: 1057-61)。さらに、国際特許WO2015/103594号では、質量分析法により検出されたAD患者のCSF中でのPAMタンパク質の存在量は、健康な対照に比較して低下していることが提示された。さらにPAMのアミド化産物の1種であるADM-NH2が、進行型および偶発型のアルツハイマー病を患う患者では低下することが示された(WO2019/154900号)。しかし現時点までに、ADの予測、診断、または進行に繋がる循環性のPAM活性との直接的な関連は報告されていない。
【0016】
腰痛患者のCSF中のアミド化活性は、基質として1~12物質であるP-Gly(Sp-Gly)を用いて分析された(Hyyppa et al. 1990 Pain 43: 163-68)。多発性硬化症(MS)を患う患者のPAM活性が、CSF中では増加し血清中では顕著に低下することが示された(Tsukamoto et al. 1995. Internal Medicine 34(4): 229-32; WO2010/005387)。PAMの血漿活性と2型糖尿病の関連が(WO2014/118634号)に記載されている。
【発明の概要】
【0017】
ヒト体液中のPAM活性と疾患または疾患の進行の関係についていくつかの発見が有ったが、特に循環するヒト体液中の免疫検定法で測定されたPAM濃度に関する情報は存在しない。疾患または有害事象の診断、予後判断、予測、または監視のために、対象の体液中のPAMの総量または活性としてのPAMの水準を測定したことは、本発明による予想外の発見である。
【0018】
本出願の主題は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法であり、
前記対象の疾患は、認知症、心血管障害、腎臓病、癌、炎症または感染症、および/または代謝性疾患を含む群から選択され、
有害事象は、心臓事象、心血管事象、脳血管事象、癌、糖尿病、感染症、深刻な感染症、敗血症様全身感染症、敗血症、およびこれら全ての原因による死亡を含む群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】PAMアイソフォーム1の模式図を示す。黒色の太矢印は、二重塩基性アミノ酸での切断部位を示す。
【
図3】組換えPAM(ADM成熟活性[AMA])の代表的な検量線を示す。
【
図4】自己申告による健常者(n=120)でのAMAの度数分布(ヒストグラム)を示す。
【
図5】自己申告による健常者(n=20)からの二重基質(Li-ヘパリンおよび血清)でのAMAの相関関係を示す。
【
図6A】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6B-C】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6D-E】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6F-G】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6H-I】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6J-K】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6L】A~Lは、PAMサンドイッチ免疫検定法の典型的な検量線を示す。検量用材料として組換えPAMを有する以下の(A)~(J)を調製した。(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。検量用材料として天然PAM(EDTA-血漿)を有する(K)および(L)を調製した。(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
【
図6M】M~Oは、酵素捕捉検定法(ECA)を示す。(M)ペプチド10(配列番号20)に対する固相抗体;(N)全長PAM(配列番号10)に対する固相抗体;(O)試料として用いる組換えPAM/ヘパリン血漿を有する、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)に対する固相抗体。
【
図6N-O】M~Oは、酵素捕捉検定法(ECA)を示す。(M)ペプチド10(配列番号20)に対する固相抗体;(N)全長PAM(配列番号10)に対する固相抗体;(O)試料として用いる組換えPAM/ヘパリン血漿を有する、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)に対する固相抗体。
【
図6P】Pは、健康な有志由来のヘパリン試料中でのPAM活性とPAM濃度の相関関係を示す(n=26;スピアマン相関r=0.49、p=0.0109)。
【
図7】典型的なADM-Gly用量/シグナル曲線を示す。
【
図8】MPP研究(アルツハイマー病の予測)でのADM成熟活性(PAM活性)を示す。
【
図9】カプラン・マイヤープロット(MPP研究でのアルツハイマー病[AD]の予測)を示す。
【
図10】MPP研究(大腸がん[CRC]の予測)でのADM成熟活性(PAM活性)を示す。
【
図11】MPP研究(大腸がん[CRC]の予測)でのMR-proADMを示す。
【
図12】カプラン・マイヤープロット(MPP研究での大腸がん[CRC]の予測)を示す。
【
図14】膵臓がんの診断(MPP研究)のためのADM成熟活性(PAM活性)の受信者応答特性曲線 (ROCプロット)を示す。
【
図15】カプラン・マイヤープロット(MPP研究での全原因による死亡率の予測)を示す。
【
図16】カプラン・マイヤープロット(MPP研究での心血管死亡率の予測)を示す。
【
図17】カプラン・マイヤープロット(MPP研究での心不全の予測)を示す。
【
図18】カプラン・マイヤープロット(MPP研究での心房細動の予測)を示す。
【
図19】進行型のアルツハイマー病(AD)の診断のためのADM成熟活性(PAM活性)を示す。
【
図20】AdrenOSS-1研究(n=145の生存者;n=52の非生存者)での敗血症/敗血症性ショックの転帰予後判断のためのADM成熟活性(PAM活性)を示す。
【
図21】28日に亘る死亡率(AdrenOSS-1研究)に対するADM成熟活性(PAM活性)のカプラン・マイヤープロットを示す。
【
図22】健常者(n=5)の唾液中のADM成熟活性(PAM活性)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願の一実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法であり、この方法は、
・前記対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片を測定する工程、および
・前記測定値を所定の閾値と比較する工程を含み、
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、前記対象は疾患を患っていると診断されること、あるいは
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患の転帰が予後判断されること、あるいは
・ここで前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患または有害事象が発生するリスクが予測されること、あるいは
・ここで前記対象の疾患または有害事象が監視されること、を含む。
【0021】
本出願の好ましい一実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここでPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準とは、前記対象の体液試料中の少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度、あるいはPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性である。
【0022】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここでPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10の配列を含む群から選択される。
【0023】
配列番号リストに表示されるように、PAMのアイソフォーム配列(配列番号1~6)には、タンパク質の分泌の前に切断されるN末端シグナル配列(アミノ酸1~20)が含まれることは、当業者なら分かっている。従って好ましい実施態様では、PAMアイソフォーム配列(配列番号1~6)および/またはその断片には、N末端シグナル配列は含まれない。
【0024】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象の疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここで少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度は、免疫検定法で検出される。
【0025】
本出願の別の特定の実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここでPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、基質としてペプチド-Glyを用いて検出される。
【0026】
本出願の別の好ましい実施態様は、対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここでペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される。
【0027】
本出願の一実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここでPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10を含む群から選択される。
【0028】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここで対象の疾患が発生するリスクは、前記対象が健康な対象である場合に決定される。
【0029】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法に関し、ここで前記疾患は、アルツハイマー病、大腸がん、および膵臓がんの群から選択される。
【0030】
本出願の別の特定の実施態様は、一検定法を用いて体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する方法に関し、ここで前記検定法は、PAMの2つの異なる領域に結合する2つの結合剤を含み、これら2つの結合剤は、少なくとも5つのアミノ酸長さ、好ましくは少なくとも4つのアミノ酸長さのエピトープを対象とし、前記2つの結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープを対象とする:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、ペプチド14(配列番号24)、および組換えPAM(配列番号10)。
【0031】
本出願のさらなる実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームまたはその断片の活性を測定する方法に関し、この方法は、
・前記試料を、活性な全長PAM、そのアイソフォーム、および/またはその活性な断片に特異的に結合する捕捉結合剤に接触させる工程、
・前記捕捉結合剤に結合したPAMを分離する工程、
・前記分離したPAMにPAMの基質を添加する工程、および
・PAMの基質の転換率を測定して、PAM活性を定量する工程を含む。
【0032】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法に関し、この方法は、
・t=0分~t=n+1分間の時間間隔で前記試料をPAMの基質(ペプチド-Gly)に接触させる工程、
・t=0分およびt=n+1分で前記試料中のPAMの反応生成物(αアミド化ペプチド)を検出する工程、および
・t=0分およびt=n+1分の間の反応生成物の差を算出して、PAMの活性を定量する工程を含む。
【0033】
本出願の特定の一実施態様は、一方法に関し、ここでペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される。
【0034】
本出願の別の実施態様は、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するための抗体の使用に関し、ここで前記抗体は、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)の群から選択される配列に特異的に結合する。
【0035】
本出願の別の好ましい実施態様は、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)を含む群から選択されるPAM配列に結合する1種以上の抗体を含むPAMの水準を測定するためのキットに関する。
【0036】
本発明の目的は、体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する方法の提供である。検定法およびキットのそれぞれを提供することは本発明の目的である。
【0037】
本発明の別の目的は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法の提供である。
【0038】
本発明の別の重要な実施態様は、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法であり、この方法は、
・前記対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する工程、および
・前記測定値を所定の閾値と比較する工程を含み、
・ここで、前記測定値が前記所定の閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、前記対象は疾患を患っていると診断されること、あるいは
・ここで、前記測定値が前記所定の閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患の転帰が予後判断されること、あるいは
・ここで、前記測定値が前記所定の閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患または有害事象が発生するリスクが予測されること、あるいは
・ここで、前記対象の疾患または有害事象が監視されることを含む。
【0039】
PAMの水準を測定する方法は、当該技術分野では知られている。本発明による対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法の状況では、いずれの現状技術の方法および検定法を用いてもよく、あるいはPAMの水準を測定する前述の方法および検定法を用いてもよい。
【0040】
閾値は、健康な対照でPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定し、かつ例えば対応する75パーセンタイル、より好ましくは90パーセンタイル、さらに好ましくは95パーセンタイルを算出して予め設定される。75パーセンタイル、より好ましくは90パーセンタイル、さらにより好ましくは95パーセンタイルの上限値を、疾患を有する対象あるいは疾患または有害事象を発生するリスクがある対象の水準が特定の閾値を上回る場合に、健康な患者に対する疾患を有する患者での閾値、あるいは健康な対象に対する疾患を発生するリスクがある対象での閾値、あるいは有害事象を発生するリスクがない対象に対する有害事象を発生するリスクがある対象での閾値として設定する。閾値は、健康な対照でPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定し、かつ例えば対応する25パーセンタイル、より好ましくは10パーセンタイル、さらに好ましくは5パーセンタイルを算出して予め設定される。25パーセンタイル、より好ましくは10パーセンタイル、さらにより好ましくは5パーセンタイルの下限値を、疾患を有する対象あるいは疾患または有害事象を発生するリスクがある対象の水準が特定の閾値を下回る場合に、健康な患者に対する疾患を有する患者での閾値、あるいは健康な対象に対する疾患を発生するリスクがある対象での閾値、あるいは有害事象を発生するリスクがない対象に対する有害事象を発生するリスクがある対象での閾値として設定する。PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準は、総PAM濃度および/またはPAM活性として検出されてもよい。前記の百分位に関連して、血漿中のPAM活性の検出によって健康な患者と疾患を有する患者の間、あるいは健康な対象と疾患を発生するリスクがある対象の間、あるいは有害事象を発生するリスクがない対象と有害事象を発生するリスクがある対象の間を分割する下限閾値は、15~8 μg/(L*h)以下、より好ましくは13.5~8 μg/(L*h)以下、さらにより好ましくは10.5~8 μg/(L*h)以下、最も好ましくは8 μg/(L*h)未満であってもよく;PAM活性検定法を用いる血清中のPAM活性は、10~5 μg/(L*h)以下、より好ましくは8~5 μg/(L*h)以下、最も好ましくは5 μg/(L*h)未満であってもよい。前記の百分位に関連して、血漿中のPAM活性の検出によって健康な患者と病気の患者の間、あるいは健康な対象と疾患を発生するリスクがある対象の間、あるいは有害事象を発生するリスクがない対象と有害事象を発生するリスクがある対象の間を分割する上限閾値は、20~40 μg/(L*h)以上、より好ましくは25~40 μg/(L*h)以上、さらにより好ましくは30~40 μg/(L*h)以上、最も好ましくは40 μg/(L*h)超であってもよく;PAM活性検定法を用いる血清中のPAM活性は、10~25 μg/(L*h)以上、より好ましくは15 μg~25 μg/(L*h)以上、さらにより好ましくは20~25 μg/(L*h)、最も好ましくは25 μg/(L*h)超であってもよい。
【0041】
これら予め設定された数値は、性別、年齢、遺伝、習慣、民族などの特定の因子に応じて選択される特定の集団間で異なる可能性がある。
【0042】
当業者なら、実施された過去の検討から閾値を設定する方法を知っている。当業者なら、特定の閾値は、日常的に後で使用可能な予め設定される閾値の計算に用いる集団に依存する可能性があることは分かっている。当業者なら、特定の閾値は、この検定法で使用される較正に依存する可能性があることは分かっている。当業者なら、特定の閾値は、医療関係者に受け入れ可能と思われる感度および/または特異度に依存する可能性があることは分かっている。
【0043】
診断検査の感度および特異度は、単なる検査の分析的な「質」ではない要因に依存し、これらはまた、異常な結果を構成する要因の定義に依存する。実際には、受信者応答特性曲線(ROC曲線)は、典型的には、変数値に対して「正常」集団(すなわち見掛けでは健康な集団)および「疾患」集団(すなわち感染症を患う患者集団)の相対頻度をプロットして計算される。対処すべき特定の診断の問題に応じて、対照群は必ずしも「正常」集団である必要はなく、その対照群は別の疾患を患う患者の群である可能性があり、そこから目的とする疾患群を分化すべきである。任意の特定のマーカーについて、病気の有無に拘わらず、対象でのマーカー水準の分布が重複する可能性がある。このような条件下では、検査により100%の精度で疾患集団から正常集団を絶対的に区別できずに、重複領域は、検査が疾患集団から正常集団を区別できない部分を示している。閾値を選択して、その値を上回る場合には(またはその値を下回る場合には;マーカーが疾患によってどう変化するかに依るが)検査では異常であると見做され、その値を下回る場合には検査では正常であると見做される。ROC曲線下の領域は、得られた測定値が疾患の正確な識別を可能にする確率の尺度となる。ROC曲線は、検査結果が必ずしも正確な数値を示すとは限らない場合でも使用できる。結果の格付けが可能な限り、ROC曲線を作成してもよい。例えば、「疾患」試料の検査結果は、程度に応じて格付けできる可能性がある(例えば、1=低、2=正常、3=高)。この格付けは、「正常」集団および作成されたROC曲線での結果と相関する可能性がある。これらの方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Hartley et al, 1982を参照)。好ましくは、閾値を選択して、約0.5を超える、より好ましくは約0.7を超えるROC曲線領域を提供する。本明細書での用語「約」は、所定の測定値の±5%を指す。
【0044】
過去の研究集団を用いて、かつ上述の全ての観点を考慮して閾値が設定されると、医療関係者は、本発明による疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または疾患または有害事象を監視する方法のために予め設定された閾値を使用し、かつ適切な診断、予後判断、予測、または監視を実行するために、対象が前記予め設定された閾値を上回るあるいは下回る数値を有するか否かを決定する。
【0045】
上述の閾値が本発明で使用される検定法システムとは異なり較正されている場合には、それら閾値は他の検定法では異なることがある。従って上述の閾値は、較正の差異を考慮に入れて、このような異なる較正をされた検定法に応用するものとする。較正の差異を定量する1つの可能性として、問題となる検定法(例えばPAM検定法)と本発明で用いるそれぞれのバイオマーカー検定法を、両方の方法を用いて試料中のそれぞれのバイオマーカーまたはその活性(例えばPAM)を測定することにより、比較分析(相関分析)する方法が考えられる。別の可能性として、この検査が十分な分析感度を有すると仮定して、代表的な正常集団のバイオマーカー水準の中央値を問題となる検定法で測定し、その結果を他の検定法によるバイオマーカー水準の中央値と比較し、かつこの比較によって得られた差異に基づいて較正を再計算することも考えられる。本発明で用いられる較正では、正常対象(健康な対象)からの試料が測定されていて、血漿PAM活性の中央値は、18.4 μg/(L*h)(四分位範囲[IQR]は13.5~21.9 μg/(L*h))であり、血清PAM活性の中央値は、11.0 μg/(L*h)(四分位範囲[IQR]は8.1~13.1 μg/(L*H))であった。
【0046】
本明細書で使用される用語「診断」は、病気を検出すること、あるいは疾患の段階または程度を決定することを意味する。疾患の診断は、通常は疾患を示す1つ以上の因子および/または症状の評価に基づいている。すなわち診断は、疾患または障害の有無を示す因子の有無またはその量に基づいて実施できる。特定の疾患の診断のために呈示されると考えられるそれぞれの因子または症状は、特定の疾患のみに関連している必要はなく、例えば、診断的な因子や症状から推測できる異なる診断となってもよい。同様に特定の疾患を呈示する因子または症状が、特定の疾患を患っていない個体に存在するという例もある。
【0047】
本明細書で使用される用語「予後判断」は、例えば敗血症などの臨床症状または疾患の起こり得る経過の予測および結果を指す。予後判断は通常、疾患の好ましいまたは好ましくない経過または結果を示す疾患の因子または症状の評価によって実施される。本明細書で使用される語句「予後を決定する」は、当業者が患者の臨床病状または疾患の経過または結果を予測できる工程を指す。用語「予後判断」は、臨床症状または疾患の経過または結果を100%の精度で予測する能力を指すものではない。その代わりに当業者なら、用語「予後判断」は特定の経過または結果が起こる確率の増大を指すこと、すなわち、臨床症状や疾患を示さない個体に比較して、特定の臨床症状または疾患を示す患者では経過または結果がより可能性高く起こることを指すことが分かっている。
【0048】
対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法の特定の実施態様では、前記疾患は、認知症、心血管障害、腎疾患、癌、感染疾患、および代謝性疾患を含む群から選択される。
・前記認知症は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、アルツハイマー病と血管性認知症の混合認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症、限局性認知症(進行性失語症を含む)、皮質下性認知症(パーキンソン病を含む)、および認知症症候群の副因(頭蓋内病変を含む)を含む群から選択される。
・前記心血管障害は、アテローム性動脈硬化、高血圧、心不全(急性心不全および急性非補償性心不全を含む)、心房細動、心臓血管虚血、脳血管虚血性損傷、心原性ショック、脳卒中(虚血性卒中、出血性卒中、および一過性脳虚血発作を含む)、および心筋梗塞を含む群から選択されてもよい。
・前記腎疾患は、腎毒性(薬物誘発性腎疾患)、急性腎疾患(AKI)、慢性腎疾患(CKD)、糖尿病性腎症、末期腎疾患(ESRD)を含む群から選択されてもよい。
・前記癌は、前立腺がん、乳がん、肺がん、大腸がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、白血病、非ホジキンリンパ腫、腎臓がん、食道がん、咽頭がんを含む群から選択されてもよい。
・前記感染疾患は、細菌、ウイルス、真菌、または寄生虫などの感染性生物によって引き起こされ、SIRS、敗血症、および敗血症性ショックを含む群から選択される。
・前記代謝性疾患は、1型糖尿病、2型糖尿病、代謝異常症候群を含む群から選択される。
【0049】
本出願の一実施態様では、前記疾患は認知症であり、前記認知症は、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、アルツハイマー病と血管性認知症の混合認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症、限局性認知症(進行性失語症を含む)、皮質下性認知症(パーキンソン病を含む)、および認知症症候群の副因(頭蓋内病変を含む)を含む群から選択される。
【0050】
特定の実施態様では、前記認知症はアルツハイマー病である。
【0051】
本出願の一実施態様では、前記疾患は癌であり、前記癌は、前立腺がん、乳がん、肺がん、大腸がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、白血病、非ホジキンリンパ腫、腎臓がん、食道がん、および咽頭がんを含む群から選択される。
【0052】
特定の実施態様では、前記癌は、大腸がんおよび膵臓がんである。
【0053】
本出願の一実施態様では、前記疾患は心血管障害であり、前記心血管障害は、アテローム性動脈硬化、高血圧、心不全(急性心不全および急性非補償性心不全を含む)、心房細動、心臓血管虚血、脳血管虚血性損傷、心原性ショック、脳卒中(虚血性卒中、出血性卒中、および一過性脳虚血発作を含む)、および心筋梗塞を含む群から選択される。
【0054】
特定の実施態様では、前記心血管障害は、心不全(急性心不全および急性非代償性心不全を含む)である。
【0055】
別の特定の実施態様では、前記心血管障害は、脳卒中(虚血性卒中、出血性卒中、および一過性脳虚血発作を含む)および心筋梗塞である。
【0056】
別の特定の実施態様では、前記心血管障害は心房細動(AF)である。
【0057】
本出願の別の特定の実施態様では、前記疾患は、SIRS、敗血症、および敗血症性ショックである。
【0058】
本出願の別の特定の実施態様では、前記疾患は、1型糖尿病、2型糖尿病、代謝異常症候群である。
【0059】
本発明の方法の状況での体液は、血液、血清、血漿、脳脊髄液(CSF)、尿、唾液、痰、および胸水の群から選択されてもよい。前記方法の特定の実施態様では、前記試料は、全血、血清、および血漿を含む群から選択される。
【0060】
用語「監視」は、疾患または有害事象を発生するリスク、疾患の重症度、または治療への応答など、患者の疾患および病態生理状態の進展を管理すること(任意の変化を検出すること)を指す。
【0061】
本発明の対象は一方法であり、この方法では、疾患または有害事象を発生するリスクの変化、疾患の重症度の変化、あるいは治療への患者または対象の応答を評価するために、前記の監視を実行する。
【0062】
本発明の特定の主題は一方法であり、この方法では、対応された予防的および/または治療的措置に対する前記対象の応答を評価するために、前記の監視を実行する。
【0063】
本発明の主題は、本発明による一方法であり、前記方法は、前記対象を各リスク群に層別するために用いられる。
【0064】
本明細書で使用される用語「リスク」は、望ましくない事象や影響(例えば、病気や有害事象)に苦しむ可能性に関連する。
【0065】
用語「高い水準」は、特定の閾値水準を上回る水準を意味する。
【0066】
用語「低い水準」は、特定の閾値水準を下回る水準を意味する。
【0067】
「有害事象」は、個体の健康を損なう事象として定義される。前記有害事象は、限定はされないが、心臓事象、心血管事象、脳血管事象、癌、糖尿病、およびこれら全ての原因による死亡を含む群から選択されてもよい。有害事象には、感染症、深刻な感染症、ならびに敗血症様全身感染症および敗血症が含まれる。有害事象とは、急性の外因誘発性の有害事象および/または外因誘発性外傷によって引き起こされる事象ではない。外因誘発性外傷は、事故、例えば自動車事故によって誘発される場合の事象を含み、従って有害事象の群からは除外される。
【0068】
本発明の特定の実施態様では、前記有害事象は、心筋梗塞、急性非補償性心不全、脳卒中、ならびに心筋梗塞、脳卒中、または急性心不全に関連する死亡を含む群から選択される心血管事象である。
【0069】
「疾患または有害事象を発生するリスク」は、一定の期間内に前記疾患または事象を発生するリスクを意味する。特定の実施態様では、前記期間は、10年以内、または8年以内、または5年以内、または2.5年以内、または1年以内、または6ヶ月以内、または3ヶ月以内、または30日以内、または28日以内である。
【0070】
本発明の特定の実施態様では、「PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準」とは、対象から採取された試料中の少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度(好ましくは重量/容積:w/vとして表示される)であり、あるいは配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10の配列を含む対象から採取された試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性である。
【0071】
本開示での用語「PAM」は、配列番号1~6に示されるようなPAMアイソフォーム1~6のアミノ酸配列を指す。側面によっては、本明細書に開示されるPAMは、配列番号1~6のアミノ酸配列に対して、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する。
【0072】
側面によっては、前記PAMは機能的な断片(すなわちPHM(配列番号7)またはPAL(配列番号8))であり、このPAMは、対応する全長PAMのPAM活性の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%を保存している。側面によっては、PAMは、本明細書に開示されるPAMの変異体または誘導体である。
【0073】
アミノ酸配列または核酸配列の同一性の百分率、すなわち用語「配列同一性%」は、本明細書では、2つの配列を整列させてかつ必要に応じて最大百分率の同一性を達成するように間隙を導入した後の、参照配列中の残基と同一である候補のアミノ酸配列または核酸配列中の残基の百分率として定義される。好ましい実施態様では、前記の少なくとも配列同一性の百分率の計算は、間隙を導入せずに実行される。整列のための方法およびコンピュータープログラム、例えば米国国立生物工学情報センター(NCBI)の「Align 2」またはBLASTサービスは、当該技術分野では周知である。
【0074】
本発明の特定の実施態様では、検定法は、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を決定するのに用いられ、この検定法は、サンドイッチ検定法、好ましくは完全に自動化された検定法である。
【0075】
本発明の一実施態様では、この検定法は、検査技術であるいわゆるPOC検査(臨床現場即時検査)であってもよく、これは完全に自動化された検定システムを必要とせずに、患者の傍で1時間未満以内で検査の実施が可能である。この技術の一例としては、免疫クロマトグラフ検査技術である。
【0076】
本発明の一実施態様では、この検定法は、限定はされないが、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識を含む、いずれかの種類の検出技術を用いるサンドイッチ免疫検定法であり、好ましくは完全に自動化された検定法である。本発明の一実施態様では、この検定法は、酵素標識されたサンドイッチ検定法である。自動化されたまたは完全に自動化された検定法の例としては、以下のシステムのうちの1つに使用できる検定法が挙げられる:Roche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)、Ortho Clinical DiagnosticsVitros(登録商標)。
【0077】
本発明の特定の実施態様では、前記2つの結合剤のうちの少なくとも1つは、標識されていて検出される。
【0078】
好ましい検出方法は、例えば放射性免疫検定法(RIA)、均質酵素増幅免疫検定法(EMIT)、化学発光免疫検定法および蛍光免疫検定法、酵素結合免疫検定法(ELISA)、蛍光ビーズアレイ検定法、タンパク質マイクロアレイ検定法、および例えば免疫クロマトグラフィーストリップ試験法などの迅速な試験方式などの様々な形式の免疫検定法を含む。
【0079】
好ましい実施態様では、前記の標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。
【0080】
この検定法は、均質または不均質な検定法、競合的および非競合的な検定法であってもよい。一実施態様では、この検定法はサンドイッチ検定法の形態であり、これは非競合的な免疫検定法であり、検出かつ/あるいは定量される分子は、第1の抗体および第2の抗体に結合する。第1の抗体は、固相、例えばビーズ、ウェルまたはその他の容器の表面、断片または小片に結合してもよく、かつ第2の抗体は、例えば染料で、放射性同位体で、あるいは反応性部分または触媒的に活性な部分で標識された抗体である。次いで検体に結合した標識抗体の量は、適切な方法によって測定される。「サンドイッチ検定法」に関与する標準的な組成物および手順は、確実に確立されていて、当業者には知られている(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005);Hultschig et al. 2006. Curr Opin Chem Biol. 10 (1):4-10)。
【0081】
別の実施態様では、この検定法は2つの捕捉分子、好ましくは両者とも液状反応混合物中での分散剤として存在する抗体を含み、第1の標識成分が第1の捕捉分子に付加され、前記第1の標識成分は、蛍光消光または化学発光消光または増幅に基づく標識システムの一部であり、かつ前記マーキングシステムの第2の標識成分が第2の捕捉分子に付加され、それにより両方の捕捉分子が検体に結合すると、測定可能な信号が発生して、試料を含む溶液中に形成されたサンドイッチ錯体の検出を可能とする。
【0082】
別の実施態様では、前記標識システムは、蛍光染料または化学発光染料、特にシアニン型の染料と組み合わせた希土類クリプタートすなわち希土類キレートを含む。
【0083】
本発明の状況では、蛍光ベースの検定法は染料の使用を含み、この染料は、例えば、FAM(5-または6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、IRD-700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7などのシアン染料、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4',7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトジフルオレセイン(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY TMRなどのBODIPY染料、オレゴングリーン、ウンベリフェロンなどのクマリン、Hoechst 33258などのベンズイミド、テキサスレッドなどのフェナントリジン、ヤキマイエロー、Alexa Fluor、PET、臭化エチジウム、アクリジニウム染料、カルバゾール染料、フェノキサジン染料、ポルフィリン染料、ポリメチン染料などを含む群から選択されてもよい。
【0084】
本発明の状況では、化学発光に基づく検定法は、文献(Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology, 4th ed. 1993. John Wiley & Sons, Vol.15: 518-562、ここで551-562頁の引用を含む参照によって本明細書に組み込まれる)内の化学発光材料に関して記載される物理的原理に基づく染料の使用を含む。好ましい化学発光染料はアクリジニウムエステルである。
【0085】
本明細書に記載の「検定法」または「診断検定法」には、診断の分野で応用されるあらゆる種類の検定法であってもよい。このような測定法は、特定の親和性を有する1つ以上の捕捉プローブに被検出検体を結合させることに基づいてもよい。PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するのに用いてもよい結合剤は、少なくとも107 M-1、好ましくは108 M-1のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片に対する親和定数を示し、好ましい親和定数は109 M-1超であり、最も好ましくは1010 M-1超である。当業者なら、より高用量の化合物を使用してより低い親和性を補償してもよく、この対策は本発明の範囲外とはならないと考えてもよいことを分かっている。
【0086】
本発明の状況での「結合剤分子」は、試料由来の標的分子すなわち目的とする分子、すなわち検体(換言すれば、本発明の状況ではPAMおよびそのアイソフォームおよびその断片)に結合するように用いられる分子である。従って結合剤分子は、標的分子または目的とする分子に特異的に結合させるために、両分子の位置について、かつ表面電荷、疎水性、親水性、ルイス供与体および/または受容体の有無などの表面の特性について、適切に形成される必要がある。これにより捕捉分子と標的分子すなわち目的とする分子との間の結合は、例えば、イオン結合、ファンデルワールス結合、π-π結合、σ-π結合、疎水結合、または水素結合の各相互作用、あるいは前述の相互作用のうちの2種以上の組合せによって媒介されてもよい。本発明の状況では、結合剤分子は、例えば核酸分子、炭水化物分子、PNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド、または糖タンパク質を含む群から選択されてもよい。好ましくは、結合剤分子は抗体であり、この抗体は、標的または目的とする分子に対し十分な親和性を有するその断片を含み、組換え抗体またはその組換え抗体断片を含み、ならびに変異鎖由来の前記抗体または断片の化学的および/または生化学的に修飾された誘導体を含む。
【0087】
特定の実施態様では、前記結合剤は、抗体、抗体断片、または非IgG足場の群から選択されてもよい。
【0088】
化学発光標識は、イソルミノール標識などを含むアクリジニウムエステル標識、ステロイド標識であってもよい。
【0089】
酵素標識は、乳酸脱水素酵素(LDH)、クレアチンキナーゼ(CPK)、アルカリ性脱リン酸化酵素、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)、酸性脱リン酸化酵素、グルコース-6-リン酸脱水素酵素などであってもよい。
【0090】
本発明の一実施態様では、前記2つの結合剤のうちの少なくとも1つは、磁性粒子およびポリスチレン表面としての固相に結合される。
【0091】
本発明の対象は、一検定法を用いて体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する方法であり、前記検定法は、PAMの2つの異なるエピトープに結合する2つの結合剤を含み、これら2つの結合剤は、長さが少なくとも5アミノ酸、好ましくは少なくとも4アミノ酸であるエピトープに向けられる。
【0092】
抗原決定基としても知られるエピトープは、免疫系、特に抗体によって認識される抗原(例えばペプチドまたはタンパク質)の一部である。例えばエピトープは、抗体が結合する抗原の特定部分である。エピトープに結合する抗体の部分は、パラトープと呼ばれる。タンパク質抗原のエピトープは、その構造およびパラトープとの相互作用に基づいて、立体構造のエピトープと鎖状のエピトープの2種の区分に分類される。
【0093】
鎖状すなわち連続するエピトープは、そのアミノ酸の鎖状配列または一次構造による抗体によって認識されるエピトープであり、連続するアミノ酸残基の相互作用が採択する三次元立体構造によって形成される。立体構造のエピトープと鎖状のエピトープは、関与するエピトープ残基の表面形状および抗原の他の区画の形状または三次構造によって決定される、エピトープが採択する三次元立体構造に基づいてパラトープと相互作用する。立体構造のエピトープは、不連続なアミノ酸残基の相互作用が採択する三次元立体構造によって形成される。
【0094】
本発明の一実施態様では、鎖状エピトープは、PAMの免疫化ペプチドの以下の配列に関連する:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)。
【0095】
本発明の一実施態様では、鎖状および/または立体構造のエピトープは、PAMの以下の配列に関連する:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10。
【0096】
前記エピトープは、少なくとも6個のアミノ酸、好ましくは少なくとも5個のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも4個のアミノ酸を含んでもよい。
【0097】
本発明の一実施態様では、前記第1および第2の結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープに結合する:配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6。
【0098】
本発明の一実施態様では、前記第1および第2の結合剤は、PAM(配列番号8)のPALサブユニット内に含まれるエピトープに結合する。
【0099】
本発明の一実施態様では、前記第1および第2の結合剤は、PAM(配列番号7)のPHMサブユニット内に含まれるエピトープに結合する。
【0100】
本発明の特定の一実施態様では、前記第1の結合剤は、PAM(配列番号8)のPALサブユニット内に含まれるエピトープに結合し、前記第2の結合剤は、PAM(配列番号7)のPHMサブユニット内に含まれるエピトープに結合する。
【0101】
本発明の特定の一実施態様では、前記第1および第2の結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープに結合する:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、ペプチド14(配列番号24)、および組換えPAM(配列番号10)。
【0102】
PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するための少なくとも2つの結合剤の使用であって、前記少なくとも1つの結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープに向けられる:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、ペプチド14(配列番号24)、および組換えPAM(配列番号10)。
【0103】
本発明の主題は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法であり、この方法は、
・前記試料を、活性な全長PAM、そのアイソフォーム、および/または活性なその断片に特異的に結合する捕捉結合剤に接触させる工程、
・前記捕捉結合剤に結合したPAMを分離する工程、
・前記分離したPAMにPAMの基質を添加する工程、および
・PAMの基質の転換を測定してPAMの活性を定量する工程を含む。
【0104】
本発明の特定の実施態様では、前記方法は、酵素捕捉検定法(ECA、例えば、米国特許US5612186A号、US5601986A号を参照)である。
【0105】
対象の体液試料中のPAM活性を測定する前記方法の特定の実施態様では、前記分離工程は、捕捉されたPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片から前記捕捉結合剤に結合していない試料成分を排除する洗浄工程である。その分離工程は、前記捕捉結合剤に結合したPAMを前記体液試料の成分から分離する任意の他の工程であってもよい。
【0106】
本発明の一実施態様は、PAMの化学検定法を含む。この検定法は、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片と反応して検出可能な反応生成物を形成するペプチド基質を用いる。あるいは、基質の反応速度を監視して、検査試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を決定できる。
【0107】
このような試薬および反応を組み込む検定法は、任意の適切な反応容器内、例えば、試験管またはマイクロタイタープレートのウェル内で実施されてもよい。あるいは、検定装置は、当業者には周知であり、かつ製造および使用が容易な計量棒方式または試験片機器方式などの使い捨ての形態で開発されていてもよい。このような使い捨ての検定装置は、必要な全ての材料、試薬、および使用説明書を含むキットの形態にパッケージ化されていてもよい。
【0108】
別の検定法の実施態様では、反応が起こる速度を、試験試料中に存在するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準の指標として検出してもよい。例えば基質が反応する速度を用いて、試験試料中に存在するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を表示できる。あるいは、反応生成物が形成される速度を用いて、試験試料中に存在するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を表示できる。
【0109】
さらに別の実施態様では、捕捉検定法または結合検定法を実施して、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定できる。例えば、PAMタンパク質とは反応するがその酵素活性を妨害しない抗体を、固相表面に固定してもよい。試験試料は固定された抗体表面を通過し、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片は、存在する場合には抗体に結合して、検出のためにそれ自体が固定される。次いで基質を添加してもよく、反応生成物を検出して、試験試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を表示できる。本明細書の記載を目的とする用語「固相」とは、検定法が実施され得る任意の材料または容器を含むように用いられてもよく、限定はされないが、多孔性材料、非多孔性材料、試験管、ウェル、スライドなどを含む。
【0110】
前記対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する、および/または対象での疾患または有害事象を監視する前記方法の特定の実施態様では、前記捕捉結合剤は表面に固定される。PAM活性の測定のために、PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片とは反応するが酵素活性を50%超、好ましくは40%未満、好ましくは30%未満まで阻害しない結合剤を、固相表面に固定してもよい。PAMの阻害を防止するために、捕捉結合剤は、活性中心および基質結合域の周りの領域内でPAMに結合すべきでない。
【0111】
対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する前記方法の特定の実施態様では、前記結合剤は、抗体、抗体断片、非Ig足場、またはアプタマーの群から選択されてもよい。
【0112】
本発明の別の主題は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法であり、この方法は、
・t=0分~t=n+1分の時間間隔で前記試料をPAMの基質(ペプチド-Gly)に接触させる工程、
・t=0分およびt=n+1分で前記試料中のPAMの反応生成物(αアミド化ペプチド)を検出する工程、および
・t=0およびt=n+1の間の反応生成物の差を算出して、PAMの活性を定量する工程を含む。
【0113】
本発明の別の主題は、対象の体液試料中のPAM活性を測定する方法であり、この方法は、
・t=0分~t=n+1分の時間間隔で前記試料をPAMの基質であるADM-Glyに接触させる工程、
・免疫検定法を用いて、t=0分およびt=n+1分で前記試料中のPAMの反応生成物であるADM-NH2を検出する工程、および
・t=0分およびt=n+1分の間の反応生成物であるADM-NH2の差を計算して、PAMの活性を定量する工程を含む。
用語「t=n+1分」は時間間隔であり、式中nは0分以上と定義される。
【0114】
本出願の一実施態様は、対象での疾患を診断または予後判断する、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する、および/または対象での疾患または有害事象を監視する前記方法を実施するためのキットに関し、前記キットは、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)に向けられる少なくとも2つの結合剤を含む。
【0115】
本出願の特定の実施態様は、PAMの水準を検出するためのキットに関し、このキットは、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)を含む群から選択されるPAM配列に結合する1つ以上の結合剤を含む。
【0116】
本出願の別の実施態様は、対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法を実施するためのキットに関し、前記キットは基質としてペプチド-Gly PAMを含み、前記ペプチド-GlyはADM-Glyである。
【0117】
PAMの活性は、グリシン化前駆体ペプチド基質(ペプチド-Gly)からα-アミド化ペプチド(ペプチド-アミド)を検出して測定できる。生体活性ペプチドのほぼ半分は、C末端のαアミドで終結する(Vishvanatha et al. 2014.J Biol Chem 289(18):12404-20)。
【0118】
グリシン化前駆体ペプチド基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択されてもよい。
【0119】
好ましい実施態様では、前記ペプチド-Glyはアドレノメデュリン-Gly(ADM-Gly)であり、前記ペプチド-アミドはアドレノメデュリン-アミド(ADM-NH2)である。
【0120】
非ペプチド特性の他の基質は、PAMによってオレイン酸アミドのような一級脂肪酸アミド(PFAM)に転換されるN-脂肪酸アシルグリシンを含んでもよい。
【0121】
上述の背景とともに、以下の連続する番号の実施態様によって、本発明のさらなる特定の側面が提供される。
1.対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患を診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法であり、
前記対象の疾患は、認知症、心血管障害、腎臓病、癌、炎症または感染症、および/または代謝性疾患を含む群から選択され、
有害事象は、心臓事象、心血管事象、脳血管事象、癌、糖尿病、感染症、深刻な感染症、敗血症様全身感染症、敗血症、およびこれら全ての原因による死亡を含む群から選択される。
2.対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法であり、この方法は、
・前記対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片を測定する工程、および
・前記測定値を所定の閾値と比較する工程を含み、
・前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、前記対象は疾患を患っていると診断される、あるいは
・前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患の転帰が予後判断される、あるいは
・前記測定値が前記閾値を下回るまたはそれを上回る場合に、疾患または有害事象が発生するリスクが予測される、あるいは
・前記対象の疾患または有害事象が監視される。
3.前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準は、前記対象の体液試料中の少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度、あるいはPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性である、実施態様1および2に記載の方法。
4.前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10の配列を含む群から選択される、実施態様1~3に記載の方法。
5.前記少なくとも12個のアミノ酸を有するPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の総濃度は、免疫検定法で検出される、実施態様1~3に記載の方法。
6.前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性は、基質としてペプチド-Glyを用いて検出される、実施態様3~4に記載の方法。
7.前記ペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される、実施態様6に記載の方法。
8.前記PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、および配列番号10を含む群から選択される、実施態様1~7に記載の対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法。
9.前記対象で疾患が発生するリスクは、前記対象が健康な対象である場合に決定される、実施態様1~8に記載の対象の体液試料中のペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)および/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定することにより、対象での疾患の診断または予後判断する方法、および/または対象で疾患または有害事象が発生するリスクを予測する方法、および/または対象での疾患または有害事象を監視する方法。
10.前記疾患は、アルツハイマー病、大腸がん、および膵臓がんの群から選択される、実施態様9に記載の方法。
11.一検定法を用いて体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定する方法であって、前記検定法は、PAMの2つの異なる領域に結合する2つの結合剤を含み、前記2つの結合剤は、少なくとも5つのアミノ酸長さ、好ましくは少なくとも4つのアミノ酸長さのエピトープに向けられ、前記2つの結合剤は、PAMの以下の配列内に含まれるエピトープに向けられる:ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、ペプチド14(配列番号24)、および組換えPAM(配列番号10)。
12.対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームまたはその断片の活性を測定する方法であって、この方法は、
・前記試料を、活性な全長PAM、そのアイソフォーム、および/またはその活性な断片に特異的に結合する捕捉結合剤に接触させる工程、
・前記捕捉結合剤に結合したPAMを分離する工程、
・前記分離したPAMにPAMの基質を添加する工程、および
・PAMの基質の転換率を測定して、PAM活性を定量する工程を含む。
13.対象の体液試料中のPAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の活性を測定する方法であって、この方法は、
・t=0分~t=n+1分の時間間隔で前記試料をPAMの基質(ペプチド-Gly)に接触させる工程、
・t=0分およびt=n+1分で前記試料中のPAMの反応生成物(αアミド化ペプチド)を検出する工程、および
・t=0分およびt=n+1分間の反応生成物の差を算出して、PAMの活性を定量する工程を含む。
14.前記ペプチド-Gly基質は、アドレノメデュリン(ADM)、アドレノメデュリン-2、短インテルメジン、プロアドレノメデュリンN-20末端ペプチド(PAMP)、アミリン、ガストリン放出ペプチド、ニューロメディンC、ニューロメディンB、ニューロメディンS、ニューロメディンU、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)1および2、膵島アミロイドポリペプチド、クロモグラニンA、インスリン、パンクレアスタチン、プロラクチン放出ペプチド(PrRP)、コレシストキニン、ビッグガストリン、ガストリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セクレチン、ソマトリベリン、ペプチドヒスチジンメチオニン(PHM)、血管作用性腸ペプチド(VIP)、ゴナドリベリン、キスペプチン、MIF-1、メタスチン、神経ペプチドK、神経ペプチドγ、P物質、ニューロキニンA、ニューロキニンB、ペプチドYY、膵臓ホルモン、デルトルフィンI、オレキシンAおよびB、メラノトロピンα(α-MSH)、メラノトロピンγ、甲状腺刺激放出ホルモン(TRH)、オキシトシン、およびバソプレシンを含む群から選択される、実施態様13に記載の方法。
15.PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するための抗体の使用であって、前記抗体は、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)の群から選択される配列に特異的に結合する。
16.PAMおよび/またはそのアイソフォームおよび/またはその断片の水準を測定するためのキットであって、このキットは、組換えPAM(配列番号10)、ペプチド1(配列番号11)、ペプチド2(配列番号12)、ペプチド3(配列番号13)、ペプチド4(配列番号14)、ペプチド5(配列番号15)、ペプチド6(配列番号16)、ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド10(配列番号20)、ペプチド11(配列番号21)、ペプチド12(配列番号22)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)を含む群から選択されるPAM配列に結合する1種以上の抗体を含む。
【実施例】
【0122】
実施例1-組換えPAMの産生
PAM cDNAを、哺乳類細胞での発現のためのコドン最適化を含むPAMタンパク質のアミノ酸21~834をコードするUniprot受託番号P19021に従って合成した。PAMのシグナル配列を、ヒト血清アルブミンシグナル配列(MKWVTFISLLFLFSSAYSFR[配列番号9])で置換した。PAMのC末端にヘキサヒスチジンタグを付加し、GSリンカーを介してPAMに連結した。組換えPAMの配列(シグナル配列およびヘキサヒスチジンタグを含まないPAMのアミノ酸21~834)を配列番号10に示す。cDNAを、5’-NotIおよび3’ HindIII制限部位を用いて発現ベクター(プラスミドDNA)内にクローンした。PAM発現のためのcDNAを有する発現ベクターを、大腸菌内で複製しかつ低エンドトキシン製剤として大腸菌から調製した。
【0123】
HEK-INV細胞を、無血清懸濁培養液中で、INVect遺伝子導入試薬を用いて発現ベクターで遺伝子導入した。遺伝子導入速度を、発現ベクターを含むGFP(緑色蛍光タンパク質)との同時遺伝子導入によって制御した。細胞の培養を、バルプロ酸およびペニシリン-ストレプトマイシンの存在で、37°C、5%のCO2中で実施した。生存率が60%未満に到達した際に、遠心分離(2000 g超、30~45分、2~8°C)によって細胞を回収した。細胞培養上清(CCS)を、接線流濾過(TFF、30 kDaのカットオフ値)によってpH 8.0の100 mMのTris/HCl溶液で5回洗浄した。
【0124】
組換えPAMの精製には、NaCl勾配(最大2 M)での溶出を含むQ-セファロース高速流動樹脂(GE Healthcare)表面への緩衝液交換されたCCSを応用した。アミド化活性含有画分を蓄積して、100 mMのTris/HCl、200 mMのNaClを含むpH 8.0の溶出緩衝液を用いるSuperdex 200pg(GE Healthcare)サイズ排除クロマトグラフィーカラムにかけた。アミド化活性含有画分を蓄積し、滅菌濾過(0.2 μm)したpH 8.0の100 mMのTris/HCl、200 mMのNaClを含む溶液に対して透析した。エンドトキシンの負荷量は、Charles River PTS Endosafeシステムによって測定され、5 EU/mL未満であった。
【0125】
実施例2-抗体の産生
本発明による抗PAM抗体は、以下のように合成されてもよい。
表1に参照の免疫化のためのPAMペプチド(Peptides & Elephants, Hennigsdorf, Germany)を、(システインが選択されたPAM配列内に存在しない場合には)ウシ血清アルブミン(BSA)へのペプチドの結合のために追加のC末端システイン残基によって合成した。これらのペプチドを、Sulfolink結合ゲル(Perbio-science, Bonn, Germany)を用いてBSAに共有結合させた。結合手順は、Perbioの指示書に従って実施した。組換えPAMは、実施例1に記載のように、InVivo Biotech Services, Hennigsdorfによって製造された。
【表1】
【0126】
Balb/cマウスに、0日目に(TiterMax Gold賦活剤中に乳化した)100 μgの組換えPAMまたは100 μgのPAM-ペプチド-BSA-結合体を、14日目に(完全フロイント賦活剤中に乳化した)100 μgおよび100 μg、ならびに21日目および28日目に(不完全フロイント賦活剤中に乳化した)50 μgおよび50 μgを腹腔内(i.p.)注射した。この動物は、40日目に50 μgの組換えPAM、あるいは45日目に生理食塩水中に溶解した50 μgのPAM-ペプチド-BSA-結合体の静脈内(i.v.)注射を受けた。3日後にこのマウスを殺傷して免疫細胞融合を実施した。
【0127】
免疫マウスからの脾細胞と骨髄腫細胞株SP2/0の細胞を、1 mLの50%のポリエチレングリコールとともに37°Cで30秒間融合させた。洗浄後に、細胞を96ウェル細胞培養プレート内に播種した。HAT培地(20%のウシ胎児血清およびHAT補助剤を補充したRPMI1640培養培地)中で増殖させて、混成クローンを選別した。1週間後にHAT培地をHT培地に交換して3回継代した後に、通常の細胞培養培地に戻した。
【0128】
まず細胞培養上清を、融合の2週間後に組換えPAM結合IgG抗体に対して選別した。従って、組換えPAM(配列番号10)を96ウェルプレート内に固定し(100 ng/ウェル)、50 μL/ウェルの細胞培養上清とともに室温で2時間培養した。プレートを洗浄後に、50 μL/ウェルのPOD-ウサギ抗マウスIgGを添加して、室温で1時間培養した。
【0129】
続く洗浄工程後に、50 μLの発色原溶液(クエン酸/リン酸水素緩衝液、0.012%のH2O2中の3.7mMのo-フェニレンジアミン)を各ウェルに添加し室温で15分間培養して、発色反応を50 μLの4N硫酸を加えて停止させた。吸収率は490 mmで検出された。
【0130】
試験した陽性マイクロ培養物を、増殖のために24ウェルプレートに移した。再試験後に、選択した培養物をクローン化し、限界希釈法を用いて再クローン化して、アイソタイプを決定した。
【0131】
組換えヒトPAMまたはPAMペプチドに対して育成された抗体を、標準的な抗体産生方法(Marx et al. 1997)によって産生し、タンパク質Aによって精製した。抗体純度は、SDSゲル電気泳動分析に基づいて90%以上であった。
【0132】
実施例3-PAM活性検定法
自己申告による健康な有志からのヒト血清またはLi-ヘパリン血漿を、ヒト天然PAMの供給源として用いた。各試料(20 μL)を100 mMのTris-HClで2倍に希釈して複製した。アミド化反応を、160 μLのPAM反応緩衝液(100 mMのTris-HCl、pH 7.5、6.25 μMのCuSO4、2.5 mMのL-アスコルビン酸、125 μg/mLのカタラーゼ、62.5 μMのアマスタチン、250 μMのロイペプチン、36 ng/mLの合成ADM-Gly、および375 μg/mLのNT-ADM抗体を含む)を添加して開始した。その後に複製した試料の100 μLの各反応液を混合し20 μLの200 mM EDTA中に移してアミド化反応を終結させて、t=0分時点の反応物を生成し、続いて37°Cで40分間培養した。その後に10 μLの200 mM EDTAで未終結の反応を停止した。PAM活性を測定するために、sphingotest(登録商標)bio-ADM免疫検定法を用いて、各試料について反応生成物としてのbio-ADMを定量した(Weber et al. 2017)。アミド化検定法を、活性が既知であるヒト組換えPAMで生成した6点の検量線を用いて較正した。試料および検量用試料は同じ方法で処理した。各試料でのsphingotest(登録商標)bio-ADM検定法によって測定された相対光単位(RLU:t=40分~t=0分)を検量用試料のRLU(t=40分~t=0分)に合致させて、試料中のPAM活性を測定した。PAM活性を、「アドレノメデュリン成熟活性」(AMA)として示し、1時間および1 Lの試料当たりに生成されるμgを単位とするbio-ADM量で表す。
【0133】
典型的なPAM検量線を
図3に示す。n=120の自己申告による健康な有志からのLi-ヘパリン試料中のAMAの分布を
図4に示す。Li-ヘパリン中のAMAの中央値[IQR]は18.4 μg/(L*h)[13.5~21.9]であった。10パーセンタイルおよび90パーセンタイルは、それぞれ10.5および24.2 μg/(L*h)であった。2.5番目、97.5番目、および99パーセンタイルは、8.1、31.6、および40.8 μg/(L*h)であった。さらにn=20の対象から匹敵する血清試料を測定したところ、血清中のAMA値はLi-ヘパリンに比較して約40%低かったが、両者に非常に有意な相関(r=0.89;p<0.0001)が明らかになった(
図5)。
【0134】
実施例4-PAMの免疫検定
組換えPAM(配列番号10)およびPAMペプチド(配列番号11~24)に対する抗体を、実施例1の記載のように育成した。
【0135】
使用した技術は、アクリジニウムエステル標識に基づくサンドイッチ発光免疫検定法であった。
【0136】
4.1.標識化合物(トレーサー)
精製抗体(0.2 g/L)を、1:5のmol/L比のMACN-アクリジニウム-NHS-エステル(1 g/L、InVent GmbH)とともに10%の標識化緩衝液(500 mmol/Lのリン酸ナトリウム、pH 8.0)中で22°Cで20分間培養して標識化した。5%の1 mol/L Tris-HCl、pH 8.0を10分間で加えた後に、それぞれの抗体を、CentriPure P10カラム(emp Biotech GmbH)を通して遊離の標識物から分離した。精製標識抗体を、300 mmol/Lのリン酸カリウム、100 mmol/LのNaCl、10 mmol/LのNa-EDTA、5g/Lのウシ血清アルブミン(pH 7.0)中に希釈した。標識抗体の最終濃度は、150 μL当たり約20 ngとなった。
【0137】
4.2.固相
白色ポリスチレンマイクロタイタープレート(Greiner Bio-One International AG)を、それぞれの抗体(ウェル当たりに2 μg/0.2mL、50 mmol/LのTris-HCl、100 mmol /LのNaCl、pH 7.8)で(20°Cで18時間かけて)被覆した。30 g/Lのカリオン、5 g/LのBSA(タンパク質分解酵素不含)、6.5 mmol/Lのリン酸一カリウム、3.5 mmol/Lのリン酸二水素ナトリウム(pH 6.5)で阻止した後に、このプレートを真空乾燥させた。
【0138】
4.3.較正
検定法を、実施例1に記載の組換えPAMの希釈物を用いて較正した。典型的な濃度範囲は、5~5,000 ng/mLの範囲内であった。
【0139】
4.4.PAM免疫検定
4.4.1.PAM-LIA
一段階形式:50 μLの試料/検量用試料を、予備被覆したマイクロタイタープレートにピペットで注入した。200 μLの標識抗体を緩衝液(300 mmol/Lのリン酸カリウム、100 mmol/LのNaCl、10 mmol/LのNa-EDTA、50 μmol/Lのアマスタチン、100 μmol/Lのロイペプチン、0.1%のウシIgG、0.02%のマウスIgG、0.5%のBSA、pH 7.0)中に加えた後に、マイクロタイタープレートを600 rpmで攪拌しながら2~8°Cで20時間培養した。未結合のトレーサーを、洗浄溶液(20 mmol/LのPBS、1 g/LのトリトンX-100、pH 7.4)で5回洗浄(各ウェル当たりに350 μL)して除去した。Centro LB 960マイクロタイタープレート発光リーダー(Berthold Technologies)を用いて、ウェルに結合した化学発光量をウェル当たり1秒間で測定した。
【0140】
二段階形式:50μLの試料/検量用試料を、予備被覆したマイクロタイタープレートにピペットで注入した。200 μLの(一段階形式に記載した)緩衝液を加えた後に、マイクロタイタープレートを600 rpmで攪拌しながら2~8°Cで15~20時間培養した。未結合の試料を、洗浄溶液で4回洗浄(各ウェル当たりに350 μL)して除去し、続いて200 μLのトレーサー材料を添加してマイクロタイタープレートを室温で2時間培養した。未結合のトレーサーを、洗浄溶液で4回洗浄(各ウェル当たりに350 μL)して除去した。Centro LB 960マイクロタイタープレート発光リーダー(Berthold Technologies)を用いて、ウェルに結合した化学発光量をウェル当たり1秒間で測定した。
【0141】
結果:固相に結合した抗体、および種々のPAM免疫化ペプチドならびに全長(組換え)PAM(実施例2を参照)に対する標識抗体を、組換えPAMおよび血液試料で試験した。種々の抗体との組合せの標準曲線の例を
図6(A~L)に示す。
図6(A~J)では、検量用材料として以下の組換えPAMを用いた:(A)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(B)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(C)固相:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(D)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(E)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体;(F)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体;(G)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(H)固相:組換えPAM(配列番号10)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(I)固相:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体、トレーサー:ペプチド9(配列番号19)に対する抗体;(J)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。
図6(KおよびL)では、検量用材料として以下の天然PAM(EDTA-血漿)を用いた:(K)固相:ペプチド14(配列番号24)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体;(L)固相:ペプチド10(配列番号20)に対する抗体、トレーサー:ペプチド13(配列番号23)に対する抗体。全ての抗体の組合せでは、PAMはまたヒト血漿試料およびヒト血清試料中で検出可能であった。
4.4.2.PAM活性の検出のための酵素捕捉測定法(ECA)
【0142】
酵素捕捉測定法を、PAMの活性を検出するために構築した。50 μLの試料/検量用試料を、(4.2.の記載のように)予備被覆したマイクロタイタープレートにピペットで注入した。200 μLの緩衝液(300 mmol/Lのリン酸カリウム、100 mmol/LのNaCl、50 μmol/Lのアマスタチン、100 μmol/Lのロイペプチン、0.1%のウシIgG、0.02%のマウスIgG、0.5%のBSA、pH 7.0)を加えた後に、マイクロタイタープレートを600 rpmで攪拌しながら室温で1時間培養した。未結合の試料を、洗浄液で4回洗浄(各ウェル当たりに350 μL)して除去し、続いてウェル当たり200 μLの反応緩衝液を加えて37°Cで培養した。全ての成分を含む反応緩衝液および最終濃度を、100 μg/mLのNT-ADM抗体および288 ng/mLのADM-Glyを用いたことを除いて、実施例3の記載と同様にした。10 μLの個々の反応液を190 μLのEDTA含有緩衝液(300 mmol/Lのリン酸カリウム、100 mmol/LのNaCl、10 mmol/LのNa-EDTA、50 μmol/Lのアマスタチン、100 μmol/Lのロイペプチン、0.1%のウシIgG、0.02%のマウスIgG、0.5%のBSA、pH 7.0)に移して、反応を数回の時点で停止した。停止した反応液を、sphingotest(登録商標)bio-ADM 免疫検定法にかけて、生成されたbio-ADMを定量した。固相としてPAM免疫化ペプチド10(配列番号20)に対する抗体を用いる典型的な標準曲線を
図6のMに示す。
図6のNは、全長組換えPAM(配列番号10)に対する抗体を用いる典型的な標準曲線を示す。ペプチド7(配列番号17)、ペプチド8(配列番号18)、ペプチド9(配列番号19)、ペプチド13(配列番号23)、およびペプチド14(配列番号24)に対するさらなる抗体を、酵素捕捉測定法用の固相として用いて、組換えPAMまたはヘパリン血漿の試料(250 μL)でのPAM活性を測定した(
図6のO)。これらの結果は、抗体を用いることにより、ECA技術を使用してヒト試料のPAM活性を検出できることを示している。PAMはまた、血漿試料および血清試料中で検出可能であった。
【0143】
さらなる工程では、(実施例3に記載のような)PAM活性およびPAM濃度を、PAM-LIA(全長PAMに対する固相抗体、ペプチド13[配列番号23]に対するトレーサー抗体)を用いて、健康な有志(n=26)からのヘパリン試料中で測定した。PAM活性とPAM濃度は、
図6のPに示されるように有意に相関していた(スピアマンr=0.49、p=0.0109)。
【0144】
実施例5-ADM-Gly免疫検定法
ADM-Glyを、Weberら(Weber et al. 2017. JALM 2(2): 222-233)に基づいて、以下の修飾を加えた生物活性ADMについて定量したが、その修飾は、MACN-アクリジニウム-NHSで標識されたADM-Glyの検出に使用されるトレーサー抗体を、ADM-GlyのC末端グリシンに向けるようにした。この検定法は、合成ADM-Glyによって較正された。検出限界(LOD)は、10 pg/mLのADM-Glyであった。ADMのC末端グリシンに対する抗体のbio-ADMとの交差反応性は、濃度依存的であり6~50%の範囲にあった。測定された全てのADM-Gly濃度は、以下のように交差反応性に対して補正された。各ADM-Glyの定量について、対応する試料中のbio-ADMのさらなる定量を、sphingotest(登録商標)bio-ADM免疫検定法を用いて実施した。対応するbio-ADM値を用いて、bio-ADM検量線上のADMのC末端グリシンに対する抗体によって生成されたシグナル(RLU)を測定した。測定したシグナル(RLU)を用いて、ADM-Gly検量線を使用する偽陽性のADM-Gly濃度(pg/mL)の計算を実施した。この濃度を、最初に測定したADM-Gly濃度から差し引いた。典型的な標準曲線を
図7に示す。
【0145】
実施例6-健常者での疾患の予測
6.1.研究集団
マルメ予防プロジェクト(Malmo Preventive Project:MPP)では、一般的な集団でのCV(心血管)リスク因子を調査するために1970年代半ばに資金を得て、マルメに住む33,346人を登録した(Fedorowski et al. 2010. Eur Heart J 31: 85-91)。2002年から2006年の間に、合計18,240人の基本となる参加者が招致に応じ(参加率;70.5%)、包括的な健康診断および血液試料の採取を含む審査を受けた(Fava et al. 2013. Hypertension 2013; 61: 319-26)。MPPでの再審査を本研究では基準と見做す。基準としては、過去にCVD(心血管疾患)を患った対象は除外した。全ての参加者から告知に基づく同意を得て、スウェーデンのルンド大学の倫理委員会(the Ethical Committee of Lund University, Lund, Sweden)が研究計画を承認した。
【0146】
市販の完全に自動化された均一時間分解蛍光免疫検定法(BRAHMS MR-proADM KRYPTOR;BRAHMS GmbH, Hennigsdorf, Germany)を用いて、血漿中のMR-proADMを測定した(Caruhel et al. 2009. Clin Biochem. 42 (7-8):725-8)。
【0147】
Bio-ADMを、2017年のWeberら(Weber et al. 2017. JAMA 2(2): 222-233)の記載のように測定した。AMAを、実施例3の記載のようにMPPからの4942個の血清試料で測定した。各試料を2回測定した。試料、参照試料、および検量用試料を同じ方法で処理した。四分位数に層別化した後のAMAの基準となる臨床特性を表2に示す。
【表2】
【0148】
統計分析:数値を、必要に応じて平均値および標準偏差、中央値および四分位範囲(IQR)、または計数値および百分率として表示する。連続変数の群比較を、クラスカル・ワリス検定を用いて実施した。バイオマーカーデータを対数変換した。コックス比例ハザード回帰を用いて、単変量解析および多変量解析での生存率に対するリスク因子の影響を解析した。比例ハザードでの仮定を全ての変数に対して検定した。連続変数の場合には、ハザード比(HR)を標準化して、1つのIQRでのバイオマーカー変化に対するHRを記載した。リスク因子の95%信頼区間(CI)とカイ二乗(χ2)の有意水準(ワルド検定)を提供する。各モデルの予測値を、モデル尤度比カイ二乗統計量によって評価した。一致指数(C指数)を影響の尺度として提供する。これは二元の転帰に採択されるAUC(曲線下面積)の概念に相当する。多変数モデルの場合には、C指数の自動実行式の補正形式を提供する。カプラン・マイヤー法によってプロットされた生存曲線を、説明の目的で使用した。臨床変数からのPAMの独立性を検定するために、入れ子型モデルに対する尤度比カイ二乗検定を使用した。全ての統計検定は両側検定であり、0.05の両側p値を有意性ありと見做した。
【0149】
6.2.アルツハイマー病(AD)の予測
認知症診断および血液透析されるCKD(慢性腎疾患)患者での再補給効率に関する情報を含む(偶発型のADを有する174人からの)3954個の試料が選択された。スウェーデン国民患者登録簿(the Swedish National Patient Register:SNPR)からの認知症の診断に関する情報を請求した。登録簿内の診断は、国際疾病分類(ICD)コードである290、293(ICD-8)、290、331(ICD-9)またはF00、F01、F03、G30(ICD-10)の種々の改訂版に従って収集された。SNPRにはスウェーデンの1987年以来の患者医療の全てが含まれ、さらに2000年以降に記録された私的および公的な介護者からの日帰り手術や精神医療を含む外来患者の受診に関するデータも含まれる。全ての要因による認知症は、精神障害の診断および統計マニュアル(DSM)の改訂III版の基準に従って診断されたが、アルツハイマー病および血管性認知症の診断は、DSMの改訂IV版の基準に即した。診断は、医療記録ならびに利用可能な場合には神経画像データの徹底的な観察によって検証された。研究医には各患者の最終診断が割り当てられ、認知障害を専門とする老人病専門医が未解決の症例について相談を受けた。PAM活性(AMA)は、実施例3の記載のように測定された。MPP集団でのAMAは、
図8に示されるように、経時的にADを発症している患者(偶発型のADを有する174人)でのAMAは、ADを発症していない群に比較して有意に低い(p=0.01)。
【0150】
血清AMAの低下は、アルツハイマー病を強く予測し、ハザード比(HR)は0.74(CI 0.6~0.88;p<0.001)であり、年齢で調整した場合のHRは0.72(CI 0.6~0.85)である(表3)。
図9は、AMAを用いたアルツハイマー病の予測に関するカプラン・マイヤープロットを示す(進行型のAD症例はこの解析から除外された)。最低の三分位値は、最高のAD発症リスクに関連している。
【0151】
さらにADの予測因子としてのAMAは、bio-ADM濃度には独立的であった。両方のマーカーがADの予測に寄与している。AMA単独でのC指数は、0.571(CI 0.525~0.616;χ
2 10.97)であるが、組合せマーカーすなわちAMAとbio-ADMの両方のC指数は、0.595(χ
2 18.96;p<0.0001)である。さらにbio-ADMおよびMR-proADMの濃度と組み合わせたAMAは、アルツハイマー発症の予測をさらに向上する。MR-proADM単独ではADの予測値は無いが、AMA、bio-ADM、およびMR-proADMの組合せは、0.622(χ
2 26.73;p=0.00001)のC指数を示した。
【表3】
【0152】
6.3.大腸がん(CRC)の予測
偶発型のCRCを伴うかつ伴わない対象のAMAを
図10に示す。経時的にCRCを発症している患者(n=93)でのAMAは、CRCを発症しない群に比較して有意に低い(p=0.0008;クラスカル・ワリス検定)。対照的に、
図11に示すように、経時的にCRCを発症している患者でのMR-proADM濃度は、CRCを発症していない群に比較して高い(p=0.023)。
【0153】
単一マーカーおよび組合せマーカーの結果を表3に示す。(年齢調整後の)血清AMAの低下は、CRCの発症を強く予測し、ハザード比(HR)は0.68(p<0.0001)である。
図12は、AMAによるCRCの予測に関するカプラン・マイヤープロットを示す(進行型の症例は解析から除外された)。最低の三分位値は、最高のCRC発症リスクに関連している(p<0.005)。
【0154】
増加したMR-proADM濃度は、CRCの発症を予測し、HRは1.36(p<0.05)である。最高の四分位値は、最高のCRC発症のリスクに関連している(p=0.051)。
【0155】
bio-ADM濃度ではCRCの発症を予測できなかったが、bio-ADMとAMAの組合せは、CRC予測の向上を示した(表4参照)。またAMAとMR-proADMの組合せにより、CRC発症の予測がさらに向上した。
【0156】
要約すると、低下したAMA値はCRCの発症を予測する。増加したMR-proADM濃度はまた、CRCの発症を予測する。AMAとbio-ADMまたはMR-proADMの組合せにより、CRCの予測値が向上する。
【表4】
【0157】
6.4.膵臓がんの予測
さらにAMAは、膵臓がんを発症していない対象に比較して偶発型の膵臓がんの対象では増加する(p<0.005)(
図13)。AMAは膵臓がんを強く予測し、オッズ比(OR)は0.44 (CI 0.33~0.58)である。AMAでのそれぞれの受信者応答特性曲線(ROCプロット)を
図14に示し、AUCが0.71であることが明らかになった。
【0158】
6.5.全死因死亡率および心血管死亡率の予測
MPP集団からの死亡事象および心血管事象に関する情報を用いて、死亡率解析を4942個の試料で実施した。スウェーデン国民患者登録簿(SNPR)からの心血管事象およびその診断に関する情報を請求した。登録簿内の診断は、国際疾病分類(ICD)コードの種々の改訂版に従って収集された。SNPRにはスウェーデンの1987年以来の全ての患者医療が含まれ、さらに2000年以降に記録された私的および公的な介護者からの日帰り手術や精神医療を含む外来患者の受診に関するデータも含まれる。PAM活性(AMA)を、実施例3の記載のように測定した。MPP研究集団からの4942人の総血清試料内で、12.8年の追跡期間中に1361人の対象が死亡した(全ての死因による死亡)。1361人の死亡事象の総数から、480人の事象を心血管死亡として計上した。
【0159】
血清AMAの上昇は、全死因死亡率を強く予測し、ハザード比(HR)は1.354(CI 1.197~1.531;p<0.0001)である(表5)。AMAの予測値は、一般的な心血管リスク要因(年齢、性別、血圧、肥満指数、降圧薬、低密度および高密度リポタンパク質、および糖尿病歴)とは無関係であった。
図15は、AMAを用いる全死因死亡率の予測のためのカプラン・マイヤープロットを示す。AMAが高くなると、死亡のリスクが増大する。
【0160】
血清AMAの上昇は、心血管死亡率を強く予測し、ハザード比(HR)は1.6(CI 1.3~1.969;p<0.0001)である(表5)。AMAの予測値は、一般的な心血管リスク要因(年齢、性別、血圧、肥満指数、降圧薬、低密度および高密度リポタンパク質、および糖尿病歴)とは無関係であった。
図16は、AMAを用いる心血管死亡率の予測のためのカプラン・マイヤープロットを示す。AMAが高くなると、心血管死亡のリスクが増大する。
【表5】
【0161】
6.6.心血管障害の予測
MPP集団からの死亡事象および心血管事象に関する情報を用いて、心血管障害の解析を4942個の試料で実施した。スウェーデン国民患者登録簿(SNPR)からの心血管事象およびその診断に関する情報を請求した。登録簿内の診断は、国際疾病分類(ICD)コードの種々の改訂版に従って収集された。SNPRにはスウェーデンの1987年以来の全ての患者医療が含まれ、さらに2000年以降に記録された私的および公的な介護者からの日帰り手術や精神医療を含む外来患者の受診に関するデータも含まれる。PAM活性(AMA)を、実施例3の記載のように測定した。MPP研究集団からの4942人の総血清試料内で、12.8年の追跡期間中に278人の対象が心不全(偶発型心不全)を発症し、かつ633人の対象が心房細動(偶発型心房細動)を発症した。
【0162】
血清AMAの上昇は、偶発型の心不全を強く予測し、ハザード比(HR)は1.537(CI 1.169~2.021;p<0.0007)である(83人の進行型のHF症例は解析から除外された)(表6)。
図17は、AMAを用いる全死因死亡率の予測のためのカプラン・マイヤープロットを示す。AMAが高くなると、心不全を発症するリスクが高くなる。
【0163】
血清AMAの上昇は、偶発型の心房細動を強く予測し、ハザード比(HR)は1.459(CI 1.214~1.752;p<0.0001)である(267人の進行型のAF症例は解析から除外された)(表6)。
図18は、AMAを用いる全死因死亡率の予測のためのカプラン・マイヤープロットを示す。AMAが高くなると、心不全を発症するリスクが高くなる。
【表6】
【0164】
実施例7-疾患の診断
7.1.アルツハイマー病の診断
アルツハイマー病と診断された27個体からの血清試料を、InVent Diagnostica GmbHから入手した。ADの診断は、認知検査(CERAD、DemTec、MMST、および時計描画検査)、ならびにMRI(磁気共鳴画像法)およびCTスキャンに基づいている。対照として、自己申告による健康な有志からの67個の血清試料を用いた。AMAは、実施例3の記載のように検出した。
【0165】
図19に示すように、AD集団からの患者は、対照集団に比較して有意に低い血清AMAを示した(n=67;p<0.0001)。
【0166】
7.2.心血管障害および代謝障害の診断
MPP研究集団からの4942個の総血清試料には、267例の進行型の心房細動、83例の進行型の慢性心不全、および533例の進行型の糖尿病が存在した。
進行型の心房細動ではない個体に比較して(平均AMA:12.8 AMA単位、n=4675)、進行型の心房細動である個体では、血清AMAの有意な上昇(p<0.0001)が観察された(平均AMA:13.92 AMA単位、n=267)。
進行型の心不全ではない個体に比較して(平均AMA:12.84 AMA単位、n=4859)、進行型の慢性心不全である個体では、血清AMAの有意な上昇(p=0.0019)が観察された(平均AMA:14.31 AMA単位、n= 83)。
進行型の糖尿病ではない個体に比較して(平均AMA:12.89 AMA単位、n=4409)、進行型の糖尿病である個体では、血清AMAの有意な低下(p=0.0035)が観察された(平均AMA:12.69 AMA単位、n= 533)。
【0167】
実施例8-予後判断および監視
8.1.研究集団であるAdrenOSS-1
AdrenOSS-1は、欧州での期待される観察研究である。5ヶ国(フランス、ベルギー、オランダ、イタリア、およびドイツ)の24の研究拠点が、583人の登録患者(2015年6月~2016年5月に募集)による試験の達成に貢献した。研究計画は、地元の倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言に従って実施された。この研究には、(1)敗血症または敗血症性ショックによりICUに入院した、あるいは(2)入院後の24時間未満以内に敗血症および敗血症性ショックの状態で別のICUから転院した18歳以上の患者を登録した。参画した患者を、2001年からの敗血症および臓器不全の定義に基づいて、重度の敗血症と敗血症性ショックに層別した(Levy et al. 2003. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med. 31(4):1250-6)。用語「敗血症」とは「Sepsis-3」での最新の定義を指している(Singer et al. 2016 The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 315(8):801-10)。患者は現場での実務に従って治療を受けて、その治療および手法が記録された。主要な評価項目は、28日目での死亡率であった。副次的な評価項目は、(連続的な臓器不全評価[SOFA]スコアによって定義される)臓器不全および臓器支援、昇圧剤/強心剤の使用、体液平衡、および腎代替療法(RRT)の使用に関するものであった。
【0168】
入院時に、人的統計(年齢、性別)、肥満指数、敗血症性ショックの存在、ICU入院の種別、臓器機能障害スコア(SOFA、急性生理学的評価および慢性健康評価II[APACHE II])、敗血症の起源、既存の合併症(すなわち過去1年以内に治療された症例)、過去の病歴、検査値、および臓器支持を記録し、bio-ADMおよびその他のマーカーの測定のために採血した。患者の登録後に、最初の1週内に以下のデータを毎日収集した:SOFAスコア、抗菌療法、体液平衡、呼吸状態、グラスゴー昏睡尺度スコア、中心静脈圧、RRTの必要性、敗血症制御のための侵襲的処置、および昇圧剤/強心剤治療。さらに退院時の状況および死亡率を、ICU入院後の28日目に記録した。
【0169】
中央検査室用の血液を、ICU入院後の24時間以内、および最初の試料から2日後(平均47時間、標準偏差9時間)に採取した。続いて試料を処理して-80°Cで保存した。PAM活性(AMA)を、実施例3の記載のように、AdrenOSS-1集団から無作為に選択されたn=197の血漿試料について測定した。
8.2.敗血症での転帰予後
【0170】
図20に示すAdrenOSS-1集団でのAMAについて、生存群に比較して非生存群では有意に高いAMAを示した(p<0.05)。高血漿AMAは、28日目での死亡率を強く予測し、HRは1.41である(p<0.05)。
図21は、敗血症および敗血症性ショックの患者の28日目の死亡率を予測するためのカプラン・マイヤープロットを示す。
【0171】
さらに、AdrenOSS-1集団でのADM-Gly濃度はまた、生存者に比較して非生存者では有意に高い濃度を示した(p<0.0001)。高ADM-Gly濃度は、28日目の死亡率を強く予測し、HRは2.29である(p<0.005)。
【0172】
単一バイオマーカーAMAおよびADM-Glyの28日目での死亡の転帰を表7に示す。AMAおよびADM-Gly濃度のそれぞれのカットオフ値を選択して、80.4%の等しい感度を示すようにしたが、特異性はそれぞれ、AMAでは21.7%、ADM-Glyでは38.5%であった。両方のマーカーを組み合わせると、すなわち所定の比率で組み合わせると、28日目の生存率の特異性は43.4%に増加した。さらに、PAMとADM-Glyのオッズ比(OR)はそれぞれ1.13と2.56であったが、両方のマーカーを組み合わせると、ORは3.14に増加した。
【表7】
【0173】
実施例9-ヒト唾液中のPAM活性の測定
唾液を、5人の自己報告による健康な対象から別々の無菌試験管中に採取した。ヒト唾液試料中のPAM活性を、実施例3に記載のように試験した。PAM活性は、唾液試料中で約700~2000 ng/(L*h)の範囲で測定でき(
図22)、血漿試料に比較して約10分の1と低かった。
【0174】
配列
配列番号1-Prepro-PAMアイソフォーム1 AS 1~973
【化1-1】
【化1-2】
配列番号2-Prepro-PAMアイソフォーム2 AS 1~868
【化2-1】
【化2-2】
配列番号3-Prepro-PAMアイソフォーム3 AS(配列番号1のアミノ酸829~896の欠失)
【化3-1】
【化3-2】
配列番号4-Prepro-PAMアイソフォーム4(配列番号1のアミノ酸829~914の欠失)
【化4-1】
【化4-2】
配列番号5-Prepro-PAMアイソフォーム5(896の位置に追加のアミノ酸を有するアイソフォーム1)
【化5-1】
【化5-2】
配列番号6-Prepro-PAMアイソフォーム6(配列番号1のアミノ酸897~914の欠失)
【化6-1】
【化6-2】
配列番号7-PAMのPHMサブユニット
【化7】
配列番号8-PAMのPALサブユニット
【化8】
配列番号9-シグナル配列ヒト血清アルブミン
【化9】
配列番号10-組換えヒトPAMの配列
【化10】
配列番号11-ペプチド1(PAM配列番号1のアミノ酸42~56)
【化11】
配列番号12-ペプチド2(PAM配列番号1のアミノ酸109~128)
【化12】
配列番号13-ペプチド3(PAM配列番号1のアミノ酸168~180)
【化13】
配列番号14-ペプチド4(PAM配列番号1のアミノ酸204~216)
【化14】
配列番号15-ペプチド5(PAM配列番号1のアミノ酸329~342)
【化15】
配列番号16-ペプチド6(PAM配列番号1のアミノ酸291~310)
【化16】
配列番号17-ペプチド7(PAM配列番号1のアミノ酸234~244)
【化17】
配列番号18-ペプチド8(PAM配列番号1のアミノ酸261~276)
【化18】
配列番号19-ペプチド9(PAM配列番号1のアミノ酸530~557)
【化19】
配列番号20-ペプチド10(PAM配列番号1のアミノ酸611~631)
【化20】
配列番号21-ペプチド11(PAM配列番号1のアミノ酸562~579)
【化21】
配列番号22-ペプチド12(PAM配列番号1のアミノ酸745~758)
【化22】
配列番号23-ペプチド13(PAM配列番号1のアミノ酸669~687)
【化23】
配列番号24-ペプチド14(PAM配列番号1のアミノ酸710~725)
【化24】
【配列表】
【国際調査報告】