IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ パリ−サクレーの特許一覧 ▶ アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)の特許一覧 ▶ アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシーの特許一覧

特表2023-515994がんの治療に有用な化合物を同定する方法
<>
  • 特表-がんの治療に有用な化合物を同定する方法 図1
  • 特表-がんの治療に有用な化合物を同定する方法 図2
  • 特表-がんの治療に有用な化合物を同定する方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(54)【発明の名称】がんの治療に有用な化合物を同定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230410BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230410BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/145 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/5415 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/655 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/132 20060101ALI20230410BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20230410BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230410BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230410BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z ZNA
C12Q1/06
A61K31/145
A61K31/4985
A61K31/5415
A61K31/655
A61K31/136
A61K31/496
A61K31/132
A61K31/4422
A61P35/00
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551713
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-21
(86)【国際出願番号】 FR2021050335
(87)【国際公開番号】W WO2021170963
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】2002003
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】516365507
【氏名又は名称】アンスティテュ・ギュスターヴ・ルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ・ブレナー
(72)【発明者】
【氏名】ナザニン・モジャヘディ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045DA36
2G045DA78
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ20
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS40
4B063QX10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086BC26
4C086BC89
4C086CA01
4C086CB22
4C086DA30
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA12
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA01
4C206FA31
4C206JA72
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
4H045EA61
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を調節する化合物の能力を評価することに基づく、がんの治療に有用な化合物を同定する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定する方法であって、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を評価する工程を含み、化合物が相互作用を阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
(a)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質を接触させる工程と、
(b)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する工程と、
(c)化合物の存在下及び非存在下での、相互作用の測定値を比較する工程とを含み、
相互作用の測定値が、化合物の存在下で、化合物の非存在下よりも低い場合、化合物ががんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化合物が、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を少なくとも50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用の測定が、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、サーマルシフトアッセイ(TSA)法、免疫沈降法、等温滴定熱量測定(ITC)アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、蛍光偏光アッセイ、又はELISAアッセイを用いて、好ましくは、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)又は表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて実施されることを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
がんの非ヒト動物モデル又は細胞モデルにおいて、同定された化合物の抗がん特性の確認も含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(i)AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)を用いて決定する工程と、
(ii)AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて決定する工程と、
(iii)がんの非ヒト動物モデル又は細胞モデルにおいて、同定された化合物の抗がん特性を確認する工程と
を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定するためのキットであって、
- AIFタンパク質と、
- CHCHD4タンパク質と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段と、
- 任意選択で、相互作用を測定する実験に適した緩衝液と、
- 任意選択で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物と
を含むことを特徴とする、キット。
【請求項8】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段が、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)に適した手段である、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
緩衝液が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)を含む、請求項7又は8に記載のキット。
【請求項10】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物が、配列番号4の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも70%、80%、90%、又は少なくとも99%の同一性を有する任意の機能的バリアントからなる、請求項7から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項11】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物が、ジスルフィラム、ブロモクリプチンメシル酸塩、チオリダジン塩酸塩、シカゴスカイブルー6B、ミトキサントロン二塩酸塩、リファペンチン、テトラエチレンペンタミン五塩酸塩、ニソルジピン、メルブロミン、チエチルペラジン二リンゴ酸塩、及びベニジピン塩酸塩からなる群から選択される、請求項7から9のいずれか一項に記載のキット。
【請求項12】
がんの治療における使用のための、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物であって、シカゴスカイブルー6B、リファペンチン、ニソルジピン、メルブロミン、チエチルペラジン二リンゴ酸塩、及びベニジピン塩酸塩からなる群から選択される、化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を調節する化合物の能力を評価することに基づく、がんの治療に有用な化合物を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発癌過程において、がん細胞の代謝が初期化され、腫瘍細胞の増殖を促進し、その修復能及び浸潤能、並びにその抗がん治療への耐性を向上させる。ミトコンドリアは、とりわけ、ATPの産生、様々な代謝物及び高分子の産生、活性酸素種の産生及び解毒、並びに細胞死の調節の能力によって、細胞代謝において重要な役割を担っている。この理由から、ミトコンドリア活性を標的とし、がん細胞の代謝に影響を与えることは、がんの治療において注目のアプローチである。しかし、治療的有用性をもたらすことが可能なミトコンドリアの分子メカニズムは、まだ解明されていないままである。
【0003】
機能するためには、ミトコンドリアは核ゲノムによりコードされた1500~2000種のタンパク質を、特定のタンパク質機構によって取り込まなければならない。したがって、AIF(アポトーシス誘導因子)及びCHCHD4(コイルドコイルヘリックスコイルドコイルヘリックスドメイン含有4)は、膜間腔に発現する2つのタンパク質であり、一度結合すると、システインモチーフを有する様々なタンパク質の取込み機構を形成する。
【0004】
AIF/CHCHD4相互作用については、論文Hangenら、2015 in vitro and in cellulo.で説明されている。特に、この論文は、ミトコンドリア呼吸鎖複合体の生合成におけるAIFタンパク質の機能が、CHCHD4との物理的及び機能的相互作用により媒介されていることを示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hangenら、2015 in vitro and in cellulo.
【非特許文献2】Eglen RMら、The use of AlphaScreen technology in HTS: current status. Curr Chem Genomics. 2008;1:2~10頁
【非特許文献3】Ullman EFら、Luminescent oxygen channeling immunoassay: measurement of particle binding kinetics by chemiluminescence. Proc Natl Acad Sci U S A. 1994;91(12):5426~5430頁
【非特許文献4】Yasgar Aら、AlphaScreen-Based Assays: Ultra-High-Throughput Screening for Small-Molecule Inhibitors of Challenging Enzymes and Protein-Protein Interactions. Methods Mol Biol. 2016;1439:77~98頁
【非特許文献5】Seethala及びPrabhavathi、"Homogeneous Assays: AlphaScreen, Handbook of Drug Screening," Marcel Dekkar Pub. 2001、106~110頁
【非特許文献6】Goktugら、Drug Discovery、2013 doi10.5772/52508
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
がんの治療に有用な新規化合物を同定することを目的として、本発明者らは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を評価することに基づく同定方法を開発した。本発明者らの仮説は、AIF/CHCHD4複合体の形成を阻害する化合物が、ミトコンドリア活性に生存及び増殖が依存するがん細胞に、影響を与えることが可能であろうというものである。
【0007】
本発明者らが開発した方法は、抗がん特性を有する化合物の同定を可能にするため、特に有効であることが証明された。更に、本方法はハイスループットスクリーニングに適用できるため、がんの治療に潜在的に有用な化合物の同定が容易になるという利点がある。
【0008】
したがって、本発明の一態様は、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定する方法であって、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を評価する工程を含み、化合物が相互作用を阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、方法に関する。
【0009】
特定の一実施形態では、方法は
(a)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質を接触させる工程と、
(b)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する工程と、
(c)化合物の存在下及び非存在下での、相互作用の測定値を比較する工程と
を含み、
相互作用の測定値が、化合物の存在下で、化合物の非存在下よりも低い場合、化合物はがんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0010】
特定の一実施形態では、化合物は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を少なくとも50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0011】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用の測定は、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)又は表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて実施することができる。更に、本発明による方法は、がんの非ヒト動物モデル又は細胞モデルにおける、同定された化合物の抗がん特性の確認を含んでもよい。
【0012】
特定の一実施形態では、方法は、
(i)AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)を用いて決定する工程と、
(ii)AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて決定する工程と、
(iii)がんの非ヒト動物モデル又は細胞モデルにおいて、同定された化合物の抗がん特性を確認する工程と
を含む。
【0013】
本発明の別の態様は、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定するためのキットであって、
- AIFタンパク質と、
- CHCHD4タンパク質と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段と、
- 任意選択で、相互作用を測定する実験に適した緩衝液と、
- 任意選択で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物と
を含むことを特徴とする、キットに関する。
【0014】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段は、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)に適した手段であり得る。特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する実験に適した緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)を含む。特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、配列番号4の配列からなる、又は配列番号4の配列と少なくとも70%、80%、90%、又は少なくとも99%の同一性を有する任意の機能的バリアントからなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】AlphascreenによるAIF103~613及びCHCHD4滴定を示す図である。ALPHAscreen技術を使用して、CHCHD4タンパク質をAIF103~613タンパク質に対して滴定すると、Hook効果と呼ばれる釣鐘形の反応が得られる。
図2】AIF103~613/CHCHD4相互作用の阻害を示す図である。1280個の化合物からなるPrestwickライブラリーを、Alphascreenアッセイを用いて、10μMの濃度でスクリーニングした。選択された化合物は白い四角で識別され、黒い点は選択されなかった化合物に相当する。化合物の存在下で得られた生シグナルが、閾値THよりも低い場合、化合物は選択される(TH=平均値(陰性対照のシグナル)-5×SD(陰性対照のシグナル))。Y軸は正規化シグナル、すなわち、平均値に対する割合として計算されたシグナルに相当する。
図3】Alphascreenにより同定された化合物のSPR分析を示す図である。(A)Alphascreenアッセイを用いて、AIF103~613/CHCHD4相互作用の阻害剤として同定された、チオリダジン及びミトキサントロンのSPRによる確証。10μMの化合物を、pH7.4のDPBS中、AIFと室温で20分間インキュベートした。その後、混合物をCHCHD4タンパク質に、毎分30μlの速度で3分間注入した。陰性対照として、3μMのN27ペプチドを使用した。(B)チオリダジン塩酸塩又はミトキサントロン二塩酸塩の存在下で、AIF103~613のCHCHD4への結合を追跡することを可能にする、表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラム。チオリダジン塩酸塩及びミトキサントロン二塩酸塩は、0.5μM~50μMまでの範囲で濃度を上げて試験した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1-同定方法
本発明の一態様は、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定する方法であって、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を評価する工程を含み、化合物が相互作用を阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、方法に関する。本発明の一態様は、特に、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定するために、化合物ライブラリーをスクリーニングする方法であって、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する、化合物ライブラリーの化合物の能力を評価する工程を含み、化合物が相互作用を阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定されることを特徴とする、方法に関する。
【0017】
特定の一実施形態では、本発明による方法は、
(a)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質を接触させる工程と、
(b)化合物の存在下及び非存在下で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する工程と、
(c)化合物の存在下又は非存在下での、相互作用の測定値を比較する工程と
を含み、
相互作用の測定値が、化合物の存在下で、化合物の非存在下よりも低い場合、化合物はがんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0018】
AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の物理的及び直接的な相互作用は、Hangenら、2015の論文で示された。
【0019】
AIF(アポトーシス誘導因子)タンパク質は、ミトコンドリアに存在するフラビンタンパク質であり、ミトコンドリアから放出されるとアポトーシスを促進する。本発明の文脈において、AIFタンパク質は、任意の起源であってよく、好ましくは動物起源、特に哺乳動物起源、より優先的にはヒト起源であってもよい。特定の一実施形態では、AIFタンパク質は、NCBI配列参照が「NP_004199.1」であるヒト天然AIFタンパク質、又はその任意の機能的バリアント、例えば、特定の脳アイソフォームであるAIF2に相当する。特に、本発明によるAIFタンパク質は、配列番号1の配列の天然ヒトポリペプチド、又は任意の機能的バリアントに相当し得る。AIFタンパク質に言及する「機能的バリアント」という表現は、AIFタンパク質の構造に由来し、CHCHD4タンパク質、特に配列番号2のCHCHD4タンパク質に結合する能力を保持する任意のポリペプチドを意味する。機能的バリアントは、断片、欠失体の変異体等の、天然又は合成のバリアントであってもよい。好ましくは、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号1の配列のAIFタンパク質と、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドに相当する。
【0020】
CHCHD4タンパク質(ミトコンドリア膜間腔取込み及び組立てタンパク質40(mitochondrial intermembrane space import and assembly protein 40)、又はMIA40とも呼ばれる)は、ミトコンドリア膜間腔においてタンパク質の取込みに関与するタンパク質である。本発明の文脈において、CHCHD4タンパク質は、任意の起源であってよく、好ましくは動物起源、特に哺乳動物起源、より優先的にはヒト起源であってもよい。特定の一実施形態では、CHCHD4タンパク質は、NCBI配列参照が「NP_001091972.1」であるヒト天然CHCHD4タンパク質に相当する。特に、本発明によるCHCHD4タンパク質は、配列番号2の配列の天然ヒトポリペプチド、又は任意の機能的バリアントに相当し得る。CHCHD4タンパク質に言及する「機能的バリアント」という表現は、CHCHD4タンパク質の構造に由来し、AIFタンパク質、特に配列番号1のAIFタンパク質に結合する能力を保持する任意のポリペプチドを意味する。機能的バリアントは、断片、変異体、又は欠失体等の、天然又は合成のバリアントであってもよい。好ましくは、CHCHD4タンパク質の機能的バリアントは、配列番号2の配列のCHCHD4タンパク質と、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドに相当する。
【0021】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号1のAIFタンパク質と比較して、欠失又は切断されている。特に、AIFタンパク質の機能的バリアントは、AIFタンパク質の膜貫通部分が欠失したポリペプチドに相当してもよい。特定の一実施形態では、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号3の配列のポリペプチド、又は配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドに相当する。
【0022】
AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質は、2つのタンパク質の間の相互作用を妨げない限り、修飾することができる。例えば、それらの相互作用の測定実験の必要性から、AIFタンパク質及び/又はCHCHD4タンパク質はタグとして使用される断片に融合させることができる。2つのタンパク質の間の相互作用を妨げない限り、任意の従来のタグを使用してもよい。特に、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)又は表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイに適した任意のタグを使用することができる。より具体的には、AIFタンパク質及び/又はCHCHD4タンパク質は、いくつかのヒスチジン残基からなるモチーフに相当するヒスチジンタグ、又はグルタチオンS転移酵素タンパク質に相当するGSTタグに融合させることができる。
【0023】
被験化合物
本発明の方法により同定され得る化合物は、様々な性質、構造及び起源の化合物であり得る。同定され得る化合物は、特に、生物学的化合物、化学的化合物、合成化合物等であり得る。それらは、特に、核酸、ペプチド、脂質、炭水化物の性質の化合物であり得る。これはまた、ライブラリー、特に、化学ライブラリー、タンパク質ライブラリー、ペプチドライブラリー、核酸ライブラリー又は天然物質ライブラリー等を含んでもよい。
【0024】
被験化合物のAIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質との接触
被験化合物は、任意の適切な支持体、及び特にプレート上、チューブ又はフラスコ、膜等において、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質と接触させることが可能である。特に、接触は、マルチウェルプレートにおいて実施することができ、これにより、多数の且つ様々なアッセイを並行して行うことが可能になる。典型的な支持体として、微量滴定プレート、及びより具体的には、取扱いの容易な96ウェル又は384ウェル(又はそれより多くの)プレートが挙げられる。
【0025】
被験化合物の量(又は濃度)は、化合物の種類、インキュベーション期間の持続時間等に従って、使用者により調整され得る。特に、被験化合物の濃度は、1nM~1mMまで変化してもよい。本発明を逸脱することなく、他の濃度を試験することも、当然ながら可能である。更に、各化合物は、様々な濃度で並行して試験することができる。同様に、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質の量(又は濃度)は、変動可能であり、使用者により調整され得る。特に、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質の濃度は、被験化合物の非存在下で2つのタンパク質の間の最適な相互作用が可能になるように調整される。
【0026】
タンパク質と被験化合物の間の接触は、例えば、数分~数時間又は数日、特に30分~72時間、より具体的には1~5時間維持され得る。
【0027】
AIFタンパク質、CHCHD4タンパク質及び被験化合物を接触させる時のこれらの添加順序は、当業者により調整され得る。特に、CHCHD4タンパク質と接触させる前に、被験化合物をAIFタンパク質と一定期間プレインキュベートすることができる。或いは、AIFタンパク質と接触させる前に、被験化合物をCHCHD4タンパク質と一定期間プレインキュベートすることができる。タンパク質の一方又は他方とのプレインキュベーションが行われる期間は、数分、又は数時間若しくは数日、より具体的には5~60分、より具体的には5~30分であり得る。
【0028】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定
被験化合物の存在下又は非存在下における、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用は、2つのタンパク質の間の相互作用を測定又は定量化することを可能にする、当業者に公知の任意の技術に従って測定することが可能である。
【0029】
「相互作用」という用語は、2つのタンパク質の間のペアリング又は物理化学的結合を意味する。2つのタンパク質の間の相互作用は、共有結合及び/又は非共有結合から生じ得る。非共有結合は、特に静電結合、イオン結合、水素結合、及び疎水結合、並びにファンデルワールス力を含む。
【0030】
本発明による方法は、一方では被験化合物の非存在下で、他方では被験化合物の存在下で、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を測定する工程を含む。2つの測定は、連続して、又は同時に、実施することができる。その後、被験化合物の存在下又は非存在下における2つの相互作用の測定値を比較する。特定の一実施形態では、化合物は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。好ましくは、化合物は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を少なくとも50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。特定の一実施形態では、化合物は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を少なくとも50%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0031】
被験化合物の存在下又は非存在下における、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定は、2つのタンパク質の間の相互作用を測定又は定量化することを可能にする任意の技術、例えば、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、サーマルシフトアッセイ(TSA)法、免疫沈降法、等温滴定熱量測定(ITC)アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、蛍光偏光アッセイ、又はELISAアッセイを用いて実施することができる。特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定は、ALPHA又はSPRアッセイを用いて実施される。
【0032】
好ましくは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を測定する技術は、ハイスループットスクリーニングに応用できる。
【0033】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用の測定は、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)を用いて実施される。ALPHA技術は、化学発光の検出に基づく非常に感度の高い技術であり、広範な相互作用及び生物活性をスクリーニングすることを可能にし、ハイスループットスクリーニングにも適している(例えば、Eglen RMら、The use of AlphaScreen technology in HTS: current status. Curr Chem Genomics. 2008;1:2~10頁;Ullman EFら、Luminescent oxygen channeling immunoassay: measurement of particle binding kinetics by chemiluminescence. Proc Natl Acad Sci U S A. 1994;91(12):5426~5430頁;Yasgar Aら、AlphaScreen-Based Assays: Ultra-High-Throughput Screening for Small-Molecule Inhibitors of Challenging Enzymes and Protein-Protein Interactions. Methods Mol Biol. 2016;1439:77~98頁;Seethala及びPrabhavathi、"Homogeneous Assays: AlphaScreen, Handbook of Drug Screening," Marcel Dekkar Pub. 2001、106~110頁を参照のこと)。
【0034】
ALPHA技術は、AlphaScreen(登録商標)及びAlphaLISA(登録商標)の商標名でも公知の、ドナービーズ及びアクセプタービーズに生物学的に結合した(bioconjugated)2つの分子の相互作用を測定することを可能にする。ドナービーズは、フタロシアニン等の感光性分子を含み、680nmでの励起後、周囲の酸素を一重項酸素に変換する。一重項酸素は、溶液中でおよそ200nmまで拡散することができる。この距離内にアクセプタービーズがある場合、一重項酸素からアクセプタービーズ中のチオキシン誘導体へエネルギーが移動し、その結果、520~620nm(AlphaScreen(登録商標))又は615nm(AlphaLISA(登録商標))で発光する。ドナービーズがアクセプタービーズに近接していない場合、一重項酸素は基本状態に戻り、発光シグナルは発生しない。タンパク質/タンパク質相互作用アッセイでは、あるタンパク質がドナービーズに結合され、もう一方のタンパク質がアクセプタービーズに結合される。したがって、2つのタンパク質が相互作用すると、ドナービーズがアクセプタービーズに接近し、ドナービーズの励起の結果、アクセプタービーズ側で定量化可能な光シグナルが放出される。光シグナルの測定は、ALPHA技術に適合した読み取り装置、例えば、EnVision(登録商標)又はEnSpire(登録商標)プレートリーダーを用いて実施される。特定の一実施形態では、相互作用の測定は、AlphaScreen(登録商標)アッセイを用いて実施される。
【0035】
こうして、光シグナルの強度によって、試料中のタンパク質の相互作用を定量化することが可能になる。したがって、光シグナルの測定値が、化合物の存在下で、化合物の非存在下よりも低い場合、被験化合物はがんの治療に潜在的に有用であると同定される。特定の一実施形態では、化合物は、被験化合物の非存在下で測定される光シグナルを少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。好ましくは、化合物は、被験化合物の非存在下で測定される光シグナルを少なくとも50%、60%、70%、80%、又は少なくとも90%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。特定の一実施形態では、化合物は、被験化合物の非存在下で測定される光シグナルを少なくとも50%阻害する場合、がんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0036】
本発明の文脈において、AIFタンパク質はドナービーズに結合させることができ、CHCHD4タンパク質はアクセプタービーズに結合させることができ、逆に、AIFタンパク質はアクセプタービーズに結合させることができ、CHCHD4タンパク質はドナービーズに結合させることができる。特定の一実施形態では、ドナービーズ及びアクセプタービーズは、それらをAIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質の一方又は他方と結合させることを可能にする分子又は官能基で被覆される。
【0037】
タンパク質は、それらをドナービーズ又はアクセプタービーズに結合させることを可能にするタグに融合させることができる。例えば、AIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質は、それをニッケル被覆ビーズに結合させることを可能にするヒスチジンタグ、又はグルタチオン被覆ビーズに結合させることを可能にするGSTタグに融合させることができる。
【0038】
したがって、特定の一実施形態によると、方法は、
(a')候補化合物の存在下又は非存在下で、AIFタンパク質、CHCHD4タンパク質、ドナービーズ、及びアクセプタービーズを接触させる工程と、
(b')所与の波長、好ましくはおよそ680nmの波長でドナービーズを励起する工程と、
(c')アクセプタービーズにより放たれる光シグナル、好ましくは520~620nmの波長を有する光シグナルを測定する工程と、
(d')化合物の存在下及び非存在下での、光シグナルの測定値を比較する工程と
を含み、
ドナービーズはAIFタンパク質に結合することが可能であり、アクセプタービーズはCHCHD4タンパク質に結合することが可能であり、又は
ドナービーズはCHCHD4に結合することが可能であり、アクセプタービーズはAIFタンパク質に結合することが可能であり;
光シグナルの測定値が、化合物の存在下で、化合物の非存在下よりも低い場合、化合物はがんの治療に潜在的に有用であると同定される。
【0039】
別の実施形態では、被験化合物の存在下又は非存在下でのAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定値は、Biacore(登録商標)アッセイ等の表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを用いて測定される。SPR実験の間、2つのタンパク質のうち一方は表面(センサーチップ)に結合し、もう一方はマイクロ流体システムを用いた緩衝液の連続的な流れを介して表面に供給される。タンパク質の相互作用は、表面レベルでの質量変化を検出する表面プラズモン共鳴により監視される。
【0040】
特定の一実施形態では、上述のような本発明の方法の接触させる工程(a)、相互作用を測定する工程(b)、比較する工程(c)は、繰り返すことができる。特に、工程(a)、(b)、及び(c)は、各繰り返しにおいて、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する同一の技術、又は異なる測定技術を使用して、繰り返すことができる。工程(a)、(b)、及び(c)を繰り返すことの利点は、スクリーニング方法を洗練させ、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の能力を確認することである。例えば、各被験化合物について、工程(a)、(b)、及び(c)を二重、三重、四重又は五重で実施することができる。
【0041】
更に、本発明の方法の工程(a)、(b)、及び(c)は、タンパク質相互作用を測定する同一の技術、例えば、ALPHA技術を使用して、しかし各繰り返しについて被験化合物の濃度を変えながら、繰り返すことができる。被験化合物の濃度を変えることで、例えば、化合物の用量-効果関係を決定することにより、同定された化合物の阻害能力を特定するという利点がある。AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を、被験化合物の濃度を変えることにより測定することで、特に、化合物の阻害濃度の中央値(IC50)を決定することが可能になる。IC50は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を50%阻害するために必要な化合物の濃度を示し、したがって、相互作用の阻害に関する化合物の有効性を評価することが可能である。
【0042】
特定の一実施形態では、方法は、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用が、ALPHAアッセイを用いて測定される、上述の工程(a)、(b)、及び(c)を実施する工程と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用が、SPRアッセイを用いて測定される、上述の工程(a)、(b)、及び(c)を繰り返す工程と
を含む。
【0043】
特定の一実施形態では、方法は、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用が、被験化合物のライブラリーを使用したハイスループットスクリーニング実験によるALPHAアッセイを用いて測定される、上述の工程(a)、(b)、及び(c)を実施する工程と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を少なくとも50%阻害することが可能な化合物を選択する工程と、
- 選択された各化合物について用量-効果を決定する工程であって、選択された化合物の濃度を変えながら、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用をALPHAアッセイを用いて測定することにより上述の工程(a)、(b)、及び(c)を繰り返すことを含む工程と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用が、SPRアッセイを用いて測定される、選択された化合物を用いた上述の工程(a)、(b)、及び(c)を繰り返す工程と
をこの順序で含む。
【0044】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、上述の工程(a)、(b)、及び(c)を実施する工程であって、化合物がAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物である、工程を含む。AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の使用は、したがって、陽性対照として機能することができ、実験を確証することを可能にする。
【0045】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、配列番号4の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも70%、80%、90%、又は少なくとも99%の同一性を有する任意の機能的バリアントからなる。「機能的バリアント」という用語は、ここでは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能なバリアントである、配列番号4の配列の任意のバリアントを意味すると理解される。
【0046】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、ジスルフィラム、ブロモクリプチン又はブロモクリプチンメシル酸塩等のその塩、チオリダジン又はチオリダジン塩酸塩等のその塩、シカゴスカイブルー6B、ミトキサントロン又はミトキサントロン二塩酸塩等のその塩、リファペンチン、テトラエチレンペンタミン又はテトラエチレンペンタミン五塩酸塩等のその塩、ニソルジピン、メルブロミン、トリエチルペラジン又はトリエチルペラジン二リンゴ酸塩等のその塩、及びベニジピン又はベニジピン塩酸塩等のその塩からなる群から選択される。
【0047】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、被験化合物の存在下で得られる、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の阻害と、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の存在下で得られる、相互作用の阻害とを比較する工程を含む。特定の一実施形態では、化合物で得られる阻害が、陽性対照、すなわちN27ペプチドで得られる阻害の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%又は少なくとも90%に相当する場合、化合物は、がんの治療において潜在的に有用であると同定される。特に、化合物で得られる阻害が、陽性対照、すなわちN27ペプチドで得られる阻害の少なくとも50%に相当する場合、化合物は、がんの治療において潜在的に有用であると同定される。
【0048】
化合物の抗がん特性の確認
特定の一実施形態では、本発明の方法は、がんの非ヒト動物モデル又は細胞モデルにおいて、AIFタンパク質とCCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能であると同定された化合物の抗がん特性を確認する工程も含む。
【0049】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、がんの動物モデルにおいて、同定された化合物を投与する工程、その後、化合物の抗がん特性を分析する工程を含む。任意のがんの動物モデルを使用することができるが、好ましくは哺乳動物である。特に、動物は、マウス、ラット、ブタ、ウサギ、ニワトリ、又は非ヒト霊長類であってもよい。
【0050】
特定の一実施形態では、本発明の方法は、同定された化合物をがんの細胞モデルと接触させる工程、その後、化合物の細胞毒性特性を分析する工程を含む。それは、2次元(2D)又は3次元(3D)の培養細胞モデルであってもよい。がん細胞株等、任意のがんの細胞モデルを使用することができる。例えば、同定された化合物を、A549、MCF7、又はHCT116がん細胞株と接触させることができる。
【0051】
2-キット
本発明の別の態様は、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定するためのキットであって、
- AIFタンパク質と、
- CHCHD4タンパク質と、
- AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段と
を含むことを特徴とする、キットに関する。
【0052】
本発明の文脈において、AIFタンパク質は、任意の起源であってよく、好ましくは動物起源、特に哺乳動物起源、より優先的にはヒト起源であってもよい。特定の一実施形態では、AIFタンパク質は、NCBI配列参照が「NP_004199.1」であるヒト天然AIFタンパク質、又はその任意の機能的バリアントに相当する。特に、本発明によるAIFタンパク質は、配列番号1の配列の天然ヒトポリペプチド、又は任意の機能的バリアント、例えば、特定の脳アイソフォームであるAIF2に相当し得る。AIFタンパク質に言及する「機能的バリアント」という表現は、AIFタンパク質の構造に由来し、CHCHD4タンパク質、特に配列番号2のCHCHD4タンパク質への結合能力を保持する任意のポリペプチドを意味する。機能的バリアントは、断片、変異体、又は欠失体等の、天然又は合成のバリアントであってもよい。好ましくは、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号1の配列のAIFタンパク質と、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドに相当する。
【0053】
本発明の文脈において、CHCHD4タンパク質は、任意の起源であってよく、好ましくは動物起源、特に哺乳動物起源、より優先的にはヒト起源であってもよい。特定の一実施形態では、CHCHD4タンパク質は、NCBI配列参照が「NP_001091972.1」であるヒト天然CHCHD4タンパク質に相当する。特に、本発明によるCHCHD4タンパク質は、配列番号2の配列の天然ヒトポリペプチド、又は任意の機能的バリアントに相当し得る。CHCHD4タンパク質に言及する「機能的バリアント」という表現は、CHCHD4タンパク質の構造に由来し、AIFタンパク質、特に配列番号1のAIFタンパク質への結合能力を保持する任意のポリペプチドを意味する。機能的バリアントは、断片、変異体、又は欠失体等の、天然又は合成のバリアントであってもよい。好ましくは、CHCHD4タンパク質の機能的バリアントは、配列番号2の配列のCHCHD4タンパク質と、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドに相当する。
【0054】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号1のAIFタンパク質と比較して、欠失又は切断されている。特に、AIFタンパク質の機能的バリアントは、AIFタンパク質の膜貫通部分が欠失したポリペプチドに相当してもよい。特定の一実施形態では、AIFタンパク質の機能的バリアントは、配列番号3の配列のポリペプチドに相当する。
【0055】
AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質は、2つのタンパク質の間の相互作用を妨げない限り、修飾することができる。例えば、それらの相互作用を測定する実験の必要性から、AIFタンパク質及び/又はCHCHD4タンパク質はタグとして機能する断片に融合させることができる。2つのタンパク質の間の相互作用を妨げない限り、任意の従来のタグを使用することができる。特に、AIFタンパク質及び/又はCHCHD4タンパク質は、いくつかのヒスチジン残基からなるモチーフに相当するヒスチジンタグ、又はグルタチオンS転移酵素タンパク質に相当するGSTタグに融合させることができる。
【0056】
「AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段」という表現は、タンパク質の間の相互作用を測定する技術を実施するのに必要な任意の手段、例えば、任意の試薬、化合物、材料、支持体又は組成物を意味することが意図される。
【0057】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段は、2つのタンパク質の間の相互作用を測定又は定量化することを可能にする任意の技術であってもよい。例えば、キットは、増幅発光近接均質アッセイ(ALPHA)、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、サーマルシフトアッセイ(TSA)法、免疫沈降法、等温滴定熱量測定(ITC)アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイ、蛍光偏光アッセイ、及び/又はELISAアッセイに適した手段を含んでもよい。
【0058】
好ましくは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段は、ハイスループットスクリーニングに応用できる。
【0059】
特定の一実施形態では、キットは、ALPHAアッセイ及び/又はSPRアッセイに適した手段を含む。
【0060】
好ましい一実施形態では、キットは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用をALPHAアッセイを用いて測定するのに適した手段を含む。特に、キットは、
- AIFタンパク質と、
- CHCHD4タンパク質と、
- 所与の波長、好ましくはおよそ680nmの波長で励起されたとき、一重項酸素等の活性酸素種を放つことが可能なドナービーズと、
- 一重項酸素等の活性酸素種との反応後、光シグナル、好ましくは520nm~620nmの光シグナルを放つことが可能なアクセプタービーズと
を含み、
ドナービーズ及びアクセプタービーズは、AIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質の一方又は他方と結合することも可能である。
【0061】
特定の一実施形態では、ドナービーズ及びアクセプタービーズは、それらをAIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質の一方又は他方と結合させることを可能にする分子又は官能基で被覆される。特に、ドナービーズ及びアクセプタービーズは、ニッケル、グルタチオン、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、若しくはプロテインL、又は抗体の層で被覆することができる。特定の一実施形態では、ドナービーズはニッケルで被覆され、アクセプタービーズはグルタチオンで被覆される。
【0062】
特定の一実施形態では、キットに含まれるドナービーズは、AIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質の一方又は他方と予め結合している。特定の一実施形態では、キットに含まれるアクセプタービーズは、AIFタンパク質又はCHCHD4タンパク質の一方又は他方と予め結合している。
【0063】
特定の一実施形態では、ドナービーズ及びアクセプタービーズは、Alphascreen(登録商標)又はAlphalisa(登録商標)市販アッセイ(PerkinElmer社)からのビーズである。
【0064】
任意選択で、上述のキットは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する実験に適した緩衝液を含んでもよい。「緩衝液」という用語は、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質、被験化合物、及び任意選択で、タンパク質の間の相互作用を測定するのに適した手段を接触させる、任意の溶液を意味することが意図される。緩衝液は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害しないように選ばれる。したがって、緩衝液は、本発明の方法の実施中、陰性対照として機能することもできる。
【0065】
特定の一実施形態では、キットは、ALPHAアッセイに適した緩衝液を含む。
【0066】
特定の一実施形態では、緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)及びウシ血清アルブミン(BSA)を含む。特定の一実施形態では緩衝液は、PBS及び0.1%BSAを含む。
【0067】
任意選択で、上述のキットは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物を含むことができる。AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、したがって、本発明の方法の実施中、陽性対照として機能することができ、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する実験を確証することを可能にする。
【0068】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、配列番号4の配列、又は配列番号4の配列と少なくとも70%、80%、90%、又は少なくとも99%の同一性を有する任意の機能的バリアントからなる。「機能的バリアント」とは、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能なバリアントである、配列番号4の配列の任意のバリアントを意味する。
【0069】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、ジスルフィラム、ブロモクリプチン又はブロモクリプチンメシル酸塩等のその塩、チオリダジン又はチオリダジン塩酸塩等のその塩、シカゴスカイブルー6B、ミトキサントロン又はミトキサントロン二塩酸塩等のその塩、リファペンチン、テトラエチレンペンタミン又はテトラエチレンペンタミン五塩酸塩等のその塩、ニソルジピン、メルブロミン、チエチルペラジン又はチエチルペラジン二リンゴ酸塩等のその塩、及びベニジピン又はベニジピン塩酸塩等のその塩からなる群から選択される。
【0070】
上述のキットはまた、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を測定する実験に適した任意の支持体を含んでもよい。例えば、支持体は、プレート、チューブ、フラスコ、膜等から選ぶことができる。特に、支持体はマルチウェルプレートであってもよく、これにより、多数の且つ様々なアッセイを並行して実施することが可能になる。典型的な支持体としては、微量滴定プレート、及びより具体的には、取扱いの容易な96ウェル又は384ウェル(又はそれより多くの)プレートが挙げられる。
【0071】
本発明の一態様は、がんの治療に潜在的に有用な化合物を同定する方法における、上述のキットの使用にも関する。
【0072】
4-組成物
本発明の別の態様は、上述の方法により同定された化合物を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む、医薬組成物に関する。
【0073】
したがって、本発明の一態様は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む、医薬組成物に関する。
【0074】
「薬学的に許容される担体」という用語は、医薬中の活性成分以外の任意の物質を意味すると理解されるべきである。その添加は、好ましくは活性成分との共有結合的化学的相互作用を回避しつつ、最終製品に、経口、舌下、呼吸器、直腸、鼻腔、腸管、非経口投与、又は静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下注射による投与、又は他には特定の粘稠性若しくは味覚特性を促進するための物理化学的及び/若しくは生化学的特性を与えることを意図している。
【0075】
本発明の医薬組成物は、単純な錠剤若しくは糖衣錠、舌下錠、ゲルカプセル、口腔内崩壊錠、カプセル、トローチ剤、注射用製剤、エアゾール、点鼻剤、坐剤、又はクリーム、軟膏、若しくは皮膚用ゲルの形態であってもよい。
【0076】
5-使用
本発明の別の態様は、医薬としてのその使用のための、上述の方法により同定された化合物に関する。したがって、本発明の一態様は、医薬としてのその使用のための、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物に関する。
【0077】
特に、本発明の一態様は、がんを治療する方法におけるその使用のための、上述の方法により同定された化合物に関する。したがって、本発明の一態様は、がんを治療する方法におけるその使用のための、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物に関する。
【0078】
特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、シカゴスカイブルー6B、リファペンチン、ニソルジピン、メルブロミン、チエチルペラジン又はチエチルペラジン二リンゴ酸塩等のその塩、及びベニジピン又はベニジピン塩酸塩等のその塩からなる群から選択される。
【0079】
本明細書において、対象においてがんを治療する方法であって、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物、又は化合物を含む医薬組成物の対象への投与を含む、方法が記載される。
【0080】
治療方法は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の投与、又は化合物を含む医薬組成物の投与を、単独で、又は放射線療法、化学療法、及び免疫療法等の任意の抗がん治療と組み合わせて、含んでもよい。特に、治療方法は、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の投与を、化学療法剤の投与と組み合わせて含んでもよい。AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の投与は、化学療法剤の投与前、投与と同時、又は投与後に実施することができる。「化学療法剤」という用語は、がん細胞を破壊する、又はがん細胞の増殖を遅らせる、止める、若しくは逆転させるために使用することができる化学製品を意味することが意図される。
【0081】
本発明の文脈において、「対象」又は「患者」という用語は、その年齢又は性別に関わらず、がんに罹患している動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを意味する。その用語は、家畜、及び、非ヒト霊長類、ネコ科、イヌ科、ウマ科のメンバー、ブタ科のメンバー、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラット、及びマウス等の実験動物も含む。好ましくは、治療される患者は、ヒトである。
【0082】
ここで使用される場合、「がん」という用語は、任意の種類の悪性腫瘍を意味する。悪性腫瘍は、原発性腫瘍に相当する場合、又は二次性腫瘍(すなわち、転移)に相当する場合がある。更に、腫瘍は、例えば、癌腫、腺癌、肉腫、黒色腫、中皮腫、及び芽腫を含む固形悪性腫瘍、又は白血病、リンパ腫、及び骨髄腫等の血液細胞がんに相当する場合がある。がんは、例えば、皮膚がん、肺がん、膀胱がん、腎臓がん、消化器がん(結腸、膵臓、肝臓)、卵巣がん、脳がん、顔及び首のがん等に相当する場合がある。
【0083】
「治療」という用語は、治癒的治療及び/又は予防的治療を含む。治癒的治療は、疾患の症状の軽減、改善、安定化及び/若しくは除去、又は他には疾患の症状の進行の抑制を指す。予防的治療は、以下の効果:特定の障害の出現を予防すること又は遅延させること、障害の発症、発症リスク、発生率又は重症度を低減すること、症状の出現遅延及び/又は患者の生存を向上させることのいずれか1つを指す。
【0084】
本発明の別の態様は、ミトコンドリアによる取込み及び/又は細胞代謝を妨害するための化合物としてのその使用のための、上述の方法により同定された化合物の学術研究における使用に関する。特定の一実施形態では、AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物は、ジスルフィラム、ブロモクリプチン又はブロモクリプチンメシル酸塩等のその塩、チオリダジン又はチオリダジン塩酸塩等のその塩、シカゴスカイブルー6B、ミトキサントロン又はミトキサントロン二塩酸塩等のその塩、リファペンチン、テトラエチレンペンタミン又はテトラエチレンペンタミン五塩酸塩等のその塩、ニソルジピン、メルブロミン、チエチルペラジン又はチエチルペラジン二リンゴ酸塩等のその塩、及びベニジピン又はベニジピン塩酸塩等のその塩からなる群から選択される。
【実施例
【0085】
材料及び方法
略語
AIF アポトーシス誘導因子
BSA ウシ血清アルブミン
CHCHD4 コイルドコイルヘリックスコイルドコイルヘリックス(CHCH)ドメイン含有4
IC50 阻害濃度の中央値
CV 変動係数
DMSO ジメチルスルホキシド
GST グルタチオンS転移酵素
HIS ヒスチジン
HTS ハイスループットスクリーニング
MEF マウス胚性線維芽細胞
PBS リン酸緩衝生理食塩水
RT 室温
RU 共鳴単位
S/B バックグラウンドに対するシグナルの比
SD 標準偏差
SPR 表面プラズモン共鳴
TH 閾値
【0086】
タンパク質発現及び精製
AIF103~613タンパク質(AIFタンパク質断片103~613)及びCHCHD4タンパク質を、BL21+DE3細菌(RIPL)において、0.5mMのIPTGで37℃、3時間の誘導を介して産生させた。細菌を、供給元(Agilent社)の推奨に従って、形質転換した。その後、タンパク質を精製した。総タンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイキットを使用して決定した。また、発現の純度を、SDS存在下で、ポリアクリルアミドゲルで評価した。
【0087】
Alphaアッセイを用いた、AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質の相互作用及びこの相互作用を調節する化合物の同定
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能な化合物の同定を可能とし、ハイスループットスクリーニングに適した方法を開発した。この方法は、
- 既に産生させたAIF103~613タンパク質及びCHCHD4タンパク質の使用と、
- AIFタンパク質及びCHCHD4タンパク質に結合することが可能なドナービーズ及びアクセプタービーズを含むAlphaScreen(登録商標)キット(PerkinElmer社)の使用と、
- 陽性対照:N27ペプチド(Hangenら、2015に記載の通り、CHCHD4タンパク質のN末端側終端の27アミノ酸に相当する)の使用と、
- 陰性対照:リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液の使用と、
- 被験化合物のライブラリー:Prestwick化学化合物ライブラリー(Prestwick Chemical Library(登録商標))の使用と
を含む。
【0088】
ALPHAアッセイはまず、384ウェル白色マイクロプレート(Greiner社、参照番号781075)を使用して、1ウェルあたり25μlの総量を用いて、ハイスループットで実施された。タンパク質、陽性対照、及びビーズを、0.1%BSA/PBS溶液中に希釈した。全ての分配は電子マルチピペットで実施し、その後、プレートを遠心分離した(200g、1分)。プレートを密閉し、23℃の室内において暗所でインキュベートした。
【0089】
Prestwick Chemical社より供給された1280個の低分子化合物のライブラリー(Prestwick Chemical Library(登録商標))をスクリーニングした。このライブラリーは、FDA(米国食品医薬品局)又はEMEA(欧州医薬品審査庁)等の保健機関により既に承認された、様々な化学的特性及び薬理学的特性を有する化合物を含む。ライブラリーの各化合物を、0.1%DMSO溶液中に希釈し、10μMの濃度で使用する。まず、10μMの化合物5μl、3μMのN27(陽性対照)5μl、又は0.1%BSA/PBS(陰性対照)5μlを、ウェルに加えた。2番目に、AIF103~613タンパク質5μlを化合物と20分間インキュベートした後、5μlのCHCHD4を2時間加えた。3番目に、5μg/mlのドナービーズ及びアクセプタービーズの混合物10μlを、3時間インキュベートした。結果の分析は、EnSpire(登録商標)マルチモードプレートリーダー(PerkinElmer社)を用いて実施した。AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用は、プレートリーダーによる光シグナルの検出により明らかにされる。
【0090】
ALPHAアッセイのデータの分析
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を測定する各実験について、実験の質を確証する3つの測定が実施された:対照の変動係数(CV)、シグナル/バックグラウンドノイズ(S/B)比、及び以下に記載されるZ'因子である。
【0091】
各384ウェルプレートについて、16ウェルが陽性対照に相当し、16ウェルが陰性対照に相当する。陽性対照は、N27ペプチド存在下でのAIF103~613タンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定に相当する(最小シグナルと同等)。陰性対照は、緩衝液(0.1%BSA/PBS)存在下でのAIF103~613タンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の測定に相当する(最大シグナルと同等)。
【0092】
CVは、各対照の平均値で割った標準偏差(SD)の比:
【0093】
【数1】
【0094】
として定義される。
【0095】
S/Bは、陽性対照の平均値で割った陰性対照の平均値に相当する比:
【0096】
【数2】
【0097】
である。
【0098】
Z'因子は、陽性対照と陰性対照の差を測定し、標準偏差(SD)を考慮することによって、アッセイのシグナルの振幅を評価する:
【0099】
【数3】
【0100】
CV<15%、S/B>10、及びZ'因子>0.5の場合、各一連の測定値は確証される[Goktugら、Drug Discovery、2013 doi10.5772/52508]。
【0101】
ハイスループットスクリーニングの後、化合物の存在下で得られたシグナルが以下の閾値TH:
TH=平均値(陰性対照のシグナル)-5×SD(陰性対照のシグナル)
未満の場合、化合物は選択される。
【0102】
既に選択された各化合物について、その化合物の粉末の別のバッチを使用して、ALPHAアッセイを手動で繰り返す。
【0103】
各化合物は、ALPHAscreen技術に特有のHook効果のため、且つHookベルの上昇部分に位置するシグナルを与える化合物、したがって医薬品開発の観点から低用量で活性のある化合物を選択するため、10μM及び30μMで試験される。
【0104】
- 化合物の存在下で得られたシグナルが、上述の閾値TH未満であり、
- 30μMで得られたシグナルが10μMで得られたシグナルよりも小さい場合に、化合物は選択される。
【0105】
更に、こうして選択された各化合物について、化合物の用量-効果関係を決定する。これにより、化合物の阻害濃度の中央値(IC50)を決定することが可能である。
【0106】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を阻害する化合物のSPRアッセイを用いた確証
上述のAlphaアッセイを用いて同定された化合物のいくつかを、表面プラズモン共鳴により試験した(Biacore(商標)T100、GE Healthcare Life Sciences社)。CHCHD4タンパク質をCOOH官能性カルボキシル基を含むデキストランマトリックスに共有結合で固定化した(Series S CM5(登録商標) センサーチップ、GE Healthcare Life Sciences社、29149603)。スクリーニングを実施するために、化合物(10μM)を、pH7.4のDPBS緩衝液(Sigma社、D8577)中、AIFタンパク質と室温で20分間プレインキュベートした。次に、化合物及びAIFタンパク質の混合物を、25℃で毎分30μlで3分間注入した。陰性対照は、1μMのAIFタンパク質単独(0.1%DMSO/PBS中に希釈)を注入することにより行った。陽性対照は、N27ペプチド(3μM)及びAIFタンパク質の混合物を注入することにより行った。
【0107】
化合物は、AIF103~613とCHCHD4間の相互作用を著しく減少させることが可能である場合、すなわち、化合物で得られた阻害が、陽性対照、すなわちN27ペプチドで得られた阻害の少なくとも50%に相当する場合、確証される。センサーグラムは、BIAevaluationソフトウェア(バージョン2.0.4)を使用して分析された。
【0108】
細胞エネルギー代謝に及ぼすヒットの影響及びそれらの細胞毒性
非小細胞肺がん細胞株(A549)の代謝に及ぼす化合物の影響を、Seahorse技術(XFe96、Agilent社)を使用して試験し、細胞死を乳酸脱水素酵素の放出を測定すること(LDH、Promega社)により評価した。96ウェルマイクロプレートに播種した細胞(20000細胞/ウェル)を、無血清DMEM培地中、化合物で用量応答(0.03μM、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM)として3時間処理し、その後ミトコンドリア呼吸(OXPHOS)及び解糖をリアルタイムで測定した。実験終了時、細胞死を分析するために培養上清を除去し、DAPIを用いて細胞を標識後、蛍光顕微鏡(Zeiss社)を使用して数えることにより細胞数を決定した。その後、実験終了時のウェルあたりの細胞数を使用して、Seahorseにより得られた結果を正規化した。
【0109】
結果
ハイスループットスクリーニングのためのプロトコル開発及び最適化
Alphascreen(登録商標)において最適なシグナルを得るために必要なAIF103~613タンパク質及びCHCHD4タンパク質の濃度を評価した。図1は、AIF103~613及びCHCHD4で得られた最適なシグナルが用量依存的であることを示す。その後、タンパク質、ペプチド、及び試薬のバッチを予備実験で検証し、Z'>0.5を得た(図示せず)。
【0110】
384ウェルプレートでのハイスループットスクリーニングにより得られた統計値の概要
その後、4枚の384ウェルプレート(プレート#1~#4)を使用して、Prestwickライブラリー(1280分子)をスクリーニングした。
【0111】
スクリーニング自体の前に、全ての試薬(タンパク質、ビーズ、緩衝液)及び材料(プレート、チップ、ピペッター)は、「プレスクリーニングバリデーションアッセイ」と呼ばれる品質管理を受け、一定数の基準が分析された。上述のように、CV<15%、S/B>10、及びZ'因子>0.5の場合、各一連の測定値は確証される。
【0112】
384ウェルプレートでのハイスループットスクリーニングにより得られた統計データは、以下のTable 1(表1)に詳述される。
【0113】
【表1】
【0114】
AIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害する化合物の同定
1)ALPHAアッセイを用いた化合物の同定
上述のように、4枚の384ウェルプレートを使用して、1280分子を含むPrestwick化合物ライブラリーをスクリーニングした。10μMの濃度の化合物の存在下でAlphascreen(登録商標)で得られたシグナルを基に、化合物を選択した。特に、10μMで得られたシグナルが閾値TH未満の場合、化合物は選択される(TH=平均値(陰性対照のシグナル)-5×SD(陰性対照のシグナル)。分析された1280個の化合物のうち、148個、すなわち化合物ライブラリーの12%が選択された(図2参照)。
【0115】
選択された148個の化合物は、上述のように、手動で実施されたALPHAアッセイを用いて再び試験された。試験された148個の化合物のうち、11個の化合物が最終的に選択された。選択された11個の化合物について、
- 10μMで得られたシグナルは、閾値TH未満であり、
- 30μMで得られたシグナルは、10μMで得られたシグナル未満であった。
【0116】
ALPHA screenにより選択された11化合物を、以下のTable 2(表2)に記載する。各化合物のCAS番号及び化学構造を、以下のTable 2(表2)に報告する。
【0117】
【表2A】
【0118】
【表2B】
【0119】
これらの化合物のいくつかは、抗がん特性が既に示されており、したがって、本発明のスクリーニング方法を確証するものである。例えば、チオリダジンの抗がん特性は、Shenら、2017の論文に記載されている。更に、ミトキサントロンは、特に、転移性乳がん、非ホジキンリンパ腫、又はその他、急性骨髄性白血病(AML)の治療における抗がん剤(Novantrone(登録商標)という名称で)として販売されている。
【0120】
Alphascreenアッセイを使用して手動で得られた、同定された11化合物のIC50値を、以下のTable 3(表3)に記載する。
【0121】
【表3】
【0122】
2)SPRアッセイを用いたAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の阻害の確認
チオリダジン及びミトキサントロンによるAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用の阻害を、表面プラズモン共鳴アッセイを用いて分析した(図3参照)。化合物で得られた阻害が、陽性対照、すなわちN27ペプチドで得られた阻害の少なくとも50%に相当する場合、化合物はAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の相互作用を阻害するとみなされる。
【0123】
表面プラズモン共鳴アッセイにより、チオリダジン及びミトキサントロンがAIFタンパク質とCHCHD4タンパク質の間の相互作用を阻害することが可能であることが確認された。
【0124】
3)化合物の細胞毒性特性の確認
ある化合物の非小細胞肺がん細胞(A549ヒト細胞株)に対する細胞毒性特性を、以下のTable 4(表4)に示す。「毒性」欄に示される化合物濃度は、20%を超える毒性が測定された、試験された最低用量を表している。
【0125】
【表4】
【0126】
表は、化合物で3時間処理すると、試験された濃度範囲においてA549細胞の細胞毒性が誘導されることを示す(上述の方法を参照)。更に、この実験は、解糖の調節によるものか、ミトコンドリア活性の調節によるものかを問わず、化合物がエネルギー代謝に作用することを示した。
【0127】
したがって、これらの結果は、スクリーニング方法により同定された化合物の抗がん特性を確認するものである。
[参考文献]
図1
図2
図3
【配列表】
2023515994000001.app
【国際調査報告】