IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-516052B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル
<>
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図1A
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図1B
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図1C
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図2A
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図2B
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図3
  • 特表-B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(54)【発明の名称】B4GALT1媒介性機能の齧歯類モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20230410BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230410BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230410BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230410BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230410BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20230410BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20230410BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/09 110
A01K67/027
C12N5/10
C12N9/10
C12N9/99
C12Q1/48
C12N15/864 100Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552466
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2022-08-31
(86)【国際出願番号】 US2021020579
(87)【国際公開番号】W WO2021178474
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】62/985,045
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ガッタ、ジューシー デラ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、チン
(72)【発明者】
【氏名】シュルディナー、アラン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B050
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA29
2G045DA60
4B050CC04
4B050DD11
4B050LL03
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ70
4B063QR06
4B063QR72
4B063QR77
4B065AA91X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA29
4B065CA46
(57)【要約】
本開示は、遺伝子改変動物に関する。より具体的には、本開示は、内因性B4galt1遺伝子が改変されて、例えば、ヒトB4GALT1タンパク質の位置352に対応する位置でコードされたB4galt1タンパク質におけるAsnのSerへの置換をコードする変異を導入する、または(例えば、肝臓などの選択組織に)機能喪失性変異を導入する、齧歯類動物に関する。本開示はまた、脂質代謝におけるB4galt1の役割を解明することについての、かかる齧歯類動物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類β4ガラクトトランスフェラーゼ1(B4galt1)遺伝子に改変を含む、齧歯類。
【請求項2】
前記改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、請求項1に記載の齧歯類。
【請求項3】
前記齧歯類がマウスであり、前記置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、請求項2に記載の齧歯類。
【請求項4】
前記齧歯類が、前記改変を伴わない野生型齧歯類と比較して、LDL-Cのレベルの減少を呈する、請求項2または3に記載の齧歯類。
【請求項5】
前記改変が、前記齧歯類のゲノムにある、請求項1に記載の齧歯類。
【請求項6】
前記齧歯類が、前記改変についてホモ接合性である、請求項2~5のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項7】
前記改変が機能喪失性変異である、請求項1に記載の齧歯類。
【請求項8】
前記機能喪失性変異が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、請求項7に記載の齧歯類。
【請求項9】
一つ以上のヌクレオチドの前記挿入、欠失、または置換が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、請求項8に記載の齧歯類。
【請求項10】
前記改変が、前記齧歯類のゲノムにある、請求項7~9のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項11】
前記改変が、前記齧歯類の標的組織または器官の前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される、請求項7~9のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項12】
前記改変が、前記齧歯類の肝臓の前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される、請求項11に記載の齧歯類。
【請求項13】
前記齧歯類が、マウスまたはラットである、請求項1~2および4~12のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項14】
内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む、単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項15】
前記改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、請求項14に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項16】
前記齧歯類細胞または組織がマウス細胞または組織であり、前記置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、請求項15に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項17】
前記改変が機能喪失性変異である、請求項14に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項18】
前記機能喪失性変異が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、請求項17に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項19】
一つ以上のヌクレオチドの前記挿入、欠失、または置換が、前記内因性齧歯類B4galt1 遺伝子のエクソン2で発生する、請求項18に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項20】
前記齧歯類細胞または組織が、マウス細胞または組織である、請求項14~15および17~19のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項21】
前記齧歯類細胞または組織が、ラット細胞または組織である、請求項14~15および17~19のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項22】
前記齧歯類細胞が、齧歯類胚性幹(ES)細胞である、請求項14~21のいずれか一項に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【請求項23】
請求項22に記載の単離された齧歯類細胞を含む、齧歯類胚。
【請求項24】
遺伝子改変齧歯類を作製する方法であって、
(i)齧歯類胚性幹(ES)細胞の内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって改変齧歯類B4galt1遺伝子を含む改変齧歯類ES細胞を得ること、および
(ii)前記改変齧歯類ES細胞を使用して、前記遺伝子改変齧歯類を作製すること、を含む、方法。
【請求項25】
前記改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記齧歯類がマウスであり、前記置換が、マウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記改変が機能喪失性変異である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記機能喪失性変異が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
一つ以上のヌクレオチドの前記挿入、欠失、または置換が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記改変が、遺伝子編集システムを介して前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される、請求項24~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記遺伝子編集システムがCRISPR/Cas9システムである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記遺伝子編集システムが、ガイドRNA、Cas9酵素、および一本鎖オリゴデオキシ核酸分子(ssODN)を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ガイドRNAおよびssODNが、齧歯類ES細胞内に導入され、前記齧歯類ES細胞が、前記Cas9酵素を発現する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
遺伝子改変齧歯類を作製する方法であって、
齧歯類組織の内因性齧歯類B4galt1座位で、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって前記遺伝子改変齧歯類を得ることを含む、方法。
【請求項35】
前記改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記齧歯類がマウスであり、前記置換が、マウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記改変が機能喪失性変異である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記機能喪失性変異が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
一つ以上のヌクレオチドの前記挿入、欠失、または置換が、前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記改変が、遺伝子編集システムを介して前記内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記遺伝子編集システムがCRISPR/Cas9システムである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記CRISPR/Cas9システムが、ガイドRNAおよびCas9酵素を含み、前記ガイドRNAが、AAVシステムによって前記齧歯類内に送達される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記AAVシステムが、前記齧歯類の肝臓への前記ガイドRNAの送達を標的とする、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記Cas9酵素が、前記齧歯類内に前記ガイドRNAを導入する前に、前記齧歯類で発現される、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
請求項24~44のいずれか一項に記載の方法から取得される齧歯類。
【請求項46】
B4galt1の活性に対する化合物の効果を試験する方法であって、
請求項1~13のいずれか一項に記載の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類を提供することと、
前記改変を伴わない野生型齧歯類を提供することと、
候補B4galt1阻害化合物を前記野生型齧歯類に投与することと、
前記改変を有する前記齧歯類および前記野生型齧歯類を調べて、血清LDL-Cレベルを測定することと、
前記化合物を投与した前記野生型齧歯類からの測定値、前記化合物の前記投与前の前記野生型齧歯類からの測定値、および前記改変を有する前記齧歯類からの測定値を比較して、前記候補化合物が、B4galt1の活性を阻害するかどうかを決定することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月4日に出願された米国仮特許出願第62/985,045号の優先権の利益を主張するものであり、当該仮特許出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、遺伝子改変動物に関する。より具体的には、本開示は、齧歯類動物であって、内因性B4galt1遺伝子が改変されて、例えば、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変遺伝子を有する、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する位置でコードされたB4galt1タンパク質におけるAsnのSerへの置換をコードする変異を導入する、または(例えば肝臓などの選択組織に)機能喪失性変異を導入する、齧歯類動物に関する。本開示はまた、脂質代謝におけるB4galt1の役割を解明することについての、かかる齧歯類動物の使用に関する。
【0003】
参照による配列表の援用
2021年2月24日に作製され、EFS-Webを介して米国特許商標庁に提出された37993PCT_10700WO01_SequenceListingという名称の27KBのASCIIテキストファイルの形態をとる配列表が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
特許、特許出願、受託番号、技術論文および学術論文を含む様々な参考文献が、本明細書に引用される。各参考文献は、参照によりその全体が、全ての目的について本明細書に組み込まれる。
【0005】
心血管疾患(CVD)は、米国において3人の死亡中1人の死因に相当し、世界中の罹患率および死亡率の主要原因である(非特許文献1)。低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C)の上昇は、動脈プラーク形成とアテローム性動脈硬化を増加させ、冠動脈疾患(CAD)の危険因子である(非特許文献2)。LDL-Cの遺伝的決定因子のより深い理解は、CADを治療または予防するためにより有効かつより安全であり得る治療法のための新規標的を明らかにし得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Benjamin et al.,Circulation,2018.137(12):p.e67-e492
【非特許文献2】Nelson et al.,Primary care,2013.40(1):p.195-211
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本開示は、内因性B4galt1遺伝子が改変された遺伝子改変齧歯類動物(例えば、マウスまたはラット)を提供する。
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類β4ガラクトトランスフェラーゼ1(B4galt1)遺伝子に改変を含む齧歯類が、本明細書に開示される。
【0008】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部のこうした実施形態では、改変は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。一部の実施形態では、改変は、置換を含むB4galt1タンパク質がガラクトシルトランスフェラーゼ活性の低減を示すように、B4galt1タンパク質中のアミノ酸の置換をもたらすか、またはその置換をコードする。一部のこうした実施形態では、置換は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質のアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換である。一部の実施形態では、改変は、齧歯類のゲノム(すなわち、生殖系列ゲノム)にある。一部の実施形態では、改変は、齧歯類の標的組織または器官の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される。
【0009】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす(また、「N352Sノックイン」を含む齧歯類とも称される)。一部の実施形態では、齧歯類がマウスであり、置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、齧歯類はラットであり、置換はラットB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、改変は、齧歯類のゲノム(すなわち、生殖系列ゲノム)にある。一部の実施形態では、齧歯類は、改変についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、齧歯類は、改変についてホモ接合性である。N352Sノックインを含む齧歯類は、改変を伴わない野生型齧歯類と比較して、LDL-Cのレベルの減少を示す。一部の実施形態では、改変は、齧歯類の標的組織または器官の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される。
【0010】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、機能喪失性変異である。一部の実施形態では、機能喪失性変異は、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含み、結果的に、一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす。一部の実施形態では、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する。一部の実施形態では、機能喪失性変異は、齧歯類のゲノム(例えば、生殖系列ゲノム)にある。一部の実施形態では、改変は、齧歯類の標的組織または器官の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される。一部の実施形態では、標的器官は肝臓である。
【0011】
さらなる態様では、本明細書に記載される改変、すなわち、内因性齧歯類B4galt1座位での内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変を含む、単離された齧歯類(例えば、マウスまたはラット)細胞または組織が本明細書に提供される。一部の実施形態では、細胞または組織は、改変を含む齧歯類から単離することができる。一部の実施形態では、単離された齧歯類細胞は、齧歯類胚性幹細胞である。
【0012】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部のこうした実施形態では、改変は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。一部の実施形態では、改変は、置換を含むB4galt1タンパク質がガラクトシルトランスフェラーゼ活性の低減を示すように、B4galt1タンパク質中のアミノ酸の置換をもたらすか、またはその置換をコードする。一部のこうした実施形態では、置換は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質のアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換である。
【0013】
単離された齧歯類細胞または組織についての一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす(「N352Sノックイン」を含む齧歯類細胞または組織とも呼称される)。一部の実施形態では、齧歯類細胞または組織は、マウス細胞または組織であり、置換は、マウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、齧歯類はラット細胞または組織であり、置換はラットB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、齧歯類細胞または組織は、改変についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、齧歯類細胞または組織は、改変についてホモ接合性である。一部の実施形態では、齧歯類細胞または組織は、肝臓細胞または組織である。
【0014】
単離された齧歯類細胞または組織についての一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、機能喪失性変異である。一部の実施形態では、機能喪失性変異は、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含み、結果的に、一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす。一部の実施形態では、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する。
【0015】
また、本明細書に開示される齧歯類胚性細胞を含む齧歯類(例えば、マウスまたはラット)胚も本明細書において提供される。
さらなる態様では、遺伝子改変齧歯類を作製する方法および本方法によって作製された齧歯類が提供される。
【0016】
一部の実施形態では、(i)齧歯類胚性幹(ES)細胞の内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって改変齧歯類B4galt1遺伝子を含む改変齧歯類ES細胞を取得すること、および(ii)改変齧歯類ES細胞を使用して遺伝子改変齧歯類を作製すること、を含む方法。
【0017】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部のこうした実施形態では、改変は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。一部の実施形態では、改変は、置換を含むB4galt1タンパク質がガラクトシルトランスフェラーゼ活性の低減を示すように、B4galt1タンパク質中のアミノ酸の置換をもたらすか、またはその置換をコードする。一部のこうした実施形態では、置換は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質のアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換である。
【0018】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部の実施形態では、齧歯類は、マウスであり、置換は、マウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、齧歯類はラットであり、置換はラットB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。
【0019】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、機能喪失性変異である。一部の実施形態では、機能喪失性変異は、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含み、結果的に、一部の実施形態では、内因性齧歯類B4GalT-1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす。一部の実施形態では、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換は、内因性齧歯類B4GalT-1遺伝子のエクソン2で発生する。
【0020】
一部の実施形態では、改変は、齧歯類ES細胞中の内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に、遺伝子編集システムを介して導入される。一部の実施形態では、遺伝子編集システムは、CRISPR/Cas9システムである。一部の実施形態では、遺伝子編集システムは、ガイドRNA、Cas9酵素、および一本鎖オリゴデオキシ核酸分子(ssODN)を含む。一部の実施形態では、ガイドRNAおよびssODNは、齧歯類ES細胞に導入され(例えば、トランスフェクションまたはエレクトロポレーションを介して)、齧歯類ES細胞はすでにCas9酵素を発現するか、または発現するように改変されている。
【0021】
一部の実施形態では、遺伝子改変齧歯類を作製する方法は、齧歯類の標的組織中の内因性齧歯類B4galt1座位で、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって遺伝子改変齧歯類を得ることを含む。
【0022】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部のこうした実施形態では、改変は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。一部の実施形態では、改変は、置換を含むB4galt1タンパク質がガラクトシルトランスフェラーゼ活性の低減を示すように、B4galt1タンパク質中のアミノ酸の置換をもたらすか、またはその置換をコードする。一部のこうした実施形態では、置換は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質のアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換である。
【0023】
一部のこうした実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部の実施形態では、齧歯類は、マウスであり、置換は、マウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。一部の実施形態では、齧歯類はラットであり、置換はラットB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある。
【0024】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、機能喪失性変異である。一部の実施形態では、機能喪失性変異は、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含み、結果的に、一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす。一部の実施形態では、一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する。
【0025】
一部の実施形態では、改変は、遺伝子編集システムを介して内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される。一部の実施形態では、遺伝子編集システムは、CRISPR/Cas9システムである。一部の実施形態では、CRISPR/Cas9システムのガイドRNAは、AAVシステムによって齧歯類内に送達される。一部の実施形態では、AAVシステムは、齧歯類の肝臓へのガイドRNAの送達を標的とする。一部の実施形態では、Cas9酵素は、ガイドRNAを齧歯類内に導入する前に、齧歯類で発現される。
【0026】
別の態様では、取得された齧歯類および齧歯類子孫を育種する方法が本明細書に提供される。
一部の実施形態では、そのゲノムが内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む(すなわち、改変齧歯類B4galt1遺伝子を含む)第一の齧歯類を第二の齧歯類と育種させ、そのゲノムが齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む子孫齧歯類をもたらす方法が本明細書に開示される。
【0027】
一部の実施形態では、そのゲノムが内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む第一の齧歯類を、第二の齧歯類と交配させることから取得される子孫であって、その子孫のゲノムが齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む、子孫が、本明細書に開示される。
【0028】
さらなる態様では、B4galt1および脂質代謝に対する化合物の効果を試験する方法であって、(i)本明細書に記載される内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類を提供することと、改変を伴わない野生型齧歯類を提供すること、(ii)候補B4galt1阻害化合物を野生型齧歯類に投与すること、(iii)血清LDL-Cレベルを測定するために、改変を有する齧歯類および野生型齧歯類を調べること、および(iv)化合物を投与された野生型齧歯類からの測定値、化合物の投与前の野生型齧歯類からの測定値、および改変を有する齧歯類からの測定値を比較して、候補化合物がB4galt1の活性を阻害するかどうかを決定すること、を含む方法が、本明細書において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A図1Aは、ヒトB4GALT1(配列番号2)およびマウスB4galt1(配列番号4)タンパク質配列のアラインメントを示す。両方の配列に共通するアミノ酸は囲まれている。ヒトタンパク質の352位のAsn残基と、対応するマウスタンパク質の353位のAsn残基とは、囲まれて示されている。
図1B図1Bは、マウスB4galt1遺伝子(上)およびタンパク質(下)を示す。上:水平の線/バーはマウスB4galt1遺伝子座を表し、エクソンは線の上の垂直のバーによって示される。エクソン1およびエクソン6の開放、未充填の部分は、それぞれ5’非翻訳領域(5’UTR)および3’UTRを表す。下:水平のバーはマウスB4galt1タンパク質を表す。エクソン間の接合部は、バー内の垂直線によって示され、接合部に対応するアミノ酸位置は、垂直線の下に示されている。N353S置換は、アスタリスクで示されている。
図1C図1Cは、マウスB4galt1タンパク質のN353S置換をもたらすマウスB4galt1遺伝子のエクソン5に変異を導入するための例示的な戦略を示す。野生型エクソン5配列(配列番号12)の一部に対して相補的であるガイドRNA配列(配列番号11)は、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9)に二本鎖切断を導入するように指示する。鋳型として、一本鎖ドナーオリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)配列(配列番号13)を使用して修復すると、変異(AからGへのヌクレオチド置換)が導入され、コードされたB4galt1タンパク質においてN353S置換が生じる。
図2A図2A~2Bは、メス(2A)およびオス(2B)マウスの血漿における脂質および酵素レベルに対するB4galt1 N352Sノックインの効果を示す。
図2B】同上。
図3図3A~3Eは、血漿中の脂質および酵素レベルに対する肝臓特異的B4galt1アブレーションの効果を示す。3A、3B:AAV8によるウイルス形質導入から14週目での肝臓および脾臓におけるb4galt1の編集の割合。各実験群において、B4galt1のINDELを含有するリードの数を、B4galt1野生型配列を有するリードの数と比較した(実施例2の方法セクションに記載されるように)。3C:AAV8によるウイルス形質導入から14週目のTaqmanによる肝臓におけるB4galt1 mRNAレベルの分析。B4galt1の発現は、Gapdhハウスキーピング遺伝子に対して計算された。値は、1条件当たり4回の技術的反復の平均を表す。3D、3E:B4galt1肝臓ノックアウトおよびCfbノックアウト対照からのLDL-CおよびASTの血漿レベルを示す。2週間の時点の後、ウイルスベクターの注入から12週間の合計試験期間の間、4週間ごとに定期的に出血させた。値は、3~5個の生物学的複製の平均を表す。エラーバーは標準エラーを示す。
図4図4A~4Jは、血漿中の脂質および酵素レベルに対する肝臓特異的B4galt1アブレーションの効果を示す。4A、4B:B4galt1のエクソン2に対して設計された二つの異なるgRNAを担持する、AAV8によるウイルス形質導入から14週目での肝臓および脾臓におけるb4galt1の編集の割合。各実験群において、b4galt1のINDELを含有するリードの数を、b4galt1野生型配列を有するリードの数と比較した(方法を参照のこと)。4C:AAV8によるウイルス形質導入から14週目のTaqmanによる肝臓におけるb4galt1 mRNAレベルの分析。b4galt1の発現は、gapdhハウスキーピング遺伝子に対して計算された。値は、1条件当たり4回の技術的反復の平均を表す。4D~4J:b4galt1肝臓特異的ノックアウトおよびcfbノックアウト対照で測定されたLDL-C;AST;T-コレステロール;HDL-C;NEFA;トリグリセリドおよびALTについての血漿レベルを示す。2週間の時点の後、ウイルスベクターの注入から12週間の合計試験期間の間、4週間ごとに定期的に出血させた。値は、3~5個の生物学的複製の平均を表す。エラーバーは標準エラーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ヒト代謝(例えば、脂質代謝)および疾患の動物モデルとしての使用に適した遺伝子改変齧歯類が本明細書に開示される。特に、内因性B4galt1遺伝子が改変されて、例えば、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする、アミノ酸置換をもたらす変異を導入する、または機能喪失性変異を導入する齧歯類動物が本明細書に開示される。脂質代謝におけるB4galt1の役割を解明することについての、かかる齧歯類動物の使用もまた、本明細書に開示される。
【0031】
B4GALT1
B4GALT1(または非ヒト由来のB4galt1)は、糖タンパク質中のN結合型オリゴ糖部分の処理において重要な役割を果たすII型膜結合糖タンパク質をコードするベータ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子ファミリーのメンバーである。B4GALT1(またはB4galt1)活性の障害は、N結合型オリゴ糖の構造を変化させ、糖タンパク質機能を変化させる可能性のあるグリカン構造に異常を導入する可能性がある。
【0032】
ヒトB4GALT1遺伝子は、9番染色体上の9p21.1に位置し、6つのエクソンを有する約56kbの長さであり、398アミノ酸のポリペプチドをコードする。マウスB4galt1遺伝子は、4番染色体上に位置し、6つのエクソンを有する約49kbの長さであり、399アミノ酸のタンパク質をコードする。B4GALT1は、種間で高度に保存される。ヒト、マウス、およびラット由来の例示的なmRNAおよびタンパク質配列は、GenBankにおいて、表1に列挙するアクセッション番号で利用可能であり、また配列表にも配列番号1~6として記載される。
【0033】
【表1】
【0034】
改変B4galt1遺伝子を含む齧歯類
本開示は、内因性B4galt1遺伝子が改変されて、例えば、アミノ酸置換(例えば、B4galt1タンパク質の活性を低下させる置換)をもたらす変異を導入するか、または機能喪失性変異を導入する齧歯類(例えば、マウスおよびラット)を提供する。
【0035】
「変異」という用語は、遺伝子内の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。本明細書で使用される場合、用語「変異」、「変更」、および「改変」は、互換的に使用される。変異遺伝子(または遺伝子の変異対立遺伝子)は、野生型遺伝子または参照遺伝子と比べて、変異、変更または改変を含むことが、本明細書において理解される。一部の実施形態では、変異は、単一ヌクレオチドの置換である。一部の実施形態では、変異は、一つ以上のヌクレオチド、例えば、遺伝子のコード配列における一つ以上のヌクレオチドの欠失である。一部の実施形態では、遺伝子における変異は、例えば遺伝子の一つ以上のエクソンなどの連続核酸配列の欠失を含む。一部の実施形態では、遺伝子における変異は、コードされたタンパク質における一つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換をもたらす。一部の実施形態では、遺伝子における変異は、コードされたアミノ酸を変化させない。
【0036】
用語「機能喪失」は、完全な機能喪失および部分的な機能喪失を含む。一部の実施形態では、遺伝子における改変または変更は、少なくとも機能性が低減されたポリペプチドの発現をもたらし、ある場合では、改変も変更も有さない参照遺伝子によってコードされるポリペプチドと比ベて、機能性が実質的に低減された、または機能性が完全に欠如したポリペプチドの発現をもたらす。したがって、遺伝子改変は、完全な機能喪失または部分的な機能喪失を引き起こす可能性がある。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変を含む齧歯類動物であって、ここで改変を含む齧歯類B4galt1遺伝子が、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする、齧歯類動物を本明細書に開示する。一部の実施形態では、改変は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の一つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、または置換を含む。一部の実施形態では、改変は、B4galt1タンパク質中のアミノ酸の置換をもたらすか、またはその置換をコードする。一部の実施形態では、置換は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質のアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換である。一部の実施形態では、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性の減少は、例えば、野生型齧歯類B4galt1遺伝子(改変を伴わない齧歯類B4galt1遺伝子)によってコードされる天然型または野生型齧歯類B4galt1タンパク質に対する活性の阻害または減少であってもよい。
【0037】
一部の実施形態では、改変齧歯類B4galt1遺伝子が、ヒトB4galt1タンパク質中の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含む改変B4galt1タンパク質をコードするように、内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類動物が本明細書に開示される。こうした齧歯類は、本明細書ではN352Sノックインを有する齧歯類とも呼称される。改変は、例えば、ヒトB4galt1タンパク質中の352位に対応する位置でのAsnに対するコドン中のヌクレオチドの置換であってもよく、コードされた齧歯類B4galt1タンパク質中のAsnのSerへの置換をもたらす。こうした改変はまた、「NのSへの置換をコードする」とも言われる。ヒトB4GALT1のN352S変化は、LDL-Cの低下と関連していると考えられる。
【0038】
本明細書で使用される場合、所与のポリペプチドまたは核酸分子内の位置のナンバリングの文脈で使用される場合の、語句「対応する」またはその文法的変形は、所与のアミノ酸または核酸分子が参照分子(例えば、野生型ヒトB4GALT1ポリペプチドまたは野生型ヒトB4GALT1核酸分子である本明細書の参照分子)と比較された場合に、指定された参照ポリペプチドまたは核酸分子のナンバリングを指す。言い換えれば、所与のポリマー中のアミノ酸残基またはヌクレオチドの位置は、所与のポリマー内のアミノ酸残基またはヌクレオチドの実際の数値の位置によってではなく、参照分子に対して指定される。例えば、所与のアミノ酸配列は、二つの配列間の残基一致を最適化するためにギャップを導入することによって、参照配列に整列され得る。これらの場合、ギャップが存在するが、所与のアミノ酸配列または核酸配列中の残基のナンバリングは、それが整列された参照配列に対して行われる。
【0039】
例えば、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する齧歯類B4galt1タンパク質内の位置は、齧歯類B4galt1タンパク質とヒトB4GALT1タンパク質のアミノ酸配列(例えば配列番号2)との間の配列アライメントを実行することによって容易に特定することができる。配列番号2の352位に対応するアミノ酸位置を特定するために配列アライメントを行うために使用できる様々な計算アルゴリズムが存在する。例えば、NCBI BLASTアルゴリズム(Altschul et al.1997 Nucleic Acids Res.25:3389-3402)またはCLUSTALWソフトウェア(Sievers and Higgins 2014 Methods Mol.Biol.1079:105-116.)を使用することにより、配列アライメントが行われてもよい。しかしながら、配列は、手動で整列することもできる。
【0040】
一部の実施形態では、齧歯類は、改変マウスB4galt1遺伝子が、ヒトB4galt1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含む改変マウスB4galt1タンパク質をコードするように、内因性マウスB4galt1遺伝子に改変を含むマウスである。マウスB4galt1タンパク質(例えば、配列番号4)の353位は、例えば配列番号2の、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する。例えば、図1Aを参照のこと。
【0041】
一部の実施形態では、齧歯類は、改変ラットB4galt1遺伝子が、ヒトB4galt1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含む改変ラットB4galt1タンパク質をコードするように、内因性ラットB4galt1遺伝子に改変を含むラットである。ラットB4galt1タンパク質(例えば、配列番号6)の353位は、例えば配列番号2の、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応する。
【0042】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含み、この改変が機能喪失性変異である齧歯類動物が本明細書に開示される。
一部の実施形態では、齧歯類B4galt1遺伝子の機能喪失性変異は、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の少なくとも一部の欠失を含む。
【0043】
遺伝子の「一部」は、本明細書において、遺伝子の「断片」と互換的に使用され、それは、例えば、5’調節領域(例えば、プロモーター)、5’非コードエクソン配列、3’非コードエクソン配列、5’もしくは3’非翻訳領域(UTR)、完全もしくは部分的なエクソン、完全もしくは部分的なイントロン、最終のエクソンの下流の3’領域、またはその組み合わせを含む、遺伝子の連続ヌクレオチド配列の一部への言及を含む。一部の実施形態では、遺伝子の一部は、遺伝子のコード領域、例えば、遺伝子のATG開始コドンから停止コドンまでを含む核酸(ゲノムDNAまたはcDNA)を指す。
【0044】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、一つ以上のヌクレオチド(例えば、エクソン内)の挿入、欠失、または置換から生じる機能喪失性変異を含み、それによりコード配列の少なくとも一部分の欠失がもたらされる。
【0045】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変(例えば、ヒトB4GALT1の352に対応する位置でのNのSへの置換をもたらす点変異、または機能喪失性変異)は、齧歯類動物のゲノム(すなわち、生殖系列ゲノム)にある。一部の実施形態では、齧歯類は、改変についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、齧歯類は、改変についてホモ接合性である。
【0046】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、齧歯類の選択されたまたは標的化された組織または器官、すなわち、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の組織または器官特異的改変に存在する。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、齧歯類の肝臓に存在する。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における機能喪失性変異は、齧歯類B4galt1遺伝子の肝臓特異的アブレーションを達成するために、齧歯類の肝臓に存在する。
【0047】
一部の実施形態では、本明細書に開示される齧歯類動物は、野生型齧歯類B4galt1タンパク質を発現することができない。例えば、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の一方のコピーが改変(例えば、ヒトB4GALT1のN352Sに対応する置換をもたらす改変)を含有し、他方のコピーが破壊または欠失している齧歯類が提供される。あるいは、齧歯類動物は、改変に対してホモ接合性であり、その結果、野生型齧歯類B4galt1タンパク質を発現することができない。
【0048】
本明細書に提供される齧歯類動物は、内因性B4galt1遺伝子における改変(N352Sノックインに対してホモ接合性またはヘテロ接合性のいずれか、または肝臓特異的アブレーション)の結果として、例えば、野生型マウスと比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、またはそれ以上のLDL-Cレベルの減少を示す(すなわち、改変を伴わないマウス)。
【0049】
本明細書に記載される実施形態のいずれについても、齧歯類は、例えば、マウス、ラット、およびハムスターを含み得る。
一部の実施形態では、齧歯類は、マウスである。一部の実施形態では、齧歯類は、C57BL系統、例えば、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、およびC57BL/Olaから選択されるC57BL系統のマウスである。他の実施形態では、齧歯類は、129系統、例えば、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129/SvJae、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2からなる群から選択される129系統のマウスである(例えば、Festing et al.(1999),Mammalian Genome 10:836;Auerbach et al.(2000),Biotechniques 29(5):1024-1028,1030,1032を参照されたい)。一部の実施形態では、齧歯類は、前述の129系統および前述のC57BL/6系統を混合したマウスである。特定の実施形態では、マウスは、前述の129系統の混合(すなわち、交雑)、または前述のC57BL系統の混合、またはC57BL系統および129系統の混合である。特定の実施形態では、当該マウスは、C57BL/6系統と129系統の混合である。特定の実施形態では、マウスは、VGF1系統であり、これは、C57BL/6および129の交雑であるF1H4系統としても知られる。他の実施形態では、マウスは、BALB系統、例えばBALB/c系統である。一部の実施形態では、マウスは、BALB系統および別の前述の系統の混合である。
【0050】
一部の実施形態では、齧歯類は、ラットである。特定の実施形態では、ラットは、Wistarラット、LEA系統、Sprague Dawley系統、Fischer系統、F344、F6、およびDark Agoutiから選択される。他の実施形態では、ラットは、Wistar、LEA、Sprague Dawley、Fischer、F344、F6、およびDark Agoutiからなる群から選択される二つ以上の系統の混合である。
【0051】
B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類を作製する方法
内因性B4galt1遺伝子に改変を含む本明細書に提供される齧歯類は、様々な方法を使用して作製することができる。
【0052】
一部の実施形態では、改変は、遺伝子編集システム(「標的ゲノム編集」システムとしても知られる)を使用して、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入され得る。
一部の実施形態では、遺伝子編集システムは、CRISPR/Casシステム、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、およびTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)から選択される。ZFNはCarroll,D.(Genetics,188.4(2011):773-782)で概説されており、TALENはZhang et al.(Plant Physiology,161.1(2013):20-27)で概説されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0053】
一部の実施形態では、CRISPR/Casシステムは、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入するために使用される。CRISPR/Casシステムは、細菌II型CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)/Cas(CRISPR関連)免疫システムに基づく方法である。CRISPR/Casシステムは、カスタマイズ可能な小さな非コードRNA(ガイドRNAまたはgRNA)により誘導されたゲノムDNAの標的切断を可能にし、非相同末端結合(NHEJ)機構および相同性誘導型修復(HDR)機構の両方による遺伝子改変をもたらす。CRISPR-Casおよび類似の遺伝子編集システムは、試薬およびプロトコルが容易に利用可能であり当技術分野で既知である。例示的なゲノム編集プロトコルは、Jennifer Doudna,and Prashant Mali,“CRISPR-Cas:A Laboratory Manual”(2016)(CSHL Press,ISBN:978-1-621821-30-4).およびRan,F.Ann,et al.(Nature Protocols(2013),8(11):2281-2308)に記載されており、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
一部の実施形態では、改変は、CRISPR/Casシステムおよび外因性ドナー核酸を使用して、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される。一部の実施形態では、齧歯類ES細胞を使用してCasヌクレアーゼを発現する、または齧歯類ES細胞を改変してCasヌクレアーゼを発現する。一部の実施形態では、Casタンパク質は、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas5e(別称CasD)、Cas6、Cas6e、Cas6f、Cas7、Cas8a1、Cas8a2、Cas8b、Cas8c、Cas9(別称Csn1またはCsx12)、Cas10、Cas10d、CasF、CasG、CasH、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1(別称CasA)、Cse2(別称CasB)、Cse3(別称CasE)、Cse4(別称CasC)、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、およびCu1966、ならびにそれらのホモログまたは改変型からなる群から選択される。特定の実施形態では、CasヌクレアーゼはCas9である。
【0055】
一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)を含む。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、リボ核酸(RNA)を含む。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は一本鎖である。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、二本鎖である。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、直線型である。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、環状型である。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)である。例えば、Yoshimi et al.(2016)Nat.Commun.7:10431、米国特許出願公開第2019/0032155号および第2019/0032156号を参照されたい(それらはすべて参照によりその全体が組み込まれている)。
【0056】
一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、約50ヌクレオチド~約5kbの長さ、約50ヌクレオチド~約3kbの長さ、または約50~約1,000ヌクレオチドの長さである。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸の長さは約40~約200ヌクレオチドである。例えば、外因性ドナー核酸は、約50~60、60~70、70~80、80~90、90~100、100~110、110~120、120~130、130~140、140~150、150~160、160~170、170~180、180~190または190~200ヌクレオチドの長さとすることができる。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、約50~100、100~200、200~300、300~400、400~500、500~600、600~700、700~800、800~900、または900~1000ヌクレオチドの長さである。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は約1~1.5、1.5~2、2~2.5、2.5~3、3~3.5、3.5~4、4~4.5、または4.5~5kbの長さである。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、5kb以下、4.5kb以下、4kb以下、3.5kb以下、3kb以下、2.5kb以下、2kb以下、1.5kb以下、1kb以下、900ヌクレオチド以下、800ヌクレオチド以下、700ヌクレオチド以下、600ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、400ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、または50ヌクレオチド以下の長さである。
【0057】
一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、約80ヌクレオチド~約200ヌクレオチドの長さであるssODNである。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、約80ヌクレオチド~約3kbの長さのssODNである。一部の実施形態では、ssODNは、それぞれ約40ヌクレオチド~約60ヌクレオチドの長さの相同アームを有する。一部の実施形態では、ssODNは、それぞれ約30ヌクレオチド~100ヌクレオチドの長さの相同アームを有する。一部の実施形態では、相同アームは、各相同アームに同じ数のヌクレオチドを有する対称である。一部の実施形態では、相同アームは、各相同アームに異なる数のヌクレオチドを有する非対称である。
【0058】
一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、標的ゲノム座位で対象核酸配列を欠失させ、それを核酸挿入で置換するように設計される。一部の実施形態では、外因性ドナー核酸は、一つ以上のヌクレオチドの置換を導入するよう設計される。外因性ドナー核酸の例は、配列番号13のヌクレオチド配列を有するssODNである。
【0059】
一部の実施形態では、CRISPR/Casシステムおよび外因性ドナー核酸は、齧歯類ES細胞において内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を導入するために、齧歯類胚性幹(ES)細胞内に導入される。一部の実施形態では、齧歯類ES細胞は、CRISPR/Casシステムのいくつかの構成要素を既に発現している。特定の実施形態では、齧歯類ES細胞は、その全体が本明細書に組み込まれるUS2019/0032155A1(Regeneron Pharmaceuticals,Inc.)に記載されるCas準備完了マウス胚性細胞である。
【0060】
一部の実施形態では、ガイドRNA、Casタンパク質、および/または外因性ドナー核酸は、任意の送達方法(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、脂質ナノ粒子(LNP)、または水力学的遺伝子送達(HDD))および任意の投与経路を介して、細胞または非ヒト動物(例えば、齧歯類)内に導入される。
【0061】
一部の実施形態では、遺伝子編集構成要素(例えば、ガイドRNA、Casタンパク質、および/または外因性ドナー核酸)は、AAV介在送達を介して送達される。例えば、米国特許出願公開第2016/0159436号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。複数のAAV血清型が特定されている。これらの血清型は、感染する細胞型が異なっており(すなわち指向性が異なる)、それにより特定細胞型への優先的形質導入が可能となる。CNS組織に対する血清型には、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、およびAAV9が含まれる。心臓組織に対する血清型には、AAV1、AAV8、およびAAV9が含まれる。腎臓組織に対する血清型にはAAV2が含まれる。肺組織に対する血清型には、AAV4、AAV5、AAV6、およびAAV9が含まれる。膵臓組織に対する血清型にはAAV8が含まれる。光受容体細胞に対する血清型には、AAV2、AAV5、およびAAV8が含まれる。網膜色素上皮組織に対する血清型には、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、およびAAV8が含まれる。骨格筋組織に対する血清型には、AAV1、AAV6、AAV7、AAV8、およびAAV9が含まれる。肝臓組織に対する血清型としては、AAV7、AAV8およびAAV9が挙げられるが、特にAAV8が挙げられる。
【0062】
一部の実施形態では、AAVの指向性は、シュードタイピングを介してさらに改良させてもよい。シュードタイピングは、カプシドと、異なるウイルス血清型由来のゲノムとを混合する方法である。例えば、AAV2/8は、血清型8由来のカプシドにパッケージングされた血清型2のゲノムを含有するウイルスを示す。一部の実施形態では、シュードタイピングが為されたウイルスは、改善された形質導入効率、ならびに変化された指向性を呈する。一部の実施形態では、異なる血清型から誘導されたハイブリッドカプシドを使用してウイルスの指向性を変化させる。
【0063】
一部の実施形態では、肝臓の内因性齧歯類B4galt1遺伝子は、CRISPR/CasシステムおよびAAVシステムを使用することによる改変のための標的とされる。
一部の実施形態では、肝臓特異的標的化は、肝臓に対する指向性を有するAAVシステムによって達成される。特定の実施形態では、AAVシステムは、肝臓指向性を有する異なる血清型に由来するハイブリッドカプシド(例えば、肝臓指向性AAV:AAV7、AAV8およびAAV9からのカプシドの任意の組み合わせ)を含むAAV8、AAV2/8、AAV7、AAV9、およびハイブリッドAAV系統から選択される。
【0064】
一部の実施形態では、Cas9、gRNA、および/または外因性ドナー核酸(例えば、ssODN)は、AAV8を介して送達される。一部の実施形態では、Cas9、gRNA、および/または外因性ドナー核酸(例えば、ssODN)は、AAV2/8を介して送達される。一部の実施形態では、Cas9、gRNA、および/または外因性ドナー核酸(例えば、ssODN)は、肝臓指向性を有するハイブリッドカプシドを含むAAV系統を介して送達される。
【0065】
一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、遺伝子編集システムの少なくとも一つの構成要素の肝臓特異的発現を介して、肝臓に特異的に作製することができる。一部の実施形態では、肝臓特異的発現は、遺伝子編集システム構成要素の少なくとも一つの構成要素(例えば、CRISPR/Casシステムの場合:gRNA、Casタンパク質、外因性ドナー核酸など)を肝臓特異的プロモーターに動作可能に連結することによって達成される。特定の実施形態では、肝臓特異的プロモーターは、アルブミンプロモーターである。
【0066】
一部の実施形態では、特定の肝臓標的化は、遺伝子編集システムの構成要素の水力学的尾静脈注射によって促進される。水力学的尾静脈注射の方法は、Kim,Mee J.,and Nadav Ahituv.(Pharmacogenomics.Humana Press,Totowa,NJ,2013.279-289)に記載されており、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0067】
一部の実施形態では、上述の実施形態のうちの一つ以上の組み合わせが、肝臓特異的改変を達成するために利用され、すなわち、(i)肝臓指向性AAVシステム(CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素または外因性ドナー核酸を送達するために、(ii)CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素または外因性ドナー核酸の肝臓特異的発現をもたらす肝臓特異的プロモーター、および(iii)CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素、および外因性ドナー核酸、またはCRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素と、外因性ドナー核酸とを担持する、核酸もしくはウイルスベクター、の水力学的尾静脈注射、の組み合わせである。
【0068】
一部の実施形態では、齧歯類B4galt1遺伝子の改変は、齧歯類のゲノム(すなわち、生殖系列ゲノム)内に導入される。これは、齧歯類ES細胞において齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入することによって達成され、次いで、改変ES細胞(すなわち、改変齧歯類B4galt1遺伝子を有する齧歯類ES細胞)をドナー細胞として使用して、生殖系列ゲノムに改変を有する齧歯類を作製することができる。
【0069】
一部の実施形態では、改変は、上述のように、遺伝子編集システムを利用することによって、齧歯類ES細胞の齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される。
一部の実施形態では、改変は、改変を含有する齧歯類B4galt1核酸配列を担持する標的化ベクターの使用を介して、齧歯類ES細胞中の内因性B4galt1遺伝子内に導入される。標的化ベクターは、改変含有齧歯類B4galt1核酸配列に加えて、内因性齧歯類B4galt1座位において、齧歯類B4galt1遺伝子配列に対して好適な長さで、かつ相同な隣接する核酸配列も含むことができ、これにより、変異含有齧歯類B4galt1核酸配列の、内因性齧歯類B4galt1遺伝子内への相同な組換えおよび組み込みを媒介することができる。
【0070】
一部の実施形態では、齧歯類B4galt1遺伝子改変を含む核酸分子(例えば、挿入核酸)がベクター、好ましくはDNAベクターへと挿入される。サイズに応じて、改変齧歯類B4galt1遺伝子配列を、cDNA源から直接クローニングすることができ、またはGenBankから入手可能な公開されている配列に基づいてコンピュータにより設計することができる。別の方法として、細菌人工染色体(BAC)ライブラリは、齧歯類B4galt1遺伝子配列を提供することができる。齧歯類B4galt1遺伝子配列はまた、酵母人工染色体(YAC)から単離、クローニング、および/または移転されてもよい。
【0071】
一部の実施形態では、挿入核酸は、選択可能なマーカー遺伝子(例えば、米国特許第8,697,851号、同第8,518,392号、および同第8,354,389号(これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる)に記載の選択可能なマーカー遺伝子を含有する自己欠失型カセット)も含有し、これらは、部位特異的組換え部位(例えば、loxP、Frtなど)に隣接する、またはこれらを含むことができる。選択可能なマーカー遺伝子を変異に隣接するベクター上に置いて、トランスフェクタントの容易な選択を可能にすることができる。
【0072】
一部の実施形態では、改変齧歯類B4galt1遺伝子配列を担持するBACベクターを、例えば、エレクトロポレーションによって齧歯類胚性幹(ES)細胞内に導入することができる。マウスES細胞とラットES細胞の両方が、共に当技術分野で説明されている。例えば、米国特許第7,576,259号、米国特許第7,659,442号、米国特許第7,294,754号、および米国特許出願公開第2008-0078000A1号(これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる)は、マウスES細胞および遺伝子改変されたマウスを作製するVELOCIMOUSE(商標)法を記載し、米国特許出願公開第2014/0235933A1号および米国特許出願公開第2014/0310828A1(これらの全てが、参照により本明細書に組み込まれる)は、ラットES細胞および遺伝子改変されたラットを作製する方法を記載する。
【0073】
レシピエント細胞における相同な組換えは、染色体DNA内に破断を組み込み部位に導入することによって容易にすることができ、これは特定の組み込みの部位にある特定のヌクレアーゼを標的化することによって達成され得る。標的の座位においてDNA配列を識別するDNA結合タンパク質は、当技術分野で既知である。一部の実施形態では、標的配列中の特定の3-ヌクレオチド配列を認識する亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が利用される。一部の実施形態では、転写活性化様(TAL)エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を、部位特異的なゲノム編集に採用してもよい。他の実施形態では、構成要素(Cas9およびtracrRNA)と標的特異的CRISPR RNA(crRNA)とからなるRNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)が利用される。
【0074】
一部の実施形態では、5’および3’相同アームに隣接する対象の核酸(例えば、導入される改変を含有する核酸)を担持する標的ベクターは、一つ以上の追加のベクターまたはmRNAを有する細胞内に導入される。一実施形態では、一つ以上の追化的なベクターまたはmRNAは、部位特異的ヌクレアーゼ(亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、ZFN二量体、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、TALエフェクタードメイン融合タンパク質、およびRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない)をコードするヌクレオチド配列を含有する。
【0075】
記載される標的化ベクターまたは遺伝子編集システムの使用のいずれかを介して、そのゲノム内に組み込まれた改変遺伝子配列を有するES細胞を選択することができる。選択後、陽性のESクローンは、例えば、必要に応じて、自己欠失型カセットを除去するように改変することができる。次に、ゲノム内に組み込まれた改変を有するES細胞を、ドナーES細胞として、VELOCIMOUSE(商標)法(例えば、米国特許第7,576,259号、同第7,659,442号、同第7,294,754号、および米国特許出願公開第2008/0078000A1号を参照)、または米国特許出願公開第2014/0235933A1号および同第2014/0310828A1号に記載の方法を用いることによって、前桑実期の胚(例えば、8細胞期胚)への注入に使用する。ドナーES細胞を含む胚を胚盤胞段階までインキュベートし、次に代理母へと移植して、完全にドナーES細胞に由来するF0齧歯類を産生する。変異対立遺伝子を有する齧歯類の仔は、変異配列または選択可能なマーカー遺伝子の存在を検出する対立遺伝子の改変(MOA)アッセイ(Valenzuela et al.、上記)を使用して、尾切片から単離されたDNAを遺伝子型解析により識別することができる。
【0076】
一部の実施形態では、改変は、齧歯類の生殖系列ゲノム内の代わりに、齧歯類の標的組織または器官の齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される。
一部の実施形態では、改変は、齧歯類の肝臓の齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される、すなわち、齧歯類の肝臓に特異的に導入される。用語「肝臓特異的」は、所望の結果(送達、発現、および/または標的改変)が、他の組織または器官と比較して、有意に多く(例えば、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、またはそれ以上)発生することを意味する。上述のように、下記のアプローチの一つ以上が、肝臓特異的改変を達成するために利用され得る:(i)肝臓指向性AAVシステム(CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素または外因性ドナー核酸を送達するために、(ii)CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素または外因性ドナー核酸の肝臓特異的発現をもたらす肝臓特異的プロモーター、および(iii)CRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素、および外因性ドナー核酸、またはCRISPR/Casシステムの一つ以上の構成要素と、外因性ドナー核酸とを担持する、核酸もしくはウイルスベクター、の水力学的尾静脈注射。
【0077】
繁殖の方法および作製された子孫
一部の実施形態では、本明細書に開示される、そのゲノムが内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む(すなわち、改変齧歯類B4galt1遺伝子)第一の齧歯類を、第二の齧歯類と交配させ、そのゲノムが齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む子孫齧歯類をもたらすことを含む方法が、本明細書において提供される。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす(すなわち、「N352Sノックイン」);そのような実施形態では、方法は、そのゲノムがN352Sノックインを含む第一の齧歯類を、第二の齧歯類と交配させて、そのゲノムがN352Sノックインを含む子孫齧歯類を結果としてもたらすことを含む。繁殖(または「交配」または「交雑」)は、当技術分野で容易に入手可能なプロトコルに従って行うことができる。例えば、JoVE Science Education Database.Lab Animal Research,Fundamentals of Breeding and Weaning,JoVE,Cambridge,MA,(2018)(video article);Breeding Strategies for Maintaining Colonies of Laboratory Mice,A Jackson Laboratory Resource Manual,φ2007 The Jackson Laboratory(すべては参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0078】
一部の実施形態では、そのゲノムが本明細書に開示される内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む第一の齧歯類と、第二の齧歯類との間の交配から得られた齧歯類子孫が、本明細書において提供される。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす。一部の実施形態では、内因性齧歯類B4galt1遺伝子における改変は、N352Sノックインを含む;このような実施形態では、そのゲノムがN352Sノックインを含む第一の齧歯類と第二の齧歯類との間の交配から取得され、N352Sノックインを含む子孫が提供される。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、齧歯類B4galt1遺伝子の改変についてヘテロ接合性である。一部の実施形態では、子孫齧歯類は、齧歯類B4galt1遺伝子の改変についてホモ接合性である。子孫は、交配で使用される第二の齧歯類から遺伝する他の望ましい表現型または遺伝子改変を有してもよい。
【0079】
齧歯類モデル
さらなる態様では、動物モデルとしての、内因性B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類の使用が本明細書に開示されており、これは、脂質代謝におけるB4galt1の機能の解明を可能にし、代謝障害および心血管障害の治療においてB4galt1を標的とする治療剤を試験および開発する機会を提供する。
【0080】
一部の実施形態では、本明細書に記載される内因性B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類は、B4galt1タンパク質の活性を阻害する薬剤を試験、スクリーニング、または特定する方法において使用される。方法の一部の実施形態では、齧歯類は、内因性B4galt1遺伝子に改変を含み、改変を伴わない野生型齧歯類とともに使用され、候補薬剤は、野生型齧歯類に投与される。改変を有する齧歯類および野生型齧歯類の両方を調べて、例えば、HDL-C、LDL-C、およびトリグリセリドのレベルなどの脂質プロファイルを測定する。薬剤投与後の野生型齧歯類からの、投与前の野生型齧歯類からの(または薬剤を投与されていない別の野生型齧歯類からの)、および内因性B4galt1遺伝子に改変を有する齧歯類からの測定値を互いに比較して、薬剤がB4galt1タンパク質の活性を阻害するかどうかを判定する。例えば、内因性B4galt1遺伝子における改変がN352Sノックインまたは機能喪失性変異である場合、投与前の野生型齧歯類(または薬剤を投与されていない別の野生型齧歯類と比較してLDL-Cレベルの低下をもたらす(すなわち、N352Sノックインまたは機能喪失性変異を有する齧歯類と同じ方向をもたらす)薬剤は、B4galt1タンパク質の活性を阻害するとみなされる。一部の実施形態では、薬剤は、薬剤を投与されていない野生型齧歯類と比べて、薬剤を投与された野生型齧歯類における血清LDL-Cレベルを少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、またはそれ以上減少させる。
【0081】
一部の実施形態では、内因性B4galt1遺伝子における改変についてホモ接合性である齧歯類が使用される。一部の実施形態では、内因性B4galt1遺伝子における改変についてヘテロ接合性である齧歯類が使用される。一部の実施形態では、内因性B4galt1遺伝子における改変に対してホモ接合性の齧歯類と、内因性B4galt1遺伝子における改変に対してヘテロ接合性の齧歯類の両方を、本検査で使用する。
【0082】
一部の実施形態では、内因性B4galt1遺伝子齧歯類における改変を有する齧歯類はメスである。一部の実施形態では、内因性B4galt1遺伝子における改変を有する齧歯類はオス齧歯類である。
【0083】
小分子化合物および大分子(例えば、抗体)の両方を含む、様々な候補薬剤を、本明細書に開示される齧歯類および方法を使用して試験することができる。一部の実施形態では、候補薬剤は、B4galt1タンパク質(例えば、ヒトB4GALT1タンパク質)に特異的な抗体である。本記述は、以下の実施例によってさらに説明されており、これはいかなる方法でも制限していると解釈されるべきではない。すべての引用参考文献(本出願全体を通して引用される文献参照、発行特許、および公表された特許出願を含む)の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0084】
以下の代表的な実施形態が提示される。
実施形態1
内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類β4ガラクトトランスフェラーゼ1(B4galt1)遺伝子に改変を含む、齧歯類。
【0085】
実施形態2
改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態1に記載の齧歯類。
【0086】
実施形態3
齧歯類がマウスであり、置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、実施形態2に記載の齧歯類。
【0087】
実施形態4
齧歯類が、改変を伴わない野生型齧歯類と比較して、LDL-Cのレベルの減少を呈する、実施形態2または3に記載の齧歯類。
【0088】
実施形態5
改変が、齧歯類のゲノムにある、実施形態1に記載の齧歯類。
実施形態6
齧歯類が、改変に対してホモ接合性である、実施形態2~5のいずれかに記載の齧歯類。
【0089】
実施形態7
改変が機能喪失性変異である、実施形態1に記載の齧歯類。
実施形態8
機能喪失性変異が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、実施形態7に記載の齧歯類。
【0090】
実施形態9
一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、実施形態8に記載の齧歯類。
【0091】
実施形態10
改変が、齧歯類のゲノムにある、実施形態7~9のいずれか一つに記載の齧歯類。
実施形態11
改変が、齧歯類の標的組織または器官の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される、実施形態7~9のいずれか一つに記載の齧歯類。
【0092】
実施形態12
改変が、齧歯類の肝臓の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に導入される、実施形態11に記載の齧歯類。
【0093】
実施形態13
齧歯類が、マウスまたはラットである、実施形態1~2、または4~12のいずれか一つに記載の齧歯類。
【0094】
実施形態14
内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む、単離された齧歯類細胞または組織。
【0095】
実施形態15
改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態14に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0096】
実施形態16
齧歯類細胞または組織がマウス細胞または組織であり、置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、実施形態15に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0097】
実施形態17
改変が機能喪失性変異である、実施形態14に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0098】
実施形態18
機能喪失性変異が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、実施形態17に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0099】
実施形態19
一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、実施形態18に記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0100】
実施形態20
齧歯類細胞または組織が、マウス細胞または組織である、実施形態14~15、または17~19のいずれか一つに記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0101】
実施形態21
齧歯類細胞または組織が、ラット細胞または組織である、実施形態14~15、または17~19のいずれか一つに記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0102】
実施形態22
齧歯類細胞が、齧歯類胚性幹(ES)細胞である、実施形態14~21のいずれか一つに記載の単離された齧歯類細胞または組織。
【0103】
実施形態23
実施形態22に記載の単離された齧歯類細胞を含む齧歯類胚。
実施形態24
遺伝子改変齧歯類を作製する方法であって、
(i)齧歯類胚性幹(ES)細胞の内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって改変齧歯類B4galt1遺伝子を含む改変齧歯類ES細胞を得ること、および
(ii)改変齧歯類ES細胞を使用して、遺伝子改変齧歯類を作製すること、を含む、方法。
【0104】
実施形態25
改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態24に記載の方法。
【0105】
実施形態26
齧歯類がマウスであり、置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、実施形態25に記載の方法。
【0106】
実施形態27
改変が機能喪失性変異である、実施形態24に記載の方法。
実施形態28
機能喪失性変異が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、実施形態27に記載の方法。
【0107】
実施形態29
一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、実施形態28に記載の方法。
【0108】
実施形態30
改変が、遺伝子編集システムを介して内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される、実施形態24~29のいずれか一つに記載の方法。
【0109】
実施形態31
遺伝子編集システムが、CRISPR/Cas9システムである、実施形態30に記載の方法。
【0110】
実施形態32
遺伝子編集システムが、ガイドRNA、Cas9酵素、および一本鎖オリゴデオキシ核酸分子(ssODN)を含む、実施形態31に記載の方法。
【0111】
実施形態33
ガイドRNAおよびssODNが、齧歯類ES細胞内に導入され、齧歯類ES細胞がCas9酵素を発現する、実施形態32に記載の方法。
【0112】
実施形態34
齧歯類組織の内因性齧歯類B4galt1座位で内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に改変を導入し、それによって遺伝子改変齧歯類を得ることを含む、遺伝子改変齧歯類を作製する方法。
【0113】
実施形態35
改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態34に記載の方法。
【0114】
実施形態36
齧歯類がマウスであり、置換がマウスB4galt1タンパク質のアミノ酸位置353にある、実施形態35に記載の方法。
【0115】
実施形態37
改変が機能喪失性変異である、実施形態34に記載の方法。
実施形態38
機能喪失性変異が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のコード配列の全部または一部に欠失をもたらす一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換を含む、実施形態37に記載の方法。
【0116】
実施形態39
一つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換が、内因性齧歯類B4galt1遺伝子のエクソン2で発生する、実施形態38に記載の方法。
【0117】
実施形態40
改変が、遺伝子編集システムを介して内因性齧歯類B4galt1遺伝子内に導入される、実施形態34~39のいずれか一つに記載の方法。
【0118】
実施形態41
遺伝子編集システムが、CRISPR/Cas9システムである、実施形態40に記載の方法。
【0119】
実施形態42
CRISPR/Cas9システムが、ガイドRNAおよびCas9酵素を含み、ガイドRNAが、AAVシステムによって齧歯類内に送達される、実施形態41に記載の方法。
【0120】
実施形態43
AAVシステムが、齧歯類の肝臓へのガイドRNAの送達を標的とする、実施形態42に記載の方法。
【0121】
実施形態44
Cas9酵素が、齧歯類内にガイドRNAを導入する前に、齧歯類で発現される、実施形態41~43のいずれか一つに記載の方法。
【0122】
実施形態45
実施形態24~44のいずれか一つに記載の方法によって取得される齧歯類。
実施形態46
B4galt1の活性に対する化合物の効果を試験する方法であって、
実施形態1~13のいずれか一つに記載の内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む齧歯類を提供することと、
改変を伴わない野生型齧歯類を提供することと、
候補B4galt1阻害化合物を野生型齧歯類に投与することと、
改変を有する齧歯類および野生型齧歯類を調べて、血清LDL-Cレベルを測定することと、
化合物を投与した野生型齧歯類からの測定値、化合物の投与前の野生型齧歯類からの測定値、および改変を有する齧歯類からの測定値を比較して、候補化合物が、B4galt1の活性を阻害するかどうかを決定することと、を含む、方法。
【0123】
実施形態47
そのゲノムが内因性齧歯類B4galt1遺伝子に改変を含む第一の齧歯類を、第二の齧歯類と交配させることを含む、方法。
【0124】
実施形態48
改変が、ガラクトシルトランスフェラーゼ活性が低下したB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態47に記載の方法。
【0125】
実施形態49
改変が、ヒトB4GALT1タンパク質の352位に対応するアミノ酸位置でのAsnのSerへの置換を含むB4galt1タンパク質をコードする改変齧歯類B4galt1遺伝子をもたらす、実施形態47に記載の方法。
【0126】
実施形態50
実施形態47~49のいずれか一つに記載の方法から取得した子孫であって、そのゲノム中に改変を含む、子孫。
【実施例
【0127】
以下の実施例は、本明細書に請求される組成物、および/または方法がどのようになされて評価されるのかに関して、当業者に完全な開示および説明を提供するように示されており、単に例示的であることを意図しており、本開示を限定することを意図していない。
【0128】
実施例1 N352S K/Iマウスの生成および特徴付け
N352S K/Iマウスの設計および生成
B4galt1 p.N353S変異マウスを作製するために、CRISPR Cas9遺伝子編集技術を使用した。簡潔に述べると、35ugの合成されたssODN、2.5ugの合成されたガイドRNA(gRNA)、および5ugのCas9タンパク質を、100%C57BL/6NTac(VGB6)マウス胚性幹細胞(ESC)にエレクトロポレーションした。ssODNの配列は、ATGCTGTAGTAGGGAGGTGTCGAATGATCCGGCATTCAAGAGACAAGAAAAATGAGCCCAgTCCcCAGAGGTACGTCCTCTCTGTGCCTTCCCTTTATTTATTTATATGTTAGATTTATTTである(配列番号13、より低い場合のヌクレオチドは、標的ESクローンにおけるp.N353Sおよびp.P354P非同義変化を引き起こす点変異である)。gRNAの配列は、GAGGACGTACCTCTGAGGATtggである(配列番号11、より低い場合のヌクレオチドはPAM配列である)。標的化細胞を、TaqMan qPCRアッセイでスクリーニングし、次にCharles River Laboratories Swiss Websterアルビノマウス由来の8細胞胚に顕微注入し、100%標的細胞由来のF0 VelociMice(商標)を得た(Poueymirou et al.,2007,Nature Biotech.25(1):91-99)。F0マウスをC57BL/6NTacに1回交配し、100% C57BL/6NTacの遺伝的背景で標的マウスを生成した。その後、ホモ接合性に交配し、全期間にわたってRegeneronの動物施設で維持した。すべての実験で対照として使用された野生型マウスも、100% C57BL/6NTacであった。
【0129】
血漿収集
マウスは、定期的な固形飼料食餌を摂食し、13週齢で採血した(メスWT=14、Het=16、HO=16;オスWT=15、Het=18、HO=14)。マウスを一晩絶食し、その後4.5%イソフルランで麻酔した。ペダル反射の欠如を確認した後、眼窩後方の洞穿刺(retro-orbital sinus tap)を介して150~200ulの全血を採取し、K EDTA(Starstedt)で被覆され、プロテアーゼ(Roche cOmplete(商標)Mini EDTA Free)およびDPP-4阻害剤を含有する血漿収集管に直ちに移した。血漿をエッペンドルフ管に収集し、-80°Cで保存した。
【0130】
試料を、ADVIA Chemistry XPT(シーメンス)を使用してアッセイした。肝臓脂質特性は、以下の試薬を含有する:アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)-(シーメンスREF 03036926)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)-(シーメンスREF 07499718)、コレステロール_2(CHOL_2)-(シーメンスREF 10376501)、直接HDLコレステロール(D-HDL)-(シーメンスREF 07511947)、LDLコレステロール直接(DLDL)-(シーメンスREF 09793248)、非エステル化脂肪酸(NEFA)-(和光999-34691、995-34791、991-34891、993-35191)、トリグリセリド_2(TRIG_2)-(シーメンスREF 10335892)。試料を、アナライザーに充填し、試薬の混合、アッセイのタイミング、吸光度および濃度計算を、アナライザーによって行った。統計量は、Sidakの多重比較検定(Prism)を用いた二元配置ANOVAを使用して計算された。
【0131】
図2A~2Bで示すように、野生型マウスと比較して、オスのマウスおよびメスのマウスの両方でヘテロ接合性およびホモ接合性N352SノックインにおいてLDL-Cレベルの減少が観察され、一方でヘテロ接合性またはホモ接合性N352Sノックインマウスおよび野生型マウスの間でHDL-C、トリグリセリド、コレステロールまたは非エステル化脂肪酸(NEFA)のレベルに関して明白な差異は観察されなかった。さらに、ヘテロ接合性またはホモ接合性のN352Sノックインマウスと野生型マウスとの間で、ALTまたはASTのレベルについて有意差は観察されなかった。
【0132】
実施例2 B4galt1肝臓ノックアウトマウスの生成および特徴付け
脂質代謝におけるB4GALT1の役割をさらに理解するために、CRISPR/Cas9インビボツールボックスを利用して、肝臓におけるマウスオルソログ(B4galt1)をノックアウトした。簡潔に述べると、Cas9酵素を構成的に発現する成体マウスにAAV8を形質導入し、B4galt1のエクソン2を標的とするgRNAの肝臓特異的送達を達成した(以下の方法を参照されたい)。このアプローチは、脾臓におけるB4galt1のおよそ2%の遺伝子編集と比較して、肝臓におけるB4galt1の50%の遺伝子編集をもたらした(図3A、3B)。その結果、肝臓におけるB4galt1 mRNAレベルの50%の減少が観察された(図3C)、脾臓におけるmRNAの変化はなかった(データは示さず)。次いで、循環LDL-Cレベルを、ウイルス形質導入から2週間目で開始し、12週間の試験期間を通して測定した。LDL-Cの全体的な50%の減少は、試験の全期間中に検出された(図3D;2週p<0.0001;4週p<0.01;8週p<0.00001;12週p<0.01)。同時に、循環AST酵素の増加傾向も経時的に観察され、HDL-Cまたは総コレステロールの有意な変化は観察されなかった(図3E)。LDL-Cレベルの減少は、B4galt1のエクソン2に対して常に設計される二つの他の独立したgRNAを使用することによって確認された(図4A~4J)。
【0133】
最後に、LDL-Cに見られる減少がB4galt1特異的アブレーションによって決定されたことを確認するために、第二の独立した遺伝子の肝臓特異的ノックアウトであるCfb(補体因子Bをコードする)が同時に生成された。Cfbは、肝臓におけるその高い発現と、そうではあるがLDL-Cおよびコレステロール代謝における機能はないことが理由で対照として選択された。この結果、脾臓における<1%の編集と比較して、肝臓におけるCfbのおよそ50%の編集率がもたらされ、Cfb肝臓発現の50%の減少がもたらされた。予想通り、LDL-CレベルはCfb肝臓ノックアウトの影響を受けなかった。さらに、このアプローチにより、Cas9構成的発現およびウイルス感染から起こり得る任意の副次的効果を除外することが可能となった。経時的なCfb対照肝臓ノックアウトにおけるLDL-Cレベルの任意の変動は最小限であり、主にインビボ操作の固有の変動性によるものであった(図3Dおよび図4A~4J)。
【0134】
これらの結果は、哺乳類系におけるb4galt1とLDL-C代謝との間の機能的リンクを支持する。
方法
Cas9 mESCの生成
mESC(50% C57BL/6NTacおよび50% 129S6/SvEvTac)の標的化を、前述の方法を使用して行った(Valenzuela et al.,Nat Biotechnol,2003.21(6):p.652-9)。簡潔に述べると、R26 BAC(BAC_ESr2-445b1_sfi_1)を改変して標的化ベクターを作製し、R26イントロンワン(intron one)の一部を、P2A GFPを有するCas9が後に続くLoxP部位に隣接するタンデムポリアデニル化シグナルを有するネオマイシン選択(アミノ3’-グリコシルホスホトランスフェラーゼ)を含有するカセットで置換し、転写物をmESCのR26プロモーターによって駆動できるようにした。次いで、直線化改変BACを、mESCにエレクトロポレーションして、改変BACからの標的化アームを利用して、R26座位で相同な組換えを駆動した。陽性形質転換体を、ネオマイシン耐性について選択した。トランスジェニック挿入は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)に基づいて標的化組換えと区別された。標的化が確認されたら、クローンをCreリコンビナーゼでエレクトロポレーションして、ブロッキングカセットを切除し、活性対立遺伝子を生成した。
【0135】
マウス産生
Cas9 mESCを8細胞胚に注入し、100%ES由来F0マウスを生成した(Valenzuela et al.,Nat Biotechnol,2003.21(6):p.652-9;Poueymirou et al.,Nat Biotechnol,2007.25(1):p.91-9)。注入された8細胞胚を代理母に移し、所望の挿入を担持する生仔を作製した。代理母における妊娠時に、注入された胚は、検出可能な宿主胚の寄与を担持しないF0マウスを産生する。完全mESC由来マウスは、概して正常で、健康で、繁殖可能であった。全ての動物実験は、Regeneronの動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)のガイドライン従って実施した。
【0136】
ガイドRNAの設計
ガイドRNAを、CRISPORおよびBLAT(Kent et al.,Genome Res,2002.12(6):p.996-1006;Kent,Genome Res,2002.12(4):p.656-64;Haeussler et al.,Genome Biol,2016.17(1):p.148)を参照して、UCSC(NCBI37/mm9)を使用して設計した。Cas9 KOガイドは、B4galt1エクソン2:B4galt1_mGU1;TATTAAAGTCAATCAGCATG(配列番号7)をchr4:40770681-40770700で、 B4galt1_mGU3;GGGCGGCCGTTACTCCCCCA(配列番号8)を msChr4:40770612-40770631で、およびB4galt1_mGU5;ATGATGATGGCCACCTTGTG(配列番号9)をmsChr4:40770575-40770594で、標的とするように設計された。さらに、Cfbを対照として選択し、Cas9 KOガイドを、GAGCGCAACTCCAGTGCTTG(配列番号10)をmsChr17:34998886-34998905で標的とするように設計した。
【0137】
ウイルス粒子の生成
ガイドRNA配列を、標準的なライゲーションによって適切なAAV骨格にクローニングした。AAV8ベクターは、HEK 293T細胞の一過性トランスフェクションによって作製された。トランスフェクションは、ポリエチレンイミン(PEI)MAX(Polysciences)を使用して行った。細胞は、アデノウイルスヘルパー遺伝子をコードする三つのプラスミド、AAV2 repおよびAAV8キャップ遺伝子、ならびにAAV2末端逆位配列(ITR)に隣接した導入遺伝子を含有する組換えAAVゲノムでトランスフェクトされた。ウイルスを含有する培地を収集し、0.2μmのPES膜(Nalgene)を通して濾過した。ウイルスは、一連の遠心分離工程または密度勾配超遠心分離のいずれかにより精製された。
【0138】
遠心分離による精製については、ウイルスを含有する培地を、前述のようにPEG沈殿により濃縮した(Arden et al.,J Biol Methods,2016.3(2))。ペレットをPBS(Life Technologies)に再懸濁し、10,000 RCFで遠心分離することによってさらに精製した。上清を移し、AAVを超遠心分離機で149,600 RCFで3時間10°Cでさらにペレット化した。AAV含有ペレットをPBS中に再懸濁し、遠心分離により精製し、0.22μmの酢酸セルロース膜(Corning)を通して濾過した。
【0139】
イオジキサノール勾配分離による精製のために、培地を接線流濾過により濃縮し、イオジキサノール勾配に装填した。イオジキサノール溶液および勾配を、前述のわずかな改変を用いて調製した(Zolotukhin et al.,Gene Ther,1999.6(6):p.973-85)勾配を149,600 RCFで超遠心分離機で14時間遠心分離した。AAV含有画分を抽出し、緩衝液を、Zebaスピン脱塩カラム(ThermoFisher Scientific)を使用して、0.001%プルロニック(登録商標)(ThermoFisher Scientific)を有するPBSに交換した。
【0140】
尾静脈注射
尾部の基部の静脈に27ゲージの針を挿入し、100μL中およそ2×1011のウイルスゲノムを注射することによって、側部尾静脈に注入した。
【0141】
アンプリコンライブラリ調製
肝臓および脾臓の生検を、治療当たり3~5匹の試験動物から採取し(AAV B4galt1 CR1-5;非関連対照)、ゲノムDNA(gDNA)をプロテイナーゼKベースの溶解緩衝液を使用して抽出した。標的特異的オリゴを、プライマー溶解温度(Tm)が60~65℃である350bpの最大アンプリコンサイズを生成するように設計した(21~27塩基対、bp)。イルミナアダプターを標的特異的オリゴに加え、完全配列をIntegrated DNA Technologies(IDT)に注文した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、各gDNA試料上で完了した。簡潔に述べると、各反応において、製造業者の仕様書に従い、4ナノグラム(ng)のgDNAをIDTオリゴ、Q5ポリメラーゼ(#M0491、New England Biolabs)、10uM dNTP、緩衝液、および水と組み合わせた。次に、増幅産物を1:100に希釈し、PCRバーコード化反応に使用して、最終シーケンシングライブラリを作成した。各バーコード化反応は、単一の増幅された標的、ならびに固有のイルミナ特異的バーコードおよびインデックスを有するフォワードプライマーおよびリバースプライマーを含有した。PCRの各プレートを等容量でプールし、その後、製造業者の指示に従って、AMPure XP試薬(#A63881、Beckmann-Coulter)を使用して単一管で精製した。最終ライブラリ濃度は、Qubit蛍光光度計(#Q32866、Invitrogen)を使用して測定された。調製されたライブラリの四つのナノモルを、2×300リードキット(#MS-102-3003、イルミナ)を利用して製造業者の指示に従ってイルミナMiSeqに装填した。
【0142】
配列マッピングおよび特徴付け
バーコード化された試料を、個々のリードに脱多重化した(FASTQ形式)。次に、各FASTQファイルのフォワードリードおよびリバースリードを、PEARプログラムを使用してマージした(Zhang et al.,Bioinformatics.2014年3月1日;30(5):614-620に記載される)。マージされたリードを、Bowtie2プログラム(Langmead et al.,Nat Methods.2012年3月4日;9(4):357-359に記載される)を使用して、ハツカネズミゲノムバージョン9(mm9)にマッピングした。各試料を、予想されるガイド切断部位にわたって最小20,000のマージされたリードで配列決定した。最後に、カスタムパール(perl)スクリプトを使用して、バーコード化された試料の特徴付けを行った。簡潔に述べると、予想される切断部位の上流および下流の20塩基のウィンドウ内の全ての挿入、欠失、または塩基変化(INDEL)は、CRISPR誘発性改変であるとみなされた。INDELを含有するリードの数を、野生型配列を有するリードの数と比較して、動物および組織当たりのB4galt1の編集の割合を決定した。
【0143】
Taqman発現解析
肝臓をRNALater安定化試薬(Qiagen)に新鮮なままに解剖し、-20°Cで保存した。組織をTRIzol中で均質化し、クロロホルムを相分離に使用した。全RNAを含有する水相を、miRNeasy Mini Kit(Quagen、カタログ番号217004)を用いて製造業者の仕様書に従って精製した。MagMAX(商標)Turbo(商標)DNase緩衝液およびTURBO DNase(Life TechnologiesによるAmbion)を使用してゲノムDNAを除去した。mRNA(最大2.5ug)をSuperScript(登録商標)VILO(商標)Master Mix(Thermofisher)を使用してcDNAに逆転写した。cDNAを、ABI 7900HT配列検出システム(Applied Biosystem)を使用して、SensiFASY Probe Hi-ROX(Meridian)で増幅した。cDNA入力の差を標準化するための内部制御遺伝子として、Gapdhを使用した。
【0144】
血漿収集
マウスを一晩絶食し、その後4.5%イソフルランで麻酔した。ペダル反射の欠如を確認した後、眼窩後方の洞穿刺(retro-orbital sinus tap)を介して150~200ulの全血を採取し、K EDTA(Starstedt)で被覆され、プロテアーゼ(Roche cOmplete(商標)Mini EDTA Free)およびDPP-4阻害剤を含有する血漿収集管に直ちに移した。血漿をエッペンドルフ管に収集し、-80Cで保存した。
【0145】
試料を、ADVIA Chemistry XPT(シーメンス)を使用してアッセイした。肝臓脂質特性は、以下の試薬を含有する:アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)-(シーメンスREF 03036926)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)-(シーメンスREF 07499718)、コレステロール_2(CHOL_2)-(シーメンスREF 10376501)、直接HDLコレステロール(D-HDL)-(シーメンスREF 07511947)、LDLコレステロール直接(DLDL)-(シーメンスREF 09793248)、非エステル化脂肪酸(NEFA)-(和光999-34691、995-34791、991-34891、993-35191)、トリグリセリド_2(TRIG_2)-(シーメンスREF 10335892)。試料を、アナライザーに充填し、試薬の混合、アッセイのタイミング、吸光度および濃度計算を、アナライザーによって行った。統計量は、Sidakの多重比較検定(Prism)を用いた二元配置ANOVAを使用して計算された。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
【配列表】
2023516052000001.app
【国際調査報告】