(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(54)【発明の名称】化学物質回収ボイラーの動作の改善のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
D21C 11/12 20060101AFI20230410BHJP
F23L 9/06 20060101ALI20230410BHJP
F23G 7/04 20060101ALI20230410BHJP
F23C 5/28 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
D21C11/12
F23L9/06
F23G7/04 601E
F23C5/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553066
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(85)【翻訳文提出日】2022-10-28
(86)【国際出願番号】 US2021020904
(87)【国際公開番号】W WO2021178687
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522350210
【氏名又は名称】サリバン,ヒギンス,アンド ブリオン パワー プラント エンジニリング,エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100123858
【氏名又は名称】磯田 志郎
(72)【発明者】
【氏名】サリバン ユージン
(72)【発明者】
【氏名】ヒギンス ダニエル アール.
【テーマコード(参考)】
3K023
3K091
4L055
【Fターム(参考)】
3K023KA03
3K023KC07
3K091BB02
3K091CC02
3K091CC22
3K091DD03
4L055BC04
4L055CC05
4L055CC07
4L055EA15
4L055EA19
4L055EA26
4L055FA22
4L055FA30
(57)【要約】
一次空気システムが、下部炉内において積極的なチャーベッドの制御及び改善された燃焼を提供するように再構成される、化学物質回収ボイラーを説明する。最小の個数の一次空気ポートを2つの対向する壁上で使用して、強力な空気ジェットを生成し、上記空気ジェットはボイラーを横切って通過し、チャーベッドに物理的及び熱的安定性を提供する一方で、下部炉内の熱放出及び燃焼安定性を上昇させて、還元効率を高め、キャリーオーバー及び排出を低減する。操作戦略及び複数レベルでの黒液注入を含む、様々な実施形態を説明する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が正方形又は長方形であり、長方形である場合は短辺より3フィート未満だけ長い長辺を有し、正方形であるか長方形であるかにかかわらず、1つの壁からスメルトを排出し、吐出口付き壁に対向する壁上には一次燃焼空気ポートを備えず、前記吐出口付き壁に隣接する2つの壁それぞれには少なくとも2個、ただし7個以下の一次ポートを備える、化学物質回収ボイラーであって、前記吐出口付き壁に隣接する2つの前記壁上の個々の前記一次ポートの間の間隔は、前記吐出口付き壁に対して平行な前記ボイラーの平面寸法の0.13倍又は3フィートのうち大きい方よりも小さい、化学物質回収ボイラー。
【請求項2】
前記吐出口付き壁に隣接する第1の壁上の全ての前記一次ポートは、前記第1の壁に対向する前記壁上の前記一次ポートの真向かいから、チューブのピッチでプラス又はマイナス3個分以内にある、請求項1に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項3】
燃焼空気のジェットは、各前記一次ポートから前記ボイラーの内部に向かって発し、体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、自動的に、かつ各前記ポートについて個々に、制御される、請求項2に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項4】
少なくとも1つの第1の前記一次ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、少なくとも1つの第2の前記一次ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度より、少なくとも25%大きく又は小さくなるように調整され、前記少なくとも1つの第2の前記一次ポートは、第1の前記側壁一次ポートのチューブのピッチでプラス又はマイナス3個分の位置に対向して、前記ポート間に強ジェット/弱ジェットの関係を形成する、請求項3に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項5】
前記ポート間の前記強ジェット/弱ジェットの関係は、周期的かつ自動的に反転される、請求項4に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項6】
前記強ジェット/弱ジェットの関係は、前記ボイラーの第1の壁に沿って、ポートごとに順次交互になっており、前記第1の壁は吐出口付き壁に隣接する、請求項4に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項7】
平面形状が長方形であり、1つの壁からスメルトを排出する、化学物質回収ボイラーであって、前記吐出口付き壁に隣接する2つの壁上の個々の一次ポートの間の間隔は、寸法S=Wの0.13倍、空気ジェットの方向に対して平行な前記ボイラーの平面寸法、又は3フィートのうち最も大きいものよりも小さくなければならず、前記吐出口付き壁に隣接する前記2つの壁それぞれに少なくとも2つの前記一次ポートを備え、前記吐出口付き壁に隣接する前記2つの壁それぞれの上の前記一次ポートの最大個数は、7+N個以下であり、ここでNは、(D-W)/Sの小数点以下を切り捨てて整数としたものであり、Dは、Wに対して垂直な前記ボイラーの平面寸法に等しい、化学物質回収ボイラー。
【請求項8】
前記吐出口付き壁に隣接する第1の壁上の全ての前記一次ポートは、前記第1の壁に対向する前記壁上の前記一次ポートの真向かいから、チューブのピッチでプラス又はマイナス3個分以内にある、請求項7に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項9】
燃焼空気のジェットは、各前記一次ポートから前記ボイラーの内部に向かって発し、体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、自動的に、かつ各前記ポートについて個々に、制御される、請求項8に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項10】
少なくとも1つの第1の前記一次ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、少なくとも1つの第2の前記一次ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度より、少なくとも25%大きく又は小さくなるように調整され、前記少なくとも1つの第2の前記一次ポートは、第1の前記側壁一次ポートのチューブのピッチでプラス又はマイナス3個分の位置に対向して、前記ポート間に強ジェット/弱ジェットの関係を形成する、請求項9に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項11】
前記ポート間の前記強ジェット/弱ジェットの関係は、周期的かつ自動的に反転される、請求項10に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項12】
前記強ジェット/弱ジェットの関係は、前記ボイラーの第1の壁に沿って、ポートごとに順次交互になっており、前記第1の壁は吐出口付き壁に隣接する、請求項11に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項13】
前記吐出口付き壁に隣接する前記壁のうち第1のものの上の前記一次ポートの個数は、偶数であり、前記吐出口付き壁に隣接する前記壁のうち第2のものの上の前記一次ポートの個数は、奇数である、請求項1に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項14】
前記第1の壁上の前記一次ポートは、前記第1の壁上の前記一次ポートが、前記第2の壁上の前記一次ポートの間の中央から、チューブのピッチでプラス又はマイナス3個分以内にあるように、前記第2の壁上の前記一次ポートと互い違いになるように配置される、請求項13に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項15】
黒液は少なくとも2つの高さから前記ボイラーに注入され、第1の前記高さは前記一次ポートの中線の高さの少なくとも2フィート上、かつ前記ボイラーの床から12フィート以下だけ上、かつ第2の前記高さから少なくとも3フィート下である、請求項1に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項16】
前記第1の高さは、少なくとも1つの二次ポートの高さより下である、請求項15に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項17】
黒液は少なくとも2つの高さから前記ボイラーに注入され、第1の前記高さは前記一次ポートの中線の高さの少なくとも2フィート上、かつ前記ボイラーの床から12フィート以下だけ上、かつ第2の前記高さから少なくとも3フィート下である、請求項7に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項18】
前記第1の高さは、少なくとも1つの二次ポートの高さより下である、請求項17に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項19】
黒液は少なくとも2つの高さから前記ボイラーに注入され、第1の前記高さは前記一次ポートの中線の高さの少なくとも2フィート上、かつ前記ボイラーの床から12フィート以下だけ上、かつ前記第2の高さから少なくとも3フィート下である、請求項13に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項20】
前記第1の高さは、少なくとも1つの二次ポートの高さより下である、請求項19に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項21】
黒液は少なくとも2つの高さから前記ボイラーに注入され、第1の前記高さは前記一次ポートの中線の高さの少なくとも2フィート上、かつ前記ボイラーの床から12フィート以下だけ上、かつ前記第2の高さから少なくとも3フィート下である、請求項14に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項22】
前記第1の高さは、少なくとも1つの二次ポートの高さより下である、請求項21に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項23】
スメルト吐出口付き壁、前記スメルト吐出口付き壁に対向する壁、及び前記スメルト吐出口付き壁と前記スメルト吐出口付き壁に対向する前記壁との間の2つの側壁を含む、化学物質回収ボイラーの性能を改善する方法であって、前記方法は:
各スメルト吐出口の付近の2~8個のポートのみが開くように、前記スメルト吐出口付き壁上の複数の一次空気ポート開口を遮断するステップ;
前記スメルト吐出口付き壁に対向する前記壁上の、基本的に全ての一次空気ポート開口を遮断するステップ;及び
少なくとも2個、ただし7個以下の一次側壁空気ポートを、前記2つの側壁それぞれに設けるステップ
を含む、方法。
【請求項24】
化学物質回収ボイラーの性能を改善する前記方法は、既存の化学物質回収ボイラーを改造するステップを含み、前記2つの側壁それぞれの上の、少なくとも2個、ただし7個以下の前記一次ポートの合計開口面積は、改造される元の化学物質回収ボイラーの一次空気ポートの80%~120%である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記スメルト吐出口付き壁に対向する前記壁上の、基本的に全ての一次空気ポート開口を遮断する前記ステップは、前記スメルト吐出口付き壁に対向する前記壁上の前記一次空気ポート開口の前記合計開口面積が、前記2つの側壁それぞれの上の、少なくとも2個、ただし7個以下の前記一次側壁空気ポートの合計面積の5%未満を含むように、前記スメルト吐出口付き壁に対向する前記壁上の一次空気ポート開口を遮断するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記側壁一次空気ポートのうちの少なくとも1つの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、少なくとも1つの第2の一次側壁空気ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度より、少なくとも25%大きく又は小さくなるように調整され、前記少なくとも1つの第2の一次側壁空気ポートは、第1の側壁一次ポートのチューブのピッチでプラス又はマイナス3個分の位置に対向して、前記ポート間に強ジェット/弱ジェットの関係を形成する、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記側壁空気ポート間の前記強ジェット/弱ジェットの関係は、周期的かつ自動的に反転される、請求項26に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項28】
前記強ジェット/弱ジェットの関係は、前記ボイラーの前記2つの側壁のうちの一方に沿って、ポートごとに順次交互になっている、請求項26に記載の化学物質回収ボイラー。
【請求項29】
化学物質回収ボイラーを操作する方法であって、前記方法は:
スメルト吐出口の付近に位置決めされた一次スメルト吐出口空気ポートを通して、空気を注入することにより、前記スメルト吐出口においてスメルト流を維持するステップであって、前記一次スメルト吐出口空気ポートは、ある合計一次吐出口空気ポート開口面積を有する、ステップ;及び
吐出口付き壁と交差する2つの側壁それぞれの上の2~8個の側壁一次空気ポートを通して、一次空気を注入するステップであって、前記2~8個の側壁一次空気ポートは、ある合計一次側壁空気ポート開口面積を有し、前記合計一次側壁空気ポート開口面積は、合計一次空気ポート開口面積の80%超を含む、ステップ
を含む、方法。
【請求項30】
炉に注入される一次空気の合計必要量は、化学量論によって決定され、前記炉に注入される一次空気の前記合計必要量の少なくとも80%が、前記側壁一次空気ポートを通して注入される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記一次空気の10%未満が、前記スメルト吐出口付き壁に対向する壁上の一次空気ポートを通して注入される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記吐出口付き壁に対向する前記壁上の空気ポートを通しては、一次空気は注入されない、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記一次空気の10%未満が、スメルト吐出口空気ポートを通して注入される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本記載は、化学物質回収ボイラーに関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質回収ボイラーは、パルプ及び製紙産業において、使用済み蒸解用化学物質、及びその中で燃焼する黒液燃料の発熱を回収する手段として公知である。クラフトパルプ化プロセスでは、木材チップを蒸解釜内で処理(又は蒸解)する。木材チップは蒸解釜内において、苛性化学物質の存在下で高温及び高圧にさらされる。蒸釜解内では、木材繊維を結合しているリグニンが溶解し、パルプを作るために使用される繊維が遊離する。このクラフトプロセスは比較的長い繊維を製造し、上記繊維は強い紙製品の製造に使用され、あらゆる種類の梱包に一般的に使用される。木材チップの溶解後、使用済みの蒸解用化学物質、溶解したリグニン、及び好適でない木材繊維を捕捉し、過度の水分を蒸発させ、得られた黒液を回収ボイラー内で燃焼させる。蒸発後、黒液の水分含有率は典型的には、設備、及び個々のミルの動作に応じて20%~40%である。黒液の固体は、およそ50%の無機物と、50%の有機材料(リグニン及び木材繊維)とからなる。黒液を、1つ以上の霧化スプレーノズルを通して回収ボイラーに注入し、残留水分を蒸発させ、有機材料を燃焼させる。この燃焼プロセス中、使用済み蒸解用化学物質は遊離し、化学的還元を受ける。黒液回収ボイラー内における主な使用済み蒸解用化学物質は硫酸ナトリウム(Na2SO4)であり、熱及び原子炭素の存在下で還元されて硫化ナトリウム(Na2S)となる。これは、燃焼中の揮発性物質及びチャーから熱を吸収する吸熱反応である。還元効率は、スメルト中の合計硫黄濃度から硫酸塩の濃度を引いたものを、上記合計硫黄濃度で割った比である(実用上は、これはNa2S/(Na2S+Na2SO4)と表現できる)。良好に稼働する回収ボイラーでは、95%以上の還元効率を達成できる。異なる化学混合物を用いて木材チップを溶解させる、ソーダボイラー及び赤液ボイラーといった他のタイプの回収ボイラーも使用されるものの、黒液ボイラーが現在のところ最も一般的なタイプである。本発明者らは議論を黒液ボイラーに限定するが、本明細書に記載の方法及び装置は、黒液ボイラーと同様の燃焼系構成を使用する他のタイプの化学物質回収ボイラーにも適する。
【0003】
回収ボイラーは典型的には、炉(燃焼)セクションが、典型的には1辺10フィート~30フィート以上の正方形又は長方形の平面形状で構築される。炉の床及び壁は、隣接するチューブに漏れ止め溶接された、並列配列の鋼製ボイラーチューブから構築される。床は平坦であるか、又は約5°傾斜していてよく、壁は垂直であり、高さ30~100フィートの大型のプリズム状エンクロージャを形成する。炉の上部では、ボイラーの壁のうちの1つ(典型的には後壁)が内側に曲げられてブルノーズセクションを形成し、これは高温の燃焼ガスを、ボイラーの上部に配列された対流伝熱チューブを横断するように方向転換する。対流セクションは典型的には、1つ以上の過熱器、蒸気発生器(発電バンク又はボイラーバンク)、及び1つ以上のエコノマイザーからなる。炉床を形成するチューブは、床の1つの縁部にあるヘッダーによって供給を受け、垂直に方向転換して、ヘッダーの反対側の炉壁のうちの1つを形成する。一部のボイラーでは、中央に配置された1つ又は2つのヘッダーが床のチューブへの供給を行い、次にこれらのチューブが2つの対向する壁への供給を行う。これら以外の壁は、独自のヘッダーから供給を受け、これらのヘッダーには、2ドラム式ボイラーの場合は発電バンクの底部にある水ドラム、又はシングルドラム式ボイラーの場合は上記ドラムから、1つ以上の下降管を介して、ボイラー給水が供給される。自然循環システムが炉壁のチューブを冷却し、これらのチューブ内では、下降管内の比較的低温かつ高密度のボイラー給水からの水頭が、炉壁の比較的高温かつ低密度の水を上向きに押し上げる。ボイラーの炉セクションにおける主要な熱伝達メカニズムは放射であり、飽和蒸気の大半は炉壁で生成される。
【0004】
黒液燃料は、炉壁のうちの1つ以上の上の1つ以上の位置において、炉内へと注入される。比較的大型の回収ボイラーは典型的には、1つの壁につき3つ以上の注入ノズル、合計で10個以上の注入ノズルを使用する場合がある。全てのノズルは典型的には、一般に作業用レベルと見なされる単一の高さにある。これは、液の注入にはオペレータが一定の注意を払う必要があるためである。ノズルの高さは典型的には、床から15~30フィートであってよい。液をボイラー内へと注入する際、液は、乾燥、揮発分除去、チャー燃焼、及びスメルト形成を含む複数の燃焼ステージを経る。液滴を乾燥させた後、熱分解ガスが生成され(CH4、CO、H2)、液滴はポップコーンのように膨らむことにより、質量が減少するにつれて体積及び表面積が増大する。これにより、残留炭素が消費されるチャー燃焼段階中の、液の粒子の浮力が増大する。燃焼の完了後、残留無機化学物質は、スメルトの液滴(主に硫酸ナトリウムである化学物質の溶融形態)を形成する。燃焼段階中、液の一部はボイラーの底に落下し、ここでチャーベッドを形成する。これはチャー燃焼段階の液滴からなるため、このように呼ばれる。チャーベッドは典型的には、ボイラーの中央にマウンドを形成するが、チャーベッドのサイズ及び形状は、ボイラーごとに、またある所与のボイラー内で時間ごとに、大きく変動し得る。液の一部は壁に着地して、燃焼プロセスが完了するまでそこに付着する場合があり、また液滴の一部は炉内のガス流に同伴して、ボイラーの上部の対流セクションへと運ばれる場合があり、そこで過熱器及び発電バンクチューブに付着し、除去しなければガスの流れを完全に遮断する可能性がある。一般的には上記スートブロワを用いて、付着物質をチューブから定期的に吹き飛ばすが、スートの吹き飛ばしは100%効果的であるわけではなく、また多量の蒸気を消費する場合があり、これはボイラーの全体としての効率を低下させる。液滴が対流セクションに到達するまでに、液滴の大半が残留炭素と共にスメルトとなり、この物質はキャリーオーバー(carryover)と呼ばれる。このキャリーオーバーに加えてナトリウムの蒸気が生成され、燃焼排ガス中の遊離硫黄及び酸素と結合して、過熱器、発電バンク、及びエコノマイザーチューブ上で硫酸ナトリウムとして濃縮される。この物質は一般にソルトケーク(saltcake)と呼ばれ、スートの吹き飛ばしによって回収され、ここで上記ソルトケークはホッパーへと落下して、流入する黒液と混合される。ナトリウムのフュームは、それがなければ放出されることになる、又は燃焼排ガスの追加の処理が必要となる、燃焼排ガス中の硫黄を捕捉するという点で有益である。
【0005】
黒液回収ボイラーの燃焼空気システムは、ファン、空気ヒーター、ダクト、ノズル、制御ダンパー、ポートクリーナー、ポートダンパー、ポート開口、ボイラーへの燃焼空気の流れを提供及び制御する器具類等からなる。1929年の最初のトムリンソン黒液回収ボイラー以来、燃焼空気は、ボイラーの底の周囲の、間隔が小さい一連の開口によって、ボイラーに吹き込まれ、これらの開口はボイラーの床から約3フィート上にある。ボイラーのサイズに応じて、典型的には各側部に10~40個以上のポートが配列される。これは、チャーベットの周縁をベッドの中央より低いレベルに維持することによって、床の周縁におけるスメルトの排出を促進するために行われた。チャーベッドがボイラーの中央に蓄積されると、追加された重量によってベッドは圧縮され、スメルトの排出がより困難になり、またベッドの重量によってスメルトが壁に向かって変位する。ごく初期の回収ボイラーは、ある1つの高さの複数の空気ポートを有していたが、長年にわたって追加の複数のレベルが追加され、現在の回収ボイラーは一般に3~6つの高さの空気注入を有し、各レベルには複数のポートが、ボイラー内での良好な燃焼を促進するための様々な構成で存在する。最も低いポートのレベルは一次レベルと呼ばれ、これは、ボイラーの4つ全ての壁の周りの、間隔が小さい一連の燃焼空気ポートからなり、これらは垂直方向には床から約3フィート上の略均等な間隔である。1つ上のレベルは伝統的に二次レベルと呼ばれているが、一部の古いボイラーでは高所一次(high primary)レベルと呼ばれていた。開始バーナーポートはこのレベルに含まれていることが多い。最新の回収ボイラーの空気システムは、2つ以上のレベルの二次空気ポートを有する場合があり、二次ポートであることを定義する特徴は、一次ポートより上方、かつ液噴霧ポートより下方であることである。1~3つ以上のレベルの三次燃焼空気ポートが液噴霧ポートより上方で一般に使用され、最も上のレベルは四次レベルと呼ばれることもある。ロードバーナーポートも液噴霧レベルより上方に存在することがあり、ここにはガス又は石油燃焼バーナーが配置され、必要な場合に蒸気化速度を上昇させる。燃焼空気ポートの多数の配置が長年にわたって使用されており、回収ボイラーの改良された燃焼システムに関して近年、特許文献1~6を含む多数の特許が発行されている。これらのシステム全てが共通して有する1つの特徴は、ボイラーの少なくとも2つの対向する壁上の、間隔が小さい(6~15インチ離れた)一次空気ポートである。
【0006】
伝統的に、一次空気ポートの役割は、ボイラーの周縁の周りにおけるスメルトの排出を促進するために、チャーベッドの周縁を比較的低いレベルに制御することであった。二次空気システムは、チャーベッドの上部を制御して良好な燃焼を促進することを意図したものであり、一般に、良好な通過及び混合のために、燃焼空気ポートの個数を少なく、かつ大型にして設計されている。二次燃焼空気ポートは典型的には、2つの壁又は4つ全ての壁上に配置される。三次及び四次空気ポートは一般に、ボイラーの2つの対向する壁上に配置され、燃焼の完了、及び望ましくない放出の最小化を助ける。
【0007】
炉の底では、ボイラーからスメルト吐出口を通してスメルトを排出するために、床の高さにおいて壁のうちの1つ又は2つに開口が作製される。ほとんどのスメルトはチャーベッドで生成され、一部は壁上で生成され、また一部は浮遊状態で生成されてチャーベッドに落下するか、キャリーオーバーとして運ばれて炉の上部から出る。回収されたスメルトは溶解タンクに流れ込み、そこで緑液へと希釈されてパルプミルに戻され、蒸煮装置に必要な苛性化学物質へと再構築される。スメルト吐出口に到達するためには、スメルトはチャーベッドを通って浸透する必要があり、また伝統的に、スメルトの大半が、一次ポートの下方の床の周縁の周りを流れる。これはチャーベッドがそこで最も浅くなるためである。スメルトは非常に高温であり、スメルトが流れている床に熱流束を生成し、上述のようにこれは大半が周縁の周りである。また、放射が炉内での主要な熱伝達現象であると考えられていることにも言及されている。放射熱伝達は、エンクロージャのいわゆる形状因子の影響を受ける。長方形の平面形状を有する回収ボイラーに関しては、これは、ボイラーの隅が受ける放射熱が壁の中央に比べて大幅に少ないことを意味する。床及び壁を備えるチューブは、壁に対する放射熱流束によって推進される自然循環システムの一部を形成することも記述されている。隅の熱流束が少ないことを考慮すると、ボイラーの壁に隣接して延在する床チューブを通る循環水も少なくなり、従ってこれらの床チューブは、スメルトの流れからの熱流束がより多いにもかかわらず冷却水の流れが少ないため、過熱状態になりやすい。
【0008】
伝統的な一次空気システムの別の問題は、これらが、良好な燃焼、及びチャーベッド全体の安定性を促進しない点である。一次空気ポートの底又はそれより下方の周縁の周りではチャーベッドは平坦になるのが極めて一般的であり、壁から約2~3フィート前でベッドは1つ以上のマウンドに向かって上向きに傾斜する。マウンドは、アリ塚のように局在化されていても、一連の小さな丘のようにより広がっていてもよい。チャーベッドの形状は、一次及び二次空気流と液の噴霧との間の相互作用によって決定される。いずれの場合においても、高いスループット及び低い排出量でのボイラーの一貫した動作を促進するためには、安定したチャーベッドが極めて望ましい。チャーベッドの一般的な問題は、側部が傾斜したマウンドが、不安定になって崩壊するまで成長することになる点である。マウンドが含有する燃料は遮蔽されているものの、マウンドが崩壊すると、マウンドは突如として追加の燃料を放出する。それにもかかわらず燃焼空気システムはこれに応答する手段を備えず(燃焼空気システムはある程度の定常状態で動作し)、従って揮発分が完全に消費されず、排出スパイクが発生し得る。不安定なチャーベッドの別の潜在的問題は、マウンドが崩壊して一次ポートを遮断した場合であり、これはブラックアウト状態を引き起こす。これは空気流を遮断して燃焼の問題を引き起こすものであり、清掃が不可欠であり、オペレータにとって多大な作業を発生させる。一次空気の主要な役割は、チャーベッドの周縁を制御することであり、これは多くの場合、良好な燃焼に必要な空気より多くの空気を供給することを意味する。一次レベルにおけるボイラーの周縁の周りの燃料対空気の比率は通常、非常に偏っており、空気はボイラーに入った後、チャーベッドによって上向きに偏向され、そこで二次空気ジェットを阻害し、炉内のガスのバルク上昇速度を増大させ、これが望ましくないキャリーオーバーを増大させて、炉内での燃焼をより高く押し上げる。ボイラー内の燃焼を低くすることは、壁への熱放出を改善して水の循環を増大させるために望ましく、より安定したチャーベッドを促進して、ナトリウムフュームの生成を増大させ、還元効率を改善する。
【0009】
過去25年にわたって、回収ボイラーの燃焼の改善のために多くの研究が行われてきたが、一次空気システムの完全な再考及び近代化は全く受け入れられてこなかった。現在の技術水準では、回収ボイラーが、間隔が小さい多数の一次ポートを有することが神聖視されている。以下に記載される方法及び装置は、現状の本質的欠陥に対する最終的な対処を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,742,463号
【特許文献2】米国特許第6,932,000号
【特許文献3】米国特許第7,069,866号
【特許文献4】米国特許第7,185,594号
【特許文献5】米国特許第7,207,280号
【特許文献6】米国特許第7,694,637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、回収ボイラーの改良のための方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
化学物質回収ボイラーは、吐出口付き壁に対向する壁に一次燃焼空気ポートを含まない。いくつかの実施形態では、上記ボイラーは、吐出口付き壁に隣接する2つの壁それぞれに、少なくとも2つ、ただし7つ以下の一次ポートを含む。
【0013】
以上は、以下の「発明を実施するための形態」をよりよく理解できるように、本発明の特徴及び技術的利点をかなり大まかに概説したものである。本発明の更なる特徴及び利点をこれ以降に説明する。開示される概念及び具体的実施形態は、本発明の同じ目的を実行するための、修正又は他の構造の設計のための基礎として、容易に利用できることを、当業者には理解されたい。また、このような同等の構造は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の精神及び範囲から逸脱するものではないことを、当業者には理解されたい。
【0014】
本発明及びその利点のより完全な理解のために、これより、添付の図面と併せて以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は回収ボイラーの側面図であり、ここではチューブ及びパイプは単線として示されている。
【
図2】
図2は、線A‐Aに沿って見た場合の、
図1のボイラーの部分正面図である。
【
図3】
図3は、一次ポートのレベルにおける
図1のボイラーの断面図であり、断面は切断線B‐Bに沿って得られたものであり、第1の一次ポート構成を示す。
【
図4】
図4は、異なる一次ポート構成を示す、一次ポートのレベルにおいて線B‐Bに沿って得られた
図1のボイラーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に記載の原理は、新規の化学物質回収ボイラーの構築、及び/又は既存の化学物質回収ボイラーの改造に使用できる。以下の説明は、化学物質回収ボイラーを対象とし、またこれに伴って必然的に、改良された化学物質回収ボイラーの作製及び操作の方法を対象とする。
【0017】
以下の説明は、添付の図面中の特徴部分を参照し、添付の図面中ではこれらの特徴部分は同様の番号で識別される。
図1は回収ボイラーの側面図であり、ここではチューブ及びパイプは単線として図示されている。
図2は、切断線A‐Aによって特定される、同じボイラーの部分正面図である。
図3は、第1の一次ポート構成を示す、切断線B‐Bによって特定される一次ポートレベルにおける
図1のボイラーの平面図であり、
図4もまた断面
図B‐Bを示すものの、これは第2の一次ポート構成を示す。
【0018】
図1及び2を参照すると、回収ボイラー1は、蒸気ドラム2及び水ドラム3を用いた、旧式の2ドラムタイプである。ボイラーの壁及び床は、間隔が小さいチューブ33で構成され、これらは垂直方向の平行な配列であり、一体に漏れ止め溶接されて気密エンクロージャが作製される。チューブの壁は、チューブ間のピッチが均一となるように構築される。ボイラー給水は蒸気ドラム2に供給され、一部が発電バンク5の背面チューブ4を水ドラム3へと流れ落ち、クロススクリーン7、過熱器8~11、発電バンク5、及びエコノマイザー12を通過した燃焼排ガス6から熱を回収する。燃焼排ガス6は発電バンク5への流入口において比較的高温であるため、前面チューブ13内の水は、背面チューブ4内の水よりも多くの熱を吸収し、蒸気ドラム2と水ドラム3との間に自然循環が形成される。
【0019】
水ドラム3内の水の一部はヘッダー15~18に向かって下降管14を流れ落ちる。ヘッダー15内の水は、床19を通って後壁20を昇り、ブルノーズ21を通って、水ドラム3へと戻るように流れる。同様に、ヘッダー16内の水は、床22を通り、前壁23を昇り、屋根側チューブ24を通って、蒸気ドラム2へと戻るように流れる。側壁ヘッダー17及び18はそれぞれ側壁25及び26への供給を行い、上部のヘッダー(図示せず)によって解放されて蒸気ドラム2へと戻る。燃焼燃料からの放射熱は壁20、23、25、及び26によって吸収されて蒸気を生成し、自然循環システムを構成する。
【0020】
強制通風燃焼空気は、一次ポート28、一次空気ポート29、二次ポート38、三次ポート39、及び存在する場合は四次ポート40を通して供給される。現在稼働している大半の化学物質回収ボイラーは、ボイラーの1つの壁にスメルト吐出口を有するが、一部の旧式の燃焼工学ユニットは、2つの対向する壁からスメルトを排出する。本明細書に記載の装置は、スメルトを1つの壁から排出するボイラーに特に好適であるが、スメルトを2つの壁から排出するボイラーでも使用できる。スメルト吐出口27は、ボイラーの床のレベル又はそれよりわずかに上方にあるが、吐出口付き壁一次ポート28及び一次空気ポート29は数フィート高い。ボイラーの周縁の周りでは、チャーベッド30は一次ポートの下方にあるものの、依然として吐出用開口31の高さより上にある。吐出口27では、流動しているスメルト32が、チャーベッドを比較的低い位置に維持する傾向を有するものの、溶融したスメルトを吐出口で自由に移動させ続けるのは、依然として問題となり得る。溶融したスメルトは溶解タンク34内へと落下し、そこで再使用できる緑液となる。
【0021】
従って、いくつかの一次ポート28をスメルト吐出口の直近で動作させる必要があり、好ましくは1~10個のポート、より好ましくは2~8個のポート、最も好ましくは3~5個のポートが各吐出口に対してセンタリングされる。これらのポートは、吐出口付き壁(この場合は前壁23)上の従来の一次ポートと同様にサイズ設定及び配置され、実際に、ボイラーが本開示に従って修正されている場合には、再利用ポートとすることができる。吐出口付き壁(前壁23)上には、各吐出口にいくつかの一次ポートのみが開いている。(シングル吐出口壁ボイラーにおける)吐出口に対向する壁(この場合は後壁20)上には、従来の一次ポートは不要である。好ましくは、吐出口付き壁に対向する壁上の空気ポートの面積は、ゼロであるか、又は吐出口付き壁上のポートの面積の50%未満、25%未満、10%未満、5%未満、若しくは1%未満である。ボイラーが本開示に従って修正されている場合、既存のポートは耐火性材料若しくは他の何らかの手段で遮断されていてよく、又は元々は開口を形成するために曲げられていたポートチューブを、真っ直ぐなチューブに置き換えることができる。吐出口付き壁に隣接する(直交する)2つの壁(この場合は側壁25及び26)上には、従来の一次ポートは存在しない。その代わりに、従来の一次ポートより大幅に大きな燃焼空気ポート29が存在する。他方の壁と同様に、ボイラーを修正して本開示を組み込む場合、既存の一次ポートは遮断されるか、真っ直ぐなチューブに置き換えられるか、又は新規の更に大きなポート開口を形成する新規の曲げられたチューブに置き換えられる。いくつかの実施形態では、吐出口付き壁に隣接する(直交する)2つの壁上の一次空気ポートは、吐出口付き壁上の空気ポートによって一次空気ポート面積の80%超を提供し、吐出口付き壁に対向する壁は一次空気ポート面積の20%未満を提供する。いくつかの実施形態では、吐出口付き壁に隣接する(直交する)2つの壁上の一次空気ポートは、吐出口付き壁上の空気ポートによって一次空気ポート面積の90%超を提供し、吐出口付き壁に対向する壁は一次空気ポート面積の10%未満を提供する。いくつかの実施形態では、吐出口付き壁に隣接する(直交する)2つの壁上の一次空気ポートは、吐出口付き壁上の空気ポートによって一次空気ポート面積の95%超を提供し、吐出口付き壁に対向する壁は一次空気ポート面積の5%未満を提供する。
【0022】
回収ボイラー上の従来の一次ポートは典型的には、幅1インチ×高さ6インチ~幅2インチ×高さ11インチである。上限は、2.5インチ×15インチである。本開示の一部としての新規のポートは、元々の一次ポートに比べて個数が少なく、はるかに大きなものとなる。例えば、回収ボイラー上の一次ポートが幅1.5インチ×高さ8インチである場合、ボイラー上にはこのようなポートが80個存在し、合計一次ポート面積は、1.5×8×80=960平方インチとなる。本発明の実装によって、上記一次ポートのうちの90%を置き換えることができ、これは合計864平方インチである。8個の新規のポートをその所定の位置に設置する場合、各ポートは108平方インチの面積を有することになる。この場合、これら新規のポートは、幅6インチ×高さ18インチとなり得る。実際の寸法は、各システムの実用上の要件に応じてこの例から変化し得る。
【0023】
本開示に従って改造された回収ボイラーの一次空気ポートの総面積は、改造前の回収ボイラーの空気ポートの面積とおおよそ同一となり得る。例えば、本開示による回収ボイラーの一次空気ポートの総面積は、改造前の回収ボイラーの空気ポートの面積のプラス若しくはマイナス40%以内、プラス若しくはマイナス30%以内、プラス若しくはマイナス20%以内、プラス若しくはマイナス10%以内、又はプラス若しくはマイナス5%以内となり得る。
【0024】
図3を参照すると、これら2つの壁上の一次ポート29の個数は、ボイラーのサイズ、及びポート間の最適な間隔によって規定される。上記最適な間隔は、小型ボイラーではわずか3フィート、大型ボイラーでは最大7フィートであってよい。空気ジェットはボイラーを通って流れる際に膨張するため、大型ボイラーでは空気ジェットはより遠くまで移動してより大きく膨張し、隣接する又は対向する空気ジェットとの干渉を回避するために、より離れた位置で始める必要がある。一次空気ポート間の最小の水平方向間隔は、ボイラーのチューブのピッチ又は他の特徴に一致するように調整された式1:S=0.13*Wによって得られ、ここでSはポート間の公称水平方向間隔であり、Wは空気ジェットの方向に対して平行なボイラーの平面寸法であるが、これはいかなる場合においても3フィート以上である必要がある。寸法Wは、一方の壁の中線から対向する壁の中線までである。Dは、Wに対して垂直なボイラーの寸法である。正方形のボイラーの吐出口付き壁23に隣接する対向する壁25及び26上の一次ポートの最大個数は、ボイラーの1辺が49フィートを超えない限り7個であり、49フィートを超える場合には、S<7フィートを維持するために追加のポートが加えられる。長方形のボイラーでは、吐出口付き壁23に隣接する対向する壁25及び26上の一次ポートの最大個数は、壁25及び26が壁20及び23より長いと仮定した場合に7個を超えてよい。なお、正方形(square)は長方形(rectangle)の一種であり、本発明者らの目的に関しては、正方形のボイラーは、長辺が短辺より3フィート未満だけ長いいずれのボイラーである。これらの関係は、空気ジェットの方向が、空気ジェットの起点となる壁に対して直交することを前提とする。全ての一次空気ポートは、ボイラー上の他の特徴によるばらつきを許容するよう、+/-0.25*Sで均等に離間している。間隔L1は、吐出口付き壁23から、隣接する壁25及び26上の最初の一次空気ポートまでの距離であり、間隔L2は、壁25及び26上の最後の一次空気ポートから、吐出口付き壁に対向する壁20までの距離である。一般にL1=L2であるが、これは、ボイラーのジオメトリ又は他の特徴に対応するために+/-0.25*Sだけ変動し得る。L1及びL2は0.75*S未満であってはならない。というのは、壁のそばを流れる空気ジェットによって生成される低圧ゾーンによって、空気ジェットが隣接する壁に対して吸引され得るためである。
【0025】
本明細書に記載の装置の一次空気ポートの個数が従来のボイラーよりも少ないことを考慮すると、一次空気ポートがより大きくなければならない。これは、化学量論的要件を満たすために必要な燃焼空気を提供するだけでなく、空気ジェットあたりの体積流量をより多く提供し、これによりチャーベッドにわたる空気ジェットの通過が改善される。本明細書に記載の装置の実施形態の一部の特徴は、個数が少ないものの大きな一次空気ポートが、より強力な空気ジェットを生成し、これがボイラーを横切って通過して、安定したチャーベッドを維持するために必要な燃焼空気及び物理的撹拌を提供することである。典型的には、燃焼空気全体の約20~40%が一次空気ポートから入る。ボイラーの容量を把握すると、燃焼空気に関する化学量論的要件を決定でき、また以下の等式を用いて必要な一次空気ポート面積を決定できる。空気ジェットの速度を決定するために一般に使用される式は、式2:V=67.3*((Pd)*(T/527))^0.5として与えられ、ここでVはフィート/秒を単位とするジェットの速度であり、Pdはインチ水柱を単位とする、ポートにわたる差圧であり、Tはランキン度を単位とする燃焼空気の温度である。各ポート開口の面積を決定するための式は、式3:Aip=((Q*X)/(V*Cfl*Cfo-Asp))/2Nとして与えられ、ここでAipは個々の一次空気ポートの面積であり、Qはボイラーへの強制通風燃焼空気の総量であり、Xは一次レベルで注入される強制通風燃焼空気の割合であり、Vは空気ジェットの速度であり、Cflは流量係数であり、Cfoはポート開口の汚損の係数(回収ボイラーのポート開口は、チャー、及び黒液由来の凍結したスメルトによって汚損される傾向がある)であり、Aspは、吐出口付き壁上の一次ポートの合計面積であり、Nは一次空気ポートの総数である。影響を与える変数は他にも存在する。例えばポートのうちのいくつかは、異なる速度若しくは流量で動作する場合があり、又はポート開口の有効面積を調整するポートダンパーを備える場合がある。これに応じて、ポート開口の固定面積を調整する必要がある。
【0026】
第1の実施形態は、最も低い位置の強制通風空気ポートと一般に考えられる、一次ポートに関する。更に本発明者らは一次ポートを、底がボイラーの床の上方5フィート以下であるものとして定義でき、同じ壁の上には、それより低い位置の強制通風空気ポートは、床の傾斜に従って階段状になっているものを除いて、存在しない。
図1及び2を参照すると、吐出口付き壁23上の一次ポート28は、スメルト吐出口27をチャーベッド30から保護するために適した高さに配置されることになる。側壁25及び26上では、一次空気ポート29は、所望の深さのチャーベッド30を提供するような高さに配置されることになる。本明細書に記載の装置の一次ポートは一般に全て同一の高さにあるが、必ずしもそうでなくてよく、高さは上述の定義の文脈内でポートごと又は壁ごとに変化してよい。いくつかのボイラーは傾斜した床を有し、その場合、複数のポートは床から上方の同一距離にあるものの同じ高さにはない場合がある。この第1の実施形態では、一次空気ポート29は、吐出口付き壁23に隣接する2つの対向する壁25及び26上に配置され、全てのポートは、対向する壁上に開き、対向するポートとチューブのピッチでプラス又はマイナス3個分以内に位置合わせされた、対応するポートを有する。各壁上のポート開口の数は同一であり、最小間隔は式1によって決定される。一次空気ポートの最小個数は、ボイラーが長方形でない限り、各壁25及び26上において2個であり、最大値は7個である。壁25及び26が壁20及び23よりも3フィート以上長い長方形ボイラーに関しては、ポート29の個数を、追加の長さSごとに1個ずつ増やすことができる。各ポート開口は、ポート面積、又はポートの圧力、又はこれら両方を変化させることによって、該ポートを通る空気流を制御するための手段を備える。本発明者らの目的に関しては、用語「空気流(air flow)」は、空気ジェットの体積流量、質量流量、及び/又は速度を含む。本明細書に記載の装置では、ポートを通る空気流は所定の基準に基づいて自動的に変動して、ボイラー内の空気流及び燃焼特性を変化させ、チャーベッドの積極的な制御を提供する。例えば
図3を参照すると、壁25上の第1のポートは、壁26上にある真向かいのポートが部分流量に設定されている間は全流量に設定されていてよく、壁25上の第2のポートは、壁26上にある真向かいのポートが全流量に設定されている間は部分流量に設定され、これ以降同様にして壁を下がってゆく。これにより、チャーベッドにわたって、弱いジェット36と交互になった強いジェット35が生成される。1~20分の範囲内で周期的に、この構成は自動的に反転し、これにより強いジェットは弱いジェットとなり、弱いジェットは強いジェットとなる。この構成の目的は、チャーベッドの上部を制御するためにボイラーを横切って通過するものの、対向する壁に対してチャーベッドが積み重なるのを防止するため、並びに対向するポート開口に黒液、スメルト、及びチャーが吹き込まれるのを防止するために、弱いジェットによって対抗される、強いジェットを提供することである。空気ジェットは等しくない強さを有するため、接触点はボイラー上の中央ではない。空気ジェットが接触する場所において、空気ジェットは互いを上向きに偏向させる傾向がある。接触点を互い違いにすることによって、燃料、空気、及び燃焼をボイラー内で押し上げる、既に説明されているように有害な、炉内の高い垂直方向速度のコアの形成が防止される。式2は、差圧とその結果として得られるジェットの速度との間の平方根の関係を記述するものである。ジェットの速度を圧力に基づいて制御する場合、これは、大きくない速度の差を得るためには差圧に大きな差が必要となることを意味する。例えば、空気ジェットの速度を2倍にするには、差圧を4倍にしなければならない。強ジェット/弱ジェット構成を使用する場合、各ポート開口の必要な面積を決定する際には、弱いジェットによる低い流量を考慮しなければならない。
【0027】
図4を参照する第2の実施形態は、吐出口付き壁23に隣接した対向する壁25及び26上に、互い違いになるように配置された、一次空気ポートを有する。この場合、ポート間の最小間隔は、式4:Si=0.26*Wに従い、各壁25及び26上のポート29の最大最適個数は、正方形ボイラーについて3個である。壁25及び26が壁20及び23よりも3フィート以上長い長方形ボイラーに関しては、ポート29の個数を、追加の長さSiごとに1個ずつ増やすことができる。壁25上の第1のポートから壁20までの公称距離L3は0.37*Si以上でなければならず、壁26上の第1のポートから壁20までの公称距離L4はL3+Si/2でなければならない。これは、空気ジェットをボイラーにわたって均等に離間させ、各ジェットは、対向する壁上の2つのジェットの間、又は垂直な壁と、対向する壁からの1つの空気ジェットとの間に、互い違いになるように配置される。この実施形態は、必要なポート開口が少ないため低コストであるという利点を有し、また、空気ジェット間の衝突が回避されるため、空気ジェットはボイラー全体を通過でき、ボイラー内での上昇気流が更に削減される。しかしながら、空気ジェットに対抗するものが存在しない場合、チャーベッドは対向する壁に対して、問題となり得る高さまで積み重なる可能性がある。空気ジェットはチャーベッド上を移動する際、上向き(全ての空気の最終的な方向)に曲がる傾向を有し、チャーベッドを積極的に制御する能力が低減される。この実施形態は、空気ジェットの周期的な反転が必要ないため、設計及び操作が簡単であるという利点を有する。
【0028】
第3の実施形態は、一次空気ポートが提供する、下部炉内での積極的なチャーベッドの制御及び燃焼の改善を利用する。大半の黒液回収ボイラーでは、強制通風燃焼空気の大半が液噴霧ノズルの下方に注入される。これは燃料の燃焼に空気が必要であることによる実用上の理由によるものであるが、燃焼空気及び燃焼の気体産物をどこかへ移動させる必要があり、炉内ではこの方向は上方である。強ジェット/弱ジェット構成を形成する、又は空気ジェットを互い違いになるように配置することによって、強い局所的な上昇気流を最小限に抑え、燃料の滴に対する上向きの圧力が低下する。これらの構成は、二次、三次、及び四次空気レベルにおいて長年使用されてきたが、多数の従来の一次ポートがスメルトの排出及びチャーベッドの制御のために必要であると想定されていたため、一次空気レベルではこれまで使用されていなかった。一次強制通風空気流は典型的には空気流全体の約30%を占め、二次空気流は約40%を占める。強ジェット/弱ジェット構成を用いること、又は二次空気ジェットを互い違いになるように配置することは、一次空気(下部炉内の燃焼空気の略半分)が関与せず、実際には燃焼を妨害している場合であっても、下部炉内の燃焼の改善に有効であることが証明されている。一次空気を、より大きくより強力な空気ジェットを使用する、最適に配設された、積極的な混合及びチャーベッド制御システムに組み込むことによって、下部炉内での燃焼は、二次レベルのみで可能なものをはるかに超えて増強される。これにより、より多くの燃料をチャーベッドへと押し込む機会が生まれ、ベッドに着地する燃料が増えることは、浮遊状態で燃焼する燃料が減少し、キャリーオーバーが減少することを意味する。キャリーオーバーが減少することは、ボイラーが、清掃と清掃との間により長く稼働できること、及び/若しくはスートの吹き飛ばしのためにより少量の蒸気しか使用しないこと、又は多くのミルにとって重要なことに、ボイラーがより高い負荷率で稼働でき、ミルの生産性を高めることができることを意味する。
図1を参照すると、現在の技術水準では、1つ以上の黒液スプレーノズル36をボイラーの1つ以上の壁上に配置できるが、これらは常に同じ高さにある。本発明者らの目的のために、本発明者らはこれを「操作レベル(operating level)」と呼ぶ。それは、オペレータが典型的には該レベルからボイラーを制御するためである。本実施形態は、1つ以上の下部黒液スプレーノズル37を、上記操作レベルより低いものの一次ポートの高さの少なくとも2フィートだけ上、かつボイラーの底部から12フィート以下だけ上、そして好ましくは二次空気の注入位置より下に組み込む。比較的低い高さにおいて液を噴霧することにより、燃料が受ける上昇気流が少なくなるため、キャリーオーバーが減少し、燃料はこの燃料が属する下部炉内で燃焼する。これは、極めて強力な一次空気システムを用いなければ実施できない。
【0029】
これらの実施形態の複数のバージョンを使用できる。例えば、上述の配置のうちのいずれを、説明したもの又は図面に図示したものに対する鏡像として実装でき;実施形態は、2つの対向する壁からスメルトを吐出する、スメルト吐出口付き壁に隣接する壁上にポートを備えるボイラーで実装でき;ポートをスメルト吐出口付き壁(又は複数の壁)及び反対側の壁の上に配置でき;一方の壁には偶数個、反対側の壁には奇数個の一次空気ポートを配置でき;一次空気ポートを長方形ボイラーの短い方の壁上に配置できる。したがって、本発明の精神から逸脱することなく、多数の構成及び変形を実装できることが分かる。
【0030】
いくつかの実施形態は、スメルト吐出口付き壁、上記スメルト吐出口付き壁に対向する壁、及び上記スメルト吐出口付き壁と上記スメルト吐出口付き壁に対向する上記壁との間の2つの側壁を含む、化学物質回収ボイラーの性能を改善する方法を提供し、上記方法は、各スメルト吐出口の付近の2~8個のポートのみが開くように、上記スメルト吐出口付き壁上の複数の一次空気ポート開口を遮断するステップ;上記スメルト吐出口付き壁に対向する上記壁上の、基本的に全ての一次空気ポート開口を遮断するステップ;及び少なくとも2個、ただし7個以下の一次側壁空気ポートを、上記2つの側壁それぞれに設けるステップを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、上記方法は、既存の化学物質回収ボイラーを改造するステップを含み、上記2つの側壁それぞれの上の、少なくとも2個、ただし7個以下の上記一次ポートの合計開口面積は、改造される元の化学物質回収ボイラーの一次空気ポートの80%~120%である。
【0032】
いくつかの実施形態では、上記スメルト吐出口付き壁に対向する上記壁上の、基本的に全ての一次空気ポート開口を遮断する上記ステップは、上記スメルト吐出口付き壁に対向する上記壁上の上記一次空気ポート開口の合計開口面積が、上記2つの側壁それぞれの上の、少なくとも2個、ただし7個以下の上記一次側壁空気ポートの合計面積の5%未満を含むように、上記スメルト吐出口付き壁に対向する上記壁上の一次空気ポート開口を遮断するステップを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、上記側壁一次空気ポートのうちの少なくとも1つの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度は、少なくとも1つの第2の一次側壁空気ポートの体積流量及び/又は質量流量及び/又は速度より、少なくとも25%大きく又は小さくなるように調整され、上記少なくとも1つの第2の一次側壁空気ポートは、第1の側壁一次ポートのチューブのピッチでプラス又はマイナス3個分の位置に対向して、上記ポート間に強ジェット/弱ジェットの関係を形成する。
【0034】
いくつかの実施形態では、上記側壁空気ポート間の上記強ジェット/弱ジェットの関係は、周期的かつ自動的に反転される。
【0035】
いくつかの実施形態では、上記強ジェット/弱ジェットの関係は、上記ボイラーの上記2つの側壁のうちの一方に沿って、ポートごとに順次交互になっている。
【0036】
いくつかの実施形態は、化学物質回収ボイラーを操作する方法を提供し、上記方法は:スメルト吐出口の付近に位置決めされた一次スメルト吐出口空気ポートを通して、空気を注入することにより、上記スメルト吐出口においてスメルト流を維持するステップであって、上記一次スメルト吐出口空気ポートは、ある合計一次吐出口空気ポート開口面積を有する、ステップ;及び吐出口付き壁と交差する2つの側壁それぞれの上の2~8個の側壁一次空気ポートを通して、一次空気を注入するステップであって、上記2~8個の側壁一次空気ポートは、ある合計一次側壁空気ポート開口面積を有し、上記合計一次側壁空気ポート開口面積は、合計一次空気ポート開口面積の80%超を含む、ステップを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、炉に注入される一次空気の合計必要量は、化学量論によって決定され、上記炉に注入される一次空気の上記合計必要量の少なくとも80%が、上記側壁一次空気ポートを通して注入される。
【0038】
いくつかの実施形態では、上記一次空気の10%未満が、上記スメルト吐出口付き壁に対向する壁上の一次空気ポートを通して注入される。
【0039】
いくつかの実施形態では、上記吐出口付き壁に対向する上記壁上の空気ポートを通しては、一次空気は注入されない。
【0040】
いくつかの実施形態では、上記一次空気の10%未満が、スメルト吐出口空気ポートを通して注入される。
【0041】
本発明及びその利点について詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換、及び改変を行うことができることを理解されたい。更に、本出願の範囲は、本明細書に記載のプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。当業者であれば本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載の対応する実施形態と略同一の機能を実施する、又は略同一の結果を達成する、現在存在する、又は将来開発されるはずの、プロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、又はステップを、本発明に従って利用してよい。従って、添付の特許請求の範囲は、このようなプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、及びステップをその範囲内に含むことを意図している。
【国際調査報告】