(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】RASタンパク質を標的化する分子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20230411BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230411BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230411BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550695
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(85)【翻訳文提出日】2022-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2021054125
(87)【国際公開番号】W WO2021165456
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522331253
【氏名又は名称】エイリン・セラピューティクス
(71)【出願人】
【識別番号】514185600
【氏名又は名称】ブイアイビー ブイゼットダブリュ
【氏名又は名称原語表記】VIB VZW
【住所又は居所原語表記】Rijvisschestraat 120, B-9052 Gent, Belgium
(71)【出願人】
【識別番号】512320560
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】クラース,フィリップ・マリア・ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】シムコウィッツ,ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】ルソー,フレデリック
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA28
4H045FA20
4H045FA74
4H045GA25
(57)【要約】
本発明の態様は、分子間ベータシートを、ヒトRASタンパク質と形成するように構成された天然に存在しない分子、加えて、その治療的適用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子間ベータシートを、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)のβ凝集傾向性領域(APR)と形成するように構成された天然に存在しない分子。
【請求項2】
RASタンパク質が、KRAS、NRAS、またはHRASタンパク質、好ましくはKRASタンパク質である、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
RASタンパク質が、変異型RASタンパク質、好ましくはG12位、G13位、またはQ61位で、より好ましくはG12位で突然変異したRASタンパク質である、請求項1または2に記載の分子。
【請求項4】
RASタンパク質が、G12V変異型RASタンパク質である、請求項3に記載の分子。
【請求項5】
分子間ベータシートが、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)の少なくとも6個の連続したアミノ酸を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の分子。
【請求項6】
分子間ベータシートが、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列LCVFAI(配列番号76)を含む、請求項5に記載の分子。
【請求項7】
ヒトRASタンパク質の溶解性を減少させるか、またはそれの凝集もしくは封入体形成を誘導することができる、請求項1~6のいずれか一項に記載の分子。
【請求項8】
分子間ベータシートに関与するアミノ酸ストレッチを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の分子。
【請求項9】
アミノ酸ストレッチが、アミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)またはGFLSVFAIN(配列番号45)の少なくとも6個の連続したアミノ酸を含む、請求項8に記載の分子。
【請求項10】
アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)、FLSVFAI(配列番号46)、GFLSVFAI(配列番号47)、LSVFAIN(配列番号48)、FLSVFAIN(配列番号49)、またはGFLSVFAIN(配列番号50)を含む、請求項8または9に記載の分子。
【請求項11】
アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の分子。
【請求項12】
アミノ酸ストレッチが、1個または複数のD-アミノ酸および/またはそれのアミノ酸のうちの1個または複数の類似体を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の分子。
【請求項13】
同一または異なる、2つまたはそれ以上の、好ましくは2つの前記アミノ酸ストレッチを含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の分子。
【請求項14】
1つまたは複数のアミノ酸ストレッチが、それぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸と、各末端に独立して隣接している、請求項8~13のいずれか一項に記載の分子。
【請求項15】
以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
P1~P4がそれぞれ独立して、請求項8~12のいずれか一項で定義されるアミノ酸ストレッチを表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続したアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、好ましくは、R、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、より好ましくは、R、K、D、E、およびP、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸を表示し、
Z1~Z3がそれぞれ独立して、直接的結合、または好ましくはリンカーを表示する、請求項8~14のいずれか一項に記載の分子。
【請求項16】
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、R、K、A、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸であり、好ましくは、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、R、K、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸であり、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、K、R、D、A、またはKK、好ましくは、それぞれ独立してK、R、D、またはKKであり;ならびに/または
各リンカーが、独立して、1~10単位の間、好ましくは1~5単位の間のストレッチから選択され、単位が、それぞれ独立して、1個のアミノ酸またはPEGであり、例えば、各リンカーが、独立して、GS、PP、AS、SA、GF、FF、もしくはGSGS(配列番号51)、またはそのD-異性体および/もしくは類似体であり,好ましくは、各リンカーが、独立して、GS、PP、もしくはGSGS(配列番号51)、好ましくはGS、またはそのD-異性体および/もしくは類似体である、請求項15に記載の分子。
【請求項17】
アミノ酸配列KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、前記アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含み、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される、請求項15または16に記載の分子。
【請求項18】
検出可能な標識、前記分子の単離を可能にする部分、前記分子の安定性または半減期を増加させる部分、前記分子の溶解性を増加させる部分、前記分子の細胞取込みを増加させる分子、および/または前記分子の細胞への標的化をもたらす部分を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の分子。
【請求項19】
医薬における使用のための請求項1~18のいずれか一項に記載の分子;または
医薬における使用のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸。
【請求項20】
ヒトRASタンパク質における突然変異、好ましくはヒトRASタンパク質における12位での突然変異、より好ましくはG12V RAS突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の分子;または
ヒトRASタンパク質における突然変異、好ましくはヒトRASタンパク質における12位での突然変異、より好ましくはG12V RAS突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸。
【請求項21】
疾患が、腫瘍性疾患、特にがんである、請求項20に記載の、使用のための分子または核酸。
【請求項22】
疾患が、膵管腺癌、結腸直腸腺癌、多発性骨髄腫、肺腺癌、皮膚黒色腫、子宮体類内膜癌、子宮癌肉腫、甲状腺癌、急性骨髄性白血病、膀胱尿路上皮癌、胃腺癌、子宮頚部腺癌、頭頸部扁平上皮癌、非小細胞肺がん(NSCLC)、または結腸直腸がんである、請求項20または21に記載の、使用のための分子または核酸。
【請求項23】
請求項1~18のいずれか一項に記載の分子;または
請求項1~18のいずれか一項に記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸
を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くには、医学分野においてであり、より具体的には、ヒトRASタンパク質へ方向づけられた分子に関する。開示された分子は、腫瘍性疾患を処置する方法においてなど、治療において特に有用である。本出願はまた、開示された分子を作製および使用するための方法、ならびにその分子を含む組成物を教示する。
【背景技術】
【0002】
RASタンパク質は、低分子GTPアーゼクラスのタンパク質に属し、細胞成長および分裂、分化、ならびに生存などの多様な正常の細胞過程を制御する細胞質シグナル伝達経路に関与する。RAS GTPアーゼは、活性化を促進するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)、およびGTP加水分解を触媒することによりRASを不活性化するGTPアーゼ活性化タンパク質(GAP)の助けを借りて、GDP結合型不活性状態とGTP結合型活性状態との間を循環する。いったん活性化されたならば、RAS-GTPは、別々の触媒機能を有する一連の下流エフェクターと結合し、活性化する。3つのヒトRAS遺伝子(カーステン(Kirsten)ラット肉腫ウイルスがん遺伝子相同体(KRAS)、神経芽細胞腫RASウイルスがん遺伝子相同体(NRAS)、およびハーベイ(Harvey)ラット肉腫ウイルスがん遺伝子相同体(HRAS))は、KRAS転写物のオルタナティブRNAスプライシングから生じる2つのKRASアイソフォーム(KRAS4AおよびKRAS4B)を含む、4つのRASタンパク質をコードする。
【0003】
RAS遺伝子におけるある特定の突然変異は、永久に活性化されたRASタンパク質の産生をもたらし得、それは、入ってくるシグナルがない時でさえも活性細胞内シグナル伝達をもたらし、それが、最終的に、そのような変異型RASタンパク質を発現する細胞の腫瘍性形質転換を生じまたはそれに寄与する。RAS遺伝子における機能獲得型ミスセンス突然変異(130個を超える異なるミスセンス突然変異がRAS遺伝子において報告されている)が、全てのヒトがんの約27%、およびある特定の型のがんにおいて最高90%において見出され、腫瘍惹起および維持を駆動させる最も多く見られるがん遺伝子ではないにせよ、変異型RAS遺伝子を非常によく見られるものと確証している。ヒトがんにおいて、KRASが主に、変異型RASアイソフォーム(85%)であり、一方、HRAS(4%)およびNRAS(11%)はそれほど頻繁には変異していない。さらに、突然変異の98%が、3つのミスセンス突然変異ホットスポット:G12(G12C、G12D、G12S、およびG12V突然変異が、G12において最も頻度の高い突然変異の中に入る)、G13(G13C、G13D、G13R、G13S、およびG13V突然変異が、G13において最も頻度の高い突然変異の中に入る)、およびQ61(Q61H、Q61K、Q61L、およびQ61R突然変異が、Q61において最も頻度の高い突然変異の中に入る)のうちの1つに見出される。伝統的には、変異型RASは、GAP媒介性GTP加水分解において欠陥があり、それが、結果として、細胞における恒常的活性GTP結合型RASの蓄積を生じると考えられている。Hobbsら、J Cell Sci. 2016、129巻、1287~92参照。
【0004】
WO2007/071789A1およびWO2012/123419A1は、目的のタンパク質における対応するβ凝集傾向性領域(APR)に方向づけられ、それと相互作用することができる少なくとも1つのβ凝集性配列を含む、新規にデザインされたペプチドベースの分子(そこでは「インターフェラーズ(interferors)」と呼ばれている)を利用して、目的のタンパク質の標的化下方制御を可能にする技術を記載する。そのようなAPRは、TANGO(Fernandez-Escamillaら、Nat Biotechnol. 2004、22巻1302~6、http://tango.embl.de/)またはZyggregator(Pawarら、J Mol Biol. 2005、350巻、379~92;Tartaglia and Vendruscolo、Chem Soc Rev、2008、37巻、1395~401)などの公表されているアルゴリズムおよびコンピュータプログラムを使用して、タンパク質配列において決定することができる。
【0005】
WO 2007/071789A1およびWO2012/123419A1において、アミノ酸配列にAPRを含む目的のタンパク質と、前記APRに対応するβ凝集性配列を含むインターフェラー分子との間の接触により、前記インターフェラーと前記目的のタンパク質との間に特異的なβシート相互作用および共凝集が起こり、前記目的のタンパク質の可溶性の低下および凝集物または封入体へのそれの隔離、ならびに結果的に、前記目的のタンパク質の生物機能の効果的な下方制御またはノックダウンをもたらすことが提案された。
【発明の概要】
【0006】
実施例1に示されているように、ヒトRASファミリータンパク質(HRAS、NRAS、およびKRAS)の一次アミノ酸配列は、少なくとも5アミノ酸長の、以下の5つの推定β凝集傾向性領域(APR)を含有する:TEYKLVVVGAG(配列番号1)、ALTIQLI(配列番号2)、GFLCVFAIN(配列番号3)、MVLVG(配列番号4)、およびAFYTLV(配列番号5)。
【0007】
本発明者らは今、GFLCVFAIN(配列番号3)RAS APRに対してデザインされた分子(本明細書で「pept-ins」と名付けられた)が、様々な関連したin vitro、in cellulo、およびin vivoのモデルにおいて、変異型RASを含むRASを効果的に標的化して、下方制御し得ることを、説得力を以て実証し、そのようなpept-insを、RAS標的化が望まれる状況における有用な作用物質として確立している。
【0008】
さらに、GFLCVFAIN(配列番号3)RAS APRは、RAS内のミスセンス突然変異ホットスポットのいずれも含まず、したがって、野生型RASと、ホットスポットに突然変異を保有するRASの両方における同一の配列を示すだろう。それゆえに、本発明者らは、このAPRに対してデザインされたpept-insが、突然変異状態とは無関係に等しく全てのRASタンパク質を標的化すると予想した。しかしながら、驚くべきことに、少なくともいくつかの実験モデルにおいて、GFLCVFAIN(配列番号3)RAS APRに対してデザインされたpept-insが、野生型RASまたはG12C RAS突然変異体と比較して、G12V変異型RASを標的化する効力の予想外の増加を示す。これは、そのようなpept-insを、野生型RASへはるかにより低い程度で影響を及ぼしながら、G12V変異型RASタンパク質の生物活性を優先的に下方制御または阻害する潜在能力があると同定し、変異型RAS、特にG12V変異型RASの優先的または特異的な下方制御が望まれる状況、例えば、RAS突然変異、特にG12V RAS突然変異と関連するか、またはそれにより引き起こされる、ある特定のがんを含む疾患において、そのような分子の使用への道を切り開くものである。
【0009】
したがって、態様は、分子間ベータシートを、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)のβ凝集傾向性領域(APR)と形成するように構成された天然に存在しない分子を提供する。分子間ベータシート形成のための、そのような分子の前記APRを標的化する能力は、特に、RASタンパク質、特にG12V変異型RASタンパク質を、下方制御し、その溶解性を減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導するその分子の能力として、例えば、適切なin vitro、細胞培養、またはin vivo設定において、顕在化し得る。
【0010】
さらなる態様は、医薬における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子を提供する。
さらなる態様は、RAS突然変異、例えば、特に、ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子を提供する。
【0011】
関連態様は、処置を必要とする対象を処置するための方法であって、本明細書で教示されているような任意の分子の治療有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0012】
さらなる態様は、本明細書で教示されているような任意の分子を含む医薬組成物を提供する。
本分子が、例えば、ヒトRASにおける標的化されるAPRと非ヒトRASにおける対応するAPRとの間での配列同一性の受け入れられる程度のせいで、非ヒト変異型RAS分子(例えば、他の真核生物、特に酵母、真菌、または動物、より特に動物、さらにより特に温血動物、なおさらにより特に哺乳動物、例えば、家畜、農場用動物、スポーツ用動物、またはペット由来のRAS分子など)を標的化することを可能にする程度まで、本分子もまた、ヒトについて本明細書に記載されているのと同様に、非ヒト動物において使用され得ることは理解されるべきである。したがって、本明細書に企図されているような医療介入および医薬組成物はまた、獣医学的使用のための獣医学的処置および組成物を包含し得る。同様に、本分子は、ヒト細胞または組織においてだけでなく、非ヒト細胞または組織、および非ヒト動物においても、様々なin vitro、in cellulo、またはin vivo適用(例えば、診断、イメージング、細胞または非ヒト動物モデルにおける使用、研究ツール用など)に役立ち得る。
【0013】
したがって、RASを発現する、例えば内因性または外因性に発現する、細胞(例えば、ヒトまたは非ヒト細胞)においてRASの量または生物活性を下方制御するためのin vitro方法であって、本明細書で教示されているようなRAS標的化pept-in、またはそれをコードする核酸分子(ポリペプチドpept-insに利用可能な代替物)と前記細胞を接触させるステップを含む、方法もまた提供される。したがって、RASを発現する、例えば内因性または外因性に発現する、非ヒト生物体においてRASの量または生物活性を下方制御するための方法であって、本明細書で教示されているようなRAS標的化pept-inまたはそれをコードする核酸分子を前記生物体へ投与するステップを含む、方法もまた提供される。
【0014】
本発明のこれらを始めとする態様および好ましい実施形態は、以下のセクションおよび添付の特許請求の範囲に記載されている。添付の特許請求の範囲の主題は、この明細書に具体的に組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)および陰性対照の用量応答およびIC
50の決定を示す図である。pept-inを、接着的に成長している(2D)NCI-H441細胞に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を試験化合物への3日間の曝露の後に評価し、媒体条件に対して正規化した。誤差のバーはSDを表している。
【
図2】懸濁液スフェロイド培養物に対する本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)のIC
50を示す図である。懸濁液スフェロイド培養物に対するRAS標的化pept-inのIC
50の中央値を示す、ウォーターフォールプロット。pept-inを、異なるKRAS突然変異を有する細胞系のセットでのスフェロイド懸濁液培養物に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を、試験化合物への曝露の5日後に評価した。誤差のバーは、該当する場合、中央値のSDを表している。
【
図3】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)についての動的着色凝集アッセイを示す図である。RAS標的化pept-inの凝集挙動を、アミロイド凝集センサー色素であるチオフラビンT(ThT、下部のパネル)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA、上部のパネル)を使用する動的着色アッセイを行うことによって研究した。4つの生物学的に活性なpept-inの全てが、明らかなアミロイド凝集動態を両色素で示し、一方、不活性対照は顕著なThTシグナルを示さず、p-FTAAシグナルのわずかな増大を経時的に示したにすぎなかった。
【
図4-1】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図4-2】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図4-3】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図4-4】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図4-5】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)によるKRAS G12Vのシーディングを示す図である。組換えネイティブKRAS G12Vタンパク質のシーディング実験を、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体(左側のパネル)または超音波処理したシード(右側のパネル)で行った。この目的のために、pept-inを22時間凝集させた。最終段階の試料を組換えKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される。
【
図5】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)の標的選択性を示すin vitroでの翻訳アッセイを示す図である。ビオチン化されたRAS標的化pept-inの存在下で野生型KRASまたは異なる変異型KRASのいずれかを生産するin vitroでの翻訳アッセイ。ストレプトアビジンでのプルダウンを使用して、ビオチン化されたpept-inを翻訳反応物から捕捉し、プルダウンされた画分を、ウェスタンブロットを使用してKRASについて調べた。野生型APRに由来したAPRウィンドウ配列を有する、pept-in 04-004-N001のビオチン化されたバージョン、すなわち、04-004-N011は、突然変異状態とは無関係に、全てのRASタンパク質を標的化することが予想される。04-004-N001での効率的なプルダウンがKRAS野生型のG12VおよびG12Cで実際に見られたが、G12DおよびG13D突然変異体への結合はあまり効率的ではないと思われた。しかし、G12V突然変異部位を含むAPRウィンドウを有する、ビオチン化されたバージョンの生物学的に活性なpept-in(04-006-N007、04-015-N026、および04-033-N003)を使用すると、プルダウンはG12V変異型KRASでのみ見られ、04-015-N026のケースでは、G12C変異型KRASでのみ見られた。
【
図6】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)による標的化エンゲージメントを示す細胞共免疫沈降アッセイを示す図である。ビオチン化されたpept-inの細胞標的化エンゲージメントを、共免疫沈降アッセイを使用して評価した。NCI-H441細胞を25μMのビオチン化されたpept-inで一晩処理し、その後、pept-inを、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を、ウェスタンブロットを使用してKRASについて調べた。このアプローチによって、媒体または陰性対照ペプチドで処理した条件の沈殿画分では検出可能なKRASタンパク質は得られなかったが、KRASタンパク質は、生物学的に活性なpept-inで処理したNCI-H441細胞からの沈殿画分では容易に検出された。
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図7】本発明のある特定の実施形態に従った、mCherry標識されたKRASとFITC標識されたRAS標的化分子(「pept-in」)との間の細胞共局在化を示す図である。mCherryでタグ付けされたKRAS G12Vを過剰発現するHeLa細胞を、FITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-in 04-015-N001(04-015-N032)で処理し、pept-inへの最初の曝露の75分後にイメージングした。FITCおよびmCherryの両方が陽性である封入様核周囲構造の出現によって明らかにされた通り、mCherry標識されたKRASはpept-inと結び付いた(白の矢印)。
【
図8】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)がKRASタンパク質の溶解性および総レベルを低下させることを示す図である。NCI-H441細胞を、およそのIC50用量(12.5μM)およびおよその2×IC50用量(25μM)で24時間処理した。溶解物中の不溶性タンパク質を遠心分離によって回収し、可溶性タンパク質画分および不溶性タンパク質画分の両方を、ウェスタンブロットでKRASについて調べた。この分析は、全ての生物学的に活性なRAS標的化ペプチドが、不溶性画分中のKRASのパーセンテージを用量依存的に増大させ、一方、不溶性KRASのパーセンテージは媒体および陰性対照ペプチドで処理した試料の間で同等であったことを示した(A)。これらの試料における総KRASレベル(すなわち、各処理での可溶性画分および不溶性画分におけるKRASレベルの合計)の定量は、総KRASレベルもまた、生物学的に活性なRAS標的化pept-inで処理した試料において用量依存的に低減することを示した(B)。
【
図9】RASless MEFパネルを使用する、突然変異体選択的な細胞有効性を示す図である。グラフは、内因性のKRAS、HRAS、およびNRASの不在下での、野生型(WT)、変異型G12VもしくはG12C KRAS、またはV600E変異型BRAFのいずれかを発現するRASless MEFのパネルでの、示されたRAS標的化pept-inの有効性を評価する、少なくとも3つの独立した実験から得られた平均±SDおよび個々のアッセイのIC50を示している。
【
図10】本発明のある特定の実施形態に従ったRAS標的化分子(「pept-in」)による標的化エンゲージメントを示す細胞共免疫沈降アッセイを示す図である。ビオチン化されたpept-inの細胞標的化エンゲージメントを、共免疫沈降アッセイを使用して評価した。KRAS野生型または変異型G12Vを発現するRASless MEF。RASless MEFに基づくアッセイにおいて、ブロットは、04-004由来のビオチン化されたpept-inが野生型および変異型G12V KRASの両方を良く沈殿させたことを示している。しかし、ビオチン化されたバージョンのG12V選択的pept-inは、G12V変異型KRASタンパク質への優先的な結合を示している。
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図11-1】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図11-2】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図11-3】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
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図11-4】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図11-5】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図11-6】RAS標的化pept-inでの処理での細胞死およびタンパク質凝集を調べるフローサイトメトリーアッセイを示す図である。NCI-H441肺腺癌細胞を、示されたRAS標的化pept-inおよび対照条件で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、細胞死(Sytox(商標)Blue)およびタンパク質凝集(Amytracker(商標)Red)について染色し、次に、フローサイトメーターで分析した。散布図は、Y軸でSytox Blueの強度を、X軸でAmytracker Redの強度を示している。Hpt:処理後の時間。全てのRAS標的化pept-inでの処理は、Amytracker Redシグナルの増大によって証明されるように、タンパク質凝集を誘導したが、対照条件では誘導されなかった。さらに、凝集のこの増大は、Sytox Blueの、より緩やかな、しかし同時並行の増大によって示されるように、細胞死をもたらすと考えられる。
【
図12】RAS標的化pept-inが、KRAS G12V変異型がんの異種移植モデルにおける腫瘍成長を低減させることを示す図である。ヒトKRAS G12V変異型結腸直腸がんの異種移植モデルであるSW620を使用して、RAS標的化pept-inのin vivo投与が腫瘍成長の低減をもたらすかどうかを評価した。腫瘍が100~150mm
3に達したら、pept-inを、20または200μgのいずれかで、腫瘍内注射によって週に3回投与した。モデルの応答を、100mg/kgのイリノテカンを週に1回、3週間投与した陽性対照群によってモニタリングした。群のサイズは、未処理群ではN=6、媒体群ではN=5、ならびにpept-in群および陽性対照群ではN=8であった。グラフは、処理開始後22日目の腫瘍体積の箱ひげ図を示す。示されたグラフは、一元配置ANOVAによる、04-004-N001(200μg投与群)ならびに04-015-N001(20gおよび200g投与群)での腫瘍体積の有意な低減を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上、明らかにそうでないことが示されない限り、単数形および複数形の両方の目的物を包含する。
【0017】
用語「を含むこと(comprising)」、「を含む(comprises)」、および「で構成される(comprised of)」は、本明細書に使用される場合、「を含むこと(including)」「を含む(includes)」または「含有すること(containing)」「含有する(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンド形式であり、追加の列挙されていないメンバー、要素、または方法ステップを排除しない。この用語は、「からなる」および「から本質的になる」も包含し、それらは、特許用語において十分確立された意味を享有する。とは言え、用語「から本質的になる」に関して、さらなる例示によって、分子が、本質的に構造要素A-B-Cからなると言及される場合、分子は、必ず、列挙された要素を含み、ならびに分子の基本的特性および新規の特性に実質的に影響を及ぼさない列挙されていない構造要素も含むことに対してオープンであろう。したがって、要素A-B-Cが、特に、所定の標的との分子の相互作用または標的に対する作用を促進することによって、分子の作動的部分または原理を形成する場合、用語「から本質的になる」は、分子における要素A-B-Cの存在を確実にするであろうし、標的との分子の相互作用に実質的に影響を及ぼさない列挙されていない要素の存在も許容するであろう。
【0018】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に包含される全ての数および分数ならびに列挙されたエンドポイントを含む。このことは、数値範囲が表現「~から~まで」または表現「~と~との間」または別の表現によって導入されるか否かに関わらず、数値範囲にも当てはまる。
【0019】
用語「約」または「およそ」は、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、期間など、を意味するために本明細書において使用される場合、指定された値からの変動が、開示される本発明において実施するのに適切である限り、指定された値からの変動、例えば、指定された値からその値の+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動など、を包含することが意図される。修飾語「約」または「およそ」が参照する値それ自体も、詳細にそして好ましく開示されることは理解すべきである。
【0020】
用語「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」、例えば、メンバーのグループのうちの1つまたは複数のメンバーまたは少なくとも1つのメンバーなどは、さらなる例示により、それ自体明確であるが、その一方で、この用語は、特に、メンバーのうちの任意の1つ、またはメンバーのうちの任意の2つ以上、例えば、メンバーのうちの任意の≧3、≧4、≧5、≧6、または≧7など、ならびにメンバーの全てまで、に対する参照を包含する。別の例において、「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7、またはそれ以上を意味し得る。
【0021】
本明細書における本発明に対する背景の説明は、本発明の内容を説明するために含まれる。これは、言及される材料のいずれかが、請求項のいずれかの優先日のものとして任意の国において公開されているか、公知であるか、または共通の一般的知識の一部であることの承認と見なされるべきではない。
【0022】
本開示全体を通して、確認的引用によって様々な刊行物、特許、および公開特許出願が参照される。本明細書において引用された全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。特に、そのような文献の教示または一部は、本明細書において、参照により組み込まれることが明確に言及される。
【0023】
特に明記されない限り、本発明の開示において使用される全ての用語は、技術用語および科学用語を含め、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる教導により、用語の定義は、本発明の教示をより良く理解するために含まれる。特定の用語が、本発明の特定の態様または本発明の特定の実施形態との関連において定義される場合、そのような含意または意味は、本明細書全体に適用されること、すなわち、特に明記されない限り、本発明の他の態様または実施形態に関しても適用されることが意図される。
【0024】
下記の説明において、本発明の異なる態様または実施形態が、より詳細に定義される。そのように定義される各態様または実施形態は、相反することが示されない限り、任意の他の態様または実施形態を組み合わせてもよい。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴と組み合わせてもよい。
【0025】
本明細書全体を通して「一実施形態」、「ある実施形態」に対する言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、および特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所における語句「一実施形態において」または「ある実施形態において」の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているものではなく、しかし、同じ実施形態であってもよい。その上、特定の特徴、構造、または特性は、本開示から当業者に明らかであるように、1つまたは複数の実施形態において、任意の好適な方式において組み合わせてもよい。その上、本明細書において説明されるいくつかの実施形態が、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まない場合、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内であることが意図され、ならびに当業者によって理解されるであろうように、異なる実施形態を形成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のいずれも、任意の組合せにおいて使用することができる。
【0026】
本発明の態様は、分子間ベータシートを、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)のβ凝集傾向性領域(APR)と形成するように構成された天然に存在しない分子を提供する。分子間ベータシート形成のための、そのような分子の前記APRを標的化する能力は、特に、RASタンパク質、特にG12V変異型RASタンパク質を、下方制御し、その溶解性を減少させ、および/またはその凝集もしくは封入体形成を誘導するその分子の能力として、例えば、適切なin vitro、細胞培養、またはin vivo設定において、顕在化し得る。
【0027】
分子の前述の定義は、分子による、ヒトRASタンパク質の観察された下方制御の基礎であると考えられる分子メカニズム(分子と、(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質との間での分子間ベータシートの形成)に簡便にかつ意味深く焦点を合わせ得るが、他の代替の定義を採用してもよい。例えば、そのような定義の1つは、(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質と分子間ベータシートを形成するように構成された天然には存在しない分子を意味し得、この場合、分子はヒトRASタンパク質の溶解度を減少させることができるかあるいはヒトRASタンパク質の凝集または封入体形成を誘導することができる。別のそのような定義は、(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質と分子間ベータシートを形成するように構成された天然には存在しない分子に関して読まれ得、この場合:分子は、ヒトRASタンパク質の活性を下方制御または減少させることができる。
【0028】
さらなる態様は、とりわけ、医薬における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子;ヒトRASタンパク質における突然変異、例えば、特にヒトRASタンパク質におけるG12突然変異、例えば、より特にヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子;処置を必要とする対象を処置するための方法であって、本明細書で教示されているような任意の分子の治療有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法;加えて、本明細書で教示されているような任意の分子を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
用語「天然には存在しない」は、概して、天然では形成されないかまたは天然には存在しない材料または存在を意味する。そのような天然には存在しない材料または存在は、本明細書において説明される方法または当技術分野において公知の方法を使用して人によって作製、合成、半合成、修飾、介入、または操作され得る。一例により、この用語は、ペプチドとの関連において使用される場合、特に、同一のアミノ酸配列のペプチドが、天然において見出されないこと、あるいは、同一のアミノ酸配列のペプチドが天然に存在する場合には、天然には存在しないペプチドが、天然に存在するカウンターパートには含まれておらず、したがってカウンターパートを区別するような、1つまたは複数の追加の構造要素、例えば、化学結合、修飾、または部分を含むことを意味する。ある特定の実施形態において、この用語は、ペプチドとの関連において使用される場合、天然には存在しないペプチドのアミノ酸配列が、天然に存在するペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質によって包含される連続したアミノ酸のストレッチと同一ではないことを意味し得る。疑問の回避のために、天然には存在しないペプチドは、ペプチド全体より短いアミノ酸ストレッチを完全に含有し得、この場合、特にその配列を含むアミノ酸ストレッチの構造は、天然に存在するペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質において見出される連続したアミノ酸のストレッチと同一である。
【0030】
本開示との関連において、語句「するように構成された分子」は、適切な状況下において列挙された結果または機能性を示す任意の分子を包含することを意図する。したがって、この語句は、「にとって好適な分子」、「する能力を有する分子」、「するように設計された分子」、「するのに適した分子」、「するように作製された分子」、または「することができる分子」などの語句と同義語で、交換可能であると見なすことができる。
【0031】
用語「ベータシート」、「ベータプリーツシート」、「βシート」、「βプリーツシート」は、当分野において周知であり、追加の説明によって、互換的に、バックボーン水素結合(鎖間水素結合)によって側方に接続された2つ以上のベータ鎖を含む分子構造を意味する。ベータ鎖は、ほぼ完全に拡張されたコンフォメーションにおけるバックボーンによる典型的には3個から10個のアミノ酸長のストレッチであり、その後に「ジグザグ」軌跡が続く。ベータシートにおける隣接するアミノ酸鎖は、反対方向において(アンチパラレルβシート)、または同じ方向において(パラレルβシート)延び得るか、あるいは混合配置を示し得る。ベータシートを形成しない場合(例えば、ベータシートに参加する前)、アミノ酸のストレッチは、非ベータ鎖コンフォメーションを示し得;例えば、それは、非構造化コンフォメーションを有し得る。
【0032】
「分子間」ベータシートは、2つ以上の別々の分子、例えば、2つ以上の別々のペプチドまたはペプチド含有分子、ポリペプチド、および/またはタンパク質など、からのベータ鎖を伴う。本開示との関連において、この用語は、特に、本明細書において教示される1つまたは複数の分子からの1つまたは複数のベータ鎖と、1つまたは複数の(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質分子からの1つまたは複数のベータ鎖とを伴うベータシートを意味する。分子間ベータシート形成によって種付けされた共凝集は、現在の分子の作用様式において重要な役割を果たすと考えられると仮定すると、本明細書において教示される多くの数十、数百、数千、またはそれ以上の分子ならびにヒトRASタンパク質の分子は、基本的なベータシート相互作用に関与し得、より高く秩序だった組織および構造、例えば、前原線維、原線維、および凝集物など、をもたらし得る。
【0033】
典型的には、ベータ鎖は、ベータシートに関与する分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の一部のみによって(例えば、分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質における連続したアミノ酸のストレッチによって)、形成され得る。例えば、本明細書において教示される分子は、1つまたは複数の(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質分子における連続したアミノ酸のストレッチによって構成される1つまたは複数のベータ鎖と共に、ベータシートに関与するベータ鎖へと組織化されるようになる、連続したアミノ酸の1つまたは複数のストレッチを含み得る。換言すれば、分子がヒトRASタンパク質と共に分子間ベータシートを形成することができるという見解は、典型的には、分子の1つまたは複数の一部分、例えば、分子における連続したアミノ酸の1つまたは複数のストレッチなど、は、ヒトRASタンパク質分子における連続したアミノ酸の1つまたは複数のストレッチと一緒にベータシートに参加することができるベータ鎖へと組織化されるように設計されることを意味する。したがって、2つ以上の別々の分子からのベータ鎖がベータシートへとインターロックすることは、2つ以上の別々の分子が物理的に会合または結合して空間的に隣接するようになるような複合体を作り出すことができる。前述の説明を考慮すると、語句「変異型ヒトRASタンパク質と共に分子間ベータシートを形成するように構成された分子」は、ヒトRASタンパク質における連続したアミノ酸のストレッチとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる分子;ヒトRASタンパク質における連続したアミノ酸のストレッチとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる一部分を含む分子;ならびに、ヒトRASタンパク質における連続したアミノ酸のストレッチとの分子間ベータシートの生成に参加、貢献、またはそれを誘導することができる連続したアミノ酸のストレッチを含む分子;という意味も包括し得る。
【0034】
RASタンパク質は、タンパク質の小さなGTPaseクラスに属し、当技術分野においてよく研究されている。3つのヒトRAS遺伝子が記載されている:キルスティンラット肉腫ウイルス癌遺伝子同族体(KRAS)(米国政府の全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)遺伝子ID No.3845の下においてアノテーションされている)、神経芽腫RASウイルス癌遺伝子同族体(NRAS)(遺伝子ID No.4893)、およびハーヴェイラット肉腫ウイルス癌遺伝子同族体(HRAS)(遺伝子ID No.3265)。KRAS転写物の選択的RNAスプライシングは、C末端領域が異なる2つの公知のKRASアイソフォームKRAS4AおよびKRAS4Bをもたらす。
【0035】
ヒト野生型KRAS4Aアイソフォームアミノ酸配列は、Genbank受託番号:NP_203524.1またはSwissprot/Uniprot(http://www.uniprot.org/)受託番号:P01116-1(v1)の下においてアノテーションされる通りであり得、ここで、NP_203524.1配列は下記を再現した:
MTEYKLVVVGAGGVGKSALTIQLIQNHFVDEYDPTIEDSYRKQVVIDGETCLLDILDTAGQEEYSAMRDQYMRTGEGFLCVFAINNTKSFEDIHHYREQIKRVKDSEDVPMVLVGNKCDLPSRTVDTKQAQDLARSYGIPFIETSAKTRQRVEDAFYTLVREIRQYRLKKISKEEKTPGCVKIKKCIIM(配列番号41)
ヒト野生型KRAS4Bアイソフォームアミノ酸配列は、Genbank受託番号:NP_004976.2またはSwissprot/Uniprot受託番号:P01116-2(v1)の下においてアノテーションされる通りであり得、ここで、NP_004976.2配列は、下記を再現した:
MTEYKLVVVGAGGVGKSALTIQLIQNHFVDEYDPTIEDSYRKQVVIDGETCLLDILDTAGQEEYSAMRDQYMRTGEGFLCVFAINNTKSFEDIHHYREQIKRVKDSEDVPMVLVGNKCDLPSRTVDTKQAQDLARSYGIPFIETSAKTRQGVDDAFYTLVREIRKHKEKMSKDGKKKKKKSKTKCVIM(配列番号42)
ヒト野生型NRASアミノ酸配列は、Genbank受託番号:NP_002515.1またはSwissprot/Uniprot受託番号:P01111(v1)の下においてアノテーションされる通りであり得、ここで、NP_002515.1配列は下記を再生した:
MTEYKLVVVGAGGVGKSALTIQLIQNHFVDEYDPTIEDSYRKQVVIDGETCLLDILDTAGQEEYSAMRDQYMRTGEGFLCVFAINNSKSFADINLYREQIKRVKDSDDVPMVLVGNKCDLPTRTVDTKQAHELAKSYGIPFIETSAKTRQGVEDAFYTLVREIRQYRMKKLNSSDDGTQGCMGLPCVVM(配列番号43)
ヒト野生型HRASアミノ酸配列は、Genbank受託番号:NP_005334.1またはSwissprot/Uniprot受託番号:P01112(v1)の下においてアノテーションされる通りであり得、ここで、NP_005334.1配列は下記を再生した:
MTEYKLVVVGAGGVGKSALTIQLIQNHFVDEYDPTIEDSYRKQVVIDGETCLLDILDTAGQEEYSAMRDQYMRTGEGFLCVFAINNTKSFEDIHQYREQIKRVKDSDDVPMVLVGNKCDLAARTVESRQAQDLARSYGIPYIETSAKTRQGVEDAFYTLVREIRQHKLRKLNPPDESGPGCMSCKCVLS(配列番号44)
したがって、ある特定の実施形態において、RASタンパク質は、KRAS、NRAS、またはHRASタンパク質であり得る。ある特定の好ましい実施形態において、RASタンパク質は、KRASタンパク質であり得る。ヒトがんにおいて、KRASは、主に、変異したRASアイソフォーム(85%)である。
【0036】
修飾語「ヒト」は、RASタンパク質に関連して本明細書において使用される場合、ある特定の解釈において、RASタンパク質のアミノ酸配列を意味し得る。例えば、ヒトにおいて見出されるRASタンパク質としてアミノ酸配列を有するRASタンパク質は、技術的手段、例えば、組換え発現、無細胞翻訳、または非生物学的ペプチド合成など、によっても得られ得る。本分子は、ヒトにおける変異型RASタンパク質を治療的に標的化することが意図されることから、ある特定の他の解釈において、修飾語「ヒト」は、より詳細には、RASタンパク質が、ヒト対象、器官、細胞、または組織の一部を形成するか、またはそれらから少なくとも部分的に単離されているかに関わらず、ヒトにおいて見出されるかまたはヒトに存在するRASタンパク質を意味し得る。当業者は、RASタンパク質などの所定の天然タンパク質のアミノ酸配列は、その種内の正常な遺伝的変動(対立遺伝子の変動、多型)および/または転写後または翻訳後の修飾における違いにより、同じ種の異なる個体の間または個体内においても異なり得る。天然タンパク質の任意のそのようなバリアントまたはアイソフォームは、タンパク質の参照または名称によって包括される。
【0037】
用語「野生型」は、ヒト集団において最も一般的に観察されるそれぞれのRAS遺伝子の対立遺伝子によってコードされるRASバリアントの従来の意味と見なされ得る。用語「野生型」は、増殖性または腫瘍性疾患の原因とならないかまたはそれと関連しない任意のRASバリアントの表現型指向の意味、あるいは、構成的に活性ではない、より詳細には、GAP媒介性GTP加水分解において欠陥的ではない、任意のRASバリアントの分子メカニズム指向の意味も与えられ得る。例として、変異型RASは、野生型RASと、G12位、G13位、またはQ61位における単一アミノ酸置換だけ、異なり得る。例として、本明細書で論じられているような「G12変異型ヒトRAS」において、12位におけるグリシン残基(G12)が突然変異している。特に、G12がグリシン以外のただ1つのアミノ酸で置換されている変異型RASタンパク質(G12ミスセンス突然変異型RAS)が意図される。G12A、G12D、G12F、G12L、G12P、G12S、G12V、G12Y、G12C、G12E、G12I、G12N、G12R、G12T、およびG12Wミスセンス突然変異など、ヒトRASのG12を実質的にあらゆる他のアミノ酸で置き換えたミスセンス突然変異が、疾患において報告されている(Hobbsら、上述)。G12Q、G12H、G12K、およびG12Mミスセンス突然変異も想到される。本明細書において説明される「G13変異型ヒトRAS」において、位置13のグリシン残基(G13)は変異している。特に、G13がグリシン以外のただ1つのアミノ酸で置換されている変異型RASタンパク質(G13ミスセンス変異型RAS)が意図される。G13A、G13D、G13F、G13M、G13P、G13S、G13Y、G13C、G13E、G13I、G13N、G13R、およびG13Vミスセンス突然変異など、ヒトRASのG13を実質的にあらゆる他のアミノ酸で置き換えたミスセンス突然変異が、疾患において報告されている(Hobbsら、上述)。G13L、G13W、G13H、G13K、G13Q、およびG13Tミスセンス突然変異も想到される。
【0038】
変異型ヒトRASタンパク質、特にG12、G13、またはQ61ミスセンス突然変異体は、増殖性または、腫瘍性疾患の原因となり得るまたはそれと関連し得、ならびに/あるいは結果として、構成的に活性なRAS、より詳細には、GAP媒介性GTP加水分解において欠陥的であるRASを生じ得る。
【0039】
用語「タンパク質」は、一般的に、1つまたは複数のポリペプチド鎖を含む巨大分子を包含する。用語「ポリペプチド」は、一般的に、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基による直鎖状高分子鎖を包含する。「ペプチド結合」、「ペプチドリンク」、または「アミド結合」は、1つのアミノ酸のカルボキシル基が他方のアミノ酸のアミノ基と反応してそれによって水の分子を放出するときに2つのアミノ酸の間に形成された共有結合である。とりわけ、タンパク質が単一のポリペプチド鎖のみで構成される場合、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、そのようなタンパク質を示すために互換的に使用され得る。この用語は、ポリペプチド鎖の任意の最小長にも限定されない。50以下(≦50)のアミノ酸、例えば、≦45、≦40、≦35、≦30、≦25、≦20、≦15、≦10、または≦5のアミノ酸など、から本質的になるかまたはそれらからなるポリペプチド鎖は、一般的に「ペプチド」と呼ばれ得る。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドとの関連において、「配列」は、アミノ末端からカルボキシル末端への方向における鎖のアミノ酸の並びであり、配列においてお互いに隣接した残基が、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの一次構造において隣接する。この用語は、天然により、組換えにより、半合成により、または合成により生成されるタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを包含し得る。したがって、例えば、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、自然に存在し得るかまたは自然から単離することができ、例えば、細胞または組織によって天然によりまたは内因的に産生または発現され得、必要に応じてそれらから単離され得;あるいは、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、組換え体であり得、すなわち、組換えDNA技術によって作製することができ、および/または、部分的にまたは全体的に、化学的または生化学的に合成することができる。これらに限定されるものではないが、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、好適な宿主または宿主細胞発現系によって組換えにより作製することができ、ならびに、必要に応じて、それら(例えば、好適な細菌、酵母、真菌、植物、または動物宿主または宿主細胞発現系)から単離することができ、あるいは無細胞翻訳または無細胞転写および翻訳、あるいは非生物学的なペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質合成によって、組換え的に作製することができる。この用語は、ポリペプチド鎖の1つまたは複数の共発現タイプまたは発現後タイプの修飾、例えば、これらに限定されるものではないが、グリコシル化、脂質化、アセチル化、アミド化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ペギル化(典型的には1つまたは複数のLys残基のN末端または側鎖へのポリエチレングリコールの共有結合)、ユビキチン化、SUMO化、システイン化、グルタチオン付加、メチオニンスルホキシドまたはメチオニンスルホンへのメチオニンの酸化、単一のペプチドの除去、N末端Metの除去、前酵素または前ホルモンの活性形態への変換など、を保持するタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドも包含する。そのような共発現タイプまたは発現後タイプの修飾は、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを発現する宿主細胞によって、in vivoにおいて導入され得るか(共翻訳または翻訳後タンパク質修飾機構は、宿主細胞に対して天然であり得、および/または宿主細胞は、1つまたは複数の(追加の)共翻訳または翻訳後タンパク質修飾の機能を含むように遺伝子操作され得る)、または単離されたタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの化学的(例えば、ペギル化)および/または生化学的(例えば、酵素的)修飾によって、in vitroにおいて導入され得る。一例として、ならびにこれらに限定されるものではないが、ある特定の実施形態において、ペプチドの電荷全体を変更するため、および/または、結果として得られるペプチドを安定化して、エキソペプチダーゼによる酵素分解に抵抗するそれらの能力を高めるために、化学的に合成されたペプチドのN末端における遊離アルファアミノ基のアセチル化および/または化学的に合成されたペプチドのC末端における遊離カルボキシル基のアミド化が選ばれ得る。
【0040】
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸、天然においてコードされるアミノ酸、非天然においてコードされるアミノ酸、天然には存在しないアミノ酸、天然に存在するアミノ酸と同様の方式において機能するアミノ酸類似物およびアミノ酸模倣物、それらのDおよびL立体異性体全て、を包含するが、ただし、それらの構造がそのような立体異性体を許容する場合に限る。アミノ酸は、本明細書において、それらの名前、それらの一般的に知られる三文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される一文字記号によって呼ばれる。「天然においてコードされるアミノ酸」は、20個の一般的なアミノ酸あるいはピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、またはセレノシステインのうちの1つであるアミノ酸を意味する。20個の一般的なアミノ酸は、以下:アラニン(AまたはAla)、システイン(CまたはCys)、アスパラギン酸(DまたはAsp)、グルタミン酸(EまたはGlu)、フェニルアラニン(FまたはPhe)、グリシン(GまたはGly)、ヒスチジン(HまたはHis)、イソロイシン(IまたはIle)、リジン(KまたはLys)、ロイシン(LまたはLeu)、メチオニン(MまたはMet)、アスパラギン(NまたはAsn)、プロリン(PまたはPro)、グルタミン(QまたはGln)、アルギニン(RまたはArg)、セリン(SまたはSer)、トレオニン(TまたはThr)、バリン(VまたはVal)、トリプトファン(WまたはTrp)、およびチロシン(YまたはTyr)である。「非天然においてコードされるアミノ酸」は、20個の一般的なアミノ酸あるいはピロリジン、ピロリン-カルボキシ-リジン、またはセレノシステインのうちの1つではないアミノ酸を意味する。この用語は、これらに限定されるわけではないが、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-トレオニン、およびO-ホスホチロシンによって非限定的に例示されるような、天然においてコードされるアミノ酸の修飾(例えば、翻訳後修飾など)によって生じるが、それ自体は天然においては、翻訳複合体によって成長するポリペプチド鎖中に組み入れられないアミノ酸を包含する。非天然においてコードされるアミノ酸、非天然アミノ酸、または修飾されたアミノ酸のさらなる例としては、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、ベータ-アラニン、ベータ-アミノプロピオン酸、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2’-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ホモセリン、ホモシステイン、ヒドロキシリシン、アロ-ヒドロキシリシン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、6-N-メチルリジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、またはオルニチンが挙げられる。そのようなアミノ酸のさらなる例は、シトルリンである。1つまたは複数の個々の原子が、異なる原子、同じ原子の同位体、または異なる官能基で置換されたアミノ酸類似物も含まれる。Ellmanら Methods Enzymol. 1991, vol. 202, 301~36に記載される非天然アミノ酸およびアミノ酸類似物も含まれる。タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに非天然アミノ酸を組み入れることは、いくつかの異なる方法において有利であり得る。例えば、D-アミノ酸を含むタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、Lアミノ酸を含むカウンターパートと比較して、in vitroまたはin vivoにおいて増加した安定性を示す。より詳細には、D-アミノ酸を含むタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、内因性ペプチダーゼおよびプロテアーゼに対してより抵抗性であり得、その結果、in vivoにおいて改善された分子のバイオアベイラビリティおよび延長された寿命を提供し得る。
【0041】
(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質との分子間ベータシートを形成することができるような本分子のキャラクタリゼーションは、とりわけ、「インターフェラー」技術の操作の基礎となるような、WO2007/071789A1およびWO2012/123419A1に記載されるメカニズムに基づく。しかしながら、ベータシートのコンフォメーションの出現も、利用可能な方法によって実験的に評価され得る。非限定的な例により、溶液中のタンパク質の二次構造をキャラクタリゼーションするために、核磁気共鳴(NMR)スペクトル分析が何年間も採用されてきた(Wuetrichら FEBS Letters. 1991, vol. 285, 237~247においてレビューされる)。
【0042】
おそらく、本発明との関連においてより率直には、分子間ベータシートの形成は、分子と(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質との間の相互作用につながり、それは、免疫共沈殿アッセイなどの標準的方法によって定性的および定量的に評価することができる。そのような免疫共沈殿アッセイのいくつかの例が、実施例のセクションにおいて提示される。例示的アプローチの1つにおいて、G12変異型RASまたは野生型RASを発現する細胞をビオチンで標識した本明細書において教示される分子と接触させ、細胞を溶解させ、分子(およびそれに結合した任意のRASタンパク質)をストレプトアビジン被覆ビーズによって沈降させ、共沈殿したRASタンパク質をイムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。別の例示的アプローチでは、G12変異型RASまたは野生型RASを生成するin vitro翻訳反応物をビオチンで標識した本明細書において教示される分子と接触させ、分子(およびそれに結合した任意のRASタンパク質)をストレプトアビジン被覆ビーズによって沈降させ、共沈殿したRASタンパク質をイムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。さらに、本発明との関連において、分子と(変異型または野生型)ヒトRASとの間の相互作用は、RASの溶解度の減少および、細胞におけるRASタンパク質を含有する凝集物または封入体の出現さえももたらし得る。これは、実施例においても例示される標準的イムノアッセイまたは蛍光顕微鏡法によって分析することができる。例示的アプローチの1つにおいて、G12変異型RASまたは野生型RASを発現する細胞を本明細書において教示される分子と接触させ、細胞を非変性緩衝液によって溶解させ、この緩衝液に不溶性のタンパク質を、強力なカオトロピック剤(6M尿素)で処理した。この処理後に不溶性のままでフラクション中に存在するRASを、イムノアッセイ法、すなわち、定量的ウェスタンブロットによって定量した。別の例示的アプローチでは、ヒトなどの哺乳動物の培養した細胞を、蛍光部分、例えば、標準的緑色または赤色蛍光タンパク質など、に融合させたG12変異型RASまたは野生型RASによってトランスフェクトさせ、細胞を、本明細書において教示される分子によって処理し、蛍光タグ付けされたRASの細胞局在化を、蛍光顕微鏡によって判定した。これらの例示的アッセイは、状況に応じて適用および採用することができ、RASがリボソーム上において生成されるときに分子がRASと接触することができる(細胞においてまたはin vitroにおいて)という利点を有する。そのようなまだ折り畳まれていないRASにおいて、標的化されたAPRは、比較的よりアクセスしやすく、環境に露出しており、それにより、分子との分子間相互作用を促進することができると予想される。さらに、本発明との関連において、分子と(変異型または野生型)ヒトRASとの間の相互作用は、変異型RASを下方制御することが意図され、それは、例えば、本明細書において教示される分子に晒された場合に、その成長のためにG12またはG13変異型RASによる構成型RASシグナル伝達に依存する形質転換細胞系の生存率の減少を測定することによって、検出および定量化することができる。G12変異型RASのためのそのような例示的細胞系の1つは、とりわけ、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection;ATCC)(10801 University Blvd. Manassas, Virginia 20110-2209, USA)(受託番号HTB-174(商標))から入手可能なNCI-H441肺腺癌細胞である。これも、実施例において例示される。
【0043】
ある特定の好ましい実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、野生型ヒトRASと比較して、変異型RAS、例えば、G12変異型RAS、より好ましくはG12VまたはG12C変異型RAS、さらにより好ましくはG12V変異型RASを優先的または実質的に下方制御し得る。これは、特に、本分子が、ヒト野生型RASによるシグナル伝達を下方制御し得る程度が、仮にあったとしても、それらが変異型ヒトRASによるシグナル伝達を下方制御する程度と比較して、有意に低く、またはさらに無視でき、もしくは有意ではないことを伝え得る。例えば、RASシグナル伝達は、RASに関与する下流経路を刺激することが公知である外部刺激に晒された野生型RASを発現する培養細胞において評価され得る。例として、実際には、分子は、治療的に有効で現実的な量において投与される場合、野生型RASのみを発現する細胞において正常なRASシグナル伝達の下方制御に起因する望ましくない効果を全く引き起こさないかまたはわずかのみまたは許容可能なほど引き起こす。分子間ベータシートの形成を評価するために、上記において説明されるアッセイまたは試験、例えば、培養細胞において実施されるin vitroアッセイまたは試験など、例えば、分子RAS免疫共沈降アッセイ、RAS溶解性測定、またはRASの凝集物を可視化するための蛍光顕微鏡観察アッセイなど、が使用される場合、本分子と野生型RASとの間での分子間ベータシート形成のより低いまたは実質的な欠如は、それぞれのアッセイにおいてシグナルの有意な低下もしくは欠如(すなわち、「陽性」と見なされる結果または測定値の有意な低下または欠如)として、または変異型RASについて本分子により生じたシグナルより、かなり低くまたは小さい強度である定量可能なシグナルの存在として、観察され得る。例えば、野生型RASについて分子によって生成されるシグナル(例えば、分子で共沈殿されたRASの量、不溶性RASの量もしくは不溶性対可溶性RASの割合、または細胞における目に見えるRAS凝集物の数、サイズ、もしくは蛍光強度)は、変異型RASについて前記分子により生じたシグナルより、好ましさが増加する順に、2分の1以下、10分の1以下、102分の1以下、103分の1以下、104分の1以下、105分の1以下、または106分の1以下であり得る。
【0044】
前にも述べたように、ベータ鎖は、3から10アミノ酸長である傾向がある。したがって、ある特定の実施形態では、本分子とヒトRASとの間で形成される分子間ベータシートは、GFLCVFAIN(配列番号3)APRのうちの少なくとも3個、例えば、少なくとも4個または少なくとも5個の連続したアミノ酸を伴い得る。言い換えると、変異型RASの上記少なくとも3個、少なくとも4個、または少なくとも5個の連続したアミノ酸は、ベータシートに参加するベータ鎖を構成するであろう。標的化の特異性を高めるために、分子は、GFLCVFAIN(配列番号3)APRのうちの少なくとも6個、例えば、正確に6個、または少なくとも7個、例えば、正確に7個、または少なくとも8個、例えば、正確に8個、または少なくとも9個、例えば、正確に9個の、連続したアミノ酸を伴うベータシートを誘導するように設計され得る。6個から9個の連続したアミノ酸のベータ鎖は、分子の設計を簡素化しつつ、満足できる特異性を可能にするため、好ましくあり得る。したがって、ある特定の実施形態において、分子間ベータシートは、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)の一部分、特に連続した一部分、またはその全体、例えば、配列番号3の少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、または少なくとも9個の連続したアミノ酸など、を伴い得る。ある特定の実施形態において、分子間ベータシートは、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列LCVFAI(配列番号76)を伴い得る。
【0045】
説明したように、本分子は、(変異型または野生型)RASタンパク質との分子間βシート形成を誘導し、後者の特定の下方制御またはノックダウンを生じさせるように設計される。実験的観察に基づいて、分子は、標的化されたRASにおける溶解度の減少および凝集を生じさせることができる。(変異型または野生型)RASの活性の下方制御におけるいかなる意味のある程度も想定される。したがって、用語「下方制御する」または「下方制御された」または「低下する」または「低下した」または「減少させる」または「減少した」は、適切な文脈、例えば、実験または治療における文脈などにおいて、レファレンスに対する統計的に有意な減少を意味し得る。当業者は、そのようなレファレンスを選び出すことができる。好適なレファレンスの例は、「陰性対照」分子、例えば、同様の組成だがRASに対する効果を有さないことが知られている分子など、に晒された場合のRAS活性であり得る。例えば、そのような減少は、レファレンスに対する許容誤差(例えば、標準偏差または標準誤差によって、あるいはそれらの所定の倍数、例えば、±1×SD、または±2×SD、または±1×SE、または±2×SEなど、によって表現されるような)の範囲外であり得る。例示として、RASの活性が、レファレンスと比較して、100%までの減少も含め(すなわち、レファレンスと比較して活性が存在しない)、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%または少なくとも30%など、好ましくは少なくとも40%、例えば、少なくとも50%または少なくとも60%など、より好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%または少なくとも90%またはそれ以上など、において減少する場合、RASの活性は低下したと見なされ得る。
【0046】
(変異型または野生型)RASの溶解度の低下におけるいかなる意味のある程度も想定される。これは、適切な文脈、例えば、実験または治療における文脈などにおいて、それぞれのレファレンスに対する、可溶性タンパク質フラクション中に存在するRASの量の統計的に有意な減少、または不溶性タンパク質フラクション中に存在するRASの量の統計的に有意な増加、または可溶性タンパク質フラクション中に存在するRAS対不溶性タンパク質フラクション中に存在するRASにおける相対的存在量の統計的に有意な減少、を意味し得る。当業者は、そのようなレファレンス、例えば、特に、「陰性対照」分子の存在下でのRASの溶解度を示すレファレンスなど、を選び出すことができる。例えば、溶解度におけるそのような減少は、レファレンスに対する許容誤差(例えば、標準偏差または標準誤差によって、あるいはそれらの所定の倍数、例えば、±1×SD、または±2×SD、または±1×SE、または±2×SEなど、によって、表現されるような)の範囲外であり得る。例示として、RASの溶解度が、レファレンスと比較して、100%までの減少も含め(すなわち、可溶性タンパク質フラクション中にRASは存在せず/全てのRASが不溶性タンパク質フラクション中に存在する)、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%または少なくとも30%など、好ましくは少なくとも40%、例えば、少なくとも50%または少なくとも60%など、より好ましくは少なくとも70%、例えば、少なくとも80%または少なくとも90%またはそれ以上など、において減少する場合、RASの溶解度は、低下したと見なされ得る。
【0047】
本分子は、(変異型または野生型)ヒトRASタンパク質、より詳細にはヒトRASタンパク質におけるGFLCVFAIN(配列番号3)APRとの分子間ベータシートの形成を誘導することができる。このために、分子は、有利には、ベータ鎖との相互作用によって形成される分子間ベータシートを生じさせるように、RASタンパク質APRによって貢献されるベータ鎖と相互作用することができるベータ鎖コンフォメーションを装うまたは模倣することができる少なくとも1つの一部分を含み得る。
【0048】
ある特定の実施形態において、分子は、分子間ベータシートに関与する少なくとも1つのアミノ酸ストレッチを含み得る。前に説明したように、ベータ鎖は、3個から10個のアミノ酸長である傾向がある。したがって、ある特定の実施形態において、分子で構成された少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、少なくとも3個、例えば、少なくとも4個または少なくとも5個など、の連続したアミノ酸長であり得る。相互作用の特異性を高めるために、分子で構成された少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、少なくとも6個、例えば、正確に6個、または少なくとも7個、例えば、正確に7個、または少なくとも8個、例えば、正確に8個、または少なくとも9個、例えば、正確に9個の、連続したアミノ酸長であり得る。6個から9個の連続したアミノ酸のアミノ酸ストレッチは、分子の設計を簡素化しつつ、満足できる特異性を可能にするため、好ましくあり得る。
【0049】
ある特定の好ましい実施形態では、本分子で構成された、アミノ酸の少なくとも1つのストレッチ、例えば、6から9個の連続したアミノ酸の少なくとも1つのストレッチ(簡潔さのため、以降は「分子ストレッチ」)は、ベータシートに関与することになっているヒトRASタンパク質におけるGFLCVFAIN(配列番号3)APR内の連続したアミノ酸のストレッチ(簡潔さのため、以降は「RASストレッチ」)に対応し得る。ある特定の例として、ベータシートが、APRの3個、4個、5個、好ましくは6~9個、例えば6個、7個、8個、または9個の連続したアミノ酸のRASストレッチを伴う場合、分子ストレッチは、このRASストレッチに対応し得る。
【0050】
分子ストレッチとRASストレッチとの間の対応は、特に、
a)分子ストレッチのアミノ酸配列が、RASストレッチのアミノ酸配列と同一である状況;
b)分子ストレッチのアミノ酸配列が、RASストレッチのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、ただし、この配列同一性の程度は、本明細書において教示される分子間ベータシートの形成に適合する状況(例えば、上記少なくとも80%の配列同一性とは、ある特定の実施形態において、RASストレッチが6個または7個のアミノ酸長である場合、6個または7個のアミノ酸長の分子ストレッチが、多くとも1つのアミノ酸置換においてRASストレッチと異なるか、あるいは、RASストレッチが8個から9個のアミノ酸長である場合、8個から9個のアミノ酸長の分子ストレッチが、多くとも2つのアミノ酸置換においてRASストレッチと異なることを意味し得る);
c)分子ストレッチのアミノ酸配列が、多くとも3つ、好ましくは多くとも2つ、より好ましくは多くとも1つのアミノ酸置換においてRASストレッチのアミノ酸配列と異なり、ただし、この置換が本明細書において教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況;
d)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上記のa)からc)のいずれか1つにおいて説明されるRASストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチの全てのアミノ酸がL-アミノ酸である状況;
e)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上記のa)からc)のいずれか1つにおいて説明されるRASストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1個(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個、またはそれ以上、または全て)のアミノ酸がD-アミノ酸であり、ただし、D-アミノ酸の組み込みが本明細書において教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況:
f)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上記のa)からc)のいずれか1つにおいて説明されるRASストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1個(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、または少なくとも6個、またはそれ以上、または全て)のアミノ酸が、それぞれのアミノ酸の類似物によって置換され、ただし、類似物の組み込みが本明細書において教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況:または
g)分子ストレッチのアミノ酸配列が、上記のa)からc)のいずれか1つにおいて説明されるRASストレッチのアミノ酸配列に対していくらかの程度の配列同一性を示し、分子ストレッチの少なくとも1つのアミノ酸は、D-アミノ酸であり、分子ストレッチの少なくとも1つのアミノ酸は、それぞれのアミノ酸の類似物によって置換され、ただし、D-アミノ酸および類似物の組み込みが本明細書において教示される分子間ベータシートの形成に適合する場合に限られる状況
を包含し得る。
【0051】
好ましくは、分子ストレッチは、そのような分子ストレッチを含む分子のオフ標的化活性を低下させるかまたは防ぐために、そのアミノ酸配列が、RASファミリーメンバー以外のヒトタンパク質におけるアミノ酸と同一ではないように設計され得る。分子ストレッチのアミノ酸配列は、この評価を実施するために、容易に完全ヒトプロテオームに揃えることができる。
【0052】
アミノ酸配列に関する用語「配列同一性」は、N末端からC末端までの間において読まれるアミノ酸配列に対して%で表現された全体的な配列同一性の程度(すなわち、比較におけるアミノ酸配列全体を含む)を意味する。配列同一性は、配列アライメントを実施するための好適なアルゴリズムと、それ自体公知である配列同一性の判定とを使用して判定され得る。例示的だが非限定的であるアルゴリズムとしては、元はAltschulら 1990(J Mol Biol 215: 403-10)によって説明されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)に基づくもの、例えば、公開されたデフォルトの設置または他の好適な設定(例えば、BLASTNアルゴリズムの場合:cost to open a gap=5、cost to extend a gap=2、penalty for a mismatch=-2、reward for a match=1、gap x_dropoff=50、expectation value=10.0、word size=28;または、BLASTPアルゴリズムの場合:matrix=Blosum62(Henikoffら, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci., 89:10915-10919)、cost to open a gap=11、cost to extend a gap=1、expectation value=10.0、word size=3)を使用した、TatusovaおよびMadden 1999(FEMS Microbiol Lett 174: 247-250)によって説明された「Blast 2 sequences」アルゴリズムなど、が挙げられる。
【0053】
特定のアミノ酸配列とクエリーアミノ酸配列(例えば、RASストレッチの配列)との間のパーセント同一性を判定するための実例手順は、好適なアルゴリズムパラメーターを用いた、NCBIウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)においてウェブアプリケーションとしてまたはスタンドアロン実行可能プログラム(BLAST version 2.2.31+)として利用可能なBlast 2 sequences(Bl2seq)アルゴリズムを使用して、それぞれN末端からC末端まで読み出した2つのアミノ酸配列のアライメントを伴うであろう。好適なアルゴリズムパラメーターの例としては:matrix=Blosum62、cost to open a gap=11、cost to extend a gap=1、expectation value=10.0、word size=3、が挙げられる。2つの比較される配列が同一性を共有する場合、アウトプットは、アラインメントされた配列としてこれらの同一性の領域を提示するであろう。2つの比較される配列が同一性を共有しない場合、アウトプットは、アラインメントされた配列を提示しないであろう。アラインメントされると、両方の配列において同一のアミノ酸残基が提示される位置の数をカウントすることによって、一致の数が判定されるであろう。クエリー配列の長さで一致の数を割り、結果として得られる値に100を掛けることによって、パーセント同一性が決定される。パーセント同一性の値は、必要ではないが、最も近い小数第一位に四捨五入してもよい。例えば、78.11、78.12、78.13、および78.14は、78.1に四捨五入され得、その一方で、78.15、78.16、78.17、78.18、および78.19は、78.2に四捨五入され得る。さらに、好都合なことに、Bl2seqによってアウトプットされるアライメントの各セグメントに対する詳細なビューにはすでに同一性のパーセンテージを含むことが示される。
【0054】
言及したように、ある特定の実施形態において、分子ストレッチのアミノ酸配列は、RASストレッチのアミノ酸配列に対して100%未満の同一性であり得、例えば、分子ストレッチの配列は、RASストレッチの配列に対して、少なくとも80%、例えば、81%、82%、83%、または84%、好ましくは少なくとも85%、例えば、86%、87%、88%、または89%、より好ましくは少なくとも90%、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性であり得る。
【0055】
そのような実施形態において、分子ストレッチは、RASストレッチに対して(すなわち、RASストレッチと比較して)1つまたは複数のアミノ酸の追加、欠失、または置換を含み得る。好ましくは、分子ストレッチは、RASストレッチに対する、1つまたは複数のアミノ酸置換、好ましくは多くとも3つ、より好ましくは多くとも2つ、さらにより好ましくは多くとも1つのアミノ酸置換、例えば、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換、好ましくは多くとも3つ、より好ましくは多くとも2つ、さらにより好ましくは多くとも1つの単一のアミノ酸置換など、を含み得る。
【0056】
好ましくは、1つまたは複数のアミノ酸置換、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換であり得る。保存的アミノ酸置換は、同様の特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸置換としては、以下の群内での置換:バリン、アラニン、およびグリシン;ロイシン、バリン、およびイソロイシン;アスパラギン酸およびグルタミン酸;アスパラギンおよびグルタミン;セリン、システイン、およびトレオニン;リジンおよびアルギニン;ならびにフェニルアラニンおよびチロシン、が挙げられる。非極性疎水性アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが挙げられる。極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正に荷電された(すなわち、塩基性の)アミノ酸としては、アルギニン、リシン、およびヒスチジンが挙げられる。負に荷電された(すなわち、酸性の)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。同じ群の別のメンバーによる、上記において言及した極性、塩基性、または酸性の群の1つのメンバーの任意の置換は、保存的置換であると見なされ得る。対照的に、非保存的置換は、異なる特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換である。
【0057】
ある特定の実施形態において、1つまたは複数のアミノ酸置換、特に、1つまたは複数の単一のアミノ酸置換は、それぞれ独立して、非荷電アミノ酸、好ましくは、プロリン以外の疎水性アミノ酸、例えば、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、およびトリプトファン(W)など、によってであり得る。そのような置換は、分子ストレッチの可能性を誘導するベータシートを増加させることができる。
【0058】
GFLCVFAIN(配列番号3)APRは、システイン残基を含有する。システインを含有する標的APRに関連して、それを標的化するpept-inにおける無保護システインの包含は、システイン残基における反応性-SH基の存在により、あまり都合が良くなくあり得る。したがって、pept-insは、その位置においてセリンなどの別のアミノ酸を含有し得るか、またはさもなければ、例えば保護基(例えば、p-メチルベンジル基、ジフェニルメチル基、p-メトキシベンジル基、またはアセトアミドメチル基)により、もしくは、それの-SH基を、その同じ分子における、もしくは2つの分子間での別のシステインの-SH基と反応させること(ジスルフィド架橋)によって、保護される位置にシステインを含有し得る。したがって、ある特定の実施形態において、本pept-insは、GFLCVFAIN(配列番号3)APRにおけるシステインに対応する位置において、L-セリンもしくはD-セリンもしくはセリン類似体、好ましくはL-セリン、または保護基により保護された-SH基を有しもしくはジスルフィド架橋に関与する、L-システインもしくはD-システインもしくはシステイン類似体、好ましくはL-システインを含有し得る。
【0059】
分子ストレッチの全長および境界を定義し得る配列番号3の連続した部分の非限定的例は、下記の表1に示されている。その表の第1の行は、配列番号3を再現し、各その後の行は、分子ストレッチにおいて含まれている(「+」)対含まれていない(「-」)、配列番号3のアミノ酸を示すことにより、配列番号3に基づいた特定の分子ストレッチを例示する。
【0060】
【0061】
ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、アミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)またはアミノ酸配列GFLSVFAIN(配列番号45)の少なくとも3個、例えば少なくとも4個または少なくとも5個、好ましくは少なくとも6個、例えばちょうど6個、または少なくとも7個、例えばちょうど7個、または少なくとも8個、例えばちょうど8個、または少なくとも9個、例えばちょうど9個の連続したアミノ酸(この明細書の他の箇所で説明されているように、システインは、セリンと交換され得、または適切な保護基もしくはジスルフィド架橋により保護され得る)を含む分子ストレッチを含有し得、必要に応じて、a’)前記分子ストレッチが、多くとも3つ、好ましくは多くとも2つ、より好ましくは多くとも1つの単一アミノ酸置換を含み、最も好ましくは単一アミノ酸置換を含まず、b’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、および/またはc’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸が、そのそれぞれのアミノ酸の類似体によって置き換えられている。ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、配列番号3または45の6~9個の連続したアミノ酸を含む分子ストレッチを含有し得、必要に応じて、a’)前記分子ストレッチが、多くとも3つ、好ましくは多くとも2つ、より好ましくは多くとも1つの単一アミノ酸置換を含み、最も好ましくは単一アミノ酸置換を含まず、b’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、および/またはc’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸が、そのそれぞれのアミノ酸の類似体によって置き換えられている。ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、配列番号3または45の6~9個の連続したアミノ酸を含む分子ストレッチを含有し得る。好ましくは、分子ストレッチは、配列番号3または45の3位におけるアミノ酸によってN末端が区切られ得;および/または配列番号3または45の8位におけるアミノ酸によってC末端が区切られ得る。
【0062】
ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)、FLSVFAI(配列番号46)、GFLSVFAI(配列番号47)、LSVFAIN(配列番号48)、FLSVFAIN(配列番号49)、またはGFLSVFAIN(配列番号50)を含有し得、必要に応じて、a’)前記分子ストレッチが、多くとも3つ、好ましくは多くとも2つ、より好ましくは多くとも1つの単一アミノ酸置換を含み、最も好ましくは単一アミノ酸置換を含まず、b’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、および/またはc’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸が、そのそれぞれのアミノ酸の類似体によって置き換えられている。
【0063】
特定の好ましい実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)を含有し得、必要に応じて、a’)前記分子ストレッチが、多くとも3つ、好ましくは多くとも2つ、より好ましくは多くとも1つの単一アミノ酸置換を含み、最も好ましくは単一アミノ酸置換を含まず、b’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸がD-アミノ酸であり、および/またはc’)前記分子ストレッチの少なくとも1個のアミノ酸が、そのそれぞれのアミノ酸の類似体によって置き換えられている。さらにより好ましい実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)を含有する。
【0064】
分子ストレッチ、すなわち、分子間ベータシートに関与する、本明細書で教示されているような分子により含まれる少なくとも1つのアミノ酸ストレッチはまた、D-アミノ酸および/または列挙されたアミノ酸の類似体を含んでもよい。より一般的に述べれば、ある特定の実施形態では、本分子の少なくとも1つのアミノ酸ストレッチは、1個もしくは複数のD-アミノ酸か、またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体、または1個もしくは複数のD-アミノ酸とそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含んでもよく、ただし、前記1個もしくは複数のD-アミノ酸および/または前記1個もしくは複数の類似体の組入れが、本明細書で教示されているような分子間ベータシートの形成と適合するという条件下である。
【0065】
非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、1個のみのD-アミノ酸を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)のD-アミノ酸を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチを構成する約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)のアミノ酸がD-アミノ酸であり得る。ある特定の実施形態では、D-アミノ酸は、L-アミノ酸間に散在し得、および/またはD-アミノ酸は、L-アミノ酸によって分離された、2個以上のD-アミノ酸の1つもしくは複数の部分ストレッチへ構築され得る。非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸のうちの1個のみの類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸のうちの2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)の類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、それのアミノ酸の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)の類似体を含み得る。ある特定の実施形態では、アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸間に散在し得、および/またはアミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸によって分離された、2個以上のそのような類似体の1つまたは複数の部分ストレッチへ構築され得る。非限定的に、ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、D-アミノ酸またはアミノ酸類似体である1個のみの構成要素を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチは、D-アミノ酸またはアミノ酸類似体である2個またはそれ以上(例えば、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上)の構成要素を含み得る。ある特定の実施形態では、分子ストレッチの約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または100%(すなわち、全部)の構成要素がD-アミノ酸またはアミノ酸類似体であり得る。
【0066】
すでに説明されているように、分子ストレッチは、RASストレッチに対応するようにデザインされ得、そのことは、特に、分子ストレッチとRASストレッチとの間のある程度の配列同一性を要求し得る。例えば、分子ストレッチは、最も好ましくは、RASストレッチと同一であり得、または単一アミノ酸置換によってのみ、特に、3つ以下、好ましくは2つ以下、より好ましくは1つ以下の単一アミノ酸置換によって、後者とは異なり得る。分子ストレッチとRASストレッチとの間のそのような比較的高い程度の配列同一性は、それらのストレッチを、特に、それらの間での分子間ベータシートの形成を通して、会合させるのを助ける。実際、天然に存在するタンパク質内のベータ凝集性領域の「自己会合」がそのようなタンパク質の凝集の広く行き渡った根本的な機構であることが報告されており(例えば、Fernandez-Escamillaら、2004、上記、参照)、本アプローチがこれを利用することができる。またすでに説明されているように、分子ストレッチとRASストレッチとの間の一致の概念は、D-異性体および/または分子ストレッチにおけるそれぞれのアミノ酸の類似体の包含を許容する。
【0067】
アミノ酸類似体への言及は、天然でコードされるアミノ酸と同じまたは類似した基本的な化学構造を有する任意の化合物、すなわち、カルボキシル基、アミノ基、およびR部分を含む有機化合物(アミノ酸残基)を包含し得る。典型的には、アミノ基およびR部分は、α炭素原子(すなわち、カルボキシル基が結合している炭素原子)と結合し得る。他の実施形態では、アミノ基は、α炭素原子以外の炭素原子、例えば、βまたはγ炭素原子、好ましくはβ炭素原子と結合し得る。そのような実施形態では、R部分は、アミノ基と同じ炭素原子、またはα炭素原子に、より近い炭素原子、またはα炭素自体と結合し得る。典型的には、カルボキシル基、アミノ基、およびR部分が、α炭素原子と結合している場合、前記α炭素原子はまた、水素原子と結合し得る。典型的には、アミノ基およびR部分がβ炭素原子と結合している場合、前記β炭素原子はまた、水素原子と結合し得る。非限定的に、アミノ酸類似体のR部分は、それぞれの天然でコードされるアミノ酸のR基とは、R基の1つまたは複数の個々の原子または官能基が、異なる原子で(例えば、メチル基が水素原子で置き換えられ、またはS原子がO原子で置き換えられるなど)、同じ原子の同位元素で(例えば、12Cが13Cで置き換えられ、14Nが15Nで置き換えられ、または1Hが2Hで置き換えられるなど)、または異なる官能基で(例えば、水素原子が、メチル、エチル、もしくはプロピル基で、または別のアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロシクリル、アリール、もしくはヘテロアリール基で置き換えられ;-SH基が、-OH基または-NH2基で置き換えられるなど)、置き換えられまたは置換されていることにより、異なり得る。それぞれの天然でコードされるアミノ酸と比較しての、アミノ酸類似体における構造の違いまたは改変は、好ましくは、電荷および極性に関するそのアミノ酸の中核的性質を保存している。したがって、無極性疎水性アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、無極性疎水性R部分を有し得る;極性中性アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、極性中性R部分を有し得る;正荷電(塩基性)アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、正に荷電した、好ましくは同数の荷電基を有する、R部分を有し得る;負荷電(酸性)アミノ酸のアミノ酸類似体もまた、好ましくは、負に荷電した、好ましくは同数の荷電基を有する、R部分を有し得る。全てのアミノ酸類似体は、D-立体異性体とL-立体異性体の両方として構想され、ただし、それらの構造がそのような立体異性体形を可能にするという条件下である。
【0068】
例として、非限定的に、ロイシンまたはイソロイシン類似体は、2-アミノ-3,3-ジメチル-酪酸(t-ロイシン)、アルファ-メチルロイシン、ヒドロキシロイシン、2,3-デヒドロ-ロイシン、N-アルファ-メチル-ロイシン、2-アミノ-5-メチル-ヘキサン酸(ホモロイシン)、3-アミノ-5-メチルヘキサン酸(ベータ-ホモロイシン)、2-アミノ-4,4-ジメチル-ペンタン酸(4-メチル-ロイシン、ネオペンチルグリシン)、4,5-デヒドロ-ノルロイシン、L-ノルロイシン、N-アルファ-メチル-ノルロイシン、および6-ヒドロキシ-ノルロイシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、バリン類似体は、c-アルファ-メチル-バリン(2,3-ジメチルブタン酸)、2,3-デヒドロ-バリン、3,4-デヒドロ-バリン、3-メチル-L-イソバリン(メチルバリン)、2-アミノ-3-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸(ヒドロキシバリン)、ベータ-ホモバリン、およびN-アルファ-メチル-バリン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、グリシン類似体は、N-アルファ-メチル-グリシン(サルコシン)、シクロプロピルグリシン、およびシクロペンチルグリシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、アラニン類似体は、2-アミノ-イソ酪酸(2-メチルアラニン)、2-アミノ-2-メチルブタン酸(イソバリン)、N-アルファ-メチル-アラニン、c-アルファ-メチル-アラニン、c-アルファ-エチル-アラニン、2-アミノ-2-メチル-4-ペンテン酸(アルファ-アリルアラニン)、ベータ-ホモアラニン、2-インダニル-グリシン、ジ-n-プロピル-グリシン、ジ-n-ブチル-グリシン、ジエチルグリシン、(1-ナフチル)アラニン、(2-ナフチル)アラニン、シクロヘキシルグリシン、シクロプロピルグリシン、シクロペンチルグリシン、アダマンチル-グリシン、およびベータ-ホモアリルグリシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、フェニルアラニン類似体は、β-アミノ-β-フェニルプロピオン酸、o-フルオロフェニルアラニン、m-フルオロフェニルアラニン、p-フルオロフェニルアラニン、β-2-チエニルアラニン、β-3-チエニルアラニン、β-2-フリルアラニン、β-3-フリルアラニン、o-アミノフェニルアラニン、p-アミノフェニルアラニン、m-アミノフェニルアラニン、α-アミノ-β-フェニルエタンスルホン酸、β-2-ピロールアラニン、l-シクロペンテン-1-アラニン、l-シクロヘキセン-1-アラニン、β-4-ピリジルアラニン、β-4-ピラゾリルアラニン、p-ニトロフェニルアラニン、β-4-チアゾールアラニン、シクロヘキシルアラニン、2-アミノ-4-メチル-4-ヘキセン酸、S-(1,2-ジクロロビニル)-システイン、o-クロロフェニルアラニン、m-クロロフェニルアラニン、p-クロロフェニルアラニン、o-ブロモフェニルアラニン、m-ブロモフェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、m-フルオロチロシン、3-ニトロチロシン、β-フェニルセリン、および3-ヨードチロシン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、システイン類似体は、ホモシステイン、アルファ-メチルシステイン、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、およびペニシラミン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、セリン類似体は、メチルセリン、スレオニン、2-アミノ-3-ヒドロキシ-4-メチルペンタン酸、3-アミノ-2-ヒドロキシ-5-メチルヘキサン酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、および2-アミノ-3-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。
【0069】
ある特定の実施形態では、本分子は、分子間ベータシートに関与する正確に1つのアミノ酸ストレッチを含み得る(すなわち、上記で論じられているような正確に1つの「分子ストレッチ」)。ある特定の好ましい実施形態では、本分子は、分子間ベータシートに関与する2つまたはそれ以上のアミノ酸ストレッチを含み得る(すなわち、上記で論じられているような2つまたはそれ以上の「分子ストレッチ」)。例えば、本分子は、2~6つ、好ましくは2~5つ、より好ましくは2~4つ、またはさらにより好ましくは2もしくは3つの分子ストレッチを含み得る。例えば、本分子は、正確に2つ、または正確に3つ、または正確に4つ、または正確に5つの分子ストレッチ、特に好ましくは正確に2つまたは正確に3つの分子ストレッチ、さらにより好ましくは正確に2つの分子ストレッチを含み得る。2つまたはそれ以上の分子ストレッチの包含は、ヒトRASタンパク質を下方制御し、その凝集を誘導することにおいて前記分子の有効性を増加させる傾向にある。
【0070】
本分子が、本明細書で教示されているような2つまたはそれ以上の分子ストレッチを含む場合、これらはそれぞれ独立して、同一または異なり得る。例えば、正確に2つの分子ストレッチを有する分子において、前記2つの分子ストレッチは、同一または異なり得る;正確に3つの分子ストレッチを有する分子において、全ての3つのストレッチが同一であり得、または各ストレッチがお互いのストレッチと異なり得、または2つのストレッチが同一であり得、残りのストレッチが異なり得る;あるいは、正確に4つの分子ストレッチを有する分子において、全ての4つのストレッチが同一であり得、または各ストレッチがお互いのストレッチと異なり得、または2つもしくは3つのストレッチが同一であり得、残りのストレッチが前者と異なり得、必要に応じて、お互いに同一であり得る。
【0071】
例として、非限定的に、2つの分子ストレッチが異なると言われる場合、各分子ストレッチは、本明細書で教示されているような異なるRASストレッチの、重複しない、重複する、または入れ子状態であるが、それでもなお、異なるRASストレッチなどに対応し得る。そのような実施形態では、2つの分子ストレッチは、根底にあるアミノ酸配列が異なるように考慮して、デザインされ得、必要に応じて、他の点においても、例えば、それらが、アミノ酸置換、D-異性体、および/またはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる(または組み入れない)程度においても異なり得る。または、2つの分子ストレッチが異なると言われる場合、各分子ストレッチは、根底にあるアミノ酸配列が同じであるように考慮して、デザインされ得るが、他の点においては、例えば、それらが、アミノ酸置換、D-異性体、および/もしくはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる(または組み入れない)程度において、異なり得るように、同じRASストレッチに対応し得る。特に好ましい実施形態では、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは、同じRASストレッチに対応し、より好ましくは、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは、アミノ酸置換において異ならず(例えば、それらは、RASストレッチと比較して、少しのアミノ酸置換も組み入れず、または同じアミノ酸置換を組み入れ得る)、さらにより好ましくは、それらがD-異性体および/またはそれぞれのアミノ酸の類似体を組み入れる程度においても異ならない(例えば、それらは、少しのD-異性体および/もしくは類似体も組み入れず、または同じ位置において同じD-異性体および/もしくは類似体を組み入れ得る)。したがって、特に好ましい実施形態では、2つまたはそれ以上の分子ストレッチは同一である。
【0072】
本分子が、分子間ベータシートに関与する2つまたはそれ以上のアミノ酸ストレッチを含む(すなわち、上記で論じられているような2つまたはそれ以上の「分子ストレッチ」)場合、「分子間ベータシート」への言及は、必ずしも、物理的に同じベータシートを意味するわけではなく、別のRASタンパク質分子との別のベータシートを意味する場合がある。例えば、2つの分子ストレッチを有する分子は、同じベータシートにおいて、または2つの別々のベータシートにおいて、または最初に2つの別々のベータシートにおいてであり、それらのベータシートが、後で、同じベータシートの部分、もしくはベータシート形成により駆動された同じ、より高次の構造になる、ベータシートにおいて、2つのRASタンパク質分子を会合し得る。したがって、特に求められることは、RAS分子のAPRにおける、ベータ鎖およびベータシートへの立体構造変化の発生であり、それは、最終的に、RASの溶解性を減少させ、その凝集を引き起こす。
【0073】
好ましい実施形態では、上記で論じられたアミノ酸ストレッチを含有する分子が、それらの標的RASタンパク質に曝露される前でも、自己会合または自己凝集する(例えば、作製時または貯蔵中に沈殿する)傾向を低下させるために、アミノ酸ストレッチは、そのような自己会合を低下させまたは防止することができるアミノ酸によって囲まれまたはゲートを付与され得る(「ゲートキーパーアミノ酸」または「ゲートキーパー」とも名付けられている)。したがって、ある特定の実施形態では、本分子内のアミノ酸ストレッチはそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸、特に連続したアミノ酸と、各末端に独立して、隣接し、特に直接的にまたはすぐに隣接している。典型的には、そのような隣接領域はそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有する、1~10個、好ましくは1~8個、より好ましくは1~6個、またはさらにより好ましくは1~4個、例えば、正確に1個、正確に2個、正確に3個、または正確に4個のアミノ酸、特に連続したアミノ酸を含み得る。
【0074】
ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、荷電アミノ酸、例えば、正荷電(塩基性、例えば、+1または+2の総電荷)アミノ酸または負荷電(酸性、例えば-1または-2の総電荷)アミノ酸、例えば、それのR部分においてアミノ基(プロトン化された場合、-NH3
+)またはカルボキシル基(解離した場合、-COO-)を含有するアミノ酸であり得る。ある特定の他の実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、例えばピロリジンなどのヘテロ環におけるそれのペプチド結合形成性アミノ基の包含による、高い立体構造的強剛性により典型的に表されるアミノ酸であり得る。
【0075】
したがって、ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体またはその類似体を含む、R、K、E、D、P、N、S、H、G、Q、またはAであり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、D、P、N、S、H、G、またはQであり得る。ある特定のより好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、そのD-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、D、またはPであり得る。ある特定のより好ましい実施形態では、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を有するアミノ酸は、D-およびL-立体異性体または類似体を含む、R、K、E、またはDであり得る。したがって、ある特定の実施形態では、本分子内のアミノ酸ストレッチはそれぞれ独立して、R、K、E、D、P、N、S、H、G、Q、およびA、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され、またはR、K、E、D、P、N、S、H、G、およびQ、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され、またはR、K、E、D、およびP、それらのD-およびL-立体異性体、およびそれらの類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、1個または複数のアミノ酸、好ましくは1~4個の連続したアミノ酸と、各末端に独立して、隣接している。
【0076】
例として、非限定的に、アルギニン類似体、特に、正電荷を有し、または正電荷を有するようにプロトン化することができるアルギニン類似体は、2-アミノ-3-ウレイド-プロピオン酸、ノルアルギニン、2-アミノ-3-グアニジノ-プロピオン酸、グリオキサール-ヒドロイミダゾロン、メチルグリオキサール-ヒドロイミダゾロン、N’-ニトロ-アルギニン、ホモアルギニン、オメガ-メチル-アルギニン、N-アルファ-メチル-アルギニン、N,N’-ジエチル-ホモアルギニン、カナバニン、およびベータ-ホモアルギニン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択から選択され得る。例として、非限定的に、リジン類似体、特に、正電荷を有し、または正電荷を有するようにプロトン化することができるリジン類似体は、N-イプシロン-ホルミル-リジン、N-イプシロン-メチル-リジン、N-イプシロン-i-プロピル-リジン、N-イプシロン-ジメチル-リジン、N-イプシロン-トリメチルアンモニウム-リジン、N-イプシロン-ニコチニル-リジン、オルニチン、N-デルタ-メチル-オルニチン、N-デルタ-N-デルタ-ジメチル-オルニチン、N-デルタ-i-プロピル-オルニチン、c-アルファ-メチル-オルニチン、ベータ,ベータ-ジメチル-オルニチン、N-デルタ-メチル-N-デルタ-ブチル-オルニチン、N-デルタ-メチル-N-デルタ-フェニル-オルニチン、c-アルファ-メチル-リジン、ベータ,ベータ-ジメチル-リジン、N-アルファ-メチル-リジン、ホモリジン、およびベータ-ホモリジン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、グルタミン酸またはアスパラギン酸類似体、特に、負電荷を有し、または負電荷を有するように解離することができるグルタミン酸またはアスパラギン酸類似体は、2-アミノ-アジピン酸(ホモグルタミン酸)、2-アミノ-ヘプタン二酸(2-アミノピメリン酸)、2-アミノ-オクタン二酸(アミノスベリン酸)、および2-アミノ-4-カルボキシ-ペンタン二酸(4-カルボキシグルタミン酸)、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。例として、非限定的に、プロリン類似体は、3-メチルプロリン、3,4-デヒドロ-プロリン、2-[(2S)-2-(ヒドラジンカルボニル)ピロリジン-1-イル]-2-オキソ酢酸、ベータ-ホモプロリン、アルファ-メチル-プロリン、ヒドロキシプロリン、4-オキソ-プロリン、ベータ,ベータ-ジメチル-プロリン、5,5-ジメチル-プロリン、4-シクロヘキシル-プロリン、4-フェニル-プロリン、3-フェニル-プロリン、および4-アミノプロリン、加えて、それらの構造が立体異性体形を可能にするならば、それらのD-およびL-立体異性体からなるリストから選択され得る。場合により他のアミノ酸と組み合わせて、本明細書に開示されているようなゲートキーパー部分に含まれ得るアミノ酸のさらなる非限定的例は、ジアミノピメリン酸である。場合により他のアミノ酸と組み合わせて、本明細書に開示されているようなゲートキーパー部分に含まれ得るアミノ酸のさらなる非限定的例は、シトルリンである。
【0077】
実例として、非限定的に、分子ストレッチに隣接し得るそのようなゲートキーパー配列または領域の例は、それぞれ独立して、R、K、E、D、P、A、ジアミノピメリン酸、シトルリン、RR、KK、EE、DD、PP、RK、KR、ED、DE、RRR、KKK、DDD、EEE、PPP、RRK、RKK、KKR、KRR、RKR、KRK、DDE、DEE、EED、EDD、EDE、またはDEDなどであり得、その場合、任意のアルギニン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、またはアラニンは、L-またはD-異性体であり得、必要に応じて、任意のアルギニン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、またはアラニンは、この明細書の他の箇所で論じられているように、それの類似体によって置換されてもよい。
【0078】
前に論じられているように、本分子は、RASタンパク質APRによって寄与されるベータ鎖と相互作用し、その結果、前記相互作用するベータ鎖により形成される分子間ベータシートを生じる能力があるベータ鎖立体構造を想定または模倣することができる少なくとも1つの一部分を含み得るが、ある特定の実施形態では、そのような一部分は、好ましくは、分子間ベータシートに関与するアミノ酸ストレッチ(「分子ストレッチ」)であり得る。ある特定の他の実施形態では、一部分は、そのような分子ストレッチのペプチド模倣体であり得る。用語「ペプチド模倣体」は、対応するペプチドの形態的類似体である非ペプチド剤を指す。ペプチドのペプチド模倣体を合理的にデザインする方法は、当技術分野において知られている。例えば、硫酸化8-merのペプチド、CCK26-33に基づいた3つのペプチド模倣体、および11-merのペプチド、サブスタンスPに基づいた2つのペプチド模倣体の合理的デザイン、ならびに関連したペプチド模倣体デザイン原理は、Horwell 1995(Trends Biotechnol 13:132~134)に記載されている。
【0079】
RAS APRのベータ鎖とかみ合わすことを意図される前記一部分の外側、例えば、言い換えれば、これまで論じられているような「分子ストレッチ」の外側の、本分子の化学的性質および構造は、本分子のこれらの残りのセクションまたは一部分が、前述の分子間ベータシート相互作用に干渉せず、または好ましくはそれを促進もしくは可能にする限りにおいて、比較的あまり重要ではない。
【0080】
ある特定の実施形態では、本分子が、本明細書で論じられているような2つまたはそれ以上のRAS相互作用性分子ストレッチを含み、それぞれが、必要に応じておよび好ましくは、ゲートキーパー領域と隣接している場合、これらの分子ストレッチは、直接的にまたは好ましくはリンカー(スペーサーとしても知られている)を通して、接続され、特に共有結合性に接続される。そのようなリンカーまたはスペーサーの組入れは、個々の分子ストレッチに、RASと相互作用するのにより大きい立体構造的自由およびより小さい立体障害を与え得る。必要に応じて、分子ストレッチ間に挿入されることに加えて、リンカーはまた、本分子の最初の分子ストレッチの外側および/または最後の分子ストレッチの外側に付加されてもよい。これは、必要に応じておよび好ましくはゲートキーパー領域と隣接した、1つの分子ストレッチを含むだけの分子のために、変更すべき所は変更して、適用され、その場合、リンカーは、単一の分子ストレッチの一方または両方の末端に連結され得る。
【0081】
そのようなリンカーの性質および構造は特に制限されない。リンカーは、強剛性リンカーまたは可動性リンカーであり得る。特定の実施形態では、リンカーは、共有結合を達成する共有結合性リンカーである。用語「共有結合性の」または「共有結合」は、2個の原子間での1つまたは複数の電子対の共有を含む化学的結合を指す。リンカーは、例えば、(ポリ)ペプチドリンカー、または非生物学的ポリマーのような非ペプチドポリマーなどの非ペプチドリンカーであり得る。好ましくは、任意の連結は、加水分解に安定な連結であり得、すなわち、長期間、例えば数日間、有用なpH値における水中で、例えば特に生理学的条件下で、実質的に安定であり得る。
【0082】
ある特定の実施形態では、各リンカーは独立して、1から20の間の同一のまたは非同一の単位のストレッチから選択され得、単位が、アミノ酸、単糖、ヌクレオチド、またはモノマーである。非同一の単位は、同じ性質の非同一の単位(例えば、異なるアミノ酸またはいくつかのコポリマー)であり得る。それらはまた、異なる性質の非同一の単位、例えば、アミノ酸単位とヌクレオチド単位を有するリンカー、または2つもしくはそれ以上の異なるモノマー種を含むヘテロポリマー(コポリマー)であり得る。特定の実施形態によれば、各リンカーは独立して、同じ性質の1~10の単位、特に同じ性質の1~5の単位で構成され得る。特定の実施形態によれば、本分子に存在する全てのリンカーは、同じ性質であり得、または同一であり得る。
【0083】
特定の実施形態では、任意の1つのリンカーは、1個または複数のアミノ酸のペプチドまたはポリペプチドリンカーであり得る。ある特定の実施形態では、本分子における全てのリンカーは、ペプチドまたはポリペプチドリンカーであり得る。より特には、ペプチドリンカーは、1~20アミノ酸長、例えば、好ましくは1~10アミノ酸長、より好ましくは2~5アミノ酸長であり得る。例えば、リンカーは、正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸長、例えば、好ましくは正確に2、3、または4アミノ酸長であり得る。リンカーを構成するアミノ酸の性質は、それらにより連結された分子ストレッチの生物活性が実質的に損なわれることがない限り、特別な関連性はない。好ましいリンカーは、本質的に、非免疫原性でありおよび/またはタンパク質切断を起こしにくい。ある特定の実施形態では、リンカーは、アルファヘリックス構造などの予想される二次構造を含有し得る。しかしながら、柔軟なランダムコイル構造を想定することが予想されるリンカーが好ましい。ベータ鎖を形成する傾向を有するリンカーは、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。システイン残基は、分子間ジスルフィド架橋を形成するそれらの能力のせいで、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。塩基性または酸性アミノ酸残基、例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸は、意図されない静電気的相互作用を生じるそれらの能力のせいで、あまり好ましくなくあり得、または避ける必要があり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、フェニルアラニン、トレオニン、プロリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、トレオニン、プロリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。さらにより好ましい実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、およびそれらの組合せ、加えて、そのD-異性体および類似体からなる群から選択されるアミノ酸を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシンおよびセリン残基のみからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、グリシン残基またはその類似体のみから、好ましくはグリシン残基のみからなり得る。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、セリン残基またはそのD-異性体もしくは類似体のみから、好ましくはセリン残基のみからなり得る。そのようなリンカーは、特に良い可動性を提供する。ある特定の実施形態では、リンカーは、グリシンおよびセリン残基から本質的になるか、またはそれらからなり得る。ある特定の実施形態では、グリシンおよびセリン残基は、4:1から1:4の間の比(数による)、例えば、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、または約1:3のグリシン:セリンの比で存在し得る。好ましくは、グリシンは、セリンより豊富であり得、例えば、4:1から1.5:1の間のグリシン:セリンの比、例えば、約3:1または約2:1のグリシン:セリンの比である(数による)。ある特定の実施形態では、リンカーのN末端およびC末端残基は両方ともセリン残基であり得る;または、リンカーのN末端およびC末端残基は両方ともグリシン残基であり得る;または、N末端残基はセリン残基であり、C末端残基はグリシン残基である;または、N末端残基はグリシン残基であり、C末端残基はセリン残基である。ある特定の実施形態では、ペプチドリンカーは、プロリン残基またはそのD-異性体もしくは類似体のみから、好ましくはプロリン残基のみからなり得る。例として、非限定的に、本明細書で意図されるようなペプチドリンカーは、例えば、PP、PPP、GS、SG、SGG、SSG、GSS、GGS、GSGS(配列番号51)、AS、SA、GF、FFなどであり得る。
【0084】
ある特定の実施形態では、リンカーは、非ペプチドリンカーであり得る。好ましい実施形態では、非ペプチドリンカーは、非ペプチドポリマーを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得る。本明細書で使用される場合、用語「非ペプチドポリマー」は、ペプチド結合を除く、共有結合によってお互いに連結された2つまたはそれ以上の反復単位を含む生体適合性ポリマーを指す。例えば、非ペプチドポリマーは、2~200単位長、または2~100単位長、または2~50単位長、または2~45単位長、または2~40単位長、または2~35単位長、または2~30単位長、または5~25単位長、または5~20単位長、または5~15単位長であり得る。非ペプチドポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールのコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性ポリマー、例えば、PLA(ポリ(乳酸)およびPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸)、脂質ポリマー、キチン、ヒアルロン酸、ならびにそれらの組合せからなる群から選択され得る。特に好ましいのは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)である。別の特に構想される化学的リンカーはTtds(4,7,10-トリオキサトリデカン-13-スクシンアミド酸)である。非ペプチドポリマーの分子量は、好ましくは、1kDaから100kDaまで、好ましくは1~20kDaの範囲であり得る。非ペプチドポリマーは、1つのポリマー、または異なる型のポリマーの組合せであり得る。非ペプチドポリマーは、そのリンカーにより連結されることになっている要素と結合する能力がある反応基を有する。好ましくは、非ペプチドポリマーは、各末端に反応基を有する。好ましくは、反応基は、反応性アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基、およびスクシンイミド誘導体からなる群から選択される。スクシンイミド誘導体は、プロピオン酸スクシンイミジル、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル、または炭酸スクシンイミジルであり得る。非ペプチドポリマーの両端における反応基は、同じまたは異なり得る。ある特定の実施形態では、非ペプチドポリマーは、両端に反応性アルデヒド基を有する。例えば、非ペプチドポリマーは、一方の末端にマレイミド基、および他方の末端に、アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、またはブチルアルデヒド基を有し得る。両端に反応性ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(PEG)は、非ペプチドポリマーとして使用され、前記ヒドロキシ基が、既知の化学反応により様々な反応基へ活性化され得、または市販の修飾反応基を有するPEGが、タンパク質コンジュゲートを調製するために使用され得る。
【0085】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子の作動部、すなわち、RASへの効果を担う部分は、ペプチドであり得る。言い換えれば、そのような実施形態では、RAS APRと相互作用するベータ鎖を形成する分子ストレッチ(必要に応じておよび好ましくは、ゲートキーパー領域に隣接し、リンカーが必要に応じておよび好ましくは前記分子ストレッチ間に挿入され、およびリンカーが、あまり好ましくはないが、必要に応じて、最も外側の分子ストレッチの外側に付加される)は全て、ペプチド結合によって共有結合性に連結されたアミノ酸(D-およびL-立体異性体ならびにアミノ酸類似体を含んでもよい)で構成される。好ましくは、本分子のそのようなペプチド作動部の全長は、50アミノ酸を超えず、例えば、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、またはさらに20アミノ酸を超えない。本分子のそのようなペプチド作動部は、1つまたは複数の他の部分と連結され得、前記他の部分は、それら自体、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドであり得るが、そうである必要はなく、この明細書の他の箇所で論じられているように、本分子を検出することを可能にすること、対象へ投与された時、本分子の半減期を増加させること、本分子の溶解性を増加させること、本分子の細胞取込みを増加させることなどの他の機能を果たし得る。ある特定の特に好ましい実施形態では、分子はペプチドである。好ましくは、そのようなペプチドの全長は、50アミノ酸を超えず、例えば、45アミノ酸、40アミノ酸、35アミノ酸、30アミノ酸、25アミノ酸、またはさらに20アミノ酸を超えない。本分子が、ペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、例えば、ペプチドである場合、前記分子のN末端は、例えばアセチル化により、修飾され得、および/または前記分子のC末端は、例えばアミド化により、修飾され得る。
【0086】
上述の議論を考慮すれば、ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、便利には、以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
P1~P4がそれぞれ独立して、上記で教示されているようなアミノ酸ストレッチ(「分子ストレッチ」)を表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、上記で教示されているようなゲートキーパー領域を表示し、
Z1~Z3がそれぞれ独立して、直接的結合、または好ましくは上記で教示されているようなリンカーを表示する。
【0087】
したがって、構造a)は、本明細書で教示されているような1つの分子ストレッチのみを含有する分子を指すが、構造b)、c)、およびd)は、それぞれ、本明細書で教示されているような2つ、3つ、または4つの分子ストレッチを含有する分子を指す。
【0088】
ある特定の実施形態では、上記で説明されているように、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続したアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、好ましくは、R、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、より好ましくは、R、K、D、E、およびP、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸を表示し得る。ある特定の実施形態では、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、R、K、A、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸を表示し得、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、K、R、D、A、またはKKであり得る。ある特定の特に好ましい実施形態では、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、R、K、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸を表示し得、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4は、それぞれ独立して、K、R、D、またはKKであり得る。
【0089】
ある特定の特に好ましい実施形態では、各リンカーは、独立して、1~10単位の間、好ましくは1~5単位の間のストレッチから選択され、単位が、それぞれ独立して、1個のアミノ酸またはPEGであり、例えば、各リンカーが、独立して、GS、PP、AS、SA、GF、FF、またはGSGS(配列番号51)、またはそのD-異性体および/もしくは類似体であり、好ましくは、各リンカーは、独立して、GS、PP、またはGSGS(配列番号51)、好ましくはGS、またはそのD-異性体および/もしくは類似体である。ある特定の好ましい実施形態では、それぞれ独立して、直接的結合は、リンカーの代わりに含まれる。
【0090】
ある特定の好ましい実施形態では、本分子は、以下の構造:
a)Gate-Pept-Gate;
b)Linker-Gate-Pept-Gate;
c)Gate-Pept-Gate-Linker;
d)Linker-Gate-Pept-Gate-Linker;
e)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
f)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
g)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
h)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
i)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
j)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate;
k)Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;または
l)Linker-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-(Linker)-Gate-Pept-Gate-Linker;
のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
「Gate」、「Pept」、および「Linker」が、ペプチド結合により隣接ペプチド要素と結合したペプチド要素を表示し、前記ペプチド要素の左から右への順番が、前記ペプチドにおけるそれらのN末端からC末端への構築を表し、
「Pept」が、それぞれ独立して、LSVFAI(配列番号6)、GFLSVFAIN(配列番号45)、FLSVFAI(配列番号46)、GFLSVFAI(配列番号47)、LSVFAIN(配列番号48)、FLSVFAIN(配列番号49)、またはGFLSVFAIN(配列番号50)であり、好ましくは少なくとも1つの「Pept」がLSVFAI(配列番号6)であり、例えば、特に好ましくは、各「Pept」がLSVFAI(配列番号6であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたはそれのもしくはそれらの類似体(そのような類似体のL-およびD-異性体を含む)により置き換えられ;
「Gate」は、それぞれ独立して、リジン(K)またはD-リジンまたはD-もしくはL-リジン類似体(好ましくはリジン)、アルギニン(R)またはD-アルギニンまたはD-もしくはL-アルギニン類似体(好ましくはアルギニン)、アスパラギン酸(D)またはD-アスパラギン酸またはD-もしくはL-アスパラギン酸類似体(好ましくはアスパラギン酸)、グルタミン酸(E)またはD-グルタミン酸またはD-もしくはL-グルタミン酸類似体(好ましくはグルタミン酸)、KK、KKK、KKKK(配列番号52)、RR、RRR、RRRR(配列番号53)、DD、DDD、DDDD(配列番号54)、EE、EEE、EEEE(配列番号55)、KR、RK、KKR、KRK、RKK、RRK、RKR、KRR、KRKR(配列番号56)、KRRK(配列番号57)、RKKR(配列番号58)、DE、ED、DDE、DED、EED、EED、EDE、DEE、DEDE(配列番号59)、DEED(配列番号60)、またはEDDE(配列番号61)であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたはそれのもしくはそれらの類似体(そのような類似体のL-およびD-異性体を含む)により置き換えられ;
丸括弧内の語「Linker」の包含は、そのリンカーが、それぞれ独立して、存在しない場合があり、または好ましくは存在することを表示し、「Linker」は、それぞれ独立して、グリシン(G)またはD-もしくはL-グリシン類似体(好ましくはグリシン)、セリン(S)またはD-セリンまたはD-もしくはL-セリン類似体(好ましくはセリン)、プロリン(P)またはD-プロリンまたはD-もしくはL-プロリン類似体(好ましくはプロリン)、GG、GGG、GGGG(配列番号62)、SS、SSS、SSSS(配列番号63)、GS、SG、GGS、GSG、SGG、SSG、SGS、SSG、GGGS(配列番号64)、GGSG(配列番号65)、GSGG(配列番号66)、SGGG(配列番号67)、GGSS(配列番号68)、GSSG(配列番号69)、SSGG(配列番号70)、GSGS(配列番号51)、SGSG(配列番号71)、GSGSG(配列番号72)、SGSGS(配列番号73)、PP、PPP、またはPPPP(配列番号74)であり、必要に応じて、前記列挙されたアミノ酸の任意の1つまたは複数または全部が、それのもしくはそれらのD-異性体によりまたはそれのもしくはそれらの類似体(そのような類似体のL-およびD-異性体を含む)により置き換えられる。
【0091】
そのようなペプチドにおいて、N末端アミノ酸は、アセチル化など、修飾され得、および/またはC末端アミノ酸は、アミド化など、修飾され得る。そのようなペプチドにおいて、D-アミノ酸および/またはアミノ酸類似体は、それらの組入れが、本明細書で教示されているような分子間ベータシートの形成と適合性である限り、組み入れることができる。
【0092】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子は、アミノ酸配列KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、前記アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含み、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。
【0093】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子は、アミノ酸配列KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。
【0094】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子は、アミノ酸配列KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)のペプチドからなり、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。
【0095】
ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子は、表2に示されているようなアミノ酸配列、例えば、配列番号15,19,36,または38のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、前記アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含み、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される。したがって、ある特定の特に好ましい実施形態では、本分子は、アミノ酸配列:
a)kLSVFAIKGSKLSVFAIk(配列番号15);または
b)[Dap]LSVFAIKGSKLSVFAI[Dap](配列番号19);または
c)KLSVFAIKKLSVFAIK(配列番号36);または
d)klsvfaikGsklsvfaik(配列番号38)
のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、必要に応じて、前記アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそれのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含み、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化される(これらの配列a)~d)において、「[Dap]」がジアミノピメリン酸を表示する;L-アミノ酸は大文字のコードを使用して表される;D-アミノ酸は小文字のコードを使用して表される)。
【0096】
上記ですでに触れられているように、ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、他の機能を果たしまたは他の役割および活性を実施し得る、1つまたは複数のさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツを含み得る。そのような機能、役割、または活性は、例えば、本分子の作製、合成、単離、精製、もしくは製剤化に関連して、またはそれの実験的もしくは治療的使用に関連して、有用でまたは望ましくあり得る。便利には、本分子の作動部、すなわち、RASへの効果を担う作動部は、1つまたは複数のそのようなさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツと接続され得、好ましくは、直接的にまたはリンカーを通して、共有結合性に接続され、結合され、連結され、または融合され得る。そのようなさらなる部分、基、コンポーネント、またはパーツがペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質である場合、本分子の作動部への接続は、好ましくは、直接的な結合またはペプチドリンカーを通してである、ペプチド結合を含み得る。
【0097】
全てのそのような付加される部分について、その融合物またはリンカーの性質は、その部分と本分子がそれらの特異的な機能を発揮できる限り、本発明に重要ではない。特定の実施形態によれば、本分子と融合される部分は、例えば、プロテアーゼ認識部位を有するリンカー部分を使用することにより、切断することができる。このように、前記部分および本分子の機能は、分離することができ、それは、より大きい部分について、または前記部分が特定の時点後、もはや必要ではない実施形態、例えば、タグを使用する分離ステップ後、切り離されるタグについて、特に関心が高いものであり得る。
【0098】
ある特定の好ましい実施形態では、本分子は、検出可能な標識、本分子の単離を可能にする部分、本分子の安定性を増加させる部分、本分子の溶解性を増加させる部分、本分子の細胞取込みを増加させる部分、本分子の細胞への標的化をもたらす部分、またはそれらの任意の2つもしくはそれ以上の組合せを含み得る。単一部分が、2つまたはそれ以上の機能または活性を実行できることは理解されているはずである。
【0099】
したがって、ある特定の実施形態では、本分子は検出可能な標識を含み得る。用語「標識」は、検出可能な、および好ましくは定量可能な読み出しまたは性質を提供するために使用され得、目的の実体、例えば、本明細書で教示されているようなペプチドなどの本明細書で教示されているような分子と付着しまたはそれの一部となり得る、任意の原子、分子、部分、または生体分子を指す。標識は、例えば、質量分析的、分光学的、光学的、比色分析的、磁気的、光化学的、生化学的、免疫化学的、または化学的手段により適切に検出可能であり得る。標識には、非限定的に、色素;水素、炭素、窒素、酸素、リン、イオウ、フッ素、塩素、またはヨウ素の同位元素、例えば、それぞれ、2H、3H、13C、11C、14C、15N、18O、17O、31P、32P、33P、35S、18F、36Cl、125I、または131Iなどの放射標識;高電子密度試薬;酵素(例えば、イムノアッセイに一般的に使用されるような、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ);ビオチン-ストレプトアビジンなどの結合性部分;ジゴキシゲニンなどのハプテン;発光性、リン光性、または蛍光発生的部分;質量タグ;単独で、または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により発光スペクトルを抑制もしくはシフトし得る部分と組み合わせての、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(FAM)、テトラクロロ-フルオレセイン、TAMRA、ROX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、テキサスレッドなどのフルオロフォア);および蛍光タンパク質(例えば、GFP、RFP)が挙げられる。ある特定の同位体標識された、本明細書で教示されているようなペプチドなどの分子、例えば、3Hおよび14Cなどの放射性同位元素が組み込まれている分子は、薬物および/または基質の組織分布アッセイにおいて有用である。3Hおよび14C同位元素は、それらの調製の容易さおよび検出性で特に好ましい。さらに、2Hなどのより重い同位元素での置換は、より高い代謝安定性から生じるある特定の治療的利点、例えば、in vivo半減期の増加または投薬必要量の低減を提供し得、したがって、いくつかの状況において好ましくあり得る。ペプチドなどの同位体標識された分子は、一般的に、容易に入手できる同位体標識試薬が非同位体標識試薬の代わりをする、作製または合成方法を行うことにより調製され得る。いくつかの実施形態では、本分子は、別の作用物質(例えば、プローブ結合性パートナー)での検出を可能にするタグと共に、提供され得る。そのようなタグは、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、hisタグ、mycタグ、FLAGタグ(DYKDDDDK、配列番号75)、マルトース、マルトース結合性タンパク質、または結合性パートナーを有する、当技術分野において知られた任意の他の種類のタグであり得る。プローブ:結合性パートナーの配置に利用され得る会合の例は、任意であり得、それには、例えば、ビオチン:ストレプトアビジン、hisタグ:金属イオン(例えば、Ni2+)、マルトース:マルトース結合性タンパク質などが挙げられる。標識RAS標的化分子は、様々な使用および適用に役立つことができ、例えば、非限定的に、診断アッセイを含むin vitroアッセイにおける使用であり、その場合、標識RAS標的化pept-insが、対象由来の生体試料において目的のRASタンパク質、例えば変異型RASタンパク質と結合し、それの検出を可能にするという原理を提供し得る;またはin vivoイメージングにおける使用であり、その場合、身体における標識RAS標的化pept-insの分布が、投与後、非侵襲性イメージング方法により追跡され得る。
【0100】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の単離(分離、精製)を可能にする部分を含み得る。典型的には、そのような部分は、アフィニティー精製方法と共に作動し、その方法において、目的の特定のコンポーネントを他のコンポーネントから単離する能力が、免疫学的結合性物質(抗体)などの分離可能な結合性物質と目的のコンポーネントとの間の特異的結合によって与えられる。そのようなアフィニティー精製方法には、非限定的に、アフィニティークロマトグラフィーおよび磁気粒子分離が挙げられる。そのような部分は当技術分野においてよく知られており、非限定的例には、ビオチン(ストレプトアビジンを利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、hisタグ(金属イオン、例えばNi2+を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、マルトース(マルトース結合性タンパク質を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)(グルタチオンを利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)、またはmycもしくはFLAGタグ(それぞれ、抗mycまたは抗FLAG抗体を利用するアフィニティー精製方法を使用して、単離可能)が挙げられる。
【0101】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の溶解性を増加させる部分を含み得る。本分子の溶解性は、上記で論じられているように、分子ストレッチに隣接するゲートキーパー部分の包含(それにより、これは、本分子の早期凝集を阻止し、それらを溶液中に保つのに、原理的には十分であり得る)により、保証しおよび制御することができるが、溶解性を増加させる、すなわち凝集を阻止する、部分のさらなる追加は、本分子のより容易なハンドリングを提供し得、特に、それらの安定性および保存可能期間を向上させ得る。上記で論じられた標識および単離タグの多くはまた、本分子の溶解性を増加させる。さらに、そのような可溶化部分の周知の例は、PEG(ポリエチレングリコール)である。この部分は、特に構想され、それが、可溶化部分としてだけでなく、リンカーとしても使用することができるからである。他の例には、ペプチドおよびタンパク質またはタンパク質ドメイン、またはさらにタンパク質全体、例えば、GFPが挙げられる。この関連において、PEGのような、1つの部分が異なる機能または効果を生じ得ることは留意されるべきである。例として、FLAGタグは、標識として使用することができるペプチド部分であるが、それの電荷密度により、それはまた、可溶化を増強する。PEG化はすでにしばしば、生物医薬品の溶解性を増加させることが実証されている(例えば、VeroneseおよびMero、BioDrugs. 2008;22(5):315~29)。ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質ドメインタグを目的の分子へ付加することは、当技術分野において広範囲にわたって記載されている。例には、シヌクレインに由来したペプチド(例えば、Parkら、Protein Eng.Des.Sel. 2004;17:251~260)、SET(溶解増強タグ、Zhangら、Protein Expr Purif 2004;36:207~216)、チオレドキシン(TRX)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合性タンパク質(MBP)、N-利用物質(N-Utilization substance)(NusA)、低分子ユビキチン様修飾因子(SUMO)、ユビキチン(Ub)、ジスルフィド結合C(DsbC)、17キロダルトンタンパク質(Seventeen kilodalton protein)(Skp)、ファージT7プロテインキナーゼ断片(T7PK)、プロテインG B1ドメイン、プロテインA IgG ZZ反復ドメイン、および細菌免疫グロブリン結合性ドメイン(Huttら、J Biol Chem.;287(7):4462~9、2012)が挙げられるが、それらに限定されない。タグの性質は、当業者によって決定することができるように、適用に依存する。例として、本明細書に記載された本分子のトランスジェニック発現について、細胞機構による早期分解を阻止するために本分子をより大きいドメインと融合させることが構想され得る。他の適用は、本分子の性質を過度に変化させないために、より小さい可溶化タグ(例えば、30アミノ酸未満、または20アミノ酸未満、またはさらに10アミノ酸未満)との融合を構想し得る。
【0102】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の安定性、例えば本分子の保存可能期間、および/または本分子の半減期を増加させる(投与された場合、本分子の安定性を増加させ、および/または本分子のクリアランスを低下させることを含み得る)部分を含み得る。そのような部分は、本分子の薬物動態学的および薬力学的性質を調節し得る。上記で論じられた標識、単離タグ、および可溶化タグの多くはまた、本分子の保存可能期間またはin vivo半減期を増加させ、D-アミノ酸および/またはアミノ酸類似体の包含も同様にそうであり得る。例として、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)、アルブミン結合性ドメイン、または合成アルブミン結合性ペプチドとの融合が、種々の治療用タンパク質の薬物動態学および薬力学を向上させることが知られている(LangenheimおよびChen、Endocrinol.;203(3):375~87、2009)。使用される場合が多い別の部分は、抗体のフラグメント結晶化可能領域(Fc)である。Strohl(BioDrugs. 2015、29巻、215~39)は、生物製剤の半減期延長のための融合タンパク質に基づいたストラテジーを概説し、そのストラテジーには、非限定的に、ヒトIgG Fcドメインとの融合、HSAとの融合、ヒトトランスフェリンとの融合、人工ゼラチン様タンパク質(GLP)との融合などが挙げられる。特定の実施形態では、本分子は、アガロースビーズとも、ラテックスビーズとも、セルロースビーズとも、磁気ビーズとも、シリカビーズとも、ポリアクリルアミドビーズとも、マイクロスフェアとも、ガラスビーズとも、いかなる固体支持体(例えば、ポリスチレン、プラスチック、ニトロセルロース膜、ガラス)とも、NusAタンパク質とも融合していない。しかしながら、これらの融合は可能であり、特定の実施形態では、それらもまた構想される。
【0103】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の細胞取込みを増加させる部分を含み得る。例えば、本分子は、細胞透過(または細胞移行)を媒介する配列をさらに含み得、すなわち、本分子は、細胞透過配列の組換えまたは合成的付着を通してさらに修飾される。細胞透過性ペプチド(CPP)またはタンパク質形質導入ドメイン(PTD)配列は当技術分野においてよく知られている。それらの用語は、一般的に、細胞へ進入する能力があるペプチドを指す。この能力は、本明細書に開示されているような分子の細胞への送達に利用することができる。例示的だが、非限定的なCPPには、HIV-1 Tat由来CPP(例えば、Frankelら 1988(Science 240:70~73)参照);アンテナペディアペプチドまたはペネトラチン(例えば、Derossiら 1994(J Biol Chem 269:10444~10450)参照);HSV-1 VP22に由来したペプチド(例えば、Aintsら 2001(Gene Ther 8:1051~1056)参照);トランスポータン(例えば、Poogaら 1998(FASEB J 12:67~77)参照);プロテグリン1(PG-1)抗微生物ペプチドSynB(Kokryakovら 1993(FEBS Lett 327:231~236));モデル両親媒性(MAP)ペプチド(例えば、Oehlkeら 1998(Biochim Biophys Acta 1414:127~139)参照);シグナル配列に基づいた細胞透過性ペプチド(NLS)(例えば、Linら 1995(J Biol Chem 270:14255~14258)参照);疎水性膜輸送配列(MTS)ペプチド(例えば、Linら 1995、上記);およびポリアルギニン、オリゴアルギニン、およびアルギニンリッチペプチド(例えば、Futakiら 2001(J Biol Chem 276:5836~5840)参照)が挙げられる。さらに他の一般的に使用される細胞透過性ペプチド(天然ペプチドと人工ペプチドの両方)は、例えば、SawantおよびTorchilin、Mol Biosyst. 6(4):628~40、2010;Noguchiら、Cell Transplant. 19(6):649~54、2010、ならびにLindgrenおよびLangel、Methods Mol Biol. 683:3~19、2011に開示されている。これらのタンパク質に由来している担体ペプチドは、お互いにほとんど配列相同性を示さないが、全て、カチオン性が高く、アルギニンまたはリジンリッチである。CPPは、任意の長さであり得る。例えば、CPPは、500アミノ酸長以下、250アミノ酸長以下、150アミノ酸長以下、100アミノ酸長以下、50アミノ酸長以下、25アミノ酸長以下、10アミノ酸長以下、または6アミノ酸長以下であり得る。例えば、CPPは、4アミノ酸長以上、5アミノ酸長以上、6アミノ酸長以上、10アミノ酸長以上、25アミノ酸長以上、50アミノ酸長以上、100アミノ酸長以上、150アミノ酸長以上、または250アミノ酸長以上であり得る。好ましくは、CPPは、4アミノ酸長から25アミノ酸長の間であり得る。CPPの適切な長さおよびデザインは、当業者により容易に決定されるであろう。CPPに関する一般的な参考文献として、とりわけ、「Cell penetrating peptides:processes and applications」(Ulo Langel編、第1版、CRC Press 2002);Advanced Drug Delivery Reviews 57:489~660(2005);Dietz & Bahr 2004(Moll Cell Neurosci 27:85~131))が役に立つ。本明細書で開示されているような作用物質は、CPPと直接的または間接的に、例えば、非限定的にPEGベースのリンカーなどの適切なリンカーを用いて、コンジュゲートされ得る。本明細書に記載された分子は、細胞に進入するためにCPPを必要としない場合がある。実際、実施例に示されているように、本分子が細胞によって取り込まれることを必要とする細胞内タンパク質を標的化することは可能であり、これは、CPPへの融合なしに起こる。
【0104】
さらなる実施形態では、本分子は、本分子の細胞への標的化をもたらす部分を含み得る。例として、本分子は、例えば、所定の標的に対する特異性、特に、その分子が方向づけられる変異型ヒトRAS、例えばG12V変異型RASを発現する細胞に対する特異性、その細胞の表面上に特異的に発現したタンパク質に対する特異性を有する、抗体、ペプチド、または小分子と、融合され得る。そのような実施形態では、本分子は、標的化された細胞において特異的に、RASの下方制御または凝集を惹起する。ある特定の場合では、結合性ドメインは、化合物(例えば、少なくとも1つの標的タンパク質に対する親和性を有する低分子化合物)であり、ある特定の他の場合では、結合性ドメインは、ポリペプチドであり、ある特定の他の場合では、結合性ドメインはタンパク質ドメインである。タンパク質の結合性ドメインは、自己安定化性であり、そのタンパク質鎖の残りとは無関係にフォールディングしている場合が多い、タンパク質構造全体の要素である。結合性ドメインは、長さが約25アミノ酸から500アミノ酸まで、およびそれ以上で、様々である。多くの結合性ドメインは、フォールドへ分類することができ、認識可能で、同定可能な3D構造である。いくつかのフォールドは、多くの異なるタンパク質において共通しているため、それらは、特別な名前を与えられている。非限定的例は、Rossmannフォールド、TIMバレル、アルマジロリピート、ロイシンジッパー、カドヘリンドメイン、デスエフェクタードメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合性ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、src相同ドメイン2、BRCA1のBRCTドメイン、Gタンパク質結合性ドメイン、Eps 15相同(EH)ドメイン、およびp53のタンパク質結合性ドメインである。抗体は、超可変ループ領域、いわゆる相補性決定領域(CDR)を通して媒介される特異性を有する特異的結合性タンパク質の天然プロトタイプである。
【0105】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、それの最も広い意味で用いられ、一般的に、任意の免疫学的結合性物質を指す。その用語は、具体的には、無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つ無傷抗体から形成された多価(例えば、2価、3価、またはそれ以上)および/または多重特異性抗体(例えば、二重またはそれ以上の特異性抗体)、ならびに所望の生物活性(特に、目的の抗原を特異的に結合する能力、すなわち、抗原結合性断片)を示す限りにおいて抗体断片、加えて、そのような断片の多価および/または多重特異性複合体を包含する。用語「抗体」は、免疫化を含む方法により作製された抗体を含めるだけでなく、目的の抗原上のエピトープと特異的に結合する能力がある少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を包含するように生成される任意のポリペプチド、例えば、組換え的に発現したポリペプチドも含む。したがって、その用語は、それらがin vitroで産生されるかin vivoで産生されるかに関わらず、そのような分子に適用される。
【0106】
抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMクラスのいずれかであり得、好ましくは、IgGクラス抗体である。抗体は、ポリクローナル抗体、例えば、抗血清またはそれから精製(例えば、アフィニティー精製)された免疫グロブリンであり得る。抗体は、モノクローナル抗体、またはモノクローナル抗体の混合物であり得る。モノクローナル抗体は、特定の抗原、または抗原内の特定のエピトープを、より高い選択性および再現性を以て標的化することができる。例として、非限定的に、モノクローナル抗体は、Kohlerら 1975(Nature 256:495)によって初めて記載されたハイブリドーマ方法により作製され得、または組換えDNA方法により作製され得る(例えば、US4,816,567に記載されているように)。モノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリーから、例えば、Clacksonら 1991(Nature 352:624~628)およびMarksら 1991(J Mol Biol 222:581~597)に記載されているような技術を使用して、単離され得る。
【0107】
抗体結合性物質は、抗体断片であり得る。「抗体断片」は、無傷抗体の抗原結合性または可変性領域を含む、無傷抗体の一部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、およびscFv断片、VHドメイン、VLドメイン、およびVHHドメインなどの単一ドメイン(sd)Fv;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子、特に、重鎖抗体;ならびに抗体断片から形成される多価および/または多重特異性抗体、例えば、ジボディ(dibodies)、トリボディ(tribodies)、およびマルチボディ(multibodies)が挙げられる。上記の名称Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFvなどは、当技術分野で確立された意味をもつことを意図される。
【0108】
抗体という用語は、任意の動物種、好ましくは脊椎動物種、例えば、トリおよび哺乳動物から生じた、またはそれに由来した1つもしくは複数の一部分を含む抗体を含む。非限定的に、抗体は、ニワトリ、シチメンチョウ、ガチョウ、アヒル、ホロホロチョウ、ウズラ、またはキジ由来であり得る。また非限定的に、抗体は、ヒト、マウス(例えば、マウス、ラットなど)、ロバ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ラクダ(例えば、フタコブラクダ(Camelus bactrianus)およびヒトコブラクダ(Camelus dromaderius))、ラマ(例えば、アルパカ(Lama paccos)、リャマ(Lama glama)、またはビクーニャ(Lama vicugna))、またはウマ由来であり得る。
【0109】
抗体が、1つまたは複数のアミノ酸欠失、付加、および/または置換(例えば、保存的置換)を含み得、ただし、そのような変更がそれのそれぞれの抗原の結合を保存する限りにおいてであることを、当業者は理解しているであろう。抗体はまた、それの構成要素のアミノ酸残基の1つまたは複数の天然または人工的修飾(例えば、グリコシル化など)も含み得る。
【0110】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、加えてその断片を作製する方法は、当技術分野においてよく知られており、組換え抗体またはその断片を作製するための方法も同様である(例えば、HarlowおよびLane、「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbour Laboratory、New York、1988;HarlowおよびLane、「Using Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbour Laboratory、New York、1999、ISBN 0879695447;「Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques」、Zola編、CRC Press 1987、ISBN 0849364760;「Monoclonal Antibodies:A Practical Approach」、Dean & Shepherd編、Oxford University Press 2000、ISBN 0199637229;Methods in Molecular Biology、248巻:「Antibody Engineering:Methods and Protocols」、Lo編、Humana Press 2004、ISBN 1588290921参照)。
【0111】
ある特定の実施形態では、前記作用物質は、Nanobody(登録商標)であり得る。用語「Nanobody(登録商標)」および「Nanobodies(登録商標)」は、Ablynx NV(Belgium)の登録商標である。用語「Nanobody」は、当技術分野においてよく知られており、それの最も広い意味で、本明細書で使用される場合、(1)重鎖抗体、好ましくはラクダ科動物に由来した重鎖抗体、のVHHドメインを単離することにより;(2)VHHドメインをコードするヌクレオチド配列の発現により;(3)天然に存在するVHHドメインの「ヒト化」により、もしくはそのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸の発現により;(4)任意の動物種由来、特にヒトなどの哺乳動物種由来のVHドメインの「ラクダ化(camelization)」により、もしくはそのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現により;(5)当技術分野において記載されているように「ドメイン抗体」もしくは「dAb」の「ラクダ化」により、もしくはそのようなラクダ化dAbをコードする核酸の発現により;(6)それ自体が知られたタンパク質、ポリペプチド、もしくは他のアミノ酸配列を調製するための合成もしくは半合成技術を使用することにより;(7)それ自体が知られた、核酸合成についての技術を使用するNanobodyをコードする核酸を調製し、その後、このようにして得られた前記核酸を発現させることにより;および/または(8)前述のうちの1つもしくは複数の任意の組合せにより、得られる免疫学的結合性物質を包含する。本明細書で使用される場合、「ラクダ科動物」は、旧世界ラクダ科動物フタコブラクダ(Camelus bactrianus)およびヒトコブラクダ(Camelus dromaderius))および新世界ラクダ科動物(例えば、アルパカ(Lama paccos)、リャマ(Lama glama)、およびビクーニャ(Lama vicugna))を含む。
【0112】
一般的に、抗体様スキャフォールドは、特異的な結合剤として十分、働くことが証明されているが、CDR様ループを示す厳格なスキャフォールドのパラダイムへ厳密に固執することは必須ではないことが明らかになっている。抗体に加えて、多くの他の天然タンパク質が、ドメイン間の特異的な高親和性相互作用を媒介する。免疫グロブリンに代わるものは、新規な結合性(認識)分子のデザインのための魅力的な出発点を提供している。本明細書で使用される場合、スキャフォールドという用語は、特異的な標的タンパク質への結合を与える、アミノ酸の変化または配列挿入を保有することができるタンパク質フレームワークを指す。スキャフォールドをエンジニアリングすることおよびライブラリーをデザインすることは、お互いに相互依存する過程である。特異的な結合剤を得るために、スキャフォールドのコンビナトリアルライブラリーが作製されなければならない。これは、通常、DNAレベルにおいて、適切なアミノ酸位置におけるコドンを、縮重コドンまたはトリヌクレオチドのいずれかを使用することによりランダム化することによって、行われる。幅広く多様な起源および特性を有する様々な異なる非免疫グロブリンスキャフォールドが、現在、コンビナトリアルライブラリーディスプレイに使用されている。それらのいくつかは、サイズが抗体のscFv(約30kDa)と同等であるが、それらの大部分は、ずっとより小さい。反復タンパク質に基づいたモジュラースキャフォールドは、反復単位の数に依存して、サイズが異なる。例の非限定的リストは、10番目のヒトフィブロネクチンIII型ドメインに基づいた結合剤、リポカリンに基づいた結合剤、SH3ドメインに基づいた結合剤、ノッチンファミリーのメンバーに基づいた結合剤、CTLA-4に基づいた結合剤、T細胞受容体、ネオカルチノスタチン、糖質結合性モジュール4-2、テンダミスタット、クニッツドメインインヒビター、PDZドメイン、Src相同ドメイン(SH2)、サソリ毒、昆虫デフェンシンA、植物ホメオドメインフィンガータンパク質、細菌酵素TEM-1ベータ-ラクタマーゼ、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プロテインAのIg結合性ドメイン、大腸菌(E.coli)コリシンE7免疫タンパク質、大腸菌(E.coli)チトクロムb562、アンキリンリピートドメインを含む。したがって、用語「抗体様タンパク質スキャフォールド」または「エンジニアリング化タンパク質スキャフォールド」は、典型的にはコンビナトリアルエンジニアリング(例えば、ファージディスプレイまたは他の分子選択技術と組み合わせた、部位特異的ランダム突然変異誘発など)により得られる、タンパク質性非免疫グロブリンの特異的結合性物質を広く包含する。通常、そのようなスキャフォールドは、ロバストかつ小さい可溶性モノマータンパク質(例えば、クニッツインヒビターまたはリポカリンなど)、または細胞表面受容体の安定的にフォールディングされた膜外ドメイン(例えば、プロテインA、フィブロネクチン、またはアンキリンリピートなど)に由来している。そのようなスキャフォールドは、Binzら、GebauerおよびSkerra、GillおよびDamle、Skerra 2000、ならびにSkerra 2007に広く概説されており、非限定的に、ブドウ球菌プロテインAのZドメインに基づいたアフィボディ、アルファヘリックスの2つにインターフェイスを提供する58残基の3ヘリックスバンドル(Nygren);典型的にはヒト起源の、小さく(約58残基)かつロバストなジスルフィド架橋セリンプロテアーゼインヒビターに基づいたエンジニアリング化クニッツドメイン(例えば、LACI-D1)(異なるプロテアーゼ特異性についてエンジニアリングすることができる(NixonおよびWood));ヒトフィブロネクチンIIIの10番目の細胞外ドメイン(10Fn3)に基づいたモノボディまたはアドネクチン(2~3つの露出したループを有するが、中央のジスルフィド架橋を欠損する、Ig様ベータサンドイッチフォールド(94残基)の形をとる(KoideおよびKoide));リポカリン(開放端における4つの構造的可変性ループを用いて低分子リガンドの結合部位を天然で形成する八本鎖ベータバレルタンパク質の多様なファミリー(約180残基)であり、ヒト、昆虫、および多くの他の生物体において豊富にある)に由来したアンチカリン(Skerra 2008);DARPins、デザインされたアンキリンリピートドメイン(166残基)(典型的には、3つの反復ベータ-ターンから生じる剛性インターフェイスを提供する)(Stumppら);アビマー(avimers)(多量体化LDLR-Aモジュール)(Silvermanら);およびシステインリッチノッチンペプチド(Kolmar)が挙げられる。また、結合性ドメインとして、所定の標的タンパク質に対する特異性を有する化合物、環状および線状ペプチド結合剤、ペプチドアプタマー、多価アビマータンパク質または低分子モジュラー免疫薬学的薬物、受容体または共受容体に対する特異性を有するリガンド、ツーハイブリッド分析において同定されたタンパク質結合性パートナー、ビオチン-アビジン高親和性相互作用の特異性に基づいた結合性ドメイン、シクロフィリン-FK506結合性タンパク質の特異性に基づいた結合性ドメインもまた挙げられる。特定の糖鎖構造に対する親和性を有するレクチンもまた挙げられる。
【0113】
例として、G12V突然変異などのRAS突然変異は、がんに見出される場合が多いため、本分子に融合したモノクローナル抗体が、対象における腫瘍細胞により発現したタンパク質、例えば、腫瘍抗原、好ましくは表面腫瘍抗原を特異的に結合するように構成され得る。用語「腫瘍抗原」は、正常または非腫瘍性細胞と比較して、細胞内か腫瘍細胞表面上かに関わらず(好ましくは、腫瘍細胞表面上に)、腫瘍細胞により固有的または差次的に発現する抗原を指す。例として、腫瘍抗原は、腫瘍細胞内もしくは上に存在し得、典型的には、正常細胞や非腫瘍性細胞の内にも上にも存在せず(例えば、精巣および/または胎盤などの限定された数の正常組織によってのみ発現している)、または腫瘍抗原は、正常もしくは非腫瘍性細胞の内もしくは上よりも多い量で腫瘍細胞内もしくは上に存在し得、または腫瘍抗原は、正常もしくは非腫瘍性細胞の内もしくは上に見出されるものとは異なる形で腫瘍細胞内もしくは上に存在し得る。したがって、その用語は、腫瘍特異的膜抗原を含む腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連膜抗原を含む腫瘍関連抗原(TAA)、腫瘍上の胎児性抗原、増殖因子受容体、増殖因子リガンドなどを含む。その用語はさらに、がん/精巣(CT)抗原を含む。腫瘍抗原の例には、非限定的に、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(βHCG)、糖タンパク質100(gp100/Pme117)、がん胎児性抗原(CEA)、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質1(gp75/TRP1)、チロシナーゼ関連タンパク質2(TRP-2)、NY-BR-1、NY-CO-58、NY-ESO-1、MN/gp250、イディオタイプ、テロメラーゼ、滑膜肉腫X限界点2(SSX2)、ムチン1(MUC-1)、黒色腫関連抗原(MAGE)ファミリーの抗原、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、T細胞により認識される黒色腫抗原1(MART1)、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、HER2/neu、メゾテリン(MSLN)、アルファフェトプロテイン(AFP)、がん抗原125(CA-125)、およびrasまたはp53の異常形を含む。腫瘍性疾患におけるさらなる標的には、非限定的に、CD37(慢性リンパ球性白血病)、CD123(急性骨髄性白血病)、CD30(ホジキン/大細胞リンパ腫)、MET(NSCLC、胃食道がん)、IL-6(NSCLC)、およびGITR(悪性黒色腫)が挙げられる。
【0114】
他の部分が本分子に融合している場合において、特定の実施形態では、これらの部分が本分子から除去され得ることが構想される。典型的には、これは、特異的なプロテアーゼ切断部位を組み入れること、または等価のアプローチを通して行われる。これは、特に、前記部分が大きなタンパク質である場合である;そのような場合、前記部分は、本明細書に記載された方法のいずれかにおいて本分子を使用する前に(例えば、本分子の精製中に)切り離され得る。
【0115】
しかしながら、本分子自体がそれらの標的を特異的な配列認識を通して見出すことができるため、標的化部分は必要ではないことを留意されたい。これはまた、代替の実施形態では、標的化部分として機能し、さらに薬物、毒素、または小分子などの他の部分と融合することができる分子を用いることを可能にし得る。本分子を変異型RASへ標的化することにより、これらの化合物は、特異的な細胞型/コンパートメントへ標的化することができる。したがって、例として、毒素が、変異型RASを発現するがん細胞へ選択的に送達され得る。
【0116】
本発明は、WO2007/071789A1およびWO2012/123419A1に一般的に記載されているような「インターフェラー」技術を使用し、この技術をヒトRASの特定の状況へ採用するため、そのような「インターフェラー」分子が産生され、単離され、精製され、貯蔵され、および製剤化され得る方法に関するWO2007/071789A1およびWO2012/123419A1の教示が、本発明の関連において適用することができ、本明細書で詳細に述べる必要がないことは、理解されているであろう。
【0117】
述べられているように、特定の実施形態では、本分子の作動部は、ペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得、好ましくは、本分子の作動部は、ペプチドであり得る。さらに、多くの実施形態では、例えば、本分子の作動部が他の補助的な部分と接続もしくは融合していない場合、またはそのような追加の部分がそれら自体、ペプチドである場合、本分子全体がペプチドであり得る。したがって、化学的ペプチド合成または組換えペプチドもしくはポリペプチド産生の標準ツールおよび方法が、本分子の調製に適用することができる。組換えタンパク質産生はまた、それ自体タンパク質性である追加の部分が本分子に含まれ、本分子の作動部とペプチド結合により融合している分子を調製することに適用することができる。
【0118】
そのような技術が一般的に日常的になっていることを考えれば、簡略にするために、本分子の組換え産生は、本明細書で教示されているような分子をコードする核酸、および前記核酸と作動可能に連結されたプロモーターを含む発現カセットまたは発現ベクターを用いることができ、前記発現カセットまたは発現ベクターが、細菌細胞、酵母細胞を含む真菌細胞、動物細胞、またはヒト細胞および非ヒト哺乳動物細胞を含む哺乳動物細胞などの適切な宿主細胞において前記分子の発現をもたらすように構成される。ベクターには、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージ、バクテリオファージ由来ベクター、PAC、BAC、線状核酸、例えば線状DNA、またはウイルスベクターなどが挙げられ得る。発現ベクターは、自律性または組込み型であり得る。発現ベクターは、形質転換細胞の検出および/または選択を可能にする選択マーカー、例えば、URA3、TRP1を含有することができる。作動可能な連結は、制御配列、および発現することを求められた配列が、前記発現を可能にするような様式で接続されている連結である。プロモーターは、構成的または誘導性(条件的)プロモーター、例えば、化学的に制御されたまたは物理的に制御された誘導性プロモーターであり得る。プロモーターの非限定的例には、T7、U6、H1、レトロウイルスのラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、メタロチオネインプロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーターが挙げられる。転写ターミネーター、および必要に応じて、転写エンハンサーが含まれ得る。組換え核酸は、宿主細胞へ、直接的注入、プロトプラスト融合、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、塩化リチウム、リン酸カルシウム、DEAEデキストラン、陽イオン性脂質またはリポソーム、微粒子銃(「遺伝子銃」法)、ウイルスベクター(レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、またはアンチウイルス由来)の感染、電気穿孔などの様々な方法を使用して、導入することができる。ペプチドまたはポリペプチドのスモールまたはラージスケール産生に使用することができる発現系(宿主細胞)には、非限定的に、細菌(例えば、大腸菌(Escherichia. coli)、エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)、ブルセラ種(Brucella sp.)、ネズミチフス菌(Salmonella tymphimurium)、霊菌(Serratia marcescens)、または枯草菌Bacillus subtilis)、真菌細胞(例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、メチロトローフ酵母(例えば、カンジダ属(Candida)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、オガタエア属(Oogataea)、ピキア属(Pichia)、もしくはトルロプシス属(Torulopsis)のメチロトローフ酵母、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、オガタエア・ミヌタ(Ogataea minuta)、もしくはピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、またはアスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポラ属(Neurospora)、フザリウム属(Fusarium)、もしくはクリソスポリウム属(Chrysosporium)の糸状菌、例えば、クロコウジカビ(Aspergillus niger)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、またはサッカロミセス属(Saccharomyces)もしくはシゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)の酵母、例えば、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)もしくはシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などの微生物、昆虫細胞系(例えば、シュナイダー2細胞(Schneider 2 cell)などのキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に由来した細胞、Sf9およびSf21細胞などの、ヨトウムシ(army worm)ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)に由来した細胞系、またはHigh Five細胞などのキャベツルーパー(cabbage looper)イラクサキンウワバ(Trichoplusia ni)に由来した細胞)、組換えウイルス発現ベクター(例えば、タバコモザイクウイルス)に感染したまたは組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系が挙げられる。哺乳動物発現系には、ヒトおよび非ヒト哺乳動物細胞、例えば、げっ歯類細胞、霊長類細胞、またはヒト細胞が挙げられる。ヒトまたは非ヒト哺乳動物細胞などの哺乳動物細胞には、初代細胞、二次、三次細胞などが挙げられ、またはクローンの細胞系を含む不死化細胞系が挙げられ得る。好ましい動物細胞は、組織培養において容易に維持および形質転換することができる。ヒト細胞の非限定的例には、ヒトHeLa(子宮頸がん)細胞系が挙げられる。組織培養実施においてよく見られる他のヒト細胞系には、とりわけ、ヒト胎児由来腎臓293細胞(HEK細胞)、DU145(前立腺がん)、Lncap(前立腺がん)、MCF-7(乳がん)、MDA-MB-438(乳がん)、PC3(前立腺がん)、T47D(乳がん)、THP-1(急性骨髄性白血病)、U87(神経膠芽腫)、SHSY5Y(神経芽細胞腫)、またはSaos-2細胞(骨がん)が挙げられる。霊長類細胞の非限定的例は、Vero(アフリカミドリザルChlorocebus腎臓上皮細胞系)細胞、およびCOS細胞である。げっ歯類細胞の非限定的例は、ラットGH3(下垂体腫瘍)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)、PC12(褐色細胞腫)細胞系、またはマウスMC3T3(胎仔性頭蓋冠)細胞系である。
【0119】
本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、適切に精製することができる。分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に関連した用語「精製された」は、絶対的な純度を必要としない。その代わりに、それは、そのような分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質が、他のコンポーネントに比べてそれらの存在量(質量または重量または濃度に関して便宜上、表現される)が、出発組成物または試料、例えば、その分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を産生する組換え宿主細胞の可溶化液または上清などの産生試料において、より多いという、孤立的環境にあることを意味する。孤立的環境は、例えば、単一の溶液、ゲル、沈殿物、凍結乾燥物などの単一の媒体を意味する。精製された分子、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドは、公知の方法、例えば、化学合成、クロマトグラフィー、調製用電気泳動、遠心分離、沈殿、アフィニティー精製などにより取得され得る。精製された分子、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、好ましくは、孤立的環境の非溶媒含有量の≧10重量%、より好ましくは≧50重量%、例えば≧60重量%、さらにより好ましくは≧70重量%、例えば≧80重量%、なおより好ましくは≧90重量%、例えば≧95重量%、≧96重量%、≧97重量%、≧98重量%、≧99重量%、またはさらに100重量%を構成し得る。例えば、精製されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質は、好ましくは≧10質量%、より好ましくは≧50質量%、例えば≧60質量%、なおより好ましくは≧70質量%、例えば≧80質量%、さらにより好ましくは≧90質量%、例えば≧95質量%、≧96質量%、≧97質量%、≧98質量%、≧99質量%を構成し得る。タンパク質含有量は、例えば、ローリー法(Lowryら 1951 J Biol Chem 193:265)により、必要に応じて、Hartree 1972(Anal Biochem 48:422~427)により記載されているように、決定され得る。ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の純度は、HPLC、またはクーマシーブルーもしくは好ましくは銀染色を使用する還元もしくは非還元条件下でのSDS-PAGEにより決定され得る。
【0120】
本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、脱イオン水において、またはDMSOを含む脱イオン水、例えば、脱イオン水中50%v/v DMSOにおいて、または水溶液において、または適切な緩衝剤、例えば、生理的pHを有する、もしくは5から9の間のpH、より特に6から8の間のpHにおける緩衝剤、例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水、Tris-HCl、酢酸もしくはリン酸緩衝剤において、または強いカオトロピック剤、例えば6M尿素において、下流使用に好都合な前記分子の濃度、例えば、非限定的に、約1mMから約500mMの間、または約1mMから約250mMの間、または約1mMから約100mMの間、または約5mMから約50mMの間、または約5mMから約20mMの間で、溶液中に適切に保持することができる。あるいは、本明細書で調製されているようなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドなどの任意の分子は、当技術分野において一般的に知られているように、凍結乾燥され得る。貯蔵は、典型的には、室温以下(25℃以下)であり得、ある特定の実施形態では、0℃より上の温度(非低温貯蔵)、例えば、0℃より上および25℃を超えない温度であり得、または凍結保存が好ましくあり得るある特定の実施形態では、0℃以下、典型的には-5℃以下、より典型的には-10℃以下、例えば、-20℃以下、-25℃以下、-30℃以下、もしくはさらに-70℃以下、もしくは-80℃以下で、もしくは液体窒素中であり得る。
【0121】
組換え核酸技術は、ポリペプチド性質を有し、核酸によってコードされるpept-insの異種性発現および単離を可能にするだけでなく、そのようなpept-insを導入遺伝子として投与すること、すなわち、それぞれのpept-insをコードし、細胞へ導入された時、それぞれのpept-insの発現をもたらす能力がある核酸(例えば、DNAベースまたはRNAベースのカセット、ベクター、または構築物など)を投与することまでも可能にし得る。例えば、DNA構築物において、pept-inコード配列は、DNA構築物からpept-inの転写および翻訳を駆動させるように構成された制御配列、例えば、プロモーターおよび転写ターミネーターと作動可能に連結され得る。RNAまたはmRNA構築物において、pept-inコード配列は、それが細胞のタンパク質翻訳機構によって翻訳され得るように含まれ得る。前述の構築物において、pept-inコード配列は、典型的には、インフレームでの翻訳開始コドンに先行され、その後に翻訳終止コドンが続いて、正しい翻訳を促進する。したがって、本明細書で教示されているようなpept-insの投与/それを用いた治療が、この明細書において構想されるどんな場合においても、それらのpept-insをコードする核酸の投与が、本開示により包含される。そのような投与/治療は、一般的には遺伝子治療と呼ばれ得る。したがって、本出願の分子を含む全ての方法および使用はまた、本分子がそれらをコードする核酸配列として提供され、本分子が前記核酸配列から発現する場合の方法および使用を包含する。
【0122】
したがって、本明細書に記載されているような任意のpept-in分子をコードする核酸もまた提供され、そのようなpept-in分子がポリペプチド性質を有する。前記核酸が、変更すべき所は変更して、本明細書に記載された全ての特徴およびバリエーションを有する本分子をコードすることが特に構想される。したがって、前記コードされたポリペプチドは、本質において、本明細書に記載されている通りであり、つまり、この態様と適合性であるpept-in分子について言及されたバリエーションもまた、前記核酸配列によりコードされるポリペプチドについてのバリエーションとして構想される。
【0123】
ある特定の実施形態では、前記核酸配列は人工遺伝子である。前記核酸態様は、トランスジェニック発現を使用する適用において最も特に適切であるため、特に構想される実施形態は、前記核酸配列(または人工遺伝子)が、別の部分、特に、前記遺伝子産物の溶解性および/または安定性を増加させる部分と融合している実施形態であり得る。
【0124】
この態様において、本明細書に記載されているような分子をコードするそのような核酸配列を含む組換えベクターもまた提供される。これらの組換えベクターは、目的の核酸配列を、下方制御されるべきタンパク質が発現する細胞の内側へ運び、前記細胞において前記核酸の発現を駆動させる媒介物として理想的に適している。組換えベクターは、細胞において別個の実体として(例えば、プラスミドとして)存続し得、または細胞のゲノムへ組み込まれ得る。組換えベクターには、とりわけ、プラスミドベクター、バイナリーベクター、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、およびウイルスベクターが挙げられる。したがって、本分子が、本分子をコードする核酸配列を有する組換えベクターとして提供され、本分子が、前記組換えベクターにおいて提供された前記核酸配列から発現する場合の方法および使用もまた本明細書に包含される。したがって、本明細書に記載されているような分子をコードする核酸配列を含む細胞、またはそのようなpept-in分子をコードする核酸配列を含有する組換えベクターを含む細胞が本明細書に提供される。
【0125】
本明細書で教示されているような分子は治療に有用である。したがって、態様は、医薬における使用のための本明細書で教示されているような任意の分子、または言い換えれば、治療における使用のための本明細書で教示されているような任意の分子を提供する。下記で論じられているように、本明細書で教示されているような分子は、医薬組成物へ製剤化することができる。したがって、治療における前記分子の使用へのいかなる言及も(またはそのような言語のいかなるバリエーションも)また、治療における前記分子を含む医薬組成物の使用を含む。
【0126】
特に、本分子は、ヒトRAS、例えば変異型RAS、例えばG12V変異型RASが重要な役割を果たす苦悩の治療を目的とする。したがって、ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子もまた提供される。処置を必要とする対象、特に、ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を有する対象を処置するための方法であって、前記方法が、本明細書で教示されているような任意の分子の治療有効量を前記対象へ投与するステップを含む、方法がさらに提供される。ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患の処置のための薬剤の製造のための、本明細書で教示されているような任意の分子の使用がさらに提供される。ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患の処置のための、本明細書で教示されているような任意の分子の使用がさらに提供される。
【0127】
「治療」または「処置」への言及は、治癒的処置と防止的処置の両方を広く包含し、それらの用語は、特に、疾患または障害などの病的状態の1つまたは複数の症状または測定可能なマーカーの軽減または測定可能な減少を指し得る。それらの用語は、一次処置、加えてネオアジュバント処置、アジュバント処置、および補助的療法を包含する。測定可能な減少には、測定可能なマーカーまたは症状における任意の統計学的に有意な低下が挙げられる。一般的に、それらの用語は、治癒的処置と、疾患の症状を低減しおよび/またはその進行を遅くするように向けられた処置の両方を包含する。それらの用語は、すでに発症した病理学的状態の治療的処置と、加えて予防的または防止的測定(その目的が、病理学的状態の発生の可能性を防止しまたは減少させることである場合)の両方を包含する。ある特定の実施形態では、それらの用語は、治療的処置に関係し得る。ある特定の他の実施形態では、それらの用語は、防止的処置に関係し得る。寛解の期間中の慢性病理学的状態の処置もまた、治療的処置を構成すると考えられ得る。それらの用語は、本発明の関連において適切である場合、ex vivoまたはin vivo処置を包含し得る。
【0128】
用語「対象」、「個体」、または「患者」は、この明細書を通して交換可能に使用され、典型的に、好ましくは、ヒトを意味するが、非ヒト動物、好ましくは温血動物、さらにより好ましくは非ヒト哺乳動物への言及も包含し得る。特に好ましくはヒト対象であり、それは、その両方のジェンダーおよび全ての年齢のカテゴリーを含む。他の実施形態では、対象は、疾患モデルとしての実験動物または動物代用物である。その用語は、特定の年齢も性別も意味しない。したがって、成体および新生児の対象、加えて胎児が、雄または雌に関わらず、網羅されることを意図される。対象という用語はさらに、トランスジェニック非ヒト種を含むことを意図される。
【0129】
本明細書で使用される場合、用語「処置を必要とする対象」または類似の用語は、本明細書で列挙されているような疾患と診断されたもしくはそれを有する対象、および/または前記疾患が防止されるべきである対象を指す。
【0130】
用語「治療有効量」は、一般的に、単一かまたは複数のいずれかの用量において、医師、臨床医、外科医、獣医、または研究者などの医療従事者によって達成するように努力されることになっている、対象における薬理学的効果または医薬的応答を誘発するのに十分な量を意味し、その薬理学的効果または医薬的応答には、とりわけ、処置されることになっている疾患の症状の軽減が挙げられる。本分子の適切な治療有効量は、疾患の性質および重症度、ならびに患者の年齢および状態に当然払うべき注意を払って、資格のある医師により決定され得る。投与されることになっている、本明細書に記載された分子の有効量は、多くの異なる因子に依存し得、当業者により日常的な実験を通して決定することができる。考慮され得るいくつかの非限定的因子には、活性成分の生物活性、活性成分の性質、処置されることになっている対象の特性などが挙げられる。用語「投与すること」は一般的に、投薬することまたは適用することを意味し、典型的には、組織へのin vivo投与とex vivo投与の両方を含み、好ましくはin vivo投与である。一般的に、組成物は、全身性にまたは局所的に投与され得る。
【0131】
ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患への言及は、突然変異が疾患において少なくともいくらかの部分的な役割を果たし、それゆえに、変異型RASの下方制御が治療的利益であり得る、任意の疾患を広く包含することを意図する。例えば、RAS突然変異は、単独でもしくは他の突然変異などの他の因子と連帯して、疾患の病因論の原因であり、もしくはそれに寄与し得、および/またはRAS突然変異は、単独でもしくは他の突然変異などの他の因子と連帯して、疾患の持続、進行、悪化、他の処置に対する抵抗性、もしくは再出現の原因であり、もしくはそれに寄与し得る。RAS突然変異のRAS活性への深刻な影響を考慮すれば、RAS突然変異によって典型的に表される任意の疾患は、本明細書で意図されているように、RAS突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患であることが実際的に想定され得る。
【0132】
本関連において、この明細書の他の箇所で論じられたG12 RAS突然変異、特に、G12V、G12C、G12S、およびG12A RAS突然変異、またはG13V、G13C、およびG13S RAS突然変異などの、永久にまたは恒常的に活性化されたRASシグナル伝達をもたらすRAS突然変異が特に意図される。
【0133】
さらに本関連において、体細胞RAS突然変異が特に意図される。本明細書で使用される場合、用語「体細胞突然変異」は、受胎後に生じる対象のDNAにおける後天性変化を広く指す。対象において体細胞RAS突然変異を検出するための技術、例えば、対象由来の体細胞を含有する試料におけるRAS遺伝子もしくはその突然変異含有部分のPCR増幅、およびそれをシーケンシングまたは別な方法でジェノタイピングすること(必要でありまたは情報を与えるならば、そのような遺伝情報は、前記対象のRASにおける生殖系列配列バリエーションと比較され得る)は、当技術分野において十分確立されている。RAS突然変異が腫瘍性疾患において果たす役割を考慮すれば、実例となる試料には、対象の腫瘍細胞を含有するもの、例えば、非限定的に、腫瘍組織生検(例えば、原発性または転移性腫瘍組織;例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織、または新鮮凍結腫瘍組織)、穿刺吸引液、血液試料(「液体」生検)、または腫瘍細胞が脱落している可能性がある身体滲出液、例えば、唾液、尿、便(糞便)、涙、汗、皮脂、乳頭吸引液、乳管洗浄細胞診、脳脊髄液、またはリンパ液が挙げられ得る。
【0134】
前述のように、RAS遺伝子における機能獲得型ミスセンス突然変異は、全てのヒトがんの約27%、およびある特定の型のがんにおいて最高90%に見出され、腫瘍惹起および維持を駆動させる最も多く見られるがん遺伝子ではないにせよ、変異型RAS遺伝子を非常によく見られるものと確証している。したがって、ある特定の好ましい実施形態では、疾患は腫瘍性疾患、特にがんである。
【0135】
したがって、ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した腫瘍性疾患、特にがんを処置する方法における使用のための、本明細書で教示されているような任意の分子もまた提供される。処置を必要とする対象、特に、ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した腫瘍性疾患、特にがんを有する対象を処置するための方法であって、前記方法が、本明細書で教示されているような任意の分子の治療有効量を前記対象に投与するステップを含む、方法がさらに提供される。ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した腫瘍性疾患、特にがんの処置のための薬剤の製造のための、本明細書で教示されているような任意の分子の使用がさらに提供される。ヒトRASタンパク質におけるG12V突然変異などの突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した腫瘍性疾患、特にがんの処置のための、本明細書で教示されているような任意の分子の使用がさらに提供される。
【0136】
用語「腫瘍性疾患」は、一般的に、腫瘍性細胞成長および増殖により特徴づけられる、良性(周囲の正常組織を浸潤しない、転移を形成しない)か、前悪性(前がん性)か、または悪性(隣接組織を浸潤し、転移を生じる能力がある)かに関わらず、任意の疾患または障害を指す。腫瘍性疾患という用語は、一般的に、全てのがん化した細胞および組織、ならびに全てのがん性細胞および組織を含む。腫瘍性疾患または障害には、異常な細胞成長、良性腫瘍、前悪性または前がん性病変、悪性腫瘍、およびがんが挙げられるが、それらに限定されない。腫瘍性疾患または障害の例は、任意の組織または臓器、例えば、前立腺、結腸、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頚部、神経(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟部組織、脾臓、胸部、または泌尿生殖器に位置する良性、前悪性、または悪性新生物である。
【0137】
本明細書で使用される場合、用語「腫瘍」または「腫瘍組織」は、過剰な細胞分裂から生じる組織の異常な塊を指す。腫瘍または腫瘍組織は、異常な成長性を有し、有用な身体機能をもたない腫瘍性細胞である腫瘍細胞を含む。腫瘍、腫瘍組織、および腫瘍細胞は、良性、前悪性、もしくは悪性であり得、または少しのがん性可能性ももたない病変を表し得る。腫瘍または腫瘍組織はまた、腫瘍関連の非腫瘍細胞、例えば、腫瘍または腫瘍組織を供給し得る血管を形成する血管細胞を含み得る。非腫瘍細胞は、腫瘍細胞によって複製および発生するように誘導され得、例えば、腫瘍または腫瘍組織における血管新生の誘導である。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「がん」は、調節解除されたまたは未制御の細胞成長により特徴づけられる悪性新生物を指す。用語「がん」は、原発性悪性細胞または腫瘍(例えば、最初の悪性病変または腫瘍の部位以外の対象の身体における部位へ細胞が遊走していないもの)、および続発性悪性細胞または腫瘍(例えば、最初の腫瘍の部位とは異なる続発性部位への悪性細胞または腫瘍の遊走である、転移から生じたもの)を含む。用語「転移性の」または「転移」は、一般的に、1つの臓器または組織から別の非隣接臓器または組織へのがんの伝播を指す。他の非隣接臓器または組織における腫瘍性疾患の発生は、転移と呼ばれる。
【0139】
がんの例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ系腫瘍が挙げられるが、それらに限定されない。そのようながんのより具体的な例には、非限定的に、以下が挙げられる:扁平細胞がん(例えば、上皮扁平細胞がん)、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、および肺の大細胞癌を含む肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、消化管がんを含む胃のもしくは胃がん、膵臓がん、神経膠腫、神経膠芽腫、子宮頚がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝細胞腫、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんもしくは子宮癌、唾液腺がん、腎臓もしくは腎臓のがん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝細胞癌、肛門癌、陰茎癌、加えて、CNSがん、黒色腫、頭頚部がん、骨がん、骨髄がん、十二指腸がん、食道がん、甲状腺がん、または血液がん。
【0140】
がんまたは悪性病変の他の非限定的例には、以下が挙げられるが、それらに限定されない:急性小児リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、成人(原発性)肝細胞がん、成人(原発性)肝臓がん、成人急性リンパ球性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人ホジキン病、成人ホジキンリンパ腫、成人リンパ球性白血病、成人非ホジキンリンパ腫、成人原発性肝臓がん、成人軟部組織肉腫、AIDS関連リンパ腫、AIDS関連悪性病変、肛門がん、星細胞腫、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、乳がん、腎盂および尿道のがん、中枢神経系(原発性)リンパ腫、中枢神経系リンパ腫、小脳星細胞腫、大脳星細胞腫、子宮頚がん、小児(原発性)肝細胞がん、小児(原発性)肝臓がん、小児急性リンパ芽球性白血病、小児急性骨髄性白血病、小児脳幹神経膠腫、神経膠芽腫、小児小脳星細胞腫、小児大脳星細胞腫、小児頭蓋外胚細胞性腫瘍、小児ホジキン病、小児ホジキンリンパ腫、小児視床下部および視覚路神経膠腫、小児リンパ芽球性白血病、小児髄芽腫、小児非ホジキンリンパ腫、小児松果体およびテント上原始神経外胚葉性腫瘍、小児原発性肝臓がん、小児横紋筋肉腫、小児軟部組織肉腫、小児視覚路および視床下部神経膠腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、膵内分泌島細胞癌、子宮内膜がん、上衣腫、上皮がん、食道がん、ユーイング肉腫および関連腫瘍、膵外分泌がん、頭蓋外胚細胞性腫瘍、性腺外胚細胞性腫瘍、肝外胆管がん、眼がん、女性の乳がん、胆嚢がん、胃のがん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管腫瘍、胚細胞性腫瘍、妊娠性トロホブラスト腫瘍、有毛細胞白血病、頭頚部がん、肝細胞がん、ホジキン病、ホジキンリンパ腫、高ガンマグロブリン血症、下咽頭がん、腸がん、眼球内黒色腫、島細胞癌、膵島細胞がん、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、唇および口腔がん、肝臓がん、肺がん、リンパ球増殖性障害、マクログロブリン血症、男性の乳がん、悪性中皮腫、悪性胸腺腫、髄芽腫、黒色腫、中皮腫、転移性潜在性原発性頚部扁平上皮がん、転移性原発性頚部扁平上皮がん、転移性頚部扁平上皮がん、多発性骨髄腫、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病(Myelogenous Leukemia)、骨髄球性白血病(Myeloid Leukemia)、骨髄増殖性障害、鼻腔および副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、妊娠中の非ホジキンリンパ腫、非黒色腫皮膚がん、非小細胞肺がん、潜在性原発性転移性頚部扁平上皮がん、中咽頭がん、骨/悪性線維性肉腫、骨肉腫/悪性線維性組織球腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞性腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、異常タンパク血症、紫斑病、副甲状腺がん、陰茎がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、形質細胞新生物/多発性骨髄腫、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性肝臓がん、前立腺がん、直腸がん、腎細胞がん、腎盂および尿道がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、サルコイドーシス肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、小細胞肺がん、小腸がん、軟部組織肉腫、頚部扁平上皮がん、胃がん、テント上原始神経外胚葉性および松果体腫瘍、T細胞リンパ腫、精巣がん、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂および尿道の移行上皮がん、移行性腎盂および尿道がん、トロホブラスト腫瘍、尿道および腎盂細胞がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、視覚路および視床下部神経膠腫、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、またはウィルムス腫瘍。
【0141】
ある特定の実施形態では、疾患、腫瘍性疾患、またはがんは、膵管腺癌、結腸直腸腺癌、多発性骨髄腫、肺腺癌、皮膚黒色腫、子宮体類内膜癌、子宮癌肉腫、甲状腺癌、急性骨髄性白血病、膀胱尿路上皮癌、胃腺癌、子宮頚部腺癌、頭頚部扁平上皮癌、非小細胞肺がん(NSCLC)、または結腸直腸がんであり得る。
【0142】
ある特定の実施形態では、本明細書で教示されているような任意の分子は、単独の医薬品(活性医薬成分)として、または1つもしくは複数の他の医薬品と組み合わせて(ただし、その組合せは、許容されない有害効果を引き起こさない)、投与され得る。例として、本明細書で教示されているような2つ以上の分子が同時投与され得る。別の例として、本明細書で教示されているような1つまたは複数の分子は、本明細書で構想されているような分子ではない医薬品と同時投与され得る。例えば、本明細書で教示されているような分子は、公知の抗がん治療、例えば、手術、放射線療法、化学療法、生物療法、またはそれらの組合せと組み合わせられ得る。本明細書で使用される場合、用語「化学療法」は、広く解釈され、一般的には、化学的物質または組成物を使用する処置を包含する。化学療法剤は、典型的には、細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を示す。ある特定の実施形態では、化学療法剤は、アルキル化剤、細胞毒性化合物、代謝拮抗剤、植物アルカロイド、テルペノイド、トポイソメラーゼ阻害剤、またはそれらの組合せであり得る。本明細書で使用される場合、用語「生物療法」は、広く解釈され、一般的には、生体分子などの生物学的物質もしくは組成物、またはウイルスもしくは細胞などの生物剤を使用する処置を包含する。ある特定の実施形態では、生体分子は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、もしくは小分子(例えば、一次代謝産物、二次代謝産物、または天然産物)、またはそれらの組合せであり得る。適切な生体分子の例には、インターロイキン、サイトカイン、抗サイトカイン、腫瘍壊死因子(TNF)、サイトカイン受容体、ワクチン、インターフェロン、酵素、治療用抗体、抗体断片、抗体様タンパク質スキャフォールド、またはそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。適切な生体分子の例には、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アテゾリズマブ、ベバシズマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、カツマキソマブ、セツキシマブ、ダラツムマブ、デニロイキンジフチトクス、デノスマブ、ジヌツキシマブ、エロツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、90Y-イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インターフェロンA、イピリムマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビヌツズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ラムシルマブ、リツキシマブ、タソネルミン、131I-トシツモマブ、トラスツズマブ、アドトラスツズマブエムタンシン、およびそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。適切な腫瘍退縮ウイルスの例には、タリモジンラヘルパレプベク(talimogene laherparepvec)が挙げられるが、それに限定されない。抗がん治療のさらなるカテゴリーには、とりわけ、ホルモン療法(内分泌療法)、免疫療法、および幹細胞療法が挙げられ、それらは、一般的に、生物療法内に含まれると見なされている。適切なホルモン療法の例には、タモキシフェン;アロマターゼ阻害剤、例えば、アナストロゾール(atanastrozole)、エキセメスタン、レトロゾール、およびそれらの組合せ;黄体ホルモン遮断剤、例えば、ゴセレリン、ロイプロレリン、トリプトレリン、およびそれらの組合せ;抗アンドロゲン、例えば、ビカルタミド、酢酸シプロテロン、フルタミド、およびそれらの組合せ;生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン遮断剤、例えば、デガレリクス;プロゲステロン処置、例えば、酢酸メドロキシプロゲステロン、メゲストロール、およびそれらの組合せ;ならびにそれらの組合せが挙げられるが、それらに限定されない。用語「免疫療法」は、対象の免疫系を調節する任意の処置を広く包含する。特に、その用語は、体液性免疫応答、細胞性免疫応答、または両方などの免疫応答を調節する任意の処置を含む。免疫療法は、T細胞および/または樹状細胞などの免疫細胞が患者へ移入される、細胞に基づいた免疫療法を含む。その用語はまた、対象の免疫系を調節する化合物および/または生体分子(例えば、抗体、抗原、インターロイキン、サイトカイン、またはそれらの組合せ)などの物質または組成物の投与を含む。がん免疫療法の例には、非限定的に、モノクローナル抗体、例えば、腫瘍細胞により発現したタンパク質に対する、Fcエンジニアリング化モノクローナル抗体を用いる処置、免疫チェックポイント阻害剤、予防的または治療的がんワクチン、養子細胞療法、およびそれらの組合せが挙げられる。阻害のための免疫チェックポイント標的の例には、非限定的に、PD-1(PD-1阻害剤の例には、非限定的に、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、およびそれらの組合せが挙げられる)、CTLA-4(CTLA-4阻害剤の例には、非限定的に、イピリムマブ、トレメリムマブ、およびそれらの組合せが挙げられる)、PD-L1(PD-L1阻害剤の例には、非限定的に、アテゾリズマブが挙げられる)、LAG3、B7-H3(CD276)、B7-H4、TIM-3、BTLA、A2aR、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)、IDO、およびそれらの組合せが挙げられる。治療的抗がんワクチン接種への別のアプローチには、樹状細胞ワクチンが挙げられる。その用語は、免疫反応が望まれる抗原を負荷されている樹状細胞を含むワクチンを広く包含する。養子細胞療法(ACT)は、細胞、最も一般的には免疫由来細胞、特に、例えば、細胞傷害性T細胞(CTL)の、同じ患者へ戻しての移入、または新しいレシピエント宿主への移入(その新しい宿主へその免疫学的機能性および特性を移入することを目的とする)を指し得る。可能なら、自己細胞の使用が、組織拒絶および移植片対宿主病問題を最小限にすることによりレシピエントを助ける。様々なストラテジーが、例えば、選択されたペプチド特異性を有する新しいTCR α鎖およびβ鎖を導入することによって、T細胞受容体(TCR)の特異性を変化させることにより、T細胞を遺伝子修飾するために、用いられ得る。あるいは、キメラ抗原受容体(CAR)が、悪性細胞などの選択された標的に対して特異的なT細胞などの免疫応答細胞を作製するために使用され得、様々な受容体キメラ構築物が説明されている。CAR構築物の例には、非限定的に、1)可動性リンカー、例えば、CD8αヒンジドメインおよびCD8α膜貫通ドメインにより、CD3ζかまたはFcRγのいずれかの膜貫通ドメインおよび細胞内シグナル伝達ドメインへ連結された、抗原に対して特異的な抗体の、例えば、特異的抗体のVHと連結されたVLを含む、一本鎖可変断片からなるCAR;ならびに2)前記内部ドメイン内に1つまたは複数の共刺激分子、例えば、CD28、OX40(CD134)、または4-1BB(CD137)の細胞内ドメイン、またはさらに、例えば、そのような共刺激性内部ドメインの組合せをさらに組み入れたCARが挙げられる。がんにおける幹細胞療法は一般的に、放射線療法および/または化学療法により破壊された骨髄幹細胞を置き換えることを目的とし、それには、非限定的に、自己、同系、または同種の幹細胞移植が挙げられる。幹細胞、特に造血幹細胞は、典型的には、骨髄、末梢血、または臍帯血から取得される。抗がん剤の投与経路、用量、および処置レジメンの詳細は、例えば、「Cancer Clinical Pharmacology」(2005)Jan H.M.Schellens、Howard L.McLeod、およびDavid R.Newell編、Oxford University Pressに記載されているように、当技術分野において知られている。ある特定の実施形態では、MEK阻害剤(例えば、セルメチニブまたはトラメチニブ)、SHP2阻害剤(例えば、TNO155)、mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシンまたはラパマイシン誘導体(「ラパログ(rapalog)」)、例えば、シロリムス、テムシロリムス(CCI-779)、テムシロリムス(CCI-779)、エベロリムス(RAD001)、およびリダフォロリムス(AP-23573)が挙げられる)の1つまたは複数と本明細書で教示されているような任意の分子を用いた併用療法が構想される。任意の併用療法の活性コンポーネントは、混合され得、または物理的に分離され得、同時にもしくは任意の順番で逐次的に投与され得る。
【0143】
本明細書で教示されているような任意の分子は、任意の適切なまたは作動可能な形または型式で対象へ投与され得る。
例えば、本明細書で意図されているような分子への言及は、所定の治療的に有用な化合物、加えて、そのような化合物の任意の薬学的に許容される形、例えば、その化合物の任意の付加塩、水和物、または溶媒和化合物を包含し得る。本明細書で使用される場合、とりわけ塩、水和物、溶媒和化合物、および賦形剤に関連しての、用語「薬学的に許容される」は、当技術分野と一致し、医薬組成物の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに有害ではないことを意味する。薬学的に許容される酸および塩基付加塩は、その化合物が形成することができる治療的活性のある無毒の酸および塩基付加塩の形を含むことを意図される。薬学的に許容される酸付加塩は、便利には、化合物の塩基形を適切な酸で処理することにより、得ることができる。適切な酸は、例えば、ハロゲン化水素酸、例えば、塩酸または臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、およびその他同種類の酸などの無機酸;または、例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸(すなわち、ブタン二酸)、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p-アミノサリチル酸、パモン酸、およびその他同種類の酸などの有機酸を含む。逆に、前記塩基塩の形は、適切な塩基での処理により、遊離塩基の形へ変換することができる。酸性プロトンを含有する化合物もまた、適切な有機および無機塩基での処理により、それの無毒性金属またはアミン付加塩の形へ変換され得る。適切な塩基塩の形は、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム塩、およびその他同種類の塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、有機塩基、例えば、一級、二級、および三級の脂肪族および芳香族アミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、4つのブチルアミン異性体、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、キヌクリジン、ピリジン、キノリンおよびイソキノリンとの塩;ベンザチン、N-メチル-D-グルカミン、ヒドラバミンの塩、ならびに例えば、アルギニン、リジン、およびその他同種類のものなどのアミノ酸との塩を含む。逆に、塩の形は、酸での処理により、遊離酸の形へ変換することができる。溶媒和化合物という用語は、その化合物が形成することができる水和物および溶媒付加の形、加えて、その塩を含む。そのような形の例は、例えば、水和物、アルコラート、およびその他同種類のものである。
【0144】
例えば、本分子は、組成物の一部であり得る。用語「組成物」は、一般的に、2つ以上のコンポーネントで構成されるものを指し、より具体的には、特に、2つ以上の材料、例えば、要素、分子、物質、生体分子、または微生物学的材料の混合物またはブレンド、加えて、組成物の材料から形成される反応生成物および分解生成物を意味する。例として、組成物は、本明細書で教示されているような任意の分子を1つまたは複数の他の物質と組み合わせて含み得る。例えば、組成物は、本明細書で教示されているような分子を前記1つまたは複数の他の物質と混合することなど、組み合わせることにより取得され得る。ある特定の実施形態では、本組成物は、医薬組成物として形成され得る。医薬組成物は、典型的には、1つまたは複数の薬理学的活性のある成分(1つまたは複数の薬理学的効果を生じる化学的および/または生物学的活性のある材料)および1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含む。典型的に本明細書で使用される場合の組成物は、液体、半固体または固体であり得、それには、溶液または分散体が挙げられ得る。
【0145】
したがって、さらなる態様は、本明細書で教示されているような任意の分子を含む医薬組成物を提供する。用語「医薬組成物」および「医薬製剤」は、交換可能に使用され得る。本明細書で教示されているような医薬組成物は、1つまたは複数の活性物に加えて、1つまたは複数の薬学的に許容される担体を含み得る。適切な薬学的賦形剤は、活性成分の剤形およびアイデンティティに依存し、当業者によって選択され得る(例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients 第7版 2012、Roweら編を参照することにより)。
【0146】
本明細書で使用される場合、用語「担体」または「賦形剤」は、交換可能に使用され、ありとあらゆる溶媒、希釈剤、緩衝剤(例えば、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝食塩水、または必要に応じて、Tris-HCl、酢酸またはリン酸緩衝剤など)、可溶化剤(例えば、Tween(登録商標)80、ポリソルベート80など)、コロイド、分散媒、媒介物、増量剤、キレート剤(例えば、EDTAまたはグルタチオンなど)、アミノ酸(例えば、グリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、芳香剤、濃厚剤、デポー効果を達成するための作用物質、コーティング剤、抗真菌剤、保存剤(例えば、チメロサール(商標)、ベンジルアルコールなど)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)、張度調節剤、吸収遅延剤、アジュバント、充填剤(例えば、ラクトース、マンニトールなど)、およびその他同種類のものを広く含む。医薬および化粧品組成物の製剤のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野においてよく知られている。許容される希釈剤、担体、および賦形剤は、典型的には、レシピエントのホメオスタシス(例えば、電解質バランス)に悪影響を及ぼさない。薬学的活性のある物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野においてよく知られている。そのような材料は、無毒性であるべきであり、活性物の活性に干渉すべきではない。許容される担体には、生体適合性、不活性、または生体吸収性の塩、緩衝剤、オリゴ糖または多糖、ポリマー、増粘剤、保存剤、およびその他同種類のものが挙げられ得る。他の例示的な担体は、生理食塩水(0.15M NaCl、pH7.0~7.4)である。別の例示的な担体は、50mM リン酸ナトリウム、100mM 塩化ナトリウムである。
【0147】
担体または他の材料の的確な性質は、投与経路に依存する。例えば、医薬組成物は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性、および安定性を有する、非経口的に許容される水溶液の形をとり得る。
【0148】
医薬製剤は、生理的条件に近づけるために必要とされる場合、薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整および緩衝剤、保存剤、錯化剤、張度調整剤、湿潤剤、およびその他同種類のもの、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩化水素、ベンジルアルコール、パラベン、EDTA、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミンなどを含み得る。好ましくは、医薬製剤のpH値は、生理的pH範囲にあり、例えば、特に、製剤のpHは、約5から約9.5の間、より好ましくは約6から約8.5の間、さらにより好ましくは約7から約7.5の間である。
【0149】
医薬組成物を製剤化することに使用される、実例となる非限定的な担体には、例えば、水中油または油中水乳剤、静脈内(IV)使用に適した有機共溶媒の含有ありまたはなしの水性組成物、リポソームまたは界面活性剤含有ベシクル、マイクロスフェア、マイクロビーズおよびマイクロソーム、粉末、錠剤、カプセル、坐剤、水性懸濁液、エアロゾル、ならびに当業者に明らかな他の担体が挙げられる。リポソームは、in vitroおよびin vivoでの送達媒介物として有用である人工膜ベシクルである。これらの製剤は、正味の陽イオン、陰イオン、または中性電荷特性を有し得、in vitro、in vivo、およびex vivoの送達方法に関して有用な特性である。サイズが0.2~4.0PHI.mの範囲である大型単層ベシクル(LUV)は、大きな高分子を含有する水性緩衝剤の相当なパーセンテージをカプセル化することができる。リポソームの組成は、通常、ステロイド、特にコレステロールと組み合わせての、通常、リン脂質、特に、高い相転移温度のリン脂質の組合せである。他のリン脂質または他の脂質もまた使用され得る。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価陽イオンの存在に依存する。
【0150】
本明細書で意図されているような医薬組成物は、本質的に任意の投与経路、例えば、非限定的に、経口投与(例えば、経口摂取または吸入など)、鼻腔内投与(例えば、鼻腔内吸入または鼻腔内粘膜塗布など)、非経口投与(例えば、皮下、静脈内(I.V.)、筋肉内、腹腔内、または胸骨内注射または注入など)、経皮または経粘膜(例えば、経口、舌下、鼻腔内)投与、局所投与、直腸、膣、または気管内の点滴注入、およびその他同種類のもののために製剤化され得る。このようにして、本方法および組成物により達成可能な治療効果は、所定の適用の特定のニーズに応じて、例えば、全身的、局所的、組織特異的などであり得る。
【0151】
例えば、経口投与について、医薬組成物は、丸剤、錠剤、ラッカー被覆錠(lacquered tablets)、被覆(例えば、糖衣)錠剤、顆粒、硬および軟ゼラチンカプセル、水性、アルコール性、または油性溶液、シロップ、乳剤、または懸濁液の形をとって製剤化され得る。例において、非限定的に、経口剤形の調製は、必要に応じて微粉化された1つまたは複数の固体担体も含む、粉末の形をとる本明細書で開示されているような作用物質の適切な量を、均一に密に合体してブレンドし、そのブレンドを丸剤、錠剤、またはカプセルに製剤化することにより、適切に達成され得る。非限定的ではあるが、例示的な固体担体には、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖(例えば、グルコース、マンノース、ラクトース、またはスクロースなど)、糖アルコール(例えば、マンニトールなど)、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が挙げられる。医薬組成物を含有する圧縮錠は、本明細書で開示されているような作用物質を、必要な圧縮性質を有する混合物を提供するように上記などの固体担体と均一に密に混合し、その後、その混合物を適切な機械において、望まれる形状およびサイズへ圧縮することにより調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らされた粉末化化合物の混合物を適切な機械において成形することにより、作製され得る。軟ゼラチンカプセルおよび坐剤のための適切な担体は、例えば、脂肪、ワックス、半固体および液体ポリオール、天然または硬化油などである。
【0152】
例えば、経口または鼻エアロゾルまたは吸入投与について、医薬組成物は、実例的な担体と共に、例えば、食塩水、ポリエチレングリコールもしくはグリコール、DPPC、メチルセルロースを含む溶液において、または粉末化分散剤との混合物において、さらに、ベンジルアルコールもしくは他の適切な保存剤、生物学的利用率を増強するための吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または当技術分野において知られた他の可溶化剤もしくは分散剤を用いて、製剤化され得る。エアロゾルまたはスプレーの形をとる投与のための適切な医薬製剤は、例えば、本明細書で教示されているような作用物質の溶液、懸濁液、もしくは乳剤、または薬学的に許容される溶媒、例えば、エタノールもしくは水、もしくはそのような溶媒の混合物中のそれらの生理的に許容できる塩である。必要とされるならば、製剤はまた、追加として、他の薬学的補助物、例えば、界面活性剤、乳化剤、および安定剤、加えて、噴霧剤を含有し得る。実例として、送達は、使い捨て送達デバイス、ミストネブライザー、呼吸作動型粉末吸入器、エアロゾル定量噴霧吸入器(MDI)、または当技術分野において利用可能な、任意の他の多数のネブライザー送達デバイスの使用であり得る。追加として、ミストテントまたは気管内チューブと通しての直接的投与もまた使用され得る。
【0153】
粘膜表面を介しての投与のための担体の例は、特定の経路、例えば、経口、皮下、鼻腔内などに依存する。経口で投与される場合、実例には、医薬品グレードのマンニトール、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカライドナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、およびその他同種類のものが挙げられ、マンニトールが好ましい。鼻腔内に投与される場合、実例には、ポリエチレングリコール、リン脂質、グリコールおよび糖脂質、スクロース、および/またはメチルセルロース、ラクトースなどの充填剤を含むまたは含まない粉末懸濁液、ならびに塩化ベンザルコニウム、EDTAなどの保存剤が挙げられる。特定の実例的な実施形態では、リン脂質1,2ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)が、約0.1~3.0mg/mlの濃度における本発明の化合物の鼻腔内投与のための、約0.01~0.2%における等張性水性担体として使用される。
【0154】
例えば、非経口投与について、医薬組成物は、有利には、適切な溶媒、希釈剤、可溶化剤、または乳化剤などと共に、溶液、懸濁液、または乳剤として製剤化され得る。適切な溶媒は、非限定的に、水、生理食塩水、PBS、リンゲル液、デキストロース溶液、もしくはハンクス液、またはアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、グリセロール、加えて、糖溶液、例えば、グルコース、転化糖、スクロース、もしくはマンニトール溶液、または代替として、言及された様々な溶媒の混合物である。注射可能な溶液または懸濁液は、公知の技術に従って、適切な無毒性の、非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば、マンニトール、1,3-ブタンジオール、水、リンゲル液、もしくは等張性塩化ナトリウム溶液、または適切な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁剤、例えば、無菌、無刺激性の固定油、例えば合成モノもしくはジグリセリド、および脂肪酸、例えばオレイン酸を使用して、製剤化され得る。本発明の作用物質およびその薬学的に許容される塩はまた、凍結乾燥することができ、得られた凍結乾燥物は、例えば注射または注入調製物の作製のために、使用することができる。例えば、静脈内使用のための担体の一つの実例には、10%USPエタノール、40%USPプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール600、および注射用バランスUSP水(WFI)の混合物が挙げられる。静脈内使用のための担体の他の実例には、10%USPエタノールおよびUSP WFI;USP WFI中0.01~0.1%トリエタノールアミン;またはUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン;ならびに1~10%スクアレンまたは非経口用水中植物油の乳剤が挙げられる。皮下または筋肉内使用のための担体の実例には、リン酸緩衝食塩水(PBS)、WFI中5%デキストロース、および5%デキストロース中0.01~0.1%トリエタノールアミン、またはUSP WFI中0.9%塩化ナトリウム、または10%USPエタノール、40%プロピレングリコールの1:2もしくは1:4混合物、および平衡、許容される等張性溶液、例えば5%デキストロースもしくは0.9%塩化ナトリウム;またはUSP WFI中0.01~0.2%ジパルミトイルジホスファチジルコリン、ならびに1~10%スクアレンまたは非経口用水中植物油の乳剤が挙げられる。
【0155】
水性製剤が好ましい場合、そのようなものは1つまたは複数の界面活性剤を含み得る。例えば、組成物は、少なくとも1つの適切な界面活性剤、例えば、リン脂質界面活性剤を含むミセルの分散体の形をとり得る。リン脂質の実例には、ジアシルホスファチジルグリセロール、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DPMG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)など、ジアシルホスファチジルコリン、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DPMC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)など;ジアシルホスファチジン酸、例えば、ジミリストイルホスファチジン酸(DPMA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、およびジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)など;ならびにジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えば、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DPME)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)などが挙げられる。典型的には、水性製剤における界面活性剤:活性物質のモル比は、約10:1から約1:10まで、より典型的には約5:1から約1:5までであるが、関心対象となる特定の目的に最適であるような、界面活性剤の任意の有効量が、水性製剤中に使用され得る。
【0156】
坐剤の形をとって直腸性に投与される場合、これらの製剤は、常温において固体であるが、直腸腔において液体化および/または溶解して、薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤、例えば、カカオバター、合成グリセリドエステル、またはポリエチレングリコールと、本発明による化合物を混合することにより調製され得る。
【0157】
マイクロカプセル、植込錠、またはロッドについての適切な担体は、例えば、グリコール酸と乳酸のコポリマーである。
上記の説明が包括的というよりむしろ実例的であることは、当業者は認識しているであろう。実際、多くの追加の製剤技術ならびに薬学的に許容される賦形剤および担体溶液が、当業者によく知られており、本明細書に記載された特定の組成物を様々な処置レジメンにおいて使用するための適切な投薬および処置レジメンの開発も同様である。
【0158】
必要に応じて、投与され得る1つまたは複数の他の活性化合物と組み合わせての、本明細書で教示されているような分子の投薬量または量は、個々の症例に依存し、常として、最適な効果を達成するように個々の状況に適応させることになっている。したがって、単位用量およびレジメンは、処置されるべき障害の性質および重症度に、ならびにまた、対象の種、処置されることになっているヒトまたは動物の性別、年齢、体重、全般的な健康状態、食事、投与の様式および時間、免疫状態、および個々の応答性、使用される化合物の有効性、代謝安定性、および作用持続期間などの因子に、治療が急性か慢性か予防的かに、または本発明の作用物質に加えて他の活性化合物が投与されるかどうかにも依存する。治療有効性を最適化するために、本明細書で教示されているような分子は、最初、異なる投薬レジメンで投与することができる。典型的には、組織における本分子のレベルは、例えば、所定の処置レジメンの有効性を決定するために、臨床試験手順の一部として適切なスクリーニングアッセイを使用してモニターすることができる。投与の頻度は、医療従事者(例えば、医師、獣医、または看護師)の技能および臨床判断の範囲内である。典型的には、投与レジメンは、最適な投与パラメーターを確立し得る臨床試験により確立される。しかしながら、従事者は、前述の因子、例えば、対象の年齢、健康状態、体重、性別、および医学的状態の1つまたは複数に従って、そのような投与レジメンを変え得る。投薬の頻度は、その処置が予防的か治療的かに依存して、異なり得る。
【0159】
本明細書に記載されているような分子またはそれを含む医薬組成物の毒性および治療有効性は、例えば細胞培養または実験動物における、公知の薬学的手順により決定することができる。これらの手順は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために、使用することができる。毒性効果と治療効果との間での用量比は、治療指数であり、それは、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す医薬組成物が好ましい。毒性副作用を示す医薬組成物が使用され得るが、正常細胞(例えば、非標的細胞)への潜在的損傷を最小限にし、それにより、副作用を低減するために、患部組織の部位へそのような化合物を標的化する送達系をデザインするように気を配るべきである。
【0160】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータは、適切な対象における使用についての投薬量の範囲を処方することに使用することができる。そのような医薬組成物の投薬量は、一般的に、有るか無しかの毒性で、ED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、用いられる剤形および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変動し得る。本明細書に記載されているような、使用される医薬組成物について、治療有効量は、最初は、細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養において決定されるようなIC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する医薬組成物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クラマトグラフィーにより、測定することができる。
【0161】
非限定的に、疾患の型および重症度に依存して、本明細書で教示されているような分子の典型的な投薬量(例えば、典型的な一日投薬量または典型的な間欠投薬量、例えば、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、1週間ごと、1.5週間ごと、2週間ごと、3週間ごと、1ヶ月ごと、またはその他の典型的な投薬量)は、上記で言及された因子に依存して、1回の投与あたり約10μg/kgから約100mg/kg対象の体重までの範囲であり得、例えば、1回の投与あたり約100μg/kgから約100mg/kg対象の体重まで、もしくは約200μg/kgから約75mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約500μg/kgから約50mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約1mg/kgから約25mg/kg対象の体重まで、もしくは1回投与あたり約1mg/kgから約10mg/kg対象の体重までの範囲であり得、例えば、約100μg/kg、約200μg/kg、約300μg/kg、約400μg/kg、約500μg/kg、約600μg/kg、約700μg/kg、約800μg/kg、約900μg/kg、約1.0mg/kg、約2.0mg/kg、約5.0mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約30mg/kg、約40mg/kg、約50mg/kg、約75mg/kg、もしくは約100mg/kg対象の体重であり得る。
【0162】
特定の実施形態では、本明細書で教示されているような分子は、持続性送達系、例えば、(部分的)植え込み型持続性送達系を使用して、投与される。そのような持続性送達系が、本明細書で教示されているような作用物質を保持するためのリザーバー、ポンプ、および注入手段(例えば、チュービングシステム)を含み得ることを当業者は理解しているであろう。
【0163】
したがって、本出願はまた、以下のステートメントに示されているような態様および実施形態を提供する:
ステートメント1. 分子間ベータシートを、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)のβ凝集傾向性領域(APR)と形成するように構成された天然に存在しない分子。
ステートメント2. RASタンパク質が、KRAS、NRAS、またはHRASタンパク質、好ましくはKRASタンパク質である、ステートメント1に記載の分子。
ステートメント3. RASタンパク質が、変異型RASタンパク質、好ましくはG12位、G13位、またはQ61位で、より好ましくはG12位で突然変異したRASタンパク質である、ステートメント1または2に記載の分子。
ステートメント4. RASタンパク質がG12V変異型RASタンパク質である、ステートメント3に記載の分子。
ステートメント5. 分子間ベータシートが、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)の少なくとも6個の連続したアミノ酸を含む、ステートメント1~4のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント6. 分子間ベータシートが、ヒトRASタンパク質におけるアミノ酸配列LCVFAI(配列番号76)を含む、ステートメント5に記載の分子。
ステートメント7. ヒトRASタンパク質の溶解性を減少させるか、またはその凝集もしくは封入体形成を誘導することができる、ステートメント1~6のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント8. 分子間ベータシートに関与するアミノ酸ストレッチを含む、ステートメント1~7のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント9. アミノ酸ストレッチが、アミノ酸配列GFLCVFAIN(配列番号3)またはGFLSVFAIN(配列番号45)の少なくとも6個の連続したアミノ酸を含む、ステートメント8に記載の分子。
ステートメント10. アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)、FLSVFAI(配列番号46)、GFLSVFAI(配列番号47)、LSVFAIN(配列番号48)、FLSVFAIN(配列番号49)、またはGFLSVFAIN(配列番号50)を含む、ステートメント8または9に記載の分子。
ステートメント11. アミノ酸ストレッチLSVFAI(配列番号6)を含む、ステートメント8~10のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント12. アミノ酸ストレッチが、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含む、ステートメント8~11のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント13. 同一または異なる、2つまたはそれ以上の、好ましくは2つの前記アミノ酸ストレッチを含む、ステートメント8~12のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント14. 1つまたは複数のアミノ酸ストレッチが、それぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1個または複数のアミノ酸と、各末端に独立して隣接している、ステートメント8~13のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント15. 以下の構造:
a)NGK1-P1-CGK1、
b)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2、
c)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3、または
d)NGK1-P1-CGK1-Z1-NGK2-P2-CGK2-Z2-NGK3-P3-CGK3-Z3-NGK4-P4-CGK4
を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
P1~P4がそれぞれ独立して、ステートメント8~12のいずれか一つに定義されているアミノ酸ストレッチを表示し、
NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4がそれぞれ独立して、ベータシートを形成する低い能力またはベータシートを破壊する傾向を示す1~4個の連続したアミノ酸、例えば、R、K、D、E、P、N、S、H、G、Q、およびA、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、好ましくは、R、K、D、E、P、N、S、H、G、およびQ、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸、より好ましくは、R、K、D、E、およびP、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~4個の連続したアミノ酸を表示し、
Z1~Z3がそれぞれ独立して、直接的結合、または好ましくはリンカーを表示する、ステートメント8~14のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント16. NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、R、K、A、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸であり、好ましくは、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、R、K、およびD、そのD-異性体および/または類似体、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される1~2個の連続したアミノ酸であり、例えば、NGK1~NGK4およびCGK1~CGK4が、それぞれ独立して、K、R、D、A、またはKK、好ましくは、それぞれ独立してK、R、D、またはKKであり;ならびに/または
各リンカーが、独立して、1~10単位の間、好ましくは1~5単位の間のストレッチから選択され、単位が、それぞれ独立して、1個のアミノ酸またはPEGであり、例えば、各リンカーが、独立して、GS、PP、AS、SA、GF、FF、もしくはGSGS(配列番号51)、またはそのD-異性体および/もしくは類似体であり,好ましくは、各リンカーが、独立して、GS、PP、もしくはGSGS(配列番号51)、好ましくはGS、またはそのD-異性体および/もしくは類似体である、ステートメント15に記載の分子。
ステートメント17. KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)のアミノ酸配列のペプチドを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、
必要に応じて、前記アミノ酸配列が、1個もしくは複数のD-アミノ酸および/またはそのアミノ酸のうちの1個もしくは複数の類似体を含み、必要に応じて、N末端アミノ酸がアセチル化され、および/またはC末端アミノ酸がアミド化されている、ステートメント15または16に記載の分子。
ステートメント18. 検出可能な標識、前記分子の単離を可能にする部分、前記分子の安定性もしくは半減期を増加させる部分、前記分子の溶解性を増加させる部分、前記分子の細胞取込みを増加させる分子、および/または前記分子の細胞への標的化をもたらす部分を含む、ステートメント1~17のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント19. 医薬における使用のためのステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子。
ステートメント20. 医薬における使用のための、ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸。
ステートメント21. ヒトRASタンパク質における突然変異、好ましくはヒトRASタンパク質における12位での突然変異、より好ましくはG12V RAS突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、ステートメント1~18のいずれか1つに記載の分子。
ステートメント22. ヒトRASタンパク質における突然変異、好ましくはヒトRASタンパク質における12位での突然変異、より好ましくはG12V RAS突然変異により引き起こされるか、またはそれと関連した疾患を処置する方法における使用のための、ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子をコードする核酸であって、前記分子がポリペプチドである、核酸。
ステートメント23. 疾患が、腫瘍性疾患、特にがんである、ステートメント21または22に記載の、使用のための分子または核酸。
ステートメント24. 疾患が、膵管腺癌、結腸直腸腺癌、多発性骨髄腫、肺腺癌、皮膚黒色腫、子宮体類内膜癌、子宮癌肉腫、甲状腺癌、急性骨髄性白血病、膀胱尿路上皮癌、胃腺癌、子宮頚部腺癌、頭頚部扁平上皮癌、非小細胞肺がん(NSCLC)、または結腸直腸がんである、ステートメント21、22、または23に記載の、使用のための分子または核酸。
ステートメント25. ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子を含む、医薬組成物。
ステートメント26. ステートメント1~18のいずれか一つに記載の分子をコードする核酸を含む医薬組成物であって、前記分子がポリペプチドである、医薬組成物。
【0164】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されているが、多くの代替物、改変、およびバリエーションが、前述の説明を鑑みれば、当業者に明らかであろうことは明白である。したがって、以下のような、全てのそのような代替物、改変、およびバリエーションを、添付された特許請求の範囲の精神および幅広い範囲において包含することを意図される。
【0165】
本明細書で開示された本発明の態様および実施形態は、以下の非限定的実施例によってさらに裏付けられる。
【実施例】
【0166】
実施例1~7で使用する材料および方法
RAS特異的凝集分子(「pept-in」)の設計
RASファミリーメンバータンパク質のタンパク質配列を、UniProt(登録:P01116(KRAS)、P01112(HRAS)、およびP01111(NRAS))から得た(Nucleic Acid Res.47(2008)36、D190~5)。TANGOアルゴリズム(上記のFernandez-Escamillaら、2004)を使用してタンパク質配列を分析し、凝集傾向のある領域(APR)を同定した。この目的のために、以下の設定を使用した:温度=298K、pH=7.5、イオン強度=0.10M、およびTANGOスコアのカットオフが残基当たり1。TANGOプロファイルに対する、一般的なG12およびG13突然変異の影響を評価するために、本発明者らは、影響を受けたAPRを含む19のアミノ酸(1~19)からなる配列断片を使用した。この配列断片は、KRAS、HRAS、およびNRASの間で100%保存されており、そのため、結果は全てのRASアイソフォームに適用される。突然変異を手動で導入し、上記のようなTANGOアルゴリズムを使用して配列を分析した。
【0167】
RAS野生型配列およびRAS G12V配列の両方を使用するTANGO結果に基づいて、本発明者らは、スライディングウィンドウアプローチを使用して、6~10アミノ酸の間の全ての考えられるAPRウィンドウを作成した。得られた配列ウィンドウを、完全ヒトプロテオームと交差比較し、RASタンパク質との固有の正確なマッチを有する配列のみを、分子(以降、「pept-in」)設計のために保持した。
ペプチドの合成および精製
固相ペプチド合成
ペプチド合成を、50または100μmolスケールで、Symphony Xペプチド合成装置(Gyros Protein Technologies)で行った。Rinkアミド低ローディング樹脂(100~200メッシュ)、O-(1H-6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、およびジエチルエーテルを、Novabiochem/Merckから購入した。Fmoc保護されたアミノ酸(AA)およびトリフルオロ酢酸(TFA)をFluorochemから購入した。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、DMF溶液中の20%ピペリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリイソプロピルシラン(TIS)、およびジチオスレイトール(DTT)を、Sigma-Aldrichから購入した。ジクロロメタン(DCM)をAcros Organicsから購入した。所望の配列の伸長を、Fmoc除去およびアミノ酸カップリングの反復サイクルによって行った(スケールに依存する体積および濃度については、以下の表3を参照されたい)。まず、樹脂をDMF中で2×10分間膨張させた。Fmoc保護基を次に、DMF中の20%ピペリジン溶液に2×5分間曝露することによって除去した。樹脂を次いでDMFで洗浄し、DMF中で4当量のAA、4当量のHCTU、および16当量のDIPEAを使用して、30分間カップリングを行った。次のサイクルの前に、樹脂をDMFで洗浄した。第2のAPRの最初のAAから所望の配列の最後までの広範囲のFmoc除去(2×15分)およびダブルカップリング(2×30分)を行った。樹脂を次いでDMF、DCMで数回洗浄し、次いで、2×10分間乾燥させた。ペプチドを最後に、2.5%超純水、2.5%TIS、および2.5%DTTを含有するTFA溶液を使用して、2時間、乾燥樹脂から切断した。ペプチド溶液を次いで、冷たいジエチルエーテル(5mLのTFA溶液に35mL)中で沈殿させ、遠心分離した。液相を次いで廃棄し、ペプチドペレットを15mLのジエチルエーテルで洗浄した。遠心分離した後、ペレットを30分間空気乾燥させ、次いで、10mLの水/アセトニトリル溶液(1:1)中に溶解し、凍結し、そして凍結乾燥器で一晩凍結乾燥させて、ペプチドを粗粉末として得た。
【0168】
【0169】
ペプチド精製
PhenomenexのC18カラム(5μm、110Å、250×21.2mm、参照番号006-4435-P0-AX)を使用する、322 Pump、159 UV-vis検出器、およびGX281コレクターを備えたGilsonシステムでの逆相分取HPLCを介して、粗ペプチドを精製した。HPLCグレードの水およびアセトニトリルをVWRから購入し、TFAをFluorochemから購入した。グアニジンヒドロクロリド(Gu)をSigma Aldrichから購入し、ジメチルスルホキシド(DMSO)および酢酸をMerckから購入した。溶媒Aは水+0.1%TFAであり、溶媒Bはアセトニトリル+0.1%TFAである。粗粉末をDMSO中に20mg/mLで溶解し、ボルテックスし、そして超音波処理した。溶液を次いで、Gu+10%酢酸水で10倍希釈し、最後に、0.22μmの酢酸セルロースフィルター(Merck)で濾過した。ペプチド溶液を次いで、15%Bでの7分間の平坦時間、15%Bから45%Bまでの10分間の溶出、その後の、95%Bを使用する2分間のカラム洗浄、および15%Bでの6分間の平衡からなる勾配を使用して、30mL/分の流速で精製した。画分を次いで、MALDI質量分析によって分析した。純粋な画分をガラスバイアルに集め、凍結し、そして少なくとも2日間にわたり凍結乾燥させた。純粋なペプチドを最後に、品質管理のバリデーションのために、UVおよびMSシグナルの両方による90%純度を閾値として使用して、LCMSによって分析した。
細胞効力のスクリーニング
本願において使用した細胞系を以下の表4に列挙する。
【0170】
【0171】
DSMZ:Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures、Inhoffenstr.7B、D-38124 Braunschweig Germany。
【0172】
CLS:CLS Cell Lines Service、Dr.Eckener-Str.8、D-69214 Eppelheim、Germany(www.https://clsgmbh.de/)。
【0173】
BPS Bioscience、6042 Cornerstone Court West、Suite B、San Diego、CA 92121、United States(www.bpsbioscience.com)。
【0174】
ヒト腫瘍細胞系を、ATCC(すなわち、NCI-H441(HBT-174TH)、NCI-H1299(CRL-5803TM))、NCI-H358(CRL-5807TM)、NCI-H727(CRL-5815TM)、A-427(HTB-53TM)、PANC-1(CRL-1469TM)、HCT-116(CCL-247TM)、およびMIAPaCa-2(CRL-1420TM))、CLS Cell Line Service GmbH(すなわち、Capan-1(300143)およびLCLC-97TM1(300409))、またはLeibniz-Institut DSMZ(すなわち、PA-TU-8998T(ACC 162))から入手した。単一のRASアイソフォームを発現するマウス胚性線維芽細胞(「RASless MEF」と呼ぶ)を、米国国立がん研究所のフレデリック国立研究所、フレデリック、MD、USAから入手した。全ての細胞系を、供給元の指示に従って維持した。
接着性生存能力のアッセイ
接着細胞での単回用量生存能力スクリーニングのために、黒色のμclear(登録商標)Cellstar(登録商標)F底96ウェルプレート(Greiner)において、100μLの完全増殖培地中に、ウェル当たり4000個の細胞を播種した。播種の翌日、増殖培地を、25μMの一定最終用量の示されたpept-inを含有する完全増殖培地で置き換えた。全ての実験上のpept-in条件について、2回の技術的反復が含まれた。処置の2日および4日後に、CellTiter Blue試薬(Promega)を、CellTiter Blue試薬をPBS中に2倍希釈するという適応を伴って、製造者の指示に従って使用して、生存能力を評価した。読み出しをClariostarプレートリーダー(BMG)で行った。使用した最大最終濃度が50μMである2倍連続希釈物を使用する用量応答でpept-inを試験するという適応を伴って、用量応答アッセイを行った。さらに、Celltiter Glo試薬(Promega)を、CellTiter Glo試薬をPBS中に4倍希釈するという適応を伴って、製造者の指示に従って使用して、単回の生存能力読み出しを処置の3日後に行った。
【0175】
全ての試験プレートは、複数の正常増殖および媒体対照、ならびに、2連の陽性対照化合物SAH-SOS-1A(CAS番号1652561-87-9)の用量応答を含んでいた。
スフェロイド生存能力のアッセイ
スフェロイド培養物での単回用量生存能力スクリーニングのために、黒色のUltra-Low Attachment(ULA)丸底96ウェルプレート(Corning)において、75μLの完全増殖培地中に、ウェル当たり1000個の細胞を播種した。播種の翌日、スフェロイドを、示された試験化合物を含有する50μlの完全増殖培地を添加することによって処置し、その結果、添加後の最終濃度は25μMとなった。全ての実験上のpept-in条件について、2回の技術的反復が含まれ、処置の5日後に、ウェル当たり80μLの試薬を添加するという適応を伴って、CellTiter Glo 3D試薬(Promega)を製造者の指示に従って使用して、生存能力を評価した。読み出しをClariostarプレートリーダー(BMG)で行った。RASless MEFを使用する用量応答アッセイのために、細胞をMatrigel含有培地に1000個(G12VおよびG12C)または2000個(野生型およびBRAF V600E)で播種して、処置の開始時に生存能力が等しいスフェロイドを、24時間後に得た。最大最終濃度が50μMである2倍連続希釈物を使用する用量応答でpept-inを試験するという適応を伴って、用量応答アッセイを行った。
【0176】
全ての試験プレートは、複数の正常増殖および媒体対照、ならびに、2連の陽性対照化合物SAH-SOS-1A(Merck)の用量応答を含んでいた。
着色によるin vitro凝集アッセイ
着色凝集アッセイを、アミロイドセンサー色素であるチオフラビンT(ThT)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA)を使用して行った。pept-inを、PBS中の6Mの尿素中の5mMのストック溶液から100μMの最終濃度に希釈した。測定は、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、黒色のハーフエリア96ウェルプレートにおいて、22時間、動力学的に行った。
KRAS凝集シーディングアッセイ
pept-inを、低吸着チューブにおいて、PBS中の6Mの尿素中の5mMのストック溶液から100μMの最終濃度に希釈し、37℃で20時間インキュベートした。この溶液を次のシーディングアッセイにおいて直接使用したか、または、液体窒素を使用してアリコートを急速冷凍し、後のシーディングアッセイのために-80℃で保存した。
【0177】
成熟pept-in凝集体を用いるシーディングアッセイのために、5μMの成熟pept-in溶液を、200mMのアルギニンおよびグルタミンを含有するHepes緩衝剤中で1mg/mlの組換え変異型KRAS G12Vと混合した。シーディングを、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、ThTを凝集/アミロイドセンサー色素として使用して、黒色の384ウェルプレート(ウェル当たり30μlの最終体積)内でモニタリングした。
【0178】
pept-inシードを用いるシーディングアッセイのために、成熟pept-in溶液をPBS中で3倍希釈し、3秒間の休止によって離された5秒間のサイクルを使用して5分間、超音波処理した。5μMの超音波処理されたpept-in溶液を次に、200mMのアルギニンおよびグルタミンを含有するHepes緩衝剤中で1mg/mlの組換え変異型KRAS G12Vと混合した。シーディングを、Clariostarプレートリーダー(BMG)で37℃で、ThTをアミロイドセンサー色素として使用して、黒色の384ウェルプレート(ウェル当たり30μlの最終体積)内でモニタリングした。
in vitroでの翻訳アッセイ
in vitroでの翻訳アッセイを、PURExpress(登録商標)In Vitroタンパク質合成キット(New England Biolabs)を製造者の指示に従って使用して行った。簡潔に述べると、KRASコード配列に隣接するT7プロモーター配列およびターミネーター配列を含有する直鎖状のDNA断片を、PCRを使用して作製し、MinElute PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。250ngの直鎖状DNAをその後、in vitroでの翻訳反応に使用し、この翻訳反応は、振とうしながら(1000rpm)37℃で2時間行った。示されたビオチン化されたpept-inを、6Mの尿素中の5mMのストック溶液から10μMの最終濃度まで、翻訳反応において混合した。翻訳反応が完了すると、ビオチン化されたpept-inを、ストレプトアビジン被覆ビーズ(Pierce)を使用して、90分間、室温で、反応混合物から捕捉した。ビーズを次に、0.1%Tween 20を含有するTBSで洗浄し、結合したタンパク質を最後にTBS緩衝剤中の1×SDSローディングダイ(Bio-Rad)中で煮沸除去した。タンパク質を、SDS-PAGEの間に、Any kD 15ウェルMini-PROTEANゲル(Bio-Rad)を使用して分離し、マウスモノクローナルKRAS特異的抗体(SC-30、Santa Cruz Biotechnology)を使用するウェスタンブロッティングの後に、KRASについて調べ、これを、Bio-Rad Chemidoc MPイメージング機器で、化学発光を使用して、HRP結合型抗マウス二次抗体で検出した。
共免疫沈降アッセイ
細胞共免疫沈降アッセイを、KRAS野生型または変異型G12Vのいずれかを発現する、RASless MEF(他の箇所を参照されたい)またはヒトNCI-H441肺腺癌腫瘍細胞、およびN末端がビオチン化されたpept-inを使用して行った。細胞を、透明の6ウェルプレート(Cellstar、Greiner)内に300,000個の細胞の密度で播種した。播種の翌日、細胞を、25μMの最終濃度の示されたpept-inで処理し、20時間インキュベートした。次に、細胞を、NP-40溶解緩衝剤(150mMのNaCl、50mMのTris HCl、pH8、1%IGEPAL(NP40)、1×Haltホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤(Thermo)、1U/μlのユニバーサルヌクレアーゼ(Pierce))で溶解し、ビオチン化されたpept-inをストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Pierce)で、1時間、室温で捕捉した。ビーズをNP40溶解緩衝剤で少なくとも3回洗浄し、その後、結合したタンパク質を、NP40溶解緩衝剤中の1×SDSローディングダイ(Bio-Rad)中で煮沸除去した。タンパク質を、SDS-PAGEの間に、Any kD 15ウェルMini-PROTEANゲル(Bio-Rad)を使用して分離し、ウサギポリクローナルKRAS特異的抗体(12063-1-AP、Proteintech)を使用するウェスタンブロッティングの後に、KRASについて調べた。
フローサイトメトリー
NCI-H441細胞を、175k細胞/ウェルの密度で12ウェルプレートに播種した。翌日、細胞を、媒体または12.5μMのRAS標的化pept-inまたは陰性対照pept-inで処理した。6、16、および24時間の処理の後、細胞をPBSで洗浄し、TrypLE Express(Thermo Fisher)を使用して取り外した。洗浄した細胞を次に、Sytox Blue(Thermo Fisher)およびAmytracker Red(Ebba Biotech AB)を使用して染色し、その後、これらをGalliosフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析した。
細胞蛍光イメージング
N末端がmCherryで標識されたKRAS G12Vを発現する構築物を有するレンチウイルス粒子を形質導入したHeLa細胞を使用して、蛍光細胞イメージングを行った。細胞を、黒色のμclear(登録商標)Cellstar(登録商標)F底96ウェルプレート(Greiner)において、100μLの完全増殖培地中に播種した。翌日、細胞を、通常の増殖培地において、示されたFITC標識されたpept-inで20分間処理し、その後、pept-in溶液を洗い流し、通常の増殖培地で再び置き換え、そしてさらに2時間インキュベートした。次に、細胞を固定し、洗浄し、そして核用色素NucBlue(商標)(Hoechst 33342を含有する)で対比染色した。イメージをライカ共焦点顕微鏡でキャプチャした。
in vivoのSW620異種移植モデル
メスのNCr nu/nuマウス(8~12週齢)の後ろ脇腹に、50%Matrigel中の1×106のSW620腫瘍細胞を皮下接種した。細胞注射体積は0.1mL/マウスであった。腫瘍が100~150mm3の平均サイズに達したら、ペアマッチを行い、処置を開始した。群のサイズは、未処理群ではN=6、媒体群ではN=5、ならびにpept-in群および陽性対照群ではN=8であった。腫瘍成長をキャリパー測定によって週に2回モニタリングした。モデルの応答を、イリノテカンを100mg/kgで週に1回、3週間、腹腔内に投与することによって、モニタリングした。
【0179】
実施例1:RAS特異的凝集分子(「pept-in」)の設計
本発明者らは、統計学的な熱力学的アルゴリズムであるTANGOを使用して、ヒトRASファミリータンパク質(HRAS、NRAS、およびKRAS)の一次アミノ酸配列における、凝集傾向のある領域(APR)を同定した。この分析は、3つのRASファミリーメンバーの全てが同一のTANGOプロファイルを有し、メンバーの各々が少なくとも5アミノ酸長の5つのAPRを有し、このうち2つのAPRが少なくとも20%のTANGOスコアを有することを示した(表5)。表5に示される所与のAPRの開始位置(「Start」)は、RAS配列内の、それぞれの凝集傾向のある領域自体の前にある最初のN末端ゲートキーパーの位置に対応しているが、本明細書の他の箇所では、APRの開始位置は、N末端ゲートキーパーを用いずに示されている場合がある。したがって、例えば、RASの最もN末端側のAPRは、表5では、RASの1位のMゲートキーパーで開始していると記載されているが、このAPRは、本明細書の他の箇所では、2位のTで開始している記載される場合がある。さらに、表5において、「N-GK」は、RAS内の予測されるAPRのN末端側に隣接したネイティブなゲートキーパー残基を示し、「C-GK」は、RAS内の予測されるAPRのC末端側に隣接したネイティブなゲートキーパー残基を示し、「APR seq」はAPR配列を示し、「スコア」は%表示のTANGOスコアを意味し、「長さ」は、全てのゲートキーパーを排除したAPRの長さ(aa)を示している。
【0180】
【0181】
GFLCVFAIN(配列番号3)APRに対して方向づけられたpept-insの設計について、本発明者らは、以前、考案されたタンデムリピート立体配置(WO2012/123419A1参照)を採用し、その立体配置においては、APRウィンドウが、1回、反復し、リンカーによって分離されている。本発明者らは、GSリンカーとPPリンカーの両方を有するバリアントを含めた。さらに、これらの凝集性配列のコロイド安定性を増大させるために、ゲートキーパー残基を、pept-inにおけるAPRウィンドウの各リピートに隣接させて導入した。2つの正に荷電した(アルギニン(R)およびリシン(K))ならびに1つの負に荷電した(アスパラギン酸塩(D))アミノ酸を選択し、スクリーニングライブラリーに導入した。異なるゲートキーパー残基およびリンカーを有する、得られたpept-in鋳型の概要を、表6に示す。
【0182】
【0183】
最初のスクリーニングに基づいて、K-APR-KGSK-APR-K鋳型およびAPR配列LSVFAI(配列番号6)を、次の実験のために選択した。このAPR配列は、GFLCVFAIN(配列番号3)RAS APRの下線の連続したアミノ酸に対応し、システインがセリンと置換されている。したがって、04-004-N001と表示されたこのpept-inのアミノ酸配列は、KLSVFAIKGSKLSVFAIK(配列番号7)である。04-006-N001、04-014-N001、04-015-N001、および04-033-N001と表示された4つの追加のpept-insは、比較実験のためにデザインされた。これらのpept-insは、由来しているAPRウィンドウ配列を有し、G12V変異部位を含有し、したがって、RAS G12V変異型タンパク質に対する選択性を達成するようにデザインされている。
【0184】
前述のpept-insの配列は表7に示されている:
【0185】
【0186】
表7に示すpept-in 04-004-N001のアミノ酸配列は、配列番号7に割り当てられ、一方、pept-ins 04-006-N001、04-014-N001、04-015-N001、および04-033-N001は、、配列番号8、配列番号9、配列番号10、および配列番号11としてそれぞれ表される。表7の「Ac」は、N末端アセチル化を示し、「NH2」はC末端アミド化を示す。
【0187】
設計された全てのpept-insを、固相合成を使用して生成し、6M尿素中に溶解して、5mMストックとした。
実施例2:RAS標的化pept-inの活性のスクリーニング
RAS変異型腫瘍細胞の生存能力に対するpept-inの活性を評価するために、本発明者らは、KRASにおけるG12V突然変異を有する接着性のNCI-H441肺腺癌細胞を使用した。この細胞系が実際にその成長についてKRASに依存していたことを確認するために、本発明者らは、SAH-SOS-1Aを陽性対照として使用した。SAH-SOS-1Aはペプチド化合物であり、その設計は、KRASの正規のグアニン交換因子であるson of sevenless 1の安定なヘリックスに基づく(Leshchinerら、Proc Natl Acad Sci USA.2015、第112巻(6)、1761~6)。SAH-SOS-1AでのNCI-H441細胞の処理は、生存能力の用量依存的な低下をもたらし、4日間の曝露の後のIC50は約15μMであり、これは、他の細胞系について報告された値と一致しており、NCI-H441細胞系がKRAS依存性であることを立証した。本発明者らはまた、NCI-H441細胞の尿素耐性についても試験し、4日間の曝露の後に、60mMまでの尿素では生存能力に対する顕著な影響はないことが分かった。
【0188】
pept-insを25μMの単回用量(30mM尿素中の最終濃度に対応する)でスクリーニングし、2日間および4日間の曝露の後に、CellTiter Blue試薬を使用して生存能力を測定した。4日間の曝露後、pept-insは、媒体処理された細胞と比較して、4日間の曝露後、生存能力の少なくとも75%の減少を示した(30mM尿素、表7参照、右の列)。陰性対照として、1つの生物学的に非活性のペプチド(04-016-N001)を選択した - このpept-inは、RAS G12Vを標的化するようにデザインされた7merのAPRウィンドウを有するが、NCI-H441細胞の生存能力を変えることができなかった。
【0189】
接着的に成長する(「2D生存能力アッセイ」)NCI-H441細胞の生存能力を低下させることにおけるpept-insの効力を、用量反応式で試験した。この目的のために、pept-inを、接着的に成長しているNCI-H441細胞に対して、最大用量として50μMから開始した2倍連続希釈物を使用して、5つのポイントの用量応答で試験した。生存能力を、試験化合物への曝露の3日後に、CellTiter Glo生存能力アッセイを使用して評価した。この分析は、5つの活性化合物が全て、およそ10μMのIC
50を示すことを示した(
図1)。
【0190】
KRAS変異細胞系の接着性の成長がKRAS阻害またはノックダウンに対するそれらの感受性を弱め得るということが、以前の報告によって報告されているため(Fujita-Satoら、Cancer Res. 2015、75巻、2851~62;Patricelliら、Cancer Discov. 2016、6巻、316~29;Vartanianら、J Biol Chem. 2013、288巻、2403~13)、本発明者らは、接着滴に成長するNCI-H441細胞でのスクリーニングを、同一細胞系のスフェロイド浮遊培養におけるスクリーニングで補った。この目的のために、NCI-H441細胞を超低接着丸底プレートに播種し、スフェロイドを形成させた。接着性のスクリーニングに関して、本発明者らは、25μMの各試験用pept-inを使用する単回用量アプローチを採用した。スフェロイド培養物の生存能力を、5日間の曝露の後に、PromegaのCellTiter Glo 3D試薬を使用して判定した。またこれらの設定において、pept-insは、5日間の曝露後、生存能力の少なくとも75%の低下を示したが、ただし、04-014-N001は例外であり、それは、スフェロイド設定において活性を示さなかった。
【0191】
次に、懸濁液スフェロイドのアプローチを使用して、KRAS突然変異体および野生型腫瘍細胞系のより大きなセットに対する、4つの活性なpept-inの有効性を評価した。これらの細胞系に対するIC
50の中央値を示す、各pept-inのウォーターフォールプロットを
図2に示す。
【0192】
次に、懸濁液スフェロイドのアプローチを使用して、NCI-H441肺腺癌細胞において、代替的なゲートキーパーおよび/またはリンカー部分を含有する04-004、004-006、04-015、および04-033 pept-inの様々なバージョンの有効性を評価した。各pept-inの用量応答への5日間の曝露の後に、CellTiter Glo 3Dアッセイ(Promega)を使用して、細胞の生存能力に対するIC50を決定した。pept-inおよびそれぞれのIC50値を以下の表2に列挙する(「Ac」はN末端のアセチル化を示し、「NH2」はC末端のアミド化を示し、[Dap]はジアミノピメリン酸を示し、[Cit]はシトルリンを示し、L-アミノ酸は大文字コードを使用して表されており、D-アミノ酸は小文字コードによって表されている)。
【0193】
【0194】
【0195】
表2は、細胞の生存能力に対する説得力のあるIC50値が、本明細書において開示されている様々な実施形態のpept-inの典型である分子によって実証されていることを示しており、前記pept-inは例えば、それらのゲートキーパーストレッチの1つまたは複数の中に、1つもしくは複数のD-リシン(「k」)、ジアミノピメリン酸(「[Dap]」)、シトルリン(「[Cit]」)、またはL-アラニン(「A」)を含有するpept-in;1つもしくは複数のL-アラニン(「A」)もしくはL-フェニルアラニン(「F」)を含有する、または、それらのリンカー部分の中に1つもしくは複数のD-セリン(「s」)を含有する、またはいかなるリンカー部分も含まないpept-in;ならびに/あるいは全体がD-アミノ酸およびグリシンからなるpept-inである。これらのpept-inは、タンパク質内の凝集傾向のあるストレッチの標的化に焦点を当てた本アプローチの構造的柔軟性を実証している。
【0196】
実施例3:RAS標的化pept-inは、凝集傾向があり、in vitroで直接的な相互作用を介してRASの凝集をシードする
RAS標的化pept-inの凝集挙動を研究するために、本発明者らは、アミロイド凝集センサー色素であるチオフラビンT(ThT)および五量体ホルミルチオフェン酢酸(p-FTAA)を使用して動的着色アッセイを行った。4つの代表的な生物学的に活性なpept-inの全ては、明らかなアミロイド凝集動態を両色素で示し、一方、不活性対照は顕著なThTシグナルを示さず、p-FTAAシグナルのわずかな増大を経時的に示したにすぎなかった(
図3)。
【0197】
例示的な生物学的に活性なpept-inが実際に、それらの標的タンパク質であるKRAS G12Vを標的化し、タンパク質の凝集をシードすることができることを示すために、本発明者らは、異なるKRAS標的化pept-inの最終段階の凝集体または超音波処理したシードを用いてシーディング実験を行った。この目的のために、pept-inを着色動的アッセイと同一の時間枠で凝集させた。最終段階の試料を次いで、組換えによって生産されたKRAS G12Vと混合し、凝集を、ThTを使用して動的にモニタリングした。このアプローチでは、KRAS G12Vに対するこれらの最終段階のpept-in凝集体のごくわずかなシーディング能力のみが明らかになった。しかし、超音波処理を介して成熟凝集体を破壊すると、KRAS G12Vの凝集を効率的に誘導する強力なシードが形成される(
図4)。
【0198】
RAS標的化pept-inがRASタンパク質と直接的に相互作用することを示すために、本発明者らは、in vitroでの翻訳アッセイを設定した。実際、利用可能な構造データによって、RAS APRがネイティブなフォールディングでは曝露され得ないことが示されているため、本発明者らは、タンパク質が翻訳されている間にpept-inとそれらの標的との最初の相互作用がリボソームで生じ、これらのAPRを一時的に曝露させると仮定している。これをin vitroで模倣するために、本発明者らは、ビオチン化されたRAS標的化pept-inの存在下で野生型または変異型(G12V、G12C、G12D、もしくはG13D)KRASのいずれかを生産するin vitro翻訳設定を考案した。これによって、本発明者らは、ビオチン化されたpept-inを翻訳反応物から捕捉するためのストレプトアビジンでのプルダウンを行うこと、ならびにプルダウンされた画分をKRASの存在について調べるためのSDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングを行うことができた。ビオチン化されたバージョンのpept-in 04-004-N001、すなわち、野生型APRに由来するAPRウィンドウ配列を有する04-004-N011は、全てのRASタンパク質をそれらの突然変異の状態とは無関係に標的化すると予測される。04-004-N011での効率的なプルダウンがKRAS野生型のG12VおよびG12Cで実際に見られたが、G12DおよびG13D突然変異体への結合はあまり効率的ではないと思われた。しかし、G12V突然変異部位を含むAPRウィンドウを有する、ビオチン化されたバージョンの生物学的に活性なpept-in(04-006-N007、04-015-N026、および04-033-N003)を使用すると、顕著なプルダウンはG12V変異型KRASでのみ見られ、04-015-N026のケースでは、G12C変異型KRASでのみ見られた(
図5)。
【0199】
総合すると、これらのデータは、これらの例示的なRAS標的化pept-inがRASタンパク質と直接的に相互作用し、タンパク質の凝集をシードし得ることを示している。
【0200】
実施例4:RASless MEF系における突然変異体選択的な細胞有効性
細胞有効性に対するRAS突然変異体選択性を、同質遺伝子的なRASlessマウス胚性線維芽細胞(MEF)パネルを使用して評価した。これらのMEFは、KRAS遺伝子も同様にflox化されている(ER-Creによる除去)、NRASヌルマウスおよびHRASヌルマウスに由来する。増殖は、内因性KRAS遺伝子の発現に、または、タモキシフェン処理を介してそれが除去されている場合には、発現している導入遺伝子の発現に依存する。評価対象のパネルは、導入遺伝子(WT、G12V、およびG12C)として発現している一般的な臨床的KRASバリアント、ならびに、増殖をBRAF V600Eの発現に依存する追加の細胞系を含んでいた。後者は、これがいずれのRASアイソフォームも発現しないため、KRAS標的化剤に対して不応性であり、これらの細胞の増殖は、RASの下流にある変異型BRAFに排他的に依存する。
【0201】
スフェロイドとして増殖しているMEFに対するRAS標的化pept-inの有効性を、5日間の曝露の後に評価した。04-004-N001の標的化部分は、野生型RAS配列に由来するAPRウィンドウであるため、これは、突然変異の状態とは無関係に、全てのRAS依存性の増殖を標的化すると予測されるであろう。しかし、驚くべきことに、04-004-N001の顕著な増大した有効性が、BRAF V600Eを発現するRASless MEFと同程度の応答であった、KRAS WTおよびG12Cを発現するMEFと比較して、KRAS G12Vを発現するMEFで見られた。
【0202】
G12V標的化RAS pept-inでは、G12Vを発現するRASless MEFを評価した際に最も高い有効性が見られ、このことは、突然変異体選択的な結合が、これらのpept-inによって提示される変異型RASに対する選択性を少なくとも部分的に促進し、前記選択性の主な原因であり得ることを示している。データを
図9に示す。
【0203】
実施例5:RAS標的化pept-inはKRASと相互作用する
RAS標的化pept-inが細胞内の(変異型)KRASタンパク質とも相互作用し得るかどうかを評価するために、本発明者らは、共免疫沈降アッセイを設定した。
【0204】
まず、本発明者らは、KRAS野生型および変異型G12Vを発現するRASless MEFを使用して、(i)RAS標的化pept-inが細胞環境内のKRASタンパク質を結合するかどうか、および(ii)何らかの結合が、実施例4において記載されているin vitroでの翻訳アッセイで見られたものと類似のG12V突然変異体選択性を示すかどうかを評価した。この目的のために、関連するMEF細胞を、25μMのビオチン化されたpept-inで一晩(16時間)処理した。次に、細胞を溶解し、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、pept-inを溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を次に、SDS PAGEを使用して分離し、ウェスタンブロットを使用してKRASタンパク質の存在について調べた。結果は、04-004由来のビオチン化されたpept-inが、野生型および変異型G12V KRASの両方を、それぞれのRASless MEF細胞の16時間の処理の後に良く沈殿させると思われることを示している。しかし、ビオチン化されたバージョンのG12V選択的pept-inでの処理および沈殿は、G12V変異型KRASタンパク質への優先的な結合を示した(
図10)。
【0205】
次に、本発明者らは、RAS標的化pept-inがヒト腫瘍細胞への曝露の後にKRASへの結合を示すかどうかを評価した。この目的のために、KRAS G12V変異型NCI-H441肺腺癌細胞を、25μMのビオチン化されたpept-inで一晩(16時間)処理した。次に、細胞を溶解し、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して、pept-inを溶解物から免疫沈降させた。沈殿した画分を次に、SDS PAGEを使用して分離し、ウェスタンブロットを使用してKRASタンパク質の存在について調べた。このアプローチによって、媒体または陰性対照ペプチドで処理した条件の沈殿画分では検出可能なKRASタンパク質は得られなかったが、KRASタンパク質は、生物学的に活性なpept-inで処理したNCI-H441細胞からの沈殿画分では容易に検出された(
図6)。
【0206】
共免疫沈降アプローチを補うために、本発明者らはまた、標的化エンゲージメントを示すための細胞イメージングアプローチも使用した。この目的のために、本発明者らは、mCherryでタグ付けされたKRAS G12Vを過剰発現するHeLa細胞系およびFITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-inを作成した。これらのHeLa細胞の処理は、FITC標識されたバージョンの全ての生物学的に活性なRAS標的化pept-inが細胞によって容易に取り込まれ、その一方、FITC標識されたバージョンの陰性対照pept-in 04-016-N001の取込みは検出不可能であったことを示し、したがって、生物活性の欠如を説明している。さらに、この分析は、FITC標識されたpept-inでの処理の75分後に、FITCおよびmCherryの両方が陽性である封入様核周囲構造の出現によって明らかにされた通り、細胞内に侵入した直後に、FITC標識されたバージョンのRAS標的化pept-in 04-015-N001(04-015-N032)が、mCherry標識されたKRASと結び付くことを示した(
図7)。
【0207】
実施例6:RAS標的化pept-inは、細胞におけるその凝集および分解を促進する
RAS標的化pept-inでの腫瘍細胞の処理が、細胞死を誘導する前にタンパク質凝集を誘導するかどうかを評価するために、細胞死をタンパク質凝集と並行してモニタリングするためのフローサイトメトリーアッセイを考案した。この目的のために、NCI-H441細胞を、ほぼIC
50用量のRAS標的化pept-in(12.5μM)または対照条件(媒体および陰性対照pept-in)で6、16、または24時間処理した。処理後、細胞を回収し、Sytox(商標)Blue色素を使用して細胞死について、およびAmytracker(商標)Red色素を使用して(アミロイド様)タンパク質凝集体の存在について染色した。この分析は、媒体および対照pept-inで処理された細胞では、実験の過程で、顕著な細胞死もタンパク質凝集も見られなかったことを示した。しかし、RAS標的化pept-inで処理すると、タンパク質凝集は容易に検出され、経時的に進行することが分かった。さらに、タンパク質凝集のこの増大は、細胞死の緩やかな増大と並行し、タンパク質凝集の発生に次いで生じるものであると考えられた(
図11)。
【0208】
上記のフローサイトメトリーアッセイでは、観察されたタンパク質凝集が影響力のあるKRASであったかどうかについての粒状性が得られないため、本発明者らは、溶解性分画アッセイにおいてKRAS凝集を評価することを目指した。この目的のために、NCI-H441細胞を、およそのIC50用量(12.5μM)およびおよその2×IC50用量(25μM)で24時間処理した。処理の後、穏やかな非変性緩衝剤を使用して細胞を溶解し、この緩衝剤に不溶性であったタンパク質を遠心分離によってペレット化した。不溶性タンパク質を次に、強力なカオトロピック剤、すなわち6Mの尿素を使用して可溶化した。このアプローチを使用すると、アミロイド(様)凝集体は最終的に不溶性画分となることが予想される。可溶性画分および不溶性画分の両方を、SDS PAGEを使用して分離し、その後のウェスタンブロットにおいて、KRASおよびGAPDHについて調べた。この分析は、全ての生物学的に活性なRAS標的化ペプチドが、不溶性画分中のKRASのパーセンテージを用量依存的に増大させ、一方、不溶性KRASのパーセンテージは媒体および陰性対照ペプチドで処理した試料の間で同等であったことを示し、このことは、pept-in処理が実際に、KRAS標的タンパク質の凝集をもたらすことを示している。これらの所見を補うために、本発明者らはまた、これらの試料における総KRASレベル(すなわち、各処理での可溶性画分および不溶性画分におけるKRASレベルの合計)を定量した。これらのデータの分析は、総KRASレベルもまた、生物学的に活性なRAS標的化pept-inで処理した試料において用量依存的に低減することを示した(
図8)。
【0209】
総合すると、これらのデータは、pept-inで処理した際の不溶性KRASタンパク質の増大によって証明されるように、細胞においても、生物学的に活性なRAS標的化pept-inがそれらの目的の標的タンパク質であるKRASと相互作用し、その凝集を誘導し得ることを示している。さらに、具体的なメカニズムに限定する意図は全くないが、おそらく、凝集の次に生じる結果として、総KRASレベルもまた、活性なpept-inでの処理の後に低減する。
【0210】
実施例7:RAS標的化pept-inは、KRAS G12V変異型がんの異種移植モデルにおける腫瘍成長を低減させる
RAS標的化pept-inが、in vivoで、KRAS G12Vによって促進される腫瘍の成長を弱め得るかどうかを評価するために、ヒトKRAS G12V結腸直腸がんの皮下異種移植モデル(SW620)を使用した。腫瘍が100~150mm
3のサイズに達したら、pept-inを、2つの異なる用量(20μgおよび200μg)で2週間、週に3回、腫瘍内注射することによって腫瘍塊に直接投与した。G12V選択的なRAS APRウィンドウ配列を有するpept-in(04-006-N001、04-015-N001、および04-033-N001)のセットのうち、04-015-N001が腫瘍成長の最も強い低減を誘導し、このことは、処理開始後22日目の、20μgおよび200μgの投与群の両方での平均腫瘍体積の著しい低減によって証明された。さらに、腫瘍成長の類似の低減が、野生型RAS APRウィンドウ配列を有する04-004-N001で見られたが、200μgの投与群でのみ有意であった(
図12)。
【配列表】
【国際調査報告】