(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】変性アルキルスルホン酸およびその使用
(51)【国際特許分類】
D21C 3/04 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
D21C3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550717
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 CA2021000018
(87)【国際公開番号】W WO2021168538
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522328079
【氏名又は名称】シックスリング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーディー、クレイ
(72)【発明者】
【氏名】ワイゼンバーガー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ウィンニック、カイル、ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン、カール、ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AB07
4L055AB12
4L055AB14
4L055EA32
(57)【要約】
植物材料の脱リグニン方法であって、前記方法は、セルロース繊維およびリグニンを含む前記植物材料を提供することと、アルキルスルホン酸および過酸化物を含む組成物に必要な前記植物材料を曝露することとを含み、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が1:1から15:1の範囲のモル比で存在し、曝露の時間が前記植物材料上に存在するリグニンを実質的に全て除去するのに十分である、前記方法。脱リグニン化を達成することができる組成物も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、前記酸は、組成物の総重量の20~65wt%の範囲の量で存在し、前記過酸化物は、組成物の総重量の1~30wt%の範囲の量で存在する、前記の組成物。
【請求項2】
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、前記アルキルスルホン酸および前記過酸化物が、1:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項3】
アミン部分を含む化合物をさらに含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルキルスルホン酸が、アルキル基がC1-C6の範囲にあり、直鎖状又は分枝状であるアルキルスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選択される請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルキルスルホン酸が、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;イソペンチルスルホン酸;tペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;tブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選ばれる請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
スルホン酸部分を含む前記化合物がメタンスルホン酸である請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、バイオマス/木材の脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
ここで、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【請求項8】
過酸化物が過酸化水素である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
バイオマス/植物材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記植物材料を提供すること;
- 必要とする前記植物材料を、
アルキルスルホン酸;および
過酸化物;を含む組成物に、暴露すること;
を含み、
ここで、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在し、曝露の時間が、前記植物材料上に存在するリグニンの実質的に全てを除去するのに十分である、前記方法。
【請求項10】
組成物が、アミン部分を含む化合物をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アミン部分を含む化合物が300g/mol未満の分子量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アミン部分を含む化合物が一級アミンである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
アミン部分を含む化合物がアルカノールアミンである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
アミン部分を含む化合物が3級アミンである、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカノールアミンが、モノエタノールアミン;ジエタノールアミン;トリエタノールアミン;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記アルカノールアミンがトリエタノールアミンである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
植物バイオマスの脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、前記組成物。
【請求項18】
植物バイオマス源からのセルロースの分解に使用するための水性組成物であって、
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、前記組成物。
【請求項19】
植物バイオマス源からのヘミセルロースの分解に使用するための水性組成物であって、
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含み、
前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在し、曝露の時間が、前記植物材料上に存在するリグニンの実質的に全てを除去するのに十分である、前記組成物。
【請求項20】
過酸化物が過酸化水素である、請求項15~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
植物バイオマスまたはバイオマス材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記バイオマス材料を提供すること;
- 必要とする前記バイオマス材料を、
アルキルスルホン酸;および
過酸化物;を含む組成物に、暴露すること;
を含み、
ここで、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在し、曝露の時間が、前記植物材料上に存在するリグニンの実質的に全てを除去するのに十分である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、広い例では、木材物質の脱リグニンのような酸化によるバイオマスなどの有機物の分解に有用な方法および組成物に関するものであり、より具体的には、クラフトプロセスが行われている条件よりもマイルドな条件でこれを行うための方法および組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
紙の生産で最もエネルギーを消費するのは、パルプの生産である。パルプの原料となる木材やその他の植物には、水だけでなく、セルロース繊維、リグニン、ヘミセルロースの3つの主成分が含まれている。パルプ化には、繊維とリグニンを分離することが第一の目的である。リグニンは3次元のポリマーで、いわば植物内にあるすべての繊維をつなぎとめるモルタルのようなものである。リグニンがパルプに含まれることは好ましくなく、最終製品に何のプラスにもならない。木材のパルプ化とは、チップ、茎、その他の植物の部分など、繊維原料のバルク構造を分解し、構成繊維にすることである。セルロース繊維は、製紙工程で最も必要とされる成分である。ヘミセルロースは、様々な糖質モノマーがランダムに非晶質重合体構造を形成した、より分岐の短い炭水化物ポリマーである。完成パルプ中のヘミセルロースの存在は、セルロースほど紙の剛性に重要ではない。このことは、バイオマス変換にも当てはまる。課題は似ている。ただ、求められる結果が異なるだけである。バイオマス変換では、一価炭水化物へのさらなる分解が望ましい結果となるが、パルプ&ペーパープロセスでは通常、リグニン溶解後すぐに停止する。
【0003】
木材パルプや木質バイオマスの調製には、主に機械的処理と化学的処理の2つのアプローチがある。機械的処理またはパルプ化は、一般的に木材チップを物理的に引き裂き、その結果、セルロース繊維を引き裂き、互いに分離することを目的としている。この方法の欠点は、セルロース繊維が切れたり傷ついたりして繊維が短くなること、セルロース繊維にリグニンが混入したり残留したりして、最終製品に不純物が混入したり残留したりすることである。また、このプロセスは、高圧、腐食性の化学物質、熱を必要とするため、大量のエネルギーを消費し、資本集約的である。化学パルプ化には、いくつかのアプローチやプロセスがある。これらは一般に、リグニンとヘミセルロースを水溶性の分子に分解することに重点を置いている。これらの分解された成分は、セルロース繊維を傷つけることなく、洗浄することによってセルロース繊維から分離される。この化学プロセスは、大量の熱を必要とするため、エネルギー集約型であり、また多くの場合、攪拌や機械的な介入を必要とし、プロセスの非効率性とコストを増大させる。
【0004】
パルプ化には、パルプ化の化学的側面とパルプ化の機械的側面を様々な程度に組み合わせた方法が存在する。例えば、サーモメカニカルパルプ化(一般にTMPと呼ばれる)、ケミザーモメカニカルパルプ化(CTMP)などがある。それぞれの一般的なパルプ化法が提供する利点の選択を通じて、パルプ化処理の機械的側面で必要とされるエネルギー量を削減するように処理設計されている。これは、これらの複合パルプ化アプローチに供される繊維の強度低下に直接影響することもある。一般に、これらのアプローチでは、(従来の化学パルプ化と比較して)化学処理を短縮し、その後、繊維を分離するために機械的処理を行いる。
【0005】
製紙用パルプの最も一般的な製造方法は、クラフト法である。クラフト法では、木材チップをほぼ純粋なセルロース繊維である木材パルプに変換する。多段階のクラフト工程は、まず木材チップに薬液を含浸させるところから始まる。これは、木材チップを湿らせ、蒸気で予熱することによって行われる。このとき、木材チップは膨張し、中に含まれていた空気が排出され、液体と入れ替わる。そして、チップを黒液と白液で飽和させる。黒液は、クラフト工程で発生したもの。水、リグニン残渣、ヘミセルロース、無機化学物質を含んでいる。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを含む強アルカリ性の水溶液である。木材チップはそれぞれの溶液に浸された後、調理される。木質チップを脱リグニン化するために、176℃までの温度で数時間煮沸する。この温度でリグニンが分解され、水溶性の断片が生成される。調理後、残ったセルロース繊維は回収・洗浄される。
【0006】
カロ酸は、ペルオキシモノ硫酸(H2SO5)としても知られ、既知の最強の酸化剤の1つである。カロ酸を調製するための反応はいくつか知られているが、最も簡単な方法の1つは、硫酸(H2SO4)と過酸化水素(H2O2)を反応させるものである。この方法でカロ酸を調製すると、さらに反応させて貴重な漂白剤、酸化剤である一過硫酸カリウム(PMPS)を生産することができる。カロ酸にはいくつかの有用な用途が知られているが、注目すべきは木材の脱リグニン(脱木)用途である。
【0007】
米国特許番号5,080,756は、改良されたクラフトパルプ化プロセスを教示し、有機物を含む使用済み濃硫酸組成物をクラフト回収システムに添加して、回収炉で脱水、熱分解および還元に供されるその全硫黄含有量に富む混合物を提供することを特徴としている。硫酸組成物の有機物は、炉内で起こる酸化および還元反応を促進するために高い熱レベルを容易に維持できる熱エネルギー源として特に有益であり、その結果、パルプ化に適した煮汁の調製に用いられる硫化物が形成される。
【0008】
Rackemannらは、“The effect of pretreatment on Methanesulfonic acid-catalyzed hydrolysis of bagasse to levulinic acid, formic acid and furfural” (2018)において、アルカリ溶液で前処理したバガスにメタンスルホン酸を使用することを開示している。
【0009】
米国特許出願番号2016/0074549は、低発泡用途のための活性化過酸化水素消毒組成物を開示する。過酸化水素源、非界面活性有機スルホン酸またはその塩、非イオン性界面活性剤、および任意の有機酸を含む、エンドユーザーによる希釈のための濃縮液が提供される。また、過酸化水素、非界面活性有機スルホン酸またはその塩、非イオン性界面活性剤、溶媒としての水および任意の有機酸の殺生物量を含む、すぐに使用できる過酸化水素消毒剤溶液も提供される。エンドユーザーは、表面に存在する微生物の大部分を死滅させるのに有効な時間、表面を殺菌組成物と接触させることによって、微生物の表面を殺菌することができる。
【0010】
バイオ燃料の製造も、クラフトプロセスの潜在的な用途のひとつである。バイオ燃料生産の現在の欠点は、炭水化物を合理的に効率的なプロセスで燃料に変換するために、食品等級の植物部分(種子など)を使用する必要があることである。炭水化物は、非食品グレードのバイオマスをクラフト工程で使用することにより、セルロース系繊維から得ることもできるが、クラフト工程は脱リグニンのためにエネルギーを消費するため、商業的にはあまり実行可能な選択肢ではない。植物由来の化学資源サイクルを構築するためには、人間の食料生産と競合しない植物由来の原料を利用できる、エネルギー効率の高いプロセスが非常に必要である。
【0011】
クラフトパルプ製造プロセスは、世界で最も広く使用されている化学パルプ製造プロセスであるが、非常にエネルギーを必要とし、また、例えば、パルプ製造工場周辺から発生する悪臭や、多くの紙パルプ製造管轄地域で現在強く規制されている一般的な排気ガスなどの欠点もある。現在の環境問題、経済問題、気候の変化、および排出権料の導入を考慮すると、現在のパルプ化プロセスを最適化することが非常に望まれる。その製造中に環境に現在の実質的な害を与えることなく、少なくとも線形品質の繊維を提供するためである。したがって、現在使用されているものよりも低い温度と圧力で、追加の設備投資を必要とせずに木材物質の脱リグニンを行うことができる組成物の必要性が依然として存在する。
【0012】
現在の環境問題や人為的な汚染による気候の変化に鑑み、穏やかな酸化による有機物分解を行えるようにすることが望まれる。これにより、パルプ化技術が更新され、その製造中に環境に実質的な害を与えることなく、良質の繊維を提供することができるようになる。したがって、適度な温度と圧力下で木材物質に対して脱リグニンを行うことができる組成物に対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
本発明の一態様によれば、下記の水性酸性組成物が提供される:
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む水性組成物であって、
ここで、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【0014】
本発明者らは、木材材料(チップまたはおがくずなどであるが、これに限定されない)のような有機材料の脱リグニンは、従来のクラフトパルプ化の間に使用される温度よりも実質的に低い温度で起こり得ることを発見した。実際、本発明による好ましい組成物を用いて室温で行われた実験では、木材チップに存在するリグニンを分解して高品質のセルロース繊維を得ることが示された。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、木材サンプルは、本発明の好ましい実施形態による組成物への曝露時に、30℃で処理された。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物を含む方法を適用することによって、パルプ脱リグニンに関わるエネルギーコストを実質的に削減することができる。
【0015】
これらの教示は、パルプ化プロセスにおけるエネルギー要件、したがって資本コストを低減することにより、従来のパルプ化プロセスにおいて必要な熱を生成するために燃焼する化石燃料または有機物の量を少なくして、パルプ化プロセスをより環境汚染しないものにするであろう。また、芳香族モノマーなど、クラフト工程で通常分解または破壊されるバイオマスの貴重な成分の多くを保持することができる。本明細書に開示された技術は、環境面だけでなく、多くの工業的化学プロセスにおいてビルディングブロックまたは出発物質として使用される化学化合物を生成する方法としても、実質的な進歩を意味するものである。
【0016】
本発明の一態様によれば、下記の水性酸性組成物が提供される:
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、前記酸は、組成物の総重量の20~65wt%の範囲の量で存在し、前記過酸化物は、組成物の総重量の1~30wt%の範囲の量で存在する、前記の組成物。
【0017】
本発明の別の態様によれば、下記の水性酸性組成物が提供される:
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、水性酸性組成物であって、
ここで、前記アルキルスルホン酸および前記過酸化物が、1:1以上のモル比で存在する、前記の組成物。
【0018】
好ましくは、組成物は、アミン部分を含む化合物をさらに含む。
【0019】
好ましくは、前記アルキルスルホン酸は、以下から成る群から選択される:アルキル基がC1~C6の範囲であり、直鎖状または分枝状であるアルキルスルホン酸;およびそれらの組み合わせ。好ましくは、前記アルキルスルホン酸は、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;iso-ペンチルスルホン酸;t-ペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;t-ブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。より好ましくは、前記アルキルスルホン酸は、メタンスルホン酸である。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、下記の水性組成物が提供される:
アルキルスルホン酸;および
過酸化物、
を含む、バイオマス/木材の脱リグニンにおいて使用するための水性組成物であって、
ここで、前記アルキルスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在する、前記の組成物。
【0021】
好ましくは、過酸化物は過酸化水素である。
【0022】
本発明の別の態様によれば、下記の方法が提供される:
バイオマス/植物材料の脱リグニンの方法であって、
- セルロース繊維とリグニンとを含む前記植物材料を提供すること;
- 必要とする前記植物材料を、
アルカンスルホン酸;および
過酸化物;を含む組成物に、暴露すること;
を含み、
ここで、前記アルカンスルホン酸および過酸化物が、1:1~15:1の範囲のモル比で存在し、曝露の時間が、前記植物材料上に存在するリグニンの実質的に全てを除去するのに十分である、前記方法。
好ましくは、本組成物は、アミン部分を含む化合物をさらに含む。好ましくは、アミン部分を含む化合物は、300g/mol未満の分子量を有する。また、好ましくは、アミン部分を含む化合物は、第1級アミンである。より好ましくは、アミン部分を含む化合物は、アルカノールアミンである。また、好ましくは、アミン部分を含む化合物は、3級アミンである。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルカノールアミンは、モノエタノールアミン;ジエタノールアミン;トリエタノールアミン;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、アルカノールアミンは、トリエタノールアミンである。
【0024】
本発明者らは、木材材料(例えば、木材チップまたは他の一般的なバイオマスに限定されない)の脱リグニンは、従来のクラフトパルプ化中に使用される温度よりも実質的に低い温度で起こり得ることを発見した。実際、いくつかの実験は、好ましい組成物を用いて18~21℃の範囲の平均室温で行われ、本発明によれば、木材チップ上に存在するリグニンを分解して、セルロース繊維を非常に効率的に遊離させることが示された。本発明による方法の別の好ましい実施形態によれば、木材サンプルは、本発明の好ましい実施形態による組成物への曝露時に30℃で溶解された。本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物を含む方法を適用することによって、パルプ脱リグニンにおいて現在排出されているエネルギーコスト、関与する資本コスト、および関連する排出物を大幅に低減させることができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の好ましい組成物の時間と温度とモル比に依存する多段階プロセスが提供され、ここで溶解の別々の段階は、下記を達成する:
1.脱リグニン;
2.ヘミセルロースの溶解;および
3.結晶性セルロースの溶解。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図面の簡単な記述
本発明は、添付図と関連した本発明の様々な実施形態の以下の説明を考慮すると、より完全に理解され得る。
【
図1-4】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る組成物中の木材チップのt=1分における写真である。
図2は、本発明の好ましい実施形態による組成物中の木材チップの、t=60分における写真である。
図3は、本発明の好ましい実施形態による組成物中の木材チップのt=1日目の写真であり;そして
図4は、本発明の好ましい実施形態による組成物中の木材チップのt=8日目における写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書に記載された例示的な実施形態を完全に理解するために、多数の特定の詳細が提供されたことが理解されよう。しかしながら、本明細書に記載される実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることが、当業者には理解されよう。他の例では、周知の方法、手順、及び構成要素は、本明細書に記載される実施形態を不明瞭にしないように、詳細には記載されていない。さらに、この説明は、本明細書に記載された実施形態の範囲を何らかの形で制限し得るように考慮されるべきではなく、むしろ本明細書に記載された様々な実施形態の実装を単に説明するものとして考慮されるべきである。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルキルスルホン酸成分及び過酸化物成分を含む酸性組成物が提供される。この組成物を木片のようなバイオマスと接触させると、木片を脱リグニンし、セルロースおよびヘミセルロースをそのまま残すことができる。このような処理は、有機物からパルプを調製する際に有利に働きます。リグニンをセルロース系とヘミセルロース系から分離することで、リグニンモノマーなどの回収が容易になる。リグニンモノマーとは、酸による加水分解を受ける前のリグニン構造を構成していた化学物質のことである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、有機材料を処理してパルプ及び/又はセルロース系材料を得る方法が提供され、前記方法は、以下のステップを含む:
- セルロースとリグニンを含む有機材料を提供すること;
- アルキルスルホン酸成分及び過酸化物成分を含む酸性組成物を提供すること;
- 前記有機材料から実質的に全てのリグニンを除去するのに十分な時間、前記有機材料を前記組成物と接触させること;および
- 場合により、リグニンをセルロースから分離すること。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、残りのセルロース材料をさらに処理して、最終的にグルコースモノマーを得ることができる。好ましくは、この処理工程は、硫酸または硫酸成分を含む変性酸を用いて行われる。
【0031】
好ましくは、脱リグニン化有機物の処理は、ヘミセルロースをセルロースから分離し、その後、残りのセルロースから除去する中間工程を含む。ここで分離されたヘミセルロースは、将来の使用のために様々な化学化合物を得るためにさらに処理されることができる。残りのセルロースは、酸加水分解によってさらに分解され、グルコースモノマーを得ることができる。得られたグルコースは、様々な工業用化学プロセスの出発ブロックとして使用することができる。
【0032】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、本方法はかなり選択的であるため、回収されたリグニンは、ヘミセルロースおよび/またはセルロースからさらに分離するための実質的な処理を必要としない。好ましくは、その適切な制御の下で本方法を実施することにより、他の分野への応用の前に、リグニンのさらなる処理が非常に容易になる。リグニンは、石油・ガス井の掘削用添加剤、農薬、特殊ポリマー、そして最も一般的な燃料源として、多くの分野で利用されている。リグニンやその誘導体は、様々な産業で数十億ドル規模の市場となっており、サプライチェーンを改善し、将来の使用に必要な処理量を減らすことができれば、非常に有利になる。
【0033】
本発明の好ましい実施形態による水性酸性組成物を用いて行われた実験は、制御された反応条件下で木材チップを脱リグニンし、セルロースの劣化を排除するかまたは少なくとも実質的に最小化できることを示した。劣化とは、セルロースの黒化又は炭化(カーボンブラックへの変換)を意味すると理解され、これは、セルロースへの制御されない酸攻撃及びその汚れの象徴である。
【0034】
実験その1
本発明による組成物の好ましい実施形態は、木材チップを脱リグニンするその力を決定するために試験された。
【0035】
実験は、約0.2gの木材と約20gの溶液を用いて完了した。混合物は、温度30℃、200rpmで1時間撹拌した(
図1及び
図2)。
図3および
図4は、溶液中の木材チップを経時的に示したものである。試験した溶液は、メタンスルホン酸と過酸化水素を5.6対1の濃度で混合したもので、得られた組成物の滴定は過マンガン酸を用いて行い、その結果を以下の表1に示す。
【0036】
【0037】
記録されたpH値は、周囲条件(pH<0)で-0.45であった。MSAと過酸化物のモル比は5.6:1であった。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、メタンスルホン酸は、本発明の組成物の体積および重量パーセントの点で、主成分である。本発明の好ましい実施形態によれば、組成物のpHは1未満であり、本発明の別の好ましい実施形態によれば、組成物のpHは0.5未満である。
【0039】
図3および
図4は、アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸)および過酸化水素の存在下、約22℃の温度で最大8日間にわたる木材チップの脱リグニンの様子を示している。注目すべきは、実験終了時(8日目)にカーボンブラックの痕跡がないことである。これは、セルロース系材料がその最も基本的な構成要素まで分解されていないことを示すものである。
【0040】
上記の実験は、本発明による組成物が、植物材料を脱リグニンするための適切な溶解酸を提供するだけでなく、セルロース系材料のカーボンブラック残留物への分解を制限する上で価値があり、その結果、プラントオペレータにとってより高い収率と収益性が得られる一方、従業員、契約者及び公衆に対する排出及びリスクを低減することを明確に示すものであった。
【0041】
木材パルプからグルコースを得る方法は、そのような変換が化学的、エネルギー的、および排出を集約し、コストがかかり、特に大規模な操作において高効率の結果をもたらさない一方で危険である、現在のプロセスの重要な進歩を意味するものである。木材を脱リグニンすることができるが、効率と収率を向上させ、安全性を高め、全体のコストを削減するために、カーボンブラックに分解するのではなく、セルロースを保存するためにオペレータがある程度制御できる組成物を採用することが望ましい。
【0042】
好ましくは、アルキルスルホン酸化合物と過酸化水素は、1:1~15:1のモル比の範囲の量で存在する。好ましくは、組成物の得られるpHは1未満であり、より好ましくは、組成物の得られるpHは0.5未満である。
【0043】
本発明の好ましい実施形態によれば、スルホン酸部分を含む化合物は、アルキル基がC1~C6の範囲にあり、直鎖状または分枝状であるアルキルスルホン酸;およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸;エタンスルホン酸;プロパンスルホン酸;2-プロパンスルホン酸;イソブチルスルホン酸;t-ブチルスルホン酸;ブタンスルホン酸;iso-ペンチルスルホン酸;t-ペンチルスルホン酸;ペンタンスルホン酸;t-ブチルヘキサンスルホン酸;及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。より好ましくは、スルホン酸部分を含む前記化合物は、メタンスルホン酸である。
【0044】
当業者によって理解されるように、アルキルスルホン酸は、アルキルが飽和または不飽和、環状、直鎖または分岐および/または置換または非置換である、アルキルスルホン酸化合物を包含するものと理解される。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によれば、高濃度のアルキルスルホン酸と過酸化物の組み合わせにより、有機材料の制御された脱リグニンを提供し、セルロース系繊維を比較的影響を受けないままにすることができる変性酸組成物を得ることができる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態による組成物を使用して木材の脱リグニンを行う場合、プロセスは、従来のクラフトパルプ化プロセスで現在使用されている温度および圧力よりも大幅に低い温度および圧力で実施することが可能である。利点は相当なものであり、ここにそのいくつかを挙げる:クラフトパルプ化プロセスは、脱リグニン工程を行うために176~180℃付近の温度を必要とするが、本発明によるプロセスの好ましい実施形態は、25℃という低い温度で木材を脱リグニンすることができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、10℃という低い温度で行うことができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、0℃という低い温度で実施することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、20℃という低い温度で実施することができる。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、30℃と低い温度で実施することができる。本発明の別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、40℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、50℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、60℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、80℃のような低い温度で行うことができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、90℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、100℃と低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、120℃という低い温度で実施することができる。本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、130℃という低い温度で実施することができる。
【0047】
上記の好ましい実施形態の各1つにおいて、工程が実施される温度は、現在のエネルギー集約的で比較的に非効率なクラフト工程よりも実質的に低い温度である。
【0048】
さらに、クラフトプロセスでは、木材の脱リグニンを行うために高い圧力が必要である。本発明の好ましい実施形態によれば、木材の脱リグニンは、大気圧で実行することができる。このことは、ひいては、高度に専門的で高価な産業機器の必要性を回避することになる。それはまた、紙パルプ設備の実施が様々な理由のために以前は実行不可能であった世界の多くの部分で脱リグニン装置の実施を可能にする。
【0049】
従来のクラフトプロセスに対する本発明の好ましい実施形態によるプロセスの利点のいくつかは、後者に投入される熱が大きな汚染源であるだけでなく、得られるパルプが非常に高価である理由の大部分であるため、実質的なものである。本発明の好ましい実施形態によるプロセスの実施によるエネルギーの節約だけでも、より低価格のパルプおよび環境上の利点に反映され、その両方が直ちに影響を与え、数世代にわたる商業的および環境上の利益をもたらすであろう。
【0050】
本発明の好ましい実施形態によるプロセスの実施による更なるコスト削減は、高温高圧パルプ調理器の操作に関する制限的な規制の不在または最小化において見出すことができる。
【0051】
木材パルプからグルコースを得る方法は、そのような変換は化学集約的でコストがかかり、特に大規模な操作では注目すべき結果をもたらさない現在のプロセスに対する重要な進歩を意味する。バイオマスを脱リグニンする組成を採用することが望ましいが、カーボンブラックに分解するのではなく、セルロースを保存するためにオペレーターがある程度対照できるようにすることも必要である。このような施設の運営者に、さらなる収入源を提供する。
【0052】
本発明の方法の好ましい実施形態によれば、リグニンの分離を効果的に行い、得られたセルロース繊維をさらに加工して、グルコースモノマーを得ることができる。グルコース化学は、ジアセトニド、ジチオアセタール、エタノール、グルコシド、グルカル、ヒドロキシグルカルなど、広く利用されている化学物質の調製における前駆体として、多数の用途を持っているが、これらに限定されるわけではない。
【0053】
現行のクラフトパルプ化と比較して、本発明による好ましい組成物を使用する別の利点は、有害なガスまたは蒸気が発生しないことである。クラフトパルプ化プロセスにおける蒸気の発生源は、主としてSO2の放出であると考えられている。本発明による好ましい組成物を用いた脱リグニンは、これまでのところ、そして利用可能な検出能力の範囲では、SO2の生成をもたらさなかった。
【0054】
メタンスルホン酸(MSA),トリエタノールアミン(TEOA)および過酸化水素をMSA,TEOAおよび過酸化水素濃度を変化させて配合し,常温常圧条件でバイオマス(木材チップ)と一晩反応させて,モル比の変化の効果を評価した。対照試験は,バイオマスに対してクラフトリグニンまたはセルロースのみを添加した各処方で実施した。市販のリグニン(Sigma-Aldrich; Lignin, kraft; Prod# 471003)を試験における対照として利用した。市販のセルロース(Sigma-Aldrich; Cellulose, fibers (medium); Prod# C6288)も、試験における対照として利用された。
【0055】
各ブレンドの固相を20時間の反応時間後に濾過し、水で洗浄した後、45℃のオーブンで乾燥重量が一定になるように乾燥させた。すべてのデータは、3回連続運転の平均値である。効果的な配合は、すべてのリグニンを溶解し、セルロースをできるだけ無傷で損傷させないようにすることである。実験結果は以下の表2に報告されている。
【0056】
【0057】
MSA:H
2
O
2
を1:1のモル比でブレンドしたバッチプロセス。
先に少量で実施した組成とプロセスを評価・検証するため,より大きなバッチプロセスを実施した。より大きなバッチプロセスの準備のために,548gのメタンスルホン酸(MSA)(70%)と453gの過酸化水素水(29%)を大きなビーカーに入れて常温で混合した(発熱反応が少ないため冷却の必要はない)。モル混合比は1:1であった。50gの大きさのない木屑(おがくず)を加え、混合物を周囲条件で攪拌した。20時間後、反応混合物を20μmのテフロン(登録商標)フィルターシートを備えたフィルターシステムに移し、残留する固形物を45℃で12時間乾燥させた。添加したバイオマスと比較した固形分収率は54.2%であった。
【0058】
得られたセルロースの炭化水素含有率は93.0%であり、比較として用いたSigma-Aldrich社のセルロースLot# WXBC9745V-95.7%標準に近い値であると判断した。水分量は3.38%であり、比較のために使用したSigma-Aldrich社のセルロースLot# WXBC9745V-3%標準と同等であると判定された。Kappa# = 11であり、脱リグニンは完全ではないが、段ボールや実用紙には十分であることを意味する。X線回折を行ったところ、見かけの結晶化度は58.2%であり、以前に試験した数値と一致しました。また、Aldrich社の市販セルロースは61.3%と測定された。走査型電子顕微鏡でサンプルを観察したところ、非常に高い繊維含有率を示していました。
【0059】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、本組成物は、水処理、浄水及び/又は脱塩に用いられるような酸化による有機物の分解に使用することができる。この例として、ろ過膜上の藻類の 除去(すなわち、破壊)が挙げられる。このような膜は高価であるため、できるだけ長く使用することが経済的に重要である。しかし、時間とともに蓄積される有機物を除去することは難しく、効率よく、かつ膜にできるだけダメージを与えないような新しいアプローチが必要である。鉱酸は強すぎるため、有機物を除去することはできるが、ろ過膜を損傷してしまう。本発明の好ましい組成物は、鉱酸よりも攻撃性が低いので、この問題を改善し、その結果、はるかに穏やかなアプローチで有機汚染物質を除去し、したがって、膜の損傷を最小限に抑えることができる。
【0060】
前述の発明は、明確さと理解のためにある程度詳細に説明されているが、関連する技術分野の当業者であれば、一旦この開示に精通すれば、添付の請求項に記載の発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更を行うことができることが理解されよう。
【国際調査報告】