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特表2023-516143半導体光デバイスにおけるオージェ再結合の低減
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】半導体光デバイスにおけるオージェ再結合の低減
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/34 20060101AFI20230411BHJP
【FI】
H01S5/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550729
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 GB2021050493
(87)【国際公開番号】W WO2021171031
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】2002785.0
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595042184
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サリー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アダムス、アルフレッド ロドニー
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AF04
5F173AF06
(57)【要約】
【課題】半導体光デバイスにおけるオージェ再結合を低減する。
【解決手段】
半導体光デバイス(40,50,60)は、デバイスに電圧が印加されると電子及び正孔がアクティブ領域内で再結合して光子を生成するように構成されるアクティブ領域を含む第1の領域42を備える。デバイスは、電子のみをトラップする、正孔のみをトラップする、又は異なる量の電子及び正孔をトラップするように構成される量子井戸構造を含む少なくとも1つの第2の領域(43,44,53,54,62,63)を備える。第2の領域は、デバイスに電圧が印加されると電荷不均衡が第1の領域内に発展し、それにより第1の領域内でのオージェ再結合を低減するように第1の領域に十分に近い第1の領域からある距離に配置される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体光デバイスであって、
前記半導体光デバイスに電圧が印加されると電子及び正孔がアクティブ領域内で再結合して光子を生成するように構成される前記アクティブ領域を含む第1の領域と、
電子のみをトラップする、正孔のみをトラップする、又は異なる量の電子及び正孔をトラップするように構成される量子井戸構造を含む少なくとも1つの第2の領域と、を備え、
前記第2の領域は、前記半導体光デバイスに電圧が印加されると電荷不均衡が前記第1の領域内に発展するように前記第1の領域に十分に近い前記第1の領域からある距離に配置され、それにより前記第1の領域内でのオージェ再結合を低減する、
半導体光デバイス。
【請求項2】
前記第2の領域は、電子のみをトラップする又は正孔のみをトラップするように構成されるタイプIIの量子井戸構造を含む、請求項1に記載の半導体光デバイス。
【請求項3】
前記第1の領域は、電子及び正孔の両方をトラップするように構成される量子井戸構造を含む、請求項1又は2に記載の半導体光デバイス。
【請求項4】
前記第1の領域は、タイプIの量子井戸構造を含む、請求項3に記載の半導体光デバイス。
【請求項5】
前記第2の領域は、前記第1の領域内の第1の電荷キャリア及び前記第2の領域内の第2電荷キャリアの間のオージェ再結合を防止又は制限するのに前記第1の領域から十分に遠い距離に配置される、請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項6】
前記第1の領域の材料特性は、第1のオージェ再結合過程及び第2のオージェ再結合過程が前記第1の領域内のオージェ再結合に寄与するように構成され、前記電荷不均衡は、前記第1の領域内の全体的なオージェ再結合が減少するように、前記第1のオージェ再結合過程のレートを増加させ、前記第2のオージェ再結合過程のレートを低減させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項7】
前記第1の領域の反対側に位置する少なくとも2つの第2の領域を備え、前記少なくとも2つの第2の領域のそれぞれは、前記半導体光デバイスに電圧が印加されると電荷不均衡が前記第1の領域内に発展するように前記第1の領域に十分に近い前記第1の領域からある距離に配置され、それにより前記第1の領域内でのオージェ再結合を低減する、請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項8】
前記第2の領域は、引張り歪み層を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項9】
前記第2の領域は、歪みのない層を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項10】
前記第1の領域は、圧縮歪み層を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項11】
前記第2の領域は、前記量子井戸構造によりトラップされる電荷キャリアの55%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、又は99%超が同じタイプであるように構成される量子井戸構造を含み、前記同じタイプの電荷キャリアは、電子又は正孔の一方である、請求項1から10のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項12】
前記第1の領域は、第1のバンドギャップを超えて再結合する電子及び正孔の割合が温度の増加とともに減少するように配置される前記第1のバンドギャップを有し、前記半導体光デバイスは、
1又は複数の追加のバンドギャップを有する追加の構造であり、前記第1のバンドギャップ及び前記1又は複数の追加のバンドギャップは、前記1又は複数の追加のバンドギャップを超えて再結合する電子及び正孔に対する前記第1のバンドギャップを超えて再結合する電子及び正孔の比が前記半導体光デバイスの温度の増加とともに増加するように配置される、前記追加の構造を備え、
前記半導体光デバイスが動作することが意図される温度の範囲にわたって、前記比の増大は、電子及び正孔が前記第1のバンドギャップを超えて再結合して光子を放出するレートの温度による変化を低減するように、前記割合の減少を補償する、
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項13】
半導体レーザ又は半導体光増幅器を備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項14】
前記第1の領域は、量子井戸を含み、前記半導体光デバイスは、量子井戸レーザを備える、請求項1から13のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項15】
前記第2の領域は、非アクティブ領域である、請求項1から14のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項16】
前記第1の領域は、前記半導体光デバイスの唯一のアクティブ領域である、請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体光デバイス。
【請求項17】
半導体光デバイスを製造する方法であって、
第1の領域及び少なくとも1つの第2の領域を成長させる段階を備え、
前記第1の領域は、前記半導体光デバイスに電圧が印加されると電子及び正孔がアクティブ領域内で再結合して光子を生成するように構成される前記アクティブ領域を含み、
前記少なくとも1つの第2の領域は、電子のみをトラップする、正孔のみをトラップする、又は異なる量の電子及び正孔をトラップするように構成される量子井戸構造を含み、前記少なくとも1つの第2の領域のそれぞれは、前記半導体光デバイスに電圧が印加されると電荷不均衡を前記第1の領域内に発展させるように十分に近い前記第1の領域からある距離に配置され、それにより前記第1の領域内でのオージェ再結合を低減する、方法。
【請求項18】
引張り歪み下又は実質的に歪みのない条件下で前記量子井戸構造を成長する段階を備える、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の領域を圧縮歪み下で成長する段階を備える、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の領域は、非アクティブ領域である、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、量子井戸レーザのような半導体光デバイスにおけるオージェ再結合を低減することに関する。
【背景技術】
【0002】
多くのアプリケーションにおいて、半導体レーザの温度は、出力パワーを安定化するために、冷却ユニットを使用して慎重に制御されなければならない。そのような冷却ユニットは、例えばレーザそのものよりより著しく大量の電力を使用し得る。加えて、圧電クーラのような冷却ユニットは、時間の経過とともに故障する半導体の第1のコンポーネントであり、レーザシステムの耐用期間を効果的に制限し得る。
【0003】
本出願人からの米国特許第8,937,978号明細書は、第1及び第2材料の交互層を備えるアクティブ層を有する半導体レーザを記述する。n側バリア層及びp側バリア層は、それぞれ、第1の材料及び第3の材料の交互層を備える。材料は、第2及び第3材料の層が第1の材料の層間の量子井戸を形成するように選択される。第2の材料のバンドギャップEgは、電子及び正孔のある割合がバンドギャップEgを超えて再結合してレーザ発振波長で光子を放出するように配置され、その割合は光キャビティの温度の増加とともに減少する。第3の材料のバンドギャップEcは、第3の材料のバンドギャップEcを超えて再結合する電子及び正孔に対する第2の材料のバンドギャップEgを超えて再結合する電子及び正孔の比が光キャビティの温度の増加とともに増加するように配置される。半導体レーザが動作を意図する温度の範囲にわたって、電子及び正孔が第2の材料のバンドギャップEgを超えて再結合してレーザ発振波長で光子を放出するレートにおける光キャビティの温度による変化を低減するように、比の増大が割合の減少を補償する。
【0004】
このように、米国特許第8,937,978号明細書のレーザの出力パワーは、従来の半導体レーザと比較して温度変動に敏感でないが、これはレーザ発振閾値の増大という犠牲を伴う。低閾値で温度非敏感半導体レーザの発展は、何年もの研究及び発展を拒んだ。
【発明の概要】
【0005】
オージェ再結合は、半導体レーザ及びその他の半導体光デバイスの性能に有害な基本的な物理プロセスである。より詳細には、オージェ再結合は、半導体レーザの効率を低減し、その閾値電流を増加する無輻射プロセスである。本明細書に説明される様々な実施形態は、半導体光デバイスにおけるオージェ再結合を低減する。
【0006】
1つの例示的な実装では、半導体光デバイスは、デバイスを超えて電圧が印加されると電子及び正孔がアクティブ領域内で再結合して光子を生成するように構成されるアクティブ領域を含む第1の領域を備える。デバイスは、さらに、電子又は正孔のいずれかを優先的にトラップするように構成される量子井戸構造を含む少なくとも1つの第2の領域を備える。量子井戸構造は、電子のみをトラップする、正孔のみをトラップする、又は異なる数の電子及び正孔をトラップするように構成されてよい。
【0007】
従って、第2の領域内の量子井戸構造は、電子及び/又は正孔の形態で電荷キャリアをトラップするよう設計されてよく、量子井戸構造によりトラップされる電荷キャリアの50%超は同じタイプ、すなわち電子又は正孔の一方であってよい。代替的に、様々な実施形態では、量子井戸構造によりトラップされる電荷キャリアの55%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、又は99%超が同じタイプ、すなわち電子又は正孔の一方であってよい。
【0008】
幾つかの例では、第2の領域内の量子井戸構造は、電子ではなく正孔の量子井戸を提供するタイプIIの量子井戸構造を備える。他の例では、第2の領域内の量子井戸構造は、正孔ではなく電子の量子井戸を提供するタイプIIの量子井戸構造を備える。
【0009】
第2の領域は、アクティブ領域内の電荷バランスを変更するようアクティブ領域の十分に近くに、しかし、その電荷と再結合しないようアクティブ領域から十分に離れて位置する。
【0010】
第2の領域が第1の領域の十分に近くに位置するとすると、電圧がデバイスに印加されると電荷不均衡が第1の領域内で発展する。電荷不均衡が、第1の領域内のオージェ再結合を低減する。
【0011】
本開示を認識する当業者は、デバイスのアクティブ領域は、光子が生成される領域であることを理解するであろう。第2の領域では、キャリアは蓄積されるが、いかなる再結合過程にも関与せず、従って光子の放出においてアクティブでない。従って、第2の領域又は各第2の領域は、非アクティブ領域と呼ばれてよい。幾つかの実施形態において、第1の領域は、デバイスの唯一のアクティブ領域であってよい。
【0012】
様々な実施形態において、第2の領域は引張り歪み下又は実質的に歪みのない条件下で成長する。第1の領域は、圧縮歪み下で成長してよい。
【0013】
幾つかの実施形態において、2又はそれより多くの第2の領域が、例えば第1の領域の反対側に提供されてよい。各第2の領域は、第1の領域内で発展する電荷不均衡に寄与してよい。
【0014】
デバイスは、半導体レーザ又は増幅器を備えてよい。例えば、デバイスは量子井戸レーザを備えてよい。
【0015】
用語「光学デバイス」において本明細書で使用されるような用語「光学」は、デバイスが電磁スペクトルの可視部分内の光を生成することを必須とすることを意味するものと理解されるべきでない。当業者は、本明細書に説明される光学デバイスは、可視範囲内又は外、例えば、2μmを超える波長を含む赤外、又は紫外、又は電磁スペクトル内の他の波長の輻射を生成してよいことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本開示がより十分に理解されてよいように、その様々な実施形態が添付の図面を参照してここで説明される。
図1】第1のオージェ再結合過程(CHCC過程)のエネルギ運動量ダイアグラムを示す。
図2】第2のオージェ再結合過程(CHSH過程)のエネルギ運動量ダイアグラムを示す。
図3】既知の量子井戸レーザの一般的な概略図である。
図3a図3の量子井戸レーザの伝導及び価電子帯のバンドギャップダイアグラムを示す。ダイアグラムは、伝導帯内の電子に対する最小許容エネルギ及び価電子帯内の正孔に対する最大許容エネルギを構造を通る位置の関数として示す。
図4】第1の実施形態による量子井戸レーザを概略的に示す。
図4a図4の量子井戸レーザの伝導及び価電子帯に対するバンドギャップダイアグラムを示す。
図5】第2の実施形態による量子井戸レーザを概略的に示す。
図5a図5の量子井戸レーザの伝導及び価電子帯に対するバンドギャップダイアグラムを示す。
図6】第3の実施形態による量子井戸レーザを概略的に示す。
図7】近赤外波長で動作するように構成された量子井戸レーザに対するバンドギャップダイアグラム及び合金構造を示す。
図8】中赤外波長で動作するように構成された量子井戸レーザに対するバンドギャップダイアグラム及び合金構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、電子10及び正孔12がそれらのエネルギを別の電子14に移行することにより無輻射で再結合するオージェ再結合過程(CHCC過程)を示す。2つの電子が関わるから、この過程が起こる確率はnpに比例する。ここで、nは電子密度、pは正孔密度である。
【0018】
図2は、電子20及び正孔22がそれらのエネルギを別の正孔24に移行することにより無輻射で再結合する別のタイプのオージェ再結合過程(CHSH過程)を示す。2つの正孔が関わるから、この過程が起こる確率はpnに比例する。ここで、pは正孔密度、nは電子密度である。
【0019】
両CHCC及びCHSH過程の確率は、温度とともに増加する。しかしながら、特定の量子井戸レーザが設計されるレーザ発振波長に依存して、レーザの材料特性により、これらの過程の一方が他方よりも可能性が高くなり、支配的になってよい。例えば、短波長材料(すなわち、より短波長でレーザ発振するために設計された材料)の場合、CHSH過程が支配的になるように、バンドギャップはスピン軌道分裂エネルギより大きくてよい。しかしながら、長波長材料(すなわち、より長波長でレーザ発振するために設計された材料)の場合、CHSH過程の可能性が小さくなる又は不可能にさえなるほどにバンドギャップはより小さくてよく、この場合にCHCC過程が支配的になってよい。
【0020】
図3は、電圧がレーザの電極(不図示)に印加されると電子及び正孔が量子井戸構造内で再結合して光子を生成するように構成された量子井戸構造32を有する既知の量子井戸レーザ30の一般的な概略図である。量子井戸レーザは、比較的短い波長(例えば、1.55μm又は1.3μmのような近赤外波長)で動作するよう設計され、それにより、CHSH過程がCHCC過程より支配的になる。図3aは、量子井戸構造32の伝導及び価電子帯に対するバンドギャップダイアグラムを示す。電子の数(従って密度)nは正孔の数(従って密度)pに等しく、それにより、量子井戸構造32は電気的中性である。
【0021】
図4は、第1の実施形態による量子井戸レーザ40を概略的に示す。量子井戸レーザ40は、電子及び正孔が量子井戸構造42内で再結合して光子を生成するように構成された第1の量子井戸構造42の形態のアクティブ層を備える層構造41を含む。量子井戸構造42は、比較的短い波長(例えば、1.55μm又は1.3μmのような近赤外波長)で動作するよう設計され、それにより、CHSH過程がCHCC過程より支配的になる量子井戸構造32と同様である。
【0022】
量子井戸構造42は、電子及び正孔の両方をトラップするように構成される。従って、電子は、正孔と再結合して、光子を放出することができる。量子井戸構造42は、従って、レーザ40のアクティブ井戸である。
【0023】
層構造41は、さらに、第2の量子井戸構造43及び第3量子井戸構造44を備える。第2及び第3量子井戸構造43、44は、第1の量子井戸構造42の反対側に位置する。
【0024】
第2及び第3量子井戸構造43、44は、電子ではなく正孔を収容するように設計され、すなわち、量子井戸構造43、44は電子ではなく正孔のトラップとして機能する。第2及び第3の領域は電子ではなく正孔をトラップするから、そこに蓄積されるキャリアはいっさい再結合せず、従って光子を放出せず、それゆえ「非アクティブ」と呼ばれてよい。
【0025】
正孔の補助の井戸を実現する1つの可能な合金構造が、対応する計算されたバンドギャップダイアグラムとともに図7に示される。しかしながら、この例は限定を意図するものではなく、他の合金構造を使用して正孔の適当な補助の井戸を実現できることは理解されよう。
【0026】
図4に戻り、第2及び第3の量子井戸構造43,44は、第1の量子井戸構造42に十分に近く、第1の量子井戸構造42から第2及び第3量子井戸構造43、44までの電荷キャリアの熱的分布を可能にすることを留意する。層構造41のバンドギャップダイアグラムの簡素版が、説明の目的で、図4aに示される。示されるように、相当数の正孔が、第2及び第3量子井戸43、44内にトラップされている。
【0027】
全体的にみれば、デバイス40は、電気的中性であり、それにより、第1の量子井戸構造42内の電子密度nは、第1、第2、及び第3の量子井戸構造42,43,44内のそれぞれの正孔密度p,p、pの合計に等しい。すなわち、n=p+p+p。従って、第1の量子井戸構造42内の正孔密度pは、第1の量子井戸構造42内の電子密度n未満である。すなわち、第1の量子井戸構造は、正孔をトラップする第2及び第3量子井戸構造43、44の存在に起因する電荷不均衡(電子より少ない正孔)を有する。CHSHオージェ過程のレートはpnに比例するから、従って、CHSHオージェ過程のレートは、図3に示される量子井戸レーザ30と比較して量子井戸レーザ40において低減される。正孔密度pが減少するから、レーザ発振を実現するべく、積npがおよそ同じに維持されるよう電子密度nは増加されなければならないことは理解されよう。しかしながら、pnは減少するから、CHSHオージェ過程のレートは低減される。
【0028】
CHCC過程のレートはnpに比例するから、従って、電荷不均衡により増加される(正孔より多くの電子があるから)。しかしながら、上で説明したように、量子井戸レーザ40では、CHSH過程がCHCC過程より支配的で、それにより、全体的なオージェ再結合は低減される。
【0029】
長波長レーザの場合、CHCC過程がCHSH過程より支配的であってよい。その場合、第2及び第3量子井戸構造は、正孔ではなく電子のトラップとして設計されてよい。
【0030】
図5は、そのような第2の実施形態による長波長量子井戸レーザ50を概略的に示す。量子井戸レーザ50は、電子及び正孔が量子井戸構造52内で再結合して光子を生成するように構成された第1の量子井戸構造52の形態のアクティブ層を備える層構造51を含む。量子井戸構造52は、CHCC過程がCHSH過程より支配的になるように、より長波長(例えば、2-3μm以上のような中赤外波長)に対して設計される。
【0031】
量子井戸構造52は、電子及び正孔の両方をトラップするように構成される。従って、電子は、正孔と再結合して、光子を放出することができる。量子井戸構造52は、従って、レーザ50のアクティブ井戸である。
【0032】
層構造51は、さらに、第2の量子井戸構造53及び第3量子井戸構造54を備える。第2及び第3量子井戸構造53、54は、第1の量子井戸構造52の反対側に位置する。
【0033】
第2及び第3量子井戸構造53、54は、正孔ではなく電子を収容するように設計され、すなわち、量子井戸構造53、54は正孔ではなく電子のトラップとして機能する。第2及び第3の領域は正孔ではなく電子をトラップするから、そこに蓄積されるキャリアはいっさい再結合せず、従って光子を放出せず、それゆえ「非アクティブ」と呼ばれてよい。
【0034】
電子の補助の井戸を実現する1つの可能な合金構造が、対応する計算されたバンドギャップダイアグラムとともに図8に示される。しかしながら、この例は限定を意図するものではなく、他の合金構造を使用して電子の適当な補助の井戸を実現できることは理解されよう。
【0035】
図5aに戻り、第2及び第3の量子井戸構造53,54は、第1の量子井戸構造52に十分に近く、第1の量子井戸構造52から第2及び第3量子井戸構造53、54までの電荷キャリアの熱的分布を可能にすることを留意する。層構造51のバンドギャップダイアグラムの簡素版が、説明の目的で、図5aに示される。示されるように、相当数の電子が、第2及び第3量子井戸53、54内にトラップされている。
【0036】
全体的にみれば、デバイス50は、電気的中性であり、それにより、第1、第2、及び第3の量子井戸構造52内の電子密度n,n,nの合計は、第1の量子井戸構造52内の正孔密度pに等しい。すなわち、p=n+n+n。従って、第1の量子井戸構造52内の電子密度nは、第1の量子井戸構造52内の正孔密度p未満である。すなわち、第1の量子井戸構造52は、第2及び第3量子井戸構造53,54の存在に起因する電荷不均衡(正孔より少ない電子)を有する。CHCCオージェ過程のレートはnpに比例するから、従って、CHCCオージェ過程のレートは、図3に示される量子井戸レーザ30と比較して量子井戸レーザ40において低減される。CHSH過程のレートはpnに比例し、従って、電荷不均衡により増加される。しかしながら、上で説明したように、量子井戸レーザ50では、CHCC過程がCHSH過程より支配的で、それにより、全体的なオージェ再結合は低減される。
【0037】
上で留意したように、本開示の様々な実施形態は、電荷キャリアが第1、第2、及び第3構造間を移動するのを可能にする、第1の量子井戸構造の十分に近くに位置する第2及び第3量子井戸構造を提供する。しかしながら、第2及び第3量子井戸構造が第1の量子井戸構造に過度に近いと、オージェ再結合が異なる量子井戸構造間で可能となって、潜在的に効率を低減し得る。例えば図4の場合、第1の量子井戸構造42内の電子及び第2又は第3量子井戸構造43、44内の対応する正孔は無輻射で再結合し得る。例えば図5の場合、第1の量子井戸構造52内の正孔及び第2又は第3量子井戸構造53、54内の対応する電子は無輻射で再結合し得る。
【0038】
これを回避するために、第2及び第3量子井戸構造は第1の量子井戸構造の十分に近くに位置してよく、これにより、これらの間での電荷キャリアの移動を可能にする、しかし第1の量子井戸構造から十分に遠いと第1の量子井戸構造と第2又は第3量子井戸構造との間でオージェ再結合を防止又は制限する。
【0039】
図4の例では、第2及び第3量子井戸構造43、44は、電子ではなく正孔を収容するように設計され、すなわち、量子井戸構造43、44は電子ではなく正孔のトラップとして機能する。しかしながら、たとえ量子井戸構造43、44が幾つかの電子を捕捉したとしても、量子井戸構造43、44が電子より多くの正孔をトラップするとオージェ再結合の低減がさらに実現されることができる。同様に、たとえ図5の量子井戸構造53、54が幾つかの正孔を捕捉したとしても、量子井戸構造53、54が正孔より多くの電子を捕捉すると図5の例においてオージェ再結合の低減がさらに実現されることができる。
【0040】
製造では、電荷キャリアの一方のタイプのみ(すなわち、電子又は正孔)をトラップする、又は電荷キャリアの一方のタイプを他方より多くトラップするように構成される量子井戸構造を含む層は、引張り歪み下又は歪みのない条件下で成長されてよい。引張り歪みは状態密度を増加するから、電荷キャリアの一方のタイプの多くが引張り歪み層内にトラップされてよい。従って、第2及び第3量子井戸構造は引張り歪み層を備えてよい。アクティブ層は、圧縮歪み下で成長されてよい、すなわち、第1の量子井戸構造は圧縮歪み層を備えてよい。
【0041】
図4及び図5はそれぞれ第2及び第3量子井戸構造を示すが、第2又は第3量子井戸構造の一方が省略されると、オージェ再結合はさらに低減されてよい。
【0042】
図6は、第3の実施形態による半導体光デバイス60を概略的に示す。
デバイスは、半導体レーザ又は増幅器を備えてよい。デバイスは、デバイスの電極(不図示)に電圧が印加されると電子及び正孔がアクティブ領域内で再結合して光子を生成するように構成されるアクティブ領域を含む第1の領域62を備える。デバイスは、さらに、電子又は正孔の一方を優先的にトラップするように構成される量子井戸構造63を含む少なくとも1つの第2の領域を備える。例えば、量子井戸構造63は、電子のみをトラップする、正孔のみをトラップする、又は異なる量の電子及び正孔をトラップするように構成されてよい(すなわち、量子井戸構造は、同じ数の電子及び正孔をトラップしない)。量子井戸構造63は、デバイス60に電圧が印加されると電荷不均衡が第1の領域62内に発展し、それにより第1の領域内でのオージェ再結合を低減するように第1の領域に十分に近い第1の領域62からある距離に配置される。第2の領域は、第1の領域62内の第1の電荷キャリア及び第2の領域63内の第2電荷キャリアの間のオージェ再結合を防止又は制限するのに第1の領域から十分に遠くてよい。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの第2の領域は、第1の領域62の反対側に位置する2つの量子井戸構造を備えてよい。
【0043】
幾つかの実施形態において、半導体光デバイス60は、米国特許第8,937,978号明細書に説明される構造のような追加の構造を備えてよい。第1の領域62は、第1のバンドギャップを超えて再結合して光子を放出する電子及び正孔の割合が温度の増加とともに減少するように配置された第1のバンドギャップを有してよい。追加の構造は、1又は複数の追加のバンドギャップを有し、第1のバンドギャップ及び1又は複数の追加のバンドギャップは、1又は複数の追加のバンドギャップを超えて再結合する電子及び正孔に対する第1のバンドギャップを超えて再結合する電子及び正孔の比が温度の増加とともに増加するように配置される。半導体光デバイスが動作を意図する温度の範囲にわたって、比の増大は、電子及び正孔が第1のバンドギャップを超えて再結合して光子を放出するレートの温度による変化を低減するように、割合の減少を補償する。
【0044】
このように、温度に対する低減された感度を有する出力パワーを有する低閾値半導体レーザが提供されてよい。
【0045】
続く特許請求の範囲に含まれる多くの修正及び変形が当業者に自明であろう。
図1
図2
図3
図3a
図4
図4a
図5
図5a
図6
図7
図8
【国際調査報告】