(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】温度を補償する磁気トンネル接合をベースとする、外部磁場を計測する検知回路
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20230411BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20230411BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R33/02 X
G01R35/00 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551010
(86)(22)【出願日】2021-02-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 IB2021051475
(87)【国際公開番号】W WO2021176296
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100208258
【氏名又は名称】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】モハン・アヌラーグ
(72)【発明者】
【氏名】ズッカー・ロバート
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AB05
2G017AC04
2G017AD51
2G017BA09
(57)【要約】
【課題】磁気検知における、温度による出力変動を補償する。
【解決手段】本発明は外部磁場を計測する磁気トンネル結合(MTJ)検知回路であって、ブリッジ構成で接続された複数のMTJセンサ素子を備え、このMTJ検知回路は、バイアス電圧を入力し、バイアス電圧及びMTJ検知回路のゲイン感度を乗じて外部磁場に比例した出力電圧を生成する入力部を備え、ここで、ゲイン感度及び出力電圧は温度によって変化する。MTJ検知回路は、出力電圧が温度の関数として実質的に一定となるように、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備える。また、出力電圧を温度に対して補償する方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁場を計測するMTJ検知回路であって、
前記MTJ検知回路は、ブリッジ構成内で接続されている複数のMTJセンサ素子を備え、
前記MTJ検知回路は、バイアス電圧を入力して、そしてバイアス電圧とMTJ検知回路のゲイン感度を乗じて、外部磁場に比例する出力電圧を生成する入力部を持ち、ここにおいてゲイン感度と出力電圧は温度によって変化するものであり、
前記MTJ検知回路が、出力電圧が温度の関数として実質的に一定になるように、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備える、
前記MTJ検知回路。
【請求項2】
前記温度補償回路は、前記温度範囲にわたる線形温度関数の勾配を用いて前記変調バイアス電圧を提供するように構成されていて、温度の前記勾配は、温度による前記ゲイン感度の変動に相補的である、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項3】
前記温度補償回路は、前記温度範囲にわたって前記ゲイン感度を計測するように構成された温度センサ回路を備える、請求項2に記載のMTJ検知回路。
【請求項4】
前記温度補償回路は、調整可能な温度非依存電流と温度依存の絶対温度比例(PTAT)電流を組み合わせるように構成されている、請求項2に記載のMTJ検知回路。
【請求項5】
前記温度補償回路は、前記温度非依存電流及びPTAT電流が入力されるオペアンプを備え、前記オペアンプは、前記温度非依存電流及びPTAT電流を、前記変調バイアス電圧を生成する電圧に変換する、請求項4に記載のMTJ検知回路。
【請求項6】
前記温度補償回路は、第1勾配と、第1勾配と異なる第2勾配とを持つ線形温度関数を用いて前記変調バイアス電圧を与えるように構成されていて、第1勾配から第2勾配への変化は、所定の遷移温度で行われる、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項7】
前記温度補償回路は、温度依存電圧を提供するような抵抗器に流れるPTAT電流を備え、ここにおいて前記温度依存電圧は、比較器に入力されて、前記遷移温度で前記第1勾配から前記第2勾配に変化される、請求項6に記載のMTJ検知回路。
【請求項8】
前記遷移温度は約25℃である、請求項6に記載のMTJ検知回路。
【請求項9】
前記温度補償回路は、複数の基準電圧を生成するように構成されていて、各基準電圧は、温度範囲の温度サブ範囲に対応し、各基準電圧は、デジタルルックアップテーブルに従って各温度サブ範囲に対して決められ、そしてバイアス電圧を提供する、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項10】
各温度サブ範囲の温度スパンは約10℃である、請求項9に記載のMTJ検知回路。
【請求項11】
前記温度範囲は-40℃から125℃まで及ぶ、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項12】
MTJ検知回路の出力電圧を補償する方法であって、
前記MTJ検知回路は、ブリッジ構成内で接続されている複数のMTJセンサ素子を備え、
前記MTJ検知回路は、バイアス電圧を入力して、そして前記バイアス電圧とMTJ検知回路のゲイン感度とを乗じて外部磁場に比例した出力電圧を生成する入力部を備え、ここにおいて前記ゲイン感度と前記出力電圧は温度によって変化し、
前記MTJ検知回路は、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備え、
前記方法が、
前記MTJ検知回路の温度を計測するステップと、
変調されたバイアス電圧にゲイン感度を乗じた値が一定になるようにバイアス電圧を温度で変調するように、温度補償回路を使うステップと
を備える、前記方法。
【請求項13】
計測温度に比例する補正温度信号を提供するステップと、
温度関数と組み合わせて補正温度信号を使用して前記バイアス電圧を変調するステップと
を備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記温度関数は、1つの勾配を持つ、ある温度範囲にわたる線形温度関数を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記温度関数は、第1勾配と、第1勾配と異なる第2勾配とを持つ、ある温度範囲にわたる線形温度関数を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記温度補償回路は、複数の基準電圧を生成するように構成されていて、各基準電圧は、温度範囲の温度サブ範囲に対応し、前記方法が、
バイアス電圧を温度で調整するステップが、デジタルルックアップテーブルに従って各温度サブ範囲の電圧基準を決めるステップと、バイアス電圧を提供するステップとを備える、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般に、磁気トンネル接合部を採用した磁気センサに関する。より詳細には、本発明は、磁気センサの温度に基づく磁気センサ出力補償に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、磁気トンネル接合(MTJ)検知素子10の概略断面図を示す。MTJという用語は、トンネル磁気抵抗(TMR)検知素子を指すために使用される。MTJ検知素子10は、センス磁化210を有するセンス強磁性層21と、ピン止め磁化230を備えるピン止め強磁性層23との間に挟まれたトンネル障壁層22とを備える。センス磁化210は、ピン止め磁化230の向きが変わらない一方で、外部磁場42内で向きが変わり得るように構成されている。このような構成において、外部磁場Hを用いて、センス磁化210を、ピン止め磁化230に平行な向き(同じ向きで平行)から、ピン止め磁化230に反平行な向き(向きは反対で平行)に、又はその逆に切り替え可能である。
【0003】
図2は、抵抗R対外部磁場Hの応答曲線を示す。磁気抵抗応答曲線は、センス磁化210とピン止め磁化230の方向との間の角度の関数としての抵抗変化を示す。センス磁化210がピン止め磁化230と平行であると、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル10の抵抗が低くなる(論理状態「0」)。センス磁化210がピン止め磁化230と反平行(向きが逆で平行)であるとき、MRAMセル10の抵抗は高い(論理状態「1」)。センス磁化210及びピン止め磁化230が垂直な角度にあるとき、抵抗は高抵抗と低抵抗の中間の値となる。この値を中心に、MTJ検知素子10は線形応答を有する。応答曲線の線形部分LPの傾きは、MTJ検知素子10の感度に比例する。
【0004】
ホール効果素子及び巨大磁気抵抗(GMR)検知素子と比較して、MTJセンサ素子は、より優れた温度安定性、高感度、低消費電力、より良い線形性を持ち、追加のフラックスコンセントレータ(磁束の収束)構造を必要としない。異方性磁気抵抗(AMR)素子と比較して、MTJセンサ素子はより広い線形範囲を持ち、セットコイルやリセットコイルを必要としない。
【0005】
MTJ検知素子10の応答信号を変更する回路の適用では、その出力電圧を増幅しやすいように、抵抗ブリッジがしばしば採用される。これにより、コモンモード信号(同じ方向に流れる信号)の低減、ノイズキャンセレーション、温度ドリフトの低減、その他の探触子の欠陥の最小化も可能になる。MTJ検知素子10は、ホイートストンブリッジ又は他の任意のタイプの回路ブリッジを形成するために、並列と直列との少なくとも一方で接続してよい。
【0006】
図3は、ハーフブリッジMTJ検知回路100を示す。2つのMTJ検知素子10の1つは、他方のMTJ検知素子10のピン止め磁化23と直交して回転されるそのピン止め磁化230を備えてよい。MTJ検知回路100の検知軸250は、上部MTJ検知素子10のピン止め磁化230の方向と一致する。
【0007】
MTJ検知回路100は、
図4に示すような、直列に接続された2つのMTJ検知素子10と直列に接続された2つのMTJ検知素子10とからなるフル(ホイートストン)ブリッジ回路構成として配置してもよい。
【0008】
MTJ検知回路100は、3つの外部接点パッド、すなわちバイアス電圧Vbiasが入力される入力部101と、出力電圧Voutとグランドとを持つ出力102を持つ。外部磁場Hの所与の値に対して、正の感知軸250に沿って、抵抗は、1つ(又は2つ)のMTJ感知素子10について増加し、(2つの)他方について減少する。外部磁場Hが反対方向(負の検知軸250に沿って)に印加されると、抵抗は1つ(又は2つ)に対して減少し、(2つの)他方については増加する。
【0009】
MTJ検知回路100の出力電圧Voutは、多くの一般的な方法を用いて計測できる。例えば、Voutとグランドの間に電圧計が接続され、Voutとグランドの電位差が出力電圧となる。
【0010】
磁気センサの感度は、mV/mT/V
biasの比で表される。これは、外部磁場Hの変化に対するMTJ検知回路100からの出力電圧V
outの変化を定義する。MTJ検知素子10、及びMTJ検知回路100の感度は、レシオメトリックであり、バイアス電圧V
biasに正比例する。MTJ検知回路100からの出力電圧Vは、次のように表せる。
【数1】
ここで、Gはゲイン(mV/mT/V
bias単位)である。
【0011】
MTJ検知回路100を広い温度範囲にわたって動作させると、温度に誘起される感度の変動を招き、それによってMTJ検知回路の精度が妨げられる。MTJ検知回路100の動作温度は、-40℃から+155℃と大きく異なることがある。温度の変化もMTJ検知回路100の感度を変化させる。感度の変動は、線形勾配の温度、又は高次曲線の温度に比例することがある。感度の温度係数は500ppm/C(ppm/℃)まで高くできる。
【0012】
図5は、線形部分で計測されたハーフブリッジMTJ検知回路100の応答曲線を示す。特に、
図4は、-30℃、30℃、125℃の3つの異なる温度で計測した応答曲線を示す。
【0013】
広い温度範囲でセンサを動作させると、温度に誘起される感度の変動が生じ、センサの精度が低下する。場合によっては、出力ドリフトが5%変動することがある。ゆえに、磁気センサの出力の温度補償が必要である。
【発明の概要】
【0014】
本開示は、外部磁場を計測するMTJ検知回路であって、ブリッジ構成で接続された複数のMTJセンサ素子を備える。MTJ検知回路は、前記MTJ検知回路のバイアス電圧を入力し、バイアス電圧とMJT検知回路のゲイン感度を乗じることで外部磁場に比例した出力電圧を生成する入力部を備え、ここではゲイン感度と出力電圧は温度によって変化する。このMTJ検知回路は、出力電圧が温度の関数として実質的に一定となるように、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備える。
【0015】
本開示はさらに、温度変化に対して出力電圧を補償する方法に関する。
【0016】
本発明は、例として与えられ、図によって例示される実施形態の説明の助けを借りてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、MTJ検知素子の概略断面図を示す。
【
図2】
図2は、MTJ検知素子の抵抗対外部磁場の応答曲線を示す。
【
図3】
図3は、ハーフブリッジMTJ検知回路を示す。
【
図4】
図4は、フルブリッジMTJ検知回路を示す。
【
図5】
図5は、リニア部で計測したハーフブリッジMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【
図6】
図6は、温度補償されて外部磁場を計測する、一実施形態による方法ステップを模式的に表している。
【
図7】
図7は、本明細書に開示された方法に従って温度変化に対して補正されている、MTJ検知回路におけるゲイン感度を報告する。
【
図9】
図9は、一実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図10】
図10は、他の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図11】
図11は、さらに別の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図12】
図12は、さらに別の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図13】
図13は、バイアス電圧が温度によって変調されていないMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【
図14】
図14は、バイアス電圧が温度によって変調されているMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
線形傾き、又は高次曲線を持つ、温度に比例する温度変化の可能性がある。
【0019】
ゲイン感度G(t)は、温度Tの関数として次のように変化する。
【数2】
ここで、f(T)は一次温度関数又は高次温度関数である。
【0020】
一実施形態では、MTJ検知回路100を用いて温度補償された外部磁場Hを計測する方法は、変調バイアス電圧V
biasにゲイン感度G(T)を乗じた値が一定となるように、バイアス電圧V
biasを温度Tで変調するステップを備える。
【数3】
【0021】
この方法は、MTJ検知回路100の入力部101に変調バイアス電圧Vbias(T)を提供して、出力102に設けられた出力電圧Voutを計測するステップをさらに備える。
【0022】
変調バイアス電圧Vbias(T)を提供することで、MTJ検知回路100は、外部磁場Hによって変化するが温度Tの変化時にはほぼ一定の出力電圧Voutを出力できる。
【0023】
この方法は、MTJ検知回路100の温度Tを計測し、MTJ検知回路100の温度Tに比例する補正温度信号30(
図10参照)を提供するステップをさらに備える。
【0024】
この方法は、補正温度信号を用いてバイアス電圧Vbiasを生成して、生成したバイアス電圧Vbiasを変調し、変調されたバイアス電圧Vbias(T)を提供するステップをさらに備える。変調バイアス電圧Vbias(T)は、線形勾配や高次曲線のような温度関数f(T)と組み合わせて補正温度信号を使用することによって提供される。
【0025】
図6は、方法ステップ、特に、MTJ検知回路100の温度Tを計測するステップ(M1)と、バイアス電圧V
biasを生成するステップ(M2)と、変調バイアス電圧V
bias(T)を提供するステップ(M3)と、MTJ検知回路100の入力部101に変調バイアス電圧V
bias(T)を入力するステップ(M4)と、を模式的に表す。
【0026】
アナログ回路を使用して温度による変動を補償するべく、MTJ検知回路100の温度を計測し、バイアス電圧Vbiasを生成するステップと、変調バイアス電圧Vbias(T)を提供するステップを実行できる。
【0027】
図7は、本明細書に開示された方法に従って温度変化について補正されている、MTJ検知回路100におけるゲイン感度G(t)を報告する。補正されたゲイン感度G(t)は、温度変化から実質的に独立している(感度G(T)の損失を補償している)。
【0028】
図8は、一実施形態によるMTJ検知回路100の出力電圧V
outを温度変化に対して補償する補正回路を示す。補正回路300は、温度Tに比例する電圧基準V本明細書に開示された方法に従って温度変化について補正されているを生成させるように構成された温度センサ回路301(基準生成部)を備える。補正回路300は、変調バイアス電圧V
bias(T)をMTJ検知回路100に提供するように構成されたバイアス電圧制御回路302(MTJ検知回路レギュレータ)をさらに備える。また、補正回路300は、出力電圧V
outが入力されるアナログフロントエンド増幅器303も備える。補正回路300は、CMOSオンチップデバイスとして設計してよい。
【0029】
一般に、MTJ検知回路100は、温度Tが上昇するにつれて単調に減少する関数を受ける感度G(T)を有する。より具体的には、感度G(T)は25℃未満の温度でより強く変化し、25℃を超える温度でより小さく変化する。したがって、感度G(T)の温度関数f(T)は温度と線形ではない。
【0030】
一実施形態では、一定の(非変調の)バイアス電圧VbiasがMTJ検知回路100に入力される。次に、MTJ検知回路100の感度G(T)は、一定間隔で温度Tの範囲にわたって計測される。感度G(T)はmV/V/mT、すなわち、与えられた磁場のmTに対するバイアス電圧Vbiasに対する出力VoutのmVに対応する。次に、計測された感度G(T)を表にして25℃に正規化し、区間ごとに正規化係数を求める。正規化された係数はそれから反転され、バイアス電圧Vbiasの規模を決めるのに使用される。その結果、温度Tに対して平坦な感度G(T)が得られる。
【0031】
別の実施形態では、出力電圧Voutは、出力電圧Voutが温度の上昇とともに増加するように線形温度関数f(T)を乗算し、温度にわたって平坦な感度G(T)を得る、換言すると、感度G(T)の損失を補償する。線形温度関数f(T)は、1次曲線あてはめに基づいてよい。
【0032】
さらに別の実施形態では、バイアス電圧Vbiasは、温度による感度G(T)の損失に相補的な正の温度傾きで変化させる。この構成では、MTJ検知回路100は、バイアス電圧Vbiasに応じて出力電圧Voutの規模を決める(スケーリング)乗算器として用いられる。
【0033】
この構成は、MTJ検知回路100に、絶対温度に比例する温度依存電圧(PTAT)と混合した調整可能な温度独立電圧を加える(MTJ検知回路100を…バイアスする)ことによって実現できる。
【0034】
より特定的には、温度センサ回路301(基準発生器)は、バイアス電圧制御回路302(MTJ検知回路レギュレータ)と組み合わされて、単一の演算増幅器(オペアンプ)を使用する1段の回路(
図9参照)に組み込まれる。この段への入力は、温度に依存しない電流(I
polyDown)とPTAT電流(I
ptatRef)の組み合わせである。この段は、DACとして機能する選択可能な電流ミラー(電流DAC)のアレイを備え、オペアンプ回路に注入される。2つの電流源(I
polyoffset、I
ptat)の規模を決めて、電流を合計された電圧に変換して所望の温度依存出力基準(V
bias)を生成する。5ビットコードはバイアス電圧V
biasの固定成分を調整し、別の5ビットコードはバイアス電圧V
biasのPTAT成分を調整する。PTATの単独使用は不可能であるため、PTATと固定電圧の両方が必要である。実際、PTAT電圧の場合、傾きが強いほど、25℃での電圧は大きくなる。電圧と勾配は依存的な関数である。
【0035】
さらに別の実施形態では、線形温度関数f(T)は、2つの異なる傾き、すなわち、25℃未満の温度Tに対する第1勾配と、25℃以上の温度Tに対する第2勾配とを備える。2スロープ線形温度関数f(T)は、より優れた、より効果的な温度補償を可能にする。
【0036】
この実施形態は、第3変形例と同様に実装可能だが、温度関数f(T)の2つの異なる傾きに対して実装可能である。
図10は、抵抗R
ptatXへのPTAT電流Iptatを使用してIC温度Tを決定する方法を示す。抵抗R
ptatXの両端の電圧は、温度T(ケルビン単位)について直接大きさを決める。この温度依存電圧に比較器311を配置すると、温度が25℃に遷移したときに補償勾配が変化する電流DACに対して、2つの異なる組の5ビットコードを選択できるようになる。
【0037】
理想的な補正曲線への二重傾き近似を実装できる。バイアス電圧制御回路302の出力(レギュレータ出力)にフィルタを追加すると、遷移中のグリッチを低減するのに役立つ。比較器311は、遷移の近くでチャタリングを避けるためにヒステリシスを持つ。
図11の回路は引き続き使用できるが、温度が25℃を超えると2組の5ビットコードが変更されるようになっている。ビット数は必ずしも5である必要はなく(例えば、6ビットであってもよい)、これは実装に必要な仕様に固有である。比較器出力V
comp(
図12では「温度25C超」とラベルが付されている)によってトリガされる双方向デジタルマルチプレクサ(図示せず)は、メモリに格納されているか、又はハードワイヤーされている、デジタル番号の2つの異なる組の中から選択する。
【0038】
さらに別の実施形態では、温度による感度G(T)の損失は、いくつかの温度サブ範囲について特徴付けられる。各温度サブ範囲について、基準電圧Vrefが決められて、MTJ検知回路100のバイアス増幅器に入力される。ここで、基準電圧Vrefは、デジタルルックアップテーブル(LUT)に従って温度サブ範囲ごとに変化する。例えば、-40℃から125℃の温度範囲では、10℃の温度サブ範囲ごとに基準電圧Vrefとバイアス電圧Vbiasが決められる。温度サブ範囲は10℃である必要はないが、MTJ検知回路100の温度補償のために望む精度の程度に応じて、20℃、30℃などの任意の適切な値を持ってよい。
【0039】
感度対温度曲線の非線形性を考慮して補償方式を改善するために、温度感度プロファイルの理想的な逆数の区分線形近似を実装できる。
図11の図示例では、-40℃から125℃の温度範囲を10℃の16の温度サブ範囲に分割している。複数の温度依存電圧V_
Ti(V-40℃、V-30℃、...V110℃、V120℃)は、複数のサブ範囲抵抗R
ptat_i(温度依存電圧ごとに1つのサブ範囲抵抗R
ptat_i)からなる抵抗ストリングにPTAT電流I
patを強制することによって生成される。温度依存電圧V_Tiは、複数の比較器312において、複数の固定の電圧基準V
Ref_Ti(Vref-30℃,Vref-20℃,…Vref110℃,Vef120℃)と組み単位で比較され、複数のヒステリシス比較器出力T
aboveM3_Ti(T
aboveM30℃,T
aboveM20℃,…T
aboveM110℃,T
aboveM120℃)の結果を得る。
【0040】
複数のヒステリシス比較器出力TaboveM3_Tiは、最も高いロジックHI入力に基づいて符号化された16個のメモリ位置から優先順位を選択するアレイベースのメモリセル315(選択0、選択1、...選択14、選択15)に接続される。アレイベースのメモリセル315は、16個のレジスタを持ち、各レジスタは、MTJ検知回路100の所望のアナログバイアス電圧Vbiasをデジタル的に表している。
【0041】
図12は、16個のデジタルコードを10℃ごとに変化する温度センサ回路301用の電圧基準V
Ref_Tiに変換するDACを示す。レジスタと温度サブ範囲の正確な数は調整可能で、必要な温度補償の分解能に依存する。
【0042】
代替構成では、一対の比較器312は、10℃の温度スパン(範囲)を表示領域にしている。一対の比較器312は、表示領域のスパンが計測温度に基づいて、異なる温度位置に動かされるように配置してよい。このような構成では、必要とされる任意の数の温度部分範囲に対して、2つの比較器312のみが必要である。
【0043】
図13は、室温RT、125℃及び-20℃で、線形部分において計測されたMTJ検知回路100の応答曲線を示し、ここではバイアス電圧V
biasは温度によって変調されていない。
【0044】
図14は、室温RT、125℃、55℃、85℃、-10℃、及び-20℃で線形部分において計測されたMTJ検知回路100の応答曲線を示し、ここではバイアス電圧V
biasは、本明細書に開示される方法に従って温度によって変調されている。
図8は、MTJ検知回路100及び本明細書に開示される方法を用いて観察される感度の温度補償挙動において顕著な改善を示す。
【0045】
本発明は、上述した例示的な実施形態に限定されるものではなく、他の実施例も特許請求の範囲の範囲内で可能であることが理解される。
【0046】
例えば、予測可能な温度係数を有する他のタイプのセンサに対して同様の温度補正を実行すべく、本発明の方法を使用できる。
【符号の説明】
【0047】
10 MTJ検知素子
100 MTJ検知回路
101 入力部
102 出力
2 磁気トンネル接合
21 センス強磁性層
210 センス磁化
22 トンネル障壁層
23 ピン止め強磁性層
230 ピン止め磁化
250 検知軸
30 補正温度信号
300 補正回路
301 温度センサ
302 バイアス電圧制御回路
303 アナログフロントエンド増幅器
311 比較器
312 比較器(複数)
315 アレイベースのメモリセル
H 外部磁場
LP 線形部分
T 温度
Vbias バイアス電圧
Vbias(T) 変調バイアス電圧
Vout 出力電圧
VRef 電圧基準
【手続補正書】
【提出日】2022-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般に、磁気トンネル接合部を採用した磁気センサに関する。より詳細には、本発明は、磁気センサの温度に基づく磁気センサ出力補償に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、磁気トンネル接合(MTJ)検知素子10の概略断面図を示す。MTJという用語は、トンネル磁気抵抗(TMR)検知素子を指すために使用される。MTJ検知素子10は、センス磁化210を有するセンス強磁性層21と、ピン止め磁化230を備えるピン止め強磁性層23との間に挟まれたトンネル障壁層22とを備える。センス磁化210は、ピン止め磁化230の向きが変わらない一方で、外部磁場42内で向きが変わり得るように構成されている。このような構成において、外部磁場Hを用いて、センス磁化210を、ピン止め磁化230に平行な向き(同じ向きで平行)から、ピン止め磁化230に反平行な向き(向きは反対で平行)に、又はその逆に切り替え可能である。
【0003】
図2は、抵抗R対外部磁場Hの応答曲線を示す。磁気抵抗応答曲線は、センス磁化210とピン止め磁化230の方向との間の角度の関数としての抵抗変化を示す。センス磁化210がピン止め磁化230と平行であると、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)セル10の抵抗が低くなる(論理状態「0」)。センス磁化210がピン止め磁化230と反平行(向きが逆で平行)であるとき、MRAMセル10の抵抗は高い(論理状態「1」)。センス磁化210及びピン止め磁化230が垂直な角度にあるとき、抵抗は高抵抗と低抵抗の中間の値となる。この値を中心に、MTJ検知素子10は線形応答を有する。応答曲線の線形部分LPの傾きは、MTJ検知素子10の感度に比例する。
【0004】
ホール効果素子及び巨大磁気抵抗(GMR)検知素子と比較して、MTJセンサ素子は、より優れた温度安定性、高感度、低消費電力、より良い線形性を持ち、追加のフラックスコンセントレータ(磁束の収束)構造を必要としない。異方性磁気抵抗(AMR)素子と比較して、MTJセンサ素子はより広い線形範囲を持ち、セットコイルやリセットコイルを必要としない。
【0005】
MTJ検知素子10の応答信号を変更する回路の適用では、その出力電圧を増幅しやすいように、抵抗ブリッジがしばしば採用される。これにより、コモンモード信号(同じ方向に流れる信号)の低減、ノイズキャンセレーション、温度ドリフトの低減、その他の探触子の欠陥の最小化も可能になる。MTJ検知素子10は、ホイートストンブリッジ又は他の任意のタイプの回路ブリッジを形成するために、並列と直列との少なくとも一方で接続してよい。
【0006】
図3は、ハーフブリッジMTJ検知回路100を示す。2つのMTJ検知素子10の1つは、他方のMTJ検知素子10のピン止め磁化23と直交して回転されるそのピン止め磁化230を備えてよい。MTJ検知回路100の検知軸250は、上部MTJ検知素子10のピン止め磁化230の方向と一致する。
【0007】
MTJ検知回路100は、
図4に示すような、直列に接続された2つのMTJ検知素子10と直列に接続された2つのMTJ検知素子10とからなるフル(ホイートストン)ブリッジ回路構成として配置してもよい。
【0008】
MTJ検知回路100は、3つの外部接点パッド、すなわちバイアス電圧Vbiasが入力される入力部101と、出力電圧Voutとグランドとを持つ出力102を持つ。外部磁場Hの所与の値に対して、正の感知軸250に沿って、抵抗は、1つ(又は2つ)のMTJ感知素子10について増加し、(2つの)他方について減少する。外部磁場Hが反対方向(負の検知軸250に沿って)に印加されると、抵抗は1つ(又は2つ)に対して減少し、(2つの)他方については増加する。
【0009】
MTJ検知回路100の出力電圧Voutは、多くの一般的な方法を用いて計測できる。例えば、Voutとグランドの間に電圧計が接続され、Voutとグランドの電位差が出力電圧となる。
【0010】
磁気センサの感度は、mV/mT/V
biasの比で表される。これは、外部磁場Hの変化に対するMTJ検知回路100からの出力電圧V
outの変化を定義する。MTJ検知素子10、及びMTJ検知回路100の感度は、レシオメトリックであり、バイアス電圧V
biasに正比例する。MTJ検知回路100からの出力電圧Vは、次のように表せる。
【数1】
ここで、Gはゲイン(mV/mT/V
bias単位)である。
【0011】
MTJ検知回路100を広い温度範囲にわたって動作させると、温度に誘起される感度の変動を招き、それによってMTJ検知回路の精度が妨げられる。MTJ検知回路100の動作温度は、-40℃から+155℃と大きく異なることがある。温度の変化もMTJ検知回路100の感度を変化させる。感度の変動は、線形勾配の温度、又は高次曲線の温度に比例することがある。感度の温度係数は500ppm/C(ppm/℃)まで高くできる。
【0012】
図5は、線形部分で計測されたハーフブリッジMTJ検知回路100の応答曲線を示す。特に、
図4は、-30℃、30℃、125℃の3つの異なる温度で計測した応答曲線を示す。
【0013】
広い温度範囲でセンサを動作させると、温度に誘起される感度の変動が生じ、センサの精度が低下する。場合によっては、出力ドリフトが5%変動することがある。ゆえに、磁気センサの出力の温度補償が必要である。
【0014】
特許文献1(US2019154735)は、測定される電流の大きさに応じて出力電圧を出力する電流センサを開示している。電流センサは、電流が流れる導体、磁気センサ、および補正器を含む。磁気センサは、電流によって発生する磁場の強さを検出し、磁場の強さに応じた出力電圧を電流センサから出力電圧として出力する。
【0015】
特許文献2(US2019339337)は、バイアス信号が与えられたときに磁場強度を示す出力信号を生成するように構成された磁気センサを較正する較正装置を開示している。
【0016】
特許文献3(EP3457154)は、基準電流でバイアスされた基準電界センサであって、電界に応答して基準センサ信号を提供する基準電界センサと、個別に調整可能な電流でバイアスされる、電界に応答して較正されたセンサ信号を提供する較正された電界センサとを備える電界センサ装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/154735号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/339337号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3457154号明細書
【発明の概要】
【0018】
本開示は、外部磁場を計測するMTJ検知回路であって、ブリッジ構成で接続された複数のMTJセンサ素子を備える。MTJ検知回路は、前記MTJ検知回路のバイアス電圧を入力し、バイアス電圧とMJT検知回路のゲイン感度を乗じることで外部磁場に比例した出力電圧を生成する入力部を備え、ここではゲイン感度と出力電圧は温度によって変化する。このMTJ検知回路は、出力電圧が温度の関数として実質的に一定となるように、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備える。
【0019】
本開示はさらに、温度変化に対して出力電圧を補償する方法に関する。
【0020】
本発明は、例として与えられ、図によって例示される実施形態の説明の助けを借りてよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、MTJ検知素子の概略断面図を示す。
【
図2】
図2は、MTJ検知素子の抵抗対外部磁場の応答曲線を示す。
【
図3】
図3は、ハーフブリッジMTJ検知回路を示す。
【
図4】
図4は、フルブリッジMTJ検知回路を示す。
【
図5】
図5は、リニア部で計測したハーフブリッジMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【
図6】
図6は、温度補償されて外部磁場を計測する、一実施形態による方法ステップを模式的に表している。
【
図7】
図7は、本明細書に開示された方法に従って温度変化に対して補正されている、MTJ検知回路におけるゲイン感度を報告する。
【
図9】
図9は、一実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図10】
図10は、他の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図11】
図11は、さらに別の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図12】
図12は、さらに別の実施形態による温度センサ回路を示す。
【
図13】
図13は、バイアス電圧が温度によって変調されていないMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【
図14】
図14は、バイアス電圧が温度によって変調されているMTJ検知回路の応答曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
線形傾き、又は高次曲線を持つ、温度に比例する温度変化の可能性がある。
【0023】
ゲイン感度G(t)は、温度Tの関数として次のように変化する。
【数2】
ここで、f(T)は一次温度関数又は高次温度関数である。
【0024】
一実施形態では、MTJ検知回路100を用いて温度補償された外部磁場Hを計測する方法は、変調バイアス電圧V
biasにゲイン感度G(T)を乗じた値が一定となるように、バイアス電圧V
biasを温度Tで変調するステップを備える。
【数3】
【0025】
この方法は、MTJ検知回路100の入力部101に変調バイアス電圧Vbias(T)を提供して、出力102に設けられた出力電圧Voutを計測するステップをさらに備える。
【0026】
変調バイアス電圧Vbias(T)を提供することで、MTJ検知回路100は、外部磁場Hによって変化するが温度Tの変化時にはほぼ一定の出力電圧Voutを出力できる。
【0027】
この方法は、MTJ検知回路100の温度Tを計測し、MTJ検知回路100の温度Tに比例する補正温度信号30(
図10参照)を提供するステップをさらに備える。
【0028】
この方法は、補正温度信号を用いてバイアス電圧Vbiasを生成して、生成したバイアス電圧Vbiasを変調し、変調されたバイアス電圧Vbias(T)を提供するステップをさらに備える。変調バイアス電圧Vbias(T)は、線形勾配や高次曲線のような温度関数f(T)と組み合わせて補正温度信号を使用することによって提供される。
【0029】
図6は、方法ステップ、特に、MTJ検知回路100の温度Tを計測するステップ(M1)と、バイアス電圧V
biasを生成するステップ(M2)と、変調バイアス電圧V
bias(T)を提供するステップ(M3)と、MTJ検知回路100の入力部101に変調バイアス電圧V
bias(T)を入力するステップ(M4)と、を模式的に表す。
【0030】
アナログ回路を使用して温度による変動を補償するべく、MTJ検知回路100の温度を計測し、バイアス電圧Vbiasを生成するステップと、変調バイアス電圧Vbias(T)を提供するステップを実行できる。
【0031】
図7は、本明細書に開示された方法に従って温度変化について補正されている、MTJ検知回路100におけるゲイン感度G(t)を報告する。補正されたゲイン感度G(t)は、温度変化から実質的に独立している(感度G(T)の損失を補償している)。
【0032】
図8は、一実施形態によるMTJ検知回路100の出力電圧V
outを温度変化に対して補償する補正回路を示す。補正回路300は、温度Tに比例する電圧基準V本明細書に開示された方法に従って温度変化について補正されているを生成させるように構成された温度センサ回路301(基準生成部)を備える。補正回路300は、変調バイアス電圧V
bias(T)をMTJ検知回路100に提供するように構成されたバイアス電圧制御回路302(MTJ検知回路レギュレータ)をさらに備える。また、補正回路300は、出力電圧V
outが入力されるアナログフロントエンド増幅器303も備える。補正回路300は、CMOSオンチップデバイスとして設計してよい。
【0033】
一般に、MTJ検知回路100は、温度Tが上昇するにつれて単調に減少する関数を受ける感度G(T)を有する。より具体的には、感度G(T)は25℃未満の温度でより強く変化し、25℃を超える温度でより小さく変化する。したがって、感度G(T)の温度関数f(T)は温度と線形ではない。
【0034】
一実施形態では、一定の(非変調の)バイアス電圧VbiasがMTJ検知回路100に入力される。次に、MTJ検知回路100の感度G(T)は、一定間隔で温度Tの範囲にわたって計測される。感度G(T)はmV/V/mT、すなわち、与えられた磁場のmTに対するバイアス電圧Vbiasに対する出力VoutのmVに対応する。次に、計測された感度G(T)を表にして25℃に正規化し、区間ごとに正規化係数を求める。正規化された係数はそれから反転され、バイアス電圧Vbiasの規模を決めるのに使用される。その結果、温度Tに対して平坦な感度G(T)が得られる。
【0035】
別の実施形態では、出力電圧Voutは、出力電圧Voutが温度の上昇とともに増加するように線形温度関数f(T)を乗算し、温度にわたって平坦な感度G(T)を得る、換言すると、感度G(T)の損失を補償する。線形温度関数f(T)は、1次曲線あてはめに基づいてよい。
【0036】
さらに別の実施形態では、バイアス電圧Vbiasは、温度による感度G(T)の損失に相補的な正の温度傾きで変化させる。この構成では、MTJ検知回路100は、バイアス電圧Vbiasに応じて出力電圧Voutの規模を決める(スケーリング)乗算器として用いられる。
【0037】
この構成は、MTJ検知回路100に、絶対温度に比例する温度依存電圧(PTAT)と混合した調整可能な温度独立電圧を加える(MTJ検知回路100を…バイアスする)ことによって実現できる。
【0038】
より特定的には、温度センサ回路301(基準発生器)は、バイアス電圧制御回路302(MTJ検知回路レギュレータ)と組み合わされて、単一の演算増幅器(オペアンプ)を使用する1段の回路(
図9参照)に組み込まれる。この段への入力は、温度に依存しない電流(I
polyDown)とPTAT電流(I
ptatRef)の組み合わせである。この段は、DACとして機能する選択可能な電流ミラー(電流DAC)のアレイを備え、オペアンプ回路に注入される。2つの電流源(I
polyoffset、I
ptat)の規模を決めて、電流を合計された電圧に変換して所望の温度依存出力基準(V
bias)を生成する。5ビットコードはバイアス電圧V
biasの固定成分を調整し、別の5ビットコードはバイアス電圧V
biasのPTAT成分を調整する。PTATの単独使用は不可能であるため、PTATと固定電圧の両方が必要である。実際、PTAT電圧の場合、傾きが強いほど、25℃での電圧は大きくなる。電圧と勾配は依存的な関数である。
【0039】
さらに別の実施形態では、線形温度関数f(T)は、2つの異なる傾き、すなわち、25℃未満の温度Tに対する第1勾配と、25℃以上の温度Tに対する第2勾配とを備える。2スロープ線形温度関数f(T)は、より優れた、より効果的な温度補償を可能にする。
【0040】
この実施形態は、第3変形例と同様に実装可能だが、温度関数f(T)の2つの異なる傾きに対して実装可能である。
図10は、抵抗R
ptatXへのPTAT電流Iptatを使用してIC温度Tを決定する方法を示す。抵抗R
ptatXの両端の電圧は、温度T(ケルビン単位)について直接大きさを決める。この温度依存電圧に比較器311を配置すると、温度が25℃に遷移したときに補償勾配が変化する電流DACに対して、2つの異なる組の5ビットコードを選択できるようになる。
【0041】
理想的な補正曲線への二重傾き近似を実装できる。バイアス電圧制御回路302の出力(レギュレータ出力)にフィルタを追加すると、遷移中のグリッチを低減するのに役立つ。比較器311は、遷移の近くでチャタリングを避けるためにヒステリシスを持つ。
図11の回路は引き続き使用できるが、温度が25℃を超えると2組の5ビットコードが変更されるようになっている。ビット数は必ずしも5である必要はなく(例えば、6ビットであってもよい)、これは実装に必要な仕様に固有である。比較器出力V
comp(
図12では「温度25C超」とラベルが付されている)によってトリガされる双方向デジタルマルチプレクサ(図示せず)は、メモリに格納されているか、又はハードワイヤーされている、デジタル番号の2つの異なる組の中から選択する。
【0042】
さらに別の実施形態では、温度による感度G(T)の損失は、いくつかの温度サブ範囲について特徴付けられる。各温度サブ範囲について、基準電圧Vrefが決められて、MTJ検知回路100のバイアス増幅器に入力される。ここで、基準電圧Vrefは、デジタルルックアップテーブル(LUT)に従って温度サブ範囲ごとに変化する。例えば、-40℃から125℃の温度範囲では、10℃の温度サブ範囲ごとに基準電圧Vrefとバイアス電圧Vbiasが決められる。温度サブ範囲は10℃である必要はないが、MTJ検知回路100の温度補償のために望む精度の程度に応じて、20℃、30℃などの任意の適切な値を持ってよい。
【0043】
感度対温度曲線の非線形性を考慮して補償方式を改善するために、温度感度プロファイルの理想的な逆数の区分線形近似を実装できる。
図11の図示例では、-40℃から125℃の温度範囲を10℃の16の温度サブ範囲に分割している。複数の温度依存電圧V_
Ti(V-40℃、V-30℃、...V110℃、V120℃)は、複数のサブ範囲抵抗R
ptat_i(温度依存電圧ごとに1つのサブ範囲抵抗R
ptat_i)からなる抵抗ストリングにPTAT電流I
patを強制することによって生成される。温度依存電圧V_Tiは、複数の比較器312において、複数の固定の電圧基準V
Ref_Ti(Vref-30℃,Vref-20℃,…Vref110℃,Vef120℃)と組み単位で比較され、複数のヒステリシス比較器出力T
aboveM3_Ti(T
aboveM30℃,T
aboveM20℃,…T
aboveM110℃,T
aboveM120℃)の結果を得る。
【0044】
複数のヒステリシス比較器出力TaboveM3_Tiは、最も高いロジックHI入力に基づいて符号化された16個のメモリ位置から優先順位を選択するアレイベースのメモリセル315(選択0、選択1、...選択14、選択15)に接続される。アレイベースのメモリセル315は、16個のレジスタを持ち、各レジスタは、MTJ検知回路100の所望のアナログバイアス電圧Vbiasをデジタル的に表している。
【0045】
図12は、16個のデジタルコードを10℃ごとに変化する温度センサ回路301用の電圧基準V
Ref_Tiに変換するDACを示す。レジスタと温度サブ範囲の正確な数は調整可能で、必要な温度補償の分解能に依存する。
【0046】
代替構成では、一対の比較器312は、10℃の温度スパン(範囲)を表示領域にしている。一対の比較器312は、表示領域のスパンが計測温度に基づいて、異なる温度位置に動かされるように配置してよい。このような構成では、必要とされる任意の数の温度部分範囲に対して、2つの比較器312のみが必要である。
【0047】
図13は、室温RT、125℃及び-20℃で、線形部分において計測されたMTJ検知回路100の応答曲線を示し、ここではバイアス電圧V
biasは温度によって変調されていない。
【0048】
図14は、室温RT、125℃、55℃、85℃、-10℃、及び-20℃で線形部分において計測されたMTJ検知回路100の応答曲線を示し、ここではバイアス電圧V
biasは、本明細書に開示される方法に従って温度によって変調されている。
図8は、MTJ検知回路100及び本明細書に開示される方法を用いて観察される感度の温度補償挙動において顕著な改善を示す。
【0049】
本発明は、上述した例示的な実施形態に限定されるものではなく、他の実施例も特許請求の範囲の範囲内で可能であることが理解される。
【0050】
例えば、予測可能な温度係数を有する他のタイプのセンサに対して同様の温度補正を実行すべく、本発明の方法を使用できる。
【符号の説明】
【0051】
10 MTJ検知素子
100 MTJ検知回路
101 入力部
102 出力
2 磁気トンネル接合
21 センス強磁性層
210 センス磁化
22 トンネル障壁層
23 ピン止め強磁性層
230 ピン止め磁化
250 検知軸
30 補正温度信号
300 補正回路
301 温度センサ
302 バイアス電圧制御回路
303 アナログフロントエンド増幅器
311 比較器
312 比較器(複数)
315 アレイベースのメモリセル
H 外部磁場
LP 線形部分
T 温度
Vbias バイアス電圧
Vbias(T) 変調バイアス電圧
Vout 出力電圧
VRef 電圧基準
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁場を計測するMTJ検知回路であって、
前記MTJ検知回路は、ブリッジ構成内で接続されている複数のMTJセンサ素子を備え、
前記MTJ検知回路は、バイアス電圧を入力して、そしてバイアス電圧とMTJ検知回路のゲイン感度を乗じて、外部磁場に比例する出力電圧を生成する入力部を持ち、ここにおいてゲイン感度と出力電圧は温度によって変化するものであり、
前記MTJ検知回路が、出力電圧が温度の関数として実質的に一定になるように、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成さた温度補償回路をさらに備え
、
前記温度補償回路は、複数の基準電圧を生成するように構成されていて、各基準電圧は、温度範囲の温度サブ範囲に対応し、
前記温度補償回路は、温度依存の絶対温度比例(PTAT)電流が複数のサブ範囲抵抗で強制されるときに、サブ範囲抵抗器ごとに温度依存電圧を生成するように構成された複数のサブ範囲抵抗をさらに備え、
前記温度補償回路は、複数の固定電圧基準に温度依存電圧を比較するように構成された複数の比較器をさらに備え、各比較器はヒステリシス比較器出力を生成し、
前記温度補償回路は、複数のレジスタを有するアレイベースのメモリセルをさらに備え、各レジスタは、温度サブ範囲の1つに対応するバイアス電圧を表し、アレイベースのメモリセルは、ヒステリシス比較器出力に応じてレジスタの1つを選択するように設定されている、
前記MTJ検知回路。
【請求項2】
前記温度補償回路は、前記温度範囲にわたって前記ゲイン感度を計測するように構成された温度センサ回路を備える、請求項
1に記載のMTJ検知回路。
【請求項3】
各温度サブ範囲の温度スパンは約10℃である、請求項
1に記載のMTJ検知回路。
【請求項4】
前記温度範囲は-40℃から125℃まで及ぶ、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項5】
前記温度サブ範囲は、25℃未満の温度サブ範囲と25℃以上の温度サブ範囲とを備える、請求項1に記載のMTJ検知回路。
【請求項6】
MTJ検知回路の出力電圧を補償する方法であって、
前記MTJ検知回路は、ブリッジ構成内で接続されている複数のMTJセンサ素子を備え、
前記MTJ検知回路は、バイアス電圧を入力して、そして前記バイアス電圧とMTJ検知回路のゲイン感度とを乗じて外部磁界に比例した出力電圧を生成する入力を備え、ここにおいて前記ゲイン感度と前記出力電圧は温度によって変化し、
前記MTJ検知回路は、ある温度範囲にわたって温度の関数として変化する変調バイアス電圧を提供するように構成された温度補償回路をさらに備え、
前記温度補償回路は、PTAT電流を流すように構成された複数のサブ範囲抵抗と、複数の比較器と、複数のレジスタを有するアレイベースのメモリセルとをさらに備え、各レジスタは、温度サブ範囲の1つに対応するバイアス電圧を表し、
前記方法が、
前記MTJ検知回路の温度を計測するステップと、
変調されたバイアス電圧にゲイン感度を乗じた値が一定になるようにバイアス電圧を温度で変調するように、温度補償回路を使うステップと
、
前記温度補償回路を用いて、複数の基準電圧を生成するべく前記温度補償回路を用いるステップであって、各基準電圧は、温度範囲の温度サブ範囲に対応する、前記温度補償回路を用いるステップと、
複数の部分範囲抵抗器にPTAT電流を強制することによってサブ範囲抵抗器ごとに温度依存電圧を生成するステップと、
複数の比較器を使用して、温度依存電圧を複数の固定電圧基準と比較すべく、複数の比較器を使用するステップと、
各比較器のヒステリシス比較器出力を生成するステップと、
ヒステリシス比較器出力に応じてレジスタの1つを選択すべく、アレイベースのメモリセルを使用するステップと
を備える、前記方法。
【国際調査報告】