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特表2023-516153子宮頸部細胞異常の治療に使用するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】子宮頸部細胞異常の治療に使用するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/04 20060101AFI20230411BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230411BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K33/04
A61K9/06
A61K9/107
A61K9/10
A61K9/48
A61P15/02
A61K47/12
A61K47/04
A61K9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022551024
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 EP2021055230
(87)【国際公開番号】W WO2021175877
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】20160817.1
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513208135
【氏名又は名称】セロ メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】SELO MEDICAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】フィッツ、 ノルベルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA53
4C076BB30
4C076CC17
4C076DD22
4C076DD29
4C076DD41
4C076DD43
4C076EE32
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA08
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA22
4C086MA31
4C086MA37
4C086MA43
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA81
(57)【要約】
本発明は、女性患者における子宮頸部細胞異常の進行を減少させるのに使用するための、セレン含有化合物と、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、フルーツ酸およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容される酸とを含有する医薬組成物であって、患者が少なくとも子宮頸部の領域においてp16陽性およびKi-67陽性である医薬組成物を提供する。組成物は、膣内に適用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
女性患者における子宮頸部細胞異常の進行を低減するのに使用するための、セレン含有化合物と、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、フルーツ酸およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容される酸とを含有する医薬組成物であって、患者が、少なくとも子宮頸部の領域においてp16陽性およびKi-67陽性であり、組成物が膣内に適用される組成物。
【請求項2】
前記子宮頸部細胞異常がASC-US、ASC-H、AGC、LSILおよびHSILから、好ましくはASC-US、ASC-H、AGCおよびLSILから、より好ましくはASC-US、ASC-HおよびAGCから、さらにより好ましくはASC-USおよびASC-Hから、特にASC-USから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
患者が前記領域においてp16陰性、好ましくはp16陰性およびKi-67陰性になるまで適用される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
総セレン含有量が、組成物5ml当たり0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらにより好ましくは0.10mg~0.50mg、さらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgであり;および/または総セレン用量が、適用当たり0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらにより好ましくは0.10mg~0.50mg、さらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgである、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が、少なくとも1日1回、好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間適用され、任意選択的に、前記適用が、前記患者の月経中に中断される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が1日1回適用され、場合により、前記適用が、前記患者の月経中に中断される、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記適用が前記患者の月経中に中断される;および/または、前記適用が治療後少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間の治療の後、少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間中断され、任意選択で、前記適用が前記患者の月経中に中断される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
子宮頸細胞異常の進行が、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化、ASC-USからHSILへの変化、ASC-HからAGCへの変化、ASC-HからLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、AGCからHSILへの変化およびLSILからHSILへの変化、の少なくとも1つ、好ましくは、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、ASC-HからAGCへの変化、ASC-HからのLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、の少なくとも1つ、より好ましくは、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化およびASC-USからHSILへの変化、の少なくとも1つ、特にASC-USからASC-Hへの変化およびASC-USからLSILへの変化、の少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が、ゲル、懸濁液、エマルジョン、ゼラチンカプセルまたはゼラチンを含まないカプセルなどの坐剤、噴霧または粉末の形態で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が、二酸化ケイ素、好ましくは高分散二酸化ケイ素をさらに含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物が、7.0未満、好ましくは5.0未満、特に4.0~2.5のpHを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
薬学的に許容される酸がクエン酸である、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記セレン含有化合物が亜セレン酸ナトリウムである、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
患者の子宮頸部の前記領域、好ましくは子宮頸部全体の前記領域のヒトパピローマウイルス(HPV)感染状態が未知であるかまたは決定されていない;または子宮頸部の前記領域、好ましくは子宮頸部全体の前記領域がHPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58から選択されるいずれのHPVにも感染しておらず、好ましくはいずれのHPVにも感染していない、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記患者が癌、及び/又はHPV感染以外の慢性ウイルス疾患、もしくは慢性ウイルス疾患を有さず、及び/又は前記患者が免疫抑制されていない、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮頸部細胞異常の治療に使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸部スメアスクリーニング(Pap検査またはPapスメアとしても知られる)は、女性患者の子宮頸部における潜在的な前癌性および癌性プロセスを検出するために広く使用されている技法である。典型的には、子宮頸部細胞異常がベセスダシステムに従って分類される(Nayar R, Wilbur D. The Bethesda System for Reporting Cervical Cytology, Definitions, Criteria, and Explanatory Notes.Springer; 2015(非特許文献1)を参照されたい)。そのような異常には、特に、重大さが未確定の非定型扁平上皮細胞(ASC-US)、非定型扁平上皮細胞であってHSILを除外できない(ASC-H)、非定型腺細胞(AGC)、低悪性度扁平上皮内病変(LSIL)および、特に高悪性度扁平上皮内病変(HSIL)が含まれる。これらの異常は改善され得るが、経時的に悪化し得ることが知られている。これに関連して、寛解は異常な細胞学的スメア所見からの完全な回復として定義され、退縮は細胞学的スメア所見の改善(例えば、HSILからLSILもしくはASC-USへ、またはLSILからASC-USへ)として定義され、持続は細胞学的スメア所見の変化がないこととして定義され、進行は細胞学的スメア所見の悪化(例えば、ASC-USからASC-HもしくはLSILへ、またはASC-HからLSILもしくはLSILからHSILへ)として定義される。
【0003】
子宮頸部細胞の異常の重症度に応じて、またしばしば、異常が寛解するか、または自然に退縮するか(または対照的に、持続するか、またはさらに進行するか)を評価するための「注意深い経過観察」期間の後に、一般的な治療ガイドラインに従って外科的介入が推奨される。典型的な手技には、円錐形切除、凍結療法、ループ電気外科切除手技(LEEP)、または頸部変態帯の大ループ切除(LLETZ)が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nayar R, Wilbur D. The Bethesda System for Reporting Cervical Cytology, Definitions, Criteria, and Explanatory Notes.Springer; 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
任意の外科的介入は特定の健康リスクを与えるので、手術の必要性を減少させるために、またはそのような介入が依然として必要である場合には、少なくとも手術の侵襲性を減少させるために、子宮頸部細胞異常の進行速度を減少させるための非外科的介入が必要である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、子宮頸部細胞異常の進行速度を低減する非外科的治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はセレン酸塩含有化合物と、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、果実酸(例えば、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸およびフマル酸、特にクエン酸)およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容される酸とを含有する医薬組成物に関する。組成物は、女性患者における子宮頸部細胞異常(典型的には子宮頸部スメアスクリーニングによって決定される)の進行を低減するのに使用するためのものである。組成物は、膣内で患者に適用される。特に好ましい実施形態では、患者が少なくとも子宮頸部の領域においてp16陽性およびKi-67陽性(すなわち、p16/Ki-67二重陽性)であり、および/または子宮頸部細胞異常の少なくとも一部分は、p16陽性およびKi-67陽性(すなわち、p16/Ki-67二重陽性)である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】検診時と第3回来院時の子宮頸部スメア標本の違いを示す図である。 中間解析では、非処置対照群と比較して、本発明の処置で治療した実施群では、進行率が大幅に低下した(実施群で0.0%、対照群で20.7%)。「健診時」:患者の初回スクリーニング時、「第3回来院時」:1日1回の治療で3×28日間後。
図2】検診時と第4回来院時の子宮頸部スメア標本の違いを示す図である。非処置対照群と比較して、本発明の処置で治療された実施群では、処置が終わってから数ヶ月後でさえ、進行速度は強く減少したままであった(実施群で1.9%、対照群で19.3%)。「健診時」:患者の最初のスクリーニング時、「第4回来院時」:最初の健診後6ヶ月。
図3】p16/Ki-67の状態の改善を示す図である。p16/Ki-67二重株陽性からのはるかに大きな寛解速度が、本発明の処置で療法された実施群において、処置が終了した数ヶ月後でさえも観察された。「p16/Ki-67 -」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陰性。「p16/Ki-67 +」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陽性。
図4A】ベースラインにおいて、p16/Ki-67陰性であった患者(図4A)とベースラインにおいて、p16/Ki-67陽性であった患者(図4B)との比較を示す図である。両群の患者はp16/Ki-67状態に関しても、すなわち、p16/Ki-67陰性である状態を維持することによって、または状態をp16/Ki-67陰性に戻すことによって、本発明の治療により有益であった。驚くべきことに、ベースラインにおいてp16/Ki-67陽性であった患者群(図4B)について、本発明の治療が観察期間中にp16/Ki-67状態に関して有益性を達成した患者の割合は、それぞれの実施群をそれぞれの対照群と比較した場合、はるかに大きかった。「p16/Ki-67 -」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陰性。「p16/Ki-67 +」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陽性。
図4B】ベースラインにおいて、p16/Ki-67陰性であった患者(図4A)とベースラインにおいて、p16/Ki-67陽性であった患者(図4B)との比較を示す図である。両群の患者はp16/Ki-67状態に関しても、すなわち、p16/Ki-67陰性である状態を維持することによって、または状態をp16/Ki-67陰性に戻すことによって、本発明の治療により有益であった。驚くべきことに、ベースラインにおいてp16/Ki-67陽性であった患者群(図4B)について、本発明の治療が観察期間中にp16/Ki-67状態に関して有益性を達成した患者の割合は、それぞれの実施群をそれぞれの対照群と比較した場合、はるかに大きかった。「p16/Ki-67 -」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陰性。「p16/Ki-67 +」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)で測定して陽性。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の過程において、驚くべきことに、医薬組成物は、子宮頸部細胞異常の寛解および退縮を増加させるのに有効であるだけでなく、子宮頸部細胞異常の進行を著しく減少させるのにも有効であることが見出された。これは、対照臨床試験によって確認された(実施例2を参照されたい)。
【0010】
薬学的組成物は他の治療適応症に対する使用のために以前に開示されたが、これらの開示は本発明を予想または示唆しないものである。
US2003/0180387A1は、セレン含有水溶液の抗酸化能を増加させるための方法に関する。セレンの薬学的に投与可能なまたは食品適合性の形態、すなわち、セレン酸、およびクエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、様々なフルーツ酸およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容されるまたは食品適合性の酸を含む調製物は、多くの他の適応症の中でも、単純ヘルペス感染を予防または治療するために使用され得ることが開示される。しかしながら、この文献は、膣内適用も、標的器官が子宮頸部であることも、本発明の治療適応症も開示していない。
【0011】
US2005/0048134A1は、局所投与または口腔投与されるセレン酸塩含有化合物の使用に関する。特に生殖器領域におけるパピローマウイルスによる感染の治療または予防は、多くの適応症の1つとして開示されている。しかしながら、この文献は、膣内適用も、標的器官が子宮頸部であることも、本発明の治療適応症も開示していない。
【0012】
US2013/0323328A1(WO2012/109685A1としても公開されている)は、子宮頸部異形成または癌腫を治療するための、セレン酸塩またはセレン酸塩含有化合物を含有する医薬製剤に関する。しかしながら、この文献は、少なくとも本発明の治療適応症に関しては記載されていない。
【0013】
本発明の特に好ましい実施形態において、治療される子宮頸部細胞異常はASC-US、ASC-H、AGC、LSILおよびHSILから、好ましくはASC-US、ASC-H、AGCおよびLSILから、より好ましくはASC-US、ASC-HおよびAGCから、さらにより好ましくはASC-USおよびASC-Hから、特にASC-USから選択され、全てベセスダシステムに従う(上記の説明および書籍も参照されたい)。
【0014】
実施形態において、患者はASC-US、ASC-H、AGC、LSILおよびHSILから、好ましくはASC-US、ASC-H、AGCおよびLSILから、より好ましくはASC-US、ASC-HおよびAGCから、さらにより好ましくはASC-USおよびASC-Hから、特にASC-USから選択される子宮頸部細胞異常を有し、特に子宮頸部スメアスクリーニング(特に子宮頸部の前記領域の)によって決定される。
【0015】
好ましい態様によれば、前記子宮頸細胞異常の進行は、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化、ASC-USからHSILへの変化、ASC-HからAGCへの変化、ASC-HからLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、AGCからLSILへの変化、AGCからHSILへの変化およびLSILからHSILへの変化、の少なくとも1つ、好ましくは、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、ASC-HからAGCへの変化、ASC-HからのLSILへの変化、ASC-HからHSILへの変化、の少なくとも1つ、より好ましくは、ASC-USからASC-Hへの変化、ASC-USからAGCへの変化、ASC-USからLSILへの変化およびASC-USからHSILへの変化、の少なくとも1つ、特にASC-USからASC-Hへの変化およびASC-USからLSILへの変化、の少なくとも1つを含む(または、上記のように規定される)。好ましくは、このような変化は、例えば本発明の処理を開始する際に実施され得る初期スクリーニング後、少なくとも30日、好ましくは少なくとも60日、より好ましくは少なくとも90日、さらにより好ましくは少なくとも120日、さらにより好ましくは少なくとも150日またはさらに少なくとも180日経過した後に決定される。
【0016】
本発明の文脈において、進行を減少させることは、寛解を増加させることおよび退縮を増加させることを含まないと定義される。
【0017】
p16(p16INK4aまたはサイクリン依存性キナーゼインヒビター2Aとしても知られる)は、ヒトにおいてCDKN2A遺伝子によってコードされる蛋白質である。p16の過剰発現は、子宮頸癌リスク増加のバイオマーカーである。Ki-67(KI-67またはMKI67としても知られる)は、ヒトにおけるMKI67遺伝子によってコードされるタンパク質である。Ki-67は、細胞増殖のバイオマーカーである。これらのバイオマーカーの両方を、例えば、細胞学的アッセイとして承認された(例えば、「子宮頚部の腺病変の細胞学的診断のためのツールとしてのCINtec(登録商標) PLUS免疫細胞化学」、Ravarino,Aら(2012)、American Journal of Clinical Pathology,138(5),652-656を参照されたい)、市販のCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche、スイス国)を用いて試験することができる。p16/Ki‐67 dual‐stainingはまた、「ヨーロッパの可能性のある、または軽度の異常なPapanicolaou細胞診研究から得られるASCUSおよびLSIL Papanicolaou細胞診のトリアージにおけるp16/Ki‐67 dual‐stain細胞診:」、Schmidt,Dietmarら、Cancer cytology 119.3(2011):158-166に開示されている。
【0018】
本発明の過程において、本発明の治療は、それらがバイオマーカーp16およびKi-67と関連する場合、子宮頸部細胞異常の進行を低減するのに特に有効であることが見出された。したがって、本発明の好ましい実施形態において、患者は少なくとも子宮頸部の領域において、p16陽性、好ましくはp16陽性およびKi-67陽性である(および/または子宮頸部細胞異常の少なくとも一部分はp16陽性および/またはKi-67陽性である)。好ましくは、医薬組成物は患者が前記領域においてp16陰性、好ましくはp16陰性およびKi-67陰性になるまで(および/または子宮頸部細胞異常の少なくとも一部がp16陰性および/またはKi-67陰性になるまで)適用される。
【0019】
当業者は子宮頸部の領域(または細胞異常の少なくとも一部)がp16陽性であるかどうかを、例えば、その領域で生検を実施し、当技術分野で公知のp16アッセイ(免疫細胞化学アッセイなど)を使用することによって評価する方法を知っている。好ましくは子宮頸部の領域から得られた生検試料が少なくとも1つの細胞、好ましくは少なくとも2つの隣接細胞、より好ましくは少なくとも3つの隣接細胞、さらにより好ましくは少なくとも5つの隣接細胞、特に少なくとも10個の隣接細胞が、生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較してp16を過剰発現する場合、p16陽性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。逆に、そのような生検試料は、好ましくは生検試料中の健康な対照組織、例えば健康な各細胞と比較して、10個未満の各細胞、好ましくは5個未満の各細胞、より好ましくは3個未満の各細胞、さらにより好ましくは2個未満の細胞、特にいかなる細胞もp16を過剰発現しない場合、p16陰性と定義される。
【0020】
さらに、当業者はまた、子宮頸部の領域(または細胞異常の少なくとも一部)がKi-67陽性であるかどうかを、例えば、当該領域において生検を実施し、当技術分野において公知のKi-67アッセイ(例えば、免疫細胞化学アッセイ)を使用することによって評価する方法を知っている。好ましくは子宮頸部の領域から得られた生検試料が少なくとも1つの細胞、好ましくは少なくとも2つの隣接細胞、より好ましくは少なくとも3つの隣接細胞、さらにより好ましくは少なくとも5つの隣接細胞、特に少なくとも10個の隣接細胞が生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較して、Ki-67を過剰発現する場合、Ki-67陽性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。逆に、そのような生検試料は好ましくは10個未満の隣接細胞、好ましくは5個未満の隣接細胞、より好ましくは3個未満の隣接細胞、さらにより好ましくは2個未満の細胞、特にいかなる細胞も、生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較してKi-67を過剰発現しない場合、Ki-67陰性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。
【0021】
特に好ましくは、「p16陽性およびKi-67陽性」が特にCINtec(登録商標)PLUS解釈ガイド(Roche,2016)に開示されているように、確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche,スイス国)における陽性結果として定義される。この解釈ガイドでは、陽性の結果が少なくとも1つの二重染色子宮頸部上皮細胞(細胞質染色は褐色(p16)であり、核染色は赤色(Ki-67)である)の存在として定義される。
【0022】
本発明の過程において、本発明の組成物は、驚くほど低濃度のセレンで既に有効であることが判明した。したがって、さらに好ましい態様において、医薬組成物の総セレン含有量は、組成物5ml当たり0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらに好ましくは0.10mg~0.50mg、さらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgである。「総セレン含有量」は、セレンが組成物中に元素セレンとして存在しなければならないことを意味しないことは明らかである。例として、組成物5ml当たり唯一のセレン含有化合物として0.83mgの亜セレン酸ナトリウムは、5ml当たり0.25mgの総セレン含有量(「セレン当量含有量」)に対応する。
【0023】
また、1回の適用あたりのセレン用量は低く、依然として有効であり得ることが見出された。さらに好ましい実施形態によれば、総セレン用量は、適用あたり0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらにより好ましくは0.10mg~0.50mg、さらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgである。「総セレン用量」は、セレンが用量中に元素セレンとして存在しなければならないことを意味しないことは明らかである。例として、適用される用量単位の唯一のセレン含有化合物としての0.83mgの亜セレン酸ナトリウムは、適用あたり0.25mgの総セレン用量(「セレン当量用量」)に対応する。
【0024】
有効性を高めるために、医薬組成物は、少なくとも1日1回、好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間適用されることが好ましい。
【0025】
1日1回のみの組成物の適用が、有効性を達成するのに適していることが判明している。これは1日あたり数回の適用と比較して副作用のリスクをさらに低減するので、さらなる好ましい実施形態は組成物が1日あたり1回、好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間適用される、使用のための本発明の医薬組成物に関する。
【0026】
医薬的組成物の適用は、患者の月経中に中断され得る。
【0027】
本発明による使用のための医薬組成物は、さらなる適切な成分および/または薬学的に許容される賦形剤をさらに含有する可能性がある。
【0028】
好ましくは、本発明による使用のための医薬組成物は、亜セレン酸ナトリウムの形態のセレン酸塩(大部分が40℃で結晶水を放出し始める五水和物化合物として存在する)を含有する。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施形態では、組成物が組成物100g当たり、1mg~10gの酸、より好ましくは10mg~5gの酸、特に100mg~lgの酸の合計量で、1つ以上の酸を含有する(特に、酸がその固体形態で添加される場合)。あるいは、酸はその液体形態で(例えば、水と共に、すなわち、水溶液として)添加することもできる。場合によりさらなる成分を含有する水および水溶液はそれぞれ、本発明による組成物に、組成物100g当たり0~(約)99.9g、好ましくは50~99g、特に80~98gの量で添加することができる。
【0030】
さらに好ましい実施形態によれば、組成物は、ゲル、懸濁液、エマルジョン、ゼラチンカプセルまたはゼラチンを含まないカプセルなどの坐剤、噴霧または粉末の形態で存在する。
【0031】
ゲルの形態で存在する場合、本発明による使用のための医薬組成物は、好ましくはゲル化剤を含有する。無機性および有機性水性ゲル化剤の両方を、ゲル化剤として使用することができる。特に好適なゲル化剤は、セルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、および特にヒドロキシエチルセルロースである。好ましくはゲル化剤、特にヒドロキシエチルセルロースは、組成物100g当たり0.1g~30g、より好ましくは0.5g~5g、特に1g~3gの総濃度で使用される。
【0032】
本発明による使用のための組成物のさらに特に好ましい実施形態は、特に組成物がゲルの形態で存在する場合、二酸化ケイ素、特に高度に分散された二酸化ケイ素を、例えば国際公開第2001/85852 A1号公報に従って、技術的懸濁媒体として、および/または吸着剤として含有する。好ましくは、組成物100g当たり100mg~50g、より好ましくは500mg~10g、特に1g~5gの量のSiOが使用される。
【0033】
本発明による使用のための組成物は、好ましくは7.0未満、より好ましくは5.0未満、特に4.0~2.5のpH値を有する。
【0034】
有利には、組成物がさらなる賦形剤および/またはさらなる活性成分、特に緩衝物質、着色剤、安定剤、防腐剤、担体物質またはそれらの組み合わせを含有し得る。保存剤の好ましい例は、ソルビン酸カリウムおよび安息香酸ナトリウムである。
【0035】
さらに、組成物は、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、疼痛阻害剤、抗炎症剤、またはそれらの組み合わせなどのさらなる活性剤をさらに含んでもよい。
【0036】
本発明はまた、女性患者(好ましくは、患者が少なくとも子宮頸部の領域においてp16陽性およびKi-67陽性である)における子宮頸部細胞異常の進行を低減するための方法であって、
-本明細書で定義される医薬組成物を得ること;および
-有効量の組成物を患者に投与することであって、組成物が膣内に適用されること
を含む、投与方法に関する。
【0037】
典型的には、患者が本発明の治療を必要としている。
【0038】
特に好ましくは患者の子宮頸部、好ましくは子宮頸部全体の前記領域のヒトパピローマウイルス(HPV)感染状態が未知であるか、または決定されない。加えて、または代わりに、子宮頸部の前記領域、好ましくは子宮頸部全体は、好ましくはHPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58から選択されるいずれのHPVにも感染していない(好ましくは5つのいずれにも感染していない)。
【0039】
HPV感染は、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58のゲノム配列が知られているので、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または子宮頸部スメアなどの生検試料の転写媒介増幅(TMA)アッセイ、または公知の他の方法により、特異的に検出されうる。これらのHPV型のゲノム配列は例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)GenBankに、以下のアクセッション番号で公開されている:K02718.1(HPV16)、X05015.1(HPV18)、J04353.1(HPV31)、M12732.1(HPV33)およびD90400.1(HPV58)。
【0040】
本明細書において、本発明の治療を受ける患者は、好ましくは20歳よりも上で、好ましくは30歳よりも上で、さらにより好ましくは40歳よりも上で、さらにより好ましくは50歳よりも上である。患者はヒトである。
【0041】
本発明の治療は、免疫抑制患者においてそれほど効率的ではないことが見出されている。したがって、患者は、好ましくは免疫抑制されない。加えて、または代わりに、患者は、好ましくは癌および/または慢性ウイルス疾患(またはHPV感染以外の慢性ウイルス疾患)を有さない。
【0042】
本明細書において、遺伝子(産物)Aに関して「過剰発現する」または類似する用語は、典型的には例えば、生検試料中のAの発現レベル(例えば、ウェスタンブロットまたは免疫組織化学または免疫組織化学によって測定される)が、適切な対照(同じタイプの健康な組織など)の発現レベルよりも、少なくとも1.2倍(すなわち、少なくとも20%の増加)、好ましくは少なくとも1.4倍、より好ましくは少なくとも1.6倍、さらにより好ましくは少なくとも1.8倍、特に少なくとも2.0倍高いことを意味し得る。
【0043】
本発明は以下の図面および実施例によってさらに説明されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
<子宮頸部細胞異常の進行を減少させるのに使用される医薬組成物>
組成物は、以下の成分(ゲル5ml当たり)を有する水性膣ゲルである:
高分散二酸化ケイ素 10.00mg
クエン酸 24.80mg
亜セレン酸ナトリウム 0.83mg
(セレン換算0.25mg相当)
安息香酸ナトリウム 2.50mg
ソルビン酸カリウム 5.00mg
ヒドロキシエチルセルロース 100.00mg
水 (最大5ml)
【実施例2】
【0045】
<対照臨床試験>
本試験は実施例1の組成物による1日1回の治療(女性患者、年齢25~60歳、慢性ウイルス疾患なし、癌および免疫抑制治療なし)の3×28日の対照群無作為化非盲検多施設試験であった。毎日の膣内に適用される用量は、組成物5mlであった。
【0046】
被験者は3施設で募集された。子宮頸部スメア標本を、当技術分野で公知の標準的な手順に従って収集し、SurePath(登録商標)(Becton&Dickinson)と呼ばれる特定の液体環境中で保存し、Bethesda分類に従って評価した。試料を、CINtec(登録商標)PLUS細胞診キット(Roche,スイス国)でさらに分析した。
【0047】
中間解析は、患者の約50%(N=111;群当たり50%評価可能)が試験において約3ヶ月後に実施された(図1参照)。試験終了時、治療終了3ヵ月後に、より多くの患者群による最終評価を実施した(図2および3参照)。
【0048】
<結果>
評価されたデータは、全ての測定されたパラメータについて、実施群の患者における明らかに改善された結果を実証する。わずかな有害事象のみが報告された。
【0049】
非処置対照群と比較して、進行率は、本発明の治療で処置された実施群において強く低下し(図1、実施群における0.0%対対照群における20.7%を参照)、処置が終了した後も、強く低下したままであった(図2、実施群における1.9%対対照群における19.3%を参照)。
【0050】
さらに、非処置対照群と比較して、p16/Ki-67二重染色陽性からのはるかに大きな寛解率が、本発明の治療で処置された実施群において観察された(図3を参照)。
【0051】
さらに、ベースライン時にp16/Ki-67陽性であった患者群では、観察期間中に本発明の治療がp16/Ki-67の状態に関して有益性を達成した患者の割合が、特に大きく(図4Aおよび4B参照)、これは驚くべきことであった。
【0052】
これらの結果は、本明細書に記載の治療適応症に対する組成物の例外的な適合性を実証するものである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
【国際調査報告】