(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-18
(54)【発明の名称】細胞間および細胞内の近接性に基づく標識化の組成物およびシステム
(51)【国際特許分類】
C07F 15/00 20060101AFI20230411BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20230411BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230411BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20230411BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20230411BHJP
G01N 33/58 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
C07F15/00 E
A61K51/04 200
G01N27/62 V
G01N33/68
C07D401/04
G01N33/58 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551267
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-17
(86)【国際出願番号】 US2021019959
(87)【国際公開番号】W WO2021174035
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518148685
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】トローブリッジ、 アーロン
(72)【発明者】
【氏名】シース、 シアラン
(72)【発明者】
【氏名】マクミラン、 デビッド ダブリュー.シー.
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4C063
4C085
4H050
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA10
2G041JA02
2G041JA04
2G041KA01
2G041LA07
2G045DA36
2G045FB03
4C063AA03
4C063BB09
4C063CC19
4C063DD12
4C063EE01
4C085HH03
4C085KA03
4C085KA28
4C085KB07
4C085KB56
4C085LL20
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050AB99
(57)【要約】
一側面では遷移金属錯体が記載され、これは、細胞内および細胞間環境においてタンパク質を含む様々な生体分子種の近接性に基づく標識化に有利な寿命と拡散半径を有する反応性標識化中間体を生成するための組成と電子構造を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iの遷移金属錯体であって、
【化1】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である、
遷移金属錯体。
【請求項2】
Mが白金族金属である、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項3】
Mがイリジウムである、請求項2に記載の遷移金属錯体。
【請求項4】
電磁スペクトルの可視領域に吸収スペクトルを有する、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項5】
R
2が生体分子をカップリングするための部分を含むように選択される、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項6】
R
2がクリックケミストリー部分である、請求項5に記載の遷移金属錯体。
【請求項7】
前記クリックケミストリー部分が、BCN、DBCO、TCO、テトラジン、アルキン、およびアジドからなる群から選択される、請求項6に記載の遷移金属錯体。
【請求項8】
前記生体分子が抗体である、請求項7に記載の遷移金属錯体。
【請求項9】
前記遷移金属錯体が細胞透過性である、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項10】
純水中の0.2% DMSOにおける水溶性が1μM~150μmである、請求項1に記載の遷移金属錯体。
【請求項11】
生体分子結合剤にカップリングされた遷移金属錯体を含むコンジュゲートであって、前記生体分子結合剤にカップリングされる前の遷移金属錯体は、下記式Iで表されるものであり、
【化2】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である、
コンジュゲート。
【請求項12】
前記遷移金属錯体と生体分子結合剤がクリックケミストリーを介してカップリングされている、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項13】
Mが白金族金属である、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項14】
前記遷移金属錯体が電磁スペクトルの可視領域に吸収スペクトルを有する、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項15】
前記コンジュゲートが細胞透過性である、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項16】
純水中の0.2% DMSOにおける水溶性が1μM~150μmである、請求項11に記載のコンジュゲート。
【請求項17】
タンパク質標識剤と、
遷移金属触媒と
を含む、近接性標識化のためのシステムであって、
前記遷移金属触媒は、前記タンパク質標識剤への電子移動を可能にして反応性中間体を提供する電子構造を有し、前記遷移金属触媒は下記式Iで表されるものであり、
【化3】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である、
システム。
【請求項18】
前記電子移動が前記触媒の電子構造の励起状態に起因する、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記電子移動が前記触媒の電子構造の三重項状態に起因する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記反応性中間体の拡散半径が1~500 nmである、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記拡散半径が1~10 nmである、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記遷移金属触媒が生体分子結合剤にカップリングされている、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記生体分子結合剤が、ペプチド、タンパク質、糖、低分子、または核酸を含む、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記遷移金属錯体と生体分子結合剤がクリックケミストリーを介してカップリングされている、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記タンパク質標識剤がジアジリンである、請求項17に記載のシステム。
【請求項26】
前記ジアジリンが分子マーカーを含む、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記反応性中間体がカルベンである、請求項25に記載のシステム。
【請求項28】
前記遷移金属触媒が細胞透過性である、請求項22に記載のシステム。
【請求項29】
近接性標識化の方法であって、
タンパク質標識剤と、生体分子結合剤にカップリングされた遷移金属触媒を含むコンジュゲートとを提供すること;
前記遷移金属触媒により前記タンパク質標識剤を反応性中間体へと活性化すること;および
前記反応性中間体を細胞環境中のタンパク質にカップリングすること
を含み、ここで、前記遷移金属錯体は下記式Iで表されるものであり、
【化4】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ3、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である、
方法。
【請求項30】
前記タンパク質標識剤を活性化することは、前記遷移金属触媒から前記タンパク質標識剤への電子移動を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記電子移動は前記触媒の電子構造の励起状態に起因する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記励起状態が三重項状態である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記三重項状態のエネルギー状態が少なくとも60 kcal/molである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
タンパク質標識剤がジアジリンである、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記ジアジリンはマーカーで官能化されている、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記反応性中間体の拡散半径が1~10 nmである、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記反応性中間体は前記拡散半径の外ではクエンチされ、前記拡散半径の外の生体分子との結合が妨げられる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記生体分子結合剤が、タンパク質、糖類、または核酸を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記生体分子結合剤が前記遷移金属錯体を細胞核の中にまたは細胞核に隣接して配置する、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記反応性中間体にカップリングされたタンパク質を検出または分析することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項41】
前記励起状態は、前記遷移金属触媒による光の吸収によって生成される、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記遷移金属錯体と生体分子結合剤がクリックケミストリーを介してカップリングされる、請求項29に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞環境が細胞内環境である、請求項29に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞環境が細胞間環境である、請求項29に記載の方法。
【請求項45】
前記生体分子結合剤は、銅の不在下で前記遷移金属触媒にカップリングされる、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、2020年2月27日出願の米国仮特許出願番号62/982,366および2020年9月10日出願の米国仮特許出願番号63/076,658に対し、特許協力条約第8条に基づく優先権を主張するものであり、これらのそれぞれは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の権利に関する声明
本発明は、National Institutes of HealthおよびNational Institute of General Medical Sciencesから授与された助成金No. 5R01GM103558-08の下で政府の支援を受けて行われた。政府はその発明に一定の権利を有している。
【0003】
本発明は、近接性(proximity)に基づく標識化(labeling)のための組成物、システム、および方法に関し、特に、細胞間および細胞内の近接性に基づく標識化のための遷移金属触媒に関する。
【背景技術】
【0004】
タンパク質近接性標識化は、タンパク質相互作用ネットワークをプロファイリングするための強力なアプローチとして登場した。付随するタンパク質またはバイスタンダータンパク質を近接性標識化によってラベリングする能力は、目的のタンパク質の細胞環境および生物学的役割をさらに理解する上で重要な意味を持つことができる。現在の近接性標識法はすべて、拡散または物理的接触を通じて、隣接するタンパク質を少数の選択されたアミノ酸残基上で標識化する酵素生成反応性中間体の使用が関わるものである。この技術の変革的なインパクトにもかかわらず、ペルオキシダーゼ活性化を介したフェノキシラジカル(t1/2 > 100μs)やビオチンリガーゼを介したビオチン-AMP(t1/2 > 60s)などのこれらの反応性中間体の固有の安定性は、それらの発生源から遠く離れた拡散を促進し得る。その結果、これらの酵素生成反応性中間体は、緊密なマイクロ環境内でのプロファイリングに課題をもたらす。さらに、大きな酵素サイズ、標識化について特定のアミノ酸への依存性、およびこれらの標識化システムを時間的に制御できないことは、限られた空間領域内でのプロファイリングにさらなる課題を提示する。これらの制限を考慮すると、近接性に基づく標識化の新しいアプローチが必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
一側面では遷移金属錯体が本明細書に記載され、これは、タンパク質を含む様々な生体分子種の近接性に基づく標識化に有利な寿命と拡散半径を有する反応性標識化中間体を生成するための組成と電子構造を有する。いくつかの実施形態において遷移金属触媒は、下記式Iで表されるものであり、
【化1】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である。
【0006】
本明細書においてさらに記述されるように、遷移金属錯体の極性は、R3~R7の選択を介して特定の細胞環境に合わせることができる。いくつかの実施形態では、例えば、R3~R7の1つ以上が、荷電したおよび/または極性の化学部分を介して親水性を示すように選択される。このような実施形態では、遷移金属錯体は、細胞間または細胞外の水性環境への配置に適した親水性を示すことができる。あるいは、R3~R7の1つ以上は、疎水性、親油性、または非極性の特性を示すように選択される。例えば、いくつかの実施形態では、R3~R7の1つ以上は、アルキル、フルオロ、またはフルオロアルキルであり得る。疎水性、親油性または非極性の特性を示す、本明細書に記載された遷移金属錯体は、細胞内環境への配置または通過のために適し得る。遷移金属複合体は、本明細書に記述されている原理に従って局所的細胞内環境をマッピングすることのために細胞膜を通過することができる。従って、このような遷移金属錯体は細胞透過性である。
【0007】
さらに、いくつかの実施形態では、遷移金属錯体は60 kcal/molを超える三重項エネルギー状態を有する。金属中心は、いくつかの実施形態において、白金族の遷移金属から選択され得る。例えば、金属中心はイリジウムであり得る。いくつかの実施形態では、式Iのnは1~20である。
【0008】
別の側面では、細胞膜上のタンパク質-タンパク質相互作用ならびに細胞内のタンパク質、核酸および/または他の生体分子相互作用を含め、様々な特徴を選択的に識別するために操作可能な微小環境マッピングプラットフォームを提供するための組成物および方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において組成物は、式Iの遷移金属触媒と、タンパク質標識剤とを含み、該遷移金属触媒が該タンパク質標識剤を反応性中間体へと活性化させる。式Iの遷移金属触媒は、いくつかの実施形態では、タンパク質標識剤へのエネルギー移動を可能にして反応性中間体を形成するための電子構造を有することができる。反応性中間体は、反応性中間体の拡散半径内のタンパク質または他の生体分子と反応あるいは架橋する。上記拡散半径内にタンパク質や他の生体分子がない場合、反応性中間体は周囲の環境によってクエンチされる。本明細書でさらに記述されるように、反応性中間体の拡散半径は特定の微小環境マッピングの考慮事項に合わせて調整することができ、ナノメートルスケールに限定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、拡散半径は10 nm未満または5 nm未満とすることができる。さらに、いくつかの実施形態では、反応性中間体は5 ns未満の半減期を有し得る。いくつかの実施形態では、タンパク質標識剤は、分析を助けるためのビオチンや発光マーカーなどの、マーカーで官能化され得る。触媒からタンパク質標識剤へのエネルギー移動は、デクスターエネルギー移動を含め、本明細書にさらに記述される様々な機序を介して起こり得る。
【0009】
別の側面では、近接性に基づく標識化システムで使用するためのコンジュゲートが本明細書に記述される。コンジュゲートは遷移金属錯体が生体分子結合剤にカップリングされたものを含み、ここで、生体分子結合剤にカップリングされる前の遷移金属錯体は上記の式Iで表されるものである。本明細書でさらに詳述されるように、生体分子結合剤は、近接性標識化および関連する分析のために遷移金属錯体を所望の細胞内または細胞間/細胞外環境に位置付けるために利用され得る。生体分子結合剤は、選択的結合を示して、細胞間/細胞外環境(細胞膜を含む)の近接性に基づく標識化および関連するマイクロマッピングのための所望の位置にコンジュゲートを導くことができる。あるいは、生体分子結合剤は、選択的結合を示して、様々なオルガネラ環境だけでなく核近辺の環境を含む、細胞内環境の近接性に基づく標識化および関連するマイクロマッピングのための所望の位置にコンジュゲートを導くことができる。生体分子結合剤は、例えば、ペプチド、タンパク質、糖、小分子、核酸、またはそれらの組み合わせを含むことができる。本明細書でさらに記述されるように、遷移金属錯体は、クリックケミストリーを含め、生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能基を含むことができる。いくつかの実施形態では、遷移金属錯体は銅の非存在下で生体分子結合剤にカップリングし得る。本明細書に記述されるコンジュゲートは、上記で詳述した細胞近接性に基づく標識化のためのシステムのためにタンパク質標識剤と共に使用され得る。
【0010】
さらなる側面では、近接性に基づく標識化の方法が本明細書に記述される。近接性に基づく標識化の方法は、式 (I) の遷移金属触媒を提供すること、および、この触媒を用いてタンパク質標識剤を反応性中間体へと活性化させることを含む。反応性中間体は、タンパク質にカップリングあるいは結合する。いくつかの実施形態では、タンパク質標識剤を伴ったタンパク質マッピングのための特定の環境に触媒を選択的に配置または標的指向化するために、遷移金属触媒は生体分子結合剤にカップリングされる。遷移金属触媒、コンジュゲート、およびタンパク質標識剤は、上記および以下の詳細な説明に記載された組成および/または特性を有することができる。
【0011】
これらおよびその他の実施形態は以下の詳細な説明においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、いくつかの実施形態に従った、本明細書に記載の遷移金属触媒を示す。
【
図2】
図2は、いくつかの実施形態に従った、本明細書に記載の遷移金属触媒およびコンジュゲートを示す。
【
図3】
図3は、いくつかの実施形態による、遷移金属触媒とJQ1生体分子結合剤とを含む細胞透過性コンジュゲートを示す。
【
図4】
図4は、いくつかの実施形態による、
図3の細胞透過性コンジュゲートを製造するための合成スキームを示している。
【
図5】
図5Aは、いくつかの実施形態による、本明細書に記載のコンジュゲートを用いた細胞間標識化のウェスタンブロットである。
図5Bは、
図5Aのウェスタンブロットのデンシトメトリー分析の結果を示している。
【
図6】
図6は、HeLa細胞におけるBRD4の時間依存性標識化の結果を示す。
【
図8】
図8は、
図3の細胞透過性コンジュゲートと
図7の非細胞透過性コンジュゲートとの間のBRD4標識化結果を示す。
【
図9】
図9は、いくつかの実施形態による、(-)-JQ1コンジュゲートの構造および(+)-JQ1コンジュゲートと比較したBRD4標識化を示す。
【
図10】
図10A~10Cは、いくつかの実施形態による、本明細書に記載されたコンジュゲートを用いた標的ブロモドメインタンパク質についての有意性対フォールド濃縮(fold enrichment)のボルケーノプロットを示す。
【
図11】
図11は、いくつかの実施形態に従った、本明細書に記載のコンジュゲートのための合成経路を示す。
【
図12】
図12は、いくつかの実施形態による、
図11の細胞透過性コンジュゲートを使用したMCF-7細胞における標的チューブリンタンパク質についての有意性対フォールド濃縮のボルケーノプロットを提供する。
【
図13】
図13は、いくつかの実施形態に従った、異なる時点での
図3のコンジュゲートによる細胞内標識化の共焦点顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書に記述される実施形態は、以下の詳細な説明ならびに実施例とその上記および後述の説明を参照することによって、より容易に理解することができる。しかしながら、本明細書で説明する要素、装置および方法は、詳細な説明および実施例で提示されている特定の実施形態に限定されない。これらの実施形態は、本発明の原理を例示しているにすぎないことが認識されるべきである。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく多数の修正および適応が当業者に容易に明らかになるであろう。
【0014】
[定義]
本明細書において単独または組み合わせで使用される「アルキル」という用語は、任意で1つ以上の置換基で置換される、直鎖または分岐の飽和炭化水素基を指す。例えば、アルキル基はC1-C30またはC1-C18であり得る。
【0015】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有し、任意で1つ以上の置換基で置換される、直鎖または分岐鎖の炭化水素基を指す。
【0016】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「アルキニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有し、任意で1つ以上の置換基で置換される、直鎖または分岐鎖の炭化水素基を指す。
【0017】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「アリール」は、任意で1つ以上の環置換基で置換される、芳香族単環または多環の環系を指す。
【0018】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「ヘテロアリール」は、芳香族単環または多環の環系であって環原子のうちの1つ以上が炭素以外の元素(例えば窒素、ホウ素、酸素および/または硫黄など)であるものを指す。
【0019】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「複素環」は、単環または多環の環系であって、環系の1つ以上の原子が炭素以外の元素(例えばホウ素、窒素、酸素、および/または硫黄またはリンなど)であるものを指し、該環系は任意で1つ以上の環置換基で置換される。複素環系は、1つ以上の不飽和点を有する環を含め、芳香環および/または非芳香環を含み得る。
【0020】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「シクロアルキル」は、任意で1つ以上の環置換基で置換される、非芳香族の単環または多環の環系を指す。
【0021】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「ヘテロシクロアルキル」は、非芳香族の単環または多環の環系であって、環系の1つ以上の原子が炭素以外の元素(例えばホウ素、窒素、酸素、硫黄またはリン等の単独または組み合わせ)であるものを指し、該環系は任意で1つ以上の環置換基で置換される。
【0022】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「アルコキシ」は、RO-という部分を指し、ここでRは上記で定義されたアルキル、アルケニル、またはアリールである。
【0023】
本明細書において単独または組み合わせで使用される用語「ハロ」は、周期表のVIIA族の元素(ハロゲン)を指す。化学環境に応じて、ハロは中性状態またはアニオン状態にあり得る。
【0024】
本明細書において特に定義されていない用語には、当該技術分野における通常の意味が与えられている。
【0025】
[I. 遷移金属錯体]
一側面では遷移金属錯体が本明細書に記載され、これは、タンパク質を含む様々な生体分子種の近接性に基づく標識化に有利な寿命と拡散半径を有する反応性標識化中間体を生成するための組成と電子構造を有する。いくつかの実施形態において遷移金属触媒は、下記式Iで表されるものであり、
【化2】
式中、
Mは遷移金属であり;
A、D、E、G、Y、およびZは独立にCおよびNから選択され;
R
3~R
7はそれぞれ、1~4個の任意追加の環置換基を表し、前記1~4個の任意追加の環置換基のそれぞれは、独立に、アルキル、ヘテロアルキル、ハロアルキル、ハロアルケニル、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミン、アミド、エーテル、-C(O)O
-、-C(O)OR
8、および-R
9OHからなる群から選択され、ここで、R
8は水素およびアルキルからなる群から選択され、R
9はアルキルであり;
R
1は、直接結合、アルキレン、アルケニレン、シクロアクリレン(cycloaklylene)、シクロアルケニレン、アリーレン、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニレン、ヘテロシクレン、およびヘテロアリーレンからなる群から選択され;
Lはアミド、エステル、スルホンアミド、スルホネート、カルバメート、および尿素からなる群から選択される連結部分であり;
R
2は、アルキン、アミン、保護アミン、アジド、ヒドラジド、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルニル、ヘテロシクリル、ヒドロキシ、カルボキシル、ハロ、アルコキシ、マレイミド、-C(O)H、-C(O)OR
8、-OS(O
2)R
9、チオール、ビオチン、オキシアミン、およびハロアルキルからなる群から選択され、
R
8およびR
9は独立にアルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、N-スクシンイミジル、およびN-スクシンイミジルエステルからなる群から選択され、X
-は対イオンであり、nは0から20までの整数である。
【0026】
任意の置換基R3-R7が存在しない場合には、水素が式Iのアリール環上の位置を占めることが理解される。さらに、いくつかの実施形態では、対イオン(X-)は、テトラアルキルボレート、テトラフルオロボレート、テトラフェニルボレート、PF6
-、およびクロリドから選択され得る。
【0027】
遷移金属錯体の極性は、R
3-R
7の選択を介して特定の細胞環境に合わせて調整することができる。いくつかの実施形態では、例えば、R
3-R
7の1つ以上が、荷電および/または極性化学部分を介して親水性を示すように選択される。このような実施形態では、遷移金属錯体は細胞間/細胞外環境への配置に適した親水性を示すことができる。例えば、
図2に示された遷移金属錯体は、水性細胞間環境のために荷電および極性化学部分を組み込んでいる。あるいは、R
3-R
7の1つ以上は、疎水性、親油性、または非極性の特性を示すように選択される。例えば、いくつかの実施形態では、R
3-R
7の1つ以上をアルキル、フルオロ、またはフルオロアルキルにすることができる。
図1は、アルキル、フルオロ、またはフルオロアルキル置換基を含む遷移金属錯体の非限定的な一実施形態を示している。疎水性、親油性または非極性の特性を示す、本明細書に記載される遷移金属錯体は、細胞内環境への配置に適し得る。本明細書の実施例で示されているように、遷移金属錯体は、本明細書に記載されている原理に従って局所的な細胞内環境をマッピングするために、細胞膜を通過することができる。いくつかの実施形態では、例えば、式Iの細胞透過性遷移金属錯体は、純水中の0.2% DMSOにおいて150μM未満の水溶性を有する。いくつかの実施形態では、式Iの遷移金属錯体は100μM未満の水溶性を有する。疎水性、親油性または非極性の特性を示す式Iの遷移金属錯体は、純水中の0.2% DMSOにおいて1μM~150μMまたは1μM~100μMの水溶性を有し得る。水溶性は、C18カラム(HPLC)上の遷移金属錯体の保持時間によって決定できる。上述の水溶性の値は、遷移金属錯体が生体分子結合剤にカプリングされたものを含む本明細書に記載のコンジュゲートにも適用することができる。
【0028】
本明細書に記載される遷移金属触媒は、細胞膜上のタンパク質-タンパク質相互作用を含め、様々な特徴を選択的に識別するために操作可能な微小環境マッピングプラットフォームを提供するための組成物に利用される。いくつかの実施形態において、組成物は式Iの遷移金属触媒とタンパク質標識剤とを含み、遷移金属触媒はタンパク質標識剤を反応性中間体へと活性化させる。式Iの遷移金属触媒は、いくつかの実施形態では、反応性中間体を形成するためにタンパク質標識剤へのエネルギー移動を可能にする電子構造を有し得る。反応性中間体は、その拡散半径内のタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。タンパク質または他の生体分子が上記拡散半径内にない場合には、反応性中間体は周囲の環境によってクエンチされる。
【0029】
いくつかの実施形態において、タンパク質標識剤へのエネルギー移動は、遷移金属触媒の電子構造の励起状態に由来し得る。例えば、触媒の励起状態は一重項励起状態または三重項励起状態であり得る。触媒の励起状態は、触媒によるエネルギー吸収を含め、1つ以上の機序によって生成され得る。いくつかの実施形態では、触媒は光触媒であり、励起状態は1つ以上の光子の吸収によって誘導される。他の実施形態では、触媒は、周辺環境における1つ以上の化学種との相互作用によって励起状態に置かれ得る。あるいは、タンパク質標識剤へのエネルギー移動(電子移動を含む)は、触媒の電子構造の基底状態に由来し得る。
【0030】
タンパク質標識剤へのエネルギー移動(電子移動を含む)は、タンパク質標識剤の反応性中間体を形成する。反応性中間体は、該反応性中間体の拡散半径内のタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。該拡散半径内にタンパク質や他の生体分子がない場合、反応性中間体は周囲の環境によってクエンチされる。反応性中間体の拡散半径は、特定の微小環境マッピング(近接性に基づくラベリング)の考慮事項に合わせて調整することができ、ナノメートルスケールに限定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、反応性中間体の拡散半径は、周辺環境におけるクエンチングの前に、10 nm未満、5 nm未満、4 nm未満、3 nm未満、または2 nm未満であり得る。したがって、反応性中間体は、拡散半径内でタンパク質もしくは他の生体分子と反応もしくは架橋するか、またはタンパク質や生体分子が存在しない場合は周囲の環境によってクエンチされる。このようにして、触媒とタンパク質標識剤の間の協調的努力を介して、局所環境の高分解能をマッピングすることができる。さらに、いくつかの実施形態において、反応性中間体は、クエンチング前に5 ns未満、4 ns未満、または2 ns未満のt1/2を示し得る。追加の実施形態では、反応性中間体の半減期を延長することにより、拡散半径を5~500 nmに拡張することができる。
【0031】
エネルギー移動および反応性中間生成のための前述の電子構造特性を示す遷移金属触媒-タンパク質標識剤の組み合わせ、ならびに関連するタンパク質または生体分子の結合は、微小環境マッピングのために利用することができる。式Iの遷移金属錯体は、いくつかの実施形態において、タンパク質標識剤へのエネルギー移動を促進する長寿命の三重項励起状態(T1)を示すことができる。例えば、T1状態は0.2~2μsのt1/2を有し得る。本明細書に記載される遷移金属錯体は光触媒性であり得、いくつかの実施例では、電磁スペクトルの可視領域における光を吸収する。電磁放射の吸収は遷移金属錯体をS1状態に励起し得、その後T1状態への定量的な系間交差(intersystem crossing)が起こる。遷移金属触媒はその後、タンパク質標識剤への短距離Dexterエネルギー移動を経て、基底状態のS0に戻ることができる。標識剤へのエネルギー移動は、タンパク質または他の生体分子との反応のために標識剤を活性化させる。遷移金属錯体のT1状態は、いくつかの実施形態では60 kcal/mol超であり得る。金属中心は、例えば、白金族の遷移金属から選択され得る。いくつかの実施形態では、金属中心はイリジウムであり得る。
【0032】
図1および
図2は、本明細書に記述される様々な遷移金属錯体を示す。
図1に示すように、R
2は生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能基として選択することができる。いくつかの実施形態では例えば、R
2は、BCN、DBCO、TCO、テトラジン、アルキン、およびアジドを含むがこれらに限定されない、1つ以上のクリックケミストリー部分を含む。
図1に示すように、R
2のこれらクリックケミストリーは、リンカー (L) に直接カップリングさせることもでき、またはヘテロ原子、アリール、もしくはカルボニルを介してカップリングさせることもできる。
【0033】
タンパク質標識剤は遷移金属触媒からエネルギー移動を受けて反応性中間体を形成する。反応性中間体は、該反応性中間体の拡散半径内でタンパク質または他の生体分子と反応または架橋する。反応性中間体の拡散半径は上記で説明した。タンパク質標識剤の具体的なアイデンティティーは、触媒のアイデンティティー、形成される反応性中間体の性質、反応性中間体の寿命および拡散半径を含め、いくつかの考慮事項に従って選択することができる。
【0034】
例えば、遷移金属触媒が光触媒である実施形態では、タンパク質標識剤はジアジリンであり得る。励起状態の光触媒からの三重項エネルギー移動はジアジリンを三重項(T1)状態に促進させ得る。ジアジリン三重項はN2の脱離を受けて遊離の三重項カルベンを放出し、それがピコ秒の時間スケールのスピン平衡を経て反応性の一重項状態となり(t1/2<1 ns)、それが近隣のタンパク質と架橋するか、または水性環境中でクエンチされる。いくつかの実施形態では、遷移金属錯体の吸光係数(extinction coefficient)はジアジリンのものよりも3から5桁大きい。
【0035】
本明細書で論じられる技術的原理に合致するあらゆるジアジリン。例えば、ジアジリン感作は、遊離カルボン酸、フェノール、アミン、アルキン、炭水化物、およびビオチン基を含め、顕微鏡およびプロテオミクスのアプリケーションのための有意義なペイロードを持つ様々なp-およびm-置換アリールトリフルオロメチルジアジリンに拡張することができる。ジアジリンは例えばビオチンなどのマーカーで官能化することができる。いくつかの実施形態では、マーカーはデスチオビオチンである。マーカーは、タンパク質標識剤によって標識されたタンパク質の同定に役立ち得る。例えば、このマーカーは、ウエスタンブロットおよび/または他の分析技術による分析結果において有用であり得る。マーカーとしては、ビオチンとデスチオビオチンに加えて、アルキン、アジド、FLAGタグ、フルオロフォア、およびクロロアルカンの官能基が含まれ得る。
【0036】
遷移金属触媒が光触媒であるいくつかの実施形態では、タンパク質標識剤はアジドであり得る。励起状態の光触媒からの三重項エネルギー移動はアジドからのニトレン形成を促進し得る。反応性のニトレンは近隣のタンパク質と架橋するか、または水性環境でクエンチされる。ニトレン形成のために遷移金属光触媒とのエネルギー移動を受けるように作動できるあらゆるアジドが利用され得る。いくつかの実施形態では、アジドはアリールアジドである。
【0037】
[II. コンジュゲート]
別の側面では、近接性に基づく標識化のシステムで使用するためのコンジュゲートが本明細書に記載される。コンジュゲートは、生体分子結合剤にカップリングされた遷移金属錯体を含み、生体分子結合剤にカップリングされる前の遷移金属錯体は上述した式Iのものである。本明細書でさらに詳しく説明するように、生体分子結合剤を使用して、遷移金属触媒を、近接性標識化ならびに関連する分析およびマッピングのための所望の細胞環境に配置することができる。いくつかの実施形態では、所望の細胞環境は細胞間である。他の実施形態では、所望の環境は細胞内である。生体分子結合剤は、近接性に基づく標識化および関連する細胞間環境のマイクロマッピングのための所望の位置にコンジュゲートを導くために選択的結合を示すことができる。
【0038】
コンジュゲートの遷移金属錯体は、上記セクションIで説明した構造および/または特性を持つ任意の遷移金属錯体を含むことができる。さらに、生体分子結合剤は、タンパク質、多糖類、または核酸を含む多価ディスプレイシステムを含むことができる。いくつかの実施形態において、生体分子結合剤は、ビオチン、または標的タンパク質に対する特異的結合親和性を有する小分子リガンドである。例えば、生体分子結合剤は抗体であり得る。いくつかの実施形態において、生体分子結合剤は、所望の抗原に結合した一次抗体と相互作用するための二次抗体である。さらに、生体分子結合剤は光触媒性遷移金属錯体に共有結合的にカップリングされたもので得る。
【0039】
生体分子結合剤を遷移金属触媒に結合させることができる。いくつかの実施形態では、触媒は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性ハンドルまたは官能基を含む。いくつかの実施形態では、例えば、触媒は、BCN、DBCO、TCO、テトラジン、アルキン、およびアジドを含むがこれらに限定されない1つ以上のクリックケミストリー部分を含むことができる。
図1および
図2は、生体分子結合剤をカップリングするための反応性官能基を有する式 (I) の様々な遷移金属光触媒を示している。
図1と
図2に示すように、反応性官能基と配位リガンドとの間には様々な長さのリンカーを用いることができる。例えばアミドまたはポリアミドリンカーのような、リンカーの長さは、標的部位の立体的条件を含むいくつかの考慮事項に従って選択することができる。さらに、いくつかの実施形態では、遷移金属錯体は銅の不在下で生体分子結合剤にカップリングされ得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、コンジュゲートは、細胞間環境でのラベリング用途に適した極性を示す。あるいは、細胞内ラベリング用途のためにコンジュゲートが細胞膜を通過できるように、コンジュゲートを細胞透過性にすることもできる。いくつかの実施形態では、例えば、コンジュゲートは、細胞透過性遷移金属錯体について上記セクションIに記載した水溶性値を示すことができる。
【0041】
[III. 細胞内近接性に基づく標識化のためのシステム]
別の側面では、近接性に基づくラベリングのためのシステムが本明細書に記載される。システムは、例えば、タンパク質標識剤と、遷移金属触媒とを含み、ここで遷移金属触媒は、タンパク質標識剤への電子移動を可能にして反応性中間体を提供する電子構造を有する。反応性中間体はその後、局所的または直近の細胞環境においてタンパク質または他の生体分子とカップリングすることができる。いくつかの実施形態では、遷移金属錯体は本明細書に記載される式Iについてのものである。
【0042】
いくつかの実施形態では、電子移動は、一重項励起状態または三重項励起状態を含む触媒電子構造の励起状態に起因する。いくつかの実施形態では、例えば触媒の励起状態は、光誘起され得る。あるいは、電子移動は、触媒電子構造の基底状態に由来する場合もある。
【0043】
本明細書で記述されるように、タンパク質標識剤への電子移動は反応性中間体を提供する。反応性中間体は、本明細書で詳述される近接性ラベリングの実施形態と合致する拡散半径を示すことができる。拡散半径は、周囲の水性環境による反応性中間体の急速なクエンチングによって限定あるいは制限され得る。例えば、反応性中間体は、水性環境でのクエンチング前の拡散半径が5 nm未満、3 nm未満、または2 nm未満であり得る。したがって、反応性中間体は、拡散半径内にあるタンパク質もしくは他の生体分子と反応もしくは架橋するか、または、タンパク質もしくは生体分子が存在しない場合には、水性環境によってクエンチされる。このようにして、触媒とタンパク質標識剤の協調的な努力を通じて、局所的環境の高分解能をマッピングすることができる。加えて、いくつかの実施形態において、反応性中間体は、クエンチング前に2 ns未満のt1/2を示し得る。追加の実施形態では、反応性中間体の半減期の延長を通じて、拡散半径を5~500 nmに拡張することができる。
【0044】
前述の電子移動および反応性中間生成のための電子構造特性を示す任意の触媒-タンパク質標識剤の組合せを、微小環境マッピングのために利用することができる。いくつかの実施形態では、触媒-タンパク質標識剤の組合せは、式Iの遷移金属触媒とジアジリン標識剤を含む。式Iの遷移金属触媒は、上記セクションIに記述されているいずれかの構造および/または特性を有することができる。いくつかの実施形態では、タンパク質標識剤は、分析を助けるためにビオチンや発光マーカーなどのマーカーで官能化され得る。ジアジリン感作(sensitization)は、遊離カルボン酸、フェノール、アミン、アルキン、炭水化物、およびビオチン基など、顕微鏡およびプロテオミクスのアプリケーションのための有用なペイロードを有する様々なp-およびm-置換アリールトリフルオロメチルジアジリンに拡張することができる。遷移金属触媒の吸光係数は、感作のために使用される青色LEDにより発せられる波長(450 nm)において、ジアジリンのものよりも5桁大きいものであり得、バックグラウンドの非触媒反応の不存在が説明される。
【0045】
いくつかの実施形態では、遷移金属触媒と共に複数のタンパク質標識剤が使用され得る。このような実施形態では、遷移金属触媒は、該タンパク質標識剤のうちの1つまたは全てへの電子移動を可能にして反応性中間体を提供するための電子構造を示す。反応性中間体は、いくつかの実施形態において、異なる拡散半径を示すことができ、そのことによって、異なる場所における異なるタンパク質または生体分子に結合する。このような実施形態は、本明細書に記載されている細胞内近接性に基づく標識化システムの分解能を高めることができる。
【0046】
さらに、本明細書で企図されるシステム中遷移金属錯体は、上記セクションIIで説明したされたように、生体分子結合剤とカップリングさせてコンジュゲートを提供することができる。生体分子結合剤の含有は、1つ以上のタンパク質結合剤と共に遷移金属触媒を分析およびマッピングのための所望の細胞環境に誘導することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるシステムは、複数のコンジュゲートとタンパク質標識剤とを利用することができ、ここで各コンジュゲートおよび関連するタンパク質標識剤は、異なる細胞内環境に特異的である。
【0047】
[IV. 細胞内近接性に基づく標識化の方法]
さらなる側面では、細胞近接性に基づくラベリングの方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態において、方法は、タンパク質標識剤と、遷移金属触媒が生体分子結合剤にカップリングされたものを含むコンジュゲートとを提供することを含む。タンパク質標識剤は遷移金属触媒によって反応性中間体に活性化され、該反応性中間体が細胞環境におけるタンパク質または他の生体分子とカップリングする。本明細書に記載される方法は、反応性中間体にカップリングするタンパク質を検出または分析することをさらに含むことができ、その結果、局所的な細胞環境のマッピングが得られる。
【0048】
タンパク質標識剤およびコンジュゲートは、上記のセクションI~IIIのいずれかに記述された任意の構造、組成、および/または特性を有することができる。
【0049】
これらおよび他の実施形態は、以下の実施例でさらに例示される。
【実施例】
【0050】
実施例1―遷移金属触媒
[ステップ1]
3-(4'-メチル-[2,2'-ビピリジン]-4-イル)プロパン酸
【化3】
3-(4'-メチル-[2,2']ビピリジニル-4-イル)-プロピオン酸エチルエステル4,4'-ジメチル-2,2'-ビピリジル(2.5 g、13.5 mmol)を、フレームドライしたフラスコ中、窒素雰囲気下で乾燥THF(20 mL)に溶解した。溶液を-78℃に冷却し、LDA(14.8 mmol、1.1当量)の溶液を加えた。反応混合物を1.5時間に亘り室温まで温めた。この溶液をN
2下-78℃で、乾燥THF(15 ml)中のエチル2-ブロモアセテート溶液(2.3 ml、20 mmol)中にカニューレで導入した。反応混合物を一晩ゆっくりと室温に到達させ、飽和炭酸水素ナトリウム溶液の添加によりクエンチした。酢酸エチルを用いて後処理した後Na
2SO
4上で乾燥させ、減圧下で濃縮して粗生成物を得た。粗残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル;DCM:MeOH:NH
4OH 95:5:0.5)で精製し、目的生成物を69%の収率で得た。
【0051】
[ステップ2]5-(4'-メチル-[2,2]ビピリジニル-4-イル)-ペント-4-エン酸
ステップ1からのビピリジニルエチルエステルを、1:1のTHF:水中に取り込んだ後、LiOH(2当量)を添加した。反応混合物を室温で16時間撹拌し(TLCで完了)、その後NH4Clを加えることを通じてクエンチした(pH 5~6になるまで)。該混合物をEtOAcで抽出し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して、目的の生成物をオフホワイトの粉末として得た(収率63%)。
【0052】
tert-ブチル(2-(3-(4'-メチル-[2,2'-ビピリジン]-4-イル)プロパンアミド)エチル)カルバメート
【化4】
bipy x(228 mg、1 mmol、1当量)、PyBOP(612 mg、1.2 mmol、1.2当量)、およびtert-ブチル(2-アミノエチル)カルバメート(192 mg、1.2 mmol、1.2当量)を充填した20 mLバイアルに、DMF(2 mL)、次いでジイソプロピルエチルアミン(347μL、0.15 mmol、3当量)を加えた。反応物を16時間撹拌した。得られた混合物を、水とEtOAcの添加によりクエンチした。層を分離し、有機物を、飽和NaHCO
3、そしてH
2O、そしてかん水で洗浄した。それから有機層をNa
2SO
4上で乾燥させ、減圧下で濃縮して黄色の油を得、これをフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、0-15% MeOH/CH
2Cl
2)によって精製して、目的の化合物を黄色固体として得た(380 mg、99%)。
【0053】
[Ir-触媒X]
【化5】
bipy py(161 mg、0.42 mmol、1.05当量)とIr[dF(CO
2H-CF
3)ppy]MeCN
2(351 mg、0.4 mmol、1当量)を充填した丸底フラスコにDCM/EtOH(4 mL、4:1)を加え、反応混合物を30℃で16時間撹拌した。得られた溶液を減圧下で直接シリカゲル上に濃縮した。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、0-25% MeOH/DCM)で精製し、目的のIr触媒(200 mg、収率42%)を得た。
【0054】
[DBCO Ir触媒]
【化6】
CH
2Cl
2(500μL)mg中のIr-cat(触媒)X(9.4 mg、0.008 mmol、1当量)で充填された5 mLバイアル(光を遮るために黒いテープで包んだ)を、0℃に冷却した後にトリフルオロ酢酸(100μL)を加えた。反応混合物を室温に温め、完了まで撹拌した(TLCとHRMSによって監視)。完了した反応を減圧下で濃縮し、固体をMeOHでスラリー化して、減圧下で濃縮した(3回以上行って過剰な酸を除去)。
【0055】
それからIr触媒-トリフルオロ酢酸塩をDMF(500μL)に溶解し、その後ジイソプロピルエチルアミン(10μL)を添加した。この溶液にDBCO-NHS(6 mg、0.016 mmol、2当量)を加え、溶液を暗所で3時間撹拌した。完了後(HRMS/TLCによる)反応混合物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(C18、5-95% MeCN/H2O)によって直接精製し、目的の化合物を黄色固体として得た(10 mg、91%)。
【0056】
実施例2―遷移金属触媒
[ステップ1]3-(4'-メチル-[2,2'-ビピリジン]-4-イル)プロパン酸とIr[dF(CF3)ppy]MeCN2PF6を充填した丸底フラスコにMeCN/H2O(4:1)を加え、反応混合物を70℃で16時間撹拌した。得られた溶液を減圧下で濃縮して黄色の固体を得た。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、0-10% MeOH/DCM)で精製し、目的の酸含有Ir触媒を得た(収率55%)。
【0057】
[ステップ2](差動的活性化触媒について):Ir触媒、PyBOP、およびアミンを充填した20 mLバイアルにDMFを添加した。反応混合物に暗所で10分間N2を散布した後、ジイソプロピルエチルアミンを加えた。この反応をN2雰囲気下の暗所で16時間撹拌した。得られた混合物を水とEtOAcの添加によりクエンチした。層を分離し、有機物を5%クエン酸、飽和NaHCO3、およびかん水で洗浄した。続いて有機層をNa2SO4上で乾燥させ、減圧下で濃縮して目的の化合物を得た。
【0058】
実施例3―細胞透過性コンジュゲート、(+)-JQ1-PEG3-Ir
図3の、遷移金属錯体とJQ1生体分子結合剤とを含む細胞透過性コンジュゲートを、以下のプロトコールに従って合成した。遷移金属錯体とJQ1生体分子結合剤の合成スキームも
図4に示す。無水DMF(4.5 mL)中の(+)-JQ1-CO
2H(177 mg、0.44 mmol)の撹拌溶液にHATU(176 mg、0.46 mmol)を加え、続いてDIPEA(230μL、1.32 mmol)を加えた。反応物をN
2下で室温で10分間撹拌し、無水DMF(0.5 mL)中のt-Boc-N-アミド-PEG3-アミン(143 mg、0.49 mmol)の溶液を滴下した。得られた混合物を一晩撹拌し、EtOAcで希釈し、飽和NaHCO
3水溶液の添加によりクエンチした。水相を除去し、追加の飽和NaHCO
3水溶液、かん水で有機層を洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥した。溶媒を真空中で除去し、粗物質をシリカカラムクロマトグラフィー(勾配溶離:0~10% MeOH/CH
2Cl
2)で精製して、(+)-JQ1-PEG3-NHBocを黄褐色の固体として得た(171 mg、57%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3)δ: 7.39 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.31 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 7.20 (br. s, 1H), 5.35 (br. s, 1 H), 4.65 (t, J= 7.1 Hz, 1H), 3.69 - 3.46 (m, 15H), 3.36 (dd, J = 15.0, 6.8 Hz, 1H), 3.30 (m, 2H), 2.65 (s, 3H), 2.39 (s, 3H), 1.66 (s, 3H), 1.41 (s, 9H).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3)δ: 170.7, 164.0, 156.3, 155.7, 150.0, 136.9, 136.7, 132.2, 131.0, 131.0, 130.6, 130.0, 128.8, 79.2, 70.6, 70.6, 70.4, 70.2, 70.0, 54.5, 40.4, 39.5, 39.0, 28.5, 14.5, 13.2, 11.9. m/z HRMS found [M]
+ = 675.29120, [C
32H
44ClF
10N
6O
6S]
+requires 675.27226.
【0059】
CH2Cl2(2 mL)中0℃の(+)-JQ1-PEG3-NHBoc(146 mg、0.22 mmol)の撹拌溶液にTFA(3 mL)を滴下した。反応混合物を一晩室温に温め、溶媒を真空中で除去した。飽和NaHCO3水溶液を用いて粗混合物を塩基性にし、CH2Cl2で抽出し、溶媒を真空中で除去して(+)-JQ1-PEG3-NH2を黄褐色の固体として得て(125 mg、99%)、これを更なる精製なしで直ちに使用した。
【0060】
暗所でN2下の無水DMF(2 mL)中の(+)-JQ1-PEG3-NH2(32 mg、56μmol)、Ir-CO2H(61 mg、56μmol)、およびPyBOP(45 mg、86μmol)の撹拌溶液に、DIPEA(30μL、172μmol)を添加した。得られた混合物を一晩撹拌し、EtOAcで希釈し、飽和NaHCO3水溶液の添加によりクエンチした。水相を除去し、有機層を、追加の飽和NaHCO3水溶液、5%クエン酸水溶液、かん水で洗浄し、Na2SO4上で乾燥した。溶媒を真空中で除去し、粗物質をシリカカラムクロマトグラフィー(勾配溶離:0~3% MeOH/CH2Cl2)およびC8逆相分取HPLC(勾配溶出:30~100% MeCN/H2O(0.1%ギ酸))によって精製して、(+)-JQ1-PEG3-イリジウム(iridium)を黄色の固体として得た(25 mg、27%)。1H NMR (500 MHz, CDCl3)δ: 9.24 - 8.92 (m, 2H), 8.58 - 8.27 (m, 2H), 8.24 (s, 1H), 8.04 (dd, J= 12.2, 8.9 Hz, 2H), 7.79 - 7.66 (m, 2H), 7.62 (s, 1H), 7.55 (s, 1H), 7.49 (t, J= 5.1 Hz, 1H), 7.41 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.31 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 6.63 (dd, J = 12.2 8.8 Hz, 2H), 5.62 (dd, J = 8.0, 2.3 Hz, 2H), 4.80 (br. s, 2H), 4.66 (t, J= 6.9 Hz, 1H), 3.70 - 3.30 (m, 18H), 3.24 - 3.15 (m, 2H), 2.93 - 2.77 (m, 2H), 2.66 (s, 3H), 2.63 (s, 3H), 2.39 (s, 3H), 1.66 (s, 3H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3)δ: 171.9, 170.8, 167.0 (dd, J = 258.2, 16.8 Hz), 163.9, 162.7 (dd, J= 262.6, 14.2 Hz), 157.6, 155.6 (d, J = 9.9 Hz), 155.1 (dd, J = 6.9, 28.6 Hz), 154.5, 149.6, 149.1, 145.2 (d, J = 3.2 Hz), 136.8 (d, J= 2.8 Hz), 136.6, 131.1, 130.9, 130.7, 130.0, 129.9, 129.6, 128.8, 127.9, 126.6, 126.4, 126.2, 123.7 (d, J = 22.5 Hz), 121.7 (dd, J = 273.3, 8.9 Hz), 114.2 (ddd, J = 17.1, 10.1, 2.6 Hz), 100.1 (dt, J= 27.0, 9.7 Hz), 70.7, 70.4, 70.3, 69.9, 69.8, 54.5, 39.6, 39.2, 38.9, 35.2, 32.1, 29.8, 29.5, 22.8, 21.8, 14.6, 14.3, 14.3, 13.2, 12.0. 19F NMR (376 MHz, CDCl3)δ: -62.7 (d, J = 3.1 Hz), -62.7 (s), -72.1 (d, J = 714.3 Hz), -101.6 (dtt, J = 59.3, 12.5, 8.8 Hz), -105.9 - -106.1 (m). m/z HRMS found [M]+ = 1507.34161 (100), 1508.33996 (84), 1505.33212 (63), 1506.3 3296 (52), 1509.33644 (72), 1510.33378 (47) [C65H57ClF10IrN10O5S]+requires 1507.33876 (100), 1508.34202 (70), 1505.33634 (60), 1506.33969 (42), 1509.33572 (32), 1509.34538 (24), 1510.33907 (23).
HPLC(Vydac 218TP C18 HPLC、勾配:0~90% MeCN/H2O(0.1% TFA)10分、5分90% MeCN(0.1% TFA)、1 mL/min、254 nm):τr=12.5 min。
【0061】
エナンチオマーは(-)-JQ1-CO2Hから同様に調製した。
【0062】
実施例4―細胞内微小環境マッピング
[細胞内ラベリング]
フェノールレッドを含まないDMEM(Gibco)(4 mL)中80%コンフルエンシーの12×10 cmプレートのHeLa細胞に、JQ1-PEG3-Ir(実施例3)(5μM)(4プレート、A);Ir-PEG3-NHBoc(5μM)(4プレート、B);およびDMSO(4プレート、C)を添加した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。ジアジリン-PEG3-ビオチンを加え(250μM)、プレートをさらに20分間37℃でインキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450 nMにて15分間照射した(蓋なしで)。培地を除去し、細胞を冷DPBS(4℃)で2回洗浄した。細胞を冷DPBS(4℃)に再懸濁し、こすり取って別の50 mLファルコンチューブに移した。細胞をペレット化し(4℃で5分間1000 g)、PMSF(1 mM)とcOmplete EDTAフリープロテアーゼ阻害剤 (1x)(Roche)を含む1 mLの冷RIPA緩衝液に懸濁させた。溶解した細胞を氷上で5~10分間インキュベートし、超音波処理した(35%、30s休止を伴う5 x 5s)。次に、溶解液を15 x 1000gで4℃で15分間遠心分離し、上清を採取した。細胞溶解物の濃度をBCAアッセイで測定し、1 mg/mLの等濃度になるように調整した。対照試料を各プレックスから取り出し(15μL)、後の分析のために-20℃で保存した。
【0063】
[ストレプトアビジンプルダウン]
磁気ストレプトアビジンビーズ(NEB)を取り出して(250μL/プレックス)、RIPA(0.5 mL)で2回洗浄した(ロティサリー上で5分間インキュベート)。ビーズを磁気ラック上でペレット化し、試料(1 mL)で希釈し、4℃にて一晩ロティサリー上でインキュベートした。ビーズを磁気ラック上でペレット化し、上清を除去し、各プレックスから対照サンプル(15μL)を後の分析のために-20℃で保存した。その後、ビーズをRIPA(0.5 mL)で一回、DPBS中の1% SDS(0.5 mL)で三回、DPBS中の1 M NaCl(0.5 mL)で三回、DPBS中の10% EtOHで三回、およびRIPA(0.5 mL)で一回、洗浄した。サンプルを各洗浄液と共に5分間インキュベートした後にペレット化した。ビーズをRIPA緩衝液(300μL)に再懸濁し、新しい1.5 mL Lo-bindチューブに移した。
【0064】
[ウェスタンブロット分析]
プルダウンのための最終的な洗浄と移送手順の後、ビーズを磁気ラック上でペレット化し、上清を除去した。ビーズを穏やかに遠心分離してチューブの底に集め、新たに調製した溶出緩衝液(DPBS中30 mMビオチン、6 M尿素、2 Mチオ尿素、2% SDS、pH=11.5)(24μL)と、BMEを添加した4 x Laemlli緩衝液(6μL)とを穏やかに混合しながら加えた。ビーズを95℃で15分間加熱し、磁気ラック上でペレット化し、熱いうちに上清を取り出してビーズを棄てた。試料を室温まで冷まし、遠心分離した。続いて、試料(17μL)をBioRad Criterion 4-20%トリスグリシンゲル上に、適切な対照の全てと共にロードし、新たに調製したトリス泳動緩衝液中で泳動させた(160 V、60分)。ゲルを洗浄し(3 x MiliQ水)、iBlot2を介してNCメンブレン上に転写した。メンブレンを再び洗浄し(3 x MiliQ水)、Li-COR TBSブロッキングバッファーで室温で1時間ブロッキングした後、Pierce Protein-Free Blocking(1:2000)中の抗BRD4(A-7、Santa Cruz)(1:500)および抗ヒストンH3(ポリクロナールInvitrogen PA5-16183)(1:2000)と共に4℃で一晩インキュベートした。メンブレンを3回のTBST(1回の洗浄あたり5分間)と5回のMiliQ水で洗浄し、Li-COR二次抗体(ヤギ抗マウス800)および(ヤギ抗ウサギ700)を伴うPierce Protein-Free Blocking Bufferに再懸濁し、室温で1時間ロッキングした(1:12,500)。メンブレンを3回のTBST(1回の洗浄あたり5分間)と5回のMiliQ水で洗浄し、画像化した。
【0065】
図5Aはウェスタンブロット分析の結果を示し、
図5Bは、遷移金属錯体とBRD4タンパク質の結合を定量化するウェスタンブロットのデンシトメトリーの結果を示している。
図5Bに示すように、本明細書の実施例3の細胞透過性コンジュゲート(+)-JQ1-PEG3-Irは、生体分子結合剤を欠く遷移金属錯体と比べてBRD4標識の2.5倍超の増加を示した。
【0066】
実施例5―(+)-JQ1-PEG3-Irを使用したBRD4の時間依存的ラベリング
実施例4に記述された細胞内標識化プロトコールに従う。経時的なビオチニル化の程度を実証するように照射時間を変化させた(2分、5分、15分)。UV光を用いた対照反応はUVフォトボックスを用いて行い、そこでは254 nmの光を用いて4℃で20分間プレートに照射した。
図6は、HeLa細胞におけるBRD4の時間依存的標識化の結果を示す。
図6に示すように、本明細書の実施例3で合成された細胞透過性コンジュゲートは、2、5、および15分間の時間でBRD4の標識化を可能にした。対照的に、JQ1生体分子結合剤で官能化されていない遷移金属触媒はBRD4標識を生成できなかった。
【0067】
実施例6―細胞透過性コンジュゲートと非細胞透過性コンジュゲートのラベリングの比較
図7の非細胞透過性コンジュゲートを以下のように作製した。この例では、非細胞透過性コンジュゲートをJQ1-(Gen1)-Irと表示する。(+)-JQ1-CO
2H(100 mg、0.25 mmol)、アジド-PEG3-アミン(60 mg、0.27 mmol)、1-プロパンホスホン酸無水物(300μL、0.5 mmol、酢酸エチル中50%溶液、1.07 g/mL)およびジイソプロピルエチルアミン(130μL、0.75 mmol)をジクロロメタン(0.6 mL)中で混合し、室温で3.5時間撹拌した。反応混合物を酢酸エチル (15 mL) と水 (15 mL) に分配した。水層を追加の酢酸エチルで抽出し、有機層を組み合わせ、かん水で洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過した後、減圧下で濃縮した。その後、得られた物質をヘキサン中の順相カラムクロマトグラフィー(ISCO RediSep Gold 12カラム、0-100%(3:1 酢酸エチル:エタノール))で精製した。生成物画分を濃縮して、JQ1-PEG3-アジドを無色の油として得た(68 mg、収率45%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl
3)δ: 7.44 (d, 2H, J = 8.3 Hz), 7.36 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 6.90 (bs, 1H), 4.68 (t, 1H, J = 7.0 Hz), 3.75 - 3.69 (m, 8H), 3.63 (m 2H), 3.55 (m, 2H), 3.45 - 3.37 (m, 2H), 2.69 (s, 3H), 2.43 (s, 3H), 1.70 (s, 3H).
13C NMR (125 MHz, CDCl
3):170.6, 163.9, 155.7, 149.9, 136.8, 136.7, 132.2, 130.9, 130.8, 130.5, 129.9, 128.7, 70.7, 70.7, 70.7, 70.4, 70.0, 69.8, 54.4, 50.7, 39.4, 39.2, 14.4, 13.1, 11.8. m/z HRMS found [M]
+ = 601.2125, [C
27H
33ClN
8O
4S]
+requires 601.2125.
【0068】
JQ1-PEG3-アジド(11 mg、0.02 mmol)およびIr-アルキン[第1世代(generation)](21 mg、0.02 mmol)とDIPEA(16μL、0.1 mmol)をアセトニトリル(0.2 mL)中で混合し、霞んだ懸濁液を得た。この懸濁液に、新しく調製した硫酸銅(1.4 mg、0.005 mmol)とアスコルビン酸ナトリウム(3.3 mg、0.02 mmol)の水(0.3 mL)中懸濁液を加えると、瞬時に黄色の溶液となった。この反応混合物を室温で5時間撹拌し、その時点で1.5 mLのDMSOで希釈し、分取HPLC(10分間に渡る50-100% MeCN/水、0.05% TFA、20 mL/分、LUNA 5ミクロンC18(2) 100オングストローム、250 x 21.2 mm)で精製した。生成物画分を凍結乾燥した。分取HPLC(同条件)を繰り返し、生成物画分を凍結乾燥して、JQ-1-PEG3-Irを黄色固体として得た(6 mg、収率20%)。1H NMR (500 MHz, MeOH-d4)δ: 9.07 (s, 1H), 8.92 (s, 1H), 8.70 (s, 2H), 8.14 - 8.08 (m, 2H), 8.06 (s, 1H), 7.86 - 7.80 (m, 2H), 7.66 (d, J = 10.4 Hz, 2H), 7.50 - 7.43 (m, 2H), 7.40 (dd, J = 8.7, 3.9 Hz, 2H), 6.92 - 6.79 (m, 2H), 5.94 - 5.85 (m, 2H), 4.69 - 4.61 (m, 1H), 4.57 (q, J = 4.5 Hz, 2H), 4.53 - 4.43 (m, 2H), 3.89 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 3.68 - 3.56 (m, 10H), 3.50 - 3.39 (m, 3H), 3.28 (dd, J = 14.9, 5.2 Hz, 1H), 3.24 (d, J = 2.5 Hz, 3H), 2.69 (d, J = 3.2 Hz, 3H), 2.46 (s, 3H), 1.69 (dd, J = 17.2, 3.9 Hz, 15H). 13C NMR (125 MHz, MeOH-d4)δ: 171.32, 168.40, 166.33, 164.93, 164.59, 164.17, 162.20, 161.83, 161.67, 159.62, 159.51, 159.32, 156.29, 156.16, 155.51, 155.25, 151.03, 150.77, 149.66, 146.48, 144.21, 142.69, 136.67, 136.51, 132.09, 130.71, 130.57, 130.03, 128.41, 126.38, 126.13, 124.42, 123.22, 123.05, 122.80, 122.61, 122.54, 120.37, 113.94, 99.64, 99.42, 99.21, 77.45, 76.60, 70.12, 70.10, 69.94, 69.17, 68.99, 56.80, 53.63, 49.97, 49.92, 39.15, 37.18, 26.78, 26.74, 26.42, 26.38, 25.81, 13.00, 11.53, 10.17. 19F NMR (471 MHz, MeOH-d4)δ: -61.73, -77.07, -103.74, -107.98.
m/z calcd. for C73H66ClF10IrN12O10S (1719.3958 found 1719.3947 (M+H) and 860.2029 (M+2H)/2. LC保持時間:2チャネル(0および25 V)を備えたAcquity Single pole LCMSを使用して1.23分。流速は2.1 x 50 mm BEH 1.7μM粒径カラムで0.6 ml/min、勾配は5から100% MeCNまで1.8分間、0.2分間保持。
【0069】
実施例3の細胞透過性コンジュゲートは、この例においてBRD4標識比較のために提供され、JQ1-(Gen2)-Irとして参照される。実施例4に記述された細胞内標識化プロトコールに従う。フェノールレッドを含まないDMEM(Gibco)(4 mL)中で80%コンフルエンシーの12×10 cmプレートのHeLa細胞に、JQ1-PEG3-Ir (Gen-2)(5μM)(4プレート、A);JQ1-PEG3-Ir (Gen-1)(5μM)(4プレート、B);およびDMSO(4プレート、C)を添加した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。ジアジリン-PEG3-ビオチンを加え(250μM)、プレートをさらに20分間37℃でインキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450nMで20分間照射した(蓋なしで)。ストレプトアビジン富化とウェスタンブロットは、前述のように行われた。標識化の結果を
図8に示す。結果に示されているように、JQ1-(Gen1)-Irは細胞内に侵入してBRD4標識化を実行する能力を欠いていた。一方、JQ1-(Gen2)-IrはBRD4標識化のために細胞内環境に入った。
【0070】
実施例8―(+)-JQ1と(-)-JQ1コンジュゲートによるラベリングの比較
(-)-JQ1はBRD-タンパク質に親和性を有さないため、ネガティブコントロールとなる。
実施例4で記述した細胞内標識化プロトコールに従う。フェノールレッドを含まないDMEM(Gibco)(4 mL)中で80%コンフルエンシーの12×10 cmプレートのHeLa細胞に、(+)-JQ1-PEG3-Ir (Gen-2)(5μM)(4プレート、A);(-)-JQ1-PEG3-Ir (Gen-2)(5μM)(4プレート、B);およびDMSO(4プレート、C)を添加した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。ジアジリン-PEG3-ビオチンを加え(250μM)、プレートをさらに20分間37℃でインキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450nMで20分間照射した(蓋なしで)。ストレプトアビジン富化とウェスタンブロットは前述のように行われた。結果を
図9に示す。
【0071】
実施例9―(+)-JQ1コンジュゲートを用いたBRD4タンパク質の選択的標識化
[プロテオミクス調製と同重体(isobaric)標識化]
実施された手順は、実施例4のウェスタンブロット分析のための細胞内標識化のものと同じである。フェノールレッドを含まないDMEM (Gibco) (4 mL)中80%コンフルエンシーの12×10 cmプレートのHeLa細胞にJQ1-PEG3-Ir(5μM)(6プレート、A)およびIr-PEG3-NHBoc(分析の際にはFree-Irと呼ばれる)(6プレート、B)を添加した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。ジアジリン-PEG3-ビオチンを加え(250μM)、プレートをさらに20分間37℃でインキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450nMで15分間照射した(蓋なしで)。培地を除去し、細胞を冷DPBS(4℃)で2回洗浄した。細胞を冷DPBS(4℃)に再懸濁し、こすり取って別の15 mLファルコンチューブに移した(チューブあたり2プレート;合計6チューブ)。細胞をペレット化し(4℃で5分間1000 g)、PMSF(1 mM)とcOmplete EDTAフリープロテアーゼ阻害剤 (1x)(Roche)を含有する2 mLの冷RIPA緩衝液に懸濁させた。溶解した細胞を氷上で5~10分間インキュベートし、超音波処理した(35%、30sの休止を伴って 5 x 5s)。次に、溶解液を4℃にて15 x 1000 gで15分間遠心分離し、上清を採取した。細胞溶解物の濃度をBCAアッセイで測定し、1.5 mg/mLの濃度に調整した。磁気ストレプトアビジンビーズ (NEB) を取り出して(350μL/プレックス)、RIPA(0.5 mL)で2回洗浄した(ロティサリーで5分間インキュベート)。ビーズを磁気ラック上でペレット化し、試料(1 mL)で希釈し、4℃にて一晩ロティサリー上でインキュベートした。ビーズを磁気ラック上でペレット化し、上清を除去し、各プレックスからの対照サンプル(15μL)を後の分析のために-20℃で保存した。その後、ビーズをRIPA(0.5 mL)で一回、DPBS中の1% SDS(0.5 mL)で三回、DPBS中の1 M NaCl(0.5 mL)で三回、DPBS中の10% EtOHで三回、およびRIPA(0.5 mL)で一回洗浄した。試料を各洗浄液と共に5分間インキュベートした後にペレット化した。ビーズをRIPA緩衝液(300μL)に再懸濁し、新しい1.5 mL Lo-bindチューブに移した。
【0072】
上清を除去し、ビーズをDPBS(0.5 mL)で三回およびNH4HCO3(100 mM)(0.5 mL)で三回洗浄した。ビーズをDPBS中の500μLの6 M尿素に再懸濁し、25 mM NH4HCO3中の200 mM DTTを25μL加えた。ビーズを55℃で30分間インキュベートした。その後、25 mM NH4HCO3中の500 mM IAAを30μLを加え、暗所中の室温で30分間インキュベートした。上清を除去し、ビーズを0.5 mL DPBSで三回および0.5 mL TEAB(50 mM)で三回洗浄した。ビーズを0.5 mL TEAB(50 mM)に再懸濁し、新しいプロテインLoBindチューブに移し、ペレット化し、上清を除去した。ビーズを40μL TEAB(50 mM)に再懸濁し、1.2μLトリプシン(50 mM酢酸中1 mg/mL)を加え、ビーズを37℃で一晩ロティサリー上でインキュベートした。16時間後、さらに0.8μLのトリプシンを加え、ビーズを37℃のロティサリーでさらに1時間インキュベートした。一方、TMT10 plexラベル試薬(0.8 mg)(Thermo)を室温に平衡化し、41μLの無水アセトニトリルで希釈して(Optimaグレード;ボルテックスで5分)、遠心分離した。その後、ビーズをペレット化し、上清を、対応するTMT-ラベルへと移した。
A1: 127N B1: 128C C1: 130N
A2: 127C B2: 129N C2: 130C
A3: 128N B3: 129C C3: 131
【0073】
反応物を室温で2時間インキュベートした。試料を8μLの5%ヒドロキシルアミンでクエンチし、15分間インキュベートした。すべての試料を新しいProtein LoBindチューブ中にプールし、TFA(16μL、オプティマ)でクエンチした。試料はプロテオミクスが実施されるまで-80℃で保管された。ランを行う前に試料を脱塩し分画した。
【0074】
[LC-MS/MS/MSベースのプロテオミクス分析]
プリンストン・プロテオミクス施設のOrbitrap Fusionを用いて質量スペクトルを取得し、MaxQuantを用いて分析した。TMT標識ペプチドをSpeedVacで乾燥させ、300μlの水中0.1% TFAに再溶解し、Pierce(商標)High pH Reversed-Phase Peptide Fractionation Kit (#84868) を用いて8つの画分に分画した。画分1、4、7をサンプル1として組み合わせた。画分2と6をサンプル2として組み合わせた。画分3、5、8をサンプル3として組み合わせた。3つの組合せサンプルをSpeedVacで完全に乾燥させ、20μlの5%アセトニトリル/水(0.1%ギ酸 (pH=3))に再懸濁させた。Easy-nLC 1200 UPLCシステムを使用したランごとに2μl(~360 ng)を注入した。Orbitrap Fusion Lumos(Thermo Scientific、米国)とインラインの金属エミッタに係合された、1.9 um C18-AQ樹脂(Dr. Maisch、ドイツ)を充填した長さ45 cm内径75 umのナノキャピラリーカラムに直接サンプルをロードした。カラム温度は45℃に設定し300 nl/分の流量の二時間勾配メソッドとした。質量分析計は、同期前駆体選択(SPS)-MS3法[Anal Chem. 2014, 86 (14), 7150-7158]によるデータ依存モードで作動させ、Orbitrapでの120,000分解能のMS1スキャン(ポジティブモード、プロファイルデータタイプ、強度しきい値5.0e3、質量範囲375~1600 m/z)に続いて、MS2については35%衝突エネルギーによるイオントラップでのCIDフラグメンテーション、MS3については55%衝突エネルギーによるOrbitrapでのHCDフラグメンテーション(50,000分解能)を行った。MS3スキャン範囲は100-500に設定し注入時間は120 msとした。ダイナミックエクスクルージョンリストを発動して、前に配列決定されたペプチドを60秒間除外し、最大サイクル時間2.5秒を使用した。四重極を用いてフラグメンテーションのためのペプチドを単離した(0.7 m/z単離ウィンドウ)。イオントラップはRapidモードで作動させた。
【0075】
MS/MS/MSデータを、一般的コンタミナントを含む2018 Uniprotヒトタンパク質データベースに対して検索した(順方向と逆方向)。サンプルを3つの画分に設定し、データベース検索基準を以下のように適用した:可変修飾はメチオニン酸化ならびにN末端アセチル化および脱アミド化(NQ)に、固定修飾はシステインカルバミドメチル化に設定し、ペプチドあたり最大5修飾とした。特異的トリプシン消化(トリプシン/P)で切断仕損じは最大2つとした。ランの間でペプチドサンプルをマッチさせた。最大ペプチド質量は6000 Daとした。標識最小比カウントは2に設定され、ユニークペプチドとレイザー(razor)ペプチドの両方を使用して定量化した。FTMS MS/MSマッチ許容値は0.05 Daに設定し、ITMS MS/MSマッチ許容値は0.6 Daに設定された。その他の全ての設定はデフォルトのままとした。
【0076】
その後、proteinGroups.txtファイルがPersuesにインポートされた[メイン:補正された報告強度;残りのエントリはデフォルトのままとされた]。その後、行を「+」値のカテゴリ列によってフィルタリングし、「サイトによってのみ同定される」、「逆方向」、および 「潜在的なコンタミナント」という基準に基づいてマッチする行が縮小マトリックスを介して削除された。それから得られたマトリックスをlog2(x)で変換し、列相関が>0.9であることが確認された。前のマトリックスから、行を対応する実験へとアノテートした(3×A、3×B)。それからマトリックスを正規化し(列の減算)、対応するデータを散布図(ボルケーノプロット)としてプロットした。FDRを2標本T検定(Benjamini-Hochberg)によって決定した。結果は、
図10A-10Cのボルケーノプロットに示されている。
図10A-10Cに示すように、(+)-JQ1コンジュゲートは、比較コンジュゲート種と比較して、ブロモドメインファミリーの標識タンパク質を有意に濃縮した。
【0077】
実施例10―細胞透過性コンジュゲート、タキソール(taxol)-Ir
本明細書に記述される構造を有する細胞透過性タキソール-Irコンジュゲートが、
図11の合成スキームに従って作製され、以下に説明される。
【0078】
暗所でN2下の無水DMF(1 mL)中のIr-CO2H(75 mg、69μmol)およびPyBOP(55 mg、105μmol)の撹拌溶液にDIPEA(30μL、172μmol)を添加した。得られた混合物を室温で10分間撹拌し、無水DMF(1 mL)中のタキソール-NH2(66 mg、70μmol)の溶液を滴下した。反応を一晩撹拌し、EtOAcで希釈し、飽和NaHCO3水溶液を加えることによりクエンチした。水相を除去し、有機層を追加の飽和NaHCO3水溶液、5%クエン酸水溶液、かん水で洗浄し、Na2SO4上で乾燥させた。溶媒を真空中で除去し、粗物質をシリカカラムクロマトグラフィー(勾配溶離:0~3% MeOH/CH2Cl2)およびC8逆相分取HPLC(勾配溶離:30~100% MeCN/H2O(0.1%ギ酸))によって精製し、タキソール-イリジウムを黄色の固体として得た(47 mg、33%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3)δ: 8.77 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 8.75 (s, 1H), 8.77 - 8.65 (m, 1H), 8.48 (t, J = 10.5 Hz, 2H), 8.14 - 7.99 (m, 4H), 7.92 - 7.77 (m, 2H), 7.82 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.74 (t, J = 7.3 Hz, 2H), 7.66 - 7.28 (m, 13H), 7.04 - 6.94 (m, 1H), 6.64 (t, J = 9.4 Hz, 2H), 6.16 (s, 1H), 6.10 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 5.79 - 5.68 (m, 1H), 5.67 - 5.57 (m, 3H). 5.55 - 5.45 (m, 1H), 5.29 (s, 1H), 4.90 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 4.84 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 4.27 (d, J= 8.9 Hz, 1H), 4.15 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 3.87 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 3.16 (app. s, 4H), 2.95 - 2.58 (m, 7H), 2.58 - 2.50 (m, 1H), 2.35 (app. s, 3H), 2.26 - 2.09 (m, 5H), 1.86 - 1.63 (m, 7H), 1.25 (app. s, 3H), 1.16 (s, 3H), 1.13 (s, 3H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3)δ: 202.03, 172.7, 172.5, 171.5 (d, J = 3.2 Hz), 170.5, 169.6, 169.5, 168.2 - 168.0 (m), 167.3, 167.0, 165.0 (dd, J = 262.5, 13.0 Hz), 262.7 (dd, J = 263.7, 13.0 Hz), 157.7, 153.4 - 155.2 (m), 155.1 - 155.0 (m), 154.8 - 154.6 (m), 149.7, 149.3, 145.1 - 144.8 (m), 140.8 (d, J = 2.6 Hz), 138.7 (d, J = 2.0 Hz), 136.8 - 136.6 (m), 134.1 (d, J = 2.1 Hz), 133.9, 132.8, 131.8, 130.3, 130.1 (d, J = 6.1 Hz), 129.8, 129.3, 128.9, 128.8, 128.7, 128.1, 127.4, 126.4, 126.2, 123.9 (t, J = 21.3 Hz), 122.7 (d, J = 9.1 Hz), 120.6 (d, J = 9.1 Hz), 114.2 (dd, J = 16.5, 6.7 Hz), 100.1 (td, J = 27.0, 9.8 Hz), 84.1, 81.0, 78.6, 76.5, 75.4, 74.5, 73.5, 71.6, 71.5, 71.5, 56.2, 55.9, 55.8, 53.6, 47.1, 43.3, 38.8, 35.5, 35.4, 35.3, 33.4, 31.2, 29.8, 26.5, 26.4, 23.8, 23.8, 22.7, 21.6, 21.0, 20.9, 14.6, 11.0. 19F NMR (376 MHz, CDCl3)δ: -62.7 (d, J = 5.6 Hz), -62.8 (d, J = 5.0 Hz), -71.0, -72.9, -101.3 - -101.5 (m), -105.7 - -105.9 (m). m/z HRMS found [M]+ = 1871. 51783 (100), 1872.51899 (89), 1869.51134 (55), 1870.51373 (55), 1873.51932 (52), 1874.52130 (22), [C89H80F10IrN6O16]+requires 1871.50949 (100), 1872.51284 (96), 1869.50715 (60), 1870.51051 (57), 1873.51620 (46), 1874.51955 (14). HPLC(Vydac 218TP C18 HPLC、勾配:0-90% MeCN/H2O(0.1% TFA)10分、5分90% MeCN(0.1% TFA)、1 mL/分、254 nm):tr=13.3分。
【0079】
実施例11―細胞内微小環境マッピング
[細胞内ラベリング]
フェノールレッドを含まないRPMI 1640(Gibco)(4 mL)において80%のコンフルエンシーの、10個の透明10 cmプレート中のMCF-7細胞に、タキソール-Ir(実施例10)(20μM)(5プレート、A)およびIr-dF(CF3)(dMebpy)PF6[分析の際にはFree-Irと呼ばれる](2μM)(5プレート、B)を添加した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。N-(4-(3-(トリフルオロメチル)-3H-ジアジリン-3-イル)ベンジル)ヘクス-5-イナミドを加え(250μM)、プレートを37℃でさらに20分間インキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450nMで20分間照射した(蓋なしで)。続いてプレートをメルクバイオリアクター内で450nMで15分間照射した(蓋なしで)。その後、培地を除去し、細胞を冷DPBS(2 x 5 mL)で穏やかに洗浄し、細胞をこすり取り(5 mLの冷DPBS中に)、組み合わせ、ペレット化した(4℃、1000 gで5分間)。上清を除去し、PMSF(1 mM)およびcOmplete EDTAフリープロテアーゼ阻害剤(Roche)を含む1 mLの冷溶解緩衝液(10 mM HEPES、150 mM NaCl、1.3 mM MgCl2中1% SDS)に細胞を懸濁させた。溶解した細胞を氷上でインキュベートし、超音波処理した(35%、30sの休止を伴って4 x 5s)。次に、溶解液を15 x 1000 gで4℃で15分間遠心分離し、上清を採取した。細胞溶解物の濃度はBCA分析によって測定された(典型的には3 mg/mL)。
【0080】
[CuAAC反応]
3プレックスのためのクリックカクテル:0.5 mLのLo-bindチューブ中で、6.2μLの500 mM CuSO4を62μLの100 mM THPTAに加えてボルテックスした。続いて、5 mMビオチン-PEG 7-アジド(broadpharm)を15.5μL加え、その後、新たに調製した1 Mアスコルビン酸ナトリウムを15.5μL加えた(重要:この順序での試薬の添加)。
【0081】
1.5 mLのLo-bindチューブ中の細胞溶解物(1 mL)に、32μLのクリックカクテルを加えた。得られた溶液をボルテックスして室温で1時間ロティサリー上でインキュベートし、5μLの250 mM Na4EDTAの添加によりクエンチした。該混合物を0℃に冷却し、15 mLのチューブに移し、4.2 mLの氷冷アセトンで希釈した。サンプルを-20℃で一晩沈殿させ(3時間でも満足な結果が得られることが見出された)、4.5×1000 g、4℃で20分間遠心分離し、上清を除去した。ペレットを超音波処理(20%で2 s)で氷冷メタノール(1 mL)中に完全に懸濁し、-20℃で30分間インキュベートした。その時間の後、混合物を4.5×1000 g、4℃で20分間遠心分離し、上清を除去した。この手順を繰り返した。ペレットを室温で20分間空気乾燥させ、300μL 1% SDSに再溶解し(室温で1時間)、95℃で5分間加熱した。試料を冷却し、900μLのRIPA緩衝液で希釈した。250μLのストレプトアビジン磁気ビーズ(Thermo Fisher, cat. 88817)をProtein LoBind微小遠心管(Eppendorf, cat. 022431081)に加え、1 mLのRIPA緩衝液(Thermo Fisher, cat. 89900)で2回洗浄した。洗浄前のストレプトアビジン磁性ビーズに約1.0 mgの細胞溶解物を加え、室温で3時間インキュベートした。磁気ラックを使用してビーズをペレット化し、溶解物の上清を除去した。続いてビーズを1 mLの1% SDS、1 mLの1 M NaCl、および1 mLの10% EtOH(これらはすべて1x DPBS中に調製)でそれぞれ3回洗浄し、洗浄同士の間には5分間インキュベートした。最終洗浄は1 mLのRIPA緩衝液で行った。その後、ビーズを、20 mM DTTと25 mM ビオチンを含む30μLの4x Laemmliサンプル緩衝液(Boston BioProducts, cat. BP-110R)に再懸濁した。ビーズを95℃で10分間加熱し、その後、磁気ラック上に配置した。上清を新しいProtein LoBindマイクロ遠心管に移し、-80℃で保存した。定量的なプロテオミクス試料調製および分析はIQ Proteomics(マサチューセッツ州ケンブリッジ)によって行われた。
【0082】
IQ ProteomicsでのLC-MS分析では、EASY nanoLC-1000(またはnanoLC-1200)(Thermo Fisher)液体クロマトグラフィーシステムにカップリングされたOrbitrap Fusion Lumosで質量スペクトルを取得した。Sepax GP-C18樹脂(1.8μm、150Å、Sepax)を自家充填した75μmキャピラリーカラムに、約2μgのペプチドを最終長さ35 cmまで充填した。0.1%ギ酸中8%から28%までのアセトニトリルの110分間直線的勾配を使用してペプチドを分離した。質量分析計はデータ依存モードで作動された。スキャンシークエンスは、FTMS1スペクトル(解像度=120,000;質量範囲350-1400 m/z;最大注入時間50 ms;AGCターゲット1・106;ダイナミックエクスクルージョンは+/- 10 ppmウィンドウを伴う60秒間)で開始した。イオントラップにおける衝突誘起解離(CID)を介して最も強い10の前駆体イオンをMS2分析のために選択した(正規化衝突エネルギー(NCE)=35;最大注入時間=100 ms;0.7 Daのアイソレーションウィンドウ;AGCターゲット1.5・104)。MS2取得後、Orbitrap中での分析で、同期前駆体選択(SPS)MS3法を実行して高エネルギー衝突誘起解離(HCD)のための8つのMS2生成物イオンを選択した(NCE=55;解像度=50,000;最大注入時間=86 ms;AGCターゲット1.4・105;アイソレーションウィンドウは+2 m/zについては1.2 Da、+3 m/zについては1.0 Da、+4~+6 m/zについては0.8 Da)。すべての質量スペクトルは、ReAdW.exeの修正版を使用してmzXMLに変換された。SEQUESTアルゴリズムを使用して、一般的なコンタミナント(順方向+逆方向の配列)を含む連結2018ヒトUniprotタンパク質データベースに対してMS/MSスペクトルを検索した。データベース検索基準は以下のとおりである:2つの切断仕損じを伴って完全トリプティック;前駆体質量耐容50 ppmおよびフラグメントイオン耐容1 Da;メチオニンの酸化(15.9949 Da)を示差修飾とした。静的修飾はシステインのカルボキシアミドメチル化(57.0214)ならびにリジンおよびペプチドのN末端上のTMT(229.1629)であった。ペプチドスペクトルの一致は線形判別分析を用いてフィルタリングされ、1%のペプチド偽発見率(FDR)に調整された。
【0083】
LC-MS/MSデータのバイオインフォマティクス解析はすべてR統計計算環境で行われた。ペプチドレベル存在量データを使用して、実験におけるタンパク質に対応するペプチドの数を同定した。外れ値が下流の近位呼び出しに影響する可能性を減らすために、単一ペプチド定量化を有するタンパク質は除去された。その後、ペプチドレベル存在量データは、各サンプルについて別個に、合計総存在量に対して正規化された。次に、これらの合計を平均化し、正規化された各タンパク質存在量値にこの平均を乗じて、存在量データを再スケール化した。次に、タンパク質に対応するすべてのペプチドの中央値を取ることによって、ペプチドレベルのデータをタンパク質レベルのデータにマージした。次に、タンパク質をフィルターにかけて、データベース検索から同定された既知コンタミナントと、既知の抗体コンタミナントであるタンパク質(例えば、遺伝子記号にIGK、IGKまたはIGHが存在し、Uniprot記述文に免疫グロブリンが存在するもの)を除去した。その後、データをフィルタリングしてPRNPを除去したが、これは、ほぼすべての実験で一貫して検出される既知の偽陽性であるタンパク質である。タンパク質存在量をlog2変換し、Limmaによる線形モデリング分析を行った。Limmaは経験的ベイズアプローチを採用しており、群あたり小さなサンプルサイズで生物学的分散の現実的な分布を可能にする。このプログラムはさらに完全なデータセットを利用して、観測されたサンプル分散を、プールされた推定値に向けて縮小する。このようにタンパク質間の分散情報を借用することで、真の分散をより正確に推定できるようになり、群間の実際の違いを検出する能力を向上させた。各タンパク質について、存在量データはlmFit関数を用いて実験群を入力変数とする線形モデルに適合させた。log2FC値を推定し、p値(P-value)を算出して有意性を求めた。次に、BenjaminiとHochbergによる偽発見率 (FDR) 法を使用して、複数比較についてp値を補正した。ボルケーノプロットはggplot2ライブラリを用いてRで生成した。Limmaからのlog2FCとp値の推定値は、指定されたlog2FCカットオフに達するものにサブセット化した。タンパク質は、log2倍(fold)カットオフ閾値を上回っているか下回っているか、そして統計学的に有意であったか(FDR補正p値<0.05)に基づいて色付けされた。
【0084】
図12は、ラベリングのために実施例10の細胞透過性コンジュゲートを使用したMCF-7細胞における標的化チューブリンタンパク質についての有意性対濃縮倍率のボルケーノプロットを提供する。
【0085】
実施例12―共焦点顕微鏡
DMEM(フェノールレッドを含まない)を有する35 mmガラス底顕微鏡ディッシュにHeLa細胞を播種し、(+)-JQ1-PEG3-Ir(実施例3)(5μM)、Ir-PEG3-NHBoc[Free-Irと呼ぶ](5μM)、およびDMSOで処理した。プレートを37℃で3時間インキュベートし、培地を除去して交換した。ジアジリン-PEG3-ビオチンを加え(250μM)、プレートをさらに20分間37℃でインキュベートした。その後、プレートをバイオリアクター内で450nMで異なる時間にわたって照射した(蓋なしで)。培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。次に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド400μLで37℃で20分間固定した。細胞をPBSで3回洗浄し、400μLのPBS中0.1%トリトンX-100でRTで20分間、透過処理をした。細胞をPBSで洗浄し、400μLのPBS中2% BSAでRTで20分間ブロックした。細胞をPBSで3回洗浄し、400μLのPBS中1:500希釈のストレプトアビジン-Alexa Fluor 488および1:10,000希釈Hoechstと共にインキュベートした。共焦点顕微鏡観察は、Nikon A1/HD 25顕微鏡(Nikon Instruments, Inc.(ニューヨーク州メルヴィル))を使用して40x倍率で実施された。
図13の画像は、各セッション中に撮影された複数の断面画像の代表的なものである。
【0086】
本発明の様々な課題を達成する本発明の様々な実施形態を記述してきた。これらの実施形態は、本発明の原理を例示しているにすぎないことが認識されるべきである。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、それらの多くの改変および適合が当業者には容易に明らかになるであろう。
【国際調査報告】