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特表2023-516285交感神経系及び副交感神経系の活性化を示すパラメータを検出する方法
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  • 特表-交感神経系及び副交感神経系の活性化を示すパラメータを検出する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】交感神経系及び副交感神経系の活性化を示すパラメータを検出する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0245 20060101AFI20230412BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A61B5/0245 Z
A61B5/02 310A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550166
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 IB2021051831
(87)【国際公開番号】W WO2021176399
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】102020000004621
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522004276
【氏名又は名称】ロマーノ サルヴァトーレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロマーノ サルヴァトーレ
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AC28
4C017BC16
4C017BC21
(57)【要約】

基礎状態から摂動状態への移行に伴う被験者の交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するコンピュータ実装方法であって、収縮時間間隔及び拡張時間間隔のパワースペクトルのLF及びHF帯のパワー間のパワー比率を算出することを含む方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎状態から摂動状態に移行する被験者の交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するコンピュータ実装方法であって、
A.複数の心拍を含む前記被験者の離散圧力信号p(t)を受信することと(1000)、
B.前記離散圧力信号p(t)の各心拍を識別し、各心拍内で、収縮期相psys(t)と拡張期相pdia(t)を識別することと(1050)、
C.心拍進行数の関数としての前記収縮期相の持続時間のダイアグラムDsysと、前記心拍進行数の関数としての前記拡張期相の持続時間のダイアグラムDdiaを構築することと(1100)、
D.前記収縮期相の持続時間の前記ダイアグラムDsysのリサンプリングを実行し、前記収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)を取得し、前記拡張期相の持続時間の前記ダイアグラムDdiaのリサンプリングを実行し、前記拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)を取得することと(1150)、
E.前記収縮期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDsys (r)のパワースペクトルPSDsysと、下限周波数flower_limitと前記下限周波数flower_limitより高い上限周波数fupper_limitとの間の周波数における前記拡張期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のパワースペクトルPSDdiaを計算することと(1200)、
F.LF帯の前記パワースペクトルPSDsysのパワーPLF (PSDsys)、HF帯の前記パワースペクトルPSDsysのパワーPHF (PSDsys)、前記LF帯の前記パワースペクトルPSDdiaのパワーPLF (PSDdia)、及び、前記HF帯の前記パワースペクトルPSDdiaのパワーPHF (PSDdia)を計算することと(1250)、
ただし、前記LF帯の周波数fLFは、第1の中間周波数fintermediate_1以上であり、かつ、第2の中間周波数fintermediate_2より小さく、次式によって表され、
intermediate_1≦fLF<fintermediate_2
前記下限周波数flower_limitは、前記第1の中間周波数fintermediate_1より小さく、かつ、前記第1の中間周波数fintermediate_1は、前記第2の中間周波数fintermediate_2より小さく、かつ、前記第2の中間周波数fintermediate_2は前記上限周波数fupper_limitよりも小さく、次式によって表され、
lower_limit<fintermediate_1<fintermediate_2<fupper_limit
さらに、ただし、前記HF帯の周波数fHFは、前記第2の中間周波数fintermediate_2以上であり、かつ、前記上限周波数fupper_limitよりも小さく、次式によって表わされ、
intermediate_2≦fHF<fupper_limit
G.前記パワースペクトルPSDsysの前記LF帯と前記HF帯のパワー間の比率LHRsysの値と、前記パワースペクトルPSDdiaの前記LF帯と前記HF帯のパワー間の比率LHRdiaの値、すなわち、
LHRsys=PLF (PSDsys)/PHF (PSDsys)
LHRdia=PLF (PSDdia)/PHF (PSDdia)
で示されるものを算出して出力することと(1300)、を備え、
前記コンピュータに実装された方法のAからGのステップが、最初に基礎状態で、次に摂動状態で、前記被験者に実行される、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記下限周波数flower_limitは0.01Hzに等しく、前記上限周波数fupper_limitは0.4Hz~1.2Hzの範囲であり、前記第1の中間周波数fintermediate_1は、0.04Hz~0.12Hzの範囲であり、前記第2の中間周波数fintermediate_2は、0.15Hz~0.45Hzの範囲であり、前記上限周波数fupper_limitは0.8Hz~1.2Hzの範囲であってもよく、前記第1の中間周波数fintermediate_1は0.08Hz~0.12Hzの範囲であってもよく、前記第2の中間周波数fintermediate_2は、0.30Hz~0.45Hzの範囲であってもよく、さらに、前記上限周波数fupper_limitは1.2Hzに等しくてもよく、前記第1の中間周波数fintermediate_1は、0.12Hzに等しくてもよく、前記第2の中間周波数fintermediate_2は、0.45Hzに等しくてもよい、
請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
ステップEにおいて、前記パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaは、それぞれ、前記収縮期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDsys (r)及び前記拡張期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のフーリエ変換を通じて計算され、高速フーリエ変換(FFT)を通じて計算されてもよい、
請求項1又は2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
ステップAにおいて受信した前記離散圧力信号p(t)は、少なくとも3分の持続期間を有し、4分の持続期間を有していてもよく、少なくとも5分の持続時間を有していてもよい、
請求項1から3のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
ステップBにおいて、重複隆起時間の特定に基づいて、各心拍の前記収縮期相及び前記拡張期相を特定する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
‐ステップBにおいて、さらに、各心拍における重複隆起圧Pdicの値を特定し、
‐ステップCにおいて、さらに、前記心拍進行数の関数として重複隆起圧のダイアグラムDdicを構築し、
‐ステップDにおいて、さらに、重複隆起圧のダイアグラムDdicのリサンプリングを実行し、重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)を取得し、
‐ステップEにおいて、さらに、前記下限周波数flower_limitと前記上限周波数fupper_limitとの間の周波数における重複隆起圧の前記リサンプリングされたダイアグラムDdic (r)のパワースペクトルPSDdicを計算し、
‐ステップFにおいて、さらに、前記LF帯の前記パワースペクトルPSDdicのパワーPLF (PSDdic)と、前記HF帯の前記パワースペクトルPSDdicのパワーPHF (PSDdic)を算出し、
‐ステップGにおいて、さらに、前記パワースペクトルPSDdicの前記LF帯と前記HF帯の前記パワー間の比率LHRdicの値、すなわち、
LHRdic=PLF (PSDdic)/PHF (PSDdic)
で示されるものを算出し、出力する、請求項5に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
ステップCにおいて、前記収縮期相の持続時間の前記ダイアグラムDsys及び前記拡張期相の持続時間の前記ダイアグラムDdiaは、各心拍の前記収縮期相及び前記拡張期相の持続時間を、解析中の前記心拍の全体期間に正規化した値として表現することにより構築される、
請求項1から6のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
さらに、最初に前記基礎状態で、次に前記摂動状態で、前記被験者のHRV(心拍変動)を決定して出力する、
請求項1から7のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項9】
さらに、前記収縮期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDsys (r)の標準偏差SD(sys)、及び、前記拡張期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDdia (r)の標準偏差SD(dia)を計算し、ステップGにおいて、最初に前記基礎状態で、次に前記摂動状態での前記被験者のそれらの値を出力する、
請求項1から8のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項10】
さらに、前記収縮期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDsys (r)の前記パワースペクトルPSDsysの総パワーTP(sys)、及び、前記拡張期相の持続時間の前記リサンプリングされたダイアグラムDdia (r)の前記パワースペクトルPSDdiaの総パワーTP(dia)を計算し、ステップGにおいて、最初に基礎状態、次に摂動状態での前記被験者のそれらの値を出力する、
請求項1から9のいずれか1項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項11】
基礎状態から摂動状態への移行中の被験者における交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出する、請求項1から10のいずれか1項に記載の前記コンピュータ実装方法を実行するように構成された処理装置を含む、装置。
【請求項12】
1つ又は複数の処理ユニットによって実行されると、基礎状態から摂動状態への移行中の被験者における交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出する、請求項1から10のいずれか1項に記載の前記コンピュータ実装方法を、前記1つ又は複数の処理ユニットに実行させる命令を含む1つ又は複数のコンピュータプログラムセット。
【請求項13】
請求項12に記載の前記1つ又は複数のコンピュータプログラムセットをその上に格納した、1つ又は複数のコンピュータ可読媒体のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本(basic)状態(以下、基礎(basal)状態とも称する)から摂動状態に移行する被験者において、交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するためのコンピュータ実装方法に関するものであり、そこから交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化との間のバランスの変動を評価することも可能である。また、これにより、この方法は、基礎状態から摂動状態に移行する被験者の交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスが適切か否かを識別する指標を提供する。本コンピュータ実装方法は、被験者自身が基礎状態から摂動状態に移行する際の交感神経系と副交感神経系の相互作用への影響を示すこと、例えば薬物の適用、及び/又は、被験者自身の姿勢の変化による影響を示すことを、簡単かつ汎用的、効率的かつ信頼性の高い方法で行うことができるものである。
【0002】
また、本発明は、そのような方法を実行するように構成された装置に関する。
【0003】
本発明による方法は、コンピュータ実装方法であり、ここで、用語「コンピュータ」は、任意の処理装置(特に、少なくとも1つのマイクロプロセッサ)を意味しており、本発明による装置によって実行されると、この処理装置は、迷走神経系の活性化を検出するコンピュータ実装方法を同じ装置に実行させる命令を含む1つ又は複数のコンピュータプログラムのセットを実行する。また、この1つ又は複数のコンピュータプログラムは、1つ又は複数のコンピュータ読み取り可能な媒体のセットに格納することができる。
【背景技術】
【0004】
心拍数は、1分間あたりの平均心拍数として定義できることが知られている。この数値、例えば70回/分(beats per minute:b/m)は、ある心拍と次の心拍の間の時間が実際には一定ではなく連続的に変化しているため、平均値である。HRVとも知られている心拍変動は、被験者の健康状態を評価するのに役立つパラメータである。実際、HRVの測定と解析はますます重要性を増しており、この測定から多くの情報を推し量ることが可能となり、これにより、たとえば、不整脈や心臓発作のリスクを評価したり、交感神経系として知られる正交感神経系の活動と副交感神経系の活動とのバランスが適切かどうかを判断したりすることができるようになる。この点に関し、HRVの評価は循環器領域に限定して行われてきたが、最近の数多くの科学的研究により、他の多くの応用領域においても信頼性の高い指標としての重要性を示している。
【0005】
HRVとは、呼吸リズム、不安、ストレス、怒り、リラックスなどの情動状態などの要因に応じた心拍数の自然な変動であることが知られている。健康な心臓では、心拍はこれらすべての要因に迅速に反応し、状況に応じて変化し、身体が受けるさまざまな状況にうまく適応できる。一般に、健康な被験者は心拍の変動性が高く、具体的には、様々な状況に対して適切な心理物理学的な適応性を示す。
【0006】
HRVは、交感神経系と副交感神経系の相互作用に関連しており、その結果心血管や呼吸器系などの、身体の器官やシステムの機能に影響を及ぼす。
【0007】
交感神経系が活性化すると、心拍の加速、気管支の拡張、血圧の上昇、末梢血管の収縮、瞳孔の拡張、発汗の増加など、一連の作用が生じる。これらの自律反応の化学的メディエーターは、ノルエピネフリン、アドレナリン、コルチコトロピン、及びいくつかの副腎皮質ホルモンである。交感神経系は、警戒、闘争、身体的及び/又は感情的ストレスの状況に対する身体の正常な反応である(「闘争又は逃走」反応としても知られている)。
【0008】
逆に、副交感神経系(迷走神経緊張、すなわち迷走神経の活動や迷走神経活動を介しても表現される)が活性化すると、心拍の減速、気管支筋緊張の亢進、血管の拡張、圧力の低下、呼吸の緩慢化、筋弛緩の増大、呼吸が落ち着いて深くなる、生殖器や手足が温かくなる、などが生じるとされている。これは、代表的な化学的メディエーターであるアセチルコリンを通じて作用する。副交感神経系は、平穏、休息、静寂、危険や(肉体的・精神的)ストレスがない状況に対する身体の正常な反応を表す。
【0009】
被験者の器官は、いかなる時も、これら2つの神経系(すなわち交感神経系と副交感神経系)におけるバランス又はいずれか一方の優位性によって決定される状況にある。どちらか一方の神経系をより活性化させることで自身のバランスを変化させる能力は非常に重要であり、生理的、心理的な観点から器官の動的バランスを整える基本的なメカニズムである。
【0010】
HRVを評価することで、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化との間の相対的なバランス状態を評価することができる。このことは、特定の状況及び/又は特定のタイプの患者(健常者と病理患者の両方)において、これら2つのシステムがいつ、どのように最適なバランスに達するかを評価する上で、非常に重要な意味を持つ。
【0011】
一般にHRVは、心臓の電気的活動を検出するために心臓のレベルに装着される従来型の表面電極を備えた、ECG又はEKGとも呼ばれる心電図装置を用いて測定することによって評価され(例えば、J.W.Hurstによる、"Naming of the Waves in the ECG, With a Brief Account of Their Genesis" in Circulation, vol.98, no 18, 3 November 1998, pp.1937-42を参照)、その中で関連する非常に複雑な専用ソフトウェアが、個々の心拍を識別し、したがってそれらの変動を識別することによって、データの分析を実行する。例として、限定するものではないが、そのようなソフトウェアの例は、イタリアのElemaya社(www.elemaya.it 参照)及びフィンランドのKubios Oy社(www.kubios.com )から入手可能である。特に、デジタル化された後、データは、ソフトウェアによってコンピュータ実装方法で分析される。このソフトウェアは、ECG信号のRピーク間の時間距離を測定することによって各心拍と次の心拍との間の時間距離(通常ミリ秒で表される)を計算し、次に、心拍の進行数(横軸)の関数として、通常ミリ秒で表される、ある心拍と次の心拍とのRR距離(縦軸)の傾向を表すタコグラムと呼ばれるダイアグラムを構築する。タコグラムは通常4~5分(すなわち全部で約約300回の心拍数)間隔で作成される。
【0012】
その後、ソフトウェアは、タコグラムのリサンプリングを行い、その後、パワースペクトルを得るために、すなわち、リサンプリング操作から生じるタコグラムのPSDとしても示されるパワースペクトル密度を得るためにフーリエ変換を行う(例えば、J. Pucik らによる"Heart Rate Variability Spectrum: Physiologic Aliasing and Nonstationarity Considerations", Trends in Biomedical Engineering Conference paper, Bratislava, September 16-18, 2009 において)。
【0013】
パワースペクトルPSDはタコグラムの周波数成分を表し、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスを評価に達するために不可欠な情報を含んでいる。特に、タコグラムのパワースペクトルPSDは、0.01Hz~0.4Hzの周波数におけるタコグラムのパワー(周波数領域)を表す。パワーは通常、ミリ秒の2乗で表される。
【0014】
近年の研究・調査(例えば、A.E.Aubert らによる "Heart rate variability in athletes", Sports Medicine 33 (12):889-919, 2003 において)により、次に示されるそれぞれ3つのサブ周波数帯と呼ばれるものが区別されるようになった。
‐VLF(Very Low Frequency:極低周波数)帯、0.01Hz~0.04Hzの周波数で、体温調節の変化に依存し、心理的には心配や強迫観念(心配や反芻)の状態に影響され、交感神経系の活動にわずかにのみ起因する。
‐LF(Low Frequency:低周波数)帯、0.04Hz~0.15Hzの周波数で、主に交感神経系の活動と圧受容器の調節に起因すると考えられている。
‐HF(High Frequency:高周波)帯、0.15Hz~0.4Hzの周波数で、副交感神経系の活動(したがって、迷走神経活動によって構成される基本成分)の表れと考えられており、特に、HF帯は呼吸のリズムと深さに強く影響され、これにより、呼吸のリズム及び/又は深さが変わると、タコグラムのパワースペクトルPSDに対するHF帯の寄与が増加する。
【0015】
交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化の関係は、LF帯のタコグラムのパワーとHF帯のタコグラムのパワーのLF/HF比(それらの和で正規化される場合もある)で評価される。特に、文献上では、パワー値を対数で表すことも多い。
【0016】
最後に、ソフトウェアは、タコグラムの標準偏差SD及び/又は総パワー(対数形式の場合もある)を計算することもでき、総パワーは一般にタコグラムの標準偏差の二乗と等しく設定される(例えば、前出のA.E. Aubertらによるもの)。これらのパラメータはいずれもHRVの全体的な程度を表すものであり、したがって交感神経系と副交感神経系の全体的な活性化を表すものである。
【0017】
この分野において、ECGと心音図信号(PCG-Phonocardiogram)に基づく収縮期及び拡張期の時間距離の変動解析と、心血管非線形ダイナミクスの評価のためのHRVとの相関性に関するさらなる研究が Chengyu Liu らによって、次の文献において行われている。"Systolic and Diastolic Time Interval Variability Analysis and Their Relations with Heart Rate Variability", BIOINFORMATICS AND BIOMEDICAL ENGINEERING, 2009, ICBBE2009. 3RD INTERNATIONAL CONFERENCE ON, IEEE, PISCATAWAY, NJ, USA, 11 June 2009 (2009-06-11), pages 1-4, XP031489349, ISBN: 978-1-4244-2901-1。また、橈骨動脈波形内の収縮期及び拡張期の時間間隔の呼吸性変動と動的指標との比較可能性に関する研究は、Park Ji Hyunらによって、次の文献において行われている。"Respiratory variation of systolic and diastolic time intervals within radial arterial waveform: a comparison with dynamic preload index", JOURNAL OF CLINICAL ANESTHESIA, BUTTERWORTH PUBLISHERS, STONEHAM, GB, vol.32, 24 March 2016 (2016-03-24), pages 75-81, XP029596121, ISSN: 0952-8180, DOI: 10.1016 / J.JCLINANE.2015.12.022。
【0018】
近年の臨床経験により、上記のパラメータの値、すなわち心拍数、タコグラム標準偏差SD、タコグラム総パワー、VLF帯のタコグラムのパワー、LF帯のタコグラムのパワー、HF帯のタコグラムのパワーの値について基準範囲を定義することも可能である。基準範囲の定義は、異なる著者間や米国と欧州との基準間で完全に同一ではないが、先行技術のソフトウェアのコンテキストでは、検討中の集団に関連する実験に基づいて得られた基準範囲(例えば、イタリアの被験者に対して行われた研究や調査の場合には、イタリアの集団のもの)が採用されている。
【0019】
さらに、高齢者(50~70歳)と若年者(20~50歳)では、異なる基準範囲が導入される。
【0020】
しかし、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化との間のバランス状態を、HRVの評価に基づいて評価する先行技術の方法は、実施した測定値の分析から得られる結果の解釈が統一されていない点が依然として悩ましい。たとえば、文献には、分析を実行しなければならない(すなわち、分析されるタコグラムを構築するためのデータを収集する)時間間隔や、単一の被験者に実施した測定値の分析から得られた結果を参照する被験者の病態に関する指標について、矛盾しないまでも、大きく異なる指標が記載されている。
【0021】
本発明の目的は、したがって、交感神経系及び副交感神経系の活性化、並びに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスを、簡単で汎用性が高く、効率的で信頼性の高い方法で評価できるようにすることである。これにより、基礎状態から摂動状態に移行中の被験者自身の交感神経系と副交感神経系の相互作用への影響を示すことができ、例えば、薬物の適用や被験者自身の姿勢の変化がこの相互作用に及ぼす影響を判断することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の具体的な目的は、基礎状態から摂動状態への移行中の被験者における交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するコンピュータ実装方法を提供することであって、このコンピュータ実装方法は、
A.複数の心拍を含む被験者の離散圧力信号p(t)を受信することと、
B.離散圧力信号p(t)の各心拍を識別し、各心拍内で、収縮期相psys(t)と拡張期相pdia(t)を識別することと、
C.心拍進行数の関数としての収縮期相の持続時間のダイアグラムDsysと、心拍進行数の関数としての拡張期相の持続時間のダイアグラムDdiaを構築することと、
D.収縮期相の持続時間のダイアグラムDsysのリサンプリングを実行し、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)を取得し、拡張期相の持続時間のダイアグラムDdiaのリサンプリングを実行し、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)を取得することと、
E.収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)のパワースペクトルPSDsysと、下限周波数flower_limitと下限周波数flower_limitより高い上限周波数fupper_limitの間の周波数における拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のパワースペクトルPSDdiaを計算することと、
F.LF帯のパワースペクトルPSDsysのパワーPLF (PSDsys)、HF帯のパワースペクトルPSDsysのパワーPHF (PSDsys)、LF帯のパワースペクトルPSDdiaのパワーPLF (PSDdia)、及び、HF帯のパワースペクトルPSDdiaのパワーPHF (PSDdia)を計算することと、
ただし、LF帯の周波数fLFは、第1の中間周波数fintermediate_1以上であり、かつ、第2の中間周波数fintermediate_2より小さく、次式によって表され、
intermediate_1≦fLF<fintermediate_2
ただし、下限周波数flower_limitは、第1の中間周波数fintermediate_1より小さく、第1の中間周波数fintermediate_1は、第2の中間周波数fintermediate_2より小さく、第2の中間周波数fintermediate_2は上限周波数fupper_limitよりも小さく、次式によって表され、
lower_limit<fintermediate_1<fintermediate_2<fupper_limit
ただし、HF帯の周波数fHFは、第2の中間周波数fintermediate_2以上であり、かつ、上限周波数fupper_limitよりも小さく、次式によって表わされ、
intermediate_2≦fHF<fupper_limit
G.パワースペクトルPSDsysのLF帯とHF帯のパワー間の比率LHRsysの値と、パワースペクトルPSDdiaのLF帯とHF帯のパワー間の比率LHRdiaの値、すなわち、
LHRsys=PLF (PSDsys)/PHF (PSDsys)
LHRdia=PLF (PSDdia)/PHF (PSDdia)
で示されるものを算出して出力するステップと、を備え、
コンピュータ実装方法のAからGのステップが、最初に基礎状態で、次に摂動状態で、被験者に実行される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、下限周波数flower_limitは0.01Hzに等しくてもよく、上限周波数fupper_limitは0.4Hz~1.2Hzの範囲であってもよく、第1の中間周波数fintermediate_1は、0.04Hz~0.12Hzの範囲であってもよく、第2の中間周波数fintermediate_2は、0.15Hz~0.45Hzの範囲であってもよく、上限周波数fupper_limitは0.8Hz~1.2Hzの範囲であってもよく、第1の中間周波数fintermediate_1は0.08Hz~0.12Hzの範囲であってもよく、第2の中間周波数fintermediate_2は、0.30Hz~0.45Hzの範囲であってもよく、さらに、上限周波数fupper_limitは1.2Hzに等しくてもよく、第1の中間周波数fintermediate_1は、0.12Hzに等しくてもよく、第2の中間周波数fintermediate_2は、0.45Hzに等しくてもよい。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、ステップEにおいて、パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaは、それぞれ、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)及び拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のフーリエ変換を通じて計算でき、高速フーリエ変換(FFT)を通じて計算してもよい。
【0025】
本発明の追加の態様によれば、ステップAにおいて受信した離散圧力信号p(t)は、少なくとも3分の持続期間を有しており、4分の持続期間を有していてもよく、少なくとも5分の持続時間を有してもよい。
【0026】
本発明の別の態様によれば、ステップBにおいて、特定される重複隆起時間に基づいて、各心拍の収縮期相及び拡張期相を特定することができる。
【0027】
本発明のさらなる態様によれば、コンピュータ実装方法は、
‐ステップBにおいて、さらに、各心拍における重複隆起圧Pdicの値を特定し、
‐ステップCにおいて、さらに、心拍進行数の関数として重複隆起圧のダイアグラムDdicを構築し、
‐ステップDにおいて、さらに、重複隆起圧のダイアグラムDdicのリサンプリングを実行し、重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)を取得し、
‐ステップEにおいて、さらに、下限周波数flower_limitと上限周波数fupper_limitとの間の周波数における重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)のパワースペクトルPSDdicを計算し、
‐ステップFにおいて、さらに、LF帯のパワースペクトルPSDdicのパワーPLF (PSDdic)と、HF帯のパワースペクトルPSDdicのパワーPHF (PSDdic)をさらに算出し、
‐ステップGにおいて、パワースペクトルPSDdicのLF帯とHF帯のパワー間の比率LHRdicの値、すなわち、
LHRdic=PLF (PSDdic)/PHF (PSDdic)
で示されるものを算出し、出力することができる。
【0028】
本発明の追加の態様によれば、ステップCにおいて、収縮期相の持続時間のダイアグラムDsys及び拡張期相の持続時間のダイアグラムDdiaは、各心拍の収縮期相及び拡張期相の持続時間を、解析中の心拍の全体期間に正規化した値として表現することにより構築されることが可能である。
【0029】
本発明の別の態様によれば、コンピュータ実装方法は、最初に基礎状態で、次に摂動状態で、被験者のHRV(心拍変動)を決定して出力することを、さらに含んでもよい。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、コンピュータ実装方法は、さらに、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)の標準偏差SD(sys)、及び、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)の標準偏差SD(dia)を計算でき、ステップGにおいて、最初に基礎状態で、次に摂動状態での被験者のそれらの値を出力できる。
【0031】
本発明の追加の態様によれば、コンピュータ実装方法は、さらに、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)のパワースペクトルPSDsysの総パワーTP(sys)及び拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のパワースペクトルPSDdiaの総パワーTP(dia)を計算でき、ステップGにおいて、最初に基礎状態、次に摂動状態での被験者のそれらの値を出力できる。
【0032】
また、本発明の特定の目的は、前述したように、基礎状態から摂動状態への移行中の被験者における交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するコンピュータ実装方法を実行するように構成された処理装置を含む、装置である。
【0033】
本発明のさらなる特定の目的は、1つ又は複数の処理ユニットによって実行されると、前述のように、基礎状態から摂動状態への移行中の被験者における交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータを検出するコンピュータ実装方法を前記1つ又は複数の処理ユニットに実行させる命令を含む1つ又は複数のコンピュータプログラムセットである。
【0034】
本発明のさらなる特定の目的は、上述の1つ又は複数のコンピュータプログラムセットをその上に格納した、1つ又は複数のコンピュータ可読媒体のセットである。
【0035】
本発明のコンピュータ実装方法及び関連する装置は、基礎状態から摂動状態に移行する被験者において、心圧サイクル(例えば動脈圧、肺静脈圧、中心静脈圧など)の収縮期相と拡張期相を別々に分析することによって、交感神経系の活性化の変動と副交感神経系の活性化の変動を識別するための信頼できる指標を提供することができるるとともに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化とのバランスが適切か否かを識別することを可能にする。これにより、例えば、薬剤の適用や被験者自身の姿勢の変化の交感神経系及び副交感神経系への影響を特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明を、例示的であるが限定的ではない目的で、その好ましい実施形態に従って、本発明によるコンピュータ実装方法の好ましい実施形態のフローグラフを示す添付の図1を特に参照しながら説明する。
【0037】
本発明者は、驚くべきことに、心拍の変動に基づき、被験者の交感神経系の活性化及び副交感神経系の活性化だけでなく、それらのバランスについてより多くの情報を得るために、心臓と動脈系の結合を利用することが可能であることを見出した。このため、ECGに基づく検出技術とは異なり、本発明によるコンピュータ実装方法は、心圧サイクルに基づいている。本発明によるコンピュータ実装方法は、心拍が収縮期相と拡張期相の2つの主要な相で構成されている「機械的」特性を利用する。
【0038】
この方法とは異なり、ECG信号検出を使用する従来技術の方法及び装置は、電気信号の心周期に基づいている。心周期の電気信号は、人体の内部で血液を循環させるための電気機械的な心臓活動の電気的要素にのみ対応しているため、交感神経系と副交感神経系のバランスに関する利用可能なすべての情報を提供するには不十分である。これは、この情報の多くは実際に血液を循環させる心臓の活動の機械的要素に関連しているためである。実際、心臓に送られた電気信号が直ちに心臓自体の機械的反応を引き起こすわけではなく、これは、心臓と循環器系の慣性、すなわち循環器系を形成するさまざまなシステムの剛性と適合の特定の状態にも左右されるからである。このことは、HRVを評価するためにECG信号の検出を採用する先行技術の方法及び装置が、その信頼性を大きく制限するエラー及び近似の影響を受けることを意味する。たとえば、この例に制限されるわけではないが、大動脈弁が正しく開かず、心臓と心血管及び呼吸器系との電気機械的結合に問題が生じた場合、心臓活動の電気コンポーネントのみでは、心臓の機械的機能が大きく損なわれ、その結果として交感神経系と副交感神経系が互いに対してアンバランスに活性化されている一方で、心臓の電気的活動の検出を通じて適切な心拍であることを知らせるECG信号が提供されることとなり得る;これは、心臓活動の電気的要素と機械的要素の質的分離があるすべての場合に当てはまる。
【0039】
本発明によるコンピュータ実装方法は、圧力の心周期の収縮期相と拡張期相について別々に期間の変動を分析することによって、交感神経系と副交感神経系の活性化の変動を示すパラメータの検出を得ることができる。また、この方法により、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスの変化を評価することができ、交感神経系と副交感神経系の活性化とそのバランスの程度の信頼できる評価をすることができる。実際、圧力の心周期は、収縮期と拡張期が明確に定義された典型的な圧力形態を有するので、代わりに先行技術の方法によるECG信号のR-R距離に基づくタコグラムの分析を通じたHRVの評価時のような心周期全体に対する貢献だけでなく、同じ収縮期相と拡張期相に対する貢献についても識別することができ、定量することが可能である。以下では、圧力信号の収縮期相の持続時間の変動性をSYS-Vで示し、圧力信号の拡張期相の持続時間の変動性をDIA-Vで示すことにする。
【0040】
特に、先行技術の方法によるECG信号に基づいて心周期全体のHRVを検出することによって評価されるバランスに対して、本発明によるコンピュータ実装方法によって実施されるSYS-V及びDIA-Vの個別の分析は、収縮期相と拡張期相の一方又は両方において、交感神経系及び副交感神経系の活性化の変動並びに交感神経系の活性及び副交感神経系の活性の間のバランスが異なっていることを示すパラメータを検出することが可能である。
【0041】
例えば、限定するものではないが、3人の被験者、すなわち、運動選手、心疾患患者、及び、通常の被験者のそれぞれに対しては、同一のHRVが、異なるSYS-VとDIA-Vの組に対応するかもしれない。事実、一般に、複数の心周期においてECG信号のR-R距離に変化がない場合でも、器官が経験している特定の条件へ適応することにより、同じ複数の心周期において収縮期相の持続時間と拡張期相の持続時間とに逆符号の変化が生じることがある。したがって、これら2つの収縮期相と拡張期相の変動は、互いに異なる交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化の寄与を表すことができ、これにより、SYS-VとDIA-Vの解析はそのような寄与についてより具体的な情報を提供できる。同様に、被験者の心拍数がイベントの前後で一定である場合に、それを形成する2つの力学的相、すなわち収縮期相と拡張期相が変化する可能性がある。このようにして、本発明によるコンピュータ実装方法により、例えば、血管収縮剤又は血管拡張剤又は強心剤の投与など、交感神経系の活性化の成分に影響を与え変化させる副交感神経系の活性化の成分への介入により、副交感神経系の活性化の寄与に対する交感神経系の活性化の寄与の変化を引き起こす必要があるか否かを事前に識別することが可能になる。
【0042】
その結果、薬物及び手術によるストレスなどの何らかの病的反応による交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスの程度は、HRV測定のためのECG信号検出に基づく先行技術の手法では正しく識別できなかったが、本発明によるコンピュータ実装手法によって実行されるSYS-V及びDIA-Vの分析によって信頼して評価されるようになる。特に、SYS-V及びDIA-Vの分析を通じて、本発明によるコンピュータ実装方法は、まだ明らかになっていないいくつかの病的状態を早期に特定することを可能にすることができるが、先行技術の方法ではその変性の後にのみ特定できる。
【0043】
図1は、本発明によるコンピュータ実施方法の好ましい実施形態のフローチャートを示す。
【0044】
第1のステップ1000において、本方法は、複数の心拍を含む被験者又は患者の離散圧力信号p(t)(例えば、動脈圧又は肺静脈圧又は中心静脈圧など)を受信する。特に、離散圧力信号p(t)は、圧力センサを介して検出される信号であって、離散圧力信号p(t)(ここで、インデックスiは離散サンプルの連続値を示す)を得るためにデジタル化されている連続圧力信号p(t)に由来し、又は、記憶媒体に格納された離散信号(すなわち既にデジタル化されている)に由来し得る。特に、連続圧力信号p(t)の検出は、例えば光電式センサを介して侵襲的又は非侵襲的に行われ得る。受信した離散圧力信号p(t)は、任意に少なくとも3分、より任意に少なくとも4分、さらに任意に少なくとも5分の持続時間を有する。
【0045】
第2のステップ1050において、本方法は、離散圧力信号p(t)の各心拍を識別し、各心拍内で、収縮期相psys(t)及び拡張期相pdia(t)を識別する。任意選択で、本方法は、各心拍の識別を、WO2004/084088Alに記載された心拍の自動識別方法、及び/又は、重複隆起時間(動脈圧信号のための大動脈弁の閉鎖時間又は肺圧信号のための三尖弁の閉鎖時間に対応する)の識別に基づく各心拍の収縮期相及び拡張期相の識別を介して、実行する。
【0046】
第3のステップ1100において、本方法は、心拍の進行数(横軸)の関数としての収縮期相の持続時間(縦軸)のダイアグラムDsysと、心拍の進行数(横軸)の関数としての拡張期相の持続時間(縦軸)のダイアグラムDdiaを構築する。収縮期相と拡張期相の持続時間は、ミリ秒単位で表されてもよい。
【0047】
第4のステップ1150において、本方法は、収縮期相の持続時間のダイアグラムDsys及び拡張期相の持続時間のダイアグラムDdia(これらは第3のステップ1100で構築された)のリサンプリングを実行し、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)及び拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)を取得する。
【0048】
第5のステップ1200において、本方法は、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)のパワースペクトルPSDsys、及び、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたDdia (r)のパワースペクトルPSDdiaを、0.01Hzに等しくてもよい下限周波数flower_limitと、0.4Hz~1.2Hzであってもよく、さらに0.8Hz~1.2Hzの範囲であってもよく、さらに1.2Hzと等しくてもよい上限周波数fupper_limit(下限周波数flower_limitよりも大きい)との間で、計算する。特に、下限周波数flower_limit、及び、上限周波数fupper_limitは、検査中の被験者の種類に依存する。任意選択で、本方法は、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)、及び、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のフーリエ変換、より任意選択で、高速フーリエ変換(FFT)を介して、パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaを、それぞれ計算する。フーリエ変換の代わりに、本発明によるコンピュータ実装方法の他の実施形態は、自己回帰モデリングを通じて、又は、ウェーブレット変換を通じて、パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaを計算できる。
【0049】
第6のステップ1250において、本方法は、パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaのそれぞれを、3つの周波数帯であるVLF(超低周波)、LF(低周波)及びHF(高周波)に細分化する。LF帯では、周波数fLFは、第1の中間周波数fintermediate_1から第2の中間周波数fintermediate_2の範囲であり、次式によって表され、
intermediate_1≦fLF<fintermediate_2
下限周波数flower_limitは、第1の中間周波数fintermediate_1より小さく、かつ、第1の中間周波数fintermediate_1は、第2の中間周波数fintermediate_2より小さく、かつ、第2の中間周波数fintermediate_2は上限周波数fupper_limitよりも小さく、次式によって表される。
lower_limit<fintermediate_1<fintermediate_2<fupper_limit
【0050】
HF帯の周波数fHFは、第2の中間周波数fintermediate_2から上限周波数fupper_limitの範囲であり、次式によって表わされる。
intermediate_2≦fHF<fupper_limit
【0051】
VLF帯の周波数fVLFは、下限周波数flower_limitから第1の中間周波数fintermediate_1の範囲であり、次式によって表される。
lower_limit≦fVLF<fintermediate_1
【0052】
第1の中間周波数fintermediate_1及び第2の中間周波数fintermediate_2もまた、検査中の被験者のタイプに依存する。任意選択で、第1の中間周波数fintermediate_1は、0.04Hz~0.12Hzの範囲、より任意選択で、0.08Hz~0.12Hzの範囲、よりさらに任意選択で、0.12Hzに等しく、第2の中間周波数fintermediate_2は、0.15Hz~0.45Hzの範囲、より任意選択で、0.30Hz~0.45Hzの範囲、よりさらに任意選択で、0.45Hzに等しい。
【0053】
さらに第6のステップ1250において、本方法は、LF及びHF帯域のそれぞれの1つにおけるパワースペクトルPSDsys及びPSDdiaの各々のパワー、すなわち、
‐パワースペクトルPSDsysのLF帯におけるパワーPLF (PSDsys)(LF帯における積分値、すなわちパワースペクトルPSDsysの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)
‐パワースペクトルPSDsysのHF帯におけるパワーPHF (PSDsys)(HF帯における積分値、すなわちパワースペクトルPSDsysの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)
‐パワースペクトルPSDdiaのLF帯におけるパワーPLF (PSDdia)(LF帯における積分値、すなわちパワースペクトルPSDdiaの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)
‐パワースペクトルPSDdiaのHF帯におけるパワーPHF (PSDdia)(HF帯における積分値、すなわちパワースペクトルPSDdiaの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)
を計算する。
【0054】
第7のステップ1300において、本方法は、パワースペクトルPSDsys及びPSDdiaのLF及びHF帯のパワー間の比率LHRsys及びLHRdiaの値、すなわち、
LHRsys=PLF (PSDsys)/PHF (PSDsys)
LHRdia=PLF (PSDdia)/PHF (PSDdia)
にて示されるものをそれぞれ計算する(及び出力する)。
【0055】
第7のステップ1300で出力された比率LHRsys及びLHRdiaの値に基づいて、被験者の属する集団の種類を考慮して、医師は、交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動を評価することが可能となり、そこから、被験者自身の交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスの変動(すなわち、交感神経系の活性化又は副交感神経系の活性化が他方よりも優位になる可能性)を評価することも可能である。特に、比率LHRsys及びLHRdiaの値は、検査中の被験者がどのような年齢層、病態の集団に属するかに依存する。
【0056】
すなわち、本発明によるコンピュータ実装方法は、各心周期内の収縮期相及び拡張期相を分析し、心臓の電気刺激に対する心臓血管系の機械的応答の特性を利用する。これにより、交感神経系及び副交感神経系の活性化の動的成分並びに交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化との間のバランスが、2つの収縮期相及び拡張期相の間に動的平衡の異なる指標を与え、ストレス及び迷走神経活性化についてより詳細な情報を提供するので、先行技術の方法よりも信頼性の高い評価が可能となる。
【0057】
本発明者は、本発明によるコンピュータ実装方法を適用して結果を得て、そして、その結果についてHRVの評価における先行技術の方法によって得られた結果と比較することで、いくつかの評価を行った。特に、基礎状態から、ある事象によって心血管系に変化が生じる摂動状態に移行した被験者を対象とした実験を行った。
【0058】
実験は、HRVの変動の特性が、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)の特性と一致又は不一致のいずれかとなる可能性を示しており(ただし、絶対値は等しくない)、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)の変動の特性は、多くの場合、HRVの特性とは大幅に異なる。
【0059】
交感神経抑制作用のある強力な麻酔薬(すなわち、プロポフォール(登録商標))の投与によって摂動状態が引き起こされた被験者に対して得られた結果について、いくつかの評価が行われた。従来の生理学では、迷走神経活動が活性化し、これにより、交感神経系の活動が阻害されることで、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスが変化するため、LF成分とHF成分との間の比率は低下するはずとされていた。しかしながら、HRVの特性にはばらつきがあり、タコグラムのパワースペクトルPSDのLF成分とHF成分との間の比率が、ある被験者では減少し、ある被験者では増加するという矛盾した結果となり、タコグラムのパワースペクトルPSDは迷走神経の活性化と交感神経系の阻害を正しく識別できないことが示された。これとは異なり、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)から得られる比率LHRsysは、すべての患者で減少し、基礎状態(すなわち、麻酔薬の投与によって変化しない状態)に対する副交感神経系の活性化の優勢を信頼性よく識別することができた。
【0060】
一般に、本発明によるコンピュータ実装方法を適用して得られた結果から、交感神経系と副交感神経系のいずれが優位に活性化されているかを評価するには、基礎状態から摂動状態への移行における比率LHRsysとLHRdiaの変動を、検査した被験者の種類に応じて比較すればよいことが明らかになった。例えば、被験者の種類によっては、その変動が不一致であれば、副交感神経系の活性化が交感神経系の活性化に勝っており、その変動が一致(例えば、両方が増加)していれば、交感神経系の活性化が副交感神経系の活性化に勝っていることになる。
【0061】
検査中の患者(例えば、失神の原因となる起立性障害のある患者や肝硬変の患者など)で、基礎状態に関するデータが利用可能でない場合、交感神経系の活性化の変動、及び、副交感神経系の活性化の変動、並びに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスの評価は、患者を検査台に横たえた状態で本発明によるコンピュータ実装方法を実行し、これを基礎状態として、患者にいわゆるチルトテスト(すなわち、検査台を60度傾ける)を行い、これを摂動状態として、再び本発明によるコンピュータ実装方法を実行する。肝硬変を患っている患者に対しては、仰臥位から起立位への移動を摂動状態とするだけで十分である。
【0062】
本発明によるコンピュータ実装方法は、それ自体は診断方法ではないが、交感神経系の活性化の変動、副交感神経系の活性化の変動、及び、基礎状態から摂動状態へ移行する被験者の交感神経系と副交感神経系の活性化のバランスを示す比率LHRsys及びLHRdiaのようなパラメータを検出する方法であり、診断のためには医師による実質的な解釈が必要である。
【0063】
本発明によるコンピュータ実装方法の以下の他の実施形態は、
‐第2のステップ1050において、各心拍における重複隆起圧Pdicの値を特定すること、
‐第3のステップ1100において、心拍進行数(横軸)の関数としての重複隆起圧(縦軸)のダイアグラムDdicを構築すること、
‐第4のステップ1150において、重複隆起圧のダイアグラムDdicのリサンプリングを行い、重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)を取得すること、
‐第5のステップ1200において、下限周波数(任意選択で、0.01Hzに等しい)と上限周波数(下限周波数flower_limitより大きく、任意選択で、0.4Hz~1.2Hzの範囲、より任意選択で、0.8Hz~1.2Hzの範囲、さらにより任意選択で、1.2Hzに等しい)との間の周波数における重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)のパワースペクトルPSDdicを計算(任意選択で、フーリエ変換を通して、より任意選択で、FFT、自己回帰モデル又はウェーブレット変換を通して)すること、ただし、周波数は、上述のように検査中の被験者の種類に依存し、
‐第6のステップ1250において、重複隆起圧のリサンプリングされたダイアグラムDdic (r)のパワースペクトルPSDdicを、3つの周波数帯であるVLF帯(この中の周波数fVLFは、下限周波数flower_limitから第1の中間周波数fintermediate_1の範囲である)、LF帯(この中の周波数fLFは、第1の中間周波数fintermediate_1から第2の中間周波数fintermediate_2の範囲である)、及び、HF帯(この中の周波数fHFが第2の中間周波数fintermediate_2から上限周波数fupper_limitの範囲である)に細分化し、LF帯とHF帯のそれぞれにおいて、パワースペクトルPSDdicのパワー、すなわち、LF帯におけるパワースペクトルPSDsysのパワーPLF (PSDdic)(LF帯における積分、すなわちパワースペクトルPSDdicの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)、及び、HF帯におけるパワースペクトルPSDsysのパワーPHF (PSDdic)(HF帯における積分、すなわちパワースペクトルPSDdicの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)を計算すること、ただし、前述のように、第1の中間周波数fintermediate_1と第2の中間周波数fintermediate_2は、被験者の種類に依存する。任意選択で、第1の中間周波数fintermediate_1は、0.04Hz~0.12Hzの範囲、より任意選択で、0.08Hz~0.12Hzの範囲、さらに任意選択で、0.12Hzに等しく、任意選択で、第2の中間周波数fintermediate_2は、0.15Hz~0.45Hzの範囲、より任意選択で、0.30Hz~0.45Hzの範囲、さらに任意選択で、0.45Hzに等しく、
‐第7のステップ1300において、パワースペクトルPSDdicのLF帯とHF帯のパワー間の比率LHRdicの値、すなわち、
LHRdic=PLF (PSDdic)/PHF (PSDdic)
で示されるものを計算(出力)すること、
も実行可能であり、
これにより、医師は、被験者の交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動、並びに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスを、被験者の属する集団の種類を考慮して、比率LHRdicの値に基づいても評価することが可能となる。
【0064】
本発明によるコンピュータ実装方法の更なる実施形態は、従来技術によってHRVを決定することもでき、すなわち、
‐第3のステップ1100において、離散圧力信号p(t)のタコグラムDbeatを構築すること、
‐第4のステップ1150において、離散圧力信号p(t)のタコグラムDbeatのリサンプリングを実行し、離散圧力信号p(t)のリサンプリングされたタコグラムDbeat (r)を得ること、
‐第5のステップ1200において、0.01Hz~0.4Hzの間の周波数における離散圧力信号p(t)のリサンプリングされたタコグラムDbeat (r)のパワースペクトルPSDbeatを計算(任意選択で、フーリエ変換を通じ、より任意選択で、FFTを通じて、自己回帰モデリングを通じて、又は、ウェーブレット変換を通じて)すること、
‐第6のステップ1250において、離散圧力信号p(t)のリサンプリングされたタコグラムのパワースペクトルPSDbeatを3つの周波数帯域、すなわち、VLF_HRV帯(その中の周波数fVLF_HRVは0.01Hz~0.04Hzの範囲)、LF_HRV帯(その中の周波数fLF_HRVは0.04Hz~0.15Hzの範囲)、及び、HF_HRV帯(その中の周波数fHF_HRVは0.15Hz~0.4Hzの範囲)に細分化し、LF_HRV及びHF_HRVのそれぞれ1つにおいて、パワースペクトルPSDbeatのパワー、すなわち、LF_HRV帯におけるパワースペクトルPSDbeatのパワーPLF_HRV (PSDbeat)(LF_HRV帯における積分、すなわち、パワースペクトルPSDbeatの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)、及び、HF_HRV帯におけるパワースペクトルPSDbeatのパワーPHF_HRV (PSDbeat)(HF_HRV帯における積分、すなわち、パワースペクトルPSDbeatの周波数の離散化されたドメインにおける総和によって与えられる)を、計算すること、及び、
‐第7のステップ1300において、パワースペクトルPSDbeatのLF_HRV帯とHF_HRV帯のピーク周波数間の比率LHRdicの値、すなわち、
LHRbeat=PLF_HRV (PSDbeat)/PHF_HRV (PSDbeat)
で示されるものを算出し、出力することができ、
これにより、医師は、被験者の交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動、並びに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化とのバランスを、被験者の属する集団の種類を考慮して、比率LHRbeatの値に基づいても評価することが可能となる。
【0065】
本発明によるコンピュータ実装方法の他の実施形態は、
‐(任意選択で、第5のステップ1200から第7のステップ1300の間のいずれか1つのステップで行い、及び、第7のステップ1300において出力するように)、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)の標準偏差SD(sys)、及び、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)の標準偏差SD(dia)、(並びに、場合により、離散圧力信号p(t)のリサンプリングされたタコグラムDbeat (r)の標準偏差SD(beat))、任意選択で、収縮期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDsys (r)のパワースペクトルPSDsysの総パワーTP(sys)、及び、拡張期相の持続時間のリサンプリングされたダイアグラムDdia (r)のパワースペクトルPSDdiaの総パワーTP(dia)(並びに、場合により、離散圧力信号p(t)のリサンプリングされたタコグラムDbeat (r)のパワースペクトルPSDbeatの総パワーTP(beat))を計算し、
これにより、医師は、被験者の属する集団の種類を考慮して、標準偏差SD(sys)及びSD(dia)(場合によっては、標準偏差SD(beat))の値にも基づいて、任意選択で、総パワーTP(sys)及びTP(dia)、(場合によっては、総パワーTP(beat))の値に基づいても、被験者自身の交感神経系の活性化の変動及び副交感神経系の活性化の変動、並びに、交感神経系の活性化と副交感神経系の活性化のバランスを評価することが可能となる。
【0066】
本発明によるコンピュータ実装方法の更なる実施形態は、第3のステップ1100において、各心拍の収縮期相の持続時間及び拡張期相の持続時間を、ミリ秒単位の絶対値としてではなく、全体の心拍持続時間に対する正規化値(例えば、パーセント値)として表現する収縮期相の持続時間のダイアグラムDsys及び拡張期相の持続時間のダイアグラムDdiaを構築することができる。
【0067】
以上、好ましい実施形態について説明し、本発明の多数の変形例を提案したが、当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義されるその保護範囲から逸脱することなく、他の変形及び変更を行うことができると理解されるものとする。
図1
【国際調査報告】