(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は心臓血管疾患の予防又は治療のための介入戦略
(51)【国際特許分類】
A61K 31/405 20060101AFI20230412BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230412BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230412BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230412BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230412BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230412BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230412BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230412BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230412BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20230412BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230412BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20230412BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20230412BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20230412BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230412BHJP
A61K 35/742 20150101ALI20230412BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20230412BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230412BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230412BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20230412BHJP
【FI】
A61K31/405
A61P3/10
A61P37/06
A61P29/00
A61P9/00
A61P17/06
A61P17/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P1/04
A61P11/06
A61P11/00
A61P25/00
A61P1/16
A61P19/08
A61P31/04
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/04
A61P9/08
A61P9/06
A61K39/395 N
A61K35/745
A61K35/747
A61K35/744
A61P43/00 111
A61K35/742
A61K35/741
C12N1/20 E ZNA
C12N1/20 A
C12N15/11 Z
A23L33/135
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552221
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 EP2021054924
(87)【国際公開番号】W WO2021170848
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515134151
【氏名又は名称】アカデミス・メディス・セントルム
(71)【出願人】
【識別番号】521518792
【氏名又は名称】ヴァーヘニンゲン・ウニヴェルシテイト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マックス・ニーウドルプ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィレム・メインデルト・デ・フォス
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD85
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(57)【要約】
本発明は、糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、又は心血管疾患等の炎症関連疾患を有する対象の予防又は治療における介入戦略に関する。介入戦略は、好ましくはクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン、好ましくは6-ブロモトリプトファン、並びに/又は好ましくは1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)及び1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)からなる群から選択されるモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)、又はこれらの任意の誘導体若しくは機能的等価物の投与に関する。或いは、介入はデスルホビブリオ種の投与に関し、デスルホビブリオ種は好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル、デスルホビブリオ・フェアフィールデンシス、デスルホビブリオ・デスルフリカンス、デスルホビブリオ・インドネンシス、デスルホビブリオ・アラスケンシス、デスルホビブリオ・ブルガリス、デスルホビブリオ・ベトナメンシス、及びデスルホビブリオ・ギガスからなる群から選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心血管疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療における使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンであって、使用が自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には6-ブロモトリプトファンであり、使用が糖尿病又は自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には糞便中に含まれていないクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項2】
糖尿病が1型糖尿病及び2型糖尿病から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項3】
自己免疫疾患が、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、アディソン病、乾癬、白斑、リウマチ性関節炎、ベクテリュー病、セリアック病、炎症性腸疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アディソン病、脈管炎、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CDIP)、及びギランバレー症候群(GBS)からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項4】
炎症性疾患が、心血管炎症、心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、毛細管炎、胃腸管の炎症、食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、直腸炎、肝の炎症、肺の炎症、骨格の炎症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び敗血症からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項5】
心血管疾患が、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、及びリウマチ性心疾患から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項6】
6-ブロモトリプトファンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項7】
好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴル、及びゴリムマブからなる群から選択される腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害剤と組み合わされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項8】
好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス又はビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノスス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ユーバクテリウム・ハリイ、インテスチニモナス・ブチリシプロヅセンス、及び/又はアッケルマンシア・ムシニフィラからなる群から選択されるユーバクテリウム属、インテスチニモナス属、ビフィドバクテリア属、ラクトバシラレス属、及び/又はアッケルマンシア属の細菌と組み合わされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項9】
経腸で、好ましくは経口若しくは経鼻で、又は皮下、静脈内、直腸投与、及び/又は経鼻十二指腸チューブ投与によって投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項10】
使用が、前記クロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンを小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項11】
組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体又は固体の投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、又は粉末の中に含まれている、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項12】
前記組成物中に少なくとも1、5、10、25、50、100mgのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンの量で含まれている、請求項10に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項13】
腸溶性コーティングの中に含まれ、及び/又は腸溶性コーティングによってカプセル化されており、好ましくは前記腸溶性コーティングが胃の環境内で溶解及び/又は崩壊しない、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項14】
使用が、前記クロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回の個別の投与を含み、好ましくは前記個別の投与の間に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8週の間隔がある、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項15】
治療すべき対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項16】
1型糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心血管疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療における使用のための、任意選択で糞便中に含まれるデスルホビブリオ種であって、炎症関連疾患が2型糖尿病、乾癬、又は炎症性腸疾患ではなく、使用が糖尿病又は自己免疫疾患の予防又は治療における使用でありデスルホビブリオ種が糞便中に含まれる場合には前記糞便が糞便1gあたり少なくとも10
7個のデスルホビブリオ細胞を含む、デスルホビブリオ種。
【請求項17】
糖尿病が1型糖尿病及び2型糖尿病から選択される、請求項16に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項18】
自己免疫疾患が、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、アディソン病、白斑、リウマチ性関節炎、ベクテリュー病、セリアック病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アディソン病、脈管炎、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CDIP)、及びギランバレー症候群(GBS)からなる群から選択される、請求項16に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項19】
炎症性疾患が、心血管炎症、心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、毛細管炎、胃腸管の炎症、食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、直腸炎、肝の炎症、肺の炎症、骨格の炎症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び敗血症からなる群から選択される、請求項16に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項20】
心血管疾患が、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、及びリウマチ性心疾患から選択される、請求項16に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項21】
デスルホビブリオ・ピゲル、デスルホビブリオ・フェアフィールデンシス、デスルホビブリオ・デスルフリカンス、デスルホビブリオ・インドネンシス、デスルホビブリオ・アラスケンシス、デスルホビブリオ・ブルガリス、デスルホビブリオ・ベトナメンシス、デスルホビブリオ・インテスチナリス、デスルホビブリオ・ロングリーチェンシス、デスルホビブリオ・テルミチジス、及びデスルホビブリオ・ギガスからなる群から選択される、請求項16から20のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項22】
デスルホビブリオ・ピゲル又はデスルホビブリオ・ピゲルの16S rDNA配列(配列番号1)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%の配列同一性を有するその関連物である、請求項16から21のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項23】
好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴル、及びゴリムマブからなる群から選択される腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害剤と組み合わされる、請求項16から22のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項24】
好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス若しくはビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノスス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ユーバクテリウム・ハリイ、インテスチニモナス・ブチリシプロヅセンス、及び/又はアッケルマンシア・ムシニフィラからなる群から選択される、ユーバクテリウム属、インテスチニモナス属、ビフィドバクテリア属、ラクトバシラレス属、及び/又はアッケルマンシア属の細菌と組み合わされる、請求項16から23のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項25】
経腸で、好ましくは経口若しくは経鼻で、又は直腸投与、及び/又は経鼻十二指腸チューブ投与によって投与される、請求項16から24のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項26】
使用が、デスルホビブリオ種を小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含む、請求項16から25のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項27】
デスルホビブリオ種が糞便に含まれる場合には、前記糞便が糞便1gあたり少なくとも10
8、10
9、又は10
10個のデスルホビブリオ細胞を含む、請求項16から26のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項28】
糞便中に含まれていない、請求項16から27のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項29】
組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体又は固体の投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、又は粉末の中に含まれている、請求項16から28のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項30】
前記組成物中に少なくとも10
4、10
5、10
6、10
7、10
8細胞の量で含まれている、請求項29に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項31】
前記デスルホビブリオ種の弱毒化した又は死滅した細胞が用いられる、請求項16から30のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項32】
腸溶性コーティングの中に含まれ及び/又は腸溶性コーティングによってカプセル化されており、好ましくは前記腸溶性コーティングが胃の環境の中で溶解及び/又は崩壊しない、請求項16から31のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項33】
使用が前記デスルホビブリオ種の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回の個別の投与を含み、好ましくは前記個別の投与の間に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8週の間隔がある、請求項16から32のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項34】
治療すべき対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項16から33のいずれか一項に記載の使用のためのデスルホビブリオ種。
【請求項35】
糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心血管疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療における使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)であって、使用が1型糖尿病又は自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)又は1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)であり、使用が糖尿病又は自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には糞便中に含まれていないモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項36】
糖尿病が1型糖尿病及び2型糖尿病から選択される、請求項35に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項37】
自己免疫疾患が、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、アディソン病、乾癬、白斑、リウマチ性関節炎、ベクテリュー病、セリアック病、炎症性腸疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アディソン病、脈管炎、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CDIP)、及びギランバレー症候群(GBS)からなる群から選択される、請求項35に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項38】
炎症性疾患が、心血管炎症、心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、毛細管炎、胃腸管の炎症、食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、直腸炎、肝の炎症、肺の炎症、骨格の炎症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び敗血症からなる群から選択される、請求項35に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項39】
心血管疾患が、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、及びリウマチ性心疾患から選択される、請求項35に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項40】
1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)又は1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)である、請求項35から39のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項41】
糞便中に含まれていない、請求項35から40のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項42】
好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴル、及びゴリムマブからなる群から選択される腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害剤と組み合わされる、請求項35から41のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項43】
好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス若しくはビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノスス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ユーバクテリウム・ハリイ、インテスチニモナス・ブチリシプロヅセンス、及び/又はアッケルマンシア・ムシニフィラからなる群から選択される、ユーバクテリウム属、インテスチニモナス属、ビフィドバクテリア属、ラクトバシラレス属、及び/又はアッケルマンシア属の細菌と組み合わされる、請求項35から42のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項44】
経腸で、好ましくは経口若しくは経鼻で、又は皮下投与、又は直腸投与、及び/又は経鼻十二指腸チューブ投与、及び/又は静脈内投与によって投与される、請求項35から43のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項45】
使用が、前記モノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)を小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含む、請求項35から44のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項46】
組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体又は固体の投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、又は粉末の中に含まれている、請求項35から45のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)
【請求項47】
前記組成物中に少なくとも1、5、10、25、50、100mgの量で含まれている、請求項46に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項48】
腸溶性コーティングの中に含まれ及び/又は腸溶性コーティングによってカプセル化されており、好ましくは前記腸溶性コーティングが胃の環境の中で溶解及び/又は崩壊しない、請求項35から47のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項49】
使用が前記モノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)の少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回の個別の投与を含み、好ましくは前記個別の投与の間に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8週の間隔がある、請求項35から48のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【請求項50】
治療すべき対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項35から49のいずれか一項に記載の使用のためのモノ-又はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心臓血管疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防及び/又は治療、より具体的には前記予防及び/又は治療における特定の微生物及び/又はその代謝産物を含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1型及び2型の糖尿病の両方における炎症の役割は、この疾患の予防及び治療を改善するために炎症を標的とすることへの関心を増大させてきた。炎症経路が肥満又は体重過多を含む危険因子の刺激の下での糖尿病の病状における主要なメディエーターであるという証拠が示されてきた。
【0003】
また、糖尿病と心臓血管疾患との関係はよく確立されており、心臓血管疾患のリスクは糖尿病患者において顕著に高い。アテローム型動脈硬化症は冠動脈疾患の最も一般的な原因を表しており、慢性の低悪性度の炎症状態としてのこの疾患の特徴付けは現在広く受け入れられている。
【0004】
更に、免疫疾患の古典的な兆候も炎症である。この疾患は急激に再燃すること、即ち悪化する場合があり、また寛解すること、即ち症状が改善され又は消失する場合がある。自己免疫疾患の治療は疾患の種類によるが、ほとんどの場合、1つの重要な目標は炎症を低減することである。
【0005】
糖尿病、心臓血管疾患、自己免疫疾患、及び炎症性疾患に対する現在の治療薬は、その主要な作用機序に加えて抗炎症特性を有している。ライフスタイル介入等の非医薬処置は、例えば循環中のC反応性タンパク質(CRP)及びインターロイキン-6(IL-6)の濃度として評価される炎症状態を低減し、心臓血管及び全ての原因による死亡率を改善する。
【0006】
このため、炎症を標的とする治療アプローチは魅力的な研究分野になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Agace及びMcCoy、Immunity 46、2017年4月18日
【非特許文献2】Kolhoら、2015 Am J Gastroenterol.110(6):921~30頁
【非特許文献3】Lachinら (2011 PLoS ONE Vol. 6(11) e26471)
【非特許文献4】Marazuelaら、J Clin Endocrinol Metab.、2006年9月;91(9):3639~46頁
【非特許文献5】Ganjuら、Sci Rep.、2016年1月、13;6:18761頁
【非特許文献6】Verdu及びDanska、Nature Immunology、19巻、2018年7月、685~695頁
【非特許文献7】Korpela ら、Nat Commun.、2016年1月26日、7:10410頁
【非特許文献8】Rajilic-Stojanovic及びde Vos、2014 FEMS Microbiol Rev. 38(5):996~1047頁
【非特許文献9】Serna-Cock及びVallejo-Castillo, 2013年、Afr J of Microbiol Res, 7(40): 4743~4753頁
【非特許文献10】de Vos、2013 Microb Biotechnol. 2013年7月、6(4):316~25頁
【非特許文献11】Henikoff及びHenikoff、1992年、PNAS 89、915~919頁
【非特許文献12】Christ A.、Cell 2018年
【非特許文献13】Swansen、JEM 2017年
【非特許文献14】Uchimura T、Immunity 2019年
【非特許文献15】Paula S、FASEB J 2015年
【非特許文献16】Groeneweg M、J Lipid Res 2006年
【非特許文献17】Chou、Nature 2021
【非特許文献18】Cheng N、JCI Insight 2018年
【非特許文献19】Chenら、2019年、Letters in Applied Microbiology 68(6) 553~561頁
【非特許文献20】Koh A, Molinaro A, Stahlman M,ら、「Microbially Produced Imidazole Propionate Impairs Insulin Signaling through mTORC1」Cell 2018年;175:947~961頁、e17. doi:10.1016/j.cell.2018.09.055
【非特許文献21】Christ A,「Western Diet Triggers NLRP3-Dependent Innate Immune Reprogramming」 Cell 2018年
【非特許文献22】Swanson KV,「A noncanonical function of cGAMP in inflammasome priming and activation」 JEM 2017年
【非特許文献23】Uchimura T、「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019年
【非特許文献24】Paula S、「Exercise increases pancreatic β-cell viability in a model of type 1 diabetes through IL-6 signaling」、FASEB J 2015年
【非特許文献25】Groeneweg M、「Lipopolysaccharide-induced gene expression in murine macrophages is enhanced by prior exposure to oxLDL」、J Lipid Res 2006年
【非特許文献26】Chou、「AIM2 in regulatory T cells restrains autoimmune diseases」、Nature 2021年
【非特許文献27】Haythorne, Nature Communications 10巻、論文番号:2474 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心臓血管疾患を含む炎症関連障害を有する患者の生活の質を改善するために、新規な治療戦略が必要とされている。新規な又は改善された予防及び/又は治療の戦略を開発するニーズが残っている。このニーズに応えることが本開示の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、同種(健常ドナー)又は自己(自家)供給源からの糞便移植片の投与が自己免疫疾患患者において有益な効果を有するか否かを検討した。以前の研究を確認して、自己糞便移植片の投与が自己免疫疾患の患者において免疫リセットをもたらし、それにより自己免疫疾患の重症度の低減をもたらし得ることが見出された。
【0011】
本発明者らは驚くべきことに、この有益な効果が糞便物質中の特定の成分に由来する可能性があることを見出した。治療用途のあるこれらの成分は、最も具体的には、
デスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の細菌、好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル(Desulfovibrio piger)、デスルホビブリオ・フェアフィールデンシス(Desulfovibrio fairfieldensis)、デスルホビブリオ・デスルフリカンス(Desulfovibrio desulfuricans)、デスルホビブリオ・インドネンシス(desulfovibrio indonensis)、デスルホビブリオ・アラスケンシス(Desulfovibrio alaskensis)、デスルホビブリオ・ブルガリス(Desulfovibrio vulgaris)、デスルホビブリオ・ベトナメンシス(Desulfovibrio vietnamensis)、及びデスルホビブリオ・ギガス(Desulfovibrio gigas)からなる群から選択される細菌、最も好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル、並びに
代謝産物、6-ブロモトリプトファン、1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)、及び1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)、又はより一般的にはクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン、又はモノ-若しくはジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン類、又はこれらの任意の誘導体若しくは機能的等価物
に関連することが見出された。
【0012】
さらなる研究に際して、デスルホビブリオ種、及び/又は本開示による代謝産物、特に6-ブロモトリプトファンは抗炎症効果を有すること、即ち炎症状態を低減し、例えば1型及び2型の糖尿病、自己免疫疾患、心臓血管疾患、及び全身性炎症反応症候群(SIRS)若しくは敗血症等の炎症性疾患に関連する炎症マーカーを低減することが驚くべきことに見出された。
【0013】
更に、血漿6-ブロモトリプトファンレベルと2型糖尿病の存在との間に逆相関が見出された。これは、デスルホビブリオ種及び/又は本開示による代謝産物、特に6-ブロモトリプトファンが2型糖尿病の予防に寄与している可能性、及び(微小血管及び大血管の)心臓血管系合併症の予防又は治療に寄与している可能性を示唆している。更に、デスルホビブリオ種及び/又は本開示による代謝産物、特に6-ブロモトリプトファンがベータ細胞によるインスリンの分泌を促進している可能性があることが見出された。
【0014】
機構的には、本発明者らは、6-BTの生物学的作用がトリプトファンの作用とは区別されるようであることを解明した。6-BTはAhRの活性化を通して作用しないが、これはNFkB活性化を阻害し、ミトコンドリア代謝を増強する。後者は典型的には抗炎症性表現型を有する細胞によって用いられる。多くの細胞型に対するその幅広い効果、NFkBシグナル伝達に対するその阻害作用、並びにそれによるミトコンドリア代謝及び適合性の促進により、6-BTは1型及び2型の糖尿病に関連してのみならず、他の多くの炎症関連障害、例えば敗血症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び心臓血管疾患において極めて有用な治療薬となり得る。
【0015】
更に、何らの理論にも縛られないが、本発明者らは、前記デスルホビブリオ種及び本開示による前記代謝産物が例えばB細胞クローン機能及び調節性T細胞をリセットすることによって免疫系をモジュレートし、これが自己免疫反応を阻害する可能性があると考えている。
【0016】
若年期の間に、成長している腸内マイクロバイオーム組成との連続的なクロストークを介して免疫系が訓練されると考えられる。このようにして、腸内マイクロバイオームは適応性免疫細胞の発育、組成、及び機能をモジュレートすることにおいて重要な役割を果たしている(例えばAgace及びMcCoy、Immunity 46、2017年4月18日を参照)。自己免疫因子を有さず、適正に機能する系をもたらすのは、とりわけこのプロセスである。
【0017】
しかし、免疫系と腸内マイクロバイオームとの間のクロストーク、又はその最終結果は攪乱されることがあり、それにより自己免疫抗体の産生(B細胞による)及び自己反応性T細胞の形成がもたらされることがある。本開示による治療は、免疫系と腸内マイクロバイオーム(その特定の細菌及び/又は代謝産物等の誘導産物を含む)との間のクロストークを再開することによってこの撹乱を克服し、自己免疫応答の阻害をもたらすことができる。
【0018】
したがって、自己免疫疾患における上記のデスルホビブリオ種及び/又は代謝産物の使用によって、標的組織の自己免疫破壊を停止させ、免疫寛容を再確立することができる。本開示は免疫系を刺激することによってこれを達成することができ、ここでデスルホビブリオ種及び/又は代謝産物は、好ましくは十二指腸に(直接又は経口投与等を介して間接的に)投与される。本開示は、好ましくは腸内マイクロバイオーム、即ち腸内微生物群組成を変更することを目的としていない。
【0019】
WO2019168401は自己免疫疾患の予防及び治療のための糞便物質の使用を開示しており、ここでは糞便物質は対象にとって自己であり、好ましくは小腸、好ましくは十二指腸に投与され、ここで免疫リセットを開始し、それにより自己免疫疾患の重症度を低減することができる。しかし、WO2019168401の方法の治療有効性には改善の余地があり、その処置は面倒でスケールアップが難しい。
【0020】
したがって、本開示は、
- 1型糖尿病、
- 2型糖尿病、
- 心臓血管疾患、特に冠動脈疾患(冠心疾患及び虚血性心疾患としても知られている)、末梢動脈疾患、脳血管疾患(例えば発作又はTIA、即ち一過性虚血発作)、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、又はリウマチ性心疾患、
- 炎症性疾患、特に心血管炎症、例えば心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、若しくは毛細管炎、又は例えば胃腸管の炎症、例えば食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、又は直腸炎(炎症性疾患は、肝の炎症、肺の炎症、骨格の炎症、全身性反応症候群(SIRS)、敗血症を更に含む)、及び
- 自己免疫疾患、特に(内分泌性)自己免疫疾患(例えば橋本甲状腺機能低下症、グレーブス甲状腺機能亢進症、リウマチ性関節炎、セリアック病、喘息/COPD、アディソン病、IBD(クローン病及び潰瘍性大腸炎)、全身性ループスエリトマトーデス、脈管炎、ギランパレー及びCIDP、多発性硬化症、乾癬(関節炎)、白斑、並びにベクテリュー病
からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療を目的としている。
【0021】
更に又はその代わりに、本開示による使用は、全体的な健康を改善するため、及び/又は炎症状態を低減するためのものであってよい。
【0022】
即ち、本開示は引用した疾患、即ち1型若しくは2型の糖尿病、心血管疾患、炎症性疾患、又は自己免疫疾患の予防も包含する。したがって、例えばそれぞれの疾患の前段階又は初期段階に付随するリスクマーカーが(それぞれの疾患の診断の前に)検出された対象における前記疾患のいずれかの発症を避けるために、前記デスルホビブリオ種及び/又は本開示による代謝産物を対象に投与することができる。そのような一次又は二次の予防戦略によって、疾患の進行を予防することができる可能性がある。
【0023】
本明細書で言及した自己免疫疾患のいくつかは、現在、例えばTNFαに対する抗体の使用等による免疫療法によって治療されている。しかし、これらの高価な免疫療法は患者のある小集団においてのみ成功の可能性がある。その原因は腸内微生物群の逸脱に帰せられてきた(Kolhoら、2015 Am J Gastroenterol.110(6):921~30頁)。本発明者らは、TNFαアンタゴニスト又は抗TNFαによる治療が、本発明による治療、例えばデスルホビブリオ種及び/又は本開示による代謝産物の投与と相乗的である可能性があると予想している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、
- 好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル、デスルホビブリオ・フェアフィールデンシス、デスルホビブリオ・デスルフリカンス、デスルホビブリオ・インドネンシス、デスルホビブリオ・アラスケンシス、デスルホビブリオ・ブルガリス、デスルホビブリオ・ベトナメンシス、及びデスルホビブリオ・ギガスからなる群から選択されるデスルホビブリオ種、最も好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル、並びに
- 化合物(代謝産物)、6-ブロモトリプトファン、1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)、及び1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)、又はより一般的にはクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン、又はモノ-若しくはジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン類、又はこれらの任意の誘導体若しくは機能的等価物
からなる群から選択される1つ又は複数の薬剤を用いることによる、
1型若しくは2型の糖尿病、自己免疫疾患、心臓血管疾患、及び炎症性疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療に関する。
【0025】
したがって、本開示は、上記の薬剤の1つ又は複数を投与するステップを含む、それを必要とする対象、特に炎症関連疾患、例えば1型若しくは2型の糖尿病、自己免疫疾患(内分泌自己免疫疾患等)、心血管疾患、又は炎症性疾患を有する対象の予防又は治療の方法を提供する。
【0026】
WO2019168401に記載されているような自己糞便の投与と比較して、本開示による方法は、自己免疫疾患において改善された治療有効性を有し、面倒でなく、投与が簡単であり、例えば認定されたQuality Management Systems(QMS)又はGood Manufacturing Practice(GMP)の下で製造することが容易であり、及び/又は容易にスケールアップできることが見出された。
【0027】
本開示は、少なくとも先験的には、好ましくは腸内マイクロバイオーム、即ち腸の微生物群組成又は特に回腸の微生物群組成を変化させることを目的としていない。
【0028】
本開示に関連して、自己免疫疾患は、全身性及び局所性(臓器特異的)の自己免疫疾患、特に内分泌自己免疫疾患(例えば1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、又はアディソン病)、皮膚自己免疫疾患(例えば乾癬又は白斑)、リウマチ性自己免疫疾患(例えばリウマチ性関節炎、全身性ループスエリトマトーデス、脈管炎又はベクテリュー病)、及び胃腸管自己免疫疾患(例えばセリアック病、炎症性腸疾患)、神経疾患(ギランパレー、CIDP、及び多発性硬化症)、並びに肺疾患(COPD/喘息)からなる群から選択される自己免疫疾患を含む任意の自己免疫疾患であってよい。
【0029】
本開示に関連して、心血管疾患は、任意の心血管疾患、例えば冠動脈疾患(冠心疾患及び虚血性心疾患としても知られている)、末梢血管疾患、脳血管疾患(例えば発作又はTIA、即ち一過性虚血発作)、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、又はリウマチ性心疾患であってよい(任意選択で、これらの疾患のいずれも、本出願から除外してもよい)。
【0030】
更に、本開示に関連して、炎症性疾患は、任意の炎症性疾患、特に心血管炎症、例えば心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、若しくは毛細管炎、又は例えば胃腸管の炎症、例えば食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、又は直腸炎であってよい。本開示による炎症性疾患は、肝の炎症、肺の炎症、又は骨格の炎症に更に言及し得る。その代わりに、炎症性疾患は、全身性反応症候群(SIRS)又は敗血症に更に言及し得る(任意選択で、これらの疾患のいずれも、本出願から除外してもよい)。
【0031】
糖尿病
1型糖尿病
1型糖尿病は、膵臓がインスリンを殆ど又は全く産生しない慢性の内分泌自己免疫疾患である。これは一般に進行性のベータ細胞の破壊に付随しているとみなされ、健常な対象と比較して増大した罹患率及び死亡率のリスクに関連付けられている。2型糖尿病においてもベータ細胞機能が低下している可能性があるので、本開示は2型糖尿病の予防及び/又は治療にも関し得る。
【0032】
本開示による薬剤は、1型糖尿病を予防及び/又は治療するために使用できることが見出された。そのような治療によって、1型糖尿病のハネムーン期、即ち自身の膵臓がまだ外因性インスリンの需要を限定するために有意に十分な量のインスリンを体内で産生し、血中グルコースの制御を維持できる診断後の期間を延長することもできる。この期間を延長することによって、患者の生活の質を劇的に改善することができる。治療を適用することによって、1型糖尿病の症状、例えば眼、腎、神経、及び/又は脳の損傷された機能に関連する症状又は合併症の重症度を低減することもできる。
【0033】
より具体的には、治療によってベータ細胞機能の衰退を阻害し、及び/又は1型糖尿病に付随する自己抗体、例えば膵島(ベータ)細胞自己抗体、インスリンに対する自己抗体、GAD(GAD65)に対する自己抗体、チロシンホスファターゼIA-2及びIA-2βに対する自己抗体、及び/又は亜鉛トランスポーター8(ZnT8)に対する自己抗体の産生を阻害できる可能性がある。
【0034】
1型糖尿病の症状には、多尿症、多渇症、多食症、体重減少、疲労、悪心、及びかすみ目が含まれ得る。症候性疾患の発症は急激であることがある。これに関連して、1型糖尿病の患者が糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)に罹患することはまれではない。1型及び2型の糖尿病については以下の診断基準を適用することができる(American Diabetes Association, ADA):
- 空腹時血漿グルコース(FPG)レベル126mg/dL(7.0mmol/L)以上、又は
- 75gの経口グルコース忍容性試験(OGTT)の間の2時間血漿グルコースレベル200mg/dL(11.1mmol/L)以上、又は
- 高血糖又は高血糖性クリーゼの古典的症状を有する患者におけるランダム血漿グルコース200mg/dL(11.1mmol/L)以上。
【0035】
更に及び/又はその代わりに、実施例に記載したように、及び/又はLachinら (2011 PLoS ONE Vol. 6(11) e26471)に記載されているように、混合食事試験後のCペプチド応答を評価することができる。
【0036】
1型糖尿病及び/又はその先行症状は、膵島(ベータ)細胞自己抗体、インスリンに対する自己抗体、GAD(GAD65)に対する自己抗体、チロシンホスファターゼIA-2及びIA-2βに対する自己抗体、及び/又は亜鉛トランスポーター8(ZnT8)に対する自己抗体を含む1つ又は複数の自己免疫マーカーの存在、並びにHbA1cの増大及びグルコース忍容性の変化によって確認することができる。
【0037】
2型糖尿病
2型糖尿病は、身体が十分なインスリンを産生できない場合、又はインスリンが適正に働けない場合(インスリン抵抗性と称される)に進行する一般的な代謝状態である。インスリンは、細胞を刺激して血液からエネルギーのために用いるグルコースを取り入れさせるホルモンである。糖尿病の場合には、細胞は血液からグルコースを取り入れるようにインスリンによって指示されず、血糖レベルが上昇する(高血糖症と称される)ことを意味する。
【0038】
人々は通常、40歳以降に2型糖尿病が発症するが、南アジア発祥の人々はこの状態の増大したリスクにあり、25歳以降に糖尿病が発症することがある。この状態は全ての人口集団の中の小児及び若年層でも一般的に増大しつつある。2型糖尿病は、体重過多、肥満、及び身体活動の欠如の結果として発症することが多く、これらの問題が広がるとともに、糖尿病の罹患率は世界的に増加している。2型糖尿病は全糖尿病症例のほぼ90%を占めており(その他の形態は1型糖尿病である)、治療アプローチにはライフスタイルの変更及び医薬の使用が含まれる。
【0039】
本開示による薬剤は、2型糖尿病を予防及び/又は治療するために使用できることが見出された。治療を適用して、2型糖尿病の症状、例えば多尿症、多渇症に関連する症状又は合併症の重症度を低減することができる。より具体的には、治療によって外因性ホルモン補充の必要性を低減できる可能性がある。
【0040】
心血管疾患
冠動脈疾患
冠動脈疾患は心血管疾患の中で最も一般的な疾患である。これには、心臓の動脈におけるプラークの蓄積による心筋への血流の低下が関与している(アテローム性動脈硬化症)。一般的な症状は、胸痛又は肩、腕、背中、首、又は顎にわたり得る不快感である。多くの場合、最初の兆候は心臓発作である。その他の合併症には、心不全又は心拍異常が含まれる。
【0041】
危険因子には、高血圧、喫煙、糖尿病、運動の欠如、肥満、高い血中コレステロール、貧弱な食事、うつ、及び過度のアルコールが含まれる。心電図、心臓ストレス検査、冠コンピュータトモグラフィー血管造影、及び冠血管造影を含むいくつかの試験がとりわけ診断の助けになり得る。
【0042】
炎症性障害
炎症性疾患に罹患している又はそれを発症するリスクにある対象は、当技術で既知の方法、例えば組織の肉眼的検査又は組織若しくは血液に付随する炎症の検出によって特定することができる。炎症の症状には、罹患した組織の疼痛、赤み、及び浮腫が含まれる。
【0043】
全身性炎症反応症候群(SIRS)及び敗血症
全身性炎症反応症候群(SIRS)は、例えば感染、外傷、手術、急性炎症、虚血若しくは再潅流、又は悪性腫瘍に対する身体の過剰な防衛反応である。これには、対象における広範囲の自律系、内分泌系、血液系、及び免疫系の変化の直接のメディエーターである急性相反応物質の放出が関与している。目的が防衛的なものであっても、無調節のサイトカインストームは、可逆的又は不可逆的な末端器官の機能不全及び死さえももたらす広汎な炎症カスケードを惹起する可能性を有している。疑わしい感染源を有するSIRSは、敗血症と命名される。1つ又は複数の末端器官不全を有する敗血症は重症敗血症と称され、血管内体積の充足にも関わらず血液動態の不安定性を伴う敗血症は敗血症ショックと称される。
【0044】
SIRSは、以下の基準のうち任意の2つを満足させることによって診断し得る。
- 38℃を超え又は36℃未満の体温、
- 90拍/分より大きい心拍数、
- 20回/分を超える呼吸数又は32mmHg未満のCO2分圧、
- 12000/μlを超え若しくは4000/μl未満の白血球、又は10%を超える未成熟形態若しくはバンド。
【0045】
更に又はその代わりに、本開示による使用は、全体的な健康を改善するため、及び/又は炎症状態を低減するためのものであってよく、炎症状態は、好ましくは健常な個体と比較して高い赤血球沈降速度(例えば少なくとも35、40、45、50、55、60mm/時間のESR値)、及び/又は本開示による組成物を投与していない場合と比較して低下した血液(血漿)中のC反応性タンパク質のレベルによって測定される。C反応性タンパク質は、例えば本開示の組成物の投与の1~12、1~4、2~8、4~12週後、又は1~12か月若しくは1~12年後に測定してよい。C反応性タンパク質(CRP)は肝臓によって作られるタンパク質である。体内のどこかに炎症を惹起する状態があると、血中CRPレベルが増大する。CRP検査によって、炎症状態を検出するための血中のCRPの量が測定される。
【0046】
更に又はその代わりに、本開示による使用は、対象において体重減少を誘起するため、又は肥満度指数(BMI)を低減させるためのものである。
【0047】
自己免疫疾患
自己免疫疾患は、免疫系が対象自身の細胞、組織、及び/又は器官に対して不適切な応答を生じる疾患のクラスである。これは炎症、損傷、及び機能の喪失をもたらし得る。一般的な自己免疫疾患としては、橋本甲状腺機能低下症、グレーブス甲状腺機能亢進症、リウマチ性関節炎、セリアック病、喘息/COPD、アディソン病、IBD(クローン病及び潰瘍性大腸炎)、全身性ループスエリトマトーデス、脈管炎、ギランパレー及び慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)、多発性硬化症、乾癬(関節炎)、白斑、1型糖尿病、並びにベクテリュー病がある。
【0048】
自己免疫疾患の原因は明らかではない。しかし、感染及び遺伝的素質等の因子が自己免疫疾患の引き金に役割を果たしている可能性がある。自己免疫疾患は通常、病歴及び血液検査(とりわけ自己抗体又は炎症若しくは器官の機能のマーカーを検出する)の組合せを用いて診断される。
【0049】
自己免疫疾患のステージ及びタイプに応じて広範囲の治療オプションが存在するが、自己免疫疾患に対する決定的な治療法は存在しない。
【0050】
治療戦略は一般に、症状を緩和し、器官又は組織の損傷を最小化し、器官の機能を保持することに向けたものである。例えば、治療戦略には器官の機能の置換(例えば、1型糖尿病にはインスリンの投与、橋本甲状腺機能低下症にはサイロキシンの投与)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)、コルチコステロイド抗炎症薬(プレドニソロン等)、TNFα阻害薬、免疫抑制薬、又は免疫グロブリン置換療法が含まれる。
【0051】
内分泌自己免疫疾患
種々の自己免疫疾患の中で、自己免疫性内分泌障害が最も一般的である。内分泌系は、ホルモンを産生し、これらを循環系に直接放出する腺、並びにホメオスタシスを達成するフィードバックループを含む。内分泌系の器官は、様々な影響及び重症度によって特徴付けられるいくつかの自己免疫疾患によって影響され得る。多腺性自己免疫症候群のように、多数の器官が関与することがある。
【0052】
様々な自己免疫性内分泌疾患の中で、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、及びアディソン病は、臨床診療において特に頻度が高い。
【0053】
橋本病
橋本病は、発生頻度が最も高い器官特異的な自己免疫障害である。これは橋本甲状腺機能低下症、又は慢性リンパ球性甲状腺炎とも称され、甲状腺が徐々に破壊される自己免疫疾患とみなされている。橋本病の原因はいまだに明らかでないが、不適切な細胞媒介免疫応答及び甲状腺に対する自己抗体の産生が関与していると一般に考えられている。単核リンパ液浸潤の中に両方のB(CD20+及びCD79アルファ+)細胞(甲状腺濾胞及び甲状腺細胞の破壊)、並びに過度に刺激されたT細胞CD4+が見られる(Tヘルパー2型、即ちTh2細胞は過度の刺激及び甲状腺抗原に対する抗体を産生するB細胞の産生をもたらし、続いて甲状腺における甲状腺炎を促進する(Marazuelaら、J Clin Endocrinol Metab.、2006年9月;91(9):3639~46頁)。
【0054】
甲状腺の機能低下が明らかになるまでは、甲状腺の拡大が典型的には唯一の症状である。しかし、この疾患は甲状腺機能低下症に進行することがあり、それにより、浮腫、体重増加、及び易疲労性(疲労しやすいこと)を含む症状、寒冷感受性及び下痢、並びに皮膚の乾燥、嗄声、徐脈、及び/又はアキレス腱反射の弛緩期の延長等の身体所見がもたらされることが多い。
【0055】
橋本病は、患者血清中の抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体及び抗サイログロブリン(Tg)抗体の存在によって確認することができる。更に、健常な個体における平均と比較して上昇した甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベル及び低下した遊離T4(FT4)のレベル、低下した遊離T3のレベル、及び/又は上昇した抗ミクロソーム抗体のレベルは、陽性の診断を得ることの助けとなり得る。
【0056】
橋本病は、現在のところレボサイロキシン(FT4補充)、トリヨードサイロニン(T3補充)、又は乾燥甲状腺抽出物等の甲状腺ホルモン置換薬によって治療されている。本発明者らは、本開示による薬剤が、任意選択で上記の甲状腺ホルモン置換薬と組み合わせて、橋本病を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。本開示による治療は、橋本病の症状、例えば上記の1つ若しくは複数の症状又は合併症の重症度を低減させるためにも適用できる。
【0057】
グレーブス病
グレーブス病は甲状腺を冒す自己免疫疾患であり、甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因である。この疾患は、サイロトロピン受容体、即ち甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に結合する血清中の自己抗体の存在によって特徴付けることができる。これらの抗TSH受容体抗体(TBII)は甲状腺を過剰に刺激し、それにより甲状腺腫及び甲状腺機能亢進症の兆候、並びに患者の小集団における眼筋の関与(グレーブス眼病)がもたらされることがある。
【0058】
症状の中には、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫、及び眼窩疾患がある。その他の主な症状には、体重減少(食欲の増進を伴う)、易疲労性、息切れ、多汗症、手指振戦、下痢、周期性四肢麻痺(男性における)、及び筋脱力が含まれる。グレーブス眼病に関しては、患者は眼球の突出、かすみ目、及びドライアイ/レッドアイ(稀な場合には盲目になることがある)に罹患する可能性がある。2つの兆候、即ち眼球突出及び前脛骨粘液水腫はグレーブス病に真に特異的であり、他の甲状腺機能亢進状態では見られない。
【0059】
グレーブス病は、健常な個体と比較して低い血清TSHレベル(時には検出不能)並びに/又は遊離T3及び遊離T4の上昇によって確認され得る。患者は典型的には血清中の抗TSH受容体抗体(TBII)が陽性である可能性がある。
【0060】
グレーブス病の現在の治療には、抗甲状腺薬の投与(ブロック及び置換療法)、放射性ヨウ素(放射性ヨウ素I-131)の投与、及び/又は甲状腺摘出術(甲状腺の外科的切除)が含まれ得る。通常、ストルマゾール及びメチマゾール(PTU)が処方され、レボサイロキシン(FT4の補充)、トリヨードサイロニン(T3の補充)、又は乾燥甲状腺抽出物等の甲状腺ホルモン置換薬がこれに続く。
【0061】
その代わりに又は上記の治療と組み合わせて、本発明者らは、本開示による薬剤が眼病を含むグレーブス病の予防及び/又は治療のために使用できることを見出した。本開示による治療は、グレーブス病の症状、例えば上記の1つ若しくは複数の症状又は合併症の重症度を低減するために適用することもできる。
【0062】
アディソン病
アディソン病は、副腎が十分なステロイドホルモンを産生しなくなる慢性の内分泌自己免疫障害である。この疾患は副腎の破壊によって引き起こされる(皮質と髄質の両方で産生されるホルモン)。この疾患は他の臓器特異的自己免疫障害(例えば1型糖尿病、橋本病、白斑)による合併症を含む多腺性自己免疫症候群の現れである可能性がある。
【0063】
ACTHの分泌の増加による色素沈着の増大がグレーブス病の特徴的な臨床兆候である。その他の症状には、胃の領域の腹痛、起立性低血圧、及び体重減少が含まれる。
【0064】
医学検査は、典型的にはオルトスターシス、低血糖、低ナトリウム血、高カリウム血、及び末梢血好酸球増多が存在するか否かを判定することになる。アディソン病を確認するため、合成下垂体ACTHホルモンであるテトラコサクチドによる刺激(ACTH刺激検査又はシナクテン検査と称される)の後でさえ低い副腎ホルモンのレベルの証明が診断のために一般に実施されている。
【0065】
治療には一般に、経口ハイドロコーチゾン及び/又はフルドロコーチゾンのような電解質コルチコイド(副腎髄質も関与している場合)による置換療法が含まれる。本発明者らは、本開示による薬剤が、任意選択でハイドロコーチゾンによる治療に加えて、アディソン病を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。本開示による治療は、アディソン病の症状、例えば上記の1つ若しくは複数の症状又は合併症の重症度を低減させるためにも適用できる。
【0066】
皮膚自己免疫疾患
乾癬(関節炎)
乾癬は、皮膚細胞の急速な産生をもたらす慢性の自己免疫疾患である。根底にある病因は、T細胞が健常な皮膚細胞を攻撃し、これが皮膚細胞産生プロセスを過剰に推進させることである。新たな細胞は皮膚表面に押し出され、ここで集積する。これは皮膚のプラーク及び赤色の炎症区域をもたらし、これが乾癬に最も一般的に付随している。乾癬のサブタイプには以下が含まれる。
(1) プラーク乾癬、これは最も頻繁に起こる型の乾癬である。これは、皮膚の区域、典型的には肘、膝、及び頭皮を覆う炎症を起こした赤色の斑点によって特徴付けられる。これらの斑点は白銀色の鱗屑又はプラークによって覆われていることが多い。
(2) 滴状乾癬、これは小児に一般的な乾癬の形態であり、典型的には胴体、腕、及び脚に小さなピンク色の点を生じる。
(3) 膿疱性乾癬、これは成人でより一般的な乾癬の形態であり、典型的には手又は足に白色の膿疱及び炎症を起こした赤色の皮膚の区域を生じる。
(4) 逆転乾癬、これは炎症を起こした赤色で光沢のある皮膚の明るい区域を生じる。逆転乾癬の斑点は典型的には腋窩又は胸部、鼠径部、又は皮膚の襞の周囲で発症する。
(5) 紅皮性乾癬、これは重症で稀な型の乾癬である。この形態は身体の大きい部分を覆うことが多く、皮膚は日焼けしたように見えることがある。この型の乾癬を有する人は発熱し、又は極めて重篤になることがあり、この形態の乾癬は致命的になることがある。
(6) 関節が関与する乾癬性関節炎。
【0067】
乾癬の症状は患者の中で様々である。一般的な症状には、厚い銀色の鱗屑で覆われた皮膚の赤色の斑点、小さな鱗屑の点(小児で一般に見られる)、出血することがある乾燥してひび割れた皮膚、痒み、熱感若しくはヒリヒリする痛み、爪の肥厚化、窪み、若しくは高まり、並びに/又は関節の浮腫及び硬直が含まれる。乾癬の大部分の型は、数週間又は数か月にも及ぶ激発、次いである期間の鎮静化又は寛解にさえも入るサイクルを辿ることがある。乾癬性関節炎(Psoriasis arthritis又はpsoriatic arthritis)は、関節炎による関節の浮腫、ヒリヒリする痛みが乾癬とともに起こる状態である。
【0068】
身体の小さな区域のみを含む穏和な疾患には、クリーム、ローション、及びスプレー等の局所治療(皮膚に適用される)が一般に処方される。時には、強固な又は抵抗性のある孤立した乾癬性プラークへのステロイドの直接局所注射が役立つこともある。
【0069】
腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニスト(又は抗TNFα療法)が、穏和ないし重症の乾癬又は乾癬性関節炎の治療において第一線の薬剤となっている。その例には、インフリキシマブ、エタネルセプト、及びアダリムマブが含まれる。抗TNFα療法は乾癬及び乾癬性関節炎の両方の治療において有効であることが見出されており、心血管イベントのリスクを低減する可能性もある。本発明者らは、更に又はその代わりに、本開示による薬剤が、乾癬及び/又は乾癬性関節炎を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。更に、本開示による治療は、乾癬及び乾癬性関節炎の症状、例えば上記の1つ若しくは複数の症状又は合併症の重症度を低減させるためにも適用できる。特に、TNFアンタゴニスト又は抗TNFαと本開示による治療との組合せ治療は相乗的である可能性がある。
【0070】
白斑
白斑は、皮膚の白い斑点が身体の様々な部分に現れる疾患である。これは、皮膚において色素(色)を生じる細胞、即ちメラニン細胞を破壊する自己免疫プロセスによると一般に考えられている。白斑は粘膜(例えば口及び鼻の内側)及び眼にも生じることがある。
【0071】
最近の研究によって、白斑の対象の皮膚マイクロバイオーム中の微生物群落構造の多様性におけるディスバイオシスが明らかになっている。個別の特定のマイクロバイオームの特徴は白斑に特異的な微生物群にわたって優勢であるが、病変白斑においては分類上の豊富さ及び均一性の明らかな低下に注目することができる(Ganjuら、Sci Rep.、2016年1月、13;6:18761頁)。
【0072】
白斑の白い斑点は、皮膚が常に日光に曝露さあれる区域でより一般的である。斑点は手、足、腕、顔、及び唇にあり得るが、時には腋窩及び鼠径部、口の周り、眼、小鼻、臍、生殖器、直腸部にもあり得る。更に、白斑を有する人々は、早期(例えば35歳前)に髪が灰色になることが多い。
【0073】
診断のため及びUV治療の効果を判定するために、紫外(UV)光を特に白斑の早期段階で用いることができる。白斑を有する皮膚は、UVに曝露された際に典型的には青色光を放つ。対照的に、健常な皮膚は反応を示さない。
【0074】
白斑は分節型白斑(SV)と非分節型白斑(NSV)とに分類することができ、NSVが白斑の最も一般的な型である。
【0075】
非分節型白斑(NSV)では、典型的には脱色素の斑点の位置に対称性がある。極端な例では、色素を有する皮膚が殆ど残っておらず、これは全身型白斑と称される。NSVはあらゆる年齢で開始し得るが、分節型白斑は十代でずっと優勢である。
【0076】
分節型白斑(SV)は、脊髄の後根に付随する皮膚の区域を冒す傾向があり、片側性であることが最も多い。これは経過中でずっと安定/静的である。SVは典型的にはUV光療法によって改善しないが、細胞移植等の手術治療が効果的であることがある。
【0077】
白斑には決定的な治療法は存在しないが、紫外光及び/又はクリームを含むいくつかの治療オプションが利用可能である。コルチコステロイド又はグルココルチコイド(クロベタソール及び/又はベタメタゾン等)及びカルシニューリン阻害薬(タクロリムス及び/又はピメクロリムス等)を含む免疫抑制医薬の局所製剤(即ちクリーム)が、第一線の白斑治療であると考えられている一方、UV(B)療法は白斑の第二線治療であると考えられている。
【0078】
本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、白斑を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。更に、本開示による治療は、白斑の症状、例えば上記の1つ若しくは複数の症状又は合併症の重症度を低減させるためにも適用できる。
【0079】
リウマチ性障害
リウマチ性関節炎
リウマチ性関節炎(RA)は、免疫系が関節を攻撃する自己免疫疾患として見ることができる。これは、関節の内側を裏打ちする組織(滑膜)の肥厚化を惹起する炎症をもたらし、関節の痛みを生じる。
【0080】
治療しなければ、RAは軟骨、即ち関節中の骨の末端を覆う弾性組織、及び骨自体さえも損傷することがある。最終的には軟骨の喪失が起こり、関節は緩み、不安定になり、痛くなり、その運動性を失い、変形さえすることがある。残念ながら関節の損傷は一般に好転不能で、したがってRAを制御するには早期の診断と治療が推奨される。
【0081】
RAは最も一般的には手、足、手首、肘、膝、及び足首の関節で起こる。RAは心血管系又は呼吸器系等の体組織を冒すこともあり、その場合には全身性RAと称される。早期のステージでは、RAを有する人々は関節に圧痛及び疼痛を経験することがある。
【0082】
RAの症状には、典型的には6週間又はそれ以上の硬直及び関節痛、具体的には小関節(手首、手及び足のある種の関節)の疼痛が含まれる。疼痛とともに、多くの人々は疲労、食欲不振、及び穏和な発熱を経験することがある。
【0083】
単一の検査ではRAを決定的に確認することはできないが、炎症レベルを測定し、RAに関連する抗体等のバイオマーカーを探索する血液検査を実施することができる。
【0084】
健常な個体と比較して高い赤血球沈降速度及び高いC反応性タンパク質(CRP)レベルが、炎症のバイオマーカーである。高いESR又は高いCRPはRAに特異的ではないが、RA関連抗体の存在と組み合わせれば、RAの診断を確認することができる。
【0085】
リウマチ因子(RF)はRAを有する人々の大多数で見出される抗体である。RFは他の炎症性疾患でも生じ得るので、これはRAを有していることの決定的な兆候ではない。しかし、異なる抗体(抗環状シトルリン化ペプチド(抗CCP))が、RA患者で一次的に生じる。これにより、陽性の抗CCP検査はRAのより強力な指摘になる。更に、浸食及び関節スペースの狭小化等の関節の損傷を探索するために、X線、超音波又は磁気共鳴造影スキャンを実施することができる。
【0086】
治療に関しては、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)が一般に処方され、これは関節炎による疼痛及び炎症を緩和することができる。NSAIDsの例には、イブプロフェン、ケトプロフェン、及びナプロキセンナトリウムが含まれる。更に、プレドニソン、プレドニソロン、及びメチプレドニソロンを含むコルチコステロイドを抗炎症医薬として投与することができる。
【0087】
疾患の進行を遅らせるために、DMARD、即ち疾患修飾性抗リウマチ薬を用いてもよい。DMARDには、メトトレキサート、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、レフルノミド、シクロホスファミド、及びアザチオプリンが含まれる。DMARDの下位カテゴリーは「JAK阻害薬」として知られており、これはヤヌスキナーゼ経路、即ち又はJAK経路をブロックする。例としてはトファシチニブがある。
【0088】
生物学的製剤は従来のDMARDより迅速に作用し、注射され又は注入によって与えられる。RAを有する多くの人々において、生物学的製剤は疾患を遅延させ、修飾し、又は停止させることができる。特に好ましいものは腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニスト(抗TNFα療法)である。
【0089】
本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにリウマチ性関節炎及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。TNFアンタゴニスト又は抗TNFαとの本開示による組合せ治療は相乗的である可能性がある。
【0090】
ベクテリュー病
ベクテリュー病(又は強直性脊椎炎)は、特に軸骨格が関与する慢性の自己免疫リウマチ性障害である。典型的には、これは年齢20~30歳の男性成人に現れる。
【0091】
最も深刻な症状は首及び背下部の疼痛である。典型的な症状は夜間の疼痛、並びに仙腸関節の炎症である。一部の患者では、脊椎の骨の変形が起こることがあり、これは運動制限をもたらす。これらの脊椎の苦痛とは別に、末梢関節の炎症が一般的である。
【0092】
ベクテリュー病の診断のため、頸椎及び腰椎の運動性を評価する脊柱の検査が実施される。ショーバー検査は腰部の前屈制限の量を推定するために役立ち得る。診断は、患者血液中のHLA-B27抗原の発見によって確認することができる。
【0093】
治療オプションには、NSAID、スルファサラジン、メトトレキサート、レフルノミド、コルチコステロイド、TNFα阻害薬の投与が含まれる。本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにベクテリュー病及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。特にTNFアンタゴニスト又は抗TNFαと本開示による治療との組合せは相乗的である可能性がある。
【0094】
全身性ループスエリトマトーデス
全身性ループスエリトマトーデス(SLE)は単にループスとしても知られている、身体の免疫系が身体の多くの部分で健常な組織を誤って攻撃する自己免疫疾患である。症状は人によって異なり、穏和から重症までの可能性がある。SLEは心血管疾患のリスクを顕著に高め、それにより最も一般的な死因となっている。近代の治療により罹患者の約80%が診断後15年を超えて生存する。一般的な症状には、関節の疼痛及び浮腫、発熱、胸痛、脱毛、口の潰瘍、リンパ節の浮腫、疲労感、及び顔で最も一般的な赤い発疹が含まれる。激発と称される病気の時期と、殆ど症状がない寛解の時期があることが多い。SLEには治癒がない。治療にはNSAID、コルチコステロイド、免疫抑制剤、ヒドロキシクロロキン、及びメトトレキサートが含まれ得る。コルチコステロイドは迅速に効果を生じるが、長期の使用は副作用をもたらす。本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにSLE疾患及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。
【0095】
脈管炎
脈管炎は、炎症を生じた大血管から小血管までの範囲で見られる。大血管脈管炎疾患としては、巨細胞性動脈炎(又は側頭動脈炎)、高安病(高安動脈炎)がある。中大血管脈管炎疾患としては、結節性多発性動脈炎(PAN)及び川崎病がある。小血管脈管炎疾患には、顕微鏡的多発性血管炎、GPA(ウェゲナー病としても知られている多発性血管炎を伴う肉芽腫症)、EGPA(チャーグ・ストラウス症候群としても知られている多発性血管炎を伴う好酸球増多性肉芽腫症)、ヘノッホ・シェーンライン症候群、抗GBM(グッドパスチャー症候群)及びクリオグロブリン血症関連脈管炎が含まれる。本発明者らは、本開示による薬剤が、上記のように脈管炎及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。
【0096】
胃腸管自己免疫疾患
セリアック病
セリアック病(Celiac disease又はcoeliac disease)は、グルテンの摂取が小腸上皮細胞の損傷をもたらす自己免疫障害である。これは典型的には遺伝的に罹患しやすい人々で1型糖尿病との組合せで起こる。セリアック病と1型糖尿病は同様の病因を有しており、遺伝性の遺伝子因子並びに食事及び微生物への曝露が、特に若年期において役割を果たしている可能性がある(例えばVerdu及びDanska、Nature Immunology、19巻、2018年7月、685~695頁を参照)。
【0097】
セリアック病を有する人々がグルテン(コムギ、ライムギ、及びオオムギに見られるタンパク質)を摂食すると、彼らの身体は小腸を攻撃する免疫応答を開始し、絨毛(小腸を裏打ちしている小さな指状の突出物)の損傷をもたらす。絨毛が損傷すると、腸によって栄養物を適正に吸収することができない。症状としては、腹部の痙攣、栄養不良、及び骨粗鬆症がある。
【0098】
セリアック病抗体をスクリーニングするためのいくつかの利用可能な血清(血液)検査があるが、最も一般的に用いられているのはtTG-IgA検査である。この検査が奏功するためには、患者はグルテンを消費していなければならない。更に、セリアック病の診断は内視鏡生検によって到達することができる。生検によって小腸が採取され、続いて小腸はセリアック病に符合する何らかの損傷があるか否かを見るために解析され得る。グルテンのない食事で改善が見られた場合には、診断が確定され得る。
【0099】
現在のところ、セリアック病の唯一の治療法は厳密にグルテンのない食事である。グルテンなしで生きる人々は、コムギ、ライムギ、及びオオムギを含む食物、例えばパン及びビールを避けなければならない。少量のグルテンの摂取でも小腸の損傷を誘発することがある。本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにセリアック病及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。
【0100】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸(GI)管の慢性炎症によって特徴付けられる2つの状態(クローン病及び潰瘍性大腸炎)についての用語である。IBDは異常に調節された免疫応答によって惹起されると考えられている。IBDの症状には、持続する下痢、腹痛、直腸出血/血便、体重減少、及び疲労が含まれる。IBDでは、免疫系は環境のトリガーに対して不正に応答し、これが胃腸管の炎症を惹起する。遺伝的要素もあるように思われ、IBDの家族歴がある者はこの不適切な免疫応答が発現する可能性がより大きい。
【0101】
IBDは内視鏡検査(クローン病について)又は大腸鏡検査(潰瘍性大腸炎について)と画像検討、例えば造影X線検査、磁気共鳴イメージング(MRI)、又はコンピュータトモグラフィー(CT)の組合せを用いて診断される。
【0102】
IBDを治療するためにいくつかの型の医薬、即ちアミノサリシレート、コルチコステロイド(例えばプレドニソン)、免疫調節剤、及びIBDのために承認された最新種類の「生物学的製剤」、例えば抗TNFアルファ等を用いることができる。感染を防止するためにIBDの患者へのいくつかのワクチン接種が推奨されている。重症IBDは胃腸管の損傷された部分を除去するために手術を必要とすることがあるが、医薬による治療の進歩は、手術が数十年前よりあまり一般的でなくなっていることを意味している。本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにIBDを予防及び/又は治療し、及び/又はその症状の1つ若しくは複数の重症度を低減させるために使用できることを見出した。
【0103】
神経疾患
ギランバレー
ギランバレー症候群(GBS)は、末梢神経系を損傷する免疫系によって惹起される急速に発症する筋脱力である(急性多発性ニューロパシー)。初期症状は典型的には筋脱力を伴う感覚の変化又は疼痛であり、足及び手で始まり、腕及び上半身に広がることが多く。両側が影響される。症状は数時間を超え、数週間、発症することがある。急性期の間には障害は致命的になることがあり、約15%の人々は呼吸筋の衰弱が発症し、したがって機械換気を必要とすることがある。
【0104】
原因は未知であるが、根底にある機序には、身体の免疫系が末梢神経を誤って攻撃して、そのミエリン絶縁を損傷する自己免疫障害が関与している。この免疫機能不全は感染によって、又はさほど一般的ではないが手術によって、また稀にはワクチン接種によって誘発されることがある。診断は通常、兆候及び症状に基づき、代わりの原因を除外して行われ、神経伝導検査及び脳脊髄液の検査等の検査によって支持される。衰弱している区域、神経伝導検査の結果、及びある種の抗体の存在に基づいて、いくつかのサブタイプが存在する。静脈内免疫グロブリン又はプラズマフェレーシスによる治療は、支持療法とともに大多数の人々で良好な回復をもたらすことになる。回復には数週から数年かかることがあり、約3分の1はいくらかの永続的な衰弱を有する。本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のようにGBSを予防及び/又は治療し、及び/又はその症状の1つ若しくは複数の重症度を低減させるために使用できることを見出した。
【0105】
CDIP
慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)は、末梢神経系の後天的な免疫媒介炎症性障害である。この障害は慢性多発性ポリニューロパシー(CRP)又は慢性炎症性脱髄性多発神経根障害(これは神経根に関与しているので)と称されることがある。CIDPはギランバレー症候群に緊密に関連しており、この急性疾患の慢性のカウンターパートと考えられる。本発明者らは、本開示による薬剤が、上記のようにCDIPを予防及び/又は治療し、及び/又はその症状の1つ若しくは複数の重症度を低減させるために使用できることを見出した。
【0106】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、脳及び脊髄における神経細胞の絶縁カバーが損傷を受ける脱髄疾患である。この損傷によって信号を伝達する神経系の部分の能力が破壊され、身体的、心理的、及び時には精神的な問題を含む様々な兆候及び症状がもたらされる。特異的な症状には、複視、一方の眼の失明、筋脱力、及び感覚又は協調の支障が含まれ得る。MSにはいくつかの形態があり、新たな症状は孤立した発作(再発形態)又は経時的な蓄積(進行形態)で起こる。発作の間には症状は完全に消失することがあるが、永続的な神経障害が残ることが多く、特に疾患の進行を伴う。原因は明らかでないが、根底にある機序は免疫系による破壊又はミエリン産生細胞の不全であると考えられる。これについて提案された原因には、遺伝的因子及びウイルス感染による誘発等の環境因子が含まれる。MSは通常、提示される兆候及び症状並びに支持する医学検査の結果に基づいて診断される。多発性硬化症には既知の治癒はない。治療では発作の後の機能の改善及び新たな発作の予防が試みられる。本発明者らは、本開示による薬剤が、上記のようにMSを予防及び/又は治療し、及び/又はその症状の1つ若しくは複数の重症度を低減させるために使用できることを見出した。
【0107】
喘息及びCOPD
本開示に関連して、喘息においても作用していると思われる自己免疫機序に鑑みて、喘息の予防及び/又は治療も予見される。
【0108】
喘息は肺の気道の一般的な慢性の炎症性疾患である。これは可逆的な気道閉塞及び気管支痙攣によって特徴付けることができる。症状には、咳、喘鳴、胸苦しさ、及び息切れの出現が含まれる。
【0109】
現在のところ、喘息の決定的な診断検査は存在せず、診断は典型的には症状のパターン及び経時的な治療への応答に基づいている。再発する喘鳴、咳、又は呼吸困難の病歴があり、これらの症状が運動、ウイルス感染、アレルゲン、及び/又は大気汚染によって起こるか悪化すれば、喘息の診断を行うことができる。肺機能に対する影響を検討するために、気管支拡張剤を用いるFEV1検査も行われる。
【0110】
喘息に対する効果的な治療は、疾患を誘発するもの、例えばタバコの煙、ペット、又はアスピリン等を同定して、これらのトリガーへの曝露をなくすことである。更に、気管支拡張剤が推奨されることが多い。穏和ではあるが永続的な疾患の場合には、低用量の吸入コルチコステロイド、或いはロイコトリエンアンタゴニスト又は肥満細胞安定化剤を適用することができる。重篤な喘息、即ち毎日の発作を有する患者については、より高用量の吸入コルチコステロイドを用いることができる。
【0111】
本発明者らは、上記の治療に加えて又はその代わりに、本開示による薬剤が、上記のように喘息及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために使用できることを見出した。
【0112】
本開示による治療の有効性は、Korpelaら(Nat Commun、2016年1月26日、7:10410頁)によって主張された腸内マイクロバイオームの組成と喘息を発症するリスクとの間の関連を確認するものである。
【0113】
(肺)気腫は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を含む疾患の1つである。気腫には、肺組織の漸進的な損傷、具体的には肺胞又は気嚢の菲薄化及び破壊が含まれる。本開示による薬剤は、上記のようにCOPD、具体的には(肺)気腫、及び/又はその症状の1つ若しくは複数を予防及び/又は治療するために用いることができる。
【0114】
その他の状態
本開示は、特に自己免疫性肝炎、1a型及び/又は1b型の糖尿病、多腺性自己免疫症候群、重症筋無力症、悪性貧血、原発性胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、抗リン脂質抗体症候群、皮膚筋炎、混合結合組織病、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎、強皮症、及びシェーグレン症候群を含むその他の自己免疫疾患の予防及び/又は治療に関連しても用いてよい。しかし、上記の疾患のいずれかを本開示から除外することも予想される。
【0115】
更に、本開示による薬剤は、典型的には環境中で無害な物質に対する免疫系の過敏性によって惹起される状態であるアレルギー疾患としても知られているアレルギーを予防及び/又は治療するために用いてもよい。一般的なアレルギーには、花粉症(植物花粉アレルギー)及び食物アレルギー(例えば牛乳、ダイズ、卵、コムギ、ピーナツ、木の実、魚、及び/又は貝類に関連する)が含まれる。
【0116】
本開示は、以下の疾患の予防及び/又は治療も可能にするが、場合によりこれらの疾患は本開示の範囲から除外される。胃腸管障害、クロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile)感染、モルブスクローン(クローン病)、潰瘍性大腸炎若しくは炎症性腸疾患(IBD)、及び/又は過敏性腸症候群(IBS)。その代わりに及び/又は更に、以下の疾患のいずれかを本開示から除外してもよい。全身性及び局所性(臓器特異的な)自己免疫疾患、内分泌自己免疫疾患、1型糖尿病、2型糖尿病、橋本病、グレーブス病、若しくはアディソン病、皮膚自己免疫疾患、乾癬若しくは白斑、リウマチ性自己免疫疾患、リウマチ性関節炎、ベクテリュー病及び胃腸管自己免疫疾患、セリアック病、脈管炎、COPD、CIDP、MS、SLE、ギランパレー。本発明による疾患は、炎症関連でなくてもよい。
【0117】
本開示による治療
本明細書に記載した自己免疫疾患の予防又は治療における使用のための薬剤はデスルホビブリオ種であってよく、デスルホビブリオ種は好ましくはデスルホビブリオ・ピゲル(ATCC 29098)、デスルホビブリオ・フェアフィールデンシス(ATCC700045)、デスルホビブリオ・デスルフリカンス(Essex 6 ATCC 29577)、D.デスルフリカンス(MB ATCC 27774)、デスルホビブリオ・インドネンシス(NCIMB 13468)、デスルホビブリオ・アラスケンシス(NCIMB 13491)、デスルホビブリオ・ベトナメンシス(DSM 10520)、デスルホビブリオ・ギガス(DSM 1382)、デスルホビブリオ・インテスチナリス(Desulfovibrio intestinalis(DSM 11275))、デスルホビブリオ・ロングリーチェンシス(Desulfovibrio longreachensis(ACM 3958))、デスルホビブリオ・テルミチジス(Desulfovibrio termitidis(DSM 5308))、デスルホビブリオ・ブルガリス亜種ブルガリス(Desulfovibrio vulgaris subsp. vulgaris(DSM 644))、及びデスルホビブリオ・ブルガリス亜種オキサミクス(Desulfovibrio vulgaris subsp. oxamicus(DSM 1925))からなる群から選択される。更に又はその代わりに、薬剤はバクテロイデス(Bacteroides)種、好ましくはバクテロイデス・ステルコリス(Bacteroides stercoris)、又はバクテロイデス・ステルコリスの標準株の16S rDNA配列と少なくとも70、80、85、90、95、96、97、98、99、99.5、99.9%の配列同一性を有する関連物等のその関連物であってよい。
【0118】
最も好ましくは、デスルホビブリオ種はデスルホビブリオ・ピゲル又はデスルホビブリオ・ピゲルの16S rDNA配列(例えば配列番号1)と少なくとも70、80、85、90、95、96、97、98、99、99.5、99.9%の配列同一性を有するその関連物である。16S rDNAとの類似性に基づくそのようなカットオフ値によって、類似の特徴及び/又は機能性を有する種を定義することができる。
【0119】
好ましくは、例えばデスルホビブリオ種が含まれる組成物中で、例えば前記組成物1ml又は1gあたり少なくとも104、105、106、107、108個の量のデスルホビブリオ細胞が用いられ得る。その代わりに又は更に、デスルホビブリオ種が含まれる組成物中で、例えば前記組成物1ml又は1gあたり全部で104~1016、104~1015、104~1014、104~1012、106~1012、好ましくは108~1010個のデスルホビブリオ細胞が好ましく用いられ得る。
【0120】
その代わりに又は更に、デスルホビブリオ細胞は生存していてよいが、例えば低温殺菌後に得られた、又は例えば50~100、60~80、65~75、又は70℃、好ましくは少なくとも5、10、15、20、25、30、40、50分のインキュベーション後に得られた、又は好ましくは少なくとも1、5、10、20、30秒、若しくは1、5、10、15、20、25、30、40、50分のUV又はガンマ線照射への曝露後に得られた、又は酸素、例えば少なくとも15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、99、100体積%の酸素を含む気体との、好ましくは少なくとも1、5、10、20、30秒、若しくは1、5、10、15、20、25、30、40、50分のインキュベーション後に得られた、弱毒化した又は死滅した細胞(のみ)を用いることも想定される。好ましくは、デスルホビブリオ種は組成物中で1番目、2番目、3番目、4番目、又は5番目に多い細菌種であり、即ち組成物に含まれる他の細菌種と比較して最大の細胞数を有するか、少なくとも上位5番目に入る。
【0121】
本開示によるデスルホビブリオ種は、好ましくは糞便中に含まれず、又は(例えば上記の組成物の代替として)糞便中に含まれる場合には、これは富化されており、即ちデスルホビブリオ細胞の数は従来技術の糞便中よりも多く、例えばデスルホビブリオ細胞が糞便に添加されており、又は糞便が前記デスルホビブリオ種の増殖に有利な条件に曝露されている。本開示によるデスルホビブリオ種が糞便に含まれる場合には、例えば糞便1ml又は1gあたり好ましくは少なくとも104、105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、108、109、1010、1011、1012、1013個のデスルホビブリオ細胞が前記糞便中に含まれている。好ましくは、デスルホビブリオ種は糞便中で1番目、2番目、3番目、4番目、又は5番目に多い細菌種であり、即ち糞便中に含まれる他の細菌種と比較して最大の細胞数を有するか、少なくとも上位5番目に入る。
【0122】
本開示による薬剤は、更に又はその代わりに、1つ又は複数のハロゲン、好ましくは1つのハロゲンで置換されたアミノ酸、好ましくはクロロ、フルオロ、又はブロモ置換アミノ酸であってよい。任意選択で1つ又は複数のハロゲン、好ましくは1つのハロゲンで、例えば6位が置換された芳香族アミノ酸、例えば6位で好ましくはクロロ、フルオロ、又はブロモ置換された芳香族アミノ酸が好ましい。任意選択で1つ又は複数のハロゲン、好ましくは1つのハロゲンで(例えば6位が)置換されたトリプトファン、チロシン、又はフェニルアラニン、例えば6位で好ましくはクロロ、フルオロ、又はブロモ置換されたトリプトファン、チロシン、又はフェニルアラニン、例えばクロロ、フルオロ、又はブロモ置換されたトリプトファンがより好ましい。例えば6位のハロゲン化トリプトファン、好ましくはクロロトリプトファン、フルオロトリプトファン、又はブロモトリプトファンが更により好ましい。6-ブロモトリプトファン又はその任意の誘導体若しくは機能性等価物が最も好ましい。薬剤は、例えばそれが含まれる組成物1ml又は1gあたり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900μg(マイクログラム)の量で用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750μg(マイクログラム)が好ましく用いられ得る。或いは、薬剤は、例えばそれが含まれる組成物1ml又は1gあたり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900mgの量で用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750μg(マイクログラム)が好ましく用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750mgが好ましく用いられ得る。投与は経口投与、皮下又は静脈内投与であってよい。投与すべき全量は治療される対象の体重により、専門家によって決定することができる。例えば、単回用量は10マイクログラム~100g、又は10mg~50g、又は50mg~10g、又は100mg~5gを含んでよい。用量は本明細書の他の箇所に記載したように定期的に投与してよい。更に又はその代わりに、薬剤は好ましくは糞便中に含まれず、又は(例えば上記の組成物の代替として)糞便中に含まれる場合には、これは富化されており、即ち前記薬剤の量は従来技術の糞便中より多く、即ち薬剤が添加されていないいずれの糞便又は糞便微生物群移植物と比較しても少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量%多い。本発明によれば、前記薬剤を糞便に添加することができる。薬剤が糞便中に含まれる場合には、例えば糞便1ml又は1gあたり好ましくは少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900ng、又は少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900μg(マイクログラム)、又は少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100mgの薬剤が前記糞便中に含まれる。好ましくは、薬剤は糞便中で1番目、2番目、3番目、4番目、又は5番目に多い代謝産物であり、即ち糞便中に含まれる他の代謝産物と比較して最大の質量を有するか、少なくとも上位10番目又は上位5番目に入る。
【0123】
更に又はその代わりに、本開示による薬剤は、モノ又はジ脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)であってよく、好ましくは、脂肪酸は(独立に)飽和又は(モノ又はポリ)置換脂肪酸である。
【0124】
ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエニン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸が好ましい。ミリストレイン酸及びアラキドン酸の1つ又は複数を含む置換グリセロールホスホコリン(GPC)がより好ましい。1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)及び1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC)、又はこれらの任意の誘導体若しくは機能性等価物がより好ましく、これらによって良好な結果が得られている。薬剤は、例えばこれが含まれる組成物1ml又は1gあたり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900μg(マイクログラム)の量で用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750μg(マイクログラム)が好ましく用いられ得る。その代わりに、薬剤は、例えばそれが含まれる組成物1ml又は1gあたり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900mgの量で用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750μg(マイクログラム)が好ましく用いられ得る。その代わりに又は更に、例えば薬剤が含まれる組成物1ml又は1gあたり全体で0.1~10、0.5~15、1~20、1~100、5~100、1~500、50~750mgが好ましく用いられ得る。投与は経口投与、皮下又は静脈内投与であってよい。投与すべき全量は治療される対象の体重により、専門家によって決定することができる。例えば、単回用量は10マイクログラム~100g、又は10mg~50g、又は50mg~10g、又は100mg~5gを含んでよい。その代わりに又は更に、投与は治療される対象において好ましくは0.1~100、0.2~50、0.5~25、0.5~20、0.5~3、1~15、2~10、2~5nmol/ml又は0.1~100、0.2~50、0.5~3、0.5~25、0.5~20、1~15、2~10、2~5μmol/ml、又は小児科での使用の場合にはその50%の血漿中濃度が達成されるようなものでよい。用量は本明細書の他の箇所に記載したように定期的に投与してよい。更に又はその代わりに、薬剤は好ましくは糞便中に含まれず、又は(例えば上記の組成物の代替として)糞便中に含まれる場合には、これは富化されており、即ち前記薬剤の量は従来技術の糞便中より多く、即ち薬剤が添加されていないいずれの糞便又は糞便微生物群移植物と比較しても少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10質量%多い。本発明によれば、前記薬剤を糞便に添加することができる。薬剤が糞便中に含まれる場合には、例えば糞便1ml又は1gあたり好ましくは少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900ng、又は少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900μg(マイクログラム)、又は少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100mgの薬剤が前記糞便中に含まれる。好ましくは、薬剤は糞便中で1番目、2番目、3番目、4番目、又は5番目に多い代謝産物であり、即ち糞便中に含まれる他の代謝産物と比較して最大の質量を有するか、少なくとも上位10番目又は上位5番目に入る。
【0125】
本開示による薬剤は、本明細書に記載したように自己免疫疾患の予防又は治療における任意の組合せで用いてよい。例えば、デスルホビブリオ種は、クロロ、フルオロ、若しくはブロモ置換トリプトファン、例えば6-BTと、及び/又はモノ若しくはジ脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)、例えばMA-GPA若しくはA-GPCと組み合わせてよい。その代わりに、クロロ、フルオロ、又はブロモ置換トリプトファン、例えば6-BTを、モノ若しくはジ脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)、例えばMA-GPC若しくはA-GPCと組み合わせてよい。又はその代わりに、MA-GPCをA-GPCと組み合わせてもよい。
【0126】
本開示による薬剤は、B細胞クローンの機能及び自己免疫応答を阻害する調節T細胞をリセットすることによって免疫系をモジュレートすることができる。
【0127】
好ましくは、本開示による薬剤は、糞便から誘導され得るが、糞便に含まれず又はそれと組み合わされない。更に又はその代わりに、薬剤は100、90、80、70、60、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1種を超えない細菌種を含む組成物中に含まれ得る。
【0128】
好ましくは、本開示による薬剤は、例えば組成物又は担体(例えば0.5~1.5質量%のNaCl、例えば特に静脈内投与の場合には0.9質量%のNaClを含む水溶液)1g又は1mlあたり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90、100又は0.1~10、0.5~15、1~20、1~100mg、5~50mg、又は1~25mgの量で(医薬)組成物中に含まれる。
【0129】
本開示による予防及び/又は治療は、前記対象に薬剤を経口で、又は小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含み得る。これに関して、糞便は腸に、好ましくは経口、経鼻、又は経直腸投与によって、及び/又は(経鼻)十二指腸チューブ等による十二指腸投与によって、投与してよい。特に本開示による置換アミノ酸薬剤のいずれか、及び特に本開示によるGPC、例えばMA-GPC及びA-GPCについては、静脈内投与及び(例えば3~6か月の治療のための送達並びに効果的かつ持続的な長期投薬に適合する棒状のサイズ(4×44mm)の移植デバイスの(その後で再び置き換えられる)皮下送達システムによる)皮下投与も予見される。
【0130】
本開示による薬剤は、対象の胃腸管に、好ましくは対象の小腸に、最も好ましくは十二指腸に投与される。十二指腸は、哺乳動物を含む最も高等な脊椎動物の小腸の最初の部分である。十二指腸は空腸及び回腸の前にあり、小腸の最も小さな部分である。ヒトでは、十二指腸は胃と十二指腸遠位部とを連結する25~38cmの中空の管である。これは十二指腸球部で始まり、十二指腸の懸垂筋で終わる。薬剤を対象の結腸(又は盲腸)に投与することも可能であるが、対象の結腸(又は盲腸)への投与は好ましくは本開示に包含されない。
【0131】
本開示による薬剤は、その門が、
- フィルミクテス(Firmicutes)、例えばユーバクテリウム(Eubacterium)、インテスチニモナス(Intestinimonas)、フェーカリバクテリウム(Faecalibacterium)、クリステンセネラ(Christensenella)、アネロスチペス(Anaerostipes)、アガトバクター(Agathobacter)、ロセブリア(Roseburia)、コプロコッカス(Coprococcus)、クロストリジウム(Clostridium)、サブドリグラヌラム(Subdoligranulum)、アネロトランクス(Anaerotruncus)、フラビノバクター(Flavinobacter)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、ブチリシコッカス(Butyricicoccus)、ブチロビブリオ(Butyrovibrio)、スポロバクター(Sporobacter)、パピリバクター(Papilibacter)、オシロバクター(Oscillobacter)、オシロスポラ(Oscillospora)、ベイロネラ(Veilonella)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するもの、
- プロテオバクテリア(Proteobacteria)、例えばエシェリチア(Escherichia)又はエンテロバクター(Enterobacter)属に属するもの、
- アクチノバクテリア(Actinobacteria)、例えばビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)又はコリンセラ(Colinsella)属に属するもの、
- バクテロイデテス(Bacteroidetes)、例えばバクテロイデス(Bacteroides)、プレボテラ(Prevotella)、又はアリスチペス(Alistipes)属に属するもの、及び/又は
- ベルコミクロビア(Verrucomicrobia)、例えばアッケルマンシア(Akkermansia)属に属するもの
からなる群から選択される1つ(又は組合せ)であってよい細菌、即ち微生物群又は腸内微生物細胞と組み合わされ得る。
【0132】
薬剤は、真核細菌、古細菌、及び細菌からなる群から選択され、好ましくはRajilic-Stojanovic及びde Vos (2014 FEMS Microbiol Rev. 38(5):996~1047頁)によって開示された1057種の群から選択される微生物群又は腸内微生物細胞と組み合わせてもよい。
【0133】
好ましくは例えば担体1ml又は1gあたり全体で104~1016、104~1015、104~1014、106~1012、好ましくは108~1010個の上記の微生物細胞のいずれかを用いてよい。
【0134】
薬剤は有効量、即ち所望の治療及び/又は予防効果を達成するために十分な量、例えばそれぞれの状態の治療及び/又は予防をもたらす量で適用してよい。治療又は予防用の適用に関しては、対象に投与すべき量は、疾患又は状態の型及び重症度、並びに対象の特徴、例えば一般的健康状態、年齢、性別、体重、及び薬剤への忍容性によってよい。これは、疾患又は状態の程度、重症度、及び型にもよってよい。専門家であれば、これらの及び他の因子に応じて適切な投薬量を決定することができる。
【0135】
好ましい実施形態では、本開示による予防及び/又は治療には、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、及び/又は多くとも10、20、30、40、50回の薬剤の個別の投与が、前記個別の投与の間に好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、10週、及び/又は多くとも10、20、30、40、50週の間隔で含まれる。予防及び/又は治療には、毎日、毎週、毎月の投与、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10日/週/月ごとに1回又は2回の投与が含まれてもよく、及び/又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50週(又は月若しくは年でも)の期間であってもよい。
【0136】
薬剤は液体媒体に含まれてもよく、及び/又は好ましくは1、2、3、4、5、10、15、20、25、50、75、100、200、400、600、800、又は1000μmを超える直径を有する固体(例えば固体を含む組成物)と組み合わされない。液体媒体は0.5~1.5質量%のNaCl、例えば0.9質量%のNaClを含む水溶液であってよい。用語「固体」は、多くとも30、20、10、5、1質量%の水を含む個別の粒子を意味する。
【0137】
本開示による薬剤は、組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体又は固体の投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、又は粉末に含まれることが、更に想定される。
【0138】
経口投与のため、薬剤は固体の投薬形態、例えばカプセル、錠剤、及び粉末、又は液体の投薬形態、例えばエリキシル、シロップ、及び懸濁液で投与してよい。また、活性炭等の担体を適用することもできる。
【0139】
薬剤は医薬として用いてもよく、及び/又は任意の不活性な担体であってよい生理学的に許容される担体を伴ってもよい。例えば、生理学的又は薬学的に許容される好適な担体の非限定的な例には、任意の周知の生理学的又は薬学的な担体、緩衝剤、希釈剤、及び賦形剤が含まれる。好適な生理学的担体の選択は本明細書で教示した組成物の意図された投与様式(例えば経口)及び組成物の意図された形態(例えば飲料、ヨーグルト、粉末、カプセル等)によることが認識されよう。専門家であれば、本明細書で教示した使用のための組成物に適した又はそれと調和する生理学的に許容される担体をどのように選択するかを熟知している。
【0140】
薬剤は(腸溶性)コーティングの中に含まれ及び/又は(腸溶性)コーティングによってカプセル化されていることが特に好ましく、好ましくは、前記コーティングは対象の胃の環境の中では溶解及び/又は崩壊しない。そのようなコーティングは、薬剤が胃の酸性環境による分解を被ることなく送達のための意図された部位、例えば十二指腸に到達することを助け得る。好ましい(腸溶性)コーティングは、胃で見られる高度に酸性のpHで安定な表面を提示するが、低いpHではより迅速に分解することによって奏功する。例えば、これは胃の胃酸(pH約3)には溶解しないが、小腸又は十二指腸の中に存在するアルカリ性(pH7~9)の環境では溶解する。
【0141】
実施形態では、本開示による薬剤は、粘膜結合剤を含む組成物と組み合わされ、又はその中に含まれ得る。本明細書で用いられる用語「粘膜結合剤」又は「粘膜結合ポリペプチド」は、それ自体を哺乳動物(例えばヒト)の腸粘膜バリアの腸粘膜表面に結合させることができる薬剤又はポリペプチドを指す。種々の粘膜結合ポリペプチドが当技術で開示されている。粘膜結合ポリペプチドの非限定的な例には、コレラ毒素のBサブユニット、大腸菌の易熱性エンテロトキシンのBサブユニット、ボルデテラ・ペルツシス(Bordetella pertussis)毒素のサブユニットS2、S3、S4、及び/又はS5、ジフテリア(Diphtheria)毒素のB断片、並びにシガトキシン若しくはシガ様毒素の膜結合サブユニット等を含む細菌毒素の膜結合サブユニットが含まれる。その他の好適な粘膜結合ポリペプチドには、大腸菌線毛K88、K99、987P、F41、FAIL、CFAIII ICES1、CS2及び/又はCS3、CFAIIV ICS4、CS5及び/又はCS6)、P.フィムビリアエ(P fimbriae)等を含む細菌線毛タンパク質が含まれる。その他の線毛の非限定的な例には、ボルデテラ・ペルツシス線毛ヘマグルチニン、ビブリオコレラ毒素共調節線毛(TCP)、マンノース感受性ヘマグルチニン(MSHA)、フコース感受性ヘマグルチニン(PSHA)等が含まれる。更に他の粘膜結合剤には、インフルエンザ及びセンダイウイルスのヘマグルチニンを含むウイルス付着タンパク質、並びに免疫グロブリン分子若しくはその断片を含む動物レクチン若しくはレクチン様分子、カルシウム依存性(C型)レクチン、セレクチン、コレクチン、又はヘリックスポマチアヘマグルチニン、コンカナバリンA、コムギ胚芽アグルチニン、フィトヘマグルチニン、アブリン、リシン等を含む粘膜結合サブユニットを有する植物レクチンが含まれる。
【0142】
実施形態では、本明細書で教示した使用のための薬剤を含む組成物は、液体形態、例えば薬剤の1つ又は複数を含む安定化された懸濁液、固体形態、例えば本明細書で教示した凍結乾燥された薬剤の粉末であってよい。例えば、ラクトース、トレハロース、又はグリコーゲン等の凍結保護剤を採用してもよい。
【0143】
任意選択で、本開示による薬剤は、場合により不活性な成分及び粉末担体、例えばグルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルカム、炭酸マグネシウム等とともに、ゼラチンカプセル等のカプセル中にカプセル化してもよい。
【0144】
実施形態では、本開示による薬剤は、例えば保存中及び/又は胆汁への曝露及び/又は哺乳動物(例えばヒト)の胃腸管の通過の間に、薬剤の生存及び/又は生存能力及び/又は維持及び/又は一体性を促進するために適した1つ又は複数の成分を含んでもよい。そのような成分の非限定的な例には、本明細書で前に記載した腸溶性コーティング及び/又は胃での通過を可能にする制御放出薬剤が含まれる。専門家であれば、糞便がその作用を発揮する意図された目的箇所に到達することを保証する好適な成分をどのように選択するかを熟知している。
【0145】
実施形態では、本明細書で教示した使用のための薬剤を含む組成物は、プレバイオティクス、プロバイオティクス、炭水化物、ポリペプチド、脂質、ビタミン、ミネラル、医薬、保存剤、抗生剤、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される成分を更に含んでよい。
【0146】
特に好ましい実施形態では、本開示による薬剤は、好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス(Bifidobacterium animalis sub lactis)若しくはビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ラムノスス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ユーバクテリウム・ハリイ(Eubacterium hallii)、インテスチニモナス・ブチリシプロヅセンス(Intestinimonas butyriciproducens)、及び/又はアッケルマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)からなる群から選択されるユーバクテリウム属、インテスチニモナス属、ビフィドバクテリア属(Bifidobacteria)、ラクトバシラレス属(Lactobacillales)、及び/又はアッケルマンシア属の細菌と組み合わされる。好ましくは全体で104~1014、106~1012、好ましくは108~1010個(1ml又は1gあたり)のそのような細菌細胞を用いてよい。上記の組合せは相乗効果を生じる可能性がある。薬剤と細菌は異なる組成物中に含まれてもよく、単一の組成物中(例えば本明細書に記載したカプセル又はその他の投薬形態中)に一緒に含まれてもよい。
【0147】
本開示による薬剤は、更に又はその代わりに、ホルモン補充剤(サイロイド、ヒドロコルチゾン、インスリン等)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害剤、並びに/又は好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴル、及びゴリムマブからなる群から選択されるDMARD(リウマチ性関節炎)と組み合わせてよい。本発明者らは、TNFα阻害剤による治療が本開示による薬剤による治療に対する応答を増大し、及び/又は逆に本開示による薬剤による治療がTNFα阻害剤による治療に対する応答を増大すると考えている。好ましくは、TNFα阻害剤は薬剤とは異なる又は薬剤と同じ組成物(例えば本明細書に記載したカプセル又はその他の投薬形態)中で投与される。TNFα阻害剤は、毎週又は毎日、少なくとも(又は多くとも)1、2、3、4回、及び/又は静脈内/経口で、例えば1~10、2~8、3~7、4~6、又は5mg/kgの用量で投与してよい。
【0148】
本開示による使用のための薬剤、特にデスルホビブリオ種は、凍結乾燥された及び/又はマイクロカプセル化された形態、例えば前記薬剤を含むカプセル中に存在することが更に想定される。好ましくは、前記薬剤、例えばデスルホビブリオ種は、例えば粉末又は顆粒の形態で、固体の凍結乾燥された又は乾燥された形態で存在する(即ち、20、10、5、2、1質量%未満の水を含む)。例えば、これはマイクロカプセル化された形態で存在してよい。当業者であれば、糞便中に含まれるいずれの細菌の生存能力をも保持するために酸素のない条件が適用される周知の技術に基づいて薬剤を凍結乾燥又はマイクロカプセル化することができる。
【0149】
マイクロカプセル化の技術は細菌を保存するための当技術で(例えばSerna-Cock及びVallejo-Castillo, 2013年、Afr J of Microbiol Res, 7(40): 4743~4753頁によって概説されているように)周知である。例えば、Serna-Cock及びVallejo-Castilloによって教示された保存技術及び保存システムのいずれも、本開示に採用してよい。
【0150】
凍結乾燥方法には限定はないが、-40℃へのゆっくりとした段階的な凍結及びその後の乾燥、-80℃に置くことによる急速凍結及びその後の乾燥、又は細胞を凍結保護剤とともに液体窒素中に点滴することによる超急速凍結及びその後の乾燥が含まれる。凍結乾燥中に組成物を保護するため及び保存期間を延長するために、凍結保護剤が採用されることが多い。限定はないが、スクロース、マルトース、マルトデキストリン、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、イヌリン、グリセロール、DMSO、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグリセロール、スキムミルク粉末、ミルクプロテイン、ホエイプロテイン、UHTミルク、ベタイン、アドニトール、スクロース、グルコース、ラクトース、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される凍結保護剤を採用してよい。
【0151】
例えば凍結乾燥の前にその効率を増強するために、デンプン及びフスマ等のプレバイオティクスを更に本開示の薬剤に添加してもよい。リボフラビン、リボフラビンホスフェート、又はそれらの生理学的に許容される塩、グルタチオン(glutathione)、アスコルベート、グルタチオン(glutathion)、及びシステイン等の抗酸化剤の凍結乾燥混合物への添加により、含まれるいずれの細菌の生存能力も増強することができる。
【0152】
薬剤、特にデスルホビブリオ種は、本明細書で開示した凍結保護剤、例えばグリセロールの添加及び/又は-80℃における凍結の後、長期(例えば少なくとも10、20、40、52週又は少なくとも1、2、3年)にわたって保存することができる。更に又はその代わりに、凍結乾燥によって薬剤はそのような期間にわたって安定になる。最後に、de Vos (2013 Microb Biotechnol. 2013年7月、6(4):316~25頁)によって記載されているように、デスルホビブリオ種を接種することもできる。
【0153】
実施形態では、本明細書で教示した使用のための薬剤は、食品又は補助食品組成物であるか、それらに含まれていてよい。そのような食品又は補助食品組成物には、乳製品、より好ましくは発酵乳製品、好ましくはヨーグルト又は飲用ヨーグルトが含まれ得る。
【0154】
実施形態では、本明細書で教示した使用のための薬剤又はそれを含む組成物は、本明細書で教示した糞便の栄養価及び/又は治療価値を更に増強する1つ又は複数の成分を更に含んでよい。例えば、タンパク質、アミノ酸、酵素、鉱物塩、ビタミン類(例えばチアミンHCl、リボフラビン、ピリドキシンHCl、ナイアシン、イノシトール、コリンクロリド、パントテン酸カルシウム、ビオチン、葉酸、アスコルビン酸、ビタミンB12、p-アミノ安息香酸、ビタミンAアセテート、ビタミンK、ビタミンD、ビタミンE等)、糖及び複合炭水化物(例えば水溶性及び水不溶性の単糖類、二糖類、及び多糖類)、医薬化合物(例えば抗生剤)、抗酸化剤、微量元素成分(例えばコバルト、銅、マンガン、鉄、亜鉛、スズ、ニッケル、クロム、モリブデン、ヨウ素、塩素、ケイ素、バナジウム、セレン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、及びカリウム等)から選択される1つ又は複数の成分(例えば栄養成分、獣医薬又は医薬等)を添加することが有利なことがある。当業者であれば、栄養価及び/又は治療/医薬的価値を増強するために適した方法及び成分を熟知している。
【0155】
本開示は、本開示による薬剤による(又は自己糞便による)治療への自己免疫疾患患者の応答を予測するための方法も提供し、本方法は、
- バクテロイデテス・カカエ(Bacteroides caccae)及びコプロコッカス・カツス(Coprococcus catus)からなる群から選択される少なくとも1つの細菌の前記患者の糞便微生物群における存在量のレベルを測定することを含み、
参照レベルより高い測定レベルは自己免疫疾患患者が治療に応答していることを表す。前記参照レベルは、例えばバクテロイデテス・カカエ及びコプロコッカス・カツスからなる群から選択される前記少なくとも1つの細菌の健常な対照の対象の糞便微生物群における存在量のレベルの50~150%、好ましくは75~125、より好ましくは90~120、95~110、98~105%のレベルであってよい。
【0156】
本開示に関連して、治療を受ける対象は、好ましくは動物、より好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。明らかであるように、本治療は好ましくは対照若しくはプラセボ治療及び/又は臨床試験、即ち、研究者が生医学的な又は健康に関連する転帰について介入の効果を評価することができるように、参加者が1つ又は複数の介入/治療を受ける群、1つ又は複数の対照若しくはプラセボ介入/治療を受ける群、又は介入を受けない群に割り当てられる研究としては実施されない。
【0157】
本明細書及びその特許請求の範囲において、動詞「含む」及びその活用は、その非限定的な意味において、その単語に続く項目が含まれるが、特に述べていない項目も排除されないことを意味するために用いられる。更に、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈によってただ1つの要素のみが存在すべきであることが明確に要求されない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を排除しない。即ち不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0158】
「配列同一性」は、アラインメントアルゴリズムを用いる2つのペプチド又は2つのヌクレオチドの配列のアラインメントによって決定することができる(例えばデフォルトパラメーターを用いるプログラムGAP又はBESTFITによって最適にアラインされた場合)。GAPはNeedleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムを用いて2つの配列をその全長にわたってアラインし、マッチの数を最大化し、ギャップの数を最小化する。一般に、ギャップ挿入ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)として、GAPデフォルトパラメーターが用いられる。ヌクレオチドについては用いられるデフォルトスコアリングマトリックスはnwsgapdnaであり、タンパク質についてデフォルトスコアリングマトリックスはBlosum62である(Henikoff及びHenikoff、1992年、PNAS 89、915~919頁)。配列同一性パーセンテージのための配列アラインメント及びスコアは、Accelrys Inc.社、9685 Scranton Road, San Diego, CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package,バージョン10.3、又はEmbossWin バージョン2.10.0(プログラム「needle」を使用)等のコンピュータプログラムを用いて決定してよい。その代わりに、類似性又は同一性のパーセントを、FASTA、BLAST等のアルゴリズムを用いてデータベースを探索することによって決定してもよい。説明として、ある特定の配列のポリペプチドをコードする参照ヌクレオチド配列と少なくとも例えば95%の「同一性」を有するヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによって、ポリヌクレオチド配列が参照ポリペプチド配列のそれぞれの100ヌクレオチドあたり5個までの点変異を含み得る(これは(保存的)置換、欠失、及び/又は挿入であってよい)ことを除いて、そのポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が参照配列と同一であることを意図している。換言すれば、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列中の5%までのヌクレオチドが欠失し及び/又は別のヌクレオチドによって置換されてもよく、及び/又は参照配列中の全ヌクレオチドの5%までの数のヌクレオチドが参照配列中に挿入されてもよい。参照配列のこれらの変異は、参照ヌクレオチド配列の5'又は3'末端位置において、又は参照配列中のヌクレオチドの間に個別に又は参照配列の中の1つ若しくは複数の連続する群の中に散在するこれらの末端位置の間の任意の場所において起こり得る。同様に、配列番号1の参照アミノ酸配列と少なくとも例えば95%の「同一性」を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドによって、ポリペプチド配列が配列番号1の参照アミノ酸のそれぞれの100アミノ酸あたり5個までのアミノ酸の変更を含み得ることを除いて、そのポリペプチドのアミノ酸配列が参照配列と同一であることを意図している。換言すれば、参照アミノ酸配列と少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、参照配列中の5%までのアミノ酸残基が欠失し又は別のアミノ酸によって置換されてもよく、又は参照配列中の全アミノ酸残基の5%までの数のアミノ酸が参照配列中に挿入されてもよい。参照配列のこれらの変異は、参照アミノ酸配列のアミノ又はカルボキシ末端位置において、又は参照配列中の残基の間に個別に又は参照配列の中の1つ若しくは複数の連続する群の中に散在するこれらの末端位置の間の任意の場所において起こり得る。配列同一性は、考慮すべき配列の全長にわたって決定することができる。
【0159】
配列表
【0160】
デスルホビブリオ・ピゲルの16S rDNAの配列(配列番号1)
【0161】
【図面の簡単な説明】
【0162】
【
図1】治療群の割り付けを最も良く予測した相対的重要度を有する上位10種の小腸微生物群(XGBoost予測モデリングアルゴリズム)。パーセンテージは最大値を100%として目盛っている。上位4種の微生物群が高い相対的重要度を有し目立っている。
【
図2A】治療群の割り付けを最も良く予測した上位10種の代謝産物(XGBoost予測モデリングアルゴリズム)。パーセンテージは最大値を100%として目盛っている。上位3種の代謝産物が解析において高い相対的重要度を有し目立っている。
【
図2B】各治療群について時間に対してプロットした上位3種の代謝産物の相対的存在量(各図において主として上位にある線は自己FMT群を表し、主として下位にある線は同種FMT群を表す)。メディアン±IQRを報告する。P値は12か月における群間のMann-Whitney U検定を用いて計算した。1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。1-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。
【
図2C】各治療群について時間に対してプロットした上位3種の代謝産物の相対的存在量(各図において主として上位にある線は自己FMT群を表し、主として下位にある線は同種FMT群を表す)。メディアン±IQRを報告する。P値は12か月における群間のMann-Whitney U検定を用いて計算した。1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。1-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。
【
図2D】各治療群について時間に対してプロットした上位3種の代謝産物の相対的存在量(各図において主として上位にある線は自己FMT群を表し、主として下位にある線は同種FMT群を表す)。メディアン±IQRを報告する。P値は12か月における群間のMann-Whitney U検定を用いて計算した。1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。1-アラキドノイル-GPCは12か月の群間で異なり、p値=0.020。
【
図2E】空腹時Cペプチドの変化と1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPCの変化との間のSpearman相関。
【
図2F】経時的な糞便中D.ピゲルの存在量。P値はMann-Whitney U検定を用いて計算した。6か月でp値=0.024、12か月でp値=0.023。
【
図2G】群間のD.ピゲルの倍数変化(主として上方にある線は自己FMT群を表す)。デルタp値は各群の0~12か月のデルタについてMann-Whitney U検定を実施することによって計算した。p値=0.006。
【
図2H】デルタ(0~12か月)糞便中D.ピゲルと空腹時Cペプチドのデルタ(0~12か月)のSpearman相関プロット。
【
図2I】糞便中D.ピゲルと1-アラキドノイル-GPCとの相関プロット。
【
図2J】糞便中D.ピゲルと小腸内プレボテラ1との相関プロット。
【
図2K】糞便中D.ピゲルと小腸内プレボテラ2との相関プロット。
【
図3】上位30種が治療群の間で糞便中微生物群の異なる変化を生じたことを示す予測モデリングアウトプット。
【
図4A】6か月及び12か月におけるレスポンダーの数及び各処置群における対象の数を示す。応答はベースラインと比較して10%未満へのCペプチドのAUCの減少として定義した。全ての解析について12か月レスポンダーを用いた。
【
図4B】経時的なCペプチドのAUCの個別の対象の線を示す。
【
図4C】それぞれ経時的なB.カカエ及びC.カツスの存在量を示す。両方の図において、上方の線はレスポンダーを表す。P値は各時点において群間のMann-Whitney U検定を用いて計算した。ベースラインにおけるB.カカエについてp値=0.0099、ベースラインにおけるC.カツスについてp値=0.00049。
【
図4D】それぞれ経時的なB.カカエ及びC.カツスの存在量を示す。両方の図において、上方の線はレスポンダーを表す。P値は各時点において群間のMann-Whitney U検定を用いて計算した。ベースラインにおけるB.カカエについてp値=0.0099、ベースラインにおけるC.カツスについてp値=0.00049。
【
図4E】デルタC.カツス(0~12か月)とデルタCペプチドのAUC(0~12か月)の間の相関を示す。Spearmanのロー(r)を示し、p値はSpearmanの順位を用いて計算した。
【
図5】上位30種が治療群の間で糞便中微生物群の異なる変化を生じたことを示す予測モデリングアウトプット。
【
図6-1】
図6。ベースラインにおいてレスポンダーと非レスポンダーとを最も良く識別した上位10種(
図3参照)からの5種の糞便中微生物群の経時的な存在量(
図6A、
図6B、及び
図6Dにおいて上位の線はレスポンダーを表し、他の線は非レスポンダーを表す。
図6C及び
図6Eにおいて上位の線は非レスポンダーを表し、他の線はレスポンダーを表す)。ベースラインにおいて又は研究の経過中にレスポンダーと非レスポンダーとの間で異なる株を選択して呈示した。P値は各時点においてMann-Whitney U検定を用いて計算した。
図6A:パラプレボテラ属の種(Paraprevotella spp.)、p=0.019。
図6B:ユーバクテリウム・ラムルス(Eubacterium ramulus)、p=0.043。
図6C:コリンセラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)、p=0.043。
図6D:バクテロイデテス・エゲルチイ(Bacteroides eggerthii)、p=0.006。
図6E:ルミノコッカス・カリヅス(Ruminococcus callidus)、p=0.026。フェーカリバクテリウム・プラウスニチイ(Faecalibacterium prausnitzii)(上位10種から10番目)はベースラインにおいて有意に相違しなかった(p=0.063)。
【
図7】NFκB経路の活性化に対する様々な用量での6-ブロモトリプトファン(6-BT)、1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(20:0)(A-GPC)、1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0~18:2 PE)、1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)の効果。
【
図8】骨髄性細胞に対する6-BT、MA-GPC、A-GPCの効果。LPS(10ng/ml)で24時間活性化したマウス単球CD11b+ - TLR4刺激。
【
図9】骨髄性細胞に対する6-BT、MA-GPC、A-GPCの効果。dsDNAのアナログであるポリI:Cで24時間活性化したマウス単球CD11b+ - TLR3刺激。
【
図10】LPS刺激におけるヒト単球に対する6-BTの効果。
【
図11】Tリンパ球に対する6-BT、A-GPC、MA-GPCの効果。抗CD3及び抗CD28 mAbで活性化したマウスCD4+ T細胞。
【
図12】6-BTで24時間処理したINS1eベータ細胞。ベータ細胞分化マーカーの遺伝子発現。
【
図13】6-BTで24時間処理したINS1eベータ細胞。ベータ細胞分化マーカーの遺伝子発現。
【
図14】マウス骨髄から単離した単球(Christ A.、Cell 2018年)又は骨髄由来のマクロファージ(Swansen、JEM 2017年)を、10ng/mlのLPS、10μg/mlのP3C、又は10μg/mlのポリ(I:C)の存在下又は非存在下で、指示された濃度(10~100μM)の6-BTに24時間曝露した。ELISAアッセイによって、本発明者らは、6-BTがTLR4及びTLR2の関与による炎症促進性サイトカインTNFaの分泌並びにTLR3活性化によるIFNベータの分泌を阻害できることを見出した。
【
図15】本発明者らは、骨髄細胞によりGM-CSF(40ng/ml)で分化したマウスDCに対する6-BTの効果を検討した。単球/マクロファージについては、6-BTは、それぞれTLR4(100ng/mlのLPSによる)又はTLR3(10μg/mlのポリ(I:C))の活性化の後のDCによる炎症促進性サイトカインTNFa及びIFNベータの分泌を阻害する。
【
図16】本発明者らはCD4 T細胞に対する6-BTの影響を更に研究した。抗原提示を模倣するため、マウスCD4 T細胞(膵から単離、Uchimura T、Immunity 2019年)をCD3及びCD28に対するモノクローナル抗体(それぞれ2.5及び1μg/ml)で活性化した。骨髄性細胞における知見と一致して、6-BTはTh1サイトカインIFNガンマの産生を有意に低減させた。
【
図17】本発明者らは、6-BTがベータ細胞に直接効果を発揮できるかを検討した。まさに、ここで6-BTがIS1Eベータ細胞において転写因子PDX1及びMAFAの遺伝子発現を誘起することが見られ、これはベータ細胞の成熟及び機能性のために重要である。これと同調して、6-BTはまた、定常状態及びグルコース刺激下のインスリン分泌の間にインスリンの分泌を促進した(データは飢餓状態[1mMのグルコース]と高糖状態[22mM]におけるインスリン放出の差として示されている)(Paula S、FASEB J 2015年)。
【
図18】本発明者らは、全ての炎症性疾患(自己免疫に留まらない)における中心的な経路であるNF-kB経路の活性化に対する6-BTの影響を検討した。そのため、本発明者らは、NFkBの活性化のマーカーとみなされるp65サブユニットのリン酸化形態の発現を定量した。PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)によるT細胞の活性化に際して、6-BTは極めて早い時点(活性化後5~10分)でNF-kBのシグナル伝達を阻害することができた。この効果はマウスとヒト(Jurkat細胞)の両方のCD4 T細胞で見出された。
【
図19】NFkBルシフェラーゼレポーターを安定的に発現しているRAW264.7マウスマクロファージ細胞株(Groeneweg M, J Lipid Res 2006年)を用いて、本発明者らは、マクロファージの6-BT(10~200μM)への終夜の曝露が、LPS(10ng/ml)による2時間の刺激において用量依存的にNFkB複合体の転写活性を阻害することを開示した。
【
図20】マウスCD4 Tリンパ球(マウス膵から単離、Uchimura T、Immunity 2019年)において、6-BTはCD3/CD28の関与によるIFNガンマの産生に対する阻害効果を発揮したが、トリプトファンは効果を発揮しなかった。これは、6-BTとトリプトファンが区別できる生物活性を誘発していることを示している。
【
図21】単球(マウス骨髄から単離、Christ A.、Cell 2018年)の6-BT又はトリプトファンへの曝露は、抗炎症効果が6-ブロモトリプトファン分子に特異的であり、トリプトファンには特異的でないことを示している。
【
図22】本発明者らは、6-BT(100μM)がマウス及びヒト(Jurkat) CD4 T細胞においてミトコンドリア代謝を促進することを見出した。OCRはミトコンドリアの酸化的リン酸化の細胞利用の代替として用いた酸素消費速度である。OCRはSeahorse XF Analyzerを用いて測定した(Uchimura T、Immunity 2019; Chou、Nature 2021)。
【
図23】6-BTへの曝露は、解糖流量に影響せずに、(LPS及びIFNガンマの存在下で分化した(Cheng N、JCI Insight 2018年))炎症促進性M1マクロファージのミトコンドリア代謝を増強することができる。細胞内代謝はSeahorse XF Analyzerを用いて測定した(Uchimura T、Immunity 2019; Chou、Nature 2021)。
【
図24】本発明者らは、6-BTがベータ細胞のミトコンドリア代謝に影響し得るか否かを検討した。これは、ATP及びインスリンのエキソサイトーシスのためのミトコンドリア代謝産生に依拠する。6-BTはベータ細胞(INS1Eベータ細胞)において定常状態及び高糖状態(グルコース25mM)の両方でミトコンドリア代謝を増大させた。更に、本発明者らは、細胞内代謝に対するトリプトファンの効果を試験し、炎症マーカーについてはトリプトファンが6-BTとは異なる効果を発揮することを見出した。細胞内代謝はSeahorse XF Analyzerを用いて測定した(Uchimura T、Immunity 2019; Chou、Nature 2021)。
【
図25】糖尿病及び非糖尿病の対象における糞便中デスルホビブリオの相対的存在量。
【
図26】糖尿病:デスルホビブリオ属の効果。糖尿病についてのオッズ比。
【
図27】(1)非糖尿病対象(上の線)及び(2)糖尿病患者(下の線)における血漿6BTレベルと糞便中
【実施例】
【0163】
デスルホビブリオ属の相対的存在量との関係。
以下に示した状態にある患者を下記のように処置した。
1. 空の腸溶性コーティングカプセルを2年間、毎日経口投与。
2. 約1×108個のデスルホビブリオ種(デスルホビブリオ・ピゲル、デスルホビブリオ・デスルフリカンス、又はデスルホビブリオ・フェアフィールデンシス)の細胞を含む腸溶性コーティングカプセルを2年間、毎日経口投与。
3. 50mgのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン(6-ブロモトリプトファン(6-BT)又は6-フルオロトリプトファン(6-FT))を含む腸溶性コーティングカプセルを2年間、毎日経口投与。
4. 50mgのモノ-また他はジ-脂肪酸置換グリセロールホスホコリン(GPC)(1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)又は1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(A-GPC))を含む腸溶性コーティングカプセルを2年間、毎日経口投与。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
上のTable 1(表1)に示される想定された効果と同様の結果がより大きな患者コホートでも得られることが予想される。
【実施例】
【0172】
最近発症した(6週未満)T1Dの患者を、4か月にわたって3回の自己又は同種(健常ドナー)の糞便微生物群移植(FMT)を受ける2つの群にランダムに分けた。
【0173】
いくつかの(微生物群由来の)血漿中代謝産物及び(小)腸内細菌株が、1型糖尿病における残存ベータ細胞機能の改善と関連していることが見出された。
【0174】
材料及び方法
新たに発症したT1D対象においてコンピュータによるランダム化を用いて二重盲検ランダム化対照臨床試験を実施した。自己(自身の)腸微生物群の注入と比較した同種(健常ドナー)腸微生物群の注入の、治療後1年間の(小)腸内微生物群の変化に関連する残存ベータ細胞機能及び自己免疫T細胞応答に対する効果を検討した。
【0175】
患者の募集
初発のT1D患者をアムステルダム地域の外来診療所から募集した。患者の包含基準は、残存ベータ細胞機能(MMT後の血漿中Cペプチド0.2mmol/l超及び/又は1.2ng/mL超で示される)を有する男性/女性、年齢18~35歳、正常BMI(18.5~25kg/m2)、及び包含前最大6週以内のT1Dの診断であった。除外基準は、別の自己免疫疾患(例えば甲状腺機能低下症又は甲状腺機能亢進症、セリアック病、リウマチ性関節炎、又は炎症性腸炎)の診断又は症状、(予想される)長期の免疫障害(最近の細胞傷害性化学療法又はCD4カウント240未満のHIV感染による)、並びに最近3か月における抗生剤の使用、プロトンポンプ阻害薬の使用、及びインスリンを妨害する任意の他の種類の全身性医薬であった。
【0176】
ドナーの募集
痩せた(BMI 25kg/m2未満)、雑食性で健常な白人の男性及び女性を糞便のドナーとするために募集した。ドナーは食事及び用便の習慣、旅行の履歴、糖尿病の家族歴を含む併存疾患、及び医薬の使用に関するアンケートに完全に回答した。ドナーは以前記載したように(van Noodら、2013年)、感染疾患の存在についてスクリーニングした。血液はヒト免疫不全ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルス、A型、B型、及びC型の肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、エプタイン-バーウイルス(EBV)、ストロンギロイデス属、アメーバ症、及び梅毒についてスクリーニングした。感染が存在するものは除外したが、EBV及びCMVによる以前の及び不活発な感染は許した。ドナーの糞便のスクリーニングによって病原性寄生生物(例えばブラストシスチス・ホミニス(blastocystis hominis)、ジエンタメーバ・フラギリス(dientamoeba fragilis)、ギアルジア・ランブリア(giardia lamblia))、多剤耐性細菌(シゲラ(Shigella)、カンピロバクター(Campylobacter)、エルシニア(Yersinia)、MRSA、ESBL、サルモネラ(Salmonella)、腸管病原性大腸菌、及びクロストリジウム・ディフィシレ(Clostridium difficile))、又はウイルス(ノロ-、ロタ-、アストロ-、アデノ-(40/41/52)-、エンテロ-、パレコ-、及びサポ-ウイルス)の存在が明らかになった場合にも、以前推奨されたようにそのドナーを除外した。
【0177】
治験来院
参加者は、食事からの炭水化物、脂肪、タンパク質、及び繊維の量を含むカロリー摂取をモニターするために、それぞれの治験来院前の1週間の間、オンラインの栄養日誌を記入することが求められた。治験来院の間、血圧、長さ、体重、及び毎日のインスリンの使用を記録した。それぞれの来院時に空腹時血液試料を採取し、後日の分析のために遠心分離して-80℃で保存した。全血ヘパリンナトリウムチューブを室温に保ち、24時間以内に免疫解析のために処理した。
【0178】
新たに産生した糞便を用いる3回の糞便移植を0か月、2か月、及び4か月で実施した。混合食事試験(残存ベータ細胞機能のため)、腸内微生物群の解析は、0か月、2か月、6か月、9か月、及び12か月で実施した。血漿中代謝産物は0か月、6か月、及び12か月で測定した。安全性パラメーターをモニターするための生体測定及び空腹時血漿は、全ての時点で実施した。
【0179】
治験来院についての説明
全ての来院は、前夜に長期作用インスリンを摂取しない対象により、終夜絶食の後に行われた。それぞれの来院時に、血液のサンプリング、糞便及び尿のサンプリング、並びに生体測定を行った。ベースライン/0か月で、経鼻十二指腸チューブの位置決めを実施した。チューブを設置した後、患者が適切に覚醒しているときに、残存ベータ細胞機能を検討するために、以前記載されているように(Moranら、2013年)、標準化された2時間の混合食事試験(Nestle sustacal boost(登録商標))を実施した。2か月、9か月、及び12か月で、患者は再び残存ベータ細胞Cペプチド分泌のための混合食事試験を受けた。その際、CORTRAK腸アクセスによって十二指腸チューブを設置し、糞便移植手技を繰り返した。6か月で、混合食事試験を実施した。
【0180】
糞便移植手技
対象を、3回の自己又は同種の糞便移植を受けるようにランダムに割り付けた。全ての患者及び研究者は、治療の割り当てについて知らされなかった。入院後、胃内視鏡又はCORTRAK腸アクセスシステムによって、十二指腸チューブを設置した。次いで各患者は十二指腸チューブによる2~4LのKlean prep(登録商標)(マクロゴール)で、腸が適正に洗浄された(即ち固体状排泄物がなく、透明な流体のみがある)と研究者が判断するまで、約3時間にわたって完全な腸洗浄を受けた。次いで、200~300グラムのドナーの糞便を500mLの0.9%食塩溶液で希釈し、折り畳んでいない木綿のガーゼで濾過することによって処理した。Klean prep(登録商標)の最後の投与の2時間後に、50ccのシリンジを用いて約30分で十二指腸チューブを通して濾液を移植のために用いた。短時間の観察期間の後、患者を帰宅させた。
【0181】
混合食事試験
各混合食事試験の前夜から、T1D患者はその長期作用インスリン注射を休止した。終夜の絶食後、朝の短期作用インスリン投薬を受けずに、6ml/kg体重、1人あたり最大360mlのBoost High Protein(Nestle Nutrition社、Vervey, Switzerland)による混合食事試験を実施した。続いて刺激Cペプチドのために-10、0、15、30、45、60、90及び120分で血液試料を採取した。台形公式に従ってAUC(曲線下面積)値を誘導した。
【0182】
血漿中代謝産物
タンデムマススペクトルに連結した超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)を用い、Metabolon社(Durham, NC)によって、空腹時血漿中代謝産物の測定を行った。日間差を説明するために生データを正規化した。次いで、全ての試料にわたってメディアンが1に等しくなるように各代謝産物のレベルを再目盛り付けした。欠測値は一般に検出限界未満の試料測定によるが、それぞれの代謝産物についての最小観察値とみなした。
【0183】
生化学
空腹時血漿試料でグルコース及びC反応性タンパク質(CRP、Roche社、Switzerland)を決定した。Cペプチドはラジオイムノアッセイ(Millipore社)によって測定した。総コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール(HDLc)、及びトリグリセリド(TG)は、市販の酵素アッセイ(Randox社、Antrim, UK及びDiaSys社、Germany)を用いて、EDTA含有血漿で決定した。全ての分析はSelectraオートアナライザー(Sopachem社、The Netherlands)を用いて実施した。低密度リポタンパク質コレステロール(LDLc)は、Friedewaldの公式を用いて計算した。糞便中カルプロテインは市販のELISA(Buhlmann社、Switserland)を用いて決定した。
【0184】
糞便試料のショットガンシーケンシング及びメタゲノミックパイプライン
ドナーの糞便試料及び治験開始後0か月、6か月、及び12か月で採取した糞便試料について、ショットガンシーケンシングを用いて糞便微生物群を分析した。ショットガンメタゲノミクスのため、糞便試料からのDNA抽出を実施した。続いてショットガンメタゲノミックシーケンシングを実施した(Clinical Microbiomics社、Copenhagen, Denmark.)。シーケンシングの前に、アガロースゲル電気泳動、NanoDrop 2000分光光度計、及びQubit 2.0蛍光光度計による定量を用いてDNA試料の品質を評価した。ゲノムDNAは約350bpの断片の中にランダムに共有されていた。Illumina(New England Biolabs社)のためのNEBNext Ultra Library Prep Kitを用いるライブラリーの構築のために断片化したDNAを用いた。調製したDNAライブラリーを、Qubit 2.0蛍光光度計による定量及び断片サイズ分布のためのAgilent 2100 Bioanalyzerを用いて評価した。定量リアルタイムPCR(qPCR)を用いてシーケンシングの前の最終ライブラリーの濃度を決定した。ライブラリーは、2×150bpのペアードエンドリードを生じるIllumina HiSeqプラットフォーム上でシーケンシングした。Trimmomatic(v0.38)を用いて生のリードをクォリティフィルタリングし、アダプターを除去し、最初の5bpをトリミングし、次いで4bpのスライディングウィンドウ及び最小Qスコア 15を用いて、リードをクォリティトリミングした。トリミング後の70bpより短いリードは廃棄した。ヒトリードを除去するために、残ったペアードリードをボウタイ2(v2.3.4.3)でヒトゲノム(GRCh37_hg19)に対してマッピングした。最後に、残ったクォリティフィルタリングされた非ヒトリードを1試料あたり2千万リードにサブサンプリングし、メタゲノミック微生物種組成を推測するためにMetaphlan2(v2.7.7)を、また遺伝子カウント及び機能性経路を抽出するためにHumann2(v0.11.2)を用いて処理した。簡単に述べると、微生物パンゲノムに対するボウタイ2を用いてリードをマッピングし、マッピングされないリードを翻訳して、diamond(v0.8.38)を用いて完全Uniref90タンパク質データベースに対してマッピングした。経路の収集はMetaCycデータベースを用いて実施した。
【0185】
小腸微生物群の分析
生検試料を300μlの糞便移送及び回収用(STAR)の緩衝液、0.25gの滅菌済みジルコニアビーズ(0.1mm)とともにビーズ撹拌チューブに加えた。6μlのプロテイナーゼK(20mg/ml;QIAGEN社、Venlo, The Netherlands)を加え、55℃で1時間インキュベートした。次いで生検試料をビーズ撹拌によって3回ホモジナイズし(60s×5.5ms)、次いで1000rpm、95℃で15分インキュベートした。次いで試料を14,000g、4℃で5分、遠心分離し、上清を無菌のチューブに移した。200μlのSTAR緩衝液を用いてペレットを再処理し、両方の上清をプールした。最終の上清プール250μlを用い、特注のキット(AS1220;Promega社)を用いてDNA精製を実施した。DNAse及びRNAseを含まない水50μl中にDNAを溶出し、DS-11 FX+ Spectrophotometer/Fluorometer(DeNovix Inc.社、Wilmington, USA)及びQubit(商標)dsDNA BR Assayキット(Thermo Scientific社、Landsmeer, The Netherlands)を用いてDNA濃度を測定した。各試料について全反応体積50μlの二重PCR反応によって16SリボソーマルRNA(rRNA)遺伝子のV5~V6領域を増幅した。一次富化のために27F及び1369Rプライマーを用いる第1ステップのPCRを用いた。1μlの10μMプライマー、1μlのdNTP混合物、0.5μlのPhusion Green Hot Start II High-Fidelity DNA Polymerase(2 U/μl;Thermo Scientific社、Landsmeer, The Netherlands)、10μlの5×Phusion Green HF Buffer、並びに36.5μlのDNAse及びRNAseを含まない水。増幅プログラムには、98℃、30秒の初期変性ステップ、それに続く98℃、30秒の5サイクルの変性、52℃、40秒のアニーリング、72℃、90秒の伸長、及び72℃、7分の最終延長ステップが含まれていた。PCR産物について、1μlの固有バーコード付きプライマー、即ち784F-n及び1064R-n(1反応あたりそれぞれ10μM)、1μlのdNTP混合物、0.5μlのPhusion Green Hot Start II High-Fidelity DNA Polymerase(2U/μl;Thermo Scientific社、Landsmeer, The Netherlands)、10μlの5×Phusion Green HF Buffer、並びに36.5μlのDNAse及びRNAseを含まない水を含むマスターミックスを用いるネステドPCRを実施した。増幅プログラムには、98℃、30秒の初期変性ステップ、それに続く98℃、10秒の5サイクルの変性、42℃、10秒のアニーリング、72℃、10秒の伸長、及び72℃、7分の最終延長ステップが含まれていた。PCR産物は1%のアガロースゲル(約280bp)で可視化し、CleanPCRキット(CleanNA社、Alphen aan den Rijn, The Netherlands)で精製した。精製したPCR産物の濃度をQubit dsDNA BR Assay Kit(Invitrogen社、California, USA)で測定し、各試料からの微生物DNA 200ngを最終アンプリコンライブラリーの創成のためにプールし、これをIllumina HiSeq. 2500プラットフォーム(GATC Biotech社、Constance, Germany)でシーケンシング(150bp、ペアードエンド)した。
【0186】
生のリードを、バーコードにおけるミスマッチを許さないJeソフトウェアスイート(v2.0.)を用いて逆多重化した。バーコード、リンカー及びプライマーを除去した後、リードを、ヒトリードを除去するためにボウタイ2を用いてヒトゲノムに対してマッピングした。残った微生物のフォワード及びリバースのリードを、DADA2(Callahanら、2016)(v1.12.1)を用いて個別にパイプライン処理した。リバースリードから推測されるアンプリコンシーケンスバリアント(AVS)を逆相補鎖に変換し、フォワードリードから推測されるASVに対してマッチさせた。逆相補鎖に変換したリバースリードASVとマッチした非キメラフォワードリードASVのみを保持した。ASV試料カウントはフォワードリードから推測した。ASVタキソノミーはDADA2及びSILVA(v132)データベースを用いて割り当てた。得られたASV表及びタキソノミー割り当てを、ファイロセックRパッケージ(v1.28.0)を用いて統合し、1試料あたり60000カウントに希薄化した。
【0187】
検出力計算及び統計
両側検定でα=0.05、脱落を10%とすると、12か月における治療群の間でCペプチドのAUCの50%の差(標準偏差170で360mmol/l/分に対して180mmol/l/分)を検出する80%の検出力を提供するには各群17名の患者(合計34名の患者)の標本サイズが必要であった。全ての解析は、既知の測定を含む事前に指定した包括解析コホートに基づいており(完全な症例解析)、欠測値はランダムに欠測したと仮定した。治験の一次エンドポイントは、ベースライン(0か月)と比較した6か月及び12か月における残存(MMT刺激)ベータ細胞機能の保存であった。その他の二次エンドポイントは、これら12か月の間の自己免疫の免疫マーカーについての全血白血球サブセット、血糖コントロールのパラメーター、並びに空腹時血漿中代謝産物の変化であった。最後に、小腸上皮遺伝子におけるベースラインとFMTの開始の6か月後との間の変化を決定した。解析は包括解析によって行った。
【0188】
群間のベースラインの差については、データの分布に応じてアンペアードStudent-t検定又はMann-Whitney U検定を用いた。即ち、データは平均±標準偏差又はメディアンと四分位範囲で表している。食後の結果(例えばCペプチド)は、台形法を用いて計算した食後2時間のフォローアップについての曲線下面積(AUC)として記載している。相関解析については、Spearmanの順位検定を用いた(全てのパラメーターが非パラメトリックであったため)。一次エンドポイントの比較のため、線形混合モデル(LMM)を用い(Rにおけるlme4パッケージ)、ここで「割り当て」及び「時点」を固定効果とし、「患者エントリー番号」を変量効果とした。「割り当て」と「時点」との相互作用のp値を報告した。更に、種々の時点においてMann-Whitney U検定を用いて群間でパラメーターを比較した。0.05未満のp値を統計的有意とみなした。治験はヘルシンキ宣言(2013年のアップデートされたバージョン)に従ってAcademic Medical Center(Amsterdam)で行った。全ての参加者は書面のインフォームドコンセントを提供し、全ての治験手技はAcademic Medical CenterのIRB(倫理委員会)の承認を受けた。治験はDutch Trial registryで前向き登録された(NTR3697)。
【0189】
マシンラーニング及びフォローアップ統計解析
Extreme Gradient Boosting(XGBoost)マシンラーニング分類アルゴリズムを、どのパラメーターが(ベースラインでの値として、又は相対的変化として)処置群とレスポンダー及び非レスポンダーとを最も良く予測するかを特定するための安定性選択手技と組み合わせて適用した。十二指腸微生物組成(生検試料についての16S rRNAシーケンシング)について、糞便中微生物群組成及び代謝経路の存在量について、並びに血漿中代謝産物レベルについて、この手法を用いた。処置群を予測するため、0か月と12か月の間の各パラメーターの相対変化(デルタ)を用いた。十二指腸内微生物については、0か月と6か月のデルタを用いた。レスポンダーと非レスポンダーとの予測のため、ベースライン値、0か月と6か月のデルタ、及び0か月と12か月のデルタを用いた。それぞれの解析から、最も特徴的な特性を有する上位30種のランク付けしたリストが得られた。上位パラメーターは、任意ではあるが妥当なカットオフ値を用いて、より綿密な研究で正確に(即ちROC AUCが0.8以上)又は適度に(ROC AUCが0.7超)群の割り付けを予測したそれぞれの解析から選択した。このカットオフ値は一般に約30%以上の相対的重要度であった。次いで、選択したパラメーターの経時的変化を可視化し(Wilcoxonの符号付き順位検定)、用いる各時点で、最終的にSpearmanの順位検定を用いて群間の差を検討した(Mann-Whitney U検定)。これらのパラメーターは一次エンドポイント及びこのようにして特定された他の重要なパラメーターと相関した。
【0190】
結果
患者はドナーFMT(n=11対象)又は自己FMT(n=10対象)にランダムに割り付けた。1人の参加者は最初の治験来院の後で同意を撤回した。資金の欠如により、治験は20名の対象が登録した後で中止され、治験を完了した。7名の健常で痩せたドナー(その中で3名は2回用いた)が10名の新たに発症したDM1患者に同種腸微生物群の移送を提供し、同じドナーが各DM1患者における3回の連続FMTに用いられた。ベースラインでは両方の群の間に差はなく、フォローアップ期間を通して差はなかった。両方の治療群で重篤な有害事象又は血漿生化学の有害な変化もなかった。
【0191】
自己FMTは同種FMTより良好に(刺激された)Cペプチドレベルを持続する。
ベースラインにおける平均空腹時血漿Cペプチドは群間で同様であった(同種群における327pmol/l±89に対し自己群における319±118、p=0.86、StudentのT検定)が、12か月では自己FMT群と比較して同種FMT群では低下した(348pmol/l±115に対し202±85、StudentのT検定、p値=0.0049、LMM p=0.00019)。刺激Cペプチド応答AUCにおいても同様の効果が見られ、ベースラインでは群間で同様であった(同種群で361±154mmol/l・分に対し自己群で355±97、p=0.92、StudentのT検定)が、残存ベータ細胞機能は自己FMT後12か月で有意により保存されていた(392±124に対し248±153mmol/l・分、StudentのT検定、p値=p=0.033、LMM p値=0.000067)。予想されたように、外因性インスリン処置は両群において12か月でHbA1cレベルを低下させた。毎日の外因性インスリンの必要量は同種(0.45±SD IU/kg/日)及び自己FMT群(0.47IU/kg/日)の間で同様であるにも関わらず、有意ではないが血糖コントロールが改善されたことが、同種FMT群と比較した自己FMTで示唆された(HbA1c 46に対して53.5mmol/mol、MWU p=0.19、LMM p値=0.12)。0か月、6か月、及び12か月における糖代謝パラメーターを決定した。最後に、BMI、糞便中カルプロテイン、ミクロアルブミン尿、脂質プロファイル、及び食事摂取(総カロリー、脂肪、飽和脂肪、タンパク質、炭水化物、及び繊維の個別の評価)は、ベースラインにおいても治験の経過中においても相違がなかった。
【0192】
自己FMTの治療の成功は血漿中代謝産物並びに微生物群組成の変化によって予測できる。
FMT治療群の間の小腸微生物群の相違
小腸微生物群のアルファ多様性は、ベースラインでは治療群の間で有意差がなかったが、6か月では自己及び同種のFMT群の間に有意差があり(p=0.054)、これは同種FMT群における多様性の有意な増加と一致していた(p=0.009)。冗長性解析において縦軸に沿ってプロット(RDAプロット)すると、小腸微生物群組成はベースラインにおいて群の間で異なるかたちでクラスターを形成し、また治療群の間で異なって変化した。FMT治療群の割り付けは、プレボテラ(Prevotella)及びストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)の2つの種を含む特定の小腸微生物株の変化(AUC ROC 0.89±0.18)によって信頼性高く予測することができた(
図1)。しかし、門、科、属、及び種のレベルでの変化は、小腸微生物群組成において大きな変化を示さなかった。これら全ての種の相対的存在量は自己糞便移植の後で減少したが、同種糞便移植の後では増加した。注目すべきことは、プレボテラ1の相対的存在量が群間でベースラインの相違を示したことである(p=0.033)。デルタはプレボテラ2については群間で有意に相違した(p=0.048)が、プレボテラ1(p=0.069)又はS.オラリスについては有意に相違しなかった。更に、プレボテラ1の相対的存在量と刺激CペプチドのAUCとの間に有意な逆相関が観察された(Spearman p=0.015、ロー=-0.55)。
【0193】
FMTにおける空腹時血漿中代謝産物の変化
空腹時血漿中代謝産物のレベルは、DM1とドナーとの間で異なり、FMTによって変化した。治療群の割り当ては、0か月と12か月の間の空腹時血漿中代謝産物の変化によって信頼性をもって予測された(ROC AUC 0.79±0.23)。最も予測的な10種の代謝産物の相対的重要度を
図2Aに示す。上位3種の代謝産物のうち、1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPC(MA-GPC)(p=0.02)及び1-アラキドノイル-GPC(A-GPC)(p=0.02、Mann-Whitney U検定)は12か月で群間の相違があったが、1-(1-エニル-パルミトイル)-2-リノレオイル-GPE(EPL-GPE)は群間の相違がなかった(
図2B~
図2D)。また、血漿中MA-GPCレベルの変化は空腹時Cペプチドの変化と有意に相関していた(p=0.012、Mann-Whitney U検定、
図2E)。
【0194】
FMTにおける糞便微生物群の変化
糞便微生物群組成はベースラインにおいてDm1と健常ドナーとの間で異なっており、また治療群間で異なる変化を示した。しかし、アルファ多様性はベースライン、6か月、又は12か月においてFMT治療群の間でも、ドナーとレシピエントとの間でも有意に異なっていなかった。群間で門、科、属、及び種のレベルにおいていくらかの変動が見られた。0か月と12か月の間の糞便微生物群のタキソノミー変化に基づく群の割り当ての予測は、中程度のROC AUCである0.72±0.24を示した。デスルホビブリオ・ピゲルは、治療群の中で最も違いがある菌種として目立っていた(
図3)。代謝経路に基づく治療群の予測は、比較的劣ったROC AUCである0.68±0.27を示した。興味あることに、D.ピゲルの存在量は6か月(p=0.024、MWU)と12か月(p=0.023)のフォローアップにおいて、治療群の間で異なる変化を示した(
図2G~
図2H)。更に、D.ピゲルの変化は、空腹時Cペプチドの変化(p=0.009、
図2I)及び血漿中1-アラキドノイル-GPCレベル(p=0.004、
図2J)と正に相関する。更に、D.ピゲルの相対的存在量の変化は、プレボテラ1(
図2K)及びプレボテラ2(
図2L)の相対的存在量の変化と逆相関した。更に、D.ピゲルの変化は、空腹時Cペプチドの変化(p=0.009、
図2I)及び血漿中1-アラキドノイル-GPCのレベル(p=0.004、
図2J)と正に相関する。更に、D.ピゲルの相対的存在量の変化は、プレボテラ1(
図2K)及びプレボテラ2(
図2L)の相対的存在量の変化と逆相関した。
【0195】
ベースライン糞便微生物群組成によってFMT応答が予測される。
種々の年齢群において腸内微生物群組成が健常者とT1D対象との間で異なっていたので、本発明者らは、糞便物質を小腸に導入するFMTが本質的に自己免疫疾患における介入であるとも推論した。したがって、治療群に関わらずFMTに対する非レスポンダーと比較してレスポンダーを検討するポストホック解析を実施した。即ち、本発明者らは、T1D患者のベースラインにおける特徴によって12か月のフォローアップにおけるFMT治療への応答が予測できるか、並びにどの菌株及びどの血漿中代謝産物がこの応答に関連しているかを検討した。臨床的応答は、12か月のフォローアップにおけるベースラインと比較したベータ細胞機能の10%未満の低下として定義した。これは、ベータ細胞機能の予想される1年間での自然の低下である20%より有意に少ない。6か月のフォローアップ、即ち最終のFMTの2か月後で、対象20名のうち12名がレスポンダーであった。12か月のフォローアップでは10名の対象で臨床的応答が持続され、このうち3名は同種FMT、7名は自己FMTを受けていた(
図4A~
図4B)。したがって、本発明者らは、12か月におけるレスポンダーを解析に選択した。それは、一次エンドポイント(MMT刺激Cペプチド)が12か月で有意に異なっており(6か月では有意差がなかった)、またハネムーン期による干渉が6か月時点に対して12か月時点で少ないからである。次に本発明者は、予測的モデリングを用いて、どのベースラインパラメーター(そのベースライン値又は0~12か月のデルタ値)がFMTへの臨床的応答を予測したかを判定した。
【0196】
ベースライン糞便微生物群組成によってFMTにおける臨床的応答が最も良く予測される。
ベースライン糞便微生物群組成が、FMTにおける臨床的応答を極めて正確に予測した(AUC ROC 0.93±0.14)。これに関し、バクテロイデテス・カカエ及びコプロコッカス・カツスの腸内レベルが最も違いがある微生物として目立っており(
図5)、いずれもベースラインにおいて非レスポンダーよりもレスポンダーで存在量が有意に多かった(
図4C~4D)。最も違いがある上位10種の腸内細菌株の中で、パラプレボテラ属の種、コリンセラ・アエロファシエンス、バクテロイデス・エゲルチイ、及びルミノコッカス・カリヅスも、ベースラインにおいてレスポンダーと非レスポンダーとの間で有意に相違した(
図6A~
図6E)。C.カツスの存在量の変化と刺激CペプチドAUCとの間に有意な(負の)相関が観察された(p=0.053、r=-0.44、
図4E)。糞便微生物群組成の変化(AUC ROC 0.76±0.23)による応答の予測はベースライン組成によるよりも正確性が低く、T1Dの診断において腸内微生物群組成によって腸内微生物群に基づく治療の効率を予測できることが示唆された。最も違いがある種はバクテロイダレス・バクテリウム(Bacteroidales bacterium)ph8、アクチノミセス・ビスコサス(Actinomyces viscosus)、バクテロイデス・テタオイタオミクロン(Bacteroides thetaoitaomicron)、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ルミノコッカス・ブロミイ(Ruminococcus bromii)、及びクロストリジウム・レプツム(Clostridium leptum)であった。その中でB.バクテリウムph8(p=0.015、Mann-Whitney U検定)及びR.ブロミイ(p=0.013)が非レスポンダーに対してレスポンダーでより少なくなり、S.サリバリウス(p=0.045)が非レスポンダーに対してレスポンダーでより多くなり、B.テタイオタオミクロンがベースラインで有意に相違し、レスポンダーで低下する傾向を示す。
【0197】
FMTにおけるマルチオミクス解析の統合
FMTによって有意に影響されることが見出されたパラメーターの間の相関を探索した。レスポンダーが両方の治療群で見出されたので、始めに本発明者らのプールされたデータセット(n=20)で、次いで治療群の中で個別に及びFMTの臨床的レスポンダーの中で、相関を探索した。プールされたデータセットでは、グルコース調節のマーカー(即ち、CペプチドのAUC、空腹時Cペプチド、及びHbA1c)に正及び負に関連する注目すべきパラメーターの絡み合ったクラスターが見出された。一方では、インスリン分布の保存を正確に予測する高度に相関する血漿中代謝産物MA-GPC及びA-GPCは、空腹時Cペプチドと正に相関するD.ピゲルと正に相関する。他方、プレボテラ1、プレボテラ2、及びS.オラリスはグルコース調節並びに代謝産物MC-GPC及びA-GPCと負に相関する。治療群を個別に解析すると、自己群における保存されたベータ細胞機能(高いCペプチド)は、ベースラインにおいて高いコプロコッカス・カツス、並びにそれに続くルミノコッカス・ブロミイの減少によって特徴付けられた。同種群では、保存されたベータ細胞機能は糞便中ロセブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)(これはプレボテラ1及び2と偶然に正相関する)の減少によって特徴付けられた。最後に、臨床的レスポンダーでは、保存されたベータ細胞機能は十二指腸のプレボテラ1、プレボテラ2、糞便中のコプロコッカス・カツス、代謝産物のEPL-GPEの減少によって特徴付けられ、一方D.ピゲルは増加した。
【0198】
解析
ここで本発明者らは初めて、新たに発症したT1Dの患者においてFMTが残存ベータ細胞機能に効果を有し得ることを報告する。これは、T1Dの対象における腸内微生物群の役割を支持する最近の観察研究と一致する。予想に反して、自己FMTは健常ドナーFMTより良好に機能した一方、同種群においても残存ベータ細胞機能の低下は治療しなかった場合の予想よりも少ないと思われた。魅力のある説明は、FMTドナーの微生物群が宿主の免疫学的状態により良く一致する場合には、FMTの有益な免疫学的効果がより顕著かつ永続的になるということであろう。これは、健常ドナーの糞便の有益な効果が(免疫)不適合性によって減弱される程度までである。その他の観察も、食事に由来し、腸内微生物群によって変換される特定の血漿中代謝産物の免疫調節的役割を示唆している。FMTの全体の臨床的効果は穏和で、新たに発症したT1Dの対象の間で広い変化を示すが、介入は安全で副作用はなかった。本発明者らは、腸内微生物群組成の変化の結果としての血漿中代謝産物、主として脂肪酸及びトリプトファン誘導体の変化が、新たに発症したT1Dを有する患者における残存ベータ細胞機能に対するFMTの観察された有益な効果を説明し得ることを提案する。
【0199】
ベータ細胞機能の保存は特定の腸内微生物群株の変化に関連する。
D.ピゲルは、血漿1-アラキドノイル-GPCを介してT1Dにおける自己免疫を減弱する可能性がある。予測的モデリングによって、ベースラインの糞便微生物群のタキソノミー及び代謝経路が12か月における応答を正確に予測したことが示された。しかし、特定された微生物(例えばB.カカエ及びC.カツス)は本発明者らの関連する免疫パラメーター、小腸の遺伝子、又は血漿中代謝産物のいずれとも相関しなかった。これは、糞便微生物群組成が応答に関連する宿主の免疫学的特徴の原因よりむしろその結果であることを示唆している。これの例外は硫酸塩還元細菌株であるD.ピゲルであった。その有益な効果はそれによる硫化水素の産生により媒介されている可能性がある。更に、本発明者らは、FMT治療群の割り当てを予測する目立った糞便中微生物としてD.ピゲルを特定した。興味あることに、この小腸細菌株はFMTにおける刺激Cペプチド応答の変化にも有益に関連しており、その存在量は自己群及び全レスポンダーで増加した。興味あることに、D.ピゲルは、これもCペプチドの産生の改善に関連する重要な代謝産物の1つである血漿中1-アラキドノイル-GPCのレベルと正に相関した(
図2J)。結論として、D.ピゲルは、A-GPCの産生を通して、例えば免疫細胞の樹状突起を腸の内腔に突出させることによる取り込みを通して、自己免疫を減弱させる強力な候補になり得る。興味あることに、D.ピゲルは最近、ヒト腸管から培養され、ヒトT1Dでこの細菌株を検査することが可能になった(Chenら、2019年、Letters in Applied Microbiology 68(6) 553~561頁)。治療群の間を最もよく識別した十二指腸の内のその他の細菌種は、命名されていない2つのプレボテラ属の種及びストレプトコッカス・オラリスであった。続いて、本発明者らのマルチオミクス解析の探索的統合によって、これらのプレボテラ属の種及びS.オラリスが本発明者らの重要で有益な代謝産物であるグリセロリン脂質MA-GPCと負に関連することが示される。B.ステルコリスはD.ピゲル及びA-GPCと正に、S.オラリスと負に相関したが、Cペプチドとは正に相関しなかった。最後に、ルミノコッカス・ブロミイ及びロセブリア・インテスティナリスはいずれの株も一般に、繊維質の食事で増殖し、SCFAを産生し、腸の完全性を促進する有益な微生物とみなされているが、ルミノコッカス・ブロミイ(自己FMT群)及びロセブリア・インテスティナリス(同種FMT群)の変化はCペプチドの変化と負に関連した。
【0200】
結論
腸由来の微生物のT1D患者の宿主の小腸及び大腸への糞便移植は、残存ベータ細胞機能、及びそれによりハネムーン期を効果的に延長する。更に、糞便中のD.ピゲル及びB.ステルコリス並びに十二指腸のプレボテラ属の種及びS.オラリスを含むいくつかの新規な細菌株が、治療可能性をもつものとして特定された。その結果、FMTにおける1-ミリストイル-2-アラキドノイル-GPC、1-アラキドノイル-GPC、及び6-ブロモトリプトファン等の血漿中代謝産物の増加が、有益な変化と関連していた。
【実施例】
【0201】
本実施例では、以下の化合物の効果を細胞系のアッセイによって評価した。
- 6-ブロモトリプトファン(6-BT)
- 1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(20:0)(A-GPC)
- 1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0-18:2 PE)
- 1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)
【0202】
材料及び方法
代謝産物の調製及び細胞培養
6-ブロモトリプトファン(6-BT)(Alichem社)は粉末として購入し、DMSOに50mMで溶解した。
【0203】
1-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(20:0)(LysoPC(20:0))(Avanti Polar社)は粉末として購入し、PBSに0.9mMで溶解した。
【0204】
1-パルミトイル-2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0-18:2 PE)(Avanti Polar社)はクロロホルム中、10mg/mlで購入し、200μl(2mgと等価)をガラスチューブに移して、窒素気流下でクロロホルムを蒸発させて透明なフィルムを得、これを後にPBSに1mMで溶解した。
【0205】
1-ミリストイル-2-アラキドノイル-グリセロ-ホスホコリン(MA-GPC)(Syncom社、特注で合成)は粉末として購入し、DMSOに10mMで溶解した。
【0206】
全ての細胞型を5% CO2雰囲気中、37℃で培養し、代謝産物で24時間を超えずに処理した。対照条件では適切なビヒクル(DMSO又はPBS)を培地に加えた。
【0207】
NF-κBレポーターマクロファージ及びルシフェラーゼアッセイ
NF-κBシグナル伝達の活性化を、ルシフェラーゼ活性のアッセイによって評価した。3×-κB-lucプラスミド(ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子に連結されたIg κ軽鎖プロモーター由来の3つのNF-κB部位を含むDNAコンストラクト)で安定にトランスフェクトされたRAW264.7細胞を、10%の熱不活化ウシ胎児血清、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、L-グルタミン(2mM)を補充したDMEM培地の中で増殖させた。F底の96ウェルプレートに1ウェルあたり0.5×105個の密度で細胞を播種し、翌日、様々な濃度の代謝産物(6-BT 0.1~100μM、LysoPC(20:0) 1~10μM、16:0~18:2 PE 1~50μM、MA-GPC 1~100μM)の添加ありと添加なしで、LPS(10/100ng/ml)によって2時間、刺激した。その後、25μl/ウェルの1×パッシブ細胞溶解緩衝液(passive lysis buffer)で細胞を溶解し、GloMax(登録商標)Multi Detection System(Promega社)でLuciferase(登録商標)Assay System(Promega社、E1500)によってホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0208】
初代単球のインビトロ刺激
BM細胞からナイーブな骨髄単球を単離した。簡単に述べると、3匹のマウスから後肢を分離し、周囲の筋肉を除いた。大腿骨及び脛骨をそれらの先端で切り取り、10mlのシリンジと25Gの針を用いて冷PBSでBM内容物を流し出し、40μmのストレーナーで濾過した。1×RBC溶解緩衝液(Biolegend社)で、氷上で5分、赤血球(RBC)を溶解させた。メーカーの説明書に従ってCD11b磁気ビーズ(Miltenyi Biotec社、#130-049-601)及び磁化MSカラム(Miltenyi Biote社)のカクテルを用いる陽性選択によってCD11b+単球を更に精製した。続いて、F底の96ウェルプレートに、10%の熱不活化ウシ胎児血清、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、L-グルタミン(2mM)を補充して10μg/mlのポリ(I:C)で活性化したRPMI1640中、1ウェルあたり1×105細胞で単球を播種した。10ng/mlのLPS(Sigma-Aldrich社)で単球を活性化し、6-BT(10/100μM)、LysoPC(20:0)(10/50μM)、MA-GPC(10/50/100μM)、又は適切なビヒクルによる処理に供した。細胞を最終体積200μl/ウェルに24時間保ち、その後、上清を収穫して-80℃で保存した。
【0209】
マウスマクロファージ/樹状細胞(DC)のインビトロ刺激
C57/Bl6マウス(1実験あたりN=3)の大腿骨及び脛骨から(上記のように)新たに単離したBM細胞を分化させることによって、骨髄由来マクロファージ(BMDM)及びDC(BMDC)を得た。BMDMについては、10cmのディッシュあたり3×106細胞でBM細胞を播種し、20%のウシ胎児血清及びマウスマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)の供給源としての30%のL-929細胞馴化培地を含む12mlのRPMI1640培地中で7日間培養した。BMDCについては、10cmのディッシュで25ml中0.5×106細胞/mlでBM細胞を播種し、5%FBS-RPMI1640培地中、GM-CSFの存在下に7日間培養した。分化の後、BMDM/DCを収穫し、計数して、F底96ウェルプレートに1ウェルあたり1×105細胞の密度で播種し、実験を実施する前に接着するように20時間放置した。マクロファージは、6-BT(10/100μM)、LysoPC(20:0)(10/50μM)、又はMA-GPC(10/50/100μM)の存在下又は非存在下で、10μg/mlのポリイノシン酸-ポリシチジル酸(ポリ(I:C))(InvivoGen社)によって24時間、最終体積200μl/ウェルで活性化した。アッセイの終了時に上清を収穫して-80℃で保存した。
【0210】
インビトロCD4+ T細胞活性化アッセイ
C57/Bl6マウス(1実験あたりN=3)の脾臓からネガティブ選択によって初代CD4+ T細胞を新たに単離した。簡単に述べると、培養ディッシュ中で脾臓を粉砕し、ストレーナー(それぞれ70μm及び40μm)を2回通過させて単一細胞懸濁液を得た。1×RBC溶解緩衝液(Biolegend社)で赤血球を溶解(氷上、10分)した後、細胞を計数し、ビオチンをコンジュゲートしたCD8a、CD11b、CD11c、CD19、CD45R(B220)、CD49b(DX5)、CD105、抗Anti-MHC-クラスII、Ter-119、及びTCRγ/δに対する抗体のカクテルで染色し、続いてネガティブ選択(CD4+ T Cell Isolationキット、Miltenyi Biotec社、#130-104-454)を用いて抗ビオチンマイクロビーズで磁気ラベルして染色した。非CD4 T細胞は、LS磁化カラム(Miltenyi Biotec社)に保持することによって枯渇させた。
【0211】
単離したCD4 T細胞を、96ウェルプレート中(1ウェルあたり1×105個)、10%のウシ胎児血清、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのL-グルタミンを添加したRPMI1640培地中で培養した。200μl/ウェルの完全RPMI1640培地中の24時間の播種の直後に代謝産物6-BT(1/10μM)、LysoPC(20:0)(10/50μM)、又はMA-GPC(10/50/100μM)による処理並びに2.5μg/mlの可溶性抗CD3抗体(145-2C11、eBioscience社)及び1μg/mlの可溶性抗CD28抗体(37.51、eBioscience社)による活性化を開始し、その終了時に上清を収穫して-80℃で保存した。
【0212】
ヒト単球のインビトロ刺激
Lymphoprep(商標)(Axis-Shield社)を用いる密度遠心によって健常ボランティア(Sanquin Bloodbank, Amsterdam, The Netherlands)の血液から単核細胞分画を単離し、ヒトCD14磁気ビーズ及びMACS(登録商標)細胞分離カラム(Miltenyi Biotec社)を用いてメーカーの説明書に従って単離した。単離した初代ヒト単球を計数し、24ウェルプレートに10%のウシ胎児血清、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのL-グルタミンを補充した1mlの培地とともに1×106細胞/ウェルで播種した。播種の後、100μMの6-BTありとなしで、細胞を10ng/mlのLPS又は25mMのD-glucose(いずれもSigma-Aldrich社)で24時間刺激した。その後、Tripure単離試薬(Roche社)で細胞を溶解し、RNAの単離まで-80℃で保存した。
【0213】
膵ベータ細胞のインビトロ刺激
5%のウシ胎児血清、2mMのL-グルタミン、5μMのベータ-メルカプトエタノール、1mMのピルビン酸ナトリウム、10mMのHEPES、100単位/mlのペニシリン、及び100μg/mlのストレプトマイシンを補充した完全RPMI1640中にINS1E細胞(ラット膵ベータ細胞株)を維持した。48ウェルプレートに1ウェルあたり1×105細胞の密度でINSIE細胞を播種し、1日間放置して休ませた。続いて、ビヒクル又は代謝産物6-BT(1/10/25μM)、LysoPC(20:0)(5/10/50μM)、又はMA-GPC(10/50/100μM)を含む0.5ml/ウェルのINS1E完全RPMI1640培地に培地を置き換えた。24時間後、さらなる分析(それぞれ遺伝子発現及びインスリン分泌)のために細胞及び上清を収穫し-80℃で保存した。保存の前にTripure単離試薬(Roche社)で細胞を溶解した。
【0214】
グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)アッセイのため、Krebs-Ringer重炭酸塩緩衝液(KRB)[115mMのNaCl、5mMのKCl、2.56mMのCaCl2、1mMのMgCl2、10mMのNaHCO3、15mMのHEPES、及び0.3%のBSA(pH7.4)]中、37℃で30分、細胞をプレインキュベートし、続いてKRB中1mMのグルコースで1時間(0.5ml/ウェル)刺激し、KRB中22mMのグルコースで更に1時間(0.5ml/ウェル)37℃で刺激した。1mMのグルコース(Sigma-Aldrich社)及び22mMのグルコースによる処理の後、上清を回収し、細胞を-80℃で保存した。10μMの6-BTによる24時間の処理の後、ベータ細胞についてGSISを実施した。
【0215】
ELISA
特異的ELISA(R&D Systems社)を利用し、メーカーの説明書に従って、マウス単球、マクロファージ、及びT細胞の細胞上清中の、それぞれTNFα、IFNβ、及びIFNγの濃度を測定した。代謝産物との24時間の処理の後又はGSISの後のインスリンの濃度を、ラットインスリンELISA(Mercodia社)を用い、メーカーの説明書に従って決定した。GSISは、グルコース22mMにおけるインスリンの割合に対してグルコース1mMにおけるインスリンの濃度を差し引くことによって計算した。
【0216】
遺伝子発現の解析
Tripure単離試薬の細胞ライセートから全RNAを抽出した。iScriptキット(BioRad社)によってRNAをcDNAに変換した。CFX384 Touch Real-Time PCR Detection System(BioRad社)により、SYBR Green-SensiMix(Bioline社)を用いて定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を実施した。デルタデルタCt法を用いて、対照(無刺激条件)と比較した倍数変化として遺伝子発現を計算した。
【0217】
統計
統計解析は、2群比較のためのStudent t検定並びに多群比較のための一方向ANOVA及びDunnett検定を用いて実施した。データは平均及び平均の標準誤差(SEM)として表す。P<0.05を有意とみなした。
【0218】
結果
結果を
図7~
図13に示す。
- 6-BT、A-GPC、及びMA-GPCは異なる用量でマクロファージにおけるNFκB経路の活性化を阻害することができる(
図7)。
- 6-BT、A-GPC、及びMA-GPCは単球によるサイトカインの分泌を停止させる(
図8)。
- 6-BT及びMA-GPCは1型IFNの分泌を障害する(
図9)。
- 6-BTはヒト単球によるサイトカインの産生を低減させる(
図10)。
- 6-BT及びA-GPCはCD4 T細胞におけるTh1応答を減弱させる(
図11)。
- 6-BTは膵ベータ細胞の機能を増強する(
図12及び
図13)。
【0219】
6-ブロモトリプトファンには特に興味があり、これはNFκB経路の活性化を阻害し、単球/マクロファージ及びCD4 T細胞における免疫応答を妨害し、膵ベータ細胞の機能を改善する。MA-GPCはNFκB経路の活性化を阻害し、単球/マクロファージ及びCD4 T細胞における免疫応答を妨害する。
【実施例】
【0220】
血漿6-ブロモトリプトファンレベルはクロスセクショナルコホート(n=369対象)における2型糖尿病の存在及び血糖コントロールと逆相関する。
369名の対象のコホートにおいて、6-ブロモトリプトファンが2型糖尿病の発症及び進行に対する保護をもたらしている可能性がある証拠が見出された。より具体的には、血漿6-ブロモトリプトファンレベルが2型糖尿病の存在及び血糖コントロールと逆相関していることが見出された。これは、6-BTが2型糖尿病の予防及び治療並びに従って2型糖尿病における(微小血管及び大血管の)心血管合併症の改善に寄与している可能性を示唆している。6-BTは非2型糖尿病患者においても大血管疾患(即ち心血管疾患)及び微小血管合併症の低減を助ける可能性がある。
【0221】
材料及び方法
空腹時血漿を目標とする代謝産物測定を、既に記載されたように[Koh A, Molinaro A, Stahlman M,ら、「Microbially Produced Imidazole Propionate Impairs Insulin Signaling through mTORC1」Cell 2018年;175:947~961頁、e17. doi:10.1016/j.cell.2018.09.055]、タンデムマススペクトルに連結された超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)を用い、Metabolon社(Durham, NC)によって行った。
【0222】
結果
結果をTable 2(表2)及びTable 3(表3)に示す。
【0223】
【0224】
【0225】
6-ブロモトリプトファンは骨髄系細胞における炎症応答を停止させる。
6-BTはトリプトファンのブロモインドール誘導体であり、結腸並びに小腸の固有の腸内微生物によって代謝されることが知られている。今までのところ、6-BTの生理学的役割は全く分かっていない。本発明者らの臨床的知見は、炎症及び糖尿病に対する保護機能を示唆している。
【0226】
一連のインビトロ/エクスビボ実験により、本発明者らは、免疫細胞並びにインスリン産生膵ベータ細胞に対する6-BTの機能のいくつかを解明した。
【0227】
6-BTはTLR4及びTLR2の関与による炎症促進性サイトカインTNFaの分泌並びにTLR3の活性化によるIFNベータの分泌を阻害することができる。
ここで、マウス骨髄から単離した単球(Christ A,「Western Diet Triggers NLRP3-Dependent Innate Immune Reprogramming」Cell 2018年)又は骨髄由来のマクロファージ(Swanson KV,「A noncanonical function of cGAMP in inflammasome priming and activation」JEM 2017年)を、10ng/mlのLPS、10μg/mlのP3C、又は10μg/mlのポリ(I:C)の存在下又は非存在下で、指示された濃度(10~100μM)の6-BTに24時間曝露した。ELISAアッセイによって、本発明者らは、6-BTがTLR4及びTLR2の関与による炎症促進性サイトカインTNFaの分泌並びにTLR3の活性化によるIFNベータの分泌を阻害できることを見出した。
図14を参照されたい。
【0228】
TLRシグナル伝達によって誘起されるサイトカインの分泌の阻害は、過剰な炎症応答(例えば敗血症及び全身性炎症応答症候群(SIRS))によって損傷が推進される炎症性及び感染性の疾患に対する治療アプローチのために特に重要である。
【0229】
6-BTは炎症性サイトカインTNFa及びIFNベータの分泌を阻害する。
樹状細胞(DC)はT細胞の活性化において重要な主要な抗原提示細胞であるので、本発明者らは次に、骨髄細胞によりGM-CSF(40ng/ml)で分化したマウスDCに対する6-BTの効果を検討した。単球/マクロファージについては、6-BTは、それぞれTLR4(100ng/mlのLPSによる)又はTLR3(10μg/mlのポリ(I:C))の活性化の後のDCによる炎症促進性サイトカインTNFa及びIFNベータの分泌を阻害する。
図15を参照されたい。
【0230】
6-BTはTh1サイトカインIFNガンマの産生を有意に低減した。
特に自己免疫性糖尿病に関して、T細胞の活性は疾患の発症及び進行を推進している。したがって、本発明者らはCD4 T細胞に対する6-BTの影響を更に研究した。抗原提示を模倣するため、マウスCD4 T細胞(膵から単離、Uchimura T、「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019年)をCD3及びCD28に対するモノクローナル抗体(それぞれ2.5及び1μg/ml)によって活性化した。骨髄性細胞における知見と一致して、6-BTはTh1サイトカインIFNガンマの産生を有意に低減させた。
図16を参照されたい。
【0231】
6-BTはβ細胞の分化及びインスリンの産生を刺激する。
血漿6-BTレベルとCペプチド濃度との間に正の関連(臨床研究で見出された)があったので、本発明者らは次に、6-BTがベータ細胞に直接効果を発揮できるかを検討した。実際、6-BTがIS1Eベータ細胞において転写因子PDX1及びMAFAの遺伝子発現を誘起することを本発明者らは今や見出し、これはベータ細胞の成熟及び機能性のために重要である。これと同調して、6-BTはまた、定常状態及びグルコース刺激下のインスリン分泌の間にインスリンの分泌を促進する(データは飢餓状態[1mMのグルコース]と高糖状態[22mM]におけるインスリン放出の差として示されている)(Paula S、「Exercise increases pancreatic β-cell viability in a model of type 1 diabetes through IL-6 signaling」、FASEB J 2015年)。
図17を参照されたい。
【0232】
6-ブロモトリプトファンの作用機序
6-BTの作用の根底にある分子機序を探求し、本発明者らはまず、全ての炎症性疾患(自己免疫に留まらない)における中心的な経路であるNF-kB経路の活性化に対する6-BTの影響を検討した。そのため、本発明者らは、NFkBの活性化のマーカーとみなされるp65サブユニットのリン酸化形態の発現を定量した。PMA(50ng/ml)及びイオノマイシン(1μg/ml)によるT細胞の活性化に際して、6-BTは極めて早い時点(活性化後5~10分)でNF-kBのシグナル伝達を阻害することができた。この効果はマウスとヒト(Jurkat細胞)の両方のCD4 T細胞で見出された。
図18を参照されたい。
【0233】
6-BTはマクロファージにおけるNFkBの活性化を阻害する。
リンパ球において本発明者らが観察したものと同様に、6-BTはマクロファージにおけるNFkBの活性化を阻害する。NFkBルシフェラーゼレポーターを安定的に発現しているRAW264.7マウスマクロファージ細胞株(Groeneweg M、「Lipopolysaccharide-induced gene expression in murine macrophages is enhanced by prior exposure to oxLDL」、J Lipid Res 2006年)を用いて、本発明者らは、マクロファージの6-BT(10~200μM)への終夜の曝露が、LPS(10ng/ml)による2時間の刺激において用量依存的にNFkB複合体の転写活性を阻害することを開示した。
図19を参照されたい。
【0234】
6-BT及びトリプトファンは区別できる生物活性を誘発する。
次に本発明者らは、6-BTの効果が特異的であるのか、又はトリプトファンによっても発揮されるのかを検討した。マウスCD4 Tリンパ球(マウス膵から単離、Uchimura T、「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019年)において、6-BTはCD3/CD28の関与によるIFNガンマの産生に対する阻害効果を発揮したが、トリプトファンは効果を発揮しなかった。これは、6-BTとトリプトファンが区別できる生物活性を誘発していることを示している。
図20を参照されたい。
【0235】
DCにおける結果と一致して、単球(マウス骨髄から単離、Christ A、「Western Diet Triggers NLRP3-Dependent Innate Immune Reprogramming」、Cell 2018年)の6-BT又はトリプトファンへの曝露は、抗炎症効果が6-ブロモトリプトファン分子に特異的であり、トリプトファンには特異的でないことを示している。
図21を参照されたい。
【0236】
6-BTは細胞内代謝に影響する。
最後に、本発明者らは6-BTが細胞内代謝にも影響することを発見した。特に、6-BT(100μM)がマウス及びヒト(Jurkat) CD4 T細胞においてミトコンドリア代謝を促進することが見出された。
図22を参照されたい。
【0237】
OCRはミトコンドリアの酸化的リン酸化の細胞利用の代替として用いた酸素消費速度である。OCRはSeahorse XF Analyzerを用いて測定した。Uchimura T、「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019; Chou、「AIM2 in regulatory T cells restrains autoimmune diseases」、Nature 2021。
【0238】
6-BTはミトコンドリア代謝を増強する。
同様に、6-BTへの曝露は、解糖流量に影響せずに、(LPS及びIFNガンマの存在下で分化した(Cheng et al JCI Insight. 2018;3(22):e120638))炎症促進性M1マクロファージのミトコンドリア代謝を増強することができる。細胞内代謝はSeahorse XF Analyzerを用いて測定した(Uchimura T「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019年; Chou、「AIM2 in regulatory T cells restrains autoimmune diseases」、nature 2021年)。
図23を参照されたい。
【0239】
6-BTは1型及び2型の糖尿病の両方でベータ細胞の機能不全を救助することができた。
最後に、本発明者らは、6-BTがベータ細胞のミトコンドリア代謝に影響し得るか否かを検討した。これは、ATP及びインスリンのエキソサイトーシスのためのミトコンドリア代謝産生に依拠する。6-BTはベータ細胞(INS1Eベータ細胞)において定常状態及び高糖状態(グルコース25mM)の両方でミトコンドリア代謝を増大させた。更に、本発明者らは、細胞内代謝に対するトリプトファンの効果を試験し、炎症マーカーについてはトリプトファンが6-BTとは異なる効果を発揮することを見出した。細胞内代謝はSeahorse XF Analyzerを用いて測定した(Uchimura T、「The Innate Immune Sensor NLRC3 Acts as a Rheostat that Fine-Tunes T Cell Responses in Infection and Autoimmunity」、Immunity 2019年; Chou、「AIM2 in regulatory T cells restrains autoimmune diseases」、nature 2021年)。
【0240】
重要なことに、T2Dにおいてミトコンドリア及び酸化的代謝の欠陥が報告されており(Haythorne, Nature Communications 10巻、論文番号:2474 (2019))、6-BTが1型及び2型の糖尿病の両方においてベータ細胞の機能不全を救助し得ることが示唆されている。更に、ミトコンドリア代謝の利用の増大は異所性細胞内脂質集積に抵抗し、それにより肥満に抵抗し得る。
【0241】
結論として、
・ 6-BTは多種の細胞型に対して多面的な効果を発揮する。
・ 6-BTは骨髄性細胞及びリンパ様細胞に対して抗炎症効果を有する。
・ 6-BTはベータ細胞によるインスリン分泌を促進する。
【0242】
機構的には、6-BTの生物学的作用はトリプトファンの作用とは区別できる。6-BTはAhRの活性化を通して作用しないが、NFkBの活性化を阻害し、ミトコンドリア代謝を増強する。ミトコンドリア代謝は典型的には抗炎症性表現型を有する細胞によって利用される。
【0243】
応用
多種の細胞型に対するその幅広い効果、NFkBシグナル伝達に対するその阻害作用、並びにミトコンドリア代謝の促進及び適合性により、6-BTは1型及び2型の糖尿病に関してのみでなく、敗血症、全身性炎症応答症候群(SIRS)、及び心血管疾患等の他の多くの炎症関連障害においても新規な治療法となる可能性がある。
【実施例】
【0244】
デスルホビブリオ属のレベルはクロスセクショナルコホート(n=369対象)における2型糖尿病の存在及び血糖コントロールと逆相関する。
本明細書で既に論じた同じ369名の対象のコホートにおいて、デスルホビブリオ属に属する細菌(例えばデスルホビブリオ・ピゲル)が2型糖尿病の発症及び進行に対する保護をもたらしている可能性がある証拠が見出された。より具体的には、デスルホビブリオ属に属する糞便中細菌の相対的存在量が2型糖尿病の存在及び血糖コントロールと逆相関していることが見出された。これは、デスルホビブリオ属の投与が、2型糖尿病の予防及び治療並びにしたがって2型糖尿病における(微小血管及び大血管の)心血管合併症の改善に寄与する可能性を示唆している。デスルホビブリオ属は非2型糖尿病患者においても大血管疾患(即ち心血管疾患)及び微小血管合併症の低減を助ける可能性がある。
【0245】
材料及び方法
空腹時血漿を目標とする代謝産物測定を、既に記載されたように[Koh A, Molinaro A, Stahlman M,ら、「Microbially Produced Imidazole Propionate Impairs Insulin Signaling through mTORC1」Cell 2018年;175:947~961頁、e17. doi:10.1016/j.cell.2018.09.055]、タンデムマススペクトルに連結された超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC-MS/MS)を用い、Metabolon社(Durham, NC)によって行った。
【0246】
結果
結果をTable 4(表4)並びに
図25及び
図26に示す。
【0247】
【0248】
更に、2型糖尿病患者において、糞便中デスルホビブリオの相対的存在量と血漿6BTのレベルとの間に明らかな関連性が見られた。
図27を参照されたい。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病、自己免疫疾患、炎症性疾患、及び心血管疾患からなる群から選択される炎症関連疾患の予防又は治療における使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンであって、使用が自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には6-ブロモトリプトファンであり、使用が糖尿病又は自己免疫疾患の予防又は治療における使用である場合には糞便中に含まれていないクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項2】
糖尿病が1型糖尿病及び2型糖尿病から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項3】
自己免疫疾患が、1型糖尿病、橋本病、グレーブス病、アディソン病、乾癬、白斑、リウマチ性関節炎、ベクテリュー病、セリアック病、炎症性腸疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アディソン病、脈管炎、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CDIP)、及びギランバレー症候群(GBS)からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項4】
炎症性疾患が、心血管炎症、心臓炎、心内膜炎、心筋炎、心膜炎、脈管炎、動脈炎、静脈炎、毛細管炎、胃腸管の炎症、食道炎、胃炎、胃腸炎、腸炎、結腸炎、全腸炎、十二指腸炎、回腸炎、盲腸炎(caecitis)、虫垂炎(appendicitis)、直腸炎、肝の炎症、肺の炎症、骨格の炎症、全身性炎症反応症候群(SIRS)、及び敗血症からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項5】
心血管疾患が、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、アテローム性動脈硬化症、狭窄、腎動脈狭窄、大動脈疾患、大動脈瘤、心筋症、高血圧性心疾患、高血圧、心不全、肺性心疾患、不整脈、心血管炎症、炎症性心疾患、心内膜炎、炎症性心肥大、心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓弁膜症、先天性心疾患、及びリウマチ性心疾患から選択される、請求項1に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項6】
6-ブロモトリプトファンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項7】
好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブ・ペゴル、及びゴリムマブからなる群から選択される腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害剤と組み合わされる、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項8】
好ましくはビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクチス又はビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノスス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ユーバクテリウム・ハリイ、インテスチニモナス・ブチリシプロヅセンス、及び/又はアッケルマンシア・ムシニフィラからなる群から選択されるユーバクテリウム属、インテスチニモナス属、ビフィドバクテリア属、ラクトバシラレス属、及び/又はアッケルマンシア属の細菌と組み合わされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項9】
経腸で、好ましくは経口若しくは経鼻で、又は皮下、静脈内、直腸投与、及び/又は経鼻十二指腸チューブ投与によって投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項10】
使用が、前記クロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンを小腸、好ましくは十二指腸に投与することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項11】
組成物、好ましくは医薬組成物、より好ましくは液体又は固体の投薬形態、最も好ましくはカプセル、錠剤、又は粉末の中に含まれている、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項12】
前記組成物中に少なくとも1、5、10、25、50、100mgのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンの量で含まれている、請求項10に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項13】
腸溶性コーティングの中に含まれ、及び/又は腸溶性コーティングによってカプセル化されており、好ましくは前記腸溶性コーティングが胃の環境内で溶解及び/又は崩壊しない、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項14】
使用が、前記クロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファンの少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回の個別の投与を含み、好ましくは前記個別の投与の間に少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8週の間隔がある、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【請求項15】
治療すべき対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のためのクロロ-、フルオロ-、又はブロモ-置換トリプトファン。
【国際調査報告】