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特表2023-516327高い限界デキストリナーゼ活性を有する大麦植物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】高い限界デキストリナーゼ活性を有する大麦植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/46 20180101AFI20230412BHJP
   C12C 7/00 20060101ALI20230412BHJP
   C12C 1/00 20060101ALI20230412BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20230412BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
A01H6/46 ZNA
C12C7/00
C12C1/00
C12C11/00 A
C12N15/29
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552519
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(85)【翻訳文提出日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2021055053
(87)【国際公開番号】W WO2021175786
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】20160355.2
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520229688
【氏名又は名称】カールスバーグ アグシャセルスガーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】オルセン,オーレ
(72)【発明者】
【氏名】ロック,フィン
(72)【発明者】
【氏名】クヌーセン,セーレン
(72)【発明者】
【氏名】マリー,ルチア
(72)【発明者】
【氏名】ストリーベック,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ペダス,パイ,ロサガー
(72)【発明者】
【氏名】クエスタ-セイジョ,ホセ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】トムセン,ハンネ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,カタルジナ,バーチ
【テーマコード(参考)】
2B030
4B128
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD09
2B030CA08
4B128CP01
4B128CP21
4B128CP37
(57)【要約】
本発明は、高い限界デキストリナーゼ活性を有する大麦植物、またはその一部を提供する。特に、HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物が、提供される。さらに、前記大麦植物、またはその一部から調製される植物生成物が、それを製造する方法と共に記載される。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦植物、またはその一部であって、前記大麦植物が、HvLDI遺伝子中に変異を有し、前記変異HvLDI遺伝子が、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、前記変異が、以下の変異の1つである、大麦植物、またはその一部:
a.変異体HvLDIポリペプチドの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、前記ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
b.変異体HvLDIポリペプチドの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、前記アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
【請求項2】
前記変異体HvLDIポリペプチドが、指定位置における変異は別にして成熟野生型HvLDIポリペプチドまたはその天然バリアントと同一である、請求項1に記載の大麦植物またはその一部。
【請求項3】
前記変異体HvLDIポリペプチドが、配列番号3の位置25~142または配列番号3の位置25~147のアミノ酸配列を含むまたはそれらからなるまたは配列番号4の位置25~142または配列番号4の位置25~147のアミノ酸配列からなる、請求項1または2に記載の大麦植物またはその一部。
【請求項4】
前記変異体HvLDIポリペプチドが、配列番号6の位置25~142または配列番号6の位置25~147のアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
【請求項5】
前記大麦植物からの穀粒または発芽穀粒または麦芽が、同じ条件下で栽培されかつ調製される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の穀粒で測定される遊離HvLD活性と比べて少なくとも20%高い遊離HvLD活性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
【請求項6】
前記大麦植物が、前記HvLDI遺伝子中に下記からなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する、大麦植物またはその一部:
i.前記HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異;および
ii.前記HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド967に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異;および
iii.前記HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド968に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異;および
iv.前記HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド990に対応する位置でのGからAへの変異。
【請求項7】
前記大麦植物の穀粒が、少なくとも50グラムなど、少なくとも55グラムなどの、少なくとも45グラムの千粒重を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の大麦植物。
【請求項8】
前記大麦植物の穀粒が、少なくとも55%など、少なくとも60%などの、少なくとも50%のデンプン含量を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の大麦植物。
【請求項9】
前記大麦植物が、1つまたは複数の追加の遺伝子中に、下記からなる群より選択される変異をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の大麦植物:
a.機能的LOX-1の完全喪失をもたらすLOX-1コード遺伝子中の変異;
b.機能的LOX-2の完全喪失をもたらすLOX-2コード遺伝子中の変異;
c.機能的MMTの完全喪失をもたらすMMTコード遺伝子中の変異;
d.CslF6コード遺伝子中の変異であって、前記変異遺伝子が、低減されたCslF6活性を有する変異体CslF6タンパク質をコードする、変異;
e.HRT機能の喪失をもたらすHRT遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
f.HBL機能の喪失をもたらすHBL12遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
g.WRKY38機能の喪失をもたらすWRKY38遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
h.ant変異、例えばHvmyb10遺伝子中の変異。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部を含む植物生成物。
【請求項11】
前記植物生成物が、下記からなる群より選択される、請求項10に記載の植物生成物:
a.前記大麦植物の穀粒から調製された麦芽;
b.前記大麦植物の穀粒からおよび/または前記大麦植物の処理穀粒を含む麦芽から調製された、水性抽出物、例えば麦汁;および
c.前記大麦植物またはその一部から調製された、飲料、例えばビール。
【請求項12】
麦芽の調製方法であって、下記ステップを含む、方法:
a.請求項1~9のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒を用意するステップ;
b.所定の条件下で前記穀粒を浸麦するおよび発芽させるステップ;
c.任意選択で、前記発芽穀粒を乾燥するステップ。
【請求項13】
前記浸麦することおよび発芽させることが、下記のステップ:
a.通気下で5~10時間にわたり水溶液中で請求項1~9のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒をインキュベートするステップ;
b.好ましくは通気下で、前記水溶液を排水するおよび8~16時間にわたりエアレストに前記穀粒を供するステップ;
c.通気下で2~10時間にわたり水溶液中で前記穀粒をインキュベートするステップ;および
d.好ましくは20~28℃の範囲で温度を維持しながら通気下で、前記水溶液を排水するおよび8~20時間にわたり第2のエアレストに前記穀粒を供するステップ;
を含み、前記穀粒の含水量が、ステップa.の後の任意の時点で少なくとも20%である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記浸麦および発芽ステップが、48時間~72時間の範囲にわたり実施されかつ請求項12に記載のステップcが、省略される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
水性抽出物を調製する方法であって、下記のステップを含む、方法:
a.請求項1~9のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒および/または請求項12~14のいずれか1項により製造される麦芽を用意するステップ;
b.前記穀粒および/または前記麦芽の水性抽出物、例えば麦汁を調製するステップ。
【請求項16】
前記水性抽出物が、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて少なくとも10%多いグルコース、フルクトースおよび/またはマルトトリオースを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
飲料を製造する方法であって、以下のステップを含む、方法:
a.請求項1~9のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒および/または請求項12~14のいずれか1項により製造される麦芽および/または請求項15または16に記載の方法により製造される水性抽出物を用意するステップ;
b.飲料へと前記水性抽出物を処理するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い遊離限界デキストリナーゼ活性を有する大麦植物を提供する分野に関する。特に、本発明は、高い遊離限界デキストリナーゼ活性を有する穀粒を有する大麦植物に関する。このような植物の穀粒は、増大した量の発酵性糖を含む大麦系液体抽出物、例えば、麦汁の製造のために好都合である。本発明はさらに、大麦系飲料、例えば、ビール、ウイスキー、ウォッカ、マルチナの製造方法、ならびに本発明の大麦植物から調製される生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発芽は、それにより植物が種子から成長する過程の初期部分である。そうするために、穀粒は、極めて多くの酵素の制御を維持する必要がある。いくつかの酵素は、胚乳中のデンプンのマルトースおよびグルコースへの分解に関与し、これらは次に、植物胚芽のためのエネルギー源として機能する。同じ過程は、発芽穀粒または麦芽から抽出され、かつ酵母により醸造中にアルコールを生成するために使用され得る、発酵性糖を生成する。
【0003】
デンプンは、2つの形式のグルコース鎖:主なアミロースおよび分岐アミロペクチンから作られる炭水化物である。アミロースおよびアミロペクチンの直鎖部分は、別の種類のアミラーゼにより発酵性糖に分解され得る。しかし、アミラーゼは通常、その分岐点近傍ではアミロペクチンを分解できない。従って、アミラーゼ活性は、デンプンから発酵性糖の十分な放出を達成するには不十分である。
【0004】
グリコシド加水分解酵素の限界デキストリナーゼ(LD)は、デンプンの分岐点の加水分解を触媒し、直鎖デンプンフラグメントを生成し、それによりアミラーゼのための基質の利用能を高める。LDは具体的には、例えばアミロペクチンまたは分岐デキストリン中のα-1,6結合の加水分解を触媒する。この酵素の加水分解作用は、直鎖α-1,4-結合グルコース鎖の形成をもたらし、これは広範囲にわたり、α-およびβ-アミラーゼの複合作用によりグルコースおよびマルトースに解重合できる。
【0005】
LDの活性は、その阻害剤、限界デキストリナーゼ阻害剤(LDI)により、少なくとも部分的に調節されると考えられている。LDIは、LDを結合し不活化すると考えられる。
【0006】
低レベルのLD活性は通常、デンプンの少ない分解に繋がり、これは、登熟中には好ましく、穀粒中への十分なレベルのデンプンの蓄積を可能にする。醸造過程では、発芽大麦粒抽出物または麦芽は、酵母発酵の基質として使用され、高レベルの発酵性糖を含む抽出物が、通常望ましい。LDの作用がないと、分岐デキストリンおよびアミロペクチンは、酵母により効率的に発酵させることができない。
【0007】
文献では、大麦植物中のアンチセンスによるLDIの発現低下は、大麦粒の健康に対し大きな影響を有し、この影響は、より低い粒重、大麦粒当りのデンプン粒の数の低減および、高められたアミロース/アミロペクチン比率、アミロペクチンの改変された分岐鎖長(9~15残基の鎖はより多いが、より少ない30~60残基の長鎖)により示されるアミロペクチン構成に対する変化および小さいB型デンプン粒のレベルの低減を含む、変えられたデンプン合成により示される(Y.Stahl et al.2004、を参照)。
【0008】
LDとLDIの相互作用は、大麦LD-LDI複合体の結晶構造を用いて調査された。LDIとLD変異体のインビトロ結合調査が実施され、LDI中の4つの異なる位置が変異され、Kにおける中程度~大きな増大を示した(M Moller et al.2015、を参照)が、これらの変異体のいずれも、インビボで試験されず、従って、それは、変異が穀粒の健康に効果を与えるかどうか、またはインビトロの結果が穀粒の発酵性糖レベルに関しインビボでの効果に変換されるかどうかを評価できない。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、麦芽製造に供される場合、特に発芽中に、高いLD活性を有する穀粒を含む大麦植物を提供することであり、上記大麦植物は同時に、健康で、例えば、野生型大麦植物と同等の収率と粒重を有する。このような大麦植物は、ビールなどの大麦/麦芽系飲料の生産に極めて有用であろう。
【0010】
高いLD活性を有する穀粒を含む大麦植物は、ビール、ウイスキー、ウォッカ、またはマルチナなどの大麦/麦芽系飲料の生産に有用である。1つの利点は、穀粒から調製される麦汁および/または高いLD活性を有する大麦植物からの麦芽などの水性抽出物が、高い含量の発酵性糖を有することである。従って、本発明の穀粒および/または麦芽を使用することにより、マッシング中の外来性の限界デキストリナーゼまたはプルラナーゼの添加の必要性は、低減されるか、あるいは完全に無くされ得る。さらに、高含量の発酵性糖を含む水性抽出物の発酵は、醸造中に有益である。理由は、それが、使われる穀粒量当たり生産されるビールの量を増大させ、粒重当たりのABV%(アルコール体積%)/ヘクトリットルを高めるためである。さらに、増大した遊離Hordeum vulgare(オオムギの学名)限界デキストリナーゼ(HvLD)活性を有する本発明の大麦植物からの穀粒および/または麦芽は、製麦過程に有用であり、発芽時間は、例えば、WO2018/001882に記載のように短縮される。
【0011】
意外なことに、本発明は、LDI遺伝子中に変異を有する大麦植物を提供し、植物は、健康であり、野生型大麦植物と同等の穀粒収率、穀粒サイズおよび穀粒アミロペクチン分岐鎖長を有するが、同時に高いLD活性も有する。このような大麦植物は、高含量の発酵性糖を含む抽出物を調製するための原材料として有用である。
【0012】
特に、本発明は、Hordeum vulgare限界デキストリナーゼ阻害剤(HvLDI)遺伝子中の特定の変異が変異HvLDIポリペプチドをコードし、これは、インビトロでHvLDへの低減された結合を有することを示す。HvLDを結合する能力の低減は、遊離LDを増大し、それにより、より高いインビボLD活性をもたらし、これが次に、HvLDIポリペプチド中に本発明の変異を含む大麦植物からの穀粒を用いて調製される水性抽出物中のより高含量の発酵性糖を生じる。重要なことに、同時に、HvLDI遺伝子中に本発明の変異を有する大麦植物で、穀粒サイズ、穀粒アミロペクチン分岐鎖長および穀粒収率の差異は観察されなかった。
【0013】
従って、本発明は、大麦植物またはその一部を提供し、上記大麦植物は、HvLDI遺伝子中に変異を有し、上記変異HvLDI遺伝子は 変異体HvLDIポリペプチドをコードし、変異は、次の変異の1つである:
a.HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
b.野生型HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
【0014】
本発明はさらに、本発明の大麦植物から調製された、穀粒、麦芽、麦芽汁または飲料などの植物生成物を提供する。
さらに、麦芽の調製方法が開示され、上記方法は、下記ステップを含み得る:
a.本発明の大麦植物の穀粒を用意するステップ;
b.所定の条件下で上記穀粒を浸麦し、発芽させるステップ;
c.任意選択で、上記発芽穀粒を乾燥するステップ。
また、水性抽出物の製造方法も開示され、上記方法は、下記ステップを含み得る:
a.本発明の大麦植物の穀粒および/またはこのような大麦植物から調製された麦芽を用意するステップ;
b.上記穀粒および/または上記麦芽の水性抽出物、例えば、麦汁を調製するステップ。
加えて、飲料の製造方法も開示され、上記方法は、下記ステップを含み得る:
a.本発明の大麦植物の穀粒および/またはこのような大麦植物から調製された麦芽および/またはこのような大麦植物および/または麦芽から調製された水性抽出物を用意するステップ;
b.例えば、他の飲料成分と発酵または混合することにより、上記水性抽出物を飲料に処理するステップ。
さらに、本発明による麦芽の調製方法が開示され、上記方法は、下記ステップを含む:
a.大麦粒を用意するステップ;および
b.上記大麦粒をランダムに変異誘発するステップ;
c.下記変異の1つを有する変異体HvLDIポリペプチドをコードする変異HvLDI遺伝子を有する大麦粒またはその一部を選択するステップ;
i.HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
ii.野生型HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】インビトロアッセイで、野生型HvLD活性を阻害する野生型(wt)HvLDIまたは変異体HvLDIの能力を示す。A)野生型LDI(変異なし)、B)HvLDI変異体(P60L)、C)HvLDI変異体(P60S)、D)HvLDI変異体(V66M)およびE)HvLDI変異体(E68K)。Y軸は、HvLDの%活性を示す。X軸は、インビトロアッセイで使用した野生型または変異HvLDIの量(μM)を示す。組換え発現HvLDを阻害する野生型HvLDIおよび変異体HvLDIの効力を、アッセイ中に放出された発色団の量により評価した。アッセイ中に放出された発色団の量を、完全活性HvLDの放出量と比較し、保持活性を計算するために使用した。活性を、アッセイで使用されたHvLDIの濃度に対しプロットし、データを、シグモイド型応答曲線に当てはめた。
図2】変異体大麦植物HENZ-16a(P60S)およびHENZ-18(V66M)ならびにそれらの対照Paustian、および変異体大麦植物HENZ-31(E68K)ならびにその対照Planetから72時間にわたり発芽させた穀粒中の加水分解酵素の活性を示す。穀粒は、実施例3に記載のプロトコルに従って発芽された。EBC19は、実験での追加の対照として含められた。A)は、α-アミラーゼの総量を示す。B)は、β-アミラーゼの総量を示す。C)は、限界デキストリナーゼおよび遊離限界デキストリナーゼの総量、ならびに遊離限界デキストリナーゼと総限界デキストリナーゼの間の%による比率を示す。
図3】変異体大麦植物HENZ-16a(P60S)およびその対照Paustian、および変異体大麦植物HENZ-31(E68K)ならびにその対照Planetからフレックスモルト麦芽化穀粒中の加水分解酵素活性を示す。穀粒は、実施例5に記載の方法に従って麦芽化された。A)は、α-アミラーゼの総量を示す。B)は、β-アミラーゼの総量を示す。C)は、限界デキストリナーゼおよび遊離限界デキストリナーゼの総量、ならびに遊離限界デキストリナーゼと総限界デキストリナーゼの間の%による比率を示す。
図4】変異体大麦植物HENZ-16a(P60S)およびその対照PaustianからVLB麦芽化穀粒中の加水分解酵素活性を示す。穀粒は、実施例6に従ってVLB麦芽化された。ピルスナー麦芽は、実験での追加の対照として含められた。A)は、α-アミラーゼの総量を示す。B)は、β-アミラーゼの総量を示す。C)は、限界デキストリナーゼおよび遊離限界デキストリナーゼの総量、ならびに遊離限界デキストリナーゼと総限界デキストリナーゼの間の%による比率を示す。
図5】フレックスモルト化穀粒での動力学的測定を示す。中実円および三角形は、HENZ-16a(P60S)中の、それぞれ、遊離限界デキストリナーゼおよび限界デキストリナーゼの総量を示す。中空円および三角形は、Paustian中の、それぞれ、遊離限界デキストリナーゼおよび限界デキストリナーゼの総量を示す。
図6】フレックスモルト化HENZ-16a(P60S)、PaustianおよびEBC19からの麦汁中の糖分析を示す。A)は、総発酵性糖(TFS)、すなわち、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトースおよびマルトトリオースの量(PPM)を示す。バーの上部の数字は、TFSの総量を示す。B)は、異なる麦汁中の個別の糖の量を示す。バーの上部の数字は、HENZ-16a(P60S)とPaustianとの間の%差異を示す。
図7】VLB麦芽化HENZ-16a(P60S)、PaustianおよびEBC19、ならびにピルスナー麦芽からの麦汁中の糖分析を示す。A)は、総発酵性糖(TFS)、すなわち、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトースおよびマルトトリオースの量(PPM)を示す。バーのすぐ上部の数字は、TFSの総量を示す。HENZ-16a(P60S)からのVLB麦芽化穀粒の麦汁は、PaustianからのVLB麦芽化穀粒に比べて、7.2%多いTFSを含む。B)は、VLB麦芽化HENZ-16a(P60S)およびPaustianからの麦汁中の個別の糖の量を示す。バーの上部の数字は、HENZ-16a(P60S)とPaustianの間の%差異を示す。
図8】A)およびC)は、HENZ-16a(P60S)およびHENZ-31、PlanetおよびPaustian大麦植物からの穀粒中の鎖長分布分析を示す。B)およびD)は、変異体大麦植物とその対照(デンマーク、2017)の間のピーク面積差異を示す。HvLDI変異体大麦植物および対照植物は、シーズン2017にデンマークの隣接区画中で生育された。それらの対照と比べて、HvLDI変異体大麦植物(HENZ-16aおよびHENZ-31)の間でDPの優位差は存在しないと結論できる。DP:重合の度合い。
図9】A)およびC)は、HENZ-16aおよびHENZ-31大麦植物からの穀粒中のアミロペクチンの鎖長分布分析を示す。B)およびD)は、変異体大麦植物とその対照(ニュージーランド2017~18)の間のピーク面積差異を示す。HvLDI変異体大麦植物および対照植物は、シーズン2017/2018にニュージーランドの隣接区画中で生育された。それらのそれぞれの対照と比べて、HvLDI変異体大麦植物(HENZ-16aおよびHENZ-31)の間でDPの優位差は存在しないと結論できる。DP:重合の度合い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書で使用される場合、「a」は、それが使われる文脈に応じて、1つ(1種)または複数を意味し得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「通気」は、所与の物質に酸素、例えば、純粋な酸素または空気を含むガスを供給することを指す。水溶液(例えば、水)の通気は好ましくは、上記ガスに水中を通過させることにより、例えば水溶液を含む容器の底部および/または下部にガスを導入することにより、実施される。通常、ガスは、水溶液を通って拡散し、水溶液の上端から水溶液を出て行く。エアレスト中の大麦粒の通気は、例えば、ガスを大麦粒のベッドを通して誘導するおよび/または上記ガス大麦粒のベッドの表面上を流すことにより、実施され得る。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」は、タンパク質を構成するアミノ酸を指す。好ましくは、タンパク質を構成するアミノ酸は、標準的遺伝子コードによりコードされる20個のアミノ酸の1つである。IUPACの1文字および3文字コードが、アミノ酸を命名するために使用される。
【0019】
数値に関連して本明細書で使用される場合、用語の「約」は、好ましくは±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%を意味する。
【0020】
用語「アミロース」は、α-D-グルコースのホモポリマーを指す。アミロースは、そのグルコース単位がほぼ例外なく、α-1,4-グリコシド結合により結合されるので、直鎖分子構造を有する。
【0021】
用語「アミロペクチン」は、α-D-グルコースのホモポリマーを指す。アミロペクチン分子は、α-1,6-グリコシド結合を高頻度に含む。これらは、本来ならα-1,4-結合グルコース鎖を生ずるはずの鎖中に分岐点を導入し、分子軸に沿って規則的な間隔で現れる並行鎖のクラスターを生じる。
【0022】
用語「エアレスト」は、穀粒が水(水溶液)中に浸漬された段階の後の発芽過程中の1段階を指す。エアレスト段階では、水が穀粒から排出され、穀粒は、静置される。好ましくは穀粒の水分は、この段階中で、20%より高く、より好ましくは30%より高く、さらにより好ましくは40%より高く維持される。いくつかの実施形態では、穀粒は、エアレスト中に通気に供される。好ましくは、湿った空気または湿潤酸素が、エアレスト中に穀粒中を通される。温度は、任意の好適な温度であり、好ましくは温度は、20~28℃に維持される。
【0023】
ビールなどの大麦系飲料の製造工程、特に、製麦過程を言い表すのに使用される過程に関連する用語の「大麦」は、大麦粒を意味する。他の全ての場合で、別段の指定がない限り、「大麦」は、大麦植物(Hordeum vulgare)を意味し、
任意の育種系統または栽培品種または変種を含み、一方、大麦植物の一部は、大麦植物の任意の部分、例えば、任意の組織または細胞であってよい。
【0024】
用語「異なるアミノ酸」は、標準遺伝子コードによりコードされる20アミノ酸の1つまたは複数などの、タンパク質を構成するアミノ酸を包含する。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語の「DP」または「重合の度合い」は、アミロペクチン側鎖中のα-1,4-結合グルコース単位の数を示す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「発酵性糖」は、微生物が利用できるまたは発酵させることができる任意の糖を指す。特に、発酵性糖は、単糖類、二糖類および短いオリゴ糖類であり、限定されないが、グルコース、フルクトース、マルトース、マルトトリオースおよびスクロースを含み、これらは、微生物、特に酵母またはラクトバクテリアにより発酵され、エタノールまたは乳酸を生成できる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「総発酵性糖」または「TFS」は、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトースおよびマルトトリオースを指す。従って、TFSの量は、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトースおよびマルトトリオースの総量である。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「限界デキストリナーゼ」は、酵素クラスEC3.2.1.142に属する糖加水分解酵素を表す。この酵素は、アミロペクチンおよびプルラン中の、アミロペクチンおよびグリコーゲンのα-およびβ-限界デキストリン中の1,6-α-D-グルコシド結合の加水分解を触媒するデンプン脱分枝酵素である。マッシング過程では、遊離限界デキストラナーゼの利用能は、特にデンプンが高度の分岐を有する場合に、デンプンからの発酵性糖の放出に影響を与えると予測される(例えば、Calum et al.2004 J Inst Brewing 110(4):284-296、を参照)。特に、限界デキストリナーゼは、ユニプロット受入番号Q9FYY0で入手可能な配列またはそれらと少なくとも90%、例えば、少なくとも95%の配列同一性を共有するその機能的ホモログのポリペプチドであり得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「限界デキストリナーゼ阻害剤」または「LDI」は、デンプン脱分枝酵素脱分枝酵素限界デキストリナーゼに結合し、その酵素作用を妨げるポリペプチドを表す。例えば、Y Stahl et al.2007 Plant Science 172(3):452-561、を参照。
【0030】
本明細書で使われる場合、用語「遊離限界デキストリナーゼ活性」または「遊離LD活性」は、限界デキストリナーゼ阻害剤により結合されない限界デキストリナーゼを意味する。限界デキストリナーゼおよび限界デキストリナーゼ阻害剤が複合体において一緒に結合されると、限界デキストリナーゼは、その酵素作用を実行できない。一方、限界デキストリナーゼ阻害剤に結合されない限界デキストリナーゼは、遊離状態であり、その酵素作用を実行できる。特に明記されない限り、用語「限界デキストリナーゼ活性」は、遊離限界デキストリナーゼ活性を指す。
【0031】
本明細書で使われる場合、用語「総限界デキストリナーゼ」は、限界デキストリナーゼ阻害剤に結合されていない遊離限界デキストリナーゼと、限界デキストリナーゼ阻害剤に結合されている不活化限界デキストリナーゼの両方を表す。従って、総限界デキストリナーゼは、限界デキストリナーゼの結合型および非結合型両方を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「糊化温度」は、その間にデンプンが熱の影響下にて水中でその半結晶構造を失いゲルを形成する、温度範囲のピーク温度を指す。好ましくは、糊化温度は、下記実施例4で記載のように決定される。特定の糊化温度を有する穀類への言及は、上記糊化温度でデンプンを含む穀類を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「発芽穀粒」は、目視可能な若葉を発生した穀粒を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語の「発芽開始」は、15%未満の含水量を有する大麦粒が十分な水と接触されて発芽を開始する時点を指す。
【0035】
用語「穀粒」は、内部種子とも呼ばれる、穀類穎花を含むと定義される。加えて、穀粒(kernel)は、外穎および内穎を含み得る。ほとんどの大麦品種では、外穎および内穎は、穎花に付着し、脱穀後に穀粒の一部である。しかし、裸麦品種も発生する。これらにおいて、穎花は、外穎および内穎を含まず、小麦の場合のように脱穀して自由に取り出せる。用語「穀粒(grain)」および「穀粒(kernel)」は本明細書で、同義に使用される。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「製麦」は、制御された環境条件下で起こる、穀物粒(特に、大麦粒)の制御された発芽を指す。いくつかの実施形態では、「製麦」は、例えばキルン乾燥により、上記発芽穀物粒を乾燥するステップをさらに含み得る。製麦過程は、例えばαアミラーゼおよび限界デキストリナーゼの加水分解酵素活性を誘導する。
【0037】
本明細書で使用される場合、用語の「麦芽」は、麦芽化されている穀物粒を指す。
【0038】
「マッシング」は、粉砕麦芽(例えば、緑麦芽またはキルン乾燥麦芽)および/または非発芽穀物粒の水中でのインキュベーションである。マッシングは好ましくは、特定の温度および特定の体積の水中で実施される。この過程は、糖類、オリゴおよびポリサッカライド、タンパク質および麦芽および/または穀粒の他の化合物の抽出を可能にし、ならびに抽出物中のオリゴおよびポリサッカライド(特に、デンプン)の発酵性糖への酵素加水分解を可能にする。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「ミスセンス変異」は、上記ヌクレオチド配列によりコードされたポリペプチド中で、ヌクレオチド配列中のアミノ酸から別のアミノ酸への変化を生ずる変異/複数変異を指す。
【0040】
「変異」は、遺伝子のコードおよび非コード領域中の、欠失、挿入、置換、塩基転換、および点変異を含む。欠失は、全体遺伝子でも、または遺伝子の一部分のみであってもよい。点変異は、1つの塩基対の変化に関し、未成熟停止コドン、フレームシフト変異、スプライス部位の変異またはアミノ酸置換を生じ得る。変異を含む遺伝子は、野生型遺伝子と比較される場合、「変異遺伝子」と呼ばれることもある。本発明では、変異遺伝子は一般に野生型遺伝子とは異なる配列を有するポリペプチドをコードし、上記ポリペプチドは、「変異ポリペプチド」と呼ばれることもある。変異ポリペプチドは、アミノ酸置換を含んでよく、このような置換は、例えば「位置nでアミノ酸XXXが、アミノ酸YYYに置換された」と記載でき、XXXは、野生型ポリペプチドの指定位置(n)のアミノ酸を表し、YYYは、2つの遺伝子が整列される場合、変異ポリペプチド中の同じ位置に存在するアミノ酸を表す。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「非極性アミノ酸」は、疎水性側鎖を有するアミノ酸を指す。好ましくは、非極性アミノ酸は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンからなる群より選択される。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語の「荷電アミノ酸」は、帯電した側鎖を有するアミノ酸を指す。好ましくは、荷電アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択される。負に帯電しているアミノ酸は好ましくは、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群より選択される。正に帯電しているアミノ酸は好ましくは、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンからなる群より選択される。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語の「負に帯電していないアミノ酸」は、負に帯電していない側鎖を有するアミノ酸を指す。好ましくは、負に帯電していないアミノ酸は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、リジン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セレノシステイン、グリシンおよびプロリンからなる群より選択される。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「極性アミノ酸」は、極性の非荷電側鎖を有するアミノ酸を指す。好ましくは、極性アミノ酸は、セリン、トレオニン、アスパラギンおよびグルタミンからなる群より選択される。
【0045】
用語「植物生成物」は、植物または植物性物質の処理から得られる生成物を意味する。上記植物生成物は従って、例えば、緑麦芽、キルン乾燥麦芽、麦汁、発酵または非発酵飲料、食品、または飼料製品であり得る。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「子孫」は、その祖先の植物として所与の植物を有する、任意の植物を指す。子孫は、所与の植物の直接の子孫を含むだけではなく、多数の世代後、例えば100世代まで後の子孫も含む。ある植物が所与の親植物の子孫であるかどうかを、上記植物がHvLDI遺伝子中に上記親植物と同じ変異を有するかどうかを決定することにより、決定し得る。HvLDI遺伝子中の変異に加えて、HvLDI遺伝子の近傍に位置する遺伝子中の追加の多型の存在が、ある植物が所与の親植物の子孫であるかどうかを決定するために使用され得る。同じ多型の存在は、その植物が上記親植物の子孫であることを示す。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「ループ領域」は、配列番号1の位置25~44のアミノ酸に対応する、配列番号1の位置56~62のアミノ酸に対応する、配列番号1の位置77~78のアミノ酸に対応する、配列番号1の位置91~111のアミノ酸に対応する、および/または配列番号1の位置124~147のアミノ酸に対応する、1種または複数の連続的アミノ酸群を指す。ループ領域は、ループ構造を形成し、これは、本明細書の下記のアルファヘリックス領域に結合する。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「アルファヘリックス領域」は、配列番号1の位置45~55のアミノ酸に対応する、配列番号1の位置63~76のアミノ酸に対応する、および配列番号1の位置79~90のアミノ酸に対応する、および/または配列番号1の位置112~123のアミノ酸に対応する、1種または複数の連続的アミノ酸群を指す。これらのアルファヘリックス領域は、ヘリカル構造を形成し得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「配列同一性」は、2つのアミノ酸配列間または2つのヌクレオチド配列間、すなわち、候補配列(例えば、変異体配列)と基準配列(例えば、野生型配列)の間のそれらのペアワイズアライメントに基づく関連性を表す。本発明では、2つのアミノ酸配列間の配列同一性は、EMBOSS package(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277,)、好ましくはバージョン5.0.0またはこれ以降(https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/で入手可能)のNeedleプログラムに実装されているNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mo/.Biol.48:443-453)を使って決定される。使用されるパラメーターは、10のギャップオープンペナルティ、0.5のギャップ延長ペナルティ、およびEBLOSUM62(EMBOSSバージョン 30 BLOSUM62)置換マトリックスである。「最長同一性」と標識されたNeedle出力(-nobriefオプションを使用して得られる)が、パーセント同一性として使用され、次のように計算される:
(同一残基x100)/(アラインメントの長さ-アラインメント中のギャップの総数)
【0050】
Needleman-Wunschアルゴリズムはまた、基準配列以外の配列中の所与のアミノ酸(例えば、配列番号1の天然バリアントまたはハロタイプ)が、配列番号1(基準配列)の所与の位置に対応するかどうかを決定するためにも使用される。例えば、天然バリアントがN末端中に2つの追加のアミノ酸を有する場合、天然バリアント中の位置70は、配列番号1の位置68に対応する。
【0051】
本発明では、2つのヌクレオチド配列間の配列同一性は、EMBOSS package(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277,)、好ましくはバージョン5.0.0またはこれ以降のNeedleプログラムに実装されているNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970、前出)を使って決定される。使用されるパラメーターは、10のギャップオープンペナルティ、0.5のギャップ延長ペナルティ、およびDNAFULL(EMBOSSバージョンNCBI NUC4.4)置換マトリックスである。「最長同一性」と標識されたNeedle出力(-nobriefオプションを使用して得られる)が、パーセント同一性として使用され、次のように計算される:
(同一デオキシリボヌクレオチドx100)/(アラインメントの長さ-アラインメント中のギャップの総数)。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語の「デンプン」は、個別の高分子:アミロースおよびアミロペクチンの片方または両方の組成物を指す。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語の「停止コドン」は、mRNA内で遺伝コード中の翻訳を終止させる、三つ組みヌクレオチドを指す。本明細書で使用される場合、用語の「停止コドン」はまた、mRNA中で停止コドンをコードする遺伝子内の三つ組みヌクレオチドを指す。DNA中の停止コドンは典型的に、次の配列:TAG、TAAまたはTGAの1つを有する。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「野生型HvLDI」または「wt HvLDI」は、野生型大麦限界デキストリナーゼ阻害剤遺伝子または上記遺伝子によりコードされるポリペプチドを指す。天然では、HvLDIのいくつかのハプロタイプが存在し、これは野生型LDIとみなされる。これらもまた、配列番号1のHvLDI基準配列の天然バリアントとして記載できる。従って、用語「野生型HvLDI」は、Huang et al.2014により記載されるものを含む、一群の野生型HvLDIを包含する。
【0055】
用語「麦汁」は、粉砕麦芽および/または粉砕穀物粒などの麦芽および/または穀物粒ならびに任意追加の補助剤の液体抽出物を意味する。麦汁は通常、マッシングにより、続いて任意選択で、温水でマッシング後に残留糖および他のビール粕からの化合物を抽出する工程での、「スパージング」により得られる。スパージングは通常、麦芽汁濾過機、マッシュフィルター、または抽出した水のビール粕からの分離を可能にする別の装置で実施される。マッシング後に得られる麦汁は通常、「第一麦汁」と呼ばれ、一方スパージング後に得られる麦汁は通常、「第二麦汁」と呼ばれる。指定されない場合、用語の麦汁は、第一麦汁、第二麦汁、または両者の組み合わせであり得る。従来のビール製造中に、麦汁はホップと一緒に煮沸される。ホップのない麦汁はまた、「甘い麦汁」と呼ばれることもあり、一方ホップと共に煮沸された麦汁は、「煮沸麦汁」または単に麦汁と呼ばれることもある。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「千粒重」は、1千(1000)個の穀粒の総重量を指す。
【0057】
限界デキストリナーゼ阻害剤(LDI)
本発明は、大麦植物またはその一部を提供し、上記大麦植物は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有し、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードする。
【0058】
野生型Hordeum vulgare限界デキストリナーゼ阻害剤(HvLDI)のコーディングヌクレオチド配列は、受入番号DQ285564.1により入手可能である。HvLDIのコーディングヌクレオチド配列は、本明細書でも配列番号2として提供される。当業者なら、他の野生型大麦植物が配列番号2とは異なる配列を有するHvLDI遺伝子を含むことを理解するであろう。これらもまた、配列番号2のHvLDI基準配列の天然バリアントとして記載できる。
【0059】
HvLDIポリペプチドは、受入番号Q2V8X0により入手可能である。本発明の場合における野生型HvLDIポリペプチドは、配列番号1または配列番号1と少なくとも90%、例えば93%、例えば95%、例えば98%の配列同一性を共有する配列を有するポリペプチドであり、上記配列は、少なくとも配列番号1の位置60および68に対応するアミノ酸、すなわち、それぞれ、プロリンおよびグルタミン酸を含む。換言すれば、配列番号1のアミノ酸60および68に対応するアミノ酸は、野生型HvLDIで保存される。
【0060】
本発明のポリペプチドに対するアミノ酸の位置の特定は、基準配列としての配列番号1との関係で行われるが、本発明のポリペプチドの配列は、配列番号1のポリペプチド配列とはある程度異なる場合があることは理解されよう(例えば、野生型HvLDIの定義を参照されたい)。従って、上記ポリペプチドと配列番号1の参照ポリペプチドの間で整列後に、あるアミノ酸は、それが同じ位置に整列される場合、配列番号1の位置に対応する。
【0061】
表1A/1Bは、配列番号1の所与の位置での天然野生型バリアントを示す。例えば、配列番号1の位置108は、Argであり、WT ハロタイプ2は、位置108に対応する位置にThrを有する。
【表1】
【表2】
【0062】
本明細書の上記表1Aおよび1Bに挙げた置換を有する配列番号1のポリペプチドは、本発明の場合には全て、野生型HvLDIポリペプチドと考えられる。
【0063】
本発明の一実施形態では、本発明の変異体HvLDIポリペプチドは、位置60および/または68でのアミノ酸を除いて、配列番号1と少なくとも90%同一、例えば95%同一、例えば98%同一、例えば100%同一である。
【0064】
LDIの提案された構造は、Stahl et al.2004 and Moller et al.2015、に記載される。LDIは、シグナルペプチドおよび4つのアルファヘリックス領域からなると考えられ、アルファヘリックス領域はループ領域により接合される。ループ領域は、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択され得る。アルファヘリックス領域は、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択され得る。シグナルペプチドは、配列番号1の1~24のアミノ酸に対応する。
【0065】
さらに、シグナルペプチドを含まない成熟HvLDIポリペプチドはまた、配列番号1の位置1~24に対応するアミノ酸を含まない表1Aおよび1B中の全てのポリペプチドを含み、野生型HvLDIとみなされる。特に、配列番号1の位置1~24のアミノ酸を含まない配列番号1の成熟ポリペプチドは、野生型HvLDIとみなされる。換言すれば、配列番号1の25~147のアミノ酸からなるからなるポリペプチドは、野生型HvLDIとみなされる。
【0066】
シグナルペプチドを含まない成熟HvLDIポリペプチドのアミノ酸は、配列番号1のHvLDIのアミノ酸に関連して記載できる。従って、成熟HvLDIポリペプチドのアミノ酸位置は、配列番号1のアミノ酸位置から24アミノ酸を差し引くことにより、配列番号1のアミノ酸位置に基づき計算できる。これは例えば、Moller et al.2015で使用されるアミノ酸位置を有するケースである。
【0067】
これに関する1例は、配列番号1のHvLDIポリペプチドの位置60のアミノ酸は、成熟HvLDIポリペプチドの位置36のアミノ酸に対応することである。これに関する別の例は、配列番号1のHvLDIポリペプチドの位置66のアミノ酸は、成熟HvLDIポリペプチドの位置42のアミノ酸に対応することである。これに関する別の例は、配列番号1のHvLDIポリペプチドの位置68のアミノ酸は、成熟HvLDIポリペプチドの位置44のアミノ酸に対応することである。
【0068】
野生型HvLDI遺伝子は、野生型HvLDIポリペプチドをコードする遺伝子である。特に、野生型HvLDI遺伝子は、配列番号2のヌクレオチド配列またはそれらと少なくとも90%、例えば、少なくとも93%、例えば、少なくとも95%、例えば、少なくとも98%の配列同一性を共有するその機能的ホモログのヌクレオチド配列であり得る。
【0069】
好ましくは、野生型HvLDI遺伝子は、配列番号2と少なくとも90%、例えば93%、例えば95%、例えば98%の配列同一性を共有するHvLDIポリペプチドをコードする遺伝子であり、上記配列は少なくとも、配列番号2の位置966および990の核酸、すなわちそれぞれCおよびG、を含む。より具体的には、野生型HvLDI遺伝子によりコードされるポリペプチドは好ましくは、配列番号1のアミノ酸位置60にプロリンおよび配列番号1のアミノ酸位置68でグルタミン酸を含む。
【0070】
本発明は、大麦植物またはその一部を提供し、上記大麦植物は、HvLDI遺伝子中に変異を有し、上記変異HvLDI遺伝子は 変異体HvLDIポリペプチドをコードし、変異は、次の変異の1つである:
a.HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
b.野生型HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
【0071】
一実施形態では、上記変異体HvLDIポリペプチドは、指定位置の変異は別にして、成熟野生型HvLDIポリペプチドまたはその天然バリアントと同一である。
【0072】
本発明はまた、大麦植物またはその一部を提供し、上記大麦植物は、HvLDI遺伝子中に下記からなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する:
a.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置で、ヌクレオチドCからAへの変異;および
b.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド967に対応する位置で、ヌクレオチドCからTへの変異;および
c.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド968に対応する位置で、ヌクレオチドCからTへの変異;および
d.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド990に対応する位置で、ヌクレオチドGからAへの変異。
【0073】
プロリンから異なるアミノ酸への変化を生じるミスセンス変異
本発明のいくつかの実施形態では、変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への置換を含む。プロリンの置換は、極性アミノ酸または非極性アミノ酸への置換であってよい。特に、それは、プロリンのセリンまたはロイシンへの置換であってよい。プロリンの置換は、配列番号1の位置60に対応するアミノ酸の位置であることが好ましい。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への置換を含み、ループ領域は、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される。
【0075】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、ループ領域は、配列番号1の位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸からなる群より選択される。
【0076】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、野生型HvLDIの1つまたは複数のループ領域中に、プロリンの極性アミノ酸への置換を含む。
【0077】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置60に対応するアミノ酸の位置でプロリンの異なるアミノ酸への置換を含む。
【0078】
別の実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のループ領域中にプロリンのセリンへの置換を含む。
【0079】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置60に対応するアミノ酸の位置でプロリンのセリンへの置換を含む。
【0080】
一実施形態では、本発明の変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号3の位置25~142または配列番号3の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、野生型HvLDIの1つまたは複数のループ領域中に、プロリンの非極性アミノ酸への置換を含む。
【0082】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のループ領域中に、プロリンのロイシンへの置換を含む。
【0083】
別の実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置60に対応するアミノ酸の位置でプロリンのロイシンへの置換を含むことが好ましい。
【0084】
一実施形態では、本発明の変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号4の位置25~142または配列番号4の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0085】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド966に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異を含む。
【0086】
別の実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド967に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異を含む。
【0087】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド966および967に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異を含む。
【0088】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド966および/または968に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異を含む。
【0089】
一実施形態では、本発明の大麦植物は、配列番号1のPro60Ser変異を有する変異体HvLDIタンパク質をコードする変異体HvLDI遺伝子を含む。例えば、大麦植物は、配列番号2のHvLDIコード配列のヌクレオチド966のC→T変異を有する変異体HvLDI遺伝子を含み得る。上記大麦植物は例えば、HENZ-16aまたはその子孫であり得る。HENZ-16aはまた、本明細書で「HENZ-16」と呼ばれることもある。例えば、大麦植物は、実施例1で記載のように特定されたHENZ-16a大麦植物またはその子孫であり得る。
【0090】
本特許出願において、「HENZ-16」と命名された(本明細書では「HENZ-16a」とも称される)大麦植物(Hordeum vulgare)の種子は、ブダペスト条約に基づきNCIMB Ltd.Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,AB21 9YA Scotlandに寄託された。HENZ-16大麦植物は、2020年2月12日に寄託され、受入番号NCIMB43581を受けた。
【0091】
一実施形態では、本発明の大麦植物は、2020年2月12日にNCIMBに受入番号NCIMB43581で寄託され、「HENZ-16」と呼ばれる大麦植物(Hordeum vulgare)、またはその子孫である。従って、本発明の大麦植物は、2020年2月12日にNCIMBに寄託された受入番号NCIMB43581を有する大麦植物HENZ-16またはその任意の子孫大麦植物であり、子孫大麦植物は、配列番号2のHvLDIコード配列のヌクレオチド966のC→T変異を有し、および/または上記大麦植物のHvLDI遺伝子は、配列番号1のPro60Ser変異を含む変異体HvLDIタンパク質をコードする。
【0092】
負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生じるミスセンス変異
本発明のいくつかの実施形態では、変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中の、負に帯電しているアミノ酸の負に帯電していないアミノ酸への置換を含む。負に帯電しているアミノ酸の置換は、正に帯電しているアミノ酸への置換であり得る。特に、それは、負に帯電しているアミノ酸のリジンへの置換であり得る。負に帯電しているアミノ酸の置換は、配列番号1の位置68に対応するアミノ酸の置換であることが好ましい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中の負に帯電しているアミノ酸の負に帯電していないアミノ酸への置換を含む。一実施形態では、上記負に帯電しているアミノ酸は、グルタミン酸である。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中の、負に帯電しているアミノ酸の正に帯電しているアミノ酸への置換を含む。一実施形態では、上記負に帯電しているアミノ酸は、グルタミン酸である。
【0095】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中の負に帯電しているアミノ酸のリジンへの置換を含む。一実施形態では、上記負に帯電しているアミノ酸は、グルタミン酸である。
【0096】
いくつかの実施形態では、アルファヘリックス領域は、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される。
【0097】
別の実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置68のアミノ酸に対応するグルタミン酸の負に帯電していないアミノ酸への置換を含む。
【0098】
さらに別の実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置68のアミノ酸に対応するグルタミン酸のリジンへの置換を含む。
【0099】
一実施形態では、本発明の変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号6の位置25~142または配列番号6の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる。
【0100】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド990に対応する位置でヌクレオチドGのAへの変異を含む。
【0101】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド966に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異、およびヌクレオチド990に対応する位置でヌクレオチドGのAへの変異を含む。
【0102】
一実施形態では、上記変異HvLDI遺伝子は、配列番号2のHvLDIリファレンス遺伝子のヌクレオチド967に対応する位置でヌクレオチドCのTへの変異、およびヌクレオチド990に対応する位置でヌクレオチドGのAへの変異を含む。
【0103】
一実施形態では、本発明の大麦植物は、配列番号1のGlu68Lys変異を有する変異体HvLDIタンパク質をコードする変異体HvLDI遺伝子を含む。例えば、大麦植物は、配列番号2のHvLDIコード配列のヌクレオチド990のG→A変異を有する変異体HvLDI遺伝子を含み得る。上記大麦植物は例えば、HENZ-31またはその子孫であり得る。例えば、大麦植物は、実施例1で記載のように特定されたHENZ-31大麦植物またはその子孫であり得る。
【0104】
本特許出願において、「HENZ-31」と命名された大麦植物(Hordeum vulgare)の種子は、ブダペスト条約に基づきNCIMB Ltd.Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,AB21 9YA Scotlandに寄託された。HENZ-31大麦植物は、2020年2月12日に寄託され、受入番号NCIMB43582を受けた。
【0105】
一実施形態では、本発明の大麦植物は、2020年2月12日にNCIMBに受入番号NCIMB43582で寄託され、「HENZ-31」と呼ばれる大麦植物(Hordeum vulgare)、またはその子孫である。従って、本発明の大麦植物は、2020年2月12日にNCIMBに寄託された受入番号NCIMB43582を有する大麦植物HENZ-31またはその任意の子孫大麦植物であり、子孫大麦植物は、配列番号2のHvLDIコード配列のヌクレオチド990のG→A変異を有し、および/または上記大麦植物のHvLDI遺伝子は、配列番号1のGlu68Lys変異を含む変異体HvLDIタンパク質をコードする。
【0106】
HvLDI活性
本明細書で上記したように、HvLDIは、HvLDに結合でき、これによりHvLDの活性を阻害する。活性HvLDは、分岐デキストリン分子中のα-1-6結合を切断できる。
【0107】
インビトロでHvLDを阻害するHvLDIの能力は、当業者に既知の任意の有用な方法により測定できる。このような方法のために、組換えHvLDおよびHvLDIは、既知の方法により製造でき、または標準的供給業者から購入できる。HvLDとHvLDIの間の結合親和性を評価するための商業的に入手可能なアッセイは例えば、Megazyme,Irelandのプルラナーゼ/限界デキストリナーゼアッセイキットである。
HvLDIとHvLDの間の結合親和性を測定するための好ましいインビトロ法は、実施例2で記載される。本発明による変異を有する変異体HvLDIポリペプチドは、実施例2のアッセイにより評価される場合HvLDを阻害する低下された能力を有する。
【0108】
本発明による変異を有する変異体HvLDIポリペプチドは好ましくは、インビトロで測定される場合、HvLDを阻害する野生型HvLDIの能力に比べて、HvLDを阻害する少なくとも3倍低減された能力などの、HvLDを阻害する少なくとも2倍低減された能力を有する。本発明の一実施形態では、変異HvLDIは、インビトロで測定される場合、HvLD活性を完全に阻害できない。
【0109】
本発明の一実施形態では、本発明によるHvLDI遺伝子中の変異は、野生型HvLDI遺伝子と比較した場合、遊離HvLD活性を増大させる。
【0110】
大麦植物
本発明は、大麦植物、またはその一部、ならびに大麦製品、およびこれらを製造する方法に関する。大麦植物は、任意の育種系統または栽培品種または変種を含む、種Hordeum vulgareの任意の植物であり得る。
【0111】
「野生大麦」であるHordeum vulgare亜種のホルデウム・スポンタネウムは、大麦の今日の栽培品種の祖先と考えられる。栽培植物化されているが、大麦の不均一な混合物は、大麦在来種と呼ばれる。今日では、ほとんどの在来種は、先進農業では純系栽培品種により置き換えられている。在来種と比較して、最近の大麦栽培品種は、多くの改善された特性を有する(Nevo,1992;Pelger et al.,1992)。
【0112】
本発明中では、用語「大麦植物」は、大麦在来種または最近の大麦栽培品種などの任意の大麦植物を含む。従って、本発明は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を含む任意の大麦植物に関する。
【0113】
しかし、本発明での使用のために好ましい大麦植物は、最近の大麦栽培品種または純系である。本発明で使用できる大麦栽培品種の非限定例としては、例えば、Paustian、Sebastian、Quench、Celeste、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、Asahi 5、KOU A、Swan Hals、Kanto Nakate Gold、Hakata No.2、Kirin-choku No.1、Kanto late Variety Gold、Fuji Nijo、New Golden、Satukio Nijo、Seijo No.17、Akagi Nijo、Azuma Golden、Amagi Nijpo、Nishino Gold、Misato golden、Haruna Nijo、Scarlett、RosalinaおよびJerseyが挙げられ、好ましくは、Haruna Nijo、Sebastian、Quench、Celeste、Lux、Prestige、Saloon、NerudaおよびPowerが挙げられ、好ましくは、Paustian、Harrington、Klages、Manley、Schooner、Stirling、Clipper、Franklin、Alexis、Blenheim、Ariel、Lenka、Maresi、Steffi、Gimpel、Cheri、Krona、Camargue、Chariot、Derkado、Prisma、Union、Beka、Kym、Asahi 5、KOU A、Swan Hals、Kanto Nakate Gold、Hakata No.2、Kirin-choku No.1、Kanto late Variety Gold、Fuji Nijo、New Golden、Satukio Nijo、Seijo No.17、Akagi Nijo、Azuma Golden、Amagi Nijpo、Nishino Gold、Misato golden、Haruna Nijo、ScarlettおよびJerseyが挙げられ、好ましくは、Planet、Paustian、Haruna Nijo、Sebastian、Tangent、Lux、Prestige、Saloon、Neruda、Power、Quench、NFC Tipple、Barke、Class、Vintage、Applaus、Bowie、Broadway、Champ、Chanson、Charles、Chimbon、Cosmopolitan、Crossway、Dragoon、Ellinor、Embrace、Etoile、Evergreen、Flair、Highway、KWS Beckie、KWS Cantton、KWS Coralie、KWS Fantex、KWS Irina、KWS Josie、KWS Kellie、LG Diablo、LG Figaro、LG Nabuco、LG Tomahawk、Laureate、Laurikka、Lauxana、Luther、Odyssey、Ovation、Prospect、RGT Elysium、RGT Observer、RGT Planet、Rotator、Sarbi、Scholar、SubwayまたはGolden Promiseが挙げられる。
【0114】
大麦植物は、任意の好適な形態であってよい。例えば、本発明による大麦植物は、生存可能大麦植物、乾燥植物、ホモジナイズした植物、または粉砕大麦粒であり得る。植物は、成熟植物、胚芽、穀粒、発芽穀粒、麦芽化穀粒、粉砕麦芽化穀粒、粉砕穀粒、などであり得る。
【0115】
大麦植物の部分は、穀粒、胚芽、葉、茎、根、花、またはそれらの一部などの任意の好適な部分であり得る。分割量は、例えば、穀粒、胚芽、葉、茎、根、花、の断片であり得る。大麦植物の部分はまた、ホモジネートの一部、または粉砕大麦植物または穀粒の一部であり得る。
【0116】
本発明の一実施形態では、大麦植物の部分は、上記大麦植物の、組織培養物中にインビトロで増殖され得る生存細胞などの、細胞であり得る。他の実施形態では、しかし、大麦植物の部分は、完全な大麦植物に成熟できない生存細胞、すなわち生殖物質ではない細胞であり得る。
【0117】
大麦植物は、基本的に生物学的過程により得られる、またはその子孫であるとは限らない。例えば、大麦植物は、HvLDI遺伝子中に変異を含み、上記変異は、アジ化ナトリウムなどの化学的および/または物理的薬剤により誘導されている。
【0118】
従って、大麦植物は、誘導された変異誘発のステップを含む方法により調製されている、または上記大麦植物は、誘導された変異誘発のステップを含む方法により調製された植物の子孫であり得る。上記誘導された変異誘発は例えば、アジ化ナトリウムなどの変異誘発化学薬品での処理であり得る。
【0119】
大麦植物はまた、例えばプラスミドまたは遺伝的組換え技術またはCrisper/Cas-9技術を用いて、変異HvLDI遺伝子を宿主ゲノム中に挿入することにより、遺伝子工学技術により調製された大麦植物であってもよい。好ましくは、野生型HvLDI遺伝子は、このような植物中でノックアウトされている。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態では、大麦植物、またはその一部は、本発明によるHvLDI遺伝子中に変異を有する。
【0121】
HvLDI遺伝子中の変異に加えて、大麦植物は、他の変異を含んでもよい。
【0122】
HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物の特性
本発明は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物またはその一部を提供し、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードする。
【0123】
このような大麦植物の1つの大きな利点は、本発明による上記大麦植物の穀粒が野生型HvLDI遺伝子を有する大麦植物に比べて、増大した遊離HvLD活性を有することである。さらに、このような大麦粒から調製された麦芽はまた、より高いレベルの遊離HvLD活性を有する。意外にも、増大した遊離HvLD活性は、上記大麦植物の穀粒から調製された麦汁中の発酵性糖の濃度と強く関連し、一方で低い、または通常のレベルの遊離HvLD活性を有する大麦粒から調製された麦汁は一般に、低いまたは通常濃度の発酵性糖を有する。従って、増大した遊離HvLD活性は、大麦麦汁およびビール生産にとって有利な形質である。
【0124】
大麦中の遊離HvLDの量は、当業者に既知の任意の有用な方法により測定できる。典型的には、第1のステップは、1つまたは複数の大麦粒を、例えば機械的な手段により粉砕して、大麦粉を得るステップである。これは、任意の有用な手段により、例えば、液圧プレスおよび/または磨砕機の使用および/または粉砕機により実施され得るが、機械的な粉砕の正確な方法は、それほど重要ではない。
【0125】
遊離HvLD活性を測定するための有用な方法の非限定的な一例は、得られた粉末を酸性の水溶液中で、例えば、pH4.7のマレイン酸中、40℃で1時間、抽出することであり得る。遊離HvLD活性は、MegazymeによるPullG6法により分析され得る。
大麦中の遊離HvLD活性を測定する好ましい方法は、実施例7に記載される。
【0126】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する上記大麦植物、またはその一部は、同じ条件下で培養される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である、大麦植物、またはその一部に比べて、より高い遊離HvLD活性を有する。
【0127】
本発明の一実施形態では、本発明の大麦植物またはその一部、または本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物の穀粒から調製された発芽穀粒または麦芽は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽中で測定される遊離HvLD活性に比べて、少なくとも20%高い遊離HvLD活性を有する。いくつかの実施形態では、上記遊離HvLD活性は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽で測定される遊離HvLD活性に比べて、少なくとも50%高い、例えば少なくとも100%高い、例えば少なくとも140%高い。一実施形態では、上記穀粒は、測定の前に、72時間発芽された。
【0128】
総HvLD活性は、任意の有用な方法により測定され得る。典型的には、このような方法は、LDIとLDの間の結合の破壊とそれに続くLD活性の測定条件下でのインキュベーションを含む。非限定的総HvLD測定方法の一例は、得られた粉末をジチオトレイトールなどのレドックス試薬中で、例えば、pH4.7下、40℃で1時間、抽出することであり得る。HvLD活性の量はその後、上述のように分析され得る。レドックス試薬とのインキュベーション後に測定されたHvLD活性は、総HvLD活性を反映する。総HvLD活性を測定する好ましい方法は、実施例7に記載される。
【0129】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する上記大麦植物、またはその一部は、同じ条件下で培養される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有し、それ以外は同じ遺伝子型である、大麦植物、またはその一部に比べて、より高い総HvLD活性に対する遊離HvLD活性の比率を有する。総HvLDに対する遊離HvLDの比率は、遊離/総(%)として提供され得る。
【0130】
本発明の別の実施形態では、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物またはその一部、または発芽穀粒もしくはその麦芽は、同じ条件下で調製される場合、配列番号1のHvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽で測定される遊離/総%HvLD活性と比較して、少なくとも20%高い遊離/総%HvLD活性を有する。いくつかの実施形態では、上記遊離/総%HvLD活性は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するが、それ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽で測定される遊離/総%HvLD活性に比べて、少なくとも30%高い、例えば、少なくとも40%高い、例えば、少なくとも50%高い。
【0131】
本発明の一実施形態では、遊離限界デキストリナーゼと総限界デキストリナーゼの間の比率は、フレックスモルト麦芽化穀粒で少なくとも35%および従来法麦芽化穀粒(例えば、キルン乾燥麦芽)で少なくとも60%である。
【0132】
本発明の大麦植物は通常、HvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物と同等の物理的外観および穀粒収率を有する。従って、本発明の大麦植物の穀粒はまた一般に、同一条件下で培養された同じ遺伝子型の野生型大麦植物の穀粒と同等の糊化温度、αアミラーゼ活性、βアミラーゼ活性、アミロペクチン鎖長分布、重量、サイズ、タンパク質含量、含水量、およびデンプン含量を有する。
【0133】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じ発芽能力を有する。例えば、一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ遺伝子型の、類似のまたは同じ条件下で調製された野生型大麦植物からの穀粒に比べて、実質的に同じ、式10*(x+y+z)/(x+2*y+3*z)を用いて3日の期間にわたり計算される発芽インデックスを有する。式中、xは、24時間で計数された発芽穀粒の数であり、yは、48時間で計数された発芽穀粒の数であり、zは、72時間で計数された発芽穀粒の数である。別の実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ遺伝子型の、類似のまたは同じ条件下で調製された野生型大麦植物からの穀粒に比べて、実質的に同じ、24時間での穀粒の総量に対する24時間で計数された発芽穀粒の数を用いて、48時間での穀粒の総量に対する48時間で計数された発芽穀粒の数を用いて、72時間での穀粒の総量に対する72時間で計数された発芽穀粒の数を用いて、計算された24時間、48時間および72時間での発芽パーセンテージを有する。例えば、さらに別の実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ遺伝子型の、類似のまたは同じ条件下で調製された野生型大麦植物からの穀粒の感水性に比べて、実質的に同じ、72時間の8mlの液体を用いたインキュベーション後の発芽穀粒を、72時間の4mlの液体を用いたインキュベーション後の発芽穀粒と比較して計数することにより測定される、感水性を有する。
【0134】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じ糊化温度(℃)を有する。例えば、一実施形態では、本発明は、大麦植物の穀粒を提供し、上記穀粒のデンプンは、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された、大麦植物の穀粒のデンプンの平均糊化温度に類似である、平均糊化温度を有する。
【0135】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じαアミラーゼ活性を有する。一実施形態では、本発明は、大麦植物の穀粒を提供し、上記穀粒のαアミラーゼ活性は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒のαアミラーゼ活性に類似である。別の実施形態では、本発明は、大麦植物の穀粒から調製される麦芽を提供し、上記麦芽のαアミラーゼ活性は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒から調製された麦芽のαアミラーゼ活性に類似である。
【0136】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じβアミラーゼ活性を有する。一実施形態では、本発明は、大麦植物の穀粒を提供し、上記穀粒のβアミラーゼ活性は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒のβアミラーゼ活性に類似である。別の実施形態では、本発明は、大麦植物の穀粒から調製される麦芽を提供し、上記穀粒のβアミラーゼ活性は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒から調製された麦芽のβアミラーゼ活性に類似である。
【0137】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じアミロペクチン鎖長分布を有する。例えば、一実施形態では、本発明は、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒のアミロペクチンに比べて、同じアミロペクチン鎖長分布を有するアミロペクチンを含み得る。
【0138】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じ重量を有する。特に、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の平均粒重に比べて、同じ平均粒重を有し得る。
【0139】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、少なくとも40グラム、例えば少なくとも45グラム、例えば少なくとも50グラム、例えば少なくとも55グラムの千粒重を有する。
【0140】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するが、その他は同じ遺伝子型である、大麦植物の穀粒の千粒重に比べて、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%の千粒重を有する。
【0141】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、少なくとも40グラム、例えば少なくとも45グラム、例えば少なくとも50グラム、例えば少なくとも55グラムの重量を有する。
【0142】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するが、その他は同じ遺伝子型である、大麦植物からの穀粒に比べて、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%の粒重を有する。
【0143】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じサイズを有する。好ましくは、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒の粒径に比べて、同じ粒径を有し得る。
【0144】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じタンパク質含量を有する。好ましくは、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒のタンパク質含量に比べて、同じタンパク質含量を有し得る。
【0145】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じ含水量を有する。一実施形態では、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒の含水量に比べて、同じ含水量を有し得る。
【0146】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒に比べて、実質的に同じデンプン含量を有する。例えば、一実施形態では、本発明の大麦植物の穀粒は、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒中のデンプンに同等であるデンプンを含む得る。
【0147】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、少なくとも50%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%のデンプン含量(乾燥重量%)を有する。
【0148】
一実施形態では、本発明による大麦植物の穀粒は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するが、その他は同じ遺伝子型である、大麦植物の穀粒に比べて、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%のデンプン含量を有する。
【0149】
一実施形態では、本発明による大麦植物は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有しない大麦植物の穀粒収率と同等である穀粒収率を有する。例えば、本発明の大麦植物は、一実施形態では、上記変異を含まないが、それ以外は同じであり、かつ類似のまたは同じ条件下で育成された大麦植物の穀粒収率に比べて、類似の穀粒収率を含み得る。
【0150】
一実施形態では、本発明による大麦植物は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するが、その他は同じ遺伝子型である、大麦植物の穀粒収率に比べて、少なくとも80%、例えば90%、例えば95%の穀粒収率を有する。
【0151】
2つ以上の変異を含む大麦植物
本発明は、大麦植物、またはその一部、ならびに上記大麦植物の生成物およびこれらを製造する方法に関し、大麦植物は、HvLDI遺伝子中に変異、例えば本明細書で記載のHvLDI遺伝子中のいずれかの変異を有する。
【0152】
HvLDI遺伝子中の上記変異に加えて、本発明の大麦植物は、1つまたは複数の追加の遺伝子中に1つまたは複数の追加の変異をさらに含み得る。
【0153】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、機能的LOX-1の完全喪失をもたらす、リポキシゲナーゼ-1(LOX-1)(WO2005/087934中の配列番号1またはジェンバンク受入番号LC099006.1)をコードする遺伝子中の変異も含み得る。上記変異は、例えばWO2005/087934に記載のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、未成熟停止コドンを含むLOX-1をコードする遺伝子を含み得、上記コドンは、WO2005/087934の配列番号2の塩基番号3572~3574またはスプライス部位変異に対応し、上記変異は、WO2005/087934の配列番号2の塩基番号2311に対応する。LOX-1の機能喪失は、このような大麦植物を用いて製造した飲料中の遊離トランス-2-ノネナール(T2N)の量を減少させる。好ましくは、T2Nは、4~6ppmの範囲の亜硫酸塩の存在下で、37℃で4週間のインキュベーション後、多くても0.05ppbである。
【0154】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、機能的LOX-2の完全喪失をもたらす、リポキシゲナーゼ-2(LOX-2)をコードする遺伝子中の変異も含み得る。上記変異は例えば、WO2010/075860に記載のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、未成熟停止コドンの形成をもたらす、WO2010/075860の配列番号1のヌクレオチド位置2689での変異を含むLOX-2をコードする遺伝子を含み得る。LOX-2の機能の喪失は、このような大麦植物を用いて製造した飲料中の遊離トランス-2-ノネナール(T2N)の量を減少させ、特に、このような大麦植物を用いて製造された飲料中の潜在的なT2Nの量を減少させる。
【0155】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、機能的MMTの完全喪失をもたらす、メチオニンS-メチルトランスフェラーゼ(MMT)(WO2010/063288中の配列番号1またはジェンバンク受入番号AB028870)をコードする遺伝子中の変異も含み得る。上記変異は例えば、WO2010/063288に記載のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、WO2010/063288の配列番号3の塩基番号3076のG→A変異を含むMMTをコードする遺伝子またはWO2010/063288の配列番号16の塩基番号1462のG→A変異を含むMMTをコードする遺伝子を含み得る。MMTの機能の喪失は、緑麦芽およびキルンドモルトならびにこのような麦芽から作られたジメチルスルフィド(DMS)の量を低減させる。好ましくは、MMT機能喪失大麦植物から調製される飲料は、30ppm未満のDMSを含む。MMTの機能喪失はまた、緑麦芽およびキルンドモルトの両方、ならびにこのような麦芽から作られた飲料中のS-メチル-L-メチオニン(SMM)の量を低減させる。好ましくは、MMT機能喪失大麦植物から調製される飲料は、30ppm未満のSMMを含む。
【0156】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、セルロースシンターゼ様F6(CslF6)(WO2019/129736中の配列番号1またはジェンバンク受入番号EU267181.1)をコードする遺伝子中の変異も含み得、上記変異遺伝子は、低減されたCslF6活性を有する変異体CslF6タンパク質をコードする。上記変異は例えば、WO2019/129736に記載のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、WO2019/129736の配列番号1または配列番号3のG847E変異またはG748D変異またはT709I変異を含む変異体CslF6をコードするCslF6コード遺伝子を含み得る。低減されたCslF6活性を有する大麦粒は、低減された(1,3;1,4)-β-グルカン含量を有する。麦芽中の高い(1,3;1,4)-β-グルカン含量は、醸造所で濾過処理を遅らせる高粘稠水溶液を形成し、最終飲料中の望ましくない濁りの一因となる場合がある。
【0157】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、WO2019/129739に記載の増大したαアミラーゼ活性をもたらすいずれかの変異も含み得る。特に、本発明の大麦植物は、HRT機能の喪失をもたらすHordeum転写リプレッサー(HvHRT)遺伝子(WO2019/129739の配列番号1または受入番号AK362734.1)中の変異を含み得る。HvHRT遺伝子中の上記変異は例えば、WO2019/129739に記載のHvHRT遺伝子中のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、未成熟停止コドンを含むHRTをコードする遺伝子を含み得る。HvHRT遺伝子の上記変異は例えば、WO2019/129739の配列番号1のHvHRTコード配列のヌクレオチド1293のG→A変異であるか、および/または、それは、上記大麦植物の変異体HvHRT遺伝子がWO2019/129739の配列番号2のW431stop変異を含む変異体HvHRTタンパク質をコードする、変異であり得る。HvHRT遺伝子の上記変異はまた例えば、WO2019/129739の配列番号1のHvHRTコード配列のヌクレオチド510のG→A変異であるか、および/または、変異体HvHRT遺伝子がWO2019/129739の配列番号2のW170stop変異を有する変異体HvHRTタンパク質をコードする、変異であり得る。HvHRT遺伝子の上記変異はまた例えば、WO2019/129739の配列番号1のHvHRTコード配列のヌクレオチド1113のG→A変異であるか、および/または、それは、上記大麦植物の変異体HvHRT遺伝子がWO2019/129739の配列番号2のW371stop変異を含む変異体HvHRTタンパク質をコードする、変異であり得る。HvHRTの変異は、大麦粒中のαアミラーゼを増大させ得る。麦芽製造における増大したαアミラーゼ活性は、デンプン分解および穀粒中の発酵性糖の利用能を高める。
【0158】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、WO2019/129739に記載の増大したαアミラーゼ活性をもたらすいずれかの変異も含み得る。特に、本発明の大麦植物は、HBL12機能の喪失に繋がるHvHBL12遺伝子(WO2019/129739の配列番号5および受入番号AK376953.1およびAK361212.1)中の変異を含み得る。HvHBL12遺伝子中の上記変異は例えば、WO2019/129739に記載のHvHBL12遺伝子中のいずれかの変異であり得る。例えば大麦植物は、少なくともi)WO2019/129739中の配列番号6のアミノ酸26~79;またはii)WO2019/129739中の配列番号6のアミノ酸81~122;またはiii)WO2019/129739中の配列番号6のアミノ酸228~250、を欠く、変異体HvHBL12タンパク質をコードする変異体HvHBL12遺伝子をコードする遺伝子を含み得る。同じ変異は、WO2019/129739の配列番号の多型の1つ、すなわち多型N141D、M142VまたはE184Dで起こり得る。あるいは、大麦植物は、HvHDL12遺伝子中に未成熟停止コドンを含み得る。特に、上記大麦植物は、WO2019/129739の配列番号5のHvHBL12コード配列のヌクレオチド684のG→A変異または上述のその多型を含み得、これは、WO2019/129739中の配列番号6のW228stop変異を含む変異体HvHBL12タンパク質をコードする。HvHBL機能を欠く大麦粒は、より高いαアミラーゼ活性を有することが示された。
【0159】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、WO2019/129739に記載の増大したαアミラーゼ活性をもたらすいずれかの変異も含み得る。特に、本発明の大麦植物は、WKRY38機能の喪失に繋がるWKRY38遺伝子(WO2019/129739の配列番号10またはNCBI受入番号AJ536667.1またはAK360269.1またはAY541586.1)中の変異を含み得る。WKRY38遺伝子の上記変異は例えば、WO2019/129739に記載のWKRY38遺伝子中のいずれかの変異であり得る。特に、上記大麦植物は、WO2019/129739の配列番号10のHvWRKY38コード配列のヌクレオチド600のG→A変異を含み得る。WKRY38機能を欠く大麦粒は、より高いαアミラーゼ活性を有することが示された。
【0160】
本明細書で記載のHvLDI遺伝子中の変異に加えて、本発明の大麦植物はまた、Himi et al.,2012 or Jende-Strid,1993により記載のいずれかのant変異などの、アントシアニンおよびプロアントシアニジン不含変異体(ant変異)を含み得る。特に、ant変異は、Hvmyb10遺伝子(ジェンバンク受入番号AB645844)の変異、例えばHvmyb10の非同義変異、好ましくはant28変異中で見つかるHvmyb10遺伝子中のいずれかの変異であり得る。従って、ant変異は、野生型Hvmyb10のヌクレオチド51のG→A変異、またはHimi et al.,2012に記載の、野生型Hvmyb10のコード領域のヌクレオチド558のG→A変異であり得る。特に、ant28変異は、穀粒休眠状態の低減されたレベルを有する。
【0161】
本発明の大麦植物はまた、前述の追加の変異の組み合わせも含み得る。遺伝子変異の可能な組み合わせを下表に示す。この表は、異なる大麦植物の8つの例を示し、「Mut」は、示された遺伝子中に本明細書で記載のいずれかの変異を含む植物を示す。
【表3】
【0162】
特に記載されるのは、本発明のLDI変異およびLOX-1およびMMTおよびMyb10(上記表の第一行に例1として示される)の機能喪失型変異を有する大麦植物、ならびに本発明のLDI変異およびLOX-1およびMMTおよびCslF6およびMyb10中の機能喪失型変異(上記表の第2行に例2として示される)を有する大麦植物である。
【0163】
2つ以上の変異を含む大麦植物は、任意の有用な方法により製造され得る。例えば、上記1つまたは複数の追加の変異が、HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物中に導入され得る、あるいは、本明細書に記載されたHvLDI遺伝子中の変異が、すでに追加の変異を有する大麦植物中に導入され得る。特定の所望の変異を有する大麦植物が調製され、特定の変異を特定するように設計されたプライマーおよびプローブを用いて基本的にWO2018/001884で記載されるように特定され得る。
【0164】
あるいは、上記大麦植物は、HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物を1つまたは複数の追加の変異を有する大麦植物、例えば国際公開第2005/087934号、国際公開第2010/075860号、国際公開第2010/063288号,WO2019/129736もしくはWO2019/129739またはHimi et al.,2012に記載の、またはそれらに関連して寄託されたいずれかの、大麦植物と交雑させることにより調製され得る。
【0165】
植物生成物
本発明はまた、HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物、例えば本明細書で記載のいずれかの大麦植物、またはその一部から調製された植物生成物も提供する。
植物生成物は、大麦植物から調製された任意の生成物、例えば食品、飼料または飲料であり得る。従って植物生成物は、本明細書の下記セクション「飲料およびその製造方法」で記載のいずれかの飲料であり得る。植物生成物はまた、大麦植物および/または上記大麦植物の麦芽の水性抽出物であり、例えば植物生成物は、麦汁であり得る。上記水性抽出物は例えば、本明細書の下記セクション「水性抽出物およびその製造方法」で記載のように調製され得る。
【0166】
一実施形態では、植物生成物は、麦芽、例えば、本明細書の下記セクション「麦芽およびその製造製方法」で記載のいずれかの麦芽または麦芽系飲料などの、麦芽系生成物であり得る。麦芽の主要用途は飲料製造用であるが、それはまた、他の産業工程で、例えば製パン工業で酵素源として、または食品産業で香味剤および着色剤として、例えば麦芽または麦芽粉末の形態で、または麦芽シロップとして間接的に、等々で利用できる。従って、本発明による植物生成物は、いずれかの上述の生成物であり得る。
【0167】
別の態様では、本発明による植物生成物は、大麦シロップ、または大麦麦芽シロップなどのシロップを含む、あるいはこれからなる。植物生成物はまた、大麦または麦芽の抽出物であり得る。従って、植物生成物は、麦汁であり得る。
【0168】
麦芽およびその製造の方法
本発明はまた、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物、例えば本明細書で記載のいずれかの大麦植物から調製された麦芽も提供する。
【0169】
麦芽は、製麦、すなわち制御された環境条件下で起こる過程における浸漬大麦粒の発芽により調製され得る。発芽は任意選択で、乾燥ステップが続いてよい。上記乾燥ステップは好ましくは、高温での発芽穀粒のキルン乾燥であり得る。
【0170】
従って、本発明による製麦方法は好ましくは、下記ステップを含み得る:
a)本発明の大麦植物の穀粒、またはその一部を用意するステップ;
b)所定の条件下で上記穀粒を浸麦し、発芽させるステップ;
c)任意選択で、上記発芽穀粒を乾燥するステップ。
【0171】
本発明の大麦は、緑麦芽工程、すなわち麦芽がマッシング前にキルン乾燥されない工程に特に好適である。本発明の大麦はまた、高い限界デキストリナーゼレベルに起因して、短時間製麦工程、例えば以下に記載の工程に特に好適である。
a)一実施形態では、麦芽は、次の工程により調製される:任意選択で清浄化されている大麦粒が、水溶液中(好ましくは水中)で、4~24時間の範囲、好ましくは5~15時間、より好ましくは5~10時間の範囲の期間にわたり浸麦(インキュベーション)される。この期間中、穀粒を含む水溶液は、通気される。通気は、水溶液中の酸素レベルを上昇させ、および/または大麦粒をほぐしおよび/または大麦粒中の乾燥ポケットを回避するのに役立つ。浸麦は、任意の有用な温度で、好ましくは20~28℃の範囲の温度で、より好ましくは約25℃の温度で実施され得る。
b)水溶液を排水し、穀粒を、5~30時間の範囲の間、好ましくは8~24時間の範囲の間、より好ましくは8~16時間の範囲の間エアレストに供する。好ましくは、穀粒は、エアレスト中通気される。好ましくは、20~28℃の範囲の一定温度が、例えば通気に使用されるガスの温度を制御することにより、発芽穀粒中に維持される。
c)大麦粒が、例えば、穀粒を混合するために、通気しながら2~24時間の範囲の間、好ましくは2~15時間の範囲の間、より好ましくは2~10時間の範囲の間、水溶液中でインキュベートされる。好ましくは水は、20~28℃の範囲の温度、例えば約25℃で保持される;および
d)水溶液を排水し、穀粒を、5~30時間の範囲の間、好ましくは8~20時間の範囲の間エアレスト段階に供する。好ましくは、温度は、例えば通気に使用されるガスの温度を制御することにより、20~28℃の範囲の温度で保持される。
e)発芽工程は好ましくは、48~72時間以内に、好ましくは48~60時間以内に、さらに好ましくは48~56時間以内に完了される。好ましくは、発芽穀粒は、ステップa後の全工程を通して、少なくとも20%の含水量を有する。発芽穀粒は、以降の工程で、緑麦芽として直接用いられてよい。
【0172】
一実施形態では、上記麦芽は、通気下の水中で、キルン乾燥なしで穀粒のインキュベーションを伴う方法により調製され得る。このような麦芽は、本明細書では「フレックスモルト」とも呼ばれる。特に、フレックスモルトは、WO2018/001882およびWO2019/129724に記載のように調製され得る。特に、参照により本明細書に組み込まれる、WO2018/001882中のセクション「発芽」ページ14~ページ22、「熱処理」ページ22~ページ24、および「実施例1」ページ56~ページ57、ならびにWO2019/129724中の「発芽」ページ14~ページ22、「熱処理」ページ22~ページ24、および「実施例1」ページ56~ページ57に記載のように調製され得る。
「フレックスモルト」を調整する方法は、本明細書の以下の実施例5に記載される。
【0173】
発芽は通常、15%未満の含水量の大麦粒が発芽を開始するのに十分な水と接触する時点などの、穀粒が水と接触する時点で開始される。
【0174】
一実施形態では、発芽は、穀粒が、その間に穀粒含水量が上昇される異なる時間にわたり種々のレベルの大気で下から通気されると、開始される。
【0175】
本発明の大麦植物の穀粒は、発芽過程が短縮される場合に特に有用であることを示した。従って、本発明の大麦植物の穀粒は実際に、発芽時間が短縮される製麦方法で有用である。一実施形態では、本発明の穀粒の浸麦および発芽のステップは、多くても3日間などの、多くても4日間で実施される。
【0176】
別の実施形態では、麦芽は、従来の製麦により調製され、浸麦過程および発芽過程は、2つの別々のステップで実施される。従って、浸麦は、当業者に既知の任意の従来法により実施され得る。非限定的一例は、乾湿交互条件下、10~25℃の範囲の温度での浸麦を含む。浸麦中に、例えば、穀物粒は、30分~3時間の範囲の間湿潤下で、続いて30分~3時間の範囲の間乾燥下でインキュベーションされ、任意選択で、2~5時間の範囲で上記インキュベーションスキームを反復し得る。浸麦後の最終含水量は、例えば、40~50%の範囲であり得る。穀粒の発芽は、当業者に既知の任意の従来法により実施され得る。非限定的一例は、乾湿交互条件下、10~25℃の範囲の温度で、任意選択で1~6日の範囲で温度を変えての発芽を含む。
【0177】
任意選択で、キルン乾燥は、少なくとも75℃などの従来の温度、80~85℃などの、例えば80~90℃の範囲の温度で行われ得る。
【0178】
従って、麦芽は、例えば、Houghら(1982)により記載のいずれかの方法により製造され得る。しかし、限定されないが、麦芽を焙焼する方法を含む、特殊麦芽の製造のための方法などの、麦芽を製造するための任意の他の好適な方法も、本発明で使用され得る。
【0179】
麦芽は、例えば粉砕により、さらに処理され得る。従って、本発明による植物生成物は、任意の種類の麦芽、例えば、未処理麦芽または粉末などの粉砕麦芽であり得る。粉砕麦芽およびその粉末は、麦芽および再発芽の能力を欠く死細胞の化学成分を含む。
【0180】
粉砕は、乾燥状態で実施され、すなわち麦芽は、乾燥の間に粉砕され得るか、または湿潤状態で実施され、すなわち麦芽は、湿潤の間に粉砕され得る。
【0181】
本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物、またはその一部から調製された麦芽の利点は、上記麦芽が、HvLDI変異がないが他の点では同じ遺伝子型である野生型大麦植物からの麦芽に比べて、高いレベルの遊離HvLD活性を有することである。高レベルの遊離HvLD活性は、いくつかの理由から、麦芽を好都合にする。増大された遊離HvLD活性は、製麦過程に有用であり、発芽時間が短縮される。特に図3は、本発明の大麦(HENZ-16aおよび31)からの麦芽がフレックスモルト過程で使用されるた場合、限界デキストリナーゼの遊離/総比率がフレックスモルト過程のHENZバリアントで61.6および56.3%で、従来の過程によるPaustianの50%よりさらに改善される点で、従来の製麦過程でのPaustianなどの野生型大麦(図4)より優れていることを示す。さらに、増大した遊離HvLD活性は、デンプンの発酵性糖への分解の増大をもたらし、従って、上記大麦植物からの穀粒および/または麦芽から調製される麦汁は、より高い含量の発酵性糖を特徴とし得る。従って、本発明の麦芽を使用することにより、マッシング中の外来性の限界デキストリナーゼまたはプルラナーゼの添加の必要性は、低減されるか、あるいは完全に無くされ得る。さらに、高含量の発酵性糖を含む水性抽出物の発酵は、醸造中有益である。理由は、それが、使われる穀粒量当たり生産されるビールの量を増大させ、粒重当たりのABV%(アルコール体積%)/ヘクトリットルを高めるためである。
【0182】
水性抽出物およびその製造の方法
本発明は、大麦系飲料ならびにそれを調製する方法を提供し、大麦植物は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する。
【0183】
多くの場合、大麦系飲料を調製するための方法は、本発明の大麦植物の穀粒および/または本発明の大麦植物から調製される麦芽および任意選択の1種または複数の補助剤の水性抽出物を調製するステップを含む。
【0184】
一実施形態では、水性抽出物は、本発明の大麦植物の穀粒および/または本発明の大麦植物から調製される麦芽から調製される。別の実施形態では、水性抽出物は、本発明の大麦植物の穀粒および/または本発明の大麦植物から調製される麦芽および野生型大麦植物の穀粒および/または野生型大麦植物の穀粒から調製される麦芽および任意選択の1種または複数の補助剤の混合物から調製される。いくつかの実施形態では、水性抽出物を調製するために使用される大麦粒および/または麦芽の、少なくとも10%、例えば少なくとも20%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも40%、例えば少なくとも50%、例えば少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも100%は、本発明による大麦植物の大麦粒または本発明の大麦植物および任意選択の1種または複数の補助剤から調製される麦芽であり得る。
【0185】
一実施形態では、水性抽出で使用される麦芽は、「麦芽およびその製造方法」セクションで記載の緑麦芽またはフレックスモルトであり、特に緑麦芽は、湿潤状態で粉砕される。特に、緑麦芽/フレックスモルトは決して、粉砕およびマッシングの前に、20%未満の含水量を持たず、かつ焙燥工程に供されなかった。
【0186】
水性抽出物は通常、水中でまたは水溶液中で大麦粉および/または麦芽粉をインキュベーションすることにより調製され得る。特に、水性抽出物は、マッシングにより調製され得る。
【0187】
一般に、上記水溶液は、水道水などの水であってよく、これに対し1種または複数の追加の薬剤が添加され得る。追加の薬剤は、開始時から水溶液中に存在し得るか、または水性抽出物を調製する過程で添加され得る。上記追加の薬剤は、酵素であってよい。従って、水溶液は、1種または複数の酵素を含み得る。上記酵素は、開始時から水溶液中に加えられるか、または開始後、工程中に添加され得る。
【0188】
上記酵素は、例えば、1種または複数の加水分解酵素であり得る。好適な酵素は、リパーゼ、デンプン分解酵素(例えば、アミラーゼ)、グルカナーゼ[好ましくは(1-4)-および/または(1,3;1,4)-β-グルカナーゼ]、および/またはキシラナーゼ(例えば、アラビノキシラナーゼ)、および/またはプロテアーゼ、または1種または複数の上述の酵素を含む酵素混合物、例えば、Cereflo、Ultraflo、またはOndea Pro(Novozyme)を含む。例えば、水溶液は、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、限界デキストリナーゼ、プルラナーゼ、β-グルカナーゼ(例えば、エンド-(1,3;1,4)-β-グルカナーゼまたはエンド-1,4-β-グルカナーゼ)、キシラナーゼ(例えば、エンド-またはエキソ-1,4-キシラナーゼ、アラビノフラノシダーゼまたはフェルラ酸エステラーゼ)、グルコアミラーゼおよびプロテアーゼからなる群より選択される1種または複数の加水分解酵素を含み得る。
【0189】
本発明の大麦植物の1つの利点は、上記大麦植物の穀粒中または上記大麦植物から調製された麦芽中の高遊離HvLD活性の量である。ときには、大麦粒および/または麦芽をマッシングする場合、限界デキストリナーゼまたはα-1,6結合の加水分解を触媒できる他の酵素、例えばプルラナーゼを、アミロペクチン由来分岐デキストリンから直鎖デキストリンを放出することによりデンプンの加水分解を進行させるために、添加することもある。従って、外来性の限界デキストリナーゼまたはプルラナーゼの必要性が少なくなり、あるいは無くなり、かつ抽出物中の適切なレベルの発酵性糖を依然として得ることができることは、本発明の利点の1つである。本発明のいくつかの実施形態では、外来性の限界デキストリナーゼまたはプルラナーゼの添加なしに水性抽出物を調製することも可能である。
【0190】
好ましくは食品等級品質の、上記追加の薬剤は、塩、例えばCaClまたは酸、例えばHPOであってよい。
【0191】
水性抽出物は通常、1種または複数の所定温度での水溶液中の大麦粉および/または麦芽粉のインキュベーションにより調製される。上記所定の温度は、本明細書では「マッシング温度」とも呼ばれ得る。上記マッシング温度は例えば、マッシングに使用される従来の温度であってよい。マッシング温度は通常、一定に保持される(等温マッシング)か、または徐々に、例えば順次に段階的に高められる。いずれの場合でも、大麦粒および/または麦芽中の可溶性物質は、上記マッシング溶液中に放出され、それにより水性抽出物を形成する。
【0192】
マッシング温度は通常、40~85℃の範囲などの、30~90℃の範囲、例えば50~85℃の範囲の温度である。特に、比較的低い仕込み開始温度、例えば50~60℃の範囲の温度が、使用され得る。
【0193】
例えばマッシング容器の水溶液中のインキュベーションの後で、水溶液は、別の容器、例えば麦芽汁濾過機に移され、高温で追加の時間インキュベーションされ得る。
【0194】
有用なマッシングプロトコルの非限定的例は、醸造の文献、例えば、Houghら(前出)で見つけることができる。
【0195】
マッシング(すなわち、水溶液中の大麦粉および/または麦芽粉のインキュベーション)は、補助剤の存在下で起こり、これは、麦芽以外の任意の炭水化物源、例えば限定されないが、大麦、大麦シロップ、またはトウモロコシ、または米を、全粒または粗挽き穀物粉、シロップまたはデンプンなどの処理生成物として含むと理解される。すべての上述の補助剤は主として、追加の抽出物源として使用され得る(シロップは通常、麦汁加熱中に加えられる)。醸造所での補助剤の処理のための要件は、使われる補助剤の状態とタイプ、特にデンプン糊化または液化温度に依存する。
【0196】
水溶液中でインキュベーション後に、水性抽出物は通常、例えば濾過により水性抽出物と残留非溶解固体粒子とに分離され、後者は「ビール粕」とも表記され得る。濾過は例えば、麦芽汁濾過機中で実施され得る。あるいは、濾過は、マッシュフィルターを通す濾過であり得る。こうして得られた水性抽出物は、「第一麦汁」とも表記される。水などの追加の液体を、スパージングとも表記される工程中にビール粕に加え得る。スパージングおよび濾過の後で、「第二麦汁」が得られ得る。さらなる麦汁は、この手順の反復により調製され得る。従って、水性抽出物は、麦汁、例えば第一麦汁、第二麦汁、さらなる麦汁またはこれらの組み合わせであり得る。
【0197】
本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物から調製された水性抽出物の1つの利点は、それらが高レベルの発酵性糖を含むことであり得る。
【0198】
一実施形態では、本発明による大麦植物の殻粒および/または麦芽から調製された上記水性抽出物は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて、増大した濃度の総発酵性糖を有する。
【0199】
別の実施形態では、本発明による大麦植物から調製された麦芽から調製された上記水性抽出物は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて、少なくとも5%多い総発酵性糖、例えば少なくとも6%多い総発酵性糖、例えば少なくとも7%多い総発酵性糖を有する。
【0200】
別の実施形態では、本発明による大麦植物から調製された麦芽から調製された上記水性抽出物は、同一条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて、少なくとも10%多いグルコース、フルクトースおよび/またはマルトトリオースを有する。
【0201】
飲料およびその製造の方法
本発明はまた、大麦系飲料およびこのような飲料を製造する方法を提供し、大麦植物は、本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する。
【0202】
上記飲料は、アルコール性大麦系飲料または非アルコール性大麦系飲料であり得る。アルコール性大麦系飲料は例えば、ビールまたは醸造アルコールであり得る。
【0203】
上記ビールは、任意の種類のビール、例えばラガーまたはエールであり得る。従って、ビールは例えば、アルトビール、アンバーエール、バーレイワイン、ベルリーナー・ヴァイセ、ビエールドギャルド、ビター、ブロンドエール、ボック、ブラウン・エール、カリフォルニアコモン、クリーム・エール、ドルトムンダーエクスポート、ドッペルボック、デュンケル、デュンケルバイツェン、アイスボック、フルーツランビック、ゴールデンエール、ゴーゼ、グーズ、ヘーフェヴァイツェン、ヘレス、インディア・ペールエール、ケルシュ、ランビック、ライトエール、マイボック、モルト・リカー、マイルド、メルツェンビア、オールドエール、オード・ブライン、ペールエール、ピルスナー、ポーター、レッドエール、ロッゲンビア、セゾン、スコッチエール、スチームビール、スタウト、シュヴァルツビール、ラガー、ウィットビア、ヴァイスビアおよびヴァイツェンボックからなる群より選択され得る。ビールはまた、低アルコールまたは非アルコール性ビール(「ノンアルコールビール」またはafbとしても知られる)である。
【0204】
上記醸造アルコールは、任意の種類の醸造アルコールであってよい。特に、醸造アルコールは、穀類、例えば麦芽化穀類、例えば大麦麦芽ベースであり得る。このような醸造アルコールの非限定的例は、ウイスキーおよびウォッカを含む。
【0205】
飲料は、非アルコール性飲料、例えば非アルコール性大麦系飲料、例えば非アルコール性ビールまたはマルチナまたはnoussyなどの、非アルコール性麦芽飲料であり得る。
飲料は例えば、次のステップを含む方法により調製され得る:
a.本発明による大麦植物の穀粒および/または本発明による大麦植物の穀粒から調製された麦芽および/または本発明による大麦植物の穀粒および/または麦芽から調製された水性抽出物を用意するステップ;
b.上記水性抽出物を飲料に処理するステップ。
【0206】
水性抽出物は、ホップを含有して含有せずに煮沸され得、これはその後、煮沸麦汁と呼ばれることもある。第一の、第二のおよびさらなる麦汁を組み合わせ、その後、煮沸に供し得る。水性抽出物は、任意の好適な時間、例えば60分~120分の範囲で煮沸され得る。
【0207】
ステップ(a)は特に、例えば麦汁の発酵による、上記水性抽出物の発酵を含む。従って、飲料は、酵母を用いた水性抽出物の発酵により調製され得る。
【0208】
水性抽出物が調製されると、それは、従来の醸造方法を含む任意の方法により、ビールへと処理され得る。好適な醸造方法の例の非限定的記載は、例えば、Houghら(1982)による報告で見つけることができる。多くの定期的に更新される大麦生成物およびビール生成物の分析方法は、例えば、限定されないが、米国穀物化学者学会(1995)、米国醸造化学者学会(1992)、欧州醸造学会(1998)、および英国醸造協会(1997)から入手できる。多くの特定の手順が、特定の醸造所に採用され、現地の消費者の好みにより最も大きく変化することがわかっている。いずれかのこのようなビール製造方法を、本発明で用い得る。
【0209】
水性抽出物からのビール製造の第1のステップは好ましくは、本明細書で上記したように上記水性抽出物を煮沸すること、それに続く冷却段階および任意選択のワールプールレストを含む。1種または複数の追加の化合物、例えば下記セクション「追加の化合物」に記載の1種または複数の追加の化合物を、水性抽出物に加えてもよい。冷却後、水性抽出物を、酵母、ビール酵母または出芽酵母などの、例えば醸造酵母を含む発酵タンクに移し得る。水性抽出物は、任意の好適な期間、1~10日間などの、通常は1~20日間にわたり発酵され得る。発酵は、任意の有用な温度、例えば10~20℃の範囲の温度で実施される。方法はまた、1種または複数の酵素の添加を含み得、例えば1種または複数の酵素が、発酵の前にまたは発酵中に麦汁に添加され得る。特に、上記酵素は、プロリン特異的エンドプロテアーゼであり得る。プロリン特異的エンドプロテアーゼの非限定的例は、DSMから入手可能な「Brewer’s Clarex」である。他の実施形態では、外来性の酵素は、これらの方法中に添加されない。
【0210】
数日間の長さの発酵工程中、糖は、アルコールおよびCOに同時に転換され、いくつかの香味物質が発生する。発酵は、任意の望ましい時間に、例えば%Pのさらなる低下が観察されなくなると、終了され得る。
【0211】
その後、ビールは、さらに処理され、例えば冷却され得る。それはまた、濾過されおよび/またはラガーにするため貯蔵される-この工程は心地よい香りおよびそれほど酵母様でない風味を発生させる。添加物もまた、添加されてよい。さらに、COが添加され得る。最終的に、ビールは、低温殺菌されおよび/または濾過され、その後包装され得る(例えば、容器またはビア樽に移される、瓶詰、または缶詰にされる)。ビールはまた、標準的な方法で低温殺菌され得る。
【0212】
追加の化合物
本発明の方法は、1種または複数の追加の化合物を加えるステップを含み得る。上記追加の化合物は例えば、風味化合物、保存剤、機能性成分、着色料、甘味剤、pH調整剤または塩であり得る。pH調整剤は例えば、緩衝剤またはリン酸などの酸であり得る。
【0213】
機能性成分は、所与の機能を得るために添加される任意の成分であり得る。好ましくは、機能性成分は、飲料をより健康によいものにする。機能性成分の非限定例としては、ビタミンまたはミネラルが挙げられる。
【0214】
保存剤は、任意の食品等級保存剤であり、例えばそれは、安息香酸、ソルビン酸、ソルビン酸塩(例えば、ソルビン酸カリウム)、亜硫酸および/またはその塩であり得る。
【0215】
追加の化合物はまた、COであり得る。特に、COは、炭酸飲料を得るために添加され得る。
【0216】
本発明で使用される香味化合物は、任意の有用な香味化合物であり得る。香味化合物は例えば、芳香剤、植物抽出物、植物濃縮物、植物部分およびハーブ浸剤からなる群より選択され得る。特に、風味化合物は、ホップであり得る。
【0217】
本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物を調製する方法
本発明のHvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物は、任意の有用な方法で調製され得る。
例えば、このような大麦植物は、次のステップを含む方法により調製できる:
a.大麦粒を用意するステップ;および
b.上記大麦粒をランダム変異誘発に供するステップ;
c.下記変異の1つを有する変異体HvLDIポリペプチドをコードする変異HvLDI遺伝子を有する大麦粒またはその一部を選択するステップ;
i.HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でProから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸に対応する、ミスセンス変異;または
ii.野生型HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で酸性アミノ酸から非酸性アミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1のアミノ酸45~55およびアミノ酸63~76およびアミノ酸79~90およびアミノ酸112~123に対応する、ミスセンス変異。
【0218】
このような方法はまた、それぞれ上記変異を含む複数の大麦植物/穀粒を得るために、上記大麦植物/大麦粒を複製する1つまたは複数のステップも含み得る。
特に、HvLDI遺伝子中に特定の変異を有する大麦植物が調製され、HvLDI遺伝子中の変異を特定するように設計されたプライマーおよびプローブを用いて、WO2018/001884で記載されるように基本的に特定され得る。HvLDIの遺伝子配列は、配列番号2のコード配列を用いて、公開データベースからblast探索により検索できる、またはそれは、ジェンバンク受入番号DQ285564.1で見つけ得る。
【0219】
HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物もまた、種々の部位特異的変異誘発法を用いて調製され、これは例えば、配列番号2のコード配列の配列に基づいて設計できる。一実施形態では、大麦植物は、WO2017/138986に記載されるようにCRISPR、TALEN、ジンクフィンガー、メガヌクレアーゼ、およびDNA切断抗生物質のいずれか1つを用いて調製される。一実施形態では、大麦植物は、CRISPR/Cas9技術を使って、例えばRNA誘導型Cas9ヌクレアーゼを使って調製される。これは、シングルガイドRNA配列がHvLDIの遺伝子配列に基づき設計されること以外は、Lawrenson et al.,Genome Biology(2015)16:258;DOI 10.1186/s13059-015-0826-7に記載のようにして実施され得る。一実施形態では、大麦植物は、TALENおよびCRISPR/Cas9両方の技術の組み合わせを使って、例えばRNA誘導型Cas9ヌクレアーゼを使って調製される。これは、TALENおよびシングルガイドRNA配列が本明細書で提供される遺伝子配列に基づき設計されること以外は、Holme et al.,2017に記載のようにして実施し得る。
【0220】
一実施形態では、大麦植物は、DNA切断ヌクレアーゼとドナーDNAフラグメントの組み合わせである、相同組み換え修復を用いて調製される。これは、DNA切断ヌクレアーゼが本明細書で提供される遺伝子配列に基づいて設計されかつドナーDNAフラグメントが本明細書で提供される変異大麦バリアントのコード配列に基づき設計されること以外は、Sun et al.,2016に記載のようにして実施され得る。
【0221】
本発明の一実施形態では、目的は、HvLDI遺伝子中に変異を有する農学的に有用な大麦植物を提供することである。HvLDI遺伝子中の変異に加えて、商業的大麦変種生成の技術分野において、製麦および/または醸造にとって、および/または飲料のための基礎として有用であると考えられ得る追加の因子、例えば穀粒収率およびサイズ、ならびに製麦性能または醸造性能に関連する他のパラメーターが存在する。全てではないにしても多くの関連形質は遺伝的制御下にあることが示されているので、本発明はまた、本報告で開示される大麦植物との交雑により調製され得る、最新のホモ接合高収率製麦栽培品種を提供する。熟練大麦品種改良家は、他の大麦植物と交雑後、優れた栽培品種を生ずる大麦植物を選択し、発生させることができる。あるいは、品種改良家は、本発明の植物を、HvLDI遺伝子中の変異に加えて追加の変異を有する新規栽培品種を生成するためのさらなる変異誘発のために利用し得る。
【0222】
本発明はまた、自家受粉、戻し交雑、集団に対する交雑、などの方法を含む植物育種法により調製された、HvLDI遺伝子中に変異を有する大麦植物も含む。戻し交雑法は、HvLDI遺伝子中の変異を別の栽培品種に導入するために、本発明で使用できる。
【0223】
植物育種の工程を加速する方法は、組織培養物および再生技術の適用による生成変異体の初期増殖を含む。従って、本発明の別の態様は、成長および分化時に、HvLDI遺伝子の変異を有する大麦植物を生成する細胞を提供することである。例えば、育種は、従来の交雑、稔性葯由来植物の調製または小胞子培養の使用を含み得る。
【0224】
項目
本発明は、下記の項目によりさらに規定され得る。
1.HvLDI遺伝子中に変異を有し、上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異は、次の変異の1つである、大麦植物またはその一部:
a.変異体HvLDIポリペプチドの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
b.変異体HvLDIポリペプチドの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
2.上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の成熟野生型HvLDIポリペプチドと少なくとも90%同一である、項目1に記載の大麦植物またはその一部。
3.上記変異体HvLDIポリペプチドは、表1Aおよび1Bに記載の成熟野生型HvLDIポリペプチドまたはその天然バリアントと98%同一である、項目1または2に記載の大麦植物またはその一部。
4.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、ループ領域は、配列番号1の位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸からなる群より選択される、項目1~3のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
5.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、野生型HvLDIの1つまたは複数のループ領域中のプロリンの極性アミノ酸への置換を含む、項目1~4のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
6.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1つまたは複数のループ領域中のプロリンのセリンへの置換を含む、項目1~5のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
7.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置60に対応するアミノ酸の位置でプロリンの異なるアミノ酸への置換を含む、項目1~6のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
8.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置60のプロリンの異なるアミノ酸への置換を有する配列番号1のLDIからなる、項目1~7のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
9.プロリンが、セリンで置換される、項目7または8に記載の大麦植物またはその一部。
10.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸位置60でプロリンのセリンへの置換を含む、項目1~9のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
11.変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号3の位置25~142のアミノ酸配列または配列番号3の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、項目1~10のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
12.変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号4の位置25~142のアミノ酸配列または配列番号4の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、項目1~11のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
13.上記変異HvLDI遺伝子は、HvLDIの1種または複数のアルファヘリックス領域で、負に帯電しているアミノ酸の正に帯電しているアミノ酸への置換を含む変異体HvLDIポリペプチドをコードする、項目1~12のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
14.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、HvLDIの1種または複数のアルファヘリックス領域中の負に帯電しているアミノ酸のリジンへの置換を含む、項目1~13のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
15.上記負に帯電しているアミノ酸は、グルタミン酸(Glu)である、項目13または14に記載の大麦植物またはその一部。
16.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置68に対応する位置でグルタミン酸の負に帯電していないアミノ酸への置換を含む、項目1~15のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
17.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1の位置68のグルタミン酸の負に帯電していないアミノ酸への置換を有する配列番号1のLDIからなる、項目1~16のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
18.上記変異HvLDI遺伝子は、変異体HvLDIポリペプチドをコードし、上記変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸位置68でグルタミン酸のリジンへの置換を含む、項目1~17のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
19.変異体HvLDIポリペプチドは、配列番号6の位置25~142のアミノ酸配列または配列番号6の位置25~147のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、項目1~18のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
20.上記大麦植物の穀粒は、同じ条件下で培養される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の穀粒で測定される遊離HvLD活性と比べて、少なくとも20%高い遊離HvLD活性を有する、項目1~19のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
21.上記発芽穀粒は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の発芽穀粒で測定される遊離HvLD活性と比べて、少なくとも20%高い遊離HvLD活性を有する、項目1~20のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
22.上記大麦植物から調製された麦芽は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽で測定される遊離HvLD活性と比べて、少なくとも20%高い遊離HvLD活性を有する、項目1~21のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
23.上記遊離HvLD活性は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の麦芽で測定される遊離HvLD活性と比べて、少なくとも50%高い、例えば少なくとも100%高い、好ましくは少なくとも140%高い、項目1~22のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
24.穀粒または発芽穀粒または上記大麦植物からの麦芽は、同じ条件下で培養および調製される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の、穀粒または発芽穀粒または麦芽でそれぞれ測定される遊離/総%HvLD活性に比べて、少なくとも20%高い遊離/総%HvLD活性を有する、項目1~23のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
25.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子中に下記からなる群より選択される1つまたは複数の変異を有する、項目1~24のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部:
i.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置での、ヌクレオチドCからTへの変異;および
ii.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド967に対応する位置での、ヌクレオチドCからTへの変異;および
iii.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド968に対応する位置での、ヌクレオチドCからTへの変異;および
iv.HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド990に対応する位置での、GからAへの変異。
26.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置で、ヌクレオチドCからTへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~25のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
27.大麦植物は、受入番号NCIMB43581でNCIMBに寄託された大麦植物またはその子孫である、項目1~26のいずれか1項に記載の大麦植物。
28.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド967に対応する位置で、ヌクレオチドCからTへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~25のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
29.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド990に対応する位置で、ヌクレオチドGからAへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~25のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
30.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異およびヌクレオチド967に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~24のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
31.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異およびヌクレオチド968に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~25のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
32.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド967に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異およびヌクレオチド990に対応する位置でのヌクレオチドGからAへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~24のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
33.上記大麦植物は、HvLDI遺伝子(配列番号2)のコード配列のヌクレオチド966に対応する位置でのヌクレオチドCからTへの変異およびヌクレオチド990に対応する位置でのヌクレオチドGからAへの変異からなるHvLDI遺伝子中の変異を有する、項目1~24のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部。
34.大麦植物は、受入番号NCIMB43582でNCIMBに寄託された大麦植物またはその子孫である、項目1~33のいずれか1項に記載の大麦植物。
35.上記大麦植物の穀粒は、少なくとも45グラム、例えば少なくとも50グラム、例えば少なくとも55グラムの千粒重を有する、項目1~34のいずれか1項に記載の大麦植物。
36.上記大麦植物の穀粒は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがその他は同じ遺伝子型である大麦植物の穀粒に比べて、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%の千粒重を有する、項目1~35のいずれか1項に記載の大麦植物。
37.上記大麦植物の穀粒は、少なくとも50%、例えば少なくとも55%、例えば少なくとも60%の千粒重を有する、項目1~36のいずれか1項に記載の大麦植物。
38.上記大麦植物の穀粒は、同じ条件下で育成される場合、野生型HvLDIポリペプチドをコードするHvLDI遺伝子を有するがその他は同じ遺伝子型である大麦植物の穀粒に比べて、少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%のデンプン含量を有する、項目1~37のいずれか1項に記載の大麦植物。
39.大麦植物は、1つまたは複数の追加の遺伝子中に変異、例えば1つまたは複数の以下の変異をさらに含む、項目1~38のいずれか1項に記載の大麦植物:
a.機能的LOX-1の完全喪失をもたらすLOX-1コード遺伝子中の変異;
b.機能的LOX-2の完全喪失をもたらすLOX-2コード遺伝子中の変異;
c.機能的MMTの完全喪失をもたらすMMTコード遺伝子中の変異;
d.CslF6をコードする遺伝子中の変異であって、上記変異遺伝子が、低減されたCslF6活性を有する変異体CslF6タンパク質をコードする、変異;
e.HRT機能の喪失をもたらすHRT遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
f.HBL機能の喪失をもたらすHBL12遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
g.WRKY38機能の喪失をもたらすWRKY38遺伝子をコードする遺伝子中の変異;
h.ant変異、例えばHvmyb10遺伝子中の変異。
40.項目1~39のいずれか1項に記載の大麦植物またはその一部を含む植物生成物。
41.下記からなる群より選択される、項目40に記載の植物生成物:
a.上記大麦植物の穀粒から調製された麦芽;
b.上記大麦植物の穀粒から、および/または上記大麦植物の処理穀粒を含む麦芽から調製された、水性抽出物、例えば麦汁;および
c.上記大麦植物またはその一部から調製された飲料、例えばビール。
42.麦芽の調製方法であって、下記ステップを含む方法:
a.項目1~38のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒を用意するステップ;
b.所定の条件下で上記穀粒を浸麦し、発芽させるステップ;
c.任意選択で、上記発芽穀粒を乾燥するステップ。
43.浸麦および発芽が、下記のステップ:
a.項目1~38のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒を、酸素を含むガス(例えば、純酸素または空気)による通気下にて水溶液中で5~10時間にわたりインキュベートするステップ;
b.水溶液を排水し、好ましくは通気下で、穀粒を8~16時間にわたりエアレストに供するステップ;
c.穀粒を、酸素を含むガスによる通気下にて2~10時間にわたり水溶液中でインキュベートするステップ;および
d.水溶液を排水し、好ましくは通気下で、穀粒を8~20時間にわたり第2のエアレストに供するステップ;
を含み、穀粒の含水量が、項目42のステップa.の後の任意の時点で少なくとも20%であり、項目42のステップc.が、実施されない、項目42に記載の方法。
44.上記浸麦および発芽ステップは、多くても4日間、例えば多くても3日間、好ましくは48時間~72時間の範囲で実施される、項目42または43に記載の方法。
45.水性抽出物の調製方法であって、下記ステップを含む、方法:
a.項目1~39のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒および/または項目42~44のいずれか1項に記載の方法により製造された麦芽を用意するステップ;
b.上記穀粒および/または上記麦芽の水性抽出物、例えば麦汁を調製するステップ。
46.上記麦芽は、それが製造されてから水性抽出物の調製のための使用まで、少なくとも20%の含水量を維持している、項目45に記載の方法。
47.上記水性抽出物は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて、少なくとも5%多い発酵性糖を有する、項目45または46に記載の方法。
48.上記水性抽出物は、同じ条件下で調製される場合、野生型HvLDIをコードするHvLDI遺伝子を有するがそれ以外は同じ遺伝子型である大麦植物の水性抽出物に比べて、少なくとも10%多いグルコース、フルクトース、および/またはマルトトリオースを有する、項目45~47のいずれか1項に記載の方法。
49.飲料を製造する方法であって、以下のステップを含む、方法:
a.項目1~39のいずれか1項に記載の大麦植物の穀粒および/または項目42~44のいずれか1項に記載の方法により製造された麦芽を用意するステップ;および
b.上記穀粒および/または麦芽から水性抽出物を調製するステップ;または
c.上記水性抽出物を飲料に処理するステップ。
50.ステップb.は、項目45~48のいずれか1項に記載の方法により実施される、項目49に記載の方法。
51.大麦植物を調製する方法であって、以下のステップを含む、方法。
a.大麦粒を用意するステップ;および
b.上記大麦粒をランダム変異誘発に供するステップ;
c.下記変異の1つを有する変異体HvLDIポリペプチドをコードする変異HvLDI遺伝子を有する大麦粒またはその一部を選択するステップ;
i.HvLDIの1つまたは複数のループ領域中でプロリンから異なるアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、ループ領域が、配列番号1の位置25~44に対応するアミノ酸および位置56~62に対応するアミノ酸および位置77~78に対応するアミノ酸および位置91~111に対応するアミノ酸および位置124~147に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異;または
ii.野生型HvLDIの1つまたは複数のアルファヘリックス領域中で負に帯電しているアミノ酸から負に帯電していないアミノ酸への変化を生ずるミスセンス変異であって、アルファヘリックス領域が、配列番号1の位置45~55に対応するアミノ酸および位置63~76に対応するアミノ酸および位置79~90に対応するアミノ酸および位置112~123に対応するアミノ酸からなる群より選択される、ミスセンス変異。
【0225】
配列
配列番号1
Hordeum vulgareの野生型HvLDIのアミノ酸配列。ユニプロット受入番号Q2V8X0。
MASDHRRFVLSGAVLLSVLAVAAATLESVKDECQPGVDFPHNPLATCHTYVIKRVCGRGPSRPMLVKERCCRELAAVPDHCRCEALRILMDGVRTPEGRVVEGRLGDRRDCPREEQRAFAATLVTAAECNLSSVQEPGVRLVLLADG
配列番号2
Hordeum vulgareの野生型HvLDIの全コード領域のDNA配列 DQ285564.1
【化1】
太字で示したATGは、配列番号1をコードするための開始コドンを表す。下線のコドンは、本発明により変異導入されるコドンに対応する。
配列番号3
Hordeum vulgareの変異体P60S HvLDIのアミノ酸配列(HENZ-16a)。
MASDHRRFVLSGAVLLSVLAVAAATLESVKDECQPGVDFPHNPLATCHTYVIKRVCGRGSSRPMLVKERCCRELAAVPDHCRCEALRILMDGVRTPEGRVVEGRLGDRRDCPREEQRAFAATLVTAAECNLSSVQEPGVRLVLLADG
配列番号4
Hordeum vulgareの変異体P60L HvLDIのアミノ酸配列(HENZ-16b)。
MASDHRRFVLSGAVLLSVLAVAAATLESVKDECQPGVDFPHNPLATCHTYVIKRVCGRGLSRPMLVKERCCRELAAVPDHCRCEALRILMDGVRTPEGRVVEGRLGDRRDCPREEQRAFAATLVTAAECNLSSVQEPGVRLVLLADG
配列番号5
Hordeum vulgareの変異体V66M HvLDIのアミノ酸配列(HENZ-18)。
MASDHRRFVLSGAVLLSVLAVAAATLESVKDECQPGVDFPHNPLATCHTYVIKRVCGRGPSRPMLMKERCCRELAAVPDHCRCEALRILMDGVRTPEGRVVEGRLGDRRDCPREEQRAFAATLVTAAECNLSSVQEPGVRLVLLADG
配列番号6
Hordeum vulgareの変異体E68K HvLDIのアミノ酸配列(HENZ-31)。
MASDHRRFVLSGAVLLSVLAVAAATLESVKDECQPGVDFPHNPLATCHTYVIKRVCGRGPSRPMLVKKRCCRELAAVPDHCRCEALRILMDGVRTPEGRVVEGRLGDRRDCPREEQRAFAATLVTAAECNLSSVQEPGVRLVLLADG
配列番号7
Hordeum vulgareの野生型HvLDのアミノ酸配列。ユニプロット受入番号Q9FYY0。
MAVGETGASVSAAEAEAEATQAFMPDARAYWVTSDLIAWNVGELEAQSVCLYASRAAAMSLSPSNGGIQGYDSKVELQPESAGLPETVTQKFPFISSYRAFKVPSSVDVASLVKCQLVVASFGADGKHVDVTGLQLPGVLDDMFAYTGPLGAVFSEDSVSLHLWAPTAQGVSVCFFDGPAGPALETVQLKESNGVWSVTGPREWENRYYLYEVDVYHPTKAQVLKCLAGDPYTRSLSANGARTWLVDINNETLKPASWDELADEKPKLDSFSDITIYELHIRDFSAHDGTVDSDSRGGFRAFAYQASAGMEHLRKLSDAGLTHVHLLPSFHFAGVDDIKSNWKFVDECELATFPPGSDMQQAAVVAIQEEDPYNWGYNPVLWGVPKGSYASDPDGPSRIIEYRQMVQALNRIGLCVVMDVVYNHLDSSGPCGISSVLDKIVPGYYVRRDTNGQIENSAAMNNTASEHFMVDRLIVDDLLNWAVNYKVDGFRFDLMGHIMKRTMMRAKSALQSLTTDAHGVDGSKIYLYGEGWDFAEVARNQRGINGSQLNMSGTGIGSFNDRIRDAINGGNPFGNPLQQGFNTGLFLEPNGFYQGNEADTRRSLATYADQIQIGLAGNLRDYVLISHTGEAKKGSEIHTFDGLPVGYTASPIETINYVSAHDNETLFDVISVKTPMILSVDERCRINHLASSMMALSQGIPFFHAGDEILRSKSIDRDSYNSGDWFNKLDFTYETNNWGVGLPPSEKNEDNWPLMKPRLENPSFKPAKGHILAALDSFVDILKIRYSSPLFRLSTANDIKQRVRFHNTGPSLVPGVIVMGIEDARGESPEMAQLDTNFSYVVTVFNVCPHEVSMDIPALASMGFELHPVQVNSSDTLVRKSAYEAATGRFTVPGRTVSVFVEPRC
配列番号8
Hordeum vulgareの野生型HvLDのヌクレオチド配列。ジェンバンク受入番号AF252635.1
ATGGCGGTCGGGGAGACCGGCGCCTCCGTCTCCGCAGCCGAGGCCGAGGCCGAGGCCACCCAGGCGTTCATGCCGGACGCCAGGGCGTACTGGGTGACGAGCGACCTCATCGCCTGGAACGTCGGCGAGCTGGAAGCGCAGTCCGTCTGCCTGTACGCCAGCAGAGCCGCCGCGATGAGCCTCTCGCCGTCGAATGGCGGCATCCAAGGCTACGACTCCAAGGTTGAGCTGCAACCGGAGAGCGCCGGGCTCCCGGAAACCGTGACCCAGAAGTTCCCTTTCATCAGCAGTTACAGAGCATTCAAGGTCCCGAGCTCTGTCGACGTCGCCAGCCTTGTGAAATGCCAACTGGTCGTCGCTTCTTTCGGCGCTGACGGGAAACACGTAGATGTTACTGGACTGCAATTACCCGGCGTGCTGGATGATATGTTCGCATACACGGGACCGCTCGGTGCGGTTTTCAGCGAGGACTCTGTGAGCCTGCACCTTTGGGCTCCTACAGCACAGGGCGTGAGCGTGTGCTTCTTTGATGGTCCAGCAGGCCCTGCGCTAGAGACGGTGCAGCTCAAGGAGTCAAATGGTGTTTGGAGTGTCACTGGACCAAGAGAGTGGGAAAACCGGTACTATTTGTATGAAGTCGACGTGTATCATCCAACTAAGGCGCAGGTTCTGAAATGTTTAGCTGGTGACCCTTATACTAGAAGCCTTTCTGCAAATGGAGCGCGTACCTGGTTGGTTGACATTAACAATGAGACATTGAAGCCGGCTTCCTGGGATGAATTGGCTGATGAGAAGCCAAAACTTGATTCCTTCTCTGACATAACCATCTATGAATTGCACATTCGTGATTTTAGCGCCCACGATGGCACAGTGGACAGTGACTCTCGTGGAGGATTTCGTGCATTTGCATATCAGGCCTCGGCAGGAATGGAGCACCTACGGAAATTATCTGATGCTGGTTTGACTCATGTGCATTTGTTGCCAAGCTTTCATTTTGCTGGCGTTGACGACATTAAGAGCAACTGGAAATTTGTCGATGAGTGTGAACTAGCAACATTCCCTCCAGGGTCAGATATGCAACAAGCAGCAGTAGTAGCTATTCAGGAAGAGGACCCTTATAATTGGGGGTATAACCCTGTGCTCTGGGGGGTTCCAAAAGGAAGCTATGCAAGTGACCCTGATGGCCCGAGTCGAATTATTGAATATCGTCAGATGGTCCAGGCCCTCAATCGCATAGGTCTTTGTGTTGTCATGGATGTTGTATACAATCATCTAGACTCAAGTGGCCCCTGCGGTATCAGCTCAGTGCTTGACAAGATTGTTCCTGGGTACTATGTTAGAAGGGATACTAATGGCCAGATTGAGAACAGTGCAGCTATGAACAATACAGCAAGTGAGCATTTCATGGTTGATAGGTTAATCGTGGATGACCTTTTGAACTGGGCAGTAAACTACAAAGTTGACGGGTTCAGATTTGATCTTATGGGCCATATCATGAAACGCACAATGATGAGAGCAAAATCTGCTCTTCAAAGCCTTACAACAGATGCACATGGAGTTGATGGTTCAAAAATATACTTGTATGGTGAAGGATGGGACTTCGCTGAAGTTGCACGCAATCAACGTGGAATAAATGGGTCCCAGCTTAATATGAGTGGAACGGGGATTGGTAGCTTCAATGATAGAATCCGGGATGCTATTAATGGGGGTAATCCCTTTGGTAATCCGCTCCAGCAAGGCTTCAATACTGGTCTGTTCTTAGAGCCGAATGGGTTTTATCAGGGCAATGAAGCAGATACCAGGCGCTCGCTCGCTACTTATGCTGACCAAATACAGATTGGACTAGCTGGTAATCTGAGGGATTATGTACTAATATCTCATACTGGAGAAGCTAAGAAGGGATCAGAAATTCACACTTTTGATGGATTACCAGTAGGCTATACTGCGTCCCCAATAGAAACGATAAACTATGTTTCTGCTCATGACAATGAGACTCTATTTGATGTTATCAGTGTGAAGACCCCAATGATCCTTTCAGTTGATGAGAGATGCAGGATAAATCATTTGGCCTCCAGCATGATGGCATTATCCCAGGGAATACCCTTCTTCCACGCTGGTGACGAGATACTAAGATCTAAGTCCATCGACCGAGATTCATATAACTCTGGTGATTGGTTTAACAAGCTTGATTTTACCTATGAAACAAACAATTGGGGTGTTGGGCTTCCTCCAAGTGAAAAGAACGAAGATAATTGGCCCCTGATGAAACCAAGATTGGAAAATCCGTCTTTTAAACCTGCAAAAGGACACATTCTTGCTGCCCTAGACAGTTTTGTTGACATCTTGAAGATCAGATACTCATCTCCACTTTTTCGTCTCAGTACAGCAAATGACATTAAGCAAAGGGTACGCTTTCACAACACAGGGCCCTCCTTAGTCCCAGGTGTTATTGTCATGGGCATTGAAGATGCACGAGGTGAGAGCCCCGAGATGGCTCAATTAGACACGAACTTCTCTTATGTCGTAACCGTCTTCAATGTGTGTCCGCACGAAGTGTCCATGGATATCCCCGCTCTCGCTTCGATGGGGTTTGAACTGCATCCTGTGCAGGTGAATTCATCAGATACTTTGGTGAGGAAATCGGCGTACGAGGCCGCGACGGGCAGGTTCACCGTGCCCGGAAGAACCGTGTCAGTCTTTGTCGAACCTCGGTGTTGA
【0226】
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【0227】
実施例
実施例1.LDIの遺伝子中に特定の変異を有する大麦変異体(Hv)のスクリーニング
最初に、LDI中のアミノ酸残基の置換をもたらす特定の変異を有する4種のHvLDIを調製した(表2)。
【表4】
次に、HENZ-16a、HENZ-18、HENZ-31大麦植物変異体を、ランダム変異誘発により調製し、続いてWO2018/001884で記載のように基本的に実施されるddPCR系方法により特定した。より具体的には、ランダムに変異誘発させた大麦粒のプール(親変種PaustianおよびPlanet)を、調製し、続いてWO2018/001884のp.66~69のWS1およびWS2ならびに実施例1~2(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のように、順序付きライブラリーを調製した。
【0228】
配列番号1のHvLDIをコードする野生型HvLDI遺伝子(ユニプロット受入番号Q2V8X0)を、野生型HvLDIのためのリファレンス遺伝子として使用した。
【0229】
HENZ-16a、HENZ-16b、HENZ-18、HENZ-31大麦植物変異体を、下表3で指定したプライマーおよびプローブを用いて、WO2018/001884のp.67~72のWS3およびWS4ならびに実施例3~15に記載のように特定し選択した。
【0230】
HENZ-16a、HENZ-16bおよびHENZ-18の背景、すなわち親植物は、Paustianであり、HENZ-31の背景は、Planetである。PaustianおよびPlanet大麦植物は、HvLDIポリペプチドをコードする野生型HvLDI遺伝子を含む。Paustianは、Sejet Plant Breeding,Norremarksvej 67,8700 Horsens DKから入手可能である。Planetは、RAGT Semences,Rue Emile Singla,12000 Rodez,Franceから入手可能である。
【表5】
【0231】
実施例2.インビトロ結合試験
方法
商業的に入手可能なインビトロアッセイ(プルラナーゼ/限界デキストリナーゼアッセイキットPullG6法、Megazyme,Ireland)を製造業者の説明書に従って使用して、組換えHordeum vulgare限界デキストリナーゼ(HvLD)の活性を阻害する組換え発現HvLDIポリペプチドの能力を評価した。
【0232】
限界デキストリナーゼ活性を測定するためのPullG6法は、補助酵素α-グルコシダーゼおよびβ-グルコシダーゼと結合された、水溶性特定酵素基質、すなわち4,6-O-ベンジリデン-4-ニトロフェニル-63-α-D-マルトトリオシルマルトトリオース(BPNPG3G3)に基づく。
【0233】
基質中の1,6-α-結合の限界デキストリナーゼによる特有の加水分解に、α-グルコシダーゼおよびβ-グルコシダーゼ酵素によるグルコースおよび4-ニトロフェノールへのさらなる加水分解が続き、反応をアルカリ溶液の添加により終える。400nmでの吸光度は、限界デキストリナーゼ活性と直接相関され得る。
【0234】
高レベルの可溶性、組換えHvLDIの合成のために、対応する遺伝子(NS03)を、E.coli発現ベクターpSol-SUMO(Lucigen,USA)に挿入した。
pSol-SUMO中の野生型またはヌクレオチド変異を含むHvLDIで形質転換された、化学的にコンピテントなE.cloni 10G細胞を、異種発現のために使用した。タンパク質精製を、5mlの固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)crudeカラム(GE Healthcare,USA)を用いて達成し、N末端タグを、TEVプロテアーゼ切断により除去した。
富化され、切断されおよび濃縮されたHvLDIのタンパク質濃度を、Pierce 660nm Protein Assay(ThermoFisher Scientific,USA)を用いて測定し、その後インビトロ阻害アッセイを実施した。
【0235】
組換え野生型HvLDの場合、対応する遺伝子(配列番号7)を、pET28a発現ベクター(Novagen,USA)(現在、Merck biosciences,Germany)に挿入した。発現は、BL21(DE3)発現細胞(New England BioLabs,USA)で実施した。タンパク質を、HisTrap FF金属親和性クロマトグラフィーカラム(GE Heathcare,USA)で精製し、PBSバッファーに交換し、アッセイ中でのその利用の前に、4.6mg/mLに濃縮した。
【0236】
アッセイを、25μLの総反応体積で実施するために縮小した。予備実験では、1.5μMのHvLDの最終濃度は、阻害を検出するが活性化も必要に応じ検出する能力を有する標準的反応条件下で良好なシグナルを生成した。精製された組換え変異体または野生型のHvLDIの系列希釈を、反応バッファー(100mMのマレイン酸ナトリウム,pH5.5)中で実施し、10μLの各希釈液を、同じバッファー中で6μMの組換えHvLDの10μLと混合した。混合物を、室温で5分間インキュベートした。反応を、同じ体積のP6試薬への12.5μLのHvLD/HvLDIの添加により開始した。反応を、40℃で30分間進行させ、187.5μLの停止試薬[2%(w/v)トリスベース溶液、pH9.0]の添加により停止した。それぞれ停止された反応液の50μLの分取量を、ハーフエリアの平底96ウェルマイクロプレートの個別のウェルに移した。A400nmを、体積のわずかな相違を考慮するために光路補正を用いて、SpectraMax 340PC384マイクロプレート読み取り装置(Molecular Devices,USA)の底部から測定した。データを出力し、バックグラウンド(HvLDは同じ体積の反応バッファーで置き換えられた)を減算し、吸光度をアッセイにおけるHvLDIの濃度に対しプロットした。50%阻害濃度(IC50)を、GraphPad Prism(バージョン4、GraphPad Software,USA)を用いて決定した。遊離HvLD活性については図1を参照されたい。
【0237】
結果
精製した組換え野生型および変異体HvLDIを、商業的に入手できる酵素アッセイで使用して、遊離HvLD活性を検出した。野生型HvLDIおよび変異体HvLDIの組換え発現HvLDを阻害する効力を、アッセイ中に放出された発色団の量により評価した。全ての試験した変異体では、顕著なより高い濃度が、野生型に比較して抑制効果を見るために必要であった(図1および表4参照)。
【0238】
変異P60、V66MおよびE68Kは、HvLDを阻害する能力において大きな低下を示した。HvLDI-P60Lは、試験した最高の濃度であっても、HvLDを完全には阻害しない。大幅にさらに高い濃度のHvLDI-P60L、HvLDI-P60S、HvLDI-V66MおよびHvLDI E68Kが、野生型LDI大麦植物に比べて、HvLD%活性の阻害を達成するために必要である。
【表6】
【0239】
実施例3.発芽試験
次の大麦植物HENZ-16、HENZ-18、HENZ-31、PaustianおよびPlanetを、標準条件下でシーズン2017/2018にニュージーランドの圃場で生育させ、穀粒が成熟に達すると収穫した。
【0240】
全ての大麦粒試料を、パラメーター発芽インデックス(Gインデックス)、発芽エネルギーおよび感水性について評価した。データは、Analytical-EBC Method 3.6.2 大麦の発芽エネルギー:BRF法、2004に準拠して、4mLの発芽試験については100個の穀粒、および8mLの発芽試験については100個の大麦粒の2種の試料サイズに基づいた。
【0241】
発芽穀粒を、20℃の加湿ボックス中にて2枚の濾紙(Whatman定性濾紙、グレード1、85mm、カタログ番号1001-085)および4mlのミリQ水を含むペトリ皿上で24、48および72時間のインキュベーション後に計数した。
【0242】
Gインデックス
Gインデックスは、3日の期間にわたる発芽の指標であり、次の式:10*(x+y+z)/(x+2*y+3*z)で表され、式中、xは、24時間で計数された発芽穀粒の数であり、yは、48時間で計数された発芽穀粒の数であり、zは、72時間で計数された発芽穀粒の数である。
【0243】
発芽エネルギー
発芽エネルギーは、発芽試験中の総穀粒の内の発芽穀粒のパーセンテージを表す。発芽エネルギーは、24時間毎の発芽穀粒の3日間の計数値に基づいて計算される。
【0244】
感水性
感水性は、8mlのミリQ水を含むペトリ皿上で72時間のインキュベーション後に発芽穀粒を計数すること、および4mlと比較することにより測定される:Gエネルギー、4ml-Gエネルギー、8ml。
【0245】
結果
【表7】
発芽インデックス(Gインデックス)、発芽エネルギーおよび感水性における有意差は、野生型大麦植物からの穀粒に比べて、HvLDI変異体大麦植物からの穀粒について観察されなかった。
【0246】
実施例4.糊化温度
次の大麦植物HENZ-16a、HENZ-31、PaustianおよびPlanetを、標準条件下にてデンマーク2017で生育させ、穀粒が成熟に達すると収穫した。
大麦粒試料を、実験室Retschボールミルを用いて微粉に粉砕した。約115mgの大麦粉を、その重量の3倍の水と混合し、25uLの懸濁液をピペット操作でアルミニウムパンに入れた。パンを、密閉状態でシールした。糊化温度を、10℃/分の加熱速度で40から90℃に示差走査熱量計(DSC-1 STARe System,Mettler-Toledo)中でパンを加熱することにより測定した。空のパンを、基準として使用した。
結果:
【表8】
糊化温度における有意差は、観察されなかった。
【0247】
実施例5.フレックスモルト製麦工程
栽培品種PaustianまたはPlanetの野生型穀粒、および実施例1に記載のようにHvLDI中に変異を有する大麦植物の穀粒を、浸麦の前に約3~4%の外皮を取り除くために、注文製作の装置を用いて1分間の加速摩耗に供した。
【0248】
穀粒を、プレキシガラスシリンダ中の水溶液中に置き、穀粒のカラムの下から大気を用いて常に通気した。空気流を、SmartTrak(登録商標)50質量流量計およびコントローラー(Sierra,CA,USA)を用いて設定し、温度を、Testo735精密温度計(Testo,Germany)を用いて測定した。
【0249】
野生型および変異大麦粒を、1μMのジベレリン酸(GA、G7645、Sigma-Aldrich)、0.01%のAntifoam-204(Sigma-Aldrich)および0.01%H(Apoteket,Denmark)に調節した水中で24時間インキュベートした、インキュベーションは、23℃で実施され、穀粒は、90L/時間の大気により通気された。排液後に、穀粒は、90L/時間の大気により24時間にわたり通気された。
【0250】
ジベレリン酸(GA)は、発芽大麦中のアリューロン層を活性化する植物ホルモンである。多くの麦芽製造業者は、製麦工程中に低濃度でGAを添加する。ここでは、GAを、工程の開始時に、穀粒のインキュベーション用の水に補充した。GA溶液を、無水エタノール中でジベレリン酸(G7645、Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)から調製し、水に加えた。
【0251】
全インキュベーション中に、空気が、タンクの底部から湿潤穀物粒を通して導入される。製麦工程では、穀粒は、キルン乾燥されないが、いかなる乾燥ステップもなしに粉砕され糖化される。
【0252】
実施例6.VLB製麦工程
HENZ-16aおよびPaustian大麦植物からの25kgの大麦粒を、VLB,Berlinで麦芽化した。浸麦を18℃で、および発芽を14.5℃で5日間実施した。穀粒の目標含水量は、穀粒がキルン乾燥される前で43%であった。
【0253】
実施例7.加水分解酵素活性を測定する方法
発芽中、大麦粒は、α-アミラーゼ、限界デキストリナーゼおよび(1,3;1,4)-β-グルカナーゼなどの一連の加水分解酵素を分泌し始める。通常、これらの酵素作用は、時間的に協調した様式で検出できる。
【0254】
試料調製
HENZ-16、HENZ-18、HENZ-31、PaustianおよびPlanetからの72時間発芽穀粒試料を、20℃で加湿ボックス中にて、2枚の濾紙(Whatman、グレード1、85mm、カタログ番号1001-085)および4mlのミリQ水を含むペトリ皿上で72時間にわたり100個の穀粒を発芽させることにより、調製した。欧州醸造会議標準EBC19に従って調製されたEBC19麦芽は、実験での対照として含められた。
【0255】
HENZ-16a、HENZ-31、PaustianおよびPlanetからのフレックスモルト化穀粒試料を、実施例5に記載の方法に従って調製した。
【0256】
HENZ-16aおよびPaustianからのVLB麦芽化穀粒試料を、実施例6に記載の方法に従って調製した。
全ての72時間発芽穀粒およびフレックスモルト化試料を、凍結乾燥機(ScanVac CoolSafe 4L,LaboGene)中で72時間水を蒸発させることにより凍結し乾燥した。
酵素活性分析の前に、全ての試料を、標準Cyclotech粉砕機(FOSS,Denmark)を用いて粉砕して、粉末を生成する。発芽大麦粒の酵素活性の全ての測定は、試料の粉砕の48時間後以内に行われた。
【0257】
α-アミラーゼ活性
α-アミラーゼ活性を、250mgの粉末から出発する、Megazyme,Ireland(K-CERA)によるCeralpha法の規模縮小バージョンにより測定した。
結果
同等のαアミラーゼ活性[U]/[g]が、HvLDI大麦植物変異体および対照大麦植物からの発芽穀粒、フレックスモルト化穀粒およびVLB麦芽化穀粒において、明らかになった。図2A、3A、および4Aを参照。
【0258】
β-アミラーゼ活性
β-アミラーゼ活性を、250mgの粉末から出発する、Megazyme,Ireland(K-BETA3)によるBetamyl-3法の規模縮小バージョンにより測定した。
結果
同等のβ-アミラーゼ活性[U]/[g]が、HvLDI大麦植物変異体および対照大麦植物からの発芽穀粒、フレックスモルト麦芽化穀粒およびVLB麦芽化穀粒において、明らかになった。図2B、3B、および4Bを参照。
【0259】
遊離および総限界デキストリナーゼ活性
限界デキストリナーゼ活性を、250mgの粉末から出発する、Megazyme(K-PullG6)によるPullG6法の規模縮小バージョンにより測定した。遊離限界デキストリナーゼ活性は、15分毎に定期的に撹拌しながら、40℃で1時間2.5mlの0.1Mマレイン酸pH4.7中への粉末の抽出後に測定され、一方、総限界デキストリナーゼ活性は、15分毎に定期的に撹拌しながら、40℃で1時間25mMのジチオトレイトール含有の2.5mlの0.1Mマレイン酸pH4.7中への粉末の抽出後に測定される。抽出後に、試料を卓上型遠心分離機(Heraeus Pico17 centrifuge,Thermo Scientific(商標))により10000rpmで10分間遠心分離し、上清を500ulの試料カップ(Thermo Scientific(商標))に移した。アッセイは、Gallery(商標)Plus Beermaster Discrete Analyzer(Thermo Scientific(商標))で特注のアッセイを用いて実施される。24ulの上清を、24ulのPullG6基質とインキュベートし、反応を、37℃で1時間進行させる。反応を、240ulのTrizma 2%の添加により停止し、400nmでの吸光度を、Megazyme(K-PullG6,Megazyme,Ireland)によるPullG6法に従って、反応ブランクの減算後に測定する。
【0260】
結果
総限界デキストリナーゼの結果
HvLDI大麦植物変異体からの72時間発芽穀粒およびフレックスモルト化穀粒は、対照大麦植物に比べて、同等の総限界デキストリナーゼ活性[mU]/[g]を有することが明らかになった。図2Cおよび3Cを参照。VLB麦芽化穀粒中の総限界デキストリナーゼ活性は、ピルスナー麦芽化穀粒中の総限界デキストリナーゼ活性と同等であった。VLB麦芽化穀粒に使用された製麦条件のため、総限界デキストリナーゼレベルは、標準ピルスナー麦芽に比較して、VLB麦芽化穀粒からの穀粒中で、より少なかった。図4Cを参照されたい。
【0261】
遊離および遊離/総限界デキストリナーゼの結果
遊離限界デキストリナーゼ活性、および遊離/総限界デキストリナーゼの比率は、2種の対照大麦植物PaustianおよびPlanet、ならびにHENZ-18およびEBC19に比べて、HENZ-16aおよびHENZ-31大麦変異体からの発芽穀粒中でより高かった(図2C)。
遊離限界デキストリナーゼ活性、および遊離/総限界デキストリナーゼの比率は、2種の対照大麦植物PaustianおよびPlanetに比べて、HENZ-16aおよびHENZ-31大麦変異体からのフレックスモルト化穀粒中でより高かった(図3C)。
遊離限界デキストリナーゼ活性、および遊離/総限界デキストリナーゼの比率は、対照大麦植物Paustianならびにピルスナー麦芽に比べて、HENZ-16a大麦変異体からのVLB麦芽化穀粒中でより高かった(図4C)。
【0262】
動力学的測定結果
動力学的測定を、フレックスモルト化穀粒に対し追加で実施した。
基質動力学は、40℃で1時間0.1Mマレイン酸pH4.7中へのフレックスモルト化粉末の抽出後に遊離限界デキストリナーゼについて、および40℃で1時間25mMのジチオトレイトール含有の0.1Mマレイン酸pH4.7中への粉末の抽出後に総限界デキストリナーゼについて、測定される。抽出は、MegazymeからのPullG6法と同様に実施された。
50ulの抽出物を、40℃で30分間0~3mMの最終濃度の50ulのPullG6基質とアッセイチューブ中でインキュベートした。次に反応を、750ulのTrizma 2%で停止し、400mmでの吸光度を、Megazyme(K-PullG6,Megazyme,Ireland)からのPullG6法に従って、反応ブランクの減算後にGenesys 10S UV-Vis spectrophotometer(Thermo Scientific(商標))で測定した。データを、公的に入手可能なウェブサイト、ic50.tkを用いて、Michaelis-Menten関数にフィットさせ、Kmを、反応がVmaxの半分に達したときの基質の濃度として決定した。
【表9】
遊離HvLDのKmは、2種の対照大麦植物のPlanetおよびPaustianに比べて、HENZ-16aおよびHENZ-31について低かった。表7参照。
総HvLDIに対する類似のKmが、HENZ-16a、HENZ-31、PlanetおよびPaustianについて観察された(表7)。
遊離限界デキストリナーゼ活性は、Paustianに比べて、HENZ-16aで高かった。図5も参照されたい。
【0263】
実施例8:マッシングおよび麦汁中の糖分析
VLB麦芽および乾燥フレックスモルトを、標準Cyclotech粉砕機(FOSS,Denmark)を用いて粉末に粉砕した。欧州醸造会議標準EBC19に従って調製されたEBC19麦芽は、実験での対照として含められた。
【0264】
乾燥フレックスモルトのマッシング
70gの乾燥物を、5:1の水:醸造用麦芽比で混合し、次のマッシングプログラムに従って、Lochnerマッシング装置ですりつぶされた:52℃で10分、65℃で50分および78℃で5分とし、温度の昇降温傾斜1℃/分により間隔をあける。この工程は、「マッシング」とも呼ばれ得る。
【0265】
VLBモルトのマッシング
15gの乾燥物を4:1の水:醸造用麦芽比で混合し、次のマッシングプログラムに従って、マッシングロボット装置(Zinsser Analytics,Germany)で糖化した:52℃で15分、65℃で45分および72℃で15分および78℃で5分、温度の昇降温傾斜1℃/分により間隔をあける。この工程は、「マッシング」とも呼ばれ得る。
【0266】
フルクトース、スクロース、グルコース、マルトースおよびマルトトリオースなどの発酵性糖類ならびに他の糖類のレベルを、麦汁中で測定した。分析を、0.1MのNaOH中で中和した濾過麦汁に対し実施した。可溶性糖類を、パルス電気化学検出と組み合わせた高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)により測定した。
【0267】
乾燥フレックスモルトから調製された麦汁中の糖分析
結果を、図6に示す。図6Aの結果は、HENZ-16a大麦変異体の穀粒から調製した麦汁は、Paustianの穀粒から調製した麦汁に比べて、8.2%多い発酵性糖を含むことを示す。
【0268】
より具体的には、HENZ-16aから調製された麦汁中のグルコース、フルクトース、イソマルトース、イソマルトトリオース、マルトース、パノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオースおよびマルトアクタオースのレベルは、Paustianから調製された麦汁中のこれらの糖類のレベルに比べて、より高い(図6B)。
【0269】
乾燥VLBモルトから調製された麦汁中の糖分析
結果を、図7に示す。
図7Aの結果は、HENZ-16a大麦変異体の穀粒から調製された麦汁は、Paustianの穀粒から調製された麦汁に比べて、7.2%多い発酵性糖を含むことを示す(図7A)。
より具体的には、HENZ-16aから調製された麦汁中のグルコース、フルクトース、イソマルトース、イソマルトトリオース、マルトース、パノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトヘプタオースおよびマルトアクタオースのレベルは、Paustianから調製された麦汁中のこれらの糖類のレベルに比べて、より高い(図7B)。
【0270】
実施例9.アミロペクチン鎖長分布分析/重合度
デンマークシーズン2017
HENZ-16a、HENZ-18およびHENZ-31、PlanetおよびPaustian大麦植物は、シーズン2017にデンマークの隣接区画中で生育された。
【0271】
ニュージーランドシーズン2017/2018
HENZ-16a、HENZ-18およびHENZ-31、PlanetおよびPaustian大麦植物は、シーズン2017/2018にニュージーランドの隣接区画中で生育された。収穫穀粒を後述のように分析した。
【0272】
デンプンを、Shaik et al.,(2014)に従って粉末(2mg)から単離した。デンプンを、シュードモナス・スフェロイデスイソアミラーゼおよびバチルス・リケニフォルミスプルラナーゼ(Megazyme,Ireland)を用いて脱分岐し、Blennow et al.(1998)に従って、CarboPac PA100分析カラムを用いてICS-3000クロマトグラフィーシステム(Dionex)で分析した。
重合度および鎖長分布結果を、図8および9に示す。
変異体(HENZ-8、HENZ-9、HENZ-16、HENZ-18およびHENZ-31)のアミロペクチンの鎖長分布プロファイルは、2種の対照大麦植物のPlanetおよびPaustianと基本的に同一であった。鎖長のわずかな差異は、標準的技術の変化の結果である。
【0273】
実施例10.収率および穀粒分析
収率
大麦植物を、デンマーク2018(2回反復)およびニュージーランド2017/2018(3~8回反復)に育種し、大麦植物の収率を測定した。実験結果を表8にまとめる。
【表10】
有意差は、変異大麦植物と対照の間で観察されなかった。
粒重を、ニュージーランド2017/2018での育種大麦植物から分析した。実験結果を表9にまとめる。
【表11】
【0274】
タンパク質、水およびデンプン含量
穀粒のタンパク質、水およびデンプン含量を、測定器の供給業者により提供されたこれらの成分のための較正曲線を適用して、製造業者の説明書に従いFOSS Infratec(商標)NOVA測定器を用いて測定した。結果を下表10に示す。
【表12】
結果は、HENZ-16、HENZ-18、Paustian、HENZ-31およびPlanetの間で、タンパク質含量、含水量、およびデンプン含量の有意差は存在しないことを示す。

図1A-E】
図2A-C】
図3A-C】
図4A-C】
図5
図6A-B】
図7A-B】
図8A-B】
図8C-D】
図9A-B】
図9C-D】
【手続補正書】
【提出日】2022-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023516327000001.app
【国際調査報告】