(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】生態学的に許容され得る溶媒中での多糖類の直接硫酸化のための方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20230412BHJP
C08B 37/10 20060101ALI20230412BHJP
C08B 37/08 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C08B37/00 H
C08B37/10
C08B37/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552532
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 IB2021051714
(87)【国際公開番号】W WO2021176341
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】102020000004564
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】バッツァ,パオラ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンキ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】タグリアーニ,アウロ・ロベルト
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA65
4C090BA66
4C090BA68
4C090BB55
4C090BB95
4C090CA38
4C090DA22
4C090DA27
(57)【要約】
本発明は、生態学的に許容され得る溶媒を使用して、保護されていない糖、特に多糖類の直接硫酸化物を得るための新規な方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された温度条件下で、反応が酢酸中で実施されることを特徴とする、グリコサミノグリカン又はその塩を硫酸化剤と反応させることによる硫酸グリコサミノグリカンの調製のための方法。
【請求項2】
前記硫酸化剤が、クロロスルホン酸、又はSO
3の有機塩基若しくはジメチルホルムアミドとの錯体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有機塩基がピリジン又はトリエチルアミンである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記温度の範囲が、前記反応混合物の凍結点から70℃、好ましくは10℃から50℃、そしてより好ましくは10℃から20℃である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記グリコサミノグリカンが、塩の形である、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記塩が、テトラアルキルアンモニウム塩又はピリジニウム塩である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記グリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸及びデルマタン硫酸から選択される、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記グリコサミノグリカンが、コンドロイチン硫酸である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
低分子量のコンドロイチン硫酸ナトリウム塩の調製のための、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記硫酸化生成物が、任意選択的に、透析による有機塩基又は無機塩基の除去の後に、濾過、有機溶媒中での沈殿又はクロマトグラフィーによって単離される、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生態学的に許容され得る溶媒を使用した新規な硫酸化方法、具体的には糖の硫酸化に関し;前記方法は多糖類にも適用でき、コンドロイチン硫酸などの硫酸化グリコサミノグリカンの調製を可能にする。この種の反応は一般に、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの高い環境負荷を有する毒性の溶媒中で行われる。これまで知られていなかった発見は、前記硫酸化反応が、環境的に許容され得る溶媒である酢酸中で行うことができ、良好な変換収率、硫酸化の程度の良好な制御、及び良好な化学選択性をもたらすことである。さらに、前記方法はヒドロキシル基の保護/脱保護工程を必要とせずに、保護されていない糖に直接適用することができる。また多糖類にも広い範囲の分子量で適用可能である。具体的には、グリコサミノグリカンに適用することができ、ヘパリン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸の調製に有用であり得る。
【0002】
発明の背景
グリコサミノグリカン類(GAG類又はムコ多糖類)は、単糖とアミノ糖が交互に並ぶ二糖の直鎖により形成される多糖類のファミリーであり;1つ以上の硫酸基が二糖類上の様々な位置に存在することができる。それらは多くの動物組織に存在し、一般的には、皮膚、軟骨及び軟部組織などの結合組織中に特に豊富に存在する。GAG類としては、ヘパリン及びヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸及びヒアルロン酸が挙げられ;最後のヒアルロン酸は、硫酸基を持たない唯一のものである。グリコサミノグリカンは、動物の種類及び臓器又は組織の由来によって、様々な硫酸化プロファイル及び様々な分子量を有することが出来る。
【0003】
コンドロイチン硫酸は、N-アセチルグルコサミン及びグルクロン酸からなるグリコサミノグリカンであり、前記二糖上の様々な位置の硫酸基中に存在し、一般に様々な動物組織中に存在する。ヒトにおける最も豊富なGAGであり、特に軟骨中に見いだされる。現在、注射可能な薬物として、及び栄養補助食品の製品としての両方で、特に膝や手の変形性関節症及びその他の炎症性関節疾患の処置において、ヒトと動物の両方の用途で使用されている。
【0004】
CSは通常、食品産業の副産物、特に牛及び豚などの飼育動物からの、又は漁業からの、特にサメからの副産物として得られる。コンドロイチン硫酸は、組織及び生物種の由来によって様々な特徴を有し、具体的には、硫酸化プロファイル及び分子量が異なり;後者は、使用される調製方法によっても影響を受ける可能性がある。CSは、それを構成する二糖類の配列に基づいて分類することができ;硫酸基は、二糖類上及び両方の糖(主に2、4及び6の位置)上の様々な位置に存在することができ;コンドロイチンA及びCは、1つの硫酸基のみを有するが、B、E及びDは、2つの硫酸基を有する。非硫酸化及び三硫酸化コンドロイチンもまた存在し得る。
【0005】
市販されている動物由来のCSの組成は、種や組織の由来によって異なり;分子量もまた異なり、一般的に海産由来のものは高く、陸上動物由来のものは低い。さらに、動物由来のCSは、短鎖(数kDa)、中鎖及び長鎖(>100kDa)の多糖類の混合物から構成されているため、ポリマーの分子量の点で非常に不均一な混合物として存在する。CSの特徴を説明するために、平均のMW値に加えて、その多分散性(MW値の平均付近での分散性)も示される。製品の由来による組成の説明は、国際公開公報第2012/159655号、pp.2~3、表1に記載されている。
【0006】
CS(又は他のグリコサミノグリカン)の元来の平均分子量は、多糖類の制御された断片化によって任意に減少させることもでき;低い平均分子量を有する動物由来のCS(LMW-CS)では、酸加水分解及びラジカル加水分解の両方で多糖類の鎖がランダムに断片化されるため、一般に多分散性の値は一層高くなる。
【0007】
製品の不十分な標準化に加えて、CSが動物由来であるという事実は、明らかに他のリスク、例えば、由来となる動物からヒト又はペットに伝染する疾患に関連するリスクも伴う。
【0008】
動物由来から導かれる欠点を克服するために、近年、半合成によって得られるコンドロイチン硫酸の製造が開発され;K4と呼ばれる非硫酸化前駆体が発酵によって生成され、その後コンドロイチン硫酸に変換される。K4は、コンドロイチンと同じ直鎖構造を有する多糖類であるが、果糖残基も保持し、硫酸基を有さず;国際公開公報第2001/02597A1号に開示されているように、例えば大腸菌O5:K4:H4から発酵によって生成することができる。K4は、化学的加水分解により容易に脱フルクトシル化することができ、非硫酸化コンドロイチンの構造に対応する、K4dと呼ばれる直鎖状のポリマーをもたらし、そしてこれからCSが得られる。
【0009】
あるいは、国際公開公報第2012/004063号に記載されているように、K4d多糖類は、好適な組み換え微生物菌株を使用して、発酵により直接K4d多糖類を生成することもできる。
【0010】
続いてのK4d多糖類の硫酸化は、硫酸基の導入の位置(一般的には4位又は6位)に関して、硫酸化の程度(二糖単位当たりの硫酸基の数)を調節するための制御された条件下で行うことができる。前記分子量は、例えば高分子量ポリマーを酸加水分解又はラジカル加水分解に供することによっても調節することができ;これは硫酸化の前後どちらかで、すなわちK4d多糖類及びコンドロイチン硫酸の両方に対して行うことができる。この方法は、その変異体と共に、優れた信頼性を有しそして動物由来の製品に特徴的な欠点を持たない、所望の硫酸化プロファイルを有するコンドロイチン硫酸をもたらす(US2019/231810)。
【0011】
K4dポリマーの硫酸化反応は、これまで様々な硫酸化剤を用いて行われてきたが、常に無水有機溶媒、具体的にはジメチルホルムアミド(DMF)を使用して行われおり;生体毒性学的負荷の低い方法ではない。
【0012】
DMFは、引火性であるだけでなく、人及び環境にも危険なため、特に注意が必要な溶剤であり;皮膚及び眼、呼吸器系、生殖器系に対して毒性がある。また、皮膚に接触するか又は吸い込んだ場合に有害であるため、特に危険である。毒性の特徴を考慮すると、環境コストも明らかに高く;DMFを含む廃水の回収及び廃棄には費用がかかる。ジメチルアセトアミド又はN-メチルピロリドンはDMFの代替として硫酸化反応に使用できるが、同様の生体毒性学的問題を引き起こす。
【0013】
DMFはまた、硫酸化剤のための良溶媒でもあり;例えば、Chopin et al., BioMed Research International 2015, Article ID508656では、グリコサミノグリカンは反応溶媒としてイオン液体を使用して硫酸化されるが、硫酸基供与体(様々な有機塩基を有するSO3錯体)を溶解するためにDMFが依然として使用されている。さらに、DMFは、可能な硫酸化剤を構成するSO3を有する錯体を形成する。
【0014】
DMFに対する代替として、アセトニトリルが、マイクロ波照射を用いて行われる反応中の溶媒として使用できる;例えば、de Paz Carrera et al., 国際公開公報第2012/035188号を参照のこと。多糖類を含む、有機分子の硫酸化反応の一般的な説明は、Desai et al., Tetrahedron 66, 2907-18 (2010)による報告中に見いだされる。
定義
K4:フルクトシル化、非硫酸化グリコサミノグリカン多糖類であり、以下の構造式:
【化1】
を有する。
【0015】
K4d:果糖残基のない非硫酸化グリコサミノグリカン多糖類であり、以下の構造式:
【化2】
を有する。
【0016】
コンドロイチン硫酸:硫酸化グリコサミノグリカン多糖類であり、以下の構造式:
【化3】
を有する。
発明の説明
【0017】
本発明の硫酸化方法は、その進行、すなわち硫酸化の程度、及び硫酸基の導入の位置、すなわちその選択性の両方に関して良好な反応全体の制御を維持しながら、生態学的に許容され得る溶媒である酢酸の使用を可能にする。さらに、前記方法は、保護及び脱保護の工程を必要としないため、原材料の節約及びより低い廃水の産出をもたらす。前記方法は、新たな硫酸基の導入だけには関係するが、ポリマー長には影響を与えない分子量(MW)の増加を伴うか、又は制御された方法でのみ分子量の増加に影響を与え、そして特に、断片を生成せず;したがって、低分子量のCSが要求される場合、合成方法(硫酸化前又は硫酸化後のコンドロイチン硫酸に対するK4d多糖類の制御された断片化)、及び単離方法(沈殿又は限外濾過による単離)を組み合わせることによって、最終生成物のMWを随意に調節することができる。したがって、前記新規方法は、栄養学分野及び製薬分野における使用に好適な、所望の硫酸化プロファイル、分子量及び多分散性を有するCSを生成する。
【0018】
本発明の方法は、非汚染性溶媒の使用及びより低い廃水の産出によって、より低い生態学的負荷を有する。前記方法の好ましい実施態様では、得られる生成物は、低分子量のコンドロイチン硫酸のナトリウム塩である。
【0019】
1つの可能な実施態様では、K4dポリマー塩、好ましくはテトラアルキルアンモニウム塩、より好ましくはピリジニウム塩又はテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩又はテトラブチルアンモニウム塩を、硫酸化する。別の実施態様では、酸の形のK4d多糖類が使用される。
【0020】
1つの実施態様では、SO3Py又はSO3NEt3、DMFなどの有機塩基を有するSO3の錯体を硫酸化剤として使用する。別の実施態様では、クロロスルホン酸を硫酸化剤として使用する。
【0021】
1つの実施態様では、前記硫酸化反応は、酢酸を溶媒として使用して行われる。
本発明の方法は、
a)グリコサミノグリカン又はその塩などの多糖類を、酢酸中に溶解又は懸濁させるステップ、
b)硫酸化剤を加えるステップ、
c)例えば、反応混合物を、酢酸又はその硫酸化される多糖類との混合物の凍結温度と70℃との間の温度、より好ましくは10℃から50℃、さらにより好ましくは10℃から20℃の間の温度に反応混合物を維持することにより、制御された温度条件下で反応を行うステップ、
d)例えば直接濾過、有機溶媒中での沈殿、又はクロマトグラフィーによって、反応溶媒から生成物を分離するステップ、
e)任意選択的に、例えば透析によって、グリコサミノグリカン硫酸塩の溶液から有機塩又は無機塩及びその他の不純物を除去するステップ、
f)任意選択的に、所望の生成物の分離の後に、得られる反応溶媒を回収し、そしてa)項に記載された反応中にそれを再利用するステップ
を含む。
【0022】
それにより、所望の生成物の溶液を、栄養学上の分野での使用のために十分に純粋な形で得;生成物を固体の形状で得ることを所望する場合、前記溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥又は別の好適な方法によって乾燥することができる。
【0023】
注射可能な用途に好適な品質の反応生成物を得るには、例えば炭素を用いる脱パイロジェンにより、上記の溶液からいずれのパイロジェンも除去した後に、滅菌濾過を行い、次いで乾燥させることが得策である。
【0024】
完全な方法は、国際公開公報第2001/02597A1号に開示されているように、野生型大腸菌株O5:K4:H4株の発酵により得られる莢膜多糖類K4の生成から始まる。バイオマスの分離後、上清を制御条件下で加水分解に供し、果糖残基を除去して;非硫酸化コンドロイチンに対応するK4d多糖類の水溶液を得る。前記生成物は、さらに精製して、ナトリウム塩の形の脱フルクトシル化高分子量多糖類の水溶液を得ることができる。次に、この生成物を、Cho et al. in Biol Pharm Bull 27, (1), 47-51に記載された方法と同様に、酸性条件下で制御された断片化に供する。あるいは、イタリア特許第1224260号に開示されているように、過酸化水素及び硫酸鉄を使用して、又は米国特許第4,977,250号に開示されているように次亜塩素酸ナトリウムを使用して、ラジカル断片化方法を用いることができる。前記反応は通常、HPLC-SECにより監視して、生成物の分子量を制御し;所望の平均分子量、例えば5から30kDaの間に達したとき、中性pHに達するまで水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム又は他の塩基を加えることによって反応をクエンチし、混合物を室温まで冷却する。
【0025】
低分子量のK4dポリマーの水溶液を、500と5000ダルトンの間のカットオフを用いてポリスルホン膜で限外濾過に供し;無機塩類(主に塩化ナトリウム及び硫酸ナトリウム)及び非常に低分子量の糖類を透過液において除去する。この方法により、ポリマーの分子量は、狭い範囲で選択され;より高いカットオフとより低いカットオフの2つの限外濾過を組み合わせることで、分子量分布をさらに狭めることも可能である(低多分散性)。
【0026】
膜により捕捉された高分子量ポリマーの画分は、次のバッチで再利用することができる。
【0027】
K4d多糖類をナトリウム塩として得るために、限外濾過又は薄膜蒸発によって溶液を濃縮し、次いで噴霧乾燥することができ;あるいは、生成物を凍結乾燥することにより単離することができる。所望の分子量を有する実質的に純粋なK4d多糖類(非硫酸化コンドロイチン)を得;残留含水率は5%未満であり、そして典型的には2%未満である(Karl-Fischer滴定)。
【0028】
上記とよく似た手順を使用して、カリウム、アンモニウム又は他の塩は、透析又は樹脂からの溶出に適した溶液を使用することにより(例えば、NaClの代わりにKClの溶液を使用することにより)得ることが出来る。
【0029】
K4dポリマーを酸の形で又は四級アンモニウム塩として得るためには、上記のように操作することが可能であるが、コストを削減するために、陽イオン交換樹脂、好ましくは強酸性樹脂、及び好ましくはスルホン酸樹脂を使用することが好ましい。前記樹脂は、アガロースなどの天然ポリマー、又はポリアクリラート又はポリスチレンなどの合成ポリマーをベースにすることもでき;硬質又はゲル状のどちらでも可能であり;スルホン酸基又はリン酸基などの強酸基で官能化する必要がある。前記方法は、カラムモード又はバッチモードで行うことができ、使用される樹脂の量は、機能性の程度(樹脂の1リットル当たりの機能基の数)に依存する。
【0030】
K4dポリマーの水溶液は、メカニカルスターラーを取り付けた反応器中で、溶液のpHが2未満になるまで樹脂を(酸の形で)連続的に小分けして加えることによって処理され;次に、樹脂は濾過によって分離される。非解離酸の形でのK4d多糖類の溶液が得られ、ポリマーの断片化は観察されず;生成物は、溶液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することによって、固体の形状で得ることもできる。
【0031】
生成物が四級アンモニウム塩の形で得られる場合は、上記の酸溶液に適当な塩基(ピリジン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなど。)を中性のpHに達するのに必要な量を加え;上記のように噴霧乾燥することによるか、又は凍結乾燥することによって固形生成物を得る。
【0032】
ピリジニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩及びテトラブチルアンモニウム塩は、この方法により、すべて白色又は淡黄色の固体の形で、残留水分が5%未満で得られ、そして実質的にナトリウムを含まない(0.1%未満)。
【0033】
次に、酸中又は塩化した形のK4dポリマーを、以下に記載の硫酸化反応のために使用して、コンドロイチン硫酸を得;透析及び濃縮後に、CS溶液を噴霧乾燥して、CSナトリウム塩を得る。良好な反応の制御は、高分子の位置選択性及び硫酸化の程度を調節することを可能にする。この方法により、例えばサメ又は他の動物種から得られるCSに類似した硫酸化プロファイルを有する、動物由来のコンドロイチン硫酸の特徴に類似した特徴を有する生成物を調製することが可能である。
【0034】
上記のように、硫酸化の前にK4dポリマーを断片化するか、又は硫酸化の後に得られたコンドロイチン硫酸を断片化するかのどちらかにより、最終生成物の平均分子量及びその平均値付近の分布を選択することも可能である。いずれの場合も、断片化は、引用した文献に記載されているように、酸又はラジカル機構によって得ることができる。
【0035】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【0036】
実施例1:K4dポリマーのナトリウム塩の調製のための一般的な手順
K4d多糖類を、Manzoni et al., Biotechnol Lett 18, 383-6 (1996)に記載されるように、大腸菌の発酵により、莢膜多糖類K4を生成することにより得;バイオマスの分離の後、上清を、制御された条件下で加水分解に供して、果糖残基を除去し;得られたK4d多糖類の水溶液を、Rodriguez et al., Eur J Biochem 177, 117-124 (1988)に記載されているように、クロマトグラフィーによってさらに精製して、脱フルクトシル化高分子量多糖類の水溶液を得る。
【0037】
次に、制御された条件下で、酸による解重合を実施し、HClの添加によって、溶液をpH1から4の間の範囲に調整し、60から80℃に加熱する。反応を、HPLC-SECによって監視し、生成物の分子量を確認し;所望の平均分子量5から30kDaに達したとき、pH7に達するまで水酸化ナトリウムを加えることにより反応をクエンチし、20~25℃に冷却する。
【0038】
低分子量のK4dポリマーの水溶液を、2.5kDaのカットオフを有するポリスルホン膜で限外濾過に供し、水で透析して濃縮する。生成物は、工業的な規模では、噴霧乾燥によって単離されるが、実験室規模では凍結乾燥することにより得られる。K4d多糖類(非硫酸化コンドロイチン)のナトリウム塩は、やや白色の微粉末として得られ;残留含水率は2%未満である(Karl-Fischer滴定)。
【0039】
実施例2:K4dポリマーの四級アンモニウム塩の調製のための一般的な手順
K4d多糖類は、所望の分子量を有する、純粋なナトリウム塩の水溶液が得られるまで、実施例1に記載されるように操作することによって得られ、生成物を固体の形状で単離する必要はない。
【0040】
前記溶液を、メカニカルスターラーを取り付けた反応器中に配置し、次にアンバーライトIRA1200H樹脂(酸の形)をpHが2以下になるまで連続的に小分けして加え;次に樹脂を濾過によって分離する。非解離酸の形のK4d多糖類の溶液が得られ、ポリマーの断片化は観察されず;生成物は、溶液を凍結乾燥又は噴霧乾燥することにより、固体の形状で得ることもできる。
【0041】
アンバーライトIRA1200Hの代わりに、ポリアクリル又はポリビニル構造を有する強陽イオン性樹脂などの、同様な樹脂を使用することができ、同様の結果が得られる。
【0042】
所望の量の塩基(ピリジン又はテトラブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム又はテトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を前記酸溶液に加えて、pHの値を7以上に到達させる。固形の生成物を、噴霧乾燥又は凍結乾燥によって得る。
【0043】
ピリジニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩又はテトラブチルアンモニウム塩はこの方法によって得られ、すべて白色又は淡黄色の固体の形状で、5%未満の残留湿度で得られ、そして実質的にナトリウムを含まない(0.1%未満)。
【0044】
実施例3:K4dポリマーの調製のための別の手順
実施例1に記載された方法に対する代替として、脱フルクトシル化した多糖類を生成する菌株DSM23644を使用して、発酵により直接K4d多糖類を得ることができる。国際公開公報第2012/004063号に記載されるように、生成物を精製し、そしてChoらによって記載されたように酸又はラジカル解重合を実施して、所望の分子量を得る。
【0045】
得られた生成物は、実施例1により得られたものと同一であり;四級アンモニウム塩は、実施例2に記載されるように操作することによって得ることができる。
【0046】
実施例4(比較例):DMF溶媒中でのコンドロイチン硫酸の調製
前記反応は、国際公開公報第2012/159655号の実施例4に記載されるように行われるが、使用されるK4d多糖類がより低い分子量(<10kDa)を有しているという違いがある。
【0047】
無水ジメチルホルムアミド72mL、及び実施例2に記載のように得られたK4d多糖類テトラブチルアンモニウム塩1.20gを、反応器に装填する。3当量のSO3DMF錯体を加え、約+10℃に温度を制御して、保持する。反応の完了後、反応物を重炭酸ナトリウムでクエンチし、そして透析して、凍結乾燥することにより生成物を単離して;<10kDaの分子量を有し、且つ国際公開公報第2012/159655号,p16,表2に報告されている、硫酸化プロファイルを有するコンドロイチン硫酸ナトリウムを得る。
【0048】
実施例5:酢酸中での硫酸化混合物の調製
無水DMF 134mLを、窒素流下でガラス反応器に装填し、5±5℃に冷却して;温度を<30℃に維持しながら、クロロスルホン酸67gをその中に滴下する。添加の間に白色の沈殿を生じ;混合物をさらに20分間撹拌下に維持し、温度を5±5℃に調整する。固体を、焼結ガラスブフナー漏斗を通して、窒素下で濾過し、DMFを除去する。固体試薬を磁気撹拌下で酢酸(73.46g)中に溶解する。得られた硫酸化溶液を、使用時まで湿度に対して保護し、4℃の窒素下に維持する。
【0049】
実施例6:酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸200mL、及び実施例2に記載されたように得られた、K4d多糖類のテトラブチルアンモニウム塩20gを、窒素流下でガラス反応器に装填する。得られた懸濁液を攪拌下で約13℃に冷却し、実施例5により調製した硫酸化溶液(40.22g)で処理して、24時間同一温度で、攪拌下に維持する。反応物を、30% NaOH(382mL)及び氷でクエンチし、温度を<30℃に維持し;懸濁液をHClでpH7.9に調整し、ブフナー漏斗を通して濾過して、固体(酢酸ナトリウム)を廃棄する。母液を限外濾過膜(カットオフ2.5KDa)で限外濾過し、水で透析する。この残留物を真空蒸発により濃縮して、脱色炭で脱色して凍結乾燥し、コンドロイチン硫酸10.5gを得る。
【0050】
実施例7:酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸200mL、及び実施例2に記載されるように得られた、K4d多糖類のテトラブチルアンモニウム塩20gを、窒素流下でガラス反応器に装填し;懸濁液を約13℃に冷却し、実施例5に記載の硫酸化溶液(40.0g)を加える。24時間後に、反応物を水及び氷でクエンチし、温度を<30℃に維持し;次いで限外濾過及び水での透析を行い、残留物のpHを5.5から7.5の間に補正する。残留物を濃縮し、木炭で脱色して、凍結乾燥し;コンドロイチン硫酸11.5gを得る。
【0051】
実施例8:酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸800mL、及び実施例2に記載されるように得られた、K4d多糖類のテトラブチルアンモニウム塩80gを、窒素流下でガラス反応器に装填する。得られた懸濁液を撹拌下で約50℃に加熱し、実施例5により調製した硫酸化溶液(161.32g)で処理し、同一温度で、1時間撹拌下に維持する。懸濁液の一部(~200mL)を水及び氷(2.5kg)に注ぐことによりクエンチし、温度を<30℃に維持し;得られた溶液を、限外濾過膜(カットオフ2.5KDa)を通して限外濾過し、水で透析して、透過液における導電率を<500μSとし、残留物のpHを5.5から7.5の間に調整する。この滞留物を蒸発により濃縮し、氷冷及び凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸8.6gを得る。
【0052】
実施例9:クロロスルホン酸を用いた酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸200mL、及び実施例2に記載されるように得られた、K4d多糖類のテトラブチルアンモニウム塩 20gを、窒素流下でガラス反応器に装填する。懸濁液を約13℃に冷却し、クロロスルホン酸(8.95g)を加えて、24時間温度を維持する。次に、この懸濁液を水及び氷に注ぎ、限外濾過し、実施例7に記載されるように透析する。凍結乾燥することによりコンドロイチン硫酸12.7gを得る。
【0053】
実施例10:クロロスルホン酸を用いた酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸600mL、及び実施例2に記載されるように得られた、K4d多糖類のテトラブチルアンモニウム塩60gを窒素気流下で、メカニカルスターラー、温度計及びスポイドを取り付けたガラス反応器に装填する。得られた懸濁液を撹拌下で、約50℃に加熱してクロロスルホン酸(28.8g)で処理し、同一温度で10分間撹拌下に維持する。懸濁液の一部(~200mL)を水及び氷(2.5kg)に注ぐことによってクエンチし、温度を、<30℃に維持し;得られた溶液を、限外濾過膜を通して限外濾過し、水で透析して、透過液の導電率を<500μSとし、残留物のpHを5.5から7.5の間に調整する。この残留物を蒸発により濃縮し、氷冷及び凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸8.64gを得る。
【0054】
実施例11:クロロスルホン酸を用いた酢酸溶媒中での低分子量コンドロイチン硫酸の調製
無水酢酸200mL、K4d多糖類のTBA塩 20g及びクロロスルホン酸 10.54gを使用して、上記の実施例にある方法で、10℃~15℃で24時間反応を行う。反応の完了後、この懸濁液を、ブフナー漏斗を通して濾過し、ケーキを酢酸で洗浄して、Na2CO3(適量)によってpH7.3に調整した水に溶解する。得られた溶液を上述のように限外濾過及び透析し、残留物を凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸8.58gを得る。
【0055】
実施例12:エタノール及び水中の沈殿による酢酸中での低分子量コンドロイチン硫酸の精製
実施例6に記載されるように合成を行い、反応の終了後に濾過により酢酸ナトリウムを除去する。溶液を、激しい撹拌下で、純粋なエタノール中に滴下し;得られた懸濁液を、ブフナー漏斗を通して濾過し、粗コンドロイチン硫酸27.1gをガラス質の固体の形状で得る。得られた固体のアリコート(2.5g)を、0.2M NaCl(7.5mL)中に溶解し、次にその溶液を激しい攪拌下でEtOH(50mL)中に滴下し;純粋なコンドロイチン硫酸が、非晶質の固体(2.16g)形状で沈殿する。
【0056】
実施例13:酢酸中での高分子量コンドロイチン硫酸の合成及び精製
実施例1に記載されるように反応を行い、水溶液中の高分子量の(脱フルクトシル化した)K4d多糖類を得る;ただし、解重合は行われない。実施例2に記載されるように、対応するテトラブチルアンモニウム塩を、イオン交換樹脂を用いて得る。
【0057】
無水酢酸91mL、及び高分子量K4d多糖類のTBA塩9.1gを、窒素流下でガラス反応器に装填する。得られた懸濁液を撹拌下、10~15℃に冷却し、クロロスルホン酸(5.3g)で処理し、次いで同一温度で2.5時間撹拌下に維持する。懸濁液を、ブフナー漏斗を通して濾過し、得られたケーキを10% NaHCO3水溶液に溶解し;得られた溶液を限外濾過し、そして限外濾過膜を通して透析する。凍結乾燥することによりコンドロイチン硫酸5.21gを得る。
【0058】
実施例14:酢酸中での低分子量コンドロイチン硫酸(DMFSO3粉末を有する)の合成及び精製
無水酢酸200mL、及び実施例2に記載されるように得られた、K4d多糖類のTBA塩20gを窒素気流下で、ガラス反応器に装填する。得られた懸濁液を、撹拌下で約50℃に加熱し、DMF-SO3錯体(アルドリッチ、10.95g)で処理し、同一温度で1時間、撹拌下に維持し;次に反応を氷中でクエンチし、次いで限外濾過及び透析を行い、残留物のpHを5.5から7.5の間に維持する。生成物を脱色炭で脱色し、凍結乾燥して、コンドロイチン硫酸8.73gを得る。
【国際調査報告】