(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】チモーゲンおよびプロタンパク質に由来する成熟ポリペプチドの無細胞タンパク質発現のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20230412BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20230412BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20230412BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20230412BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20230412BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20230412BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230412BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230412BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C12N15/54
C12P19/34 A ZNA
C12P21/00 C
C12N9/00
C12N9/10
C12N15/52 Z
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552709
(86)(22)【出願日】2020-09-03
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 US2020049226
(87)【国際公開番号】W WO2021178001
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】PCT/US2020/021211
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521387785
【氏名又は名称】キュリー カンパニー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】シンデル,ウィル
(72)【発明者】
【氏名】ミルチェック,エリカ エム.
(72)【発明者】
【氏名】ゲデオン,カミル エス.
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】コスタ,シモン エー.
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC06
4B050DD02
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL03
4B050LL05
4B064AG01
4B064CA03
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA13
(57)【要約】
チモーゲンおよびプロタンパク質に由来する活性のある成熟酵素およびタンパク質の発現のための、ハイスループット無細胞タンパク質合成方法およびシステムが提供される。チモーゲンおよびプロタンパク質は、活性ポリペプチドを生成するためのプロ配列の切断なしで、無細胞発現システムにおいてそれらの成熟した活性形態で発現される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性形態を発現させるための方法であって、前記方法は、DNA鋳型からのインビトロ転写およびインビトロ翻訳の能力がある無細胞発現システムにおいて、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列を含むDNA鋳型を発現させるステップを含み、
前記無細胞発現システムにおける発現は、前記成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドを生成し、
前記方法は、前記成熟ポリペプチドを生成するための、前記チモーゲンまたはプロタンパク質からのプロ配列の翻訳後プロセシングまたは切断を含まない、
方法。
【請求項2】
前記無細胞発現システムは、
(a)多糖類、rNTP、tRNA、CoA、NAD、cAMP、フォリン酸、スペルミジン、および3-PGAのうちの1種または複数を含む、エネルギーミックス;ならびに
(b)アミノ酸
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記無細胞発現システムは、真核または原核細胞の無細胞抽出物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無細胞発現システムは、細菌細胞の無細胞抽出物を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌細胞は大腸菌(E. coli)細胞を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記成熟ポリペプチドは、プロ配列なしで個別のポリペプチドとして発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記成熟ポリペプチドは、前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対するポリペプチドプロ配列の存在下で発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記チモーゲンまたはプロタンパク質の前記プロ配列をコードするDNA配列、および前記チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列をコードする前記DNA配列は、同じDNA鋳型から個別のポリペプチド配列として発現される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記成熟ポリペプチドをコードする前記DNA配列は、第1のDNA鋳型から発現され、前記プロ配列をコードする前記DNA配列は、別個の第2のDNA鋳型から発現される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記プロ配列は化学合成され、前記成熟ポリペプチドの発現の前、間、または後に前記無細胞発現システムに添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
成熟トランスグルタミナーゼ酵素(ED 2.3.2.13)を活性のある成熟形態で発現させるステップを含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記トランスグルタミナーゼ酵素は、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列をコードする前記DNA鋳型は、発現ベクターまたは線状DNAフラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列および前記プロ配列ポリペプチドをコードする前記DNA鋳型は、発現ベクターまたは線状DNAフラグメントである、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のDNA鋳型および前記第2のDNA鋳型は、別個の発現ベクターまたは線状DNAフラグメントである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記発現ベクターは、pBR322、pUCベクター、またはpETベクターに由来するプラスミドである、請求項13から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記線状DNAフラグメントは、前記成熟ポリペプチドをコードする鋳型核酸配列のデノボ合成によってまたは増幅によって生成される、請求項13から15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記増幅はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記線状DNAフラグメントの生成は精製ステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記線状DNAフラグメントの精製はヌクレアーゼ阻害剤の存在下で実施される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ヌクレアーゼ阻害剤はGamSを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記無細胞発現システムは、前記成熟チモーゲンまたはプロタンパク質の活性の可逆的阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列は、前記チモーゲンまたはプロタンパク質の野生型配列と比較して1つまたは複数の変異を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列をコードする前記DNA配列に1つまたは複数の変異を導入するステップであって、前記1つまたは複数の変異は、変種成熟ポリペプチド配列をもたらす、ステップ;および
前記無細胞発現システムにおいて前記DNA鋳型を発現させ、それによって前記変種成熟ポリペプチドを生成するステップ
を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から24のいずれかに記載の方法に従って生成される、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性ポリペプチド。
【請求項26】
(a)チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列を含む核酸鋳型;ならびに
(b)前記成熟ポリペプチドを生成するための、前記DNA鋳型からのインビトロ転写およびインビトロ翻訳の能力がある無細胞抽出物
を含む、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性形態の発現のための無細胞発現システム。
【請求項27】
(c)多糖類、rNTP、tRNA、CoA、NAD、cAMP、フォリン酸、スペルミジン、および3-PGAのうちの1種または複数を含む、エネルギーミックス;ならびに
(d)アミノ酸
をさらに含む、請求項26に記載の無細胞発現システム。
【請求項28】
前記無細胞抽出物は大腸菌(E. coli)細胞の抽出物を含む、請求項26に記載の無細胞発現システム。
【請求項29】
前記DNA鋳型は、トランスグルタミナーゼ酵素(ED 2.3.2.13)の成熟配列をコードする、請求項26に記載の無細胞発現システム。
【請求項30】
前記トランスグルタミナーゼ酵素は、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種である、請求項29に記載の無細胞発現システム。
【請求項31】
前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含むDNA鋳型をさらに含む、請求項26から30のいずれかに記載の無細胞発現システム。
【請求項32】
チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチドをコードする前記DNA配列、および前記プロ配列をコードする前記DNA配列は、同じDNA鋳型上に個別の配列としてコードされる、請求項31に記載の無細胞発現システム。
【請求項33】
前記成熟ポリペプチドをコードする前記DNA配列は、前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対する第1のDNA鋳型上にコードされ、前記プロ配列をコードする前記DNA配列は、前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対する別個の第2のDNA鋳型上にコードされる、請求項31に記載の無細胞発現システム。
【請求項34】
前記成熟ポリペプチドの生成の前、間、または後に前記無細胞発現システムに添加される、前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対する化学合成されたポリペプチドプロ配列をさらに含む、請求項26から30のいずれかに記載の無細胞発現システム。
【請求項35】
前記成熟酵素またはタンパク質の活性の可逆的阻害剤をさらに含む、請求項26から30のいずれかに記載の無細胞発現システム。
【請求項36】
前記チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟ポリペプチド配列は、前記チモーゲンまたはプロタンパク質の野生型配列と比較して1つまたは複数の変異を含む変種である、請求項26から30のいずれかに記載の無細胞発現システム。
【請求項37】
個別の配列としてコードされ、終止コドン、スペーサー領域、リボソーム結合部位、および第2の開始コドンによって分離された、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列、および前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含む、発現ベクターまたは線状DNAフラグメント。
【請求項38】
(a)チモーゲンまたはプロタンパク質に対する成熟ポリペプチドをコードするDNA配列を含む、第1の発現ベクターまたは線状DNAフラグメント;および
(b)前記チモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含む、第2の発現ベクターまたは線状DNAフラグメント
を含む、組成物。
【請求項39】
(i)チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチドをコードするDNA配列に1つまたは複数の変異を導入するステップであって、前記1つまたは複数の変異は、前記ポリペプチド配列における1つまたは複数のアミノ酸の変化をもたらし、それによって前記成熟ポリペプチドの変種をコードするDNA配列を生成する、ステップ;および
(ii)請求項23から27のいずれかに記載の無細胞発現システムにおいて前記DNA配列を発現させ、それによって変種成熟ポリペプチドを生成するステップ
を含む、チモーゲンまたはプロタンパク質の変種のハイスループット操作のための方法。
【請求項40】
前記変種DNA配列は、部位指向性変異導入またはデノボDNA合成によって生成される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
チモーゲンまたはプロタンパク質に対する前記成熟ポリペプチドの種々の変種をコードする複数の異なるDNA配列を生成するステップ、および個々の無細胞発現システムにおいて前記異なるDNA配列のそれぞれを発現させ、それによって複数の異なる変種成熟ポリペプチドを生成するステップを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記変種が由来する、前記チモーゲンまたはプロタンパク質の前記成熟形態と比較して、前記変種成熟ポリペプチドの1つまたは複数の特性を評価するステップをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記特性は酵素活性および/または安定性を含む、請求項42に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月5日に出願されたPCT出願第PCT/US20/21211号に対する優先権を主張するものであり、それは本明細書における参照によりその全体として本明細書によって組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、チモーゲンまたはプロタンパク質に由来する成熟酵素およびタンパク質の無細胞タンパク質発現およびタンパク質操作のための方法、特に、プロ配列の切断等の翻訳後修飾の必要性を排除する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
指向性進化は、産業に、貴金属触媒および石油化学製品に代わるコスト効果の高い酵素代替品を供給するための貴重なツールとして浮上している。しかしながら、指向性進化を使用して容易に操作され得る酵素のタイプを限定する、ハイスループット(HTP)発現におけるいくつかのギャップがある。これらのギャップの1つは、チモーゲンおよびプロタンパク質の成熟ポリペプチド形態等、発現させるのが難しいタンパク質の発現を含む。チモーゲンとは、細胞に極めて有毒であることが多く、それゆえ、活性(成熟)酵素をもたらすために切断されなければならないリーダー配列を有して発現される、酵素の不活性前駆体である。プロタンパク質とは、タンパク質の一部の切断または分子の付加を一般的に伴う翻訳後修飾によって活性(成熟)形態に変換され得る不活性タンパク質である。両クラスのタンパク質の1つの共通の特質は、プロ配列の存在であり、その切断は、不活性から活性状態へのその活性化に必須である。後続の成熟タンパク質が潜在的に有害である場合、生物は、タンパク質および酵素前駆体を採用することが多い。
【0004】
現在、指向性進化手法において頻繁に採用される大腸菌(E. coli)等のHTPモデル生物において、チモーゲンの成熟形態を発現させることは難しい。チモーゲンとして発現させることによって成熟酵素の毒性を緩和することは、それが、活性酵素をもたらすために外因性プロテアーゼの添加または内因性プロテアーゼの共発現を要するため、HTP酵素操作ストラテジーを複雑化する。プロ配列の非特異的切断は、酵素の活性化の変動性につながり、酵素の過度のタンパク質分解をもたらすことが多い。チモーゲンおよびプロタンパク質に対する一般的でかつ再現性のあるHTP発現システムは、産業的適用、薬学的適用、および消費者適用において、成熟酵素およびタンパク質の迅速でかつモジュール式の発現のために、産業にとって大きな関心であろう。
【0005】
従来の指向性進化キャンペーンは、必然的にインビトロとインビボステップとを組み合わせる。DNAライブラリーは、エラーを起こしやすいポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子シャッフリング、分子育種、および当技術分野において公知の他のランダム変異導入法を使用して、変種のプールとして生成される。これらのステップは、一般的にインビトロで実施される。これらのプールされた変種は、発現前に分離されなければならない。これは、インビボでの形質転換ステップによって遂行され、その後に、数千個の遺伝的に区別できるコロニーの採取が続く。ライブラリー全体がサンプリングされることを確実にするために、2~3倍でのオーバーサンプリングが必要であることが多い(Wu et al., PNAS 2019, 116:18, 8852-8858)。ある場合には、各コロニーは、関心対象のタンパク質を発現させるために直ちに誘導される。他の場合には、変種DNA配列は、各コロニーから単離されなければならず、インビボで発現株に再度形質転換されなければならない。代替的に、DNA配列は、インビトロで無細胞タンパク質合成(CFPS)のための鋳型として使用され得る。この工程は、非常に時間がかかりかつ大きな労力を要し、完了させるために数日かかる。それらの活性および翻訳後活性化工程に起因して、チモーゲン等の細胞毒性酵素の指向性進化は、依然として未解決の課題のままである。タンパク質および酵素の指向性進化のための完全にインビトロのプロトコールが必要とされる。さらに、チモーゲンおよびプロタンパク質等の潜在的に有毒なまたは殺生物性のタンパク質を進化させるための一般的HTPプロトコールは、本明細書において取り組まれる当技術分野におけるギャップである。
【0006】
研究者は、限られた成功を用いて、チモーゲントランスグルタミナーゼ(Tgase)の指向性進化を探索している:Novo Nordisk(Zhao, et al., Journal of biomolecular screening 2010, 15, 206-212)、Codexis(Nazorら、国際公開第2019094301号パンフレット)、およびDophen(Hu et al., Transglutaminase for Protein Drug Modification: Pegylation and Beyond In Biocatalysis for Green Chemistry and Chemical Process Development; John Wiley & Sons, Inc., 2011, 10.1002/9781118028308.ch6, 151-172;Huら、国際公開第2015191883号パンフレット)。変異体酵素の一貫した発現に伴う複雑性は、酵素の活性を向上させることの限られた成功をもたらしている。その代わりに、これらのプログラムは、酵素の安定性の向上または酵素の基質特異性の改変に焦点を合わせた。
【0007】
一部には、触媒活性のあるTgaseをもたらすためのTgaseの適正なフォールディングにはプロ配列が要されると広く考えられているため(Yurimoto, et al., Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 2004, 68, 2058-2069)、十分に機能的なTgaseのHTP発現は、依然として未解決の課題のままである(Rachel, et al., Biomolecules 2013, 3, 870)。触媒活性のあるTgaseのHTP発現のための向上した方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0008】
活性のある成熟タンパク質をもたらすための、例えば内因性または外因性プロテアーゼによるプロ配列の切断等の翻訳後プロセシングの必要性を排除する、プロタンパク質およびチモーゲンの成熟形態の無細胞タンパク質発現のための方法が本明細書において提供される。発現されるチモーゲンの非限定的な例としては、トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、リシルオキシダーゼ、チロシナーゼ、リパーゼ、ペプチダーゼ、またはプロテアーゼが挙げられる。発現されるプロタンパク質の非限定的な例としてはインスリンが挙げられる。
【0009】
チモーゲン(例えば、Tgase)またはプロタンパク質の成熟形態のハイスループット無細胞タンパク質操作および発現のための方法であって、活性のある成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質をもたらすための、内因性または外因性プロテアーゼによる切断等、プロ配列の翻訳後切断が要されない、方法も提供される。
【0010】
成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質をコードする遺伝子に単一または複数の点変異を組み込むためのハイスループット方法も提供される。一部の実施形態において、成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質変種のDNAライブラリーは、無細胞方法を使用して発現される。
【0011】
開示される方法は、プロ配列の翻訳後切断の必要性がない、活性のある成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質の無細胞タンパク質合成(CFPS)に関する6つのストラテジーを示す。
【0012】
一部の実施形態において、酵素の操作を可能にするために、プロ配列の翻訳後切断なしでの、チモーゲンまたはプロタンパク質の活性のある成熟形態の発現のための、補充された細胞抽出物、例えばエネルギーバッファーおよびアミノ酸を補充された細胞抽出物等、インビトロシステムが採用される。非限定的な例は、活性のある成熟Tgaseの発現である。
【0013】
一部の実施形態において、大腸菌(E. coli)由来の補充された細胞抽出物が、活性のある成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質の発現に採用される。例えば、大腸菌(E. coli)由来の補充された細胞抽出物は、市販の供給源から購入され得る、または例えばGaramella, et al. (2016) ACS Synthetic Biology 5:344;Caschera, et al. (2018) ACS Synthetic Biology 7:2841;またはKwon, et al. (2015) Sci Rep 5:8663によって記載されるように、デノボで調製され得る。
【0014】
一部の実施形態において、殺生物特性または細胞毒性特性を有する、Tgaseまたはその変種等の酵素は、本明細書に記載されるCFPS方法を使用して発現される。
【0015】
1つの態様において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性ポリペプチド形態を発現させるための方法が提供される。本方法は、DNA鋳型からのインビトロ転写およびインビトロ翻訳の能力がある無細胞発現システムにおいて、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列を含有するDNA鋳型を発現させるステップを含む。無細胞発現システムにおける発現は、成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドを生成し、本方法は、成熟ポリペプチドを生成するための、チモーゲンまたはプロタンパク質からのプロ配列の翻訳後プロセシングステップまたは切断を含まない。
【0016】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、
(a)多糖類、rNTP、tRNA、CoA、NAD、cAMP、フォリン酸、スペルミジン、および3-PGAのうちの1種または複数を含む、エネルギーミックス;ならびに(b)アミノ酸
を含む。
【0017】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、真核または原核細胞に由来する無細胞抽出物を含む。例えば、無細胞発現システムは、大腸菌(E. coli)細胞等であるがそれらに限定されない、細菌細胞の抽出物を含み得る。
【0018】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドは、プロ配列なしで個別のポリペプチドとして発現される。
【0019】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドは、チモーゲンまたはプロタンパク質に対するポリペプチドプロ配列の存在下で発現される。1つの実施形態において、チモーゲンまたはプロタンパク質のプロ配列をコードするDNA配列、およびチモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列は、同じDNA鋳型から個別のポリペプチド配列として発現される。別の実施形態において、成熟ポリペプチドをコードするDNA配列は、第1のDNA鋳型から発現され、プロ配列をコードするDNA配列は、別個の第2のDNA鋳型から発現される。別の実施形態において、プロ配列は化学合成され、成熟ポリペプチドの発現の前、間、または後に無細胞発現システムに添加される。
【0020】
一部の実施形態において、本方法は、成熟トランスグルタミナーゼ酵素(ED 2.3.2.13)を活性のある成熟形態で発現させるステップを含む。例えば、トランスグルタミナーゼ酵素は、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種等の細菌トランスグルタミナーゼであり得るが、それらに限定されない。
【0021】
一部の実施形態において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA鋳型は、発現ベクターまたは線状DNAフラグメント内に含有される。一部の実施形態において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列およびプロ配列ポリペプチドをコードするDNA鋳型は、両方とも、バイシストロン性発現ベクターまたは線状DNAフラグメント内に含有される。一部の実施形態において、成熟ポリペプチド配列をコードする第1のDNA鋳型、およびプロ配列をコードする第2のDNA鋳型は、別個の発現ベクターまたは線状DNAフラグメント内に含有される。
【0022】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドおよび/またはプロ配列をコードする発現ベクターは、pBR322、pUCベクター、またはpETベクターに由来するプラスミドである。
【0023】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドおよび/またはプロ配列をコードする線状DNAフラグメントは、成熟ポリペプチドおよび/またはプロ配列をコードする鋳型核酸配列のデノボ合成によってまたは増幅によって生成される。例えば、増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)であり得るが、それに限定されない。線状DNAフラグメントは精製ステップを含む。精製は、GamS等であるがそれらに限定されない、ヌクレアーゼ阻害剤の存在下で実施され得る。
【0024】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、成熟チモーゲンまたはプロタンパク質の活性の可逆的阻害剤をさらに含む。
【0025】
一部の実施形態において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列は、チモーゲンまたはプロタンパク質の野生型配列と比較して1つまたは複数の変異を含む変種である。一部の実施形態において、本方法は、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列に1つまたは複数の変異を導入するステップ;および無細胞発現システムにおいてDNA鋳型を発現させ、それによって、成熟チモーゲンまたはプロタンパク質の野生型配列と比べて1つまたは複数の変異を有する変種成熟ポリペプチドを生成するステップ、を含む。
【0026】
別の態様において、本明細書に記載される無細胞発現方法のいずれかに従って生成される、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性ポリペプチドが提供される。
【0027】
別の態様において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性形態の発現のための無細胞発現システムが提供される。無細胞発現システムは、(a)チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列を含有する核酸鋳型;ならびに(b)成熟ポリペプチドを生成するための、DNA鋳型からのインビトロ転写およびインビトロ翻訳の能力がある無細胞反応混合物、を含む。一部の実施形態において、無細胞反応混合物は、(a)多糖類、rNTP、tRNA、CoA、NAD、cAMP、フォリン酸、スペルミジン、および3-PGAのうちの1種または複数を含む、エネルギーミックス;ならびに(b)アミノ酸、を含む。一部の実施形態において、無細胞発現システムは、真核または原核細胞に由来する無細胞抽出物を含む。例えば、無細胞発現システムは、大腸菌(E. coli)細胞等であるがそれらに限定されない、細菌細胞の抽出物を含み得る。
【0028】
一部の実施形態において、DNA鋳型は、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種等の細菌トランスグルタミナーゼ等であるがそれらに限定されない、トランスグルタミナーゼ酵素(ED 2.3.2.13)の成熟配列をコードする。
【0029】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、チモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含有するDNA鋳型をさらに含む。1つの実施形態において、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチドをコードするDNA配列、およびチモーゲンまたはプロタンパク質のプロ配列をコードするDNA配列は、同じDNA鋳型上に個別の配列としてコードされる。別の実施形態において、成熟ポリペプチドをコードするDNA配列は、第1のDNA鋳型上にコードされ、プロ配列をコードするDNA配列は、別個の第2のDNA鋳型上にコードされる。
【0030】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、成熟ポリペプチドの生成の前、間、または後に無細胞発現システムに添加される、チモーゲンまたはプロタンパク質に対する化学合成されたポリペプチドプロ配列を含む。
【0031】
一部の実施形態において、無細胞発現システムは、成熟ポリペプチドの生成の前、間、または後に無細胞発現システムに添加される、成熟酵素またはタンパク質の活性の可逆的阻害剤を含む。
【0032】
一部の実施形態において、無細胞発現システムにおいてDNA鋳型によってコードされるチモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列は、チモーゲンまたはプロタンパク質の野生型配列と比較して1つまたは複数の変異を含む変種である。
【0033】
別の態様において、個別の配列としてコードされ、終止コドン、スペーサー領域、リボソーム結合部位、および第2の開始コドン等であるがそれらに限定されない核酸配列によって分離された、チモーゲンまたはプロタンパク質に対する成熟ポリペプチドをコードするDNA配列、およびチモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含む、発現ベクターまたは線状DNAフラグメントが提供される。
【0034】
別の態様において、(a)チモーゲンまたはプロタンパク質に対する成熟ポリペプチドをコードするDNA配列を含む、第1の発現ベクターまたは線状DNAフラグメント;および(b)チモーゲンまたはプロタンパク質に対するプロ配列をコードするDNA配列を含む、第2の発現ベクターまたは線状DNAフラグメント、を含む組成物が提供される。
【0035】
別の態様において、チモーゲンまたはプロタンパク質の変種のハイスループット操作のための方法が提供される。本方法は、(i)チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチドをコードするDNA配列に1つまたは複数の変異を導入するステップであって、1つまたは複数の変異は、ポリペプチド配列における1つまたは複数のアミノ酸の変化をもたらし、それによって成熟ポリペプチドの変種をコードするDNA配列を生成する、ステップ;および(ii)本明細書に記載される無細胞発現システムにおいてDNA配列を発現させ、それによって成熟ポリペプチドの変種を生成するステップ、を含む。一部の実施形態において、変種DNA配列は、部位指向性変異導入またはデノボDNA合成によって生成される。一部の実施形態において、方法は、チモーゲンまたはプロタンパク質に対する成熟ポリペプチドの種々の変種をコードする複数の異なるDNA配列を生成するステップ、および個々の無細胞発現システムにおいて異なるDNA配列のそれぞれを発現させ、それによって複数の異なる変種成熟ポリペプチドを生成するステップ、を含む。
【0036】
一部の実施形態において、方法は、変種が由来する、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟形態と比較して、1種または複数の変種成熟ポリペプチドの1つまたは複数の特性を評価するステップを含む。例えば、特性としては、酵素活性および/または安定性が挙げられ得るが、それらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】大腸菌(E. coli)を使用して発現される、CFPS反応のためのバイシストロン性発現ベクターを示した図であり、それに対する例となる配列が配列番号2に描写されている。
【
図2】プロ配列および成熟Tgaseに対する2種の別個のプラスミドの設計を示した図であり、それはCFPS反応において同時に発現され得る。
図2Aは、「成熟Tgaseプラスミド」を示しており、それに対する例が、配列番号3に描写されるDNAフラグメントであり、pUC19由来ベクターにクローニングされる。
図2Bは、「プロ配列プラスミド」を示しており、それに対する例が、配列番号4に描写されるDNAフラグメントであり、pUC19由来ベクターにクローニングされる。
【
図3】無細胞方法を使用して発現した成熟Tgaseの活性を示す:(1)バイシストロン性ベクター-実施例1に記載される方法を使用した、プロ配列遺伝子および成熟Tgase遺伝子の発現;(2)二重ベクター-実施例2に記載される二重プラスミド発現方法を使用した、プロ配列遺伝子および成熟Tgase遺伝子の発現;(3)成熟Tgaseのみ-実施例5に記載される、プロ配列の非存在下での成熟Tgase遺伝子の発現;(4)硫酸アンモニウム-実施例4に記載される、硫酸アンモニウムの存在下での成熟Tgase遺伝子の発現;(5)合成プロ配列-実施例3に記載される、化学合成されたプロ配列ペプチドの存在下での成熟Tgase遺伝子の発現。活性をヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定し、結果は正規化されている。合成プロ配列を100%の活性として規定し、他のすべての条件は、合成プロ配列条件と比べたそれらの活性パーセントとして報告されている。
【
図4】実施例5に記載される、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)の存在下での成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)発現を示す。硫酸アンモニウムの濃度を、CFPS反応において変動させた。活性のある成熟Tgaseの発現レベルをヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定し、正規化した。10mMの硫酸アンモニウムを100%の活性として規定し、他のすべての条件を、10mMの硫酸アンモニウムと比べたそれらの活性パーセントとして規定した。
【
図5】実施例7に記載される、成熟Tgase変種(配列番号6)または野生型成熟Tgase(配列番号7)への曝露後の、残存する細菌または真菌細胞の生存率を示す。バーが目に視認できない場合、生存細胞は検出されなかった。
図5Aは、0.07重量パーセントの成熟Tgase変種または成熟Tgaseなしへの曝露後の、グラム陰性細菌大腸菌(E. coli)の2種の株についての残存細胞生存率を示している。
図5Bは、0.07重量パーセントの成熟Tgase変種または成熟Tgaseなしへの曝露後の、B.サティリス(B. subtilis)についての残存細胞生存率を示している。
図5Cは、0.08重量パーセントの成熟Tgase変種、0.08重量パーセントの野生型成熟Tgase、またはTgaseなしへの曝露後の、C.アルビカンス(C. albicans)についての残存細胞生存率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示の主題は、プロ配列の翻訳後切断を要しない、チモーゲンまたはプロタンパク質の活性のある成熟形態の野生型および変異体変種のためのHTP発現システムの開発である。それらの野生型形態にプロ配列を含有するタンパク質および酵素の成熟形態の指向性進化のための一般的方法が本明細書に記載される。本明細書に記載されるように、チモーゲン(例えば、Tgase)またはプロタンパク質の成熟形態は、無細胞発現システムを使用して発現され得る。翻訳後修飾を要しない、チモーゲン(例えば、Tgase)またはプロタンパク質の成熟形態を生成する方法が本明細書にさらに記載される。
【0039】
完全に無細胞の指向性進化キャンペーンに適用され得る方法が本明細書に記載される。一部の実施形態において、各変種は、部位指向性変異導入を使用して別個に創出される(Carey et al. (2013) Cold Spring Harb Protoc. 2013(8), 738-42、Strain-Damerell et al. (2019) Methods Mol Biol. 2025, 281-296、Q5(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit、NEB)。他の実施形態において、変種は、変異体フラグメントのデノボDNA合成を使用して創出され、それは、ゴールデンゲートアセンブリ(Engler et al. (2008) PLoS One 3(11), e3647)、ギブソンアセンブリ(Gibson et al. (2009) Nature Methods 6, 343-345)、または完全な変異体遺伝子を組み立てるための当技術分野において公知の他の分子クローニング方法によって、全長変異体遺伝子に組み立てられる。上記のステップの変異体遺伝子産物は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅され、CFPSのための鋳型として使用される。一部の実施形態において、増幅された遺伝子は、本明細書に記載されるCFPS方法における使用前に精製される。すべての生物学的(インビボ)ステップの除去は工程を効率化し、変異体遺伝子のライブラリーは1日で構築され得る。これは、DNAのライブラリーを創出しかつ発現させるために7日間超のスケジュールをもたらす、インビボステップを採用する現在の技術の著しい向上である。さらに、細胞代謝の制約を回避することによって、CFPSステップを使用して、潜在的に有毒な(例えば、殺生物または細胞毒性)活性に対して酵素を進化させ得る。
【0040】
殺生物活性または治療活性に対する、チモーゲンまたはプロタンパク質に由来する酵素およびタンパク質の指向性進化のための開示される方法を使用することは、本発明のさらなる目的である。
【0041】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。Singleton, et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, second ed., John Wiley and Sons, New York (1994)、およびHale & Markham, The Harper Collins Dictionary of Biology, Harper Perennial, NY (1991)は、本発明において使用される用語の多くについての一般的辞書を当業者に提供する。本明細書に記載されるものと同様のまたは等価の任意の方法および材料が、本発明の実践または試験において使用され得る。
【0042】
本明細書において提供される数値域は、その値域を規定する数(複数)を含んでいる。
【0043】
I.定義
「1つの(A)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上別様にはっきりと記述されない限り、複数形の対象(reference)を含む。
【0044】
「約」という用語は、本明細書において、値のプラスまたはマイナス10パーセント(10%)を意味するために使用される。例えば、「約100」は、90~110の任意の数を指す。
【0045】
「アミノ酸」という用語は、α-炭素と呼ばれる炭素に結合しているアミン基およびカルボキシル基の両方を含有する分子を指す。適切なアミノ酸は、限定されることなく、天然に存在するアミノ酸のD-およびL-異性体、ならびに有機合成または他の代謝経路によって調製される天然に存在しないアミノ酸を含む。一部の実施形態において、単一の「アミノ酸」は、伸長した脂肪族または芳香族骨格の足場ごとに利用可能な、複数の側鎖部分を有し得る。文脈上別様に具体的に示されない限り、本明細書において使用されるアミノ酸という用語は、アミノ酸類似体を含むことを意図される。
【0046】
「アミノ酸補充剤」とは、合成されるタンパク質の組成にしばしば合わせた比率での20種すべての天然アミノ酸等の、アミノ酸の組み合わせ(混合物)である(例えば、Caschera, et al. (2014) Biochimie 99:162を参照されたい)。
【0047】
本明細書でおよび特許請求の範囲で本明細書において使用される「および/または」という語句は、そのようにつながった要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、ある場合には接続的に存在し、他の場合には離接的に存在する要素、を意味すると理解されるべきである。そうでないことがはっきりと示されない限り、具体的に特定されるそうした要素に関係するまたは無関係であるかどうかにかかわらず、「および/または」節によって具体的に特定される要素以外に、他の要素が任意選択で存在し得る。ゆえに、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」等の無制限の言語と併せて使用される場合、1つの実施形態では、BなしのA(B以外の要素を任意選択で含む);別の実施形態では、AなしのB(A以外の要素を任意選択で含む);さらに別の実施形態では、AおよびBの両方(他の要素を任意選択で含む);等を指し得る。
【0048】
本明細書において使用される「塩基対」または「bp」という用語は、二本鎖DNA分子におけるアデニン(A)とチミン(T)との、またはシトシン(C)とグアニン(G)との連携(すなわち、水素結合した対合)を指す。一部の実施形態において、塩基対は、例えばDNA/RNA二重鎖における、ウラシル(U)と対合したAを含み得る。
【0049】
「無細胞タンパク質合成」または「CFPS」とは、細胞の転写およびタンパク質合成機構を使用するが生きた細胞の使用なしでの、インビトロの無細胞システムにおけるタンパク質の生成を指す。一部の実施形態において、細菌細胞抽出物等、細胞抽出物がCFPSに使用される。
【0050】
一般的に、所与の核酸配列の「相補体」とは、所与の配列と完全に相補的でありかつハイブリダイズ可能である配列である。一般的に、第2の配列または第2の配列のセットにハイブリダイズ可能である第1の配列は、第2の配列または第2の配列のセットに特異的にまたは選択的にハイブリダイズ可能であり、それにより、ハイブリダイゼーション反応の間、非標的配列とのハイブリダイゼーションと比較して、第2の配列または第2の配列のセットへのハイブリダイゼーションが好ましい(例えば、当技術分野においてよく使用されるストリンジェントな条件等、所与のセットの条件下で熱力学的により安定)。典型的に、ハイブリダイズ可能な配列は、少なくとも約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および100%の配列相補性を含めた25%~100%の相補性等、それらそれぞれの長さのすべてまたは一部分にわたるある程度の配列相補性を共有する。
【0051】
本明細書における「相補的」という用語は、単一のポリヌクレオチド鎖の二重鎖領域における、または塩基対合によるヌクレオチドのペア間の2本のポリヌクレオチド鎖の間での配列相補性の幅広い概念を指す。アデニンヌクレオチドは、チミンまたはウラシルヌクレオチドと特異的水素結合(「塩基対合」)を形成し得ることが公知である。同様に、シトシンヌクレオチドは、グアニンヌクレオチドと塩基対合し得ることが公知である。しかしながら、ある特定の状況において、水素結合は、塩基の他のペア間で、例えばアデニンとシトシンとの間等でも形成し得る。本明細書における「本質的に相補的」または「実質的に相補的」とは、不完全な相補性であるが二重鎖領域の安定性が保持される、例えば相補性は100%未満であるが約90%よりも大きい、単一のポリヌクレオチド鎖の二重鎖領域における、または2本のポリヌクレオチド鎖の間での配列相補性を指す。
【0052】
「に由来する」という用語は、「を起源とする」、「から獲得された」、「から獲得可能な」、「から単離された」、「から精製された」、および「から創出された」という用語を包含し、一方の指定された材料が、別の指定された材料にその起源を見い出す、または別の指定された材料に関して記載され得る特質を有することを一般的に示す。
【0053】
本明細書における「二重鎖」という用語は、2つのポリヌクレオチド配列間に存在する相補性の領域を指す。「二重鎖領域」という用語は、2つのオリゴヌクレオチド間または単一のオリゴヌクレオチドの2つの部分間に存在する配列相補性の領域を指す。
【0054】
「エネルギーミックス」という用語は、rNTP、tRNA、補酵素A(CoA)、ニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD)、フォリン酸、スペルミジン、3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)、ならびに/または単糖類、二糖類、オリゴ糖、および/もしくは多糖類等、1種または複数の補因子を含有する溶液を指す。エネルギーミックスは、インビトロ転写および翻訳の副産物のリサイクリングならびにATPの再生を促進し、発現システムの全体的タンパク質産出量を向上させる(例えば、Caschera, et al. (2014) Biochimie 99:162を参照されたい)。
【0055】
本明細書において使用するとき、「発現」という用語は、ポリペプチドが遺伝子の核酸配列に基づいて生成される過程を指す。この過程は、転写および翻訳の両方を含む。
【0056】
本明細書において使用するとき、「発現ベクター」とは、特定の核酸の転写を可能にする一連の指定された核酸エレメントを有する、組み換えでまたは合成で作出された核酸(例えば、DNA)構築物を指す。発現ベクターは、プラスミドの一部、ウイルス、または核酸フラグメントであり得る。いくつかの細菌発現ベクターが、商業的におよびアメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)、Rockville、Mdを通じて入手可能である。発現ベクターは、本明細書に記載される無細胞タンパク質合成システムにおいてコード配列の発現を生じさせ得る1種または複数の適切な制御配列に作動可能に連結されているDNAコード配列(例えば、遺伝子配列)を含有するDNA構築物を指し得る。そのような制御配列としては、転写を生じさせるプロモーター、そのような転写を制御する任意選択のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、または単なる潜在的ゲノムインサートであり得る。適切な宿主に形質転換されると、ベクターは、宿主ゲノムから独立して複製し得かつ機能し得る、またはある場合には、ゲノム自体に統合し得る。プラスミドは、発現ベクターの最もよく使用される形態である。しかしながら、本発明は、等価の機能を果たしかつ当技術分野において公知であるまたは公知になるのような、発現ベクターのその他の形態を含むことを意図される。
【0057】
「第1の末端」および「第2の末端」という用語は、本明細書において核酸分子に関して使用される場合、線状核酸分子の末端を指す。
【0058】
「遺伝子」とは、ポリペプチドを生成することに関与するDNAセグメントを指し、コード領域に先行するおよび後続する領域、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含む。
【0059】
「ハイブリダイゼーション」および「アニーリング」とは、1種または複数のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチド残基の塩基間での水素結合を介して安定化される複合体を形成する反応を指す。水素結合は、ワトソン・クリック型塩基対合、フーグスティーン型結合によって、または任意の他の配列特異的様式で生じ得る。複合体には、二重鎖構造を形成する2本の核酸鎖、複数鎖の複合体を形成する3本以上の鎖、自己ハイブリダイズする単一の鎖、またはこれらの任意の組み合わせが含まれ得る。ハイブリダイゼーション反応は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の始動、ライゲーション反応、シーケンシング反応、または切断反応、例えばリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断等、より広範な過程における1ステップを構成し得る。第2の配列のヌクレオチド残基の塩基との水素結合を介して安定化され得る第1の核酸配列は、第2の配列に「ハイブリダイズ可能」であると言われる。そのような場合、第2の配列も、第1の配列にハイブリダイズ可能であると言われ得る。「ハイブリダイズした」という用語は、ヌクレオチド残基の塩基間での水素結合を介して安定化される複合体におけるポリヌクレオチドを指す。
【0060】
本明細書において使用される「単離された」、「精製された」、「分離された」、および「回収された」という用語は、それが含有されるサンプルの例えば少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%、または少なくとも98重量%の濃度でそれが天然に結び付いている少なくとも1種の構成要素から取り除かれている材料(例えば、タンパク質、核酸、または細胞)を指す。例えば、これらの用語は、その天然状態、例えば無傷の生物学的システム等において見い出されるように、通常ではそれに付随する構成要素を実質的にまたは本質的に含んでいない材料を指し得る。単離された核酸分子は、該核酸分子を普通では発現する細胞に含有される核酸分子を含むが、該核酸分子は、染色体外に、またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0061】
「成熟」ポリペプチド、タンパク質、または酵素とは、そのプロ配列の切断後のまたはそのプロ配列なしで発現した、チモーゲンまたはプロタンパク質の活性化形態を指す。一部の実施形態において、成熟酵素は、翻訳後プロセシング(活性化)ステップを排除するために、プロ配列とは別個のポリペプチドとして生成され得る。
【0062】
「微生物トランスグルタミナーゼ」(Tgase、EC 2.3.2.13)とは、コンセンサス配列または付加的な補因子の制約のない、安定なε-(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合の形成によりタンパク質を重合するまたは官能化するその能力が理由で、タンパク質官能化およびタンパク質架橋に対して最も広範に研究されている産業的酵素の1つである。最も広く研究されているTgaseであるストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)Tgaseは、細胞外タンパク質として、野生型株S.モバラエンシス(S. mobaraensis)の発酵によって産業規模で現在生産されている。この酵素のHTP生成は、Tgaseを機能的にするために切断されなければならない46残基のN末端プロ配列によって複雑化されている。
【0063】
本明細書における「変異」という用語は、置換、挿入、および欠失(切り取りを含む)を含むがそれらに限定されない、親配列に導入された変化を指す。変異の結果は、親配列によってコードされるタンパク質に見い出されない新しい特徴、特性、機能、表現型、または形質の創出を含むが、それらに限定されるわけではない。
【0064】
本明細書における「ヌクレオチド」という用語は、糖部分(ペントース)、リン酸、および窒素複素環塩基からなるDNAまたはRNAの単量体単位を指す。塩基は、グリコシド炭素(ペントースの1’炭素)を介して糖部分に連結され、塩基と糖とのその組み合わせはヌクレオシドである。ヌクレオシドがペントースの3’または5’位に結合したリン酸基を含有する場合、それはヌクレオチドと称される。作動的に連結されたポリマーヌクレオチドの配列は、本明細書において典型的に「塩基配列」、「ヌクレオチド配列」、「ポリヌクレオチド配列」、「オリゴヌクレオチド配列」、または核酸もしくはポリヌクレオチド「鎖」と称され、本明細書において、それぞれポリマー配列の「5’」および「3’」末端における末端5’リン酸基および末端3’ヒドロキシル基を指す、5’末端から3’末端への従来の方向に左から右の配向がある式によって表される。
【0065】
本明細書における「ヌクレオチド類似体」という用語は、共通の核酸塩基:アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、およびチミジンのヌクレオシド三リン酸の類似体、例えば(S)-グリセロールヌクレオシド三リン酸(gNTP)(Horhota et al. (2006) Organic Letters, 8:5345-5347)を指す。ヌクレオシド四リン酸、ヌクレオシド五リン酸、およびヌクレオシド六リン酸も包含される。
【0066】
「作動可能に連結された」という用語は、効果をもたらすためにそれらが協調して実施するのを可能にする、指定された核酸配列エレメントの並列または編成を指す。例えば、プロモーターは、それがコード配列の転写を制御する場合、コード配列に作動可能に連結されている。
【0067】
本明細書でおよび特許請求の範囲で本明細書において使用するとき、「または」は、上で定義される「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、列挙における品目を分離する場合、「または」または「および/または」は、内包的である、すなわち、いくつかの要素または要素の列挙のうちの少なくとも1種の、しかし1種を上回る種類も含む内包として、および場合により、付加的な列挙されていない品目の内包として、解釈されるものとする。その対照として明確に示された用語のみ、例えば「のうちの1種のみ」もしくは「のうちの正に1種」、または特許請求の範囲において「からなる」と使用される場合等の用語のみは、いくつかの要素または要素の列挙のうちの正確に1種の要素の内包を指すであろう。一般的に、本明細書において使用される「または」という用語は、「いずれか」、「のうちの1種」、「のうちの1種のみ」、または「のうちの正に1種」等、排他性の用語が先行する場合、排他的選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すと解釈されるのみとする。「から本質的になる」は、特許請求の範囲において使用される場合、特許法の分野において使用されるその普通の意味を有するものとする。
【0068】
「オリゴペプチド」とは、比較的少ない数のアミノ酸残基、例えば約2~約20個のアミノ酸を含有するペプチドを指す。
【0069】
「ペプチド」とは、鎖状に連結された2つ以上のアミノ酸からなり、各酸のカルボキシル基が、R-OC-NH-R’型の結合によって次のもののアミノ基につながっている、例えば約2~約50個のアミノ酸の化合物を指す。
【0070】
本明細書における「ポリメラーゼ」という用語は、ヌクレオチドの重合(すなわち、ポリメラーゼ活性)を触媒する酵素を指す。ポリメラーゼという用語は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および逆転写酵素を包含する。「DNAポリメラーゼ」は、デオキシリボヌクレオチドの重合を触媒する。「RNAポリメラーゼ」は、リボヌクレオチドの重合を触媒する。「逆転写酵素」は、RNA鋳型に相補的であるデオキシリボヌクレオチドの重合を触媒する。
【0071】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」、および「オリゴヌクレオチド」という用語は、相互に互換可能に使用される。それらは、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドのいずれかを問わず、任意の長さのヌクレオチドまたはその類似体のポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造を有し得、公知または未知の任意の機能を果たし得、一本鎖または複数鎖(例えば、一本鎖、二本鎖、三重らせん等)であり得、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/あるいは改変されたヌクレオチドもしくは塩基またはそれらの類似体を含めた、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの類似体または改変された形態を含有し得る。遺伝子コードは縮重しているため、特定のアミノ酸をコードするために1種を上回るコドンが使用され得、本発明は、特定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを包含する。ポリヌクレオチドが使用の条件下で所望の機能性を保持する限りにおいて、ヌクレアーゼ耐性を増加させる改変(例えば、デオキシ、2’-O-Me、ホスホロチオエート等)を含めた、任意のタイプの改変されたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体が使用され得る。標識、例えば放射性もしくは非放射性標識またはアンカー、例えばビオチンも、検出または捕捉の目的のために組み入れられ得る。ポリヌクレオチドという用語は、ペプチド核酸(PNA)も含む。ポリヌクレオチドは、天然に存在するものであっても天然に存在しないものであってもよい。ポリヌクレオチドは、RNA、DNA、もしくはその両方、ならびに/またはその改変された形態および/もしくは類似体を含有し得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって中断され得る。1つまたは複数のホスホジエステル連結は、代替的な連結基によって置き換えられ得る。これらの代替的な連結基としては、リン酸が、P(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO、またはCH2(「ホルマセタル(formacetal)」)によって置き換えられ、式中、各RまたはR’は、独立して、H、または置換もしくは非置換アルキル(1~20個のC)であり、場合によりエーテル(--O--)連結、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアラルキル(araldyl)を含む、実施形態を含むが、それらに限定されるわけではない。ポリヌクレオチドにおけるすべての連結が、環状部分を必要とするとは限らない。以下のものは、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子フラグメントのコードまたは非コード領域、遺伝子間DNA、連鎖解析により規定される遺伝子座(複数)(単数)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、核小体低分子RNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、アダプター、およびプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体等、改変されたヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造への改変は、ポリマーの会合の前または後に与えられ得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識化構成要素、タグ、反応性部分、または結合パートナーとのコンジュゲーション等によって、重合の後にさらに改変され得る。ポリヌクレオチド配列は、提供される場合、別様に明記されない限り、5’から3’方向に列挙される。
【0072】
本明細書において使用するとき、「ポリペプチド」とは、アミノ酸から構成され、当業者によってタンパク質として認識される組成物を指す。アミノ酸残基に対する従来の1文字または3文字コードが本明細書において使用される。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために、本明細書において相互に互換可能に使用される。ポリマーは線状または分岐であり得、それは改変されたアミノ酸を含み得、それは非アミノ酸によって中断され得る。該用語は、天然にまたは介入;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または標識化構成要素とのコンジュゲーション等の任意の他の操作もしくは改変、によって改変されているアミノ酸ポリマーも包含する。また、例えば、アミノ酸の1種または複数の類似体(例えば、非天然アミノ酸等を含む)、ならびに当技術分野において公知の他の改変を含有するポリペプチドが該定義に含まれる。
【0073】
「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼによる遺伝子の転写を始動することに関与する調節配列を指す。プロモーターは、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターであり得る。「誘導性プロモーター」とは、環境的なまたは発生学的な調節条件下で活性であるプロモーターである。
【0074】
「プロタンパク質」とは、活性タンパク質を形成するために切断されるタンパク質前駆体を指す。成熟プロタンパク質とは、そのプロ配列の切断後のまたはプロ配列のない、プロタンパク質の活性化形態を指す。一部の実施形態において、成熟プロタンパク質は、翻訳後プロセシング(活性化)ステップを排除するために、プロ配列とは別個のポリペプチドとして生成され得る。
【0075】
「プロ配列」とは、酵素等の活性タンパク質を生成するためにタンパク質から典型的に切断される、発現されるタンパク質内、例えばチモーゲンまたはプロタンパク質内のポリペプチド配列を指す。一部の実施形態において、プロ配列は、タンパク質の正しいフォールディングに必須であり得る。一部の実施形態において、プロ配列の切断は、活性酵素への不活性酵素の移行をもたらす。
【0076】
「組み換え」という用語は、変更されたポリペプチドを生成するためにコード配列を変異させること、コード配列を別の遺伝子のものに融合させること、異なるプロモーターの制御下に遺伝子を配置すること、異種生物において遺伝子を発現させること、減少したまたは上昇したレベルで遺伝子を発現させること、その天然発現プロファイルとは異なる様式で条件付きでまたは構成的に遺伝子を発現させること等によって、その配列または発現特徴を変更するように改変されている遺伝材料(すなわち、核酸、それらがコードするポリペプチド、ならびにそのようなポリヌクレオチドを含むベクターおよび細胞)を指す。一般的に、組み換え核酸、ポリペプチド、およびそれに基づく細胞は、それらが、天然に見い出される関連する核酸、ポリペプチド、および細胞と同一ではないように人間によって操作されている。組み換え細胞は、「操作された」とも称され得る。
【0077】
少なくとも2種の核酸の文脈における「実質的に類似の」および「実質的に同一の」という語句は、典型的に、ポリヌクレオチドが、参照(例えば、野生型)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドと比較して、少なくとも約35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはさらに99.5%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。配列同一性は、標準的パラメーターを使用したBLAST、ALIGN、およびCLUSTAL等の公知のプログラムを使用して判定され得る。(例えば、Altshul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410;Henikoff et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. 89:10915;Karin et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. 90:5873;およびHiggins et al. (1988) Gene 73:237を参照されたい)。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、アメリカ国立生物工学情報センターを通じて公的に利用可能である。また、データベースは、FASTAを使用して検索され得る(Pearson et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448)。一部の実施形態において、実質的に同一の核酸分子は、ストリンジェントな条件下(例えば、中間~高いストリンジェンシーの域内)で互いにハイブリダイズする。
【0078】
本明細書における核酸「合成」とは、ポリヌクレオチドの新しい鎖を作製する、または鋳型依存的様式で既存のポリヌクレオチド(すなわち、DNAまたはRNA)を引き延ばすための任意のインビトロ方法を指す。本発明に従った合成は、ポリメラーゼの使用を伴ってポリヌクレオチド鋳型配列のコピー数を増加させる増幅を含み得る。ポリヌクレオチド合成(例えば、増幅)は、ポリヌクレオチドへのヌクレオチドの組み入れ(例えば、プライマーからの伸長)をもたらし、それによってポリヌクレオチド鋳型に相補的な新しいポリヌクレオチド分子を形成する。形成されたポリヌクレオチド分子およびその鋳型は、追加のポリヌクレオチド分子を合成するための鋳型として使用され得る。本明細書において使用される「DNA合成」は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含むがそれに限定されず、例えばプローブおよびオリゴヌクレオチドプライマーに対するまたはポリヌクレオチドシーケンシングのための、標識ヌクレオチドの使用を含み得る。
【0079】
「転写制御下にある」とは、ポリヌクレオチド配列の転写が、転写の開始に寄与するまたは転写を促進するエレメントにそれが作動可能に連結されていることに依存することを示す、当技術分野においてよく理解された用語である。
【0080】
関連する(および誘導体)タンパク質は、「変種」タンパク質を包含する。変種タンパク質は、別の(すなわち、親または野生型)タンパク質とはおよび/または互いとは、少数のアミノ酸残基異なる。変種は、それが由来する親タンパク質と比較して、1つまたは複数のアミノ酸変異(例えば、アミノ酸欠失、挿入、または置換)を含み得る。一部の実施形態において、異なるアミノ酸残基の数は、約1、2、3、4、5、10、20、25、30、35、40、45、または50個のうちのいずれかである。一部の実施形態において、変種は、約1~約10個のアミノ酸異なる。代替的にまたは付加的に、変種は、例えばBLAST、ALIGN、およびCLUSTAL等の配列アライメントツールを使用して判定される、参照タンパク質または核酸との配列同一性を指定される程度有し得る(下記を参照されたい)。例えば、変種タンパク質または核酸は、参照配列(例えば、変種タンパク質が由来する親または野生型配列)と少なくとも約35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはさらに99.5%のアミノ酸配列同一性を有し得る。
【0081】
本明細書において使用するとき、「野生型」、「天然の」、および「天然に存在する」タンパク質とは、天然に見い出されるものである。「野生型配列」という用語は、天然に見い出されるまたは天然に存在するアミノ酸または核酸配列を指す。一部の実施形態において、野生型配列は、タンパク質操作プロジェクト、例えば変種タンパク質の生成、の開始点である。
【0082】
「チモーゲン」または「プロ酵素」とは、プロ配列のタンパク質分解的切断を介するもの等の触媒作用によって活性酵素に変換され得る、酵素の不活性前駆体を指す。チモーゲンまたはプロ酵素の成熟形態とは、そのプロ配列の切断後のまたはプロ配列のない、チモーゲンまたはプロ酵素の活性化形態を指す。一部の実施形態において、チモーゲンまたはプロ酵素の成熟形態は、翻訳後プロセシング(活性化)ステップを排除するために、プロ配列とは別個のポリペプチドとして生成され得る。
【0083】
II.方法
例えば内因性または外因性プロテアーゼによる、プロ配列の翻訳後切断の必要性を軽減するようなやり方での、成熟した活性ポリペプチド(例えば、適正にフォールディングされた活性ポリペプチド)としての、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)(GenBank AF531437.1)由来のトランスグルタミナーゼ(Tgase)等のチモーゲン(例えば、トランスグルタミナーゼ(EC 2.3.2.13))をコードするDNAの発現のための方法が提供される。一部の実施形態において、本明細書に記載されるように発現した成熟ポリペプチドは、殺生物特性を有する(例えば、Tgase)。一部の実施形態において、本明細書に記載されるように発現した成熟ポリペプチドは、治療特性を有する(例えば、インスリン)。
【0084】
A.成熟ポリペプチドのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
成熟酵素(例えば、Tgase)またはタンパク質ポリペプチド配列をコードする核酸(例えば、DNAまたはRNA)の発現のための本明細書に記載される方法において、インビトロ無細胞タンパク質合成(CFPS)システムが展開される。一部の実施形態において、CFPSシステムは、原核または真核細胞抽出物等の細胞抽出物である。
【0085】
一部の実施形態において、CFPSシステムは、補充された細胞抽出物、例えばエネルギーバッファー(エネルギーミックス)およびアミノ酸を補充された細胞抽出物である。
【0086】
一部の実施形態において、CFPSシステムは、補充された大腸菌(E. coli)細胞抽出物、例えばエネルギーバッファーおよびアミノ酸を補充された細菌(例えば、大腸菌(E. coli))細胞抽出物等、補充された細菌細胞抽出物である。大腸菌(E. coli)由来の補充された細胞抽出物は、市販されている(myTXTL(登録商標)システム、Arbor Bioscience,Inc.;TNT(登録商標)システム、Promega,Inc.)、または例えばGaramella, et al. (2016) ACS Synthetic Biology 5: 344;Caschera, et al. (2018) ACS Synthetic Biology 7:2841;またはKwon, et al. (2015) Sci Rep 5:8663によって記載される方法に従って調製され得る。
【0087】
一部の実施形態において、CFPSシステムは、再構成無細胞システム、例えば、リボソーム、RNAポリメラーゼ、転写因子、アミノアシル-tRNAシンテターゼ、エネルギー調節酵素、およびtRNAを含めた精製された高分子、ならびにアミノ酸およびrNTPを含めた小分子である(Tuckey et al. (2015) Curr Protoc Mol Biol. 108:16.31.1-16.31.2)。再構成無細胞システムは、市販されている(例えば、PURExpress(登録商標)In Vitro Protein Synthesis Kit、New England Biolabs,Inc.)。
【0088】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドをコードする核酸鋳型はRNA分子である。
【0089】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチドをコードする核酸鋳型はDNA分子である。
【0090】
成熟ポリペプチドをコードするDNA鋳型は、約0.1nM~約20nM、約0.1nM~約0.5nM、約0.1nM~約5nM、約0.5nM~約1nM、約1nM~約5nM、約5nM~約10nM、約10nM~約15nM、または約15nM~約20nMの濃度でCFPSシステムに存在し得る。一部の実施形態において、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)をコードするDNAは、0.1nM~約20nM、約0.1nM~約0.5nM、約0.1nM~約5nM、約0.5nM~約1nM、約1nM~約5nM、約5nM~約10nM、約10nM~約15nM、または約15nM~約20nMのDNA濃度で、エネルギー混合物(例えば、Caschera, et al. (2014) Biochimie 99:162を参照されたい)および/または追加のアミノ酸(例えば、Caschera, et al. (2015) BioTechniques 58:40を参照されたい)の存在下で発現される。一部の実施形態において、プロ配列は、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)の無細胞発現の間に、個別のポリペプチドとして含まれる。他の実施形態において、プロ配列は、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)と同じDNA鋳型から個別のポリペプチドとして発現される(例えば、成熟ポリペプチドの配列およびプロ配列の両方をコードするベクターまたはプラスミドから発現される)、または成熟ポリペプチドが発現されるCFPSにおいて異なるDNA鋳型から発現される(例えば、プロ配列をコードし、成熟ポリペプチドをコードするベクターまたはプラスミドとは別個であるベクターまたはプラスミドから発現される)。
【0091】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)をコードするDNAは、pBR322、pUCベクター、またはpETベクターに由来するプラスミドから発現される。一部の実施形態において、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)をコードするプラスミドはpUCに由来し、約0.1nM~約20nM、約0.1nM~約0.5nM、約0.1nM~約5nM、約0.5nM~約1nM、約1nM~約5nM、約5nM~約10nM、約10nM~約15nM、または約15nM~約20nMの濃度でCFPSシステムに含まれる。
【0092】
一部の実施形態において、成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)をコードする線状DNAフラグメント、および/または該ポリペプチドに対するプロ配列をコードする線状DNAフラグメントが発現に利用される。一部の実施形態において、gamS等であるがそれらに限定されないヌクレアーゼ阻害剤を添加して、線状DNA構成要素を安定化させる(その半減期を延長する)。
【0093】
CFPS方法の一部の実施形態において、無細胞抽出物、エネルギー混合物、アミノ酸補充剤、および成熟ポリペプチド(例えば、Tgase)をコードするDNAを任意の順序で逐次的に添加して、CFPS反応混合物を作出する。他の実施形態において、成熟ポリペプチドをコードするDNAの添加前に、無細胞抽出物、エネルギー混合物、および/またはアミノ酸補充剤をあらかじめ混合する。一部の実施形態において、これらの構成要素の一部をあらかじめ混合し、他の構成要素は逐次的に添加される。
【0094】
本発明の一部の実施形態において、CFPS反応液は、約10℃~約40℃または約20℃で約4時間~約24時間インキュベートされる。一部の実施形態において、反応液は、20℃で16時間~24時間インキュベートされる。
【0095】
一部の実施形態において、約5~約20U/mLの、または少なくとも約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20U/mLのうちのいずれかの成熟したチモーゲン酵素が、本明細書に記載されるCFPSシステムにおいて生成され、単位は、37℃で1分間あたり1μmolの基質を産物に変換する酵素の量として規定される。例えば、1つの非限定的な実施形態において、成熟トランスグルタミナーゼ酵素が生成され、トランスグルタミナーゼ酵素の1単位は、37℃で1分間あたり1μmolのヒドロキシルアミンをヒドロキサメート(hydroxamate)に変換するトランスグルタミナーゼの量として規定され得る。
【0096】
B.CFPSストラテジー
本明細書に記載される、チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟した活性ポリペプチド形態を生成するための、CFPS方法に関する6つのストラテジーが下で提供される。
【0097】
1.無細胞発現のための単一のバイシストロン性ベクター
バイシストロン性ベクター(例えば、プラスミド)は、終止コドン、スペーサー領域、リボソーム結合部位、および第2の開始コドンによって分離された、チモーゲンもしくはプロタンパク質(例えば、Tgase)またはプロ配列を有するプロタンパク質、および成熟酵素またはタンパク質に対する遺伝子を合成することによって構築され得る(例えば、配列番号2)。本明細書に開示される方法は、例えば、
図1に概説される発現ベクター(大腸菌(E. coli))、または当技術分野において公知の他の発現ベクターを使用し得る。これらのベクターは、プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーターを含む。
【0098】
1つの実施形態において、
図1に描写される発現ベクターが利用され得る。成熟ポリペプチド配列の後に、短いペプチドリンカー、精製タグ(例えば、6-ヒスチジンタグ)、終止コドン、およびターミネーターが続く。この構築物は、デノボDNA合成によって生成され、市販の大腸菌(E. coli)プラスミド等の発現ベクター内に、強力なプロモーター、例えばT7バクテリオファージのT7プロモーター、または大腸菌(E. coli)シグマ70コンセンサス配列(PtacI)から下流にクローニングされる。
【0099】
完全なバイシストロン性遺伝子回路は、例えば大腸菌(E. coli)に由来する抽出物等の細菌抽出物を使用して、CFPS反応混合物において発現される。ポリペプチドは、例えば、所望のポリペプチド配列を有する1種または複数のプラスミド、例えば
図1に描写されるプラスミドと、本明細書に記載されるCFPS反応混合物、または市販の供給源からの無細胞マスターミックス、例えばPURExpress(登録商標)In Vitro Protein Synthesis KitもしくはSigma 70 Cell Free Master Mix(非限定的な例は、New England Biolabs、Arbor Biosciencesを含む)とのカクテルを作成し、反応混合物を約10℃~約40℃で約4時間~約24時間インキュベートすることによって生成され得る。一部の実施形態において、外因性RNAポリメラーゼ(例えば、T7 RNAポリメラーゼ)、または外因性RNAポリメラーゼをコードするDNAが、CFPS反応混合物に添加され得る。この方法は、活性のある成熟ポリペプチドの生成を可能にし、外因性または内因性プロテアーゼ等によるリーダー配列の切断を要しない。
【0100】
2.二重発現システム
本明細書に記載される第2の手法は、
図2A~2Bに概説される。チモーゲンまたはプロタンパク質のプロ配列および成熟配列は、別個の発現ベクター、例えばプラスミドまたは線状DNAフラグメントにクローニングされ、両方とも、CFPSシステムにおいて同時に発現される。
【0101】
本発明の一部の実施形態において、2種の発現ベクター、例えばプラスミドまたは線状DNAフラグメントの化学量論は、活性のある成熟酵素、例えばTgaseを合成するために必要とされるプロ配列の最小濃度によって変わる。プロ配列ベクター対成熟酵素ベクターの比率は、約1:75ほど低くてもよいし、もしくは約1:0.2ほど高くてもよいし、あるいは約1:60、1:55、1:50、1:45、1:40、1:35、1:30、1:25、1:20、1:15、1:10、1:5、1:1、もしくは1:0.5、または約1:75~約1:50、1:60~約1:35、約1:40~約1:10、約1:25~約1:5、約1:5~約1:0.5、もしくは約1:1~約1:0.2のうちのいずれかでもよい。
【0102】
3.プロペプチドの外因的添加を有する、成熟ポリペプチドの無細胞発現
本明細書に記載される第3の手法は、CFPS反応混合物に添加される成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドをコードする発現ベクター(例えば
図2Aに概説される)と、野生型または変異体形態の外因性プロペプチド(例えば、合成で生成されるプロペプチド)との組み合わせ(例えば成熟Tgaseをコードする発現ベクターと、例えば配列番号5に描写される、添加されるTgaseのプロ配列ペプチドとの組み合わせ)を使用する。本方法は、CFPS反応における、デノボペプチド合成によって合成で作製されたまたは培養微小生物から発現されかつ精製された、外因性プロペプチドの添加との組み合わせでの、
図2Aに描写されるプラスミド等の発現ベクター、または線状DNAフラグメントからの、成熟ポリペプチド(例えばTgase)の生成を含み、活性のある成熟ポリペプチド(例えば活性のある成熟Tgase)の生成を可能にする。成熟DNA配列およびプロペプチドは、あらかじめ混合され得かつ一緒に添加されてもよいし、または逐次的に添加されてもよい。外因性プロペプチドは、約10nM~約10μM、約10nM~約100nM、約100nM~約500nM、約500nM~約1μM、または約1μM~約10μMの濃度で添加され得る。
【0103】
4.可逆的阻害剤の外因的添加を伴う成熟ポリペプチドの無細胞発現
本明細書に記載される第4の手法は、成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドをコードする発現ベクター(例えば
図2Aに概説される)と、該酵素の可逆的小分子阻害剤との組み合わせを使用する。本方法は、CFPS反応における、酵素活性の可逆的阻害剤との組み合わせたプラスミド等の発現ベクター(
図2Aに描写される)、または線状DNAフラグメントからの、成熟ポリペプチド(例えばTgase)の生成を含み、活性のある成熟ポリペプチド(例えば活性のある成熟Tgase)の生成を可能にする。成熟DNA配列および可逆的阻害剤は、予め混合されてもよいし、一緒に添加されてもよいし、または逐次的に添加されてもよい。可逆的阻害剤、例えばTgaseの可逆的阻害剤の非限定的な例としては、硫酸アンモニウムおよびイミダゾールが挙げられる。一部の実施形態において、可逆的阻害剤は、酵素に非共有結合的に結合するまたは酵素の触媒活性を妨げる分子である。成熟ポリペプチドの発現後、使用の最終適用に酵素活性が所望される場合、可逆的阻害剤を酵素から取り除いてまたは解離して、活性酵素を提供し得る。
【0104】
5.プロ配列または阻害剤なしでの、成熟ポリペプチドの無細胞発現
本明細書に記載される第5の手法は、そのプロ配列または可逆的阻害剤の非存在下での、成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドの発現を伴う。本方法は、本明細書に記載されるCFPS反応混合物における、外因性プロ配列ペプチド、プロ配列コード核酸、または可逆的阻害剤の添加なしでの、
図2Aに描写されるプラスミド等の発現ベクター、または線状DNAフラグメントからの、活性のある成熟ポリペプチド、例えばTgaseの生成を含む。
【0105】
6.無細胞発現システムにおける、成熟ポリペプチドの変種のハイスループット操作および発現
本明細書に記載される第6の手法は、成熟ポリペプチドをコードする核酸配列に特異的変異を導入し、本明細書に記載されるCFPS方法およびシステムのいずれかを使用してその配列を発現させることによって、向上した活性または長期間の安定性等、野生型ポリペプチドと比較して向上した特性を有する、成熟酵素またはタンパク質ポリペプチドの操作のハイスループット方法である。変異体遺伝子は、部位指向性変異導入、デノボDNA合成、分子育種、または当技術分野において公知の任意の他の方法を使用して作出され得る。次いで、これらの遺伝子は、先の5つの方法のいずれかを使用してCFPSにおいて発現され得る。
【0106】
III.組成物
本明細書に記載される無細胞発現システムおよび方法、すなわちチモーゲンおよびプロタンパク質ポリペプチドに由来する成熟した活性酵素およびタンパク質のインビトロ転写/翻訳のためのCFPSシステム、における使用のために、DNA鋳型、DNA鋳型を含有する組成物、および無細胞発現システム反応混合物が提供される。
【0107】
A.無細胞発現システム
(a)チモーゲンまたはプロタンパク質の成熟ポリペプチド配列をコードするDNA配列を含む核酸鋳型;および(b)細胞抽出物(例えば、大腸菌(E. coli)細胞の抽出物等、細菌細胞抽出物)等、チモーゲンまたはプロタンパク質ポリペプチドに由来する成熟酵素およびタンパク質を生成するための、DNA配列からのインビトロ転写、およびDNA配列からの結果として生じた転写産物のインビトロ翻訳を支援する構成要素、を含有する反応混合物を含む無細胞発現システムが提供される。一部の実施形態において、反応混合物は、エネルギーミックス(例えば、多糖類、rNTP、tRNA、補酵素A(CoA)、cAMP、フォリン酸、スペルミジン、および/または3-ホスホグリセリン酸(3-PGA)を含有する)も含む。一部の実施形態において、反応混合物はアミノ酸も含む。一部の実施形態において、反応混合物は、酵素の活性の可逆的阻害剤(酵素活性の可逆的阻害剤等)も含む。1つの実施形態において、発現されるチモーゲンは活性のある成熟Tgaseであり、可逆的阻害剤は硫酸アンモニウムまたはイミダゾールである。典型的に、反応混合物はプロテアーゼを含まない。チモーゲンまたはプロタンパク質に由来する酵素およびタンパク質は、プロ配列の切断なしでかつ内因性または外因性プロテアーゼ等の切断剤の添加または内包なしで、無細胞発現システムにおいて生成される。
【0108】
一部の実施形態において、酵素またはタンパク質は、チモーゲンまたはプロタンパク質に対する天然のプロ配列の非存在下で、無細胞発現システムにおいて発現される。他の実施形態において、酵素またはタンパク質はプロ配列と同時に発現される、または人工的に合成されたプロ配列が反応混合物に含まれる。酵素またはタンパク質がプロ配列と同時に発現される実施形態では、プロ配列をコードするDNAまたはRNA配列を含む核酸鋳型が反応混合物に含まれる。プロ配列は、成熟酵素もしくはタンパク質と同じ鋳型から、または第2の別個の鋳型から発現され得る。
【0109】
本明細書に記載される無細胞発現システムの一部の実施形態において、チモーゲンの成熟領域をコードする核酸鋳型はトランスグルタミナーゼ酵素をコードし、成熟した活性トランスグルタミナーゼ酵素は、成熟した活性ポリペプチド配列からのプロ配列の切断なしで、例えばプロテアーゼの添加または内包なしで、反応混合物において生成される。トランスグルタミナーゼは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)等の野生型トランスグルタミナーゼ、またはその変種であり得る。
【0110】
B.核酸鋳型
コードされるチモーゲンまたはプロタンパク質に対する成熟領域および/またはプロ配列をコードする核酸鋳型が提供される。核酸鋳型は、発現ベクターの形態でもよいし、または線状DNAもしくはRNAフラグメントの形態でもよい。鋳型は、典型的に、プロモーター、オペレーター、リボソーム結合部位、転写および翻訳のターミネーター等、コードされるポリペプチドの発現のための適当な配列を含む。
【0111】
一部の実施形態において、バイシストロン性鋳型は、別個に発現されるポリペプチドとして、成熟酵素またはタンパク質およびチモーゲンまたはプロタンパク質のプロ配列の両方の発現のための、DNAまたはRNA配列および適当な配列を含む。鋳型は、成熟酵素またはタンパク質に対するコード配列とプロ配列に対するコード配列との間に、終止コドン、スペーサー領域、リボソーム結合部位、および第2の開始コドンを含み得る。一部の実施形態において、成熟酵素またはタンパク質およびプロ配列の発現のための、別個の異なる鋳型が提供される。
【0112】
核酸鋳型は、pBR322、pUCベクター、またはpETベクターに由来するプラスミド等であるがそれらに限定されない、発現ベクターの形態であり得る。
【0113】
核酸鋳型は、例えばデノボ合成によりまたはPCR等の増幅反応により生成される、線状DNAフラグメントの形態であり得る。
【0114】
核酸鋳型は、例えばデノボ合成またはインビトロ転写により生成される、線状RNAフラグメントの形態であり得る。
【0115】
C.ポリペプチド
本明細書に記載される無細胞発現システム(CFPS)において生成されるポリペプチドが提供される。ポリペプチドは、プロテアーゼによる切断なし等、プロ配列の切断による活性化なしで生成される、チモーゲンまたはプロタンパク質に由来する活性のある成熟酵素およびタンパク質である。
【0116】
一部の実施形態において、ポリペプチドは、トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、リシルオキシダーゼ、チロシナーゼ、リパーゼ、またはプロテアーゼ等、チモーゲンに由来する成熟した活性酵素である。非限定的な例において、ポリペプチドは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来のトランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種等、成熟した活性トランスグルタミナーゼ酵素であり得る。一部の実施形態において、ポリペプチドは殺生物特性または細胞毒性特性を有する。一部の実施形態において、ポリペプチドは治療特性(インスリン等であるがそれに限定されない)を有する。
【0117】
一部の実施形態において、発現されるポリペプチドは、発現されるポリペプチド配列が由来する野生型または親ポリペプチド配列の変種であり、野生型または親ポリペプチドよりも大きな活性(例えば、酵素活性、殺生物活性、細胞毒性活性、または治療活性)および/または長期間の安定性を有する。
【0118】
IV.抗微生物製品および使用の適用
本明細書に記載される、チモーゲンの成熟ポリペプチド形態は、防腐剤を要する様々な適用、例えばパーソナルケア製品、家庭用製品、産業用製品、食料品、医薬製品、美容製品、ヘルスケア製品、海産物、塗料製品、コーティング製品、エネルギー製品、プラスチック製品、パッケージング製品、および農産物における、または本明細書に開示される製品もしくはシステムのいずれかにおける、パラベン、ホルムアルデヒド、およびグルタルアルデヒド等であるがそれらに限定されない従来の防腐剤、ならびに銀(創傷ケア製品において使用される)を含めた従来の殺生物剤の代替品としてまたはそれに加えて使用され得る。一部の実施形態において、成熟ポリペプチドは、細菌トランスグルタミナーゼ、例えばストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種等のトランスグルタミナーゼである。1つの実施形態において、トランスグルタミナーゼは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)である。一部の実施形態において、成熟ポリペプチドは、本明細書に記載される無細胞タンパク質発現システムにおいて発現される。
【0119】
トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、リシルオキシダーゼ、チロシナーゼ、リパーゼ、ペプチダーゼ、またはプロテアーゼ(野生型成熟ポリペプチドおよびその変種を含む)等、チモーゲンの成熟酵素は、潜在的に有害な細菌、真菌、および/または他の微生物の成長を阻害する抗微生物(例えば、防腐剤)成分として使用され得、したがって、これらの製品における細菌、真菌、および/または微生物成長を阻害する有効量で、保存されるべき製品に添加される。一部の実施形態において、抗微生物成熟酵素は、細菌トランスグルタミナーゼ、例えばストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種である。1つの実施形態において、トランスグルタミナーゼは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)である。
【0120】
一部の実施形態において、USP<51>通過基準、すなわち、カテゴリー2の製品に関して:細菌:14日目の時点で初回算出カウントから少なくとも2.0対数の低下、および28日目の時点で14日目のカウントからの増加なし;酵母およびカビに関して:14および28日目の時点で初回算出カウントからの増加なし、が達成される。一部の実施形態において、酵素および酵素-バイオポリマー共製剤(coformulation)の抗微生物挙動は、グラム陽性およびグラム陰性細菌ならびに真菌に対するMIC(最小阻害濃度)によって特徴付けされ、それは、およそ80~100%の微生物増殖の低下、または微生物増殖の少なくとも約80%、85%、90%、95%、98%、もしくは99%のうちのいずれかの低下をもたらす。
【0121】
本明細書に記載される製品、例えばパーソナルケア製品、家庭用製品、産業用製品、食料品、医薬製品、美容製品、ヘルスケア製品、海産物、塗料製品、コーティング製品、エネルギー製品、プラスチック製品、パッケージング製品、もしくは農産物と、または本明細書に開示される製品もしくはシステムのいずれかにおいて、例えば製剤において組み合わされた場合、または防腐剤として製品もしくはシステムに組み入れられた場合、組成物は、幅広いpH域にわたって有効な広域防腐活性を有し得る。
【0122】
一部の実施形態において、本明細書に記載される防腐組成物(例えば、架橋もしくは溶解酵素、または本明細書に開示される他の酵素、例えば殺生物酵素等、発現した成熟チモーゲンポリペプチド、あるいはその組成物)を、パーソナルケア製品、家庭用製品、産業用製品、食料品、医薬製品、美容製品、ヘルスケア製品、海産物、塗料製品、コーティング製品、エネルギー製品、プラスチック製品、パッケージング製品、もしくは農産物等の製品もしくはシステムに、または本明細書に開示される製品もしくはシステムのいずれかにおいて、例えば製剤において添加するステップ、または製品もしくはシステムに組み入れるステップを含む方法であって、防腐組成物を含有しない同一の製品と比較して、微生物増殖は減少しかつ/または製品の貯蔵寿命は増加する、方法が提供される。一部の実施形態において、チモーゲンの成熟酵素は、例えば本明細書に記載される無細胞タンパク質発現システムにおいて発現した、ヒドロラーゼ、プロテアーゼ、溶解酵素、および架橋酵素(例えば、トランスグルタミナーゼ)から選択される酵素である。一部の実施形態において、酵素は、トランスグルタミナーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、トランスフェラーゼ、リシルオキシダーゼ、もしくはチロシナーゼ、またはその組み合わせ等の架橋酵素である。一部の実施形態において、抗微生物成熟酵素は、細菌トランスグルタミナーゼ、例えばストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)またはその変種である。1つの実施形態において、トランスグルタミナーゼは、ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)である。一部の実施形態において、ホルムアルデヒドおよび/またはグルタルアルデヒド等であるがそれらに限定されない他の防腐剤は、製品組成に含まれない。
【0123】
本明細書に記載される方法または組成物の一部の実施形態において、酵素(例えば、架橋もしくは溶解酵素、または本明細書に開示される他の酵素、例えば殺生物酵素等のチモーゲンクラスの酵素、例えばストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来の野生型トランスグルタミナーゼ(配列番号7)のトランスグルタミナーゼまたはその変種等のトランスグルタミナーゼ)は、約0.01%w/v~約5%w/v、または少なくとも約0.01%w/v、0.05%w/v、0.1%w/v、0.5%w/v、1%w/v、1.5%w/v、2%w/v、2.5%w/v、3%w/v、3.5%w/v、4%w/v、4.5%w/v、もしくは5%w/vのうちのいずれか、または約0.01%w/v~約0.05%w/v、約0.1%w/v~約0.5%w/v、約1%w/v~約1.5%w/v、約1.5%w/v~約2%w/v、約2%w/v~約2.5%w/v、約2.5%w/v~約3%w/v、約3%w/v~約3.5%w/v、約3.5%w/v~約4%w/v、約4%w/v~約4.5%w/v、約4.5%w/v~約5%w/v、約0.01%w/v~約0.1%w/v、約0.1%w/v~約1%w/v、約1%~約5%w/v、約0.05%w/v~約0.5%w/v、約0.5%w/v~約5%w/v、約1%w/v~約2.5%w/v、もしくは約2.5%w/v~約5%w/vのうちのいずれかの濃度で含まれ得る。
【0124】
チモーゲンの成熟酵素を含む開示される組成物を組み入れ得るパーソナルケア製品の例としては、棒状せっけん、液体せっけん(例えば、ハンドソープ)、手の除菌剤(洗い流すおよびつけて放っておくアルコールベースおよび水性ベースの手の消毒剤を含む)、術前の皮膚消毒剤、洗浄用ワイプ、消毒用ワイプ、ボディーウォッシュ、ざ瘡治療製品、抗真菌性おむつかぶれクリーム、抗真菌性皮膚クリーム、シャンプー、コンディショナー、化粧品(リキッドまたはパウダーファンデーション、リキッドまたはソリッドアイライナー、マスカラ、クリームアイシャドウ、色付きのパウダー、乾燥させてまたは湿らせて使用される「パンケーキ」タイプのパウダー、メイク除去製品等を含むがそれらに限定されない)、防臭剤、抗微生物性クリーム、ボディーローション、ハンドクリーム、局所クリーム、アフターシェーブローション、皮膚化粧水、マウスウォッシュ剤、歯磨き粉、日焼け止めローション、ならびに洗浄用ワイプ、ベビーシャンプー、ベビーせっけん、およびおむつクリーム等であるがそれらに限定されないベビー製品が挙げられる。本主題は、創傷治癒軟膏、クリーム、およびローション、創傷被覆剤、熱傷クリーム、包帯、テープ、ならびにステリストリップ等であるがそれらに限定されない創傷ケア品目、ならびに医療用ガウン、キャップ、フェイスマスク、および靴カバー、サージカルドロップ(surgical drop)等の医療用品にも適用され得る。さらなる製品としては、洗口液、歯磨き粉、および歯科用フロスコーティング等の口腔製品、獣医用製品およびペットケア製品、防腐組成物、ならびに溶液、スプレー、またはワイプを含めた表面消毒剤が挙げられるが、それらに限定されない。
【0125】
チモーゲンの成熟酵素を含む開示される組成物を組み入れ得る家庭用/産業用製品の非限定的な例としては、濃縮液体洗浄剤およびスプレー洗浄剤、洗浄用ワイプ、食器洗い液、食器洗い洗剤、スプレー-モップ液、家具艶出し剤、屋内用塗料、屋外用塗料、ほこり取りスプレー、洗濯用洗剤、織物柔軟剤、ラグマット/織物洗浄剤、窓およびガラス洗浄剤、便器洗浄剤、液体/クリーム洗浄剤等の家庭用(householder)洗浄剤が挙げられる。特定の実施形態において、本主題の組成物は、消費、パッケージング、および食品コーティングの前に果物および野菜を洗浄するために設計された食品洗い製品において使用され得る。
【0126】
以下の実施例は、本発明を限定することではなく例示することを意図される。
【実施例】
【0127】
活性アッセイ
Tgase活性を、比色分析ヒドロキサメート(hydroxamate)活性アッセイ(Folk and Cole (1965) J Biol Chemistry 240(7):2951-2960)を使用して、本明細書における実施例において測定した。簡潔には、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイは、アミンアクセプター基質としてN-カルボベンゾキシ-L-グルタミニルグリシン(Z-Gln-GlyまたはCBZ-Gln-Gly)、およびアミンドナーとしてヒドロキシルアミンを使用する。トランスグルタミナーゼの存在下で、ヒドロキシルアミンは組み入れられて、Z-グルタミルヒドロキサメート(glutamylhydroxamate)-グリシンを形成し、それは、37℃で5~60分間のインキュベーション後に525nmで検出可能な、鉄(III)を有する着色複合体を生じさせる。標準物質としてL-グルタミン酸γ-モノヒドロキサメート(monohydroxamate)(Millipore Sigma)を使用して、較正を実施した。Tgaseの1単位は、1分間あたり1μmolのγ-グルタミルヒドロキシルアミンのペプチド誘導体の形成を触媒する酵素の量として規定される。
【0128】
[実施例1]
タンパク質分解的切断を要しない、活性のある成熟ポリペプチドの発現のためのバイシストロン性プラスミドを使用した、成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
プロ配列および成熟Tgaseをコードする遺伝子を、公開されたアミノ酸配列(Kanaji, et al. (1993) J. Biol. Chem. 268(16):11565-11572)に基づいて大腸菌(E. coli)における発現に対してコドン最適化し、終止コドン、20~60bpのスペーサー、およびリボソーム結合部位を含有するリンカー領域によって隔てられ、単一のDNAフラグメント上にて、成熟Tgaseの後に続くペプチドスペーサーおよび6-ヒスチジンタグを含めて合成した(配列番号2)。DNAを配列検証した。バイシストロン性DNAフラグメントを、XbaIおよびXhoIクローニングサイトを使用して、T7プロモーターおよび強力なリボソーム結合部位の下流でpUC19由来ベクターにクローニングした。結果として生じたプラスミドを、標準的な熱ショック方法を使用して大腸菌(E. coli)に形質転換した。形質転換されたアンピシリン耐性コロニーにおけるバイシストロン性プラスミドの存在を、コロニーPCRおよびシーケンシングによって検証した。バイシストロン性プラスミドを、標準的プロトコール(QIAprep(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、QIAGEN,Inc.、ZymoPURE(商標)Plasmid Miniprep Kit、Zymo Research Inc.、Monarch(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、New England Biolabs,Inc.)を使用して回収し、DNA濃度を適当に調整した。
【0129】
CFPS方法
バイシストロン性プラスミド(1.5nM)を、製造業者のプロトコール(myTXTL(登録商標)system、Arbor Bioscience,Inc)に従って、エネルギーバッファーおよびアミノ酸のカクテルを含有する、大腸菌(E. coli)由来の補充された細胞抽出物を使用して、pTXTL-P70a-T7rnap HP(Arbor Biosciences #502134)(0.05nM)の存在下で発現させた。反応液を20℃で終夜インキュベートした。
【0130】
無細胞発現した成熟Tgaseの活性を、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定し、正規化された活性は、1mLの無細胞反応混合物あたりの正規化された活性で報告されている(
図3)。
【0131】
[実施例2]
活性のある成熟ポリペプチドおよびプロ配列の同時発現のための2種のプラスミドを使用した、成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
成熟Tgase配列をコードする遺伝子(配列番号3)を、大腸菌(E. coli)に対してコドン最適化し、合成し、DNAを配列検証した。フラグメントを、NcoIおよびXhoIクローニングサイトを使用して、T7プロモーターおよび強力なリボソーム結合部位の下流にクローニングした。ベクターはpUC19に由来し、ColE1複製の起点およびアンピシリン耐性マーカーを有した。結果として生じたプラスミドを、標準的な熱ショック方法を使用して大腸菌(E. coli)に形質転換した。形質転換されたコロニーにおける成熟Tgaseコードプラスミドの存在を、コロニーPCRおよびシーケンシングによって検証した。配列番号3に描写される遺伝子配列を含有する「成熟Tgaseプラスミド」(
図2A)を、標準的プロトコール(QIAprep(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、QIAGEN,Inc.、ZymoPURE(商標)Plasmid Miniprep Kit、Zymo Research Inc.、Monarch(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、New England Biolabs,Inc.)を使用して回収し、DNA濃度を適当に調整した。
【0132】
Tgaseのプロ配列をコードする遺伝子(配列番号4)を、大腸菌(E. coli)に対してコドン最適化し、合成し、DNA配列を検証した。フラグメントを、NcoIおよびXhoIクローニングサイトを使用して、T7プロモーターおよび強力なリボソーム結合部位の下流にクローニングした。ベクターはpUC19に由来し、ColE1複製の起点およびアンピシリン耐性マーカーを有した。結果として生じたプラスミドを、標準的な熱ショック方法を使用して大腸菌(E. coli)に形質転換した。形質転換されたコロニーにおけるプロ配列コードプラスミドの存在を、コロニーPCRおよびシーケンシングによって検証した。配列番号4に描写される遺伝子配列を含有する「プロ配列プラスミド」(
図2B)を、標準的プロトコール(QIAprep(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、QIAGEN,Inc.、ZymoPURE(商標)Plasmid Miniprep Kit、Zymo Research Inc.、Monarch(登録商標)Plasmid Miniprep Kit、New England Biolabs,Inc.)を使用して回収し、DNA濃度を適当に調整した。
【0133】
1.5nMの濃度の「成熟Tgaseプラスミド」および0.02nM~7.5nMの濃度の「プロ配列プラスミド」を、実施例1に記載されるCFPS方法を使用して発現させた。この二重ベクター手法は、「プロ配列コードプラスミド」および「成熟Tgaseプラスミド」の比率が、高い発現レベルの活性Tgaseをもたらすように調整されるのを可能にする。プラスミドを、1:0.2~1:75の「プロ配列プラスミド」:「成熟Tgaseプラスミド」の比率で添加した。
【0134】
無細胞発現した成熟Tgaseの活性は、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定され、1mLの無細胞反応混合物あたり4.4~21.6単位の酵素活性に及んだ。正規化された活性は、1mLの無細胞反応混合物あたりの正規化された活性で報告されている(
図3)。
【0135】
[実施例3]
合成プロ配列ペプチドの添加による成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
「成熟Tgaseプラスミド」(
図2A)を、30nMの合成由来のプロペプチドによって提供されるプロ配列とともに、実施例1に記載されるCFPS方法を使用して発現させた。野生型(配列番号5)および変異体プロ配列を、従来のペプチド合成方法を使用して化学合成した。無細胞発現した成熟Tgaseの活性を、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定し、1mLの無細胞反応混合物あたりの正規化された活性で報告している(
図3)。
【0136】
[実施例4]
小分子可逆的阻害剤の添加による成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
「成熟Tgaseプラスミド」(
図2A)を、実施例1に記載されるCFPS方法を使用して発現させた。しかしながら、プロ配列(発現させた、合成の、等)を添加しなかった。その代わりに、硫酸アンモニウムを0~50mMの濃度で添加した。無細胞発現した成熟Tgaseの活性を、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定した。正規化された活性が
図4に報告されている。成熟Tgaseを最適化条件下で発現させ、1mLの無細胞反応混合物あたりの正規化された活性で報告している(
図3)。
【0137】
[実施例5]
プロ配列なしでの、成熟TgaseのCFPS(インビトロ転写/翻訳)
「成熟Tgaseプラスミド」(
図2A)を、プロ配列の供給源または小分子阻害剤の非存在下で、実施例1に記載されるCFPS方法を使用して発現させた。無細胞発現した成熟Tgaseの活性を、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定し、1mLの無細胞反応混合物あたりの正規化された活性で報告している(
図3)。
【0138】
[実施例6]
成熟Tgaseの単一点変異体のCFPS(インビトロ転写/翻訳)
成熟Tgase配列をコードする遺伝子(配列番号3)を、実施例2に記載されるようにクローニングし、成熟Tgase遺伝子の2番目の残基にセリンからプロリンへの置換を含めるために、当技術分野において公知の十分に確立された技法を使用して部位指向性変異導入に供した(Q5(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit、New England Biolabs,Inc.)。
【0139】
線状産物を、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよびT4 DNAリガーゼを使用して再環状化し(製造業者のプロトコールに従う、New England Biolabs,Inc.)、残存プラスミドをDpnIによって消化した。プラスミド上のプロモーターおよびターミネーター領域に挟まれた第2セットのPCRプライマーを使用して、変異体Tgase遺伝子を増幅した。
【0140】
PCR増幅した変異体Tgase遺伝子を、実施例1に記載されるCFPS方法を使用して、「プロ配列プラスミド」(実施例2に記載される)とともに同時に発現させた。無細胞発現した成熟Tgaseの活性を、ヒドロキサメート(hydroxamate)アッセイを使用して判定した。
【0141】
[実施例7]
成熟Tgaseの細胞毒性作用
成熟Tgaseを発現させ、以前に記載されるように(Javitt et al. BMC Biotech. 2017, 17, 23)精製し、その細胞毒性活性を、細胞生存率アッセイを測定する市販のキットを使用して評価した。
【0142】
酵母または細菌開始培養物を、30℃~37℃で終夜成長させた。翌日、飽和した培養物の細胞密度をOD
600を使用して算出し、培養物をmLあたり10
5~10
8個細胞に希釈した。培養物(100μL)を、96ウェルプレートにおいて希釈開始物から作製した。変異体または野生型Tgaseを、0.01~1重量パーセントで各培養物に添加した。培養物を30℃~37℃で終夜成長させ、成長曲線をBioTek Synergy Plate Readerによって測定した。翌日、BacTiter Glo(商標)(Promega、製造業者のプロトコールに従う)等の細胞生存率アッセイを使用して、成熟Tgase変種(配列番号6)、野生型Tgase(配列番号7)、またはTgaseなしに曝露した培養物における細胞生存割合を評価した(
図5A~C)。細胞生存率は、発光の検出によって示される。バーが目に見えない場合、生存細胞は検出されなかった。
【0143】
前述の本発明は、理解の明瞭性の目的のために、例示および実施例によって多少詳しく記載されているものの、添付の特許請求の範囲において詳述される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、ある特定の変化および改変が実践され得ることは当業者に明白であろう。それゆえ、本説明は、本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではない。
【0144】
本明細書において引用されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、すべての目的のために、かつあたかもそれぞれ個々の刊行物、特許、または特許出願が、参照によりそのように組み入れられるように具体的にかつ個々に示されているのと同じ程度に、参照によりそれらの全体として本明細書によって組み入れられる。
【0145】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列
配列番号1
チモーゲンとしての野生型Tgaseのアミノ酸配列(プレ-プロ-Tgase;GenBank AF531437.1)
【化1】
【0146】
配列番号2
個別のポリペプチドとしてプロ配列および成熟Tgaseをコードするバイシストロン性遺伝子のDNA配列
【化2】
【0147】
配列番号3
成熟Tgase遺伝子のDNA配列
【化3】
【0148】
配列番号4
45アミノ酸のTgaseプロ配列のDNA配列
【化4】
【0149】
配列番号5
45アミノ酸のTgaseプロ配列のペプチド配列
【化5】
【0150】
配列番号6
成熟ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)Tgase変種
【化6】
【0151】
配列番号7
成熟ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)Tgase野生型
【化7】
【配列表】
【国際調査報告】