(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能の改善または機能障害の軽減のための治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20230412BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230412BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230412BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230412BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P43/00 107
A61P9/04
A61P13/12
A61P17/00
A61P25/02
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553111
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-13
(86)【国際出願番号】 US2021021171
(87)【国際公開番号】W WO2021178864
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519341234
【氏名又は名称】アレグロ ファーマシューティカルズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Allegro Pharmaceuticals,LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】カラジョージアン、ハンパー エル.
(72)【発明者】
【氏名】パーク、ジョン ワイ.
(72)【発明者】
【氏名】カラジョージアン、ビッケン エイチ.
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB221
4C084ZB222
(57)【要約】
ミトコンドリア機能の改善または機能障害の軽減のための、ペプチド療法。これらの療法は、神経変性、代謝性疾患、うっ血性心不全、駆出率が低減した慢性心不全、駆出率が保持された慢性心不全、バース症候群、腎動脈狭窄のための経皮腎血管造影に起因する腎臓疾患および腎不全、高齢者の骨格筋機能の機能障害、原発性筋肉ミトコンドリアミオパチーおよびニューロパチー、虚血再灌流損傷および原虫感染症、末梢ニューロパチー、皮膚障害および炎症性痔などのミトコンドリア機能不全を引き起こすか、それによって引き起こされるか、それに貢献するか、またはそれに関連する障害に使用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア生体エネルギーの改善を必要とするヒトまたは動物の対象において、それを行うための方法であって、前記方法が、ミトコンドリア生体エネルギーの改善を引き起こす治療有効量のペプチドを、前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記対象が、ミトコンドリア生体エネルギーの機能障害を引き起こすか、またはそれによって引き起こされる障害を患っており、前記ペプチドの前記投与により、前記障害を引き起こすか、またはそれによって引き起こされたミトコンドリア生体エネルギーの前記機能障害のうちの少なくともいくらかを回復または予防する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記障害が、化学毒性、低酸素性、または虚血性損傷を含むか、またはそれに起因する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記障害が、代謝ストレスを含むか、またはそれに起因する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記障害が、心不全、腎不全、および腎臓疾患を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記障害が、神経変性疾患を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ならびに中枢神経系(CNS)の機能および/または構造の進行性変性を引き起こす他の障害から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記障害が、皮膚障害を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記皮膚が、発疹、色素沈着異常または先端チアノーゼを引き起こすか、またはそれを伴う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記皮膚障害が、そう痒症、アトピー性皮膚炎または乾癬を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記障害が、末梢ニューロパチーまたは末梢神経痛を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記末梢ニューロパチーまたは末梢神経痛が、ミトコンドリア機能不全、糖尿病、異常なグルコース代謝、酸化ストレス、または化学療法を引き起こすか、またはそれによって引き起こされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記障害が、心不全または心拍出量の低減を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドが、リステガニブ(Risuteganib)を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドが、直鎖状または環状形態のグリシニル-アルギニル-グリシニル-システイン酸-トレオニル-プロニン-COOHを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドが、以下の式を有し、
X1-Arg-Gly-システイン酸-X
式中、XおよびXlが、Phe-Val-Ala、-Phe-Leu-Ala、-Phe-Val-Gly、-Phe-Leu-Gly、-Phe-Pro-Gly、-Phe-Pro-Ala、-Phe-Valから選択されるか、またはArg、Gly、システイン酸、Phe、Val、Ala、Leu、Pro、Thr、および塩、ならびにそれらの任意のD-異性体およびL-異性体の任意の組み合わせから選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、以下の一般式を有し、
Y-X-Z
式中、
Y=R、H、K、Cys(酸)、GまたはDであり、
X=G、A、Cys(酸)、R、G、DまたはEであり、
Z=Cys(酸)、G、C、R、D、NまたはEである、
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、R-G-Cys(酸)、R-R-Cys、R-Cys酸)-G、Cys(酸)-R-G、Cys(酸)-G-R、R-G-D、R-G-Cys(酸)、H-G-Cys(酸)、R-G-N、D-G-R、R-D-G、R-A-E、K-G-D、R-G-Cys(酸)-G-G-G-D-G、Cyclo-{R-G-Cys(酸)-F-N-Me-V}、R-A-Cys(酸)、R-G-C、K-G-D、Cys(酸)-R-G、Cys(酸)-G-R、シクロ-{R-G-D-D-F-NMe-V}、H-G-Cys(酸)およびそれらの塩から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ミトコンドリア生体エネルギーの改善を必要とするヒトまたは動物の対象において、それを行うための組成物または医薬調製物であって、前記組成物または医薬調製物が、請求項13~18の少なくとも一項に定義または列挙される少なくとも1つのペプチドを含む、組成物または医薬調製物。
【請求項20】
化学毒性、低酸素性または虚血性損傷、代謝ストレス、心不全、駆出率が低減した慢性心不全、駆出率が保持された慢性心不全、バース症候群、腎臓疾患、腎動脈狭窄のための経皮腎血管造影に起因する腎不全、高齢者の骨格筋機能の機能障害、原発性筋肉ミトコンドリアミオパチーまたはニューロパチー、虚血再灌流損傷、原虫感染症、末梢ニューロパチー、皮膚障害、ニューロネラティブ(neuronerative)疾患、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、中枢神経系(CNS)の神経細胞の機能および/または構造の進行性変性を引き起こす別の障害、皮膚障害、発疹、色素沈着異常または先端チアノーゼ、そう痒症、アトピー性皮膚炎、乾癬、ミトコンドリア機能不全を引き起こすか、それに寄与するか、またはそれによって引き起こされる末梢ニューロパチー、末梢神経痛、または神経痛、糖尿病、異常なグルコース代謝、酸化ストレスまたは化学療法、心不全または心拍出量の低減から選択される障害の治療のためのリステガニブを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、2020年3月6日に出願された、Peptide Treatments for Improving or Lessening Impairment of Mitochondrial Bioenergeticsと題する米国仮特許出願第62/986,361号の優先権を主張するものであり、その開示全体は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、化学、生命科学、薬学および医学の分野に関し、より具体的には、医薬調製物および疾患の治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
37 CFR 1.71(e)に準拠して、本特許文書は、著作権保護の対象となる材料を含んでおり、本特許文書の所有者は、すべての著作権をいかなるものでも保有する。
リステガニブ(Risuteganib)(本明細書においては、RSGと称されることもある)は、分子式C22-H39-N9-O11-Sおよび以下の構造式を有する非天然ペプチドである。
【0004】
【0005】
リステガニブは、ALG-1001、グリシル-L-アルギニルグリシル-3-スルホ-L-アラニル-L-トレオニル-Lプロリン、Arg-Gly-NH-CH(CH2-SO3H)COOH、およびLuminate(登録商標)(Allegro Ophthalmics,LLC,San Juan Capistrano,CA)を含む、他の名前、命名法および名称によっても言及されている。リステガニブは、抗インテグリンであり、酸化ストレス経路の上流の多数のインテグリンを標的とすることが示されている。リステガニブは、低酸素症および酸化ストレスと関連するものを含め、複数の血管新生および炎症プロセスを下方調節するように広く作用する。
【0006】
リステガニブの追加の説明およびリステガニブに関する情報は、特許文献1~6ならびに2019年4月22日に出願されたCompositions And Methods Useable For Treatment Of Dry Eyeと題された同時係属中の米国仮特許出願第62836858号および2019年7月26日に出願されたPeptides For Treating Dry Macular Degeneration And Other Disorders Of The Eyeと題された同第62/879281号で提供され、かかる特許および特許出願の各々の全開示内容は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0007】
ミトコンドリアは、多くの種類の細胞内に見られるオルガネラである。ミトコンドリアは、アデノシン三リン酸(ATP)を生成することによってエネルギーを生み出す機能を持ち、体の多くの機能の燃料となっている。筋肉および神経細胞が、高いエネルギー需要を有するため、ミトコンドリア機能不全は、筋肉または神経障害の形態で頻繁に現れる。主に筋肉に影響を及ぼすミトコンドリア障害は、ミトコンドリアミオパチーと呼ばれることがある。主に神経に影響を与えるミトコンドリア障害は、ミトコンドリアニューロパチーまたはミトコンドリア脳筋症と呼ばれることがある。ミトコンドリア機能不全は、神経変性、代謝性疾患、うっ血性心不全、駆出率が低減した慢性心不全、駆出率が保持された慢性心不全、バース症候群、腎動脈狭窄のための経皮腎血管造影に起因する腎臓疾患および腎不全、高齢者の骨格筋機能、原発性筋肉ミトコンドリアミオパチーおよびニューロパチー、虚血再灌流損傷、および原虫感染症などの多種多様な障害に寄与し得る。非特許文献1。ミトコンドリアは、細胞レベルでストレスへの適応を可能にし、直接的に適応するエネルギーおよびシグナルの両方を提供する。したがって、非特許文献2を参照されたい。また、ミトコンドリア機能不全は、自閉症スペクトラム障害の発症の要因として同定されている。非特許文献3~9および非特許文献10を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第9018352号明細書
【特許文献2】米国特許第9872886号明細書
【特許文献3】米国特許第9896480号明細書
【特許文献4】米国特許第10307460号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2018/0207227号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2019/0062371号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Murphy,M.;Mitochondria as a Therapeutic Target for Common Pathologies;Nature Reviews:Drug Discovery,2018 Dec;17(12):865-886.doi:10.1038/nrd.2018.174.Epub 2018 Nov 5
【非特許文献2】Picard,M.他:An Energetic View of Stress:Focus on Mtochondria;Frontiers in Neuroendocrinology 49(2018)72-85
【非特許文献3】Giulivi他、Mitochondrial Dysfunction in Autism.Journal of the American Medical Association.2010;304:2389-2396
【非特許文献4】Chauhan他、Brain region-specific deficit in mitochondrial electron transport chain complexes in children with autism.Journal of Neurochemistry 2011;117:209-22
【非特許文献5】Tang他、Mitochondrial abnormalities in temporal lobe of autistic brain.Neurobiology of Disease 2013;54:349-361
【非特許文献6】Goh他、Mitochondrial Dysfunction as a Neurobiological Subtype of Autism Spectrum Disorder:Evidence from brain imaging.JAMA Psychiatry 2014;71:665-671
【非特許文献7】Napoli他、Deficits in bioenergetics and impaired immune response in granulocytes from children with autism.Pediatrics 2014;133:e1405-10
【非特許文献8】Rose他、Oxidative stress induces mitochondrial dysfunction in a subset of autism lymphoblastoid cell lines in a well-matched case control cohort.PLOS One 2014;9:e85436
【非特許文献9】Parikh他、A Modern Approach to the Treatment of Mitochondrial Disease.Current Treatment Options in Neurology.2009;11:414-430
【非特許文献10】Geier他、A prospective double-blind,randomized clinical trial of levocarnitine to treat autism spectrum disorders.Med Sci Monit 2011;17:PI15-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ミトコンドリア機能を改善するか、または機能障害を軽減し、それによってミトコンドリア機能不全によって引き起こされるか、またはそれに関連する疾患および障害を治療するための新しい療法の開発の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、ミトコンドリア機能を改善するための治療、および/またはミトコンドリア機能の減少もしくは機能障害を引き起こすか、それによって引き起こされる、もしくはそれを伴う障害を治療するための治療法を記載する。ペチドは、リステガニブまたは他のペプチドを含んでもよく、その例は、本明細書に記載される。
【0012】
一態様によれば、ミトコンドリア生体エネルギーの改善を必要とするヒトまたは動物対象において、それを行うための方法が提供され、該方法は、ミトコンドリア生体エネルギーの改善を引き起こす治療有効量のペプチドを、対象に投与するステップを含む。いくつかの用途では、対象は、ミトコンドリア生体エネルギーの機能障害を引き起こす、それに寄与する、またはそれによって引き起こされる障害を患っている可能性があり、ペプチドの投与により、例えば、化学毒性、低酸素性または虚血性損傷、代謝ストレス、心不全、駆出率が低減した慢性心不全、駆出率が保持された慢性心不全、バース症候群、腎臓疾患、腎動脈狭窄のための経皮腎血管造影に起因する腎不全、高齢者の骨格筋機能の障害、原発性筋肉ミトコンドリアミオパチーまたはニューロパチー、虚血再灌流損傷、原虫感染症、末梢ニューロパチー、皮膚障害、ニューロネラティブ(neuronerative)疾患、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、中枢神経系(CNS)の神経細胞の機能および/または構造の進行性変性を引き起こす別の障害、皮膚障害、発疹、色素沈着異常または先端チアノーゼ、そう痒症、アトピー性皮膚炎、乾癬、ミトコンドリア機能不全を引き起こすか、それに寄与するか、またはそれによって引き起こされる末梢ニューロパチー、末梢神経痛、または神経痛、糖尿病、異常なグルコース代謝、酸化ストレスまたは化学療法、心不全または心拍出量の低減などのミトコンドリア生体エネルギーのそのような障害のうちの少なくともいくらかを回復または予防する。
【0013】
なお本開示のさらなる態様および詳細は、本明細書で以下に示される詳細な説明および実施例を読むことで理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後の死細胞に対する生細胞のパーセンテージを示し、RSG共処理が、HQ誘発の細胞生存率低減から細胞を有意に保護したことを示す、棒グラフ。
【
図2A】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後にWST-1試薬を使用して測定したミトコンドリア脱水素酵素活性によって反映される細胞生存率を示す、棒グラフ。
【
図2B】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のミトコンドリア呼吸パラメータ(すなわち、基礎呼吸、最大OCR、ATP産生、および予備呼吸能)を示す、棒グラフ。
【
図2C】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後の蛍光プレートリーダーを使用して、示した時点で相対蛍光単位(RFU)によって測定した、活性酸素種を示す、棒グラフ。
【
図2D】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるJC-1モノマーおよび凝集体の蛍光によって示した時点で測定されたΔΨmを示し、RSG共処理では、HQ媒介性のΔΨmの低減を有意に改善したことを示す、棒グラフ。
【
図3】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のFiji Image-Jで定量化したF-アクチン凝集体を示し、HQでは対照に対してRPE F-アクチン凝集体を有意に誘導したが、RSG共処理ではHQ誘発の凝集体を有意に減少させたことを示す、棒グラフ。
【
図4】対照、RSG単独、HQ単独またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるFDRおよびlog2FC閾値を通過した発現遺伝子の数を示し、RSG単独処理後にはほとんどDE遺伝子が見出されなかったが、HQ単独およびHQ+RSG共処理による処理では、大きなトランスクリプトーム変化を誘導したことを示す、棒グラフ。
【
図5A】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるRNA-seqによって測定したHMOX-1遺伝子発現を示す、棒グラフ。
【
図5B】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるqPCRによって測定したHMOX-1遺伝子発現を示す、棒グラフ。
【
図5C】RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるGAPDHに対するHO-1の量を示す、ウェスタンブロット画像。
【
図5D】対照、RSG単独、HQ単独、またはRSQ+HQ共処理による処理後のRPE細胞におけるGAPDHに対するHQ-1の比率を示し、HQ誘発のHO-1タンパク質レベルの上昇が、RSG共処理によってさらに上方制御されたことを示す、棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の図面は、本特許出願に含まれ、以下の詳細な説明で参照される。これらの図面は、本開示の特定の態様または実施形態を例示することのみを意図しており、本開示の範囲をいかなるようにも限定するものではない。
【0016】
以下の詳細な説明およびそれが参照する添付の図面は、必ずしも本発明のすべての実施例または実施形態を記載する必要はなく、いくつかの実施例または実施形態を記載することが意図される。記載される実施形態は、すべての観点において、単に例示的であり、限定的ではないことが考慮される。本発明の詳細な説明および添付の図面の内容は、本発明の範囲をいかなるようにも限定するものではない。
【0017】
本明細書で使用される場合、「患者」または「対象」という用語は、ヒトまたは、ヒト、霊長類、哺乳動物、および脊椎動物などの非ヒト動物を指す。
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療すること」という用語は、ある状態、疾患または障害を予防すること、除外すること、治癒すること、抑止すること、その重症度を低減すること、またはその少なくとも1つの症状を低減することを指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「に有効な量」という語句は、妥当な利益/リスク比でいくつかの所望の効果を生み出す薬剤の量を指す。特定の実施形態では、この用語は、特定の状態もしくは障害を治療するために必要であるか、または十分な量を指す。有効量は、治療される疾患もしくは状態、投与される特定の組成物、または疾患もしくは状態の重症度などの因子に応じて変化し得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の薬剤の有効量を経験的に決定し得る。
【0019】
本特許出願に記載される治療は、任意の好適な投与経路(複数可)によって、かつ任意の好適な剤形で投与され得る。当該技術分野で既知の可能な投与経路としては、全身、局部、領域、非経口、腸管、吸入、局所、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内、髄腔内、膀胱内、経口、内視鏡(例えば、内視鏡、気管支鏡、大腸鏡、S状結腸鏡、子宮鏡、腹腔鏡、関節鏡、胃鏡、膀胱鏡などを介して)、経尿道、直腸、鼻、経口、気管、気管支、食道、胃、腸管、腹腔、尿道、水疱、尿道、膣、子宮、卵管、頬、舌下、舌下、および粘膜が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。当該技術分野で既知の可能な剤形としては、液体、二相性液体、固体、半固体、蒸気、エアロゾル、溶液、懸濁液、混合物、シロップ、舐剤、ゲル、クリーム、ペースト、軟膏、ローション、塗布薬、コロジオン、エマルジョン、経皮送達パッチ、坐剤、カプセル、錠剤、粉末、顆粒、食用剤、咀嚼剤、滴、スプレー、浣腸、ドローチ、ロゼンジなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0020】
実施例1
ヒト網膜色素上皮RPE細胞におけるヒドロキノン誘発性損傷から保護するリステガニブ(RSG)
タバコの喫煙は、加齢黄斑変性(AMD)の病因に関与している。インテグリンの機能不全は、AMDと関連している。出願人は、タバコの煙における重要な酸化剤であるヒドロキノン(HQ)によって誘発されるRPE細胞損傷に対するリステガニブの効果を調査した。
【0021】
培養したヒトRPE細胞を、RSGの存在下または不在下でHQにより処理した。細胞死は、フローサイトメトリーによって評価した。ミトコンドリア呼吸をXFe24アナライザによって測定した。活性酸素種(ROS)産生およびミトコンドリア膜電位(ΔΨm)を、蛍光プレートリーダーによって定量化した。F-アクチン凝集をファロイジンで可視化した。全トランスクリプトーム解析および遺伝子発現を、それぞれIllumina RNA配列決定およびqPCRによって解析した。ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)タンパク質のレベルを、ウェスタンブロットによって測定した。
【0022】
HQでは、壊死およびアポトーシスを誘発し、ミトコンドリア生体エネルギーを減少させ、ROSレベルを増加させ、ΔΨmを低下させ、F-アクチン凝集体を増加させた。RSG共処理では、有意に、HQ誘発の壊死およびアポトーシスから保護され、HQによるミトコンドリア生体エネルギー低減を予防し、HQ誘発のROS産生を減少させ、HQにより妨害されたΔΨmを改善し、HQ誘発のF-アクチン凝集体を減少させた。RSG単独では、RPE細胞トランスクリプトームに最小限の影響を及ぼした。HQでは、実質的なトランスクリプトーム変化を誘導した。HQによって誘導された様々な生物学的プロセスは、RSG共処理によって調節された。HO-1タンパク質レベルは、HQによって有意に上方制御され、RSG共処理によってさらに上方制御された。
【0023】
この研究では、RSGでは、健常なRPE細胞に検出可能な有害作用を有さず、一方、RSG共処理では、HQ誘発の損傷およびミトコンドリア機能不全から保護された。RSG共処理は、HQによって誘発される様々な生物学的プロセスを修正し、AMDなどの網膜疾患を治療するRSG療法の潜在的な役割を示唆した。
【0024】
RPE細胞は、脈絡毛細管と光受容体との間に介在する高度に特化した偏光上皮細胞の単層を形成する。RPE細胞は、網膜の恒常性において重要な役割を果たし、光受容体細胞の健康および視覚機能にとって不可欠である。
【0025】
RPE細胞の機能不全または死亡は、加齢黄斑変性(AMD)の重要な一因であると考えられる。RPE細胞は、生涯を通じて絶えず酸化体に曝露され、酸化ストレスは、AMDの病因および進行に大きな役割を果たす。タバコの煙は、高濃度の遊離酸化剤を含有しており、AMDの主要な環境リスク要因として関与している。タバコの煙および大気汚染物質の両方の主要な酸化体であるヒドロキノン(HQ)は、活性酸素種(ROS)の生成を増加させ、酸化ストレスを促進する。5細胞内の他の分子と容易に反応することができる不安定な酸素含有分子のグループであるROSは、細胞の代謝中にかつ様々な刺激に応答して生成される。細胞では、ROS産生の主要な部位は、ミトコンドリア電子輸送鎖であり、ここでは、いくつかの電子が輸送プロセスから漏出し、分子酸素と自然に反応し、スーパーオキシドアニオンを産生する。ROSは重要な生理機能を有するが、過剰なROSはRPE細胞の酸化損傷を引き起こす可能性がある。
【0026】
ミトコンドリアは、細胞内の主な呼吸機構を含む細胞内オルガネラであり、エネルギー産生および細胞の恒常性に不可欠である。光受容体による高いレベルの代謝需要により、RPE細胞は、多数のミトコンドリア集団で豊富になり、高エネルギーニーズを満たす。結果として、RPEミトコンドリア機能不全は、組織損傷をもたらす可能性があり、AMDの発達に関与している。8AMDを有する眼のRPE細胞において、損傷、断片化、および破裂したミトコンドリアが観察されている。mtDNA変異レベルは、AMDを有する眼のRPE細胞においても上昇する。
【0027】
インテグリンは、ヘテロ二量体、非共有結合細胞接着タンパク質のファミリーであり、より大きなαおよびより小さいβサブユニットからなる膜貫通受容体である。インテグリンは、細胞間の架橋として機能し、シグナル伝達経路を介して他の周囲の細胞および細胞外マトリックスとの細胞相互作用を調節する。生理学的に、インテグリンは、細胞接着、増殖、形状、および運動性において重要な役割を果たす。インテグリンαvβ3、αvβ5、およびα5β1は、滲出型AMDを有する眼における脈絡膜血管新生、ならびに糖尿病性網膜症および黄斑浮腫を有する眼における網膜前血管新生と密接に関連している。インテグリンは、様々な生物学的プロセスにおいて、接着分子、メカニズムセンサ、およびシグナル伝達プラットフォームとして機能し、また、多くの疾患状態の病因および病理にとって中心的である。したがって、インテグリンは、網膜疾患を治療するための誘引性標的である。
【0028】
リステガニブは、インテグリン受容体を調節する遺伝子操作されたアルギニルグリシルアスパラギン酸(RGD)クラスの合成ペプチドである。RGDペプチド処理では、網膜新生血管形成を抑制し、硝子体と網膜との間の細胞接着の放出を促進し、後硝子体脱離を誘導する。以前の研究では、RSGは、RPE細胞で発現されるαvβ3、αvβ5、α2β1、およびα5β1を含む、いくつかの疾患関連インテグリンの発現を低減させる。以前の研究では、萎縮型AMDなどの網膜変性疾患に有益なRSGの潜在的な細胞保護効果も示唆されている。本明細書で、我々は、インビトロ細胞培養システムにおいて、HQ誘発のRPE細胞損傷に対するRSGの効果を調査した。
【0029】
RSGは、Allegro Ophthalmics,LLC(San Juan Capistrano,CA,USA)から入手した。HQ、テトラゾリウム塩WST-1(4-[3-(4-ロドフェニル)-2-(4-ニトロフェニル)-2H-5-テトラゾリオ(tetrazolio)]-1.3-ベンゼンジスルホネート)、ファロイジン-TRITC(カタログ番号P1951)、およびコラーゲンI型をSigma(St. Louis,MO,USA)から購入した。TrypLE(カタログ番号12604-013)、アネキシンV Pacific Blue(商標)コンジュゲート(カタログ番号A35122)、アネキシンV結合緩衝液(カタログ番号V13246)、eBioscience(商標)7-AAD生存率染色溶液(カタログ番号00-6993-50)、JC-1色素および5-(および-6)-クロロメチル-2’,7’-ジクロロジヒドロフルオレセインジアセテート、アセチルエステル(CM-H2DCFDA)、BCAタンパク質アッセイキット、放射免疫沈降アッセイ(RIPA)溶解および抽出緩衝液(カタログ番号89900)、ならびにTURBO DNA非含有キットをThermo Scientific(Chicago,IL,USA)から購入した。細胞ミトストレス試験キット(カタログ番号103015-100)、XFベース培地(カタログ番号103193-100)、およびXFe24 FluxPak(カタログ番号102342-100)をAgilent technologies(Santa Clara,CA,USA)から購入した。RNeasy MiniおよびRNeasy Plus MiniキットをQiagen(Valencia,CA,USA)から購入した。ウサギ抗ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1、カタログ番号ADI-OSA-150D)抗体をEnzo Life Sciences(Farmingdale,NY,USA)から購入した。マウス抗GAPDH抗体をChemicon(Temecula,CA,USA)から購入した。
【0030】
ヒトRPE細胞培養および処理
62歳の男性ドナーのヒトドナーの眼を、死亡後24時間以内に、ヒト組織を含む研究のためのヘルシンキ宣言の規定に従って、North Carolina Organ Donor and Eye Bank,Inc.(Winston-Salem,NC,USA)から得た。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Thermo Scientific)および1×ペニシリン/ストレプトマイシン(Thermo Scientific)を有するEagleの最小必須培地(MEM、Invitrogen)中、5%CO2を含有する加湿環境下、37℃で増殖させた。RPE細胞の同一性を、サイトケラチン-18およびZO-1染色によって確認した(図示せず)。
【0031】
ヒトドナーRPE細胞を、コラーゲンコーティングされた96ウェルプレート、カバースリップを有するかまたは有しない24ウェルプレート、6ウェルプレート(Corning-Costar Incorporated,Corning,NY,USA)に播種した。Seahorseアッセイを除き、播種後6日目に、細胞を無血清および無フェノール赤色MEM(SF-MEM)で2回洗浄し、SF-MEM中のRSG(0.4mM)の存在下または非存在下で、様々な濃度のHQで37℃で様々な時間処理した。RSG共処理は、HQの存在下で細胞をRSGにより処理した状態を指す。対照は、細胞が処理されていない状態を指す。
【0032】
フローサイトメトリー
6ウェルプレートの3反復のウェル中のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下で、HQ(150μM)で12時間処理した。細胞形態を、光顕微鏡法によって記録し、次いで、細胞を、1倍のTrypLEで脱離し、300gで5分間遠心分離した。細胞を100μLの1倍のアネキシンV結合緩衝液で再懸濁し、5μLのアネキシンVで10分間インキュベートし、次いで5μLの7-AADをアネキシンV混合物に添加し、さらに5分間インキュベートした。細胞死を、フローサイトメトリーで解析した。
【0033】
WSTアッセイ
96ウェルプレートの3反復のウェル中のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下で、HQ(150μM)で2.5時間処理した。培地を除去し、細胞をWST-1溶液で30分間、37℃でインキュベートした。生存細胞におけるミトコンドリア脱水素酵素によるテトラゾリウム塩WST-1の切断に基づいて、比色アッセイを実施した。プレートを、分光光度計で440nmおよび参照波長690nmで、読み取った。
【0034】
Seahorseアッセイ
RPE細胞を、コラーゲンコーティングされたXF 24ウェルプレートの3反復のウェルに播種し、24時間増殖させた。コンフルエントに達したばかりのRPE細胞を、SF-MEMで洗浄し、RSG(0.4mM)の有無にかかわらず、HQ(175μM)で1.5時間処理した。培地を除去し、細胞を、1mMのピルビン酸ナトリウム、2mMのグルタミン、および8mMのグルコース、pH7.4を含有するXFベース培地で洗浄した。細胞を、CO2のないインキュベーター中、37℃で1時間インキュベートした。酸素消費率(OCR)を、基礎条件下でSeahorse XFe24フラックスアナライザによって測定し、続いて、1μMのオリゴマイシン、1μMのトリフルオロカルボニルシアニドフェニルヒドラゾン(FCCP)、および1μMのロテノンおよびアンチマイシンAを順次添加した。最大OCRは、アンチマイシンAの注射後のFCCP誘導呼吸とOCRとのOCRの差であった。ミトコンドリア予備呼吸能は、最大呼吸と基礎OCRとの差であった。培地を除去し、総タンパク質を、OCR測定後のBCAタンパク質アッセイのために抽出した。OCRを、総タンパク質含有量に正規化した。
【0035】
ROSの決定
透明な底部を有する96ウェルプレートの黒色プレートの3反復のウェル中のRPE細胞をSF-MEMで洗浄し、SF-MEM中の20μMのCM-H2DCFDAを37℃で30分間ロードし、次いで2回洗浄した。次いで、細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下でHQ(160μM)で処理した。蛍光プレートリーダー(490nm励起、522nm発光)を用いて、様々な時間で蛍光を測定した。
【0036】
ΔΨmの決定
透明な底部を有する96ウェルプレートの黒色プレートの3反復のウェル中のRPE細胞をSF-MEMで洗浄し、SF-MEM中の10μMのJC-1色素を37℃で30分間ロードし、次いで2回洗浄した。次いで、細胞を、RSG(0.4mM)の有無にかかわらず、HQ(160μM)で処理した。蛍光プレートリーダーを使用して、様々な時間で蛍光を測定し、緑色JC-1モノマー(490nm励起、522nm発光)および赤色JC-1凝集体(535nm励起、590nm発光)を定量化した。
【0037】
F-アクチン免疫蛍光染色
コラーゲンでコーティングされたカバースリップを含有する24ウェルプレートの3反復のウェル内のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または非存在下で、HQ(140μM)で6時間処理し、次いで4%パラホルムアルデヒド中で、室温(RT)で12分間固定した。細胞を、0.5%のTriton X-100で12分間透過させ、0.5%のウシ血清アルブミン/0.1%のTriton X-100/PBS中のファロイジン-TRITCで室温で1時間インキュベートした。F-アクチン凝集体のパーセンテージは、遮蔽された観察者によって決定された。簡単に述べると、各試料について、10~11枚のZスタック画像(1μmのzステップで12μmをカバー、x軸方向に6枚、y軸方向に5枚の非重複フィールド)を、Nikon A1共焦点顕微鏡上の20倍の対物レンズで、同一の条件下で取り込んだ。最大強度投影画像をFijiソフトウェアに取り込み、Fijiのオンライン説明書に従ってTrainable Wekaセグメンテーションプラグインを使用してセグメンテーションした。簡単に述べると、「閾値」の生成のために、凝集体および非凝集体の両方を含有する画像を使用して、セグメンテーション分類子を作成した。凝集体および非凝集体を追跡し、それぞれ別々のグループに追加した。このプロセスは、満足のいく画像セグメンテーションが達成されるまで繰り返された。次いで、分類子は、正確なセグメンテーションを確実にするために、様々な程度の凝集密度を有する3つの画像で試験された。データ解析のため、セグメント化した画像を8ビットバイナリ画像に変換し、F-アクチン凝集体を粒子分析器関数(0-無限大サイズおよび0~1円状率)を用いてFijiで定量化した。
【0038】
RNA配列決定(RNA-seq)試料の調製および解析
6ウェルプレートの6重複ウェル中のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下で、HQ(250μMまたは300μM)で4時間処理した。全RNAを、RNeasy Miniキットを使用して抽出し、DNAをTURBO DNA非含有キットで除去した。RNA品質を、バイオアナライザ(Agilent Genomics,Santa Clara,CA,USA)で測定した。RNA-seqライブラリを、ポリ-A濃縮メッセンジャーRNAから調製し、GENEWIZ(South plainfield,NJ,USA)によって配列決定して、試料あたり約2,000万~3,000万のペアエンド、150塩基対のリードを生成した。RNA-seq FASTQファイルをFastQCで品質試験した。ヒトゲノム(GRCh38.P12)およびトランスクリプトーム(GENECODE v30)の参照に対して、読み取り物をSTARと整列させ、続いて、featureCountsで読み取り定量化した。
【0039】
主成分分析(PCA)を使用して、DESeq2のVST法によって正規化された、最高の平均カウントを有する上位15,000個の遺伝子を使用して、高次元RNA-seqデータセットを視覚化した。edgeR正確性試験を使用して実施された差分発現解析は、データセット内の少なくとも6つの試料において、百万当たりのカウント(CPM)が1以上の遺伝子に限定された。差異的に発現された(DE)遺伝子は、偽発見率(FDR)<0.05およびlog2-fold-change(log2FC)>0.25の絶対値を有すると定義される。log2FC>0.50の絶対値を有するものとして定義される強く調節されたDE遺伝子を、遺伝子リストに過剰に存在する遺伝子オントロジー(GO)生物学的プロセスおよび京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG)生物学的経路の濃縮のためにゴシーク(goseq)に供した。生物学的プロセスおよび経路は、調整されたp値<0.05で統計的に有意であるとみなされた。濃縮された生物学的プロセスを、Uniport Homo Sapiensデータベースによって決定されたショートおよびGOタームサイズに設定された類似性メトリックを有するREVIGOで凝縮および可視化し、生物学的に関連するプロセスを選択し、標識した。遺伝子発現変化の視覚化のために、それらの生物学的関連性およびHQとRSG共処理との間の負の相関関係の強度に基づいて、6つの濃縮KEGG経路を選択した。実証RNA-seq試料サイズ分析(ERSSA)を使用して、この研究で使用される6つの生物学的複製物が、差次的発現発見に十分であるかどうかを確認した。各複製物レベルで0.25および50サブサンプルのlog2FCカットオフで分析を実施した。
【0040】
リアルタイムRT-PCR解析
12ウェルプレートの3反復のウェル中のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下で、HQ(250μM)で4時間処理した。前に説明したように、総RNAを、製造業者の仕様に従ってRNeasy Plus Miniキットを使用して単離し、リアルタイム定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を実施した。HMOX-1およびリボソームタンパク質、large、P0(RPLP0)のプライマー対は、以下の通りであった(5’~3’):HMOX-1、フォワード:CAG GAG CTG ACC CAT GA、リバース:AGC AAC TGT CGC CAC CAG AA、RPLP0、フォワード:GGA CAT GTT GCT GGC CAA TAA、リバース:GGG CCC GAG ACC AGT GTT。
【0041】
ウェスタンブロット
6ウェルプレートの3反復のウェル中のRPE細胞を、RSG(0.4mM)の存在下または不在下で、HQ(170μM)で8時間処理した。前に説明したように、総タンパク質を、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を補充したRIPA緩衝液で抽出し、Bradfordタンパク質アッセイで定量化し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットに供した。21
統計解析
データは平均±SDとして表される。フローサイトメトリー、WSTアッセイ、XFe24フラックスアナライザ、ROSアッセイ、JC-1アッセイ、F-アクチン凝集体解析、qPCR、ウェスタンブロットで測定した処理群間に統計的に有意差があるかどうかをTukey多重比較補正付き二元配置分散分析を使用して決定した。P値の大きさを示すアスタリスク(N.S.=有意ではない、*P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001、****P≦0.0001)を用いて、GraphPad Prism 8.3.0を使用して結果をプロットした。
【0042】
結果
この研究では、RSGは、HQ媒介性RPE細胞死から保護された。RSGがHQ誘発のRPE細胞死に対して保護されているかどうかを調査するために、フローサイトメトリー解析を、アネキシンVおよび7-AAD染色を用いて実施して、それぞれ、アポトーシスおよび壊死を同定した。初期のアポトーシス細胞は、アネキシンV陽性および7-AAD陰性である。後期のアポトーシス細胞は、アネキシンVおよび7-AAD二重陽性である。壊死細胞は、7-AAD陽性およびアネキシンV陰性である。
図1Aに示されるように、HQ(150μM)では、細胞をシュリベル/脱離させ、一方、RSG共処理では、HQ誘発の形態変化を改善した。同様の形態は、処理なしの細胞(対照)と比較した場合、RSG単独で処理された細胞においても観察された。
図1は、各実験的処理(すなわち、対照、RSG単独、HQ単独、RSQ+HQ共処理)後の死細胞に対する生細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。HQ単独では、主に壊死性細胞死を誘導し、アポトーシス細胞死ははるかに少なかった。RSG共処理では、HQ誘発の壊死およびアポトーシスから細胞を有意に保護した。RSG単独は、対照と比較した場合、生細胞および死細胞の数にほとんど影響を及ぼさなかった。
【0043】
RSG共処理はまた、ミトコンドリアに対するHQの有害な影響から細胞を保護した。WST-1は、細胞性ミトコンドリア脱水素酵素によって切断され、可溶性ホルマザンを形成することができる安定したテトラゾリウム塩である。ミトコンドリア脱水素酵素活性によって生成されるホルマザンの量は、生細胞の数に正比例し、細胞生存率アッセイとして有用である。したがって、RSGの細胞保護効果をさらに評価するために、WSTアッセイを実施した。
図2Aは、各実験的処理(すなわち、対照、RSG単独、HQ単独、RSQ+HQ共処理)後の細胞のWST含有量を示す棒グラフである。
図2Aに示されるように、HQは、ミトコンドリア脱水素酵素活性の低下によって反映されるように、細胞生存率を有意に減少させ、一方、RSG共処理では、HQ単独と比較した場合、細胞生存率を有意に増加させた。RSG単独では、対照と比較した場合、細胞生存率にほとんど影響を及ぼさなかった。
【0044】
ミトコンドリア呼吸は、細胞の生存において重要な役割を果たす。ミトコンドリア機能の調節におけるRSGの役割を評価した。
図2Bに示されるように、対照と比較した場合、HQは、ミトコンドリア生体エネルギー学的特性を有意に減少させた。対照と比較した場合、RSG単独で処理された細胞において、ミトコンドリア生体エネルギーの有意な変化は検出されなかった。RSG共処理は、HQで処理した細胞と比較した場合、基礎呼吸、最大呼吸、ATP産生、および予備呼吸能を有意に増加させた。
【0045】
ミトコンドリアは、酸化ストレス媒介性細胞死に寄与するROS産生の主要な供給源である。RSGが酸化ストレス媒介性ROS産生を低減するかどうかを調べるために、ROSレベルを測定した。
図2Cに示されるように、ROS産生は、対照と比較した場合、HQ処理細胞において有意に増加したが、RSG共処理では、HQ誘発のROS産生を有意に減少させた。RSG単独では、対照と比較した場合、ROSレベルは有意に変化しなかった。
【0046】
ΔΨmは、ATPを生成する呼吸鎖の生理機能を維持するために重要である。膜透過性JC-1色素は、ΔΨmを試験するために広く使用されている。HQ媒介性のΔΨmの変化に対するRSGの影響を評価するために、凝集体に対するJC-1モノマーの比率を決定した。
図2Dに示されるように、対照と比較した場合、ΔΨmは、HQ処理細胞において有意に減少し、一方、RSG共処理では、ΔΨmにおけるHQ媒介性の低減を有意に改善した。対照と比較した場合、RSG単独では、ΔΨmにおいて有意な変化を誘導しなかった。
【0047】
本試験では、RSG共処理では、HQ誘発のF-アクチン凝集体も減少した。F-アクチンの調節は、細胞死において重要な役割を果たす。RSGがF-アクチン細胞骨格の組織に影響を及ぼすかどうかを決定するために、細胞を、RSGの有無にかかわらずHQで処理し、続いてF-アクチン凝集体の定量化を行った。
図3のグラフに見られるように、対照と比較した場合、HQはF-アクチン凝集体の数を有意に増加させ、一方、RSG共処理では、HQ誘発の凝集体の産生を有意に阻害した。RSG単独では、F-アクチン細胞骨格の形態に観察可能な効果はなく、対照と比較した場合、F-アクチン凝集体の数に有意な変化はなかった。
【0048】
RSG共処理はまた、HQ調節トランスクリプトームを調節した。HQおよびRSGに応答する遺伝子発現変化を調べるために、RPE細胞を、RSGの有無にかかわらず2回の投薬(250μMまたは300μM)でHQに4時間曝露し、続いてRNA-seqを使用してトランスクリプトーム全体を測定した。すべてのRNA-seq試料は、優れたRNA品質(バイオアナライザRNA完全性数>9.70)および配列決定品質を有した。試料のPCA可視化により、上位二次元がデータセットの合計81%の分散を取り込み、一次元ではHQ処理細胞および非処理細胞、二次元ではHQ処理細胞およびRSG共処理細胞が明確に分離したことを示した。RSG単独で処理した細胞と対照との間に観察可能な分離は発見されなかった。
【0049】
図4にグラフによって示されるように、示差発現分析において、約7,000個の遺伝子が、対照と比較した場合、試験した2つの用量で、HQ処理細胞において変化したが、RSG処理単独では、15個のDE遺伝子のみが変化した。しかしながら、HQ単独で処理された細胞と比較して、RSG共処理はまた、数千の遺伝子を調節した。さらなる解析により、RSG共処理によって影響を受ける遺伝子の多くが、HQによっても調節され、発現が、HQによって誘導されるものと反対方向に頻繁に変化したことが示された。加えて、すべてのHQ調節遺伝子を評価したところ、HQによって調節された発現変化とRSGの共処理によって調節された発現変化との間に負の相関が観察され、RSGがHQ誘発の発現変化を調節することが示された。
【0050】
DE遺伝子リストの機能分析を実施し、HQ、RSG処理単独、またはRSG共処理によって調節される遺伝子において有意に濃縮される生物学的プロセスおよび経路を同定した。RSG処理単独によって調節される15個のDE遺伝子のうち、プロセスまたは経路は濃縮されなかった。HQまたはRSG共処理のいずれかによって調節される遺伝子を用いて実施した場合、細胞増殖、細胞死、細胞接着の調節、代謝の調節、炎症反応、および刺激への反応を含む多数のプロセスが濃縮された。特に、多数のプロセスが2つの分析の間で重複し、同じ生物学的プロセスの多くがHQおよびRSG共処理によって調節されることを示した。同様に、濃縮された生物学的経路は、HQとRSG共処理との間に大きな重複を示した。同じ生物学的に関連する経路の多くは、HQおよびRSG共処理によって調節されたが、それらの誘導される変化は、負の相関によって示されるように、一般に反対方向であった。全体として、RNA-seqによって試験したHQの2つの用量にわたる遺伝子発現変化は、大きな正の相関によって示されるように、非常に一貫していた。
【0051】
試験した5つの示差発現比較について、ERSSAを使用してRNA-seq試料サイズ解析を実施した。簡単に述べると、ERSSAは、任意の特定の比較において、DE遺伝子の大部分を発見するのに十分な生物学的複製が用いられているかどうかを決定する。ERSSAは、試料サイズがn=6に近づくと平均発見傾向が先細りするため、この実験では条件ごとの生物学的複製の数が減少するため、有意な数のDE遺伝子を産生するために、十分な試料が4つの比較で使用されたことを示した。対照に対するRSGの比較において、ERSSAは、追加の複製物が、低い二桁のDE遺伝子数を超えて、発見をさらに改善する可能性が低いことを示した。
【0052】
図5A~5Dに示されるように、RSG共処理はまた、上方制御HQ誘発のHQ-1発現も上方制御する。RNA-seqデータから、HQ曝露後にHO-1タンパク質をコードする細胞保護HMOX-1遺伝子の有意な上方制御(それぞれ618%および420%増加、250μMおよび300μMのHQ)があり、これは、250μMおよび300μM HQ単独で誘導される発現レベルと比較した場合、RSG共処理によってさらに増強された(241%および391%増加)。
【0053】
RNA-seq結果を確認するために、HMOX-1遺伝子およびHO-1タンパク質発現を、それぞれqPCRおよびウェスタンブロットによって調べた。HMOX-1遺伝子およびHO-1タンパク質レベルは、HQによって有意に上方制御され、RSG共処理によってさらに上方制御された。
【0054】
上記の要約された結果に基づくと、この研究では、RSG処理単独では、健康な細胞に対する検出可能な有害作用はなかったが、RSG共処理では、有意に1)HQ誘発のRPE細胞壊死およびアポトーシスから保護し、2)HQ誘発の細胞生存率低減を改善し、3)HQによるミトコンドリア生体エネルギー低減を予防し、4)HQ誘発のROS産生を抑制し、5)HQでは妨害されたΔΨmを改善し、6)HQ誘発のF-アクチン凝集体を緩和した。さらに、RSG単独では、RPE細胞トランスクリプトームに最小限の影響を及ぼし、一方、HQでは、実質的なトランスクリプトームの変化を誘導した。RSG共処理は、カルシウムシグナル伝達、TGF-βシグナル伝達、Rasシグナル伝達、サイトカインおよび受容体相互作用、局所接着、ならびにアクチン細胞骨格を含む、HQ調節生物学的プロセスおよび経路を修正した。HMOX-1 mRNAおよびHO-1タンパク質レベルは、HQによって有意に上方制御され、RSG共処理によってさらに上方制御された。
【0055】
加齢黄斑変性において、酸化ストレスは、RPE細胞の機能不全および死亡を引き起こす重要な役割を果たしていると考えられている。この疾患においてRPEの酸化ストレスがどの機構で死を誘発するかは、依然として議論の的である。ほとんどのインビトロ研究は、酸化ストレスが主にアポトーシス細胞死を誘導することを示すが、いくつかは、壊死がRPE死の原因であることを示唆する。アポトーシスマーカーとして測定されるカスパーゼ3/7活性は、様々なHQ濃度(50~500μM)での処理後、ARPE-19細胞において変化しない(Woo GB,et al.IOVS 2012;53:ARVO E-abstract 4276)。対照的に、HQは、分化したARPE-19細胞におけるHQ損傷後のアポトーシス関連遺伝子を下方制御する。今回の研究では、HQが主に壊死を誘導し、アポトーシスをはるかに低い程度に誘導したと決定した。RSG共処理は、HQによって誘導される壊死およびアポトーシスの両方から有意に保護された。インテグリンは、細胞生存率に深刻な影響を及ぼす様々な細胞シグナル伝達カスケードを引き起こす。インテグリンはまた、細胞の生存を調節するために複雑な役割を果たし、それらの機能不全はアポトーシスを引き起こす可能性がある。これらの結果は、RSGが、酸化ストレス誘発性インテグリン媒介性RPE壊死およびアポトーシスから保護する役割を果たすことを示唆する。
【0056】
アポトーシスは、高度に調節されたプロセスである。しかしながら、壊死性死亡のかなりの部分は、高度に調節された機構を通じても生じる。壊死としては、ミトコンドリア機能不全、ROSの生成の増強、ATP枯渇、および形質膜破壊などの制御されたプロセスの兆候が挙げられ得る。したがって、ミトコンドリア機能不全は、アポトーシスおよび壊死の両方において重要な役割を果たす。HQは、ARPE-19細胞内のROSレベルを増加させ、ΔΨmを減少させる。今回の研究におけるドナーRPEから得られた結果は、ARPE-19細胞からのデータと一致した。Seahorseアッセイでは、HQがミトコンドリア基礎呼吸、最大呼吸、ATP産生、および予備呼吸能を有意に減少させたことが見出された。RSG共処理は、ミトコンドリア生体エネルギーに対するHQの有害な影響から細胞を有意に保護した。ミトコンドリア保護のこれらの観察は、ヒトミュラー細胞およびARPE-19細胞におけるRSGの研究と一致する。(Kenney CM,et al.IOVS 2018;59:ARVO E-Abstract 771)(Beltran MA,et al.IOVS 2018;59:ARVO E-Abstract 1465)ミトコンドリアが細胞機能において果たす重要な役割により、インテグリンシグナル伝達は、ミトコンドリアに深刻な影響を及ぼすことができ、その逆もまた同様である。インテグリンは、小さなGタンパク質と相互作用することによってミトコンドリア機能およびROS産生を制御し、インテグリンライゲーションは、ミトコンドリアの代謝/酸化還元機能の変化と異なるオキシダーゼの活性化を促進することによって、ROS産生をトリガーする。逆に、阻害剤によるミトコンドリア機能の破壊は、ヒト胃がんSC-M1細胞におけるROS産生を増加させ、インテグリンβ5の発現を上方制御する。我々の結果は、RSGは、インテグリン調節因子として、ミトコンドリア機能に正の影響を与えることができることを示唆しているが、インテグリン非依存性の効果は排除できない。
【0057】
アクチン細胞骨格は、細胞機能に寄与する機械的、組織的、およびシグナル伝達の役割を果たす。F-アクチン細胞骨格の調節は、様々な分子機構に依存する。酸化ストレスは、神経変性疾患に関与する多数のタンパク質の凝集を引き起こす主要な機構である。HQは、ARPE-19細胞におけるp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)/熱ショックタンパク質27(Hsp27)カスケードのリン酸化を通じてF-アクチン凝集を誘導する。今回の研究では、ドナーRPE細胞においてもHQがF-アクチン凝集を誘導し、RSG共処理ではHQ誘発の凝集が減少したことが分かった。アクチン細胞骨格シグナル伝達ネットワークは、インテグリン、キナーゼ、および低分子GTPaseなどの大きなタンパク質群から構成される。インテグリンは、多数の分子結合を介してアクチン細胞骨格に影響を及ぼすことができ、インテグリンは、アクチンベースの構造を刺激または抑制することができ、インテグリンから細胞骨格につながる様々な経路を示す。我々は、少なくとも部分的に、インテグリン調節F-アクチンアセンブリに対するHQの有害作用を逆転させることによって、RSGが正常なアクチン細胞骨格に対するHQ誘発の損傷を予防すると仮定する。この論文の範囲を超えているが、この仮説を検証するための実験が現在、私たちの研究室で進行中である。
【0058】
RNA-seqは、ゲノム全体の発現を探索するための強力な定量的ツールである。RSGの治療作用機序をさらに調べるために、RNA-seqを不偏な方法として使用して、HQおよびRSG共処理によって誘発されるトランスクリプトームの変化を評価した。我々は、RSG単独が、健常なRPE細胞に対するその限定された効果と一致して、トランスクリプトームへの影響を最小限に抑えたことを見出した。HQ処理後に、検出可能な発現遺伝子の約半分を伴う大きなトランスクリプトーム変化が見られた。これらの観察は、以下の遺伝子の調節を示した我々の経路分析によって裏付けられている:1)サイトカイン-サイトカイン受容体相互作用、JAK-STATおよびTNFシグナル伝達経路を含む炎症経路、2)アポトーシス、PI3K-Akt、MAPK、TGF-βおよびRasシグナル伝達経路などの細胞増殖および死亡経路、3)局所接着およびアクチン細胞骨格調節などの細胞接着および遊走経路、4)カルシウムシグナル伝達経路などの多様なシグナル伝達系において機能する経路。これらの所見は、HQ曝露後の細胞成長、細胞死、細胞外マトリックスおよびストレス応答遺伝子の調節を示す様々な細胞モデルにおける研究と一致している。
【0059】
RSG単独では、最小限のトランスクリプトーム変化を誘発したが、RSG共処理では、HQストレスに対する細胞遺伝子発現応答を有意に修正した。HQストレス下のRSG調節遺伝子のかなりの部分は、発現変化が反対方向であることを除いて、HQ処理単独でも調節された。同様に、RSG共処理調節遺伝子の機能分析は、それらがHQによって調節される生物学的プロセスおよび経路に関与していることを示した。まとめると、これらの観察は、試験した2つのHQ用量にわたって一貫していたが、RSG共処理では、HQによって誘発された細胞トランスクリプトーム変化を緩和したことを示唆している。
【0060】
HO-1タンパク質の発現は、酸化ストレス、基質ヘム、紫外線、温熱、重金属、過酸化物、エンドトキシン、およびサイトカインを含む様々なストレス源によって高度に上方制御される。HO-1誘導は、酸化ストレス毒性に対する枢要な細胞適応および保護応答として認識される。HMOX-1 mRNAレベルは、t-ブチルヒドロペルオキシド(tBH)および過酸化水素で処理された未分化および分化ARPE-19細胞において有意に増加し、一方、HO-1タンパク質発現は、タバコ煙抽出物で処理されたARPE-19細胞において上方制御される。HO-1を過剰発現するARPE-19細胞は、tBH誘発の細胞死により耐性があり、HO-1活性化は、網膜損傷から保護するために重要な役割を果たすことが示されている。本研究では、HMOX-1遺伝子およびHO-1タンパク質発現は、HQによって有意に上方制御され、RSG共処理によってさらに増加することが見出された。RSG共処理によるHO-1のさらなる上方制御は、RSGが酸化ストレスに応答して抗酸化酵素の活性化を引き起こすことを示唆する。しかしながら、RSG単独では観察可能な細胞ストレスおよびHO-1活性化を誘導しなかったため、HO-1の活性化は、細胞がHQストレス下にある場合にのみ観察された。HQおよびRSG共処理によって誘導されるHO-1活性化の正確な上流分子調節因子を調査するために、さらなる研究が必要である。
【0061】
結論として、RSG共処理は、HQ誘発の損傷からRPE細胞を保護し、ミトコンドリア機能を回復し、HQによって誘発される様々な生物学的プロセスを修正する。これらの観察のいくつかは、RSGによるインテグリンの調節によって説明することができるが、RSGによる細胞生存の促進を支配する正確な分子機構は、完全には解明されていない。私たちは、RSG変調生物学的経路を調査し続けており、この情報は、萎縮型AMDなどの変性網膜疾患を治療するRSG療法の潜在的な役割の理解を高めると信じられている。
【0062】
実施例2
心筋機能の改善/心不全の治療
正常な心機能は、心筋細胞がアデノシン三リン酸(ATP)の形態で十分なエネルギー供給を受けることを必要とする。しかしながら、心筋細胞は、比較的少量のATPを貯蔵する。したがって、心筋細胞のミトコンドリアは、正常な心機能を維持するためにATPを継続的に合成しなければならない。少なくともいくつかのタイプの心不全では、心筋細胞のミトコンドリアは、心筋のエネルギー需要を満たすのに十分なATPを産生することができない。これにより、ミトコンドリア活性酸素種の蓄積および酸化ストレス、続いて心筋細胞の壊死、病理組織の再構築、および左室機能不全をもたらす。したがって、本明細書に開示される有効量のペプチド(複数可)の投与は、心不全によるミトコンドリアATP欠損および酸化ストレスを軽減し、それによって心機能の心筋収縮性回復を改善する。
【0063】
イヌ心不全モデルにおける1.0mg/kgおよび5.0mg/kgの用量で静脈内投与されたリステガニブの効果を評価するために、初期研究を実施した。対象動物は、Sabbah,H.,et al.;Chronic Therapy with Elamipretide(MTP-131),a Novel Mitochondria-Targeting Peptide,Improves Left Ventricular and Mitochondrial Function in Dogs with Advanced Heart Failure;Circ Heart Fail.2016 February;9(2):e002206.doi:10.1161/CIRCHEARTFAILURE.115.002206に記載したように、冠状の微小塞栓を経験し、心不全を誘導する。
【0064】
3匹のイヌに、2週間ごとに1.0mg/kgのリステガニブを6週間投与した。約1週間の期間の後、次いで同じ3匹のイヌに、2週間ごとに5.0mg/kgのリステガニブを6週間追加で投与した。リステガニブの最初の静脈内投与の前に、リステガニブの3回目の隔週静脈内投与1.0mg・kgの後に、かつ再びリステガニブの3回目の隔週静脈内投与5.0mg/kgの後に、心室造影および血行動態測定を行った。以下の表1は、本試験で生成された心室造影および血行動態データを示したものである。
【0065】
【0066】
これらの予備データは、1.0mg/kgおよび5.0mg/kgのリステガニブを静脈内投与した心不全イヌにおいて、心機能が改善したことを確認する。
本特許出願に要約されるデータに基づいて、RSGを含む本明細書に開示されるペプチド治療は、ミトコンドリア生体エネルギーの障害を改善または予防するために、ヒトまたは非ヒト動物に投与され得る。これは、ミトコンドリア機能の低下もしくはミトコンドリア機能障害に関連するか、またはそれらを特徴とする多数の障害の治療において有益であり得る。RSGなどの本明細書に開示されるペプチドを使用して治療され得る障害は、上記のように加齢黄斑変性、網膜障害および心不全を含むだけでなく、多種多様な他の障害を含み、それらのいくつかの非限定的な例は以下に記載される。
【0067】
化学的、低酸素性または虚血性損傷によって引き起こされる障害の治療
本明細書に開示されるペプチド治療は、化学的、低酸素または虚血性事象の前、間、または後に投与され得、それによって、結果として生じる細胞損傷、細胞死、アポトーシス、再灌流損傷、二次損傷、またはそのような事象から生じる他の損傷を軽減する。かかる事象は、かかる事象の後の中枢神経系または末梢神経系の神経細胞の保存を含み得る。例えば、出生時またはその前後の乳児の脳に対する低酸素または虚血性の損傷は、脳性麻痺、学習障害、および行動障害などの長期的な神経障害および障害の発現に関与している。ミトコンドリア機能不全は、周産期低酸素性または虚血性損傷後の脳炎症およびアポトーシスの発症に寄与すると考えられている。Leaw,B.,et al.;Mitochondria,Bioenergetics and Excitotoxicity:New Therapeutic Targets in Perinatal Brain Injury;Front.Cell.Neurosci.11:199 doi:10.3389/fncel.2017.00199。したがって、本明細書に開示されるペプチド処理は、化学毒性、低酸素または虚血性事象に続くミトコンドリア機能不全を軽減する役割を果たし得、それによって、かかる事象に続く神経細胞の生存および機能を改善する。
【0068】
神経変性疾患の治療
アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含むがこれらに限定されない神経変性疾患は、中枢神経系(CNS)の機能および構造の進行性変性を特徴とする。ミトコンドリア機能の障害は、神経変性疾患の病因および/または進行に重要な役割を果たすと考えられている。高エネルギー要求性のため、CNSの神経細胞は、ミトコンドリア機能不全に起因する損傷および死に対して特に脆弱である。また、ミトコンドリア電子輸送鎖(ETC)複合体は、少なくともいくつかのタイプの神経変性疾患において、タンパク質凝集のミスフォールディングと関連付けられている。Golpich,M,et al.:Mitochondrial Dysfunction and Biogenesis in Neurodegenerative diseases:Pathogenesis and Treatment;CNS Neuroscience&Therapeutics 23(2017)5-22を参照されたい。したがって、本明細書に開示されるペプチド治療は、かかる神経変性疾患の重症度/進行を効果的に治療し、軽減し得る。
【0069】
末梢ニューロパチーの治療
本明細書に開示されるペプチド治療は、特定のがん治療(例えば、シスプラチン投与)および糖尿病性ニューロパチーに起因する末梢神経損傷などの様々なタイプの末梢ニューロパチーおよび末梢神経痛を治療するために使用され得る。末梢神経系の神経細胞および関連する遠位軸索は、エネルギーに高度に依存している。糖尿病などの状態は、結果として生じるミトコンドリア(Mt)機能不全、末梢神経のエネルギー恒常性機能障害、および長期にわたる神経細胞および軸索への変性および酸化損傷を伴うグルコースおよび脂質エネルギー代謝を妨げることができる。
【0070】
糖尿病性末梢神経細胞(DPN)の病因に関与していると考えられる特定の経路の1つは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)依存性サーチュイン1(SIRT1)/ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーターα(PGC-1α)/Mt転写因子A(TFAMまたはmtTFA)シグナル伝達経路として知られるエネルギー感知経路である。Chandrasekaran,K.,et al.;Role of mitochondria in diabetic peripheral neuropathy:Influencing the NAD+-dependent SIRT1-PGC-1α-TFAM pathway;Int Rev Neurobiol.2019;145:177-209.doi:10.1016/bs.irn.2019.04.002.
化学療法誘発の末梢ニューロパチーは、がん治療の有痛性副作用であり得る。ミトコンドリア機能不全および酸化ストレスは、化学療法誘発性末梢ニューロパチーの発症因子として同定されている。Cheng,X.,et al.;Chemotherapy-induced peripheral neurotoxicity and complementary and alternative medicines:Progress and perspective;Frontiers in Pharmacology,23 October 2015;https://doi.org/10.3389/fphar.2015.00234.
上述のデータに基づいて、本明細書に記載のペプチド治療は、末梢ニューロパチーおよび末梢神経痛の治療に使用することができる。
【0071】
皮膚障害の治療
原発性ミトコンドリア障害は、皮膚の症状(例えば、発疹、色素沈着異常、先端チアノーゼ)を引き起こすことがあり、原発性皮膚障害は、ミトコンドリア機能不全に関連付けられることがある。多数の皮膚障害(例えば、そう痒症、アトピー性皮膚炎、乾癬)は、ミトコンドリア機能を改善するために、本明細書に記載されるように、治療から利益を得ることができる。ミトコンドリア機能不全は、皮膚疾患における例外ではなく、どちらかといえば通則として特徴付けられてきた。Feichtinger,R.G.,et al.;Mitochondrial dysfunction:a neglected component of skin diseases;Experimental Dermatology Vol.23,Issue 9,September 2014(607-614);https://doi.org/10.1111/exd.12484
上述のデータに基づいて、本明細書に記載のペプチド治療は、例えば、そう痒症、アトピー性皮膚炎および乾癬を含む様々な皮膚障害を治療するために使用され得る。
【0072】
リステガニブ以外の有効なペプチド
本特許出願において言及される作用の効果および機構は、必ずしもリステガニブに限定されるものではない。上記の組み込まれた特許および出願に記載されているものを含む他のペプチドは、本開示に含まれる。例えば、特許文献6(米国特許出願公開第2019/0062371号明細書)に記載されているペプチドは、本明細書に記載されている効果および/または作用機序も示すことが合理的に予想され得る。これらの効果または機構のうちのいくつかまたはすべてを示すと考えられる他のペプチドの具体例は、以下の式を有するアミノ酸配列であって、
Y-X-Z
(式中、Y=R、H、K、Cys(酸)、GまたはDであり、
X=G、A、Cys(酸)、R、G、DまたはEであり、
Z=Cys(酸)、G、C、R、D、NまたはEである、アミノ酸配列からなるか、またはそれを含むペプチドを含むが、これらに限定されない。
【0073】
かかるペプチドは、アミノ酸配列、R-G-Cys(酸)、R-R-Cys、R-Cys酸)-G、Cys(酸)-R-G、Cys(酸)-G-R、R-G-D、R-G-Cys(酸)、H-G-Cys(酸)、R-G-N、D-G-R、R-D-G、R-A-E、K-G-D、R-G-Cys(酸)-G-G-G-D-G、Cyclo-{R-G-Cys(酸)-F-N-Me-V}、R-A-Cys(酸)、R-G-C、K-G-D、Cys(酸)-R-G、Cys(酸)-G-R、シクロ-{R-G-D-D-F-NMe-V}、H-G-Cys(酸)およびそれらの塩を含むか、またはそれらからなり得る。可能な塩は、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩(TFA)、および塩酸塩を含むが、これらに限定されない。
【0074】
また、これらの効果または機構のうちのいくつかまたはすべてを示すと考えられる他のペプチドは、直鎖状もしくは環状形態のグリシニル-アルギニル-グリシニル-システイン酸-トレオニル-プロニン-COOHからなるか、もしくはそれを含むもの、または以下の式:
Xl-R-G-システイン酸-X
(式中、XおよびXlは、Phe-Val-Ala、-Phe-Leu-Ala、-Phe-Val-Gly、-Phe-Leu-Gly、-Phe-Pro-Gly、-Phe-Pro-Ala、-Phe-Valから選択されるか、またはArg、Gly、システイン酸、Phe、Val、Ala、Leu、Pro、Thr、および塩、ならびにそれらの任意のD-異性体およびL-異性体の任意の組み合わせから選択される)を有するものが挙げられるが、本質的にはこれらに限定されない。
【0075】
本発明は本発明の特定の実施例または実施形態を参照して本明細書で上記のように記載されてきたが、本発明の意図する精神および範囲から逸脱することなく、様々な付加、欠失、改変、および修飾が記載された実施例および実施形態に対してなされてもよいことが理解されるべきである。別に特定されない限り、またはその意図する用途に不適切となる実施形態または実施例を生み出さない限り、例えば、ある実施形態または実施例の任意の要素、ステップ、メンバー、構成要素、組成物、反応物質、部数、または部分は、別の実施形態または実施例に組み込まれてもよく、または別の実施形態または実施例とともに使用されてもよい。また、方法またはプロセスのステップが特定の順序で記載されているか、または列挙されている場合、別に特定されない限り、またはその意図する用途に不適切となる方法またはプロセスを生み出さない限り、そのかかるステップの順序は変更されてもよい。さらに、本明細書で記載された任意の発明または実施例の要素、ステップ、メンバー、構成要素、組成物、反応物質、部数、または部分は、別に注記されない限り、任意選択的に存在してもよく、または任意の他の要素、ステップ、メンバー、構成要素、組成物、反応物質、部数、または部分の不在下、もしくは実質的な不在下で利用されてもよい。すべての合理的な付加、欠失、修飾、および改変は、記載された実施例および実施形態の等価物とみなされ、以下の特許請求の範囲内に含まれる。
【国際調査報告】