(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】経口使用のための、抗ウイルス作用を有するラクトフェリン
(51)【国際特許分類】
A61K 38/40 20060101AFI20230412BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230412BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230412BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
A61K38/40
A61P11/00
A61P31/12
A61P31/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554336
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(85)【翻訳文提出日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2020059695
(87)【国際公開番号】W WO2020250209
(87)【国際公開日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】102020000005011
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516067302
【氏名又は名称】ソファル ソチエタ ペル アツィオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ビッフィ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ,ヴァルテル
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084DC50
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA21
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA24
4C084MA34
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084NA10
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB331
4C084ZB332
(57)【要約】
本発明は、ラクトフェリンを含む組成物であって、抗ウイルス剤として経口使用するための、好ましくは呼吸器系のウイルス感染および該ウイルス感染、好ましくはSARS-コロナウイルスのウイルス感染(例えば、COVID-19)に由来するかまたは関連する症状または障害の処置における使用のための組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染の処置方法における使用のための組成物であって、
ここで該組成物が、
(i)ラクトフェリン、および任意には
(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加剤および/または賦形剤を含み、
ここで該組成物が経口経路による使用のためのものである、組成物。
【請求項2】
組成物が、呼吸器系のウイルス感染、好ましくは上気道および/または下気道のウイルス感染ならびに該ウイルス感染に由来するかまたは関連する症状および/または障害の処置方法における使用のためのものである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
ウイルス感染が、コロナウイルス科、亜科:コロナウイルス亜科、属:ベータコロナウイルス属、種:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種、のウイルスであって、以下の株:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2または2019-nCoV)であってCOVID-19疾患の原因、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-様(SARS-CoV-様またはSL-CoV)から選択されるウイルス;好ましくはSARS-CoV-2、によって引き起こされる感染である、請求項1または請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
呼吸器系のウイルス感染に由来するかまたは関連する症状および/または障害が、以下:重症急性呼吸器症候群(SARS)、呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、咳、百日咳、肺炎、胸膜炎、気管支炎、風邪、副鼻腔炎、鼻炎、気管炎、咽頭炎、喉頭炎、急性喉頭気管気管支炎、喉頭蓋炎、気管支拡張症、呼吸困難(difficulty breathing)、呼吸困難(dyspnoea)、息切れ(breathlessness)、息切れ(shortness of breath)、発熱、疲れ、筋肉痛(muscle aches)、筋肉痛(muscle pain)、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、胃腸症状、吐き気、下痢、腎不全、食欲不振、全身の不快感(general feeling unwell)から選択される、請求項2または請求項3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
組成物が、錠剤、チュアブル錠、口内で溶けやすい錠剤、顆粒、粉末、フレーク、可溶性の粉末または顆粒、口内で溶けやすい粉末または顆粒、カプセルから選択される固形である;あるいは溶液、懸濁液、分散液、乳化液、スプレー状に吐出可能な液体、またはシロップから選択される液体状である;あるいは、ソフトゲル、ゲルから選択される半固形である;好ましくは固形である、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
ラクトフェリンがリポソーム形態である;好ましくはリン脂質ベースのリポソーム形態である、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤として経口使用するためのラクトフェリンを含む組成物であって、好ましくは呼吸器系のウイルス感染の処置、および当該ウイルス感染、好ましくはSARS-コロナウイルス感染(例えば、COVID-19)に由来するかまたは関連する症状または障害の処置における使用のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器のウイルス感染は、その名の通り、上気道および/または下気道(upper and/or lower respiratory system)器官(鼻、咽頭(pharynx)、喉頭(larynx)、気管(trachea)、気管支(bronchi)および肺)を侵すウイルスによって起こる感染症である。
【0003】
好ましくは、本発明は、SARS-CoVと省略される重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種の少なくとも1つのウイルスによって引き起こされるウイルス感染に関する。上記のSARS-CoV種のウイルスは、ベータコロナウイルス属に属する、プラス鎖RNAウイルス(バルティモア分類の第4群)である。
【0004】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種のウイルスは、中国における2002年~2003年のSARSの流行を引き起こしたウイルスであり、SARS-CoV株と呼ばれる。
【0005】
これは2002年の11月に中国の広東省において最初に発見された。2002年11月1日から2003年8月31日にわたって、主に中国、香港、台湾および全ての南アジアにおいて、約30ヶ国で8096人がこのウイルスに感染し、774人が死亡した。2019年の末頃、SARS-CoV-2株、あるいは2019-nCoVと呼ばれる、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種の第2のウイルスが中国および世界のその他の地域で、より一般的にはCOVID-19(コロナウイルス疾患19(COronaVIrus Disease 19)、SARS-CoV-2急性呼吸器疾患、あるいはコロナウイルス疾患2019、コロナウイルス症候群2019としても知られる)として知られる新たなSARSの流行を引き起こした。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
広範な研究開発活動に続き、本出願人は、ウイルス感染、好ましくは呼吸器(上気道および/または下気道)のウイルス感染、特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種(例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2/2019-nCoV 株(その疾患はCOVID-19として知られる)またはSARS-CoV-様)の少なくとも1つのウイルスによって引き起こされる呼吸器のウイルス感染の処置という問題に対して、ラクトフェリンもしくはその誘導体を含む経口使用するための組成物であって、上記のウイルス感染またはそれに関連する症状もしくは障害の処置方法における使用のための組成物を提供する事によって取り組み、解決する。
【0007】
ラクトフェリンは、ラクトトランスフェリンとしても知られ、多機能な球状タンパク質である。ラクトフェリンはトランスフェリンファミリーに属し、その分子量は約80kDaであり、トランスフェリン自身と同様に第二鉄イオン(Fe3+)に対する結合部位を2つ有する。ラクトフェリンが鉄によって飽和する事はなく、その鉄含有量は様々である。ラクトフェリンは殺菌、殺真菌、および様々なウイルスに対する抗微生物活性を有する。ラクトフェリンの抗微生物活性はそのFe3+への親和性、すなわち遊離状態において鉄依存性の微生物と競合するその高い能力、およびグラム陰性細菌の外膜への直接作用に関連しているとする仮説がある。粘膜分泌物中におけるラクトフェリンと第二鉄イオンの結合は細菌およびウイルスの活性および細胞膜への凝集能を調節する。これは、ある細菌およびウイルスは細胞複製を行うために鉄を要求するが、ラクトフェリンは逆に周囲の環境から鉄を除去するのでこの細菌およびウイルスの増殖を防ぐという事実によるものである。
【0008】
ラクトフェリンは、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、ヘルペスウイルスおよびHIVを含むDNAおよびRNAウイルスに対する抗ウイルス活性を示す。ラクトフェリンの抗菌活性は感染の初期段階にある。ラクトフェリンは、細胞受容体を遮断するかまたはウイルス粒子に直接結合することで宿主細胞へのウイルスの侵入を防ぐ。具体的には、ラクトフェリンの抗ウイルス効果は主にその細胞膜のグリコサミノグリカンに結合する能力にある。さらに、ラクトフェリンは、NK細胞活性を亢進し、および好中球の凝集及び接着を刺激する事により、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)による急性侵入に対する宿主の免疫応答に関与する事が文献において知られている。さらに、HSPG(ヘパラン硫酸プロテオグリカン、広く分布)がSARS-CoV細胞の侵入に関与する細胞表面の必須分子であることから、ラクトフェリンは、HSPGに結合し、SARS-CoVおよび宿主細胞間の予備的相互作用を遮断する事によって、SARS-CoV感染に対する宿主の防御における防御的な役割を果たしうるとする仮説が立てられている。
【0009】
本発明の文脈において、ラクトフェリン誘導体という表現は、例えばアポラクトフェリンまたはラクトフェリシンなどの、ラクトフェリンに由来し、同様の抗ウイルス効果を示す任意の多機能性ペプチドまたは球状タンパク質を示すために使用される。ラクトフェリシンは知られた抗細菌活性を持つラクトフェリン誘導体であり、アポラクトフェリンはラクトフェリンのN末端ローブ(またはアポラクトフェリン)が開いた立体構造をとるラクトフェリンである。
【0010】
ラクトフェリンまたはその誘導体に基づき、経口使用するために製剤化され、好ましくは固形である本発明の組成物は、抗ウイルス剤として、特に呼吸器のウイルス感染およびそれに関連する症状または障害の処置において、特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種(例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2または2019-nCoV株(COVID-19として知られる疾患の原因となる)またはSARS-CoV-様)の少なくとも1つのウイルスによって引き起こされる感染において有効である。
【0011】
ラクトフェリンまたはその誘導体に基づく本発明の組成物は、特定の賦形剤および添加剤を加える事によって、吸入、経口または鼻腔用に、鼻または喉へと霧化して投与する-スプレー装置を用いて-ために好適な、溶液または乳化液または分散液として製剤化され得る。この噴霧可能な組成物は抗ウイルス剤として、特に呼吸器のウイルス感染およびそれに関連する症状または障害の処置において、特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種(例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2または2019-nCoV株(COVID-19として知られる疾患の原因となる)またはSARS-CoV-様)の少なくとも1つのウイルスによって引き起こされる感染において有効である。
【0012】
ラクトフェリンもしくはその誘導体に基づく本発明の組成物は、関連する副作用を有さず、高齢者、妊娠中または授乳期間中の女性、小児対象(0~12歳)、呼吸器系もしくは循環器系の合併症を患う対象、または糖尿病を患う対象、またはウイルス感染の事象においてリスクもしくは危険をもたらし得るその他の合併症を患う対象を含む、全てのカテゴリーの必要とする対象に投与し得る。
【0013】
さらに、ラクトフェリンに基づく本発明の組成物は、調製が容易であり、費用対効果に優れている。
【0014】
以下の発明の詳細な説明から明らかになるこれらのおよびその他の目的は、本願明細書において報告され、および添付の特許請求の範囲において主張される技術的特徴をもって本願の組成物および混合物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
【0016】
【
図1-1】
図1A-Dは、Caco-2腸上皮細胞から産生される、抗ウイルス作用を持つ、または抗ウイルス応答に関与するサイトカイン/ケモカインおよび分子のパネルに対するラクトフェリン(L)の効果を示す。
【0017】
【
図2】
図2Aおよび2Bは、SARS-CoV-2ウイルスを用いた処置について、ラクトフェリン(L)を用いた前処置または同時処置に続く、Caco-2腸上皮細胞における抗ウイルス応答を評価するin vitroでの研究の図を模式的に示す。
【0018】
【
図3-1】
図3A-Eは、SARS-CoV-2ウイルスを用いた処置について、ラクトフェリン(L)を用いた前処置に続く、Caco-2腸上皮細胞によって産生された抗ウイルス作用を持つ、または抗ウイルス応答に関与するサイトカイン/ケモカインおよび分子のパネルに対するラクトフェリンの効果を示す。
【0019】
【
図4-1】
図4A-Dは、SARS-CoV-2ウイルスおよびラクトフェリン(L)を用いた同時処置に続く、Caco-2腸上皮細胞によって産生された抗ウイルス作用を持つ、または抗ウイルス応答に関与するサイトカイン/ケモカインおよび分子のパネルに対するラクトフェリンの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の目的を形成するものは、経口使用するための組成物(略して本発明の組成物)であって、抗ウイルス剤として使用するための、好ましくは必要とする患者における呼吸器系(上気道および/下気道)のウイルス感染および当該ウイルス感染に由来するかまたは関連する症状または障害の処置方法における使用のための組成物であり、当該組成物は、(i)許容できる薬学的グレードのラクトフェリン(略してLF)またはその誘導体を含むかまたはそれからなる混合物M(略して本発明の混合物M);および、任意には(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加剤および/または賦形剤、を含む。
【0021】
好ましくは、本発明の組成物を使用して処置されるウイルス感染が、科:コロナウイルス科、亜科:コロナウイルス亜科、属:ベータコロナウイルス属、種:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種(略して、SARS-CoVまたはSARS-コロナウイルス);以下の株:(I)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV またはSARS)、(II)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2または2019-nCoV(COVID-19として知られる疾患の原因となる))、および(III)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-様(SARS-CoV-様またはSL-CoV)から選択されるウイルス;好ましくは、COVID-19として知られる疾患の原因となるSARS-CoV-2または2019-nCoV、によって引き起こされる感染である。
【0022】
略して、本発明の文脈において、これらのウイルス(例えば、(I)、(II)および(III))は「SARS-コロナウイルス種のウイルス」または単に「SARS-コロナウイルス」と呼ばれる。
【0023】
上記の呼吸器(上気道および/または下気道)のウイルス感染、好ましくは上記に定義されるコロナウイルス感染(例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2または2019-nCoV、SARS-CoV-様)に由来するかまたは関連する症状または障害は以下:重症急性呼吸器症候群(SARS)、呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎(bronchitis)、肺気腫(emphysema)、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、咳、百日咳(pertussis)、肺炎(pneumonia)、胸膜炎(pleurisy)、気管支炎(bronchiolitis)、風邪、副鼻腔炎(sinusitis)、鼻炎(rhinitis)、気管炎(tracheitis)、咽頭炎(pharyngitis)、喉頭炎(laryngitis)、急性喉頭気管気管支炎(acute laryngotracheobronchitis)、喉頭蓋炎(epiglottitis)、気管支拡張症(bronchiectasis)、呼吸困難、呼吸困難(息切れ(breathlessness)、息切れ(shortness of breath))、発熱、疲労、筋肉痛、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、吐き気(nausea)および下痢(diarrhoea)などの胃腸症状、腎不全、食欲不振および/または全身の不快感(general feeling of unwell)であり得る。
【0024】
ラクトフェリンは、組成物または混合物Mの総重量に対して10%~90%の重量%(例えば15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、または85%)、好ましくは20%から80%、より好ましくは、30%から70%または30%から50%で、本発明の組成物中、または本発明の混合物M中に存在し得る。
【0025】
本発明の実施形態の何れか1つの上記の混合物Mを含む本発明の組成物は、上記の少なくとも1つの薬学的または食品グレードの添加物および/または賦形剤、すなわち、薬学的または食品用途に好適な治療活性の無い物質をさらに含み得る。本発明の文脈において、薬学的または食品用途に許容可能な添加物および/または賦形剤は、固形、半固形または液体状の組成物を調製するための当業者に知られる全ての補助物質を含み、例えば、希釈剤、溶媒(水、グリセリン、エチルアルコールを含む)、可溶化剤、酸性化剤、増粘剤、甘味料、風味増強剤、着色料、潤滑剤、界面活性剤、保存料、安定化剤、pH安定化緩衝剤およびその混合物を含む。
【0026】
経口使用のための本発明の組成物は、錠剤、チュアブル錠、または口内で溶けやすい錠剤、顆粒、粉末、フレーク、可溶性の粉末または顆粒、口内で溶けやすい粉末または顆粒、カプセルから選択される固形に製剤化され得、あるいは溶液、懸濁液、分散液、乳化液、またはスプレー状に吐出可能な液体、シロップから選択される液体状に製剤化され得、あるいは、ソフトゲル、ゲルから選択される半固形に製剤化され得る;好ましくは本発明の組成物は固形である。
【0027】
本発明において記載される実施形態のいずれか1つに従って、本発明の組成物の混合物Mにおいてラクトフェリンはリポソーム形態、例えばリン脂質ベースのリポソーム形態であり得る。
【0028】
上記のリポソーム形態(または製剤)のラクトフェリンは、投与(経口またはスプレー製剤による鼻腔内投与)の後のラクトフェリンのクリアランスを低下させ、よってその吸収の程度を増加させ得る。加えて、リポソームによって運搬される物質は、酵素(プロテアーゼ、ヌクレアーゼ)の作用または変性環境(pH)から保護される。リポソームは、一般にその膜がコレステロール(またはコレステロールエステル)およびリン脂質、例えばホスファチジルコリン、ジアセチルリン酸およびホスファチジルエタノールアミンなど、からなる1つ以上の脂質2重層によって形成される中空の微小球である。リポソームの大きさは20nmから25nm、最大2.5μmまで様々である。
【0029】
本発明の文脈において、経口使用という用語は、経口(または胃腸)投与および舌下(または頬)投与の両方を示すために使用される。
【0030】
経口使用のための、好ましくは固形の本発明の組成物は、抗ウイルス剤として、特にSARS-コロナウイルスウイルス、好ましくはCOVID-19として知られる疾患の原因となるSARS-CoVまたは2019-nCoV、によって引き起こされる呼吸器感染の処置において有効であり、ラクトフェリンの一日の用量は5mgから1000mg、好ましくは10mgから500mg、より好ましくは、20mgから400mgの範囲に含まれ、例えば、50mgから350mg、50mgから300mg、50mgから250mg、50mgから200mg、100mgから200mg、の範囲に含まれる。
【0031】
上述の一日の用量は単回投与(1回投与)または複数回投与、例えば2、3、または4回の一日あたりの投与で、それを必要とする対象に投与され得る。
【0032】
記載される実施形態の何れかに従い、本発明の組成物はさらなる抗ウイルス治療アプローチのアジュバントとしての使用のためのものであり得る。
【0033】
別段の特定が無い限り、組成物または混合物またはその他が、ある成分を「xからyの範囲に含まれる」量で含む、という表現は、上記の成分が組成物または混合物またはその他中に上記の範囲に存在する全部の量で存在し得る事を示すために使用され、特定されない場合でもその範囲の端も含む。
【0034】
別段の特定が無い限り、組成物または混合物が1つ以上の成分または物質を「含む」という指示は、具体的に示された1つ以上の成分または物質の他に、その他の成分または物質が存在し得ることを意味する。
【0035】
本発明の文脈において、「処置方法」という表現は、疾患または病気およびその症状または障害を排除、低下/減少または予防する目的で、治療有効量(当業者によって理解される)の物質の組成物または混合物を投与する事を含む、必要とする患者への介入を示すために使用される。
【0036】
本発明の文脈において、「対象」とはヒトまたは動物対象、好ましくは哺乳類(例えばイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジまたはウシなどのペット)を示すために使用される。好ましくは、本発明の組成物は、ヒト対象の処置方法における使用のためのものである。
【0037】
本発明の好ましい実施形態FRnを以下に記載する。
【0038】
FR1.ウイルス感染の処置方法における使用のための組成物であって、ここで該組成物が、(i)ラクトフェリン、および任意には(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加剤および/または賦形剤、を含み、ここで該組成物が経口経路による使用のためのものである、組成物。
【0039】
FR2.組成物が、呼吸器系のウイルス感染ならびに該ウイルス感染、好ましくは上気道および/または下気道のウイルス感染に由来するかまたは関連する症状および/または障害の処置方法における使用のためのものである、FR1に記載の使用のための組成物。
【0040】
FR3.ウイルス感染が、コロナウイルス科、亜科:コロナウイルス亜科、属:ベータコロナウイルス属、種:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス種、のウイルスであって、以下の株:重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2または2019-nCoV)であってCOVID-19疾患の原因、および重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-様(SARS-CoV-様またはSL-CoV)から選択されるウイルス;好ましくはSARS-CoV-2、によって引き起こされる感染である、FR1またはFR2に記載の使用のための組成物。
【0041】
FR4.呼吸器系のウイルス感染に由来するかまたは関連する症状および/または障害が、以下:重症急性呼吸器症候群(SARS)、呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、咳、百日咳、肺炎、胸膜炎、気管支炎、風邪、副鼻腔炎、鼻炎、気管炎、咽頭炎、喉頭炎、急性喉頭気管気管支炎、喉頭蓋炎、気管支拡張症、呼吸困難、呼吸困難、息切れ、息切れ、発熱、疲れ、筋肉痛、筋肉痛、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、胃腸症状、吐き気、下痢、腎臓機能不全、食欲不振、全身の不快感から選択される、FR2またはFR3に記載の使用のための組成物。
【0042】
FR5.組成物が、以下;錠剤、チュアブル錠、口内で溶けやすい錠剤、顆粒、粉末、フレーク、可溶性の粉末または顆粒、口内で溶けやすい粉末または顆粒、カプセルから選択される固形;あるいは溶液、懸濁液、分散液、乳化液、スプレー状に吐出可能な液体、またはシロップから選択される液体状;あるいは、ソフトゲル、ゲルから選択される半固形である;好ましくは固形である、前述のFRnの何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0043】
FR6.ラクトフェリンがリポソーム形態;好ましくはリン脂質ベースのリポソーム形態である、前述のFRnの何れか1つに記載の使用のための組成物。
【実施例】
【0044】
実験部分
出願人は、SARS-CoV-2(COVID-19)ウイルス感染に対抗するための、対象における自然抗ウイルス免疫応答を刺激するラクトフェリンの能力を評価するためにin vitroでの研究を行った。詳細には、以下を評価した:
(1)腸上皮細胞における抗ウイルス応答を増強するラクトフェリンの能力;および(2)ヒト腸上皮細胞におけるSARS-CoV-2感染に影響を与えるラクトフェリンの能力。
【0045】
材料(1)および(2)
-コンフルエントな単層Caco-2細胞(結腸がん由来不死化上皮細胞):Caco-2細胞をEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures (ECACC)から入手し、および完全DMEM培地(10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウムおよび1%(v/v)ペニシリンおよびストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地)を用いてT25ボトル中で、5%CO2を含む湿潤なインキュベーター内で37℃で増殖させ、約75%コンフルエントに達した時点で分割し、12ウェル/プレートに5×105細胞/ウェルの濃度で播種した。細胞がコンフルエントな単層を形成するまで48時間ごとに培養培地を交換した。その後、培養培地を除去し、抗生物質を含まない新鮮な培地と交換した。
-ラクトフェリン(コード“L”)(100μg/mL)。
-SARS-CoV-2ウイルス(コード“SARS”):パドヴァで患者から単離され、完全に特徴付けがなされた;このウイルスをVERO C1008細胞において増殖させ、ワーキングストックを入手し、-80℃で保管した。
【0046】
1.腸上皮細胞における抗ウイルス応答へのラクトフェリンの効果
1.1.方法
1)Caco-2細胞のコンフルエントな単層を培養培地のみ(対照、コード「nt」:未処置)またはラクトフェリン(コード「L」)で2時間インキュベートした。
2)4時間後、培養培地を除去し、抗生物質を含む完全培地と交換し、および単層をさらに37℃で16時間インキュベートした。
3)インキュベーションの終点において培地を除去し、単層を凍らせたDMEMで洗浄した後、細胞を回収しすぐに溶解した。細胞から全RNAを抽出し、cDNAへと転写し(iScript(商標) Select cDNA Synthesis Kit (BioRad))、これを使用して以下のmRNA-トランスクリプター(mRNA-transcriptor)における定量RT-PCRを行った:
・IFN-β および IFN-α,抗ウイルス作用に特異的;
・IRF-3および IRF-7,インタ-フェロン(抗ウイルス分子)と関連するシグナル伝達分子;
・TLR3および TLR7,ウイルスRNAを「見て」、抗ウイルス応答を開始する自然免疫の特異的な受容体;
・IL-10およびTGF-β,抗炎症性マーカー
・IL6,炎症誘発性マーカー
4)全ての試験は3回行った。ハウスキーピング遺伝子Rn18Sを参照として使用した。データはΔΔCt(倍率変化)法を使用して解析した。
【0047】
1.2.結果
ラクトフェリンは、自然免疫防御を刺激する事が可能であり(TLR3およびTLR7;
図1A)、よい抗炎症性応答を示し(IL-10、TGF-βにおける有意なデータ;
図1B)および炎症誘発性マーカーを減少させる傾向を示した(IL6;
図1C)。さらに、ラクトフェリンは抗ウイルス応答に関与するいくつかのシグナル伝達経路において有意な活性を示した(IFN-β,IFN-α,IRF-3およびIRF-7;
図1D)。
【0048】
αおよびβインターフェロン(IFN-αおよびIFN-β)をコードする遺伝子の発現を、ウイルスの存在に応じて宿主細胞から放出されるシグナル伝達タンパク質として定量した。ヒトの腸管粘膜はウイルス感染と闘うためにこれらの分子を産生する。
【0049】
その他のサイトカインを、遺伝子発現について定量した:抗炎症性マーカーであるIL-10およびTGF-β;抗炎症性サイトカインの発現を刺激することは、ウイルス感染の有害な効果を相殺する事ができる有益なツールである。
【0050】
さらに、TLR3およびTLR7受容体は一本鎖および二本鎖RNAの認識を介してウイルスへの反応に関与する;一般に、TLRの活性化はインターフェロンを放出させやすくする。
【0051】
2.ヒト腸上皮細胞におけるSARS-CoV-2感染に対するラクトフェリンの効果
2.1.方法
図2Aおよび2Bに示す模式図に従って、Caco-2細胞のコンフルエントな単層をSARS-CoV-2ウイルス処置についてラクトフェリン(コード「L」)で前処置または同時処置した;得られた結果を培養培地のみで処置したCaco-2細胞(対照、コード「nt」)およびSARS-CoV-2ウイルスのみで処置したCaco-2細胞(コード「SARS-CoV-2」)と比較した。
【0052】
インキュベーションの終点において、各種処置について培地を除去し、細胞から全RNAを抽出してcDNAへと転写し、これを使用して以下のmRNA-トランスクリプターにおける定量RT-PCRを行った:
・IFN-αおよびIFN-β,抗ウイルス作用に特異的;
・・TLR3およびTLR7,ウイルスRNAを「見て」、抗ウイルス応答を開始する自然免疫の特異的な受容体;
・MDA5およびMAVS,細胞における抗ウイルス応答に関与する遺伝子のウイルス受容体
・TGF-β,抗炎症性マーカー
・IL-1βおよびIL-8,炎症誘発性マーカー;
・TSLP1,腸上皮細胞から放出されるサイトカインであって、樹状細胞およびマクロファージの抗炎症性表現型の制御に重要な効果を有する。
【0053】
全ての試験と結果について3回行った。ハウスキーピング遺伝子Rn18Sを参照として使用した。データはΔΔCt(倍率変化)法を使用して解析した。
【0054】
前処置プロトコル(
図2A):培養培地のみ(対照、コード「nt」)または100μg/mlのラクトフェリンで処置した各ウェルをインキュベートした。3時間後、培地を除去し、抗生物質を含む新鮮な培地と交換し、単雄をSARS-CoV-2で感染させた。
【0055】
同時処置プロトコル:培養培地のみ(対照、コード「nt」)または100μg/mlのラクトフェリンで処置した各ウェルをインキュベートした。同時に細胞にSARS-CoV-2を感染させた。これらの実験において、2時間後に全てのウェルから培地を除去し、抗生物質を含む新鮮な培地と交換した。
【0056】
2.2.結果
この研究は、ラクトフェリンがSARS-CoV-2ウイルスに感染した細胞において抗ウイルスおよび抗炎症作用を発揮できる事を示し、ラクトフェリンをCOVID-19の予防的処置および治療処置の両者について好適なもとのとして定義づけるものである。
【0057】
図3に示す結果は、ラクトフェリンによる、
-前処置におけるインターフェロンIFN-αおよびIFN-βの誘導(
図3A)、
-前処置におけるTRL3の誘導(
図3B)、
-同時処置におけるTRL3の誘導(
図4A)、および
-同時処置における、ウイルス認識に関与するMavsおよびMda5の誘導(
図4B)を示す。
【0058】
さらに、ラクトフェリンによる抗炎症効果が観察された:
-前処置におけるIL-8(
図3C)および同時処置におけるIL-1β(
図4C)の発現の減少、
-前処置(
図3D)および同時処置(
図4C)におけるTSLP1の発現の減少、および、
-前処置(
図3E)および同時処置(
図4D)における抗炎症性マーカーTGF-βの発現の増加。
【0059】
ラクトフェリンによってTGF-βはその発現が顕著に活性化された。
【0060】
インターフェロンの誘導に関与する反応のカスケードに基づいて、TLR受容体はラクトフェリンによって活性化され、これはTLR3において特に活性があり、TLR7においては穏やかに活性があった。
【0061】
抗ウイルス免疫応答の開始段階はMAVSおよびMDA5によって仲介される;ラクトフェリンは、有意ではないものの、MAVSを誘導し得る事が見出された。
【0062】
前処置モデルではラクトフェリンによってTSLP1の発現は有意に減少され、これはラクトフェリンがウイルスに誘発される炎症状態の軽減に寄与する事を実証する。
【0063】
TSLP1は、腸上皮細胞から放出されるサイトカインであり、樹状細胞およびマクロファージの抗炎症性表現型の制御に重要な効果を有する。
【0064】
結論(1)および(2)
得られた結果は、前処置および同時処置の実験プロトコル両者の場合において、ラクトフェリンが抗ウイルス応答および抗炎症性応答を正に調節できること、よってラクトフェリンが抗ウイルス療法における有用なアジュバントである事を示す。
【0065】
事実として、COVID-19患者において炎症誘発性サイトカインの発現の上昇が観察され、および非常に重症なCOVID-19患者では、比較的軽症な患者に比して、LDH、CRP、PCT血清レベルおよびフェリチンが顕著に増加する事が文献から知られている。フェリチンおよびIL-6の高いレベルは致死性の予測因子と考えられており、ウイルスに起因する高い炎症状態(hyperinflammation)が死亡要因であり得ることを示唆する。
【0066】
その抗炎症および抗ウイルス特性により、ラクトフェリン(またはラクトトランスフェリン)は炎症状態を軽減する事ができる。抗微生物作用を持つ糖タンパク質であり、鉄の担体であるラクトフェリンは、感染/炎症細胞においてIL-6に対する抗炎症作用を発揮できる事が示され、よって鉄の恒常性および炎症過程における主要な因子であるフェリチンの下方制御を促進する。
【国際調査報告】