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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】安全グレージング用の保護バリア
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20230412BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20230412BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230412BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20230412BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230412BHJP
【FI】
C03C27/12 K
B60J1/00 H
B32B27/36
B32B7/023
B32B27/18 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554536
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-26
(86)【国際出願番号】 US2021020421
(87)【国際公開番号】W WO2021183319
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】62/987,726
(32)【優先日】2020-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/866,392
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519053108
【氏名又は名称】レーシング オプティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン、バート イー.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン、スティーブン エス.
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン、セス
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
4F100AK42A
4F100AK42D
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA07A
4F100CA07B
4F100CA07D
4F100CA07E
4F100CB00B
4F100GB32
4F100JK12A
4F100JK12E
4F100JL11B
4G061AA02
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CD03
4G061CD18
(57)【要約】
湾曲した基材に固着可能な保護バリアは、2つ以上のレンズの積層体を備え、2つ以上のレンズのそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムと、PETフィルムの第1の側の硬質コートと、第1の側と反対側のPETフィルムの第2の側の接着剤層とを含む。2つ以上のレンズの積層体は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有することができる。2つ以上のレンズの積層体を湾曲した基材の形状に適合させるために、熱および圧力が加えられ得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した基材に固着可能な保護バリアであって、前記保護バリアは、2つ以上のレンズの積層体を備え、前記2つ以上のレンズのそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムと、前記PETフィルムの第1の側の硬質コートと、前記第1の側と反対側の前記PETフィルムの第2の側の接着剤層とを含み、2つ以上のレンズの前記積層体は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有する、保護バリア。
【請求項2】
2つ以上のレンズの前記積層体の前記変調伝達関数が、70度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について70%を上回るコントラスト値を呈する、請求項1に記載の保護バリア。
【請求項3】
2つ以上のレンズの前記積層体の前記変調伝達関数が、55度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について85%を上回るコントラスト値を呈する、請求項2に記載の保護バリア。
【請求項4】
2つ以上のレンズの前記積層体の前記変調伝達関数が、45度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について90%を上回るコントラスト値を呈する、請求項3に記載の保護バリア。
【請求項5】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有する、請求項1に記載の保護バリア。
【請求項6】
前記2つ以上のレンズのそれぞれが、0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さである、請求項1に記載の保護バリア。
【請求項7】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、UV安定剤を含む、請求項1に記載の保護バリア。
【請求項8】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記硬質コートおよび前記接着剤層が、UV安定剤を含む、請求項6に記載の保護バリア。
【請求項9】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、150℃において、0.6%~1.8%の縦方向収縮と、0.3%~1.1%の横断方向収縮とを有する、請求項1に記載の保護バリア。
【請求項10】
2つ以上のレンズを積層する工程であって、前記2つ以上のレンズのそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムと、前記PETフィルムの第1の側の硬質コートと、前記第1の側と反対側の前記PETフィルムの第2の側の接着剤層とを含み、2つ以上のレンズの積層体は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有する、工程と、
前記積層体の第1のレンズの接着剤を湾曲した基材に接触させながら、2つ以上のレンズの前記積層体を前記湾曲した基材上に置く工程と、
2つ以上のレンズの前記積層体を前記湾曲した基材の形状に適合させるために、熱および圧力を加える工程と
を備える、方法。
【請求項11】
熱および圧力を加える前記工程が、前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記接着剤層が完全に硬化される前に、少なくとも部分的に実行される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
熱および圧力を加える前記工程が、前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記接着剤層が、剥離に必要とされる単位幅あたりの特定の負荷として決定された、2.54cm(1インチ)あたり25グラムの剥離強さを超える前に、少なくとも部分的に実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
熱および圧力を加える前記工程の後、2つ以上のレンズの前記積層体の最も外側のレンズを剥離する工程をさらに備える、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
2つ以上のレンズの前記積層体の前記第1のレンズの前記接着剤が、2つ以上のレンズの前記積層体の最も外側のレンズの接着剤より強い、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
2つ以上のレンズの前記積層体の前記変調伝達関数が、70度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について70%を上回るコントラスト値を呈する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記2つ以上のレンズのそれぞれが、0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さである、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、UV安定剤を含む、請求項10の記載の方法。
【請求項19】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記硬質コートおよび前記接着剤層が、UV安定剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記2つ以上のレンズのそれぞれの前記PETフィルムが、150℃において、0.6%~1.8%の縦方向収縮と、0.3%~1.1%の横断方向収縮とを有する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、安全グレージングに関し、より詳細には、車両のフロントガラスの外部に適用される保護バリアに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両のフロントガラスは、カメラ、雨センサ、近接センサ、ヘッドアップ表示装置、デフロスタおよびアンテナなどの光電気デバイスを含むように製造されている。これは、ひび割れたフロントガラスを取り換えるコストを10倍増大させている。加えて、フロントガラスを新しく設置した後、コストがかかる較正手順が実行されなければならず、フロントガラスを取り換えることに関連するコストをさらに増大させている。
【0003】
「陸上道路を走行する自動車および自動車用機器をグレージングするための安全グレージング材料(Safety Glazing Materials for Glazing Motor Vehicles and Motor Vehicle Equipment Operating on Land Highways)」と題する、米国規格協会(American National Standards Institute)(ANSI)Z26.1-1996規格は、車両グレージング用の材料を適格にするための耐久性および安全性上の要求事項を明示する規格である。この規格によって指定されるさまざまな試験の中には、透過率、湿度、熱、衝撃、破砕、貫入、歪み、風化、ヘイズ、および耐摩耗性がある。Z26.1-1996規格などの適用可能な規格は、現在、車両上のさまざまな場所において許容可能な安全グレージング用の16のカテゴリの構造を明示している。最も厳しいカテゴリは、フロントガラス向けであり、その理由は、視覚正確性、耐衝撃性、および孔食およびワイパ・ブレードからの耐摩耗性が必要であると共に、乗客を負傷させることを防止するためにガラス破片を封じ込める必要があるためである。
【0004】
フロントガラス用の構造材料の2つの基本的なグループは、ガラスおよびプラスチックである。適用可能な規格に従い、プラスチックは、オートバイなどの車両までしか使用されず、そのフロントガラスは、運転者がそれ越しに見ることができるように、シートより38.1cm(15インチ)高くなければ許可されない。これは、今日利用可能なプラスチックが軟質であるため、容易に磨耗し、わずかな実用寿命後にフロントガラスの視覚正確性を低減させるためである。こうした限定的な使用を考慮して、プラスチックに対する磨耗試験(たとえば、ANSI Z26.1-1996規格で明示されている試験5.17)は、100サイクルのテーバー磨耗しか必要としない。これは、1000サイクルのテーバー磨耗であるガラス向けの要求事項の10分の1である。他方で、プラスチックは、衝撃によってガラスが生み出す鋭い破片を生み出さず、重量は半分であるため、好ましい材料となり得る。ガラスは固く、耐摩耗性があるが、その低い引っ張り強さにより、孔食を受ける。加えて、衝撃時、ガラスは、乗員を負傷させる可能性がある危険な鋭い破片を生み出す。この安全上の問題を軽減するために、ガラス製フロントガラスは、軟質のプラスチック・コアで積層されて、破片を一緒に保持し、耐貫入性を改善することができる。
【0005】
以下の表で示されるように、1年間の風化(たとえば、ANSI Z26.1-1996規格に明示される試験5.16)、プラスチックの磨耗(たとえば、ANSI Z26.1-1996規格に明示される試験5.17)、およびガラスの磨耗(たとえば、ANSI Z26.1-1996規格に明示される試験5.18)に対する適用可能な要求事項を満たすフロントガラス用の市販の安全バリアフィルムは、存在しない。
【0006】
【表1】
今日の市場では、ガラス窓を保護するための既存のポリマー安全フィルムは、建物または車両の内部に装着される。これらの市販製品は、外部に装着された場合、ポリエステル基材の脆化により、数ケ月超はもたない。これは、表面上の硬質コーティングを破砕し、したがってフィルムを破損させる。窓に内部装着された安全フィルムの耐久性は、「建築物に使用される安全グレージング材料に関する米国規格-安全性能仕様および試験方法(American National Standard for Safety Glazing Materials Used in Buildings - Safety Performance Specifications and Methods of Test)」と題する、ANSI Z97.1-2015に明示される。そのような内部装着された安全フィルムの一例は、3Mスコッチシールド安全セキュリティ窓フィルム・ウルトラ・シリーズ(3M Scotch-shield safety and security window film Ultra Series)であり、これは、0.2mm(8ミル)の厚さ、2,000g/2.54cm(1インチ)の剥離強さ、88%を上回る透過率を有し、45度の入射角度において実質的に歪みが無く、100テーバー・サイクル後5%ヘイズの耐摩耗性を有する。そのようなフィルムは10年の実用寿命を有することができるが、これは外部用途には製造されず、耐摩耗性は、ANSI Z26のフロントガラス用途(たとえば、1,000テーバー・サイクル後2%ヘイズ未満)に適格とならない。
【0007】
上記の3Mフィルムなどの安全フィルムの内部装着の場合、ガラス窓自体が、UVおよびIRスペクトルの部分からの保護を提供することができる。装着用接着剤内に混合されるUV阻害剤の追加は、フィルムの長い実用寿命(たとえば10年)および内部に面する硬質のコーティングされた表面を提供するのに十分なものとなり得る。しかし、外部のガラス表面は、ガラスの低い引っ張り強さにより、依然として孔食を受ける。
【0008】
陸上道路を走行する車両上で外部に使用するための市販されている唯一の安全フィルムは、クリアプレックス(Clear-Plex)によって作製されている。クリアプレックスが公開した商用仕様ならびに関連する特許文献1および特許文献2によれば、クリアプレックス安全フィルムは、硬質コートと装着用の感圧接着剤とを有する0.1mm(4ミル)の厚さのPETの層を含み、1,800g/2.54cm(1インチ)の剥離強さ、87%を上回る透過率を有し、40度の入射角度において実質的に歪みが無く、風化前の100サイクル後0.5%ヘイズの耐摩耗性を有する。クリアプレックスは、ANSI Z26規格に対して実行される試験について何も断言していない。このヘイズ値は、プラスチックには受け入れられ得るが、商用仕様は、1年の風化後のテーバー試験を含まない。
【0009】
レーシング車両または軍用車両で用いられる車両などの、陸上道路を走行しない車両のフロントガラス外部上に装着され得る他の製品が、存在している。レーシング・オプティックス社(Racing Optics,Inc.)による1つのそのような製品は、4層×0.1mm(4ミル)安全フィルム(これ以後「RO4×4」)であり、これは、0.45mm(18ミル)の厚さ(各層上に硬質コートと感圧性接着剤とを有する0.1mm(4ミル)の厚さPETの4層)、上側層について100g/2.54cm(1インチ)およびベース層について400g/2.54cm(1インチ)の剥離強さ、88%を上回る透過率を有し、Z26ヘイズ試験#5.17の結果は、風化前1.5%未満のヘイズであり、Z26磨耗試験#5.16の結果は、100テーバー・サイクル後5%未満のヘイズであり、Z26耐候性試験#5.15の結果は、層ごとに4ケ月未満である(たとえば、3~4ケ月の風化後に透過率は顕著に低減され、その結果、ヘイズは、テーバー試験無しで約20~50%となる)。RO4×4製品は、短期間の実用寿命に合わせて設計されている(使用中に各層が剥離されるときに新しくされる)ため、陸上道路上を走行する車両のフロントガラス用のZ26規格を満たすために必要とされる天候耐久性または耐摩耗性を有さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7,992,917号明細書
【特許文献2】米国特許第9,023,162号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、関連技術に付随する上記の欠点を克服するためのさまざまなシステムおよび方法を想定する。本開示の1つまたは複数の態様によれば、外部バリアがガラスおよびプラスチック両方のフロントガラスに付加されて、耐摩耗性、孔食および衝撃によるひび割れを改善することができる。外部バリアは、ガラス製フロントガラスを交換するカーボン・フットプリントを低減しながらも、乗員の安全を高めるだけでなく、国内のフリート車両の一番の保険コスト、すなわちフロントガラスの損傷を低減することもできる。
【0012】
本開示の実施形態の1つの態様は、湾曲した基材に固着可能な保護バリアである。保護バリアは、2つ以上のレンズの積層体を備えることができ、2つ以上のレンズのそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムと、PETフィルムの第1の側の硬質コートと、第1の側と反対側のPETフィルムの第2の側の接着剤層とを含む。2つ以上のレンズの積層体は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有することができる。
【0013】
2つ以上のレンズの積層体の変調伝達関数は、70度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について70%を上回るコントラスト値を呈することができる。2つ以上のレンズの積層体の変調伝達関数は、55度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について85%を上回るコントラスト値を呈することができる。2つ以上のレンズの積層体の変調伝達関数は、45度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について90%を上回るコントラスト値を呈することができる。
【0014】
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有することができる。
【0015】
2つ以上のレンズのそれぞれは、0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さであってよい。
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、UV安定剤を含むことができる。2つ以上のレンズのそれぞれの硬質コートおよび接着剤層は、UV安定剤を含むことができる。
【0016】
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、150℃において、0.6%~1.8%の縦方向収縮と、0.3%~1.1%の横断方向収縮とを有することができる。
本開示の実施形態の別の態様は、方法である。方法は、2つ以上のレンズを積層する工程であって、2つ以上のレンズのそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルムと、PETフィルムの第1の側の硬質コートと、第1の側と反対側のPETフィルムの第2の側の接着剤層とを含む、工程を備えることができる。2つ以上のレンズの積層体は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有することができる。方法は、積層体の第1のレンズの接着剤を湾曲した基材に接触させながら、2つ以上のレンズの積層体を湾曲した基材上に置く工程と、2つ以上のレンズの積層体を湾曲した基材の形状に適合させるために、熱および圧力を加える工程とを備えることができる。
【0017】
熱および圧力を加える工程は、2つ以上のレンズのそれぞれの接着剤層が完全に硬化される前に、少なくとも部分的に実行されてよい。熱および圧力を加える工程は、2つ以上のレンズのそれぞれの接着剤層が、剥離に必要とされる単位幅あたりの特定の負荷として決定された、2.54cm(1インチ)あたり25グラムの剥離強さを超える前に、少なくとも部分的に実行されてよい。
【0018】
方法は、熱および圧力を加える工程後に2つ以上のレンズの積層体の最も外側のレンズを剥離する工程を備えることができる。
2つ以上のレンズの積層体の第1のレンズの接着剤は、2つ以上のレンズの積層体の最も外側のレンズの接着剤より強くなり得る。
【0019】
2つ以上のレンズの積層体の変調伝達関数は、70度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について70%を上回るコントラスト値を呈することができる。
【0020】
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有することができる。
【0021】
2つ以上のレンズのそれぞれは、0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さであってよい。
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、UV安定剤を含むことができる。2つ以上のレンズのそれぞれの硬質コートおよび接着剤層は、UV安定剤を含むことができる。
【0022】
2つ以上のレンズのそれぞれのPETフィルムは、150℃において、0.6%~1.8%の縦方向収縮と、0.3%~1.1%の横断方向収縮とを有することができる。
本開示に開示されるさまざまな実施形態のこれらおよび他の特徴および利点は、以下の説明および図に関してより良好に理解され、図中、同様の番号は、全図を通じて同様の部分を指す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の一実施形態による保護バリアの断面図。
図2】安全フィルム内の視覚的歪みを表す画像およびグラフ。
図3】異なる入射角度における5つのサンプルの変調伝達関数(MTF)データを表すグラフ。
図4】異なるフィルム厚さに対するフロントガラス損傷速度を表すグラフ。
図5】保護バリアをフロントガラスの形状に合わせて成形するために熱および圧力を加えるプロセスの開始時の、車のフロントガラス上に置かれた保護バリアを示す図。
図6】熱および圧力を加えるプロセスの終了時のフロントガラス上の保護バリアを示す図。
図7】フロントガラスに合うようにトリミングされた後の保護バリアを示す図。
図8】本開示の一実施形態による例示的な操作フロー。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、湾曲した基材に固着可能な保護バリアならびにその製造、設置、および使用の方法のさまざまな実施形態を包含する。付属の図に関連して以下に記載される詳細な説明は、現在想定されるいくつかの実施形態の説明として意図され、本開示が展開または利用され得る唯一の形態を表すようには意図されない。本説明は、図示される実施形態に関連する機能および特徴を記載している。しかし、本開示の範囲内に包含されるようにこれもまた意図されている異なる実施形態によって、同じまたは均等な機能が達成されてよいことを理解されたい。さらに、第1および第2などの相関性用語は、エンティティ間の順序における実際の関係を必ずしも要求または暗示することなく、そのようなエンティティを互いに区別するためにのみ使用されることが、理解される。
【0025】
図1は、本開示の一実施形態による保護バリア100の断面図である。保護バリア100は、自動車のフロントガラスなどの湾曲した基材10に固着されてよく、図1に示されるレンズ110a、110b、110cなどの2つ以上のレンズ110の積層体を備えることができる。レンズ110のそれぞれは、ポリエチレン・テレフタレート(PET)フィルム112と、PETフィルム112の第1の側の硬質コート114と、レンズ110を互いに、そして湾曲した基材10に結合させるための、第1の側と反対側のPETフィルム112の第2の側の接着剤層116とを含むことができる。レンズ110の積層体は、人の目の凡その解像度である、0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する、65度の入射角度における変調伝達関数を有することができる。このようにしてレンズ110の積層体の変調伝達関数を制御することにより、自動車のフロントガラスの典型的な入射角度(たとえば60~70度)で見たときに実質的に歪みが無い(たとえば0.00045ラジアン未満の変位)保護バリア100が生み出されてよく、さらにこの保護バリア100の総厚さは、自動車速度における衝撃損傷に耐えるのに十分なものでもある。このようにして、保護バリア100は、道路におけるフロントガラスの使用の耐久性要求事項を満たしながら、その下にあるフロントガラス10のひび割れおよび孔食を防止することができる。
【0026】
歪みは、遠視野(たとえば12.2メートル~304.8メートル(40フィート~1000フィート))内で変位した物体によって引き起こされる視覚正確性エラーである。安全グレージングは、歪みとして知覚された物体変位を引き起こす局所化されたゾーンを有する可能性があり、ここでは、わずかに異なる位置または角度から見たとき、物体は1つの位置から別の位置にジャンプするように見え得る。従来的には、歪みは、たとえば、ANSI Z26.1-1996規格に明示される試験5.15によって、定性的にのみ決定される。この試験は、コリメート光源および白色スクリーンを用いた、長いトンネル内のシャドウ・グラフを使用する。技術者は、法線入射角度の光路内の、スクリーンから38.1cm(15インチ)に標本を置く。次いで技術者は、歪みによって引き起こされる暗部および明部のアーチファクトを探す。試験は定量的基準を有さず、現代の車のフロントガラスに使用される高い入射角度(たとえば60~70度)における歪みに対処しない。
【0027】
理想的には、歪みは、0.0003ラジアンあたり約1ラインペアである、20/20ビジョンを有する人の目の解像度に合わせて最小限に抑えられなければならない。たとえば、物体が0.0006ラジアンで変位されると、目はその場所変化を歪みとして知覚する。事実上、歪み無しと考えられるためには、歪みは、いかなる物体変位も人の目の解像度能力以下になるように低減されなければならない。その一方で、安全グレージングが高い入射角度(たとえば60~70度)で見られたとき、光学厚さは、スネルの法則に従って角度のコサイン関数として増大する。これは、特に自動車速度における衝撃損傷に耐えるために必要とされ得るような約0.1mm(4ミル)を超える安全フィルム厚さの場合、歪み効果を増幅させることがあり得る。
【0028】
図2は、安全フィルム210における視覚歪みを表す画像およびグラフである。歪みを定量的に測定するために、安全フィルム210などの試験材料の変調伝達関数は、20/20ビジョンを有する人の目の解像度に対応して、0.0003ラジアンの固定された空間周波数において評価され得ることが想定される。これを達成するために、図2の上部に示されるように、0.0003ラジアンだけ離間された市松模様またはターゲット・ラインペアなどの試験パターン220の画像が、所望の入射角度(たとえば図2の65度)においてフィルム210を通してキャプチャされ得る。図2の下部は、画像の単一の水平スライスを表すデータの所与の断面に対する水平位置の関数としてコントラストを表す、対応する変調伝達関数データを示す。図で分かるように、変調伝達関数データは、フィルム210を通して見られた試験パターン220のエリア内に、歪んだラインペアに対応する、低減されたコントラストを呈する。いくつかの場所では、変調伝達関数データは、画像の完全損失に匹敵するような低いコントラストを呈する。
【0029】
図2のもののような試験セットアップは、本明細書に説明される保護バリア100を製造するための材料およびプロセス・パラメータを評価するために使用され得る。特に、そのような試験セットアップおよび/またはそこから導出可能な試験結果を使用することにより、適切な材料およびプロセス・パラメータが、1つまたは複数の所望の入射角度におけるレンズ110の積層体の変調伝達関数を制御するように選択および/または調整され得る。この点に関して、レンズ110の積層体の変調伝達関数は、2019年12月3日に出願され、「グレージング・フィルム内の非法線入射の歪みを低減するための方法および装置(METHOD AND APPARATUS FOR REDUCING NON-NORMAL INCIDENCE DISTORTION IN GLAZING FILMS)」と題する、本願の権利者が有する米国仮特許出願第62/942,943号明細書に説明される方法論に従って制御され得ることが想定され、この文献の内容全体は、本願明細書に明白に援用される。
【0030】
たとえば、レンズ110の積層体を生み出すあらゆる任意またはすべての段階(たとえば、樹脂を溶融し、溶融した樹脂を、ダイを通して押し出してフィルムを生み出し、フィルムを冷却することによるPETフィルム112の形成中、硬質コート114の適用中、接着剤層116の適用中など)において、試験パターン220の1つまたは複数の画像が、レンズ110または生み出されるレンズ110の積層体を通してキャプチャされてよい。画像は、たとえば、画像キャプチャ・デバイスを、1つまたは複数の所望の入射角度において、レンズ110またはレンズ110の積層体を含むロール・ツー・ロール処理ウエブを通すように向けることによって、キャプチャされてよい。そのような画像に基づいて、コンピュータは、MTFデータを算出し、樹脂を溶融するのに使用されるヒータの温度設定(たとえば、押し出し装置組立体の複数の加熱された領域の勾配またはプロファイルの絶対温度または相対温度)、(溶融時間および樹脂の混合度を決定することができる)押し出しスクリューの回転速度、(冷却時間および/または冷却中にポリマー・フィルム上に作用する力の程度を決定することができる)1つまたは複数のローラの回転速度、流れ速度、堆積速度、または硬質コート114または接着剤層116の他の適用速度、および/またはレンズ110が積層される速度などの、レンズ110またはレンズ110の積層体の変調伝達関数に影響を与えると見出されるプロセス・パラメータを調整するために使用される出力を生み出すことができる。たとえば、PETフィルム112が、いくつかの場合、その知られているMTFデータに合わせて事前製作され、選択されてよく、その一方でレンズ110の積層体の変調伝達関数が、硬質コート114および/または接着剤層116を適用し、レンズ110を積層する間に能動的に制御されてよいことが想定される。他の場合、PETフィルム112はまた、その変調伝達関数を能動的に制御しながら製造されてもよい。コンピュータの出力は、たとえば、連続またはバッチ・ツー・バッチのプロセスにおいてユーザ入力無しで関連するプロセス・パラメータを自動的に調整するためのフィードバック信号を含むことができる。別の例として、出力は、オペレータによって解釈されるデータの視覚的表現を含むことができ、オペレータは、必要な調整を手動で行うことになる。
【0031】
図3は、異なる入射角度における5つのサンプルの変調伝達関数データを表すグラフである。図3の例示的なデータを生み出すために、図2に説明されるような変調伝達関数データが、法線(ゼロ度)から70度の入射角度まで10度ずつ増分してとられ得る。データはいかなる保護バリアも有さないフロントガラスを表す変調伝達関数値に正規化され得ることが想定される。多くの車のフロントガラスは65度の傾度で設置されているため、追加のデータが65度で、または同様に特定の関心の任意の他の角度でキャプチャされ得る。三角形のデータ点を有する実線によって図3に表されるように、T-ll 3×3で標識されたサンプルは、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有する、本明細書に説明される保護バリア100のレンズ110の積層体としての役割を果たすことができる。上記で留意されたように、65度は、通常のフロントガラスの勾配である。しかし、ドライバは、目の高さの上下でも物体を観察しなければならないため、より大きいまたはより小さい入射角度において歪みを最小限に抑えることも有利となり得る。これを達成するために、T-ll 3×3で標識されたサンプルの例に示されるように、レンズ110の積層体の変調伝達関数は、0.0003ラジアンあたり1ラインペアの同じ空間解像度について、70度の入射角度において70%を上回るコントラスト値、55度の入射角度において85%を上回るコントラスト値、および/または45度の入射角度において90%を上回るコントラスト値をさらに呈することができる。このようにして制御される変調伝達関数を有する保護バリア100が、ドライバによって見られる物体の位置を歪ませることなく、通常の自動車のフロントガラスに適用され得る。
【0032】
レンズ110の積層体に使用するために知られているMTFに合わせて選択され得る事前製作されたPETフィルム112の一例は、それ自体が65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有するPETフィルム112である。1つのそのような材料は、円形データ点を有する実線によって図3に表される、デュポン帝人フィルム社(DuPont Teijin Films)によって名称「MELINEX(登録商標)454」の下で販売されているフィルムである。ダイアモンドのデータ点を有する点線は、このフィルムをPETフィルム112として使用して作製されたレンズ110のサンプルを表し、その硬質コート114および接着剤層116は、上記で説明されたようなMTF制御下で適用されている。すなわち、硬質コート114および接着剤層116を適用するプロセス中、1つまたは複数のプロセス・パラメータは、1つまたは複数の入射角度における変調伝達関数を制御するように、たとえば、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を維持するように(連続的にまたはバッチ・ツー・バッチで)選択または調整された。図で分かるように、開示された主題による単一レンズ110だけを表すこのサンプルのMTFデータは、積層体の厚さが増大しているにもかかわらず、そのようなレンズ110の積層体を含む保護バリア100全体を表す、T-ll 3×3で標識されたサンプルのものと実質的に類似している。これは、上記で説明されたようなMTF制御の下でレンズ110を積層することによって達成され得る。
【0033】
対照的に、正方形データ点を有する鎖線によって図3に表されている、T-8 3×3で標識されたサンプルは、MTF制御無しで生み出された。同様の構造の3層積層体であるにもかかわらず、光学特性は、車のフロントガラスに通常使用される高い入射角度では明らかに劣る。たとえば、図3に示されるように、65度の入射角度におけるコントラスト値は、60%未満である。そのような製品は、コントラスト値が75%を上回り続ける、60度未満の入射角度を有する用途においてのみ使用され得る。円形データ点を有する実線で表され、上記で説明されたRO4×4製品に対応する、RO4×4で標識されたサンプルは、MTF制御無しで同様に生み出された4層積層体である。この製品は、関連する入射角度ではさらに悪いMTFデータを呈し、現実的には入射角度が50度未満である用途にのみ使用されてよいが、この入射角度以降は、コントラスト値は75%を下回って降下する。歪みは、75%のコントラスト値を下回ると顕著になり得ることが見出されている。
【0034】
図4は、異なるフィルム厚さに対するフロントガラス損傷速度を表すグラフである。図4の例示的なデータは、米軍向けのオガラ-ヘス・アーマー・カンパニー(O’Gara-Hess Armor Company)社によって行われたガラス破砕調査の結果に基づく。PETの層が、厚くしながら弾道ガラス上に装着され、1.905cm(4分の3インチ)の鋼ボールが、異なる速度でガラスに放たれた。データは、PETフィルム厚さごとにガラスがひび割れた最低速度を示す。図4に示されるデータに照らして、本明細書に説明される保護バリア100は、1時間あたり72.4キロ~104.6キロ(45マイル~65マイル)の共通の運転速度においてガラス製のフロントガラスを保護するには0.2mm(8ミル)の厚さまたはそれ以上、たとえば0.2mm(8ミル)から0.4mm(16ミル)の厚さ、好ましくは0.25mm(10ミル)から0.4mm(16ミル)の厚さでなければならないことが想定される。たとえば、保護バリア100は、2~4つのレンズ110(たとえば、図1に示されるようなレンズ110a、110b、および110c)を含むことができ、レンズ110のそれぞれは、0.1mm(4ミル)の厚さである。
【0035】
通常、ガラス製のフロントガラスを保護するのに必要とされる厚さの増大は、保護バリア100を生み出すためにいくつかの課題を課す。上記で説明されたように、たとえば、厚さを増大すると、高い入射角度(たとえば60~70度)において歪みが増幅し得る。この課題は、上記で説明されたように保護バリア100の変調伝達関数を制御することによって、たとえば65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈する変調伝達関数を有するレンズ110の積層体を生み出すことによって、克服され得る。保護バリア100の厚さによって課される追加の課題は、湾曲した基材10(たとえば自動車のフロントガラス)に合わせて首尾良く成形され得る製品を作製することと、高度の耐候性および耐摩耗性ならびに低減したヘイズを達成することと、妥当な長さの実用寿命を維持することとを含む。これらの課題のそれぞれは、開示された保護バリア100によって、以下でより詳細に説明されるように克服され得る。
【0036】
図5は、保護バリア100をフロントガラス10(図1に示される基材10の役割を果たすフロントガラス10)の形状に合わせて成形するために、熱および圧力を加えるプロセスの開始時に車20のフロントガラス10上に置かれた保護バリア100を示す。保護バリア100は、積層体の第1の(最も底部の)レンズ110aの接着剤層116をフロントガラス10に接触させて置くことによって、フロントガラス10に接着され得る(図1を参照)。第1のレンズ110aの接着剤層116は、たとえば、2016年3月29日に発行され、「取り外し可能な層の接着装着可能な積層体(Adhesive Mountable Stack of Removable Layers)」と題する、ウイルソン(Wilson)の米国特許第9,295,297号明細書に開示されるようなドライ・マウント接着剤であってもよく、この文献の全内容は、本願に明白に援用される。あるいは、たとえば、2015年9月8日に発行され、「タッチ・スクリーン・シールド(Touch Screen Shield)」と題する、ウイルソン(Wilson)の米国特許第9,128,545号明細書に開示されるように、ウエット・マウント接着剤が使用されてよく、この文献の全内容は、本願明細書に明白に援用される。接着剤は、アクリル感圧接着剤(PSA)などのアクリル接着剤であってよい。
【0037】
ほとんどの車のフロントガラスは、複合曲率を呈しているため、保護バリア100は、これを上側および下側のコーナ内で収縮させなくてはフロントガラス10に適合しない。保護バリア100は平坦となり得る(たとえば、ロール・ツー・ロール・プロセスにおいて製造されている)ため、2つ以上のレンズ110の積層体は、最初はフロントガラス10の湾曲した形状に適合されず、その結果、より強いまたはより弱い接着の領域を生じさせ、レンズ110の積層体とフロントガラスとの間に空気ポケット/気泡を生じさせ得る。したがって、レンズ110の積層体をフロントガラス10の形状に適合させるために、高温の空気源(たとえばヒート・ガンまたはブロー・ドライヤ)または赤外線ヒータなどのヒータ30を使用して、熱および圧力が加えられ得る。それと同時に、カードまたはスクイージを使用して、圧力がレンズ110の積層体に加えられ得る。いくつかの場合、保護バリア100は、雌型金型キャビティとしての役割を果たす犠牲層を使用して適用されて、レンズ110の積層体を犠牲層とフロントガラス10との間に挟むことができ、これは、2020年1月31日に出願され、「形成可能な金型が一体化された熱成形フロントガラス積層体(THERMOFORM WINDSHIELD STACK WITH INTEGRATED FORMABLE MOLD)」と題する、本願の権利者が有する米国特許出願第16/778,928号に説明され、この文献の全体内容は、本願明細書に明白に援用される。
【0038】
設置者がレンズ110の積層体を加熱し、下方に押さえつけるとき、レンズ110の積層体は、湾曲した基材10(フロントガラス)の輪郭をたどるように収縮および伸張することができる。0.05mm(2ミル)の厚さしか有しない市販のフィルムの場合、必要な収縮を達成することは容易になり得る。他方で、0.2mm(8ミル)以上の厚さのモノリシック・フィルムは、フィルムがフロントガラスに適合する前にしわになり、使用できなくなる。この課題に照らして、本明細書において説明される保護バリア100は、個々に良好に収縮する複数の薄いレンズ110(たとえばそれぞれが0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さ)を使用する。たとえば同じアクリル接着剤であってもよい積層体のレンズ110間の接着剤層116は、部分的にのみ硬化されて、極めて低い剥離強さ(たとえば15~25g/2.54cm(1インチ))および高い弾性を生み出すことができる。したがって、積層体のそれぞれの個々のレンズ110は、互いに「浮動する」関係にあることができ、それによってレンズ110のいずれもしわにせずに収縮を行うことを可能にする。保護バリア100が設置され、たとえば、日光に曝露されると、接着剤層116は硬化し、剥離および結合強さを(たとえば3倍から5倍)増大させて、長い実用寿命を促進する。初期風化後の剥離強さは、たとえば100~150g/2.54cm(1インチ)であってよい。
【0039】
図6は、熱および圧力を加えるプロセスの終了時のフロントガラス10の保護バリア100を示す。この段階において、所望の収縮が行われており、保護バリア100のレンズ110の積層体は、空気ポケット/気泡無しにフロントガラス10の湾曲した形状に合わせて成形される。PETフィルムの技術仕様は、縦方向(「MD」)および横断方向(「TD」)として指定された、異なる値を有する2つの収縮軸を含む。縦方向は、PETフィルムを生み出すために使用されるロール・ツー・ロール・プロセスにおけるロール・ストックの方向を指し、横断方向は、ロール方向を横切る方向を指す。保護バリア100の積層体のPETフィルム112が、150℃において、0.6%~1.8%(好ましくは0.8%~1.0%)の縦方向収縮と、0.3%~1.1%(好ましくは0.5%~0.6%)の横断方向収縮とを有してよいことが想定される。0.6%を下回る縦方向収縮または0.3%を下回る横断方向収縮を有するPETフィルムは、フロントガラスに適合するのに十分な収縮を有しない。他方で、収縮が大きすぎる、たとえば縦方向で1.8%を上回るか、または横断方向で1.1%を上回る場合、設置者が(たとえば上記で説明されたようなヒータ30を使用する)手動操作される手順において収縮を制御することは極めて難しくなる。
【0040】
図7は、透明レンズ110の積層体がフロントガラス10に合うようにトリミングされた後のレンズ110の積層体を含む保護バリア100を示す。レンズ110の積層体は、ステンレス鋼ブレード(カーボン・ブレードはフロントガラス10を損傷させる場合がある)を有するユーティリティ・ナイフまたはボックス・カッタなどのナイフを使用して、トリミングされ得る。その結果得られた、レンズ110のトリミングされた積層体は、その下のフロントガラス10の形状に合致しているため事実上不可視となり得る(そうではあるが、ウィンドー・ティンティングの場合のようにフロントガラスの色付けを変更してもよい)。
【0041】
上記で説明されたように成形可能性を改善することに加えて、単一のモノリシック・フィルムではなく複数の薄いレンズ110(たとえば0.05~0.1mm(2~4ミル)の厚さ)を使用することで、自動車のフロントガラスで使用可能となる十分に低減されたヘイズが可能になり得る。通常、PETフィルムのヘイズは、2つの成分:表面における入射光の散乱と、バルク材料内の入射光の分散とを有する。後者のバルク成分は、たとえば、以下の表に示されるように、PETフィルムの厚さに伴って増大する。
【0042】
【表2】
しかし、複数のPETフィルムが積層されるとき、その効果は付加的ではなく、3つの層は、合計で約0.1~0.2%のヘイズを付加するにすぎない。その一方で、ヘイズの表面成分は、硬質コートまたは接着剤の付加によって軽減される。保護バリア100を、単一の大きなPETフィルムではなく比較的薄いPETフィルム112を含むレンズ110の積層体として構造化することにより、保護バリア100が、上記で説明されたように自動車速度における衝撃に耐えるのに十分な厚さ(たとえば0.2mm(8ミル)以上)となり得る一方で、低減されたヘイズが達成されることが可能になる。特に、硬質コート114と接着剤層116とを有するPETフィルム112をそれぞれが含む2つ以上のレンズ110の積層体を備える、本明細書に説明される保護バリア100は、1%を下回る(好ましくは0.6%を下回る)初期ヘイズ(風化前)を達成することができ、自動車のフロントガラス上での使用に適切になる。
【0043】
風化は、約300MJ/mの紫外線放射(たとえば適用可能な規格に従って301MJ/mもしくは306MJ/m、または3ケ月期間につき70MJ/mから推定された280MJ/m)における1年の曝露における、ANSI Z26.1-1996規格などの規格に従って規定され得る。屋外のアリゾナ気候(アリゾナはその高温および高い強さの日光のために風化ベンチマークとして選択される)における1年間の曝露をシミュレートするために、「集中自然太陽光を用いた材料の促進屋外曝露を実施するための標準的な方法(Standard Practice for Performing Accelerated Outdoor Weathering of Materials Using Concentrated Natural Sunlight)」と題する、米国材料・試験協会(American Society for Testing and Materials)(ASTM)G90規格に準拠するものなどの自然光集光器が使用され得る。保護バリア100のヘイズおよび耐摩耗性は、曝露サイクルの前後に測定され得る。
【0044】
上記で説明されたRO4×4製品の比較例では、UV吸収化合物などのUV安定剤が、4つの層のそれぞれの硬質コートおよび接着剤に混合される。アリゾナ曝露の6ケ月後には、最も外側の層は、透過率が損失し、ヘイズが増大し、硬度が損失するために使用できなくなる。硬質コート内には多くのUV阻害剤が含まれるため、硬質コートは硬度が低減し、破砕し、それによって最も外側の層の下にあるPETコアを黄化させ、脆くする。その結果のヘイズは、20%を超え得る。
【0045】
RO4×4製品とは対照的に、本明細書において説明される保護バリア100は、ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾールまたはヒドロキシフェニル-トリアジンのUV吸収剤などのUV安定剤を含む、2つ以上のレンズ110のそれぞれのPETフィルム112によって生み出され得る。各レンズ110の硬質コート114および/または接着剤層116もまた、UV安定剤を含むことができる。UV安定剤はPETフィルム112内に混合されるため、低減された量のUV安定剤が、硬質コート114および接着剤層116内で使用されることが可能であり、それによって硬質コート114がUV安定性を犠牲にすることなくその硬度を維持することを可能にする。すべての構成要素にわたってUV安定剤を分散させることにより、極めて耐候性である組立体が可能になり、それにより、保護バリア100は、ANSI G90のアリゾナ太陽における曝露の1年を超えることができ、ヘイズが低下し、風化後の黄化があってもわずかであることによって、非常に良好に見えることができる。保護バリア100は、たとえば、風化前に1%未満のヘイズおよび風化後に4%未満のヘイズ(好ましくは2%未満)の1,000テーバー・サイクルにおける耐摩耗性を有することができる。
【0046】
保護バリア100は十分な耐候性を有することができるが、最終的に最も外側のレンズ110(たとえば、図1の3層例ではレンズ110c)は、損傷するようになり得る。最も外側のレンズ110が車両のフロントガラスまたは他の窓の寿命中に(たとえばチッピング、酸化などにより)経時的に受け入れらないほど劣化すると、最も外側のレンズ110は、簡単に剥離および取り除かれて、その下の新しいレンズ110を露出させることができる。これを達成するために、最も内側のレンズ110a(図1を参照)の接着剤層116は、他のレンズ110に使用される接着剤層116より強くなり得る(いくつかの場合、接着剤層116の強度は、レンズ110の追加ごとにさらに低下し得る)。このようにして、最も内側のレンズ110aは、別のレンズ110が剥離される間、フロントガラスまたは他の湾曲した基材10に接着されたままであることができる。たとえば、最も内側のレンズ110aは、保護バリア100の寿命の間湾曲した基材10上に留まるように意図されてよく、この場合追加のレンズ110は、必要に応じて取り除くことができることが想定される。この内容に沿って、第1のもの110a以外のそれぞれのそのような追加のレンズ110には、保護バリア100の寿命中に容易に剥離させるためのタブまたは他の手段が設けられ得る。レンズ110の積層体の最も外側のレンズ110をこのようにして剥離することを可能にすることにより、保護バリア100の実用寿命は延長され得る。
【0047】
図8は、本開示の一実施形態による例示的な操作フローである。図8の操作フローは、図1に示されるレンズ110の積層体を含む保護バリア100を製造し、設置し、使用する例示的な方法としての役割を果たすことができる。操作フローは、2つ以上のレンズ110のそれぞれのコアとして使用されるPETフィルム112を提供する工程で始めることができる(工程810)。上記で説明されたように、レンズ110のそれぞれのPETフィルム112は、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について80%を上回るコントラスト値などの特定のMTFデータに合わせて選択されてよく、たとえば、デュポン帝人フィルム社(DuPont Teijin Films)によって名称「MELINEX(登録商標)454」の下で販売されているフィルムであってよい。あるいは、レンズ110のそれぞれのPETフィルム112は、上記で説明されたように連続またはバッチ・ツー・バッチのプロセスにおいてMTFデータを能動的に監視しながら製作されてよい。この点に関して、PETフィルム112を提供する工程は、たとえば、樹脂を溶融することと、溶融された樹脂を、ダイを通して押し出してポリマー・フィルムを生み出すことと、ポリマー・フィルムを冷却することとを含むことができる。硬質コート114が、PETフィルム112の第1の側に堆積されてよく(工程820)、好ましくは湿式堆積されるが、スピン・コーティング、ディップ・コーティング、または真空堆積を含む任意の適切な方法に従って適用されてよい。硬質コート114が適用される前後、PETフィルム112は、その反対側で接着剤116によってコーティングされ得る(工程830)。PETフィルム112、硬質コート114、および接着剤116のこれらの3つの要素は、保護バリア100を生み出すために積層され得る(工程840)、本明細書において説明されるレンズ110の1つを構成することができる。
【0048】
任意またはすべての工程810~840中、操作フローは、レンズ110の積層体のMTFを制御する工程(工程850)を備えることができる。レンズ110の積層体のMTFは、たとえば、65度の入射角度において0.0003ラジアンあたり1ラインペアの空間解像度について75%を上回るコントラスト値を呈するように制御されてよい。上記で説明されたように、そのような制御は、工程810において事前製作された適切なPETフィルム112を選択することによって達成されてよい。あるいは、または追加的に、MTFの制御は、工程810においてPETフィルム112を製作し、工程820において硬質コート114を堆積し、工程830において接着剤層116を適用し、および/または工程840において2つ以上のレンズ110を積層する間、プロセス・パラメータ(たとえば、ロール・ツー・ロール・プロセスのローラ速度など)を能動的に監視し、調整することによって達成されてよい。プロセス・パラメータのそのような能動的な監視および調整は、監視されたMTFデータのフィードバック・ループを含む連続プロセス、および/または先行するバッチから手動でまたは自動的にフィードバックされたMTF測定値によるバッチ・ツー・バッチ・プロセスを含み得ることが想定される。
【0049】
レンズ110の積層体を備える保護バリア100が組み立てられると、操作フローは、保護バリア100を図5~7に示される車20のフロントガラスなどの湾曲した基材10上に設置する工程に続くことができる。上記で説明されたように、しわになるのを回避するために、レンズ110が接着剤上で「浮動し」、一体化構造としてではなく個々に基材10の形状に合わせて成形されることを可能にするために、設置する工程は、接着剤層116が部分的にのみ硬化されている間に行われ得る。図8の操作フローを参照すれば、レンズ110の積層体を含む保護バリア100は、最も下側のレンズ110a(図1を参照)の接着剤層116を湾曲した基材10に接触させながら、フロントガラスまたは他の湾曲した基材10上に置かれ得る(工程860)。設置をより容易にするために、保護バリア100は、フロントガラス10の外側に延びすぎないように(たとえば電気フィルム・カッタを使用して)大まかに切断され得る。操作フローは、図5および6に関連して説明されたように、2つ以上のレンズ110の積層体を湾曲した基材10の形状に適合させるために、熱および圧力を加える工程(工程870)に続くことができる。特に、熱および圧力を加える工程は、2つ以上のレンズ110のそれぞれの接着剤層116が完全に硬化される前に、たとえば、接着剤層116が、剥離に必要とされる単位幅あたりの特定の負荷として決定された2.54cm(1インチ)あたり25グラムの剥離強さを超える前に、少なくとも部分的に実行されてよい。保護バリア100は、接着剤層116が完全に硬化される前に、湾曲した基材10の形状に完全に適合されてよい。
【0050】
保護バリア100を冷却した後、設置は、図7に関連して説明されるように最終トリムを実行する工程で終了する。レンズ110の積層体を含む保護バリア100は、このとき一様に形成され、フロントガラス表面に固着されている。保護バリア100をこのようにして設置することにより、陸上道路で操作する車両のフロントガラスの透過率、耐摩耗性、ヘイズ、および歪みに対する適用可能な規格に準拠しながらも、フロントガラス10に対する、石がぶつかることによるひび割れおよび磨耗損傷が、低減されることが可能である。
【0051】
上記で説明されたように、2つ以上のレンズ110を有する保護バリア100が、最も外側のレンズ110を剥離および取り除き、下方のレンズ110の未使用表面を露出させることを可能にし得ることが想定される。この点に関して、図8の操作フローは、車両20上に設置された保護バリア100の寿命中、継続することができる。最も外側のレンズ110が経時的に受け入れられないほど劣化したとき(たとえば、6ケ月後、1年後、ワイパ・ブレードからのひっかきが始まった後など)、このレンズは剥離されて、その下の次のレンズ110を露出させることができる(工程880)。最も外側のレンズ110を剥離するタイミングは、保護バリア100が使用される特定の気候によって決めることができ、たとえば、一部の気候は日光により多く曝露することを伴い、他のものは、より頻繁にワイパ・ブレードを使用することを必要とする。
【0052】
上記の説明は、限定ではなく、例として与えられる。上記の開示を考えながら、当業者は、本明細書に開示される本発明の範囲および趣旨内にある変形形態を考案することができる。さらに、本明細書に開示される実施形態のさまざまな特徴は、単独で、または可変の互いの組み合わせで使用されることが可能であり、本明細書に説明される特有の組み合わせに限定されるようには意図されない。したがって、特許請求の範囲は、図示される実施形態によって限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】