(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】ガラス基板を分離する方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C03B 33/027 20060101AFI20230412BHJP
【FI】
C03B33/027
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554542
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-11-01
(86)【国際出願番号】 US2021019541
(87)【国際公開番号】W WO2021183291
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シン-リン
(72)【発明者】
【氏名】ポン,チー-チン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イー-チュン
【テーマコード(参考)】
4G015
【Fターム(参考)】
4G015FA03
4G015FB01
4G015FC07
4G015FC14
(57)【要約】
ガラス板の分離方法は、第1の面と板厚とを画定するガラス板の第1の面にスクライビングホイールを係合させるステップと、スクライビングホイールを、ガラス板に沿って少なくとも毎分35メートルのスクライブ速度で移動させるステップと、スクライビングホイールでガラス板に力を加えるステップと、この力を所定の力の1.0ニュートン以内に維持するステップと、スクライビングホイールによって、第1の面の長さに沿って延在するとともにガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、を含む。メディアンき裂は、ガラス板の内部に延びるき裂深さを画定し、ガラス板の内部に延びるき裂深さの第1の面上のメディアンき裂の長さに沿った変化量は、2.0%未満である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、該第1の面の反対側の第2の面と、該第1の面と該第2の面との間に板厚とを有するガラス板の前記第1の面にスクライビングホイールを係合させるステップと、
前記スクライビングホイールを、前記ガラス板の前記第1の面に沿って少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させるステップと、
前記スクライビングホイールが前記ガラス板の前記第1の面に沿って移動するときに、前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持するステップと、
前記スクライビングホイールによって、前記第1の面の長さに沿って延在するとともに前記ガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、
を含むガラス板の分離方法であって、
前記メディアンき裂の前記ガラス板の内部に延びるき裂深さは、前記板厚より小さく、前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記き裂深さの変化量は、約2.0%未満である、方法。
【請求項2】
前記力を加えるステップが、前記スクライビングホイールに連結したエアシリンダで、前記ガラス板に直交する第1の方向における前記スクライビングホイールの位置を維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールで、前記エアシリンダの前記ロッドの移動を制限するステップをさらに含み、
前記直動ガイドレールは、前記第1の方向への前記ロッドの移動を許容し、前記第1の方向に直交する方向への前記ロッドの移動を制限するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記力を加えるステップが、前記エアシリンダを介して前記スクライビングホイールに連結した第1のアクチュエータで、前記第1の方向における前記スクライビングホイールの前記位置を維持することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記メディアンき裂の前記き裂深さの変化量が約1.5%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スクライブ速度が少なくとも毎分約40メートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記板厚が約0.5ミリメートル未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで前記力を加えるステップが、前記所定の力の約0.2ニュートン以内の力を維持することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
スクライビングホイールと、
レギュレータと、
前記スクライビングホイールに連結され、前記レギュレータと連通するエアシリンダと、
前記エアシリンダに連結された第2のアクチュエータと、
前記レギュレータおよび前記第2のアクチュエータに通信可能に連結されたコントローラであって、プロセッサと、コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを含むメモリとを備えるコントローラと、
を備えるガラス切断システムであって、
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、
前記レギュレータに指示して、前記エアシリンダによって、ガラス板の第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持させるステップと、
前記第2のアクチュエータに指示して、前記スクライビングホイールを前記ガラス板に沿って、少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させ、それにより、前記第1の面の長さに沿って延在するとともに前記ガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、
を実行し、
前記メディアンき裂の前記ガラス板の内部に延びるき裂深さは、前記ガラス板の板厚より小さく、前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記き裂深さの変化量は、約5マイクロメートル未満である、ガラス切断システム。
【請求項10】
前記第1のアクチュエータは、前記コントローラに通信可能に連結され、
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記第1のアクチュエータに指示して、前記ガラス板の前記第1の面に向かって前記エアシリンダを移動するステップをさらに実行する、請求項9に記載のガラス切断システム。
【請求項11】
前記エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールをさらに備え、
前記直動ガイドレールは、前記ガラス板に直交する第1の方向への前記ロッドの移動を許容し、前記第1の方向に直交する方向への前記ロッドの移動を制限するものである、請求項9に記載のガラス切断システム。
【請求項12】
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記第2のアクチュエータに指示して、前記スクライビングホイールを前記ガラス板に沿って、少なくとも毎分約40メートルのスクライブ速度で移動させるステップを実行する、請求項9に記載のガラス切断システム。
【請求項13】
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記レギュレータに指示して、前記エアシリンダによって、前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約0.2ニュートン以内の力を加え、維持させるステップをさらに実行する、請求項9に記載のガラス切断システム。
【請求項14】
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記メディアンき裂の前記き裂深さの変化量が約1.5%未満である、請求項9に記載のガラス切断システム。
【請求項15】
前記ガラス板の前記第1の面に前記スクライビングホイールで力を加えるステップが、前記力を前記所定の力の約0.2ニュートン以内に維持することを含む、請求項9に記載のガラス切断システム。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2020年3月12日を出願日とする米国仮特許出願第62/988606号の米国特許法第119条に基づく優先権の利益を主張するものであり、この仮出願のすべての開示内容は、本明細書の依拠するところとし、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概して、ガラス基板を分離する方法およびシステムに関し、特に、ガラス基板にメディアンき裂を形成する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
フレキシブルな薄型ガラス基板は、いわゆる「電子ペーパー(e-paper)」、カラーフィルター、太陽電池、ディスプレイ、有機EL(OLED)照明、タッチセンサなど、様々な用途で利用することができる。このような基板用のガラスは、非常に薄いものとなる場合がある。そして、そのような基板の加工は、個々のガラス板ごとに行うことができるほか、(ロールやスプールに巻かれている場合がある)長尺のガラスウェブを搬送しながら行うこともできる。いずれの場合においても、個々のガラス板またはガラスウェブの個別の部分は、複数のガラス板に切断して、さらなる処理や最終製品への取り付け前処理に備えることができる。
【0004】
ガラス板またはガラスウェブを切断する際には、ガラス板またはガラスウェブに対して割線を入れることができ、例えば、スクライビングホイールで、ガラス板またはガラスウェブに沿ってき裂を形成して割線を入れる。そしてその後、ガラス板やガラスウェブに引張力を加えることにより、ガラス板やガラスウェブをこのき裂に沿って分離することができる。しかし、き裂深さにばらつき(変化)があれば、それがガラス板やガラスウェブの分離が望ましくないものとなったり破損が生じたりする要因となり、欠陥の増加や製造コストの上昇につながる恐れがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、き裂深さは一定に保つことが望ましく、よって、ガラス板に均一なメディアンき裂を形成して、メディアンき裂に沿った望ましい分離を促進する装置および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様A1において、本開示に係るガラス板の分離方法は、第1の面と、第1の面の反対側の第2の面と、第1の面と第2の面との間に板厚とを有するガラス板の第1の面にスクライビングホイールを係合させるステップと、スクライビングホイールを、ガラス板の第1の面に沿って少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させるステップと、スクライビングホイールがガラス板の第1の面に沿って移動するときに、ガラス板の第1の面に、スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持するステップと、スクライビングホイールによって、第1の面の長さに沿って延在するとともにガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、を含み、メディアンき裂のガラス板の内部に延びるき裂深さは板厚より小さく、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったき裂深さの変化量は、約2.0%未満である。
【0007】
第2の態様A2において、本開示は、上述の力を加えるステップが、スクライビングホイールに連結したエアシリンダで、ガラス板の第1の面に直交する第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持することを含む、態様A1に記載の方法を提供する。
【0008】
第3の態様A3において、本開示は、エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールで、エアシリンダのロッドの移動を制限するステップをさらに含み、直動ガイドレールは、第1の方向へのロッドの移動を許容し、第1の方向に直交する方向へのロッドの移動を制限するものである、態様A2に記載の方法を提供する。
【0009】
第4の態様A4において、本開示は、上述の力を加えるステップが、エアシリンダを介してスクライビングホイールに連結した第1のアクチュエータで、第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持することを含む、態様A2またはA3に記載の方法を提供する。
【0010】
第5の態様A5において、本開示は、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったメディアンき裂のき裂深さの変化量が約1.5%未満である、態様A1~A4のいずれかに記載の方法を提供する。
【0011】
第6の態様A6において、本開示は、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったメディアンき裂のき裂深さの変化量が約1.0%未満である、態様A1~A5のいずれかに記載の方法を提供する。
【0012】
第7の態様A7において、本開示は、スクライブ速度が少なくとも毎分約40メートルである、態様A1~A6のいずれかに記載の方法を提供する。
【0013】
第8の態様A8において、本開示は、スクライブ速度が少なくとも毎分約45メートルである、態様A1~A7のいずれかに記載の方法を提供する。
【0014】
第9の態様A9において、本開示は、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったき裂深さの変化量が約5マイクロメートル未満である、態様A1~A8のいずれかに記載の方法を提供する。
【0015】
第10の態様A10において、本開示は、板厚が約0.5ミリメートル未満である、態様A1~A9のいずれかに記載の方法を提供する。
【0016】
第11の態様A11において、本開示は、板厚が約0.30ミリメートルである、態様A1~A9のいずれかに記載の方法を提供する。
【0017】
第12の態様A12において、本開示は、上述のガラス板の第1の面に、スクライビングホイールで力を加えるステップが、所定の力の約0.2ニュートン以内の力を維持することをさらに含む、態様A1~A11のいずれかに記載の方法を提供する。
【0018】
第13の態様A13において、本開示に係るガラス切断システムは、スクライビングホイールと、レギュレータと、スクライビングホイールに連結され、レギュレータと連通するエアシリンダと、エアシリンダに連結された第2のアクチュエータと、レギュレータおよび第2のアクチュエータに通信可能に連結されたコントローラと、を備える。コントローラは、プロセッサと、コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを含むメモリとを備える。プロセッサがコンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、プロセッサは、レギュレータに指示して、エアシリンダによって、ガラス板の第1の面に、スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持させるステップと、第2のアクチュエータに指示して、スクライビングホイールをガラス板に沿って、少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させ、それにより、第1の面の長さに沿って延在するとともにガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、を実行する。メディアンき裂のガラス板の内部に延びるき裂深さは、ガラス板の板厚より小さく、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったき裂深さの変化量は、約5マイクロメートル未満である。
【0019】
第14の態様A14において、本開示は、エアシリンダに連結された第1のアクチュエータをさらに備える、態様A13に記載のシステムを提供する。
【0020】
第15の態様A15において、本開示は、第1のアクチュエータが、コントローラに通信可能に連結され、プロセッサがコンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、プロセッサが、第1のアクチュエータに指示して、ガラス板の第1の面に向かってエアシリンダを移動するステップをさらに実行する、態様A14に記載のシステムを提供する。
【0021】
第16の態様A16において、本開示は、エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールをさらに備え、直動ガイドレールは、第1の方向へのロッドの移動を許容し、第1の方向に直交する方向へのロッドの移動を制限するものである、態様A13~A15のいずれかに記載のシステムを提供する。
【0022】
第17の態様A17において、本開示は、プロセッサがコンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、プロセッサが、第2のアクチュエータに指示して、スクライビングホイールをガラス板に沿って、少なくとも毎分約40メートルのスクライブ速度で移動させるステップを実行する、態様A13~A16のいずれかに記載のシステムを提供する。
【0023】
第18の態様A18において、本開示は、プロセッサがコンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、プロセッサが、レギュレータに指示して、エアシリンダによって、ガラス板の第1の面に、スクライビングホイールで所定の力の約0.2ニュートン以内の力を加え、維持させるステップをさらに実行する、態様A13~A17のいずれかに記載のシステムを提供する。
【0024】
第19の態様A19において、本開示は、第1の面上のメディアンき裂の長さに沿ったメディアンき裂のき裂深さの変化量が約1.5%未満である、態様A13~A18のいずれかに記載のシステムを提供する。
【0025】
第20の態様A20において、本開示は、上述のガラス板の第1の面にスクライビングホイールで力を加えるステップが、力を所定の力の約0.2ニュートン以内に維持することを含む、態様A13~A19のいずれかに記載のシステムを提供する。
【0026】
以下の詳細な説明において、各実施形態のさらなる特徴及び利点を記載する。下記のさらなる特徴及び利点は、当業者であれば、ある程度はその説明からただちに理解するであろうし、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することによって理解するであろう。
【0027】
上述の概略的な説明および以下の詳細な説明はいずれも、種々の実施形態を説明するものであり、特許請求する主題の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図するものであることを理解されたい。また、添付の図面は、種々の実施形態のさらなる理解のために添付するものであり、本明細書に組み込まれ、その一部をなすものとする。図面は、本明細書に記載の種々の実施形態を例示的に示すものであり、以下の詳細な説明と合わせて、特許請求する主題の原理および作用を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本明細書において図示または説明する1つ以上の実施形態に係るガラス切断システムを示す模式斜視図
【
図2】本明細書において図示または説明する1つ以上の実施形態に係る、
図1に示すガラス切断システムの模式制御図
【
図3】本明細書において図示または説明する1つ以上の実施形態に係る、
図1に示すガラス切断システムとガラス板とを示す模式図
【
図4】本明細書において図示または説明する1つ以上の実施形態に係る、
図3に示すガラス板に、ガラス板内部に延びるメディアンき裂を設けた状態を示す模式図
【
図5A】本明細書において図示または説明する1つ以上の実施形態に係る、
図4に示すガラス板とメディアンき裂とを示す模式斜視図
【
図5B】不均一なメディアンき裂を有するガラス板を示す模式図
【
図5C】不均一なメディアンき裂を有する他のガラス板を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、ガラス板を分離する装置および方法の実施形態について詳細に説明する。図面全体を通して、同一または類似の箇所は、可能な限り同一の参照番号を用いて示す。本明細書に記載の実施形態によるガラス切断システムは、スクライビングホイールと、ガラス板に直交する第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持するエアシリンダと、を主に備える。詳細には、エアシリンダは、第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持することができ、これにより、スクライビングホイールは、ガラス板に対して一定またはほぼ一定の力を維持しながらガラス板にメディアンき裂を形成することができる。ガラス板にかかる力を一定またはほぼ一定に維持することで、メディアンき裂のき裂深さの変化量を最小限に抑えることができる。き裂深さの変化量を最小限に抑えることで、メディアンき裂に沿ったガラス板の分離が望ましくないおよび/または予測外のものとなることを最小限に抑えることができ、これにより、破片を減らして製造コストを削減することができる。以下、添付の図面を詳細に参照しながら、上記及び上記以外の実施形態についてより詳細に説明を行う。
【0030】
本明細書において、「通信可能に連結された(communicatively coupled)」という表現は、ガラス切断システムの各種コンポーネントの相互接続性を説明するために用いられ、コンポーネントどうしを、有線接続、光ファイバ接続、または無線接続のいずれかで接続して、コンポーネント間で電気信号、光信号、および/または電磁信号を交換できる状態とすることを意味する。
【0031】
ここで、
図1を参照すると、
図1は、例示的なガラス切断システム100を示す模式図である。各実施形態において、ガラス切断システム100は、切断デバイス(スクライビングホイール140として図示)を主に備える。本明細書においてより詳細に説明するように、ガラス切断システム100は、スクライビングホイール140を第1の方向(すなわち、図示のY方向)に移動させてガラス板に近づけたり遠ざけたりするように動作可能に構成される。また、ガラス切断システム100は、スクライビングホイール140を、少なくとも第2の方向(すなわち、図示のX方向)および/または第3の方向(すなわち、図示のZ方向)移動させるように動作可能に構成されてもいる。なお、第2の方向および第3の方向は、第1の方向に直交する方向である。実施形態において、スクライビングホイール140は、制御された機械的損傷をガラス板に生じさせるように適切に選択された幾何学的形状を有するホイールを備えている。スクライビングホイール140は、鋸歯状の割線引きホイール、ダイヤモンド割線引きホイールなどの割線引き研削ホイールを備えることができる。
【0032】
図1に示す実施形態において、ガラス切断システム100は、スクライビングホイール140に連結されたエアシリンダ120を備えることができる。エアシリンダ120は、本体122と、本体122に対して移動可能に係合するロッド124と、を主に備えることができる。詳細には、ロッド124を本体122の外に伸ばしたり、本体122の方に引き寄せたりして、ロッド124を移動させることができる。いくつかの実施形態では、エアシリンダ120は、エアシリンダ120に供給する空気の圧力を調整することができるレギュレータ115と連通している。エアシリンダ120に供給する空気の圧力を調整することにより、ロッド124を本体122に対して移動させて、本体122に対するロッド124の(例えば、第1の方向における)位置を維持することができる。スクライビングホイール140がロッド124に連結されているため、レギュレータ115によって本体122に対するロッド124の位置を維持することにより、スクライビングホイール140の第1の方向における位置を維持することができる。本明細書においてより詳細に説明するように、エアシリンダ120およびレギュレータ115は、スクライビングホイール140の位置を維持した状態で、スクライビングホイール140でガラス板に力を加えられるように支援することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、ガラス切断システム100は、スクライビングホイール140の位置を検出する1つ以上のセンサを備えることができる。例えば、
図1に示す実施形態では、ガラス切断システム100は、スクライビングホイール140の第1の方向(すなわち、図示のY方向)における位置を検出するように構造的に構成された変位センサ117を備えている。
図1に示す実施形態では、ガラス切断システム100は変位センサ117を備えているが、ガラス切断システム100は、第1の方向におけるスクライビングホイール140の位置の検出に適した任意のセンサを備えることができると理解されたい。そのような適切なセンサとしては、例えば、ホール効果センサ、渦電流センサ、誘導センサ、レーザセンサ、圧電変換器などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
いくつかの実施形態では、ガラス切断システム100は、エアシリンダ120のロッド124と係合する直動ガイドレール130を備えることができる。直動ガイドレール130は、第1の方向(すなわち、図示のY方向)へのロッド124の移動を主に許容する一方、第2の方向および/または第3の方向(すなわち、図示のX方向および/またはZ方向)のような第1の方向に直交する方向へのロッド124の移動を制限する。本明細書においてより詳細に説明するように、直動ガイドレール130は、第1の方向に直交する方向へのロッド124の移動を制限することによって、スクライビングホイール140がガラス板に沿って移動する際に、第2の方向および第3の方向(すなわち、図示のX方向およびZ方向)などの他の方向にスクライビングホイール140が動いてしまうことを最小限に抑えることを支援することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、エアシリンダ120を第1のアクチュエータ110に連結することができる。第1のアクチュエータ110は、エアシリンダ120を移動させてガラス板に近づけたり遠ざけたりするように動作可能に構成される。例えば、
図1に示す実施形態において、エアシリンダ120をシリンダプレート114に連結することができ、シリンダプレート114をアクチュエータプレート112に連結することができる。実施形態において、アクチュエータプレート112は、第1のガイド116と係合することができ、第1のガイド116に沿って移動可能に構成される。第1のアクチュエータ110は、アクチュエータプレート112に連結されており、アクチュエータプレート112を移動させるように、そしてこれによりシリンダプレート114およびエアシリンダ120を移動させるように動作可能に主に構成される。そして、第1のアクチュエータ110は、エアシリンダ120を第1の方向(すなわち、図示のY方向)に移動させることによって、エアシリンダ120を位置決めし、そしてこれによりスクライビングホイール140をガラス板上に位置決めすることができる。例えば、第1のアクチュエータ110は、スクライビングホイール140を移動させてガラス板に係合するように動作することができ、エアシリンダ120は、スクライビングホイール140がガラス板に沿って移動する際にスクライビングホイール140とガラス板との間の接触を維持することを支援することができる。例えば、エアシリンダ120は、ガラス板の第1の方向における変化に追従するようにスクライビングホイール140を第1の方向(すなわち、図示のY方向)に移動させて、これにより、スクライビングホイール140がガラス板に沿って移動する際にスクライビングホイール140とガラス板との間の接触を維持することができる。
【0036】
実施形態では、第1のアクチュエータ110は、エアシリンダ120を移動するのに適した任意のアクチュエータを備えることができる。そのようなアクチュエータとしては、直流(DC)モータ、交流(AC)モータなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第1のアクチュエータ110は、位置エンコーダを備えたサーボモータとすることもできる。なお、
図1に示す実施形態では、ガラス切断システム100がアクチュエータプレート112とシリンダプレート114とを備えているが、これは単なる一例に過ぎない。実施形態では、第1のアクチュエータ110がエアシリンダ120を移動し、そしてこれによりスクライビングホイール140を移動することを可能にする任意の適切な方法で、第1のアクチュエータ110をエアシリンダ120に連結することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、ガラス切断システム100は、エアシリンダ120、ひいてはスクライビングホイール140を第2の方向および第3の方向(すなわち、X方向およびZ方向)に移動させるように動作可能な1つ以上のリニアアクチュエータをさらに備えている。
図1に示す実施形態では、ガラス切断システム100は、エアシリンダ120および/または第1のアクチュエータ110に連結された第2のアクチュエータ111を備えている。第2のアクチュエータ111は、エアシリンダ120、ひいてはスクライビングホイール140を少なくとも第2の方向(すなわち、図示のX方向)に移動させるように動作可能に構成される。いくつかの実施形態では、ガラス切断システム100は、エアシリンダ120、ひいてはスクライビングホイール140を第3の方向(すなわち、図示のZ方向)に移動させるように動作可能な第3のアクチュエータ113をさらに備えている。第2のアクチュエータ111および第3のアクチュエータ113は、エアシリンダ120、ひいてはスクライビングホイール140を移動させるのに適した任意のアクチュエータを備えることができる。例えば、限定されるものではないが、第2のアクチュエータ111および第3のアクチュエータ113はいずれも、DCモータまたはACモータなどを備えるリニアアクチュエータとすることができ、位置エンコーダを備えたサーボモータとすることもできる。なお、
図1に示す実施形態では、第2のアクチュエータ111および第3のアクチュエータ113がアクチュエータプレート112およびシリンダプレート114を介してエアシリンダ120に連結されているが、これは単なる一例に過ぎない。実施形態では、エアシリンダ120およびスクライビングホイール140を移動させるのに適した任意の方法で、第2のアクチュエータ111および第3のアクチュエータ113をエアシリンダ120に連結することができる。
【0038】
ここで、
図2を参照すると、
図2は、ガラス切断システム100の模式制御図である。実施形態において、ガラス切断システム100はコントローラ160を備え、コントローラ160は、プロセッサ162、データ記憶コンポーネント164、および/またはメモリコンポーネント166を備えている。メモリコンポーネント166は、揮発性および/または不揮発性メモリとして構成することができ、その場合には、ランダムアクセスメモリ(SRAM、DRAMなどの種類のRAMを含む)、フラッシュメモリ、セキュアデジタル(SD)メモリ、レジスタ、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)などの種類の非一時的なコンピュータ可読媒体を備えることができる。なお、これらの非一時的なコンピュータ可読媒体は、特定の実施形態に応じて、コントローラ160の内部および/またはコントローラ160の外部に設けることができる。
【0039】
メモリコンポーネント166は、動作ロジックと、分析ロジックと、通信ロジックとを、コンピュータによる読み取りと実行が可能な1つ以上の命令セットの形態で格納することができる。そして、分析ロジックおよび通信ロジックのそれぞれが、複数の異なるロジック要素を含むことができ、それら異なるロジック要素をそれぞれ、例えば、コンピュータプログラム、ファームウェア、および/またはハードウェアとして具現化することができる。また、コントローラ160はローカルインタフェースも備えている。ローカルインタフェースは、コントローラ160の各コンポーネント間の通信を容易にするバスなどの通信インタフェースとして実装することができる。
【0040】
プロセッサ162は、(データ記憶コンポーネント164および/またはメモリコンポーネント166などからの)命令を受信して実行するように動作可能な任意の処理コンポーネントを備えることができる。なお、
図2では、各コンポーネントがコントローラ160の内部に設けられるように示しているが、これは単なる一例に過ぎない。いくつかの実施形態では、これらのコンポーネントの1つ以上をコントローラ160の外部に設けることができる。さらに、コントローラ160は、単一のデバイスとして図示されているが、これも単なる一例に過ぎない。コントローラ160は、任意の適切な数のデバイスを備えることができる。
【0041】
実施形態では、コントローラ160は、ガラス切断システム100の1つ以上のコンポーネントに通信可能に連結されている。例えば、
図2に示す実施形態では、コントローラ160は、第1のアクチュエータ110と、第2のアクチュエータ111と、第3のアクチュエータ113と、レギュレータ115とに通信可能に連結されている。本明細書においてより詳細に説明するように、実施形態において、コントローラ160は、第1のアクチュエータ110と、第2のアクチュエータ111と、第3のアクチュエータ113と、(レギュレータ115を介して)エアシリンダ120とに移動指示を出すことができ、これにより、ガラス切断システム100はガラス板にき裂を形成することができる。
【0042】
例えば、
図3を参照すると、
図3は、ガラス切断システム100とガラス板200とを示す模式側面図である。
図3に示す実施形態では、ガラス板200は、第1の縁206と、第1の縁206の反対側に位置する第2の縁208とを画定している。
図3に示す実施形態では、ガラス板200は、第1の縁206と第2の縁208とを画定する個別の板であるが、これは単なる一例に過ぎず、ガラス板200を連続ウェブとすることもできる。
【0043】
実施形態では、ガラス板200は、第1の面202と、第1の面202の反対側に位置する第2の面204とを画定するとともに、第1の面202と第2の面204の間の値として求められる板厚Stを画定している。本明細書において図示、説明するように、第1の方向(すなわち、Y方向)は、ガラス板200の第1の面202に直交する方向である。いくつかの実施形態では、板厚Stは0.5ミリメートル未満である。いくつかの実施形態では、板厚Stは0.25ミリメートル以上0.5ミリメートル以下(両端点間のすべての範囲を含む)である。いくつかの実施形態では、板厚Stは約0.25ミリメートルである。いくつかの実施形態では、板厚Stは約0.30ミリメートルである。いくつかの実施形態では、板厚Stは約0.4ミリメートルである。いくつかの実施形態では、板厚Stは約0.5ミリメートルである。
【0044】
ガラス板200から一部を分離する際には、ガラス切断システム100のスクライビングホイール140が、ガラス板200の第1の面202に係合する。例えば、
図1~
図3を参照すると、いくつかの実施形態では、コントローラ160は、レギュレータ115に指示してエアシリンダ120を動かし、スクライビングホイール140を第1の面202に向かって移動させてガラス板200の第1の面202に係合(例えば、接触)させる。
【0045】
いくつかの実施形態では、これに加えて又は代えて、コントローラ160は、第1のアクチュエータ110に指示して、エアシリンダ120をガラス板200の第1の面202に向かって移動させる。例えば、いくつかの実施形態では、コントローラ160が、第1のアクチュエータ110に指示して、エアシリンダ120をガラス板200の第1の面202に向かって移動させ、これにより、スクライビングホイール140がガラス板200の第1の面202に係合することができる。
【0046】
そして、スクライビングホイール140がガラス板200の第1の面202に係合した状態で、スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に沿ってスクライブ速度で移動する。例えば、実施形態において、コントローラ160は、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113に指示してエアシリンダ120を移動し、これによりスクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って移動させる。
【0047】
いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、スクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させる。いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、毎分約35メートル以上毎分約60メートル以下(両端点間のすべての範囲を含む)でスクライビングホイール140を移動させる。いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、スクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って少なくとも毎分約40メートルのスクライブ速度で移動させる。いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、スクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って毎分約40メートル以上毎分約60メートル以下(両端点間のすべての範囲を含む)のスクライブ速度で移動させる。いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、スクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って少なくとも毎分約45メートルのスクライブ速度で移動させる。いくつかの実施形態では、第2のアクチュエータ111および/または第3のアクチュエータ113は、スクライビングホイール140をガラス板200の第1の面202に沿って毎分約45メートル以上毎分約60メートル以下(両端点間のすべての範囲を含む)のスクライブ速度で移動させる。
【0048】
スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に沿って移動しながら、ガラス板200の第1の面202に力を加える。例えば、実施形態において、コントローラ160は、(レギュレータ115を介して)エアシリンダ120および/または第1のアクチュエータ110に指示してスクライビングホイール140の位置を維持し、これにより、スクライビングホイール140がガラス板200の第1の面202に力を加えられるようにする。実施形態において、スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に加える力を、所定の力の1.0ニュートン以内に維持しながら、ガラス板200の第1の面202に沿って移動する。いくつかの実施形態では、スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に加える力を、所定の力の約0.75ニュートン以内に維持しながら、ガラス板200の第1の面202に沿って移動する。いくつかの実施形態では、スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に加える力を、所定の力の約0.5ニュートン以内に維持しながら、ガラス板200の第1の面202に沿って移動する。いくつかの実施形態では、スクライビングホイール140は、ガラス板200の第1の面202に加える力を、所定の力の約0.2ニュートン以内に維持しながら、ガラス板200の第1の面202に沿って移動する。
【0049】
実施形態では、この所定の力は、所定の切断圧に関連した力である。理論に束縛されるものではないが、スクライビングホイール140がガラス板200の第1の面202に加える圧力は、第1の面202に加わる力とスクライビングホイール140の幾何学的形状とに依存する。いくつかの実施形態では、所定の力は約0.09メガパスカルの所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は約0.12メガパスカルの所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は、約0.09メガパスカル以上約0.12メガパスカル以下(両端点間のすべての範囲を含む)の所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は、約0.05メガパスカル以上約0.15メガパスカル以下(両端点間のすべての範囲を含む)の所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は、約0.05メガパスカル以上約0.20メガパスカル以下(両端点間のすべての範囲を含む)の所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は、約0.05メガパスカル以上約0.25メガパスカル以下(両端点間のすべての範囲を含む)の所定の切断圧に関連した力である。いくつかの実施形態では、所定の力は、約0.05メガパスカル以上約0.30メガパスカル以下(両端点間のすべての範囲を含む)の所定の切断圧に関連した力である。
【0050】
スクライビングホイール140が力を加えながらスクライブ速度でガラス板200の第1の面202に沿って移動すると、スクライビングホイール140によって第1の面202に延びるメディアンき裂が形成される。例えば、
図4を参照すると、
図4は、ガラス板200にメディアンき裂210を形成した状態を示す側面図である。スクライビングホイール140は、第1の面202の長さLeに沿って延在するとともにガラス板200の内部に延びるメディアンき裂210を形成する。なお、
図4に示す実施形態では、長さLeが、第1の縁206および第2の縁208を終端点として第1の縁206と第2の縁208の間に延びる長さとして示されているが、これは単なる一例に過ぎないことを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態では、メディアンき裂210は、第1の縁206および/または第2の縁208の間の途中で終端することもできる。さらに、
図4に示す実施形態では、ガラス板200が第1の縁206と第2の縁208とを有するものとして示されているが、ガラス板200は連続ガラスウェブとすることができ、メディアンき裂210は連続ガラスウェブに沿った長さLeに延在することができることも理解されたい。
【0051】
メディアンき裂210は、ガラス板200の内部に延びるき裂深さCdを画定する。き裂深さCdは板厚Stよりも小さい。いくつかの実施形態では、き裂深さCd≦約0.75Stである。いくつかの実施形態では、き裂深さCd≦約0.5Stである。いくつかの実施形態では、き裂深さCd≦約0.4Stである。いくつかの実施形態では、き裂深さCd≦約0.3Stである。いくつかの実施形態では、目標き裂深さTd≦約0.25Stである。いくつかの実施形態では、き裂深さCd≦約0.2Stである。
【0052】
実施形態では、メディアンき裂210のき裂深さCdは、メディアンき裂210の長さLeに沿って(例えば、図示のY方向に)変化量Vだけ変化する。この変化量Vは、き裂深さCdの百分率で表すことができる。例えば、板厚St(
図3)が0.3ミリメートル以上であるいくつかの実施形態において、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さCdの変化量は2.0%未満である。例えば、板厚St(
図3)が0.3ミリメートル以上である実施形態において、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったメディアンき裂210のき裂深さCdの変化量は1.5%未満である。例えば、板厚St(
図3)が0.3ミリメートル以上である実施形態において、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったメディアンき裂210のき裂深さCdの変化量は1.0%未満である。
【0053】
この特徴を別の方法で示せば、実施形態において、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さの変化量Vは、約5マイクロメートル未満である。いくつかの実施形態では、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さの変化量Vは、約4マイクロメートル未満である。いくつかの実施形態では、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さの変化量Vは、約3マイクロメートル未満である。いくつかの実施形態では、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さの変化量Vは、約2マイクロメートル未満である。いくつかの実施形態では、ガラス板200の第1の面202上のメディアンき裂210の長さLeに沿ったき裂深さの変化量Vは、約2マイクロメートル以上約5マイクロメートル以下(両端点間のすべての範囲を含む)である。き裂深さCdの変化量を最小限に抑えることにより、メディアンき裂210に沿ったガラス板200の分離が望ましくないものとなってしまうことを最小限に抑えることができる。
【0054】
例えば、
図5A、
図5B、および
図5Cを参照すると、
図5Aはメディアンき裂210を有するガラス板200を示す斜視図、
図5Bはメディアンき裂210’を有するガラス板200’を示す斜視図、
図5Cはメディアンき裂210’’を有するガラス板200’’を示す斜視図である。
図5Aに示す例では、メディアンき裂210は、ガラス板200の第1の面202の内部に概ね均一に延びるき裂深さCdを画定している。き裂深さCdが概ね均一であるため、メディアンき裂210に沿ったガラス板200の分離も概ね均一となり、望ましくない破損は最小限に抑えられる。
【0055】
一方、
図5Bを参照すると、
図5Bは不均一なメディアンき裂210’を有するガラス板200’を示す斜視図である。
図5Bにおいて、ガラス板200’のメディアンき裂210’は、メディアンき裂210’から(すなわち、図示のY方向に)延びる凹部230’を画定している。凹部230’は、例えば、スクライビングホイールなどの切断デバイスがガラス板200’に加える力の変化(例えば、力の望ましくない増大)によって形成される場合がある。凹部230’はメディアンき裂210’の均一性を阻害するものであり、凹部230’によって、メディアンき裂210’に沿ったガラス板200’の分離が不均一なものや望ましくないものとなる恐れが生じる。
【0056】
同様に、
図5Cを参照すると、
図5Cは不均一なメディアンき裂210’’を有する他のガラス板200’’を示す斜視図である。
図5Cにおいて、ガラス板200’’のメディアンき裂210’’は、メディアンき裂210’’から(すなわち、図示のY方向に)延びる間隙232’’を画定している。間隙232’’は、例えば、スクライビングホイールなどの切断デバイスがガラス板200’に加える力の変化(例えば、力の望ましくない減少)によって形成される場合がある。凹部230’(
図5B)と同様に、間隙232’’もメディアンき裂210’’の均一性を阻害するものであり、間隙232’’によって、メディアンき裂210’’に沿ったガラス板200’’の分離が不均一なものや望ましくないものとなる恐れが生じる。
【0057】
再び
図1~
図4を参照すると、き裂深さCdの変化量を最小限に抑えることで、ガラス板200の不均一な分離を最小限に抑えることができる。上述の説明において概説したように、スクライビングホイール140がガラス板200に加える力を(例えば、エアシリンダ120によって)一定に保つことによって、き裂深さCdの変化量を最小限に抑えることができる。
【0058】
さらに、スクライビングホイール140が加える力を一定に保つことにより、き裂深さCdの変化量を許容可能な範囲に維持しながら、スクライブ速度を上げることができる。詳細に説明すると、スクライブ速度の上昇に伴い、スクライビングホイール140が加える力のばらつきがき裂深さCdに与える影響が増幅され、き裂深さCdの変化量が大きくなってしまう。よって、スクライビングホイール140によってガラス板200に加える力を(例えば、エアシリンダ120を使って)一定に保つことにより、き裂深さCdの変化量を最小限に抑えつつ、スクライビングホイール140のスクライブ速度を上げることができる。そしてスクライブ速度を上げることで、ガラス板200をより高速に分離することができ、製造スループットを向上させることができる。
【0059】
したがって、本明細書に記載の実施形態によるガラス切断システムは、スクライビングホイールと、ガラス板に直交する第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持するエアシリンダと、を主に備えることを改めて理解されたい。詳細には、エアシリンダは、第1の方向におけるスクライビングホイールの位置を維持することができ、これにより、スクライビングホイールは、ガラス板に対して一定またはほぼ一定の力を維持しながらガラス板にメディアンき裂を形成することができる。ガラス板にかかる力を一定またはほぼ一定に維持することで、メディアンき裂のき裂深さの変化量を最小限に抑えることができる。き裂深さの変化量を最小限に抑えることで、メディアンき裂に沿ったガラス板の分離が望ましくないおよび/または予測外のものとなることを最小限に抑えることができ、これにより、破片を減らして製造コストを削減することができる。
【0060】
なお、本明細書において、本開示のコンポーネントによって特定の特性を実現するために、または本開示のコンポーネントを特定の態様で機能させるために、本開示のコンポーネントが特定の方法で「構造的に構成された(structurally configured)」と記載している場合、そのような記載は、意図された用途に関する記載ではなく構造に関する記載であることに留意されたい。より詳細に説明すると、本明細書において、あるコンポーネントがどのように「構造的に構成されている」かを記載している場合、そのような記載は、当該コンポーネントが存在する物理的状態を示しており、従って、当該コンポーネントの構造的特徴を明確に示す記載と見なすべきである。
【0061】
本明細書において、「好ましくは(preferably)」、「一般に(commonly,)」、「典型的に(typically)」などの用語は、特許請求の範囲の範囲を限定するために用いるものではないこと、また、特許請求の範囲の構造または機能にとって特定の特徴が決定的または必須なものであること、さらには重要であることを示唆するために用いるものではないことに留意されたい。むしろ、これらの用語は、単に、本開示のある実施形態の特定の態様であること明らかにすること、または、本開示のある特定の実施形態において使用してもしなくてもよい代替的もしくは追加的特徴であることを強調することを意図したものに過ぎない。
【0062】
本明細書において、本開示を説明および定義するために、「実質的に(substantially)」および「約(about)」という用語を使用する場合、いずれの定量的比較、値、測定値などの表現においても生じ得るそれらに特有な程度の不確実性を表すものである。また、本明細書では、対象となる主題の基本的な機能を変化させることのない範囲で、ある定量的表現が記載された基準値から変動することが可能な程度を表すためにも、「実質的に」および「約」という用語を使用している。
【0063】
以下の特許請求の範囲において、1つ以上の請求項が「wherein」という用語を移行句として用いている。この用語は、本開示を定義する目的で、構造の特徴を列挙する記載を導入するための非限定的な移行句として請求項に組み込まれるものであり、より一般的な非限定的な前提部分用語「を含む/備える(comprising)」と同様に解釈すべきものである。
【0064】
以上、本開示の主題をその特定の実施形態を参照しながら詳細に説明したが、本明細書に開示する様々な詳細が本明細書に記載の種々の実施形態に不可欠な構成要素に関するものであると示唆していると見なすべきではないことに留意されたい。なお、これは、特定の要素が本明細書に添付の図面のすべてに図示されている場合であっても当てはまる。さらに、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲に定義され、実施形態を含むがこれに限定されるものではないが、そのような本開示の範囲から逸脱しない範囲で変形や変更を加えることができることは明らかであろう。より詳細には、本開示のいくつかの態様は、本明細書において好ましいまたは特に有利なものと特定されてはいるが、本開示は、必ずしもこれらの態様に限定されるものではないことが企図されている。
【0065】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0066】
実施形態1
第1の面と、該第1の面の反対側の第2の面と、該第1の面と該第2の面との間に板厚とを有するガラス板の前記第1の面にスクライビングホイールを係合させるステップと、
前記スクライビングホイールを、前記ガラス板の前記第1の面に沿って少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させるステップと、
前記スクライビングホイールが前記ガラス板の前記第1の面に沿って移動するときに、前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持するステップと、
前記スクライビングホイールによって、前記第1の面の長さに沿って延在するとともに前記ガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、
を含むガラス板の分離方法であって、
前記メディアンき裂の前記ガラス板の内部に延びるき裂深さは、前記板厚より小さく、前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記き裂深さの変化量は、約2.0%未満である、方法。
【0067】
実施形態2
前記力を加えるステップが、前記スクライビングホイールに連結したエアシリンダで、前記ガラス板に直交する第1の方向における前記スクライビングホイールの位置を維持することを含む、実施形態1に記載の方法。
【0068】
実施形態3
前記エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールで、前記エアシリンダの前記ロッドの移動を制限するステップをさらに含み、
前記直動ガイドレールは、前記第1の方向への前記ロッドの移動を許容し、前記第1の方向に直交する方向への前記ロッドの移動を制限するものである、実施形態2に記載の方法。
【0069】
実施形態4
前記力を加えるステップが、前記エアシリンダを介して前記スクライビングホイールに連結した第1のアクチュエータで、前記第1の方向における前記スクライビングホイールの前記位置を維持することを含む、実施形態2に記載の方法。
【0070】
実施形態5
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記メディアンき裂の前記き裂深さの変化量が約1.5%未満である、実施形態1に記載の方法。
【0071】
実施形態6
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記メディアンき裂の前記き裂深さの変化量が約1.0%未満である、実施形態1に記載の方法。
【0072】
実施形態7
前記スクライブ速度が少なくとも毎分約40メートルである、実施形態1に記載の方法。
【0073】
実施形態8
前記スクライブ速度が少なくとも毎分約45メートルである、実施形態1に記載の方法。
【0074】
実施形態9
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記き裂深さの変化量が約5マイクロメートル未満である、実施形態1に記載の方法。
【0075】
実施形態10
前記板厚が約0.5ミリメートル未満である、実施形態1に記載の方法。
【0076】
実施形態11
前記板厚が約0.30ミリメートルである、実施形態1に記載の方法。
【0077】
実施形態12
前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで前記力を加えるステップが、前記所定の力の約0.2ニュートン以内の力を維持することをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
【0078】
実施形態13
スクライビングホイールと、
レギュレータと、
前記スクライビングホイールに連結され、前記レギュレータと連通するエアシリンダと、
前記エアシリンダに連結された第2のアクチュエータと、
前記レギュレータおよび前記第2のアクチュエータに通信可能に連結されたコントローラであって、プロセッサと、コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを含むメモリとを備えるコントローラと、
を備えるガラス切断システムであって、
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、
前記レギュレータに指示して、前記エアシリンダによって、ガラス板の第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約1.0ニュートン以内の力を加え、維持させるステップと、
前記第2のアクチュエータに指示して、前記スクライビングホイールを前記ガラス板に沿って、少なくとも毎分約35メートルのスクライブ速度で移動させ、それにより、前記第1の面の長さに沿って延在するとともに前記ガラス板の内部に延びるメディアンき裂を形成するステップと、
を実行し、
前記メディアンき裂の前記ガラス板の内部に延びるき裂深さは、前記ガラス板の板厚より小さく、前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記き裂深さの変化量は、約5マイクロメートル未満である、ガラス切断システム。
【0079】
実施形態14
前記エアシリンダに連結された第1のアクチュエータをさらに備える、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【0080】
実施形態15
前記第1のアクチュエータは、前記コントローラに通信可能に連結され、
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記第1のアクチュエータに指示して、前記ガラス板の前記第1の面に向かって前記エアシリンダを移動するステップをさらに実行する、実施形態14に記載のガラス切断システム。
【0081】
実施形態16
前記エアシリンダのロッドと係合する直動ガイドレールをさらに備え、
前記直動ガイドレールは、前記ガラス板に直交する第1の方向への前記ロッドの移動を許容し、前記第1の方向に直交する方向への前記ロッドの移動を制限するものである、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【0082】
実施形態17
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記第2のアクチュエータに指示して、前記スクライビングホイールを前記ガラス板に沿って、少なくとも毎分約40メートルのスクライブ速度で移動させるステップを実行する、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【0083】
実施形態18
前記プロセッサが前記コンピュータによる読み取りと実行が可能な命令セットを実行した場合に、前記プロセッサは、前記レギュレータに指示して、前記エアシリンダによって、前記ガラス板の前記第1の面に、前記スクライビングホイールで所定の力の約0.2ニュートン以内の力を加え、維持させるステップをさらに実行する、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【0084】
実施形態19
前記第1の面上の前記メディアンき裂の前記長さに沿った前記メディアンき裂の前記き裂深さの変化量が約1.5%未満である、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【0085】
実施形態20
前記ガラス板の前記第1の面に前記スクライビングホイールで力を加えるステップが、前記力を前記所定の力の約0.2ニュートン以内に維持することを含む、実施形態13に記載のガラス切断システム。
【符号の説明】
【0086】
100 ガラス切断システム
110 第1のアクチュエータ
111 第2のアクチュエータ
112 アクチュエータプレート
113 第3のアクチュエータ
114 シリンダプレート
115 レギュレータ
116 第1のガイド
117 変位センサ
120 エアシリンダ
122 本体
124 ロッド
130 直動ガイドレール
140 スクライビングホイール
160 コントローラ
162 プロセッサ
164 データ記憶コンポーネント
166 メモリコンポーネント
200 ガラス板
202 第1の面
204 第2の面
206 第1の縁
208 第2の縁
210 メディアンき裂
230 凹部
232 間隙
【国際調査報告】