(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】耐食性ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20230412BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20230412BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20230412BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
C22C19/05 E
C22C19/05 B
C22F1/10 H
C22C30/00
C22F1/00 650B
C22F1/00 640A
C22F1/00 627
C22F1/00 640D
C22F1/00 683
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 630M
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 641B
C22F1/00 641A
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 692B
C22F1/00 684C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554587
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(85)【翻訳文提出日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 US2021021418
(87)【国際公開番号】W WO2021183459
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522357183
【氏名又は名称】エイティーアイ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ATI Inc.
【住所又は居所原語表記】116 15th Street,Suite 301,Pittsburgh,PA 15222 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メック,ナセラ サブリナ
(72)【発明者】
【氏名】バーグストロム,デイビッド エス.
(72)【発明者】
【氏名】ダン,ジョン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ベリー,デイビッド シー.
(57)【要約】
改良された耐局部腐食性、耐応力腐食割れ(SCC)性、及び衝撃強度を有するニッケル基合金を開示する。改良は、有害な相が生成されにくい合金組成と、耐食性、衝撃強度及び耐SCC性を向上させる合金元素の添加による。本発明のニッケル基合金は、制御された量のNi、Cr、Fe、Mo、Co、Cu、Mn、C、N、Si、Ti、Nb、Al及びBを有する。ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理又は溶接に付されると、耐食性を保持し、かつ、望ましい衝撃強度を保有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル基合金であって、
38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、3~7重量%のMo、及び0.1~10重量%のCoを含み、前記ニッケル基合金が、
ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである特性、
ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である特性、
ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である特性、及び
ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である特性、
のうちの少なくとも1つの特性を有する、ニッケル基合金。
【請求項2】
Niを39~50重量%、Crを20~25重量%、Feを15~30重量%、Moを3.5~6.5重量%、Coを0.2~4重量%含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項3】
Niを40~48重量%、Crを21~25重量%、Feを16~29重量%、Moを4~6.5重量%、Coを0.25~2.6重量%含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項4】
0.1~4重量%のCu、及び0.1~3重量%のMnをさらに含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項5】
0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.1重量%のTi、0.01~0.2重量%のNb、0.02~0.3重量%のAl、及び0.0002~0.005重量%のBをさらに含む、請求項4に記載のニッケル基合金。
【請求項6】
0.2~3重量%のCu、及び0.2~2.5重量%のMnをさらに含む、請求項4に記載のニッケル基合金。
【請求項7】
0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.08重量%のTi、0.02~0.15重量%のNb、0.04~0.25重量%のAl、及び0.0004~0.0035重量%のBをさらに含む、請求項6に記載のニッケル基合金。
【請求項8】
0.25~2重量%のCu、及び0.25~2重量%のMnをさらに含む、請求項4に記載のニッケル基合金。
【請求項9】
0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.07重量%のTi、0.02~0.1重量%のNb、0.06~0.25重量%のAl、及び0.0010~0.0030重量%のBをさらに含む、請求項8に記載のニッケル基合金。
【請求項10】
前記ニッケル基合金は0.01重量%未満のMgを含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項11】
前記ニッケル基合金は0.01~0.1重量%のTiをさらに含む、請求項10に記載のニッケル基合金。
【請求項12】
前記ニッケル基合金は0.3重量%未満のVを含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項13】
前記ニッケル基合金は0.3重量%未満のWを含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項14】
前記ニッケル基合金は0.010重量%以下のCを含む、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項15】
前記ニッケル基合金は少なくとも40のPRENを有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項16】
前記ニッケル基合金は40~45のPRENを有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項17】
前記ニッケル基合金は、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項18】
前記ニッケル基合金は、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項19】
前記ニッケル基合金は、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項20】
前記ニッケル基合金は、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項21】
前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理が施される、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項22】
前記クラッディング後熱処理後のニッケル基合金は、シグマソルバスが2,000°F未満である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項23】
前記シグマソルバスは1,846~1,996°Fである、請求項22に記載のニッケル基合金。
【請求項24】
前記クラッディング後熱処理が施されたニッケル基合金は、N
vが2.4未満である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項25】
前記N
vが2.154~2.331である、請求項24に記載のニッケル基合金。
【請求項26】
前記クラッド後熱処理が施されたニッケル基合金は、メタルdが0.87未満である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項27】
前記メタルdが0.852~0.865である、請求項26に記載のニッケル基合金。
【請求項28】
前記ニッケル基合金が、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項29】
前記シャルピー衝撃エネルギーが少なくとも110フィート-ポンドである、請求項28に記載のニッケル基合金。
【請求項30】
前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも85%である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項31】
前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも90%である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項32】
ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーは、クラッディング後熱処理された状態における前記ニッケル基合金のシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギー以上である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項33】
クラッド後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項34】
クラッド後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項35】
クラッド後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、請求項21に記載のニッケル基合金。
【請求項36】
ニッケル基合金を製造する方法であって、
前記ニッケル基合金が、38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、0.1~10重量%のCo、及び3~7重量%のMoを含み、前記方法は、
前記ニッケル基合金のインゴットを均質化することと、
前記均質化されたインゴットを加工して、スラブ又はビレットを形成することと、
さらに熱間圧延して、プレート状、棒状、又は管状の製品を生成することと、
前記製品をアニーリングすることと、及び
前記アニーリングした製品を冷却することと、を含み、
前記ニッケル基合金が、
ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである特性、
ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である特性、
ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である特性、及び
ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である特性、のうちの少なくとも1つの特性を有する、方法。
【請求項37】
前記製品を、クラッディング後熱処理又は溶接熱影響部に付すことをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記クラッディング後熱処理は、1,100~1,800°Fの温度で行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記クラッディング後熱処理は、第1の温度及び/又は前記第1の温度よりも低い第2の温度の何れかで行われる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記クラッディング後熱処理された製品は、2,000°F未満のシグマソルバスを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記クラッディング後熱処理された製品は、2.4未満のN
vを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記クラッディング後熱処理された製品は、0.87未満のメタルdを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記クラッディング後熱処理された製品は、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも85%である、請求項36に記載の方法。
【請求項45】
前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも90%である、請求項36に記載のニッケル基合金。
【請求項46】
ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーは、クラッディング後熱処理された状態における前記ニッケル基合金のシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギー以上である、請求項36に記載のニッケル基合金。
【請求項47】
前記クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、請求項36に記載のニッケル基合金。
【請求項48】
前記クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、請求項36に記載のニッケル基合金。
【請求項49】
前記クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、請求項36に記載のニッケル基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2020年3月9日に出願された米国仮特許出願第62/987,154号の利益を主張し、該出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、良好な耐食性、機械的特性及び溶接性を有するニッケル基合金に関する。
【背景技術】
【0003】
この背景セクションに記載される内容は、必ずしも先行技術として認められるものではない。
【0004】
従来のNi基625合金(UNS N06625)は、その優れた耐食性能から石油、ガス、化学処理産業で最も多く使用されているNi-Cr材料の一つである。しかし、625合金はコストが高い。従来のNi基825合金(UNS N08825)は、これらの産業で広く使用されているNi-Fe-Cr材料である。825合金は、625合金よりも安価であるが、耐食性は625合金よりも実質的に低く、特に高塩化物の水環境では応力腐食割れや孔食、隙間腐食が発生することがある。
【0005】
例えば、スーパーオーステナイト系合金やスーパー二相合金などのように、825合金と625合金の間の耐食性特性を有する材料は数多くある。このような合金は多くの用途に適しているが、その一方で、このような合金があまり適さない用途もある。そのような2つの用途として、熱間圧延で接合された管(hot-roll bonded pipe)(HRBP)とバイメタル加工で作製された容器がある。これらの製品の製造では、625合金や825合金などの耐食合金は、炭素鋼又は他の基材に接合又はクラッドされる。使用される接合方法によっては、溶接、クラッディング、及び/又は成形後に熱処理を行う必要がある。このようなクラッド後の熱処理(post-clad heat treatment)(PCHT)は、炭化物、窒化物、シグマなどの金属間相が生成し得る温度範囲で行われることが多い。これらの相は、多くのニッケル基合金やすべてのスーパーオーステナイト系及びスーパー二相合金の耐食性及び衝撃強度に有害である。
【0006】
従来の625合金や825合金は、スーパーオーステナイト系合金やスーパー二相合金よりもPCHT後におけるそれら特性の維持が実質的に良好であるため、非クラッド製品並びにHRBP及びバイメタル加工容器などのクラッド製品の材料として従来から選択されている。HRBPやバイメタル加工容器等のようにPCHTを必要とするクラッド製品に適したコスト、塩化物の孔食性、SCC特性の組合せの点で、625合金と825合金との間のギャップを適切に埋めることができる工業用合金は知られていない。
【0007】
米国特許第4,545,826号及び同第10,174,397号に開示された幾つかの合金は、孔食性を高めるために、825合金のMo、Cr及び/又はNの含有量を増加させることにより、625合金と825合金との間の耐食性ギャップを埋める問題を解決しようとしたものである。しかし、これらの合金は、応力腐食割れ(SCC)などの腐食破壊を受けやすく、PCHT中に脆化する可能性がある。PCT出願WO2018/029305に開示された合金等の他の合金は、Niを50%をはるかに超えて増加させることによって耐SCC及び脆化の問題に対処するものであるが、そのような高Ni含有量は、625合金に関するコスト削減の大部分又はすべてを打ち消してしまう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、好ましい耐食性特性を有するニッケル基合金を含み、前記耐食性特性には、良好な耐局部腐食性、耐応力腐食割れ性、耐粒界腐食性が含まれる。ニッケル基合金はまた、良好な機械的性質と溶接性を有する。これは、有害な相が生成されにくい合金組成と、耐食性、機械的特性及び溶接性を向上させる合金元素の添加によるものである。このニッケル基合金は、良好な耐食性と衝撃強度を保持したまま、クラッディング後熱処理又は溶接工程に付されてもよい。本発明のニッケル基合金は、非クラッド製品並びにHRBP及びバイメタル容器などのクラッド製品用の825合金及び625合金の代替材料として好適である。また、本発明のニッケル基合金は、他の用途、特に、相安定性、耐塩化物孔食性、耐SCCの向上が求められる用途において、スーパーオーステナイト系合金やスーパー二相合金の代替材料として使用されることもできる。本発明のNi基合金は、625合金よりも低コストで、825合金と同等以上の耐SCC性、耐孔食性、耐すきま腐食性、耐粒界腐食性を有し、スーパーオーステナイト系やスーパー二相合金に比べてPCHT等の熱処理や溶接加工等の高温加工後の特性劣化に対する抵抗が大きい。
【0009】
本発明の一態様は、38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、3~7重量%のMo、及び0.1~10重量%のCoを含むニッケル基合金を提供することである。このニッケル基合金は、ASTM E23-18に準拠した-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが100ft-lbs(フィート-ポンド)以上;ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°Fより高温;ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満;及びASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れが1000時間より長時間、の特性の少なくとも1つの特性を有する。
【0010】
本発明の他の態様は、38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、0.1~10重量%のCo、及び3~7重量%のMoを含むニッケル基合金を製造する方法を提供することである。この方法は、ニッケル基合金のインゴットを均質化する(homogenize)ことと、均質化されたインゴットを加工してスラブ又はビレットを形成することと、さらに熱間圧延して板状又は棒状又は管状の製品を形成することと、当該製品をアニーリングすることと、及びアニーリングされた製品を冷却することと、を含む。このニッケル基合金は、ASTM E23-18に準拠した-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが100フィート-ポンド以上;ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°Fより高温;ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満;及びASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れが1000時間より長時間、の特性の少なくとも1つの特性を有する。
【0011】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書に記載された本発明の様々な特徴及び特性は、添付の図を参照することにより、より完全に理解され得る。
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の各種ニッケル基合金について計算したシグマソルバス温度を比較合金と比較したグラフである。
【0014】
【
図2】
図2は、本発明のニッケル基合金が溶体化焼鈍された状態(solution annealed condition)の光学顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本発明のニッケル基合金のPCHT状態の光学顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、比較合金の溶体化焼鈍状態の光学顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、比較合金のPCHT状態の光学顕微鏡写真である。
【0015】
【
図6】
図6は、本発明のニッケル基合金の溶体化焼鈍状態のSEM写真であり、上の画像は下の画像よりも低倍率で撮影している。
【
図7】
図7は、本発明のニッケル基合金のPCHT状態のSEM写真であり、上の画像は下の画像よりも低倍率で撮影している。
【0016】
【
図8】
図8は、比較合金の溶体化焼鈍状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低倍率で撮影している。
【
図9】
図9は、比較合金のPCHT状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低倍率で撮影している。
【0017】
【
図10】
図10は、他の比較合金の溶体化焼鈍状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【
図11】
図11は、他の比較合金のPCHT状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【0018】
【
図12】
図12は、他の比較合金の溶体化焼鈍状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【
図13】
図13は、他の比較合金のPCHT状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【0019】
【
図14】
図14は、他の比較合金の溶体化焼鈍状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【
図15】
図15は、他の比較合金のPCHT状態のSEM写真であり、上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【0020】
【
図16】
図16は、長手方向のシャルピー衝撃エネルギーのグラフであって、本発明の様々なニッケル基合金を、PCHT無しとPCHT有りの両方で比較合金と比較したものであり、PCHT後の衝撃強度の低下は、本発明合金が比較合金よりも少ないことを示している。
【0021】
【
図17】
図17は、幅方向のシャルピー衝撃エネルギーのグラフであって、本発明の様々なニッケル基合金を、PCHT無しとPCHT有りの両方で比較合金と比較したものであり、PCHT後の衝撃強度の低下は、本発明合金が比較合金よりも少ないことを示している。
【0022】
【
図18】
図18は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における降伏強度を比較したグラフである。
【0023】
【
図19】
図19は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における引張強度を比較したグラフである。
【0024】
【
図20】
図20は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態におけるパーセント伸びを比較したグラフである。
【0025】
【
図21】
図21は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態におけるロックウエルC硬度を比較したグラフである。
【0026】
【
図22】
図22は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態におけるシャルピー衝撃エネルギーを比較したグラフである。
【0027】
【
図23】
図23は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における臨界孔食温度を比較したグラフである。
【0028】
【
図24】
図24は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における粒界腐食速度を比較したグラフである。
【0029】
【
図25】
図25は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における耐応力腐食割れを比較したグラフである。
【0030】
【
図26】
図26は、本発明のニッケル基合金の溶接ゾーンの光学顕微鏡写真である。
【0031】
【
図27】
図27は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態における粒界腐食速度を比較したグラフである。本発明のニッケル基合金の溶接部の粒界腐食速度についても示されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<詳細な説明>
本発明のニッケル基合金は、制御された量のNi、Cr、Fe、Mo及びCoを有し、制御された量のCu、Mn、C、N、Si、Ti、Nb、B及びAlを有してもよい。このような合金化添加物は、以下の表1に示される含有量で提供されることができる。加工性を向上させる技術的な利点を目的として調整される他の元素として、V、W、Mg、及び希土類金属を含んでもよい。P、S、Oなどの元素は、不可避的不純物として微量存在してもよいが、このような元素は本発明のニッケル基合金には意図的に添加されない。本明細書において用いられる「付随的不純物」とは、ニッケル基合金組成物に合金化添加物として意図的に添加されない元素であり、不可避的な不純物として、又は微量に存在する元素を意味する。本発明の合金組成物について「実質的に含まない」という用語は、ある元素が付随的不純物としてのみ存在することを意味する。
【表1】
【0033】
上記表1に示されるように、本発明のニッケル基合金は、重量パーセントにて、Ni38.0~60.0、Cr19.0~25.0、Fe15.0~35.0、Mo3.0~7.0、及びCo0.1~5.0を含むことができる。ニッケル基合金は、追加元素として、重量パーセントにて、Cu0.1~4.0、Mn0.1~3.0、C≦0.030、N≦0.15、Si≦1.0、Ti≦0.10、Nb≦0.20、Al≦0.30、B≦0.0050、V≦0.3、W≦0.3、及びMg≦0.01、又はこれらの追加元素の任意の組合せをさらに含むことができる。表1に示した実施例の組成は、実現可能性のある本発明のニッケル基合金を例示したものである。
【0034】
Cr、Mo及びNの量は、十分な耐孔食性が得られるように選択されることができる。耐孔食指数(Pitting Resistance Equivalent Number)(PREN)は、式PREN=%Cr+3.3(%Mo)+16(%N)に基づいて算出される。PRENが高いほど、塩化物による孔食や隙間腐食に対する耐性が良好である。ニッケル基合金のPRENは、少なくとも40であり、幾つかの実施例では、41以上、45以下であり得る。
【0035】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Niを38.0~60.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲で、例えば、38.0~55.0;39.0~50.0;39.0~49.0;39.5~50.0;39.5~49.5;40.0~50.0;40.0~49.0;40.0~48.0;40.5~49.5;41.0~48.0;41.5~48.0;41.5~47.5;42.0~48.0;41.5~46.5;41.5~46.0;42.0~46.0;42.5~48.0;41.5~45.5;又は41.5~44.0を含むことができる。38.0~60.0重量%のNi、及び幾つかの実施態様では40.0~48.0重量%のNiは、耐応力腐食割れ性、相安定性、良好な機械特性及び成形性(fabricability)を提供する。しかしながら、材料性能を維持しながらNi含有量を低減するために、Ni含有量は40.0~48.0重量%の範囲、又は前記範囲に包含される任意の範囲に維持されることができる。特定の合金では、Ni含有量は48.0重量%未満、又は47.0重量%未満、又は46.0重量%未満、又は45.0重量%未満、又は44.0重量%未満である。また、特定の合金では、ニッケル含有量は38.0重量%超、又は38.5重量%超、又は39.0重量%超、又は39.5重量%超、又は40.0重量%超、又は40.5重量%超、又は41.5重量%超、又は42.0重量%超、又は42.5重量%超である。
【0036】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Crを19.0~25.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲で、例えば、20.0~25.0;21.0~25.0;22.0~25.0;20.0~24.0;21.0~24.0;22.0~24.0;20.0~23.0;21.0~23.0;22.0~23.0;21.5~24.5;21.5~23.5;又は21.5~23.0を含むことができる。19.0~25.0重量%のCr、又は幾つかの実施態様では21.0~25.0重量%のCrは、酸化性腐食性媒体、塩化物による孔食及び隙間腐食に対する抵抗性を提供する。特定の合金では、Cr含有量は19.0重量%超、又は19.5重量%超、又は20.0重量%超、又は20.5重量%超、又は21.0重量%超、又は21.5重量%超、又は22.0重量%超である。特定の例として、Crの含有量は約22重量%であってもよい。Crを過剰に添加すると、例えば25.0重量%を超えると、有害な相の形成を促進することがある。
【0037】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Moを3.0~7.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲で、例えば、3.0~6.5;3.5~6.5;4.0~6.5;4.5~6.5;5.0~6.0;4.5~6.0;又は5.0~6.0を含むことができる。3.0~7.0重量%のMo、又は幾つかの実施態様では4.0~6.5重量%のMoは、非酸化(還元)腐食性媒体、塩化物による孔食及び隙間腐食、応力腐食割れに対する抵抗性を提供する。特定の合金では、Mo含有量は7.0重量%未満、又は6.5重量%未満、又は6.0重量%未満、又は5.8重量%未満である。特定の実施例では、Mo含有量は約5.5重量%であってよい。Moが多すぎる場合、例えば7.0重量%を超えると、有害な相の形成を促進することがある。耐食性を向上させるためにMoを増やす場合、有害な相の生成を抑え、機械的特性を低下させないために、他の組成の変化とバランスさせることができる。
【0038】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Coを0.1~5.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.1~4.0;0.1~3.0;0.10~2.60;0.2~4.5;0.2~4.0;0.2~3.5;0.2~3.0;0.20~2.60;0.25~3.50;0.25~3.00;又は0.25~2.60を含むことができる。0.1~5.0重量%のCo、又は幾つかの実施態様では0.25~2.60重量%のCoは、上記のNiの含有量と組み合わせて、応力腐食割れ(SCC)に対する抵抗力を増加させると共に、望ましい衝撃強度をもたらし、固溶強化を提供する。Coの添加は、衝撃靱性及び耐SCC性に有益な効果をもたらすことができ、その効果は本明細書に記載された他の合金化添加物(alloying additions)により向上させることができる。特定の合金では、Co含有量は0.25重量%超、又は0.5重量%超、又は1.0重量%超、又は1.5重量%超であってよい。しかしながら、Coは比較的高価な元素であるため、幾つかの実施形態では、Co含有量は、材料性能を向上させながらコストを制御するために、0.1~3.0重量%の範囲、又は前記範囲に含まれる任意の範囲、例えば0.25~2.60重量%に維持されることができる。
【0039】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Cuを0.1~4.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.2~4.0;0.2~3.0;0.2~2.5;0.2~2.0、又は0.25~2.00を含むことができる。0.1~4.0重量パーセントのCu、又は幾つかの実施態様では0.2~2.0重量パーセントのCuは、硫酸などの還元環境に対する耐食性をもたらし、H2Sの存在下でクラック発生に対する抵抗性を高めることができる。しかしながら、Cuが多すぎると、例えば4.0重量%を超えると、熱間加工性や熱安定性に悪影響を及ぼす。
【0040】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Mnを0.1~3.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.2~3.0;0.2~2.5;0.2~2.0;0.25~2.00;又は0.25~1.50を含むことができる。0.1~3.0重量パーセントのMn、又は幾つかの実施態様では0.25~2.00重量パーセントのMnは、Nの溶解性及び強度の向上をもたらす。Mnの添加量が多すぎる場合、例えば3.0重量%を超えると、衝撃強度や局部腐食の抵抗性が低下することがある。
【0041】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Siを最大1.0含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.9以下;0.75以下;0.6以下;0.5以下;0.4以下;0.001~1.0;0.001~0.9;0.001~0.75;0.001~0.6;0.001~0.5;0.001~0.4;0.01~1.0;0.01~0.50;0.01~0.40;0.05~1.0;0.05~0.50;0.05~0.40;0.10~0.50;又は0.10~0.40を含むことができる。Siは、有害な相の形成の動力学を増加させる効果があり、そのため、1重量%以下に制限されるべきであり、幾つかの実施態様では、0.5重量%以下又は0.4重量%以下に制限されるべきである。原材料には通常、少量のSiが含まれており、Si含有量を約0.05%未満まで下げることは可能であるが、合金のコストを不必要に上昇させることになる。
【0042】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Nを最大0.15まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.1以下;0.075以下;0.001~0.15;0.001~0.10;0.001~0.075;0.005~0.12;0.005~0.10;0.005~0.075;0.01~0.10;0.01~0.075;又は0.015~0.075を含むことができる。0.15重量%までのN、又は幾つかの実施態様では、0.01~0.1重量%のNは、強度と塩化物による孔食や隙間腐食に対する抵抗性をもたらす。Nが多すぎると、例えば0.15重量%を超えると、クロム窒化物を生成し、耐食性や機械的性質に悪影響を及ぼすことがある。
【0043】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Tiを最大0.1まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.01~0.10;0.01~0.08;0.01~0.07;0.01~0.06;0.01~0.05;又は0.01~0.04を含むことができる。0.1重量パーセントまでのTi、又は幾つかの実施態様では0.01~0.07重量パーセントのTiは、優先的にC不純物と反応してチタン炭化物を形成して、CrとCとの反応を低減又は排除する。CrとCが反応すると、クロム炭化物粒子の周りにCr欠乏ゾーンが生成され、腐食の開始サイトを生じさせる。
【0044】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Nbを0.2まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.01~0.20;0.02~0.15;0.02~0.10;0.025~0.10;0.025~0.095;0.025~0.090;又は0.02~0.09を含むことができる。0.2重量パーセントまでのNb、又は幾つかの実施態様では0.02~0.1重量パーセントのNbは、優先的にC不純物と反応してニオブ炭化物を形成して、CrとCとの反応を低減又は排除する。CrとCが反応すると、クロム炭化物粒子の周りにCr欠乏ゾーンが生成され、腐食の開始サイトを生じさせる。
【0045】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Bを0.005まで含むことができ、又は前記範囲包含される任意の範囲、例えば、0.0001~0.0050;0.0002~0.0050;0.0004~0.0035;0.0005~0.0050;0.0009~0.0030;0.0010~0.0030;又は0.0010~0.0020を含むことができる。0.005重量パーセントまでのB、又は幾つかの実施態様では0.001~0.003重量パーセントのBは、粒界を強化して、熱間加工性を向上させる。約0.005を超えるBは、有害なホウ化物析出物の生成を引き起こし得る。
【0046】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Cを0.030まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.015以下;0.010以下;0.007以下;0.001~0.030;0.001~0.015;0.001~0.007;0.002~0.007;又は0.003~0.007を含むことができる。0.030重量パーセント以下のC、又は幾つかの実施態様では0.015重量パーセント以下のCは、強度を向上させるが、Crと結合して粒界に有害な炭化クロム粒子を形成し、周囲領域のCrを枯渇させることもある。これは粒界鋭敏化(boundary sensitization)と称される。Cを低くすることで、鋭敏化の発生を最小限に抑えることができる。このため、Cを0.03重量%未満に維持することが好ましく、Cを0.01重量%以下にすることがより好ましい。
【0047】
本発明の幾つかの実施態様では、ニッケル基合金は、Mgを実質的に含まない。なお、「実質的に含まない(substantially fee)」という用語は、Mgがニッケル基合金に合金化添加物として意図的に添加されておらず、微量又は付随的な不純物としてのみ存在することを意味する。このようなMgを含まない合金は、製造時のエッジクラッキングに対する抵抗性を付与するために、上記した量のTiを含んでもよい。他の実施態様では、熱間加工性を向上させるために、ニッケル基合金に少量のMgを、例えば、最大0.01重量%まで添加することができる。Mgは、重量パーセントで、0.01まで添加されることができ、又はその範囲内で、例えば、0.005以下、0.001~0.01、又は0.001~0.005を添加することができる。
【0048】
ニッケル基合金は、重量パーセントで、Alを0.30まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.25以下;0.20以下;0.15以下;0.10以下、0.01~0.30;0.01~0.25;0.01~0.20;0.01~0.15;0.01~0.10;0.02~0.30;0.03~0.20;0.04~0.25;0.04~0.15;0.05~0.2;0.05~0.15;0.06~0.25;又は0.06~0.15を含むことができる。ニッケル基合金は、重量パーセントで、Vを0.3まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.2以下;0.1以下、又は0.05以下まで含むことができる。ニッケル基合金は、重量パーセントで、Wを0.3まで含むことができ、又は前記範囲に包含される任意の範囲、例えば、0.25以下;0.20以下;0.15以下;0.1以下;0.001~0.3;0.001~0.25;0.001~0.20;0.001~0.15;又は0.001~0.1を含むことができる。
【0049】
ニッケル基合金組成物の残部は、鉄と付随的不純物を含むことができる。幾つかの実施態様では、残部の鉄は、重量パーセントで、15.0~35.0、又は前記範囲に包含される任意範囲、例えば、15.0~30.0;16.0~29.0;18.0~29.0;又は18.5~29.0を含むことができる。
【0050】
本発明のニッケル基合金は、インゴットの冶金学的操業により溶解及び鋳造されることができる。冶金学的操業として、例えば、アルゴン酸素脱炭(AOD)、真空酸素脱炭(VOD)、真空誘導溶解(VIM)、エレクトロスラグ精錬(ESR)、真空アーク再溶解(VAR)の1又は2以上を挙げることができる。本発明のニッケル基合金の鋳造インゴット、スラブ、又はビレットは、例えば、12~96時間の均質化処理に付すことができ、例えば、2,000~2,350°F、又は、前記温度範囲内の2,100~2,200°Fの温度で、前記時間の範囲内の24~72時間、均質化処理に付すことができる。均質化処理された生成物は、次いで、1,600~2,300°Fの温度、又は前記温度範囲内の任意の温度範囲、例えば1,700~2,000°Fの温度で、鍛造などの高温で加工することができる。加工工程では、合金をスラブ又はビレットに成形することができる。これは、例えば、2,000~2,300°Fの温度、又は前記温度範囲内の任意の温度範囲、例えば2,050~2,150°Fの温度で再加熱して、熱間加工し、例えば、プレート、シート、ストリップ、フォイル、バー、管状体、鍛造形状又はコイルなどの所望の厚さを有するミル製品を成形することができる。厚さは、例えば、0.001~4.0インチ、又はその範囲内の任意の範囲であってよい。
【0051】
熱間加工後、本発明のニッケル基合金は、選択された温度、例えば1,750~2,300°F、又は前記範囲内の任意の範囲、例えば1,800~2,150°Fでアニーリングに付すことができる。
【0052】
アニーリングされたプレートは、アニーリング温度から950°F未満の温度まで、例えば、少なくとも300°F/分の速度で急冷されることができる。
【0053】
場合によっては、アニーリングされた材料は、その後、熱間圧延接合管(HRBP)又はバイメタルプロセス容器に従来使用されているクラッディング後熱処理(post-cladding heat treatment)(PCHT)に相当する追加の熱処理が施される。PCHTは、例えば1,100~1,800°Fの温度で実施することができる。場合によっては、PCHTは、異なる温度で複数段階行われることができる。例えば 1,750°Fで1時間、次いで1,100°Fで45分の条件で行うことができる。
【0054】
本発明のニッケル基合金は、ある種の従来のニッケル基合金と比較して、PCHT後の靭性特性の向上を示すことができる。本発明のニッケル基合金の靭性は、ASTM E23-18に規定された「金属材料のノッチ付きバー衝撃試験に関する標準試験方法(Standard Test Methods for Notched Bar Impact Testing of Metallic Materials)」に基づいて測定することができ、このASTM規格は、引用を以てこの明細書に組み込まれる。本発明のニッケル基合金は、上述のPCHT処理の後、ASTM E23-18による-50℃でのシャルピー衝撃エネルギーとして測定される溶体化焼鈍状態の初期靭性の少なくとも85%を保持する。別の言い方をすれば、ASTM E23-18に準拠して-50℃で測定したとき、熱間圧延方向又は他の熱間加工方向に関して長手(longitudinal)方向又は幅(transverse)方向のどちらの方向においても、本発明のニッケル基合金は、上記PCHT状態のシャルピー衝撃エネルギーが、上記溶体化焼鈍状態のシャルピー衝撃エネルギーよりも15%を超えて小さくない。
【0055】
幾つかの実施態様では、上述したPCHTの処理後、本発明のニッケル基合金は、ASTM E23-18に準拠して-50℃で測定されたシャルピー衝撃エネルギーは、上述の溶体化焼鈍状態において、初期靭性の少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%又は95%を維持する。別の言い方をすると、幾つかの実施態様では、-50℃で測定されたシャルピー衝撃エネルギーは、熱間圧延方向又は他の熱間加工方向に関する長手方向又は幅方向の何れの方向においても、本発明のニッケル基合金は、上記PCHT状態のシャルピー衝撃エネルギーが、上記溶体化焼鈍状態のシャルピー衝撃エネルギーよりも、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%又は5%を超えて小さくない。
【0056】
幾つかの実施態様では、上記した本発明のニッケル基合金のPCHT状態でのシャルピー衝撃エネルギーは、-50℃で測定したとき、熱間圧延又は他の熱間加工方向に関して長手方向又は幅方向の何れの方向においても、上記した溶体化焼鈍状態での合金のシャルピー衝撃エネルギーよりも大きい。これに対して、従来の幾つかのニッケル基合金は、PCHT時に測定されたシャルピー衝撃エネルギーが、長手方向に測定した場合、少なくとも19%、場合によっては少なくとも50%減少することを示している。換言すれば、このような従来のNi基合金は、PCHT後の溶体化焼鈍状態では、初期靭性の81%より小さく、場合によっては50%よりも小さい。
【0057】
本発明のニッケル基合金は、上記のPCHT後において、ASTM E23-18に基づいて5mmサイズ(試料片の厚さ)を-50℃で測定したときのシャルピー衝撃エネルギーは、長手方向又は幅方向の何れにおいても、少なくとも100フィート-ポンドであり、幾つかの実施態様では、少なくとも110フィート-ポンド、111フィート-ポンド、113フィート-ポンド、115フィート-ポンド、117フィート-ポンド、119フィート-ポンド、120フィート-ポンド、122フィート-ポンド、123フィート-ポンド、125フィート-ポンド、126フィート-ポンド、又は127フィート-ポンドである。
【0058】
PCHTを施したニッケル基合金は、衝撃強度や破壊靭性などの機械的特性を維持又は向上させながら、耐食性の向上を含む好ましい特性を維持する。機械的試験は、シャルピー衝撃試験、並びに、降伏強度(YS)、極限引張強度(UTS)、伸び率(%E)及び面積減少率(%RA)を測定するための引張試験を含む。腐食試験は、塩化物応力腐食割れ(chloride stress corrosion cracking)(SCC)、臨界孔食温度(critical pitting temperature)(CPT)、及び粒界腐食(intergranular attack)(IGA)を含む。
【0059】
以下の実施例は、本発明の特徴を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものでない。
【実施例】
【0060】
<実施例1>
本発明のニッケル基合金9ヒートと比較合金4ヒートを作成し、それらのミクロ組織とシャルピー衝撃エネルギー特性を評価した。さらに、各ヒートについて、耐孔食指数(PREN)(Cr+3.3Mo+16N)、シグマソルバス温度(sigma solvus temperature)、平均電子空孔数(average electron vacancy number)(N
v)、平均d電子エネルギー(average d-electron energy)(メタル-d)の計算を行った。下記の表2は、9つの発明例のニッケル基合金(ヒート1~9)と4つの比較例合金(ヒートC1~C4)の組成を示す。実験室規模の真空誘導溶解とエレクトロスラグ精錬を用いて、本発明合金実施例と比較合金実施例のインゴットを作製した。インゴットは均質化処理し、2,000°~1,700°Fの温度で直径8インチから6インチに鍛造した。直径6インチの鍛造品の各々を約50ポンドにマルチカットして、パンケーキに鍛造した。このパンケーキをスラブにカットし、再加熱して熱間圧延し、約0.27インチ厚さのプレートを作製した。熱間圧延されたプレートの各プレートは、各ヒートから5つの試験パネルにカットした。
【表2】
【0061】
圧延後、約2,100°F(1,150℃)の温度で溶体化焼鈍(SA)の処理を行った。また、一部の材料には、シミュレートしたクラッド後熱処理(PCHT)を、1750°F(954℃)で第1段階の処理を行い、次いで、1100°F(593℃)で第2段階の処理を行った。試験は、SAとPCHTの両方の状態の試料について実施した。各ヒートの試料は、SAとPCHTの両方の状態においてミクロ組織分析とシャルピー衝撃エネルギーの試験に使用した。
【0062】
表2は、各ヒートのPRENの数値とシグマソルバス温度を示す。シグマソルバス温度は、熱力学計算ソフトThermo-Calcを用いて、各組成について、シグマ相が熱力学的に安定となる最高温度を求めたものである。本発明合金の組成は、PCHT時に有害な相が生成しにくいように最適化されてもよい。熱力学計算ソフトウェアThermo-Calcと、平均電子空孔数(N
v)及び平均d電子エネルギー(M
d又はメタル-d)の標準式は、合金組成に基づく相安定性を計算するために用いられることができる。N
vとM
dに適用可能な式は、Cieslakらの「The Use of New PHACOMP in Understanding Solidification Microstructure of Nickel Base Alloy Weld Metal"Metallurgical Transactions A, Vol.17A (2107-16), December 1986」に記載されており、この文献は引用を以て本願に組み込まれるものとする。シグマソルバスの計算結果は、比較合金と比較して、
図1に示されている。一般に、シグマソルバス温度が低く、N
vとメタル-dの値が小さいほど、相安定性が良好で、有害な金属間化合物が生成しにくいという相関がある。シグマソルバス温度が低いことは、本発明の合金が従来のある種の合金に比べて有害な相を生成しにくいことを示している。この相安定性の向上により、溶体化焼鈍をより低い温度で行うことができるようになり、合金の製造や加工がより簡単に、より低コストで行えるようになる。
【0063】
実施例のヒートは、Ni、Fe、Mo、Mn、N、Co、Cu及びNbの含有量を変化させ、これらの元素の濃度を変化させた場合の新規合金の腐食特性及び機械的特性への影響を測定した。
【0064】
上記表2に示されるように、ヒートNo.1~9の組成物は、Niを約40~48重量パーセントの範囲内で含み、合金化添加物として、約21~23重量パーセントの範囲内でCr、約4.0~6.0重量パーセントの範囲内でMo、約0.25~2.6重量パーセントの範囲内でCo、約0.25~2重量パーセントの範囲内でCu、約0.25~約2重量パーセントの範囲内でMn、約0.01~0.07重量%の範囲内でN、約1.0重量%までの範囲内でSi、約0.01~0.05重量%の範囲内でTi、約0.02~0.1重量%の範囲内でNb、0.06~0.25重量%の範囲内でA1、0.015までの範囲内でC、0.001~0.003の範囲内でBを含み、残部Fe及び付随的不純物である。
【0065】
図2及び
図3は、本発明のニッケル基合金(ヒート2)について、それぞれ、溶体化焼鈍状態及びPCHT状態での顕微鏡写真であり、
図4及び
図5は、比較用の従来合金(ヒートC3)について、それぞれ、溶体化焼鈍状態及びPCHT状態での顕微鏡写真である。すべての試料は、同じエッチング手順にて、シュウ酸中で電解エッチングした。両合金の組織は、溶体化焼鈍状態では同様に見えるが、
図5の暗い粒界領域によって示されるように、シミュレートされたクラッド後熱処理(PCHT)により、有害な相がはるかに多く生じ、従来合金C3の粒界に析出し、データに示されるように、その機械特性及び腐食特性の劣化を引き起こした。これは、本発明合金が、PCHTを必要とする用途により適していることを示している。
【0066】
図6及び
図7は、本発明のニッケル基合金ヒート#6の溶体化焼鈍状態(
図6)及びPCHT状態(
図7)のSEM写真である。上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
図6及び
図7に示される組織は、溶体化焼鈍状態及びPCHT状態の何れにおいても、シグマなどの有害な粒界相を実質的に含まないため、腐食感受性は有意に低下する。
【0067】
図8及び
図9は、比較合金Clの溶体化焼鈍状態(
図8)及びPCHT状態(
図9)のSEM写真である。上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
図9の明るい領域は、粒界に存在するシグマなどの有害相に対応する。比較合金ClのPCHT状態におけるこのような粒界相の存在は、合金の粒界腐食感受性を有意に上昇させる。
【0068】
図10及び
図11は、比較合金C2の溶体化焼鈍状態(
図10)及びPCHT状態(
図11)のSEM写真である。上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
【0069】
図12及び
図13は、比較合金C3の溶体化焼鈍状態(
図12)及びPCHT状態(
図13)のSEM写真である。上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
図13の明るい領域は、粒界に存在するシグマなどの有害相に対応する。比較合金C3のPCHT状態におけるこのような粒界相の存在は、合金の粒界腐食感受性を有意に上昇させる。
【0070】
図14及び
図15は、比較合金C4の溶体化焼鈍状態(
図14)及びPCHT状態(
図15)のSEM写真である。上の画像は、下の画像よりも低い倍率で撮影している。
図15の明るい領域は、粒界に存在するシグマなどの有害相に対応する。比較合金C4のPCHT状態におけるこのような粒界相の存在は、合金の粒界腐食感受性を有意に上昇させる。
【0071】
図16及び
図17は、本発明のニッケル基合金と従来合金について、ASTM E23-18に準拠して、5mm厚のVノッチ衝撃試験の試験片を-50℃で行った試験の測定結果を示すグラフであり、
図16は長手方向のシャルピー衝撃エネルギーのグラフであり、
図17は幅方向のシャルピー衝撃エネルギーのグラフである。両図とも、PCHT状態とPCHT無しの状態を示す。試験結果は、PCHTを施した本発明合金は、従来合金に比べて衝撃強度が高いことを示している。この図で示されるように、殆どの合金は、衝撃エネルギーがPCHT後に低下している。しかし、本発明合金の衝撃エネルギーの減少量(熱間圧延方向に関して、長手方向で4.8%~13.5%、幅方向で2.4%~11.3%)は、比較合金(熱間圧延方向に関して、長手方向で18.8%~51.2%、幅方向で14.1%~46.8%)に比べて、実質的に少ない。換言すれば、本発明合金は長手方向の初期靭性を86.5%~95.2%保持したのに対し、比較合金では長手方向の初期靭性を48.8%~81.2%しか保持することができなかった。また、本発明合金は幅方向の初期靭性を88.7%~97.6%保持したのに対し、比較合金では幅方向の初期靭性を53.2%~85.9%しか保持することができなかった。実際、Co含有量の多い2つの本発明合金(ヒート4とヒート7)では、長手方向の衝撃エネルギーが溶体化焼鈍状態の場合よりも予期し得ぬほどに高い。
【0072】
<実施例2>
上述したヒート6の合金を比較合金C5、C6及びC7と比較した。ヒートC5は、公称6重量%のMoを含む上述のヒートC3と同様の組成を有し、ヒートC6は、従来合金825に対応する上述のヒートC2と同様の組成を有し、ヒートC7は、従来合金625に対応する上述のヒートClと同様の組成を有している。さらに、上述したヒート6と同様の本発明のニッケル基合金を作製し、これをヒート10として、表2にも記載している。ヒート10の組成は、Ni:43.48、Cr:22.00、Fe:24.95:Mo:5.72、Mn:0.17、Si:0.40、Cu:0.97、N:0.05、W:0.066、Co:2.00、Ti:0.001、B:0.0007、P:0.006、S:0.0002、Nb:0.093、Al:0.060、C:0.006、及びV:0.029(重量%)である。ヒート10は、PRENが41.7、Nvが2.260、メタル-dが0.862であった。
【0073】
この実施例では、熱間圧延及び焼鈍した0.270インチ(6.85mm)プレートをシャルピー衝撃試験で用いた以外はすべて、冷間圧延及び焼鈍した0.060インチ(1.5mm)プレートを用いて試験を実施した。すべての材料は、熱間及び冷間圧延後、厚さに応じた時間、2100°F(1150°C)で溶体化焼鈍(SA)を行った。また、一部の材料には、シミュレートしたクラッド後熱処理(PCHT)として、1750°F(954℃)の第1段階と、続いて1100°F(593℃)の第2段階とからなる処理を施した。試験は、SA状態とPCHT状態の両状態の試料について実施した。
【0074】
シャルピー衝撃試験は,ASTM(米国試験材料協会インターナショナル(American Society for Testing and Materials (ASTM) International, 100 Barr Harbor Drive, West Conshohocken, PA, 19428)E23(金属材料のノッチ付きバー衝撃試験に関する標準試験方法)(West Conshohocken, PA: ASTM))に準拠して実施した。0.270インチのプレートからハーフサイズ(0.197インチ[5mm])のシャルピー試料を機械加工し、-58°F(-50℃)で試験を行った。各合金について,溶体化焼鈍状態とPCHT状態の両状態の2つの試料を試験した。試料は幅方向(T-L)の向きに作製した。試験後、衝撃吸収エネルギー、幅方向の伸び、剪断破壊の割合が報告された。
【0075】
引張試験は,ASTM E8(最新版)「金属材料の引張試験の標準試験方法(West Conshohocken, PA: ASTM))に準拠して室温で行った。標準のゲージ長2インチ(50.8mm)の引張試料は、0.060インチ(1.5mm)の材料から長手方向に作製した。各状態の各合金に対して3つの試料を試験し、0.2%オフセット降伏強度、極限引張強度、及び%伸びを求めた。
【0076】
各合金の臨界孔食温度(CPT)は、ASTM G48((最新版)塩化第二鉄溶液を使用したステンレス鋼及び関連する合金の耐孔食性及び耐隙間腐食性のための標準試験方法(West Conshohocken, PA: ASTM)))メソッドCによる試験片を使用して測定した。約1インチ×2インチ(25mm×50mm)の試験片は、0.060インチのシートから剪断した。剪断されたエッジは、研削し、バリを取り除き、240グリットのペーパーで仕上げした。試験片は、蒸留水とアセトンで洗浄し、2つの試験片を各温度で試験した。試験片は、酸性化された塩化第二鉄溶液に浸漬し、溶液温度を5℃(9°F)刻みで上昇させた後、CPTに達するまで試験を繰り返した。CPTは、深さ0.001インチ(0.025mm)以上のピットが形成される最低温度と定義される。
【0077】
耐粒界腐食性は、ASTM G28(最新版)「鍛錬ニッケルリッチ、クロム-軸受合金の粒界腐食に対する感受性を検出するための標準試験法(West Conshohocken, PA: ASTM)」メソッドAを用いて測定した。0.060インチのシートから約1インチ×2インチ(25mm×50mm)の2つの試験片を剪断した。剪断されたエッジは、研削し、バリを取り除き、240グリットのペーパーで仕上げした。試験片は、蒸留水とアセトンで洗浄し、沸騰硫酸第二鉄-硫酸溶液に浸漬した。試験は120時間行い、各試験片の重量損失を求めた。
【0078】
耐応力腐食割れ性は、ASTM G36(最新版)「沸騰塩化マグネシウム溶液中の金属および合金の耐応力腐食割れ性を評価するための6標準試験(West Conshohocken, PA: ASTM)に準拠して、沸騰塩化マグネシウム溶液中で求めた。
1インチ×4インチ(25.4×101.6mm)の2つの試験片は、各合金の0.060インチ(1.5mm)シートからから剪断した。剪断されたエッジは、研削とバリ取りを行い、240グリットのペーパーで仕上げた。各端部から0.5インチ(12.7mm)の2つの穴を開け、次いで試料は、130°F(54°C)の20%HNO3溶液に10分間浸漬して汚染物質を除去し、蒸留水ですすぎ洗いをした。試料は、次いで、直径1インチ(25.4mm)の周囲をU字形状に屈曲させた。これは、現場にて、機器の製造(溶接、成形)、設置、操業(温度勾配)の結果として一般的に経験するのと同様の応力状態を作り出すものである。次いで、U字型曲げ試料の両端をボルトで固定し、脚の間隔を1インチ(25.4mm)に保ち、プラスチック製ワッシャーを使って試料をボルトから絶縁した。アッセンブリは、超音波で洗浄した後、155℃(311°F)の沸騰した45%MgCl2に浸漬した。U字曲げ試料は定期的にクラックの有無をチェックした。試験は、クラックが発生するか、又は浸漬時間が1,008時間に達するまで実施した。
【0079】
0.060インチ(1.5mm)のヒート6合金プレートに、625合金フィラー金属、具体的には、ERNiCrMo-3,3/32”(2.4mm)の溶接ワイヤを使用して、11インチ(279mm)のビードオンプレート溶接部を幾つか作製した。溶接は、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)法によって行った。シールディングガスとバッキングガスにはアルゴンを使用した。電源設定は70アンペア、10.5ボルトを使用した。溶接の完全性をチェックするために、溶接した試料は、溶接面にテンションをかけた状態で、直径1.5インチ(38mm)のダイの周りで180度屈曲させた。溶接部のミクロ組織を調べるために、溶接部の断面を、磨いて、混合酸のエッチング液でエッチングした。
【0080】
ヒート6合金の機械的試験及び腐食試験の結果を、ヒートC5、ヒートC6及びヒートC7合金(N08367)に対して行った同様な試験の結果と比較した。
【0081】
表3は、0.060インチ(1.5mm)の材料について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態で行った引張試験の結果を示す。機械的特性試験結果を
図18~
図21にグラフで示す。2100°F(1150℃)の溶体化焼鈍温度を選択したのは、試験したすべての合金に対して、完全な溶体化処理を確実に行うためである。このため、より低い温度で焼鈍した場合にこれらの合金が一般的に得られるであろう強度よりも低くなった。ヒート6合金とヒートC6合金の引張特性は、PCHT後に認識し得る程の変化がないことは大きな意義を有する。しかしながら、ヒートC5合金の強度は実質的に上昇する。これは、PCHT中に望ましくない金属間化合物が析出したためと考えられる。
【表3】
【0082】
表4は、幅方向(T-L)の向きに作られた0.197インチ(5mm)の試料に対して-58°F(-50℃)で実施したシャルピー衝撃試験の結果を示している。シャルピー衝撃エネルギー試験結果は
図22にグラフで示されている。試料は、2100°F(1150℃)の溶体化焼鈍の後と、1750°F(954℃)及び1100°F(593℃)の2段階のPCHTの後に試験を行った。このデータは、すべての試料は100%剪断破壊面を有し、劈開破壊の領域は無かったことを示している。また、破壊したすべての試料の幅方向伸び(lateral expansion)もかなり大きく、39~60ミル(1.0~1.5mm)の範囲であった。しかしながら、吸収エネルギーに関しては、合金間で有意の差異があった。
【表4】
【0083】
溶体化焼鈍した状態では、ヒート6、ヒートC6(825合金)、ヒートC5(6Mo合金)はすべて、同程度のエネルギー吸収量であったが、ヒートC7(625合金)のエネルギー吸収量は少なかった。PCHTの後、ヒート6合金とヒート7合金が吸収したエネルギー量には事実上の変化はなかったが、他の合金が吸収したエネルギー量は有意に減少した。この挙動の違いは、ヒート6合金の相安定性の向上によるものと説明することができる。PCHT時の有害相の析出は、合金の一部を脆化させ、破壊時に吸収されるエネルギー量を減少させる。
【0084】
シャルピー衝撃試験結果を裏付けるためと、幾つかの参照合金における有害相の存在を確認するために、破壊された衝撃試験試料の断面について金属組織学的解析を行った。金属組織学的試料を載置し、研磨した後、シュウ酸中で6Vの電位で90秒間、電解エッチングを行った。
図1は、溶体化焼鈍状態及びPCHT状態におけるヒート6合金とヒートC5合金のミクロ組織の比較を示している。ヒート6合金のミクロ組織には幾つかの粒子が認められるが、結晶粒界への析出は殆ど無いか全く無く、PCHT後に有意な変化は見られない。
【0085】
ヒート6合金のミクロ組織の安定性は、ヒートC5合金のミクロ組織が、溶体化焼鈍状態では粒界が明るくエッチングされているが、PCHT状態では粒界が濃くエッチングされているのと対照的である。これは、ヒートC5合金のミクロ組織が、PCHT中は安定でなかったことを示している。シャルピー試験の結果、ヒートC5合金の吸収エネルギーが125フィート-ポンド(169J)から69フィート-ポンド(94J)に低下したのは、結晶粒界に有害な相が析出したためと考えられる。また、表2に示されたPCHT後の引張強度の上昇についても同じ理由によると考えられる。
【0086】
表5は、ヒート6合金及び他の合金について、溶体化焼鈍状態及びPCHT状態での臨界孔食温度をASTM G48 メソッドCに準拠して測定した結果を示している。臨界孔食温度の結果は
図23にグラフで示されている。
【表5】
【0087】
結果は合金のPREN数に対応している。ヒートC7は、多くの水系環境では一般的に過剰とみなされるMoを多く含むため、試験した合金の中で最も高いCPTを示した。ヒートC7合金は、80℃(176°F)の試験では孔食を発生しなかったので、CPTは少なくとも85℃(185°F)である。ASTM G48 メソッドCの試験手順では、85℃(185°F)がこの試験の最高温度とされているため、この温度よりも高い温度での試験は行わなかった。ヒートC5合金はPRENが2番目に高く、CPTの75℃(167°F)も2番目に高かった。ヒート6合金のCPTは50℃(122°F)であるのに対し、ヒートC6合金のCPTは35℃(93°F)であり、ヒート6合金はヒートC6合金よりもCPTは有意に高い。
【0088】
図4、
図5に見られるように、PCHTは、有害な相を析出させたが、それにも拘わらず、ヒートC5合金又は他のどの合金のCPTも低下させなかったというのは予期し得ぬことであった。これは、これら析出物の近傍にCr欠乏領域が存在しなかったためと考えられる。2段階のPCHTにより、析出物形成後にCrの逆拡散が可能となり、粒界析出物により機械的特性が明らかに低下している場合でも、耐食性を回復させることは可能である。
【0089】
表6は、ヒート6合金及び他の合金の粒界腐食速度を、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した結果を示している。粒界腐食速度は
図24にグラフで示されている。速度は、ミル/年と、mm/年で示されている。
【表6】
【0090】
試験したすべての合金は、溶体化焼鈍状態における腐食速度はかなり低かった。ヒート6合金とヒートC6合金が最も低く、ヒートC5合金とヒートC7合金は僅かに高かった。この試験で625合金(ヒートC7)に用いられた共通の合格基準は、腐食速度が0.625mm/年(24.6mpy)未満であり、試験したすべての合金が溶体化焼鈍状態で容易にこの要件を満たした。この試験では、ほとんどの合金の腐食速度はPCHT後に増加した。腐食速度はヒート6合金で6.5%、ヒートC6合金で19.4%、ヒートC5合金で44.1%高かった。ヒートC7合金では8.3%低かった。ヒートC5合金を除けば、これらの差はすべてが小さく、その合金でさえ、腐食速度は、目標限界値の0.625mm/年(24.6mpy)よりもかなり低かった。
【0091】
表7は,ASTM G36に準拠して試験したヒート6合金と他の合金の2つの試料について、SCC破壊までの時間の測定結果を示す。応力腐食割れの結果は、
図25にグラフで示されている。
【表7】
この試験は、機器の製造、設置、操業による応力下で合金を受けると予想される性能を識別する上で意義を有する。試験は、1,008時間経過してもクラックが発生しない場合は中止した。データは、ヒート6合金とヒートC7合金は、両合金とも、クラックが観察されず、試験に合格したことを示している。625合金(ヒート7)はNiを63%含んでいるため、この試験で良好な結果が得られることは予想された。塩化物応力腐食割れ感受性がNi含有量に関係することは、コプソン(H. R. Copson, "Effect of Composition on Stress Corrosion Cracking of Some Alloys Containing Nickel," Physical Metallurgy of Stress Corrosion Fracture, Interscience Publishers, New York, 1959)によって示されている。表6に示す合金では、Ni含有量の増加と共に破壊までの時間が増加した。これらの結果から、ヒート6合金は、825合金(ヒート C6)やスーパーオーステナイト系ステンレス鋼よりも、155℃の沸騰高塩化物環境の応力下において、SCCに対して耐性を備える十分なNi含有量を有していると結論付けることができる。また、ヒートC5合金を除き、PCHTによって耐SCC性が有意に低下することが示されていないことも重要なことである。その合金の抵抗値が低下したのは、
図4、
図5に示されるように、PCHT中に、有害な相がその合金に大量に析出したためと考えられる。
【0092】
ヒート6合金の試料は,625合金フィラー金属を用いてGTAW溶接を行った。溶接部の光学顕微鏡写真を約100倍の倍率で
図26に示す。溶接部の完全性をチェックするために、溶接面にテンションをかけた状態で、直径1.5インチ(38mm)のダイの周りで180度屈曲させた。溶接部のミクロ組織を調べるために、溶接部の断面を、載せて、磨いて、混合酸のエッチング液でエッチングした。
図12は、溶接部と母材との界面における溶接後のミクロ組織を示しており、該ミクロ組織は、界面に小さな混合領域はあるが、溶接部に隣接する領域には、有害相の析出は殆ど認められない。溶接面の曲げ試験では、目に見えるクラックは観察されず、良好な展延性(ductility)を示した。
【0093】
本発明のヒート6合金及び他の合金は、クラッディング後の熱間圧延接合管に適用されるような感作性熱処理に曝露されても、有害な相が生成しにくい非常に安定したミクロ組織を有している。その結果、シミュレートされたPCHT後の機械的特性、特に衝撃靭性は、殆ど変化していない。
【0094】
本発明のニッケル基合金の耐食性は、PCHT後にほとんど変化しなかったが、これは試験した他の合金、特にヒートC5合金ではそうでなかった。PRENが42、CPTが50℃(122°F)のヒート6合金は、海水などの塩化物を含む環境下での耐孔食性が825合金(ヒートC6)より優れている。ヒート6合金は沸騰MgCl2溶液中でクラックが発生しない時間が1000時間を上回っており、825合金(ヒートC6)及び同じ試験でのヒートC5合金の性能を超えている。ヒート6合金は、感作性熱処理後でも良好な耐粒界腐食性を示した。
【0095】
ヒート6合金のシートは、625合金のフィラー材料を用いて溶接することに成功した。溶接した試料は、曲げ試験でクラックを発生することなく合格し、溶接部と該溶接部に隣接する熱影響部のミクロ組織は健全であった。
【0096】
これらの試験結果を総合すると、ヒート6合金を含む本発明のニッケル基合金は、石油及びガス処理並びに化学処理への適用例に見られる厳しい腐食環境において、625合金の代替としてコスト削減効果をもたらすことを示している。本発明のニッケル基合金は、さらなる耐食性が必要とされる用途において、合金825を超える改良をもたらすことができる。
【0097】
<発明の態様>
本発明の様々な態様は、以下の番号が付された項を含むが、これらに限定されるものではない。
1. 38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、3~7重量%のMo、及び0.1~10重量%のCoを含むニッケル基合金。
2. Niを39~50重量%、Crを20~25重量%、Feを15~30重量%、Moを3.5~6.5重量%、Coを0.2~4重量%含む前記1項のニッケル基合金。
3. Niを40~48重量%、Crを21~25重量%、Feを16~29重量%、Moを4~6.5重量%、Coを0.25~2.6重量%含む、前記1項又は2項のニッケル基合金。
4. 0.1~4重量%のCu、及び0.1~3重量%のMnをさらに含む、前記1~3項の何れか1項のニッケル基合金。
5. 0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.1重量%のTi、0.01~0.2重量%のNb、0.02~0.3重量%のAl、及び0.0002~0.005重量%のBをさらに含む、前記1~4項の何れか1項のニッケル基合金。
6. 0.2~3重量%のCu、及び0.2~2.5重量%のMnをさらに含む、前記1~4項の何れか1項のニッケル基合金。
7. 0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.08重量%のTi、0.02~0.15重量%のNb、0.04~0.25重量%のAl、及び0.0004~0.0035重量%のBをさらに含む、前記1~6項の何れか1項のニッケル基合金。
8. 0.25~2重量%のCu、及び0.25~2重量%のMnをさらに含む、前記1~4項の何れか1項のニッケル基合金。
9. 0.15重量%未満のN、1.0重量%未満のSi、0.01~0.07重量%のTi、0.02~0.1重量%のNb、0.06~0.25重量%のAl、及び0.0010~0.0030重量%のBをさらに含む、前記1~8項の何れか1項のニッケル基合金。
10. 前記ニッケル基合金は0.01重量%未満のMgを含む、前記1~9項の何れか1項のニッケル基合金。
11. 前記ニッケル基合金は0.01~0.1重量%のTiをさらに、前記1~10項の何れかのニッケル基合金。
12. 前記ニッケル基合金は0.3重量%未満のVを含む、前記1~11項の何れか1項のニッケル基合金。
13. 前記ニッケル基合金は0.3重量%未満のWを含む、前記1~12項の何れか1項のニッケル基合金。
14. 前記ニッケル基合金は0.010重量%以下のCを含む、前記1~13項の何れか1項のニッケル基合金。
15. 前記ニッケル基合金は少なくとも40のPRENを有する、前記1~14項の何れか1項のニッケル基合金。
16. 前記ニッケル基合金は40~45のPRENを有する、前記1~15項の何れか1項のニッケル基合金。
17. 前記ニッケル基合金が、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、前記1~16項及び前記18~20項の何れか1項のニッケル基合金。
18. 前記ニッケル基合金が、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、前記1~17、19及び20項の何れか1項のニッケル基合金。
19. 前記ニッケル基合金が、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、前記1~18及び20項の何れか1項のニッケル基合金。
20. 前記ニッケル基合金が、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、前記1~19項の何れか1項のニッケル基合金。
21. 前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理が施される、前記1~20項の何れか1項のニッケル基合金。
22. 前記クラッディング後熱処理の後のニッケル基合金は、シグマソルバスが2,000°F未満である前記21項のニッケル基合金。
23. 前記シグマソルバスは1,846~1,996°Fである、前記22項のニッケル基合金。
24. 前記クラッディング後熱処理が施されたニッケル基合金は、Nvが2.4未満である、前記21~23項の何れか1項のニッケル基合金。
25. 前記Nvが2.154~2.331である、前記24項のニッケル基合金。
26. 前記クラッディング後熱処理が施されたニッケル基合金は、メタルdが0.87未満である、前記21~25項の何れか1項のニッケル基合金。
27. 前記メタルdが0.852~0.865である、前記26項のニッケル基合金。
28. 前記クラッディング後熱処理が施されたニッケル基合金が、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、前記21~27項の何れか1項のニッケル基合金。
29. 前記シャルピー衝撃エネルギーが少なくとも110フィート-ポンドである、前記28項に記載のニッケル基合金。
30. 前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも85%である、前記1~29項の何れか1項のニッケル基合金。
31. 前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも90%である、前記1~29項の何れか1項のニッケル基合金。
32. ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーは、クラッディング後熱処理された状態における前記ニッケル基合金のシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギー以上である、前記21~31項の何れか1項のニッケル基合金。
33. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、前記21~32、34及び35項の何れか1項のニッケル基合金。
34. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、前記21~33及び35項の何れか1項のニッケル基合金。
35. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、前記21~34項の何れか1項のニッケル基合金。
36. ニッケル基合金を製造する方法であって、前記ニッケル基合金は、38~60重量%のNi、19~25重量%のCr、15~35重量%のFe、0.1~10重量%のCo、及び3~7重量%のMoを含み、
ニッケル基合金のインゴットを均質化することと、
均質化されたインゴットを加工して、スラブ又はビレットを形成することと、
さらに熱間圧延して、プレート状、棒状、又は管状の製品を生成することと、
前記製品を焼鈍することと、及び
前記焼鈍した製品を冷却することと、を含む方法。
37. 前記製品を、クラッディング後熱処理又は溶接熱影響部に付すことをさらに含む、前記36項に記載の方法。
38. クラッディング後熱処理は、1,100~1,800°Fの温度で行われる、前記37項の方法。
39. クラッディング後熱処理は、第1の温度及び/又は前記第1の温度よりも低い第2の温度の何れかで行われる、前記37又は38項の方法。
40. クラッディング後熱処理された製品は、2,000°F未満のシグマソルバスを有する、前記37~39項の何れか1項の方法。
41. クラッディング後熱処理された製品は、2.4未満のNvを有する、前記37~40項の何れか1項の方法。
42. クラッディング後熱処理された製品は、0.87未満のメタルdを有する、前記37~41項の何れか1項の方法。
43. クラッディング後熱処理された製品は、ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーが少なくとも100フィート-ポンドである、前記37~42項の何れか1項の方法。
44. 前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも85%である、前記37~43項の何れか1項の方法。
45. 前記ニッケル基合金は、クラッディング後熱処理された状態におけるシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギーの少なくとも90%である、前記37~44項の何れか1項のニッケル基合金。
46. ASTM E23-18に準拠して-50℃で5mmの試験片を用いて測定したシャルピー衝撃エネルギーは、クラッディング後熱処理された状態における前記ニッケル基合金のシャルピー衝撃エネルギーが、溶体化焼鈍された状態における前記合金のシャルピー衝撃エネルギー以上である、前記37~45及び47~49項の何れか1項のニッケル基合金。
47. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G48 メソッドCに準拠して測定した臨界孔食温度が95°F超である、前記37~46、48及び49項の何れか1項のニッケル基合金。
48. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G28 メソッドAに準拠して測定した粒界腐食速度が0.25mm/年未満である、前記37~47及び49項の何れか1項のニッケル基合金。
49. クラッディング後熱処理された状態のニッケル基合金は、ASTM G36に準拠して測定した耐応力腐食割れ性が1,000時間超である、前記37~48項の何れか1項のニッケル基合金。
【0098】
本明細書で特定される特許、特許出願、刊行物、又はその他の外部文書は、特に明示しない限り、参照によりその全体が本明細書に組み込まれるが、組み込まれた材料が、記載、定義、記述、図解などと矛盾しない程度においてのみ、明示的に本明細書に組み込まれるものとする。このため、必要な範囲において、本明細書に記載された明示的な記述は、参照により組み込まれたあらゆる矛盾する材料に優先する。参照により本明細書に組み込まれる材料又はその一部であって、本明細書に記載された明示的な記述と矛盾するものは、その組み込まれた材料と明示的な記述との間に矛盾が生じない範囲でのみ組み込まれるものとする。出願人は、参照により組み込まれる主題又はその一部を明示的に記載するために、本明細書を補正する権利を留保する。このような組み込まれた主題を追加するための本明細書の補正は、記載要件(例えば、35U.S.C.§112(a)及びEPC第123条(2))を適合するものである。
【0099】
様々な特徴及び特性は、本発明の全体的な理解をもたらすために、本明細書に記載され、図面に示されている。本明細書に記載され、図面に例示された様々な特徴及び特性は、かかる特徴及び特性が本明細書に明示的に記載又は例示されているかどうかにかかわらず、任意の方法で組み合わせることができることは理解されるものとする。発明者及び出願人は、そのような特徴及び特性の組合せは、本明細書の範囲に含まれることを明示的に意図しており、さらに、このような特徴及び特性の組合せの主張は本出願に新しい主題を追加するものでないことを意図する。それゆえ、特許請求の範囲は、任意の組合せを、本明細書に明示的又は本質的に記載されたあらゆる特徴及び特性、又はその他の明示的又は本質的に裏付けされた特徴及び特性を引用するように補正することができるものとする。また、出願人は、先行技術に存在し得る特徴や特性を、たとえ本明細書に明示的に記載されていない場合でも、積極的に権利放棄するように請求項を補正する権利を留保する。それゆえ、そのような補正は、明細書又は特許請求の範囲に新たな事項を追加するものではなく、記載要件、追加事項要件(例えば、35U.S.C.§112(a)及びEPC第123条(2))に適合するものである。本発明は、本明細書に記載された様々な特徴及び特性を含み、これらの特徴及び特性から構成され、又は本質的に構成され得る。場合によっては、本発明は、本明細書に記載されたあらゆる構成要素又は他の特徴又は特性も実質的に含まないことも可能である。
【0100】
また、本明細書に記載された数値範囲は、記載した端点を含み、記載した範囲に含まれる同じ数値精度(すなわち、記載された同じ桁数)のすべての部分範囲を記載している。例えば、「1.0~10.0」の範囲は、「1.0」の最小値と「10.0」の最大値の間(及びそれを含む)のすべての範囲であり、例えば、「2.4~7.6」の範囲を明示的に記述していない場合でも、「2.4~7.6」等を記載しているものとする。したがって、出願人は、特許請求の範囲を含む本明細書について、本明細書に明示的に記載された範囲に包含される同じ数値精度の任意の部分範囲を明示的に記載するための補正する権利を留保するものとする。このような範囲はすべて、本明細書に本質的に記載されており、このような任意の部分範囲を明示的に記載するように補正することは、記載要件、及び追加事項要件(例えば、35U.S.C.§112(a)及びEPC第123条(2))に適合するものである。
【0101】
本明細書で使用される、「含む(including)」、「含む(containing)」、及び同様な用語は、本明細書の文脈において、「含む(comprising)」と同義語である。それゆえ、これらの語はオープンエンドであり、未記載又は未規定の材料、成分、又は方法の工程の存在を排除しないものと理解される。本明細書で使用される「~からなる(consisting of)」は、本明細書の文脈において、特定されていない要素、成分、又は方法の工程の存在を排除するものと理解される。本明細書で使用されている「本質的に~からなる(consisting essentially of)」は、本明細書の文脈において、特定された要素、成分、又は方法の工程を含み、記載されている基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えない要素、材料、成分又は方法の工程を含むものと理解される。本明細書で使用される文法的冠詞「1つ(one)」、「a」、「an」、及び「the」は、特に示されない限り、又は文脈によって要求されない限り、「少なくとも1つ」又は「1つ超」を含むことを意図している。したがって、本明細書で使用される冠詞は、冠詞の文法的対象の1つ又は複数(すなわち、「少なくとも1つ」)を指している。例えば、「構成要素(a component)」は1又はそれよりも多い構成要素を意味し、したがって、1つよりも多い構成要素が企図され、本発明の実施に採用又は使用されることができる。さらに、単数形の名詞の使用は複数形を含み、複数形の名詞の使用は、使用上の文脈から他に要求されない限り、単数形を含む。
【0102】
本発明の具体的な実施例を詳細に説明したが、当業者であれば、発明の本明細書の全体的な教示に照らして、それらの詳細に様々な修正及び代替が実施され得ることは理解されるであろう。従って、記載された特定の実施態様は、例示のみを意図するものであり、特許請求の範囲の全範囲及びそのすべての均等物に与えられるべき発明の範囲を必ずしも限定するものではない。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
【
図21】
図21は、本発明のニッケル基合金と3つの比較合金について、溶体化焼鈍状態とPCHT状態におけるロックウエル
B硬度を比較したグラフである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】