(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】切り替え可能な接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 175/14 20060101AFI20230412BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230412BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20230412BHJP
C09J 175/08 20060101ALI20230412BHJP
C09J 175/06 20060101ALI20230412BHJP
C08G 18/67 20060101ALI20230412BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20230412BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20230412BHJP
A61L 15/58 20060101ALI20230412BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230412BHJP
A61F 13/02 20060101ALI20230412BHJP
A61P 17/02 20060101ALN20230412BHJP
【FI】
C09J175/14
C09J11/06
C09J4/02
C09J175/08
C09J175/06
C08G18/67
C08G18/48
A61L15/26 110
A61L15/58 110
A61K9/70 401
A61F13/02 310J
A61F13/02 350
A61F13/02 310Z
A61P17/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022576234
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2021054666
(87)【国際公開番号】W WO2021170711
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522336904
【氏名又は名称】ルミナ アドヘシブス アクチエボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】トゥニウス,マッツ
(72)【発明者】
【氏名】ボサエウス,ニクラス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4J034
4J040
【Fターム(参考)】
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4J040NA02
4J040PA20
(57)【要約】
本発明は、硬化性部分を含むポリウレタンベースの感圧接着剤組成物に関する。接着剤組成物は、硬化性部分の硬化を開始することによって、粘着性状態から非粘着性状態に「切り替え可能」である。当該接着剤組成物は:(A)活性水素原子を有する少なくとも2つの求核官能基を有するポリマー成分;及び(B)ポリイソシアネート成分と、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む化合物とを反応させることによって得られる架橋成分;の反応生成物を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)500から100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有し、1分子当たりの平均がXの、活性水素原子を有する求核官能基を有するポリマー成分であって、Xは少なくとも2の値を有する数を表す、ポリマー成分と、
(B)
(i)1分子当たり平均が少なくともYのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネート成分であり、Yが1.8から6の範囲の数を表す、ポリイソシアネート成分、
(ii)フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物、及び
(iii)任意的に、活性水素原子を有する求核官能基を含み、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含まない少なくとも1つの化合物、
を反応させることによって得られる架橋成分であって、前記化合物(ii)及び(iii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の総置換度が少なくとも0.2、且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下である、架橋成分と、
の反応生成物を含む接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項2】
前記化合物(ii)及び(iii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下、好ましくは0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下である、請求項1に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項3】
前記化合物(ii)及び(iii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4である、請求項1又は2に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項4】
前記架橋成分は、前記ポリイソシアネート成分(i)を、前記化合物(ii)及び前記化合物(iii)の両方と反応させることによって得られる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項5】
前記化合物(ii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の置換度が、0.6以下、好ましくは0.55以下、好ましくは0.5以下、好ましくは0.4以下、好ましくは0.3以下、好ましくは0.25以下、好ましくは0.2以下、好ましくは0.18以下である、請求項4に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項6】
前記化合物(ii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の置換度が、少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.06、好ましくは少なくとも0.08、好ましくは少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.12である、請求項4又は請求項5に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項7】
Yは、2から4の範囲、好ましくは2から3.6の範囲、好ましくは2.1から3.5の範囲、好ましくは2.2から3.4の範囲の数を表す、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項8】
前記ポリイソシアネート成分(i)は、1分子当たり2から10のイソシアネート官能基を有するポリイソシアネートの群から選択された1つ以上のポリイソシアネート化合物を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項9】
前記ポリイソシアネート成分(i)は、ジイソシアネートと、1分子当たり平均で少なくとも3のイソシアネート官能基を有する少なくとも1つのポリイソシアネートとの混合物を含む、請求項8に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項10】
前記ポリイソシアネート成分(i)は、式D(R-NCO)
3の三量体化ジイソシアネートを含み、Dは、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン、及びそれらの混合物から選択された環構造を表し、各Rは、直鎖状、分岐状、若しくは環状の、2から15の炭素原子を有するアルキレン基、又は6から20の炭素原子を有するアリール基を独立して表し、好ましくは、前記少なくとも1つのポリイソシアネートは、三量体化ヘキサメチレンジイソシアネートである、請求項8又は請求項9に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの化合物(ii)は、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基としてオレフィン部分を含む、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項12】
前記少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換アクリレートエステル、ヒドロキシ置換メタクリレートエステル、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、前記少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ-(C
2-C
20)アルキル-置換メタクリレートエステル、2~10のエーテル官能基を有するポリアルコキシル化モノメタクリレート、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、前記化合物(ii)は、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びそれらの混合物から選択される、請求項11に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの化合物(iii)は、1つ以上のC
1-C
30脂肪族アルコール、好ましくは直鎖状、分岐状、若しくは環状のC
1-C
18脂肪族アルコール、好ましくは直鎖状、分岐状、若しくは環状のC
1-C
12脂肪族アルコール、好ましくは分岐状のC
3-C
12脂肪族アルコール、又は分岐状のC
6-C
18脂肪族アルコールを含む、又はそれらから成る、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項14】
前記少なくとも1つの化合物(iii)は、1つ以上のヒドロキシ置換光重合開始剤を含む、又はそれらから成る、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項15】
Xは、少なくとも2.2、好ましくは少なくとも2.4、好ましくは少なくとも2.6、好ましくは少なくとも2.8、好ましくは少なくとも3の数を表す、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項16】
前記ポリマー成分(A)は、ヒドロキシ末端ポリエーテル、ヒドロキシ末端ポリエステル、アミン末端ポリエーテル、及びアミン末端ポリエステルから選択され、好ましくは、前記ポリマー成分は、ヒドロキシ末端ポリエーテルである、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項17】
前記ヒドロキシ末端ポリエーテルは、2から5のヒドロキシ基を含む化合物のアルコキシル化誘導体、又はそれらの混合物から選択される、請求項16に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項18】
前記ヒドロキシ末端ポリエーテルは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,4-ジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ペンタン-1,2,4,5-テトロール、デキストロース、及びソルビトールのアルコキシル化誘導体を含み、好ましくは、前記アルコキシル化誘導体は、エトキシル化誘導体、プロポキシル化誘導体、又はエトキシル化-コプロポキシル化誘導体である、請求項17に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項19】
前記ヒドロキシ末端ポリエーテルは、エチレンオキシドキャップされたペンタエリスリトールのプロポキシル化誘導体である、請求項18に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項20】
前記ポリマー成分は、1,000から50,000ダルトンの範囲、好ましくは1,000から20,000ダルトンの範囲、好ましくは1,500から10,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有する、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項21】
前記ポリマー成分は、1つの求核官能基当たり200から5,000、好ましくは500から2,000、好ましくは1,000から2,000の当量を有する、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項22】
前記ポリマー成分は、2モル%以下、好ましくは1モル%以下、好ましくは0.5モル%以下のモノオール含有量を有する、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項23】
XとYの合計が、少なくとも4.5、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも5.5、好ましくは少なくとも6である、請求項1乃至22のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項24】
前記架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基と前記ポリマー成分(A)における求核基とのモル比が、0.3から0.8、好ましくは0.4から0.75、好ましくは0.5から0.7である、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項25】
前記架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基と前記ポリマー成分(A)における求核基との比が、少なくとも0.8n、且つ1.2n及び0.8のいずれか小さい値以下であり、nは、前記ポリイソシアネート成分(i)の総置換度を表す、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項26】
0.05から1meq/g、好ましくは0.06から0.5meq/g、好ましくは0.08から0.4meq/g、好ましくは0.1から0.3meq/g、好ましくは0.12から0.25meq/g、好ましくは0.15から0.2meq/gの、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含む、請求項1乃至25のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項27】
光重合開始剤、好ましくは0.05から5wt%の光重合開始剤、好ましくは0.1から5wt%の光重合開始剤、好ましくは0.2から2wt%の光重合開始剤をさらに含む、請求項1乃至26のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項28】
前記光重合開始剤はUV光に反応性である、請求項27に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項29】
前記光重合開始剤は、ベンゾイン及び誘導体、ベンゾフェノン及び誘導体、アセトフェノン、4-フェノキシアセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-エチルアントラキノン、ベンジルジメチルケタール、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、及び4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルを含む群から選択される、請求項28に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項30】
溶媒をさらに含む、請求項1乃至29のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項31】
安定剤をさらに含む、請求項1乃至30のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項32】
切り替え後の接着剤の剥離力の減少が、30から99%、好ましくは50から99%、好ましくは70から99%である、請求項1乃至31のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物。
【請求項33】
(a)架橋成分(B)を形成するために、
(i)1分子当たり平均が少なくともYのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネート成分であり、Yが1.8から6の範囲の数を表す、ポリイソシアネート成分と、
(ii)フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物と、任意的に、
(iii)活性水素原子を有する求核官能基を含み、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含まない少なくとも1つの化合物と
を反応させる第1のステップであって、前記化合物(ii)及び(iii)による前記ポリイソシアネートの総置換度が、少なくとも0.2、且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下である、第1のステップ、
(b)ステップ(i)の生成物と、500から100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有し、1分子当たりの平均がXの、活性水素原子を有する求核官能基を有するポリマー成分(A)であって、Xは2よりも大きい数を表す、ポリマー成分(A)とを組み合わせる第2のステップ、
を含む、接着剤ポリウレタン組成物を調製する方法。
【請求項34】
ステップ(a)及び/又はステップ(b)は、触媒の存在下で実行される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(a)及び/又はステップ(b)は、溶媒の存在下で実行される、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記接着剤ポリウレタン組成物は、請求項1乃至32のいずれか一項に記載の接着剤ポリウレタン組成物である、請求項33乃至35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
第1のキャリアフィルムとリリースライナーとの間に配置された、請求項1乃至32のいずれか一項に記載の切り替え可能な接着剤ポリウレタン組成物を含む接着性医療製品。
【請求項38】
前記第1のキャリアフィルムはUV半透明であり、任意的に、前記接着剤組成物の反対側の表面の前記第1のキャリアフィルムに、除去可能なUV遮光層が積層されている、請求項37に記載の接着性医療製品。
【請求項39】
請求項38に記載の接着性ドレッシング材を使用して創傷を治療する方法であって、前記リリースライナーを除去し、前記創傷の部位に前記接着性ドレッシング材を適用することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切り替え可能な接着剤組成物に関し、特に、硬化性部分を含むポリウレタンベースの感圧接着剤組成物に関する。本発明はまた、接着剤組成物を生成する方法及び切り替え可能な接着剤組成物を含む物品に関する。
【0002】
本発明の接着剤組成物は、硬化性部分の硬化を開始することによって、粘着性状態から非粘着性状態に「切り替え可能」である。この硬化によって、接着剤の粘着性は低下し、これは、切り替えられていない接着剤と比較して、切り替えられた接着剤の剥離強度が低下することから明らかである。
【0003】
本発明の接着剤組成物は、物品をしばらくの間表面に接着させ、その後取り外す必要がある様々な用途に有用である。本発明の接着剤組成物は、様々な基板と共に使用することができるけれども、繊細な表面への強い結合が必要とされる用途に特に有用である。
【0004】
特に、本発明の接着剤組成物は、患者の皮膚に適用される接着性医療製品において有用性を見出し、これは、接着剤組成物を低い粘着状態に切り替えることによって、その下にある組織に対する痛み及び/又は損傷がより少ない状態で、医療製品が取り外されるのを可能にするためである。そのような医療製品は、ドレッシング材の繰り返しの適用を必要とする外傷又は長期の病状を有する患者だけでなく、敏感な皮膚を有する患者(例えば、乳児、特に新生児、及び高齢者)に特に有用である。
【背景技術】
【0005】
外科用又は内科用のドレッシング材及び絆創膏等、医療製品の多くのタイプは、医療製品が患者の皮膚に取り付けられるのを可能にするために、感圧接着剤の層を含む。この目的のために使用される接着剤は、医療製品の使用中に剥がれる又は誤って取り外されるのに抵抗することができるように、皮膚への強い結合を形成するのに十分に強くなければならない。しかし、これらの特性を有する従来の接着剤は、ドレッシング材又は絆創膏が皮膚から取り外される際に、患者に局所的な外傷及び/又は痛みを引き起こす恐れがある。これは、ストーマ患者等、長期間にわたって繰り返し同じ体の部分に接着性のドレッシング材が適用されるのを必要とする長期的な状態を有する患者に特に当てはまる。脆弱な皮膚を有する患者、特に高齢者及び小児にも当てはまる。
【0006】
従って、高い初期の剥離強度を有するが、接着された製品の取り外しが必要な場合には、剥離強度が大幅に低い形態に切り替えることができる「切り替え可能な」感圧接着剤を提供する必要性が特定されている。そのような接着剤は、使用中に医療製品が皮膚に確実に取り付けられるのを可能にするが、容易に取り外されるのも可能にし、取り外される際に患者に局所的な外傷及び/又は痛みを引き起こすことはない。接着性医療製品に実用性を持たせるために、さらに、比較的短い時間、例えば数秒から長くても数分で、制御された方法で剥離強度の低下を達成することができる必要がある。
【0007】
便宜上、「切り替え可能な」という用語は、粘着性状態から非粘着性状態、又はより正確には非常に低い粘着性状態に変更することができる接着剤組成物を指すために使用されることになる。「低い粘着」という表現が相対的な用語であることを認識した上で、本明細書においては、接着剤組成物がその粘着性状態から切り替えられた後に到達する最小の粘着性の状態を意味するものとして定義されることになる。剥離力の低下は、99%ほどに大きくあってもよく、又は30%ほどに小さくあってもよい。典型的には、剥離力の低下はHDPEで約99%、皮膚で約90%である。
【0008】
切り替え可能な接着剤の形態は、特許文献1乃至4において開示されている。これらの文献は、水と接触すると粘着性が少なくなる接着剤を記載している。しかし、そのような接着剤は、創傷ドレッシング材上で使用される場合には不向きであり、患者の創傷を乾燥させたままにする必要がある。
【0009】
特許文献5乃至7は、ラミネートの外面又は周囲に薬剤を塗布した場合に基板から選択的にリリース可能な多層接着剤ラミネートを開示している。このラミネートは、内部層、及び内部層を通って延びる複数の流体通路導管又は開口部、内部層の底面に沿って配置された接着層、並びに内部層の上面に配置されたキャリア層を含む。キャリア層を除去し、有効量の薬剤を塗布することによって、接着剤への薬剤の輸送が結果として生じる。薬剤と接着剤との十分な接触時間の後で、接着剤で接着されたラミネートを基板から除去することができる。
【0010】
特許文献8乃至10は、可視光又は低用量のUV光に曝されたときに切り替え可能な接着剤を開示している。これらの文献に記載されている切り替え可能な接着剤は、一般的に、アクリル酸アルキル、アクリル酸、及び/又はそれに結合した硬化性部分によって「修飾」又は官能基化されたフリーラジカル重合可能なビニル部分のコポリマーに基づくアクリル接着剤を含む。結合した硬化性部分の典型的なものは、アントラセン、シンナメート、マレイミド、クマリン、アクリレート、及び/又はメタクリレートに由来するものである。
【0011】
特許文献11は、放射線透過基板上に配置された、例えばUV又は電子ビーム等の電離放射線による照射によって硬化可能な接着剤を含む放射線硬化性テープを開示している。放射線硬化性接着剤は、アクリル接着剤、炭素-炭素二重結合を有する化合物、及びシリコーンアクリレート化合物で構成されている。この放射線硬化性テープは、ダイレクトピックアップシステムを利用した半導体ウエハ、セラミックス、及びガラスの生成のための処理ステップにおいて使用することができる。
【0012】
特許文献12は、アクリルコポリマー(A)、エネルギービーム重合可能なウレタンアクリレートオリゴマー(B)、及びそれらの各分子に1つのアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するエネルギービーム重合可能な化合物(C)を含む感圧接着剤組成物を開示している。この組成物は、必要に応じて可塑剤(D)、架橋剤(E)、及び/又は光重合開始剤(F)も有していることが好ましい。
【0013】
本発明者等による特許文献13は、ポリウレタン接着剤に基づく切り替え可能な接着剤組成物を開示している。不飽和硬化性分子を、ポリウレタンポリマー骨格に混合及び/又は結合させることができる。光重合開始の硬化性分子の硬化によって、架橋ネットワークが形成され、この架橋ネットワークによって、接着剤の剥離強度が低下する。
【0014】
上記の開発にもかかわらず、当技術分野において、切り替え前の高い剥離強度、切り替え後の低い剥離強度、及び切り替えが開始された後の短い切り替え時間という特性を示す改善された硬化性接着剤の必要性が残っている。接着特性が良好な接着剤製剤は乏しい切り替え能力を実証することが多く、切り替え能力が良好な接着剤製剤は、低い剥離強度及び/又は低い凝集性を実証することが多い(接着剤は、接着された材料が表面から取り外されることになり、表面に接着剤の残留物が残るように低い内部強度を有する)ということがわかっている。従って、切り替え可能な接着剤を開発する際には、高い剥離強度、高い凝集性、及び良好な切り替え能力を同時に得ることが特に課題となる。
【0015】
切り替え可能な接着剤のさらなる望ましい特性には、保管中及び基板に接着されたときの両方においての切り替えられていない状態での安定性、並びに、複雑な合成ステップ、長い処理時間、又は組立ラインでの接着剤の取り扱い中の切り替えプロセスの早期活性化を伴わない製造の容易さが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】US5,032,637
【特許文献2】US5,352,516
【特許文献3】US4,331,576
【特許文献4】US5,182,323
【特許文献5】US2013/0123678
【特許文献6】WO2010/129299
【特許文献7】WO2013/066401
【特許文献8】EP0863775
【特許文献9】US6,184,264
【特許文献10】US6,610,762
【特許文献11】US4,999,242
【特許文献12】US5,955,512
【特許文献13】WO2016/124339 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記のような既知の切り替え可能な感圧接着剤システムの欠点を考慮して考案され、高い剥離強度、高い凝集性、速い切り替え時間、及び低い切り替えられた剥離強度を有する改善された切り替え可能な接着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様において、本発明は、
(A)500から100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有し、1分子当たりの平均がXの、活性水素原子を有する求核官能基を有するポリマー成分であって、Xは少なくとも2の値を有する数を表す、ポリマー成分と、
(B)
(i)1分子当たり平均が少なくともYのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネート成分であり、Yが1.8から6の範囲の数を表す、ポリイソシアネート成分、
(ii)フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物、及び
(iii)任意的に、活性水素原子を有する求核官能基を含み、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含まない少なくとも1つの化合物、
を反応させることによって得られる架橋成分であって、前記化合物(ii)及び(iii)による前記ポリイソシアネート成分(i)の総置換度が少なくとも0.2であり、且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下である、架橋成分と、
の反応生成物を含む接着剤ポリウレタン組成物を提供する。
【0019】
従って、架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と硬化性官能基を含む化合物(ii)との反応の生成物である。任意的に、ポリイソシアネート成分(i)は、硬化性官能基を含まない化合物(iii)とも反応させられる。ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、イソシアネート基の少なくとも一部が未反応のまま残るように、指定された範囲内で制御される。未反応のイソシアネート基は、ポリマー成分(A)の求核官能基と反応して、ペンダント硬化性基を含む架橋接着剤ネットワークを形成するために利用可能である。
【0020】
ポリイソシアネート成分(i)の置換度は、ポリイソシアネート成分(i)のイソシアネート基のうち、化合物(ii)及び(iii)からの活性水素原子を有する求核官能基によって置換された部分を表し、以下:
【0021】
【0022】
化合物(iii)が存在しない場合、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、化合物(ii)のみによる置換度に関する。化合物(iii)が存在する場合、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、化合物(ii)及び化合物(iii)の両方による総置換度に関する。
【0023】
ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び任意的に化合物(iii)との部分反応の結果として、置換されたポリイソシアネートの統計的混合物を含む生成混合物が得られる。一部の個々のポリイソシアネート分子は、イソシアネート基の全てにおいて化合物(ii)及び/又は(iii)によって置換されることになるが、他のポリイソシアネート分子は全く置換されることはない。さらに他のポリイソシアネート分子は、同じ分子において1つ以上の置換されたイソシアネート基及び1つ以上の非置換のイソシアネート基を含むことになる。従って、非置換のイソシアネート基は、ポリマー成分(A)の求核官能基との反応に利用可能である。
【0024】
個々のポリイソシアネート分子が化合物(ii)及び/又は(iii)によって完全に置換されている場合、結果として生じる化合物は、遊離のイソシアネート基を有することはなく、ポリマー成分(A)と反応することができない。しかし、その化合物は、接着剤を高い粘着状態から低い粘着状態に切り替える硬化反応に関与することができる非結合の硬化性分子として機能することがある。
【0025】
個々のポリイソシアネート分子(i)が、化合物(ii)及び/又は(iii)によって部分的に置換されているか、又は非置換である場合、ポリマー成分の求核官能基と反応することができ、従って、ポリウレタン接着剤に結合することになる。1つの非置換のイソシアネート基のみを有する架橋成分(B)での化合物は、ポリマー成分に対する末端のウレタン/尿素/アミド結合を形成し、従って、ポリウレタン接着剤に硬化性分子を結合するよう機能することになる。2つの非置換のイソシアネート基を有する架橋成分(B)での化合物は、ポリウレタンの特徴である架橋ポリマーネットワークを形成するように、ポリマー成分の2つの末端基を架橋することができる。
【0026】
3つ(又はそれ以上)の非置換のイソシアネート基を有する架橋成分(B)での化合物は、ポリマー成分の3つ(又はそれ以上)の末端基を架橋することができ、従って、多数のポリマー末端基が同じポリイソシアネート分子に結合するポリウレタンネットワークにおける結節点(又は分岐点)を形成することができる。
【0027】
異なる置換度を有するポリイソシアネートの混合物から形成されたポリウレタンベースの接着剤によって、改善された接着剤が結果として生じるということがわかっている。ポリウレタン接着剤は、典型的には、ポリマー成分と、1つのタイプのポリイソシアネート分子(典型的にはジイソシアネート)のみとの反応によって形成される。その結果、ポリマー鎖は、単に、ジイソシアネートによって架橋され、従って、接着剤は、このタイプの架橋のみを有する。
【0028】
対照的に、本発明によると、ポリマー成分(A)は、異なる数のイソシアネート基を有する種々の異なる化合物と反応させられ、ポリマー成分(A)の種々の異なる結合モードが結果として生じる。その結果、改善された接着性及び凝集性を有する接着剤が得られる。これは同時に、かなりの割合の硬化性分子がポリウレタン骨格に結合し、これによって、非常に低い細胞毒性を有する接着剤が結果として生じるという利点を提供する。
【0029】
本発明の接着剤ポリウレタン組成物は、一般的に、架橋の密度が比較的低いゲル状の粘度を有する。この組成物は、基板と極性結合及びファンデルワールス結合を形成することができ、これが、接着剤組成物にその粘着性を与える。例えば、光重合開始剤の存在下で長波長UV又は可視光に曝すことによって硬化(又は切り替え)反応が開始されると、化合物(ii)からの硬化性基が、他の硬化性基と化学結合を形成する。この硬化反応によって、接着剤組成内の架橋密度は、切り替えられていない接着剤組成と比較して有意に増加する。これによって、接着剤組成物のポリマーセグメントの可動性及び自由体積が減少し、これは、組成物がその流動性を失い、本質的には、粘着性のない又はほとんどない弾性フィルムになるということを意味している。
【0030】
従来の感圧接着剤が、それが接着された表面から剥がされる場合、接着剤バルク材料の内部エネルギー損失の結果として、及び、剥離力の少なくとも一部が表面に垂直な方向に作用するため、必要なエネルギーは、熱力学的観点から必要とされるものの約102から104倍になる可能性がある。本発明の切り替え可能な接着剤組成物では、接着剤の切り替え後に硬化性官能基によって形成される高密度なポリマーネットワークが、組成物のバルク材料の粘着性及び可撓性を減少させる。従って、必要とされる剥離力は、熱力学的な考慮のみによって暗示される値に近い値まで減らされる。
【0031】
本発明の詳細な説明
接着剤ポリウレタン組成物は、ポリマー成分(A)(例えば、ポリエーテル又はポリエステル等)と架橋成分(B)との反応によって得られる。
【0032】
ポリマー成分(A)
本発明の接着剤ポリウレタン組成物は、ポリマー成分(A)と架橋成分(B)との反応から形成され、ポリマー成分は、500から100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有し、1分子当たりの平均がXの、活性水素原子を有する求核官能基を有し、Xは少なくとも2の値を有する数を表す。ポリマー成分(A)の求核官能基は、架橋成分(B)の遊離のイソシアネート基と反応して、架橋ポリウレタン接着剤ネットワークを形成する。
【0033】
Xは、少なくとも2.2、好ましくは少なくとも2.4、好ましくは少なくとも2.6、好ましくは少なくとも2.8、好ましくは少なくとも3の値を有することが好ましい。特に、ポリマー成分(A)におけるポリマー分子の少なくとも一部は、3つ以上の求核官能基を有することが好ましい。3つ以上の求核官能基を有するポリマー分子は、ポリウレタン接着剤のポリマーネットワークにさらなる架橋を導入することができ、これは、接着性能の改善に寄与する。
【0034】
ポリマー成分(A)は、好ましくは、ヒドロキシ末端ポリマー/オリゴマーから選択される。例えば、ポリマー成分(A)は、ヒドロキシ末端ポリエーテル、ヒドロキシ末端ポリエステル、アミン末端ポリエーテル、及びアミン末端ポリエステルから選択されてもよい。好ましくは、ポリマー成分は、ヒドロキシ末端ポリエーテルである。
【0035】
適したヒドロキシ末端ポリエーテルには、2から5のヒドロキシ基を含む化合物のアルコキシル化誘導体、又はそれらの混合物が含まれる。例えば、適したポリマー成分には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン-1,4-ジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンのジ又はポリエーテル、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ペンタン-1,2,4,5-テトロール、デキストロース、及び/又はソルビトールのアルコキシル化誘導体が含まれ、好ましくは、アルコキシル化誘導体は、エトキシル化誘導体、プロポキシル化誘導体、又はエトキシル化-コプロポキシル化誘導体である。好ましくは、ヒドロキシ末端ポリエーテルは、エチレンオキシドキャップされたペンタエリスリトールのプロポキシル化誘導体であってもよい。末端ヒドロキシル基の少ない立体障害が架橋成分(B)のイソシアネート基とのより速い反応を促進するため、エチレンオキシドキャッピングが好ましい。
【0036】
ポリマー成分(A)は、(GPCによって測定される)1,000から50,000ダルトンの範囲、好ましくは1,000から20,000ダルトンの範囲、好ましくは1,500から10,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有することが好ましい。この範囲内の分子は、一般的に、細胞壁を介して容易に吸収されることは可能ではなく、従って、細胞毒性は低いと理解されている。これは、接着剤組成物又は接着剤組成物を含む医療製品が直接皮膚に適用されることになる医療用途において特に重要である。しかし、ポリマー成分(A)の分子量が大きすぎる場合には、接着剤は、不十分に粘着性である。
【0037】
ポリマー成分は、1つの求核官能基当たり200から5,000、好ましくは500から2,000、好ましくは1,000から2,000の当量を有することが好ましい。
【0038】
ポリマー成分は、2モル%以下、好ましくは1モル%以下、好ましくは0.5モル%以下のモノオール含有量を有することが好ましい。上記のように、1つの求核官能基を有するポリマー成分の分子は、架橋成分(B)の1つの遊離のイソシアネート基としか反応することができないため、効果的な架橋に寄与することができない。
【0039】
架橋成分(B)
本発明の接着剤ポリウレタン組成物の架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物(ii)との反応によって得られる。フリーラジカル重合により硬化可能な官能基は、本発明の接着剤組成物の切り替え能力を提供し、活性水素原子を有する求核官能基は、ポリイソシアネート成分(i)への化合物(ii)の結合を可能にする。
【0040】
ポリイソシアネート成分(i)は、任意的に、活性水素原子を有する求核官能基を含むが、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含まない少なくとも1つの化合物(化合物(iii))と反応させることもできる。従って、化合物(iii)は、ポリイソシアネート成分(i)に結合されてもよいが、本発明の接着剤組成物の切り替え能力には寄与しない。
【0041】
化合物(ii)及び(iii)によるポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下であり、好ましくは0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下、好ましくは0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下である。
【0042】
ポリイソシアネート成分(i)の置換度が非常に高くても効果的な接着剤を得ることができるけれども、そのような組成物は、ポリマー成分(A)との反応に対して十分な遊離のイソシアネート基が依然として利用可能であることを確実にするために、より多くのポリイソシアネートの総量を必要とすることになる。これは、コストの理由から望ましくない場合がある。
【0043】
化合物(ii)及び(iii)によるポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.2であり、好ましくは少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4である。非常に低い置換度では、架橋成分(B)は、高い相対量の、非置換又は一置換のポリイソシアネートを含む。これによって、ポリマー成分のより密接な架橋が結果として生じ、より多くのポリマー末端基が結節点に結合し、例えば3つ以上のポリマー末端基が結合する。これによって、接着剤は低下した剥離強度を有するということがわかってきている。従って、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度が少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.3、又は少なくとも0.4であるということを確実にすることによって、剥離強度の改善が得られる。特に良好な接着性能が、例えば、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度が少なくとも0.45又は少なくとも0.5である場合に認められる。
【0044】
例えば、化合物(ii)及び存在する場合には(iii)によるポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.2且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.2且つ0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.2且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下;少なくとも0.3且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.3且つ0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.3且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下;少なくとも0.4且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.4且つ0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.4且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下;少なくとも0.45且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.45且つ0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.45且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下;少なくとも0.5且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下;少なくとも0.5且つ0.28Y及び0.8のいずれか小さい値以下;又は、少なくとも0.5且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下;であってもよい。
【0045】
架橋成分(B)は、好ましくは、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度が上記の範囲内にあるように、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られる。上記のように、架橋成分(B)において異なるイソシアネート含有化合物の分布を得るためには、ポリイソシアネート成分(i)の部分置換が望ましい。しかし、化合物(ii)のみでポリイソシアネート成分(i)の必要とされる置換度を得ることによって、良好な切り替え性能を得るために必要な量よりもはるかに多くの硬化性基を含む接着剤が結果として生じる傾向がある。化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度が非常に高くても効果的な接着剤は得られるけれども、接着剤組成物は、接着剤の切り替えに必要とされる量よりもはるかに多くの硬化性基を含まないことが好ましい。過剰な量の硬化性基は、接着剤及び接着剤を含む製品の製造中に慎重な取り扱いを必要とすることがある。化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の過剰な置換も、コスト及び生体適合性の理由から好ましくない。
【0046】
高濃度の硬化性基を含む組成物の1つの特定の結果は、製造プロセス中に接着剤を扱うために使用される装置(例えば、ポンプ及びフローライン等)におけるせん断力が、硬化性基の早期硬化を開始し得るということである。これによって、接着剤製品の粘着性が低下し、場合によっては製造装置の妨害を引き起こすことがある。従って、化合物(iii)の使用は、接着剤組成物に過剰な硬化性基を導入することなく、ポリイソシアネート成分(i)の十分な置換度を可能にすることによって、これらの問題が軽減されるのを可能にする。
【0047】
ポリイソシアネート成分(i)が化合物(ii)及び化合物(iii)の両方で置換される場合、化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.6以下、好ましくは0.55以下、好ましくは0.5以下、好ましくは0.4以下、好ましくは0.3以下、好ましくは0.25以下、好ましくは0.2以下、好ましくは0.18以下である。
【0048】
ポリイソシアネート成分(i)が化合物(ii)及び化合物(iii)の両方で置換される場合、効果的な切り替え性能のための十分な硬化性基の含有量を確実にするために、化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、好ましくは少なくとも0.05、好ましくは少なくとも0.06、好ましくは少なくとも0.07、好ましくは少なくとも0.08、好ましくは少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.12である。化合物(ii)でのポリイソシアネート成分(i)の非常に低い置換度では、硬化性基の相対量は低くなり、これによって、硬化後の接着剤の切り替え性能が低下することがある。
【0049】
例えば、ポリイソシアネート成分(i)が化合物(ii)及び化合物(iii)の両方によって置換される場合、化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は:少なくとも0.05及び0.5以下;又は少なくとも0.05及び0.4以下;又は少なくとも0.05及び0.3以下;又は少なくとも0.05及び0.25以下;又は少なくとも0.05及び0.2以下;又は少なくとも0.06及び0.4以下;又は少なくとも0.06及び0.3以下;又は少なくとも0.06及び0.25以下;又は少なくとも0.06及び0.2以下;又は少なくとも0.08及び0.4以下;又は少なくとも0.08及び0.3以下;又は少なくとも0.08及び0.25以下;又は少なくとも0.08及び0.2以下;又は少なくとも0.1及び0.3以下;又は少なくとも0.1及び0.25以下;又は少なくとも0.1及び0.2以下;又は少なくとも0.1及び0.18以下;又は少なくとも0.12及び0.3以下;又は少なくとも0.12及び0.25以下;又は少なくとも0.12及び0.2以下;又は少なくとも0.12及び0.18以下;であってもよい。
【0050】
ポリイソシアネート成分(i)
ポリイソシアネート成分(i)は、1分子当たり平均が少なくともYのイソシアネート官能基を有し、Yは、1.8から6の範囲、好ましくは2から4の範囲、好ましくは2から3.6の範囲、好ましくは2.1から3.5の範囲、好ましくは2.2から3.4の範囲にあり得る数を表す。ポリイソシアネート成分(i)は、1分子当たりのポリイソシアネート基の平均数が指定された範囲内にある限り、単一のポリイソシアネート化合物であってもよく、又は異なるポリイソシアネート化合物の混合物を含んでもよいことが理解されることになる。これに関連して「平均」という用語は、1つのイソシアネート含有分子当たりのイソシアネート官能基の平均数(すなわち、[イソシアネート官能基の総モル]/[イソシアネート含有分子の総モル])を指す。
【0051】
Yがこれらの範囲内にある場合、ポリイソシアネート成分(i)は、異なる置換度を有する置換されたポリイソシアネートの適切な混合物を含む。これによって、改善された接着性が結果として生じるということがわかってきている。
【0052】
ポリイソシアネート成分(i)は、原則として、ポリイソシアネートの製造に対して当技術分野において知られている多数のイソシアネート基を含む化合物、並びにそれらの混合物のいずれから選択されてもよい。例えば、ポリイソシアネート成分(i)は、Yが1.8から6の範囲内にある限り、1分子当たり2から10のイソシアネート官能基を有するポリイソシアネート及びそれらの混合物の群から選択された1つ以上のポリイソシアネート化合物を含んでもよい。好ましくは、ポリイソシアネート成分(i)は、1分子当たり2から4のイソシアネート官能基を有するポリイソシアネートの群から選択された1つ以上のポリイソシアネート化合物を含む。
【0053】
任意的に、ポリイソシアネート成分(i)は、ジイソシアネートと、1分子当たり平均で少なくとも3つのイソシアネート官能基を有する少なくとも1つのポリイソシアネートとの混合物を含んでもよい。ジイソシアネートと他のポリイソシアネートの混合物によって、湿度に対してより抵抗力がある接着剤が結果として生じるということが観察されている。これは、接着剤が皮膚に付着しなければならず、これによって、汗が分泌し得る医療用途に有益である。
【0054】
適したポリイソシアネートの例として、式OCN-R-NCOのジイソシアネートが挙げられ、式中、Rは、独立して、直鎖状、分岐状、若しくは環状の、2から15の炭素原子を有するアルキレン基、又は6から20の炭素原子を有するアリーレン基を表す。ジイソシアネートの例として、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トルエン2,4-ジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(フェニルイソシアネート)、及び4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)が挙げられる。さらなる適したポリイソシアネートには、ジイソシアネートに基づくポリマー(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー等)が含まれる。
【0055】
好ましいポリイソシアネートは、式D(R-NCO)3の三量体化ジイソシアネートであり、式中、Dは、イソシアヌレート、イミノオキサジアジンジオン、及びそれらの混合物から選択された環構造を表し、各Rは、直鎖状、分岐状、若しくは環状の、2から15の炭素原子を有するアルキレン基、又は6から20の炭素原子を有するアリーレン基を独立して表す。特に好ましいポリイソシアネートは、三量体化ヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0056】
化合物(ii)
架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物(ii)との反応によって得られる。
【0057】
本明細書において「活性水素原子を有する求核官能基」という用語は、イソシアネート基との付加反応を経て付加物を形成することができる官能基を指す。例えば、活性水素原子を有する求核官能基は、-OH、-COOH -NH、-SH等であってもよい。好ましくは、活性水素原子を有する求核官能基は、ヒドロキシル基(-OH)である。好ましくは、活性水素原子を有する求核官能基は、第一級炭素原子に結合したヒドロキシル基(すなわち、式-CH2OHの基)である。求核ヒドロキシル基は、ポリイソシアネート成分(i)のイソシアネート基と容易に反応することができ、硬化性部分を有するヒドロキシル含有化合物は、当技術分野において容易に入手可能である。好ましくは、少なくとも1つの化合物(ii)は、活性水素原子を有する単一の求核官能基を含む。
【0058】
少なくとも1つの化合物(ii)は、好ましくは、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基としてオレフィン部分を含む。少なくとも1つの化合物(ii)は、単一の化合物であってもよく、又は異なる化合物の混合物であってもよく、各々がフリーラジカル重合により硬化可能な官能基としてオレフィン部分を含む。オレフィン部分(例えば、アクリレート及びメタクリレート)は、重合反応において高収率を有する傾向があり、従って、フリーラジカルにより開始される硬化プロセスを介して効果的な切り替え性能を達成するための良好な硬化性基である。
【0059】
好ましくは、少なくとも1つの化合物(ii)は、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基としてのオレフィン部分と、活性水素原子を有する求核官能基としてのヒドロキシル基とを含む。
【0060】
最も広い意味では、フリーラジカル重合により硬化可能であり、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含むいかなる不飽和化合物も、化合物(ii)として使用することができる。適した化合物の例としては、ヒドロキシ置換アクリレートエステル及びヒドロキシ置換メタクリレートエステルが挙げられる。好ましくは、少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステル、2~10のエーテル官能基を有するポリアルコキシル化モノメタクリレートエステル、2~10のエーテル官能基を有するポリアルコキシル化モノアクリレートエステル、及びそれらの混合物から選択される。より好ましくは、少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択される。
【0061】
例えば、化合物(ii)は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、及びポリプロピレングリコールモノアクリレートから選択されてもよい。好ましい化合物(ii)は、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、及びそれらの混合物である。
【0062】
少なくとも1つの化合物(ii)は、単一の化合物であってもよく、又は化合物の混合物であってもよく、各々がフリーラジカル重合により硬化可能な官能基と、活性水素原子を有する求核官能基とを有する。化合物(ii)が化合物の混合物である場合、各化合物は、好ましくは、同じタイプの硬化性官能基を含み、より好ましくは、各化合物はオレフィン基を含む。例えば、化合物(ii)は、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートと異性体のヒドロキシイソプロピルメタクリレートとの混合物であってもよい。
【0063】
ヒドロキシル含有アクリル酸エステルの他の例は、nが4~8であるヒドロキシル(CH2)nメタクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタクリレートカプロラクトンエステル(カプロラクトン2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル)、3-(アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びグリセロールジメタクリレートである。
【0064】
化合物(iii)
架橋成分(B)は、任意的に、ポリイソシアネート成分(i)を、少なくとも1つの化合物(ii)及び少なくとも1つの化合物(iii)の両方と反応させることによって得られてもよい。少なくとも1つの化合物(iii)は、活性水素原子を有する求核官能基を含むが、フリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含まない。少なくとも1つの化合物(iii)は、単一の化合物であってもよく、又は、異なる化合物の混合物であってもよく、いずれもフリーラジカル重合により硬化可能な官能基を含まない。
【0065】
上記のように、特定の含有量の硬化性基のみが、良好な切り替え性能を達成するために必要とされる。従って、過剰な量の硬化性基を包含することなく、架橋成分(B)において異なる数のイソシアネート基を有する化合物の有利な分布を得るために、化合物(iii)を本発明の接着剤組成物に含めることができる。
【0066】
少なくとも1つの化合物(iii)は、C1-C30脂肪族アルコール、好ましくは直鎖状、分岐状、若しくは環状のC1-C18脂肪族アルコール、より好ましくは直鎖状、分岐状、若しくは環状のC1-C12脂肪族アルコールから選択されることが好ましい。少なくとも1つの化合物(iii)は、分岐状のC3-C12脂肪族アルコールから、又は分岐状のC6-C18脂肪族アルコールから選択されることが好ましい。適した化合物の例は、2-エチル-1-ヘキサノールである。このタイプの化合物は、単に、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び(iii)との反応から必要な反応生成物の分布を得るように、1つ以上のイソシアネート結合部位を占有するのに役立つ。このタイプの化合物を含むことの1つの利点は、脂肪族炭素鎖がある程度の脂肪性(fattiness)を接着剤組成物に付加することである。これは、接着剤の低分子量成分がより水溶性であり、それによって、より容易に皮膚に浸透する可能性を減少させ、接着剤の細胞毒性のさらなる低下が結果として生じる。加えて、脂肪族炭素鎖は、接着剤における可塑剤として働き、ポリマー鎖間の相互作用を減少させる。その結果、接着剤はより柔らかくなり、より安価で生成しやすくなる。
【0067】
少なくとも1つの化合物(iii)は、初期の剥離力又は切り替え性能に影響を与えることなく、他の官能性が接着剤組成物に包含されるのも可能にする。これらの官能性を有する分子は、さもなければ、小さな分子として接着剤ポリウレタン組成物に混入されるだろう。従って、それらをポリウレタンネットワークに添加することによって、接着剤の細胞毒性は低くなる。例えば、少なくとも1つの化合物(iii)は、1つ以上のヒドロキシ置換光重合開始剤を含んでもよく、又はそれらから成ってもよい。
【0068】
化合物(iii)として本発明の接着剤組成物に包含させることができる化合物の他の例としては、殺生物剤及び触媒が挙げられる。
【0069】
典型的には、少なくとも1つの化合物(iii)は、活性水素原子を有する単一の求核基を含む。しかし、少なくとも1つの化合物(iii)が、活性水素原子を有する2つ以上の求核官能基を含むことがあり、その場合、化合物(iii)は2つのポリイソシアネート分子を共に連結することができるということは排除されない。
【0070】
接着剤組成物
ポリイソシアネートのポリウレタンネットワーク内での架橋は、少なくとも3つの未反応のイソシアネート基を含むポリイソシアネート成分の反応、及び/又は活性水素原子を有する少なくとも3つの求核官能基を含むポリマー成分の反応の結果であり得るということが理解されることになる。本発明のポリウレタン接着剤組成物において十分なレベルの架橋を確実にするために、X及びYの合計が少なくとも4.5、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも5.5、好ましくは少なくとも6であることが好ましい。好ましくは、X及びYの合計は、10以下、好ましくは9以下、好ましくは8以下である。
【0071】
ポリマー成分(A)及び架橋成分(B)の相対量は、架橋成分(B)における遊離のイソシアネート基と、ポリマー成分(A)からの利用可能な求核基とのモル比として定義することができる。特定の置換度に対するより低いモル比は、より粘着であるが凝集する力は小さい接着剤をもたらす。従って、当業者は、接着性対凝集性の必要なバランスを有する接着剤を得るために、架橋成分(B)とポリマー成分(A)との比を容易に調整することができる。
【0072】
例えば、架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、一般的に、少なくとも0.3、好ましくは少なくとも0.4、好ましくは少なくとも0.5である。好ましくは、架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、1未満、好ましくは0.8以下、好ましくは0.7以下である。例えば、架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8、好ましくは0.4から0.75、好ましくは0.5から0.7であってもよい。
【0073】
架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基との比は、好ましくは、少なくとも0.8nであり、且つ1.2n及び0.8のいずれか小さい値以下であり、nは、ポリイソシアネート成分(i)の総置換度を表す。これらの範囲内で比を制御することによって、ポリイソシアネート成分(i)の異なる置換度における接着剤の粘着性及び凝集性の最適なバランスが提供されるということがわかっている。
【0074】
本発明の接着剤ポリウレタン組成物は、0.05から1meq/g、好ましくは0.06から0.5meq/g、好ましくは0.08から0.4meq/g、好ましくは0.1から0.3meq/g、好ましくは0.12から0.25meq/g、好ましくは0.15から0.2meq/gの、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含むことが好ましい。
【0075】
光重合開始剤
本発明の接着剤ポリウレタン組成物は、光重合開始剤、好ましくは0.05から5wt%の光重合開始剤、好ましくは0.1から5wt%の光重合開始剤、好ましくは0.2から2wt%の光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤は、接着剤組成物に混合されてもよく、及び/又は接着剤組成物のポリマー鎖に結合されてもよい。
【0076】
光重合開始剤は、化合物(ii)の硬化性官能基のフリーラジカルにより開始される重合を促進するために、例えばUV又は可視光等の温和な条件下でラジカル種を生成することができるいかなる種であってもよい。
【0077】
好ましくは、光重合開始剤は、200から400nmの範囲にある波長を有するUV放射、好ましくはUVA放射(315から400nm)に反応性である。UVAは、医療用途、及びヒト又は動物のUV放射への曝露を必要とする他の用途に特に好ましい。200から400nmの範囲は、本明細書において「長波長UV」と呼ばれる。
【0078】
光重合開始剤は、代替的に、可視光への曝露によってラジカル種を生成することができるが、可視光への曝露によって硬化可能である製品は、接着剤の早期の切り替えを避けるために、慎重な取り扱いを必要とする、及び/又は、追加の可視光遮断材料が製品に組み込まれるのを必要とする。可視光遮断材料は、切り替えが所望される場合に、適切なタイミングで製品から取り除かれる必要がある。
【0079】
UVに反応性である光重合開始剤は、当技術分野において知られている従来の光重合開始剤のいずれかから選択されてもよい。例えば、UVに反応性である光重合開始剤は、ベンゾイン及び誘導体(例えば、ベンゾインのエチル、イソプロピル、又はイソブチルエーテル等);ベンゾフェノン及び誘導体(例えば、4-フェニルベンゾフェノン);アセトフェノン及び4´-フェノキシアセトフェノン;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン;2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン;2-エチルアントラキノン;ベンジルジメチルケタール;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン;4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル;を含む群から適切に選択することができる。。
【0080】
可視光活性化に適したフリーラジカル開始剤は、チタノセン光重合開始剤;例えばチオニン/トリエタノールアミン等の色素/共開始剤系;色素/過酸化物系及び1,2-ジケトン/共開始剤系、例えば、カンファーキノン/三級アミン等;を含む。可視光光重合開始剤の例は:フェナントレンキノン;チタノセン;及びビス(2,4,6-トリメチル-ベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド;である。
【0081】
接着剤ポリウレタン組成物は、0.05から5重量%の光重合開始剤、好ましくは0.2から2重量%の光重合開始剤を含むことが好ましい。これらの光重合開始剤の特定の範囲は、活性化後に硬化性基が互いに反応するのを可能にし、接着剤が所望の切り替え時間を達成するのを可能にする。
【0082】
溶媒
接着剤ポリウレタン組成物は、溶媒をさらに含んでもよい。溶媒は、ポリイソシアネート成分(i)のイソシアネート基と反応しないように、非プロトン溶媒でなければならない。好ましくは、溶媒は低い毒性を有し、好ましくは、溶媒は無毒性である。好ましい溶媒の例は、酢酸エチルである。
【0083】
安定剤
切り替え可能な接着剤組成物は、安定剤を有することもできる。本明細書において使用される場合、「安定剤」という用語は、接着剤組成物の製造及び/又は保管中の接着剤における硬化性官能基の早期の反応を防ぐように、フリーラジカルをスカベンジするために接着剤組成物に添加される物質を指す。これらの物質は、硬化性材料の分野においてよく知られており、抗酸化物質と呼ばれることもある。
【0084】
適した安定剤の例としては、1-ピペリジニルオキシ-4,4´-[1,10-ジオキソ-1,10-デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6-テトラメチル]、並びに、メトキシフェノール、ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、及びペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-フェニル)プロピオネート)等のフェノール誘導体が挙げられる。
【0085】
任意的な構成物
切り替え可能な接着剤組成物は、光増感剤を含むこともできる。増感種は、開始剤とは異なるスペクトルの部分においてエネルギーを吸収することが多いため、組成物に増感剤を包含させることを介して、光源のより効果的な使用が達成可能であり得る。多くの光増感剤は複雑な有機分子であり、長波長UV及び/又はスペクトルの可視部分を吸収する。
【0086】
接着剤ポリウレタン組成物は、接着剤混合物の厚さを介して照射するUV又は可視光を散乱させることによって接着剤混合物の照射効果を高めるために散乱粒子を包含させることもできる。好ましくは、光散乱粒子は、シリカ粉、アルミナ粉、シリカアルミナ粉、又は雲母粉等の無機化合物であり、その粒径は、10nm以上ほど、典型的には1μmまでである。
【0087】
接着剤ポリウレタン組成物はまた、表面におけるラジカル重合の酸素阻害を低減し、表面がフィルムによって保護されていない場合に硬化後に表面が粘着性を有するままであるのを防ぐための脂肪族チオール基を有する成分(第2のリリースライナー)を含んでもよい。酸素除去特性を有することは別として、脂肪族チオールは、チオール-エン反応を介して硬化性分子のラジカル重合に関与することもできる。硬化反応へのより効果的な貢献のために、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)又はペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)等、2つ以上のチオール基を有する成分を使用することができる。トリエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、又はアクリル化アミン等のアミン相乗剤を使用して、接着剤表面がフィルムによって保護されていない場合に、接着剤表面におけるラジカル重合の酸素阻害を減少させることもできる。
【0088】
組成物の反応性は、接着剤における硬化性基の濃度(meq/g)を増加させることによって、2つ以上の硬化性基を有する化合物(ii)を使用することによって、及び/又は接着剤においてより反応性の高い官能性を使用すること、例えば、メタクリレートをアクリレートと部分的又は完全に交換すること(アクリレートはより反応性が高いが、毒性もわずかに高い)によって高めることができる。
【0089】
接着剤の分子間の相互作用、及びそれによる接着剤の粘度は、嵩高い基を使用することによって(例えば、メチル基を付加することによって、若しくは分子鎖を分岐させることによって)、及び/又は架橋成分(B)に非対称性又はより高い疎水性を導入することによって減少させることができる。これは、嵩高い基を有するポリイソシアネート成分(i)を使用することによって、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートをトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと交換すること、イソシアヌレートをイミノオキサジアジンジオンと交換すること、ブタンジオールをメチルペンタンジオールと交換すること、ポリエチレングリコールをポリプロピレングリコールと交換することによって、達成されてもよい。或いは、これはまた、架橋成分(B)において少なくとも1つの化合物(iii)を使用することによって達成されてもよく、ここで、少なくとも1つの化合物(iii)は嵩高い基を含む。
【0090】
本発明の接着剤ポリウレタン組成物は、以下に記載される方法に従って測定されたときに、切り替え後の剥離力が少なくとも30%、好ましくは50から99%、好ましくは70から99%減少することを示す。
【0091】
本発明の第1の態様によると、以下の1-1から1-18の態様に記載の接着剤ポリウレタン組成物がさらに提供される。
【0092】
態様1-1:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;さらに、
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0093】
態様1-2:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;さらに、
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0094】
態様1-3:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;さらに、
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0095】
態様1-4:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8であり;
(v) 架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;さらに、
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.05から0.5である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0096】
態様1-5:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75であり;
(v) 架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;さらに、
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.08から0.4である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0097】
態様1-6:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7であり;
(v) 架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;さらに、
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.1から0.3である;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0098】
態様1-7:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0099】
態様1-8:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0100】
態様1-9:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0101】
態様1-10:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.05から0.5であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、C1-C30脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0102】
態様1-11:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.08から0.4であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、C1-C30脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0103】
態様1-12:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;さらに、
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.1から0.3であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル メタクリレートエステル及びヒドロキシ置換-(C2-C20)アルキル アクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、C1-C30脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0104】
態様1-13:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0105】
態様1-14:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0106】
態様1-15:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7であり;
(v) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;さらに、
(vi) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0107】
態様1-16:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.2の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2から4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.3、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.3から0.8であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.05から0.5であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、分岐状のC3-C12脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0108】
態様1-17:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.6の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.1から3.5の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.4、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.4から0.75であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.08から0.4であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、分岐状のC3-C12脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0109】
態様1-18:本発明の第1の態様による接着剤ポリウレタン組成物であって:
(i) Xは、少なくとも2.8の値を有する数を表し;
(ii) Yは、2.2から3.4の範囲の数を表し;さらに、
(iii) ポリイソシアネート成分(i)の総置換度は、少なくとも0.5、且つ0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下であり;
(iv) 架橋成分(B)における非置換のイソシアネート官能基とポリマー成分(A)における求核基とのモル比は、0.5から0.7であり;
(v)架橋成分(B)は、ポリイソシアネート成分(i)と化合物(ii)及び化合物(iii)の両方とを反応させることによって得られ;さらに、
(vi) 化合物(ii)によるポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.1から0.3であり;
(vii) ポリマー成分(A)は、1,000から20,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有するヒドロキシ末端ポリエーテル及びヒドロキシ末端ポリエステルから選択され;
(viii) 少なくとも1つの化合物(ii)は、ヒドロキシ置換-(C2-C6)アルキル メタクリレートエステルから選択され;さらに、
(ix) 少なくとも1つの化合物(iii)は、分岐状のC3-C12脂肪族アルコールから選択される;
接着剤ポリウレタン組成物。
【0110】
上記の態様1-1から1-18の範囲内にある、本発明の第1の態様に関して本明細書において開示されるいかなる好ましい/任意的な特徴も、態様1-1から1-18の好ましい/任意的な特徴であるということが理解されることになる。同様に、上記の態様1-1から1-18の範囲内にある従属項のいかなる特徴も、それらの請求項も態様1-1から1-18を引用しているかのように解釈されることになる。
【0111】
接着剤ポリウレタン組成物を調製する方法
本発明の第2の態様によると、接着剤ポリウレタン組成物を調製する方法が提供され、当該方法は:
(a)架橋成分(B)を形成するために、
(i)1分子当たり平均が少なくともYのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネート成分であり、Yが1.8から6の範囲の数を表す、ポリイソシアネート成分と、
(ii)フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含み、さらに活性水素原子を有する求核官能基を含む少なくとも1つの化合物と、任意的に、
(ii)活性水素原子を有する求核官能基を含み、フリーラジカル重合によって硬化可能な官能基を含まない少なくとも1つの化合物と
を反応させる第1のステップであって、化合物(ii)及び(iii)によるポリイソシアネート成分(i)の総置換度が、少なくとも0.2、且つ0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下である、第1のステップ;
(b)ステップ(a)の生成物と、500から100,000ダルトンの範囲の重量平均分子量を有し、1分子当たりの平均がXの、活性水素原子を有する求核官能基を有するポリマー成分であって、Xは2よりも大きい数を表す、ポリマー成分とを組み合わせる第2のステップ;
を含む。
【0112】
本発明の第2の態様の方法を使用して、本発明の第1の態様の接着剤ポリウレタン組成物を生成することができる。従って、本発明の第1の態様に関連して任意的又は好ましいと記載されるいかなる特徴も、本発明の第2の態様の方法において使用される対応する成分の同一性、量及び比率に関して、任意的又は好ましい特徴を構成すると理解されるはずである。例えば、本発明の第2の態様の方法を使用して、上記の態様1-1から1-18のいずれかの接着剤ポリウレタン組成物を生成することができる。
【0113】
当該粘着剤ポリウレタン組成物を調製する方法のステップ(a)及び/又はステップ(b)は、触媒の存在下で実行されてもよい。適した触媒には、ジラウリン酸ジブチルすず、ジルコニウム(IV)アセチルアセトナート、2-エチルヘキサン酸ジブチルすず、及び三級アミンが含まれる。
【0114】
ステップ(a)及び/又はステップ(b)は、溶媒の存在下で実行されてもよい。適した溶媒は、酢酸エチル、トルエン、及びテトラヒドロフラン等の非プロトン溶媒である。
【0115】
好ましくは、光重合開始剤が、ステップ(a)の生成物又はステップ(b)の前にポリマー成分と組み合わされる。最も好ましくは、光重合開始剤は、ステップ(b)の前にポリマー成分と組み合わされる。
【0116】
接着性医療製品
本発明の第3の態様によると、第1のキャリアフィルムとリリースライナーとの間に配置された、本明細書において定められている切り替え可能な接着剤ポリウレタン組成物の層を含む接着性医療製品が提供される。
【0117】
当該接着性医療製品は、吸収性創傷パッドを含む接着性ドレッシング材、外科用切開ドレープ、創傷を覆うための細菌バリア、及び創傷の端を共に閉じるための皮膚閉鎖装置を含む群から選択される製品を含んでもよい。適切には、医療製品の第1のキャリアフィルムは、UV及び/又は可視光に対して半透明であってもよい。任意的に、取り外し可能な遮光層(light occlusive layer)が、接着剤組成物の反対側の表面の第1のキャリアフィルムに積層される。
【0118】
切り替え可能な接着剤組成物層を担持するためのキャリアフィルムに対する例証的な材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/エチルアクリレートコポリマー、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、シリコーンエラストマー、ポリジメチルシロキサン、ネオプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、架橋ポリメタクリレートポリマー(ハイドロゲル)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、エチレンビニルアルコールコポリマー、エチレン-ビニルオキシエタノールコポリマー;シリコーンコポリマー、例えば、ポリシロキサン-ポリカーボネートコポリマー、ポリシロキサンポリエチレンオキシドコポリマー、ポリシロキサン-ポリメタクリレートコポリマー、ポリシロキサン-アルキレンコポリマー(例えば、ポリシロキサン-エチレンコポリマー)、及びポリシロキサン-アルキレンシランコポリマー(例えば、ポリシロキサン-エチレンシランコポリマー)等;セルロースポリマー、例えば、メチル又はエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びセルロースエステル等;ポリカーボネート;並びに、ポリテトラフルオロ-エチレン;等を含む。より好ましいのは、医療用のポリエーテル又はポリエステルポリウレタン、熱可塑性ポリエステルエラストマー、有孔ポリエチレン、ポリプロピレン及びPETフィルム、並びに医療用の織布又は不織布材料である。
【0119】
接着性創傷ドレッシング材は、通常、被覆された創傷から滲出液を吸収するための吸収パッドから成り、吸収パッドは、創傷パッドを創傷上の所定の位置に固定するための接着領域によって取り囲まれている。接着領域及び創傷パッドは、肌色であることが多いか、又はその目に見える表面に魅力的なデザインを有することもあるキャリアフィルム上で支持される。本発明による切り替え可能な接着剤組成物は、接着性創傷ドレッシング材の創傷パッド周囲の接着領域において接着剤として使用するための理想的な候補である。
【0120】
接着性創傷ドレッシング材は、自宅で一般ユーザによって適用されることが多く、必ずしも医療従事者によって適用されるわけではない。適したUV照射装置を利用できる家庭はほとんどないため、家庭用の接着性創傷ドレッシング材は、好ましくは、可視光によって硬化可能な接着剤を含む。場合によっては、接着性創傷ドレッシング材は、UV光によって硬化可能な接着剤を含むことが好ましいため、ドレッシング材の取り外しのタイミングは医療従事者によって制御される。接着剤がUV光によって硬化可能である場合は、取り外し可能な遮光層は不要であり得る。
【0121】
家庭用に意図された接着性創傷ドレッシング材は、好ましくは、切り替え可能な接着剤組成物の早期の切り替えを防ぐために、遮光層を含むことになる。第1の遮光層は、キャリアフィルムのうち、接着剤とは反対の側に配置され、ユーザが接着性創傷ドレッシング材を取り外すのを望む時までその位置に残る。この時点で、第1の遮光層は除去され、下にある切り替え可能な接着剤組成は可視光に曝露され、粘着性状態から非粘着性又は低粘着性の状態への接着剤組成物の切り替えが結果として生じる。任意的に、第2の遮光層が、ドレッシング材の接着剤側に配置されるリリースライナーの一部を形成してもよい。この第2の遮光層は、粘着性創傷ドレッシング材が創傷の上に適用される直前に除去される。接着性創傷ドレッシング材が遮光性のパッケージで提供される場合には、第2の遮光層は不要であり得る。
【0122】
接着性創傷ドレッシング材がUV光によって硬化可能な接着剤を含む場合は、遮光層は必要ではない。代わりに、接着性創傷ドレッシング材のキャリアフィルムが、UVに対して半透明であることが必要とされるだけである。接着性創傷ドレッシング材を取り外すことが所望される場合は、訓練を受けた医療従事者が、接着性創傷ドレッシング材上に適したUV光源の光を当てて、硬化反応を開始する。数秒で接着剤はその粘着性を失い、創傷ドレッシング材は容易に取り除かれる。
【0123】
リリースライナーは、接着層から容易に除去されるのを可能にするために、低い表面エネルギーを有するいかなる被覆材料から選択されてもよい。適したリリースライナーには、接着剤組成物に接触する表面にシリコーンコーティングが提供された紙及びプラスチックフィルムが含まれる。
【0124】
本発明の第4の態様によると、本明細書において記載される切り替え可能な接着性ドレッシング材を使用して創傷を治療する方法が提供され、当該方法は、リリースライナーを除去し、ドレッシング材を創傷部位に適用するステップを含む。
【0125】
本発明は、図面を参照することによって、単なる例として且つ限定することなく、さらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【
図1】本発明の第1の実施形態による接着性ドレッシング材を通る断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態による、患者の前腕から接着性ドレッシング材を取り外す試みを示した斜視図であり、どのように接着剤ドレッシング材の取り外しが接着剤組成物を突き出させるかを部分断面で示した拡大吹き出しを含んだ図である。
【
図3】接着剤の切り替えをもたらすための照射を受ける、本発明の第1の実施形態による接着性ドレッシング材を示した斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態による接着性ドレッシング材が、接着剤の切り替え後にどのように容易に取り外すことができるかを示した斜視図である。
【
図5】実施例7から11に対する剥離力の測定値を示したグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0127】
次に、本発明の切り替え可能な接着剤組成物を使用した接着性医療製品が、
図1から4を参照して記載される。この例における接着性医療製品は、接着性医療ドレッシング材である。
【0128】
図1は、患者の皮膚20に取り付けられた接着性医療ドレッシング材100を通る断面図である。接着性医療ドレッシング材100は、以下の構造を有する多層製品である。ドレッシング材100は、保護バッキング層140の下に配置された、創傷に面した吸収層130を含む。両側の端部150において、バッキング層140には、UV及び/又は可視光の影響下で架橋することができる硬化性分子を含む切り替え可能な接着剤組成物170が提供される。
【0129】
バッキング層140には、任意的に、弱い接着剤190によってバッキング層140にリリース可能に固定された遮光カバー層180が提供される。除去を容易にするために、遮光カバー層180は、その端部110においてバッキング層140より外にはみ出している。切り替え可能な接着剤組成物170がUV放射によって作動する光重合開始剤を有する場合、遮光カバー層180は省かれてもよい。
【0130】
図2は、切り替え可能な接着剤組成物を切り替える前に、患者の前腕14から接着性ドレッシング材100を取り外す試みを示した斜視図である。切り替える前、接着剤組成物171は非常に粘着性が高く、かなりしっかりと接着性ドレッシング材100を患者の皮膚20に固着させている。従って、患者が前腕14からドレッシング材100を剥離するのを試みると、ドレッシング材100が何らかの力で剥離されない限りドレッシング材100は皮膚20に付着したまま残る。
【0131】
図3は、接着剤組成物170における硬化性分子の硬化をもたらすために、この例ではランプ60から照射を受けている接着性ドレッシング材を示した斜視図である。ランプ60からの光(UV光又は可視光、好ましくは長波長UV)は、接着剤組成物170における光重合開始剤にフリーラジカルを発生させ、フリーラジカルは、接着剤組成物における硬化性分子の硬化を開始する。硬化は、接着剤組成物170をその粘着性の状態から非粘着性又は低粘着性の状態に変換する(切り替える)。
【0132】
図4は、接着剤組成物を切り替えた後、過剰な力を必要とすることなく、どのように患者が前腕14から接着性ドレッシング材100を容易に取り外すことができるかを示した斜視図である。
【0133】
実施例
実施例1-5 架橋成分(B)
反応は、撹拌しながら室温で実行した。触媒を除いて、表1において以下に示されている成分を試薬瓶に添加し、均一溶液に混合し、その後、触媒を添加した。この混合物を、反応を完了させるために一晩置いた。
【0134】
未反応のヒドロキシプロピルメタクリレート又は2-エチル-1-ヘキサノールが残っていないことをGPC測定によって確かめた後、イソシアネート官能性アクリレートオリゴマーを使用する準備ができた。
【0135】
1:100の比で、テトラヒドロフランで試料を希釈することによってGPCを実行し、1ml/分の流量のテトラヒドロフランを使用して、Waters HPLC 1515ポンプの注入バルブに20μlの量で注入した。この装置には、Waters 2414示差屈折率検出器に接続されたStyragel HR1カラムが装備されていた。
【0136】
表1において示されている成分は以下のとおりである。
【0137】
A ポリイソシアネート成分(i)
B 溶媒
C 触媒
D 安定剤
E 化合物(ii)
F 化合物(iii)
【0138】
【表1】
実施例6-ポリマー成分(A)の調製
紫外線源からの保護下で、Baymedix AR602を除いて、表2における全ての成分を密閉可能なガラスジャーに入れ、マグネチックスターラーを使用して全ての固体材料が溶解するまで混合した。次に、Baymedix AR602を添加し、均質になるまで混合物を撹拌した。
【0139】
表2において示されている成分は以下のとおりである。
【0140】
H ポリオール
I 光重合開始剤
B 溶媒
C 触媒
D 保管中の早期の切り替えを防ぐための安定剤
J 界面活性剤
【0141】
【表2】
実施例7から11-切り替え可能な接着剤組成物
実施例7から11は、実施例1から5からの架橋成分(B)を含む組成物と、実施例6からのポリマー成分(A)を含む組成物とを、表3において示されている量で含むように組み立てた、本発明による切り替え可能な接着剤組成物の例である。
【0142】
実施例7から11における両成分を密閉可能なガラスジャーに入れ、紫外線源からの保護下で約10分かけてマグネチックスターラーを使用して均一な溶液まで混合した。次に、結果として生じる接着剤溶液を、150μmのゲージを有するスプレッダを使用して、除去可能なキャリアフィルム(医療用フィルム48938)を有する可撓性の医療用ポリウレタンフィルム上に広げた。次に、接着剤コーティングを130°Cで10分間、換気ファンアシストオーブンにおいて硬化させた。このステップの後、接着剤コーティングの厚さは約60~80μmであった。
【0143】
【表3】
剥離力の測定
切り替え前後の剥離力を、実施例7から11の接着剤の各々に対して決定した。剥離力測定に対する準備において、非常に容易なリリースライナーを接着剤の曝露側に移した。次に、除去可能なキャリアフィルムを医療用フィルムから除去し、高接着PETテープと交換した。PETフィルムは、測定される剥離力に対する医療用フィルムの弾性効果を打ち消すために、医療用フィルムに固定される。
【0144】
剥離強度を、FINATテスト法FTM1に従って、100Nのロードセルを備えたInstron5943テスト装置を使用して20分の滞留時間後に決定したが、例外として、高密度ポリエチレン(HDPE)パネルを基板表面として使用し、1回の剥離力測定の時間枠内に必要なデータの全てを収集するために、100mm/分の剥離速度、200mm/sのクロスヘッド速度を使用した。
【0145】
365nm周辺の狭いスペクトルを有するXeLED-Ni3UV-R4-365-E27-SSランプから、約5mW/cm2の光強度でPETテープ及び医療用フィルムバッキングを介して接着剤(HDPEプレートに接着されたもの)を光に曝露することによって、接着剤の切り替えを達成した。異なるコーティングに対する切り替え時間を、約1.5分間の連続剥離強度試験中に、照射の開始時間から、実質的に瞬間的な粘着消失が発生したまでの時間として測定した(すなわち、照射しながら一定時間接着剤を剥がした)。剥離力の測定を、剥離力がプラトー値に達するまで照射下で継続し、これは、典型的に、切り替え時間の5~10秒後に発生させた。剥離強度及び切り替え時間を4回測定し、切り替え時間及び(切り替え前後の)剥離強度の平均値が、表4において報告されている。
【0146】
剥離力の測定結果が、meq硬化性基(すなわち、メタクリレートエステルのオレフィン部分)と並んで表4において示されている。硬化性基のmeqは、接着剤に添加されたヒドロキシプロピルメタクリレートのmmol及び接着剤の総乾燥重量(すなわち、溶媒を除いたもの)から容易に計算される。
【0147】
【表4】
表4から、いずれの場合も80%以上の剥離力の低下が得られることがわかる。予想通り、切り替え後の剥離力は、最も低い硬化性メタクリレート部分の含有量を有する実施例11の接着剤に対して最も高い。しかし、硬化性基の含有量が比較的低い場合でも、剥離力の低下は著しい。接着剤のメタクリレート含有量が約0.05meq/gを超えると、剥離力の減少は容易に90%を超える。実施例7と8との比較によって、硬化性基の含有量が約0.1meq/gを超えると、切り替えられた剥離力は本質的であるということが示されている。これは、過剰な量の硬化性基が良好な切り替え性能に不可欠ではないということを実証している。これによって、接着剤の性能を損なうこと(又は改善することさえ)なく、硬化性基の一部を化合物(iii)からの非硬化性基に置き換える可能性が提供される。実施例7及び8において、剥離力の低下は99%に近く、本質的に基板に損傷を与えることなく、切り替えられた接着剤を基板から取り外すことができる(さらには、切り替えられた接着剤を皮膚から取り外す場合に痛みはない)ということを実証している。剥離力の測定結果が、
図5においてグラフを用いて示されている。
【0148】
実施例12から17-イソシアネートの置換度が異なる架橋成分
ポリイソシアネート成分(i)の置換度が異なる架橋成分(B)を含む組成物を、表5において提示された異なる成分の量を使用して、実施例1において提示した手順に従って調製した。任意的な成分(iii)は、実施例12から17では使用されない。
【0149】
【表5】
実施例18から31-切り替え可能な接着剤組成物
実施例18から31は、実施例12から17からの架橋成分(B)を含む組成物と、実施例6からのポリマー成分(A)を含む組成物とを、表6において示されている量で含むように組み立てた、本発明による切り替え可能な接着剤組成物の例である。200μmのゲージを使用してフィルム上に接着剤を広げたことを除いて、実施例7の方法に従って接着剤を組み立て、90~100g/m
2の被覆重量を有する接着剤コーティングが結果として生じている。剥離力を、接着剤ごとに4つの試料において上記のように測定し、表6において報告されている。測定された値は接着不良を表している。これらの試験において凝集不良は観察されなかった。言い換えると、最大の測定された剥離力は、接着剤を基板から分離するために必要な力を表しており、(表面に残留物を残す)接着構造の内部破壊を表していない。
【0150】
十分な未反応イソシアネート基がポリマー成分(A)との反応に利用可能であることを確実にするために、ポリイソシアネート成分の置換度が増加するに従い、架橋成分(B)の相対量を増加させる必要があるということが正しく理解されることになる。
【0151】
【表6】
表6において示されているように、架橋成分(B)のイソシアネート官能基が硬化性基(アクリレート/メタクリレート等)又は非硬化性基のいずれかで置換されている度合いが、接着剤組成物の接着特性に影響を与える。架橋成分(B)は、十分な量の不飽和部分を用いて、(化合物(iii)からの)非硬化性部分を除くだけで簡単に作ることができるということが予想され得るけれども、架橋成分(B)が低い置換度のみを有する場合には、形成された組成物の接着性は低いことがわかっている。形成されたポリマーマトリックス内の架橋の分布及び密度、従って、接着剤の特性は、イソシアネート成分(i)の一部を非硬化性化合物(iii)で置換することによって、ポリオール-イソシアネートオリゴマー対、又はその混合物に対して調整することができる。従って、最小のポリイソシアネート成分(i)の置換度は、少なくとも0.2、及び好ましくは少なくとも0.3、より好ましくは少なくとも0.4、最も好ましくは少なくとも0.45又は少なくとも0.5である。
【0152】
一方で、イソシアネート置換のレベルが非常に高い架橋成分(B)を使用して、強力な接着剤を形成することができるけれども、ポリマー成分(A)と十分な架橋を形成するために必要とされる架橋成分(B)の量は非常に多く、これは、費用対効果が低い。例えば、最大のポリイソシアネート成分(i)の置換度は、0.3Y及び0.8のいずれか小さい値以下、例えば、0.28Y及び0.75のいずれか小さい値以下である。
【0153】
実施例32-架橋成分(B)を含む組成物のポンピング
ポリマー成分(A)と架橋成分(B)との比は、接着剤の粘着性を決めることになり、同時に、比の小さな変動が接着性能に大きな影響を与えることがある。従って、接着剤を被覆している間に安定した比を維持する最良の方法の1つは、歯車ポンプ(ギア定量ポンプ)を使用することである。以下の実施例では、Scanrex Industriservice ABからの2K GMM e2ミキサーが、それぞれ架橋成分及びポリマー成分に対して、Oerlikon BarmagからのGM301D-30R-110Z3.0ccポンプ及びGM601D-30R-110Z6.0ccポンプを装備した。
【0154】
量産試作では、実施例1からの架橋成分(B)を含む組成物20kg(硬化性基によるイソシアネートの置換約65%)、及び実施例6からのポリマー成分(A)を含む組成物40kgを調製し、それぞれの容器に投入した。ミキサーは、以下の表7において表示されている総流量に設定した。次に、混合プロセスを開始し、架橋部品(B)の3.0ccポンプが高過ぎるトルクのために停止するまで断続的な条件下で進めた。架橋成分のポンプヘッドを解体する際、歯車上並びにそれを取り囲むポンプハウス上に白いゴム状の材料があることに気づいた。高い剪断力が重合を開始し得ることはよく知られているため、これがポンプの目詰まりの原因であったと考えられている。
【0155】
第2の試作では、実施例2に従って作製した架橋成分を含む組成物5kg(硬化性基によるイソシアネートの置換約19%)を、その対応する容器に投入し、ここでは、再循環装置を配置した後、(ポリマー成分のポンプは切断した状態で)架橋成分のポンプを、2.5ml/sの流量で開始した。いずれのポンプ不良もなくシステムにおいて970リットルポンプした後、分解した後のポンプヘッドにおいて目に見える物質を検出することはできず、これは、化合物(iii)によりポリイソシアネート成分(i)の総置換度を維持しながら、硬化性部分の量を特定の濃度以下に保つことによって、ポンプヘッド内での重合を回避することができるということを明確に実証している。
【0156】
【表7】
実施例33-化合物(iii)として光重合開始剤を含む接着剤
化合物(iii)として光重合開始剤を含む架橋成分(B)を含む組成物を、表8において提示されている成分を使用して、実施例1の方法によって調製した。
【0157】
【表8】
ポリマー成分(A)を含む組成物を、表9において提示されている成分を使用して、実施例6の方法によって調製した。
【0158】
【表9】
実施例7の方法に従って、ポリマー成分(A)33.9gと架橋成分(B)9.94gとを組み合わせることによって接着剤組成物を調製した。この接着剤のNCO/OH比は0.465であった。この接着剤は、HDPE上で1.45N/25mmの初期の剥離力、0.10N/25mmの切り替え後の剥離力、及び9.6秒の切り替え時間を与えた。実施例33の接着剤の特定の利点は、潜在的に危険な光重合開始剤が、皮膚によって吸収することができないように、接着剤ポリマーマトリックスに化学的に結合するようになることである。
【0159】
実施例34-化合物(iii)として光重合開始剤を含む接着剤
化合物(iii)として光重合開始剤を含む架橋成分(B)を含む組成物を、表10において提示されている成分を使用して、実施例1の方法によって調製した。
【0160】
【表10】
ポリマー成分(A)を含む組成物を、表11において提示されている成分を使用して、実施例6の方法によって調製した。
【0161】
【表11】
実施例7の方法に従って、ポリマー成分(A)を含む組成物20.05gと、架橋成分(B)を含む組成物7.82gとを組み合わせることによって、接着剤組成物を調製した。この接着剤のNCO/OH比は0.841であった。この接着剤は、HDPE上で2.9N/25mmの初期の剥離力、0.08N/25mmの切り替え後の剥離力、及び5.5秒の切り替え時間を与えた。実施例34の接着剤の特定の利点は、ここでも、潜在的に危険な光重合開始剤が、皮膚によって吸収することができないように、接着剤ポリマーマトリックスに化学的に結合するようになることである。
【0162】
実施例35から38-接着剤の細胞毒性
架橋成分(B)を含む組成物を、表12(実施例35)において提示されている成分を使用して、実施例1の方法によって調製した。
【0163】
【表12】
ポリマー成分(A)を含む組成物を、表13(実施例36)において提示されている成分を使用して、実施例6の方法によって調整した。
【0164】
【表13】
表14において提示されている比率でポリマー成分(A)と架橋成分(B)とを含む組成物を使用して、実施例7の方法に従って接着剤を組み立てた。
【0165】
【表14】
実施例37及び38の細胞毒性(ISO10993-5“Biological Evaluation of Medical Devices”のガイドラインに記載されている方法に応じた細胞毒性試験に従って測定された)が、表15において提示されている。濃度の低い実施例がより好ましい細胞毒性を示すかどうかを決定するために、接着剤組成物の抽出物を希釈した。表15において、希釈率は、細胞毒性試験を行う前に抽出物をどの程度まで希釈したかを示している。抽出物:培地の比が表にされている。試料が試験をパスしたかどうかを決めるのは、希釈されていない(1:0)の試料が70%を超える生存率を示した場合のみであるということに留意するべきである。
【0166】
【表15】
表15において見られるように、実施例38からの試料は、細胞毒性試験をパスしたが、実施例37からの試料は、光重合開始剤がなく、触媒濃度がほぼ半減しているにもかかわらず、細胞毒性試験をパスできず、どちらも生細胞に対して特定の毒性を発揮すると予想された。これは、接着剤における硬化性部分の濃度を減少させることが、接着剤の切り替え特性を損なうことなく、接着剤の細胞毒性に有益な効果をもたらすということを実証している。
【0167】
医療用皮膚被覆が患者の皮膚に長期間接触することになる状況、又は、医療用皮膚被覆が長期間にわたって数回新しい医療用皮膚被覆に置き換えられる状況では、医療用皮膚被覆において使用される切り替え可能な接着剤組成物が低い細胞毒性のものであることが特に重要である。
【0168】
実施例39
架橋成分(B)を含む組成物を、表16において提示されている成分を使用して、実施例1の方法によって調製した。
【0169】
【表16】
実施例40
表17において提示されている比率で、実施例6のポリマー成分(A)を含む組成物、及び実施例39の架橋成分(B)を含む組成物を使用して、実施例7の方法に従って接着剤を組み立てた。
【0170】
【表17】
この接着剤は、HDPE上で3.38N/25mmの初期の剥離力、0.03N/25mmの切り替え後の剥離力、及び1.8秒の切り替え時間を与えた。実施例39におけるものと同様の架橋成分(B)と組み合わせて生成される接着剤の利点は、かなり少ない量のイソシアネート成分が必要とされるということである。これは、イソシアネート成分がポリマー成分(A)と比較して高価であるため、費用対効果がより高い。
【0171】
材料
上記の実施例では、以下の材料を使用した。
【0172】
【国際調査報告】