(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-19
(54)【発明の名称】SLMプロセスを制御することによって気孔欠陥を予備成形する方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/36 20210101AFI20230412BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230412BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230412BHJP
【FI】
B22F10/36
B22F10/28
B22F1/00 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577438
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 CN2020137881
(87)【国際公開番号】W WO2021212887
(87)【国際公開日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】202010319637.2
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522345951
【氏名又は名称】中国航発上海商用航空発動機製造有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】AECC SHANGHAI COMMERCIAL AIRCRAFT ENGINE MANUFACTURING CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】NO.77 Hongyin Road, Nicheng Town, Pudong District, Shanghai 201306, China
(71)【出願人】
【識別番号】519383452
【氏名又は名称】中国航発商用航空発動機有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】AECC COMMERCIAL AIRCRAFT ENGINE CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.3998, South Lianhua Road, Minhang District, Shanghai 200241, China
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】雷 力明
(72)【発明者】
【氏名】李 雅莉
(72)【発明者】
【氏名】何 艷麗
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁輝
(72)【発明者】
【氏名】付 俊
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA09
4K018BA04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
SLMプロセスを制御して気孔欠陥を予備成形する方法であって、指定金属溶融層(LY)において、第1走査経路(P1)および第2走査経路(P2)に沿ってレーザ走査を行い、前記第1走査経路(P1)および前記第2走査経路(P2)が経路重複領域(A0)を有し、前記経路重複領域(A0)が所定の幅を有するようにし、前記経路重複領域(A0)に重複するレーザエネルギ入力は所定のエネルギ値になるように制御され、これにより、前記経路重複領域(A0)の長手方向に沿った複数の位置にキーホールが形成され、前記指定金属溶融層(LY)を欠陥層とし、かつ前記経路重複領域(A0)のキーホールを気孔欠陥とする。この方法は、「キーホール効果」を利用してSLM製品内に付加製造による冶金学的欠陥特性を有する気孔欠陥を形成することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SLMプロセスを制御することによって気孔欠陥を予備成形する方法であって、
指定金属溶融層において、第1走査経路に沿ってレーザ走査を実行し、
前記指定金属溶融層において、第2走査経路に沿ってレーザ走査を実行し、
前記第1走査経路と前記第2走査経路とが経路重複領域を有し、前記経路重複領域に所定の幅を有するようにし、前記経路重複領域に重複するレーザエネルギ入力が所定のエネルギ値になるように制御され、これにより前記経路重複領域の長手方向に沿った複数の位置にキーホールを形成し、前記指定金属溶融層を欠陥層とし、かつ前記経路重複領域のキーホールを気孔欠陥とし、
前記第1走査経路および前記第2走査経路に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ走査方式を採用し、かつレーザパルス露光モードを採用し、
前記第1走査経路は第1ストライプ領域に位置し、前記第2走査経路は第2ストライプ領域に位置し、前記第1ストライプ領域および前記第2ストライプ領域はストライプラップ領域を形成し、前記ストライプラップ領域は前記経路重複領域を構成し、前記ストライプラップ領域のストライプラップ量は前記経路重複領域の幅であり、
SLMプロセスパラメータを以下のように制御し、
成形材料はHastelloy X合金を用いており、
レーザ走査パワーPは180-210Wであり、
走査線ドット間距離Dは80-100μmであり、
走査線露光時間tは70-90μsであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1走査経路は、平行かつ等間隔に設置された複数の第1走査線を含み、前記第2走査経路は、平行かつ等間隔に設置された複数の第2走査線を含み、前記第1走査経路と前記第2走査経路の走査ピッチは同じであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1走査経路および前記第2走査経路に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ往復走査方式を採用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
SLMプロセスパラメータをさらに以下のように制御し、
層厚dは30μmであり、
走査間隔hは70-100μmであり、
ストライプラップ量δは0.5-0.9mmであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
レーザ走査方向と前記第1ストライプ領域および/または前記第2ストライプ領域のストライプ幅とを変更することによって、前記欠陥層における前記ストライプラップ領域の位置、数および長さを制御し、これにより前記欠陥層における気孔欠陥の割合を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記欠陥層における気孔欠陥の割合aは、
a=(N×(πR
2)×L/h)/Sという式によって確定され、
ここで、Nはストライプラップ領域の数であり、Rは気孔半径であり、Lはストライプラップ領域の長さであり、hは走査ピッチであり、Sは欠陥層の断面積であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSLM製品の非破壊検査、欠陥の部品性能への影響評価などのために使用することができる、選択性レーザ溶融(SLM)プロセスを制御して気孔欠陥を予備成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(AM)は3Dプリントとも呼ばれ、離散堆積原理に基づいて、原材料を層ごとに溶融して部品成形を実現する製造技術である。SLM技術は最も潜在的なAM技術の一つと考えられ、微細な焦点スポットのレーザビームを成形エネルギ源とし、高速高精度走査振動鏡をビーム加工制御ユニットとし、より薄い層厚制御技術を採用するため、他のAM技術に比べて、SLM技術は高緻密と高精度の成形品を得る面でより優位であり、複雑なキャビティ、型面、薄壁、可変断面部品の直接成形を完成することができ、航空宇宙飛行などの分野の、例えば航空機エンジンの予旋回ノズル、燃料ノズル、タービンブレードなどの部品に広く応用することができる。
【0003】
SLM過程における金属粉末材料は急速溶融凝固の複雑な相転移過程を発生するため、SLM製品は気孔、クラックおよび非融合などの典型的な欠陥が存在しやすい。航空宇宙用SLM製品は、現在、部品が使用要件を満足するかどうかを分析評価するために、工業用CT検査、超音波検査、放射線検査、蛍光浸透検査などのような非破壊検査方法を広く採用し、部品の欠陥位置および大きさなどの特徴を検査する。しかし、AM製品はその組織と欠陥特徴が従来の製品と異なり、不均一性と異方性などの特徴があり、かつ幾何形状が複雑であり、従来の非破壊検査技術はアクセス性が悪く、検査の盲区が大きいなどの難題があるため、従来の製品の非破壊検査技術を簡単に流用することができず、組織特徴と非破壊検査信号の対応関係を再分析し、典型的な欠陥の非破壊検査信号特徴を明確にし、幾何構造の複雑な状況に基づいて適用する非破壊検査方法とプロセスパラメータを選択する。例えば、工業用CTは、AM製品の気孔、クラック、非融合等の欠陥を検出することができ、被検物の断層撮影画像を提供することができる。CT検査前に、被検物材料、構造および検査したい欠陥寸法などと組み合わせて、欠陥を含む対比分析サンプルを製造し、その後合理的な検査技術パラメータを設定する。対比分析サンプルは検査プロセスパラメータの設定に影響し、後続の被検物の欠陥検査状況に影響し、対比分析サンプルの材料、成形プロセス、欠陥などと被検物が近いほど良い検査効果を得ることができる。したがって、検査対象のAM製品について、その対比分析サンプルもAMプロセスを用いて製造し、関連欠陥を予備成形しなければならない。
【0004】
現在、AM製品の内部気孔欠陥を予備成形する方法は主に三次元モデル設計段階で特定の位置に一定の寸法の気孔を設計し、その後、気孔特徴を含む製品を付加成形する。しかし、AM技術自体の特徴によって制限され、設計された気孔特徴は成形時に溶融状態の金属液体で充填されやすく、そのため、この方法は気孔欠陥の予備成形に成功しにくい。従来方法の不足に対して、本発明はSLMプロセスを制御することによって気孔欠陥を予備成形する方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、SLMプロセスを制御することによって、「キーホール効果」を利用してSLM製品内に気孔欠陥を予備成形することができる、気孔欠陥の予備成形方法を提供することである。
【0006】
本発明のさらなる目的は、SLMプロセスを制御することによってSLM製品内に付加製造による冶金学的欠陥の特徴を有する気孔欠陥を形成することができる、気孔欠陥を予備成形する方法を提供することである。
【0007】
本発明はSLMプロセスを制御することによって気孔欠陥を予備成形する方法を提供し、指定金属溶融層において、第1走査経路に沿ってレーザ走査を実行し、前記指定金属溶融層において、第2走査経路に沿ってレーザ走査を実行し、ここで、前記第1走査経路と前記第2走査経路とが経路重複領域を有し、前記経路重複領域が所定の幅を有するようにし、前記経路重複領域に重複するレーザエネルギ入力は所定のエネルギ値になるように制御され、これにより、前記経路重複領域の長手方向に沿った複数の位置にキーホールが形成され、前記指定金属溶融層を欠陥層とし、かつ前記経路重複領域のキーホールを気孔欠陥とする。
【0008】
一実施形態では、前記第1走査経路および第2走査経路に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ走査方式を採用し、前記第1走査経路は第1ストライプ領域に位置し、前記第2走査経路は第2ストライプ領域に位置し、前記第1ストライプ領域および前記第2ストライプ領域はストライプラップ領域を形成し、前記ストライプラップ領域は前記経路重複領域を構成し、前記ストライプラップ領域のストライプラップ量は前記経路重複領域の幅である。
【0009】
一実施形態では、前記第1走査経路は、平行かつ等間隔に設置された複数の第1走査線を含み、前記第2走査経路は、平行かつ等間隔に設置された複数の第2走査線を含み、前記第1走査経路と前記第2走査経路の走査ピッチは同じである。
【0010】
一実施形態では、前記第1走査経路および前記第2走査経路に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ往復走査方式を採用する。
【0011】
一実施形態では、前記第1走査経路および前記第2走査経路に沿ったレーザ走査は、レーザパルス露光モードを使用する。
【0012】
一実施形態では、SLMプロセスパラメータを以下のように制御する。すなわち、成形材料は「Hastelloy(登録商標) X」合金を用いており、レーザ走査パワーPは180-210Wであり、走査線ドット間距離Dは80-100μmであり、走査線露光時間tは70-90μsである。
【0013】
一実施形態では、SLMプロセスパラメータをさらに以下のように制御する。すなわち、層厚dは30μmであり、走査間隔hは70-100μmであり、ストライプラップ量δは0.5-0.9mmである。
【0014】
一実施形態では、レーザ走査方向と前記第1ストライプ領域および/または前記第2ストライプ領域のストライプ幅とを変更することによって、前記欠陥層における前記ストライプラップ領域の位置、数および長さを制御し、これにより前記欠陥層における気孔欠陥の割合を制御する。
【0015】
一実施形態では、前記欠陥層における気孔欠陥の割合aは、
a=(N×(πR2)×L/h)/Sという式によって確定され、
ここで、Nはストライプラップ領域の数であり、Rは気孔半径であり、Lはストライプラップ領域の長さであり、hは走査ピッチであり、Sは欠陥層の断面積である。
【0016】
上記気孔欠陥の予備成形方法は「キーホール効果」を利用してSLM製品内に気孔欠陥を予備成形し、ここでは、成形プロセスパラメータを制御することによって「キーホール効果」を作ることができ、SLM製品の指定位置で、閉鎖する気孔群を予備成形し、また、成形プロセスパラメータによって気孔欠陥位置および気孔欠陥の割合を制御することができる。
【0017】
上述した気孔欠陥の予備成形方法を実施することによって、SLM製品において気孔をうまく得ることができ、気孔の形状および寸法は、付加製造による冶金学的欠陥の特徴を有する。上述した気孔欠陥の予備成形方法はSLM製品の組織を破壊せず、その不均一性と異方性などの特徴を保持する。上記気孔欠陥の予備成形方法によって欠陥が予備成形されたSLM製品を用いて対比分析するとき、SLM製品の気孔欠陥と非破壊検査信号、製品の性能との間の実際な対応関係を分析することに有益であり、良好な検出効果を得ることに有利である。
【0018】
また、上記気孔欠陥の予備成形方法によってSLM製品またはその典型的な特徴サンプルの重要な位置に気孔を予備成形することができ、これにより、引張、耐久、疲労などの強度評価試験を行い、得られた性能評価結果は気孔欠陥と製品性能との関係を実際に分析研究するために利用され、SLM製品の応用に有力な理論的サポートを提供する。
本発明に係る上記の、および他の特徴、性質と利点は、以下の図面と実施例の説明から更に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、具体的な実施形態および図面を参照しながら本発明をさらに説明し、以下の説明においては、本発明を十分理解するためにより多くの細部を説明している。しかし、本発明は、その説明と異なる他の多くの形態によっても実施することができ、当業者が本発明の内包から逸脱しない場合において実際の応用状況に応じて類似の拡張、演繹をすることができることは明らかである。したがって、本発明の保護範囲は、この具体的な実施形態の内容によって限定されるべきものではない。
【0021】
図1および
図2を参照すると、キーホール効果の原理概略図が示されており、
図1は通常の溶融池を概略的に示しており、
図2は溶融池内にキーホールが形成されていることを概略的に示している。
【0022】
図1に示すように、入射したレーザ10のエネルギ密度は適切なプロセス範囲内にある場合、形成された溶融池20は比較的安定であり、冶金学的品質は良好であり、図には、レーザ10のレーザ走査方向D0、SLM溶融成形中の金属溶融層30、SLM溶融成形済みの基体材料40も示されている。
【0023】
図2に示すように、入射したレーザ10のエネルギ密度がエネルギ閾値まで上昇すると、材料表面が気化してプラズマ50が形成され、蒸気の反力で溶融した金属の内部にキーホール60が形成され、その後、溶融池内のMarangoni対流、表面張力などの作用で金属液体が移動し、キーホール60を包んで充填し、逃げていないガスが凝固後の製品に閉じ込められて気孔が形成される。
【0024】
レーザ10がレーザ走査方向D0に沿って次の位置に移動すると、エネルギ閾値にあるレーザエネルギはまだ凝集したプラズマ50によって囲まれており、粉末材料に入射したレーザ10のエネルギはエネルギ閾値より低くなり、キーホールを形成することができない。レーザ10が引き続き、凝集したプラズマ50の範囲内にないように移動した後、レーザ10のエネルギ密度は改めてエネルギ閾値になり、キーホール60が再び形成され、キーホール60は、製品内に気孔欠陥とし、すなわち、製品内に気孔欠陥を予備成形する。したがって、キーホール効果によって形成される気孔欠陥は、一定の周期性を有する。
【0025】
本発明はキーホール効果を利用してSLM製品に気孔欠陥を予備成形する方法を提供し、SLMプロセスを制御することによって気孔欠陥を予備成形する方法と呼ぶことができる。
【0026】
図3を参照すると、本発明による気孔欠陥の予備成形方法では、指定金属溶融層LYでは、第1走査経路P1に沿ってレーザ走査が行われ、指定金属溶融層LYでは、第2走査経路P2に沿ってレーザ走査が行われる。ここで、第1走査経路P1と第2走査経路P2とが経路重複領域A0を有し、経路重複領域A0が所定の幅を有するようにし、経路重複領域A0に重複するレーザエネルギ入力が所定のエネルギ値になるように制御され、これにより、経路重複領域A0の長手方向に沿った複数の位置にキーホールが形成され、指定金属溶融層LYを欠陥層とし、経路重複領域A0のキーホールを気孔欠陥とする。
【0027】
SLMプロセスは、層毎に凝固部品を溶融することであり、ここでは、指定金属溶融層LYのSLMプロセスパラメータを変更することで、該層の冶金的組織を変更することができる。したがって、指定金属溶融層LYにキーホールを生成するSLMプロセスパラメータを設定することによって、または、上述した気孔欠陥の予備成形方法における指定金属溶融層LYの高さを変更することによって、気孔欠陥の高さ方向における位置を制御することができる。
【0028】
図3に示す例示的な実施形態では、第1走査経路P1および第2走査経路P2に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ走査方式を採用することができる。第1走査経路P1は、第1ストライプ領域Z1(
図3において左側)に位置し、第2走査経路P2は、第2ストライプ領域Z2(
図3において右側)に位置する。
【0029】
第1ストライプ領域Z1および第2ストライプ領域Z2は、ストライプラップ領域Z0を形成する。ストライプラップ領域Z0は、第1走査経路P1と第2走査経路P2との経路重複領域A0を構成する。ストライプラップ領域Z0のストライプラップ量δは、経路重複領域A0の幅である。ストライプラップ領域Z0のラップ長さLは、すなわち、経路重複領域A0の長さである。
【0030】
第1走査経路P1は、平行かつ等間隔に設置された複数の第1走査線L1を含むことができ、第2走査経路P2は、平行かつ等間隔に設置された複数の第2走査線L2を含むことができる。第1走査経路P1と第2走査経路P2の走査ピッチは同じであり、いずれも走査ピッチhである。走査ピッチhとは、隣り合う2本の第1走査線L1(または、隣り合う2本の第2走査線L2)の間のピッチである。
【0031】
また、第1走査経路P1および第2走査経路P2に沿ったレーザ走査は、ストライプ式レーザ往復走査方式を採用することができる。換言すれば、隣り合う2つの第1走査線L1が示す走査方向は逆であり、隣り合う2つの第2走査線L2が示す走査方向は逆である。
【0032】
具体的には、
図3の場合、気孔欠陥の予備成形方法では、ストライプ式レーザ往復走査を行う。レーザは、第1走査経路P1に沿って左側の第1始点B1から第1終点E1まで第1ストライプ領域Z1を走査し、次に、第2走査経路P2に沿って右側の第2始点B2から第2終点E2まで第2ストライプ領域Z2を走査する。
【0033】
別の実施形態では、レーザは、ストライプ式レーザ往復走査方式で左側の第1始点B1から第1終点E1まで第1ストライプ領域Z1を走査し、次いでストライプ式レーザ往復走査方式で右側の第3始点B3から第3終点E3まで第2ストライプ領域Z2を走査し続けることができる。レーザが第2始点B2に到着して第2ストライプ領域Z2の走査を開始する場合と比較して、第3始点B3が第1終点E1に近い位置にあり、第3始点B3から第2ストライプ領域Z2の走査を開始することは、効率を向上させるのに有利であり得る。
【0034】
第1ストライプ領域Z1と第2ストライプ領域Z2とのラップ部は、一定のラップ量(ストライプラップ量δ)を有するストライプラップ領域Z0を形成する。ストライプラップ領域Z0はレーザによって2回溶融される。レーザが第1ストライプ領域Z1を走査した後、ストライプラップ領域Z0は急速に溶融凝固し、かつ温度が上昇する。レーザが第2ストライプ領域Z2を走査する時、ストライプラップ領域Z0を2回目に走査し、ストライプラップ領域Z0は再び溶融行為を発生する。例えば、成形プロセスパラメータを制御することによってストライプラップ領域Z0に2回重ねたレーザエネルギ入力を所定のエネルギ値にするか、あるいは、金属材料が気化する条件に達し、このとき、ストラップラップ領域Z0には、キーホールが形成され、これにより、気孔欠陥が残る。
【0035】
ストライプ式レーザ走査方式は領域分割走査の1つの方式であり、その原理は部品モデル断面を複数のストライプ領域に分け、その後レーザは部品モデル断面情報に基づいて領域ごとに走査し、走査された領域は素早く溶融し、凝固する。ストライプ領域の幅は、ストライプ幅と呼ぶことができる。好ましくは、各ストライプ領域のストライプ幅は、
図3、
図4および後ろの
図5、
図7、
図9に示すように同じである。
図3および
図4には、いずれも第1ストライプ領域Z1を例示して、ストライプ幅w0が示されている。
【0036】
気孔欠陥の予備成形方法では、レーザ走査方向とストライプ幅w0(第1ストライプ領域Z1および/または第2ストライプ領域Z2のストライプ幅)とを変更することにより、ストライプラップ領域Z0の上記欠陥層における位置、数および長さを制御し、したがって、上記欠陥層における気孔欠陥の割合aを制御する。例えば、
図3に示す実施形態では、部品モデル断面を2つのストライプ領域に分割し、
図4に示す実施形態では、同一の部品モデル断面についてストライプ幅w0を変更し、部品モデル断面を4つのストライプ領域に分割し、かつレーザ走査方向を変更する。
【0037】
前述したように、第1走査経路P1と第2走査経路P2の走査ピッチは同じであり、いずれも走査ピッチhである。
図3の場合、欠陥層における気孔欠陥の割合a(または、気孔欠陥率)は、次の式を参照して確定されてもよいし、次の式によって近似的に確定されてもよい。
a=(N×(πR
2)×L/h)/S 式(1)
ここで、Nはストライプラップ領域Z0の数であり、Rは気孔半径であり、Lはストライプラップ領域Z0の長さであり、hは走査ピッチであり、Sは上記欠陥層の断面積である。
【0038】
上記式(1)を参照して各パラメータを調整することにより、欠陥層に必要な気孔欠陥の割合aを得ることができる。
【0039】
第1走査経路P1および第2走査経路P2に沿ったレーザ走査は、レーザパルス露光モードを採用することができる。本発明者らは、レーザパルス露光モードを用いる場合において、レーザ連続露光モードを用いる場合と比較して、「キーホール効果」がより容易に発生することを実験的に見出した。
【0040】
以下、本発明の実施例を提供する。後ろの実施例は、前の実施例の部品符号および一部の内容を流用し、同じ符号を用いて同じまたは類似の部品を示し、同じ技術的内容の説明を選択的に省略することを理解されたい。省略された部分の説明について、前の実施例を参照してよく、後ろの実施例は詳細な説明を省略する。また、第1実施例から第3実施例では、第1ストライプ領域Z1と第2ストライプ領域Z2との各プロセスパラメータが同一であり、第2ストライプ領域Z2における第2走査経路P2が、第1ストライプ領域Z1における第1走査経路P1から所定の距離だけずれてなることにほぼ相当する。
(第1実施例)
【0041】
本実施例におけるレーザ走査ポリシーは、
図5を参照されたい。本実施例で使用されるSLM成形装置はレーザパルス露光モードを採用し、成形材料はHastelloy X合金を採用し、成形されたSLM試料寸法は10mm×10mm×10mmである。
【0042】
気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することはさらに以下を含む。すなわち、レーザ走査パワーPは200Wであり、走査線ドット間距離Dは80μmであり、走査線露光時間tは80μsである。ここでは、走査線ドット間距離Dはレーザパルスが打点(ドット)式移動時に隣接する2ドット間の距離を指し、走査線露光時間tはレーザパルスが打点式移動時に隣接する2ドット間の移動にかかる時間を指す。
層厚dは30μmであり、走査ピッチhは70μmであり、ストライプラップ領域Z0の幅δは0.5mmであり、
ストライプ幅w0は5mmであり、レーザ走査方向は90°であり、長さ10mmの水平に延びるストライプラップ領域Z0を形成する。
【0043】
本実施例は、試料の1500層-1700層目に、上述の予備成形気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することによって、試料をSLM成形する。
【0044】
図6は、本実施例で得られた予備成形気孔欠陥を有する試料の気孔分布図であり、ここでは気孔H1を示す。本実施例で形成した気孔半径Rの平均値は約25μmであり、a=(N×(πR
2)×L/h)/Sとの式1により、得られた欠陥層における気孔欠陥の割合aは約0.34%である。
(第2実施例)
【0045】
本実施例におけるレーザ走査ポリシーは、
図7を参照されたい。本実施例で使用されるSLM成形装置はレーザパルス露光モードを採用し、成形材料はHastelloy X合金を採用し、成形されたSLM試料寸法は10mm×10mm×10mmである。
【0046】
気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することはさらに以下を含む。すなわち、レーザ走査パワーPは180Wであり、走査線ドット間距離Dは100μmであり、走査線露光時間tは90μsであり、
層厚dは30μmであり、走査ピッチhは100μmであり、ストライプラップ量δは0.5mmであり、
ストライプ幅w0は7mmであり、レーザ走査方向は45°であり、長さは14.14mmの対角線に延びるストライプラップ領域Z0を形成する。
【0047】
本実施例は、試料の1000層-1100層目に、上述の予備成形気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することによって、試料をSLM成形する。
【0048】
図8は、本実施例で得られた予備成形気孔欠陥を有する試料の気孔分布図であり、ここでは、気孔H1を示す。本実施例で形成した気孔半径Rの平均値は約25μmであり、a=(N×(πR
2)×L/h)/Sとの式1により、得られた欠陥層における気孔欠陥の割合aは約0.28%である。
(第3実施例)
【0049】
本実施例におけるレーザ走査ポリシーは、
図9を参照されたい。本実施例で使用されるSLM成形装置はレーザパルス露光モードを採用し、成形材料はHastelloy X合金を採用し、成形されたSLM試料寸法は10mm×10mm×10mmである。
【0050】
気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することはさらに以下を含む。すなわち、レーザ走査パワーPは210Wであり、走査線ドット間距離Dは90μmであり、走査線露光時間tは70μsであり、
層厚dは30μmであり、走査ピッチhは90μmであり、ストライプラップ量δは0.5mmであり、
ストライプ幅w0は7mmであり、レーザ走査方向は-45°であり、長さは14.14mmの他の対角線に延びるストライプラップ領域Z0を形成する。
【0051】
本実施例は、試料の1000層-1100層目に、上述の予備成形気孔欠陥のSLMプロセスパラメータを設定することによって、試料をSLM成形する。
【0052】
図10は、本実施例で得られた予備成形気孔欠陥を有する試料の気孔分布図であり、ここでは気孔H1を示す。本実施例で形成した気孔半径Rの平均値は約25μmであり、a=(N×(πR
2)×L/h)/Sとの式1により、得られた欠陥層における気孔欠陥の割合aは約0.31%である。
【0053】
実験によると、SLMプロセスパラメータのうち、レーザ走査パワーP、走査線ドット間距離Dおよび走査線露光時間tの3つのパラメータは、キーホール効果が発生するかどうかに大きな影響を与えることが分かった。
【0054】
SLMプロセスパラメータを以下のように制御する。すなわち、成形材料はHastelloy X合金を用いり、レーザ走査パワーPは180-210Wであり、走査線ドット間距離Dは80-100μmであり、走査線露光時間tは70-90μsである。
【0055】
SLMプロセスパラメータをさらに以下のように制御する。すなわち、層厚dは30μmであり、走査間隔hは70-100μmであり、ストライプラップ量δは0.5-0.9mmである。
【0056】
SLMプロセスパラメータを上記の範囲内に制御することにより、キーホール効果を発生させることができ、規則的な気孔欠陥を得ることができる。
【0057】
実際に実行する場合、
図3を参照して、上述した気孔欠陥の予備成形方法は以下のように行うことができる。
【0058】
SLMプロセスパラメータを以下のように制御する。すなわち、レーザ走査パワーPは180-210Wであり、走査線ドット間距離Dは80-100μmであり、走査線露光時間tは70-90μsであり、層厚dは30μmであり、走査ピッチhは70-100μmであり、ストライプラップ量δは0.5-0.9mmである。また、ストライプ幅w0およびレーザ走査方向は、設けられた気孔欠陥位置に応じて設定される。
【0059】
次に、SLM製品における気孔欠陥の位置および割合を設計する。レーザ走査方向およびストライプ幅を変更することによって、ストライプラップ領域Z0の欠陥層における位置、数および長さを制御することができ、ここでは、欠陥層における気孔欠陥の割合aは、式(1)に従って近似的に確定することができる。次に、1つ以上の指定された金属溶融層を選択することによって、SLM製品の高さ方向における気孔欠陥の位置を制御する。
【0060】
最後に、SLMプロセスによって3Dプリントを実行し、上述の指定の金属溶融層に上述のSLMプロセスパラメータを設定し、他の金属溶融層に通常のプロセスパラメータを設定し、気孔欠陥が予備成形されたSLM製品を得る。
【0061】
上述の気孔欠陥の予備成形方法は、SLMプロセスパラメータを制御することによって「キーホール効果」を生成することができ、これによりSLM製品の指定位置に規則的な気孔欠陥を形成する。上述の気孔欠陥の予備成形方法は好ましいSLMプロセスパラメータを採用し、レーザ走査方向とストライプ幅とを制御することによって、SLM製品の各層の二次元断面における気孔欠陥の位置を設定し、その後SLM製品の指定金属溶融層に対応するSLMプロセスパラメータを設定し、SLM製品における所望の気孔欠陥の予備成形を完成することができる。
【0062】
上記の気孔欠陥の予備成形方法はまた、欠陥層における気孔欠陥の割合aの式を参照して確定することができ、各パラメータを容易に調整して所望の気孔欠陥の割合を得ることができる。
【0063】
上述した気孔欠陥の予備成形方法は、対比サンプル中に気孔が予備成形されることを非破壊検査する場合に適用することができるうえに、SLM製品に対する気孔欠陥の影響を深く理解する他の様々な状況にも適用することができ、例えば、気孔欠陥をSLM製品またはその典型的な特徴的なサンプルの重要な位置に予備成形することができる。したがって、引張、耐久、疲労などの強度評価試験を行い、気孔欠陥が力学性能に与える影響を評価し、部品の耐用年数を予測する。
【0064】
また、図面は例示的なものに過ぎず、等比例で描画されるものではなく、さらにこれによって本発明の実際に請求する特許請求の範囲を限定すべきではないことを理解されたい。また、異なる実施形態における変換方式は、適宜組み合わせてもよい。
【0065】
本発明は、好ましい実施例によって前記の通り開示されたが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨と範囲から逸脱することなく、種々の変更や修正をすることができる。そのため、本発明の技術的解決手段の内容から逸脱しない限り、本発明の技術趣旨に基づいて以上の実施例に対して行われたいかなる修正、均等物による変更および修飾は、全て本発明の請求項に限定される範囲には含まれるべきである。
【国際調査報告】