(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ヒトCD47を標的化するシングルドメイン抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20230413BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230413BHJP
C07K 1/13 20060101ALI20230413BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230413BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230413BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230413BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230413BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230413BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20230413BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20230413BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230413BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230413BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230413BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230413BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230413BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230413BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230413BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20230413BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20230413BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230413BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K19/00
C07K1/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/15
C12N1/19
C07K16/30
C12P21/08
C12M1/34 F
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P37/04
A61K45/00
A61K38/19
A61K47/68
A61K51/10 200
A61K49/00
A61K51/10 100
G01N33/53 D
G01N33/536 B
G01N33/536 D
G01N33/536 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548805
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 CN2021076479
(87)【国際公開番号】W WO2021160153
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】202010088990.4
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522318966
【氏名又は名称】上海詩健生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI ESCUGEN BIOTECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 710,No.781 Cailun Rd,China(Shanghai) Pilot Free Trade Zone,Shanghai 201203,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】何向宇
(72)【発明者】
【氏名】粘偉紅
(72)【発明者】
【氏名】許伝営
(72)【発明者】
【氏名】鄭欣桐
(72)【発明者】
【氏名】張新敏
(72)【発明者】
【氏名】肖▲靖▼
(72)【発明者】
【氏名】何峰
(72)【発明者】
【氏名】周清
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB17
4B029FA12
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA05
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA94Y
4B065AA98X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC29
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA12
4C084AA19
4C084DA01
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC01
4C085CC07
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085HH03
4C085HH11
4C085HH13
4C085KA04
4C085KA27
4C085KA29
4C085KA30
4C085KB07
4C085LL18
4H045AA11
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA51
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA50
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、抗CD47シングルドメイン抗体及びその使用、並びに該抗体の調製方法に関する。前記シングルドメイン抗体は、(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRを含む。
【選択図】
図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD47重鎖シングルドメイン抗体(VHH)であって、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRを含む、抗CD47重鎖シングルドメイン抗体。
【請求項2】
FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む、請求項1に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項3】
ヒト化したものである、請求項1又は2に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項4】
前記FR1は、SEQ ID NO.19、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.27又はSEQ ID NO.31から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR2は、SEQ ID NO.20、SEQ ID NO.24、SEQ ID NO.28又はSEQ ID NO.32から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR3は、SEQ ID NO.21、SEQ ID NO.25、SEQ ID NO.29又はSEQ ID NO.33から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR4は、SEQ ID NO.22、SEQ ID NO.26、SEQ ID NO.30又はSEQ ID NO.34から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項5】
SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項6】
重鎖Fc領域として、ヒンジ領域、CH2、及びCH3から選択される領域をさらに含む、請求項5に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項7】
前記重鎖はIgG1又はIgG4である、請求項6に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含むコンジュゲート。
【請求項9】
前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片は、薬物、毒素、細胞毒性剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素に結合する、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含む融合タンパク質。
【請求項11】
前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片と診断・治療分子とが融合した請求項10的融合タンパク質。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項14】
ファージ、細菌又は酵母である、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
請求項12に記載のポリヌクレオチド又は請求項13~14のいずれか1項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
原核又は真核生物宿主細胞である、請求項15に記載の宿主細胞。
【請求項17】
大腸菌である、請求項16に記載の宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗CD47重鎖シングルドメイン抗体の生産方法であって、
請求項16に記載の宿主細胞を培養するステップ(a)と、培養物から抗CD47重鎖シングルドメイン抗体を単離するステップ(b)とを少なくとも含む生産方法。
【請求項19】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、請求項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、請求項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の、腫瘍治療薬の調製における使用。
【請求項20】
診断マーカー付き請求項1~7のいずれか1項に記載のCD47重鎖シングルドメイン抗体。
【請求項21】
前記診断マーカーは、同位体、コロイド金マーカー、着色マーカー又は蛍光マーカーから選択される、請求項20に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項22】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、請求項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、請求項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物。
【請求項23】
請求項1~7、20~21のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含む、CD47タンパク質を検出する製品又はキット。
【請求項24】
請求項1~7、20~21のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片の、CD47タンパク質を検出する製品又はキットの調製における使用。
【請求項25】
請求項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、請求項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、請求項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の有効量を被検者に投与することを含む、癌治療方法。
【請求項26】
前記シングルドメイン抗体、コンジュゲート又は融合タンパク質を他の1種又は複数種の抗体又は薬物と併用する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記他の1種又は複数種の抗体はチェックポイント抗体である、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノクローナル抗体の分野に属し、具体的には、ヒトCD47を標的化するシングルドメイン抗体、及び疾患の診断・治療におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
CD47は、インテグリン、トロンボスポンジン(Thrombospondin-1、TSP-1)及びSIRPファミリータンパク質(Signal regulatory protein、SIRPα、SIRPβ及びSIRPγを含む)に結合する免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞膜表面タンパク質であり、したがって、インテグリン関連タンパク質(IAP:Intergrin-associated protein)とも呼ばれる。CD47タンパク質は5回膜貫通構造を有し、その細胞外セグメントはIg-様(Ig-like)ドメイン(NH2末端)であり、SIRPαと相互作用することができる。CD47は大脳皮質、小脳、膀胱、前立腺、卵管、扁桃体、唾液腺、直腸、精巣、精巣上体、乳腺、子宮頸部、胎盤、胸腺、虫垂、骨髄、リンパ節、脾臓、心筋、骨格筋、気管支、胆嚢、膵臓、口腔粘膜、食道、胃、小腸、腎臓、子宮内膜、卵巣、軟組織、皮膚、赤血球、血小板などを含む各種類の正常組織に広く発現している。CD47は様々な腫瘍組織にも発現しており、また、正常組織での発現レベルに比べて、急性骨髄性白血病AML、慢性骨髄性白血病CML、急性リンパ性白血病ALL、非ホジキンリンパ腫NHL、胃癌、多発性骨髄腫、前立腺癌などの多くの腫瘍細胞で発現レベルが有意に上昇しており、腫瘍患者の予後の負の相関因子とする可能性がある(Annu. Rev. Immunol. 2014. 32: 25-50)。CD47の多種の組織に亘る広範な発現に比べ、SIRPαの発現は限られており、単球、マクロファージ、顆粒球、樹状細胞、骨髄前駆細胞及び一部のニューロン細胞のみに発現し、しかもその発現レベルは多種の免疫状態で安定である。
【0003】
CD47とSIRPαとの相互作用は生体の免疫識別の重要なプロセスであり、生体の「自己」の識別、免疫定常状態の実現に重要な役割を果たす。免疫系は一連の細胞表面の受容体分子を通じて「自己」と「異種」物質を識別して区別し、「自己」物質に対して免疫寛容を産生し、「異種」物質に対して対応する免疫応答反応を行う。固有免疫系において、SIRPαはマクロファージの表面に発現する阻害受容体であり、そのリガンドCD47がSIRPαに結合すると、SIRPαは活性化されて、その細胞内セグメントのITIMを介して下流に“don’t eat me(食べないでください)」という阻害シグナルが伝達され、それによってマクロファージによるCD47発現細胞の貪食機能が阻害される(CurrOpin Immunol. 2009. 21: 37-52)。そのため、その表面にCD47分子が高いレベルで存在するため、腫瘍細胞はマクロファージによって「自己」と識別され、固有免疫系によって識別・除去されない。また、マクロファージは抗体提示機能を有するため、腫瘍細胞表面のCD47もマクロファージからT細胞への腫瘍関連抗原の提示を阻害し、適応免疫系による腫瘍細胞の識別に間接的に影響する。モノクローナル抗体や融合タンパク質でCD47とSIRPαとの相互作用を遮断することは、固有免疫系を活性化する治療法として、マクロファージが腫瘍細胞を再識別して除去することを可能とする。
【0004】
現在、TTI-621、Hu5F9-G4(ヒトネズミキメラ抗体5F9をヒト化したもの)、CC90002、SRF-231、SHR-1603、IBI188など、CD47を標的化する多くのモノクローナル抗体やSIRPα融合タンパク質は、臨床試験段階に入っている。しかし、CD47は同様に赤血球や血小板に発現するため、多くのCD47モノクローナル抗体やSIRPα融合タンパク質も赤血球や血小板に結合する特徴を持ち、臨床試験で薬物の安全性上の問題を引き起こす。TTI-621は、SIRPαのCD47結合ドメインとヒト免疫グロブリンIgG1のFc領域とが融合したSIRPα(IgG1 Fc)融合タンパク質である。第1期臨床研究では、被験者に投与量依存性血小板減少が見られた(N Engl J Med. 2018. 379: 1711-1721)。Hu5F9-G4はCD47を標的化するヒト化モノクローナル抗体であり、第1期臨床研究では、被験者に1~2度の貧血、3度の高ビリルビン血症が見られた(J Clin Oncol. 2019. 12: 946-953)。したがって、臨床で見られる上記の副作用を改善するために次世代CD47抗体の開発が必要である。
【0005】
1993年、哺乳類ラクダ科動物(Camelidae)の体液免疫系から、相対分子質量約92kDaのIgG2及び約90kDaのIgG3がが発見された。いずれも重鎖のホモダイマー(homo-dimeric heavy-chain)である。天然に軽鎖が欠損したこの抗体は、重鎖抗体(HCAb:heavy-chain antibodies)とも呼ばれる。1995年以降、軽鎖や他のタンパク質分子を伴わないHCAbに似たコモリザメ新抗原受容体(NAR:new or nurse shark antigen receptor)が、コモリザメ(Ginglymostoma cirratum)、クモハダオオセ(Orectolobus maculatus)、ギンザメ、エイなどの軟骨魚で相次いで発見されている。NAR分子はIgサブタイプと膜貫通や分泌形態などのいくつかの機能的特徴が類似していることから、免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR:Ig new antigen receptor)とも呼ばれる。抗原結合活性を保持するHCAb又はIgNARは遺伝子工学的技術で得られ得、総称してシングルドメイン抗体(sdAb:single-domain antibody、)と呼ばれ、ナノ抗体(Nb:nanobody、ドメイン抗体(dAb:domain antibody)やユニボディ(unibody)とも呼ばれる。
【0006】
遺伝子工学的方法で得られたsdAbは主に3種類あり、1つ目はラクダ科動物から得られたHCAbであり、完全な抗原結合活性を保持し、最小の天然抗体断片である。HCAbのうち重鎖可変領域結合抗原のシングルドメインで構成されるような抗体は、シングルドメイン重鎖抗体(VHH:variable domain of the heavy-chain of heavy-chain antibody)と呼ばれる。2つ目はサメなどの軟骨魚から得られたIgNARであり、VNARで表される。3つ目はヒト由来やネズミ由来のモノクローナル抗体から得られた重鎖又は軽鎖可変領域であり、抗原結合特異性を保持しているが、親和性と可溶性は大幅に低下し、治療のニーズを満たすことができない。
【0007】
アルパカでは、HCAbはH鎖CH1エクソン/イントロンの接合部に1つの終止コドンと1つのフレームシフト変異が存在するため、機能性CH1の翻訳が阻止され、CH1エクソンがヒンジ領域のエクソンとスプライシングできなくなり、結果として、重鎖可変領域とヒンジ領域の間のCH1の欠損を招く。したがって、ラクダ科動物のHCAbは、単一の可変領域、1つのヒンジ領域、及び2つの定常領域(CH2及びCH3)からなる。ラクダ科動物VHHのFR2中の荷電/極性を有する親水性アミノ酸残基が、VH中の疎水性アミノ酸残基を置換している。このような置換は、VHHの凝集傾向を部分的に解消する。CH1の欠損と親水性置換により重鎖と軽鎖との間に疎水性相互作用が形成できず、対になって二量体化ができないため、HCAbは唯一の抗原結合ドメインVHHのみを有し、コンパクトな構造になる。
【0008】
CD47シングルドメイン抗体は、構造が簡単で、分子量が小さく、組織透過性が良く、免疫原性が弱く、安定性が強いなどの特徴により注目されている。良好な特異性、親和性を有しながら、赤血球凝集や溶血の副作用がなく、血小板に対する結合が弱いCD47シングルドメイン抗体が期待される。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ヒト赤血球に結合せず、インビボ又はインビトロでCD47-SIRPα経路遮断薬として機能するCD47シングルドメイン抗体を提供する。本発明のCD47重鎖シングルドメイン抗体は、高い特異性と強い親和性の特徴を有するだけでなく、赤血球に結合せず、赤血球の凝集や溶血の副作用を回避し、血小板との結合が極めて弱く、血小板低下の副作用を軽減するのにも有利である。このため、CD47関連癌疾患の治療に有効で副作用が大幅に低減された薬物の開発が期待されている。
【0010】
本発明は、具体的には、以下に関する。
【0011】
1.抗CD47重鎖シングルドメイン抗体(VHH)であって、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRを含む、抗CD47重鎖シングルドメイン抗体(VHH)。
いくつかの実施形態では、前記抗CD47重鎖シングルドメイン抗体(VHH)は、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
2. FR1、FR2、FR3、及びFR4を含む項1に記載のシングルドメイン抗体。いくつかの実施形態では、 FR1、FR2、FR3、及びFR4はヒト免疫グロブリンVH可変配列サブグループIIIのFR1、FR2、FR3、及びFR4コンセンサス配列である。
3. ヒト化したものである、項1又は2に記載のシングルドメイン抗体。
4. 前記FR1は、SEQ ID NO.19、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.27又はSEQ ID NO.31から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR2は、SEQ ID NO.20、SEQ ID NO.24、SEQ ID NO.28又はSEQ ID NO.32から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR3は、SEQ ID NO.21、SEQ ID NO.25、SEQ ID NO.29又はSEQ ID NO.33から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR4は、SEQ ID NO.22、SEQ ID NO.26、SEQ ID NO.30又はSEQ ID NO.34から選択されるアミノ酸配列を含む、項3に記載のシングルドメイン抗体。
5. SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるアミノ酸配列のいずれかを含む項1~4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体。
いくつかの実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、 SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるアミノ酸配列のいずれかと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列の保存的変異アミノ酸配列を含む。
6. 重鎖Fc領域として、ヒンジ領域、CH2、及びCH3から選択される領域をさらに含む項5に記載のシングルドメイン抗体。
7. 前記重鎖はIgG1又はIgG4である、項6に記載のシングルドメイン抗体。
いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列と、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 39から選択されるいずれかのアミノ酸配列とを含む。
いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は二価VHH-Fc融合抗体である。
8.項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含むコンジュゲート。
上記のいくつかの形態では、前記シングルドメイン抗体の抗原結合断片は、そのVHH領域を含むか、又はそのVHH領域からなる。
9.前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片は薬物、毒素、細胞毒性剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素に結合している、項8に記載のコンジュゲート。
10.項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含む融合タンパク質。
11.前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片と診断・治療分子とが融合した項10に記載の融合タンパク質。
12.項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片をコードする、ポリヌクレオチド。
13.項12に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
14.ファージ、細菌又は酵母である、項13に記載のベクター。
15. 項12に記載のポリヌクレオチド又は項13~14のいずれか1項に記載のベクターを含む宿主細胞。
16. 原核又は真核生物宿主細胞である、項15に記載の宿主細胞、。
17. 大腸菌である、項16に記載の宿主細胞。
18. 項1~7のいずれか1項に記載の抗CD47重鎖シングルドメイン抗体の生産方法であって、項16に記載の宿主細胞(例えば大腸菌)を培養するステップ(a)と、培養物から抗CD47重鎖シングルドメイン抗体を単離するステップ(b)とを少なくとも含む、生産方法。
19. 項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の、腫瘍治療薬の調製における使用。
20. 診断マーカー付き項1~7のいずれか1項に記載のCD47重鎖シングルドメイン抗体。
21. 前記診断マーカーは、同位体、コロイド金マーカー、着色マーカー又は蛍光マーカーから選択される、項20に記載のシングルドメイン抗体。
22. 項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物。
23. CD47タンパク質を検出する製品又はキットであって、項1~7、20~21のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含む、製品又はキット。
24. 項1~7、20~21のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片の、CD47タンパク質を検出する製品又はキットの調製における使用。
25. 項1~7のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の有効量を被検者に投与することを含む、癌治療方法。
26. 前記シングルドメイン抗体、コンジュゲート又は融合タンパク質は他の1種又は複数種の抗体又は薬物と併用する、項25に記載の方法。
27. 前記他の1種又は複数種の抗体はチェックポイント抗体である、項26に記載の方法。
【0012】
また、本願は、以下に関する。
1. CD47に結合する構築体又は抗体ポリペプチドであって、重鎖シングルドメイン抗体(VHH)を含み、該重鎖シングルドメイン抗体(VHH)は、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRを含む、構築体又は抗体ポリペプチド。
いくつかの実施形態では、前記CD47に結合する構築体又は抗体ポリペプチドは、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
2. 抗体重鎖可変領域FR1、FR2、FR3、及びFR4アミノ酸配列を含む、項1に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
3. ヒト免疫グロブリンVH可変配列サブグループIIIのFR1、FR2、FR3、及びFR4コンセンサス配列を含む、項1又は2に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
4. 前記FR1は、SEQ ID NO.19、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.27又はSEQ ID NO.31から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR2は、SEQ ID NO.20、SEQ ID NO.24、SEQ ID NO.28又はSEQ ID NO.32から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR3は、SEQ ID NO.21、SEQ ID NO.25、 SEQ ID NO.29又はSEQ ID NO.33から選択されるアミノ酸配列を含み、前記FR4は、SEQ ID NO.22、SEQ ID NO.26、SEQ ID NO.30又はSEQ ID NO.34から選択されるアミノ酸配列を含む、項3に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
5. SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、項1~4のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
いくつかの実施形態では、前記構築体又は抗体ポリペプチドは、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列の保存的変異アミノ酸配列を含む。
6. 重鎖Fc領域として、ヒンジ領域、CH2、及びCH3から選択される領域をさらに含む、項5に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
7. 前記重鎖はIgG1又はIgG4である、項6に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
いくつかの実施形態では、前記構築体又は抗体ポリペプチドは、SEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれかのアミノ酸配列と、SEQ ID NO: 14、SEQ ID NO: 39から選択されるいずれかのアミノ酸配列とを含む。
いくつかの実施形態では、前記構築体又は抗体ポリペプチドは二価VHH-Fc融合抗体である。
いくつかの実施形態では、前記構築体又は抗体ポリペプチドは、VHH-Fc融合構築体若しくは抗体ポリペプチド、又は二価VHH-Fc融合構築体若しくは抗体ポリペプチドである。
8. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片を含む、コンジュゲート。
上記のいくつかの形態では、前記構築体又は抗体ポリペプチドの抗原結合断片は、そのVHH領域を含むか、又はそのVHH領域からなる。
9. 前記構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片は、薬物、毒素、細胞毒性剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素に結合する、項8に記載のコンジュゲート。
10. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片を含む融合タンパク質。
11. 前記構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片と診断・治療分子とが融合した項10に記載の融合タンパク質。
12. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片をコードする、ポリヌクレオチド。
13. 項12に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
14. ファージ、細菌又は酵母である、項13に記載のベクター。
15. 項12に記載のポリヌクレオチド又は項13~14のいずれか1項に記載のベクターを含む宿主細胞。
16. 原核又は真核生物宿主細胞である、項15に記載の宿主細胞。
17. 大腸菌である、項16に記載の宿主細胞。
18. 項1~7のいずれか1項に記載の抗CD47重鎖構築体又は抗体ポリペプチドの生産方法であって、項16に記載の宿主細胞(例えば大腸菌)を培養するステップ(a)と、培養物から抗CD47重鎖構築体又は抗体ポリペプチドを単離するステップ(b)とを少なくとも含む、生産方法。
19. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の、腫瘍治療薬の調製における使用。
20. 診断マーカー付き項1~7のいずれか1項に記載のCD47重鎖構築体又は抗体ポリペプチド。
21. 前記診断マーカーは、同位体、コロイド金マーカー、着色マーカー又は蛍光マーカーから選択される、項20に記載の構築体又は抗体ポリペプチド。
22. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物。
23. CD47タンパク質を検出する製品又はキットであって、項1~7、20~21のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片を含む、製品又はキット。
24. 項1~7、20~21のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド若しくはその抗原結合断片の、CD47タンパク質を検出する製品又はキットの調製における使用。
25. 項1~7のいずれか1項に記載の構築体又は抗体ポリペプチド、項8~9のいずれか1項に記載のコンジュゲート、項10~11のいずれか1項に記載の融合タンパク質の有効量を被検者に投与することを含む、癌治療方法。
26. 前記構築体又は抗体ポリペプチド、コンジュゲート又は融合タンパク質は、他の1種又は複数種の抗体又は薬物と併用する項25に記載の方法。
27. 前記他の1種又は複数種の抗体はチェックポイント抗体である、項26に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1-1】アルパカA、アルパカBの免疫前(pre-A/pre-B)、免疫後(16日目post-A1/post-B1、32日目post-A2/post-B2)の血清及び抗原の免疫反応性(血清抗体力価)である。免疫前に、2頭のアルパカの血清はいずれも抗原に対する免疫反応性がなく、免疫32日後に、血清は1:12,500倍希釈した後も強い免疫反応性がある。
【
図1-2】アルパカA、アルパカBの免疫前(pre-A/pre-B)、免疫後(16日目post-A1/post-B1、32日目post-A2/post-B2)の血清及び抗原の免疫反応性(血清抗体力価)である。免疫前に、2頭のアルパカの血清はいずれも抗原に対する免疫反応性がなく、免疫32日後に、血清は1:12,500倍希釈した後も強い免疫反応性がある。
【
図2】3回の抗原選別(Bio-panning)後、濃縮されたファージライブラリと抗原huCD47-His、cyCD47-Hisとの結合シグナルが1回ごとに高まる。
【
図3】精製されたVHH-Fc融合二価組換え抗体の還元SDS-PAGEによる同定であり、標的産物は一本鎖分子量37kD~39kDの対称二本鎖抗体である。
【
図4】インビトロ赤血球凝集実験の結果である。対照抗体5F9は1μg/mL以上の濃度範囲で深刻な赤血球凝集を起こし(クラスター状に凝集してウェルの底部に散布)、VHH-Fc融合二価組換え抗体は0.1~100μg/mLの濃度範囲に亘って赤血球凝集を起こさない(重力の作用によりU字形ウェルの底部に自然沈降し、底部の中心にドットを形成した)。
【
図5】フローサイトメトリーによるヒト赤血球に結合しないVHH-Fc融合二価組換え抗体のスクリーニングである。測定対象となる28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体のうち、DX-36698及びDX-36699は、ヒト赤血球への結合シグナルが最も弱い。
【
図6】VHH-Fc融合二価組換え抗体、5F9抗体とヒト赤血球との結合のフローサイトメトリー検出である。5F9はヒト赤血球と濃度依存的に結合し、DX-36699(IgG1サブタイプ及びIgG4サブタイプ)は0.018~300nMの濃度範囲で赤血球に微弱にしか結合しない。
【
図7】VHH-Fc融合二価組換え抗体、5F9抗体とヒト血小板との結合のフローサイトメトリー検出である。5F9は0.00064~10μg/mLの濃度範囲でヒト血小板に濃度依存的に結合する。DX-36699(IgG1サブタイプ及びIgG4サブタイプ)は0.0064~100μg/mLの濃度で血小板との結合が5F9より弱い。
【
図8-1】VHH-Fc融合二価組換え抗体とhuCD47組換えタンパク質との結合活性のELISA検出である。0.1~50ng/mLの濃度で28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体はいずれもhuCD47に濃度依存的に結合し、同濃度では5F9抗体より強い結合シグナルを示す。
【
図8-2】VHH-Fc融合二価組換え抗体とhuCD47組換えタンパク質との結合活性のELISA検出である。0.1~50ng/mLの濃度で28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体はいずれもhuCD47に濃度依存的に結合し、同濃度では5F9抗体より強い結合シグナルを示す。
【
図9】VHH-Fc融合二価組換え抗体と胃癌細胞NUGC-4(CD47陽性)との結合のフローサイトメトリー検出である。0.05~5nMの濃度範囲では、VHH-Fc融合二価組換え抗体は全てNUGC-4細胞に濃度依存的に結合する。アイソタイプ対照抗体はNUGC-4細胞に結合しない。
【
図10-1】CD47組換えタンパク質とSIRPα組換えタンパク質との相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のELISA法検出である。0.1~2500ng/mLの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てCD47とSIRPαとの相互作用を濃度依存的に阻害する。アイソタイプ対照抗体はCD47とSIRPαとの相互作用に影響を与えない。
【
図10-2】CD47組換えタンパク質とSIRPα組換えタンパク質との相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のELISA法検出である。0.1~2500ng/mLの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てCD47とSIRPαとの相互作用を濃度依存的に阻害する。アイソタイプ対照抗体はCD47とSIRPαとの相互作用に影響を与えない。
【
図11-1】CD47組換えタンパク質とSIRPα陽性細胞HEK293-SIRPαとの相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のフローサイトメトリー検出である。0.4~50nMの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てCD47組換えタンパク質とHEK293-SIRPα細胞との結合を濃度依存的に遮断する。アイソタイプ対照抗体はCD47組換えタンパク質とHEK293-SIRPα細胞との相互作用に影響を与えない。
【
図11-2】CD47組換えタンパク質とSIRPα陽性細胞HEK293-SIRPαとの相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のフローサイトメトリー検出である。0.4~50nMの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てCD47組換えタンパク質とHEK293-SIRPα細胞との結合を濃度依存的に遮断する。アイソタイプ対照抗体はCD47組換えタンパク質とHEK293-SIRPα細胞との相互作用に影響を与えない。
【
図12-1】SIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のフローサイトメトリー検出である。0.125~8nMの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てSIRPαとJurkat細胞との相互作用を濃度依存的に遮断する。アイソタイプ対照抗体はSIRPαとJurkat細胞との相互作用に影響を与えない。
【
図12-2】SIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の遮断活性のフローサイトメトリー検出である。0.125~8nMの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てSIRPαとJurkat細胞との相互作用を濃度依存的に遮断する。アイソタイプ対照抗体はSIRPαとJurkat細胞との相互作用に影響を与えない。
【
図13】DX-36699抗体はM1マクロファージの標的細胞Jurkatへの貪食を媒介し、0.4μg/mL、2μg/mLの濃度でDX-36699はM1マクロファージのJurkat細胞への貪食を増強する。
【
図14】DX-36699抗体及び対照抗体5F9投与後のマウス腫瘍体積の変化を示すグラフである。PBS群に比べ、投与後5F9群及びDX-36699群はいずれも腫瘍体積の増加を明らかに阻害でき、DX-36699と5F9の阻害活性は類似しており、異なるサブタイプのDX-36699の活性はこのモデルでは有意差は認められない。
【
図15】DX-36699抗体及び対照抗体5F9投与後のマウス腫瘍重量の変化を示すグラフである。PBS群に比べ、投与後5F9群及びDX-36699群はいずれも腫瘍重量の増加を明らかに阻害でき、DX-36699と5F9の阻害活性は類似しており、異なるサブタイプのDX-36699の活性はこのモデルでは有意差が認められない。
【
図16】精製されたヒト化VHH-Fc融合二価組換え抗体(IgG4サブタイプ)の還元SDS-PAGEによる同定であり、標的産物は、一本鎖分子量37kD~39kDの対称二本鎖抗体である。
【
図17】インビトロ赤血球凝集実験の結果である。2つの異なる個体のヒト赤血球において、対照抗体5F9は0.096nM以上の濃度で深刻な赤血球凝集を起こし(クラスター状に凝集してウェルの底部に散布)、4つのヒト化抗体及びDX-36699は300nMと高い濃度で赤血球凝集を起こさない(重力の作用によりU字形ウェルの底部に自然に沈降し、底部の中心にドットを形成した)。
【
図18】ヒト化前後のDX-36699及び5F9抗体とヒト赤血球との結合のフローサイトメトリー検出である(
図18a及び
図18bは2つの異なる個体の赤血球を示している)。5F9はヒト赤血球に濃度依存的に結合し、DX-36699及び4つのヒト化抗体は0.032~100μg/mLの濃度範囲で赤血球に微弱にしか結合しない。
【
図19】ヒト化前後のDX-36699及び5F9抗体とヒト血小板との結合のフローサイトメトリー検出である。5F9はヒト血小板に濃度依存的に結合し、DX-36699及び4つのヒト化抗体は0.032~100μg/mLの濃度範囲で血小板に微弱にしか結合しない。
【
図20】フローサイトメトリーによって、4つのヒト化抗体とJurkat細胞(CD47陽性)との結合を検出し、元の抗体DX-36699と比較する。0.00128~20nMの濃度範囲では、4つのヒト化抗体はいずれもJurkat細胞に濃度依存的に結合する。
【
図21】フローサイトメトリーによって、SIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用に対する4つのヒト化抗体の遮断活性を検出し、元の抗体DX-36699と比較する。0.00488~20nMの濃度範囲では、4つのヒト化抗体はいずれもSIRPαとJurkat細胞との相互作用を濃度依存的に遮断する。
【
図22】ヒト化抗体DX-36699-H20及び5F9抗体と4つの異なる個体のカニクイザルの赤血球との結合のフローサイトメトリー検出である。5F9は、カニクイザルの赤血球との結合が濃度依存性を示し、結合活性がDX-36699-H20の同一カニクイザル個体への結合より顕著に高い。DX-36699-H20はカニクイザルの赤血球と相対的に弱い結合を有する。
【
図23】ヒト化抗体DX-36699-H20及び5F9抗体と4つの異なる個体のカニクイザルの血小板との結合のフローサイトメトリー検出である。5F9はカニクイザルの血小板に濃度依存的に結合し、DX-36699-H20は、検出濃度範囲では、カニクイザルの血小板との結合はほとんど認められない。
【
図24】カニクイザルのDX-36699-H20又は5F9の静脈注射前後の各時点における赤血球に関連する各パラメータの変化を血液ルーチンメータで検出する。5F9静脈注射後のカニクイザルの赤血球数、ヘモグロビン濃度及びヘマトクリットはいずれも低下したが、網状赤血球の数及び割合は上昇し、投与後2~3週間で投与前のレベルに回復した。DX-36 699-H20は全ての検出指標に影響を与えない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、明細書及び特許請求の範囲では、特定の構成要素を記載するためにいくつかの用語が使用されている。当業者にとって明らかなように、同じ構成要素を異なる用語で呼ぶことがある。本明細書及び特許請求の範囲では、用語の差異を構成要素の区別の方式とするのではなく、構成要素の機能上の差異を区別の基準とする。明細書及び特許請求の範囲全体で言及されている「含む」又は「包含」はオープンな用語であるため、「含むが、限定されない」と解釈すべきである。明細書の以下の記載は、本発明のより良い実施形態であるが、記載は明細書の一般原則を目的としたものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。本発明の特許範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められるものに準ずるものとする。
【0015】
出願人は、鋭意研究及び大量のスクリーニングを経て、CD47に効果的に結合しつつ、溶血の副作用を回避できるCD47シングルドメイン重鎖抗体を取得したに至った。したがって、本願は、CD47分子に結合するシングルドメイン重鎖抗体、前記sdAbを含むタンパク質及びポリペプチド、ならびに前記シングルドメイン抗体、タンパク質及びポリペプチドをコードする核酸、ベクター、宿主細胞、sdAbを含む組成物、それらの使用に関する。
【0016】
I.CD47シングルドメイン重鎖抗体
本願の一態様は、抗CD47のシングルドメイン重鎖抗体(VHH)、又は単にCD47シングルドメイン重鎖抗体(VHH)に関する。
【0017】
「シングルドメイン抗体(sdAb:single-domain antibody)」又は「シングルドメイン重鎖抗体(VHH:domain of the heavy-chain of heavy-chain antibody)」は、一般に、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で表される、3つの相補性決定領域によって中断された4つのフレームワーク領域からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド又はタンパク質と定義される。Kabatら(「Sequence of proteins of immunological interest,」US Public Health Services,NIH Bethesda,MD,出版番号91)によって与えられたVHドメインの一般的な番号付け方式によれば、sdAbのFR1は1~30番目のアミノ酸残基を含み、sdAbのCDR1は31~36番目アミノ酸残基を含み、sdAbのFR2は36~49番目のアミノ酸残基を含み、sdAbのCDR2は50~65位アミノ酸残基を含み、sdAbのFR3は66~94位アミノ酸残基を含み、sdAbのCDR3は95~102番目のアミノ酸残基を含み、sdAbのFR4は103~113番目のアミノ酸を含む。本願のsdAbはまた、sdAbのアミノ酸配列を含むポリペプチド又はタンパク質を包含する。例えば、本願のsdAbは、重鎖のCH1以外のヒンジ領域、CH2及びCH3ドメイン(本願では、VHH-Fc融合抗体又はポリペプチドと呼ばれる)も含んでもよい。sdAbは、2本の重鎖からなる二価組換え抗体(本願では、VHH-Fc融合二価組換え抗体又は二価VHH-Fc融合抗体と呼ばれる)、すなわち、VHH-Fc融合抗体又はポリペプチドが鎖間ジスルフィド結合を介して形成された二価組換え抗体であってもよい。本願のsdAbが、sdAbアミノ酸配列を含むポリペプチド又はタンパク質である場合、前記sdAbのアミノ酸配列は、VHHドメインであり、前記ポリペプチド又はタンパク質の機能性抗原結合断片又は機能性抗原結合ドメインである。
【0018】
本願において、「シングルドメイン重鎖抗体」、「重鎖シングルドメイン抗体」、「VHHシングルドメイン抗体」、「VHH」、「sdAb」及び「シングルドメイン抗体」は、同一の意味を表し、交換して使用することができる。sdAbは多くの独特な構造的特徴及び機能的特性を持っており、機能性抗原結合ドメインやタンパク質として使用するのに非常に有利である。sdAbは、軽鎖可変領域の存在なしに抗原に機能的に結合し、単一の小さな機能性抗原結合構造単位、領域又はタンパク質として機能することができる。これにより、sdAbは、従来の抗体の単位、領域から区分され、前記従来の抗体は、それ自体が抗原結合タンパク質や領域として使用されず、抗原に結合するにはFab断片やscFv断片などの従来の抗体断片と組み合わせる必要がある。
【0019】
通常、sdAbは、ラマなどのラクダ科で生産されるが、当分野で周知の技術を用いて合成することもできる。例えば、sdAbを得るための方法は、ラクダ科動物を1つ又は複数の抗原で免疫するステップ(a)と、免疫されたラクダ科動物から末梢リンパ球を単離し、総RNAを取得し、対応するcDNAを合成するステップ(b)と、VHHドメインをコードするcDNA断片のライブラリを構築するステップ(c)と、PCRを用いて、(c)ステップで得られたVHHドメインをコードするcDNAをmRNAに転写し、mRNAをリボソームディスプレイ形態に変換し、リボソームディスプレイによりVHHドメインを選択するステップ(d)と、適切なベクターでVHHを発現させ、必要に応じて発現させたVHHを精製するステップ(e)とを含む。
【0020】
本発明のsdAbを得るための別の方法は、sdAbをコードする核酸を、核酸合成のための技術を用いて調製した後、インビボ又はインビトロで発現させることである。他の選択肢として、本発明のsdAb、ポリペプチド及びタンパク質は、タンパク質、ポリペプチド又は他のアミノ酸配列を調製するための合成又は半合成技術を用いて調製することができる。
【0021】
sdAbは他の分子、例えばアルブミンや他の大分子に結合することができる。また、本願のsdAbを用いて、2つ以上の異なる標的に対するエピトープを有するように、多価抗体分子又はポリペプチド及びタンパク質分子を調製することもできる。このような抗体分子又はポリペプチド及びタンパク質分子において、タンパク質又はポリペプチドは、例えば、同じエピトープ、実質的に等価なエピトープ、又は異なるエピトープを対象としてもよい。異なるエピトープは、同じ標的に配置されていてもよいし、2つ以上の異なる標的に配置されていてもよい。
【0022】
本発明の1つ又は複数のsdAbの配列は、1つ又は複数のリンカー配列に連結又は接合することも期待される。リンカーは、例えば、セリン、グリシン及びアラニンの組み合わせを含有するタンパク質配列であってもよい。
【0023】
本発明のsdAbを適用する部分、断片、アナログ、突然変異体、バリアント、アレル、及び/又は誘導体も、それらが本発明の適用に適している限り、本発明の範囲内である。
【0024】
本願のいくつかの実施形態では、CD47シングルドメイン重鎖抗体(VHH)は、
1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3で示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
2)SEQ ID NO:6、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8で示されるCDR1、CDR2、及びCDR3以下から選択されるCDRを含む。
【0025】
本願のいくつかの実施形態では、CD47シングルドメイン重鎖抗体は、SEQ ID NO: 4又は9で示されるような重鎖可変領域を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、「可変」という用語は、抗体の可変領域の一部では配列が異なることを意味し、それは、その特定の抗原に対する種々の特定の抗体の結合及び特異性につながる。しかし、可変性は抗体可変領域全体に一様に分布するわけではない。それは、軽鎖と重鎖の可変領域のうち、相補性決定領域(CDR)又は超可変領域と呼ばれる3つの断片に集中している。可変領域では、より保存的な部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変領域には、それぞれ4つのFR領域が含まれ、これらのFR領域は、実質的には連結リングを形成する3つのCDRによって連結されたβシートコンフォメーションを呈し、場合によっては部分的なβシート構造を形成することもある。各鎖のCDRは、FR領域を介して密接に連結されて、他の鎖のCDRと一緒に抗体の抗原結合部位を形成する(Kabatら,NIH Publ.No.91-3242,巻I,647-669頁(1991)参照)。定常領域は、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体に依存する細胞毒性に関与するなど、異なるエフェクター機能を示す。
【0027】
本明細書で使用される場合、「重鎖可変領域」という用語は「VH」と交換して使用されてもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」という用語は、「相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)」と交換して使用されてもよい。
【0029】
一般に、抗体の抗原結合特性は、可変領域(CDR)と呼ばれる重鎖可変領域に位置する3つの特定の領域によって記述することができ、このセグメントは4つのフレームワーク領域(FR)に仕切られ、4つのFRのアミノ酸配列は比較的保存的であり、結合反応に直接関与しない。これらのCDRは環状構造を形成し、その間のFRによるβシートを介して空間構造上で互いに近接し、重鎖のCDRと対応する軽鎖のCDRは抗体の抗原結合部位を構成する。どのアミノ酸がFR又はCDR領域を構成しているかは、同じタイプの抗体のアミノ酸配列を比較することにより決定されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、本願のCD47シングルドメイン重鎖抗体は、上記CDR配列又は可変領域配列と90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上の相同性を有する配列を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は、フレームワーク領域(FR)配列をさらに含む。いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体はヒト化されている。「ヒト化」とは、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基とを含むキメラ抗体をいう。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、一般に2つの実質的に全可変領域を含み、ここで、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のものに対応しており、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のものに対応している。必要に応じて、ヒト化抗体は、ヒト抗体から誘導される抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」は、ヒト化された抗体を指す。
【0032】
いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は、ヒト共通フレームワークを含む。「ヒト共通フレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列を選択する際に最もよく存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般的に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5 版,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD (1991),第1-3巻に記載の可変配列サブグループから選択される。いくつかの実施形態では、VHの場合、前記サブグループは、Kabatら(上同)が説明したようなサブグループIIIである。 いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は、表4に示されるFR1、FR2、FR3及びFR4を含む。
【0033】
本願はまた、本願のシングルドメイン抗体の全ヒト抗体形態に関する。「全ヒト抗体」は、ヒト又はヒト細胞により産生されたアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特定的に排除する。ヒト抗体は、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227: 381 (1991); Marksら,J. Mol. Biol., 222:581 (1991);Coleら,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss,第77頁(1985);Boernerら,J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)に記載されている技術のようなファージディスプレイライブラリ技術を含む、当業者に知られている種々の技術を使用して調製することができる。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答するように修飾されてこのような抗体を産生させるが、その内因性遺伝子座が能力を失った遺伝子改変動物(例えば免疫異種マウス)へ抗原を投与することにより調製されてもよい(XENOMOUSETM技術については、例えば米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号を参照)。
【0034】
いくつかの実施形態では、本願のシングルドメイン抗体は、ヒンジ領域、CH2領域及びCH3領域のアミノ酸配列など、抗体重鎖Fc領域のアミノ酸配列も含む。抗体重鎖の「クラス」とは、その重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体には、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つのクラスがあり、これらのうちのいくつかは、さらに、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2などのサブクラス(アイソタイプ)に分類されてもよい。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖の定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。本願のいくつかの実施形態では、前記抗体重鎖はIgG1又はIgG4である。
【0035】
本願は、シングルドメイン抗体を含む複合体(又はコンジュゲート)及び融合タンパク質をカバーする。
【0036】
「複合体(又はコンジュゲートと呼ばれる)」とは、抗体と1つ又は複数の異種分子(細胞毒性剤を含むが、これに限定されない)との複合体(コンジュゲート)をいう。
【0037】
上記のいくつかの態様において、本願はまた、本願の上記CD47シングルドメイン重鎖抗体又はその断片に結合するコンジュゲート及び融合発現産物に関する。前記CD47シングルドメイン重鎖抗体又はその断片は、薬物、毒素、細胞毒性剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種、酵素、及び他の診断又は治療分子とのコンジュゲート及び融合発現産物を形成してもよい。
【0038】
本明細書で使用される用語「細胞毒性剤」とは、細胞機能を阻害又は予防する、及び/又は細胞死亡又は破壊を引き起こす物質である。細胞毒性剤は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体);化学治療剤又は薬物(例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);成長阻害剤;酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素;抗生物質;毒素、例えば細菌、真菌、植物又は動物由来の小分子毒素や酵素活性毒素、例えばその断片及び/又はバリアント;本分野で公知の各種の抗腫瘍薬又は抗癌剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0039】
インターフェロン遺伝子刺激因子(STING:stimulator of interferon genes)受容体アゴニストは、STING依存性シグナル経路を活性化することでI型インターフェロンの分泌や抗ウイルス免疫及び抗腫瘍免疫に関連するタンパク質の発現を促進し、ウイルスコピーを遮断し、癌細胞への免疫反応を促進する分子である。このような分子は、例えば環状ジヌクレオチド類、アミノベンズイミダゾール類、キサントン類やアクリドン類、ベンゾチオフェン類及びベンゾジオキソール類などの構造タイプのSTINGアゴニストである。
【0040】
本願はまた、抗CD47シングルドメイン重鎖抗体の断片、誘導体、及びアナログを含む。
本明細書で使用される場合、「断片」、「誘導体」及び「アナログ」という用語は、本発明の抗体と実質的に同一の生物学的機能又は活性を維持するポリペプチドを指す。本発明のポリペプチド断片、誘導体又はアナログは、(i)1つ又は複数の保存的又は非保存のアミノ酸残基(好ましくは保存のアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドであって、このような置換アミノ酸残基は遺伝コードでコードされていても、コードされなくてもよいもの、又は(ii)1つ又は複数のアミノ酸残基に置換基を有するポリペプチド、又は(iii)成熟ポリペプチドと他の化合物(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する化合物、例えば、ポリエチレングリコール)との融合によって形成されたポリペプチド、又は(iv)このポリペプチド配列に付加的なアミノ酸配列が融合して形成されたポリペプチド(例えば、リーダー配列若しくは分泌配列、このポリペプチドを精製するために使用された配列若しくはプロタンパク質配列、又は6Hisタグによって形成された融合タンパク質)であってもい。本明細書の教示によれば、これらの断片、誘導体及びアナログは、当業者に周知の範囲に属する。
【0041】
本願のCD47重鎖シングルドメイン抗体は、CD47タンパク質結合活性を有する、上記CDR領域を含むポリペプチドを包含する。本願のCD47重鎖シングルドメイン抗体はまた、本発明の抗体と同じ機能を有する、上記CDR領域を含むポリペプチドの変異形態を含む。これらの変異形態には、1つ又は複数のアミノ酸の欠損、挿入、及び/又は置換(通常は1~50個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~10個)、及び/又はC末端及び/又はN末端への1つ又は複数(通常は20個以内、好ましくは10個以内、好ましくは5個以内)のアミノ酸の付加が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、当分野では、類似又は類似の性能を有するアミノ酸で置換する場合、通常、タンパク質の機能は変化しない。また、例えば、C末端及び/又はN末端に1つ又は複数のアミノ酸を付加しても、通常はタンパク質の機能は変化しない。この用語はまた、本発明の抗体の活性断片及び活性誘導体を含む。
【0042】
該ポリペプチドの変異形態は、相同配列、保存的変異体、対立遺伝子変異体(allelc variant)、天然突然変異体、誘導突然変異体、高ストリンジェンシー又は低ストリンジェンシーな条件で本発明の抗体をコードするDNAとハイブリダイズすることができるDNAによってコードされるタンパク質、及び本発明の抗体に対する抗血清を利用して得られるポリペプチド又はタンパク質を含む。
【0043】
本発明はまた、シングルドメイン抗体又はその断片を含む融合タンパク質を提供する。本発明は、ほぼ全長のポリペプチドに加えて、本発明のシングルドメイン抗体の断片を含む。通常、該断片は、本発明の抗体の少なくとも約50個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも約50個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の連続したアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100個の連続したアミノ酸を有する。
【0044】
本発明において、「本発明の抗体の保存的変異体」とは、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較して、10個まで、好ましくは8個まで、より好ましくは5個まで、最も好ましくは3個までのアミノ酸が、似ている又は類似の性質を有するアミノ酸で置換されてポリペプチドを形成することを意味する。
【0045】
本発明はまた、上記抗体若しくはその断片、又はそれらの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNA、又は人工的に合成されたDNAを含む。DNAは一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード化鎖又は非コード化鎖であってもよい。
【0046】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドのみをコードするコード配列、成熟ポリペプチドのコード化配列及び種々の追加コード化配列;成熟ポリペプチドのコード化配列(及び必要に応じて追加コード化配列)及び非コード化配列を含む。
【0047】
「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」という用語は、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであってもよく、追加コード化配列及び/又は非コード配列を含むポリヌクレオチドであってもよい。
【0048】
本発明はまた、上記の配列とハイブリダイズし、2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、ストリンジェントな条件で本発明の前記ポリヌクレオチドとハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、(1)0.2×SSC、0.1%SDS、60℃のような、低いイオン強度及び高い温度でのハイブリダイゼーション及び溶出;又は(2)50%(v/v)ホルムアミド、0.1%仔牛血清/0.1%Ficoll、42℃などの変性剤を加えてハイブリダイゼーションすること、又は(3)ハイブリダイゼーションは、2つの配列間の相同性が少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上である場合にのみ発生することである。また、ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能及び活性を有する。
【0049】
本発明の抗体のヌクレオチド全長配列又はその断片は、通常、PCR増幅法、組換え法又は人工合成法を用いて得ることができる。実行可能な方法の1つは、特に断片の長さが短い場合に、人工合成方法で関連する配列を合成することである。通常、複数の小さな断片を合成してから連結させ、配列の長い断片を得ることができる。さらに、重鎖のコード配列と発現タグ(例えば6His)とを融合して融合タンパク質を形成することもできる。
【0050】
関連する配列が取得されると、組換え法を用いて、関連する配列を大量に取得することができる。通常、これをベクターにクローニングし、細胞に導入した後、通常の方法で増殖後の宿主細胞から分離して関連配列を得る。本発明に係る生体分子(核酸、タンパク質など)は、単離された形態で存在する生体分子を含む。
【0051】
現在、本発明のタンパク質(又はその断片、又はその誘導体)をコードするDNA配列は、完全に化学合成により得られる。次いで、このDNA配列は、当技術分野で知られている種々の既存のDNA分子(又はベクターなど)及び細胞に導入することができる。さらに、本発明のタンパク質配列に化学合成により突然変異を導入することも可能である。
【0052】
本発明はまた、上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーター又は制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現することができるように、適切な宿主細胞を形質転換するために使用することができる。
【0053】
宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞;下等真核細胞、例えば酵母細胞;高等真核細胞、例えば哺乳類細胞であってもよい。代表例としては、大腸菌、ストレプトミセス属、サルモネラ菌の細菌細胞;酵母などの真菌細胞;ショウジョウバエS2又はSf9の昆虫細胞;CHO、COS7、293細胞の動物細胞などがある。
【0054】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者によく知られている従来技術で行われてもよい。宿主が大腸菌のような原核生物の場合、DNAを吸収し得るコンピテント細胞は指数成長期後に採取し、CaCl2法で処理され、使用されるステップは当業者に周知のとおりである。もう1つの方法は、MgCl2を使用することである。必要に応じて、形質転換はエレクトロポレーションによって行われてもよい。宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈殿法、マイクロインジェクションなどの一般的な機械的方法、エレクトロポレーション、リポソーム包装などのDNAトランスフェクション方法が利用可能である。
【0055】
得られた形質転換体は、通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。使用される宿主細胞に応じて、培養に使用される培地は、種々の通常の培地から選択されてもよい。培養は、宿主細胞の成長に適した条件下で行われる。宿主細胞が適切な細胞密度に成長した後、選択されたプロモーターを適切な方法(例えば温度変換又は化学的誘導)で誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。
【0056】
上記方法における組換えポリペプチドは、細胞内で、又は細胞膜上で発現してもよいし、細胞外に分泌されてもよい。必要に応じて、組換えタンパク質は、その物理的、化学的、及び他の特性を利用して、種々の分離方法によって分離、精製され得る。これらの方法は当業者によく知られている。これらの方法の例には、従来の再生(renaturation)処理、タンパク質沈殿剤での処理(塩析法)、遠心分離、浸透破壊、超音波処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や他の様々な液体クロマトグラフィー技術、及びこれらの方法の組み合わせが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本発明の抗体は、単独で使用されてもよく、検出可能なマーカー(診断目的のため)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)修飾部分、又はこれらの物質の任意の組み合わせに結合又はコンジュゲートされてもよい。
【0058】
診断目的で検出可能なマーカーには、蛍光又は発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)又はCT(電子計算機X線断層撮影法)造影剤、又は検出可能な産物を生成する酵素が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明の抗体に結合又はコンジュゲートされ得る治療剤は、1.放射性核種;2.生物毒;3.IL-2などのサイトカイン;4.金ナノ粒子/ナノロッド;5.ウイルス粒子;6.リポソーム;7.ナノ磁性粒子;8.薬物活性化酵素(例えば、DT-ジアホラーゼ(DTD)又はビフェニルヒドロラーゼ様タンパク質(BPHL));9.治療剤(例えば、シスプラチン)、又は任意の形態のナノ粒子などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0060】
II.VHHシングルドメイン抗体の調製
1.免疫方法
通常、標準的な免疫プロセス(完全及び不完全フロイントアジュバントと免疫原を混合して動物を免疫する)を用いてラクダ科動物を免疫し、優れた力価を有する特異的シングルドメイン重鎖抗体を得る。例えば、1mlの免疫血清から約0.1mgのポリクローナルHCAbを得ることができる。黄色ブドウ球菌V8プロテアーゼを用いて可変領域とCH2の間の短いヒンジ領域からHCAbを切断し、ブドウ球菌プロテインAクロマトグラフィーによりFcセグメントを吸着し、流出した重鎖可変領域を収集すると、VHHを得る。
【0061】
2.バクテリアディスプレイ技術に基づくスクリーニング
抗体ディスプレイのためのベクターとして大腸菌(E.coli)を用いることができる。抗体断片は、通常、大腸菌の内膜にディスプレイされ、抗体のFcセグメントを介して膜上のリポタンパク質に結合し、このディスプレイ及び発現の方式は固定化ペリプラズム発現(APEx:Anchored periplasmic expression)と呼ばれる。しかし、大腸菌の細胞壁と外膜が存在するため、抗原と結合するには、この細菌は原形質球の形態に透徹処理されなけばならない。外膜を用いた抗体ディスプレイ技術も報告されており、例えばSalemaらは、E.coli K-12細菌で発現・ディスプレイ可能な、大腸菌O157:H7(EHEC)細菌の外膜に由来する自己輸送タンパク質(EhaA autotransporter)又はインティミン(Intimin)上に抗体断片をディスプレイする。抗体ディスプレイには、グラム陽性菌のうち、ブドウ球菌カルノサスStaphylococcus carnosusが使用されてもよく、この方法は、ブドウ球菌カルノサスのタンパク質A上の細胞壁アンカー領域(Cell-wall anchoring domain)を介して抗体断片を細胞膜内から膜外に輸送し、細胞壁にアンカーするものである。
【0062】
3.ファージ表面ディスプレイ技術に基づくスクリーニング
ファージ表面ディスプレイ技術の核心は、目的遺伝子を遺伝子工学的手法によりファージコートタンパク質遺伝子に融合発現させ、これをファージ表面にディスプレイさせ、特異的な濃縮スクリーニングにより標的タンパク質/ポリペプチドを担持したファージを得、クローニング及びシーケンシングを行い、最終的に標的タンパク質/ポリペプチドのDNAコード配列を得ることである。この技術は、ファージの高い増幅性により、遺伝子型と機能表現型(結合活性)とを組み合わせた、非常に効率的なスクリーニングシステムである。従来の抗体の軽重鎖マッチングの問題が存在しないため、シングルドメイン抗体はファージディスプレイライブラリ技術を用いてスクリーニングするのにより適している。
【0063】
ファージシングルドメイン抗体ライブラリは、一般的に、免疫ライブラリ、天然ライブラリ及び全合成ライブラリの3つの種類に分けられる。免疫ライブラリとは、あらかじめ免疫された動物(例えばアルパカなど)の体内から、標的抗原に特異的なB細胞遺伝子を特異的に濃縮し、増幅して重鎖抗体VH遺伝子を得ることによって構築されたシングルドメイン抗体発現ライブラリであり、通常は、少ないライブラリ容量で高親和性抗体をスクリーニングすることができる。免疫ライブラリの制限要素は免疫原の特徴にあり、異なる免疫原の動物における体液免疫応答の強弱とエピトープの差異は最終的に取得した抗体の品質や多様性に影響し、最終的にスクリーニングされた抗体の同種特異性(例えば識別したエピトープが同じなど)の程度は高い。
【0064】
ファージディスプレイ技術による抗体スクリーニングの流れは一般的に以下を含む。1)抗体遺伝子断片を取得する。アルパカ又はサメの末梢血を採取し、リンパ球分離液を用いてリンパ球を分離し、リンパ球の総RNAを抽出し、RT-PCRによりcDNAに逆転写し、ネストPCR2段階法によりVHH遺伝子を増幅し、最後にVHH遺伝子をファージベクターにクローニングする。2)目的遺伝子をパンニングする。まず、ファージライブラリを目的抗原不含の封入液とともに共インキュベートし、ネガティブスクリーニングを行い、非特異的反応を減少させ、抗体パンニングの効率を高める。さらに抗原を固相担体(ポリスチレンプレート又は磁気ビーズ)に固定化してパンニングする。パンニングは一般的に複数回行われ、明らかな濃縮効果を検出できるまで、パンニングごとにPhage-ELISA検出を行ってもよい。3)抗体の発現精製。目的抗体遺伝子配列を発現ベクターにクローニングし、原核発現系又は真核発現系により発現させてもよい。
【0065】
4.酵母表面ディスプレイ技術に基づくスクリーニング
抗体ディスプレイ技術のスクリーニングは、サッカロミセス・セレビシエを用いて行ってもよい。サッカロミセス・セレビシエは約200nmの厚さの細胞壁を有し、出芽した酵母細胞壁の表面には、相対交配型の酵母上のAga2pタンパク質と結合し得るレクチンタンパク質が存在し、シングルドメイン抗体は融合タンパク質としてAga2pタンパク質と融合して発現し、酵母細胞表面にディスプレイしている。酵母ディスプレイ抗体ライブラリのスクリーニング方法は一般的に磁気ビーズによる細胞選別(MACS)及び蛍光活性化セルソーティング(FACS)を採用しており、MACSの主要な役割は非特異的結合を減少させるためであり、通常はMACSスクリーニングをした上で複数回のFACSスクリーニングを行う。ファージディスプレイ技術に比べて、酵母ディスプレイ技術には利点と欠点がある。一方、酵母は真核細胞に属し、抗体の翻訳後修飾は哺乳動物細胞と類似しており、グリコシル化後の抗体の安定性は高く、また、哺乳動物の発現系に存在し得る未知の状況を回避する。次に、酵母のディスプレイ技術は蛍光活性化セルソーティング方法を採用し、スクリーニング過程全体の制御性が高い。ただし、酵母抗体ライブラリのライブラリ容量は一般にファージ抗体ライブラリより小さい。さらに、酵母ディスプレイ技術はオリゴマーの抗原をスクリーニングする場合に効果が理想的ではない可能性があるため、一つの酵母細胞が同時に複数の抗原を共有結合する可能性があり、これによりスクリーニングされた抗体の親和性が期待に及ばない可能性がある。
【0066】
III.医薬組成物及びキット
本発明はまた、組成物を提供する。好ましくは、前記組成物は、上記の抗体又はその活性断片若しくはその融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物である。通常、これらの物質は、毒性のない、不活性で、薬学的に許容される水性担体媒体にて調製することができ、ここで、pHは、配合される物質の性質及び治療される病症にもよるが、通常、約5~8であり、好ましくは約6~8である。調製された医薬組成物は、腫瘍内、腹膜内、静脈内、又は局所投与を含む(ただし、これらに限定されるものではない)通常の経路を介して投与され得る。
【0067】
本発明の医薬組成物は、CD47タンパク質分子に結合するために直接使用することができ、したがって、腫瘍の治療に有用である。さらに、他の治療薬を併用することも可能である。
【0068】
本発明の医薬組成物は、安全有効量(例えば、0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明に係る上記のシングルドメイン抗体(又はそのコンジュゲート)と、薬学的に許容される担体又は賦形剤とを含む。このような担体には、塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、及びこれらの組合せが含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。薬物製剤は、投与方法に適合していなければならない。本発明の医薬組成物は、例えば、生理食塩水又はグルコース及び他の補助剤を含有する水溶液を用いて、従来の方法で調製されるような注射剤の形態にしてもよい。注射剤、溶液などの医薬組成物は、無菌条件下で調製することが好ましい。有効成分の投与量は、例えば1日あたり約10μg/kg体重~約50mg/kg体重の治療有効量である。さらに、本発明のポリペプチドは、他の治療剤と併用してもよい。
【0069】
本発明の医薬組成物を使用する際には、安全有効量の免疫コンジュゲートを哺乳動物に投与し、ここで、この安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重であり、多くの場合、約50μg/kg体重を超えず、好ましくは、この投与量は、約10μg/kg体重~約10μg/kg体重である。もちろん、具体的な投与量は投与経路、患者の健康状態などの要素も考慮すべきであり、これらは全て熟練医師の技能の範囲内のものである。
【0070】
本発明はまた、本発明の重鎖シングルドメイン抗体(又はその断片)を含むキットを提供する。本発明のいくつかの実施形態では、前記キットはさらに、容器、取扱説明書、緩衝剤などを含む。本発明はまた、CD47タンパク質を識別する特許を有する抗体又はその断片を含む、CD47レベルを検出するための検出キットを提供する。いくつかの実施形態では、サンプルを溶解するための分解媒体、検出に必要な汎用試薬や、種々の緩衝液、検出マーカー、検出基質などの緩衝液も含まれる。
【0071】
IV.CD47重鎖シングルドメイン抗体の使用
本発明のCD47重鎖シングルドメイン抗体は、癌疾患の診断・治療、具体的には、CD47に対する臨床診断及び標的治療に有用である。
【0072】
本発明のCD47重鎖シングルドメイン抗体は、高い特異性と強い親和性を有するだけでなく、赤血球に結合せず、赤血球の凝集及び溶血の副作用を回避し、血小板との結合が極めて弱く、血小板低下の副作用を軽減するのにも有利である。このため、CD47関連癌疾患の臨床治療に有用である。
【0073】
一方、本願はまた、標識CD47重鎖シングルドメイン抗体を提供する。検出可能なマーカーを有するCD47重鎖シングルドメイン抗体では、前記マーカーは、同位体、コロイド金マーカー、着色マーカー又は蛍光マーカーからなる群から選択される。金コロイド標識は、当業者に知られている方法で行うことができる。本発明の好ましい態様では、抗CD47シングルドメイン抗体を金コロイドで標識し、金コロイド標識シングルドメイン抗体を得る。
【0074】
CD47タンパク質は、標識CD47重鎖シングルドメイン抗体を用いて検出されてもよい。したがって、本発明はまた、CD47タンパク質の検出方法を提供する。この方法のステップは、概して以下の通りである。細胞及び/又は組織サンプルを取得し、サンプルを媒体に溶解し、溶解したサンプル中のCD47タンパク質のレベルを検出する。本発明の検出方法において、使用するサンプルは特に限定されず、代表的な例として細胞保存液中に存在する細胞含有サンプルである。
【0075】
以下、具体的な実施例を参照して本発明をさらに説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例では、具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、Sambrookら,分子クローニング:実験室マニュアル(New York:ColdSpring HarborLaboratory Press,1989)に記載されている条件、又はメーカーが推奨する条件のような通常の条件に従う。特に断らない限り、パーセントと部数は重量パーセントと重量部である。
【0076】
実施例
以下図面を参照して本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。図面においては本発明の具体的な実施例が示されているが、本発明は、ここでの実施例により限制されることなく、さまざまな形態で実現されてもよいことが理解される。むしろ、これらの実施例は本発明をより完全に理解できるようにし、本発明の範囲を完全に当業者に伝えるために提供されるのである。
【0077】
実施例1.アルパカ免疫及び血清力価検出
ヒトCD47組換えタンパク質(Human CD47His Tag、huCD47-His、ACRO Biosystemsから購入、カタログ番号CD7-H5227)及びサルCD47組換えタンパク質(Cynomolgus CD47 His Tag、cyCD47-His、ACROBiosystemsから購入、カタログ番号CD7-C52H1)を免疫原として、アルパカ2頭を選び、40日間の免疫プログラムにしたがって、毎週1回、計6回免疫した。1日目、8日目、15日目、22日目にそれぞれhuCD47-Hisで免疫し、29日目、36日目にhuCD47-His、cyCD47-Hisを混合して免疫した。
アルパカの免疫原に対する免疫応答を酵素結合免疫吸着法(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay、ELISA)で検出した。免疫前(1日目)、免疫後(16日目、32日目)にそれぞれ動物の全血を採取し、通常の方法で血清を分離した。96ウェルマイクロタイタープレートに1ウェル当たりhuCD7-His又はcyCD47-His(5g/mL)抗原100μlを加え、4℃で一晩被覆し、PBST 250μlで4回洗浄した後、希釈したアルパカ血清(1:100~1:12,500希釈)100μlを加えて室温で1hインキュベートし、PBST 250μlを4回洗浄した後、1:5000希釈した検出抗体anti-llama(H+L)-HRP(Abcamから購入、カタログ番号ab112784)を加えて室温で1hインキュベートした。PBST 250μlで4回洗浄した後、TMB発色液(Cell Signalingから購入、カタログ番号7004)を加えて室温で10min遮光、発色し、2M H
2SO
4反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用いてOD490の吸光値を測定した。
力価検出結果を
図1に示す。免疫前の動物A及び動物Bの血清抗体力価は全て陰性(Pre-A、Pre-B)であり、免疫後の動物の血清抗体力価は陽性であり、32日目(post-A2、post-B2)に12,500倍希釈した血清抗体力価は陽性であった。6回目の免疫が終わった後(41日目)、アルパカA、アルパカBからそれぞれ末梢血300mLを採取して混合した。リンパ球分離液Ficoll-Hypaque(GEHealthcareから購入、カタログ番号45-001-751)の取扱説明書にしたがってPBMC(Peripheral blood mononuclear cell、末梢血単核球)を分離した。
【0078】
実施例2.ファージディスプレイライブラリの構築
上記分離により得られたPBMCを、TRIzolTM(Invitrogenから購入、カタログ番号15596018)使用ガイドラインにしたがって総RNAを抽出し、さらにPrimeScriptII cDNA合成キット(Takara、カタログ番号6210B)にしたがってoligodTプライマーとランダム6量体プライマーを用いて総RNAを逆転写してcDNAを合成した。ポリメラーゼ連鎖反応を用いてアルパカ重鎖抗体可変領域(VHH)断片を増幅し、PCR産物をアガロースゲル電気泳動により同定し、ゲルを回収して精製した後、ファージ粒子ベクターに連結し、TG1コンピテント大腸菌にエレクトロポレーションした。ライブラリ容量3×108CFU以上のファージライブラリから、26個のクローンを無作為に抽出してコロニーPCR及びシーケンシングを行い、コロニーPCRの結果から、ファージベクター中のVHH配列の挿入率が100%(26/26)であり、シーケンシングの結果は繰り返し配列がないことを示した。
【0079】
実施例3.ファージディスプレイライブラリパンニング
huCD47を抗原としてディープウェルチューブに被覆し、ファージライブラリーを選別した(Biopanning)。1回目の選別時、マイクロプレートリーダーに2μg/mLのhuCD47-His組換えタンパク質を一晩被覆し、PBS+2%BSA(Bovine serum albumin、ウシ血清アルブミン)でブロッキングした後、ファージを加えて室温で2hインキュベートし、PBSTで10回洗浄した後、0.1M Triethylamineで結合したファージを溶出した。溶出したファージについて力価を測定した後、大腸菌TG1に感染し、次の選別に進んだ。選別は計3回行い、最終回の選別が終了した後、ELISAにより単位ファージと抗原との結合シグナル強度を測定した。各パンニングの結合シグナル(濃縮度)を
図2に示す。
【0080】
実施例4.HUCD47、cyCD47結合活性を有するクローンのELISA法によるスクリーニング
VHHファージと抗原との結合特異性をELISA法により検出した。2×YTプレートから大腸菌モノクローナルを選び、96ウェルプレートに入れて3h培養した後、ヘルパーファージを加えて菌体を分解した後、マイクロプレートリーダーにそれぞれ100μlのhuCD47、cyCD47、マウスCD47(moCD47)又はBSA(5μg/mL)を被覆し、5%脱脂粉乳を含むPBSでブロッキングした後、100μlの分解液上清を加え、室温で1hインキュベートした。PBSTでプレートを4回洗浄した後、anti-M13 antibody-HRP(1:1000希釈、Sino Biologicalsから購入、カタログ番号11973-MM05T-H)100μlを加えて1hインキュベートした。PBSTでプレーを4回洗浄し、TMBを加えて10min発色させ、2M H2S4Oで終了後、OD450吸光値をマイクロプレートリーダーで読み取った。
本研究では、744個のクローンの中から、huCD47に特異的に結合しないもの及びBSAに非特異的に結合するものを除去し、huCD47に特異的に結合するモノクローン93個をスクリーニングした。これらのクローンはcyCD47と種交差反応を示したが、マウスCD47と交差反応を示すクローンはスクリーニングされなかった。
【0081】
実施例5.HuCD47結合活性を有するシングルドメイン抗体の大腸菌ペリプラズム空間からの抽出・精製
上記スクリーニングにより得られたhuCD47に特異的に結合するVHHクローンを大腸菌で発現させた。VHHプラスミドを形質転換したTG1大腸菌クローンを2YT培地(クロラムフェニコール34μg/mL、ブドウ糖2%添加)にて25℃で一晩培養し、その後、2YT培地(クロラムフェニコール34μg/mL、ブドウ糖0.1%添加)にて37℃で1:100の割合で拡大培養した。培地にアラビノースを最終濃度0.2%まで添加し、25℃で5時間誘導した後、遠心分離して沈殿を収集した。菌体を細胞分解緩衝液(50mM Hepes、0.5mM EDTA、20%ショ糖、pH7.5)で分解した後、NiNTAカラム(Qiagenから購入、カタログ番号30210)で精製し、3.5kDa midi透析カラム(Milliporeから購入、カタログ番号71506)で透析した。精製産物についてNanodropで濃度を測定した後、SDS-PAGEによりタンパク質純度を検出し、精製して得られたVHHシングルドメイン抗体をその後の活性測定実験に用いた。
【0082】
実施例6.細胞膜表面のhuCD47に結合可能なシングルドメイン抗体のFACSによるスクリーニング
フローサイトメトリー(FACS)を用いてCD47陽性細胞に結合可能な抗体をスクリーニングした。ヒトBurkitt’sリンパ腫細胞Raji(中国科学院細胞バンクから購入、カタログ番号TCHu 44)を10%ウシ胎児血清FBS(Fetal Bovine Serum、Gibcoから購入、カタログ番号10099141)を含むRPMI-1640培地(Gibcoから購入、カタログ番号11875-093)を用い、37℃、5%CO2の条件下で培養した。
800rpmで3min遠心分離してRaji細胞を収集し、PBS+1%FBSで細胞を1回リンスし、再懸濁させてカウントした。96ウェルプレートに1ウェルあたり1×105個のRaji細胞を加え、その後、VHHの最終濃度がそれぞれ5、0.5、0.05μg/mLとなるまで、勾配希釈したVHH(精製後)サンプルを加え、均一に混合した後、室温でRaji細胞と1hインキュベートした。1400rpmで3min遠心分離してRaji細胞を収集し、PBS+1%FBSで2回洗浄した後、VHHサンプルウェルに1:500希釈したanti-c-myc抗体(Roche、カタログ番号11667149001)を加え、4℃で30minインキュベートした。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄した後、1:300希釈した検出抗体であるアロフィコシアニンロバ抗マウスIgG(Jackson Immunoresearch、カタログ番号715-136-150)をそれぞれ加え、4℃、避光下で30minインキュベートした。細胞をPBS+1%FBSにより2回洗浄した後、iQuePlusフローサイトメーターで分析した。
蛍光二次抗体のみを加えた対照ウェルの平均蛍光強度(MFI:Mean fluorescence intensity)をバックグラウンド値平均蛍光強度とし、サンプル平均蛍光強度とバックグラウンド値平均蛍光強度の倍数でVHHシングルドメイン抗体とRaji細胞との結合強度を評価した。
平均蛍光強度の倍数=サンプルの平均蛍光強度÷バックグラウンド値-平均蛍光強度
本実験では、Raji細胞に結合可能なVHHシングルドメイン抗体43個をスクリーニングし、そのうち28個は、最低濃度(0.05μg/mL)でRaji細胞に結合する平均蛍光強度の倍数が5を超え、強い細胞結合活性を示した。具体的には、次の表1に示す。
【0083】
【0084】
実施例7.CD47-SIRPα相互作用を遮断するシングルドメイン抗体のELISAによるスクリーニング
Raji細胞に結合可能な上記のVHHシングルドメイン抗体についてCD47-SIRPα遮断活性をスクリーニングした。
96ウェルプレートに1μg/mLのhuCD47-His抗原(ACRO Biosystemsから購入、カタログ番号CD7-H5227)100μlを加え、4℃で一晩被覆し、PBST 250μlでプレートを3回洗浄した後、最終濃度がそれぞれ500、50、5、0.5nMとなるように1ウェルあたり精製されたVHH 100μlを加え、室温で1hインキュベートした。PBST 250μlでプレートを3回洗浄した後、5nM SIRPα-mIgG1(ACROBiosystemsから購入、カタログ番号SIA-H52A8)を加えて1hインキュベートした。PBSTでプレートを3回洗浄した後、1:5000希釈したヤギ抗マウスHRP-コンジュゲート(Invitrogenから購入、カタログ番号31430)を加えて45minインキュベートした。PBST 250μlでプレートを3回洗浄した後、TMB(Cell Signaling Technologyから購入、カタログ番号7004)発色基質を加えて10min発色させた。0.5M HClで反応を停止した後、マイクロプレートリーダーで値を読み取った。GraphPad Prism5の非線形回帰式を用いてIC50を計算し、結果を表2に示す。CD47-SIRPα遮断活性を有するVHHシングルドメイン抗体を計31個スクリーニングした。
【0085】
【0086】
実施例8.Expi293F真核発現系によるCD47組換え抗体の製造
CD47-SIRPα遮断活性を有する上記31個のVHHシングルドメイン抗体を用いて、Expi293F発現系により、Fc融合二価組換え抗体(VHH-Fc)を製造した。具体的には、シグナルペプチドアミノ酸配列(配列SEQ ID NO.13:MGWSCIILFLVATATGVHS)、VHH抗体アミノ酸配列、ヒトIgG1抗体(UniProtデータベースより、配列P01857)の重鎖ヒンジ領域からCH3ドメインまでのアミノ酸配列(SEQ ID NO.14(EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK))をN末端からC末端に向かって「シグナルペプチド-VHH-定常領域」の順にスプライシングした。アミノ酸配列をコドン最適化した後、全遺伝子合成方式(金唯智生物科技有限公司、蘇州)でDNAを合成し、XbaIとEcoRV酵素切断部位を通じてpcDNA3.4発現ベクター(Invitrogenから購入、カタログ番号A14697)に連結した。一般的な方法でコンピテント大腸菌(E.coli)を形質転換し、エンドトキシンフリープラスミドを調製した。
N末端からC末端に向かって「シグナルペプチド-可変領域-定常領域」の順に、シグナルペプチドアミノ酸配列、対照抗体5F9重鎖可変領域アミノ酸配列(PLoS ONE. 2015. 10(9): e0137345, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0137345)即ちSEQ ID NO.35(QVQLQQPGAELVKPGASVMMSCKASGYTFTNYNMHWVKQTPGQGLEWIGTIYPGNDDTSYNQKFKDKATLTADKSSSAAYMQLSSLTSEDSAVYYCARGGYRAMDYWGQTSVTVSS)、及びヒトIgG4抗体(UniProtデータベースより、配列P1861、S228P突然変異含有)重鎖定常領域のアミノ酸配列(SEQ ID NO.36(ASTKGPSVFPLAPCSRSTSE STAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK))をスプライシングした。シグナルペプチド、5F9軽鎖可変領域のアミノ酸配列(PLoS ONE. 2015.10(9): e0137345,PLoS ONE. 2015. 10(9): e0137345, https://doi.org/10.1371/journal.pone. 0137345)、すなわちSEQ ID NO.37(DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSIVYSNGNTYLGWYLQKPGQSPKLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYHCFQGSHVPYTFGGGTKVEIK)と軽鎖定常領域(UniProtデータベース、配列P01834)のアミノ酸配列、すなわちSEQ ID NO.38(RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVV CLLNNFYPREAKVQWKVDN ALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC)とをスプライシングした。上記配列をコドン最適化した後、DNAを全遺伝子合成し、XbaIとEcoRV酵素切断部位を通じてDNAをpcDNA3.4発現ベクターに連結した。一般的な方法でコンピテントE.coliを形質転換し、エンドトキシンフリープラスミドを製造した。
6×10
7個のExpi293F細胞(Gibcoから購入、カタログ番号A14527)をExpi293F発現培地30mL(Gibcoから購入、カタログ番号A14351-01)に接種し、37℃、8%CO
2のシェーカーにて125rpmで24h培養した後、細胞密度及び活性を測定した。ExpiFectamineTM 293トランスフェクションキット(Gibcoから購入、カタログ番号A14524)の取扱説明書にしたがって、ExpiFectamine 293試薬80μlをOpti-MEM I培地1420μl(Gibcoから購入、カタログ番号31985062)と均一に混合し、室温で5min静置し、その後、pcDNA3.4発現プラスミド30μg、Opti-MEM I培地と均一に混合し、室温で20min静置した。上記トランスフェクション試薬をExpi293F細胞培養液に添加し、20h培養後、予め均一に混合したExpiFectamine 293トランスフェクションエンハンサーを加え、37℃、8%CO
2シェーカーにて、125rpmで5~7日間培養した。
細胞培養液を1200rpmで3min遠心分離して細胞ペレットを除去し、上清を収集し、AmMag
TM磁気ビーズ精製システム(ジェンスクリプト・バイオテクノロジー社から購入、カタログ番号L00695)の説明にしたがってVHH-Fc融合二価組換え抗体を精製し、マイクロプレートリーダーでOD280を測定してタンパク質定量を行い、組換え抗体3μgを還元SDS-PAGEで同定して、目標抗体の単量体分子量は37kD~39kDであった。上記31個のVHH-Fc融合二価組換え抗体のうち28個は発現に成功し、SDS-PAGEにおける大きさ及び純度の結果を
図3に示す。
【0087】
実施例9.赤血球凝集実験
前述精製により得られた28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体について赤血球凝集スクリーニングを行い、その中から赤血球凝集を起こさない分子を選別した。ヒト赤血球は賽笠生物科技有限公司(上海)に由来する。PBS 10mLでヒト赤血球を1回リンスし、1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集し、リンスを2回繰り返した後、赤血球をPBSに再懸濁させ、血球カウントプレートでカウントし、細胞密度を4×10
7個/mLに調整した。96ウェルU字形プレートに1ウェルあたり100μl(4×10
6個)の赤血球を加え、次に、勾配希釈したVHH-Fc融合二価組換え抗体又は5F9対照抗体(抗体最終濃度はそれぞれ100、10、1、0.1μg/mL)を100μl加え、空白対照ウェルにPBSを100μl加えた。均一に混合した後、96ウェルU字形プレートを37℃、5%CO
2のインキュベータに入れて2h静置した後、96ウェルプレートを取り出して白い背景プレートで撮影した。結果を
図4に示す。
5F9抗体は1μg/mL~100μg/mLの濃度範囲で深刻な赤血球凝集反応を起こした。VHH-Fc融合二価組換え抗体はいずれの濃度でも赤血球凝集を起こさなかった。
【0088】
実施例10.VHH-Fc融合二価組換え抗体とヒト赤血球との結合のFACS検出
フローサイトメトリー(FACS)を用いてVHH-Fc融合二価組換え抗体とヒト赤血球との結合を検出し、その中からヒト赤血球に結合しない又は弱結合の分子を選んだ。ヒト赤血球をPBSで3回リンスした後、血球カウントプレートでカウントし、PBS+1%FBSで再懸濁させ、細胞密度を1×10
7個/mLに調整し、96ウェルU字形プレートに1ウェルあたり100μl(1×10
6個)を加えた。VHH-Fc融合二価組換え抗体、5F9抗体をPBS+1%FBSで勾配希釈し、1ウェルあたり100μl(最終濃度はそれぞれ0.25、5、100μg/mL、又は0.018~300nM)を加え、4℃で1hインキュベートした。細胞を1000rpmで3min遠心分離した後、PBS+1%FBSで1回リンスし、1ウェル当たり1:1000希釈したヤギ抗ヒトIgG(H+L)-Alexa Fluor488(eBioscienceから購入、カタログ番号A11013)を100μl加え、4℃で45minインキュベートした。細胞を1000rpmで3min遠心分離した後、PBS+1%FBSで2回リンスし、PBS+1%FBSに200μl再懸濁させ、フローサイトメーターのフローチューブに移して装置にて検出した。データをFlowJo_V10ソフトウェアで処理し、GraphPadPrism5でプロットし、結果を
図5に示す。
28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体のうち、DX-36698及びDX-36699は赤血球との結合が極めて弱く、中でもDX-36699は赤血球との結合が最も弱かった。同じモル濃度では、DX-36699とヒト赤血球との結合は5F9よりもはるかに弱く、結果を
図6に示す。
【0089】
実施例11.VHH-Fc融合二価組換え抗体とヒト血小板との結合
フローサイトメトリー(FACS)方法を用いてVHH-Fc融合二価組換え抗体DX-36699、対照抗体5F9とヒト血小板(ALLCELLS生物技術(上海)有限公司から購入)との結合を検出した。血小板を血球計でカウントした後、PBS+1%FBSで濃度を1.5×10
7個/mLに調整し、1ウェルあたり100μLで96ウェルU字形プレートに加えた。その後、勾配希釈したVHH-Fc融合二価組換え抗体又は5F9対照抗体(DX-36699の最終濃度0.0064~100μg/mL、5F9の最終濃度0.00064~10μg/mL、いずれも5倍勾配希釈)を100μl添加し、アイソタイプ対照抗体の最終濃度を100μg/mLとした。4℃で1hインキュベートした後、サンプルを1000rpmで3min遠心分離し、PBS+1%FBSで1回リンスした。1ウェル当たり1:1000希釈したヤギ抗ヒトIgG(H+L)-Alexa Fluor488(eBioscienceから購入、カタログ番号A11013)を100μl加え、4℃で45minインキュベートした。サンプルは1000rpmで3min遠心分離した後、PBS+1%FBSで2回リンスし、PBS+1%FBSに200μl再懸濁させ、フローチューブに移して装置にて検出した。データをFlowJo_V10ソフトウェアで処理し、GraphPadPrism5でプロットし、結果を
図7に示す。
対照抗体5F9は0.08μg/mL及びこれ以上の濃度に亘って、ヒト血小板に結合する平均蛍光強度が600を超えた。一方、DX-36699(IgG1及びIgG4のサブタイプ)は、全ての濃度で、ヒト血小板に結合する平均蛍光強度が400未満であり、この抗体のヒト血小板への結合は5F9よりもはるかに弱いことを示している。
【0090】
実施例12.VHH-Fc融合二価組換え抗体とCD47との結合
上記28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体とヒトCD47組換えタンパク質との結合をELISA法により検出した。96ウェルマイクロタイタープレートに1ウェル当たり濃度1μg/mLのhuCD47-mFc(AcroBiosystemsから購入、カタログ番号CD7-H52A5)抗原100μlを加え、4℃で一晩被覆した。PBST 250μlで4回リンスした後、1%BSA含有PBSを200μl加え、室温で1hブロッキングした。PBST 250μlで4回リンスした後、勾配希釈したVHH-Fc融合二価組換え抗体(最終濃度0.1~50ng/mL)を加え、室温で1hインキュベートした。96ウェルプレートをPBST 250μlで4回リンスした後、1ウェル当たり1:10000希釈したヤギ抗ヒトFc-HRP(Jackson ImmunoResearchから購入、カタログ番号109-035-098)100μlを加え、室温で1hインキュベートした。PBST 250μlで4回リンスした後、1ウェル当たりTMB基質(Cell SignalingTechnologyから購入、カタログ番号7004)100μlを加えて発色させ、10min後、1ウェル当たり2M H
2SO
4 50μlを加えて発色を終了し、マイクロプレートリーダーで吸光値(OD450)を読み取った。データをGraphPadPrism5非線形回帰式で処理してプロットした結果、
図8に示すように、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体はいずれもヒトCD47組換えタンパク質に濃度依存的に結合した。
フローサイトメトリーを用いてVHH-Fc融合二価組換え抗体とCD47陽性細胞との結合を検出した。胃癌細胞NUGC-4(南京科佰生物科学技術有限公司から購入、カタログ番号CBP60493)を10%FBS含有RPMI-1640培地で培養し、細胞をPBSでリンス、パンクレアチン(Gibcoから購入、カタログ番号12605-028)で消化した後、800rpmで3min遠心分離して細胞を収集し、RPMI-1640培地に再懸濁させた。細胞をカウントした後、密度を1.5×10
61個/mLに調整し、96ウェルU字形プレートに1ウェルあたり1.5×10個
5NUGC-4細胞とした。PBS+1%FBSでVHH-Fc融合二価組換え抗体、5F9抗体を勾配希釈し、1ウェル当たり抗体100μlを加えて、最終濃度をそれぞれ0.05、0.5、5nMとし、均一に混合した後、4℃で1hインキュベートした。1000rpmで遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBSで細胞を1回リンスした。1ウェル当たり1:1000希釈したヤギ抗ヒトIgG(H+L)-Alexa488(eBioscienceから購入、カタログ番号A11013)100μlを加え、4℃で1hインキュベートした。1000rpmで遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBSで2回リンスした。PBS+1%FBS 200μlで細胞を再懸濁させた後、フローチューブに移して装置にて検出した。データをGraphPadPrism5非線形回帰式で処理してプロットし、結果を
図9に示す。
図9は、0.5nM、5nMの抗体濃度では、上記28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体が全てNUGC-4細胞に濃度依存的に結合できることを示している。
【0091】
実施例13.VHH-Fc融合二価組換え抗体によるCD47-SIRPαの結合の遮断
3種の実験方法を用いてCD47とSIRPα間の相互作用に対するVHH-Fc融合二価組換え抗体の中和活性を評価した。(1)ELISA方法を用いてCD47組換えタンパク質とSIRPα組換えタンパク質との相互作用に対する抗体の遮断活性を検出した。(2)フローサイトメトリーを用いて、CD47組換えタンパク質とHEK293-SIRPα細胞(膜型SIRPα発現)との相互作用に対する抗体の遮断活性を評価した。(3)フローサイトメトリーを用いてSIRPα組換えタンパク質とJurkat細胞(膜型CD47発現)との相互作用に対する抗体の遮断活性を評価した。
(1)CD47組換えタンパク質とSIRPα組換えタンパク質との相互作用のELISA検出
96ウェルプレートに1ウェルあたり1μg/mL SIRPα-His(Acro Biosystemsから購入、カタログ番号SIA-H5225)100μlを加え、4℃で一晩被覆した。PBSTで4回リンスした後、1ウェルあたりPBS+1%BSAを200μl加え、室温で1hブロッキングし、PBSTで4回リンスした。抗体を40ng/mL biotinylated-CD47(Acro Biosystems#CD7-H82E9)溶液で勾配希釈し、96ウェルプレートに1ウェル当たり希釈抗体100μlを加え、室温で1hインキュベートした。96ウェルプレートをPBSTで4回リンスし、1ウェルあたり1:2500希釈したSteptavidin-HRP(Invitrogen#434323)100μlを加え、室温で1hインキュベートした。96ウェルプレートをPBSTで4回リンスした後、1ウェル当たりTMB基質(Cell Signaling、カタログ番号7004)100μlを加え、室温で10min発色させた後、停止液50μlを加えて反応を停止した。マイクロプレートリーダーでデータを読み取り、GraphPad Prism5で解析し、結果を
図10に示す。
図10は、0.1~2500ng/mLの濃度範囲では、28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体が全てCD47とSIRPαとの相互作用を濃度依存的に遮断できることを示している。
(2)CD47組換えタンパク質とSIRPα陽性細胞HEK293-SIRPとの相互作用のフローサイトメトリー検出
SIRPαを発現する遺伝子操作細胞HEK293-SIRPαを10%FBS、100μg/mLハイグロマイシンB(Thermo Fisher Scientificから購入、カタログ番号10687010)を含むDMEM培地(Gibcoから購入、カタログ番号10569044)で培養し、パンクレアチンで消化した後に細胞をカウントし、PBS+1%FBSに再懸濁させた。96ウェルU字形プレートに1ウェルあたり細胞(1.5×10
5個)100μlを加え、抗体を勾配希釈した後、50μlを96ウェルU字形プレートに加え、biotinylated-CD47(ACROBiosystemsから購入、CD7-H82E9)50μlを最終濃度60ng/mLまで加え、均一に混合した後、4℃で1hインキュベートした。1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBSで1回リンスし、その後1:100希釈したAnti-biotin PE(Thermo FisherScientificから購入、カタログ番号12-9895-82)100μlを加え、4℃で45minインキュベートした。1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBSで2回リンスし、細胞をPBS+1%FBS 200μlに再懸濁させ、フローチューブに移してPEの蛍光シグナルを検出した。平均蛍光強度MFIデータをGraphPad Prism5で解析し、結果を
図11に示す。
(3)SIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用のフローサイトメトリー検出
ヒトTリンパ性白血病細胞Jurkat(中国科学院細胞バンクから購入、カタログ番号SCSP-513)をRPMI-1640培地で培養し、細胞をカウントした後、PBS+1%FBSで1回洗浄し、PBS+1%FBSに再懸濁させた。96ウェルU字形プレートに1ウェルあたりJurkat細胞(2×10
5個)100μlを加え、勾配希釈した抗体(最終濃度はそれぞれ8、2、0.5、0.125nM)50μlとSIRPα組換えタンパク質50μl(His-tag、最終濃度2μg/mL)を加え、4℃で1hインキュベートした。1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBS 200μlで細胞を1回洗浄し、1:20希釈した検出抗体PE anti-His Tag Antibody(Biolegendから購入、カタログ番号362603)を加え、4℃、避光下で1hインキュベートした。1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集した後、PBS+1%FBSで2回リンスし、細胞をPBS+1%FBS 200μlに再懸濁させ、フローチューブに移して装置にて検出した。平均蛍光強度MFIデータをGraphPad Prism5で解析し、結果を
図12に示す。
3種の試験方法の結果から、上記の28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体は全てCD47組換えタンパク質とSIRPα組換えタンパク質との相互作用を遮断でき、CD47組換えタンパク質とSIRPα陽性細胞HEK293-SIRPとの相互作用を遮断でき、そして、SIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用を遮断できる。
【0092】
実施例14.抗体親和性の測定
上記28個のVHH-Fc融合二価組換え抗体の中から、赤血球に結合する分子、結合しない分子を2つずつ選び、抗体とhuCD47との親和性をBIAcore 8K(GEHealthcare)装置で検出した。アミノカップリング法によってAnti-humanIgGFcモノクローナル抗体(R&D systemsから購入、カタログ番号G-102-C)を捕獲分子としてCM5センサチップ(GEHealthcareから購入、カタログ番号BR―1005-30)に連結し、VHH-Fc融合二価組換え抗体又は5F9抗体を、抗体捕獲量250~500RUでCM5チップに捕獲した。注入緩衝液HBS-EP+(GEHealthcareから購入、カタログ番号BR100669)でHuCD47組換えタンパク質を勾配希釈し(濃度範囲1.56nM~100nM)、CM5チップ上の抗体に30μl/minの流速で流し、HuCD47と抗体の結合時間を180s、解離時間を900s、反応温度を25℃とした。BIAcore 8K Evaluationソフトウェア(GEHealthcare)を用いて1:1結合モデルに従い、FitGlobalを用いて結合定数ka、解離定数kd及び親和性KDを計算した。表3に示す結果のとおり、4つのVHH-Fc融合二価組換え抗体は、huCD47との結合の親和性がいずれも対照抗体5F9より高く、その中でも、DX-36699の親和性は5F9より遥かに高く、前者の親和性は後者の17倍であった。
【0093】
【0094】
実施例15.VHH-Fc融合二価組換え抗体によるJurkat腫瘍細胞へのマクロファージの貪食増強
ヒトPBMCからCD14+単球を単離し、インビトロで貪食機能を有するM1マクロファージに分化誘導し、CD47を発現するヒトTリンパ性白血病細胞Jurkatを標的細胞として抗体依存性細胞貪食効果(ADCP:Antibody-dependent cellular phagocytosis)を評価した。
妙通生物科技有限公司(上海)から購入したヒトPBMCを蘇生させた後、10%FBS含有RPMI-1640培地を用いて、37℃、5%CO
2インキュベータで4~6h培養し、MagniSortヒトCD14陽性スクリーニングキット(Invitrogenから購入、カタログ番号8802-6834)の操作ガイドラインにしたがってCD14+単球を分離した。得られたCD14+単球を10%FBS含有RPMI-1640培地で培養し、最終濃度25ng/mLのM-CSF(R&D systemから購入、カタログ番号216-MC-100)を添加して6日間誘導し、その後、最終濃度50ng/mLのIFN-γ(R&D systemから購入、カタログ番号285-IF-100)を添加して24h誘導し、M1マクロファージを得た。M1マクロファージを96ウェルプレートに1ウェルあたり2000個接種し、37℃、5%CO
2条件下で一晩培養した。
ヒトTリンパ性白血病細胞Jurkat(中国科学院細胞バンクから購入、カタログ番号SCSP-513)を10%FBS含有RPMI-1640培地で培養し、1000rpmで3min遠心分離して細胞を収集し、PBSで1回洗浄した。最終濃度1μMのCFSE(Carboxy Fluorescein diacetate Succinimidyl Ester、カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル。eBioscienceから購入、カタログ番号65-0850-84)を用いてJurkat細胞を10min染色し、PBSで細胞を2回リンスし、PBSに再懸濁させた。CFSE標識Jurkat細胞とVHH-Fc融合二価組換え抗体とを混合した後、M1マクロファージを含む96ウェルプレートに加え、抗体最終濃度をそれぞれ0.4、2μg/mLとした。37℃、5%CO
2条件下で2hインキュベートした後、PBSで細胞を2回洗浄し、培地に懸濁させたJurkat細胞を除去した。壁に付着したM1マクロファージの緑色蛍光シグナル、すなわち貪食されたJurkat細胞を蛍光顕微鏡で検出した。結果を
図13に示す。
【0095】
実施例16.DX-36699抗体のインビボ抗腫瘍活性
M-NSGマウス(メス、6週齢、上海南方模式生物科技股フェン有限公司)にRaji腫瘍細胞(右側に5×10
6個/匹皮下接種)を皮下移植し、Raji移植腫モデルを作成した。接種後8日目に、腫瘍の平均体積は約123mm
3であり、ランダムブロック法を用いて担癌マウスを6群に分け、第1群 PBS、i.p、QD×11群;第2群 5F9、5mg/kg、i.p、QD×11群;第3群 DX-36699-IgG1、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;第4群 DX-36699-IgG1、5mg/kg、i.p、QD×11群;第5群 DX-36699-IgG4、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;および第6群 DX-36699-IgG4、5mg/kg、i.p、QD×11群を6匹ずつとした。各群は10mL/Kg投与した。
結果:初回投与17日後、対照群の平均腫瘍体積は1563.15±63.02mm
3であった。受験サンプルとして第2群 5F9、5mg/kg、i.p、QD×11群;第3群 DX-36699-IgG1、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;第4群 DX-36699-IgG1、5mg/kg、i.p、QD×11群;第5群 DX-36699-IgG4、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;および第6群 DX-36699-IgG4、5mg/kg、i.p、QD×11群の腫瘍体積を対照群と比較した結果、極めて有意差があり(P<0.01)、結果を
図14に示す。腫瘍阻害率(TGI)はそれぞれ59.77%、51.50%、65.34%、61.39%、及び67.72%であった。
試験終了時、動物を安楽死させ、腫瘍塊を剥がして重量を測定したところ、対照群の平均腫瘍重量は1.0612±0.0252gであり、受験サンプルとして第2群 5F9、5mg/kg、i.p、QD×11群;第3群 DX-36699-IgG1、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;第4群 DX-36699-IgG1、5mg/kg、i.p、QD×11群;第5群 DX-36699-IgG4、2.5mg/kg、i.p、QD×11群;及び第6群 DX-36699-IgG4、5mg/kg、i.p、QD×11群の腫瘍重量と対照群の平均腫瘍重量では、極めて有意差があり(P<0.01)、腫重阻害率はそれぞれ59.57%、50.17%、59.76%、57.01%、及び64.56%であった。腫瘍重量の統計結果を
図15に示す。
【0096】
実施例17.DX-36699抗体のヒト化配列の設計
DX-36699抗体(VHH)の配列情報に基づき、まず、モデル作成によりこの抗体の相同モデルを取得し、CDRのコンホメーションや抗原結合活性に影響を及ぼす、CDRsから5A範囲にあるフレームワークアミノ酸及び希少アミノ酸をabysisソフトウェアと組み合わせて解析した。次に、IMGT解析によりヒト由来の生殖細胞系列(germline)を取得し、選択されたヒト由来の生殖細胞系列のフレームワークを抗体のCDRsとスプライシングした後、設計して得られたヒト化抗体と元の抗体のフレームワーク領域配列を比較し、両者のフレームワーク領域配列に差異が存在するアミノ酸部位を探し出し、親抗体の相同モデリング結果を分析することにより、差異が存在するこれらのアミノ酸部位がCDRのコンホメーションや抗原結合活性に影響するかどうかを判定した。抗体活性を維持し、異種性の減少を考慮した上で、ヒト抗体の表面残基と類似するアミノ酸と置換し、抗体のヒト化配列を設計した。4つのヒト化抗体配列を得て、これらの番号はそれぞれDX-36699-H7、DX-36699-H19、DX-36699-H20、及びDX-36699-H21であった。具体的な配列情報を表4に示す。
【0097】
【0098】
実施例18 Expi293F真核発現系によるDX-36699及びヒト化抗体の製造
上記4つのヒト化VHHシングルドメイン抗体を用いて、293F発現系によりFc融合二価組換え抗体(VHH-Fc)を製造した。具体的には、N端からC端に向かって、「シグナルペプチド-可変領域-定常領域」の順に、シグナルペプチドアミノ酸配列(MGWSCIILFLVATATGVHS(SEQ ID NO.13))、DX-36699-H7、DX-36699-H19、DX-36699-H20、及びDX-36699-H21アミノ酸配列(表4)をコドン最適化した後、DNA(南京金斯瑞生物科技有限公司、南京)を全遺伝子合成し、次に、ヒトIgG4抗体(UniProtデータベースより、配列P1861、S228P突然変異含有)の重鎖ヒンジ領域~CH3ドメインのアミノ酸配列、すなわちSEQ ID NO.39(ESKYGPPCPPCPAPEFLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK)を含むpcDNA3.4ベクターにタンデムにサブクローンした。シーケンシングした結果、ベクターが正しい場合、一般的な方法でコンピテント大腸菌(E.coli)を形質転換し、Qiagenプラスミドマックスキット(カタログ番号:12362)を用いてエンドトキシンフリープラスミドを製造した。
LVTransmトランスフェクション試薬(iCarTabから購入、カタログ番号LVTran100)の取扱書にしたがって、冷蔵庫からLVTransmトランスフェクション試薬及び抗体発現ベクターを取り出し、室温で解凍した後、ピペットマンで上下にピペッティングして均一に混合した。PBS緩衝液を取り出し、室温まで加熱した。PBS 2mLを6ウェルプレートの1ウェルに取り、それぞれプラスミド130μgを加え、ピペットマンで上下にピペッティングして均一に混合した後、LVTransmを400μL加えた直後、ピペットで上下にピペッティングして均一に混合し、室温で10min静置した。上記のDNA/LVTransm複合体を293F細胞培養液120mLに加え、軽く振って十分に混合した。細胞を37℃、5%CO
2インキュベーターに入れて、130rpmで6~8h培養した後、新しい培地50mLを加えて、さらに7日間培養した。
細胞培養液を1200rpmで3min遠心分離して細胞ペレットを除去し、上清を収集し、Protein A親和精製カラム(蘇州博進生物技術有限公司、カタログ番号:13-0010-02)を用いてVHH-Fc融合二価組換え抗体を精製し、マイクロプレートリーダでOD280を測定してタンパク質定量を行い、適量の組換え抗体を取って還元SDS-PAGEで同定し、目標抗体の単量体分子量は37kD~39kDであった。SDS-PAGEでは、そのサイズ及び純度の結果を
図16に示す。
【0099】
実施例19 ヒト化抗体の赤血球凝集実験
精製により得られた4つのヒト化分子を、元の抗体DX-36699IgG4(SEQ ID NO.9とSEQ ID NO.39のスプライシング)と5F9を対照として赤血球凝集検出を行った。ヒト赤血球はALLCELLS生物技術(上海)有限公司に由来する。具体的な実施方法は実施例9と同じであった。結果を
図17に示す。
4つのヒト化分子は、元の抗体の特性と一致し、測定した各濃度では、赤血球凝集を起こさなかった。5F9抗体は0.096nMより高い濃度になると深刻な赤血球凝集反応を引き起こした。
【0100】
実施例20 ヒト化抗体とヒト赤血球との結合のFACS検出
FACSを用いてヒト化抗体とヒト赤血球との結合を検出し、元の抗体DX-36699-IgG4及び5F9を対照とした。ヒト赤血球はALLCELLS生物技術(上海)有限公司に由来する。具体的な実施方法は実施例10と同じであった。結果を
図18に示す。
4つのヒト化分子は、元の抗体の特性と一致し、赤血球との結合が極めて弱く、同濃度では5F9よりはるかに弱かった。
【0101】
実施例21 ヒト化抗体とヒト血小板との結合のFACS検出
FACS方法を用いてヒト化抗体とヒト血小板との結合を検出し、元の抗体DX-36699IgG4及び5F9を対照とした。具体的な実施方法は実施例11と同じであった。結果を
図19に示す。
4つのヒト化分子は、元の抗体の特性と一致し、ヒト血小板との結合が極めて弱く、同濃度では5F9よりもはるかに弱かった。
【0102】
実施例22 ヒト化抗体とCD47との結合のFACS検出
FACS方法を用いてヒト化抗体と細胞表面CD47との結合を検出し、元の抗体DX36699-IgG4を対照とした。検出に用いた細胞はCD47陽性のJurkat細胞(中国科学院細胞バンク、カタログ番号SCSP-513)であった。具体的な実施方法は実施例12(NUGC-4細胞をJurkat細胞に変更した以外、残りの条件は変更しない)とした。結果を
図20に示す。
4つのヒト化分子は細胞表面CD47に濃度依存的に結合し、その結合活性は元の抗体DX-36699-IgG4と一致した。
【0103】
実施例23 ヒト化抗体のCD47-SIRPαの結合遮断のFACS検出
FACS方法を用いて、SIRPα組換えタンパク質とJurkat細胞(膜型CD47発現)との相互作用に対するヒト化抗体の遮断活性を検出し、元の抗体DX-36699IgG4を対照とした。具体的な実施方法は実施例13と同じであった。結果を
図21に示す。
4つのヒト化分子は全てSIRPα組換えタンパク質とCD47陽性細胞Jurkatとの相互作用を濃度依存的に遮断でき、その遮断活性は元の抗体DX-36699-IgG4と一致した。
【0104】
実施例24 ヒト化抗体の親和性のBiacore検出
ヒト化抗体DX-36699-H20を選択し、Biacore T200(GE Healthcare)を用いてhuCD47との親和性を検出し、元の抗体DX-36699-IgG4と比較した。具体的な実施方法は、実施例14と同じであった。その結果、表5に示すように、ヒト化抗体DX-36699-H20の親和性は元の抗体DX-36699-IgG4と一致した。
【0105】
【0106】
実施例25 DX-36699-H20とカニクイザルの赤血球との結合
FACSを用いてヒト化抗体DX-36699-H20とカニクイザルの赤血球との結合を検出し、5F9を対照とした。カニクイザルの赤血球は上海益諾思生物技術有限公司に由来し、4つの赤血球の番号はそれぞれ186#、188#、194#、及び567#である。具体的な実施方法は実施例10と同じであった。結果を
図22に示す。
5F9は4つのカニクイザルの赤血球の全てに濃度依存的に結合し、強い結合活性を有し、最大結合50%に達したときの5F9抗体の濃度は0.01~0.03μg/mLであった。同じ実験条件では、DX-36699-H20はカニクイザルの赤血球と弱い結合しかなかった。
【0107】
実施例26 DX-36699-H20とカニクイザルの血小板との結合
FACSを用いてヒト化抗体DX-36699-H20とカニクイザルの赤血球との結合を検出し、5F9を対照とした。カニクイザルの血小板は上海益諾思生物技術有限公司に由来し、4つの血小板の番号はそれぞれ186#、188#、194#、及び567#である。具体的な実施方法は実施例11と同じであった。結果を
図23に示す。
5F9は、4つのカニクイザルの全ての血小板に濃度依存性に結合し、5F9濃度が0.1μg/mLより大きい場合には明らかな結合活性が測定された。同じ実験条件では、測定した濃度範囲(0.001~10μg/mL)では、DX-36699-H20とカニクイザルの血小板では、測定可能な結合シグナルは認められなかった。
【0108】
実施例27 DX-36699-H20のカニクイザルにおける毒物学研究
CD47抗原は赤血球で高発現しており、CD47抗原に対して開発された第1世代抗体は5F9抗体を含むが、赤血球と結合し赤血球凝集、溶血及びマクロファージ貪食を誘導するため、重篤な貧血は主要な副作用の一つである。
カニクイザル4頭(雌2+雄2、番号はそれぞれ2#、3#、4#及び5#)を2群に分け、それぞれ5F9とDX-36699-H20を1回静脈点滴し、投与量はいずれも15mg/kgとした。投与前8日目、投与前2日目及び投与後3、5、9、13、21日目にカニクイザル非投与肢静脈から0.5mL採血し、血液サンプルをしゅう採取した後、サンプル番号が付けられたEDTA-K2抗凝固管に入れ、アイスボックスに入れ、採取後2h以内に血液ルーチンメータにより赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット、網状赤血球の数と割合、赤血球体積分布幅、平均ヘモグロビン量と濃度、及び赤血球平均体積を検査した。その結果、
図24に示すように、5F9静脈点滴後3日目から貧血が認められ、赤血球カウント、ヘマトクリッ及びとヘモグロビン濃度が低下し、低下傾向は9日目まで持続し、21日目には基本的に投薬前のレベルに回復し、末梢赤血球減少による貧血は骨髄の網状赤血球(未成熟赤血球)の代償性上昇による末梢赤血球レベル補充を伴い、網状赤血球は末梢赤血球減少性貧血の敏感な指標とすることができる。5F9静脈点滴後3日目から網状赤血球数及び割合では、明らかな代償性増加が現れ、13日目まで持続し、21日目には基本的に投薬前のレベルに回復し、DX-36699-H20の静脈点滴は測定した赤血球関連の各指標に影響がなく、動物では、貧血はなかった。
この結果は、インビトロでの5F9及びDX-36699-H20と赤血球との結合及び赤血球凝集実験の結果と一致しており、このことから、DX-36699-H20は赤血球凝集を起こさず、赤血球との結合が極めて弱いため、カニクイザルの体内に15mg/kgのDX-36699-H20を投与しても貧血の副作用は認められないことが示唆された。DX-36699-H20は、カニクイザルでは、5F9より安全性の優位性を示し、第1世代CD47抗体の臨床使用による貧血の副作用の問題を解決する潜在力を持っている。
【0109】
【0110】
【0111】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を参照したが、本発明は、上記の具体的な実施形態及び応用の分野に限定されるものではなく、上記の具体的な実施形態は、単に例示的且つ指導的であり、限定的なものではない。当業者は、本明細書に基づいて、本発明の請求項によって保護される範囲から逸脱することなく様々な形態を行うことができ、これらは全て本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD47重鎖シングルドメイン抗体(VHH)であって、
(1)SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3、又は
(2)SEQ ID NO: 6、SEQ ID NO: 7、SEQ ID NO: 8に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3から選択されるCDRを含む、抗CD47重鎖シングルドメイン抗体。
【請求項2】
FR1、FR2、FR3、及びFR4を含
み、
好ましく、
前記FR1は、SEQ ID NO.19、SEQ ID NO.23、SEQ ID NO.27又はSEQ ID NO.31から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR2は、SEQ ID NO.20、SEQ ID NO.24、SEQ ID NO.28又はSEQ ID NO.32から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR3は、SEQ ID NO.21、SEQ ID NO.25、SEQ ID NO.29又はSEQ ID NO.33から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記FR4は、SEQ ID NO.22、SEQ ID NO.26、SEQ ID NO.30又はSEQ ID NO.34から選択されるアミノ酸配列を含み、
更に好ましく、抗CD47重鎖シングルドメイン抗体はSEQ ID NO: 4、SEQ ID NO: 9、SEQ ID NO: 15、SEQ ID NO: 16、SEQ ID NO: 17、SEQ ID NO:18から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項3】
ヒト化したものである、請求項1又は2に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項4】
重鎖Fc領域として、ヒンジ領域、CH2、及びCH3から選択される領域をさらに含
み、
好ましく、前記重鎖はIgG1又はIgG4である、請求項
2に記載のシングルドメイン抗体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含
み、好ましく、前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片は、薬物、毒素、細胞毒性剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素に結合する、コンジュゲート。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含
み、好ましく、前記シングルドメイン抗体又はその抗原結合断片と診断・治療分子とが融合した、融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項
7に記載のポリヌクレオチドを含むベクター
であって、好ましく、ファージ、細菌又は酵母である、ベクター。
【請求項9】
請求項
7に記載のポリヌクレオチド又は請求項
8に記載のベクターを含む宿主細胞
であって、好ましく、原核又は真核生物宿主細胞であり、更に好ましく、大腸菌である、宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の抗CD47重鎖シングルドメイン抗体の生産方法であって、
請求項
9に記載の宿主細胞を培養するステップ(a)と、培養物から抗CD47重鎖シングルドメイン抗体を単離するステップ(b)とを少なくとも含む生産方法。
【請求項11】
診断マーカー付き請求項1~
4のいずれか1項に記載のCD47重鎖シングルドメイン抗体
であって、好ましく、前記診断マーカーは、同位体、コロイド金マーカー、着色マーカー又は蛍光マーカーから選択される、シングルドメイン抗体。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、請求項
5に記載のコンジュゲート、請求項
6に記載の融合タンパク質を含む、医薬組成物。
【請求項13】
請求項1~
4と12に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片を含む、CD47タンパク質を検出する製品又はキット。
【請求項14】
請求項1~
4と12に記載のシングルドメイン抗体又はその抗原結合断片の、CD47タンパク質
の検
出における使用。
【請求項15】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のシングルドメイン抗体、請求項
5に記載のコンジュゲート、請求項
6に記載の融合タンパク質
の癌治療
における使用であって、好ましく、前記シングルドメイン抗体、コンジュゲート又は融合タンパク質を他の1種又は複数種の抗体又は薬物と併用し、更に好ましく、前記他の1種又は複数種の抗体はチェックポイント抗体である、使用。
【国際調査報告】