(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】エンシフェントリンおよびグリコピロレートを含む液体医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20230413BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230413BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230413BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230413BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 15/18 20060101ALI20230413BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20230413BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230413BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230413BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230413BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20230413BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230413BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230413BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230413BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/72
A61P11/00
A61P11/06
A61P37/08
A61P29/00
A61P15/18 171
A61P17/06
A61P27/02
A61P37/06
A61P9/10
A61K31/40
A61K47/12
A61K9/10
A61K47/26
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022551825
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(85)【翻訳文提出日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 GB2021050496
(87)【国際公開番号】W WO2021171034
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】515259535
【氏名又は名称】ヴェローナ ファーマ ピーエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】スパーゴ、ピーター リオネル
(72)【発明者】
【氏名】ヘイウッド、フィリップ アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ、エドワード ジェームズ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA93
4C076CC05
4C076CC07
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC15
4C076CC18
4C076CC20
4C076DD23
4C076DD26
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4C076EE23F
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086CB09
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA21
4C086MA57
4C086NA03
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA89
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB13
(57)【要約】
本発明は、(i)エンシフェントリン粒子;(ii)グリコピロレート;および(iii)水を含む希釈剤を含み、ここで:該グリコピロレートは、該希釈剤中に溶解しており;グリコピロレートの濃度は、5.0mg/mL以下であり;および該液体医薬組成物のpHは、3.0から6.0である、吸入による投与に適した液体医薬組成物に関する。本発明はまた、該液体医薬組成物を含むネブライザーに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)エンシフェントリン粒子;
(ii)グリコピロレート;および
(iii)水を含む希釈剤
を含み、
ここで:
該グリコピロレートは、該希釈剤中に溶解しており;
グリコピロレートの濃度は、5.0mg/mL以下であり;および
該液体医薬組成物のpHは、3.0から6.0である、
吸入による投与に適した液体医薬組成物。
【請求項2】
液体医薬組成物のpHが3.5から5.0である、請求項1に記載の液体医薬組成物。
【請求項3】
液体医薬組成物が緩衝液をさらに含み、好ましくは該緩衝液がクエン酸緩衝液である、請求項1または請求項2に記載の液体医薬組成物。
【請求項4】
緩衝液の濃度が10.0から40.0mg/mL、好ましくは20.0から30.0mg/mLである、請求項1から3のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項5】
グリコピロレートの濃度が0.01mg/mLから2.0mg/mL、好ましくは0.02mg/mLから0.25mg/mLである、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項6】
液体医薬組成物中のエンシフェントリン:グリコピロレートの重量比が1:5から200:1、好ましくは15:1から120:1である、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項7】
エンシフェントリン粒子の濃度が0.1から5.0mg/mL、好ましくは0.15から2.5mg/mLである、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項8】
エンシフェントリン粒子が0.5から5.0μmのDv50を有する、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項9】
グリコピロレートがグリコピロニウムの薬学的に許容される塩であり、
好ましくは、グリコピロレートが臭化グリコピロニウムまたは塩化グリコピロニウムであり、
より好ましくは、グリコピロレートが臭化グリコピロニウムである、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項10】
希釈剤が水であり、液体医薬組成物が、該液体医薬組成物の総重量に基づいて少なくとも80重量%の希釈剤を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項11】
液体医薬組成物が等張化剤をさらに含み、好ましくは該等張化剤が塩化ナトリウムである、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項12】
等張化剤の濃度が1.0mg/mL以上、好ましくは4.0から20.0mg/mL、より好ましくは6.0から12.0mg/mLである、請求項11に記載の液体医薬組成物。
【請求項13】
液体医薬組成物が1つ以上の界面活性剤をさらに含み、好ましくは該1つ以上の界面活性剤がポリソルベートおよびソルビタンアルキルエステルから選択される、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項14】
1つ以上の界面活性剤の総濃度が、0.01から2.0mg/mL、好ましくは0.1から1.0mg/mLである、請求項13に記載の液体医薬組成物。
【請求項15】
液体医薬組成物が:
(i)エンシフェントリン粒子;
(ii)グリコピロレート;
(iii)希釈剤
(iv)ポリソルベート界面活性剤;
(v)任意にソルビタンアルキルエステル界面活性剤;
(vi)クエン酸緩衝液;および
(vii)塩化ナトリウム
を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項16】
液体医薬組成物が:
(i)0.1から2.5mg/mLのエンシフェントリン粒子、任意に0.5から2.5mg/mLのエンシフェントリン粒子;
(ii)0.01mg/mLから2.0mg/mLの臭化グリコピロニウム;
(iii)水;
(iv)0.1から1.0mg/mLのポリソルベート20;
(v)任意に0.01から0.1mg/mLのソルビタンモノラウレート;
(vi)5.0から15.0mg/mLのクエン酸;
(vii)10.0から20.0mg/mLのクエン酸三ナトリウム;および
(viii)5.0から15.0mg/mLの塩化ナトリウム
を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項17】
液体医薬組成物が、エンシフェントリンおよびグリコピロレートの化学的分解に関して、25℃の温度および60%の相対湿度で保存したとき、少なくとも1ヶ月間安定である、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項18】
液体医薬組成物がネブライザーによる投与に適している、前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項19】
前述の請求項のいずれか一項に記載の液体医薬組成物を含む、ネブライザー。
【請求項20】
ヒトまたは動物の身体の治療における使用のための、請求項1から18のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項21】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、アレルギー性喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支炎、肺気腫、気管支拡張症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、ステロイド抵抗性喘息、重度の喘息、小児喘息、嚢胞性線維症、肺線維症、肺の線維症、間質性肺疾患、皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、乾癬、眼の炎症、脳虚血、炎症性疾患および自己免疫疾患から選択される疾患若しくは状態の治療または予防における使用のための、請求項1から18のいずれか一項に記載の液体医薬組成物。
【請求項22】
疾患または状態が慢性閉塞性肺疾患(COPD)である、請求項21に記載の使用のための液体医薬組成物。
【請求項23】
それを必要とする対象における請求項21または請求項22において定義される疾患若しくは状態を治療するまたは予防する方法であって、該方法が、有効量の、請求項1から18のいずれか一項に記載の液体医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、エンシフェントリンおよびグリコピロレートを含む吸入可能な液体医薬組成物に関する。本発明はまた、該液体医薬組成物を含むネブライザーに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
エンシフェントリン(N-(2-{(2E)-9,10-ジメトキシ-4-オキソ-2-[(2,4,6-トリメチルフェニル)イミノ]-6,7-ジヒドロ-2H-ピリミド[6,1-a]イソキノリン-3(4H)-イル}エチル)尿素;RPL554としても知られる)は、二重PDE3/PDE4阻害剤であり、WO00/58308A1に記載されている。
【0003】
複合PDE3/PDE4阻害剤として、エンシフェントリンは、気管支拡張作用および抗炎症作用の両方を有し、喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器障害の治療において有用である。エンシフェントリンの構造を、以下に示す。
【0004】
【0005】
WO2016/042313Aは、エンシフェントリンの製剤を、水性希釈剤中の粒子の懸濁液として記載する。
【0006】
エンシフェントリンは、ムスカリン受容体拮抗剤であるグリコピロレートと組み合わせて使用し得る。本明細書において使用される「グリコピロレート」は、カチオングリコピロニウムを含む塩を意味する。グリコピロニウムは、式(1,1-ジメチルピロリジン-1-イウム-3-イル)2-シクロペンチル-2-ヒドロキシ-2-フェニルアセテートを有する。グリコピロニウムの構造を、以下に示す。
【0007】
【0008】
呼吸器障害を治療するのに有用なエンシフェントリンおよびグリコピロレートの組合せは、WO2014/140648Aに記載されている。
【0009】
医薬品化合物の製剤は、複雑であり、予測不可能である。これは特に、吸入による投与のための液体医薬組成物についてそうである。例えば、そのような吸入可能な液体医薬組成物は、一定期間の保存後でさえ、適切に一貫した用量が吸入中に送達されるように、十分に安定でなければならない。吸入可能な医薬組成物の調製に伴う困難は、その組成物が2つの活性剤を含むとき、例えばエンシフェントリンおよびグリコピロレートの組合せに関して、悪化する。そのような組合せ製剤については、両方の医薬化合物の安定性を制御しなければならい。
【0010】
両方の化合物が安定している、エンシフェントリンおよびグリコピロレートを含む液体医薬組成物を開発する必要がある。吸入による投与に適した液体医薬組成物を調製することも、望ましい。
【発明の概要】
【0011】
エンシフェントリンおよびグリコピロレートの両方が安定である医薬組成物が、エンシフェントリンを粒子の懸濁液として、およびグリコピロレートを低pHの水性希釈剤中の溶液として、並びにグリコピロレートの濃度がエンシフェントリンの濃度に比べて低い状態で、製剤化することによって製造し得ることは、本発明の驚くべき発見である。エンシフェントリンが懸濁され、グリコピロレートが溶解しているこの特定の製剤は、少なくとも3ヶ月間の保存後、両方の活性剤の化学的分解に関して安定であることが示された。
【0012】
本発明は従って、(i)エンシフェントリン粒子;(ii)グリコピロレート;および(iii)水を含む希釈剤を含み、ここで:該グリコピロレートは、該希釈剤中に溶解しており;グリコピロレートの濃度は、5.0mg/mL以下であり;および該液体医薬組成物のpHは、3.0から6.0である、吸入による投与に適した液体医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明はまた、本発明による液体医薬組成物を含むネブライザーを提供する。
【0014】
本発明によりさらに提供されるのは、ヒトまたは動物の身体の治療における使用のための本発明による液体医薬組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
液体医薬組成物は、グリコピロレートを含む。グリコピロレートは、典型的には、グリコピロニウムの薬学的に許容される塩として液体医薬組成物中に存在する。グリコピロレートは、典型的には臭化物塩である臭化グリコピロニウムであるが、グリコピロニウムの他の薬学的に許容される塩、例えば塩化グリコピロニウムを使用し得る。グリコピロレートは、好ましくは臭化グリコピロニウムである。
【0016】
グリコピロレートは、希釈剤中に溶解している。従って、液体医薬組成物中に存在するグリコピロレートの全質量のうち、少なくともいくらか(例えば少なくとも50重量%)は、希釈剤中に溶解している。典型的には、グリコピロレートの実質的に全てが、希釈剤中に溶解している。例えば、液体医薬組成物中のグリコピロレートの総質量に対して、少なくとも99.0重量%のグリコピロレートが、希釈剤中に溶解している可能性がある。用語「溶解している」は、例えば、グリコピロレートが、希釈剤中の溶液中にあり、標準的な濾過によって回収することができないという、当技術分野におけるその通常の意味を
とる。
【0017】
医薬組成物は、液体医薬組成物であり、それ自体、周囲条件下で(例えば10から40℃の温度で)液体である。
【0018】
液体医薬組成物のpHは、3.0から6.0である。典型的には、液体医薬組成物のpHは、3.5から5.0である。例えば、液体医薬組成物のpHは、4.3から4.7であり得る。液体医薬組成物のpHは、3.5から4.5、例えば3.8から4.2であり得る。
【0019】
液体医薬組成物のpHは、典型的には、20℃の温度で測定されるpHである。液体医薬組成物のpHは、任意の適切な技術によって測定し得る。例えば、pHは、電位差pH計を使用して測定されるものであり得る。
【0020】
液体医薬組成物は典型的には、緩衝液をさらに含む。緩衝液は、液体医薬組成物のpHを制御するために使用し得る。緩衝液は典型的には、弱酸およびその共役塩基を含む。緩衝液の例は、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液を含む。
【0021】
好ましくは、緩衝液は、クエン酸緩衝液である。クエン酸緩衝液は典型的には、クエン酸およびクエン酸塩を含む。例えば、クエン酸緩衝液は、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムを含み得る。クエン酸は、クエン酸一水和物であり得る。クエン酸三ナトリウムは、クエン酸三ナトリウム二水和物であり得る。
【0022】
緩衝液の濃度は、典型的には10.0から40.0mg/mLである。好ましくは、緩衝液濃度は、20.0から30.0mg/mLである。緩衝液の濃度は、緩衝液の酸成分および共役塩基成分の両方を含む。
【0023】
液体医薬組成物中のグリコピロレートの濃度は、5.0mg/mL以下である。例えば、グリコピロレートの濃度は、0.001から5.0mg/mLであり得る。典型的には、グリコピロレートの濃度は、0.01mg/mLから2.0mg/mL、例えば0.01から1.0mg/mLである。
【0024】
好ましくは、グリコピロレート濃度は、0.02mg/mLから0.25mg/mLである。例えば、グリコピロレートの濃度は、0.14から0.16mg/mLであり得る。グリコピロレートの濃度は、0.02から0.03mg/mL、例えば約0.025mg/mL(25μg/mL)であり得る。
【0025】
液体医薬組成物は、エンシフェントリン粒子を含む。エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリン(すなわちエンシフェントリン遊離塩基)またはその薬学的に許容される塩を含む。典型的には、エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリンを含む。エンシフェントリン粒子は典型的には、少なくとも90.0重量%のエンシフェントリンまたはその薬学的に許容される塩、より好ましくは少なくとも95.0重量%を含む。エンシフェントリン粒子は、実質的にエンシフェントリン若しくはその薬学的に許容される塩からなり得、またはエンシフェントリン若しくはその薬学的に許容される塩からなり得る。例えば、エンシフェントリン粒子は、エンシフェントリン遊離塩基からなり得る。
【0026】
実質的にある成分からなる組成物は典型的には、その成分および該組成物が実質的にそれからなる該成分の本質的な特性に実質的に影響を及ぼさない他の成分のみを含む。実質的にある成分からなる組成物は、該組成物の総重量に対して少なくとも99.5重量%のその成分を含み得る。
【0027】
液体医薬組成物中のエンシフェントリン粒子は、典型的には、希釈剤中に懸濁している。液体医薬組成物は従って、典型的には、エンシフェントリン粒子の懸濁液を含む。液体医薬組成物中のエンシフェントリン粒子のいくらかまたは全てが、例えば一定期間の保存後、該液体医薬組成物を含有する容器の底に沈んでいることもあり得る。エンシフェントリン粒子は、任意の適切な方法で、例えば液体医薬組成物の攪拌によって再懸濁させ得る。
【0028】
液体医薬組成物中のエンシフェントリン:グリコピロレートの重量比は、1:5から200:1であり得る。例えば、組成物中のエンシフェントリンの各1グラムについて、0.005から5.0グラムのグリコピロレートが存在し得る。典型的には、液体医薬組成物中のエンシフェントリンの総濃度は、該液体医薬組成物中のグリコピロレートの総濃度よりも大きい。好ましくは、液体医薬組成物中のエンシフェントリン:グリコピロレートの重量比は、5:1から150:1である。液体医薬組成物中のエンシフェントリン:グリコピロレートの重量比は、15:1から120:1、例えば8:1から12:1であり得る。
【0029】
液体医薬組成物中のエンシフェントリン粒子の濃度は、任意の適切な濃度、例えば0.01から400mg/mLであり得る。典型的には、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.1から5.0mg/mLである。好ましくは、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.1から2.5mg/mLである。例えば、エンシフェントリン粒子の濃度は、0.15から0.5mg/mLまたは1.0から2.0mg/mLであり得る。
【0030】
エンシフェントリン粒子は典型的には、0.5μmから5.0μmのDv50を有する。エンシフェントリン粒子は好ましくは、1.0μmから2.0μmのDv50を有する。典型的には、エンシフェントリン粒子のDv10は、0.2μmから1.0μmであり、エンシフェントリン粒子のDv90は、2.5μmから6.0μmである。例えば、エンシフェントリン粒子のDv10は、0.4μmから0.6μmであり得、エンシフェントリン粒子のDv90は、2.8μmから3.8μmであり得る。
【0031】
粒子サイズは、本明細書においては、体積分布についての中央粒子サイズであるDv50値を参照して記載される。すなわち、粒子の体積の半分は、Dv50値未満の直径を有し、粒子の体積の半分は、Dv50値より大きい直径を有する。これは、粒子サイズ分布を説明するよく知られた方法である。Dv10およびDv90のパラメーターはまた、サンプルの粒子サイズ分布を特徴付けるために使用し得る。粒子の体積の10%は、Dv10値未満の直径を有する。粒子の体積の90%は、Dv90値未満の直径を有する。
【0032】
本明細書において述べるDv50(並びにDv10およびDv90)値を測定するために使用する技術は、典型的にはレーザー回折である。エンシフェントリン粒子の粒子サイズ分布は、湿式粉末分散システムを使用するレーザー回折によって測定し得る。例えば、粒子サイズ分布は、湿式分散セルと合わせてMalvern Spraytecを使用するレーザー回折によって測定し得る。典型的には、Malvern Spraytecについての機器パラメーターは、以下のとおりである:
【0033】
・ 粒子-標準の不透明な粒子;
・ 屈折率粒子-1.50;
・ 屈折率(虚数)-0.50;
・ 粒子の密度-1.00;
・ 分散剤の屈折率-1.33;
・ コントローラーユニット-1000RPM;
・ 測定タイプ-指定時刻;
・ 最初のサンプリング時間-30秒;
・ 不明瞭化-20%~30%。
・ 分散剤-脱イオン水中の1%ポリソルベート20。
【0034】
エンシフェントリン粒子は、任意の薬学的に許容されるサイズ低下プロセスまたは粒子サイズ制御された製造プロセスによって製造し得る。例えば、粒子は、エンシフェントリンの溶液を噴霧乾燥することによって、制御された結晶化によって、またはエンシフェントリンの固体形態のサイズ低下によって、例えばエアジェットミリング、機械的微粉化若しくはメディアミリングによって製造し得る。
【0035】
希釈剤は、水を含む。希釈剤は例えば、水およびエタノールなどの二次溶媒を含み得る。典型的には、液体医薬組成物は、液体医薬組成物の総重量に基づいて少なくとも50重量%の水を含む。好ましくは、希釈剤は、水であり、液体医薬組成物は、液体医薬組成物の総重量に基づいて少なくとも80重量%の希釈剤を含む。希釈剤は、典型的には無菌である。液体医薬組成物は、典型的に無菌である。
【0036】
液体医薬組成物は典型的には、等張化剤をさらに含む。等張化剤の例は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、グリセリンおよびマンニトールを含む。好ましくは、等張化剤は、塩化ナトリウムである。
【0037】
等張化剤の濃度は、典型的には、1.0mg/mL以上(例えば1.0から50.0mg/mL)である。好ましくは、等張化剤濃度は、4.0から20.0mg/mL、より好ましくは6.0から12.0mg/mLである。
【0038】
液体医薬組成物は典型的には、1つ以上の界面活性剤をさらに含む。1つ以上の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤またはそれらの混合物を含み得る。典型的には、1つ以上の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を含む。
【0039】
界面活性剤の例は、レシチン、オレイン酸、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル(例えばPEG300、PEG600、PEG1000、Brij30、Brij35、Brij56、Brij76およびBrij97)、ポリプロピレングリコール(例えばPPG2000)、グルコシドアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレングリコールアルキルフェノールエーテル、グリセロールアルキルエステル、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル(ポリソルベート、例えばポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80)、ソルビタンアルキルエステル(例えばソルビタンモノラウレート(スパン20)、ソルビタンモノオレエート(スパン80)およびソルビタントリオレエート(スパン85))、コカミドMEA、コカミドDEA、ドデシルジメチルアミンオキシド、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのブロックコポリマー(ポロキサマー)、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー(例えばプルロニック界面活性剤)、ポリビニルピロリドンK25、ポリビニルアルコール、オリゴ乳酸、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムおよびポリエトキシル化牛脂アミン(POEA)を含む。
【0040】
好ましくは、1つ以上の界面活性剤は、ポリソルベートおよび/またはソルビタンアルキルエステルを含む。1つ以上の界面活性剤は例えば、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(
20)ソルビタンモノステアレート)またはポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)を含み得る。1つ以上の界面活性剤は例えば、ソルビタンモノラウレート(スパン20)、ソルビタンモノオレエート(スパン80)またはソルビタントリオレエート(スパン85)を含み得る。好ましくは、液体医薬組成物は、ポリソルベート20および/またはソルビタンモノラウレート(スパン20)を含む。
【0041】
液体医薬組成物は、2つ以上の界面活性剤を含み得、または液体医薬組成物は、単一の界面活性剤を含み得る。例えば、組成物は、ポリソルベート、例えばポリソルベート20である単一の界面活性剤を含み得る。組成物は、2つ以上の界面活性剤を含み得る。例えば、液体医薬組成物は、ポリソルベート20およびソルビタンモノラウレート(Span20)を含み得る。
【0042】
1つ以上の界面活性剤の総濃度は、典型的には0.01から2.0mg/mLである。好ましくは、総界面活性剤濃度は、0.1から1.0mg/mLである。例えば、液体医薬組成物中の総界面活性剤濃度は、0.25から0.75mg/mLであり得る。液体医薬組成物は例えば、ポリソルベートを0.1から1.0mg/mLの濃度で、任意にソルビタンアルキルエステルを0.01から0.1mg/mLの濃度で含み得る。
【0043】
液体医薬組成物は典型的には:
(i)エンシフェントリン粒子;
(ii)グリコピロレート;
(iii)希釈剤;
(iv)ポリソルベート界面活性剤;
(v)クエン酸緩衝液;および
(vi)塩化ナトリウム
を含む。
【0044】
例えば、液体医薬組成物は:
(i)0.1から2.5mg/mLのエンシフェントリン粒子、任意に0.5から2.5mg/mLのエンシフェントリン粒子;
(ii)0.01mg/mLから2.0mg/mLの臭化グリコピロニウム;
(iii)水;
(iv)0.1から1.0mg/mLのポリソルベート20;
(v)5.0から15.0mg/mLのクエン酸;
(vi)10.0から20.0mg/mLのクエン酸三ナトリウム;および
(vii)5.0から15.0mg/mLの塩化ナトリウム
を含み得る。
【0045】
液体医薬組成物は例えば:
(i)エンシフェントリン粒子;
(ii)グリコピロレート;
(iii)希釈剤;
(iv)ポリソルベート界面活性剤;
(v)ソルビタンアルキルエステル界面活性剤;
(vi)クエン酸緩衝液;および
(vii)塩化ナトリウム
を含み得る。
【0046】
例えば、液体医薬組成物は、
(i)0.1から2.5mg/mLのエンシフェントリン粒子、任意に0.5から2.5
mg/mLのエンシフェントリン粒子;
(ii)0.01mg/mLから2.0mg/mLの臭化グリコピロニウム;
(iii)水;
(iv)0.1から1.0mg/mLのポリソルベート20;
(v)0.01から0.1mg/mLのソルビタンモノラウレート;
(vi)5.0から15.0mg/mLのクエン酸;
(vii)10.0から20.0mg/mLのクエン酸三ナトリウム;および
(viii)5.0から15.0mg/mLの塩化ナトリウム
を含み得る。
【0047】
液体医薬組成物は、成分(i)から(vi)、成分(i)から(vii)または成分(i)から(viii)からなるか、または実質的にそれらからなり得る。
【0048】
液体医薬組成物は、有利には安定である。特に、液体医薬組成物は、典型的には、エンシフェントリンおよびグリコピロレートの化学的分解に関して、25℃の温度および60%の相対湿度で保存したとき、少なくとも1ヶ月間安定である。液体医薬組成物は例えば、これらの条件下で少なくとも3ヶ月間安定であり得る。
【0049】
液体医薬組成物は、標準的な製剤方法によって製造し得る。液体医薬組成物は、典型的には、グリコピロレートを希釈剤中に溶解してグリコピロレートの溶液を製造すること、およびエンシフェントリン粒子を該グリコピロレートの溶液と混合してエンシフェントリン粒子の懸濁液を製造することを含む方法によって製造する。液体医薬組成物はあるいは、エンシフェントリン粒子を希釈剤と混合してエンシフェントリン粒子の懸濁液を製造すること、および次いでグリコピロレートを該懸濁液中に溶解することを含む方法によって製造し得る。
【0050】
液体医薬組成物は、吸入による投与に適している。典型的には、液体医薬組成物は、ネブライザーによる投与に適している。
【0051】
本発明は、本発明による液体医薬組成物を含むネブライザーを提供する。ネブライザーは典型的には、液体医薬組成物が装填されている。ネブライザーは典型的には、約1.0mLから約200mL、より典型的には1.0mLから20mLの液体医薬組成物を含む。ネブライザーは好ましくは、2.0mLから5.0mLの液体医薬組成物、例えば約2.5mLを含む。
【0052】
ネブライザーは、液体医薬組成物を、エアロゾル化して、対象の気道中に吸入されるエアロゾルとする。ネブライザーの例は、ソフトミストネブライザー、振動メッシュネブライザー、ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含む。適切なネブライザー装置は、Philips I-neb(商標)(Philips)、Philips SideStream (Philips)、AeroNeb(登録商標)(Philips)、Philips InnoSpire Go (Philips)、Pari LC
Sprint(Pari GmbH)、AERxR(商標) Pulmonary Delivery System(Aradigm Corp)およびPari LC Plus Reusable Nebuliser(Pari GmbH)を含む。
【0053】
エンシフェントリンは、呼吸器疾患および炎症性疾患の治療において有用である。グリコピロレートは、呼吸器疾患の治療において有用である。エンシフェントリンおよびグリコピロレートは、相乗的に相互作用して気管支平滑筋の弛緩を引き起こすことが見出されてきた。本発明は、ヒトまたは動物の身体の治療における使用のための、本発明による液体医薬組成物を提供する。典型的には、液体医薬組成物は、吸入により投与される。
【0054】
液体医薬組成物は、典型的には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、アレルギー性喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支炎、肺気腫、気管支拡張症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、ステロイド抵抗性喘息、重症喘息、小児喘息、嚢胞性線維症、肺(lung)線維症、肺の(pulmonary)線維症、間質性肺疾患、皮膚疾患、アトピー性皮膚炎、乾癬、眼の炎症、脳虚血、炎症性疾患および自己免疫疾患から選択される疾患若しくは状態の治療または予防における使用のためである。好ましくは、疾患または状態は、COPDまたは喘息である。より好ましくは、疾患または状態は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。
【0055】
エンシフェントリンの有効量は、典型的には、単回用量について約0.001mg/kgから50mg/kg、例えば単回用量について0.01mg/kgから1mg/kgである。エンシフェントリンの有効量は、約0.1mgから約500mg、または約0.1mgから100mg、または約0.1mgから約6mgの用量であり得る。エンシフェントリンの単回用量は、0.3mgから3mgであり得る。
【0056】
グリコピロレートの有効量は、典型的には、単回用量について約0.001mg/kgから25mg/kg、例えば単回用量について0.001mg/kgから0.5mg/kgである。グリコピロレートの有効量は、約0.01mgから約250mg、または約0.02mgから3mgの用量であり得る。グリコピロレートの単回用量は、0.02mgから2.0mgであり得る。
【0057】
液体医薬組成物は、1日1回、2回若しくは3回投与し得、または1週間に2回、3回、4回若しくは5回投与し得る。例えば、医薬組成物は、1日2回投与し得る。
【0058】
本発明はまた、本明細書において定義される疾患または状態の治療のための医薬品の製造における、本明細書において定義される液体医薬組成物の使用を提供する。
【0059】
本発明を、以下の実施例によりより詳細に説明する。
【実施例】
【0060】
方法
アッセイおよび関連物質の試験は、アセトニトリル:水移動相を用いる高速液体クロマトグラフィーを使用して実施した。
【0061】
実施例1-製剤の調製
エンシフェントリンおよび臭化グリコピロニウム(GP)を含む5つの医薬製剤(製剤A~E)を調製した。
【0062】
5つの製剤の組成を、表1に示す。
【0063】
【0064】
各場合において、エンシフェントリンの粒子の懸濁液は、最初に2つの媒体:
(i)製剤AからCについてはポリソルベート20、ソルビタンモノラウレート、リン酸一ナトリウム一水和物、二塩基性リン酸ナトリウム無水物および塩化ナトリウムの水溶液;または
(ii)製剤DおよびEについてはポリソルベート20、クエン酸一水和物、クエン酸三ナトリウム二水和物および塩化ナトリウムの水溶液
の1つ中で、1.5mg/mLの濃度で調製した。
【0065】
臭化グリコピロニウムを次いで、エンシフェントリン懸濁液中に定められた濃度(0.15mg/mL、1.5mg/mLまたは15.0mg/mL)で溶解させた。得られた製剤は、再懸濁後に目に見える凝集体がない淡黄色の懸濁液の外観を有していた。
【0066】
製剤AからCのpHは、6.7であると決定された。製剤DおよびEのpHは、4.5であると決定された。
【0067】
実施例2-製剤の安定性
活性成分の化学的分解に関する製剤AからEの安定性を、評価した。製剤の5mLのサンプルを、栓付きガラスバイアル中で、3つの異なる条件:(a)25℃/60%相対湿度(RH);(b)40℃/75%RH;(c)60℃下で保存した。全ての製剤を、これらの条件下での2週間の保存後に試験した。製剤DおよびEは、これらの条件下での3ヶ月間の保存後にさらに試験した。
【0068】
2週間後の安定性評価の結果を、表2に示す。
【0069】
【0070】
pH6.7のリン酸緩衝製剤(A、BおよびC)は、2週間後、全ての条件下で、グリコピロニウムの分解が観察され、不安定であったことがわかる。60℃での保存後の製剤Cは、著しく分解しており、エンシフェントリンの粒子は、激しい振とう後でさえ再懸濁させることができなかった。
【0071】
対照的に、製剤DおよびE(pH4.5のクエン酸緩衝製剤)は、2週間後、製剤AからCよりも安定であった。25℃/60%RHまたは40℃/75%RH保存後の製剤Dについては、何の分解も観察されなかった。グリコピロニウムのわずかな分解が、60℃での保存後、製剤Dについて観察された。
【0072】
25℃/60%RHまたは40℃/75%RH保存後の製剤Eについては、グリコピロニウムのいくらかの低レベルの分解が観察され、60℃での保存後にはより著しい分解が観察された。
【0073】
製剤AからCの不安定性を考慮して、それらの製剤のそれ以上の安定性評価は、行わなかった。製剤DおよびEの安定性を、3ヶ月時に再び評価し、結果を、表3に示す。
【0074】
【0075】
製剤Dは、25℃/60%RHおよび40℃/75%RHの両方で3ヶ月間の保存後に安定であることが見出された。グリコピロニウムのわずかな分解が、60℃での3ヶ月間の保存後に観察された。
【0076】
いくらかの化学分解が、製剤Eの25℃/60%RHでの3ヶ月間の保存後に観察され
た。より著しい分解が、40℃/75%RHおよび60℃での3ヶ月間の保存後に観察された。
【0077】
結論
試験した5つの製剤のうち、製剤Dのみが保存後に適切な安定性特性を有することが観察された。本発明者らは従って、低いpHおよびエンシフェントリン濃度に対する低いグリコピロレート濃度が、吸入製品としての使用のためのグリコピロレートおよびエンシフェントリンの組合せの安定した製剤について重要であることを見出した。
【国際調査報告】