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特表2023-516748トランスサイレチン(TTR)の発現を阻害するための組成物および方法
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  • 特表-トランスサイレチン(TTR)の発現を阻害するための組成物および方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】トランスサイレチン(TTR)の発現を阻害するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20230413BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230413BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230413BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K31/712
A61K47/55
A61K48/00
A61P25/00
A61P9/00
A61K45/00
A61P43/00 121
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553196
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(85)【翻訳文提出日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 US2021021049
(87)【国際公開番号】W WO2021178778
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】62/985,950
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505369158
【氏名又は名称】アルナイラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】チャン,エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ジャナス,マジャ
(72)【発明者】
【氏名】マクドゥーガル,ロビン ディ
(72)【発明者】
【氏名】ラムスデン,ダイアン
(72)【発明者】
【氏名】シュリーゲル,マーク ケイ
(72)【発明者】
【氏名】サザーランド,ジェシカ イー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076DD67
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA36
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA66
4C086NA14
(57)【要約】
本発明は、トランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするRNAi剤、例えば、二本鎖RNAi剤を使用する、TTR関連疾患を処置するための組成物および方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センス鎖およびアンチセンス鎖を含むRNAi剤であって、ここで:
センス鎖およびアンチセンス鎖の各々は独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである、
RNAi剤。
【請求項2】
二本鎖RNAi剤のセンス鎖が少なくとも1個のリガンドにコンジュゲートする、請求項1のRNAi剤。
【請求項3】
リガンドが二価または三価分岐リンカーを介して結合する1以上のGalNAc誘導体である、請求項2のRNAi剤。
【請求項4】
リガンドが
【化1】
である、請求項3のRNAi剤。
【請求項5】
リガンドがセンス鎖の3’末端に結合する、請求項2~4の何れかのRNAiリガンド。
【請求項6】
二本鎖RNAi剤が次の式で示すとおり、リガンドに結合する:
【化2】
〔式中、XがOまたはSである。〕
、請求項5のRNAi剤。
【請求項7】
センス鎖が21ヌクレオチド長であり、アンチセンス鎖が23ヌクレオチド長である、請求項1~6の何れかのRNAi剤。
【請求項8】
TTR関連疾患を有するヒト対象を処置する方法におけるRNAi剤の使用であって、対象に25mg~1000mgの固定用量のセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで:
センス鎖およびアンチセンス鎖の各々は独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖は修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖は修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである、
使用。
【請求項9】
TTR関連疾患の診断基準を満たさないヒト対象におけるTTRの発現を阻害する方法におけるRNAi剤の使用であって、対象に25mg~1000mgの固定用量のセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで:
各センス鎖およびアンチセンス鎖は独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖は修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖は修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである、
使用。
【請求項10】
二本鎖RNAi剤のセンス鎖が少なくとも1個のリガンドにコンジュゲートする、請求項8または9の使用。
【請求項11】
リガンドが二価または三価分岐リンカーを介して結合する1以上のGalNAc誘導体である、請求項10の使用。
【請求項12】
リガンドが
【化3】
である、請求項11の使用。
【請求項13】
リガンドがセンス鎖の3’末端に結合する、請求項9~12の何れかの使用。
【請求項14】
二本鎖RNAi剤が次の式で示すとおり、リガンドに結合する:
【化4】
〔式中、XがOまたはSである。〕
、請求項13の使用。
【請求項15】
センス鎖が21ヌクレオチド長であり、アンチセンス鎖が23ヌクレオチド長である、請求項8~14の何れかの使用。
【請求項16】
方法が神経学的障害、クオリティ・オブ・ライフ、進行中の神経損傷または心血管機能障害の少なくとも1個の指標の改善を含む、請求項8~15の何れかの使用。
【請求項17】
指標が神経機能障害指標である、請求項16の使用。
【請求項18】
神経機能障害指標がニューロパチー機能障害(NIS)スコア、修飾NIS(mNIS+7)スコア、NIS-Wスコア、複合自律神経症状スコア(COMPASS-31)、中心性肥満度指数(mBMI)スコア、6分間歩行検査(6MWT)スコアおよび10メートル歩行検査スコアの群から選択される指標におけるベースラインからの変化である、請求項17の使用。
【請求項19】
指標がクオリティ・オブ・ライフ指標である、請求項16の使用。
【請求項20】
クオリティ・オブ・ライフ指標がSF-36(登録商標)健康調査スコア、ノーフォーククオリティ・オブ・ライフ-糖尿病性ニューロパチー(ノーフォークQOL-DN)スコアおよびラッシュ構築全体的能力障害スケール(R-ODS)スコアの群から選択される指標におけるベースラインからの変化である、請求項19の使用。
【請求項21】
指標が進行中の神経損傷である、請求項16の使用。
【請求項22】
進行中の神経損傷の指標が群神経フィラメント軽鎖(NfL)、RSPO3、CCDC80、EDA2R、NT-proBNPおよびN-CDaseから選択される1以上のタンパク質の血漿タンパク質レベルのベースラインからの変化である、請求項21の使用。
【請求項23】
進行中の神経損傷の指標が血漿レベルの神経フィラメント軽鎖(NfL)タンパク質レベルの変化である、請求項21の使用。
【請求項24】
指標が心血管機能障害指標である、請求項16の使用。
【請求項25】
心血管機能障害の指標が心血管入院、健康状態が良好であることを示すスコアの増加を伴うカンザスシティ心筋症質問票の全体サマリー(KCCQ-OS)を使用するベースラインからの変化、心エコー評価による平均左室心(LV)壁厚のベースラインからの変化、心エコー評価による長軸方向のグローバル・ストレインのベースラインからの変化およびN末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)のベースラインからの変化である、請求項24の使用。
【請求項26】
ヒト対象がTTR関連疾患の発症と関連するTTR遺伝子変異を有する、請求項8~25の何れかの使用。
【請求項27】
TTR関連疾患が老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、全身性家族性アミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、家族性アミロイド心筋症(FAC)、軟髄膜/中枢神経系(CNS)アミロイドーシス、高サイロキシン血症および心アミロイドーシスからなる群から選択される、請求項8~26の何れかの使用。
【請求項28】
ヒト対象がトランスサイレチン介在アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)を有し、RNAi剤を使用する方法がヒト対象におけるアミロイドTTR沈着を減少させる、請求項8~25の何れかの使用。
【請求項29】
ATTRが遺伝性ATTR(h-ATTR)である、請求項28の使用。
【請求項30】
ATTRが非遺伝性ATTR(wt ATTR)である、請求項28の使用。
【請求項31】
二本鎖RNAi剤がヒト対象に皮下投与または静脈内投与により投与される、請求項8~30の何れかの使用。
【請求項32】
皮下投与が自己投与である、請求項31の使用。
【請求項33】
自己投与がプレフィルドシリンジまたは自動注入器シリンジを介する、請求項32の使用。
【請求項34】
ヒト対象由来のサンプルにおけるTTR mRNA発現またはTTRタンパク質発現レベルの評価をさらに含む、請求項8~33の何れかの使用。
【請求項35】
二本鎖RNAi剤が3カ月に1回~年1回ヒト対象に投与される、請求項8~34の何れかの使用。
【請求項36】
固定用量の二本鎖RNAi剤が約3カ月に1回、6カ月に1回または年1回ヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項37】
固定用量の二本鎖RNAi剤が25mg~300mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項38】
固定用量の二本鎖RNAi剤が25mg~200mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項39】
固定用量の二本鎖RNAi剤が75mg~200mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項40】
固定用量の二本鎖RNAi剤が25mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項41】
固定用量の二本鎖RNAi剤が75mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項42】
固定用量の二本鎖RNAi剤が100mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項43】
固定用量の二本鎖RNAi剤が200mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項44】
固定用量の二本鎖RNAi剤が300mgを3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項45】
固定用量の二本鎖RNAi剤が400mg~600mgを6カ月に1回~12カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項46】
固定用量の二本鎖RNAi剤が400mg~600mgを6カ月に1回または12カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項47】
固定用量の二本鎖RNAi剤が400mgまたは600mgを6カ月に1回または12カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項48】
固定用量の二本鎖RNAi剤が700mg~1000mgを12カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項49】
固定用量の二本鎖RNAi剤が700mg、800mg、900mgまたは1000mgを12カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される、請求項8~35の何れかの使用。
【請求項50】
ヒト対象にさらなる治療剤を投与することをさらに含む、請求項8~49の何れかの使用。
【請求項51】
さらなる治療剤がTTR四量体安定化剤または非ステロイド性抗炎症剤である、請求項50の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、引用により本明細書に内容全体を包含させる2020年3月6日出願の米国仮出願62/985,950に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出され、引用により全体として本明細書に包含させる配列表を含む。該ASCIIコピーは、2021年2月26日に作成され、121301_12320_SL.txtなる名称であり、44,455バイトサイズである。
【背景技術】
【0003】
背景
トランスサイレチン(TTR)(プレアルブミンとしても知られる)は血清および脳脊髄液(CSF)に見られる。TTRは、レチノール結合タンパク質(RBP)およびサイロキシン(T4)を輸送し、血液およびCSF中のRBPとの結合を介してレチノール(ビタミンA)の担体としても作用する。トランスサイレチン(transthyretin)は、そのサイロキシン(thyroxine)およびレチノール(retinol)の輸送(transport)から名づけられている。TTRはまたプロテアーゼとしても機能し、apoA-I(主要HDLアポリポタンパク質)、アミロイドβ-ペプチドおよび神経ペプチドYを含むタンパク質を開裂できる。Liz, M.A. et al. (2010) IUBMB Life, 62(6):429-435参照。
【0004】
TTRは、ベータシート構造に富む4個の同一127アミノ酸サブユニット(単量体)の四量体である。各単量体は2個の4鎖ベータシートを有し、扁長楕円体の形である。逆平行ベータシート相互作用が単量体を二量体に結合させる。各単量体からの短ループが主二量体-二量体相互作用を形成する。これらループの2個のペアが、二量体の対向する、凸面ベータシートを分け、内部チャネルを形成する。
【0005】
肝臓はTTR発現の主要な部位である。他の発現の顕著な部位は、脈絡叢、網膜(特に網膜色素上皮)および膵臓を含む。
【0006】
トランスサイレチンは、アミロイド原線維の形成における前駆体タンパク質である少なくとも27の別個のタイプのタンパク質の一つである。Guan, J. et al. (Nov. 4, 2011) Current perspectives on cardiac amyloidosis, Am J Physiol Heart Circ Physiol, doi:10.1152/ajpheart.00815.2011参照。臓器および組織におけるアミロイド原線維の細胞外沈着はアミロイドーシスの特徴である。アミロイド原線維は、前駆体タンパク質の過剰産生または特定の変異に起因し得る、ミスフォールドタンパク質凝集体からなる。TTRのアミロイド形成能は、広範なベータシート構造と関係し得る;X線結晶学による研究は、あるアミロイド形成変異がタンパク質の四量体構造を不安定化することを示す。例えば、Saraiva M.J.M. (2002) Expert Reviews in Molecular Medicine, 4(12):1-11参照。
【0007】
アミロイドーシスは、アミロイド沈着により特徴づけられるアミロイド疾患群の一般的総称である。アミロイド疾患は、前駆体タンパク質により分類される;例えば、名称はアミロイドの「A」で始まり、前駆体タンパク質の略語、例えば、アミロイド形成トランスサイレチンについてATTRが続く。Ibid。
【0008】
多数のTTR関連疾患があり、その大部分はアミロイド疾患である。正常配列TTRは、高齢者の、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(老人性心アミロイドーシス(SCA)または心アミロイドーシス)とも称される、心アミロイドーシスと関連する。SSAはしばしば多くの他の臓器における顕微鏡的沈着物を伴う。TTRアミロイドーシスは、多様な形態で顕在化する。末梢神経系がより顕著に影響を受けたとき、疾患は家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)と称される。心臓が主に関与するが、神経系が関与しないとき、疾患は家族性アミロイド心筋症(FAC)と称される。TTRアミロイドーシスの3番目に多いタイプは、軟髄膜または髄膜脳血管アミロイドーシス、中枢神経系(CNS)アミロイドーシスまたはアミロイドーシスVII形態としても知られる、軟髄膜アミロイドーシスである。TTRの変異はまたアミロイド性硝子体混濁、手根管症候群および、サイロキシンへの親和性が増大した変異体TTR分子による、サイロキシンとTTRの結合の増加に二次的であると考えられる非アミロイド性疾患である甲状腺機能正常型高サイロキシン血症も引き起こし得る。例えば、Moses et al. (1982) J. Clin. Invest., 86, 2025-2033参照。
【0009】
異常TTRアレルは、遺伝性または体細胞変異による獲得のいずれかであり得る。Guan, J. et al. (Nov. 4, 2011) Current perspectives on cardiac amyloidosis, Am J Physiol Heart Circ Physiol, doi:10.1152/ajpheart.00815.2011。トランスサイレチン関連ATTRは、遺伝性全身性アミロイドーシスの最も頻繁な形態である。Lobato, L. (2003) J. Nephrol., 16:438-442。TTR変異はTTRアミロイド形成過程を加速し、ATTRの発症の最も重要なリスク因子である。85を超えるアミロイド形成的TTRバリアントが全身性家族性アミロイドーシスを引き起こすことが知られる。TTR変異は、通常末梢神経系の特定の関与を伴う全身性アミロイド沈着を起こすが、一部変異は、心筋症または硝子体混濁と関連する。Ibid。
【0010】
V30M変異は、最も一般的なTTR変異である。例えば、Lobato, L. (2003) J Nephrol, 16:438-442参照。V122I変異は、アフリカ系アメリカ人集団の3.9%が有し、FACの最も一般的な原因である。Jacobson, D.R. et al. (1997) N. Engl. J. Med. 336 (7): 466-73。SSAは、80歳を超える集団の25%超に影響すると推定される。Westermark, P. et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87 (7): 2843-5。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、当分野でTTR関連疾患に対する有効な処置の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明は、TTR遺伝子をターゲティングする二本鎖RNAi剤を使用するTTRの発現を阻害するための組成物ならびにヒト対象におけるトランスサイレチン(TTR)関連疾患を処置または予防する方法に関する。
【0013】
本発明は、センス鎖およびアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAi剤であって、ここで、:
各センス鎖およびアンチセンス鎖が独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである。
【0014】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤のセンス鎖は少なくとも1個のリガンドにコンジュゲートする。ある実施態様において、リガンドは、二価または三価分岐リンカーを介して結合する1以上のGalNAc誘導体である。ある実施態様において、リガンドは
【化1】
である。
【0015】
ある実施態様において、リガンドはセンス鎖の3’末端に結合する。
【0016】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、次の式で示すとおり、リガンドに結合する:
【化2】
〔式中、XはOまたはSである。〕。
【0017】
ある実施態様において、センス鎖は21ヌクレオチド長であり、アンチセンス鎖は23ヌクレオチド長である。
【0018】
本発明は、TTR関連疾患を有するヒト対象を処置する方法における二本鎖RNAi剤の使用であって、約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで:
各センス鎖およびアンチセンス鎖は独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである、
使用を提供する。
【0019】
本発明はまたTTR関連疾患の診断基準を満たさないヒト対象におけるTTRの発現を阻害する方法における二本鎖RNAi剤の使用であって、約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで:
各センス鎖およびアンチセンス鎖は独立して最大30ヌクレオチド長であり;
センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;そして
アンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである、
使用も提供する。
【0020】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤のセンス鎖は少なくとも1個のリガンドにコンジュゲートする。ある実施態様において、リガンドは、二価または三価分岐リンカーを介して結合する1以上のGalNAc誘導体である。ある実施態様において、リガンドは
【化3】
である。
【0021】
ある実施態様において、リガンドはセンス鎖の3’末端に結合する。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、次の式で示すとおり、リガンドに結合する:
【化4】
〔式中、XはOまたはSである。〕。
【0022】
ある実施態様において、センス鎖は21ヌクレオチド長であり、アンチセンス鎖は23ヌクレオチド長である。
【0023】
ある実施態様において、本発明の使用は、神経学的障害、クオリティ・オブ・ライフ、神経損傷、心血管症状の少なくとも1つの指標の改善を含む。ある実施態様において、評価される指標は、例えば、ニューロパチー機能障害(NIS)スコアまたは修飾NIS(mNIS+7)スコアを使用する、神経機能障害である。ある実施態様において、指標は、例えば、SF-36(登録商標)健康調査スコア、ノーフォーククオリティ・オブ・ライフ-糖尿病性ニューロパチー(ノーフォークQOL-DN)スコア、NIS-Wスコア、ラッシュ構築全体的能力障害スケール(R-ODS)スコア、複合自律神経症状スコア(COMPASS-31)、中心性肥満度指数(mBMI)スコア、6分間歩行検査(6MWT)スコアおよび10メートル歩行検査スコアを使用して評価される、クオリティ・オブ・ライフ指標である。ある実施態様において、指標は、例えば、ヒト血液サンプルまたはそれ由来の血清もしくは血漿などの、神経フィラメント軽鎖(NfL)、RSPO3、CCDC80、EDA2R、NT-proBNPおよびN-CDaseの群から選択される1以上のタンパク質のレベルの変化により評価される、神経損傷である。ある実施態様において、神経損傷の指標は、神経フィラメント軽鎖(NfL)タンパク質レベルのベースラインからの変化である。ある実施態様において、心血管機能障害の指標は、健康状態が良好であることを示すスコアの増加、心エコー評価による平均左室心(LV)壁厚のベースラインからの変化、心エコー評価による長軸方向のグローバル・ストレインのベースラインからの変化およびN末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)のベースラインからの変化を伴うカンザスシティ心筋症質問票の全体サマリー(KCCQ-OS)を使用する、心血管入院処置である。
【0024】
ある実施態様において、ヒト対象は、TTR関連疾患、例えば、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、全身性家族性アミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、家族性アミロイド心筋症(FAC)、軟髄膜/中枢神経系(CNS)アミロイドーシスおよび高サイロキシン血症の発症と関連するTTR遺伝子変異を有する。
【0025】
ある実施態様において、ヒト対象はトランスサイレチン介在アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)を有し、二本鎖RNAi剤の使用はヒト対象におけるアミロイドTTR沈着を減少させる。ある実施態様において、ATTRアミロイドーシスは遺伝性ATTR(h-ATTR)アミロイドーシスである。ある実施態様において、ATTRアミロイドーシスは非遺伝性ATTR(wt ATTR)アミロイドーシスである。
【0026】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤はヒト対象に皮下または静脈内投与される。ある実施態様において、皮下投与は自己投与である。ある実施態様において、自己投与はプレフィルドシリンジまたは自動注入デバイスを介する。
【0027】
ある実施態様において、使用は、さらにヒト血液サンプルまたはそれ由来の血清もしくは血漿などのヒト対象由来のサンプルにおけるTTR mRNA発現またはTTRタンパク質発現レベルの評価を含む。
【0028】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、月1回、隔月に1回、3カ月に1回、4カ月に1回、5カ月に1回または6カ月に1回ヒト対象に投与される。ある実施態様において、固定用量の二本鎖RNAi剤は、約3カ月に1回ヒト対象に投与される。ある実施態様において、固定用量の二本鎖RNAi剤は、約6カ月に1回ヒト対象に投与される。
【0029】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤はヒト対象に慢性的に投与される。
【0030】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回~約1年に1回ヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回、約6カ月に1回または約1年に1回ヒト対象に投与される。
【0031】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約50mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約100mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mg;約25mg~約200mg;約75mg~約200mg;約25mg;約50mg;約75mg;約100mg;約200mg;または約300mgを四半期に1回、すなわち、約3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0032】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mg~約600mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回~約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回または約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0033】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg~約1000mgまたは約700mg~約900mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg、約800mg、約900mgまたは約1000mgを約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0034】
ある実施態様において、使用は、さらにヒト対象にさらなる治療剤、例えば、TTR四量体安定化剤または非ステロイド性抗炎症剤を投与することを含む。
【0035】
本発明はまた本発明の方法の何れかを実施するためのキットも提供する。キットは、二本鎖RNAi剤;および使用指示を含むラベルを含み得る。
【0036】
本発明をさらに次の詳細な記載および図面により説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】1mg/kg用量の記載する二本鎖RNAi剤を0日目に単回投与後のV30Mトランスジェニックマウス(n=3/群)における相対的血清TTRタンパク質レベルを示すグラフである。
【0038】
図2】1mg/kg用量または3mg/kg用量の記載する二本鎖RNAi剤を0日目に単回投与後のカニクイザル(n=3/群)における相対的血清TTRタンパク質レベルを示すグラフである。示す結果は、3つの独立した試験からである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な記載
本発明は、TTR関連疾患の診断基準を満たさないヒト対象におけるTTR発現の阻害を含む、TTRの発現を阻害する方法ならびにトランスサイレチン(TTR)関連疾患を有するヒト対象を処置する方法であって、TTR遺伝子をターゲティングする二本鎖RNAi剤の使用を含み、ここで、センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;およびアンチセンス鎖は修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含む、方法を提供する。
【0040】
次の詳細な記載は、TTR遺伝子の発現を選択的に阻害するためのiRNA剤を含む組成物をどのように製造および使用するかならびにTTR遺伝子の発現の阻害または減少により利益が得られる疾患および障害を有する対象の処置のための組成物、使用および方法を記載する。
【0041】
I. 定義
本発明がより容易に理解され得るために、特定の用語をまず定義する。さらに、パラメータの値または値の範囲が引用されているときは、記載される値および値の間の値も本発明の一部であることが意図されることは留意されるべきである。
【0042】
単数表現は、ここで、文法的な対象が1または1を超える(すなわち、少なくとも1)ことをいうために使用される。例として、「要素」は1要素または1を超える要素、例えば、複数の要素を意味する。
【0043】
用語「含む」は、用語「含むが、限定されない」を意味するために使用され、相互交換可能に使用される。
【0044】
用語「または」は、文脈から他のことが示されない限り、用語「および/または」を意味するために使用され、相互交換可能に使用される。
【0045】
用語「約」は、当分野における許容誤差の典型的範囲内、例えば、投与間隔の許容される変動、投与量単位量許容される変動を意味するために使用される。例えば、「約」は、平均からの約2標準偏差以内と理解され得る。ある実施態様において、約は+10%を意味する。ある実施態様において、約は+5%を意味する。約が一連の数値または範囲の前にあるとき、「約」は一連の数値または範囲の各々を修飾し得ると理解される。
【0046】
数値または一連の数値の前後の用語「少なくとも」、「下回らない」または「以上」は、用語「少なくとも」に隣接する数値および文脈から明らかな論理的に包含されるべき全てのその後の数値または整数を含むと理解されるべきである。例えば、核酸分子のヌクレオチド数は整数であるべきである。例えば、「21ヌクレオチド核酸分子の少なくとも18ヌクレオチド」は、18、19、20または21ヌクレオチドが、指定される性質を有することを意味する。少なくともが一連の数値または範囲の前にあるとき、「少なくとも」は一連の数値または範囲の各々を修飾し得ると理解される。
【0047】
ここで使用する「以下」または「未満」は、該用語に隣接する値および文脈から明らかな、0までの論理的なそれより小さい値または整数として理解される。例えば、「2以下のヌクレオチド」のオーバーハングを有する二重鎖は、2、1または0ヌクレオチドオーバーハングを有する。「以下」が一連の数値または範囲の後にあるとき、「以下」は一連の数値または範囲の各々を修飾し得ると理解される。
【0048】
ここで使用する検出方法は、存在する検体の量が方法の検出レベル未満であることの決定を含み得る。
【0049】
ここで使用する「トランスサイレチン」(「TTR」)は、周知遺伝子およびタンパク質をいう。TTRはまたプレアルブミン、HsT2651、PALBおよびTBPAとしても知られる。TTRはレチノール結合タンパク質(RBP)、サイロキシン(T4)およびレチノールのトランスポーターとして機能し、プロテアーゼとしても作用する。肝臓はTTRを血液に分泌し、脈絡叢はTTRを脳脊髄液に分泌する。TTRは膵臓および網膜色素上皮でも発現される。TTRの最大の臨床的関連は、正常(野生型)および変異体両者のTTRタンパク質が、凝集してアミロイドーシスを引き起こす細胞外沈着物となるアミロイド原線維を形成できることである。例えば、レビューのためにSaraiva M.J.M. (2002) Expert Reviews in Molecular Medicine, 4(12):1-11参照。ラットトランスサイレチンの分子クローニングおよびヌクレオチド配列ならびにmRNA発現の分布は、Dickson, P.W. et al. (1985) J. Biol. Chem. 260(13)8214-8219により検出された。ヒトTTRのX線結晶構造はBlake, C.C. et al. (1974) J Mol Biol 88, 1-12に記載される。ヒトTTR mRNA転写物の配列は、National Center for Biotechnology Information (NCBI) RefSeq accession number NM_000371(例えば、配列番号1および5)に見られ得る。マウスTTR mRNAの配列は、RefSeq accession number NM_013697.2およびラットTTR mRNAの配列はRefSeq accession number NM_012681.1に見られ得る。TTR mRNA配列のさらなる例は、公的に利用可能なデータベース、例えば、GenBank、UniProtおよびOMIMを使用して、容易に入手可能である。
【0050】
ここで使用する「TTR関連疾患」は、TTR遺伝子またはタンパク質と関連するあらゆる疾患を含むことを意図する。このような疾患は、例えば、TTRタンパク質の過剰生産、TTR遺伝子変異、TTRタンパク質の異常切断、TTR四量体の不安定、TTRと他のタンパク質または他の内因性または外因性物質の異常相互作用により引き起こされ得る。「TTR関連疾患」は、TTRが異常細胞外凝集体またはアミロイド沈着の形成に役割を果たすあらゆるタイプのトランスサイレチン介在アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)、例えば、遺伝性ATTR(h-ATTR)アミロイドーシスまたは非遺伝性ATTR(ATTR)アミロイドーシスを含む。TTR関連疾患は、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)、全身性家族性アミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)、家族性アミロイド心筋症(FAC)、軟髄膜/中枢神経系(CNS)アミロイドーシス、アミロイド性硝子体混濁、手根管症候群および高サイロキシン血症を含む。TTRアミロイドーシスの症状は、感覚性ニューロパチー(例えば、錯感覚、遠位肢の感覚鈍麻)、自律神経性ニューロパチー(例えば、消化器機能不全、例えば胃潰瘍または起立性低血圧)、運動ニューロパチー、癲癇、認知症、脊髄症、多発ニューロパチー、手根管症候群、自律神経性機能不全、心筋症、硝子体混濁、腎機能不全、腎症、相当減少したmBMI(修飾肥満度指数)、脳神経機能不全および格子状角膜変性症を含む。
【0051】
ここで使用する用語「ある配列を含む鎖」は、標準的ヌクレオチド命名法を使用して参照される配列により記載されるヌクレオチド鎖を含むオリゴヌクレオチドをいう。
【0052】
ここで相互交換可能に使用される用語「iRNA」、「RNAi剤」、「iRNA剤」、「RNA干渉剤」は、ここで定義するRNAを含み、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)経路を介するRNA転写物の標的化切断に介在する薬剤をいう。iRNAは、RNA干渉(RNAi)として知られる過程を経るmRNAの配列特異的分解を指示する。iRNAは、細胞、例えば、哺乳動物対象などの対象内の細胞におけるTTR遺伝子発現を調節、例えば、阻害する。
【0053】
本発明の組成物、使用および方法において使用するための、ここで使用する「iRNA」は二本鎖RNAであり、ここで、「二本鎖RNAi剤」、「二本鎖RNA(dsRNA)分子」、「dsRNA剤」または「dsRNA」と称する。用語「dsRNA」は、標的RNA、すなわち、TTR遺伝子に対して「センス」および「アンチセンス」配向を有すると称される2個の逆平行かつ実質的に相補性の核酸鎖を含む二重鎖構造を有するリボ核酸分子の複合体をいう。二本鎖RNAi剤は、ここでRNA干渉またはRNAiと称される転写後遺伝子サイレンシング機構を介して、標的RNA、例えば、mRNAの分解を開始させる。
【0054】
ここで使用する用語「修飾ヌクレオチド」は、独立して、修飾糖部分、修飾ヌクレオチド間結合または修飾核酸塩基を有する、ヌクレオチドをいう。故に、用語修飾ヌクレオチドは、ヌクレオシド間結合、糖部分または核酸塩基の、例えば、官能基または原子の置換、付加または除去を包含する。本発明の薬剤における使用に適する修飾は、ここに開示するまたは当分野で知られる全タイプの修飾を含む。siRNAタイプ分子で使用されるようなあらゆるこのような修飾は、本明細書および特許請求の範囲の目的で「RNAi剤」に含まれる。
【0055】
二重鎖領域は、RISC経路を介する所望の標的RNAの特定の分解が可能であるどんな長さでもよく、約21~36塩基対長、例えば、約21~30塩基対長、例えば、約21~30、21~29、21~28、21~27、21~26、21~25、21~24、21~23または21~22塩基対長の範囲であり得る。ある実施態様において、本発明のRNAi剤はdsRNA剤であり、その各鎖は標的mRNAの切断を指示するためにTTR mRNA配列と相互作用する21~23ヌクレオチドを含む。理論に拘束されることを意図しないが、細胞に導入される長い二本鎖RNAは、Dicerとして知られるタイプIIIエンドヌクレアーゼによりsiRNAに破壊される(Sharp et al. (2001) Genes Dev. 15:485)。Dicer、リボヌクレアーゼ-III様酵素は、dsRNAを特徴的2塩基3’オーバーハングを有する19~23塩基対低分子干渉RNAに処理する(Bernstein, et al., (2001) Nature 409:363)。次いで、siRNAはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、そこで1以上のヘリカーゼはsiRNA二重鎖をほどき、相補性アンチセンス鎖が標的認識をガイドすることを可能とする(Nykanen, et al., (2001) Cell 107:309)。適切な標的mRNAへの結合後、RISC内の1以上のエンドヌクレアーゼが標的を開裂して、サイレンシングを誘導する(Elbashir, et al., (2001) Genes Dev. 15:188)。ある実施態様において、本発明のRNAi剤は、標的RNAの切断を指示するためにTTR mRNA配列と相互作用する24~30ヌクレオチドのdsRNAである。
【0056】
ここで使用する用語「ヌクレオチドオーバーハング」は、二重鎖構造のiRNA、例えば、dsRNAから突き出た少なくとも1個の不対ヌクレオチドをいう。例えば、dsRNAの一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端を超えて伸長するまたはその逆であるとき、ヌクレオチドオーバーハングがある。dsRNAは、少なくとも1個のヌクレオチドのオーバーハングを含む;あるいは、オーバーハングは、少なくとも2個のヌクレオチド、少なくとも3個のヌクレオチド、少なくとも4個のヌクレオチド、少なくとも5個のヌクレオチドまたはそれ以上含み得る。Aヌクレオチドオーバーハングは、デオキシヌクレオチド/ヌクレオシドを含むヌクレオチド/ヌクレオシドアナログを含むまたはそれからなることがある。オーバーハングは、センス鎖、アンチセンス鎖またはそれらの何らかの組み合わせにあり得る。さらに、オーバーハングのヌクレオチドは、dsRNAのアンチセンスまたはセンス鎖の5’末端、3’末端または両端にあり得る。dsRNAのある実施態様において、少なくとも1個の鎖は、少なくとも1ヌクレオチドの3’オーバーハングを含む。他の実施態様において、少なくとも1個の鎖は、少なくとも2ヌクレオチド、例えば、2、3、4、5、6、7、8または9ヌクレオチドの3’オーバーハングを含む。他の実施態様において、RNAi剤の少なくとも1個の鎖は、少なくとも1ヌクレオチドの5’オーバーハングを含む。ある実施態様において、少なくとも1個の鎖は、少なくとも2ヌクレオチド、例えば、2、3、4、5、6、7、8または9ヌクレオチドの5’オーバーハングを含む。さらに他の実施態様において、RNAi剤の一方の鎖の3’および5’末端両者は、少なくとも1ヌクレオチドのオーバーハングを含む。
【0057】
ある実施態様において、dsRNAのアンチセンス鎖は、3’末端または5’末端に1~9ヌクレオチド、例えば、0~3、1~3、2~4、2~5、4~9、5~9、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8または9ヌクレオチドのオーバーハングを有する。ある実施態様において、dsRNAのセンス鎖は、3’末端または5’末端に1~9ヌクレオチド、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8または9ヌクレオチドのオーバーハングを有する。他の実施態様において、オーバーハングにおけるヌクレオチドの1以上はヌクレオシドチオホスフェートで置換される。
【0058】
「平滑」または「平滑末端」は、二本鎖RNAi剤のその末端に不対ヌクレオチドがない、すなわち、ヌクレオチドオーバーハングがないことを意味する。「平滑末端処理」RNAi剤は、その全長にわたり二本鎖である、すなわち、分子の何れかの末端にヌクレオチドオーバーハングがないdsRNAをいう。本発明のRNAi剤は、一端にヌクレオチドオーバーハングを有する(すなわち、1オーバーハングおよび1平滑末端を有する薬剤)または両端にヌクレオチドオーバーハングを有するRNAi剤を含む。
【0059】
用語「アンチセンス鎖」または「ガイド鎖」は、標的配列、例えば、TTR mRNAに実質的に相補性である領域を含むiRNA、例えば、dsRNAの鎖をいう。ここで使用する用語「相補性である領域」は、ここに定義する配列、例えば標的配列、例えば、TTRヌクレオチド配列に実質的に相補性である、アンチセンス鎖の領域をいう。相補性である領域が標的配列と完全に相補性でないとき、ミスマッチが分子の内部または末端領域にあり得る。一般に、最も許容されるミスマッチは、末端領域、例えば、iRNAの5’または3’末端の5、4、3、2または1ヌクレオチド以内である。ある実施態様において、本発明の二本鎖RNAi剤は、アンチセンス鎖にヌクレオチドミスマッチを含む。他の実施態様において、本発明の二本鎖RNAi剤は、センス鎖にヌクレオチドミスマッチを含む。ある実施態様において、ヌクレオチドミスマッチは、例えば、iRNAの3’末端から5、4、3、2または1ヌクレオチド以内である。他の実施態様において、ヌクレオチドミスマッチは、例えば、iRNAの3’末端ヌクレオチドである。
【0060】
ここで使用する用語「センス鎖」または「パッセンジャー鎖」は、ここで定義するアンチセンス鎖の領域と実質的に相補性である領域を含むiRNAの鎖をいう。
【0061】
ここで使用する用語「切断領域」は、切断部位にすぐ隣接して位置する領域をいう。切断部位は、切断が生じる標的上の部位である。ある実施態様において、切断領域は、切断部位の何れかの末端および隣接して、3塩基含む。ある実施態様において、切断領域は、切断部位の何れかの末端および隣接して2塩基含む。ある実施態様において、切断部位は、アンチセンス鎖のヌクレオチド10および11により結合される部位で特異的に生じ、切断領域はヌクレオチド11、12および13を含む。
【0062】
ここで使用される限りおよび特に断らない限り、用語「相補性」は、第二ヌクレオチド配列に対する第一ヌクレオチド配列を記載するために使用するとき、当業者に理解されるとおり、第一ヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、ある条件下で、第二ヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとハイブリダイズし、二重鎖構造を形成する能力をいう。このような条件は、例えば、「ストリンジェントな条件」であってよく、ここで、ストリンジェントな条件は、400mM NaCl、40mM PIPES pH6.4、1mM EDTA、50℃または70℃で12~16時間、続く洗浄を含む(例えば、“Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrook, et al. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press参照)。生物の内部で遭遇し得る生理学的に関連する条件などの他の条件を適用できる。当業者は、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終適用に応じて、2配列の相補性の試験に最も適する条件のセットを決定できる。
【0063】
ここに記載するiRNA内、例えば、dsRNA内の相補性配列は、第一ヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと第二ヌクレオチド配列を含むオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの、一方または両方のヌクレオチド配列の全長にわたる塩基対形成を含む。このような配列は、ここで互いに関して「完全相補性」といいうる。しかしながら、第一配列がここで第二配列に関して「実質的に相補性」というとき、2配列は完全相補性であっても、インビトロまたはインビボで、最終適用、例えば、遺伝子発現の阻害に最も関連する条件下ハイブリダイズする能力を保持しながら、30塩基対までの二重鎖のハイブリダイズにより1以上、しかし一般に5、4、3または2を超えないミスマッチ塩基対を形成してもよい。しかしながら、2個のオリゴヌクレオチドが、ハイブリダイゼーションにより、1以上の一本鎖オーバーハングを形成するよう設計されるとき、このようなオーバーハングは、相補性の決定に関してミスマッチと見なしてはならない。例えば、21ヌクレオチド長の一方のオリゴヌクレオチドおよび23ヌクレオチド長の他方のオリゴヌクレオチドを含むdsRNAであって、長いほうのオリゴヌクレオチドが短いほうのオリゴヌクレオチドと完全相補性である21ヌクレオチドの配列を含むとき、ここに記載する目的で、なお「完全相補性」と称し得る。
【0064】
ここで使用する「相補性」配列は、ハイブリダイズする能力について上記要件を満たす限り、非ワトソン・クリック塩基対または非天然および修飾ヌクレオチドから形成された塩基対を含んでよいまたは完全にそれから形成されてよい。このような非ワトソン・クリック塩基対は、G:U揺らぎまたはフーグスティーン塩基対形成を含むが、これらに限定されない。
【0065】
ここでの用語「相補性」、「完全相補性」および「実質的に相補性」は、使用される文脈から理解されるとおり、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖間またはiRNA剤のアンチセンス鎖および標的配列などの2個のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド間の塩基整合に関して使用され得る。
【0066】
ここで使用する、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部と実質的に相補性」であるポリヌクレオチドは、目的のmRNA(例えば、TTR遺伝子をコードするmRNA)の連続部分と実質的に相補性であるポリヌクレオチドをいう。例えば、ポリヌクレオチドは、配列がTTR遺伝子をコードするmRNAの非中断部分と実質的に相補性であるならば、少なくともTTR mRNAの一部と相補性である。
【0067】
従って、ある実施態様において、ここに開示するアンチセンスポリヌクレオチドは、標的TTR配列と完全相補性である。他の実施態様において、ここに開示するアンチセンスポリヌクレオチドは、配列番号8(5’-UGGGAUUUCAUGUAACCAAGA-3’)と完全相補である。ある実施態様において、アンチセンスポリヌクレオチド配列は5’-UCUUGGUUACAUGAAAUCCCAUC-3’(配列番号9)であり、ここで、アンチセンス鎖の7位のUはTであり得る。
【0068】
ここで使用する「対照レベル」は、アッセイから得られたレべル、例えば、バイオマーカーレベル、例えば、タンパク質バイオマーカーレベルが比較される、予め決定されたレベルとして理解される。ある実施態様において、対照レベルは、健常集団、例えば、バイオマーカーレベルの変化と関連する疾患または状態を有さず、かつバイオマーカーレベルの変化と関連する疾患または状態に対する素因、例えば、遺伝的素因を有しない集団について決定された対照レベルであり得る。ある実施態様において、集団は、ある基準、例えば、年齢、性別について一致すべきである。ある実施態様において、バイオマーカーの対照レベルは、同じ対象での早い時期、例えば、症候性疾患発症前または処置開始前のレベルである。典型的に、サンプルを、臨床的に関連する間隔、例えば、バイオマーカーの変化が観察されるのに十分に離れた間隔、例えば、少なくとも3カ月間隔、少なくとも6カ月間隔または少なくとも9カ月間隔で対象から得る。2個を超えるサンプルが経時的に対象から得られるならば、先のサンプルの何れかが対照レベルとして役立ち得ることは理解される。
【0069】
ここで使用する「対照レベルと比較した変化」などは、バイオマーカーレベルの統計的または臨床的に有意な変化として理解され、例えば、対照レベルと比較した、タンパク質バイオマーカーレベルの変化は、アッセイ方法の典型的標準偏差より大きい。さらに、変化は臨床的に関連するものでなければならない。対照レベルと比較した変化はパーセント変化として決定され得る。例えば、バイオマーカーXについて対照レベルが100pg/mlであり、対象におけるバイオマーカーXのレベルが150pg/mlであるならば、レベルは、((150pg/ml-100pg/ml)/100pg/ml)×100%=50%により計算して、50%増加する。対象におけるバイオマーカーXのレベルが300pg/mlであるならば、レベルは300%増加する。対象におけるバイオマーカーXのレベルが50pg/mlであるならば、レベルは50%減少する。ある実施態様において、対照レベルと比較した変化は、少なくとも50%の増加である。ある実施態様において、対照レベルと比較した変化は、少なくとも100%、少なくとも200%または少なくとも300%の増加である。ある実施態様において、対照レベルと比較した変化は、少なくとも25%の減少である。ある実施態様において、対照レベルと比較した変化は、少なくとも50%の減少である。
【0070】
ここで使用する「対象からの生物学的サンプル」または「対象からのサンプル」は、対象から単離した1以上の体液、細胞または組織を含む。生物学的体液の例は、血液、血清、漿液、血漿、脳脊髄液、眼液、リンパ、尿、唾液などを含む。組織サンプルは、組織、臓器または限局性領域からのサンプルを含み得る。例えば、サンプルは、特定の臓器、臓器の一部または臓器内の体液または細胞に由来し得る。ある実施態様において、サンプルは肝臓組織または肝臓に由来し得る。ある実施態様において、「対象からの生物学的サンプル」は、対象からの血液または血液由来血清または血漿をいい得る。ある実施態様において、体液は実質的に無細胞、例えば、無細胞である。
【0071】
ここで使用する「臨床的に関連する差異」は、評価について少なくとも典型的観察者間変動より大きな差異として理解され、ここで、観察者は、ほぼ同じ時期、例えば、1週間以内、例えば、連日、同じ個体で同じ評価を実施する訓練を受けた医療従事者、介護者または患者であり得る。ある患者観察は主観的であり、短期間内に異なる観察者が実施したとき、ほぼ同一であるべきである、例えば、体重、心拍。mNIS+7(例えば、触圧に対する応答、振動、関節位置および動き)およびノーフォーク-クオリティ・オブ・ライフ(例えば、疼痛レベル、手足の温かさまたは冷たさ、立位時安定)のいくつかの態様などの他の定性的測定値は、日によっておよび観察者によって異なり得る。それ故に、複合スコアを使用して、観察を総計し、臨床的に関連する変化の何らの兆候なく観察者間での大きな変動が予測される。バイオマーカーレベルのアッセイは、サンプル内および間で変動レベルが知られている。臨床的に関連する差異の決定は当業者、例えば、TTR関連疾患を有する患者の処置経験がある医療従事者、臨床検査専門家の能力の範囲内である。
【0072】
ここで使用する「慢性的に投与」は、無限の間隔、例えば、対象の生涯にわたって、肝移植までの投与として理解される。
【0073】
ここで使用する「TTRを安定化する」または「TTR四量体を安定化する治療剤」は、TTR四量体のサブユニットの、例えば、単量体への解離を減少または防止する薬剤である。ある実施態様において、薬剤は、例えば、TTRアミロイドプラークを形成するTTR単量体またはTTR単量体のタンパク分解性フラグメントのレベルの減少により、TTRアミロイドプラークの形成を減少させる。このような薬剤は、タファミジス、ジフルニサルおよびAG10を含むが、これらに限定されない。
【0074】
ここで使用する用語「治療剤を投与」は、治療剤の対象への提供として理解される。ある実施態様において、治療剤は、例えば、治療剤のラベルに提供される、薬剤の適切な投与量および投与経路で提供される。
【0075】
II. TTR関連疾患を処置する方法
本発明は、二本鎖RNAi剤およびヒト対象におけるトランスサイレチン介在アミロイドーシス(ATTRアミロイドーシス)、例えば、遺伝性ATTR(h-ATTR)アミロイドーシスまたは非遺伝性ATTR(wt ATTR)アミロイドーシスなどのTTR関連疾患を処置する;またはTTR関連疾患の診断基準をまだ満たさないが、TTR関連疾患を発症するリスクのある対象、例えば、TTRアミロイドーシスと関連するTTR変異を有する対象、TTRアミロイドーシスの診断基準をまだ満たさない、TTRアミロイドーシスのある指標を有する対象、TTRアミロイドーシスと関連するバイオマーカーレベルの改変がある対象におけるTTRの発現を阻害する方法ためのその使用を提供する。方法は、対象に治療有効量の本発明のRNAi剤を投与することを含む。
【0076】
ある態様において、本発明は、TTR関連疾患を有するまたはTTR関連疾患を発症するリスクのあるヒト対象を処置する方法を提供する。方法は、ヒト対象に約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、
ここで、センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;およびアンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含み、
ここで、a、c、gおよびuはそれぞれ2’-O-メチルアデノシン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルシチジン-3’-ホスフェート、2’-O-メチルグアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-O-メチルウリジン-3’-ホスフェートであり;
Af、Cf、GfおよびUfはそれぞれ2’-フルオロアデノシン-3’-ホスフェート、2’-フルオロシチジン-3’-ホスフェート、2’-フルオログアノシン-3’-ホスフェートおよび2’-フルオロウリジン-3’-ホスフェートであり;
(Tgn)はチミジン-グリコール核酸(GNA)S-異性体であり;そして
sはホスホロチオエートリンカーである。
【0077】
他の態様において、本発明は、TTR関連疾患を有するまたはTTR関連疾患を発症するリスクのあるヒト対象における、神経学的障害またはクオリティ・オブ・ライフの少なくとも1個の指標を改善する方法を提供する。方法は、ヒト対象に約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで、センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;およびアンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含む。
【0078】
他の態様において、本発明は、TTR関連疾患を有するまたはTTR関連疾患を発症するリスクのあるヒト対象におけるニューロパチー機能障害スコア(NIS)または修飾NIS(mNIS+7)を低減、緩徐化または停止する方法を提供する。方法は、ヒト対象に約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで、センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;およびアンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含む。
【0079】
他の態様において、本発明は、TTR関連疾患を有するまたはTTR関連疾患を発症するリスクのあるヒト対象における、6分間歩行検査(6MWT)を増加する方法を提供する。方法は、ヒト対象に約25mg~約1000mgの固定用量の二本鎖RNAi剤を投与することを含み、ここで、センス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3'(配列番号6)を含み;およびアンチセンス鎖が修飾ヌクレオチド配列5'-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3'(配列番号7)を含む。
【0080】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回~約1年に1回ヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回、約6カ月に1回または約1年に1回ヒト対象に投与される。
【0081】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約50mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約100mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mg;約25mg~約200mg;約50mg~約300mg;約25mg;約50mg;約100mg;約200mg;または約300mgを四半期に1回、すなわち、約3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0082】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mg~約600mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回~約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回または約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0083】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg~約1000mgまたは約700mg~約900mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg、約800mg、約900mgまたは約1000mgを約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0084】
ある実施態様において、対象は、ここに記載する、TTR遺伝子発現の減少により利益が得られる疾患、障害または状態について処置または評価されているヒト;TTR遺伝子発現の減少により利益が得られる疾患、障害または状態のリスクのあるヒト、例えば、TTR関連疾患の診断基準を満たさないが、TTR関連疾患の少なくとも1個の徴候または症状を示すまたはTTR関連疾患を発症する少なくとも1個のリスク因子を有するヒト;TTR遺伝子発現の減少により利益が得られる疾患、障害または状態を有するヒト;またはTTR遺伝子発現の減少により利益が得られる疾患、障害または状態について処置されているヒトである。
【0085】
ある実施態様において、ヒト対象はTTR関連疾患を有する。他の実施態様において、対象は、TTR関連疾患を発症するリスクのある対象、例えば、TTR関連疾患の発症と関連するTTR遺伝子変異を有する対象、TTR関連疾患の家族歴のある対象またはTTR関連疾患の診断基準を満たさずにTTR関連疾患の発症を示唆する徴候または症状を有する対象である。
【0086】
ここで使用する「TTR関連疾患」は、原線維前駆体がバリアントまたは野生型TTRタンパク質からなる、アミロイド沈着の形成により引き起こされるまたは関連するあらゆる疾患を含む。変異体および野生型TTRは、種々の形態のアミロイド沈着(アミロイドーシス)を生ずる。アミロイドーシスは、臓器機能を障害させる細胞外沈着をもたらす、ミスフォールドタンパク質の形成および凝集を含む。TTR凝集と関連する臨床症候群は、例えば、老人性全身性アミロイドーシス(SSA);全身性家族性アミロイドーシス;家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP);家族性アミロイド心筋症(FAC);および軟髄膜または髄膜脳血管アミロイドーシス、中枢神経系(CNS)アミロイドーシスまたはアミロイドーシスVII型としても知られる軟髄膜アミロイドーシスを含む。
【0087】
ある実施態様において、本発明のRNAi剤は、家族性アミロイド心筋症(FAC)を有する対象に投与される。他の実施態様において、本発明のRNAi剤は、混合表現型のFACを有する対象、すなわち、心臓障害および神経学的障害両者を有する対象に投与される。さらに他の実施態様において、本発明のRNAi剤は、混合表現型のFAP、すなわち、神経学機能障害および心機能障害両者を有する対象に投与される。ある実施態様において、本発明のRNAi剤は、同所性肝移植(OLT)で処置されているFAPを有する対象に投与される。
【0088】
他の実施態様において、本発明のRNAi剤は、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)を有する対象に投与される。本発明の方法の他の実施態様において、本発明のRNAi剤は、家族性アミロイド心筋症(FAC)および老人性全身性アミロイドーシス(SSA)を有する対象に投与される。正常配列TTRは、高齢者の、老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(老人性心アミロイドーシス(SCA)または心アミロイドーシス)とも称される、心アミロイドーシスと関連する。SSAはしばしば多くの他の臓器における顕微鏡的沈着を伴う。TTR変異はTTRアミロイド形成過程を加速し、TTRアミロイドーシス(ATTR(アミロイドーシス-トランスサイレチンタイプ)とも称される)の発症の最も重要なリスク因子である。85を超えるアミロイド形成的TTRバリアントが全身性家族性アミロイドーシスを引き起こすことが知られる。
【0089】
本発明の方法のある実施態様において、本発明のRNAi剤は、トランスサイレチン(TTR)関連家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)を有する対象に投与される。このような対象は、硝子体混濁および緑内障などの眼徴候を有し得る。網膜色素上皮(RPE)により合成されるアミロイド形成的トランスサイレチン(ATTR)が、眼アミロイドーシスの進行に重要な役割を演ずることは当業者に知られる。先の試験は、RPE細胞を減少させた汎網膜光凝固が、硝子体におけるアミロイド沈着の進行を予防することを示しており、RPEにおけるATTR発現の有効な抑制が眼アミロイドーシスの新規治療となり得ることを示す(例えば、Kawaji, T., et al., Ophthalmology. (2010) 117: 552-555参照)。他のTTR関連疾患は、「異常トランスサイレチン高サイロキシン血症」または「異常プレアルブミン高サイロキシン血症」としても知られる、高サイロキシン血症である。このタイプの高サイロキシン血症は、サイロキシンへの親和性が増大した変異体TTR分子による、サイロキシンとTTRの結合の増加に二次的であり得る。例えば、Moses et al. (1982) J. Clin. Invest., 86, 2025-2033参照。
【0090】
本発明のRNAi剤は、対象に、皮下、静脈内および筋肉内注射およびそれらの何らかの組み合わせを含むが、これらに限定されない当分野で知られるあらゆる投与方法を使用して投与され得る。
【0091】
ある実施態様において、薬剤は対象に皮下投与される。
【0092】
ある実施態様において、対象は、皮下注射、例えば、腹部、大腿または上腕注射により単回用量のRNAi剤を投与される。他の実施態様において、対象は、皮下注射により、分割用量のRNAi剤を投与される。ある実施態様において、分割用量のRNAi剤は、対象の2か所の異なる解剖学的部位の皮下注射により対象に投与される。例えば、対象は、25mg~1000mgの皮下用量を皮下注射され得る。本発明のある実施態様において、皮下投与は、例えば、プレフィルドシリンジまたは自動注入器シリンジによる自己投与である。ある実施態様において、皮下投与用のRNAi剤の用量は、1ml以下の体積の、例えば、薬学的に許容される担体に含まれる。ある実施態様において、RNAi剤は非発熱原性製剤である。
【0093】
ある実施態様において、RNAi剤は、対象に対象内の細胞におけるTTR発現を阻害する有効量で投与される。対象内の細胞におけるTTR発現を阻害する有効量は、TTR mRNA、TTRタンパク質またはアミロイド沈着などの関連可変値の阻害の評価を含む方法を含む、下記方法を使用して評価され得る。
【0094】
ある実施態様において、RNAi剤は治療有効量で対象に投与される。
【0095】
ここで使用する「治療有効量」は、TTR関連疾患の処置のために患者に投与したとき、疾患を処置するのに(例えば、適切な対照と比較して既存の疾患の進行の低減、維持または緩徐化;または適切な対照と比較して疾患の1以上の症状の低減、維持または緩徐化により)十分であるRNAi剤の量を含むことが意図される。「治療有効量」は、RNAi剤、薬剤の投与方法、疾患およびその重症度および病歴、年齢、体重、家族歴、遺伝子構造、TTR発現により介在される病理学的進行の段階、あるならば、先のまたは同時の処置のタイプおよび処置する患者の他の個々の特徴に依存して、変わり得る。TTRアミロイドーシス、多発神経障害および心筋症の診断基準は、さらに下に記載する。
【0096】
ここで使用する「治療有効量」は、TTR関連疾患の診断基準をまだ満たさない対象、例えば、hTTRアミロイドーシス多発ニューロパチーとまだ診断されていない対象;ステージ1 FAPの診断基準を満たさないが、該疾患の素因があり得る対象、例えば、TTRアミロイドーシスと関連するTTR変異を有する対象、起立性低血圧、心不全、心臓不整脈、左室心壁厚、心室中隔壁厚、心臓後壁拡張、下痢、便秘、勃起不全、緑内障、硝子体内沈着、スカラップ状瞳孔;手根管症候群、腰部脊髄狭窄および二頭筋腱断裂の1以上を有する対象;対照サンプルと比較して神経フィラメント軽鎖(NfL)レベルが上昇した、例えば、血清中少なくとも37pg/mlのNflレベルの対象に投与されたとき、疾患または疾患の1以上の症状を予防または軽減するのに十分である、RNAi剤の量を含むことが意図される。軽減され得る症状は、感覚性ニューロパチー(例えば、錯感覚、遠位肢の感覚鈍麻)、自律神経性ニューロパチー(例えば、消化器機能不全、例えば胃潰瘍または起立性低血圧)、運動ニューロパチー、癲癇、認知症、脊髄症、多発ニューロパチー、手根管症候群、自律神経性機能不全、心筋症、硝子体混濁、腎機能不全、腎症、相当減少したmBMI(修飾肥満度指数)、脳神経機能不全、格子状角膜変性症、心エコー評価により左心室(LV)壁肥厚、心エコー評価により長軸方向のグローバル・ストレイン増加、N末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)増加および心臓事象による入院を含む。疾患の低減は、疾患の経過の緩徐化または後に発症する疾患の重症度の低減を含む。用量は、RNAi剤、薬剤の投与方法、疾患のリスクの程度および病歴、年齢、体重、家族歴、遺伝子構造、あるならば、先のまたは同時の処置のタイプおよび処置する患者の他の個々の特徴に依存して変わり得る。
【0097】
「治療有効量」はまた何らかの処置で許容可能な合理的な利益/リスク比で、ある所望の局所または全身性効果を生ずるRNAi剤の量も含む。本発明の方法で用いるRNAi剤は、このような処置で許容される合理的利益/リスク比を生ずるのに十分な量で投与される。
【0098】
ここで使用する用語「治療有効量」はまたTTR発現により介在される病理過程または病理過程の症状の処置、予防または管理に利益をもたらす量も含む。TTRアミロイドーシスの症状は、感覚性ニューロパチー(例えば錯感覚、遠位肢の感覚鈍麻)、自律神経性ニューロパチー(例えば、消化器機能不全、例えば胃潰瘍または起立性低血圧)、運動ニューロパチー、癲癇、認知症、脊髄症、多発ニューロパチー、手根管症候群、自律神経性機能不全、心筋症、硝子体混濁、腎機能不全、腎症、相当減少したmBMI(修飾肥満度指数)、脳神経機能不全、格子状角膜変性症、心エコー評価により左心室(LV)壁肥厚、心エコー評価により長軸方向のグローバル・ストレイン増加、N末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)増加および心臓事象による入院を含む。
【0099】
ある実施態様において、例えば、対象がFAP、混合表現型のFAP、混合表現型のFACまたはFAPを有し、かつOLTを有するとき、本発明のdsRNA剤での対象の処置は、ニューロパチーの進行を緩徐化する。他の実施態様において、例えば、対象がFAP、混合表現型のFAP、混合表現型のFAC、SSAまたはFAPを有し、かつOLTを有するとき、本発明のdsRNA剤での対象の処置は、ニューロパチーおよび心筋症の進行を緩徐化する。他の実施態様において、例えば、対象が心臓合併症を有するとき、本発明の方法は心臓構造および機能を改善する、例えば、方法は平均左室心壁厚および長軸方向ストレインを減少させかつ心臓ストレスバイオマーカー、N末端プロb型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の発現レベルを減少させる。
【0100】
治療または予防有効量の本発明のRNAi剤の投与は、TTR関連疾患を有するまたは発症するリスクにある対象の神経機能障害またはクオリティ・オブ・ライフの少なくとも1個の指標を改善する方法にも有用である。
【0101】
例えば、ある実施態様において、本発明の方法は、対象における神経機能障害の少なくとも指標を改善する。対象における「神経機能障害の少なくとも1個の指標の改善」は、本発明の方法が神経機能障害をするまたは神経機能障害と関連する何らかの症状を改善する能力をいう。神経機能障害のあらゆる適当な尺度を使用して、対象の神経機能障害が低減、緩徐化または停止されたかまたは神経機能障害と関連する症状が改善されたかを決定できる。
【0102】
一つの適当な尺度は、ニューロパチー機能障害スコア(NIS)である。NISは、特に末梢ニューロパチーに関連して、脱力、感覚および反射を測定するスコアリング系である。NISスコアは、筋脱力についての標準群(1は25%弱化、2は50%弱化、3は75%弱化、3.25は重力に逆らう移動、3.5は重力を失くした状態での移動、3.75は移動なしでの筋肉フリッカーおよび4は麻痺)、筋伸展反射の標準群(0は正常、1は減少、2は無し)および触圧、振動、関節位置および動きおよび針刺し(全て手の人さし指および足の親指で判定:0は正常、1は減少、2はなし)を評価する。評価は、年齢、性別および体力について補正する
【0103】
ある実施態様において、本発明の方法は、投与開始から18カ月目にNISを少なくとも5点減少させる。他の実施態様において、本発明の方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目にNISの安定化をもたらす。他の実施態様において、方法は、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群と比較して、NISスコアの上昇を緩徐化させる。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存する。
【0104】
ヒト対象におけるNISを決定する方法は当業者に周知であり、例えば、Dyck, PJ et al., (1997) Neurology 1997. 49(1): pgs. 229-239); Dyck PJ. (1988) Muscle Nerve. Jan; l l(l):21-32に見られ得る。
【0105】
神経機能障害の他の適当な測定値は、補正ニューロパチー機能障害スコア(mNIS+7)である。当業者に知られるとおり、mNIS+7は、小および大神経線維機能の電気生理的尺度(NCSおよびQST)および自律神経性機能の測定(体位性血圧)と組み合わせた、神経性機能障害(NIS)の臨床検査ベースの評価をいう。mNIS+7スコアは、NIS+7スコア(NIS+7試験を表す)の改訂版である。NIS+7は、筋脱力および筋伸展反射を分析する。7個の検査中5個が神経状態の性状を含む。これらの性状は、腓骨神経複合活動電位振幅、運動神経伝導速度および運動神経遠位潜時(MNDL)、脛骨MNDLおよび腓腹感覚神経活動電位振幅である。これらの値を、年齢、性別、身長および体重の変数について補正する。7個の検査中残り2個は、振動検出閾値および深呼吸時の心拍減少である。
【0106】
mNIS+7スコアは、新規自律神経性評価であり、尺骨、腓骨および脛骨神経の複合筋肉活動電位ならびに尺骨および腓腹神経の感覚神経活動電位を使用する、Smart Somatotopic Quantitative Sensation Testingの使用を考慮する(Suanprasert, N. et al., (2014) J. Neurol. Sci., 344(1-2):pgs. 121-128)。
【0107】
ある実施態様において、本発明の方法は、投与開始から18カ月目にmNIS+7を少なくとも5点減少させる。他の実施態様において、本発明の方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目にmNIS+7の安定化をもたらす。他の実施態様において、方法は、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群と比較して、mNIS+7スコアの増加を緩徐化させる。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0108】
他の実施態様において、本発明の方法は、対象におけるクオリティ・オブ・ライフの少なくとも1個の指標を改善する。対象における「クオリティ・オブ・ライフの少なくとも1個の指標の改善」は、本発明の方法がクオリティ・オブ・ライフ悪化を緩徐化または停止するまたはクオリティ・オブ・ライフを改善する能力をいう。クオリティ・オブ・ライフのあらゆる適当な尺度を使用して、対象のクオリティ・オブ・ライフ悪化が緩徐化または停止しているかまたはクオリティ・オブ・ライフが改善しているか否かを決定できる。
【0109】
例えば、SF-36(登録商標)健康調査は、身体機能、身体的健康上の問題による役割制限、体痛、一般的健康状態、活力(エネルギーおよび疲労)、社会的機能、感情面の問題による役割制限および精神的健康(精神的苦痛および精神的充足)の8つの健康パラメータを測定する、自己申告型、多項目スケールである。各スケールを、各質問の重さを等しいと仮定して、0~100スケールに直接変換する。スコアが低いほど、能力障害が大きい。スコアが高いほど、能力障害が低い、すなわち、0のスコアは最高の能力障害に等しく、100のスコアは能力障害がないことに等しい。調査は、身体的サマリースコアおよび精神的サマリースコアも提供する。
【0110】
ある実施態様において、本発明の方法は、対象における、SF-36身体的健康関連パラメータ(身体的健康、役割-身体、体痛または一般的健康状態)の少なくとも1個またはSF-36精神的健康関連パラメータ(活力、社会的機能、役割-感情または精神的健康)の少なくとも1個の、ベースラインに対する改善を提供する。このような改善は、投薬開始から9カ月目の、1以上のパラメータの何れかのスケールの、例えば少なくとも2または少なくとも3点の増加の形をとり得る。
【0111】
他の実施態様において、本発明の方法は、投薬開始から9カ月目のSF-36パラメータスコアの1以上のパラメータの何れかの減少を停止する、例えば、方法は、例えば、SF-36評価を実施する個体の観察の変動内の、SF-36の臨床的に有意な変化をもたらさない。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、投薬開始から9カ月目、SF-36スコアが減少する速度、例えば、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群のSF-36スコアの減少速度と比較した、本発明のRNAi剤で処置される対象のSF-36スコアの減少速度を減速させる。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0112】
クオリティ・オブ・ライフの他の適当な測定値は、ノーフォーク・クオリティ・オブ・ライフ-糖尿病性ニューロパチー(ノーフォークQOL-DN)質問表である。ノーフォークQOL-DNは、既存の装置で捕捉されない、大線維、小線維および自律神経性ニューロパチーと関連するDNの全スペクトルを捕捉するよう設計された検証済包括的質問表である。
【0113】
ある実施態様において、本発明の方法は、対象のノーフォークQOL-DNスコアをベースラインから改善させる、例えば、ここに提供するRNAi剤での処置開始から9カ月目の、約-2.5、-3.0、-3.5、-4.0、-4.5または-5.0の変化である。他の実施態様において、方法は、ノーフォークQOL-DNスコアの増加を停止させる、例えば、方法は、例えば、QOL-DN評価を実施する個体の観察の変動内の、ノーフォークQOL-DNスコアの臨床的に有意な変化をもたらさない。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、例えば、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群の増加速度と比較した、本発明のRNAi剤で処置される対象のQOL-DNスコアの増加速度を減速させる。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0114】
クオリティ・オブ・ライフの他の適当な測定値は、例えば、NIS-Wスコアにより測定される、運動強度である。NIS-Wスコアは、頭部、体躯および肢筋肉の脱力を合計する複合スコアである。NIS(W)(脱力を測定するスケールの部分を参照)を使用して、筋力を、正常(0)または完全麻痺(4)として、中間グレード;臨床的強度検査により筋肉が25%弱化と判定される1、50%弱化である2、75%弱化である3、重力に逆らう移動である3.25、重力を失くした状態での移動である3.50および筋肉フリッカーである3.75を用いて評価される。
【0115】
ある実施態様において、本発明の方法は、対象にNIS-Wスコアのベースラインに対する改善を提供する。このような改善は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目の対象のNIS-Wスコアの少なくとも5、6、7、8、9または10点の減少の形をとり得る。他の実施態様において、方法はNIS-Wスコアの減少を停止する、例えば、方法は、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群のNIS-Wスコアの増加と比較して、NIS-Wスコアの臨床的に有意な増加をもたらさないまたは緩徐化をもたらす。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0116】
クオリティ・オブ・ライフのさらに他の適当な指標はラッシュ構築全体的能力障害スケール(R-ODS)であり、これは、患者における活動および社会的関与制限を捕捉するよう設計された患者質問表である。ある実施態様において、本発明の方法は、対象においてR-ODSスコアのベースラインに対する改善を提供する。このような改善は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目の、対象のR-ODSスコアの少なくとも2、例えば少なくとも2、3、4または5点の増加の形をとり得る。他の実施態様において、方法は、R-ODSスコアの減少を停止させる、例えば、方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、R-ODSスコアの臨床的に有意な減少をもたらさない。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、R-ODSスコアが減少する速度、例えば、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群のR-ODSスコア減少速度と比較して、本発明のRNAi剤で処置される対象におけるR-ODSスコアの減少速度の減少を緩徐化させる。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0117】
0~100の症状スコアを提供する、自律神経障害の症状を評価する患者質問表である複合自律神経症状スコア(COMPASS-31)は、クオリティ・オブ・ライフの他の適当な指標である。ある実施態様において、本発明の方法は、対象に、COMPASS-31スコアのベースラインに対する改善を提供する。このような改善は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、対象のCOMPASS-31スコアの少なくとも5、例えば少なくとも5、6、7、8、9または10点の増加の形をとり得る。他の実施態様において、方法は、COMPASS-31スコアの減少を停止させる、例えば、方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、COMPASS-31スコアの臨床的に関連する変化をもたらさない。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、COMPASS-31スコアが減少する速度、例えば、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えば、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供されるプラセボ対照群のCOMPASS-31スコアの減少速度と比較して、本発明のRNAi剤で処置される対象のCOMPASS-31スコアの減少を緩徐化する。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0118】
他のクオリティ・オブ・ライフ指標は、栄養状態(例えば、中心性肥満度指数(mBMI)の変化により評価)を含み得る。ある実施態様において、本発明の方法は、対象にmBMIのベースラインに対する改善を提供する。このような改善は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目の、mBMIスコアの少なくとも2、3、4、5またはそれ以上のかたちをとり得る。他の実施態様において、方法は、mBMI指数スコアの減少を停止させる、例えば、方法は、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、mBMIスコアの臨床的に有意な変化をもたらさない。さらに他の実施態様において、本発明の方法は、mBMIスコアの減少速度、例えば、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群のmBMIスコアの減少速度と比較して、本発明のRNAi剤で処置される対象におけるmBMIスコアの減少速度を緩徐化する。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0119】
他のクオリティ・オブ・ライフ指標は、運動許容力の評価である。運動許容力の適当な尺度の一つは、対象が6分間でどの程度歩行できるか、すなわち、6分間歩行距離(6MWD)を測定する6分間歩行検査(6MWT)である。ある実施態様において、本発明の方法は、対象に、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、6MWDの、ベースラインに対する少なくとも10メートル、例えば、少なくとも10メートル、15メートル、20メートルまたは約30メートルの改善を提供する。
【0120】
他の適当な尺度は、歩行速度を測定する10メートル歩行検査である。ある実施態様において、本発明の方法は、対象に、ここに提供するRNAi剤での処置開始から18カ月目、10メートル歩行検査で、ベースラインから少なくとも0.025メートル/秒、例えば、少なくとも0.025メートル、0.03メートル、0.04メートル、0.05メートル、0.06メートル、0.07メートル、0.08メートル、0.09メートル、1.0メートル、1.5メートル、2.0メートル、2.5メートル、3.0メートル、3.5メートル、4.0メートル、4.5メートルまたは約5.0メートル/秒の改善を提供する。
【0121】
ある実施態様において、血漿バイオマーカーレベルの変化は、ATTRアミロイドーシスにおける、進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少の指標である。例えば、処置開始時の神経フィラメント軽鎖(NfL)レベルと比較した、9カ月目のNfLレベルの減少は、ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少の指標であり得る。ある実施態様において他のタンパク質、特にRSPO3、CCDC80、EDA2RおよびNT-proBNPレベルの、対応する処置開始時のレベルと比較した処置開始9カ月目の、単独またはNfLレベルの減少と組み合わせた、減少は、ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少の指標であり得る。ある実施態様において、N-CDaseレベルの、対応する処置開始時のレベルと比較した処置開始9カ月目の、単独または上記の他のマーカーと組み合わせた増加は、ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少の指標であり得る。ここに提供するRNAi剤での処置開始9カ月目などの、ATTRアミロイドーシスにおける神経損傷または多発ニューロパチーの減少の指標として役立ち得るさらなるバイオマーカーを、表1に提供する。ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少は、正のベータ係数を有するタンパク質の減少と相関する。ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷または多発ニューロパチーの進行の減少は、負のベータ係数を有するタンパク質の増加と相関する。バイオマーカーレベルの変化は統計的に有意な変化、すなわち、アッセイの固有変動性より大きな変化であることは理解されるべきである。
【0122】
ある実施態様において、本発明の方法は、心血管指標の改善、例えば、カンザスシティ心筋症質問票の全体サマリー(KCCQ-OS)の増加、ベースラインと比較した心エコー評価による左心室(LV)壁肥厚の減少、ベースラインと比較した心エコー評価による長軸方向のグローバル・ストレインの減少、ベースラインと比較したN末端プロホルモンB型ナトリウム利尿ペプチド(NTproBNP)の減少および心臓事象による入院の減少を提供する。
【0123】
本発明の方法はまた処置されている患者の予後も改善し得る。例えば、本発明の方法は、対象に、疾患の自然経過を示す適切な対照群、例えばAdams et al., N Engl J Med 2018;379:11-21に提供される、例えば、プラセボ対照群と比較して、処置期間中の臨床的悪化事象の確率の減少または寿命延長または入院減少を提供し得る。ある実施態様において、処置中の臨床的悪化事象の確率の減少は、例えば、Maurer et al., N Engl J Med 2018:379:11-21に提供される、適切な対照群と比較して、例えば、Finkelstein-Schoenfeld方法により評価した、あらゆる原因による死亡率または心血管関連入院率の減少を含み得る。疾患進行速度は、対象の処置開始時の疾患重症度、処置期間、先の処置およびもしあれば、存在する特定のTTR変異を含むが、これらに限定されないいくつかの因子に依存することは理解される。
【0124】
対象に投与されるRNAi剤の用量は、同時に望ましくない副作用を回避しながら、例えば、所望のTTR遺伝子発現の阻害レベル(例えば、上記のとおり、TTR mRNA発現、TTRタンパク質発現に基づきまたはアミロイド沈着の減少により評価される)または所望の治療効果を達成するための、特定の用量のリスクと利益のバランスをとるように、調整され得る。
【0125】
ある実施態様において、本発明のiRNA剤は、対象に、1用量のiRNA剤が、体重などのあらゆる特定の対象関連因子と関係なく、全対象に使用されることを意味する「固定用量」(例えば、mg用量)で投与される。
【0126】
ある実施態様において、RNAi剤は、約25mg~約1000mg、例えば、約25mg、約50mg、約100mg、約200mg、約300mg、約400mg、約500mg、約600mg、約700mg、約800mg、約900mgまたは約1000mgの固定用量で投与される。
【0127】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回~約1年に1回ヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約四半期に1回、約6カ月に1回または約1年に1回ヒト対象に投与される。
【0128】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mg~約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約50mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約75mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約100mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約200mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約25mg~約300mg;約25mg~約200mg;約75mg~約200mg;約25mg;約50mg;約100mg;約200mg;または約300mgを四半期に1回、すなわち、約3カ月に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0129】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mg~約600mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回~約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約400mgまたは約600mgを約6カ月に1回または約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0130】
ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg~約1000mgまたは約700mg~約900mgの固定用量でヒト対象に投与される。ある実施態様において、二本鎖RNAi剤は、約700mg、約800mg、約900mgまたは約1000mgを約1年に1回の固定用量でヒト対象に投与される。
【0131】
ある実施態様において、投与は、例えば、プレフィルドシリンジまたは自動注入シリンジを介する、皮下投与、例えば、自己投与である。ある実施態様において、皮下投与用のRNAi剤の用量は、1ml以下の体積の、例えば、薬学的に許容される担体に含まれる。
【0132】
これらのスケジュールのいずれも、所望により1以上の反復で繰り返し得る。反復数は、所望の効果、例えば、TTR遺伝子の抑制、レチノール結合タンパク質レベル、ビタミンAレベルの達成または治療効果、例えば、アミロイド沈着減少またはTTR関連疾患症状減少の達成に依存し得る。ある実施態様において、iRNA剤は、慢性的に、無限の期間、例えば、患者の生涯にわたって投与され得る。
【0133】
ある実施態様において、RNAi剤は、他の治療剤または他の治療レジメンと共に投与され得る。例えば、TTR関連疾患処置に適する他の薬剤または他の治療レジメンは、肝移植、心移植、ペースメーカーの埋め込み、体内の単量体TTRレベルを減少させ得る薬剤;TTRアミロイド形成に必要な四量体解離を阻止する、TTR四量体を動力学的に安定化させるタファミジス(ビンダケル(登録商標)またはVyndamax(登録商標))またはAG10;非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)、例えば、ジフルニサルおよび例えば、心臓合併症を伴うTTRアミロイドーシスにおける浮腫を軽減するために用い得る、利尿剤を含み得る。
【0134】
ある実施態様において、対象は、RNAi剤の初期用量および1回以上の維持用量を投与される。1回以上の維持用量は、初期用量と同じかまたは低い、例えば、初期用量の半分であり得る。処置後、患者は、状態の変化についてモニターし得る。
【0135】
本発明の方法のある実施態様において、血清または血漿TTRレベルにより評価されるTTR遺伝子の発現は、少なくとも85%、ある実施態様において少なくとも90%阻害される。ここに提供するiRNA剤を使用するTTR発現の阻害は、肝臓におけるTTR発現を阻害し他の組織、例えば、眼におけるTTR発現を、実質的に阻害しないことは理解される。
【0136】
ここで使用する用語「阻害」は、「減少」、「サイレンシング」、「下方制御」、「抑制」および他の類似用語と相互交換可能に使用され、あらゆるレベルの阻害を含む。ある実施態様において阻害は統計的に有意または臨床的に有意な阻害を含む。
【0137】
用語「TTRの発現を阻害」は、TTR遺伝子のバリアントまたは変異体を含む、あらゆるTTR遺伝子の発現の阻害をいうことを意図する。故に、TTR遺伝子は、野生型TTR遺伝子、変異体TTR遺伝子(例えばアミロイド沈着を起こす変異体TTR遺伝子)であり得る。
【0138】
阻害は、対照レベルと比較した、TTR発現と関連する1以上の変数の絶対的または相対的レベルの減少により評価され得る。対照レベルは、当分野で利用されるあらゆるタイプの対照レベル、例えば、投与前ベースラインレベルまたは未処置もしくは対照(例えば、例えば、緩衝液のみ対照または不活性剤対照)で処置された類似の対象、細胞またはサンプルで決定したレベルであり得る。ここで使用するTTR発現の阻害は、典型的に適切なサンプル(例えば、歴史的対照サンプル、正常サンプルまたは臨床試験で決定したレベル)またはここにまたはPCT公報WO2010048228、WO2013075035およびWO2017023660に提供されるようなiRNA剤、または他の薬剤、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤、TTR発現を阻害するdicer基質剤(例えば、WO2011139917およびWO2015085158参照)で対象を処置する前;およびここに提供するiRNA剤で処置後、TTRレベルの決定により、評価され得る。ここに提供するiRNA剤は持続性ではあるが、徐放性であることは理解される。それ故に、ノックダウンレベルは、最下点に達するための十分な時間の後、例えば、ヒト対象でiRNA剤を最初の投与後少なくとも3週間またはTTRノックダウンの定常状態達成後、例えば、ここに提供するiRNA剤の複数投与後、決定される。
【0139】
TTR遺伝子の発現の阻害は、TTR遺伝子が転写され、TTR遺伝子の発現が阻害されるように、処置されている(例えば、1以上の細胞と本発明のRNAi剤の接触によりまたは本発明のRNAi剤の、細胞が存在するまたは存在した対象への投与により)第一細胞または細胞群(このような細胞は、例えば、対象に由来するサンプルに存在し得る)により発現されるmRNA量の、第一細胞または細胞群と実質的に同一であるが、処置されていない第二細胞または細胞群(対照細胞)と比較した、減少により顕在化され得る。ある実施態様において、パーセント阻害は、次の式を使用する、処置細胞におけるmRNAレベルを、対照細胞におけるmRNAレベルのパーセンテージとして表すことにより、評価される。
【数1】
【0140】
類似の計算を、例えば、対象から得た血液サンプルの、血清TTRタンパク質濃度で実施して、発現のパーセント阻害を決定し得る。処置後血清または血漿サンプルでTTRが検出されないならば、存在するTTRの量を、使用するアッセイの検出下限と見なす。
【0141】
ある実施態様において、パーセント阻害を、検証済かつ臨床的に許容される方法を使用して、決定する。
【0142】
あるいは、TTR遺伝子の発現の阻害を、TTR遺伝子発現と機能的関連するパラメータ、例えば、TTRタンパク質発現、レチノール結合タンパク質レベル、ビタミンAレベルまたはTTRを含むアミロイド沈着の存在の減少の点で、評価し得る。TTR遺伝子サイレンシングは、構成的にまたはゲノム工学によりTTRを発現するあらゆる細胞で、当分野で知られるあらゆるアッセイにより、決定され得る。肝臓はTTR遺伝子発現の主要部位である。他の顕著な発現部位は、網膜および脈絡叢である。
【0143】
III. 本発明のiRNA
本発明の方法で使用するための適当なiRNAは、対象、例えば、TTR関連疾患を有するヒトなどの哺乳動物内の細胞などの細胞におけるTTR遺伝子の発現を阻害するための二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を含む。dsRNAは、TTR遺伝子の発現により形成されるmRNAの少なくとも一部と相補性である、相補性である領域を有するアンチセンス鎖を含む。相補性である領域は、約21~30ヌクレオチドまたはそれ未満の長さである(例えば、約30、29、28、27、26、25、24、23、22または21ヌクレオチド長)。TTR遺伝子を発現する細胞との接触により、iRNAは、Hep3B細胞が、ここに提供する方法を使用して、10nMのiRNA剤でトランスフェクトされたとき、例えば、WO2013075035の実施例4に提供される方法を使用するリアルタイムPCRでアッセイして、TTR遺伝子(例えば、ヒト、非ヒト霊長類または非霊長類哺乳動物TTR遺伝子)発現を、少なくとも約70%選択的に阻害する。
【0144】
dsRNAは相補性であり、dsRNAが使用される条件下でハイブリダイズして二重鎖構造を形成する、2個のRNA鎖を含む。DsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、標的配列と実質的に相補性および一般に完全相補性である、相補性である領域を含む。標的配列は、TTR遺伝子の発現中形成される、mRNAの配列に由来し得る。他の鎖(センス鎖)は、適当な条件で合わせたとき、2個の鎖がハイブリダイズし、二重鎖構造を形成するように、アンチセンス鎖と相補性である領域を含む。本明細書の他の箇所に記載しかつ当分野で知られるとおり、dsRNAの相補性配列は、別々のオリゴヌクレオチドにあるのとは逆に、単一核酸分子の自己相補性領域として含まれ得る。
【0145】
一般に、二重鎖構造は21~30塩基対長である。同様に、標的配列に相補性である領域は、22および30ヌクレオチド長である。
【0146】
dsRNAは、さらに下に記載するとおり、当分野で知られる標準法により合成され得る。
【0147】
本発明のiRNA化合物は、2工程方法を使用して製造され得る。まず、二本鎖RNA分子の個々の鎖を別々に調製する。次いで、要素鎖をアニールする。siRNA化合物の個々の鎖は、溶液相または固相有機合成または両者を使用して製造され得る。有機合成は、非天然または修飾ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド鎖が簡単に製造できる利点がある。本発明の一本鎖オリゴヌクレオチドは、溶液相または固相有機合成または両者を使用して製造され得る。
【0148】
IV. 本発明の修飾iRNA
本発明の方法で使用するiRNA剤は、規定された化学修飾をセンスおよびアンチセンス鎖に含む。いずれかの鎖の長さが、23ヌクレオチドより長いアンチセンス鎖および21ヌクレオチドより長いセンス鎖を提供するために伸長されるとき、ヌクレオチドは、糖修飾、主鎖修飾および塩基修飾を含むが、これらに限定されない修飾を含み得る。修飾は、例えば、末端修飾、例えば、5’末端修飾(リン酸化、コンジュゲーション、逆位結合)または3’末端修飾(コンジュゲーション、DNAヌクレオチド、逆位結合など);塩基修飾、例えば、安定化塩基、不安定化塩基またはパートナーの拡大レパートリーと塩基対合する塩基での置換、塩基の除去(脱塩基ヌクレオチド)またはコンジュゲート塩基;糖修飾(例えば、2’位または4’位)または糖の置換;またはホスホジエステル結合の修飾または置換を含む主鎖修飾を含む。ここに記載する実施態様において有用なiRNA化合物の特定の例は、修飾主鎖を含むまたは天然ヌクレオシド間結合を含まないRNAを含むが、これらに限定されない。修飾主鎖を有するRNAは、とりわけ、主鎖にリン原子を有しないものを含む。本明細書の目的でかつ文献に時に言及されるとおり、ヌクレオシド間主鎖にリン原子を有しない修飾RNAも、オリゴヌクレオシドと見なされ得る。ある実施態様において、修飾iRNAは、ヌクレオシド間主鎖にリン原子を有する。
【0149】
修飾RNA主鎖は、例えば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’-アルキレンホスホナートおよびキラルホスホナートを含むメチルおよび他のアルキルホスホナート、ホスフィナート、3’アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデートを含むホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステルおよび正常3’-5’結合を有するボラノホスフェート、これらの2’-5’結合アナログおよび、ヌクレオシド単位の隣接対が3’-5’から5’-3’または2’-5’から5’-2’で結合する反転極性を有するものを含む。種々の塩、混合塩および遊離酸形態も含まれる。
【0150】
リン原子を含まない修飾RNA主鎖は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合型ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合または1以上の短鎖ヘテロ原子またはヘテロ環式ヌクレオシド間結合により形成される主鎖を有する。これらは、モルホリノ結合(一部ヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン主鎖;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン主鎖;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖;アルケン含有主鎖;スルファメート主鎖;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ主鎖;スルホネートおよびスルホンアミド主鎖;アミド主鎖;および混合型N、O、SおよびCH要素部分を有するその他を有するものを含む。
【0151】
他の実施態様において、適当なRNA模倣体は、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合、すなわち、主鎖両者が新規群で置換されている、iRNAにおける使用が意図される。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。優れたハイブリダイゼーション性質を有することが示されているRNA模倣体であるあるこのようなオリゴマー化合物は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物において、RNAの糖主鎖はアミド含有主鎖、特にアミノエチルグリシン主鎖で置換される。核酸塩基は維持され、主鎖のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合する。
【0152】
本発明で注目されるある実施態様は、ホスホロチオエート主鎖を有するRNAおよびヘテロ原子主鎖および特に上に引用した米国特許5,489,677の--CH--NH--CH-、--CH--N(CH)--O--CH--[メチレン(メチルイミノ)またはMMI主鎖として知られる]、--CH--O--N(CH)--CH--、--CH--N(CH)--N(CH)--CH--および--N(CH)--CH--CH--および上に引用した米国特許5,602,240のアミド主鎖を有するオリゴヌクレオシドを含む。ある実施態様において、ここで注目されるRNAは、上に引用した米国特許5,034,506のモルホリノ主鎖構造を有する。天然ホスホジエステル主鎖は、O-P(O)(OH)-OCH-として表わし得る。
【0153】
修飾RNAは、1以上の置換糖部分も含み得る。ここで注目されるiRNA、例えば、dsRNAは、2’位にOH;F;O-、S-またはN-アルキル;O-、S-またはN-アルケニル;O-、S-またはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル(ここで、アルキル、アルケニルおよびアルキニルは、置換または非置換C-C10アルキルまたはC-C10アルケニルおよびアルキニルである)の1つを含み得る。適当な修飾の例は、O[(CH)O]CH、O(CH).OCH、O(CH)NH、O(CH)CH、O(CH)ONHおよびO(CH)ON[(CH)CH)](ここで、nおよびmは1~約10である)を含む。他の実施態様において、dsRNAは、2’位にC-C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリール、アラルキル、O-アルカリールまたはO-アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA開裂基、レポーター基、インターカレーター、iRNAの薬物動態性質を改善する基またはiRNAの薬力学的性質を改善する基および類似の性質を有する他の置換基の1個を含む。ある実施態様において、修飾は2’-メトキシエトキシ(2’-O-(2-メトキシエチル)または2’-MOEとしても知られる、2’-O--CHCHOCH)(Martin et al., Helv. Chim. Acta, 1995, 78:486-504)、すなわち、アルコキシ-アルコキシ基を含む。他の例示的修飾は、下の実施例に記載する2’-DMAOEとしても知られる2’-ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわち、O(CH)ON(CH)基および2’-ジメチルアミノエトキシエトキシ(2’-O-ジメチルアミノエトキシエチルまたは2’-DMAEOEとしても当分野で知られる)、すなわち、2’-O--CH--O--CH--N(CH)を含む。さらなる例示的修飾は、5’-Me-2’-Fヌクレオチド、5’-Me-2’-OMeヌクレオチド、5’-Me-2’-デオキシヌクレオチド(これらのファミリーのRおよびS両異性体);2’-アルコキシアルキル;および2’-NMA(N-メチルアセトアミド)を含む。
【0154】
他の修飾は、2’-メトキシ(2’-OCH)、2’アミノプロポキシ(2’-OCHCHCHNH)および2’-フルオロ(2’-F)を含む。類似の修飾はまたiRNAのRNAの他の位置、特に3’末端ヌクレオチドまたは2’-5’結合dsRNAの糖の3’位および5’末端ヌクレオチドの5’位になし得る。iRNAはまたペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分などの糖模倣体も有し得る。
【0155】
本発明のiRNAのRNAは、核酸塩基(本分野ではしばしば単に「塩基」)修飾または置換も含み得る。ここで使用する「非修飾」または「天然」核酸塩基は、プリン塩基アデニン(A)およびグアニン(G)およびピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)を含む。修飾核酸塩基は、デオキシチミジン(dT)、5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2アミノアデニン、6-メチルおよびアデニンおよびグアニンの他のアルキル誘導体、2-プロピルおよびアデニンおよびグアニンの他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよび他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルおよび他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニンおよび3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどの他の合成および天然核酸塩基を含む。これら核酸塩基のいくつかは、本発明で注目されるオリゴマー化合物の結合親和性増加に特に有用である。これらは、2アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシンを含む、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジンおよびN-2、N-6および0~6置換プリンを含む。5-メチルシトシン置換は、0.6~1.2℃核酸二重鎖安定性を増加させることが示されており(Sanghvi, Y. S., Crooke, S. T. and Lebleu, B., Eds., dsRNA Research and Applications, CRC Press, Boca Raton, 1993, pp. 276-278)、さらに特に、2’-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わせたとき、例示的塩基置換である。
【0156】
本発明のRNAi剤は、1以上の二環式糖部分を含むようにも修飾され得る。「二環式糖」は、隣接または非隣接原子の2個の炭素の架橋により形成される環により修飾されるフラノシル環である。「二環式ヌクレオシド」(「BNA」)は、隣接または非隣接の糖環の2個の炭素原子である2個の炭素を接続する架橋を含み、それにより二環式環系が形成される、架橋により形成された環を含む糖部分を有するヌクレオシドである。ある実施態様において、架橋は、所望により、2’-非環式酸素原子を介して、糖環の4’-炭素および2’-炭素を接続する。故に、ある実施態様において、本発明の薬剤は、1以上のロックド核酸(LNA)を含み得る。ロックド核酸は、リボース部分が2’および4’炭素を接続する余分の架橋を含む、修飾リボース部分を有するヌクレオチドである。換言すると、LNAは、4’-CH-O-2’架橋を含む二環式糖部分を含むヌクレオチドである。この構造は、効率的にリボースを3’エンド立体構造に「ロックする」。siRNAへのロックド核酸の付加は、血清のsiRNA安定性を増加させ、オフターゲット効果を減少させると考えられる(Elmen, J. et al., (2005) Nucleic Acids Research 33(1):439-447; Mook, OR. et al., (2007) Mol Canc Ther 6(3):833-843; Grunweller, A. et al., (2003) Nucleic Acids Research 31(12):3185-3193)。本発明のポリヌクレオチドにおいて使用するための二環式ヌクレオシドの例は、4’および2’リボシル環原子間の架橋を含むヌクレオシドを含むが、これに限定されない。ある実施態様において、本発明のアンチセンスポリヌクレオチド剤は、4’→2’架橋を含む、1以上の二環式ヌクレオシドを含む。
【0157】
ロックドヌクレオシドは、構造(立体化学は省略)
【化5】
により表され、ここでBは核酸塩基または修飾核酸塩基であり、Lはリボース環の2’-炭素を4’-炭素に結合する連結基である。
【0158】
このような4’→2’架橋二環式ヌクレオシドの例は、4’-(CH)-O-2’(LNA);4’-(CH)-S-2’;4’-(CH)-O-2’(ENA);4’-CH(CH)-O-2’(「拘束エチル」または「cEt」とも称される)および4’-CH(CHOCH)-O-2’(およびそのアナログ;例えば、米国特許7,399,845参照);4’-C(CH)(CH)-O-2’(およびそのアナログ;例えば、US特許8,278,283参照);4’-CH-N(OCH)-2’(およびそのアナログ;例えば、US特許8,278,425参照);4’-CH-O-N(CH)-2’(例えば、米国特許公開2004/0171570参照);4’-CH-N(R)-O-2’(ここで、RはH、C-C12アルキルまたは窒素保護基である)(例えば、米国特許7,427,672参照);4’-CH-C(H)(CH)-2’(例えば、Chattopadhyaya et al., J. Org. Chem., 2009, 74, 118-134参照);および4’-CH-C(=CH)-2’(およびそのアナログ;例えば、US特許8,278,426参照)を含むが、これらに限定されない。前記各々の内容全体を引用により本明細書に包含させる。
【0159】
ロックド核酸ヌクレオチドの調製を教示するさらなる代表的US特許およびUS特許公報は、次のものを含むが、これらに限定されない:US特許6,268,490;6,525,191;6,670,461;6,770,748;6,794,499;6,998,484;7,053,207;7,034,133;7,084,125;7,399,845;7,427,672;7,569,686;7,741,457;8,022,193;8,030,467;8,278,425;8,278,426;8,278,283;US2008/0039618;およびUS2009/0012281(この各々の内容全体を引用により本明細書に包含させる)。
【0160】
前記二環式ヌクレオシドの何れも、例えばα-L-リボフラノースおよびβ-D-リボフラノースを含む、1以上の立体化学糖配置を有して、調製され得る(WO99/14226参照)。
【0161】
本発明のRNAi剤は、1以上の拘束エチルヌクレオチドを含むようにも修飾され得る。ここで使用する「拘束エチルヌクレオチド」または「cEt」は、4’-CH(CH)-O-2’架橋を含む二環式糖部分を含むロックド核酸である(すなわち、前述の構造のL)。ある実施態様において、拘束エチルヌクレオチドは、ここで「S-cEt」と称するS配座である。
【0162】
本発明のiRNAはまた1以上の「配座制限ヌクレオチド」(「CRN」)も含み得る。CRNは、リボースのC2’およびC4’炭素またはリボースのC3およびC5’炭素を接続するリンカーを備えたヌクレオチドアナログである。CRNはリボース環を安定な配座にロックし、mRNAに対するハイブリダイゼーション親和性を増加させる。リンカーは、リボース環パッカリングの低減をもたらす安定性および親和性のための最適位置に酸素を配置するのに十分な長さである
【0163】
本発明のiRNAのヌクレオチドの1以上は、ヒドロキシメチル置換ヌクレオチドも含み得る。「ヒドロキシメチル置換ヌクレオチド」は、「アンロックド核酸」(「UNA」)修飾とも称される、非環式2’-3’-seco-ヌクレオチドである。
【0164】
RNA分子の末端への安定化する可能性のある修飾は、N-(アセチルアミノカプロイル)-4-ヒドロキシプロリノール(Hyp-C6-NHAc)、N-(カプロイル-4-ヒドロキシプロリノール(Hyp-C6)、N-(アセチル-4-ヒドロキシプロリノール(Hyp-NHAc)、チミジン-2’-O-デオキシチミジン(エーテル)、N-(アミノカプロイル)-4-ヒドロキシプロリノール(Hyp-C6アミノ)、2-ドコサノイル-ウリジン-3’-ホスフェート、逆位塩基dT(idT)およびその他を含み得る。この修飾の開示は、WO2011/005861に見ることができる。
【0165】
本発明のiRNAのヌクレオチドの他の修飾は、RNAi剤のアンチセンス鎖の5’ホスフェートまたは5’ホスフェート模倣体、例えば、5’末端ホスフェートまたはホスフェート模倣体である。適当なホスフェート模倣体は、例えばUS特許公開2012/0157511(その内容全体を引用により本明細書に包含させる)に見ることができる。
【0166】
V. リガンドにコンジュゲートしたiRNA
本発明のiRNAのRNAの他の修飾は、iRNAの活性、細胞分布または細胞取り込みを増強する1以上のリガンド、部分またはコンジュゲートのRNAへの化学的連結を含む。このような部分は、脂質部分、例えばコレステロール部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acid. Sci. USA, 1989, 86: 6553-6556)、コール酸(Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1994, 4:1053-1060)、チオエーテル、例えば、ベリル-S-トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. N.Y. Acad. Sci., 1992, 660:306-309; Manoharan et al., Biorg. Med. Chem. Let., 1993, 3:2765-2770)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20:533-538)、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオールまたはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J, 1991, 10:1111-1118; Kabanov et al., FEBS Lett., 1990, 259:327-330; Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75:49-54)、リン脂質、例えば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチル-アンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654; Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18:3777-3783)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides & Nucleotides, 1995, 14:969-973)またはアダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651-3654)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264:229-237)またはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニルオキシコレステロール部分(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277:923-937)を含むが、これらに限定されない。
【0167】
ある実施態様において、リガンドは、取り込まれているiRNA剤の分布、ターゲティングまたは寿命を変える。ある実施態様において、リガンドは、例えば、このようなリガンドを欠く種と比較して、選択した標的、例えば、分子、細胞または細胞型、区画、例えば、体内の細胞または臓器区画、組織、臓器または領域に対する親和性の増強を提供する。リガンドの例は、二重鎖核酸の二重鎖対形成に参加しない。
【0168】
リガンドはまたターゲティング基、例えば、細胞または組織ターゲティング剤、例えば、腎細胞などの特定の細胞型に結合するレクチン、糖タンパク質、脂質またはタンパク質、例えば、抗体も含み得る。ターゲティング基は甲状腺刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、レクチン、糖タンパク質、界面活性剤プロテインA、ムチン炭水化物、多価ラクトース、単価ガラクトース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチル-グルコースアミン多価マンノース、多価フコース、グリコシル化ポリアミノ酸、多価ガラクトース、トランスフェリン、ビスホスホネート、ポリグルタメート、ポリアスパルテート、脂質、コレステロール、ステロイド、胆汁酸、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビオチンまたはRGDペプチドまたはRGDペプチド模倣体であり得る。ある実施態様において、リガンドは単価または多価ガラクトースを含む。ある実施態様において、リガンドはコレステロールを含む。
【0169】
本発明のリガンドコンジュゲートオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドへの連結分子の結合に由来するもののようなペンダント反応性官能基を有するオリゴヌクレオチドを使用して、合成し得る(下記)。この反応性オリゴヌクレオチドを、市販のリガンド、多様な保護基の何れかを有する合成リガンドまたは連結部分が結合したリガンドと直接反応させ得る。
【0170】
本発明のコンジュゲートで使用するオリゴヌクレオチドは、固相合成の周知技術を介して、便利におよび日常的に製造され得る。当分野で知られるこのような合成のあらゆる他の手段を、これに加えてまたはこれとは別に用い得る。ホスホロチオエートおよびアルキル化誘導体などの他のオリゴヌクレオチドを調製するための類似の技術の使用も知られる。
【0171】
A. 炭水化物コンジュゲート
本発明の組成物および方法のある実施態様において、iRNAオリゴヌクレオチドは、さらに炭水化物を含む。炭水化物コンジュゲートiRNAは、ここに記載するとおり、核酸のインビボ送達およびインビボ治療に適する組成物に有利である。ここで使用する「炭水化物」は、各炭素原子に結合した酸素、窒素または硫黄原子を伴う少なくとも6炭素原子(これは直鎖でも分岐でも環状でもよい)を有する1以上の単糖単位からなる炭水化物自体である化合物;または一部として、各炭素原子に結合した酸素、窒素または硫黄原子を伴う少なくとも6炭素原子(これは直鎖でも分岐でも環状でもよい)を各々有する1以上の単糖単位からなる炭水化物部分を有する化合物をいう。代表的炭水化物は、糖(単糖、二糖、三糖および約4、5、6、7、8または9単糖単位を含むオリゴ糖)ならびにデンプン、グリコーゲン、セルロースおよび多糖ガムなどの多糖を含む。特定の単糖は、C5以上(例えば、C5、C6、C7またはC8)の糖を含む;二糖および三糖は、2個または3個の単糖単位(例えば、C5、C6、C7またはC8)を有する糖を含む。
【0172】
ある実施態様において、本発明の組成物および方法で使用するための炭水化物コンジュゲートは単糖である。他の実施態様において、本発明の組成物および方法で使用するための炭水化物コンジュゲートは、次のものからなる群から選択される。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0173】
ある実施態様において、単糖は、
【化11】
などのN-アセチルガラクトサミンである。
【0174】
ここに記載する実施態様で使用するための他の代表的炭水化物コンジュゲートは、
【化12】
(式中、XまたはYの一方がオリゴヌクレオチドであるとき、他方は水素である。)
を含むが、これに限定されない。
【0175】
本発明のある実施態様において、GalNAcまたはGalNAc誘導体は、単価リンカーを介して本発明のiRNA剤に結合する。ある実施態様において、GalNAcまたはGalNAc誘導体は、二価リンカーを介して本発明のiRNA剤に結合する。本発明のさらに他の実施態様において、GalNAcまたはGalNAc誘導体は、三価リンカーを介して本発明のiRNA剤に結合する。
【0176】
ある実施態様において、本発明の二本鎖RNAi剤は、iRNA剤に結合した1個のGalNAcまたはGalNAc誘導体を含む。他の実施態様において、本発明の二本鎖RNAi剤は、各々独立して複数の単価リンカーを介して二本鎖RNAi剤の複数のヌクレオチドに結合する、複数(例えば、2個、3個、4個、5個または6個)のGalNAcまたはGalNAc誘導体を含む。
【0177】
ある実施態様において、例えば、本発明のiRNA剤の2個の鎖が、複数の不対ヌクレオチドを含むヘアピンループを形成する一個の鎖の3’末端と、各他の鎖の5’末端の間のヌクレオチドの非中断鎖により接続される1個の大型分子の一部であり、該ヘアピンループ内の各不対ヌクレオチドは、独立して単価リンカーを介して結合するGalNAcまたはGalNAc誘導体を含み得る。ヘアピンループはまた二重鎖の一方の鎖の伸長オーバーハングによっても形成され得る。
【0178】
ある実施態様において、炭水化物コンジュゲートは、さらに、PKモジュレーターまたは細胞浸透ペプチドなどの、しかし、これに限定されない上記の1以上のさらなるリガンドを含む。
【0179】
本発明での使用に適するさらなる炭水化物コンジュゲートは、PCT公開WO2014/179620およびWO2014/179627(この各々の内容全体を引用により本明細書に包含させる)に記載のものを含む。
【0180】
B. リンカー
ある実施態様において、ここに記載するコンジュゲートまたはリガンドは、切断可能または非切断可能であり得る種々のリンカーを用いてiRNAオリゴヌクレオチドに結合させ得る。
【0181】
用語「リンカー」または「連結基」は、化合物の2か所を接続する、例えば、化合物の2か所を共有結合で結合する有機部分を意味する。リンカーは、典型的に直接結合または酸素または硫黄などの原子、単位、例えばNR8、C(O)、C(O)NH、SO、SO、SONHまたは、置換または非置換アルキル、置換または非置換アルケニル、置換または非置換アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロシクリルアルケニル、ヘテロシクリルアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルキルアリールアルキル、アルキルアリールアルケニル、アルキルアリールアルキニル、アルケニルアリールアルキル、アルケニルアリールアルケニル、アルケニルアリールアルキニル、アルキニルアリールアルキル、アルキニルアリールアルケニル、アルキニルアリールアルキニル、アルキルヘテロアリールアルキル、アルキルヘテロアリールアルケニル、アルキルヘテロアリールアルキニル、アルケニルヘテロアリールアルキル、アルケニルヘテロアリールアルケニル、アルケニルヘテロアリールアルキニル、アルキニルヘテロアリールアルキル、アルキニルヘテロアリールアルケニル、アルキニルヘテロアリールアルキニル、アルキルヘテロシクリルアルキル、アルキルヘテロシクリルアルケニル、アルキルヘテロシクリルアルキニル、アルケニルヘテロシクリルアルキル、アルケニルヘテロシクリルアルケニル、アルケニルヘテロシクリルアルキニル、アルキニルヘテロシクリルアルキル、アルキニルヘテロシクリルアルケニル、アルキニルヘテロシクリルアルキニル、アルキルアリール、アルケニルアリール、アルキニルアリール、アルキルヘテロアリール、アルケニルヘテロアリール、アルキニルヘテロアリール(1以上のメチレンは、O、S、S(O)、SO、N(R8)、C(O)、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、置換または非置換ヘテロ環式で中断または終結していてよい)を含むが、これらに限定されない原子の鎖を含み;ここで、R8は水素、アシル、脂肪族または置換脂肪族である。ある実施態様において、リンカーは約1~24原子、2~24、3~24、4~24、5~24、6~24、6~18、7~18、8~18原子、7~17、8~17、6~16、7~16または8~16原子である。
【0182】
切断可能連結基は、細胞外で十分に安定であるが、標的細胞に入ったとき、切断して、リンカーが一体化させている2個の部分を放出するものである。ある実施態様において、切断可能連結基は、標的細胞または第一対照条件下(例えば、細胞内条件を模倣または表すよう選択され得る)、対象の血液または第二対照条件下(血液または血清で見られる条件を模倣または表すよう選択され得る)より少なくとも約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍またはそれ以上または少なくとも約100倍速く開裂される。
【0183】
切断可能連結基は、切断因子、例えば、pH、酸化還元電位または分解性分子の存在に感受性である。一般に、切断因子は、血清または血液より細胞内でより優勢であるかまたは高レベルまたは活性で見られる。このような分解性因子の例は、例えば、酸化または還元酵素または還元により酸化還元切断可能連結基を分解できる、細胞に存在するメルカプタンなどの還元因子を含む、特定の基質について選択されるまたは基質特異性がない酸化還元因子;エステラーゼ;エンドソームまたは例えば、5以下のpHをもたらすなど酸性環境を作ることができる因子;一般的酸としての作用により酸切断可能連結基を加水分解または分解できる酵素、ペプチダーゼ(基質特異的であり得る)およびホスファターゼを含む。
【0184】
ジスルフィド結合などの切断可能結合基は、pHに感受性であり得る。ヒト血清のpHは7.4であり、一方、平均細胞内pHは、約7.1~7.3の範囲でわずかに低い。エンドソームは5.5~6.0の範囲でより酸性pHであり、リソソームは、約5.0とさらに酸性pHである。一部リンカーは、選択したpHで切断され、それにより細胞内でまたは細胞の所望の区画にリガンドからカチオン性脂質を放出する、切断可能連結基を有する。
【0185】
リンカーは、特定の酵素により切断可能な切断可能連結基を含み得る。リンカーに組み込まれる切断可能連結基のタイプは、標的とされる細胞に依存し得る。例えば、肝臓ターゲティングリガンドは、エステル基を含むリンカーを介してカチオン性脂質に結合され得る。肝細胞はエステラーゼに富み、それ故にリンカーはエステラーゼリッチではない細胞型より肝細胞より効率的に開裂される。エステラーゼに富む他の細胞型は、肺、腎皮質および精巣の細胞を含む。
【0186】
ペプチド結合を含むリンカーは、ターゲティング細胞型が肝細胞および滑膜細胞などペプチダーゼに富むとき、使用され得る。
【0187】
一般に、候補切断可能連結基の適性は、候補連結基を切断する分解性因子(または条件)の能力の試験により評価され得る。候補切断可能連結基が血中でまたは他の非標的組織と接触したときの切断に耐える能力を試験することも望ましい。故に、第一および第二条件(ここで、第一は標的細胞の切断の指標となるよう選択され、第二は他の組織または体液、例えば、血液または血清中の切断の指標となるよう選択される)の間の切断に対する相対的感受性を決定できる。評価は、無細胞系、細胞、細胞培養、臓器または組織培養または動物全体で実施できる。無細胞または培養条件で初期評価を行い、さらに動物全体での評価により確認することが有用であり得る。ある実施態様において、有用な候補化合物は、細胞(または細胞内条件を模倣するよう選択したインビトロ条件下)で、血液または血清(または細胞外条件を模倣するよう選択したインビトロ条件下)と比較して、少なくとも約2倍、4倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍または約100倍速く切断される。
【0188】
i. 酸化還元切断可能連結基
ある実施態様において、切断可能連結基は、還元または酸化により切断される酸化還元切断可能連結基である。還元により切断可能な連結基の例は、ジスルフィド連結基(-S-S-)である。候補切断可能連結基が適当な「還元により切断可能な連結基」または例えば特定のiRNA部分および特定のターゲティング剤との使用に適するかを決定するために、ここに記載する方法を実施し得る。例えば、候補を、細胞、例えば、標的細胞で観察される切断速度を模倣する、当分野で知られる試薬を使用する、ジチオトレイトール(DTT)または他の還元剤とのインキュベーションにより評価し得る。候補はまた血液または血清条件を模倣するよう選択した条件下でも評価され得る。一例で、候補化合物は、血中で多くて約10%切断される。他の実施態様において、有用な候補化合物は、細胞(または細胞内条件を模倣するよう選択したインビトロ条件下)で、血液(または細胞外条件を模倣するよう選択したインビトロ条件下)と比較して少なくとも約2倍、4倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍または約100倍速く分解される。候補化合物の切断速度は、細胞内媒体を模倣するよう選択した条件下で標準酵素反応動態アッセイを使用して決定し、細胞外媒体を模倣するよう選択した条件と比較し得る。
【0189】
ii. リン酸ベースの切断可能連結基
ある実施態様において、切断可能リンカーは、リン酸ベースの切断可能連結基を含む。リン酸ベースの切断可能連結基は、リン酸基を分解または加水分解する因子により切断される。細胞でリン酸基を切断する因子の例は、細胞中のホスファターゼなどの酵素である。リン酸ベースの連結基の例は、-O-P(O)(ORk)-O-、-O-P(S)(ORk)-O-、-O-P(S)(SRk)-O-、-S-P(O)(ORk)-O-、-O-P(O)(ORk)-S-、-S-P(O)(ORk)-S-、-O-P(S)(ORk)-S-、-S-P(S)(ORk)-O-、-O-P(O)(Rk)-O-、-O-P(S)(Rk)-O-、-S-P(O)(Rk)-O-、-S-P(S)(Rk)-O-、-S-P(O)(Rk)-S-、-O-P(S)(Rk)-S(式中、Rkは各場合、独立して、C-C20アルキル、C-C20ハロアルキル、C-C10アリールまたはC-C12アラルキルである)である。実施態様の例は、-O-P(O)(OH)-O-、-O-P(S)(OH)-O-、-O-P(S)(SH)-O-、-S-P(O)(OH)-O-、-O-P(O)(OH)-S-、-S-P(O)(OH)-S-、-O-P(S)(OH)-S-、-S-P(S)(OH)-O-、-O-P(O)(H)-O-、-O-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-O、-S-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-S-および-O-P(S)(H)-S-を含む。ある実施態様において、リン酸ベースの連結基は、-O-P(O)(OH)-O-である。これらの候補を、上記のものに準ずる方法を使用して、評価し得る。
【0190】
iii. 酸切断可能連結基
ある実施態様において、切断可能リンカーは、酸切断可能連結基を含む。酸切断可能連結基は、酸性条件下切断される連結基である。ある実施態様において、酸切断可能連結基は、約6.5以下のpHの酸性環境(例えば、約6.0、5.75、5.5、5.25、5.0またはそれ未満)または一般的酸として作用し得る酵素などの因子により切断される。細胞で、エンドソームおよびリソソームなどの特定の低pH小器官は、酸切断可能連結基に切断環境を提供できる。酸切断可能連結基の例は、ヒドラゾン、エステルおよびアミノ酸のエステルを含むが、これらに限定されない。酸切断可能基は、一般式-C=NN-、C(O)Oまたは-OC(O)を有し得る。例示的実施態様は、エステルの酸素(アルコキシ基)に結合した炭素がアリール基、置換アルキル基またはジメチルペンチルもしくはt-ブチルなどの3級アルキル基であるときである。これらの候補を、上記のものに準ずる方法を使用して、評価し得る。
【0191】
iv. エステルベースの連結基
他の実施態様において、切断可能リンカーは、エステルベースの切断可能連結基を含む。エステルベースの切断可能連結基は、細胞のエステラーゼおよびアミダーゼなどの酵素により切断される。エステルベースの切断可能連結の例は、アルキレン、アルケニレンおよびアルキニレン基のエステルを含むが、これらに限定されない。エステル切断可能連結基は、一般式-C(O)O-または-OC(O)-を有する。これらの候補を、上記のものに準ずる方法を使用して、評価し得る。
【0192】
v. ペプチドベースの切断基
さらに他の実施態様において、切断可能リンカーは、ペプチドベースの切断可能連結基を含む。ペプチドベースの切断可能連結基は、細胞のペプチダーゼおよびプロテアーゼなどの酵素により切断される。ペプチドベースの切断可能連結基は、オリゴペプチド(例えば、ジペプチド、トリペプチドなど)およびポリペプチドをもたらすアミノ酸間で形成されるペプチド結合である。ペプチドベースの切断可能基は、アミド基(-C(O)NH-)を含まない。アミド基は、あらゆるアルキレン、アルケニレンまたはアルキニレンの間で形成され得る。ペプチド結合は、ペプチドおよびタンパク質をもたらすアミノ酸間で形成される、特別のタイプのアミド結合である。ペプチドベースの切断基は、一般にペプチドおよびタンパク質をもたらすアミノ酸間で形成されるペプチド結合(すなわち、アミド結合)に限定され、アミド官能基全体を含まない。ペプチドベースの切断可能連結基は、一般式-NHCHRAC(O)NHCHRBC(O)-(式中、RAおよびRBは、2個の隣接アミノ酸のR基である)を有する。これらの候補を、上記のものに準ずる方法を使用して、評価し得る。
【0193】
ある実施態様において、本発明のiRNAは、リンカーを介して炭水化物にコンジュゲートされる。本発明の組成物および方法のリンカーを有するiRNA炭水化物コンジュゲートの非限定的例は、次のものを含むが、これらに限定されない。
【化13】
【化14】
(式中、XまたはYの一方がオリゴヌクレオチドであるとき、他方は水素である。)
【0194】
本発明のある実施態様においての組成物および方法、リガンドは、二価または三価分岐リンカーを介して結合する、1以上の「GalNAc」(N-アセチルガラクトサミン)誘導体である。
【0195】
ある実施態様において、本発明のdsRNAは、式(XXXII)~(XXXV)の何れかに示す構造の基から選択される、二価または三価分岐リンカーにコンジュゲートする:
【化15】
〔式中、
q2A、q2B、q3A、q3B、q4A、q4B、q5A、q5Bおよびq5Cは、各場合独立して、0~20であり、ここで、反復単位は同一でも異なってもよく;
2A、P2B、P3A、P3B、P4A、P4B、P5A、P5B、P5C、T2A、T2B、T3A、T3B、T4A、T4B、T4A、T5B、T5Cは、各場合独立して非存在、CO、NH、O、S、OC(O)、NHC(O)、CH、CHNHまたはCHOであり;
2A、Q2B、Q3A、Q3B、Q4A、Q4B、Q5A、Q5B、Q5Cは、各場合独立して、非存在、アルキレン、置換アルキレンであって、ここで、メチレンの1以上は、O、S、S(O)、SO、N(R)、C(R’)=C(R’’)、C≡CまたはC(O)の1以上で中断または終結していてよく;
2A、R2B、R3A、R3B、R4A、R4B、R5A、R5B、R5Cは、各場合独立して、非存在、NH、O、S、CH、C(O)O、C(O)NH、NHCH(R)C(O)、-C(O)-CH(R)-NH-、CO、CH=N-O、
【化16】
またはヘテロシクリルであり;
2A、L2B、L3A、L3B、L4A、L4B、L5A、L5BおよびL5Cはリガンドであり;すなわち、各場合独立して、単糖(例えばGalNAc)、二糖、三糖、四糖、オリゴ糖または多糖であり;そしてRaはHまたはアミノ酸側鎖である。〕。
式(XXXVI):
【化17】
〔式中、L5A、L5BおよびL5CはGalNAc誘導体などの単糖である。〕
などの三価コンジュゲートGalNAc誘導体は、標的遺伝子発現阻害のためのRNAi剤で使用するのに特に有用である。
【0196】
GalNAc誘導体をコンジュゲートする適当な二価および三価分岐リンカー基の例は、式II、VII、XI、XおよびXIIIとして上記の構造を含むが、これらに限定されない。
【0197】
RNAコンジュゲートの調製を教示する代表的米国特許は、米国特許4,828,979;4,948,882;5,218,105;5,525,465;5,541,313;5,545,730;5,552,538;5,578,717、5,580,731;5,591,584;5,109,124;5,118,802;5,138,045;5,414,077;5,486,603;5,512,439;5,578,718;5,608,046;4,587,044;4,605,735;4,667,025;4,762,779;4,789,737;4,824,941;4,835,263;4,876,335;4,904,582;4,958,013;5,082,830;5,112,963;5,214,136;5,082,830;5,112,963;5,214,136;5,245,022;5,254,469;5,258,506;5,262,536;5,272,250;5,292,873;5,317,098;5,371,241、5,391,723;5,416,203、5,451,463;5,510,475;5,512,667;5,514,785;5,565,552;5,567,810;5,574,142;5,585,481;5,587,371;5,595,726;5,597,696;5,599,923;5,599,928および5,688,941;6,294,664;6,320,017;6,576,752;6,783,931;6,900,297;7,037,646;8,106,022(この各々の内容全体を引用により本明細書に包含させる)を含むが、これらに限定されない。
【0198】
ある化合物の全ての位置が一律に修飾されている必要はなく、実際1を超える上記修飾が一化合物またはiRNA内の一ヌクレオシドに組み込まれ得る。本発明はまた、キメラ化合物であるiRNA化合物も含む。
【0199】
VI. 本発明のiRNAの送達
本発明のiRNAの細胞、例えば、ヒト対象(例えば、接触活性化経路遺伝子発現と関連する疾患、障害または状態を有する対象などの処置を必要とする対象)内の細胞への送達は、いくつかの異なる方法により達成され得る。例えば、送達は、インビトロまたはインビボでの細胞と本発明のiRNAの接触により達成される。インビボ送達はまた対象へのiRNA、例えば、dsRNAを含む組成物の投与により直接的に実施され得る。送達は、例えば、静脈内投与または皮下投与により実施され得る。ある実施態様において、iRNA剤は皮下投与により送達される。ある実施態様において、iRNA剤は、プレフィルドシリンジまたは自動注入デバイスを使用する自己投与により投与される。
【0200】
一般に、核酸分子を送達するあらゆる方法(インビトロまたはインビボ)を、本発明のiRNAでの死ようのために適合させ得る(例えば、A全体として引用により本明細書に包含させるkhtar S. and Julian RL. (1992) Trends Cell. Biol. 2(5):139-144およびWO9402595参照)。インビボ送達について、iRNA分子送達のために考慮すべき因子は、例えば、送達分子の生物学的安定性、非特異的効果の予防および標的組織における送達分子の蓄積を含む。
【0201】
VII. 本発明の医薬組成物
本発明はまた、本発明の方法で使用するための、ここに記載するiRNAを含む医薬組成物および製剤も含む。ある実施態様において、ここに提供されるのは、ここに記載するiRNAおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。iRNAを含む医薬組成物は、TTR遺伝子の発現または活性と関連する疾患または障害の処置に有用である。このような医薬組成物は、送達方法に基づき製剤化される。一例は、例えば、皮下(SC)または静脈内(IV)送達による非経腸送達を介する全身性投与のために製剤化された組成物である。本発明の医薬組成物は、TTR遺伝子の発現を阻害するのに十分な投与量で投与され得る。ある実施態様において、本発明のiRNA剤、例えば、dsRNA剤は、薬学的に許容される担体中、皮下投与用に製剤化される。
【0202】
他の実施態様において、医薬組成物の1回用量は、その後の投与が1カ月間隔、多くて1カ月、2カ月、3カ月もしくは4カ月間隔または四半期(約3カ月毎)間隔であるよう、持続性であり得る。本発明のある実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は、月1回投与される。本発明の他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は隔月に1回投与される。他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は四半期、すなわち、約3カ月に1回投与される。他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は4カ月に1回投与される。他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は5カ月に1回投与される。他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は6カ月に1回投与される。他の実施態様において、本発明の医薬組成物の1回用量は12カ月に1回投与される。
【0203】
VIII. キット
本発明はまた本発明の方法の何れかを実施するためのキットを提供する。このようなキットは、1以上の二本鎖RNAi剤および本発明の方法の何れかに置いて使用するための二本鎖剤の使用のための指示を提供するラベルを含む。キットは、所望によりさらに細胞とRNAi剤を接触させる手段(例えば、注射デバイスまたは注入ポンプ)またはTTR阻害を測定する手段(例えば、TTR mRNAまたはTTRタンパク質阻害を測定する手段)を含み得る。このようなTTR阻害を測定する手段は、対象からの、例えば、血漿サンプルなどのサンプルを得る手段を含み得る。本発明のキットは、所望によりさらにRNAi剤を対象に投与する手段または治療有効量または予防有効量を決定する手段を含み得る。
【0204】
RNAi剤は、無菌水中の溶液または再懸濁および注射のための他の適切な溶液、例えば、PBS、生理食塩水、5mMリン酸緩衝液におけるなどの、あらゆる慣用の形態で提供され得る。例えば、RNAi剤は、水または注射用無菌水中の他の適切な溶液と共に、300mg、200mg、100mgまたは50mgバイアルとして提供され得る。ある実施態様において、RNAi剤は、投与のための適切な体積の添加物中300mg、200mg、100mgまたは50mgのRNAi剤を含むプレフィルドシリンジまたは自動注入デバイスを含み、所望によりさらに使用指示を含む、自己投与用のキットで提供される。ある実施態様において、RNAi剤は、ほぼ同じ時間、例えば、1週間以内、1日以内、1時間以内に与えられる複数注射による用量の投与のための複数バイアルまたはデバイスで提供される。
【0205】
IX. TTRアミロイドーシス多発ニューロパチーの診断および疾患負荷の評価
TTRアミロイドーシスは、複雑な、多因子疾患である。TTR-FAP進行のモニターに使用される基準のリストは増え続けている:ニューロパチー機能障害スコア(NIS)、NIS+7および修飾NIS(mNIS)+7およびmNIS+7Ionis。これらの診断基準は当分野で周知であり、基準の主要部を下に提供する。ここで使用するTTR-FAPの診断基準を満たすは、遺伝性TTR-FAPと関連する変異の存在を伴うまたは伴わないFAPステージ1基準を満たすとして理解される。ニューロパチーの指標の進行は、補正ニューロパチー機能障害スコア(mNIS)+7の少なくとも2点の増加と考える。
【0206】
家族性アミロイド多発ニューロパチー(FAP)ステージ
Coutinho et al. は、hATTR(以前は家族性アミロイドニューロパチーと称された)のニューロパチー症状の臨床的病期分類システムを開発した。スケールは、次のとおり1~3の範囲である(Ando et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:31):
FAPステージ1:補助なしで歩行、下肢に軽度ニューロパチー(感覚、自律神経および運動)。
FAPステージ2:補助ありで歩行、下肢、躯幹および上肢に中程度機能障害。
FAPステージ3:車椅子または寝たきり、重度ニューロパチー。
ニューロパチーがない対象はFAPステージ0と見なされる。
【0207】
ニューロパチー機能障害スコアリング方法
ニューロパチーを評価する方法は、当分野で知られる。例えば、Mayo Clinic Neurologic Examination Sheetおよびまたニューロパチー機能障害スコア(NIS)の脱力サブスコアにおいて、脱力(NIS-W)は、1~4点の25%減少で、体の各側の主要筋肉群と別に採点される(Dyck et al., Quantitating overall neuropathic symptoms, impairments, and outcomes. In: Dyck PJ, Thomas PK, editors. Peripheral neuropathy. 4th ed. Philadelphia: Elsevier; 2005. p. 1031-52)。特に頭側、近位および遠位肢筋肉の広範な群が、NIS-Wで最高スコア192点で採点される。主要5筋肉の伸展反射減少は、通常神経科医により評価され、触圧、振動、関節動作および足および手の針刺し感覚は、Mayo Clinic Neurology Examination Sheetで25%減少および1~4で採点される。反射(NIS-R)および感覚(NIS-S)の完全NISのために、Mayo Clinic記録スコアを、NIS点スコアに変換する(すなわち、1または2のMayo Clinicスコアは、NIS点スコア1であり、3または4のMayo ClinicスコアはNISスコア2である)。それ故に、神経科医により評価される通常の反射の最高NISスコア(NIS-R)は、5×2×2=20点であり、神経科医によりしばしば評価される感覚の4モダリティの最高スコア(NIS-S)は8×2×2=32点である。それ故に、最高のNISスコアは、192+20+32=244点である。NISは、先の刊行物に記載されている(Dyck et al. 2005 and Dyck et al., Neurol. 1997;49:229-39)。
【0208】
NIS+7は、糖尿病性感覚運動多発ニューロパチー、TTR FAPおよび他の全般的感覚運動多発神経障害の治験で、一次または共主要評価項目尺度として使用されている(N. Suanprasert et al. J Neurol Sci 344 (2014) 121-128)。NIS+7は、反射の最小限の天井効果のみを伴い、筋脱力および筋伸張反射異常の段階的重症度を適切に評価する。NIS+7において、7個の検査中5個が神経状態の性状である - 正規偏差(Ζスコア)または点として表わされる。NIS+7に含まれる性状は、異常が敏感に糖尿病性感覚運動多発ニューロパチーを検出するために選択された(Dyck et al. Muscle Nerve 2003;27(2):202-10)。含まれる性状は、腓骨神経複合活動電位(CMAP)振幅、運動神経伝導速度(MNCV)および運動神経遠位潜時(MNDL)、脛骨MNDLおよび腓腹感覚神経活動電位(SNAP)振幅である。それらの測定値を、大健常対象対照コホートの先の試験に基づき、年齢、性別、身長または体重の適応可能な変数を補正して、パーセンタイル値から正規偏差に変換できる。さらに、これらのパーセンタイル値は、得られたパーセンタイル値からNIS点として表し得る(すなわち、N5th=0点;≦5th-N 1st=1点および≦1st=2点(および同様に異常が正常分布の上側にあるとき)。
【0209】
脱力および反射異常の評価、感覚喪失の評価、自律神経性機能不全および神経生理学的検査異常は、TTR FAPの治験で使用するためのNIS+7で適切に評価されないNIS+7において、感覚喪失は最適に評価されない:1)感覚喪失の身体分布は適切に考慮されない、2)小線維感覚喪失と比較して、大線維感覚喪失が過度に強調されるおよび3)改善された検査方法および対照値との比較が、臨床的評価のために好ましい。また、自律神経性機能不全は、深呼吸時心拍(HRdb)のみの使用により、適切に評価されない。NIS+7の評価に使用される神経伝導の性状は、TTR FAPの試験に理想的ではない。
【0210】
補正ニューロパチー機能障害スコア+7(mNIS+7)およびNIS+7のアップデート版は、運動強度、反射、感覚、神経伝導および自律神経性機能を測定する複合スコアである。この複合尺度の2バージョンが、多発ニューロパチーを伴うhATTRアミロイドーシスを良好に反映するようNIS+7から適合され、イノテルセンおよびパチシラン臨床試験の主要評価項目として使用されている。これら2バージョンと他のニューロパチースコアリング系の間の重要な差異を下表に要約する(Adams et al., BMC Neurology, volume 17, Article number: 181 (2017)から)。両スケールで、スコアが低いほど、神経性機能が良好であることを示す(例えばスコアの増加は、神経性機能障害の悪化を反映する)。
【0211】
ニューロパチー機能障害スコア基準
【表1】
【0212】
TTRアミロイドーシス心筋症(ATTR-CM)の診断および疾患負荷の評価
hATTRアミロイドーシスおよび心筋症を有する患者は、典型的に心不全(HF)および心臓不整脈の症状進行を経験し、典型的に診断後2.5~5年で死亡する。TTRアミロイド原線維による細胞外マトリクスの心臓浸潤は、拡張期機能障害に至る、心室壁厚の進行性増加および心室硬度の顕著な増加に至る。収縮期機能もまた障害され、典型的に、疾患後期まで維持される正常駆出率にも関わらず異常長軸方向ストレインにより反映される。ATTRアミロイドーシスおよび軽鎖(AL)心アミロイドーシスの患者において、長軸方向ストレインおよび脳性ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)の両方が、生存の独立予測因子であることが示されている。
【0213】
心エコー検査は、心臓構造および機能の評価のために日常的に使用されている;統計解析計画書で予め特定されているパラメータは、平均左室心(LV)壁厚、LV質量、長軸方向ストレインおよび駆出率を含む。心拍出量、左心房サイズ、LV末端-拡張期体積(LVEDV)およびLV末端-収縮期体積(LVESV)。心エコー図は、心臓造影のために日常的に使用される。心筋ストレインは、一つのベンダーに限らないソフトウェア(TOMTEC, Munich, Germany)を使用するスペックルトラッキングで評価され得る。NT-proBNPおよびトロポニンIレベルの分析は、例えば、ケミルミネセンスアッセイを使用する、市販の診断検査を使用して、臨床検査で日常的に実施される(NT-proBNPについてRoche Diagnostic Cobas, Indianapolis, IN, USA;およびトロポニンIについてSiemens Centaur XP, Camberley, Surrey, UK)。同様に、臨床的習慣は、日常的に、クレアチニンレベルの測定値および例えば、腎疾患での食事の改良試験式を使用する、クレアチニンレベルに基づく推定糸球体濾過速度(eGFR)を含む。
【0214】
ATTR-CMの存在を示唆する「警告」一覧を含む診断方法および、心エコー検査、心電図記録法、心臓磁気共鳴、下肢から始まり、上向性パターンが続く両側性感覚運動多発ニューロパチー、起立性低血圧、下痢/便秘および勃起不全の形の自律神経障害および緑内障、硝子体内沈着およびスカラップ状瞳孔などの眼合併症;手根管症候群、特に両側性手根管症候群、腰部脊髄狭窄および二頭筋腱断裂を含む、心機能不全を伴う末梢または自律神経系が関与する全身性症状の存在を含むスクリーニング方法の情報を提供する、ATTR-CMのスクリーニングおよび診断方法を提供するレビューが最近Witteles et al., 2019 (JACC: Heart Failure, 2019. 7:709-716)により公開された。他の診断方法は、未知の理由によりTTR心臓アミロイド沈着に局在化するテクネチウム(Tc)標識ビスホスホネートでの骨シンチグラフィーを含む。生検も心臓におけるTTRアミロイドーシスの存在の確認に使用される。
【0215】
上に提供する心機能パラメータの評価および分類の方法は、当分野で知られる。ここで使用する心機能の評価または分類の特定の方法は、標準治療が医学的介入、例えば、薬剤投与、手術を含むように、十分に低下した心機能を示すために、臨床的に許容される標準のいずれでもよい。
【0216】
神経損傷およびTTRアミロイドーシス進行の指標としての血清バイオマーカー
上記診断およびモニタリング方法は複雑であり、しばしば主観的である。さらに、TTRアミロイドーシスが稀であり、上記徴候および症状がいくつかの他の疾患で存在し得るため、臨床的に検証された、非侵襲性血漿バイオマーカーは、早期診断を促し、疾患進行のモニタリングを助け得る。Ticau et al., 2019(www.medrxiv.org/content/10.1101/19011155v2.full.pdf参照)による試験において、1000を超えるタンパク質の血漿レベルがフェーズ3 APOLLO試験(NCT01960348)でプラセボまたはパチシランを投与された多発ニューロパチーを伴うhATTRアミロイドーシスを有する患者および健常個体のコホートで測定された。各タンパク質の時間プロファイルでのTTRの肝臓発現を阻害する脂質製剤化RNAi剤パチシランでの処置の影響を、0カ月、9カ月および18カ月に線形混合型モデルにより決定した。神経フィラメント軽鎖(NfL)タンパク質を、直交定量的アプローチを使用してさらに評価した。プラセボに対して、パチシランで66タンパク質のレベルの顕著な変化が観察され、ニューロン損傷マーカーであるNfLの変化が最も顕著であった。タンパク質レベルの変化の分析は、18カ月目、パチシラン処置患者の健常個体に向かう傾向の促進を示した。健常対照の血漿NfLレベルは、多発ニューロパチーを伴うTTRアミロイドーシスを有する患者より4倍低かった(16.3[SD 12.0]pg/mL対69.4[SD 42.1]pg/mL、p<10-16)。18カ月目のNfLレベルはプラセボで増加し(99.5[SD 60.1]pg/mL)、パチシラン処置で減少した(48.8[SD 29.9]pg/mL)。18カ月目、パチシラン処置患者における補正ニューロパチー機能障害スコア+7(mNIS+7)の改善は、NfLレベルの減少と有意に相関した(R=0.43、p<10-7)。パチシラン処置でのmNIS+7改善と相関するNfL減少は、TTRアミロイドーシスにおける神経損傷および多発ニューロパチーのバイオマーカーとして役立ち得ることを示唆する。このバイオマーカーは、hATTRアミロイドーシスを有する患者における多発ニューロパチーの早期診断を可能とし、疾患進行のモニタリングを促進する可能性がある。
【0217】
他のタンパク質、特にRSPO3、CCDC80、EDA2RおよびNT-proBNPのレベルの減少がmNIS+7改善と相関することが判明し、単独または互いにまたはNflとの組み合わせで、ATTRアミロイドーシスにおける神経損傷および多発ニューロパチーのバイオマーカーとして役立ち得ることが示唆される。N-CDaseレベルの増加がmNIS+7改善と相関することが判明し、単独でまたは上に挙げた他のマーカーとの組み合わせで、ATTRアミロイドーシスにおける神経損傷および多発ニューロパチーのバイオマーカーとして役立ち得ることが示唆される。
【0218】
パチシラン処置に応答して変化が観察された、さらに可能性のあるバイオマーカーを、下表に挙げる。対象の正のベータ係数を有するタンパク質レベルが対照レベルに比して増加するとき、ATTRアミロイドーシスの進行の指標であり、対象の負のベータ係数を有するタンパク質レベルが対照レベルに比して減少するとき、ATTRアミロイドーシスの進行の指標である。これらマーカーの1以上のレベルの変化は、ATTRアミロイドーシスにおける進行中の神経損傷および多発ニューロパチーの進行の改善、安定化または減少の指標であり得る。
【0219】
【表2】
これらバイオマーカーの配列を、ここに配列番号17~34として提供する。
【0220】
本発明を、限定的と解釈してはならない次の実施例により、さらに説明する。本出願をとおして引用する全ての引用文献ならびに公開特許および特許出願ならびに配列表を、引用により本明細書に包含させる。
【実施例
【0221】
本発明の方法で使用するための二本鎖RNAi剤の例を、下表3に示す。下表2は、核酸配列描記で使用されるヌクレオチド単量体およびリガンドの略語との対照を提供する。これらの単量体は、オリゴヌクレオチドに存在するとき、特に断らない限り、5’-3’-ホスホジエステル結合で互いに結合していることは理解される。
【0222】
【表3】
【0223】
【表4】

【0224】
実施例1:V30MトランスジェニックマウスにおけるRNAi剤によるTTRタンパク質ノックダウン
V30M変異は、ヒトTTRで共通のアミロイド形成的変異である。マウスTTRを欠き、V30M変異を有するヒトTTRを発現するトランスジェニックマウスを試験に使用した。マウス(n=3/群)に、先にWO2018112320に開示されたRNAi剤AD-65492またはAD-65492の配列および化学に基づき、上の表2に示すとおり、アンチセンス鎖の一か所の化学修飾をGNA修飾に変化させた他のRNAi剤の単回皮下1mg/kg用量を投与した。血液サンプルを0日目(投与前)、3日目、7日目、10日目、14日目、21日目、35日目および49日目に採取した。血清を得て、ヒトTTRレベルをELISAアッセイを使用して決定した(例えば、Coelho, et al. (2013) N Engl J Med 369:819参照)。0日目と比較した相対的TTRレベルを図1に示す。
アンチセンス鎖の7位または8位へのGNAの取り込みは、忍容性が良好であった(AD-87404およびAD-87405)。反応動態および最高タンパク質ノックダウンは、親RNAi剤AD-65492に類似した。AD-87404によるノックダウンの持続性はAD-65492に類似した。アンチセンス鎖の3~6位へのGNA取り込みは、忍容性が良好ではなかった。
【0225】
実施例2:非ヒト霊長類におけるRNAi剤によるTTRタンパク質ノックダウン
表2におけるiRNA剤の配列は、カニクイザルTTRと完全交差反応性であった。AD-65492(1mg/kg)またはAD-87404(1mg/kgまたは3mg/kg)の単回皮下用量を、3回の別々の試験で0日目にカニクイザル(n=3/群)に投与した。血液サンプルを、図2に示すとおり、前もって-7日目(投与7日目前)から119日目まで採取した。血清を得て、カニクイザルTTRレベルをELISAアッセイを使用して決定した(例えば、Coelho, et al. (2013) N Engl J Med 369:819参照)。0日目と比較した相対的TTRレベルを図2に示す。TTRノックダウンは、1mg/kgのAD-65492および3mg/kgのAD-87404を投与したサルで類似した。
【0226】
実施例3:健常ヒト対象へのAD-87404の単回用量の投与
フェーズI、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験において、AD-87404(センス:5’-usgsggauUfuCfAfUfguaaccaaga-3’(配列番号6)、ここで、L96リガンドがセンス鎖の3’末端にコンジュゲートしている);アンチセンス:5’-usCfsuugGf(Tgn)uAfcaugAfaAfucccasusc-3’(配列番号7))を、健常ヒトボランティアに、25mg、75mg、100mg、200mgまたは400mgの単回用量で、可能であれば600mg、700mg、900mgおよび1000mgの用量群と共に投与する。関連する人口統計特性、例えば、年齢、性別、体重を群間でバランスをとる。
人口統計的に適合した対照対象も、プラセボを単回用量投与する。
血漿サンプルを集め、プラセボ群の対象および全処置群の対象からのサンプルにおけるTTRタンパク質レベルを、予定した間隔、例えば、1日目、2日目、3日目、8日目、15日目、22日目、29日目、43日目、57日目、90日目、次いで、活性処置群対象について、TTRレベルが処置前レベルの80%に回復するまで28日毎(最大投与後約1年まで)、ELISAアッセイを使用して決定する(例えば、Coelho, et al. (2013) N Engl J Med 369:819)。ノックダウンのレベルおよび期間を決定する。
AD-87404群および対照群両者の対象を、有害事象についてもモニターする。試験でモニターされる有害事象の例は、注射部位紅斑、注射部位疼痛、掻痒、咳嗽、悪心、疲労および腹痛ならびに身体所見、ECG、バイタルサインまたは臨床検査パラメータ、例えば、腎機能、血液学的パラメータおよび肝機能(例えば、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ(AST))における臨床的に有意な変化を含むが、これらに限定されない。
この試験の結果は、AD-87404の単一皮下用量が、用量依存的様式でTTRタンパク質レベルを強力かつ持続性にノックダウンすることを示す。
複数用量試験および複数上向性用量試験も、血清におけるTTRタンパク質ノックダウンおよび有害事象のモニタリングと共に実行される。
【0227】
均等物:
当業者は、ここに記載する特定の実施態様および方法の多くの均等物を認識するかまたは日常的操作を超えない実験を使用して確認できる。このような均等物は、次の特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
図1
図2
【配列表】
2023516748000001.app
【国際調査報告】