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特表2023-516774筋萎縮性側索硬化症の治療のための低用量ヒトインターロイキン-2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療のための低用量ヒトインターロイキン-2
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20230413BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/428 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P21/00
A61K31/428
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553666
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(85)【翻訳文提出日】2022-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2021055570
(87)【国際公開番号】W WO2021176044
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】20305241.0
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522351918
【氏名又は名称】サントル、オスピタリエ、ユニヴェルシテール、ド、ニーム
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE NIMES
(71)【出願人】
【識別番号】522351929
【氏名又は名称】ウマニタス、ミラソーレ、ソチエタ、ペル、アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】HUMANITAS MIRASOLE SPA
(71)【出願人】
【識別番号】504324671
【氏名又は名称】ジ・ユニバーシティ・オブ・サセックス
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SUSSEX
(71)【出願人】
【識別番号】500545366
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【住所又は居所原語表記】Strand, London WC2R 2LS United Kingdom
(71)【出願人】
【識別番号】515200272
【氏名又は名称】クイーン メアリー ユニバーシティ オブ ロンドン
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】509129129
【氏名又は名称】ザ、ユニバーシティー、オブ、シェフィールド
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SHEFFILED
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギルバート、ベンシモン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター、ナイジェル、リー
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー、トゥリー
(72)【発明者】
【氏名】チェチーリア、ガルレンダ
(72)【発明者】
【氏名】マッシモ、ロカティ
(72)【発明者】
【氏名】ジャニーン、カービー
(72)【発明者】
【氏名】パメラ、ショー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア、マラスピナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA14
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC84
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086ZA94
(57)【要約】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の分野にあり、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)に関し、その対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)である。ヒトIL-2は、好ましくは、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2の3~7日の1日1回皮下投与のサイクルで投与される。この治療は、好ましくは、リルゾール治療下にもある対象への制御性T細胞の投与を含まない。投与されるヒトIL-2は、好ましくは、抗hIL-2抗体と複合体を形成せず、この治療はまた好ましくは、対象へのラパマイシンもエフェクターT細胞(Teff)の他のいずれの抑制剤の投与も含まない。この治療は、血漿CCL2濃度を低下させ、血中マクロファージの分極をM1炎症性表現型から組織修復に関与する抗炎症性M2表現型に変化させることを可能にする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)であって、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療が前記対象への制御性T細胞(Treg)の投与を含まない、ヒトIL-2。
【請求項2】
ヒトIL-2が0.1×10~3×10IUのヒトIL-2の反復注射として投与される、請求項1に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項3】
0.1×10~3×10IUのヒトIL-2の連続3~7日の1日1回皮下注射の反復サイクルが前記対象に投与され、好ましくは、各サイクルは0.1×10~3×10IUのIL-2、より好ましくは1×10~3×10IUのIL-2、最も好ましくは2×10IUのヒトIL-2の連続5日の1日1回皮下投与からなる、請求項2に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項4】
前記サイクルが2~6週間毎、好ましくは2~5週間毎、より好ましくは2~4週間毎、特に2、3または4週間毎に投与される、請求項3に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項5】
メトロノームスケジュールに従って連続的に投与される、請求項2に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項6】
前記治療が前記対象の生涯にわたって、または許容できない薬物関連の重大な有害事象まで投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項7】
ヒトIL-2が皮下または静脈内経路、好ましくは皮下経路により投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項8】
前記患者に投与されるヒトIL-2が抗ヒトIL-2抗体と複合体を形成しない、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項9】
前記治療が前記対象へのラパマイシンもエフェクターT細胞(Teff)の他のいずの抑制剤の投与も含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項10】
前記治療が前記対象にリルゾールを投与することをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項11】
リルゾールが50mg~100mgの1日用量で経口投与され、約12時間間隔で25mg~50mgの2回の等用量で摂取される、請求項10に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項12】
前記ヒトIL-2が組換え型のヒトIL-2、好ましくは、アルデスロイキンである、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項13】
前記治療が
a)Treg数の増加およびTreg免疫抑制機能の改善;
b)CCL2血漿、血清または脳脊髄液(CSF)濃度の減少;
c)血中または中枢神経系(CNS)における単球分極の、好ましくはCCL17および/またはCCL18血漿または血清またはCSF濃度の増加を証拠とする修復機能に関連したM2表現型への移行、および/または
d)生存の増大および機能低下速度の低下
を誘導する、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項14】
前記治療が
a)前記対象の生物学的サンプルからのベースライン(すなわち、低用量ヒトIL-2治療の開始日)において、
i)Tregの数または頻度(血中)および/またはTregの免疫抑制機能、
ii)CCL2の血清または血漿またはCSF濃度、および/または
iii)CCL17および/またはCCL18の血清、血漿またはCSF濃度
を測定すること、
b)ヒトIL-2投与の反復分離サイクルまたは連続的メトロノームヒトIL-2投与を含む、本発明による第1の投与スキームに従って前記対象にヒトIL-2を投与すること、
c)薬物関連有害事象を監視し、治療サイクル終了の1~3日後または連続的メトロノームヒトIL-2投与の少なくとも7日後に採取した対象の生物学的サンプルからのベースライン時と同じパラメーターを測定すること、ならびに
d)結果が許容できる場合には第1の投与スキームを継続すること、または工程c)の結果に応じて第2の投与スキームを計画すること
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのヒトIL-2。
【請求項15】
工程a)がCCL2の血清または血漿またはCSF濃度、好ましくは、CCL2の血清または血漿濃度を測定することを含む、請求項14に記載の使用のためのヒトIL-2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の分野にある。本発明は、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)に関し、その対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)である。ヒトIL-2は、好ましくは、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2の皮下注射として投与される。この治療は、好ましくは、リルゾール治療下にもある対象への制御性T細胞の投与を含まない。投与されるヒトIL-2は、好ましくは、抗hIL-2抗体と複合体を形成せず、この治療は好ましくはまた、対象へのラパマイシンまたはエフェクターT細胞(Teff)の他のいずれの抑制剤の投与を含まない。ALS対象における低用量IL2治療は、(i)Teffよりも制御性T細胞抑制的制御を増大させること、(ii)血漿CCL2濃度を低下させること、(iii)血中マクロファージの分極をM1炎症性表現型から組織修復に関与する抗炎症性M2表現型へ変化させること、および(iv)全体的なALS関連の細胞変性活性を低下させることを可能とする。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、致命的な神経筋疾患であり、容赦なく進行する衰弱、筋肉の消耗、および運動機能の喪失を臨床的特徴とする。20年前にリルゾールが導入されたにもかかわらず(Bensimon G et al N Engl J Med 1994; 330: 585-91)、その後の治験では、より効果的な疾患修飾療法を提供できなかった。
【0003】
ALSにおける多くの創薬の失敗は、主にALSが複雑な疾患であり、検証済みの予測動物モデルがないという事実に関連している。特に、トランスジェニック変異体SOD1(mSOD1)マウスがALS動物モデルとしてよく使用されるが、このモデルで得られた肯定的な結果は全て、ALSのヒト対象に対する効率的な治療法にはならなかった(DiBernardo AB et al. Biochimica et Biophysica Acta 1762 (2006) 1139-1149; van den Berg LH et al. Neurology 2019;92:e1610-e1623)。
【0004】
神経炎症プロセスは、ALS対象の顕著な病理学的特徴である。ミクログリア細胞の活性化は、全ての病期におけるALSの病理で(Troost D et al. Neuropathol Appl Neurobiol 1990; 16: 401-10; Kawamata T et al. Am J Pathol 1992; 140: 691; Engelhardt JI et al. Arch Neurol 1993; 50: 30-6; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)、またトランスジェニックSOD1 ALSマウスで(Engelhardt JI et al. Arch Neurol 1993; 50: 30-6; McGeer PL et al. Muscle Nerve 2002; 26: 459-70; Hall ED, Oostveen JA, Gurney ME. Glia 1998; 23: 249-56)証明されており、マクロファージに典型的なサイトカインの発現が臨床症状に先行する(Alexianu ME et al. Neurology 2001; 57: 1282-9; Hensley K et al. J Neurochem 2002; 82: 365-74)。さらに、神経炎症のバイオマーカーはALS患者で上昇しており、疾患の重症度と相関があり、疾患の進行を予測することが示されている(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346; Tateishi T et al. J Neuroimmunol. 2010 May;222(1-2):76-81)。
【0005】
ALS病因への神経炎症の寄与の証拠には説得力があるが(Evans MC et al. Mol Cell Neurosci 2013; 53: 34-41; Zhao W et al. J Neuroimmune Pharmacol Off J Soc NeuroImmune Pharmacol 2013; 8: 888-99)、現在まで、ALSの臨床状況における神経炎症反応を修正する治療の試みは全て失敗した(Appel SH et al. Arch Neurol 1988; 45: 381; Drachman DB et al. Ann Neurol 1994; 35: 142-50; Tan E et al. Arch Neurol 1994; 51: 194; Beghi E et al. Neurology 2000; 54: 469-469; Cudkowicz ME et al. Ann Neurol 2006; 60: 22-31; Gordon PH et al. Lancet Neurol 2007; 6: 1045-53; Stommel EW et al. Amyotroph Lateral Scler 2009; 10: 393-404)。しかしながら、これらの治験のほとんどは、神経炎症の非特異的抑制を対象とするものであった。このようなアプローチは、まず第一に、毒性が有益な薬物効果を容易に上回る可能性のあるALS患者に害を及ぼすリスクが高い。
【0006】
これに関連して、全ての免疫を抑制することなく、神経免疫炎症系内の生理学的寛容原性の優位性を強化する新しいアプローチが必要である。
【0007】
CD4+FOXP3+制御性T細胞(Treg)は免疫応答を生理的に調節し、寛容の誘導と維持に寄与し、ひいては自己免疫疾患および炎症性疾患の発症を防ぐ(Sakaguchi S et al. Cell 2008; 133: 775-87)。
【0008】
従前の研究では、ALS患者では、Tregレベルの低下が疾患の重症度の増大と相関し、疾患の進行と生存を予測することが示された(Mantovani S et al. J Neuroimmunol 2009; 210: 73-9; Rentzos M et al. Acta Neurol Scand 2012; 125: 260-4; Henkel JS et al. EMBO Mol Med 2013; 5: 64-79)。レベルの低下に加え、ALS患者のTregはFOXP3の発現レベルが低く(Henkel JS et al. EMBO Mol Med 2013; 5: 64-79)、機能不全であり、それらの機能不全は疾患の重症度の増大と相関することが示された(Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2(5):e89530; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)。従って、ALS患者では、Tregは数が減少するばかりか、FOXP3の発現レベルの障害と相関する重大な機能不全も示し、それらの機能不全は疾患の重症度および進行と相関し、Tregの抑制機能が臨床状態の意味のある指標である可能性があることを示唆している(Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)。
【0009】
Tregは、その生成、活性化および生存をもっぱらサイトカインであるインターロイキン2(IL-2)に依存している(Malek TR, Bayer AL. Nat Rev Immunol 2004; 4: 665-74)。さらに、ヒトエフェクターT細胞(Teff)とは対照的に、ヒトTregは高レベルのCD25を構成的に発現し、IL-2に対する高親和性受容体を形成するため、Teffを刺激するには不十分な低濃度のIL-2に応答する(Dupont G. et al. Cytokine. 2014 Sep;69(1):146-9)。これに基づいて、低用量(ld)のIL-2投与が試験され、マウスおよびヒトにおいて健康なボランティアまたは1型糖尿病の状況で、Tregの選択的増幅を誘導することが示された(Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305 Ito S et al. Mol Ther J Am Soc Gene Ther 2014. 22: 1388-95)。
【0010】
これに基づいて、様々な自己免疫および炎症状態の治療におけるld-IL-2の使用が提案され(WO2012123381A1、WO2014023752A1、WO2016025385A1、WO2016164937A2)、現在、移植片対宿主病(Koreth J et al. N Engl J Med 2011; 365: 2055-66)、HCV誘発血管炎(Saadoun D et al. N Engl J Med 2011; 365: 2067-77)、1型糖尿病(Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305)、円形脱毛症(Castela E et al. JAMA Dermatol 2014; 150: 748-51)におけるld-IL-2の治療可能性を調べるいくつかの臨床試験が報告されている。
【0011】
ALS動物モデルに関しては、マウスIl-2の免疫複合体(IL2と抗IL-2抗体の複合体)とラパマイシンの組合せをトランスジェニックSOD1 ALSマウスに投与すると、生存時間の延長を伴う疾病進行の有意な遅延がもたらされることが示された(Sheean RK et al. JAMA Neurol. 2018;75(6):681-689)。しかしながら、上記に説明したように、ビタミンE(Desnuelle C. et al, Amyotroph. Lateral Scler. Other Motor Neuron Disord. 2 (2001) 9-18)、ガバペンチン(Miller R.G., et al, Neurology 56 (2001) 843-848)、トピラメート(Cudkowicz M., et al, Neurology 61 (2003) 456-464)、セレコキシブ(Cudkowicz M., 15th International Symposium on ALS/MND, Philadelphia, 2004)、およびクレアチン(Shefner J. et al, Neurology 63 (2004) 1656-1661)を含め、新しい候補薬を使用してこのモデルで得られた多くの肯定的な結果は、ヒトALS患者の効率的な治療法とはなり得なかった(DiBernardo AB et al. Biochimica et Biophysica Acta 1762 (2006) 1139-1149; van den Berg LH et al. Neurology 2019;92:e1610-e1623)。
【0012】
さらに、ヒトALS患者のTregはIL-2に対する内因的応答性が損なわれていると主張されており(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)、ld IL-2治療に応答しなくなる可能性があり、これは同じ戦略がALS患者では効果的でないことがあるということを意味する。特に、5人のALS患者における最初のパイロット研究(未発表データ)に基づいて、Thonhoffらは、ldIL-2が臨床転帰を変化させたり、内因性のTregの数を増加させたりすることが見られなかったことを示した(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465のDiscussion §2を参照)。これに基づいて、ALS患者3人のみであるが、ldIL-2投与とともに、ALS患者のTregのエクス・ビボ(ex-vivo)単離とその後のIL-2とラパマイシンの両方を使用した患者のTregのエクス・ビボ増幅、およびその増幅したTregの患者への再注入からなる代替の自己細胞療法処置が機能低下の速度を減じるために提案され、有効であるとされた(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)。
【0013】
しかしながら、3人の患者のみの非盲検非プラセボ対照試験で観察された結果は、ALSの治療効果を示すには明らかに不十分である。さらに、患者のTregを単離し、それらを患者に再注入する前にイン・ビトロ(in vitro)で増幅する必要があるため、そのような治療は非常に高価になり、多くの病院で実施することは不可能である。従って、依然として代替のALS治療の必要があり、これは、効率的であるだけでなく、プロトコールがはるかに単純であるため、ほとんどのALS患者にとって安価で利用しやすいものとなる。
【発明の概要】
【0014】
本発明に関して、本発明者らは意外にも、Tregの単離およびエクス・ビボ増幅の必要なく、低用量ヒトインターロイキン2(ldIL-2)を注射するだけで、Treg数だけでなく、最も重要なことにはそれらの抑制機能においても有意な改善を誘導するのに十分であることを見出した(実施例1参照)。さらに、本発明者らは、ldIL-2がTregの数および機能を増加させるだけでなく、MCP1としても知られるC-Cサブファミリーに属する小さなケモカインである炎症性ケモカインCCL2(実施例1を参照)の血漿濃度に有意な低下をもたらすことも見出し、これはケモカイン受容体2(CCR2)を介してシグナルを伝達し、循環白血球を神経炎症の部位に誘導する。重要なことに、CCL2血漿またはCSFレベルは、ALS疾患スコアと(Nagata T, et al. Neurol Res. 2007 Dec;29(8):772-6)、何よりもALS患者の生存率と(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346)相関し、これによりこれはALS疾患活動性の有用なバイオマーカーとなる。本発明者らはまた、ld IL-2がケモカイン(CCL17、CCL18)の発現をさらに上方調節することができることも見出し、このことはマクロファージの表現型のM1炎症性分極から組織修復に関与する抗炎症性M2表現型への変化を示している(Mantovani A et al. J Pathol 2013; 229: 176-85; Mammana S et al. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19(3), 831、実施例1参照)。
【0015】
最後に、本発明者らは、細胞変性プロセスの全体的な減少が、軸索損傷の非特異的マーカーであるNFLの血漿蓄積の減少をもたらすことを見出した。従って、非常に少数の(5人のみの対象)およびおそらく代表的でない数の対象に基づくThonhoffらの結論とは対照的に、発明者らは、36人(3つの治療群のそれぞれに12人)の対象を含むプラセボ対照並行臨床試験での2用量のldIL-2の3群無作為化(1:1:1)二重盲検一施設試験において、ALS患者へのldIL-2注射が(i)安全で十分忍容され、(ii)Teffsを超えるTregの数および抑制機能の上方調節と(iii)疾患進行の炎症性マーカー(CCL2)の下方調節を可能とし、(iv)単球分極をM1炎症誘発性表現型からM2抗炎症性および組織修復表現型に移行し、かつ、(v)軸索損傷の減少の指標となる、治療に対する血漿NFL応答によって証明されるように、全体的なALS関連の細胞変性活性を低下させることを示した。
【0016】
よって、第1の側面において、本発明は、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)に関し、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】試験プロフィール。ALSFRS-R:筋萎縮性側索硬化症機能評価スコア-改訂;BT:定期的血液検査;Cyt:新鮮血サイトメトリー;SVC:緩徐肺活量;PBMC:末梢血単核細胞;Inj:皮下注射;D:日;ECG:心電図;ITT:治療意図。時間枠は通院時間に相当する。
図2】Tregの数および頻度に対するIL-2治療の効果。A~D 3群(白四角、プラセボ;黒三角、1MIUのIL2;白丸、2MIUのIL2)全ての試験でのTregの頻度(A~B)および絶対数(C~D)の変動。AおよびCデータ点は、それらの関連するSEMの平均値とエラーバーを示す。BおよびD ベースラインと1回の治療サイクル(d8)または3回の治療サイクル(d64)の最終注射の3日後との間での、Tregの数および頻度の変化。データ点は、Treg頻度(B)と数(D)の患者ごとの変化を表す。E~F 試験中のTregのトラフレベルのiAUC。データ点は、Treg数(E)と頻度(F)の関連するSEMの平均値とエラーバーを示す。
図3】ベースライン時(d1)および3回の治療サイクル完了の3日後(d64)に測定されたTreg頻度およびエフェクターT細胞表現型に対するIL-2治療の効果。A~C (A)2MIU、(B)1MIU、および(C)プラセボで治療された個人の抑制アッセイに使用するための、凍結保存されたPBMCから単離されたTregの頻度。D~F エフェクターT細胞でのCD25発現(D)2MIU、(E)1MIU、および(F)プラセボ。G~I (G)2MIU、(H)1MIU、および(I)プラセボで治療した個体におけるTreg不存在下でのエフェクターT細胞の増殖。
図4】Treg表現型および抑制機能に対するIL-2治療の効果。A~C ベースライン時(d1)と3つの試験群:(A)2MIU、(B)1MIU、および(C)プラセボの全てにおける3回の治療サイクル完了の3日後(d64)の、TregでのCD25発現。D~F ベースライン時(d1)と、(D)2MIU、(E)1MIU、および(F)プラセボで治療された個人における3回の治療サイクルの完了の3日後(d64)に測定されたイン・ビトロ共培養アッセイによって測定されたTregの自己抑制機能。(G)3群全てのベースラインレベルに対する3サイクルの治療後のTregの抑制機能の変化。バーは平均値を表し、エラーバーはそれらの関連するSEMを表す。(H~I)3サイクルの治療後の臨床サイトメトリー(x軸)およびTreg抑制機能(Y軸)によって測定されたTreg頻度(H)およびTreg CD35 mfi(I)の相対的変化の間の関係(d1での値に対するd64での値)。白四角はプラセボ、黒三角は1MIUのIL2、白丸は2MIUのIL2を投与した個体を示す。
図5】D64でのTreg活性化マーカーFOXP3、CTLA4、IKZF2およびIL2RA(CD25)のトランスクリプトーム解析。このプロットは、プラセボと比較して、1MIUおよび2MIU ldIL-2を投与された患者におけるTreg活性化マーカーFOXP3、CTLA4、IKZF2およびIL2RAの遺伝子発現の増加を示す。各ボックスは、各治療群間の発現値の分布を表す(分布の最大値、最小値および中央値が各ボックスに示され、3本の水平線として視認できる)。サンプル群間の有意差を特定するために複数のt検定を実行した。凡例:=p値<0.05、**=p値<0.01、***=p値<0.001、****=p値<0.0001。
図6】血漿サイトカイン濃度に対するIL-2治療の効果。A~C CCL2(A)、CCL17(B)およびCCL18(C)の試験中の血漿サイトカインレベルの変動。濃度は各個人のベースライン値に対するパーセンテージとして表され、ポイントは平均値とエラーバー、それらに関連するSEMを示す。白四角はプラセボ、黒三角は1MIUのIL2、白丸は2MIUのIL2を投与された個体を示す。
図7】治療によるD85時の血漿NFLレベルのベースラインからの変化率。バーは、ベースラインからの変化率の平均±semである。灰色の塗りつぶし=プラセボ;ドット=1MIU IL-2;白=2MIU IL-2。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に関して、発明者らは意外にも、エクス・ビボでTregの選択と増幅の必要なく、低用量のヒトインターロイキン2(ldIL-2)を注射するだけで、Treg数だけでなく、最も重要なことにはそれらの抑制機能においても有意な改善を誘導するのに十分であることを見出した。さらに、本発明者らはまた、ldIL-2がTregの数および機能を増加させるだけでなく、MCP1としても知られるC-Cサブファミリーに属する小さなケモカインである炎症性ケモカインCCL2の血漿濃度に有意な低下をもたらすことも見出し、これはケモカイン受容体2(CCR2)を介してシグナルを伝達し、循環白血球を神経炎症の部位に誘導し、ALS疾患スコアと(Nagata T, et al. Neurol Res. 2007 Dec;29(8):772-6)、また、ALS患者の生存率と(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346)相関することが示され、これによりこれはALS疾患活動性の有用なバイオマーカーとなる。本発明者らはまた、ld IL-2がケモカイン(CCL17、CCL18)の発現をさらに上方調節することができることも見出し、このことはマクロファージの表現型のM1炎症性分極から組織修復に関与する抗炎症性M2表現型への変化を示している(Mantovani A et al. J Pathol 2013; 229: 176-85; Mammana S et al. Int. J. Mol. Sci. 2018, 19(3), 831)。さらに、これら全ての変化は、プラセボ群で観察されたものとは対照的に、治療群では、NFL血漿増加の持続的な停止と治療群で並行しており、このことは全体的な細胞変性ALS関連活性に対する持続的なプラスの効果を示している。従って、非常に少数の(5人のみの対象)およびおそらく代表的でない数の患者に基づくThonhoffらの結論とは対照的に、発明者らは、36人(3つの治療群のそれぞれに12人)の対象を含むプラセボ対照並行臨床試験での2用量のldIL-2の3群無作為化(1:1:1)二重盲検一施設試験において、ALS患者へのldIL-2注射が安全で十分忍容され、(i)Tregの数および抑制機能の上方調節を可能とし、(ii)単球分極の抗炎症性表現型への移行を可能とし、(iii)疾患進行のマーカー(CCL2、NFL)の下方調節を可能とする。
【0019】
ヒト対象の筋萎縮性側索硬化症の治療における低用量ヒトIL-2の使用
よって、本発明は、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)に関し、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【0020】
本発明はまた、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するための薬物の製造のためのヒトインターロイキン-2(IL-2)の使用に関し、前記治療中に前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は、前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【0021】
本発明はまた、ヒト対象の筋萎縮性側索硬化症の治療におけるヒトインターロイキン-2(IL-2)の使用に関し、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は、前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【0022】
本発明はまた、ヒト対象において筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのヒトインターロイキン-2(IL-2)を含む医薬組成物に関し、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【0023】
本発明はまた、必要とするヒト対象において筋萎縮性側索硬化症を治療するための方法であって、前記ヒト対象にヒトインターロイキン-2(IL-2)を投与することを含む方法に関し、前記対象に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)であり、前記治療は前記対象への制御性T細胞の投与を含まない。
【0024】
ヒトIL-2
特許請求する治療は、ヒトALS患者への低用量のヒトIL-2の投与に頼るものである。
【0025】
本明細書において、「ヒトインターロイキン2」または「ヒトIL-2」は、天然ヒトIL-2または微生物宿主により産生される組換えIL-2ポリペプチドを含む組換えまたは合成技術によって得られるヒトIL-2を含む、ヒトIL-2のいずれの供給源も表す。天然ヒトIL-2のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、例えば、Pubmed Entrez Gene reference 3558のヒトIL-2遺伝子の説明に開示されている。天然ヒトIL-2タンパク質の参照配列は、NCBI Reference Sequence NP_000577.2(2020年1月5日更新版)に見出すことができ、天然ヒトIL-2 mRNAの参照配列は、NCBI Reference Sequence NM_000586.4(2020年1月5日更新版)に見出すことができる。
【0026】
ヒトIL-2は、天然ヒトIL-2ポリペプチド配列からなり得る、または含み得る、または天然ヒトIL-2ポリペプチドの活性変異体であり得る。好ましくは、組換えヒトIL-2、特に、微生物宿主によって産生される組換えヒトIL-2が使用される。
【0027】
IL-2の活性変異体は、文献に開示されている。天然IL-2の変異体は、その断片、類似体、および誘導体であってもよい。「断片」とは、完全なポリペプチド配列の一部のみを含むポリペプチドが意図される。「類似体」は、1以上のアミノ酸置換、挿入、または欠失を有する天然ポリペプチド配列を含むポリペプチドを表す。変異タンパク質および疑似ペプチドは、類似体の特定の例である。「誘導体」は、任意の修飾天然IL-2ポリペプチドまたはその断片または類似体、例えば、IL-2の特性(例えば、安定性、特異性など)を改善するためにグリコシル化された、リン酸化された、別のポリペプチドまたは分子に融合された、ポリマー化されたものなど、または化学的または酵素的修飾または付加によるものを含む。天然ヒトIL-2ポリペプチドの活性変異体は一般に、天然ヒトIL-2ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する。変異体IL-2ポリペプチドに活性があるかどうかを決定するための方法は当技術分野で利用可能であり、IL-2変異体の例は例えば、EP109748、EP136489、US4,752,585;EP200280、またはEP118617に開示され、これらは参照により本明細書に援用される。活性変異体は、最も好ましくは、Tregを活性化する変異体である。
【0028】
好ましくは、組換えヒトIL-2、すなわち、組換えDNA技術により作製されたヒトIL-2が使用される。ヒトIL-2をコードする組換えDNAを発現させるために使用される宿主生物は、原核生物(大腸菌などの細菌)または真核生物(例えば、酵母、真菌、植物または哺乳動物細胞)であり得る。組換えIL-2を生産するためのプロセスは、例えば、US4,656,132;US4,748,234;US4,530,787;またはUS4,748,234に記載されており、これらは参照により本明細書に援用される。
【0029】
本発明において使用するためのヒトIL-2は、薬学上許容される形態、特に、本質的に純粋な形態、例えば、95%以上の純度、さらに好ましくは96、97、98または99%の純度でなければならない。
【0030】
ヒトIL-2は、医薬用途のものを含めて市販されており、ヒト対象での使用が許可されている。例えば、アルデスロイキン(商標Proleukin(登録商標))は、癌の治療においてFDAにより承認されている遺伝子操作大腸菌株を用いる組換えDNA技術によって生産されたヒトインターロイキン-2遺伝子の類似体である。アルデスロイキンは、以下の点で天然ヒトインターロイキン-2と異なる:
a)アルデスロイキンは、大腸菌から誘導されるので、グリコシル化されていない;
b)この分子はN末端アラニンを有さず;このアミノ酸のコドンは、遺伝子工学的手順の間に欠失された;
c)この分子は、125番のアミノ酸においてシステインに替えてセリン置換を有する。
【0031】
アルデスロイキンは、本発明において好ましくは使用される。
【0032】
しかしながら、
・ヒトIL-2の遺伝子を含む酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の細胞から単離および精製された組換えヒトIL-2の医薬形態であるRoncoleukin(登録商標);
・Shenzhen Neptunusにより販売されている残基125にセリンを有する組換えIL-2であるInterking;
・組換えヒト血清アルブミン(rHSA)に遺伝的に融合された組換えヒトインターロイキン-2(rIL-2)であるAlbuleukin
などの他の組換えヒトIL-2も利用可能である。
【0033】
ヒトIL-2用量および投与スキームおよび経路
上記で説明したように、ヒトTregは、高レベルのCD25を構成的に発現し、休止中のTeffに存在しないIL-2に対する高親和性受容体を形成し、従って、Teffを刺激するには不十分な低濃度のIL-2に応答する。特許請求されている治療は、Tregの数および機能を拡大することを意図しているが、Teffを拡大または刺激することは意図せず、ALS患者に投与されるヒトIL-2の各用量は、0.1×10~3×10国際単位(IU)と低く維持されている。さらに、1型糖尿病の場合、3×10IUまでの用量は安全であることが示されているが、3×10IUという最高用量では、より重篤でない有害事象が発生した(Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305)。ヒトIL-2の各投与量も、潜在的毒性を制限するために、最大で3×10IUに維持する必要がある。
【0034】
上記で説明したように、Tregは、それらの生成、活性化および生存をもっぱらIL-2に依存している(Malek TR, Bayer AL. Nat Rev Immunol 2004; 4: 665-74)。さらに、ヒト患者に投与されるアルデスロイキンの半減期は一般に、約2~3時間である(例えば、Proleukin(登録商標)ラベルを参照)。従って、Treg数と免疫抑制機能の持続的な拡大を得るために、ヒトIL-2は一般に、ALS対象に反復投与される。
【0035】
好ましい態様では、ヒトIL-2は、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2、好ましくは0.2×10~3×10IUのヒトIL-2、0.3×10~3×10IUのヒトIL-2、0.4×10~3×10IUのヒトIL-2、より好ましくは0.5×10~3×10IUのヒトIL-2、0.6×10~3×10IUのヒトIL-2、0.7×10~3×10IUのヒトIL-2、0.8×10~3×10IUのヒトIL-2、0.9×10~3×10IUのヒトIL-2、1×10~3×10IUのヒトIL-2、1×10~2×10IUのヒトIL-2、特に、0.5×10IUのヒトIL-2、1×10IUのヒトIL-2、または2×10IUのヒトIL-2の反復される、好ましくは、皮下注射として投与される。
【0036】
注射は、
・ヒトIL-2注射を行わない期間を挟んだヒトIL-2の1日1回または1日数回の注射の反復サイクルに基づく投与スキーム;および
・連続的メトロノーム投与、すなわち、ヒトIL-2の1日1回または1日数回の注射
を含む様々な投与スキームに従って行うことができる。
【0037】
IMODALS臨床試験(実施例1参照)に関して、Thonhoffらが示唆したこと(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)とは対照的に、D1(サイクル1)の1×10または2×10IU/日のヒトIL-2を1日1回皮下投与で開始する最初の5日間のサイクルは、D29までTregの数および機能を有意に増加させるのに十分であった(図2参照)。さらに、第5週(サイクル2、D29に開始)および第9週(サイクル3、D57に開始)における同一の5日サイクルが投与され(図1参照)、サイクル3中のTregの数と頻度のピークはサイクル1中に観察されたものよりも高く、連続した治療サイクルには累積する可能性のある残留効果があることが示唆される。この示唆は、プラセボと比較して、IL2群のiAUCトラフTregレベル(新しいサイクルを開始する前に残存するTregの変化を測定)が有意に高いことによってさらに裏付けられる(図2E~F、上記の表3および4)。
【0038】
よって、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2、好ましくは、0.2×10~3×10IUのヒトIL-2、0.3×10~3×10IUのヒトIL-2、0.4×10~3×10IUのヒトIL-2、より好ましくは、0.5×10~3×10IUのヒトIL-2、0.6×10~3×10IUのヒトIL-2、0.7×10~3×10IUのヒトIL-2、0.8×10~3×10IUのヒトIL-2、0.9×10~3×10IUのヒトIL-2、1×10~3×10IUのヒトIL-2、0.5×10~2×10IUのヒトIL-2、1×10~2×10IUのヒトIL-2、特に、0.5×10IUのヒトIL-2、1×10IUのヒトIL-2、または2×10IUのヒトIL-2の連続3~7日の1日1回皮下投与のサイクルは、そのサイクル中およびさらに少なくとも最大3週間、Treg数を有意に増加させると思われる。
【0039】
よって、本発明による治療的使用または方法において、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2、好ましくは、0.2×10~3×10IUのヒトIL-2、0.3×10~3×10IUのヒトIL-2、0.4×10~3×10IUのヒトIL-2、より好ましくは、0.5×10~3×10IUのヒトIL-2、0.6×10~3×10IUのヒトIL-2、0.7×10~3×10IUのヒトIL-2、0.8×10~3×10IUのヒトIL-2、0.9×10~3×10IUのヒトIL-2、1×10~3×10IUのヒトIL-2、0.5×10~2×10IUのヒトIL-2、1×10~2×10IUのヒトIL-2、特に、0.5×10IUのヒトIL-2、1×10IUのヒトIL-2、または2×10IUのヒトIL-2の連続3~7日の1日1回皮下投与の数サイクルが対象に好ましくは投与される。より好ましくは、各サイクルは、0.1×10~3×10IUのヒトIL-2、好ましくは、0.2×10~3×10IUのヒトIL-2、0.3×10~3×10IUのヒトIL-2、0.4×10~3×10IUのヒトIL-2、より好ましくは、0.5×10~3×10IUのヒトIL-2、0.6×10~3×10IUのヒトIL-2、0.7×10~3×10IUのヒトIL-2、0.8×10~3×10IUのヒトIL-2、0.9×10~3×10IUのヒトIL-2、0.5×10~2×10IUのヒトIL-2、1×10~2×10IUのヒトIL-2、特に、0.5×10IUのヒトIL-2、1×10~3×10IUのIL-2、または2×10IUのヒトIL-2の連続5日の1日1回皮下投与からなる。
【0040】
各サイクルは、そのサイクル中およびさらに少なくとも約3週間、Tregの数および機能を有意に増大させると思われるので、そのサイクルは好ましくは、2~6週間毎、好ましくは2~5週間毎、より好ましくは2~4週間毎、特に、2、3または4週間毎に投与される。
【0041】
しかしながら、上記の投与スキームは好ましいが、許容できない毒性なくTregの数および機能を有意に増大させることができる他の投与スキームも、当業者であれば、他の状況でのヒトにおける低用量IL-2投与に関する知識に基づいて定義することができる。
【0042】
実際に、ALS患者が機能不全のTregを有していたことを示唆する教示が当技術分野にはあり(Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2(5):e89530; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)、他のヒト患者とは対照的に低用量IL-2投与には応答しなかった(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)が、今般、プラセボ対照並行、2用量のldIL-2の3群無作為化(1:1:1)二重盲検一施設試験で、ALS患者が実際にld-IL-2に有利に応答でき、Tregの数と機能の有意な増大、および何よりもALS疾患活動のマーカーであるCCL2血漿濃度の減少をもたらすことが示された。本発明者らのこの予想外の発見に基づいて、他のヒト対象における低用量IL-2の効果に関する知識は、他の適切な投与スキームを設計するために今般使用され得る。
【0043】
例えば、IMODALS臨床試験では皮下投与が使用されているが、IL-2を静脈内投与すると、Treg数が有意に増加することがヒト癌患者で示されている(Ahmadzadeh M, Rosenberg SA. Blood 2006;107:2409-14)。従って、本発明による治療的使用および方法において、ヒトIL-2は好ましくは皮下または静脈内経路を介して投与される。皮下投与はより容易でより良い忍容性で、IMODALS臨床試験で効率的であることが示されているため、皮下投与はなお好ましい。
【0044】
用量に関して、潜在的毒性を制限するために、各単回用量が3×10IUを超えないようにする必要があるが、IMODALS臨床試験で得られた結果は、ALS患者のTregの数および機能に対する低用量のヒトIL-2の効果が用量依存的であり、5日の各サイクルで、1日1回、2×10IUのヒトIL-2という最高用量で最高の効果が得られる。従って、低用量ヒトIL-2投与の反復および分離サイクルを含む投与スキームを使用する場合、サイクル中、1×10IU~2×10IU、好ましくは2×10IUの1日用量が好ましい。しかしながら、1日用量は、1日1回の投与または数回に分けた低用量のいずれかで投与することができる。例えば、2×10IUの1日用量を達成するために、2×10IUの単回用量を1日1回投与するか、またはこの2×10IUの1日用量を2回以上の低用量に、例えば、2用量の1×10IU(例えば、朝に1回と夕方に1回)、3用量の0.67×10IU(例えば、朝に1回、日中に1回、夕方に3回目)、または4用量の0.5×10IUに分割することができる。1日用量のこのような分割は、2~3×10IUの単回1日用量を1回投与した場合に、有害事象に罹患しているALS患者において特に使用され得る。
【0045】
さらに、IMODALS臨床試験に使用される投与スキームは4週間毎の5日サイクルに基づくが、他の投与スキームも企図され得る。例えば、代替の投与スキームは、
・2サイクルの間がより長期間であるより長期のサイクル;
・2サイクルの間がより短期間であるより短期のサイクル;
・低用量ヒトIL-2の連続的投与(サイクル無し)
に基づき得る。
【0046】
例えば、投与サイクルを使用する場合、各サイクルは3日~7日の間で著しく異なり得るが、より短い(2日など)またはより長い(8、9、10、11、12、13、14日、さらには3または4週間など)サイクルが使用可能である。より短いサイクル(2日など)を使用する場合、3週間毎、2週間毎、10日毎、または毎週など、IMODALSで使用される4週間毎のスケジュールよりも高頻度にサイクルを繰り返すことが好ましい。より長いサイクル(8、9、10、11、12、13、14日、さらには3または4週間など)を使用する場合、IMODALSで使用する4週間毎のスケジュールと同じか、やや低頻度、例えば、4週間毎、5週間毎、6週間毎でサイクルを繰り返すことが好ましい。ただし、ヒトIL-2の効果の持続時間は比較的短いため、サイクル間の期間をあまり長くするべきではない。
【0047】
また、低用量ヒトIL-2の連続的メトロノーム投与(サイクル無し)も企図され得る。低用量ヒトIL-2の反復サイクルに基づく投与スキームは、癌治療から導き出された以前の知識に基づいてIMODALSおよび他の自己免疫疾患で、対象者のための商品として使用されているが、特に、低用量ヒトIL-2の連続投与を可能にするポンプ(糖尿病患者にインスリンを送達するために使用されるものと同様)が使用される場合には、低用量ヒトIL-2の連続的メトロノーム投与がなお考慮され得る。この場合、IMODALSで見られたように、3サイクル後にTregが蓄積する傾向があることを考慮すると(実施例1および図2参照)、0.1×10~2×10IU、好ましくは0.1×10~1.5×10IU、0.1×10~1×10IU、またはさらには0.1×10~0.5×10IUなど、ヒトIL-2のより低い累積1日用量が企図され得る。このタイプの治療は、より高い1日用量のヒトIL-2の悪影響を示すALS患者において特に企図され得る。
【0048】
より一般には、各単回用量は0.1×10~3×10IUの間に含まれるべきであるが、臨床医は許容されない毒性なく効率を観察するために投与スキームを適応させる方法を知っている。特に、所与の投与スキーム(IMODALSおよびMIROCALS 臨床試験で選択されたスキームの1つなど)から開始して、臨床医は、ベネフィット/リスク比を最適化するために、Tregの数または頻度、それらの免疫抑制機能、および/またはCCL2および/またはCCL17および/またはCCL18の血清濃度、血漿濃度または脳脊髄液(CSF)濃度、および潜在的有害事象、および投与スキームを監視することができる(Tregの数または頻度、それらの免疫抑制機能、および/またはCCL2マーカーおよび/またはCCL17および/またはCCL18の血清濃度、血漿濃度または脳脊髄液(CSF)濃度に基づいて効率を改善し、および/または薬物関連有害事象を制限する)。
【0049】
これに関して、本発明の一態様では、治療は、
a)対象の生物学的サンプルからのベースライン時(すなわち、低用量ヒトIL-2治療の開始日)Tregの数または頻度(血中)、および/またはTregの免疫抑制機能、および/またはCCL2の血清濃度または血漿濃度またはCSF濃度、および/またはCCL17および/またはCCL18の血清濃度、血漿濃度またはCSF濃度を測定すること、
b)ヒトIL-2投与の反復分離サイクルまたは連続的メトロノームヒトIL-2投与のいずれかを含む本発明による第1の投与スキームに従って前記対象にヒトIL-2を投与すること、
c)薬物関連有害事象を監視し、治療サイクル終了の1~3日後または連続的メトロノームヒトIL-2投与の少なくとも7日後に採取した対象の生物学的サンプルからのベースライン時と同じパラメーターを測定すること、ならびに
d)結果が許容できる場合には第1の投与スキームを継続すること、または工程c)の結果に応じて第2の投与スキームを計画すること
を含む。
【0050】
工程d)において、ALS患者がコンプライアンスの問題を伴う忍容性の低い有害事象を受けた場合、サイクルまたは連続的1日用量は、例えば、低減するか、いくつかのより低い単回用量に分割する(1日1回の用量の代わりに)ことができる。第1および第2の投与スキームの両方がサイクルに基づいており、サイクル中のヒトIL-2の1日用量が低減されれば、補償するために各サイクルの期間を延長することができる。あるいは、サイクルではなく連続投与を使用する場合は、より低い1日用量で十分であると予想されるので、第2の投与スキームは、サイクルではなく連続投与に基づき得る。
【0051】
逆に、ALS患者が許容されない毒性を受けていないが、Treg数、頻度または免疫抑制機能(疾患進行と負の相関があるマーカー)またはCCL2、CCL17および/またはCCL18の血漿またはCSF濃度(CCL2は疾患進行と正の相関があり、CCL17および/またはCCL18は、炎症誘発性M1表現型から抗炎症性M2表現型へのマクロファージ分極の指標となる)を使用して測定されるように、治療効果が十分でない場合には、ALS患者が治療に応答する可能性を高めるために、サイクルの1日用量または連続投与用量を、対象に投与される各単回用量が最大3×10IUであることを条件に増加させることができる。Tregの数、頻度または免疫抑制機能、およびCCL2血漿濃度またはCSF濃度は、特に疾患の進行と相関しているため、これらのマーカーの少なくとも1つを使用することが好ましい。血漿または血清CCL2の方が、測定が容易で信頼性が高いため、CCL2の血漿または血清濃度がさらに好ましい。
【0052】
CCL2濃度は、血漿、血清またはCSFで測定可能である。測定は、新鮮または凍結(-20℃)血漿または血清またはCSFサンプルで行うことができる。CCL2濃度は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法(MIROCALS試験で行われる通り)またはサイトメトリービーズアッセイ(IMODALS試験で行われる通り)などの固相免疫アッセイを使用して、新鮮または凍結血漿または血清またはCSFで測定される。IL2単位用量の増加は、CCL2濃度が治療前のベースライン濃度の80%を超える(すなわち、治療時に20%未満の減少を示す)場合に考慮される。
【0053】
選択された投与スキーム(上記で説明したように、治療中に変更可能)が何であれ、治療は、好ましくは、対象の生涯にわたって、または許容されない薬物関連の重大な有害事象まで行われる。
【0054】
ヒト対象に投与されない他の治療
本発明の治療的使用および方法において、治療は、対象への制御性T細胞の投与を含まない。実際に、Thonhoff et al. (Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)によって示唆されたこととは対照的に、本発明者らは意外にも、再注射前のTregの単離およびエクス・ビボ増幅の必要なく、低用量ヒトインターロイキン2(ldIL-2)の注射だけで、Treg数だけでなく、最も重要なことに、全てのALS患者の抑制機能においても有意な改善を誘導するのに十分であることを見出した。よって、エクス・ビボでのTregの選択、増幅および再注入を必要としない、特許請求される治療法ははるかに簡単であるため、はるかに安価であり、従って、より多くのALS患者に利用可能である。
【0055】
「制御性T細胞」または「Treg」は、免疫抑制活性を有するTリンパ球である。天然Tregは、CD4CD25Foxp3表現型によって特徴付けられる。Tregはまた、Tエフェクター細胞の増殖を阻害する機能的能力によっても特徴付けられる。
【0056】
ヒトIL-2は、別の治療と組み合わせてALS患者に投与されてもよいが(下記参照)、Tregとの併用治療がないことに加えて、特許請求される治療はまた、以下の治療の1以上と組み合わせないことが好ましい。
【0057】
第1の態様では、Tregとの併用治療がないことに加えて、対象に投与されるヒトIL-2は、抗ヒトIL-2抗体と複合体を形成しない。
【0058】
IL-2/IL-2モノクローナル抗体複合体は、IL-2の生物活性を高めると考えられたため、また、選択された抗IL-2モノクローナル抗体クローンは、低親和性のβγ IL-2Rを発現する細胞(メモリーCD8+細胞またはナチュラルキラー細胞)よりも高親和性αβγ IL-2Rを発現する細胞(CD25hiCD4+Foxp3+Tregおよび活性化エフェクターT細胞)に特異性を付与することを可能にした(Sheean RK et al. JAMA Neurol. 2018;75(6):681-689、方法、“Data Collection From Animal Participants”の節、段落3を参照)ために、SheeanらによりトランスジェニックSOD1 ALSマウスにおいて精製したIL-2ではなく、IL-2と抗IL-2抗体の複合体が使用された。
【0059】
しかしながら、本発明者らは、今般、ALS患者における低用量の非複合体形成ヒトIL-2の投与で、Tregの数、割合および抑制機能を特異的に増大させるのに十分であることを示した(実施例1参照)。
【0060】
結果として、本発明に関して、対象に投与されるヒトIL-2は、抗ヒトIL-2抗体と複合体を形成しないことが好ましい。
【0061】
第2の態様では、Tregとの併用治療がないことに加えて、特許請求される治療は、好ましくは、ラパマイシンともエフェクターT細胞(Teff)を抑制する任意の他の薬剤とも併用されない。
【0062】
トランスジェニックSOD1 ALSマウスでは、Sheeanらは抗IL-2抗体と複合体を形成したIL-2を使用しただけでなく、複合体を形成したIL-2とラパマイシン治療を組み合わせた。ラパマイシンは、特にエフェクターT細胞(Teff)の拡大を抑制することが知られている免疫抑制薬であり、Sheeanらによって、活性化された表現型を有するTreg細胞を特異的に拡大するため、および免疫抑制機能を発揮するために、IL-2/抗IL-2複合体と組み合わせて使用され、この組合せは、Tエフェクター細胞の増殖を阻害してTregの選択的増幅を可能にすることから、不可欠であると考えられる(Sheean RK et al. JAMA Neurol. 2018;75(6):681-689、方法、Data Collection From Animal Participants”の節、段落3を参照)。
【0063】
しかしながら、本発明者らは、今般、ラパマイシンなどのTeffの免疫抑制剤の併用投与なく、ALS患者に低用量の複合体を形成していないヒトIL-2を投与するだけで、Tregの数、割合および機能を特異的に増大させるのに十分であることを示した(実施例1参照)。
【0064】
結果として、本発明に関して、Tregとの併用治療がないことに加えて、特許請求される治療は、好ましくは、ラパマイシンともエフェクターT細胞(Teff)を抑制する任意の他の薬剤とも併用されない。
【0065】
「エフェクターT細胞」または「Teff」は、Treg以外の全てのCD4細胞を含む。特に、Teffは、FOXP3を構成的に発現しない。
【0066】
好ましい態様では、Tregとの併用治療がないことに加えて、対象に投与されるヒトIL-2は抗ヒトIL-2抗体と複合体を形成せず、特許請求される治療は、ラパマイシンともTeffを抑制する任意の他の薬剤とも組み合わせられない(上記に開示される通り)。
【0067】
ヒト対象に好ましく投与される他の治療
現在、ALSの治療に利用可能な唯一の治療薬は、リルゾール(2-アミノ-6-(トリフルオロメトキシ)ベンゾチアゾール、CASナンバー1744-22-5、商標Rilutek(登録商標))、すなわち、下式の化合物である。
【化1】
【0068】
1995年にFDAによってALSの治療薬として承認されたリルゾールは、1年生存率の9%の絶対増加に相当する2~3か月という短い中央値の生存利益と関連していることが示されている(Miller RG, et al. Cochrane Database of Systematic Reviews 2012, Issue 3. Art. No.: CD001447)。
【0069】
この短い生存利点は満足のいくものではないが、やはり治療を受けないよりは良く、従って、ほとんどのALS患者はリルゾールによって治療される。
【0070】
よって、本発明の好ましい態様では、低用量ヒトIL-2を用いる本発明の治療は、好ましくは、前記対象にリルゾールを投与することをさらに含む。
【0071】
ALSでは、リルゾールは一般に、100mg/日の1日用量経口経路で使用され、約12時間間隔で50mgの2回の等用量で摂取される。毒性がある場合には、約12時間間隔で25mgの2回の等用量で摂取される経口経路による50mg/日の1日用量などより低い1日用量を使用することができる。
【0072】
従って、本発明の治療がリルゾール治療と組み合わされる場合、リルゾールは、好ましくは、約12時間間隔で25mg~50mgの2回の等用量で摂取される、50mg~100mgの1日用量で経口投与される。
【0073】
抗鬱薬(ALS患者が抑鬱症状に苦しんでいる場合)、鎮痛薬(痛みを制限するため)、抗コリン作動薬(唾液過多症の場合)、および抗生物質(細菌感染の場合)を含む、ALS患者に通常投与されるさらなる任意の治療を、本発明に関してALS患者にさらに投与することができる。
【0074】
治療の生物学的効果
実施例1に示すように、本発明者らは、今般、ヒトALS患者において低用量ヒトIL-2を投与するたけで、
・Tregの数/頻度を拡大すること、およびそれらの抑制機能を改善すること(特に、図2~5および表4と5を参照)、ならびに
・マクロファージの分極を炎症誘発性M1表現型から抗炎症性M2表現型へ変化セルこと
ができる。
【0075】
特に、IMODALS臨床試験は、ヒトALS患者において低用量ヒトIL-2を投与するだけで、以下の両方が可能である。
・炎症性ケモカインCCL2の血漿濃度を低下させること(特に、図6A参照)
CCL2は、MCP1としても知られるC-Cサブファミリーに属す小さな炎症性ケモカインであり、これはケモカイン受容体-2(CCR2)を介してシグナルを伝達し、循環白血球を神経炎症の部位へ誘導し、疾患スコアと(Nagata T, et al. Neurol Res. 2007 Dec;29(8):772-6)、また、生存率と(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346)相関することが示されている。
よって、CCL2濃度はALS患者の疾病進行に対する効果の指標となる。
・CCL17および/またはCCL18の血漿濃度を上昇させること(特に、図6Aおよび図6B参照)。
CCL17およびCCL18は、主として抗炎症性M2分極マクロファージによって発現されるケモカインである(Katakura T, et al. J Immunol. 2004 Feb 1;172(3):1407-13; Schraufstatter IU, et al. Immunology. 2012 Apr;135(4):287-98)。よって、CCL17および/またはCCL18濃度の上昇は、マクロファージ分極の炎症誘発性M1表現型から抗炎症性M2表現型への変化の指標となる。
【0076】
従って、本発明に関して、治療は、好ましくは、以下のことを目的に行われる:
・Tregの数の増加を誘導し、Tregの免疫抑制機能を改善する;
・CCL2血漿または血清または脳脊髄液(CSF)濃度の低下を誘導する;および/または
・好ましくはCCL17および/またはCCL18血漿または血清またはCSF濃度の上昇を証拠とする、血液または中枢神経系(CNS)における単球分極の、修復機能に関与するM2表現型へのシフトを誘導する。
【0077】
このことは以下によって達成され得る:
・上記の生物学的効果のうち少なくとも1つが得られる限り治療を継続すること、
・上記の生物学的効果のうち少なくとも1つを維持するためにヒトIL-2の投与スキームを適合させること(本発明の全てにおいて使用される低用量スキーム内で)(用量および投与スキームに関する上記の節を参照)、および/または
・低用量ヒトIL-2の投与(本発明の全てにおいて使用される低用量スキーム内で)が上記の生物学的効果のうち少なくとも1つをもたらすALS患者を治療するために選択すること。
【0078】
この場合、Tregの数および/または免疫抑制機能、またはCCL2、CCL17、またはCCL18の血漿またはCSF濃度またはそれらの任意の組合せが、低用量ヒトIL-2治療から利益を得るALS患者を選択するためのバイオマーカーとして使用され、次にそれらを低用量ヒトIL-2で治療する。
【0079】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するにすぎない。
【実施例
【0080】
実施例1:筋萎縮性側索硬化症における免疫調節-低用量インターロイキン-2の安全性および活性に関する第II相試験(IMODALS)
低用量ヒトIL-2は、IMODALS第2相臨床試験(clinicalcaltrials.gov NCT02059759)においてALS患者で試験された。
【0081】
患者および方法
試験計画および参加者
このプラセボ対象並行、2用量のld-IL-2の3群無作為化(1:1:1)二重盲検一施設試験は、36人のALS患者を含んだ。試験プロトコールは独立した倫理委員(Le Comite de Protection des Personnes Sud Mediterranee III; reference number: 2014.09.01 ter)により承認され、clinicalcaltrials.gov NCT02059759で宣言され、El Escorial改訂版ALS診断基準(Brooks BR, et al. Amyotroph Lateral Scler Other Motor Neuron Disord 2000; 1: 293-9)によって定義されるように可能性大、可能性大であり検査所見で裏づけられる、または確実なALSを有する75歳未満の成人向けに計画された。主要選択基準は、疾患期間が5年未満で、リルゾール治療で3か月以上安定しており、肺活量が正常の70%以上であることからなった。重度の心臓または肺疾患、癌、その他の生命を脅かす疾患、呼吸器または摂食補助、感染の臨床的徴候、陽性血清学(サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、またはヒト免疫不全ウイルス)、自己免疫疾患(無症候性橋本甲状腺炎を除く)の患者、臨床的に重大な検査異常(コレステロール、トリグリセリド、ブドウ糖を除く)、または機能評価を妨げる他の疾患は除外され、最初の試験的投与の8週間前にワクチン接種を受けた患者も除外した。全ての患者は、研究に参加する前に署名済みのインフォームドコンセントを提出した。
【0082】
無作為化およびマスキング
割り当ては、Webベースの包含および無作為化(ブロッキングを伴う)アプリケーションを介して行い、盲検化が保証された(それ以外の場合は試験に関与していない統計学者が無作為化リストを作成した)。ブロック(3)のサイズは、盲検を解除するまで、すべての参加者に公開されなかった。臨床治療ユニット(CTU)の準備とラベル付けは、唯一の非盲検試験参加者である薬剤師によって行われた。全ての研究室アッセイが完全に盲検化された。サンプルは、データを作成する研究室には知らされていない無作為化番号、試験の時間(サンプリング時点の数=7)、または治療群(プラセボ、1MIU IL-2、2MIU IL-2)に対応するバーコードによってのみ識別された。
【0083】
手順
調査医が選択すると、ベースライン評価が実施され、ルーチンの血液学および生化学、緩徐肺活量、改訂ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)、胸部X線、心電図(ECG)および甲状腺機能を含んだ(図1)。無作為化後(1日目の最初の投与の2週間前まで)、患者は5日サイクルの1日1回の皮下注射を開始し、5日サイクルを5週目と9週目の2回繰り返し、患者ごとに合計3サイクルの治療とした(図1)。最後の治療サイクルの後、全ての患者は安全性モニタリングのためにさらに3か月追跡調査した。
【0084】
Proleukin(登録商標)(アルデスロイキン)22MIUバイアルは、Novartis-pharma Franceから購入した。臨床試験ユニットの医薬製剤は、無作為化に従って0.5mlのプラセボ(注射製剤用ブドウ糖D5%溶液)または1MIUまたは2MIUのIL-2を含有する、視覚的に区別できない1mlポリプロピレン注射器からなった。
【0085】
6か月の試験期間中に実施された評価を図1に示す。バイタルサイン、併用薬および有害事象は、各訪問時に評価した。緩徐肺活量は、現行の推奨事項に従って評価した(https://www.encals.eu/outcome-measures)。
【0086】
臨床的免疫表現型分析
臨床フローサイトメトリーは、採血の2時間以内に新鮮な血液で実施した。末梢血をEDTAチューブに採取し、モノクローナル抗体の2つのパネルで染色して、CD3、CD4、CD8および制御性T細胞(Treg;CD4CD25CD127low/-FoxP3)、NK細胞(CD16/56)、Bリンパ球(CD19)および単球(CD14)を識別した。B細胞、NK細胞、およびCD3T細胞は、全リンパ球に対するパーセンテージとして表し、CD4およびCD8T細胞は、CD3細胞のパーセンテージとして表す。TregおよびエフェクターT細胞(Teff)(CD4およびTregの差として計算)は、CD4細胞に対するパーセンテージとして表す。単球は、CD45+白血球のパーセンテージとして表す。
【0087】
機械的免疫表現型分析
各試験訪問時に、20mlの血液をヘパリンナトリウムチューブに採取し、末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、凍結保存した。Treg機能の分析のために、凍結保存されたPBMCを解凍し、モノクローナル抗体のカクテル(下記参照)で染色し、500個の選別されたCD4CD25-/loCD127エフェクターT細胞(Teff)をCD4CD25highCD127low Tregの存在下または不在下、様々な比率(Treg:Teff 0:1、1:2および1:1)で1×10個のCD19B細胞と共培養することによってV底96ウェルプレートで抑制アッセイを確立した。細胞をPHA(4μg/ml;Alere)で刺激し、37℃、5%COで6日間インキュベートした。増殖は、共培養の最後の20時間に0.5μCi/ウェルの[H]チミジン(PerkinElmer)を添加することによって評価した。条件を6回反復して実施し、増殖測定値(1分あたりのカウント[CPM])の平均を取った。Teffウェルのみからの平均増殖が3,000CPM未満のサンプルはいずれも除外した。各培養における抑制率は、下式を使用して計算した:抑制率=100-[(Tregの存在下でのCPM÷Tregの不在下でのCPM)×100]。個人からの全ての時点を同時に分析した。
【0088】
臨床的免疫表現型分析および機械的免疫表現型分析に使用したフローサイトメトリー抗体の詳細
臨床的免疫表現型分析および機械的免疫表現型分析に使用した抗体は下表1に記載の通り。
【0089】
【表1】
【0090】
白血球におけるTreg活性化マーカーのトランスクリプトーム分析
LeukoLOCK Total RNA Isolation System(ThermoFisher)を使用して、患者の血液からRNAを単離した。全血をLeukoLOCKフィルターで濾過して白血球を捕捉し、これらをRNAlaterで凍結保存した(-80℃)。次に、これらの細胞からRNAを抽出し、質と量を測定した。続いて、標準プロトコールに従って、RNAを一本鎖DNAに変換し、Clariom Dマイクロアレイ(Affymetrix)に適用した。全てのアレイを正規化し、Transcriptome Analysis Console(TAC)(Affymetrix)を使用して転写レベル(遺伝子発現レベル)の変化を決定した。処理されたサンプルの転写産物は、倍数変化が1.2以上およびp値=<0.05で増加または減少した場合、プラセボと有意に差次的に発現したと定義した。差次的に発現する遺伝子のいくつかは、Tregの調節と発生に関連していた。
【0091】
血漿サイトカインの決定
血漿サイトカイン分析を-80℃の凍結血漿サンプルで実施した。CCL2およびCCL17血漿サイトカインレベルをMultiplexビーズアッセイ(Luminex Human HS Cytokine Panel-R&D Systems)により、CCL18をELISA(Quantikine ELISAキット(DCL180B、R&D Systems))により測定した。
【0092】
血漿NfLの決定
ニューロフィラメント軽鎖(NFL)の血漿濃度は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して評価した。より正確には、ヒト血清中のNF-lightの定量的測定は、Meso Scale Discovery(MSD)によって行った。MSD GOLDプレート(L45SA-1-MSD)を、0.05M炭酸バッファー、pH9.5(w/v、2/10000)中、4℃で一晩、30μlの補足抗体(27016-UmanDiagnostics、1:880希釈)でコーティングした。これらのプレートを0.1%Tween 20/1×TBS洗浄バッファーで3回すすぎ、100μlの3%Milk/1×TBSで室温(RT)にて1時間ブロッキングした。ロード前に、標準とサンプルをHeteroblockと混合した(それぞれ1:34 SD300および1:17 SD 600)。25μlの全てのサンプルを洗浄した後、標準および品質対照を2反復でロードした。次いでプレートをシェーカー上で1時間(RT)インキュベートした。洗浄(3×5分)後、25μlの検出抗体(27017-UmanDiagnostics、1%ミルク洗浄バッファーで希釈した1:1282希釈液)を各ウェルに加え、シェーカー(RT)上で1時間インキュベートした。次に、ウェルあたり25μlのストレプトアビジンSULFO-TAG(R32AD-5、MSD)をシェーカー(RT)上で1時間インキュベートする前にプレートを洗浄した(3×5分)。洗浄(3×5分)後、150μlの2倍リードバッファーを各ウェルに加えた。このプレートをMSD機で読み取った。各プレートにはキャリブレーター(0~1000pg/mL)および品質対照を含んだ。アッセイ間分散係数はほとんど10%未満であり、平均アッセイ内分散係数は10%未満であった。
【0093】
血漿NFLもシモア法を用いて分析した。血漿中のNfL濃度は、従前に詳細に記載されているように(Gisslen M, et al. EBioMedicine. 2015 Nov 22;3:135-140)、単一分子アレイ プラットフォーム(Quanterix、レキシントン、MA)で所内ELISAを使用して測定した。サンプルは4倍希釈を用いて1回で実施し、これを最終結果の出力に対して補正した。各実施の最初と最後に2つのQCサンプルを2反復で実施した。濃度10.9pg/mLのQCサンプルの場合、再現性は3.7%であり、中間精度は5.4%であった。濃度168pg/mLのQCサンプルの場合、再現性は2.9%であり、中間精度は3.4%であった。測定は、臨床データを知らされていない委員会認定の検査技師によって実施された。
【0094】
転帰
主要な薬力学的転帰は、臨床フローサイトメトリーによって測定された8日目のCD4 Tリンパ球のパーセンテージとしてのTregの変化であった。二次的な薬力学は、全ての時点でのTregの数とパーセンテージであり、増加する曲線下面積(iAUC)としての表現、および疾患活動性のマーカーとしてのCCL2およびニューロフィラメント軽鎖(NFL)の血漿レベルが含まれる。探索的分析には、フローサイトメトリーによる白血球集団の数と頻度の測定、ならびにTreg細胞機能検査が含まれた。ケモカイン産生プロファイル(CCL17およびCCL18)の分析を通じて、治療に応答した単球分極を調査した。安全性は、所定の事象(注射部位反応、インフルエンザ様症状、倦怠感、胃腸症状、アレルギー反応)、異常なバイタルサイン、ECG結果、胸部X線、臨床検査、および試験中に報告された全ての有害事象の体系的なチェックを通じて評価した。副次的な臨床転帰として、試験を通じて臨床機能(ALSFRS-Rおよび緩徐肺活量-SVC)の経時変化を評価した。
【0095】
サンプルサイズ
従前のデータ(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018; 5: e465)は、各群6人の患者がpα=0.05でTregの60%増加を検出するために88%の検出力を達成したことを示した(マン・ホイットニー検定)。疾患活動性への影響も主な関心事であるため、この数値が血漿NFLへの影響を観察するのに十分であり得ることを示唆する従前のALS試験に基づき(Gaiottino J, et al. PloS One 2013; 8: e75091)、3か月および6か月で血漿NFLの40%の減少を検出するために、pα(両側)=0.05で80%の検出力を達成するために、各群12人の患者を保持した(マン・ホイットニー検定)。
【0096】
暫定的な安全性データは、最初の12人の患者が含まれ、最初の治療サイクルが完了し、その後8日目に評価された後に1回評価した(一次有効性)。この報告は、試験の終了まで非公開で維持された。
【0097】
統計分析
カテゴリー変数は、絶対頻度および相対頻度として記述される。量的変数は、平均、中央値、標準偏差および範囲によって要約される。フローサイトメトリーのパラメーターは、D8(一次基準)およびD64でのベースラインからの変化として分析し、すなわち、各時点とベースラインD1の間の絶対差であり、最初のサイクル(D1、D8、D29)および3番目のサイクル(D57、D64、D85)の経時的測定の免疫細胞の全体的な変化は、増分時間正規化曲線下面積(iAUC、台形法を使用)からそれぞれD1値またはD57値を差し引いたものとして要約し、トラフ値のiAUCtは、D1、D29、D57およびD85において測定された値からD1を差し引いたものを使用して計算した。好酸球数は、サイトメトリーパラメーターと同じ方法で分析した。ALSFRS-R測定値は、D1からD85までの回帰勾配によって要約した。SVCとNFLについては、D85とベースラインD1の間の絶対差を分析した。CCL2、CCL17およびCCL18については、D64でのベースライン正規化値を分析した。
【0098】
クラスカル・ウォリス検定を使用して、3つの試験群間の差を検定した。p<0.05で有意差が検出された場合は、検出された差を特定するためのペアワイズ比較にマン・ホイットニー検定を使用した。
【0099】
転帰変数の変化が用量レベル全体で常に増加しているかどうかを評価する一元配置分散分析を使用して、要約尺度(summary measure)の用量反応関係を分析した(線形傾向検定)。
【0100】
結果
試験の実施
2015年9月21日から12月4日に、39人の患者がスクリーニングされた。そのうち3人は除外され、36人が無作為化された(図1)。12人の選択と1サイクルの治療の後、独立したデータ安全監視委員会は安全上の懸念を認めず、選択を続けた。1例の例外を除いて(図1参照)、無作為化された全患者は、3か月にわたって3サイクルの治療を完全に終え、治療後3か月の追跡調査を行った。無作為化された36人の患者全員が、治療目的集団と安全集団に含まれていた(図1)。試験の主要/副次転帰の臨床測定および検査測定で可能な最大252の評価のうち、1つを除いて全てが分析に利用可能であった(図1)。
【0101】
患者の特徴と病歴
ベースラインの差は統計的に有意ではなかったが、2MIU群の患者は男性に対する女性の比率が高く、疾患の特徴がやや重度であった(臨床パラメーターに関しては以下の表2、ベースライン時の絶対数として表される免疫細胞パラメーターについては表4(D1列)、頻度として表される免疫細胞パラメーターについては表5、およびニューロフィラメントについては表6を参照)。結果に影響を与える明らかな不均衡は群間でやはり確認されなかった。
【0102】
【表2】
【0103】
安全性および忍容性
臨床的忍容性は、IL-2の両用量で満足のいくものであった。全追跡調査中(D1~D169)、薬物関連の重篤な有害事象(SAE)は発生せず、ほとんどの薬物関連の非重篤な有害事象(NSAE)は一過性で軽度~中等度であった(下表3参照)。
【0104】
【表3】
【0105】
治療期間中(D1~D85)、サイクル中にNSAEを呈する患者の頻度は、プラセボのn=3(25.0%)と比較してIL-2群で高く、1および2MIU/日用量でそれぞれn=11(91.7%)およびn=12(100%)であった(表3)。注射部位の局所反応(紅斑、疼痛)は、2つの実薬治療群(注射部位反応を呈した1人を除く全て患者)で同程度の頻度の最も一般的なNSAEであったが、プラセボ群では1人の患者のみがそのような事象を報告した。Il-2治療の特徴であるインフルエンザ様症状(筋肉痛、悪寒、発熱、関節痛を含む)(Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305)が2MIU/日の用量でのみ報告された(25%)。2MIU/日群の1人の患者は、矯正治療に応答しない重度のインフルエンザ様症状のため、3サイクル目の2日間の治療後に治療を中止した(図1参照)。
【0106】
治療サイクル外では、悪心/嘔吐の1例のみが、他のAEの中でも治療に起因していた。前立腺腺腫の既往のある1人の患者(1MIU/日群)は、最終投与の10日後に重度の尿閉を発症し、前立腺手術のために入院を必要とした。その他の事象は、ALS疾患またはその他の既存の状態に関連していた。
【0107】
2MIU/日の群でインフルエンザ様症状を呈する1人の患者で8日目にCRPが上昇し、また別の患者でウイルス感染に関連してD57にCRPが上昇したことを除いて、通常の検査パラメーターに異常は見られなかった。血液学パラメーターに関しては、2MIU/日群のD8およびD64でプラセボと比較して有意に増加した好酸球数を除いて、有意な変化は見られず(下表4および5参照)、1MIU/日でより程度の低い変化が見られ、D64でのみ有意であった。2MIU/日群では、3人の患者が1.5×10/lを超える好酸球の増加を示したが、無症候性のままであり、全てのカウントはD169のベースライン値に近く(群間で有意差はない)、全て通常の範囲内であった。
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
末梢血単核細胞に対するLd IL-2効果
8日目のCD4+Tリンパ球のパーセンテージとしてのTregの頻度の増加の先験的に定義された主要な薬力学的転帰は、2MIU群と1MIU群の両方で有意性が高かった(マン・ホイットニーのU検定によりp<0.0001)(プラセボ(平均[SD]:-0.5%[1.2])と比較した場合、2MIU:平均[SD]:+6.2%[2.2];1MIU:平均[SD]:+3.9%[1.2]、上記の表4および図2A~Bを参照)。両IL-2群の効果サイズは大きかった:2MIU ES=3.7(IC95%:2.3~4.9);1MIU ES=3.5(IC95%:2.1~4.6)。さらに、ベースラインからのTreg頻度の変化を調べると、全てのIL-2レシピエントで明確な違いが見られ(増加範囲23~139%)、プラセボ群(変化範囲-51~9%)との重複はなかった(図2B)。Tregの副次転帰は、その後の治療サイクル中にベースラインおよびプラセボと比較して頻度および絶対数が有意に増加したことを明らかにした(図2A~D、上記の表4および5)。さらに、サイクル3中のピークは、サイクル1中に見られたものよりも高く、連続的治療サイクルには累積的であり得る残留効果があることを示唆する。この示唆は、プラセボと比較して、IL2群のiAUCトラフTregレベル(新しいサイクルを開始する前に残存Treg変化を測定)が有意に高いことによってさらに裏付けられる(図2E~F、上記の表4および5)。一般に、2MIU群では、1MIU群よりもTregピークおよびトラフのレベルが高くなった。Ld IL2はまた、両IL-2群でNK細胞の頻度および数に適度の増加(2MIU群ではD64で数が最大1.7倍増加)、両IL-2群CD8 T細胞数の増加(2MIU群ではD64で数が最大1.4倍増加)、両IL-2群のCD4 Teffの数の増加(2MIU群ではD64で数が最大1.6倍増加)およびd64での2MIU群で単球頻度の減少をもたらした(データは全て上記表4および5に示される)。
【0111】
Tregの表現型および機能の探索的分析は、凍結保存されたPBMCを使用して行われ、主としてベースライン時と3サイクルの治療後(1日目と64日目)の応答に焦点を当てた。本発明者らは、臨床サイトメトリーによって血液において定義されたTregの頻度と、凍結保存されたPBMCからTregを選別した場合との間に良好な相関関係を認めた(R=0.91、p<0.0001)。新鮮な血液での結果と同様に、凍結保存されたPBMCの分析により、3サイクルのIL-2治療後にTregの頻度が有意に増加することが明らかになった(図3A~C)。さらに、同じ日の単一の個人からの全時点のバッチ分析により、治療前後のCD25発現の直接比較が可能になり、治療に応答したTreg上の発現の用量依存的な増加が明らかになった(D1対D64のCD25 MFI中央値および範囲):2MIU=4651、範囲2892~5886と、9015、範囲4220~14446、p=0.002;1MIU=4230、範囲3388~5423と、7778、範囲5564~9037、p=0.001;プラセボ=4105、範囲2992~5656と、3867、範囲1923~5669、p=0.83;図4A~C)。CD25発現の小さいがなお有意な増加が、エフェクターT細胞でも認められた(D1対D64のCD25 MFI中央値および範囲:2MIU=426、範囲116~897対、528、範囲122~948、p=0.02;1MIU=336、範囲132~478対、362、範囲124~577、p=0.001;プラセボ=251、範囲195~919対、263、範囲158~881、p=0.24、図3D~F)。Treg機能は、応答細胞として対応する時点からのエフェクターT細胞を使用したイン・ビトロ共培養アッセイによって評価された。Tregを欠く培養では、応答T細胞の増殖に対するIL-2投与の効果は見られなかった(図3G~I)。しかしながら、本発明者らは、3サイクルのIL-2治療後にTregの抑制機能の増大を認め、1MIU用量で統計的有意性に達した(D1対D64の抑制率%中央値、範囲:2MIU=53%、範囲18~88%対、76%、範囲19~91%、p=0.06;1MIU=65%、範囲23~84対、80%、範囲36~97% p=0.001;図4D~E)。対照的に、プラセボ群ではTreg機能のわずかな減少が見られた(d0対d64の抑制率%の中央値、範囲:プラセボ=73% 範囲53~95%対、59% 範囲32~97%;p=0.07;図4F)。治療期間にわたるTreg抑制機能のパーセント変化を比較すると(ベースライン時の抑制と比較)、プラセボと比較した場合、IL-2で治療した両群間に有意差が認められた(2MIU対プラセボ、p=0.008;1MIU対プラセボ、p=0.005;図4G)。また、本発明者らは、各個人の治療に応じたTreg頻度およびCD25発現の変化とTreg抑制機能の変化との関係を評価した。本発明者らは、これらの測定値と、治療群に基づく個人のクラスタリングとの間に極めて有意な相関関係を認めた(Treg頻度、p=0.0001、R=0.42;Treg CD25 mfi、p=0.001、R=0.33、図4H~I)。
【0112】
白血球トランスクリプトームに対するLd IL-2効果
D64に白血球で得られたトランスクリプトームデータを図5に示し、白血球で次のTreg活性化マーカー(FOXP3、CTLA4、IKZF2およびIL2RA)の遺伝子発現が増加していることを示す。患者が1MIUまたは2MIUで治療された場合、65日目に低用量IL-2治療を3サイクル行った後、非治療(プラセボ)群と比較して、これらの各遺伝子の発現の用量依存的増加が見られた。
【0113】
血漿サイトカイン濃度に対するLd IL-2の効果
本発明者らは、以前にALS(CCL2)またはマクロファージ/ミクログリア分極に関連するもの(CCL17およびCCL18)を有する個人で上昇することが報告されたサイトカイン/ケモカインの血漿レベルを評価した。3回目の治療サイクル(D64)の後、本発明者らは、CCL2の血漿レベルにおいて3群の間で差を認め(p=0.005、図6A)、両有効用量群ともCCL2レベルの用量依存的変化を示し、これは2MIU用量ではプラセボと比較して有意に減少したが(p=0.005)、1MIU用量では統計学的有意性に達しなかった(p=0.06)。本発明者らはまた、CCL17およびCCL18においてD64で治療群間に差を認め(それぞれp=0.00001と0.0028、図6B~C)、プラセボと比較して両治療群で増加が見られた(CCL17:2MIU p=0.0001および1MIU p=0.0138;CCL18:2MIU p =0.0012および1MIU p=0.0094)。これらの結果は、ld IL-2治療が、ALSに関連する炎症マーカーCCL2の減少と、それに伴う単球のM2表現型への移行と関連していたことを示唆する。
【0114】
ALSFRS-R、緩徐肺活量および血漿NFLの経時的変化(D1~D85)によって評価される疾患進行に対するLd IL-2の効果
ALSFRS-Rスコア(クラスカル・ウォリス=4.25、p=NS)、緩徐肺活量(クラスカル・ウォリス=1.07、p=NS)、または血漿NFLレベル(クラスカル・ウォリス=0.34、p=NS)の経時的変化に関して3群に有意差はなかった。NFLの場合、SIMOAアプローチを使用した血漿サンプルの再分析によっても同様の結果が得られた(クラスカル・ウォリス=2.44、p=NS)。しかしながら、集団全体では、これらのパラメーターに3か月の治療期間にわたって統計学的に有意な変化を示すものはなかった-ALSFRS-R(ポイント/月)平均勾配[95%CI]=-0.8[-2.4,+0.8];SVC(予測パーセント)d85におけるd1からの平均変化[95%CI]=-2.2[-23.4,+19.0];d85におけるd1からのNFL-Elisa変化、(pg/ml)平均変化[95%CI]=+0.63[-62.5,+63.7];d85におけるd1からのNFL-SIMOA変化、(pg/ml)平均変化[95%CI]=-1.64[-26.25、+22.97]-これらのパラメーターは、3か月の期間にわたる変化に対する感受性は低かった。
【0115】
さらに、血漿NFLレベルに関して、全ての治療群におけるベースラインレベルの変動が大きいことは(下表6参照)、選択されたサンプルサイズに関する有意な観察を妨げると思われる。
【0116】
【表6】
【0117】
有意な観察がなされないにもかかわらず、D85での血漿レベルの変化には傾向があり、血漿NFLレベルはプラセボ群で増加する傾向があるが(何らかの疾患の進行を示唆する)が、1または2MIU用量で治療したALS患者ではそうではなかったことが示唆される(図7参照)。
【0118】
結論
まず、本発明者らの結果は、2用量のld IL-2が3サイクルにわたってALS患者に臨床的に十分忍容され、治療中止後にそれ以上の安全性問題は検知されなかったことを示す。従前の報告に沿って(Koreth J et al. N Engl J Med 2011; 365: 2055-66; Saadoun D et al. N Engl J Med 2011; 365: 2067-77; Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305; Castela E et al. JAMA Dermatol 2014; 150: 748-51)、本発明者らの所見は、治療毒性に対して特に脆弱なALS患者がld IL-2による反復治療サイクルに耐え得ることを明確に示している。ld IL-2の安全性は、全ての群間、およびプラセボを含む群内で、治療期間にわたってALSFRS-RまたはSVCに有意な悪化がないことによってさらに裏付けられる。
【0119】
第二に、本発明者らは、2MIU群と1MIU群の両方で、Tregの絶対数と相対頻度の両方で有意な用量依存的増加を認めた。これらの結果を1型糖尿病患者における二重盲検無作為化臨床試験で得られた結果と比較し(T1D;Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305)、本発明者らは、ld IL-2に対するTregの応答の大きさは同程度であることを見出し、1MIUで5日間治療した後のCD4細胞のTregパーセンテージ(Treg頻度)は、1.5倍前後の増加であった。
【0120】
注目すべきは、積極的治療中の両群の全ての個人が、Tregの数と頻度の増加を示したことである。従って、ALS患者のTregはIL-2に対する内因性応答性を損なっている可能性があることが示唆され(Thonhoff JR et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflammation 2018)、それらをld IL-2治療に不応答とする可能性があるが、このALS患者のコホートでは、本発明者らは、ld IL-2 に対するTregの応答性に本質的な障害があるという証拠を認めなかった。これは、Thonhoffらによって示唆されていたこととは対照的に、患者のTregの事前の単離、エクス・ビボ増幅および患者への再注入を必要とせずに、ldIL-2を投与するだけでALS患者のTregを有意に拡大できることを意味することから極めて重要である。その簡単さとはるかに低いコストのために、ldIL-2の簡単な投与に基づく提案された治療がはるかに多くのALS患者に利用可能とすることができる。
【0121】
第三に、本発明者らは、Treg応答の増加が5日間の治療サイクルの後に4週間にわたって持続したことを示した。最適な臨床効果にはおそらくTregレベルの持続的な増加が必要になるので、これは重要である。本発明者らは、T1Dの研究(Hartemann A et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2013; 1: 295-305)に基づいて治療スケジュールを選択し、本研究では、Tregの数と頻度がトラフレベル(すなわち、次の治療サイクルの開始前)で大幅に増幅し、また、この増幅がサイクルを繰り返すと増加することを確認している。しかしながら、本発明者らの治療スケジュールがALSの神経炎症を制御するのに最も効果的であるかどうか、または異なる治療スケジュール(例えば、ld IL-2のより頻繁な投与)が治療的により有用であるかどうかはまだ分からない。
【0122】
まとめると、本発明者らの所見は、このALSコホートでは、反復投与によるld IL-2に対する感受性の喪失がなかったことを示唆する。これと一致し、他の報告(Todd JA, et al. PLoS Med. 2016 Oct 11;13(10):e1002139; Hirakawa M, et al. JCI Insight. 2016 Nov 3;1(18):e89278)と一致して、ld IL-2がTreg上でのCD25発現の優先的増加をもたらすことを認めた。これにより投与されたIL-2と内因性のIL-2の両方に対するTreg細胞の感受性が高まり、治療効果が増強され持続する可能性がある。
【0123】
Treg数の変化と治療効果との関連を理解するために、本発明者らはld IL-2投与前後のTreg機能を評価した。実際、ALS患者では、Tregは数が減少するだけでなく、FOXP3の発現レベルも低下し(Henkel JS et al. EMBO Mol Med 2013; 5: 64-79)、機能不全になる(免疫抑制の低下、Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2(5):e89530)ことが示され、FOXP3レベルの低下と免疫抑制機能の低下の両方が疾患進行と相関している(Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2 (5):e89530; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)。本発明者らは、自家共培養アッセイを使用して、FACSで単離されたTregがCD4エフェクターT細胞の増殖を抑制する能力を測定した。私たちの結果は、全体として、ld IL-2による治療がTreg頻度とTreg抑制機能の両方に増加をもたらすことを示す。Treg機能のこの改善は、1MIU群で有意性が高く、全ての個人が機能の増大を示す。2MIU群では、個人間の応答の変動が増加したため、有意傾向(p=0.06)のみが認められた(図4)。ld IL-2の二重の有効性は、Treg頻度の増加と機能との間の有意性の高い相関によって示されるが、本発明者らはまた治療応答に個々の変動も認め、治療を受けた個人にはTreg頻度またはTreg機能のいずれかにより有意な変化を示した者と、両方に増加を示す者がいた。逆に、プラセボ群の個人は、同じ時間枠でTregの頻度または機能のいずれかを喪失する傾向があった。
【0124】
さらに、D64の白血球で得られたトランスクリプトームデータは、白血球で次のTreg活性化マーカー(FOXP3、CTLA4、IKZF2およびIL2RA)の遺伝子発現にIL-2用量依存的な増加があることを示す。これらの結果は、ALS患者におけるld IL2投与がTreg免疫抑制機能を増強するという本発明者らの所見をさらに強化する。さらに、TregのFOXP3発現レベルは疾患進行と相関することが示されているため(Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2(5):e89530; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)、これらの結果は、ALS患者における低用量ヒトIL-2投与の治療効果をさらに裏付ける。
【0125】
ALS疾患活動性の血液マーカーに対するld IL-2の効果に関して、CCL2の血漿濃度の有意かつ用量依存的な低下を見出し、このCCL2は、ケモカイン受容体-2(CCR2)を介してシグナルを伝達し、循環白血球を神経炎症部位に誘導するC-Cサブファミリーに属する小さなケモカインである。CCL2ノックアウトマウスは、自己免疫および炎症のモデルにおいて、神経炎症への循環白血球の浸潤の低下および疾患抵抗性を示し、この経路が病因を促進する役割を果たしていることを示唆する。さらに、ALS患者の神経組織ではCCL2発現レベルの上昇が認められており、発現はマクロファージとミクログリアの浸潤と活性化に関連している(Henkel JS, et al. Ann Neurol. 2004 Feb;55(2):221-35; Baron P, et al. Muscle Nerve. 2005 Oct;32(4):541-4)。体液中のCCL2レベルは、ALS患者でも上昇し(Martinez HR, et al. Neurologia. 2017 Oct 10. pii: S0213-4853(17)30280-3; Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec; 90(12):1338-1346, Gupta PK, et al. J Neuroinflammation. 2011 May 13;8:47; Kuhle J, et al. Eur J Neurol. 2009 Jun;16(6):771-4; Baron P , et al. Muscle Nerve. 2005 Oct;32(4):541-4)、疾患スコア(Nagata T, et al. Neurol Res. 2007 Dec;29(8):772-6)および生存(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346)と相関することが示され、CCL2が疾患活動性の有用なバイオマーカーであることを示している。従って、IMODALSにおけるCCL2の血漿濃度の有意かつ用量依存的な減少の所見は、ALS患者における低用量ヒトIL-2投与の治療効果をさらに裏付ける。
【0126】
興味深いことに、ld IL-2治療はまた、マクロファージ/ミクログリア分極の抗炎症性M2様表現型への変化に合わせて、CCL17およびCCL18の血漿レベルの有意な増加とも関連していた(Katakura T, et al. J Immunol. 2004 Feb 1;172(3):1407-13; Schraufstatter IU, et al. Immunology. 2012 Apr;135(4):287-98)。全体として、マクロファージの活性化炎症性バイオマーカーと分極の変化は、ALSの進行に関連する細胞変性ミクログリアの活性化の制御におけるld IL-2の役割と一致している。
【0127】
Tregは、マクロファージの活性化と分極に影響を与えることが知られており(主としてM2様の表現型へ)(Tiemessen MM, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Dec 4;104(49):19446-51)、これらの変化は、ld IL-2療法によって誘発されたTregの数または機能的能力の増大の直接的な結果である可能性が浮上している。しかしながら、単球-マクロファージ系列の細胞は機能的なIL-2受容体を発現する(Ohashi Y, et al. J Immunol. 1989 Dec 1;143(11):3548-55; Wahl SM, et al. J Immunol. 1987 Aug 15 ;139(4):1342-7)、およびCD25(IL2RA)の発現は炎症状態で増加し(Espinoza-Delgado I, et al. J Immunol. 1992 Nov 1;149(9):2961-8; Dendrou CA , et al. Nat Genet. 2009 Sep;41(9):1011-5)、マクロファージ/ミクログリア分極はこれらの細胞に直接作用するld IL-2の直接的な結果としても起こり得る可能性が浮上している。
【0128】
最後に、治療による血漿ニューロフィラメント軽鎖レベル(NFL)の統計学的に有意な変化は認めることができなかった。従前に公開されているデータに基づき(Gaiottino J, et al. PloS One 2013; 8: e75091)、本発明者らは各群比較的少数の患者で治療効果を検出できるはずであると推定した。しかしながら、この無作為化(かつ厳密な盲検)試験に関して、事後検出力分析は、これが大幅に過小評価されており、NFL血漿レベルで見られた変化を実証するためには、特に、ベースライン時に全ての治療群でNFL血漿レベルに大きな変動がある場合には、はるかに大きなサンプルが必要であったことを示唆している(上記の表6)。しかしながら、統計学的有意性がないにもかかわらず、プラセボ群では血漿NFLが経時的に増加しているのに対し、治療群では増加していないことを示唆する明確な傾向があり、これはld IL2治療に関連した疾患活動性の低下と一致している。
【0129】
結論として、本試験は、ld-IL-2がALS患者において3か月サイクルにわたって安全であることを示す。さらに、本発明者らは、ld IL-2によるTregの数、頻度および機能のin vivo増幅の明確な証拠を提供する。Treg機能は疾患の進行と相関しているため(Beers DR et al. JCI Insight. 2017;2(5):e89530; Thonhoff JR et al. Curr Opin Neurol 2018; 31: 635-9)、これらの結果は、ALS患者におけるld IL-2の治療効果を裏付ける。重要なこととして、ALS患者の血漿およびCSFにおける上昇したCCL2および疾患スコア(Nagata T, et al. Neurol Res. 2007 Dec;29(8):772-6)および生存率(Gille B et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2019 Dec;90(12):1338-1346)との相関に関する従前の所見を鑑みれば、血漿CCL2がld IL-2治療に対して用量依存的に減少するという本発明者らの所見は、ALS患者におけるld IL-2の治療効果をさらに裏付ける。結果として、これらの所見に基づく第2/3相試験が進行中である(MIROCALS、ClinicalTrials.gov NCT03039673、実施例2参照)。
【0130】
実施例2:MIROCALS:免疫応答の修飾およびALSの転帰(MIROCALS)
IMODALS試験で得られた極めて肯定的なデータ、特に疾患進行のマーカーであるCCL2の血漿濃度の有意な低下、およびマクロファージの分極の炎症性M1表現型から抗炎症および修復表現型M2への変化に関するものに従い、ALSに対する低用量ヒトIL-2のプラスの効果を確認するために「MIROCALS」と呼ばれる新規の第II相試験が開始された。
【0131】
患者および方法
「Modifying Immune Response and OutComes in ALS」プロジェクト(MIROCALS)は、ld IL-2治療がCSFニューロフィラメントおよびCCL2レベルの早期変化によって測定されるようなALS患者のニューロン損傷率の低下をもたらす、また、この早期変化は、18か月の治療期間にわたる生存によって評価されるような長期臨床効果を予測するという仮説を概念実証/メカニズム証明(PoC/PoM)試験で検証する。
【0132】
デザイン:これは、低用量IL-2を2MIU/日で4週間毎に5日間、18か月間の、二重盲検、無作為化、層別化(発症の国および施設での)プラセボ対照、並行群試験である。試験の前には、リルゾール治療の安全性と安定性を確立するための3か月の導入期間がある。
【0133】
治療:注射用の0.6mlの2MIUアルデスロイキン溶液または0.6mlの5%ブドウ糖水のいずれかを含有する5本の1ml充填済みポリプロピレン注射器で構成されるすべての治療パッケージは、無菌および温度管理された条件の中央薬局で調製、ラベル付け、包装される。忍容性が低い場合、PIは、患者のコンプライアンスを管理するために、1MIU(0.3ml)または0.5MIU(0.15ml)の柔軟な用量減を処方することが許容される。
【0134】
主要評価項目:18か月の治療期間にわたる長期生存、CSF-pNFHおよびCCL2レベルの早期変化(4か月の治療)。
【0135】
副次評価項目:8か月の治療にわたるld IL-2療法の長期安全性、機能低下に対する有効性(ALSFRS、肺活量)、免疫炎症のケモカインマーカー(CSFおよび血液)、免疫細胞測定法(血液))、およびpNFHレベル(CSFおよび血液)。
【0136】
補助試験:ld IL-2応答患者および非応答患者のゲノミクスおよびトランスクリプトミクスプロファイリングによる薬物介入のための新しい生体分子標的。
【0137】
測定:主要な検査室測定(CSFおよび血中のpNFHおよびCCL2、ならびに血液免疫細胞測定法)は、GCLP条件下の中央検査室で実施される。追加の支持免疫炎症マーカーおよびオミクス調査は学術研究所で実施される。
【0138】
患者の選択基準:導入期間の選択:El Escorialによるデ・ノボ(de novo)患者、可能性大、または可能性大であり検査所見で裏づけられる、または確実なALS、疾患期間≦24か月、肺活量≧正常の70%、以前または現在のリルゾール治療がないこと、署名済みのインフォームドコンセント。
【0139】
RCT期間:疾患期間≦27か月、「以前または現在のリルゾール治療なし」を「3か月間リルゾール治療で安定」に置き換えたことを除いて同じ基準。
【0140】
患者除外基準:腰椎穿刺;その他の生命を脅かす疾患;機能評価を妨げる他の疾患;過去5年以内の癌(安定した非転移性基底細胞皮膚癌または子宮頸部の上皮内癌を除く);重度の心疾患または肺疾患;無症候性橋本甲状腺炎を除く、文書化された自己免疫障害、避妊をしていない、または妊娠または授乳中の妊娠可能年齢の女性;臨床的に重大な検査異常(コレステロール、トリグリセリド、グルコースを除く)に対しては禁忌。
【0141】
統計分析:一次有効性分析では、(i)層別ログランク検定を使用し、および(ii)年齢、肺活量、およびALSFRSスコアを含む予後因子候補の調整(Coxモデル分析)に従って生存率について治療群を比較する。無作為化からM4へのpNFHおよびCCL2の変化、および免疫細胞測定パラメーターは、分散/共分散分析(ANOVA/ANCOVA)を使用して分析される。関数(ALSFRSおよびSVC)の反復測定の分析は、有益な打ち切りデータの共同ランク分析法を使用して実施する。
【0142】
患者数:pα(両側)=0.05で検出力>0.80となるように、全体で216人の患者を各群108人の患者で無作為化し、18か月で17%の死亡率の絶対差を検出する(プラセボ予想生存率:ld IL-2群で0.65対0.82)、これは死亡リスクの54%の減少を表す(RR ld IL-2/PLA=0.46)。適格な選択から無作為化までの10%の減少率を考えると、約240人の患者がスクリーニングされるべきである。
【0143】
期待される患者または公衆衛生上の利益
IMODALSで得られた結果、特に疾患活動性マーカーの血漿濃度におけるldIL2のプラスの影響(すなわち、CCL2およびNFLの減少)、ならびに改善されたTreg抑制機能およびマクロファージ分極の炎症性のM1表現型から抗炎症性および修復表現型M2への移行を含む免疫炎症パラメーターの変化に基づけば、低用量ヒトIL-2皮下注射の反復サイクルを含む治療からALS患者の生存率の有意な改善と機能低下速度の低下が期待される。
【0144】
ALSの病因に関する知識が乏しく、予測的前臨床モデルが存在しないため、ALS の薬物試験では、(i)臨床効果の試験、および(ii)薬物評価を正当化する病原性の仮説の検定の2つの目的が追求されている。しかしながら、「標準的な」試験では、薬剤の失敗が誤った仮説によるものか、標的経路への薬物関与が不十分なのか、用量が効果的でないかを知る手段はない。薬物に対する薬力学および疾患活動性応答の両方を定量化するバイオマーカーを設計に含め、ハードな臨床評価項目の生存率でそれらの代替項目を調べることにより、ld IL-2の臨床的有効性に関する高レベルの証拠、裏付けとなるPoC/PoM証拠の追加が達成されるべきである。従って、GCP/GCLPの高い品質設定と合わせて、本試験は臨床結果に関して規制当局の最適な承認を提供するはずである。さらに、この設計は、試験されている病原性仮説の証拠の強さを決定するが、オミクスアプローチは、薬物効果、関与する経路、および疾患プロセスとの相互作用の深い理解を提供し、最終的には新薬開発、さらには治療の進歩への道を開く。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】