(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】新規なラパコニチン誘導体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07D 221/22 20060101AFI20230413BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20230413BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230413BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20230413BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230413BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20230413BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230413BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230413BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230413BHJP
【FI】
C07D221/22 CSP
A61P19/10
A61P19/02
A61P19/00
A61P19/08
A61P1/02
A61K31/439
A61P29/00 101
A61P43/00 111
A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554603
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 KR2021002757
(87)【国際公開番号】W WO2021182806
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0028973
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518355308
【氏名又は名称】キュージェネティクス カンパニー リミテッド
【住所又は居所原語表記】#504, Seoul Industry-Academia Bio Center 23, Kyungheedae-ro, Dongdaemun-gu Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ムン・ソグ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】テ・ヒ・イ
(72)【発明者】
【氏名】ハ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ビン・ミン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD05
4B018MD10
4B018MD18
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4B018ME05
4B018MF08
4C086AA01
4C086AA02
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4C086AA04
4C086BC27
4C086MA01
4C086MA04
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4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZA96
4C086ZA97
4C086ZB15
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、新規なラパコニチン誘導体、その製造方法及び骨形成促進活性を用いた薬学的用途に関する。前記ラパコニチン誘導体は、幹細胞の造骨細胞への分化を誘導し、骨粗しょう症動物モデルに投与すると、骨密度を増加させ、骨折動物モデルでは骨形成を誘導するので、骨粗しょう症などの骨関連疾患の予防、改善または治療用途に加えて、物理的外傷による非疾患性骨折の治療に有用に使用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物、その立体異性体、その水和物、その溶媒和物、またはその薬学的に許容可能な塩:
【化1】
前記化学式1において、R
1及びR
2はそれぞれ独立して水素、C1-C6アルキル、チオアルキル、アリールアルキル、ヒドロキシアルキル、ジヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルキルアリールアルキル、ジヒドロキシアルキルアリールアルキル、アルコキシアルキル、アシルオキシアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、アルコキシカルボニルアミノアルキル、アシルアミノアルキル、アリールスルホンアミドアルキル、アリル、ジヒドロキシアルキルアリル、ジオキソラニルアリル、カルアルコキシアルキル、メチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル及びフェニルからなる群から選ばれる。
【請求項2】
下記化学式1で表される化合物、その立体異性体、その水和物、その溶媒和物、またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む骨疾患の予防または治療用薬学的組成物:
【化2】
前記化学式1において、R
1及びR
2はそれぞれ独立してH、C1-C6アルキル、チオアルキル、アリールアルキル、ヒドロキシアルキル、ジヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルキルアリールアルキル、ジヒドロキシアルキルアリールアルキル、アルコキシアルキル、アシルオキシアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、アルコキシカルボニルアミノアルキル、アシルアミノアルキル、アリールスルホンアミドアルキル、アリル、ジヒドロキシアルキルアリル、ジオキソラニルアリル、カルアルコキシアルキル、メチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル及びフェニルからなる群から選ばれる。
【請求項3】
前記骨疾患は、骨粗しょう症、骨折、関節リウマチ、歯周炎、骨軟化症、骨減少症、骨萎縮、骨関節炎、骨欠損、骨溶解及び骨壊死症からなる群から選ばれる、請求項2に記載の骨疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記化学式1で表される化合物は、幹細胞の造骨細胞への分化を促進する、請求項2に記載の骨疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記化学式1で表される化合物は、RUNX2(runt-related transcription factor 2)、BMP2(bone morphogenetic protein 2)及びオステオカルシン(osteocalcin)からなる群から選ばれる骨形成マーカーの発現を増加させる、請求項2に記載の骨疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の化合物を有効成分として含む骨疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項7】
前記化学式1で表される化合物は、幹細胞の造骨細胞への分化を促進する、請求項6に記載の骨疾患の予防または改善用食品組成物。
【請求項8】
(a)ラパコニチンを酸化剤と反応させる段階と、
(b)前記(a)の結果物を塩基の存在下で有機溶媒と反応させる段階と、を含む、請求項1に記載の化合物を合成する方法。
【請求項9】
前記(a)の酸化剤は、ヨードベンゼンジアセタート(PhI(OAc)
2、酢酸鉛(II)(Pb(CH
3CO
2)
2)、酢酸鉛(II)(Pb(CH
3CO
2)
4)、オゾン及びHIO
4からなる群から選ばれる化学式1で表される、請求項8に記載の化合物の合成方法。
【請求項10】
前記(b)の塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれる化学式1で表される、請求項8に記載の化合物の合成方法。
【請求項11】
前記(b)の有機溶媒は、脂肪族アルコールまたはアルコキシアルコールである化学式1で表される、請求項8に記載の化合物の合成方法。
【請求項12】
請求項2に記載の薬学的組成物を治療を必要とする個体に投与する段階を含む、骨疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジテルペノイドアルカロイド(diterpenoid alkaloid)系列に属する新規なラパコニチン誘導体、その製造方法及び骨形成促進活性を用いた薬学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
漢方薬剤である付子(Aconiti Lateralis Radix)の成分のうち一つであるアコニチン(aconitine)は、アルカロイド(alkaloid)系列に属する化合物で毒性の強い物質である。しかし、付子を煎じ薬として煎じると毒性が減少する現象と同様に、この化合物に直接熱を加えると、ジアセチレーションやジベンゾイレーションにより毒性の弱いベンゾイルアコニンやアコニンなどの化合物に変わることになる。このような原理に起因して熱処理により毒性が緩和された付子(加工付子または精製付子)は、神経痛患者の炎症と痛みを減らす薬剤として使用されてきた(Xu et al.,J Ethnopharmacol 2006)。
【0003】
これとは別にアコニチンのようなジテルペノイドアルカロイド(diterpenoid alkaloid)系列に属し、似たような化学構造を有するジオキシアコニチン、メサコニチン、ハイパコニチン、ラパコニチンなど数百種の様々なアルカロイド化合物が半合成及び構造確認を通じて研究されており、これらの生理活性についても続々と明らかになっている(Turabekova et al.,Environ Toxicol Pharmacol.2008)。例えば、Shaanxi科学技術大学は、ラパコニチンの4位炭素位置にある2-アセトアミノベンゾイルグループを取り外し、様々なシンナミック誘導体(cinnamic derivatives)を取り付けると、抗がん活性を示すという結果を公開し、同じ大学では、4位と8、9位の官能基を変更させて様々な化合物を合成した(梁承 et al.,CN107540680A、2018年1月5日公開)。ロシアのVladimirovich博士もラパコニチンの4位に多様な芳香族化合物を取り付けた誘導体の炎症作用を確認した(S.V.Vladimirovich、WO2017/209653 A1)。
多くのアルカロイド化合物の中で、ラパコニチンは、抗不整脈、抗炎、抗酸化、抗がん及び抗てんかんなどの様々な効能を有することが知られている(Wang et al.,Chem Pharm Bull.2009)。本発明者らは、ラパコニチンの新しい薬理活性を研究していたところ、ラパコニチンを加水分解して新しい構造の化合物を製造し、新規化合物が骨形成(osteogenesis)を促進することを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、骨形成促進機能及び骨粗しょう症治療能を有する新規なラパコニチン誘導体、その製造方法及びそれを有効成分として含む骨疾患の予防、改善または治療用薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物、その立体異性体、その水和物、その溶媒和物、またはその薬学的に許容可能な塩を提供する。
【0007】
【0008】
本発明の一具体例によれば、前記化学式1において、R1及びR2はそれぞれ独立して水素、C1-C6アルキル、チオアルキル、アリールアルキル、ヒドロキシアルキル、ジヒドロキシアルキル、ヒドロキシアルキルアリールアルキル、ジヒドロキシアルキルアリールアルキル、アルコキシアルキル、アシルオキシアルキル、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、アルコキシカルボニルアミノアルキル、アシルアミノアルキル、アリールスルホンアミドアルキル、アリル、ジヒドロキシアルキルアリル、ジオキソラニルアリル、カルアルコキシアルキル、メチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル及びフェニルからなる群から選ばれてもよい。ここで、「アルク-」または「アルキル」は、側鎖状または線状として好ましくは、C1-C3アルキルであり、ここで、炭素鎖は任意にエーテル(-0-)結合が介入されてもよい。
【0009】
本発明の一具体例によれば、前記化学式1の化合物は、(2aR,2a1S,3S,4aS,8S,11S,11bS,12S)-6-エチル-4a,8-ジヒドロキシ-3,11-ジメトキシ-テトラデカヒドロ-8,11a,5-(エピエタン[1,1,2]トリル)サイクロペンタ[7,1]インデノ[5,4-b]アゾシン-1,2-ジオン(化2)である。
【0010】
【0011】
本発明において、前記化学式1の化合物は、化学式1で表される化合物、その薬学的に許容可能な塩だけでなく、その水和物、溶媒和物、立体異性体及び放射性誘導体を含む。
【0012】
前記「薬学的に許容可能な塩」とは、純粋な医学的判断の範囲内で過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを引き起こすことなく、ヒト及び下等動物の組織と接触して使用するのに適しており、親化合物の生物学的活性と物理学化学的性質に悪影響を与えない塩を意味する。前記薬学的に許容される塩は、当分野でよく知られている。例えば、文献(S.M.Berge、et al.,J.Parmaceutical Sciences、66、1、1977)に詳細に記述されている。塩は、本発明の化合物を最終的に分離及び精製する間に同じ反応系で製造するか、または別途に無機塩基または有機塩基と反応させて製造してもよい。適切な付加塩の形態は、例えば、アンモニウム塩、リチウム、ソジウム、ポタシウム、マグネシウム、カルシウムなどの塩のようなアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)、有機塩基との塩、例えば、1次、2次及び3次脂肪族及び芳香族アミン、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、4つのブチルアミン異性体、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、キヌクリジン、ピリジン、キノリン及びイソキノリン、ベンザチン、N-メチル-D-グルカミン、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、ヒドラバミン塩、及びアルギニン、リジンなどのアミノ酸との塩などである。
【0013】
本発明において、前記化学式1の化合物の水和物または溶媒和物は、通常の方法で製造されてもよく、例えば、化学式1の塩基化合物を水、メタノール、エタノール、アセトン、1,4-ジオキサンなどの溶媒に溶かした後、遊離酸または遊離塩基を加えた後に結晶化または再結晶化して製造されてもよい。
【0014】
また、前記化学式1の化合物は、1つまたはそれ以上の非対称の中心を持つことができ、このような化合物の場合、鏡像異性体または部分立体異性体が存在してもよい。したがって、本発明の化合物には、各異性体またはこれらの異性体混合物を含む。また、異なる異性体は、通常の方法により分離されるか、または分解されるか、あるいは任意の異性体は、通常の合成法により、または立体特異的または非対称的合成により得ることができる。また、本発明の化合物は、前記化で表される化合物の放射性誘導体を含み、これらの放射性化合物は、生体研究分野において有用である。
【0015】
本発明において、前記化学式1の化合物は、下記段階を含む方法により製造されてもよい。
【0016】
(a)ラパコニチンを酸化剤と反応させる段階、及び
(b)前記(a)の結果物を塩基の存在下で有機溶媒と反応させる段階。
【0017】
本発明の一具体例によれば、前記(a)のラパコニチンは、ラパコニチン臭化水素であってもよく、この場合、(a)段階は、ラパコニチンを酸化剤と反応させる前に臭素化水素を除去する過程をさらに含んでもよい。例えば、ラパコニチン臭化水素から臭化水素を除去する過程は、下記反応式1のように塩基の存在下でジクロロメタン(CH2Cl2)を使用して行われてもよい。
【0018】
【0019】
その後、ラパコニチンは、下記反応式2のように酸化剤と反応して酸化され、ラパコニチン誘導体(LAD)を生成しうる。前記酸化剤は、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶かしたヨードベンゼンジアセタート(PhI(OAc)2または酢酸鉛(II)(Pb(CH3CO2)2)、酢酸鉛(II)(Pb(CH3CO2)4)、オゾン及びHIO4からなる群から選ばれてもよい。
【0020】
【0021】
本発明において、前記合成されたラパコニチン誘導体(LAD)は、塩基の存在下で有機溶媒と反応して前記化学式1の化合物を生成しうる。前記塩基は、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム及び水酸化カリウムからなる群から選ばれてもよく、前記有機溶媒は、脂肪族アルコールまたはアルコキシアルコールであってもよい。
【0022】
前記脂肪族アルコールは、CH3(CH2)nOH(nは、0または正の整数である)の一般式で表されるアルコールをいい、アルコキシアルコールは、CH3(CH2)nO(CH2)nCH3(nは、互いに独立して0または正の整数である)の一般式で表されるアルコールをいう。例えば、前記脂肪族アルコールは、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどであってもよく、アルコキシアルコールは、メトキシメタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノールなどであってもよい。
【0023】
例えば、前記ラパコニチン誘導体(LAD)は、下記反応式3のように水酸化ナトリウムの存在下でエタノールと反応して化学式1の化合物(QG3030)を生成しうる。
【0024】
【0025】
本発明において、前記方法で合成された化学式1の化合物は、一般的な分離及び精製過程、例えば有機溶媒で希釈及び洗浄した後、有機層を減圧濃縮して分離されてもよく、必要な場合、管クロマトグラフィー及び様々な溶媒を使用した再結晶法で精製されてもよい。
【0026】
本発明者らは、抗炎、抗酸化、抗がんなどの効能を有するラパコニチンの新しい薬理活性を研究していたところ、ラパコニチンを加水分解して前記化学式1の新規化合物を合成し、この化合物が骨形成促進活性を有することを確認した。
【0027】
したがって、本発明の他の態様は、前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む骨関連疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0028】
前記薬学的組成物において、前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、その水和物、溶媒和物、立体異性体及び放射性誘導体を含む。
【0029】
本発明の一具体例によれば、前記化学式1の化合物は、幹細胞の造骨細胞への分化を促進し、RUNX2(runt-related transcription factor 2)、BMP2(bone morphogenetic protein 2)及びオステオカルシン(osteocalcin)からなる群から選ばれる骨形成マーカーの発現を増加させて骨形成を助けることができる。前記幹細胞としては、間葉系幹細胞、造血幹細胞、脂肪幹細胞、骨髄幹細胞などが用いられてもよい。
【0030】
本発明において、前記骨疾患は、骨粗しょう症(osteoporosis)、骨折(bone fracture)、関節リウマチ、歯周炎、骨軟化症(osteomalacia)、骨減少症(osteopenia)、骨萎縮(bone atrophy)、骨関節炎(osteoarthritis)、骨欠損、骨溶解(osteolysis)及び骨壊死症からなる群から選ばれてもよく、好ましくは、骨折及び骨粗しょう症であってもよい。
【0031】
本明細書で使用される用語の「骨折」とは、身体を支える骨が交通事故、転倒、産業災害及びその他の物理的刺激により折れた状態を意味する。
【0032】
本明細書で使用される用語の「骨粗しょう症」は、骨を構成するミネラル(特にカルシウム)と基質が減少して骨組織の微細構造が退化し、結果として骨折のリスクが持続的に増加する状態をいう。骨粗しょう症の種類としては、閉経後の骨粗しょう症及び老人性骨粗しょう症などの1次性骨粗しょう症と骨の形成と減少に影響を及ぼす疾病、薬物、飲酒、喫煙などで発生する2次性骨粗しょう症がある。
【0033】
本発明の薬学的組成物は、有効成分として前記化学式1の化合物を含むことに加えて、薬剤の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤及び希釈剤をさらに含んでもよい。本発明の薬学的組成物に含まれてもよい担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスペイト、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、タルク、マグネシウムステアレート及び鉱物油などがある。
【0034】
本発明の薬学的組成物を製剤化する場合には、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製される。経口投与用固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれて、このような固形製剤は、本発明の組成物に少なくとも一つ以上の副形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調製される。また、単純な賦形剤に加えて、マグネシウムステアレート、タルクなどの潤滑剤も使用される。経口用液状製剤としては、懸濁剤、内容液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィンの他に様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与用製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、エチルオレートなどの注射可能なエステルなどが用いられてもよい。
【0035】
本発明の薬学的組成物は、経口または非経口で投与されてもよく、本発明の組成物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者により適切に選ばれてもよい。例えば、前記化学式1の化合物の投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態及び疾病の程度によって異なり、体重が70kgの成人患者を基準とすると、一般的に1日に0.01mg~5000mg投与されてもよい。前記投与量は1日1回ないし数回に分けて投与されてもよく、前記投与量は、いかなる点でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
また、本発明は、前記薬学的組成物を治療を必要とする個体に投与する段階を含む骨疾患の治療方法を提供する。骨疾患の種類、薬学的組成物の投与量は、前記骨疾患の予防または治療用薬学的組成物に記載されているものと同じである。
【0037】
本発明において、骨疾患の予防または治療用薬学的組成物を経口投与する場合、経口投与用薬学的組成物は、経口投与用固形製剤、半固形製剤または液状製剤であってもよい。経口投与用固形製剤は、例えば、錠剤、丸剤、硬質または軟質カプセル剤、散剤、細粒、顆粒、溶液または懸濁液再構成用粉末、ロゼンジ、ウェハ、口腔フィルム(oralstrip)ドラジェ(dragee)及びチューインガム(chewable gum)などがあるが、これに制限されるものではない。経口投与用液状製剤には、液剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ剤、エリキシル剤、酒精剤、芳香水剤、レモネード剤、エキス剤、沈殿剤、チンキ剤及び薬油剤を含む。
【0038】
本発明において、骨疾患の予防または治療用薬学的組成物を注射剤として使用する場合、骨疾患部位に直接注入されてもよく、注射剤として製剤化するとき、血液と等張の無毒性緩衝溶液を希釈剤として含んでもよく、例えば、pH7.4のリン酸緩衝溶液などがある。注射剤は、緩衝溶液に加えてその他の希釈剤または添加剤を含んでもよい。
【0039】
また、本発明の一具体例によれば、コラーゲンスポンジなどの賦形剤と前記薬学的組成物を混合した後、骨折部位に移植して個体を治療してもよい。
【0040】
本発明の他の態様は、前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む骨疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0041】
前記食品組成物において、前記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、その水和物、溶媒和物及び立体異性体を含む。
【0042】
前記食品組成物は、前記骨疾患の予防または治療用薬学的組成物と同じ成分を使用するので、それらの間で重複する内容は、明細書の過度な記載を避けるために省略する。
【0043】
本発明において、前記食品組成物は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、シロップ、飲料または丸の形態で提供されてもよく、有効成分である化学式1で表される化合物に加えて、他の食品または食品添加物とともに使用され、通常の方法により適切に使用されてもよい。有効成分の混合量は、その使用目的、例えば、予防、健康または治療的処置により適切に決定されてもよい。
【0044】
前記食品組成物に含まれる有効成分の有効用量は、前記薬学組成物の有効用量に準じて使用できるが、健康及び衛生を目的とするか、または健康調節を目的とする長期間摂取の場合、前記範囲以下であってもよく、有効成分は、安全性の点で何ら問題がないため、前記範囲以上の量でも使用できることは明らかである。
【0045】
前記食品組成物は、食品製造時に通常添加される成分を含み、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味剤及び香味剤を含む。上述した炭水化物の例は、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖など、ジサッカライド、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など、及びポリサッカライド、例えば、デキストリン、シクロテキストリンなどの通常の糖及びキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。香味剤として天然香味剤及び合成香味剤を使用してもよい。例えば、本発明の食品組成物がドリンク剤として製造される場合には、本発明の有効成分の他にクエン酸、液状果糖、砂糖、ブドウ糖、酢酸、リンゴ酸、果汁などをさらに含んでもよい。
【0046】
本発明のさらに他の態様は、前記化学式1で表される化合物を用いた試験管内の造骨細胞分化誘導用組成物を提供する。
【0047】
本発明の一具体例によれば、前記化学式1で表される化合物を間葉系幹細胞に処理すると、カルシウムとミネラル生成が増加するので、幹細胞の造骨細胞への分化が促進されうる。
【発明の効果】
【0048】
本発明のラパコニチン誘導体は、幹細胞の造骨細胞への分化を誘導し、骨粗しょう症動物モデルに投与すると骨密度を増加させ、骨折動物モデルの骨折部位に注入すると骨形成を促進するために骨折外傷の回復を促進でき、骨形成を誘導するので、骨折及び骨粗しょう症などの骨関連疾患の予防、改善または治療用途に有用に使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、本発明の一例によるラパコニチン誘導体(QG3030)の構造を示す。
【
図2a】
図2aは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)を処理した後、カルシウム(アリザリンレッド)及びミネラル生成(フォンコサ)のレベルを確認したものである。
【
図3a】
図3aは、間葉系幹細胞に様々な濃度のラパコニチン誘導体(QG3030)を一定時間処理した後、RUNX2の発現変化を確認したものである。
【
図3b】
図3bは、間葉系幹細胞に様々な濃度のラパコニチン誘導体(QG3030)を一定時間処理した後、BMP-2の発現変化を確認したものである。
【
図4a】
図4aは、間葉系幹細胞に様々な濃度のラパコニチン誘導体(QG3030)を一定時間処理した後、オステオカルシンの発現変化を蛍光顕微鏡で確認したものである。
【
図5a】
図5aは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)を処理した後、様々なリン酸化酵素のリン酸化レベルを確認したものである。
【
図5b】
図5bは、
図5aのリン酸化レベルをグラフで表したものである。
【
図6】
図6は、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)と様々なリン酸化酵素阻害剤をともに処理した後のカルシウムレベルを確認したものである。
【
図7a】
図7aは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)を0~24時間処理した後、リン酸化されたERK(pERK)のレベルを確認したものである。
【
図7b】
図7bは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)を7日間処理した後、リン酸化されたERK(pERK)のレベルを確認したものである。
【
図7c】
図7cは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)を14日間処理した後、リン酸化されたERK(pERK)のレベルを確認したものである。
【
図8a】
図8aは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)とERK阻害剤(PD98059)をともに処理した後、RUNX2の発現変化を蛍光顕微鏡で確認したものである。
【
図8c】
図8cは、間葉系幹細胞にラパコニチン誘導体(QG3030)とERK阻害剤(PD98059)をともに処理した後、リン酸化されたERK(pERK)のレベルを確認したものである。
【
図9a】
図9aは、骨粗しょう症動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した日程と実験群の種類を示す。
【
図9b】
図9bは、骨粗しょう症動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、大腿骨の骨断面を確認したものである。
【
図9c】
図9cは、骨粗しょう症動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、大腿骨の骨密度を確認したものである。
【
図10a】
図10aは、骨粗しょう症動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、骨形成レベルを確認したものである。
【
図10b】
図10bは、骨粗しょう症動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、RUNX2の発現レベルを確認したものである。
【
図11】
図11は、骨折動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した方法を概略的に示したものである。
【
図12a】
図12aは、骨折動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、ラット腸骨の骨断面を確認した結果である。
【
図12b】
図12bは、骨折動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、ラット腸骨の骨形成度を確認した結果である。
【
図13】
図13は、骨折動物モデルにラパコニチン誘導体(QG3030)を投与した後、骨形成レベル(A)及びコラーゲンの発現レベル(B)を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、1つ以上の具体例を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、1つ以上の具体例を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
製造例:QG3030の製造
1-1.ラパコニチンの製造
ラパコニチン・臭化水素(10.08g、0.017mol)にジクロロメタン(500ml)、水酸化ナトリウム溶液(NaOH10g+水100g)を入れ、分液漏斗を用いて水層と有機層を分離した。分離した有機層を水で数回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、蒸留させて所望のラパコニチンを収率89%(8.90g)で得た。
【0052】
1H-NMR(CDCl3、400MHz)δ10.98(s、1H)、8.60(d、J=8.4Hz、1H)、7.86-7.83(m、1H)、7.42(t、1H)、6.95(t、1H)、3.52-3.37(m、2H)、3.36-3.35(m、2H)、3.36(s、J=7.1Hz、3H)、3.22(s、3H)、3.13(s、3H)、3.11-3.09(m、2H)、2.60-2.46(m、10H)、2.15(s、3H)、2.14-1.73(m、6H)、1.74-1.68(m、1H)、1.74-1.70(m、1H)、1.06(t、J=6.8Hz、3H);
【0053】
13C-NMR(CDCl3、100MHz)δ169.02、167.39、141.6、134.34、131.07、122.31、120.19、115.76、90.10、84.62、84.13、82.89、78.57、75.56、61.48、57.89、56.52、56.10、55.50、50.85、49.86、48.97、48.51、47.61、44.76、36.28、31.83、26.77、26.20、25.53、24.12、13.53;
【0054】
HRMS(ES+):m/z calculated for C32H44N2O8:585.3098[M+H]+.
Found 585.3176.
【0055】
1-2.ラパコニチンからラパコニチン誘導体(LAD)の製造
ヨードベンゼンジアセタート(PhI(OAc)2(14.07g、0.044mol)をジメチルホルムアミド(DMF、150ml)に溶かした溶液にラパコニチン(8.9g、0.015mol)をゆっくり加えて10分間撹拌した。反応が完結すると、酢酸エチル(EA)で溶液を希釈させて飽和したソディウムバイカーボネイト(NaHCO3)水溶液で抽出した。水で有機層を数回洗浄してジメチルホルムアミドを除去した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥して減圧蒸留した。得られた粗抽出物(crude product)をカラムクロマトグラフィー(diethyl ether:ethyl acetate:hexane=3:2:5)を通じて分離し、所望のラパコニチン誘導体(lappaconitine derivative、LAD)である{(3S,6S,7S,9S,11S,16S)-1-エチル-6,9,11-トリメトキシ-8,13-ジオキソドデカヒドロ-2H-3,6a,14-(エピエタン[1,1,2]トリイル)-7,10-メタノシクロデカ[b]アゾシン-3(4H)-イル2-アセトアミノベンゾアート}を収率25.7%(2.3g)で得た。
【0056】
1H-NMR(CDCl3、400MHz)δ10.99(s、1H)、8.62(d、J=8.4Hz、1H)、7.89(d、J=9.6Hz、1H)7.47-7.43(m、1H)、7.01-6.99(m、1H)、3.88-3.64(m、4H)、3.65(s、3H)、3.41(s、3H)、3.18(s、3H)、2.90-2.25(5、4H)、2.20(s、3H)、2.19-1.80(m、4H)、1.15(t、J=7.0Hz、3H);
【0057】
13C-NMR(CDCl3、100MHz)δ211.85、204.31、169.10、167.40、162.18、143.74、141.74、134.61、131.07、122.41、120.30、115.45、86.92、82.75、81.45、78.21、76.28、60.73、58.17、57.37、54.35、52.98、50.19、48.78、46.06、45.92、38.41、32.06、25.56、25.39、25.36、12.72;
【0058】
HRMS(ES+):m/z calculated for C32H42N2O8:583.3018[M+H]+.
【0059】
Found 583.2941.
【0060】
1-3.LADからQG3030の製造
100mlの3口丸底フラスコにLAD(2.3g)、水酸化ナトリウム溶液(NaOH0.7g+水5.1g)及びエタノール(51ml)を加えて1時間還流させた。反応完結後、エタノールを蒸留させて酢酸エチルで管クロマトグラムを行い、最終化合物であるQG3030{(2aR,2a1S,3S,4aS,8S,11S,11bS,12S)-6-エチル-4a,8-ジヒドロキシ-3,11-ジメトキシ-テトラデカヒドロ-8,11a,5-(エピエタン[1,1,2]トリイル)シクロペンタ[7,1]インデノ[5,4-b]アゾシン-1,2-ジオン}を収率62.5%(1.4375g)で得た。
【0061】
1H-NMR(DMSO-d6、400MHz)δ8.88(s、1H)、4.65(s、1H)、4.35(s、1H)、4.27-4.20(9m、1H)、4.10-4.00(m、1H)、3.60(s、1H)、3.35(s、3H)、3.20(s、3H)、3.10-2.99(m、1H)、2.85-2.19(m、6H)、1.99-1.50(m、7H)、1.05(t、J=7.0Hz、3H);
【0062】
13C-NMR(CDCl3、100MHz)δ201.20、149.88、148.78、83.25、79.92、79.50、67.87、62.74、60.20、58.10、53.23、49.55、48.86、47.88、46.92、42.39、38.43、13.56;
【0063】
HRMS(ES+):m/z calculated for C32H31NO6:406.2151[M+H]+.
【0064】
Found 406.2242;X-ray structure.
【0065】
1-4.QG3030の構造確認
前記製造例1-4で得られたQG3030を水で再結晶させ、X-線回折(X-raydiffraction)で適当な結晶を得た後、これを用いてX-ray構造(X-ray Diffractometer、R-AXIS RAPID)を確認した。その結果を
図1及び表1に示した。
【0066】
【実施例】
【0067】
実験例1:QG3030の効能確認(in vitro)
1-1.MSCにおいてQG3030の骨細胞分化能の確認
骨の生成に関与する造骨細胞(osteoblast)は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSC)から外部の刺激及び様々な信号伝達に関連する転写因子により分化して生成される(Garg et al.,Orthop Surg.2017)。そこで、QG3030がヒトMSCから造骨細胞の分化を誘導できるかどうかを実験した。
【0068】
米国ATCCから正常人のMSCを購入し、MSC特異培地(Gibco)で培養した。培養した細胞をトリプシンで分離して遠心分離した後、24-ウェルプレートに3×104/ウェル濃度で分注した。翌日、MSC培養培地を実験用培地であるDMEM培地(DMEM/10% FBS/penicillin/streptomycin)と交換し、細胞にQG3030単独(0.1μM)または陽性対照群であるOIM(osteogenesis-inducing medium;StemPro Osteogenesis Differentiation Kit、 ThermoFisher Scientific Inc.)を処理した。その後、細胞培養培地を毎日新しいDMEM培地に交換し、QG3030またはOIMを処理して3週間培養した。培養終了後、カルシウムを探知するアリザリンレッド(Alizarin Red)とミネラル生成を探知するフォンコッサ(Von Kossa)で細胞を染色した。
【0069】
染色の結果、造骨細胞分化陽性対照群であるOIMと同様に、QG3030がヒトMSCにおいてカルシウムとミネラルの生成を引き起こすことが確認できた(
図2a及び2b)。この結果は、QG3030が細胞レベルでMSCを造骨細胞に分化させることができることを意味する。
【0070】
1-2.MSCにおいてRUNX2とBMP2の発現変化の確認
RUNX2(runt-related transcription factor 2;core-binding factor alpha、Cbfa1)は、骨形成の最も重要な転写調節因子で、骨形成の過程で造骨細胞の分化、マトリックス生成及びミネラル化(mineralization)に関与することが知られている(Bruderer M、et al.,Eur Cell Mater.2014)。また、RUNX2のそのものは、サイトカインの一種であるBMP(bone morphogenetic protein)により調節されてもよい(Sun J, et al.,Mol Med Rep.2015)。そこで、QG3030が骨生成関連特異因子の発現を誘導して骨形成(osteogenesis)を誘導するかを確認した。
【0071】
MSCを24-ウェルプレートに3×104/ウェル濃度で分注して24時間培養し、翌日からQG3030を他の濃度(0.001μM、0.01μM及び0.1μM)で7日及び14日間1日1回ずつ処理した。実験終了後、MSCをRUNX2及びBMP-2抗体で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0072】
その結果、QG3030は低濃度(0.001μM=1nM)でもRUNX2及びBMP-2の発現を強く誘導し、このような傾向は濃度が増加するほど強くなることが確認できた(
図3a及び3b)。この結果は、QG3030がヒトMSCにおいて造骨細胞の分化を誘導し、骨形成に関与できることを分子レベルで示す。
【0073】
1-3.MSCにおいてオステオカルシン発現変化の確認
オステオカルシン(osteocalcin)は、造骨細胞でのみ発現され(Leeet al.,Cell 2007)、骨形成の有用なバイオマーカー(biomarker)として使用される(Bharadwaj et al.,Osteoporosis International.,2009)。したがって、QG3030が造骨細胞特異マーカーであるオステオカルシンの発現に及ぼす影響を確認した。
【0074】
前記実験例1-3と同様に実験を行った後、MSCをオステオカルシン抗体で染色して蛍光顕微鏡で確認した。その結果、QG3030は、低濃度(0.001μM)でも処理7日でオステオカルシンの発現を強く誘導し、これは陽性対照群であるOIM処理群と似たようなレベルであった(
図4a及び4b)。
【0075】
1-4.MSCから造骨細胞への分化機作の確認
QG3030がMSCを造骨細胞に分化させる機作を研究するため、関連信号伝達を調査した。
【0076】
実験用DMEM培養培地で培養したMSCにQG3030(1μM)または対照群化合物(DMSO)を処理して24時間培養した。細胞を回収した後、43種のリン酸化酵素のリン酸化形態を特異的に認識する抗体を含有するphosphokinase antibody array kit(R&D Systems)に明示された方法により実験を行った。その後、ImageJ(NIH、USA)プログラムで試料を分析した。
【0077】
分析の結果、対照群であるDMSOと比較して、QG3030がERK、Akt、WNK1などの信号伝達分子のリン酸化(phosphorylation)を強く増加させることが確認できた(
図5a及び5b)。
【0078】
1-5.MSCから造骨細胞への分化機作の確認
QG3030がMSCを造骨細胞に分化させる機作をさらに研究するため、リン酸化酵素阻害剤を用いた実験を行った。
【0079】
MSCを培養した後、リン酸化酵素阻害剤(1μM)及びQG3030(1μM)を同時に処理し、翌日、培地を交換した後、再びリン酸化酵素阻害剤及びQG3030を同時に処理した。これを3週間繰り返した後、MSCをアリザリンレッドで染色した。
【0080】
その結果、QG3030単独処理群と比較して、ERK、P38またはAktを抑制する阻害剤をともに処理した実験群では、QG3030の造骨細胞分化能が抑制されることが確認できた(
図6)。本結果は、QG3030がこれらの酵素の信号伝達を活性化させてMSCの造骨細胞の分化に関与することを意味する。
【0081】
1-6.MSCにおいてERKのリン酸化に及ぼす影響の確認
先行研究によると、ERKとp38を含むMAP-kinase信号伝達機作が造骨細胞の分化に重要な役割を果たす(Greenblatt et al.,MB、Annu Rev Cell Dev Biol.2013)。先行研究と一致するように、前記実験例1-5の結果は、QG3030がERKとp38MAP-kinaseを介してMSCを造骨細胞に分化させる可能性を示す(
図6)。また、実験例1~4の結果は、QG3030がp38よりはERKのリン酸化を通じて造骨細胞の分化を誘導した可能性を示す(
図5a及び5b)。したがって、MSCにQG3030を処理した後、経過時間によるリン酸化されたERKのレベルを確認した。
【0082】
その結果、QG3030処理30分以内にリン酸化されたERK(pERK)のレベルが有意に増加することが確認でき、特異にQG3030処理24時間後にもリン酸化されたERK(pERK)のレベルは、増加した(
図7a)。
【0083】
また、QG3030がERKのリン酸化を長期間誘導することを確認するため、MSCに様々な濃度(0.001、0.01及び0.1μM)のQG3030を処理し、7日と14日後にリン酸化されたERK(pERK)のレベルを確認した。その結果、QG3030を処理したすべての実験群においてリン酸化されたERK(pERK)のレベルが著しく増加し、特に低濃度でも陽性対照群であるOIMよりもリン酸化されたERK(pERK)のレベルをさらに増加させた。このような傾向は、QG3030処理14日以後まで持続し、QG3030がERKのリン酸化を長期間増加させることができることを確認した(
図7b及び7c)。
【0084】
本結果は、QG3030によるERK信号伝達機作の長時間活性化がQG3030の造骨細胞分化能の核心機作である可能性を示唆する。
【0085】
1-7.QG3030によるRUNX2発現増加にERK阻害剤が及ぼす影響の確認
ERKは、RUNX2のリン酸化を誘導して転写活性を増加させ、安定化(stability)に関与してRUNX2タンパク質の量を増加させることができる(Greenblatt et al.,MB、Annu Rev Cell Dev Biol.2013)。したがって、QG3030によるERKリン酸化の増加は、RUNX2発現を誘導し、MSCの造骨細胞分化に関与しうる。これを証明するため、MSCにQG3030(0.1μM)とERK阻害剤であるPD98059(50μM)をともに処理した後、RUNX2の発現レベルを確認した。
【0086】
確認の結果、QG3030処理12時間以内にRUNX2の発現が有意に増加するが、ERK阻害剤であるPD98059のように処理すると、RUNX2の発現が著しく減少することが分かった。このような傾向は、QG3030を24時間処理した場合でも同じであった(
図8a及び8b)。
【0087】
また、予想通り、QG3030処理は、MSCにおいてERKのリン酸化レベルを増加させ、これはPD98059処理により抑制された(
図8c)。
【0088】
前記結果は、QG3030によるERKの活性化誘導が骨形成活性の主要な機作であることを示す。
【0089】
実験例2:QG3030の効能確認(in vivo)
2-1.骨粗しょう症動物モデルを用いたQG3030治療能の確認
骨粗しょう症動物モデルとして一般的に使用される卵巣切除(ovariectomy、OVX)マウス動物モデルにおいてQG3030の骨粗しょう症治療能を確認した。
【0090】
陽性対照群としては、骨形成促進機作を介して骨粗しょう症治療剤として使用される副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone, PTH)系列のフォルテオ(Forteo;Eli Lilly)、骨吸収抑制剤であるアレンドロネート(alendronate)系列のフォサマックス(Fosamax;Merck)を皮下に投与した。陰性対照群には水(H
20)を経口投与し、QG3030は5または30mg/kgの濃度で経口投与した(
図9a)。10週間薬物を毎日投与した後、骨密度(bone mineral density,BMD)を測定した。
【0091】
測定の結果、陰性対照群と比較してQG3030投与群では、骨密度が有意に増加して骨粗しょう症の治療効果を示し、QG3030の効果は、フォサマックスと類似しており、フォルテオよりも顕著に優れていた(
図9b及び9c)。
【0092】
また、組織染色の結果、QG3030が卵巣切除マウスの大腿骨で骨形成を誘導することが分かり(
図10a)、骨生成に関与する転写因子であるRUNX2の発現も有意に増加することが確認できた(
図10b)。下記表2に実験結果をまとめた。表2において、BMDは骨密度、TVは総体積(total volume)、BVは骨体積(bone volume)、Tb.Thは骨梁幅(trabecular thickness)及びTb.Nは骨梁数(trabecular number)を意味する。
【0093】
【0094】
2-2.骨折動物モデルを用いたQG3030治療能の確認
Sprage Dawley(SD)Ratの腸骨に直径2mmのドリリングを通じて骨欠損を誘導し、賦形剤(collagen sponge、CollaCote(登録商標))に混合したQG3030(6、30及び150μg/10μlを骨欠損部位内に移植して骨再生効能を評価した(
図11)。このとき、陽性対照群にはBMP2(bone morphogenic protein-2)を処理し、陰性対照群にはDMSOを処理した(表3)。
【0095】
【0096】
移植4週間後にMicro-CT写真判読の結果、QG3030は、すべての濃度でBMP2と類似したレベルの骨再生力を示すことが分かった(
図12a)。
【0097】
QG3030の骨再生力を統計的に数値化するため、骨形成の程度を3次元映像で具現した後、ROI(region of interest)を設定して骨体積比(bone volume/total volume)(BV/TV、%)、骨梁幅(trabecular thickness)(Tb.Th、mm)、骨梁数(trabecular number)(Tb.N、1/mm)、骨梁距離(trabecular separation)(Tb.Sp、mm)パラメータで分析した。
【0098】
その結果、骨形成の指標である骨体積比BV/TVは、DMSOを処理した陰性対照群と比較して、BMP2処理群(陽性対照群)とQG3030処理群(低、中、高濃度)において同レベルまでに増加することが分かった(
図12b)。
【0099】
また、形成された骨組織の骨質を評価するための骨厚Tb.Th、骨組織数Tb.N、骨組織距離Tb.Spの分析では、Tb.Thを除いたTb.N、Tb.SpにおいてDMSO処理群に比べてBMP2処理群(陽性対照群)とQG3030処理群(低、中、高濃度)で統計的に有意に良質の骨組織が形成されたことを確認した(
図12b)。興味深い点は、たとえ統計的有意性は大きくはないが、BMP2に比べてQG3030がより良質の骨を生成しているという事実である。統計的有意性の指標は、*<0.05;**<0.01、***<0.001である。
【0100】
QG3030による骨再生を組織レベルで証明するため、細胞(H&E、hematoxylin & eosin)、コラーゲン(Masson’s trichrome)、タイプIコラーゲン及びオステオカルシン(osteocalcin)に対する組織染色を行った。その結果、QG3030(低、中、高濃度)が処理された骨欠損部位(実線で表示)で前記マーカーが発現されることを確認し、その効果はBMP2に類似していた(
図13)。
【0101】
本実験例の骨再生結果は、QG303OがBMP2と同程度の優れた骨再生力を有していることを証明する。
【0102】
前記結果を通じて本発明のQG3030化合物は、MSCにおいてカルシウムとミネラル生成を誘導し、RUNX2、BMP-2及びオステオカルシンの発現を増加させ、ERKの活性化を誘導して造骨細胞への分化を誘導できることを確認した。また、骨粗しょう症動物モデルに投与時に骨密度を増加させ、骨折動物モデルでは骨形成を誘導するので、QG3030化合物は、骨粗しょう症などの骨関連疾患だけでなく、物理的外傷の非疾患性骨折治療用途として有用に使用されてもよい。
【0103】
製剤例
一方、本発明による新規化合物QG3030は、目的に応じて様々な形態で製剤化が可能である。以下、本発明による新規化合物QG3030を活性成分として含む組成物の製剤化方法を例示したものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0104】
1.錠剤(直接加圧)
活性成分5.0mgをふるいにかけた後、ラクトース14.1mg、クロスポビドンUSNF0.8mg及びマグネシウムステアレート0.1mgと混合し、加圧して錠剤として作製した。
【0105】
2.錠剤(湿式組立)
活性成分5.0mgをふるいにかけた後、ラクトース16.0mgとデンプン4.0mgを混合した。ポリソルベート800.3mgを純水に溶かした後、この溶液を前記混合物に適量を添加して微粒化した。乾燥後に微粒を篩い分けした後、コロイダルシリコーンジオキシド2.7mg及びマグネシウムステアレート2.0mgと混合した。微粒を加圧して錠剤として作製した。
【0106】
3.粉末とカプセル剤
活性成分5.0mgをふるいにかけた後、ラクトース14.8mg、ポリビニルピロリドン10.0mg、マグネシウムステアレート0.2mgと混合した。混合物を適当な装置を使用して堅いNo.5ゼラチンカプセルに充填した。
【0107】
4.注射剤
蒸留水2974mgに活性成分100mg、マンニトール180mg及びNa2HPO4/H2O26mgを溶解して注射剤を製造した。
【国際調査報告】