(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-20
(54)【発明の名称】通信チャネルの容量を最適化する方法、コンピュータープログラム、システム、及び通信デバイス
(51)【国際特許分類】
H04L 27/36 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
H04L27/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022579321
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2021011559
(87)【国際公開番号】W WO2021256039
(87)【国際公開日】2021-12-23
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503163527
【氏名又は名称】ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】Capronilaan 46, 1119 NS Schiphol Rijk, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】シャーマンスーリ、アラシュ
(72)【発明者】
【氏名】グレッセ、ニコラ
(57)【要約】
本発明は、少なくとも送信機10と、受信機11と、送信機と受信機との間の通信チャネル12とを備える通信システムにおける通信チャネルの容量を最適化する方法に関する。送信機10は、コンスタレーション上にそれぞれの位置を有するシンボルの有限集合Ω={ω1,...,ωN}を使用し、少なくとも1つのシンボルを含むメッセージを通信チャネル11上で送信する。通信チャネル11は、条件付き確率分布pY|X(y|x)により特徴付けられ、yは受信機12において受信されたシンボルであり、xは送信機によって送信されたシンボルである。条件付き確率分布pY|X(y|x)は可能な送信されたシンボルx毎に指数関数により表される確率分布を使用する混合モデルによって得られる。最適化された入力分布px(x)は、送信機においてチャネルの容量を最適化することに使用される最適化されたシンボルの位置及び確率を定義するために混合モデルのパラメーターに基づいて計算される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも送信機(10)と、受信機(11)と、前記送信機と前記受信機との間の通信チャネル(12)とを備える通信システムにおける前記通信チャネルの容量を最適化する方法であって、
前記送信機(10)は、コンスタレーション上にそれぞれの位置を有するシンボルの有限集合Ω={ω
1,...,ω
N}を使用して、少なくとも1つのシンボルを含むメッセージを前記通信チャネル(11)上で送信し、
前記通信チャネル(11)は、条件付き確率分布p
Y|X(y|x)によって特徴付けられ、yは、前記受信機(12)において受信された前記シンボルである一方、xは、前記送信機によって送信された前記シンボルであり、
前記条件付き確率分布p
Y|X(y|x)は、可能な送信されたシンボルxごとに、指数関数によって表される確率分布を使用する混合モデルによって得られ、最適化された入力分布p
x(x)は、前記送信機において前記チャネルの前記容量を最適化することに使用される最適化されたシンボルの位置及び確率を定義するために、前記混合モデルのパラメーターに基づいて計算される、方法。
【請求項2】
前記最適化されたシンボルの位置及び確率は、前記送信機及び前記受信機において得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記送信機(10)は、前記シンボルω
1,...,ω
Nにそれぞれ対応する信号の有限集合に属する信号によって搬送されるメッセージを送信し、各信号は、前記最適化された入力分布p
x(x)に対応する最適化された入力信号確率分布に従った送信確率に関連付けられ、
前記送信機(10)は、送信されるメッセージと、前記最適化された入力信号確率分布とを入力として取得し、送信される信号を前記通信チャネル上に出力する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記通信チャネル(11)は、前記送信される信号を入力として取得し、前記受信機(12)において処理されるように意図された受信される信号を出力し、前記条件付き確率分布p
Y|X(y|x)は、したがって、前記入力xが固定されているときに所与の信号yを出力する確率に関連している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも前記送信機(10)において得られる前記最適化された入力信号確率分布p
x(x)を出力するために、前記条件付き確率分布p
Y|X(y|x)の推定値が入力として取得され、前記条件付き確率分布推定値は、前記最適化された入力信号確率分布を計算することに使用され、前記条件付き確率分布推定値は、前記混合モデルによって近似される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記受信機(12)は、前記受信された信号と、前記最適化された入力信号確率分布p
x(x)と、前記チャネル条件付き確率分布p
Y|X(y|x)の推定値とを入力として取得し、前記受信された信号において搬送されたメッセージの推定を行う、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記混合モデルは、
【数1】
であることを満たす、確率分布指数関数g(y|x;θ)の基本要素に分解可能な条件付き確率分布p
Y|X(y|x)に従い、θはパラメーター集合であり、Kは所定のパラメーターであり、前記集合{θ
j}、{w
j}は、それぞれ平均ベクトル座標を表すパラメーター及び共分散行列パラメーターである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記確率分布指数関数g(y|x;θ)の前記導関数は、該導関数が、
【数2】
によって与えられることを満たす、g(y|x;θ)=h(y,θ)exp(x
Ty-a(x,θ))によって与えられ、h(y,θ)はy及びθの関数であり、a(x,θ)は前記積率母関数であり、x及びyはベクトルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記分布p
Y|X(y|x)は、p
Y|X(y|x)の解析的な観測値と、
【数3】
によって与えられるその式との間のカルバック・ライブラーダイバージェンスを最小にするパラメーター集合{θ
j}、{w
j}を求めることによって、前記カルバック・ライブラーダイバージェンスによって定義されるメトリックを最小にする連続関数の有限集合によって近似される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記入力分布p
x(x)は、{(x
1,π
1),...,(x
N,π
N)}としてのN個のコンスタレーション位置のリストとして表され、x
i及びπ
iは、それぞれコンスタレーション位置及び確率重みを表し、
前記入力分布p
x(x)は、前記送信機において、以下の式によって与えられる最適化問題を解くことによって推定され、
【数4】
I(x,π)は、位置ベクトルx=[x
1,...,x
N]
T及び重みベクトルπ=[π
1,...,π
N]
Tの関数としての相互情報量であり、
最適値は、前記上付き文字
*を用いてタグ付けされ、
Pは全送信電力を表す、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記相互情報量は、以下の式として表され、
【数5】
【数6】
であり、独立変数y
i,mは、前記分布p
Y|X(y|x
i)からのサンプルである、請求項7と組み合わせた請求項10に記載の方法。
【請求項12】
p
x(x)及び
【数7】
の双方を計算する代替の最適化が、該計算から、最適化された位置π
(t)を導出するために反復的に実行され、該位置π
(t)は、先行する反復t-1から現在の反復tまで、
最初に、位置π
(t)が、シンボル位置x
(t-1)の固定集合及び以前の位置の値π
(t-1)について最適化され、
次に、シンボル位置x
(t)が、上記のように求められたπ
(t)及びx
(t-1)の以前の値について最適化される、
ものとして記述され、
停止条件が前記相互情報量I(x,π)に生起するまで、これらの2つのステップが反復的に繰り返される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
命令を含むコンピュータープログラムであって、前記命令は、処理回路によって実行されると、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を前記処理回路に実施させる、コンピュータープログラム。
【請求項14】
少なくとも送信機(10)と、受信機(12)と、前記送信機と前記受信機との間の通信チャネル(11)とを備えるシステムであって、前記送信機は、少なくとも請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を実施するように構成される、システム。
【請求項15】
通信デバイス(10;12;13)であって、請求項1~12のいずれか1項に記載の最適化方法を実行するように構成される処理回路を備える通信デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気通信の分野に関し、より詳細には、通信チャネルの容量を最適化する問題に関する。
【背景技術】
【0002】
上記最適化は、コンピューター手段によって、より詳細には、例えば人工知能によって実施することができ、送信機からの通信チャネルを介した送信メッセージが受信機において良好に受信されるか否かの観測に基づくことができる。
【0003】
特に、最適な入力分布を理論的に得ることができない混合チャネルの場合は、対処するのが難しい。確率分布は、関数の基本要素に分解され得る。
【0004】
メモリレス通信チャネルの本質的特性は、入力Xが与えられた場合の出力Yの条件付き確率分布pY|X(y|x)によって表すことができる。既知の通信チャネルのいくつかの例を以下に示す。
・加法性白色ガウス雑音チャネルY=X+η(ここで、ηは、ガウス分布モデルである)は、受信機における熱雑音によって引き起こされる摂動を受ける有線通信に対応する。
・フェージングチャネルY=a・X+η(ここで、aは、フェージング分布(レイリー分布等)に従う)は、豊富な散乱を伴う無線伝播環境における狭帯域無線チャネルにわたる送信をモデル化する。
・より複雑なチャネルは、非線形効果を伴う可能性がある。これは、例えば、波長分割多重化(WDM伝送)において送信電力を過剰に増加させたときに、カー効果を無視することができず、カー効果がチャネル容量を低下させる光チャネルの場合であり、これは、非線形シュレディンガー方程式によってもたらされる。
【0005】
条件付き確率分布pY|X(y|x)が正確に分かると、以下のものに依拠して、通信システムを最適化することが可能である。
・チャネルの入力と出力との間の相互情報量を最大にする等の入力信号の設計、
・一般に尤度確率pY|X(y|x)の処理に依拠する最適な受信機の設計。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
好ましくは、通常、送信の確率と、任意選択でコンスタレーション(例えばQAM、PSK等)の各シンボルの位置とを設計することによって送信ストラテジーを最適化する問題の解決策が依然として必要とされている。主な課題は以下のものである。
・関数の基本要素に分解されるチャネルのチャネル条件付き確率分布を得ること。
・入力分布を最適化すること。
【0007】
本発明は、この状況を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明は、少なくとも送信機と、受信機と、送信機と受信機との間の通信チャネルとを備える通信システムにおける通信チャネルの容量を最適化する方法であって、送信機は、コンスタレーション上にそれぞれの位置を有するシンボルの有限集合Ω={ω1,...,ωN}を使用して、少なくとも1つのシンボルを含むメッセージを上記通信チャネル上で送信し、通信チャネルは、条件付き確率分布pY|X(y|x)によって特徴付けられ、ここで、yは、受信機において受信されたシンボルである一方、xは、送信機によって送信されたシンボルである、方法を提案する。
【0009】
より詳細には、上記の条件付き確率分布pY|X(y|x)は、可能な送信されたシンボルxごとに、指数関数によって表される確率分布を使用する混合モデルによって得られ、最適化された入力分布px(x)は、送信機においてチャネルの容量を最適化することに使用される最適化されたシンボルの位置及び確率を定義するために、上記混合モデルのパラメーターに基づいて計算される。
【0010】
したがって、チャネル条件付き確率分布を指数分布関数の基本要素に分解した表現は、最適な入力分布を計算する計算複雑度を制限するために使用される。チャネル知識に従って入力信号確率分布を改善することによって、チャネル容量は、このように非常に改善される。
【0011】
上記の最適化されたシンボルの位置及び確率は、送信機において取得することができるが、特定の実施の形態において、受信機においても同様に取得することができる。
【0012】
一実施の形態において、送信機は、上記シンボルω1,...,ωNにそれぞれ対応する信号の有限集合に属する信号によって搬送されるメッセージを送信することができ、各信号は、上記最適化された入力分布px(x)に対応する最適化された入力信号確率分布に従った送信確率に関連付けられる。この実施の形態において、その場合、送信機は、
- 送信されるメッセージと、
- 最適化された入力信号確率分布とを入力として取得し、
送信される信号を通信チャネル上に出力する。
【0013】
この実施の形態において、通信チャネルは、送信される信号を入力として取得し、(通常、受信されるメッセージを受信機において復号化するために)受信機において処理されるように意図された受信される信号を出力し、上記条件付き確率分布pY|X(y|x)は、したがって、入力xが固定されているときに、所与の信号yを出力する確率に関連したものである。
【0014】
好ましくは、この実施の形態において、条件付き確率分布pY|X(y|x)は、連続入力/出力アルファベットに関して確率密度関数として定義される。
【0015】
送信機において(及び一実施の形態においては受信機において)得られる最適化された入力信号確率分布px(x)を出力するために、条件付き確率分布pY|X(y|x)の推定値が入力として取得され、条件付き確率分布推定値は、その後、最適化された入力信号確率分布を計算することに使用され、条件付き確率分布推定値は、上記混合モデルによって近似される。
【0016】
一実施の形態において、受信機は、受信された信号と、また、最適化された入力信号確率分布px(x)と、チャネル条件付き確率分布pY|X(y|x)の推定値とを入力として取得し、上記受信された信号において搬送されたメッセージの推定を行う。
【0017】
したがって、この実施の形態において、受信機は、チャネル条件付き確率分布pY|X(y|x)を推定することができる最適化された入力信号確率分布px(x)のおかげで、搬送されたメッセージの向上した決定を行うことができる。
【0018】
一実施の形態において、上記の混合モデルは、
【数1】
であることを満たす、確率分布指数関数g(y|x;θ)の基本要素に分解可能な条件付き確率分布p
Y|X(y|x)に従い、ここで、θはパラメーター集合であり、
【0019】
Kは所定のパラメーターであり、集合{θj}、{wj}は、それぞれ平均ベクトル座標を表すパラメーター及び共分散行列パラメーターである。
【0020】
さらに、この実施の形態において、より詳細には、
【数2】
によって与えられる確率分布指数関数g(y|x;θ)の導関数は、
【数3】
によって与えられ、ここで、h(y,θ)はy及びθの関数であり、a(x,θ)は積率母関数であり、x及びyはベクトルである。
【0021】
上記の分布p
Y|X(y|x)は、p
Y|X(y|x)の解析的な観測値と、
【数4】
によって与えられるその式との間のカルバック・ライブラーダイバージェンスを最小にするパラメーター集合{θ
j}、{w
j}を求めることによって、カルバック・ライブラーダイバージェンスによって定義されるメトリックを最小にする連続関数の有限集合によって近似することができる。
【0022】
入力分布p
x(x)は、{(x
1,π
1),...,(x
N,π
N)}としてのN個のコンスタレーション位置のリストとして表すことができ、ここで、x
i及びπ
iは、それぞれコンスタレーション位置及び確率重みを表し、
入力分布p
x(x)は、送信機において、以下の式によって与えられる最適化問題を解くことによって推定され、
【数5】
【0023】
ここで、
- I(x,π)は、位置ベクトルx=[x1,...,xN]T及び重みベクトルπ=[π1,...,πN]Tの関数としての相互情報量であり、
- 最適値は、上付き文字*を用いてタグ付けされ、
- Pは全送信電力を表す。
【0024】
相互情報量は、以下の式として表すことができ、
【数6】
ここで、
【数7】
であり、独立変数y
i,mは、分布p
Y|X(y|x
i)からのサンプルである。
【0025】
この実施の形態において、p
x(x)及び
【数8】
の双方を計算する代替の最適化は、該計算から、最適化された位置π
(t)を導出するために反復的に実行することができ、当該位置π
(t)は、先行する反復t-1から現在の反復tまで、
最初に、位置π
(t)が、シンボル位置x
(t-1)の固定集合及び以前の位置の値π
(t-1)について最適化され、
次に、シンボル位置x
(t)が、上記のように求められたπ
(t)及びx
(t-1)の以前の値について最適化される、
ものとして記述され、
停止条件が相互情報量I(x,π)に生起するまで、これらの2つのステップが反復的に繰り返される。
【0026】
この実施の形態は、以下で、電気通信コンスタレーション(QAM、PSK等)上の位置を表す粒子に対する勾配降下を伴うアルゴリズムのステップの一例を示す
図2を参照して詳細に説明される。
【0027】
本発明はまた、命令を含むコンピュータープログラムであって、命令は、処理回路によって実行されると、上に示した方法を処理回路に実施させる、コンピュータープログラムを対象とする。
【0028】
以下で解説する
図2は、そのようなコンピュータープログラムのアルゴリズムを示すことができる。
【0029】
本発明はまた、少なくとも送信機と、受信機と、送信機と受信機との間の通信チャネルとを備えるシステムであって、送信機は、少なくとも上記の方法を実施するように構成される、システムを対象とする。
【0030】
本発明はまた、上に示した最適化方法を実行するように構成される処理回路を備える通信デバイスを対象とする。
【0031】
本発明の可能な実施形態の詳細な内容及び利点を、添付図面を参照して以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態の一例によるシステムの概観を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による最適化方法の可能なステップを示す図である。
【
図3】本発明の最適化方法を実行する通信デバイスの処理回路を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1を参照すると、本発明によるシステムが、実施形態の一例において、送信機10、受信機12、送信チャネル11及び入力信号確率分布オプティマイザー13を備える。
【0034】
送信機10は、信号の有限集合に属する信号によって搬送されるメッセージを送信する。各信号は、(最適化された)入力信号確率分布に従った送信確率に関連付けられている。送信機10は、メッセージ及び(最適化された)入力信号確率分布を入力として取得し、送信される信号をチャネル上に出力する。
【0035】
チャネル11は、送信信号を入力として取得し、受信信号を出力する。この受信信号は、送信メッセージを復号化するために受信機12において処理される。このチャネルは、入力が固定されているときに所与の信号を出力する確率のチャネル条件付き確率分布によって特徴付けられる。確率分布は、一般に、離散的な又は連続した入力アルファベット及び/又は出力アルファベットで定義することができる。本明細書では、一例として、連続した出力アルファベットが考察され、確率分布は、この場合に確率密度関数と呼ばれる。
【0036】
入力信号確率分布オプティマイザー13は、条件付き確率分布推定値を入力として取得し、最適化された入力信号確率分布を送信機10及び受信機12に出力する。
【0037】
オプティマイザー13は、送信機及び受信機の双方の一部である同じモジュールとすることができることはここでは注目に値する。オプティマイザー13は、別の選択肢として、通信チャネルを通じて上記送信機及び上記受信機をリンクする電気通信ネットワークにおけるスケジューリングエンティティ(例えば基地局等)の一部であるモジュールとすることができる。より一般的には、送信機10、受信機12、又は最適化方法を実行することができるその他の任意のデバイス13等の通信デバイスは、実際には
図3に示すような処理回路の構造を有することができるそのようなモジュールを含むことができる。そのような処理回路は、通常、メモリユニットMEM(少なくとも本発明によるコンピュータープログラムの命令を記憶する)と協調するプロセッサPROCにリンクされた、データ(少なくとも条件付き確率分布の推定を可能にするデータ)を受信する入力インターフェースINと、最適化計算の結果を送信する出力OUTとを備えることができる。
【0038】
より詳細には、条件付き確率分布推定値は、入力信号確率分布オプティマイザー13において、最適化された入力信号確率分布を計算することに使用される。特に、条件付き確率分布推定値が指数分布の混合によって近似されるときに、最適化がより効率的になることが以下で示される。
【0039】
受信機12は、受信信号と、最適化された入力信号確率分布と、推定されたチャネル条件付き確率分布とを入力として取得し、受信信号で搬送されたメッセージの推定を行う。
【0040】
送信チャネル11は、以下では、モデルによって表される。このモデルは、確率分布関数p(y|x;θ)の基本要素に分解することができる条件付き確率分布p
Y|X(y|x)に従う。ここで、θはパラメーター集合である。例えば、分布関数は、
【数9】
であることを満たす指数型分布族であり、パラメーターは、基本的には、スカラーの場合の平均及び分散であり、より一般的には、多変量の場合の平均ベクトル及び共分散行列である。
【0041】
ここで、K、及び集合{θj}、{wj}はパラメーターである。
【0042】
例えば、モデルに従う3つのチャネルの例を以下に引用することができる。
【0043】
チャネルが、以下の事象等の離散的な事象に従って時間内でランダムに変動するとき、チャネルは、ランダム離散状態を有する場合がある。
- 送信ごとに信号対雑音比を変化させるバーストによる干渉;
- 受信信号電力を変化させるシャドウイング効果;
- チャネル係数αがランダムである場合に、
【数10】
に従う離散分布によるランダムフェージングチャネルの近似。ここで、α
jは、確率w
jで生起するチャネル係数αのn個の可能な値のうちの1つであり、δ(・)はクロネッカー関数である。したがって、分散σ
η
2を有するガウス雑音の場合に、そのようなフェージングチャネルは、以下に示す確率分布を与える。
【数11】
【0044】
チャネル推定悪化の場合(通常、送信チャネルが不完全に知られているとき)、残留自己干渉が受信信号上で得られる。一般に、チャネルモデルは、
【数12】
として得られ、これによって、以下の式が得られる。
【数13】
【0045】
したがって、任意の既知の連続分布pY|X(y|x)から、この分布を連続関数の有限集合によって近似することができることがここで示される。
【0046】
近似は、メトリックを最小にすることによって行われる。1つの該当するメトリックは、2つの分布の間の相違の尺度を得ることを可能にするカルバック・ライブラーダイバージェンスである。したがって、pY|X(y|x)が解析的に知られているとき、pY|X(y|x)と上記に示した式(E)の形態の近似表現との間のカルバック・ライブラーダイバージェンスを最小にするパラメーター集合{θj}、{wj}を見つけることが可能である。
【0047】
pY|X(y|x)の推定されたヒストグラムから、この分布は、カルバック・ライブラーダイバージェンスをメトリックとして使用することによって、既知の連続分布と同じ方法で、連続関数の有限集合によって近似することができる。
【0048】
関数pY|X(y|x)は、一般に連続領域にわたる変数x及びyを有する二変数関数である。
【0049】
以下では、濃度Nの有限アルファベットΩ={ω1,...,ωN}に属するシンボルxに焦点を当てる。
【0050】
確率分布関数g(y|x;θ)の導関数が知られているものと更に仮定する。例えば、g(y|x;θ)が指数型分布族からのものであるとき、この関数は以下のように記述することができる。
【数14】
【0051】
ここで、h(y,θ)はy及びθの関数であり、a(x,θ)は積率母関数であり、x及びyは、この一般的な場合にはベクトルである。したがって、
【数15】
となる。
【0052】
したがって、例えば、スカラーのガウスの場合には、確率密度関数は以下のように分解される。
【数16】
【0053】
入力信号分布オプティマイザー13は、式(E)の形態のチャネル確率分布の推定値に依拠する。チャネルの推定用に選ばれた関数の基本要素が指数型分布族であるとき、閉形式表現を導出することができ、アルゴリズムは最適解に収束する。
【0054】
入力に近づく容量は、いくつかのチャネルについて離散的であるとみなされる。入力に達成する容量の場合(すなわち、より一般的なチャネルの場合)、入力分布p
X(x)は、以下のようにN個の粒子のリストとして表すことができる。
【数17】
【0055】
ここで、x
i及びπ
iは、それぞれ位置(すなわち、2次元の場合には一組の座標又は複素数によって表される)及び重みを表す。送信機における最適化問題は、以下のように記述することができる。
【数18】
【0056】
ここで、
- I(x,π)は、位置ベクトルx=[x1,...,xN]T及び重みベクトルπ=[π1,...,πN]Tの関数としての相互情報量であり、
- 最適な値は、上付き文字*を用いて示され、
- Pは、任意に設定される全送信電力制約を表す。一般に、この値は、電力増幅器の物理的限界又は調整によって可能になる最大放射電力に関係した送信機の電力バジェットによって規定される。
【0057】
制約(2)は、粒子の全確率を1に設定する。制約(3)及び(4)は、それぞれ、全送信電力がP以下となることを保証し、粒子確率の大きさが1未満の正の値となることを保証する。相互情報量
【数19】
は、連続した確率変数に対する積分を伴うが、以下の式のようにモンテカルロ積分(その主な原理は、積分を通常伴う予想関数を、上記確率変数の実現値であるサンプルを生成し、生成したサンプルから得られた値の平均化に置き換えることである)によって近似することができる。
【数20】
【0058】
ここで、Mは、サンプル数(すなわち、それらの確率分布から生成された確率変数の実現値の数)を表し、
【数21】
は、したがって、条件付き確率p
Y|X(y|x)の、θ
jを伴う関数g()の基本要素への分解を表す。
【0059】
(5)における独立変数yi,mは、分布pY|X(y|xi)からのサンプルである。
【0060】
以下では、次のように反復t-1からtまでが記述される代替の最適化方法を提案する。
- 最初に、粒子x(t-1)の固定集合のπ(t)と以前の値π(t-1)とを最適化する;
- 次に、得られたπ(t)のx(t)と以前の値x(t-1)とを最適化する。
これらの2つのステップについては、以下で、それぞれS1及びS2として詳述する。これらのステップは、以下に示すアルゴリズムの初期化ステップS0の後に介在することができる。
【0061】
ステップS1:粒子x(t-1)の固定集合のπ(t)と以前の値π(t-1)との最適化
【0062】
(1)における最適化は、xの固定値のπに関して凹である。そのため、所与のx
(t-1)について、(1)は、以下の式のように、ラグランジアンを記述し、i=1,...,Nのπ
iについて解くことによってπについて解かれる。
【数22】
【0063】
ここで、
【0064】
【0065】
ここで、式
【数24】
は、確率変数y
iに従った数学的期待値
【数25】
の近似である。この近似は、上述したモンテカルロ積分によって、すなわち、y
iの分布に従ってM個のサンプルを生成することによって行われる。項
【数26】
は、利用可能であるときに数値積分又は閉形式表現に有利に置き換えることができる。
【0066】
(7)において、βは、(3)における(7)を最大全送信電力Pの等式に置き換え、以下の非線形方程式とすることによって求めることができるラグランジュの乗数を表す。
【数27】
【0067】
非線形方程式(8)は、種々のツール、例えばニュートン・ラフソン等の勾配降下ベースの手法を使用して解くこともできるし、βのいくつかの値を選択し、(8)の方程式の左辺を計算し、0に最も近い値を絶対値に保つことによって解くこともできる。そして、πi
(t)の値は(7)から得られる。
【0068】
ステップS2:固定されたπ(t)のx(t)と以前のx(t-1)との最適化
【0069】
所与の重みベクトルπ
(t)を有する(1)における最適化のラグランジアンは、以下の式によって与えることができる。
【数28】
【0070】
位置ベクトルxは、(9)における第2項によってペナルティを科されたカルバック・ライブラーダイバージェンスD(p
Y|X(y|x
i)||
Y(y))が最大化されることを条件として得られる。このように、ラグランジアンL(x;β,π
(t))の値、すなわちペナルティ付き相互情報量の値は、位置ベクトル及び重みベクトルの各更新後に以前の値以上である。これは、勾配上昇ベースの方法、すなわち以下の式によって達成される。
【数29】
【0071】
ここで、ステップサイズλtは正の実数である。
【0072】
上述の勾配上昇ベースの方法では、以下の式のように、モンテカルロ積分によって項D(p
Y|X(y|x
i)||p
Y(y))の導関数を計算することが必要とされる。
【数30】
【0073】
【0074】
(6)を使用すると、以下の式を得ることができる。
【数32】
【0075】
したがって、g(y|x;θj)が閉形式で知られており、且つ、その導関数が閉形式で知られているとき、上記方程式を計算することができる。
【0076】
最後に、x(t)値が得られ、反復は、停止条件が満たされるまで継続することができる。停止条件は、例えば、実行時間であるか、又はI(x(t),π(t))-I(x(t-1),π(t-1))が、通常は小さな所与の閾値よりも小さい場合である。
【0077】
アルゴリズムの一例を、
図2を参照して以下に詳述する。
【0078】
ステップS0:初期化ステップ
- ステップS01:入力パラメーターを得る
○P、コンスタレーションの電力制限
○N個のシンボルの初期コンスタレーション
○停止基準閾値ε
- ステップS02:
【数33】
の形のチャネル条件付き確率分布を得る。ここで、K、w
jはスカラーパラメーターであり、θ
jはパラメーター集合であり、
【数34】
の式は知られている。
- ステップS02:t=0を設定する;全てのπ
i
(0)=1/Nを設定する;初期コンスタレーションC0から全てのx
i
(0)を設定する;I
(-1)=0を設定する;t=1を設定する。
【0079】
ステップS1:反復ステップt
ステップS10:サンプル生成
- S101:[1,N]における全てのiについて、分布pY|X(y|x=xi
(t-1))からM個のサンプルyi,mを生成する。
- S102:[1,N]における全てのiについて、[1,N]における全てのjについて、pY|X(yi,m|xj
(t-1))を計算する。
【0080】
ステップS11:停止条件を計算する。
- S111:以下の式を計算する。
【数35】
- S112:I
(t-1)-I
(t-2)<εである場合には、反復アルゴリズムを停止する(S113)。そうでない場合には、S121に進む。
【0081】
ステップS12:確率π
i
(t)を更新する
- S121:[1,N]における全てのi、及び[1,M]におけるmについて、
【数36】
を計算する。
- S122:
○例えば、ニュートン・ラフソン降下を使用することによって、及び/又は
○直線探索ストラテジーを使用する(いくつかのβ値を選び、以下の式を計算し、0に最も近いものを選択する)ことによって、
以下の式を解くことによりβを計算する。
【数37】
- S123:[1,N]における全てのiについて、
【数38】
を計算する。
【0082】
ステップS2:新たなπ
i
(t)及び以前のx
i
(t-1)を用いてシンボルx
i
(t)位置を更新する。
- S21:[1,N]における全てのiについて、[1,N]における全てのjについて、
【数39】
を計算する。この式は、既知の式
【数40】
のyをy
i,mに置き換え、xをx
iに置き換えることによって得られる。
- S22:[1,N]における全てのiについて、以下の式を計算する。
【数41】
ここで、h(y
i,m,x
i
(t-1))は、x
i=x
i
(t-1)である場合の関数
【数42】
の値である。
【0083】
次のステップS3は、ステップS101にループして次の反復を行うために、tをインクリメントすることである。
【0084】
人工知能を、そのようなアルゴリズムを用いて上記のようにプログラミングし、電気通信ネットワークにおける所与の通信チャネル(1つ又はいくつかの通信チャネル)の容量を最適化することができる。
【国際調査報告】