(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】2,5-フランジカルボン酸の合成方法
(51)【国際特許分類】
C07D 307/68 20060101AFI20230414BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230414BHJP
【FI】
C07D307/68
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022538282
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2020087129
(87)【国際公開番号】W WO2021123240
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102019000025096
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244621
【氏名又は名称】ノヴァモント・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ルイージ・カプッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ジュゼッピーナ・カロテヌート
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA65
4H039CC30
(57)【要約】
本発明は、2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の合成方法であって、(1)酸素分子、ルテニウムを含有する不均一系触媒、及び強塩基の存在下、100℃超の温度で5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の水性溶液を酸化させて、水性溶液中のFDCA酸塩を含む反応生成物を得る工程、(2)水性溶液中の前記反応生成物から前記不均一系触媒を分離する工程、及び(3)工程(1)の酸化反応において前記不均一系触媒を再利用する工程を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の合成方法であって、
1) 5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の水性溶液を、酸素分子、ルテニウムを含有する不均一系触媒、及び強塩基の存在下、100℃超の温度で酸化させて、水性溶液中のFDCA酸塩を含む反応生成物を得る工程、
2)水性溶液中の前記反応生成物から前記不均一系触媒を分離する工程、
3)工程1)の酸化反応で前記不均一系触媒を再利用する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記強塩基は、水への溶解度が25℃で45g/L以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1)での酸化の間、pHを6.5~9に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程1)での酸化を、160℃未満の温度で実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ルテニウムを含有する前記不均一系触媒が、担持ルテニウム、担持酸化ルテニウム、非担持酸化ルテニウム、担持水酸化ルテニウム、非担持水酸化ルテニウム及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程2)での不均一系触媒の前記分離を、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び電気化学セル、電気集塵器、湿式洗浄塔又は液体サイクロンによる分離からなる群から選択される少なくとも1つの操作により実施する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程2)での不均一系触媒の前記分離を、少なくとも1回の接線流精密濾過により実施する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程2)の後であって工程3)での再利用の前に、触媒を洗浄及び/又は再生する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程2)の後で、少なくとも1回のナノ濾過操作によって、水性溶液中の前記反応生成物を精製する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
触媒を水洗し、それにより生じる触媒洗浄水をナノ濾過による精製操作で使用する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
水性溶液中の前記反応生成物を中和し、それにより固体状で得られるFDCA酸を次に分離する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
2,5-フランジカルボン酸の純度が99%超であり、無機塩の含有量が500ppm未満であり、残留モノカルボン酸の含有量が、FDCAの質量に対して1質量%未満であることを特徴とする、FDCA組成物。
【請求項13】
重合反応における、請求項12に規定の組成物の使用。
【請求項14】
解離形態のFDCAの水性溶液をナノ濾過する工程の後に、FDCAを析出させる工程、及びそれにより固体状で得られるFDCAを水洗する工程を含む、FDCAの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に至った本プロジェクトは、欧州連合ホライズン2020研究及びイノベーションプログラム(助成金契約番号745766)に基づく官民連携バイオ産業共同事業による資金提供を受けたものである。
【0002】
本発明は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の酸化による2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の合成方法に関する。
【0003】
2,5-フランジカルボン酸は、5-ヒドロキシメチルフルフラールの酸化誘導体であり、プラスチック、特にポリエステルの製造用モノマーとして有用である。更に、HMFの方は糖から得られるので、自然界で広く入手できる原料から得られる誘導体である。
【背景技術】
【0004】
2,5-フランジカルボン酸を主生成物として得ることを可能とするHMF酸化プロセスは、文献で公知である。
【0005】
米国特許第4977283号(Hoechst)には、白金族に属する金属触媒の存在下、pHが最大8である水性環境中で実施するHMFの酸化方法が記載されている。上記特許には、pHの調整により、酸化反応により得られる種々の生成物の、副生成物に対する比率を変動させることができる旨が示されている。上記特許に含まれる示唆によれば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等の塩基、酸、又は緩衝溶液を利用することによりpHを調整することができ、これにより通常はpHを8未満に維持させることができる。上記酸化反応は30℃~水の沸点の間、好ましくは60~90℃の温度で実施することができ、理論上達成可能な収率に対する反応収率は、水性溶液中の2,5-フランジカルボン酸二ナトリウム塩と関連付けて表されているものの、実施例では生成物を回収したことは示されていない。
【0006】
米国特許出願第2008/0103318号(Battelle)には、白金担持触媒を用いたHMF酸化方法が記載されている。ここでも、pHを7以下で維持しなければならないが、pHに依存する選択性は、炭酸塩や重炭酸塩等の弱塩基の使用により変動できる旨が強調されている。2,5-フランジカルボン酸は、記載されている酸化生成物の1つである。NaOHのような強塩基の使用は、不均化反応(カニッツァーロ反応)等の二次反応を招くおそれがあるため、推奨されていない。
【0007】
しかし、上述のHMF酸化プロセスで使用される金属触媒は、触媒毒を受け、結果的に触媒活性を失ってしまう。このことは、触媒の置換や再生が頻繁に必要となり、既に高額である白金等の貴金属のコストがかさむことを意味する。
【0008】
白金触媒を用いた別のFCDAの製造プロセスが、欧州特許第2 601 182号に記載されており、弱塩基の存在により触媒の再利用が可能となったことが記述され、実施例には、NaHCO3又は炭酸水酸化マグネシウムを使用して100℃の温度で実施するプロセスが示されている。
【0009】
特許出願WO 2016/028488 A1には、ルテニウム系不均一系触媒の存在下、HMFを少なくとも5質量%含有する水性溶液を、pHが中性域又は酸性域の酸素源に接触させる酸化プロセスが記載されている。しかしこのプロセスでは、FDCAの選択性が限定され、確認された酸化反応により得られる種々の生成物のうちのその選択性は最大でも60モル%までである。酸素分圧が非常に高い場合(70bar)でもこの最大値となる。更に、これらの反応生成物は固体であり、不均一系触媒から分離するのに複雑な操作を要する。従って、経済的な観点からも、効率的な工業生産を実現するには、FDCAを高収率で選択的に得る点、及び、簡易な分離操作を経て生成物を回収する点において依然として課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4977283号
【特許文献2】米国特許出願第2008/0103318号
【特許文献3】欧州特許第2 601 182号
【特許文献4】特許出願WO 2016/028488 A1
【特許文献5】欧州特許第2 994 458号
【特許文献6】欧州特許第3 207 032号
【特許文献7】PCT/EP2019/068860
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.Brunauer, P.H.Emmett and E.Teller, J Am.Chem.Soc.,1938,60,309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
重合プロセスでの利用に適した性質を有するFDCAを製造するニーズも存在する。公知のプロセスにおける選択性の低さは、一般に、1つの官能基を有するオリゴマー及び分子、塩、又は共役系有機物質等の多くの副生成物であって、生成物を着色し、重合プロセスに影響し得る副生成物の生成につながる。
【0013】
他方、本発明による2,5-フランジカルボン酸の合成方法は、ルテニウムを含有する不均一系触媒を利用することによって、2,5-フランジカルボン酸が高収率で得られるという点で相当な利点を有し、当該触媒は簡易な濾過により分離でき、触媒活性を維持しながら数回リサイクルすることができる。更に、FDCAは反応環境中で解離した形態で得られる。また、FDCAは水溶性を有するため、有機溶媒の利用を要さずに、容易に触媒から回収したり、固液分離を経て精製したりすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、最初の態様によれば、本発明は、とりわけ、調整されたpH条件下において、好ましくは100℃超の温度で、酸素分子及び強塩基の存在下で、ルテニウムを含有する不均一系触媒によって触媒される、5-ヒドロキシメチルフルフラール水性溶液の酸化反応によって2,5-フランジカルボン酸を合成する方法に関する。
【0015】
このような条件下では、強塩基を使用しているにも関わらず、ルテニウムを含有する不均一系触媒は、実に驚くべきことに、酸化剤として空気を存在させた場合であっても2,5-フランジカルボン酸を選択的に与えるだけでなく、公知のプロセスよりも触媒表面に汚れが付着しにくい。
【0016】
水性溶液中に解離形態で存在する反応生成物から不均一系触媒を分離した場合、当該触媒は、試薬であるHMFに比べて少量であっても、FDCAの高収率を維持しながら、酸化反応で数回リサイクルすることができる。次いで、解離形態にある反応生成物を含有する水性溶液は、1つ又は複数の任意の精製工程を経て、最終的に酸性化されて、固体状のFDCAを与える。
【0017】
更に、本発明による手順は、モノマー、特にポリエステル合成用のモノマーとしての使用に特に適している2,5-フランジカルボン酸を得ることを容易にする。実際に、重合を阻害し得るオリゴマーが除去されたことを示す黄色度指数の低いモノマーが、解離した形態の2,5-フランジカルボン酸塩の単純なナノ濾過によって得られる。
【0018】
従って、もう1つの態様によれば、本発明は、解離形態、好ましくはナトリウム塩の形態のFDCAの水性溶液をナノ濾過する工程を含む、FDCAの精製方法に関する。このナノ濾過工程に続く、固体状のFDCAの精製操作は、オリゴマーが存在しないため、更に容易になる。これは、高純度であり、特に一官能性の不純物を限られた含有量でしか含有しないFDCA組成物を得るには、水で簡単に洗浄するだけで十分であるためであり、精製方法が、特にポリエステルの合成用モノマーとしての用途に適したものとなる。
【0019】
従って、さらなる態様によれば、本発明は、無機塩及び残留モノカルボン酸の含有量の少ない、高純度FDCA組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の第一の対象は、2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の合成方法であって、
1)酸素分子、ルテニウムを含有する不均一系触媒、及び強塩基の存在下、100℃超の温度で5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の水性溶液を酸化させて、水性溶液中のFDCA酸塩を含む反応生成物を得る工程、
2)水性溶液中の前記反応生成物から前記不均一系触媒を分離する工程、
3)工程1)の酸化反応で前記不均一系触媒を再利用する工程
を含む、合成方法である。
【0022】
1つ又は複数の任意の精製操作を経た後、上述した2)の工程で分離されたFDCA酸塩を含む水性溶液中の反応生成物を中和して、得られたFDCA酸を次に固体状にして分離できるようにすることが望ましい。本方法は、HMFの質量に対し、触媒活性相を0.5質量%~10質量%の量で使用することが有利である。また、本方法は、85%超、有利には90%超の反応収率を維持しながら触媒を数回リサイクルすることを可能とする。
【0023】
本発明による方法の工程1)における酸化を受ける出発物質は、5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の水性溶液である。
【0024】
HMFは、糖の脱水、とりわけ、多糖を含有するバイオマスの加水分解及び起こり得る異性化反応により得られるフルクトース及びグルコース等のヘキソースの脱水により得られる。この脱水反応は、一般に酸触媒が使用される各種技術により実施することができ、水性溶媒及び非水性溶媒を使用するものであっても、使用しないものであってもよい。例えば、欧州特許第2 994 458号、欧州特許第3 207 032号又はPCT/EP2019/068860に記載されている第四級アンモニウム塩を用いる方法により得られるHMFが出発物質として適切である。
【0025】
本発明による方法の出発物質として使用されるHMFは、糖処理の副生成物を含み得る。
【0026】
HMF水性溶液としては、高純度を有するものを有利に使用できる。例えば、好ましくは98.5%超の純度を有し、窒素原子換算で第四級アンモニウム塩をHMFに対して0.25質量%未満、好ましくは0.1質量%未満含有するHMF組成物から得られる水性溶液が特に適している。第四級アンモニウム塩が過剰量存在すると、触媒活性相との相互作用により、実際に触媒の選択性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0027】
HMFの純度は、例えば外部校正を行ったHPLC/UV分析法により測定することができる。例えば、HPLC/UV分析法は、カラムとして"Phenomenex Gemini NX-C18"(150mm×3.0mm×5μm、流量:0.5mL/分、カラム温度:30℃)、溶離液として1%v/vのHCOOH水性溶液(A)及びアセトニトリル(B)を使用して、以下のグラジエントで実施することができる。
【0028】
【0029】
窒素含有量は、例えば、元素分析又は電気伝導度検出器(CI-CD)を利用したイオンクロマトグラフィ分析により測定することができる。第四級アンモニウム塩由来の窒素量は、例えば、Metrosep C4-100カラム(100mm×4.0mm×5μm、流量:1.0mL/分、カラム温度:30℃)、及び溶離液として硝酸水性溶液(7.5mmol/L)と20%v/vアセトニトリルとの混合物を用いたCI-CDクロマトグラフ分析法の実施により、外部標準法を用いたアンモニウムカチオンの定量分析から化学量論的に測定することができる。
【0030】
HMF組成物は、有機酸、少なくとも1つのケト又はアルデヒド官能基を有する化合物(HMF以外)、二量体、オリゴマー、及び出発物質であるサッカライドの脱水反応の副生成物として得られるフミン質から選択される1つ又は複数の成分の合計量が、HMFの質量に対して4質量%未満、好ましくは3質量%未満、より好ましくは1質量%未満であるものが好ましい。HMF組成物は、フルフラールの含有量が、HMFの質量に対して0.10質量%未満であるものも特に好ましい。
【0031】
望ましくは、初期のHMF組成物は、フルクトース及び/又は糖アノマーを、HMFの質量に対して3質量%未満、好ましくはHMFの質量に対して0.5質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満の量で含有することが好ましい。フルクトースの含有量は、例えば、カラムとしてMetrosep Carb 2(250mm×4.0mm×5μm、流量:0.7mL/分、カラム温度:30℃)、定組成溶離液としてNaOH水性溶液を用いたIC-PAD分析法により測定することができる。
【0032】
好適な組成物の一例としては、例えば、PCT/EP2019/068860に記載された方法により得られるものが挙げられる。
【0033】
本発明による方法では、HMFの酸化は水性溶液中で進行し、有機溶媒の使用を必要としない。それは、pH条件が示すように、解離形態で存在する、酸化反応で得られる生成物が、HMFと同様に水に易溶であるからである。HMFの水性溶液中の初期濃度は、望ましくは1.5質量%~35質量%であり、好ましくは2質量%(HMF:H2Oの質量比が1:50に相当)~20質量%であり、より好ましくは2質量%~10質量%である。
【0034】
本発明による方法では、HMFの酸化を担う酸化性物質は、酸素分子、又は酸素分子を含む化合物、例えば空気、酸素含有量の多い空気、又は不活性ガスを含む酸素混合物等である。反応は、望ましくは、減圧された密閉反応器内で、又は、O2、空気、又はO2を多く含有する空気を反応器に流通させることによって実施することができる。
【0035】
本発明による方法は、高圧酸素を用いて実施することが好ましいが、それらを必ずしも必要としない点において特に有利である。実際には、圧力が大気圧よりも高く、かつ2MPa(20bar)以下である空気、つまり酸素分圧が0.5MPa(5bar)以下であっても有利に実施できる。これにより、高温での燃焼作用を経て合成中に発生するCO2の量を抑えることを可能とする。
【0036】
本発明による方法の酸化工程は、ルテニウムを含有する不均一系触媒の存在下で実施される。この触媒は、担持金属ルテニウム、担持酸化ルテニウム、非担持酸化ルテニウム、担持水酸化ルテニウム、非担持水酸化ルテニウム及びそれらの混合物からなる群より選択されるものであることが望ましく、担持金属ルテニウム、又は、担持酸化ルテニウム及び担持水酸化ルテニウムの混合物、好ましくはRuO2及びRu(OH)xの形態の混合物であって、xが望ましくは2~4、好ましくは2又は4、より好ましくは4であるものの使用が特に好ましい。本発明によるプロセス触媒の酸化ルテニウムは、水和物の形態であってよい。
【0037】
上記触媒の担体を形成する最適な材料としては、例えば、炭素、非金属酸化物(シリカ及び酸化グラフェン等)、多層であってもよい官能化グラファイト及びそれらの組み合わせが挙げられるが、炭素が特に好ましい。担体材料は、ナノ構造を有する形態及び/又は官能基を有する形態であってよく、担体表面上の固定相の分散度を良好とするため、触媒活性相を触媒に対して好ましくは0.5質量%~20質量%、より好ましくは1質量%~10質量%の量で含有する。
【0038】
本発明では、好ましい触媒、より具体的には触媒の担体は、高い比表面積を有するミクロ細孔構造を備える(すなわちIUPAC分類に従い、約2.0nm(20Å)を超えない径を有する孔を備える)ものであることが、触媒活性相を高度に分散して、その活性と選択性を全体的に改善することができる点で有利に作用する。スーパーミクロ細孔構造(孔径が7~20オングストローム)及びウルトラミクロ細孔構造(孔径が7オングストローム未満)が特に好ましい。本発明による触媒の比表面積は、600~1200m2/gが好ましく、700~1100m2/gがより好ましく、800~1000m2/gが更に好ましい。
【0039】
従って、本発明による担持触媒は、800~1600m2/gの比表面積を有する担体を出発物質として作製することが好ましい。
【0040】
比表面積は、S.Brunauer, P.H.Emmett and E.Teller, J Am.Chem.Soc.,1938,60,309に開示されたBET法に従い、材料表面上のガス吸着量を測定することにより測定することができる。
【0041】
材料の比表面積の値に応じて、ガスとして窒素又はヘリウムが使用される。
【0042】
本明細書では、メソ細孔材料のBET比表面積(値は50~400m2/g)を、100℃、約0.13*10-3Paの真空中で触媒サンプルを終夜脱気した後、77K、約0.3のP/P0での窒素吸着量を測定し、窒素又はアルゴンの分子占有断面積が16.2Å2であると想定して測定する。
【0043】
本明細書では、100℃、約0.13*10-3Paの真空中で触媒サンプルを終夜脱気した後、4.2K、P/P0が約0.3でのヘリウム吸着量を測定し、ヘリウムの分子占有断面積が1Å2であると想定し、ミクロ細孔材料のBET比表面積(値は400~1000m2/g)を測定する。
【0044】
本発明の好ましい態様によれば、触媒の累積細孔容積値が0.25~0.8cm3/gであることが好ましく、0.3~0.6cm3/gであることが好ましく、そのミクロ細孔体の比表面積が900~1100m2/gであることが好ましく、ミクロ細孔の孔径が3.5~5オングストロームであることが好ましい。
【0045】
ルテニウム系触媒は、その被担持物が金属ルテニウム、酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム又はその混合物のいずれである場合でも、当業者に公知である技術により作製することができる。
【0046】
例えば、担持酸化物及び担持水酸化物は、グラフト、ゾルゲル、加熱処理、蒸煮爆砕、燃焼、沈着、溶液を用いた吸着、共沈、又は含浸、例えば初期湿潤含浸、又はCVD(化学蒸着)により、基材上に金属塩を微細に分散させることにより作製できる。
【0047】
触媒を作製する工程は、本発明による酸化工程とは別に実施でき、又は、酸化工程の方法の予備工程において行ってもよい。
【0048】
本発明の1つの態様によれば、触媒はルテニウムを活性触媒種として含有するが、その性能を向上することができる構造プロモーターと組み合わせたものであってもよい。例えば、金属酸化物及び金属混合酸化物は、構造プロモーターとして機能する可能性がある。
【0049】
本発明による方法は、任意ではあるが、例えば白金、パラジウム、鉄、マンガン、銅、コバルト、ニッケルから選択される、ルテニウム以外の1つ又は複数の触媒の存在下で実施してもよい。これらの金属は担持触媒の形態で、及びポリオキソメタレート等の混合金属の形態で使用することができる。
【0050】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、触媒は、Ru担持炭素を好ましくは1質量%~10質量%の量で、好ましくはナトリウム、セシウム、バリウム、カリウム、ビスマス等の構造プロモーター(例えばNa2O)と組み合わせて含むか、又はそれらより構成されることがより好ましい。
【0051】
本発明による1つの態様によれば、酸化反応の間に、NaOH等の希強塩基の存在により、ルテニウム金属からRu(OH)x+RuO2/C等の酸化ルテニウム及び水酸化ルテニウムの混合物がその場で生成する。
【0052】
別の本発明による方法の好ましい実施形態では、触媒は、Ru(OH)x担持炭素を含む、又はそれより構成されることがより好ましい。
【0053】
別の本発明による方法の好ましい実施形態では、触媒は、酸化ルテニウム、好ましくはナトリウム、セシウム、バリウム、カリウム、ビスマス等の構造プロモーター(例えばNa2O)との組み合わせで含まれるか、又はそれらより構成されることがより好ましい。
【0054】
本発明による方法で使用される触媒は、試薬の量に対して、限定された量で使用される。望ましくは、金属触媒の量は、HMFの質量に対して10質量%未満、好ましくは8質量%未満、より好ましくはHMFの質量に対して6質量%未満である。金属触媒は、HMFの質量に対し0.5質量%超、好ましくは0.6質量%超、更に好ましくは0.7質量%超の量で存在することが望ましい。
【0055】
5-ヒドロキシメチルフルフラールの酸化反応は、100℃超、かつ好ましくは160℃未満、より好ましくは150℃以下、望ましくは140℃以下の温度で実施される。
【0056】
ルテニウム系触媒の存在下では、酸化温度が110℃以上で触媒効率が高まるため、120℃以上の温度、より好ましくは130℃以上の温度が好ましい。
【0057】
本発明の工程1)を実施するのに必要な強塩基は、水への溶解度が25℃で45g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましく、200g/L以上であることが更に好ましい。望ましくは、本発明の強塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化アンモニウム、水酸化バリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、トリメチルアミン、メチルアミン、ジエチルアミンからなる群より選択される。水酸基を有する可溶性塩基が好ましいが、後の精製操作が容易となるため、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0058】
これらの塩基は初期の反応混合物のpHを中性域にし、FDCAの生成で生じる酸を緩衝する機能を有する。これらは反応環境のpHを6.5~9に維持するのに必要な量で使用される。
【0059】
これらの強塩基は、縮合反応を引き起こす可能性から反応混合物中に過剰量存在しないように、また、触媒活性相を不活性化する作用を及ぼすナトリウム酸化物の生成を防ぐために、反応速度(及びそれに伴うpHの変化)に応じて、反応全体において、可能な限り、徐々に加えることが好ましい。
【0060】
従ってpHは7以上かつ8.5以下が望ましく、7.5以上かつ8以下が好ましい。
【0061】
本触媒は、これらの条件下で、その触媒活性がほぼそのまま維持されることが実証され、その再利用により、HMFのほぼ全てを転化してFDCAを選択的に生成することを可能とする。本触媒は、FDCAの生産収率を90%超に継続的に維持しながら数回リサイクルすることができる。
【0062】
水酸化ナトリウムの代わりに塩基性炭酸マグネシウム等の難溶性の塩基を導入して反応を実施した場合、触媒の表面上に沈着しやすくなり、NaOHを徐々に加える場合に比べて活性が低下するため、リサイクルの可能性が制限される。
【0063】
強塩基は、適切に希釈された水性溶液として加える、すなわち、好ましくは50g/kg~350g/kg、より好ましくは150g/kg~300g/kgの濃度で加えることが好ましい。
【0064】
この酸化工程1)は好ましくは十分に激しく撹拌できる反応器内、又はどのような場合でも気-液-固界面を広く確保できる反応器内で実施することができる。例えば内部又は外部再循環機能を備える反応器、機械撹拌又はガス導入型撹拌機、又は固定床を備える反応器、例えばジェットループ型又はエアーリフト型反応器が挙げられる。この反応器の特徴により、通常12時間から6~8時間の範囲で反応時間を制限することに加えて、触媒活性及び選択性に良い効果がもたらされる。
【0065】
酸化反応(工程1)の終点では、本発明で得られる2,5-フランジカルボン酸は水性溶液中に解離形態で存在する。
【0066】
本発明による方法の工程2)では、不均一系触媒は、公知の技術により、水性溶液中で本反応生成物から分離される。
【0067】
本発明による方法の1つの態様によれば、工程2)の不均一系触媒は、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び、電気化学セル又は電気集塵器による分離、湿式洗浄塔又は液体サイクロンからなる群から選択される少なくとも1つの操作を経て分離される。
【0068】
この分離工程は、1つ又は複数の同一又は異なる濾過操作、例えばベルトフィルター、ロータリードラムフィルター、フィルタープレス、キャンドルフィルターを用いた濾過操作を連続して又は並行して実施することが望ましい。
【0069】
これらの濾過操作のうち、精密濾過及び限外濾過が好ましく、適切な素材の膜を通して実施されるか、又は例えば接線流により実施される。
【0070】
接線流精密濾過(TFF)は、焼結鋼又はセラミック製の膜で好ましく実施され、触媒の分離に特に適している。
【0071】
本発明の方法の好ましい態様によれば、不均一系触媒は、少なくとも1回の接線流精密濾過により工程2)の反応生成物から分離され、この精密濾過を、水を用いて上記触媒を1回以上洗浄しながら実施することが望ましい。
【0072】
本濾過操作は、FDCA塩を溶液中に保持するため、pHを塩基性域にし、40℃超の温度で実施することが望ましい。
【0073】
工程2)でこのように分離された触媒は、本発明の方法の工程3)に従い、そのまま又は好ましくは洗浄及び/若しくは再生した後に、酸化工程1)で再利用することができる。
【0074】
本工程3)によれば、工程2)で分離された触媒を、単独で、又は、好ましくは未使用の触媒の分量に加えて、工程1)の酸化反応に投入することができる。この投入物は、好ましくは95質量%以下の濃度を有する水性スラリー状であることが望ましい。触媒を懸濁液中に保持しておくことは、実際に適切な触媒活性の維持に有用である。
【0075】
工程2)において分離された触媒を洗浄及び/又は再生するこれらの操作は、触媒の表面上に吸着されている可能性のある反応生成物及び副生成物を溶解させ、また活性相への汚れの付着を抑制するために、水を使用し、40~60℃の温度で実施することが望ましい。
【0076】
水の使用量は、存在する反応生成物及び副生成物の量や性質によって異なるため、洗浄操作を数回繰り返して実施することが望ましい。
【0077】
好ましい態様によれば、触媒洗浄水は、2,5-フランジカルボン酸塩を精製する次の操作において反応生成物を希釈するために再利用される。この操作形式は、回収率を向上させながらも全体において使用される水の量を少なく抑えることができる点で特に有利である。
【0078】
一度触媒が分離された後、水性溶液中の反応生成物を中和することにより、FDCAを固体状で得ることができる。このようにして得られるFDCAは、公知の技術、例えば濾過、デカンテーション、遠心分離から選択される1つ又は複数の分離操作により容易に回収することができる。或いは、塩として存在するFDCA水性溶液からFDCAを結晶化させた後で濾過することにより固体状で得ることができる。
【0079】
反応生成物の中和は、硫酸、塩酸、硝酸又は酢酸等の無機酸を好ましくは20%~70%、より好ましくは40%~60%の濃度で加えることにより行うことができる。
【0080】
第1の工程で使用される強塩基が苛性ソーダである場合、硫酸を使用することが望ましい。
【0081】
当業者であれば、得られる析出物の粒径や、その回収率を最適化して、析出物自体の中に形成される無機塩及び存在し得る他の有機副生成物又は中間体の混入を抑制することができる析出法 (例えば酸を加える量及び方法) を容易に特定することができる。析出物の粒径は、固体状で得られるFDCAの回収や最終精製に影響する。固体状のFDCAは公知技術により精製される。精製は、例えば、洗浄、及びそれに続く最終乾燥の前の固液分離であって、結晶化操作又は有機溶媒(例えばアセトン、メタノール、エタノール)を用いる抽出法による固液分離によって実施することができる。
【0082】
固液分離としては、濾過操作が好ましく、これらの好適な例としてはキャンドルフィルター、ベルトフィルター、ロータリーフィルター(遠心ロータリードラム)、フィルタープレスを用いた濾過操作が挙げられるが、キャンドルフィルター及びベルトフィルターを用いた濾過操作が好ましい。これらの操作は高温下(50~60℃)で実施することが好ましいが、縮合が有利になるという観点からは高温にする必要がないことが有利であり、これらの操作は、水で反応生成物を希釈することによって容易に実施できる。また、濾過操作は、最終生成物の性質に影響するとされる、酸性化操作に由来する塩及びHMFが部分酸化された生成物(例えば残留モノカルボン酸)を除去することも可能とする。また、濾過操作は、固体状のFDCAのさらなる洗浄を可能とする。
【0083】
特に望ましい態様によれば、濾過により固体状のFDCAを分離する際に、触媒洗浄水を使用して、中和された反応生成物を好適に希釈することができる。
【0084】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、工程2)の後であってFDCAの析出の前に、本方法は、公知技術、例えば1つ又は複数の膜分離操作(濾過)、脱色用イオン交換樹脂に通すこと、又は水素化反応等によって、反応生成物中に存在する2,5-フランジカルボン酸塩を精製する(任意の)工程を含む。この精製は、少なくとも1つのナノ濾過膜を用いた濾過操作によって実施することが好ましい。本操作は、最終生成物を着色する可能性がある高分子量縮合物(オリゴマー)を、2,5-フランジカルボン酸塩から効果的に除去する。
【0085】
実際に、本実施形態により得られる固体FDCAの分光測色法を用いた比色分析では、20未満が望ましく、15未満がより望ましく、5以下が更に望ましい黄色度指数(イエローインデックス、YI)を示す。いかなる理論に拘束されることを望むものでもないが、黄色度指数を上昇させる不純物の存在は、重合反応、特に重合度及び粘度(ブランチ化)に不利に影響するものとみられる。
【0086】
当業者であれば、濾過操作に付される反応生成物の特性に応じて、膜の材質、その電気化学的性質及びその空孔率を考慮しながら使用する膜の種類を選択することができる。また、選択した材料の特性に基づき、当業者であれば、各分離操作に応じて最適なpH条件及び操作時の圧力を選択し、1つ又は複数のダイアフィルトレーション工程(すなわち水を加えて残渣を希釈し、分離操作を繰り返す工程)を有利に実施できるか否かの評価を容易に行うことができる。
【0087】
例えば、一般に濾過操作は、天然由来の有機膜(例えばゴム、多糖)又は合成膜の有機膜(例えばポリマー膜)と、セラミック、金属又はガラス製の膜等の無機膜とを併用して実施される。
【0088】
有機膜のなかでも、ポリアミド、ポリイミド、ポリアルキレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテル、ポリ(エーテルケトン)、ポリカーボネート、セルロースアセテート及び誘導体が好ましく、有機塩に対する阻止率の低いポリピペラジンアミド製の膜が特に好ましい。
【0089】
好適な有機膜の具体例としては、ポリスルホン、芳香族ポリアミド、ポリピペラジンアミド、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられる。
【0090】
等方性膜(又は対称膜)及び異方性膜(又は非対称膜)の両方、及び複合膜が好適であるが、異方性膜の使用が好ましい。
【0091】
(1nm未満の孔径を有する)緻密膜は本工程における任意の精製段階で好ましく使用される。多孔性膜(すなわち、1nm~10μmの孔径を有するもの、例えばマクロ細孔膜であれば50nm超、メソ細孔膜であれば2nm~50nm、又はミクロ細孔膜であれば1nm~2nmの孔径を有するもの)も、特に反応生成物から触媒を分離する工程2)において、有利に使用できる。
【0092】
本発明によるナノ濾過を用いる精製工程で使用される膜は、平均孔径が5nm以下であり、分画分子量(MWCO)が約700~約300Daに対応する平均孔径を有することが更に望ましい。これらの特性によりFDCAナトリウム塩を特に効率的に分離できる。
【0093】
上記膜は、例えば、平面状、チューブ状、キャピラリー状又は中空糸状等の様々な構成で形成されていてよい。平面状の膜は、そのままフィルタープレス型システム内、ロータリーシステム内で用いたり、くるんでスパイラル膜モジュール内に入れ込むことによって、表面積や占有体積率を向上させることができる。
【0094】
本発明による膜分離操作は、バッチ式で、又は連続的に実施することができる。場合によるが、ノーマルフロー濾過法(垂直)又は接線流濾過法を好ましく使用することができる。接線流法による膜分離操作が好ましい。
【0095】
ナノ濾過操作は、本発明に従い、ポリスルホン、ポリピペラジンアミド、ポリアミド、ポリイミドからなる群から選択される材質の膜を用いて実施することが好ましい。
【0096】
好ましい態様によれば、ナノ濾過は、らせん構造を有するポリマー膜を用いて接線流(TFF)により実施される。
【0097】
いくつかのナノ濾過操作は、連続して実施することが望ましく、希釈操作、及び/又はその後の連続的なダイアフィルトレーションによって実施してもよい。水の投入量は、存在する反応生成物及び副生成物の量及び種類に応じて変更することができる。
【0098】
1つの特に望ましい態様によれば、触媒洗浄水を、ナノ濾過精製操作で使用する。
【0099】
当業者であれば、過剰な希釈を防ぐと同時に、膜への汚れの付着を最小限にしながら、FDCAナトリウム塩を溶液中に維持するための適切な操作条件を容易に特定することができる。
【0100】
この目的を達成するために、膜の汚れを発生させやすい2,5-FDCA塩の析出を抑えるため、ナノ濾過を経由する反応生成物の濃度を50g/kg未満に維持することも好ましい。
【0101】
本発明のこの実施形態によれば、透過液を、例えば蒸発等の公知の方法を用いて、溶液中のFDCAの回収を容易にするために適切な濃度値にまで濃縮することが望ましい。
【0102】
この濃縮は、膜表面へのFDCA塩の析出を防止するため、溶解度の維持に注意を払いながら浸透により実施することが好ましい。
【0103】
その後、FDCAを、上述したとおりに固体状で得る。
【0104】
得られるFDCAは、望ましくは98.5%超、より望ましくは99%超、更に望ましくは99.5%超の純度を有し、FDCAの質量に対して、無機塩(例えば硫酸塩)の含有量が500ppm未満であり、残留モノカルボン酸の含有量が1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満であり、これによりポリエステルの合成用モノマーとしての使用に特に適したものとなる。
【0105】
従って本発明の第二の対象は、2,5-フランジカルボン酸の純度が99%超、好ましくは99.5%超であり、FDCAの質量に対して、無機塩の含有量が500ppm未満であり、モノカルボン酸の含有量が1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満であり、より好ましくは0.1質量%未満であることを特徴とするFDCA組成物である。本発明のFDCA組成物は、これらのモノカルボン酸のなかでも、2-フラン酢酸を、FDCAの質量に対して0.1質量%以下の量で含有することが望ましく(好ましくは0.05%以下)、及び/又は、レブリン酸を、FDCAの質量に対して0.1質量%以下(好ましくは0.05%以下)の量で含有することが望ましい。
【0106】
純度及びモノカルボン酸の含有量は、例えば外部校正を行ったHPLC/PDA分析により測定することができる。例えば、HPLC/PDA分析は、Rezexカラム"ROA-Organic Acid H+(8%)"300×7.8mm型を用いて、流量0.6mL/分、温度60~65℃、記録波長254nm及び285nmで、0.005NH2SO4水性溶液による定組成溶離によって実施することができる。
【0107】
無機塩、特に無機アニオンの含有量は、例えば電気伝導度検出器(CI-CD)を備えたイオンクロマトグラフィにより、例えば第四級アンモニウム基を有するポリビニルアルコールをベースとした固定相を備えた"Metrosep A Supp 5"250mm×4.0mm×5μmのカラムを使用して、例えば流量:0.7mL/分、カラム温度:30℃の条件で3.2mMNa2CO3+1mMNaHCO3の水性溶液を用いる定組成溶離によって、測定することができる。
【0108】
本発明は、特にポリエステルの合成のための、重合反応における、本組成物の使用にも関する。
【0109】
上記組成物は、解離形態FDCAの水性溶液を少なくとも1回のナノ濾過工程に付すること、続いて中和、析出、及び少なくとも1回の水洗による精製、続いて固液分離により有利に得ることができる。
【0110】
従って、本発明の第三の対象は、解離した形態のFDCAの水性溶液をナノ濾過する工程の後にFDCAを析出させる工程、及びそれにより固体状で得られたFDCAを水洗する工程を含む、FDCAの精製方法である。
【0111】
上記精製方法の1つの態様によれば、解離した形態のFDCAの水性溶液は、上述した2,5-フランジカルボン酸の合成方法に従って有利に作製され、とりわけ、触媒から分離する工程2)の後に得られる。
【0112】
もう一つの態様によれば、解離した形態のFDCAの水性溶液は、酸素を含有する気体、及び白金族の金属、好ましくは白金を含む担持触媒の存在下で、好ましくは弱塩基の添加又は強塩基の漸進的な添加により、pHが7超かつ12未満の範囲で維持される水性溶液中で実施される、HMF水性溶液を酸化させる方法によって作製されることが望ましい。弱塩基としては、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、二塩基性及び三塩基性のリン酸塩緩衝液及びそれらの混合物が例示される。更により有利には、解離形態の上記FDCA水性溶液は、欧州特許第2 601 182号に記載されている2,5-フランジカルボン酸の合成方法に従って作製される。
【0113】
両方の場合において、初期のHMF溶液は、PCT/EP2019/068860に記載の方法で得られるHMF組成物から有利に調製することができる。
【0114】
本発明による方法は、バッチ式で、又は連続的形態で実施することができ、有機溶媒の使用を必要としないという利点を有する。
【0115】
本発明による方法について、下記実施例で説明するが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0116】
下記実施例で使用する触媒を、RuCl3水性溶液(8.3mM)及び比表面積が1500m2/gである活性炭担体から調製した。約10gの担体に対し、およそ286mLの溶液を使用した。15分間激しく撹拌した後、固体を分離し、脱イオン水で洗浄し、50℃で終夜乾燥させた。
【0117】
得られた粉末を、NaOH(1.0M、約28mL)を用いて、激しく撹拌しながら24時間処理した。その後、固体を140℃で更に24時間乾燥させて、約5%のルテニウムを含有するRu(OH)3/C触媒を得た。
【0118】
(実施例1)
工程1)
HMFの2%水性溶液(HMF20g/kg)1kgと、担持水酸化ルテニウム系触媒(上述の方法で調製された5%Ru(OH)x/C、x=3)とを、Ru/HMFの質量比が5%となるように2Lオートクレーブ中に投入した。
【0119】
上記反応器に対し、空気を導入して圧力が20barとなるようにし、内部温度が130℃になるように加熱した。
【0120】
上記反応器に対し、空気流を150NL/hで16時間供給し、苛性ソーダ水性溶液(150g/kg)を連続的に供給することでpH値が7.5~8で一定となるように維持した。
【0121】
工程2)
反応生成物(FDCA塩及び反応中間体)を含有する最終水性溶液を、触媒から(0.22μm直径のミリポアセプタムを通して)濾別し、Rezexカラム内のPDAと、0.005NH2SO4溶離液(流量=0.6mL/分;温度=60℃)を用いた液体クロマトグラフィによって分析した。
【0122】
合成収率は、クロマトグラフィ分析により得られた合成液中の2,5-FDCA塩のモル濃度の、プロセス中に供給されたHMF溶液の初期モル濃度に基づき理論的に算出された2,5-FDCA塩のモル濃度に対する比率により算出され、88%であった。
【0123】
工程3)
工程2)の濾過により回収された触媒を、既述の工程1)のプロセス条件の下でそのまま再利用した。工程2)の触媒の回収条件が最適化されていなかったにも関わらず、上述したとおりに算出された2,5-FDCAの合成収率は、78%であった。
【0124】
(比較例1)
工程1)
HMFの2%水性溶液(HMF20g/kg)1kgと、担持水酸化ルテニウム系触媒(実施例1と同様の5%Ru(OH)3/C)を、Ru/HMFの質量比が5%となるように2Lオートクレーブ中に投入した。反応器に対し、水酸化マグネシウムを、HMFに対するモル比が1:2となるように投入した。
【0125】
上記反応器に対し、空気を導入して圧力が20barとなるようにし、内部温度が130℃になるように加熱し、空気流を150NL/hで16時間供給した。
【0126】
工程2)
反応生成物(FDCA塩及び反応中間体)を含有する最終水性溶液を、触媒から(0.22μm直径のミリポアセプタムを通して)濾過により分離し、Rezexカラム内のPDAと、0.005NH2SO4溶離液(流量=0.6mL/分;温度=60℃)を用いた液体クロマトグラフィによって分析した。
【0127】
合成収率は、クロマトグラフィ分析により得られた合成液中の2,5-FDCA塩のモル濃度の、プロセス中に供給されたHMF溶液の初期モル濃度に基づき理論的に算出された2,5-FDCA塩のモル濃度に対する比率により算出され、83%であった。
【0128】
分離された触媒について、比表面積、孔径分布及び累積細孔容積を定量し、未使用の触媒の値及び実施例1の後に回収された触媒の値(再利用前に濾過により回収した触媒)と比較した。
【0129】
【0130】
比較的弱い塩基として不溶性のMg(OH)2を使用した比較例1では、比表面積及び収容可能空孔容積の劇的な低下がみられる。可溶性である強塩基が代替的に存在する実施例1では、触媒の特性が保持されている。
【0131】
活性表面の汚れは、X線光電子分光分析法(XPS)による原子組成プロファイル(下記表参照)における、酸化ルテニウム/水酸化ルテニウムの触媒活性を制限するマグネシウムの、ナトリウムに対する、ルテニウム上への相対的な付着量によっても確認される。
【0132】
【0133】
XPSスペクトルは、MgKα線(エネルギー=1253.6eV、線幅=0.7eV)及びAlKα線(エネルギー=1486.6eV、線幅=0.8eV)に対応する非単色X線を別々に透過させる陽極二重線源を備え、5チャンネルトロン半球形分析器を有するEscalab 200-C VGスペクトロメーターを用いて、測定中の分析チャンバー内の圧力を約5×10-9mbarとして収集した。分析範囲は3mm2であった。
【0134】
工程3)
工程2)の濾過により回収された触媒を、既述の工程1)のプロセス条件の下でそのまま再利用した。上述したとおりに算出した2,5-FDCAの合成収率は、たった67%であった。
【0135】
(実施例2)
工程1)
HMFの10%水性溶液(HMF100g/kg)10kgと、担持水酸化ルテニウム系触媒(Ru(OH)x+RuO2/C 5%, x=3)とを、Ru/HMFの質量比が0.75%となるように10Lジェットループ型反応器中に投入した。
【0136】
上記反応器に対し、空気を導入して圧力が20barとなるようにし、内部プロセス温度が130℃になるように加熱した。
【0137】
上記反応器に対し、空気流を20NL/分で8時間供給し、苛性ソーダ水性溶液(250g/kg)を、プロセス工程用のpH管理制御装置を用いて直接管理された変動流量で連続的に供給することでpH値を7.5~8に維持した。
【0138】
工程2)
反応生成物(FDCA塩及び反応中間体)を含有する最終水性溶液を、2μm焼結鋼フィルターを用いたタンジェンシャル濾過によって触媒から分離し、上記実施例で示したとおりに液体クロマトグラフィによって分析した。
【0139】
プロセスに供給されたHMF溶液の初期濃度に基づき理論的に算出された2,5-FDCAの合成収率と比較して、2,5-FDCAの合成収率は、95%であった。
【0140】
工程3)
工程2)の濾過において回収された触媒を、50℃で水洗し、濾過し、既述の工程1)のプロセス条件下で再利用した。この再利用操作を、数回繰り返した。下記表に、合成液中の2,5-FDCA塩の濃度の、プロセスに供給されたHMF溶液の初期濃度に基づき理論的に算出した2,5-FDCA塩の濃度に対する比率として算出される収率の結果を示す。
【0141】
【0142】
2,5-FDCA塩溶液を、10g/kgの濃度に適切に希釈した。この溶液を、ポリピペラジンアミド製の、300~500Daのカットオフを有する膜を使用し、接線流を用いたらせん型膜ナノ濾過システムで処理した。このような処理を、10~15L/h/m2の一定の流量条件で操作することにより、モノマーからの塩の脱塩を38%達成することが可能である。
【0143】
得られた残渣は、アルドール縮合現象に由来する不純物(YI=80である着色物質)を含有していた。
【0144】
次に、浸透法により、2,5-FDCAナトリウム塩の水性溶液を含有する上記透過液を、50g/kgを超えない濃度になるように濃縮した。モノマーの合計回収率は、(生成したFDCAに対して)85質量%であった。
【0145】
5M希硫酸を用いた析出法により、2,5-FDCAを酸として回収した。析出した固体は、得られたスラリーを、キャンドルフィルターを用いて濾過した後、洗浄、及び乾燥することによって回収した。。
【0146】
得られたFDCA組成物を、液体クロマトグラフィで分析し、上述した方法によりモノマー自体の純度を調べた。
【0147】
残留硫酸含有量は、第四級アンモニウム基を有するポリビニルアルコールを固定相として有する"Metrosep A Supp 5"カラム(250mm×4.0mm×5μm)を用い、電気伝導度検出器(Metrohm CI-CD)を使用したイオンクロマトグラフィ(定組成溶離液は3.2mM Na2CO3水性溶液+1mM NaHCO3水性溶液、流量:0.7mL/分、カラム温度:30℃)によって評価した。
【0148】
上記硫酸含有量は200ppm未満であった。
【0149】
得られたモノマーの純度は99.5%であり、フロ酸の含有量は0.05%未満であり、フランカルボキシアルデヒドの含有量は0.3%であり、ホルミルフロ酸の含有量は0.02%であった。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の合成方法であって、
1) 5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の水性溶液を、酸素分子、ルテニウムを含有する不均一系触媒、及び強塩基の存在下、100℃超の温度で酸化させて、水性溶液中のFDCA酸塩を含む反応生成物を得る工程、
2)水性溶液中の前記反応生成物から前記不均一系触媒を分離する工程、
3)工程1)の酸化反応で前記不均一系触媒を再利用する工程
を含
み、
ルテニウムを含有する前記不均一系触媒が、担持ルテニウム、担持酸化ルテニウム、担持水酸化ルテニウム、非担持水酸化ルテニウム及びそれらの混合物からなる群より選択され、
ここで、担持触媒のための担体は、炭素、非金属酸化物、官能化グラファイト、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項2】
前記強塩基は、水への溶解度が25℃で45g/L以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程1)での酸化の間、pHを6.5~9に維持する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程1)での酸化を、160℃未満の温度で実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程2)での不均一系触媒の前記分離を、濾過、デカンテーション、遠心分離、及び電気化学セル、電気集塵器、湿式洗浄塔又は液体サイクロンによる分離からなる群から選択される少なくとも1つの操作により実施する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程2)での不均一系触媒の前記分離を、少なくとも1回の接線流精密濾過により実施する、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
工程2)の後であって工程3)での再利用の前に、触媒を洗浄及び/又は再生する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程2)の後で、少なくとも1回のナノ濾過操作によって、水性溶液中の前記反応生成物を精製する、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
触媒を水洗し、それにより生じる触媒洗浄水をナノ濾過による精製操作で使用する、請求項
7又は
8に記載の方法。
【請求項10】
水性溶液中の前記反応生成物を、中和し、それにより固体状で得られるFDCA酸を次に分離する、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】