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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】薬物送達デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20230414BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230414BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61L 15/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61F 13/02 20060101ALI20230414BHJP
   A61F 13/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 41/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K47/34
A61K47/36
A61K45/00
A61L15/00
A61F13/02 360
A61F13/02 310R
A61F13/00 305
A61F13/02 310Z
A61P23/02
A61P41/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022546709
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 AU2021050059
(87)【国際公開番号】W WO2021151156
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】2020900258
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522304855
【氏名又は名称】シデリス,アンダース・ウィリアム・ジェイムズ
【氏名又は名称原語表記】SIDERIS, ANDERS WILLIAM JAMES
(71)【出願人】
【識別番号】522304866
【氏名又は名称】トムソン,カイル・アンドリュー
【氏名又は名称原語表記】THOMSON, KYLE ANDREW
(71)【出願人】
【識別番号】522304877
【氏名又は名称】ハバス,トーマス・アーネスト
【氏名又は名称原語表記】HAVAS, THOMAS ERNEST
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シデリス,アンダース・ウィリアム・ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】トムソン,カイル・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ハバス,トーマス・アーネスト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076BB32
4C076EE24
4C076EE27
4C076EE37
4C081AA03
4C081BA03
4C081BB06
4C081BC02
4C081CA171
4C081CA271
4C081CD091
4C081CE02
4C081DA02
4C081DC01
4C084AA17
4C084MA32
4C084MA63
4C084NA10
(57)【要約】
ポリマー組織界面層とポリマーバッキング層とを含む層状薬物送達デバイス。ポリマー組織界面層は、少なくとも1つの治療剤を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層と;
ポリマーバッキング層と
を含む、層状薬物送達デバイス。
【請求項2】
組織界面層がバイオポリマーおよび第2のポリマーを含む、請求項1に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項3】
前記バイオポリマーが粘膜付着性である、請求項2に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項4】
前記バイオポリマーがキトサンである、請求項2または3に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項5】
前記第2のポリマーがポリカプロラクトンである、請求項2から4のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項6】
前記バッキング層またはその副層が、それを通る治療剤の拡散を禁止するように構成されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項7】
前記バッキング層が、ポリカプロラクトン、ポリシロキサン、PLLA、PLGA、および/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項8】
前記組織界面層と前記バッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層をさらに含み、各追加の放出層が、
ポリマースペーシング副層と;
少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含み、
各追加の放出層の前記副層が、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも前記組織界面層に近くなる順序で配置される、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項9】
各追加の放出層の前記スペーシング副層が、PLLA、PLGAおよび/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含む、請求項8に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項10】
各追加の放出層の前記投薬副層が、バイオポリマーおよび第2のポリマーを含む、請求項8または9に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項11】
前記投薬副層において、前記バイオポリマーがキトサンである、請求項10に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項12】
前記投薬副層において、前記第2のポリマーがポリカプロラクトンである、請求項10または11に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項13】
前記追加の放出層の1つまたは複数が穿孔されている、請求項8から12のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項14】
前記組織界面層が穿孔されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項15】
前記組織界面層側で凸状であり、前記バッキング層側で凹状である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項16】
扁桃窩の壁に対して配置されるような形状をとる、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項17】
処置領域で組織に対して配置されるパッチなどである、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項18】
生分解性である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項19】
前記バッキング層が、前記デバイス内の他のいずれの層よりも緩徐に分解するように構成されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項20】
実質的に多孔性である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項21】
約90μm~約130μmの範囲にある細孔径を有する、請求項20に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項22】
前記バッキング層またはその副層が実質的に多孔性でない、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項23】
前記少なくとも1つの治療剤が麻酔剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項24】
前記少なくとも1つの治療剤が生体分子を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項25】
前記少なくとも1つの治療剤が抗菌剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項26】
前記少なくとも1つの治療剤が抗真菌剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項27】
前記少なくとも1つの治療剤が抗ウイルス剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項28】
前記少なくとも1つの治療剤が化学療法剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項29】
前記少なくとも1つの治療剤が免疫調節剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項30】
前記少なくとも1つの治療剤が細胞増殖または分化促進剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項31】
前記少なくとも1つの治療剤がステロイド性または非ステロイド性抗炎症剤を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項32】
前記組織界面層が実質的に親水性である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項33】
前記バッキング層が実質的に疎水性である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項34】
その層が連続的である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項35】
その層が実質的に平面である、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項36】
少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層と、
ポリマーバッキング層と、
前記組織界面層と前記バッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層とを含む層状薬物送達デバイスであって、各追加の放出層が、
ポリマースペーシング副層と、
少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含み、
各追加の放出層の前記副層が、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも前記組織界面層に近くなる順序で配置される、デバイス。
【請求項37】
少なくとも2つの追加の放出層を含む、請求項36に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項38】
前記組織界面層が、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される、請求項36または37に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項39】
前記投薬副層が、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される、請求項36から38のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項40】
前記組織界面層が、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む、請求項36から39のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項41】
前記組織界面層が、キトサンとPCLとのブレンドから形成される、請求項39に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項42】
各投薬副層が、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む、請求項36から41のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項44】
前記投薬副層が、キトサンとPCLとのブレンドから形成される、請求項42に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項45】
前記スペーシング副層が、前記投薬副層からの治療剤の放出を緩徐にするかまたは遅延させるように構成される、請求項36から44のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項46】
前記スペーシング副層が、PLLAとPLGAとのコポリマーから形成される、請求項36から45のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項47】
前記バッキング層が、それを通る治療剤の拡散または透過を実質的に禁止するように構成されている、請求項36から46のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項48】
前記バッキング層がPCLの層を含む、請求項36から47のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項49】
前記バッキング層が、PLLAとPLGAとのコポリマーで形成された副層、およびPCLで形成された副層を含み、前記PCL副層が、前記組織界面層から最も離れた最外層である、請求項36から48のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項50】
中咽頭に固定するように構成されたパッチである、請求項36から49のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項51】
処置部位への固定を容易にする取り付け部分を含む、請求項36から50のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項52】
前記組織界面層が、互いに相互浸透する2つ以上の連続キャストポリマー副層を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項53】
前記組織界面層の前記連続キャスト副層がキトサンを含む、請求項52に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項54】
隣接する副層が、それらの幅に比例して、互いに約25~35%相互浸透する、請求項53に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項55】
前記組織界面層と前記バッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の中間層を含む、請求項1または52に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項56】
各中間層が、2つ以上のポリマーのポリマーブレンドを含む、請求項55に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項57】
前記中間層の1つまたは複数が、少なくとも1つの治療剤を含む、請求項56に記載の層状薬物送達デバイス。
【請求項58】
中咽頭創傷を処置する方法であって、前記請求項のいずれか1項に記載のデバイスを前記創傷に対して固定するステップを含む、方法。
【請求項59】
扁桃摘出創傷を処置する方法であって、請求項1から58のいずれか1項に記載のデバイスを前記創傷に対して固定するステップを含む、前記方法。
【請求項60】
前記中咽頭創傷の処置における、請求項1から58のいずれか1項に記載のデバイスの使用。
【請求項61】
前記扁桃摘出創傷の処置における、請求項1から58のいずれか1項に記載のデバイスの使用。
【請求項62】
互いに浸透する2つ以上の連続キャストポリマー層を含む、薬物送達デバイスのための組織界面。
【請求項63】
前記ポリマー層がキトサン層である、請求項62に記載の組織界面。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達デバイスに関し、特に、例えば、創傷治癒を補助し、および/または疼痛を軽減する1つまたは複数の治療剤の持続的かつ制御された送達のために身体組織に対して配置することができる層状薬物送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における既知の先行技術へのいかなる言及も、反対の指示がない限り、このような先行技術が本出願の優先日に本発明が関係する当業者によって一般に知られていることの承認を構成するものではない。
【0003】
手術からの回復は、多くの場合疼痛を伴い、創傷が治癒するまでに長い時間がかかる可能性がある。疼痛および治癒時間は、術後出血によって悪化する可能性がある。例えば、耳鼻科では、最も一般的に行われる手術は、扁桃摘出術である。中咽頭痛は、依然として扁桃摘出術後患者の病状の主な原因であり、経口摂取の減少、嚥下障害、脱水症、および体重減少に関連している。さらに、これらの手術の結果としての術後出血は、創傷治癒不良および軽度の感染に関連している。極端な場合、これらの術後出血は重度であり、循環血液量減少性ショックおよび死に至る可能性がある。
【0004】
疼痛管理の典型的な方法には、局所麻酔剤、パラセタモール、オピエート医薬、および非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDS)の術中使用が含まれる。しかし、これらにはそれぞれ制限がある。局所麻酔剤の術中使用は術後に有効であるが、効果は短期間しか持続せず(最大8時間)、パラセタモール単独では効果がなく、全身オピエート医薬は、特に小児患者においてセデーションおよび呼吸抑制を引き起こし、NSAIDの使用は、出血が生じた場合の、より重度の出血に関連している。
【0005】
加えて、さらに、服薬コンプライアンスが不十分であると、疼痛管理および創傷治癒が困難になる。コンプライアンスが不十分であると、疼痛管理が不適切になり、これにより患者に重大な病状がもたらされ、医療システムに不必要な追加費用がもたらされる。特に、鎮痛レジメンに関係なく、疼痛や経口摂取の制御がうまくいかず、地元の医師(一般開業医)および救急部門に相談するケースが起こり続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一態様によれば、術後疼痛管理、創傷治癒および服薬コンプライアンスに関連する困難に対処しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの広範な形態では、本発明は、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層と;ポリマーバッキング層とを含む層状薬物送達デバイスを提供する。
【0008】
いくつかの形態では、組織界面層はバイオポリマーおよび第2のポリマーを含む。いくつかの形態では、バイオポリマーは粘膜付着性である。いくつかの形態では、バイオポリマーはキトサンである。いくつかの形態では、第2のポリマーはポリカプロラクトンである。
【0009】
いくつかの形態では、バッキング層またはその副層は、それを通る治療剤の拡散を禁止するように構成されている。いくつかの形態では、バッキング層は、ポリカプロラクトン、ポリシロキサン、PLLA、PLGA、および/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含む。
【0010】
いくつかの形態では、層状薬物送達デバイスは、組織界面層とバッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層をさらに含み、各追加の放出層が、ポリマースペーシング副層と;少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含み、各追加の放出層の副層が、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも組織界面層に近くなる順序で配置される。
【0011】
いくつかの形態では、各追加の放出層のスペーシング副層は、PLLA、PLGAおよび/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含む。いくつかの形態では、各追加の放出層の投薬副層は、バイオポリマーおよび第2のポリマーを含む。いくつかの形態では、投薬副層において、バイオポリマーはキトサンである。いくつかの形態では、投薬副層において、第2のポリマーはポリカプロラクトンである。
【0012】
いくつかの形態では、追加の放出層の1つまたは複数が穿孔されている。いくつかの形態では、組織界面層が穿孔されている。
【0013】
いくつかの形態では、層状薬物送達デバイスは、組織界面層側で凸状であり、バッキング層側で凹状である。いくつかの形態では、デバイスは、扁桃窩の壁に対して配置されるような形状をとる。
【0014】
いくつかの形態では、層状薬物送達デバイスは、処置領域で組織に対して配置されるパッチなどである。
【0015】
いくつかの形態では、層状薬物送達デバイスは生分解性である。いくつかの形態では、バッキング層は、デバイス内の他のどの層よりも緩徐に分解するように構成されている。
【0016】
いくつかの形態では、層状薬物送達デバイスは実質的に多孔性である。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、200nm~600nmの範囲である。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、6μm~60μmの範囲である。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、60μm~120μmの範囲である。典型的には、細孔径は、それぞれの層の厚さに依存して構成される(すなわち、細孔が存在するそれぞれの層に完全に浸透しない程度に小さい)。いくつかの形態では、バッキング層またはその副層は、実質的に多孔性ではない。
【0017】
いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、麻酔剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、生体分子を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、抗菌剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、抗真菌剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、抗ウイルス剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、化学療法剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、免疫調節剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、細胞増殖または分化促進剤を含む。いくつかの形態では、少なくとも1つの治療剤は、ステロイド性または非ステロイド性抗炎症剤を含む。
【0018】
いくつかの形態では、組織界面層は実質的に親水性である。いくつかの形態では、バッキング層は実質的に疎水性である。いくつかの形態では、その層は連続的である。いくつかの形態では、その層は実質的に平面的である。
【0019】
1つのさらに広範な形態では、本発明は、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層と、ポリマーバッキング層と、組織界面層とバッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層とを含む層状薬物送達デバイスであって、各追加の放出層が、ポリマースペーシング副層と、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含み、各追加の放出層の副層が、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも組織界面層に近くなる順序で配置される、デバイスを提供する。
【0020】
いくつかの形態では、デバイスは、少なくとも2つの追加の放出層を含む。
いくつかの形態では、組織界面層は、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される。いくつかの形態では、投薬副層は、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される。いくつかの形態では、組織界面層は、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む。いくつかの形態では、組織界面層は、キトサンとPCLとのブレンドから形成される。いくつかの形態では、各投薬副層は、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む。いくつかの形態では、投薬副層は、キトサンとPCLとのブレンドから形成される。
【0021】
いくつかの形態では、スペーシング副層は、投薬副層からの治療剤の放出を緩徐にするかまたは遅延させるように構成される。いくつかの形態では、スペーシング副層は、PLLAとPLGAとのコポリマーから形成される。
【0022】
いくつかの形態では、バッキング層は、それを通る治療剤の拡散または透過を実質的に禁止するように構成されている。いくつかの形態では、バッキング層はPCLの層を含む。いくつかの形態では、バッキング層は、PLLAとPLGAとのコポリマーで形成された副層、およびPCLで形成された副層を含み、PCL副層は、組織界面層から最も離れた最外層である。
【0023】
いくつかの形態では、デバイスは中咽頭に固定するように構成されたパッチである。いくつかの形態では、デバイスは、処置部位への固定を容易にする取り付け部分を含む。
【0024】
いくつかの形態では、組織界面層は、互いに相互浸透する2つ以上の連続キャストポリマー副層を含む。いくつかの形態では、組織界面層の連続キャスト副層は、キトサンを含む。いくつかの形態では、隣接する副層は、それらの幅に比例して、互いに約25~35%相互浸透する。
【0025】
いくつかの形態では、1つまたは複数の中間層が、組織界面層とバッキング層との間に挟まれている。いくつかの形態では、各中間層は、2つ以上のポリマーのポリマーブレンドを含む。いくつかの形態では、中間層の1つまたは複数は、少なくとも1つの治療剤を含む。
【0026】
さらに広範な形態では、本発明は、中咽頭創傷を処置する方法であって、本明細書に記載のいずれかの形態で提供されるデバイスを創傷に対して固定するステップを含む、方法を提供する。さらに広範な形態では、本発明は、扁桃摘出創傷を処置する方法であって、本明細書に記載のいずれかの形態で提供されるデバイスを創傷に対して固定するステップを含む、方法を提供する。
【0027】
さらに広範な形態では、本発明は、中咽頭創傷または扁桃摘出創傷の処置における、上記形態のいずれか1つにおいて提供されるデバイスの使用に関する。
【0028】
さらに広範な形態では、本発明は、薬物送達デバイスのための組織界面であって、互いに相互浸透する2つ以上の連続キャストポリマー層を含む、組織界面を提供する。いくつかの形態では、ポリマー層はキトサン層である。
【0029】
本発明の実施形態は、さらなる特徴、実施形態、および利点が得られる図面を参照して、以下についてさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一例による層状薬物送達デバイスの側面斜視図である。
図2図1の部分Aを拡大したものであり、デバイスの層状構造を示す図である。
図3図2の部分Bを拡大したものであり、いくつかの層に充填された治療剤を示す図である。
図4】扁桃窩における図1のデバイスの典型的な定置を示す口腔のダイアグラムである。
図5】一例によるデバイスの固定のための縫合糸の位置決めを示す概略図である。
図6】一例によるデバイスの取り付け部分または「島」を示す概略図である。
図7】質量範囲にわたるブピバカイン質量の検出、およびブピバカイン質量を確認する高度に特異的なアッセイを示すクロマトグラムであり、他の信号は検出されず、これは完全で無傷のブピバカイン分子であることを示している。
図8】質量範囲にわたるリグノカイン質量の検出、およびブピバカイン質量を確認する高度に特異的なアッセイを示すクロマトグラムであり、他のシグナルは検出されず、これは完全で無傷のリグノカイン分子であることを示している。
図9】0、48、120、240および336時間目の剖検時に採取されたブタ扁桃組織においてLCMS法によって検出されたブピバカインレベルを表す折れ線グラフである。
図10】0、48、120、および240時間目の剖検時に採取されたブタ扁桃組織においてLCMS法によって検出されたリグノカインレベルを表す折れ線グラフである。
図11】0、48、120、240、および336時間目の剖検時に採取されたブタ扁桃組織において、記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインおよびリグノカインの累積パーセンテージ放出を示す折れ線グラフである。
図12】0、48、120、240および336時間目の剖検時に前頸静脈鎖から採取されたブタのリンパ組織において記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインレベルを表す折れ線グラフであり、ブピバカインレベルはリンパ組織の1ミリグラム当たりのナノグラムで表される。
図13】0、48、120、240および336時間目の剖検時に前頸静脈鎖から採取されたブタのリンパ組織において記載されたLCMS法によって検出されたリグノカインレベルを表す折れ線グラフであり、リグノカインレベルはリンパ組織の1ミリグラム当たりのナノグラムで表される。
図14】0、1、2、4、24、48、72、120で内頸静脈から採取されたブタ血清において記載されたLCMS法によって検出されたリグノカインレベルを表す折れ線グラフであり、リグノカインレベルは血清の1ミリリットル当たりのナノグラムで表される。
図15】0、1、2、4、24、48、72、120で内頸静脈から採取されたブタ血清において記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインレベルを表す折れ線グラフであり、ブピバカインレベルは血清の1ミリリットル当たりのナノグラムで表される。
図16】100倍の倍率での一例におけるデバイスの走査型電子顕微鏡画像である。
図17】250倍の倍率での一例によるデバイスの走査型電子顕微鏡画像である。
図18】定置時にブタの扁桃摘出創傷に定置された、一例に従って記載されたデバイスの口腔内を示す画像である。
図19】植込みから5日の、ブタ扁桃摘出創傷に縫合された、一例に従って記載されたデバイスの口腔内を示す画像である。
図20】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図21】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図22】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図23】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図24】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図25】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図26】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図27】48、120、240、および336時間の剖検時点でブタの扁桃摘出試料から採取された組織の組織像を示す画像であり、デバイス-組織界面での組織応答を示す。
図28】それぞれ、唾液酵素に浸漬する前の光学顕微鏡下のキトサンフィルムを倍率1.25倍、2倍、および4倍で示す画像である。
図29】それぞれ、唾液酵素に浸漬する前の光学顕微鏡下のキトサンフィルムを倍率1.25倍、2倍、および4倍で示す画像である。
図30】それぞれ、唾液酵素に浸漬する前の光学顕微鏡下のキトサンフィルムを倍率1.25倍、2倍、および4倍で示す画像である。
図31】それぞれ、唾液酵素への浸漬から48時間のキトサンフィルムを、1.25倍、2倍、4倍の倍率で光学顕微鏡下で示す画像であり、これはポリマーの分解を示している。
図32】それぞれ、唾液酵素への浸漬から48時間のキトサンフィルムを、1.25倍、2倍、4倍の倍率で光学顕微鏡下で示す画像であり、これはポリマーの分解を示している。
図33】それぞれ、唾液酵素への浸漬から48時間のキトサンフィルムを、1.25倍、2倍、4倍の倍率で光学顕微鏡下で示す画像であり、これはポリマーの分解を示している。
図34】1つの溶媒キャストで構築されたキトサン層、および2つの溶媒キャスティングで構築されたキトサン層を示す図であり、後者は重なり合い領域で相互浸透相または相互融合相(inter-melding phase)(30)を示す。
図35】扁桃癌の拡張中咽頭切除を示す概略図である。
図36】デバイスの形状および輪郭をカスタマイズできる中咽頭切除欠損を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態は、手術部位および他の処置部位への、治療剤の制御されかつ持続的な送達を提供する層状薬物送達デバイスを提供する。デバイスは、疼痛管理、創傷治癒、および/または腫瘍、炎症、および感染の処置における用途を含むがこれらに限定されない、さまざまな用途を有することができる。デバイスの実施形態は、扁桃摘出患者に対する特定の用途を有し、扁桃摘出術後に局所麻酔剤を送達する、扁桃摘出術後の創傷治癒を促進する、および/または扁桃摘出術後の感染および/または出血を防止する手段を提供する。
【0032】
デバイスの実施形態は、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層と、バッキング(または支持)層とを含む。バッキング(または支持)層も、典型的にはポリマーである。組織界面層は、使用時に、治療される組織に対して配置される層である。組織界面層は、1つまたは複数のポリマーおよび1つまたは複数の副層を含み得る。いくつかの例では、組織界面層は、2つ以上のポリマーを含む。一例では、組織界面層はバイオポリマーおよび第2のポリマーを含む。例えば、組織界面層は、バイオポリマーと第2のポリマーとの混合物/ブレンドから形成された、治療剤がその中に埋め込まれている/組み込まれているポリマーマトリックスを含み得る。
【0033】
粘膜組織/部位へのデバイスの接着を容易にするために、組織界面層は粘膜付着性であってもよい。典型的には、組織界面層のバイオポリマーは粘膜付着性であり、例えばキトサンであってもよい。組織界面層の一例は、キトサンとポリカプロラクトン(PCL)とのブレンドから形成される。
【0034】
別の例では、組織界面層は、ポリマーの複数の連続キャスト副層から形成され得る。例えば、一形態では、組織界面層は、キトサンの連続キャスト副層を含む。一形態では、キトサンの副層が互いに重なり合い/相互融合(inter-meld)/相互浸透する。一例では、それらは(幅の割合として)約25~35%相互浸透する。層の相互融合/重なり合いを提供するための例示的な方法は、実施例3によって説明される。一例では、組織界面層は、互いに浸透するキトサンの4つの連続キャスト層を含む(すなわち、3つの相互融合/重なり合い相を有する)。
【0035】
組織界面層から処置部位への治療剤の送達のために、治療剤は、典型的には、組織界面層のポリマーマトリックスが分解するにつれて、処置領域に拡散、および/または放出される。バッキング層またはその副層は、処置部位以外の組織/領域への治療剤の漏出/進行を実質的に防止するために、一般に、そこを通る治療剤の拡散または透過を実質的に禁止するように構成される。バッキング層は、典型的には、(処置部位から離れた治療剤の損失を避けるために)組織界面層のものよりも緩徐に分解するポリマーから形成される。いくつかの例では、バッキング層は、PCL、ポリシロキサン、ポリ-l-ラクチド酸(PLLA)、ポリ-l-グリコール酸(PLGA)、および/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含んでもよい。バッキング層は、いくつかの例では、実施例1または5に記載の方法に従って製造することができる。
【0036】
一般に、層状薬物送達デバイスは、組織界面層とバッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層をさらに含む。各追加の放出層は、ポリマースペーシング副層と少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含む。各追加の放出層の副層は、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも組織界面層に近くなる順序で配置される。各スペーシング副層は、そのそれぞれの投薬副層からの治療剤の放出を緩徐にするかまたは遅延させるように作用する。例えば、使用中、治療剤が組織界面層から放出されると、スペーシング副層は、隣接する投薬副層からの放出を緩徐にするかまたは遅延させる一時的なバリアを提供する。処置領域に進むために、投薬副層からの治療剤は、典型的には、スペーシング副層を通って時間をかけて拡散する、および/またはスペーシング層が十分に分解されると放出される。
【0037】
いくつかの例では、各追加の放出層のスペーシング副層は、PLLA、PLGAおよび/またはPLLAとPLGAとのコポリマーのいずれか1つまたはそれらの組合せを含む。各追加の放出層の投薬副層は、組織界面層と同様であり得、例えばバイオポリマーおよび第2のポリマーのような2つ以上のポリマーを含み得る。一例では、投薬副層において、バイオポリマーはキトサンであってもよく、第2のポリマーはPCLであってもよい。他の例では、投薬副層は、単一のポリマーのみを含んでもよく、例えば、主にキトサンで形成してもよい。いくつかの例では、スペーシング副層および投薬副層はそれぞれ、実質的に平面の連続ポリマーマトリックスである。いくつかの例では、追加の放出層および/またはそれらの副層は、実施例1または4に記載の方法に従って作製されてもよい。
【0038】
デバイスの薬物送達プロファイルおよび/または分解プロファイルは、各層/副層を形成するポリマーの選択によって改変/構成することができることが理解される。したがって、デバイスの放出反応速度論は、特定の適応症/適用のために事前操作/構成することができる。例えば、異なるポリマーの組合せ/組成は、異なる特性、例えば、層分解速度、薬物放出プロファイル、拡散特性を有することが理解されるであろう。したがって、デバイスは、体内の異なる環境での適用のために構成され得る。例えば、ポリマー/層組成物を、中咽頭の環境内で、例えば唾液酵素により、中咽頭(pH4.0~6.0)または口腔(pH6.0~8.0)などのpHで、分解するように構成することができる。
【0039】
本明細書に記載のデバイスのポリマー層/副層はそれぞれ、1つまたは複数のポリマー、コポリマーおよび/またはポリマー複合材料から形成され得ることが理解される。層または副層は、連続キャスト層によって製造することができることも理解されるであろう。
【0040】
すでに言及したものに加えて、デバイスに実装することができる好適なポリマーには、海洋性コラーゲン、アルギネート、キサンタンガム、セルロース、ポリジオキサノン、ポリラクチノン、ポリラクチン、ポロキサマー、ポリオルトエステル(polyrthoesters)、ポリ酸無水物、ポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(2ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリルグリコール)、ポリ(エチレングリコール)(ethelene glycol)、が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
薬物送達プロファイルを改変/構成しようとする際に、各層/副層の厚さ、層/副層の多孔度、層および/またはそれらの副層の間の重なり合い/相互浸透/相互融合の程度、層/副層の生分解性、および/または組織界面層とバッキング層との間に挟まれる追加の放出層の数を含むがこれらに限定されない、他のパラメーターを調整することができることも理解されるであろう。
【0042】
層および/またはそれらの副層の間の重なり/相互浸透/相互融合の程度に関して、これは、以下の利点を提供することができる:
- 層-層間剥離による破損がない;
- よりスムーズな薬物放出プロファイルが存在し、すなわち、治療薬の従来の投与スケジュールでの反復投与がより少ないなど、および選択された一定の投与量がより多いなどである。これは状況によっては望ましい場合があり、処置時間の短縮につながる可能性がある。よりスムーズな放出プロファイルにより、デバイス-組織間界面で組織および細胞(線維芽細胞/上皮細胞/など)が経験する治療剤の短期的な(潜在的に毒性のある)バーストが制限される。このことは、迅速かつ高品質の創傷修復組織を達成するのに役立つ可能性がある;および/または
- 分解プロファイルの改善。同様に、よりばらつきの少ない分解プロファイルにより、デバイスの結果がより予測可能になり、投与中の破損が少なくなる。
【0043】
厳密な層-層間界面の代わりに、異なる境界相(すなわち、相互融合相)を有する組織界面側に初期層構造を有するデバイスは、創傷治癒中の増殖細胞を補助する。線維芽細胞などの細胞は、デバイス構造に、より容易に浸透することができる。これらの細胞は、より速く移動して従来の創傷空隙をより迅速に満たし、創傷腔を覆うのに必要な数が少なくなる。そうすることで、創傷プラグなどに関連するものなど、後でさらに続いてリモデリングを必要とする治癒の治癒過程で作出される組織が少なくなる。
【0044】
典型的には、キャスティング中に、層(例えば、キトサンの)が作製中に既存の層に浸透し、硬い層-層間界面ではなく重なり合い層を作出すことが可能になるように、溶媒特性を構成することができる。重なり合いまたは浸透の深さは、溶媒キャスティング中に使用されるポリマー溶液中の相対溶媒組成によって制御される。一例では、組織界面層は、キトサンの複数の連続キャスト副層から構成され、隣接する層はそれらの幅の約1/3まで重なり合う。図28は、隣接するキトサン層間の相互融合相(30)の一例を示す。
【0045】
いくつかの例では、組織界面層および/または1つもしくは複数の投薬副層はそれぞれ、約50μm~約100μmの範囲の厚さを有し、いくつかの例では、組織界面層および/または1つもしくは複数の投薬副層はそれぞれ、約60μm~約80μmの厚さを有する。いくつかの例では、組織界面層および/または1つもしくは複数の投薬副層はそれぞれ、約60μm~約70μmの厚さを有する。いくつかの例では、スペーシング副層は、約0.5μm~約3μmの範囲の厚さを有し、いくつかの例では、スペーシング副層は、約0.7μm~約2.8μmの範囲の厚さを有する。いくつかの例では、バッキング層は、約5μm~約100μmの厚さを有し、いくつかの例では、約10μm~約50μmの厚さを有する。
【0046】
処置部位への接着を容易にするために、層/副層の1つまたは複数が穿孔性/有窓/多孔性であってもよく、そうして、新しい/治癒組織が、穿孔/開窓/細孔内で、または穿孔/開窓/細孔に完全に浸透して成長し、それによって、デバイスを所定位置に定着させることができる。接着剤(例えば、組織グルー(glue))または縫合を、最初にデバイスを所定の位置に固定するために使用してもよく、またはこれらは固定の主要な手段であってもよい。いくつかの例では、バッキング/支持層は、縫合が可能になる程度に堅牢なポリマーマトリックスから形成されてもよい。いくつかの例では、デバイスは、患者に縫合または接着するための定着点を提供するように構成された堅牢な材料/ポリマーで形成された、取り付け部分全体(または「島」)および/または外縁を含み得る。扁桃摘出術後患者に関しては、これらの定着点を、例えば、扁桃柱および/または扁桃窩床に接着または縫合させてもよく、これにより、典型的には、嚥下などの力に抵抗する程度に強い固定が可能になる。一例では、取り付け部分は、PLLA、PLGA、PLLAとPLGAとのコポリマー、およびPCLの群から選択される組合せポリマーのいずれか1つで形成される。
【0047】
典型的には、バッキングまたはその副層は、多孔性でなくてもよく、または最小限の多孔度を有していてもよく、そのようにして投薬層からバッキング層を介して/通って、標的処置部位以外の領域への治療剤の拡散/漏出を、実質的に禁止/制限してもよい。
【0048】
いくつかの例では、層/副層のうちの1つもしくは複数、またはデバイス全体が、約60%~約90%の範囲の多孔度またはマトリックス空隙組成を有する。いくつかの例では、細孔径は、リンパ球の浸潤(infiltration)、線維芽細胞の増殖、および/または新しい血管系の浸潤(invasion)を促進するように選択される(これらがなくては、創傷治癒は最適ではない)。いくつかの例では、最小細孔径は、約3μm~約7μmの範囲にある。いくつかの例では、最大細孔径は約500μmである。いくつかの例では、細孔径は、約90μm~約130μmの範囲にある。一例では、スペーシング副層は、約250μm~約500μm、いくつかの例では、約274μm~約450μmの範囲の細孔径を有する。いくつかの例では、治療剤は、投薬副層および組織界面層の細孔/マトリックス空隙内に配置される。
【0049】
いくつかの例では、細孔径は、それぞれの層の厚さに依存して構成される(すなわち、細孔が存在するそれぞれの層に完全に浸透しない程度に小さい)ことが理解されるであろう。異なる層が異なる細孔径を有し得ることも理解されるであろう。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、200nm~600nmの範囲である。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、6μm~60μmの範囲である。いくつかの例では、デバイスの細孔径は、60μm~120μmの範囲である。
【0050】
層状薬物送達デバイスは、さまざまな形態をとることができ、例えば、パッチ、インサート、インプラント、またはメッシュなどであり得る。デバイスは、ほぼ平面形状または非平面形状を取り得ることが理解されるであろう。デバイスは典型的に、生体適合性かつ生分解性であるため、経時的に分解/溶解し、体に悪影響を与えることなく体に吸収され得る。分解は、例えば唾液に見出される酵素などの天然に存在する酵素によって促進される場合がある。いくつかの例では、デバイスは完全に生分解性でなくてもよく、治療剤が投与されてから一定期間後に取り外されてもよいことが理解されるであろう。そのような場合、例えば、生分解しないのはバッキング層であり、したがって、そのような例のバッキング層は、非毒性であれば、任意の好適な材料(非ポリマー材料を含む)から構成され得る。バッキング層の分解性プロファイルは、意図する臨床用途に適合するように変更できることが理解されるであろう。例えば、充填された薬物内容物全体が送達/放出された後、デバイスの外層/バッキング層の分解が望ましい場合があり、その結果、口腔内デバイスの除去が不要になる(デバイスは分解し、下部組織に組み込まれる)。
【0051】
一般に、デバイスは、処置部位に、または処置部位に対して配置され、いくつかの例では、デバイスは、特定の処置部位、腔、窩などに適合するような形状をとる/適合するように構成され得る。いくつかの実施形態では、デバイスは、組織界面層側で凸状であり、バッキング層側で凹状である。いくつかの実施形態では、デバイスは、扁桃窩の壁に対して配置されるような形状をとる。
【0052】
デバイスは、典型的には、処置部位への適合が可能になるように、可鍛性であることが理解されるであろう。いくつかの例では、処置部位(例えば、扁桃窩)に対する湾曲および/または適合を促進するために、デバイスの層は、異なるレベルの疎水性/親水性を有するように構成され得る。例えば、組織界面層は、実質的に親水性であるように構成されてもよく、一方、バッキング層は、実質的に疎水性であるように構成されてもよく、したがって、扁桃窩のような処置部位に配置されると、組織界面層が水を吸収して膨張し、窩によりよく適合する湾曲を提供する。
【0053】
例えば、キャストポリマー層は、それぞれ異なる含水量および異なる水分取込み能力を有し得る。これを、高湿度領域で利用して、粘膜付着を改善するだけでなく、デバイスが創傷または組織の表面/形状に自己成形できるようにしてもよい。これにより、外科医のデバイスの取り扱い経験が向上し、最終的には、創傷部位の/そこでの可能な限り最良の被覆/接触を提供することを補助することによって、性能が増大する。
【0054】
例えば、キトサンのみの層は典型的に高い膨潤性を有し、キトサンとPLLA/PLGA/PCLとの組合せから形成されたブレンド層は、典型的に穏やかな膨潤性を有するが、PLGA/PLLA/PCL層は典型的に膨潤性が制限されている。
【0055】
デバイスの性質により、患者の解剖学的構造により適切に適合するように(例えば、小児患者対成人患者)、挿入/手術前および/または挿入/手術中に、必要なサイズにトリミング/切断できることも理解されるであろう。
【0056】
薬物送達デバイスは、薬物、生体分子、医薬組成物、およびより詳細には、麻酔剤、抗菌剤、抗腫瘍剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、化学療法剤、免疫調節薬、界面活性剤、銀および金粒子、ステロイドおよび非ステロイド抗炎症剤、成長因子、幹細胞、細胞増殖もしくは分化促進剤、核酸(例えば、DNA/RNA)、ペプチド、タンパク質、またはアレルギー脱感作療法用抗原などを含むがこれらに限定されないさまざまな異なるタイプの治療剤を含み得る。一般に、術後疼痛の処置において、治療剤は麻酔剤である。麻酔剤の例としては、ブピバカイン塩酸塩、リグノカイン塩酸塩、ロピバカイン塩酸塩、プリロカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩、ベンゾカイン塩酸塩が挙げられる。
【0057】
図1図4の概略図によって示される特定の一実施形態では、本発明は、扁桃摘出術後の疼痛管理および創傷治癒を補助する層状薬物送達パッチ/インサートを提供する。パッチ/インサート(1)は、扁桃窩(100)に適合するような形状をとり、一般に卵形を有する。組織界面側(2)は凸状であり、バッキング側(3)は凹状である。
【0058】
デバイスは多層であり、組織界面層(4)、2つの追加の放出層(5、6)、およびバッキング層(7)を含む。組織界面層(4)は、キトサンとポリカプロラクトン(PCL)との混合物/ブレンドから形成され、その中に配置されている/組み込まれた1つまたは複数の治療剤(8、9)(典型的には鎮痛剤)を有する。追加の放出層(5、6)のそれぞれは、スペーシング副層(5a、6a)および投薬副層(5b、6b)を含む。投薬副層にはまた、それぞれ治療剤も充填されている。
【0059】
組織界面層と同様に、投薬副層は、キトサンとPCLとの組合せから形成される。スペーシング副層は、ポリ-l-ラクチド酸(PLLA)とポリ-l-グリコール酸(PLGA)とのコポリマーで形成されている。
【0060】
層/副層の厚さは変えることができることが理解されるであろう。この特定の実施形態の一例では、組織界面層および投薬副層は、約65μmの平均厚さを有し、スペーシング副層は、約2.6μmの平均厚さを有し、バッキング層は、約52μmの厚さを有する。
【0061】
扁桃摘出術後の典型的な使用において、パッチ/インサート(1)は、処置される創傷/組織領域上の扁桃窩に配置される。組織界面層(2)、特にそのキトサン成分の粘膜付着性は、窩(100)壁へのデバイスの接着を補助する。組織界面におけるキトサン含有層のより優れた柔軟性および膨潤性により、特定の手術部位に適合する自然な接着および拡張が促進される。
【0062】
典型的には、デバイス(1)は、所定位置で縫合される。代替的または追加的に、場合によっては、グルー/接着剤を、処置部位への接着に使用することができる。組織界面層(2)内の穿孔/開窓(2a)もまた、デバイス内への新しい組織の成長を促進し、窩(100)内の位置を確保するのにさらに寄与する。
【0063】
典型的な使用において、外科医は、扁桃摘出術を行った後、パッチ/インサート/デバイス(1)を準備して扁桃窩に配置する。パッチ/インサートデバイスは、患者間の扁桃窩の寸法のばらつき(例えば、小児患者対成人患者)に対応するために、複数のサイズで提供することができる。
【0064】
必要に応じて、扁桃窩に適合するようにデバイスをトリミングすることができる。デバイスは、例えば、外科用マーカーで印をつけることができ、これにより、必要なデバイスの正確なサイズを決定する際に外科医を補助することができる。あるいは、不活性透明プラスチック製のフィッティングガイドを使用して、扁桃窩の正確な寸法の印をつけることができる。その後、デバイスを、それに応じて適切な寸法に切断する。
【0065】
図5および図6は、固定方法の可能な変形形態を示す。図5は、堅牢な材料/ポリマー(例えば、PLGA、PLLA、PLGAとPLLAまたはPCLとのコポリマー)から形成され得る、デバイスの外縁(20a)の周りの縫合の一例を示す。この例では、デバイスを、典型的には、前扁桃柱および後扁桃柱ならびに/または隣接する粘膜に縫合する。外科医は、適切な固定を達成するために、希望する数の縫合糸を定置することができる。いくつかの形態では、代替的に外科用グルー/接着剤を、縁(20a)に塗布することができる。
【0066】
図6の方法では、取り付け部分または「島」(20b)は、適切な外科用グルーを用いて慎重に局所化して、次いでデバイスを、グルーが固まり、接着力が十分になるまで一定の圧力を加えて、扁桃窩に定置させる。グルーが製造中に取り付け部分/「島」のポリマーに事前に組み込まれ、光エネルギーによって活性化されて下部組織への接着を達成することができる別の変形形態が提供されてもよい。これらの固定方法の組合せを利用できることも理解されるであろう。取り付け部分/島は、典型的には、堅牢な材料/ポリマー(例えば、PLGA、PLLA、PLGAとPLLAまたはPCLとのコポリマー)で形成される。
【0067】
固定されると、組織界面層からの治療剤(8、9)は、組織界面層が分解するにつれて、処置領域に拡散する、および/または処置領域に放出される。隣接した追加の放出層(5)からの隣接するスペーシング層(5a)は、隣の投薬層(5b)からの治療剤が処置領域/部位へ進むのを遅延させるかまたは緩徐にするバリア/障害物を提供する。投薬層(5a)からの治療剤は、スペーシング層を通って拡散しなければならない、および/またはスペーシング層が十分に分解すると放出される。この点において、追加の放出層(例えば、5、6)がどのように治療剤の遅延パルスを処置部位に提供し、治療薬の持続的な制御放出を提供するかが理解されるであろう。この例では、2つの追加の放出層(5、6)があり、したがって、組織界面層からの最初のバーストの後、治療剤の2つの連続パルスが処置部位に提供される。他の形態では、デバイスは、必要な投薬/放出プロファイルに応じて、任意の数の追加の放出層を含み得ることが理解される。
【0068】
バッキング層(7)は、処置領域から離れた口腔の他の領域への治療剤の拡散または透過を禁止/制限するように構成される。バッキング層(7)は、PLLAおよびPLGAのコポリマーから形成される副層と、デバイス(1)の組織に面しない側の最外面を形成するPCLの副層とを含む。
【0069】
薬物/治療薬の持続的かつ制御された放出を提供することにより、患者は、デバイスによって、投与された薬物/治療薬の濃度におけるあらゆる危険な/有毒なスパイクを回避することができる。実施例2ならびに図9および11は、治療剤がリグノカインおよびブピバカインである、この特定の実施形態によるデバイスで達成される放出プロファイルを示す。放出プロファイルに対応して、図12~15は、局所リンパ節および血清で検出された、放出された治療薬の経時的なレベルを示す。
【0070】
全体として、デバイス(1)は、生分解性および生体適合性であるポリマー材料で形成され、時間の経過とともに、分解するにつれて悪影響なく身体に吸収される。デバイスの組成/層は、唾液によって(例えば、唾液酵素によって)、かつ中咽頭(4.0~6.0)または口腔(pH6.0~8.0)のpHで好適に分解されるように、中咽頭に対し適切に構成されていることを理解されたい。
【0071】
同様に、デバイス(1)は、口腔/咽頭環境用に、すなわち嚥下中の異物(食物)、舌、または喉からの干渉に耐えるように構成されていることが理解されるであろう。キトサン-PCLおよびPLLAとPLGAとのコポリマーは、上記の例のように使用して、より堅牢な強度特性によって、処置中のデバイスの破損を防ぐことができる。同時にキトサンブレンドを、上記の例のように組織界面に含めて、物理的な不快感を防ぐために必要な水分の相互作用、柔軟性、および柔らかさのレベルを維持することができる。他の形態では、他の好適なポリマーを、組織界面層および追加の放出層に使用できることが理解されるであろう。
【0072】
バッキング層に関しては、極度の湿気からの保護および酵素高密度系が必要である。ここで、上記の例のように、PCLおよびPLLAとPLGAとのコポリマーを使用することができ、これは、架橋が大きく、分解酵素に対する耐性が高く、疎水性が高いため、これによりデバイスが破損することなくより長時間動作できるようになる。他の形態では、バッキング層は他の好適なポリマーから形成されてもよいことが理解されるであろう。
【0073】
活性剤/治療剤がポリマーマトリックス内から放出されるまで(例えば、層の分解および/または層を通る拡散による)、薬物/治療薬は保存され、活性形態から分解しない。図7および8は、活性形態が保存されていることを示す一例における放出された薬剤(リグノカインおよびブピバカイン)のクロマトグラムの例を示す。
【0074】
デバイス(1)およびその層は、一例では、実施例1に記載の方法に従って製造/作製され得る。本明細書に記載のデバイスは、射出成形、溶媒キャスティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、エレクトロスプレーを含む一連の作製方法を使用して製造できることが理解されるであろう。一例では、溶媒キャスティング、スプレーコーティング、またはスピンコーティングを使用して、後続の層がその上に堆積される前に、最初に1つまたは複数の層を射出成形することができる。
【0075】
扁桃摘出患者に対して、デバイスの実施形態は、以下の手段:
- 局所麻酔薬を扁桃窩に送達して、扁桃摘出術後の疼痛の病状を低減または排除する手段;
- 扁桃窩の治癒を増強し、再粘膜形成を促進し、出血のリスクを軽減する手段;
- 出血を軽減/制限するために止血剤を提供する手段;
- 治癒中の創傷の感染を防ぐために、局所抗菌効果を提供する手段;および/または
- 外傷による痂皮の除去を防ぐために、治癒中の創傷に物理的なバリアを提供する手段、を提供し得ることが理解されるであろう。
【0076】
したがって、本発明で説明されているデバイスは、扁桃摘出術後の出血のリスクを低減し、創傷治癒を最適化し、術後疼痛を軽減することにより、扁桃摘出術後患者の転帰を改善することができることが理解されるであろう。持続的な鎮痛効果により、扁桃摘出術後の飲食に対する患者の嫌忌が低減し、したがって脱水、体重減少、および栄養失調のリスクが低減する。このことは、適切な鎮痛のためのオピオイドへの臨床的依存の低減、ならびにセデーション、呼吸抑制、および死亡の関連リスクの低減につながる。
【0077】
上記の特定の例は、扁桃摘出術後に扁桃窩に定置するのに好適なデバイスに関するが、本明細書に記載のデバイスは、他の用途のために成形/構成されてもよいことが理解されるであろう。例えば、デバイスは、口腔、気道消化管、または副鼻腔管の他の領域に定置するために成形することができる。また、例えば、舌側扁桃摘出術、悪性および良性口腔小手術、咽頭および喉頭手術、良性および悪性頭頸部大手術、口蓋垂口蓋咽頭形成術、アデノイド切除術、舌根のチャネリング、口および唾液腺処置、喉頭手術、口唇裂および口蓋裂手術、甲状腺手術、皮膚創傷および/または歯科処置を含む任意の数の外科的処置のために、デバイスを使用し、薬物送達プロファイルを調整することができることも理解されるであろう。
【0078】
1つの特定のさらなる用途は、口腔/中咽頭癌/ロボット手術に関する。経口的ロボット手術は、例えば、喉の癌アブレーション手術において、複雑な低侵襲外科的処置を精密かつ正確に行うために使用される。これらの処置では、二次治癒させるために疼痛を伴う口腔/咽頭の創傷を開いたままにし、扁桃摘出術のように、出血、経口摂取への嫌忌、脱水、創傷治癒不良および感染のリスクを伴う。アブレーション創傷は、必要な腫瘍切除の範囲に基づいてサイズおよび寸法が異なる。
【0079】
このような用途では、デバイスは、典型的には、扁桃摘出術用途について説明したように多層化されるが、その物理的形態/形状は、意図する切除範囲に適合するように個別化することができる。これは、術前イメージングおよび指定された寸法にキャストされたデバイス溶媒でマッピングおよびテンプレート化することができる。この繰り返しは、扁桃窩の解剖学的空間に適合するように厳密に凹面形状になるのではなく、欠損のある輪郭に適合するようにカスタマイズされている。この繰り返しは、主に、疼痛を制御するための局所麻酔薬、成長因子、またはステロイド薬の一方向放出(one-way release)に関与し、創傷治癒と再粘膜形成を促進し、手術後の経口摂取を促進する。さらに、シスプラチンまたは5-フルオロウラシルなどの抗腫瘍剤を、術後にデバイスから送達して、顕微鏡的疾患を処置するかまたは外部ビーム照射に対して組織を放射線増感させ、それにより必要な放射線療法の線量を減らすか、その効果を最大化することができる。
【0080】
図35および図36は、デバイスの形状および輪郭をカスタマイズすることができる、扁桃癌の拡張中咽頭切除および中咽頭切除欠損の概略図を示す。
【0081】
デバイスは、内部処置部位(例えば、体腔の粘膜)における適用に限定されず、外部に、例えば、外傷などを処置するために皮膚に定置するように構成されてもよいことも理解されるであろう。また、このデバイスは、ヒトと同様に他の動物の処置にも好適であり得ることも理解されるであろう。
【0082】
本発明のさらなる広範な実施形態は、少なくとも1つの治療剤を含むポリマー組織界面層、バッキング層、および任意選択でその間に挟まれた1つまたは複数の中間層を含む薬物送達デバイスに関する。上述のように、薬物放出プロファイルは、層の配置、層の数、および層の組成を適切に構成することによって改変することができる。組織界面層は、例えば、互いに相互浸透する複数の連続キャスト副層から形成され得る。一例では、それらは(幅の割合として)約25~35%相互浸透する。一例では、組織界面層は、互いに相互浸透するキトサンの複数の連続キャスト層から形成される。一例では、組織界面層は、互いに浸透するキトサンの4つの連続キャスト層を含む(すなわち、3つの相互融合/重なり合い相を有する)。一例では、この形態および他の形態の組織界面層は、実施例3に従って作製することができる。中間層のうちの1つまたは複数は、例えば、キトサン、PCL、PLLA、PLGAのうちの任意の2つ以上の組合せなど、2つ以上のポリマーのブレンドから形成され得る。中間層のいくつかまたは複数は、少なくとも1つの治療剤を含んでもよい。一例では、この形態および他の形態のブレンド層は、実施例4に従って製造することができる。バッキング層はポリマーであってもポリマーでなくてもよいが、典型的にはポリマーである。一例では、バッキング層は、キトサン、PCL、PLLA、PLGAのうちの任意の2つ以上の組合せから形成され得る。一例では、この実施形態および他の実施形態のバッキング層は、実施例5に従って製造することができる。治療剤は、さまざまな技術によって組織界面層および/または中間層に組み込むことができることが理解されるであろう。実施例3~5によると、治療剤を、キャスティングの前にポリマー溶液に加えてもよく、あるいは、実施例6に従って、ポリマーパケットの一部として含めるか、またはポリマーパケット内に封入してもよい(例えば、活性形態を保存するための安定化のため)。
【0083】
上述の層状薬物送達デバイスが、疼痛管理および創傷ケアのための従来の方法よりも優れたいくつかの利点を提供することは明らかである。特に、デバイスが処置部位に接着されるので、医薬を繰り返し経口投与する必要がない。治療剤はむしろ、事前操作された薬物送達プロファイルに従って、段階的または連続的に自動的に送達される。したがって、患者のコンプライアンスに関する問題はない。さらに、デバイスのパッチ様の性質は創傷治癒を補助し、異なるタイプの治療薬を送達する能力により、抗菌剤(および麻酔剤)の送達が可能になり、これにより術後感染のリスクおよび関連する出血が低減される。
【0084】
さらなる態様によれば、本発明は、薬物送達デバイスのための固有の組織界面を提供することも理解されるであろう。界面は、典型的には、キトサンで形成された複数の相互浸透ポリマー層を含む。
【0085】
さらなる態様によれば、本発明は、本明細書に記載のデバイスを利用することによって、中咽頭または扁桃摘出創傷を処置するための固有の方法を提供することも理解されるであろう。
【0086】
使用される場合はいつも、「含む(comprising)」という言葉は、その「非限定的な(open)」意味、すなわち「含む(including)」という意味で理解されるべきであり、したがって、その「限定的な(closed)」意味、すなわち、「だけで構成されている(consisting only of)」という意味で理解されるべきではない。対応する意味は、対応する言葉「含む(comprise)」、「含む(comprised)」、および「含む(comprises)」に由来するものとする。
【0087】
本発明の特定の実施形態を説明してきたが、当業者には、本発明がその本質的な特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具現化できることは明らかであろう。したがって、本発明の実施形態および実施例は、すべての点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきであり、したがって、当業者に明らかなすべての改変がそこに含まれることが意図される。
【実施例1】
【0088】
デバイス作製
ポリカプロラクトン/キトサン薬物/生体分子送達マトリックスの合成(組織界面層および投薬層用)
ポリカプロラクトン(Polycaprolactione)のペレットを、10%v/vの酢酸および50%w/vのクエン酸溶液に5%w/vの濃度で浸漬し、100~120℃にし、溶解するまで6時間混合した。次いで、溶液を脱イオン水で14~15%v/vの濃度に希釈し、キトサン(中分子量)を1.25%w/vの濃度で加え、100~120℃で2時間混合した後、48時間冷却して混合した。得られたPCL-キトサン比は1:2である。
【0089】
PLLA/PLGAコポリマー混合物の合成(バッキング層およびスペーシング副層用)
ポリ(L-ラクチド)ペレットを、0.055%w/vの濃度で1ジクロロメタン:12クロロホルム溶液に浸漬し、室温で48時間混合した。
【0090】
ポリカプロラクトンバリアの合成(バッキング外層用)
ポリカプロラクトン(Polycaprolactione)のペレットを酢酸に10%w/vの濃度で浸漬し、100~120℃にし、溶解するまで6時間混合した。
【0091】
薬物組込み
ブピバカイン塩酸塩、リグノカイン塩酸塩、ロピバカイン塩酸塩、プリロカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩、ベンゾカイン塩酸塩などであるがこれらに限定されない麻酔剤を、ポリカプロラクトン-キトサンポリマーブレンドと0.005%~0.24%v/vの濃度で室温にて混合し、24時間混合したままにする。
【0092】
溶媒キャスティングの方法
バッキング層から始めて、PLLA/PLGAコポリマー混合物を、蒸発フード内で室温にて表面積当たりの体積比0.23ml/cmで適切に成形されたガラスキャストに注ぎ、溶媒を24時間蒸発させた。
【0093】
薬物/生体分子負荷PCL-キトサンヒドロゲルを、PLLA/PLGAバッキング層上に室温で表面積当たりの体積比0.35ml/cmで慎重に注ぎ、下部バッキング層を覆った。次いで、このヒドロゲルを、温度制御フード内に37℃にて置き、溶媒を48時間蒸発させた。
【0094】
このプロセスをさらに2回繰り返し、後続のPLGA/PLLA副層(スペーシング層)を、表面積当たりの体積比0.06ml/cmで注ぎ、PCL-キトサン層を、表面積当たりの体積比0.35ml/cmで注ぐ。
【0095】
バッキング層の剛性を増大させるために、酢酸中の0.1~0.2mlの10%v/vポリカプロラクトンを、デバイスの凹面上に置き、室温で乾燥させて硬度を増大させ、縫合を容易にすることができる(バッキング外副層)。
【0096】
開窓は、予め成形された金型の上にキャスティングし、それによってポリマーが金型の周りに定着し、有窓デバイスが作出されることによって達成することができる。
【0097】
その結果、3層の薬物送達PCL-キトサンマトリックス(組織界面層+2つの投薬副層)を、処置部位への一方向薬物送達の制御を補助するためのPLLA/PLGAコポリマー中間層(2つのスペーシング副層)を伴って含む多層薬物送達デバイスが得られる。
【実施例2】
【0098】
デバイス分析(扁桃(Tonisillar)適用)
実施例1の方法に従って製造されたデバイスを、扁桃摘出ブタに植え込んだ。
【0099】
48、120、240および336時間目に、犠死させた扁桃摘出ブタから試料を採取した。剖検では、デバイスの下部にある扁桃組織を慎重に切除し、急速冷凍して、摂氏-80度で保存した。次に、組織を凍結粉砕し、少量(20~100mg)を個々のエッペンドルフチューブ内に保存した。次に、試料をメタノールに24時間浸漬して、組織内の薬物を溶媒に抽出し、試料を遠心分離して固体成分と液体成分とに分離した。次に、以下のLCMS法を使用して抽出流体を分析した。
【0100】
HPLC分析
液体クロマトグラフィー-イオントラップ質量分析法(LC-MS-MS)によるブピバカインおよびリグノカインの高感度かつ高選択性バイオアッセイを使用して、各試料を分析し、試料から薬物の濃度を検出した。ブピバカインおよびリドカインの検出に使用される特定のLCMS法は、Hoizeyら(2005)の研究で検証されている(Hoizey Gら Sensitive bioassay of bupivacaine in human plasma by liquid-chromatography-ion trap mass spectrometry。Journal of pharmaceutical and biomedical analysis. 2005;39:587~92)。
【0101】
内部標準溶液
Hoizeyら(2005)によって概説された方法を、本発明者らの試料の分析に使用した。この方法に合わせて、本発明者らの機械装置を較正するために本発明者らの機関で検証を繰り返した。
【0102】
ブピバカインおよびリグノカイン(内部標準)塩酸塩を、Sigma Aldrich Inc(Merck、Darmstadt、DE)から購入した。有機溶媒および試薬は、すべて分析グレードのものであった。アセトニトリル、ジエチルエーテル、メタノール、およびギ酸は、Sigma Aldrich Incから提供された。精製水は「Milli-Q」純水装置で調製され、他のイオン化合物またはミネラルからのシグナル干渉がないことを確認した。
【0103】
生体試料および内部検証
ヒトアルファアミラーゼを含むリン酸緩衝生理食塩水(pH7.0)から作出された模擬唾液を、標準溶液として使用した。これらの標準溶液を窒素流下にて40℃で蒸発乾固し、200Lの0.1%ギ酸:アセトニトリル(50:50v/v)に溶解し、10LをLCカラムに注入した。
【0104】
検量線法
ブピバカイン、リグノカイン、およびそれぞれの内部標準(IS)のストック標準溶液を、メタノール中で1mg/mLの濃度に調製し、+4℃で保存した。これらをメタノールにさらに希釈して、較正溶液の調製に使用する適切な希釈標準溶液を得た。標準曲線を、3.90、7.81、15.63、31.25、62.5、125、250、および500μg/Lの最終濃度が得られるように、ブランクの模擬唾液(100μL)で作成した。この方法を確実に繰り返すことができるようになると、試験を実験試料に進めた。
【0105】
定性試料分析(図7および8)
定性試料分析(またはQ1試験)を、選択した試料に対して実行し、検量線と一致する周波数で単一スパイクが検出されたこと、および二次スパイクが検出されなかったことを確認した(分解生成物を伴わない単一分子のLCMS検出を示す)。
【0106】
定量試料分析(図9~15)
液体クロマトグラフィー-イオントラップ質量分析法(LC-MS-MS)によるブピバカインの高感度かつ高選択性バイオアッセイを使用して、各試料を分析し、試料から薬物の濃度を検出した。ブピバカインおよびリドカインの検出に使用される特定のLCMS法は、Hoizeyら(2005)の研究で検証されている。
【0107】
図9および10は、0、48、120、240、および336時間目の剖検時に採取されたブタ扁桃組織において、記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインおよびリグノカインレベルを表す。ブピバカインレベルはマイクログラムで、リグノカインレベルはナノグラムで表される。これらの放出動態曲線は、実施例1に記載されたデバイスから扁桃組織界面への制御された持続放出を実証している。
【0108】
図11は、0、48、120、240、および336時間目の剖検時に採取されたブタ扁桃組織において、記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインおよびリグノカインの累積パーセンテージ放出を表す。これらの放出動態曲線は、実施例1に記載されたデバイスから扁桃組織界面への制御された持続放出を実証している。
【0109】
図12および13は、0、48、120、240、および336時間目の剖検時に前頸静脈鎖から採取されたブタリンパ組織において、記載されたLCMS法によって検出されたブピバカインおよびリグノカインレベルを表す。ブピバカインレベルおよびリグノカインレベルは、リンパ組織1ミリグラム当たりのナノグラムで表される。これらの放出動態曲線は、局所領域組織で検出された薬物の安全レベルが、1ml当たり4マイクログラム(ブピバカイン)および1ml当たり5.6マイクログラム(リグノカイン)の毒性レベルをはるかに下回っていることを実証している。
【0110】
図14および15は、0、1、2、4、24、48、72、120、240、336時間目に内頸静脈から採取したブタ血清において、記載のLCMS法によって検出されたブピバカインおよびリグノカインのレベルを表す。ブピバカインレベルおよびリグノカインレベルは、血清1ミリリットル当たりのナノグラムで表される。これらの放出動態曲線は、検出された薬物の安全な全身摂取が、1ml当たり4マイクログラム(ブピバカイン)および1ml当たり5.6マイクログラム(リグノカイン)の毒性レベルをはるかに下回っていることを実証している。
【0111】
走査型電子顕微鏡
図16および17は、それぞれ100倍および250倍の倍率での実施例1のデバイスの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。画像は、デバイスのプロファイルを示しており、Aは薬物負荷ポリカプロラクトン-キトサン間の界面層を表している。
【0112】
図16において、Bは、口腔/中咽頭への薬物放出を阻害するためのポリカプロラクトン外層を有するPLLA:PLGAで作製されたデバイスのバッキングまたは「管腔」面を表す。図16において、Cは、PLLA:PLGAで作製された中間層を表し、バッキング層から界面層への薬物放出を緩徐にするように設計されている。
【0113】
図17において、Bは、薬物送達の二次パルスおよび三次パルスを界面層に向かって一方向に送達するように設計されたPCL/キトサンの中間薬物送達層を表す。図17において、Cは、PLLA:PLGAで作製された中間層を表し、中間層から界面層への薬物放出パルスを緩徐にし、それによって治療剤の制御された持続放出を達成するように設計されている。
【0114】
外科的分析
図18は、植込み時にブタの扁桃摘出創傷に定置された、実施例1に記載のデバイスの口腔内図を示す。動物は、仰臥位であり、中咽頭へのアクセスのために扁桃摘出術開口器が定置されている。Aは、管腔内の側面に見えるバッキング層を伴うデバイスである。Bは、扁桃摘出術によって作出された創傷の構成成分である。Cは硬口蓋である。
【0115】
図19は、植込みから5日のブタ扁桃摘出創傷に縫合された、実施例1に記載されたデバイスの口腔内図を示す。動物は、仰臥位であり、中咽頭へのアクセスのために扁桃摘出術開口器が定置されている。デバイスは、5日目に創傷に接着したままである。Aは、管腔内の側面に見えるバッキング層を伴うデバイスである。Bは、隣接する扁桃組織である。Cは、舌圧子によって引っ込められている舌である。
【0116】
組織像
図20図27は、デバイス-組織界面における組織応答を示す。これらのスライドは、48、120、240、および336時間の時点で剖検時にブタの扁桃摘出試料から採取された組織から準備された。下部筋肉を含む扁桃摘出創傷全体をインプラントとともに切除し、ホルマリン10%で固定した。下部組織を含むデバイスの断面画像を取得するために、試料を、デバイス定置の平面に対し垂直にスライスした。各スライドは、H+E染色技術を使用して準備した。
【0117】
図20は、48時間目の組織-デバイス界面の組織像スライド画像である。界面における初期の肉芽組織(B)。組織/ポリマー界面に隣接する粘膜(A)。
【0118】
図21および図22は、5日目の界面の組織像スライド画像である(すべてH+E染色)。図21において、ポリマー(A)は、正常な肉芽組織(B)(創傷の早期収縮を伴うリンパ球および線維芽細胞)とともに見られる。図22は、ポリマー物質への肉芽組織の内部成長を伴う、ポリマー/創傷界面(B)における肉芽組織(A)の高倍率図を示す。
【0119】
図23図26は、10日目の界面の組織像スライド画像である。図23では、隣接するリンパ組織(A)と収縮する創傷(B)との間の接合部が示されている。図24は、扁平上皮(A)、リンパ球浸潤(B)および新たに形成された繊維組織(C)を有する隣接リンパ組織および収縮創傷を示す高倍率視野を示す。図25では、肉芽組織(A)および筋肉と収縮する繊維組織(B)の接合部が示されている。図26は、肉芽組織(A)および筋肉と収縮する繊維組織(B)の接合部の高倍率視野を示している。
【0120】
図27は、14日目の界面の組織像であり、新しいリンパ組織(A)、扁平上皮(B)および新しく形成された線維性被膜(C)による扁桃窩の完全な治癒を示す。
【実施例3】
【0121】
相互融合キトサン副層を含む組織界面の作製。
デバイスの例には、組織-ポリマー界面または組織界面層が含まれる。この界面は、組織相互作用に最適化された物理的特性を備えた1つまたは複数のキトサン層の形態であり得る。例えば、層の特性には、以下:
1.厚さ-(典型的には20μm、または10~30μmの範囲)
2.含水量-(典型的には9.5%、または5~15%の範囲)
3.水分取込み量-(典型的には88%、または70~95%の範囲)
4.多孔度-(典型的には12%、または5~25%の範囲)
5.平坦度-(典型的には100%、または90~100%の範囲)
6.弾性-(典型的には12%、または5~35%の範囲)
7.結晶化度-(典型的には8.5%、または5~20%の範囲)
8.引張強度-(典型的には50MPa、または35~75MPaの範囲)
9.表面pH-(典型的には7.2、または6.8~7.8の範囲)
10.水接触角-(典型的には102°、または85~110°の範囲)
11.表面粗さ-(典型的には0.07μm、または0.05~0.20μmの範囲)
12.導電率-(典型的にはゼロ、またはゼロの範囲)
のうちの1つまたは複数が含まれる場合がある。
【0122】
表面pH改質、化学的表面イオン化、化学的またはプラズマ再表面化などのさらなる表面改質もまた含まれ得る。
【0123】
相互融合または相互浸透キトサン層を含む組織界面の例示的な作製方法は、以下の通りである:
キトサン-組織界面層は、改質溶媒キャスティング法に従って作製し、焼結ガラス濾過およびキャスティング前におよそ5.0に補正された溶液pHを含むことによって精製された。
【0124】
清浄な条件下で、中分子量のキトサン(190~300KDaおよび>85%DDA)を、2%(w/v)でストック水性溶媒溶液に溶解した。ストック溶媒溶液には、97.75% MilliQ水、2%(v/v)氷酢酸、0.25%(v/v)クエン酸が含まれていた。しかし、溶液には、追加の0.05%(v/v)乳酸を含めてもよい。
【0125】
ゼラチン状溶液を大気から密閉し、室温(25℃)にて48時間絶えず撹拌し、次いで4℃で24時間冷蔵した。キトサン溶液を遠心分離(15分、15,000g)して、未溶解の微粒子を分離した。細孔径35μmのガラス媒質を使用して、焼結漏斗による真空濾過により、未溶解のより小さな微粒子を除去した。絶えず撹拌しながら、pHプローブを使用して溶液をpH5.0に調整し、2M NaOHを滴下添加した。この段階で、リグノカイン塩酸塩(hydrocholride)(1%または2%溶液)およびブピバカイン(0.25%または0.5%溶液)などの治療薬を加える。
【0126】
次にポリマー溶液を、滅菌プラスチック媒体上に密度0.095~0.110ml/cm2でキャストした。ポリマー層は、室温(25°C)で約14日間、減菌層流で溶媒を蒸発させることにより形成した。
【0127】
溶媒キャスト法を必要に応じて繰り返して、ポリマー添加の間に所望数の融合相を得た。ポリマー層が転移または融合相を生成する程度を、表面のイオン化によって制御した。各試料を0.01M NaClで2回洗浄し、各ポリマー添加前に乾燥させた。これにより、以前のポリマー添加のおよそ25~35%の好適な転移相の深さが得られた。
【0128】
このように、第1の添加は、約2/3本体、1/3上部転移であった。第2の添加は、1/3下部転移、1/3本体、および1/3上部転移であった。すべての添加により3つの相を得て、これを、反対の底部添加、すなわち1/3下部転移、および2/3本体である最終添加まで繰り返す。
【実施例4】
【0129】
ブレンド層/中間層の作製
本明細書に記載されるデバイスの例は、2つ以上のブレンドポリマーを含有する1つまたは複数の層を含み得る。これらには、例えば、キトサン、PCL、PLLA、またはPLGAの組合せが含まれる場合がある。これらのブレンド層はまた、一緒にまたは交換可能に、1つまたは複数の治療剤の充填量を担持することができる。これらの層は、一例では、実施例3および5で生成されたものと組み合わせて実施することができる。
【0130】
キトサンとPCL、PLLAまたはPLGAとのブレンド層を形成するための例示的な方法は、以下の通りである:
清浄な条件下で、中分子量のキトサン(190~300KDaおよび>85%DDA)を、2%(w/v)でストック水性溶媒溶液に溶解した。ストック溶媒溶液には、97.75% MilliQ水、2%(v/v)氷酢酸、0.25%(v/v)クエン酸が含まれていた。しかし、溶液には、追加の0.05%(v/v)乳酸を含めてもよい。別々の溶液に、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、またはポリ乳酸-co-グリコール酸も、10%(w/v)氷酢酸および50%(w/v)クエン酸に加えた。溶液には、追加の0.05%(v/v)乳酸を含めてもよい。次に、これらの溶液を混合した。
【0131】
ゼラチン状溶液を大気から密閉し、室温100~120℃で48時間絶えず撹拌し、次いで4℃で24時間冷蔵した。キトサンポリマーブレンド溶液を遠心分離(15分間、15,000g)して、未溶解の微粒子を分離した。細孔径35μmのガラス媒質を使用して、焼結漏斗による真空濾過により、未溶解のより小さな微粒子を除去した。絶えず撹拌しながら、pHプローブを使用して溶液をpH5.0に調整し、2M NaOHを滴下添加した。この段階で、リグノカイン塩酸塩(1%または2%)またはブピバカイン塩酸塩(0.25%または0.5%)などの治療薬を、水溶液として加える。
【0132】
次に、ポリマー溶液を、既存の試料上に0.095~0.110ml/cm2の密度でキャストした。ポリマー層は、室温(25°C)で約14日間、減菌化学ヒュームフードで溶媒を蒸発させることにより形成した。
【0133】
溶媒キャスト法を必要に応じて繰り返して、所望数のポリマー層を得た。各試料を70%エタノール中の0.01M NaClで2回洗浄し、各溶媒キャスティングの前に乾燥させた。
【実施例5】
【0134】
バッキング層/口腔界面
デバイスの例は、口腔-ポリマー界面層またはバッキング層を含んでもよい。この界面は、口腔環境と相互作用し、口腔環境に関連する厄介な問題に耐えるように最適化された物理的特性を備えた1つまたは複数のキトサン層の形態であり得る。
【0135】
このような課題には、以下が含まれるが、これらに限定されない:
- 高いせん断応力、摩擦、トルク、および弾性
- 異物による損傷
- 高い生体負荷、豊富な分解酵素
- 非常に高い含水量
デバイスの所望の環境/位置の課題に関して、界面層は、以下の固有の特性の1つまたは複数を含むことができるが、これらに限定されない。
【0136】
例としては、1つ、2つ、またはそれ以上のポリマーを含有するポリマー層、またはブレンドポリマー層の1つまたは複数の層が挙げられる。好適なポリマーとしては、例えば、キトサン、PCL、PLLA、またはPLGAを挙げてもよい。これらの層は、一実施例において、実施例3および4で提供されるものと組み合わせて実施することができる。
【0137】
層の特性には、以下:
1.厚さ-(典型的には15μm、または10~30μmの範囲)
2.含水量-(典型的には10%、または5~15%の範囲)
3.水分取込み量-(典型的には15%、または10~25%の範囲)
4.平坦度-(典型的には100%、または90~100%の範囲)
5.弾性-(典型的には12%、または5~35%の範囲)
6.引張強度-(典型的には80MPa、または55~95MPaの範囲)
7.表面pH-(典型的には7.2、または6.8~7.8の範囲)
8.水接触角-(典型的には90°、または65~95°の範囲)
のうちの1つまたは複数が含まれる場合がある。
【0138】
次いで、またポリ(ジメチルシロキサン-co-アルキルメチルシロキサン)の添加を含めて、表面粗さを低減させ、摩擦および親水性の両方を大幅に低減させることができる。
【0139】
作製方法の例は以下の通りである:
方法は、実施例4の方法に従う。乳酸は、最大0.2%v/vで溶媒混合物に加える。
【0140】
ポリ(ジメチルシロキサン-co-アルキルメチルシロキサン)を組み込んだ繰り返しにおいて、ジクロロメタンおよびポリ(ジメチルシロキサン-co-アルキルメチルシロキサン)の両方を0.5%w/vで、ポリマー溶液(最初の混合前に実施例4で概説したPCL、PLLAまたはPLGA)に加えるか、またはキャストポリマーの裏側に塗布する。
【実施例6】
【0141】
ポリマー「パケット」
デバイスの例では、すなわち、実施例3~5で概説したように、溶媒キャスティングの前にポリマー溶液に治療剤を直接添加しなくてもよい。
【0142】
例えば、安定化された治療剤の「パケット」を製造して、例えば実施例3~5に概説されているような、ポリマー溶液のいずれかに加えても、例えば実施例3~5に概説されている表面改質ステップに追加してもよい。
【0143】
これにより、本明細書に記載されるように、治療薬を、その本来の安定性に関係なくデバイスに含めることが可能になる。治療用パッケージの含有位置は、ポリマー層内、ポリマー相間内、またはポリマー層自体の間のいずれかである。
【0144】
ポリマーパケットに安定化された治療薬を組み込む方法の例は、以下の通りである:
キトサンを除いて、実施例5のために調製されたポリマー溶液を噴霧乾燥して、ポリマー微粒子を作出した。
【0145】
噴霧乾燥法-粘度および表面張力を低減させるためにSpan40およびDMSOを補充したPCL、PLLA、PLGAのいずれかのポリマー溶液。ポンプ設定25、アスピレーター設定80、噴霧流量350L/時間、および圧力30mmHgを用いて、入口温度50℃でBuchi Mini Spray Dryer Model B-290(Buchi Laboratoriums)に溶液を供給した。粒子を、出口温度が35℃の収集チャンバーに収集する。
【0146】
次いで、ポリマー微粒子を、好ましい方法1に記載されたように、均質になるまで治療薬含有キトサン溶液と混合した。キトサンおよび治療剤が、PCL、PLLA、またはPLGAのいずれかのポリマー粒子を覆い、その後、それぞれのPCL、PLLA、またはPLGAの開始溶液の体積に混合し直した。次いで、この溶液を、上で概説したそれぞれの設定で再度噴霧乾燥させた。
【0147】
これらのドーナツ様粒子は、保護ポリマージャケット内に安定化キトサン/治療剤を含有する。
【0148】
次いで、例えば、実施例3~5に記載のように、これらの安定化された粒子を使用して、治療剤の直接添加を代用することができるか、またはこれらの安定化された粒子を、実施例3~5に概説された表面調製洗浄に加えて、それにより構造ポリマー層の間に追加の治療剤を沈着させることが可能になる。
図1
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【手続補正書】
【提出日】2021-12-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中咽頭に固定するための層状薬物送達パッチであって、
少なくとも1つの治療剤を含む穿孔されたポリマー組織界面層と、
ポリマーバッキング層と、
前記組織界面層と前記バッキング層との間に挟まれた1つまたは複数の追加の放出層とを含み、各追加の放出層が、
ポリマースペーシング副層と、
少なくとも1つの治療剤を含むポリマー投薬副層とを含み、
各追加の放出層の前記副層が、各スペーシング副層がそのそれぞれの投薬副層よりも前記組織界面層に近くなる順序で配置される、パッチ
【請求項2】
少なくとも2つの追加の放出層を含む、請求項に記載のパッチ
【請求項3】
前記組織界面層が、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される、請求項またはに記載のパッチ
【請求項4】
前記投薬副層が、治療剤がその中に組み込まれたポリマーマトリックスから形成される、請求項からのいずれか1項に記載のパッチ
【請求項5】
前記組織界面層が、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む、請求項からのいずれか1項に記載のパッチ
【請求項6】
前記組織界面層が、キトサンとPCLとのブレンドから形成される、請求項に記載のパッチ
【請求項7】
各投薬副層が、2つ以上のポリマーのブレンドから形成されたポリマーマトリックスを含む、請求項からのいずれか1項に記載のパッチ
【請求項8】
前記投薬副層が、キトサンとPCLとのブレンドから形成される、請求項に記載のパッチ
【請求項9】
前記スペーシング副層が、前記投薬副層からの治療剤の放出を緩徐にするかまたは遅延させるように構成される、請求項からのいずれか1項に記載のパッチ
【請求項10】
前記スペーシング副層が、PLLAとPLGAとのコポリマーから形成される、請求項からのいずれか1項に記載のパッチ
【請求項11】
前記バッキング層が、それを通る治療剤の拡散または透過を実質的に禁止するように構成されている、請求項から10のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項12】
前記バッキング層がPCLの層を含む、請求項から11のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項13】
前記バッキング層が、PLLAとPLGAとのコポリマーで形成された副層、およびPCLで形成された副層を含み、前記PCL副層が、前記組織界面層から最も離れた最外層である、請求項から12のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項14】
処置部位への固定を容易にする取り付け部分を含む、請求項から13のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項15】
前記組織界面層が、互いに相互浸透する2つ以上の連続キャストポリマー副層を含む、請求項1から14のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項16】
前記組織界面層の前記連続キャスト副層がキトサンを含む、請求項15に記載のパッチ
【請求項17】
隣接する副層が、それらの幅に比例して、互いに約25~35%相互浸透する、請求項16に記載のパッチ
【請求項18】
前記追加の放出層の1つまたは複数が穿孔されている、請求項1から17のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項19】
その層が連続的である、請求項1から18のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項20】
前記少なくとも1つの治療剤が麻酔剤を含む、請求項1から19のいずれか1項に記載のパッチ
【請求項21】
中咽頭創傷を処置する方法であって、請求項1から20のいずれか1項に記載のパッチを前記創傷に対して固定するステップを含む、方法。
【請求項22】
扁桃摘出創傷を処置する方法であって、請求項1から20のいずれか1項に記載のパッチを前記創傷に対して固定するステップを含む、方法。
【請求項23】
前記中咽頭創傷の処置における、請求項1から20のいずれか1項に記載のパッチの使用。
【請求項24】
前記扁桃摘出創傷の処置における、請求項1から20のいずれか1項に記載のパッチの使用。
【国際調査報告】