IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラリアント・インターナシヨナル・リミテツドの特許一覧 ▶ プラント・アドヴァンスト・テクノロジーズ・ソシエテ・アノニムの特許一覧

<>
  • 特表-ヘチマ根抽出物を含む組成物 図1
  • 特表-ヘチマ根抽出物を含む組成物 図2
  • 特表-ヘチマ根抽出物を含む組成物 図3
  • 特表-ヘチマ根抽出物を含む組成物 図4
  • 特表-ヘチマ根抽出物を含む組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ヘチマ根抽出物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/42 20060101AFI20230414BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230414BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20230414BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230414BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230414BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230414BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
A61K36/42
A61K8/9789
A61K8/36
A61Q19/00
A61Q19/08
A61P17/00
A61P43/00 105
A61K9/08
A61K47/14
A61K47/08
A61K47/10
A61K47/44
A61P9/00
A61P3/00
A61P29/00
A61K31/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022550783
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2021054506
(87)【国際公開番号】W WO2021170618
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】20305178.4
(32)【優先日】2020-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(71)【出願人】
【識別番号】522332814
【氏名又は名称】プラント・アドヴァンスト・テクノロジーズ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】フレシェ・マチルド
(72)【発明者】
【氏名】シャイラ・ハナヌ
(72)【発明者】
【氏名】ギヨマン・アニエス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA11
4C076BB31
4C076CC04
4C076CC11
4C076CC18
4C076CC21
4C076CC26
4C076DD37
4C076DD39
4C076DD46
4C076DD47
4C076EE53
4C076FF12
4C083AA111
4C083AA121
4C083AC061
4C083AC171
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC341
4C083AC351
4C083AC371
4C083AC421
4C083AC482
4C083AD132
4C083AD531
4C083BB11
4C083BB51
4C083CC03
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C083EE13
4C088AB19
4C088AC11
4C088BA08
4C088BA11
4C088BA32
4C088CA03
4C088CA07
4C088CA09
4C088MA16
4C088MA28
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZA89
4C088ZB11
4C088ZB21
4C088ZC21
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA14
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA36
4C206MA48
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZA89
4C206ZB11
4C206ZB21
4C206ZC21
(57)【要約】
本発明は、植物ヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物であって、ブリオノール酸が富化されており、前記ブリオノール酸が、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%に相当する、前記根抽出物に関する。本発明はまた、前記根抽出物を含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物であって、ブリオノール酸を含み、前記ブリオノール酸が、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%に相当する、前記根抽出物。
【請求項2】
前記ブリオノール酸が、乾燥抽出物の全重量に対して、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%または少なくとも60重量%に相当する、請求項1に記載の根抽出物。
【請求項3】
液体形態にあり、かつ以下:
a)ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択されるマセレーション溶媒;または
b)アルコール、グリコール類、乳酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択される希釈溶媒、
を含む、請求項1または2に記載の根抽出物。
【請求項4】
以下のステップ:
a)ヘチマを無土壌条件下、特にエアロポニック式に、栽培するステップ、
b)前記植物の根を刺激するステップ、
c)ステップb)において刺激された根の根マセレーションによる固/液抽出のステップであって、前記マセレーションが、根を、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択される溶媒と接触させることを含むステップ、
d)ステップc)で得られた抽出物を回収するステップ、および
e)任意選択的に、ステップd)で回収された抽出物を、希釈、および/または連続ろ過によって、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過によって、清澄化するステップ、
を含む、請求項1に記載の植物ヘチマの根抽出物を製造する方法。
【請求項5】
以下のステップ:
a)ヘチマをエアロポニック式に栽培するステップ、
b)前記植物の根を刺激するステップ、
c)ステップb)において刺激された根の溶媒における根マセレーションによる固/液抽出のステップであって、前記マセレーションが、根を、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択される溶媒と接触させることを含むステップ、
d)ステップc)で得られた抽出物を回収するステップ、
e)任意選択的に、ステップd)で回収された抽出物を、希釈、および/または連続ろ過によって、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過によって、清澄化するステップ、
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記植物の根刺激のステップb)が、根を窒素欠乏刺激栄養溶液と接触させるステップを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記窒素欠乏刺激栄養溶液が、15%未満の窒素、好ましくは10%未満の窒素、8%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、または0%の窒素を含む溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
マセレーションのステップの前に、根を切断し、切断した根を乾燥させるステップを含む、請求項4~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
請求項4~8のいずれか1つに記載の方法によって得られる植物ヘチマの根抽出物。
【請求項10】
請求項1~3または9のいずれか1つに定義される植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数の賦形剤(これらは好ましくは化粧用にまたは皮膚科学的にまたはニュートラシューティカル用に許容可能である)を含む、化粧用または皮膚科学的またはニュートラシューティカル用組成物。
【請求項11】
植物ヘチマの前記根抽出物が、組成物の全重量に対して、0.0001~15重量%、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%に相当する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
皮膚エネルギー代謝の刺激および/または回復、細胞生存能力の回復(疲労細胞においてさえ)、外部作用因子に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに/または皮膚のハリ、緊張性および/または弾力性の改善のための、請求項1~3または9のいずれか1つに定義される植物ヘチマの根抽出物の、あるいは請求項1~3または9のいずれか1つに定義される植物ヘチマの根抽出物を含む組成物(好ましくは化粧用組成物)の使用。
【請求項13】
皮膚老化効果の出現を予防または遅延させるための化粧スキンケア方法であって、身体または顔面皮膚の少なくとも一部に、請求項10または11に定義される化粧用組成物を適用することを含む方法。
【請求項14】
OR1、OR2、OR4、OR5、OR8、OR9、OR10、OR11、OR51、OR52およびOR56のファミリーから選択される皮膚異所性嗅覚受容体(OR)発現の制御における、請求項1~3または9のいずれか1つに定義される植物ヘチマの根抽出物の、または請求項1~3または9のいずれか1つに定義される植物ヘチマの根抽出物を含む組成物(好ましくは化粧用組成物)の使用。
【請求項15】
前記使用が以下のためである、請求項14に記載の使用:
a)OR1L4、OR4D11、OR5B3、OR10A6およびOR2AG2が関与する皮膚のストレス応答機序の活性化、
b)OR2AG2、OR1D2およびOR10G7が関与する外部作用因子によって引き起こされる皮膚炎症の制御、
c)血管疾患、特にOR52B4が関与する酒さ、皮膚老化およびくまの改善、
d)OR8J1およびOR4D2が関与する代謝細胞制御、
e)皮膚の神経生理、特にOR5P3が関与する皮膚の神経新生および皮膚の神経分化のための皮膚の神経生理。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリオノール酸が富化された、植物ヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物、当該富化された根抽出物を製造する方法、ならびに活性成分として富化された根抽出物を含む、化粧用組成物もしくは皮膚科学的組成物もしくはニュートラシューティカル(nutraceutical)用組成物に関する。本発明の別の対象は、前記の富化された根抽出物、または活性成分として前記の富化された根抽出物を含む組成物の、制御不良の生体エネルギー機能を回復する(皮膚エネルギー代謝を刺激する)ための、疲労細胞においてさえも細胞生存能力を回復するための、毒性作用因子(toxic agents)によって誘導されるストレスを防止するための、酸化的ストレスを防止するための、より一般的には老化の徴候を予防および/または遅延させるための、ならびに皮膚細胞にエネルギーを与えるための、免疫応答、皮膚炎症、皮膚神経生理、皮膚代謝調節、創傷治癒および皮膚ストレス応答に関与する皮膚異所性嗅覚受容体(OR)発現を制御するための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人体の最初の障壁である。それは、温度および湿度の差異から、および外的環境、例えばUV線または汚染物質媒介物による攻撃から器官を保護する。しかしながら、過剰な化学的および物理的刺激(日光、光またはUVへの曝露;ストレスおよび栄養不良)は、皮膚の正常な機能を低下させ、その老化を誘発する。従って、皮膚の再生および修復を、それを構成する細胞の代謝、および特に細胞エネルギー代謝を刺激することによって、維持することが重要である。具体的には細胞では、エネルギーが、とりわけ、新しいタンパク質を製造するため、栄養素を供給するため、細胞廃棄物を排出するため、およびDNA損傷を修復するために使用される。
【0003】
生体エネルギープロセスの機能性は、皮膚を含む全ての器官の良好な性能を維持するために重大である。細胞レベルでは、3つの主要な代謝経路:解糖、ペントース-リン酸経路およびトリカルボン酸(TCA)サイクル、が結びつき、細胞代謝の最初の段階を構成する(Respiratory metabolism: glycolysis, the TCA cycle and mitochondrial electron transport, Current Opinion in Plant Biology (2004))(非特許文献1)。
【0004】
解糖は、グルコースをピルビン酸および水素イオンに変換する代謝経路を表す。このプロセスで放出される自由エネルギーを使用して、高エネルギー分子であるATP(アデノシン三リン酸)およびNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)を形成する。NADHは、電子を受容および供与することによってエネルギー代謝において重要な役割を果たす。ミトコンドリアのマトリックスで起こるTCAサイクルは多くの反応からなり、これらの反応はNADHおよび還元型フラビンアデニンジヌクレオチド(FADH)を生成し、これらが酸化的リン酸化経路によって次々に使用されてATPを生成することができる。NADHのように、FADH2もまた、細胞代謝のための高エネルギー分子であると考えられる。実際、NADHおよびFADH2は、ATP産生を担う酸化的リン酸化を駆動するために、それらの電子を電子伝達連鎖の電子伝達体に供与することができる。さらに、TCAサイクルは代謝の多くの経路の中心であり、従って、その活性に必要とされる中間体の大量供給が常に存在しなければならない。例えば、解糖プロセスの間に予め生成されたピルビン酸から合成できるオキサロ酢酸は、アミノ酸であるアスパラギン酸の直接の前駆体である。このアミノ酸はタンパク質合成に重要である。解糖からのピルビン酸は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の作用を介してTCAサイクルに入る。細胞質ゾルで行われるペントースリン酸経路は、グルコースを酸化してNADPHおよび生合成のための他の炭水化物をつくる。
【0005】
上記で詳述したように、これらの3つの経路は、酸化的リン酸化プロセスによって、ミトコンドリアのATP産生に必要な代謝産物を生成する。ミトコンドリアはこのプロセスの中心において不可欠な細胞小器官である。これらの一連のエネルギー変換の全体は細胞呼吸と呼ばれ、その良好な機能性が皮膚細胞の健康を保証している。
【0006】
実際、解糖は細胞質で行われるが、TCAサイクルはミトコンドリアで起こる。従って、解糖に由来する溶質および代謝産物は、TCAサイクルに引き継がれるために、ミトコンドリア膜を通って内部移行しなければならない。この役割はSLC25によって担われており、これは、種々の代謝産物をミトコンドリア膜を横切って行き来させることを目的とする、トランスポーターの特定のファミリーである。
【0007】
ミトコンドリアに酸化的リン酸化の基質である、無機ホスフェートおよびADPを供給するこれらのSLC25ミトコンドリアキャリアの欠損が、エネルギー産生の欠損を特徴とする疾患に関与することが実証されている(Diseases caused by defects of mitochondrial carriers: A review, Biochimica et Biophysica Acta, 2008)(非特許文献2)。Mitochondrial transporters of the SLC25 family and associated diseases: a review, J Inherit Metab Dis. 2014 Jul;37(4):565-75. 2014)(非特許文献3))。その中で、マレート-アスパルテートのシャトルであるSLC25A12は、ミトコンドリア中へ解糖の間に産生されたNADHをミトコンドリア輸送して、TCAサイクルに供給することを担っていると記載されている。
【0008】
従って、SLC25A12は、解糖とTCAおよび酸化的リン酸化代謝経路とを結び付ける重大な役割を果たす。
【0009】
環境的な損傷およびストレスの蓄積は、エネルギー代謝の枯渇をもたらし、全体的な代謝に影響を及ぼす(Reprogramming of energy metabolism as a driver of aging, Oncotarget. (2016)(非特許文献4))。さらに、ミトコンドリアの機能障害がいくつかの疾患において記載されており、老化と高度に関連している(Lоpez-Otin, et al. 2013(非特許文献5), Daniel Schniertshauer, et al. Age-Dependent Loss of Mitochondrial Function in Epithelial Tissue Can Be Reversed by Coenzyme Q10, J Aging Res, 2018(非特許文献6))。この機能障害は、外因性の有害ストレス(UV線、汚染・・・)から誘発される変化に起因するが、酸化的リン酸化プロセス自体の間に産生される内因性の活性酸素種(ROS)によっても生じる。若くて代謝的に「健康な」細胞では、抗酸化系が、いずれの脅威に対しても効率的に反応するために、効率的な酸素呼吸およびATPの産生を維持するのに許容可能なROS量の管理を請け負っている(Bee Ling Tan et al. 2018)(非特許文献7)。老化した細胞では、蓄積する内部および外部ストレスの結果、これらの系が打ち滅ぼされてしまっている。
【0010】
その結果、全体的な細胞の代謝機能に必要なエネルギーの産生が低下し、不均衡な恒常性と異常なタンパク質産生プログラムがもたらされてしまう。これは、特徴的な老化した皮膚徴候に関連する劇的な結果をもたらし得る。特に、細胞外マトリックスは、皮膚細胞によって合成される巨大分子の複雑なレイアウトであり、皮膚にハリおよび弾力性を与える。これらの巨大分子は、小胞体(ER)および次いでゴルジ装置を通して産生され、そこでそれらは合成され、成熟後に分泌される。SLC35は、ヌクレオチド糖とアデノシン3’-ホスホ5’-ホスホスルフェート(PAPS)のためのゴルジおよびERへのトランスポーターの特定のファミリーであり、従って、マトリックス巨大分子の成熟において必須の役割を果たす(Molecular physiology and pathology of the nucleotide sugar transporter family (SLC35), Eur J Physiol, 2004)(非特許文献8)。
【0011】
ヘチマ(Sponge gourd)(loofahとも呼ばれる)(Luffa cylindrica, Cucurbitaceae)は、インドおよび南アジアに由来し、主に熱帯から温暖な地域に分布する一年生の野菜高地作物である。中国では、この植物の種々の部分(花、果実、種子、葉および根を含む)が、炎症、例えば咽頭炎、鼻炎、乳腺炎、浮腫、腫脹、火傷および痔を緩和または軽減するために使用される。
【0012】
五環性トリテルペノイドであるブリオノール酸は、1960年にブリオニア・ディオイカ(Bryonia dioica Jacq.)(ウリ科:Cucurbitaceae)の根から最初に単離され、その後、ヘチマ(Luffa cylindrica. Roem)の根および培養細胞から単離された。Hi Jai Choら(Formation of bryonolic acid in cucurbitaceous plants and their cell cultures, phytochemistry, vol. 31, No. 11, pp. 3893-3896, 1992)(非特許文献9)は、9つの属に属するウリ科の植物の21の種または変種、およびそれらの細胞培養物を、ブリオノール酸を産生するそれらの能力に関して調べた。ブリオノール酸は、調べた全ての種(それらのうちの2つを除く)において見出され、専ら、成長しきった植物の根においてまたは実生の幼根において局在していた。
【0013】
ブリオノール酸に関しては、いくつかの生物学的活性(げっ歯類における抗アレルギー特性、および多数の癌細胞株における種々の細胞傷害性活性および抗腫瘍活性を含む)がこれまでに報告されている(“Bryonolic acid production in hairy roots of Trhichosanthes kirilowii Max. var. Japonica transformed with Agrobacterium rhizogenes and its cytotoxic activity” by Tadahiro TAKEDA et al. (1994)(非特許文献10))。Emily Clegg Barkerは、彼女の学位論文(The isolation and biological evaluation of anti-inflammatory and chemopreventive triterpenoid natural products, chapter 2, pp. 64-85, May 2015)(非特許文献11)において、ブリオノール酸が、ヘムオキシゲナーゼ-1発現のその強い誘導により実証されるように、抗炎症および抗酸化活性を示すことを示した。
【0014】
従って、一方では、ブリオノール酸は、例えば化粧料分野において価値化され得る興味深い生物学的活性を示すことが認められる。さらに、ブリオノール酸は、特定のウリ科の種、例えばヘチマ属(Luffa)、キュウリ属(Cucumis)およびトウガン属(Benincasa)の種、より特にはヘチマ(Luffa cylindrica)の根に専ら存在する。従って、この興味深い化合物を得るためには、前記植物の根にアクセスできることが有利である。しかし、そのような作業は、植物の全部または一部の破壊を伴う。さらに、名古屋議定書および国際規格(ISO 26000)は、生物多様性へのアクセスを制御し、持続可能な開発および社会的責任を確保するためのガイドラインを提供している。
【0015】
他方、上記ウリ科の種の天然根抽出物はブリオノール酸を含有するが、その濃度は、特に化粧および/または皮膚科学的分野において、有意かつ満足のいく結果を生み出すためには十分ではない。
【0016】
JP-3659424B2(特許文献1)は、創傷治癒として使用するための、細胞増殖を促進するための、および整肌を促進するための、ヘチマの根抽出物由来のブリオノール酸を含有する組成物を記載している。JP-5946717B2(特許文献2)は、コラーゲンIII型の産生を促進するための、および皮膚における創傷治癒を促進するための、ヘチマから抽出され得るブリオノール酸を開示している。また、EP-0359196A2(特許文献3)は、肌に潤いを与えるための、美白のための、シワの形成を除去するためおよび防止するための、ヘチマ抽出物を含む局所製剤を開示している。JP-S62226912A2(特許文献4)には、アグロバクテリウムの感染によって生じたウリ科植物の培養誘導根の抽出物を含む組成物が開示されている。このような抽出物は、皮膚の保湿のために、または小シワの改善のために使用することができるが、当該明細書は経路については触れていない。また、JP-2019034899A2(特許文献5)には、経路として、エラスターゼ活性を阻害することによりシワ形成を予防するための、ブリオノール酸を含まない、ヘチマの果実および茎抽出物を含む組成物が開示されている。
【0017】
JP-H07109214A(特許文献6)は、ウリ科植物の培養細胞由来のブリオノール酸を含む皮脂分泌促進剤に関する。
【0018】
JP-2009256271A(特許文献7)は、アクアポリン発現を促進し、従って皮膚に水分保持機能を付与するための、ヘチマの地上部からの抽出物を提供する。また、CN-107773470A(特許文献8)は、皮膚に潤いを与えることができる、ヘチマ抽出物をベースとするフェイスマスクを開示している。
【0019】
JP-H11240823A(特許文献9)は、毛乳頭の成長を促進するための、ヘチマ抽出物を含む組成物を開示している。
【0020】
JP-4716692B2(特許文献10)には、ヘチマの根のエタノール抽出物をベースとする、紅斑UVを抑制する優れた抗炎症効果を有する組成物が開示されている。
【0021】
KR-101256180B1(特許文献11)は、メラノサイトにおけるチロシナーゼ活性を抑制できる有効成分として、ヘチマの種子抽出物を含有する皮膚美白組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】JP-3659424B2
【特許文献2】JP-5946717B2
【特許文献3】EP-0359196A2
【特許文献4】JP-S62226912A2
【特許文献5】JP-2019034899A2
【特許文献6】JP-H07109214A
【特許文献7】JP-2009256271A
【特許文献8】CN-107773470A
【特許文献9】JP-H11240823A
【特許文献10】JP-4716692B2
【特許文献11】KR-101256180B1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Respiratory metabolism: glycolysis, the TCA cycle and mitochondrial electron transport, Current Opinion in Plant Biology (2004)
【非特許文献2】Diseases caused by defects of mitochondrial carriers: A review, Biochimica et Biophysica Acta, 2008
【非特許文献3】Mitochondrial transporters of the SLC25 family and associated diseases: a review, J Inherit Metab Dis. 2014 Jul;37(4):565-75. 2014)
【非特許文献4】Reprogramming of energy metabolism as a driver of aging, Oncotarget(2016)
【非特許文献5】Lоpez-Otin, et al. 2013
【非特許文献6】Daniel Schniertshauer, et al. Age-Dependent Loss of Mitochondrial Function in Epithelial Tissue Can Be Reversed by Coenzyme Q10, J Aging Res, 2018
【非特許文献7】Bee Ling Tan et al. 2018
【非特許文献8】Molecular physiology and pathology of the nucleotide sugar transporter family (SLC35), Eur J Physiol, 2004
【非特許文献9】Formation of bryonolic acid in cucurbitaceous plants and their cell cultures, phytochemistry, vol. 31, No. 11, pp. 3893-3896, 1992
【非特許文献10】“Bryonolic acid production in hairy roots of Trhichosanthes kirilowii Max. var. Japonica transformed with Agrobacterium rhizogenes and its cytotoxic activity” by Tadahiro TAKEDA et al. (1994)
【非特許文献11】The isolation and biological evaluation of anti-inflammatory and chemopreventive triterpenoid natural products, chapter 2, pp. 64-85, May 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
活性成分として、ウリ科の種、例えばヘチマ(Luffa)の根の抽出物が利用可能であるにもかかわらず、ブリオノール酸が富化された、前記植物の改善された根抽出物からなる新規の化粧用もしくは皮膚科学的もしくはニュートラシューティカル用の活性成分が依然として必要とされている。さらに、そのような富化された根抽出物は、持続可能な開発、社会的および環境的な価値、植物を保存することによる意義の原則に従って得られる。
【0025】
また、活性成分として、ブリオノール酸が富化されたヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物を少なくとも含む、新規の化粧用もしくは皮膚科学的もしくはニュートラシューティカル用組成物も依然として必要とされている。有利には、活性成分としての前記のヘチマの富化された根抽出物により、これまでは決して得られずに記載されてこなかった化粧用のもしくは皮膚科学的な効果を示すことが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
驚くべきことに、ヘチマの根内のブリオノール酸の量を、例えば、前記植物を特定の条件下で培養することによって、増加させることができることが見出された。本発明者らは、特定の条件下で前記植物を培養することが、それらの根内のブリオノール酸の量の富化を可能とすることを実証した。ブリオノール酸が富化された前記根の抽出物は、有利には、化粧および/または皮膚科学的および/またはニュートラシューティカル領域における有効成分として使用することができる。さらに、ヘチマの富化された根抽出物によって際立ち、到達される生物学的な標的および経路により、従来技術に記載されているのと比較して、包括的な皮膚に有益な効果を得ることが可能となる。実際に、ブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物が、ミトコンドリアトランスポーターSLC25を調節することによって皮膚のエネルギー代謝を刺激できること、グルタチオンs-トランスフェラーゼシータ2、グルタチオンペルオキシダーゼ2および3を刺激することによって内因性抗酸化系をアップレギュレートできること、ペルオキシレドキシン-2を増強することによって過酸化物を無毒化できること、環境ストレッサーによって変化した細胞生体エネルギープロファイルを効率的に修復できること、皮膚構造を改善できること、および/またはコラーゲンI型およびIV型タンパク質発現および弾性線維の刺激によってシワ(wrinkles)および小ジワ(fine lines)を減少できることが実証された。
【0027】
本発明によるヘチマの根抽出物、および本発明による方法によって得られるヘチマの根抽出物は、予想外に、全体的な細胞代謝を増強し、最終的に細胞外マトリックス高分子を刺激するために、内因性抗酸化特性を刺激する一方で、細胞およびミトコンドリアの生体エネルギー学的機能の回復に基づき、皮膚に有益な効果、特に細胞を健康にし、皮膚を若返らせるための効果を示す。換言すると、本発明によるヘチマの根抽出物ならびに本発明による方法によって得られるヘチマの根抽出物は、例えば、皮膚のエネルギー代謝を刺激および/または回復させるために、疲労細胞においてさえも細胞生存能力を回復させるために、外部作用因子(毒性作用因子、太陽、またはUV、光への曝露、ストレス、栄養不良)に対する皮膚の保護応答を誘導するために、酸化的ストレスを予防するために、より一般的には老化の徴候を予防および/または遅延させるために、ならびに皮膚のハリ(firminess)、緊張性および弾力性を改善するために適している。
【0028】
発明の概要
本発明は、植物ヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物であって、ブリオノール酸を含み、前記ブリオノール酸が、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%に相当する、前記根抽出物に関する。
【0029】
本発明はまた、以下のステップを含む、植物ヘチマの根抽出物を製造する方法に関する:
a)ヘチマを無土壌条件下、特にエアロポニック式に、栽培するステップ、
b)任意選択的に、前記植物の根を刺激するステップ、
c)任意選択的にステップb)において刺激された、根の根マセレーション(maceration)によって、固/液抽出するステップ、
d)ステップc)で得られた抽出物を回収するステップ、および
e)任意選択的に、ステップd)で回収された抽出物を、希釈、および/または連続ろ過によって、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過によって、清澄化するステップ。
【0030】
本発明はまた、上記で定義された植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数の賦形剤(これらは好ましくは化粧用にまたは皮膚科学的にまたはニュートラシューティカル的に許容可能である)を含む、化粧用および/または皮膚科学的および/またはニュートラシューティカル組成物に関する。
【0031】
本発明はまた、皮膚エネルギー代謝の刺激および/または回復、細胞生存能力の回復(疲労細胞においてさえ)、外部作用因子に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに/または皮膚のハリ、緊張性および/または弾力性の改善において使用するための、上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物、または上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物を含む組成物に関する。
【0032】
本発明はまた、皮膚エネルギー代謝の刺激および/または回復、細胞生存能力の回復(疲労細胞においてさえ)、外部作用因子に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに/または皮膚のハリ、緊張性および/または弾力性の改善のための、上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物または上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物を含む組成物(好ましくは化粧用組成物)の使用に関する。
【0033】
本発明はまた、皮膚老化効果の出現を予防または遅延させるための化粧スキンケア方法であって、身体または顔面皮膚の少なくとも一部に、上記で定義された化粧用組成物を適用することを含む方法に関する。
【0034】
本明細書において引用または参照される全ての文献(「本明細書において引用される文献」)、および本明細書において引用される文献において引用または参照される全ての文献は、本明細書において言及されるかまたは本明細書において参照により組み込まれるいずれかの文献において言及されるいずれかのものに関するいずれかの製造業者の指示書、説明書、製品仕様書および製品シートとともに、これにより参照によって本明細書に組み込まれ、本発明の実施において使用され得る。より具体的には、全ての参照された文献は、あたかも各個々の文献が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されたのと同じ程度まで参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】Seahorse XF細胞ミトコンドリアストレス試験プロファイル(生体エネルギープロファイル)
図2図2は、本発明によるブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物を含む化粧用組成物有りまたはなしでの、ストレッサー(溶媒)の存在下または非存在下における、44歳の線維芽細胞のSeahorse XF細胞ミトコンドリアストレス試験プロファイルを示す(n=3)。呼吸プロファイル。非ストレス細胞に関するNT(コントロール線維芽細胞)。
図3図3は、HES(ヘマトキシリン・エオジン・サフラン)染色後のホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片について行った皮膚形態学的観察を示す。皮膚外植片モデルを、本発明によるブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物を0(プラセボ)、0.125%、0.5%および1%含有する処方で7日間処理した。真皮の緻密化を、黄色の染色によって示す。スケールバー:100μm。
図4図4は、modified Verhoeff’s染色後のホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片について行った弾性線維染色を示す。皮膚外植片モデルを、本発明によるブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物を0(プラセボ)、0.125%、0.5%および1%含有する処方で7日間処理した。弾性繊維は暗く見える。核は青色に染色される。スケールバー:100μm。
図5図5は、本発明によるブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物を1%で含む処方、またはプラセボ処方を、1日2回適用した後の、高齢のボランティアの顔面皮膚上でcutometerで測定した生物力学的特性を示す。皮膚のハリ(R0)、皮膚の緊張性(Ur)、皮膚の弾力性(UeおよびR6)。結果を、0日目に対して相対的に、およびプラセボ群と比較して表す。統計:ダネットの比較検定によるANOVA。***:p<0.005、**:p<0.01、*:p<0.05。
【0036】
発明の詳細な説明
本発明の第1の対象は、植物ヘチマ(Luffa cylindrica)の根抽出物であって、ブリオノール酸を含み、前記ブリオノール酸が、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%に相当する、前記根抽出物に関する。
【0037】
本発明の一実施態様によれば、ブリオノール酸は、乾燥抽出物の全重量に対して、少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%または少なくとも60重量%に相当する。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、前記の根抽出物は液体形態にあり、および、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択されるマセレーション溶媒を含む。好ましくは、前記溶媒はジカプリリルエーテルである。より好ましくは、マセレーション溶媒は、バイオベースのジカプリリルエーテルである。このような液体根抽出物は、ヘチマを無土壌条件下、特にエアロポニック式に、栽培するステップa)、前記植物の根を刺激する任意ステップb)、任意選択的にステップb)において刺激された、根の根マセレーションによって、固/液抽出するステップc)、およびステップc)で得られた抽出物を回収するステップd)の後に得られる粗製液体抽出物に相応する。このように、「マセレーション溶媒」は、根抽出物を得るために使用される溶媒である。このような溶媒は、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%のブリオノール酸の所望の含有量に達するために、特定の溶媒から選択される必要がある。
【0039】
本発明の1つの実施態様によれば、前記根抽出物は、液体形態の根抽出物を乾燥するさらなるステップe)の後に、固体のまたは粘着性の形態にあってもよく、前記乾燥は、例えばマセレーション溶媒を蒸発させるために、熱く乾燥した雰囲気に液体形態の根抽出物を置くための、当技術分野で公知の任意の方法に従って行われる。
【0040】
固体のまたは粘着性の形態の根抽出物は、液体形態の別のタイプの根抽出物を得るために、希釈溶媒中でさらに希釈され得る。このように、「希釈溶媒」は、既に得られた固体のまたは粘着性の形態の根抽出物を希釈するために使用される溶媒である。前記希釈溶媒は、特に、アルコール、グリコール類、乳酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択され得る。アルコールは、好ましくは、メタノールおよびエタノールから選択される。実際には、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%のブリオノール酸の所望の含有量に達するために、特定の溶媒をマセレーション溶媒として使用する必要があるが、抽出物の使用前に、既に得られた固体のもしくは粘着性の形態の根抽出物を希釈するために他の溶媒を使用してもよい。特に、希釈溶媒は、得られた抽出物に関して使用したマセレーション溶媒と同一である必要はない。希釈溶媒の文脈において、アルコールは、好ましくはメタノールおよびエタノールから選択される。グリコール類は、好ましくは、ペンチレングリコールおよびグリセロールから選択される。好ましくは、希釈溶媒は、ペンチレングリコールおよびジカプリリルエーテルから選択される。特定の実施態様において、前記ジカプリリルエーテルはバイオベースである。より好ましくは、希釈溶媒はペンチレングリコールである。より好ましくは、希釈溶媒はジカプリリルエーテルである。特に好ましくは、希釈溶媒は、バイオベースのジカプリリルエーテルである。
【0041】
液体形態の根抽出物がマセレーション溶媒における粗製液体根抽出物であるか、または希釈溶媒に希釈された乾燥根抽出物であるかに応じて、液体形態の根抽出物は、上記のマセレーション溶媒または上記の希釈溶媒を含み得る。
【0042】
「植物の根抽出物」は、植物であるヘチマの富化された根の抽出により得られる生成物を意味し、前記根抽出物は好ましくは液体形態である(これに限定はされないが)。
【0043】
「ブリオノール酸が富化された根」および「富化された根」は、天然に見出すことができる同じ植物の対応する根抽出物と比較して、より多量のブリオノール酸を含有する前記植物の根抽出物を意味する。換言すると、「ブリオノール酸が富化された根抽出物」は、乾燥抽出物の全重量に対して少なくとも10重量%に相当するブリオノール酸を含む根抽出物を意味する。
【0044】
「ブリオノール酸」は、以下の一般式(I)を有する五環式トリテルペノイド化合物を意味する:
【0045】
【化1】
「乾燥抽出物」は、本発明による方法、それに続く得られた抽出物を乾燥するステップを実施することによって得ることができる植物の根抽出物を意味し、前記乾燥は当業者によく知られた任意の方法に従って行われ、特に、溶媒を蒸発させるために熱い乾燥雰囲気に根抽出物が置かれるかまたは加熱されたプレート上に根抽出物が置かれる。
【0046】
以下、本発明の構成要素についてより詳細に説明する。これらの要素は特定の実施態様と共に列挙されているが、追加的な実施態様を作成するために、任意の方法および任意の数で組み合わせることができることが理解されるべきである。様々に記載された例および実施態様は、明示的に記載された実施態様のみに本発明を限定するように解釈されるべきではない。この記載は、明示的に説明された実施態様を任意の数の開示された構成要素と組み合わせる実施態様を支持し、包含するものと理解されるべきである。さらに、本出願において説明されるすべての構成要素の任意の置換および組み合わせは、文脈が別段の指示をしない限り、本出願の記載によって開示されたとみなされるべきである。
【0047】
本明細書および特許請求の範囲を通して、文脈が別段の要求をしない限り、単語「含む(comprise)」および「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、言及された数、整数またはステップ、または数、整数またはステップの群を含むことを意味し、他の数、整数またはステップ、または数、整数またはステップの群を排除しないことを意味すると理解される。本発明を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される「a」および「an」および「the」という用語ならびに類似の指示対象は、本明細書において別段の示唆がない限り、または文脈によって明らかに否定されていない限り、単数形と複数形との両方をカバーするものと解釈すべきである。本明細書における値の範囲の記述は、単に、当該範囲内のそれぞれの別個の値を個々に参照する簡略な方法として機能することを意図するものである。本明細書において別段の示唆がない限り、それぞれの個々の値は、それが本明細書に個々に列挙されているかのように本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書において別段の示唆がない限り、または明確に文脈に相反しない限り、任意の適切な順番で行うことができる。本明細書において供される、いずれかのおよび全ての例、または例示的な語句(例えば、「などの」、「例えば」)の使用は、単に本発明をよりよく理解させることを意図するものであり、別段特許請求される発明の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいずれの文言も、本発明の実施に必須な特許請求の範囲に記載されていない要素を示していると解釈すべきではない。
【0048】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載の方法および材料が好ましいが、本明細書に記載のものと類似または同等の他の方法および材料も同様に、本発明の実施または試験において使用することができる。
【0049】
好ましくは、本発明による植物ヘチマの根抽出物を得るために、根が十分に発達していると考えられる場合、それらを浸漬または好ましくはマセレーションにより抽出溶媒と接触させ、引き続き前記抽出溶媒を回収し、処理して、そこから前記植物の根によって放出されたブリオノール酸を含む二次代謝産物を抽出する。この好ましい方法は、Plant Advanced Technologies(PAT)という名称の企業によって「PAT Plantes a Traire(登録商標)」として開発され、国際出願WO-01/33942に記載されている方法から適合される。この国際出願の教示は、参照により本発明の明細書に組み込まれる。
【0050】
本発明の第2の主題は、以下のステップを含む、植物ヘチマの根抽出物を製造する方法に関する:
a)ヘチマを無土壌条件下、特にエアロポニック式に、栽培するステップ、
b)任意選択的に、前記植物の根を刺激するステップ、
c)任意選択的にステップb)において刺激された、根の根マセレーション(maceration)によって、固/液抽出するステップ、
d)ステップc)で得られた抽出物を回収するステップ、および
e)任意選択的に、ステップd)で回収された抽出物を、希釈、および/または連続ろ過によって、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過によって、清澄化するステップ。
【0051】
この方法は、本発明による植物ヘチマの根抽出物を製造するための好ましい方法である。本発明の好ましい態様において、本発明に係る植物ヘチマの根抽出物は、本発明の方法により得られる。本発明の好ましい態様において、本発明の方法は、本発明による植物ヘチマの根抽出物を製造するために使用される。
【0052】
本発明の文脈において、用語「無土壌条件下の栽培」は、植物の根の発育が土壌において行われない任意の栽培様式を意味する。より正確には、無土壌栽培は、土壌から分離された、再構成された培地中で植物の根が成長する栽培タイプである。この栽培培地は、栽培される植物に適した周知の栄養溶液で定期的に潅漑される。
【0053】
種々の無土壌栽培技術、例えば酸素富化栄養溶液を必要とする基材不含系、および基材をベースとする系が存在する。基材不含系としては、栄養溶液が循環せずに栽培タンクに入れられているアクアカルチャー(aquaculture)、栄養溶液が、空気との交換によって、その移動の過程で溶存酸素が富化された状態になる薄膜水耕法(NFT:Nutrient Film Technique)、および植物の根が固体培地とも液体培地とも接触しないエアロポニックス(aeroponics)が挙げられる。実際、根には、閉鎖系培地において栄養溶液を(ミスター(mister)により)霧化することによって得られた栄養ミストによって栄養補給がなされる。基材をベースとする系としては、栄養溶液が基材をその下部を通して浸透する底面灌水(subirrigation)、および栄養溶液が系の上面での不連続な灌水によって分配され、次いで基材の底部に浸透するパーコレーション(percolation)が挙げられる。無機物もしくは有機基材は、例えば砂、クレーまたはロックウールのように、中性かつ不活性である。この基材は、合成起源のものであってもよい。
【0054】
用語「エアロポニック式植物栽培」は、植物の根が固体培地または液体栄養培地のいずれとも恒久的な接触にない、無土壌栽培の様式を指す。
【0055】
「栄養溶液」という用語は、最大の根の成長および二次代謝産物の最大の産生を得るために、最適な量および互いに最適な比率で、必須の無機物塩(窒素-N、リン-P、カリウム-K)を含む溶液を指す。
【0056】
「刺激栄養溶液」という用語は、最大の根の成長および二次代謝産物、特にブリオノール酸の最大の産生を得るために、最適な量で、必須の無機物塩(窒素-N、リン-P、カリウム-K)を含む窒素欠乏溶液を指す。
【0057】
本発明の方法の一実施態様によれば、植物には、閉鎖系培地中の栄養溶液をミスターを介して霧化することによって得られる栄養溶液ミストを用いて栄養補給がされてもよい。
【0058】
本発明の方法の一実施態様によれば、植物は、植物の地上部をトレイの上方に、根部分をトレイの下方にして置くことができ、トレイは植物に向かって拡散される液体の過剰分を収集するための保持領域を形成するテーブル上に置かれ、当該トレイは、種々のステーションにおいてテーブル上に移送される。エアロポニック式植物栽培に適したこの技術についての教示は、参照により本発明の明細書にも組み込まれる国際出願WO2018054704A1においてより詳細に記載されている。
【0059】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップa)の間に、植物の生存を害することなく、最大の根の成長、およびブリオノール酸を含む二次代謝産物の最大濃度を得るために、必須の無機物塩(窒素-N、リン-P、カリウム-K)の栄養溶液を根に噴霧することにより、エアロポニック式に栽培される植物への栄養補給が行われる。当業者は彼の一般的な常識によって、植物の成長、および特に根の成長を最適化するために、種々の無機物塩の割合および濃度をどのように適応させるかを知っている。この場合、栄養溶液の無機物塩濃度は、根抽出物内のブリオノール酸を含む二次代謝産物のより大きな多様性を促進するために、有利には0.4~1.6mS/cm、好ましくは0.8~1.2mS/cmに及ぶ、低い導電率範囲内にある。
【0060】
有利には、上記のエアロポニック式栽培条件は、土壌栽培で得られるブリオノール酸の量と比較して優れた量で、ブリオノール酸を含むいくつかの二次代謝産物の獲得を可能にする。
【0061】
本発明の方法の一実施態様によれば、前記方法は、根の刺激ステップを含み得る。この場合、前記植物の根刺激のステップb)は、前記根を、窒素欠乏刺激栄養溶液と接触させて置くステップを含む。この場合、前記溶液は、植物の成長、特に根の成長に最適であると通常考えられる窒素比率未満の窒素比率、有利には15%未満の窒素を含み、より有利には窒素を含まない溶液であることができ、前記ステップは、連続的であるかまたは同時である。
【0062】
本発明の好ましい実施態様において、植物ヘチマの根抽出物を製造するための方法は、以下のステップを含む:
a)ヘチマをエアロポニック式に栽培するステップ、
b)前記植物の根を刺激するステップ、
c)ステップb)において刺激された根の溶媒における根マセレーションによって、固/液抽出するステップ、
d)ステップc)で得られた抽出物を回収するステップ、
e)任意選択的に、ステップd)で回収された抽出物を、希釈、および/または連続ろ過によって、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過によって、清澄化するステップ。
【0063】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)における前記植物の根刺激は、根を窒素欠乏栄養溶液と接触させるステップを含む。植物を窒素欠乏栄養溶液と接触させて置くことは、「窒素ストレス」を引き起こし、これは二次代謝産物の産生、特にブリオノール酸の産生の刺激を担っている。
【0064】
本発明の方法の特定の実施態様によれば、前記窒素欠乏刺激栄養溶液は、15%未満の窒素、好ましくは10%未満の窒素、有利には8%未満、より有利には6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の窒素、さらにより有利には0%の窒素を含む溶液である。
【0065】
本発明の方法の一実施態様によれば、根刺激ステップb)は、根におけるブリオノール酸を含めた二次代謝産物の含有量を顕著に増加させること、および従って、根から抽出のために選択された溶媒中に向かう前記代謝産物の流れを促進すること、および植物を栽培のために戻して、次いで再利用できるように、上記のようなことを植物の生存能力を完全に失うことなく行うことを可能にする。換言すると、植物刺激ステップは、ブリオノール酸を含む二次代謝産物の産生収量および分泌を促進する。
【0066】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)における根刺激は、前記植物の根に、当該根上で気化または霧化された窒素欠乏N/P/K刺激栄養溶液を用いて栄養補給することによって行われる。
【0067】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)は、6%未満、より好ましくは3%未満の窒素を含むN/P/K栄養溶液を前記植物の根に噴霧またはマセレート(macerating)することによって行われ、前記溶液は好ましくは根の上で気化または霧状される。
【0068】
本発明の方法の一実施態様によれば、前記植物の根に、当該根上で気化された窒素欠乏N/P/K栄養溶液を用いて栄養補給することによって根を刺激するステップb)は、有利には、10日~8週間、好ましくは3週間の期間行われる。
【0069】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)の間、前記栄養溶液の無機物塩(mineral salt)濃度は、根抽出物内のブリオノール酸を含む二次代謝産物のより大きな多様性を促進するために、有利には0.4~1.2mS/cm、好ましくは0.6~1.0mS/cmに及ぶ、低い導電率範囲内にある。
【0070】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)はステップa)の後に実施される。
【0071】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップb)およびステップa)が同時に行われ、次いで、栄養溶液が刺激溶液によって置き換えられる。
【0072】
引き続き、栽培され刺激された植物は、典型的には、溶媒、温度および抽出時間に関して所定の条件下での根マセレーションによる固/液抽出のステップc)に供され、それにより、ブリオノール酸が富化された根抽出物が確実に、他の二次代謝産物とともに得られる。実際、特定の脂肪酸(パルミチン酸、リノール酸およびα-リノレン酸)の量もまた、ヘチマの刺激された根抽出物の薄層クロマトグラフィー(TLC)分析後に増加する(データは示さず)。固/液抽出は、溶媒ベースの抽出技術であって、固体であり、かつ前記溶媒に可溶性である1種または複数の化学種を抽出することからなる抽出技術である。抽出は、適当な時間、前記溶媒を根と接触させて置くこと(浸漬ステップとしても知られる)によって、適当な溶媒への、根に含まれる二次代謝産物(ブリオノール酸を含む)の回収をもたらす。次に、根によって放出された、ブリオノール酸を含む二次代謝産物を含有する前記溶媒が回収される。
【0073】
本発明の方法の好ましい実施態様によれば、ステップb)の間に刺激された根の固/液抽出のステップc)の前に、植物に拡散される溶媒が清澄な水である追加的な洗浄ステップが先行する。従って、栄養溶液中にまたは刺激栄養溶液中に含まれる元素の抽出溶媒中への供給は、溶媒中に浸漬するステップの間は制限される。
【0074】
本発明の方法の一実施態様によれば、根のマセレーションは、切断され、乾燥された根に対して行われる。
【0075】
本発明の方法の別のより特定の実施態様によれば、根のマセレーションは、切断され、次いで乾燥され、および任意選択的に粉砕された根に対して行われる。前記乾燥方法は、当業者に公知の任意の適切な乾燥方法であることができ、特に、根バイオマスを30℃~60℃の温度で24時間~72時間、好ましくは乾燥環境において、置くことによる。根バイオマスは、特に、換気オーブン中で乾燥させることができる。根バイオマスの粉砕は,当業者に公知の任意の適切な粉砕方法を実施することによって、特に、根バイオマスをボールミルまたはナイフミルまたはハンマーミルに入れることによって実施され得る。植物は、それらの根の成長を再開し、二次代謝産物、好ましくはブリオノール酸の根による産生を促進するように、根を切断するステップの後に、ステップa)によるエアロポニック式の栽培および任意選択的にb)に戻される。
【0076】
本発明の方法の別のより特定の実施態様によれば、前記方法は、マセレーションのステップの前に、根を切断し、切断した根を乾燥させるステップを含み、マセレーションは、切断し乾燥した根を溶媒と接触させて置くことによって行われる。
【0077】
本発明の方法の別のより特定の実施態様によれば、前記方法は、前記根をマセレーションするステップの前に、根を切断するステップ、切断した根を乾燥させるステップ、および切断し乾燥した根を引き続き粉砕するステップを含み、マセレーションは、切断し乾燥し粉砕した根を溶媒と接触させて置くことによって行われる。
【0078】
本発明の方法の好ましい実施態様によれば、根のマセレーションによる固/液抽出のステップc)は、根を、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチル、植物油またはそれらの混合物から選択される溶媒と接触させることを含む。
【0079】
好ましくは、溶媒は、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチルおよび植物油(例えば、杏仁油、ヒマワリ油、ナタネ油)から選択することができる。好ましい実施態様において、前記溶媒はジカプリリルエーテルである。特定の実施態様において、前記ジカプリリルエーテルはバイオベースである。より好ましくは、前記溶媒は、バイオベースのジカプリリルエーテルである。
【0080】
本発明の方法の別の好ましい実施態様によれば、固/液抽出ステップc)は、根を、例えばマセレーションにより、ジカプリリルエーテル、特に好ましくはバイオベースのジカプリリルエーテルと接触させて置くことを含む。
【0081】
本発明の方法の一実施態様によれば、ステップc)は、30分~48時間の間、より具体的には1時間~4時間の間の時間、例えばマセレーションによって、根を溶媒と接触させて置くことを含む。
【0082】
本発明の方法の別の特定の実施態様によれば、ステップc)は、20℃(室温)~80℃、より特には40℃~60℃の温度で、例えばマセレーションによって、根を溶媒と接触させて置くことを含む。
【0083】
本発明の方法の別の特定の実施態様によれば、乾燥した根の根マセレーションに関して、乾燥した根の量と溶媒の量との比は、1kgの乾燥した根/10kgの溶媒~1kgの乾燥した根/100kgの溶媒、より好ましくは1kgの乾燥した根/20kgの溶媒~1kgの乾燥した根/40kgの溶媒の範囲である。
【0084】
本発明の文脈において、用語「溶媒における根マセレーション」は、好ましくは、そのために根と接触させて置かれる溶媒が、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、トリグリセリド類、クエン酸トリエチル、ジカプリリルエーテル、イソステアリン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、酢酸エチルおよび植物油(例えば、杏仁油、ヒマワリ油、ナタネ油)であることができる溶媒であり、より好ましくは前記溶媒がジカプリリルエーテルである、根のマセレーションを意味する。
【0085】
一実施態様によれば、本発明による方法は、有利には、以下から選択することができる、前記植物根抽出物を処理する1つまたは複数の追加的ステップを含むことができる:
-希釈、
-少なくとも1つのろ過、特に清澄ろ過および/または滅菌ろ過、
-固/液抽出、
-精製、
-液体根抽出物の漂白。
【0086】
このような処理方法は、当業者に周知である。
【0087】
本発明の別の対象は、上記で詳述した方法によって得られる植物ヘチマの根抽出物に関する。
【0088】
本開示の文脈において、植物、例えばヘチマの根抽出物中のブリオノール酸の濃度は、前記根抽出物の質量分析に接続した液体クロマトグラフィー(UPLC-MS)による分析のクロマトグラム上のブリオノール酸に対応するピークの面積を測定することによって決定される。ブリオノール酸ピークの面積は、125mg/Lのブリオノール酸を含む標準溶液のUPLC-MS分析のクロマトグラムにおけるピークの相対面積に与えられる。ブリオノール酸の定量化は以下に相当する:
【0089】
【数1】
本発明の別の対象は、上記で定義された植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数の賦形剤(これらは好ましくは化粧用にまたは皮膚科学的にまたはニュートラシューティカル的に許容可能である)を含む、化粧用におよび/または皮膚科学的および/またはニュートラシューティカル組成物に関する。好ましい実施態様において、本発明の組成物は、上記で定義される植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数の化粧用に許容可能な賦形剤を含む化粧用組成物である。別の好ましい実施態様において、本発明の組成物は、上記で定義される植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数の皮膚科学的に許容可能な賦形剤を含む皮膚科学的組成物である。別の好ましい実施態様において、本発明の組成物は、上記で定義される植物ヘチマの根抽出物、および任意選択的に1種または複数のニュートラシューティカル的に許容可能な賦形剤を含む、ニュートラシューティカル組成物である。
【0090】
本発明の組成物の好ましい実施態様によれば、ブリオノール酸は、乾燥抽出物の全重量に対して、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも45重量%、少なくとも50重量%、少なくとも55重量%または少なくとも60重量%に相当する。
【0091】
本発明の組成物の好ましい実施態様によれば、植物ヘチマの前記根抽出物は、組成物の全重量に対して、0.0001~15重量%、好ましくは0.001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%に相当する。
【0092】
本発明による化粧用組成物の投与様式、投薬量および最適な剤形は、対象に適合した化粧的処理の確立において一般に考慮される基準、例えば皮膚のタイプ等に従って決定され得る。所望の投与のタイプに応じて、本発明による化粧用組成物は、少なくとも1種の化粧用に許容可能な賦形剤をさらに含み得る。本発明による化粧用組成物は、増粘剤、防腐剤、香料、染料、化学フィルターもしくは無機物フィルター(mineral filters)、保湿剤、温泉水(thermal waters)等から選択される、当業者に化粧用に公知の少なくとも1種の佐剤をさらに含み得る。
【0093】
本発明による化粧用組成物は、他の化粧用に活性な剤、例えば、他のアンチエイジング剤、または保湿剤、沈静、鎮静もしくは弛緩活性を有する剤、皮膚微小循環を刺激する剤、油性肌のケアのためのセボ制御剤(sebo-regulating agents)、洗浄または浄化剤、抗ラジカル剤、抗炎症剤、化学もしくは無機物サンスクリーンなどをさらに含んでもよい。
【0094】
適切な化粧用賦形剤は、当業者に周知のものである。例えば、適切な化粧用賦形剤は、ポリマー、シリコーン化合物、界面活性剤、レオロジー剤、湿潤剤、浸透剤、油状成分、ワックス、乳化剤、皮膜形成剤および香料、電解質、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、染料、真珠光沢剤、顔料およびそれらの混合物から選択され得る。
【0095】
本発明による化粧用組成物は、有利には、局所適用を意図している。それは、特に、クリーム、乳液、ローション、ゲル、セラム、スプレー、ムース、溶液、軟膏、エマルション、パッチまたはマスク(美顔用パック)の形態であり得る。
【0096】
本発明による化粧用組成物は、老化(内因性または外因性)、特に、ハリ、弾力性、外観およびしわを含む外因性の老化の皮膚徴候の出現を遅延または修復することを意図する。有利には、本発明の組成物は、皮膚のエネルギー代謝の刺激および/または回復、疲労細胞においてさえも細胞生存能力の回復、外部作用因子(毒性作用因子、太陽、またはUV、光への曝露、ストレス、栄養不良)に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、より一般的には老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに皮膚のハリ、緊張性および弾力性の改善を可能にする。
【0097】
適切な皮膚科学的賦形剤はまた、当業者に周知のものである。例えば、適切な皮膚科学的賦形剤は、化粧料における使用が意図されるものと同一であってもよい。
【0098】
適切なニュートラシューティカル賦形剤は、当業者に周知である。例には、セルロース系ポリマー、アクリレートポリマーおよびコポリマー、ポリビニルピロリドン、水溶性ポリエチレングリコール、ビニルコポリマー等の水溶性ポリマーが含まれる。ニュートラシューティカル組成物は、本発明によるヘチマの根抽出物を含む食品サプリメントであってもよい。典型的には、前記ニュートラシューティカル組成物は、固体、コーティングされたもしくはコーティングされていない錠剤、液体、粉末、軟もしくは硬ゼラチンカプセルなどの形態であり得る。
【0099】
本発明の別の対象は、皮膚エネルギー代謝の刺激および/または回復、細胞生存能力の回復(疲労細胞においてさえ)、外部作用因子に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに/または皮膚のハリ、緊張性および/または弾力性の改善において使用するための、上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物、または上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物を含む組成物に関する。
【0100】
特に、前記根抽出物または前記根抽出物を含む前記組成物は、ミトコンドリアトランスポーターSLC25を調節することによって皮膚のエネルギー代謝を刺激すること、グルタチオンs-トランスフェラーゼシータ2、グルタチオンペルオキシダーゼ2および3を刺激することによって内因性抗酸化系をアップレギュレートすること、ペルオキシレドキシン-2を増強することによって過酸化物を無毒化すること、環境ストレッサーによって変化した細胞生体エネルギープロファイルを効率的に修復すること、皮膚構造を改善すること、および/またはコラーゲンI型およびIV型タンパク質発現および弾性線維の刺激によってシワ(wrinkles)および小ジワ(fine lines)を減少することに適している。
【0101】
本発明の別の対象は、皮膚エネルギー代謝の刺激および/または回復、細胞生存能力の回復(疲労細胞においてさえ)、外部作用因子に対する皮膚の保護応答の誘導、酸化的ストレスの予防、老化の徴候の予防および/または遅延、ならびに/または皮膚のハリ、緊張性および/または弾力性の改善のための、上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物または上記で定義されたような植物ヘチマの根抽出物を含む組成物(好ましくは化粧用組成物)の使用に関する。
【0102】
本発明の別の対象は、皮膚老化効果の出現を予防または遅延させるための化粧スキンケア方法であって、身体または顔面皮膚の少なくとも一部に、上記の化粧用組成物を適用することを含む方法に関する。
【0103】
嗅覚受容体(OR)は、皮膚を含む様々なヒト組織で発現し、活性である。主に嗅上皮に局在し、匂い認識の第一段階を媒介する異所性ORは、体全体にわたって鼻領域外で発現する。これらの異所性ORは、嗅覚の役割をはるかに超えた生理的細胞機能の制御の役割を果たし得る。それにもかかわらず、これらの生理学的役割のほとんどは未だ解明されていない。
【0104】
上記で定義される植物ヘチマの根抽出物について実施されたトランスクリプトーム研究(データは示さず)によると、以下の表4に記載のような前記抽出物の異なる濃度で、これが後にヒト表皮において、いくつかの嗅覚受容体遺伝子ファミリー、例えばOR1、OR2、OR4、OR5、OR8、OR9、OR10、OR11、OR51、OR52およびOR56の転写を制御し得ることが実証され、各ファミリーのメンバーのほとんどが、免疫応答、炎症、神経生理、代謝調節、創傷治癒および皮膚ストレス応答などのいくつかの主要な生理学的機能に関与することが記載された。従って、本発明による植物ヘチマの根抽出物は、全体的な皮膚ホメオスタシスの番人として使用することができる。
【0105】
ヒトの皮膚では、嗅覚受容体OR2AT4、OR2A4/7、OR2AG2、OR6M1、OR6V1、OR5V1、OR10A6、OR11H4、OR11A1およびOR51B5が同定されている。例えば、いくつかの植物抽出物によって調節されるOR2AT4は、皮膚の再上皮化、皮膚の治癒過程および毛成長に関与する。
【0106】
上記に定義される植物ヘチマの根抽出物が、皮膚のストレス応答に関与すると記載されている嗅覚受容体OR10A6およびOR2AG2を制御することが示された(Durouxら、2020)。上記抽出物はまた、皮膚炎症に関与し得るOR2AG2も制御する。さらに、OR2AG2のために前記抽出物を使用することによって示されるように、ヒトケラチノサイトにおけるOR2AG1およびOR1D2の発現をダウンレギュレートすることは、UVおよび汚染物質などの外部の作用因子によって引き起こされる皮膚炎症の制御をもたらし得ると推測され得る。さらに、OR10G7は、炎症性皮膚障害、例えばアトピー性皮膚炎に関与し得、なぜならそれはアトピー性皮膚炎から単離された未分化ケラチノサイトにおいて過剰発現していることが示されているからである。さらに、OR2AG1およびOR1D2は、喘息などの気道炎症、および他の慢性肺疾患にも関与している。
【0107】
ケラチノサイトは免疫制御機能を有するので、上記に定義されるような植物ヘチマの根抽出物で実証されたような代謝活性化に続くOR1N1のアップレギュレーションは、皮膚免疫を制御し得る。実際、前記抽出物がOR1N1の過剰発現を誘導することが示された。
【0108】
上記で定義される植物ヘチマの根抽出物が、血管新生プロセスに関与するOR52B4の発現を調節することも示された。結果として、前記抽出物は、皮膚の血管疾患、例えば酒さ、皮膚老化およびくまを制御することができ得る。さらに、前記抽出物は、OR8J1およびOR4D2が関与し得るヒトの皮膚細胞代謝を制御する。
【0109】
OR1L4、OR4D11およびOR5B3は、それぞれOR1、OR4およびOR5の嗅覚ファミリーに属する。嗅上皮としての皮膚は神経が分布した組織であり、揮発性粒子物質と直接接触するので、これらの遺伝子はストレス応答機構に関与し得る。興味深いことに、上記で定義される植物ヘチマの根抽出物は、粒状物質と同様の様式でOR1L4を調節することが示された。
【0110】
上記で定義される植物ヘチマの根抽出物はまた、OR5P3の発現もアップレギュレートし、このことは、皮膚の神経生理における前記抽出物の作用を示唆するものである。実際、OR5P3は、神経成長因子(VGF)由来のペプチドとのその相互作用を介して、神経新生および神経分化に関与し得ることが示唆された。
【0111】
従って、本発明の別の対象は、OR1、OR2、OR4、OR5、OR8、OR9、OR10、OR11、OR51、OR52およびOR56のファミリーから選択される皮膚異所性嗅覚受容体(OR)発現の制御における、上記で定義される植物ヘチマ根抽出物の、または上記で定義される植物ヘチマの根抽出物を含む組成物(好ましくは化粧用組成物)の使用に関する。
【0112】
特に、前記抽出物による、または前記抽出物を含む組成物による、皮膚異所性嗅覚受容体の制御は、好ましくは以下における使用のためであることができる:
a)OR1L4、OR4D11、OR5B3、OR10A6およびOR2AG2が関与する皮膚のストレス応答機序の活性化、
b)OR2AG2、OR1D2およびOR10G7が関与する外部作用因子によって引き起こされる皮膚炎症の制御、
c)OR52B4が関与する血管疾患、特に酒さ、皮膚老化およびくまの改善、
d)OR8J1およびOR4D2が関与する代謝細胞制御、
e)皮膚の神経生理、特にOR5P3が関与する皮膚の神経新生と皮膚の神経分化のための皮膚の神経生理。
【0113】
しかしながら、本発明による植物ヘチマの根抽出物の機能的効果は、本明細書に示される記載に限定されると解釈されるべきではなく、科学的矛盾がなければ別のように解釈し得ることもある。
【実施例
【0114】

下記の例は、本発明の種々の実施態様を例示するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0115】
例1:異なる種におけるブリオノール酸量の研究
異なる種(表1に列挙され、市販の種子から得られた)を、エアロポニック系でのそれらの良好な根収量に基づいて選択する。根サンプルを、15/10/30に相当するN/P/K組成の所定の栄養溶液で、0.4~1.6mS/cmの導電率に、1ヶ月間、刺激なしに、エアロポニック条件で栽培した植物から採取した。各試料におけるブリオノール酸含有量を、以下のプロトコールに従って分析する:根を、切断後、換気オーブン中で40℃で48時間乾燥させる。引き続き、乾燥した根をボールミルで粉砕する。各サンプルを二重に行うために、10mgの乾燥し粉砕した根の粉末を、1mlのエタノール(100%)中で、室温(20℃)で撹拌しながら30分間マセレーションに付す。次いで、分析すべき抽出物を、以下の例3に記載されるようなHPLC-UV-MS注入の前に、シリンジフィルター上で0.2μmを通してろ過する。
【0116】
【表1】
【0117】
ヘチマは、刺激がなくとも、エアロポニック式の栽培系において1ヶ月後にそれらの根において最もブリオノール酸(3~4倍)を産生する種である。この量はまた、Jai Choら(Formation of bryonolic acid in cucurbitaceous plants and their cell cultures, phytochemistry, vol. 31, No. 11, pp. 3893-3896, 1992)の表1に記載されている量よりも6倍優れている。文献によれば、この研究は、ヘチマの葉がブリオノール酸を含有しないことを確認している。
【0118】
非エアロポニック式の栽培における根中のブリオノール酸濃度を確認するために、ヘチマの実生を温室において土壌とともにポット中で栽培する。根におけるブリオノール酸の含有量を、以下のプロトコールに従って分析する:根を、切断後、洗浄し、次いで換気オーブン中で40℃で48時間乾燥させる。引き続き、乾燥した根をボールミルで粉砕する。各サンプルを二重に行うために、12mgの乾燥し粉砕した根の粉末を、1.2mlのエタノール(100%)中で、室温(約20℃)で撹拌しながら60分間マセレーションに付す。次いで、分析すべき抽出物を、以下の例3に記載されるようなHPLC-UV-MS注入の前に、遠心分離し、上清をバイアルに注ぐ。非エアロポニック式の栽培で栽培された根におけるブリオノール酸は検出されるが、その量は定量化のHPLC限界未満である。この結果により、ヘチマの根におけるブリオノール酸含有量を改善するためのエアロポニック式の栽培の影響が確認される。
【0119】
例2:刺激ステップを伴うかまたは伴わないでエアロポニック系において栽培されたヘチマからの根抽出物におけるブリオノール酸含有量の比較
根抽出物を市販の種子(フランスの供給業者,Graines Baumaux)から得られたヘチマの乾燥した根から調製する。実生をエアロポニック式の栽培系に設置する。エアロポニックスにおける植物を、0.4~1.6mS/cmの導電率を有する15/10/30のそれぞれ窒素/リン/カリウム(N/P/K)で構成される栄養培地で4週間栽培し、根を切断し(T0)、次いで植物を2つの別々のエアロポニック系(20mの表面積)に配置する:
- 非刺激条件に関しては、植物を、0.4~1.6mS/cmの導電率を有する15/10/30(N/P/K)から構成される栄養培地を用いる栽培で6週間維持し、
- 刺激条件に関しては、植物を、0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)から構成される栄養培地を用いる栽培で6週間維持する。
【0120】
その後、根サンプルを採取し、乾燥し、粉砕する:これが、第1の切断を構成する。
【0121】
この第1の切断の後、植物に以下のように再栄養補給を行う:
- 非刺激条件に関しては、植物を、0.4~1.6mS/cmの導電率を有する15/10/30(N/P/K)から構成される栄養培地を用いる栽培で3週間維持し、
- 刺激条件に関しては、植物を、0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)から構成される栄養培地を用いる栽培で3週間維持する。
【0122】
その後、根サンプルを再度採取し、乾燥し、粉砕する:これが、第2の切断を構成する。
【0123】
各試料におけるブリオノール酸含有量を、以下のプロトコールに従って分析する:根を、切断後、換気オーブン中で40℃で48時間乾燥させる。その後、乾燥した根をナイフミルで粉砕する。各サンプルを二重に行うために、100mgの乾燥し粉砕した根の粉末を、1,4 mlのメタノール(100%)中で、室温(約20℃)で撹拌しながら30分間マセレーションに付す。次いで、分析すべき抽出物を、以下に記載されるようなHPLC-UV-MS注入の前に、シリンジフィルター上で0.45μmを通してろ過する。
【0124】
分析ステップ使用される機器は、寸法150mm×3.0mm、2.7μmのPoroshell 120(Agilent)C18を用いて逆相で操作されるHPLC Agilent 1200(1260 Infinity Quaternary Pump, 1200 Series HiP-ALS SL+autosampler, 1260 Infinity Thermostatted Column Compartment, 1260 Infinity Diode Array Detector)である。移動相は、溶媒A(ultrapure Milli-Q water,Merck Millipore + 0.1%ギ酸,Carlo Erba,Val-de-Reuil,フランス)および溶媒B(アセトニトリル,Sigma-Aldrich Chemie GmbH,Steinheim,独国)からなり、その勾配は以下の様式でプログラムされた:相B(%)94%(0~14分);94~100%(14~15分);100%(15~20分)。分析流量は、25℃のオーブン温度で0.4mL/分である。カラム出口では、ダイオードアレイ検出器が210~600nmの間のUVスペクトルを記録する。この装置を、エレクトロスプレーイオン化(4.5 kV)および大気圧化学イオン化を用いて、100~1000のm/z範囲で負モードで操作される質量分析計(Agilent 6120 Quadrupole LC/MS)に接続する。ソフトウェアChemStationを、システムの実行に使用する。
【0125】
ブリオノール酸の含有量および乾燥した根の重量を以下の表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
刺激ありの場合、ブリオノール酸の産生および根の産生(乾燥した根の重量によって評価される)は、刺激を伴わないエアロポニック栽培系における同じ植物の根と比較して改善される:
- 刺激後の根におけるブリオノール酸の増加した収量(mg/乾燥した根のg):第2の切断に関して7倍増加
- 刺激後の根の増加した産生(g/m):第2の切断に関して1.5倍増加
- 全体の増加ブリオノール酸収量(mgブリオノール酸/m):11倍増加
【0128】
例3:本発明の方法によるヘチマの根抽出物の調製、および得られた根抽出物の特徴付け
根抽出物を市販の種子(例えばフランスの供給業者,Graines Baumaux)から得られたヘチマからの乾燥した根から調製する。ヘチマの根抽出物は、以下のプロセスに従って得られる:
a)植物ヘチマを、それぞれ15/10/30に、および0.4~1.6mS/cmの導電率に、相当するN/P/K組成の所定の栄養溶液で、1週~6週間、エアロポニック式に栽培すること、
b)6%未満の窒素、15%のリンおよび40%のカリウムを含み、0.4~1.2mS/cmの導電率を有するN/P/K組成の栄養溶液を使用することにより、窒素ストレスによって2~6週間の間前記植物を刺激すること、
b’)清澄な水ですすぎ、続いてステップb)の間に刺激された根の水気を切ること、
b’’)根を切断し、換気オーブン中で30~60℃の温度で24~72時間乾燥させること、
c)乾燥したヘチマの根の、20℃~80℃の温度での、ジカプリリルエーテルの溶液における1~4時間の間のマセレーションにより、固/液抽出すること、
d)ステップc)の間に得られた根抽出物を回収すること、
e)ステップd)で回収した根抽出物を、清澄ろ過によって清澄化すること。
【0129】
このようにして得られたヘチマの根抽出物は、1キログラムの抽出物当たり840mgの乾燥抽出物を有し、1キログラムの抽出物当たり300±10mgのブリオノール酸を含有し、乾燥抽出物の重量で約35%のブリオノール酸に相当する。
【0130】
ヘチマの根抽出物中のブリオノール酸の量の定量化を、質量分析と接続した液体クロマトグラフィーによるアプローチに従って行った。
【0131】
分析ステップに使用した機器は、150mm×1.1mm、2.6μmの寸法のKinetex(登録商標) Biphenylカラム(Phenomenex(登録商標),Torrancce,CA,USA)を用いて逆相で操作されるUPLC Shimadzu Nexera X2(LC-30AD pumps, SIL-30AC sample passer, CTO-20A oven, SPD-M20A diode array detectors;京都,日本)である。移動相は、溶媒A(ultrapure Milli-Q water,Merck Millipore + 0.1%ギ酸,Carlo Erba,Val-de-Reuil,フランス)および溶媒B(アセトニトリル,Sigma-Aldrich Chemie GmbH,Steinheim,独国)からなり、その勾配は以下の様式でプログラムされた:相B(%)5-75% (0-3分);75%(3-5.4分);75-90%(5.4-5.6分),90%(5.6-12分),90-5%(12-12.1分),5%(12.1-15分)。分析流量は、40℃のオーブン温度で0.5mL/分である。カラム出口では、ダイオードアレイ検出器が190~370nmの間のUVスペクトルを記録する。この装置を、エレクトロスプレーイオン化(4.5 kV)を用いて、100~1000のm/z範囲で負モードで操作される質量分析計(Shimadzu LCMS-2020)に接続する。ソフトウェアLabSolutionsを、システムの実行に使用する。
【0132】
ブリオノール酸の定量化を、エタノール(100%)中125mg/Lの濃度で調製したブリオノール酸標準(ブリオノール酸純度≧98%;[CAS番号:24480-25-3])のピークの面積を測定することにより行う。
【0133】
1リットルの抽出物当たりのブリオノール酸のmgとして表されるブリオノール酸量は、以下の式に従って計算される:
【0134】
【数2】
【0135】
例4:乾燥抽出物の全重量に対する根抽出物中のブリオノール酸含有量の比較
0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)で構成される栄養培地で6~18週間刺激したヘチマの乾燥根10gを、110mLの乳酸エチル溶媒中、室温で撹拌しながら5日間抽出した。混合物をろ過し、根抽出物を得、そこにおけるブリオノール酸含有量および乾燥抽出物を測定した。ブリオノール酸は、乾燥抽出物の全重量に対して5.9重量%に相当する。
【0136】
0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)で構成される栄養培地で6~18週間刺激したヘチマの乾燥根10gを、110mLの1,3-プロパンジオール溶媒中、60℃で撹拌しながら5日間抽出した。ろ過ステップの後、得られたヘチマのろ過根抽出物は、乾燥抽出物の全重量に対して3重量%のブリオノール酸を含む。
【0137】
0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)で構成される栄養培地で3~6週間刺激したヘチマの乾燥根10gを、250mLのエタノール100%中、室温で撹拌しながら10分~5時間抽出した。10分、15分、30分、1時間、2時間、3時間および5時間で、異なるサンプルを収集する。異なる試料をろ過して根抽出物を得、これらについてブリオノール酸の含有量および乾燥抽出物を決定した。得られたブリオノール酸の最大割合は、乾燥抽出物の全重量に対して8.1重量%であった。得られたブリオノール酸の最小割合は、乾燥抽出物の全重量に対して5.7重量%であった。
【0138】
0.4~1.2mS/cmの導電率を有する0/15/40(N/P/K)で構成される栄養培地で3~6週間刺激したヘチマの乾燥根1.2g、1.5g、2.0gまたは3.0gを、1リットルのエタノール100%あたり40g、50g、66gおよび100gの乾燥根の割合を有する4つの抽出物を製造するために、30mLのエタノール100%中、室温で撹拌しながら30分間抽出した。異なる混合物をろ過して根抽出物を得、これらについてブリオノール酸の含有量および乾燥抽出物を決定した。得られたブリオノール酸の最大割合は、エタノール1リットル当たり100gの乾燥根で、乾燥抽出物の全重量に対して8.3重量%であった。得られたブリオノール酸の最小割合は、エタノール1リットル当たり40gの乾燥根で、乾燥抽出物の全重量に対して7.2重量%であった。
【0139】
以下の例に関して、ブリオノール酸が富化されたヘチマの根抽出物(以下、LCREと呼ぶ)は、例3に従って得られた生成物に相当し、これは、抽出物1キログラム当たり145mgのブリオノール酸で調節されている。
【0140】
例5:LCREは、生体エネルギー代謝経路および抗酸化代謝に関与するタンパク質の遺伝子発現を刺激する(RHEモデル)。
【0141】
表4に記載されるように0.125%および0.5%で処方したLCREを、再構築されたヒト表皮(RHE)上に局所的に適用した。
【0142】
【表3】
【0143】
次いで、RHE組織を、サプリメントおよび抗生物質(Gentamycin,Fisher Scientific,15710-049)を含有するEpilife培地(Fisher Scientific,M-EPI-500-A)中で気液界面で培養した。それらを、5%のCOを含む37℃の湿った雰囲気で維持した。24時間の局所処置(2mg/cm)後、QiagenからのRNeasy Mini kitを用いて全RNAを抽出した。それらの濃度および完全性を分光測光法およびキャピラリー電気泳動によって分析した。トランスクリプトーム解析を、Affymetrixユーザーマニュアルに従って、Affymetrix human Clariom S arrayで行った。LCREによって統計的に有意に変調される遺伝子を表5および6に示す。分析は、プラセボゲルクリームで処置した群との比較で行った。
【0144】
LCREが3つの主要なエネルギー経路:解糖、ペントースリン酸経路(PPP)およびトリカルボン酸サイクル(Krebsサイクルとしても知られるTCAサイクル)をアップレギュレートすることが、表5に示すように、これらの経路に関与する酵素の過剰発現によって実証された。LCREは、このRHEモデルにおいて、皮膚エネルギー代謝を刺激するその能力が確認される。並行して、LCREは、ミトコンドリア膜を横切って種々の溶質を行き来させるミトコンドリアトランスポーターSLC25に作用した(表5)。表5は、0.125% LRCEでの遺伝子発現の変調を示し、一方、表6は、0.5%LCREでの変調を示す。
【0145】
【表4】
【0146】
0.125%のLCREで処置されたRHEモデルにおけるAffymetrix技術によって分析された遺伝子発現の変調。略語:PPP:ペントースリン酸経路、TCAサイクル:トリカルボン酸サイクルまたはKrebsサイクル、SLC25:ミトコンドリアトランスポーター。全ての分析は三重で行われる。統計解析はプラセボゲルクリームと比較して行った。R Limma 3.26.8(Smyth,2004)で実施されたmoderated t”法に基づく統計的検定、p値<0.05。
【0147】
【表5】
【0148】
0.5%のLCREで処置されたRHEモデルにおけるAffymetrix技術によって分析された遺伝子発現の変調。略語:PPP:ペントースリン酸経路、TCAサイクル:トリカルボン酸サイクルまたはKrebsサイクル、SLC25:ミトコンドリアトランスポーター。全ての分析は三重で行われる。統計解析はプラセボゲルクリームと比較して行った。R Limma 3.26.8(Smyth,2004)で実施されたmoderated t”法に基づく統計的検定。***:p<0.005、**:p<0.01 *,p<0.05、#:p<0,1
【0149】
これらの溶質は、主にTCAサイクルの進行に関与している(Palmieri et al. 2014 and 2016)。表6において、結果はミトコンドリア代謝におけるLCREの強い関与を示す。さらに、LCREは、解糖、PPPおよびTCAサイクルに必須である溶質のやりとりに助力する。興味深いことに、SLC25A12が有意に変調された(p値<0.05、倍変化1.27)。しかし、ミトコンドリア代謝を高めることは結果として酸化的ストレスを引き起こし得る。LCREは、内因性の抗酸化系をアップレギュレートする。特に、LCREは3つの酵素:グルタチオンs-トランスフェラーゼシータ2、グルタチオンペルオキシダーゼ2および3を刺激し、これらは、還元されたグルタチオンを中和すべき有害な化合物とカップリングさせることによる、酸化的損傷からの細胞の保護を担う。LCREはまた、ペルオキシレドキシン-2を増強し、これは、過酸化水素および有機ヒドロペルオキシドの水およびアルコールへの還元をそれぞれ触媒し、過酸化物を無毒化することにより酸化的ストレスに対する細胞保護において役割を果たす。
【0150】
例6:LCREは、生体エネルギー代謝経路および抗酸化代謝に関与するタンパク質の発現を刺激する(皮膚外植片モデル)。
【0151】
表4に記載されるように0.125%、0.5%および1%で処方したLCREを、ヒト皮膚外植片に局所的に適用した。皮膚外植片を、女性ドナー(42歳、白人、フォトタイプIII)の腹部手術後に採取した。皮膚サンプルを、37℃、5%COで24時間OxiProteomics(登録商標)培地中で安定化させ、次いで2mg/cmの異なる製剤で処理した(LCRE製剤で処理した群およびプラセボ群。第3のコントロール群を加えた。局所的適用を、24時間毎に6回繰り返した。コントロール群は、24時間毎に培地を取り換えることを除いて、いかなる処理も受けなかった。最後の適用の8時間後、皮膚外植片をサンプリングした。各外植片の半分をタンパク質分析に使用した。溶解バッファーを用いてタンパク質を抽出した。Bradford法を用いてタンパク質濃度を決定し、抽出の品質管理を高分解能SDS-PAGEによって確認した。質量分析(MS)解析を、Orbitrap Fusion質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に接続したDionex U3000 RSLC nano-LC systemで行った。
【0152】
LCREが3つの主要なエネルギー経路(表7および8):解糖、ペントースリン酸経路(PPP)およびトリカルボン酸サイクル(Krebsサイクルとしても知られるTCAサイクル)をアップレギュレートすることが、これらの経路に関与する酵素の過剰発現によって示されるように、観察された。LCREは、この皮膚外植片モデルにおいて、例5において既に実証されている(および例7においても)皮膚エネルギー代謝を刺激するその能力が確認される。さらに、以下の例7で観察され確認されるように、LCREは抗酸化特性を発揮する。実際、いくつかの抗酸化酵素の過剰発現が観察された。
【0153】
さらに、この皮膚外植片モデルにおいて、質量分析(表7および8)によって、ならびに免疫蛍光(データは示さず)によっても、トランスクリプトームの結果が確認され、0.125%のLCREを含む製剤によるSLC25A12の刺激を強調するものであった。これは、後に、ミトコンドリア膜を通るマレート-アスパルテートシャトルにおいて重大な役割を果たし、解糖に不可欠な役割を果たすNADPHプラスHの還元当量を移動させる(Palmieri, Eur J Physiol, 2004)。SLC25A12は、グルタチオンの抗酸化能の再生にも関与している。
【0154】
【表6】
【0155】
タンパク質発現を、0.5%のLCREを含有する処方で7日間処理した皮膚外植片モデルにおいて質量分析によって分析した。略語:PPP:ペントースリン酸経路。全ての分析は三重で行った。t検定統計解析によるプラセボコントロール群に対するバイナリ比較に基づく統計的検定。**: p<0.01 *: p<0.05。
【0156】
【表7】
【0157】
タンパク質発現を、1%のLCREを含有する処方で7日間処理した皮膚外植片モデルにおいて質量分析によって分析した。略語:PPP:ペントースリン酸経路、TCAサイクル:トリカルボン酸サイクルまたはKrebsサイクル、SLC25:ミトコンドリアトランスポーター。全ての分析は三重で行った。t検定統計解析によるプラセボコントロール群に対するバイナリ比較に基づく統計的検定。**: p<0.01 *: p<0.05
LCRE製剤局所適用後のSLC25A12の発現および局在化の可視化(データは示さず)を、ホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片における免疫蛍光によって研究した。シトレートバッファー(pH6.0)を用いてHIER(Heat induced epitope retrieval:熱誘導抗原賦活法)を実施し、次いで抗SLC24A12ウサギポリクローナル抗体(Atlas Antibodies)を1/500で使用し、続いてAlexa 568共役二次抗体を使用した。核をHoechst33342で標識した。
【0158】
例7:LCREは制御異常の生体エネルギー機能を回復させる
【0159】
ヒト皮膚線維芽細胞の生体エネルギープロファイルを、Seahorse XF24フラックスアナライザーを用いて決定した。seahorse XF24は、酸素消費速度(OCR)を測定することによって、いくつかの生物エネルギーパラメーターの決定を可能にする:
- ベース呼吸を、ミトコンドリアのプロトン漏出に起因する細胞のATP需要を満たすために使用される酸素消費量と定義する。このパラメーターは、ベースライン条件下での細胞のエネルギー需要を示し、これは、ロテノンおよびアンチマイシンAの添加で得られる初期速度と最小呼吸との間の差である。
- ATP産生パラメータは、ミトコンドリアによって産生されるATPを示し、これは細胞のエネルギー的な必要性を満たすのに寄与する。このパラメータは、ATPシンターゼのFサブユニットを遮断し、従って、ATP産生を反映する呼吸速度を低下させるATPシンターゼインヒビターオリゴマイシンの注入時の酸素消費速度の低下によって実験的に得られる。
- 最大呼吸パラメータは、細胞が達成できる呼吸の最大速度を示す。このパラメータは、プロトンを崩壊させるFCCPと呼ばれる脱共役剤であるカルボニルシアニド-4(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾンを実験に添加することによって得られる。FCCPは、呼吸鎖を最大能力で作動するように刺激することによって生理学的エネルギー需要を模倣し、これは、基質(糖、脂肪およびアミノ酸)の急速な酸化を引き起こして、この代謝的なチャレンジを満たす。
- 予備呼吸能力は、増加したエネルギー需要またはストレス下で応答する細胞の能力を反映する。このパラメータは、細胞の適応度および柔軟性の指標とすることができる。このパラメータは、最大呼吸とベース呼吸との差として定義される(図1)。
【0160】
ドナーの腹部皮膚から単離された正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDF)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するDMEM培地中で培養した。細胞を15,000細胞/ウェル密度で播種し、6時間付着させた後、化学的ストレッサーである2-メチルテトラヒドロフランを9%で(以下ストレッサーと呼ぶ)、培養培地に直接、添加するか、または添加しなかった(コントロール条件)。この実験では、前記ストレッサーを外因性ストレスを模倣するために使用し、なぜならば、環境的損傷およびストレス蓄積がエネルギー代謝の枯渇をもたらし、全体的な代謝に影響を及ぼすことが実証されているからである(Reprogramming of energy metabolism as a driver of aging, Oncotarget (2016))。
【0161】
処理のために、LCREも、0.5%および1%の濃度で培養培地に直接添加した。次いで、細胞をさらに18時間培養した後、製造者の指示に従って、Agilent Seahorse XF Cell Mito Stress Test Kitで測定を行った。OCRデータを標準化するために、すべての実験条件についてタンパク質定量化を行った。OCRタンパク質の標準化は、結果の正確性および解釈を確実にする。実際、前記実験条件において、細胞を、細胞生存能力にわずかに影響を与える前記ストレッサーに曝露させた。全呼吸プロファイル(タンパク質含有量に対して標準化)を図2に示し、算出された生体エネルギーパラメータを表9に列挙する。ストレッサーはすべての実験モデルにおいて細胞呼吸を抑制する。ストレッサーの存在下では、4つの主要な生体エネルギーパラメータの強い低下または全抑制が観察された:ベース呼吸、最大呼吸、ATP産生および予備呼吸能力。このことは予期されたものであり、それはストレスモデルを有効にするものである。
【0162】
【表8】
【0163】
ベース(非処理細胞)、ストレスあり(9%の2-メチルテトラヒドロフランによる)および処理あり条件(0.5および1%のLCRE)における正常ヒト線維芽細胞について算出した生体エネルギーパラメータ。
【0164】
0.5および1%でのLCREは、ストレッサーにより変化した細胞生体エネルギープロファイルを効率的に回復することができる。これらの結果は、LCREで処理された細胞が有効に反応し、ストレス条件下で緊急のエネルギー需要を満たすことができること(最大呼吸パラメータの増加および予備呼吸能力の増加により)を意味し、ATP産生の回復をもたらす。0.5%のLCREは、コントロール条件と類似の呼吸機能の回復を可能にし、試験した全ての条件において同一の呼吸レベルに戻す。さらに、1%のLCREは呼吸機能を改善し、これはコントロール条件より優れるようになる(図2)。
【0165】
例8:LCREのアンチエイジング特性
【0166】
例6に記載される皮膚外植片モデルにおいて、プロテオーム解析により、LCREは、コラーゲンI型タンパク質発現の刺激によって実証されるように、アンチエイジング特性を有することが見出された(倍数変化x2.21、p値<0.05)。これらの皮膚外植片について、補足的、組織学的および免疫組織学的解析を行い、アンチエイジング特性を浮き彫りにした。ホルマリン固定パラフィン包埋皮膚切片について、HES染色(ヘマトキシリン・エオシン・サフロン)、modified Verhoeff’s染色および免疫蛍光を行った。HES染色は皮膚の形態学的観察(図3)を可能にし、一方、modified Verhoeff’s染色(図4)は、皮膚における弾性線維含有量の可視化を可能にする。図3では、表4に従うプラセボゲルクリームと比較したLCREのアンチエイジング効果が用量依存的に実証された。実際、LCREの局所適用後に真皮の緻密化が観察された。弾性線維が皮膚の弾力性を担うことが知られている。残念ながら、加齢に伴って、弾性線維の産生の減速およびエラスターゼ活性の増加により、皮膚の弾力性が低下する(Imokawaら、2008)。LCREが弾性線維の産生を促進することが実証された。実際に、図4において、黒っぽい染色が、表4によるプラセボゲルクリームと比較して、LCREの濃度が増加するにつれて、用量依存的に増加する。黒っぽい染色は弾性線維を表す。さらに、IV型コラーゲンも分析した。実際に、真皮表皮接合部の主要構成成分であるIV型コラーゲンもまた、加齢に伴って強く分解されることが知られている。得られた結果から再度LCREのアンチエイジング効果が確認され、なぜなら、LCREの連続7日間の局所適用後のIV型コラーゲン発現の用量依存性増加が実証されたためである。
【0167】
例5に記載のRHEモデルにおいて、0.5%のLCREを含む製剤は、SLC35遺伝子ファミリーの発現を刺激することが見出された(表10)。SLC35も、NSTヌクレオチド糖トランスポーターである。NSTは、ヌクレオチド糖とPAPSのゴルジ装置への輸送を担うだけでなく、反応生成物を細胞質ゾルへ戻す輸送も担うアンチポーターである。それらは、タンパク質成熟プロセスに関与している(Song, Z. 2013, Ishida N., et al. 2004)。それは、抽出物がタンパク質の合成および成熟に助力することを示唆する。興味深いことに、老化プロセスでは、これらの両方のプロセスが遅くなる。
【0168】
【表9】
【0169】
0.5%のLCREで処置されたRHEモデルにおけるAffymetrix技術によって分析された遺伝子発現の変調。略語:SLC35:小胞体およびゴルジ装置トランスポーター。R Limma 3.26.8(Smyth,2004)で実施されたmoderated t”法に基づく統計的検定。*:p<0.05 および #:p<0.1。全ての分析は三重で行った。
【0170】
最後に、LCREのアンチエイジング特性を、二重盲検および基剤対照臨床試験の間に、ヒトのボランティアで評価した。ヘルシンキ宣言及び医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonization Good Clinical Practice)のガイドラインの勧告を、医薬品以外の試験に適用できるものとして遵守した。全てのボランティアが、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
【0171】
臨床評価は、目尻のしわ(R. Bazin and E. DoubletのSkin Aging Atlas vol.1, Caucasian typeに従うグレード≧2)およびハリおよび弾力性の欠如を有する老化の臨床的兆候を示す20人の白人女性(45~55歳、平均年齢51.8)によって、皮膚科医の管理下で実施された。さらに、質問票により、この試験において登録されたボランティアは、自分自身がストレスを受けて疲れていると考えていることが確認された。さらに、自信に関する質問に基づく質問票により、9人の自信を有しないボランティアを選択することができる。このサブセレクションにより、表4に記載されるようなLCREを含む化粧用組成物が、これらの9人のボランティアが自信を得る助けとなるかどうかを、信頼できる様式で同定することが可能となる。ボランティアは、1%のLCREを含む化粧用製剤およびプラセボゲルクリームを、1日2回、2か月間彼らの顔面半側に適用するように求められた(表3)。0日目、28日目および62日目に、生体度量衡的測定(biometrological measurements)をcutometerで行った。cutometerは、特異的パラメーター:皮膚のハリ(R0パラメーター)、皮膚の緊張性(Urパラメーター)、皮膚の弾力性(UeおよびR6パラメーター)、の算出による皮膚の生体力学的特性の決定を可能にする。次いで、VisiaCR(登録商標)で、実例となる顔画像を撮影した。
【0172】
図5を参照すると、LCREは、皮膚のハリ、皮膚の緊張性および皮膚の弾力性を改善する。実際に、LCREの局所的適用の28日後および62日後に、すべてのパラメータが統計学的に有意に増加した。対照的に、プラセボ処方は改善をもたらさない。
【0173】
この試験に登録された9人の自信を持たないボランティアについて、彼らの78%は、LCREを含む組成物の局所適用の28日後に、皮膚が、より美しく、再生され、元気が回復したと記載した(プラセボ処方ではそれぞれ56%、67%および67%)。
【0174】
さらに、LCREを含む組成物では、皮膚のシワの深さの改善が観察された。皮膚のマイクロレリーフも改善され、皮膚はより滑らかでよりハリがあるように見えた。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】