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特表2023-516949活性に基づく宿主細胞タンパク質プロファイリング法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】活性に基づく宿主細胞タンパク質プロファイリング法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230414BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230414BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20230414BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
G01N33/543 575
G01N27/62 V
G01N27/62 X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022551612
(86)(22)【出願日】2021-02-27
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 US2021020136
(87)【国際公開番号】W WO2021174153
(87)【国際公開日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】62/982,346
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/021,181
(32)【優先日】2020-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/073,125
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チウ ハイポウ
(72)【発明者】
【氏名】モルデン ロザリン
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA09
2G041HA01
(57)【要約】
本出願は、バイオ医薬品中および製造工程の間の試料中の酵素活性を有する宿主細胞タンパク質不純物を同定するための方法およびシステムを提供する。本出願は、レポータータグまたは親和性に基づくタグを有する官能基付与分子を含有するプローブを含む、宿主細胞タンパク質不純物の異なる酵素クラスを特徴決定するための、様々な活性に基づくプローブを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの高存在量タンパク質を含有する試料中の宿主細胞タンパク質(HCP)不純物を同定する方法であって、
前記試料を、HCP不純物に結合することができる少なくとも1つのプローブと接触させることであって、前記プローブが反応基(warhead)およびタグを含み、前記反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができる、前記少なくとも1つのプローブと接触させることと、
前記試料を固体支持体に接触させることであって、前記固体支持体がリガンドを含み、前記リガンドが前記タグに結合することができる、前記固体支持体に接触させることと、
溶液を使用して前記固体支持体を洗浄して、前記プローブ結合HCP不純物を単離し、溶出液を提供することと
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記反応基が、前記プローブ結合HCP不純物の前記活性部位における残基に共有結合することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タグがコンジュゲーションタグ、親和性タグ、またはレポータータグである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素消化反応によって前記溶出液を処理して、単離された前記プローブ結合HCP不純物の成分を生成することと、
その後、質量分析計を使用して、単離された前記プローブ結合HCP不純物の前記成分を同定することと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応基が、酵素阻害物質、酵素基質に基づく骨格、またはタンパク質反応性分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのプローブがリンカーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの高存在量タンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、または薬物である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酵素消化反応の酵素がトリプシンである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、Orbitrap質量分析計などのナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、または三連四重極質量分析計であり、前記質量分析計が液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記質量分析計が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、またはLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を実施することができる、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記タグが、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動、SDS-PAGE、蛍光可視化、または蛍光ゲル撮像を使用して検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プローブ結合HCP不純物の前記活性部位が、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、脂質結合タンパク質の活性部位、スフィンゴ脂質結合タンパク質の活性部位、セラミド結合タンパク質の活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、またはイソメラーゼ活性部位である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記タグが、フルオロフォアまたはフルオロフォアコンジュゲーション部位、例えば、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、またはオメガ末端アジドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記反応基が、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、光活性化可能な脂質、光活性化可能なスフィンゴシン、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、またはp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プローブが、アジド-フルオロホスホネート、デスチオビオチン-フルオロホスホネート、テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセノ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)、またはD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
試料中の宿主細胞タンパク質(HCP)不純物を同定するためのシステムであって、
少なくとも1つのプローブであって、前記少なくとも1つのプローブが反応基およびタグを含み、前記少なくとも1つのプローブが、HCP不純物に結合してプローブ結合HCP不純物を提供することができ、前記反応基が、前記プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、前記試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、前記少なくとも1つのプローブと、
前記タグに結合することができるリガンドを含む、固体支持体と、
前記固体支持体を洗浄して、前記プローブ結合HCP不純物を単離し、溶出液を提供するための溶液と、
単離された前記プローブ結合HCP不純物の成分を生成することができる酵素消化溶液と、
単離された前記プローブ結合HCP不純物から前記成分を同定することができる質量分析計と
を含む、前記システム。
【請求項17】
前記反応基が、前記プローブ結合HCP不純物の前記活性部位における残基に共有結合することができる、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記タグが、コンジュゲーションタグ、親和性タグ、またはレポータータグである、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記反応基が、酵素阻害物質、酵素基質に基づく骨格、またはタンパク質反応性分子を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つのプローブがリンカーをさらに含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項21】
前記少なくとも1つの高存在量タンパク質が、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、または薬物である、請求項16に記載のシステム。
【請求項22】
前記酵素消化溶液の酵素がトリプシンである、請求項16に記載のシステム。
【請求項23】
前記質量分析計が、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、Orbitrap質量分析計などのナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、または三連四重極質量分析計であり、前記質量分析計が液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項24】
前記質量分析計が、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、またはLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を実施することができる、請求項16に記載のシステム。
【請求項25】
前記タグが、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動、SDS-PAGE、蛍光可視化、または蛍光ゲル撮像を使用して検出される、請求項16に記載のシステム。
【請求項26】
前記プローブ結合HCP不純物の前記活性部位が、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、脂質結合タンパク質の活性部位、スフィンゴ脂質結合タンパク質の活性部位、セラミド結合タンパク質の活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、またはイソメラーゼ活性部位である、請求項16に記載のシステム。
【請求項27】
前記タグが、フルオロフォアまたはフルオロフォアコンジュゲーション部位、例えば、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、またはオメガ末端アジドを含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項28】
前記反応基が、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、光活性化可能な脂質、光活性化可能なスフィンゴシン、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、またはp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項29】
前記プローブが、アジド-フルオロホスホネート、デスチオビオチン-フルオロホスホネート、テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセノ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)、またはD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを含む、請求項16に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月1日出願の米国仮特許出願第63/073,125号、2020年2月27日出願の米国仮特許出願第62/982,346号、および2020年5月7日出願の米国仮特許出願第63/021,181号に対する優先権を主張し、それらの内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、全体として、酵素活性を有する宿主細胞タンパク質不純物を同定するための方法およびシステムに関する。これらの方法およびシステムは、宿主細胞タンパク質不純物を同定およびモニタリングするために、バイオ医薬品におよび製造工程の間の試料に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
背景
高純度のバイオ医薬品を得るには、モノクローナル抗体の精製などのバイオ医薬品の製造中に不純物を除去することが必要とされている。特に、DNA技術は、宿主細胞におけるバイオ医薬品の生成に広く使用されてきたので、残留する宿主細胞タンパク質(HCP)は、製品の品質および安定性が損なわれることに起因して患者に潜在的な安全性リスクを与え得る。組換え治療用抗体を生成するためには、抗体製品の高度な精製を確保するためのいくつかの精製工程が必要である。バイオプロセスを行った後の残留不純物は、臨床研究を行う前に許容可能な低いレベルで存在するべきである。特に、最終薬物物質中の、哺乳類発現システム、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来するHCPは、モニタリングおよび制御されるべきである。場合によっては、微量の特定のHCPは、総HCPが非常に低いレベルで存在する場合であっても、薬物注射後に免疫応答または毒性の生物学的活性を引き起こし得る。したがって、リスク評価のために特定のHCPを同定およびモニタリングすることに対する満たされていないニーズが存在する。
【0004】
残留HCPの存在は、潜在的な安全性リスクまたは薬物安定性、特に活性プロテアーゼなどの酵素活性を有するHCPにおける問題を引き起こす可能性がある。酵素活性を有するHCP不純物を同定、プロファイル、特徴決定、および定量化する方法およびシステムに対する必要性が存在することが理解されるであろう。これらの方法およびシステムは、バイオ医薬品中および製造工程の間の試料中の酵素的HCP不純物の、堅牢で、信頼性が高く、かつ感度が高い検出を提供するべきである。
【発明の概要】
【0005】
概要
生物学的システムを使用して治療用製品を製造するためには、宿主細胞タンパク質(HCP)不純物の許容可能なレベルを定義することが重要な問題となっている。多数のHCP不純物、例えば、数千もの成分などが潜在的に存在し、バイオ医薬品の安全性および有効性を確保するためには、これらを制御およびモニタリングする必要がある。
【0006】
本出願は、酵素活性を有するHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するための方法およびシステムを提供する。様々な活性に基づくプローブを提供して、異なる酵素クラスのHCP不純物を特徴決定することを含むこれらの方法およびシステムを使用して、バイオ医薬品中および製造工程の間の試料中のHCP不純物を同定およびモニタリングすることができる。
【0007】
本開示は、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化する方法を提供する。いくつかの例示的実施形態において、本出願の方法は、試料を少なくとも1つのプローブと接触させて、プローブ結合HCP不純物を提供することを含み、プローブが反応基(warhead)およびタグを含み、反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む。一態様において、方法のプローブの反応基は、プローブ結合HCP不純物の活性部位における残基に共有結合することができる。一態様において、方法のプローブのタグは、コンジュゲーションタグ、親和性タグ、またはレポータータグである。
【0008】
一態様において、本出願の方法は、試料を固体支持体と接触させることと、その後、溶液を使用して固体支持体を洗浄して、プローブ結合HCP不純物を単離し、溶出液を提供することと、溶出液を酵素消化反応によって処理して、単離されたプローブ結合HCP不純物の成分を生成することと、その後、質量分析計を使用して、単離されたプローブ結合HCP不純物の成分を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化することと、をさらに含み、固体支持体が、リガンドを含み、リガンドが、タグに結合することができる。
【0009】
一態様において、本出願の方法のプローブの反応基は、酵素阻害物質、酵素基質に基づく骨格、またはタンパク質反応性分子を含む。一態様において、本出願の方法の少なくとも1つのプローブは、リンカーをさらに含む。一態様において、方法の試料中の少なくとも1つの高存在量タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、または薬物である。別の態様において、方法の酵素消化反応の酵素は、トリプシンである。
【0010】
一態様において、本出願の方法の質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、Orbitrap質量分析計などのナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、または三連四重極質量分析計であり、質量分析計が液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。一態様において、方法の質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、またはLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を実施することができる。
【0011】
一態様において、方法のプローブのタグは、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動、SDS-PAGE、蛍光可視化、または蛍光ゲル撮像を使用して検出される。別の態様において、方法のプローブ結合HCP不純物の活性部位は、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、脂質結合タンパク質の活性部位、スフィンゴ脂質結合タンパク質の活性部位、セラミド結合タンパク質の活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、またはイソメラーゼ活性部位である。
【0012】
一態様において、方法のプローブのタグは、フルオロフォアまたはフルオロフォアコンジュゲーション部位、例えば、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、またはオメガ末端アジドを含む。一態様において、プローブの反応基は、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、光活性化可能な脂質、光活性化可能なスフィンゴシン、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、またはp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含む。一態様において、本出願の方法のプローブは、アジド-フルオロホスホネート、デスチオビオチン-フルオロホスホネート、テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセノ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)、またはD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを含む。
【0013】
本開示は、少なくとも部分的に、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するためのシステムを提供する。いくつかの例示的実施形態において、本出願のシステムは、少なくとも1つのプローブであって、少なくとも1つのプローブが反応基およびタグを含み、少なくとも1つのプローブが、HCP不純物に結合してプローブ結合HCP不純物を提供することができ、反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、少なくとも1つのプローブと、タグに結合することができるリガンドを含む固体支持体と、固体支持体を洗浄して、プローブ結合HCP不純物を単離し、溶出液を提供するための溶液と、単離されたプローブ結合HCP不純物の成分を生成することができる酵素消化溶液と、単離されたプローブ結合HCP不純物から成分を同定、プロファイリング、特徴決定、および/または定量化することができる質量分析計と、を含む。
【0014】
一態様において、システムのプローブの反応基は、プローブ結合HCP不純物の活性部位における残基に共有結合することができる。一態様において、システムのプローブのタグは、コンジュゲーションタグ、親和性タグ、またはレポータータグである。別の態様において、システムのプローブの反応基は、酵素阻害物質、酵素基質に基づく骨格、またはタンパク質反応性分子を含む。別の態様において、システムの少なくとも1つのプローブは、リンカーをさらに含む。さらに別の態様において、システムの試料中の少なくとも1つの高存在量タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、または薬物である。一態様において、システムの酵素消化溶液の酵素は、トリプシンである。
【0015】
一態様において、システムの質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、Orbitrap質量分析計などのナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、または三連四重極質量分析計であり、質量分析計が液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。別の態様において、システムの質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、またはLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を実施することができる。一態様において、システムのプローブのタグは、ウェスタンブロット、キャピラリー電気泳動、SDS-PAGE、蛍光可視化、または蛍光ゲル撮像を使用して検出される。
【0016】
一態様において、プローブ結合HCP不純物の活性部位は、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、脂質結合タンパク質の活性部位、スフィンゴ脂質結合タンパク質の活性部位、セラミド結合タンパク質の活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、またはイソメラーゼ活性部位である。一態様において、システムのプローブのタグは、フルオロフォアまたはフルオロフォアコンジュゲーション部位、例えば、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、またはオメガ末端アジドを含む。
【0017】
一態様において、システムのプローブの反応基は、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、光活性化可能な脂質、光活性化可能なスフィンゴシン、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、またはp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含む。一態様において、システムのプローブは、アジド-フルオロホスホネート、デスチオビオチン-フルオロホスホネート、テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセノ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)、またはD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを含む。
【0018】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の説明および添付の図面と併せて考慮すると、よりよく認識および理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態および多数の特定の詳細を示しているが、例示のために与えられており、限定のためではない。多くの置換、修正、追加、または再配置が、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一例示的実施形態による、リパーゼおよびプロテアーゼを含むセリンヒドロラーゼの活性部位におけるセリン残基に共有結合および特異的に結合することができるタグおよびフルオロホスホネート(FP)基を含有するプローブを示す。
図2】一例示的実施形態による、アジド-FP、デスチオビオチン-FP、およびTAMRA-FPを含むセリンヒドロラーゼプローブの化学構造を示す。
図3】一例示的実施形態による、システインプロテアーゼプローブ、DCG-04、例えば、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH2、CD-892の化学構造を示す。
図4】一例示的実施形態による、脂質プローブ、16:0-pacFA PC、例えば、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンの化学構造を示す。
図5】一例示的実施形態による、脂質プローブ、PhotoClickスフィンゴシン(900600)、例えば、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオールの化学構造を示す。
図6】一例示的実施形態による、脂質プローブ、pacFAセラミド(900404)、例えば、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンの化学構造を示す。
図7】一例示的実施形態による、銅によって触媒されるアジド-アルキン環化付加反応の化学構造およびメカニズムを示す。
図8】一例示的実施形態による、脂質プローブ、16:0ヘキシノイルPE(870127)、例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)(アンモニウム塩)の化学構造を示す。このプローブは、PS-20(ポリソルベート20)で加水分解されたものと同様のエステル結合を含有する。
図9】一例示的実施形態による、脂質プローブ、C6(6-アジド)GalCer(860833)、例えば、D-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンの化学構造を示す。
図10】一例示的実施形態による、清澄にしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞-上清試料中の標識されたHCPにおいて同定された586個のタンパク質の分子量および計算された等電点、例えば、pIを示す。一例示的実施形態によれば、点のサイズは、清澄にした上清試料中の、プローブで標識されたHCPの、およびプローブを含まないHCPのタンパク質存在量における差を示す。一例示的実施形態によれば、タンパク質存在量は、赤(高存在量)から青(低存在量)のカラースケールとして示した。
図11】一例示的実施形態による、セリンヒドロラーゼプローブを使用して濃縮されたHCP不純物の遺伝子オントロジー分析の結果を示す。
図12】一例示的実施形態による、濃縮されていない試料、16:0-pacFA PCプローブによって濃縮された試料、および対照試料(UVなし)の間での、同定されたHCP不純物の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
バイオ医薬品中の宿主細胞タンパク質(HCP)不純物の存在は、薬物有効性および患者の安全性を含むいくつかの臨床的結果に影響を与え得る。様々なアプローチを使用して、バイオ医薬品中および製造ステップからの試料中のHCP不純物が検出および同定されている。いくつかのHCP不純物、例えば、酵素的HCP不純物は、酵素活性を有する。酵素活性を有する特定のHCPの同定は、製品の安全性に対するHCPのリスクを評価するための重要な情報を提供することができる。
【0021】
本出願は、活性に基づくプローブの使用を含む、酵素活性を有するHCP不純物を特徴決定、プロファイル、同定、または定量化するための、例えば、活性に基づいてHCPプロファイリングするための方法およびシステムを提供する。本出願は、異なる酵素クラスを特徴決定するための、様々な活性に基づくプローブを提供する。本出願の活性に基づくプローブは、所与の標的または標的セットの酵素活性を直接モニタリングするための、レポータータグまたは親和性に基づくタグなどの官能基付与された小分子およびタグを含む。本出願のいくつかの活性に基づくプローブは、特定の触媒メカニズムに基づいて異なるクラスの酵素をプロファイリングするために、酵素活性部位に共有結合することができる。例えば、活性に基づくプローブとしてリパーゼに対する親和性を有する特異的な脂質を使用して、リパーゼ活性を有するHCP不純物を濃縮することができる。同様のアプローチは、セリンヒドロラーゼ、カテプシン、脂質結合タンパク質、およびメタロプロテアーゼの特徴決定、プロファイリング、同定、または定量化に使用することができる。
【0022】
活性に基づくタンパク質プロファイリングは、タンパク質存在量を定量化するのではなく、複合体プロテオームにおける酵素クラスの触媒活性の変化を調査するために使用されてきた。活性に基づくタンパク質プロファイリングを使用して、タンパク質の酵素機能に機能的注釈を付けることができる。プロテアーゼ、ヒドロラーゼ、オキシドレダクターゼ、およびイソメラーゼを含む活性タンパク質を差異的に標識するために、異なるプローブが使用されている(Blais et al.,Activity-based proteome profiling of hepatoma cells during Hepatitis C virus replication using protease substrate probes, Journal of Proteome Research,2010 Feb 5;9(2):912-23.doi:10.1021/pr900788a)。Blais et al.は、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、およびヒスチジンなどの別個のアミノ酸を担持するプロテアーゼペプチド基質のP位を模倣する、N-アセチル化アミノ酸で構成されるプローブの群を利用した。活性に基づくプローブとしては、アミノ酸結合キノリミンメチドプローブおよびアミノ酸結合p-アミノマンデル酸プローブを挙げることができる。宿主-ウイルス相互作用に関する、宿主細胞セリンヒドロラーゼの検出および機能的注釈の分析などの活性に基づくタンパク質プロファイリングはまた、活性部位指向性プローブを利用することによって、酵素の機能的状態をモニタリングするために使用されている(Shahiduzzaman et al.,Activity based protein profiling to detect serine hydrolase alterations in virus infected cells, Frontiers in Microbiology,August 22,2012,volume 3,article 308,p1-5)。加えて、活性に基づくプローブは、活性プロテアーゼを特異的に認識することができるので、それらは、特に陽電子放出断層撮影と併せて、インサイチュでのタンパク質分解活性を検出および定量化するために使用することができる(Ulrich auf dem Keller et al.,Proteomic techniques and activity-based probes for the system-wide study of proteolysis,Biochimie,92(2010),page1705-1714)。
【0023】
いくつかの例示的実施形態において、本出願は、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化する方法であって、方法が、試料を少なくとも1つのプローブと接触させて、プローブ結合HCP不純物を提供することを含み、プローブが反応基およびタグを含み、反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、方法を提供する。いくつかの態様において、本出願は、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するためのシステムであって、システムが、少なくとも1つのプローブであって、少なくとも1つのプローブが反応基およびタグを含み、少なくとも1つのプローブが、HCP不純物に結合してプローブ結合HCP不純物を提供することができ、反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、少なくとも1つのプローブと、タグに結合することができるリガンドを含む、固体支持体と、固体支持体を洗浄して、プローブ結合HCP不純物を単離し、溶出液を提供するための溶液と、単離されたプローブ結合HCP不純物の成分を生成することができる酵素消化溶液と、単離されたプローブ結合HCP不純物から成分を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化することができる質量分析計と、を含む、システムを提供する。
【0024】
一態様において、本出願の活性に基づくプローブは、酵素活性部位に反応および結合するための反応性基などの反応基を含む、酵素活性部位指向性プローブである。一態様において、本出願の活性に基づくプローブは、反応基、およびレポータータグなどのタグを含む。別の態様において、本出願の活性に基づくプローブは、反応基、タグ、およびリンカーを含む。別の態様において、反応基は、酵素の活性部位に結合するか、または共有結合的に標識することができる反応性基である。さらに別の態様において、反応基は、小分子阻害物質、基質に基づく骨格、またはタンパク質反応性分子などの反応性基である。一態様において、反応基は、活性部位残基に共有結合することによって、システインまたはセリンプロテアーゼを標的とするように設計されている。同じ酵素ファミリー内のタンパク質は、同様の機能を有するので、これらのタンパク質の活性部位は、一般的に同様の構造を有し、したがって、活性部位指向性プローブは、所与の酵素ファミリーの多くのメンバーの活性部位に対して反応性であり得る。一態様において、タグは、直接分子撮像または放射標識などの、標識された酵素の検出および同定のためのレポータータグである。例えば、タグは、可視化のためのローダミンなどのフルオロフォアであり得る。一態様において、タグは、ビオチンなどの濃縮または精製のための親和性タグである。別の態様において、タグは、タンパク質のインビボまたはインサイチュ標識のための、アジドまたはアセチレンなどの標識タグである。別の態様において、リンカーは、反応基とタグとを接続するためのコネクターとして機能する。一態様において、リンカーは、様々な長さおよび疎水性を有する可撓性鎖を含む、反応基とタグとの間のスペーサーとして機能する。いくつかの態様において、本出願の活性に基づくプローブは、レポータータグに結合した小分子阻害物質からなる活性部位指向性プローブである。
【0025】
いくつかの例示的実施形態において、セリンヒドロラーゼプローブは、セリンヒドロラーゼ活性を有する酵素的HCP不純物を標識、アッセイ、精製、または検出するために使用される。セリンヒドロラーゼ酵素は、コリンエステラーゼ、ヒドロラーゼ、リパーゼ、およびプロテアーゼを含む大きいクラスの酵素である。一態様において、セリンヒドロラーゼプローブは、セリンヒドロラーゼの活性部位を共有結合的に修飾するフルオロホスホネート(FP)基を有する。活性セリンヒドロラーゼのみが修飾され得る。本出願の活性に基づくHCPプロファイリングの方法およびシステムは、活性プロテアーゼおよび活性リパーゼなどの活性な酵素活性を有するHCP不純物を標識する利点を提供する。これらの活性プロテアーゼおよびリパーゼは、様々な処理ステップにおいて、薬物の完全性についての問題となり得る。
【0026】
いくつかの例示的実施形態において、質量分析法(MS)と組み合わせた本出願の活性に基づくHCPプロファイリングの方法およびシステムを使用して、酵素的HCP不純物のタンパク質配列を同定することができる。一態様において、MSと組み合わせた本出願の方法およびシステムを使用して、活性な酵素的HCP不純物を同定することができる。一態様において、本出願の方法およびシステムにおいて活性に基づくプローブとして使用される場合、蛍光プローブは、活性な酵素的HCP不純物を可視化することができる。別の態様において、本出願の活性に基づくHCPプロファイリングの方法およびシステムを使用して、活性な酵素的HCP不純物を定量化することができる。
【0027】
本出願の方法およびシステムは、単にHCP不純物の存在の存在量を定量化するのではなく、HCP不純物の酵素活性を直接検出および定量化する利点を提供する。本出願の方法およびシステムはまた、HCP不純物中の多数の酵素の機能状態をモニタリングする利点を提供する。
【0028】
バイオ医薬品の製品品質、有効性、および安全性を改善する需要は、酵素活性を有するHCP不純物をモニタリングすることの需要の増加をもたらした。本開示は、前述の需要を満たすための方法およびシステムを提供する。本明細書に開示の例示的実施形態は、バイオ医薬品中および製造工程の間の試料中の酵素活性を有するHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するための方法およびシステムを提供することによって、前述の需要を満たす。本出願は、HCP不純物の異なる酵素クラスを特徴決定するための、様々な活性に基づくプローブを提供して、長らく望まれてき必要性を満たす。
【0029】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」および「およそ」という用語は、当業者に理解されるように、標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、端点が含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、および「含むこと(including)」という用語は、非限定的であることが意図され、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含むこと(comprising)」を意味することが理解される。
【0030】
いくつかの例示的実施形態において、本出願は、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するためのシステムであって、システムが、少なくとも1つのプローブであって、少なくとも1つのプローブが反応基およびタグを含み、少なくとも1つのプローブが、HCP不純物に結合してプローブ結合HCP不純物を提供することができ、反応基がプローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、少なくとも1つのプローブと、固体支持体と、単離されたプローブ結合HCP不純物の成分を生成することができる酵素消化溶液と、単離されたプローブ結合HCP不純物から成分を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化することができる質量分析計と、を含む、システムを提供する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、一般に、「ポリペプチド」として当技術分野において既知である、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。タンパク質は、単一の機能的生体分子を形成するために、1つまたは複数のポリペプチドを含有してもよい。いくつかの例示的実施形態において、タンパク質は、抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、薬物、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、検出および/または特徴決定のためにポリペプチドまたはペプチドが溶出され得る任意の分子検出器を含むことを意図する。質量分析計は、イオン源、質量分析器、および検出器の3つの主要な部分を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを生成することである。分析物の原子、分子、またはクラスタは気相に移され、同時にイオン化され得る(エレクトロスプレーイオン化の場合など)。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0033】
一態様において、方法の試料中の少なくとも1つの高存在量タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、タンパク質医薬品、または薬物であり得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVRまたはVH)および重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からなる。VHおよびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分化され得、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域とともに散在する。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序で配列された3つのCDRおよび4つのFRで構成され得る:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4に配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化および非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体などの組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されたものを含むが、これらに限定されない。IgGは、抗体のサブセットを含む。
【0035】
本明細書で使用される場合、「タンパク質医薬品」は、本質的に完全にまたは部分的に生物学的であり得る活性成分を含む。一態様において、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、またはそれらの組み合わせを含み得る。別の態様において、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、またはそれらの組み合わせの組換え、操作、修飾、変異、または切断バージョンを含み得る。
【0036】
一態様において、本出願の方法の質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、Orbitrap質量分析計などのナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、Q-TOF質量分析計、または三連四重極質量分析計であり得、質量分析計が液体クロマトグラフィーシステムに連結されている。一態様において、方法の質量分析計は、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)、ナノ-LC-MS、LC-MS/MS、ナノ-LC-MS/MS、またはLC-MRM-MS(液体クロマトグラフィー-多重反応モニタリング-質量分析法)分析を実施することができる。
【0037】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」という用語は、溶液中のカチオンまたはアニオンのいずれかが、溶液を含有するエレクトロスプレーニードルの先端と対電極との間の電位差を印加することから生じる高帯電液滴の流れの形成および大気圧での脱溶媒和を介して気相に移される、スプレーイオン化のプロセスを指す。一般に、溶液中の電解質イオンからの気相イオンの産生には、3つの主要なステップがある。これらは、(a)ES注入先端における帯電液滴の生成;(b)気相イオンを生成することができる小さい高帯電液滴をもたらす、溶媒蒸発および繰り返しの液滴分裂による帯電液滴の収縮;ならびに(c)非常に小さい高帯電液滴から気相イオンを生成するメカニズム、である。段階(a)~(c)は、一般に、装置の大気圧領域で行われる。いくつかの例示的実施形態において、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であってもよい。
【0038】
本明細書で使用される場合、「三連四重極質量分析計」という用語は、(質量分解しない)高周波(RF)を用いる2つの直列の四重極質量分析器からなるタンデム質量分析計を指し、その間の四重極のみが衝突誘起解離のセルとして機能する。三重四重極質量分析計において、ペプチド試料は、MS機器と連結したLC上に注入される。第1の四重極は、標的m/zを有するペプチドを単離するための質量フィルタとして使用され得る。第2の四重極は、ペプチドを断片に分解するための衝突セルとして機能する。第3の四重極は、初期親ペプチドからの特定のm/z断片の第2の質量フィルタとして機能する。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、質量選択および質量分離の複数の段階を使用することによって、試料分子に関する構造情報を得ることができる技術を含む。前提条件は、試料分子を気相に移し、そのままイオン化することができ、第1の質量選択ステップの後、何らかの予測可能および制御可能な様式でバラバラになるように誘導することができることである。タンデムMSは、様々な分析器の組み合わせで成功裏に行われている。ある特定の用途のために組み合わせる分析器は、感度、選択性、および速度などの多くの異なる要因によって決定することができるが、サイズ、コスト、および利用可能性も同様である。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリは、タンデムインスペースとタンデムインタイムであるが、タンデムインタイム分析器が空間内でまたはタンデムインスペース分析器と連結されるハイブリッドも存在する。タンデムインスペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化デバイス、および少なくとも2つの非捕捉質量分析器を備える。特定のm/z分離機能は、機器のあるセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで生成物イオンがm/z分離およびデータ収集のために別の分析器に伝達されるように設計され得る。時間的タンデム質量分析計において、イオン源内で生成されたイオンは、同じ物理的デバイスで捕捉、単離、断片化、およびm/z分離されることができる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィー」という用語は、液体または気体によって運ばれる化学混合物が、静止した液体または固相の周囲または上を流れる際に化学物質の差分的分布の結果として成分に分離され得るプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)、イオン交換(IEX)、混合モードクロマトグラフィーおよび順相クロマトグラフィー(NP)が挙げられる。
【0040】
例示的実施形態
本明細書に開示の実施形態は、酵素活性を有するHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化するための方法およびシステムを提供する。
【0041】
いくつかの例示的実施形態において、本出願は、試料中のHCP不純物を同定、プロファイリング、特徴決定、または定量化する方法であって、方法が、試料を少なくとも1つのプローブと接触させて、プローブ結合HCP不純物を提供することを含み、プローブが反応基およびタグを含み、反応基が、プローブ結合HCP不純物の活性部位に結合することができ、試料が、少なくとも1つの高存在量タンパク質を含む、方法を提供する。
【0042】
一態様において、方法のプローブのタグは、コンジュゲーションタグ、親和性タグ、またはレポータータグ、例えば、フルオロフォアまたはフルオロフォアコンジュゲーション部位、例えば、ローダミン、ビオチン、ホスフィン、アルキン、アジド、アセチレン、シクロオクチン、フェニルアジド、またはオメガ末端アジドである。一態様において、プローブの反応基は、フルオロホスホネート、エポキシスクシネート、光活性化可能な脂質、光活性化可能なスフィンゴシン、N-アセチル化アミノ酸、キノリミンメチド結合アミノ酸、またはp-アミノマンデル酸結合アミノ酸を含有する。一態様において、方法のプローブは、アジド-フルオロホスホネート、デスチオビオチン-フルオロホスホネート、テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート、エチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオール、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセノ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)、またはD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを含む。別の態様において、方法のプローブ結合HCP不純物の活性部位は、システインプロテアーゼ活性部位、セリンプロテアーゼ活性部位、セリンヒドロラーゼ活性部位、カテプシン活性部位、メタロプロテアーゼ活性部位、コリンエステラーゼ活性部位、脂質結合タンパク質の活性部位、スフィンゴ脂質結合タンパク質の活性部位、セラミド結合タンパク質の活性部位、リパーゼ活性部位、プロテアーゼ活性部位、ヒドロラーゼ活性部位、オキシドレダクターゼ活性部位、またはイソメラーゼ活性部位である。
【0043】
システムは、前述のHCP不純物、活性に基づくプローブ、酵素活性部位、反応基、コンジュゲーションタグ、親和性タグ、レポータータグ、固体支持体、医薬品、ペプチド、タンパク質、抗体、抗薬物抗体、クロマトグラフィーカラム、または質量分析計のうちのいずれかに限定されないことが理解される。
【0044】
本明細書で提供される方法ステップの数字および/または文字を用いた連続したラベリングは、方法またはその任意の実施形態を特定の示された順序に限定することを意味しない。特許、特許出願、特許出願公開、受託番号、技術記事、および学術記事を含む様々な刊行物が、本明細書を通して引用される。これらの引用された参考文献の各々は、参照によりその全体がすべての目的のために、本明細書に組み込まれる。別段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より十分に理解されるであろう。それらは例示を意図し、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0045】
材料および試薬
1.HCP不純物を含有するバイオ医薬品
モノクローナル抗体およびHCP不純物を含有する試料などのHCP不純物を含有するいくつかのバイオ医薬品試料を、酵素的HCP不純物の特徴決定に使用した。これらの試料は、(1)CHO細胞からの清澄にした細胞培養上清(5mg);(2)LPL-PLBD2ノックアウトCHO細胞株に由来し、アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーによって処理したCHO細胞からの細胞培養上清を含有する、LPL(リポタンパク質リパーゼ)およびPLBD2(ホスホリパーゼBドメイン含有タンパク質2)ノックアウトAEX材料(LPL-PLBD2ノックアウト-AEX、5mg);(3)アニオン交換クロマトグラフィーによって処理した細胞培養上清を含有するAEX材料(AEX上清、5mg);(4)精製されたモノクローナル抗体などの精製されたバイオ医薬品を含有する薬物物質(DS、10mg);(5)酸性セラミダーゼ、PLBD2、脂質タンパク質リパーゼ、ならびにリソソーム酸性リパーゼを含むリパーゼを10ppmスパイクした薬物物質(スパイクしたDS、10mg)、を含んでいた。
【0046】
2.セリンヒドロラーゼプローブ
図1および図2に示されるセリンヒドロラーゼプローブ、例えば、Pierce(商標)ActivX(商標)セリンヒドロラーゼプローブ(Thermo Fisher Scientific)を使用して、セリンヒドロラーゼ活性を有するHCP不純物を標識、アッセイ、精製、または検出した。フルオロホスホネート(FP)が、活性部位におけるセリン求核剤の共有結合修飾を特異的に開始することができるので、FPを含有するいくつかのセリンヒドロラーゼプローブを使用して、リパーゼおよびプロテアーゼを含むセリンヒドロラーゼの活性部位におけるセリン残基を修飾することができる。図1は、セリンヒドロラーゼの活性部位を修飾するためのセリンヒドロラーゼプローブのメカニズムおよび構造を示している。図2は、アジド-FP、デスチオビオチン-FP、およびTAMRA-FP(テトラメチルローダミン-フルオロホスホネート)を含むセリンヒドロラーゼプローブの化学構造を示している。アジド-FPプローブは、検出または濃縮のために、ホスフィンまたはアルキン由来のタグと組み合わせて使用することができる。ストレプトアビジンダイナビーズとの組み合わせなどのデスチオビオチン-FPプローブは、ウェスタンブロットまたは質量分析法によるセリンヒドロラーゼの親和性濃縮および検出に使用することができる。TAMRA-FPプローブは、蛍光ゲル撮像、キャピラリー電気泳動、または質量分析法を通じて、試料中のセリンヒドロラーゼ活性の標識および検出を可能にする蛍光タグを有する。
【0047】
ActivX(商標)FPプローブを用いてHCP試料中のセリンヒドロラーゼをプロファイリング、捕捉、および検出するためのワークフローは、試料をプローブ(例えば、阻害物質)とともに事前にインキュベートすること、ならびにウェスタンブロット、蛍光SDS-PAGE、または質量分析法を通じて阻害物質特異性、結合親和性、および効力を決定することを含む。
【0048】
3.システインプロテアーゼプローブ
図3に示されるシステインプロテアーゼプローブ、DCG-04を使用して、カテプシン活性をプロファイルした。DCG-04、例えば、clan CAシステインプロテアーゼのエポキシスクシネート含有プローブであるエチル(2S,3S)-エポキシスクシネート-Leu-Tyr-Acp-Lys(ビオチン)-NH、CD-892は、天然に存在する阻害物質E-64に基づいており、活性部位システインへのエポキシスクシネート基の共有結合を介してシステインプロテアーゼのパパインファミリーを標的とする。ストレプトアビジンダイナビーズとの組み合わせなどのDCG-04プローブは、ウェスタンブロットまたは質量分析法によるシステインプロテアーゼの親和性濃縮および検出に使用することができる。
【0049】
4.脂質プローブ、16:0-pacFA PC
図4に示される脂質プローブ、16:0-pacFA PC、例えば、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンを使用して、スフィンゴ脂質結合タンパク質を精製した。このプローブは、近接するタンパク質への、脂質の光活性化可能な結合を提供する。脂質を標識されたタンパク質は、その後、アジド官能基付与ビーズに対するアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を通じて、アルキン部分を使用してビーズにコンジュゲートすることができる。脂質を標識されたタンパク質は、コンジュゲートされたビーズの単離を通じて濃縮または精製することができる。
【0050】
5.脂質プローブ、PhotoClickスフィンゴシン(900600)
図5に示される脂質プローブ、PhotoClickスフィンゴシン(900600)、例えば、(2S,3R,E)-2-アミノ-13-(3-(ペンタ-4-イン-1-イル)-3H-ジアジリン-3-イル)トリデカ-4-エン-1,3-ジオールを使用して、スフィンゴシンタンパク質を精製した。このプローブは、近接するタンパク質への、脂質の光活性化可能な結合を提供する。脂質を標識されたタンパク質は、その後、アジド官能基付与ビーズに対するアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を通じて、アルキン部分を使用してビーズにコンジュゲートすることができる。脂質を標識されたタンパク質は、コンジュゲートされたビーズの単離を通じて濃縮または精製することができる。この光活性化可能かつクリック可能なスフィンゴシンの類似体は、スフィンゴシン-1-ホスフェートリアーゼ欠損細胞におけるスフィンゴ脂質結合タンパク質をプロファイルして、スフィンゴ脂質とそれらの相互作用タンパク質との間の全般的な細胞相互作用を理解するために使用されている(Haberkant et al.,Bifunctional Sphingosine for Cell-Based Analysis of Protein-Sphingolipid Interactions,ACS Chem Biol.,2016,Jan 15;11(1):222-30.doi:10.1021/acschembio.5b00810.Epub 2015 Nov 25)。
【0051】
6.脂質プローブ、pacFAセラミド(900404)
図6に示される脂質プローブ、pacFAセラミド(900404)、例えば、N-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを使用して、セラミド結合タンパク質を精製した。このプローブは、近接するタンパク質への、脂質の結合を提供する。脂質を標識されたタンパク質は、その後、アジド官能基付与ビーズに対するアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を通じて、アルキン部分を使用してビーズにコンジュゲートすることができる。脂質を標識されたタンパク質は、コンジュゲートされたビーズの単離を通じて濃縮または精製することができる。
【0052】
7.アジド-アルキン環化付加反応を伴うアガロースおよびビーズ
アガロースおよび磁気ビーズを使用して、標識されたタンパク質がプルダウンされた。磁気ビーズまたはアジドを含有するアガロースビーズを使用して、銅によって触媒されるアジド-アルキン環化付加反応を通じてアルキン含有脂質に架橋結合したタンパク質を捕捉することができる。図7は、銅によって触媒されるアジド-アルキン環化付加反応の化学構造およびメカニズムを示している。
【0053】
8.脂質プローブ、16:0ヘキシノイルPE(870127)
図8に示される脂質プローブ、16:0ヘキシノイルPE(870127)、例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(5-ヘキシノイル)(アンモニウム塩)を使用して、脂質結合タンパク質を精製した。このプローブを使用して、アジド官能基付与ビーズに対するアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を通じたアルキン部分、またはシクロオクチンとフェニルアジド官能基付与ビーズとの間のアルキン部分を使用して、標識されたタンパク質を精製した。標識されたタンパク質は、コンジュゲーションビーズの単離を通じて濃縮または精製することができる。このプローブは、PS-20(ポリソルベート20)で加水分解されたものと同様のエステル結合を含有する。しかしながら、光活性化可能な結合は、利用可能ではない。
【0054】
9.脂質プローブ、C6(6-アジド)GalCer(860833)
図9に示される脂質プローブ、C6(6-アジド)GalCer(860833)、例えば、糖基を有するアジド官能基付与スフィンゴ脂質であるD-ガラクトシル-β-1,1’N-(6”-アジドヘキサノイル)-D-エリスロ-スフィンゴシンを使用して、脂質結合タンパク質を精製した。このプローブは、オメガ末端アジドを含有する修飾脂質である。末端アジド基は、銅(Cu)含有触媒の存在下で、アルキン含有試薬、例えば、クリックケミストリーとの非常に特異的な結合反応に使用することができる。
【0055】
10.HCP不純物をセリンヒドロラーゼプローブで標識するための試薬および試料調製
標識緩衝液(10×TBS(Tris緩衝生理食塩水)、MgCl、CaCl、NP-40):20mMのMgCl、5mMのCaCl、および1%のNP-40を含有する500mMのリン酸カリウム緩衝液、pH7.5。100mLの10×TBSに添加した0.2gのMgCl、0.1gのCaCl、および1mLのNP-40。
【0056】
10Mの尿素溶解緩衝液:各標識反応のための1.5mLの溶解緩衝液で溶解させた0.9gの尿素。
【0057】
1×TBS中1.5Mの尿素:10mLの1×TBSで溶解させた1.35gの尿素。
【0058】
リパーゼ混合物:(LPL:リポタンパク質リパーゼ;LIPA:リパーゼAリソソーム酸性タイプ;ASAH:N-アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼ、酸性セラミダーゼ;PLBD2:ホスホリパーゼBドメイン含有2)。実験を行うために、10ppmのリパーゼを試料中にスパイクした。
【0059】
(表1)リパーゼ混合物の調製
【0060】
500mMのヨードアセトアミド:ヨードアセトアミドの1つの秤量済みバイアル(56mg)に添加した60μLの水。
【0061】
5Mの尿素溶解緩衝液:各標識反応のための1mLの溶解緩衝液で希釈した1mLの10Mの尿素/IP溶解緩衝液。
【0062】
1×TBS中50mMのビオチン:500mgのビオチンに添加した40.9mLの1×TBSおよび1mLの水酸化アンモニウム。溶液をボルテックスし、4℃で保存する。
【0063】
1×TBS中5mMのビオチン:100μLの50mMのビオチンに添加した900μLの1×TBS。
【0064】
トリプシン含有消化緩衝液:1000μLの5mMのビオチン溶出緩衝液に溶解させた1つのバイアルの20μgのトリプシン。添加した20μLの1mU/μLのPNGase Fおよび100μLの1%のプロテアーゼmax。
【0065】
11.HCP不純物を脂質プローブで標識するための試薬および試料調製
10Mの尿素溶解緩衝液:各標識反応のための1.5mLの溶解緩衝液で溶解させた0.9gの尿素。
【0066】
消化緩衝液(2Mの尿素/20mMのTris、pH8.0):0.4mLの1MのTris、pH8.0および19.6mLのLC-MSグレードの水に溶解させた2.4gの尿素。
【0067】
実験を行うために、10ppmのリパーゼを試料中にスパイクした。リパーゼとしては、LPL、LIPA、ASAH、およびPLBD2が挙げられた。(LPL:リポタンパク質リパーゼ;LIPA:リパーゼAリソソーム酸性タイプ;ASAH:N-アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼ、酸性セラミダーゼ;PLBD2:ホスホリパーゼBドメイン含有2)。試料、MAB1-C3-DSは、モノクローナル抗体(MAB1)およびHCP不純物を含有していた。
【0068】
緩衝液S(PBS、1%のSDS):9mLのPBSに添加し、ボルテックスして混合した、1mLの10%のSDS。
【0069】
500mMのDTT:0.1mLの水に溶解させた7.7mgのDTT。
【0070】
1Mのヨードアセトアミド:0.1mLの水に溶解させた18.4mgのヨードアセトアミド。
【0071】
16:0-pacFA PC溶液(分子量:741.978g/mol):16:0-pacFA PCに添加して2mMのストック溶液を作製した674μLのエタノール。
【0072】
方法
1.セリンヒドロラーゼプローブを用いてHCP不純物を標識、濃縮、および同定する:
HCP不純物を含有する試料を、デスチオビオチン-FPなどのセリンヒドロラーゼプローブで標識した。その後、標識されたHCP不純物を濃縮し、同定した。セリンヒドロラーゼプローブでHCP不純物を標識するために、HCP不純物を含有する試料を、表2に従って調製した。表2に従った溶解物試料を溶解緩衝液で希釈し、マイクロ遠心チューブに移した。表2のCCFは、細胞培養液、例えば、上清試料、清澄にした細胞培養上清試料、または清澄にした細胞培養液試料を示す。表2のAEXは、アニオン交換クロマトグラフィーを示す。表2のDSは、薬物物質を示す。表2の標準物質は、表1に示される組換えリパーゼタンパク質の混合物を示す。「LPLおよびPLBD2 KO AEXプール材料」は、LPL(リポタンパク質リパーゼ)-PLBD2(ホスホリパーゼBドメイン含有タンパク質2)ダブルノックアウトCHO細胞株からの細胞から収集した細胞培養材料を示す。Conc.は、濃度を示す。
【0073】
(表2)HCP不純物をセリンヒドロラーゼプローブで標識するための試料調製
【0074】
フルオロホスホネート(FP)を含有するセリンヒドロラーゼプローブ、セリンヒドロラーゼFPプローブを、乾燥剤を含むパウチ中で室温に平衡化した。その後、セリンヒドロラーゼFPプローブを100μLのDMSOに溶解させて、0.1mMのストック溶液を作製した。4μMの最終混合濃度に達するまで、セリンヒドロラーゼFPプローブのストック溶液を各試料に添加した。試料を室温で60分間インキュベートした。
【0075】
以下のステップを含んで、マイクロバイオスピン6脱塩カラムまたは同等物を使用して、試料を濾過して非結合プローブを除去した:(1)カラムを数回素早く反転させて、沈降したゲルを再懸濁させ、気泡を除去し;先端をちぎり取り、カラムを2.0mLのマイクロ遠心チューブに配置し;上部キャップを取り外し;カラムが流れ始めない場合は、カラム上のキャップを押し戻し、次いで再度取り外してフローを開始し;余分な充填緩衝液を重力によってゲル床の上部に排出させ(約2分);排出された緩衝液を廃棄し、次いでカラムを2.0mLのチューブに戻し入れる、(2)1,000×gのマイクロ遠心分離機で2分間遠心分離して、残留する充填緩衝液を除去し;緩衝液を廃棄する、(3)500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液を適用し;新しい緩衝液を適用するごとに、緩衝液を重力によって排出させるか、またはカラムを1分間遠心分離して緩衝液を除去し;収集チューブから緩衝液を廃棄し;3回繰り返す、(4)カラムを清潔な1.5または2.0mLのマイクロ遠心チューブに配置し;試料(20~75μl)をカラムの中心に直接慎重に適用する(推奨される試料体積を上回るかまたはそれ未満の適用は、カラム性能を減少させ得る)、(5)試料を充填した後、カラムを1,000×gで4分間遠心分離する、および(6)遠心分離に続いて、精製された試料は、5Mの尿素緩衝液中にある。
【0076】
以下のステップを含んで、標識されたHCP不純物を捕捉し、消化し、分析を行った:(1)1mLの総体積まで、500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液を各反応物に添加する、(2)(Thermo Fisher Scientificから購入した)2mgのストレプトアビジンダイナビーズを各試料に添加して、標識されたHCP不純物を捕捉し、ローテータ上で常に混合しながら室温で1時間インキュベートする、(3)磁気ラックを使用してダイナビーズを3分間収集し;上清を除去する、(4)500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液を添加し、短時間ボルテックスして混合し;磁石を使用してビーズを収集し、上清を除去し;このステップをさらに2回繰り返す、各洗浄後に緩衝液を廃棄する、(5)5mMのTCEPを含む1.5Mの尿素溶液を添加し、55℃で30分間インキュベートする、(6)10mMの最終濃度までヨードアセトアミドを添加し、室温の暗所で30分間ビーズを振盪させる、(7)1000μLの1×TBSで1回洗浄する、(8)標識されたHCP不純物を溶出させるために、75μLの5mMのビオチン溶出溶液を添加し、37℃で10分間振盪させ、次いで上清を収集する、(9)ビーズにトリプシン溶出液を添加し、37℃で10分間振盪させ、次いで前の溶出ステップによる上清を合わせる、(10)37℃で一晩消化する、(11)4μLの20%のTFAを添加し、ボルテックスし、室温で10分間インキュベートする、(12)14,000×gで5分間遠心分離する、および(13)18μLの処理した溶出された標識されたHCP不純物をナノLCに充填し、ナノ-LC-MS/MSによって分析する。
【0077】
2.脂質プローブを用いてHCP不純物を標識、濃縮、および同定する:
HCP不純物を含有する試料を、16:0-pacFA PCなどの脂質プローブで標識した。その後、標識されたHCP不純物を濃縮し、同定した。脂質プローブでHCP不純物を標識するために、HCP不純物を含有する試料を、表3に従って調製した。表3に従った溶解物試料をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で希釈し、マイクロ遠心チューブに移した。表3のAEXは、アニオン交換クロマトグラフィーを示す。表3のDSは、薬物物質を示す。MAB1-DSは、モノクローナル抗体、MAB1を含有する薬物物質を示す。表3の標準物質は、表1に示される組換えリパーゼタンパク質の混合物を示す。「LPLおよびPLBD2 KO AEXプール材料」は、LPL(リポタンパク質リパーゼ)-PLBD2(ホスホリパーゼBドメイン含有タンパク質2)ダブルノックアウトCHO細胞株からの細胞から収集した細胞培養材料を示す。
【0078】
(表3)HCP不純物を16:0-pacFA PCで標識するための試料調製
【0079】
脂質プローブ、16:0-pacFA PCを、パウチ内で室温に平衡化した。その後、脂質プローブを674μLのエタノールに溶解させて、2mMのストック溶液を作製した。未使用のプローブは、-80℃で最大6ヶ月間ガラスバイアル内で保存することができる。10μLの16:0-pacFA PC原液を、20μMの最終混合濃度まで各試料に添加した。光活性化可能なプローブを添加する場合、反応混合物を光から保護した。試料を室温で60分間インキュベートした。試料を、氷上の光源から5cmの距離で、365nmのUVトランス照明器からの345nm超のUV光に15分間曝露させた。
【0080】
標識されたHCP不純物を捕捉し、消化し、分析した。その後、未反応の脂質プローブを、TCA(トリクロロ酢酸)沈殿によって除去した。細胞溶解物、氷冷アセトン、およびTCA溶液(100%のTCA、w/v)を、1mLの細胞溶解物、8mLの100%の氷冷アセトン、および1mLの100%のTCAを混合するなどの1:8:1の比で混合した。TCA沈殿を-20℃で1時間実施し、続いて4℃、11,500rpm(18,000×g)で15分間、マイクロ遠心分離機で遠心分離した。上清を廃棄した。沈殿させたペレットを1mLの氷冷アセトンで洗浄して、ペレットを完全に再懸濁させ、続いて4℃、11,500rpmで15分間遠心分離した。洗浄および遠心分離ステップを2回繰り返して、TCAのすべてを除去した。すべてのアセトンを除去した。ペレットを室温で乾燥させて残留アセトンを除去した。タンパク質ペレットを800μLの緩衝液Sに溶解させ、1.5mLのエッペンドルフチューブに移した。タンパク質溶液を、およそ10分ごとにボルテックスすることを含んで、37℃のシェーカー中に30分間保持した。
【0081】
ピコリルアジド-アガロース樹脂を完全に再懸濁させるために50%の樹脂スラリー中で洗浄および混合し、1mLのピペットを用いて200μLのよく混合した樹脂を清潔な2mLの遠心チューブに移し、1.3mLの水を添加し、1000×gで2分間、遠心分離機を使用して樹脂をペレット化し、およそ200μLの樹脂を残すことによって上清を吸引することによって、ピコリルアジド-アガロース樹脂を調製した。4730μLの水、550μLの添加剤1、110μLの硫酸銅(II)溶液、および110μLの添加剤2を使用して、濃縮のための5.5mLの2×銅触媒溶液を調整することによって、触媒溶液を調製した。200μLの洗浄されたピコリルアジド-アガロース樹脂、800μLの試料、および1000μLの2×銅溶液を合わせることによって、標識されたHCP不純物をアガロース樹脂(ビーズ)にコンジュゲートするための試料混合物を調製した。試料溶液を混合するために、一晩回転させた。
【0082】
SDSを含有するアガロース洗浄緩衝液を室温まで温めた。この樹脂を遠心分離した。その後、上清を吸引した。1.8mLの水を樹脂に添加した。その後、樹脂を遠心分離した。その後、上清を吸引した。SDSを含有する1mLのアガロース洗浄緩衝液および10μLの1MのDTTを樹脂に添加して、樹脂を再懸濁させた。樹脂を70℃で15分間、加熱ブロック上で加熱し、続いて室温まで15分間冷却した。その後、樹脂を1000×gで5分間遠心分離した。上清を吸引した。SDSを含有する6mLのアガロース洗浄緩衝液に44.4mgのヨードアセトアミドを溶解させることによって、6mLの40mMのヨードアセトアミドを調製した。1mLの40mMのヨードアセトアミドを樹脂に添加し、続いて樹脂を再懸濁させるためにボルテックスした。その後、樹脂を室温の暗所で30分間インキュベートした。樹脂を再懸濁させ、スピンカラムに移した。SDSを含有する2mLの洗浄緩衝液をスピンカラムに添加し、続いて1000×gで1分間遠心分離し、工程を3回繰り返した。2mLの8M尿素/100mMのTris、pH8をスピンカラムに添加し、続いて1000×gで1分間遠心分離し、工程を5回繰り返した。2mLの20%のアセトニトリルをスピンカラムに添加し、続いて1000×gで1分間遠心分離し、工程を5回繰り返した。キャップをスピンカラムの底部に追加し、続いて500μLの消化緩衝液(100mMのTris、2mMのCaCl、10%のアセトニトリル)を添加した。1mLのピペットを使用して、樹脂を新しいチューブに移した。新しいチューブ内の樹脂を合わせることによって、別の500μLの消化緩衝液でスピンカラムをすすいだ。20μLの0.1μg/μLのトリプシンおよびプロテアーゼmaxを試料に添加した(プロテアーゼmaxの最終濃度=0.05%)。2μLの1mU/μLのPNGase Fを添加し、続いて一晩回転させながらインキュベートした。樹脂を、1000×gで5分間遠心分離することによってペレット化した。上清を保持した。500μLの水を添加してビーズを2回洗浄した。上清のすべてを合わせた。2μLのTFAを添加した。消化混合物を脱塩し、C-18カートリッジを使用して濃縮した。脱塩した試料から溶出液を乾燥させ、ナノLC-MS/MSによって分析した。
【0083】
3.システインプロテアーゼプローブを用いてHCP不純物を標識、濃縮、および同定する:
HCP不純物を含有する試料を、DCG-04などのシステインプロテアーゼプローブを使用して標識した。その後、標識されたHCP不純物を濃縮し、同定した。システインプロテアーゼプローブでHCP不純物を標識するために、HCP不純物を含有する試料を、表4に従って調製した。10×反応緩衝液は、500mMの酢酸ナトリウム(pH6)、10mMのEDTA、および25mMのDTTを含有していた。
【0084】
システインプロテアーゼプローブ、DCG-04を、パウチ内で室温に平衡化した。その後、プローブを2000μLのDMSOに溶解させて、0.5mMのストック溶液を作製した。2.5μMの最終混合濃度で、5μLのDCG-04ストック溶液を各試料に添加した。試料を室温で60分間インキュベートした。
【0085】
以下のステップを含んで、Amicon 3 kDa分子量脱塩フィルタを使用して、試料を濾過し、非結合プローブを除去した:(1)各試料を脱塩フィルタの上部に適用する、(2)500μLの8Mのグアニジンを各フィルタの上部に適用する、(3)500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液をフィルタの上部に適用する、(4)各ステップの終わりに14,000×gで20分間遠心分離し、次いで収集チューブから体積を廃棄する。最後に、カラムを清潔な収集チューブに配置し、フィルタを反転させ、2,000×gで2分間遠心分離して、緩衝液交換および標識された試料を収集する。
【0086】
以下のステップを含んで、標識されたHCP不純物を捕捉し、消化し、分析を行った:(1)500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液を各反応物に添加する、(2)(Thermo Fisher Scientificから購入した)1mgのストレプトアビジンダイナビーズを各試料に添加して、標識されたHCP不純物を捕捉し、ローテータ上で常に混合しながら室温で1時間インキュベートする、(3)磁気ラックを使用してダイナビーズを3分間収集し;上清を除去する、(4)500μLの5Mの尿素/溶解緩衝液を添加し、短時間ボルテックスして混合し;磁石を使用してビーズを収集し、上清を除去し;このステップをさらに2回繰り返す、各洗浄後に緩衝液を廃棄する、(5)5mMのTCEPを含む1.5Mの尿素溶液を添加し、55℃で30分間インキュベートする、(6)10mMの最終濃度までヨードアセトアミドを添加し、室温の暗所で30分間ビーズを振盪させる、(7)1000μLの1×TBSで1回洗浄する、(8)トリプシン溶出絵溶液をビーズに添加し、37℃で4時間振盪させて完全に消化し、タンパク質をビーズから溶出させる、(10)4μLの20%のTFAを添加し、ボルテックスし、室温で10分間インキュベートする、(11)消化させたHCPを含有するビーズから上清を清潔なチューブに移動させる、(12)14,000×gで5分間遠心分離する、および(13)18μLの処理した溶出された標識されたHCP不純物をナノLCに充填し、ナノ-LC-MS/MSによって分析する。
【0087】
(表4)HCP不純物をシステインプロテアーゼプローブで標識するための試料調製
【0088】
4.出発材料の直接消化
4体積の氷冷アセトンを各試料に添加し、-20℃の冷凍庫内で1時間沈殿させ、続いて80%の氷冷アセトンで1回洗浄した。アセトンを慎重にデカントし、ペーパータオル上で2分間乾燥させた。試料を20μLの尿素変性還元溶液に再懸濁させ、続いて56℃、30分間800rpm、サーモミキサで振盪させ、室温に冷却した。6μLの50mMのヨードアセトアミドを添加し、続いて短時間ボルテックスした。混合物を室温の暗所で30分間保持した。配列決定グレードの修飾トリプシン(20ug/バイアル)を、1.95mLの50mMのTris、pH7.5中で調製して、10ng/μLの最終濃度を得た。100μLの100ng/μLのトリプシンおよび4.5μLのプロテアーゼmaxを試料に添加した(プロテアーゼmaxの最終濃度=0.05%)。2μLの1mU/μLのPNGase Fを添加した。試料を3~5秒間ボルテックスし、続いて試料をスピンダウンさせた。溶液の最終体積は、125uLであった。尿素の最終濃度は、1.25Mであった。HCP試料を、サーモミキサ内で750rpmで振盪させながら、37℃の暗所で5時間インキュベートした。消化混合物を5μLの氷酢酸で酸性化し、続いて試料を3~5秒間ボルテックスした。その後、試料を14,000×gで5分間遠心分離した。試料のpHは、pH3未満であった。15μLの各試料を質量分析計に充填し、データ依存方法を使用して分析した(150分、上位20)。
【0089】
実施例1.セリンヒドロラーゼ活性を有するHCP不純物の濃縮
セリンヒドロラーゼプローブ、デスチオビオチン-FPを使用して、セリンヒドロラーゼ活性を有するHCP不純物を濃縮、同定、特徴決定、またはプロファイルした。モノクローナル抗体などのバイオ医薬品およびCHO細胞からのHCP不純物を含有するいくつかの試料を、濃縮に使用した。これらの試料は、清澄にした上清、LPL-PLBD2ノックアウト-AEX(表5にはAEX KOとして示されている)、AEX-上清(表5にはAEXとして示されている)、DS、およびスパイクしたDS(表5にはDS+リパーゼとして示されている)を含んでいた。4μMの最終プローブ濃度のデスチオビオチン-FPとともに試料を室温で1時間インキュベートすることによって、実験を行った。過剰なプローブを、緩衝液交換によって除去した。デスチオビオチン-FPの不在下でのインキュベーション中の非特異的結合をモニタリングするための対照として、いくつかの試料を使用した。タンパク質濃縮では、ストレプトアビジン-ビーズなどの磁気ビーズを使用して、デスチオビオチン-FPで標識されたHCP不純物を捕捉した。その後、厳密に5Mの尿素を使用してビーズを洗浄した。5mMのビオチンを使用して、標識されたHCPを溶出した。溶出した標識されたHCPを37℃で一晩消化し、その後トラップを使用してナノLC(液体クロマトグラフィー)に直接充填した。タンパク質同定は、ナノLC-MS/MSを使用して行った。実験結果を表5に示す。MAB1 HCは、モノクローナル抗体MAB1の重鎖を示す。MAB1 LCは、モノクローナル抗体MAB1の軽鎖を示す。
【0090】
(表5)HCP不純物の同定
【0091】
清澄にした上清試料(例えば、清澄にした細胞培養上清試料または細胞培養液試料)中のHCP不純物において、様々なタンパク質を同定した。清澄にしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞上清試料中に溶出した、標識されたHCP中586個のタンパク質を同定した。これらの586個のタンパク質の中で、359個のタンパク質は、非特異的結合対照試料中に見出されなかった(例えば、インキュベーション中にデスチオビオチン-FPが不在であった)。遺伝子オントロジー分析によると、これらの586個のタンパク質のうちの68%は、触媒活性を有していた。これらの586個のタンパク質の分子量および計算された等電点(pI)を、図10に示されるように分析した。図10の点のサイズは、清澄にした上清試料中に溶出した、プローブで標識されたHCPの、およびプローブを含まないHCPのタンパク質存在量における差を示す。プローブを含まない清澄にした上清試料は、非特異的結合の対照であった。タンパク質存在量は、赤(高存在量)から青(低存在量)のカラースケールとして示した。図10に示されるように、3つの豊富なタンパク質、例えば、カルシウム依存性セリンプロテアーゼ、補体C1r-A副成分、およびセリンプロテアーゼHTRA1をマークした。
【0092】
セリンヒドロラーゼプローブを用いた濃縮後の、清澄にした上清試料中で同定されたHCP不純物である、活性リパーゼおよびエステラーゼを表6に示す。表6のCCFは、細胞培養液、例えば、清澄にした上清試料、清澄にした細胞培養上清試料、または清澄にした細胞培養液試料を示す。Calc.pIは計算された等電点を示す。PSMは、ペプチドスペクトラム一致の数を示す。PSMの数は、タンパク質が一致した同定されたペプチドスペクトルの総数である。ペプチドが繰り返し同定され得るので、ハイスコアのタンパク質については、PSM値は、同定されたペプチドの数よりも高い場合がある。PEPは、観察されたPSMが正しくない確率である事後誤差確率を示す。合計PEPスコアは、PSMのPEP値に基づいて計算される。
【0093】
(表6)セリンヒドロラーゼプローブを用いて処理し清澄にした上清試料中で同定された活性リパーゼおよびエステラーゼ
【0094】
清澄にした上清試料中に溶出した、標識されたHCP中586個のタンパク質を同定した。これらの586個のタンパク質の中で、359個のタンパク質は、非特異的結合対照試料中に見出されなかった(例えば、インキュベーション中にデスチオビオチン-FPが不在であった)。これらの359個のタンパク質の遺伝子オントロジー分析の結果を図11に示す。結果は、触媒活性を有するHCP不純物タンパク質が、対照試料と比較して、セリンヒドロラーゼプローブ、例えば、デスチオビオチン-FPを使用して有意に濃縮されたことを示した。
【0095】
実施例2.脂質結合活性を有するHCP不純物の濃縮
リパーゼなどの多くの疎水性タンパク質は、細胞内の脂肪酸に結合することができる。クリック可能な脂質プローブなどの脂肪酸に基づくプローブを使用して、リパーゼ、または脂質結合活性を有するタンパク質、例えば、脂質結合タンパク質などの疎水性HCP不純物を濃縮、同定、特徴決定、またはプロファイルした。HCP不純物の活性に基づくプロファイリングについて、これらの脂質プローブを試験した。加えて、細胞培養上清中またはプロセス試料中の、ポリソルベート様分子に結合することができるHCP不純物を同定することについて、これらの脂質プローブを試験した。
【0096】
脂質プローブ、16:0-pacFA PC、例えば、1-パルミトイル-2-(9-(3-ペンタ-4-イニル-3-H-ジアジリン-3-イル)-ノナノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンを使用して、スフィンゴ脂質結合HCP不純物を精製した。このプローブは、UV光に曝露すると近接するタンパク質と反応することができる、光活性化可能なジアジリン環を有していた。このプローブはまた、クリックケミストリーに基づく精製のためのアルキンを含有していた。脂質を標識されたHCP不純物は、その後、アジド官能基付与ビーズに対するアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を通じて、アルキン部分を使用してビーズにコンジュゲートされる。その後、脂質を標識されたHCP不純物は、コンジュゲートされたビーズの単離を通じて濃縮または精製される。
【0097】
16:0-pacFA PCを使用して特異的に濃縮された細胞上清試料中のHCP不純物としては、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(断片)、ベータ-ガラクトシダーゼ(断片)、グルタチオン合成酵素、インスリン様成長因子結合タンパク質4、白血球エラスターゼ阻害物質A、プロスタグランジンレダクターゼ1様タンパク質、システインが豊富なEGF様ドメインタンパク質2、色素上皮由来因子、ブレオマイシンヒドロラーゼ、クエン酸合成酵素、アンジオポエチン関連タンパク質4、N-アセチルグルコサミン-1-ホトランスフェラーゼサブユニットガンマ、プロテアソームサブユニットベータタイプ-1、40Sリボソームタンパク質S28、システインおよびグリシンが豊富なタンパク質1、トリペプチジル-ペプチダーゼ1、ならびにスプライシング因子(プロリンおよびグルタミンが豊富な)が挙げられた。これらの同定されたHCP不純物のうち、ベータ-ガラクトシダーゼ、インスリン様成長因子結合タンパク質4、プロスタグランジンレダクターゼ1様タンパク質、およびアンジオポエチン関連タンパク質4は、文献に基づいて、潜在的なスフィンゴ脂質結合を有すると考えられた。濃縮されていない試料、16:0-pacFA PCプローブによって濃縮された試料、および対照試料(UVなし)の間での、同定されたHCP不純物の比較を図12に示す。
【0098】
脂質プローブ、16:0-pacFA PCを使用して、スパイクした組換えリパーゼを含有するDS(薬物物質)試料中のタンパク質を濃縮した。特異的に濃縮されたタンパク質としては、鋤鼻器タイプ2受容体26、セントリオリン、NFX1タイプジンクフィンガー含有タンパク質1、デスモグレイン-4様タンパク質、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、チューブリンアルファ鎖、酸性セラミダーゼ、推定非特異的細胞毒性細胞受容体タンパク質1様タンパク質(断片)、推定不活性セリンプロテアーゼ58様タンパク質、脂肪酸結合タンパク質(脂肪細胞)、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、プロテアソームエンドペプチダーゼ複合体(断片)、プロテアソームサブユニットアルファタイプ、および推定ホスホリパーゼB様2が挙げられた。これらの同定されたタンパク質のうち、酸性セラミダーゼおよび推定ホスホリパーゼB様2は、スパイクした組換えリパーゼタンパク質であった。
【0099】
実施例3.システインプロテアーゼ活性を有するタンパク質の濃縮
システインプロテアーゼプローブ、DCG-04を使用して、100ppmでスパイクした組換え宿主細胞タンパク質混合物(HCP混合物)を含有するDS試料中のタンパク質を濃縮した。混合物は、3つのシステインプロテアーゼ(カテプシンL1、カテプシンZ、カテプシンB)およびシステインプロテアーゼ活性をまったく有さないはずである2つの他の一般的に検出される宿主細胞タンパク質(ベータ-ヘキソサミニダーゼおよびカテプシンD)からなっていた。すべてのスパイクした組換え宿主細胞タンパク質は、プローブとともにインキュベートした試料中で同定されたが、表7に示されるように、プローブを添加しなかった試料中では同定されなかった。各同定されたタンパク質からの上位3つのペプチドのピーク面積を平均し、次いで、トリプシンからの上位3つのペプチドのピーク面積によって除算して、試料間のタンパク質存在量を正規化した。組換えシステインプロテアーゼのうちの2つ(カテプシンZおよびカテプシンB)は、他のスパイクした組換えタンパク質よりも約11倍高いレベルまで濃縮された。
【0100】
(表7)宿主細胞タンパク質の混合物によってスパイクし、システインプロテアーゼプローブを用いて処理した、DS試料中で同定された活性プロテアーゼ
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図4
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【国際調査報告】