(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】免疫細胞へのin vivoでのmRNA送達のためのイミダゾール系合成リピドイド
(51)【国際特許分類】
C07D 233/64 20060101AFI20230414BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230414BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230414BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230414BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20230414BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230414BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230414BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20230414BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230414BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230414BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230414BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230414BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
C07D233/64 105
A61K9/16
A61K47/22
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/02
A61K47/42
A61K47/30
A61K45/00
A61P31/10
A61P35/00
A61K31/7048
A61K31/704
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552314
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(85)【翻訳文提出日】2022-10-20
(86)【国際出願番号】 US2021020450
(87)【国際公開番号】W WO2021178396
(87)【国際公開日】2021-09-10
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】シュィ,チアオビン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076CC27
4C076CC32
4C076DD21
4C076DD60
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE01
4C076EE41
4C084AA17
4C084MA41
4C084NA10
4C084ZB261
4C084ZB351
4C086AA01
4C086EA10
4C086EA15
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA41
4C086NA10
4C086ZB26
4C086ZB35
(57)【要約】
イミダゾールヘッドを含む脂質化合物、およびT細胞への効率的な核酸送達のための本明細書に開示されるリピドイド化合物を含むリピドイドナノ粒子(LNP)が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物およびその薬学的に許容される塩:
【化1】
[式中、
R
5は、-W-L-R
脂質、水素、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、ニトロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、ここで、R
5の1つおよび1つのみが-W-L-R
脂質であり;
Lは2価のリンカーであり;
Wは、NR
20、O、またはSであり;
R
脂質は独立して、置換もしくは非置換のC
1-20アルキル、置換もしくは非置換のC
1-20アルケニル、置換もしくは非置換のC
1-20アルキニル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルケニル、または置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルケニルであり;
R
20は、R
脂質、H、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、またはC
1-6アルキニルである]。
【請求項2】
WはNR
20またはSである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
WはSである、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
WはNR
20である、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
R
20はR
脂質である、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
R
脂質は、式II:
【化2】
[式中、
R
1およびR
2は独立して、H、メチル、OH、NHR
30、またはSHであり;
R
3およびR
4は両方ともHであり;または、R
3およびR
4は一緒になってオキソ(=O)基を形成し;
Zは、O、NR
30、またはSであり;
XおよびYは独立して、CH
2、NR
30、O、SまたはSeであり;
mは1~3から選択される整数であり;
nは1~14から選択される整数であり;
pは0または1であり;
qは1~10から選択される整数であり;
tは0または1であり;
R
30は、H、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、またはC
1-6アルキニルである]
で表される、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
R
3およびR
4は両方ともHである、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
R
3とR
4は一緒になってオキソ(=O)基を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
pは0である、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
pは1である、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
ZはOまたはNR
30である、請求項1~10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
ZはOである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
ZはNR
30である、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
式IIIの化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項15】
R
1およびR
2は、独立して、H、メチル、またはOHである、請求項1~14のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
R
1およびR
2は両方ともHである、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
R
1はHであり、R
2はメチルである、請求項15に記載の化合物。
【請求項18】
R
1はHであり;およびR
2はOHである、請求項15に記載の化合物。
【請求項19】
XおよびYは独立してCH
2またはOである、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項20】
XおよびYは両方ともCH
2である、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
XおよびYは独立してCH
2またはOであり、XとYは同じではない、請求項19に記載の化合物。
【請求項22】
XおよびYは独立してCH
2またはSである、請求項1~18のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
XおよびYは両方ともSである、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
XおよびYは独立してCH
2またはSであり、XとYは同じではない、請求項22に記載の化合物。
【請求項25】
mは1または2である、請求項1~24のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項26】
mは1である、請求項25に記載の化合物。
【請求項27】
nは4~12から選択される整数である、請求項1~26のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項28】
nは6~10から選択される整数である、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
qは2~8から選択される整数である、請求項1~28のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項30】
qは4~8から選択される整数である、請求項29に記載の化合物。
【請求項31】
tは0である、請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項32】
tは1である、請求項1~30のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項33】
Lは、置換もしくは非置換のC
1-6アルキレン、置換もしくは非置換のC
1-6アルケニレン、または置換もしくは非置換のC
1-6アルキニレン、置換もしくは非置換のC
1-6ヘテロアルキレン、置換もしくは非置換のC
1-6ヘテロアルケニレン、または置換もしくは非置換のC
1-6ヘテロアルキニレンである、請求項1~32のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項34】
Lは、置換または非置換C
1-6アルキレンである、請求項33に記載の化合物。
【請求項35】
Lは、非置換C
1-6アルキレンである、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
Lは、C
1-6アルキルで置換されたC
1-6アルキレンである、請求項34に記載の化合物。
【請求項37】
Lは、
【化4】
からなる群より選択される、請求項33に記載の化合物。
【請求項38】
R
5は、C
1-6アルキル、C
2-6アルケニル、C
2-6アルキニルである、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項39】
R
5はC
1-6アルキルである、請求項38に記載の化合物。
【請求項40】
【化5】
が、
【化6】
からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項41】
【化7】
が、
【化8】
からなる群より選択される、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
R
脂質の各場合が独立して、
【化9】
からなる群より選択される、請求項1~41のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項43】
R
脂質の各場合が独立して、
【化10】
からなる群より選択される、請求項42に記載の化合物。
【請求項44】
【化11】
が、
【化12】
からなる群より選択され、かつR
脂質の各場合が独立して、
【化13】
からなる群より選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項45】
請求項1~44のいずれか一項に記載の化合物を含む、リピドイドナノ粒子。
【請求項46】
コレステロールをさらに含む、請求項45に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項47】
DOPEまたはPEG2K-DEPCをさらに含む、請求項45または46に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項48】
二価ニッケルをさらに含み、前記化合物が二価ニッケルとキレートする、請求項45~47のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項49】
タンパク質または核酸をさらに含む、請求項45~48のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項50】
前記タンパク質または核酸が、GFP-CreまたはCRISPR/Cas9である、請求項49に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項51】
前記タンパク質または核酸がGFP-Creである、請求項50に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項52】
前記タンパク質または核酸がCRISPR/Cas9である、請求項50に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項53】
前記二価ニッケルが、非共有結合性相互作用を介してタンパク質または核酸に結合する、請求項48~52のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項54】
小分子をさらに含む、請求項45~53のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項55】
前記小分子が、抗真菌剤または化学療法剤である、請求項54に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項56】
前記小分子が、ボルテゾミブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダコミチニブ、ダウノルビシン塩酸塩、シタラビン、フルオロウラシル、イリノテカン塩酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、メトトレキサート、パクリタキセル、ビンクリスチン硫酸塩、エピルビシン、ドセタキセル、シクロホスファミド、カルボプラチン、レナリドミド、イブルチニブ、アビラテロン酢酸エステル、エンザルタミド、ペメトレキセド、パルボシクリブ、ニロチニブ、エベロリムス、ルキソリチニブ、エピルビシン、ピラルビシン、イダルビシン、バルルビシン、アムルビシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、ストレプトゾトシン、ペントスタチン、ミトサン類マイトマイシンC、エンジイン類カリケアミシン、グリコシド類レベッカマイシン、マクロライドラクトン類エポチロン、イクサベピロン、ペントスタチン、サリノスポラミドA、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、テニポシド、ビノレルビン、ドセタキセル、カンプトテシン、ハイカムチン、ペデリン、テオペデリン、アナミド(Annamides)、トラベクテジン、アプリジン、およびエクテナサイジン743(Ecteinascidin 743)(ET743)からなる群より選択される、請求項54に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項57】
前記小分子が、アムホテリシンBまたはドキソルビシンである、請求項54に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項58】
約25nm~約1000nmの粒径を有する、請求項45~57のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項59】
約50nm~約750nmの粒径を有する、請求項58に記載のリピドイドナノ粒子。
【請求項60】
請求項45~59のいずれか一項に記載のリピドイドナノ粒子、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年3月2日に出願された米国仮特許出願第62/983,997号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
政府支援
本発明は、米国国立衛生研究所が授与する助成金R01 EB027170-01およびUG3 TR002636-01による政府の支援を受けて行われた。政府は、この発明について一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
Tリンパ球を操作することは、がん、ウイルス感染症、炎症および自己免疫の治療法の進歩において大きな可能性を有する。例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CART)は、この数年でFDA承認されたリンパ腫および白血病の治療薬の1つとなっている。現在の臨床戦略において、初代Tリンパ球への治療分子の細胞内送達は、ウイルス送達システム、またはエレクトロポレーションなどの物理的方法に依存する。しかしながら、これは、Tリンパ球のex vivo濃縮を必要とし、複雑な手順および高コストをもたらす。したがって、時間効率が良くかつ低コストの処置を提供するin vivo T細胞工学(T cell engineering)の開発が不可欠である。mRNAは、その合成の容易さ、迅速かつ一過性のタンパク質発現、および突然変異誘発のリスクが最小限であることにより、細胞工学のための新たに出現したアプローチである。ポリマーおよび脂質ナノ粒子を含むナノ材料が、様々なタイプの細胞へのmRNA送達について研究されている。しかしながら、Tリンパ球へのmRNAの送達は、Tリンパ球の限られたエンドサイトーシスおよびタンパク質翻訳のため、依然として技術的課題のままである。したがって、増強されたin vivo T細胞工学のためのより良好な送達システムの開発が望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の態様において、式Iの化合物およびその薬学的に許容される塩が本明細書に開示される:
【化1】
[式中、
R
5は、-W-L-R
脂質、水素、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、ニトロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり;ここで、R
5の1つおよび1つのみが-W-L-R
脂質であり;
Lは2価のリンカーであり;
Wは、NR
20、O、またはSであり;
R
脂質は独立して、置換もしくは非置換のC
1-20アルキル、置換もしくは非置換のC
1-20アルケニル、置換もしくは非置換のC
1-20アルキニル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルケニル、または置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルケニルであり;
R
20は、R
脂質、H、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、またはC
1-6アルキニルである]。
【0005】
特定の実施形態において、WはNR20またはSである。特定の実施形態において、WはSである。特定の実施形態において、WはNR20である。
【0006】
特定の実施形態において、R20はR脂質である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1A~1Cは、リピドイド製剤、送達時間および送達濃度の最適化を示す。
図1Aは、異なる比率の賦形剤と共に製剤化されたFLuc mRNA搭載(Fluc mRNA loaded)93-O17Sで処理された初代ヒトCD8+Tリンパ球の発光(ルミネセンス)発現を示す。製剤化されたリピドイドのみが送達活性の成功を示した。UT:未処理。データは、平均±SD、n=3として提示される。
図1Bおよび1Cは、時間依存的(
図1B)および用量依存的(
図1C)にFLuc mRNA搭載93-O17Sで処理された初代ヒトCD8+Tリンパ球の発光発現を示す。UT:未処理。データは、平均±SD、n=2として提示される。
【
図2】
図2は、ラフスクリーニング(rough screening)から詳細スクリーニング(detailed screening)までの概略図である。イミダゾール含有リピドイドをラフスクリーニングから選択した。イミダゾールおよびイミダゾールアナログ含有ライブラリを詳細スクリーニングのために構築した。スクリーニングから選択されたリピドイドを、in vivoでの生物発光(バイオルミネセンス)および遺伝子組換えのために使用した。
【
図3】
図3A~3Cは、in vitroでの初代Tリンパ球へのmRNA送達のためのリピドイドのラフスクリーニングを示す。
図3Aは、リピドイドの合成経路である。
図3Bは、リピドイド合成のためのアミンヘッド(head)および炭素テール(tail)の化学構造を示す。
図3Cは、FLuc mRNAを用いた初代ヒトCD8+Tリンパ球における異なるリピドイドライブラリのラフスクリーニングの結果を示す。「F」は、16:4:1:1の重量比でコレステロール、DOPEおよびDSPE-PEGと共に製剤化されたリピドイドを示す。「NF」は、製剤化されていないリピドイドを示す。LF2000:Lipofectamine 2000。mRNA:ナノ粒子に搭載されていないmRNA単独。データは、それぞれ3重で実施した2回の別々の実験の平均±SDして提示される。
【
図4】
図4A~4Bは、イミダゾールおよびイミダゾールアナログヘッド含有リピドイドの詳細スクリーニングを示す。
図4Aは、アミンヘッド93のアナログヘッドの化学構造を示す。アミン9310~9315は、スペーサー上に異なる分枝、および異なるスペーサー長を有する;アミン9321~9324は、2-イミダゾールに分枝を有する;アミン9331~9334は、1-イミダゾールに分枝、および2-イミダゾールにスペーサーを有する;アミン9341~9352は、イミダゾールに置き換わってイミダゾールアナログを有する。赤色の構造は送達に対する正の効果を示し、青色の構造は送達に対する負の効果を示す。
図4Bは、FLuc mRNAを用いた初代ヒトCD8+Tリンパ球におけるイミダゾールアナログヘッドの詳細スクリーニングの結果を示す。UT:未処理。データは、平均±SD、n=3として提示される。
【
図5】
図5A~5Bは、リピドイドテールの詳細スクリーニングを示す。
図5Aは、異なるテールを有するリピドイドの化学構造を示す。
図5Bは、FLuc mRNAを用いた初代ヒトCD8+Tリンパ球におけるリピドイドテールの詳細スクリーニングの結果を示す。データは、平均±SD、n=3として提示される。*p<0.05。**p<0.005。
【
図6】
図6は、異なる濃度のEGFP mRNA搭載93-O17Sまたは9322-O17Sでの処理後の初代ヒトCD8+Tリンパ球のフローサイトメトリーのヒストグラムを示すグラフである。UT:未処理。
【
図7A】
図7A~7Bは、リピドイドナノ粒子のpKaおよび溶血の分析の棒グラフである。
図7Aは、詳細なアミンヘッド93アナログライブラリおよびテールライブラリにおけるリピドイドのpKa分析である。
【
図7B】
図7Bは、詳細なアミンヘッド93アナログライブラリおよびテールライブラリにおけるリピドイドの溶血分析である。
【
図8】
図8A~8Cは、選択されたリピドイドを用いたIVISによる生物発光画像である。
図8A~8Bは、FLuc mRNA搭載リピドイドを静脈内注射した後のマウス全体(
図8A)および器官(
図8B)の代表的な生物発光画像である。
図8Cは、組織および細胞をホモジナイズおよび溶解して、FLuc mRNA搭載リピドイドを静脈内注射したマウスからの発光発現を検出した。発光強度を総タンパク質量に対して正規化した。PBS:マウスにPBSを注射した。データは、平均±SD、n=3として提示される。
【
図9】
図9A~9Cは、無効なリピドイドを用いたIVISによる生物発光画像である。
図9Aは、FLuc mRNA搭載リピドイドの静脈内注射後のIVISによるマウス全体の代表的な生物発光画像である。
図9Bは、FLuc mRNA搭載リピドイド9313-O18S-Sを静脈内注射後のIVISによる器官の代表的な生物発光画像である。
図9Cは、静脈内投与によるAi14マウスへのCreリコンビナーゼmRNAのIn vivo送達である。脾臓におけるtdTomato発現を、注射の10日後に共焦点顕微鏡によって検出した。T細胞をCD3ε抗体で標識した。
【
図10】
図10A~10Cは、静脈内投与によるAi14マウスへのCreリコンビナーゼmRNAのIn vivo送達を示す。
図10Aおよび10Bは、注射の10日後に脾臓におけるtdTomato発現を共焦点顕微鏡によって検出した。T細胞を、CD3ε抗体(
図10A)およびCD8a抗体(
図10B)で標識した。
図10Cは、注射の10日後の脾臓のフローサイトメトリー分析である。CD4+T細胞、CD8+T細胞、B細胞(CD45R)、マクロファージ(F4/80)および樹状細胞(CD11c)におけるtdTomato発現を定量した。データは、それぞれ二重(duplicate)で行った3匹のマウスの平均±SDとして提示される。*p<0.05。**p<0.005。***p<0.001。
【
図11】
図11は、CreリコンビナーゼmRNAのマクロファージへのin vivo送達を示す。注射の10日後に脾臓におけるtdTomato発現を共焦点顕微鏡によって検出した。マクロファージをF4/80抗体で標識した。
【
図12】
図12は、静脈内投与によるAi14マウスへのCreリコンビナーゼmRNAのin vivo送達後の脾細胞のフローサイトメトリードットプロットを示すグラフである。送達の10日後、CD4+T細胞およびCD8+T細胞におけるtdTomato発現を分析した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特定の態様において、式Iの化合物およびその薬学的に許容される塩が本明細書に開示される:
【化2】
[式中、
R
5は、-W-L-R
脂質、水素、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、シアノ、ニトロ、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり;ここで、R
5の1つおよび1つのみが-W-L-R
脂質であり;
Lは2価のリンカーであり;
Wは、NR
20、O、またはSであり;
R
脂質は独立して、置換もしくは非置換のC
1-20アルキル、置換もしくは非置換のC
1-20アルケニル、置換もしくは非置換のC
1-20アルキニル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルケニル、または置換もしくは非置換のC
1-20ヘテロアルキニルであり;
R
20は、R
脂質、H、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、またはC
1-6アルキニルである]。
【0009】
特定の実施形態において、WはNR20またはSである。特定の実施形態において、WはSである。特定の実施形態において、WはNR20である。
【0010】
特定の実施形態において、R20はR脂質である。
【0011】
特定の実施形態において、R
脂質は式IIによって表される:
【化3】
[式中、
R
1およびR
2は独立して、H、メチル、OH、NHR
30、またはSHであり;
R
3およびR
4は共にHであり;または、R
3およびR
4は一緒になってオキソ(=O)基を形成し;
Zは、O、NR
30、またはSであり;
XおよびYは独立して、CH
2、NR
30、O、S、またはSeであり;
mは1~3から選択される整数であり;
nは1~14から選択される整数であり;
pは0または1であり;
qは1~10から選択される整数であり;
tは0または1であり;
R
30は、H、C
1-6アルキル、C
1-6アルケニル、またはC
1-6アルキニルである]。
【0012】
特定の実施形態では、R3およびR4は両方ともHである。特定の実施形態では、R3およびR4は一緒になってオキソ(=O)基を形成する。
【0013】
特定の実施形態において、pは0である。特定の実施形態において、pは1である。
【0014】
特定の実施形態において、ZはOまたはNR30である。特定の実施形態では、ZはOである。特定の実施形態において、ZはNR30である。
【0015】
特定の実施形態において、化合物は式IIIの化合物である:
【化4】
【0016】
いくつかの実施形態では、R1およびR2は両方ともHである。特定の実施形態において、R1はHであり、R2はメチルである。特定の実施形態において、R1はHであり、R2はOHである。
【0017】
特定の実施形態では、XおよびYは独立してCH2またはOである。特定の実施形態では、XおよびYは両方ともCH2である。特定の実施形態では、XおよびYは独立してCH2またはOであり、XおよびYは同じではない。
【0018】
特定の実施形態では、XおよびYは独立してCH2またはSである。特定の実施形態では、XおよびYは両方ともSである。特定の実施形態では、XおよびYは独立してCH2またはSであり、XおよびYは同じではない。
【0019】
特定の実施形態において、mは1または2である。特定の実施形態において、mは1である。
【0020】
特定の実施形態において、nは4~12から選択される整数である。特定の実施形態において、nは6~10から選択される整数である。
【0021】
特定の実施形態において、qは2~8から選択される整数である。特定の実施形態において、qは4~8から選択される整数である。
【0022】
特定の実施形態において、tは0である。特定の実施形態において、tは1である。
【0023】
特定の実施形態において、Lは、置換もしくは非置換のC1-6アルキレン、置換もしくは非置換のC1-6アルケニレン、または置換もしくは非置換のC1-6アルキニレン、置換もしくは非置換のC1-6ヘテロアルキレン、置換もしくは非置換のC1-6ヘテロアルケニレン、または置換もしくは非置換のC1-6ヘテロアルキニレンである。
【0024】
特定の実施形態において、Lは、置換または非置換のC1-6アルキレンである。特定の実施形態において、Lは非置換C1-6アルキレンである。特定の実施形態において、Lは、C1-6アルキルで置換されたC1-6アルキレンである。
【0025】
特定の実施形態において、Lは、
【化5】
からなる群より選択される。
【0026】
特定の実施形態において、R5は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニルである。特定の実施形態において、R5はC1-6アルキルである。
【0027】
特定の実施形態では、
【化6】
は、
【化7】
からなる群より選択される。
【0028】
特定の実施形態では、
【化8】
は、
【化9】
からなる群より選択される。
【0029】
特定の実施形態において、R
脂質の各場合が独立して、
【化10】
からなる群より選択される。
【0030】
特定の実施形態において、R
脂質の各場合が独立して、
【化11】
からなる群より選択される。
【0031】
特定の実施形態では、
【化12】
は、
【化13】
からなる群より選択され、R
脂質の各場合が独立して、
【化14】
からなる群より選択される。
【0032】
別の態様では、本明細書に開示される化合物を含むリピドイドナノ粒子が提供される。
【0033】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は、コレステロールをさらに含む。
【0034】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は、DOPEまたはPEG2K-DEPCをさらに含む。
【0035】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は二価ニッケルをさらに含み、化合物は二価ニッケルとキレートする。
【0036】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は、タンパク質または核酸をさらに含む。
【0037】
ある実施形態では、タンパク質または核酸は、GFP-CreまたはCRISPR/Cas9である。ある実施形態では、タンパク質または核酸は、GFP-Creである。ある実施形態では、タンパク質または核酸は、CRISPR/Cas9である。
【0038】
ある実施形態では、二価ニッケルは、非共有結合性相互作用を介してタンパク質または核酸に結合する。
【0039】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は小分子をさらに含む。
【0040】
ある態様において、小分子は抗真菌剤または化学療法剤である。
【0041】
特定の実施形態では、小分子は、ボルテゾミブ(Bortezomib)、イマチニブ(Imatinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、エルロチニブ(Erlotinib)、アファチニブ(Afatinib)、オシメルチニブ(Osimertinib)、ダコミチニブ(Dacomitinib)、ダウノルビシン塩酸塩、シタラビン、フルオロウラシル、イリノテカン塩酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、メトトレキサート、パクリタキセル、ビンクリスチン硫酸塩、エピルビシン、ドセタキセル、シクロホスファミド、カルボプラチン、レナリドミド(Lenalidomide)、イブルチニブ(Ibrutinib)、アビラテロン酢酸エステル、エンザルタミド、ペメトレキセド、パルボシクリブ、ニロチニブ(Nilotinib)、エベロリムス、ルキソリチニブ(Ruxolitinib)、エピルビシン、ピラルビシン、イダルビシン、バルルビシン、アムルビシン、ブレオマイシン、フレオマイシン、ダクチノマイシン、ミトラマイシン、ストレプトゾトシン、ペントスタチン、ミトサン類マイトマイシンC(Mitosanes mitomycin C)、エンジイン類カリケアミシン(Enediynes calicheamycin)、グリコシド類レベッカマイシン(Glycosides rebeccamycin)、マクロライドラクトン類エポチロン(Macrolide lactones epotihilones)、イクサベピロン(Ixabepilone)、ペントスタチン、サリノスポラミドA、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、テニポシド、ビノレルビン、ドセタキセル、カンプトテシン、ハイカムチン、ペデリン、テオペデリン(Theopederins)、アナミド(Annamides)、トラベクテジン、アプリジン、およびエクテナサイジン743(Ecteinascidin 743)(ET743)からなる群より選択される。
【0042】
ある態様において、小分子はアムホテリシンBまたはドキソルビシンである。
【0043】
特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は、約25nm~約1000nmの粒径を有する。特定の実施形態では、リピドイドナノ粒子は、約50nm~約750nmの粒径を有する。
【0044】
さらに別の態様では、本明細書に開示されるリピドイドナノ粒子と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0045】
定義
本明細書において別段定義されない限り、本出願において使用される科学用語および技術用語は、当業者によって通常理解される意味を有するものとする。概して、本明細書に記載される化学、細胞および組織培養、分子生物学、細胞およびがん生物学、神経生物学、神経化学、ウイルス学、免疫学、微生物学、薬理学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの技術は、当技術分野において周知であり、通常使用されるものである。
【0046】
本開示の方法および技法は、別段の指示がない限り、概して、当技術分野でよく知られており、本明細書を通して引用および考察される様々な一般的およびより具体的な参考文献に記載されている従来の方法に従って実施される。例えば、“Principles of Neural Science”, McGraw-Hill Medical, New York, N.Y. (2000); Motulsky, “Intuitive Biostatistics”, Oxford University Press, Inc. (1995); Lodish et al., “Molecular Cell Biology, 4th ed.”, W. H. Freeman & Co., New York (2000); Griffiths et al., “Introduction to Genetic Analysis, 7th ed.”, W. H. Freeman & Co., N.Y. (1999); およびGilbert et al., “Developmental Biology, 6th ed.”, Sinauer Associates, Inc., Sunderland, MA (2000)を参照されたい。
【0047】
本明細書で使用される化学用語は、本明細書で別途定義されない限り、“The McGraw-Hill Dictionary of Chemical Terms”, Parker S., Ed., McGraw-Hill, San Francisco, C.A. (1985)によって例示されるように、当技術分野における従来の使用法に従って使用される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」または「任意選択で」という用語は、後で説明される事象または状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、またその記載が、事象または状況が生じる場合、ならびに生じない場合を含むことを意味する。例えば、「任意選択で置換されたアルキル」とは、アルキルが置換されていてもよいことを意味し、またアルキルが置換されていない場合も指す。
【0049】
本発明の化合物上の置換基および置換パターンは、容易に入手可能な出発物質から当技術分野において公知の技術ならびに以下に記載される方法によって容易に合成され得る化学的に安定な化合物をもたらすことができるように当業者によって選択され得ることが理解される。置換基自体が複数の基で置換されている場合、安定な構造が得られる限り、これらの複数の基は同じ炭素上にあっても異なる炭素上にあってもよいことが理解される。
【0050】
本明細書で使用される場合、「任意選択で置換された」という用語は、所与の構造中の1~6個の水素ラジカルを、以下を含むがこれらに限定されない特定の置換基のラジカルで置き換えることを指す:ヒドロキシル、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、ハロゲン、アルキル、ニトロ、シリル、アシル、アシルオキシ、アリール、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アミノ、アミノアルキル、シアノ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、-OCO-CH2-O-アルキル、-OP(O)(O-アルキル)2、または-CH2-OP(O)(O-アルキル)2。好ましくは、「任意選択で置換された」とは、所与の構造中の1~4個の水素ラジカルを上記の置換基で置換することを指す。より好ましくは、1~3個の水素ラジカルが、上記の置換基によって置換される。置換基はさらに置換され得ることが理解される。
【0051】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」などの冠詞は、そうでないと示されない限り、または文脈から明らかでない限り、1つまたは複数を意味し得る。群の1つまたは複数のメンバー間に「または」を含む請求項または説明は、反対の指示がない限り、または文脈から明らかでない限り、群のメンバーの1つ、2つ以上、または全てが所与の製品またはプロセスに存在するか、それらで使用されるか、またはそれらに別様に関連する場合に満たされると考えられる。本発明は、群の正確に1つのメンバーが、所与の製品またはプロセス中に存在するか、それらで使用されるか、またはそれらに別様に関連している実施形態を含む。本発明は、群のメンバーの1つまたは複数あるいは全てが、所与の製品またはプロセス中に存在するか、それらで使用されるか、またはそれらに別様に関連している実施形態を含む。
【0052】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、飽和脂肪族基を指し、C1~C10直鎖アルキル基またはC1~C10分枝鎖アルキル基を含むが、これらに限定されない。好ましくは、「アルキル」基は、C1~C6直鎖アルキル基またはC1~C6分枝鎖アルキル基を指す。最も好ましくは、「アルキル」基は、C1~C4直鎖アルキル基またはC1~C4分枝鎖アルキル基を指す。「アルキル」の例としては、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-ペンチル、2-ペンチル、3-ペンチル、ネオペンチル、1-ヘキシル、2-ヘキシル、3-ヘキシル、1-ヘプチル、2-ヘプチル、3-ヘプチル、4-ヘプチル、1-オクチル、2-オクチル、3-オクチルまたは4-オクチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。「アルキル」基は置換されていてもよい。
【0053】
用語「アシル」は、当該技術分野で認識されており、一般式ヒドロカルビルC(O)-、好ましくはアルキルC(O)-によって表される基を指す。
【0054】
用語「アシルアミノ」は、当該技術分野で認識されており、アシル基で置換されたアミノ基を指し、例えば、式ヒドロカルビルC(O)NH-によって表すことができる。
【0055】
用語「アシルオキシ」は、当該技術分野で認識されており、一般式ヒドロカルビルC(O)O-、好ましくはアルキルC(O)O-によって表される基を指す。
【0056】
用語「アルコキシ」は、それに結合した酸素を有するアルキル基を指す。代表的なアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、tert-ブトキシなどが挙げられる。
【0057】
「アルコキシアルキル」という用語は、アルコキシ基で置換されたアルキル基を指し、一般式アルキル-O-アルキルで表すことができる。
【0058】
用語「アルキル」は、直鎖アルキル基、分枝鎖アルキル基、シクロアルキル(脂環式)基、アルキル置換シクロアルキル基、およびシクロアルキル置換アルキル基を含む、飽和脂肪族基を指す。好ましい実施形態では、直鎖または分枝鎖アルキルは、その骨格に30個以下の炭素原子(例えば、直鎖についてはC1-30、分枝鎖についてはC3-30)、より好ましくは20個以下の炭素原子を有する。
【0059】
さらに、本明細書、実施例、および特許請求の範囲を通して使用される「アルキル」という用語は、非置換アルキル基および置換アルキル基の両方を含むことが意図され、後者は、炭化水素骨格の1つまたは複数の炭素上の水素に置き換わる置換基を有するアルキル部分を指し、トリフルオロメチルおよび2,2,2-トリフルオロエチルなどのハロアルキル基を含む。
【0060】
「Cx-y」または「Cx~Cy」という用語は、アシル、アシルオキシ、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはアルコキシなどの化学的部分と共に使用される場合、鎖中にx~y個の炭素を含有する基を含むことを意味する。C0アルキルは、その基が末端位置にある場合は水素、内部にある場合は結合を示す。例えば、C1-6アルキル基は、鎖中に1~6個の炭素原子を含有する。
【0061】
本明細書で使用される「アルキルアミノ」という用語は、少なくとも1つのアルキル基で置換されたアミノ基を指す。
【0062】
用語「アルキルチオ」は、本明細書で使用される場合、アルキル基で置換されたチオール基を指し、一般式アルキルS-によって表され得る。
【0063】
用語「アミド」は、本明細書で使用される場合、以下の基を指す:
【化15】
[式中、R
9およびR
10は、それぞれ独立して、水素もしくはヒドロカルビル基を表すか、またはR
9およびR
10は、それらが結合しているN原子と一緒に、環構造中に4~8個の原子を有する複素環を完成させる]。
【0064】
用語「アミン」および「アミノ」は、当該技術分野で認識されており、非置換アミンおよび置換アミンの両方ならびにそれらの塩を指し、例えば、以下によって示すことができる基を指す:
【化16】
[式中、R
9、R
10、およびR
10’は、それぞれ独立して、水素またはヒドロカルビル基を表すか、またはR
9およびR
10は、それらが結合しているN原子と一緒に、環構造中に4~8個の原子を有する複素環を完成させる]。
【0065】
用語「アミノアルキル」は、本明細書で使用される場合、アミノ基で置換されたアルキル基を指す。
【0066】
用語「アラルキル」は、本明細書で使用される場合、アリール基で置換されたアルキル基を指す。
【0067】
本明細書で使用される用語「アリール」は、環の各原子が炭素である置換または非置換の単環芳香族基を含む。好ましくは、環は5~7員環、より好ましくは6員環である。用語「アリール」はまた、2つ以上の環式環を有する多環式環系を含み、2つ以上の炭素が2つの隣接する環に共通であり、環の少なくとも1つは芳香族であり、例えば、他の環式環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、および/またはヘテロシクリルであり得る。アリール基としては、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、フェノール、アニリンなどが挙げられる。
【0068】
用語「カルバメート」は、当該技術分野で認識されており、以下の基を指す:
【化17】
[式中、R
9およびR
10は、それぞれ独立して、水素またはヒドロカルビル基を表す]。
【0069】
用語「カルボシクリルアルキル」は、本明細書で使用される場合、炭素環(カルボシクリル)基で置換されたアルキル基を指す。
【0070】
用語「炭素環」は、5~7員の単環式環および8~12員の二環式環を含む。二環式炭素環の各環は、飽和、不飽和および芳香族環から選択され得る。炭素環は、2つの環の間で1つ、2つ、または3つ、またはそれ以上の原子が共有される二環式分子を含む。用語「縮合炭素環」は、環の各々が他の環と2つの隣接する原子を共有する二環式炭素環を指す。縮合炭素環の各環は、飽和、不飽和および芳香族環から選択され得る。例示的な実施形態では、芳香族環、例えばフェニルは、飽和もしくは不飽和環、例えばシクロヘキサン、シクロペンタン、またはシクロヘキセンに縮合され得る。飽和、不飽和および芳香族二環式環の任意の組み合わせが、原子価が許す限り、炭素環の定義に含まれる。例示的な「炭素環」には、シクロペンタン、シクロヘキサン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,5-シクロオクタジエン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、ビシクロ[4.2.0]オクタ-3-エン、ナフタレンおよびアダマンタンが含まれる。例示的な縮合炭素環としては、デカリン、ナフタレン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、ビシクロ[4.2.0]オクタン,4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-インデンおよびビシクロ[4.1.0]ヘプタ-3-エンが挙げられる。「炭素環」は、水素原子を有することができる任意の1つまたは複数の位置で置換され得る。
【0071】
用語「カルボシクリルアルキル」は、本明細書で使用される場合、炭素環基で置換されたアルキル基を指す。
【0072】
用語「カーボネート」は、当該技術分野で認識されており、基-OCO2-を指す。
【0073】
用語「カルボキシ」は、本明細書で使用される場合、式-CO2Hによって表される基を指す。
【0074】
用語「エステル」は、本明細書で使用する場合、基-C(O)OR9を指し、R9はヒドロカルビル基を表す。
【0075】
本明細書で使用される「エーテル」という用語は、酸素を介して別のヒドロカルビル基に結合したヒドロカルビル基を指す。したがって、ヒドロカルビル基のエーテル置換基は、ヒドロカルビル-O-であり得る。エーテルは対称であっても非対称であってもよい。エーテルの例には、複素環-O-複素環およびアリール-O-複素環が含まれるが、これらに限定されない。エーテルには、「アルコキシアルキル」基が含まれ、一般式アルキル-O-アルキルで表すことができる。
【0076】
用語「ハロ」および「ハロゲン」は、本明細書で使用される場合、ハロゲンを意味し、クロロ、フルオロ、ブロモおよびヨードを含む。
【0077】
用語「ヘタラルキル(“hetaralkyl)」および「ヘテロアラルキル」は、本明細書で使用される場合、ヘタリール(hetaryl)基で置換されたアルキル基を指す。
【0078】
「ヘテロアリール」および「ヘタリール」という用語には、置換または非置換の芳香族単環構造、好ましくは5~7員環、より好ましくは5~6員環が含まれ、その環構造は、少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは1~4個のヘテロ原子、より好ましくは1個または2個のヘテロ原子を含む。「ヘテロアリール」および「ヘタリール」という用語には、2つ以上の環式環を有する多環式環系も含まれ、2つ以上の炭素が2つの隣接する環に共通しており、環の少なくとも1つはヘテロ芳香族であり、例えば、他の環式環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、および/またはヘテロシクリルであり得る。ヘテロアリール基としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、およびピリミジンなどが挙げられる。
【0079】
本明細書で使用される用語「ヘテロ原子」は、炭素または水素以外の任意の元素の原子を意味する。好ましいヘテロ原子は、窒素、酸素および硫黄である。
【0080】
用語「ヘテロシクリルアルキル」は、本明細書で使用される場合、複素環基で置換されたアルキル基を指す。
【0081】
用語「ヘテロシクリル」、「複素環」および「複素環式」は、置換または非置換の非芳香族環構造を指し、好ましくは3~10員環、より好ましくは3~7員環であり、その環構造は、少なくとも1個のヘテロ原子、好ましくは1~4個のヘテロ原子、より好ましくは1個または2個のヘテロ原子を含む。用語「ヘテロシクリル」および「ヘテロ環式」には、2つ以上の環式環を有する多環式環系も含まれ、2つ以上の炭素が2つの隣接する環に共通であり、環の少なくとも1つは複素環式環であり、例えば、他の環式環は、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリール、および/またはヘテロシクリルであり得る。ヘテロシクリル基としては、例えば、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、モルホリン、ラクトン、ラクタムなどが挙げられる。
【0082】
用語「ヒドロカルビル」は、本明細書で使用される場合、=Oまたは=S置換基を有さず、典型的には少なくとも1つの炭素-水素結合および主として炭素骨格を有する、炭素原子を介して結合される基を指すが、任意選択でヘテロ原子を含んでもよい。したがって、メチル、エトキシエチル、2-ピリジルなどの基、およびトリフルオロメチルでさえも、本出願の目的ではヒドロカルビルであると考えられるが、アセチル(連結炭素上に=O置換基を有する)およびエトキシ(炭素ではなく酸素を介して連結される)などの置換基はそうではない。ヒドロカルビル基としては、限定されないが、アリール、ヘテロアリール、炭素環、複素環、アルキル、アルケニル、アルキニル、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
用語「ヒドロキシアルキル」は、本明細書で使用される場合、ヒドロキシ基で置換されたアルキル基を指す。
【0084】
用語「低級(lower)」は、アシル、アシルオキシ、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアルコキシなどの化学的部分と併せて使用される場合、置換基中に10個以下、好ましくは6個以下の原子が存在する基を含むことを意味する。「低級アルキル」は、例えば、10個以下、好ましくは6個以下の炭素原子を含むアルキル基を指す。特定の実施形態では、本明細書で定義されるアシル、アシルオキシ、アルキル、アルケニル、アルキニルまたはアルコキシ置換基は、これらが単独で現れても、またはヒドロキシアルキルおよびアラルキル(この場合、例えば、アルキル置換基中の炭素原子を数えるとき、アリール基中の原子は数えられない)の記載中などの他の置換基と組み合わせて現れても、それぞれ低級アシル、低級アシルオキシ、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルキニル、または低級アルコキシである。
【0085】
用語「ポリシクリル」、「多環」および「多環式」は、2つ以上の原子が2つの隣接する環に共通である2つ以上の環(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリールおよび/またはヘテロシクリル)を指し、例えば、環は「縮合環」である。多環の環のそれぞれは置換されていても置換されていなくてもよい。特定の実施形態では、多環の各環は、環中に3~10個、好ましくは5~7個の原子を含む。
【0086】
用語「スルフェート」は、当該技術分野で認識されており、基-OSO3Hまたはその薬学的に許容される塩を指す。
【0087】
用語「スルホンアミド」は、当該技術分野で認識されており、以下の一般式で表される:
【化18】
[式中、R
9およびR
10は、独立して、水素またはヒドロカルビルを表す]。
【0088】
用語「スルホキシド」は当該技術分野で認識されており、基-S(O)-を指す。
【0089】
用語「スルホネート」は、当該技術分野で認識されており、基SO3Hまたはその薬学的に許容される塩を指す。
【0090】
用語「スルホン」は、当該技術分野で認識されており、基-S(O)2-を指す。
【0091】
用語「置換された」は、骨格の1つまたは複数の炭素上の水素に置き換わる置換基を有する部分を指す。「置換」または「で置換された」は、そのような置換が、置換された原子および置換基の許容される原子価に従い、かつその置換が、例えば、転位、環化、脱離などによる変換を自発的に受けない安定な化合物をもたらすという暗黙の条件を含むことが理解されるであろう。本明細書中で使用される場合、用語「置換された」は、有機化合物の全ての許容される置換基を含むことが企図される。広い態様において、許容される置換基には、有機化合物の非環式および環式、分枝および非分枝、炭素環式および複素環式、芳香族および非芳香族の置換基が含まれる。許容される置換基は、適切な有機化合物について1つまたは複数であってよく、同じでも異なっていてもよい。本発明の目的のために、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基および/またはヘテロ原子の原子価を満たす本明細書に記載の有機化合物の任意の許容される置換基を有していてよい。置換基は、本明細書に記載の任意の置換基、例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボニル(例えば、カルボキシル、アルコキシカルボニル、ホルミル、またはアシル)、チオカルボニル(例えば、チオエステル、チオアセテート、またはチオホルメート)、アルコキシル、ホスホリル、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネート、アミノ、アミド、アミジン、イミン、シアノ、ニトロ、アジド、スルフヒドリル、アルキルチオ、スルフェート、スルホネート、スルファモイル、スルホンアミド、スルホニル、ヘテロシクリル、アラルキル、または芳香族もしくはヘテロ芳香族部分を含むことができる。炭化水素鎖上の置換された部分は、適切な場合、それ自体が置換され得ることを当業者は理解するであろう。
【0092】
用語「チオアルキル」は、本明細書で使用される場合、チオール基で置換されたアルキル基を指す。
【0093】
用語「チオエステル」は、本明細書で使用される場合、基-C(O)SR9または-SC(O)R9を指し、ここでR9はヒドロカルビルを表す。
【0094】
本明細書で使用される「チオエーテル」という用語は、酸素が硫黄で置き換えられたエーテルに相当する。
【0095】
用語「尿素」は、当該技術分野で認識されており、下記一般式によって表すことができる:
【化19】
[式中、R
9およびR
10は、独立して、水素またはヒドロカルビルを表す]。
【0096】
本明細書で使用される「調節する(modulate)」という用語には、機能または活性(細胞増殖など)の阻害または抑制、ならびに機能または活性の増強が含まれる。
【0097】
「薬学的に許容される」という語句は、当該技術分野で認識されている。ある実施形態では、この用語は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適した組成物、賦形剤、アジュバント、ポリマー、ならびに他の材料および/または剤形を含む。
【0098】
「塩」は、本明細書において、酸付加塩または塩基付加塩を指すために使用される。
【0099】
本開示の方法および組成物において有用な化合物の多くは、その構造中に少なくとも1つの立体中心を有する。この立体中心は、RまたはS配置で存在してよく、前記RおよびS表記は、Pure Appl. Chem. (1976), 45, 11-30に記載される規則に対応して使用される。本開示は、化合物、塩、プロドラッグまたはそれらの混合物のエナンチオマーおよびジアステレオマー形態などのすべての立体異性体形態を企図する(立体異性体のすべての可能な混合物を含む)。例えば、国際公開第01/062726号を参照されたい。
【0100】
さらに、アルケニル基を含む特定の化合物は、Z(一緒に(zusammen))またはE(逆に(entgegen))異性体として存在し得る。それぞれの場合において、本開示は、混合物および別々の個々の異性体の両方を含む。
【0101】
化合物のいくつかはまた、互変異性形態で存在し得る。そのような形態は、本明細書に記載される式に明示的に示されないが、本開示の範囲内に含まれることが意図される。
【0102】
「薬学的に許容される」は、連邦または州の政府の規制当局または米国以外の国の対応する当局によって承認されているまたは承認可能であるか、あるいは動物、より具体的にはヒトにおける使用のために米国薬局方または他の一般的に認められている薬局方に掲載されていることを意味する。
【0103】
「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、親化合物の所望の薬理活性を有する本発明の化合物の塩を指す。特に、このような塩は非毒性であり、無機または有機酸付加塩および塩基付加塩であり得る。具体的には、そのような塩には、(1)例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸を用いて形成される酸付加塩;または例えば、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクタ-2-エン-l-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などの有機酸を用いて形成される酸付加塩;あるいは、(2)親化合物中に存在する酸性プロトンが、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンなどの金属イオンにより置き換えられたとき;あるいはエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルグルカミン等の有機塩基と配位するときに形成される塩が含まれる。塩にはさらに、単なる例として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなど;および、化合物が塩基性官能基を含む場合、非毒性有機酸または無機酸の塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシル酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩などが含まれる。
【0104】
「薬学的に許容されるカチオン」という用語は、酸性官能基の許容されるカチオン性対イオンを指す。このようなカチオンは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムカチオンなどによって例示される(例えば、Berge, et al., J. Pharm. Sci. 66 (1):1-79 (January 77)を参照されたい)。
【0105】
「薬学的に許容されるビヒクル」は、本発明の化合物がそれと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体を指す。
【0106】
「薬学的に許容される代謝的に切断可能な基」は、in vivoで切断されて、本明細書に示される構造式の親分子を生じる基を指す。代謝的に切断可能な基の例としては、-COR、-COOR、-CONRR、および-CH2OR基が挙げられ、式中、Rは、各出現において独立して、アルキル、トリアルキルシリル、炭素環式アリール、またはアルキル、ハロゲン、ヒドロキシもしくはアルコキシの1つもしくは複数で置換された炭素環式アリールから選択される。代表的な代謝的に切断可能な基の具体例としては、アセチル、メトキシカルボニル、ベンゾイル、メトキシメチルおよびトリメチルシリル基が挙げられる。
【0107】
「プロドラッグ」は、切断可能な基を有し、加溶媒分解によりまたは生理学的条件下で、in vivoで薬学的に活性である本発明の化合物になる化合物(本発明の化合物の誘導体を含む)を指す。このような例には、コリンエステル誘導体など、N-アルキルモルホリンエステルなどが含まれるが、これらに限定されない。本発明の化合物の他の誘導体は、それらの酸および酸誘導体形態の両方において活性を有するが、酸感受性形態において、しばしば哺乳動物生物における溶解性、組織適合性、または遅延放出の利点を提供する(Bundgard, H., Design of Prodrugs, pp. 7-9, 21-24, Elsevier, Amsterdam 1985を参照のこと)。プロドラッグには、当業者に周知の酸誘導体、例えば、親酸と好適なアルコールとの反応によって調製されるエステル、または親酸化合物と置換もしくは非置換アミンとの反応によって調製されるアミド、または酸無水物、もしくは混合無水物が含まれる。本発明の化合物にペンダントしている酸性基に由来する単純な脂肪族または芳香族エステル、アミドおよび無水物は、特定のプロドラッグである。ある場合には、(アシルオキシ)アルキルエステルまたは(アルコキシカルボニル)オキシ)アルキルエステルなどの二重エステル型プロドラッグを調製することが望ましい。特に、本発明の化合物のC1~C8アルキル、C2~C8アルケニル、C2~C8アルキニル、アリール、C7~C12置換アリール、およびC7~C12アリールアルキルエステル。
【0108】
「溶媒和物」は、通常は加溶媒分解反応によって、溶媒または水(「水和物」とも呼ばれる)と会合する化合物の形態を指す。この物理的会合は水素結合を含む。従来の溶媒としては、水、エタノール、酢酸などが挙げられる。本発明の化合物は、例えば、結晶形態で調製され、溶媒和または水和され得る。適切な溶媒和物には、水和物などの薬学的に許容される溶媒和物が含まれ、さらに、化学量論的溶媒和物および非化学量論的溶媒和物の両方が含まれる。特定の例において、溶媒和物は、例えば、1つまたは複数の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれる場合、単離可能になる。「溶媒和物」は、溶液相および単離可能な溶媒和物の両方を包含する。代表的な溶媒和物としては、水和物、エタノール溶媒和物(ethanolate)およびメタノール溶媒和物(methanolate)が挙げられる。
【0109】
投与が企図される「対象」としては、ヒト(すなわち、任意の年齢群の男性または女性、例えば、小児対象(例えば、乳児、幼児、青年)または成人対象(例えば、若年成人、中年成人または高齢者))および/または非ヒト動物、例えば、霊長類(例えば、カニクイザル、アカゲザル)、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、げっ歯類、ネコ、および/またはイヌなどの哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、対象はヒトである。ある態様において、対象は非ヒト動物である。「ヒト」、「患者」、および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0110】
「有効量」は、疾患を治療または予防するために対象に投与された場合に、そのような治療または予防をもたらすのに充分な化合物の量を意味する。「有効量」は、化合物、疾患およびその重症度、ならびに処置される対象の年齢、体重などに応じて変動し得る。「治療有効量」は、治療的処置のための有効量を指す。「予防的有効量」は、予防的処置のための有効量を指す。
【0111】
「予防する」または「予防」または「予防的処置」は、疾患または障害を獲得または発症するリスクの低減(すなわち、疾患を引き起こす作用物質にまだ曝露されていないか、または疾患の発症前に疾患にかかりやすい対象において、疾患の臨床症状の少なくとも1つを発症させないこと)を指す。
【0112】
「防御(Prophylaxis)」という用語は、「予防(prevention)」に関連し、その目的が疾患を治療または治癒するのではなく予防することである手段または手順を指す。予防手段の非限定的な例には、ワクチンの投与;体を動かさないために血栓症のリスクがある入院中の患者への低分子ヘパリンの投与;およびマラリアが風土病であるかマラリアに罹患するリスクが高い地域への訪問に先立って行われるクロロキン等の抗マラリア剤の投与が含まれ得る。
【0113】
任意の疾患または障害の「処置する(Treating)」または「処置(treatment)」または「治療的処置」は、一実施形態では、疾患または障害を改善すること(すなわち、疾患の停止、またはその臨床症状の少なくとも1つの徴候、程度もしくは重症度の低減)を指す。別の実施形態では、「処置する」または「処置」は、少なくとも1つの身体的パラメータを改善することを指し、これは、対象によって識別可能でなくてもよい。さらに別の実施形態では、「処置する」または「処置」は、身体的に(例えば、識別可能な症状の安定化)、生理学的に(例えば、身体パラメータの安定化)のいずれかまたは両方で、疾患または障害を調節することを指す。さらなる態様において、「処置する」または「処置」は、疾患の進行を遅らせることに関する。
【0114】
本明細書で使用される場合、「同位体バリアント」という用語は、そのような化合物を構成する原子の1つまたは複数に不自然な割合の同位体を含む化合物を指す。例えば、化合物の「同位体バリアント」は、例えば重水素(2HまたはD)、炭素13(13C)、窒素15(15N)などの1つまたは複数の非放射性同位体を含むことができる。そのような同位体置換が行われた化合物において、存在する場合、以下の原子は、例えば、任意の水素が「2H/D」であり得るように、任意の炭素が13Cであり得るように、または任意の窒素が15Nであり得るように、変動してよく、そのような原子の存在および配置は、当業者の技能の範囲内で決定され得ることが理解されるであろう。同様に、本発明は、例えば、得られた化合物が薬物および/または基質の組織分布研究に使用され得る場合、放射性同位体を有する同位体バリアントの調製を含み得る。放射性同位体トリチウム、すなわち3H、および炭素14、すなわち14Cは、それらの組み込みの容易さおよび検出手段の容易さの観点から、この目的のために特に有用である。さらに、11C、18F、15O、13Nなどの陽電子放出同位体で置換された化合物を調製することもでき、それらは基質受容体の占有率を調べるための陽電子放出断層撮影(PET)研究に有用である。本明細書に提供される化合物のすべての同位体バリアントは、放射性物質であるか否かにかかわらず、本発明の範囲内に包含されることが意図される。
【0115】
同じ分子式を有するが、それらの原子の結合の性質もしくは順序、または空間におけるそれら原子の配置が異なる化合物は、「異性体」と呼ばれることも理解されたい。空間におけるそれらの原子の配置が異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる
【0116】
互いに鏡像でない立体異性体は「ジアステレオマー」と呼ばれ、互いに重ね合わせることができない鏡像であるものは「エナンチオマー(鏡像異性体)」と呼ばれる。化合物が不斉中心を有する場合、例えば、4つの異なる基に結合する場合、一対のエナンチオマーが可能である。エナンチオマーは、その不斉中心の絶対配置によって特徴付けることができ、CahnおよびPrelogのR-とS-の配列決定規則によって、または分子が偏光面を回転させる様式によって記載され、右旋性または左旋性(すなわち、それぞれ(+)-または(-)-異性体である)として指定される。キラル化合物は、個々のエナンチオマーまたはその混合物のいずれかとして存在し得る。等比率のエナンチオマーを含有する混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0117】
「互変異性体」は、特定の化合物構造の交換可能な形態であり、水素原子および電子の変位が異なる化合物を指す。したがって、2つの構造は、電子および原子(通常はH)の移動によって平衡状態にあり得る。例えば、エノールとケトンは、酸または塩基のいずれかで処理することによって迅速に相互変換されるため、互変異性体である。互変異性の別の例は、フェニルニトロメタンのアシ(aci)-およびニトロ(nitro)-形態であり、これらは酸または塩基での処理によって同様に形成される。互変異性形態は、目的の化合物の最適な化学反応性および生物学的活性の達成に関連し得る。
【0118】
本明細書で使用される場合、純粋なエナンチオマー化合物は、その化合物の他のエナンチオマーまたは立体異性体を実質的に含まない(すなわち、エナンチオマー過剰である)。言い換えれば、化合物の「S」形態は、化合物の「R」形態を実質的に含まず、したがって、「R」形態のエナンチオマー過剰である。「エナンチオマー的に純粋な」または「純粋なエナンチオマー」という用語は、化合物が95重量%超、96重量%超、97重量%超、98重量%超、98.5重量%超、99重量%超、99.2重量%超、99.5重量%超、99.6重量%超、99.7重量%超、99.8重量%超、または99.9重量%超のエナンチオマーを含むことを意味する。特定の実施形態では、重量は、化合物のすべてのエナンチオマーまたは立体異性体の総重量に基づく。
【0119】
本明細書で使用される場合、他に示されない限り、「エナンチオマー的に純粋なR-化合物」という用語は、少なくとも約95重量%のR-化合物および最大で約5重量%のS-化合物、少なくとも約99重量%のR-化合物および最大で約1重量%のS-化合物、または少なくとも約99.9重量%のR-化合物および最大で約0.1重量%のS-化合物を指す。特定の実施形態では、重量は化合物の総重量に基づく。
【0120】
本明細書で使用される場合、他に示されない限り、「エナンチオマー的に純粋なS-化合物」または「S-化合物」という用語は、少なくとも約95重量%のS-化合物および最大で約5重量%のR-化合物、少なくとも約99重量%のS-化合物および最大で約1重量%のR-化合物、または少なくとも約99.9重量%のS-化合物および最大で約0.1重量%のR-化合物を指す。ある実施形態では、重量は化合物の総重量に基づく。
【0121】
本明細書において提供される組成物において、エナンチオマー的に純粋な化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、水和物もしくはプロドラッグは、他の活性成分または不活性成分とともに存在し得る。例えば、エナンチオマー的に純粋なR化合物を含む医薬組成物は、例えば、約90%の賦形剤および約10%のエナンチオマー的に純粋なR化合物を含むことができる。特定の実施形態において、このような組成物中のエナンチオマー的に純粋なR化合物は、例えば、化合物の総重量の少なくとも約95重量%のR化合物および最大で約5重量%のS化合物を含み得る。例えば、エナンチオマー的に純粋なS-化合物を含む医薬組成物は、例えば、約90%の賦形剤および約10%のエナンチオマー的に純粋なS-化合物を含むことができる。特定の実施形態では、このような組成物中のエナンチオマー的に純粋なS-化合物は、例えば、化合物の総重量の少なくとも約95重量%のS-化合物および最大で約5重量%のR-化合物を含むことができる。特定の実施形態では、活性成分は、賦形剤または担体をほとんどまたは全く含まずに製剤化することができる。
【0122】
本発明の化合物は、1つまたは複数の不斉中心を有し得る;したがって、そのような化合物は、個々の(R)-もしくは(S)-立体異性体として、またはそれらの混合物として製造することができる。
【0123】
別段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲における特定の化合物の記載または命名は、個々のエナンチオマーおよびその混合物(ラセミ体またはその他)の両方を含むことが意図される。立体化学の決定および立体異性体の分離のための方法は、当技術分野において周知である。
【0124】
有機合成の当業者は、安定な化学的に実現可能な複素環式環に含まれるヘテロ原子の最大数は、それが芳香族であるか非芳香族であるかにかかわらず、環のサイズ、不飽和度、およびヘテロ原子の原子価によって決定されることを認識するであろう。一般に、複素環式環は、複素芳香族環が化学的に実現可能でかつ安定である限り、1~4個のヘテロ原子を有し得る。
【実施例】
【0125】
本明細書に記載される本発明がより完全に理解され得るように、以下の実施例が記載される。本出願に記載される実施例は、本明細書に提供される化合物、組成物、材料、デバイス、および方法を例示するために提供され、その範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0126】
材料および方法
リピドイド合成
リピドイド合成のための化学物質は、Sigma-Aldrichから購入し、受け取ったままで使用した。テフロン(登録商標)で裏打ちしたガラス製スクリュートップバイアル中において、脂肪族アミンヘッドと、アクリレートテール(O17O、O17S、O17Se、O18S-S、O16S-S、およびN16S-S)またはエポキシドテール(EC18およびEC16)のいずれかを、1対2.4のモル比で、70℃で48時間混合した。Teledyne Iscoクロマトグラフィーシステムを用いて粗生成物を精製した。
【0127】
ナノ粒子製剤
リピドイド、コレステロール、DOPE、およびDSPE-PEGをすべて、ナノ粒子作製の前にエタノール溶液に溶解させた。リピドイド製剤について、16:4:1:1(リピドイド:コレステロール:DOPE:DSPE-PEG)w/w比を選択した(
図1A)。エタノール溶液を3倍量の25mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.2)に滴加した。製剤化したナノ粒子を3.5K MWCO Slide-A-Lyzer透析装置(Thermo Fisher)において少なくとも2時間透析した。
【0128】
ヒト初代CD8+T細胞の単離
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)をResearch Blood Components,LLCから購入した。Lympholyte-H(Cedarlane)を用いた密度勾配遠心分離によってリンパ球を単離し、PBSで洗浄した。赤血球をRBC溶解バッファー(Multi-species)(eBioscience)を用いて溶解し、PBSで洗浄した。CD8+T細胞単離キット、Human(Miltenyi Biotec)を製造業者のプロトコルに従って使用してCD8+T細胞を単離した。精製したCD8+T細胞を、CD3+抗体を用いたフローサイトメトリーによって特徴付けた。
【0129】
リピドイドのスクリーニングのためのIn vitroルシフェラーゼアッセイ
48ウェルプレート中の10ng/mLの組換えヒトIL-2(BD Biosciences)、ImmunoCult Human CD3/CD28 T cell Activator(STEMCELL Technologies)、および100U/mLのPen-Strep(Gibco)を含有する250μLの無血清RPMI培地に、ヒト初代CD8+T細胞を25,000細胞/ウェルで播種した。播種直後にFLuc mRNAがT細胞に送達された。各ウェルについて、0.5μgのCleanCap FLuc mRNA(TriLink Biotechnologies)および5μgのリピドイドを50μLの25mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.2)中で混合し、封入のために室温で15分間インキュベートした。次いで、mRNA/リピドイド複合体を、それぞれ1.7μg/mLおよび17μg/mLの最終濃度で細胞培養培地に添加した。T細胞を37℃で6時間インキュベートし、次いで溶解して、ホタルルシフェラーゼアッセイキット(Firefly Luciferase Assay Kit) 2.0(Biotium)およびSYNERGY H1マイクロプレートリーダー(BioTek)を使用して、ルシフェラーゼ発現を測定した。グラフは、三重の実験の平均発光を表し、エラーバーは±SDで表した。最良の送達時間およびリピドイド濃度は、それぞれ約6時間および30μg/mLであることが見出された(
図1B~1C)。
【0130】
In vivo FLuc mRNA送達および生物発光
リピドイド/mRNA複合体を上記のように調製した。15μgのCleanCap FLuc mRNA(5moU)(TriLink Biotechnologies)および150μgのリピドイドを、150μLのPBSの総体積でマウスあたり使用した。リピドイド/mRNA複合体をBALB/cマウスに静脈内注射した。注射の6時間後、3mgのD-ルシフェリンを腹腔内に注射し、IVIS Spectrum CT Biophotonic Imager(PerkinElmer)を用いて生物発光を測定した。バイオイメージング後、マウスを屠殺し、各器官からの発光もIVISを用いて測定した。次いで、T細胞へのFLuc mRNA送達効力をルシフェラーゼアッセイによって定量した。脾細胞を70μmセルストレーナーに通し、続いてRBC溶解バッファー(Multi-species)(eBioscience)を用いて赤血球を溶解することにより、脾臓から単細胞懸濁液を回収した。細胞をPBSで1回洗浄し、製造業者のプロトコルに従ってCD8a MicroBeads、マウス(Miltenyi Biotec)を用いてCD8+T細胞を回収した。脾細胞および他の器官を、ホタルルシフェラーゼ溶解バッファー(Firefly Luciferase Lysis Buffer)(Biotium)を用いて溶解し、ホタルルシフェラーゼアッセイキット(Firefly Luciferase Assay Kit)2.0(Biotium)およびSYNERGYHIマイクロプレートリーダー(BioTek)を用いて発光強度を測定した。Pierce BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific)を用いて総タンパク質量を定量した。ルシフェラーゼ強度を、細胞または組織中の総タンパク質量に対して正規化した。
【0131】
in vivo Cre mRNA送達および共焦点顕微鏡観察
リピドイド/mRNA複合体を上記のように調製した。15μgのCleanCap Cre mRNA(5moU)(TriLink Biotechnologies)および150μgのリピドイドを、150μLのPBSの総体積でマウスあたり使用した。リピドイド/mRNA複合体をAi14マウスに5日毎に2回静脈内注射した。最初の注射の10日後、マウスを屠殺し、脾臓を回収した。共焦点顕微鏡イメージングのために、脾臓を15μmの厚さに凍結切片化した。切片をPBSで洗浄し、アセトンで固定し、続いてCD3ε(APC)、CD8a(APC)、またはF480(APC)に対する蛍光抗体で染色した。SP8共焦点顕微鏡(Leica)を用いてtdTomatoおよび抗体からの蛍光シグナルを観察した。フローサイトメトリー分析のために、脾細胞を100μmセルストレーナーに通し、続いてRBC溶解バッファー(Multi-species)(eBioscience)を用いて赤血球を溶解することにより、単細胞懸濁液を脾臓から収集した。細胞をPBSで1回洗浄し、フローサイトメトリー染色バッファー(Flow Cytometry Staining Buffer)(eBioscience)中においてCD4(APC)およびCD8a(APC)に対する蛍光抗体で染色した。LSR-IIフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて蛍光シグナルを測定した。
【0132】
結果および考察
ヒト初代CD8+T細胞へのmRNA送達のためのリピドイドのラフスクリーニング
カチオン性脂質様材料(リピドイド)は、マイケル付加反応によって、親水性アミンヘッドおよび疎水性炭素テールのコンビナトリアル手法で合成される(
図3Aおよび3B)。
【0133】
核酸およびタンパク質送達について比較的良好な有効性を示したリピドイドを選択し、in vitroでの初代Tリンパ球へのルシフェラーゼmRNA送達についてラフスクリーニングを行った(
図3C)。リピドイドは、R-OnX、R-NnXまたはR-ECnの形で命名規則を使用して命名した。全ての場合において、「R」は、
図3B(左の列)に示されるアミン番号を示し、「n」は、原子置換前の疎水性テールにおける炭素の数を示し、「X」は、テールにおけるヘテロ原子(O、S、Se、またはジスルフィド)の含有量を示し、「EC」は、エポキシドからリピドイドテールが合成されたことを示す。第1段階のラフスクリーニングのために、3つの賦形剤、すなわち、コレステロール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-[ポリ(エチレングリコール)-2000](DSPE-PEG)を用いて製剤化されたリピドイドおよび非製剤化リピドイドの両方を試験した。選択されたリピドイドのいずれも、単独で使用した場合にTリンパ球への有効な送達を示さなかったが、いくつかのリピドイドは、上記の賦形剤と共に製剤化した場合に有効な送達を示したことが見出された(
図3C)。様々なライブラリの中で、カルコゲン(O、S、Se)含有テールを有するライブラリが最も有効な送達を示した(
図3C)。興味深いことに、アミンヘッド93(l-(3-アミノプロピル)イミダゾール)を有するリピドイドは、全てのテールバリアント(93-O17O、93-O17S、および93-O17Se)において常に有効な送達を示した(
図3C)。mRNA単独での処置は発光発現を示さず、mRNA自体は、有効なリピドイドなしでは細胞に入ることができないことを示す。さらに、最も一般的に使用される市販の脂質試薬であるLipofectamine 2000(LF2000)でさえ、トランスフェクション効果を全く示さず、非ウイルス粒子によるT細胞トランスフェクションにおける大きな課題を明らかにした。ラフスクリーニングの結果によれば、イミダゾール基を有するリピドイド(アミンヘッド93)は、Tリンパ球トランスフェクションにおいて大きな可能性を有することが見出された。
【0134】
イミダゾールおよびイミダゾールアナログを含むリピドイドの合成および詳細スクリーニング
ラフスクリーニングの結果に基づいて、イミダゾールが初代Tリンパ球へのmRNA送達のためのリピドイドの重要な構造であることが決定された。
図4Aに示すイミダゾールまたはイミダゾールアナログを含有する新しいリピドイドをその後合成した。
【0135】
イミダゾールまたはイミダゾールアナログ含有アミンヘッドを4つの群に分類した:i)イミダゾールとアミン基との間の炭素スペーサーをいくつかの炭素分枝および異なる長さで修飾した(R:9310~9315);ii)異なる構造の炭素分枝を2-イミダゾール位置に付加した(R:9321~9324);iii)1-イミダゾール位置の炭素スペーサーを2-イミダゾール位置に移動させ、様々な長さおよび分枝を有する炭素鎖で置き換えた(R:9331~9334);iv)イミダゾール環をいくつかの類似の構造で置き換えた(R:9341~9352)。3つの脂肪族テールバリアント(O17O、O17S、およびO16S-S)を、マイケル付加反応による新規ライブラリの構築において使用した。
【0136】
in vitroでの初代Tリンパ球へのルシフェラーゼmRNA送達についてのこの新規ライブラリの詳細スクリーニングを
図3bに示すように実施し、アミンヘッド構造と送達効力(delivery efficacy)との間の相関性を調査した。概して、アミンヘッド9313、9322、9331、ならびに93は、リピドイドライブラリにおいて常に高い発光発現を示した。さらに、アミンヘッドの化学構造と送達効力との間の相関性にいくつかの傾向が見出された。第1に、リンカー分枝構造を考慮すると、本発明者らは、単一の分枝を有するリンカー(例えば、9312および9313)が、直鎖リンカー(例えば、93、9310および9315)または複雑な分枝リンカー(例えば、9314および9316)のいずれかよりも良好な効力を示すことを見出した。リンカーの長さも送達効力に劇的に影響を及ぼすようであった:4-炭素の9315は、3-炭素の93ほど有効ではなかった。同様に、構造的に9313に類似しているが炭素が1つだけ短い9311ヘッドは、送達効果を全く示さなかったが、9313は極めて有効であった。第2に、2-イミダゾール位置での分枝は、送達能力(delivery potency)に影響を及ぼさないことが見出された(例えば、9322、9323および9324)。第3に、本発明者らは、2-イミダゾール位置にリンカーを有する群(例えば、9331、9332、9333および9334)内で全てのアミンヘッドがいくらかの正のシグナルを有し、リンカー位置をオルト置換することができ、イミダゾール自体上の分枝が送達効果に影響を及ぼさないことを示すことに留意した。最後に、イミダゾール環アナログを有するアミンヘッド(例えば、9341、9351、9352)は、送達効力を全く示さず、これは、イミダゾール環がmRNAのT細胞送達における重要な構造であることを実証した。アミンヘッド構造に加えて、炭素テール構造も送達効力に影響を及ぼした。有効なアミンヘッド(すなわち、9313、9322、9331および93)の中で、O17OテールおよびO17Sテールを有するリピドイドは、O16S-Sテールを有するリピドイドよりもそれぞれ5倍および6倍超高い送達効力を示した(
図4B)。これらの結果から、アミンヘッド9313、9322、9331および9332から合成されたリピドイドが、Tリンパ球へのmRNA送達に有効であることが見出され、これらのアミンヘッドを炭素テールスクリーニングに使用した。
【0137】
炭素テール構造および送達効力の詳細スクリーニング
図4Bに示されるように、リピドイドのテールは、送達効力における他の重要な因子であった。T細胞トランスフェクションに対するテール構造の影響をさらに研究するために、以前のスクリーニングにおいて高いトランスフェクション効力を有したアミンヘッド9313、9322、9331および9332を使用して8つの異なる炭素テールを有する詳細リピドイドライブラリ(
図5A)を合成した。
【0138】
図4Bに示すように、O17O、O17SおよびO18S-Sテールを有するリピドイドは、他のテールよりも一貫して効率的に機能した。興味深いことに、テール全体がヘテロ原子を含まないで炭素から構成されるO17Cテールを使用する全てのリピドイドについて、送達効力は有意に低下した。さらに、炭素鎖の長さも送達効力に影響を及ぼす。炭素の2つがS-Sに置き換えられた18炭素のテール長(O18S-S)は、16のテール長(O16S-S)よりも有意に良好に機能した。さらに、エステル結合を有するテール(O16S-S)は、アミド結合を有するテール(N16S-S)よりも有意に良好に機能した。エポキシドから作られたテール(ECnシリーズ)は、有効な送達を示さなかった。うまくトランスフェクトされたT細胞の陽性パーセンテージを解明するために、93-O17Sおよび9322-O17Sを用いてEGFP mRNAをin vitroでCD8+T細胞に送達し、フローサイトメトリーでGFP発現を定量した。CD8+T細胞への送達効力は、93-O17Sで7.1%に達し、9322-O17Sで11.1%に達した(
図6)。
【0139】
T細胞へのmRNA送達の構造関連の差異の可能なメカニズムは、見かけのpKa値および膜破壊能力などの、LNPの様々な挙動に関連し得る。本研究では、これらのリピドイド間で異なる送達効果の可能なメカニズムをさらに解明するために、見かけのpKa値およびリン脂質二重層膜破壊能力をさらに分析した。有効なリピドイドと無効なリピドイドとの間のpKaに大きな差はなく、pKaが送達効力を決定する主因子ではないかもしれないことを示した(
図7A)。
【0140】
しかしながら、
図7Bに示されるように、成功したリピドイドのほとんどが、特に群ii)のヘッドを有するこれらのリピドイドにおいて、成功しなかったものより高い膜破壊能力を示した。
【0141】
In vivo mRNA送達およびナノ粒子の生体内分布
in vitroスクリーニングは、構造に基づくスクリーニングから見出されたリピドイドが初代T細胞にmRNAを効率的に送達できることを証明したが、in vivo送達効果は、ヒト体内でのT細胞のin situプログラミングにとってより重要であろう。さらに、複雑なin vivo条件のため、体内での送達効果は、in vitroの結果とほとんど一致しない可能性がある。in vitroスクリーニングによって同定されたリピドイドがin vivoでも機能するかどうかを調べるために、BALB/cマウスへのFLuc mRNAとリピドイドの複合体の静脈内注射によってもリピドイド送達の効果を評価した。注射の6時間後、生きたマウスにおいて生物発光を検出し、その後、マウスを屠殺し、心臓、肝臓、脾臓、肺および腎臓に特異的な生物発光を観察した。全ての生物発光イメージングは、in vivoイメージングシステム(IVIS)を用いて行った。O17OおよびO17Sテールを有するアミンヘッド93および9322は、脾臓において強力かつ特異的な発光発現を示した(
図8Aおよび8B)。
【0142】
9322-O17Sを送達したマウスにおいて、脾臓における発光強度は、肝臓における発光強度よりも1.6倍高かった。他方、O17O、O17S、またはO18S-Sテールと組み合わせたアミンヘッド9313、9331、および9332は、いずれの器官においてもシグナルを示さなかった(
図8A~8Cおよび
図9A~9B)。
【0143】
マウスを屠殺し、脾細胞を回収して、磁気ビーズを用いてCD8+T細胞を精製した。脾細胞または各器官のいずれかからの発光発現を定量した。肝臓および脾臓中の他の種類の細胞からの発光シグナルも存在したが、本発明者らは、93-O17S、9322-O17Oおよび9322-O17Sを用いてCD8+T細胞への有効な送達を確認した(
図8C)。発光強度もIVISの結果に対応した(
図8Bおよび8C)。
【0144】
リピドイドはin vivoで脾臓T細胞のCreリコンビナーゼ媒介遺伝子組換えを増強した
mRNA、プラスミドおよびRNPを含む遺伝子編集分子のT細胞へのin vivo送達は、T細胞工学における適用のための大きな可能性を有する。CreリコンビナーゼmRNAとリピドイドの複合体をAi14マウス(The Jackson Laboratory)に静脈内送達することによるin vivo遺伝子組換えのためのリピドイドの効力を実証した。Ai14マウスは、赤色蛍光タンパク質(tdTomato)遺伝子22のすぐ上流に位置するloxP部位に隣接する遺伝的に組み込まれた終止コドン(STOPコドン)を有する。STOPコドンは、loxP部位間に見出されるDNAを切除するCreタンパク質の活性を介して除去することができる。したがって、赤色蛍光シグナルは、Cre mRNAのトランスフェクションの成功、続いてCreタンパク質の発現によって媒介される。Cre mRNA/リピドイド複合体を5日毎に2回注入し、続いて共焦点顕微鏡でマウス脾臓を分析した。93-O17Sまたは9322-O17Sのいずれかを注射したマウスから脾臓における強いtdTomato発現が観察された(
図10Aおよび10B)が、9313-O18S-SまたはPBSのみを注射したマウスからはtdTomatoシグナルは観察されなかった(
図9C)。
【0145】
脾臓組織をCD3εまたはF4/80抗体のいずれかで標識して、それぞれTリンパ球またはマクロファージによるtdTomatoシグナルの局在化を分析した。さらに、CD8a抗体を使用してCD8+Tリンパ球を特異的に標識した。蛍光画像中の黄色シグナルは、赤色tdTomatoシグナルおよび緑色タグ付き細胞型抗体の共局在を示す(白色矢印によって示される)(
図10A~10Bおよび
図8A~8C)。
【0146】
単細胞懸濁液をマウス脾臓から回収し、tdTomato発現をフローサイトメトリーによって定量した。93-O17Sおよび9322-O17Sは両方とも、未処理対照と比較してtdTomatoシグナルの有意な発現を示した。93-O17Sは、in vivoで、約8.2%のCD4+T細胞への送達効力、および約6.5%のCD8+T細胞への送達効力に達した(
図10Cおよび
図10A~10C)。
【0147】
参照による組み込み
本明細書で言及される全ての米国およびPCT特許公報ならびに米国特許は、あたかも各個々の特許公報または特許が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されるかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、本明細書の任意の定義を含む本出願が優先する。
【0148】
他の実施の形態
当業者は、単なる日常的な実験を使用して、本明細書に記載される特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または確認することができるであろう。本明細書に記載される本実施形態の範囲は、上記の説明に限定されることを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲に記載される通りである。当業者は、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の精神または範囲から逸脱することなく、この説明に対する様々な変更および修正を行うことができることを理解するであろう。
【国際調査報告】