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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】電気的に分離された高温断熱
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20230414BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20230414BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
F27D1/00 G
F27D11/06 Z
F16L59/02
F27D1/00 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022552949
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2021053889
(87)【国際公開番号】W WO2021175594
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】102020202793.5
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514194886
【氏名又は名称】エスジーエル・カーボン・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フランク・アイゼルト
(72)【発明者】
【氏名】ボヤン・ヨカノヴィッチ
【テーマコード(参考)】
3H036
4K051
4K063
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB15
3H036AB24
3H036AE01
4K051AA03
4K051AB03
4K051BB04
4K051BC02
4K051BC04
4K063AA12
4K063AA15
4K063AA19
4K063BA06
4K063CA01
4K063FA39
(57)【要約】
本発明は、誘導加熱高温処理領域(2)を断熱するための断熱素子(1)に関し、断熱素子(1)の壁は、電気抵抗率ρが10-5~10-1Ωmのフラット材(3)を含み、断熱素子(1)を貫通するキャビティ(4)を取り囲み、ρよりも大きな電気抵抗率ρの遮断部(5)を備え、遮断部(5)がフラット材(3)の外面(6)からフラット材(3)中に延在するがフラット材断面(8)全体にわたるフラット材(3)の遮断は生じさせない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱高温処理領域(2)を断熱するための断熱素子(1)であって、該断熱素子(1)の壁は、電気抵抗率ρが10-5~10-1Ωmのフラット材(3)を含み、該断熱素子(1)を貫通するキャビティ(4)を取り囲み、ρよりも大きな電気抵抗率ρの遮断部(5)を備え、前記遮断部(5)が前記フラット材(3)の外面(6)から前記フラット材(3)中に延在するがフラット材断面(8)全体にわたる前記フラット材(3)の遮断を生じさせない、断熱素子(1)。
【請求項2】
前記遮断部(5)が、前記フラット材(3)に入れられた切り込み(51)である、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項3】
前記遮断部(5)の少なくとも一部が前記フラット材(3)の両面(6、7)に対して垂直ではない、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項4】
前記フラット材(3)が10Wm-1-1未満の熱伝導率を有する、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項5】
前記フラット材(3)が炭素繊維及び/又は膨張グラファイトを備える、請求項4に記載の断熱素子(1)。
【請求項6】
前記遮断部(5)の個数が2個以上、3個以上、4個以上、又は6個以上である、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項7】
前記断熱素子(1)の形状が中空シリンダーであり、前記フラット材(3)の外面における前記遮断部(5)の長さと形状と向きがL>a・Lとなるように選択され、
が、前記中空シリンダーの長手方向軸に垂直に前記フラット材(3)の体積を二等分する中央断面において前記フラット材(3)の外面に沿って前記遮断部(5)を越えて伸びる前記フラット材(3)の周囲の最短経路の長さであり、
が、前記中央断面において遮断部(5)同士の間に伸びるが遮断部(5)を越えずに遮断部(5)の周りを通過する前記フラット材(3)の周囲の最短経路の長さであり、
aが2又は5である、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項8】
ρが100・ρ以上である、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項9】
前記遮断部(5)が前記フラット材(3)の両端(9、10)から間隔が空けられている、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項10】
少なくとも二つの遮断部(5)が前記フラット材(3)の外面に対して同じ方向に傾斜している、請求項6に記載の断熱素子(1)。
【請求項11】
前記フラット材(3)が周方向に連続的な炭素繊維含有フラット材(3)である、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項12】
前記フラット材(3)が複数のフラット材部分(11)から形成されていて、フラット材断面全体にわたって前記フラット材(3)を遮断する少なくとも一つの接合領域(12)がフラット材部分(11)同士の間に設けられている、請求項1に記載の断熱素子(1)。
【請求項13】
断熱素子(1)を形成するための複数の断熱素子部分であって、少なくとも一つの断熱素子部分が、電気抵抗率ρが10-5~10-1Ωmのフラット材(3)を含み、ρよりも大きな電気抵抗率ρの遮断部(5)を備え、前記遮断部(5)が前記フラット材(3)の外面(6)から前記フラット材(3)中に延在するがフラット材断面(8)全体にわたる前記フラット材(3)の遮断を生じさせない、複数の断熱素子部分。
【請求項14】
誘導加熱高温処理領域(2)を断熱するためのフラット材(3)の製造方法であって、10-5~10-1Ωmの範囲内の電気抵抗率ρを有するフラット材(3)に、前記フラット材(3)全体を切断せずに、前記フラット材(3)の主面から前記フラット材(3)中に切り込みを入れる、製造方法。
【請求項15】
誘導加熱高温処理領域(2)を断熱するための請求項1から12のいずれか一項に記載の断熱素子又は請求項13に記載の複数の断熱素子部分から形成された断熱素子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱高温処理領域を断熱するための断熱素子、複数の断熱素子部分を備える断熱素子を形成するための複数の断熱素子部分、誘導加熱高温処理領域を断熱するのに使用可能なフラット材の製造方法、及び、誘導加熱高温処理領域を断熱するための断熱素子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば800℃を超える不活性雰囲気で行われる高温プロセスは、使用される断熱材に対して高い熱的要求及び機械的要求を課す。高温炉の冷却された外壁から加熱チャンバを分離する断熱体用の材料としては、炭化した任意でグラファイト化したフェルトが使用されることが多い。
【0003】
特許文献1に記載の耐高温断熱体の製造方法では、複数の湾曲セグメント(特に0.02~0.3g/cmの密度に圧縮されている膨張グラファイト系の材料製)を組み立てて、中空シリンダー状部品を形成する。ここで、個々のセグメント同士は、平坦な異方性グラファイト粒子を含有する炭化可能バインダーによって保持される。更に、中空シリンダー状断熱体の内面にグラファイト箔が配置される。
【0004】
特許文献2には、複数のプレート状部品から組み立てられた炭素繊維材製の反応器用断熱体が開示されている。個々の部品同士は、追加の接続素子を用いて実矧継ぎ(tongue and groove)の差し込み接続で結合可能である。
【0005】
特許文献3に記載のサファイア結晶を製造するための保温デバイスでは、三つのファン状ソフトフェルトを接合することによって環状グラファイトフェルトガスケットが形成されている。
【0006】
特許文献4には、複数のスラットから形成されたユニット状の断熱材が開示されている。スラットは、実矧継ぎの凹凸を備え、円弧状の断熱シリンダーを形成するように接続可能である。複数のスラットからユニットを形成することで、損傷した部品を局所的に交換及び修理できるようになっている。その断熱性は優れたものであり、寿命全体にわたって持続するものであるとされている。その断熱シリンダーは便利に保管及び輸送可能なものであり、動作コストを大幅に下げるように使用されるものとされている。
【0007】
特許文献5に記載のチューブ状断熱体は、(a)炭化樹脂を含有し螺旋状に巻かれた炭素繊維フェルトの層と、(b)フェルト層同士の間に存在する炭化膜及び/又はネット及び樹脂とから成り、連続的に積層したチューブ状素子を形成し、フェルト層同士の間に存在する炭化樹脂によってフェルト層が互いに一体結合されている。その断熱体は、高密度を有し、優れた断熱性と表面平滑性を与えるものとされている。その密度は半径方向において変化するものとされている。また、その断熱体は、複雑な方法を要さずに高レベルの生産性で生産可能なものとされている。
【0008】
特許文献6には、高温炉のライニング(内張)用の炭化繊維及び/又はグラファイト化繊維を備える材料製の断熱体が開示されていて、その断熱体は少なくとも二つの個別部品で構成されていて、互いに接合された少なくとも二つの個別部品の各々が少なくとも一つの接続素子を備え、互いに接合された少なくとも二つの個別部品の接続素子が互いにかみ合うように係合して、アンダーカットを形成している。
【0009】
特定の高温処理法では、処理される基材、例えば、ガラス繊維製造における繊維基材が、高温処理領域に連続的に誘導される。高温処理領域の温度は、例えば少なくとも800℃となり得る。
【0010】
高温処理領域の温度を特定の狭い温度範囲内に維持するために、高温処理領域には電力を連続的に供給しなければならない。これは、誘導高温加熱によって行われる。この場合、高温処理領域の周りに配置された電気コイルが、少なくとも一つの加熱素子に誘導結合する。加熱素子は、高温処理領域を取り囲む耐高温壁であり得る。壁はグラファイトを含有し得る。
【0011】
特定の断熱材では、誘導高温加熱中に過度な量の熱が炉によって直接放出され、その周囲環境が強く加熱されるので、炉が作動している製造現場の複雑な換気や冷却等の追加手段を講じて、過度の熱を散逸させなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第1852252号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/106580号
【特許文献3】中国実用新案第202610393号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第102748951号明細書
【特許文献5】DE68920856T2
【特許文献6】国際公開第2013/174898号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、例えば、ガラス繊維を製造するための高温炉に使用可能である断熱材を提供することであり、それによって、廃熱を散逸させるための労力を減らしながら、永続的で信頼性があるように高温処理領域を高温に誘導加熱することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、誘導加熱可能な高温処理領域を断熱するための断熱素子によって達成され、その断熱素子の壁は、電気抵抗率ρが10-5~10-1Ωmであるフラット材を含み、断熱素子を貫通するキャビティを取り囲み、ρよりも大きな電気抵抗率ρの遮断部を備え、遮断部は、フラット材の外面からフラット材中に伸びるが、フラット材断面全体にわたるフラット材の遮断を生じさせない。
【0015】
壁が、断熱素子を貫通するキャビティを取り囲むので、断熱素子の形状は中空シリンダーに近いものとなり得る。中空シリンダーは、内側側面と、外側側面と、二つの端面を備える。断熱素子の壁は、内側側面と外側側面によって区切られる領域内で周方向に延伸し、また、中空シリンダーの一方の端面から他方の端面まで延伸する。勿論、中空シリンダーとは、単にこの場合に本発明を定めるのに用いられる幾何学的形状に過ぎない。
【0016】
両側面の間に存在し両端面によって区切られる中空シリンダーの全体積を断熱素子が占める必要は無い。例えば、断熱素子は、長さの異なる二つの中空シリンダー材の積層複合材となり得て、例えば、内側のCFCチューブの方が長くなり、CFCチューブの一部のみがフラット材で周方向に沿って覆われる。CFCチューブの内面が中空シリンダーの内側側面とほぼ一致し得て、フラット材の外面が中空シリンダーの外側側面と一致し得るが、フラット材が端面に達しないので、その断熱素子は中空シリンダーの全体積を占めない。
【0017】
勿論、断熱素子は、中空シリンダーの全体積を完全に又はほぼ完全に占めることができ、例えば断熱素子が中空シリンダーの形状のフラット材のみから成る場合には、例えば少なくとも90体積%や少なくとも95体積%を占め得る。
【0018】
本発明は、断熱素子が、フラット材に加えて、フラット材と共に複合材(例えば、積層複合材)中に存在し得る追加の高温安定材を備えることを排除するものではない。本発明に係る典型的な断熱素子では、フラット材は、そのフラット材の外面からフラット材中に延在する遮断部と共に、断熱素子の体積の少なくとも20体積%、一般的には少なくとも35体積%、好ましくは少なくとも50体積%、特に好ましくは少なくとも65体積%、例えば少なくとも80体積%を占める。
【0019】
本発明によると、断熱素子の壁はフラット材を備える。高温処理に起因してフラット材に作用する高温に耐えられ、本発明に係る範囲内の電気抵抗率を有するあらゆるフラット材が適切なものとなる。各種の高温安定フラット材が、その材料固有の上限温度まで継続的に使用可能であることは周知である。従って、当業者は、材料固有の上限温度に好ましくは達しないように特に超えないようにして高温応用に基づいたフラット材を選択することになる。
【0020】
フラット材は、例えば、炭素繊維及び/又は膨張グラファイトを備え得る。これは、その材料が高温不活性環境において使用可能なものであることを意味する。既知のように、膨張グラファイトは、グラファイトを特定の酸で処理することによって製造可能であり、グラフェン層間に挿入された酸性アニオンを有するグラファイト塩が形成される。次いで、そのグラファイト塩を例えば800℃の高温に晒すことによって膨張グラファイトに変換させる。
【0021】
フラット材は、好ましくは炭素含有フラット材であり、例えば炭素繊維含有フラット材である。炭素繊維含有フラット材は炭素繊維含有フェルトであり得る。炭素繊維含有とは、フラット材(例えば、フェルト)が炭素繊維を含有することを意味する。
【0022】
ここで、炭素含有量が少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、特に好ましくは少なくとも92重量%、とりわけ好ましくは少なくとも96重量%、非常に好ましくは少なくとも99重量%、最も好ましくは少なくとも99.5重量%のあらゆる繊維が、炭素繊維として特定される。従って、指定の炭素繊維は、炭化繊維及びグラファイト化繊維を含む。これらは、レーヨン系、PANOX系、又はピッチ系の炭素繊維であり得る。その表面は、例えば、熱分解カーボン(PyC)や炭化シリコンで表面仕上げされ得る。
【0023】
フラット材(例えば、フェルト)は、炭素繊維に加えて、追加成分を含み得る。超高温であっても十分高い断熱効果が達成可能であるように十分に高温安定なあらゆる材料が、追加成分となり得る。特に、フラット材は追加成分としてセラミック繊維を含み得る。
【0024】
特に好ましいフラット材は炭素繊維フェルトであり、例えば、軟質炭素繊維フェルトや硬質炭素繊維フェルトである。硬質炭素繊維フェルトの繊維同士は接続している。その接続は、炭化残留物、例えば、残留炭化フェノール樹脂によって生じ得る。また、その接続は、炭素繊維に関して上述した熱分解カーボン及び/又は炭化シリコンという物質も備え得る。これによって、繊維同士が接続されている点において繊維が互いに動かなくなるので、フェルトが硬質になる。軟質炭素繊維フェルトでは、繊維同士はこのように接続していない。軟質炭素繊維フェルトは、例えば、ニードリング処理によって強化可能である。
【0025】
フラット材の電気抵抗率ρは10-5~10-1Ωmである。上記で詳述したような長時間にわたる高温断熱材としての実際の使用に適していることが分かっている炭素含有フラット材、特に炭素繊維含有フラット材の電気抵抗率は、この範囲内にある。
【0026】
たとえ当業者が高温安定断熱材を自由に選択したとしても、10-5~10-1Ωmの範囲内の電気抵抗率を有するフラット材を選択することには到達しないものである。何故ならば、本発明に関して行われたシミュレーションによって、10-5~10-1Ωmの範囲内の電気抵抗率を有するフラット材は、加熱コイルと相互作用する際に比較的強力で望ましくない加熱の傾向にあることが明確に示されているからである。しかしながら、温度安定性及び断熱性に課される極端な要求を考慮すると、極僅かな種類のフラット材が実際には選択可能であり、上述の炭素含有フラット材、特に炭素繊維含有フラット材が実際に適していることが分かっていて、特に、これらのフラット材は妥当な労力で比較的安価な開始材から製造可能である。
【0027】
10-5~10-1Ωmの範囲内の平均電気抵抗率を有するこれらのフラット材では、加熱コイルとフラット材との間の相互作用は、比較的高い抵抗で流れる比較的強力な電流をもたらす。従って、この範囲内の電気抵抗率を有するフラット材は、特に強力で望ましくない加熱の傾向にある。この場合、以下の要因がフラット材の電気抵抗率を減らす傾向にある:(1)フラット材の高炭素繊維含有量、及び、(2)フラット材中のグラファイト化炭素繊維の高含有量。グラファイト化炭素繊維は、例えば1600~3000℃、好ましくは1700~2400℃の超高温での熱分解によって得られる炭素繊維である。グラファイト化炭素繊維は、グラファイト化していない炭素繊維よりも一般的には良好に電流を流す。勿論、本願において、炭素繊維との用語は、グラファイト化炭素繊維に限定されるものではない。フラット材に含まれる炭素繊維は、例えば800~1600℃、特に800~1200℃の比較的低温での熱分解によっても得ることができる。
【0028】
本発明によると、断熱素子の壁は、ρよりも大きな電気抵抗率ρを有する遮断部(break)を備える。遮断部は、フラット材の外面からフラット材中に延在する。しかしながら、その遮断部は、フラット材断面全体にわたるフラット材の遮断を生じさせない。
【0029】
遮断部がフラット材断面全体にわたるフラット材の遮断を生じさせないとは、遮断部に直接隣接しているフラット材領域が連続的であることを意味する。従って、遮断部に隣接する二つのフラット材領域を互いに離すように動かすためには、フラット材を切断しなければならないものとなる。
【0030】
本発明に関して、外部に放出される熱の量に対する遮断部の影響を詳細に記述できるようにするために広範なシミュレーションを行った。シミュレーションによると、驚くべきことに、遮断部が、最小の労力で、一般的なフラット材の強力で望ましくない誘導加熱を極めて有効に弱めることが分かった。フラット材中で周方向に全体的に流れる電流は、遮断部という障害に遭遇する。この場合、電流が障害の周りにおいてフラット材の下方領域に発散していくことによって、抵抗が増加し、フラット材(例えば、炭素繊維を含有するフェルト)中に顕著な量の熱が発生することが、フラット材の外面において生じない。
【0031】
特定の実施形態では、断熱素子の壁は、一つの遮断部のみを有する。一般的には、複数の遮断部が好ましい。従って、遮断部の数は、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも16個、少なくとも20個となり得て、好ましくは少なくとも3個、少なくとも4個、又は少なくとも6個である。これは、電流の迂回路が増えること、又は電気抵抗が増えることを意味する。勿論、遮断部に関する以下の各特徴は、一つの遮断部のみに適用され、二つ以上の遮断部に適用され、又は全ての遮断部に適用されるものである。
【0032】
遮断部は、フラット材に入れられた切り込みであり得る。切り込みは、所望の遮断部の設けるための最も簡単な方法である。この場合、フラット材は単に切り込みが入れられるものであって、切断されるものではない。これは、フラット材がフラット材断面全体にわたる切り込みによって切断されないことを保証するものである。
【0033】
遮断部の少なくとも一部(特に好ましくは遮断部全体)は、好ましくは、フラット材の二つの隣の表面領域に対して直交しない。これは、高温の表面と低温の周囲環境との間の熱放射の形態係数が減少することを意味する。これによって、遮断部を介して周囲環境に到達する放射の割合が最小になる。この放射は、特にサセプタの高温表面から来るものである。
【0034】
中空シリンダーに近い形状となり得る本発明に係る断熱素子について、フラット材の外面における遮断部の長さ、形状及び向きは、好ましくは以下の条件を満たすように選択される:
>a・L
式中、
は、中空シリンダーの長手方向軸に垂直にフラット材の体積を二等分する中央断面においてフラット材の外面に沿って遮断部を越えて伸びるフラット材の周囲の最短経路の長さであり、
は、前記中央断面において遮断部同士の間に伸びるが遮断部を越えずに遮断部の周りを通過するフラット材の周囲の最短経路の長さであり、
aは2であるか、好ましくは5である。
【0035】
図1Cに示され、L図1Dに示されている。これは、誘導電流が周方向で妨げられずに流れることができず、遮断部の周りで方向転換されることによって、電気抵抗を増やし、フラット材に誘導される電力を減らすことを意味する。
【0036】
遮断部がフラット材よりも顕著に高い電気抵抗率を有することが一般的に好ましい。ρは、好ましくは100・ρ以上、特に1000・ρ以上、例えば10000・ρ以上である。空気中の電気抵抗率は、>略1014Ωm程度の桁であるが、正確な値は、特に空気の含水量に依存する。従って、遮断部が切り込みである場合、ρはρよりも数桁大きい。しかしながら、ρがρよりも顕著に高い場合には、フラット材に誘導される電流の遮断部周りでの意図的な発散が必ず得られる。切り込み形状の遮断部や実在の絶縁体が、本発明のとおりの所望の効果を達成するために必須という訳ではない。典型的な炭素繊維フェルトのρは略10-3Ωmであるので、遮断部として使用可能な他の高温安定材(窒化ホウ素等)を用いても、ρが100・ρ以上という所要の関係を難なく達成することができる。電気抵抗率はDIN51911に従って測定される。この規格はグラファイトの抵抗測定に関する。
【0037】
フラット材はフラット材の第一端からフラット材の第二端まで延在する。フラット材の第一端は、上述の本発明を定めるのに用いられる中空シリンダーの第一端面に向き合うか、又はその中空シリンダーの第一端面に一致する。フラット材の第二端は、その中空シリンダーの第二端面に向き合うか、又はその中空シリンダーの第二端面と一致する。遮断部は、フラット材の両端のうちの少なくとも一方から、特にフラット材の両端から間隔が空けられていることが好ましい。そこで、その遮断部は、特に遮断部の端からフラット材の一端まで伸びるフラット材領域において、フラット材に遮断を生じさせない。そこで、その遮断部は、好ましくは、特に二つのフラット材領域(二つのフラット材領域のうち一方が遮断部の端からフラット材の一端まで延在し、二つのフラット材領域のうち他方が別の遮断部の端からフラット材の他端まで延在する)において、フラット材に遮断を生じさせない。従って、フラット材は、遮断部の端からフラット材の一端まで延在するフラット材領域において連続的であり、好ましくは、それぞれ別の遮断部の端からフラット材の別の端まで延在する二つのフラット材領域において連続的である。これは、中空シリンダー状の断熱素子又はそのフラット材がより安定になる一方で、個別部品から現場で構築する必要がないことを意味する。
【0038】
少なくとも二つの遮断部が、フラット材の外面に対して同じ方向に傾斜していることが好ましい。同じ方向に傾斜した遮断部はより深くなり、互いに極僅かな間隔が空けられるものとなり得る。同じ方向に傾斜していると、一方の遮断部が他方の遮断部に移行していくが、これは一般的に望ましくない。複数の遮断部が互いに移行していく切り込みである場合、切り込み同士の間に位置するフラット材の部分は壊れ易くなり得る。従って、同じ方向に傾斜した遮断部は、フラット材の大部分の安定性には影響を与えずに、遮断部同士の間の間隔を小さくして、フラット材のより効率的な電気分離を可能にする。結局、これが、扱い易くて、断熱素子に含まれるフラット材の望ましくない加熱の傾向が特に低いという安定な断熱素子をもたらす。
【0039】
遮断部は、平行に延在する二つの平面の間に完全に存在することが好ましく、それら二つの平面の間の間隔は、遮断部の最大深さの25%以下、特に15%以下、例えば10%以下である。これは、遮断部が実質的に平坦に延在することを意味する。実質的に平坦な切り込みは、回転刃(丸鋸に近いが歯が無い)を用いてフラット材に特に簡単に入れることができるものである。遮断部の最大深さは、切り込みの方向においてフラット材の表面から測定される刃の最大侵入深さに対応している。この場合、二つの平面の傾斜は特に限定されない。しかしながら、平面の傾斜は遮断部によって予め決められた所定のものであり、二つの平面のうち少なくとも一方が、フラット材の内面と交わらない、または、45°以下の角度で交わるようにすることが好ましい。
【0040】
フラット材は低い熱伝導率を有することが好ましい。好ましくは、フラット材は、10Wm-1-1未満の熱伝導率を有する。これは、高温処理領域の誘導高温加熱中における廃熱の散逸を更に低下させることができるという点で有利である。フラット材が特に低い熱伝導率を有する場合には、高温処理領域から逃げる熱が少なくなる。これによって、高温処理プロセスが行われている現場から廃熱を散逸させる労力が減る。
【0041】
断熱素子のフラット材の壁厚は、少なくとも一つの断面において10%以下で変化するものであることが好ましい。断面とは、中空シリンダーの軸に垂直な平面を意味する。これは、望ましくない熱損失が少なくともこの断面の領域において半径方向に均一に生じるという点において有利である。これは、不合格品を少なくするという利点を有する。
【0042】
フラット材は、炭素繊維を含有する周方向に連続的なフラット材であり、特に、炭素繊維を含有する周方向に連続的なフェルトであり、例えば、周方向に連続的な炭素繊維フェルトであり得る。周方向に連続的な炭素繊維フェルトは、既知の円形ニードリング法を用いて炭化可能な繊維から周方向に連続的なフェルトを製造し、無酸素雰囲気における高温処理によってその周方向に連続的なフェルトを周方向に連続的な炭素繊維フェルトに変換することによって、製造可能である。これは、フラット材が継ぎ目や接合を有さないので、高温断熱体の部品としての連続的な使用中に材料の疲労や剥離が生じ得る脆弱な点が存在しないという点で有利である。
【0043】
周方向に連続的とは、フェルトがフラットウェブとして製造される場合に生じるフェルトの特性である不規則に相互接続された繊維の配列が周方向に生じることを意味する。周方向に連続的な炭素繊維含有フェルトを断熱素子の長手方向軸に垂直に切断すると、炭素繊維含有フェルトの周方向に始点も終点も断面に特定できないものとなる。特に、接合も継ぎ目も断面に存在しない。そこで、本発明に係る遮断部を全て下流の製造工程で設けなければならない。これは、遮断部を設ける際にフラット材に固有の不均一性(例えば、接合や継ぎ目)を考慮する必要なく、遮断部がフラット材の加熱を目標通りに弱めるという点において有利である。結果として、高温処理領域に熱が特に均一に導入される。これによって、高温処理プロセスで製造される製品のうち仕様に合わない(不合格)の製品の割合が更に減る。
【0044】
また、フラット材は、複数のフラット材部分からも形成可能であり、フラット材断面全体にわたってフラット材に遮断を生じさせる少なくとも一つの接合領域がフラット材部分同士の間に設けられ得る。複数のフラット材部分のうちの少なくとも一つが、少なくとも一つの遮断部を備える。少なくとも二つのフラット材部分が遮断部を有することが好ましい。フラット材部分からなる中空シリンダーの形状が、例えば一つ以上の接合領域において炭素繊維含有フェルトマット同士を接合することによって形成される。
【0045】
本発明は、複数の断熱素子部分を備える断熱素子を形成するための、特に上述の断熱素子を形成するための複数の断熱素子部分にも関し、少なくとも一つの断熱素子部分が、電気抵抗率が10-5~10-1Ωmのフラット材を備え、また、ρよりも大きな電気抵抗率ρの遮断部を備え、遮断部は、フラット材の外面からフラット材中に延在するが、フラット材断面全体にわたるフラット材中の遮断は生じさせない。
【0046】
本発明に係る断熱素子は、複数の断熱素子部分から特に簡単に現場で組み立てることができるものである。これは、一体で形成された断熱素子をその使用場所に輸送したり設置したりするには十分な空間が存在しない場合に有利である。個々の断熱素子部分を組み立てることで、断熱素子が形成され、その組み立て工程によって、個々の断熱素子部分のフラット材にフラット材断面全体にわたる遮断を生じさせる接合領域が形成される。しかしながら、これは、フラット材自体の遮断ラインではなくて、接合領域であって、接合領域で抵抗は実質的に増加しない。特に、接合中に隙間が設けられないのであれば、接合領域で抵抗は実質的に増加しない。
【0047】
また、本発明は、誘導加熱高温処理領域を断熱するのに使用可能なフラット材の製造方法に関し、10-5~10-1Ωmの範囲内の電気抵抗率ρを有するフラット材に、フラット材全体を切断せずにフラット材の主面から切り込みが入れられる。
【0048】
更に、本発明は、誘導加熱処理高温処理領域を断熱するための、例えば、1000℃以上で溶融するガラス繊維や単結晶が生成される誘導加熱高温処理領域を断熱するための、本発明に係る断熱素子や、本発明に係る複数の断熱素子部分から形成された断熱素子の使用に関する。
【0049】
本発明が以下の図面に例示されているが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明に係る第一の断熱素子の斜視図であり、コイルとサセプタが示されている。
図1A】本発明に係る第一の断熱素子を示す。
図1B】本発明に係る第一の断熱素子の断面図である。
図1C】本発明に係る第一の断熱素子のフラット材の周囲の経路の長さを示す。
図1D】本発明に係る第一の断熱素子のフラット材の周囲の経路の長さを示す。
図2A】本発明に係る第二の断熱素子を示す。
図2B】本発明に係る第二の断熱素子の断面図である。
図3A】本発明に係る第三の断熱素子を示す。
図3B】本発明に係る第三の断熱素子の断面図である。
図4A】本発明に係る第四の断熱素子の断面図である。
図4B図4Aの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図面に示される本発明の四つの異なる実施形態は、全て、誘導加熱可能な高温処理領域2を断熱するための断熱素子1である。コイル、外面6、サセプタ、内面を示す斜視図は第一実施形態(図1)についてのみ示されている。残りの三つの実施形態は第一実施形態について示すのと全く同じ様に使用可能である。
【0052】
特に図1B図2B図3B図4Aの図面にはっきり見て取れるように、四つ全ての実施形態において、断熱素子2の壁は、フラット材3を備える。いずれの場合でも、壁はフラット材(10Wm-1-1よりも顕著に低い熱伝導率を有する軟質炭素繊維フェルト)製であり、その電気抵抗率ρは10-5~10-1Ωmである。軟質炭素繊維フェルトは、断熱素子1を貫通するキャビティ4を取り囲む。また、これら図面には、各実施形態における遮断部5の個数が12個であることがはっきりと示されている。いずれの実施形態においても、遮断部は、フラット材3の二つの面6及び7に対して垂直には伸びておらず、全て同じ方向に傾斜してもいない。各遮断部は切り込みであるので、電気絶縁性である。
【0053】
図1A図2A図3Aには、フラット材3で覆われた遮断部5の領域が破線で示されている。同様に破線で示されているのは、フラット材の覆われた内面である。切り込みが入れられた炭素繊維とその中に位置する空気に起因して、遮断部5の電気抵抗率ρは、軟質炭素繊維フェルトの電気抵抗率ρの数倍大きい。四つ全ての実施形態において、遮断部5はフラット材3の外面6からフラット材3中に延在している。
【0054】
図1Aから明らかなように、第一実施形態では、遮断部5は、フラット材断面全体にわたるフラット材3の遮断は生じさせない。切り込みは、図1に示される両端9及び10までは入れられない。従って、遮断部5はフラット材3の両端9及び10からは間隔が空けられている。図1Bから明らかなように、第一実施形態では、切り込みは内面7までは入れられていない。従って、遮断部5は内面7からも間隔が空けられている。
【0055】
図2Aは第二実施形態の両端と交わる切り込みを示す。しかしながら、本発明によると、切り込みは、フラット材断面全体にわたるフラット材3の遮断は生じさせない。図2Bから明らかなように、第一実施形態と同様に、切り込みは、内面7までは入れられていない。遮断部5は内面7から間隔が空けられている。
【0056】
第三実施形態では、切り込みは両端までは入れられていない(図3A)。従って、切り込みは、フラット材断面全体にわたるフラット材3の遮断を生じさせない。第一実施形態及び第二実施形態とは対照的に、第三実施形態の切り込みは内面7に切り込んでいる。(図3B
【0057】
従って、第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態では、フラット材3は、周方向に連続的な炭素繊維含有フラット材3である。
【0058】
第一実施形態について、図1C図1Dは、a=2の場合にL>a・Lとなるようにフラット材3の外面における遮断部5の長さ、形状及び向きが選択される様子を示す。図1CがLを示す。Lは、中央断面において遮断部5同士の間に伸びるが、各遮断部5を越えずに各遮断部の周りを通過するフラット材3の周囲の最短経路の長さである。その中央断面は、中空シリンダーの長手方向軸に垂直にフラット材3の体積を二等分する。Lは、中空シリンダーの長手方向軸に垂直にフラット材3の体積を二等分する中央断面においてフラット材3の外面に沿って遮断部5を超えて伸びるフラット材3の周囲の最短経路の長さである。図示されている実施形態では、LはLの略3倍である。
【0059】
第四実施形態(図4A及び図4B)では、フラット材3は、二つのフラット材部分11の組から形成されている。図示されている実施形態では、フラット材部分11同士の間に二つの接合領域12も設けられている。各接合領域は、フラット材断面全体にわたるフラット材3の遮断を生じさせている。従って、接合領域は、断熱素子の全長にわたって端から端まで形成されて、全長にわたって外面6から内面7まで切断されている。従って、第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態とは対照的に、第四実施形態のフラット材は、周方向に連続的な炭素繊維含有フラット材3ではない。
【符号の説明】
【0060】
1 断熱素子
2 高温処理領域
3 フラット材
4 キャビティ
5 遮断部
6 外面
7 内面
8 フラット材断面
9 端
10 端
11 フラット材部分
12 接合領域
図1
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
【国際調査報告】