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特表2023-517035間葉系統前駆または幹細胞を使用して炎症性肺疾患を治療するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】間葉系統前駆または幹細胞を使用して炎症性肺疾患を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230414BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230414BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K9/08
A61K47/20
A61K47/42
A61K47/12
A61K47/02
A61P11/00
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022553155
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2021055483
(87)【国際公開番号】W WO2021176001
(87)【国際公開日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】2020900685
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC15
4C076CC35
4C076DD23
4C076DD41
4C076DD55
4C076EE41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB33
(57)【要約】
本開示は、炎症性肺疾患の治療または予防を、それを必要とする対象において行う方法に関し、該方法は、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性肺疾患の治療または予防を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、
間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を前記対象に投与すること
を含み、前記対象が、上昇した循環C反応性タンパク質(CRP)を有する、前記方法。
【請求項2】
前記対象が、少なくとも2mg/mlの初期循環CRPレベルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、少なくとも3mg/mlまたは少なくとも4mg/mlの初期循環CRPレベルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炎症性肺疾患が、
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、喘息、嚢胞性線維症、肺炎及び間質性肺疾患
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症性肺疾患がウイルス感染によって引き起こされる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルス感染が、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)またはコロナウイルスによって引き起こされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス感染がコロナウイルスによって引き起こされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コロナウイルスが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)またはCOVID-19である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記MLPSCが、冷凍保存され、解凍されたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記MLPSCが中間冷凍保存MLPSC集団から培養増殖される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記MLPSCが、少なくとも約5継代にわたって培養増殖される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記MLPSCはMLPSC100万個あたり少なくとも13pgのTNFR1を発現する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記MLPSCはMLPSC100万個あたり約13pg~約44pgのTNFR1を発現する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記培養増殖が、少なくとも20回の集団倍加を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記培養増殖が、少なくとも30回の集団倍加を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が静脈内に投与される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記MLPSCが間葉系幹細胞(MSC)である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記MLPSCが同種異系である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
1回用量あたり1×10~2×10個の細胞を投与することを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
1回用量あたり約1×10個の細胞を投与することを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ベースライン時に用量が投与され、その後、月1回で後続用量が90日間かけて3回投与される、請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記対象が治療後にFEV1の改善を有する、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.02または少なくとも0.05のFEV1変化を有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が治療後にFVCにおける改善を有する、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が、前記第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.05または少なくとも0.1のFVC変化を有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が治療後にFEV1/FVCにおける改善を有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、前記第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.01または少なくとも0.015のFEV1/FVC変化を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記対象が治療後に6分間歩行試験における改善を示す、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、前記第1用量の細胞を受けてから60日以内または120日以内に前記6分間歩行試験における少なくとも40メートルまたは少なくとも50メートルの改善を示す、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、前記HSA溶液が5%のHSA及び15%の緩衝剤を含む、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が、6.68×10個よりも多い生細胞/mLを含む、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炎症性肺疾患の治療または予防を、それを必要とする対象において行うための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器病は、様々な症状に関連付いており、一般集団において極めてよく起こっている。多くの場合、それには、肺の症状を悪化させるものである炎症が伴う。数ある中でも、喘息、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの疾患は工業国においてよくある疾患であり、それらは極めて高い医療コストの原因になっている。これらの疾患は近年、有病率、罹患率及び死亡率のいずれに関しても大変な率で増加しつつある。これにもかかわらず、それらの根底にある原因は未だあまり理解されていないままである。
【0003】
したがって、炎症性肺疾患及び/またはその関連病態もしくは症候を有する患者において治療的需要は満たされないままとなっており、新たな治療選択肢が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、循環C反応性タンパク質(CRP)の上昇したベースラインレベルを有する対象において、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を投与することによって炎症性肺疾患の治療が成し遂げられ得ることを明らかにした。これらの知見は、炎症性肺疾患の患者をMLPSCによる治療のために層別する方策を提案するものである。
【0005】
かくして、第1の例では、本開示は、炎症性肺疾患の治療または予防を、それを必要とするヒト対象において行う方法であって、間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与することを含み、対象が、上昇した循環C反応性タンパク質(CRP)を有する、当該方法に関する。一例では、対象は、少なくとも2mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は、少なくとも3mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は、少なくとも3mg/mlまたは少なくとも4mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は、少なくとも4mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。
【0006】
一例では、炎症性肺疾患は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、特発性肺線維症(IPF)、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、喘息、嚢胞性線維症、肺炎、間質性肺疾患、またはその1つ以上からなる群から選択される。
【0007】
一例では、炎症性肺疾患はウイルス感染によって引き起こされる。ウイルス感染は、例えば、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)またはコロナウイルスによって引き起こされ得る。
【0008】
一例では、炎症性肺疾患はコロナウイルス感染によって引き起こされる。コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、COVID-19、229E、NL63、OC43、またはKHU1であり得る。一例では、コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoV、またはCOVID-19である。
【0009】
一例では、本開示に従って治療される対象は、ウイルスに感染しており、少なくとも4mg/mlの循環CRPレベルを有する。別の例では、本開示に従って治療される対象は、ウイルスに感染しており、2~6mg/mlの循環CRPレベルを有する。例えば、対象は、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)またはコロナウイルスに感染し得、少なくとも4mg/mlの循環CRPレベルを有し得る。別の例では、対象は、コロナウイルスに感染し得、少なくとも4mg/mlの循環CRPレベルを有し得る。例えば、対象は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、COVID-19、229E、NL63、OC43、またはKHU1に感染し得、少なくとも4mg/mlの循環CRPレベルを有し得る。別の例では、対象は、SARS-CoV、MERS-CoV、またはCOVID-19に感染し得、少なくとも4mg/mlの循環CRPレベルを有し得る。
【0010】
別の例では、本開示の方法は、i)4mg/L以上の循環CRPレベルを有する、炎症性肺疾患を有する対象を選択するステップ、及びii)間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与するステップを含む。
【0011】
一例では、MLPSCは、冷凍保存され、解凍されたものである。一例では、MLPSCは中間冷凍保存MLPSC集団から培養増殖される。別の例では、MLPSCは、少なくとも約5継代にわたって培養増殖される。一例では、MLPSCはMLPSC100万個あたり少なくとも13pgのTNFR1を発現する。一例では、MLPSCはMLPSC100万個あたり約13pg~約44pgのTNFR1を発現する。一例では、培養増殖されるMLPSCは、少なくとも20回の集団倍加にわたって培養増殖される。別の例では、培養増殖されるMLPSCは、少なくとも30回の集団倍加にわたって培養増殖される。一例では、MLPSCは間葉系幹細胞(MSC)である。別の例では、MLPSCは同種異系である。例えば、MLPSCは同種異系MSCであり得る。
【0012】
一例では、組成物は静脈内に投与される。
【0013】
一例では、本開示の方法は、1×10~2×10個の細胞を投与することを包含する。例えば、1×10~2×10個の細胞の複数回用量が0、30、60及び90日目に投与され得る。一例では、本開示の方法は、1回用量あたり約1×10個の細胞を投与することを包含する。一例では、ベースライン時に用量が投与され、その後、月1回で後続用量が90日間かけて3回投与される。
【0014】
一例では、対象は治療後にFEV1の改善を有する。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.02または少なくとも0.05のFEV1変化を有する。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.05のFEV1変化を有する。一例では、対象は治療後にFVCにおける改善を有する。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.05または少なくとも0.1のFVC変化を有する。一例では、対象は治療後にFEV1/FVCにおける改善を有する。別の例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にベースラインからの少なくとも0.01または少なくとも0.015のFEV1/FVC変化を有する。別の例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから150日以内にベースラインからの少なくとも0.01または少なくとも0.015のFEV1/FVC変化を有する。一例では、対象は治療後に6分間歩行試験における改善を示す。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから60日以内に6分間歩行試験における少なくとも40メートルまたは少なくとも50メートルの改善を示す。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内に6分間歩行試験における少なくとも40メートルまたは少なくとも50メートルの改善を示す。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にFEV1、FVC及び6分間歩行試験における改善を示す。
【0015】
一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にFEV1及びFVCにおける改善を示す。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にFEV1、FVC及び6分間歩行試験における改善を示す。一例では、対象は、第1用量の細胞を受けてから120日以内にFVCにおける改善を示す。別の例では、組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヒト血清アルブミン(HSA)をさらに含む。一例では、組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液をさらに含み、HSA溶液は5%のHSA及び15%の緩衝剤を含む。
【0016】
一例では、組成物は、6.68×10個よりも多い生細胞/mLを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】BL(CRP≧4mg/ml)からのFEV1変化(L)。
図2】FEV1/FVCにおけるBL(CRP≧4mg/ml)からの変化。
図3】高BL(CRP≧4mg/ml)からのFVC変化。
図4】BL6MW総距離(CRP≧4mg/ml)からの変化(メートル)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書の全体を通して、単一のステップ、組成物、ステップ群または組成物群に対する言及は、明記、または文脈による要求が特になされていない限り、それらのステップ、組成物、ステップ群または組成物群の1つ及び複数(つまり1つ以上)を包含すると解釈されるべきである。
【0019】
当業者であれば、本明細書に記載される本開示が、具体的に記載されている以外の変形形態及び改変形態を許容することを認識するであろう。そのような変形形態及び改変形態の全てが本開示に含まれることは理解されるべきである。本開示には、本明細書で言及または指示されているステップ、特徴、組成物及び化合物の全てが、個別にも、または一括りにも含まれ、上記ステップまたは特徴のありとあらゆる組合せ、または任意の2つ以上も含まれる。
【0020】
本開示は、例示の目的のみを意図したものである本明細書に記載の具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきでない。機能的に均等な製品、組成物及び方法は明らかに、本明細書に記載される本開示の範囲に含まれる。
【0021】
特に明記されない限り、本明細書に開示されるいかなる例も、適宜変更を加えた上で他の任意の例に適用されると解釈されるべきである。
【0022】
特に明記されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、当技術分野(例えば、細胞培養、分子遺伝学、幹細胞分化、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学及び生化学)の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有すると解釈されるべきである。
【0023】
特に指定されない限り、本開示で利用される外科的技術は、当業者によく知られている標準的な手技である。
【0024】
間葉系統幹または前駆細胞の集団を得る及び濃縮する方法は、当技術分野で知られている。例えば、間葉系統幹または前駆細胞の濃縮集団は、間葉系統幹または前駆細胞の上に発現する細胞表面マーカーの利用に基づいてフローサイトメトリー及び細胞選別手法を用いることによって得られ得る。
【0025】
本明細書の中で、または参照により本明細書に援用される任意の文書の中で言及される任意の製品についての任意の製造業者の説明書、解説書、製品仕様書及び製品シートと合わせて、本明細書で引用または言及される全ての文書、及び本明細書で引用される文書の中で引用または言及される全ての文書は、これをもって参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
【0026】
定義の抜粋
「及び/または」という用語、例えば「X及び/またはY」は、「X及びY」か「XまたはY」かのどちらかを意味すると理解されるべきであり、両方の意味、またはどちらかの意味に対する明示的な支持を提供するものとして捉えられるべきである。
【0027】
本明細書で使用される場合、約という用語は、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%を指し、但し、そうでないことが述べられている場合を除く。
【0028】
本明細書の全体を通して、「含む(comprise)」という単語、または変化形、例えば「含む(comprises)」もしくは「含んでいる」が、述べられた要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を含むが他の任意の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を排除しないことを暗に意味していることは、理解されよう。
【0029】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は単数形及び複数形の意味を含み、但し、そうでないことを文脈が示している場合を除く。
【0030】
「単離された」または「精製された」は、細胞がその天然の環境の少なくともいくつかの成分から分離されていることを意味する。この用語は、細胞のその天然の環境からの巨視的な物理的分離(例えば、ドナーからの除去)を含む。「単離された」という用語は、例えば解離による、細胞とそのじかにある隣接細胞との関係性の変化を含む。「単離された」という用語は、組織切片中にある細胞を意味しない。細胞の集団に言及して使用される場合、「単離された」という用語は、本開示の単離された細胞の増殖によって得られる細胞の集団を含む。
【0031】
本開示の文脈において、「継代」、「継代すること」または「植え継ぎ」という用語は、細胞数が継続的に増加し得るように細胞を培養条件下で長期間にわたって生存及び成長させ続けるために用いられる既知の細胞培養技術を指して使用される。細胞株が経た植え継ぎの度合いは「継代数」として表されることが多いが、これは一般に、細胞の植え継ぎされた回数を指して使用される。一例では、1継代は、非付着性細胞を除去すること、及び付着性間葉系統前駆または幹細胞を残すことを含む。そのような間葉系統前駆または幹細胞はその後、(例えば、トリプシンまたはコラゲナーゼなどのプロテアーゼを使用することによって)基板またはフラスコから解離され得、培地が添加され得、任意選択の(例えば遠心分離による)洗浄が実施され得、その後、合計でより広い表面積を含む1つ以上の培養容器に間葉系統前駆または幹細胞が蒔き直しまたは再播種され得る。その後、間葉系統前駆または幹細胞は培養物中で増殖し続け得る。別の例では、非付着性細胞を除去する方法は、(例えばEDTAによる)非酵素的処理のステップを含む。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、コンフルエンスまたはそれに近い状態(例えば約75~約95%コンフルエンス)に継代される。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、約10%、約15%または約20%の細胞/ml培養培地の濃度で播種される。
【0032】
本開示の文脈で使用される「培地(medium)」または「培地(media)」という用語は、培養物中の細胞を取り囲む環境の成分を含む。培地は、細胞を成長させることに役立つ、及び/またはそれに適した条件を提供するものと予想される。培地は、固体、液体、気体、または相と物質との混合体であり得る。培地には、液体成長培地、及び細胞成長を維持しない液体培地が含まれ得る。例示的な気体培地としては、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体の上で成長している細胞が曝される気相が挙げられる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「治療すること」、「治療する」または「治療」という用語は、間葉系統幹もしくは前駆細胞の集団、及び/またはその子孫、及び/またはそれに由来する可溶性因子を投与してそれによって炎症性肺疾患の少なくとも1つの症候を軽減または除去することを含む。一例では、治療は、培養増殖させた間葉系統幹または前駆細胞の集団を投与することを含む。一例では、治療奏効はベースラインに対して相対的に判定される。
【0034】
一例では、治療は、対象の肺活量測定結果に基づいて判定される。一例では、肺活量測定結果は、米国呼吸療法学会(AARC)肺活量測定臨床実践ガイドライン(American Association for Respiratory Care:AARC clinical practice guideline:Spirometry,1996 Update.,Respir Care.,41:629-638)に基づいて判定される。
【0035】
一例では、治療は対象のFEV1を改善する。一例では、FEV1における改善は、ベースラインからの少なくとも0.02または少なくとも0.05の変化として認められる。別の例では、FEV1における改善は、ベースラインからの0.02~0.06の変化として認められる。別の例では、FEV1における改善は、ベースラインからの0.02~0.05の変化として認められる。一例では、FEV1における上に言及される改善は、第1用量の細胞を受けてから120日以内、150日以内または180日以内に認められる。一例では、FEV1における上に言及される改善は、3ヶ月間かけて4回用量の細胞を受けた後に認められる。一例では、FEV1における上に言及される改善は、4億個の細胞の総用量を受けた後に認められる。
【0036】
一例では、治療は対象のFVCを改善する。一例では、FVCにおける改善は、ベースラインからの少なくとも0.05または少なくとも0.1の変化として認められる。別の例では、FVCにおける改善は、ベースラインからの0.05~0.15の変化として認められる。別の例では、FVCにおける改善は、ベースラインからの0.05~0.1の変化として認められる。一例では、FVCにおける上に言及される改善は、第1用量の細胞を受けてから120日以内または150日以内に認められる。一例では、FVCにおける上に言及される改善は、3ヶ月間かけて4回用量の細胞を受けた後に認められる。一例では、FVCにおける上に言及される改善は、4億個の細胞の総用量を受けた後に認められる。
【0037】
別の例では、治療は対象のFEV1/FVCを改善する。一例では、FEV1/FVCにおける改善は、ベースラインからの少なくとも0.007または少なくとも0.013の変化として認められる。別の例では、FEV1/FVCにおける改善は、ベースラインからの0.007~0.014の変化として認められる。別の例では、FEV1/FVCにおける改善は、ベースラインからの0.007~0.014の変化として認められる。一例では、FEV1/FVCにおける上に言及される改善は、第1用量の細胞を受けてから120日以内、150日以内または180日以内に認められる。一例では、FEV1/FVCにおける上に言及される改善は、3ヶ月間かけて4回用量の細胞を受けた後に認められる。一例では、FEV1/FVCにおける上に言及される改善は、4億個の細胞の総用量を受けた後に認められる。
【0038】
別の例では、治療は、対象の6分間歩行試験を改善する。一例では、6分間歩行試験における改善は、少なくとも40メートルまたは少なくとも50メートルである。一例では、6分間歩行試験における改善は40~60メートルである。一例では、6分間歩行試験における改善は40~50メートルである。一例では、6分間歩行試験における上に言及される改善は、第1用量の細胞を受けてから60日以内または90日以内に認められる。一例では、6分間歩行試験における上に言及される改善は、2ヶ月間かけて2回用量の細胞を受けた後に認められる。一例では、6分間歩行試験における上に言及される改善は、第1用量の細胞を受けてから120日以内または150日以内に認められる。一例では、6分間歩行試験における上に言及される改善は、3ヶ月間かけて4回用量の細胞を受けた後に認められる。一例では、6分間歩行試験における上に言及される改善は、4億個の細胞の総用量を受けた後に認められる。
【0039】
一例では、6分間歩行試験結果は、ATS statement:guidelines for the six-minute walk test(2002)Am J Respir Crit Care Med.,166:111-7に基づいて判定される。
【0040】
本明細書で使用される「予防する」または「予防すること」という用語は、間葉系統幹もしくは前駆細胞の集団、及び/またはその子孫、及び/またはそれに由来する可溶性因子を投与してそれによって、本明細書に開示される炎症性肺疾患の少なくとも1つの症候の進展を止める、または抑制することを含む。
【0041】
本開示の文脈において、「炎症性肺疾患」という用語は、気道及び/または肺における継続的な炎症過程に起因する疾患を指して使用される。例えば、COPDは、気道及び肺組織を両方とも侵す炎症性肺疾患である。これは慢性閉塞性気管支炎と気腫との組合せとして顕在化し得、前者は気管支の慢性炎症の結果であり、後者は肺胞の機能停止が原因である。炎症性肺疾患の他の例としては、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、特発性肺線維症(IPF)、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、喘息、嚢胞性線維症、肺炎及び間質性肺疾患が挙げられる。一例では、炎症性肺疾患はウイルス感染によって引き起こされる。例えば、炎症性肺疾患は、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)またはコロナウイルスによって引き起こされ得る。一例では、炎症性肺疾患はコロナウイルスによって引き起こされ得る。例えば、コロナウイルスは、コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)またはCOVID-19であり得る。一例では、炎症性肺疾患は、上に言及される病状の組合せによって特徴付けられる。例えば、炎症性肺疾患はCOPD及びARDSを含み得る。
【0042】
「C反応性タンパク質」または「CRP」は炎症媒介因子であり、そのレベルは、急性炎症再発の条件下で上昇し、炎症が弱まった時点で速やかに正常化する。一例では、本開示に従って治療される対象は、上昇した循環CRPレベルを有する。本開示の文脈において、「上昇した循環CRPレベル」という用語は、炎症性肺疾患の症候(複数可)を有し、循環CRPレベル>1mg/mlである対象を指して使用される。一例では、上昇した循環CRPレベルを有する対象は、炎症性肺疾患と診断され得、1mg/mlよりも高い循環CRPレベルを有し得る。
【0043】
一例では、本開示に従って治療される対象は、1.5mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。別の例では、本開示に従って治療される対象は、2mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。一例では、本開示に従って治療される対象は、3mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。一例では、本開示に従って治療される対象は、3.5mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は4mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は、5mg/ml以上、6mg/ml以上、7mg/ml以上、8mg/ml以上、9mg/ml以上、10mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有する。一例では、対象は2~10mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は3~10mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は2~15mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。別の例では、対象は2~20mg/mlの初期循環CRPレベルを有する。
【0044】
一例では、本開示の方法は、対象における疾患進行または疾患合併症を抑制する。対象における疾患進行または疾患合併症の「抑制」は、対象における疾患進行及び/または疾患合併症を予防または軽減することを意味する。
【0045】
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒト対象を指す。例えば、対象は成人であり得る。別の例では、対象は小児であり得る。別の例では、対象は青年であり得る。「対象」、「患者」または「個人」などの用語は、本開示において文脈の中で互換的に使用され得る用語である。
【0046】
本開示に従って治療される対象は、炎症性肺疾患を示唆する症候、及び4mg/ml以上の初期循環CRPレベルを有し得る。炎症性肺疾患を示唆する例示的な症候としては、疲労感、呼吸困難、息切れ、運動能力の欠如または低下、血液または粘液を伴うかまたは伴わない咳、呼吸時の痛み、喘鳴、胸部絞扼感、説明がつかない体重減少、及び筋骨格痛が挙げられる。一例では、炎症性肺疾患は、肺機能検査に基づいて診断される。例えば、炎症性肺疾患は、努力性肺活量(FVC)、1秒量(FEV1)及び努力呼気流量(FEF)のうちの1つ以上に基づいて診断され得る。一例では、炎症性肺疾患は、FEV1/FVC比率に基づいて診断される。
【0047】
別の例では、対象は18~75歳である。別の例では、対象はCOPDを有する。別の例では、対象はARDSを有する。別の例では、対象はIPFを有する。別の例では、対象はPAHを有する。別の例では、対象は喘息を有する。別の例では、対象は嚢胞性線維症を有する。別の例では、対象は肺炎を有する。別の例では、対象は間質性肺疾患を有する。別の例では、対象は、それらの組合せ、例えば、COPDとARDSとを有する。
【0048】
別の例では、対象は、ウイルス感染に続発するARDSを有する。一例では、対象のARDSは、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)またはコロナウイルスによる感染に続発する。一例では、対象のARDSはコロナウイルスによる感染に続発する。例えば、対象のARDSは、SARS-CoV、MERS-CoV、またはCOVID-19による感染に続発し得る。
【0049】
別の例では、本開示の方法は、軽度のCOPDを有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、中等度のCOPDを有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、重度のCOPDを有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、最重度のCOPDを有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、中等度~重度のCOPDを有する対象を予防または治療する。別の例では、本開示の方法は、中等度、重度または最重度のCOPDを有する対象を予防または治療する。一例では、COPDの重症度は、COPDについての閉塞性肺疾患のためのグローバルイニシアチブ(GOLD)基準に基づいて判定される(例えば、Rabe et al.,(2007)Respir Crit Care Med.,176:532-555を参照されたい)。この例では、COPDを有する対象は、0.70未満のFEV1/FVC比率を有し得る。一例では、0.70未満のFEV1/FVC比率を有する対象において、COPDの重症度を診断するために以下を用いる:
- GOLD1-軽度:FEV1≧80%の予測;
- GOLD2-中等度:50%≦FEV1<80%の予測;
- GOLD3-重度:30%≦FEV1<50%の予測;
- GOLD4-最重度:FEV1<30%の予測。
【0050】
本明細書で使用される場合、「遺伝子改変されていない」という用語は、細胞が核酸によるトランスフェクションによって改変されていないことを意味する。誤解を避けるために記すと、本開示の文脈において、Ang1をコードする核酸によってトランスフェクトされた間葉系統前駆または幹細胞は、遺伝子改変されているとみなされよう。
【0051】
「総用量」という用語は、本開示の文脈において、本開示に従って治療された対象が受け取った細胞の総数を指して使用される。一例では、総用量は細胞の1回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の2回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の3回の投与からなる。別の例では、総用量は細胞の4回以上の投与からなる。例えば、総用量は、細胞の2~4回の投与からなり得る。
【0052】
間葉系統前駆細胞
本明細書で使用される場合、「間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)」という用語は、多能性を維持しながら自己再生する能力、ならびに間葉系由来のもの、例えば骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、間質細胞、線維芽細胞及び腱か、非中胚葉由来のもの、例えば肝細胞、神経細胞及び上皮細胞かのどちらかである複数の細胞種に分化する能力を有する、未分化多能細胞を指す。誤解を避けるために記すと、「間葉系統前駆細胞」は、間葉系細胞、例えば、骨、軟骨、筋肉及び脂肪細胞、ならびに線維性結合組織に分化し得る細胞を指す。
【0053】
「間葉系統前駆または幹細胞」という用語は、親細胞及びその未分化子孫を両方とも含む。当該用語はまた、間葉系前駆細胞、多能性間質細胞、間葉系幹細胞(MSC)、血管周囲間葉系前駆細胞及びそれらの未分化子孫も含む。
【0054】
間葉系統前駆または幹細胞は、自家、同種異系、異種、同系または同種であり得る。自家細胞は、それを再移植されることになる同じ個体から単離される。同種異系細胞は、同種のドナーから単離される。異種細胞は、別種のドナーから単離される。同系または同種細胞は、遺伝学的に同一である生物、例えば、双子、クローン、または近親性の高い研究動物モデルから単離される。
【0055】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は同種異系である。一例では、同種異系の間葉系統前駆または幹細胞は、培養増殖させて冷凍保存したものである。
【0056】
間葉系統前駆または幹細胞は主として骨髄の中に存在するが、例えば、臍帯血及び臍帯、成人末梢血、脂肪組織、小柱骨、ならびに歯髄を含めた多様な宿主組織の中にも存在することが示されている。それらは、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、靱帯、腱、骨格筋、真皮及び骨膜の中にみられ、生殖細胞系、例えば中胚葉及び/または内胚葉及び/または外胚葉に分化することができる。このように、間葉系統前駆または幹細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉及び線維性結合組織を含むがこれらに限定されない多数の細胞種に分化することができる。これらの細胞が入っていく具体的な系統専任性及び分化経路は、機序的影響力を有するもの及び/または内因性生物活性因子、例えば、成長因子、サイトカイン、及び/または宿主組織によって確立された局所微小環境条件からの様々な影響によって決まる。
【0057】
「濃縮された」、「濃縮」という用語、またはその変化形は、処理されていない細胞(例えばその天然の環境にある細胞)の集団と比較した場合に1つの特定の細胞種の割合または複数の特定の細胞種の割合が増加している細胞の集団を表して本明細書で使用される。一例では、間葉系統前駆または幹細胞が濃縮された集団は、少なくとも約0.1%または0.5%または1%または2%または5%または10%または15%または20%または25%または30%または50%または75%の間葉系統前駆または幹細胞を含む。これに関して、「間葉系統前駆または幹細胞が濃縮された細胞の集団」という用語は、X%を本明細書中で列挙される百分率とした、「X%の間葉系統前駆または幹細胞を含む細胞の集団」という用語に対して、明示的な支持を提供するものと解釈されよう。間葉系統前駆または幹細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニー、例えばCFU-F(線維芽細胞)を形成し得、またはそのサブセット(例えば50%または60%または70%または70%または90%または95%)がこの活性を有し得る。
【0058】
本開示の一例では、間葉系統前駆または幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均一な組成物であってもよいし、またはMSCが濃縮された混合細胞集団であってもよい。均一なMSC組成物は、付着性骨髄または骨膜細胞を培養することによって得られ得、MSCは、独特なモノクローナル抗体によって識別される固有の細胞表面マーカーによって同定され得る。MSCが濃縮された細胞集団を得るための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。MSCの代替供給源としては、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨及び軟骨膜が挙げられるが、これらに限定されない。一例では、MSCは同種異系である。一例では、MSCは冷凍保存されたものである。一例では、MSCは、培養増殖させて冷凍保存したものである。
【0059】
別の例では、間葉系統前駆または幹細胞は、CD29+、CD54+、CD73+、CD90+、CD102+、CD105+、CD106+、CD166+、MHC1+ MSCである。
【0060】
単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞は、試験管内で培養によって増殖され得る。単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞は、冷凍保存され得、解凍され得、その後、試験管内で培養によって増殖され得る。
【0061】
一例では、単離または濃縮された間葉系統前駆または幹細胞を50,000生細胞/cmで(無血清の、または血清が補充された)培養培地、例えば、5%のウシ胎仔血清(FBS)及びグルタミンが補充されたアルファ最小必須培地(αMEM)に播種し、37℃、20%Oで一晩、培養容器に付着させる。その後、培養培地を必要に応じて交換及び/または変更し、37℃、5%Oでさらに68~72時間にわたって細胞を培養する。
【0062】
当業者には理解されるであろうが、培養された間葉系統前駆または幹細胞は、生体内の細胞とは表現型が異なる。例えば、一実施形態では、それらに以下のマーカー、CD44、NG2、DC146及びCD140bのうちの1つ以上が発現する。培養された間葉系統前駆または幹細胞は、生物学的にも生体内の細胞とは異なっており、生体内の概して静止期(休止期)にある細胞に比べて増殖速度がより速い。
【0063】
一例では、細胞の集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から濃縮される。これに関して、「選択可能な形態」という用語は、細胞にマーカー(例えば細胞表面マーカー)が発現してSTRO-1+細胞の選択が可能になっていることを意味するものと理解されよう。マーカーは、必ずというわけではないが、STRO-1であり得る。例えば、本明細書に記載及び/または例示されているように、STRO-2及び/またはSTRO-3(TNAP)及び/またはSTRO-4及び/またはVCAM-1及び/またはCD146及び/または3G5が発現している細胞(例えば間葉系前駆細胞)は、STRO-1も発現する(そして、STRO-1brightであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であると示されていても、細胞がSTRO-1発現だけによって選択されることを意味してはいない。一例では、細胞は少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えばそれらはSTRO-3+(TNAP+)である。
【0064】
細胞またはその集団の選択に対する言及は、必ずしも特定の組織源からの選択を必要としてはいない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は多種多様な供給源から選択または単離または濃縮され得る。したがって、いくつかの例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば間葉系前駆細胞)を含む任意の組織、または血管形成組織、または周皮細胞(例えばSTRO-1+周皮細胞)を含む組織、または本明細書に列挙される組織の任意の1つ以上からの選択に対する支持を提供する。
【0065】
一例では、本開示において使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+またはその任意の組合せからなる群から個々または集合的に選択される1つ以上のマーカーが発現するものである。
【0066】
「個々に」は、列挙されたマーカーまたはマーカーの群を個別に本開示が包含すること、ならびに個々のマーカーまたはマーカーの群が別個に本明細書に列挙されていない場合があるにもかかわらず別記の特許請求の範囲はそのようなマーカーまたはマーカーの群を互いに別個及び分割可能に規定している場合があることを意味する。
【0067】
「集合的に」は、列挙されたマーカーまたはマーカーの群を任意の数で、または組み合わせて本開示が包含すること、ならびにそのような複数の、または組み合わされたマーカーまたはマーカーの群が具体的に本明細書に列挙されていない場合があるにもかかわらず別記の特許請求の範囲はそのような組合せまたは部分的組合せを他の任意のマーカーまたはマーカーの群とは別個及び分割可能に規定している場合があることを意味する。
【0068】
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することを意図する。例えば、当該用語は、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。一例では、本明細書で使用されるTNAPは、バプテスト条約の規定の下に2005年12月19日にATCCに寄託受入番号PTA-7282の下に寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されたSTRO-3抗体に結合し得る分子を指す。
【0069】
さらには、一例では、STRO-1+細胞はクローン原性CFU-Fをもたらすことができる。
【0070】
一例では、STRO-1+細胞の大部分は、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。STRO-1+細胞に特化され得る系統の非限定的な例としては、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞への多能性を有するものである肝細胞前駆細胞;貧突起膠細胞及びアストロサイトに進化するグリア細胞前駆体を生成し得るものである神経限定細胞;ニューロンに進化する神経前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答姓インスリン分泌性膵ベータ細胞株が挙げられる。他の系統としては、限定はしないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、ならびに以下のものの前駆細胞が挙げられる:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、皮膚細胞、例えば角化細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管上皮細胞、平滑及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経脂肪、アストロサイト及び貧突起膠細胞。
【0071】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、単一のドナーから得られるか、あるいは、ドナー試料または間葉系統前駆もしくは幹細胞を後にプールしてから培養増殖させる場合には複数のドナーから得られる。
【0072】
本開示によって包含される間葉系統前駆または幹細胞は、対象に投与される前に冷凍保存されてもよい。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を培養増殖させ、冷凍保存し、その後、対象に投与される。
【0073】
一例では、本開示は、間葉系統前駆または幹細胞、ならびにその子孫、それに由来する可溶性因子、及び/またはそれから単離される細胞外小胞を包含する。別の例では、本開示は、間葉系統前駆または幹細胞、及びそれから単離される細胞外小胞を包含する。例えば、本開示の間葉系前駆細胞系統または幹細胞を、一定期間にわたって、及び細胞培養培地中への細胞外小胞の分泌に適した条件の下で、培養増殖させることが可能である。分泌された細胞外小胞は、その後、療法に使用するために培養培地から得られ得る。
【0074】
本明細書で使用される「細胞外小胞」という用語は、細胞から天然に放出される約30nmから10ミクロンまでもの範囲の大きさの液体粒子を指し、但し、それらの大きさは典型的には200nm未満である。それらは、放出している細胞(例えば、間葉系幹細胞、STRO-1細胞)からのタンパク質、核酸、脂質、代謝産物または細胞小器官を含有し得る。
【0075】
本明細書で使用される「エキソソーム」という用語は、大きさの範囲が大抵約30nm~約150nmであり、哺乳動物細胞のエンドソーム区画に由来する、細胞外小胞の一種を指すが、それは、当該区画から細胞膜へと移動して放出されるものである。それは、核酸(例えば、RNA、マイクロRNA)、タンパク質、脂質及び代謝産物を含有し得、1つの細胞から分泌されて他の細胞によって取り込まれてその積荷を送達することによって細胞間伝達における機能を果たす。
【0076】
細胞の培養増殖
一例では、間葉系統前駆または幹細胞を培養増殖させる。「培養増殖させた」間葉系統前駆または幹細胞の培地は、細胞培養培地中で培養され継代(つまり植え継ぎ)されているという点で、単離して間もない細胞とは区別される。一例では、培養増殖させた間葉系統前駆または幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖したものである。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代にわたって培養増殖したものである。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~10継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~8継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも5~7継代にわたって培養増殖したものであり得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、10よりも多い継代にわたって培養増殖したものであり得る。別の例では、間葉系統前駆または幹細胞は、7よりも多い継代にわたって培養増殖したものであり得る。これらの例では、幹細胞を培養増殖させてその後に冷凍保存して中間冷凍保存MLPSC集団を得てもよい。一例では、本開示の組成物は、中間冷凍保存MLPSC集団から調製される。例えば、中間冷凍保存MLPSC集団をさらに培養増殖させてその後に以下にさらに記述されるように投与してもよい。したがって、一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、培養増殖させ冷凍保存したものである。これらの例の一実施形態では、間葉系統前駆または幹細胞は、単一のドナーから得られ得るか、あるいは、ドナー試料または間葉系統前駆もしくは幹細胞を後にプールしてから培養増殖させる場合には複数のドナーから得られ得る。一例では、培養増殖プロセスは、
-i.生細胞の数を継代増殖によって増やして少なくとも約10億個の生細胞を得ること
を含み、継代増殖が、単離された間葉系統前駆または幹細胞の初代培養物を確立し、その後、単離された間葉系統前駆または幹細胞の第1非初代(P1)培養物を先の培養物から段階的に確立することを含むものであり;
-ii.単離された間葉系統前駆または幹細胞のP1培養物を継代増殖によって増殖させて間葉系統前駆または幹細胞の第2非初代(P2)培養物を得ること;ならびに
-iii.間葉系統前駆または幹細胞のP2培養物から得られた間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を調製及び冷凍保存すること;ならびに
-iv.冷凍保存された間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を解凍し、間葉系統前駆または幹細胞工程内中間調製物を継代増殖によって増殖させること
を含む。
【0077】
一例では、増殖させた間葉系統前駆または幹細胞調製物は、
-i.約0.75%未満のCD45+細胞;
-ii.少なくとも約95%のCD105+細胞;
-iii.少なくとも約95%のCD166+細胞
を含む抗原プロファイル及び活性プロファイルを有する。
【0078】
一例では、増殖した間葉系統前駆または幹細胞調製物は、CD3/CD28活性化PBMCによるIL2Ra発現を対照に比べて少なくとも約30%阻害することができる。
【0079】
一例では、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞は、約4~10継代にわたって培養増殖したものであり、間葉系統前駆または幹細胞は、少なくとも2または3継代後に冷凍保存されてその後にさらに培養増殖したものである。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたって培養増殖させ、冷凍保存し、次いで少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5継代にわたってさらに培養増殖させ、その後に投与またはさらなる冷凍保存を行う。
【0080】
一例では、本開示の組成物の中の間葉系統前駆または幹細胞の大部分は、ほぼ同じ世代番号のものである(つまり、それらは互いの約1回目または約2回目または約3回目または約4回目の細胞分裂物である)。一例では、本発明の組成物において平均細胞分裂回数は約20~約25回の分裂である。一例では、本発明の組成物において平均細胞分裂回数は、初代培養物から生じた約9~約13回(例えば約11回または約11.2回)の分裂に1継代あたり約1回、約2回、約3回、約4回の分裂(例えば1継代あたり約2.5回の分裂)を足したものである。本発明の組成物において例示的な平均細胞分裂は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9及び約10継代によって生じる場合、それぞれ約13.5回、約16回、約18.5回、約21回、約23.5回、約26回、約28.5回、約31回、約33.5回及び約36回のいずれかである。
【0081】
間葉系統前駆または幹細胞の単離及び生体外増殖のプロセスは、当技術分野で知られている任意の装備及び細胞取扱い方法を用いて実施され得る。本開示の様々な培養増殖実施形態は、細胞の操作を必要とするステップ、例えば、播種、栄養補給、付着培養物の解離、または洗浄のステップを採用する。細胞を操作する任意のステップは、細胞を傷付ける可能性を有する。間葉系統前駆または幹細胞が一般には調製の間の一定量の損傷に耐え得るとはいえ、細胞に対する損傷を最小限に抑えながら所与のステップ(複数可)を適切に実施する取扱い手順及び/または装備によって細胞を操作することが好ましい。
【0082】
一例では、細胞源バッグ、洗浄液バッグ、再循環洗浄バッグ、入口及び出口ポートを有する旋回膜フィルター、濾液バッグ、混合領域、洗浄済み細胞のための最終生成物バッグ、ならびに適切な管類、例えばこれをもって参照により援用されるUS6,251,295に記載されているものを含む装置において、間葉系統前駆または幹細胞を洗浄する。
【0083】
一例では、本開示に係る間葉系統前駆または幹細胞組成物は、CD105陽性及びCD166陽性であること、ならびにCD45陰性であることに関して95%均一である。一例では、この均一性は、生体外での増殖を通して、つまり複数回の集団倍加にわたって持続する。一例では、組成物は、少なくとも1つの治療的用量の間葉系統前駆または幹細胞を含み、間葉系統前駆または幹細胞は、約1.25%未満のCD45+細胞、少なくとも約95%のCD105+細胞、及び少なくとも約95%のCD166+細胞を含む。一例では、この均一性は、極低温貯蔵及び解凍の後でも持続しており、細胞は全体的に約70%以上の生存率も有する。
【0084】
一例では、本開示の組成物は、かなりのレベルのTNFR1、例えば、間葉系統前駆または幹細胞100万個あたり13pgよりも多いTNFR1が発現する間葉系統前駆または幹細胞を含む。一例では、この表現型は、生体外での増殖及び極低温貯蔵の全体を通して安定している。一例では、間葉系統前駆または幹細胞100万個あたり約13~約179pg(例えば約13pg~約44pg)のレベルのTNFR1の発現は、生体外での増殖及び冷凍保存にわたっても持続する望ましい治療的可能性に関連している。
【0085】
一例では、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞には腫瘍壊死因子受容体1(TNFR1)が少なくとも110pg/mlの量で発現する。例えば、間葉系統前駆または幹細胞にはTNFR1が、少なくとも150pg/ml、または少なくとも200pg/ml、または少なくとも250pg/ml、または少なくとも300pg/ml、または少なくとも320pg/ml、または少なくとも330pg/ml、または少なくとも340pg/ml、または少なくとも350pg/mlの量で発現し得る。
【0086】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞にはTNFR1が少なくとも13pg/10細胞の量で発現する。例えば、間葉系統前駆または幹細胞には、TNFR1が、少なくとも15pg/10細胞、または少なくとも20pg/10細胞、または少なくとも25pg/10細胞、または少なくとも30pg/10細胞、または少なくとも35pg/10細胞、または少なくとも40pg/10細胞、または少なくとも45pg/10細胞、または少なくとも50pg/10細胞の量で発現する。
【0087】
別の例では、本明細書に開示される間葉系統前駆または幹細胞は、T細胞上でのIL-2Rα発現を阻害する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、IL-2Rα発現を少なくとも約30%、あるいは少なくとも約35%、あるいは少なくとも約40%、あるいは少なくとも約45%、あるいは少なくとも約50%、あるいは少なくとも約55%、あるいは少なくとも約60阻害し得る。
【0088】
一例では、本開示の組成物は、例えば少なくとも約1億個の細胞または約1億2500万個の細胞を含み得る、少なくとも1つの治療的用量の間葉系統前駆または幹細胞を含む。
【0089】
細胞の改変
本開示の間葉系統前駆または幹細胞は、投与した時に細胞の溶解が抑制されるように改変され得る。抗原の改変は、免疫学的非応答性または忍容を誘発し得、それによって、正常免疫応答における外来細胞の拒絶を最終的に担う免疫応答のエフェクター段階(例えば、細胞傷害性T細胞生成、抗体産生など)の誘発を防止し得る。この目標を達成するために改変され得る抗原としては、例えば、MHCクラスI抗原、MHCクラスII抗原、LFA-3及びICAM-1が挙げられる。
【0090】
間葉系統前駆または幹細胞は、横紋骨格筋細胞の分化及び/または維持のために重要であるタンパク質が発現するように遺伝子改変されてもよい。例示的なタンパク質としては、成長因子(TGF-β、インスリン様成長因子1(IGF-1)、FGF)、筋原性因子(例えば、myoD、myogenin、筋原性因子5(Myf5)、筋原性調節因子(MRF))、転写因子(例えば、GATA-4)、サイトカイン(例えば、cardiotropin-1)、ニューレグリンファミリーのメンバー(例えば、ニューレグリン1、2及び3)、及びホメオボックス遺伝子(例えば、Csx、tinman及びNKxファミリー)が挙げられる。
【0091】
本開示の組成物
本開示の一例では、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子は、組成物の形態で投与される。一例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/または賦形剤を含む。したがって、一例では、本開示の組成物は、培養増殖した間葉系統前駆または幹細胞を含み得る。
【0092】
「担体」及び「賦形剤」という用語は、活性化合物の貯蔵、投与及び/または生物学的活性を容易にするために当技術分野で従来使用されている組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.,Mac Publishing Company(1980)を参照されたい。担体は、活性化合物の何らかの望ましくない副作用を軽減するものでもあり得る。好適な担体は、例えば、安定している、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療のために採用される投薬量及び濃度ではレシピエントに大きな局所的または全身的副作用を生じさせない。
【0093】
本開示に適する担体としては、従来使用されているもの、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンガー液、緩衝液が挙げられ、ヒアルロナン及びグリコールは、特に(等張である場合の)溶液のための、例示的な液体担体である。好適な医薬担体及び賦形剤としては、澱粉、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0094】
別の例では、担体は、例えば細胞を中で成長または懸濁させる、培地組成物である。例えば、そのような培地組成物は、それが投与される対象において何ら副作用を誘発しない。
【0095】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/または細胞の代謝症候群及び/または肥満を軽減する、予防する、もしくは遅らせる能力に悪影響を与えない。
【0096】
一例では、担体または賦形剤は、細胞及び/または可溶性因子を好適なpHに維持する緩衝活性を提供してそれによって生物学的活性を働かせ、例えば、担体または賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体または賦形剤に相当する、というのも、それは細胞及び因子と最小限に相互作用し、細胞及び因子の速やかな放出を可能にするからであり、そのような場合、本開示の組成物は、血流への、あるいは組織の中への、または組織を取り囲んでいるかもしくはそれに隣接する領域の中への例えば注射による直接適用のための液剤として製造され得る。
【0097】
レシピエント適合性であり、レシピエントに対して害がない生成物に分解する足場の中に、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子を組み込むかまたは埋め込んでもよい。これらの足場は、レシピエント対象の中に移植されることになる細胞に対して支持及び保護を提供する。天然及び/または合成の生分解性足場はそのような足場の例である。
【0098】
本開示の実践では多種多様な足場が首尾よく使用され得る。例示的な足場としては、分解可能な生物学的足場が挙げられるが、これらに限定されない。天然の生分解性足場としては、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニン足場が挙げられる。細胞移植足場のための好適な合成材料は、細胞成長及び細胞機能を広く支援することができなければならない。そのような足場は吸収性でもあり得る。好適な足場としては、(例えば、Vacanti,et al.J.Ped.Surg.23:3-9 1988、Cima,et al.Biotechnol.Bioeng.38:145 1991、Vacanti,et al.Plast.Reconstr.Surg.88:753-9 1991によって記載されているような)ポリグリコール酸足場;または合成ポリマー、例えば、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル及びポリ乳酸が挙げられる。
【0099】
別の例では、間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子をゲル足場(例えば、Upjohn CompanyからのGelfoam)の中に入れて投与してもよい。
【0100】
本明細書に記載の組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与され得る。異なる種類の細胞を投与の直前または少し前に本開示の組成物と混合してもよいし、またはそれらを投与前に一定期間にわたって一緒に共培養してもよい。
【0101】
一例では、組成物は、有効量または治療的もしくは予防的有効量の間葉系統前駆もしくは幹細胞及び/またはその子孫及び/またはそれに由来する可溶性因子を含む。例えば、組成物は、約1×10個の幹細胞~約1×10個の幹細胞、または約1.25×10個の幹細胞~約1.25×10個の幹細胞/kg(80kgの対象)を含む。投与される細胞の厳密な量は、対象の年齢、体重及び性別、ならびに治療される障害の程度及び重症度を含めた様々な因子によって決まる。
【0102】
一例では、50×10~200×10個の細胞を投与する。他の例では、60×10~200×10個の細胞、または75×10~150×10個の細胞を投与する。一例では、75×10個の細胞を投与する。別の例では、150×10個の細胞を投与する。
【0103】
一例では、組成物は、5.00×10個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、5.50×10個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.00×10個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.50×10個よりも多い生細胞/mLを含む。別の例では、組成物は、6.68×10個よりも多い生細胞/mLを含む。
【0104】
一例では、本開示の方法は、6億個の総用量の細胞を投与することを包含する。例えば、本開示に従って治療される対象は、細胞の総用量が6億個の細胞を超過しない限りにおいて、上に言及される組成物の用量を複数回受け得る。例えば、対象は、2億個の用量の細胞を3回受け得る。一例では、細胞の総用量は5億個の細胞である。一例では、細胞の総用量は4億個の細胞である。例えば、対象は、1億個の用量の細胞を4回受け得る。一例では、対象は、ベースライン時に1億個の用量の細胞を1回受け、その後、月1回で1億個の用量の細胞を3ヶ月間かけて3回投与される。
【0105】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、組成物の細胞集団の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%を構成する。
【0106】
本開示の組成物は冷凍保存され得る。間葉系統前駆または幹細胞の冷凍保存は、当技術分野で知られている低速冷却法または「高速」凍結プロトコールを用いて行われ得る。好ましくは、冷凍保存の方法は、未凍結細胞と比較して、冷凍保存細胞の類似する表現型、細胞表面マーカー及び成長速度を維持する。
【0107】
冷凍保存された組成物は冷凍保存溶液を含み得る。冷凍保存溶液のpHは、典型的には6.5~8、好ましくは7.4である。
【0108】
冷凍保存溶液は、無菌の非発熱原性等張液、例えば、PlasmaLyte A(商標)などを含み得る。100mLのPlasmaLyte A(商標)は、526mgの塩化ナトリウム、USP(NaCl);502mgのグルコン酸ナトリウム(C11NaO);368mgの酢酸ナトリウム三水和物、USP(CNaO・3HO);37mgの塩化カリウム、USP(KCl);及び30mgの塩化マグネシウム、USP(MgCl・6HO)を含有する。それは抗菌剤を含有しない。pHは水酸化ナトリウムで調整される。pHは7.4(6.5~8.0)である。
【0109】
冷凍保存溶液はProfreeze(商標)を含み得る。冷凍保存溶液は、さらに、またはあるいは、培養培地、例えばαMEMを含み得る。
【0110】
通常は、凍結を容易にするために凍結保護剤、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)を冷凍保存溶液に添加する。理想的には、凍結保護剤は、細胞及び患者に対して無毒であり、非抗原性であり、化学的に不活性であり、解凍後の高い生存率をもたらし、洗浄なしでの移植を可能にするものでなければならない。しかしながら、最も一般的に使用される凍結保護剤であるDMSOはいくらかの細胞毒性を示す。冷凍保存溶液の細胞毒性を軽減するためにヒドロキシルエチル澱粉(HES)を代替物として、またはDMSOと組み合わせて使用することがある。
【0111】
冷凍保存溶液は、DMSO、ヒドロキシエチル澱粉、ヒト血清成分及び他のタンパク質増量剤のうちの1つ以上を含み得る。一例では、冷凍保存される溶液は、約5%のヒト血清アルブミン(HSA)及び約10%のDMSOを含む。冷凍保存溶液は、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)及びトレハロースのうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0112】
一実施形態では、細胞を42.5%Profreeze(商標)/50%αMEM/7.5%DMSOの中に懸濁させ、速度制御された冷凍庫内で冷却する。
【0113】
冷凍保存された組成物は、解凍され得、そのまま対象に投与され得るか、または別の溶液、例えばHAを含む溶液に添加され得る。あるいは、冷凍保存された組成物は、解凍され得、間葉系統前駆または幹細胞が投与前に代替担体中に再懸濁され得る。
【0114】
一例では、本開示の細胞組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びヒト血清アルブミン(HSA)を含み得る。例えば、本開示の組成物は、Plasma-Lyte A(70%)、DMSO(10%)、HSA(25%)溶液を含み得、当該HSA溶液は5%のHSA及び15%の緩衝剤を含み得る。
【0115】
一例では、本明細書に記載の組成物は単回用量として投与され得る。
【0116】
いくつかの例では、本明細書に記載の組成物は複数回用量にわたって投与され得る。例えば、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4回用量である。他の例では、本明細書に記載の組成物は、少なくとも5回、少なくとも6回、少なくとも7回、少なくとも8回、少なくとも9回、少なくとも10回用量にわたって投与され得る。
【0117】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は、対象に投与される前に培養増殖され得る。細胞培養の様々な方法が当技術分野で知られている。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を約4~10継代にわたって培養増殖する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10継代にわたって培養増殖する。一例では、間葉系統前駆または幹細胞を少なくとも5継代にわたって培養増殖する。これらの例では、幹細胞は、冷凍保存される前に培養増殖され得る。
【0118】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞を投与前に無血清培地中で培養増殖する。
【0119】
いくつかの例では、細胞は、細胞が対象の循環系中へと出ていくことを可能にしないが細胞によって分泌された因子が循環系に入ることを可能にする容器の中に収容される。このようにして、可溶性因子は、対象の循環系の中へ細胞が因子を分泌することを可能にすることによって、対象に投与され得る。そのような容器は、同様に、可溶性因子の局所レベルを上昇させるために対象の部位に埋植され得、例えば、消化管壁またはその近傍に埋植され得る。
【0120】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は全身投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の気道に投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は対象の肺(複数可)に投与され得る。別の例では、本開示の組成物は静脈内に投与される。別の例では、組成物は静脈内及び対象の気道に投与される。
【0121】
一例では、間葉系統前駆または幹細胞は週1回投与される。例えば、間葉系統前駆または幹細胞は2週間毎に週1回投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞は月1回投与され得る。一例では、間葉系統前駆または幹細胞の2回用量が2週間かけて週1回投与される。別の例では、間葉系統前駆または幹細胞の2回用量が2週間毎に週1回投与される。別の例では、4回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間かけて投与され、その後、後続用量が月1回投与される。一例では、2回用量の間葉系統前駆または幹細胞が2週間毎に週1回投与され得、その後、後続用量が月1回投与される。一例では、4回用量が月1回投与される。
【0122】
一例では、細胞を含む組成物は、本開示に従って、上昇した循環CRPレベルを有する対象に投与される。一例では、本開示の方法は、i)2mg/L以上の循環CRPレベルを有する、炎症性肺疾患を有する対象を選択するステップ、及びii)間葉系統前駆または幹細胞(MLPSC)を含む組成物を対象に投与するステップを含む。一例では、対象の循環CRPレベルは3mg/L以上である。別の例では、対象の循環CRPレベルは4mg/L以上である。一例では、間葉系幹細胞が対象に投与される。別の例では、対象は、本開示によるCOPD及びARDSのうちの一方または両方を有する。一例では、選択することは、治療されることになっている対象から1つ以上の試料を得ること、及び試料(複数可)の循環CRPレベルを測定することを含む。
【0123】
当業者であれば、本開示の広い全体的範囲から逸脱することなく上記実施形態に対して多数の変形及び/または改変がなされ得ることを認識するであろう。したがって、本発明の実施形態は、あらゆる点において限定的ではなく例示的なものとみなされるべきである。
【0124】
以下の具体的な実施例は、単なる例示であると解釈されるべきであり、決して本開示の残りの部分を限定すると解釈されるべきでない。当業者であれば、さらに労作することなく本明細書の記載に基づいて本発明を最大限に利用し得るものと考えられる。
【0125】
本出願は、2020年3月5日に出願された豪州仮特許出願第2020900685号による優先権を主張するものであり、参照によりその内容全体を本明細書に援用する。
【実施例
【0126】
炎症性肺疾患の治療のための、生体外で培養増殖させた成人同種異系骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)
組成物
組成物は、健常成人ドナーの骨髄から単離された、培養増殖した間葉系間質細胞(ceMSC)を含む。最終組成物は、Plasma-Lyte A、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びヒト血清アルブミン(HSA)で製剤化されたceMSCを含む。
【0127】
目的
- 安全性
- ベースラインからのFev1変化。
- FEV1/FVCにおけるベースラインからの変化。
- ベースラインからのFVC変化。
- ベースライン総6MW距離からの変化
を見極めること。
【0128】
測定
気管支拡張薬の投与の後、FEV1及びFVCを含む肺活量測定を行った。ベースライン測定結果は、気管支拡張薬よりも後であって訪問2回目(試験0日目)における最初の試験薬輸注よりも前に得られたものとみなした。肺活量検査の施行は、米国呼吸療法学会(AARC)肺活量測定臨床実践ガイドライン(www.rcjournal.com/cpgs/spirupdatecpg.html)に従って行われた。
【0129】
全ての試験訪問時に6分間歩行試験(MWT)を実施した。6MWTの手順については米国胸部学会ガイドラインに従った。歩行の前後に心拍数及びSaO2を記録した。歩行の前後に、ボルグスケールを用いる対象の呼吸困難のレベル及び疲労感のレベルと共に、6分間に30メートル(100フィート)の廊下に沿って歩行した距離も記録した。
【0130】
対象
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者をベースライン時(つまり、治療前)の循環CRPレベルに基づいて以下の3つの群に層別した:
- 循環CRPレベル≧4mg/mlである者、及びベースライン時に循環CRPレベル<4mg/mlである者;
- 循環CRPレベル≧3mg/mlである者、及びベースライン時に循環CRPレベル<3mg/mlである者;
- 循環CRPレベル≧2mg/mlである者、及びベースライン時に循環CRPレベル<2mg/mlである者。
【0131】
全てのCOPD患者は彼らの炎症性肺疾患を、静脈内に送達される月1回の用量のMSCで処置された。対象はベースライン時(0日目)に1億個のMSCを受け、その後、月に1回の1億個の用量の細胞をさらに3回投与された(30、60及び90日目)。120日目(彼らの最終用量が投与されてから30日後)にFEV1、FVC及び6分間歩行試験を解析した。
【0132】
解析
4mg/L以上の循環CRPを有する患者群は、プラセボで処置された群と比較して、細胞による処置の後に有意に改善された肺機能を示した(図1~4、表1~4)。例えば、MSCを受けている、4mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内にベースラインからのFEV1変化が0.0625となり、これと対比してプラセボ群では-0.1となった(図1)。MSCを受けている、4mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から150日以内にベースラインからのFEV1/FVC変化が0.02となり、これと対比してプラセボ群では0.002となった(図2)。MSCを受けている、4mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内にベースラインからのFVC変化が0.11となり、これと対比してプラセボ群では-0.25となった(図3)。MSCを受けている、4mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内に6分間歩行試験における52.2メートルの改善を示し、これと対比してプラセボ群では約-3.1メートルとなった(図4)。
【0133】
3mg/L以上の循環CRPを有する患者群も、プラセボで処置された群と比較して、細胞による処置の後に有意に改善された肺機能を示した(表2)。例えば、MSCを受けている、3mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内にベースラインからのFEV1変化が0.05となり、これと対比してプラセボ群では-0.1となった。MSCを受けている、3mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内にベースラインからのFVC変化が0.11となり、これと対比してプラセボ群では-0.22となった。MSCを受けている、4mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内に、6分間歩行試験における42.6メートルの改善を示し、これと対比してプラセボ群では約6.0メートルとなった。
【0134】
2mg/L以上の循環CRPを有する患者群も、プラセボで処置された群と比較して、細胞による処置の後に有意に改善された肺機能を示した(表3)。例えば、MSCを受けている、2mg/L以上のCRPを有する患者群は、第1用量から120日以内にベースラインからのFVC変化が0.042となり、これと対比してプラセボ群では-0.20となった。
これらの結果は、漸次高くなる循環CRPのレベルを有する患者においてMSC処置が、漸次高くなる有益性を示したという点で、驚くべき効果を示している。2mg/mlの循環CRPを有するそのような患者は、4mg/mlの循環CRPを有する患者に比べてあまり奏効が得られない3mg/mlの循環CRPを有する患者に比べてあまり奏効が得られなかった。このことは、循環CRPによって測定した場合に最も低い炎症レベルを有する患者において低分子療法または他の生物学的製剤(例えばモノクローナル抗体)の有効性が最も高くなり、CRPのレベルが高くなるにつれてそれらの効果が漸次減少することを考えると、予想外なことである。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】