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特表2023-517097船内病原体感染追跡のための接触者追跡システム及び方法
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  • 特表-船内病原体感染追跡のための接触者追跡システム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】船内病原体感染追跡のための接触者追跡システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/80 20180101AFI20230414BHJP
【FI】
G16H50/80
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554585
(86)(22)【出願日】2021-03-08
(85)【翻訳文提出日】2022-11-07
(86)【国際出願番号】 US2021021393
(87)【国際公開番号】W WO2021183451
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】62/987,343
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】520075041
【氏名又は名称】ロイヤル カリビアン クルージズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Royal Caribbean Cruises Ltd.
【住所又は居所原語表記】1050 Caribbean Way,Suite 577,Miami,FL 33132,US
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 絵里
(72)【発明者】
【氏名】ウィアー ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ルビ アーネスト エム
(72)【発明者】
【氏名】アルティン ダニエル ジョン
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA00
(57)【要約】
感染症追跡のための接触者追跡システム及び方法を開示する。感染症追跡システムが複数のユーザ装置を含み、各ユーザ装置は、複数のユーザ装置のうちの別のユーザ装置によって放出された信号を無線通信モジュールを使用して検出するように構成される。ユーザ装置は、信号の強度が装置のユーザ間の物理的近接に対応する所定のイベント開始信号強度閾値を上回ると判定し、信号の強度が所定のイベント開始信号強度閾値を上回ったとの判定に応答して接触者追跡イベント記録を記憶することができる。ユーザ装置は、接触者追跡イベント記録をデータセンターに送信し、接触者追跡イベント記録はデータセンターに記憶され、感染症の初発症例患者が特定された際に濃厚接触者を特定するために使用することができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルーズ船のための感染症追跡システムであって、
複数のユーザ装置を含み、各ユーザ装置は、無線通信モジュールと、1又は2以上のプロセッサと、コンピュータ実行可能命令を記憶するメモリとを備え、前記コンピュータ実行可能命令は、1又は2以上のプロセッサによって実行された時に、少なくとも、
前記無線通信モジュールを使用して、前記複数のユーザ装置のうちの他のユーザ装置によって放出された信号を検出することと、
前記信号の強度が所定のイベント開始信号強度閾値を上回っていると判定することと、
前記信号の強度が前記所定のイベント開始信号強度閾値を上回っていると判定したことに応答して、前記メモリに接触者追跡イベント記録を記憶することと、
前記接触者追跡イベント記録を送信することと、
を前記1又は2以上のプロセッサに行わせる、
ことを特徴とする感染症追跡システム。
【請求項2】
前記接触者追跡イベント記録を記憶することは、
少なくともタイムスタンプと前記複数のユーザ装置のうちの前記他のユーザ装置の識別子とを含む初期接触者追跡イベントデータ点を記憶することと、
前記複数のユーザ装置のうちの前記他のユーザ装置から受け取られた後続の信号に基づいてさらなる接触者追跡イベントデータ点を記憶することによって前記接触者追跡イベント記録を更新することと、
さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を終了することと、
を含む、請求項1に記載の感染症追跡システム。
【請求項3】
前記コンピュータ実行可能命令は、前記後続の信号の強度をイベント中断信号強度閾値と比較することを前記1又は2以上のプロセッサにさらに行わせ、前記さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶は、前記後続の信号のうちの少なくとも1つが前記イベント中断信号強度閾値未満の強度を有することに少なくとも部分的に基づいて終了する、
請求項2に記載の感染症追跡システム。
【請求項4】
前記さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶は、前記後続の信号の前記強度が少なくとも所定の猶予期間にわたって前記イベント中断信号強度閾値未満に留まっていることに基づいて終了する、
請求項3に記載の感染症追跡システム。
【請求項5】
前記猶予期間は90秒である、
請求項4に記載の感染症追跡システム。
【請求項6】
前記コンピュータ実行可能命令は、少なくとも、
前記後続の信号のうちの第1の後続の信号が前記イベント中断信号強度閾値未満の強度を有することに基づいて前記さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を中断することと、
所定の猶予期間の経過前に前記後続の信号のうちの第2の後続の信号が前記イベント中断信号強度閾値を上回る強度を有することを検出したことに応答して前記さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を再開することと、
を前記1又は2以上のプロセッサにさらに行わせる、請求項3に記載の感染症追跡システム。
【請求項7】
前記イベント中断信号強度閾値は、前記イベント開始信号強度閾値よりも小さい、
請求項3に記載の感染症追跡システム。
【請求項8】
前記イベント開始信号強度閾値は、-68デシベルミリワット(dBm)の受信信号強度インジケータ値であり、前記イベント中断信号強度閾値は-68dBmよりも小さい、
請求項7に記載の感染症追跡システム。
【請求項9】
前記イベント開始信号強度閾値は、所定の受信信号強度インジケータ(RSSI)値を含む、
請求項1に記載の感染症追跡装置。
【請求項10】
前記接触者追跡イベント記録は複数の接触者追跡イベントデータ点を含み、各接触者追跡イベントデータ点は少なくともタイムスタンプ及びRSSI値を含む、
請求項9に記載の感染症追跡システム。
【請求項11】
前記イベント開始信号強度閾値は-68デシベルミリワット(dBm)である、
請求項9に記載の感染症追跡システム。
【請求項12】
前記接触者追跡イベント記録は、少なくとも接触者追跡イベントの持続時間と、前記複数のユーザ装置のうちの前記他のユーザ装置の識別子又は該他のユーザ装置のユーザの識別子とを示す、
請求項1に記載の感染症追跡システム。
【請求項13】
前記コンピュータ実行可能命令は、前記持続時間が所定の濃厚接触時間閾値を上回ったことに基づいて前記接触者追跡イベント記録を濃厚接触を示すように修正することを前記1又は2以上のプロセッサにさらに行わせる、
請求項12に記載の感染症追跡システム。
【請求項14】
前記濃厚接触時間閾値は、5分又は15分の一方である、
請求項12に記載の感染症追跡システム。
【請求項15】
各ユーザ装置の前記無線通信モジュールは、Bluetooth Low Energy(BLE)プロトコルを使用して前記他のユーザ装置の無線通信モジュールと通信するように構成される、
請求項1に記載の感染症追跡システム。
【請求項16】
前記クルーズ船内に配置されて、前記送信された接触者追跡イベント記録を受け取るように構成された複数の無線アクセスポイントをさらに含む、
請求項1に記載の感染症追跡システム。
【請求項17】
前記複数の無線アクセスポイントは、Bluetooth Low Energy(BLE)プロトコルを使用して前記ユーザ装置の各々と通信するように構成される、
請求項16に記載の感染症追跡システム。
【請求項18】
前記コンピュータ実行可能命令は、複数の接触者追跡イベント記録を記憶し、前記複数の無線アクセスポイントの個々の無線アクセスポイントを検出したことに応答して前記個々の無線アクセスポイントに最新の接触者追跡イベント記録の組を送信することを前記1又は2以上のプロセッサに行わせる、
請求項16に記載の感染症追跡システム。
【請求項19】
前記複数の無線アクセスポイントの各々はサーバと通信し、前記受け取った接触者追跡イベント記録を前記サーバに送信するように構成される、
請求項16に記載の感染症追跡システム。
【請求項20】
前記サーバは、各接触者追跡イベント記録を、該接触者追跡イベント記録を生成した前記ユーザ装置の識別子又は該ユーザ装置のユーザの識別子に関連付けてデータストアに記憶するように構成される、
請求項19に記載の感染症追跡システム。
【請求項21】
前記サーバは、各接触者追跡イベント記録と、該接触者追跡イベント記録において識別された第2のユーザ装置の識別子又は該第2のユーザ装置のユーザの識別子との間の関連性を前記データストアに記憶するようにさらに構成される、
請求項20に記載の感染症追跡システム。
【請求項22】
前記サーバは、前記接触者追跡イベント記録の組に含まれるタイムスタンプに少なくとも部分的に基づいて、同じ接触者追跡イベントに対応する異なるユーザ装置によって生成された接触者追跡イベント記録の対を識別するようにさらに構成される、
請求項21に記載の感染症追跡システム。
【請求項23】
前記サーバは、前記識別された接触者追跡イベント記録の組に基づいて重複排除を実行するようにさらに構成される、
請求項22に記載の感染症追跡システム。
【請求項24】
前記サーバは、少なくとも、
感染症の初発症例ユーザとして識別されたユーザの識別を受け取り、
前記ユーザの前記識別に応答して、前記データストアに問い合わせを行って、前記初発症例ユーザに関連する濃厚接触記録を有する濃厚接触ユーザの組を決定し、
前記濃厚接触ユーザの組を識別する接触者追跡結果を出力する、
ようにさらに構成される、請求項20に記載の感染症追跡システム。
【請求項25】
サーバと、
前記クルーズ船内に配置されて、それぞれが前記ユーザ装置から前記接触者追跡イベント記録を無線で受け取り、前記受け取った接触者追跡イベント記録を前記サーバに送信するように構成された、複数の無線アクセスポイントと、
を備え、
前記サーバは、少なくとも、
前記接触者追跡イベント記録をデータストアに記憶し、
感染症の初発症例ユーザとして識別されたユーザの識別を受け取り、
前記ユーザの前記識別に応答して、前記データストアに問い合わせを行って、前記初発症例ユーザに関連する濃厚接触記録を有する濃厚接触ユーザの組を決定し、
前記濃厚接触ユーザの組を識別する接触者追跡結果を出力する、
ように構成される、
請求項1に記載の感染症追跡システム。
【請求項26】
クルーズ船のための感染症追跡システムであって、
前記クルーズ船内に配置された複数の無線アクセスポイントと、
サーバと、
を備え、前記複数の無線アクセスポイントの各無線アクセスポイントは、
前記無線アクセスポイントに近接するモバイル装置を検出して識別するように構成された通信モジュールと、
前記通信モジュールと通信するプロセッサと、
を含み、前記プロセッサは、モバイル装置が検出される度にデータストアに位置データ点を記憶させるように構成され、各位置データ点は、
タイムスタンプと、
無線アクセスポイントとの関連性と、
前記モバイル装置に対応するユーザとの関連性と、
を含み、前記サーバは、前記データストアと通信するとともに、
疾患の初発症例患者であると判定された第1のユーザの識別を受け取り、
前記タイムスタンプと、前記第1のユーザに関連する複数の位置データ点に対応する前記無線アクセスポイントとに基づいて、前記第1のユーザに対応する動きプロファイルを決定し、
前記動きプロファイルに基づいて、前記第1のユーザとの接触の可能性を示す、それぞれが前記第1のユーザ以外のユーザに関連する1又は2以上のさらなる位置データ点を識別し、
前記1又は2以上のさらなる位置データ点に基づいて、前記第1のユーザと接触した可能性がある第2のユーザの組を決定する、
ように構成される、
ことを特徴とする感染症追跡システム。
【請求項27】
前記サーバは、前記第2のユーザに対応する動きプロファイルを決定するようにさらに構成される、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項28】
前記サーバは、前記第2のユーザに対応する前記動きプロファイルに少なくとも部分的に基づいて、前記第2のユーザのうちの1人又は2人以上と接触した可能性がある第3のユーザの組を決定するようにさらに構成される、
請求項27に記載の感染症追跡システム。
【請求項29】
前記サーバは、前記第2のユーザの組、前記第3のユーザの組、及び前記クルーズ船の乗客名簿に少なくとも部分的に基づいて、前記第1のユーザ、又は前記第1のユーザと接触した1又は2以上の他のユーザと接触していない乗客のリストを生成するようにさらに構成される、
請求項28に記載の感染症追跡システム。
【請求項30】
前記サーバは、前記第2のユーザの組及び前記第3のユーザの組に少なくとも部分的に基づいて、隔離すべき乗客のリストを生成するようにさらに構成される、
請求項28に記載の感染症追跡システム。
【請求項31】
前記モバイル装置の各々は、パーソナルコンピュータ装置又はウェアラブル電子装置のうちの1つ又は2つ以上を含む、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項32】
各無線アクセスポイントの通信モジュールは、近距離Bluetooth、Bluetooth Low Energy(BLE)、近距離無線通信(NFC)、Wi-Fi、無線周波数識別(RFID)、又は無線ブロードバンド通信プロトコルのうちの1つ又は2つ以上を使用してモバイル装置の検出及び識別を行うように構成される、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項33】
前記1又は2以上のさらなる位置データ点の各々は、前記さらなる位置データ点が同じ無線アクセスポイントに関連するとともに、前記第1のユーザに関連する位置データ点のうちの少なくとも1つに対する閾値時間内のタイムスタンプを有する場合に識別される、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項34】
前記サーバは、前記無線アクセスポイントが配置された前記クルーズ船のエリアの画像又はビデオを記録する撮像システムとさらに通信する、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項35】
前記サーバは、
前記さらなる位置データ点の各々に対応する画像又はビデオファイルを前記撮像システムから取得し、
各画像又はビデオファイルと、前記対応するさらなる位置データ点に関連する前記第2のユーザとの間の関連性を記憶する、
ようにさらに構成される、請求項34に記載の感染症追跡システム。
【請求項36】
前記撮像システムは、該撮像システムによって撮像された画像に基づいて顔認識結果を決定するようにさらに構成され、前記感染制御システムは、前記顔認識結果に基づいて第2のユーザを識別するようにさらに構成される、
請求項34に記載の感染症追跡システム。
【請求項37】
前記システムは、前記データストア内の前記位置データ点を所定の保持期間にわたって保持する、
請求項26に記載の感染症追跡システム。
【請求項38】
前記所定の保持期間は1ヶ月である、
請求項37に記載の感染症追跡システム。
【請求項39】
前記システムは、前記クルーズ船の第1の航海中に前記データストアに記憶された前記位置データ点を少なくとも前記クルーズ船のその後の航海の終了まで保持する、
請求項37に記載の感染症追跡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2020年3月9日に出願された「船内病原体感染追跡のための接触者追跡システム及び方法(CONTACT TRACING SYSTEMS AND METHODS FOR TRACKING OF SHIPBOARD PATHOGEN TRANSMISSION)」という名称の米国仮特許出願シリアル番号第62/987,343号の利益を主張するものであり、この文献は全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本出願は、現在又は以前の航海のゲストが感染症の初発症例患者であることを確認した際の船内接触者追跡のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
接触者追跡は、感染者と接触した可能性がある人物(以下、接触者)を特定し、その後にこれらの接触者に関する詳細な情報を収集するプロセスである。公衆衛生システムは、感染者の接触者の追跡、これらの接触者の検査、感染者の治療及びその接触者の追跡を順に行うことによって、集団内での感染症の蔓延を抑えて食い止めようと模索する。接触者追跡は、はしかのようなワクチンで予防できる感染力の強い感染症、様々な形態の胃腸炎(例えば、ノロウイルス)及び新規感染症(例えば、COVID-19、SARS-CoV、SARS-CoV-2)を含む多くの異なるタイプの感染症に対して実行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第10,645,536号明細書
【特許文献2】米国特許第10,776,613号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本技術の第1の態様では、クルーズ船のための感染症追跡システムが複数のユーザ装置を含み、各ユーザ装置は、無線通信モジュールと、1又は2以上のプロセッサと、コンピュータ実行可能命令を記憶するメモリとを含む。命令は、1又は2以上のプロセッサによって実行された時に、少なくとも、無線通信モジュールを使用して、複数のユーザ装置のうちの別のユーザ装置によって放出された信号を検出することと、信号の強度が所定のイベント開始信号強度閾値を上回っていると判定することと、信号の強度が所定のイベント開始信号強度閾値を上回っていると判定したことに応答して、メモリに接触者追跡イベント記録を記憶することと、接触者追跡イベント記録を送信することと、を1又は2以上のプロセッサに行わせる。
【0006】
いくつかの実施形態では、接触者追跡イベント記録を記憶することが、少なくともタイムスタンプと複数のユーザ装置のうちの他のユーザ装置の識別子とを含む初期接触者追跡イベントデータ点を記憶することと、複数のユーザ装置のうちの他のユーザ装置から受け取られた後続の信号に基づいてさらなる接触者追跡イベントデータ点を記憶することによって接触者追跡イベント記録を更新することと、さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を終了することと、を含む。いくつかの実施形態では、命令が、後続の信号の強度をイベント中断信号強度閾値と比較することを1又は2以上のプロセッサにさらに行わせ、さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶は、後続の信号のうちの少なくとも1つがイベント中断信号強度閾値未満の強度を有することに少なくとも部分的に基づいて終了する。いくつかの実施形態では、さらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶が、後続の信号の強度が少なくとも所定の猶予期間にわたってイベント中断信号強度閾値未満に留まっていることに基づいて終了する。いくつかの実施形態では、猶予期間が90秒である。いくつかの実施形態では、命令が、少なくとも、後続の信号のうちの第1の後続の信号がイベント中断信号強度閾値未満の強度を有することに基づいてさらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を中断することと、所定の猶予期間の経過前に後続の信号のうちの第2の後続の信号がイベント中断信号強度閾値を上回る強度を有することを検出したことに応答してさらなる接触者追跡イベントデータ点の記憶を再開することと、を1又は2以上のプロセッサにさらに行わせる。いくつかの実施形態では、イベント中断信号強度閾値がイベント開始信号強度閾値よりも小さい。いくつかの実施形態では、イベント開始信号強度閾値が-68デシベルミリワット(dBm)の受信信号強度インジケータ値であり、イベント中断信号強度閾値が-68dBmよりも小さい。
【0007】
いくつかの実施形態では、イベント開始信号強度閾値が所定の受信信号強度インジケータ(RSSI)値を含む。いくつかの実施形態では、接触者追跡イベント記録が複数の接触者追跡イベントデータ点を含み、各接触者追跡イベントデータ点が少なくともタイムスタンプ及びRSSI値を含む。いくつかの実施形態では、イベント開始信号強度閾値が-68デシベルミリワット(dBm)である。
【0008】
いくつかの実施形態では、接触者追跡イベント記録が、少なくとも接触者追跡イベントの持続時間と、複数のユーザ装置のうちの他のユーザ装置の識別子又は他のユーザ装置のユーザの識別子とを示す。いくつかの実施形態では、命令が、持続時間が所定の濃厚接触時間閾値を上回ったことに基づいて接触者追跡イベント記録を濃厚接触を示すように修正することを1又は2以上のプロセッサにさらに行わせる。いくつかの実施形態では、濃厚接触時間閾値が5分又は15分の一方である。
【0009】
いくつかの実施形態では、各ユーザ装置の無線通信モジュールが、Bluetooth Low Energy(BLE)プロトコルを使用して他のユーザ装置の無線通信モジュールと通信するように構成される。
【0010】
いくつかの実施形態では、システムが、クルーズ船内に配置されて、送信された接触者追跡イベント記録を受け取るように構成された複数の無線アクセスポイントをさらに含む。いくつかの実施形態では、複数の無線アクセスポイントが、Bluetooth Low Energy(BLE)プロトコルを使用してユーザ装置の各々と通信するように構成される。いくつかの実施形態では、命令が、複数の接触者追跡イベント記録を記憶し、複数の無線アクセスポイントの個々の無線アクセスポイントを検出したことに応答して個々の無線アクセスポイントに最新の接触者追跡イベント記録の組を送信することを1又は2以上のプロセッサに行わせる。いくつかの実施形態では、複数の無線アクセスポイントの各々がサーバと通信し、受け取った接触者追跡イベント記録をサーバに送信するように構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、各接触者追跡イベント記録を、接触者追跡イベント記録を生成したユーザ装置の識別子又はユーザ装置のユーザの識別子に関連付けてデータストアに記憶するように構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、各接触者追跡イベント記録と、接触者追跡イベント記録において識別された第2のユーザ装置の識別子又は第2のユーザ装置のユーザの識別子との間の関連性をデータストアに記憶するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、接触者追跡イベント記録の組に含まれるタイムスタンプに少なくとも部分的に基づいて、同じ接触者追跡イベントに対応する異なるユーザ装置によって生成された接触者追跡イベント記録の対を識別するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、識別された接触者追跡イベント記録の組に基づいて重複排除を実行するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、少なくとも、感染症の初発症例ユーザとして識別されたユーザの識別を受け取り、ユーザの識別に応答して、データストアに問い合わせを行って、初発症例ユーザに関連する濃厚接触記録を有する濃厚接触ユーザの組を決定し、濃厚接触ユーザの組を識別する接触者追跡結果を出力する、ようにさらに構成される。
【0011】
いくつかの実施形態では、システムが、サーバと、クルーズ船内に配置されて、それぞれがユーザ装置から接触者追跡イベント記録を無線で受け取り、受け取った接触者追跡イベント記録をサーバに送信するように構成された、複数の無線アクセスポイントとを備え、サーバは、少なくとも、接触者追跡イベント記録をデータストアに記憶し、感染症の初発症例患者ユーザとして識別されたユーザの識別を受け取り、ユーザの識別に応答して、データストアに問い合わせを行って、初発症例ユーザに関連する濃厚接触記録を有する濃厚接触ユーザの組を決定し、濃厚接触ユーザの組を識別する接触者追跡結果を出力する、ように構成される。
【0012】
本技術の第2の態様では、クルーズ船のための感染症追跡システムが、クルーズ船内に配置された複数の無線アクセスポイントと、サーバとを備え、複数の無線アクセスポイントの各無線アクセスポイントは、無線アクセスポイントに近接するモバイル装置を検出して識別するように構成された通信モジュールと、通信モジュールと通信するプロセッサとを含み、プロセッサは、モバイル装置が検出される度にデータストアに位置データ点を記憶させるように構成される。各位置データ点は、タイムスタンプと、無線アクセスポイントとの関連性と、モバイル装置に対応するユーザとの関連性とを含む。サーバは、データストアと通信するとともに、疾患の初発症例患者であると判定された第1のユーザの識別を受け取り、タイムスタンプと、第1のユーザに関連する複数の位置データ点に対応する無線アクセスポイントとに基づいて、第1のユーザに対応する動きプロファイルを決定し、動きプロファイルに基づいて、第1のユーザとの接触の可能性を示す、それぞれが第1のユーザ以外のユーザに関連する1又は2以上のさらなる位置データ点を識別し、1又は2以上のさらなる位置データ点に基づいて、第1のユーザと接触した可能性がある第2のユーザの組を決定する、ように構成される。
【0013】
いくつかの実施形態では、サーバが、第2のユーザに対応する動きプロファイルを決定するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、第2のユーザに対応する動きプロファイルに少なくとも部分的に基づいて、第2のユーザのうちの1人又は2人以上と接触した可能性がある第3のユーザの組を決定するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、第2のユーザの組、第3のユーザの組、及びクルーズ船の乗客名簿に少なくとも部分的に基づいて、第1のユーザ、又は第1のユーザと接触した1又は2以上の他のユーザと接触していない乗客のリストを生成するようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、サーバが、第2のユーザの組及び第3のユーザの組に少なくとも部分的に基づいて、隔離すべき乗客のリストを生成するようにさらに構成される。
【0014】
いくつかの実施形態では、モバイル装置の各々が、パーソナルコンピュータ装置又はウェアラブル電子装置のうちの1つ又は2つ以上を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、各無線アクセスポイントの通信モジュールが、近距離Bluetooth、Bluetooth Low Energy(BLE)、近距離無線通信(NFC)、Wi-Fi、無線周波数識別(RFID)、又は無線ブロードバンド通信プロトコルのうちの1つ又は2つ以上を使用してモバイル装置の検出及び識別を行うように構成される。
【0016】
いくつかの実施形態では、1又は2以上のさらなる位置データ点の各々が、さらなる位置データ点が同じ無線アクセスポイントに関連するとともに、第1のユーザに関連する位置データ点のうちの少なくとも1つに対する閾値時間内のタイムスタンプを有する場合に識別される。
【0017】
いくつかの実施形態では、サーバが、無線アクセスポイントが配置されたクルーズ船のエリアの画像又はビデオを記録する撮像システムとさらに通信する。いくつかの実施形態では、サーバが、さらなる位置データ点の各々に対応する画像又はビデオファイルを撮像システムから取得し、各画像又はビデオファイルと、対応するさらなる位置データ点に関連する第2のユーザとの間の関連性を記憶する、ようにさらに構成される。いくつかの実施形態では、撮像システムが、撮像システムによって撮像された画像に基づいて顔認識結果を決定するようにさらに構成され、感染制御システムが、顔認識結果に基づいて第2のユーザを識別するようにさらに構成される。
【0018】
いくつかの実施形態では、システムが、データストア内の位置データ点を所定の保持期間にわたって保持する。いくつかの実施形態では、所定の保持期間が1ヶ月である。いくつかの実施形態では、システムが、クルーズ船の第1の航海中にデータストアに記憶された位置データ点を少なくともクルーズ船のその後の航海の終了まで保持する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本技術による、船上コンピュータシステム及び陸上コンピュータシステムを含むネットワークコンピュータシステム例の概略図である。
図2】本技術による船内病原体感染追跡システム例の概略図である。
図3】本技術による、船内病原体感染追跡のために構成されたユーザ装置例の概略図である。
図4】本技術による、接触者追跡イベントを記録するアルゴリズム例を示すフローチャートである。
図5】本技術による、接触者追跡方法例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
接触者追跡は、進行中の感染症の感染を阻止してその蔓延を抑え込もうとするものである。接触者追跡は、一般に以下のステップを含む。
・ある個人(「初発症例患者」)を感染症に感染しているものとして特定する。かかりつけ医は、この症例を公衆衛生当局に報告し又は管理することができる。
・初発症例患者に聞き取りを行って、初発症例患者の動き、及び初発症例患者が特定の関心期間内に誰と濃厚接触したかを突き止める。
・病気及び感染状況によっては、家族、医療従事者、及び症例者の接触者を知っている可能性がある他の全ての人物に聞き取りを行うこともある。
・接触者が特定されると、保健所職員が特定された接触者に連絡して、カウンセリング、スクリーニング、予防的ケア及び/又は治療を提供する。
・感染症の蔓延を抑えるために必要とみなされる場合には、接触者が隔離され(例えば、病院環境での隔離又は自宅待機の要請)又は締め出される(例えば、学校のような特定の場所への出席の禁止)場合もある。
・接触者が個人的に特定不可能な(例えば、同じ場所に大衆が参加していた)場合には、メディア勧告などのより広範な情報伝達が行われることもある。
新規感染症の場合には、接触者追跡が、感染力及び潜伏期間などの感染症の特徴に関する重要なデータをもたらすこともできる。典型的な接触者追跡には時間、人手がかかり、面倒である。接触者追跡には高速かつ正確な情報が必要であるが、接触者のリストは不完全又は不正確なものになってしまうことが多い。典型的な形態の接触者追跡の最も大きな欠点の1つは、初発症例患者と濃厚接触していた可能性がある個人を特定するのに時間がかかる点である。
【0021】
本開示は、限定するわけではないがクルーズ船などの船舶上での迅速な接触者追跡のためのシステム及び方法に関する。本開示の実施形態は、以下に限定するわけではないが、病院及びその他の医療環境、アパート、オフィスビル、刑務所、遊園地、並びに競技場及びコンサート会場などの娯楽会場を含む多くの異なる環境に実装することができる。(特定のクルーズ船上に物理的に存在する全ての乗組員及びゲストなどの)規定空間内に物理的に存在する、又は(特定のクルーズ船の特定の航海に乗船した全てのゲストなど)規定集団に関連する各人物の人物固有データ(person-specific data)を収集するために、顔認識システム、Bluetooth Low Energy(BLE)システム、及びRFIDシステムなどのシステムの組み合わせが使用される。
【0022】
いくつかの例では、この人物固有データが、クルーズ船航海の開始から終了までの各ゲスト及び乗組員について収集される。ゲスト又は乗組員が感染症にかかった「初発症例患者」として識別されると、収集された初発症例患者の人物固有データを使用して、初発症例患者の規定空間内の物理的位置のマップ(以下、「動きプロファイル」と呼ぶ)を計算する。動きプロファイルは、全ての時点における規定空間内の人物の物理的位置に関する情報、又は人物固有データを利用できる全ての時点に関する情報を含むことができる。
【0023】
本技術のいくつかの実装では、次に、(特定のクルーズ船上に物理的に存在する全ての乗組員及びゲストなどの)規定空間内に物理的に存在する全ての人物、又は(特定のクルーズ船の特定の航海に乗船した全てのゲストなどの)規定集団に関連する全ての人物の動きプロファイルを計算する。これらの動きプロファイルは、クルーズ船の特定の航海中に収集された各個人の人物固有データを使用して計算することができる。
【0024】
本開示の実施形態は、初発症例患者の動きプロファイルを他の全ての関心のある個人の動きプロファイルと比較することによって迅速な接触者追跡を実行する。関心のある個人は、例えば、所与の時点で特定のクルーズ船上に物理的に存在する全てのゲスト及び乗組員、(その後にクルーズ船から下船したか否かにかかわらず)特定のクルーズ船の特定の航海に乗船した全てのゲスト及び乗組員、並びに特定のクルーズ船の直前の航海に乗船した全てのゲスト及び乗組員を含むことができる。初発症例患者の動きプロファイルと他の関心のある個人の動きプロファイルとを比較した結果、初発症例患者に近接していた、又は密接に接触していた(1つの例では、初発症例患者の規定のフィート数以内の)関心のある個人は「濃厚接触者」として特定される。本開示の実施形態は、特定された「濃厚接触者」の動きプロファイルを他の全ての関心のある個人の動きプロファイルと比較することによってさらなる「濃厚接触者」を特定することを含む。このようにして、船内状況において初発症例患者の「濃厚接触者」が迅速かつ正確に特定される。
【0025】
「濃厚接触」という用語は、感染症の種類に応じて、船内の医療従事者及び公衆衛生当局が0~Xのフィート数を意味するように定めることができる。1つの非限定的な例では、ある個人が初発症例患者の0~3フィート以内に入り込んだ場合、その個人は初発症例患者と濃厚接触したとみなされる。別の非限定的な例では、ある個人が初発症例患者の0~6フィート以内に入り込んだ場合、その個人は初発症例患者と濃厚接触したとみなされる。この距離閾値は、特定の病原体又は疾病の具体的な感染特性に基づいて(例えば、医務官又は他の乗組員が)選択することができる。距離閾値は、公衆衛生当局によって提供される指針に基づいて選択することもできる。
【0026】
本技術の他の実装では、次に、規定空間内に存在する又は規定集団に関連する全ての人物ではなく一部の人物の動きプロファイルを計算する。例えば、初発症例患者の動きプロファイルが、特定のクルーズ期間中に初発症例患者がデッキ1、2及び3に物理的に存在していなかったことを示す場合には、航海期間中にデッキ1、2及び/又は3のみに存在していたことが分かっている個人の動きプロファイルを計算しないことができる。
【0027】
本技術のいくつかの実施形態では、ユーザ(例えば、ゲスト、乗組員、或いは規定空間内又は集団内に存在する他のいずれかの人物)が携行しているモバイル装置間の相互作用に基づいて接触者追跡イベントが記録される。例えば、規定空間内に存在する各ユーザは、専用ウェアラブル装置、スマートフォン、タブレット又はその他のコンピュータ装置などのモバイル装置を携行することができる。モバイル装置は、決定された近接範囲内の他のモバイル装置を(例えば、Bluetooth、Bluetooth Low energy、RFID又はWi-Fiなどのいずれかの好適な無線通信プロトコルを使用して)検出し、本明細書で説明するような様々なアルゴリズムに従って検出されたモバイル装置に基づいて接触者追跡イベントを記録するように構成することができる。1つの例では、所定の近接閾値内で及び/又は少なくとも閾値時間(例えば、濃厚接触時間閾値)にわたって別の装置が検出されると、各モバイル装置において接触者追跡イベントを記録し、及び/又は「濃厚接触」であると判定することができる。いくつかの実施形態では、別のモバイル装置の近接性を無線信号強度などの測定可能な量に基づいて決定することができる。さらに詳細に説明するように、偽陽性濃厚接触の記録及び/又は偽陰性接触者追跡イベントに基づく濃厚接触の記録漏れを回避又は低減するように、接触者追跡イベントを記録して濃厚接触を判定するための好適なアルゴリズムを実装することができる。
【0028】
本明細書で説明するシステム及び方法の利点としては、船内状況における接触者追跡速度及び精度の強化、並びに船全体にわたる隔離に代えて狭く適合された隔離を実行する能力が挙げられる。通常、船内状況における感染症の発生時に現在実施される公衆衛生政策は、現在乗船している又は以前に乗船した初発症例患者に関連する特定のクルーズ船内に物理的に存在する全てのゲスト及び乗組員の隔離を船全体にわたって課すものである。このような船全体にわたる隔離は、船内での感染症の感染を抑えるよりもむしろ拡大させることが実証されている。本開示の実装では、(記録された接触者追跡イベント、近接動きプロファイルによって示される初発症例患者との直接的なつながり、或いは中間濃厚接触者を介した初発症例患者との間接的なつながりのいずれかによって)「濃厚接触者」として特定された個人を、狭く適合された人物又は集団に特化した隔離を使用して素早く隔離することができる。濃厚接触者」として特定されなかった個人は、例えば船からの迅速な下船又は船内の特定のエリアでの隔離によって「濃厚接触者」から隔離することができる。適切な場合、又は公衆衛生当局が要求する場合、船内での個人又は集団に特化した隔離の対象でないこのような個人は、船内で感染症に曝されるリスクが高い数日間、場合によっては数週間を過ごすことなく、下船後に一定期間にわたって自主隔離を行うことができる。
【0029】
本開示の実施形態は、船長及び医務官などの船の指導者に、陸上リソースなどの外部リソースを使用せずに接触者追跡を実行する能力を与えることができる。本開示の実施形態は、船舶業運営会社(ship operators)に船で開始されて船で実施される接触者追跡を提供するので、船が陸上の接触者追跡リソースを待っている間に貴重な時間が失われることがない。また、本開示によるデータに基づいた接触者追跡の性質は、精度の高い濃厚接触者リストをもたらす。この結果、船の指導者は、1人の初発症例患者が特定されるとすぐに船内で狭く適合された隔離措置を実施し、必要に応じて各寄港地又は保健当局に報告することができる。いくつかの事例では、クルーズ運営会社の陸上従業員が、本明細書で説明するシステム及び方法によって生成された情報にアクセスして、例えばレポートを確認し、或いは必要が生じた場合には陸上でレポートを実行することができる。
【0030】
位置データ収集システム
本開示のシステム及び方法は、いくつかの例を挙げると、クルーズ船、ホテル、スタジアム、オフィスビル又は空港などの有界空間(bounded space)内における人物の位置に関するデータを収集するように構成されたシステムを含む。人物の位置に関するデータは、物体位置特定及び追跡システム、画像又はビデオファイルを取得するように構成された撮像システム、その他の位置追跡技術、又はこれらの技術の組み合わせを使用して取得することができる。
【0031】
図1に、本明細書で説明する接触者追跡システム及び方法を内部に実装できるネットワークコンピュータシステム例100の図を示す。この例示的な実施形態によれば、システム100は、クラウドベースの又は無線ネットワーク110を介して陸上コンピュータシステム104と通信できる船上コンピュータシステム102を含む。いくつかの実施形態では、船上コンピュータシステム102が、旅行又は航海中に複数の個人(例えば、ゲスト又は乗組員などのモバイル装置のユーザ)を輸送するように構成された船101(又は列車、シャトル、バス及び飛行機などの他の大量輸送機関)上に配置される。船上コンピュータシステム102は、ユーザコンピュータ装置106などの、船101内に位置するいずれかの数の個々の独立した及び/又はネットワーク化されたコンピュータ装置を含むことができる。陸上コンピュータシステム104は、陸上施設103内に位置し、船101を運営する企業又は事業体などのサービスプロバイダに関連する。これに代えて又はこれに加えて、陸上コンピュータシステム104は、船上コンピュータシステム102が入港中又は航海中に少なくとも定期的に通信するクラウドベースのデータベース又はデータストア108を含むこともできる。これに代えて又はこれに加えて、陸上コンピュータシステム104は、船上コンピュータシステム102が少なくとも定期的に通信するクラウドベースのコンピュータシステムを含むこともできる。
【0032】
システム100は、顧客及び/又はサービスプロバイダの代理人(例えば、船101などの規定環境内に存在するゲスト又は乗組員などのいずれかの人物)によって操作される複数のユーザコンピュータ装置106を含むことができる。ユーザコンピュータ装置106は、ウェアラブル装置(例えば、接触者追跡用の専用ウェアラブル装置、及び/又はサービス又は製品のアクセスクレデンシャリング(access credentialing)及び/又は購入又はアクセスなどの機能のために構成されたウェアラブル装置)、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、デスクトップ、携帯情報端末(PDA)、車両通信システム、スマートウォッチ又は他のいずれかの電子装置のうちのいずれか1つを含むことができる。ユーザコンピュータ装置106は、航海中にユーザ105が船101に乗船している間のユーザの動き及び/又は他のユーザ105との近接性に基づいて、ユーザ105(例えば、上述したようなゲスト又は乗組員)の接触者追跡イベント及び/又は位置データ点の決定を可能にする。本技術の実施形態では、いずれかの好適な通信装置を実装することができる。
【0033】
陸上コンピュータシステム104及び/又は船上コンピュータシステム102は、特定の航海に乗船中の又は航海を終えた各ユーザに関連するデータを記憶することもできる。ユーザ固有のデータは、以下に限定するわけではないが、接触者追跡イベント、及び/又は接触者追跡イベントに基づいて決定される「濃厚接触」を含むことができる。
【0034】
図2は、本技術による船内病原体感染追跡のためのシステム例200の概略図である。システム200は、例えば図1の船上コンピュータシステム102又はその一部とすることができる。システム200は、サーバ204及びデータストア206を含むデータセンター202、並びに1又は2以上の無線アクセスポイント208及び複数のユーザ装置210(例えば、ユーザ装置2101、2102、...210N)を含む。
【0035】
データセンター202は、少なくともサーバ204及びデータストア206を含む1又は2以上のコンピュータ装置を含むことができる。サーバ204は、有線及び/又は無線通信を介して無線アクセスポイント208の一部又は全部と直接的又は間接的に通信するように構成される。データセンター202のサーバ204及び/又は1又は2以上の他のコンピュータ装置は、本明細書で説明するような様々な処理、分析及び/又は記憶動作を実行するように構成される。データストア206は、無線アクセスポイント208を介してユーザ装置210からアップロードされたデータに少なくとも部分的に基づいて接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を記憶する。いくつかの実施形態では、データストア206が、ユーザ識別子、旅行者情報、旅程情報、ユーザ動きプロファイル情報、相互作用情報、個々のユーザに関連する接触者追跡イベント記録、及び/又は個々のユーザに関連する濃厚接触記録などの、個々のユーザ(例えば、ゲスト、乗組員又はその他)のユーザ情報を記憶する。
【0036】
サーバ204は、無線アクセスポイント208から接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を継続的に又は定期的に受け取り、受け取られた接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を内部に記憶済みのユーザ情報に関連付けてデータストア206に記憶させるように構成することができる。例えば、受け取られた接触者追跡イベント記録又は濃厚接触記録が第1のユーザに関連する第1のユーザ装置において生成されたものであり、閾値距離内で検出された第2のユーザに関連する第2のユーザ装置の識別子を含むものとすることができる。サーバ204は、記録を受け取ったことに応答して、この記録を第1のユーザ及び第2のユーザの両方に関連付けてデータストア206に記憶させることができる。
【0037】
サーバ204は、第2のユーザのユーザ装置も同様に同じ相互作用に基づく接触者追跡イベント記録又は濃厚接触記録を記録した場合に記録の重複を避けるために、記録の重複排除をさらに実行することができる。例えば、サーバ204は、(例えば、第2のユーザ装置から以前に受け取られた記録に基づいて)重複するタイムスタンプを有する第1のユーザ装置の第2のユーザ装置との相互作用の記録が既に存在する場合、第1のユーザ装置からの記録に基づいてさらなる記録を記憶させないように決定することができる。いくつかの実施形態では、サーバ204が、重複する記録を検出すると、記録された接触者追跡イベントの総持続時間を変更することなどによって既存の記録を変更することができる。例えば、2つの重複するイベントのタイムスタンプ範囲が重複してはいるが同一ではない場合、サーバ204は、2つのタイムスタンプ範囲の完全な和集合を接触者追跡イベントの持続時間として記録することができる。いくつかの事例では、2つのタイムスタンプ範囲の和集合が濃厚接触時間閾値よりも大きい場合、この和集合関数の実装が、濃厚接触とみなすには不十分な持続時間であった既存の接触者追跡イベント記録を濃厚接触記録に変換させることができる。
【0038】
無線アクセスポイント208は、ユーザ装置210を検出してユーザ装置210と無線で通信できる、船又はその他の規定環境を通じた様々な場所に配置することができる。いくつかの実施形態では、無線アクセスポイント208を、ほとんど又は全てのユーザ装置210と接触する確率を高めるように戦略的に配置することができる。例えば、クルーズ船の実装では、多くのゲスト及び乗組員が通る又は集まる共用エリアに無線アクセスポイント208を配置することができる。1つの例では、少なくともいくつかの無線アクセスポイント208を、客室(staterooms)につながる廊下、乗員収容施設につながる廊下及び食事施設などに配置することができる。別の例では、無線アクセスポイント208を、ゲスト及び乗組員が下船できる船上の各場所又はその付近に配置することができる。
【0039】
無線アクセスポイント208は、ユーザ装置210及び/又は他の装置と通信するのに適したいずれか1つ又は2つ以上の無線通信プロトコルを有するように構成することができる。例えば、無線アクセスポイント208は、Bluetooth、Bluetooth Low Energy(BLE)、Wi-Fi、RFID又はその他の好適な無線通信プロトコルのうちのいずれか1つ又は2つ以上を使用してユーザ装置210と通信するように構成することができる。いくつかの実施形態では、無線アクセスポイント208が、接触者追跡システムのための専用無線アクセスポイント208(例えば、BLEを介してユーザ装置210と通信するように構成されたBLE装置)である。他の実装では、無線アクセスポイント208を多機能装置とすることができる。例えば、無線アクセスポイント208は、BLEを介してユーザ装置210と通信するように構成する一方で、インターネットアクセスのためにローカルエリア無線ネットワークなどの他の無線アクセスサービスを提供するように構成することもできる。
【0040】
各無線アクセスポイント208は、無線通信インターフェイスと、1又は2以上のプロセッサと、確実なデータ送信に適した範囲内の個々のユーザ装置210を1又は2以上のプロセッサに検出させて、検出時に個々のユーザ装置210に記憶されている接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録をアップロードさせるコンピュータ実行可能命令を含む1又は2以上のメモリデバイスとを含むことができる。1又は2以上のメモリデバイスは、ユーザ装置210からアップロードされた記録を少なくともデータセンター202に送信されるまで記憶するようにさらに構成することができる。様々な実施形態では、無線アクセスポイント208が、ユーザ装置210から記録を受け取った時点で直ちに受信記録をデータセンター202に送信することができ、或いは無線アクセスポイント208を、受信記録をローカルに記憶して閾値記録数に達した時に、及び/又は所定のアップロードスケジュールに従って特定の時点でより大きな受信記録の組をデータセンター202に送信するように構成することができる。
【0041】
ユーザ装置210は、個々のユーザが所定の環境全体を通じて携行するように構成されたモバイル装置である。いくつかの実施形態では、ユーザ装置を、例えばリストバンド又は首装着装置などのウェアラブル装置などの接触者追跡専用ユーザ装置とすることができる。使い捨てリストバンドであれば、(例えば、数日間、最大2週間、又はそれよりも長い期間にわたる)航海中に着用者が不便を感じることなく常時着用しておくことができるので、リストバンドは接触者追跡の実施に特に適することができる。或いは、いくつかの実施形態では、ユーザ装置210を、本明細書で説明するユーザ装置210の機能を実行させるアプリケーションを実行できるスマートフォン又はタブレットなどのパーソナルコンピュータ装置とすることもできる。いくつかの実施形態では、ユーザ装置210を高耐久化(例えば、防水、耐水加工など)することができる。ユーザ装置210は充電式とすることができ、及び/又は航海全体を通じて装置の確実な動作を容易にしてユーザの順守及び参加の障壁となるものを避けるように、航海期間中に再充電の必要なく動作するのに十分なバッテリ寿命を有する比較的低エネルギー型の装置として設計することができる。
【0042】
クルーズ船の実装では、システム200が数多くのユーザ装置210(例えば、最大数百台又は数千台のユーザ装置210)を含むことができる。システム200は、乗船する全てのユーザ(例えば、全ての人物、全ての成人、又はゲスト及び乗組員の両方を含む閾値年齢を上回る全ての人物)にユーザ装置210が与えられるように、好適な数のユーザ装置210を含むことができる。
【0043】
図3は、本技術による、船内病原体感染追跡のために構成されたユーザ装置例210の概略図である。ユーザ装置210は、少なくとも大容量記憶装置212と、プロセッサ214と、メモリ216と、無線通信モジュール218とを含む。メモリ216は、プロセッサ214によって実行された時に無線通信モジュール218を使用して近隣の他のユーザ装置210をプロセッサに検出させるコンピュータ実行可能命令を記憶することができる。無線通信モジュール218は、Bluetooth、BLE、RFID又はWi-Fiなどのいずれかの好適な無線通信プロトコルのために構成することができる。
【0044】
プロセッサ214は、(例えば、無線通信モジュール218と近隣の第2のユーザ装置210の無線通信モジュール218との間の無線通信に基づいて)別のユーザ装置210が検出されると、メモリ216に記憶された1又は2以上のアルゴリズムを実行して、2つのユーザ装置210間の無線通信に基づいて接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を生成することができる。プロセッサ214は、生成された接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を大容量記憶装置212にさらに記憶させることができる。
【0045】
無線通信モジュール218は、無線アクセスポイント208(図2)を検出して通信するようにさらに構成される。プロセッサ214は、無線アクセスポイント208を検出したことに基づいて、無線通信モジュール218に接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を大容量記憶装置212から無線アクセスポイント208に送信させるように構成される。様々な実施形態では、ユーザ装置210を、無線アクセスポイント208が検出される度に保存記録を大容量記憶装置212に送信するように構成することができ、或いはユーザ装置210が時間ベースのスケジュールで選択的に記録を送信することもできる。例えば、ユーザ装置210は、無線アクセスポイント208が検出されると、無線アクセスポイント208にごく最近に記録をアップロードしてから周期的間隔(例えば、1分、5分、10分、30分、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間、又は他のいずれかの好適な閾値時間)が経過した場合にのみ保存記録を送信するように構成することができる。別の実装では、ユーザ装置210を、各アップロード後に無線アクセスポイント208の検索を停止して周期的間隔の経過後に無線アクセスポイント208の検索及び/又は検出を再開するようにプログラムすることによって、時間ベースのスケジュールを実装することができる。
【0046】
無線アクセスポイント208への各アップロード後には、アップロードされた記録を大容量記憶装置212内に保持することも、或いは消去することもできる。いくつかの実施形態では、ユーザ装置210を、直近のアップロードに関連するタイムスタンプ以降に記憶された記録のみをアップロードするように構成することができる。ユーザ装置210が、大容量記憶装置212の記憶容量を超えるほどの十分な接触者追跡イベント記録を記憶した場合、プロセッサ214は、新たな接触者追跡イベント記録が記録された時にこれらの記録を記憶するために、記憶されている最も古い記録を消去又は上書きするように構成することができる。
【0047】
物体位置特定及び追跡を用いたデータ収集
1つの実装例では、本開示の感染症追跡システムが、クルーズ船内に配置された複数の無線アクセスポイントを含む。複数の無線アクセスポイントの各無線アクセスポイントは、無線アクセスポイントに近接するモバイル装置を検出して識別するように構成された通信モジュールを含む。複数の無線アクセスポイントの各無線アクセスポイントは、通信モジュールと通信するプロセッサも含む。プロセッサは、モバイル装置が検出される度にデータストアに位置データ点を記憶させるように構成される。モバイル装置の例としては、以下に限定するわけではないが、パーソナルコンピュータ装置及びウェアラブル電子装置が挙げられる。1つの非限定的な例として、クルーズ船に乗船する全ての個人は、個人がクルーズ船に乗船している最中にパーソナル電子装置を着用することが必要とされる。このようなパーソナル電子装置は、乗船時に配布して下船時に回収することができる。別の例では、ある航海又はその直前の航海に参加した個人が初発症例患者として特定された時にこのようなパーソナル電子装置を配布することができる。
【0048】
各位置データ点は、タイムスタンプと、無線アクセスポイントとの関連性と、モバイル装置に対応するユーザとの関連性とを含む。ユーザは、例えばクルーズ船内のゲスト又は乗組員を含むことができる。各無線アクセスポイントの通信モジュールは、近距離Bluetooth、Bluetooth Low Energy(BLE)、近距離無線通信(NFC)、Wi-Fi、無線周波数識別(RFID)、又は無線ブロードバンド通信プロトコルのうちの1つ又は2つ以上を使用してモバイル装置の検出及び識別を行うように構成することができる。
【0049】
このような技術を船に実装する上での主な懸念事項の1つは、アパートとは対照的に、船上ではアクセスポイントの近接性及び造船に使用される層状材料の薄さを考慮すると、BLE/RFID技術がデッキからデッキへと流出する点である。従って、他のデッキからの信号を分離して廃棄することが必要になる場合がある。換言すれば、デッキ5の廊下を歩いているゲストがデッキ4のBLEアクセスポイントに拾われる可能性があるが、この問題の解決に役立つ技術的解決策が米国特許第10,645,536号に記載されている。米国特許第10,645,536号には、本開示において実装できる物体位置特定及び追跡のためのシステム及び方法例が記載されており、この文献は全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0050】
顔認識システムを用いたデータ収集
ある人物の位置に関するデータは、顔認識システムを使用して取得することができる。例えば、船全体を通じて配置されたカメラを含む撮像システムを、撮像システムによって取り込まれた画像に基づいて顔認識結果を決定するように構成することができる。いくつかの事例では、撮像システムによって取得された画像及びビデオファイルが、ゲスト又は乗組員などの特定の個人がクルーズ船内の特定の場所に存在することを識別するために使用される。本開示の実装は、この位置情報を使用して、初発症例患者又は初発症例患者と濃厚接触した可能性がある個人などの関心のある特定の個人に対応する動きプロファイルを構築することができる。
【0051】
このような技術は、現在ではクルーズ船内のほとんどの公共空間をカバーしているので、本開示の実施形態は、有利に顔認識技術のみを使用して実装することができる。例えば、コンピュータビジョン技術を使用するクルーズ運営会社は、ダイニングルーム及びカジノなどの一般に混雑しているエリア内のゲストを認識することができる。また、米国特許第10,776,613号に記載されるような顔認識技術を備えた客室ドアは、廊下での顔認識結果を提供することができる。顔認識は、プール、カジノ、レストラン、遊歩道及び廊下などの公共エリアの場所に限定されるが、このような公共エリアからの顔認識結果を使用して単一の動作プロファイルを正確かつ効果的につなぎ合わせることができる。
【0052】
米国特許第10,776,613には、本開示において実装できる物体位置特定及び追跡のためのシステム及び方法例が記載されており、この文献は全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【0053】
物体位置特定及び追跡システムと顔認識システムと用いたデータ収集
本開示の実装は、物体位置特定及び追跡システムと顔認識システムとの両方から収集されたデータを処理して、初発症例患者又は初発症例患者と濃厚接触した可能性がある個人などの関心のある個人の動きプロファイルを構築することができる。
【0054】
ある実装例では、本開示の感染症追跡システムが、クルーズ船内に配置された撮像システムを含む。撮像システムは、複数の無線アクセスポイントが配置されたエリアを含むクルーズ船のエリアの画像又はビデオを記録することができる。撮像システムは、撮像システムによって取り込まれた画像に基づいて顔認識結果を決定するように構成することができる。感染症追跡システムは、初発症例患者との接触の可能性を示す位置データ点に対応する画像又はビデオファイルを撮像システムから取得するように構成されたサーバを含むことができる。初発症例患者の動きプロファイルは、例えば位置データ点を含むことができる。サーバは、各画像又はビデオファイルと、初発症例患者との接触の可能性を示す位置データ点に関連するユーザとの間の関連性を記憶するようにも構成される。感染症追跡システムは、記憶された関連性に基づいて、初発症例患者と接触した可能性がある個人の組を決定するように構成することができる。このような顔認識結果を使用して、物体位置特定及び追跡システムを使用して取得された位置データの信頼度を強化又は増大させることもできる。
【0055】
接触者追跡の実装例
次に、本技術のデータ収集システムに基づく接触者追跡方法の様々な実装例について説明する。
【0056】
検出された接触者追跡イベントに基づく接触者追跡
図4は、本技術による、接触者追跡イベント記録及び/又は濃厚接触記録を記録するためのアルゴリズム例400を示すフローチャートである。アルゴリズム400は、ユーザが所有しているいずれかの好適なコンピュータ装置が実行することができる。例えば、アルゴリズム400は、図2及び図3を参照しながら説明したユーザ装置210のうちのいずれかが実行することができる。図2のシステム200の文脈では、ユーザ装置2101、2102、...210Nのうちの多く又は全部を、近隣の他のユーザ装置210を検出した時にアルゴリズム400を実行するようにそれぞれ構成することができる。1つの特定の実装例では、各ユーザ装置210が、クルーズ船内の全てのゲスト(又は閾値年齢を上回る全てのゲスト)及び乗組員によって着用されるリストバンドなどのBluetooth Low Energy(BLE)対応ウェアラブル装置である。しかしながら、アルゴリズム400はこの特定の実装に限定されるものではないと理解されるであろう。
【0057】
アルゴリズム400は、ブロック402において別のユーザ装置210が検出された時に開始する。例えば、第1のユーザ装置210の無線通信モジュール218(例えば、BLE通信装置)は、(例えば、他の近隣の装置を継続的にリスンすることによって)好適な信号範囲内の第2のユーザ装置210の無線通信モジュール218との通信を確立することができる。第1のユーザ装置210のプロセッサ214は、第2のユーザ装置210の無線通信モジュール218からの1又は2以上の信号を検出したことに基づいてアルゴリズム400の実行を開始することができる。いくつかの事例では、第1及び第2のユーザ装置210がいずれも互いを検出した場合、両装置が同時にアルゴリズム400の実行を開始することができる。第2のユーザ装置210が検出されると、アルゴリズム400は判定状態404に進む。
【0058】
判定状態404において、プロセッサ214は、第2のユーザ装置210から受け取られた信号の強度が第1の所定の閾値(例えば、イベント開始信号強度閾値、以下「閾値A」と呼ぶ)以上であるかどうかを判定する。閾値Aは、2つのユーザ装置210間の所望の物理的距離に対応するように選択することができる。例えば、いくつかの実施形態では、閾値Aを、3フィート、6フィート、10フィート、20フィート、又は病原体感染リスクの増大に関連する他のいずれかの好適な距離などの距離に対応するように選択することができる。なお、好適な物理的距離閾値は、本技術の趣旨又は範囲から逸脱することなく具体的な病原体感染時間及び方法の最新の理解に基づいて進化することができると理解されるであろう。
【0059】
イベント開始信号強度閾値は、受信信号強度インジケータ(RSSI)値又は他の好適な信号強度単位などの信号強度を用いて表すことができる。閾値Aの具体的なRSSI値は、例えば所望の物理的距離閾値に配置されたユーザが着用する2つのサンプルユーザ装置210間の信号強度を測定することにより、一連のユーザ装置210について実験的に決定することができる。1つの特定の例では、一連のユーザ装置210が、-68デシベルミリワット(dBm)又はその他の好適な値などの閾値を閾値Aとして使用することができる。2人のユーザが病原体を伝染させるのに十分なほど接近しているのにこれらのユーザ装置210が接触者追跡イベント記録を記録しない偽陰性を避けるために、閾値Aの実験的調整が望ましいと考えられる。いくつかの実施形態では、人体による信号減衰が接触者追跡イベント記録の生成を不当に妨げないように、閾値Aを十分に低く設定することができる。
【0060】
信号強度が閾値A以上でない場合、アルゴリズム400はブロック406で終了し、接触者追跡イベントは記録されない。信号強度が閾値A以上である場合、アルゴリズム400はブロック408に進み、ユーザ装置210は接触者追跡イベントの記録を開始する。プロセッサ214は、検出信号が閾値Aを上回った装置時間に対応する初期タイムスタンプを含む新たな接触者追跡イベント記録を大容量記憶装置212に記憶することができる。この記録は、信号のRSSI値、装置の位置及び/又は第2のユーザ装置210の識別子などの他の情報をさらに含むことができる。
【0061】
ユーザ装置210が大容量記憶装置212内で接触者追跡イベント記録を確立することによって接触者追跡イベントの記録を開始した後に、アルゴリズム400はブロック410に進んでユーザ装置210は接触者追跡イベントを記録し続ける。いくつかの実施形態では、プロセッサ214が、大容量記憶装置212内の確立された接触者追跡イベント記録にデータを追加し続ける。例えば、プロセッサは、ユーザ装置210が第2のユーザ装置210から信号を受信し続けている間、さらなる対になったRSSI-タイムスタンプデータ点を周期的間隔で記録に追加することができる。
【0062】
ユーザ装置210が接触者追跡イベントを記録し続けている時に、プロセッサ214は判定状態412に進んで、信号強度が、閾値Aと同じ値又は異なる値であることができる第2の所定の閾値(例えば、イベント中断信号強度閾値、以下「閾値B」と呼ぶ)以上であるかどうかを継続的又は周期的に判定することができる。閾値Bは、同様にdBm単位のRSSI値、又は他の好適な受信信号強度の単位を用いて表すことができる。信号が閾値Bを上回ったままである限り、アルゴリズム400は、ブロック410において接触者追跡イベントを記録し続ける。信号強度が閾値Bを下回った場合、ユーザ装置210はイベントの記録を中断することができる。
【0063】
閾値Bは、閾値Aよりも大きな値、閾値Aと等しい値、又は閾値Aよりも小さな値とすることができる。しかしながら、ユーザ装置210を着用している人々の間の物理的距離の測定方法としてRSSI又はその他の信号強度インジケータを使用する特定の欠点に対処するためには、閾値Bを閾値Aよりも低く設定することが有利となり得る。具体的には、人体の大部分を構成する水は2.4GHz帯の周波数を確実に吸収し、従ってユーザの体が自身のユーザ装置210と第2のユーザ装置210との間に配置されると信号が大きく減衰する。従って、2人のユーザが選択された物理的近接範囲内に留まっている間は、信号強度が少なくとも一時的に閾値Aよりも低くなることが1回又は2回以上発生する可能性が高い。従って、接触者追跡イベントの記録を開始するために使用される閾値Aが一時的に信号強度を下回ることを可能にして記録を終了させないことによって、接触者追跡イベント記録の信頼度が高まる。
【0064】
判定状態412において信号強度が閾値Bよりも低いと判定された場合、アルゴリズムは判定状態414に進んで猶予期間が経過し始める。猶予期間は、ユーザ装置210が接触者追跡イベントの記録を終了する前に経過することができる所定の時間間隔である。信号強度が閾値Bを下回ったままである間、プロセッサ214はデータ点(例えば、対になったRSSI-タイムスタンプデータ点)の記録を中断することも、又は閾値Bを下回る信号強度値を含むデータ点を記録し続けることもできる。猶予期間の経過前に信号強度が閾値Bよりも高い値に戻った場合、アルゴリズムはブロック410に戻ってイベントを記録し続ける。信号強度が閾値Bよりも高い値に戻ることなく猶予期間が経過した場合、接触者追跡イベントは終了し、アルゴリズムは判定状態416に進む。
【0065】
猶予期間は、接触者追跡イベント中に信号が減衰する又はユーザ間の距離が増加する一時的期間を許容するために選択される所定の時間である。例えば、2人のユーザが比較的長い時間(例えば、5分以上)にわたって互いに6フィート離れて立っているが、5分間の最中に短時間(例えば、30秒)にわたってさらに離れた(例えば、20フィート離れた)距離に移動する場合、一般にこのように瞬間的に距離を取ることによって5分間の最中に病原体感染確率が実質的に低下することはないと理解される。従って、偽陰性結果の発生を抑えるように、本明細書で説明するような猶予期間を組み込むことが望ましい。
【0066】
猶予期間が経過すると接触者追跡イベントは終了し、大容量記憶装置212内の接触者追跡イベント記録に追加データ(例えば、対になったRSSI-タイムスタンプデータ点)は追加されない。判定状態416において、プロセッサ214は、完了した記録に基づいて、記録された接触者追跡イベントを「濃厚接触」とみなすべきであるか否かを判定する。これを行うために、プロセッサ214は、終了した記録のタイムスタンプ範囲を決定し、この範囲を所定の濃厚接触時間閾値と比較することができる。いくつかの実施形態では、プロセッサ214が、ブロック408において記録された初期タイムスタンプ値を最終タイムスタンプ値(例えば、信号強度が閾値Bよりも小さくなる前に記録された最終タイムスタンプ値、閾値Bよりも小さな信号強度に関連する第1のタイムスタンプ値、又は記録が終了する猶予期間の終了時に記録されたタイムスタンプ値)から減算することができる。次に、接触者追跡イベントの総経過時間に対応する減算後のタイムスタンプ範囲を濃厚接触時間閾値と比較し、イベントが「濃厚接触」であったかどうかを判定する。
【0067】
タイムスタンプ範囲が濃厚接触時間閾値よりも小さい場合、アルゴリズム400はブロック418において終了し、濃厚接触を記録せずに記録が終了する。いくつかの実施形態では、非「濃厚接触」接触者追跡イベント記録も大容量記憶装置212に保持され、(例えば、第2のユーザ装置210から送信された対応する接触者追跡イベント記録と組み合わせてさらに分析するために)無線アクセスポイント208を介してデータセンター202に送信することができる。或いは、タイムスタンプ範囲が濃厚接触時間閾値以上である場合、アルゴリズム400はブロック420において終了し、接触者追跡イベント記録が「濃厚接触」として大容量記憶装置212に記憶される。
【0068】
濃厚接触時間閾値は、いずれかの所望の病原体感染基準に基づいて決定することができる。例えば、濃厚接触時間閾値は、世界保健機関(WHO)、疾病対策予防センター(CDC)、或いはその他の適切な州、国内又は国際政府組織又は非政府組織などの適用可能な保健当局からの科学ベースの勧告、規制、政策又は指針に基づいて選択することができる。濃厚接触時間閾値例は、例えば2分、5分、10分、15分、20分、又はそれよりも長い時間とすることができ、好適な濃厚接触時間閾値は、本技術の趣旨又は範囲から逸脱することなく具体的な病原体感染時間及び方法の最新の理解に基づいて進化することができると理解されるであろう。
【0069】
図5は、本技術による接触者追跡方法例500を示すフローチャートである。方法500は、いずれかの好適な病原体感染追跡システムが実行することができる。例えば、方法500は、データセンター202と、複数のユーザ装置210と、データセンター202及びユーザ装置210と通信するように構成された無線アクセスポイント208とを含む図2のシステム200が少なくとも部分的に実行することができる。1つの特定の実装では、システム200が少なくとも部分的にクルーズ船内に配置され、ユーザ装置210の各々が、クルーズ船内の全てのゲスト(又は閾値年齢を上回る全てのゲスト)及び乗務員によって着用されるリストバンドなどのBLE対応ウェアラブル装置である。しかしながら、方法500はこの特定の実装に限定されるものではないと理解されるであろう。
【0070】
方法500は、指定環境への複数のユーザの導入と同時に発生することができるブロック502から開始する。例えば、方法500は、ゲスト及び乗組員がクルーズ船に乗り込んだ時にブロック502から開始することができる。いくつかの実施形態では、最初の乗組員が船に乗り込んだ時に方法500が開始することができ、その後にさらなる乗組員及びゲストが乗り込んだ時にさらなるユーザ装置210をシステム200に追加することができる。
【0071】
ブロック504において、無線アクセスポイント208のうちの1つがユーザ装置210のうちの1つに接続する。本明細書の他の箇所で説明したように、ユーザ装置210及び無線アクセスポイント208は、Bluetooth、BLE、Wi-Fi、RFIDなどのいずれかの好適な無線通信プロトコルを使用して接続することができる。ユーザ装置210は、ブロック504において、定期的に及び/又は範囲内の無線アクセスポイント208を検出したことに少なくとも部分的に基づいて接続を開始するように構成することができる。
【0072】
無線アクセスポイント208及びユーザ装置210が無線データ接続を確立した後に、方法500はブロック506に進み、無線アクセスポイント208がユーザ装置210から1又は2以上の接触者追跡イベント記録のアップロードを受け取る。接触者追跡イベント記録の一部又は全部は「濃厚接触」として示されることがある。ブロック508において、無線アクセスポイント208が接触者追跡イベント記録を記憶させる。無線アクセスポイント208は、アップロードされた接触者追跡イベント記録を無線アクセスポイント208の内部メモリに少なくとも一時的に記憶することができ、及び/又は接触者追跡イベント記録をデータセンター202に送信して、サーバ204が接触者追跡イベント記録をデータストア206に記憶させることができる。無線アクセスポイント208はブロック504に戻り、範囲内のユーザ装置210への接続を継続して(例えば、航海の終了まで、ユーザが指定環境から離れるまでなど)ブロック504~508を繰り返す。
【0073】
アップロードされた記録がデータストア206に記憶されると、追加処理及び/又は編成を実行することができる。1つの例では、各アップロードされた記録を、記録を生成した第1のユーザ装置210のユーザ、及び第1のユーザ装置210と相互作用して記録を生成させた第2のユーザ装置210のユーザの両方に関連付けてデータストア206に記憶することができる。いくつかの実施形態では、全ての接触者追跡イベント記録が保持される。或いは、対応するユーザに関連する「濃厚接触」記録のみを保持することもできる。別の例では、同じ接触者追跡イベントの重複記録(例えば、あるイベントにおいて両ユーザ装置210によって生成された記録)を排除するように重複排除を実行することができる。上述したように、記録の重複排除は、記録の2つのタイムスタンプ範囲の和集合関数に基づいて、重複排除されたイベントの最終的持続時間を決定することをさらに含むことができる。さらに、いくつかの実施形態では、どの接触者追跡イベント記録が「濃厚接触」であるかの判定(例えば、図4の判定状態416)を、アップロード前にユーザ装置210が実行するのではなくプロセッサ214が実行することができる。
【0074】
ブロック510において、初発症例患者を特定することができる。例えば、クルーズ船の実装では、あるユーザ(例えば、クルーズ船のゲスト又は乗組員)を感染症にかかっているものとして識別することができる。疾病は、航海中に未だユーザが船内にいる間に検出されることも、或いは航海後にユーザが下船した後に検出されることもある。初発症例ユーザが乗船していた期間にわたる効果的な接触者追跡を実行するために、データストア206に記憶された接触者追跡イベント記録を使用して、初発症例患者と濃厚接触した他のユーザを特定することができる。
【0075】
ブロック512において、初発症例患者濃厚接触者の組が決定される。例えば、プロセッサ204は、データストア206に問い合わせを行って、初発症例ユーザに関連付けて記憶された全ての濃厚接触記録を識別することができる。次に、プロセッサ204は、各濃厚接触記録に対応する他のユーザ装置210の識別子に基づいて、初発症例ユーザとの「濃厚接触」に関与した他の全てのユーザのリストを生成することができる。いくつかの実施形態では、プロセッサ204が、いずれかのさらなるユーザ(例えば、初発症例患者との濃厚接触後及び/又は所定の潜伏期間後に初発症例患者との濃厚接触記録内で識別されたさらなるユーザ)を二次濃厚接触者としてさらに決定することができる。ブロック514において、濃厚接触者及び/又は二次濃厚接触者に対する通知及び/又は治療などのために、「濃厚接触」ユーザのリスト及び任意の二次濃厚接触者のリストを出力する。
【0076】
動きプロファイルに基づく接触者追跡
上述したように、乗船中の各ユーザについての数多くの位置データ点を収集して記憶することができる。従って、これらの位置データ点を特定された初発症例患者に関連して有利に使用して、既知の病原体と接触した可能性がある乗船中の他の人々を識別することができる。
【0077】
接触者追跡の実装例では、ユーザのうちの1人(例えば、上述したように、現在乗船中の又は最近乗船していた乗客又は乗員)を初発症例患者として特定することができる。病原体のさらなる伝染を防ぐには、例えば初発症例患者と接触した可能性があるという理由で隔離すべきユーザの組を特定することが望ましいと考えられる。同様に、非曝露ユーザが曝露を疑われる前に船から離れることができるように、初発症例患者又は初発症例患者との接触者と接触していないユーザグループを特定することも望ましいと考えられる。
【0078】
いくつかの実施形態では、初発症例患者が特定されると、船上の感染症追跡システムのサーバに初発症例患者の識別が提供される。初発症例患者は、乗船中の又は以前に乗船していた多くのモバイル装置ユーザのうちの1人であることが好ましい。サーバに提供される識別は、例えば初発症例患者であると判定された個々のユーザに一意に対応する名前、識別番号又はその他の識別子とすることができる。
【0079】
サーバは、初発症例患者であると判定されたユーザの識別を受け取ったことに応答して、考えられる病原体感染経路を特定するために接触者追跡プロセスを開始することができる。サーバは、最初に初発症例患者に対応する動きプロファイルを決定する。いくつかの実施形態では、動きプロファイルを決定することが、初発症例患者に関連する全ての位置データ点を収集し、又はデータストアから取得することを含むことができる。例えば、サーバは、初発症例ユーザとの関連性を含む全ての位置データ点をデータストアから取得することができる。いくつかの事例では、初発症例患者に関連する位置データ点の組を時系列順に並べることができる。
【0080】
1又は2以上のさらなる動きプロファイルをさらに決定することができる。いくつかの実施形態では、感染症追跡システムが、初発症例患者の最初の識別に基づいて船が「感染」状態にあると判定し、乗船中の全てのユーザに対応する動きプロファイルの生成を開始することができる。他の実施形態では、感染症追跡システムが、例えば利用可能な計算リソースをより良く利用するために、乗船中のユーザのサブセットのみについて動きプロファイルを生成することができる。このサブセットは、例えば初発症例患者と接触した可能性があるユーザを選択してサブセット内の各ユーザのみについて完全な動きプロファイルを生成する「ファーストパス(first-pass)」法によって決定される。
【0081】
1つの例では、サーバが、初発症例患者の動きプロファイルにおける位置データ点に基づいて第1の接触者の組を決定する。サーバは、無線アクセスポイントによって記憶された追加データを取得し、初発症例患者の動きプロファイルにおける各位置データ点について、位置データ点のタイムスタンプ前後の閾値時間内に同じ無線アクセスポイントによって生成された全てのさらなる位置データ点(例えば、同じ無線アクセスポイントによって生成された、初発症例患者の位置データ点の10秒以内、20秒以内、30秒以内、1分以内などのタイムスタンプを有する全ての位置データ点)を識別することができる。時間閾値は、(例えば、医務官又は他の乗組員が)特定の病原体又は疾病の具体的な感染特性に基づいて選択することができる。時間閾値は、公衆衛生当局によって提供される指針に基づいて選択することもできる。システムのサーバ又は他のコンポーネントは、識別されたさらなる位置データ点のいずれかに関連するこれらの全ての二次ユーザの名前、識別情報及び/又は他の識別子を含むレポート又はリストを生成することができる。動きプロファイルは、上述した初発症例患者の動きプロファイルを生成する処理と同じ処理によってリスト内の各二次ユーザについて生成することができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、物体追跡及び位置特定以外の他の基準に基づいて、1又は2以上のさらなる濃厚接触者(例えば、初発症例患者と接触したと判定された二次ユーザ)を決定することができる。例えば、初発症例患者と同じ客室に滞在している家族、異なる客室に滞在している初発症例患者の家族、及び/又は関連する旅程又は予約を有していることに基づいて初発症例患者と面識があることが分かっている他の旅行者を二次ユーザに含まれるものと決定することができる。同様に、二次ユーザと同じ客室に滞在している家族、異なる客室に滞在している二次ユーザの家族、及び/又は関連する旅程又は予約を有していることに基づいて二次ユーザと面識があることが分かっている他の旅行者を、二次ユーザ、又は二次ユーザと接触した三次ユーザに含まれるものと決定することができる。
【0083】
いくつかの実施形態では、同様の比較及び時間閾値化手法をさらに実施して、二次ユーザと接触した可能性があるさらなるユーザ又は三次ユーザの組を特定することができる。このさらなる特定は、初発症例患者とは濃厚接触していないが、初発症例患者と接触した二次ユーザと接触することによって病原体に曝された可能性があるユーザの特定を可能にするので、望ましいと考えられる。
【0084】
二次ユーザ及び/又は三次ユーザの組が決定されると、感染症追跡システムは、(例えば、初発症例患者、初発症例患者と濃厚接触した可能性があると判定された二次ユーザ、及び任意に二次ユーザと濃厚接触した可能性があると判定された三次ユーザを含む)隔離リスト及び/又は(例えば、初発症例患者及び/又はいずれの二次ユーザとも接触していないと判定された全ての乗客及び乗組員を含む)船から離れることができる非暴露ユーザのリストなどの1又は2以上のリストを生成することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、システムが、上述したような曝露ユーザ及び非曝露ユーザのリストを生成することに加えて1又は2以上の追加アクションを行うことができる。例えば、いくつかの実施形態では、清掃員を素早く派遣して消毒できるように、システムを、初発症例患者又は二次ユーザの動きプロファイル沿い又はその付近に位置する表面を特定するようにさらに構成することができる。例えば、乗客が病原体に曝された後にレストラン、バー、プール、ラウンジエリア、或いは乗客が立ち止まって1又は2以上の表面に触れた可能性がある他のエリアを訪れたことが動きプロファイルによって示される場合、乗客の動きプロファイルに基づいてこれらのエリアを特定し、病原体が他の人々に伝染するのを避けるために徹底的に清掃することができる。いくつかの実施形態では、例えば動きプロファイルにおいて特定されたエリアをモニタするCCTV又はその他の撮像システムから取得されたビデオ又は静止画像に基づいて、初発症例患者又は二次ユーザが触れた正確な表面をピンポイントで特定することができる。従って、本技術のシステム及び方法は、人から人への接触による感染及び二次表面感染の両方を有利に抑制することができる。
【0086】
本開示の実装は、たとえ初発症例患者が下船後に特定された状況でも、現在航海中のゲストの接触者追跡を有利に実行することができる。感染症追跡システムは、特定の航海に関連する位置データ点を所定の保持期間にわたってデータストア内に保持することができる。所定の保持期間は、時間的なもの(例えば、2週間又は1ヶ月間)又は航海ベースのもの(例えば、次の航海期間又は次の2回の航海期間)とすることができる。1つの非限定的な例では、船Xの直前の航海である航海Aに乗船したあるゲストが初発症例患者であることを船Xの航海B中にクルーズ運営会社が知ったものとすることができる。本開示の実装では、(航海A中にデータストアに記憶されて所定の保持期間にわたってデータストアに保持されている位置データ点を使用して)航海A中に船Xに乗船した全てのゲスト及び乗組員について接触者追跡を実行するとともに、(航海B中にデータストアに記憶される位置データ点を使用して)現在航海B中に船Xに乗船中の全てのゲスト及び乗組員について接触者追跡を実行することができる。従って、本開示の実施形態は、以前の航海中に初発症例患者と濃厚接触した個人を特定する回顧的(backward-looking)接触者追跡を実行することができる。このことは、以前の航海中に初発症例患者と濃厚接触した個人が以前の航海の終了時に下船しなかった状況において特に有利である。先程の例に戻ると、航海A中に初発症例患者と濃厚接触した個人が、航海Aの終了時に船Xから下船せずに航海B中にも船X上に滞在し続けたとすることができる。この個人が航海A中に初発症例患者から接触を受けた場合、病気の潜伏期間及びその他の要因によっては、この個人が航海B中に船Xに乗船しているゲストに能動的に感染症を伝播している可能性がある。潜伏期間が不明確又は未知である新規感染症の場合には、複数の航海にわたる迅速かつ正確な接触者追跡が特に有利である。
【符号の説明】
【0087】
202 データセンター
204 サーバ
206 データストア
208 無線アクセスポイント
210 ユーザ装置
2101~210N ユーザ装置
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】