IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エクスカリバー メディスンズ リミテッドの特許一覧

特表2023-517130コロナウイルスによって引き起こされた肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のためのAZD1656
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】コロナウイルスによって引き起こされた肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のためのAZD1656
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/497 20060101AFI20230414BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 3/10 20060101ALN20230414BHJP
【FI】
A61K31/497
A61P11/00
A61P9/00
A61P3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022555668
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(85)【翻訳文提出日】2022-11-11
(86)【国際出願番号】 GB2021050623
(87)【国際公開番号】W WO2021186151
(87)【国際公開日】2021-09-23
(31)【優先権主張番号】2003722.2
(32)【優先日】2020-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522364310
【氏名又は名称】エクスカリバー メディスンズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Excalibur Medicines Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ジョン フランシス
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC48
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZB07
4C086ZC19
4C086ZC35
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、コロナウイルス感染症と関連するか、又はそれによって引き起こされ得る肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺炎(pneumonitis)及び/又は心筋炎の治療における使用のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
治療の対象が、糖尿病、好ましくは1型又は2型糖尿病を有する、請求項1に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項3】
前記治療の対象が、ヒトである、請求項1又は2に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項4】
AZD1656の用量が、1~400mg、好ましくは50mg~400mg、好ましくは50mg~300mg、最も好ましくは150mg~300mgである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項5】
投与が、単回1日用量によるものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項6】
前記単回1日用量が、1~400mg、好ましくは300mg~400mgである、請求項5に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項7】
投与が、1日当たり2回の用量によるものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項8】
前記用量が、1~5mg又は150mg~200mgである、請求項7に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項9】
前記用量が、40~300mgである、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項10】
用量の下限が80mgであり、用量の上限が210mgである、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項11】
経口投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項12】
非経口、経皮、舌下、直腸、又は吸入投与によって投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項13】
前記肺炎及び/又は心筋炎が、Covid-19などのコロナウイルス感染症と関連するか、又はそれによって引き起こされる、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1656。
【請求項14】
前記治療される対象が、Covid-19などのコロナウイルスに感染しているか、又は感染していると疑われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1556。
【請求項15】
前記治療される対象が、ロングCOVID(long COVID)を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のためのAZD1556。
【請求項16】
肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための医薬の製造のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩の、使用。
【請求項17】
請求項2~15のいずれか一項に記載の追加の特徴のうちのいずれかを有する、請求項16に記載のAZD1656又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項18】
AZD1656又はその薬学的に許容される塩を患者に投与することを含む、肺炎及び/又は心筋炎を治療する、方法。
【請求項19】
請求項2~15に記載の追加の特徴のうちのいずれかを有する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺炎(pneumonitis)(肺の破壊性炎症)及び/又は心筋炎(心臓の破壊性炎症)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎は、肺組織の炎症を指す一般的な用語である。肺炎の一般的な原因には、空気中の刺激物又はある特定の薬物治療の副作用が含まれる。
【0003】
肺炎の最も一般的な症状は息切れであり、これは乾いた咳を伴うことがある。肺炎が検出されないか、又は治療されないまま放置された場合、患者は慢性肺炎を発症する場合があり、肺に瘢痕(線維症)が生じる可能性がある。
【0004】
心筋炎は、心臓の筋肉(心筋)の炎症である。心筋炎は、心臓の筋肉及び心拍リズムに影響を与え、心臓のポンプ機能を低下させ、急速な又は異常な心拍リズム(不整脈)を引き起こす可能性がある。
【0005】
肺炎及び心筋炎は、ウイルス感染症と関連し得る。そのようなウイルス感染症の1つは、Covid-19などのコロナウイルスである。現在のコロナウイルスのパンデミックでは、ウイルス感染症による死亡原因は、肺炎及び/又は心筋炎であり、これらの状態を治療するための新しい薬物の必要性が存在する。
【0006】
グルコキナーゼは、グルコースのグルコース-6-リン酸塩へのリン酸化を促進する酵素である。グルコキナーゼは、ヒト及び他のほとんどの脊椎動物の肝臓及び膵臓の細胞に存在する。これらの器官の各々において、グルコースセンサーとして作用することにより、炭水化物代謝の調節において重要な役割を果たし、例えば食後又は空腹時に起こるグルコースレベルの上昇又は下降に応答して代謝又は細胞機能の変化を引き起こす。この酵素の遺伝子の変異は、異常な形態の糖尿病又は低血糖を引き起こす可能性がある。グルコキナーゼ(GK)は、少なくとも3つの他のヘキソキナーゼに相同的に関連するヘキソキナーゼアイソザイムである。
【0007】
AZD1656は、インビトロでのヒト及びラットグルコキナーゼの強力な選択的(ヘキソキナーゼ1及び2並びに薬理学的スクリーニングパネルに対して100倍超)活性化剤であり、組換え酵素について、それぞれEC50=0.057及び0.072μMであり、これを細胞系に変換する(ヒト及びラット肝細胞において、それぞれEC50=1.39及び0.47μM)。AZD1656は、正常糖血インスリン抵抗性ラット及び糖尿病マウスにおいて、急性投与される場合、かつ1日1回最長28日間投与される場合、急速な作用の発現を伴い、用量依存的に血漿グルコースレベルを低減する。
【0008】
AZD1656は、健康なボランティアを対象に最大180mgの単回投与及び150mgのBIDで8日間の複数回投与で研究されているほか、糖尿病患者に1日200mgで最大6ヶ月間単独で、及び他の血中グルコースコントロール剤と組み合わせて研究されている。健康なボランティア及び糖尿病患者の両方で、グルコース低下以外の顕著な臨床効果は認められなかった。
【0009】
最長12ヶ月間の前臨床研究が実施されている。これらは強力なグルコース低下効果を明らかにし、それによって、健康な動物での慢性毒性研究の結果は、高用量での重度の低血糖と、ウォレリア型神経変性及び骨格筋線維変性などの後遺症とによって混同されていた。低血糖に続発すると考えられる追加の変化が、肝臓に見られた(肝細胞グリコーゲンの喪失)。
【0010】
日本人の2型糖尿病対象での第2相研究では、高用量(40~200mg/日)、中用量(20~140mg/日)、及び低用量(10~80mg/日)で4ヶ月間にわたってBIDで投与されたAZD1656は、HbA1c及び空腹時血漿(FPG)グルコースレベルを低下させることがわかっており、50mg用量で血漿中の化合物レベルは約2×EC50になる。しかしながら、この効果は、8週目~16週目の間で投与前のレベルに向かう一時的な傾向であり、4ヶ月のベースラインからHbA1c又はFPGのいずれにも統計的に有意な変化はなかった。
【0011】
AZD1656は、40mg又は80mgの用量で投与された場合、健康な非糖尿病患者において低血糖を引き起こさないことが示されている(低血糖は、この研究では2.7mmol/lと定義された)(Norjavaara E.et al.,J Clin Endocrinol Metab,2012,97(9):3319-3325)。
【0012】
AZD1656は、組織名3-{[5-(アゼチジン-1-イルカルボニル)ピラジン-2-イル]オキシ}-5-{[(1S)-1-メチル-2-(メチルオキシ)エチル]オキシ}-N-(5-メチルピラジン-2-イル)ベンズアミドを有する。
【0013】
AZD1656は、以下の構造を有する。
【化1】
【発明の概要】
【0014】
本発明は、特にコロナウイルス感染症の結果としての肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩である。
【0015】
AZD1656は、制御性T細胞(Treg)におけるグルコキナーゼの活性化因子である分子である。これらの細胞は、免疫応答を抑制するように作用するT細胞の特殊な亜集団である。不適切な炎症では、Tregは、T細胞の増殖及びサイトカインの産生を抑制することができる。これは、臨床的に有益であり得る。
【0016】
したがって、AZD1656の投与は、特に経口、経皮、又は静脈内のいずれかで投与された場合、肺炎及び/又は心筋炎、特にCovid-19などのコロナウイルス感染症と関連する肺炎及び/又は心筋炎の治療法に有効であると予測される。
【0017】
したがって、本発明の第1の態様は、肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩である。
【0018】
本発明の第2の態様は、肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための医薬の製造のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩の使用である。
【0019】
本発明の第3の態様は、AZD1656又はその薬学的に許容される塩を患者に投与することを含む、肺炎及び/又は心筋炎を治療する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される「治療」又は「治療すること」という用語は、改善を含む治療的(治癒的)処置を指す。治療にはまた、疾患の発症を止めること、又は疾患の更なる進行を遅らせることも含まれる。例えば、治療には、症状の悪化を防ぐことが含まれてもよい。「改善」は、患者の状態の改善若しくは知覚された改善、又はそれをますます許容できるようにする患者の状態の変化若しくは副作用である。
【0021】
肺炎及び/又は心筋炎は、多くの場合、ウイルス感染症によって引き起こされる。したがって、一実施形態では、肺炎及び/又は心筋炎は、ウイルス感染症、好ましくはコロナウイルス感染症、例えばSARS(重症急性呼吸器症候群)又はSARS-CoV-2、及び好ましくはCOVID-19又はロングCovid(long Covid)の結果として、又はそれらと関連していると特徴付けられる。
【0022】
一実施形態では、治療される対象は、Covid-19などのコロナウイルスに感染しているか、又は感染していると疑われる。更なる実施形態では、コロナウイルスに感染しているか、又は感染していると疑われる対象は、WHO臨床的改善の順序尺度で段階3、4、又は5として分類される。WHO臨床的改善の順序尺度は、病気の重症度を経時的に測定する(Michael O’Kelly&Siying Li(2020),Statistics in Biopharmaceutical Research,12:4,451-460)。
【0023】
「Covid-19」とは、ウイルス重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされた感染性疾患を指す。
【0024】
「ロングCovid」又は「ポストCovid(Post-Covid)症候群」とは、COVID-19と一致する感染症の間又は後に発症し、12週間を超えて続き、代替診断によって説明されない徴候及び症状を指す。この状態は通常、重複することが多い症状のクラスターと共に示し、経時的に変化し得、体内のあらゆるシステムに影響を与える可能性がある。ポストCOVID症候群を有する多くの人々はまた、全身の痛み、疲労、持続する高温、及び精神医学的問題を経験する可能性がある。
【0025】
「患者」及び「対象」は交換可能に使用され、AZD1656を投与される対象を指す。好ましくは、対象はヒトである。
【0026】
本発明は、糖尿病患者及び非糖尿病患者の両方での使用に好適である。いくつかの実施形態では、対象は、糖尿病、好ましくは1型又は2型糖尿病を有する。
【0027】
いくつかの実施形態では、対象は、4mmol/L以上の血中グルコースレベルを有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、対象は糖尿病を有し、かつ/又は腎移植を受けている。
【0029】
本明細書で使用される場合、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸又は塩基との塩である。薬学的に許容される酸は、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸、又は硝酸などの無機酸、及びクエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、ベンゼンスルホン酸、又はp-トルエンスルホン酸などの有機酸の両方を含む。薬学的に許容される塩基は、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)水酸化物、並びにアルキルアミン、アリールアミン、又は複素環式アミンなどの有機塩基を含む。
【0030】
当業者であれば、本発明の化合物が、AZD1656又はその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物として製剤化され得ることを理解するであろう。一実施形態では、AZD1656は、組成物中の唯一の活性薬剤である。唯一の活性薬剤とは、組成物が、肺炎及び/若しくは心筋炎、並びに/又はウイルス感染症の治療に使用され得る他の成分を含有しないことを意味する。
【0031】
AZD1656又はその薬学的に許容される塩を含む組成物は、薬学的に許容される担体を含有してもよい。「薬学的に許容される担体」とは、組成物の他の成分と適合し、レシピエントに有害でない、充填剤又は結合剤などの任意の希釈剤又は賦形剤を意味する。薬学的に許容される担体は、標準的な薬務に従って、所望の投与経路に基づいて選択することができる。
【0032】
本発明では、AZD1656は、様々な剤形で投与され得る。一実施形態では、AZD1656は、経口、直腸、非経口、鼻腔内、若しくは経皮投与、又は吸入若しくは坐剤による投与に好適な形式で製剤化され得る。
【0033】
AZD1656は、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性若しくは油性懸濁液、分散性粉末、又は顆粒として経口投与され得る。好ましくは、AZD1656は、例えば、錠剤及びカプセルなどの経口投与に好適であるように製剤化される。
【0034】
AZD1656はまた、皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、経皮、又は注入技法のいずれであっても、非経口的に投与され得る。AZD1656はまた、坐剤として投与され得る。
【0035】
AZD1656はまた、吸入によって投与され得る。吸入医薬品の利点は、経口経路によって服用される多くの医薬品と比較して、血液供給が豊富な領域へのそれらの直接送達である。よって、肺胞は巨大な表面積及び豊富な血液供給を有し、初回通過代謝が迂回されるため、吸収は非常に迅速である。
【0036】
本発明はまた、AZD1656を含む吸入デバイスを提供する。典型的には、当該デバイスは、定量吸入器(MDI)であり、これは医薬品を吸入器から押し出すための薬学的に許容される化学推進剤を含有する。
【0037】
AZD1656はまた、鼻腔内投与によって投与され得る。鼻腔の透過性の高い組織は、医薬品に対して非常に受容性であり、それを迅速かつ効率的に吸収する。経鼻薬物送達は、注射よりも痛み及び侵襲が少なく、患者間でもたらされる不安がより少ない。この方法によって、吸収は、非常に迅速であり、初回通過代謝は、通常迂回され、よって患者間ばらつきを低減する。更に、本発明はまた、AZD1656を含む鼻腔内デバイスを提供する。
【0038】
AZD1656はまた、経皮投与によって投与され得る。局所送達のために、経皮及び経粘膜パッチ、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液、又は懸濁液が使用され得る。したがって、本発明はまた、AZD1656を含有する経皮パッチを提供する。
【0039】
AZD1656はまた、舌下投与によって投与され得る。したがって、本発明はまた、AZD1656を含む舌下錠剤を提供する。
【0040】
AZD1656はまた、抗菌剤などの、患者の正常な代謝以外のプロセスによる物質の分解を低減する薬剤、あるいは患者に、又は患者の上若しくは中で生きている共生(commensural)若しくは寄生生物に存在し得、化合物を分解することができるプロテアーゼ酵素の阻害剤と共に製剤化され得る。
【0041】
経口投与用の液体分散液は、シロップ、乳濁液及び懸濁液であり得る。
【0042】
懸濁液及び乳濁液は、担体として、例えば、天然ガム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含有し得る。筋肉内注射用の懸濁液又は溶液は、活性化合物と共に、薬学的に許容される担体、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えば、プロピレングリコール、及び所望に応じて、好適な量のリドカイン塩酸塩を含有し得る。
【0043】
注射又は注入用の溶液は、担体として、例えば、滅菌水を含有し得るか、又は好ましくはそれらは、滅菌、水性、等張性食塩溶液の形態にあり得る。
【0044】
本発明の一実施形態では、AZD1656は、肺炎及び/又は心筋炎の症状を治療するために有効な量で投与される。有効用量は、当業者には明らかであり、年齢、性別、体重を含む多数の因子に依存し、医療従事者であれば決定することができるであろう。
【0045】
好ましい実施形態では、AZD1656は、0.5~400mg、より好ましくは1~400mg、より好ましくは2.5~400mg、より好ましくは5mg~400mg、より好ましくは50mg~300mg、最も好ましくは150mg~300mgの用量で投与される。用量の下限は、好ましくは0.5mg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、4mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、60mg、65mg、70mg、75mg、80mg、85mg、90mg、95mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mg、又は200mgである。用量の上限は、好ましくは400mg、390mg、380mg、370mg、360mg、350mg、340mg、330,mg、320mg、310mg、300mg、290mg、280mg、270mg、260mg、250mg、240mg、230mg、220mg、又は210mgである。前述の範囲の下限又は上限のうちのいずれかを互いに組み合わせることができ、本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、用量は、150mg~300mgである。いくつかの実施形態では、用量は、2~100mg又は約2.5mgである。
【0046】
上記用量のうちのいずれも、1日1回、1日2回、1日3回、又は1日4回投与され得る。
【0047】
本発明の一実施形態では、AZD1656は、少なくとも1日1回投与される。好ましくは、それは単回1日用量として投与される。好ましくは、単回1日用量は、200mg~400mg又は2~100mgである。好ましくは、それは2.5mg、200mg、300mg、又は400mgである。
【0048】
小児患者では、より低用量が必要とされ得ることが理解されよう。
【0049】
本発明の一実施形態では、AZD1656は、1日2回投与される。好ましくは、各用量は、1~20mg又は150mg~200mgであり、総1日投与量は、2~40mg又は300mg~400mgである。
【0050】
代替的に、1日当たり3回投与され得る。好ましくは、各用量は、1~20mg又は100mg~130mgである。
【0051】
代替的に、1日当たり4回投与され得る。好ましくは、各用量は、1~20mg又は75mg~100mgである。
【0052】
好ましくは、投与計画は、AZD1656の総1日投与量が400mg、より好ましくは300mgを超えないようなものである。
【0053】
肺炎及び/又は心筋炎を治療するために、AZD1656は、慢性の投与計画、すなわち慢性の長期治療で使用される。
【0054】
本発明はまた、肺炎及び/又は心筋炎の治療における使用のための医薬の製造のための、AZD1656又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。本発明のこの実施形態は、上記の好ましい特徴のうちのいずれかを有し得る。
【0055】
一実施形態では、肺炎及び/又は心筋炎は、コロナウイルス感染症、例えば、Covid-19又はロングCovidと関連する。
【0056】
本発明はまた、AZD1656又はその薬学的に許容される塩を患者に投与することを含む、肺炎及び/又は心筋炎を治療する方法に関する。本発明のこの実施形態は、上記の好ましい特徴のうちのいずれかを有し得る。投与の方法は、上記の経路のうちのいずれかに従い得る。
【0057】
疑義を避けるために、本発明はまた、インビボで反応して本発明の化合物を与えるプロドラッグを包含する。
【0058】
以下の実施例は本発明を例証する。
【実施例
【0059】
研究
最初の臨床試験は、コロナウイルス感染症が証明された糖尿病患者を対象としている。これらの患者は、非糖尿病患者と比較して増加した死亡リスクにある。エンドポイントは、肺イメージング、血中の炎症マーカー、動脈血酸素濃度並びに心臓駆出率及び生存率である。化合物のその後の試験は、糖尿病患者及び非糖尿病患者において、症状の最初の提示に際して投与されたときに行われる。化合物は、コロナウイルス感染症における肺及び心臓疾患を予防及び治療するはずである。
【0060】
COVID-19の疑いがあるか、又は確認された状態で入院したAZD1656の安全性及び有効性を評価するために、最初の(第II相)臨床試験が現在、英国、ルーマニア、及びチェコ共和国で実施されている。本出願を提出した時点では、試験のデータはまだ盲検化されていない。しかしながら、予備観察は利用可能である。2021年3月9日の時点で、116人の患者が試験に参加し、5人の死亡が報告されている。2021年2月26日に開催された独立した安全審査委員会(SRC)会議で、これまでに試験を完了した60人の患者からのデータが、盲検法を破ることなく安全性の観点から検討された。データの質は高いと判断された。その時点で試験プロトコルを完了した60人の患者のうち、5人が死亡した。委員会には安全性への懸念はなかった。患者の参加特性は、試験群及び対照群の間で均等に分布していた。
【0061】
Covid-19を有する糖尿病患者のFrench Coronad研究は、Covid-19による入院中の糖尿病患者の死亡率が、28日以内に5人中1人であったと報告した。したがって、Coronad研究データに沿って、2月26日までに現在の試験を完了した60人の患者のうち、12人の死亡が予想される。Coronad研究のデータによると、死亡者数が試験群及び対照群の間でランダムに分布していた場合、試験群で6人及び対照群で6人の死亡が予想される。しかしながら、2月26日までに、試験群と対照群とを合わせて全体で5人が死亡した(12人ではない)。対照群には不活性なプラセボが与えられたため、Coronad研究データに基づいてプラセボ群の死亡率が6になると提案するのは合理的である。試験群は、不適切な炎症を抑えるTregリンパ球を活性化することが知られているAZD1656の用量を受けた。Covid-19疾患におけるこの仮説の信憑性は、試験に資金提供している英国政府UKRI、及び英国規制当局MHRAによって支持された。したがって、2月26日までの研究で予想された12人から5人への予想死亡率の減少が、AZD1656群で発生したことは合理的な疑いの余地がない。これらの発見は、Covid-19疾患に罹患しているヒト患者におけるAZD1656の有効性を支持することが提示される。
【0062】
研究デザイン
これは、COVID-19が既知であるか、又は疑われる入院した糖尿病患者におけるCOVID-19の心肺合併症に対するAZD1656の安全性及び有効性を評価するための第II相ランダム化プラセボ対照二重盲検臨床試験である。
【0063】
全ての患者は、通常のケアに加えて、AZD1656又はプラセボのいずれかを受ける。世界保健機関(WHO)の臨床的改善の8段階順序尺度は、患者の転帰を測定するための標準的な方法論として使用される。
【0064】
主要エンドポイント:
主要エンドポイントは、AZD1656治療をプラセボと比較した、WHOの臨床的改善の8段階順序尺度に従って、14日目にカテゴリー1~3にある対象のパーセンテージとして測定される臨床的改善である。
【0065】
副次的エンドポイント:
(a)AZD1656治療をプラセボと比較した、7日目、14日目、21日目のWHOの8段階順序尺度の各重症度評価で分類された患者のパーセンテージとして測定された臨床的改善。
(b)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者のベースライン投薬要件を増加させる必要性、又は適切な血中グルコースレベルを維持するために追加の糖尿病薬を追加する必要性によって測定される糖血コントロールの程度。
(c)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者における治験薬の中止につながる治療下で発現した有害事象(TEAE)の割合。
(d)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者における重篤な有害事象(SAE)の割合。
(e)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者の入院から退院までの時間(時間単位)。
(f)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者における入院から挿管/人工呼吸を受けるまでの時間。
(g)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者の死亡率。
【0066】
探索的エンドポイント:
(a)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者の治療の最初の7日間の血漿AZD1656レベル。
(b)フローサイトメトリーによって実施される免疫表現型解析パネル:T、B、及びNK細胞(特定のTreg及び記憶T細胞集団を含む)のレベルの群間比較(AZD1656対プラセボ);好中球(CD11b)及び単球サブセット(6-Sulfo LacNAc(SLAN)を含むCD14/CD16同定)の活性化マーカーを含む、単球、好中球、及び好酸球の計数。
(c)以下のバイオマーカーの評価のためにMSD U-Plexマルチプレックスアッセイを使用して実施される免疫化学パネル:G-CSF、GM-CSF、IL-1B、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、及びMIP-1a。
(d)プラセボと比較した、AZD1656を受けている患者の心外傷の程度を決定するためのhsTroponin及びNTproBNPの測定。
(e)ビタミンDレベルと臨床転帰との間に何らかの相関があるかどうかを判断するための、治療前の25-ヒドロキシビタミンDレベルの測定。
(f)臨床転帰と患者の民族性との相関。
【0067】
研究プロトコル
およそ165人の患者をスクリーニングして、AZD1656又はプラセボにランダムに割り当てられた150人の患者を達成した。全ての患者は、通常のケアに加えて、AZD1656又はプラセボのいずれかを受ける。
【0068】
包含基準
1.男性又は女性。
2.18歳以上。
3.1型又は2型糖尿病のいずれかを有する。
4.登録時に新型コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2))感染症が疑われるか、又は確認された状態で入院し、WHOの臨床的改善の順序尺度で段階3、4又は5として分類される。
5.4mmol/L以上の血中グルコースレベル。
6.医薬品の経口(錠剤)製剤を服用することができる。
7.患者は、任意の研究手順の開始前に書面によるインフォームドコンセントを提供することができる。
【0069】
用量
100mgをBID(総1日用量200mg)で投与される50mgのフィルムコーティング錠として、AZD1656が経口投与された。
【0070】
錠剤は、Patheonによって製造された。
【0071】
継続時間
安全性及び有効性に対するAZD1656の影響を調査するために、21日間の治療期間が選択された。過去の試験で最長6ヶ月の治療期間が評価されているため、この試験の期間は安全であると考えられ、COVID-19の入院治療を必要とする糖尿病患者の予想入院期間に基づいて、この患者集団に適している。
【0072】
この研究には3つの相がある。
1.スクリーニング/ランダム化(-2日目~1日目)
2.二重盲検治療(1日目~21日目)
3.安全性フォローアップ(研究治療の完了の7日後)
【0073】
この研究では、臨床的改善、糖血コントロール、入院から退院までの時間、及び入院から挿管/人工呼吸を受けるまでの時間を評価する一連のアセスメントにわたって有効性を評価する。
【国際調査報告】