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特表2023-517139酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-21
(54)【発明の名称】酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230414BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230414BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20230414BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N15/10 Z
C12N9/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022565530
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(85)【翻訳文提出日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 US2019068864
(87)【国際公開番号】W WO2021137844
(87)【国際公開日】2021-07-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522259245
【氏名又は名称】源點生物科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】YUANDIAN BIOLABS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 717, Innovation and Incubation Hall National Tsing Hua University No. 101, Sec. 2, Kuang-Fu Rd. Hsinchu 30013,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(72)【発明者】
【氏名】陳呈堯
(72)【発明者】
【氏名】顏睿康
【テーマコード(参考)】
4B029
4B050
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB20
4B029CC01
4B029HA10
4B050KK07
4B050LL05
(57)【要約】
【課題】酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法を提供する。
【解決手段】酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、反応器と、複数のヌクレオチド材料瓶と、脱保護材料瓶と、液体輸送装置とを含む。反応器は、前処理された表面を有する反応基質を含む。複数のヌクレオチド材料瓶のそれぞれは、第1反応溶液を収容するように適し、第1反応溶液は、反応酵素と、末端保護基を有するヌクレオチドとを含む。脱保護材料瓶は脱保護溶液を収容するように適する。液体輸送装置は、反応器と、複数のヌクレオチド材料瓶と、脱保護材料瓶とに接続され、第1反応溶液と、脱保護溶液とを前処理された表面に輸送するように適する。反応酵素は、前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドを配置するように適し、脱保護溶液はヌクレオチドの末端保護基を除去するように適する。反応器の作動温度は45℃~105℃である。本発明はさらに、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理された表面を有する反応基質を含む反応器と、
複数のヌクレオチド材料瓶であって、前記複数のヌクレオチド材料瓶のそれぞれは、第1反応溶液を収容するように適し、前記第1反応溶液は、反応酵素と、末端保護基を有するヌクレオチドとを含む、複数のヌクレオチド材料瓶と、
脱保護溶液を収容するように適する脱保護材料瓶と、
液体輸送装置であって、前記液体輸送装置は、前記反応器と、前記複数のヌクレオチド材料瓶と、前記脱保護材料瓶とに接続され、前記第1反応溶液と、前記脱保護溶液とを前記前処理された表面に輸送するように適し、前記反応酵素は、前処理された表面上に前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを配置するように適し、前記脱保護溶液は前記ヌクレオチドの前記末端保護基を除去するように適する、液体輸送装置と、を含み、
前記反応器の作動温度は45℃~105℃である、
酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項2】
前記反応器は50℃~85℃の作動温度を有する、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項3】
前記反応器は55℃~75℃の作動温度を有する、請求項2に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項4】
前記反応酵素はDNAポリメラーゼである、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項5】
前記反応酵素はファミリーAのDNAポリメラーゼである、請求項4に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項6】
前記反応酵素はファミリーBのDNAポリメラーゼである、請求項4に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項7】
前記反応酵素はファミリーXのDNAポリメラーゼである、請求項4に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項8】
前記液体輸送装置は、前記第1反応溶液および前記脱保護溶液を前記前処理された表面に抽出するように適する抽出装置を含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項9】
前記抽出装置はシリンジポンプまたは気圧弁である、請求項8に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項10】
前記前処理された表面は、末端保護基を有するヌクレオチドと連結するように適する複数のプライマーを有する、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項11】
前記脱保護溶液は、還元剤または脱保護酵素を含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項12】
第2反応溶液を収容するように適する制限酵素材料瓶をさらに含み、前記第2反応溶液は制限酵素を含み、前記液体輸送装置は、前記制限酵素材料瓶にさらに接続され、前記第2反応溶液を前記前処理された表面に輸送する、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項13】
前記反応器に接続され、前記反応器を加熱するように適するヒーターをさらに含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項14】
前記液体輸送装置は、第1切替弁と、複数の第1輸送チューブとを含み、前記複数の第1輸送チューブは、前記ヌクレオチド材料瓶と前記第1切替弁との間、および前記脱保護材料瓶と前記第1切替弁との間を接続されており、前記第1切替弁は、前記反応器に接続されており、前記複数の第1輸送チューブ間の切り替えに適する、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項15】
廃液瓶および産物瓶をさらに含み、前記液体輸送装置は、第2切替弁と、複数の第2輸送チューブとを含み、前記複数の第2輸送チューブは、前記廃液瓶と前記第2切替弁との間、および前記産物瓶と前記第2切替弁との間を接続されており、前記第2切替弁は、前記反応器に接続されており、前記複数の第2輸送チューブ間の切り替えに適する、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項16】
前記液体輸送装置に電力を供給するように適する電源ユニットをさらに含む、請求項1に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置。
【請求項17】
(1) 前処理された表面を有する反応基質を提供するステップと、
(2) 反応酵素により前記前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ作動温度は45℃~105℃であるステップと、
(3) 脱保護溶液により前記ヌクレオチドの前記末端保護基を除去するステップと、
(4) 前記反応酵素により末端保護基を有する別のヌクレオチドを前記ヌクレオチドに接続させ、かつ作動温度は45℃~105℃であるステップと、
(5) 核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップ(3)と(4)を繰り返すステップと、
を含む、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項18】
前記反応器は50℃~85℃の作動温度を有する、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項19】
前記反応器は55℃~75℃の作動温度を有する、請求項18に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項20】
前記前処理された表面に前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを配置する方法は、前記前処理された表面に第1反応溶液を配置することを含み、前記第1反応溶液は、前記反応酵素および前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを含む、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項21】
前記前処理された表面に前記第1反応溶液を配置する方法は、液体輸送装置によって前記第1反応溶液を前記前処理された表面に輸送することを含む、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項22】
作動温度を45℃~105℃に調整する方法は、前記反応基質をヒーターによって加熱することを含む、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項23】
前記前処理された表面は複数のプライマーを有し、前記前処理された表面上に前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを配置する方法は、前記反応酵素によって前記末端保護基を有する前記ヌクレオチドを前記複数のプライマーに連結することを含む、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項24】
前記反応酵素はファミリーAのDNAポリメラーゼである、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項25】
前記反応酵素はファミリーBのDNAポリメラーゼである、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項26】
前記反応酵素はファミリーXのDNAポリメラーゼである、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【請求項27】
(6)制限酵素によって前記前処理された表面から前記核酸配列を切断するステップをさらに含む、請求項17に記載の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子構造を調製するための装置および方法、特に、酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀半ばに、今日の医療分野の発展につながる遺伝的および生化学的研究におけるいくつかの進歩があった。これは、1941年にX線で誘発された遺伝子ノックアウト研究から始まった一連の出来事であり、遺伝子が酵素(enzyme)機能に直接関与しているという関係を築いた。その後、遺伝子は核酸(DNA)で構成されており、二重らせんは遺伝情報を保存する核酸の構造であり、DNAポリメラーゼによって正確に複製できることが発見された。
【0003】
核酸合成は、現代のバイオテクノロジーにとって重要である。DNAや、RNA、タンパク質を人工的に合成する科学界の能力は、バイオテクノロジーの分野を急速に発展させる。10億の成長する市場である人工DNA合成により、バイオテクノロジーおよび製薬会社は、例えば、糖尿病の治療のためのインスリンなどのさまざまなペプチド治療薬を開発することができる。これにより、研究者は細胞タンパク質の特性を明らかにし、心臓病や癌など、高齢者が現在直面している疾患の治療のための新しい小分子療法を開発することができる。
【0004】
しかし、現在のDNA合成技術は、バイオテクノロジー業界の要求を満たすことができない。DNA合成には多くの利点があるが、よく言及される問題が人工DNA合成産業、およびバイオテクノロジー分野のさらなる成長を妨げている。DNA合成は成熟した技術であるが、実際には200ヌクレオチドを超える長いDNA鎖を合成することは非常に困難であり、ほとんどのDNA合成会社は120ヌクレオチドまでしか提供できない。比較すると、平均的なタンパク質コード遺伝子は2000~3000ヌクレオチドのオーダーであり、平均的な真核生物のゲノム数は数十億ヌクレオチドである。したがって、今日のすべての主要な遺伝子合成会社は、「合成と接着」技術アプローチに依存している。このアプローチでは、約40~60の重複する配列フラグメントが合成され、PCRによって接着される(Young, L. et al. (2004) Nucleic Acid Res. 32, e59)。遺伝子合成会社が提供する現在の方法では、通常、ルーチンの生産で最大3kbの長さが可能である。
【0005】
今日まで、核酸のインビトロ合成には、化学合成と酵素合成との2つの主要なタイプがある。最も一般的な核酸化学合成法は、Adams et al. (1983, J. Amer. Chem Soc., 105: 661) およびFroehler et al. (1983, Tetrahedron Lett, 24: 3171)によって記載されたホスホラミダイト法(phosphoramidite method)である。この方法では、添加される各ヌードオチドは、同じタイプのいくつかのヌクレオチドの制御されていない重合を回避するために、5'-OH基のレベルで保護されている。通常、5'-OH基の保護はトリチル基によって行われる。強力な反応物の使用による分解の可能性を回避するために、ヌクレオチドによって運ばれる塩基を保護することもできる。一般に、使用される保護基はイソブチリル基を含む(Reddy et al. 1997, Nucleosides & Nucleotides 16: 1589)。次の重合ステップで使用できるように、新しいヌクレオチドが添加されるたびに、鎖の最後のヌクレオチドの5'-OH基が脱保護される。ヌクレオチドによって運ばれる窒素塩基は、すべての重合反応が完了した後にのみ脱保護される。
【0006】
上記のような化学合成方法は、環境および健康に影響を与える可能性のある、不安定で、危険で、高価な大量の反応剤を必要とする。さらに、この化学合成方法で使用される装置は非常に複雑で、多額の投資が必要であり、資格のある専門の技術者が操作する必要がある。この化学合成方法の主な欠点の1つは、生産量が低いことである。各サイクルにおいて、カップリング反応の成功率はわずか98%から99.5%であるため、調製物中の核酸配列は正しい配列を持たない可能性がある。合成工程が進むにつれて、反応媒体が誤った配列のフラグメントで満たされる可能性がある。したがって、この削除タイプのエラーは深刻な結果をもたらす可能性があり、その結果、核酸フラグメントのリーディングフレームが変化する。
【0007】
例えば、カップリング反応が99%正確であるためには、70ヌクレオチドを含む核酸合成の生産量は50%未満になる。これは、70サイクルの添加後、反応媒体は正しい配列のフラグメントよりも間違った配列のフラグメントを多く含むことを意味する。この混合物は、その後の使用には不適切である。
【0008】
したがって、核酸を化学的に合成する方法は、多くの間違った配列のフラグメントを生成し、次いで不純物と見なされるため、長いフラグメントの合成には効率的ではない。実際には、化学合成する方法で効果的に生成できるフラグメントの最大長は、50~100ヌクレオチドである。
【0009】
他方、酵素合成方法と化学合成方法との違いは、酵素合成方法が、カップリングステップを行うために酵素触媒を使用することである。
【0010】
米国特許第707040 B1号は、テンプレート依存性ポリメラーゼを使用してDNA合成を実施する方法を開示している。ただし、現在の核酸鎖がテンプレートとして必要があるため、この技術はデノボ核酸合成には適していない。
【0011】
したがって、テンプレート鎖なしでヌクレオチド間のカップリング反応を実行できる酵素が必要である。DNAポリメラーゼは、条件を達成できる酵素の1つである。DNAポリメラーゼは、アミノ酸配列に基づいて、7つの進化ファミリー、すなわち、A、B、C、D、X、Y、およびRTに分類される。DNAポリメラーゼのファミリーは関連していない。つまり、あるファミリーのメンバーは他のファミリーのメンバーとは同源(Homologous)ではない。DNAポリメラーゼは、そのファミリーの典型的なメンバーとの同源性により、特定のファミリーのメンバーであると判断される。例えば、ファミリーAのメンバーは大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼIと相同であり、ファミリーBのメンバーは大腸菌DNAポリメラーゼIIと相同であり、ファミリーCのメンバーは大腸菌DNAポリメラーゼIIIと相同であり、ファミリーDのメンバーはパイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)DNAポリメラーゼと相同であり、ファミリーXのメンバーは真核生物のDNAポリメラーゼベータと相同であり、ファミリーYのメンバーは真核生物のRAD30と相同であり、ファミリーRTのメンバーは逆転写酵素と相同である。
【0012】
多数の文書(Ud-Dean et al. (2009) Syst. Synth. Boil. 2, 67-73、US 5763594及US 8808989)が、制御されたデノボ一本鎖DNA合成のための末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase、TdT)の使用を開示している。制御されたものとは対照的に、制御されていないデノボ一本鎖DNA合成は、一本鎖DNA上のTdTのデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)3'テーリング特性を利用して、例えば、次世代シーケンシングライブラリー調製用のホモポリマーアダプター配列を作成する(Roychoudhur R. et al. (1976) Nucleic Acids Res. 3, 10-116及びWO 2003/050242)。
【0013】
ただし、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼの主な目的は抗原受容体の多様性を高めることであったため、他のポリメラーゼのように、正常で予測可能な動作を示すことは難しい場合がある。これは、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼが、ヌクレオチド合成サイクルで高生産率の自動化を達成するために、依然として多くの課題に直面していることを意味する。多くの文書(WO 2016128731A1、WO 2018217689A1、WO 2019135007A1)は、酵素合成のための修飾した末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼの使用を開示しているが、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ自体については、依然として反応速度の限界があり、多数の核酸配列が合成されても、エラーの可能性は依然として高くなる。
【0014】
要約すると、核酸の化学合成は、大量の核酸を合成することができる。ただし、使用する反応剤は高価で環境を汚染し、また、合成工程でエラーが発生する可能性が高い。核酸の酵素的合成は安価であり、核酸配列はより高い精度を持つ。ただし、酵素の反応速度により、大量の合成はできない。したがって、核酸を正しく大量に合成するという問題を解決できるより良い核酸合成法は現在も存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、酵素を用いて核酸配列を調製する装置であって、核酸配列の調製効率を向上させる装置を提供するものである。
【0016】
本発明は、酵素を用いた核酸配列の調製方法であって、核酸配列の調製効率を向上させる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施例で提供される酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、反応器と、複数のヌクレオチド材料瓶と、脱保護材料瓶と、液体輸送装置とを含む。反応器は、前処理された表面を有する反応基質を含む。複数のヌクレオチド材料瓶のそれぞれは、第1反応溶液を収容するように適し、第1反応溶液は、反応酵素と、末端保護基を有するヌクレオチドとを含む。脱保護材料瓶は脱保護溶液を収容するように適する。液体輸送装置は、反応器と、複数のヌクレオチド材料瓶と、脱保護材料瓶とに接続され、第1反応溶液と、脱保護溶液とを前処理された表面に輸送するように適する。反応酵素は、前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドを配置するように適し、脱保護溶液はヌクレオチドの末端保護基を除去するように適する。反応器の作動温度は45℃~105℃である。
【0018】
本発明の一実施例では、上記の反応器は50℃~85℃の作動温度を有する。
【0019】
本発明の一実施例では、上記の反応器は55℃~75℃の作動温度を有する。
【0020】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はDNAポリメラーゼである。
【0021】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーAのDNAポリメラーゼである。
【0022】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーBのDNAポリメラーゼである。
【0023】
本発明の一実施例では、上記の反応酵素はファミリーXのDNAポリメラーゼである。
【0024】
本発明の一実施例では、上記の液体輸送装置は、第1反応溶液および脱保護溶液を前処理された表面に抽出するように適する抽出装置を含む。
【0025】
本発明の一実施例では、上記の抽出装置はシリンジポンプまたは気圧弁である。
【0026】
本発明の一実施例では、上記の前処理された表面は、末端保護基を有するヌクレオチドと連結するように適する複数のプライマーを有する。
【0027】
本発明の一実施例では、上記の脱保護溶液は、還元剤または脱保護酵素を含む。
【0028】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、第2反応溶液を収容するように適する制限酵素材料瓶をさらに含み、第2反応溶液は制限酵素を含み、液体輸送装置は、制限酵素材料瓶にさらに接続され、第2反応溶液を前処理された表面に輸送する。
【0029】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、反応器に接続され、反応器を加熱するように適するヒーターをさらに含む。
【0030】
本発明の一実施例では、上記の液体輸送装置は、第1切替弁と、複数の第1輸送チューブとを含み、複数の第1輸送チューブは、ヌクレオチド材料瓶と第1切替弁との間、および脱保護材料瓶と第1切替弁との間を接続されており、第1切替弁は、反応器に接続されており、複数の第1輸送チューブ間の切り替えに適する。
【0031】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、廃液瓶および産物瓶をさらに含み、液体輸送装置は、第2切替弁と、複数の第2輸送チューブとを含み、複数の第2輸送チューブは、廃液瓶と第2切替弁との間、および産物瓶と第2切替弁との間を接続されており、第2切替弁は、反応器に接続されており、複数の第2輸送チューブ間の切り替えに適する。
【0032】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置は、液体輸送装置に電力を供給するように適する電源ユニットをさらに含む。
【0033】
本発明の一実施例で提供される酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、
(1) 前処理された表面を有する反応基質を提供するステップと、
(2) 反応酵素により前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ作動温度は45℃~105℃であるステップと、
(3) 脱保護溶液によりヌクレオチドの末端保護基を除去するステップと、
(4) 反応酵素により末端保護基を有する別のヌクレオチドをヌクレオチドに接続させ、かつ作動温度は45℃~105℃であるステップと、
(5) 核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップ(3)と(4)を繰り返すステップと、を含む、方法。
【0034】
本発明の一実施例では、上記の前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、前処理された表面に第1反応溶液を配置することを含み、第1反応溶液は、反応酵素および末端保護基を有するヌクレオチドを含む。
【0035】
本発明の一実施例では、上記の前処理された表面に第1反応溶液を配置する方法は、液体輸送装置によって第1反応溶液を前処理された表面に輸送することを含む。
【0036】
本発明の一実施例では、上記の作動温度を45℃~105℃に調整する方法は、反応基質をヒーターによって加熱することを含む。
【0037】
本発明の一実施例では、上記の前処理された表面は複数のプライマーを有し、前処理された表面上に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、反応酵素によって末端保護基を有するヌクレオチドを複数のプライマーに連結することを含む。
【0038】
本発明の一実施例では、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、(6)制限酵素によって前記前処理された表面から前記核酸配列を切断するステップをさらに含む。
【0039】
本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法は、酵素を使用して核酸配列を合成するので、環境を汚染する可能性がより低い。化学合成の方法と比較してコストを削減する可能性がある。また、反応器の作動温度は45℃~105℃であり、従来の37℃の酵素使用と比較して、本発明の実施形態は、45℃以上の酵素を使用することにより、より良好な活性を示し得る。複数の核酸配列の合成は、本発明の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置と同時に実施することができる。これにより、核酸配列の調製効率が向上する。
【0040】
本発明の他の目的、特徴および利点は、本発明の実施例によって開示されるさらなる技術的特徴からさらに理解されるであろう。ここでは、本発明を実施するのに最も適した実施形態を単に例示するために、本発明の好ましい実施例が示され、説明されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明は、以下の詳細な説明および添付の図面を検討した後、当技術分野における通常の知識を有する者にとってさらに容易に明らかになるであろう、そのうち:
【0042】
図1は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略ブロック図である。
【0043】
図2は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略図である。
【0044】
図3は、本発明の一実施例による反応器とヒーターの組み合わせを示す概略図である。
【0045】
図4は、本発明の別の実施例による反応器とヒーターの組み合わせを示す概略図である。
【0046】
図5は、本発明の別の実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略図である。
【0047】
図6は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法の概略フローチャートである。
【0048】
図7A~7Eは、本発明の一実施例による核酸配列を合成するための反応を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に、以下の実施例を参照して、本発明をより具体的に説明する。本発明の好ましい実施例の以下の説明は、例示および説明のみを目的として本文に提示されていることに留意されたい。網羅的であること、または、開示された正確な形式に限定されることを意図するものではない。
【0050】
図1は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略ブロック図である。図1を参照すると、本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置100は、反応器110と、複数のヌクレオチド材料瓶120と、脱保護材料瓶130と、液体輸送装置140とを含む。反応器110は、前処理された表面1111を有する反応基質111を含む。複数のヌクレオチド材料瓶120のそれぞれは、第1反応溶液121を収容するように適し、第1反応溶液121は、反応酵素と、末端保護基を有するヌクレオチドとを含む。脱保護材料瓶130は脱保護溶液131を収容するように適する。液体輸送装置140は、反応器110と、複数のヌクレオチド材料瓶120と、脱保護材料瓶130とに接続され、第1反応溶液121と、脱保護溶液131とを前処理された表面1111に輸送するように適する。
【0051】
反応基質111の材料は、例えば、シリコン、ガラス(SiO2)、金属またはポリマーを含み、ポリマーは、例えば、ポリカーボネートまたはポリメチルメタクリレートなどであるが、これらに限定されない。反応基質111は、例えば、板状構造または三次元構造であり、前処理された表面1111は、板状構造の平面または三次元構造の一体表面である。例えば、三次元構造の前処理された表面1111は、超常磁性ビーズ(Superparamagnetic beads,SPMB)の球面、または制御された細孔ガラス球(Controlled Pore Glass,CPG)を含む多孔質表面であり得る。
【0052】
図1では、4つのヌクレオチド材料瓶120が例として使用されているが、その数はそれに限定されない。一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)配列の合成を例にとると、その合成に必要なヌクレオチドの窒素塩基はさらに4つのカテゴリー、すなわち、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアノ(G)に分類できる。したがって、4つのヌクレオチド材料瓶120内の第1反応溶液121は、それぞれ、4つの異なるタイプのヌクレオチド(dAMP、dTMP、dCMP、dGMP)であり、すなわち、第1反応溶液121a、121b、121c、121dに対応する。リボ核酸(RNA)配列を合成する場合、ウラシルヌクレオチド(UMP)の材料も必要である。設計要件に応じて、各タイプのヌクレオチドは、それぞれ複数のヌクレオチド材料瓶120を使用することができ、または、4つの異なるタイプのヌクレオチドのうちの1つ、2つ、または3つだけを使用することができる。したがって、本発明には、ヌクレオチド材料瓶120の数を限定しない。
【0053】
本発明の全文に記載されている「反応酵素」、「末端保護基を有するヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「制限酵素」などは、それらの実際の量を表すのではなく、これらの物質の総称と見なされるべきである。例えば、第1反応溶液中の反応酵素および末端保護基を有するヌクレオチドの数は両方とも複数である。
【0054】
酵素を使用して核酸配列を調製するための装置100は、例えば、反応器110に接続され、反応器110を加熱するように適するヒーター150をさらに含む。反応器110は、45℃~105℃、好ましくは50℃~85℃、より好ましくは55℃~75℃の作動温度を有する。ヒーター150は、例えば、加熱要素151および加熱制御要素152を含む。加熱要素151は、例えば、反応器110内に配置されて反応器110を加熱し、加熱制御要素152は、加熱要素151に接続されるが、これに限定されない。
【0055】
酵素を使用して核酸配列を調製するための装置100は、例えば、電源ユニット160および制御モジュール170をさらに含む。電源ユニット160は、液体輸送装置140およびヒーター150に電力を供給するように適する。制御モジュール170は、液体輸送装置140およびヒーター150に電気的に接続され、そして、液体輸送装置140が、異なるヌクレオチド材料瓶120または脱保護材料瓶130を選択し、ヒーター150の加熱温度を制御するように適する。制御モジュール170は、例えば、タブレットコンピュータおよびデスクトップコンピュータなどの制御機能を達成することができる電子デバイスである。酵素を用いて核酸配列を調製するための装置100の具体的な実施態様については、図面を参照して以下にさらに説明するが、本発明の酵素を用いて核酸配列を調製するための装置100の特定の構造は、以下の実施例に限定されない。
【0056】
図2は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略図である。図2を参照すると、本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200は、反応器210と、複数のヌクレオチド材料瓶220と、脱保護材料瓶230と、液体輸送装置240と、ヒーター250と、電源ユニット260と、制御モジュール270とを含む。反応器210は、前処理された表面2111を有する反応基質211を含む。複数のヌクレオチド材料瓶220のそれぞれは、第1反応溶液221を収容するように適する。脱保護材料瓶230は脱保護溶液231を収容するように適する。ヒーター250は、例えば、加熱ユニット251および加熱制御ユニット252を含む。この実施例における酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200は、上記酵素を使用して核酸配列を調製するための装置100と同様であるため、各要素の説明はここでは繰り返さない。本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200は、さらに、ウラシルを使用したヌクレオチド材料の第1反応溶液221eのヌクレオチド材料瓶220と、制限酵素材料瓶280と、洗浄瓶290と、廃液瓶2000と、産物瓶2001とを含む。液体輸送装置240は、例えば、抽出装置241と、第1切替弁242と、複数の第1輸送チューブ243と、第2切替弁244と、複数の第2輸送チューブ245と、複数の第3輸送チューブ246とを含む。制限酵素材料瓶280は、第2反応溶液281を収容するように適し、第2反応溶液281は制限酵素を含む。洗浄瓶290は、洗浄溶液291を含むように適し、洗浄溶液291は、次の反応に影響を及ぼさないように、反応の後に前処理された表面2111を洗浄するために使用される。廃液瓶2000は、使用済みの第1反応溶液221と、脱保護溶液231と、第2反応溶液281と、洗浄溶液291とを収容するように適する。産物瓶2001は、調製された核酸配列を含むように適する。
【0057】
液体輸送装置240では、複数の第1輸送チューブ243は、ヌクレオチド材料瓶220と第1切替弁242との間、脱保護材料瓶230と第1切替弁242との間、洗浄瓶290と第1切替弁242との間に接続されており、第1切替弁242は、第3輸送チューブ246を介して前処理された表面2111に接続され、これら複数の第1輸送チューブ243間の切り替えに適する。複数の第2輸送チューブ245は、廃液瓶2000と第2切替弁244との間、および産物瓶2001と第2切替弁244との間に接続されており、第2切替弁244は、第3輸送チューブ246を介して前処理表面2111に接続され、これら複数の第2輸送チューブ245間の切り替えに適する。抽出装置241は、例えば、シリンジポンプまたは気圧弁であるが、これらに限定されない。図2では、シリンジポンプを例として取り上げ、抽出装置241は、第2切替弁244に接続されている。
【0058】
具体的には、第1反応溶液221の輸送を例にとると、抽出装置241が抽出を行う場合、複数のヌクレオチド材料瓶220のうちの1つの第1反応溶液221(即ち、第1反応溶液221a、221b、221c、221d、221eそれらの一つ)が第1輸送チューブ243と、第1切替弁242と、第3輸送チューブ246とを順番に通過し、前処理された表面2111に輸送され反応を行う。反応が完了した後、抽出装置241は抽出を継続し、その結果、前処理された表面2111上の第1反応溶液221は、第3輸送チューブ246および第2切替弁244を順番に介して、抽出装置241に輸送される。次に、第2切替弁244は、弁の流路を廃液瓶2000に切り替え、抽出装置241は、第1反応溶液221を、第2輸送チューブ245を介して廃液瓶2000に押し出す。次に脱保護溶液231を反応させる必要がある場合、第1切替弁242は弁の流路を脱保護材料瓶230に切り替え、第2切替弁244は弁の流路を前処理された表面2111に切り替え、抽出装置241は抽出を開始し、前処理された表面2111上での脱保護溶液231の反応が完了した後、脱保護溶液231は廃液瓶2000に輸送される。核酸配列を調製した後、第2切替弁244は、弁の流路を前処理された表面211に切り替え、抽出装置241は抽出を行い、前処理された表面2111の核酸配列は、第3輸送チューブ246および第2切替弁244を順番に介して、抽出装置241に輸送される。次に、第2切替弁244は、弁の流路を産物瓶2001に切り替え、抽出装置241は、第2輸送チューブ245を介して核酸配列を産物瓶2001に押し出す。液体輸送装置240の上記の使用方法は、複数のヌクレオチド材料瓶220、脱保護材料瓶230、制限酵素材料瓶280、および洗浄瓶290に適する。上記は、酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200の1つの特定の実施形態にすぎないことに留意されたい。液体輸送装置240は、設計構造に応じて異なる要素および輸送方法を含み得る。
【0059】
図3は、本発明の一実施例による反応器とヒーターの組み合わせを示す概略図である。図2および図3を参照されたい。図2において、ヒーター250の加熱ユニット251は、例示のために反応器210内に配置されている。具体的には、反応器210は、例えば、反応基質211および上部カバー212を含み、反応基質211および上部カバー212は、加熱ユニット251上に配置される。反応基質211と上部カバー212との組み合わせで空洞213を形成し、空洞213に面する反応基質211の表面は、前処理された表面2111である。上部カバー212は、複数の貫通孔212aを有し、これらの貫通孔212aは、第1反応溶液221と、脱保護溶液231と、第2反応溶液281と、洗浄溶液291とを前処理された表面2111に輸送するために、第3輸送チューブ246を通過させるように適する。反応が完了した後、第1反応溶液221、脱保護溶液231、第2反応溶液281および洗浄溶液291は、廃液瓶2000に輸送される。換言すれば、空洞213は、流路として使用される。ヒーター250の加熱要素251は、反応中に反応基質211を直接加熱する。この実施例は、加熱の実施態様にすぎず、本発明は、加熱要素251の構成を特に限定するものではない。
【0060】
この実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200は、反応基質211の前処理された表面2111を利用して核酸配列を調製し、同時に複数の核酸配列を合成することができ、核酸配列の調製効率を改善する。
【0061】
図4は、本発明の別の実施例による反応器とヒーターの組み合わせを示す概略図である。図2および図4を参照すると、この実施例は、反応器310とヒーター350の加熱ユニット351との別の組み合わせであり、反応器310は、例えば、反応基質311およびケース314を含む。ケース314は内部に空洞313を有し、反応基質311は空洞313内に配置されている。ケース314は、複数の貫通孔314aを有し、これらの貫通孔314aは、第3輸送チューブ246を通過させるように適し、その機能は上記と同じであり、ここでは繰り返さない。ケース314の材料は、例えば、ガラスであるが、それに限定されない。この実施例における反応基質311は、球形などの三次元構造を有し、その数は複数であってもよく、前処理された表面3111は、反応基質311の球面である。反応基質311の材料は、例えば、超常磁性ビーズであり、これに限定されない。ヒーター350の加熱ユニット351は、反応器310を加熱するために反応器310を取り囲む。
【0062】
図5は、本発明の別の実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置を示す概略図である。図5を参照すると、本発明の実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置400は、反応器410と、複数のヌクレオチド材料瓶420と、脱保護材料瓶430と、液体輸送装置440と、ヒーター450と、電源ユニット460と、制御モジュール470と、制限酵素材料瓶480と、洗浄瓶490と、廃液瓶4000と、産物瓶4001とを含む。反応器410は、前処理された表面4111を有する反応基質411を含む。複数のヌクレオチド材料瓶420のそれぞれは、第1反応溶液421を収容するように適する。脱保護材料瓶430は脱保護溶液431を収容するように適する。ヒーター450は、例えば、加熱ユニット451および加熱制御ユニット452を含む。液体輸送装置440は、例えば、抽出装置441と、第1切替弁442と、複数の第1輸送チューブ443と、第2切替弁444と、複数の第2輸送チューブ445と、複数の第3輸送チューブ446とを含む。制限酵素材料瓶480は、第2反応溶液481を収容するように適し、第2反応溶481は制限酵素を含む。洗浄瓶490は、洗浄溶液491を含むように適する。この実施例における酵素を使用して核酸配列を調製するための装置400は、構造および利点において、上記の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200と類似しているので、各要素の機能はここでは繰り返されない。唯一の違いは、この実施例の酵素を使用して核酸配列を調製するための装置400において、液体輸送装置440は、例えば、複数の第4輸送チューブ447をさらに含むことである。これらの複数の第4輸送チューブ447は、それぞれ、第1反応溶液421a、421b、421c、および421dを含む複数のヌクレオチド材料瓶420と第2切替弁444との間に接続される。これらの第4輸送チューブ447により、反応した第1反応溶液421a、421b、421c、421dは、複数のヌクレオチド材料瓶420に回収し、再利用し、コスト節約効果を達成することができる。
【0063】
以下、核酸配列の作製方法を詳細に説明する。実施例では、一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)配列の合成を例として取り上げる。図6は、本発明の一実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための方法を示す概略フローチャートである。図7A~7Eは、本発明の一実施例による核酸配列を合成するための反応の概略図である。図6図7を参照すると、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法は、以下のステップを含む。ステップS101:前処理された表面5111を有する反応基質511を提供する。前処理された表面5111は複数のプライマー5112を有し、本実施例では、これらのプライマー5112は、例えば、一本鎖DNAであるが、それに限定されない。本実施例では、例えば、ウラシルヌクレオチドUは、最初にプライマー5112上に配置されるが、それに限定されない。次に、ステップS102:反応酵素により前処理された表面5111に末端保護基を有するヌクレオチドを配置し、かつ作動温度は45℃~105℃、好ましくは50℃~85℃、より好ましくは55℃~75℃である。具体的には、核酸配列を調製するための作動温度は、例えば、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃または75℃、これらに限定されない。
【0064】
前処理された表面に末端保護基を有するヌクレオチドを配置する方法は、前処理された表面5111に第1反応溶液を配置することを含み、第1反応溶液は、反応酵素および末端保護基を有するヌクレオチドを含む。さらに、前処理された表面5111上に第1反応溶液を配置する方法は、例えば、液体輸送装置によって第1反応溶液を前処理された表面5111に輸送することを含む。第1反応溶液は、例えば、上記の実施例のいずれかの第1反応溶液112、221、421である。液体輸送装置は、例えば、上記の実施例のいずれかの液体輸送装置140、240、440である。
【0065】
図7Bを参照すると、前処理された表面5111上に末端保護基PGを有するヌクレオチド522を配置する方法は、反応酵素523によって、末端保護基PGを有するヌクレオチド522を複数のプライマー5112上のウラシルヌクレオチドUに連結することを含む。本実施例の反応酵素523は、例えば、DNAポリメラーゼ、特に耐熱性DNAポリメラーゼであるが、これに限定されない。DNAポリメラーゼには、例えば、ファミリーAのDNAポリメラーゼと、ファミリーBのDNAポリメラーゼと、ファミリーXのDNAポリメラーゼとを含み、その例には、TaqDNAポリメラーゼ、古細菌DNA、耐熱性逆転写酵素などを含む。これらのDNAポリメラーゼは、45℃以上の温度で、37℃で従来使用されている末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)よりも良好な活性を示し、核酸配列の合成効率を改善することができる。末端保護基PGの例には、メチル、2-ニトロベンジル、3'-O-(2-シアノエチル)、アリル、アミン、アジドメチル、tert-ブトキシエトキシ(TBE)などを含む。
【0066】
ステップS102が完了した後、反応酵素523および未反応の末端保護基PGを有するヌクレオチド522は、その後の反応に影響を及ぼさないように、洗浄溶液によって洗浄することができる。本実施例において、洗浄溶液は、例えば、脱イオン水であるが、それに限定されない。そして、洗浄溶液は、例えば、上記の実施例のいずれかの洗浄溶液291、491である。次に、ステップS103:脱保護溶液531によりヌクレオチド522の末端保護基PGを除去する。図7Cを参照すると、脱保護溶液531は、例えば、液体輸送装置140、240、440によって、前処理された表面5111に輸送され得る。脱保護溶液531の機能は、ヌクレオチド522の末端保護基PGを除去することであり、その結果、ヌクレオチド522は、核酸配列の合成のために他のヌクレオチド522に連結することができる。脱保護溶液531は、例えば、異なるタイプに応じて、化学的脱保護および酵素的脱保護に分類される。化学的脱保護の例には、DTT(ジチオスレイトール)またはDTE(ジチオエリスリトール)などの還元剤を含む。酵素的脱保護の例には、アルカリホスファターゼ、ピロホスファターゼ、ウシ腸アルカリホスファターゼ(CIP)などの脱保護酵素を含む。
【0067】
ステップS103が完了した後、洗浄溶液により脱保護溶液531および末端保護基PGを洗浄する。次に、ステップS104:反応酵素523により末端保護基PGを有する別のヌクレオチド522を前処理された表面5111に配置されたヌクレオチド522に連結させる。図7Dを参照すると、ステップS104の反応は、末端保護基PGを有するヌクレオチド522を、先にプライマー5112に結合させたヌクレオチド522に連結させることを除いて、ステップS102と同様である。設計された核酸配列の長さに応じて、ステップS105を行い、核酸配列が完成しているかどうかを判断し、完成している場合は核酸配列を取得し、完成していない場合はステップS103とステップS104とを繰り返し、設計された核酸配列が完成するまで、核酸配列の長さを延長し続ける。
【0068】
核酸配列の合成が完了した後、酵素を使用して核酸配列を調製するための方法はステップS106:制限酵素によって前処理された表面から核酸配列を切断することをさらに含む。図2および図7Eを参照すると、酵素を使用して核酸配列を調製するための装置200内の制限酵素材料瓶280は、第2反応溶液281を含むのに適し、第2反応溶液281は、制限酵素581aを含む。液体輸送装置240が第2反応溶液281を前処理された表面5111に輸送した後、制限酵素581aは、合成された核酸配列Sを前処理された表面5111から切断する。その後、核酸配列Sを収集し、産物瓶2001に輸送し、すなわち、核酸配列Sの調製工程を完了する。制限酵素581aの例には、ウラシルDNAグリコシラーゼ(UDG)と、エンドヌクレアーゼVIIIと、USER酵素(NEB#M5508)とそれらの組み合わせを含む。本実施例では、例えば、ウラシルヌクレオチドUを切断する制限酵素581aが使用される。核酸配列が完成すると、DNA配列であるため、DNA配列にウラシルヌクレオチドUが含まない。制限酵素581aの場合、以前に配置された単一のウラシルヌクレオチドUのみを切断することができ、核酸配列Sをより正しく切断することができる。図7Eは、切断の概略図である。異なる制限酵素581aは異なる切断部位を有し、本発明は特に限定されない。 上記の方法は、酵素を使用して核酸配列を調製するための装置400にも適用することができる。
【0069】
要約すると、本発明の実施例による酵素を使用して核酸配列を調製するための装置および方法において、酵素は化学合成と比較して核酸配列の合成に使用されるため、環境を汚染することが少なくなり、またコストを削減する可能性がある。また、反応器の作動温度は45℃~105℃であり、従来使用する37℃の酵素と比較して、本発明の実施形態は、45℃以上の酵素を使用することにより、より良好な活性を示し得る。また、本発明の酵素を用いて核酸配列を調製するための装置と併せて、複数の核酸配列を同時に合成することができるため、核酸配列の作製効率を向上させることができる。
【0070】
以上は、現在最も実用的で好ましい実施例であると考えられているものに関して説明したが、開示された実施例に限定される必要はないことを理解されたい。それどころか、すべてのそのような修正および類似の構造を包含するように、最も広い解釈に一致し、添付の特許請求の精神および範囲に含まれる様々な修正および類似の配置を含むことを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
【国際調査報告】