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特表2023-517153高コレステロール血症治療用組成物及びその調製方法
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  • 特表-高コレステロール血症治療用組成物及びその調製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-24
(54)【発明の名称】高コレステロール血症治療用組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/88 20060101AFI20230417BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230417BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20230417BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230417BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20230417BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
A61K36/88
A61P3/06
A61K31/165
A23L33/105
A23L2/02 A
A23L2/00 F
A23L2/52 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540835
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 PH2021050013
(87)【国際公開番号】W WO2022124917
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】12020050510
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PH
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521309455
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ サン アグスティン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SAN AGUSTIN
【住所又は居所原語表記】General Luna Street 5000 Iloilo City Philippines
(71)【出願人】
【識別番号】521309466
【氏名又は名称】デル モンテ フィリピン, インク.
【氏名又は名称原語表記】DEL MONTE PHILIPPINES, INC.
【住所又は居所原語表記】JY Campos Centre, 9th Avenue corner 30th Street, Bonifacio Global City 1634 Taguig City Philippines
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】サルード, ジョネル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ダリサイ, ドラリン エス.
(72)【発明者】
【氏名】スアレス, アンジェリカ フェイス エル.
(72)【発明者】
【氏名】ホアニロ, アンヘル アン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】シソン, デイブ クラーク ディー.
(72)【発明者】
【氏名】オラジェイ, ジョーイ アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル, マ. ベラ ビー.
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD52
4B018MD61
4B018ME04
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF07
4B117LC04
4B117LG01
4B117LG05
4B117LG18
4B117LP01
4B117LP02
4C088AB71
4C088AC04
4C088AC05
4C088BA08
4C088BA33
4C088NA14
4C088ZC33
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA23
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZC33
(57)【要約】
本発明は、高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物であって、Ananas comosusから得られた抽出物を含み、蒸気抽出物は治療有効量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む組成物、及びその調製方法に関するものである。本発明は、市場で入手可能な合成コレステロール低下剤と同等の効果が期待できる、HMG-CoA還元酵素及びリパーゼ酵素阻害作用を示す天然物を提供するものである。
【代表図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物であって、
前記組成物は、Ananas comosusから得られた抽出物を含有し、
前記抽出物は、治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含有する、
抽出物。
【請求項2】
前記抽出物は、Ananas comosusの果肉、芯、及び茎の少なくとも1つから得られるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンは、前記組成物の0.1から30重量%の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、ジュース、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療用食品、栄養補助食品、栄養補給食品、又は経口製剤の形である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンは、ジュース中に0.1から100mg/mLの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は希釈剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
Ananas comosus果実抽出物を用いて高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物を調製する方法であって、前記方法は、
a. 抽出対象となる少なくとも1つのAnanas comosus果実を得るステップと、
b. 得られた前記少なくとも1つのAnanas comosus果実のAnanas comosus芯とAnanas comosus果肉を分離するステップと、
c. 分離した前記Ananas comosus芯とAnanas comosus果肉のサイズを小さくするステップ、
d. サイズが小さくなった前記Ananas comosus芯とAnanas comosus果肉を、約4,000から8,000rpmでジュースプロセッサーにかけることによりAnanas comosus果実抽出物を製造するステップと、
e. 製造された前記Ananas comosus果実抽出物を少なくとも1回の濾過工程ステップにかけるステップと、
f. 濾過された前記Ananas comosus果実抽出物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを治療上有効な濃度に濃縮するステップと、
を含む、方法。
【請求項8】
Ananas comosusの茎の抽出物を用いて高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物を調製する方法であって、前記方法は、
a. 抽出対象となる少なくとも1つのAnanas comosusの茎を得るステップと、
b. 茎の皮及び木質化した部分を除去することにより、前記少なくとも1つのAnanas comosusの茎を準備するステップと、
c. 準備した前記少なくとも1つのAnanas comosusの茎のサイズを小さくするステップと、
d. サイズを小さくした前記少なくとも1つのAnanas comosusの茎を蒸留水に浸漬することにより、Ananas comosusの茎の抽出物を得るステップと、
e. 得られた前記Ananas comosusの茎の抽出物を、少なくとも1つの浸漬されたAnanas comosusの茎からデカンテーションするステップと、
f. デカンテーションされた前記Ananas comosusの茎の抽出物を少なくとも1つの濾過工程にかけるステップと、
g. 濾過された前記Ananas comosusの茎の抽出物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを治療有効濃度に濃縮するステップと
を含む、方法。
【請求項9】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は希釈剤を添加するステップをさらに含む、請求項7及び8に記載の方法。
【請求項10】
高コレステロール血症を予防又は治療するための医薬品の製造のための、治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含むAnanas comosusから得られた抽出物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイナップル果実抽出物を含有する高コレステロール血症治療用組成物及びその調製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイナップル(Ananas comosus)は、フィリピンで最も生産量の多い果物の一つである。フィリピン料理で人気があるにもかかわらず、その植物で生成される植物化学物質と、それから得られる可能性のある健康上の利点に関する科学文献は乏しい。パイナップルに含まれる特定の植物化学物質に薬効があることが発見されれば、農業界に経済的な扉を開くことになるだろう。
【0003】
高コレステロール血症は、血液中のコレステロール濃度が高い状態である。血液中の過剰なコレステロールは、冠状動脈の壁にプラークを形成し、冠状動脈性心臓病を引き起こす可能性がある。コレステロール値が高い患者には、脂肪分の多い食事の摂取を控えることが推奨され、コレステロール値を下げる合成薬が処方されることもある。高コレステロール血症の治療に使用される薬剤には、スタチンとして知られるヒドロキシメチルグルタリル-CoA (HMG-CoA)還元酵素阻害剤とリパーゼ阻害剤がある。
【0004】
商業的には、パイナップル製品は、消化を助け、コレステロールを低下させる特性を有するものとして知られ、販売されている。例えば、US6509372は、パイナップルジュースへの配合が可能なフラボノイドの医薬組成物を介してHMG-CoA還元酵素を阻害する方法を開示している。また、Xieらによる「Hypolipidemic mechanisms of Ananas comosus L.leaves in mice: different from fibrates but similar to statins」と題した研究では、スタチンと同様のメカニズムを持つパイナップル葉エキスの脂質低下作用が開示されている。
【0005】
本発明は、特定の化合物N1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む、パイナップルの果肉、芯及び茎からのパイナップル抽出物が、コレステロールを低下させる治療特性を示すことを実証するものである。本発明は、市場で入手可能な合成コレステロール低下剤と同等の効果が期待できる、HMG-CoA還元酵素及びリパーゼ酵素阻害を示す天然物を提供するものである。コレステロール低下剤に代わるこの天然物は、パイナップルの栽培への投資を増やし、農産物の価値を高めることにつながる可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、HMG-CoA還元酵素阻害及びリパーゼ阻害活性を示す化合物を含む、高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物を開発することである。本発明の別の目的は、心血管疾患の全体的なリスクを低減し、そのような状態を予防及び治療するであろうパイナップル抽出物からの天然治療組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、Ananas comosusの芯、果肉又は茎から高コレステロール血症を治療するための組成物を調製する方法を提供することである。
【0007】
したがって、本発明は、高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物であって、Ananas comosusから得られた抽出物を含み、上記抽出物は、治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む組成物を提供する。
【0008】
また、Ananas comosusの芯、果肉又は茎から上述の組成物を調製する方法も提供される。
【0009】
関連する態様では、治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含むAnanas comosusから得られた抽出物を含む組成物は、高コレステロール血症を予防又は治療するための医薬品の製造に使用することができる。
【0010】
本発明のさらなる理解を提供するために含まれている添付の図面は、本発明の実施形態を説明するために本明細書に組み込まれている。それらは、明細書とともに本発明の原理を説明するものでもあり、限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、マトリックスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(ACHCA)を用いて得られた、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)のパイナップル果肉(PAF)画分05から07のMALDI-TOFマススペクトルを示す。
【0012】
図2図2は、本発明の抽出及び分離の好ましい方法に従って得られた活性画分の高分解能質量分析(HRMS)フルマススペクトルを示す。
【0013】
図3図3は、本発明の活性剤であN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンに対応するm/z 498.2599 [M+H]+のタンデム質量分析(MS/MS)のフラグメンテーションを示す。
【0014】
図4図4は、本発明の低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンの分子構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下は、本発明の様々な実施形態で使用される用語の定義である。
【0016】
本明細書で使用する「パイナップルの果肉」又は「Ananas comosusの果肉」という用語は、パイナップルの皮を取り除いた後の果実内部の軟らかい食用組織を指す。この部分は、果実の一般的に消費される部分である。
【0017】
本明細書で使用する「パイナップルの芯」又は「Ananas comosusの芯」という用語は、パイナップルの果肉に囲まれた果実内部の中央にある硬い部分を指す。
【0018】
本明細書で使用する「パイナップルの茎」又は「Ananas comosusの茎」という用語は、植物の葉や果実を支えるパイナップル植物の根元を指し、根につながっている。
【0019】
本明細書で使用される用語「画分」は、精製された又は部分的に精製された抽出物を指す。
【0020】
本明細書で使用される用語「活性画分」は、高いHMG-CoA還元酵素及びリパーゼ阻害特性を示す低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む精製された又は部分的に精製された抽出物を意味する。
【0021】
本明細書で使用される用語「治療上有効な量」とは、高コレステロール血症に関連する、又は高コレステロール血症によって引き起こされる状態、疾患、障害又は症状を治療するために個体に投与されたときに、そのような治療を効果的に行うのに十分な、例えば経口製剤などの組成物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンの量を意味する。治療上有効な量は、治療される特定の状態、疾患、障害又は状態とその重症度及び治療される個人の年齢、体重、体調及び反応性に応じて変化する。
【0022】
本発明は、Ananas comosusから得られた抽出物を含む、高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物であって、上記抽出物は、HMG-CoA還元酵素及びリパーゼ阻害を示す低コレステロール血症化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを治療上有効な量で含む組成物に関する。本発明の組成物は、少なくとも80%のHMG-CoA還元酵素又はリパーゼ阻害をもたらす。
【0023】
好ましくは、本発明におけるAnanas comosus抽出物は、パイナップルの果肉(PAF)、パイナップルの芯(PAC)、及びパイナップルの茎(PAS)の少なくとも1つから得られるものである。
【0024】
粗製PAF、PAC及びPAS抽出物は、HMG-CoA還元酵素及びリパーゼ阻害を示す低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む。粗パイナップル抽出物を得るために使用され得る方法は、浸漬、消化、溶媒抽出、還流抽出、蒸留、パーコレーション、ソックスレー抽出、及び加圧液体抽出を含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の一実施形態では、得られた粗製PAF、PAC及びPAS抽出物を、続いて分離技術を用いて、低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む粗抽出物の活性画分を得てもよい。これらの分離技術は、粗抽出物中の低コレステロール化合物を精製及び濃縮するために行われる。好ましい実施形態では、得られたパイナップルの果肉、芯、及び茎の抽出物を、ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)にかける。採用され得る他の分離技術には、高速液体クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分割クロマトグラフィー、膜濾過、イオン交換クロマトグラフィー、分子蒸留、ガスクロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、及び分子インプリント技術が含まれ得るが、これらに限定されない。これらの分離技術で得られた画分は、リパーゼ阻害及びHMG-CoA還元酵素阻害のアッセイにかけられ、高コレステロール血症を治療するための低コレステロール化合物を含む画分が決定される。リパーゼ及びHMG-CoA還元酵素の高い阻害効果を示す画分は、N1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む可能性のある活性画分と考えられる。HMG-CoA還元酵素とリパーゼ活性の阻害は、肝臓からのコレステロール合成を遅らせ、吸収可能なトリグリセリドの加水分解を減らすことで、コレステロール値を下げる。これらの特性は、高コレステロール血症の治療に有効である。
【0026】
パイナップル果実に低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンが存在することを示すために、好ましい抽出及び分離方法によって得られるパイナップル抽出物のマススペクトルを本明細書で開示する。
【0027】
図1は、ACHCAをマトリックスとして使用した、開示された抽出方法に従って得られたGFC PAF画分05から07のMALDI-TOFマススペクトルを示す。図1Aは、m/z 100600からのフルスペクトルを示し、図1Bは、フラクションGFC PAF 06のm/z 498 [M+H]+におけるシグナルの存在を強調した狭い質量範囲を示す。
【0028】
図2は、本発明の抽出及び分離の好ましい方法に従って得られた活性画分であるGFC PAF画分07のHRMSフルマススペクトルを示す。HRMSデータの主要なピークは、m/z 498.2599 [M+H]+である。
【0029】
図3は、本発明の低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンに対応するm/z 498.2599 [M+H]+のMS/MSフラグメンテーションを示す。また、図3が示すポジティブモードでのm/z 234、322、305、176及び481のフラグメントイオンは、図4に示す分子構造を持つ化合物N1, N10-ジフェルロイルスペルミジンに対応するものである。このフラグメンテーションデータに基づいて、図1及び図2に提供されるマススペクトルは、GFC PAF 06及びGFC PAF07の画分におけるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンの存在を示している可能性がある。
【0030】
図4は、本発明の高コレステロール血症治療用組成物に含まれる低コレステロール化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジン(C27H35N3O6)の分子構造を示している。この化合物N1, N10-ジフェルロイルスペルミジンは、測定された質量がm/z 498.2599 [M+H]+であり、本発明の好ましい抽出及び分離方法に従って得られたGFC PAF画分06に存在する主要な化合物であると判定され、88.64±2.84%のリパーゼ阻害活性と100%のHMG-CoA還元酵素阻害活性を示した。この化合物は、ヒドロキシ桂皮酸アミドの誘導体であり、パイナップル植物の果肉部分に明瞭に存在することが報告されている既知の化合物である。この化合物の国際純正応用化学連合(IUPAC)名は、(E)-3-(4-ヒドロキシ-3メトキシフェニル)-N-[4-[3-[[(Z)-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)プロパ-2-エノイル]アミノ]プロピルアミノ]ブチル]プロパ-2-エナミドである。そのIUPAC 国際化学物質識別子(InChl) は、1S/C27H35N3O6/c1-35-24-18-20(6-1022(24)31)8-12-26(33)29-16-4-3-14-28-15-5-17-30-27(34)13-9-21-7-11-23(32)25(19-21)36-2/h613,18-19,28,31-32H,3-5,14-17H2,1-2H3,(H,29,33)(H,30,34)/b12-8+,13-9-である。この化合物のInChlキーは、IGHVUFYLAJSILE-UQXQTEIVSA-Nである。そのCanonical Simplified molecular-input line-entry system (SMILES)は COC1=C(C=CC(=C1)C=CC(=O)NCCCCNCCCNC(=O)C=CC2=CC(=C(C=C2)O)OC)Oである。そのIsomeric SMILESは、COC1=C(C=CC(=C1)/C=C/C(=O)NCCCCNCCCNC(=O)/C=C\C2=CC(=C(C=C2)O)OC)Oである。
【0031】
本発明の組成物において粗製PAF、PAC及びPAS抽出物を使用する実施形態では、組成物中のこれらの粗抽出物の濃度は、5から100mg/mLの範囲である。本発明の組成物で粗抽出物からの活性画分を使用する実施形態では、組成物中のこれらの活性画分の濃度は、1から10 mg/mLの範囲である。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、組成物の重量に対して0.1から30%の範囲の治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、高コレステロール血症の治療に用いられる、パイナップル抽出物に含まれる低コレステロール血症性化合物であるN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含むジュース、食品添加物、食品成分、機能性食品、医療用食品、栄養補助食品、栄養補給食品又は経口製剤の形態であってもよい。これらの本発明の組成物を実現する際には、薬学的に許容される担体又は希釈剤を製剤中に添加することができる。
【0034】
本発明のより好ましい実施形態では、ジュースの形態の組成物は、0.1から100mg/mLの範囲の治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含む。
【0035】
本発明の別の目的に従い、高コレステロール血症を治療するための治療有効量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを有するAnanas comosusの芯、肉、又は茎の抽出物から組成物を調製する方法も本明細書に開示されている。
【0036】
Ananas comosus果実抽出物を用いて高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物を調製する方法は、抽出対象となる少なくとも1つのAnanas comosus果実を得るステップと、得られた少なくとも1つのAnanas comosus果実のAnanas comosus芯とAnanas comosus果肉を分離するステップと、分離したAnanas comosus芯とAnanas comosus果肉のサイズを小さくするステップ、サイズが小さくなったAnanas comosus芯とAnanas comosus果肉を、約4,000から8,000rpmでジュースプロセッサーにかけることによりAnanas comosus果実抽出物を製造するステップと、製造されたAnanas comosus果実抽出物を少なくとも1回の濾過工程にかけるステップと、濾過されたAnanas comosus果実抽出物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを治療上有効な濃度に濃縮するステップとを含む。
【0037】
Ananas comosusの茎の抽出物を用いて高コレステロール血症を予防又は治療するための組成物を調製する方法は、抽出対象となる少なくとも1つのAnanas comosusの茎を得るステップと、茎の皮及び木質化した部分を除去することにより、少なくとも1つのAnanas comosusの茎を準備するステップと、準備した少なくとも1つのAnanas comosusの茎のサイズを小さくするステップと、サイズを小さくした少なくとも1つのAnanas comosusの茎を蒸留水に浸漬することにより、Ananas comosusの茎の抽出物を得るステップと、得られたAnanas comosusの茎の抽出物を、少なくとも1つの浸漬されたAnanas comosusの茎からデカンテーションするステップと、デカンテーションされたAnanas comosusの茎の抽出物を少なくとも1つの濾過工程にかけるステップと、濾過されたAnanas comosusの茎の抽出物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを治療有効濃度に濃縮するステップとを含む。
【0038】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体又は希釈剤を添加することにより、組成物を製剤化するステップをさらに含む。
【0039】
開示された調製方法のための好ましい濾過工程は、モスリンクロス濾過、重力濾過、及び真空濾過を含むが、これらに限定されない。
【0040】
濾過したAnanas comosus抽出物中のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを濃縮するステップは、液-液溶媒抽出、ソックスレー抽出、ロータリーエバポレーション、超臨界流体抽出、超音波アシスト、マイクロウェーブアシスト抽出、クロマトグラフィー技術などによって行うことができる。
【0041】
開示された調製方法を用いてAnanas comosusから得られた抽出物であって、治療上有効な量のN1, N10-ジフェルロイルスペルミジンを含むものは、高コレステロール血症を予防又は治療するための医薬品の製造に使用することができる。
【0042】
当業者であれば、本明細書に開示されている本発明のすべての特徴を自由に組み合わせることができることを理解できるであろう。本発明の他の利点及び特徴は、添付の図面及び実施例から明らかになるであろう。
【実施例
【0043】
実施例1:植物原料の調製
緑から黄色の殻の熟したパイナップルの果実、及びパイナップルの成熟した茎を20から25個収穫した。サンプルは分析の前に準備し、3から5℃の温度で2から3日維持した。パイナップルスライサーを使って果肉から芯を取り除き、包丁を使って皮から余分な果肉を削り取った。果肉と芯のサンプルを塊として切り、ジュースプロセッサーで約4,000から8,000rpmで処理した。
【0044】
茎の皮と木質化した部分を取り除いた。茎のサンプルを細かくミンチにして、3から7Lの蒸留水に浸した。約11から20時間浸漬した後、飽和水性抽出液をデカンテーションした。その後、サンプルに1から3Lの蒸留水を加え、さらに11から20時間浸漬した。
【0045】
続いて、果汁サンプル(芯、果肉、又は茎)を、モスリンクロスを5から10枚重ね、綿重力濾過を1から5ステップ程度行った上で濾過した。また、さらに繊維を排除して果汁を透明にするために、よく重ねた普通の濾紙と綿を用いて3から5ステップ程度の繰り返しで真空濾過を行った。澄んだ果汁サンプル(芯、果肉、又は茎)を35から65mLのコニカル遠心管に分配し、一晩凍結した後に凍結乾燥して、-80℃で保存した。芯、果肉、又は茎の乾燥パイナップル粗抽出物を、60から80mg/mLの濃度になるように水に溶解した。
【0046】
実施例2:ゲル濾過クロマトグラフィー(GFC)による化合物の精製
パイナップルの芯、果肉、又は茎の粗抽出物からの化合物は、80グラムのSephadex G- 75樹脂(孔径:40-120μm)を用いたGFCにより、その分子サイズに応じて分離された。ゲルは蒸留水で約18時間調整した。カラムのベッドの高さは30から55cm、半径は約1.2から2.0cmで、ベッドボリュームは約250から450mLとなった。
【0047】
パイナップル果肉(PAF)抽出物350から650mgを0.7から1.3mLの水に溶解し、0.9から1.5mL/minの流速で流したところ、移動相としての500から900mLの水から約3.85から7.15mLの約80から145画分得られた。回収されたボイドボリュームは50から90mLで、ベッドボリュームの約20から40%であった。
【0048】
この画分を画分プールのためにUV-Vis分光光度計にかけた。画分は、UV-Visプロファイルの類似性に基づいてプールした。プールは溶出時間に基づいて行い、主要画分ごとの総量をその流量で割って、画分が溶出すると思われる時間を求めた。全体で約11.50から21.50gのGFC用の抽出物質が精製された。プールされたすべての画分に番号を付け、リパーゼ阻害活性とHMG-CoA還元酵素阻害活性を調べた。
【0049】
実施例3 :リパーゼ阻害アッセイ
パイナップルの果肉、芯、及び茎の粗抽出物のリパーゼ阻害活性は、トリグリセリドの切断により生成されたグリセロールを測定することにより決定した。MAK, 046, Sigma Aldrich(登録商標), St.Louis, MO, USAの記載プロトコルに従って保存と調製の指示を行った。
【0050】
10μLの100mMグリセロール標準液に990μLのリパーゼアッセイバッファーを加えて希釈し、1mMの標準液を調製した。標準原液の種々の容量(0、2、4、6、8、10、12、14μL)を、96ウェルプレートのウェルにそれぞれ加えた。750mg/mLの果肉、芯、及び茎の100mg/mL終濃度の粗抽出物をそれぞれのウェルに20μL添加した。
【0051】
20μLの果肉、芯、及び茎のGFC画分を終濃度が1mg/mLから10mg/mLになるように添加し、続いて2μLのリパーゼポジティブコントロールを添加した。ネガティブコントロール及びポジティブコントロールとして、100mg/mLのリパーゼ及び10mg/mLのOrlistatTMをそれぞれ2μLずつウェルに添加した。すべての標準品とサンプルは、リパーゼアッセイバッファーを加えて50μLに調整した。93μLのリパーゼアッセイバッファー、2μLのペルオキシダーゼ基質、2μLの酵素ミックス、3μLのリパーゼ基質を含む100μLの反応ミックスを各ウェルに加えた。
【0052】
CLARIOStarTMマイクロプレートリーダーを用いて、37℃インキュベーション、スローキネティクスモードで2時間、5分ごとに570nmで吸光度を読み取った。リパーゼ阻害率は、未処理のリパーゼ酵素に対する相対値を算出した。1ユニットのリパーゼは、37℃で1分間にトリグリセリドから1.0μmolのグリセロールを生成した酵素の量である。
【0053】
パイナップル抽出物のリパーゼ阻害アッセイの結果を以下の表1にまとめた。
【表1】
【0054】
リパーゼ阻害試験により、パイナップル果肉の粗抽出物は、リパーゼ阻害によって示されるように、高脂血症活性を示すことが明らかになった。GFC PAF画分06は、同濃度のOrlistatTMの100±0.05%の阻害率に対して88.64±2.84%の阻害活性を示し、次いでGFC PAF画分03が76.56±4.40%であった。これらの画分、GFC PAF画分06とGFC PAF画分03は、試験したGFC画分の中で最も高いリパーゼ阻害活性を示した。今回の結果から、パイナップル果実の芯の部分は、パイナップルの果肉や茎からの抽出物に比べてリパーゼ阻害活性が低いことがわかった。
【0055】
実施例4:ヒドロキシル-メチルグルタリル-コエンザイムA (HMG- CoA)リダクターゼ阻害アッセイ
このアッセイは,基質であるHMG-CoAの存在下で,3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA還元酵素の触媒サブユニットによるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の酸化を表す340nmの吸光度の減少を分光光度法で測定することに基づいている。すべての保存と試薬の調製は、プロトコル(CS1090, Sigma Aldrich(登録商標), St. Louis, MO, USA)に従って行った。
【0056】
HMG-CoAアッセイキットのアッセイバッファー(1x)をすベてのサンプルに添加した。Sigma-Aldrich(登録商標) CS1090アッセイキットの製造者の指示書に従ってブランクは184μL、活性コントロールは182μL、阻害コントロール及びサンプルは181μLとした。
【0057】
プラバスタチンTM(2.1μg/mL)ポジティブコントロール、20μLのg/mLの果肉、芯(100mg/mLの終濃度)、20μLの50mg/mLの茎(5mg/mLの終濃度)の粗抽出物をそのアッセイバッファーに加えた。また、HMG-CoA還元酵素に対して、より低い反応濃度の抽出物を(果肉及び芯の粗抽出物の終濃度が25mg/mLになる250mg/mLを20μL)用いて試験を行った。
【0058】
4μLのNADPHと12μLのHMG-CoA基質も処理物に加えた。HMG-CoA還元酵素(2μL)は、活性、阻害コントロール、及びサンプルに加えるまで氷上に維持した。
【0059】
CLARIOStarTMプレートリーダーを用いて、340nmでの吸光度を20秒ごとに最大10分間モニターした。1ユニットは、37℃で1分間に1μmolのNADPHをNADP+に変換する。
【0060】
パイナップル抽出物のHMG-CoA還元酵素阻害アッセイの結果を、以下の表2にまとめた。
【表2】
【0061】
パイナップル粗抽出物のうち、PAS粗抽出物が最も高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を示し、100.00±0.75%の阻害率を示した。また、GFC画分のうち、GFC PAF画分06とGFC PAC画分04が最も高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を示し、それぞれ100%と100±0.00%の阻害率を示した。
【0062】
実施例5:厳選されたパイナップル果肉(PAF) GFC画分のMALDI-TOF質量分析
HMG-CoA還元酵素とリパーゼの活性を高く阻害したGFC画分をMALDI-TOF質量分析にかけ、これらの画分の化学的プロファイルを調べた。GFC PAF 05、GFC PAF06、GFC PAF 07は、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(ACHCA)をマトリックスとしてMALDI-TOF分析を行った。これらの質量分析結果から得られた化学的プロファイルは、さらに高分解能質量分析(HRMS)を行い、画分に含まれる潜在的な活性化合物の化学構造を決定するために検討した。
【0063】
標準ESIイオン源を備えたリニアトラップ四重極型(LTQ) Orbitap CL ETD質量分析計を用いて、高分解能かつ高質量精度の実験を行った。100%のHMG-CoA阻害を示すサンプル(GFC PAF画分06) 5μLを、Dionex社のUltimate 3000 RSLCシステムにより、80% ACN/H2O 0.1% FA中で50μL/分の速度でフローインジェクションした。フルスキャンMSの条件はm/z 100-2000又は500-4000、m/z 400で分解能60,000であった。ターゲットイオンはLTQでMS/MS用に順次分離したエレクトロスプレーの電圧は4kV、キャピラリーの温度は275℃に設定した。HRMSとMS/MSのデータを解析し、化合物の分子構造を得た。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】