(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-24
(54)【発明の名称】中枢神経系全体にわたってタンパク質を散在させるための方法および材料
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230417BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20230417BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230417BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20230417BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20230417BHJP
C12N 9/38 20060101ALI20230417BHJP
C12N 9/40 20060101ALI20230417BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230417BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230417BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230417BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230417BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230417BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230417BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/0797
C12N15/12
C12N9/14
C12N9/26
C12N9/38
C12N9/40
A61P25/28
A61P43/00 111
A61K35/30
A61K9/10
A61K31/7088
A61K35/76
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554795
(86)(22)【出願日】2021-03-10
(85)【翻訳文提出日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 US2021021757
(87)【国際公開番号】W WO2021183674
(87)【国際公開日】2021-09-16
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522359394
【氏名又は名称】リモーター セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジョイ カール ケイ.
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050EE10
4B050LL01
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
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4C084ZA16
4C084ZC41
4C086AA01
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4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA21
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA16
4C087MA21
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZC41
(57)【要約】
本開示は、酵素をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞または神経前駆体細胞を白質路に沈着させることによって、中枢神経系組織に酵素などのタンパク質を散在させるための方法であって、該神経幹細胞または神経前駆体細胞が酵素を分泌する該方法を提供する。対象の脳で欠如または欠乏している酵素を発現する神経幹細胞または神経前駆体細胞を脳内の1つまたは複数の白質路に投与することによって、その必要のある対象において、脳におけるリソソーム酵素の欠如または欠乏による疾患または障害を治療する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系組織中にタンパク質を散在させるための方法であって、該タンパク質をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞を白質路に沈着させる工程を含み、該神経幹細胞が酵素を分泌する、該方法。
【請求項2】
前記タンパク質がリソソーム酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記リソソーム酵素が、α-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAからなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記リソソーム酵素がN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記神経幹細胞が遊走性神経幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記神経幹細胞が少なくとも60回の細胞分裂(cell doubling)の能力がある、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記神経幹細胞がヒト神経幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記神経幹細胞が接着性神経幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記中枢神経系組織が脳である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記中枢神経系組織が脊髄である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記神経幹細胞が胎児皮質組織に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記神経幹細胞がcMyc-ERで条件的に不死化されている、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記神経幹細胞がニューロン、乏突起膠細胞、および星状細胞に分化するようにプログラムされている、請求項1記載の方法。
【請求項14】
その必要のある対象において、脳におけるリソソーム酵素の欠如による神経変性疾患を治療する方法であって、脳内の1つまたは複数の白質路に神経幹細胞を投与する工程を含み、該神経幹細胞が該対象の脳で欠乏している酵素を発現する、該方法。
【請求項15】
前記神経変性疾患がMPS IIIA(MPS3a)である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記酵素がリソソーム酵素である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記リソソーム酵素がα-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記リソソーム酵素がN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記神経幹細胞が脳内移植によって沈着される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
前記中枢神経系組織が脳である、請求項14記載の方法。
【請求項21】
前記中枢神経系組織中に前記神経幹細胞を沈着させる工程が、放射冠、内包、および/または小脳の前記白質路中への前記細胞の両側性の注射を含む、請求項14記載の方法。
【請求項22】
放射冠、内包、および/または小脳の前記白質路に前記細胞を両側性に沈着させるために8つの注射トラックが使用される、請求項14記載の方法。
【請求項23】
前記注射が2段階で行われる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
第1の段階が、6つのトラックでの仰臥位での大脳中への注射を含み、それに、第1の段階の前記注射から約2~8週後の2つの小脳トラックでの注射が続く、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記神経幹細胞が、
(a)ヒトN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)コード配列;および
(b)EF1Aプロモーター
を含むベクターを含み、
該ベクターがレンチウイルスベクターであり、
該ベクターを含む神経幹細胞が、SGSHタンパク質の生理活性よりも約20~約300倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする、請求項15記載の方法。
【請求項26】
前記ヒトSGSHコード配列が人工の分泌シグナル配列を含み、該人工の分泌シグナル配列が、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約20%~約200%増大させる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記ヒトSGSHコード配列が組換えヒトSGSHコード配列である、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、タンパク質をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞または神経前駆体細胞を白質路に沈着させることによって、中枢神経系組織に酵素などのタンパク質を散在させるための方法であって、該神経幹細胞または神経前駆体細胞が酵素を分泌する該方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リソソームは大抵の真核細胞で見出されるオルガネラであり、一般に、細胞のリサイクリングセンターと称され、なぜならば、これは、望まれない材料を細胞が使用することができる物質に処理および消化することができるからである。各リソソームは、プロトンポンプを介して内部の酸性環境を維持する膜で取り囲まれている。リソソームは、巨大分子、例えば、核酸、タンパク質、および多糖を分解する多種多様の加水分解酵素(酸性ヒドロラーゼ)を含む。
【0003】
リソソーム障害(LSD)は特定のリソソーム酵素が欠乏しているかまたは欠損している場合に生じ、細胞中に巨大分子の蓄積をもたらす。LSDは、単一リソソーム酵素の不十分な活性によって引き起こされるムコ多糖症(MPS)などの先天的な一遺伝子性疾患を含む。しかし、LSDの治療選択は制限されたままである。例えば、酵素補充療法は末梢器官における酵素欠乏を正すのに有効であるが、中枢神経系では有効でない。さらに、全身的経路による酵素の注入は、血液脳関門を十分に通過して脳において臨床的に有効になることができない。したがって、LSDに関与する欠損酵素などの欠損タンパク質によって引き起こされる中枢神経系(CNS)における疾患および障害を治療する治療的アプローチが必要である。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示は、タンパク質をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞または神経前駆体細胞を白質路に沈着させることによって、中枢神経系組織(例えば、脳または脊髄)に酵素などのタンパク質を散在させるための方法であって、該神経幹細胞または神経前駆体細胞がタンパク質を分泌する該方法を提供する。好都合なことに、この神経幹細胞または神経前駆体細胞は遊走性であり、白質路に沿って移動し、同時に、欠損タンパク質を分泌し、次いで、このタンパク質は中枢神経系の細胞によって取り込まれる。
【0005】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、酵素はリソソーム酵素である。
【0006】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、リソソーム酵素はN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である。
【0007】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は遊走性神経幹細胞である。
【0008】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は少なくとも60回の細胞分裂(cell doubling)の能力がある。
【0009】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞はヒト神経幹細胞である。
【0010】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は人工多能性幹細胞に由来する神経前駆体である。
【0011】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は接着性である。
【0012】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、中枢神経系組織は脳である。
【0013】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、中枢神経系組織は脊髄である。
【0014】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は胎児皮質組織に由来する。
【0015】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞はcMyc-ERで条件的に不死化されている。
【0016】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞はニューロン、乏突起膠細胞、および星状細胞に分化するようにプログラムされている。
【0017】
本開示は、対象の中枢神経系で欠乏しているタンパク質を発現する神経幹細胞を中枢神経系の1つまたは複数の白質路に投与することによって、その必要のある対象において、中枢神経系組織(例えば、脳)におけるリソソーム酵素などのタンパク質の欠如による神経変性疾患を治療する方法も提供する。
【0018】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経変性疾患はMPS IIIA(MPS3a)である。
【0019】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、酵素はリソソーム酵素である。
【0020】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、リソソーム酵素はN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である。
【0021】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は脳内移植によって沈着される。
【0022】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、中枢神経系組織は脳である。
【0023】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、中枢神経系組織中に神経幹細胞を沈着させる工程は、放射冠、内包、脳梁、および小脳の白質路中への細胞の両側性の注射を含む。
【0024】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、放射冠、内包、脳梁、および小脳の白質路に神経幹細胞を両側性に沈着させるために8つの注射トラック(tracks)が使用される。
【0025】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、注射は2段階で行われる。
【0026】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、第1の段階は、仰臥位での大脳中への6つのトラックでの神経幹細胞の注射を含み、それに、第1の段階の注射から約2~8週後の2つの小脳トラックでの神経幹細胞の注射が続く。
【0027】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞は、(a)ヒトN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)コード配列;および(b)EF1Aプロモーターを含むベクターを含み、ベクターはレンチウイルスベクターであり、ベクターを含む神経幹細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約20~約300倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。
【0028】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、ヒトSGSHコード配列は人工の分泌シグナル配列を含み、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約20%~約200%増大させる。
【0029】
上記または下記の態様のそれぞれまたはいずれかのいくつかの態様では、ヒトSGSHコード配列は組換えヒトSGSHコード配列である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
前述の概要および本開示の詳細な説明は、添付された図と併せて読む場合により良く理解されると考えられる。本開示を例示する目的で、現在好ましい態様が図に示される。しかし、本開示は、示される正確な配置、例、および手段に限定されないことを理解されたい。
【
図1】最小の両側性貫通で細胞拡散を最大にするための仮定された細胞注射経路。青ドットは、各注射トラックにおける最も遠位の細胞沈着を表す。
【
図2】HK532.SGSHにおけるSGSH活性。CAGプロモーター下でヒトSGSHコード配列を発現するレンチウイルスベクターでHK532細胞を形質導入し、この細胞を拡大させた。ウイルスで形質導入された培養物およびウイルスがない対照培養物由来の馴化培地および細胞可溶化物をSGSH活性について測定した。
【
図3】MPS3a.SGSHにおけるSGSH活性。hNSC培養は、MPS IIIA患者のiPSCに由来した。分泌およびエンドサイトーシスについて最適化された組換え型のヒトSGSHの発現するレンチウイルス(LV)ベクターで細胞を形質導入した。第3世代レンチウイルスベクター中のEF1Aプロモーターおよび最適化された形質導入条件の使用によって、有意に高いLV力価およびSGSH発現がもたらされた。
【
図4】イヌにおける注入。臨床用の定位固定プラットフォーム、Zドライブ、カニューレアセンブリ、および注入ポンプを使用して、10、15、および20mLの細胞懸濁緩衝液を3匹の健康な成体のイヌに注入した。10mL注入量のイヌは完全に回復し、したがって、最大許容注入量をイヌにおける10mLのまたは脳体積の10%に設定した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
ムコ多糖症(MPS)などのリソソーム障害(LSD)は、欠損しているかまたは欠乏しているリソソーム酵素によって引き起こされる、遺伝性、一遺伝子性、多システム、進行性の代謝疾患である。LSDの少なくとも75%は、人間の中枢神経系(CNS)、認知および運動機能に最も壊滅的な影響を呈する。この基礎疾患を治療するための治癒的療法はない。実際に、市場に出ているかまたは開発中の酵素療法は、血液脳関門を通過せず、全身的な総体症状を治療するのみである。したがって、多くのタイプのLSDの患者の予後は悪いままであり、LSD患者の平均余命は極度に制限される。
【0032】
本発明者は、組換えタンパク質を発現する神経前駆細胞を含めて、ヒト神経幹細胞(hNSC)または神経前駆体細胞を、それらが路に沿って遊走し、連続的および持続的方法で酵素などのタンパク質を発現する白質路に直接移植することができることを見出した。好都合なことに、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質の長期にわたる送達のために、脳または脊髄で使用することができる。欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質は、特に、ニューロンおよびグリアを含めた中枢神経系の細胞内に取り込まれ、蓄積し得る。本明細書において開示される神経幹細胞または神経前駆体細胞は、MPS IIIAなどのCNSに影響を及ぼす多くの一遺伝子性疾患を治療および/または予防するために使用することもできる。
【0033】
本開示の方法で使用するための神経幹細胞は、特に白質路に配置された場合に、遊走性特性を有する。一態様では、細胞は、最小セットのカニューレ貫通で最大細胞拡散を達成するように、放射冠、内包、脳梁、および/または小脳路全体にわたって両側性に白質路に沈着させられる。
【0034】
本開示において、用語「神経前駆細胞」および「神経前駆体細胞」は、神経細胞(例えば、ニューロン前駆体もしくは成熟ニューロン)またはグリア細胞(例えば、グリア前駆体、成熟星状細胞、もしくは成熟乏突起膠細胞)のいずれかである後代を生成することができる細胞を意味する。典型的には、細胞は、神経系列に特徴的である表現型マーカーのいくつかを発現する。
【0035】
神経幹細胞および前駆体細胞
中枢神経系に影響を及ぼす疾患または障害において欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質、例えば酵素をコードする外来性ポリヌクレオチド配列を含む神経幹細胞および前駆体細胞が提供される。神経幹細胞および前駆体細胞は好ましくは安定的であり、60回を超えた細胞分裂の後でさえも培養中に分化しない。神経幹細胞は、例えば胎児ヒト神経幹細胞を含めて、ヒト神経幹細胞でもよい。
【0036】
一態様では、神経幹細胞または前駆体細胞は、MPS IIIAで欠損している酵素であるSGSHコード配列を含む。コード配列は、好ましくは、条件的に不死化されているヒト神経幹細胞株(hkNSC)の染色体中にレンチウイルスベクターを介して安定して組み込まれる。
【0037】
本開示は、(a)ヒトSGSHコード配列;および(b)EF1Aプロモーターを含むベクターを提供し、ベクターはレンチウイルスベクター(例えば、第3世代レンチウイルスベクター)であり、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約20~約300倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約20~約30倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約30~約40倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約40~約50倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約50~約60倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約60~約70倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約70~約80倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約80~約90倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約90~約100倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約100~約150倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約150~約200倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約200~約250倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。一態様では、ベクターを含む細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約250~約300倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする。
【0038】
いくつかの態様では、ヒトSGSHコード配列は人工の分泌シグナル配列を含み、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約20%~約200%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約20%~約30%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約30%~約40%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約40%~約50%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約50%~約60%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約60%~約70%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約70%~約80%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約80%~約90%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約90%~約100%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約100%~約150%増大させる。一態様では、人工の分泌シグナル配列は、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約150%~約200%増大させる。
【0039】
いくつかの態様では、ヒトSGSHコード配列は組換えヒトSGSHコード配列である。いくつかの態様では、組換えヒトコードSGSHコード配列は、1つまたは複数のN264Q置換の導入によってグリコシル化部位の数が減少しており、1つまたは複数のN264Q置換の導入は、N264Q置換を含まない組換えヒトコードSGSHコード配列を含むベクターと比較して、ベクターの標的細胞によるエンドサイトーシスを増強する。
【0040】
いくつかの態様では、発現されるSGSHタンパク質の約10%~約90%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約10%~約20%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約20%~約30%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約30%~約40%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約40%~約50%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約50%~約60%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約60%~約70%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約70%~約80%が24時間かけて分泌される。一態様では、発現されるSGSHタンパク質の約80%~約90%が24時間かけて分泌される。
【0041】
本開示は、(i)SGSHの分泌を増大させるために、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列を人工のより効率的なシグナル配列と置換すること、および(ii)標的細胞によるエンドサイトーシスを増強するために、N264Q置換によってSGSHコード配列中のグリコシル化部位を減少させることによって最適化されたベクターを提供する。一態様では、ベクターは、その力価を高めるために、第3世代LV利用する(VectorBuilder、Chicago)。
【0042】
一態様では、ベクターでトランスフェクトされた細胞は、SGSHタンパク質の生理活性よりも約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、または100倍高いSGSH活性を示す。さらなる態様では、発現されるSGSHタンパク質の約20%~約50%が(例えば、馴化培地中に)24時間かけて分泌される。別の態様では、発現されるSGSHタンパク質の約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上が24時間かけて分泌される。
【0043】
本開示は、1種または複数種のヒト神経幹細胞または前駆体細胞を得ること;ポリD-リジンおよびフィブロネクチンでプレコーティングされた組織培養処理ディッシュ上に1種または複数種の神経幹細胞または前駆体細胞をプレーティングすること;1種または複数種の神経幹細胞または前駆体細胞を増殖培地中で培養すること;1種または複数種の神経幹細胞を拡大させて、拡大された神経幹細胞または前駆体細胞の集団を生成すること;神経幹細胞または前駆体細胞に不死化遺伝子をコードするウイルスベクターを感染させること;ならびに不死化コンストラクトに以前にさらされた神経幹細胞または前駆体細胞に欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質をコードする別のベクターを感染させることによって、中枢神経系中の欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質をコードする外来性ポリヌクレオチド配列を含む神経幹細胞または神経前駆体細胞を作製する方法も提供する。そのような不死化された神経幹細胞または前駆体細胞、および神経系細胞の作製方法は、米国特許第7,544,511号に開示されている。
【0044】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、各細胞がニューロン、星状細胞、または乏突起膠細胞に分化する能力を有するような多能性である。別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、各細胞がCNSの3つの細胞タイプのうちの2つに分化する能力を有するような両性能である。別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、ニューロンと星状細胞または乏突起膠細胞と星状細胞の両方をインビトロで生成する少なくとも両性能細胞を含み、ニューロン、乏突起膠細胞、または星状細胞をインビボ生成する少なくとも単分化能細胞を含む。
【0045】
増殖条件は、1つの細胞タイプまたは別の細胞タイプへの細胞の分化の方向に影響する可能性があり、これは、細胞が単一系列に傾倒しないことを示す。ニューロンの分化を支持する培養条件では、特にヒトCNS由来の細胞は、大部分はニューロンおよび星状細胞について両性能であり、乏突起膠細胞への分化は最小限である。したがって、開示される方法の分化した細胞培養は、ニューロンおよび星状細胞を生じさせることができる。
【0046】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞はCNSから単離される。本明細書において使用する場合、細胞に関連する用語「単離される」は、細胞が天然に存在する(例えば、細胞が生物中に天然に存在する)環境と異なる環境にある細胞であって、その天然環境から取り出されている細胞を指す。
【0047】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、ニューロンの望ましい集団に対して天然に神経原性である領域から、および胚性、胎児性、出生後、若年性、または成体の組織から単離することができる。細胞の望ましい集団としては、疾患の進行の過程で失われたまたは不活性なそのような表現型を置き換えるかまたは補うことができる特定のニューロンの表現型の細胞を挙げることができる。一態様では、神経前駆細胞は、脳室下帯(SVZ)または歯状回(DG)の顆粒細胞下帯から単離される。好ましい態様では、神経前駆細胞は、腹側運動ニューロンのニューロン新生が実質的である脊髄から単離され、腹側運動ニューロンのニューロン新生が実質的であるヒト胎児発生の在胎期間に得られる。
【0048】
したがって、一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、約6.5~約20週の在胎期間に脊髄から単離される。好ましくは、神経幹細胞は約7~約9週の在胎期間に脊髄から単離される。別の態様では、神経幹細胞は胚性脊髄組織から単離される。さらに別の態様では、神経幹細胞はヒトから単離される。単離可能な神経幹細胞集団の割合はドナーの年齢によって変動する可能性があることを理解されたい。細胞集団の拡大能力もドナーの年齢によって変動する可能性がある。
【0049】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、出生後および成体組織から単離することもできる。出生後および成体組織に由来する神経幹細胞は、ニューロンおよびグリアに分化するその能力について、ならびに成長および分化の特徴において、定量的に同等である。しかし、様々な出生後および成体CNSからの神経幹細胞のインビトロ単離の効率は、神経幹細胞のより大量の集団を持つ胎児性組織からの神経幹細胞の単離よりもはるかに低い可能性がある。それにもかかわらず、胎児由来の神経v細胞と同様に、開示される方法は、インビトロで、新生児および成体の供給源に由来する神経前駆細胞の少なくとも約30%をニューロンに分化させることを可能にする。したがって、出生後および成体組織は、胎児由来の神経幹細胞の場合に上で記載されるように使用することができる。
【0050】
一態様では、ヒト胎児脊髄組織は顕微鏡下で解剖される。下部頸部/上部胸節に対応する組織の領域が単離される。神経前駆体が単離され、次いで、フィブロネクチンおよび塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;FGF-2)を含む培地中で、ポリ-D-リジンでコーティングされた培養容器上で拡大される。細胞は拡大され、次いで、防腐剤および抗生物質を含んでいない培地中にマイクロリットルあたり約10,000細胞の望ましい標的細胞密度に濃縮される。濃縮された細胞は埋植のために新鮮な状態で使用することができ、または後の使用のために凍結することができる。
【0051】
別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞に由来する。本明細書において使用する場合、用語「胚性幹細胞」は、体の細胞(例えば、外胚葉、中胚葉、および/または内胚葉細胞系列の細胞)のすべてを生じさせることができる、発生中の胚から単離される幹細胞を指す。本明細書において使用する場合、用語「人工多能性幹細胞」は、体細胞よりも高い効力を有する、体細胞(例えば、分化した体細胞)に由来する幹細胞を指す。胚性幹細胞および人工多能性幹細胞は、より成熟した細胞に分化することができる。インビトロで胚性または人工多能性幹細胞を増殖させ、神経幹細胞(NSC)に分化させるために用いられる方法は、例えば、Daadi et al., PLoS One. 3(2):e1644 (2008)に記載されているものなどであり得る。
【0052】
欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質、例えば酵素をコードするポリヌクレオチド配列は、任意の標準的な方法または技法を使用して、神経幹細胞中にトランスフェクトされる。シトシンデアミナーゼタンパク質に対するポリヌクレオチドは、細菌、酵母、または他の生物に由来し得る。
【0053】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、人工的操作の任意の適切な手段によってポリヌクレオチドが細胞中に移行されている場合、または細胞が、ポリヌクレオチドを受け継いだ、最初に改変された細胞の後代である場合、「遺伝子改変されている/操作されている」、「トランスフェクトされている」、または「遺伝的に形質転換されている」と言われる。ポリヌクレオチドは、関心対象のタンパク質をコードする転写可能な配列を含むことが多いと考えられ、これは、細胞が上昇したレベルでタンパク質を発現することを可能にする。遺伝子改変は、改変された細胞の後代が同じ改変を有する場合「遺伝性」であると言われる。
【0054】
本明細書において開示されるように神経幹細胞で外来性ポリヌクレオチドの発現を調節するために使用することができる、いくつかの標準的な分子生物学的技法が存在する。例えば、増殖因子の発現レベルを調節する、および/または神経幹細胞のどの後代が因子を発現するかを調節するために、様々なプロモーターを使用することができる。例えば、ヒトユビキチンC(UbC)、PGK、またはCAGプロモーターは、本明細書において開示されるヒト神経幹細胞の分化したニューロンおよびグリアの後代において、増殖因子の異なるレベルの発現を与える。さらに、または代わりに、発現は、神経幹細胞のある特定の後代に駆り立てられ、そこに限局され得る。例えば、ヒトシナプシンプロモーターは、増殖因子の発現を神経幹細胞のニューロンの後代に向けるために使用することができる。
【0055】
培養方法は、特異な前駆体特性を維持しながら、CNS発生の様々な領域および年齢からの神経幹細胞の個々の細胞株の長期の安定な拡大を達成するように、最適化することができる。一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、米国特許第8,460,651号、米国特許第8,236,299号、米国特許第7,691,629号、米国特許第5,753,506号、米国特許第6,040,180号、または米国特許第7,544,511号に示される方法に従って培養することができ、これらの全体は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0056】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、上記の臨床的に使用可能な冬眠または凍結溶液などの溶液中に濃縮される。一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は適切な細胞密度に濃縮され、この細胞密度は、細胞の投与のための細胞密度と同じでもよく、または異なっていてもよい。一態様では、投与のための細胞密度は、注射の部位、有益効果に必要な最小用量、および毒性副作用の考慮などの因子に応じて、マイクロリットルあたり約1,000細胞~マイクロリットルあたり約1,000,000細胞まで変動し得る。
【0057】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、マイクロリットルあたり約1,000~約1,000,000細胞の密度に濃縮され得る。一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、マイクロリットルあたり約2,000~約80,000NSCの密度に濃縮される。別の態様では、有効な治療のために、マイクロリットルあたり約5,000~約50,000個の神経幹細胞または神経前駆体細胞が使用される。別の態様では、マイクロリットルあたり約10,000~30,000個の神経幹細胞または神経前駆体細胞が使用される。好ましい態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、マイクロリットルあたり約70,000神経幹細胞の密度に濃縮される。
【0058】
別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、マイクロリットルあたり約1,000~約10,000細胞、マイクロリットルあたり約10,000~約20,000細胞、マイクロリットルあたり約20,000~約30,000細胞、マイクロリットルあたり約30,000~約40,000細胞、マイクロリットルあたり約40,000~約50,000細胞、マイクロリットルあたり約50,000~約60,000細胞、マイクロリットルあたり約60,000~約70,000細胞、マイクロリットルあたり約70,000~約80,000細胞、マイクロリットルあたり約80,000~約90,000細胞、またはマイクロリットルあたり約90,000~約100,000細胞の密度に濃縮される。
【0059】
別の態様では、神経系細胞は、マイクロリットルあたり約100,000~約200,000細胞、マイクロリットルあたり約200,000~約300,000細胞、マイクロリットルあたり約300,000~約400,000細胞、マイクロリットルあたり約400,000~約500,000細胞、マイクロリットルあたり約500,000~約600,000細胞、マイクロリットルあたり約600,000~約700,000細胞、マイクロリットルあたり約700,000~約800,000細胞、マイクロリットルあたり約800,000~約900,000細胞、またはマイクロリットルあたり約900,000~約1,000,000細胞の密度に濃縮される。
【0060】
本開示は、任意の脊椎動物種の神経系細胞を使用して実施することができる。ヒトならびに非ヒト霊長類、飼育動物、家畜、および他の非ヒト哺乳動物からの神経系細胞が含まれる。
【0061】
本開示のある特定の神経前駆体細胞は、(望ましい細胞の増殖によるか、または他の細胞タイプの阻害もしくは死滅によるかのいずれかによって)望ましい表現型を有する細胞を充実させる特別な増殖環境で、神経系細胞を培養する、分化させる、またはリプログラミングすることによって得られる。これらの方法はWO 01/88104 PCT/US01/15861であり、多くのタイプの神経系細胞に適用可能である。
【0062】
典型的には、分化は、分化剤が添加された、適切な基材および栄養培地を含む培養環境で起こる。適切な基材としては、正電荷、例えば、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジンおよびポリオルニチンで例示される塩基性アミノ酸でコーティングされた固体表面が挙げられる。
【0063】
基材は、フィブロネクチンで例示される細胞外基質成分でコーティングすることができる。他の許容的な細胞外基質としては、Matrigel(登録商標)(エンジェルブレス-ホーム-スワーン(Engelbreth-Holm-Swarm)腫瘍細胞由来の細胞外基質)およびラミニンが挙げられる。組み合わせ基材、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、または両方と組み合わされたポリ-D-リジンも適切である。
【0064】
任意で、分化した細胞を表現型の特色に基づいて選別して、ある特定の集団を充実させることができる。典型的には、これは、神経系細胞に特徴的であるマーカーに結合する抗体またはリガンドと各細胞を接触させ、続いて、特異的に認識された細胞を集団中の他の細胞から分離することを含むと考えられる。1つの方法はイムノパニングであり、これは、特異的な抗体が固体表面に結合している。細胞を前記表面と接触させ、マーカーを発現しない細胞は洗い流される。次いで、結合した細胞をより強烈な溶出によって回収する。これの変形は、アフィニティークロマトグラフィーおよび抗体媒介性磁気細胞選別である。典型的な選別手順では、細胞を特異的な一次抗体と接触させ、次いで、磁気ビーズに結合している二次抗免疫グロブリン試薬で細胞を捕獲する。次いで、磁場中のビーズを収集することによって、接着細胞を回収する。
【0065】
組織特異的遺伝子産物の発現は、ノーザンブロット解析、ドットブロットハイブリダイゼーション解析によって、または標準的な増幅方法で配列特異的プライマーを使用する逆転写酵素開始ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって、mRNAレベルで検出することもできる。さらなる詳細については、米国特許第5,843,780号を参照されたい。本開示で列挙される特定のマーカーについての配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)などの公的なデータベースから得ることができる。mRNAレベルでの発現は、典型的な制御された実験における標準的な手順に従った、細胞試料に対するアッセイの実行が、明らかに認識可能なハイブリダイゼーションまたは増幅産物をもたらす場合に、本開示で記載されるアッセイのうちの1つに従って「検出可能」であると言われる。検出される組織特異的マーカーの発現は、タンパク質またはmRNAレベルで、レベルが、対照細胞、例えば、未分化pPS細胞、線維芽細胞、または他の無関係の細胞タイプの少なくとも2倍、好ましくは10倍以上である場合、陽性であるとみなされる。
【0066】
細胞を不死化する他の方法も企図され、例えば、myc、SV40大型T抗原、またはMOT-2をコードするDNAで細胞を形質転換することである(特許第5,869,243号、国際特許出願WO 97/32972およびWO 01/23555)。癌遺伝子またはオンコウイルス産物でのトランスフェクションは、細胞が治療目的で使用されることになる場合、あまり適切ではない。テロメア化細胞は、例えば、薬学的スクリーニングにおいて、およびCNS機能を強化するために分化した細胞が個体に投与される治療プロトコールにおいて、増殖し、その核型を維持することができる細胞を有することが有利である場合、本開示の適用において特に興味深い。
【0067】
本開示による神経系細胞は、ヒト投与のために、十分に無菌の条件下で調製された等張性賦形剤を含む薬学的組成物の形態で供給することができる。医薬製剤における一般原則について、読者は、Cell Therapy: Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and Cellular Immunotherapy, by -18- WO 01/88104 PCT/US01/15861 G. Morstyn W. Sheridan eds., Cambridge University Press, 1996;およびHematopoietic Stem Cell Therapy, E.D. Ball, J. Lister P. Law, Churchill Livingstone, 2000を参照されたい。
【0068】
酵素などのタンパク質を発現する安定な細胞株(例えば、後代細胞は、その核型、増殖および分化の特徴が実質的に一定のままである)を含めて、神経幹細胞株または神経前駆体細胞株も提供される。ある特定の安定な細胞株は、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、または少なくとも30世代にわたってタンパク質を発現することができる。
【0069】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、リソソーム酵素を発現する。さらなる態様では、リソソーム酵素は、α-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAからなる群より選択される。
【0070】
別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、抗体またはその断片を発現する。
【0071】
抗体または免疫グロブリンの一般構造は当業者に周知である。これらの分子は、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖から構成され、典型的には全長抗体と称される、典型的には約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つのジスルフィド結合によって重鎖に共有結合してヘテロ二量体を形成し、ヘテロ二量体の2つの同一の重鎖間の共有結合性ジスルフィド結合を介してヘテロ四量体分子が形成される。軽鎖と重鎖は1つのジスルフィド結合によって互いに連結しているが、2つの重鎖間のジスルフィド結合の数は免疫グロブリンアイソタイプによって異なる。各重鎖および軽鎖は規則的間隔の鎖内ジスルフィド結合も有する。各重鎖は、アミノ末端の可変ドメイン(VH)、続いて3つまたは4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、およびCH4)、ならびにCH1とCH2の間のヒンジ領域を有する。各軽鎖は、2つのドメイン、すなわちアミノ末端の可変ドメイン(VL)およびカルボキシ末端の定常ドメイン(CL)を有する。VLドメインはVHドメインと非共有結合的に結合し、一方で、CLドメインは一般にジスルフィド結合を介してCH1ドメインに共有結合する。特定のアミノ酸残基は、抗体のエピトープ特異性を定義する、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの間の境界面を形成する(Chothia et al., 1985, J. Mol. Biol. 186:651-663)。可変ドメインは本明細書において可変領域とも称される。
【0072】
可変ドメイン内のある特定のドメインは様々な抗体間で広く異なり、すなわち、「超可変性」である。これらの超可変ドメインは、その特異的抗原決定基(エピトープ)に対するそれぞれの特定の抗体の結合および特異性に直接関与する残基を含む。軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方における超可変性は、相補性決定領域(CDR)または超可変ループ(HVL)として公知である3つのセグメントに集中している。CDRは、Kabat et al., 1991, In: Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Mdにおける配列比較によって定義され、一方で、HVL(本明細書においてCDRとも称される)は、Chothia and Lesk, 1987, J. Mol. Biol. 196: 901-917によって記載されているように、可変ドメインの三次元構造によって構造的に定義される。これらの2つの方法によって、わずかに異なるCDRが特定される。Kabatによって定義されるように、軽鎖可変ドメインにおいて、CDR-L1は約残基24~34に位置し、CDR-L2は約残基50~56に位置し、CDR-L3は約残基89~97に位置し;重鎖可変ドメインにおいて、CDR-H1は約残基31~35に位置し、CDR-H2は約残基50~65に位置し、CDR-H3は約残基95~102に位置する。特定のCDRを包含する正確な残基番号は、CDRの配列およびサイズによって変動すると考えられる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列を考慮して、どの残基が特定のCDRを含むかを慣例的に決定することができる。したがって、重鎖および軽鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3は、所与の抗体に対して特異的な、独特かつ機能的な特性を定義する。
【0073】
重鎖および軽鎖のそれぞれの中の3つのCDRは、可変性が少ない傾向がある配列を含むフレームワーク領域(FR)によって分離される。重鎖および軽鎖可変ドメインのアミノ末端からカルボキシ末端に、FRおよびCDRは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4の順序で配置される。FRの主にβ-シートの構成は、各鎖内のCDRを互いにおよび他の鎖のCDRと近接させる。生じたコンフォメーションは抗原結合部位に寄与する(Kabat et al., 1991, NIH Publ, No. 91-3242, Vol. I, pp. 647-669を参照されたい)が、必ずしもすべてのCDR残基が抗原結合に直接関与するとは限らない。
【0074】
FR残基およびIg定常ドメインは抗原結合に直接関与しないが、抗原結合に寄与する、および/または抗体のエフェクター機能を媒介する。いくつかのFR残基は、以下の少なくとも3つの方法で、抗原結合に対して有意な効果を有すると考えられる:エピトープに直接的に非共有結合することによる、1つまたは複数のCDR残基と相互作用することによる、および重鎖と軽鎖の間の境界面に影響を及ぼすことによる。定常ドメインは抗原結合に直接関与しないが、様々なIgエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および抗体依存性細胞食作用(ADCP)への抗体の関与を媒介する。
【0075】
脊椎動物免疫グロブリンの軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つの明らかに別々のクラス、カッパ(κ)およびラムダ(λ)のうちの1つに割り当てられる。比較によって、哺乳動物の免疫グロブリンの重鎖は、定常ドメインの配列に従って、以下の5つの主なクラスのうちの1つに割り当てられる:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM。IgGおよびIgAは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けられる。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。ネイティブ免疫グロブリンのクラスのサブユニット構造および3次元構成は周知である。
【0076】
抗体は、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含める)、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ならびに抗体断片、例えば、可変ドメインおよび望ましい生物活性、例えば、腫瘍特異的抗原への結合を示す抗体の他の部分を包含する。
【0077】
モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(Kohler et al., 1975, Nature 256:495)、または当技術分野において公知である組換えDNA方法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)、またはClackson et al., 1991, Nature 352: 624-628、およびMarks et al., 1991, J. Molecular. Biology. 222: 581-597に記載されている技法を使用して、ファージ抗体ライブラリーを使用して組換えで生成されたモノクローナルを単離する方法を含めて、当技術分野において公知である任意の技法または方法体系によって、作製することができることを理解されたい。
【0078】
キメラ抗体は、1つの種(例えば、マウスなどの非ヒト哺乳動物)由来の抗体の重鎖および軽鎖可変領域と別の種(例えば、ヒト)の抗体の重鎖および軽鎖定常領域とからなり、第1の種(例えば、マウス)由来の抗体の可変領域をコードするDNA配列を第2の(例えば、ヒト)種由来の抗体の定常領域に対するDNA配列と連結し、連結された配列を含む発現ベクターで宿主を形質転換して、それがキメラ抗体を産生できるようにすることによって、得ることができる。あるいは、キメラ抗体はまた、重鎖および/または軽鎖の1つまたは複数の領域またはドメインが、別の免疫グロブリンクラスもしくはアイソタイプ由来の、またはコンセンサスもしくは生殖系列配列由来のモノクローナル抗体中の対応する配列と同一である、該配列に相同である、または該配列のバリアントであるものでもよい。キメラ抗体はそのような抗体の断片を含むことができ、但し、抗体断片がその親抗体の望ましい生物活性、例えば、同じエピトープへの結合を示すことを条件とする(例えば、米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 6851-6855を参照されたい)。
【0079】
用語「抗体断片」は、可変領域または機能的性能、例えば、腫瘍特異的抗原への結合が保持されている、全長抗体の一部を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd、Fv、scFv、およびscFv-Fc断片、ダイアボディ、直鎖抗体、単鎖抗体、ミニボディ、抗体断片から形成されるダイアボディ、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0080】
全長抗体をパパインまたはペプシンなどの酵素で処理して、有用な抗体断片を生成することができる。パパイン消化を使用して、それぞれ単一の抗原結合部位を有する、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合抗体断片と残りの「Fc」断片とが生成される。Fab断片は、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖のCHドメインも含む。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原と架橋結合することができるF(ab')2断片をもたらす。
【0081】
Fab'断片は、CHドメインのC末端の抗体ヒンジ領域由来の1つまたは複数のシステインを含めたさらなる残基の存在によって、Fab断片とは異なる。F(ab')2抗体断片は、ヒンジ領域中のシステイン残基によって連結したFab'断片の対である。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0082】
「Fv」断片は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの堅固な非共有結合状態の二量体からなる、完全な抗原認識および結合部位を含む。この構成では、各可変ドメインの3つのCDRは相互作用して、VH-VL二量体の表面上の抗原結合部位を規定する。集合的に、6つのCDRが抗体に抗原結合特異性を与える。
【0083】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、該ドメインが単一のポリペプチド鎖に存在する、単鎖Fvバリアントである。単鎖Fvは、抗原を認識し、抗原に結合することができる。scFvポリペプチドは、scFvによる抗原結合に望ましい三次元構造の形成を容易にするために、VHドメインとVLドメインの間に位置するポリペプチドリンカーを任意で含むこともできる(例えば、Pluckthun, 1994, In The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315を参照されたい)。
【0084】
「ダイアボディ」は、同じポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(V.sub.L)に結合した重鎖可変ドメイン(V.sub.H)を含む、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片(V.sub.H-V.sub.LまたはV.sub.L-V.sub.H)を指す。ダイアボディは、例えば、Holliger et al. (1993) Proceedings of the National. Academy of Sciences of the United States of America 90: 6444-6448にさらに十分に記載されている。
【0085】
他の認識されている抗体断片としては、1対の抗原結合領域を形成するように1対のタンデムなFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含むものが挙げられる。これらの「直鎖抗体」は、例えば、Zapata et al. 1995, Protein English. 8(10): 1057-1062に記載されているように、二重特異性または単一特異性であり得る。
【0086】
「ヒト化抗体」または「ヒト化抗体断片」は、所定の抗原に結合することができ、かつ、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有する1つまたは複数のFRおよび非ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を実質的に有する1つまたは複数のCDRを含む、免疫グロブリンアミノ酸配列バリアントを含む特定のタイプのキメラ抗体またはその断片である。「インポート」配列と称されることが多いこの非ヒトアミノ酸配列は、典型的には「インポート」抗体ドメイン、特に可変ドメインから得られる。一般に、ヒト化抗体は、ヒト重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのFRの間に挿入された、非ヒト抗体の少なくともCDRまたはHVLを含む。
【0087】
別の局面では、抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメイン(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fabc、およびFv断片に含まれるものなど)の実質的にすべてを含むことができ、CDRのすべてまたは実質的にすべては、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、特に本明細書において、CDRのすべては本明細書において以下に詳述されるマウスまたはヒト化配列であり、FRのすべてまたは実質的にすべては、ヒト免疫グロブリコンセンサスまたは生殖系列配列のものである。別の局面では、抗体は、免疫グロブリンFc領域、典型的にはヒト免疫グロブリンのFc領域の少なくとも一部も含む。通常、抗体は、軽鎖と重鎖の少なくとも可変ドメインとの両方を含むと考えられる。抗体は、適宜、重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、および/またはCH4領域の1つまたは複数を含むこともできる。
【0088】
抗体は、免疫グロブリンの任意のクラス、例えば、IgM、IgG、IgD、IgA、およびIgE、ならびに任意のアイソタイプ、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2より選択することができる。例えば、定常ドメインは補体結合定常ドメインでもよく、この場合、ヒト化抗体が細胞傷害活性を示し、アイソタイプが典型的にはIgG1であることが望ましい。そのような細胞傷害活性が望ましくない場合は、定常ドメインは別のアイソタイプ、例えばIgG2のものでもよい。
【0089】
抗体はプロドラッグにコンジュゲートさせることもできる。「プロドラッグ」は、親薬物と比較して腫瘍細胞への細胞傷害性が低く、酵素的に活性化させることができ、またはより活性な形態に変換され得る、薬学的に活性な物質の前駆体または誘導体形態である。例えばWilman, 1986, “Prodrugs in Cancer Chemotherapy,” In Biochemical Society Transactions, 14, pp. 375-382, 615th Meeting Belfast;およびStella et al., 1985, “Prodrugs: A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery,” In “Directed Drug Delivery,” Borchardt et al. (ed.), pp. 247-267, Humana Pressを参照されたい。有用なプロドラッグとしては、限定されないが、細胞傷害性のないより活性な薬物に変換され得る、リン酸含有プロドラッグ、チオリン酸含有プロドラッグ、スルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D-アミノ酸修飾プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、β-ラクタム含有プロドラッグ、置換されていてもよいフェノキシアセトアミド含有プロドラッグ、および置換されていてもよいフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、5-フルオロシトシンおよび他の5-フルオロウリジンプロドラッグが挙げられる。
【0090】
プロドラッグ形態に誘導体化することができる細胞傷害性薬物の例としては、限定されないが、以下が挙げられる:アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロホスファミド;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、およびウレドーパ(uredopa);エチレンイミンおよびメチラメラミン(methylamelamine)、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethiylenethiophosphoramide)、およびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含める);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼルシン、およびビゼレシン合成類似体を含める);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;オーリスタチン(類似体モノメチル-オーリスタチンEおよびモノメチル-オーリスタチンFを含める);デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCBI-TMIを含める);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロマファジン(chlomaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、およびプレドニムスチン;トロホスファミド;ウラシルマスタード;ニトロソウレア、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンガンマ1Iおよびカリケアマイシンファイ1I;例えば、Agnew, Chem. Intl. Ed. Engl., 33: 183-186などを参照されたい;ジネミシン、例えばジネミシンA;ビスホスホネート、例えば、クロドロネート;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連した色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン(caminomycin)、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(Adriamycin(商標))(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノド-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含める)、エピルブシン(epirubucin)、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充剤、例えば、フロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビスアントレン;エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(democolcine);ジアジクオン;エルホミチン(elfomithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサマイトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフラン(sizofuran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンAおよびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミタブロニトール(mitabronitol);ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(Ara-C);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、Princeton、N.J.)およびドキセタキセル(doxetaxel)(TAXOTERE(登録商標)、Rhone-Poulenc Rorer、Antony、France);クロラムブシル;ゲムシタビン(Gemzar(商標));6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビンナベルビン(商標);ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体。腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように働く抗ホルモン剤、例えば、抗エストロゲンおよび選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)、例えば、タモキシフェン(Nolvadex(商標)を含める)ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン(Fareston(商標))など;副腎でのエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば、4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、酢酸メゲストロール(Megace(商標))、エキセメスタン、ホルメスタン、ファドロゾール、ボロゾール(Rivisor(商標))、レトロゾール(Femara(商標))、およびアナストロゾール(Arimidex(商標))など;ならびに抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、リュープロリド、およびゴセレリン;ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体もこの定義に含まれる。
【0091】
「単離された」核酸分子は、抗体核酸の天然供給源でそれが通常関連している少なくとも1つの夾雑核酸分子から特定され、分離されている核酸分子である。単離された核酸分子は、それが天然の細胞に存在する場合の核酸分子と区別される。
【0092】
本開示の様々な局面では、抗体の発現は、1つまたは複数の制御配列、すなわち、特定の宿主生物において機能的に連結されるコード配列の発現に必要であるポリヌクレオチド配列を用いることができる。原核細胞での使用に適する制御配列としては、例えば、プロモーター、オペレーター、およびリボソーム結合部位配列が挙げられる。真核生物の制御配列としては、限定されないが、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、およびエンハンサーが挙げられる。
【0093】
核酸配列は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれる場合に、「機能的に連結される」。例えば、核酸プレ配列または分泌リーダーは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質としてそれが発現する場合に、ポリペプチドをコードする核酸に機能的に連結され;プロモーターもしくはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を及ぼす場合に、コード配列に機能的に連結され;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を容易にするように位置する場合に、コード配列に機能的に連結される。一般に、「機能的に連結される」は、連結されるDNA配列が隣接していること、分泌リーダーの場合には、隣接しており、かつリーディングフレーム中にあることを意味する。しかし、エンハンサーは任意で隣接している。連結は、好都合な制限部位でのライゲーションによって成し遂げることができる。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを使用することができる。
【0094】
中枢神経系におけるタンパク質の欠乏を治療する方法
本開示は、酵素をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞または神経前駆体細胞を白質路に沈着させることによって、中枢神経系組織中に酵素または抗体などのタンパク質を散在させるための方法であって、該神経幹細胞または神経前駆体細胞がタンパク質を分泌する該方法を提供する。そのような方法は、中枢神経系で欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質、例えば酵素と関連する疾患または障害を治療するために使用することができる。
【0095】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は有効量で脳に投与される。脳に投与される細胞の量は、4歳以上の患者に対して同じものである。
【0096】
一態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、リソソーム酵素を発現する。さらなる態様では、リソソーム酵素は、α-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAからなる群より選択される。
【0097】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、手術的手段によって、脳および/または脊髄を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に最初に埋植される。一旦埋植されれば、神経幹細胞または神経前駆体細胞およびそれらの後の(後代)前駆体は白質路に沿って遊走し、広く拡散し、脳/脊髄組織全体にわたって沈着する。細胞は、安定して存在し、CNS組織と継ぎ目なく統合され、欠損しているかまたは欠乏しているタンパク質を持続的に分泌し得る。
【0098】
本開示は、対象の中枢神経系で欠乏している酵素を発現する神経幹細胞または神経前駆体細胞を中枢神経系の1つまたは複数の白質路(例えば、タンパク質欠乏部位の近くの1つまたは複数の白質路)に投与することによって、その必要のある対象において、中枢神経系のタンパク質の欠如または欠乏による疾患または障害を治療する方法も提供する。
【0099】
対象の脳で欠乏している酵素を発現する神経幹細胞または神経前駆体細胞を脳内の1つまたは複数の白質路に投与することによって、その必要のある対象(例えば、MPS IIIA(MPS3a)を有する対象)において、脳におけるリソソーム酵素の欠如による疾患または障害を治療する方法も提供される。
【0100】
そのような方法は、例えば、注射によるものを含めて、治療的有効量の本明細書において開示される神経幹細胞または神経前駆体細胞を対象に投与することを含むことができる。一態様では、開示される神経幹細胞または神経前駆体細胞で治療される対象は、神経幹細胞もしくは神経前駆体細胞の投与より前、該投与の間、および/または該投与の後に免疫抑制される。
【0101】
いくつかの態様では、疾患、障害、または状態を「治療すること」または疾患、障害、または状態の「治療」は、少なくとも部分的に以下を含む:(1)疾患、障害、または状態を予防すること、すなわち、疾患、障害、もしくは状態にさらされているかまたはかかりやすいが、疾患、障害、もしくは状態の症状をまだ経験していないかまたは示していない哺乳動物において、疾患、障害、または状態の臨床症状を発生させないようにすること;(2)疾患、障害、または状態を阻害すること、すなわち、疾患、障害、もしくは状態またはその臨床症状の発生を停止させるかまたは低減させること;あるいは(3)疾患、障害、または状態を軽減させること、すなわち、疾患、障害、もしくは状態またはその臨床症状の退行を引き起こすこと。
【0102】
本明細書において使用する場合、用語「予防」、「予防する」、「予防すること」、「抑制」、「抑制する」、「抑制すること」、「阻害する」、および「阻害」は、疾患状況または状態の臨床症状の発症を一時的にかまたは永続的にかのいずれかで予防する、抑制する、または低減させるための方法で開始される一連の行為(例えば、本明細書において開示される神経前駆細胞を投与すること)を指す。そのような予防すること、抑制すること、または低減させることは、絶対的に有用である必要はない。
【0103】
いくつかの態様では、本明細書において使用する場合、「有効量」は、治療効果を対象に与えるのに必要とされる神経幹細胞または前駆体細胞の量を指す。本明細書において使用する場合、「治療的有効量」は、治療される疾患、障害、または状態の症状の1つまたは複数をある程度軽減すると考えられる、十分な量の投与される神経前駆細胞を指す。いくつかの態様では、結果は、疾患の徴候、症状、または原因の低減および/もしくは緩和、または生命システムの任意の他の望ましい変化である。例えば、いくつかの態様では、治療的使用のための「有効量」は、過度の有害な副作用なしで疾患症状の臨床的に有意な低下を提供するのに必要とされる神経前駆細胞の量である。いくつかの態様では、任意の個々の場合における適切な「有効量」は、用量漸増研究などの技法を使用して決定される。用語「治療的有効量」は、例えば、予防的有効量を含む。他の態様では、神経前駆細胞の「有効量」は、過度の有害な副作用なしで望ましい薬理的効果または治療的改善を達成するのに有効な量である。他の態様では、「有効量」または「治療的有効量」は、対象の代謝、年齢、体重、全身状態、治療される状態、治療される状態の重症度、および処方する医師の判断の変動が理由で、対象によって異なることが理解されよう。
【0104】
中枢神経系のタンパク質のレベルは、治療的有効量の本明細書において開示されるヒト神経前駆細胞の1種または複数種が投与されない対象の脳と比較した場合を含めて、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、またはそれ以上増加され得る。
【0105】
一態様では、許容される薬学的担体でNSCを希釈することができる。本明細書において使用する場合、用語「薬学的に許容される担体」は、それとともに本開示の細胞が投与され、かつ動物、より詳細にはヒトで使用するために連邦または州政府の規制当局によって承認されているかまたは米国薬局方もしくは他の一般に認められる薬局方に列挙されている、希釈剤、補助剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、液体、例えば、水および油、例えば、石油、動物、野菜、または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油などであり得る。薬学的担体は、生理食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンのり、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素などであり得る。患者に投与される場合、神経前駆細胞および薬学的に許容される担体は無菌であり得る。細胞が静脈内に投与される場合、水は有用な担体である。特に注射用溶液のために、生理食塩水ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液を液状担体として用いることもできる。
【0106】
適切な薬学的担体としては、賦形剤、例えば、グルコース、ラクトース、ショ糖、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなども挙げられる。本組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。本組成物は、好都合なことに、溶液、乳濁液、持続性放出製剤の形態、または使用に適した任意の他の形態をとることができる。適切な担体の選択は、当業者の技能の範囲内である。
【0107】
開示される方法のNSCは、1つの部位に由来し、自己移植片として同じ対象内の別の部位に移植され得る。さらに、開示される方法のNSCは、遺伝的に同一のドナーに由来し、同系移植片として移植され得る。さらにまた、開示される方法のNSCは、同じ種の遺伝的に同一でないメンバーに由来し、同種移植片として移植され得る。あるいは、NSCは非ヒト起源に由来し、異種移植片として移植され得る。強力な免疫抑制剤の開発により、同種移植片および非ヒト神経前駆体の異種移植片、例えばブタ起源の神経前駆体をヒト対象に移植することができる。
【0108】
任意の標準的な方法によって試料組織を分離することができる。一態様では、ピペットおよび二価陽イオンを含まない緩衝液(例えば、生理食塩水)を使用した穏やかな機械的粉砕によって組織が分離されて、分離細胞の懸濁液が形成される。過剰な局所的細胞密度を回避するために、主として単一細胞を得るための十分な分離が望ましい。
【0109】
別の態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞は、注射部位あたり約100マイクロリットル未満の注射量に懸濁して、治療領域に送達することができる。例えば、複数の注射が行われ得る、ヒト対象の膠芽腫の治療では、注射部位あたり0.1および約100マイクロリットルの注射量を使用することができる。好ましい態様では、NSCは、注射部位あたり約1マイクロリットルの注射量に懸濁して、治療領域に送達することができる。
【0110】
一態様では、開示される方法は、神経幹細胞または神経前駆体細胞を、マイクロリットルあたり約1,000~約10,000細胞、マイクロリットルあたり約10,000~約20,000細胞、マイクロリットルあたり約20,000~約30,000細胞、マイクロリットルあたり約30,000~約40,000細胞、マイクロリットルあたり約40,000~約50,000細胞、マイクロリットルあたり約50,000~約60,000細胞、マイクロリットルあたり約60,000~約70,000細胞、マイクロリットルあたり約70,000~約80,000細胞、マイクロリットルあたり約80,000~約90,000細胞、またはマイクロリットルあたり約90,000~約100,000細胞の細胞密度で、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に注射することを含む。
【0111】
いくつかの態様では、開示される方法は、神経幹細胞または神経前駆体細胞を、マイクロリットルあたり約100,000~約200,000細胞、マイクロリットルあたり約200,000~約300,000細胞、マイクロリットルあたり約300,000~約400,000細胞、マイクロリットルあたり約400,000~約500,000細胞、マイクロリットルあたり約500,000~約600,000細胞、マイクロリットルあたり約600,000~約700,000細胞、マイクロリットルあたり約700,000~約800,000細胞、マイクロリットルあたり約800,000~約900,000細胞、またはマイクロリットルあたり約900,000~約1,000,000細胞の細胞密度で、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に注射することを含む。
【0112】
一態様では、開示される方法は、神経幹細胞または神経前駆体細胞をマイクロリットルあたり約5,000~約50,000細胞の細胞密度で注射することを含む。好ましい態様では、開示される方法は、神経幹細胞または神経前駆体細胞を、マイクロリットルあたり約70,000細胞の細胞密度で注射することを含む。
【0113】
一態様では、開示される方法は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に導入される、約5,000~約50,000細胞、約50,000~約100,000細胞、約100,000~約150,000細胞、約150,000~約200,000細胞、約200,000~約250,000細胞、約250,000~約300,000細胞、約300,000~約350,000細胞、約350,000~約400,000細胞、約400,000~約450,000細胞、または約450,000~約500,000細胞である注射あたりの細胞数での、神経幹細胞または神経前駆体細胞の複数の注射を含む。
【0114】
あるいは、開示される方法は、約500,000~約1,000,000細胞、約1,500,000細胞~約2,000,000細胞、約2,000,000細胞~約2,500,000細胞、約2,500,000細胞~約3,000,000細胞、約3,000,000細胞~約3,500,000細胞、約3,500,000細胞~約4,000,000細胞、約4,000,000細胞~約4,500,000細胞、約4,500,000細胞~約5,000,000細胞、約5,000,000細胞~約5,500,000細胞、約5,500,000細胞~約6,000,000細胞、約6,000,000細胞~約6,500,000細胞、約6,500,000細胞~約7,000,000細胞、約7,000,000細胞~約7,500,000細胞、約7,500,000細胞~約8,000,000細胞、約8,000,000細胞~約8,500,000細胞、約8,500,000細胞~約9,000,000細胞、約9,000,000細胞~約9,500,000細胞、約9,500,000細胞~約10,000,000細胞、約10,000,000細胞~約10,500,000細胞、約10,500,000細胞~約11,000,000細胞、約11,000,000細胞~約11,500,000細胞、約11,500,000細胞~約12,000,000細胞、約12,000,000細胞~約12,500,000細胞、約12,500,000細胞~約13,000,000細胞、約13,000,000細胞~約13,500,000細胞、約13,500,000細胞~約14,000,000細胞、約14,000,000細胞~約14,500,000細胞、約14,500,000細胞~約15,000,000細胞、約15,000,000細胞~約15,500,000細胞、または約15,500,000細胞~約16,000,000細胞である注射あたりの細胞数での、神経幹細胞または神経前駆体細胞の複数の注射を含む。
【0115】
いくつかの態様では、開示される方法は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に導入される、全細胞数が約400,000~約800,000細胞、約800,000~約1,200,000細胞、約1,200,000~約1,600,000細胞、約1,600,000~約2,000,000細胞、約2,000,000~約2,400,000細胞、約2,400,000~約2,800,000細胞、約2,800,000~約3,200,000細胞、約3,200,000~約3,600,000細胞、約3,600,000~約4,000,000細胞、約4,000,000~約5,000,000、または約5,000,000~約10,000,000細胞である神経幹細胞または神経前駆体細胞の複数の注射を含む。
【0116】
他の態様では、開示される方法は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に導入される、全細胞数が約100万、200万、300万、400万、500万、600万、700万、800万、900万、1000万、1100万、1200万、1300万、1400万、1500万、1600万、1700万、1800万、1900万、2000万、2100万、2200万、2300万、2400万、2500万、2600万、2700万、2800万、2900万、3000万、3100万、3200万、3300万、3400万、3500万、3600万、3700万、3800万、3900万、4000万、4100万、4200万、4300万、4400万、4500万、4600万、4700万、4800万、4900万、5000万、5100万、5200万、5300万、5400万、5500万、5600万、5700万、5800万、5900万、6000万、6100万、6200万、6300万、6400万、6500万、6600万、6700万、6800万、6900万、7000万、7100万、7200万、7300万、7400万、7500万、7600万、7700万、7800万、7900万、8000万、8100万、8200万、8300万、8400万、8500万、8600万、8700万、8800万、8900万、9000万、9100万、9200万、9300万、9400万、9500万、9600万、9700万、9800万、9900万、または1億細胞である神経幹細胞または神経前駆体細胞の複数の注射を含む。
【0117】
別の態様では、開示される方法は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路に導入される、全細胞数が約1億~約2億、約2億~約3億、約3億~約4億、約4億~約5億、約5億~約6億、約6億~約7億、約7億~約8億、約8億~約9億、約9億~約10億、約10億~約11億、約11億~約12億、約12億~約13億、約13億~約14億、約14億~約15億、約15億~約16億、約16億~約17億、約17億~約18億、約18億~約19億、または約19億~約20億細胞である神経幹細胞または神経前駆体細胞の複数の注射を含む。
【0118】
拡大された神経幹細胞または神経前駆体細胞が治療領域への送達のために懸濁される培地の量は、本明細書において注射量と称することができる。注射量は、注射部位および組織の変性状態に依存する。より具体的には、注射量の下限は、高細胞密度の粘性懸濁液の実際的な液体の取扱い、および細胞がクラスター化する傾向によって決定することができる。注射量の上限は、宿主組織を損傷することを回避するのに必要な注射量によって加えられる圧縮力の限界、および実際的な手術時間によって決定することができる。
【0119】
望ましい領域に細胞を注射するための任意の適切なデバイスを、開示される方法で用いることができる。一態様では、実質的に一定の流速で、ある期間にわたってサブミリリットル量を送達することができる、シリンジが使用される。ニードルまたは可撓性のチューブまたは任意の他の適切な移行バイスを通じて、細胞を装填することができる。
【0120】
別の態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約1~約100部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約10~約20部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約20~約30部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約30~約50部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約50~約100部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約100~約150部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約150~約200部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約200~約250部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約250~約300部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約300~約350部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約350~約400部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約400~約450部位に注射される。一態様では、細胞は、例えば対象の脳を含めた対象の中枢神経系の1つまたは複数の白質路中の約450~約500部位に注射される。
【0121】
部位の少なくとも2つは、例えば1つのニードルトラックにおけるものを含めて、およそ1mm~約50mmの距離だけ離すことができる。別の態様では、注射部位間の距離は、約1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、11mm、12mm、13mm、14mm、15mm、16mm、17mm、18mm、19mm、または20mmである。一態様では、注射部位間の距離は、約400~約600ミクロンである。一態様では、注射部位間の距離は、約100~約200ミクロン、約200~約300ミクロン、約300~約400ミクロン、約400~約500ミクロン、約500~約600ミクロン、約600~約700ミクロン、約700~約800ミクロン、約800~約900ミクロン、または約900~約1,000ミクロンである。一態様では、注射部位間の距離は、約1,000~約2,000ミクロン、約2,000~約3,000ミクロン、約3,000~約4,000ミクロン、または約4,000~約5,000ミクロンである。
【0122】
神経幹細胞または神経前駆体細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50部位で白質トラック中に注射することができる。ある特定の態様では、2以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれ以上)の部位を注射することができる。
【0123】
一態様では、本開示の神経幹細胞または神経前駆体細胞の組成物は注射用製剤として製剤化され、例えば、脳への送達に適した水溶液または懸濁液を含む。注射のための、特に脳内送達のための組成物を調製する場合、pH6~8に緩衝された浸透圧調節剤の水溶液を含む連続相が存在し得る。浸透圧調節剤は、例えば、塩化ナトリウム、グルコース、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、グリセロール、または血液と等張の製剤の浸透圧を与える他の薬学的剤を含むことができる。あるいは、より大量の浸透圧調節剤が製剤で使用される場合、これを薬学的に許容される希釈剤で注射より前に希釈して、混合液を血液と等張にすることができる。
【0124】
前述の方法のいずれかのいくつかの態様では、神経幹細胞または神経前駆体細胞を含む組成物は1回投与される。前述の方法のいずれかのいくつかの態様では、神経前駆細胞を含む組成物の初回用量に続いて、1つまたは複数の引き続く用量が投与される。本開示の方法で使用することができる投与レジメン(例えば、第1の用量と1つまたは複数の引き続く用量の間の間隔)の例としては、約週に1回~約12か月に1回の間隔、約2週に1回~約6か月に1回の間隔、約毎月1回~約6か月に1回の間隔、約毎月1回~約3か月に1回の間隔、または約3か月に1回~約6か月に1回の間隔が挙げられる。いくつかの態様では、投与は毎月、2か月ごと、3か月ごと、4か月ごと、5か月ごと、6か月ごと、または疾患再発時である。
【0125】
本開示の方法は、神経前駆細胞の注射より前に、該注射と同時に、または該注射の後に、1種または複数種の免疫抑制薬物の投与を含むことができる。いくつかの態様では、神経前駆細胞および免疫抑制薬物は、同時投与することができる。療法を構成する神経前駆細胞および免疫抑制薬物は、組み合わせされた剤形であるか、または実質的に同時の投与を意図とした別々の剤形であり得る。
【0126】
神経幹細胞または神経前駆体細胞および免疫抑制薬物を連続して投与することもでき、神経前駆細胞または免疫抑制薬物のどちらかは、複数工程投与を要求するレジメンによって投与される。したがって、レジメンは、別々の活性剤の間隔があいた投薬との神経前駆細胞および免疫抑制薬物の連続的な投与を要求し得る。複数回投与工程の間の期間は、例えば、神経前駆細胞および免疫抑制薬物の特性、例えば、治療用化合物の効力、溶解度、バイオアベイラビリティ、血漿半減期、および動力学的プロファイルに応じて、ならびに食物摂取の影響ならびに対象の年齢および状態に応じて、数分~数時間~数日の範囲にわたり得る。
【0127】
神経前駆細胞および免疫抑制薬物は、同時に投与されるか、実質的に同時投与されるか、または連続して投与されるかに関係なく、静脈内、動脈内、脳内、または脳室内経路による神経前駆細胞の投与、および経口経路、経皮経路、静脈内経路、もしくは筋肉内経路による、または例えば粘膜組織を通じた直接吸収による免疫抑制薬物の投与を必要とするレジメンを必要とし得る。免疫抑制薬物が、別々にまたは一緒に、経口的に、吸入噴霧によって、直腸的に、局所的に、頬側に(例えば、舌下)投与されるか、または非経口的に(例えば、皮下、筋肉内、静脈内、および皮内の注射もしくは注入技法)に投与されるかに関係なく、そのような各治療用化合物は、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、または他の製剤成分の適切な薬学的製剤中に含まれると考えられる。
【0128】
以下の実施例によって本開示をさらに例示し、該実施例は、限定として決して解釈されるべきでない。以下の実験実施例で使用される材料および方法を以下に記載する。
【実施例】
【0129】
実施例1:SGSHを発現する神経幹細胞の生成
CAGプロモーター下でhSGSHを過剰発現する、(cMyc-ERで条件的に不死化された)安定な接着性hNSCの細胞株、HK532.SGSHをレンチウイルスベクターを使用して作製した。親hkNSCは、その並外れた遊走性特性、ならびに将来のcGMP製造のための厳しい仕様下でのその確固たる拡大能力およびその生理的な生得的特性(例えば、インビトロおよびインビボでの50%ニューロンと50%グリアへの予測可能な分化)が理由で選択した。
【0130】
手短に言えば、標準的な技法を使用して、p-o-p SGSH発現レンチウイルスベクターを構築する。次に、p-o-pグレードのSGSHレンチウイルスでhkNSCのcGMP MCBバイアル由来の培養物を形質導入する。典型的には、形質導入効率は、MOI 10~100での一晩の感染から70~90%である。選択工程はないと考えられる。次いで、非GMP下で、9回の連続的な継代により形質導入細胞を拡大して、継代3(p3)、6(p6)、および9(p9)で3段階の研究グレードの細胞バンクを生成する。各バンクの規模は、p3およびp6について20個のT175フラスコ(およそ4×108細胞/バンク)およびp9について60個のT175フラスコ(およそ2.4×109細胞)に制限されると考えられる。
【0131】
示されるように、CAGプロモーター下の組換えSGSHタンパク質は、発現され(野生型より約10倍高い)、治療的であるのに十分なほど高い酵素活性を有して細胞外に分泌されることが実証された。
【0132】
p9細胞は、重要な特性(核学、酵素レベル、増殖速度、および分化)についても評価した。手短に言えば、9回の連続的な継代にわたって研究したhkNSC.SGSH細胞のインビトロ特性は、増殖速度、テロメア長、神経前駆体細胞、ニューロン、星状細胞、および/または乏突起膠細胞の比、ならびにニューロンの成熟の程度を含む。さらに、研究されたhkNSC.SGSH細胞のインビトロ特性は、p3、p6、およびp9培養からの馴化培地中のSGSH酵素の量および活性を含む。
【0133】
実施例2:SGSHの発現、分泌、およびエンドサイトーシスの最適化
十分な量の機能的に活性なヒトN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(hSGSH)を送達することによって、全CNSを正常化した。形質導入されたhNSCが機能的に活性なhSGSHを発現し、培養培地中に分泌することを確認するために、hSGSHを発現するパイロットスケールのレンチウイルス(LV)を生成した。(i)SGSHの分泌を増大させるために、ネイティブ分泌シグナル配列を人工のより効率的なシグナル配列で置換すること、および(ii)標的細胞によるエンドサイトーシスを増強するために、N264Q置換によってグリコシル化部位を減少させることによって、LV中の発現コンストラクトをさらに最適化した。その力価を高めるために、第3世代LVも利用した(VectorBuilder、Chicago)。LVコンストラクトを評価するために、代用のhNSC株を確立し(該株はMPS IIIA患者のiPSCに由来した(「MPS3a.hNSC」、GM27162、Corielle Institute))、これは、検出不可能なバックグラウンドSGSH活性を示す。様々なLV形質導入増強ポリカチオン--ポリブレン、DEAE-デキストラン、プロタミンS、およびレトロネクチン-をMPS3a.hNSCを用いて試験し、最もよいGMP適合形質導入条件を特定した。続いて、様々な感染多重度で、最適化されたhSGSH LVでMPS3a.hNSCを形質導入した。最適化されたMPS3a.hNSC.SGSH株のシードバンクを凍結保存し、これは、解凍の際に>90%生存可能であった。このバンクは生理的レベルよりも>100倍高いSGSH活性を示し、そのうちの34%が24時間かけて馴化培地(CM)中に分泌された(
図3)。CMとの非形質導入MPS3a.hNSCのインキュベーションによって、24時間かけてCM SGSHの4.5%が標的細胞中に加えられた。
【0134】
実施例3:臨床用の細胞送達デバイスおよび手順の実行可能性の実証
CNS中に十分なSGSHを分泌する細胞の送達を試験し、なぜならば、そのような送達が強力な治療効率に必須であるからである。理想的には、細胞は、細胞が有髄線維上を進み、その結果、細胞が脳全体にわたって、最終的に脊髄に至るまで急速かつ広く分散するように、主な白質路に、またはその近くに配置されるべきである。したがって、手術的アプローチは、放射冠、内包、脳梁、および小脳路を横断するためである。さらに、臨床用の細胞送達構成要素は、FDAに承認されたフレームレス定位固定プラットフォーム(「StereoEEG」、FHC、Bowdoin、ME)、細胞懸濁液を保持するための着脱式ナイロンチューブを有する注入カニューレ(FHC)、BD無菌使い捨てシリンジ(Becton Dickinson)、およびFDAに承認されたシリンジポンプ(Alaris CC Guard Rail、Becton Dickinson)である。緩衝液のみを用いたイヌにおける予備的な研究において、健康なイヌ(n=3)で、臨床用のデバイスおよび細胞注入手順は実行可能であり、かつ安全であることが実証された(
図4)。最大許容注入量はおよそ脳体積の10%であると決定した。
【0135】
実施例4:hkNSC.SGSHr細胞のインビボ評価
MPS3a.Rag2遺伝的免疫不全マウスを使用して、脳に生着し、SGSHを分泌する能力について、実施例1で得たHkNSC.SGSHrを試験した。
【0136】
手短に言えば、出生後日数1(P1)のMPS3a.Rag2(n=24)およびその野生型(正常型)同腹子(n=12)に、8週の生存期間の間、3μLのビヒクルまたは0.24×106 HkNSC.SGSHr細胞を各半球の線条体(8)に等比で注射する。次に、この仔をP0で遺伝子型を同定する。次いで、8週目で行動能力を評価し、これを集団間で比較する。正常型(n=12)のすべておよびMPS3a.Rag2のビヒクルおよび細胞コホートの半分を4%パラホルムアルデヒド(PFA)/PBSで経心的に灌流する。急速凍結した新鮮な脳の収集ために、MPS3a.Rag2の残りの半分を灌流なしで解剖する。続いて、ビヒクル処置(n=6)MPS3a動物由来の脳ホモジネートと細胞処置(n=6)MPS3a動物由来の脳ホモジネートとを、脳切片内のSGSHレベルおよびHSレベルならびに細胞分布ならびにSGSH発現ドメインについて、IHC解析によって比較する。次いで、ヘマトキシリンエオシン染色した脳切片において、ビヒクル処置正常脳と細胞処置正常脳とを腫瘍形成能について調べる。
【0137】
実施例5:SGSHを発現する神経幹細胞を使用したMPS3aの処置
最小セットのカニューレ貫通で最大細胞拡散を達成するために、HkNSC.SGSH細胞を使用して、放射冠、内包、および小脳路全体にわたって該細胞を両側性に白質路に配置することによって、MPS3aを処置する。細胞は白質路に沿って遊走している間に2~3サイクル分裂を続け、同時に、分泌されたSGSH酵素は間質液を通じて拡散し、近くの宿主細胞によって取り込まれる。
【0138】
投与される細胞の最大許容用量は、8×107細胞/mLの細胞濃度で20mLの全量中におよそ1.6×109細胞であると推定される。この細胞数は、インビボにおいて6か月で約5.5倍拡大して、8.8×109細胞に達することが予想され、これは、全ヒト脳細胞(ニューロン:グリアの1:1組成で1.7×1011細胞であると推定される)の約5%に相当する。
【0139】
図1に例示するように、放射冠、内包、および小脳の白質路中に両側性に細胞を沈着させるため、8つの注射トラックが使用される。以下の2段階で手術を行う:仰臥位での大脳中への6つのトラック、次いで、2~8週後の腹臥位での2つの小脳トラック。注射座標のための定位固定は、現在の神経外科的な実施において標準的なフレームレスデバイスを使用する。臨床研究用の注射カニューレは市販されており(FHC、Bowdain、ME)、合併症がない卒中患者において計画された細胞密度で以前に使用されていた。MPS3a患者の脳へのHkNSC.SGSH細胞の注射は、脳に蓄積するヘパラン硫酸(HS)の量を低減させる。
【0140】
さらなる考慮事項
いくつかの態様では、本明細書の任意の条項は、独立条項のいずれか1つまたは従属条項のいずれか1つに従属し得る。一局面では、条項(例えば、従属または独立条項)のいずれかを任意の他の1つまたは複数の条項(例えば、従属または独立条項)と組み合わせることができる。一局面では、特許請求の範囲は、条項、センテンス、フレーズ、または段落中に列挙される単語(例えば、工程、操作、手段、または成分)のいくつかまたはすべてを含むことができる。一局面では、特許請求の範囲は、1つまたは複数の条項、センテンス、フレーズ、または段落中に列挙される単語のいくつかまたはすべてを含むことができる。一局面では、条項、センテンス、フレーズ、または段落のそれぞれの中の単語のいくつかを除去することができる。一局面では、さらなる単語または要素を条項、センテンス、フレーズ、または段落に加えることができる。一局面では、主題の技術は、本明細書において記載される成分、要素、機能、または操作のいくつかを利用することなく実施することができる。一局面では、主題の技術は、さらなる成分、要素、機能、または操作を利用して実施することができる。
【0141】
主題の技術は、例えば以下に記載の様々な局面に従って例示される。主題の技術の局面の様々な例が、便宜上、番号付けされた条項(1、2、3など)として記載される。これらは、例として提供され、主題の技術を限定しない。従属条項のいずれかを任意の組み合わせで組み合わせることができ、それぞれの独立条項、例えば、条項1または条項20に置かれ得ることに留意されたい。他の条項を同様な方法で提示することができる
【0142】
条項1.
中枢神経系組織中にタンパク質を散在させるための方法であって、該タンパク質をコードするヌクレオチドを含む神経幹細胞を白質路に沈着させる工程を含み、該神経幹細胞が酵素を分泌する、該方法。
条項2.
前記タンパク質がリソソーム酵素である、条項1の方法。
条項3.
前記リソソーム酵素が、α-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAからなる群より選択される、条項2の方法。
条項4.
前記リソソーム酵素がN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である、条項3の方法。
条項5.
前記神経幹細胞が遊走性神経幹細胞である、条項1の方法。
条項6.
前記神経幹細胞が少なくとも60回の細胞分裂(cell doubling)の能力がある、条項1の方法。
条項7.
前記神経幹細胞がヒト神経幹細胞である、条項1の方法。
条項8.
前記神経幹細胞が接着性神経幹細胞である、条項1の方法。
条項9.
前記中枢神経系組織が脳である、条項1の方法。
条項10.
前記中枢神経系組織が脊髄である、条項1の方法。
条項11.
前記神経幹細胞が胎児皮質組織に由来する、条項1の方法。
条項12.
前記神経幹細胞がcMyc-ERで条件的に不死化されている、条項1の方法。
条項13.
前記神経幹細胞がニューロン、乏突起膠細胞、および星状細胞に分化するようにプログラムされている、条項1の方法。
条項14.
その必要のある対象において、脳におけるリソソーム酵素の欠如による神経変性疾患を治療する方法であって、脳内の1つまたは複数の白質路に神経幹細胞を投与する工程を含み、該神経幹細胞が該対象の脳で欠乏している酵素を発現する、該方法。
条項15.
前記神経変性疾患がMPS IIIA(MPS3a)である、条項14の方法。
条項16.
前記酵素がリソソーム酵素である、条項14の方法。
条項17.
前記リソソーム酵素がα-L-イズロニダーゼ、イウロネート-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、β-D-グルクロニダーゼ、β-グルコシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、アリールスルファターゼA、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼAおよび/またはB、a-フコシダーゼ、スルファターゼ、酸性セラミダーゼ、α-またはβ-D-マンノシダーゼ、N-アスパルチル-β-グルコサミニダーゼ、a-フコシダーゼ、a-アセチルガラクトサミニダーゼ、ノイラミニダーゼ、アスパルトアシラーゼ、ならびにカテプシンAである、条項16の方法。
条項18.
前記リソソーム酵素がN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)である、条項17の方法。
条項19.
前記神経幹細胞が脳内移植によって沈着される、条項14の方法。
条項20.
前記中枢神経系組織が脳である、条項14の方法。
条項21.
前記中枢神経系組織中に前記神経幹細胞を沈着させる工程が、放射冠、内包、および/または小脳の前記白質路中への前記細胞の両側性の注射を含む、条項14の方法。
条項22.
放射冠、内包、および/または小脳の前記白質路に前記細胞を両側性に沈着させるために8つの注射トラックが使用される、条項14の方法。
条項23.
前記注射が2段階で行われる、条項22の方法。
条項24.
第1の段階が、6つのトラックでの仰臥位での大脳中への注射を含み、それに、第1の段階の前記注射から約2~8週後の2つの小脳トラックでの注射が続く、条項23の方法。
条項25.
前記神経幹細胞が、
(a)ヒトN-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ(SGSH)コード配列;および
(b)EF1Aプロモーター
を含むベクターを含み、
該ベクターがレンチウイルスベクターであり、
該ベクターを含む神経幹細胞が、SGSHタンパク質の生理活性よりも約20~約300倍高い、発現されるSGSHタンパク質の活性を特徴とする、条項15の方法。
条項26.
前記ヒトSGSHコード配列が人工の分泌シグナル配列を含み、該人工の分泌シグナル配列が、SGSHのネイティブ分泌シグナル配列と比較して、SGSHの分泌を約20%~約200%増大させる、条項25の方法。
条項27.
前記ヒトSGSHコード配列が組換えヒトSGSHコード配列である、条項25の方法。
【0143】
別段指示がない限り、明細書および特許請求の範囲で使用される、成分の量、特性、例えば分子量、反応条件などを表すすべての数は、すべての場合において用語「約」によって修飾されると理解されたい。したがって、そうでないと示されない限り、明細書および添付の特許請求の範囲に示される数的パラメーターは、本開示が得ようとする望ましい特性によって変動し得る近似値である。どんなに少なくても、かつ特許請求の範囲の範囲へ均等論を適用することを制限しようとする試みとしてではなく、各数的パラメーターは、少なくとも、報告される有効数字の数に照らし、かつ通常の丸め技法を適用することによって、解釈されるべきである。
【0144】
本開示の広い範囲を示す数値範囲およびパラメーターは近似値であるにもかかわらず、特定例に示される数値は、できるだけ正確に報告される。しかし、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定から見出された標準偏差に必然的に起因するある特定の誤差を本質的に含む。
【0145】
本開示を記載する文脈で(特に、以下の特許請求の範囲の文脈で)使用される用語「a」、「an」、「the」および同様の指示物は、本明細書において別段指示がない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、単数形および複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記述は、範囲内に入るそれぞれの別個の値を個々に言及する簡略な方法として働くことが単に意図される。本明細書において別段指示がない限り、個々の値のそれぞれは、それらが本明細書において個々に列挙されるかのように、本明細書に組み入れられる。本明細書において記載されるすべての方法は、本明細書において別段指示がない限り、またはそうでなければ文脈によって明らかに否定されない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書において提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば、「などの」)の使用は、単に本発明をより明確にすることを意図するに過ぎず、別に主張される本開示の範囲に制限をもたらすものではない。本明細書中のいかなる言語も、本開示の実施に必須である任意の主張されない要素を示すと解釈されるべきでない。
【0146】
本明細書において開示される本開示の代替の要素または態様のグループ化は、制限として解釈されるべきでない。各群のメンバーは、個々に、または群の他のメンバーもしくは本明細書において見出される他の要素との任意の組み合わせで、言及および主張され得る。利便性および/または特許性の理由で、群の1つまたは複数のメンバーが、群に含められ、または群から削除され得ることが予測される。任意のそのような包含または削除が生じる場合、本明細書は、改変された群を含むとみなされ、したがって、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュグループの記述された説明を満たす。
【0147】
本開示を実施するために、本発明者らに公知の最良の様式を含めて、本開示のある特定の態様が本明細書において記載される。当然ながら、前述の説明を読めば、これらの記載される態様の変形が当業者に明らかとなると考えられる。本発明者は、当業者がそのような変形を適宜用いることを予想し、本発明者らは、本開示が本明細書において具体的に記載される以外の方法で実施されることを意図する。したがって、本開示は、適用可能な法律に許容されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題のすべての改変および均等物を含む。さらに、本明細書において別段指示がない限り、またはそうでなければ文脈によって明らかに否定されない限り、それらのすべての可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせが、本開示によって包含される。
【0148】
本明細書において開示される特定の態様は、言語「からなる」または「から本質的になる」を使用して、特許請求の範囲においてさらに限定され得る。特許請求の範囲で使用される場合、出願されたとおりであるか、または補正によって加えられたかに関係なく、移行用語「からなる」は、特許請求の範囲において指定されていない任意の要素、工程、または成分を除外する。移行用語「から本質的になる」は、指定された材料または工程ならびに基本的および新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに特許請求の範囲の範囲を限定する。そのように主張された本開示の態様は、本明細書において、本質的にまたは明白に記載され、可能になる。
【0149】
本明細書において開示される本開示の態様は本開示の原理の例示であることを理解されたい。用いることができる他の改変は本開示の範囲内である。したがって、限定ではなく例として、本明細書の教示に従って本開示の代替の構成が利用可能である。したがって、本開示は、示され、記載されたものに正確に限定されるものではない。
【0150】
様々な特定の材料、手順、および例への参照によって、本明細書において本開示を説明および例示してきたが、本開示は、その目的のために選択される材料および手順の特定の組み合わせに制限されないことが理解されよう。当業者に理解されると考えられるように、そのような詳細の多数の変形が暗示され得る。本明細書および例は例示としてのみ考慮され、本開示の真の範囲および趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されることが意図される。本出願において参照されるすべての参考文献、特許、および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【国際調査報告】