(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-25
(54)【発明の名称】呼吸器系のウイルス感染の処置における経口使用のための菌株およびその組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20230418BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230418BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230418BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P31/14
A61P11/00
A61K47/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022554329
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(85)【翻訳文提出日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2021051954
(87)【国際公開番号】W WO2021181272
(87)【国際公開日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】102020000005011
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(31)【優先権主張番号】102020000006205
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516067302
【氏名又は名称】ソファル ソチエタ ペル アツィオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ビッフィ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】フィオーレ,ヴァルテル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076CC35
4C076EE30
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、呼吸器のウイルス感染、例えば重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(COVID-19)などのコロナウイルスによるウイルス感染の処置であって、上記の呼吸器のウイルス感染における炎症過程に関与するサイトカインおよび/またはマーカーを刺激および/または調節する事による処置における使用のための菌株およびその組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象における、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)種に属するウイルス、例えば重症急性呼吸器症候群コロナウイルスに起因する呼吸器系のウイルス感染およびそれに関連する疾患または症状の処置方法における使用のための組成物であって、以下:
(i)ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株を含むかまたはそれからなる混合物(M);および任意には、
(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加物および/または賦形剤
を含む、組成物。
【請求項2】
ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株が、以下:
-ラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標)として特定され、且つ、National Collection of Cultures of Microorganisms of the Pasteur Institute in Parisに受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、
-ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 26760で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、
およびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
コロナウイルスが、COVID-2019疾患の原因となる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)株のウイルスである、請求項1または請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
経口使用のためのものである、請求項1~3の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
混合物(M)がラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標)CNCM I-1572株からなる、請求項1~4の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
混合物(M)が、ラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標)CNCM I-1572株およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株からなる、請求項1~4の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
混合物(M)が、以下:
-ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33231で寄託された、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33232で寄託された、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33233で寄託された、ビフィドバクテリウム・アニマリス種に属する菌株、
-ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33234で寄託された、ラクトバチルス・プランタラム種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg=BbfIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 32708で寄託された、ビフィドバクテリウム・ビフィダム種に属する菌株、および
-その混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる菌株さらに含む、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
混合物(M)が、ラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標)CNCM I-1572株、ならびに、以下:ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01 DSM 33234、ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg(=BbfIBS01)DSM 32708およびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択されるさらなる菌株をさらに含むかまたはそれからなる、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの菌株が、プロバイオティックな生菌株またはパラプロバイオティクスまたはポストバイオティクスである、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
組成物が少なくとも1つのプレバイオティクスをさらに含み;好ましくは少なくとも1つのプレバイオティクスが以下:イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、グアーガムおよびその混合物から選択される;好ましくはイヌリンである、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
関連する疾患または症状が、以下:呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、咳、百日咳、肺炎、胸膜炎、気管支炎、風邪、副鼻腔炎、鼻炎、気管炎、咽頭炎、喉頭炎、急性喉頭気管気管支炎、喉頭蓋炎、気管支拡張症、呼吸困難、発熱、疲労、筋肉痛、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、吐き気、下痢、腎不全および食欲不振から選択される、前述の請求項の何れか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
以下:
-National Collection of Cultures of Microorganisms of the Pasteur Institute in Parisに受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標);
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 26760で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33231で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33232で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33233で寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33234で寄託されたラクトバチルス・プランタラムLpIBS01;および
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号32708で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01;
からなる群より選択される、前述の請求項の何れか1項に記載の処置方法における使用のための菌株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸器のウイルス感染、好ましくは例えば重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(COVID-19)などのコロナウイルスに由来するウイルス感染の処置であって、上記の呼吸器のウイルス感染における炎症過程に関与するサイトカインおよび/またはマーカーを刺激および/または調節する事による処置における使用のための特定の、および選択された菌株およびその組成物に関する。特に、上記の特定の菌株およびその組成物は、少なくとも1つの炎症誘発性マーカーの発現を減少させるため、および/または少なくとも1つの抗炎症性マーカーの発現を刺激するための、サイトカインプロファイルおよび/または炎症/免疫経路の刺激および/または調節において使用するためのものである。
【背景技術】
【0002】
呼吸器のウイルス感染は、その名の通り、上気道および/または下気道(upper and/or lower respiratory system)器官(鼻、咽頭(pharynx)、喉頭(larynx)、気管(trachea)、気管支(bronchi)および肺)を侵すウイルスによって起こる感染症である。特に、本発明は、呼吸器のウイルス感染、好ましくは、例えばSARSと省略される重症急性呼吸器症候群などの少なくとも1つのコロナウイルスに起因する呼吸器のウイルス感染に関する。
【0003】
本発明の文脈において、「コロナウイルス」という用語は、科:コロナウイルス科、亜科:コロナウイルス亜科、属:ベータコロナウイルス属、種:重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス種(略して、SARSr-CoVまたはSARS-コロナウイルスまたはコロナウイルス)、好ましくは、以下の株:(I)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)(2002年に初めて単離および特定された)、(II)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)(2019年に初めて単離および特定された)、および(III)重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-様(SARS-CoV-様)から選択されるウイルスを示すために使用される。
【0004】
(I)SARS-CoV株は、アジアで約8000人が感染し、約700人が死亡した2002年~2003年のSARS流行の原因であった。(II)SARS-CoV-2株のコロナウイルスは、中国で始まり世界中に広がった2019年~2020年のSARS流行の原因であり、上記のSARS-CoV-2株に起因するSARS流行はCOVID-19と称される(コロナウイルス疾患19(COronaVIrus Disease 19)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2-SARS-CoV-2-、あるいはコロナウイルス疾患2019、コロナウイルス症候群2019としても知られる)。
【0005】
個人の腸および/または肺の微生物叢の組成に影響し得るある要因として、例えば病原体との接触、食事および生活習慣、薬剤接種、および/または細菌株などがあると考えられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱心で広範な研究開発活動に続き、出願人は、呼吸器(上気道および下気道)のウイルス感染、特にコロナウイルス種の少なくとも1つのウイルス(例えばSAR-CoV-2またはCOVID-19疾患の原因となるウイルス)に起因する呼吸器のウイルス感染を処置するために、好適なサイトカインプロファイルおよび/または炎症/免疫経路、例えばインターロイキンIL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-2(IL-2R)受容体、iNOS、NO、TLR-4タンパク質、TNF-アルファおよび/またはインターロイキンIL-10など、を顕著に刺激および/または調節することが可能であり、腸内の微生物叢のバランスを保ち、且つそれを増強する一方で、病原細菌の腸内移行を限定する事によって、2次的な細菌感染のリスクを低減する、特定の菌株(例えば、プロバイオティックな菌株またはその誘導体)を特定、単離および研究した。
【0007】
本発明において単離および選択された菌株は、1つ以上の炎症誘発性マーカーの発現レベルを低下させる、および/または1つ以上の抗炎症性マーカー(例えば、サイトカインおよびその他のバイオマーカー)の発現レベルを刺激するように、いくつかの炎症/免疫経路を調節することができる。この理由によって、上記の特定の菌株およびその組成物は、呼吸器のウイルス感染の処置のための、炎症過程に関与するサイトカインおよび/またはマーカーの刺激および/または調節において有効に使用される;有利なことには、上記の菌株およびその組成物は、コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(例えばCOVID-19)に由来する呼吸器のウイルス感染の処置方法において有効に使用される。
【0008】
本発明の目的のため、詳細には、出願人はラクトバチルス属またはビフィドバクテリウム属に属する菌株、好ましくは以下の種:ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダムから選択される種に属する菌株、より好ましくは、以下:受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(SOFAR S.p.A.によって登録された商標)(略して、DG(登録商標))、受託番号DSM 26760で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(略して、LPC-S01)、受託番号DSM 33231で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01(略して、BbIBS01)、受託番号DSM 33232で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02(略して、BbIBS02)、受託番号DSM 33233で寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIB S01(略して、BlIBS01)、受託番号DSM 33234で寄託されたラクトバチルス・プランタラムLpIBS01(略して、LpIBS01)、および受託番号DSM 32708で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sgもしくはBbfIBS01(略して、MIMBb23sg またはBbfIBS01)として特定された菌株(略して、菌株または発明の菌株)を特定、単離および研究した。
【0009】
本発明において言及する全ての菌株は、ブタペスト条約に基づく規定に従って寄託された。本特許出願において記載されるかまたは請求される菌株の寄託者およびその所有者は、当初から、本特許権の全期間にわたって上記すべての菌株を利用可能にすることに同意していることを表明するものである。
【0010】
本発明において特定される、好ましくは経口使用のための本発明の菌株およびその組成物は、炎症/免疫経路の調節因子(modulator)として、少なくとも1つの炎症誘発性マーカー、例えばIL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-2(IL-2R)受容体、iNOS、NO および/またはTLR-4タンパク質の発現レベルの顕著な減少、および/または少なくとも1つの抗炎症性マーカー、例えばIL-10の発現レベルの顕著な刺激(または増加)において効果的である。
【0011】
したがって、本発明の菌株およびその組成物は、上記のサイトカインおよび/またはバイオマーカーの発現レベルの調節効果によって、呼吸器のウイルス感染および/または炎症、好ましくはコロナウイルスによる、例えば重症急性呼吸器症候群(SARSまたはCOVID-19)などによる呼吸器のウイルス感染および/または炎症、およびそれに関連する症状および障害の処置において効果的である。
【0012】
特に、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)は、SAR-CoV-2に対する抗ウイルス活性を実証した。
【0013】
プロバイオティックな菌株については様々な様式の抗ウイルス作用が提唱されており、菌株とウイルスの直接的な相互作用、抗ウイルス性物質の産生および宿主の免疫系の刺激などを含む。SARS-CoV-2感染の文脈では、プロバイオティックな菌株、好ましくはラクトバチルス属に属する菌株は、様々な機構を介したウイルスの宿主細胞への侵入に対するバリアとして働き得る。さらに、プロバイオティックな菌株をCOVID-19の感染前、感染中または感染後に投与することで、対象の自然免疫が向上する。
【0014】
本願明細書において報告する結果は、in vitro実験によって、本発明の菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株(例えば、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572)による抗ウイルス免疫系増強活性、およびSAR-CoV-2の複製阻害能の両者を示す。
【0015】
試験したプロバイオティック株の内、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)は、IFNの発現および、例えばTLR7、IFIH、IRF3、IRF7およびMAVSなどの抗ウイルス応答シグナル伝達経路に関与する遺伝子の発現を誘導することが可能であり、抗ウイルス免疫調節活性の点から最も有望である事が示された。
【0016】
これはSARS-CoV-2感染の文脈において特に興味深い。コロナウイルスは自然免疫応答を出し抜く様々なメカニズムを有しており、これは特にI型IFN応答の改変による。その他の呼吸器ウイルスと比較して、SARS-COV-2は、低いレベルのI型IFNおよび高いケモカインの発現によって特徴づけられる、より低い抗ウイルス転写応答を誘導する。さらに、重症COVID-19の患者は低減されたI型IFN応答およびより低いウイルスのクリアランスを示す。さらに、TLR7は、マウス感染モデルにおいて、中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)および重症急性呼吸器症候群CoV(SARS-CoV)のssRNAの認識における、重要なパターン認識受容体として示唆されているため、SARS-CoV-2の中心的なパターン認識受容体として機能する候補である可能性が高い。SARS-CoV、MERS-CoVおよびSARS-CoV-2の全ゲノムシーケンスによって、SARS-COV-2ゲノムが、SARS-CoVゲノムに比べて、より多くのTLR7と相互作用し得るssRNAパターンを含んでいる事が示され、これはTLR7シグナル伝達がCOVID-19の病因とより関連し得る事を示唆する。TLR7X染色体の機能喪失を伴う珍しい推定変異体-I型およびII型IFN応答の変化と関連する-が、重症COVID-19の若い男性患者のいくつかの症例において特定された。
【0017】
I型インターフェロン(IFN-I)の弱い産生および炎症誘発性サイトカイン放出の悪化によって特徴づけられる不均衡な免疫応答はCOVID-19の重症型に寄与する。さらに、慢性低悪性度全身性炎症は、COVID-19患者の予後に悪影響を及ぼす様々な併存疾患を伴う。
【0018】
本願明細書において報告する結果では、対照と比較してIL-6、IL8およびTSLP1炎症誘発性サイトカインの転写レベルが低下していた事を鑑みて、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)を用いたin vitroでの予防的処置または同時の共処置が、Caco-2細胞においてSARS-CoV-2感染によって引き起こされる炎症応答を抑制する事を示す。
【0019】
さらに、菌株ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)の組合せが、ラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)株と比較して、より大きな程度で抗ウイルス免疫応答を正に調節する事もまた観察され、さらにウイルス複製の低下およびSARS-CoV-2ウイルスによって誘発される炎症誘発性応答の調節においても作用を示し、この場合でもラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)株に比べてより大きな程度を示した。
【0020】
よって、本発明の菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株(例えば、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572またはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)の組合せ、の予防的および/または治療的な使用は、SAR-CoV-2感染によって誘導される過剰な炎症応答の緩和に寄与する。
【0021】
本発明の菌株およびその組成物は、関連する副作用を有さず、高齢者、妊娠中または授乳期間中の女性、小児対象(0~12歳)、循環器系の合併症を患う対象、または糖尿病を患う対象、免疫不全の対象(先天性または後天性の疾患による、または免疫抑制剤による治療を受けている、または移植手術を受けた対象)、またはその他の併存疾患を患う対象、を含む全てのカテゴリーの必要とする対象に投与し得る。
【0022】
さらに、本発明の菌株およびその組成物は、調製が容易であり、費用対効果に優れている。
【0023】
以下の発明の詳細な説明から明らかになるこれらのおよびその他の目的は、本願明細書において報告され、および添付の特許請求の範囲において主張される技術的特徴をもって本願の菌株、組成物および混合物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面の説明
【
図1】
図1-Cは、以下の、Caco-2腸上皮細胞における抗ウイルス応答を評価するin vitro研究の図を模式的に表すものである:それぞれSAR-CoV-2ウイルスを用いた処置について、(A)本発明の菌株を用いた処置を行わない、(b)本発明の菌株を用いて前処置を行う、および(C)本発明の菌株を用いて同時処置を行う。
【0025】
【
図2-1】
図2A-Cは、L.ラムノーススGG ATCC 53103株の効果と比較した、Caco-2腸上皮細胞によって産生される抗ウイルス作用を有するかまたは抗ウイルス応答に関与するサイトカイン/ケモカインおよび分子のパネルに対する本発明の菌株の効果を表す。
【0026】
【
図3-1】
図3A-Cは、SARS-CoV-2ウイルス処置に対する本発明の組成物による前処置に続く、Caco-2腸上皮細胞によって産生される抗ウイルス作用を有するかまたは抗ウイルス応答に関与するサイトカイン/ケモカインおよび分子のパネルに対する本発明の菌株の効果を示す。
【0027】
【
図4-1】
図4A-Cは、L.ラムノーススGG ATCC 53103株の効果と比較した、本発明のプロバイオティック菌株で前処置したかまたは処置しない、SARS-CoV-2をin vitroで感染させたCaco-2細胞の、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)および遺伝子E(CoVE)をコードするウイルス特異的遺伝子の発現レベル、およびサイトカインの発現プロファイル(炎症誘発性および抗炎症性)を示す。
【0028】
【
図5-1】
図5A-Bは、L.ラムノーススGG ATCC 53103株の効果と比較した、本発明のプロバイオティック菌株で同時処置したかまたは処置しない、SARS-CoV-2をin vitroで感染させたCaco-2細胞のRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)および遺伝子E(CoVE)をコードするウイルス特異的遺伝子の発現レベル、および炎症性サイトカインの発現プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な記載
本発明の菌株は、呼吸器のウイルス感染における腸管の関与において寄与する事ができると考えられている。事実として、腸の微生物叢は肺の微生物叢と腸-肺軸を通じて密接に連関している。腸-肺軸において、細菌、ウイルスおよび真菌は、直接的および間接的なメカニズムを通じて互いに密接に相互作用しており、特に免疫/炎症細胞に関与する。腸の微生物叢の変化は、腸内の透過性の増加をもたらし、肺の微生物叢に悪影響を及ぼし得る、病原体(例えば、細菌および/またはウイルス)の移動のリスクを上昇させる可能性が有る。
【0030】
文献において、数人のCOVID-19患者の糞便試料中にウイルス核酸が存在する事が報告され、およびウイルスが肺細胞および小腸上皮細胞に見られるACE2受容体に結合する事が報告されている。
【0031】
腸-肺軸のクロストークに基づいて、腸の微生物叢の調節がCOVID-19の処置において治療的な役割を果たすという直接の臨床的証拠はないものの、プロバイオティックな菌株が腸の微生物叢を調節して腸症状に好ましい影響を与え、および呼吸器系を防御し得ると推測されている。
【0032】
さらに、コロナウイルス(例えば、COVID-19)による呼吸器の感染において、IL-6、IL-8、IL-1ファミリーのIL-1(特にIL-1b)、およびIL-2R(ILはインターロイキンの略)などのいくつかの炎症誘発性マーカーの上昇、およびIL-10などの抗炎症性マーカーの減少が観察されており、これは、おそらくラクトバチルス属およびビフィドバクテリウム属に属する細菌の減少によって特徴づけられる腸の微生物叢の変化によるものと思われる。
【0033】
例えば、SAR-CoV-2ウイルスが上気道および下気道に感染した場合、IL-1βおよびIL-6を含む炎症誘発性サイトカインの放出をもたらす、軽度のまたは非常に急性の呼吸器症候群を引き起こし得ることが観察されている。
【0034】
さらに、軽症または重症または重篤な疾患の重症度(p<0.05)でコロナウイルス感染症を患う患者の血清において、インターロイキン-2受容体(IL-2R)およびIL-6の発現レベルに統計的に有意な差(p<0.05)が観察された;血清中のIL-2RおよびIL-6の発現の上昇によって、2019-nCoV肺炎の重症度および患者の予後を推測し得る。
【0035】
よって、IL-1ファミリーの炎症誘発性サイトカインおよび特にIL-6インターロイキンの抑制は、呼吸器のウイルス感染を含む、好ましくはコロナウイルスによるものを含む、多くの炎症性疾患において治療効果をもつ事が示されてきた。
【0036】
プロバイオティクスまたはその誘導体などの菌株は、SCFA(短鎖脂肪酸)の産生、オクルディンおよびゾヌリンなどのタイトジャンクションを形成するタンパク質の発現の増加、よってバリア機能の向上、および種々の炎症/免疫経路の正の調節、を通じて、腸の微生物叢のバランスに貢献する事ができ、よって変化した腸内バリアを修復し、細菌およびウイルス病原体の移動を阻害することができる。
【0037】
本発明の目的を形成するものは、必要とする対象における呼吸器系のウイルス感染および/または炎症、好ましくはコロナウイルス、より好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(例えば、SAR-CoVまたはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染、およびそれに関連するかまたは由来する疾患または症状または障害の予防的および/または治療的処置方法における使用のための菌株であって、ここで菌株は、ラクトバチルスまたはビフィドバクテリウム属に属する菌株であり、好ましくは、菌株は以下:ラクトバチルス・パラカゼイ種、ラクトバチルス・プランタラム種、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス種およびビフィドバクテリウム・ビフィダム種から選択される種に属する菌株であり、より好ましくは、菌株はラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、例えばラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)および/またはラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)である。
【0038】
本発明の目的を形成するものは、以下:
-(a)ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(SOFAR S.p.A.により登録された商標)として特定され、且つ、National Collection of Cultures of Microorganisms of the Pasteur Institute in Parisに受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株(1995年5月5日にSofar S.p.A.によって、番号CNCM I-1572で、ラクトバチルス・カゼイ亜種カゼイとして寄託され、その後ラクトバチルス・パラカゼイCNCM I-1572として再分類された。ラクトバチルス・カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572またはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572の名称に関係なく依然として排他的に同じ菌株であることが観察されるはずである)、
-(b)ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 26760で寄託された(2013年1月11日にSofar S.p.Aにより寄託され、2017年5月15日にブタペスト条約に基づく寄託へと寄託の変換が要請された)、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、
-(c)ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33231で寄託された(Sofar S.p.Aによって2019年7月31日に寄託された)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-(d)ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33232で寄託された(Sofar S.p.A.によって2019年7月31日に寄託された)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-(e)ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33233で寄託された(Sofar S.p.A.によって2019年7月31日に寄託された)、ビフィドバクテリウム・アニマリス種に属する菌株、
-(f)ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33234で寄託された(Sofar S.p.Aによって2019年7月31日に寄託された)、ラクトバチルス・プランタラム種に属する菌株、
-(g)ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sgまたはBbfIBS01として特定され、ビフィドバクテリウム・ビフィダム種に属する菌株、またはその誘導体であって、ここでDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 32708で寄託された(Sofar S.p.Aによって2017年12月4日に寄託された)菌株、
を含むかまたはそれからなる群より選択された少なくとも1つの菌株(略して、本発明の菌株)であって、
ここで、上記の少なくとも1つの菌株は、少なくとも1つの炎症/免疫経路の調節における使用のためのものであり、ここで上記の調節は、以下:
-インターロイキンIL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-2(IL-2R)受容体、iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthase))、NO(一酸化窒素(nitric oxide))、TLR-4タンパク質、TNF-αおよびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つの炎症誘発性マーカーの発現レベルの減少、および/または、
-抗炎症性マーカーIL-10の発現レベルの増加、
を含むかまたはそれからなり、
ここで、上記の少なくとも1つ菌株は、上記の炎症/免疫経路の調節を通じて、必要とする対象における呼吸器系のウイルス感染および/または炎症、好ましくはコロナウイルス、より好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルスSARS-CoV、例えば、SARS-CoV-2またはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染、またはそれに由来する疾患または症状または障害の、予防的および/または治療的処置方法における使用のためのものである。
【0039】
ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株は、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)という命名で再分類される
【0040】
本明細書のビフィドバクテリアである対象、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01(DSM 33231)、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02(DSM 33232)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01(DSM 33233)はヒト由来であり、ヒトの腸内に天然に存在する;一方で、ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01(DSM 33234)はヒトの胃腸管から単離された
【0041】
本発明の目的を形成するものは、必要とする対象における呼吸器系のウイルス感染および/または炎症、好ましくはコロナウイルス、より好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV、例えば、SARS-CoV-2またはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染、ならびにそれに関連するかまたは由来する疾患または症状または障害の、予防的および/または治療的処置方法における使用のための組成物であって、ここで組成物は、(i)ラクトバチルス属またはビフィドバクテリウム属に属する少なくとも1つの菌株を含むかまたはそれからなる混合物Mであって、好ましくはここで、菌株は以下:ラクトバチルス・パラカゼイ種、ラクトバチルス・プランタラム種、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス種およびビフィドバクテリウム・ビフィダム種から選択される種に属するものであり、より好ましくは、菌株はラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760などのラクトバチルス・パラカゼイ種に属するものである、混合物Mを含み、および任意には上記の組成物は、(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加物および/または賦形剤をさらに含む。
【0042】
本発明の目的を形成するものは、以下:
(i)ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01 DSM 33234、およびビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sgまたはBbfIBS01 DSM 32708、およびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つの菌株を含むかまたはそれからなる混合物M(略して本発明の混合物M)、および任意には、
(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加物および/または賦形剤、
を含む組成物(略して、本発明の組成物)であって、
ここで、上記の少なくとも1つの組成物は、少なくとも1つの炎症/免疫経路の調節における使用のためのものであり、ここで上記の調節は、以下:
-インターロイキンIL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-2(IL-2R)受容体、iNOS、NO、TLR-4タンパク質、TNF-αおよびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つの炎症誘発性マーカーの発現レベルの減少、および/または、
-抗炎症性マーカーIL-10の発現レベルの増加、
を含むかまたはそれからなり、
ここで、上記の組成物は、上記の炎症/免疫経路の調節を通じて、必要とする対象における呼吸器系(または呼吸器)のウイルス感染および/または炎症、好ましくはコロナウイルス、より好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV、例えば、SARS-CoV-2またはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染、ならびにそれに関連するかまたは由来する疾患または症状または障害の、予防的および/または治療的処置方法における使用のためのものである。
【0043】
本発明の目的を形成するものは、治療有効量の上記の本発明の少なくとも1つの菌株またはその組成物の投与(経口または吸入)を通じて、必要とする対象における呼吸器系のウイルス感染および/または炎症、好ましくは、コロナウイルスまたはSARS-CoV(またはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染および/または炎症、および関連する疾患または症状または障害の予防的および/または治療的処置方法である。
【0044】
本発明の文脈において、「顕著な」減少または上昇または調節または刺激、という表現は、例えば「統計的観点から有意である」または「臨床的観点から意義がある」ことを示すために使用される。さらに、「統計的観点から有意である」(または単に統計的有意)p<0.1またはp<0.05またはp<0.01と理解され得る。
【0045】
好ましくは、本発明の菌株または本発明の組成物は、炎症誘発性サイトカインIL-6および/またはIL-8の発現レベルを顕著に減少させるために使用するためのものである。
【0046】
好ましくは、本発明の菌株または本発明の組成物は、抗炎症性サイトカインIL-10の発現レベルを顕著に増加(または刺激)するために使用するためのものである。
【0047】
例えば、本発明の菌株または本発明の組成物は、炎症誘発性サイトカインIL-6および/またはIL-8の発現レベルを顕著に減少させ、および抗炎症性サイトカインIL-10の発現レベルを顕著に増加(または刺激)するために使用するためのものである。
【0048】
よって、本発明の菌株または本発明の組成物は、Th1/Th2<1比1をもたらす炎症/免疫経路の調節因子として使用するためのものであり、例えば、IL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、(IL-2R)受容体、iNOS、NO およびTLR-4タンパク質およびTNF-αから選択される少なくとも1つの発現レベルの変化はTh1について測定され、一方でIL-10または別の適切なTh2の発現レベルの変化はTh2について測定される。
【0049】
ウイルス感染の場合において、Th1/Th2比はよりTh1側にシフトし、一旦誘導されると炎症誘発性サイトカイン(例えばIL-6)の放出および抗炎症性サイトカイン(例えばIL-10)の低下をもたらす事が観察されてきた。したがって、炎症および続く組織損傷を制御し得るように、できるだけ早くTh1応答を抑制し、Th1/Th2のバランスをとることが必要である。
【0050】
上記の呼吸器のウイルス感染、好ましくはコロナウイルス(例えば、SARS-CoV、SARS-CoV-2、SARS-CoV-様)、または重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(例えば、SARSまたはCOVID-19)によるウイルス感染に由来するかまたは関連する症状または障害は以下:呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎(bronchitis)、肺気腫(emphysema)、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)、咳、百日咳(pertussis)、肺炎(pneumonia)、胸膜炎(pleurisy)、気管支炎(bronchiolitis)、風邪、副鼻腔炎(sinusitis)、鼻炎(rhinitis)、気管炎(tracheitis)、咽頭炎(pharyngitis)、喉頭炎(laryngitis)、急性喉頭気管気管支炎(acute laryngotracheobronchitis)、喉頭蓋炎(epiglottitis)、気管支拡張症(bronchiectasis)、呼吸困難、発熱、疲労、筋肉痛(ache and/or pain)、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、吐き気(nausea)および下痢(diarrhoea)などの胃腸症状、腎不全、食欲不振および/または全身の倦怠感(general feeling of malaise)であり得る。
【0051】
ある実施形態では、本発明の上記組成物は、ラクトフェリンまたはその誘導体(例えば、アポラクトフェリン、ラクトフェリシン)、および/またはN-アセチルシステインもしくはその塩、および/またはヒアルロン酸もしくはその塩を含まない。
【0052】
本発明の組成物の混合物M中に存在する上述の菌株は、生菌株(またはプロバイオティクス)、当業者に知られる手法および装置によって得られる、パラプロバイオティクス、ポストバイオティクスの溶解液、チンダル化、および/または不活化などの菌株の誘導体であり得る。
【0053】
「プロバイオティクス」とは、十分量投与された場合に宿主の健康に利益をもたらす、生きている(liveおよびviable)微生物(すなわち、菌株)である;「プロバイオティクス」という用語は、食品中に存在するか、添加される微生物を指す(FAOおよびWHOの定義)。
【0054】
本発明の文脈において、菌株の「誘導体」(または生菌株の「誘導体」)という用語は、チンダル化またはソニケーションまたはその他の当業者に知られる技術を用いて(例えばガンマ線を用いて)不活化された菌株、または菌株の溶解液、または菌株の抽出物(略してパラプロバイオティクス)、または菌株の任意の誘導体および/または成分、好ましくは菌体外多糖、頭頂部画分、菌株によって生成された代謝物または代謝生物産物(略してポストバイオティクス)および/または菌株に由来する他の何れかの産物を示すために使用される。好ましくは、本発明の菌株の「誘導体」という用語はチンダル化または(例えばガンマ線を用いて)不活化された菌株を示すために使用される。
【0055】
言い換えると、本発明の文脈において、プロバイオティックな生菌株の「誘導体」という用語は、実質的にパラプロバイオティクスまたはポストバイオティクスを示すために使用される。
【0056】
本発明の文脈において、「パラプロバイオティクス」という用語は、非生存(すなわち、複製能がない)細菌細胞(無傷または破壊されたもの)または粗細胞抽出物であって、十分量が投与された場合に(それらの元となる生菌株と同様に)宿主の健康に利益をもたらすものを示すために使用される。パラプロバイオティクスの例は、熱不活化菌株(例えば、チンダル化菌株)、ソニケーション(超音波)、ガンマ線照射(ガンマ線)または菌株の溶解液または菌株の抽出物である。
【0057】
本発明の文脈において、「ポストバイオティクス」という用語は、プロバイオティックな生菌株の代謝活動によって放出または産生される何れかの物質を示すために使用され、ここで、上記のポストバイオティクスは、十分量が投与された場合に(それらの元となる生菌株と同様に)宿主の健康に利益をもたらす。ポストバイオティクスの例は、菌体外多糖、頭頂部画分、代謝産物または代謝生物産物である。
【0058】
好ましい態様によると、本発明の組成物の混合物Mは、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株を含むかまたはそれからなる。
【0059】
好ましくは、本発明の組成物の混合物Mは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株を含むかまたはそれからなる。
【0060】
あるいは、本発明の組成物の混合物Mは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株を含むかまたはそれからなり得る。
【0061】
ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株および/またはラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株は、必要とする対象におけるウイルス感染、好ましくはコロナウイルス、より好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSまたはCOVID-19)による呼吸器系のウイルス感染の処置方法において有効なように、腸の微生物叢を増強し、適切な炎症/免疫経路を調節する理想的な特徴を有することが示されている。
【0062】
特に、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株は、これらがインターロイキンIL-6、IL-8、IL-15、IL-1のファミリー(例えば、IL-1α および/またはIL-1β)、IL-2、(IL-2R)受容体、iNOS(よってNOの放出を制御する)、および/またはTLR-4タンパク質、TNF-αの発現レベルを減少させ得る;さらに、L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株は、インターロイキンIL-10の発現レベルを刺激し得る事を考慮すると、本発明のウイルス疾患の処置において使用し得る。
【0063】
さらに、以下の事が観察されている:
-L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760は、消化管の通過の間生存し、生きて、生存可能に(aliveおよびviable)腸に到達する。L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572は回収試験(recovery studies)によって試験された;回収試験は、菌株が実際に消化管を通過し、ヒトの腸内でコロニー形成し得ることの唯一の証明である;
-L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572は、腸の微生物叢の構成/機能を正に調節し、よって統計的に有意にラクトバチルス属(コロナウイルス感染を患う患者において低下している)を増加させ、且つ病原体および/または潜在的な病原細菌集団を減少させることで腸の微生物叢のバランスを好転させる事ができる。
-L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760は、炎症/免疫経路を正に調節し、IL-1α、IL-15、IL-6およびIL-8の統計的に有意な減少、およびIL-10の統計的に有意な上昇を誘導することができる。L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572について、そのような効果は、一種の天然の「マイクロカプセル(microencapsulation)」のように菌株を覆うその特異的なEPS(菌体外多糖)の存在に起因し得る;
-L.カゼイDG(登録商標)CNCM I-1572は、酢酸、特に酪酸などの短鎖脂肪酸の糞便中のレベルの統計的に有意な上昇を誘導する。
【0064】
混合物Mの変化による、本発明の組成物のさらなる例を以下に報告する。
【0065】
上記本発明の混合物Mは、以下:(a)L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、またはその誘導体、ならびに、さらに(c)B.ブレーベBbIBS01 DSM 33231、(d)B.ブレーベBbIBS02 DSM 33232、(e)B.アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、(f)L.プランタラムLpIBS01 DSM 33234および任意には、、(g)B.ビフィダムMIMBb23sg=BbfIBS01 DSM 32708、またはその誘導体を含む菌株の混合物、を含むかまたはそれからなり得る。
【0066】
上記本発明の混合物Mは、以下:(a)L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、またはその誘導体、および(b)L.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、またはその誘導体、ならびに、さらに(c)B.ブレーベBbIBS01 DSM 33231、(d)B.ブレーベBbIBS02 DSM 33232、(e)B.アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、(f)L.プランタラムLpIBS01 DSM 33234および、任意には、(g)B.ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01 DSM 32708、またはその誘導体を含む菌株の混合物、を含むかまたはそれからなり得る。
【0067】
上記本発明の混合物Mは、以下:(a)L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572またはその誘導体、ならびに、さらに以下:(c)B.ブレーベBbIBS01 DSM 33231、(d)B.ブレーベBbIBS02 DSM 33232、(e)B.アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、(f)L.プランタラムLpIBS01 DSM 33234および(g)B.ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01 DSM 32708およびその混合物、から選択される少なくとも1つの菌株(またはその誘導体)を含むかまたはそれからなり得る。
【0068】
上記本発明の混合物Mは、以下:(a)L.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572またはその誘導体および(b)L.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760またはその誘導体、ならびに、さらに以下:(c)B.ブレーベBbIBS01 DSM 33231、(d)B.ブレーベBbIBS02 DSM 33232、(e)B.アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、(f)L.プランタラムLpIBS01 DSM 33234および(g)B.ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01 DSM 32708およびその混合物、から選択される少なくとも1つの菌株(またはその誘導体)を含むかまたはそれからなり得る。
【0069】
本発明の任意の実施形態に従って、上記混合物Mを含む本発明の組成物は、好ましくはL.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株を含むかまたはそれからなり、さらに、例えばイヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、グアーガムおよびその混合物から選択される少なくとも1つのプレバイオティック;好ましくはイヌリンを含み得る。
【0070】
例えば、本発明の組成物は、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株および/またはラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株およびイヌリンを含むかまたはそれからなり得る。
【0071】
さらに、本発明の任意の実施形態に従って、上記混合物Mを含む本発明の組成物であって、好ましくはL.パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株および/またはL.パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株、および任意には少なくとも1つのプレバイオティクス(例えば、イヌリン)を含むかまたはそれからなる本発明の組成物は、さらに以下を含み得る:
-例えばB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンAおよびビタミンEなどの少なくとも1つのビタミン;および/または
-例えば、グルタチオンなどの抗酸化物質、レスベラトロールおよびトランス-レスベラトロールなどのポリフェノール、コエンザイムQ10、アスタキサンチン、リコピン;および/または
-エキナセア、キャッツクロー(Uncaria tomentosa)、発酵パパイヤ、ベリー、ジンジャー(Zingiber officinale)などの植物抽出物(ボタニカル);および/または
-亜鉛、セレン、マグネシウム、鉄、カリウム、銅などのミネラル;および/または
-グルタミン、アルギニン、トリプトファンなどのアミノ酸;および/または
-オメガ3脂肪酸。
【0072】
記載された実施形態の何れか1つ従って、本発明の組成物は、経口使用、鼻腔吸入(例えば、スプレーまたはドロップ)、口腔吸入(例えば、スプレー、吸入用乾燥粉末)のために製剤化され得る。本発明の文脈では、経口使用という用語は、経口(または胃腸)投与と舌下(または頬)投与の両方を示すために使用される。
【0073】
本発明の組成物が経口使用のために製剤化される場合、それは錠剤、チュアブル錠、バッカル錠、顆粒、フレーク、可溶性の粉末または顆粒、口内で溶けやすい粉末または顆粒、カプセルから選択される固形に製剤化され得、あるいは溶液、懸濁液、分散液、乳化液、またはスプレー状に吐出可能な液体、シロップから選択される液体状に製剤化され得、あるいは、ソフトゲル、ゲルから選択される半固形に製剤化され得る;好ましくは経口使用のための本発明の組成物は固形または液体状である。
【0074】
上記の少なくとも1つの菌株または菌株混合物(または各菌株)は、本発明の組成物中に、一日の用量として、10x106CFUから10x1012CFU、好ましくは10x108CFUから10x1010CFUの範囲に含まれる濃度、より好ましくは、約10x108CFU または10x109CFUの濃度で存在するCFU:コロニー形成単位)。
【0075】
上述の一日の用量は単回投与(1回投与)または複数回投与、例えば2、3、または4回の一日あたりの投与で、それを必要とする対象に投与され得る。
【0076】
記載される実施形態の何れか1つに記載の本発明の組成物は、呼吸器系のウイルス感染、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(例えば、COVID-19)のウイルス感染の処置のためのさらなるアプローチのアジュバントとしての使用のためのものであり得る。
【0077】
本発明の実施形態の何れか1つに記載の上記混合物Mを含む本発明の組成物は、上記の少なくとも1つの薬学的または食品グレードの添加物および/または賦形剤、すなわち、薬学的または食品用途に好適な治療活性の無い物質をさらに含み得る。本発明の文脈において、薬学的または食品用途に許容可能な添加物および/または賦形剤は、固形、半固形または液体状の組成物を調製するための当業者に知られる全ての補助物質を含み、例えば、希釈剤、溶媒(水、グリセリン、エチルアルコールを含む)、可溶化剤、酸性化剤、増粘剤、甘味料、風味増強剤、着色料、潤滑剤、界面活性剤、保存料、安定化剤、pH安定化緩衝剤およびその混合物を含む。
【0078】
別段の特定が無い限り、組成物または混合物またはその他が、ある成分を「xからyの範囲に含まれる」量で含む、という表現は、上記の成分が組成物または混合物またはその他中に上記の範囲に存在する全部の量で存在し得る事を示すために使用され、特定されない場合でもその範囲の端も含む。
【0079】
別段の特定が無い限り、組成物または混合物が1つ以上の成分または物質を「含む」という指示は、具体的に示された1つ以上の成分または物質の他に、その他の成分または物質が存在し得ることを意味する。
【0080】
本発明の文脈において、「処置方法」という表現は、疾患または病気およびその症状または障害を排除、低下/減少または予防する目的で、治療有効量(当業者によって理解される)の菌株または物質の組成物もしくは混合物を投与する事を含む、必要とする患者への介入を示すために使用される。
【0081】
本発明の文脈において、「対象」とはヒトまたは動物対象、好ましくは哺乳類(例えばイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジまたはウシなどのペット)を示すために使用される。好ましくは、本発明の組成物は、ヒト対象の処置方法における使用のためのものである。
【0082】
実施例
本発明の組成物の例は、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株を含む、市販製品Enterolactis(登録商標)(Sofar spa、Italyによって登録された商標)である。
【0083】
本発明の組成物のさらなる例は、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572およびイヌリン(Enterolactis(登録商標)Duo)を含む市販製品Enterolactis(登録商標)Duo(Sofar spa、Italyに代わって登録された商標)(Enterolactis(登録商標)Duo)である。
【0084】
本発明の実施形態FR-Anを以下に記載する。
【0085】
FR-A1.必要とする患者に置ける呼吸器系のウイルス感染、およびそれに関連する疾患または症状の処置方法における使用のための組成物であって、ここで該組成物が、(i)ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01 DSM 33234、ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01 DSM 32708、およびその混合物から選択される少なくとも1つの菌株を含むかまたはそれからなる混合物(M)、ならびに任意には(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加剤および/または賦形剤を含む、組成物。
【0086】
FR-A2.組成物が、コロナウイルス、好ましくはSAR-CoV-2ウイルスによる、必要とする対象における呼吸器系のウイルス感染およびそれに関連する疾患または症状の処置方法における使用のためのものである、FR-A1に記載の使用のための組成物。
【0087】
FR-A3.組成物が、必要とする対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARSまたはCOVID-19)およびそれに関連する疾患または症状の処置方法における使用のためのものである、FR-A1またはFR-A2に記載の使用のための組成物。
【0088】
FR-A4.組成物が、
-インターロイキンIL-6および/もしくはインターロイキンIL-8から選択される少なくとも1つの炎症誘発性マーカーの発現レベルの減少;ならびに/または、
-抗炎症性マーカーIL-10の発現レベルの増加、を通じて少なくとも1つの炎症/免疫経路を調節する、
FR-A1~FR-A3の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0089】
FR-A5.組成物が、
-インターロイキンIL-6、IL-8、IL-15、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-2(IL-2R)受容体、iNOS、NO、TLR-4タンパク質、TNF-アルファおよびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つの炎症誘発性マーカーの発現レベルの減少、ならびに/または
-抗炎症性マーカーIL-10の発現レベルの増加、を通じて少なくとも1つの炎症/免疫経路を調節する、FR-A1~FR-A4の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0090】
FR-A6.関連する疾患または症状が、以下:呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、咳、百日咳、肺炎、胸膜炎、気管支炎、風邪、副鼻腔炎、鼻炎、気管炎、咽頭炎、喉頭炎、急性喉頭気管気管支炎、喉頭蓋炎、気管支拡張症、呼吸困難、発熱、疲れ、筋肉痛(acheおよび/またはpain)、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、吐き気、下痢、腎不全および食欲不振、から選択される、FR-A1~FR-A5の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0091】
FR-A7.混合物(M)がラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株からなる、FR-A1~FR-A6の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0092】
FR-A8.混合物(M)が、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株からなる、FR-A1~FR-A6の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0093】
FR-A9.組成物が少なくとも1つのプレバイオティクスをさらに含み;好ましくは、該少なくとも1つのプレバイオティクスが以下:イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、グアーガムおよびその混合物から選択され、好ましくはイヌリンである、FR-A1~FR-A8の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0094】
FR-A10.菌株が、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572;ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760;ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231;ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232;ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233;ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01 DSM 33234;およびビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg(=BbfIBS01)DSM 32708からなる群より選択される、FR-A1~FR-A6の何れか1つの記載の処置方法における使用のための菌株。
【0095】
本発明の好ましい実施形態FR-Bnを以下に記載する。
【0096】
FR-B1.必要とする対象における、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)種に属するウイルス、例えば重症急性呼吸器症候群コロナウイルスに起因する呼吸器系のウイルス感染およびそれに関連する疾患または症状の処置方法における使用のための組成物であって、以下:
(i)ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株を含むかまたはそれからなる混合物(M);および任意には、
(ii)少なくとも1つの許容できる薬学的グレードの添加物および/または賦形剤
を含む、組成物。
【0097】
FR-B2.ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株が、以下:
-ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)として特定され、且つ、National Collection of Cultures of Microorganisms of the Pasteur Institute in Parisに受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、
-ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 26760で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、
およびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択される、FR-B1に記載の使用のための組成物。
【0098】
FR-B3.コロナウイルスが、COVID-2019疾患の原因となる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)株のウイルスである、FR-B1またはFR-B2に記載の使用のための組成物。
【0099】
FR-B4.組成物が経口使用のためのものである、FR-B1~FR-B3の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0100】
FR-B5.混合物(M)がラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株からなる、FR-B1~FR-B4の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0101】
FR-B6.混合物(M)が、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株およびラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01 DSM 26760株からなる、FR-B1~FR-B4の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0102】
FR-B7.混合物(M)が、以下:
-ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33231で寄託された、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33232で寄託された、ビフィドバクテリウム・ブレーベ種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33233で寄託された、ビフィドバクテリウム・アニマリス種に属する菌株、
-ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33234で寄託された、ラクトバチルス・プランタラム種に属する菌株、
-ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg=BbfIBS01として特定され、且つ、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 32708で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム種に属する菌株、および
-その混合物、
を含むかまたはそれからなる群より選択される少なくとも1つのさらなる菌株さらに含む、FR-B1~FR-B6の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0103】
FR-B8.混合物(M)が、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)CNCM I-1572株、ならびに、以下:ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01 DSM 33231、ビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02 DSM 33232、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01 DSM 33233、ラクトバチルス・プランタラムLpIBS01 DSM 33234、ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg(=BbfIBS01)DSM 32708およびその混合物、を含むかまたはそれからなる群より選択されるさらなる菌株をさらに含むかまたはそれからなる、FR-B1~FR-B7の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0104】
FR-B9.少なくとも1つの菌株が、プロバイオティックな生菌株またはパラプロバイオティクスまたはポストバイオティクスである、FR-B1~FR-B8の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0105】
FR-B10.組成物が少なくとも1つのプレバイオティクスをさらに含み;好ましくは少なくとも1つのプレバイオティクスが以下:イヌリン、フラクトオリゴ糖(FOS)、ガラクトオリゴ糖(GOS)、グアーガムおよびその混合物から選択される;好ましくはイヌリンである、FR-B1~FR-B9の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0106】
FR-B11.関連する疾患または症状が、以下:呼吸器合併症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、咳、百日咳、肺炎、胸膜炎、気管支炎、風邪、副鼻腔炎、鼻炎、気管炎、咽頭炎、喉頭炎、急性喉頭気管気管支炎、喉頭蓋炎、気管支拡張症、呼吸困難、発熱、疲労、筋肉痛、鼻づまり、鼻水、喉の痛み、吐き気、下痢、腎不全および食欲不振から選択される、FR-B1~FR-B10の何れか1つに記載の使用のための組成物。
【0107】
FR-B12.FR-B1~FR-B11の何れか1つに記載の処置方法における使用のための菌株であって、ここで該菌株は以下:
-National Collection of Cultures of Microorganisms of the Pasteur Institute in Parisに受託番号CNCM I-1572で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標);
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号DSM 26760で寄託されたラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33231で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33232で寄託されたビフィドバクテリウム・ブレーベBbIBS02;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33233で寄託されたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBlIBS01;
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号33234で寄託されたラクトバチルス・プランタラムLpIBS01;および
-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に受託番号32708で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg =BbfIBS01、
からなる群より選択される、菌株。
【実施例】
【0108】
実験部分
1.目的
出願人は、例えばラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)および/またはラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)などの、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する少なくとも1つの菌株を含む本発明の組成物の、ウイルス感染、特にSARS-CoV-2ウイルス(COVID-19)に起因する呼吸器のウイルス感染に対抗するための、対象における自然抗ウイルス免疫応答を刺激する能力を評価するために、in vitroでの研究を行った。
【0109】
詳細には、以下をin vitroで評価した:
(1)本発明の組成物の、腸上皮細胞における抗ウイルス応答を増強する能力(抗ウイルス免疫調節効果);および
(2)本発明の組成物の、ヒト腸上皮細胞におけるSARS-CoV-2感染に影響を与える能力(SARS-CoV-2感染のin vitroモデル)。
【0110】
2.材料
2.1.細胞、ウイルス、菌株および試薬
Caco-2ヒト結腸線がん細胞株(ATCC(登録商標)HTB-37(商標))およびVero E6サル腎臓上皮細胞株(ATCC(登録商標)CRL-1586(商標))を、10%(v/v)FBS、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウムおよび1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシン(全てGibco-Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)を添加したDMEM培地で、37℃、5%CO2を含む湿潤なインキュベーター内で培養した。
【0111】
-ラクトバチルス・ラムノースス(Lactobacillus rhamnosus)GG(ATCC 53103)、新名称ラクチカゼイバチルス・ラムノースス(Lacticaseibacillus rhamnosus);
-ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572;L.casei DG(登録商標);Enterolactis(登録商標)、SOFAR SpA)、新名称ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei);
-L.ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)、新名称ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ;および
-ビフィドバクテリウム・ビフィダムMIMBb23sg(またはBbfIBS01)(DSM 32708)
などの、プロバイオティックな菌株。
【0112】
菌株は、MRSプレート(DeMan Rogosa Sharpe、Difco、BD)上で培養し、嫌気条件下で37℃で72時間インキュベートした。
【0113】
GG(ATCC 53103)株はATCC コレクションから購入し、DG(登録商標)(CNCM I-1572)、LPC-S01(DSM 26760)およびMIMBb23sg(DSM 32708)株はSofar SpA.(Milan、Italy)から提供された。
【0114】
20%グリセロールを添加した高グルコース含有滅菌DMEMを対照試験として挿入した。
【0115】
2.2.ウイルスストックの調製および力価測定
SARS-CoV-2は、パドヴァ大学病院の微生物学部門において患者から単離された。ウイルス株はVero E6細胞で増殖させ、および全ゲノムのシーケンシングによって特徴付けられた。ウイルスの力価はプラークテスト法を用いて決定した。手短に述べると、24ウェルプレート(Costar、Merck、Italy)中のVERO E6コンフルエント細胞に、10倍連続希釈のウイルスストックを1時間接種した。そして増殖培地を除去し、カルボキシメチルセルロース(CMC、Merck)を含む新鮮な培地で細胞をインキュベートした。感染から72時間後に5%w/v ホルムアルデヒド(Merck)で細胞を固定し、クリスタルバイオレット(Merck)で染色した。ウイルス力価は、感染後の細胞培養で形成されたプラークに基づき、プラーク形成単位(PFU/mL)として測定された。すべての感染実験は、イタリア、パドヴァのパドヴァ大学分子医学部のバイオセーフティレベル3(BSL-3)の実験室で行われた。
【0116】
2.3.菌株の調製
2.3.1.生存細胞
De Man、Rogosa、Sharpe(MRS)ブロスにおいて、嫌気条件下で、37℃で18時間インキュベートする事でブロス培養を調製した。インキュベーション後、株を3000rpmで10分間遠心分離し、細胞ペレットを滅菌蒸留水で2回洗浄した。20μl容量で2.5×106CFUとなるように、洗浄した培養物の600nmにおける光学密度(OD600)を0.3に調整した。標準化した洗浄後の培養物を、生菌数測定のために連続希釈し、3000rpmで10分間遠心分離した。ペレットを、20%グリセロール(メルク)を添加した滅菌DMEM培地(Gibco-Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)に再懸濁した。
【0117】
3.方法
3.1.Caco-2細胞培養および実験設計
Caco-2細胞を12ウェルプレートに播種した(2×10
5細胞/mL).コンフルエントに達したら、細胞を1×PBS(Gibco-Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)で洗浄し、抗生物質非含有培地(AFM)でインキュベートするか、または以下の処置の1つの対象とした(
図1)。
【0118】
SARS-CoV-2ウイルスの非存在下におけるプロバイオティクス単独での処置(
図1A)。
【0119】
SARS-CoV-2ウイルスによる処置に対して、プロバイオティクスによる前処置(
図1B)
コンフルエントなCaco-2細胞に菌株(生菌株;MOI 1:10)を添加した。
3時間後、細胞を1×PBS(Gibco-Thermo Fisher Scientific、Waltham、USA)で洗浄し、および抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加した新鮮な培地でインキュベートし、そしてSARS-CoV-2(MOI 1:2)に1時間感染させた。感染から24時間後にRNA抽出のために細胞を回収した。
【0120】
プロバイオティクスおよびSARS-CoV-2ウイルスによる同時処置(
図1C)。
コンフルエントなCaco-2細胞に、菌株(生菌株;MOI 1:10)をSARS-CoV-2(MOI 1:2)と共に添加した。3時間後、細胞を洗浄し、新鮮な培地でさらに24時間インキュベートした後、RNA抽出のために回収した。
【0121】
3.2.RNA抽出およびリアルタイムPCR
E.Z.N.A.(登録商標)Total RNA Kit I(Omega Bio-Tek、tebu-bio、Italy)を用いて、製造元の説明書に従って全RNAを単離した。RNase-free DNase I sets(Omega Bio-Tek)と共にインキュベートする事で混入したDNAを除去した。相補的DNAの合成および増幅を、製造元の推奨に従って、iTaq(商標)Universal Probes One-Step Kit(Bio-Rad、Milan、Italy)を使用し、ABI PRISM 7000Sequence Detection(Applied Biosystems)システムで実行した。標的遺伝子の発現を、参照遺伝子GAPDHの発現で正規化した。
データは対照に対する平均倍率変化(mean fold change on the control)で表される。
【0122】
3.3.統計解析
データは、平均+/-SD(SD:標準偏差)で示した。統計解析は、GraphPad Prism Software 6.0software(GraphPad Software Inc.,La Jolla、USA)を使用して行った。比較は、両側スチューデントのt検定(two-tailed student’s t test)を使用して行った。その差は、p<0.05で有意とした(図には以下のキーを示す:*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001)。
【0123】
4.結果
4.1.ラクチカゼイバチルス属のプロバイオティック株がin vitroで抗ウイルス免疫応答を増加させる。
ラクチカゼイバチルス属のプロバイオティック株の抗ウイルス免疫調節効果を、Caco-2ヒト腸上皮細胞を使用してin vitroで評価した。
【0124】
図2A-2Cに示すように、本発明のプロバイオティックな菌株、例えばラクトバチルス・パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)を用いた処置は、抗ウイルス免疫応答に関与するいくつかの遺伝子の発現プロファイルにおいて顕著な変化を誘導した。
【0125】
L.パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)株によって、抗ウイルス性サイトカインであるインターフェロンアルファ(IFN-アルファ1)のレベルは顕著に向上し、インターフェロンベータ(IFN-ベータ1)の上方制御の傾向が見られた(
図2A)。
【0126】
さらに、L.パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)は、RNAウイルスの検出に関与するパターン認識受容体TLR7、ウイルスRNAの分子センサーであるMDA5をコードする遺伝子であるIFIH1、ならびに応答の抗ウイルスシグナル伝達経路に参加するIRF3、IRF7およびMAVSの発現を顕著に増加させた(
図2Bおよび2C)。
【0127】
抗ウイルス免疫増強活性のこれらの結果に基づいて、L.パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)をさらなる試験のために選択した。
【0128】
4.2.in vitroにおける、ラクトバチルス・パラカゼイのプロバイオティック株のSAR-CoV-2複製の阻害効果
いくつかのプロバイオティック株のSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を評価するために、Caco-2細胞におけるSARS-CoV-2の感染アッセイを行った。
【0129】
ウイルス感染の前に細胞をプロバイオティック株で3時間前処置し、その後SARS-CoV-2に1時間感染させた(
図1B)。回収した細胞から得た全RNAから、SARS-CoV-2の複製およびアセンブリに決定的なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)およびE遺伝子(CoVE)をコードするウイルス特異的遺伝子の発現レベルを解析した。
【0130】
L.パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)を用いて処置したCaco-2細胞において、両者の遺伝子(RdRpおよびCoVE)の発現の顕著な減少が観察され(
図4A)、これはプロバイオティック株による前処置が、in vitroにおいてSAR-CoV-2の複製を阻害し得る事を示唆する。
【0131】
さらに、回収した上清からSARS-CoV-2の力価もまた評価した:L.パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)による前処置は、SARS-CoV-2の感染を45.8%阻害すると決定され、および広い特異性を持つ抗ウイルス薬であるレムデシビル(Gilead Sciences)と比較した(
図3A、値は阻害として示した、および
図3B、値は有効性として示した)。
【0132】
4.3.本発明の菌株による前処置はSARS-CoV-2に起因する炎症応答をin vitroにおいて防御する。
SARS-CoV-2感染によって炎症誘発性および線維化促進性サイトカインが増加し、および重症例では炎症誘発性サイトカインの過剰産生によって患者の予後が顕著に悪化し得る事が知られている。
【0133】
プロバイオティック株による前処置がSARS-CoV-2感染に起因する炎症応答をin vitroにおいて防御し得るのかを決定するために、L.パラカゼイ株で前処置した、または処置しない、SARS-CoV-2感染Caco-2細胞の炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインの発現プロファイルを試験した(
図4)。SARS-CoV-2感染後、測定したサイトカイン全ての転写レベルは上方制御する傾向にあった(データは示していない)。
【0134】
特に、感染したCaco-2細胞への、L.パラカゼイDG
(登録商標)(CNCM I-1572)株による前処置は、対照およびラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)と比較して、IL6、IL8およびTSLP1遺伝子のmRNA発現レベルを顕著に減少させ、およびIL10遺伝子のmRNA発現レベルを増加させた(
図4A-4C)。
【0135】
さらに、感染したCaco-2細胞への、B ビフィダムMIMBb23sg(=BbfIBS01)DSM 32708による前処置が、対照およびラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)と比較して、IL6、IL8およびTSLP1遺伝子のmRNA発現レベル、ならびにRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)および遺伝子E(CoVE)をコードするウイルス特異的遺伝子の発現レベルを顕著に減少させる事もまた観察されるべきである(
図4A-4C)。
【0136】
4.4.本発明の菌株による同時処置は、SARS-CoV-2に起因する炎症応答をin vitroにおいて防御する。
段落4.3において報告したものと同様の結果が、Caco-2細胞の同時処置による研究において得られた(
図1Cおよび
図5A-B)。
【0137】
5.結論
得られた結果は、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する本発明の菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)が抗ウイルス応答および抗炎症応答を正に調節できる事を示し、よってSARS-CoV2抗ウイルス療法における有益なアジュバントである。
【0138】
特に、本研究のin vitro試験は、本発明の組成物を使用することによる抗ウイルス免疫系増強作用および、SARS-CoV-2の複製を約50%妨げるその能力の両者について示す。
【0139】
試験したプロバイオティックな菌株の中でも、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)は、IFNおよび抗ウイルス応答シグナル伝達経路に関与する遺伝子、例えばTLR7、IFIH、IRF3、IRF7およびMAVSなど、の発現を誘導し得る抗ウイルス免疫調節作用の点で、最も有望である事が証明された。
【0140】
さらに、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する菌株、好ましくは、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)によるin vitroにおける予防的処置または同時処置は、炎症誘発性サイトカインIL-6、IL8およびTSLP1の転写レベルが対照と比較して減少する事を考慮すると、Caco-2細胞におけるSARS-CoV-2感染に起因する炎症応答を抑制した。
【0141】
よって、ラクトバチルス・パラカゼイ種に属する本発明の菌株、好ましくはラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)、またはその組成物の予防的な使用は、SARS-CoV-2感染によって誘導される過剰な炎症応答の緩和に寄与する。
【0142】
文献において知られるように、菌株ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)は、大人および子供の両者において胃腸の通過を生き残る事が示されているプロバイオティック株である。
【0143】
本研究において、菌株ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)は、ラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)株と比較して、つまり、文献においてより広く研究され且つ使用されており、免疫調節特性を発揮することが報告されているプロバイオティクスに比して、より向上した活性を示した。
【0144】
本研究において観察されたラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)の抗ウイルス活性を支持するメカニズムは不明だが、この細菌細胞を覆うラムノースに富んだヘテロな菌体外多糖(EPS)分子がラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)と宿主細胞間の特有のクロストークに寄与するものと推測されている。
【0145】
さらに、ラクトバチルス・パラカゼイDG(登録商標)(CNCM I-1572)、ラクトバチルス・パラカゼイLPC-S01(DSM 26760)の組合せは、ラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)株に比べて抗ウイルス免疫応答をより大きな程度に正に調節する事が観察され、さらに、ウイルスの複製を減少させ、およびSARS-CoV-2ウイルスによって誘導される炎症誘発性応答を調節する作用を示し、この場合においてもラクトバチルス・ラムノーススGG(ATCC 53103)株に比べてより大きな程度を示した。
【国際調査報告】